———————————————————————- Page 1(95)ツꀀ 12530910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1253 1256,2009cはじめに近年,細菌性結膜炎,麦粒腫などの前眼部感染性疾患の治療の第一選択薬としては,広域な抗菌スペクトルを有するフルオロキノロン系抗菌薬が多く使用されている.今回,2006 年に臨床使用が可能となったフルオロキノロン系点眼液であるトシル酸トスフロキサシン(TFLX)点眼液について,臨床的有用性を①治療効果判定と②薬剤感受性試験で検討した.I検討I:臨床所見を指標とした治療効果判定1. 対象2006 年 5 月から 2 カ月間の外来受診者中,結膜充血,眼脂,眼瞼腫脹,疼痛の前眼部感染症状のうち 2 症状以上を認め,結膜培養を実施した 81 例 81 眼を対象とした.男性 40例,女性 41 例で,平均年齢は 57.9±25.5 歳であった.2. 方法・対象眼:症状の強い側を対象とし,両側の症状が同程度の場合は左眼を対象とした.・培養:0.4%塩酸オキシブプロカインを点眼後,下眼瞼結膜を滅菌綿棒スワブにて擦過し,以下の培地に接種した.輸送培地: BBLツꀀ cultureツꀀ Swabツꀀ PlusTM(Becton, Dick-inson and Company).培地: 血液寒天培地,BTB 乳糖培地,チョコレート寒天培地,サブロー寒天培地.・薬剤感受性試験:Kirby-Bauer 法(Sensi-Disc,ツꀀ Becton, 〔別刷請求先〕田村薫:〒113-8421 東京都文京区本郷 2-1-1順天堂大学医学部眼科学教室Reprint requests:Kaoru Tamura, M.D., Department of Ophthalmology, Juntendo University School of Medicine, 2-1-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8421, JAPANトシル酸トスフロキサシン(TFLX)点眼液の前眼部感染性疾患における有用性の検討田村薫*1木村泰朗*1,2川端紀穂*1,2藤巻拓郎*1横山利幸*1村上晶*1*1 順天堂大学医学部眼科学教室*2 上野眼科医院Clinical Evaluation of the Usefulness of Tosuloxacin Tosilate Ophthalmic Solution for Extraocular InfectionKaoru Tamura1), Tairou Kimura1,2), Kiho Kawabata1,2), Takuro Fujimaki1), Toshiyuki Yokoyama1) andツꀀ Akira Murakami1)1)Department of Ophthalmology, Juntendo University School of Medicine, 2)Ueno Eye Clinicトスフロキサシン点眼薬を前眼部感染症症例 81 例 81 眼に使用し,有効性を検討した.著効例 62.5%,有効例 30%,無効例 7.5%であった.トスフロキサシンは前眼部感染症において臨床的有用性は優れていたが,フルオロキノロン系薬剤間の薬剤感受性比較では,メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)において有意差を認め,薬剤感受性は低い傾向を示した.Weツꀀ usedツꀀ clinicalツꀀ tosu oxacinツꀀ tosilate(TFLX)ophthalmicツꀀ solutionツꀀ inツꀀ 81ツꀀ eyesツꀀ withツꀀ extraocularツꀀ infection.ツꀀ The results for clinical utility were:very e ective, 62.5%;e ective, 30%;not e ective, 7.5%. We also evaluated vari-ousツꀀ uoroquinolones in drug sensitivity testing against methicillin-sensitive Staphylococcus aureus(MSSA)and coagulase-negativeツꀀ staphylococci(CNS).ツꀀ TFLXツꀀ wasツꀀ excellentツꀀ atツꀀ clinicalツꀀ utilityツꀀ againstツꀀ extraocularツꀀ infection,ツꀀ but indicated lower drug e cacy against MSSA and CNS.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1253 1256, 2009〕Key words:トスフロキサシン(TFLX),フルオロキノロン系薬剤,前眼部感染性疾患,臨床的有用性,薬剤感受性.tosu oxacinツꀀ tosilateツꀀ ophthalmicツꀀ solution,ツꀀツꀀ uoroquinolone,ツꀀ infectiousツꀀ diseaseツꀀ ofツꀀ anteriorツꀀ ocularツꀀ segment,ツꀀ clinical utility, drug sensitivity.———————————————————————- Page 21254あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(96)Dickinson and Company)にて判定した.・臨床効果判定:患眼にトスフロキサシン点眼液 1 日 3 回投与したのち,3 日後に,2003 年日本眼感染症学会点眼抗菌薬臨床評価ガイドラインに基づいて判定した.3. 結果培養陽性は 81 眼中 45 眼で,陽性率は 55.5%であった.培養陽性であった 45 眼からは 14 菌種 59 株が検出された.検出された 59 株の内訳はグラム陽性菌 46 株,グラム陰性菌 13 株で,グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌 12 株,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)18 株,グラム陰性菌ではインフルエンザ桿菌 6 株とこれらが多数を占めていた.なお,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)も 2 株検出された(表 1).検出菌の TFLX に対する感受性については,グラム陽性菌 に 関 し て は MRSA で 100%(2 株 中 2 株),CNS の 22%(18 株中 4 株)で耐性を示すものが検出された.その他の検出菌に関してはすべて感受性ありとの結果になった(表 2).グラム陰性菌に関してはすべて感受性ありとの結果となった.TFLX の臨床的効果判定については,日本眼感染症学会の基準をもとに判定したところ著効有効例が全体の 92.5%を占めた(表 3).著効: 点眼終了後の平均評価スコアが点眼開始前の平均評価スコアの 4 分の 1 以下になったもので,評価対象外スコアに 2 段階以上の悪化が認められないもの有効: 点眼終了後の平均評価スコアが点眼開始前の平均評価スコアの 2 分の 1 以下になったもので,評価対象外スコアに 2 段階以上の悪化が認められないもの無効: 点眼終了後の平均評価スコアが点眼開始前の平均評価スコアの 2 分の 1 以下とならないもの,および評価対象外スコアに 2 段階以上の悪化が認められたもの点眼抗菌薬臨床評価のガイドライン(案):点眼抗菌薬臨床評価のガイドライン原案作成調査研究班(2001 年 4 月)培養陽性症例の検出菌別の効果判定は,CNS で無効 3 眼認めたが,その他はすべて著効,有効となった(表 4).培養陰性例の効果判定は,著効有効を 20 眼に認めたが,無効例を 6 眼認めた.無効例 6 眼はいずれも最終診断はアレルギー性結膜炎などの非感染性疾患のためと思われた.表 1検討Iにおける検出菌―14菌種59株の内訳グラム陽性菌グラム陰性菌CNSS. aureusMSSAMRSACorynebacterium spp.Enterococcus faecalisStreptococcus pneumoniaeG 群 StreptococcusBacillus spp.181210264411H. in uenzaeSerratia marcescensP. aeruginosaEnterobacter cloacaePantoea agglomeransMoraxella spp.621112計46株計13株表 2グラム陽性菌のTFLX感受性グラム陽性菌SIRMSSA10/10──MRSA─1/21/2CNS14/183/181/18Corynebacterium spp.6/6──Enterococcus faecalis3/3──ペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP)4/4──G 群溶連菌1/1──Bacillus spp.1/1──S:感受性,I:中間型,R:耐性.表 3TFLX点眼臨床的治療効果判定眼数(%)北野ら*著効(治癒)25/40(62.5%)64.1%有効(改善)12/40(30.0%)84.0%(有効以上)無効 3/40(7.5%)判定不能 5* 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:あたらしい眼科 23(別巻):55-67, 2006.表 4検出菌ごとのTFLX点眼臨床的治療効果判定著効(眼)有効(眼)無効(眼)計<グラム陽性菌>MSSAMRSACNSCorynebacterium spp.Enterococcus faecalisPSSPBacillus spp.G 群溶連菌7─9334111253──────3───── 8 217 6 3 4 1 1<グラム陰性菌>H. in uenzaeSerratia marcescensP. aeruginosaEnterobacter cloacaeMoraxella spp.3─11──2─2────ツꀀ 3 2 1 1 2———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091255(97)4. 合併症トスフロキサシン点眼後,合併症として 2 例に点状表層角膜症を認めた.症例 1:72 歳,男性.右眼急性結膜炎の診断にて TFLX点眼を開始した.3 日後には結膜炎症状は改善したが,6 日後 に 右 眼 疼 痛 を 訴 え 来 院 し, 点 状 表 層 角 膜 症 を 認 め た.TFLX の影響を考え,点眼を中止したところ 3 日後に点状表層角膜炎の消退を認めた.症例 2:44 歳,女性.左眼麦粒腫の診断にて TFLX 点眼を開始した.投与開始後に左眼疼痛を訴え来院し,点状表層角膜症を認めた.やはり TFLX の影響と考え点眼を中止した.この症例はその後再診なく改善したかどうかは確認できなかった.II検討II:フルオロキノロン系薬剤に対する 感受性比較 1. 対象2006 年 11 月から 2007 年 5 月まで結膜炎症状にて外来受診した患者から結膜培養を施行した 119 検体を対象とし,その内訳は男性 62 例,女性 57 例(1 例 1 眼)であった.2. 方法ノルフロキサシン(NFLX),オフロキサシン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),トスフロキサシン(TFLX),モキシフロキサシン(MFLX)の 6 製剤で検出菌に対する薬剤感受性を Kirby-Bauer 法にて比較検討した.対象眼,培養,薬剤感受性試験については臨床効果判定時に使用した方法と同様の方法で行った.3. 結果培養陽性率は 60.5%で,13 菌種 99 株が検出された.検出菌の内訳はグラム陽性菌 64 株,グラム陰性菌 35 株でグラム陽性菌は MSSAツꀀ 19 株,CNSツꀀ 24 株,グラム陰性菌ではインフルエンザ桿菌 18 株と多数を占めていた(表 5).フ ル オ ロ キ ノ ロ ン 系 薬 剤 間 の 感 受 性 の 概 要 と し て は,MSSA,CNS においてフルオロキノロン系薬剤間で感受性に差を認めたが,その他の菌では有意差を認めなかった.CNS における薬剤感受性においては,GFLX,MFLX では耐性株を認めず,TFLX で 6 株,NFLX,OFLX,LVFXで 2 株の耐性株が検出された.6 剤間でこの割合に統計学的有意差を認めた(c2検定 p=0.00098)(表 6).MSSA における薬剤感受性も GFLX では耐性株 1 株,MFLX は中間株が 1 株であったが,TFLX で耐性株 6 株,NFLX,OFLX,LVFX で中間株 6 株と,多いように思われ,これらの分布に統計学的有意差を認めた(c2検定ツꀀ p<0.001)(表 7).今回は,フルオロキノロン耐性株のコリネバクテリウム属は検出されなかった.表 5検討IIにおける検出菌(13 菌種 99 株の内訳)グラム陽性菌株数グラム陰性菌株数CNS24H. in uenzae18MSSA19Serratia marcescens 9Corynebacterium sp.10Low-BLNAR 9Streptococcus pneumoniae 4b-ラクタマーゼ陰性 9ペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP) 3P. aeruginosa 4ペニシリン中間耐性肺炎球菌(PISP) 1Moraxella spp. 2a-Streptococcus 3Klebsiella oxytoca 1B 群溶連菌(S. agalactiae) 1Enterobactor spp. 1Enterococcus faecalis 3計64 株計35 株表 6CNSにおける薬剤感受性非感受性株/検出株数(株数)Intermediate (株数)Resistant (株数)NFLX6/2442OFLX6/2442TFLX9/2436LVFX6/2442GFLX0/2400MFLX0/2400c2検定 p=0.0098.表 7MSSAにおける薬剤感受性非感受性株/検出株数Intermediate (株数)Resistant (株数)NFLX6/1960OFLX6/1960TFLX5/1905LVFX6/1960GFLX1/1901MFLX0/1910c2検定 p<0.001.———————————————————————- Page 41256あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(98)III考察近年細菌性結膜炎,麦粒腫などの前眼部感染性疾患の第一選択薬としては広域スペクトルを有し,優れた抗菌力のあるフルオロキノロン系抗菌薬が使用されることが多い.2006年には 2 つの新たなフルオロキノロン系点眼薬が登場した.そのうちの一つであるトシル酸トスフロキサシンは 1990 年から経口薬として使用され,全身疾患において臨床効果が証明されてきた.外眼部感染性疾患の起因菌としては,ブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌などがあげられるが,トスフロキサシン点眼液は,治験の段階で,これらに強い抗菌力を有し,かつ長期の安全性も確認されている.小児に対してもフルオロキノロン系抗菌薬のうち唯一,有効性と安全性が証明されている点も特徴である.今回筆者らは,トスフロキサシン点眼薬を前眼部感染症症例 81 例 81 眼の治療に使用し,著効例 62.5%,有効例 30%,無 効 例 7.5% で あ っ た. 有 効 以 上 が 92.5% と 多 数 を 占 め,2006 年北野らの報告ともほぼ同様,高い臨床効果が示された.2 例に副作用として点状表層角膜症を認めたものの,その他重篤な合併症は認められず,安全に使用できるものと考えられた.フルオロキノロン系薬剤間の薬剤感受性比較では,MSSAと CNS においてトスフロキサシンに対する耐性株がやや多く統計学的有意差を認めた.同じく 2006 年より点眼液として臨床使用が可能となったモキシフロキサシンは耐性株が少なかった.その相違は,ともに全身投与薬として以前より使用されている薬剤であるが,トスフロキサシンがより長期(16 年以上)に臨床使用されかつ広い適応疾患がありその影響によるものと考えられた.以上のように,臨床的には高い有用性および安全性が示されたが,眼瞼皮膚,結膜に常在することが多い MSSA, CNSに,トスフロキサシンに対する耐性菌が若干多いことは,使用時に知っておく必要があると思われた.IV結論トスフロキサシン点眼液は前眼部感染症において臨床的有用性は優れていたが CNS,MSSA に対する,薬剤感受性は低い傾向を示した.文献 1) 木澤和夫,高橋義博,和泉博之ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の毒性評価(1).あたらしい眼科 23(別巻):33-36, 2006 2) 櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科 23:1209-1212, 2006 3) 秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科 18:929-931, 2001 4) 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の急性細菌性結膜炎を対象としたプラセボとの二重遮蔽比較試験.あたらしい眼科 23(別巻):55-67, 2006 5) 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児細菌性結膜炎患者に対する有用性の成人細菌性結膜炎患者との比較検討.あたらしい眼科 23(別巻):103-140, 2006 6) 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対象非遮蔽他施設共同試験.あたらしい眼科 23(別巻):55-67, 2006 7) 北野周作,宮永嘉隆,大石正夫:点眼抗菌薬臨床評価ガイドライン.第 38 回日本眼感染症学会抄録集,p36-40, 2001***