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緑内障:緑内障における神経保護研究

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009710910-1810/09/\100/頁/JCLS緑内障の原因として,以前からグルタミン酸毒性の関与が指摘されている.たとえば,高眼圧負荷を受けた眼球内ではグルタミン酸濃度が上昇するが,グルタミン酸受容体阻害薬はそれらが受容体と結合し,神経興奮毒性を発揮するのを抑制しようとするものである.最近注目されているグルタミン酸受容体阻害薬は,Alzheimer病治療薬として米国で認可されているmemantineであり,すでに緑内障に対する治験が開始されている.しかし,第三相試験においては有効性が確認されなかったとの情報もあり,実際に眼科臨床の現場で使用可能になるかどうかは,まだ不明である.他の手法としては,たとえばグルタミン酸輸送体の機能を賦活化することによって,細胞外グルタミン酸濃度を低下させることが考えられる.筆者らは培養Muller細胞を用いた検討により,interleukin-1(IL-1)がGLASTによるグルタミン酸取り込み能を増大させることを示した1).さらにIL-1を前投与することで,グルタミン酸による網膜神経節細胞死を有意に抑制できることがわかった(図1).その他にも筋萎縮性側索硬化症の治療薬であるriluzole2)や脳梗塞の治療薬であるONO-2506(arundicacid)3)は複数のグルタミン酸輸送体の発現量を上昇させることが報告されており,今後の研究の進展が期待される.胞死実行伝子の抑制これまでの細胞死研究のなかから,アポトーシス実行(71)●連載103緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也103.緑内障における神経保護研究原田知加子原田高幸東京都神経科学総合研究所分子神経生物学現在行われている緑内障治療は眼圧下降が中心だが,近年では多くの研究者や企業が,細胞死の分子メカニズムに注目した新薬の開発を目指している.神経変性疾患の分野ではグルタミン酸毒性や細胞死実行因子などをターゲットとした神経保護薬の開発が進められており,緑内障治療への応用も可能となるかもしれない.GCLINLONLABC200p<0.05p<0.05150100500Glutamate1切片当たりの網膜神経節細胞数IL-1D--+-++図1IL1前処置によるグルタミン酸興奮毒性の抑制培養網膜組織片のNeuN染色像.A:無処置,B:グルタミン酸投与,C:IL-1の前処置後にグルタミン酸投与.D:IL-1の前投与により,残存する網膜神経節細胞数の増加が認められた.GCL:網膜神経節細胞層,INL:内顆粒層,ONL:外顆粒層.(文献1より改変)———————————————————————-Page272あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009因子としてのcaspasefamilyの重要性が明らかにされている.また,細胞死抑制因子についての研究も進展し(72)ており,たとえばBcl-2はcaspaseより上流で細胞死を抑制できると考えられている.Caspase阻害薬はAlzheimer病や脳虚血などにも有効な可能性があり,今後は網膜神経細胞を含めた神経保護薬としての臨床応用が期待される.一方,筆者らは,さまざまな環境ストレスに応答して細胞の生死を制御するmitogen-activatedproteinkinasekinasekinase(MAPKKK)の1つであるapopto-sissignal-regulatingkinase1(ASK1)の機能に注目している4).ASK1欠損マウスに対して高眼圧負荷を行ったところ,野生型マウス網膜と比較して,caspase-3の活性低下と網膜神経節細胞死の軽減が確認された(図2).さらにASK1欠損マウス由来の培養網膜神経節細胞では,酸化ストレスに対する耐性も高まっていた5).つまり酸化ストレスの関与が示唆される緑内障の新たな治療標的として,ASK1caspase-3pathwayを阻害することの有用性が示されたといえる.前号で紹介したGLAST欠損マウスはグルタミン酸毒性に加えて,酸化ストレスが複合的に関与する正常眼圧緑内障モデル動物と考えられることから,現在はASK1欠損マウスとの交配によって,症状が軽快するかを検討中である.文献1)NamekataK,HaradaC,KohyamaKetal:Interleukin-1stimulatesglutamateuptakeinglialcellsbyacceleratingmembranetrackingofNa+/K+-ATPaseviaactindepo-lymerization.MolCellBiol28:3273-3280,20082)FumagalliE,FunicelloM,RauenTetal:Riluzoleenhanc-estheactivityofglutamatetransportersGLAST,GLT1andEAAC1.EurJPharmacol578:171-176,20083)MoriT,TateishiN,KagamiishiYetal:Attenuationofadelayedincreaseintheextracellularglutamatelevelintheperi-infarctareafollowingfocalcerebralischemiabyanovelagentONO-2506.NeurochemInt45:381-387,20044)原田知加子:虚血網膜におけるapoptosissignal-regulatingkinase1(ASK1)シグナルの伝達機構と機能解明.日眼会誌112:965-974,20085)HaradaC,NakamuraK,NamekataKetal:Roleofapop-tosissignal-regulatingkinase1instress-inducedneuralcellapoptosisinvivo.AmJPathol168:261-269,2006WTヘマトキシリン・エオジン染色TUNEL染色活性型caspase-3ASK1KO☆☆☆図2ASK1欠損マウスの網膜における虚血耐性の解析野生型マウス(WT)および同腹のASK1欠損マウス(ASK1KO)を用いた虚血網膜の検討.上段:虚血負荷7日後のヘマトキシリン・エオジン染色.中段:虚血負荷1日後のTUNEL染色.下段:虚血負荷3時間後の活性型caspase-3抗体による免疫染色.ASK1欠損マウスでは,網膜神経節細胞層におけるアポトーシスの減少と残存細胞数の増加が認められた(矢印).(文献5より改変)

屈折矯正手術:新しくLASIK手術を導入する

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009690910-1810/09/\100/頁/JCLSエキシマレーザー屈折矯正手術(laserinsituker-atomileusis/photorefractivekeratectomy:LASIK/PRK)が,2007年に日本で推計25万眼に行われた.2008年は35万眼が予想されている.美容外科系,コンタクトクリニック系の上位3グループが90%以上を行っている.当院は,通常の眼科診療を行っている眼科医院として,国内最多の実績(2007年には4,600眼)があり,いま白内障の日帰り手術を行っており,これからエキシマレーザー手術を導入しようとする眼科に,経験を紹介したい.械入検査機械としては,適応決定のために角膜形状解析器としてPENTACAM(中央産業社)が必須で,さらに,不正乱視の確認のために波面収差解析用にOPD-scanⅡ(NIDEK社)があるほうが望ましい.エキシマレーザーとのリンクの関係で業者との相談が必須である.角膜内皮測定も必要である.キシマレーザー筆者は,機能として①眼球追尾照射装置がある,②TOPO-LINK照射ができる,③瞳孔の位置補正ができ(69)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載104監修=木下茂大橋裕一坪田一男104.新しくLASIK手術を導入する安渕幸雄安渕眼科医院日本でも年間30万眼以上のLASIK(laserinsitukeratomileusis)手術が行われ,社会的にも認知されたと思われる.今から始めても,通常の眼科診療所でもよく使われている機種を採用すれば,採算可能と考えられる.図1WaveLightAllegrettoEyeQ図2NIDEKEC5000CXⅢ図3IntraLaseFS60———————————————————————-Page270あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009る,④球面収差惹起抑制照射ができる,という4点が,屈折矯正手術で良い結果を得るには必要と考えている.日本で入手可能なのはWaveLight社(ルミナス社,図1),NIDEKEC-5000CXⅢ(図2)のみとなる.イクロラトームフェムトレーザーなら,実績ではIntraLaseFS60(AMO社,図3)だが,ZIEMER(JFCセールスプラン社)も急速に改良中である.他の製品は大きすぎて開業医にはスペースがとりきれない.機械式は,MoriaM2(モリアジャパン社,図4)が第一選択であるが,それ以外ではNIDEKMK-2000となる.ユーザーの少ない機械は,当院が導入したBD/ITIK-3000やGebauerEPILIFTのようにメンテナンス不能になることがある.全国の手術件数としては,上位3グループがIntraLaseを使っている関係で,件数ベースでフェムトレーザーの頻度は80%を超えていると思われるが,機械式の結果が悪いわけではない.当院のデータでは,フラップ厚はLASIK(M290)91±14μm,IntraLaseFS6097±11μmと実績的に差がなく,視力成績も同等である.IntraLASIKのほうが手術時間が長いことを説明し,同一価格で患者に自由選択させると,2007年はLASIK79%で,IntraLASIK8%となった.また,PRKが13%ある.当院では,予測残存角膜厚350380μm,中等度以上のドライアイ,陸上自衛隊員,プロボクサー,虹彩炎既往者はPRKのみの適応となる.イさせるのはしい手術料金が高いと患者は来ない.大手は経験なしの眼科専門医を年収3,000万で募集している.毎週2日,1日に15人(34時間),両眼で12万行えば,これくらいの追加収入は達成できる.ただし,等比級数的に手術件数が増加するので,採算ベースにたどり着くには数年は必要である.がない日本眼科学会の講習があるが,それで手術ができるようになるわけではない.一応,教科書もある1)が,十分でもない.手術自体は白内障手術よりは簡単なので,いろいろ見学に行けばよい.不要不急の手術なので,条件の良い患者のみを選んで,経験を積めばよい.地方では,『大都市の美容整形系列に行ってだまされるよりも,近くの信用がある眼科を選択する』人も多いと思う.文献1)GimbelHV,PennoEEA:LASIK合併症予防と処置(杉田達監訳),エム・ビー・エス,1999(70)☆☆☆図4MoriaM2

眼内レンズ:硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009670910-1810/09/\100/頁/JCLS眼内レンズ(IOL)偏位,脱臼の原因は後破損などの術中トラブルの場合と,術眼のZinn小帯脆弱などに起因する場合がある.その治療は眼内で外固定し直すか,毛様溝縫着1~3)を行うかである.外固定できる場合はごく限られた症例で全周の水晶体が残っており,Zinn小帯がしっかりしている場合のみである.IOL縫着にはIOLを取り出す場合と偏位,脱臼したIOLをそのまま利用する場合4,5)がある.〔症例〕80歳,男性,2007年7月,右眼の超音波水晶体乳化吸引術の際,後破損が生じIOLは外固定となっていた.9月11日突然の視力低下にてIOL落下を認め当院紹介となる.初診時所見:視力は右眼=(0.8×sph+1.0D),左眼=(1.0×sph7.25D),眼圧は右眼=16mmHg,左眼=14mmHg,前は12時方向に亀裂を認めた.落下したIOLが6時方向眼底に確認できた.治療:落下したIOLを引き上げるために通常のスリー(67)ポート(20ゲージ)にて硝子体手術を行い,できる限り周辺部硝子体も切除した後,落下したIOLを前房へ持ち上げ片方の支持部を下方に残存している前を利用し外固定した.つぎに,上方2時の部分に角膜に接して強膜半層フラップを作製し,半層切開部の輪部から1.5mmの部位で10-0ナイロン糸付き直針を用い,前房内櫻井寿也多根記念眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎269.硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術白内障手術時に挿入した眼内レンズ(IOL)が偏位,脱臼する場合の一つの対処法としてIOL縫着術がある.この術式のなかでも一部の前が残存する場合に片方ループのみを対面通糸により固定する方法がある.本法はIOLを摘出しないことから手術侵襲が少なく,簡便に,縫着できる.この手法の角膜通糸の際に硝子体手術用25ゲージトロカールを用いたより簡便な手法を提示する.図1縫着糸による角膜通糸図3IOL縫着図2縫着糸を反転し角膜通糸———————————————————————-Page2のIOL支持部の横を硝子体側から通糸し,対側の角膜周辺部に前もって留置した硝子体手術用25ゲージトロカールを通じて直針を眼外へ誘導した(図1).その針を反転し逆方向に25ゲージトロカールを通しIOL支持部の往路とは対側を通過させ,半層切開部から27ゲージ針のガイド針を通じて眼内から通糸する(図2).10-0ナイロン糸を結紮することで片方の支持部が毛様溝に固定される(図3).術後6カ月の時点で右眼視力=(1.0×sph8.25D(cyl1.0DAx90°),右眼眼圧=15mmHgであった.落下したIOL症例に対してIOL縫着を行う場合,IOLを眼外に摘出して新しいIOLを縫着する方法は簡便であるが,IOL取り出しの際に角膜内皮への侵襲,術中の低眼圧の発生,強角膜創の縫合不全,強角膜切開による術後乱視を若起するなどの合併症も考えられる.IOLをそのまま縫着する方法は手術手技が複雑で,IOLの光学径によっては偏心が生じたり,もともと挿入されているIOLが内固定用の度数であったならば縫着によるIOLの位置が前房側への移動に伴い近視化が生じたりもする.しかし,もし前の一部が残っており,外固定を考慮した度数で縫着に適した光学径のIOLが挿入されていたとするなら,今回の手法は合併症も少なく,また,角膜創の25ゲージトロカールを留置することでさらに手術手技が平易になった.ただし,片方であってもIOL縫着を行っていることから,周辺部の硝子体はできうる限り切除したほうがよい.この手法でやはり最も注意すべき点はIOL光学部のセンタリングの問題であり,IOLの大きさ(光学部と支持部),支持部縫着部位と前残在部の位置関係を十分検討し適応を考えるべきである.文献1)MalbranES:LensguidesuturefortransportandxationinsecondaryIOLimplantationafterintracapsularextrac-tion.IntOphthalmolClin9:151,19862)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorcham-berintraocularlensimplantationintheabsenceofposteri-orcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,19883)HuBV,ShinDH,GibbsKAetal:Implantationofposteri-orchamberlensintheabsenceofcapsularandzonularsupport.ArchOphthalmol106:416-420,19884)DueyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,19895)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Dislocatedintraocularlensxationusingintraocularcowhitchknot.AmJOph-thalmol131:265-267,2001

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009670910-1810/09/\100/頁/JCLS眼内レンズ(IOL)偏位,脱臼の原因は後破損などの術中トラブルの場合と,術眼のZinn小帯脆弱などに起因する場合がある.その治療は眼内で外固定し直すか,毛様溝縫着1~3)を行うかである.外固定できる場合はごく限られた症例で全周の水晶体が残っており,Zinn小帯がしっかりしている場合のみである.IOL縫着にはIOLを取り出す場合と偏位,脱臼したIOLをそのまま利用する場合4,5)がある.〔症例〕80歳,男性,2007年7月,右眼の超音波水晶体乳化吸引術の際,後破損が生じIOLは外固定となっていた.9月11日突然の視力低下にてIOL落下を認め当院紹介となる.初診時所見:視力は右眼=(0.8×sph+1.0D),左眼=(1.0×sph7.25D),眼圧は右眼=16mmHg,左眼=14mmHg,前は12時方向に亀裂を認めた.落下したIOLが6時方向眼底に確認できた.治療:落下したIOLを引き上げるために通常のスリー(67)ポート(20ゲージ)にて硝子体手術を行い,できる限り周辺部硝子体も切除した後,落下したIOLを前房へ持ち上げ片方の支持部を下方に残存している前を利用し外固定した.つぎに,上方2時の部分に角膜に接して強膜半層フラップを作製し,半層切開部の輪部から1.5mmの部位で10-0ナイロン糸付き直針を用い,前房内櫻井寿也多根記念眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎269.硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術白内障手術時に挿入した眼内レンズ(IOL)が偏位,脱臼する場合の一つの対処法としてIOL縫着術がある.この術式のなかでも一部の前が残存する場合に片方ループのみを対面通糸により固定する方法がある.本法はIOLを摘出しないことから手術侵襲が少なく,簡便に,縫着できる.この手法の角膜通糸の際に硝子体手術用25ゲージトロカールを用いたより簡便な手法を提示する.図1縫着糸による角膜通糸図3IOL縫着図2縫着糸を反転し角膜通糸———————————————————————-Page2のIOL支持部の横を硝子体側から通糸し,対側の角膜周辺部に前もって留置した硝子体手術用25ゲージトロカールを通じて直針を眼外へ誘導した(図1).その針を反転し逆方向に25ゲージトロカールを通しIOL支持部の往路とは対側を通過させ,半層切開部から27ゲージ針のガイド針を通じて眼内から通糸する(図2).10-0ナイロン糸を結紮することで片方の支持部が毛様溝に固定される(図3).術後6カ月の時点で右眼視力=(1.0×sph8.25D(cyl1.0DAx90°),右眼眼圧=15mmHgであった.落下したIOL症例に対してIOL縫着を行う場合,IOLを眼外に摘出して新しいIOLを縫着する方法は簡便であるが,IOL取り出しの際に角膜内皮への侵襲,術中の低眼圧の発生,強角膜創の縫合不全,強角膜切開による術後乱視を若起するなどの合併症も考えられる.IOLをそのまま縫着する方法は手術手技が複雑で,IOLの光学径によっては偏心が生じたり,もともと挿入されているIOLが内固定用の度数であったならば縫着によるIOLの位置が前房側への移動に伴い近視化が生じたりもする.しかし,もし前の一部が残っており,外固定を考慮した度数で縫着に適した光学径のIOLが挿入されていたとするなら,今回の手法は合併症も少なく,また,角膜創の25ゲージトロカールを留置することでさらに手術手技が平易になった.ただし,片方であってもIOL縫着を行っていることから,周辺部の硝子体はできうる限り切除したほうがよい.この手法でやはり最も注意すべき点はIOL光学部のセンタリングの問題であり,IOLの大きさ(光学部と支持部),支持部縫着部位と前残在部の位置関係を十分検討し適応を考えるべきである.文献1)MalbranES:LensguidesuturefortransportandxationinsecondaryIOLimplantationafterintracapsularextrac-tion.IntOphthalmolClin9:151,19862)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorcham-berintraocularlensimplantationintheabsenceofposteri-orcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,19883)HuBV,ShinDH,GibbsKAetal:Implantationofposteri-orchamberlensintheabsenceofcapsularandzonularsupport.ArchOphthalmol106:416-420,19884)DueyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,19895)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Dislocatedintraocularlensxationusingintraocularcowhitchknot.AmJOph-thalmol131:265-267,2001

コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(5)

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009650910-1810/09/\100/頁/JCLSシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性その11.マルチパーパスソリューションによる角膜ステイニングとは?MPS(マルチパーパスソリューション)には消毒成分だけではなく,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤などのさまざまな成分が含まれている.そのため薬剤毒性による角膜上皮への影響が問題となっている.MPSの薬剤毒性による角膜ステイニング(図1)は,コンタクトレンズとMPSの組み合わせにより発生頻度は異なり,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに比較的特徴的な所見として報告されている1,2).多くは“深度の浅いSPK(点状表層角膜症)”として,装用1~4時間後に最も顕著となり,装用6時間後には軽減もしくは消失する1,2).MPSに含まれる消毒成分が原因と考えられている.現在,MPSに配合されている消毒成分は,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)もしくは塩化ポリドロニウムのいずれかであるが,PHMBを消毒成分として含むMPSのほうが,角膜ステイニングの発生リスクが高い2~4).しかし,その一方で,同じ消毒成分,同じ濃度であっても,角膜ステイニングの発生頻度は製品により異なり1,2),消毒成分以外の界面活性剤,緩衝剤,キレート(65)剤などの成分も影響している可能性が大きい.また,同じコンタクトレンズと消毒剤の組み合わせでも角膜ステイニングの発生に個人差がみられ,個々の眼表面の状態も角膜ステイニングの発生に影響していると考えられる.2.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者における角膜ステイニングの発生シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとPHMBを消毒剤として含むMPSとの組み合わせで角膜ステイニングの発現率が高いことが国内外で報告されている1,3,5).ただし,MPSによる角膜ステイニングはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者のみにみられる所見ではなく,実は従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズにおいても観察される所見である5,6).筆者糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1PHMBを含むマルチパーパスソリューションを使用しているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用にみられた角膜ステイニング表1日本版ステイニンググリッド生理食塩水AOセプトコンセプトワンステップオプティ・フリープラスオプティ・フリーレニューマルチプラスコンプリート10minロートCキューブソフトワンモイストエピカコールドフレッシュルックケア10minO2オプティクス0.70.70.51.51.96.15.35.71.94.8アキュビューアドバンス0.40.60.90.50.86.65.67.33.25.5アキュビューオアシス0.70.50.62.03.93.42.73.71.73.7消毒成分─過酸化水素ポリクォッド(塩化ポリドロニウム)PHMB(塩酸ポリヘキサニド系)(http://www.staininggrid.jpより転載)———————————————————————-Page266あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(00)はホームページ(http://www.staininggrid.jp)上で日本版ステイニンググリッドとして日本で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ3種と消毒剤9種の組み合わせによる角膜ステイニングの発生率を公開している(表1).また,Andraskoらはホームページ(http://www.staininggrid.com)上でstaininggridとしてシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズだけではなく,ハイドロゲルコンタクトレンズ(Acuvue2,pro-clear,Soens66)についても,MPSの組み合わせによる角膜ステイニングの発生率を公開している(表2).文献1)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20052)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20053)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbalalconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyminopropylbiguanide-preservedcareregimen.OptomVisSci79:753-761,20024)AndraskoGJ,RyenKA:EvaluationofMPSandsiliconehydrogellenscombinations.ReviewofCornea&ContactLenses:36-42,20075)BegleyCG,EdringtonTB,ChalmersR:Eectoflenscaresystemsoncornealuoresceinstainingandsubjectivecomfortinhydrogellenswearers.IntContactLinsClin21:7-13,19946)PritchardN,YoungG,ColemanSetal:Subjectiveandobjectivemeasuresofcornealstainingrelatedtomultipur-posecaresystems.ContLensAntEye26:3-9,2003表2Andraskoらがホームページで公開しているstaininggridBrandedSolutionsPrivateLabelSolutionsUnisolSalineClearCareOpti-freeExpressOpti-freeReplenishRenuMultiplusRenuMultipurposCompleteMPSEasyRubAquifyWalmartMPS(RenuM+)TargetMPS(RenuM+)CVSMPS(RenuM+)WalgreenMPS(RenuM+)Acuvue21%1%2%5%1%1%1%1%1%1%1%1%Proclear1%1%1%2%57%23%6%12%61%54%53%42%Soens661%1%1%1%73%32%17%8%66%62%63%56%AcuvueAdvance1%1%1%1%13%4%12%2%16%13%12%12%AcuvueOasys2%1%3%5%9%5%4%3%12%8%13%10%Bionity2%2%3%2%4%2%2%2%4%3%3%2%Purevision2%1%4%7%73%43%15%21%71%76%NoTestingPlannedNoTestingPlannedO2Optix2%1%2%5%24%7%3%3%41%28%28%24%Night&Day2%1%2%3%24%11%1%3%36%24%26%22%Updated:2008/8/25SalineH2O2POLYQUADBiguanides(http://www.staininggrid.comより転載)HydrogelSiliconeHydrogel

写真:生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜実質変性症

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009630910-1810/09/\100/頁/JCLS(63)小林顕金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦296.生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜実質変性症図2図1のシェーマ①:辺縁不整な高輝度陰影.←図1アベリノ角膜ジストロフィ(TGFBI遺伝子R124H)の生体共焦点顕微鏡所見角膜実質の病的沈着物に対応した,さまざまな大きさの辺縁不整な高輝度陰影が散在して認められる.画像サイズ400×400μm.図3格子状角膜ジストロフィ(TGFBIR124C)の生体共焦点顕微鏡所見角膜実質浅層・中層に枝分かれした線状・糸状・サンゴ礁様の高輝度陰影が認められた.画像サイズ400×400μm.図4斑状角膜ジストロフィ(CHST6A217T)の生体共焦点顕微鏡所見角膜実質は均一に高輝度を呈しており,低輝度のストリエ様陰影も同時に認めた.画像サイズ400×400μm.———————————————————————-Page264あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(00)近年,レーザーを光源とする生体共焦点角膜顕微鏡(HRTIIロストック角膜モジュール,ハイデルベルグ社,ドイツ)が開発され,従来の白色光源の生体共焦点顕微鏡に比較して,より高解像度の角膜・結膜の生体画像が得られるようになった.本装置を用いて角膜実質ジストロフィを観察すると,従来の病理組織標本に対応する特徴的な所見を,生体においてリアルタイムに得ることができる(invivobiopsy)(図1,3,4)1).さらに,本装置による検査はくり返し施行できるので,角膜実質ジストロフィの自然経過や角膜移植後の再発の有無の判定などにも有用である.1.アベリノ角膜ジストロフィ(図1)アベリノ角膜ジストロフィは,顆粒状角膜ジストロフィと格子状角膜ジストロフィの両者の特徴を有する遺伝性疾患として1992年に提唱された.角膜上皮下から実質中層における,灰白色調の輪状もしくは顆粒状の混濁を主体とするが,線状,星状,コンペイトウ状の混濁も混在するなど,多彩な角膜実質病変を呈する2).この常染色体優性の角膜ジストロフィはTGFBI遺伝子のR124H変異によって生じる.生体レーザー共焦点顕微鏡では,病的沈着物に対応したさまざまな大きさの辺縁不整な高輝度陰影が実質に散在して認められる(図1,2)1).2.格子状角膜ジストロフィ格子状角膜ジストロフィは角膜実質に半透明の線状または糸状の混濁が生じる遺伝性疾患であり,原因遺伝子の違いによりいくつかのサブタイプが知られている.格子状角膜ジストロフィの多くはⅠ型であり,TGFBI遺伝子のR124C変異が原因とされている3).レーザー共焦点顕微鏡では,実質浅層・中層に枝分かれした線状・糸状・サンゴ礁様の高輝度陰影が認められ,病理組織所見との対応が確認された(図3)1).3.斑状角膜ジストロフィ斑状角膜ジストロフィは常染色体劣性の遺伝性疾患であり,角膜実質全層の多発性斑状混濁とびまん性混濁を特徴とする疾患である.硫酸転移酵素(carbohydratesulfotransferase6:CHST6)の遺伝子変異により生じる4).レーザー共焦点顕微鏡では,実質は均一に高輝度を呈しており,低輝度のストリエ様陰影を同時に認める(図4)1).文献1)KobayashiA,FujikiK,FujimakiTetal:Invivolaserconfocalmicroscopicndingsofcornealstromaldystro-phies.ArchOphthalmol125:1168-1173,20072)KonishiM,YamadaM,NakamuraYetal:Variedappear-anceofcornealdystrophyassociatedwithR124Hmuta-tionintheBIGH3gene.Cornea18:424-429,19993)HottaY,FujikiK,OnoKetal:Arg124Cysmutationofthebig-h3geneinaJapanesefamilywithlatticecornealdystrophytypeI.JpnJOphthalmol42:450-455,19984)AkamaTO,NishidaK,NakayamaJetal:Macularcorne-aldystrophytypeIandtypeIIarecausedbydistinctmutationsinanewsulphotransferasegene.NatGenet26:237-241,2000

Value-based Medicine(VBM)

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———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS時期に白内障を指摘されたとする(図1の赤点).もしこの人が白内障の手術を受けなければ,視力は低下し続け,それに従いQOLも低下し,そのまま死に至ると考えられる(実線).しかし,ここで,白内障手術を受けた場合,その後視力が改善することでQOLは上昇するであろう.そして,QOLはゆるやかに低下しながら死に至る(図1の点線).このようなケースの場合,白内障手術がこの人に与えたvalueというのは図1の水色の部分である.この水色の部分とは,まさにQOL×持続期間といえる.Valueとは言うなれば,QOLの質と量を掛け合わせたものである.はじめに近年evidence-basedmedicine(EBM)をもう一歩進化させた概念としてvalue-basedmedicine(VBM)という考え方が提唱されている1).従来のEBMが最も正確で再現性のある医学的事実に基づく医療とすれば,VBMは治療によって患者自身が受けとめる結果としての価値(=value)に基づく医療といえる.つまり,予防や治療によって得ることができる全体価値(=utility:効用)によって医療結果を評価しようという試みである.同時にその結果を得るのに必要なコストも含めて検討することで,より効率のよい医療を行うという目的がある.従来の医療アウトカム評価に医療経済学的な考えを取り込んだ概念であり,医師でありながらMBA(経営学修士)を取得している欧米の医師が率先して取り組んでいる.本稿では,VBMについて概説する.IValueとは1.Valueとはどのように定義されるかVBMではvalue=qualityoflife(QOL)×持続期間と定義する.図1はある一人の人間の一生を示したものである.X軸を生存年数(若年期・中年期・高年期・死亡),Y軸をQOLとする.人間の一生は,その時々でQOLが変化する.若いときは健康で生活に何の支障もないが,年を経るに従ってなんらかの疾患に罹患することもあろう.QOLは徐々に低下し,最終的に死に至る(図1の実線).このような一生において,高年期のある(57)57YosimuneiratsuaoiciOno136-00753-3-20特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):5762,2009Value-BasedMedicine(VBM)Value-BasedMedicine平塚義宗*小野浩一*一生の分年年生存年年手術治療によって得られる生存年図1治療によって得られるvalueある一人の一生において,白内障の手術がその人に与えたvalue(QOL増加分).———————————————————————-Page258あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(58)度の指標では,眼科疾患間でのQOL評価の比較はできるが,眼科以外の多くの疾患間での比較ができない.3.効用とQALYsVBMで適用されるQOL指標は「効用」とよばれる.効用とは医療サービスを受けることによって得られる総合的な満足度を示した指標である.その値を効用値といい,健康状態を数値化したものである(図3).効用は,健康状態を死=0から完璧な健康=1の間の数値で表現する.そして,効用値0.6で10年間生きることは健康な状態(効用値1.0)で6年間生きることと同じ価値があると評価する.視覚関連のQOL評価法が,見づらさのため手助けを必要としているか,気まずい思いをするか,などとあらかじめ決められた問いに対する回答でQOLを評価しようする一方で,効用はその人自身が考えるあらゆる都合・不都合を総合して包括的に判断してもらうという考え方である.効用値の測定は患者の選好に基づいて行われる.選好とは「現在の健康状態」と「より良い健康状態になるために〈何か〉を失う」のは「どちらが良いか」という判断である.患者自身の価値観で重みづけをしたQOLともいえる.この失われる〈何か〉としては人生時間,金銭,死亡しない確率などが用いられるが,最も一般的な方法では人生時間,つまり寿命の短縮が採用され,これを時間得失法(time-tradeomethod:TTO)という(図4).生存期間と引き替えにQOLを入手可能である2.QOLはどのように定義されるかではQOLはどのように定義されるか.QOLは多様素性をもった主観であり,検査値や臨床所見などわれわれ医師の視点ではなく,患者の視点に立脚した評価が必要とされる.しかし,そもそもQOLを測って数値化することなど可能なのだろうか.1970年頃から患者立脚型アウトカム評価法というQOLを測定(measure)しようというさまざまな試みが行われてきた.そして,これまでに計量心理学的な手順を用いた多くの評価法が開発されてきた.SF36(MedicalOutcomeStudy-ShortForm36)やSIP(SicknessImpactProle)を代表とした一般健康像を対象としたものと,疾病や専門領域ごとの疾患特異尺度が存在する.視覚に特化したQOL測定法としてはVFQ-25(theNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionna-ire,25-item)2)やVF-14(VisualFunction14)3)があり,それぞれ25と14の質問に回答することで視覚的なQOLの数値化を行うものである.図2にVFQ-25の実際の質問例を示す.これらは日常生活に密着した視覚に関連する質問(たとえば,近くが見えるか,階段が下りにくくないか,車の運転は大丈夫かなど)に対する困難度を回答することで,その人のQOLを測定するという試みである.それぞれ優れた方法であり,これまで多くのQOL研究が行われている.しかし,この疾患特異尺効用値utilityvalue「効用値0.6で10年間生きる」「健康な状態で6年間生きる」という考え方死0完璧な健康1健康状態を数値で表したもの生存期間短縮と引き替えにQOLが手に入るQOL寿命図3効用値(utilityvalue)効用値は,生存期間と引き替えにQOLを入手可能であるという,生存期間とQOLを天秤にかけた考え方に基づいている.VFQ-25の質問例現在,あなたの両眼での「ものの見え方」は,どうですか?眼鏡(やコンタクトレンズ)を使っているときのことをお答えください.─最高によい・良い・あまり良くない・良くない・とても良くない・まったく見えないものが見えにくいために,道路標識や商店の看板の文字を読むのは,どれくらい難しいですか.─まったく難しくない・あまり難しくない・難しい・とても難しい・みえにくいのでするのをやめた・別の理由でするのをやめた,または,もともとしないものが見えにくいために,誰かの手助けを必要とすることが多い.─まったくそのとおり・ほぼあてはまる・何とも言えない・ほとんどあてはまらない・ぜんぜんあてはまらない….図2VFQ-25の質問例このような質問を25問行うことでQOLを評価する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200959(59)うことであり,このQALYsという切り口で医療を考え直してみようという考え方がVBMの本質である.QALYsを用いることで従来の治療の評価にQOLを加味して考えることができる.たとえば,ここに白血病で余命12カ月の患者が存在する.治療なしであと1年間生存する場合のQALYsを1とする.ここでまずEBMの観点から化学療法を行うことで2カ月寿命を延長できると仮定する.この場合,2カ月の延命により生存期間が0.17年(2/12)延びるので得られるQALYsはという,生存期間とQOLを天秤にかけた考え方に基づいている(図3).このTTOを多くの人に行うことで,さまざまな健康状態の効用値が浮かび上がってくる.表1にその例を示すが,良いほうの眼の矯正視力が0.1の状態は,軽度の狭心症よりも効用値が低いというような比較が可能となる1).現在,EQ5D(TheEuroQol5Dimensions)やHUI(HealthUtilityIndex)といった簡便に効用値を得るための,事前に点数化された質問票も開発されている.この効用値に生存年数を掛け合わせたものを質調整生存年(qualityadjustedlifeyears:QALYs)という(図5).QALYs=効用値×生存年数であり,これは前述のvalue=QOL×持続期間と同じものといえる(図1).すなわちVBMにおけるvalueとはそのままQALYsとい表1さまざまな健康状態の効用値健康状態効用値(TTO)備考完璧な健康1.00不整脈0.99Arterialbrillation(useofwarfarin)乳癌初期0.94狭心症0.88Mild心筋梗塞0.80Moderate前立腺癌(軽度)0.72Nosymptoms視力0.10.66LegalblindnessinU.S.潰瘍性大腸炎0.58Preoperative透析0.57心筋梗塞(重度)0.30Severe脳梗塞0.30Major死0.00効用値を利用することでさまざまな健康状態を比較できる.(BrownMM.Evidence-BasedtoValue-BasedMedicineから抜粋)治療によって得ることができる全体の価値QALYs(Qualityadjustedlifeyears)QOLの共通通貨QOLを考慮した生存年(質調整生存年)効用値生存年数ある治療によって効用値がどれだけ上昇し,しかもそれを何年間持続できるか図5QALYs(質調整生存年)とはQALYsはQOLの共通通貨のようなものであり,効用値×生存年数である.TimeTradeO?法(TTO)A:今の健康状態のまま,あと20年間生きることができます.B:健康状態にまったく支障がなくなりますが,あと(20,18,…)年しか生きることができません.・あなたの現在の健康状態について考えてみてください.今の健康状態において次のどちらかを選択しなければなりません.・B→A効用値=()/20その人自身が考えるあらゆる都合・不都合を総合して包括的に判断してもらうという考え方図4Timetradeo法(TTO)時間得失法(TTO)の質問例.手術の費用効用分析Input作業負荷時間材料費・経費教育・機会費用OutputQALYs手術CostUtilityQALYsという単一のQOLの指標をアウトカムとして費用対効果を考える図6手術の費用効用分析1手術に投入したコストが結果的にどれだけの成果(効用)をもたらすかを研究する方法で,コストは金銭価値,アウトプットは「QALYs」で評価される.QALYsという単一のQOLの指標をアウトカムとした費用対効果分析.———————————————————————-Page460あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(60)トカム評価」という.医療のアウトカムには3つの視点がある.医師による視点,患者(個人)による視点,社会による視点である(表2).医師の視点によるアウトカムの評価基準は,形態学的に治った・治らない,機能的に改善した・しないであり,その指標は死亡率減少,5年生存率改善や視機能の改善である.一方で,患者の視点によるアウトカムの評価基準は,日常生活機能・QOLは改善したかであり,指標として前述した患者立脚型アウトカム評価や効用が存在する.社会の視点によるアウトカムの評価基準は,社会全体の厚生は改善したのか,社会としてのコストはどうか,医療の効率性を示す費用対効果はどうかなどであり,その指標は金銭価値で示されることが多い.従来のアウトカムはわれわれ医師が考えるアウトカムであった(といっても過言ではない).視力が改善したのだからよい,網膜が復位したのだから成功,黄斑浮腫の丈が減ったのだから効果ありました.筆者を含め多くの眼科医師がそう考えてきた.しかし成熟した社会となりつつある日本を含めた多くの先進国において,現在,求められている視点は,患者による視点と,社会による視点である.VBMはこれらの視点に立脚している.米国立衛生研究所(NIH)は臨床研究を効率的に進めるためにPROMIS(PatientReportedOutcomesMea-surementInformationSystem)という患者立脚型アウトカム評価のネットワークを2004年に立ち上げた.2008年7月にFDA(米国連邦食品医薬品局)は1+1×0.17=1.17QALYsということになる.つぎに,VBM的な観点から考えてみる.たとえば,化学療法中の患者のQOLが嘔吐や脱毛,倦怠感などの副作用が強いために低く,効用値0.7であったとする.この場合得られるQALYsは0.7×(1+0.17)=0.82であり,これは治療を行わない場合のQALYs1よりも低い値となる.つまり,患者のQOLを考慮した場合,化学療法を行うことは必ずしも最善の治療であるとはいえないということになる.QALYsはQOLの共通通貨のようなものであり,QALYsを基準とすることで,さまざまな医療のvalueを比較することが可能となる.IIVBMで何が可能か1.アウトカム評価医師が行う医療行為の評価はむずかしい.われわれ医師からすると,これだけのスキルで,ここまで労力と時間をかけて行った治療であるから,その価値は相当なものだと思いたくもなるし,実際,多大なコストを費やして行っている診療の価値は高いのだと考えたくなる.しかし,この考え方はいわゆる古典派経済学の基本思想である労働価値説(商品の価値は労働時間で決まる)であり,もはやそんなことを言う人は誰もいない.商品の価値は,それを利用することで得られる結果としての「効用」で決まる.医療においては「結果(アウトカム)は?」という視点である.医療行為をアウトカムで評価することを「医療のアウ表2アウトカムの3つの視点アウトカム評価基準例医師ベースPhysician-basedoutcomes客観指標形態学的異常治った/治らない機能的異常改善した/しない死亡率減少5年生存率改善関節可動域改善視機能改善患者ベースPatient-basedoutcomes症状QOL効用見えにくさ,痛み日常生活機能への影響価値づけしたQOL症状スケール,視機能改善SF-36VFQ-25,VF-14EQ5D,HUI,SF-6D社会ベースSociety-basedoutcomes便益生産性医療資源消費費用対効果病休,生産性医療費$,\/QALYS医師ベース,患者ベース,社会ベースの3つで考える.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200961(61)PROMISの結果は,新しい医療製品や治療の評価において,とても意義高い評価法であると表明した.今後,医療のアウトカム評価はますます発展していくと思われる.2.費用対効果医療資源の効率的な活用において,避けて通れない考え方が費用対効果である.投入されたコスト(金銭価値)が結果としてどの程度のリターンを生むのか,少ないコストで最大のリターンを得るのがベストであるという考え方である.医療における費用対効果分析は大きく4つ方法が存在するが,そのなかで多くの領域における障害間や治療間での費用対効果の比較が可能なのが費用効用分析(cost-utilityanalysis:CUA)である(表3).CUAでは,コストは金銭価値,効果は「QALYs」で評価される(図6).そして,QALYを1単位得るのに必要なコストを検討する.したがって,この値が低ければ低いほど,同じ1単位のQOLを低コストで得ることができる効率的な治療ということになる(図7).1990年代後半から,欧米を中心にCUAが多く行われるようになった.その40%は医薬品のCUAであるが,手術に関しても多くの研究が行われてきている.たとえば,未熟児網膜症に対する光凝固は$783,1型糖尿病網膜症硝子体出血に対する硝子体手術は$2,098という結果がある.これらは,若い患者群が対象であるため生存年数が長く,得られるQALYも高い.結果,費用対効果が高くなる.一般に$20,000/QALY以下であ表3医療の費用対効果分析Cost/Outcome・ReturnCost(費用)Outcome(結果)評価の基準・特徴費用最小化分析Costminimizationanalysis$貨幣価値円・$なし(結果は同等と仮定する)結果がほぼ同等の場合に適用費用が最小の代替案を選択費用便益分析Costbenetanalysis$貨幣価値円・$$貨幣価値円・$結果を貨幣に変換し表現する便益が費用を上回るか費用効果分析Costeectivenessanalysis$貨幣価値円・$目的となる特定の健康状態改善(数量化)(生存年延長,罹患率減少,合併症低下率,HbA1C正常化率など)最も一般的特定の結果に対して費用効果比の高いものを適用費用効用分析Costutilityanalysis$貨幣価値円・$QALYs質を考慮した健康状態改善(数量化)QALYsを共通通貨として多くの治療間で比較可能$/QALYsが低いものを適用広義の費用対効果分析には4種類ある.=費用効用分析Cost-UtilityAnalysis手術をとりまくコスト得られるQALYs1QALYを得るために必要なコスト単位$/QALY,¥/QALYこの値が小さいほど効率的な治療といえる図7手術の費用効用分析2QALYを1単位得るのにいくらかかるかを評価する.したがって,この値が低ければ低いほど,同じ1単位のQOLを低コストで得ることができる効率的な治療ということになる.白内障手術は,他の手術に比較しても,極端に費用対効果が高い1QALY当たりのコスト比較/QALYgainedconvertedtoyear2001or2002未熟児網膜症ーー783腸障害に対するロリ治療1,321型糖尿病網膜症硝子体出血硝子体手術2,098白内障手術(初回)2,155前再術6,500人内9,900動脈疾患アスリン内11,000動脈イパス12,000脳動脈クリッン12,000図8手術(治療)の1QALY当たりのコストの比較これらはすべて$20,000以下の費用対効果の高い手術(治療)である.なかでも白内障手術は極端に費用対効果が高いという報告がある.———————————————————————-Page662あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(62)うわけではない.実際,先述のNICEに関しては,導入の閾値が低すぎるという意見や,フリーサイズのQALYsではなく個人の状態や年齢を考慮に入れてQALYsに重みづけすべきだという議論もあり,2009年2月に現在の基準を再検討する専門家検討会を開催することとなった.これらの指標を用いる際には,その値がすべての価値を示すのではなく,多くの情報のなかの一つの判断材料として用いる必要があろう.ただ,一方で,障害間での重症度の比較や,手術間での治療効率を比較する場合,現段階において,これ以外の方法が存在しないことも確かである.今後,少子超高齢化社会を迎え,成熟し成長が止まるとされる日本社会においては,このような考え方を少なくとも理解しておく必要があろう.また,医療費の問題に関しては,実は「誰が負担するのか」という根本的な問題がベースに存在し,その部分も同時に日本全体として煮詰めていかないかぎり,「会議は踊る,されど進まず」である.文献1)BrownMM,BrownGC,SharmaS:Evidence-BasedtoValue-BasedMedicine.AmericanMedicalAssociation.USA,20052)SteinbergEP,TielschJM,ScheinODetal:TheVF-14.Anindexoffunctionalimpairmentinpatientswithcata-ract.ArchOphthalmol112:630-638,19943)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20014)BusbeeBG,BrownMM,BrownGCetal:Incrementalcost-eectivenessofinitialcataractsurgery.Ophthalmolo-gy109:606-612,20025)PearsonSD,RawlinsMD:Quality,innovation,andvalueformoney:NICEandtheBritishNationalHealthService.JAMA294:2618-2622,2005れば,魅力的であり,きわめて費用対効果の高い手術であるといわれ,眼科手術や治療の多くがこのなかにはいる.白内障手術のCUA値は$2,155/QALYであり4),これは他の多くの手術と比較しても,極端に費用対効果の高い手術となっている(図8).IIIVBMは実際にどう利用されているか医療資源配分における効率を考える費用対効果分析は実際どのように利用されているか.すでに,ヨーロッパ諸国を中心に,医薬品の公的保険支払い対象導入時に費用対効果分析の結果提出が義務付けられ始めている.1993年にオーストラリアで始まり,1994年にカナダ,1999年にオランダとイギリスで導入されている.なかでも現在,特に話題になっているのが,イギリスのNationalInstituteofClinicalExcellence:NICEである.NICEはイギリスの国営医療制度NHS(NationalHealthService)の一部であり,その運用に対して国家的指針を与える独立組織である.NICEは国民の税金で成り立つ国営医療制度の対象として新しいテクノロジーの導入をする際に費用対効果を考慮している.一般に,その費用対効果が$30,600$45,900/QALYを導入の閾値としており5),抗癌剤やAlzheimer病の治療薬をNHSは負担しないとした問題は,社会的な論争となっている.IVVBMの問題点と課題QALYsという指標は,その考え方のなかに,改善しにくい疾患や,平均余命の短い高齢者を冷遇している点がある.また,重症の人が1QALY健康になることと,健康な人が1QALYより健康になることは同じであるとしてよいかという問題もある.このような方法論は,生命価値を金銭価値に置き換えるという側面があるので,倫理的に受け入れられにくい.いまだ完成されたものとはいえず,世界中で受け入れられている考え方とい

Clinical Trial:JATスタディ

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS間とし,12カ月間の経過観察を行った.症例数は中心窩下に脈絡膜新生血管(CNV)を有する加齢黄斑変性患者64例で,両眼に加齢黄斑変性を発症しているものに対しては片眼を対象とした.投与方法は,まずベルテポルフィンを1体表面積当たり6mgで計算し投与量を決める.10分間かけて静脈内投与し,投与開始から15分後に波長689±3nmで光照射エネルギー量50J/cm2(照射出力600mW/cm2で83秒間)を治療スポットに照射する.ベルテポルフィンによるPDTの作用機序をつぎに示す.静脈内に投与されたベルテポルフィンが血漿中の低比重リポ蛋白(LDL)に移行する.新生血管内の内皮細胞組織ではLDLの取り込みが増加しており,LDLに移行したベルテポルフィンがCNVに集積する.熱を伴わないレーザー光を黄斑部病変に照射すると,CNVに集積したベルテポルフィンが活性化され,細胞障害性の強い一重項酸素などが生成される.一重項酸素などがCNVの構造的,機能的障害を起こし,障害された血管内皮からはリポキシゲナーゼやシクロオキシゲナーゼ経路を介して凝固促進因子が生成され,血小板凝集,血栓形成,血管収縮を誘発しCNVを選択的に閉鎖する.観察時期は,ベースラインおよび治療1週間後,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月後とした.また,初回治療後12カ月間の経過観察中,3カ月ごとに蛍光眼底造影を施行し,CNVからのフルオレセインの漏出が認められた際は,再度PDTを施行した.はじめにJapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(以下,JATスタディ)は,2000年5月から始まった加齢黄斑変性患者に対する光感受性物質ベルテポルフィンによる光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の有効性と安全性を評価するために,国内で実施された第Ⅲ相試験である.ベルテポルフィンは加齢黄斑変性の中心窩下脈絡膜新生血管による深刻な視覚喪失のリスクを軽減するとされている.欧米では1998年からTreat-mentofAge-relatedMacularDegenerationwithPho-todynamicTherapy(TAP)Studyが行われ1,2),ベルテポルフィンによるPDTが承認された.日本では,2000年になって臨床への適応のために,TAPStudyに従いJATスタディが行われた.JATスタディでは全症例を治療対象としているのに対し,TAPStudyでは治療群と対照群に分けて比較検討している〔TAPStudyでは609例をPDT群と対照群が2:1(PDT群が402例,対照群が207例)になるように振り分けた〕点が相違点である.本稿では,JATスタディを中心に解説し,TAPStudyとの比較をし,2008年に発表されたPDTガイドラインについても触れていくことにする.IJATスタディの概略JATスタディは国内5施設にて行われた他施設オープン試験で,2000年5月から12月までをエントリー期(51)51aaiainiaaiti::522192特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):5155,2009ClinicalTrial:JATスタディClinicalTrial:JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial柿木雅志*大路正人*———————————————————————-Page252あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(52)疑わしいものが1例(2%),認められなかったものが12例(19%),分類不能が1例(2%)であった.病変の大きさはMacularPhotocoagulationStudyグループによって定められた病変サイズの単位(MPSDA)で,3MPSDA未満が36例56%,3以上6MPSDA未満が21例(33%),9MPSDA以上が1例(2%),分類不能が2例(3%)であった.病変の最大直径(greatestlin-eardimension:GLD)は平均3,228.5μmであった.III結果12カ月間経過観察できた症例は64例中61例(95%)であった.1.最高矯正視力最高矯正視力の平均視力はベースライン時の50.8文字から12カ月後に53.8文字に増加していた.最高矯正視力の中間値では,ベースライン時の50.0文字から12カ月後では56.5文字に増加していた.PDT治療1週間後に文字数の増加がみられ,12カ月間維持していた(図1).TAPStudyでは,12カ月でベースラインからの最高矯正視力の平均視力の低下はPDT群が11.2文字,対照群が17.4文字であった.24カ月ではPDT群13.4文字,対照群で19.6文字の低下を示していた(図2).JATスタディでは視力の改善を認めていた.一方,主要な評価項目はつぎに示すとおりである.①最高矯正視力による視力の変化をEarlyTreat-mentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)チャートを用いて測定し,最高矯正視力のベースラインからの平均変化を求め,観察時期ごとに視力の平均,中央値,標準偏差,最小値,最大値を集計する.②PhotographReadingCenterの評定システムに従い,対象眼のclassicCNVおよびoccultCNVの割合を求め,観察時期ごとに集計する.③PhotographReadingCenterの評定システムに従ったCNV病変サイズの推移.II患者背景とベースライン特性64例の内訳は男性45例(70.3%),女性19例(29.7%)で平均年齢70歳.喫煙者の割合は45例(70%)であった.視力の平均はETDRSチャートで50.8文字(少数視力で約0.2).CNVの位置は,中心窩下にあるものが46例(71.9%),中心窩下の可能性があるものが11例(17.2%),中心窩下以外が6例(9.4%),分類不能が1例(1.6%)であった.全病変におけるclassicCNVの割合は,50%以上を占めるものが16例(25%),50%以下が34例(53%),classicCNVの存在が疑わしいものが5例(8%),認められなかったものが9例(14%)であった.OccultCNVが認められたものは50例(78%),(文字数)60(20/64)(20/80)50.850.054.056.553.852.6(20/100)(20/125)555045視力の平均値および中間値ベースライン1週3カ月フォローアップ期間6カ月9カ月12カ月:平均値:中間値図1JAT研究にみる視力の推移〔JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(AJO,2003),p.1053,Figure1より改変〕13.412.81312.611.29.58.75.8019.619.217.818.317.415.513.19.7272421181512963003691215182124:ベルテポルフィン(n402):対照(n207)p0.001*(文字数)ベースラインからの視力変化フローップ期間(月)図2TAPStudyにみる視力の推移*:24カ月後の治療群間の共分散分析による有意差検定.検定は補正した平均値について実施(図は補正していない平均値を表示).(ノバルティス株式会社社内資料より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200953(53)ベースラインで36例(56%)であったが,治療後6カ月では39例(61%),12カ月で41例(64%)であり,経過観察期間中CNV病変サイズの縮小効果が認められた(図3).TAPStudyではCNV病変サイズが3MPSDA以下であった症例数はベースラインでPDT群140例(35%),対照群68例(33%)であったが,12カ月でPDT群では15%,対照群では5%,24カ月ではPDT群で12%,対照群で5%であった.PDT群は対照群に対し,CNV病変サイズの増大を抑制していた.IV副作用経過観察した64例のうち,副作用を認めたのは27例(42.2%)で治療と関係があると考えられた副作用発現件数は59件であった.全身性の副作用で重篤なものは,心筋梗塞1例(2%),脳梗塞1例(2%),大動脈瘤1例(2%)であった.対照眼の副作用のうちおもなものは,網膜下出血1例(2%),変視症や霧視などの視覚異常3例(5%),眼痛2例(3%),重篤な視力低下2例(3%)であった.死亡例はなかった.TAPStudyでは対照群との比較において視力低下に対する抑制効果が認められていた.最高矯正視力の検討では,欧米人に比べ,日本人にはPDTが効果的であった.2.治療回数PDT初回治療から9カ月後までに受けた治療回数の平均は2.8回であった.3.病変サイズの変化経過観察期間中classicCNVの進展が認められた症例は治療後1週間で1例(2%),3カ月で9例(14%),6カ月で13例(20%),9カ月で12例(19%),12カ月で12例(19%)であった.CNVの進展が認められた症例の割合は治療6カ月後からはほぼ安定しており,classicCNVの進展に対する抑制効果が認められた.4.CNV閉塞効果CNV閉鎖グレードの推移において,classicCNVではベースラインで55例(86%)に蛍光漏出を認めたが,治療後に蛍光漏出を認めないものが6カ月後で30例(47%),12カ月後で32例(50%)であった.OccultCNVではベースラインで51例(79.7%)に蛍光漏出を認めたが,治療後に蛍光漏出を認めないものが6カ月後で38例(59%),12カ月後で49例(77%)であった.日本人に対するPDTではclassicCNVおよび,occultCNVの完全閉塞症例の増加を認めていた.TAPStudyでは,classicCNVで24カ月後に進展を認めたものが,PDT群で93例(23%),対照群で111例(53.6%).完全閉塞したものが,PDT群で206例(51%),対照群で59例(29%)であった.また,occultCNVで24カ月後に進展を認めたものが,PDT群で149例(37%),対照群で105例(51%).完全閉塞したものが,PDT群で196例(49%),対照群で84例(41%)であった.西欧人における検討でもclassicCNVおよびoccultCNVでの検討で,PDT群は対照群に比べて有意にCNV閉塞効果が認められていた.5.CNV病変サイズCNV病変サイズが3MPSDA以下であった症例数はベースライン患者の比(%)6カ月12カ月70605040302010056336236125923642862n=36n=21n=4n=1n=2n=38n=16n=6n=1n=2n=41n=18n=3n=1n=12:<3MPSDA:>3to<6MPSDA:>6to<9MPSDA:>9MPSDA:分類不能図3JATスタディにみるCNV病変サイズの変化〔JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(AJO,2003),p.1057,Figure5より改変〕———————————————————————-Page454あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(54)24カ月では2.2回であった.日本人に対するPDT施行回数は12カ月から24カ月にかけては,欧米人と比べて少なくなっていることは興味深いことである.VIPDTガイドライン欧米においてはすでに2002年にCNVを伴う加齢黄斑変性に対するベルテポルフィン療法ガイドラインが公表され4),2005年に改訂されている5).わが国ではJATスタディによりPDTの安全性と有効性が示され,2004年からは加齢黄斑変性の治療として多施設で開始された.さまざまな検討から,日本人の加齢黄斑変性にはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が多いことがわかってきたが,欧米のガイドラインではPCVは考慮されていなVExtendStudy2008年に,JATStudyGroupから,追跡調査の結果が発表された3).JATスタディで対象となった64例中,24カ月後まで経過観察が可能であった症例数は46例(90%)であった.ベースラインの視力は50.8文字であったが,24カ月では54.0文字で,最高矯正視力の改善を認めている.12カ月間経過観察できた51例におけるPDT施行回数は平均3.0回であったが,24カ月間経過観察できた46例における12カ月から24カ月の間のPDTの施行回数は0.9回となっている.一方,TAPStudyでは最初の12カ月では3.4回であったのに対し,12カ月から0.180.190.180.20.180.140.150.150.130.130.130.120.110.110.120.010.11ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月:OccultwithnoclassicCNV:PredominantlyclassicCNV:MinimallyclassicCNV少数視力図5PDTガイドラインによる平均視力の推移〔GuidelinesforPDTinJapan(Ophthalmology,2008),p.585e2,Figure1より改変〕:PCVあり:PCVなし1.00.10.01小数視力ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月0.150.140.170.140.180.140.180.140.190.14p=0.045p=0.015p=0.026p=0.004図6PCV所見の有無による平均視力の推移〔GuidelinesforPDTinJapan(Ophthalmology,2008),p585e2,Figure1より改変〕病変タイプ1,800μm以下1,8005,400μm5,400μm0.5よりも0.1以上0.5以下0.1未満病変サイズ(GLD)視力中心窩下PredominantlyclassicCNV,minimallyclassicCNVoroccultwithnoclassicCNVなしあり病変の位置PCVPDTを強く推PDTを推タリング図4PDTガイドライン〔GuidelinesforPDTinJapan(Ophthalmo-logy,2008),p.585e6,Figure7より改変〕———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200955(55)2)TreatmentofAge-relatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photody-namictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithverteporn.Two-yearresultsof2randomizedclinicaltrials─TAPreport2.ArchOphthalmol119:198-207,20013)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:PhotodynamictherapywithverteporninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovasculariza-tionsecondarytoage-relatedmaculardegeneration(AMD):resultsoftheJapaneseAMDTrial(JAT)exten-sion.JpnJOphthalmol52:99-107,20084)VertepornRoundtable2000and2001Participants,Treat-mentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhoto-dynamicTherapy(TAP)StudyGroupPrincipalInvestiga-tors,VerteporninPhotodynamicTherapy(VIP)StudyGroupPrincipalInvestigators:Guidelinesforusingverteporn(Visudyne)inphotodynamictherapytotreatchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothercauses.Retina22:6-18,20025)VertepornRoundtableParticipants:Guidelinesforusingverteporn(Visudyne)inphotodynamictherapyforchor-oidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothercauses:update.Retina25:119-134,20056)TanoY:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6,2008い.そのため,日本眼科PDT研究会は,日本独自のガイドラインの作成を行うために国内13施設でベルテポルフィン市販後調査を行った.12カ月間経過観察を行えた469例471眼を対象とした膨大なデータの分析や詳しい検討をもとに,2008年になってわが国独自のPDTガイドラインが発表された6)(図4).471眼における病変タイプ別の視力維持効果では,occultwithnoclassicCNV,predominantlyclassicCNV,minimallyclassicCNV,すべての病変で12カ月間にわたって視力が維持されていた(図5).また,PCV症例ではベースラインと比べて,視力が改善しており,PCVのない症例に比べて視力が有意に改善していた(図6).今後,PDTガイドラインは,PDTをより安全で適切に施行するための指標となることであろう.文献1)TreatmentofAge-relatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photody-namictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithverteporn.One-yearresultsof2randomizedclinicaltrials─TAPreport1.ArchOphthalmol117:1329-1345,1999

観察研究(横断研究):久米島スタディ

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS平均値は14.4mmHg,さらに眼底写真の結果と視野検査の結果を複数の緑内障専門医により別個に判定することでその診断の信頼性を格段に向上させた.その結果は驚くべきことに正常眼圧緑内障有病率はShioseらの報告をさらに上回り,3.6%とこれまで世界的にも報告されたことがないほど高有病率であり,この結果岩瀬先生は第1回AIGSアワードを獲得する偉業を成し遂げた.つぎに,緑内障の2大病型である閉塞隅角緑内障に関してはどうであろうか.実はShioseらの報告のなかに閉塞隅角緑内障の有病率は日本全国平均で0.34%であったが,北海道ではその有病率は比較的高く0.86%で,熊本では0.12%と低有病率であった.つまり北海道では約7倍熊本より高頻度であることが示され,日本国内における地域差が示されていたのである.しかしながら多治見スタディとShioseらの全国調査では閉塞隅角緑内障の診断基準が異なっており,Shioseらの診断基準は隅角の判定ではより厳しい診断基準を用いていた(表1).すなわち,Shioseらの全国調査とYamamotoら3)の多治見スタディにおける閉塞隅角緑内障の結果は受診率と診断基準の2点で異なっており,閉塞隅角緑内障の有病率に関しての直接的な比較は困難であることが理解されると思う.実際,Shioseらの閉塞隅角緑内障の診断基準に基づいて多治見スタディの有病率を計算すると0.23%になることが報告されている.緑内障の診断基準は1998年にInternalSocietyofGeographycalandEpi-demiologicalOrganization(ISGEO)が決定しており,はじめに久米島町民眼科検診(久米島スタディ)は,多治見スタディに引き続いて沖縄県における緑内障の有病率,病型別有病率を明らかにするために行われた大規模疫学調査である.特に多治見スタディとの比較から日本国内における有病率,病型の地域差について明らかにすることが大きな目的であった.久米島スタディは緑内障学会データ解析委員会の6番目のプロジェクトとして承認され,琉球大学眼科学教室のスタッフを中心に実施された.I疫学調査の背景1.国内における緑内障有病率・病型の地域差わが国における最初の緑内障の大規模疫学調査は1989年にShioseら1)により日本全国を対象として行われ報告されている.このShioseらの報告から日本においてはとりわけ正常眼圧緑内障の有病率が高く,全緑内障有病率3.56%のうち2.04%が正常眼圧緑内障であったと報告された.しかしながら疫学調査の重要なポイントの一つである受診率は約50%にとどまったことと,眼圧は非接触型の眼圧計で測定されており,平均眼圧が13.7mmHgとそれまでの疫学調査の報告に比べ明らかに低い数値であることが問題となった.この疫学調査の結果を確認するために日本緑内障学会を主体に多治見市で2000年から2001年にかけて大規模疫学調査が行われた.この結果はIwaseら2)の努力によって受診率78.1%,Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定により眼圧の(45)45hoichiaaguchi::9321527特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):4550,2009観察研究(断研究):久米島スタディObservationalCross-SectionalStudy:TheKumejimaStudy澤口昭一*———————————————————————-Page246あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(46)視神経乳頭の構造的な異常と視野検査の機能的な異常の双方が診断に必要であるとされた(表2).さらに,隅角閉塞の診断基準に関しては2002年にFosterらが報告している4)(表3).Shioseらの正常眼圧緑内障のわが国における有病率を確認するために行われた多治見スタディに対して,久米島スタディでは多治見スタディの閉塞隅角緑内障の有病率を再確認することになるのか,あるいはアジア系民族のようにより高い有病率になるのかを調べることが大きな目的となった.2.国際的な閉塞隅角緑内障有病率との比較緑内障の有病率には地域差,人種差があることが報告されている.白人,黒人では一般的に原発開放隅角緑内障の有病率が高く,正常眼圧緑内障や閉塞隅角緑内障の有病率は低いことが報告されてきた.それに対してわが表3Classicationofprimaryangleclosure(PAC)―閉塞隅角症の分類―(1)閉塞隅角眼(Occludable-angle,閉塞隅角症疑い):Primaryangle-closuresuspect(PACS)機能的な隅角閉塞の可能性がある場合(下段参照)(2)閉塞隅角症:Primaryangle-closure(PAC)上記に加え,隅角閉塞の所見が認められるもので1.周辺虹彩前癒着,2.眼圧上昇,3.急性発作の所見(虹彩萎縮,glaukom-ecken,線維柱帯の過剰な色素沈着),しかし視神経乳頭は緑内障ではない(3)閉塞隅角緑内障:Primaryangle-closureglaucoma(PACG)PACに緑内障の診断を伴った場合疫学調査では暗室,正面視の細いスリット光による隅角鏡検査で線維柱帯色素帯が270°以上観察できない場合を閉塞隅角眼としている.しかしこの定義は完全なものではなく,長期的研究による評価が必要である.この定義に基づいたより多くの臨床的な証拠の積み重ねが現時点での最も重要な課題である.(文献4より)表1日本における緑内障疫学調査(Shioseら,Yamamotoら)の閉塞隅角緑内障の診断基準Shioseらの閉塞隅角緑内障の診断基準スクリーニング:非接触型眼圧計で18mmHg以上かつ細隙灯顕微鏡検査でvanHerick分類で狭い症例隅角の確定診断:隅角鏡検査でShaer分類でGrade0,1とスリット状(ShaerGrade2以上は開放隅角と定義)眼圧はGoldmann眼圧計で21mmHg以上視神経乳頭異常および視野異常は必須ではないYamamotoらの閉塞隅角緑内障の診断基準スクリーニング:視力不良,Goldmann眼圧計で眼圧19mmHg以上,乳頭異常など隅角はvanHerick法2度以下隅角の確定診断:隅角鏡で線維柱帯色素帯が3象限以上見えない視神経乳頭と視野の緑内障性の異常表2Thediagnosisofglaucomaincrosssectionalprevalencesurveys(Thediagnosisismadeaccordingtothreelevelsofevidence)―横断的疫学調査における緑内障診断基準:緑内障の診断は3段階の基準で決定される―カテゴリー1による診断:乳頭形態と機能の両方の異常が必須形態の異常:陥凹/乳頭比あるいはその左右差が正常人口における97.5%をはずれる(おおむね垂直C/D比が0.7以上).乳頭リムが11時-1時,5時-7時で乳頭径の0.1以下.機能の異常:緑内障による明らかな視野異常が存在するカテゴリー2による診断:明らかに進行した乳頭形態異常を示すが視野異常は必須でない形態の異常:陥凹/乳頭比あるいはその左右差が正常人口における99.5%をはずれる(おおむね垂直C/D比が0.9以上)場合.機能の異常:視野検査の有無や信頼性によらず,乳頭形態異常から緑内障と診断される.カテゴリー1,2の診断では陥凹/乳頭比が他の(眼)疾患で生じないことが必須である.たとえば元々異常な乳頭形態や著しい不同視眼,あるいは視野障害が網膜血管障害によるもの,黄斑部変性,脳血管障害などによる場合は除かれる.カテゴリー3による診断:視神経乳頭が観察不能,視野検査不能視神経乳頭の検査が不可能の場合:A.視力が0.05未満かつ眼圧が人口の99.5%を超える場合,あるいはB.視力が0.05未満でかつ濾過手術が施行されている,または緑内障による視機能障害が緑内障によることを証明できるカルテなどの記録がある(文献4より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200947(47)の離島のなかでは比較的距離的に近いことから,疫学調査の対象地として適していると考えられた.このため1990年には小規模ながら町民の眼科検査が琉球大学眼科学教室主催で行われており,その結果は明らかに本土の対象者に比べ前房深度が浅く,眼軸長が短いことが報告されていた9).さらに,少数ながら2名が眼圧21mmHg以上の閉塞隅角緑内障と診断された(有病率に直すと約0.8%)10).これらの事情をふまえて日本緑内障学会主催による大規模緑内障疫学調査,特に閉塞隅角緑内障を中心とした検診が開始されることとなった.II久米島における疫学調査の概要(図1)1.調査期間2005年5月から2006年8月末まで長期間にわたり,検診などの調査業務は公立久米島病院を中心に行われた.久米島町は石垣島とは異なり,日本本土からの移住者が少なく,沖縄を中心とした南西諸島のもともとの住民がほとんどであり,人口は約9,000人であり対象となる40歳以降の人口は5,000人程度と疫学調査として適した人口規模でもあった.久米島は面積約60平方km(淡路島の1/10)の小さな島で島内を車で一周しても1時間もかからず,このため検査,調査は公立久米島病院を中心に行うことができたため,多治見スタディのような巡回診療は不要であった.そのため多治見のように検査機器の移動やそれに伴う多数のマンパワーは不要であった.それでも検診期間中は眼科医5名,視能訓練士を含めた検査員5名,ボランティア3名,町職員3名,病院職員2名の,総勢で約20名のスタッフで診療,検査を行った.検診は毎週末の土曜日と日曜日の2日間にわたって行われた.また町民への啓蒙活動を行うために毎週23カ所の地域の公民館に町職員と一緒にパワーポイントを使って講演会を行い,検診への参加を呼びかけた.2.検査:一般(スクリーニング)検査眼科検査は多治見スタディとほぼ同様であり,まず簡単に検査の目的や検査によるメリット,デメリットをビデオを用いて供覧した.ついでインフォームド・コンセントを得,同意を得られた住民に承諾のサインを頂い国ではShiose,Iwaseらの疫学調査から正常眼圧緑内障の有病率がきわめて高く,全緑内障の過半数以上がこのタイプの緑内障であったことが報告された.では閉塞隅角緑内障の有病率はどうであろうか5).閉塞隅角緑内障はイヌイットで高有病率であり,2%以上を超える報告が相ついでいる.また東南アジア系民族は中等度から高頻度であり,おおむね1%を超える報告が多い.わが国では前述のShioseらの報告では0.34%であり,一方,新しい最近の診断基準に準拠したYamamotoらの報告では0.6%であった.疫学調査では診断基準の変更や新しい診断機器の進歩がその有病率に影響を与えるため,閉塞隅角緑内障の有病率に関しても多治見スタディと同様の診断基準に基づく比較検討が国際的な評価のために必要とされた.3.沖縄県久米島で疫学調査を行う理由日本民族は比較的単一な民族であるとされている.しかしながらそのルーツは12,000年以上前の最後の氷河期,大陸と陸続きのころに大陸から移動してきたいわゆる縄文系文化と,20003000年以上前に農耕文明とともに大陸から渡ってきた弥生系文化の2つの文化・民族の混血であることが知られている.そのなかでは,沖縄県では比較的縄文系が,一方,本土では弥生系が色濃いことが報告されており6),この違いが日本の各地域における緑内障の有病率や病型に影響を与えているかどうかは興味深い点の一つである.以前から沖縄県は閉塞隅角緑内障の有病率が高いことが知られていたが,報告はいわゆるホスピタルベースのものであり7),疫学調査(新しい診断基準)に基づいた真の有病率は報告されていない.閉塞隅角緑内障の治療に関しては予防的なレーザー虹彩切開術の普及によりその有病率(特に急性発症の閉塞隅角緑内障)が影響を受けていることは想像に難くない.このような治療法の普及にもかかわらず,沖縄県では急性閉塞隅角緑内障が年間で推計約170症例が発症していることから,いまだに本土に比べて閉塞隅角緑内障の有病率はかなり高率であることが窺われていた8).久米島は沖縄県の有人離島であり,眼科医が常駐せず,レーザーを含めた治療に関しても十分普及しているとは言い難く,その一方でコミューター航空で30分と沖縄———————————————————————-Page448あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(48)3.特殊検査狭隅角(閉塞隅角)眼が多いことが予測されていたため,疫学調査としては初めて住民10%をランダムサンプリングで抽出し,超音波生体顕微鏡検査(UBM)を行った.細隙灯顕微鏡検査で狭隅角の指標であるvanHerick法で1度以下と隅角鏡検査でShaer分類1度以下の症例は全例UBMを行った.た.検診票問診,血圧,体重,身長などを病院職員,町役場職員に行ってもらってから眼科検査を開始した.まず非接触検査として多治見スタディと同様に屈折検査,視力検査,FDT(frequencydoublingtechnology)視野検査,眼底写真撮影を行った.追加検査として参加者全員にIOLマスターによる眼の生体計測を行った.さらに,走査型周辺前房深度測定(SPAC)も全例に行っている.つぎに診察室で細隙灯顕微鏡検査,Goldmann圧平眼圧測定,さらに全例の隅角鏡検査を行った.写真①写真④写真⑤写真⑥写真②写真③図1公立久米島病院内での検診の様子写真①②③④:検診風景.簡単な身体検査と基本的な眼科検査.写真⑤⑥:検診風景.UBM検査と前眼部検査.〔銀海200号(2007年10月号)より〕———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200949(49)閉塞隅角の判断はFosterらの判定基準に準拠した(表3).IV結果検診参加者は40歳以上の全島民4,672名中3,652名で,81.2%の参加率となった.多治見スタディの78.1%とほぼ同等の国際的にも高い値(受診率)であった.全緑内障の有病率は7%強であり,多治見スタディの5%を大幅に上回ることが判明した.興味深いことに開放隅角緑内障の有病率は多治見スタディとほぼ同様で4%弱であった.すなわち,久米島(沖縄)では緑内障の高有病率のうち,閉塞隅角緑内障と外傷などの続発緑内障が多治見スタディとの大きな違いであることが明らかとなった.今後,生体計測の結果など閉塞隅角緑内障関連の多くのデータが発信できるものと考えている.まとめ日本における閉塞隅角緑内障の有病率を新しい診断基準に準拠して,その地域差を多治見スタディと比較することで確認しようとする久米島スタディは,一方で,閉塞隅角緑内障の病態解明への可能性を含む研究となるものと考えている.走査型周辺前房深度計(SPAC)による膨大な数の閉塞隅角緑内障予備軍の存在(20%以上),参加者全員の生体計測の結果,などから今後は逆に本土における同様の調査を行い,そのデータを比較検討することで閉塞隅角緑内障のルーツを人類学的にたどることが可能となるかもしれない.久米島スタディで得た多くのデータが閉塞隅角緑内障の神秘のベールをがしてくれるかもしれない.文献1)ShioseY,KitazawaY,TsukaharaSetal:EpidemiologyofglaucomainJapan─Anationwideglaucomasurvey─.JpnJOphthalmol35:133-155,19912)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-mary-openangleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.TheTajimiStudyreport2.Ophthalmology112:1661-1669,2005III診断のプロセス1.異常者のスクリーニング撮影された眼底写真を3名の緑内障専門医(緑内障学会評議員,理事:SS,AI,GT)が読影し,視神経乳頭や眼底に異常を検出した場合,二次検診(確定検査)対象者とされた.また視力不良例,vanHerick法2度以下の狭隅角の受診者も全例が二次検診対象者とされた.他にFDTで異常が検出された受診者も二次検査対象者となった.この結果,全参加者の約70%が再検査対象者となり,そのなかの93%が再受診し再検査(確定検査)を行った.2.確定のための検査確定検査は,(1)Humphrey24-2SITAstandard,(2)可能な場合は散瞳眼底検査の2項目を行い,検査を終了した.異常者については再度,細隙灯顕微鏡検査,視力不良例は視力検査を行った.3.緑内障診断の確定確定検査が半ばにさしかかった2005年の秋以降に緑内障学会理事の3名(MA,HA,TY)による確定診断のための判定会議が行われた.それぞれが別個にスクリーニングで異常と判定された眼底写真を読影した.判定一致群と不一致群に分類し,不一致群や判定困難症例ではさらに理事1名(SS),評議員2名(AI,AT)を加えた6名で視神経乳頭の最終判定を行った.眼底写真(立体で撮影されている)から多治見スタディの緑内障判定基準を基に診断,分類を行った.3名(MA,HA,TY)の判定が一致しているものは最終的に視野検査のデータと一致したものはそこで最終確定診断とされ,一致しないもの,判定が困難なものは6名のコンセンサスをもって診断とした.4.緑内障病型の確定緑内障あるいは緑内障疑いと診断された症例は最終的に隅角鏡所見と問診票,検査データなどから開放隅角緑内障あるいは閉塞隅角緑内障,さらに続発緑内障あるいは分類不能緑内障にそれぞれ分類された.隅角鏡による———————————————————————-Page650あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(50)内障診療の実態.眼紀32:208-213,19818)仲村優子,石川修作,仲村佳巳ほか:沖縄県における急性閉塞隅角緑内障の発症頻度.あたらしい眼科17:683-686,20009)鯉淵浩,早川和久,上原健ほか:沖縄県久米島住民の前眼部生体計測.日眼会誌97:1185-1192,199310)鯉淵浩,山上淳吉,松村哲ほか:久米島の緑内障検診.日本の眼科63:1231-1235,19924)FosterP,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedenitionandclassicationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20025)澤口昭一:日本人と原発閉塞隅角緑内障:PACGの人種差,地域差.あたらしい眼科24:987-992,20076)HammerMF,KarafetTM,ParkHetal:DualoriginsoftheJapanese:commongroundforhunter-gathererandfarmerYchromosomes.JHumGenet51:47-58,20067)福田雅俊,山田義一,佐和田輝子ほか:沖縄県における緑

観察研究(横断・コホート研究):舟形町スタディ

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS回調査)では,35歳以上の舟形町の全住民4,160人のうち,重度の身体障害や入院中により受診が困難な人,すでに糖尿病の診断を受けている人を除いた3,676人を検診の対象とした.そのうちの53.3%にあたる1,961人が全体検診に参加した.検診参加率は60歳代から70歳代にかけて高く,35歳から49歳にかけて低い傾向が認められた.女性は検診の対象の57.6%が参加し,男性は検診の対象の51.5%が参加した.さらにそのうちの1,786人(対象者の48.6%)が眼科検診に参加した.2.検査方法初回調査における検診は眼底写真撮影をもとに行った.眼底写真の撮影には画角45°の無散瞳眼底カメラをI舟形町スタディとは?山形県舟形町は山形県北部の農業をおもな産業とする人口6,781人(男性3,324人,女性3,457人)(平成17年)の町である.舟形町スタディは1989年に厚生省糖尿病疫学研究班が設けられたときに当時の山形大学第3内科がその活動に参加し,1990年から舟形町の協力のもとに75gブドウ糖負荷試験を含めた糖尿病検診を実施したことが始まりである.今までに,舟形町スタディの成果として糖尿病以前の耐糖能異常(impairedglu-cosetolerance:IGT)であっても心血管系疾患のリスクが高まること1)や,血清アディポネクチン濃度の低値が2型糖尿病の発症の危険因子であること2)などを報告し,糖尿病の疫学研究として続けられている.2000年より糖尿病検診に加えて,35歳以上の山形県舟形町の全住民を対象とした眼科検診を開始した.眼科の初回調査は2000年から2002年にかけて実施し,その5年後の2005年から2007年にかけて追跡調査を実施した.本稿では,2000年から2002年において行われた舟形町検診の概要とその検診データを用いた横断研究の結果について紹介する.II舟形町検診の概要1.対象(図1)2000年から2002年にかけて実施した舟形町検診(初(39)391seanabe:形形2oaasai:形entreoreesearchstralianiersitoelborne3Hidetoshiaashita:形:9909585形222形特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):3944,2009観研究(横断・コート研究):舟形町スタディObservationalCross-SectionalandCohortStudy:TheFunagataStudy田邉祐資*1川崎良*2山下英俊*31舟形町検診初回調査の流れ山形舟形町のの,高齢の診,すに糖尿病の診断けている舟形町検診診対象舟形町検診診診率———————————————————————-Page240あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(40)sclerosisRiskinCommunitiesStudyのために米国ウィスコンシン大学が開発した専用の解析ソフトを用いた8).この方法は網膜細動脈,網膜細静脈径を測定し,それをもとに理論式で推定網膜動脈径(centralretinalarteriolarequivalent:CRAE),推定網膜静脈径(cen-tralretinalvenularequivalent:CRVE)を推定するものである.さらにCRAEをCRVEで割り,A/Vratio(AVR)として要約したものも解析に用いた8).c.加齢黄斑変性BMESで使用されているWisconsinAge-RelatedMaculopthyGradingSystem3,7)の変法に従って,早期および晩期加齢黄斑変性の判定を行った.早期加齢黄斑変性は,(1)indistinctsoftdrusenあるいはreticulardrusenがある場合,(2)distinctsoftdrusenとretinalpigmentepithelium(RPE)abnormalitiesが同時に存在する場合と定義した.晩期加齢黄斑変性は,(1)neovascularAMD(RPEdetachment,subretinal/sub-RPEhemorrhage,epiretinal/intraretinal/subretinal/sub-RPEscartissueのいずれかを認める場合),あるいは(2)geographicatrophyと定義した.d.黄斑上膜黄斑上膜の判定にはBeaverDamEyeStudy9,10)で採用された定義を用い,基準写真をもとに軽症のcello-phanemacularreexと重症のpreretinalmacularbrosisの2つに分けて判定した.e.網膜静脈閉塞症その他に網膜静脈閉塞症の有無についても判定を行った.判定は判定員と網膜専門眼科医により網膜静脈閉塞症の病変,あるいはレーザー治療などの治療痕跡の有無について判定した.III横断研究の結果1.糖尿病型,境界型,正常型における網膜症の有病率と網膜症の危険因子まず糖代謝異常の判定は75gブドウ糖負荷試験の結果をもとにWorldHealthOrganizationの基準(表1)11)に従って判定を行った.その結果,糖尿病網膜症は糖尿病有病者の23.0%に認められた.一方で非糖尿病者に使用した.視神経乳頭と黄斑の中間を中心とした眼底写真を撮影し,網膜疾患を中心に判定を行った.初回調査における検診では片眼(おもに右眼)のみの撮影を行った.3.眼底写真の判定方法眼底写真に基づく網膜病変や網膜血管病変の判定は,判定者の主観に基づくため判定者によって診断誤差が出る可能性がある.海外の疫学研究では専門の判定施設を設置し,再現性や判定員同士の一致率を高く保つという方法が一般的になっている.筆者らは当初から舟形町スタディの結果をそのような判定施設を利用した国外の疫学研究のものと比較したいと考えていた.そこで眼底写真の判定にあたって,オーストラリアBlueMountainsEyeStudy(BMES)の判定を行ったシドニー大学Cen-treforVisionResearchとの国際共同研究として行った.シドニー大学CentreforVisionResearchには疫学研究の眼底写真判定を専門に行う設備と専任スタッフがおり,判定基準,判定方法,その再現性などを標準化した方法に従って眼底病変判定を行っている3).以下に判定を行った病変の判定方法,判定基準について示す.a.糖尿病網膜症およびその他の網膜症糖尿病網膜症およびその他の網膜症の判定には基準写真としてEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy4)で定義されたものを基に画角45°非ステレオ写真で使用できるようにした変法を用いた.そのため網膜症の判定スケールにはMulti-EthnicStudyofAthero-sclerosis5)で使用されているものと同様のものを用いた.b.網膜細動脈硬化所見・高血圧所見局所性網膜動脈狭細化,動静脈交叉現象,血柱反射亢進の判定には,基準写真としてModiedAirlieHouseClassicationofDiabeticRetinopathy6)とWisconsinAge-RelatedMaculopathyGradingSystem7)の基準写真から網膜疾患専門医が選んだ写真を基準にして判定を行った.判定は軽症,中等症,重症の3段階で判定した.網膜血管のびまん性狭細の評価指標として網膜血管径の定量測定を行った.網膜血管径の測定には,Athero———————————————————————–Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200941(41)いた(オッズ比:1.63,95%信頼区間:1.072.49)が,IFGでは同様の関連は認められなかった.さらに,空腹時血糖値,負荷2時間後血糖値それぞれと網膜症の有病率について検討を行ったところ,負荷2時間後血糖値が140mg/dl(7.8mmol/l)より高いと網膜症の有病率が有おいても網膜症は認められ,網膜症の有病率は糖代謝正常者で7.7%,空腹時血糖異常(impairedfastingglu-cose:IFG)で10.3%,IGTで14.6%であった.非糖尿病者における網膜症との関連を表2に示した.IGTでは糖代謝正常者より網膜症の有病率が有意に高くなって表1WorldHealthOrganizationの定義による糖代謝異常の判定75gブドウ糖負荷試験結果糖代謝正常空腹時血糖が110mg/dl(6.1mmol/l)未満かつ負荷2時間後血糖が140mg/dl(7.8mmol/l)未満Impairedfastingglucose(IFG)空腹時血糖が110mg/dl(6.1mmol/l)以上126mg/dl(7.0mmol/l)未満かつ負荷2時間後血糖が140mg/dl(7.8mmol/l)未満Impairedglucosetolerance(IGT)空腹時血糖が126mg/dl(7.0mmol/l)未満かつ負荷2時間後血糖が140mg/dl(7.8mmol/l)以上200mg/dl(11.1mmol/l)未満糖尿病空腹時血糖が126mg/dl(7.0mmol/l)以上もしくは負荷2時間後血糖が200mg/dl(7.8mmol/l)以上(文献11より一部改変)表2糖代謝異常と網膜症の関連該当者数網膜症眼数(%)年齢調整後オッズ比(95%信頼区間)多因子調整後†オッズ比(95%信頼区間)糖代謝判定糖代謝正常1,17690(7.7)1.00()1.00()Impairedfastingglucose(IFG)394(10.3)1.26(0.433.63)1.23(0.423.58)Impairedglucosetolerance(IGT)26739(14.6)1.76(1.172.66)*1.63(1.072.49)*空腹時血糖(mmol/l)<6.11,453133(9.2)1.00()1.00()6.16.910213(12.8)1.28(0.702.38)1.17(0.622.20)負荷2時間後血糖(mmol/l)<7.81,21895(7.8)1.00()1.00()7.811.127341(15.0)1.79(1.202.67)*1.66(1.102.50)**:p<0.05.†:年齢,性別,高血圧,喫煙,bodymassindexで調整.(文献12より一部改変)表3網膜血管径変化と心血管疾患危険因子との関連‡項目局所性網膜動脈狭細化動静脈交叉現象血柱反射亢進網膜症平均値所見有/無オッズ比(95%信頼区間)平均値所見有/無オッズ比(95%信頼区間)平均値所見有/無オッズ比(95%信頼区間)平均値所見有/無オッズ比95%信頼区間)年齢(歳)65.2/58.91.04(1.021.07)*62.3/59.11.02(1.011.03)*62.8/58.81.03(1.021.04)*64.1/59.11.04(1.021.05)*Bodymassindex24.0/23.61.01(0.951.08)23.8/23.61.00(0.961.05)24.0/23.61.02(0.981.06)24.3/23.61.05(1.001.11)*MABP(10mmHg)†98.1/92.21.42(1.171.73)*96.0/92.01.34(1.171.54)*95.2/92.01.21(1.071.37)*94.7/92.31.09(0.921.29)有所見率(%)オッズ比(95%信頼区間)有所見率(%)オッズ比(95%信頼区間)有所見率(%)オッズ比(95%信頼区間)有所見率(%)オッズ比(95%信頼区間)糖代謝異常/正常7.3/6.70.77(0.461.30)15.9/15.00.85(0.591.22)21.9/17.91.04(0.751.43)14.1/7.71.53(1.022.30)*女性/男性8.5/4.62.00(1.193.37)*14.7/15.81.06(0.751.48)19.4/17.81.34(0.971.83)8.6/9.51.00(0.661.51)喫煙者/非喫煙者3.6/7.50.92(0.431.99)15.8/15.01.25(0.821.92)18.5/18.81.39(0.932.07)8.9/9.01.25(0.742.14)*:p<0.05.†:MABP(meanarteriolarbloodpressure)=0.33×収縮期血圧+0.67×拡張期血圧.‡:年齢,性別,MABP,bodymassindex,喫煙,糖代謝異常で調整.(文献13より一部改変)———————————————————————-Page442あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(42)満がある場合も,網膜症の有病率が有意に高くなっていた(オッズ比:1.61,95%信頼区間:1.032.50)15).2.網膜細動脈硬化所見の有病率と危険因子非糖尿病者における局所性網膜動脈狭細化,動静脈交叉現象,血柱反射亢進の有病率はそれぞれ6.8%,15.2%,18.7%であった.非糖尿病者における網膜細動脈硬化所見と心血管系リスク因子の関連について表3に示した.局所性網膜動脈狭細化,動静脈交叉現象,血柱反射亢進いずれの所見も,加齢,血圧上昇に伴って有病率が有意に上昇していた.局所性網膜動脈狭細化所見は男性よりも女性に多く認められていた13).網膜細動脈硬化所見はメタボリックシンドロームそのものとは有意な関連は認めなかった(表5).しかしながら,メタボリックシンドロームの構成要素別でみると,意に高かった(オッズ比:1.66,95%信頼区間:1.102.50).この結果から,空腹時血糖値よりも負荷2時間後血糖値のほうがより網膜症と強く関連していると考えられた12).非糖尿病者における心血管系リスク因子と網膜症との関連(表3)についても検討を行った.加齢およびbodymassindex(BMI)の増加に伴って網膜症の有病率が有意に増加していた.一方,血圧値および高血圧症の状態と網膜症には有意な関連が認められなかった13).さらにInternationalDiabetesFederation(IDF)の日本人向けのメタボリックシンドロームの定義(表4)14)およびその構成要素と網膜症の有病率についても検討を行った(表5).メタボリックシンドロームをもつ場合は網膜症の有病率が有意に高く(オッズ比:1.64,95%信頼区間:1.022.64),その構成要素の一つである中心性肥表4InternationalDiabetesFederationによるメタボリックシンドロームの定義(日本人向け)項目条件①中心性肥満腹囲径:男性85cm以上,女性90cm以上②高トリグリセリド血症1.7mmol(150mg/l)以上低HDLコレステロール血症①血中HDLコレステロール:男性1.03mmol/l(40mg/dl)未満女性1.29mmol/l(50mg/dl)未満②以前に脂質代謝異常の治療を受けたことがある高血圧①収縮期血圧:130mmHg以上,または拡張期血圧:85mmHg以上②以前に高血圧の診断・治療を受けている空腹時高血糖①空腹時血糖:5.6mmol/l(100mg/dl)以上②以前にⅡ型糖尿病の診断を受けている①+②の4項目のうち2項目該当でメタボリックシンドロームの診断.(文献14より一部改変)表5メタボリックシンドロームと網膜血管変化の関連網膜血管変化有病率(%)(メタボリックシンドローム有/無)未調整オッズ比(95%信頼区間)多因子調整後†オッズ比(95%信頼区間)局所性網膜動脈狭細化8.3/7.81.06(0.601.87)1.09(0.591.98)動静脈交叉現象21.6/15.71.48(1.012.16)*1.32(0.881.98)血柱反射亢進25.1/19.21.41(0.982.03)1.40(0.952.05)網膜症15.0/8.51.89(1.212.95)*1.64(1.022.64)*平均血管径(μm)(メタボリックシンドローム有/無)未調整平均差(μm)(95%信頼区間)多因子調整後‡平均差(μm)(95%信頼区間)CRAE177.27/178.974.35(7.780.92)*2.95(6.510.61)CRVE218.57/214.605.73(2.399.07)*4.69(1.208.19)**:p<0.05.†:年齢,性別,喫煙で調整.‡:CRAEが従属変数の場合,年齢,性別,喫煙,CRVEで調整.CRVEが従属変数の場合,年齢,性別,喫煙,CRAEで調整.CRAE:Centralretinalarteriolarequivalent,CRVE:Centralretinalvenularequivalent.(文献15より一部改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200943(43)認められた(オッズ比:5.03,95%信頼区間:1.0025.47).一方,早期加齢黄斑変性と喫煙の関連は本研究では認めなかった.さらに,喫煙と晩期加齢黄斑変性の関係は男性において強く認められていた(オッズ比:6.19,95%信頼区間:1.0835.5).4.黄斑上膜の有病率と危険因子18)黄斑上膜の有病率は5.4%(軽症例:3.9%,重症例:1.5%)であった.よく知られている加齢に加え糖尿病が黄斑上膜の危険因子としてあがってきた.黄斑上膜を有するオッズは10歳年齢が増すごとに1.72倍(95%信頼区間:1.402.11)高くなった.非糖尿病者に比べて糖尿病有病者(網膜症を有していない症例)において黄斑上膜が多く認められた(オッズ比:1.84,95%信頼区間:1.013.37).5.網膜静脈閉塞症の有病率と危険因子19)網膜静脈閉塞症の有病率は0.53%(網膜中心静脈閉塞症:0.06%,網膜静脈分枝閉塞症:0.47%)であった.網膜静脈分枝閉塞症の危険因子は,18.5未満の低BMIと網膜細動脈硬化所見である局所性網膜動脈狭細化と血柱反射亢進であった.低BMIの人において網膜静脈分枝閉塞症の有病率が有意に高かった(オッズ比:7.94,95%信頼区間:1.4942.4).局所性網膜動脈狭細化,血柱反射亢進も網膜静脈分枝閉塞症の有病率が有意に高かった.IV今後の舟形町スタディについて初回調査の横断研究から日本人におけるさまざまな網膜疾患の有病率とそれにかかわる因子について明らかにすることができた.日本人と他の人種との共通点,相違点を確認するためにも,海外の疫学研究と同じ手法・定義で行い比較をする疫学研究は今後も重要であると考えている.筆者らは2005年から2007年にかけて追跡調査を実施しており,両眼の眼底写真撮影,屈折検査,角膜曲率半径検査など大幅に検診項目を増やしている.追跡調査のデータから網膜症などの眼底疾患のみならずさまざまな眼疾患の発症率やそれに関する危険因子について,遺高血圧に該当した場合,局所性網膜動脈狭細化,動静脈交叉現象,血柱反射亢進いずれの所見も有病率が高くなっていた.高トリグリセリド血症に該当した場合,血柱反射亢進の有病率が高くなることが認められた(オッズ比:1.49,95%信頼区間:1.062.09)15).網膜血管径の定量測定は921人で可能であった.CRAEは178.6±21.0μmで,CRVEは214.9±20.6μmであった.加齢はCRAEおよびCRVE両方に影響を与える因子であり,10歳年齢が増えるごとに,CRAEは平均2.4μm,CRVEは平均1.8μm細くなることが認められた.CRAEのみに影響を与える因子として血圧があげられた.平均動脈血圧(=0.33×収縮期血圧+0.67×拡張期血圧)が10mmHg増えるごとに,CRAEが平均2.8μm細くなることが認められた13).一方,CRVEのみに影響を与える因子として,メタボリックシンドロームおよびその構成要素の一つである中心性肥満があげられた.メタボリックシンドロームがあるとCRVEは平均4.69μm太くなることが認められた.同様の関係が中心性肥満においても認められた〔平均差:3.73μm(95%信頼区間:0.726.76μm)〕15).メタボリックシンドロームの診断基準をThirdreportoftheNationalCholesterolEducationProgramAdultTreatmentPanel(NCEP-ATPIII)の基準16)や新しいIDFの基準(中心性肥満の基準が変更:腹囲径:男性90cm以上,女性80cm以上)(http://www.idf.org/webdata/docs/MetS_def_update2006.pdf)に変更しても,メタボリックシンドロームおよびその構成要素と網膜血管径の変化の関連は同様であった.3.加齢黄斑変性の有病率と危険因子17)早期および晩期加齢黄斑変性の粗有病率はそれぞれ3.5%,0.5%であった.50歳以上では早期および晩期加齢黄斑変性の有病率はそれぞれ4.3%,0.6%であった.加齢黄斑変性の危険因子として加齢に加えて喫煙があげられた.年齢が10歳増えるごとに,早期加齢黄斑変性を有するオッズが1.75倍(95%信頼区間:1.362.25),晩期加齢黄斑変性を有するオッズが2.27倍(95%信頼区間:1.104.67)高くなることが認められた.喫煙者の晩期加齢黄斑変性の有病率は有意に高いことが———————————————————————-Page644あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(44)epiretinalmembranes.TransAmOphthalmolSoc92:403-425;discussion425-430,199410)MitchellP,SmithW,CheyTetal:Prevalenceandassoci-ationsofepiretinalmembranes.TheBlueMountainsEyeStudy,Australia.Ophthalmology104:1033-1040,199711)AlbertiKG,ZimmetPZ:Denition,diagnosisandclassicationofdiabetesmellitusanditscomplications.Part1:diagnosisandclassicationofdiabetesmellitusprovisionalreportofaWHOconsultation.DiabetMed15:539-553,199812)KawasakiR,WangJJ,WongTYetal:Impairedglucosetolerance,butnotimpairedfastingglucose,isassociatedwithretinopathyinJapanesepopulation:theFunagatastudy.DiabetesObesMetab10:514-515,200813)KawasakiR,WangJJ,RochtchinaEetal:CardiovascularriskfactorsandretinalmicrovascularsignsinanadultJapanesepopulation:theFunagatastudy.Ophthalmology113:1378-1384,200614)AlbertiKG,ZimmetP,ShawJ:Metabolicsyndrome─anewworld-widedenition.AConsensusStatementfromtheInternationalDiabetesFederation.DiabetMed23:469-480,200615)KawasakiR,TielschJM,WangJJetal:ThemetabolicsyndromeandretinalmicrovascularsignsinaJapanesepopulation:theFunagatastudy.BrJOphthalmol92:161-166,200816)ExecutiveSummaryofTheThirdReportofTheNationalCholesterolEducationProgram(NCEP)ExpertPanelonDetection,Evaluation,AndTreatmentofHighBloodCho-lesterolInAdults(AdultTreatmentPanelIII).JAMA285:2486-2497,200117)KawasakiR,WangJJ,JiGJetal:Prevalenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinanadultJapanesepopulation:theFunagatastudy.Ophthalmology115:1376-1381,1381e1-2,200818)KawasakiR,WangJJ,SatoHetal:Prevalenceandasso-ciationsofepiretinalmembranesinanadultJapanesepop-ulation:theFunagatastudy.EyeAdvancedonlinepubli-cation8August2008,200819)KawasakiR,WongTY,WangJJetal:Bodymassindexandveinocclusion.Ophthalmology115:917-918;authorreply918-919,2008伝子解析も含め明らかにしたいと考えている.詳細な内科検診が行われていることを利用して,心血管系疾患などの全身疾患の発症に眼底所見が有用なのかという古くて新しいテーマについても取り組んでいきたいと考えている.文献1)TominagaM,EguchiH,ManakaHetal:Impairedglu-cosetoleranceisariskfactorforcardiovasculardisease,butnotimpairedfastingglucose.TheFunagataDiabetesStudy.DiabetesCare22:920-924,19992)DaimonM,OizumiT,SaitohTetal:Decreasedserumlevelsofadiponectinareariskfactorfortheprogressiontotype2diabetesintheJapanesePopulation:theFuna-gatastudy.DiabetesCare26:2015-2020,20033)MitchellP,SmithW,AtteboKetal:Prevalenceofage-relatedmaculopathyinAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology102:1450-1460,19954)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionofthemodiedAirlieHouseclassication.ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98(Suppl):786-806,19915)WongTY,KleinR,IslamFMetal:Diabeticretinopathyinamulti-ethniccohortintheUnitedStates.AmJOph-thalmol141:446-455,20066)Diabeticretinopathystudy.ReportNumber6.Design,methods,andbaselineresults.ReportNumber7.AmodicationoftheAirlieHouseclassicationofdiabeticretinopathy.PreparedbytheDiabeticRetinopathy.InvestOphthalmolVisSci21(1Pt2):1-226,19817)KleinR,DavisMD,MagliYLetal:TheWisconsinage-relatedmaculopathygradingsystem.Ophthalmology98:1128-1134,19918)HubbardLD,BrothersRJ,KingWNetal:Methodsforevaluationofretinalmicrovascularabnormalitiesassociat-edwithhypertension/sclerosisintheAtherosclerosisRiskinCommunitiesStudy.Ophthalmology106:2269-2280,19999)KleinR,KleinBE,WangQetal:Theepidemiologyof

観察研究(横断研究):多治見スタディ

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSる.しかしながら,「疫学調査」の条件は,「1人でも多くの人を診る」ではなく,「偏りなく十分な人を診る」なのである.1.実施地区の選定とサンプル数日本緑内障学会が計画した疫学調査は,1)母集団を1自治体として無作為抽出法で対象者を決める,2)調査対象人数として想定有病率からサンプル数計算をして3,200人から4,000人(統計誤差0.5%,参加率7580%の計算で約4,000人の対象者が必要),3)実施地域の選択条件として,(a)標準的な地方都市で人口10万人くらいのところで実施(UrbanAreaでの実施),(b)自治体の協力が得られやすいこと,(c)年間を通じて同様の条件で検査が可能なところ,(d)緑内障専門医の協力を受けやすいところ,(e)実施中心病院の関連大学の協力をうけやすいところ,などの条件があり,数カ所の候補のなかで,最終的に「岐阜県多治見市(当時人口10万4,000人)」が候補地として選ばれた.日本の緑内障有病率を出すために「偏りなく十分な人を診る」という意味では,日本全体での無作為抽出が望ましいが,北は北海道から南は沖縄の離島までの各地域から無作為抽出することとなり,それは,たとえばある離島の寒村に抽出された1人のためだけに全国同じクオリティの眼科検査のためのすべての器械と人員を持って移動診療をするため現地に行くことを意味する.通常は1年以内と限るのが普通である疫学調査の期間内にそのはじめに「多治見スタディ」は,「日本緑内障学会多治見疫学調査」の通称である.日本において緑内障有病率調査の試みは,まず,19881989年に実施された「緑内障全国疫学調査」であった.これは,日本緑内障研究会(日本緑内障学会の前身)が日本眼科医会の後援で,潜在患者もふまえた日本全体の緑内障の実態把握を目指したものであった.全国7カ所の住民検診により計8,126人の検査を行い,1)眼圧が高くない開放隅角緑内障(当時,低眼圧緑内障とよばれた)が多いこと,2)眼圧値が欧米の報告の値より低いこと,など画期的な内容が発表された.しかし,7カ所の受診率に地域差(24.690.0%)があり,こうした疫学調査で要求される受診率は7580%が必須といわれる条件をクリアしていなかったことで地域比較が十分できないばかりではなく,まとめて全体としての受診率が50.5%であったことで不十分な参加率と批判も受けた.そこで,日本緑内障学会として,この「緑内障全国疫学調査」の結果の検証をすべく,正式な疫学的手法での調査の計画をたて,20002001年に実施された調査が,「多治見スタディ」であった(表1).I検診と調査「緑内障全国疫学調査」では,8,000人を超える住民の検診を行った.検診機関や医療機関における検診結果の統計をみた報告は数多くある.1人でも多くの人をみれば,その集計は確かなものが得られると思いがちであ(31)31I:多治見:5078511多治見343多治見特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):3138,2009観察研究(断研究):多治見スタディAPopulation-BasedCross-SectionalGlaucomaPrevalenceSurvey:TheTajimiStudy岩瀬愛子*———————————————————————-Page232あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(32)いわれる.したがって,1回限りの調査と考えられていた「多治見スタディ」では母集団は可能な限り多くしたいとの理由で,小さな町ではなく人口10万人の地方都市が選択された.対象は40歳以上の市民54,165人であり,住民基本台帳を元に検診専用の個人番号表を作成し「完全無作為抽出法」で4,000人を「疫学調査対象者」(以下,対象者)に選んだ.住民票だけがあって実在しない人や期間中に死亡・転出した人130人を除き最終的な疫学対象者は3,870人となった.2.疫学対象者と非対象者について通常,「疫学調査」は上記の「対象者」だけにターゲットをあて,このなかでの高い参加率を確保することをめざす.しかし,「多治見スタディ」では,このとき,同時に,非対象者にあたる同年代の市民への同等の検査を行った.これは,多治見市で疫学調査を実施しようと啓蒙活動が開始されたなかで,多治見市から,「この調査には市をあげて全面協力を惜しまないので,こうした二度とない機会に,対象者以外の同年齢の市民にも,同等の検査を実施して欲しい」という条件が出されたからであった.対象者への良好な参加率を確保するために,対象者だけではなくその家族など広く受診者を受け入れて欲しいとの意味もあった.同時に,この調査の予算確保を決定した「日本失明予防協会」の理事会からも,「多治見市で調査を実施するのを支援する.1人でも多くの市民を診てあげること,緑内障以外の疾患についてもスクリーニングすること」という条件があった.すなわち,対象者(3,870人)のなかでは高参加率をめざし,調査非対象者(50,165人の市民)には「一般検診」をして1人でも多くの眼疾患スクリーニングをするという二重構造となり,総合して「多治見市民眼科検診」(EyeHealthCareProjectinTajimi)と名づけて実施した.このプロジェクトは当時まだ制定されていなかった個人情報保護法,疫学調査倫理指針の完成レベルを予想し実施され,調査であることを明記し,同意の撤回などの自己情報コントロール権の説明も含めたインフォームド・コンセント後,自筆による文書の同意書をとり実施された.調査実施期間内に,疫学対象者は3,021人(78.1%)が参加した.非対象者の検診は14,779人が参加し個別調査を全被抽出者に行うことは不可能であると考え,1自治体で可能な限り多くの人口の中から無作為抽出をする手法をとった.無作為抽出法で選ばれた観察対象集団(サンプル)は,標的集団(母集団)を偏りなく代表するため標的集団全体を調べたのと同じ価値があると表1多治見スタディ実施機構(平成12年1月平成15年まで)総括責任者:北澤克明日本緑内障学会理事長(岐阜大学名誉教授)疫学調査委員会:東郁郎(大阪医科大学名誉教授)阿部春樹(新潟大学眼科教授)新家眞(東京大学眼科教授)**井上洋一(オリンピア病院院長)岩瀬愛子(多治見市民病院眼科診療部長)宇治幸隆(三重大学眼科教授)勝島晴美(かつしま眼科・札幌)桑山泰明(大阪厚生年金病院眼科部長)澤口昭一(琉球大学眼科教授)塩瀬芳彦(塩瀬眼科・名古屋)清水弘之(岐阜大学公衆衛生学(疫学・予防医学)教授)白土城照(東京医科大学八王子医療センター眼科教授)鈴木康之(東京大学眼科講師)田原昭彦(産業医科大学眼科教授)塚原重雄(山梨医大副学長)富田剛司(東京大学眼科助教授)富所敦男(東京大学眼科講師)根木昭(神戸大学眼科教授)三嶋弘(広島大学眼科教授)*山本哲也(岐阜大学眼科教授)五十音順・敬称略・H12年当時の役職*:疫学調査会委員長**:実行小委員会委員長下線は疫学調査実行小委員会及びデータ解析検討小委員会メンバー(二重線はデータ解析委員会から参加)参加スタッフ医師:多治見市民病院医師・日本緑内障学会理事・日本緑内障学会評議員・岐阜大学眼科医師他ORT:近隣医療機関及び東海4県視能訓練士協会から派遣看護師&OMA:多治見市民病院スタッフ・多治見スタディ特別編成チーム多治見市職員:多治見市民病院職員・健康福祉部多治見市保健センター設営メンテナンス:使用機材関連会社スタッフ後援財団法人日本失明予防協会財団法人日本眼科学会社団法人日本眼科医会多治見市医師会岐阜県東濃地域保健所———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200933(33)blingtechnology)による視野スクリーニング→眼底写真→HRT(HeidelbergRetinaTomograph)II→細隙灯顕微鏡検査・眼圧検査・vanHerick法による隅角スクリーニング→最終チェックと説明,という検査順を遵守した.二次検査には,通常の診察以外に,視野検査としてHumphrey視野計のSITA(SwedishInteractiveThresholdingAlgorithm)プログラムを採用し,隅角検査はGoldmann2ミラーを用いた検査をし,眼底の立体写真撮影は可能なかぎり散瞳して実施した.III巡回検診と常設検診過去に多治見市で実施された健康診断関連の検診受診率を検討すると,定点における検診と比較して,巡回検診あるいは地域別に複数の検診施設がある場合のほうが,圧倒的に検診受診率が高かった.したがって,対象者における調査参加率を上げるためには,検査の実施場所は複数必要であると考え,実施中心施設である多治見市民病院では「常設検診」(期間中220回)と「二次検査(精密検査)」(期間中165回)を予約制で行い,その他の複数の一時検査検診場所としては,市内の公民館・体育館などの公共施設を「臨時診療所登録」として土日を中心とした巡回検診を行った(期間中43回,当日整理券制).この巡回検診場所は毎日移動するため,前日あるいは当日早朝よりの検査場所の設営を必要としたた.この合計17,800人の市民は,多治見市の当時の40歳以上の32.9%にあたる.調査を終わって検討してみると,受診者の年齢と性別において,一般検診では偏りがあり,得られたデータにも疫学データと一般データには有意差がみられたので,「偏りなく十分な数を診る」ことと「1人でも多くの人を診る」ことは異なることを実感した.疫学調査としての参加率は80%にわずかに及ばないものの,諸外国の緑内障有病率調査と並ぶ数字であったので,初めて,世界に通じる日本の緑内障の疫学調査といえるデータを得たことになった.同時に行った一般検診の結果からは,多くの眼疾患,全身疾患の方を発見し,この事業の住民への貢献度は非常に大であった.しかし,50,000人を超えるいわゆるUrbanAreaの市民を相手に,無作為抽出対象者に厳密な診察を必要とする調査を行うということは容易ではない.「多治見スタディ」は,国や自治体からの強制された検査ではなく,日本緑内障学会の学問的な調査にすぎない.「日本には緑内障がどのぐらいあるかを知りたい」「眼科検診はご自身の健康管理に有効である」という大義名分のみを市民に説明し続け調査を実施し,こうした結果を得たことは幸運であった.本来の目的であった疫学調査とともに,一般検診で多くの疾患を発見できたことは,眼科医冥利につきることであった.II検査項目「多治見スタディ」の検査項目は表2に示す.世界的にみて緑内障疫学調査の眼圧測定はGoldmann圧平式眼圧計により行うのが標準であったのに対して,「緑内障全国疫学調査」の眼圧測定の中心が「非接触型空気眼圧計」であった点も批判されたことをふまえ,眼圧は一次検査も二次検査も専門医による「Goldmann圧平式眼圧計」で測定を行い,二次検査(精密検査)には緑内障学会理事・評議員を中心とした専門医による診察を行いデータのクオリティを厳密に確保した.一次検査では,眼圧測定以外は,眼圧値に影響を与えない「非接触」の検査を採用した.インフォームド・コンセント→問診→血圧→身長・体重→レフ・ケラト→視力→角膜厚(スペキュラーによる非接触検査)→FDT(frequencydou-表2多治見スタディ検査項目一次検査インフォームド・コンセント問診・血圧・身長・体重屈折・視力・角膜曲率・角膜厚FDT(C-20-1)眼底写真(無散瞳眼底検査)HRTII細隙灯顕微鏡検査(vanHerick法隅角検査)精密眼圧検査(Goldmann圧平式眼圧計)二次検査細隙灯顕微鏡検査視野検査(Humphrey自動視野計:SITAProgram)眼圧測定(Goldmann圧平式眼圧計)隅角検査(Goldmann2ミラー)眼底検査・3D観察ステレオ眼底写真———————————————————————-Page434あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(34)を薦めた.4.二次検査対象者および一般検診ともに緑内障疑いあるいは再検査を要する場合は,すべて多治見市民病院で行う精密検査を受診してもらい,他疾患の場合,対象者は多治見市民病院の二次検査に,一般検診者は本人が受診を希望される医療機関への紹介状を発行した.必要に応じて,既往歴などの調査について精密検査を依頼し,主治医との連絡などを行い,他疾患との鑑別診断に努めた.5.判定会議二次検査後,対象者については,GONを3人の判定者が独立して読み,並行して視神経乳頭のC/D比(陥凹乳頭比),R/D比(リム乳頭径比)測定を1人の専門医が実施した.視野判定は異なる2人の判定者が行い,が,地域を回ることで参加率は上昇し効果的であった.さらに,施設入所者・病院入院者,自宅から出られない人には対象者を優先して往診(期間中17回)を行った.IV判定失明予防協会の指導により,緑内障だけを判定していることはできなかった.緑内障の診断には時間的な余裕があるが,他疾患では時間的に余裕のない場合がある.このため,判定も二重構造として行った.1.緊急性疾患の判定被験者のなかには緊急性疾患をもっているのを気づかず受診している方もあり,受診者の眼底写真の簡単なスクリーニング読影と検査結果のすべてのチェックを,当日あるいは翌日までに岩瀬が実施した(緊急性スクリーニング).また,検診会場でもただちに対応が必要な人を発見した場合は,救急対応を手配した.巡回検診は1日600700人あり,選ばれて受診している疫学対象者よりも,何か症状があって検診を希望して受診した非対象者市民のなかにそれらの緊急性の疾患が多く,検診の途中で紹介状を発行したことも多数あった.発見した眼科疾患は,高眼圧,虹彩炎,網膜動静脈切迫閉塞,網膜裂孔,網膜離などであった.なお,検査中に全身的な緊急性対応が必要なこともあった.異常高血圧,不整脈発作を発見し,準備していた救急セットを使用したうえに,救急車に同乗して対応したことは2回のみであったが,幸いどちらも良好な経過をたどった.2.視神経の読影緑内障性視神経症(GON)の判定については,表3に示すシステムで複数の施設での判定をしGONを疑う記載が1カ所の判定でもあった場合は,すべて二次検査受診の連絡をした.3.他疾患の判定視神経中心の各大学での読影と並行して,現地にてすべての検査データをチェックしたうえで疾患疑いの場合,対象者はすべて二次検査によび,一般受診者の場合は,最寄りの眼科へ受診するための紹介状を作成し受診表3判定の流れ緑内障性視神経症の判定(一次スクリーニング)疫学対象者視神経判定(他疾患のコメントを含む)東京大学(富田剛司)・新潟大学(白柏基弘)・岐阜大学(内田英哉・杉山和久・谷口徹)一般検診者視神経判定(他疾患のコメントを含む)東京医科大学八王子(白土城照)・山梨大学(柏木賢治)・日本大学(山崎芳夫)・神戸大学(根木昭)・広島大学(三嶋弘)・琉球大学(澤口昭一)+現地総合判定および結果送付(判定結果とコメントを記載した手紙を発送)当日検査で得られた数値データ視野データ眼底写真チェック緑内障確定診断のための判定会議視神経読影班:新家眞(東京大学),阿部春樹(新潟大学),山本哲也(岐阜大学)視野判定班:白土城照(東京医科大学八王子),桑山泰明(大阪厚生年金病院)現地:岩瀬愛子(多治見市民病院)視神経乳頭比計測二次検査データ,他疾患情報データ管理他———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200935(35)式眼圧計を使用して初めて得られたこの疫学的眼圧値は,欧米人などよりは低いものの,他のアジアの国と比較して大きな差はない.緑内障の危険因子の解析からも,「眼圧」,「近視」,「年齢」が関連が高いことがわかった26).2.視覚障害統計「多治見スタディ」の検査結果から,目的とした有病率以外の結果も得ることができた.身体障害者手帳からみた視覚障害の統計の報告はあるものの,疫学的視覚障害統計は多治見スタディで初めて得られた.多治見市においては,他の国の疫学調査での報告と比較すると,ロービジョン率は低いが,特に,失明原因疾患として,「白内障」,「近視性変性症」と「緑内障」が上位疾患であるのが特徴であった27)(表6).3.屈折状態に関する統計28)近視は東アジアにおいて多いことが報告されているが,実際に日本人の屈折状態についての疫学調査は詳細には行われていなかったが,多治見スタディの結果から屈折異常についての疫学的データも初めて得られたことになった.結果として,等価球面度数0.5D未満の近視が41.8%(95%信頼区間:40.043.6),5.0D未満の強度近視が8.2%(同:7.29.2)という高率に認められた.これは他のアジアの地域や欧米に比較して非常に高い結果であった.緑内障の関連因子としても,視覚障害の原因因子としても,日本において「近視」は失明予防上の大きな課題であることを指摘する結果であった.最後にすべての結果を総合し,他疾患情報,二次検査データなどを総合的に判定し有病率計算を行った.診断は,最初は,緑内障診療ガイドライン第1版に基づいて,緑内障有病率は5.8%(95%信頼区門(CI):5.06.6)と判定された.しかし,同時期に「緑内障性視神経症をもって緑内障とする」というISGEO(Interna-tionalSocietyofGeographicalEpidemiologicalOph-thalmology)判定で緑内障の定義を標準化する主旨の論文が先行の海外の緑内障疫学調査グループから出たことで,再度,多治見スタディの結果をこれにあわせて再計算した.この定義によると閉塞隅角緑内障および続発緑内障の有病率が変わり,緑内障有病率は5.0%(95%CI:4.25.8)となった.V疫学調査の結果1.緑内障有病率他表4に確定した緑内障の各病型有病率を示す1,2).また,検査により発見された緑内障患者のうち全体の89%は未治療・無自覚の潜在患者であり,特に,正常眼圧緑内障のそれは95.5%であった.原発開放隅角緑内障の有病率を世界の調査と比較する(表5)324)と,多治見スタディで得られた有病率は,欧米の報告より高く,黒人の報告より低い値であった.眼圧についての結果は,参加者での平均眼圧(95%CI)は,男性14.6mmHg(95%CI:14.414.7),女性14.5mmHg(95%CI:14.414.6)であった25)が,緑内障眼の平均眼圧は15.4±2.8mmHg,非緑内障眼では14.5±2.5mmHgであり,両者には有意差が認められた(p=0.0004).Goldmann圧平表4多治見スタディによる緑内障有病率男性女性計原発開放隅角緑内障(広義)4.1(3.05.2)3.7(2.84.6)3.9(3.24.6)眼圧>21mmHg(狭義)0.3(0.00.7)0.2(0.00.5)0.3(0.10.5)眼圧≦21mmHg(正常眼圧緑内障)3.7(2.74.8)3.5(2.64.4)3.6(2.94.3)原発閉塞隅角緑内障0.3(0.00.7)0.9(0.51.3)0.6(0.40.9)続発緑内障0.6(0.21.0)0.4(0.10.7)0.5(0.20.7)計5.0(3.96.2)5.0(4.06.0)5.0(4.25.8)高眼圧症0.6(0.21.0)0.9(0.51.4)0.8(0.51.1)()内は95%CI.———————————————————————-Page636あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(36)へと引き継いだ.日本緑内障学会として「緑内障疫学調査の手法」は確立できた.「久米島スタディ」における結果と比較することで,1989年の「緑内障全国疫学調査」で計画したものの低受診率地域があったことで実現しなかった地域差の検討が可能となり,この結果の比較は,日本の地域差の検討ばかりではなく,アジアの緑内障有病率,ひいては欧米との比較検討に非常に興味深い結果を得ることが可能となった.多治見スタディの実施過程に考案されたデータ管理方法,保管方法におけるコンピュータソフトの開発は,眼科領域の電子カルテ化用ソフトとして,現在臨床応用されているものがあり非常に有効であった.2.「多治見スタディ」から今後の課題「多治見スタディ」は,失明予防協会の予算を用い,多治見市の現場をふまえて「日本緑内障学会疫学調査委員会・同実行小委員会」が中心となって実施の詳細を同VI多治見スタディ後1.緑内障疫学調査の手法多治見スタディを実施するにあたって考案した「緑内障の疫学調査の手法」は,その後反省点などを考慮し,これらをすべて改善した形で「久米島スタディ」の手法表5各国の原発開放隅角緑内障(POAG)有病率国スタディ名論文出版年度人種対象年齢NoofsamplePartici-pationrate(%)POAG粗有病率(%)POAG標準化有病率(%)JapanJapanNationWide3)1991日本人40歳<8,12650.52.53.5USABaltimoreEyeSurvey4)1991黒人40歳<5,30879.24.23.5USABaltimoreEyeSurvey4)1991白人40歳<5,67379.21.10.9USABeaverDamEyeStudy5)1992白人4386歳1,06283.12.1NetherlandTheRotterdamStudy6)1995白人5595歳3,27179.71.10.7WestIndiesTheBarbadosEyeStudy7)1997白人,黒人4084歳4,63184.07.15.3ItalyTheEgna-NeumarktStudy8)1998白人40歳<50073.921.6AustraliaTheMelbourneVisualImpairmentProject9)1998白人40歳<3,27183.01.81.3IndiatheAndhraPradeshEyeDiseaseStudy10)2000インド人40歳<2,52285.41.93.4Tanzania(Kongwadistrict)11)2000黒人40歳<3,26890.03.13.2USAProyectVER12)2001ラテン系アメリカ人40歳<4,77472.021.7SouthAfrica(Kwazulu-Natal)13)2002黒人40歳<1,00590.12.82.3AustraliaTheBlueMountainEyeStudy14)2002白人59歳<4,29782.431.3SingaporetheTanjongPagarStudy15)2003中国人4079歳1,23271.81.8IndiatheAravindComprehensiveEyeSurvey16)2003インド人40歳<5,15093.01.21.3Thailand(RomKlao)17)2003タイ人50歳<70188.72.3SouthAfricaTheTembaGlaucomaStudy18)2003黒人40歳<83974.93.72.9JapanTheTajimiStudy1)2004日本人40歳<3,02178.13.93.5BangladeshBangladeshStudy19)2004バングラディッシュ人35歳<2,34765.91.22.1USALALES(LosAngelesLatinoEyeStudy)20)2004ラテン系アメリカ人40歳<6,14296.64.75SpainTheSegoviaStudy21)2004スペイン人4079歳5,22389.621.5IndiatheWestBengalGlaucomaStudy22)2005インド人50歳<1,59483.133MyanmartheMeiktilaEyeStudy23)2007ミャンマー人40歳<2,07683.74.9GreecetheThessalonikiEyeStudy24)2007白人60歳<2,55471.03.8表6多治見市の年齢別人口補正した疾患別の視力障害率(40歳以上の住民におけるロービジョン+失明,アメリカ合衆国基準)疾患%95%信頼区間世界人口補正白内障0.440.230.650.25緑内障0.110.040.310.09近視性黄斑変性0.100.030.290.11角膜混濁0.090.030.280.04糖尿病網膜症0.060.020.240.06視神経萎縮0.070.020.240.05ぶどう膜炎0.080.020.260.06網脈絡膜萎縮0.090.030.280.04網膜色素変性0.030.010.190.03弱視0.040.010.210.02———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.1,200937時進行で決定しながら実施された.すなわち緑内障専門医による緑内障にターゲットを絞った疫学調査であった.市民には「緑内障の有病率を調べることの大切さと眼科検診の大切さ」を訴えるという「大義名分」だけで実施した.この手法は,欧米や他の日本のスタディでみられるように他科領域の疾患の調査との協力を国などの予算で行う場合や,多数の疾患の調査を目的とした調査の場合と異なり,他疾患の情報が限定されており,またアピール度や強制力も小さい.緑内障という多因子が関与しているであろうと推測される疾患において他科領域の情報の検討が今後必要かと思う.もう一つの課題は,遺伝情報である.多治見スタディを行い,その後久米島スタディを行い,同じ手法で同じ診断基準でみて緑内障の地域差は遺伝的要因と環境要因で決定されると考えられる.特に,閉塞隅角緑内障の有病率に反映されるような解剖学的な問題は,欧米との比較の意味も含めて,人種差,民族差の検討が必要である.そこに遺伝情報が必要かと考えている.しかし,「多治見スタディ」では「緑内障全国疫学調査」で達成できなかった「高い参加率」を目標にしていたことから,拒否されやすい「遺伝子調査」は実施できなかった.この点も,今後のスタディに期待するしかない.「参加率」に関していえば,「多治見スタディ」は54,000人からの無作為抽出という方法を取り,「UrbanArea」としては高い参加率を得て終了したが,本来は地域特性の調査を目的とした「RuralArea」としての久米島のように,サンプル数に近い人口の地域での全員調査が実施しやすいと考えられる.それでも「高参加率」を得るにはハードルは高く,今後行われるかもしれない疫学調査は,限られたチャンスに何を目的として行うかについては,緑内障専門医の多施設共同研究という枠を超え,実施内容を検討されるべきかもしれない.疫学調査は,その時点での最高の眼科的知識と考えられる最高の器材を使用して行われるべきであるが,一方で後の時代に追試可能な方法で客観的に行われるべきである.また,世界での比較をするには,もちろん統計的な意味での「世界人口の使用」などによる「標準化」だけではなく,「診断基準の標準化」が必須である.この点が緑内障領域ではまだ進行形であるように思う.「有病率(Prevalence)」は知ることができたが,だからといって,多因子が関与しているであろう病態の解明には至っていない.「多治見スタディ」により「緑内障の疫学調査としての手法」は確立された.しかし,その後「多治見市」の事情で,残念ながら「罹患率(Inci-dence)」をみるFollowUpStudyはできていない.今後,他の緑内障の疫学調査にすべての知識を継承し,発症機序の解明を期待するしかないのが残念である.まとめ「多治見スタディ」は,日本緑内障学会実施の緑内障有病率調査で20002001年に岐阜県多治見市において実施された.40歳以上の市民54,165人から無作為抽出法で選ばれた4,000人を対象者として実施され参加率は78.1%であった.結果から,全緑内障の有病率は5.0%(95%信頼区間:4.25.8)であり,疑い例を含むと7.5%(同:6.58.4)であった.解析より,原発開放隅角緑内障の危険因子としては,「眼圧」,「近視」,「年齢」が関与することがわかった.調査結果からは,過去に眼科領域の疫学調査による報告のなかった「視覚障害者統計」,「眼圧」,「屈折」などの疫学データを得た.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal;TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Oph-thalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal;TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)ShioseY,KitazawaY,TsukaharaSetal:EpidemiologyofglaucomainJapan.Anationwideglaucomasurvey.JpnJOphthalmol35:133-155,19914)TielschJM,SommerA,KatzJetal:Racialvariationintheprevalenceofprimaryopen-angleglaucoma.TheBal-timoreEyeSurvey.JAMA266:369-374,19915)KleinBEK,KleinR,SponselWEetal:Prevalenceofglaucoma.TheBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology99:1499-1504,19926)WolfsRC,BorgerPH,RamrattanRSetal:Changingviewsonopen-angleglaucoma:Denitionandprevalenc-es─TheRotterdamStudy.InvestOphthalmolVisSci(37)———————————————————————-Page838あたらしい眼科Vol.26,No.1,200941:3309-3321,20007)LeskeMC,ConnelAMS,SchachatAPetal;theBarbadosEyeStudyGroup:TheBarbadosEyeStudy.Prevalenceofopenangleglaucoma.ArchOphthalmol112:821-829,19948)BoromiL,MarchiniG,MarraaMetal:Prevalenceofglaucomaandintraocularpressuredistributioninadenedpopulation.TheEgna-NeumarktStudy.Ophthal-mology105:209-215,19989)WensorMD,McCartyCA,StanislavskyYLetal:TheprevalenceofglaucomaintheMelbourneVisualImpair-mentProject.Ophthalmology105:733-739,199810)DandonaL,DandonaR,SrinivasMetal:Open-angleglaucomainanurbanpopulationinSouthernIndia.TheAndhraPradeshEyeDiseaseStudy.Ophthalmology107:1702-1709,200011)BuhrmannRR,QuigleyHA,BarronYetal:PrevalenceofglaucomainaruraleastAfricanpopulation.InvestOph-thalmolVisSci41:40-48,200012)QuigleyHA,WestSK,RodriguezJetal:Theprevalenceofglaucomainapopulation-basedstudyofHispanicsub-jects.ProyectoVER.ArchOphthalmol119:1819-1826,200113)RotchfordAP,JohnsonGJ:GlaucomainZulus.Apopula-tion-basedcross-sectionalsurveyinaruraldistrictinSouthAfrica.ArchOphthalmol120:471-478,200214)MitchellP,SmithW,AtteboKetal:Prevalenceofopen-angleglaucomainAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology103:1661-1669,199615)FosterPF,OenFTS,MachinDetal:TheprevalenceofglaucomainChineseresidentsofSingapore.Across-sec-tionalpopulationsurveyoftheTanjongPagardistrict.ArchOphthalmol118:1105-1111,200016)RamakrishnanR,NirmalanPK,KrishnadasRetal:Glau-comainaruralpopulationofsouthernIndia.TheAravindComprehensiveEyeSurvey.Ophthalmology110:1484-1490,200317)BourneRR,SukudomP,FosterPJetal:PrevalenceofglaucomainThailand:apopulationbasedsurveyinRomKlaoDistrict,Bangkok.BrJOphthalmol87:1069-1074,200318)RotchfordAP,KirwanJF,MullerMAetal:TembaGlau-comaStudy:Apopulation-basedcross-sectionalsurveyinUrbanSouthAfrica.Ophthalmology110:376-382,200319)RahmanMM,RahmanN,FosterPJetal:TheprevalenceofglaucomainBangladesh:apopulationbasedsurveyinDhakadivision.BrJOphthalmol88:1493-1497,200420)VarmaR,Ying-LaiM,FrancisBAetal:Prevalenceofopen-angleglaucomaandocularhypertensioninLati-nos:TheLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmolgy111:1439-1448,200421)AntonA,AndradaMT,MujicaVetal:Prevalenceofpri-maryopenangleglaucoma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