———————————————————————-Page1(99)11050910-1810/09/\100/頁/JCOPY45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(8):11051107,2009cはじめにコリネバクテリウムは結膜に常在菌叢を形成している1)が,その病原性は低く,角膜炎患者で分離されることがあっても実際の起炎性については議論がある.免疫抑制状態でバイオフィルムを形成したような特殊なケースでは角膜炎の起炎菌となりうると考えられている210)が,通常の感染性角膜炎の起炎菌としてはあまり考慮されていない11).今回,免疫抑制状態にない患者においてコリネバクテリウムが起炎菌と〔別刷請求先〕稲田耕大:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学講座Reprintrequests:KoudaiInata,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishimachi,Yonago-shi683-8504,JAPANコリネバクテリウムが起炎菌と考えられた感染性角膜炎の1例稲田耕大*1前田郁世*1池田欣史*1宮大*1井上幸次*1江口洋*2塩田洋*2桑原知巳*3*1鳥取大学医学部視覚病態学講座*2徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部視覚病態学分野*3徳島大学大学院ヘルスサイエンス研究部分子細菌学分野ACaseofInfectiousKeratitisCausedbyCorynebacteriumKoudaiInata1),IkuyoMaeda1),YoshifumiIkeda1),DaiMiyazaki1),YoshitsuguInoue1),HiroshiEguchi2),HiroshiShiota2)andTomomiKuwahara3)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualNeuroscience,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3)DepartmentofMolecularBacteriology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchoolコリネバクテリウムが起炎菌と考えられた感染性角膜炎の1例を経験したので報告する.症例は23歳,男性.頻回交換ソフトコンタクトレンズを1週間連続装用していた.主訴は左眼の眼痛,羞明,視力低下.矯正視力は0.01であった.左眼角膜中央に大きさ2mm程度の不整形の上皮欠損とその辺縁の淡い浸潤を認め,小さい白色の角膜後面沈着物および角膜浮腫・Descemet膜皺襞,高度の毛様充血を伴っていた.角膜擦過物の塗抹検鏡にて多数のグラム陽性桿菌を認め,擦過培養にてCorynebacteriummastitidisが分離された.コリネバクテリウムは免疫抑制状態でバイオフィルムを形成したような特殊なケースでは角膜炎の起炎菌となりうると考えられているが,今回のように通常の感染性角膜炎でも起炎菌となりうる可能性が示唆された.コリネバクテリウム感染と判断する際に塗抹検鏡でのグラム陽性桿菌の検出が重要と考えられた.WereportacaseofinfectiouskeratitiscausedbyCorynebacterium.Thepatient,a23-year-oldmale,hadusedfrequentreplacementsoftcontactlenseswithovernightwearfor1week.Hecomplainedofpain,photophobiaandreducedvisioninhislefteye;hisleftvisualacuitywas0.01.Slit-lampexaminationrevealeda2mmirregularepi-thelialdefect,withmildinltrationofthedefectmargin,inthecenteroftheleftcornea,togetherwithsmallwhitekeraticprecipitates,cornealedema,Descemet’sfoldsandsevereciliaryinjection.NumerousGram-positiverodswereobservedinasmearfromthefocus,andCorynebacteriummastitidiswasisolated.AlthoughitisthoughtthatCorynebacteriumcancausekeratitisonlyinspecialcases,suchasbiolmformationinimmunosuppressedcondition,thepresentcaseindicatesthatCorynebacteriumcanbeacausativeagentincasesoftheusualinfectiouskeratitis.ThiscasealsoindicatesthatthedetectionofGram-positiverodsisakeytothediagnosisofCorynebacteriuminfec-tions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11051107,2009〕Keywords:コリネバクテリウム,感染性角膜炎,グラム陽性桿菌,コンタクトレンズ.Corynebacterium,infec-tiouskeratitis,Gram-positiverods,contactlens.———————————————————————-Page21106あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(100)考えられた1例を経験したので報告する.I症例患者:23歳,男性.初診:2008年2月17日.主訴:左眼眼痛,羞明,視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズをインターネットで購入し,1週間連続装用していた.2008年2月15日,仕事中にコンクリートの薄い溶解液が左眼に飛入したが市販の点眼薬で経過をみていた.2月16日より左眼眼痛,羞明出現.2月17日より左眼視力低下をきたしたため同日鳥取大学医学部附属病院救急外来を受診した.初診時所見:左眼視力は0.01(n.c.),眼圧は20mmHgであった.高度な睫毛内反のため睫毛の角膜への接触を認めた.角膜中央に2mm程度の不整形の上皮欠損とその辺縁の淡い角膜浸潤を認め,角膜浮腫およびDescemet膜皺襞を呈していた.小さい白色の角膜後面沈着物と軽度の前房細胞も認めた(図1).経過:2月17日,感染性角膜炎の診断にて眼脂および角膜擦過物を採取し,レボフロキサシンおよびセフメノキシムの1時間ごとの点眼を開始した.2月18日,角膜浸潤の悪化を認め,セフタジジム2g点滴を開始.角膜擦過物の塗抹検鏡にてグラム陽性桿菌を多数検出した(図2).2月19日より入院.睫毛抜去を施行し,以後もレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,セフタジジム点滴を継続した.初診時の眼脂よりCorynebacteriumspp.およびStaphylococcusepidermidis,角膜擦過物よりCorynebacteriumspp.が分離された.その後は順調に軽快し,3月2日退院となった.後日,角膜擦過物から分離されたコリネバクテリウムの遺伝子解析を徳島大学にて行いrRNAの塩基配列を調べたところ,結膜常在菌として圧倒的多数を占めるC.macginleyiではなく,比較的少ないC.mastitidis近縁種であることが判明した.また,その薬剤感受性は表1のごとくであり,フルオロキノロン系も含めて多くの抗菌薬に良好な感受性を示した.II考按コリネバクテリウムは結膜の常在菌として知られているが,その病原性は低く,角膜炎の起炎菌としてもあまり考慮されていない.しかし近年になって,コリネバクテリウムは結膜炎および眼瞼結膜炎をひき起こすことが報告され1214),免疫抑制状態でバイオフィルムを形成したような特殊なケースでは角膜炎の起炎菌にもなりうると認識されるようになった210).しかし,今回筆者らが経験したような,免疫抑制状態にない患者においてコリネバクテリウムが起炎菌と考えられた症例の明確な報告はあまりなされていない.本症例において,結膜の培養では表皮ブドウ球菌とコリネバクテリウムが分離されているが,角膜擦過物からはコリネバクテリウムのみが分離された.また,角膜擦過物の塗抹検鏡でグラム陽性桿菌を認め,その結果が一致していることは本症例がコリネバクテリウム感染であることを裏付けている.病原性が表1本症例のコリネバクテリウムの薬剤感受性(MIC)シプロフロキサシン0.125エリスロマイシン<0.016ノルフロキサシン1クロラムフェニコール4レボフロキサシン0.064ドキシサイクリン0.5ガチフロキサシン0.016イミペネム0.008モキシフロキサシン0.016セフトリアキソン0.125トブラマイシン0.064バンコマイシン0.5ゲンタマイシン<0.064テイコプラニン0.5単位(μg/ml)図1初診時前眼部写真2mm程度の不整形の上皮欠損とその辺縁の淡い角膜浸潤を認める.病巣部からコリネバクテリウムが分離された.図2角膜擦過物の塗抹検鏡好中球に加えグラム陽性桿菌を認める.各視野で認められる菌体は多くないが,塗抹の広い範囲にわたって認められた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091107(101)低いコリネバクテリウムによる感染としては強い角膜浮腫など初診時の所見が強すぎるが,これは薄いコンクリート溶解液飛入による炎症を伴っていたためと考えると説明がつくと思われる.コリネバクテリウムが角膜炎をひき起こした機序としては,睫毛内反やコンタクトレンズの誤使用に伴い常に角膜上皮が傷害されていた可能性が高く,病原性の低い菌であっても角膜で増殖する下地を形成していたと考えられる.今回の分離菌がC.macginleyiではなく,結膜常在菌として比較的少ないC.mastitidisであったことは,外傷に伴って外部からC.mastitidisが飛入した可能性が考えられる.あるいは,従来から頻回交換レンズの連続装用,睫毛内反などがあり,結膜常在菌として少数ながら認められるとの報告があるC.mastitidisが眼表面に常在しており,さらに外傷が加わって角膜感染となった可能性も考えられる.残念ながら,結膜から分離されたコリネバクテリウムは分離後すぐに廃棄されたため,結膜にいる菌もC.mastitidisかどうかの確認はとれなかった.本症例のように,コリネバクテリウムは通常の感染性角膜炎でも起炎菌となる可能性が示唆され,これまでも軽症で比較的容易に治癒したものや,起炎菌不明とされてきた角膜炎のなかにコリネバクテリウムによってひき起こされたものが含まれていた可能性も考えられる.本症例で分離されたコリネバクテリウムはフルオロキノロン系抗生物質に対し感受性を認めたが,Eguchiら15)は,わが国におけるフルオロキノロン系点眼薬の使用量の増加により,近年眼科領域でフルオロキノロン系抗菌薬に対して耐性を示すコリネバクテリウムの報告が増加していると指摘している.このことを考慮すると,抗菌薬に対する耐性を獲得したコリネバクテリウムによる難治性の角膜炎が増加する可能性も危惧される.コリネバクテリウムは結膜常在菌であるため,外眼部感染症患者において分離されても起炎菌であるかどうかの判断はむずかしい.コリネバクテリウム感染と判断する際には塗抹検鏡でのグラム陽性桿菌の検出が重要と考えられる.文献1)InoueY,UsuiM,OhashiYetal:Preoperativedisinfec-tionoftheconjunctivalsacwithantibioticsandiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmol52:151-161,20082)RubinfeldRS,CohenEJ,ArentsenJJetal:Diphtheroidsasocularpathogens.AmJOphthalmol108:251-254,19893)HeidemannDG,DunnSP,DiskinJAetal:Corynebacteri-umstriatuskeratitis.Cornea10:81-82,19914)鹿島佳代子,百瀬隆行,石引美貴ほか:角膜移植片に起こったコリネバクテリウム感染症の1例.あたらしい眼科13:1587-1590,19965)LiA,LalS:Corynebacteriumpseudodiphtheriticumkera-titisandconjunctivitis.ClinExpOphthalmol28:60-61,20006)中島秀登,山田昌和,真島行彦:角膜移植眼に生じた感染性角膜炎の検討.臨眼55:1001-1006,20017)柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の1例.あたらしい眼科21:801-804,20048)岸本里栄子,田川義継,大野重昭:多剤耐性のCorynebac-teriumspeciesが検出された角膜潰瘍の1例.臨眼58:1341-1344,20049)柿丸晶子,寺坂祐樹,三原悦子ほか:3種の異なる起炎菌により感染を相ついで生じた難治性角膜炎の1例.あたらしい眼科22:795-799,200510)SuzukiT,IiharaH,UnoTetal:Suture-relatedkeratitiscausedbyCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol45:3833-3836,200711)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,200712)FunkeG,Pagano-NiedererM,BernauerW:Corynebacte-riummacginleyihastodatebeenisolatedexclusivelyfromconjunctivalswabs.JClinMicrobiol36:3670-3673,199813)JoussenAM,FunkeG,JoussenFetal:Corynebacteriummacginleyi:aconjunctivaspecicpathogen.BrJOphthal-mol84:1420-1422,200014)原二郎,横山順子,田聖花ほか:外眼部感染症からの臨床分離菌の薬剤感受性.あたらしい眼科18:89-93,200115)EguchiH,KuwaharaT,MiyamotoTetal:High-leveluoroquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,2008***