———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS両眼とも振幅の低下をきたしていた.手術:早急に全身麻酔下検査,両眼白内障手術を施行(経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術),術中術後合併症なし.眼鏡の処方:術後炎症や角膜浮腫が消退し眼圧が安定する術後7日目に検影法(skiascopy)による屈折検査を実施,両眼とも屈折値+18Dであった.乳児の視力の発達特性を考慮し,眼前33cmに焦点を合わせて両眼屈折矯正度数+21D,瞳孔間距離は近見で計測し40mmとして眼鏡を処方した.処方時には,乳児用眼鏡枠(フレーム)を紹介し,安全性と重量・収差の軽減のためプラスチックレンズで作製するよう指示する.また,弱視の治療目的に常用する眼鏡であることを家族に十分に説明し,頻回作製の費用負担を少しでも軽減するため,治療用眼鏡の療育費給付について情報提供する.処方後の管理:顔幅に適したフレームを選び,レンズのサイズが十分に広く,正しい位置に安定して装着されているか(フィッティング)を確認する.フレームサイズ44mm,レンズサイズ34mmの乳児用眼鏡(アンファンベビー,オグラ製)を装着したが,レンズの重さのためフレームが下方にずれやすく,はじめはテープ固定を要した.成長とともに良好なフィッティングを維持できるようになった.生後10カ月時に屈折値,瞳孔間距離,顔幅が変化したため屈折矯正度数+16D,瞳孔間距離45mmとして眼鏡を再処方した.はじめに乳児に眼鏡を処方する機会は限られているが,対象となる疾患は,いずれも発達途上の視力や両眼視機能に不可逆的な障害を及ぼす重症疾患である.近年,乳幼児眼疾患の早期発見,治療の進歩とあいまって,より早期に適切な屈折矯正を行う必要性も増してきた.2007年に本誌特集で乳児の眼鏡について概説したが1),本稿では,代表的なケースを呈示し,検査と処方の進め方,処方後の管理と注意点,眼鏡の効果について具体的に述べたい.I無水晶体眼1.症例呈示患児:生後17週,男児.主訴:眼振および異常眼球運動.現病歴:水平および上下に眼が揺れ,異常な眼球運動をすることに気づき近医受診.両眼の白内障を指摘され精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.発達の遅れを疑われ小児科で精査したが異常なし.家族歴として母が若年性白内障で手術を受けている.術前所見:瞳孔反応正常.左右眼とも固視・追視不良で,著明な眼振と異常眼球運動を認めた(図1a).両眼に小角膜(9mm×9mm),膜状白内障を認め,散瞳不良であった.眼底透見不能であったが超音波Bモード検査では後眼部に異常なし.視覚誘発電位(VEP)では(11)735aca眼157眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):735740,2009乳児の眼鏡PrescribingSpectaclesforInfants仁科幸子*———————————————————————-Page2736あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(12)徹照が悪いとき,屈折度の急激な変化を認めた場合には,後発白内障,緑内障,網膜離などの術後合併症の発症が疑われるため十分注意する.顔面の成長も速いため,フレームが顔幅に合っているか,瞳孔間距離は変化していないか,レンズの状態は良好か,つねに注意を払う.術後無水晶体眼では,瞳孔間距離のずれによってプリズム作用が出るため,2mm以上変化したら再処方を検討する.眼鏡はいったん慣れると継続して装用できることが多いが,心身の発達の過程で患児の体動が激しくなったり,取り扱いが粗雑になってコンプライアンスが悪くなることがある.患児の手で眼鏡をいじるようになると,レンズ面に汚れや傷が多くなり,フレームが曲がりやすくなる.頻回にフィッティングを調整して,患児ができ眼鏡の効果:眼鏡の常用により生後24週(術後7週目)には両眼に固視・追視を認め,顕性の眼振が著明に低下した(図1b).眼位は正位軽度内斜視.生後8カ月時に縞視力(gratingacuity)にて両眼開放下矯正視力0.115まで検出された.2.解説乳児期は視性刺激遮断に対する感受性がきわめて高い時期であり,この時期に起こる疾患によって重篤な弱視を起こす.両眼性の先天白内障では,生後10週を過ぎると急速に眼振や異常眼球運動が顕著となるが2),早急に手術を行い3),眼鏡の装用ができると12カ月で眼振が軽減し安定した固視,追視がみられるようになる.視機能が急速に発達する時期であるため,適切な治療を行えばその効果も高い.術後の屈折矯正には眼鏡,コンタクトレンズのほか,最近では眼内レンズの適応も拡大しつつあるが,乳児に対しては,合併症がなく安全で,取り扱いが容易,成長に応じた変更が容易である点など,依然として眼鏡の利点は多い46).術後早期から適正な屈折矯正が可能であり,良好なコンプライアンスが得られやすいため視機能の発達に有利である.成長に伴う屈折度の変化は,視覚の感受性の高い02歳で特に著しい.術後無水晶体眼では,少なくとも23カ月ごとに屈折検査を施行し,眼鏡が+23Dの近見矯正に合っているかどうか調べ,4D以上の過矯正となれば変更する.実際には,眼鏡の装用状態が良好であることを確認し,レンズ装用下で検影法(overrefrac-tion)を施行すると簡便に正確な検査ができる(図2).ab図1生後17週男児,両眼先天白内障a:術前,眼振・異常眼球運動が顕著であった.b:術後7週目,眼鏡常用にて眼振が低下し良好な固視・追視がみられる.図2眼鏡装用下で検影法(overrefraction)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009737(13)辺部全周に網膜血管の走行異常と無血管野を認め,耳下側周辺部の線維組織に向かう牽引乳頭を呈していたが,蛍光眼底造影にて蛍光漏出を認めず,活動性はないと判るだけ快適に眼鏡を装用できるよう注意する.3.今後の課題近年,重症未熟児網膜症(II型,aggressiveposteriorretinopathyofprematurity:AP-ROP)においても,早期硝子体手術技術が進歩し,比較的良好な視力予後が得られる可能性が出てきた7).両眼の硝子体手術に水晶体切除を要することが多いため,術後無水晶体眼に対する屈折矯正の重要性も増している.現在市販されている乳児用眼鏡フレームは,テンプルが柔らかく頭部にバンドで固定するよう工夫されており,仰臥位で体位が変化しても安全に装着できる.サイズ30mm,瞳孔間距離32mmから特注で作製できるため,未熟児の術後無水晶体眼にも対応可能となった.レンズ度数は球面設計で+33.0Dまで作製可能であるが,度数が大きいほど光学的欠点や重量が増すため,良好な装用状態を維持できるかどうかが問題となる.また,瞳孔間距離40mm未満または顔幅に比べて瞳孔間距離の狭い例では,レンズを内寄せして光学間距離を一致させるが,顔幅に比べて極端に瞳孔間距離が狭い例では作製がむずかしい.両眼先天白内障では全身症候群を伴う例が多いため,さまざまな顔面の特徴をもつ患児に対応した眼鏡の開発が望まれる.II強度屈折異常1.症例呈示患児:2歳,男児.主訴:右眼外斜視.現病歴:生後9カ月頃より右眼が外にずれていることが気になり近医受診.精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.所見:瞳孔反応正常.左眼固視良好,右眼は角膜反射法で外斜視を呈していたが,カバー・アンカバーテストで斜視を検出せず,左眼を遮閉すると嫌悪反応がみられた.前眼部・中間透光体に異常なし.眼底検査にて右眼に牽引乳頭を認め,左眼にもごく軽度であるが牽引乳頭を認めた.また両眼とも周辺部網膜に全周にわたる無血管野を認めた.全身麻酔下検査を実施,両眼とも眼底周bca32歳男児,牽引乳頭に伴う強度近視a:右眼眼底所見,周辺部の線維組織に向かう高度の牽引乳頭を認める.b:左眼眼底所見,ごく軽度の牽引乳頭を認める.周辺部には全周にわたる網膜血管の走行異常と無血管野を認めた.c:眼鏡常用,右眼偽外斜視を呈している.———————————————————————-Page4738あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(14)無水晶体眼から強度近視・乱視まで,角膜混濁などの器質病変がある場合でも測定可能である.母親の腕や膝の上で正面を向かせ,自然に開瞼した状態を捉えて短時間で検査できるように,普段から習熟しておく必要がある.やむをえず開瞼器を使用する場合は乱視の混入に注意する.体動が少ない乳児では,手持ちオートレフラクトメータを用いると簡便に検査できる.しかし,測定範囲が限られており,調節の介入や乱視の混入が多い点,眼振や器質病変があると測定値がばらつき不正確である点に注意を要する.強度屈折異常に対する眼鏡処方は原則として図4のように大別している.乳児期に強度の遠視,遠視性乱視,遠視性不同視を認めた場合には,屈折異常弱視の予防のため眼鏡処方を検討する.内斜視のない場合には,調節麻痺剤として1%cyclopentolate点眼を用いることが多いが,強度遠視が疑われる場合は0.25%または0.5%アトロピン点眼による精密屈折検査が望ましい.乳幼児の平均屈折度は生後3カ月で+3.9D,1歳で+1.9D,2歳で+0.9Dと報告されている8).+5.0Dを超える遠視,+3.0Dを超える乱視がある場合は,縞視力(gratingacuity)や眼位を評価のうえ,完全矯正眼鏡を処方する9).両眼の強度の近視,近視性乱視の場合には,近方視で網膜への結像が起こるため遠視に比べて弱視を生じにくい.しかし,年齢とともに遠見障害が視空間認知や視覚に基づく行動の発達に影響を及ぼすため,2歳頃から眼鏡処方を検討する.必ず1%cyclopentolate点眼による調節麻痺下屈折検査を行う.4.0Dを超える近視,3.0Dを超える乱視がある場合は,近視は低矯正,乱断された(図3a,b).家族性滲出性硝子体網膜症が疑われるが,まだ両親の眼底検査は施行していない.眼球打撲に対する注意を促し,定期的に眼底検査を実施している.眼鏡の処方:1%cyclopentolate(サイプレジンR)点眼による調節麻痺下屈折検査を実施したところ,右眼5.5D,左眼6.0Dの近視を検出した.2歳のため眼前50cm1mに焦点を合わせて屈折矯正度数は右眼4.0D,左眼4.5D,瞳孔間距離は遠見で測定し48mmとして眼鏡を処方した.処方後の管理:すぐに眼鏡を好んで常用するようになり,装用状態は良好であった(図3c).牽引乳頭の左右差が著しいため,健眼遮閉による弱視治療は効果が少なく,むしろ遮閉時の眼球打撲などのリスクを考えて行っていない.眼鏡の効果:3歳になり初めて絵視力を測定したところ,眼鏡矯正下で両眼0.4,右眼0.2,左眼0.3と比較的良好な結果が得られている.2.解説このケースでは斜視の精査目的で受診し眼底疾患が発見されたが,乳幼児期に視反応不良,眼位異常,眼振はもとより,他のさまざまな主訴にて来院した際にも,散瞳下の眼底検査,調節麻痺剤を使用した精密屈折検査は必ず施行しておきたい.一方,明らかな症状がない場合でも,乳児期に強度の屈折異常が検出された際には,しばしば器質的疾患が背景にあるため,前眼部から眼底周辺部まで詳細に観察すべきである.強度屈折異常を伴う代表的な疾患を表1に示す.乳児の屈折検査は検影法(skiascopy)が基本である.乳児期の強度屈折異常器質的眼疾患はないか近視性不同視器質病変(+)予後不良両眼強度近視強度近視性乱視両眼強度遠視強度遠視性乱視遠視性不同視乳児期から眼鏡弱視予防2歳頃から眼鏡図4強度屈折異常に対する眼鏡処方表1乳児期に強度屈折異常を伴う代表的疾患強度遠視・遠視性乱視小眼球,Leber先天黒内障,扁平角膜,角膜瘢痕,先天無水晶体症.強度近視・近視性乱視発達緑内障,水晶体偏位,小球状水晶体,円錐水晶体,球状角膜,分娩外傷,角膜混濁,未熟児網膜症,網膜有髄神経線維,先天停止夜盲,Stickler症候群,Marfan症候群,Ehlers-Danlos症候群.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009739(15)による精密屈折検査を実施したところ,両眼に+3Dの遠視を検出した.家族と相談し,完全矯正眼鏡(瞳孔間距離39mm)を処方した.処方後の管理:家族の協力により,はじめから眼鏡を嫌がらずに掛けられ,装用状態は良好であった(図5b).眼鏡フレームのフロントサイズが小さくなったため,生後9カ月時に眼鏡を再処方した.眼鏡の効果:生後6カ月未満発症の大角度の内斜視であったが,眼鏡装用を開始して1カ月後には眼鏡装用下で眼位正位となった.非装用下では左眼内斜視となる.両眼の外転制限は徐々に改善している.2.解説乳児期に眼位異常をきたした場合,放置すると両眼視機能の発達が困難となる.特に生後34カ月は立体視の感受性が高いため11),早期発症内斜視(生後6カ月までに発症)では,迅速な診断と眼位矯正が必要である.このケースでは当初外転神経麻痺を疑い,精査,交代遮閉訓練を実施,早期手術も念頭に置いていたが,完全矯正眼鏡の常用にて眼位は正位となった.生後420週における20Δ以上の内斜視を追跡調査した近年の多施設研究では,小角度,変動する内斜視や,+3.0D以上の遠視を伴う例では自然治癒する可能性もあると指摘されている12,13).しかし,内斜視が遷延する際には,調節性要因の関与を疑い,完全矯正眼鏡を手術に先立って装用させるのが原則である.調節性内斜視のなかには生後4カ月で発症する例もあることが知られている14).視は原則として完全矯正にて眼鏡を処方する.不同視差が5.0D以上の強度近視性不同視の場合,器質病変が潜在しており眼鏡を処方しても予後不良のことが多い.屈折度が10.0D以内で,眼底後極部の萎縮病変がなく,顕性斜視のない例では眼鏡を処方し,健眼遮閉による弱視治療を試みる10).たとえ両眼に重篤な視覚障害をきたす器質的疾患があっても,残存視機能の発達と活用を促すために,強度屈折異常を検出し,適正な眼鏡を処方する必要がある.視距離に合わせた近見矯正とするのがコツである.III早期発症内斜視1.症例呈示患児:生後5カ月,女児.主訴:内斜視.現病歴:生後2カ月頃より左眼が寄り目になることに気づいた.その後右眼も寄るようになった.精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.既往歴として心室中隔欠損があり経過観察されている.発達正常.家族歴に特記すべきことなし.所見:瞳孔反応正常.左右眼とも固視良好であったが交代視しており,Krimsky法にて50Δの内斜視を検出した(図5a).両眼に外転制限を認めた.前眼部・中間透光体・眼底に異常なし.散瞳下の屈折検査にて両眼に+4Dの遠視を検出した.神経内科で精査,頭部MRI(磁気共鳴画像)を施行したが異常なし.1日30分の交代遮閉訓練を行ったが外転制限は残存し,斜視角は不変であった.眼鏡の処方:生後7カ月時に0.25%アトロピン点眼ab図55カ月女児,早期発症内斜視a:初診時眼位,内斜視50Δ.b:生後8カ月,完全矯正眼鏡装用にて正位.非装用時は内斜視.———————————————————————-Page6740あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(16)8)山本節:小児遠視の経年変化と眼鏡矯正.眼紀35:1707-1710,19849)WrightKW:Visualdevelopmentandamblyopia.In:WrightKW,SpiegelPH(ed):PediatricOphthalmologyandStrabismus2nded,p157-171,Springer-Verlag,NewYork,200310)大野京子:強度屈折異常.丸尾敏夫(編):眼科診療プラクティス27,p166-170,文光堂,199711)FawcettSL,WangYi-Z,BirchEE:Thecriticalperiodforsusceptibilityofhumanstereopsis.InvestOphthalmolVisSci46:521-525,200512)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Theclinicalspectrumofearly-onsetesotropia:Experienceofthecon-genitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthalmol133:102-108,200213)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Spontaneousresolutionofearly-onsetesotropia:Experienceofthecongenitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthal-mol133:109-118,200214)CoatsDK,AvillaCW,PaysseEAetal:Early-onsetrefractiveaccommodativeesotropia.JPediatrOphthalmolStrabismus35:275-278,1998文献1)仁科幸子:乳児の眼鏡.あたらしい眼科24:1141-1144,20072)LambertSR,LynnMJ,ReevesRetal:IstherealatentperiodforthesurgicaltreatmentofchildrenwithdensebilateralcongenitalcataractsJAAPOS10:30-36,20063)矢ヶ﨑悌司,粟屋忍,高良俊武ほか:術前に眼振が認められた先天白内障早期手術例の予後.眼臨87:342-349,19934)山本節:小児眼内レンズ挿入症例の長期観察.眼科手術13:39-43,20005)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Acompari-sonofgratingvisualacuity,strabismus,andreoperationoutcomesamongchildrenwithaphakiaandpseudophakiaafterunilateralcataractsurgeryduringtherstsixmonthoflife.JAAPOS5:70-75:20016)仁科幸子:小児白内障手術と術後視力.あたらしい眼科23:19-24,20067)AzumaN,MotomuraK,HamaYetal:Earlyvitreoussurgeryforaggressiveposteriorretinopathyofprematuri-ty.AmJOphthalmol142:636-643,2006