———————————————————————-Page1(141)5730910-1810/09/\100/頁/JCLS投稿欄あたらしい眼科26(4):573575,2009c当院におけるベバシズマブ(アバスチン?)分注液の混濁浮遊物について尾花明*1渡辺慎也*2辻大樹*2中道秀徳*2浅野正宏*3*1聖隷浜松病院眼科*2同薬剤部*3同臨床研究管理センターはじめに眼内新生血管には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の関与1)が大きいことから,VEGF阻害薬による新生血管治療が考案され,2005年には米国で抗VEGFアプタマーであるpegaptanib(商品名:Macu-genR)2)が承認された.また,転移性結腸癌あるいは直腸癌に対する治療薬(注射薬)として開発されたrecombinanthumanizedmonoclonalIgG1VEGF抗体であるbevacizum-ab(商品名:AvastinR100mg/4ml)も眼疾患への有効性が報告3)され,未承認下での使用が拡大している.2006年にbevacizumabのFabフラグメントからなりbevacizumabより分子量の小さなranibizumab(商品名:LucentisR)4)が承認販売されたが,ranibizumabが比較的高価格なこともあって,現在もbevacizumabは広く使用されている.わが国でも2005年後半に一部の施設でbevacizumabの使用が始まり,2006年以降は多数の施設で使用されだした.2008年10月にpegaptanib(商品名:マクジェンR硝子体内注射キット0.3mg,ファイザー),2009年3月にranibizumab(商品名:ルセンティスR硝子体内注射液2.3mg,ノバルティス)が承認販売されたが,適応症が限定されるため,現在もbevacizumabの使用は続いている.飯島らが国内の光線力学的療法(PDT)実施201施設を対象に2008年8月に行ったアンケート調査によると,回答の得られた106施設中bevacizumab治療を実施しているのは89施設で,報告された注射回数の合計は21,328回であった.当科でもbevacizumab治療に関する自主臨床試験が2007年8月に院内倫理委員会の承認を受け,2008年10月までに延べ114眼にbevacizumab硝子体内注射を施行している.bevacizumabはバイアルから分注保存したものを用事使用していたが,最近,その過程で注射液に混濁浮遊物を発見した.そこで,混濁原因を検査した結果,細菌繁殖ではなく蛋白質の凝集と判明したが,今後もbevacizumabの使用は継続されると思われるため,使用者の参考になるように今回の事象を報告する.I混濁発見状況2008年6月16日,加齢黄斑変性患者にbevacizumab硝子体内注射を実施しようとしたところ,術者が注射液内の白色混濁物浮遊に気づいた.薬剤は薬剤部冷蔵庫内に保管されていた注射筒を,治療直前にプラスチックケースに入れて常温で手術室に運んだもので,術者が手にするまでは冷蔵庫から取り出した薬剤師以外には誰も触れていない.当該患者は6月13日にPDTを施行し,この日にbevaci-zumab硝子体内注射予定であった.患者には薬液の異常を説明したうえで了解を得て注射を中止した.そして,17日にトリアムシノロン後部Tenon内注入を施行した.しかし,3カ月後に脈絡膜新生血管の残存がみられたため,9月26日に再度PDTと29日にbevacizumab硝子体内注射を施行したところ,病巣は線維化して滲出性変化が消失し視力は維持された.当日,分注保存されていた9本の注射液を検査したところ,6本に肉眼で混濁が確認された(図1).ただちに,院内感染対策委員会に連絡のうえ,細菌検査と成分分析検査を依頼した.〔別刷請求先〕尾花明:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼科図1Bevacizumabの混濁シリンジに分注された液のピストン表面に混濁物がみられる.右は左写真の□部分の拡大で,混濁物(矢印)がみられる.———————————————————————-Page2574あたらしい眼科Vol.26,No.4,20082008年6月9日と12日に同治療を施行した3例について,治療翌日の検査で異常はなかったが,再度来院を促し,6月17日と18日に治療後2回目の眼底および前眼部検査を施行し,異常のないことを確認した.これより以前に施行した延べ80眼に合併症はみられなかった.IIBevacizumab硝子体内注射液の分注方法Bevacizumab(アバスチンR)は製造元のGenentech,Inc(米国)からRHCUSACorporation(海外処方医薬品個人輸入サービス)を介して個人輸入した.分注は薬剤部内で薬剤師が1バイアル(100mg/4ml)から1mlディスポシリンジ内に0.1ml採取し,三方活栓をキャップ代わりに使用して密閉した.すべての操作はクリーンベンチ内で行われた.この方法で1バイアルから最多37本が分注された.使用直前まで薬剤部冷蔵庫内(46℃)で保存した.本事象の発生までに同様の方法で2バイアルを分注し,すべて問題なく使用した.今回,混濁のみつかったものは,4月1日に新しいバイアルを開封後32本に分注して22本を使用し,そのあとに残った10本のうちの1本であった.分注から使用までの期間は77日であった.III細菌検査1.方法混濁のある分注液2本を検査した.対照にはアバスチンR(Roche)を用いた.グラム染色による顕微鏡観察と培養を行った.培地には血液寒天培地,クロモアガー培地,ポテト培地,ガム半流動培地を使用した.2.結果いずれの検体にも顕微鏡検査にて菌は検出されず,すべての培地で菌の発育を認めなかった.IV成分分析1.方法混濁のある分注液1本を遠心分離(12,000rpm,3分,4℃,2回)して,上清と沈殿に分けた.陽性対照にはアバスチンR(Roche)を用いた.上清と沈殿を電気泳動〔SDS-polyacrylamidegelelectro-phoresis(PAGE)〕し分子量を検索した.電気泳動(native-PAGE)後にウエスタンブロット法を行った.2.結果SDS-PAGEでは上清と沈殿とも25kDaと50kDaにバンドがみられた.Native-PAGEでは分子量が大きすぎるため泳動できなかったが,すべての標本はproteinAに反応した.標本および対照のpH測定ではともにpH5.5であった.V考察Bevacizumabはアミノ酸214個の軽鎖2分子と453個の重鎖2分子からなる分子量約149,000の蛋白質で,その注射用溶液は無色透明である.SDS-PAGEでみられた25kDaと50kDaのバンドはbevacizumabの軽鎖と重鎖に一致するので,沈殿した混濁物は蛋白質でbevacizumabの可能性が高いと考えられた.上清にも同じバンドがみられたことから,溶液の一部が沈殿したと考えられた.また,native-PAGEでは上清と沈殿の両方がproteinAと反応したことから,両方とも抗体機能を有していたと考えられた.以上と細菌検査が陰性であったことから,今回の混濁は蛋白質が凝集した可能性が高い.凝集原因には,濃度,塩濃度,pH,温度変化などが考えられる.分注しても濃度と塩濃度は変わらないことと,pHが対照液と同じであったことから,温度変化が原因と推測された.結腸癌などに認可されているアバスチンR(中外製薬)は28℃で遮光保存と規定されている.今回も薬剤部冷蔵庫(46℃)に保存していたので保存方法に問題はないと思われたが,分注時にいったん常温になった溶液を再冷蔵したために何らかの要因で凝集をきたした可能性も考えられる.しかし,本事象以前にも同じ方法で使用したにもかかわらず同様の問題を生じなかったので,今回の混濁原因は不明である.分注使用は規定外の使用法なので保存期間に関する確かな指針はない.分注後の保存期間は3カ月以内と取り決めている施設もあるようだが,当院での試験実施計画書には保存期間を明記していない.ただし,今回の保存期間は77日であり,常識的範囲内かと思われる.Bevacizumabの眼疾患への使用は目的外使用にあたり未承認治療である.しかし,これまでの報告から明らかなように眼内血管新生を伴ういくつかの疾患の治療3,5)において有効性が高く,かつ,合併症発生率6,7)も海外におけるpegap-tanib2),ranibizumab4)と変わるところがなく,国内のアンケート調査でも大きな問題はみられていない.Pegaptanibは実験的にもbevacizumabより抗VEGF作用が弱いことが指摘されている8).Ranibizumabも認可されたが,加齢黄斑変性以外の疾患には認可された薬剤がないため,今後もbevacizumabの使用は継続されると思われる.当科でも安全性が確認された2008年7月以降,bevacizumab硝子体内注射を再開し,この事例以降2008年10月末までに延べ30眼に施行しているが,問題は生じていない.Bevacizumab使用は医師の自主臨床試験として行われており,万一の事故発生時には医療者責任は免れないと思われる.今回は使用前に異常に気づき,医学的問題を生じなかった.混濁液の分析で抗体作用は維持されていたのでそのまま使用しても有効性は維持されていた可能性はあるが,凝集物(142)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009575の安全性と有効性に関しては不明である.しかし,混濁発見時点では細菌感染の可能性もあるので,異常を認めた場合は使用を中止するべきであると考える.今後の使用に際しては,安全確実な保存と,使用前に必ず目視で混濁などの異常のないことを確認することを勧めたい.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETetal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion.NEnglJMed351:2805-2816,20043)AveryRL,PieramiciDJ,RabenaMDetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.Ophthalmology113:363-372,20064)RoseneldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20065)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Intravitrealbevaci-zumabforchoroidalneovascularizationattributabletopathologicmyopia.One-yearresults.AmJOphthalmol147:94-100,20096)FungAE,RoseneldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinter-nettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,20067)ShimaC,SakaguchiH,GomiFetal:Complicationsinpatientsafterintravitrealinjectionofbevacizumab.ActaOphthalmol86:372-376,20088)KlettnerA,RoiderJ:Comparisonofbevacizumab,ranibi-zumab,andpegaptanibinvitro:Eciencyandpossibleadditionalpathways.InvestOphthalmolVisSci49:4523-4527,2008(143)***