———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081930910-1810/08/\100/頁/JCLS2007年1月に承認されたインフリキシマブ(レミケードR)について紹介する.ベーチェット病で難治性網膜ぶどう膜炎を有する患者は,どのぶどう膜炎専門外来にも数人はいると思う.ベーチェット病に対して,これまでわが国で利用できた薬剤はコルヒチンやシクロスポリンであり,それだけで炎症発作が十分に抑制されていないむずかしい症例が依然として目立った.そこで,新しいタイプの治療「生物学的製剤療法」が登場した.生物学的製剤療法は,人体に自然に存在する因子,たとえばサイトカインをターゲット(的)にして,各疾患にかかわる因子の活動性を促進あるいは抑制するという治療法である.C型肝炎に対するインターフェロンa(IFN-a)は,生物学的製剤療法として最も古い例である.C型肝炎の場合は,IFN-aの活動性を高めるため,組換え技術により製造されたIFN-aを投与している.また眼科領域では,加齢黄斑変性に合併する脈絡膜新生血管に対して,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)というサイトカインの活動性を抑制するモノクローナル抗体(bevacizumab)あるいは抗体のFab部分(ranibizum-ab)が生物学的製剤として硝子体内に注射されている.(59)インフリキシマブは,最初に関節リウマチやクローン病で有効性が確立された.ぶどう膜炎領域では,数年前からわが国ではベーチェット病における治験が施行され,海外ではさまざまなぶどう膜炎あるいは強膜炎に対して使用されており,その有用性が報告されている13).従来より非感染性ぶどう膜炎を含めたいわゆる「免疫疾患」には腫瘍壊死因子a(TNF-a)という炎症系サイトカインの関与が知られている.インフリキシマブはTNF-aに対するモノクローナル抗体であり,おもに2つの作用をもっている(図1).一つは,インフリキシマブが可溶型TNF-aと結合することにより,可溶型TNF-aと細胞膜上TNF-aレセプターの結合をブロックすることである.もう一つは,インフリキシマブは細胞膜上に存在するTNF-aと結合することにより,TNF-aを発現する細胞に傷害が生じ,結果としてTNF-aの活動性が抑制されるのである.インフリキシマブは,ヒト化されたマウス抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体(キメラ型モノクローナル抗体)であり(図2),マウス由来蛋白質に対するアレルギーのある患者には使用できない.さらに,インフリキ岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科ベーチェット病の眼病変セミナー監修/岡田アナベルあやめ園田康平1.インフリキシマブ:難治性ベーチェット病の新しい治療インフリキシマブレミー病の治療用難治性ベーチェット病ししのし作用し用ベーチェット病難治性の治療しインフリキシマブの構造作用用の代表例TNF-aとの結合部H鎖L鎖可変領域(マウス由来)25%定常領域(ヒト由来)75%FabFc抗体アイソタイプ:IgG1分子量:約149,000交差反応性:チンパンジーTNF-a図2インフリキシマブの構造(提供:田辺三菱製薬株式会社)TNF-a産生細胞(活性化マクロファージなど)可溶型TNF-a②受容体に結合したTNF-aの解離①可溶型TNF-aへの結合・中和③TNF-a産生細胞の傷害(ADCC,CDC)膜結合型TNF-aTNF-a受容体TNF-aターゲット細胞傷害インフリキシマブ(血管内皮細胞,免疫細胞など)図1インフリキシマブの作用機序(提供:田辺三菱製薬株式会社)———————————————————————-Page2194あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(60)シマブ投与により感染症に対する抵抗力が低下するため,結核や他の活動性感染症を有する患者への投与は禁忌である.また,生物学的製剤療法では蛋白質を利用するため,これに対する免疫反応を誘発し,併発的に抗核抗体などの自己抗体あるいはインフリキシマブ薬剤そのものに対する抗体が発現することがある.これらの抗体の発現頻度は,インフリキシマブの投与期間あるいは用量に依存する4).しかし,自己抗体陽性となる患者には,全身性エリテマトーデスのような膠原病が実際に発症する可能性が低いといわれている.インフリキシマブに対する抗体が生じる場合は,頭痛,発熱などのような投与時反応が生じやすい可能性もある5).インフリキシマブを投与されている患者に,多発性硬化症や他の脱髄疾患が報告されており6),この副作用も本剤による免疫調整の関与が疑われている.そして,インフリキシマブ投与によりうっ血性心不全が悪化する可能性があるため,心不全の既往歴のある患者には使用できない.インフリキシマブ投与による副作用の詳細については,次回に述べることにする.初回投与前に,内科によく相談し,活動性感染症,特に未治療の結核の有無について検討する必要がある.また,投与の際,投与時反応を起こす頻度は低くないので,眼科での対応が不十分と考えるときには膠原病科や他の内科外来で投与を行うことを勧める.筆者らはこのような投与前準備のもと,従来治療に難渋した症例にレミケード療法を開始したところ,短期経過観察期間にて大多数の症例に著効が得られた.そのうちの一例を以下に提示する.1999年6月11日初診時から,シクロスポリンにステロイド,メトトレキサートなどを併用したにもかかわらず,右眼の眼底発作をくり返した難治症例で,右眼に続発緑内障も発症し,2006年にほぼ失明となった.その頃,左眼にも眼底発作がみられるようになり,2007年3月26日よりインフリキシマブの治療を開始した.その後,シクロスポリン,ステロイド,メトトレキサートの用量を漸減し,2008年1月15日現在,経過は良好で眼炎症発作はみられていない.インフリキシマブ治療開始前と3カ月後(両方とも非発作時に撮影)のフルオレセイン蛍光眼底造影検査では,乳頭蛍光漏出および毛細血管からのびまん性蛍光漏出が軽減したことがみられ(図3),炎症発作の抑制効果以外にも,背景的な炎症も抑制されることが示唆された.ベーチェット病による難治網膜ぶどう膜炎は,比較的若い男性に多く,視力が低下した場合,就業能力に大きな影響を及ぼすことがある.このような症例に,コルヒチンやシクロスポリンの投与にもかかわらず3カ月から半年程度以内に視力に影響を及ぼす眼発作が生じる場合,より強力な治療が望まれるためインフリキシマブ治療を検討することは妥当である.しかし,現状ではインフリキシマブにおける十分なエビデンスが集積されておらず,引き続き研究されるべき課題の一つである.文献1)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Ecacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofiniximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheu-matol31:1362-1368,20042)SuhlerEB,SmithJR,WertheimMSetal:Aprospectivetrialofiniximabtherapyforrefractoryuveitis:prelimi-narysafetyandecacyoutcomes.ArchOphthalmol123:903-912,20053)SobrinL,KimEC,ChristenWetal:Iniximabtherapyforthetreatmentofrefractoryocularinammatorydis-ease.ArchOphthalmol125:895-900,20074)MieleE,MarkowitzJE,MamulaPetal:Humanantichi-mericantibodyinchildrenandyoungadultswithinam-matoryboweldiseasereceivinginiximab.JPedGastro-enterolNutr38:502-508,20045)HanauerSB,WagnerCL,BalaMetal:Incidenceandimportanceofantibodyresponsestoiniximabaftermain-tenanceorepisodictreatmentinCrohn’sdisease.ClinGastroenterolHepatol2:542-553,20046)TannoM,NakamuraI,KobayashiSetal:New-onsetdemyelinationinducedbyiniximabtherapyintworheu-matoidarthritispatients.ClinRheumatol25:929-933,2006図3代表例のフルオレセイン蛍光眼底造影所見(34歳,男性)インフリキシマブ治療開始前と比較し,3カ月後では乳頭蛍光漏出および毛細血管からのびまん性蛍光漏出が軽減した.インフリキシマブ開始前インフリキシマブ開始3カ月後