———————————————————————-Page1/08/\100/頁/JCLS炎,髄膜炎などがあげられる1).外因性眼内炎のなかでも術後眼内炎の起炎菌は,術後早期の発症例では結膜やマイボーム腺の常在菌である黄色ブドウ球菌のほか,腸球菌などのグラム陽性球菌,緑膿菌などのグラム陰性菌であることが多い.遅発性眼内炎では弱毒菌であるPropionibacteriumacnes(P.acnes)や表皮ブドウ球菌が起炎菌となることが多い.外傷後の眼内炎ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)などのグラム陽性菌や緑膿菌による場合が多いはじめに細菌,真菌,寄生虫,ウイルスは外傷創や手術創から,あるいは体内から血行性,さらには視神経を介して網膜硝子体に直接感染するとともに,免疫反応を同時に惹起することによって眼内に炎症を生じる.治療については病因を同定し,適切な薬物治療を行っていくことが原則であるが,その目星をつけるためには血液や眼内液の検索だけでなく,患者背景を含めた病歴の聴取などが重要である.また,当初は広域スペクトルを有する薬剤を選択したとしても,臨床経過や検査結果に合わせて適宜薬剤を変更し,過剰な炎症反応に対しては副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)を使用するなど,臨機応変な対応が必要となる.I細菌感染症1.細菌性眼内炎(図1)細菌性眼内炎は起炎菌が外界から入る外因性(全体の69%)と,全身の他臓器から眼内に血行性に移行,感染する内因性(全体の31%)に分けられる1).外因性では外傷によるものが31%,手術後の症例が31%を占め,その他に角膜潰瘍の穿孔によるものなどがある1).術後眼内炎には内眼手術後1週間以内に発症する急性発症例と,10日~数カ月後に発症する遅発性眼内炎がある.一方,内因性の細菌性眼内炎では基礎疾患として悪性腫瘍,糖尿病,膠原病が発症の危険因子として知られ,感染源として泌尿器,消化器および呼吸器感染症,心内膜(43)317*JunSuzuki:東京医科大学八王子医療センター眼科**HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木潤:〒193-0998東京都八王子市館町1163番地東京医科大学八王子医療センター眼科特集眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):317~323,2008網膜硝子体疾患(感染性疾患)VitreoretinalDisease(InfectiousDisease)鈴木潤*後藤浩**図1細菌性眼内炎54歳,男性.強角膜創からの感染と思われる白内障術後眼内炎.前房水より溶血性レンサ球菌が検出されたため,眼内レンズの摘出,硝子体切除術,バンコマイシン,モダシン硝子体注入を行った.———————————————————————-Page2$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(44)2.結核性ぶどう膜網膜炎,網膜血管炎(図2)幸いにもわが国における結核の新規登録患者数は,平成11年の緊急事態宣言以降は6年連続で減少傾向にある5).一方で結核性ぶどう膜炎の頻度は筆者らの1990年代の調査では0.4%前後であった6)のが,2002年に実施された全国調査では0.7%と増加している7).病型としてはわが国では閉塞性の網膜血管炎を主徴とする症例が多く,サルコイドーシスやBehcet病,網膜中心静脈分枝閉塞症などとの鑑別が問題となる.また,ツベルクリン反応陽性の事実が必ずしも結核感染の関与を意味しないこともあるため,抗結核薬が治療的診断法の一環として使用される場合もある8).治療については,たとえば全身結核に対して世界保健機関(WHO)では3~4剤の抗結核薬による併用療法を推奨しているが,ストレプトマイシンには聴神経麻痺,エタンブトールには視神経炎といった副作用があるため,結核による眼病変単独の病態にはイソニアジドとリファンピシンの2剤で十分と考えている.イソニアジド300mg/日(分3)とリファンピシン450mg/日(朝1回)を3~6カ月間にわたり投与する.眼内の炎症が強い場合にはステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン30が,土が混入している場合にはBacilluscereusの可能性もある.内因性眼内炎ではKlebsiellapneumoniaeや大腸菌などのグラム陰性菌が主体である.眼内炎の治療については,最近ではやや見直しの必要性を示唆する報告も散見されるが,1995年に報告されたEndophthalmitisVitrectomyStudy(EVS)2)による指針が広く知られている.EVSのなかで中心となっている治療法はバンコマイシンとアミカシンの眼内投与である.バンコマイシンはグラム陽性菌に対して幅広い抗菌スペクトルを有しており,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌にも効果がある.アミカシンはグラム陰性菌に対して有効で,緑膿菌をはじめとしてバンコマイシンでは不十分な抗菌作用を補うことができる.なお,現在は網膜毒性への配慮から,アミカシンに代わってセフタジジムが用いられることが多い.具体的には臨床的に眼内炎が疑われた時点でただちにバンコマイシン(塩酸バンコマイシンR1.0mg/0.1ml)とセフタジジム(モダシンR2.0mg/0.1ml)の硝子体腔内注射を行う.必要性の是非はともかく,点眼や結膜下注射については先述したバンコマイシンとセフタジジムを同じ濃度で用いることができ,残余分を利用することも可能である.これら薬剤の調整方法については簡潔にまとめた報告がある3).EVSによれば,抗菌薬の全身投与については効果がないと結論づけている.しかし,全身投与の効用を完全に否定する根拠も少なく,補助的な目的で使用する分には構わないという考えもあろう.また,炎症を早期に軽減する目的でステロイド薬の使用が考えられるが,抗菌療法の効果が十分に確認できない段階での使用は慎重であるべきである.ステロイド薬の硝子体腔内投与の有効性を示す報告4)もみられるが,その是非については症例や起炎菌にもよると思われる.EVSでは視力が光覚弁まで低下している症例に対しては硝子体手術を選択すべきとしているが,視力予後が必ずしも良好ではない本疾患では硝子体手術の適応をもう少し拡大し,疑わしきは機を逃さずに積極的に手術を実施すべきとの考えもある.図2結核性ぶどう膜炎22歳,男性.閉塞性の網膜血管炎と出血を認め,ツベルクリン反応強陽性,抗TBGL抗体陽性の検査結果より結核性ぶどう膜炎と診断した.イソニアジド,リファンピシンの2剤で加療し,無血管野に対しては網膜光凝固を行った.———————————————————————-Page3Kh`MJy7PM|/P|yy319(45)II真菌感染症(図3)内因性真菌性眼内炎は,悪性腫瘍や手術療法後などの重症疾患に対する全身管理の向上,広域抗生物質やステロイド薬などの長期投与,経静脈的高カロリー輸液(intravenoushyperalimentation:IVH)の普及などに伴い増加傾向にあったが,抗真菌薬の予防的投与の定着により,一時より減少傾向の印象もある.いずれにしてもIVHについては真菌血症の感染源となるリスクは高く,真菌性眼内炎の90%がIVH挿入例であったという報告もある11).わが国ではCandida属(C.albicans,C.tropicalisなど)が全真菌性眼内炎の起因菌の9割を占めるとされ11),眼内炎はカンジダ血症患者の26~45%に続発するとされる12).幸い近年ではさまざまな抗真菌薬が開発され,真菌性眼内炎の視力予後は改善されつつある.一方で,カンジダ血症の死亡率は34~57%と報告されており12),単に眼内炎の治療のみならず,感染源の同定や患者背景を検索することも非常に重要である.治療については黄斑部に病変が存在する場合や網膜剥離を生じている場合には硝子体手術の適応となるが,そのような場合を除けばまずは抗真菌薬の全身投与を行う.わが国の深在性真菌症のガイドライン13)では,アmg/日程度から漸減)を行うが,診断の確認も兼ねて抗結核薬の投与を先行して行い,治療に対する反応を見きわめた後に投与することが望ましい.また,しばしば閉塞性血管炎の進行に伴って網膜無血管野が広がり,新生血管が発生することがある.放置すれば硝子体出血の原因にもなるため,上記の薬物治療に加え,蛍光眼底造影で確認しながら網膜光凝固を適宜行うことが大切である.3.梅毒によるぶどう膜網膜炎梅毒性ぶどう膜網膜炎は多彩な臨床症状を呈するため,ぶどう膜炎をみた際には常に鑑別の一つとして念頭におかなければならない疾患である.先天梅毒と後天梅毒があり,ぶどう膜炎は後天梅毒の第2期もしくは第3期にみられる.虹彩毛様体炎,網脈絡膜炎,網膜血管炎(特に網膜細動脈炎),視神経炎などを呈するが,特異的な所見に乏しく,さらに近年では全身症状を欠く症例やhumanimmnunodeciencyvirus(HIV)感染に伴う症例の報告9)もみられ,問題となっている.治療の基本はペニシリン系抗生物質の投与で,アンピシリン1,500mg/日やアモキシリン1,500mg/日の内服,ベンジルペニシリンカリウム(ペニシリンGR)120~180万単位/日の点滴を2~4週間行う.ペニシリン系抗生物質に対してアレルギーがある場合にはマクロライド系やテトラサイクリン系抗生物質を用いる.ニューキノロン系やアミノグリコシド系は無効である.治療効果の判定は,治療開始後に改めて梅毒血清反応であるRPR(rapidplasmareagin)法の定量検査を行い,8倍以下もしくは治療前の1/4に改善していることが目安とされる.しかし,梅毒定量検査の変化は眼所見の改善より遅れてみられることも多いため,血清反応だけを目安とするのではなく,眼所見の推移をみながら治療効果を判定する必要がある10).以上のようにペニシリン療法が主体となるが,眼炎症所見が強い場合にはステロイド薬の全身投与,すなわちプレドニゾロン30~40mg/日程度から併用し,徐々に減量していくこともある.図3真菌性眼内炎64歳,男性.中咽頭癌に対して化学療法が行われており,動脈血培養でカンジダが検出された.ホスホフルコナゾール点滴加療400mg/日を行うも硝子体混濁が増強したため硝子体手術を行った.———————————————————————-Page4$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(46)者では非典型的な臨床所見や経過を示すことがあるため,注意が必要である.治療にはマクロライド系抗生物質であるアセチルスピラマイシン(アセチルスピラマイシンR)が用いられることが多い.800~1,200mgを分4~6で内服し,4~6週間を1クールとして投与する.1クール投与終了後に病巣の消退がみられない場合にはさらに1クールを追加するか,薬剤の変更を考慮する.アセチルスピラマイシンが無効な場合にはクリンダマイシン(ダラシンR)を600mg分3で,あるいは900mgを分4で投与する15).炎症所見の強い場合には,これらの抗トキソプラズマ薬とともにステロイド薬をプレドニゾロン30mg程度から併用投与し,漸減していく.2.眼トキソカラ症トキソカラ症はイヌ蛔虫もしくはネコ蛔虫の虫卵や幼虫が人体に侵入し,幼虫の状態で体内を移行することによってさまざまな症状を生じる疾患である(幼虫移行症).イヌ蛔虫は生後2~3カ月までの仔イヌに寄生しており,その虫卵は糞便中に排泄されて土壌を汚染する.ヒトには土壌から手指などを介して,あるいは家畜の生肉や肝臓を摂食することによって経口感染すると考えられている.昨今のペットブームやグルメブームによる感ムホテリシンB,フルコナゾール,ミコナゾール,イトラコナゾール,ミカファンギンの全身投与が推奨されている.アムホテリシンB(ファンギゾンR)は最も幅広い抗真菌スペクトルを有するが,腎障害などの副作用が強いため現在ではフルコナゾールが第一選択となっている.フルコナゾールは眼内炎の起炎菌の多くを占めるカンジダ属に有効であり,ジフルカンRまたはプロドラッグであるホスホフルコナゾール(プロジフR)を1日200~400mg投与する.経口投与よりも可能であれば点滴静注が望ましい.また,ジフルカンRは注射液をそのまま点眼液,結膜下注射に使用することが可能である.ミコナゾール(フロリードR)は1,200~1,800mg/日で投与されるが,腎障害が少ない利点があるものの眼内移行はやや劣る.イトラコナゾール(イトリゾールR)は200mg/日で用いられるが,経口投与に限られるため吸収性に難がある.ミカファンギン(ファンガードR)は新しいキャンディン系抗真菌薬で,真菌細胞壁の主要構成成分である1-3-b-d-glucanの合成を阻害し,Asper-gillus属にも強い制菌力を示す.通常,50~300mg/日を点滴静注で投与する.このほかにも新規アズール系抗真菌薬であるボリコナゾール(ブイフェンドR)についても全身投与や硝子体内投与の有効例が報告されており14),キャンディン系とともに今後さらなる適応の拡大が期待される.これらの全身薬物療法を1週間継続しても臨床所見の改善傾向がみられなければ,アムホテリシンBの硝子体注射(5~10μg/0.1ml)や,硝子体手術を検討する.硝子体手術を行う際には灌流液にフルコナゾール10μg/ml,ミコナゾール10μg/ml,あるいはアムホテリシンB10μg/mlのいずれかを混入し,実施する.III寄生虫感染1.眼トキソプラズマ症(図4)トキソプラズマはネコを終宿主とする寄生虫であり,感染経路としてはネコとの接触歴,ブタやヒツジなどの生肉の摂取による経口感染,さらには母体の血液を介した胎盤感染(先天感染)がある.わが国では成人の20~30%が感染していると考えられているが,そのほとんどが不顕性感染である.高齢者や免疫抑制状態にある患図4眼トキソプラズマ症42歳,女性.ブラジル出身.アセチルスピラマイシンを投与するも再発をくり返したためクリンダマイシン600mg/日で加療し,沈静化を得た.———————————————————————-Page5Kh`MJy7PM|/P|yy321(47)()11015m138網膜網膜性70142()3000m3VVHVVVHV10b(フェロンR)300万国際単位/日の点滴静注を1日3回,7日間併用することもある18).ただし,インターフェロン-bについては保険の適用はない.急性期の激しい炎症に対しては抗炎症療法としてベタメタゾン(リンデロンR)6~8mgより全身投与を開始し,1カ月以上かけて徐々に減量,中止していく.ARNでは閉塞性血管炎により主幹動脈の閉塞や白線化が高率にみられる.この閉塞性血管炎に対する抗血栓療法としてアスピリン(バイアスピリンR)100mgを1日1錠併用する.本症に対する手術時期に関しての一定の見解は得られていないが,網膜剥離に対してはただちに,あるいは剥離は生じていなくても後部硝子体剥離をきたし,網膜への牽引が加わりそうになった時点で,これらの薬物治療に加えて外科的治療を速やかに行う.2.サイトメガロウイルス網膜炎(図5)サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)に対しては日本人の90%が不顕性感染をきたしているとされるが,悪性腫瘍や臓器移植後,後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeciencysyndrome:AIDS)などにより免疫能の低下した状態では,日和見感染症として諸臓器に感染症をひき起こす可能性がある.特に末梢血中のCD4陽性Tリンパ球数が50/mm3未満の状態で染の機会の増加により,注目されるぶどう膜炎の一つとなっている.本症の病態は死滅した虫体に対する免疫反応と推察されているため,治療にはステロイド薬の全身投与が推奨されている.プレドニゾロンを30~40mg/日程度より投与し,漸減していく16).駆虫薬の併用の是非については議論の分かれるところであるが,眼症状発症の時点で体内に侵入したすべての幼虫が死滅しているか否かについては不明であることに加え,眼炎症に関してもステロイド薬のみでは再発をくり返し,駆虫薬を併用することで消炎が得られる症例が存在することも事実である15).駆虫薬としてはジエチルカルバマジン(スパトニンR)などが用いられる.虫体の死滅による急性アレルギー症状を予防するために,比較的少量から投与を開始する.すなわち,最初の3日間は100mg(小児50mg)を夕食後に内服,つぎの3日間は300mg/日(小児150mg)を分3で内服,ついで週1回300mg/日(小児150mg)を分3で8週間継続する.駆虫薬としてはその他にもサイアメンダゾール(ミンテゾールR)やメベンダゾール(メベンダゾールR)がある.一方で,駆虫薬やステロイド薬をまったく使用しなくても自然治癒する症例があり,眼トキソカラ症に対する薬物療法についてはいまだ明確な指針が確立されているとは言い難い.IVウイルス感染症1.急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV-1もしくはHSV-2)や水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)が網膜に感染して発症する疾患として急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)がある.通常,全身状態に何ら問題のない個体に突然発症する予後不良な疾患である.ウイルスの感染経路や発症機序については依然として不明な点が多く残されている.治療の要点はできるだけ早く的確な治療を行うこと(assoonaspossible:ASAP),すなわち;A:acyclovir(抗ウイルス療法),S:steroid(抗炎症療法),A:aspirin(抗血栓療法),P:prophylaxisfortheretinaldetach-ment(網膜剥離の予防)を実施することにある17).抗ウイルス療法としてはアシクロビルの全身投与が行———————————————————————-Page6$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(48)を1日3回,または1回90mg/kgを1日2回点滴静注し,維持療法は1回90~120mg/kgを1日1回行う.硝子体腔内注射を行う場合はガンシクロビル400~1,000μgを週に1回,毛様体扁平部から投与する.抗CMV治療の中止時期については症例に応じて考慮すべきであるが,AIDS患者では免疫能が低下したままの状態で中止すると網膜炎が再発する危険性がある.一般的には日和見感染症であるCMV網膜炎の治療を先行させた後に抗HIV治療を行うのが原則であるが,抗HIV治療により末梢血中のCD4陽性Tリンパ球数が100/mm3以上に回復すると網膜炎の再燃は少ないとされている20).近年,CMV網膜炎治療後にHIVに対する多剤併用療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)を行い,免疫状態が改善した際に生じるimmunereco-veryuveitis(IRU)が問題となっている21).IRUは眼内に残存するCMV抗原に対する炎症反応と考えられており,前房内や硝子体中の炎症細のほか,類胞様黄斑浮腫や網膜前膜の形成などさまざまな眼所見を呈することがある.IRUに対しては無治療で軽快するものもある.過剰な免疫反応に対してはステロイド薬の局所投与で対処できることが多いが,抗CMV薬による治療が必要となる場合もある.3.HumanTcelllymphotropicvirustype1(HTLV-1)関連ぶどう膜炎HTLV-1キャリアは南九州,南西諸島,太平洋西岸地域など,一定の地域に多く集積している.このHTLV-1キャリアに発症するHTLV-1関連ぶどう膜炎(HTLV-1associateduveitis:HAU)もこれらの地域に多く,九州の施設では全ぶどう膜炎の3.9%を占めており22),九州地方は他の地域と比較して明らかに頻度の高いことが明らかにされている7).本症は顆粒状,ベール状の硝子体混濁を特徴とし,軽度から中等度の霧視,飛蚊症を訴える.通常,ステロイド薬による治療によく反応し,軽度の炎症であればステロイド薬の点眼薬のみで,中等度以上の硝子体混濁で視力低下をきたしている場合はステロイド薬の眼局所注射を,高度の硝子体混濁や網膜血管炎がは高率に発症することが知られている19).CMV網膜炎はHIV感染によるAIDS患者の増加に伴い増加していったが,幸いAIDSに対する治療の進歩に伴って最近はやや減少傾向にある.治療に用いられる抗CMV薬には,点滴静注薬としてガンシクロビル(デノシンR)やホスカルネットナトリウム(ホスカビルR),内服薬ではバルガンシクロビル(バリキサR)がある.デノシンRは硝子体腔内注入の形でも用いることができる.通常はバリキサRが第一選択となることが多いが,何らかの理由で内服が困難な場合にはガンシクロビルやホスカビルRによる点滴治療を行う.副作用としてガンシクロビルとバルガンシクロビルには骨髄抑制(白血球減少,血小板減少,貧血)が,ホスカビルには腎機能障害があるため,副作用により治療の継続が困難となった場合には別の薬剤への切り替えや,ガンシクロビルの硝子体腔内注射が選択される.全身投与には初期治療と維持療法があり,一般に初期治療を3週間行った後に維持療法に移行する.バルガンシクロビルの場合は初期治療には1日4錠を分2で,維持療法としては1日2錠を分1で投与する.ガンシクロビルを用いる場合は1回5mg/kgの点滴静注を1日2回に分けて行い,その後は同量を1日1回,週5日行う.ホスカルネットナトリウムの場合は1回60mg/kg図5サイトメガロウイルス網膜炎41歳,男性.HIV抗体陽性.前房水よりCMV-DNAを検出.バルガンシクロビル内服の初期治療および維持療法を行ったところ病変は退縮したが,後に網膜剥離を生じた.———————————————————————-Page7Kh`MJy7PM|/P|yy3237)otoHochiuiamaietalpiemioloicalsurveyointraocularinammationinapan.51:41-44,20078)鈴木潤:結核性.眼科46:1523-1528,20049)HodgeWG,SeiSR,MargolisTP:OcularopportunisticinfectionincidencesamongpatientswhoareHIVpositivecomparedtopatientswhoareHIVnegative.Ophthalmolo-gy105:895-900,199810)後藤浩:性感染症と眼.眼科45:335-342,200311)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─1987~1993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,199512)風間逸郎,古川恵一:カンジダ血症の原因,合併症,治療法について.EBMジャーナル5:690-693,200413)深在性真菌症のガイドライン作成委員会:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン.医歯薬出版,200314)BreitSM,HariprasadSM,MielerWFetal:Managementofendogenousfungalendophthalmitiswithvoriconazoleandcaspofungin.AmJOphthalmol139:135-140,200515)横井克俊:抗寄生虫薬の使い方.臨眼57:322-325,200316)ForresterJV,OkadaAA,BenEzraDetal:Toxocariasis.Posteriorsegmentintraocularinammationguidelines.p43-48,KuglerPublication,Netherlands,199817)薄井紀夫:急性網膜壊死.眼科42:1019-1030,200018)坂井潤一,頼徳治,臼井正彦:桐沢・浦山型ぶどう膜炎(急性網膜壊死)の抗ウイルス療法と予後.眼臨85:876-881,199119)永田洋一:Humanimmunodeciencyvirus抗体陽性者の眼症状.日眼会誌97:253-259,199320)VrabecTR,BaldassanoVF,WhitcupSM:Discontinuationofmaintenancetherapyinpatientswithquiescentcyto-megalovirusretinitisandelevatedCD4+counts.Ophthal-mology105:1259-1264,199821)RobinsonMR,ReedG,CsakyKGetal:Immune-recoveryuveitisinpatientswithcytomegalovirusretinitistakinghighlyactiveantiretroviraltherapy.AmJOphthalmol130:49-56,200022)小池生夫,園田康平,有山章子ほか:九州大学眼科における内因性ぶどう膜炎の統計.日眼会誌108:694-699,200423)望月學:HTLV-1感染に伴う眼内炎.綜合臨床53:2111-2116,2004(49)ある場合にはプレドニゾロン30mg程度の内服から治療を開始し,漸減していく23).おわりに感染性網膜硝子体疾患の薬物治療について解説した.発症に関わる病原微生物は多種多様であり,治療方法についても不確定要素が多く,これまでは経験則に基づいたものが多かったが,最近は疾患によってはある程度エビデンスに基づいたプロトコールも確立されつつある.治療薬には古くから用いられている抗微生物薬のほかにも,近年では新しい抗真菌薬や抗ウイルス薬が開発されている.これらの新規薬剤についてはどのような用量で用い,また,どのような副作用の可能性があるかなどについて,日頃から情報を仕入れておくことも大切と思われる.文献1)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起因菌─.日眼会誌95:369-376,19912)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:ResultsoftheEndophthalmitisVitrectomyStudy.Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19953)薄井紀夫:治療戦略1─緊急対応プロトコール─.あたらしい眼科22:909-911,20054)GanIM,UgaharyLC,vanDisselJTetal:Intravitrealdexamethasoneasadjuvantinthetreatmentofpostopera-tiveendophthalmitis:aprospectiverandomizedtrial.GraefesArchClinExpOphthalmol243:1200-1205,20055)厚生統計協会:国民衛生の動向.厚生の指標53:132-135,20066)横井秀俊,後藤浩,坂井潤一ほか:東京医科大学眼科におけるぶどう膜炎の統計的観察.日眼会誌99:710-714,1995