———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSLERは2層から成り,LERのanteriorlayerはLock-wood靱帯から連続し,眼輪筋および皮下への穿通枝を伸ばす層で,CPFの表層が眼窩隔膜,眼輪筋下の筋膜層と合流して形成される16,17).LERのposteriorlayerはanteriorlayerと比較し厚い組織であり,下直筋から連続し,平滑筋を含みながら瞼板へと向かう16).眼輪筋は,前瞼板部,前隔膜部,眼窩部の3つの部分に分かれている.前瞼板部眼輪筋のみが瞼板に強く固定されている18).通常閉瞼時は前瞼板部が行い,他の2つは強制閉瞼時に働く.II内反症小児の内反症として一般的に多く見かけるのは,睫毛内反症である.睫毛内反症は,上眼瞼ではlevatorapo-neurosis,下眼瞼ではCPFの前瞼板部眼輪筋から皮下へ向かう穿通枝の脆弱化・欠損により,瞼縁の方向へ眼瞼前葉がスライドし,瞼板は回旋せずに睫毛のみが角膜の方向へ回旋する疾患と考えられている19~21).加えて最近の下眼瞼の解剖の研究から,東洋人は元来眼窩隔膜の合流部の高位置もしくは不明瞭さ,眼窩脂肪の前上方への突出,前眼窩部眼輪筋の前瞼板部への乗り上げといった解剖学的特徴を有し,これが睫毛内反症の機序に関連していると考えられている17,22).睫毛内反症患者では水平方向の皮膚のしわが消失し,上・下方視をすると内反が悪化するのが特徴である.睫毛内反症の多くは顔面を形成する骨が成長するにつはじめに内反症や外反症は,眼科日常診療で遭遇する機会の多い疾患である.しかし,内・外反症に対する術式は多様であり,施設および医師によって術式が異なる場合が多い.そのなかでも,内反症に関しては一般にHotz法1)やWheeler法2)が,外反症にはKuhnt-Szymanowski法3,4)が行われる傾向にある.本稿では,筆者らが行っている術式で,内反症に関しては切開法5)およびJones変法6~8)を,外反症に関してはtarsalstrip9)を中心に述べる.I総論内反症および外反症の病態を理解するには,その解剖学的知識が必要となる.ここでは,下眼瞼の解剖に関して触れることとする.下眼瞼は前方から見ると,水平方向は内眥部に存在するmedialcanthaltendonとHorner筋および外眥部に存在するlateralcanthalbandsによって眼窩骨から懸垂された状態となっている10~15).垂直方向はcapsulopal-pebralfascia(CPF)とよばれる筋膜で固定されている.筋膜は下直筋から起こり,2層に分かれて下斜筋を包み瞼板,皮下,円蓋部結膜へ終わるが,下直筋からLock-wood靱帯までをcapsulopalpebralhead,それより先の部分をCPFと定義され,両者を併せてlowereyelidretractor(LER)とよぶことが多い.しかし,最近LERの正確かつ詳細な解剖についての報告がなされた16).(3)???*YasuhiroTakahashi:大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学教室**HidenoriMito:大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学教室/井出眼科病院〔別刷請求先〕高橋靖弘:〒543-8585大阪市阿倍野区旭町1-4-3大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学教室特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):541~546,2007内反症・外反症?????????????????????????????????????高橋靖弘*三戸秀哲**———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007れて前葉が伸展し消失するが,大人になっても消失しない例も珍しくはない23).角膜障害や乱視が強い例や,上眼瞼で睫毛が角膜に接触していないが下垂しているlashptosis症例で視機能が低下している場合は,前隔膜部眼輪筋の乗り上げの防止と瞼縁の位置を修正する目的で,切開法を用いてCPFの皮下への穿通枝の補強を行う.ただし,下眼瞼に関しては,後に示すJones変法でLERのposteriorlayerも再建するほうが良い成績が得られる(KakizakiH:personalcommunication).内眼角贅皮による上下方向の強い緊張で内反が眼瞼の内側で強い場合は,内眼角形成を行うこともある24).切開法は,全身麻酔下もしくは局所麻酔下(エピネフリン添加リドカイン)で行う.全身麻酔下でも止血目的で局所麻酔を併用する.下眼瞼の切開法は,まず瞼縁から2mm程度離れた位置で皮膚割線に沿って皮膚切除線をマーキングする.内側のみの症例であれば切開幅を調整する.エピネフリン添加リドカインを用いて,皮下に麻酔を行う.15番メスで皮膚を切開する.スプリングハンドル剪刀で眼輪筋の?離を睫毛根が透けて見える部位の方向へ進め,そこから後方へ向かい瞼板前面に到達する(図1a).瞼縁皮下と瞼板前組織を7-0ナイロン糸で縫合し,CPFの穿通枝の再建を行う(図1b).通常は3糸縫合するが,内反が強い症例では6糸程度縫合することもある.上眼瞼は瞼縁のカーブのピークは瞳孔中央であるが,下眼瞼は0.5~1mm程度外側にあるので25,26),それを考慮した位置で縫合する.CPFの瞼板枝と強く吻合すると術後下方視した際に元来東洋人には弱い水平方向のしわが強調されることがあり,固定する位置や強さ加減を調整する21,27).ここで,瞼縁側に乗り上げる余剰した前葉を切除する.前葉を切除しすぎると下眼瞼の落ち込みや外反を招き,切除量が少ないと低矯正になる5,27).テンションがかからず無理なく縫合できる量にとどめる.最後に皮膚を縫合し,手術終了とする.幼児であれば,皮膚縫合は抜糸しやすい連続縫合が望ましい.術後は年齢を考慮し,7歳以下であれば眼球全体を覆う眼帯は避ける.上眼瞼の場合も同様の操作でaponeuro-sisの穿通枝を再建するが,皮膚切開位置および皮膚切除量が重瞼形成に影響を与えるので注意を要する.加齢性下眼瞼内反症は,加齢により水平方向やCPFの弛緩が生じると,前隔膜部眼輪筋が前瞼板部眼輪筋に乗り上げ,自由縁である下眼瞼縁を軸として回旋することで生じる28).これは下眼瞼皮膚を下方へ牽引すると一時的に内反が矯正されるが,瞬目で再び内反を生じる.この際に,瘢痕性内反症であれば,下眼瞼皮膚を下方へ牽引し内反を矯正しても,つぎの瞬目を待たずに自然に(4)図1切開法(下方:頭側)a:スプリングハンドル剪刀を用いて眼輪筋を切開・?離し,瞼板前面に到達する.b:瞼板前面と瞼縁皮下を縫合固定しcapsulo-palpebralfasciaの穿通枝を再建する.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???内反が生じる.内反を一時矯正した際に下眼瞼の沈下が戻らなければ,内反症の原因に水平方向の弛緩が関与しているため,pinchtestを行う29,30).Pinchtestは下眼瞼の中央を指でつまんで検者側へ引っ張り,眼球と下眼瞼がどれだけ離れるかを見る検査である.眼球から8mm以上離れればCPFの修正に加え,後に示すtarsalstripを併用して水平方向の緊張を獲得する30~32).CPFの弛緩による加齢性下眼瞼内反症に対しては,最も再発率の少ないJones変法を行う6).従来のJones法33)はCPFの前面だけを露出し,tuckingしていた.CPFの修正において最も重要なのは,瞼板を牽引する平滑筋を含んだLERのposteriorlayerの再建であるが,従来のJones法ではその層を直視下で観察できない6).またtuckingsutureでは術後の組織瘢痕癒着が不確実なことがある6,7,34).手術は局所麻酔下で行う.瞼縁から3mm程度離れた位置で皮膚割線に沿って20mm程度の切開線をマーキングする.皮下および円蓋部にエピネフリン添加リドカインを用いて麻酔を施行する.15番メスで皮膚を切開し,スプリングハンドル剪刀と眼科反剪刀で眼輪筋を分けて瞼板前面に到達する.瞼縁側は睫毛根が透けて見える位置まで眼輪筋下を?離し,つぎに下方へも?離を進め,瞼板下縁に到達する.瞼板下縁から後方に向かって切開を入れ結膜に到達し,下方へ向かい結膜とLER後葉を?離する(図2a).その後,眼輪筋下でLER前面を?離露出する(図2b).ここで深追いするとLock-wood靱帯を障害する恐れがあり注意を要する.そしてLER全層を瞼板下縁に7-0ナイロン糸で3糸縫着する.再建の主組織はLERのposteriorlayerであるが,ante-riorlayerもposteriorlayerを支える,いわば背骨の役割をするため両者ともに同時に短縮する.Posteriorlayerは平滑筋を含むため,エピネフリンの影響や結膜と瞼板からの?離によって後方へ収縮するため,縫合時は必ず引き寄せて全層縫着できていることを確認する.短縮幅は2~3mm程度である.中央の縫着位置は前述のとおり,やや外側にする.ここで患者に強く瞬目をしてもらい,内反が改善していることを確認する.この瞼板の縫着位置に合わせて,前述の切開法のごとく3糸瞼板前面に瞼縁皮下を固定する.これによって,前隔膜部眼輪筋が前瞼板部眼輪筋に乗り上げ術後の睫毛内反が生じるのを防ぐことができる20).最後に皮膚を縫合し,手術を終了する.III外反症外反症は加齢性,瘢痕性,麻痺性などに分類されるが,ここでは加齢性下眼瞼外反症について述べる.瘢痕(5)図2Jones変法(下方:頭側)a:瞼板下縁(矢頭)からlowereyelidretractorの後面と結膜(矢印)を?離する.b:Lowereyelidretractorの前面(矢印)を露出する.ab———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007性外反症に関しては,教科書を参考にしていただきたい35).加齢性下眼瞼外反症は,水平方向,特に外眥支持組織の弛緩に眼輪筋の弛緩による前葉と後葉のバランスの崩れが加わり,眼瞼下縁を軸として前方へ回旋することで生じる.前述のpinchtestは陽性となる.一般に行われているKuhnt-Szymanowski法は瞼板中央で瞼板を楔状に切除し,眼瞼を水平方向に短縮する方法であるが,欠点として,1)blepharophimosisをひき起こす可能性がある,2)眼瞼中央にnotchを形成する恐れがある,3)マイボーム腺機能の低下を生じる,4)瞼縁の縫合による術後の角膜障害が起こる可能性がある,5)外反症の原因に対する直接的治療ではないため,再発が起こりやすい,といった欠点があった9,30).これに対し,tarsalstripは外反症の原因である外眥の支持を直接改善できるうえ,前述の整容的な問題の発生を防ぐことができる術式である9).ただし,麻痺性外反症であれば,Riolan筋36)の弛緩のために瞼板が水平方向に延長している可能性があり(KakizakiH:personalcommu-nication),Kuhnt-Szymanowski法で延長した瞼板を短縮する必要性が考えられる.手術は局所麻酔で行う.外眥を延長するように切開線をマーキングする.皮下および円蓋部にエピネフリン添加リドカインを用いて麻酔を施行する.まず15番メスおよび眼科反剪刀を用いてlateralcanthotomyを行う(図3a).外側眼窩縁まで到達し,lateralcanthalliga-mentの下脚を切断する.11番メスやスプリングハンドル剪刀を用いて瞼板外側縁付近のgraylineより切開を入れ前葉と後葉を裂き分け前葉を切除する.さらに同部(6)図3Tarsalstrip(下方:頭側,右側:鼻側)a:Lateralcanthotomyを施行する.b:瞼板の外側縁を前後面ともにrawsurfaceにし,新たな外眥支持組織に見立てる.c:瞼板の外側縁を眼窩外壁のやや後方の骨膜に固定する.abc———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???位の結膜を15番メスでシェービングし,瞼板外側縁の前後面をrawsurfaceとする(図3b).その横幅は水平方向への牽引量に併せて調整する.この瞼板外側部分を新たな外眥組織と見立てて5-0ナイロン糸で眼窩外側に固定する(図3c).この際,lateralcanthalligamentの本来の付着位置はWhitnall?stubercleとよび,眼窩縁から後方2mm程度の位置にあるため,固定位置も後方にする13,15).通糸は骨膜にしっかりかかっていることを確認する.眼輪筋および皮膚を縫合し,終了する.おわりに内反症および外反症の解剖学的な原因機序を理解し,それに合わせた手術術式を選択することが良好な視機能の維持および再発防止に重要である.ここで示したことが,今後の手術にとって一助になれば幸いである.謝辞:稿を終えるにあたり,本執筆のご指導をいただきました愛知医科大学眼科学教室の柿崎裕彦先生に深甚なる謝意を表します.文献1)HotzFC:Anewoperationforentropionandtrichiasis.??????????????9:68,18792)WheelerJM:Spasticentropioncorrectionbyorbicularistransplantation.???????????????????????36:157-162,19383)KuhntH:Beit?gezuroperativenAugenheilkunde.GFischer,Jena:44-55,18834)SzymanowskiJ:HandbuchderoperativenChirurgie.p243,Braunschwie,Berlin,18705)KhwargSI,ChoungHK:Epiblepharonofthelowereye-lid:techniqueofsurgicalrepairandquanti?cationofexci-sionaccordingtotheskinfoldheight.??????????????????????33:280-287,20026)KakizakiH,ZakoM,KinoshitaSetal:Posteriorlayeradvancementofthelowereyelidretractorinsenileentro-pionrepair.???????????????????????????,inpress7)KakizakiH,ZakoM,MitoHetal:Modi?edoperationtocorrectlydetectand?xthelowereyelidretractorininvo-lutionalentropion.????????????????49:330-332,20058)木下慎介,柿崎裕彦:内反症・睫毛乱生─虎の巻─.あたらしい眼科22:1471-1477,20059)AndersonRL,GordyDD:Thetarsalstripprocedure.????????????????97:2192-2196,197910)KakizakiH,ZakoM,MitoHetal:ThemedialcanthaltendoniscomposedofanteriorandposteriorlobesinJap-aneseeyesand?xestheeyelidcomplementarilywithHorner?smuscle.?????????????????48:493-496,200411)KakizakiH,ZakoM,MiyaishiOetal:Thelacrimalcana-liculusandsacborderedbytheHorner?smuscleformthefunctionallacrimaldrainagesystem.??????????????112:710-716,200512)OlverJM,SathiaJ,WrightM:Lowereyelidmedialcan-thaltendonlaxitygrading:aninterobserverstudyofnor-malsubjects.??????????????108:2321-2325,200113)GioiaVM,LinbergJV,McCormickSA:Theanatomyofthelateralcanthaltendon.????????????????105:529-531,198714)Muza?arAR,MendelsonBC,AdamsWPJr:Surgicalanatomyoftheligamentousattachmentsofthelowerlidandlateralcanthus.????????????????????110:873-884,200215)KakizakiH,ZakoM,NakanoTetal:Lateralcanthalsup-portsysteminJapanese.????????????????????????83:85-90,200616)KakizakiH,ZhaoJ,NakanoTetal:Thelowereyelidretractorconsistsofde?nitedoublelayers.??????????????113:2346-2350,200617)KakizakiH,ZhaoJ,ZakoMetal:MicroscopicanatomyofAsianlowereyelids.????????????????????????????22:430-433,200618)JonesLT:Ananatomicalapproachtoproblemsoftheeyelidsandlacrimalapparatus.????????????????66:111-124,196119)ChooCT,ChanCML,FongKS:Surgicalmanagementofupperlidepiblepharon.????12:623-626,199820)JordanR:Thelower-lidretractorsincongenitalentropi-onandepiblepharon.????????????????24:494-496,199321)ChooCT:CorrectionofOrientalepiblepharonbyanteriorlamellarreposition.????10:545-547,199622)LimWK,RajendranK,ChooCT:MicroscopicanatomyofthelowereyelidinAsian.????????????????????????????20:207-211,200423)NodaS,HayasakaS,SetogawaT:EpiblepharonwithinvertedeyelashesinJapanesechildren.I.Incidenceandsymptoms.???????????????73:126-127,198924)早川治,角谷徳芳,伊藤芳憲ほか:内眼角贅皮を伴う睫毛内反症の治療経験.形成外科46:1147-1151,200325)MalbouissonJM,BaccegaA,CruzAA:Thegeometricalbasisoftheeyelidcontour.????????????????????????????16:427-431,200026)KakizakiH,ZakoM,MitoHetal:Aguidetomakinganaturaleyelidmargincurvatureinblepharoptosissurgery.?????????????????????82:240-241,200427)WooKI,YiK,KimYD:SurgicalcorrectionforlowerlidepiblepharoninAsians.????????????????84:1407-1410,200028)KakizakiH,ZakoM,MitoHetal:Magneticresonanceimagingofpre-andpostoperativelowereyelidstatesin(7)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(8)involutionalentropion.?????????????????48:364-367,200429)三戸秀哲,柿崎裕彦:眼瞼内反・外反.眼科プラクティス,4巻,p319-321,文光堂,200530)BarnesJA,BunceC,OlverJM:Simplee?ectivesurgeryforinvolutionalentropionsuitableforthegeneralophthal-mologist.??????????????113:92-96,200631)YipCC,ChooCT:ThecorrectionofOrientallowerlidinvolutionalentropionusingthecombinedprocedure.??????????????????????29:463-466,200032)HoSF,PherwaniA,ElsherbinySMetal:LateraltarsalstripandQuickertsuturesforlowereyelidentropion.???????????????????????????21:345-348,200533)JonesLT:Theanatomyofthelowereyelidanditsrela-tiontothecauseandcureofentropion.????????????????49:29-36,196034)AndersonRL,DixonRS:Aponeuroticptosissurgery.????????????????97:1123-1128,197935)CollinJRO:ManualofSystematicEyelidSurgery.Thirdedition,p57-83,Elsevier,London,200236)LiphamWJ,Taw?kHA,DuttonJJ:Ahistologicanalysisandthree-dimensionalreconstructionofthemuscleofRiolan.????????????????????????????18:93-98,2002