———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS2.DNA抽出3.プライマー合成4.PCR5.電気泳動6.PCR産物精製7.シーケンス反応・解析8.Validationstudy9.変異の意義についての検討・機能解析1.採血採血は抗凝固剤入りであれば真空採血管,注射器のどちらでもよく,抗凝固剤の種類も特に気にしなくてもよい.採血後はできるだけ速やかにつぎのDNA抽出に移ったほうがよいが,1~2日であれば冷蔵庫で保存することは可能である.得られるゲノムDNAの収量は以下のように見積もることができる.白血球の細胞密度を5,000個/??とすると1m?では5×106個となり,1細胞中のゲノムDNAは約6pgなので,1m?のゲノムDNAは30?gとなる.よって5m?もあれば十分すぎる量のゲノムDNAが得られることになる.小児などで採血が困難な場合,口腔粘膜から採取する方法がある.採取には綿棒でも良いし,産婦人科で使うサイトロジーブラシでも良い.それでも嫌という患者には裏技がある.口をゆすいだあとの水を採取して遠心すると細胞が採取でき,結構な量のゲノムDNAが採取できるのである.またDNAが少ない場合には鎖置換型ポリメラーゼのPhi29を利用したゲノム増幅法2)(アマシャム社からGenomiphiという名で販売されている)で増はじめに遺伝性疾患に関する遺伝子変異の同定は分子生物学の飛躍的進歩によって前世紀の終わりから今世紀初頭にかけピークを迎え,現在単一メンデル遺伝型の遺伝性疾患についてはかなりのものが出そろった状況にあるといえる.研究的視点では常に原因遺伝子の新規同定のみに注目が集まるが,臨床医としての視点からは,いかにしてその結果を臨床に結びつけるかに重きを置くべきであり,既報の遺伝子変異を調べることは患者にとっても,また臨床研究的にも大きな意義をもつ.角膜上皮・実質・内皮の遺伝性疾患についてもすでにさまざまな遺伝子変異が同定されており,これらの成果を臨床に還元することは,われわれ臨床眼科医にとってある意味責務であるといえる.本稿では遺伝子変異全般に関わる技術的な注意点について,できるだけ詳しく,また一般的なテキストには載っていないような私的経験に基づくコツについても記載した.これから遺伝子変異の解析を行おうとする大学院の先生方の参考になれば幸いである.I遺伝子変異解析に必要な機器と実験の流れ遺伝子変異解析を行うには最低限,遠心機,poly-merasechainreaction(PCR)マシン,シーケンサーが必要である.シーケンサーは高価なので持っていないという場合もあろうが,その場合は外注すれば1解析当たり1,000円程度でやってくれる.実験の大まかな流れは以下のごとくで,それぞれについて説明していく.1.採血(65)???*SatoshiKawasaki:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕川崎諭:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学あたらしい眼科24(6):759~769,2007?遺伝子変異解析におけるコツと注意点?????????????????????????????????????????????????川崎諭*総説———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007幅することも可能で,もちろん変異解析に使ってもなんら問題ない.2.DNA抽出DNA抽出は古典的には低張食塩水にて核ゲノムを含まない赤血球を溶血させた後,遠心して有核の白血球を集め,ProteinaseKでタンパク質を消化後,フェノールクロロホルム精製,エタノール沈殿にて抽出する.現在では簡便なキット(たとえばキアゲン社のDNAeasyなど)が数社より市販されているので,キットの手順書に従えば特に原理を知らなくとも抽出することは可能である.ただ血液から直接DNAを採取する一般的な市販キットで取った場合,収量は古典的な方法に比べるとかなり劣るのが普通である.筆者らの施設では,収量が欲しい場合には,低張食塩水にて溶血後に遠心して白血球だけを集め,それを市販キットの流れに乗せている.抽出後は濃度を測定して保存する.濃度測定はどの吸光度計でも良いが,NanodropTechnologies社のNano-dropという機械が微量サンプル(1??)でも測定可能なうえ希釈作業も要らないためきわめて便利である.保存は冷凍庫をお薦めする.特に長期保存には-20℃冷凍庫よりも-80℃冷凍庫が好ましい.4℃で保存することもあるが,これは長鎖DNAとしての解析を目的とする場合にfreezeandthawを避けるためで,PCRが目的なら冷凍庫保存で問題ない.どうしても4℃で保存したいならTris-EDTA(TE)バッファー中で保存して細菌のコンタミを防止するようにする.3.プライマー合成PCRの原理についての詳細は実験書を参照されたい.まずは目的の遺伝子を増幅するためにプライマーを作成する.プライマーは自分でデザインしても良いし,またすでに論文で配列が公開されているのならそれを参考にしても良い.ただ注意していただきたいのは,論文で公開されているプライマー配列にはかなりウソ(記載ミスと信じたいが)が混じっているということである.筆者もだまされたことが数回ある.論文のプライマー配列を採用するなら,少なくとも核酸データベースからダウンロードした配列と比較して〔比較するにはNCBIのBLASTサービスの一つペアワイズアラインメント(Aligntwosequences;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgi)が便利である〕,その配列が正しいことを確認する必要がある.自分で作成する場合,一般的にはプライマー作成ソフト〔有料ソフトとしては有名なOligoやABI社のPrim-erExpress,日立ソフトのDNASISなど,またインターネットの無料サイトとしてはPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)など〕を(66)図1?????遺伝子のゲノム情報をUCSCのGoldenpathで開いたところ遺伝子をクリックすると詳細情報のページが開き,ゲノム配列を得ることができる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???利用することとなる.まずは解析対象遺伝子のゲノム配列を手に入れることから始めるが,インターネットに無料公開されているデータベースから配列をダウンロードする.サイトとしてはUCSC(カルフォルニア大学サンタクルズ校)で運営されているGoldenpath(http://genome.ucsc.edu/)が使いやすくお薦めである.GeneSymbol(遺伝子の統制語.たとえば?????など)や一般的な遺伝子名(たとえば????-????やkeratoepithelinなど)を入力すると遺伝子のゲノム構造や反復配列の有無などのさまざまな情報がグラフィカルに表示され(図1),遺伝子をクリックするとゲノム配列を得ることができる.その際エクソン,イントロンを分割して表示したり,コード領域を大文字として表示するように設定することもできるので活用したい.変異解析の場合には通常タンパク質コード領域を解析対象とするが,ゲノムDNAではタンパク質コード領域はイントロンにて複数の領域(エクソン)に分断されていることがほとんどであるので,各エクソンを増幅するようにイントロン内にデザインする.その場合,プライマーのすぐ下流からシーケンス解析することが困難なこと(未反応のダイが邪魔するため),エクソン・イントロン境界部の変異が時にスプライシングエラーを起こし疾患をきたすことがあることなどを考慮し,エクソン・イントロン境界部から50~100塩基ほどイントロン内部に作成したほうが良いことが多い(図2).シーケンス解析のクオリティにもよるが,エクソンが長い場合には1つのエクソンを2つの領域に分けて解析しなければならないこともある.これらを考慮すると,市販のプライマー作成ソフトやインターネットの無料ソフトを用いて自動でプライマー作成するのは時に困難であり,配列を片手にソフトに頼らず目で見て作成することも多い.最初のうちはこのようにして作成したプライマーが本当に動くのかと心配になるかもしれないが,PCRの理論から言えばたとえどのようなプライマー配列であっても適度な長さをはさんで向かい合うようにしてやれば増幅するはずなので(もちろん熱力学的に適切なプライマーのほうがPCRの成功率は高いが),ものは試しと思ってデザインしてみることをお薦めする.経験上,プライマー配列に極端な%GCの偏り(%GCが80%以上,あるいは20%以下など)などの問題がなければ,特にPCR条件の検討をしなくともうまくいくことが多い.今一つの注意点としては,ゲノムの特に非コード領域中には高度反復配列(LINE,SINEなど)というものがかなり存在しており,プライマーの配列がこれらと一致するか似ていると特異性が低くなってPCRが失敗する可能性が高いということがあげられる.そのためデザインしたプライマーがそれらと一致するかどうかを合成前に調べる必要がある.先のPrimer3では反復配列データベースを参照して作成することができ便利である.ソフトを用いずに作成した場合はNCBIのBlastサービスでAluデータベースを選んで検索すれば良い.また時にはタンパク質のコード領域に反復配列が存在することもある(アミノ酸の繰り返し構造をもつタンパク質など)が,この場合もうまくPCRがかからないことが多い.このような反復配列を見つけるには,それ自身の配列に対してペアワイズアラインメント(先のAligntwosequencesで)を行うと良い.反復配列がなければ斜めの1本線だけだが,反復配列がある場合には何本もの斜め線が認められる(図3).プライマーはシーケンス反応でも必要である.最も標準的なケースではPCRで使用したプライマーをそのままシーケンス反応でも使うことができる(図2A).ノイ(67)図2変異解析におけるプライマーデザインの実際A:変異解析における標準的なPCR・シーケンス兼用プライマー設計部位.四角はエキソン,細線はイントロンを示す.万全を期すのならエクソン・イントロン境界部から50~100塩基ほどイントロン内部に作成したほうが良い.B:シーケンス用のプライマー(点線矢印)をPCR用のプライマー(実線矢印)と別に設計するとシーケンスクオリティが向上することが多い.C:エキソンが長い場合,領域を分断してPCRを行いシーケンスする.またはD:PCRは1回でエキソン全体を増幅して,内部にシーケンス用のプライマーを設定する方法が取られる.ABCDPCR1PCR250~100bpPCR———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ズレベルが高い場合は図2BのようにPCRのプライマーとシーケンスのプライマーを別々にすると改善することが多い.またシーケンスはせいぜい700塩基くらいしか正確に読むことができないので(機械のグレードとシーケンス反応に依存するが),エクソンが長い場合は前述したように1回のシーケンスで解析できない.その場合は図2Cのように領域を分断してPCR反応を行うか,図2DのようにPCRは1回で,内部にシーケンス用のプライマーを設定するかのどちらかで対応する.どちらが良いかは状況次第だが,簡便性を取るなら図2Dの方法,正確性を取るなら図2Cの方法を選択する.プライマーが設計できればプライマー合成を依頼する.以前は合成機を使って自分で作成していたらしいが,ベンダー間の過当競争もあいまってプライマーは格段に安くなった.現在では1塩基当たり50円くらいが相場であろうか.ベンダー間の品質差も以前ほど言われなくなったので,価格と納期の早さで決められたらよかろう.注文する際,納品形態(液体か粉末か,液体なら濃度はどれくらいか,精製はどうするかなど)を聞かれるが,通常は液体で濃度は100?M,精製は脱塩グレードとしたらよい.脱塩とはゲル濾過カラム(通常G50グレード)による粗精製を意味するが,経験上PCR,シーケンス反応のどちらもこのグレードで問題となることはない.どうしても気になる人は逆相クロマト精製をすれば良い.これならHPLCやPAGE精製が7,000円ほど余計にかかるのに対してプラス1,000円程度でやってくれる.プライマーが来れば濃度調整をして-20℃冷凍庫に保存し,残りは-80℃冷凍庫に保存する.濃度調整は10?M程度が標準である.PCRだけを目的とするなら向かい合うペアをあらかじめ混合しておいても差し支えないが,変異解析の場合はPCRのあとシーケンス反応をするので,個別に調整することとなろう.4.PCRプライマーが調整できればいよいよPCRである.PCRと一言で言っても星の数ほど(というのは大袈裟だが)条件がある.一般的には酵素の種類と濃度,温度条件,プライマー濃度,マグネシウム濃度,鋳型(サンプルのこと)濃度,添加物の有無などとなろう.これらは細かいことのようにみえるが,実は変異解析において最も重要なのはいかにして特異的なPCRを成功させるかなので,ここを素通りするわけにはいかない.まず酵素であるが,ご存じのとおりPCRに用いるDNAポリメラーゼは好熱菌由来のものである.これにはエラーを訂正する校正活性(proof-reading活性;3¢-5¢exonuclease活性のこと)を持つものと持たないものがある.ポリメラーゼは鋳型DNAの配列を読み取ってそれに対して相補的な塩基を伸ばしていくのだが,間違った塩基を取り込むとそこで止まってしまうことがある.校正活性は間違った塩基を取り除いてポリメラーゼが再び前に進むことができるようにする実にありがたい機能なのである.しかし校正活性が高い酵素のほうが良いかというと必ずしもそうではない.この活性が高すぎるとポリメラーゼが前に進む効率(processibityという)が低下してむしろ増幅効率が低下してしまうのである(前向きより後ろ向きの力が強すぎるわけである).そこで試薬メーカーが考え出したのがブレンド酵素である.すなわち間違いは多いが前に進む力だけは強い???Ⅰ型酵素と,前に進む力は弱いけど校正能力に優れたa型酵素をある割合で混ぜるのである.こうすると2つの酵素の長所が互いの弱点をうまく補い合って増幅効率は著しく改善する.現在ではありとあらゆるブレンド酵素が市販され,筆者らの施設でもさまざまなブレンド酵素を試してきた.別に日本人だからというわけではないが,お薦めはTAKARAの?????である.増幅効率は同等品中トップレベルで,特に条件検討を行わなくとも良い結果が得られることが多い.酵素の濃度は標準量で良いが,PCRのサイクル数が多くなる場合には1.5~2倍量程度入れておいても差し支えない.つぎに温度条件であるが,これも酵素についで重要な(68)図3BLASTのAligntwosequencesによるmRNAの内部リピートの検出Aケラチン12では斜めの1本線しかなく,内部リピートがないことがわかる.Bインボルクリンでは斜めの1本線の他,多数の短い斜め線が認められ,この領域に内部リピートが存在することがわかる.ここにプライマーを作成するとPCRはかからない可能性が高い.2AB1———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???因子である.標準的には94~95℃の熱変性を3~5分ほど最初に行った後,94℃30秒(熱変性),55℃30秒(アニーリング),72℃30~60秒(エクステンション)を25サイクルから35サイクル行い,最後に72℃のエクステンションを5~10分ほど行う.サイクル中のエクステンション時間は通常増幅するDNAの長さによって変えるようにするが,1分/1kbpが目安である.またアニーリング温度は55℃が標準だが,%GCが極端に高い場合や低い場合はTm値(meltingtemperature;二本鎖が一本鎖に分かれる温度)より5℃低く設定する.この標準条件のほか,筆者らはタッチダウン3)という温度条件をしばしば利用している.この温度条件では,最初の熱変性の後,94℃30秒,70℃30秒のサイクルを3サイクル行う.70℃ではアニーリングとエクステンションが同時に起こっている.つぎに94℃30秒,68℃30秒を3サイクル行い,ついで66℃,64℃,62℃と3サイクルごとに2℃ずつ下げていく.そのつぎは94℃30秒,60℃30秒,72℃30秒を3サイクル行う.これは温度が下がったためアニーリングとエクステンションを別々に行うという意味である.ついで94℃30秒,58℃30秒,72℃30秒を3サイクル行い,最後に94℃30秒,55℃30秒,72℃30秒を(筆者らはboostとよんでいる)25~35サイクル行った後,標準条件と同様に72℃のエクステンションを5~10分ほど行う.一見非常に複雑な温度条件にみえるが,要はアニーリング温度が高いほど特異的な増幅が起こるので,増幅の最初のほうで目的の配列の存在比率を増やしておいて,増幅の後ろのほうでドカンと増やすという戦略である.少しずつ敵の陣地に侵入するアメフトにちなんでこの名がついている.特にゲノムDNAに対してPCRを行う場合には効果的であることが多い(経験上80%程度で改善する).プライマー濃度は最終濃度で0.2mMとするのが標準的であるが,1?Mまでは特に問題がないことが多い.基本的に濃度が高いほうが増幅産物の量も多くなる傾向がある.マグネシウム濃度は教科書的には1.5mMが標準であるが,筆者らは2?Mを採用している.1.5mMよりも低くなると増幅効率が極端に悪くなるが,高い分には問題があまりないように思う.高いマグネシウム濃度は塩基の取り込みエラーが誘発するため,わざと変異を起こさせる????????進化実験などで好んで使われる(error-pronePCRという).一見変異解析では良くなさそうに思われるが,変異解析ではPCR産物をクローニングせず直接シーケンスするため,ランダムな部位にエラーが生じても問題とはならない.鋳型は10??のPCR反応の場合,10ngを標準量としている.それより多少多くても問題はないが,一度濃度を間違えて300ng入れたことがあり,そのときは増幅されなかった.後日間違いに気づいて濃度を調整するとちゃんと増幅されたので,多分これくらいの量だと多すぎるのであろう.ヒトゲノムはハプロイド当たり3pgなので,10ngでも3,000コピーほどとなり,十分すぎるくらいの量となるのである.添加物であるが,添加物にはポリメラーゼの活性を阻害する抗体と,二本鎖DNAの間の結合(水素結合である)を弱めるDMSOとベタインがある.まず抗体であるが,実はポリメラーゼは比較的低温でもある程度の活性があり,また低温のときにはプライマーが非特異的に鋳型DNAに結合するため,特に4℃から94℃に上がる最初の温度変化のときに非特異的な伸長反応が起こってしまう.しかもたちの悪いことには,ここでできた非特異的産物は末端にプライマー配列を確実に含むため,以後のサイクルでも効率の良い鋳型となってしまう.すなわち多くの非特異的産物の種がこの最初の温度上昇のときに作られているのである.そこでこの間だけ酵素の活性を抑えると特異性が格段に改善する.これがいわゆるホットスタートPCRである.最も簡便には酵素抜きのPCR反応液を調製して,94℃になってから酵素を加えるだけでよい.また酵素ではなく,マグネシウムやプライマーの後入れでも同様の効果は得られる.初期の頃には熱で溶けるワックスをチューブ内に入れてPCR反応液を2相にして94℃になってから2相が混ざり合うようにしたりもした.現在では抗体でホットスタートを行うことがほとんどである.すなわち抗体はポリメラーゼに結合して活性を抑えているが,熱耐性ではないので94℃になると変性して酵素から離れ酵素活性が復活するという仕組みである.現在では多くのPCR酵素においてホットスタート品がラインアップされ,価格も標準品に比べやや高い程度なので,最初からホットスタート酵素を買うことを強くお薦めする.TAKARAばかりをひいきするわけではないが??????HS(HSとはホットスタートの意味)がお薦めである.もう一つの添加物であるDMSOは分極性の高い分子で,水素結合を壊して二本鎖DNAの結合力を弱める.そのためプライマーの%GCが高い場合や,増幅産物の(69)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007%GCが高いときに添加すると,Tm(meltingtempera-ture)値が下がってPCRが格段にかかりやすくなる.最終濃度で5%から10%くらいで使用する.%GCが低い場合には逆効果となることがあるので注意されたい.ベタインもほぼ同様の機序で%GCが高い場合のPCRを改善する.最後に機械とPCRチューブについて述べてみたい.PCRは温度変化によって反応を進めているので,この温度変化が確実にPCR反応液に伝わっているかどうかがきわめて重要な因子となる.意外と知られていないことだが,PCRの増幅効率はチューブごとにかなりばらついている.これはPCRマシンとPCRチューブの接点をイメージしてもらうとわかりやすい.いくら世界に名だたる工業国の日本でもプラスティック製品を寸分の狂いもなくつくるのは至難の業である.それゆえチューブごとにPCRマシンとの接触状態がある程度異なることは容易に想像できる.また機械とチューブの間にホコリなどの異物が挟まっていることもある.ほんの些細なことだが,それらは熱伝導の違いとなり,結果としてチューブごとの増幅効率を大きくばらつかせる要因となる.以前PCRがかからなくてどうしたことかとPCRマシンを見ると,小さな虫がメタルブロックの上にたくさん死んでいた(筆者の大学は川の側にあるので特に夏は虫が多い).この事件以後,使わないときはPCRマシンのカバーは必ず閉めるようにし,PCRをかける前にはカメラのブローワーでホコリを飛ばしている.機械そのものにも問題は潜んでいる.現在のPCRマシンのほとんどは96ウエルプレートに対応した96ウエルメタルブロックを採用している.ABI社の場合4枚のペルチエ素子でこの96ウエルメタルブロックの温度制御を行っているが,場所によって多少の温度差が生じることは想像に難くない.また一部のペルチエ素子が壊れたり性能が低下することもまれではない(ABI社のPCRにはセルフチェック機能がついているので,知らないうちに壊れていることはまずないが).これらもまたPCRの増幅効率をばらつかせる要因となる.筆者らは最初にPCRを行うとき,同じ組成の反応液を2~3ウエルに分けてPCRを行い,ウエルポジションによる問題でないことを必ず確認するようにしている.PCRは簡単な場合(増幅しやすいもの)は初心者でも問題なくできると思われるが,むずかしい場合(増幅しにくいもの)にはこれまで述べたような不確定要素に大きく振り回される.昨日はかかったのに今日はかからないなどということは日常茶飯事である.それゆえ,できることは全部やるという姿勢でないとなかなか結果はついてこない.酵素を入れたかどうか覚えがないなどというのはまさに論外で,せめて試薬調整くらいは確実にしないと話にならない.また指導する側も「酵素を入れ忘れたんだろう」などの軽率な言動は慎むべきで,部下を信じ前向きな処方を与えるべきである.5.電気泳動シーケンス反応に進む前に,はやる気持ちを抑えてPCRが成功したかどうか電気泳動で確かめなければならない.電気泳動用のバッファーにはTAE(Tris-ace-tate-EDTA)とTBE(Tris-borate-EDTA)があり,TAEは長い核酸断片の解析に,TBEは比較的短い核酸断片の解析に好んで用いられる.変異解析のPCRでは1kb以下の比較的短い断片を扱うことが多いのでTBEを選択すれば良いが,TAEしかなければそれでも特に問題はない.PCRが成功しているかどうかの判断基準は,シングルバンドであるかどうか,予測されたサイズであるかどうか,の2点である.そのためにはサイズマーカーを忘れずに泳動する.PCR産物のサイズがわずかに予測されるサイズからズレることがあるが,その場合サイズマーカーとの塩濃度の違いが原因である可能性がある.すなわちPCR産物は塩(イオン)を含んでいるので,電場がかかった場合にこのイオン(特に陰イオン)が核酸と競合しあって泳動するのである.よって塩が含まれていると,含まれていない場合に比べて核酸の泳動速度は確実に遅くなる.通常PCRのバッファーに含まれる塩濃度はそれほど高くないが,なかには高塩濃度のものもあり(TAKARAのPrimeStarという酵素の添付バッファーなど),その場合かなりのズレが生じるので,サイズマーカーにも同じ濃度のバッファーを加えるようにする.6.精製PCR反応が首尾よく成功すれば,つぎはいよいよシーケンス反応である.だがその前にPCR産物を精製しておく必要がある.精製の目的は未反応のプライマーと未反応のdNTPを除き,同時にバッファーを交換することにある.要するにそれらが大量に残っているとシーケンス反応で問題が起こるのである.精製の方法はいくつ(70)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???かあり,筆者らの施設でもこれまでに数種類の方法を試してきた.結論を言うと,おそらく現時点で最も簡便なのはアマシャム社のExoSapItという製品である.この製品はexonucleaseIとshrimpalkalinephosphataseの混合品で,exonucleaseIが未反応のプライマーを分解し,shrimpalkalinephosphataseが未反応のdNTPをピロリン酸とdNMPにする.メーカーのプロトコルに従うと1反応当たり約200円と結構いいお値段なのだが,大きな声では言えないが実はかなり薄くしても(1/20程度)問題ない.PCR反応後の電気泳動で複数のバンドが認められた場合,基本的には条件を検討し直してシングルバンドになるまでやったほうが良いが,どうしてもできない場合,予測サイズにバンドがあれば電気泳動後のアガロースゲルから切り出すこともできる.その場合収量がかなり少なくなるのでPCRを多めにかけて(30~50??程度),4~5サンプル分のウエルに電気泳動して切り出す.切り出すときの染色剤は必ずエチジウムブロマイドとし,サイバーグリーンの先染めは避ける.サイバーグリーンは高感度であるが,泳動が乱れやすいという欠点があるため切り出しには不適である.どうしても使いたいなら後染めでやる.切り出すには一般的には紫外線を使うが,実験者への影響(皮膚癌,電気性眼炎など)やPCR産物が分解されるなどの問題がある.筆者らは懐中電灯型の高輝度青色LEDと専用のバリアフィルタを組み合わせてバンドを目視しながら切り出している(図4).エチジウムブロマイドにもサイバーグリーンでも使用でき,また実験者にも安全である.7.シーケンス反応・解析シーケンス反応は現在ではほとんどの場合で,サンガーのダイデオキシ法4)が使われていると思う.サンガー(FrederickSanger)は2回もノーベル化学賞を受賞したほどの偉人(なんと史上初の3回受賞も有力視されているらしい)で,この方法なしにはヒトゲノム計画はまだ終わっていなかったに違いない.簡単に説明すると,この方法で用いるダイデオキシNTPはリボースの3¢末端の通常ヒドロキシル基であるところが水素となっている(図5).そのためポリメラーゼがこの塩基を取(71)図4アガロースゲルからのPCR産物調製A:高輝度青色LEDによるゲルからのバンド切り出しの様子(実際には部屋を暗くする).B:筆者らが愛用している懐中電灯型の高輝度青色LEDライト(商品名BlueNova,アズバイオ).ゲルからの切り出しの他,GFPマウスの選択(一般的にはこちらで使われている)にも有用である.AB図5通常のデオキシTTP(dTTP)(上)とダイデオキシTTP(ddTTP)(下)の化学構造式リボースの3位(矢印)が異なっている.HOOOOOPOOPOPOHOHOHCH2OHCH3HNNOHOOOOOPOOPOPOHOHOHCH2CH3HNNO———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007り込むとそれ以上の伸長反応を行うことができず,伸長反応がそこで終了する.そこでdNTPとこのダイデオキシNTP(ddNTP)の存在下で鋳型DNAをプライマーとポリメラーゼで伸長すると,1塩基ごとに長さの違うDNA断片の集まりが得られる.さらにddNTPを塩基ごとに違う標識をし,1塩基の解像度で分離可能なアクリルアミドゲルで電気泳動すると配列を示すシーケンスラダーが得られる.以前は標識をRIで行っていたため一つの配列を読むのに塩基ごとに違う反応(すなわち4反応)を行い電気泳動も別々に行っていたが,現在ではRI標識は蛍光標識に代わり反応も1配列1回で済むようになった.実際の手順はきわめて簡単で,試薬会社の説明どおりに反応液を調整してPCR産物のシーケンス反応を行う.プライマーはPCRで用いたものでよいが,ノイズが多いようなら内部に作成するとS/N(シグナル/ノイズ)比が改善する.必ずしなくてはいけないわけではないが,両方向からシーケンスすることをお薦めする.また温度条件はメーカーの説明どおりで通常問題ない.お金の話をすると反応液はメーカーの説明どおりに使うと1反応で1,000円ほどかかり,これでは外注したほうが安くなってしまう.筆者の施設では専用の希釈バッファーを用いて反応液を8分の1の濃度とし,さらに反応量を4分の1としているが,特に問題はないようである.これだと実質1反応に30円程度で済み,ポリマーなど諸々を合わせても1解析100円以下に抑えられる.一度試していただきたい.反応後は精製して未反応の標識ddNTPを除く必要がある.ゲル濾過,限外濾過,エタノール沈殿などがあるが,エタノール沈殿で十分である.プレート遠心機があれば96ウェルプレートのままエタノール沈殿することも可能でサンプル数が多いときには重宝する.真偽のほどは明らかではないが,某社のマグネットを利用した精製キットはABI社のキャピラリーシーケンサーには使わないほうが良いらしい.使うとそのうちキャピラリーがダメになってしまうそうである.筆者らの施設でもそれが原因と考えられる問題が発生したことがあり,それ以来マグネットタイプの精製キットは禁止にさせてもらっている.精製後はホルムアミドで溶解するのだが,ホルムアミドのグレードには注意したほうが良い.グレードが悪かったり,変性してしまっていたりすると分離がきわめて悪くなるからである.メーカー純正のシーケンス用ホルムアミドが安心だが,高いというのなら分子生物学グレードのホルムアミドを買って,イオン交換レジン(BioRad社のAG501-X8など)で処理すると比較的安くできる.その場合保存は-20℃で行う.現在の標準型であるキャピラリーシーケンサー(図6)は日々のメンテナンスも楽で,なによりゲルを作らなくて良いのがありがたい.ホルムアミドに溶かしたサンプルを機械にセットして,ソフトを開いてスタートボタンを押せば終わりである.サンプル数にもよるが数時間後には結果は出ている.結果の解析であるが,最も簡単なのは標準で添付のシーケンス解析ソフトで波形データをテキストデータとし,上で述べたペアワイズアラインメントにて正常配列と比較して変異があるか調べる方法である.この場合解析ソフトの設定によってはヘテロの変異が見過ごされてしまう可能性がある.そのため原始的ではあるが波形データを印刷して目視しながら変異があるか調べるほうがヘテロ変異を見逃さずに済む.またお金に余裕があれば,変異の可能性のある部位を示してくれるインテリジェントなソフト(ABI社のSeqScapeなど,図7)を購入するのも良い.データベース機能もあり,変異解析をルーチンにやっていく場合や大量の解析を行う場合にはかなり有用である.8.ValidationstudyValidationstudyはシーケンス反応の結果が正しいかどうかを確認するために行う.方法はいろいろだが,簡(72)図6キャピラリーシーケンサーに使う16連キャピラリーアレイシーケンスサンプルはキャピラリー内部を泳動し,ディテクションセル(矢印)にてレーザーで検出される.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???便なのは1塩基伸長反応,制限酵素処理などである.それぞれについて説明する.まず1塩基伸長反応であるが,ABI社がSnapShotという名前のキットで販売している.原理は簡単で,反応液のなかに酵素と蛍光標識したダイデオキシNTPが入っている(dNTPは入っていない).ダイデオキシNTPはシーケンス反応でも説明したように,リボースの3¢末端の通常ヒドロキシル基であるところが水素となっている(図5).そのためそれ以上の伸長反応が行われずに,プライマーから1塩基伸びたところで反応が終了する.塩基の種類によって標識している蛍光が違うので,シーケンサーで電気泳動すれば伸長した1塩基がどの塩基なのかがわかるというものである.実際にはまず変異部位の直前までのプライマーを作成する.これはセンス鎖,アンチセンス鎖のどちらでも良いが,慎重を期すのなら両方作成すると良い.変異部位を含むようにPCRを行い,ExoSapItにて精製後に上記プライマーとキットの反応液を混合してメーカーの手順書の温度条件で反応させる.反応後SAP(shrimpalkalinephosphatase)にて処理し,そのまま希釈してホルムアミドに溶解してシーケンサーで電気泳動する.つぎに制限酵素処理についてであるが,これは変異部位を含むようにPCRを行い,変異していないと切断されるが,変異すると切断されなくなる(あるいはその逆でも良い)制限酵素で処理して電気泳動を行う.適切な制限酵素を探すには専用のソフト(DNASIS,MIKE-NORAなど.MIKENORAは第一化学薬品のサイトから無料でダウンロード可,http://www.shiyaku-daiichi.jp/special/mikenora/)を使うかインターネットで無料公開されているサイト(NEBcutter;http://tools.neb.com/NEBcutter2/index.php)を利用すれば良いが,適切な制限酵素が見つからないことも多い.その場合はPCRで制限酵素サイトを導入する方法もあるが,1塩基伸長をするほうが無難であろう.また比較的長い挿入変異や欠失変異の場合には,変異部位を含んだPCRを行い,分離能の高いアクリルアミ(73)図7ABI社Seqscapeソフトによる????遺伝子の変異解析サンプル5において20塩基の挿入変異が見られる.棒(矢印)が立っているところは変異の可能性がある部位で,棒が長いほど変異の可能性が高い.また各塩基についてシーケンスクオリティをQV(qualityvalue)という値として棒グラフ表示し,さらにクオリティの低い部位は黄色や赤で表示しているので,変異なのか単なるシーケンスの問題なのかを判断しやすい.サンプル1は混合塩基表示(YやSなど)が多いが,変異があるのではなく単にノイズレベルが高いということがわかる.———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ドゲルで電気泳動すると長さの違いによって変異が証明できることもある.シーケンス解析で2カ所にヘテロの変異が認められたとき,それぞれが別々のアリルにある場合はコンパウンドヘテロ接合型の変異5)となる.シーケンス解析だけでは1つのアリルに2つの変異が存在するのか(劣性遺伝疾患ではこの場合は疾患を生じないこととなる),あるいはそれぞれが別々のアリルに存在するかは判断できない.この場合は2つの変異を含むようにPCRを行い(場合によってかなり長くなるが),ゲルから切り出してから精製しプラスミドにTAクローニングしてシーケンスする.TAクローニングのベクター(Tベクターという)は自作もできるが,市販のものを使ったほうが良い.プロメガ社のpGEM-Tが価格も手ごろで青白スクリーニング(PCR産物がきちんとプラスミドに入っているかどうかを簡便に調べる方法)もできるのでお薦めである.9.変異の意義についての検討・機能解析変異が確実となれば,それが意義のある,すなわち疾患を起こしうる変異であるかどうかについて調べなくてはならない.変異が見つかればそれで決まりでしょと思われるかも知れないが,実際はそれほど単純ではない.顔つきや体格,体質が一人一人違うのは疾患を起こさないレベルのゲノム配列変化があるためで,遺伝子内部にもこのような配列変化はかなりの頻度で存在する(多くはSNPsである).そのため変異が見つかっても疾患と関連しないものかどうかよく検討する必要がある.また以下で述べる家系内での疾患と変異の一致が見つかったとしてもまだ確実ではない.単に偶然に一致した可能性,あるいはその遺伝子と物理的に近接した部位の遺伝子ないし非遺伝子配列の変異が疾患の原因である可能性が残っている.物理的に近接した遺伝子同士は配偶子形成時の際に起こる交差(crossover)の影響を受けにくいからである(連鎖不平衡の状態にあるという).最初に調べることはアミノ酸レベルで変異があるかどうかである.ご存じのように遺伝コードは3塩基がコドンという1単位となってアミノ酸に対応するが,43すなわち64種類ある組み合わせに対しアミノ酸およびそれに対応するtRNAは20種類しかないので,コドンの3番目の塩基に対しては対応が甘く(ゆらぎ:wobbleといわれる)なっている.そのため核酸レベルで変異があってもアミノ酸レベルで変異がない場合があり(silentmutation),この場合変異が疾患と関連している可能性はきわめて低い.またアミノ酸レベルで変異があっても同じグループのアミノ酸(たとえばロイシンとイソロイシンなど)に変異した場合は注意が必要である.同じグループのアミノ酸は性質が似ているため,変異しても明らかなタンパク質機能異常を起こさないことがまれではなく,その場合疾患と関連していない可能性が高い.一方,かなり性質が異なるアミノ酸に変異した場合や,終止コドンとなった場合は疾患と関わっている可能性はかなり濃厚である.また挿入変異や欠失変異の場合は挿入,欠失した長さが3の倍数であればその部分のアミノ酸の挿入,欠失となるが,3の倍数でなければフレームシフトが起こるためそれ以降のアミノ酸はまったく異なるものとなり疾患と関連している可能性が高い.またスプライシングに変化が生じるような変異の場合,エクソン単位で欠失が生じたり,イントロンが挿入されたりするので通常アミノ酸レベルでもかなり大規模な変化が生じる可能性が高く,疾患との関連性も高くなる.つぎにすべきことは同一家系内における表現型との一致を調べることである.表現型(疾患)と原因と思われる遺伝子変異が同一家系内で一致していれば,その変異は疾患と関連している可能性が高い.しかし1家系だけの場合はたまたま一致しただけということもあるので,この結果だけに頼りきることはできない.その場合は正常者にそのような変異が見いだされるかどうか(com-monなSNPsかどうか)をSNPsデータベース(NCBIのdbSNPなど,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)で確認する.ただSNPsは民族によっても異なるうえ,データベース自体も現時点では完全とはいえない状況にあるので,データベースになくともSNPsである可能性は否定できない.その場合はできれば自分で正常者のゲノムDNAを調べたほうが良い.上記の検討を行ったとしても,見いだした遺伝子変異が本当に疾患の原因であるかどうかは実はかなりむずかしい問題である.たとえば変異によって終止コドンに変化した場合を考えてみる.その場合変異部位より下流のアミノ酸を欠くこととなるが,その部分がタンパク質の機能にそれほど重要でない場合には,タンパク質機能がやや低下する程度に収まる可能性もある.たとえて言うなら,ハサミの刃の部分が壊れたら使い物にならないが,指を入れる柄の部分が少々欠けたとしても多分それなりに使えるであろうということである.身の回りのも(74)———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???のを見ても,少し故障しているがそれなりに使っているというのは結構あると思う.このように終止コドンに変わった場合ですら,突き詰めて考えるとわからないという結論に到達する.ではどうしたら良いのか?最後の仕事は機能解析である.ご存じのように機能解析はものによってはかなり大変である.実際変異解析の仕事でも機能解析まで踏み込んだ論文は少数派である.比較的簡単にできるものとしては,たとえば変異によってタンパク質の局在に変化が生じる可能性が予測された場合,そのタンパク質をタグ配列(GFP,c-myc,HA,FLAG,V5などたくさんある)と融合した状態で発現するプラスミドを作成して,培養細胞に遺伝子導入することが考えられる.正常タンパク質と変異タンパク質で細胞内の局在に変化があれば,疾患と関連している可能性はきわめて濃厚となる.また改変マウスを作成してヒトで見られた異常がマウスでも認められるかを調べるのも有用な手段である.いずれにせよタンパク質の性質と変異部位によってやるべき機能解析はさまざまで,概してかなりの時間と労力を強いられる.ただ幾多の苦労を乗り越えて機能解析を成功させたとしても,????????の実験では個体レベルの状態を完全に反映しない,マウスとヒトとは違うなどという厳しいことを言い出すと,結局遺伝子変異と疾患の関連性はどこまでやっても完全にはわからないということになる.まあそこまで懐疑主義的になると,おそらく生物の問題は何一つ解けないことになるであろうが….II法的・倫理的側面ここまで実験の技術的な部分を解説してきたが,実際に変異解析を行う際には法的・倫理的側面もきわめて重要となる.血液の採取および研究への使用にあたっては,ヘルシンキ宣言に基づき患者の同意を得ることが最低の条件となる.また施設に倫理委員会がある場合はここの承認をとる必要もある.これらに加えゲノム解析ではゲノム情報が患者の個人情報であるとの見解から,患者が特定できるゲノムデータおよびゲノムサンプルが第三者に漏出しないような措置をとる必要がある.具体的にはサンプルおよびデータは暗号化して患者情報と切り離して管理し,データと患者情報を連結する鍵のデータを第三の管理者に預けておくという方法をとる.これらは2001年に厚生労働省,文部科学省,経済産業省の3省合同で通達されている.詳細は文部科学省のホームページで公開されているpdf書類をダウンロードして確認されたい.おわりに以上,遺伝子変異解析における分子生物学的実験手技およびその背景知識について説明させていただいた.これだけの字数を使っても専門用語の解説や実験の具体的なところまで記述することはできなかったので,実際の実験に際しては標準的な実験書(羊土社のバイオ実験イラストレイテッドが初心者には好評のようである.本格的に知りたいのならManiatis著のMolecularCloningをお薦めする)を参照していただきたい.冒頭でも述べたが,変異解析の実験で最も重要なのはいかにPCRを成功させるかで,そこがうまくいけばあとは何とかなることが多い.PCRは試行錯誤が重要な局面が多く,うまくいかないときにはとにかくいろいろやってみることが重要である.このときのコツは自分が寝ている間に酵素に働いてもらうことである.(要するに夜PCRをかけっぱなしにして帰るということ.機械にはやや悪いという意見もあるが….)大学院生の先生は自分の経験値を上げる意味でもいろいろなPCRに挑戦してほしい.本稿を作成するうえで同僚の松田彰先生に多大なご助言をいただきました.また谷岡秀敏さん,山崎健太さんには本文の構成および図の作成で大変お世話になりました.ここに深謝いたします.文献1)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.?????????15:247-251,19972)DeanFB,HosonoS,FangLetal:Comprehensivehumangenomeampli?cationusingmultipledisplacementampli?-cation.??????????????????????99:5261-5266,20023)DonRH,CoxPT,WainwrightBJetal:‘Touchdown’PCRtocircumventspuriousprimingduringgeneampli?-cation.?????????????????19:4008,19914)SangerF,DonelsonJE,CoulsonARetal:Determinationofanucleotidesequenceinbacteriophagef1DNAbyprimedsynthesiswithDNApolymerase.??????????90:315-333,19745)TianX,FujikiK,LiQetal:CompoundheterozygousmutationsofM1S1geneingelatinousdroplikecornealdystrophy.???????????????137:567-569,2004(75)