———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼科医が,日常臨床において知っておくべきウイルス血清抗体価といえば,「患者のための診断目的」と「自身およびスタッフのための感染予防目的」という2局面である.■ウイルス抗体価測定の方法ウイルス抗体価測定には補体結合反応(CF)法,赤血球凝集反応(HI),蛍光抗体法(FA),中和試験(NT)法,酵素免疫法(EIA)などがある(表1),ここで注目すべきは,EIA法の免疫グロブリンIgG測定のみが定量性があることである.CF法やNT法では8倍という結果が出た場合,血清を2倍階段希釈して8倍までは陽性反応を認めたというものであり定量性はない.同じEIA法でもIgM測定では,カットオフのコントロールの吸光度で検体の吸光度を割った抗体指数(インデックス)で表されており定量性はない.一方,IgG測定は既知のコントロール抗体で検量線を作成し検体の抗体価をEIA価として表しており,定量性がある1).すべて保険適用であるが,CF,HI,FA,NTに比べてEIA法の点数が高くなっている.なお,アデノウイルスのように種々の型が知られているウイルスの場合,型別で検査すると患者からは1型しか請求ができないので注意が必要である.■眼科疾患でのウイルス抗体価さて,眼科領域では局所免疫機構が主体であるために,従来,血清抗体価の価値は低く捉えられてきた.すなわち,急性期とその後2週間経過時点で得られるペア血清においてCF価あるいはNT価が4倍以上上昇する,あるいは急性期にIgMが上昇する場合にのみ,診断価値があるとされてきた.しかし,実際には日常臨床でペア血清や急性期血清を採取することは困難であるため,血清抗体価測定はないがしろにされてきた.しかし,血清抗体価の有用性を指摘した論文も散見される.たとえば,単純ヘルペス性ぶどう膜炎の場合,薄井らの報告2)にあるようにNTによる血清抗体価は眼内液のpolymerasechainreaction(PCR)産物のヘルペス型別と相関しており,血清抗体価からHSV網膜炎のウイルス型別を推測しうる.さらに病状の進退に伴って水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)血清抗体価(CF,EIA)が連動した脈絡膜炎3)や,HSV-2血清抗体価(EIA)上昇から前房内HSV-2検出に至った前部ぶどう膜炎の報告4)も認められる.筆者らは図1のような壊死性角膜ヘルペスにおいて,①上皮型病変および円板状病変をくり返した症例に多いこと,②角膜ヘルペス再発モデルにおいて,三叉神経節での抗体産生が増加すること,③上皮型の再発時に角膜内ウイルス量が増加することなどの理(65)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次36.ウイルス血清抗体価測定佐々木香る宮田眼科病院眼科領域ではウイルス抗体価の診断価値は低い.しかし,複数回に及ぶ感作を生じるヘルペスでは,病態によって抗体価が補助診断として活用されうる.種々の測定方法のうち,酵素免疫法(EIA)免疫グロブリンIgGには定量性があることが特徴である.一方,予防的な見地からは,麻疹,ムンプス,風疹,水痘の血清抗体スクリーニングの必要性も頭に入れておきたい.表1各血清ウイルス抗体価測定法の特徴検査法原理所要時間感度備考補体結合反応(CF)抗原抗体複合体と結合した補体の間接的証明(溶血を指標)短い低い群特異性高いスクリーニング用赤血球凝集反応(HI)赤血球凝集を抑制する抗体の証明短い低いウイルス型特異性高いスクリーニング用中和試験(NT)活性ウイルスを中和する感染防御抗体を証明長い/手間がかかる高いウイルス型特異性高い蛍光抗体法(FA)ウイルス抗原と抗体との反応を蛍光標識抗体で証明短い高い抗体分画が可能酵素抗体(ELISA)ウイルス抗原と抗体との反応を酵素標識抗体で証明短い最も高い抗体分画が可能———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006由からEIA法IgGを測定し,ヘルペス既往のない健常人や上皮型初発症例と比較(図2)して診断における有用性を報告した5).HSVの1型と2型の交差性の問題は残るが,病態を限れば血清抗体価の診断的価値はまだ検討の余地があると思われる.また眼科特異的な抗体価として,眼内液ウイルス抗体率の測定がある.下記のように,総IgG量などを指標として血清抗体価との比較でFA法にて算出するが,一般臨床への普及が待たれるところである.抗体率=眼内液ウイルス抗体価÷眼内液IgG量血清ウイルス抗体価÷血清IgG量■院内感染予防におけるウイルス抗体価予防医学の見地から,麻疹,ムンプス,風疹,水痘に関する血清抗体スクリーニングについて少し触れる.医療従事者や患者において風疹の院内感染が発症した報告6)や,医療従事者における麻疹の感染率は一般人に比べて13倍高いという報告7)があり,一旦院内感染が生じると経済的損失は計140万円にのぼるとされている8).医療従事者を対象とした2005年の報告9)では,ムンプス,風疹,麻疹,水痘の抗体非保有者はおのおの15.2%,9.9%,8.6%,0.7%であり,男性職員におけるムンプス,若年女性職員における風疹にはワクチン接種などの対策が必要と思われる.ワクチンを接種するためのカットオフ価(EIA-IgG価)に関しては,まだ議論のあるところである.どこまでこの予防対策に取り組むかは,各病院の事情によって違うと思われるが,少し頭に残していただければと思う.文献1)佐藤俊則,平野勝,横尾裕ほか:単純ヘルペスウイルス抗体測定EIA試薬キットの開発と評価.臨床とウイルス25:48-55,19972)薄井紀夫,柏瀬光寿,箕田宏ほか:ヘルペス性ぶどう膜炎における単純ヘルペスウイルスの型別.日眼会誌104:476-482,20003)西田直子,川浪美穂,田中康之ほか:水痘・帯状疱疹ウイルスの関与が疑われる脈絡膜炎の1例.眼紀54:711-714,20034)InodaS,WakakuraM,HirataJetal:Stromalkeratitisandanterioruveitisduetoherpessimplexvirus-2inayoungchild.?????????????????45:618-621,20015)佐々木香る,子島良平,関山勝好ほか:壊死性角膜炎患者におけるEIA法による抗単純ヘルペスIgG測定の意義.あたらしい眼科23:233-236,20066)GreavesWL,OrensteinWA,StetlerHCetal:Preventionofrubellatransmissioninmedicalfacilities.????248:861-864,19827)AtkinsonWL,MarkowitzLE,AdamasNCetal:Trans-missionofmeaslesinsetting,Unitedstates1985-1989.????????91:320S-324S,19918)寺田喜平,新妻隆広,荻田聡子ほか:麻疹の院内感染とその後の抗体検査および対策─医療経済的な検証も含めて─.感染症学会雑誌75:480-484,20019)白石正,中川美貴子,仲川義人ほか:医療従事者における麻疹,風疹,ムンプスおよび水痘・帯状疱疹ウイルスに対する血清抗体価の測定とその解析.感染症学会雑誌79:322-328,2005(66)■コメント■眼のウイルス感染症は局所であること,体内に潜伏感染しているヘルペス属ウイルスによるものが多いことから,抗体価を診断に生かしにくい一面がある.たとえば単純疱疹ウイルス(HSV)血清抗体価が陽性であるというだけで,角膜ヘルペスであるとはまったくいえないわけであり,逆にそれが抗体価の意義をunderestimateさせているのかもしれない.著者が述べているように,検出部位や病態,抗体量などの情報を駆使すれば有益な情報に化けることもあり,今後さらに検討が必要な分野であろう.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図1壊死性角膜炎の1例(71歳,女性)EIA法HSV-IgGは128EIA価.図2口唇,角膜,および性器ヘルペスの既往をもたない健常人におけるEIA法HSV-IgG価分布矢印は,健常人,初発上皮型ヘルペス,壊死性角膜炎の中央値を示す.壊死性角膜炎では高値を示した.健常人中央値89.1壊死性角膜炎中央値119.1EIA価初発上皮型ヘルペス中央値59.7530.0025.0020.0015.0010.005.000.00分布率(%)0.0~4.0~20.0~40.0~60.0~80.0~100~120以上