提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療11.近視とコンタクトレンズ■はじめに近年,世界中で近視人口が急増しており,社会的に重要な課題となっている.とくに小児における近視の進行抑制方法に対する関心が高まっている.学童の近視進行抑制にはさまざまな手法があるが,屋外時間や日光照射時間などの環境因子のコントロールやアトロピン点眼薬,特殊眼鏡に加えて,コンタクトレンズ(CL)も重要な役割を果たすと考えられている.本稿では,CLが学童近視の進行抑制に果たす役割について簡単に紹介する.C■コンタクトレンズによる近視進行抑制現在,近視進行抑制を目的とした治療は多数報告されているが,有効性・安全性が十分なデータによって示されている治療法は限られている.その中で,一定のエビデンスがある近視進行抑制法として注目されているのが,オルソケラトロジーレンズと多焦点レンズである.以下にそれぞれの近視進行抑制法の概要を示す.C■オルソケラトロジーレンズオルソケラトロジー(orthokeratology:OK)とは,リバースジオメトリーという特殊な形状をしたハードCLを装用することで角膜形状を変形させ,屈折矯正効果を得る方法である.近年はレンズ素材の酸素透過性の向上により,夜間就寝時のみ装用するオーバーナイト法が主流となっている.OKレンズによる近視進行抑制効果の検討は古くから行われてきたが,2002年に非接触型の光学式眼軸長測定装置が出現し,小児における眼軸長の測定が容易になったことで,研究が急速に進展した.2004年のCCheungの発表以降1),さまざまな報告によってその効果が示され,現在は,複数のメタ解析によってCOKレンズによる眼軸伸長抑制効果が確認されている.さらにC2018年にはCHiraokaらがC10年の長期観察結果2)を報告し,長期にわたる近視抑制効果と一定の安全性が示された.また,メカニズムは不明だが,0.01%アトロピン点眼との相加作用3)も確認されており,今後の研究に注目が集まっているOKレンズが近視進行抑制に働くメカニズムについて(67)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY糸井素啓京都府立医科大学道玄坂糸井眼科図1軸外収差理論に基づく眼軸伸長抑制メカニズム通常の凹レンズで近視矯正を行った場合(Ca)は,周辺からの光は軸外(網膜周辺部)において網膜より後方に結像し,焦点ボケを生じる.これを,遠視性デフォーカスとよび,眼軸を伸長させる誘引となる.一方,オルソケラトロジーによる矯正後(b)は,角膜周辺部が急峻化しているため,周辺部の屈折力が増し,遠視性のデフォーカスが改善する.その結果,眼軸を伸長させる刺激が減少する.は,未だにその詳細はわかっていないが,もっとも有力な仮説として軸外収差理論が支持されており,角膜が全体として台形形状になり,周辺部の角膜形状が急峻化することで遠視性デフォーカスが改善すると考えられている(図1).また,近年は高次収差の増加が眼軸長の伸長を抑制している可能性も指摘されている.2009年にオルソCK(現在の製品名はメニコンオルソK.アルファコーポレション製)が日本で初めて承認されて以降,複数のCOKレンズが国内で承認されている.しかし,いずれも「角膜矯正用」としての薬事承認であり,近視進行抑制効果に対する薬事承認は得ていないことには留意すべきである.C■多焦点ソフトコンタクトレンズ多焦点レンズとは,一つのレンズに二つ以上の屈折力をもつレンズであり,おもに老視矯正や調節緊張の緩和を目的に使用される.近年,多焦点ソフトCCL(SCL)の近視進行抑制効果が注目され,海外を中心に臨床研究が急増している.多焦点CSCLはその光学部のデザインによって複数のタイプがあり,二重焦点型,累進屈折型,拡張焦点深度型などさまざまな光学デザインの多焦点レンズが臨床研究に用いられている(表1).多焦点CSCLレンズが近視進行抑制に働くメカニズムについては未だに明らかになっていない.しかし,デザあたらしい眼科Vol.40,No.7,2023C915表1おもな多焦点SCLを用いた近視進行抑制効果に関する研究著者年雑誌デザイン期間Fujikadoetal4)C2014CClinOphthalmol累進屈折型CAdd+0.51年CLametal5)C2014CBrJOphthaloml2重焦点CAdd+2.52年CSankaridurgetal6)C2019COphthalmolPhyiolOpt拡張焦点深度(EDOF)型2年CChamberlainetal7)C2019COptomVisSci.2重焦点CAdd+2.02年CWallineetal8)C2020CJAMA累進屈折型CAdd+1.5or+2.03年CChengetal9)C2023COphthalmolSci3重焦点CAdd+7.0and+10.0半年インや加入度数が異なるレンズであっても,一定の近視進行抑制効果が得られていることから,軸外収差理論に基づく遠視性デフォーカスの軽減のほかに,近視性デフォーカスや,調節の関与など,複数の光学的機序が関与していると考えられている.日本では現在,「近視進行治療用」として認可された製品は存在しないが,2017年にCMiSight(CooperVision社)が世界で初めて近視進行抑制用の多焦点CSCLとしてCCEマークを取得以降,欧米では複数の製品が近視進行抑制用CSCLとして認可されている.わが国でも,MiSightの臨床試験が開始されており,その結果が期待されている.C■おわりにいずれの治療も未成年を対象とするため,誰にでも自由に勧めてよいものではない.OKレンズにはガイドラインがあり,保護者への説明やケア手法に加えて,その屈折力や年齢といった適応が記載されている.一方,近視進行抑制を目的とした多焦点レンズについては明確なガイドラインが存在しない.OKレンズとは異なり日中の装用となるため,学校などでのトラブルに対応できるように,子ども自身が装脱をマスターしていることが望ましい.近視進行抑制を目的とした場合であっても,未成年に対するCCL処方では,安全性に配慮して慎重な処方を行いたい.文献1)CheungCSW,CChoCP,CFanD:AsymmetricalCincreaseCinCaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratolo-gypatient.OptomVisSciC81:653-656,C20042)HiraokaCT,CSekineCY,COkamotoCFCetal:SafetyCandCe.cacyCfollowingC10-yearsCofCovernightCorthokeratologyCforCmyopiaCcontrol.COphthalmicCPhysiolCOptC38:281-289,C20183)KinoshitaCN,CKonnoCY,CHamadaCNCetal:E.cacyCofCcom-binedCorthokeratologyCandC0.01%CatropineCsolutionCforCslowingCaxialCelongationCinCchildrenCwithmyopia:aC2-yearrandomisedtrial.SciRepC10:12750,C20204)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiTetal:E.ectoflow-additionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonCmyopiaCprogressionCinchildren:aCpilotCstudy.CClinCOphthalmolC8:1947-1956,C20145)LamCCS,CTangCWC,CTseCDYCetal:DefocusCincorporatedCsoftcontact(DISC)lensCslowsCmyopiaCprogressionCinCHongCKongCChineseschoolchildren:aC2-yearCrandomisedCclinicaltrial.BrJOphthalmolC98:40-45,C20146)SankaridurgCP,CBakarajuCRC,CNaduvilathCTetal:MyopiaCcontrolCwithCnovelCcentralCandCperipheralCplusCcontactClensesandextendeddepthoffocuscontactlenses:2yearresultsfromarandomisedclinicaltrial.OphthalmicPhysi-olOpt39:294-307,C20197)ChamberlainP,Peixoto-de-MatosSC,LoganNSetal:A3-yearrandomizedclinicaltrialofMiSightlensesformyo-piacontrol.OptomVisSciC96:556-567,C20198)WallineCJJ,CWalkerCMK,CMuttiCDOCetal;BLINKCStudyGroup:E.ectCofChighCaddCpower,CmediumCaddCpower,CorCsingle-visioncontactlensesonmyopiaprogressioninchil-dren:TheCBLINKCRandomizedCClinicalCTrial.CJAMAC324:571-580,C20209)ChengCX,CXuCJ,CBrennanNA:RandomizedCtrialCofCsoftCcontactlenseswithnovelringfocusforcontrollingmyopiaCprogression.COphthalmolSciC3:100232,C2023