眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋東花枝434.アセタゾラミドによる脈絡膜.離と浅前房化横浜市立大学附属病院眼科緑内障の治療や内眼手術前後の眼圧下降目的などで用いられるアセタゾラミドは,毛様体脈絡膜.離による急性閉塞隅角緑内障を引き起こすことがある.その臨床所見や病態に関して,海外で報告されている事例,および筆者が経験した症例を交えて紹介する.●はじめにアセタゾラミドはスルホンアミド誘導体であり,生体に存在する炭酸脱水酵素の作用を抑制することにより,眼圧下降,中枢神経系の刺激伝達抑制(てんかん発作の抑制),呼吸賦活(呼吸性アシドーシスの改善),および利尿などの作用を示す1).重大な副作用として,代謝性アシドーシス,電解質異常,ショック,アナフィラキシー様症状,再生不良性貧血,溶血性貧血,無顆粒球症,血小板減少性紫斑病,皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症,急性腎不全,腎・尿路結石,精神錯乱,痙攣,肝機能障害,黄疸があり,その他の副作用として知覚異常や消化器症状,一過性近視などが現れることがあると薬剤添付文書に記載されている1).眼科領域では,毛様体上皮中に存在する炭酸脱水酵素の作用を抑制することで房水産生を減じ眼圧下降させるため,とくに緑内障による高眼圧の治療や術前術後の眼圧上昇に対して用いられるが,毛様体脈絡膜.離による浅前房および急性閉塞隅角緑内障を起こすことがあると報告されている2,3).C●海外からの報告毛様体脈絡膜上腔は強い細胞同士の接着構造をもたず,層状にたたまれた組織構造をしているため,容易に毛様体脈絡膜.離を起こし,超音波生体顕微鏡(ultra-soundbiomicroscopy:UBM)では強膜と毛様体最外層の間に浮腫状の低エコー領域として観察される.毛様体脈絡膜.離は低眼圧を伴うこともあるが,毛様体の前方回旋により虹彩根部と水晶体.が前方に偏位し,続発性の隅角閉塞を引き起こすこともある4).内眼手術(強膜内陥術や線維柱帯切除術など)や原田病,後部強膜炎などがおもな要因となるが,スルホンアミド構造をもつ薬剤(アセタゾラミド,ヒドロクロロチアジド,ST合剤など)もその原因となる.治療は散瞳・調節麻痺点眼,(65)副腎皮質ステロイド投与や硝子体切除術を行う4).Mancinoら2)は,左眼の白内障手術直後にアセタゾラミドを投与し,翌日に両眼の浅前房,眼圧上昇および広範な脈絡膜.離を伴う閉塞隅角緑内障を発症したC76歳男性の症例を報告している.右眼はC7年前に白内障手術を受け人工水晶体眼であった.アセタゾラミド投与を中止し副腎皮質ステロイドの大量静注を行い速やかに改善がみられた.また,Parthasarathiら3)は,慢性開放隅角緑内障の既往があるC66歳の男性患者に対し,左眼の白内障手術直後にアセタゾラミドを内服投与したところ,左眼および有水晶体眼である右眼も眼圧上昇し,浅前房となり毛様体浮腫を認めたと報告している.薬剤性の毛様体浮腫の詳細な機序は明らかではないが,薬剤に対するぶどう膜組織のアレルギー反応5)や,エイコサノイド(プロスタグランジンやトロンボキサンなどの生理活性物質)の代謝不均衡により引き起こされるという説もある3).C●症例筆者が経験した症例4)を紹介する.患者はC57歳,男性.眼疾患の既往はなく,主訴は右視力低下で,視力は右眼C0.1(0.15C×sph-1.00D),左眼(1.2C×sph-0.25D(cyl-0.75DAx180°),眼圧は右眼16mmHg,左眼18CmmHg,両眼に核白内障を認めた.前房深度と眼軸長は正常であり,眼底に異常所見はなかった.右眼白内障手術直前にアセタゾラミド錠を内服投与し,右眼にレボフロキサシン点眼と散瞳・調節麻痺点眼を行った.右眼の超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行し,合併症なく終了した.術後C3時間で頭痛と霧視を自覚し,術後C9時間で受診時,眼圧が右眼C70CmmHg,左眼C62CmmHg,瞳孔径が右眼C6Cmm,左眼C3Cmmで,対光反射は両眼でやや減弱していた.両眼毛様充血,角膜浮腫と浅前房(vanHeri-ck0度)を認めた(図1)4).創部漏出はなく眼内レンズは.内中央固定で,光干渉断層像や超音波画像(Bモーあたらしい眼科Vol.40,No.1,2023C650910-1810/23/\100/頁/JCOPY右眼左眼図1右眼白内障手術後9時間の細隙灯顕微鏡所見両眼の毛様充血と角膜浮腫,浅前房(vanHerick0度)を認め,右眼は前房炎症細胞を軽度認めた.(文献C4より転載)ド)で異常所見はなかった.瞳孔ブロックを考え,D-マンニトール点滴,アセタゾラミド錠内服,両眼にピロカルピン点眼,眼圧下降点眼,ベタメタゾンC0.1%点眼を開始したが眼圧下降せず,左眼のCUBMを行った.前房深度はC1.34Cmmで,毛様体上腔の液体貯留および虹彩,水晶体.の前方移動がみられた(図2).両眼眼底の全周に毛様体浮腫を認めた.毛様体脈絡膜.離による急性閉塞隅角緑内障(acuteCangleCclosureglaucoma:AACG)と判断し,アトロピン点眼開始したところ眼圧は下降しはじめ,プレドニゾロン内服をC2週間継続し正常眼圧を得た.本症例では,手術当日朝からC2週間アセタゾラミドを内服していた.術後C10日目には毛様体脈絡膜.離と浅前房は改善したが,術後C3週間までプレドニゾロン内服下であったため,術前術後に内服したアセタゾラミドが毛様体脈絡膜.離の原因となった可能性は否定できない.本症例では後日左眼も白内障手術を行い,手術前後にアセタゾラミドは内服せず,術前後にデキサメタゾン2.5Cmgの静脈内投与を行い経過良好であった.被疑薬の中止および副腎皮質ステロイドの予防的投与が,毛様図2左眼の超音波生体顕微鏡所見前房深度はC1.34Cmmで,毛様体上腔の液体貯留および虹彩,水晶体.の前方移動がみられた.(文献C4より転載)体浮腫の予防に有効であったと考えられた.C●おわりに内眼手術後などに原因不明の脈絡膜.離や浅前房化がみられたときは,まれではあるがアセタゾラミドによる毛様体脈絡膜.離が原因となっている可能性もあり,鑑別として考慮する必要がある.文献1)三和化学研究所:炭酸脱水素酵素抑制剤アセタゾラミド添付文書C2021年C11月改訂(第C1版)2)MancinoCR,CVaresiCC,CCerulliCACetal:AcuteCbilateralCangle-closureCglaucomaCandCchoroidalCe.usionCassociatedCwithCacetazolamideCadministrationCafterCcataractCsurgery.CJCataractRefractSurgC37:415-417,C20113)ParthasarathiCS,CMyintCK,CSinghCGCetal:BilateralCacet-azolamide-inducedCchoroidalCe.usionCfollowingCcataractCsurgery.EyeC21:870-872,C20074)東花枝,山田教弘,竹内正樹ほか:片眼の白内障手術後早期に両眼の著明な浅前房と高眼圧をきたしたC1例.臨床眼科76:531-538,C20225)TripathiCRC,CTripathiCBJ,CHaggertyCCCetal:Drug-inducedCglaucomaCmechanismCandCmanagement.CDrugCSafetyC26:49-767,C2003