●連載125監修=安川力髙橋寛二105長期視力維持ができなかった村上智哉筑波大学医学医療系眼科加齢黄斑変性症例抗CVEGF薬治療を行っても視力が低下する滲出型加齢黄斑変性(wAMD)患者は少なくない.黄斑萎縮は治療法がなく,wAMD治療中の視力低下の原因として重要である.今回,wAMDに対するC8年にわたる抗VEGF薬治療中に黄斑萎縮が出現し,進行して視力低下をきたした患者を経験したので報告する.はじめに抗CVEGF薬が登場してから,滲出型加齢黄斑変性(wetCage-relatedCmaculardegeneration:wAMD)患者の視力予後は飛躍的に改善した.多くの臨床試験で抗VEGF薬治療の固定投与などの厳格な治療で視力の改善を維持できることが報告されているが,Seven-upstudyでは,厳格な抗CVEGF薬治療で一度改善した視力が,実臨床に戻ると徐々に低下することが報告されている1).実際に,外来で抗CVEGF薬治療を行っても,Cundertreatment,出血,萎縮などのさまざまな理由で一度改善した視力を維持できないことは少なくない.なかでも萎縮は,それに対する効果的な治療方法がなく,厄介な合併症である.今回は,wAMDに対して当院で8年に及ぶフォローアップ中に黄斑萎縮をきたして,視力を維持できなかった症例を提示する.症例提示患者はC70歳,女性.20XX年に左眼視力低下を自覚し近医を受診し,wAMDを疑われ,筑波大学附属病院眼科を紹介受診した.矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.5)で,左眼網膜内血管腫状増殖(retinalCangiomatousCpro-liferation:RAP)すなわちCtype3macularneovascular-ization(typeC3MNV)と診断され(図1a),ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)での治療を開始した.1カ月ごとのC3回のCIVRを行ったところ,左眼視力は(0.9)まで改善し,必要時投与(proCrenata:PRN)で経過観察していたが,その後も再発を繰り返したため,アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)のCtreatCandCextend(TAE)に切り替えて3~4カ月間隔で治療した.滲出性変化はおおむねコントロールできていたが,徐々に視力は低下し,20XX+8年には左視力は(0.5)となった(8年間で合計C28回硝子体内注射を施行).中心窩から耳側の網膜色素上皮の萎縮を認め,中心窩耳側の外境界膜(69)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPYとCellipsoidzoneは欠損しており,脈絡膜厚は治療前に比較して菲薄化していた(図1b).また,眼底自発蛍光では中心窩から耳側に低蛍光領域を認めた(図1c).抗VEGF薬治療が萎縮を加速させている可能性が考えられ,以後はCIVRでのCPRNでフォローしている.右眼は,初診時より網膜色素上皮.離やCsoftdrusen,pseudodrusenを認めたが(図2a),傍中心窩の萎縮が出現しwAMDの診断に至った.その後萎縮は徐々に進行しているが,中心窩を回避しており視力は(1.0)を維持している(図2b,c).両眼とも光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)と,眼底写真,眼底自発蛍光を用いて慎重に黄斑萎縮をフォローアップしている.考察TypeC3MNVと考えられるCwAMDのC8年にわたる治療期間中に,黄斑萎縮をきたし視力が低下した.CRIVALCstudy2)では,treatment-naiveのCwAMDを対象としてCIVRもしくはCIVAのCTAEでC2年間治療し,黄斑萎縮の推移を評価している.黄斑萎縮を有したものはCIVR群とCIVA群でそれぞれ治療前からC2年後にC7%からC37%,8%からC32%に増加しており(2群間に有意差なし),黄斑部萎縮は,wAMD治療中に出現する合併症としては珍しくはなく,注意すべき合併症と考えられる.注射回数が多いほど黄斑萎縮が生じやすいことや3),typeC1MNVは萎縮が生じづらい一方で4),typeC3MNV(RAP)は抗CVEGF薬治療前後ともに萎縮面積がもっとも広いこと5)が報告されており,注射回数が多い患者,type1MNV以外(とくにCtype3)の患者では注意が必要と考えられる.本症例はCtypeC3MNVであり,治療が長期にわたることで注射回数も多くなり,黄斑萎縮をきたしやすい背景があったと考えられる.外来が混雑していると,網膜下液や網膜内液,網膜色素上皮.離,出血といった滲出性変化のみに注目して診療しがちである.実際,本症例では,視力が低下してきたことで黄斑萎縮が生じていたことに気づき,治療法を変更しあたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C1509図1左眼のOCT像(水平断)と眼底自発蛍光a:20XX年治療前のCOCT像.網膜内液・下液,網膜色素上皮.離を認める.Cb:20XX+8年のCOCT像.中心窩耳側の外境界膜とCellipsoidzoneは消失し,CchoroidalCsignalCenhancementを認め,網膜色素上皮も消失している.初診時と比較し,脈絡膜厚が菲薄化している.Cc:C20XX+8年の眼底自発蛍光.中心窩から耳側に低蛍光領域を認める.図2右眼のOCT像(水平断)と眼底自発蛍光a:20XX年治療前のOCT像.漿液性網膜色素上皮.離と耳側にCdrusenを認める.Cb:20XX+8年のCOCT像.中心窩耳側の外境界膜とCellipsoidzoneは消失し,choroidalCsignalCenhance-mentを認める.Cc:20XX+8年の眼底自発蛍光.傍中心窩に低蛍光領域を認める.CmulticenterCcohortstudy(SEVEN-UP)C.COphthalmologyC120:2292-2299,C20132)GilliesMC,HunyorAP,ArnoldJJetal:MacularatrophyinCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:ACran-domizedCclinicalCtrialCcomparingCranibizumabCanda.ibercept(RIVALStudy)C.OphthalmologyC127:198-210,C20203)EshtiaghiA,IssaM,PopovicMMetal:Geographicatro-phyincidenceandprogressionafterintravitrealinjectionsofanti-vascularendothelialgrowthfactoragentsforage-relatedCmaculardegeneration:ACmeta-analysis.CRetinaC41:2424-2435.C20214)DanielE,MaguireMG,GrunwaldJEetal;ComparisonofAge-RelatedCMacularCDegenerationCTreatmentsCTrialsCResearchGroup:IncidenceCandCprogressionCofCnongeo-graphicatrophyintheComparisonofAge-RelatedMacu-larCDegenerationCTreatmentsTrials(CATT)ClinicalCTrial.JAMAOphthalmol138:510-518,C20205)YunCC,COhCJ,CAhnCJCetal:ComparisonCofCintravitrealCa.iberceptCandCranibizumabCinjectionsConCsubfovealCandCperipapillarychoroidalthicknessineyeswithneovascularage-relatedCmacularCdegeneration.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC254:1693-1702,C20166)MatsumotoH,MorimotoM,MimuraKetal:Treat-and-extendCregimenCwithCa.iberceptCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:E.cacyCandCmacularCatro-phydevelopment.OphthalmolCRetinaC2:462-468,C2018(70)た.OCTでの網膜外層障害や,網膜色素上皮の菲薄化や消失,choroidalCsignalenhancement,眼底自発蛍光像での低蛍光領域などの所見に,萎縮リスクのある患者ではとくに注意すべきだろう.また,萎縮をすでに生じている患者や,萎縮リスクが高い患者では,overtreat-mentになりすぎないようにCPRNで治療するなどの対策が必要かもしれない.萎縮を生じている患者にいずれの薬剤を選択するか,という点に関してはまだ決着がついていない.RIVALstudyでは,IVR群とCIVA群では萎縮の頻度に差は認めないことが報告されているが,IVRよりCIVAのほうがCwAMD眼の脈絡膜厚は薄くなるということや5),Ctype3MNVでは脈絡膜厚が薄いほど治療後の萎縮面積が広くなることが報告されており6),typeC3MNVではIVAのほうが萎縮を促進させることが懸念される.この点に関しては,今後のエビデンスの積み重ねが望まれる.文献1)RofaghaCS,CBhisitkulCRB,CBoyerCDSCetal;SEVEN-UPStudyGroup:Seven-yearoutcomesinranibizumab-treat-edCpatientsCinCANCHOR,CMARINA,CandHORIZON:aC1510あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022