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硝子体手術後の低眼圧により中心性漿液性脈絡網膜症を発症した2症例

2025年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科42(5):630.634,2025c硝子体手術後の低眼圧により中心性漿液性脈絡網膜症を発症した2症例宮良安宣今永直也寺尾信宏大城綾乃山内遵秀古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CTwoCasesofCentralSerousChorioretinopathyTriggeredbyHypotonyafterVitrectomyYasunoriMiyara,NaoyaImanaga,NobuhiroTerao,AyanoOshiro,YukihideYamauchiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:25ゲージ硝子体手術後の低眼圧により中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)を発症したC2例を報告する.症例:症例C1はC61歳,男性.裂孔原性網膜.離眼のシリコーンオイル抜去術後にCCSCを発症した.症例C2はC47歳,男性.眼内レンズ脱臼に対して硝子体手術と強膜内固定術後にCCSCを発症した.両眼とも術前の光干渉断層計(OCT)で脈絡膜肥厚,脈絡膜外層血管の拡張が確認されていた.硝子体術後に低眼圧をきたし,術後C4日目のCOCTで,脈絡膜はさらに肥厚し,漿液性網膜.離(SRD)を認め,蛍光眼底造影で多数の漏出点と脈絡膜血管透過性亢進が確認された.症例C1は漏出点に対する網膜光凝固術を施行,症例C2は経過観察の方針となった.両眼とも術後C2週間で眼圧は正常化し,脈絡膜厚は術前と同程度まで減少し,SRDは寛解した.結論:硝子体手術後の低眼圧は脈絡膜血流を増加させ,CSCの発症リスクを高める可能性がある.CPurpose:ToCreportC2CcasesCofCcentralCserouschorioretinopathy(CSC)inducedCbyClowCintraocularCpressure(IOP)followingC25-gaugeCparsCplanavitrectomy(PPV).CCases:CaseC1CinvolvedCaC61-year-oldCmaleCwhoCdevel-opedCSCaftersiliconeoilextractionforarhegmatogenousretinaldetachmenteye.Case2involveda47-year-oldmaleCwhoCdevelopedCCSCCafterCPPVCandCintrascleralC.xationCforCintraocularClensCdislocation.CPreoperativeCopticalCcoherencetomography(OCT)showedpachychoroidinbotheyes.AfterPPV,IOPdecreasedinbothpatients,andOCTat4-dayspostoperativeshowedfurtherthickeningofthechoroidandserousretinaldetachment(SRD).Fluo-resceinandindocyaninegreenangiographyrevealedmultipleleakyspotsandincreasedchoroidalvascularhyper-permeability.At2-weekspostoperative,theIOPinbotheyeshadnormalized,thechoroidhadthinnedtothesamedegreeCasCbeforeCsurgery,CandCtheCSRDCwasCinCremission.CConclusion:LowCpostoperativeCIOPCafterCPPVCmayCincreasechoroidalblood.ow,leadingtoCSC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(5):630.634,C2025〕Keywords:中心性漿液性脈絡網膜症,硝子体手術,低眼圧,パキコロイド,光干渉断層計.centralserouschorio-retinopathy,parsplanavitrectomy,hypotony,pachychoroid,opticalcoherencetomography.Cはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserousCchorioretinopa-thy:CSC)は,おもに中年男性に多く発症する疾患であり,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)を特徴とする1).CSCは約半数の患者で自然治癒することが知られているが,再発や慢性化,あるいは脈絡膜新生血管を発症する患者が存在し,そのような症例は視機能予後に大きな影響を与える.近年,眼科領域におけるマルチモーダルイメージングの発達により,CSCの病態生理が明らかになってきている.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)において眼球後極から渦静脈周辺部までの広範囲の脈絡膜肥厚,脈絡膜大血管や渦静脈の拡張などの所見2)が,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)〔別刷請求先〕宮良安宣:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:YasunoriMiyara,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC630(130)abc図1症例1の中心性漿液性脈絡網膜症発症時の眼底写真と蛍光造影画像61歳,男性.右眼の裂孔原性網膜.離を発症し,経毛様体扁平部硝子体手術とシリコーンオイル置換術を受けた.3カ月後にシリコーンオイル抜去術を施行された.術翌日の眼圧はC7CmmHg,術後C4日目の眼圧はC6CmmHgと低眼圧を認めた.術後C4日目に中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)を発症した際の眼底写真と蛍光造影画像.a:右眼の眼底写真.黄斑部から耳下側にかけて漿液性網膜.離を認めた.b:造影初期のフルオレセイン蛍光造影(FA).黄斑部に多数の蛍光漏出を認めた(▲).c:造影中期のインドシアニングリーン蛍光造影(IA).FAでの漏出を含む広範囲にCCVHを認めた(.).では,脈絡毛細血管板の充盈遅延,脈絡膜血管拡張,脈絡膜血管透過性亢進(choroidalCvascularhyperpermeability:CVH)などの所見3)が示され,CSCの発症機序の理解を飛躍的に向上させた.これらの脈絡膜異常はパキコロイドと呼称され1),CSCや加齢黄斑変性の一部の発症や,進行に深くかかわることが注目されてきた.また,パキコロイドの主病態は渦静脈流出路障害と考えられており2),CSCではこの渦静脈流出路障害に加えて,交感神経の亢進,ステロイド投与,ストレスなどの発症要因が加わることで,SRDが発症する可能性が指摘されている6).これまで内眼手術後にCCSCを発症した報告は複数あるが,その発症メカニズムは十分に解明されていない.今回筆者らは,経毛様体扁平部硝子体手術(parsCplanavitrectomy:PPV)施行後の低眼圧を契機にCCSCを発症したと考えられるC2例を経験したので報告する.CI症例症例1患者:61歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:サルコイドーシス.現病歴:右眼の裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousreti-naldetachment:RRD)を発症し,PPVとシリコーンオイル置換を施行された.術後C3カ月でシリコーンオイル抜去術を施行する方針となった.術前所見:右眼矯正視力(0.5),右眼眼圧C19CmmHg,眼軸長はC24.27Cmmであった.前眼部に特記すべき所見はなかった.眼内レンズが挿入されており,硝子体腔はシリコーンオイルで置換されていた.網膜は復位しており,網膜前膜や増殖性変化は認めなかった.OCTでは脈絡膜肥厚が認められ,術前の中心窩下脈絡膜厚(subfovealCchoroidalCthick-ness:SCT)はC358Cμmであった.経過:25ゲージ硝子体手術システムを用いてシリコーンオイル抜去を行った.閉創時にC25CGポート部から漏出のあった創口はC8-0吸収糸で縫合し,眼灌流液で手術を終了した.術翌日の眼圧はC7mmHgで,術後C4日目の眼圧はC6mmHgと低眼圧であった.ポート部からの漏出はなく追加の縫合は行わなかった.術後C4日眼には黄斑から耳下側にかけてCSRDを認め,OCTでは脈絡膜肥厚,脈絡膜皺壁,網膜色素上皮.離,網膜下液を認め,SCTはC530Cμmに増加していた.原因裂孔とCSRDとの交通は認めなかった.SRD出現時の右眼矯正視力は(0.1)であった.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では,黄斑部に多数の漏出点が認められ,IAではCCVHが確認された(図1).これらの所見に基づき,PPV後に発症したCCSCと診断した.裂孔との交通によるCRRDの再発が危惧されたため,すべての漏出点に対して網膜光凝固術(出力C80.100CmW,凝固サイズC100Cμm,照射時間C0.1秒)を施行した.術後C11日目に眼圧C17CmmHgまで回復し,OCTでCSCTはC396Cμmに減少,SRDも改善した.経過のCOCTを図2に示す.右眼矯正視力は最終的に(0.7)となった.症例2患者:47歳,男性.主訴:視力低下.既往歴:RRDに対してCPPVの既往,僚眼にCCSCの既往.現病歴:右眼眼内レンズ脱臼の診断で,右眼CPPVと眼内図2症例1の経過中のOCT画像a:シリコーンオイル抜去術前のCOCT画像.脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張を認めるが,網膜.離は認めなかった.b:術後C4日目のCCSC発症時のCOCT画像.脈絡膜肥厚と脈絡膜血管拡張がさらに顕著となり,網膜色素上皮.離,網膜下液の出現を認めた.c:術後C11日目の網膜光凝固術後のCOCT画像.脈絡膜厚は術前と同程度まで減少し,網膜色素上皮.離,網膜下液は改善傾向がみられる.図3症例2の中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)発症時の眼底写真と蛍光造影画像47歳,男性.右眼の眼内レンズ脱臼のため,PPVと眼内レンズ強膜内固定術を施行された.術翌日の眼圧はC5CmmHgと低眼圧を認めたが,術後C4日目の眼圧はC13CmmHgと改善していた.術後C4日目にCCSC発症した際の眼底写真と蛍光造影.a:右眼の眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離を認めた.b:フルオレセイン蛍光造影(FA)画像.黄斑部に蛍光漏出を認めた(▲).c:インドシアニングリーン蛍光造影画像.FAでの漏出に一致する部位に脈絡膜血管透過性亢進を認めた(.).図4症例2の経過中のOCT画像a:術前のCOCT画像.脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張を認めるが,網膜.離は認めなかった.b:術後C4日目,中心性漿液性脈絡網膜症発症時のCOCT画像.脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張がわずかに増悪し,新しく網膜色素上皮.離,網膜下液の出現を認めた.c:術後C13日目,経過観察後のCOCT画像.脈絡膜厚は術前と同程度まで減少し,網膜下液は改善傾向である.レンズ強膜内固定術の方針となった.術前所見:右眼矯正視力(1.0),右眼眼圧C17CmmHg,眼軸長はC24.06Cmmであった.前眼部に特記すべき所見はなかった.眼内レンズは硝子体腔に脱臼しており,網膜.離は認めなかった.OCTでは脈絡膜肥厚が認められ,術前のCSCTはC411Cμmであった.経過:25ゲージ硝子体手術システムを用いてCPPV,眼内レンズ強膜内固定を行った.閉創時に強角膜切開創からの漏出は認められなかったが,25CGポート部からの漏出があり,創口をC8-0吸収糸で縫合し,眼灌流液で手術を終了した.術翌日の眼圧はC5mmHgで,術後C4日目には眼圧がC13mmHgに回復したが,OCTで脈絡膜肥厚,網膜色素上皮.離,網膜下液が認められ,SCTはC444Cμmに増加していた.SRD出現時の右眼矯正視力は(0.2)であった.ポート部や主創からの漏出はなく追加の縫合は行わなかった.FAでは蛍光漏出が確認され,IAではCCVHが認められた(図3).これらの所見に基づき,PPV後に発症したCCSCと診断した.SRDは限局していたため,経過観察の方針となった.その後,術後C13日目には眼圧がC17mmHgに上昇し,OCTでSCTはC384Cμmに減少,網膜色素上皮.離,網膜下液は自然に消退した.経過のCOCTを図4に示す.右眼矯正視力は最終的に(0.6)となった.CII考按PPV後に発症したCCSCのC2症例を報告した.いずれの症例も眼軸長はC24Cmm程度で,術前のCOCTにて脈絡膜肥厚がみられ,症例C2においては僚眼にCCSCの既往があった.術翌日の眼圧は低く,術後C4日目のCOCT所見において脈絡膜の肥厚がみられ,FAでは黄斑部に多数の漏出点があり,IAではCFAの蛍光漏出点を含む領域にCCVHがみられた.どちらの症例も眼圧の上昇とともに脈絡膜厚は薄くなり,SRDは消失した.PPVの術後合併症として,低眼圧は一定の確率で生じることが知られている.Bamonteらは,今回筆者らが使用した機材と同様のアルコン社製C25ゲージ硝子体手術システムにおける術後低眼圧症を検討し,術後眼圧がC5CmmHg以下の低眼圧がC13.1%の症例で認められたことを報告した7).加えて危険因子として,ガスタンポナーデを行わなかった症例,偽水晶体眼,再手術症例をあげている.また,Issaらはシリコーンオイル抜去後の合併症としてC12.9%で低眼圧が生じると報告しており,症例によっては慢性的な低眼圧が持続する可能性を指摘している8).30CG針を使用した山根法での眼内レンズ強膜内固定術では,2%と低い割合ではあるが,術後に低眼圧となる可能性が報告されている9).今回の症例1は偽水晶体眼,再手術症例,シリコーンオイル抜去眼であり,症例C2は眼内レンズ強膜内固定眼,再手術症例で,両眼ともガスタンポナーデは行わず眼灌流液で終了した.これらのリスク要因が術後の低眼圧を惹起したと考えられる.眼球が一時的な低眼圧になると,脈絡膜血流はどうなるのだろうか.脈絡膜は眼灌流圧(=血圧-眼圧)の変化に対してある程度の自己調節能力を示す.しかし,レーザードップラーを用いた脈絡膜血流の検討では,脈絡膜血流と動脈圧との間には相関関係がない一方で,脈絡膜血流と眼圧との間には有意な負の相関がみられることが報告されており10),脈絡膜循環の調節メカニズムは,血圧よりも眼圧の変化に対して調節能力が脆弱であるようである.また,暗室でのうつぶせ試験による検討では,眼圧の上昇と中心窩領域の脈絡膜厚に負の相関がみられること,ベースラインの脈絡膜が厚いほど脈絡膜厚の変化が生じることが報告されている11).同様に,レーザースペックルフローグラフィーを用いた検討においても,眼圧の低下は脈絡膜血流を増加させ,脈絡膜の管腔を増加させることが指摘されている12).これらの検討から,低眼圧は眼灌流圧の増加を招き,脈絡膜血流を増加させ,脈絡膜を厚くさせると考えられる.そして,これらの検討は,短時間での脈絡膜変化を観察しており,術後の急激な低眼圧による脈絡膜灌流変化は,比較的短時間で起こりうることに留意すべきである.実際に筆者らの症例でも,低眼圧が持続した術後C4日時点で脈絡膜が明らかに肥厚しており,そののち眼圧の改善とともに脈絡膜厚が減少していることが観察された.近年,CSCでは脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張,短眼軸,厚い強膜などが解剖学的な発症リスク因子であり,さらに別の要因が加わることにより,CSCが発症することが示唆されている6).これまで,内眼手術を契機にCCSCを生じた報告はいくつかあり13.18),手術からCCSCの発症までは,多くの症例で術後C1日.2週間程度である.CSC発症の原因として,手術自体の精神的・身体的ストレス,内境界膜.離による網膜への物理的ストレス,周術期のステロイド投与,術中の眼圧変動があげられており,とくに線維柱帯切除術後にCSCを発症した症例では,術後の低眼圧が原因と言及されている.今回の症例C1と症例C2はCCSCの既往やパキコロイドを有しており,このようなCCSC発症素因がある眼において,硝子体手術後の低眼圧が重なったことで,脈絡膜血流が短時間で急激に増加し,CSCを発症した可能性がある.術後の低眼圧が持続すると脈絡膜血流,脈絡膜厚が増加し,網膜色素上皮が障害されることでCSRDが生じる.一方で,眼圧が改善すると,脈絡膜血流,脈絡膜厚が正常化することでSRDが消失したと考えられる.先に述べたように,内眼手術は術中術後の短時間の眼圧変動,低眼圧により脈絡膜循環の変化が起こる可能性がある.CSCの解剖学的な発症リスク因子をもつ症例において術後にCSRDが発症した場合は,術中術後の低眼圧によるCCSC発症を鑑別疾患として留意する必要があろう.この場合は,速やかにCFAやCIAなどの蛍光眼底造影検査を行い,CSCの診断をつけることが重要である.また,術後CCSCの治療に関して,症例C1では網膜光凝固術を施行したが,症例C2では経過観察のみで低眼圧の改善に伴いCCSCも改善した.既報においても経過観察でCSRDが消失したという報告が約半数であり12.17),SRDが寛解しない症例では網膜光凝固や光線力学的療法が行われていた.CSCは自然寛解することが多く,視力予後も比較的良好であるとされているが,一方でCSRDの再発を繰り返す症例や遷延する症例では視力予後が悪化する.そのため,術後CCSCの治療としては,まず低眼圧となっている原因を突き止め,可能なら低眼圧に対する処置を行い,しばらく経過観察を行うという方針が望ましいと思われる.毛様体機能低下が疑われる場合,ステロイド投与を検討したくなるが,CSCが疑われる場合の安易なステロイドの増量はCCSCの遷延化を招く危険性があり,避けるべきであろう.低眼圧が持続する可能性が高い場合や長期間CSRDが持続する場合,また,RRDの原因裂孔にCSRDが交通することでCRRDの再発につながる場合などは,早めに網膜光凝固術や光線力学的療法を検討する必要があると考える.今回は硝子体手術後の低眼圧により脈絡膜肥厚を伴い,続発的にCCSCを発症したC2例を経験した.術後低眼圧に伴う脈絡膜の肥厚と脈絡膜血流の増加がCCSC発症の一因となったと考えられた.パキコロイドを有する患者における術後のSRDの出現は,CSCの発症を考慮する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GassCJD:PathogenesisCofCdisciformCdetachmentCofCtheCneuroepithelium.CAmCJCOphthalmolC63(Suppl):1-139,C19672)YangCL,CJonasCJCB,CWeiW:ChoroidalCvesselCdiameterCinCcentralCserousCchorioretinopathy.CActaCOphthalmolC91:Ce358-e362,C20133)IidaT,KishiS,HagimuraNetal:PersistentandbilateralchoroidalCvascularCabnormalitiesCinCcentralCserousCchorio-retinopathy.RetinaC19:508-512,C19994)WarrowCDJ,CHoangCQV,CFreundKB:PachychoroidCpig-mentepitheliopathy.RetinaC33:1659-1672,C20135)SpaideCRF,CGemmyCCheungCCM,CMatsumotoCHCetal:CVenousCoverloadchoroidopathy:aChypotheticalCframe-workforcentralserouschorioretinopathyandallieddisor-ders.ProgRetinEyeResC86:100973,C20226)HirookaCK,CSaitoCM,CYamashitaCYCetal:ImbalancedCcho-roidalCcirculationCinCeyesCwithCasymmetricCdilatedCvortexCvein.JpnJOphthalmolC66:14-18,C20227)BamonteCG,CMuraCM,CStevieCTanH:HypotonyCafterC25-gaugeCvitrectomy.CAmCJCOphthalmolC151:156-160,C20118)IssaCR,CXiaCT,CZarbinCMACetal:SiliconeCoilremoval:post-operativeCcomplications.CEye(Lond)C34:537-543,C20209)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C201710)PolskaE,SimaderC,WeigertGetal:Regulationofcho-roidalCbloodC.owCduringCcombinedCchangesCinCintraocularCpressureCandCarterialCbloodCpressure.CInvestCOphthalmolCVisSciC48:3768-3774,C200711)WangCYX,CJiangCR,CRenCXLCetal:IntraocularCpressureCelevationCandCchoroidalCthinning.CBrCJCOphthalmolC100:C1676-1681,C201612)AkahoriT,IwaseT,YamamotoKetal:Changesincho-roidalblood.owandmorphologyinresponsetoincreaseinCintraocularCpressure.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:C5076-5085,C201713)佐藤圭子,池田誠宏,岩崎哲也ほか:濾過手術後に中心性漿液性網脈絡膜症様病変を生じたC1例.臨眼48:1176-1177,C199414)ImasawaCM,COhshiroCT,CGotohCTCetal:CentralCserousCchorioretinopathyCfollowingCvitrectomyCwithCintravitrealCtriamcinoloneacetonidefordiabeticmacularoedema.ActaOphthalmolScandC83:132-133,C200515)Moreno-LopezCM,CPerez-LopezCM,CCasas-LleraCPCetal:CPersistentsubretinal.uidd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片眼性網膜色素上皮剝離の所見から初期診断が困難であった 原田病の1 例

2023年10月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(10):1354.1359,2023c片眼性網膜色素上皮.離の所見から初期診断が困難であった原田病の1例古味優季*1熊谷知幸*1吉川祐司*1石川聖*1渋谷雅之*1庄司拓平*1,2蒔田潤*1篠田啓*1*1埼玉医科大学医学部眼科*2小江戸眼科内科CACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasethatWasDi.culttoDiagnoseduetoUnilateralRetinalPigmentEpithelialDetachmentYukiKomi1),TomoyukiKumagai1),YujiYoshikawa1),ShoIshikawa1),MasayukiShibuya1),TakuheiShoji1,2),JunMakita1)andKeiShinoda1)1)DivisionofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversity,2)KoedoEyeInstituteC背景:Vogt-小柳-原田病(VKH)と中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)はときとして鑑別が困難である.今回,初診時所見からは急性CCSCを否定できなかったが,時間とともに所見が顕在化したことで網膜色素上皮.離(PED)を伴うVKHと診断した症例を経験した.症例:23歳,女性.左眼歪視を主訴に埼玉医科大学病院眼科を受診した.数日前から耳鳴りや頭痛があった.左眼にのみ脈絡膜の肥厚とCPED,漿液性網膜.離(SRD)があった.VKHを疑うも蛍光眼底造影検査では特徴的な所見を認めず,急性CCSCも疑われた.1週間後に右眼にCSRDと脈絡膜肥厚が出現し,再検した蛍光眼底造影検査でCVKHに特徴的な所見を認めた.腰椎穿刺にて細胞数増多もあり不完全型CVKHと診断し,ステロイドパルス療法を施行し症状が改善した.結論:VKHは画像所見が非典型的であっても,時間とともに所見が顕在化する可能性を考慮し経過観察する必要がある.CPurpose:TopresentacaseofVogt-Koyanagi-Harada(VKH)diseasewithretinalpigmentepithelialdetach-ment(PED)thatwasinitiallydi.culttodiagnose.Case:A23-year-oldfemalepresentedwithmetamorphopsiainherCleftCeyeCafterCexperiencingCtinnitusCandCheadaches.CExaminationCrevealedCserousCretinaldetachment(SRD),Cchoroidalthickening,andPEDinthateye,andVKHdiseasewassuspected.However,therewerenocharacteristic.uoresceinangiography(FA).ndings,CandCacuteCcentralCserousCchorioretinopathyCcouldCnotCbeCruledCout.COneCweekClater,CSRDCandCchoroidalCthickeningCalsoCappearedCinCherCrightCeye,CandCFACimagesCrevealedCcharacteristicC.ndingsofVKHdisease.Alumbarpuncturerevealedanincreaseinthenumberofcells,andadiagnosisofincom-pleteVKHdiseasewasmade.Steroidpulsetherapywasinitiated,andthesymptomsimproved.Conclusion:EvenwhenFAimagesareatypicalofVHKdisease,follow-upexaminationsarerecommended,ascharacteristic.ndingsofthediseasemaypossiblybecomeapparentovertime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(10):1354.1359,C2023〕Keywords:原田病,中心性漿液性脈絡網膜症,網膜色素上皮.離,光干渉断層計,インドシアニングリーン蛍光造影.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,centralserouschorioretinopathy,pigmentepithelialdetachment,opticalco-herencetomography,indocyaninegreenangiography.Cはじめにて自己免疫が生じると考えられている3,4).一方,中心性漿Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:液性脈絡網膜症(centralCserouschorioretinopathy:CSC)VKH)は急性期に両眼性に滲出性網膜.離を生じ,視機能は黄斑部に漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:低下を生じる疾患である1.3).脈絡膜のメラノサイトに対しSRD)をきたし,視力低下や歪視・小視などの視機能障害を〔別刷請求先〕古味優季:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷C38埼玉医科大学医学部眼科Reprintrequests:YukiKomi,M.D.,DivisionofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversity,38Morohongo,MoroyamaIruma,Saitama350-0495,JAPANC1354(96)図1初診時のカラー眼底とOCT所見左眼には隔壁を伴う漿液性網膜.離と網膜色素上皮.離,脈絡膜の肥厚が認められる(下)が,右眼は脈絡膜の肥厚と脈絡膜大血管の肥厚を認めた(上).生じる疾患で,おもな原因として脈絡膜循環障害が考えられている5).VKHとCCSCではいずれも脈絡膜と網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)に障害をきたしており,SRDを生ずる,ないしフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)でCRPEからの漏出がみられるなど臨床所見は似ている6).しかし,VKHとCCSCの治療戦略は異なる.VKHではステロイドが治療の主軸となるが,CSCではステロイドは原因の一つでもあり病態を悪化させる可能性がある7).そのため,VKHとCCSCの鑑別は慎重に行われる必要があるが,臨床所見が類似することから誤診されることが多い6,8).今回筆者らは,初診時の画像所見が非典型的であったが,時間とともに所見が顕在化したことからCVKHと診断し適切な加療を行うことができたC1症例を経験したので報告する.I症例23歳,女性.左眼歪視を自覚したため近医眼科を受診し,左眼CSRD,網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialCdetach-ment:PED)の所見があり埼玉医科大学病院眼科を紹介受診した.既往歴はなく,内服薬は漢方薬(当帰芍薬散)のみであった.受診数日前から耳鳴りや頭痛があったが,内科は受診はしていなかった.最高矯正視力(best-correctedCvisualacuity:BCVA)は右眼C1.2,左眼C0.6であり,前眼部に炎症は認めなかった.左眼に眼底検査でCSRDを認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で隔壁を伴うCSRDとCPED,および脈絡膜肥厚を認めた.右眼はCOCTで脈絡膜大血管の肥厚を認めた(図1).同日,FAとインドシアニングリーン蛍光造影(indocya-図2初診時蛍光造影検査所見a:左眼フルオレセイン蛍光造影(FA)初期.3カ所の過蛍光あり.Cb:左眼CFA後期.2カ所は貯留し,1カ所は蛍光漏出をしている.Cc:左眼インドシアニングリーン蛍光造影(IA)初期..離範囲に一致した低蛍光があり.僚眼と比較するとChypo.uorescentdarkdots(HDDs)が生じているようにみえる.Cd:左眼CIA後期.複数の境界明瞭な小斑状過蛍光が認められる.Ce:右眼CFA後期.明らかな異常なし.Cf:右眼CIA後期.HDDsなど明らかな異常はない.CnineCgreenangiography:IA)を施行した.FAでは右眼にの境界明瞭な小斑状過蛍光となった(図2c,d).VKHに特異常所見はなく,左眼に初期から黄斑部に過蛍光があり,後徴的な散在する低蛍光斑(hypo.uorescentCdarkdots:期にはC2カ所は貯留を,1カ所は漏出を認めた(図2a,b).HDDs)も疑われたが,この所見のみでCVKHと診断するこIAでは.離範囲に一致した低蛍光がみられ,後期には複数とは困難であった.右眼はCFAでは異常なく,IAで顆粒状図3再検時のカラー眼底とOCT所見初診時にはなかった漿液性網膜.離が認められる.cd図4再検時の蛍光造影検査所見a:再検時右眼フルオレセイン蛍光造影(FA).乳頭周囲に点状の多発性蛍光漏出が認められる.Cb:再検時左眼FA.乳頭周囲に点状の多発性蛍光漏出,中央に蛍光貯留あり.Cc:再検時右眼インドシアニングリーン蛍光造影(後期相).散在するChypo.uorescentdarkdots(HDDs)があり,脈絡膜の充盈遅延が認められる.Cd:再検時左眼CICG(後期相).右眼同様,散在するCHDDsがあり,脈絡膜の充盈遅延が認められる..離範囲に一致した低蛍光あり.表1OCT所見の比較ShinWB8)(n=100eyes)CLinD9)(n=117eyes)VKHCCSCCVKHCCSCC疾患数C50C50C65C52CSRD43(86%)47(94%)65(1C00%)52(1C00%)CPED0(0%)30(60%)2(3%)23(C44.2%)隔壁を伴うCSRD27(54%)2(4%)55(C84.6%)C0RPE/脈絡膜の皺襞27(54%)1(2%)44(C67.7%)C0VKH:Vogt-小柳-原田病,CSC:中心性漿液性脈絡網膜症,SRD:漿液性網膜.離,PED:網膜色素上皮.離,RPE:網膜色素上皮.過蛍光やCHDDsなど異常はなかった(図2e,f).光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangi-ography:OCTA)の脈絡膜毛細血管板(choriocapillaris:CC)のCenface画像は.離範囲に一致した無信号領域を認めた.OCT所見では両眼の脈絡膜肥厚を認めるが,右眼のCFAとCICG所見には異常はなかった.大血管拡張による変化による可能性もあり,左眼COCTではCPEDを伴うことから急性CCSCも疑われ,ステロイド加療にて増悪するリスクも考えられたため,カリジノゲナーゼ内服を処方し,1週間後に再診となった.再診時,BCVAは右眼C1.2,左眼C0.8,前眼部に炎症は認めなかった.右眼眼底にもCSRDと脈絡膜の肥厚を認めた(図3).蛍光造影検査を再度施行しCFAでは両眼に点状の多発性蛍光漏出を認めた(図4a,b).IAでは両眼に散在するHDDs,および脈絡膜の充盈遅延を認めた(図4c,d).同日,腰椎穿刺を施行したところ,髄液中に細胞数増多を認めた.これらの結果から診断基準に則り,不完全型CVKHと診断した.入院後,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムC1,000Cmg/日C×3日)を施行し,BCVAは右眼C1.2,左眼C1.2,歪視などの症状は改善した.SRDやCPEDは縮小し,脈絡膜厚は減少した.その後ステロイド内服を漸減後終了し,2年後も再発はみられていない.CII考按現在のCVKHの診断基準1)はC2001年に作成されたものである.画像検査所見は眼底所見とCFA所見が主体であるが,近年,これらに加えてCIA,OCT,OCTA所見がCVKHの診断や経過観察に有用であると報告されている2.4).既報では,VKHの患者のうちC20%前後が最初にCCSCと診断され6),同様にCCSC患者のC20%が初回にCVKHと診断された8)と報告されている.Yangらの報告はCOCTが汎用されるようになった以前のものであり,OCTを用いて同様の検討を行った場合,上記頻度とは異なる可能性がある6).OCTが使用された文献ではCVKHの患者のうちC14%がCCSCと誤診されたと報告されている8).OCT所見にて隔壁を伴うCSRDとCRPEの皺襞はCVKHに多くみられ,PEDはCCSCに特異的といわれている8,9)(表1).しかし,頻度は少ないが,今回の症例のようにCVKHでCPEDが生じることは報告されている.文献によっては急性期CVKH眼におけるCPEDの頻度は,OCT所見の比較において65眼中C2眼(3.1%)9),OCTおよびCFA所見の比較でC80眼中C1眼(1.3%)10),enCfaceOCTおよびOCTA所見の比較で眼中C0眼(0%)11),3DOCTを用いた観察でC50眼中C5眼(10%)にみられた12)などと多様で,検出方法や検査範囲の違いなどによると考えられる.わが国でもCOCTが導入されるより以前や導入早期にCVKHの症例でPEDを検出した報告があり,丸山らは急性期CVKH10例C20眼の詳細な観察においてC2眼にCPEDを認めたとし13),牧野らは網膜.離が持続したCVKHの症例でCPEDを認め,ステロイド治療が遅れたこともあって脈絡膜における滲出性反応が強く,臨床的には確認が困難であったが,滲出液の貯留は網膜下のみならずCPEDの形で網膜色素上皮とCBruch膜との間にも生じたものと考えられる,と記述している14).その他の検査所見としては,IA検査にて斑状の低蛍光斑(hypo.uorescentCdarkdots:HDDs)はCVKHにおいてC100%にみられ15),OCTAの脈絡膜毛細血管板層のCenface画像では,CSCでは網膜下液と一致した無信号領域が,VKHでは脈絡膜毛細血管板層の虚血に一致した無信号領域がみられる11).本症例は初診時には片眼性で,OCT所見ではCSRDに加えPEDを伴いCCSCとCVKH双方に特徴的な所見を呈した.FA,IA,OCTA所見ではCCSCに近い所見を呈したため,診断に難渋した.診断後に初診時のCIAを確認すると,右眼と比較するとわずかにCHDDsを認める.診断に迷いが生じた際にはマルチモーダルイメージを駆使して総合的に判断することが重要である.VKHにCPEDが生じる機序は解明されていない.PEDの病因は,炎症・虚血・特発・変性のC4つに大別されており,炎症性CPEDは,脈絡膜の炎症が血管透過性の増加と外血液眼関門の破壊を引き起こし,続いてCRPE下に蛋白質を多く含む液体が蓄積した場合に生じると述べている16).VKHでも同様の機序でCPEDを生じている可能性が考えられる.近年,VKHには脈絡膜のうねり12)や加療後にCRPE裂孔が生じた17)などの報告があり,VKHにおいてはCRPEに機能障害だけでなく裂孔などの器質障害が生じCRPE下の貯留液が網膜下腔へと漏出することによってCSRDとなるため,結果としてCVKHではCPEDが観察されにくい可能性があるかもしれない.今回の症例は若年であり,発症から短期間であることから,RPEの障害がわずかでありCPEDを観察することができたと考えられるが,明らかなCRPEの断裂は観察されておらず,器質障害が生じた確証はない.VKHは病初期では眼所見が非典型的であっても,時間とともに眼所見が顕在化し診断に至る可能性があり,正しい治療を行ううえで慎重に経過観察をする必要がある.文献1)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C20012)PichiCF,CInvernizziCA,CTuckerCWRCetal:OpticalCcoher-enceCtomographyCdiagnosticCsignsCinCposteriorCuveitis.CProgRetinEyeResC75:100797,C20203)OC’KeefeCGA,CRaoNA:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CSurvOphthalmolC62:1-25,C20174)長谷川英一:Vogt-小柳-原田病(VKH).RetinaCMedicineC6:46-50,C20175)YannuzziLA:CentralCserouschorioretinopathy:aCper-sonalperspective.AmJOphthalmolC149:361-363,C20106)YangCP,CRenCY,CLiCBCetal:ClinicalCcharacteristicsCofCVogt-Koyanagi-HaradaCsyndromeCinCChineseCpatients.COphthalmologyC114:606-614,C20077)ArakiCT,CIshikawaCH,CIwahashiCCCetal:CentralCserousCchorioretinopathyCwithCandCwithoutsteroids:aCmulti-centersurvey.PLoSOneC14:e0213110,C20198)ShinWB,KimMK,LeeCSetal:Comparisonoftheclini-calCmanifestationsCbetweenCacuteCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCandCacuteCbilateralCcentralCserousCchorioretinopa-thy.KoreanJOphthalmolC29:389-395,C20159)LinD,ChenW,ZhangGetal:ComparisonoftheopticalcoherenceCtomographicCcharactersCbetweenCacuteCVogt-Koyanagi-Haradadiseaseandacutecentralserouschorio-retinopathy.BMCOphthalmolC14:87,C201410)LiuCXY,CPengCXY,CWangCSCetal:FeaturesCofCopticalCcoherenceCtomographyCforCtheCdiagnosisCofCVogt-Koya-nagi-Haradadisease.RetinaC36:2116-2123,C201611)AggarwalCK,CAgarwalCA,CDeokarCACetal:DistinguishingCfeaturesCofCacuteCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCandCacuteCcentralCserousCchorioretinopathyConCopticalCcoher-enceCtomographyCangiographyCandCenCfaceCopticalCcoher-enceCtomographyCimaging.CJCOphthalmicCIn.ammCInfectC7:3,C201712)ZhaoGL,LiRZ,PangYHetal:Diagnosticfunctionof3DopticalCcoherenceCtomographyCimagesCinCdiagnosisCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCatCacuteCuveitisCstage.CMedSciMonitC24:687-697,C201813)丸山泰弘,大谷倫裕,岸章治:Vogt-小柳-原田病の急性期COCT所見.臨眼52:1563-1566,C199814)牧野一雄,藤井節子,塚本尚哉ほか:網膜.離が持続した原田病患者の網膜色素上皮障害.あたらしい眼科C13:797-801,C199615)AbouammohMA,GuptaV,HemachandranSetal:Indo-cyaninegreenangiographic.ndingsininitial-onsetacuteVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CActaCOphthalmolC94:C573-578,C201616)Zayit-SoudryCS,CMorozCI,CLoewensteinA:RetinalCpig-mentCepithelialCdetachment.CSurvCOphthalmolC52:227-243,C200717)PrallCFR,CTokuharaCKG,CKeefeCKSCetal:RetinalCpigmentCepitheliumCtearCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CRetinCCasesBriefRepC5:284-286,C2011***

片眼の網膜疾患患者の利き目の検討

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1596.1599,2019c片眼の網膜疾患患者の利き目の検討加藤舞松井孝子安田節子磯島結菜佐藤幸子田中敦子齋藤昌晃吉冨健志秋田大学医学部眼科学講座CDominantEyeSwitchinginPatientswithUnilateralRetinalDiseaseMaiKato,TakakoMatsui,SetsukoYasuda,YunaIsoshima,SachikoSato,AtsukoTanaka,MasaakiSaitoandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicineC対象および方法:片眼の網膜疾患患者のうち患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名を対象に完全矯正視力,日常視力を測定した.利き目の判定にはCholeCincard法を用いた.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および視力差について検討した.結果:Holeincard法で判定した利き目で,健眼が利き目であった群は,165名で患眼が利き目であった群はC69名であった.健眼,患眼の視力差は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36であった.結論:片眼の網膜疾患患者では健眼が利き目の人が多いことがわかった.健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差がClogMAR0.42であったことから,健眼を完全矯正して視力差をつけ,健眼と患眼の視力差をClogMAR0.4以上にすることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件の一つになる可能性が示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCdominantCeyeCswitchingCinCpatientsCwithCunilateralCretinalCdisease.CSubjectsandMethods:Inthisstudy,best-correctedvisualacuity(BCVA)anddailyvisualacuity(VA)weremeasuredin234patientswithunilateralretinaldiseaseandaVAof.1.0(LogMAR).Inallpatients,the‘holeincard’methodwasusedtodetectthedominanteye.Thepatientswerethendividedintothefollowingtwogroups:1)GroupA(thedominanteyewasthenormalhealthyeye)and2)GroupB(thedominanteyewasthea.ectedeye).Results:Ofthe234patients,therewere165inGroupAand69inGroupB.InGroupAandGroupB,themeandi.erenceofVA(LogMAR)betweenthehealthyeyeandthea.ectedeyewas0.27±0.29CandC0.17±0.21,respectively,andthemeandi.erenceofdailyVA(LogMAR)was0.42±0.36CandC0.21±0.36,respectively.Conclusions:Oftheunilater-alretinaldiseasepatientsinthisstudy,mostwereinGroupA.SincethemeandailyVAdi.erencebetweeneacheyeinGroupAwas0.42(LogMAR),itsuggeststhataVAofLogMAR0.4orhighermaybeoneoftheconditionsthatcausesthedominanteyetoswitchfromthea.ectedeyetothehealthyeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1596.1599,C2019〕Keywords:利き目,holeincard法,加齢黄斑変性,中心性漿液性脈絡網膜症,網膜.離.dominanteye,holeincardtest,age-relatedmaculardegeneration,centralserousretinopathy,retinaldetachment.Cはじめに視力検査はさまざまな疾患の患者で行われる検査の一つである.片眼の網膜疾患患者の視力検査で,健眼を遮閉し患眼の視力を測定する際に,暗点や歪みなど,患眼での見えにくさを自覚し,訴える患者が多く存在している.しかし,網膜疾患などで片眼の視力が低下しても,日常視では両眼で見ているため,その患者が患眼の視力検査時に訴える見えにくさを日常生活の不自由さとして訴えることは少ないと思われる.赤座らは黄斑疾患患者の利き目の移動について検討し,術前に疾患眼が利き目であったC11例中C5例で,術後に利き目が健常眼に移動していた,と報告している1).高見らの報告では健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉〔別刷請求先〕加藤舞:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MaiKato,DepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPANC1596(120)図1Holeincard法1左:被験者がCholeincardを持つ.右:検者が遮閉し利き目を判定する.図2Holeincard法2左:検者がCholeincardを持つ.右:被験者が覗き込む様子から利き目を判定する.膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定したものがある2).不自由さを感じない理由は両眼で見ていることに加え,片眼の網膜疾患の発症により健眼と患眼に視力差が生じ,利き目が健眼に切り替わったことで,患眼があまり使われなくなった可能性を考え,今回筆者らは,健眼と患眼の利き目の割合と視力差について検討した.CI対象および方法対象は,2018年C5.10月に当院の網膜硝子体外来を受診した片眼の網膜疾患患者のうち,患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名(男性C153名,女性C81名),平均年齢はC67.8C±13.6歳(男性C67.8歳女性C67.7歳)で,疾患名は加齢黄斑変性(117名),中心性漿液性脈絡網膜症(29名),網膜.離(36名),黄斑前膜(11名),黄斑円孔(7名)などであった.方法は,他覚的屈折検査を行い,完全矯正視力,日常視力,利き目を測定した.今回用いた日常視力とは,普段使用している眼鏡やコンタクトレンズの視力,使用していない人は裸眼視力とした.利き目の判定は,完全矯正レンズを装用し,視力に応じたCLandolt環を視標にCholeincard法で行った.CHoleincard法C1は被験者本人に,holeincardを持った腕を伸ばし,holeincardの穴の中央に視標を合わせるよう指示した.その後,検者が片眼ずつ遮閉をして,視標が消えたかどうかを聞き,利き目を判定した(図1).HoleCincard法2は検者がCholeCincardを被験者の眼前に掲げ,被験者にCholeincardを覗き込んで視標を見るよう指示し,どちらの眼で覗いたかを観察して,利き目を判定した(図2).HoleCincard法1を2回,holeincard法2を1回,合計3回holeincard法を施行し,3回すべて同じ結果が得られた眼を利き目とした.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および健眼と患眼の視力差について検討した.1.001.000.52±0.370.900.800.700.27±0.290.600.500.400.300.200.100.00-0.10II結果対象の片眼の網膜疾患患者C234名の利き目の割合は,健眼利き目群C165名(70.5%),患眼利き目群C69名(29.5%)で健眼が利き目の割合が多かった.疾患眼の左右の割合は右眼113名(48.3%)で左眼C121眼(51.7%)で左右差はみられなかった.利き目群の健眼および患眼の完全矯正視力は,健眼Clog-MAR.0.01±0.09,患眼ClogMARC0.27±0.29であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の完全矯正視は,健眼ClogMAR.0.02±0.08,患眼ClogMARC0.15±0.23であった(図3).健眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼ClogMARC0.15±0.23,患眼ClogMARC0.52±0.37であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼Clog-MAR0.10±0.18,患眼ClogMAR0.36C±0.34であった(図4).完全矯正視力と日常視力の健眼,患眼の視力差を健眼利き目群と患眼利き目群で調べた結果は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27C±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17C±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42C±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36で対応のないCt検定で有意差を認めた(表1).CIII考按今回の検討で,片眼の網膜疾患患者では,健眼利き目群165名,患眼利き目群C69名で健眼が利き目の人が多いことがわかった.健常眼の利き目は右眼がC70%で左眼がC30%で,網膜疾患患者では,初診時に右眼が利き目であったものがC51%で左眼がC49%という赤座らの報告がある.今回も,疾患眼の左右の割合に差がなかったのにもかかわらず,健眼が利き目の割合が多かったことから,網膜疾患の発症により利き目が移動した可能性が考えられた.このことから,片眼の網膜疾患患者では利き目である健眼を使用する0.900.800.700.600.500.400.300.200.100.00-0.10図4日常視力の比較表1健眼・患眼の視力差健眼利き目群(n=165)患眼利き目群(n=69)C*p対応のないCtCtest*完全矯正C0.27±0.29C0.17±0.21Cp=0.3584日常視C0.42±0.36C0.21±0.36p<C0.0001機会が多いことにより,日常生活で不自由さを訴える人が少ないと考えた.各眼の矯正視力(1.2)以上の健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定した高見らの報告がある2).覗き孔法行ったときの利き目の切り替わる視力値は,利き目の優位性が強い群(覗き孔法,利き眼側指差し法,非利き眼側指差し法のC3種類の利き目検査の結果がすべて左右どちらかに一致している群)でClogMAR0.75,弱い群(3つの検査結果が一致せず左右ばらつきがみられた群)でClogMAR0.54まで,利き目の視力を下げたときに利き目が切り替わったという報告だった2).今回は,健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差が平均ClogMAR0.42であったことから,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上あることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件となる可能性が考えられた.患眼が利き目の人も,利き目が切り替われば日常生活の不自由さが軽減すると考えられる.普段,患眼の視力にばかり注意が向きがちだが,利き目が切り替わる視力差がClogMAR0.4以上である可能性が示されたことから,健眼の視力にも注目し,健眼を完全矯正して健眼と患眼の視力差をつけることが,日常生活の見え方の質を上げる一つの方法ではないかと考えた.しかし,患眼利き目群にも,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上の人も存在したため,利き目が切り替わる因子は視力のみの影響ではないと考えられる.今後視力以外の因子についても検討が必要であると考えた.文献き目の移動.日眼会誌111:322-326,C20172)高見有紀子,赤池麻子,岡井佳恵ほか:利き眼の程度の定1)赤座英里子,藤田京子,島田宏之ほか:黄斑疾患患者の利量化について.眼紀52:951-955,C2001***

糖尿病網膜症に高度な黄斑部滲出性網膜剥離を認めた症例

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(97)2350910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):235238,2009cはじめに糖尿病網膜症に併発する黄斑部漿液性網膜離には,糖尿病黄斑症の悪化がまず考えられる.しかし,高度な黄斑部漿液性網膜離が出現した場合は,他の疾患の合併なども考える必要がある.今回,安定していた糖尿病網膜症に,中心性漿液性脈絡網膜症を合併し,急激に高度の黄斑部漿液性網膜離を生じた症例を経験したので報告する.I症例患者:65歳,男性.初診:平成10年1月30日.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧(この時点では糖尿病は指摘されていなかった).〔別刷請求先〕緒方奈保子:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:NahokoOgata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,Fumizono-cho10-15,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN糖尿病網膜症に高度な黄斑部滲出性網膜離を認めた症例嶋千絵子*1緒方奈保子*1松山加耶子*1松岡雅人*1和田光正*1髙橋寛二*2松村美代*2*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2関西医科大学附属枚方病院眼科SevereSerousMacularDetachmentinaCaseofQuiescentDiabeticRetinopathyChiekoShima1),NahokoOgata1),KayakoMatsuyama1),MasatoMatsuoka1),MitsumasaWada1),KanjiTakahashi2)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:治療後安定していた糖尿病網膜症に,急激に高度な黄斑部滲出性網膜離を生じ,中心性漿液性脈絡網膜症の併発が疑われた症例を経験したので報告する.症例:65歳,男性.初診時左眼中心性漿液性脈絡網膜症と診断し,光凝固治療を行った.7年後,再診時に両眼増殖糖尿病網膜症を認め,汎網膜光凝固と硝子体手術を施行.以後眼底所見は安定していたが,1年後に突然左眼黄斑部に高度の滲出性網膜離を生じた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で網膜色素上皮離とその辺縁からの蛍光漏出を認めた.同部に光凝固を行い,網膜離は消失した.結論:糖尿病網膜症に合併する黄斑部の滲出性網膜離には,糖尿病黄斑症の増悪によるものだけではなく,中心性漿液性脈絡網膜症の併発によることがあり,注意を要する.Wereportacaseofsevereserousretinaldetachmentinthemacularregioninquiescentdiabeticretinopathy.Thepatient,a65-year-oldmale,hadbeentreatedwithphotocoagulationinhislefteyeforcentralserouschori-oretinopathy.Sevenyeaslater,hevisitedourhospitalwithdecreasedvisioninbotheyes.Hepresentedwithprolif-erativediabeticretinopathyinbotheyesandunderwentvitrectomyfollwingpanretinalphotocoagulation.Thereafter,hiseyesshowedquiescentcondition.Oneyearslater,severeserousretinaldetachmentinthemacularregionabruptlyoccurredinhislefteye.Fluoresceinangiographyrevealedpigmentepithelialdetachmentaccompa-niedbydyeleakagefromtheedge.Laserphotocoagulationattheleakagepointsledtocompleteimprovement.Serousretinaldetachmentinthemacularregion,originatingfromcentralserouschorioretinopathy,canappeareveninstableproliferativediabeticretinopathy.Itisimportanttodierentiatecentralserouschorioretinopathyfromseverediabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):235238,2009〕Keywords:漿液性網膜離,糖尿病網膜症,中心性漿液性脈絡網膜症,色素上皮離,糖尿病黄斑浮腫.serousretinaldetachment,diabeticretinopathy,centralserouschorioretinopathy,pigmentepithelialdetachment,diabeticmacularedema.———————————————————————-Page2236あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(98)家族歴:父が高血圧.現病歴:10日前からの左眼視力低下が出現し,近医より左眼黄斑変性疑いにて紹介受診.初診時所見:視力は右眼矯正1.5,左眼矯正0.7.眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHgで,前眼部には異常なく,中間透光体は両眼とも軽度白内障のみであった.眼底には左眼に黄斑部を含む漿液性網膜離と眼底後極部に網膜毛細血管瘤を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)と,光干渉断層計(OCT)にてmicroripと思われる点状漏出を伴う色素上皮離(PED)を認めた(図1a,b).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)では,早期に脈絡膜充盈遅延と脈絡膜静脈の拡張,中後期に脈絡膜異常組織染を認めた(図1c).右眼に異常は認めなかった.経過:以上より,左眼の中心性漿液性脈絡網膜症と診断し,毛細血管瘤は傍中心窩毛細血管拡張症と診断した.PED辺縁と漏出点に光凝固を施行したところ,3カ月後網膜離は消失し,PEDも扁平化し,視力は矯正1.0まで回復した.しかし,以後受診が途絶えた.平成11年頃より糖尿病を指摘されていたが眼科受診はしなかった.3カ月前からの両眼視力低下を主訴に,7年ぶりに平成17年2月19日眼科受診.視力は右眼矯正0.5,左眼矯正0.2で,両眼ともに眼底に網膜出血と綿花様白斑が多発し,進行した糖尿病網膜症を認めた(図2a).左眼はFAにて広範な無血管野と網膜新生血管を認め,増殖糖尿病網膜症の眼底所見であった.後極部には初診時にも認められたPEDと新たに出現したPEDを認めた(図2b).両眼に汎網膜光凝固を開始し,その後発生した両眼硝子体出血に対して早期早期中期中期動脈相動脈相静脈相静脈相後期後期後期後期中心窩中心窩abc1初診時の左眼眼底所見(H10.1.30)a:FAにて,漏出を伴うPEDと網膜毛細血管瘤を認める.b:OCTにて,黄斑部を含む滲出性網膜離とその上方のPED(矢印)を認める.c:IAにて,上段:動脈相(22秒)で脈絡膜充盈遅延(矢印),中段:静脈相(27秒)で脈絡膜静脈拡張(矢印),下段:後期(12分)に異常脈絡膜組織染(矢印)を認める.ab図2初診から7年後の再診時眼底所見(H17.2.19)a:両眼の眼底写真.綿花様白斑,網膜出血を多数認め,左右同様の糖尿病網膜症を認める.b:左眼のFA.広範な無血管野と網膜新生血管を認め,枠外では以前認めたPED(黒矢印)と,新たに出現したPED(白矢印)を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009237(99)硝子体手術を施行し,以後網膜症は活動性が低下し安定していた(図3).1年後(平成18年6月13日),左眼に突然高度の漿液性網膜離が出現し(図4a),視力は矯正0.09となった.OCTにて黄斑部を含む漿液性網膜離とPEDを認め(図4b),FAでPED辺縁から網膜下への蛍光漏出を認めた(図4c).IAでは,動脈相で脈絡膜充盈遅延と脈絡膜の血管透過性亢進所見を認めた.しかし脈絡膜新生血管を示す網目状血管やポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の所見は認めなかった.以上より,中心性漿液性脈絡網膜症の再発と診断し,PED周囲と漏出部に光凝固を施行した.1カ月後,中心窩の漿液性網膜離とPEDは消失した(図5a,b).視力は糖尿病黄斑症による変性萎縮により矯正0.1にとどまったが,その後1年経過した現在も再発なく安定している.II考察糖尿病網膜症に高度な黄斑部漿液性網膜離が出現した場合,糖尿病黄斑浮腫以外で考えられる病態としては,全身状態の変化,加齢黄斑変性の合併,過剰な汎網膜光凝固,中心性漿液性脈絡網膜症の合併,炎症性疾患(原田病,強膜炎,梅毒性ぶどう膜炎など)の合併,その他の疾患(腫瘍,ピット黄斑症候群など)の合併などがあげられる.今回報告した症例は,初診時,中心性漿液性脈絡網膜症と傍中心窩毛細血管拡張症の併発と診断したが,このときすでに糖尿病網膜症があった可能性がある.7年後再診時には増殖糖尿病網膜症となっており,光凝固と硝子体手術にて眼底所見は約1年間安定していた.しかし,左眼に突然高度漿液性網膜離が出現し,FAにてPED辺縁からの強い漏出を認めた.このFA所見より,本症例は糖尿病網膜症に中心性漿液性脈絡網膜症が併発し,漿液性網膜離が出現したと考え,光凝固を施行し,網膜離は消失した.ab図5治癒後の左眼眼底所見(H19.3.17)a:眼底写真,b:OCT.網膜離は消失し,滲出性変化は認めない.図3安定時の左眼FA(H18.2.17)PEDのみ過蛍光を示すが,滲出性変化は認めない.①②①②acb図4漿液性網膜離出現時の左眼眼底所見(H18.6.13)a:眼底写真.黄斑部を含む広範な高度漿液性網膜離が出現.b:aの眼底写真の①②に対応するOCT所見.黄斑部を含む漿液性網膜離とPEDを認める.c:FAにて,PED辺縁からの漏出を認める(矢印).上:早期,下:後期.———————————————————————-Page4238あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(100)糖尿病網膜症とともに,糖尿病脈絡膜症の存在も明らかにされてきており1,2),糖尿病脈絡膜症の組織では,内皮基底膜の肥厚による脈絡膜毛細血管の狭細化,閉塞や脱落,脈絡膜内微小血管異常や血管瘤,新生血管などが知られている.一方,中心性漿液性脈絡網膜症は,脈絡膜血管透過性が亢進し,二次的に網膜色素上皮が障害され,漿液性網膜離が生じると考えられているが,なぜ脈絡膜病変が生じるか,循環不全と血管透過性亢進との関係は不明である.他の眼疾患や全身状態の変化の際に中心性漿液性脈絡網膜症が合併することもある.ステロイドの全身投与による併発はよく知られているが,高血圧性網膜症3)や正常妊娠4)での合併,糖尿病黄斑浮腫に対するステロイド局所治療による発症5)などの報告もある.それぞれ,高血圧性脈絡膜症と同様の変化や,血栓傾向による脈絡膜循環障害から二次性中心性漿液性脈絡網膜症をきたすこと,ステロイドによる色素上皮の損傷修復過程の抑制などが原因と考えられている.糖尿病網膜症では,脈絡膜循環障害や遷延する黄斑浮腫などにより網膜色素上皮の障害を受けやすい.さらに糖尿病網膜症では中心窩脈絡膜血流量が低下しているとの報告もある6).従来少ないとされていた糖尿病網膜症に合併する加齢黄斑変性の報告は散見される79).しかし中心性漿液性脈絡網膜症の合併の報告は筆者らの検索の限りではみられなかった.この理由として,一つには好発年齢の違いがあげられる.中心性漿液性脈絡網膜症は3050歳と比較的若年であり,高齢者には少ないのに対して,糖尿病網膜症は40歳代から増加し60歳代が最も多く,好発年齢に差がある.2つ目の理由として,糖尿病網膜症では網膜血管透過性亢進,網膜色素上皮障害や網膜毛細血管瘤からの漏出所見などを伴うため,中心性漿液性脈絡網膜症を合併しても漏出点がマスクされて糖尿病黄斑浮腫と診断され,診断しにくいことがあげられる.糖尿病網膜症に併発した黄斑部漿液性網膜離は,高度な黄斑部滲出性網膜離の場合,中心性漿液性脈絡網膜症を併発していることもあり,注意を要する.文献1)竹田宗泰:糖尿病脈絡膜症─病態研究の新しい視点─.あたらしい眼科20:919-924,20032)福島伊知郎:糖尿病脈絡膜症の病態と脈絡膜循環.DiabetesFrontier15:293-296,20043)山田英里,山田晴彦,山田日出美:中心性漿液性脈絡網膜症を発症した高血圧性網脈絡膜症.臨眼61:1867-1872,20074)今義勝,永富智浩,西岡木綿子ほか:正常妊娠後期に合併した中心性漿液性脈絡網膜症の1例.臨眼60:473-476,20065)ImasawaM,OhshiroT,GotohTetal:Centralserouschorioretinopathyfollowingvitrectomywithintravitrealtriamcinoloneacetonidefordiabeticmacularedema.ActaOphthalmolScand83:132-133,20056)NagaokaT,KitayaN,SugawaraRetal:Alterationofchoroidalcirculationinthefovealregioninpatientswithtype2diabetes.BrJOphthalmol88:1060-1063,20047)KleinR,BarbaraE,ScotEetal:Diabetes,hyperglycemiaandage-relatedmaculopathy.Thebeavereyestudy.Oph-thalmology99:1527-1534,19928)ZylbermannR,LandauD,RozenmanYetal:Exudativeage-relatedmaculardegenerationinpatientswithdiabet-icretinopathyanditsrelationtoretinallaserphotocoagu-lation.Eye11:872-875,19979)宮嶋秀彰,竹田宗泰,今泉寛子ほか:糖尿病網膜症に伴う脈絡膜新生血管の臨床像と経時的変化.眼紀52:498-504,2001***