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緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1187?1190,2016c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討吉谷栄人*1坂田礼*1沼賀二郎*1本庄恵*1,2*1東京都健康長寿医療センター眼科*2東京大学医学部附属病院眼科EfficacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutioninEyesofPatientswithGlaucomaMasatoYoshitani1),ReiSakata1),JiroNumaga1)andMegumiHonjo1,2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:日本人緑内障患者におけるリパスジル点眼液(グラナテックR点眼液0.4%)の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.投与開始後1カ月目,2カ月目,3カ月目の眼圧値および安全性について検討した.結果:投与開始前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後1カ月目14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった.3カ月間を通しての副作用として,結膜充血4例4眼,掻痒感1例1眼,眼刺激感1例1眼を認めたが,いずれも中止には至らなかった.結論:目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることが期待できる薬剤であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionintheeyesofpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14eyesof14patientstreatedwiththemultiplecombinedtherapyforglaucoma.Weexaminedintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafteradjunctionofripasudilophthalmicsolution.Results:ThemeanbaselineIOPwas18.6±4.2mmHg.At1,2and3months,IOPwas14.6±2.5mmHg,15.3±3.4mmHgand14.8±2.3mmHgrespectively;significantIOPreductionwasobserved.TherewasnosignificantcorrelationbetweenIOPreductionrateandage.Adverseeffectswerehyperemia(4eyes),itching(1eye),andeyeirritation(1eye).Nopatientsdiscontinuedbecauseofadverseeffects.Conclusion:RipasudilophthalmicsolutionwaseffectiveinsafelyreducingIOPinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1187?1190,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,緑内障,ROCK阻害薬,安全性,眼圧.ripasudilophthalmicsolution,glaucoma,Rhokinaseinhibitor,safety,intraocularpressure.はじめに緑内障においては,眼圧下降治療が依然として唯一確実に効果が認められている治療法であるため1),新たな眼圧下降機序の薬物の開発は治療の選択肢を拡大するという点において非常に有意義であると考えられる.リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液0.4%R,以下リパスジル点眼液)は,日本で研究,開発されたROCK(Rho-associatedcoiled-coilformingkinase)阻害薬の緑内障点眼液であり,その作用機序は,Rhoの標的蛋白質のセリン・スレオニンキナーゼであるROCKを阻害し,線維柱帯細胞の形態の変化,細胞外マトリクス産生抑制,傍Schlemm管内皮細胞の透過性亢進を通じて,主経路である経Schlemm管房水流出路での房水流出を促進することで眼圧下降をもたらすとされる2?4).これまでの報告によると,第I相臨床試験においては,健常男性において点眼投与2時間後,単剤で平均4.0mmHgの眼圧下降効果が認められた.第II相臨床試験では開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者において単剤で平均3.5mmHgの眼圧下降効果が認められた.第III相臨床試験では0.5%チモロール点眼液に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,0.005%ラタノプロスト点眼液に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果が認められた5?7).52週にわたる長期投与においても,単剤においては平均2.6mmHgの眼圧下降効果を認め,プロスタグランジン関連薬に追加した群では平均1.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,b遮断薬に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の併用に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果がそれぞれ認められている8).同時にその報告によると,副作用として結膜充血74.6%,眼瞼炎20.6%,アレルギー性結膜炎17.2%で,全症例352症例のうち51症例が眼瞼炎またはアレルギー性結膜炎のために中止となっている.ただし点眼中止後は,必要に応じた加療により症状は全例軽快したとされている8).一方で開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者における点眼開始後の24時間眼圧においては,単剤のリパスジル点眼液投与後から1時間から7時間は有意な眼圧下降効果を認め,初回の点眼投与2時間後において平均6.4mmHgの眼圧下降効果を認めたと報告されている9).その他のROCK阻害薬に関する報告では,糖尿病網膜症におけるROCK阻害薬による血管障害の制御の可能性に関して報告があり,血管内皮細胞障害阻害作用や白血球接着阻害による糖尿病網膜症の微小血管障害の病態制御の可能性が期待されている10).また,ROCK阻害薬の一種であるY-27632による角膜内皮の創傷治癒促進が指摘され,Fuchs角膜内皮ジストロフィによる初期の水疱性角膜症における角膜内皮機能の回復と視力回復が得られた報告もある11).リパスジル点眼液は2014年12月に世界に先駆けて販売が開始されたが,実際の臨床に基づく有効性と安全性の報告は皆無である.今回,緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.I対象および方法東京都健康長寿医療センター眼科に通院中の日本人緑内障患者を検討対象とした.緑内障の病型は問わず,緑内障点眼下でも目標眼圧(ベースライン眼圧より20%下降)に到達しない症例のなかで,2015年1?8月に,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.なお,本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理委員会で承認された.対象症例を1例1眼としてランダムに選択したが,リパスジル点眼液が両眼に投与された症例では,眼圧下降率の少ない眼あるいは内眼手術の既往歴のない眼を対象とした.Goldmann圧平眼圧計(Haag-Streit社,スイス)による診療時間内の眼圧測定,リパスジル点眼液開始前のHumphrey自動視野計(Carl-Zeiss社,ドイツ)SITA-Fast30-2の信頼性のある視野検査結果(固視不良,偽陽性,偽陰性それぞれ20%以下)を採用した.安全性の評価は,患者の自覚症状や細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を参考とした.経過観察中,目標眼圧に到達せず追加の緑内障治療を必要とした症例,転医した症例,データが得られなかった症例はその都度除いた.1カ月ごとの眼圧下降効果の評価は,投与開始後の得られたデータ群とその各々に対応する投与前のデータ群との比較により評価し,データが得られなかった症例の投与前のデータは除外した.主要評価項目は点眼追加後の眼圧経過であり,1カ月ごとの眼圧下降効果に関してはpairedt-testを用いた.また,副次的に投与後の眼圧の下降量と年齢,投与前眼圧値との相関関係に関して検討を行い,それぞれ,Spearmans’scorrelationcoefficientbyranktest,Peason’scorrelationcoefficienttestを用いて検討を行った.統計解析ソフトはStatcelver3を使用し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象患者を表1に示す.リパスジル点眼液追加投与前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後の眼圧値は,1カ月目で14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目で15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目で14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった(図1).それぞれの眼圧下降量は1カ月目で3.8±1.1mmHg,2カ月目で3.4±0.9mmHg,3カ月目で3.3±1.4mmHgであった.追加投与開始後の眼圧下降量と年齢の間には有意な相関関係を認めなかった(1カ月目:r=0.13,p=0.69,2カ月目:r=?0.20,p=0.53,3カ月目:r=0.29,p=0.45).一方,眼圧下降量と追加前眼圧との間には,有意な正の相関関係を認めた(1カ月目:r=0.80,p<0.01,2カ月目:r=0.65,p<0.05,3カ月目:r=0.84,p<0.01).安全性の評価では,結膜充血4眼(1カ月目3眼,3カ月目1眼),掻痒感1眼(3カ月目1眼),眼刺激感1眼(1カ月目1眼)を認めた(重複あり)が,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.III考按今回,眼圧コントロールが不十分であった緑内障患者に対して,リパスジル点眼液の追加投与を行った症例を後ろ向きに検討した.点眼数は投与追加前の平均3.1剤から追加後の平均4.1剤に増えた(配合剤は2剤として計算した)ものの,点眼追加後1カ月目から3カ月目において,いずれも有意な眼圧下降効果が得られていた.また,臨床上中止に至るような眼局所の副作用もなく,安全性も担保されていると考えられた.また,年齢と眼圧下降量には相関関係を認めなかったが,一方で,追加前眼圧と眼圧下降量に関しては有意な正の相関関係を認め,追加前の眼圧が高いほうがより強い眼圧下降量を得られることが期待される.ただし,今回の検討では症例数が少ないため,今後さらなる多症例数での検討が必要である.これまでの緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬を柱に,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2刺激薬を組み合わせることで眼圧管理を行ってきたが,リパスジル点眼液はこれら既存の点眼薬と作用機序が異なることから,新たな治療薬の選択肢となりうる.全身的な副作用も皆無であり,今後併用療法の一つの柱になるのでないかと考えられた.リパスジル点眼液追加投与後も目標眼圧に到達しなかった症例は4例4眼であり,2眼は開放隅角緑内障(83歳,女性と54歳,女性)で併用点眼薬を変更,1眼は落屑緑内障の76歳,女性で線維柱帯切開術を施行,1眼は開放隅角緑内障の74歳,女性でチューブシャント手術をそれぞれ施行された.安全性の検討に関して,今回の14眼で使用中止となるような重篤な副作用は認められなかった.もっとも頻度が高いと考えられた結膜充血は,3カ月間で14眼中4眼(29%)に認められた.ただし,診療時間内における患者の自覚症状の聴取,もしくは細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を評価対象としたため,その評価判定基準は統一されておらず,今後の検討を要すると考えられた.緑内障点眼薬においては,結膜充血などの眼局所の副作用による点眼アドヒアランスの低下が懸念されるため,リパスジル点眼液で頻度の高い結膜充血の動態を把握しておくことはアドヒアランスを維持するうえで非常に重要と思われる.アレルギー性結膜炎や眼瞼炎など他の副作用も含め,母数を増やし,より長期的な経過観察が必要と考えられた.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,避けられないいくつかの問題点があげられる.まず症例数が少ない(n=14)ため,眼圧下降効果や相関の有意性を正確に評価することが困難であり,今後さらに母数を増やす必要がある.つぎに,今回の検討対象に含まれるのはあらゆる病型の緑内障であり,かつ手術既往眼も含めたため,病型別の眼圧下降効果を正確に評価することが困難であった.つぎに,診療録記載に基づく安全性評価であり,その評価基準は一定していないため,今後は決められた評価基準を作成し評価していく必要がある.そして最後に,今回は3カ月間という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたる点眼評価を行っていく必要がある.このように多くの問題点は含有するが,今回の検討からは,目標眼圧に到達しない日本人緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降効果を得ることができる薬剤であると考えられた.IV結論目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることができる薬剤であると考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)中庄司幹子:新薬のプロフィルグラナテック点眼液0.4%.ファルマシア51:240,20153)本庄恵:Rho-associatedkinase(ROCK)阻害薬の緑内障治療薬としての可能性.日眼会誌113:1071-1081,20094)本庄恵:緑内障の新薬1:ROCK阻害薬.あたらしい眼科32:775-781,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20158)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol4:DOI:10.1111/aos.12829,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201510)有田量一:糖尿病性網膜微小血管障害のメカニズムとROCK阻害薬による病態制御の可能性.日眼会誌115:985-997,201111)小泉範子:Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を用いた新しい角膜内皮疾患治療の開発.日の眼科83:1324-1328,2012〔別刷請求先〕吉谷栄人:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:MasatoYoshitani,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaetyou,Itabashiku,Tokyo173-0015,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)11871188あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(106)表1患者背景背景因子症例数14例14眼性別男性5例,女性9例年齢70.2±12.2歳(51?92)MD?12.46±10.10dB(?29.01??0.53)PSD9.91±4.75dB(1.67?15.13)眼圧18.6±4.2mmHg(12?25)点眼剤数※3.1±0.9剤(1?4)病型原発開放隅角緑内障7例7眼落屑緑内障3例3眼続発緑内障2例2眼原発閉塞隅角緑内障2例2眼手術既往歴白内障手術5例5眼線維柱帯切開術1例1眼線維柱帯切除術1例1眼隅角癒着解離術1例1眼MD:meandeviation.PSD:patternstandarddeviation.※配合剤は2剤として計算図1リパスジル点眼液投与開始後の眼圧経過リパスジル点眼追加後,有意な眼圧下降が維持された.(107)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611891190あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(108)

ガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):577〜583,2016©ガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性末信敏秀*1秦野寛*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2ルミネはたの眼科ClinicalEffectivenessofGATIFLO®OphthalmicSolution0.3%inPediatricPatientswithBacterialOcularInfectionToshihideSuenobu1)andHiroshiHatano2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)LumineHatanoEyeClinicガチフロ®点眼液0.3%の小児外眼部感染症患者に対する有用性を再検討した.上市後にプロスペクティブな連続調査方式にて実施した4調査から,安全性評価の対象として,新生児(27日以下)73例,乳児(28日以上1歳未満)131例,小児(1歳以上15歳未満)74例を集積した結果,副作用の発現を認めなかった.また,主要な疾患であった結膜炎および涙囊炎に対する医師判定による全般改善度(有効率)は,それぞれ98.5%および94.4%で高い有効率を示した.以上の結果,ガチフロ®点眼液0.3%は新生児期から年長小児期の細菌性外眼部感染症治療への寄与が期待される薬剤であると考えられた.ThisreviewaimstoevaluatetheclinicaleffectivenessofGATIFLO®ophthalmicsolution0.3%inpediatricpatientswithbacterialocularinfection.Inthesafetyevaluation,whichinvolved278cases(73newborns,131infantsand74children)from4studiesconductedusingtheprospectivecontinuousmethod,noadversedrugreactionswereobserved.Intheefficacyevaluation,theeffectiveratesinpatientswithconjunctivitisanddacryocystitiswere98.5%and94.4%,respectively.TheseresultssuggestthatGATIFLO®ophthalmicsolution0.3%isausefulmedicationfortreatingexternalbacterialinfectionsoftheeyeinnewborns,infantsandchildren.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):577〜583,2016〕Keywords:ガチフロキサシン,ガチフロ®点眼液0.3%,新生児,乳児,小児,安全性,有効性.gatifloxacin,GATIFLO®ophthalmicsolution0.3%,newborns,infants,children,safety,efficacy.はじめに新生児期,乳児期あるいは小児期(ここでは15歳未満)では,経口投与された薬剤の吸収,分布,代謝や排泄などの体内挙動が異なる1)ため,成人における成績を転用することは困難である2).したがって,小児の個別の発達過程に応じた適切な投薬に関するデータが必要となるが,一般的に,そのような情報は十分ではない.一方,細菌性外眼部感染症は疾患により年齢分布に特徴があるが,結膜炎は際立って小児に多く発症する.したがって,全身的影響が比較的少ない,すなわち,個々の小児の発達過程に基づく影響を最小限に抑えることを考慮した抗菌薬投与が選択されるべきであり,やはり点眼による局所投与が第一選択である3).このようななか,フルオロキノロン点眼薬が汎用されるようになって久しいが,経口薬と同様に点眼薬についても,とくに1歳未満の小児に対する臨床成績に関する報告は散見4〜6)される程度で,情報は相対的に不足している7).そこで,2004年9月に上市されたガチフロ®点眼液0.3%(以下,本剤)について,承認時には評価されていなかった「1歳未満の小児に対する有効性および安全性を評価することを目的とした調査(2005年6月〜2006年6月)」に加え,「新生児(生後27日以下)を対象とした調査(2007年5月〜2008年9月)」を実施し,その成績を報告した8,9).また,細菌学的効果の経年変化を検討することをおもな目的として計2回の調査(第1回:2005年12月〜2007年10月,第2回:2008年3月〜2010年1月)を実施10)するなかで,同じく小児集団に関する成績を得た.そこで今回は,これら4調査で集積された小児集団(15歳未満)における患者背景ならびに本剤の有用性について再検討したので報告する.I対象および方法表1に示すとおり,細菌性外眼部感染症(眼瞼炎,涙囊炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎,角膜潰瘍)を対象として前向きに実施した4調査のうち,本剤が投与された小児症例(15歳未満)を対象とした.4調査成績の再検討項目は,患者背景である年齢,疾患名,本剤の使用状況,有害事象の発現状況および有効性評価とし,細菌学的効果に関する調査では本剤投与開始時における細菌検査とした.安全性は,副作用の発現率を評価した.有効性は,本剤投与開始後の臨床経過より担当医師が総合的に判断し,改善,不変および悪化の3段階で評価した.このうち改善症例を有効例,不変および悪化症例を無効例とした.細菌学的効果に関する調査にて採取された検体は,輸送用培地(カルチャースワブTM)を用いて検査施設である三菱化学メディエンス株式会社(現,株式会社LSIメディエンス)に輸送し,細菌分離と同定に供した.細菌学的効果に関する調査のほか,本剤投与開始時の検出菌に関する成績が任意で報告された症例を含め,年齢(日齢)と検出菌種の分布についてWilcoxon検定にて評価した.有意水準は5%とした.II結果1.評価対象症例4調査にて集積された安全性評価対象症例は新生児(生後27日以下)73例,乳児(生後28日以上1年未満)131例,小児(1歳以上15歳未満)74例の計278例であった(表1).さらに,細菌性外眼部感染症以外への投与8例(霰粒腫および眼感染症予防の各3例,結膜裂傷および乳児内斜視術後の各1例)および有効性評価が判定不能であった2例(涙囊炎2例)の計10例を除いた268例を有効性評価対象とした.2.安全性a.安全性評価対象症例の患者背景患者背景を表2に示す.最若齢は生後1日目の新生児であり,また,疾患別では結膜炎が70.1%(195/278例)でもっとも多く,ついで涙囊炎が13.7%(38/278例)であった.b.副作用発現率安全性評価対象とした278例において副作用の発現を認めなかった.3.有効性表3に示すとおり,結膜炎195例における有効率は98.5%であった.一方,涙囊炎に対する有効率は94.4%であり,疾患別ではもっとも低かった.涙囊炎36例ならびに結膜炎+涙囊炎6例は,いずれも新生児および乳児症例であり,また,平均投与期間が1カ月超と長かった.このほか,新生児には麦粒腫および角膜炎(角膜潰瘍を含む)症例は認められず,乳児では角膜炎(角膜潰瘍を含む)症例は認められなかった.4.初診時検出菌の分布a.小児区分別での初診時検出菌表4に示すとおり,新生児11例,乳児34例および小児50例の計95例から130株の初診時菌が検出された.その結果,グラム陽性菌の割合は新生児で70.6%(12/17)ともっとも高く,乳児で66.7%(32/48),小児で50.8%(33/65)であった.また,新生児ではcoagulasenegativestaphylococci(CNS)の割合が35.3%(6/17)ともっとも高かった一方で,Streptococcuspneumoniaeの検出例はなかった.乳児ではCorynebacteriumspp.,S.pneumoniaeおよびHaemophilusinfluenzaeの割合が,それぞれ20.8%(10/48),14.6%(7/48)および18.8%(9/48)で主要な検出菌であった.小児ではH.influenzaeの割合が35.4%(23/65)ともっとも高く,ついでCorynebacteriumspp.およびStaphylococcusaureusの割合が15.4%(10/65)と高かった.また,図1に示すとおり,10株以上が検出されたCNS,a-Streptococcusspp.,S.pneumoniae,Corynebacteriumspp.,H.influenzaeおよびS.aureusについて,由来患者の日齢分布について検討した結果,平均日齢±標準偏差はCNSで268±608日でもっとも低く,S.aureusで2,222±1,762日でもっとも高かった.b.疾患別での初診時検出菌表5に示すとおり,結膜炎ではH.influenzaeが33.0%(33/100)を占め,もっとも高かった.涙囊炎では際立って割合の高い菌種はなかったが,グラム陽性菌の割合が70.0%(14/20)と高く,Corynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.およびS.pneumoniaeの割合が15.0%(3/20)で主要であった.III考察新生児期,乳児期あるいは小児期では,経口投与された薬剤の吸収,分布,代謝や排泄などの体内挙動が異なる.たとえば,新生児では胃内pHが高いため,酸性条件下で不安定な薬剤(ペニシリンG,エリスロマイシンなど)の体内吸収が乳児や小児に比べ高いことが知られている11).しかしながら,小児を対象とした臨床試験成績に基づき,小児に対する適応を有する医薬品は限られている2,7).このようななか,小児への医薬品の投与は,成人用量を体重あるいは体表面積から換算して行われることが多く,“とりあえず”の治療としては許容されるかもしれないが,継続治療にあたっては小児の成長段階に応じたPK/PDに基づく個別化が必要である.一方,点眼療法に目を向けると,小児用として用法・用量を設定し,適応とした点眼薬はない.2006年に発売されたトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液では,小児を対象とした臨床試験が実施されたが,成人と同じ用法・用量の設定である.このように,フルオロキノロン点眼薬の適応となる外眼部感染症は小児特有の疾患ではなく,また,多くの代替薬が存在することから,本剤についても1歳未満の小児に対する用法・用量の設定を目的とした臨床試験は実施しなかったが,上市後の使用実態下においては経験的に使用される可能性が非常に高く,安全性および有効性について検討する必要があると考え,使用成績調査を行った.新生児および乳児における外眼部感染症への易感染性は,涙液分泌量が少ないことや,免疫機能が未発達であることに起因するものと理解すべきであろう12).すなわち,新生児および乳児における外眼部感染症の好発部位である結膜は粘膜であり,粘膜には全身免疫とは異なる免疫システムが構築されている.結膜では,病原体に対する防御に不可欠な抗原特異的分泌型IgAを効率的に誘導するメカニズムとして,結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associatedlymphoidtissue:CALT)を中心とした結膜(粘膜)免疫システムが構築されている13).分泌された抗原特異的IgAは,二量体として涙液中に存在するが,生誕時にはIgAはほとんど分泌されず,6〜8歳で成人の60〜80%に達することが知られている14).このように,新生児では結膜(粘膜)の免疫機能が未成熟であり,早産児では粘膜自体が未成熟なため細菌感染を発症しやすい15).加えて,新生児涙囊炎や先天鼻涙管閉塞に伴う涙囊炎が多い16).本検討においても,新生児および乳児では結膜炎あるいは涙囊炎の割合が高かった.また,涙囊炎では他疾患に比べ投与期間が長い傾向にあった.すなわち,新生児および乳児期の涙囊炎は先天鼻涙管閉塞に起因することが多く,根治療法は外科的治療となる.しかしながら,先天鼻涙管閉塞は生後3カ月までに70%,生後12カ月までに96%が自然治癒(鼻涙管の開口)する17)ことから,外科的治療の施行時期については結論が出ていない.したがって,外科的治療の施行あるいは自然治癒まで,待機的に本剤が投与されたため,涙囊炎での投与期間が長くなったものと推察された.結膜炎の主要な起炎菌は,H.influenzaeおよびS.pneumoniaeであり,結膜囊からの分離頻度は,それぞれ29%および20%程度である15).本検討においても,結膜炎からの検出菌はH.influenzaeが33.0%でもっとも高かった.また,小児結膜炎由来のH.influenzaeおよびS.pneumoniaeは,その約90%が鼻咽腔由来株と同一クローンであることから,鼻咽腔は両菌種を主要な常在菌とする粘膜組織部位であり,小児の細菌性結膜炎は鼻感冒および発熱についで発症し,急性中耳炎を併発することが多い18).さらに,細菌性結膜炎の起炎菌は,小児涙囊炎発症への関与も示唆されており,S.pneumoniae,H.influenzaeおよびS.aureusが主要菌種と考えられている19).本検討では,検出株数が十分でない可能性があるがCorynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.およびS.pneumoniaeが主要な検出菌であった.小児の詳細区分での検出菌については,新生児ではCNSがもっとも多くWongらの報告20)と同様であり,年長小児では,S.aureusおよびH.influenzaeの分離頻度が上昇する傾向が認められ,Tarabishyらの報告21)と同様であった.筆者らは,本検討における主要検出菌であるH.influenzae,Corynebacteriumspp.,a-Streptococcusspp.,S.aureus,CNSおよびS.pneumoniaeについて,2005年,2007年および2009年の分離株に対するガチフロキサシンのMIC90を検討した結果,経年的な抗菌活性の減弱を認めなかった22).したがって,本剤は有用な治療選択肢と考えるが,Corynebacteriumspp.およびmethicillin-resistantS.aureus(MRSA)に対するMIC90は高い傾向にあったことから,Corynebacteriumspp.が起炎菌として疑われる際はセフメノキシム(CMX)を併用するなどの必要があると考える.一方,小児(15歳未満)の外眼部感染症からのMRSAの検出頻度は2〜3%程度10)で比較的低い.また,小児由来のMRSAのうち58〜66%程度は市中感染型(CA-MRSA,communityassociatedMRSA)で,病院内感染型MRSA(HA-MRSA,hospital-associatedMRSA)よりも優位を占める23,24).さらに,HA-MRSAが多剤耐性を示す一方で,CA-MRSAは多くの抗菌薬に感受性25)であることから,入院歴にも着目した薬剤選択の必要があると考えられる.以上のように,2004年の上市以降に実施した4調査における新生児73例,乳児131例および小児(15歳未満)74例に対する有用性について再検討した結果,ガチフロ®点眼液0.3%は,新生児期から年長小児期の外眼部感染症治療への寄与が期待される薬剤であると考えられた.文献1)KearnsGL,Abdel-RahmanSM,AlanderSWetal:Developmentalpharmacology─drugdisposition,action,andtherapyininfantsandchildren.NEnglJMed349:1157-1167,20032)ICH:Clinicalinvestigationofmedicalproductsinthepediatricpopulation.ICHharmonizedtripartiteguideline,20003)浅利誠志,井上幸次,大橋裕一ほか:抗菌点眼薬の臨床評価方法に関するガイドライン.日眼会誌119:273-286,20154)松村香代子,井上愼三:新生児,乳幼児,小児に対する0.3%オフロキサシン(タリビッド®)点眼液の使用経験.眼紀42:662-669,19915)大橋秀行,下村嘉一:新生児,乳幼児,小児の細菌性結膜炎に対する0.5%レボフロキサシン点眼薬の使用経験.あたらしい眼科19:645-648,20026)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽多施設共同試験.あたらしい眼科23:118-129,20067)ChungI,BuhrV:Topicalophthalmicdrugsandthepediatricpatient.Optometry71:511-518,20008)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ®0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科24:975-980,20079)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ®点眼液0.3%)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429-1434,200910)末信敏秀,川口えり子,星最智:ガチフロ®点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査.あたらしい眼科31:1674-1682,201411)越前宏俊:小児の生理と薬物動態.薬事54:213-218,201212)伊藤大藏:薬剤の選択と治療の実際―眼科領域感染症.周産期医学28:1333-1336,199813)清野宏,岡田和也:粘膜免疫システム─生体防御の最前線.日耳鼻114:843-850,201114)齋藤昭彦:小児の免疫機構.薬事54:219-222,201215)BuznachN,DaganR,GreenbergD:Clinicalandbacterialcharacteristicsofacutebacterialconjunctivitisinchildrenintheantibioticresistanceera.PediatrInfectDisJ24:823-828,200516)亀井裕子:小児眼感染症の最近の動向.臨眼57(増刊号):81-85,200317)YoungJD,MacEwenCJ:Managingcongenitallacrimalobstructioningeneralpractice.BMJ315:293-296,199718)SugitaG,HotomiM,SugitaRetal:GeneticcharacteristicsofHaemophilusinfluenzaandStreptococcuspneumoniaisolatedfromchildrenwithconjunctivitis-otitismediasyndrome.JInfectChemother20:493-497,201419)宮崎千歌:眼科薬物療法VII眼窩・涙道4涙小管炎,涙囊炎,先天性鼻涙管閉塞.眼科54:1490-1495,201220)WongVW,LaiTY,ChiSCetal:Pediatricocularsurfaceinfections:a5-yearreviewofdemographics,clinicalfeatures,riskfactors,microbiologicalresults,andtreatment.Cornea30:995-1002,201121)TarabishyAB,HallGS,ProcopGWetal:Bacterialcultureisolatesfromhospitalizedpediatricpatientswithconjunctivitis.AmJOphthalmol142:678-680,200622)末信敏秀,石黒美香,松崎薫ほか:細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査.あたらしい眼科28:1321-1329,201123)AmatoM,PershingS,WalvickMetal:Trendsinophthalmicmanifestationsofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)inanorthernCaliforniapediatricpopulation.JAAPOS17:243-247,201324)HsiaoCH,ChuangCC,TanHYetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusocularinfection:a10-yearhospital-basedstudy.Ophthalmology119:522-527,201225)辻泰弘:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA).薬局63:2515-2519,2012〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(95)577表1各調査の概要と評価対象症例調査名各調査における対象細菌検査の要否小児区分新生児計(生後27日以下)乳児(生後28日以上1年未満)小児(1歳以上15歳未満)①新生児に対する調査細菌性外眼部感染症任意(診療実態下)65――65②1歳未満の小児に対する調査細菌性外眼部感染症任意(診療実態下)3110―113③細菌学的効果に関する調査(第1回)細菌性外眼部感染症全例実施2113649④細菌学的効果に関する調査(第2回)細菌性外眼部感染症全例実施3103851合計安全性評価対象症例7313174278有効性評価対象症例(外眼部感染症)*6912574268*:細菌性外眼部感染症以外への投与例8例ならびに有効性判定不能2例を有効性評価から除外.578あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(96)表2安全性評価対象278例の背景要因区分症例数年齢新生児(日齢)6日以下19(新生児計73例)7日以上13日以下1314日以上20日以下2421日以上27日以下17平均日齢(最小〜最大)13.6日(1〜27日)乳児(月齢)1カ月21(乳児計131例)2カ月133カ月184カ月115カ月146カ月77カ月118カ月79カ月910カ月811カ月12平均月齢(最小〜最大)5.6カ月(1〜11カ月)小児(年齢)1歳11(小児計74例)2歳123歳94歳105歳76歳37歳58歳29歳510歳311歳112歳413歳114歳1平均年齢(最小〜最大)5.4歳(1〜14歳)疾患名外眼部感染症270結膜炎195涙囊炎38麦粒腫23角膜炎(角膜潰瘍を含む)3結膜炎+涙囊炎6結膜炎+眼瞼炎2結膜炎+麦粒腫1結膜炎+その他2外眼部感染症以外8霰粒腫3眼感染症予防3結膜裂傷1乳児内斜視術後1表3有効性評価対象(外眼部感染症症例)268例の有効率と投与期間疾患名小児区分症例数有効率(%)投与日数Mean±SDMin〜Max結膜炎新生児5698.29.8±6.22〜30乳児8298.89.8±12.72〜97小児5798.29.5±6.53〜43計19598.59.7±9.52〜97涙囊炎新生児9100.075.7±65.612〜200乳児2792.627.0±21.14〜98小児0計3694.439.1±42.14〜200麦粒腫新生児0乳児9100.010.7±9.73〜34小児14100.017.1±24.34〜100計23100.014.6±19.83〜100角膜炎(角膜潰瘍を含む)新生児0乳児0小児3100.014.7±7.57〜22計3100.014.7±7.57〜22結膜炎+涙囊炎新生児3100.057.7±56.516〜122乳児3100.026.3±17.68〜43小児0計6100.042.0±41.28〜122その他の眼感染症(複数使用理由含む)新生児1100.014.0乳児4100.017.3±17.65〜43小児0計5100.016.6±15.35〜43表4小児区分と初診時検出菌小児区分(初診時検出結果が陽性であった症例数)新生児(11例)乳児(34例)小児(50例)計(95例)GrampositiveCorynebacteriumspp.1(5.9%)10(20.8%)10(15.4%)21(16.2%)a-Streptococcusspp.3(17.6%)5(10.4%)7(10.8%)15(11.5%)Staphylococcusaureus1(5.9%)3(6.3%)10(15.4%)14(10.8%)Coagulasenegativestaphylococci(CNS)6(35.3%)6(12.5%)2(3.1%)14(10.8%)Streptococcuspneumoniae7(14.6%)4(6.2%)11(8.5%)Streptococcussp.1(2.1%)1(0.8%)Lactobacillussp.1(5.9%)1(0.8%)Subtotal12(70.6%)32(66.7%)33(50.8%)77(59.2%)GramnegativeHaemophilusinfluenzae2(11.8%)9(18.8%)23(35.4%)34(26.2%)Acinetobacterspp.2(11.8%)1(2.1%)1(1.5%)4(3.1%)Moraxella(Branhamella)catarrhalis1(5.9%)1(2.1%)2(3.1%)4(3.1%)Nonglucosefermentativegramnegativerod(NFR)3(4.6%)3(2.3%)Stenotrophomonasmaltophilia1(2.1%)1(1.5%)2(1.5%)Pseudomonassp.1(2.1%)1(1.5%)2(1.5%)Pseudomonasaeruginosa2(4.2%)2(1.5%)Sphingomonaspaucimobilis1(1.5%)1(0.8%)Serratiamarcescens1(2.1%)1(0.8%)Subtotal5(29.4%)16(33.3%)32(49.2%)53(40.8%)Total174865130580あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(98)図1検出菌別での由来患者の日齢分布表5疾患別の初診時検出菌疾患名(初診時検出結果が陽性であった症例数)結膜炎(73例)涙囊炎(14例)麦粒腫(6例)角膜炎(1例)その他(1例)計(95例)GrampositiveCorynebacteriumspp.16(16.0%)3(15.0%)2(25.0%)21(16.2%)a-Streptococcusspp.11(11.0%)3(15.0%)1(12.5%)15(11.5%)Staphylococcusaureus10(10.0%)2(10.0%)2(25.0%)14(10.8%)Coagulasenegativestaphylococci(CNS)11(11.0%)2(10.0%)1(100.0%)14(10.8%)Streptococcuspneumoniae8(8.0%)3(15.0%)11(8.5%)Streptococcussp.1(5.0%)1(0.8%)Lactobacillussp.1(100.0%)1(0.8%)Subtotal56(56.0%)14(70.0%)5(62.5%)1(100.0%)1(100.0%)77(59.2%)GramnegativeHaemophilusinfluenzae33(33.0%)1(5.0%)34(26.2%)Acinetobacterspp.3(3.0%)1(12.5%)4(3.1%)Moraxella(Branhamella)catarrhalis3(3.0%)1(5.0%)4(3.1%)Nonglucosefermentativegramnegativerod(NFR)2(2.0%)1(12.5%)3(2.3%)Stenotrophomonasmaltophilia1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Pseudomonassp.1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Pseudomonasaeruginosa1(1.0%)1(5.0%)2(1.5%)Sphingomonaspaucimobilis1(12.5%)1(0.8%)Serratiamarcescens1(5.0%)1(0.8%)Subtotal44(44.0%)6(30.0%)3(37.5%)53(40.8%)Total10020811130(99)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016581582あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(100)(101)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016583

ドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタ®点眼液UD2%) の有効性と安全性─製造販売後調査結果─

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):443.449,2016cドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の有効性と安全性─製造販売後調査結果─増成彰*1安田守良*1曽我綾華*1板東孝介*1福田泰彦*1木下茂*2*1大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部*2京都府立医科大学感覚器未来医療学EffectivenessandSafetyofRebamipideOphthalmicSuspension(MucostaROphthalmicSuspensionUD2%)inPatientswithDryEyeSyndrome─ResultsofPost-MarketingSurveillance─AkiraMasunari1),MoriyoshiYasuda1),AyakaSoga1),KosukeBando1),YasuhikoFukuda1)andShigeruKinoshita2)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineドライアイ治療薬「ムコスタR点眼液UD2%」の使用実態下における観察期間1年の特定使用成績調査を実施し,916例の有効性と安全性の結果をまとめた.その結果,生体染色スコアは投与開始時3.1±2.3点から4週目に1.8±1.8点への改善が認められた(p<0.001).涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT)では開始時3.0±1.6秒から4週目に4.0±2.1秒への改善が認められた(p<0.001).自覚症状(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)のいずれのスコアについても,開始時に比べて有意な改善が認められた(p<0.001).安全性の指標とした副作用の発現率は14.6%であり,おもな副作用は本剤の物性に起因すると思われる味覚異常をはじめ,霧視,アレルギー性結膜炎,結膜炎,眼瞼炎,眼痛などであった.最終観察時点の評価判定は有効85.7%,無効4.9%であった.以上よりレバミピド懸濁点眼液の実臨床下における有効性と安全性が確認された.Weconductedaone-yearpost-marketingsurveillancestudytoinvestigatetheeffectivenessandsafetyofMucostaROphthalmicSuspensionUD2%forpatientswithdryeyesyndrome.Wereportthefinalresultfrom916patients.Asaneffectivenessmeasurement,fluoresceincornealstainingscorewasimprovedfrom3.1±2.3atbaselineto1.8±1.8atweek-4.Andtearfilmbreak-uptimewasimprovedfrom3.0±1.6secondsatbaselineto4.0±2.1secondsatweek-4.Dryeye-relatedocularsymptoms,suchasforeignbodysensation,dryness,photophobia,eyepain,andvisionblurred,werealsoimproved.Aprevalenceofadversedrugreactionwas14.6%.Frequentlyreportedeventsweredysgeusiaduetocharacteristicsofrebamipide,visionblurred,conjunctivitisallergic,conjunctivitis,blepharitis,eyepain.Intheoverallimprovementrating,85.7%waseffectiveand4.9%wasineffective.Theresultsindicatetheeffectivenessandsafetyofrebamipideophthalmicsuspensionwereconfirmedintherealworldsettings.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):443.449,2016〕Keywords:レバミピド,ドライアイ,製造販売後調査,有効性,安全性.rebamipide,dryeye,post-marketingsurveillance,effectiveness,safety.はじめにレバミピドは胃粘膜の保護・修復作用を有し,1990年に胃潰瘍の治療薬として発売された薬剤である.その後,レバミピドが眼表面においても粘膜機能を改善すること1),ドライアイに対し臨床的に有効であることが確認され2,3),2012年1月にレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,以下,本剤)はドライアイ治療薬として発売された.筆者らは全国の眼科専門医の協力により,本剤の長期使用時の使用実態下における有効性および安全性を検討する目的で特定使用成績調査(調査期間:2012年8月.2015年1月)を実施〔別刷請求先〕増成彰:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:AkiraMasunari,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27,Otedori,Chuo-ku,Osaka-shi,Osaka540-0021,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(113)443 した.本稿では,本特定使用成績調査の解析結果から有効性と安全性について報告する.I対象および方法1.調査方法本調査は治療内容に介入しないプロスペクティブな観察研究であり,日本全国の眼科を標榜する医療機関と事前に契約を交わして実施した.対象患者はドライアイと診断された患者とし,過去に本剤の使用経験がある患者は除外した.目標症例を1,000例とした.症例登録は中央登録方式とした.観察期間は1年間とし,観察期間中の情報を調査担当医師が調査票に記入した.なお,観察中に投与中止した場合はその時点で観察終了とし,調査票を記入することとした.本調査にあたっては,「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令:平成16年12月20日厚生労働省令第171号(GPSP省令)」を遵守した.なお,本調査は観察的研究であることから患者への説明と同意,医療機関における倫理委員会による審査は必須とはしなかった.2.調査項目調査項目として以下の情報を収集した.患者背景:性別,年齢,コンタクトレンズの使用状況,対象眼の重症度,罹病期間,ドライアイの原因,合併症など.投与状況:投与期間,中止理由,1日点眼回数など.有効性評価のための調査項目:以下の情報を収集した.投与開始時および観察期間中に実施された生体染色スコア(フルオレセイン,リサミングリーン,ローズベンガル),涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT),Schirmerテストの結果,自覚症状5項目スコア.生体染色スコアは耳側球結膜,角膜,鼻側球結膜における染色の程度をそれぞれ3点,合算9点満点で判定した.また,自覚症状5項目(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)について(0:症状なし,1:弱い症状あり,2:中くらいの症状あり,3:強い症状あり,4:非常に強い症状あり)の5段階のスコアで患者からの聞き取りにより評価した.以上の結果を総合的に判断し,有効,無効,判定不能の3分類で担当医師が効果判定を行った.安全性評価のための調査項目:本剤投与開始後の有害事象(臨床検査値の異常変動を含む)を収集した.3.解析方法有効性評価として,生体染色スコア,BUT,自覚症状5項目スコアについて,投与開始時および投与後の数値の推移を検討した.また,投与開始時重症度別の評価として,開始時の生体染色スコアによって「0.3点:軽症」「4.6点:中等症」「7.9点:重症」の3群に分け,「開始時染色スコア別」にて各評価項目の数値の推移を検討した.なお,Schirmer444あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016テストについては,本剤投与後に実施された症例数が少なかったため十分な評価ができなかった.安全性評価として,本剤投与後に発現した副作用(本剤との因果関係が否定できないと判断された有害事象)について集計し,発現率を算出した.有効性の解析は平均値と標準偏差を算出し,対応のあるt-検定を実施して投与開始時との比較を行った.自覚症状の解析では,投与開始時に症状がある患者のみを解析対象とした.すべての解析で欠測値の補完はしなかった.副作用の集計には「ICH国際医薬用語集日本語版」(MedDRA/J:MedicalDictionaryforRegulatoryActivities/J,version17.1)の基本語を使用した.統計解析はシミックPMS株式会社,エイツーヘルスケア株式会社でSASを用いて実施した.II結果1.解析対象患者全国の159施設より1,073人が登録され,158施設より1,068例の調査票を回収した.そのうち一度も診察がなかった151例と本剤が投与されなかった1例を除外した916例を安全性・有効性解析対象とした.2.患者背景表1に患者背景を示す.年齢の平均値は63±16歳であった.医師判定に基づく投与開始時のドライアイ重症度は軽症41.4%,中等症50.9%と,軽症から中等症が大半を占めた.投与開始時の生体染色スコアは9点満点中3点以下(0点を含む)の低スコアが59.1%であった.一方,投与開始時BUTが5秒以下の異常値を示す患者は,不明を除く744例中708例(95.2%)と大半であった.投与開始時Schirmerテストでは5mm超と5mm以下の割合はほぼ同じであった.ドライアイの原因別では乾燥などの環境因子が44.5%ともっとも多かった.3.投与状況表2に投与状況を示す.添付文書通りの1日4回投与が93.2%であった.12カ月(360日)を超えて投与された症例は337例(36.8%)であった.観察期間の中央値は294日,平均値は243±155日であった.本剤投与中に一度でも併用された薬剤を集計したところ,ヒアルロン酸点眼がもっとも多く約半数の患者(51.2%)で併用されていた.また,中止理由を複数選択可で調査した結果,「来院せず」がもっとも多く240例,「患者または家族の希望」が95例,「有害事象発現」が77例の順であった.4.有効性a.生体染色スコア図1に生体染色スコアの推移を示す.投与開始時に3.1±2.3点であったスコアは4週目に1.8±1.8点と有意に改善し(p<0.001),そのスコアは52週目には1.3±1.4点(p<(114) 表1患者背景(n=916)表2投与状況(n=916)項目分類n(%)性別男性148(16.2%)女性768(83.8%)<209(1.0%)年齢(歳)Mean63±1620.2931(3.4%)30.3952(5.7%)Min3Median66Max9740.4987(9.5%)50.59135(14.7%)60.69223(24.3%)≧70379(41.4%)ドライアイ重症度(医師判定)軽症379(41.4%)中等症466(50.9%)重症71(7.8%)生体染色スコア0120(13.1%)(フルオレセイン882例,ローズベンガル1例,リサミングリーン2例,フルオレセイン+1.3421(46.0%)4.6279(30.5%)7.966(7.2%)リサミングリーン1例)不明30(3.3%)>536(3.9%)BUT(秒)>1,≦5592(64.6%)≦1116(12.7%)不明172(18.8%)>5146(15.9%)Schirmerテスト>2,≦589(9.7%)(mm)≦253(5.8%)不明628(68.6%)1年未満85(9.3%)2年未満43(4.7%)罹病期間(年)3年未満31(3.4%)3年以上135(14.7%)不明622(67.9%)環境因子408(44.5%)合併症112(12.2%)ドライアイの原因眼手術84(9.2%)コンタクトレンズ51(5.6%)薬剤30(3.3%)その他336(36.7%)白内障159(17.4%)緑内障110(12.0%)合併症アレルギー性結膜炎106(11.6%)結膜炎53(5.8%)Sjogren症候群51(5.8%)Stevens-Johnson症候群0(0.0%)コンタクトレンズなし843(92.0%)あり63(6.9%)コンタクトレンズのタイプソフト44*(4.8%)ハード19*(2.1%)ソフト・ハード不明1(0.1%)前治療薬(本剤投与前のドライアイ治療薬)ヒアルロン酸点眼114(12.4%)ジクアホソルナトリウム点眼121(13.2%)ステロイド点眼43(4.7%)人工涙液12(1.3%)*ソフト+ハード1例を含む.項目分類n(%)4回未満58(6.3%)1日投与回数4回854(93.2%)4回超3(0.3%)不明1(0.1%)≦30100(10.9%)観察期間(日)Mean243±155Min2Median294Max61231.6089(9.7%)61.120119(13.0%)121.240111(12.1%)241.360159(17.4%)≧361337(36.8%)不明1(0.1%)ヒアルロン酸点眼469(51.2%)併用薬ステロイド点眼163(17.8%)ジクアホソルナトリウム点眼101(11.0%)人工涙液75(8.2%)来院せず240患者または家族の希望95中止理由(複数選択可)有害事象発現77効果不十分17転院7病態悪化3その他250.001)と効果が継続していた.「開始時染色スコア別」の推移を検討した結果,投与開始時のスコアにかかわらず有意に生体染色スコアの改善が認められた(図2).b.BUT図3にBUTの推移を示す.投与開始時3.0±1.6秒,4週目には4.0±2.1秒と有意に延長し(p<0.001),その後も52週目に4.5±2.2秒と有意な延長は継続していた(p<0.001).図4に「開始時染色スコア別」のBUTの推移を示す.投与開始時の生体染色スコアにかかわらずBUTは有意に延長した.c.自覚症状スコア(5項目)図5に自覚症状5項目のスコアの推移を示す.異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視それぞれのスコアは,投与開始時2.0±1.0,2.1±1.0,1.8±0.9,1.9±0.9,1.7±0.9と比べて,4週目には1.0±0.9,1.2±0.9,0.9±0.8,0.8±0.9,0.9±0.9とすべての項目で統計学的に有意な自覚症状スコアの改善が認められ,52週目には0.4±0.7,0.6±0.8,0.4±0.6,0.3±0.6,0.5±0.9と改善は継続していた(いずれもp<0.001).図6に「開始時染色スコア別」の自覚症状スコア5項目の合(115)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016445 生体染色スコア生体染色スコア生体染色スコア6543210開始時481216202428323640444852観察時期(week)平均値+SD*p<0.001*************n=88650838939998765432104812317259257262221図1生体染色スコアの推移1620242832観察時期(week)219187182179203*3640444852開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3開始時平均値+SD*p<0.001**************************************開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.96635264325193926212521142031開始時染色スコア:4.6279155139131108888783747864626068開始時染色スコア:0.354131822422518415213115312611610210699104図2開始時染色スコア別生体染色スコアの推移(n=886)計点の推移を示す.投与開始時の生体染色スコアにかかわら(85.7%),無効45例(4.9%),判定不能86例(9.4%)であず自覚症状スコアの合計点は有意に低下した.った.d.効果判定5.安全性最終観察時点の担当医師による効果判定は,有効785例安全性解析対象症例916例のうち副作用は14.6%(134例)446あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(116) BUT(秒)BUT(秒)BUT(秒)876543210開始時481216202428323640444852平均値+SD*p<0.001*************観察時期(week)n=744334237256205142142169134137114108106114図3BUTの推移109876543210481216202428323640444852観察時期(week)**開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3開始時平均値+SD*p<0.001***********開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.95621131915914161112981212開始時染色スコア:4.6235106818377474855505341433839開始時染色スコア:0.3447206141151112857695716862565460図4開始時染色スコア別BUTの推移(n=738)で認められた.表3に2例以上に発現した副作用の一覧を示例中9.2%(84例)であった.おもなものの発現頻度は味覚す.多く認められた副作用は味覚異常9.3%(85例),霧視異常4.6%(42例),霧視1.2%(11例),眼痛0.6%(5例),3.2%(29例),アレルギー性結膜炎0.7%(6例),結膜炎,眼そう痒症0.4%(4例),眼瞼炎0.3%(3例)の順であった.眼瞼炎,眼痛がそれぞれ0.6%(各5例)などであった.重篤な副作用の報告はなかった.III考察本剤の投与中止に至った副作用は安全性解析対象症例916本剤のドライアイに対する有効性は,製造販売前の治験時(117)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016447 異物感乾燥感羞明眼痛霧視平均値+SD*p<0.001自覚症状スコア48121620242832364044開始時4852*************異物感乾燥感羞明眼痛霧視平均値+SD*p<0.001自覚症状スコア48121620242832364044開始時4852*************3210観察時期(week)開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目異物感724413338343272221237228176194165158154176乾燥感717409321333268220227228167187161151152175羞明371214180179149119134123859580797897眼痛4802732282151891401591541061111019799106霧視367208177177143109129118909484828893図5自覚症状スコア(5項目)の推移(異物感:n=724,乾燥感:n=717,羞明:n=371,眼痛:n=480,霧視:n=367)14開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3481216202428323640開始時平均値+SD*p<0.001***************************************自覚症状スコア合計点121086420444852観察時期(week)開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.96132254123183825182320141727開始時染色スコア:4.6259143126125101838178697163615967開始時染色スコア:0.346527720219416713512714210310792989398図6開始時染色スコア別自覚症状スコア合計点の推移(n=785)448あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(118) に複数の二重盲検比較試験により検証されている2,3).しかし,治験ではいくつかの患者登録基準を設定していたこと,併用薬が制限されていたことから,必ずしも臨床現場の実態を反映しているとはかぎらない.実際に,第3相試験では対象患者をフルオレセイン染色スコア4点以上(15点満点)としたことから軽症患者が除外されていたと考えられる.本調査では染色スコア3点以下(9点満点)が59.1%と軽症患者が過半数であり,治験時の患者よりも角膜上皮障害としては軽症の患者に使用されていたと考えられる.一方,投与前のBUTを測定された744人中708人(95.2%)がBUT5秒以下の患者であった.このような患者を対象とした本調査において,生体染色スコア,BUTともに4週目には統計学的に有意に改善し,4週目以降も継続していたことから,本剤は長期に継続することでより大きな効果を得られる可能性があると考えられた.また,調査した自覚症状スコアは5項目すべてについて,投与開始時に比べて投与52週目では統計学的に有意な改善が認められた.以上のことから,治験で確認された本剤の有効性が実際の臨床現場においても確認することができたと考えられる.安全性については,もっとも多く報告された副作用は味覚異常であり,発現率は9.3%であった.これらはいずれも「苦味」の事象名にて報告されており,本剤の有効成分の苦味に由来するものと考えられた.また,次に多かった霧視の発現率は3.2%であり,本剤が懸濁製剤であることに由来すると考えられた.承認前の国内52週間長期投与試験で報告された味覚異常および霧視の副作用発現率は13.6%および3.6%であり4),実臨床においてもほぼ同様の発現状況であった.本剤発売後,本剤の投与により涙道閉塞,涙.炎が発現する可能性が指摘されているが,本調査では涙道閉塞の副作用は報告されず,涙.炎の副作用は1例報告された.涙道閉塞,涙.炎の副作用の発現メカニズムはいまだ明確ではない5).発現率は低いものの,本剤を用いる際にはこれらの副作用に注意して使用する必要があるものと考えられる.本剤の製造販売後調査結果より,さまざまな制限のある治験と同様に,実臨床においても,本剤がドライアイ患者の治療に有効な薬剤であることを確認することができた.なお,本研究では併用薬としてジクアホソルナトリウムが11.0%の患者で併用されていた.ジクアホソルナトリウムは本剤と類似する薬効をもつものの,その薬理作用は異なって表3副作用一覧表(2例以上に発現した副作用)副作用名発現率味覚異常9.3%(85/916)霧視3.2%(29/916)アレルギー性結膜炎0.7%(6/916)結膜炎,眼瞼炎,眼痛0.6%(5/916)眼そう痒症0.4%(4/916)悪心0.3%(3/916)結膜出血,眼脂,眼瞼痛0.2%(2/916)MedDRA/Jver17.1のPTで集計おり,両剤の特徴を考慮した使い分け,あるいは併用が有用であるかどうかは今後の研究課題と考えられる.謝辞:本報告にあたり,調査にご協力いただいた先生方に厚くお礼申し上げます.利益相反:本稿は,大塚製薬株式会社により実施された調査結果に基づいて報告された.本報告に関連し,開示すべきCOIは木下茂(委託研究費,技術指導料,講師謝礼)である.文献1)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20122)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:Arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20123)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,20134)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal:Amulticenter,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,20145)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討.あたらしい眼科32:1741-1747,2015***(119)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016449

小児細菌性外眼部感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床的評価および原因菌の薬剤感受性

2014年12月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科31(12):1857.1866,2014c小児細菌性外眼部感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床的評価および原因菌の薬剤感受性大野重昭*1田中知暁*2久志本理*3*1医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科*2富山化学工業株式会社綜合研究所製品企画部*3富山化学工業株式会社開発管理部ClinicalEvaluationofTosufloxacinTosilateOphthalmicSolution0.3%fortheTreatmentofExternalBacterialOcularInfectioninChildrenandSusceptibilityofthePathogenicBacteriatoTosufloxacinShigeakiOhno1),TomoakiTanaka2)andSatoruKushimoto3)1)DepartmentofOphthalmology,AishinMemorialHospital,2)ProductPlanningDepartment,ToyamaChemicalCo.,Ltd.,3)DataScienceandAdministrationDepartment,ToyamaChemicalCo.,Ltd.トスフロキサシン(tosufloxacin:TFLX)トシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より15歳未満の小児の症例を抜粋し,小児の細菌性外眼部感染症に対するTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の有効性と安全性を検証した.また,小児由来の原因菌の薬剤感受性を測定した.TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%は,小児の外眼部感染症を認めた症例に対する有効率は96.4%(449/466例),細菌学的効果は86.7%(202/233例)であった.原因菌477株全株に対するTFLXのMIC50は≦0.06,MIC90は0.25μg/mLであった.主要な原因菌であるHaemophilusinfluenzae,StreptococcuspneumoniaeおよびStaphylococcusaureusに対してTFLXのMIC50はそれぞれ≦0.06,0.12および≦0.06μg/mLであり,moxifloxacin(MFLX)と同程度,levofloxacin(LVFX)より1.4倍,gatifloxacin(GFLX)より1.2倍,cefmenoxime(CMX)より1.32倍以上,gentamicin(GM)より8.32倍,erythromycin(EM)より32.2,048倍以上強い抗菌活性を示した.また,TFLXのMIC90はそれぞれ≦0.06,0.12および32μg/mLであり,LVFXより1.8倍,GFLXの1/4.2倍,MFLXの1/4.1倍,CMXより1.8倍以上,GMより4.64倍,EMより4.1024倍以上強い抗菌活性を示した.副作用発現率は0.2%(1/470)であった.Theefficacyandsafetyoftosufloxacin(TFLX)tosilateophthalmicsolution0.3%forthetreatmentofexternalbacterialocularinfectioninpediatricpatientswereevaluatedinaspecifiedpost-marketingsurveillance.Antibacterialactivitiesagainstpathogenicbacteriaisolatedfrompediatricpatientswerealsomeasured.Theclinicalefficacy(efficacyrate)andbacteriologicalefficacy(bacteriologicaleradicationrate)ofTFLXtosilateophthalmicsolution0.3%were96.4%(449/466patients)and86.7%(202/233patients),respectively.TheMIC50andMIC90valuesofTFLX,anactiveformofTFLXtosilateophthalmicsolution,againstthetotalpathogenicbacteriawere≦0.06μg/mLand0.25μg/mL,respectively.TheMIC50valueofTFLXwas≦0.06,0.12,and≦0.06μg/mLagainstHaemophilusinfluenzae,Streptococcuspneumoniae,andStaphylococcusaureus,respectively,thepredominantpathogensinthissurveillance.TFLXexhibitedantibacterialactivityidenticaltomoxifloxacin(MFLX),and1-4,1-2,1-32,8-32,and32-2,048foldmorepotentantibacterialactivitythanlevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),cefmenoxime(CMX),gentamicin(GM),anderythromycin(EM),respectively.TheMIC90valueofTFLXwas≦0.06,0.12,and32μg/mLagainstH.influenzae,S.pneumoniaeandS.aureus,respectively,andTFLXexhibited1-8,1/4-2,1/4-1,1-8,4-64,and4-1024foldmorepotentantibacterialactivitythanLVFX,GFLX,MFLX,CMX,GM,andEM,respectively.Anadversedrugreactionwasobservedin1of470patients(0.2%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1857.1866,2014〕〔別刷請求先〕大野重昭:〒065-0027札幌市東区北27条東1丁目1-15医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科Reprintrequests:ShigeakiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,AishinMemorialHospital,1-15North27East1,Higashi-ku,Sapporo065-0027,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(119)1857 Keywords:トスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液,トスフロキサシン,小児,製造販売後調査,薬剤感受性,有効性,安全性.tosufloxacintosilateophthalmicsolution,tosufloxacin,pediatricpatient,post-marketingsurveillance,antibacterialactivities,clinicalefficacy,safety.はじめにトスフロキサシン(tosufloxacin:TFLX)トシル酸塩水和物点眼液0.3%(販売名:オゼックスR点眼液0.3%,トスフロR点眼液0.3%)は,2006年に上市されたニューキノロン系抗菌点眼薬であり,新生児を含む小児を対象とした臨床試験を行い,国内で初めて小児に対する用法・用量が認められた抗菌点眼薬である.今回,TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より15歳未満の小児の症例を抜粋し,小児における細菌性外眼部感染症に対するTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の有効性と安全性,ならびに小児における外眼部感染症由来菌の各種抗菌薬に対する薬剤感受性を評価した.I材料および方法1.使用症例「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査─低頻度臨床分離株の集積とオゼックス/トスフロ点眼液の有効性と安全性の確認─」1)1,269例および「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査─新生児の細菌性外眼部感染症に対するオゼックス/トスフロ点眼液の有効性と安全性の検討─」2)57例のうち,15歳未満の小児の症例485例を抜粋した.なお,0歳児において,生後4週未満を新生児,生後4週.1歳未満を乳児に区分した.2.症例の組み入れ,有効性,安全性の基準a.症例の組み入れ基準眼瞼炎,涙.炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎(角膜潰瘍を含む)と診断された以下の患者を対象とした.①細菌性外眼部感染症の症状が明らかに認められ,本剤投薬前に細菌学的検査の実施を予定している患者.②本剤投薬開始時に,他の抗菌薬の併用が必要ないと判断された患者.③再来院でき,経過観察が可能な患者.ただし,以下の患者は安全性解析の対象から除外した.①本剤の成分およびキノロン系抗菌薬に対し過敏症の既往歴のある患者.②本調査に一度組み入れられたことのある患者.③用法・用量を逸脱した患者.④その他,担当医師が対象として不適当と認めた患者.また,以下の患者は有効性解析の対象から除外し,これらの患者から検出された菌株は感受性測定の対象から除外した.1858あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014①本剤投薬前に,他の抗菌薬が使用された患者.②投薬開始直前および投薬7日後までに所定の観察が実施されていない患者.③投薬開始直前および投薬7日後までに所定の検査が実施されていない患者.④投薬開始直前の細菌学的検査において細菌が陰性であった患者.また,対象眼重症度は担当医師判定で行った.b.有効性判定基準担当医師が,投薬開始直前,投薬期間中ならびに投薬終了時に下記の自覚症状,他覚的所見について観察を行い,症状および所見の程度を,3+:強度または多量,2+:中等度または中等量,1+:軽度または少量,±:ごく軽度またはごく少量,.:なし,の5段階で評価した.ただし,1歳未満の乳児は自覚症状の訴えを確認できないため,他覚的所見のみで判定した.自覚症状:流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,そう痒感他覚的所見:眼脂,結膜充血,結膜浮腫,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,流涙,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流担当医師が,投薬前後の症状の推移から総合的に判断し,臨床効果を1:有効,2:無効,で判定した.有効率の算出は,有効例数/(有効例数+無効例数)×100(%)とし,判定不能の症例は有効率の母数から除いた.c.安全性判定基準本剤の投与中に生じたあらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴候,症状,または病気のうち,本剤との因果関係が明確に否定できないものを副作用とした.3.使用菌株「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査」1,2)において2006.2009年に分離された菌株のうち,小児からの分離菌株を用いた.試験菌株は試験実施までスキムミルクを用い.70℃以下に凍結保存したものを用いた.4.使用薬剤被験薬剤として,TFLX,levofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),moxifloxacin(MFLX),cefmenoxime(CMX)gentamicin(GM),erythromycin(EM)の7薬剤を用いた.(,)また,Staphylococcusspp.にはoxacillin(MPIPC),Streptococcuspneumoniaeにはbenzylpenicillin(PCG),Haemophilusinfluenzaeにはampicillin(ABPC)を追加した.5.薬剤感受性測定本研究では生育が認められた菌について,病原性などを考(120) 慮しグループ分類した採用基準(表1)から上位のグループに属する菌を原因菌とし,本剤の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した.MICの測定は,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)標準法に準じた微量液体希釈法3.6)で行った.測定にはフローズンプレート(栄研化学)を用いた.プレートは.70℃以下に保存した.測定濃度範囲は128.0.06μg/mLの2倍希釈系列,12段階とした.ただし,TFLXは16.0.06μg/mLの9段階とした.感性および耐性株の分類は,CLSIの規定4)を参考とし,StaphylococcusaureusはMPIPCのMIC値が2μg/mL以下のものを感性株(methicillin-susceptibleS.aureus:MSSA),4μg/mL以上のものを耐性株(methicillin-resistantS.aureus:MRSA)とした.S.pneumoniaeはPCGのMIC値が0.06μg/mL以下のものを感性株(penicillin-susceptibleS.pneumoniae:PSSP),0.12.1μg/mLのものを中程度耐性株(penicillin-intermediate-resistantS.pneumoniae:PISP),2μg/mL以上のものを耐性株(penicillin-resistant表1原因菌のGroup分類GroupIStaphylococcusaureusStreptococcuspyogenes(GroupA)StreptococcuspneumoniaeEnterococcussp.Citrobactersp.Enterobactersp.Escherichiasp.Proteussp.Morganellasp.SerratiamarcescensOtherEnterobacteriaceaeNeisseriagonorrhoeaeOtherNeisseriaOtherMoraxellaAcinetobactersp.Achromobactersp.Haemophilussp.PseudomonasaeruginosaOtherPseudomonassp.GroupIIStreptococcusagalactiae(GroupB)Streptococcus(GroupC)OtherStreptococcus(GroupD,G;nongrouped;viridans)Branhamella(Moraxella)catarrhalisGroupIIIStaphylococcusepidermidisOthercoagulasenegativeStaphylococcusMicrococcussp.Bacillussp.Corynebacteriumsp.(diphtheroids)PropionibacteriumacnesS.pneumoniae:PRSP)とした.H.influenzaeはCLSIに基準がないため,b-lactamase産生性が陰性で,ABPCのMIC値が1μg/mL以下のものを感性株(b-lactamase-nonproducingABPC-susceptibleH.influenzae:BLNAS),2μg/mL以上のものを耐性株(b-lactamase-negativeABPC-resistantH.influenzae:BLNAR)とした.b-lactamase定性試験はニトロセフィンスポットプレート法にて実施した.II結果1.症例構成症例構成を図1に示す.各試験から抜粋された小児の総症例数485例のうち470例を安全性解析対象症例および有効性解析対象症例とした.そこから投薬開始時に菌が陰性であったなどの理由で除外された75例を除いた395例を原因菌別臨床効果解析対象症例とした.さらに,これらから投与後の菌検査が実施されていないなどの理由で除外された162例を除いた233例を細菌図1症例構成原因菌別臨床効果集計対象症例395例安全性解析対象症例470例有効性解析対象症例470例調査完了症例485例細菌学的効果解析対象症例233例安全性解析集計対象除外症例目的外使用で1日1回のみ投薬された症例8例1日7回以上投薬された症例3例その他4例計15例有効性解析集計対象除外症例0例原因菌別臨床効果集計対象除外症例投薬開始時に菌陰性化30例臨床効果が判定不能23例その他22例計75例細菌学的効果解析対象除外症例後検査なし160例臨床効果が判定不能2例計162例(121)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141859 学的効果解析対象症例とした.2.患者背景安全性解析対象症例および有効性解析対象症例470例における人口統計学的およびその他の基準値の特性を表2に示す.年齢別の患者数は0歳(乳児)が最も多く,全体の29.6%(139/470例)を占めた.ついで3.5歳が24.0%(113/470例),1.2歳が23.4%(110/470例),0歳(新生児)が15.5%(73/470例),6.14歳が7.4%(35/470例)の順であった.対象疾患別では結膜炎が83.8%(394/470例)と最も多く,ついで涙.炎が8.9%(42/470例),麦粒腫が4.7%(22/470例),眼瞼炎が2.3%(11/470例),角膜潰瘍が0.2%(1/470例)の順であった.対象眼重症度は重症が4.0%(19/470例),中等症が57.0%(268/470例),軽症が38.9%(183/470例)であった.3.分離材料原因菌別の分離頻度を図2Aに示す.小児眼感染症患者の有効性解析対象症例470例の原因菌477株のうち,H.influenzaeが196株(41.1%)で最も多く,ついでS.pneumoniaeが79株(16.6%),S.aureusが55株(11.5%),a-hemolyticStreptococcusが34株(7.1%),Corynebacteriumspp.が28株(5.9%),Staphylococcusepidermidisが26株(5.5%),Moraxellacatarrhalisが23株(4.8%)であった.年齢別の原因菌は,0歳(新生児)ではS.aureusが一番多かったが,その他の年齢ではいずれもH.influenzaeが一番多かった.また,原因菌をグラム陽性菌とグラム陰性菌に分けると,0歳(新生児),0歳(乳児)および6.14歳ではグラム陽性菌がそれぞれ89.6%,51.4%および70.0%と過半数を占めており,1.2歳および3.5歳ではグラム陰性菌がそれぞれ75.2%および62.2%と過半数を占めていた(図2B).4.原因菌の薬剤感受性原因菌477株全株に対する各抗菌薬の抗菌活性(MICrange,MIC50およびMIC90)を表3に示す.TFLXのMIC50は≦0.06,MIC90は0.25μg/mLであった.その他の抗菌薬のMIC90をTFLXと比較すると,TFLXはMFLXと同程度,LVFXの4倍,GFLXの2倍,CMXの16倍,GMの64倍,EMの512倍以上の強い抗菌活性を示した.おもな菌種のMIC50およびMIC90を図3に示す.a.H.infl196株:うちBLNAS104株,BLNAR75株)BLNASに対するMIC50はTFLX,LVFX,GFLX,MFLXおよびCMXが≦0.06μg/mL,ついでGMが1μg/mL,EMが4μg/mLであった.MIC90はTFLX,LVFX,GFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでCMXが0.25μg/mL,表2人口統計学的およびその他の基準値の特性背景因子結膜炎n=394(83.8)涙.炎n=42(8.9)麦粒腫n=22(4.7)眼瞼炎n=11(2.3)角膜潰瘍n=1(0.2)合計n=4700歳(新生児)0歳(乳児)64(16.2)102(25.9)9(21.4)29(69.0)0(0)1(4.5)0(0)7(63.6)0(0)0(0)73(15.5)139(29.6)年齢(歳)1.2歳3.5歳100(25.4)102(25.9)3(7.1)1(2.4)4(18.2)9(40.9)3(27.3)1(9.1)0(0)0(0)110(23.4)113(24.0)6.14歳26(6.6)0(0)8(36.4)0(0)1(100)35(7.4)性別男女224(56.9)170(43.1)20(47.6)22(52.4)7(31.8)15(68.2)5(45.5)6(54.5)0(0)1(100)256(54.5)214(45.5)軽症159(40.4)7(16.7)8(36.4)9(81.8)0(0)183(38.9)対象眼重症度中等症223(56.6)31(73.8)12(54.5)2(18.2)0(0)268(57.0)重症12(3.0)4(9.5)2(9.1)0(0)1(100)19(4.0)眼の基礎疾患・なし368(93.4)30(71.4)21(95.5)10(90.9)1(100)430(91.5)合併症あり26(6.6)12(28.6)1(4.5)1(9.1)0(0)40(8.5)本剤投薬前6日以内の抗菌薬治療なしあり不明379(96.2)10(2.5)5(1.3)24(57.1)15(35.7)3(7.1)22(100)0(0)0(0)10(90.9)0(0)1(9.1)1(100)0(0)0(0)436(92.8)25(5.3)9(1.9)眼科領域のなし328(83.2)35(83.3)19(86.4)10(90.9)1(100)393(83.6)併用薬あり66(16.8)7(16.7)3(13.6)1(9.1)0(0)77(16.4)眼科領域以外の併用薬なしあり不明381(96.7)12(3.0)1(0.3)40(95.2)2(4.8)0(0)16(72.7)6(27.3)0(0)9(81.8)2(18.2)0(0)1(100)0(0)0(0)447(95.1)22(4.7)1(0.2)症例数(%)1860あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(122) AAcinetobacterspp.TheothersB小児原因菌n=477H.influenzae196,41.1%S.pneumoniae79,16.6%S.aureus55,11.5%a-hemolyticStreptococcus34,7.1%Corynebacteriumspp.28,5.9%M.catarrhalis23,4.8%S.epidermidis26,5.5%25,5.2%11,2.3%0%20%40%60%80%100%6~14歳3~5歳1~2歳0歳(乳児)0歳(新生児)■Streptococcuspneumoniae■Staphylococcusaureus■a-hemolyticStreptococcus■Corynebacteriumspp.■Staphylococcusepidermidis■陽性菌その他■Haemophilusinfluenzae■Moraxellacatarrhalis■陰性菌その他図2原因菌別分離頻度および年齢別のグラム陽性菌とグラム陰性菌の比率表3原因菌に対する各抗菌薬の抗菌活性抗菌薬TFLXLVFXGFLXMFLXCMXGMEMMIC(μg/mL)RangeMIC50≦0.06.>16≦0.06≦0.06.>1280.12≦0.06.128≦0.06≦0.06.64≦0.06≦0.06.>1280.25≦0.06.>1281≦0.06.>1284MIC900.2510.50.25416>1280.010.1MIC501101001,0000.010.1MIC90110(μg/mL)1001,000S.pneumoniae(79)PSSP(47)PISP/PRSP(32)S.aureus(55)MSSA(44)MRSA(11)a-hemolyticStreptococcus(34)Corynebacteriumspp.(28)S.epidermidis(17)H.influenzae(196)BLNAS(104)BLNAR(75)M.catarrhalis(23)TFLXLVFXGFLXMFLXCMXGMEM図3各菌種のMIC50およびMIC90GMが2μg/mL,EMが8μg/mLであった.BLNARに対およびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでCMXが0.5μg/するMIC50はTFLX,LVFX,GFLXおよびMFLXが≦0.06mL,GMが2μg/mL,EMが8μg/mLであった.μg/mL,ついでCMXが0.25μg/mL,GMが1μg/mL,EMが4μg/mLであった.MIC90はTFLX,LVFX,GFLX(123)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141861 表4疾患別および重症度別の臨床効果(有効率)臨床効果有効率(%)95%信頼区間(%)有効無効判定不能合計対象疾患結膜炎38110339497.495.3.98.8涙.炎35614285.470.8.94.4麦粒腫22002210084.6.100眼瞼炎11001110071.5.100角膜潰瘍010100.97.5重症度別軽症1802118398.996.1.99.9中等症25312326895.592.2.97.6重症16301984.260.4.96.6合計44917447096.494.2.97.9有効率,95%信頼区間の算出に関しては,分母から判定不能を除く.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.b.S.pneumoniae(79株:うちPSSP47株,PISP/PRSP32株)PSSPに対するMIC50はTFLXが≦0.06μg/mL,ついでMFLXおよびCMXが0.12μg/mL,GFLXが0.25μg/mL,LVFXが0.5μg/mL,EMが2μg/mL,GMが4μg/mLであった.MIC90はTFLXおよびMFLXが0.12μg/mL,ついでGFLXおよびCMXが0.25μg/mL,LVFXが1μg/mL,GMが8μg/mL,EMが>128μg/mLであった.PISP/PRSPに対するMIC50はTFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでGFLXが0.12μg/mL,LVFXおよびCMXが0.5μg/mL,GMおよびEMが8μg/mLであった.MIC90はTFLXおよびMFLXが0.12μg/mL,ついでGFLXが0.25μg/mL,LVFXおよびCMXが1μg/mL,GMが16μg/mL,EMが>128μg/mLであった.c.S.aureus(55株:うちMSSA44株,MRSA11株)MSSAに対するMIC50はTFLX,GFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでLVFXが0.12μg/mL,GMおよびEMが0.5μg/mL,CMXが2μg/mLであった.MIC90はGFLXおよびMFLXが1μg/mL,ついでTFLX,LVFXおよびCMXが2μg/mL,GMが128μg/mL,EMが>128μg/mLであった.MRSAに対するMIC50はGFLXおよびMFLXが8μg/mL,TFLXが>16μg/mL,LVFXおよびCMXが32μg/mL,GMが64μg/mL,EMが>128μg/mLであった.MIC90はMFLXが8μg/mL,ついでGFLXが16μg/mL,TFLXが>16μg/mL,LVFXが64μg/mL,CMX,GMおよびEMが>128μg/mLであった.5.臨床効果a.臨床効果有効性解析対象症例470例における疾患別および重症度別の臨床効果(有効率)とその95%信頼区間を表4に示す.有効性解析対象症例において全体の臨床効果は96.4%(449/466例)であった.各対象疾患に対する有効率は,結膜炎が97.4%(381/391例),涙.炎が85.4%(35/41例),麦粒腫が100%(22/22例),眼瞼炎が100%(11/11例)であり,角膜潰瘍(0/1例)を除き,85%を超えていた.また,重症度別の有効率は,軽症で98.9%(180/182例),中等症で95.5%(253/265例),重症で84.2%(16/19例)であった.b.原因菌別臨床効果原因菌別臨床効果解析対象症例395例における原因菌別の臨床効果(有効率)とその95%信頼区間を表5に示す.本試験において検出された原因菌に対する単独菌感染症例は335例(グラム陽性菌:145例,グラム陰性菌:190例)2菌種の複数菌感染症例は56例,3菌種の複数菌感染症例(,)は4例であった.単独菌感染症例でのトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%による臨床効果は,H.influenzaeで100%(160/160例){BLNASが100%(88/88例),BLNARが100%(58/58例)},S.pneumoniaeで95.9%(47/49例){PSSPが100%(31/31例),PISP/PRSPが88.9%(16/18例)},a-hemolyticStreptococcusで100%(29/29例),S.aureusで89.7%(26/29例){MSSAが90.0%(18/20例),MRSAが88.9%(8/9例)},M.catarrhalisで100%(20/20例)であった.また,複数菌に感染した症例の臨床効果は,2菌種では98.1%(53/54例),3菌種では100%(4/4例)であった.6.細菌学的効果細菌学的効果解析対象症例233例(グラム陽性菌:92例,グラム陰性菌:103例,複数菌感染:38例)における細菌学的効果(消失率)およびその95%信頼区間を表6に示す.全対象症例における細菌学的効果は86.7%(202/233例)1862あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(124) 表5原因菌別臨床効果(有効率)原因菌臨床効果合計(例)有効率(%)95%信頼区間(%)有効無効判定不能単独菌感染グラム陽性菌S.pneumoniae47215095.986.0.99.5PSSP31013210088.8.100PISP/PRSP16201888.965.3.98.6a-hemolyticStreptococcus29013010088.1.100S.aureus26302989.772.6.97.8MSSA18202090.068.3.98.8MRSA810988.951.8.99.7S.epidermidis14101593.368.1.99.8S.capitis10011002.5.100CoagulasenegativeStaphylococcus110250.01.3.98.7Corynebacteriumspp.17101894.472.7.99.9小計1358214594.489.3.97.6グラム陰性菌H.influenzae1600016010097.7.100BLNAS88008810095.9.100BLNAR58005810093.8.100M.catarrhalis20002010083.2.100Acinetobacterspp.410580.028.4.99.5P.aeruginosa300310029.2.100K.pneumoniae10011002.5.100Moraxellaspp.010100.97.5小計1882019098.996.2.99.9複数菌感染2菌種53125698.190.1.1003菌種400410039.8.100合計38011439597.295.0.98.6有効率,95%信頼区間の算出に関しては,分母から判定不能を除く.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.であった.また,グラム陽性菌に対しては84.8%(78/92例),グラム陰性菌に対しては89.3%(92/103例)であった.7.安全性および副作用発現症例安全性解析対象症例470例における副作用について表7に示す.全対象症例における副作用発現率は0.2%(1/470例)であり,眼瞼炎を発現した1件で投与日数1日,1日量1滴の結膜炎の6カ月女児であった.III考察今回,筆者らは,TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より,小児の結果を抜粋し,新生児を含む小児に対する有効性および安全性を検証した.同時に,小児より分離された原因菌を用いて各種抗菌薬の薬剤感受性を測定した.本調査におけるTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床効果(有効率)は全体で96.4%(449/466例)であり良好な成績であった.対象疾患別では,最も頻度の高かった結膜(125)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141863 表6原因菌別細菌学的効果原因菌細菌学的効果合計(例)消失率(%)95%信頼区間(%)消失推定消失一部消失消失せず単独菌感染グラム陽性菌S.pneumoniae210072875.055.1.89.3PSSP110041573.344.9.92.2PISP/PRSP100031376.946.2.95.0a-hemolyticStreptococcus163012095.075.1.99.9S.aureus122051973.748.8.90.9MSSA91001010069.2.100MRSA3105944.413.7.78.8S.epidermidis111011392.364.0.99.8S.capitis100011002.5.100CoagulasenegativeStaphylococcus010011002.5.100Corynebacteriumspp.100001010069.2.100小計7170149284.875.8.91.4グラム陰性菌H.influenzae6910108087.578.2.93.8BLNAS430064987.875.2.95.4BLNAR181032286.465.1.97.1M.catarrhalis130001310075.3.100Acinetobacterspp.5000510047.8.100P.aeruginosa2001366.79.4.99.2K.pneumoniae100011002.5.100Moraxellaspp.100011002.5.100小計91101110389.381.7.94.5複数菌感染2菌種264513683.367.2.93.63菌種2000210015.8.100合計1901252623386.781.6.90.8消失率の算出に関しては,消失および推定消失を合わせて消失とした.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.表7副作用発現率と内訳副作用発現件数/解析対象例数1/470発現率(%)0.295%信頼区間(%)0.0.1.2内訳眼瞼炎1件信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.炎は97.4%(381/391例)であった.本調査の臨床効果は,申請時の12歳以上の患者を対象としたオープン試験の成績7)(有効率:全体で93.7%,結膜炎に対して93.8%)よりもやや高かった.原因菌別の臨床効果では,単独菌感染症例に対して,97.0%(323/333例)の有効率であった.菌別では,BLNAR,PISP/PRSP,MRSAにそれぞれ100%,88.9%,88.9%と,耐性株を含む主要な菌種に対して高い臨床効果を示した.細菌学的効果(消失率)は全体で86.7%(202/233例)であった.これも申請時の結果〔消失率:79.2%(114/1441864あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(126) 例)〕7)と比較してやや高かった.原因菌別の分離頻度では,H.influenzaeが最も高く40%程度を占めていた.ついでS.pneumoniae,S.aureus,a-hemolyticStreptococcusの順に分離頻度が高かった.秋葉らは4歳未満の乳幼児107例の細菌性結膜炎から検出された検出菌82株において,H.influenzaeが52.4%と最も多く,ついでS.pneumoniaeの20.7%,S.aureusの7.3%であったと報告しており8),今回の結果は既報と同じ傾向を示していた.さらに,月齢別でのグラム陽性菌とグラム陰性菌の比率において,生後1.6カ月ではS.pneumoniaeやS.aureusなどのグラム陽性菌が過半数を占めていたが,それ以降グラム陰性菌の比率が増え,生後25.48カ月ではグラム陰性菌が100%になったことを報告している8).今回も同様の傾向がみられ,新生児ではグラム陽性菌が89.6%と過半数を占めていたが,徐々にその比率が下がり,1.2歳ではグラム陽性菌が24.8%を占めていた.また,3.5歳,6.14歳と年齢が上がるにつれて再びグラム陽性菌の比率が増え,6.14歳ではグラム陽性菌が70.0%を占めていた.松本らは,全症例中73.3%が40歳以上を占める集団の解析において,グラム陽性菌が全体の67.4%を占めていたことを報告しており9),年齢の上昇に伴い再びグラム陽性菌が主要な原因菌となることが示唆された.今回分離された原因菌において,S.pneumoniaeでは,79株のうち40.5%がPISPまたはPRSPであった.PISPまたはPRSPに対するLVFXのMIC90は1μg/mLであったが,その他のキノロン系抗菌薬のMIC90は0.12または0.25μg/mLであり,強い抗菌活性を示した.一方で,EMはMIC90が>128μg/mLであり,耐性化が認められた.S.aureusでは,20.0%がMRSAであった.2004年から2007年に細菌性結膜炎患者から分離された検出菌において,S.aureus97株中19.6%(19株)がMRSAであったことを松本らが報告している9)が,今回のMRSAの分離頻度と類似していた.MRSAは今回感受性測定を実施したいずれの抗菌薬に対しても感受性の低下が認められた.H.influenzaeでは,196株のうち38.3%の75株がBLNARであった.堀らは市中病院における外眼部感染症から分離されたH.influenzae412株のうち,BLNARは46.6%の192株であったと報告しているが10),今回の結果でも40%近くの分離頻度であった.BLNARに対して,キノロン系抗菌薬のMIC90はいずれも≦0.06μg/mLであり,強い抗菌活性を示した.H.influenzaeは小児の細菌性結膜炎の主要な起炎菌であるが,今回の結果からはキノロン系抗菌薬はBLNARに対して強い抗菌活性を示した.副作用は,安全性解析対象症例470例中,6カ月の結膜炎女児に発現した眼瞼炎1件であった.本結果からは安全であると考えられるが,今後も情報収集に努める必要がある.(127)近年,成人領域ではキノロン耐性のH.influenzaeも分離され11),S.pneumoniaeもキノロン耐性化率の上昇が懸念される.小児では,生後6カ月から5歳くらいまでは自己の免疫能が未熟なため,S.pneumoniaeやH.influenzaeの鼻咽頭の健常保菌率が50.60%程度と非常に高い12,13).このように普段から病原菌を保菌している小児に対し,広くキノロン系抗菌点眼薬を使用すれば,キノロン耐性H.influenzaeやS.pneumoniaeが生じやすくなることは容易に想像できる.眼科医の小児に対するキノロン系抗菌薬の処方については今後さらに十分検討していくことが重要である.しかしながら,病状の経過を自分で表現できない子供の場合,小児眼感染症が重症化する前に短期間でしっかりと病原菌をたたき,治療を行うことは重要であると考える.また,TFLXトシル酸塩水和物点眼液の「用法用量に関連する使用上の注意」には,「小児においては,成人に比べて短期間で治療効果が認められる場合があることから,経過を十分観察し,漫然と使用しないよう注意すること」と注意喚起もされ,短期治療を念頭に処方されていることから,TFLXトシル酸塩水和物点眼液により耐性菌を生じやすくする恐れは必ずしも高くないと考える.一方,CMXなどのb-ラクタム系薬も治療の選択肢として有効ではあるが,TFLXに比し主要な眼感染症起因菌に対し抗菌活性が劣る.また,近年,眼感染症起因菌においても,バイオフィルム形成が臨床的に問題となっており,バイオフィルム形成菌に対してはb-ラクタム系薬よりもキノロン系薬を,また,キノロン系薬のなかでも目標とする菌に対して,より強い抗菌活性を示す薬剤を選択すべきである14)といわれている.小児の眼感染症は早期に十分治療しなければ,将来のある幼小児の視機能を損ないかねないこともある.キノロン系薬は耐性菌の出現にも十分注意を払う必要があることも念頭におきながら,キノロン系薬での治療が有効であると思われる症例では,短期間で集中的に治療を行うことも重要である.以上,本調査で分離された原因菌の分離頻度ならびに耐性化率は,これまでの報告と同様の傾向が認められた.また,臨床効果ならびに細菌学的効果ともに申請時の試験と比べて低下は認められなかった.耐性菌の動向に注意を払う必要はあるが,小児の細菌性外眼部感染症においてTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%は高い有効性と安全性を有する薬剤であると考えられた.文献1)西田輝夫,宮永嘉隆,大野重昭:トスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性・安全性および低頻度分離株に対する有効性の確認.臨眼68:1509-1519,20142)宮永嘉隆,東範行,大野重昭:新生児の外眼部細菌感染あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141865 症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性と安全性の検討.臨眼65:1043-1049,20113)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsfordilutionantimicrobialsusceptibilitytestsforbacteriathatgrowaerobically;Approvedstandard-seventhedition.M7-A7.CLSI,Wayne,PA,20064)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;seventeenthinformationalsupplement.M100-S17.CLSI,Wayne,PA,20075)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsforantimicrobialdilutionanddisksusceptibilitytestingofinfrequentlyisolatedorfastidiousbacteria;Approvedguideline.M45-A.CLSI,Wayne,PA,20066)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsforantimicrobialsusceptibilitytestingofanaerobicbacteria;Approvedstandard-seventhedition.M11-A7.CLSI,Wayne,PA,20077)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の細菌性外眼部感染症を対象とするオープン試験.あたらしい眼科23:68-80,20068)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,20019)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,200710)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,198911)YokotaS,OhkoshiY,SatoKetal:Emergenceoffluoroquinolone-resistantHaemophilusinfluenzaestrainsamongelderlypatientsbutnotamongchildren.JClinMicrobiol46:361-365,200812)HashidaK,ShiomoriT,HohchiNetal:NasopharyngealHaemophilusinfluenzaecarriageinJapanesechildrenattendingday-carecenters.JClinMicrobiol46:876-881,200813)HashidaK,ShiomoriT,HohchiNetal:NasopharyngealStreptococcuspneumoniaecarriageinJapanesechildrenattendingday-carecenters.IntJPediatrOtorhinolaryngol75:664-669,201114)井上幸次,池田欣史,藤原弘光ほか:眼感染症由来Staphylococcusepidermidisが形成したInVitroバイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果.あたらしい眼科29:91-98,2012***1866あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(128)

ガチフロ®点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査

2014年11月30日 日曜日

1674あたらしい眼科Vol.4101,211,No.3(00)1674(108)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1674.1682,2014cはじめに細菌性外眼部感染症の治療にあたっては,起炎菌に対して感受性を示す抗菌薬を選択することが望まれる.しかしながら,実際には初診時に起炎菌を同定できないために,広域スペクトラムを有する薬剤が優先して処方されやすいという現状がある.フルオロキノロン系抗菌点眼薬は広域スペクトラムを有し,化学的にも安定した薬剤であるため,点眼液に適していることから外眼部感染症の初期治療薬として広く用いられている.近年ではgatifloxacin(GFLX),moxifloxacin,tosufloxacinが点眼薬として開発され,その選択肢は増している.GFLXの構造上の特徴であるキノロン環8位のメトキシ基の存在は,標的酵素の一つであるDNAgyrase阻害活性の向上に寄与している1).加えて,同じく標的酵素の一つであるtopoisomeraseIVに対する阻害活性がDNAgyrase阻害活性と近似し,両酵素を強力に阻害する2)ことにより,耐性菌が生じにくいことが示唆されている3).GFLXは,2004年に「ガチフロR点眼液0.3%」(以下,本剤)として上市され,眼科診療に用いられている.今回筆者らは,細菌性外眼部感染症からの初診時検出菌動向の検討も視野に入れ,計2回の特定使用成績調査(以下,本調査)を実施した.実施にあたってはGPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査および試験の実施の基準に関する省令」平成16年12月20日付厚生労働省令第171号)に従い,2005年12月から2007年10月に第1回調査,2008年3月から2010年1月に第2回調査を実施した.〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPANガチフロR点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査末信敏秀*1川口えり子*1星最智*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部*2国立長寿医療研究センター眼科Post-marketingUse-resultSurveillanceofGatifloxacinOphthalmicSolutionToshihideSuenobu1),ErikoKawaguchi1)andSaichiHoshi2)1)Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,NationalCenterforGeriatricsandGerontology細菌性外眼部感染症に対するガチフロR点眼液0.3%の安全性,有効性および初診時検出菌に対する細菌学的効果を検討することを目的として,計2回の特定使用成績調査を行った.その結果,安全性評価対象962例に7例の副作用を認めた(発現率0.73%)が,いずれも投与部位における事象であった.また,初診時に適応菌種が分離された912例における有効率は97%,消失率は89%であった.以上の結果,本剤は細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であることが示唆された.Toevaluatethesafety,efficacyandbacteriologicaleffectofgatifloxacinophthalmicsolution(GATIFLORoph-thalmicsolution0.3%),use-resultsurveillancewasconductedtwiceinthepost-marketingperiod.Ofatotalof962patients,adversedrugreactionswereobservedin7patients(incidencerate:0.73%).Allincidentswerelimitedtothesiteofdrugapplication.Theratesofefficacyandbacteriologicaleffectin912patientswere97%and89%,respectively.TheseresultssuggestthatGATIFLORophthalmicsolution0.3%contributestothetreatmentofthepatientswithbacterialocularinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1674.1682,2014〕Keywords:ガチフロキサシン,ガチフロR点眼液0.3%,使用成績調査,安全性,有効性,細菌学的効果.gatifloxacin,GATIFLORophthalmicsolution0.3%,use-resultsurveillance,safety,efficacy,bacteriologicaleffect.(00)1674(108)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1674.1682,2014cはじめに細菌性外眼部感染症の治療にあたっては,起炎菌に対して感受性を示す抗菌薬を選択することが望まれる.しかしながら,実際には初診時に起炎菌を同定できないために,広域スペクトラムを有する薬剤が優先して処方されやすいという現状がある.フルオロキノロン系抗菌点眼薬は広域スペクトラムを有し,化学的にも安定した薬剤であるため,点眼液に適していることから外眼部感染症の初期治療薬として広く用いられている.近年ではgatifloxacin(GFLX),moxifloxacin,tosufloxacinが点眼薬として開発され,その選択肢は増している.GFLXの構造上の特徴であるキノロン環8位のメトキシ基の存在は,標的酵素の一つであるDNAgyrase阻害活性の向上に寄与している1).加えて,同じく標的酵素の一つであるtopoisomeraseIVに対する阻害活性がDNAgyrase阻害活性と近似し,両酵素を強力に阻害する2)ことにより,耐性菌が生じにくいことが示唆されている3).GFLXは,2004年に「ガチフロR点眼液0.3%」(以下,本剤)として上市され,眼科診療に用いられている.今回筆者らは,細菌性外眼部感染症からの初診時検出菌動向の検討も視野に入れ,計2回の特定使用成績調査(以下,本調査)を実施した.実施にあたってはGPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査および試験の実施の基準に関する省令」平成16年12月20日付厚生労働省令第171号)に従い,2005年12月から2007年10月に第1回調査,2008年3月から2010年1月に第2回調査を実施した.〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPANガチフロR点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査末信敏秀*1川口えり子*1星最智*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部*2国立長寿医療研究センター眼科Post-marketingUse-resultSurveillanceofGatifloxacinOphthalmicSolutionToshihideSuenobu1),ErikoKawaguchi1)andSaichiHoshi2)1)Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,NationalCenterforGeriatricsandGerontology細菌性外眼部感染症に対するガチフロR点眼液0.3%の安全性,有効性および初診時検出菌に対する細菌学的効果を検討することを目的として,計2回の特定使用成績調査を行った.その結果,安全性評価対象962例に7例の副作用を認めた(発現率0.73%)が,いずれも投与部位における事象であった.また,初診時に適応菌種が分離された912例における有効率は97%,消失率は89%であった.以上の結果,本剤は細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であることが示唆された.Toevaluatethesafety,efficacyandbacteriologicaleffectofgatifloxacinophthalmicsolution(GATIFLORoph-thalmicsolution0.3%),use-resultsurveillancewasconductedtwiceinthepost-marketingperiod.Ofatotalof962patients,adversedrugreactionswereobservedin7patients(incidencerate:0.73%).Allincidentswerelimitedtothesiteofdrugapplication.Theratesofefficacyandbacteriologicaleffectin912patientswere97%and89%,respectively.TheseresultssuggestthatGATIFLORophthalmicsolution0.3%contributestothetreatmentofthepatientswithbacterialocularinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1674.1682,2014〕Keywords:ガチフロキサシン,ガチフロR点眼液0.3%,使用成績調査,安全性,有効性,細菌学的効果.gatifloxacin,GATIFLORophthalmicsolution0.3%,use-resultsurveillance,safety,efficacy,bacteriologicaleffect. あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141675(109)I対象および方法本調査に参加した医療施設において,新たに本剤が投与された患者を対象として前向き調査を実施した.調査項目は患者背景である性別,年齢,疾患名,初診時主症状および本剤の使用状況,併用薬剤の有無,臨床経過,有害事象,有効性評価,細菌学的効果とした.観察期間は3日.14日とした.安全性は,副作用の発現率および内容を評価した.有効性は本剤投与開始後の臨床経過より担当医師が総合的に判断し,改善,不変および悪化の3段階で評価した.このうち改善症例を有効例,不変および悪化症例を無効例とした.さらに,有効性を評価した症例のうち細菌学的効果が判定できた症例は,計2回の調査における適応菌種別での有効率ならびに消失率をFisher直接確率検定にて評価した.有意水準は5%とした.医療施設にて採取された検体は,輸送用培地(カルチャースワブTM)を用いて検査施設である三菱化学メディエンス株式会社に輸送した.検査施設では検体からの細菌分離と同定,さらに分離菌に対するGFLXの最小発育阻止濃度(mini-muminhibitoryconcentration:MIC)をClinicalandLabo-ratoryStandardsInstituteに準じた微量液体希釈法にて測定した.好気性菌は35℃にて20.22時間の好気培養,嫌気性菌は35℃にて46.48時間の嫌気培養を行った.ブドウ球菌属はoxacillin感受性にて細分類した.すなわちStaphylo-coccusaureusについてはoxacillinのMIC値が2μg/mL以下のものをmethicillin-susceptibleS.aureus(MSSA),4μg/mL以上のものをmethicillin-resistantS.aureus(MRSA)とした.Coagulase-negativestaphylococci(CNS)はoxacillinのMIC値が0.25μg/mL以下のものをmethicil-lin-susceptibleCNS(MSCNS),0.5μg/mL以上のものをmethicillin-resistantCNS(MRCNS)とした.初診時検出菌については投与開始以降の細菌検査結果が陰性となった時点で消失と判定した.II結果1.症例構成図1に示した106施設から987例(第1回475例,第2回512例)の調査票を収集し,本剤の投与歴がある症例などの25例を除いた962例を安全性評価対象,さらに安全性評価対象のうち有効性判定不能症例などの17例を除いた945例を有効性評価対象とした.初診時に菌が検出され,投与後14±4日までに2回目の検体が採取された912例を細菌学的効果評価対象とした.初診時検出菌は本剤の適応菌種で分類し,複数菌種が検出された場合は検出菌ごとに1症例として計数した.2.安全性a.安全性評価対象症例の患者背景患者背景を表1に示した.年齢分布は65歳以上の高齢者が51%を占めた.疾患は結膜炎が最も多く全体の66%を占め,ついで麦粒腫が13%であった.初診時主症状は疾患を反映し,眼脂および充血が68%に認められた.平均投与期間は第1回が16.3±14.6日,第2回が11.2±7.9日であり,疾患別では涙.炎,角膜潰瘍,眼瞼炎の平均投与期間が2週間以上と長かった.b.副作用発現率表2に示したとおり,7例7件の副作用を認めたことから,副作用発現率は0.73%であった.副作用の内訳は眼刺激および眼そう痒症が各2例,結膜充血,点状角膜炎および適用部位熱感が各1例であり,全身性の副作用は認めなかった.3.有効性表3に示したとおり,眼瞼炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎および角膜潰瘍の有効率はいずれも95%以上であった.一方,涙.炎の有効率は75%であり疾患別では最も低かった.疾患ごとに2回の調査間で有効率を比較したところ,有意な低下を認めなかった.初診時に検出された適応菌種別では,第1回調査のレンサ球菌属,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリスおよびアクネ菌で90%未満であったが,有意な有効率の低下を示す適応菌種は認めなかった(表4).4.初診時検出菌の分布と消失率a.年代別および疾患別の初診時検出菌図2に示したとおり,すべての年代でグラム陽性菌(図中の紫系色)が57.87%と主を占めた.グラム陰性菌(図中の赤系色)の割合は15歳未満で37.42%と最も高かった.15歳未満ではインフルエンザ菌が28.29%と最も多く,つい図1症例構成安全性評価対象症例:962例(第1回:466例,第2回:496例)調査票完成症例:987例(第1回:475例,第2回:512例)有効性評価対象症例:945例(第1回:456例,第2回:489例)初診時検出菌別での有効性評価および細菌学的効果評価対象症例:912例(第1回:383例,第2回:529例)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141675(109)I対象および方法本調査に参加した医療施設において,新たに本剤が投与された患者を対象として前向き調査を実施した.調査項目は患者背景である性別,年齢,疾患名,初診時主症状および本剤の使用状況,併用薬剤の有無,臨床経過,有害事象,有効性評価,細菌学的効果とした.観察期間は3日.14日とした.安全性は,副作用の発現率および内容を評価した.有効性は本剤投与開始後の臨床経過より担当医師が総合的に判断し,改善,不変および悪化の3段階で評価した.このうち改善症例を有効例,不変および悪化症例を無効例とした.さらに,有効性を評価した症例のうち細菌学的効果が判定できた症例は,計2回の調査における適応菌種別での有効率ならびに消失率をFisher直接確率検定にて評価した.有意水準は5%とした.医療施設にて採取された検体は,輸送用培地(カルチャースワブTM)を用いて検査施設である三菱化学メディエンス株式会社に輸送した.検査施設では検体からの細菌分離と同定,さらに分離菌に対するGFLXの最小発育阻止濃度(mini-muminhibitoryconcentration:MIC)をClinicalandLabo-ratoryStandardsInstituteに準じた微量液体希釈法にて測定した.好気性菌は35℃にて20.22時間の好気培養,嫌気性菌は35℃にて46.48時間の嫌気培養を行った.ブドウ球菌属はoxacillin感受性にて細分類した.すなわちStaphylo-coccusaureusについてはoxacillinのMIC値が2μg/mL以下のものをmethicillin-susceptibleS.aureus(MSSA),4μg/mL以上のものをmethicillin-resistantS.aureus(MRSA)とした.Coagulase-negativestaphylococci(CNS)はoxacillinのMIC値が0.25μg/mL以下のものをmethicil-lin-susceptibleCNS(MSCNS),0.5μg/mL以上のものをmethicillin-resistantCNS(MRCNS)とした.初診時検出菌については投与開始以降の細菌検査結果が陰性となった時点で消失と判定した.II結果1.症例構成図1に示した106施設から987例(第1回475例,第2回512例)の調査票を収集し,本剤の投与歴がある症例などの25例を除いた962例を安全性評価対象,さらに安全性評価対象のうち有効性判定不能症例などの17例を除いた945例を有効性評価対象とした.初診時に菌が検出され,投与後14±4日までに2回目の検体が採取された912例を細菌学的効果評価対象とした.初診時検出菌は本剤の適応菌種で分類し,複数菌種が検出された場合は検出菌ごとに1症例として計数した.2.安全性a.安全性評価対象症例の患者背景患者背景を表1に示した.年齢分布は65歳以上の高齢者が51%を占めた.疾患は結膜炎が最も多く全体の66%を占め,ついで麦粒腫が13%であった.初診時主症状は疾患を反映し,眼脂および充血が68%に認められた.平均投与期間は第1回が16.3±14.6日,第2回が11.2±7.9日であり,疾患別では涙.炎,角膜潰瘍,眼瞼炎の平均投与期間が2週間以上と長かった.b.副作用発現率表2に示したとおり,7例7件の副作用を認めたことから,副作用発現率は0.73%であった.副作用の内訳は眼刺激および眼そう痒症が各2例,結膜充血,点状角膜炎および適用部位熱感が各1例であり,全身性の副作用は認めなかった.3.有効性表3に示したとおり,眼瞼炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎および角膜潰瘍の有効率はいずれも95%以上であった.一方,涙.炎の有効率は75%であり疾患別では最も低かった.疾患ごとに2回の調査間で有効率を比較したところ,有意な低下を認めなかった.初診時に検出された適応菌種別では,第1回調査のレンサ球菌属,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリスおよびアクネ菌で90%未満であったが,有意な有効率の低下を示す適応菌種は認めなかった(表4).4.初診時検出菌の分布と消失率a.年代別および疾患別の初診時検出菌図2に示したとおり,すべての年代でグラム陽性菌(図中の紫系色)が57.87%と主を占めた.グラム陰性菌(図中の赤系色)の割合は15歳未満で37.42%と最も高かった.15歳未満ではインフルエンザ菌が28.29%と最も多く,つい図1症例構成安全性評価対象症例:962例(第1回:466例,第2回:496例)調査票完成症例:987例(第1回:475例,第2回:512例)有効性評価対象症例:945例(第1回:456例,第2回:489例)初診時検出菌別での有効性評価および細菌学的効果評価対象症例:912例(第1回:383例,第2回:529例) 表1安全性評価対象症例の患者背景要因第1回第2回全体性別男200206406女266290556年齢(歳)平均値±SD56.3±26.060.0±25.956.1±25.9(最小値.最大値)(22日齢.96歳)(11日齢.99歳)(11日齢.99歳)(分布)27日以下2351歳未満1110211歳以上15歳未満36387415歳以上65歳未満17919737665歳以上75歳未満1019920075歳以上80歳未満627513780歳以上7574149疾患名眼瞼炎181937涙.炎292554麦粒腫5566121結膜炎307331638瞼板腺炎111526角膜炎281644角膜潰瘍142135その他437初診時主症状眼瞼,瞼板の発赤6287149眼瞼,瞼板の腫脹7676152逆流分泌物272249涙.部の発赤,腫脹9817眼脂267289556充血231219450角膜混濁21930角膜上皮欠損353469投与期間(日)平均値±SD16.3±14.611.2±7.913.6±11.9(最小値.最大値)(2.134)(2.65)(2.134)(分布)1日4644969602日以上5日未満4644969605日以上10日未満44846991710日以上19日未満29816746519日以上28日未満1105316328日以上592382投与期間不明202疾患別(平均値±SD)眼瞼炎涙.炎26.6±24.927.6±27.411.9±13.115.6±14.219.1±20.822.1±22.9麦粒腫17.4±15.19.2±4.312.9±11.4結膜炎14.2±9.910.9±7.112.5±8.7瞼板腺炎14.3±6.99.5±9.411.5±8.6角膜炎14.0±8.112.7±8.713.5±8.2角膜潰瘍26.7±30.714.8±8.519.5±20.9併用薬剤の有無あり219266485なし247230477でコリネバクテリウム属が16.23%,15歳以上65歳未満%検出された.コリネバクテリウム属はすべての年代で検出ではブドウ球菌属が39.43%と最も多く,ついでコリネバされたが,65歳以上で特にその割合が高かった.全検出菌クテリウム属が20.29%,65歳以上ではコリネバクテリウに占めるMRSAの割合は65歳以上で4.6%,15歳以上65ム属が37.42%と最も多く,ついでブドウ球菌属が29.35歳未満で1.2%,15歳未満で2.3%であった.(110) 表2副作用発現状況安全性評価対象例数962副作用発現例数(%)7(0.73)副作用発現件数7副作用の種類種類別発現例数(率)眼障害6(0.62)眼刺激2(0.21)眼そう痒症2(0.21)結膜充血1(0.10)点状角膜炎1(0.10)全身障害および投与局所様態1(0.10)適用部位熱感1(0.10)表3疾患別の有効率有効率fisher疾患名第1回第2回全体第1回vs第2回眼瞼炎89%(16/18)100%(19/19)95%(35/37)p=0.230NS涙.炎68%(19/28)84%(21/25)75%(40/53)p=0.213NS麦粒腫96%(53/55)94%(62/66)95%(115/121)p=0.688NS結膜炎96%(292/303)97%(316/327)97%(608/630)p=1.000NS瞼板腺炎100%(11/11)100%(15/15)100%(26/26)─角膜炎100%(26/26)88%(14/16)95%(40/42)p=0.139NS角膜潰瘍93%(13/14)100%(21/21)97%(34/35)p=0.400NS眼瞼炎+結膜炎0%(0/1)─0%(0/1)─図3に示したとおり,疾患別分布は角膜潰瘍を除いてはグラム陽性菌が74.100%と主であった.角膜潰瘍ではセラチア属および緑膿菌の検出頻度がそれぞれ13.33%および11.38%と高かった.一方,MRSAは眼瞼炎で0.4%,涙.炎で6.9%,麦粒腫で3.5%,結膜炎で3.4%検出され,涙.炎で最も検出頻度が高かった.涙.炎では緑膿菌が3.4%の頻度で検出された.b.初診時に検出された適応菌種の消失率適応菌種合計の消失率は,いずれの調査においても89%であり低下を認めなかった(表5).10株以上検出された菌種別でみても消失率の低下を認めなかったが,MRSAの消失率は第1回および第2回調査ともに最も低く,それぞれ63%および75%であった.5.初診時に検出された適応菌種に対するGFLXのMIC初診時に検出された適応菌種に対するGFLXのMICを表6に示した.10株以上検出された菌種についてはMIC50およびMIC90を算出した.計2回の調査のMIC値を比較したところ,レンサ球菌属のMIC90は第1回で4.0μg/mL,第2回で0.25μg/mLであったが,第1回調査で分離されたレンサ球菌属にはMICが16μg/mLと比較的高値を示すa-Streptococciが1株存在していたことが要因と考えられた.一方,他の適応菌種に対するMIC50およびMIC90については2管以上のMIC値の変化は認めなかった.III考按フルオロキノロン系抗菌薬であるofloxacin点眼薬が1987年に上市されてから四半世紀が経過した.現在までに数多くのフルオロキノロン系抗菌点眼薬が開発され,GFLX点眼薬は2004年に上市された.フルオロキノロン系抗菌点眼薬は,広域抗菌スペクトラムを有することから,外眼部感染症に対する初期治療に汎用されてきた.一方でフルオロキノロン耐性菌の報告4.6)が増加していることも事実である.(111)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141677 表4初診時検出菌別の有効率有効率fisher検出菌第1回第2回全体第1回vs第2回ブドウ球菌属96%(137/142)98%(170/174)97%(307/316)p=0.736NSMSSA95%(42/44)100%(62/62)98%(104/106)p=0.170NSMRSA100%(16/16)94%(15/16)97%(31/32)p=1.000NSMSCNS95%(40/42)95%(54/57)95%(94/99)p=1.000NSMRCNS98%(39/40)100%(38/38)99%(77/78)p=1.000NSレンサ球菌属83%(15/18)96%(26/27)91%(41/45)p=0.286NS肺炎球菌92%(11/12)100%(23/23)97%(34/35)p=0.343NS腸球菌属100%(8/8)100%(4/4)100%(12/12)─モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス86%(6/7)100%(3/3)90%(9/10)─コリネバクテリウム属98%(116/118)96%(194/203)97%(310/321)p=0.340NSシトロバクター属未検出100%(4/4)100%(4/4)─クレブシエラ属100%(3/3)100%(2/2)100%(5/5)─セラチア属100%(1/1)100%(7/7)100%(8/8)─モルガネラ・モルガニー100%(2/2)100%(2/2)100%(4/4)─インフルエンザ菌97%(30/31)100%(29/29)98%(59/60)p=1.000NSシュードモナス属100%(2/2)100%(1/1)100%(3/3)─緑膿菌100%(6/6)100%(5/5)100%(11/11)─スフィンゴモナス・パウチモビリス100%(1/1)100%(4/4)100%(5/5)─ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア100%(4/4)100%(2/2)100%(6/6)─アシネトバクター属100%(3/3)100%(11/11)100%(14/14)─アクネ菌88%(22/25)96%(27/28)92%(49/53)p=0.333NS適応菌種合計96%(367/383)97%(514/529)97%(881/912)p=0.274NS・ブドウ球菌属(第2回)1株がoxacillinに対するMIC測定不能であった.15歳未満(n=39)(n=51)15歳以上65歳未満(n=128)(n=160)65歳以上(n=232)(n=350)第1回第2回第1回第2回第1回第2回0%25%50%75%100%ブドウ球菌属*(MSSA:,MRSA:,MSCNS:,MRCNS:),レンサ球菌属:,肺炎球菌:,腸球菌属:,コリネバクテリウム属:,アクネ菌:,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス:,シトロバクター属:,クレブシエラ属:,セラチア属:,モルガネラ・モルガニー:,インフルエンザ菌:,シュードモナス属:,緑膿菌:,スフィンゴモナス・パウチモビリス:,ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア:,アシネトバクター属:,適応外菌種:.*MSSA:methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus,MSCNS:methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci,MRCNS:methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci.図2年代別の初診時検出菌(112) 眼瞼炎涙.炎麦粒腫結膜炎瞼板腺炎角膜炎角膜潰瘍ブドウ球菌属(MSSA:,MRSA:,MSCNS:,MRCNS:),レンサ球菌属:,肺炎球菌:,腸球菌属:,コリネバクテリウム属:,アクネ菌:,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス:,シトロバクター属:,クレブシエラ属:,セラチア属:,モルガネラ・モルガニー:,インフルエンザ菌:,シュードモナス属:,緑膿菌:,スフィンゴモナス・パウチモビリス:,ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア:,アシネトバクター属:,適応外菌種:.**MSSA:methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus,MSCNS:methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci,MRCNS:methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci.図3疾患別の初診時検出菌表5初診時検出菌別の消失率第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回(n=23)(n=26)(n=23)(n=34)(n=44)(n=58)(n=279)(n=410)(n=6)(n=16)(n=16)(n=7)(n=8)(n=9)0%25%50%75%100%消失率fisher検出菌第1回第2回全体第1回vs第2回ブドウ球菌属91%(129/142)94%(163/174)92%(292/316)p=0.396NSMSSA91%(40/44)92%(57/62)92%(97/106)p=1.000NSMRSA63%(10/16)75%(12/16)69%(22/32)p=0.704NSMSCNS95%(40/42)96%(55/57)96%(95/99)p=1.000NSMRCNS98%(39/40)100%(38/38)99%(77/78)p=1.000NSレンサ球菌属89%(16/18)89%(24/27)89%(40/45)p=1.000NS肺炎球菌83%(10/12)100%(23/23)94%(33/35)p=0.111NS腸球菌属100%(8/8)100%(4/4)100%(12/12)─モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス100%(7/7)100%(3/3)100%(10/10)─コリネバクテリウム属89%(105/118)82%(166/203)84%(271/321)p=0.110NSシトロバクター属未検出100%(4/4)100%(4/4)─クレブシエラ属100%(3/3)100%(2/2)100%(5/5)─セラチア属100%(1/1)100%(7/7)100%(8/8)─モルガネラ・モルガニー100%(2/2)100%(2/2)100%(4/4)─インフルエンザ菌81%(25/31)97%(28/29)88%(53/60)p=0.104NSシュードモナス属100%(2/2)100%(1/1)100%(3/3)─緑膿菌83%(5/6)80%(4/5)82%(9/11)─スフィンゴモナス・パウチモビリス100%(1/1)75%(3/4)80%(4/5)─ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア100%(4/4)100%(2/2)100%(6/6)─アシネトバクター属100%(3/3)100%(11/11)100%(14/14)─アクネ菌84%(21/25)86%(24/28)85%(45/53)p=1.000NS適応菌種合計89%(342/383)89%(471/529)89%(813/912)p=0.915NS・ブドウ球菌属(第2回)1株がoxacillinに対するMIC測定不能であった.(113)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141679 表6初診時検出菌に対するGFLXの抗菌活性(MIC:μg.mL)第1回第2回菌種名MICrangeMIC50MIC90株数MICrangeMIC50MIC90株数ブドウ球菌属≦0.06.>1280.122.0142≦0.06.>1280.124.0173MSSA≦0.06.2.00.120.2544≦0.06.4.00.120.2562MRSA0.12.>1284.0128160.12.>1288.0>12816MSCNS≦0.06.4.00.121.042≦0.06.640.121.057MRCNS≦0.06.321.02.040≦0.06.321.02.038レンサ球菌属≦0.06.160.254.018≦0.06.4.00.250.527肺炎球菌0.12.0.50.250.25120.12.0.50.250.2523腸球菌属0.5.16──80.5──4モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス≦0.06──7≦0.06──3コリネバクテリウム属≦0.06.1284.016114≦0.06.1282.016203シトロバクター属───0≦0.06.0.5──4クレブシエラ属≦0.06──3≦0.06.0.12──2セラチア属0.25──1≦0.06.0.25──7モルガネラ・モルガニー≦0.06──2≦0.06──2インフルエンザ菌≦0.06≦0.06≦0.0631≦0.06≦0.06≦0.0629シュードモナス属0.25.0.5──21──1緑膿菌0.5──60.25.0.5──5スフィンゴモナス・パウチモビリス≦0.06──10.25.2──4ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア1.16──4≦0.06──2アシネトバクター属≦0.06──3≦0.06.0.25≦0.060.2511アクネ菌0.12.0.50.250.25250.25.8.00.250.527・株数が10株未満についてはMIC90を算出していない.・ClinicalandLaboratoryStandardsInstituteに準拠.・ブドウ球菌属(第2回)1株,コリネバクテリウム属(第1回)4株およびアクネ菌(第2回)1株がMIC測定不能であった.本調査の疾患別での初診時検出菌は,ブドウ球菌属およびコリネバクテリウム属をはじめとするグラム陽性菌の検出率が74.100%と高かった.一方,角膜潰瘍では緑膿菌およびセラチア属をはじめとするグラム陰性菌の検出率が55.77%と高かった.年代別での初診時検出菌分布は,小児ではレンサ球菌属およびインフルエンザ菌の割合が28.29%と高く,成人ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が,それぞれ39.43%および9.13%と高く,さらに高齢者ではコリネバクテリウム属の割合が37.43%と最も高かった.これは,小児での検出菌はインフルエンザ菌が30%で最も多く,成人ではブドウ球菌属が48%で最も多く,高齢者ではコリネバクテリウム属が31%で最も多かったとする加茂らの報告7)と同様の傾向であった.外眼部感染症の重要な起炎菌であるMRSAの検出率は,高齢者で最も高く4.6%であったが,全検出菌に占めるMRSA分離頻度は3%であり,小早川ら8)が報告した2%と同程度であった.本調査のMRSA検出症例におけるGFLXの有効率は97%であり,他菌種に劣る結果ではなかったが,菌の消失率は69%であり他菌種に比して低かった.フルオロキノロンに対するMRSAの感受性低下は,すでに広く問題視されている9,10).本調査で分離されたMRSA32株に対するGFLXのMIC50およびMIC90は,細菌学的効果が不変の10株では32μg/mLおよび>128μg/mL,消失の22株では4μg/mLおよび64μg/mLであった.すなわち,MIC値が細菌学的効果に反映されていることが示唆され,MRSAが検出された際はクロラムフェニコールなどの感受性を示す抗菌点眼薬への変更も考慮すべきである.また,本調査では15歳未満の小児においても2.3%の頻度でMRSAが検出された.加茂ら7)も小児からのMRSA検出率が1%であったと報告しており,小児においても高頻度ではないがMRSAを起因とする場合があるため注意が必要である.コリネバクテリウム属は一般的に常在菌として位置付けられており,過去の報告ではコリネバクテリウム属の健常結膜.保菌率は36.44%と報告されている11.13).したがって,本調査の検出菌が,どの程度起炎菌として関与しているかは評価がむずかしいところである.一方,近年においては,その起炎性に関する報告14)が散見されていることから,本調査においてはコリネバクテリウム属も評価対象として取り扱った.コリネバクテリウム属の結膜.内保菌率増加の一因としては加齢が挙げられる11).本調査においても,15歳未満では16.23%であるのに対し,65歳以上では37.42%と高齢者においてコリネバクテリウム属の検出率が高かった.コ(114) リネバクテリウム属が検出された321症例の有効率は97%であり臨床効果に関する問題は認めなかったが,GFLXのMIC90は16μg/mLでありMRSAのMICのつぎに高く,コリネバクテリウム属に対するフルオロキノロン系抗菌薬の抗菌活性は優秀であるとは言い難い11,15).したがって,高齢者の外眼部感染症では特にコリネバクテリウム属の関与も意識し,セフェム系抗菌点眼薬などの感受性の良好な抗菌点眼薬の使用を考慮してよいと考える4).緑膿菌の検出頻度は結膜炎で1%,涙.炎で3.4%,角膜潰瘍で11.38%であり,角膜潰瘍での検出率が特に高かった.Lichtingerらは,2000.2010年に角膜炎が疑われる患者1,413例より採取した角膜擦過物からの緑膿菌検出頻度が7.13%であり,経時的な検出頻度が増加していることを示唆している16).本調査で検出された緑膿菌角膜炎(角膜潰瘍)由来4株のGFLXに対するMICは0.5μg/mL以下と感受性は良好であり,有効率も100%であった.しかしながら,重症の緑膿菌角膜炎が想定される場合には,感染性角膜炎診療ガイドラインにも記されているように,より確実な効果を期待してフルオロキノロンとアミノグリコシド系抗菌点眼薬の併用を考慮して良いと考える17).このほか既述の菌種を含め,2回の調査の間で本剤の適応菌種別の消失率ならびに有効率に低下を認めなかった.抗菌力については,MRSAに対するMIC50(4.0→8.0μg/mL)アクネ菌に対するMIC90(0.25→0.5μg/mL)に検査誤差範(,)囲とも考えられる上昇を認めた以外に明らかな変化を認めなかった.したがって,MRSAやコリネバクテリウム属については注意する必要があるが,本剤は外眼部感染症の初期治療薬の一つとして有用な薬剤と考えられた.しかしながら,フルオロキノロン系薬剤への偏った使用は耐性菌の蔓延を加速させる可能性があるため,患者背景や臨床所見から起炎菌を想定したうえで適切な初期治療薬を選択するべきである.副作用に関しては7例認め,副作用発現率は0.73%であった.同じフルオロキノロン系抗菌薬であるクラビットR点眼液0.5%の副作用発現率は0.63%18)と報告されおり,本剤の副作用発現率は同等であった.本調査では全身性あるいは重篤な副作用を認めず,安全性に関する特筆すべき問題は認めなかった.加えて,本剤は小児集団に対する安全性についても検討されており,生後27日以下の新生児68例および生後1年未満の乳児110例において副作用を認めていない19,20).今後も外眼部感染症由来の検出菌の動向に注意していく必要があるが,ガチフロR点眼液0.3%は外眼部感染症の治療に有用な薬剤であると考えられた.文献1)TakeiM,FukudaH,KishiiRetal:ContributionoftheC-8-MethoxygroupofgatifloxacintoinhibitionoftypeIItopoisomerasesofStaphylococcusaureus.AntimicrobAgentsChemother46:3337-3338,20022)TakeiM,FukudaH,KishiiRetal:Targetpreferenceof15quinolonesagainstStaphylococcusaureus,basedonantibacterialactivitiesandtargetinhibition.AntimicrobAgentsChemother45:3544-3547,20013)FukudaH,KishiiR,TakeiMetal:Contributionofthe8-methoxygroupofgatifloxacintoresistanceselectivity,targetpreference,andantibacterialactivityagainstStreptococcuspneumoniae.AntimicrobAgentsChemother45:1649-1653,20014)FukumotoA,SotozonoC,HiedaOetal:Infectiouskeratitiscausedbyfluoroquinolone-resistantCorynebacterium.JpnJOphthalmol55:579-580,20115)McDonaldM,BlondeauJM:Emergingantibioticresistanceinocularinfectionsandtheroleoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg36:1588-1598,20106)HooperDC:Mechanismsoffluoroquinoloneresistance.DrugResistUpdat2:38-55,19997)加茂純子,村松志保,赤澤博美ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択2008.臨眼63:1635-1640,20098)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20119)HaasW,PillarCM,TorresMetal:Monitoringantibioticresistanceinocularmicroorganisms:resultsfromtheantibioticresistancemonitoringinocularmicroorganism(ARMOR)2009surveillancestudy.AmJOphthalmol152:567-574,201110)BlancoAR,SudanoRA,SpotoCGetal:Susceptibilityofmethicillin-resistantStaphylococciclinicalisolatestonetilmicinandotherantibioticscommonlyusedinophthalmictherapy.CurrEyeRes38:811-816,201311)星最智,卜部公章:白内障術全患者における結膜.常在細菌の保菌リスク.あたらしい眼科28:1313-1319,201112)星最智,大塚斎史,山本恭三ほか:結膜.と鼻前庭の常在菌の比較.あたらしい眼科28:1613-1617,201113)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,200614)井上幸次,大橋裕一,秦野寛ほか:前眼部・外眼部感染症における起炎菌判定日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第一報).日眼会誌115:801-813,201115)末信敏秀,石黒美香,松崎薫ほか:細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査.あたらしい眼科28:1321-1329,201116)LichtingerA,YeungSN,KimPetal:ShiftingtrendsinbacterialkeratitisinToronto.Ophthalmology119:17851790,201217)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン第2版.日眼会誌117:467-509,2013(115)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141681 18)神田佳子,加山智子,岡本紳二ほか:各種外眼部感染症に24:975-980,2007対する抗菌点眼剤レボフロキサシン点眼液(クラビットR点20)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液眼液0.5%)の使用成績調査.臨眼62:2007-2017,2008(ガチフロR点眼液0.3%)の製造販売後調査─特定使用成績19)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429(ガチフロR0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績1434,2009調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科***(116)

プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):917.921,2014cプロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性林泰博*1,2林福子*2*1清川病院眼科*2林眼科クリニックEfficacyandSafetyofAddingBrimonidine0.1%toProstaglandinAnalogueTreatmentfor6MonthsYasuhiroHayashi1,2)andSachikoHayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2)HayashiEyeClinic目的:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者に,2剤目としてブリモニジン点眼を追加したときの有効性と安全性について報告する.対象および方法:3カ月以上プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者18例27眼を対象とした.男性4例,女性14例で,年齢は38.86歳,平均74歳である.0.1%ブリモニジン点眼を追加し,1カ月後,3カ月後,6カ月後に眼圧,血圧,脈拍数を測定した.また局所の安全性は角膜障害,充血,掻痒感について評価した.結果:ブリモニジン開始前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,1カ月後は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),3カ月後は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),6カ月後は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)と,いずれも有意に低下した.拡張期血圧は点眼追加1カ月後,6カ月後で有意に下降し,脈拍数は点眼追加1カ月後に有意に増加したが自覚症状はなかった.眼局所の副作用も有意な変化は認めなかった.結論:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者へのブリモニジン点眼追加により,さらなる眼圧下降効果が得られ,眼圧下降効果は6カ月間持続した.Purpose:Toreporttheeffectofaddingbrimonidineophthalmicsolutiontotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogue.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved27eyesof18patients(4males,14females;agerange:38to86years,average74years)whowerebeingtreatedbytopicalprostaglandinanaloguefor3monthsorlonger;theystartedreceiving0.1%brimonidineadditionally.Intraocularpressure(IOP),bloodpressure,pulserate,ocularsurfacedamage,conjunctivalinjectionanditchingwerecheckedafter1,3and6monthsoftreatment.Result:IOPaveraged12.2±3.3mmHgbeforeadditionaltreatment,10.2±2.2mmHg(p<0.0001)after1month,9.7±1.8mmHg(p<0.0001)after3months,and10.3±2.6mmHg(p<0.0005)after6months.IOPthusdecreasedsignificantlyafteradditionaltreatment.Diastolicbloodpressuredecreasedsignificantlyafter1monthand6monthsoftreatment.Pulserateincreasedsignificantlyafter1monthoftreatment,withoutsubjectivesymptoms.Nostatisticaldifferenceinocularsymptomswasobservedatanyobservationtime.Conclusion:BrimonidineophthalmicsolutionaddedtotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogueinducedfurtherdecreaseinIOPfor6months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):917.921,2014〕Keywords:ブリモニジン,プロスタグランジン,眼圧,安全性,緑内障.brimonidine,prostaglandin,intraocularpressure,safety,glaucoma.はじめに緑内障治療における唯一のエビデンスが眼圧下降によるものであり,その中心となるのが緑内障点眼薬である.緑内障点眼液はまず単剤で開始し,単剤で目標眼圧に達することができない場合は緑内障ガイドラインに基づき薬剤の変更を図り,なお目標眼圧に達することができない場合は薬剤の追加(多剤併用療法)となる1).多剤併用療法の基本は薬理作用の異なる薬剤を組み合わせることであり,第一選択薬として広く使用されているプロスタグランジン(PG)関連薬に追加する場合,薬理作用が重複しないことが望ましい.ブリモニジ〔別刷請求先〕林泰博:〒248-0006神奈川県鎌倉市小町2-13-7清川病院眼科Reprintrequests:YasuhiroHayashi,DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2-13-7Komachi,Kamakura-shi2480006,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(143)917 ン点眼液は交感神経a2アドレナリン受容体作動薬であり,房水産生抑制と,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進という2つの機序による眼圧下降作用をもつことから,海外ではPG関連薬2.5)やb遮断薬6,7)に追加する,あるいはb遮断薬との配合剤といった使われ方で広く普及している.しかし,わが国でブリモニジンは2012年1月に承認されたばかりであり,国内の報告は少ない.また,海外では1996年の承認後,点眼液の濃度や防腐剤が変遷しており,海外の報告とわが国の報告を単純に比較することはむずかしく,わが国での知見の蓄積が待たれる.今回筆者らは,前回の報告8)からさらに観察期間を延長し,ブリモニジン点眼液をPG関連薬単剤に追加した際の有効性,安全性につき検討したので報告する.I対象および方法2012年5月.2013年2月の間で3カ月以上PG関連薬を単剤で使用中の患者のうち,目標眼圧に達していない緑内障患者に十分な説明のうえ,ブリモニジン点眼液を勧め,同意を得た症例を対象とした.対象は18例27眼,平均年齢73.8±13.5歳(38.86歳,男性4例,女性14例).病型は狭義原発開放隅角緑内障が4例7眼,正常眼圧緑内障が13例19眼,原発閉塞隅角緑内障が1例1眼であった.使用中のPG関連薬の内訳はラタノプロスト点眼液が10例16眼,トラボプロスト点眼液が2例2眼,タフルプロスト点眼液が4例6眼,ビマトプロスト点眼液が2例3眼であった.ブリモニジン点眼液を追加投与前の視野障害の程度は,Goldmann動的視野検査で経過観察した症例が11例17眼で,その内訳は湖崎分類9)でII期までの早期症例が9眼,中期に相当するIII期が6眼,晩期に相当するIV期以降が2眼であった.Humphrey静的視野プログラム30-2で経過観察した症例が5例6眼で,その内訳はAnderson分類10)でmeandeviation(MD)>.6dBの初期症例が2眼,.6dB≧MD>.12dBの中期症例が3眼,.12dB≧MDの後期症例が1眼であった.Octopus静的視野プログラム32で経過観察した症例が2例4眼で,その内訳はMD<6dBの症例が2眼であった.湖崎分類,MD値が早期の症例でも固視点近傍の視野障害が著明な症例が多かった.眼圧はブリモニジン点眼液を追加投与前,追加投与1カ月後,3カ月後,6カ月後のほぼ同時刻に同一検者がGoldmann圧平眼圧計にて測定を行った.血圧および脈拍数は,座位にて5分間,安静にした後に上腕動脈での収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数を測定した.眼局所の副作用については,充血は「正常範囲(0点),軽度(1点),中等度(2点),重度(3点)」,掻痒感は「痒くない(0点),少し痒い(1点),痒いが自制内(2点),痒みが強く点眼継続困難(3点)」のそれぞれ4段階で評価した.点状表層角膜症はAD(area-density)分類11)を用いて評価した.統計学的検定は眼圧,血圧,脈拍数は対応のあるt検定にて,充血などのスコアはWilcoxon符号付順位和検定にて解析を行い,p<0.05を有意水準とした.II結果1.有効性ブリモニジン点眼液を追加投与前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,追加1カ月後の平均眼圧は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),追加3カ月後の平均眼圧は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),追加6カ月後の平均眼圧は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)であり,各時点で有意に下降した(図1.4).眼圧下降幅は追加1カ月後2.0±2.0mmHg,追加3カ月後2.5±2.7mmHg,追加6カ月後1.9±2.2mmHgで,眼圧下降幅に差はなかった(p=0.61).眼圧下降率は追加1カ月後14.3±13.8%,追加3カ月後17.0±17.8%,追加6カ月後13.9±15.1%であった.ブリモニジン点眼液を追加したことで目標眼圧に達した症例は27眼中19眼(70.4%)であった.2.安全性ブリモニジン点眼液を追加投与前の収縮期血圧は135.1±22.0mmHg,追加1カ月後は131.6±20.9mmHg(p=0.41),追加3カ月後は133.2±21.7mmHg(p=0.61),追加6カ月後は135.3±19.3mmHg(p=0.97)であり,各時点で有意差を認めなかった(図5).ブリモニジン点眼液を追加投与前の拡張期血圧は79.4±12.1mmHg,追加1カ月後は74.5±10.0mmHg(p<0.05),追加3カ月後は74.1±11.0mmHg(p=0.09),追加6カ月後は74.1±11.3mmHg(p<0.05)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧が有意に下降した(図6).ブリモニジン点眼液を追加投与前の脈拍数は71.1±12.8回/分,追加1カ月後は75.1±11.3回/分(p<0.05),追加3カ月後は73.1±12.0回/分(p=0.25),追加6カ月後は72.4±11.5回/分(p=0.50)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で脈拍数が有意に増加した(図7).充血スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が1.2±0.6,追加1カ月後では1.0±0.5(p=0.14),追加3カ月後では1.0±0.5(p=0.12),追加6カ月後では1.3±0.4(p=0.77)で,いずれの時点でも差はなかった.掻痒感スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が0.1±0.3,追加1カ月後では0.3±0.5(p=0.14),追加3カ月後では0.0±0.0(p=1.00),追加6カ月後では0.2±0.5(p=0.14)で,いずれの時点でも差はなかった.角膜スコア(A+D)はブリモニジン点眼液を追加投与前が0.6±1.0,追加1カ月後では0.4±0.9(p=0.60),追加3カ月では0.4±0.8(p=0.28),追加6カ月後では0.5±0.9(p=0.81)で,いずれの時点でも差はなかった.観察期間中に点眼継続不可能な症例は認めなかった.918あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(144) 20181816161414(p<0.0001)(p<0.0001)(p<0.0005)12追1カ月後眼圧(mmHg)追加3カ月後眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)12108642108642000追加前1カ月3カ月6カ月2468101214161820経過期間追加前眼圧(mmHg)図1眼圧の推移図2眼圧変化の散布図(追加1カ月後)各時点で有意な眼圧の下降を認めた.直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で眼圧は有意に下降した.20181614121086422018161412108642追加6カ月後眼圧(mmHg)000024681012141618202468101214161820追加前眼圧(mmHg)追加前眼圧(mmHg)図3眼圧変化の散布図(追加3カ月後)図4眼圧変化の散布図(追加6カ月後)直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加3カ月後直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加6カ月後で眼圧は有意に下降した.で眼圧は有意に下降した.180100収縮期血圧(mmHg)拡張期血圧(mmHg)90807060160140120(p<0.05)(p<0.05)1008060402050403020100追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図5収縮期血圧の推移各時点で有意差を認めなかった.III考按今回報告したPG関連薬単剤に対するブリモニジン点眼液の追加効果についての検討は少なく,国内では新家らの市販前調査12)と,筆者らによる3カ月という短期での検討8)のみである.新家らはPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニ(145)0追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図6拡張期血圧の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月,6カ月で有意な拡張期血圧の下降を認めた.ジン点眼液を追加投与し,追加52週間後でベースライン眼圧18.7mmHgから15.9mmHgまで下降したと報告している.筆者らの短期検討ではPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧12.2mmHgから9.7mmHgまで下降した.つぎに海外で3カ月以上の観察期間を設けた報告を参照しあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014919 脈拍数(回/分)1009080706050403020100(p<0.05)追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図7脈拍数の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月で有意な脈拍数の増加を認めた.てみる.Feldmanら2)はトラボプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧21.7mmHgから19.6mmHgまで下降したと報告している.Dayら3)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.1%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン19.6mmHgから16.3mmHgまで下降したと報告している.またBourniasら4)はPG関連薬単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加4カ月後でベースライン21.9mmHgから17.1mmHgまで午前10時の測定時点で下降し,午後4時の測定時点でベースライン20.2mmHgから16.4mmHgまで下降したと報告している.ただしBourniasらによる報告は点眼回数が1日3回である.O’Connorら5)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加1年後でベースライン眼圧21.0mmHgから19.0mmHgまで下降したと報告している.これらの結果は,筆者らの報告以外,いずれも対象が狭義原発開放隅角緑内障,高眼圧症,落屑緑内障を中心に構成された報告であるため,追加前のベースライン眼圧は本研究より高めであるが,眼圧下降幅はおよそ2.3mmHgで,今回の筆者らの結果と同等であり,追加前のベースライン眼圧が低めであってもブリモニジン点眼液の追加投与は有効であると思われる.海外の報告はブリモニジン点眼液の濃度の違い,点眼回数の違い,対象症例の病型の違い,人種差があるため今後わが国でも病型ごとの検討をしていく必要があると思われる.また,ベースライン眼圧が同様に低い研究と比較してみると,田邉らは新規にPG関連薬を投与して,トラボプロストでは13.4mmHgから11.2mmHgへ,タフルプロストでは13.0mmHgから11.1mmHgへ,ビマトプロストでは12.9mmHgから11.1mmHgへ下降したとしている13).試験デザインは異なるものの,このPG関連薬の眼圧下降効果は今回のブリモニジンのものと同等で,第二選択薬として920あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014考えられているブリモニジンの眼圧下降効果としては良好な結果と思われる.ただし24時間を通じて安定した眼圧下降効果を示すPG関連薬と比べ,ブリモニジンは眼圧下降効果のピーク値とトラフ値の差が大きいことが指摘されており14,15),今回の結果が24時間を通じて保たれていたものかどうかについては,日内変動を考慮した検討が必要であると思われた.今回の結果ではブリモニジンの追加で眼圧はさらに下降したにもかかわらず8眼ではさらに視野障害が進行した.今回対象となった症例は,PG関連薬単剤ですでに平均眼圧が12.2mmHgまで下がっていても,視野障害が進行している症例であり,これらの症例は眼圧以外の影響も強く働いている可能性が示唆された.全身性副作用に関しては,今回の結果ではブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧の低下と,追加1カ月後で脈拍数の増加を認めたが自覚症状はなく,投与中止となるものはなかった.新家らの報告16)でも点眼2時間後に収縮期血圧,拡張期血圧ともに有意に下降したが臨床上問題となるものはなかったと報告している.しかし,筆者らによるブリモニジン点眼の早期報告17)のように,著明に血圧が低下する症例もあり,その影響には個人差があると思われる.新規処方の際には点眼後の涙.圧迫などの基本的操作を今一度確認する必要があると思われる.局所の副作用では充血スコア,掻痒感スコア,角膜障害スコアのいずれも変化はなかった.ブリモニジンは眼圧下降薬としての作用以外にも,a2アドレナリン受容体作動薬としての血管収縮作用があり,海外ではその特性を生かして硝子体注射後の結膜下出血予防への使用18),その他にも屈折矯正手術後の充血,結膜下出血予防に使用している報告19)もある.ブリモニジンには副作用としてアレルギー性結膜炎,充血の発生がかねてより報告20)されているが,今回充血スコアに影響が出なかったのはブリモニジンの血管収縮作用と相殺されたのではないかと思われた.前回の3カ月での報告から観察期間を延長したが,有効性,安全性ともに臨床上問題となることはなかった.本研究はPG関連薬にブリモニジン点眼液を追加するというデザインの研究であったが,PG関連薬間での差については検討しておらず,それが結果に影響した可能性も否定できない.海外でもPG関連薬の種類によるブリモニジン点眼液の追加効果について検討した報告はなく,これからの課題である.今後さらに観察期間を延ばし検討するとともに,正常眼圧緑内障が多いというわが国の特徴を考慮して病型別に評価していく必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(146) 文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)FeldmanRM,TannaAP,GrossRLetal:Comparisonoftheocularhypotensiveefficacyofadjunctivebrimonidine0.15%orbrinzolamide1%incombinationwithtravoprost0.004%.Ophthalmology114:1248-1254,20073)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrinzolamide1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20084)BourniasTE,LaiJ:Brimonidinetartrate0.15%,dorzolamidehydrochloride2%,andbrinzolamide1%comparedasadjunctivetherapytoprostaglandinanalogs.Ophthalmology116:1719-1724,20095)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20026)SimmonsST,EarlML;Alphagan/XalatanStudyGroup:Three-monthcomparisonofbrimonidineandlatanoprostasadjunctivetherapyinglaucomaandocularhypertensionpatientsuncontrolledonbeta-blockers:toleranceandpeakintraocularpressurelowering.Ophthalmology109:307-314,20027)RuangvaravateN,KitnarongN,MetheetrairutAetal:Efficacyofbrimonidine0.2percentasadjunctivetherapytobeta-blockers:acomparativestudybetweenPOAGandCACGinAsianeyes.JMedAssocThai85:894-900,20028)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジンの追加効果.臨眼67:1889-1892,20139)湖崎弘,井上康子:視野による慢性緑内障の病気分類.日眼会誌76:1258-1267,197210)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry.2nded,p121-190,Mosby,St.Louis,199911)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctuatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)田邉祐資,菅野誠,山下英俊:正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科29:1131-1135,201214)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,200915)vanderValkR,WebersCA,LumleyTetal:Anetworkmeta-analysiscombineddirectandindirectcomparisonsbetweenglaucomadrugstorankeffectivenessinloweringintraocularpressure.JClinEpidemiol62:1279-1283,200916)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした臨床第III相試験-チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201217)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の眼圧下降効果と安全性.臨眼67:597-601,201318)KimCS,NamKY,KimJY:Effectofprophylactictopicalbrimonidine(0.15%)administrationonthedevelopmentofsubconjunctivalhemorrhageafterintravitrealinjection.Retina31:389-392,201119)NordenRA:Effectofprophylacticbrimonidineonbleedingcomplicationsandflapadherenceafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg18:468-471,200220)MundorfT,WilliamsR,WhitcupSetal:A3-monthcomparisonofefficacyandsafetyofbrimonidine-purite0.15%andbrimonidine0.2%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher19:37-44,2003***(147)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014921

ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):899.902,2014cブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果山本智恵子*1井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EffectofBrimonidineAdditiontoProstaglandinAnalogsChiekoYamamoto1),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬のプロスタグランジン(PG)関連点眼薬への追加投与による眼圧下降効果と安全性を検討する.対象および方法:PG関連点眼薬を単剤使用中で眼圧下降効果が不十分なためにブリモニジン点眼薬を追加投与した原発開放隅角緑内障24例24眼を対象とした.ブリモニジン点眼薬を追加投与し,投与3カ月後までの眼圧,血圧,脈拍数を投与前と比較した.副作用を調査した.結果:眼圧は投与前(18.0±2.7mmHg)に比べて投与1カ月後(15.4±2.9mmHg),3カ月後(16.0±3.3mmHg)に有意に下降した.血圧と脈拍数は投与前後で変化はなかった.副作用は5例(20.8%)で出現し,そのうち2例(血圧低下+徐脈,頭痛+刺激感)が投与中止となった.結論:ブリモニジン点眼薬をPG関連点眼薬に追加投与した際に眼圧は3カ月間にわたり下降し,安全性もほぼ良好であった.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofaddingbrimonidineeyedropstoprostaglandinanalogs.Subjectsandmethods:In24cases(24eyes)ofopen-angleglaucomawhowereusingprostaglandinanalogs,butwhoseintraocularpressure(IOP)decreasewasinsufficient,brimonidinewasadditionallyadministered.Intraocularpressure,bloodpressureandpulserateforupto3monthsofbrimonidineadministrationwerecomparedwithpre-administrationlevels.Adversereactionswereinvestigated.Results:IOPat1month(15.4±2.9mmHg)and3months(16.0±3.3mmHg)afteradministrationdecreasedsignificantlyfrompre-administrationlevel(18.0±2.7mmHg).Therewasnodifferenceinbloodpressureorpulseratebetweenbeforeandafteradministration.Adversereactionsappearedin5cases(20.8%);ofthe5,2(bloodpressurereduced+bradycardia;headache+feelingofstimulation)werediscontinued.Conclusion:Withbrimonidineadministeredinadditiontoprostaglandinanalogs,IOPdecreasedandsafetywasalmostsatisfactoryfor3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):899.902,2014〕Keywords:ブリモニジン点眼薬,プロスタグランジン関連点眼薬,追加投与,眼圧,安全性.brimonidineeyedrops,prostaglandinanalogs,additionaladministration,intraocularpressure,safety.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼薬(以下,ブリモニジン点眼薬)は,交感神経のa2受容体アゴニストで,眼圧下降機序として房水産生抑制とぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進の両者を併せ持っている.わが国で使用可能な従来からの抗緑内障点眼薬とは眼圧下降の機序が異なり,そのため従来からある抗緑内障点眼薬との併用効果が期待されている.プロスタグランジン関連点眼薬はその強力な眼圧下降作用,全身性の副作用が少ないこと,1日1回点眼の利便性により近年緑内障治療の第一選択薬となっている1).プロスタグランジン関連点眼薬へのブリモニジン点眼薬の追加投与に対する眼圧下降効果と安全性に関しては多数の報告がある2.10).海外でのブリモニジン点眼薬は当初は0.2%製剤が開発され,防腐剤も塩化ベンザルコニウムが使用されていた.その後0.15%製剤,さらに0.1%製剤が開発され,防腐剤も塩化ベンザルコニウムではなくPuriteR(亜塩素酸ナトリウム)が使用されるようになり,わが国ではこの製剤が2012年から使用可能となった.そのためプロスタグランジン関連点眼薬への〔別刷請求先〕山本智恵子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:ChiekoYamamoto,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(125)899 0.1%ブリモニジン点眼薬(PuriteR含有)の追加投与に対する眼圧下降効果と安全性の報告は少ない2.5).今回,プロスタグランジン関連点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障に,0.1%ブリモニジン点眼薬を3カ月間追加投与した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2012年5月.2013年6月に井上眼科病院に通院中で,プロスタグランジン関連点眼薬を単剤で使用中に眼圧下降が不十分なためにブリモニジン点眼薬が追加投与された原発開放隅角緑内障(広義)24例24眼(男性6例6眼,女性18例18眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は65.9±8.7歳(平均±標準偏差,52.82歳)であった.使用していたプロスタグランジン関連点眼薬はラタノプロスト点眼薬13例,トラボプロスト点眼薬5例,ビマトプロスト点眼薬4例,タフルプロスト点眼薬2例であった.病型は原発開放隅角緑内障(狭義)19例,正常眼圧緑内障5例であった.ブリモニジン点眼薬投与前のHumphrey視野のmeandevia-tion(MD)値は.6.4±4.5dB(.17.82.0.71dB)であった.ブリモニジン点眼薬投与前の眼圧は18.0±2.7mmHg(13.23mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.プロスタグランジン関連点眼薬(1日1回夜点眼)はそのまま継続として,0.1%ブリモニジン点眼薬(1日2回朝夜点眼)を追加投与した.ブリモニジン点眼薬の投与前,投与1,25.03カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にGoldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定した.投与前と投与1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).投与1,3カ月後を投与前と比較した眼圧下降幅と眼圧下降率を算出し,比較した(Friedman検定).投与前と投与1,3カ月後に血圧(収縮期血圧,拡張期血圧)と脈拍数を自動血圧計(エルクエスト社,電子非観血式血圧計UDEXsuperTYPE)で測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).来院時毎に副作用を調査した.投与後3カ月以内に通院が中断した症例,ブリモニジン点眼薬が投与中止になった症例,他の薬剤が追加になった症例,手術が施行された症例は眼圧の解析からは除外した.統計学的有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.II結果眼圧はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は15.4±2.9mmHg,3カ月後は16.0±3.3mmHgで,投与前(18.0±2.7mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001,図1).眼圧下降幅はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は2.6±2.4mmHg,3カ月後は2.1±2.2mmHgで同等だった(p=0.1089).眼圧下降率はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は14.2±11.9%,3カ月後は11.8±11.4%で同等だった(p=0.1208).収縮期血圧はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は129.7±26.1mmHg,3カ月後は128.6±24.4mmHgで,投与前(130.6±21.9mmHg)と同等だった(p=0.7907,図2).拡12.8mmHg,3カ月後は73.0±11.7mmHgで,投与前(72.815.0±11.8mmHg)と同等だった(p=0.7515).脈拍数はブリモ10.0ニジン点眼薬投与1カ月後は74.5±10.5回/分,3カ月後は5.075.7±10.1回/分で,投与前(72.3±8.6回/分)と同等だった0.0**投与前投与1カ月後投与3カ月後(p=0.2620).図1ブリモニジン点眼薬追加投与前後の眼圧ブリモニジン点眼薬投与3カ月以内に5例(20.8%)で副眼圧(mmHg)張期血圧はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は73.3±20.0*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定.作用が出現した(表1).その内訳は,ブリモニジン点眼薬投与1カ月後に血圧低下+徐脈,頭痛+刺激感,結膜蒼白が各140.01例,投与3カ月後に傾眠,傾眠+結膜充血が各1例であっNS収縮期血圧脈拍数拡張期血圧100.080.060.0眼圧(mmHg)120.0100.080.060.040.020.0脈拍数(回/min)表1ブリモニジン点眼薬追加投与後の副作用副作用発症時期転帰経過血圧低下・徐脈投与1カ月後中止消失0.0頭痛・刺激感投与1カ月後中止消失0.0投与前投与1カ月後投与3カ月後図2ブリモニジン点眼薬追加投与前後の血圧と脈拍数結膜蒼白投与1カ月後継続軽快傾眠投与3カ月後継続軽快NS:有意差なし,ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定.傾眠・結膜充血投与3カ月後継続軽快900あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(126) た.そのうち2例(8.3%)(血圧低下+徐脈,頭痛+刺激感の各1例)でブリモニジン点眼薬が投与中止となり,中止後に症状は消失した.他の3例も経過観察していたが症状は軽快した.III考按プロスタグランジン関連点眼薬へのブリモニジン点眼薬の追加投与の眼圧下降効果については,多数の報告がある2.10).海外において当初発売されていた0.2%および0.15%ブリモニジン点眼薬では,眼圧下降幅は2.0.5.1mmHg,眼圧下降率は9.23%であった6.10).わが国においては0.15%と0.1%ブリモニジン点眼薬が導入の際に検討されたが,眼圧下降効果や副作用発現頻度から0.1%ブリモニジン点眼薬が発売となった11).0.1%ブリモニジン点眼薬追加投与では,眼圧下降幅は2.2.3.3mmHg,眼圧下降率は14.3.17.7%と報告されている2.5).新家らは4週間追加投与2)で眼圧下降幅は2.9±1.8mmHg,眼圧下降率は15.2%,52週間追加投与3)で眼圧下降幅は2.7±1.7mmHg,眼圧下降率は14.3±8.5%と報告した.林らは4週間の追加投与で眼圧下降幅は2.2mmHg,眼圧下降率は17.7%と報告した4).Dayらはラタノプロスト点眼薬への3カ月間追加投与で眼圧下降幅は3.3±2.82mmHg,眼圧下降率は16.8%と報告した5).今回の3カ月間追加投与の眼圧下降幅は2.1.2.6mmHg,眼圧下降率は11.8.14.2%で,過去の報告2.5)とほぼ同等かやや低値を示した.その理由として追加投与前の眼圧が今回(18.0±2.7mmHg)が過去の報告(12.4±3.4mmHg4),18.7±2.0mmHg3),19.1±1.4mmHg2),19.6±2.94mmHg5))に比べてやや低値だったためと考えられる.0.1%ブリモニジン点眼薬の副作用発現頻度は19.4%2),20%5),52.5%3)と報告されており,今回の20.8%はこれらの報告2,3,5)と同等だった.副作用として過去の報告ではアレルギー性結膜炎が比較的高頻度(0.23.7%)に報告されている2.5)が,今回は出現しなかった.アレルギー性結膜炎は長期投与により発現傾向が高くなると考えられている3).今回副作用として出現した血圧低下,徐脈,頭痛,刺激感,結膜充血,傾眠,結膜蒼白は過去の報告2.12)と同様だった.血圧については新家ら2,3)は収縮期血圧および拡張期血圧が有意に低下した,林ら4)は収縮期血圧が有意に低下したと報告したが,今回は収縮期血圧,拡張期血圧ともに投与前後で変化はなかった.しかし副作用として血圧低下が出現した症例もあり,注意深い経過観察が必要である.脈拍数は,新家らは追加投与2週間後に有意に低下した2)と,しかし林ら4)と新家ら3)の52週間追加投与では投与前後に変化はなく,今回も同様に変化はなかった.しかし副作用として徐脈が出現した症例もあり,注意深い経過観察が必要である.結論として,ブリモニジン点眼薬は原発開放隅角緑内障に(127)対して,プロスタグランジン関連点眼薬に追加投与した際に3カ月間にわたり強力な眼圧下降作用を示し,安全性においても重大な副作用を認めなかった.正常眼圧緑内障を対象とした長期試験においてブリモニジン点眼薬はチモロール点眼薬よりも視野障害の進行を有意に抑制したとの報告12)もあり,ブリモニジン点眼薬には神経保護作用も期待されている.しかし今回は投与期間が3カ月間と短期間だったので,今後は長期的な投与により眼圧だけでなく視野障害維持効果を検討する必要がある.ブリモニジン点眼薬はプロスタグランジン関連点眼薬に次ぐ緑内障治療薬の第二選択薬として短期的には期待できる薬剤である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)vanderValkR,WebersCA,JanSAetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs.Ophthalmology112:1177-1185,20052)新家眞,山埼芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20123)新家眞,山埼芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障症または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の眼圧下降効果と安全性.臨眼67:597-601,20135)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrinzolamide1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20086)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetybrimonidineasadjuncivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinlarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20017)BourniasTE,LaiJ:Brimonidinetartrate0.15%,dorzolamidehydrochloride2%,andbrinzolamide1%comparedasadjunctivetherapytoprostaglandinanalogs.Ophthalmology116:1719-1724,20098)KonstasAGP,KarabatsasCH,LallosFNetal:24-hourintraocularpressureswithbrimonidinepuriteversusdorzolamideaddedtolatanoprostinprimaryopen-angleglaucomasubjests.Ophthalmology112:603-608,20059)MundorfT,NoeckerRJ,EarlM:Ocularhypotensiveefficacyofbrimonidine0.15%asadjunctivetherapywithlatanoprost0.005%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTher24:302-309,200710)ReisR,QueirozCF,SantosLCetal:Arandomized,investigator-masked,4-weekstudycomparingtimololmaleate0.5%,brinzolamide1%,andbrimonidinetartrateあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014901 0.2%asadjunctivetherapiestotravoprost0.004%in12)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Low-Presadultswithprimaryopen-angleglaucomaorocularsureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbrihypertension.ClinTher28:552-559,2006monidineversustimololinpreservingvisualfieldfunc11)新家眞,山埼芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液tion:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentの原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的Study.AmJOphthalmol151:671-681,2011試験.あたらしい眼科29:1303-1311,2012***902あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(128)

ドルゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼液1年間投与の効果

2013年6月30日 日曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(6):857.860,2013cドルゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼液1年間投与の効果井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科Twelve-MonthEvaluationofDorzolamideHydrochloride1%/TimololMaleate0.5%Fixed-CombinationEyedropsafterSwitchfromUnfixedCombinationKenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合(DTFC)点眼液の効果を長期的に検討する.対象および方法:炭酸脱水酵素阻害(CAI)点眼液とb遮断点眼液を併用中の原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者80例80眼を対象とした.CAI点眼液とb遮断点眼液を中止し,DTFC点眼液に変更した.眼圧を変更前と変更3,6,9,12カ月後に測定し,比較した.Humphrey視野検査を変更前と変更12カ月後に施行し,meandeviation(MD)値を比較した.結果:眼圧は変更前16.1±3.3mmHg,変更3.12カ月後は15.7.16.6mmHgで有意差はなかった.MD値は変更前.11.8±8.9dBと変更12カ月後.10.2±7.6dBで有意差はなかった.4例(5.0%)で副作用が出現した.結論:CAI点眼液とb遮断点眼液をDTFC点眼液に変更することで12カ月にわたり眼圧と視野は維持でき,安全性も良好であった.Purpose:Toprospectivelyinvestigatethelong-termefficacyofdorzolamidehydrochloride/timololmaleatefixed-combination(DTFC)eyedrops.SubjectsandMethods:In80patientsdiagnosedwithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension,concomitantuseofcarbonicanhydraseinhibitorandbeta-blockerswasswitchedtouseofDTFC.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredandcomparedbeforeandat3,6,9and12monthsafterthechange.Humphreyvisualfieldanalysiswasperformedbeforeandat12monthsafterthechange,andthevaluesofmeandeviation(MD)werecompared.Results:IOPdidnotsignificantlydifferbetweenbeforeand3.12monthsafterthechange(15.7.16.6mmHg).MDvaluesbeforethechangedidnotsignificantlydifferfrom12monthsafterthechange.Adversereactionswereseenin4(5.0%)patients.Conclusion:Followingchangefromcarbonicanhydraseinhibitorsandbeta-blockerstoDTFCadministrationfor12months,IOPandvisualfielddefectwerepreserved.Thetherapywassafeandeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):857.860,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼液,眼圧,視野,安全性.dorzolamidehydrochloride/timololmaleatefixed-combinationeyedrops,intraocularpressure,visualfield,safety.はじめにアドヒアランスの向上を目的として緑内障配合点眼液が開発された.日本では2010年4月からラタノプロスト点眼液とチモロール点眼液の配合点眼液(ザラカムR),6月からトラボプロスト点眼液とチモロール点眼液の配合点眼液(デュオトラバR),1%ドルゾラミド点眼液とチモロール点眼液の配合点眼液(コソプトR)が使用可能となった.1%ドルゾラミド点眼液と0.5%チモロール点眼液を併用使用中の患者では,1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更することで点眼回数が減り,アドヒアランスが向上し,さらに眼圧が下降するのではないかと期待されている.しかし,1%ドルゾラミド点眼液は1日3回点眼に対して1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液は1日2回点眼なので,点〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(135)857 眼回数が減ることで眼圧下降効果が減弱することが懸念される.さらにb遮断薬では長期に使用すると眼圧下降効果が減弱する(long-termdrift)1)ことが知られている.1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液においてもb遮断薬であるチモロール点眼液が含まれているので長期使用での眼圧下降効果の減弱が懸念される.1%ドルゾラミド点眼液と0.5%チモロール点眼液を併用使用中の原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象にして,1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更した際の3カ月間の効果について筆者らは報告した2)が,今回対象を炭素脱水酵素阻害点眼液とb遮断点眼液を併用中の患者に広げ,さらに経過観察期間を12カ月間に延長して眼圧下降効果,視野維持効果,安全性を前向きに検討した.I対象および方法2010年6月から2011年3月までの間に井上眼科病院あるいは西葛西・井上眼科病院に通院中で,炭酸脱水酵素阻害点眼液,b遮断点眼液,プロスタグランジン関連点眼液を併用使用中の原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障も含む)あるいは高眼圧症患者80例80眼(男性42例42眼,女性38例38眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は66.7±11.5歳(平均±標準偏差)(27.88歳)であった.病型は原発開放隅角緑内障64例,正常眼圧緑内障14例,高眼圧症2例であった.従来の緑内障点眼液の使用状況は3剤62例,4剤17例,5剤1例であった.炭酸脱水酵素阻害点眼液の内訳は1%ドルゾラミド50例,ブリンゾラミド30例であった.b遮断点眼液の内訳はイオン応答ゲル化チモロール24例,水溶性チモロール23例,カルテオロール11例,持続性カルテオロール10例,熱応答ゲル化チモロール7例,レボブノロール3例,ベタキソロール2例であった.プロスタグランジン関連点眼液の内訳はラタノプロスト64例,トラボプロスト8例,タフルプロスト4例,ビマトプロスト4例であった.Humphrey視野のmeandeviation(MD)値は.11.79±8.91dB(.30.91..1.25dB)であった.変更前眼圧は変更前2回の眼圧の平均値とした.1%ドルゾラミド塩析対象とした.使用中の炭酸脱水酵素阻害点眼液とb遮断点眼液を中止し,washout期間なしで1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液(1日2回朝夜点眼)に変更した.他の点眼液は継続とした.プロスタグランジン関連点眼液以外の点眼液の使用状況は,ブナゾシン点眼液16例,ジピベフリン点眼液2例,アセタゾラミド1例であった.点眼変更前と変更3,6,9,12カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にGoldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunnett検定).点眼変更前と変更12カ月後にHumphrey視野検査プログラム中心30-2SITA-Standardを行い,MD値を比較した(Friedmann検定).副作用を来院時ごとに調査した.有意水準はいずれもp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は変更3カ月後16.3±3.5mmHg,6カ月後16.6±3.8mmHg,9カ月後16.1±3.2mmHg,12カ月後15.7±3.1mmHgで,変更前16.1±3.3mmHgと有意差はなかった(p=0.2053)(図1).変更6カ月後に眼圧が2mmHg以上下降した症例は15例(22.4%),1mmHg以内の症例は21例(31.3%),2mmHg以上上昇した症例は31例(46.3%),変更12カ月後に眼圧が2mmHg以上下降した症例は11例(19.3%),1mmHg以内の症例は31例(54.4%),2mmHg以上上昇した症例は15例(26.3%)であった.Humphrey視野のMD値は変更前.11.8±8.9dBと変更12カ月後.10.2±7.6dBで有意差はなかった(p=0.7717)(図2).副作用による中止例は4例(5.0%)で,内訳は変更2カ月後,3カ月後に1例ずつ霧視が,変更2カ月後,9カ月後に1例ずつ刺激感が出現した.眼圧下降効果不十分による中止NS:notsignificant16.6±3.825.016.3±3.516.1±3.316.1±3.220.015.7±3.1眼圧(mmHg)NS15.0酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液変更前の眼圧は16.1±3.3mmHg(11.26mmHg)であった.除外基準は緑内障手術既往歴のある眼,白内障手術から3カ月以内の眼,副腎皮質ホルモン点眼液使用眼,眼圧測定に影響を及ぼす角膜疾患を有する眼とした.脱落基準は副作用が出現して患者が点眼液投与の中止を希望した場合あるいは医師が中止10.05.00.0変更前変更3カ月後変更6カ月後変更9カ月後変更12カ月後を妥当と判断した場合,眼圧下降効果が不十分と医師が判断80例76例67例64例57例図11%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配した場合,selectivelasertrabeculoplasty,白内障手術,緑合点眼液変更前後の眼圧(ANOVAおよびBonferroni/Dunnett検定)(数値は平均値±標準偏差を示す)内障手術を施行した場合とした.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解変更前と変更3,6,9,12カ月後の眼圧に有意差はなかった.858あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(136) Meandeviation値(dB)(dB)0.0変更前80例変更12カ月後57例-5.0NS-10.0-15.0-10.2±7.6-20.0-11.8±8.9-25.0NS:notsignificant図21%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液変更前後のmeandeviation値(ANOVAおよびBonferroni/Dunnett検定)(数値は平均値±標準偏差を示す)変更前と変更12カ月後のmeandeviation値に有意差はなかった.例は10例,通院中断による中止例は6例,白内障手術施行による中止例は3例であった.III考按欧米でのドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼液のドルゾラミドは2%製剤で,日本では1%製剤である.炭酸脱水酵素阻害点眼液とb遮断点眼液をドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更した際の眼圧下降効果については短期間(3.6カ月間)では1%製剤でも報告されている3.5)が,長期間(7カ月間以上)では2%製剤でしか報告されていない6).1%製剤による短期間(3.6カ月間)の報告3.5),2%製剤による9カ月間の報告6)では変更前後の眼圧あるいは眼圧下降率に有意差はなかった.今回の結果と過去の報告3.6)からb遮断点眼液と炭酸脱水酵素阻害点眼液の併用とドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液は同等の眼圧下降効果を有すると考えられる.2%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液の長期投与についても報告されている7).Pajicらは原発開放隅角緑内障89例を対象に2%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液を4年間投与した7).眼圧は投与前(22.6±3.0mmHg)に比べて投与4年後(13.8±1.9mmHg)まですべての観察時点で有意に下降し,4年後の眼圧下降率は39.2±11.1%であった.Strohmaierら6),Pajicら7)の報告から,b遮断薬におけるlong-termdriftはみられず,ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果は長期にわたり持続すると考えられる.今回は全体症例では変更前と変更12カ月後の眼圧に有意差はなかったが,眼圧下降効果不十分のために点眼中止となった症例も多数存在し,それらの症(137)例ではlong-termdriftがみられた可能性もある.併用療法から配合点眼液へ変更した際の眼圧下降幅について筆者らは日本で使用可能な他の配合点眼液について報告した8,9).眼圧が2mmHg以上下降した症例はラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(変更12カ月後)では21.8%8),トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(変更6カ月後)では16.7%9)で,今回の22.4%(変更6カ月後),19.6%(変更12カ月後)と同等であった.眼圧が2mmHg以上上昇した症例は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(変更12カ月後)では23.3%8),トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(変更6カ月後)では30.0%9)で,今回の46.3%(変更6カ月後),26.3%(変更12カ月後)とほぼ同等であった.今回の眼圧が2mmHg以上上昇した症例が変更12カ月後に変更6カ月後よりも減少した理由として,変更6カ月後から12カ月後の間に眼圧下降効果不十分のために脱落となった症例が8例含まれていたことが影響していた.個々の症例で検討すると併用療法から配合点眼液へ変更した際に眼圧が上昇あるいは下降する症例が多いことが判明した.これらの眼圧の変化は,眼圧が下降した症例はアドヒアランスが向上したため,眼圧が上昇した症例はチモロール点眼液あるいはドルゾラミド点眼液の点眼回数が減少したあるいはlong-termdriftのためと考えられる.ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液の視野維持効果について報告されている7).Pajicらは,Octopus101視野計プログラムG2を用いて4年間投与の結果を報告した7).投与前のmeandefectは.6.2±5.2dBで,slopeはmeandefectが.1.24±0.25dB/y,lossvarianceが.3.59±3.45dB/y,meansensitivityが1.14±0.17dB/yであった.さらに4年後にmeandefectが改善した症例が70.9%,進行した症例が5%であった.今回はHumphrey視野検査における視野障害の改善あるいは進行の検討は行わなかったが,変更前後のMD値に有意差はなかった.ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼液は長期にわたる視野維持効果を有すると考えられる.1%または2%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液の副作用として充血,刺激感,掻痒感,異物感,結膜炎,点状角膜炎,頭痛,苦味,霧視などが報告されている3.6).今回の副作用(霧視,刺激感)も同様であった.副作用出現により1%あるいは2%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液が中止となった症例は0%3.5),3.9%7),6%6)で,今回の5.0%とほぼ同等であった.日本人の原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対して炭酸脱水酵素阻害点眼液とb遮断点眼液の2剤を1%ドルゾラミド塩酸塩・0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼液にあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013859 変更することで,点眼回数を減らすことができ,さらに副作用出現,通院中断,白内障手術施行による中止例を除いた症例の検討では62.7%の症例で12カ月間にわたり眼圧を維持できた.中止例を除いた全症例の検討では12カ月間にわたり視野を維持できた.重篤な副作用も出現せず,安全性も良好であった.しかし,37.3%の症例では眼圧が上昇したので注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BogerWP,PuliafitoCA,SteinertRFetal:Long-termexperiencewithtimololophthalmicsolutioninpatientswithopen-angleglaucoma.Ophthalmology85:259-267,19782)InoueK,ShiokawaM,SugaharaMetal:Three-monthevaluationofocularhypotensiveeffectandsafetyofdorzolamidehydrochloride1%/timololmaleate0.5%fixedcombinationdropsafterdiscontinuationofcarbonicanhydraseinhibitorandb-blockers.JpnJOphthalmol56:559-563,20123)武田桜子,村上文,松原正男:b遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液に切り替えた緑内障患者の効果および安全性.あたらしい眼科29:253-257,20124)嶋村慎太郎,大橋秀記,河合憲司:アドヒアランス不良な多剤併用緑内障治療眼に対する配合剤への切り替え効果の検討.眼臨紀5:549-553,20125)NakakuraS,TabuchiH,BabaYetal:Comparisonofthelatanoprost0.005%/timolol0.5%+brinzolamide1%versusdorzolamide1%/timolol0.5%+latanoprost0.005%:a12-week,randomizedopen-labeltrial.ClinOphthalmol6:369-375,20126)StrohmaierK,SnyderE,DubinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophthalmology105:1936-1944,19987)PajicB,Pajic-EggspuehlerB,HafligerIO:Comparisonoftheeffectsofdorzolamide/timololandlatanoprost/timololfixedcombinationsuponintraocularpressureandprogressionofvisualfielddamageinprimaryopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin26:2213-2219,20108)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:Assessmentofocularhypotensiveeffectandsafety12monthsafterchangingfromanunfixedcombinationtoalatanoprost0.005%+timololmaleate0.5%fixedcombination.ClinOphthalmol6:607-612,20129)InoueK,SetogawaA,HigaRetal:Ocularhypotensiveeffectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%fixedcombinationafterchangeoftreatmentregimenfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthalmol6:231-235,2012***860あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(138)

ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):261.264,2013cドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験早川真弘澤田有阿部早苗渡部広史石川誠藤原聡之吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座EfficacyofSwitchingtoFixedCombinationofDorzolamide-TimololMasahiroHayakawa,YuSawada,SanaeAbe,HiroshiWatabe,MakotoIshikawa,ToshiyukiFujiwaraandTakeshiYoshitomiDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:多剤併用療法中の緑内障点眼をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた経験の報告.対象および方法:原発開放隅角緑内障16例16眼において,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤とチモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の2剤併用を,PG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合と,PG製剤,CAI,チモロールの3剤併用をPG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合の眼圧変化を調べた.結果:2剤併用からの切り替えでは有意な眼圧下降が得られ,3剤併用からの切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧上昇するものがみられた.結論:ドルゾラミド/チモロール合剤は,成分単剤点眼でさらなる眼圧下降が必要な場合,単剤併用にてアドヒアランスの向上が目的の場合のいずれの切り替えにおいても有用であるが,アドヒアランスが良好な症例では切り替えによって眼圧下降効果の減弱が起こる可能性がある.Purpose:Toreportanexperienceofswitchingtothefixedcombinationofdorzolamide-timolol(FCDT)fromconcomitantuseofitscomponentsmedications.SubjectsandMethods:Insubjectscomprising16eyesof16casesofprimaryopenangleglaucoma,theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofFCDTwasevaluatedintwogroups:onewasusing2medications:prostaglandin(PG)andtimololorcarbonicanhydraseinhibitors(CAI),andswitchedtoPGandFCDT;theotherwasusing3medicationsofPG,CAI,andtimolol,andswitchedtoPGandFCDT.Results:Whentheswitchwasfrom2medications,IOPwassignificantlylowered.Whentheswitchwasfrom3medications,IOPdidnotstatisticallychanged,althoughitelevatedinsomecases.Therewasnodifferenceinsafetyaspectbetweenbeforeandafterswitching.Conclusion:SinceIOPmayelevateafterswitching,stayingwiththecurrentregimencouldbeanoptionwhenadherenceisgoodwiththreemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):261.264,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,切り替え試験,アドヒアランス,眼圧下降効果,安全性.fixedcombinationofdorzolamide-timolol,switchtest,adherence,intraocularpressureloweringeffect,safety.はじめに緑内障診療では目標眼圧を達成するために多剤併用を必要とすることがあるが,患者負担の増大によるアドヒアランスの低下が懸念され1),配合剤はその解決策の一つとして注目されている2).ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,ドルゾラミド/チモロール合剤)は,欧米では1998年に承認されており,10年以上の使用経験からその有効性と安全性についてすでに多数の報告がある3).わが国でも2010年よりドルゾラミド/チモロール合剤が使用可能となった.今回筆者らは,原発開放隅角緑内障で多剤併用療法を受けている症例において,ドルゾラミド/チモロール合剤へ点眼を切り替えた症例を複数経験し,その眼圧〔別刷請求先〕澤田有:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:YuSawada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)261 下降効果と安全性について若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,秋田大学附属病院で多剤併用療法を受けている原発開放隅角緑内障患者16例16眼で,その内訳は,男性9例9眼,女性7例7眼である.平均年齢は63.6±11.6歳で,狭義原発開放隅角緑内障は7例7眼,正常眼圧緑内障は9例9眼であった.ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えは休薬期間を設けずに行われ,切り替え前の治療によりつぎの2通りに分けられた.一つは,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤と,0.5%チモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)(ドルゾラミドまたはブリンゾラミド)の2剤を併用していて,さらなる眼圧下降が必要な場合である(切り替えA).もう一つは,すでにPG製剤,CAI,チモロールの3剤を併用しているが,アドヒアランス向上の目的でCAIとチモロールをドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合である(切り替えB).対象数は,切り替えAが9例9眼,切り替えBが7例7眼であった.PG製剤の内訳はラタノプロスト5例,トラボプロスト5例,タフルプロスト4例,ビマトプロスト2例であり,切り替え前後でPG製剤の変更はなかった.これらの2つの場合について,切り替え4週後,12週後の眼圧をGoldmann圧平眼圧計で測定し,切り替え前の眼圧と比較した.また,点眼の副作用について,角膜上皮障害と結膜充血の程度を調べ,これらを切り替え前後で比較した.角膜上皮障害の程度はびまん性表層角膜炎の重症度A-D(area-density)分類に基づいて評価した4).角膜上皮障害の判定は,点眼麻酔の前にフルオレセインペーパーを生理食塩水で湿らせ点入し,判定した.結膜充血の程度は,結膜の血管が容易に観察できる(.),結膜に限局した発赤が認められる(1+),結膜に鮮赤色が認められる(2+),結膜に明らかな充血が認められる(3+)を基準として評価した.統計解析は,評価方法が同じ対象に対して4週,12週後に眼圧を調べる反復性測定なため,二元配置分散分析を用い,切り替え後の眼圧変化が有意かどうか調べた.II結果各症例について,切り替え前,切り替え4週後,12週後の眼圧と,角膜上皮障害,結膜充血の程度を表にて提示し表1切り替えA(PG+b.blockerまたはCAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後女性男性女性男性男性男性女性女性女性765071766650714646TaBTaDBTTaBToBTaDLTToBToT22161514141517149201818182018141415181413151516201716000000000000A1D1A1D1A1D1000A1D1A1D1A1D100000001+0001+000000000000000000000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,Ta:タフルプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2切り替えB(PG+b.blocker+CAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後男性男性男性男性男性男性男性69487375506961LTDLTDBTBLTDToTDLTDToTD201618211418151817131420181821151521161722000000000A1D1000000000000000000001+1+000001+1+000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.262あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(128) た.表1は切り替えA,表2は切り替えBの結果である.平均眼圧の変化は,切り替えAでは切り替え前17.6±2.1mmHgから切り替え4週後15.8±2.2mmHg,12週後15.0±2.7mmHgで,切り替え後の眼圧下降は有意であった(p=0.0197).切り替え後の時期でみると,4週後に眼圧下降傾向がみられ,12週後には有意な変化となった(p=0.0230).切り替えBでは,切り替え前の眼圧は16.1±2.5mmHg,切り替え4週後15.9±1.9mmHg,12週後18.4±3.0mmHgで,切り替え前後で眼圧に有意な変化はみられなかった(p=0.0961)が,個々の症例をみると,切り替え後に眼圧が上昇したものがみられた(表2).副作用は,切り替え前に軽度の角膜上皮障害がみられたものがあったが,切り替え後もその程度は同等であった.充血は,切り替えAでCAIを点眼していた症例において,切り替え後チモロールが加わることで充血が軽減したものがあった.III考按今回のドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験では,チモロールまたはCAIの単剤をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合は眼圧が有意に下降していた.チモロールとCAIの単剤併用を合剤に切り替えた場合は,切り替え後に有意な眼圧変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧が上昇したものがみられた.角膜上皮障害と結膜充血の程度は切り替え前後でほぼ同等であった.緑内障の治療において,眼圧下降は唯一エビデンスが示されている治療法であり5),目標眼圧を達成するために多剤併用が必要となる場合も多い.薬剤の数が増えて点眼方法が複雑になるとアドヒアランスの低下が問題となる1)が,配合剤はこれを解決する手段となることが期待されている2).配合剤に期待される利点は,点眼方法の単純化(点眼回数の減少や,点眼に要する時間の短縮),あとに点眼した薬剤による先に点眼した薬剤の洗い流しの回避,点眼薬に含まれる防腐剤による角膜上皮障害の軽減,患者の経済的負担の軽減などで,これらが改善することにより患者の利便性が増し,アドヒアランスが向上することが期待される.わが国では2010年にドルゾラミド/チモロール合剤,ラタノプロスト/チモロール合剤,トラボプロスト/チモロール合剤が相ついで発売された.ドルゾラミド/チモロール合剤は欧米では10年以上前から使用されており,その治療成績についてはすでに多数の報告がある3).チモロールまたはドルゾラミドの単剤とドルゾラミド/チモロール合剤の眼圧下降効果を比較した報告では,合剤は成分単剤と比較して有意に眼圧を下降させたという8).また,ドルゾラミド/チモロール合剤1日2回点眼と,チモロール1日2回とドルゾラミド1日3回点眼の単剤併用の効果を比(129)較した無作為化コントロール研究では,合剤と単剤併用の眼圧下降効果および安全性は,3カ月の点眼にてほぼ同等であったという3).単剤併用から合剤に休薬期間なしに切り替えた,より実際の診療に近い設定で施行された研究でも,1年の経過観察期間で,合剤の眼圧下降効果は単剤併用と同等であったという3).一方,切り替え試験のなかには,切り替え後に眼圧は有意に下降したという報告もあり6.8),その原因として点眼方法の単純化による患者のアドヒアランスの向上があげられている.今回の筆者らの経験では,単剤からの切り替えでは有意な眼圧下降がみられた.チモロールとCAIの単剤併用からドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,個々の症例のなかには切り替え後に眼圧が上昇したものがあった.これは,合剤に切り替えたことで単剤併用時よりも点眼回数が減って,3剤を確実に点眼していた場合には眼圧下降効果の減弱が起こる可能性があることを示唆している.このため,アドヒアランスが良く,3剤併用で眼圧下降が良好な場合には,合剤に切り替えずにそのままの治療を継続することも選択肢の一つであると思われる.また,角膜への影響については,ドルゾラミド/チモロール合剤はpHが5.5.5.8と酸性で点眼時に刺激感があり,チモロールによる涙液分泌低下の影響も加わって,角膜上皮障害を起こしやすいことが考えられる.今回の経験では角膜上皮障害を生じた症例は少なかったが,切り替え前から緑内障薬を多剤併用していたことを考え合わせると,実際はもっと高い頻度で障害が生じていた可能性がある.このことから,角膜上皮障害の判定方法について再度検討する必要があると思われた.以上,ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験について報告した.今回の経験では症例数が少なかったため,今後は症例数を増やし,同剤の効果をさらに検証していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GreenbergRN:Overviewofpatientcompliancewithmedicationdosing:Aliteraturereview.ClinTher6:592-599,19842)KaisermanI,KaisermanN,NakarSetal:Theeffectofcombinationpharmacotherapyontheprescriptiontrendsofglaucomamedications.Glaucoma14:157-160,20053)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013263 thalmology105:1936-1944,19984)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)SchulzerM,TheNormalTensionGlaucomaStudyGroup:Intraocularpressurereductioninnormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology99:1468-1470,19926)ChoudhriS,WandM,ShieldsMB:Acomparisonofdorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantdrugs.AmJOphthalmol130:832-833,20007)GugletaK,OrgulS,FlammerJ:ExperiencewithCosopt,thefixedcombinationoftimololanddorzolamide,afterswitchfromfreecombinationoftimololanddorzolamide,inSwissophthalmologists’offices.CurrMedResOpin19:330-335,20038)BacharachJ,DelgadoMF,IwachAG:Comparisonoftheefficacyofthefixed-combinationtimolol/dorzolamideversusconcomitantadministrationoftimololanddorzolamide.JOculPharmacolTher19:93-96,2003***264あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(130)

3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):527.535,2012c3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験山口昌彦*1坪田一男*2渡辺仁*3大橋裕一*1*1愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3関西ろうさい病院眼科TheSafetyandEfficacyofLong-termTreatmentwith3%DiquafosolOphthalmicSolutionforDryEyeMasahikoYamaguchi1),KazuoTsubota2),HitoshiWatanabe3)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与時の安全性と有効性を検討するため,ドライアイ患者を対象としたオープンラベルによる多施設共同試験を実施した.被験薬は1回1滴,1日6回,28または52週間点眼とした.Sjogren症候群患者11例,Stevens-Johnson症候群患者2例を含む365例に被験薬が投与された.安全性では,発現率が高かった副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%)および眼痛(3.3%)であった.副作用の程度については,ほとんどが軽度であり,被験薬投与継続中または終了後に,試験開始時と同程度か医学的に問題のない程度まで回復した.有効性では,角膜におけるフルオレセイン染色スコア,角結膜におけるローズベンガル染色スコアおよび涙液層破壊時間(BUT)は,治療期のすべての評価時点においてベースライン値と比較して有意なスコアの低下,もしくはBUTの延長を示し,28週間または52週間の点眼により効果が減弱することはなかった.自覚症状については,治療期のすべての評価時点で異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感および眼不快感は投与4週目までに改善し,28週間または52週間まで改善した状態を維持した.眼脂と流涙は改善効果が認められなかったが,投与期間中の悪化も認められなかった.以上より,3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイ患者に対する長期投与における安全性および有効性が確認された.Thesafetyandefficacyoflong-termtreatmentwith3%diquafosolophthalmicsolutionwereevaluatedin365patientswithdryeyediseaseinanopen-labelstudy(onedrop,6×-dayinstillationfor28or52weeks).Oftheadversedrugreactionsthatoccurredduringthetreatmentperiod,themostfrequentwere“eyedischarge”(6.6%),“conjunctivalhyperemia”(5.5%),“eyeirritation”(4.4%)and“eyepain”(3.3%).Mostoftheadversedrugreactionsweremild,allresolvingtoalevelequivalenttobaselineortoamedicallynon-problematiclevel,eitherduringcontinuanceofthestudydrugorafteritsdiscontinuance.Meanchangeinfluoresceincornealstainingscoreandrosebengalcorneal/conjunctivalstainingscoreshowedasignificantdecreasecomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.MeanchangeinBUTwasfoundtoextendsignificantlycomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.Regardingmeanchangeinsubjectivesymptoms,althoughnoimprovingtendencywasseenineyedischargeorlacrimationscores,scoresforforeignbodysensation,eyepain,dryfeeling,dullsensation,blurredvision,eyefatigue,oculardiscomfortandtotalsubjectivesymptomsshowedsignificantdecreasescomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.Theaboveresultsconfirmthesafetyandefficacyoflong-termtreatmentwith3%diquafosolophthalmicsolutionindryeyepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):527.535,2012〕〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Touon-shi,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(93)527 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):000.000,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム点眼液,安全性,有効性,ドライアイ,長期試験,ムチン.diquafosolophthalmicsolution,safety,efficacy,dryeye,long-termstudy,mucin.はじめにドライアイは,2006年ドライアイ診断基準によれば,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されている1).わが国の疫学調査では,visualdisplayterminals(VDT)作業者におけるドライアイ罹患率は男性で10.1%,女性で21.5%とされている2)が,近年,VDT作業者,エアコン使用機会,コンタクトレンズ装用者や屈折矯正手術の増加などによってドライアイ患者数は増加傾向にあり3.8),日常臨床において最も遭遇する機会が多い疾患の一つになってきている.涙液層は,マイボーム腺より分泌される脂質,涙腺・結膜上皮より分泌される涙液水層,おもに結膜杯細胞より分泌される分泌型ムチンから構成されている9,10).分泌型ムチンは涙液水層中に濃度勾配をもって存在し,涙液水層の表面張力を低下させることによって涙液水層が角結膜上皮表面に広がりやすくしている11).また,角膜および結膜上皮表層には膜結合型ムチンが存在し,陰性に帯電していることによって,陽性に帯電している水分子を角結膜上皮表層にとどめる作用をもっていると考えられており10),分泌型と膜結合型の両方のムチンの働きによって涙液層は角結膜上皮の上に安定して存在することが可能になっている.したがって,涙液水層や分泌型および膜結合型ムチンの減少は,涙液の安定性を低下させ,ドライアイを発症させる要因となる12).ドライアイ治療の点眼薬としては,人工涙液や精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がこれまで用いられてきたが,近年,新たなドライアイ治療薬として,水分およびムチンの分泌を促進する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)が開発され,すでに臨床使用されている.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するジヌクレオチド誘導体で,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,結膜上皮細胞からの水分分泌および結膜杯細胞からのムチン分泌を促進させる作用を示し13,14),涙液水層と涙液中ムチンを改善させることにより,ドライアイに対する治療効果を発揮すると考えられる.慢性疾患であるドライアイの治療では,長期間の点眼治療が必要となる場合が多く,点眼の安全性と有効性の確保はきわめて重要である.本報告では,ドライアイ患者を対象に3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与による安全性および有効性を検討した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.対象本臨床試験は全国30医療機関において実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.対象はドライアイと診断された患者であり,選択基準は年齢20歳以上の性別を問わない外来患者で,観察期開始時に両眼が1995年のドライアイ研究会による診断基準においてのドライアイ確定例でフルオレセイン染色スコアが1点以上の症例とし,除外基準とともに表2に示した.試験開始前に,すべての被検者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1試験実施医療機関一覧医療機関名試験責任医師名医療法人社団深相会青木眼科青木繁医療法人平心会大阪治験病院安藤誠医療法人社団アイクリニック静岡菊川眼科池田宏一郎医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院板橋隆三医療法人社団博陽会おおたけ眼科つきみ野医院大竹博司医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬医療法人社団明医会上野眼科医院木村泰朗堀之内駅前眼科黒田章仁医療法人朔夏会さっか眼科医院属佑二さど眼科佐渡一成東京歯科大学市川総合病院眼科島﨑潤清水眼科清水裕子医療法人社団高友会立飛ビルクリニック眼科髙橋義徳医療法人社団もとい会谷津駅前あじさい眼科田中まりたはら眼科田原恭治慶應義塾大学病院眼科坪田一男医療法人社団聖愛会中込眼科中込豊医療法人社団富士青陵会中島眼科クリニック中島徹たなし中村眼科クリニック中村邦彦スカイビル眼科医院秦誠一郎医療法人知世会林眼科林直樹大阪大学医学部附属病院眼科前田直之医療法人社団真愛会真鍋クリニック眼科真鍋勉三橋眼科医院三橋正忠医療法人社団ルチア会みやざき眼科宮崎明子医療法人社団平和会葛西眼科医院村瀬洋子むらまつ眼科医院村松知幸国立大学法人愛媛大学医学部附属病院眼科山口昌彦独立行政法人国立病院機構東京医療センター眼科山田昌和渡辺眼科医院渡邉広己528あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(94) 表2選択基準および除外基準1)選択基準1.20歳以上2.観察期開始時において,両眼ともにドライアイ研究会による診断基準(1995年)に沿ってドライアイ確定例*と診断,かつ,フルオレセイン染色スコアが1点以上3.少なくとも片眼において,観察期終了時にフルオレセイン染色スコアが1点以上*ドライアイ確定例診断基準(1995年)に沿って,次の①および②を満たす患者をドライアイ確定例とする.①無麻酔下Schirmer試験で5分間に5mm以下または涙液層破壊時間(BUT)が5秒以下②フルオレセイン染色スコアが1点以上(3点満点)またはローズベンガル染色スコアが3点以上(9点満点)2)除外基準1.眼類天疱瘡と診断されている2.角結膜化学腐食または熱腐食と診断されている3.ドライアイ以外の治療を必要とする眼疾患を有する4.眼瞼が解剖学的および機能的に異常である(閉瞼不全など)5.同種造血幹細胞移植の既往を有する6.角膜屈折矯正手術の既往を有する7.アレルギー性結膜炎を有し,試験期間中に症状が増悪する恐れがあり,薬効評価上不適当と判断された8.観察期開始前3カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往を有する9.涙点の閉塞を目的とした治療(涙点プラグ挿入術,外科的涙点閉鎖術など)を観察期開始前1カ月以内まで継続していた10.心,肝,腎,血液疾患,その他の中等度以上の合併症をもち,薬効評価上不適当と判断された(中等度以上とは,例えば「1992年薬安第80号医薬品等の副作用の重篤度分類の基準について」のグレード2以上に相当)11.妊娠中,授乳中または妊娠している可能性がある,または予定の試験期間終了後1カ月以内に妊娠を希望する12.試験期間中に使用する予定の薬剤(フルオレセイン,ローズベンガル,塩酸オキシブプロカインなどの点眼麻酔剤)に対し,アレルギーの既往がある13.試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする14.試験期間中に併用禁止薬を使用する予定および/または併用禁止療法を実施する予定がある15.過去にジクアホソルナトリウム点眼液の治験に参加した(ただし,被験薬を点眼しなかった被検者は可とする)16.観察期開始前1カ月以内に他の治験に参加した2.被験薬被験薬である3%ジクアホソルナトリウム点眼液は,1ml中にジクアホソルナトリウム(図1)を30mg含有する無色澄明の水性点眼液である.観察期用プラセボ点眼液は,3%ジクアホソルナトリウム点眼液の基剤点眼液(有効成分を含有しない点眼液)である.3.用法・用量被験薬は1回1滴,1日6回(2.3時間毎),観察期2週間および治療期28週間または52週間,両眼に点眼した.観察期間中は観察期用プラセボ点眼液を,治療期間中は3%ジクアホソルナトリウム点眼液を,それぞれ点眼した.4.検査・観察項目試験期間中は表3のごとく検査・観察を行った.5.併用薬および併用療法試験期間を通じて,すべての眼科疾患に対する治療薬,副腎皮質ステロイド剤(眼瞼以外への皮膚局所投与は可とする),他の治験薬の併用は投与経路を問わず禁止した.併用禁止薬を除く薬剤の併用は可とした.試験期間を通じて涙点プラグ,外科的涙点閉鎖術,ドライアイ保護用眼鏡などの薬効評価に影響を及ぼす併用療法は行わないこととした.(95)OHNOOONNaOPOOOHHNaOPHHOOOHOOHNaOPOOHNNaOPOONOHHHHHOOH図1ジクアホソルナトリウムの構造式6.評価項目a.安全性の評価有害事象および副作用,臨床検査,眼科的検査をもとに安全性を評価した.あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012529 表3検査・観察項目観察項目観察期治療期観察期開始時(.2週)0週2週4週8.28または52週(4週ごとに来院)被検者背景,文書同意●点眼遵守状況●●●●自覚症状●●●●●前眼部所見●●●●●涙液層破壊時間(BUT)●●●●●フルオレセイン染色●●●●●Schirmer試験Ⅰ法(麻酔なし)●ローズベンガル染色●●●●眼科検査(眼底,視力,眼圧)●●●臨床検査●結果判定▲有害事象●●●●▲:治療期12週,28週および52週に実施.0~30~30~30点障害なし1点一部に障害あり2点半分以上に障害あり3点全体に障害あり図2フルオレセイン染色スコアの評価基準角膜の上部,中央部および下部の3箇所をそれぞれ0.3点の4段階でスコア化した(9点満点).0~30~30~30~30~30点障害なし1点一部に障害あり2点半分以上に障害あり3点全体に障害あり図3ローズベンガル染色スコアの評価基準角膜の上部,中央部および下部,結膜の耳側および鼻側の5箇所をそれぞれ0.3点の4段階でスコア化した(15点満点).b.有効性の評価評価対象眼はフルオレセイン染色スコアのベースライン値(0週評価時スコア)が高いほうの眼とした.左右眼のフルオレセイン染色スコアが同じ場合は,右眼を評価対象眼とした.なお,本試験におけるフルオレセイン染色スコアおよびローズベンガル染色スコアの評価基準を図2,3に示した.評価項目は,フルオレセイン染色スコア変化量,ローズベンガル染色スコア変化量,涙液層破壊時間(BUT)の変化量,自覚症状(11項目:異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感,眼脂,流涙,および11項目の合計スコア)の変化量の推移とした.530あたらしい眼科Vol.29,No.4,20127.解析方法安全性の解析では,被験薬を1回でも点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被検者を安全性解析対象集団とした.有効性の解析では,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet)を有効性の検討に使用し,投与前後の比較には対応のあるt検定を用いた.安全性および有効性に関する検定の有意水準は両側5%とした.解析ソフトはSAS(SASInstitute,Cary,NC)を用いた.II結果1.症例の内訳症例の内訳を図4に示した.文書同意を得た症例は395例で,そのうち30例が観察期中に中止・脱落し,治療期用被験薬が投与された症例は365例であった.治療期用被験薬投与開始後,28週以前の中止・脱落例は24例で,治療期用被験薬が28週間投与された症例は341例であった.そのうち,222例が28週間で投与を終了し,119例が52週までの延長登録を実施した.延長登録後,7例が中止・脱落し,治療期用被験薬が52週間投与された症例は112例であった.2.被検者背景安全性解析対象集団における被検者背景を表4に示した.3.安全性に関する成績a.有害事象および副作用治療期には有害事象が365例中245例に認められ,そのうち被験薬との因果関係が否定できない副作用は92例であった.治療期に認められた副作用(1%以上)を表5に示した.おもな副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%),眼痛(3.3%)であり,これら以外はすべて3%以下であった.4週までに発現した副作用のうち,発現率(96) が高かった事象は眼脂(3.6%),眼刺激(3.3%)であり,その他の事象の発現率は3%未満であった.これら副作用の発現率は4週以降に減少し,長期投与により発現率が上昇することはなかった.他の副作用に関しても,長期投与により発現率が上昇することはなく,投与期間後期に多く発現する遅発性の副作用も認められなかった.b.臨床検査被験薬との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は3.8%に認められた.すべての臨床検査値の異常変動は,治療期中止・脱落例24例治療期用被験薬が28週投与された症例341例文書同意を得た症例395例治療期用被験薬が投与された症例365例52週延長の登録症例119例治療期用被験薬が52週投与された症例112例観察期中止・脱落例30例28週で投与を終了した症例222例治療期中止・脱落例(28週以降)7例図4被検者の構成被験薬投与継続中または被験薬投与終了後に,試験開始時と同じ程度か医学的に問題のない程度まで回復した.c.眼科検査前眼部所見,眼圧値,眼底所見,矯正視力については,各群とも被験薬投与前後で医学的に問題となる変動は認められなかった.4.有効性に関する成績フルオレセイン染色スコアの0週からの平均実測値の推移を図5に示した.フルオレセイン染色スコアのベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で.1.32±0.07,28週で.1.83±0.08,52週で.1.83±0.13と,いずれもスコアの有意な低下が52週間にわたり認められた.ローズベンガル染色スコアの0週からの平均実測値の推移を図6に示した.ベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で.1.58±0.10,28週で.2.22±0.12,表4被検者背景例数安全性解析対象集団365年齢(歳)平均±標準偏差49.8±17.6性別男性女性79(21.6%)286(78.4%)Sjogren症候群の合併なしあり354(97.0%)11(3.0%)Stevens-Johnsonなし363(99.4%)症候群の合併あり2(0.6%)0週フルオレセイン染色スコア平均±標準偏差2.6±1.60週ローズベンガル染色スコア平均±標準偏差3.3±2.70週BUT平均±標準偏差3.0±1.2観察期Schirmer試験平均±標準偏差7.4±8.0表5治療期に認められた副作用(1%以上)例数(%)安全性解析対象集団:365発現時期0.4週4.8週8.12週12.16週16.20週20.24週24.28週28.36週36.44週44.52週合計眼障害結膜出血1(0.3)────1(0.3)1(0.3)1(0.3)2(0.5)─6(1.6)眼脂13(3.6)3(0.8)──2(0.5)─3(0.8)2(0.5)─1(0.3)24(6.6)眼刺激12(3.3)─2(0.5)1(0.3)1(0.3)─────16(4.4)眼痛4(1.1)2(0.5)2(0.5)1(0.3)─2(0.5)──1(0.3)─12(3.3)霧視2(0.5)─1(0.3)──1(0.3)────4(1.1)眼の異物感4(1.1)2(0.5)───1(0.3)─1(0.3)1(0.3)─9(2.5)結膜充血8(2.2)─3(0.8)1(0.3)2(0.5)─3(0.8)1(0.3)1(0.3)1(0.3)20(5.5)眼.痒感3(0.8)2(0.5)─1(0.3)1(0.3)2(0.5)─1(0.3)──10(2.7)眼部不快感3(0.8)1(0.3)──1(0.3)─────5(1.4)合計(件数)501084777652106(MedDRA/JVer.10.1より)(97)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012531 ScoreScoreScore3210:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)0481216202428323640444852Weekn=(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)図5フルオレセイン染色スコアの平均実測値の推移43210:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)0481216202428323640444852Weekn=(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)図6ローズベンガル染色スコアの平均実測値の推移532あたらしい眼科Vol.29,No.4,201252週で.1.54±0.17と,いずれもスコアの有意な低下が52週間にわたり認められた.BUTの0週からの平均変化量の推移を図7に示した.BUTのベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で0.88±0.07,28週で1.72±0.12,52週で1.95±0.19と,いずれも有意なBUTの延長が52週間にわたり認められた.Stevens-Johnson症候群(以下,S-J症候群)合併例2例の評価眼におけるフルオレセイン染色スコア,ローズベンガル染色スコアおよびBUTは,いずれの症例でも点眼開始前後(0週→28週)で改善が認められた(フルオレセイン染色スコア:4→2〈症例1〉,6→3〈症例2〉,ローズベンガル(98)654321004812162024Week28323640444852(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)n=:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)図7涙液層破壊時間(BUT)の平均実測値の推移 ScoreScoreScore1.51.00.50.004812162024Week28323640444852(236)(140)(235)(139)(234)(138)(233)(136)(230)(136)(226)(133)(225)(133)(224)(132)(84)(52)(84)(52)(83)(51)(81)(49)(81)(48)(81)(48)n=:異物感:羞明感:.痒感:眼痛平均値(159)(158)(157)(156)(155)(153)(152)(153)(57)(56)(54)(53)(53)(53)(153)(153)(152)(151)(150)(146)(145)(143)(59)(58)(57)(56)(56)(56)図8自覚症状推移(異物感,羞明感,.痒感,眼痛)1.5:乾燥感:鈍重感:霧視:眼疲労感1.00.50.00481216202428323640444852Weekn=(325)(324)(322)(318)(315)(310)(308)(306)(110)(109)(107)(105)(104)(103)(165)(164)(161)(160)(160)(158)(157)(157)(59)(59)(58)(57)(57)(57)平均値(129)(128)(127)(126)(123)(120)(120)(118)(47)(47)(46)(45)(44)(44)(248)(246)(244)(242)(241)(238)(237)(236)(82)(81)(79)(77)(77)(76)図9自覚症状推移(乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感)1.5:眼不快感:眼脂:流涙平均値1.00.50.0n=0481216202428323640444852Week(223)(222)(220)(218)(217)(215)(215)(213)(69)(69)(68)(66)(66)(65)(209)(209)(207)(206)(204)(201)(200)(200)(72)(71)(69)(68)(68)(67)(102)(101)(100)(99)(98)(97)(97)(97)(42)(42)(41)(40)(40)(39)図10自覚症状推移(眼不快感,眼脂,流涙)(99)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012533 Score7654321004812162024Week28323640444852:自覚症状合計スコア******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)n=(360)(358)(355)(351)(347)(342)(340)(338)(118)(117)(115)(113)(112)(111)図11自覚症状合計スコアの平均実測値の推移染色スコア:6→1〈症例1〉,3→0〈症例2〉,BUT:3.3秒→6.0秒〈症例1〉,2.0秒→3.3秒〈症例2〉).自覚症状の推移を図8.10に,自覚症状合計スコアの推移を図11に示した.異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感および自覚症状合計スコアは,投与4週目までに改善し,52週目まで改善した状態を維持した.眼脂と流涙については,改善効果が認められなかったが,長期投与期間中の悪化も認められなかった.III考察ジクアホソルナトリウム点眼液は水分およびムチンを含む涙液の分泌を促進し,涙液の量的・質的改善を図ることによって,ドライアイの病態に即した治療が期待できる点眼薬である.まず,本剤の安全性であるが,発現率の高かった副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%)および眼痛(3.3%)であり,特に投与開始4週間以内に発現率の高かったのは眼脂(3.6%)と眼刺激(3.3%)で,その他の発現率はいずれも3%未満であった.また,ほとんどの有害事象および副作用は投与初期の4週までに発現し,すべての有害事象および副作用は長期投与により発現率が上昇することはなく,投与期間後期にのみ発現する遅発性の事象も認められなかった.ほとんどの副作用が軽度で点眼の継続が可能な程度であり,点眼継続中に消失するか,点眼終了もしくは中止することにより消失したことから,3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与における安全性および忍容性に問題はないと考えられた.つぎに,本剤の有効性であるが,フルオレセイン染色スコアおよびローズベンガル染色スコアのベースライン値からの平均変化量は,52週間にわたり有意なスコアの低下が認められた.すなわち,角結膜上皮障害に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないことが示された.本臨床試験534あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012では,ローズベンガル染色スコアを角膜および結膜上皮のムチン被覆障害の評価方法として用いた.涙液の異常や眼表面環境の悪化に起因して上皮細胞の分化異常が生じ,角膜や結膜上皮が変性あるいは角化してムチンの被覆が不十分となった箇所が,ローズベンガル染色により染色される15.17).眼表面におけるムチンは,涙液の水分以外のおもな構成成分として存在しており,結膜上皮の杯細胞などから供給され,その作用としては,外界からのバリア機能,涙液の表面張力の低下,角結膜表面の潤滑作用,涙液の安定化などがあげられる.ドライアイでは,角結膜表面のムチン被覆障害により,涙液の眼表面への均一な伸展が阻害され,涙液層の厚みが不均一になることにより眼表面環境悪化の悪循環に陥ると考えられるため,ドライアイにおいてムチン被覆障害を改善させることは,治療においてきわめて重要である.本臨床試験での,ローズベンガル染色スコアの結果から,角膜および結膜上皮のムチン被覆障害に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないことが示された.また,海外における臨床試験では2%ジクアホソルナトリウム点眼液の投与6週における涙液分泌効果が示されており18),ジクアホソルナトリウム点眼液のムチンおよび涙液分泌促進作用により角結膜上皮改善効果が得られたと考えられる.さらに,BUTは,ベースラインからの平均変化量は,52週間にわたり有意な延長がみられた.BUTは,涙液層全体,すなわち油層,水層,分泌型ムチン,角膜上皮表層の膜型ムチンなどの状態を含めた涙液層の安定性を総合的に評価する検査である.よって,ジクアホソルナトリウムは涙液水層および分泌型ムチンの状態を改善させることによって,涙液層を長期にわたって安定させる効果があると考えられる.また,ジクアホソルナトリウムは膜型ムチンの遺伝子発現を促進させるという実験的報告もあり19),もし実際に本剤投与後にヒトでも膜型ムチンの改善が起こっているとすれば,BUTの改善に寄与している可能性がある.(100) また,今回,S-J症候群合併例が2例含まれていたが,2例とも角結膜上皮障害スコアおよびBUTともに本剤投与前後で改善傾向を示しており,S-J症候群に合併するドライアイにも有効である可能性が示された.自覚症状についても,多くの項目において投与4週目までに有意に改善し,52週目まで改善効果は持続した.このことは,角結膜上皮障害やBUTの改善する傾向と一致しており,他覚所見と自覚症状の改善において整合性のある結果といえる.結論として,ジクアホソルナトリウム点眼液は,ドライアイの病態に即した作用機序を示すことによって長期的にドライアイを改善させる点眼薬であり,長期投与における安全性についても問題がないことが確認された.文献1)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)UchinoM,SchaumbergDA,DogruMetal:Prevalenceofdryeyediseaseamongjapanesevisualdisplayterminalusers.Ophthalmology115:1982-1988,20083)UchinoM,DogruM,YagiYetal:ThefeaturesofdryeyediseaseinaJapaneseelderlypopulation.OptomVisSci83:797-802,20064)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterminals.NEnglJMed328:584,19935)HikichiT,YoshidaA,FukuiYetal:PrevalenceofdryeyeinJapaneseeyecenters.GraefesArchClinExpOphthalmol233:555-558,19956)MossSE,KleinR,KleinBEK:Prevalenceofandriskfactorsfordryeyesyndrome.ArchOphthalmol118:12641268,20007)UchinoM,DogruM,UchinoYetal:JapanMinistryofHealthstudyonprevalenceofdryeyediseaseamongJapanesehighschoolstudents.AmJOphthalmol146:925-929e2,20088)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20019)WolffE:AnatomyoftheEyeandOrbit.Ed4,p207-209,BlakistonCo,NY,195410)ArguesoP,Gipson,IK:Epithelialmucinsoftheocularsurface:structure,biosynthesisandfunction.Exp.EyeRes73:281-289,200111)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,199412)DanjoY,WatanabeH,TisdaleASetal:Alterationofmucininhumanconjunctivalepitheliaindryeye.InvestOphthalmolVisSci39:2602-2609,199813)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,201114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖タンパク質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201115)KinoshitaS,KiorpesTC,FriendJetal:Gobletcelldensityinocularsurfacedisease.ArchOphthalmol101:12841287,198316)FeenstaRPG,TsengSCG:Whatisactuallystainedbyrosebengal?ArchOphthalmol110:980-993,199217)TsengSCG,ZhangSH:Interactionbetweenrosebengalanddifferentproteincomponents.Cornea14:427-435,199518)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-masked,placebo-controlledsafetyandefficacytrialofDiquafosol(INS365)ophthalmicsolutionforthetreatmentofdry-eye.Cornea23:784-792,200419)七條優子,中村雅胤:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,2011***(101)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012535