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小眼球症かつ近視であった閉塞隅角緑内障の1例

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(119)8690910-1810/08/\100/頁/JCLS《第18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(6):869872,2008cはじめに小眼球以外の眼異常や全身異常を伴わない「真性小眼球症1)」は,短眼軸(20mm以下),短眼軸に伴う遠視,ときに小角膜(角膜径10mm以下)を特徴とし,若年時より両眼性の浅前房,3040歳代には相対的に大きな水晶体による閉塞隅角緑内障を合併することが多い2).また真性小眼球症は強膜肥厚による房水静脈の排出障害や渦静脈の圧迫などを伴うため,内眼手術時の大きな眼圧の変化は,高頻度に術後のuvealeusionを誘発し,視力予後は不良といわれていた3).しかし,最近は真性小眼球症に伴った急性緑内障発作に対し水晶体超音波乳化吸引術(PEA)を行い良好な結果を得たとする報告もみられる4).今回,小角膜と短眼軸にもかかわらず近視だった閉塞隅角緑内障の症例に対して,白内障手術と隅角癒着解離術を施行〔別刷請求先〕小嶌祥太:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShotaKojima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN小眼球症かつ近視であった閉塞隅角緑内障の1例小嶌祥太*1杉山哲也*1廣辻徳彦*1池田恒彦*1石田理*2小林正人*3*1大阪医科大学眼科学教室*2大阪暁明館病院*3第一東和会病院ACaseofAngle-ClosureGlaucomawithNanophthalmosandMyopiaShotaKojima1),TetsuyaSugiyma1),NorihikoHirotsuji1),TsunehikoIkeda1),OsamuIshida2)andMasatoKobayashi3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)OsakaGyoumeikanHospital,3)DaiichiTowakaiHospital目的:小角膜と短眼軸にもかかわらず近視を呈した閉塞隅角緑内障例に対して,白内障手術と隅角癒着解離術を施行し良好な結果を得たので報告する.症例:52歳,女性.左眼眼圧上昇を指摘されて大阪医科大学附属病院に紹介受診した.初診時左眼視力は(0.8×cyl3.00DAx40°),左眼眼圧は46mmHg,両眼とも浅前房および狭隅角で,左眼は白内障と広範な虹彩前癒着を認めた.左眼は角膜径8mm,平均角膜曲率半径7.14mm,前房深度2.54mm,水晶体厚4.05mm,眼軸長20.55mmであった.眼圧下降薬の点眼と内服では十分な眼圧下降を得られなかったため,水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+隅角癒着解離術を施行した.3日後にレーザー隅角形成術を施行し,現在2剤点眼にて眼圧は20mmHg前後で安定している.結論:小眼球症にもかかわらず近視眼であった原因として,角膜屈折率の高さに加え,相対的に大きな水晶体の前方移動が考えられる.本症例のような続発緑内障に対して白内障手術併用による隅角癒着解離術が有効である.Wereportacaseofangle-closureglaucomawithnanophthalmosandmyopiaina52-year-oldfemalewhoexperiencedelevatedintraocularpressure(IOP)inherlefteyeandwasreferredtous.Hercorrectedvisualacuitywas20/25withcyl3.00DAx40°andIOPof46mmHginherlefteye;shepresentedwithcataractandperipher-alanteriorsynechia.Botheyesshowedshallowanteriorchamber.Cornealdiameter,averageradius,anteriorcham-berdepth,lensthicknessandaxiallengthwere8,7.14,2.54,4.05,and20.55mm,respectively.Sincetopicalandsystemicanti-glaucomamedicationfailedtoachievesucientIOPreduction,weperformedcombinedsurgeryofphacoemulsication,intraocularlensimplantationandgoniosynechialysis.Onthethirdpostoperativeday,lasergonioplastywasperformed.Subsequently,twotopicalanti-glaucomadrugshavemaintainedIOPataround20mmHg.Becausemyopiawithnanophthalmosmightbeattributabletoaforwardshiftoftherelativelylargelens,inadditiontohighcornealrefractivepower,combinedtreatmentofcataractsurgeryandgoniosynechialysiswaseectiveforIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):869872,2008〕Keywords:小眼球,閉塞隅角緑内障,白内障,隅角癒着解離術,同時手術.nanophthalmos,angle-closureglau-coma,cataract,combinedsurgery.———————————————————————-Page2870あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(120)主訴:左眼視力低下.現病歴:平成18年8月頃からの左眼視力低下を自覚して近医に受診したところ,左眼眼圧上昇と両眼狭隅角を指摘されて平成18年9月27日に大阪医科大学附属病院に紹介受診した.し経過良好であったので報告する.I症例患者:52歳,女性.初診:平成18年9月27日.図1初診時前眼部写真(平成18年9月27日)両眼とも小角膜,浅前房,左眼には虹彩前癒着と周辺部角膜に混濁があり,中間透光体には両眼に白内障を認め,左眼がより進行していた.右眼左眼図2術前左眼隅角・超音波生体顕微鏡検査(UBM)所見(平成18年9月27日)左眼隅角はSchaer分類grade0-1,上側および耳側に広範で著明な周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた.また,左眼の上側および耳側に広範で著明なPASを認めた.UBM隅角上方耳側下方鼻側———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008871(121)視野狭窄は認めなかったが,左眼に緑内障性視野狭窄(湖崎分類III-a)を認めた.II経過9月27日から左眼にラタノプロスト点眼,0.5%マレイン酸チモロール点眼,塩酸ドルゾラミド点眼およびアセタゾラミド1錠,L-アスパラギン酸カリウム2錠内服を開始したところ,眼圧は21mmHg以下にコントロールされていた.ところが11月8日に眼圧が28mmHgと上昇し始め,その後30mmHg以下に下降しなかったため,12月14日入院のうえ,12月15日に隅角癒着解離術+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入を施行した.術後2日間の眼圧は17mmHg以下であったが,3日目に35mmHgと上昇したためアセタゾラミド内服および0.5%チモロール点眼を開始,レーザー隅角形成術を施行した.眼圧は徐々に下降し点眼のみで20mmHg前後に安定したため12月24日に退院となった.術後の左眼前眼部において,前房は術前と比較して深くな既往歴:A型肝炎(平成2年),高血圧(平成13年から).家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.08(0.1×2.25D(cyl1.50DAx125°),左眼0.6(0.8×cyl3.00DAx40°).眼圧は右眼14mmHg,左眼46mmHg.両眼とも小角膜,浅前房,左眼には虹彩前癒着と周辺部角膜に混濁があり,両眼の白内障は左眼がより進行していた(図1).隅角は右眼Schaer分類grade1-2,左眼Schaer分類0-1で,左眼の上側および耳側に広範で著明な周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた(図2).右眼は狭隅角ではあったが,明らかなPASは認められなかった.眼底は左眼の視神経乳頭に陥凹拡大を認めた.角膜径は右眼9mm,左眼8mm,角膜厚は右眼420μm,左眼498μm,平均角膜曲率半径は右眼6.72mm(50.2ジオプトリーに相当),左眼7.14mm(47.5ジオプトリー),前房深度は右眼2.48mm,左眼2.54mm,水晶体厚は右眼4.38mm,左眼4.05mm,眼軸長は右眼20.08mm,左眼20.52mm,角膜内皮細胞密度は右眼2,457個/mm2,左眼1,485個/mm2であった.また10月4日の視野検査では,右眼に明らかな図3術後左眼隅角・UBM所見(平成19年5月28日)耳側および上方のPASの一部は残存しているようにみえるが,再周辺部の癒着は解除されている.UBM隅角上方耳側下方鼻側———————————————————————-Page4872あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008晶体厚も眼軸長に比しやや厚いことや前方偏位が推測されることから,近視の原因はこれらが組み合わさった結果と考えられた.小眼球症に伴う緑内障の治療としてはマイトマイシンC併用線維柱帯切除術11)が有用であったとする報告もあるが,極端な眼圧変動はuvealeusionや駆逐性出血の可能性が高いため,より眼圧変動の少ない手術が望ましい.近年の水晶体超音波乳化吸引術の進歩により小切開で術中眼圧変動が少ない白内障手術が可能となっている.特に今回のように水晶体が相対的に厚いと考えられる症例には閉塞隅角の機序に水晶体が関与していることが考えられ,白内障手術によりその主因が取り除かれると考えられる.ただし,PASが存在していたことから,機械的な隅角閉塞も眼圧上昇の一因と考えられたことより,白内障手術後に隅角癒着解離術を施行し,術後良好な結果を得ている.今回のように,小眼球にもかかわらず近視眼である閉塞隅角緑内障は,水晶体が眼圧上昇に大きく関与していると考えられ,初回手術の術式としては,白内障手術と隅角癒着解離術の併用が有用であると考えられた.文献1)Duke-ElderS:SystemofOphthalmology.Vol3,p488-495,HenryKimptom,London,19642)池田陽子,森和彦:12.小眼球に伴う緑内障.眼科プラクティス11,緑内障診療の進め方(根木昭編),p84-85,文光堂,20063)BrockhurstRJ:Cataractsurgeryinnanophthalmiceyes.ArchOphthalmol108:965-967,19904)刈谷麻呂,佐久間亮子,嘉村由美:真性小眼球症に伴った急性緑内障発作に対する白内障手術の一例.眼科42:1839-1843,20005)馬嶋昭生:小眼球症とその発生病理学的分類.日眼会誌98:1180-1200,19946)水流忠彦:角膜疾患に伴う緑内障.新図説臨床眼科講座4巻(新家真編),p178-179,メジカルビュー社,19987)KimT,PalayDA:Developmentalcornealanomaliesofsizeandshape.In:KrachmerJHetal(eds):Cornea.Corneaandexternaldisease:Clinicaldiagnosisandman-agement,p871-883,Mosby,StLouis,19978)福地健郎,上田潤,原浩昭ほか:小角膜に伴う緑内障の生体計測と鑑別診断.日眼会誌102:746-751,19989)YalvacIS,SatanaB,OzkanGetal:Managementofglau-comainpatientswithnanophthalmos.EyeFeb9[Epubaheadofprint],200710)玉置泰裕,桜井真彦,新家真:Nanophthalmosの5症例.眼紀41:1319-1324,199011)住岡孝吉,雑賀司珠也,大西克尚:小眼球症例の緑内障に対してマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行した1例.眼紀56:831-836,2005(122)り,耳側および上方のPASの一部は残存しているようにみえるが,同部位の最周辺部の癒着は解除されていた(図3).7月30日の左眼視力は0.5(0.8×+0.50D(cyl1.00DAx125°),左眼眼圧は18mmHgであり,現在も1%ピロカルピンおよび0.5%チモロール点眼にて眼圧は20mmHg以下で安定している.III考按馬嶋5)は眼軸長が男性20.4mm,女性20.1mm以下を小眼球の定義としている.今回の症例では眼軸が右眼20.08mm,左眼20.52mmであり,この定義によると右眼は小眼球,左眼は境界域であると考えられる.一方,今回の症例では角膜径が右眼9mm,左眼8mmであり,小角膜である.小角膜は虹彩欠損,瞳孔膜遺残などさまざまな眼異常6),全身異常や染色体異常7)に合併するが,まれに明らかな他の眼異常や全身異常を伴わない小角膜の症例があり,nanophthalmos,前部小眼球症(anteriormicro-phthalmos,狭義の小角膜症),扁平角膜(corneaplana),強角膜症(sclerocornea)などがこれにあたる8).いずれの小角膜にも緑内障を併発することがある.福地ら8)はこの小角膜の症例を以下のように鑑別している.まず,角膜径が10mm以下であれば「広義の小角膜」で,これに角膜・強膜境界部異常が存在すれば「強角膜症」となり,なければ角膜曲率が43ジオプトリー未満であれば「扁平角膜」と診断される.今回の症例のように両眼とも45ジオプトリー以上である場合はさらに眼軸長で判断され,眼軸長が20mm未満であればnanophthalmos,20mm以上であれば「前部小眼球症」としている.この定義によると今回の症例では両眼とも厳密には前部小眼球症であるが,右眼は境界域であり,小眼球症とも考えられる.つまり小角膜と小眼球症の混合型,境界型と考えられ,福地らもそのような中間型の症例の存在を指摘8)している.小眼球症は眼軸が短いため遠視眼であることが特徴の一つとなっている.近年,小眼球症20例の生体データを調べたYalvacら9)はその屈折率の範囲が+10.75±2.69(+5+15)ジオプトリーで,すべて遠視眼であったことを報告している.わが国においても玉置ら10)が5例の小眼球症を報告しているが,屈折値が測定できた4例の範囲は+5.09±5.31(0.37+15)ジオプトリーとなっており,1例を除いてすべて遠視眼である.その1例はきわめてまれな症例と考えられるが,混合乱視および近視であったと報告している.この理由として正常より角膜曲率半径が小さく,水晶体の厚さが大きく,その位置が前方に位置していたことを指摘している.今回の症例においても,角膜屈折力がやや強いこと,水***

蜂毒のみで水疱性角膜症と白内障をきたした症例

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1(127)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):549~552,2008?はじめに蜂による角膜外傷は過去多数報告されている1~7).スズメバチやアシナガバチ,ミツバチによる症例が多く,角膜に対する刺傷と刺傷からの蜂毒により種々の病態を発症する.蜂の種類や毒液量によって症状はさまざまで治療方法もステロイド療法のみで軽快した症例から,前房洗浄や角膜移植まで必要となった症例まで多岐にわたっている1~7).他報告では,アシナガバチによる蜂刺傷は予後良好な経過をたどり,スズメバチによる蜂刺傷は失明に至る例が多く予後不良である1~7).今回,筆者らは蜂による刺傷がないにもかかわらず,蜂毒の噴射のみによる水疱性角膜症と白内障を発症した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.〔別刷請求先〕高望美:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880番地獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-?????????????????-????????????-???????-???????????蜂毒のみで水疱性角膜症と白内障をきたした症例高望美*1千葉桂三*1菊池道晴*1妹尾正*1千種雄一*2*1獨協医科大学眼科学教室*2獨協医科大学熱帯病寄生虫センターCaseReportofVesicularKeratitisandCataractCasedbyBeeVenomwithoutStingNozomiKoh1),KeizoChiba1),MichiharuKikuchi1),TadashiSenoo1)andYuichiChigusa2)?)??????????????????????????????)?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????今回,筆者らは蜂の刺傷を受けていないにもかかわらず,蜂毒自体によって水疱性角膜症と白内障を発症した1症例を経験したので報告する.症例は72歳,男性.スズメバチが眼前数cmを通り抜けたと同時に毒を散布され霧視,視力低下が出現.当日に近医眼科受診.角膜浮腫と結膜充血,眼瞼浮腫を認めたために0.1%フルオロメトロン点眼,レボフロキサシン点眼,1%硫酸アトロピン点眼がすぐに開始され,受傷4日後よりプレドニゾロンの内服とデキサメタゾンの結膜下注射が開始となる.前房洗浄を勧めるも患者がこれを希望しなかった.症状の改善を認めないために受傷より10日目に当院眼科に紹介受診となる.水疱性角膜症と白内障,虹彩萎縮を認めた.当院でも前房洗浄を勧めたが患者が希望しなかった.当院は遠方で通院が困難であったため,近医にて経過観察となった.その後,改善を認めなかったために再度当院紹介受診となり,角膜全層移植・水晶体再建術の同時手術を施行した.術後,角膜は透明性を維持していて経過は良好である.蜂による刺創がないにもかかわらず,蜂毒のみの影響で水胞性角膜症と白内障を発症したケースは報告がなく非常に珍しいと考えられる.Wereportacaseofvesicularkeratitisandcataractcausedbybeevenomwithoutasting.Theeyesofa72-year-oldmaleweresprayedwithvenombyalargehornet?yingonlyafewcentimeters?distancefromtheman?sface.Themanexperiencedimmediatevisualimpairmentandvisitedanearbyophthalomologist.Examinationdisclosedcornealswelling,conjunctivalinjectionandpalpebraledema.Treatmentwasimmediatelyinitiatedwith0.1%?uorometholone,levo?oxacinand1%atropinesulfateeyelotion.Withoutimprovementinthecondition,perosprednisoloneandsubconjunctivalinjectionofdexamethasonwereinitiatedfromDay4.Anteriorchamberwash-outwasrecommendedaswell,butwasrefusedbythepatient.Theconditioncontinuedtodeteriorate;twomonthsafteronset,thepatientwasreferredtoourhospital.Examinationatthatpointdemonstratedvesicularker-atitis,cataractandirisatrophy.Keratoplastyandlensplastywereperformedsimultaneously;thepatientrecov-eredwell,withoutimmunologicalreaction.Thecornearemainedclear.Thisrarecaseshowsthatbeevenomtotheeyecancauseserioussymptomswithoutasting,andthattypeofthebeeandthedepthofthevenomin?ltrationmaybemajordeterminantoftheprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):549~552,2008〕Keywords:蜂毒,スズメバチ,水疱性角膜症,白内障.beevenom,vespid,bullouskeratopathy,cataract.———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(129)襲われるケースが多い.本症例も巣に気がつかずにスズメバチに遭遇し受傷したものと思われた.受傷状況や,蜂の標本などで蜂の種類を同定できたことは予後や治療方針を決定するうえで重要であったと思われる.蜂毒の成分はマムシ毒,ハブ毒に並ぶ致死毒といわれており,特にスズメバチの毒性は強いことで知られている8~10).蜂毒に含まれるホスホリパーゼは激しい全身症状やアナフィラキシーショックをひき起こす.また,ホスホリパーゼ以外にも激痛誘引物質,神経毒,溶血毒や数々の内因性ペプチドが蜂毒には含まれている.特にスズメバチの毒は他の蜂毒と比べ内因性ペプチドの含有率,毒の絶対量が多いために毒性が強いといわれている10).このために蜂刺症は種々の症状を呈しやすく難治性の症候を示す.スズメバチによる眼外傷の予後は他の蜂より悪く,過去の報告では最終視力は0.2以下が大多数であった1~3).西山らの報告によると,アシナガバチによる角膜蜂刺症9例中8例が最終視力0.8以上であったのに対し,スズメバチによる角膜蜂刺症で8例中4例が光覚なしとなり,残りの4例は最終視力が0.1以下と報告している2).オオスズメバチの毒針の長さは7mmにもなり9),角膜を貫通しうるため眼内に毒素が混入しやすく,さまざまな内因性ペプチドが前房内に入ることにより重篤な眼内症状をひき起こすと推測される.今回筆者らが経験した症例は蜂針の刺創がなく,毒素が眼内深部まで到達しなかったことが,術後予後を好転させた原因と考える.全層角膜移植後の平均的な角膜内皮細胞減少は,術後2カ月目までは約25%(年率150%)であり,この2カ月の期間の変化の主因は,角膜ドナーの保存状態,手術の際の直接損在はレボフロキサシン点眼,リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼およびヒアルロン酸ナトリウム点眼を使用し経過観察中である.II考按角膜蜂外傷は,刺傷と蜂毒により角膜浮腫や水疱性角膜症,ぶどう膜炎,虹彩萎縮,白内障などを生じることが多数報告されている1~7).スズメバチによる刺蜂症は予後が最も悪く,失明または重度の視力障害に陥っており,特に蜂針が前房内にまで達すると網膜?離1)や全眼球炎2)を起こす可能性がある.筆者らの症例はスズメバチによる眼外傷であったが,最終視力予後は良好であった.これはスズメバチに刺されたわけではなく,蜂毒のみにより発症したからと考えられる.蜂の個体数がピークに達する9~10月は蜂の警戒心も強くなり被害数も多くなる8).危害を加えていないのに突然攻撃をしてくるのはスズメバチ科(Vespidae)に特有の習性である.オオスズメバチは土の中に巣を作るため,気づかずに図4術後17日目の細隙灯検査図5術後2カ月目の細隙灯検査上皮障害もなく透明性を維持している.図6術後視力と角膜内皮細胞数の変化0.20.30.40.50.60.70.80.9術後視力角膜内皮細胞数(個/mm2)1カ月:視力:角膜内皮細胞数———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(130)度の確認が重要と考える.しかし地方によっては蜂をまとめて「くまんばち」とよぶ地域もあり,蜂の種類を正確に把握するのは困難なこともあるので蜂の大きさや体の特徴など,患者からの細かい問診も角膜蜂刺症の診断,治療において重要であると考えられる.今回筆者らが経験した症例は,蜂に眼を刺されてはおらず,スズメバチの毒素が眼内深部までほとんど到達しなかったことが予後の良かった原因と考えるが,逆に言えば毒素の噴射のみでも角結膜を通して毒素が眼内に到達し虹彩萎縮や眼内炎が生じたと考えられ,たとえ刺し傷がなくとも十分に注意が必要と考える.文献1)前田政徳,国吉一樹,入船元裕ほか:蜂による眼外傷の2例.眼紀52:514-518,20012)西山敬三,戸塚清一:スズメバチによる角膜刺症.眼紀35:1486-1494,19843)三木淳司,阿部達也,白鳥敦ほか:スズメバチによる角膜刺症の1例.眼紀45:1063-1066,19944)岩見達也,西田保裕,村田豊隆ほか:角膜蜂刺症の2症例.あたらしい眼科20:1293-1295,20035)南伸也,山口昌彦,森田真一ほか:特異な経過をたどったアシナガバチによる角膜刺症の1例.眼臨97:961-964,20036)中島直子,塚本秀利,平山倫子ほか:前房洗浄を行わずに治癒したアシナガバチによる角膜刺症の2例.広島医学57:887-889,20047)米山高仁,竹田美奈子:視力回復が得られたスズメバチ角膜刺症の1例.眼紀36:705-707,19948)梅谷献二:原色図鑑野外の毒虫と不快な虫.全国農村教育協会9)小野正人:スズメバチの科学(本間喜一郎編),海遊舎,199810)白井祥平:沖縄有毒害生物大事典.新星図書出版,198211)坪田一男,島?潤ほか:角膜移植ガイダンス適応から術後管理まで.南江堂,2002傷による細胞脱落で,細胞数の減少に加え細胞の大小不同,六角形細胞率の減少もこの時期に起こるとされている.術後2年では約41%(術後2カ月から2年の間は年率20%)の減少率である.この期間の主因は手術創の修復による影響が多いとされている11).また,術後炎症が遷延した場合はこの期間の減少率が大きいとされている.その後2年以上経過すると,減少率は手術直後の侵襲や創の修復による影響が低下するため,減少率は術後から約65%(年率7.3%程度)となる.さらに5年から20年で術後から73%(年率1.3%)となる.移植片内皮は手術原疾患にも左右され,ホスト内皮が少なければグラフト内皮はホスト側へ移動し,グラフト内皮は減少するとされている.水疱性角膜症がその例であり,逆が円錐角膜である.円錐角膜の術後スペキュラーマイクロスコープ像は早期に安定し経過が良いが,水疱性角膜症では減少率が大きくパラメータが安定するのも遅いといわれている11).本症例をこれらの減少率で計算し比較してみたところ,角膜内皮術前からの減少率は,術後2カ月で約62%,術後2年で約75%であった.前述した平均的な減少率より本症例の減少率のほうが高く,移植後も毒素の影響が残っていた可能性と,原疾患であるスズメバチ毒素による細胞障害が相加的に働いた可能性の2つが考えられる.患者は前房洗浄を希望せず長期的に前房内が蜂毒に曝露されたことにより広範囲かつ高率に内皮細胞が減少し,ホスト角膜へのドナー内皮の遊走が大きかったと推察される.スズメバチによる角膜蜂刺症治療は受傷後早期前房洗浄による毒液の除去が重要とされている2,3,7).今回の症例では,患者の了解が得られなかったために早期前房洗浄を行うことができなかったが,刺傷がなく,蜂毒による障害部位が前眼部に限局していたため,最終的に視力の改善を得ることができたと考える.また蜂毒を噴霧されたことを考慮すると,一種の角膜化学傷とも考えられ,今後このような症例に遭遇した場合,大量の食塩水などで洗眼する方法も一法と考える.角膜蜂刺症の治療には蜂の種類の同定と毒液の量,針の深