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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)眼感染症から角膜穿孔に至った乳児の1症例

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):407.410,2012cメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)眼感染症から角膜穿孔に至った乳児の1症例向井規子清水一弘服部昌子田尻健介勝村浩三池田恒彦大阪医科大学眼科学教室ACaseofCornealPerforationinInfantwithMethicillin-ResistantStaphylococcusaureus(MRSA)OcularInfectionNorikoMukai,KazuhiroShimizu,MasakoHattori,KensukeTajiri,KozoKatsumuraandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)結膜炎に併発した角膜潰瘍から角膜穿孔をきたした乳児の症例に対しバンコマイシン眼軟膏1%Rを投与したところ,治療に奏効した症例を経験した.症例は拡張型心筋症,脳性麻痺にて治療中の生後7カ月,女児.左眼に多量の膿性眼脂を伴う結膜充血と角膜傍中心部に輪状の潰瘍を認め,培養検査にてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出された.トスフロキサシン(TFLX)点眼,セフメノキシム(CMX)点眼,オフロキサシン(OFLX)眼軟膏にクロラムフェニコール点眼を追加して使用したが,改善がなく,角膜潰瘍部は早期に穿孔に至った.バンコマイシン眼軟膏1%R治療を開始したところ,角膜穿孔部は閉鎖し最終的には瘢痕治癒となり,結膜炎も緩徐に改善した.MRSA眼感染症に対しては,従来では薬剤感受性を示す抗菌薬点眼剤や注射用バンコマイシン製剤の自家調製点眼を用いるに留まっていたが,今回,市販が開始されたバンコマイシン眼軟膏1%Rを使用したところ,角膜感染症に対しては潰瘍穿孔部の閉鎖,治癒という良好な結果を得た.Wedescribeourexperiencewithaninfantwhorespondedtotreatmentwithvancomycinointment1%Rafterdevelopingcornealperforationsecondarytocornealulcercomplicatingmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)conjunctivitis.Thepatient,aseven-month-oldfemale,hadbeenreceivingtreatmentfordilatedcardiomyopathyandcerebralpalsy.Conjunctivalhyperemiaaccompaniedbymassivepurulenteyedischargeandacircularulcerintheparafoveanearthecorneawereseeninthelefteye,andMRSAwasdetectedonculturetests.Despiteadministrationoftosufloxacin(TFLX)eyedrops,cefmenoxime(CMX)eyedrops,ofloxacin(OFLX)eyeointmentandchloramphenicoleyedrops,theocularconditionsdidnotimprove.Perforationoccurredatthesiteofcornealulceratanearlystage.Afterinitiationoftreatmentwithvancomycinointment1%R,thecornealperforationclosedandeventuallycicatrized,andtheconjunctivitisgraduallyimproved.MRSAocularinfectionsareusuallytreatedwithonlyantibioticeyedropstowhichsuchinfectionsaresusceptible,orautologouseyedropsdevelopedfromvancomycinpreparationsforinjection.Inthepresentstudy,however,treatmentwithcommerciallyavailablevancomycinointment1%Rachievedthefavorableoutcomeofclosureandhealingofulcerationandperforationinaninfantwithcornealinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):407.410,2012〕Keywords:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),乳児角膜潰瘍,バンコマイシン眼軟膏.methicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA),infantocularbacterialinfections,vancomycinointment.はじめにを使用している患者などに発症しやすい疾患で,結膜炎,涙メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant.炎,角膜炎,角膜潰瘍,眼内炎をひき起こすとされていStaphylococcusaureus:MRSA)眼感染症は,高齢者,新生る1).そのなかでもMRSA角膜感染症は,日常臨床におい児,糖尿病やアトピー性皮膚炎患者,長期にステロイド点眼ては角膜移植後の角膜潰瘍で経験することが多いが,最近で〔別刷請求先〕向井規子:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:NorikoMukai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(119)407 は屈折矯正手術後や瘢痕性角結膜上皮疾患での発症も報告され,多様な疾患に対してさまざまな治療がなされている2.4).今回,全身疾患を伴っている乳児に発症したMRSA角膜潰瘍と結膜炎の症例を経験し,市販が開始されたバンコマイシン眼軟膏1%Rによる治療を試みたところ,特に角膜潰瘍による角膜穿孔に奏効したので報告する.I症例患者:7カ月,女児.主訴:左眼眼脂,結膜充血.現病歴:平成22年11月22日頃より左眼に眼脂が出現.かかりつけの小児科よりエコリシン点眼Rを処方され使用していたが,軽快せず,11月27日に近医眼科を受診した.左眼に多量の眼脂を伴う結膜炎に加えて角膜潰瘍も認められたため,トスフロキサシン(TFLX)点眼,セフメノキシム(CMX)点眼,オフロキサシン(OFLX)眼軟膏を処方され,大阪医科大学眼科(以下,当科)を紹介受診した.既往歴:拡張型心筋症,脳性麻痺にて治療中.図1a初診時前眼部写真眼球結膜,境界明瞭な眼瞼結膜の輪状潰瘍著明な充血図1b初診時所見のシェーマ経過:初診時,左眼に多量の膿性眼脂を伴う結膜充血と角膜傍中心部に輪状の潰瘍を認めた.角膜潰瘍部は境界明瞭で,強い浸潤所見があった(図1a,b).同日に眼脂および角膜擦過物の培養検査を施行したところMRSAが検出された.培養検査の結果から乳児MRSA眼感染症と診断し,前医からの点眼,眼軟膏に加えて,クロラムフェニコール点眼を追加したが,1週間後に角膜潰瘍部は穿孔をきたし前房の消失を認め,結膜炎も改善がみられなかった.重症型MRSA角膜感染症であり,結膜炎もこれまでの治療で改善傾向がまったくなかったことより,TFLX点眼,CMX点眼,クロラムフェニコール点眼,OFLX眼軟膏をすべて中止した.バンコマイシンの自家調製点眼を当院薬剤部に依頼しつつ,その時点ではまず,バンコマイシン眼軟膏1%Rを2回/日の使用で開始した.眼軟膏投与1週間後,角膜輪部からの新生血管の伸張は認めるものの,角膜穿孔部は閉鎖し前房も保持されていた(図2a,b).しかし,膿性眼脂の軽減はなく結膜炎の改善はほとんど認められなかった.特に角膜所見には著効しており,総合所見として改善傾向にあると判断し,そのままバンコマイシン眼軟膏1%Rのみの投与を続行した.その後,眼軟膏投与2週間後には,角膜実質の融解傾向は図2aバンコマイシン眼軟膏1%R投与1週間後図2bバンコマイシン眼軟膏1%R投与1週間後408あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(120) 図3バンコマイシン眼軟膏1%R投与5週間後図3バンコマイシン眼軟膏1%R投与5週間後消退し,前房深度は保持されていた.眼軟膏投与5週間後には,角膜周辺部からの新生血管は消退傾向となり,潰瘍部の浸潤所見は消失し上皮下から実質にかけて強い混濁を残しての瘢痕化が認められた(図3).眼軟膏の投与8.11週間後においては,角膜潰瘍部の瘢痕化が進み,改善が認められたが,眼脂の量は軽減傾向に乏しく,結膜炎所見は増悪を繰り返しており,眼軟膏の投与8週間後と13週間後の時点での眼脂培養検査でもMRSAの検出が続いていた.初診から5カ月後(バンコマイシン眼軟膏1%Rの投与21週後),角膜潰瘍部は完全に瘢痕治癒所見となり,ようやく眼脂も消失し結膜炎も改善した(図4).この時点で,臨床的にMRSA眼感染症は治癒したと判断し,バンコマイシン眼軟膏1%Rを中止とした.眼軟膏中止後から現在まで,角膜潰瘍部は実質混濁を残してはいるものの,活動性はなく,結膜炎の再燃も認めていない.しかし,結膜.擦過物の培養では眼軟膏使用中止後1カ月の時点でMRSAの検出があり,完全にMRSAの培養陰性化には至らなかった.II考按MRSA眼感染症に対する局所治療法は,検出されたMRSAに対する薬剤感受性試験の結果,すなわち,最小発育阻止濃度(MIC)を参考にしながら,薬剤を決定するのが望ましい5).本症例での眼脂培養から検出されたMRSAの薬剤感受性の結果は表1のごとくであった.しかし,薬剤感受性試験は全身投与での血中濃度を基準にしているため,高濃度の抗菌薬点眼剤による治療は,薬剤感受性試験が耐性とされても点眼投与が奏効する可能性があり,実際の臨床の場では,一般的にニューキノロン系抗菌薬の点眼を初期選択とし,MRSA結膜炎に対してはクロラムフェニコール点眼も有用であるため,初期に使用することが(121)図4バンコマイシン眼軟膏1%R投与21週間後の角膜潰瘍瘢痕治癒時所見表1本症例の眼脂培養から検出されたMRSAの薬剤感受性試験の結果薬剤名MIC値(μg/ml)薬剤名MIC値(μg/ml)PCG≧0.5RTEIC≦0.5SMPIPC≧4RLVFX≦0.25SCEZ≦4RMINO≦0.5SCMZ8RST≦10SIPM≦1RVCM1SEM≦0.25SFOM≦8SGM≧16RCLDM≦0.25SAMK4SLZD2SABK≦1SMIC:minimuminhibitoryconcentration,R:resistant,S:sensitive.[薬剤名略号]PCG:ベンジルペニシリン,MPIPC:オキサシリン,CEZ:セファゾリンナトリウム,CMZ:セフメタゾール,IPM:イミペネム,EM:エリスロマイシン,GM:ゲンタマイシン,AMK:アミカシン,ABK:アルベカシン,TEIC:テイコブラシン,LVFX:レボフロキサシン,MINO:ミノサイクリン,ST:スルファメトキサゾール・トリメトプリム,VCM:バンコマイシン,FOM:ホスホマイシン,CLDM:クリンダマイシン,LZD:リネゾリド.多い6).そして,これらの点眼でも効果がない場合はバンコマイシン(VCM)あるいはアルベカシン(ABK)の注射用薬剤から点眼液,眼軟膏を院内で自家調製して使用するというのが一般的であると思われる.なかでもVCMの自家調製眼軟膏については,MRSA眼感染症,特に角膜潰瘍に対する有用性はこれまでに報告も多くされてはいるが,薬剤安定性や使用したときの刺激性に関しては改善の余地があるとされてきた7,8).今回,この症例に対して使用したバンコマイシン眼軟膏1%Rは,これまで問題となっていた自家調製操作における煩雑性や薬剤の不安定性といった問題点を改善すべあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012409 く市販が開始されたものであり,長期間安定で感染病巣部位に有効濃度以上の薬物移行性がある製剤として期待されている9).本症例では,セフェム系点眼,ニューキノロン系抗菌薬の点眼,クロラムフェニコール点眼が結膜炎・角膜潰瘍両者に対してまったく無効であったこと,角膜所見に関しては細胞浸潤が強く認められ早期に角膜穿孔に至っている重症型であったことより,角膜穿孔を認めた時点で前述したバンコマイシン眼軟膏1%Rの投与を選択した.眼軟膏使用開始後,角膜穿孔は速やかに閉鎖しその後,角膜潰瘍部は瘢痕治癒となり,結膜炎も緩徐ではあったが改善を認めた.よって,今回の乳児重症MRSA眼感染症に対してはバンコマイシン眼軟膏1%Rの局所投与が有用であったと考えられる.今後,乳児重症MRSA眼感染症に対する治療としてバンコマイシン眼軟膏1%Rの投与が積極的に選択されると思われるが,細胞毒性や創傷治癒の遅延などを生ずる副作用の可能性や,濫用による新たな耐性菌の誘発がある危険性を十分考慮に入れながら,適正な点眼回数による治療を心がけるべきであろう.また,本症例は,拡張型心筋症や脳性麻痺などの全身疾患を抱えた乳児で,日常生活においては覚醒することなく寝たきりという状態であり,小児科治療中に以前より鼻腔および糞便からMRSAが検出されていることより,今回,MRSA眼感染症を発症した誘因にはこうした背景が強く関与していると考えられる.患児の全身状態を考慮し投薬回数や診察の機会が限定されたとういう点からやむを得ずバンコマイシン眼軟膏1%Rの1日2回使用ではあったが長期間用いたのにもかかわらず,最終的に結膜.からのMRSAの培養検査は陰性に至らなかったのも,全身随所にMRSAを保菌しているからと推測される.このような症例は今後,眼感染症を再発する可能性も高いと思われ,その際には鼻腔を含めた全身への抗菌薬の投与も治療の選択肢の一つであると考えられる.文献1)稲垣香代子,外園千恵,佐野洋一郎ほか:眼科領域におけるMRSA検出動向と臨床経過.あたらしい眼科20:11291132,20032)清水一弘:角膜移植後MRSA感染.あたらしい眼科27:777-778,20103)NomiN,MorishigeN,YamadaNetal:Twocasesofmethicillin-resistantStaphylococcusaureuskeratitisafterEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,20084)佐藤崇,有田有美子,日比野剛ほか:PTK後にMRSA角膜感染症を認めた1症例.眼臨紀3:298,20105)外園千恵:MRSA角膜感染症.あたらしい眼科19:991.997,20026)西崎暁子,外園千恵,中井義典ほか:眼感染症によるMRSAおよびMRCNSの検出頻度と薬剤感受性.あたらしい眼科23:1461-1463,20067)藤田敦子,外園千恵,稲富勉ほか:重篤なMRSA眼感染症と自家調整バンコマイシン眼軟膏.あたらしい眼科17:93-95,20008)外園千恵,大石正夫,檜垣史郎ほか:MRSA/MRSE眼感染症に対する1%バンコマイシン眼軟膏の効果.感染症学会雑誌84:794,20109)吉川純子:新薬の紹介MRSA/MRSE眼感染症治療薬バンコマイシン塩酸塩眼軟膏.日本病院薬剤師会雑誌46:546547,2010***410あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(122)

眼科看護師におけるメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の鼻腔保菌

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):403.406,2012c眼科看護師におけるメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の鼻腔保菌田中寛*1星最智*2卜部公章*1*1町田病院*2藤枝市立総合病院眼科NasalCarriageofMethicillin-ResistantCoagulase-NegativeStaphylococciinOphthalmicNursesHiroshiTanaka1),SaichiHoshi2)andKimiakiUrabe1)1)MachidaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital眼科看護師における鼻腔内メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)の保菌率と保菌リスク因子を調査した.看護師30名の培養陽性率は96.7%であり,内訳はメチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌17株,MR-CNS9株,コネバクテリウム属6株,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌2株,a溶血性レンサ球菌1株であった.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は検出されなかった.家庭内乳幼児がいない場合はMR-CNSの鼻腔保菌率が13.0%であるのに対し,家庭内乳幼児がいる場合は85.7%と有意に保菌率が上昇した(p<0.001).医療従事者において,家庭内乳幼児の存在はMR-CNSの保菌リスクとなりうる.Themethicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci(MR-CNS)nasalcarriagerateandriskfactorsinophthalmicnurseswereinvestigated.Ofthe30culturestaken,29(96.7%)hadpositivebacterialgrowth:methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci,17(48.6%);MR-CNS,9(25.7%);Corynebacteriumspecies,6(17.1%);methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus,2(5.7%);alpha-haemolyticstreptococci,1(2.9%).Methicillin-resistantStaphylococcusaureuswasnotisolated.TheMR-CNSnasalcarriagerateinnurseswhohadchildren(85.7%)wassignificantlyhigherthaninthosewhodidnot(13.0%)(p<0.001).MedicalworkerswhohavechildrenaremorelikelytobeMR-CNScarriers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):403.406,2012〕Keywords:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,鼻腔保菌,眼科,看護師,小児.methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci,nasalcarriage,ophthalmology,nurse,child.はじめに内眼手術後の細菌性眼内炎は,視力予後に影響しうる重大な合併症である.白内障術後眼内炎の起炎菌では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS),黄色ブドウ球菌,腸球菌やレンサ球菌属をはじめとしたグラム陽性球菌が85%1)を占めることが報告されている.これらグラム陽性球菌のなかでもCNSの検出率は46.3.70%1,2)と最も高い.さらに,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci:MR-CNS)はフルオロキノロン系を含む多くの抗菌薬に耐性であること3,4),症例によっては重症化するものもあること5)から,臨床上重視すべき微生物の一つである.健常結膜.におけるMR-CNSの検出率は11.8.24.8%と報告によって異なる4,6,7).このことはMR-CNSの保菌を促進させるような背景因子が存在することを示唆している.筆者らが行ったMR-CNSの結膜.保菌リスクの調査では,ステロイド内服,他科手術歴と眼科通院歴が保菌率を増加させるリスク因子であり,リスクがない場合の保菌率は7.8%であるが,リスクが増えるにつれて保菌率が33.3%にまで上昇することを報告している8).さらに,白内障術前患者のMR-CNS保菌率は結膜.より鼻腔のほうが有意に高く,〔別刷請求先〕田中寛:〒780-0935高知市旭町1丁目104番地町田病院Reprintrequests:HiroshiTanaka,M.D.,MachidaHospital,1-104Asahimachi,Kochi-shi,Kochi780-0935,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)403 MR-CNSの鼻腔保菌者では非保菌者に比べて結膜.のa溶血性レンサ球菌,1a溶血性レンサ球菌,1コリネバクテリウム属,6MSSA,2MS-CNS,17MR-CNS,9MR-CNS保菌率が有意に高くなることも報告した9).MR-CNSの感染経路と鼻腔保菌の重要性を考慮すると,医療従事者におけるMR-CNS鼻腔保菌率の上昇により,術前患者の鼻腔や結膜.への感染リスクが高まる可能性が考えられる.したがって,医療従事者のMR-CNS保菌率を把握することは,感染対策活動を評価するうえでの指標の一つになると考えられる.今回鼻腔保菌調査を行った理由は,前年に術後眼内炎を経験したことがきっかけとなっており,原因調査の一つとして職員のMRSAを含めた薬剤耐性菌の保菌率を把握する必要があると考えたからである.そのなかで,眼科医療従事者におけるMR-CNS保菌のリスク因子につい図1眼科看護師における鼻腔検出菌の構成て若干の知見が得られたので報告する.I対象および方法対象は眼科専門病院である町田病院(以下,当院)に勤務する看護師30名である.平均年齢は33.7±6.0歳,性別は数字は株数を示す.MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌.全員女性である.看護配置の内訳は外来10名,手術室7名,10085.7%13.0%p<0.001病棟13名である.3カ月以内にステロイド内服および抗菌80薬点眼・内服の既往はなかった.当院には倫理委員会が設置保菌率(%)60されていないため,感染対策委員会が主体となって職員への説明と同意を得たうえで2010年5月に培養検査を実施した.検体採取方法は,滅菌生理食塩水で湿らせた培養用滅菌スワ4020ブを用いて右鼻前庭を擦過し,輸送培地に接種した後にデルタバイオメディカル社に輸送して菌種同定を依頼した.培養はヒツジ血液/チョコレート分画培地,BTB乳糖加寒天培地0乳幼児ありn=7乳幼児なしn=23図2家庭内乳幼児の有無とMR.CNS鼻腔保菌率nは人数を示す.(bromothymolbluelactateagar)を用いて好気培養を35℃で3日間行った.ブドウ球菌属のメチシリン耐性の有無はClinicalandLaboratoryStandardsInstituteの基準(M100-S19)に従ってセフォキシチンのディスク法で判定した.培養結果をもとに,年齢と家庭内乳幼児の存在が鼻腔MR-CNS保菌率に影響するかどうかを検討した.統計学的解析はMann-WhitneyのU検定またはFisherの直接確率検定を用い,有意水準は5%とした.II結果鼻腔の培養陽性率は96.7%であり,35株の細菌が検出された.内訳はMS-CNSが17株,MR-CNSが9株,コリネバクテリウム属が6株,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌が2株,a溶血性レンサ球菌が1株であった.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)は検出されなかった(図1).鼻腔MR-CNS陽性者は9名であり,平均年齢は34.1±8.0歳であった.鼻腔MR-CNS陰性者は21名であり,平均年齢は36.9±4.9歳であった.鼻腔MR-CNS陽性群と陰性群で年齢を比較したところ有意差を認めなかった(p=0.227,404あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012Mann-WhitneyのU検定).家庭内乳幼児が存在するのは7名であった.MR-CNSの鼻腔保菌は,家庭内乳幼児が存在しない群では23名中3名(13.0%)であるのに対し,家庭内乳幼児が存在する群では7名中6名(85.7%)であり有意に保菌率が高かった(p<0.001,Fisherの直接確率検定)(図2).III考按細菌性眼内炎は白内障術後の合併症として頻度は高くないものの,重篤な合併症の一つである.わが国で行われた白内障術後眼内炎の起炎菌調査では,CNSが全体の46.3%と最も多かった1).さらに忍足らは,白内障術後眼内炎ではMR-CNSが主要な起炎菌であると報告している10).CNSによる術後眼内炎は一般的に予後が良好といわれているが,メチシリン耐性菌はメチシリン感受性菌に比べてキノロン耐性化率がはるかに高いこと3,4)などから,MR-CNSの場合は治療に難渋する可能性も考えられる.(116) 鼻腔と結膜.のMR-CNS保菌の関連については筆者らが過去に報告しており,白内障術前患者では鼻腔MR-CNS保菌率は結膜.よりも有意に高く,鼻腔MR-CNS保菌者では結膜.のMR-CNS保菌率も有意に高かった9).したがって,眼科感染予防の観点からは鼻腔のMR-CNS保菌も無視できない因子と考えられる.当院看護師全体のMR-CNS鼻腔保菌率は30.0%であった.医療従事者におけるMR-CNSの鼻腔保菌率に関する報告は少なく,わが国では仲宗根らが看護師50名中13名(26.0%)において鼻腔にMR-CNSを保菌していたと報告している11).筆者らの結果は仲宗根らの報告に近似しており,当院看護師におけるMR-CNS保菌率は特に高いわけではないと判断した.MR-CNSには注意すべき結膜.の保菌リスクが存在する.筆者らが行った調査ではステロイド内服,他科での手術歴や眼科通院歴を重要な保菌リスク因子としてあげている.すなわち,宿主の易感染性と医療関連感染が問題となる.今回の検討では対象者全員が易感染性となる全身疾患やステロイド内服などのリスク因子を保有しておらず,さらに年齢についても有意差を認めなかった.また,興味深かったことは,看護師のMR-CNS鼻腔保菌と家庭内乳幼児との関連である.家庭内乳幼児がいない看護師のMR-CNS保菌率は13.0%であったのに対し,家庭内乳幼児がいる看護師では85.7%と有意に高い保菌率であった.これまでにTengkuらは1,285人の集団保育児の鼻腔培養を行い,390人(30.3%)からMR-CNSが検出されたと報告している12).さらに,小森らによる非医療従事者を対象とした鼻腔内ブドウ球菌保菌調査では,就学前の小児のメチシリン耐性ブドウ球菌の保菌率は70.0%と高く,家族内のメチシリン耐性菌伝播の要因の一つに小児の存在をあげている13).一般的に乳幼児は成人とは異なり,鼻咽頭にインフルエンザ菌や肺炎球菌などの病原菌を高率に保菌していることが知られている14).これは宿主の免疫能が未熟であるために病原菌をうまく排除できないためと考えられる.MR-CNSに関してもインフルエンザ菌や肺炎球菌などと同様,いったん乳幼児に感染すると容易に排除できないため,結果として保菌率が高くなる可能性が考えられる.一般的にMR-CNSなどの薬剤耐性菌は医療関連感染で重要な細菌であるため,医療従事者間,医療従事者と患者間という医療施設内での感染経路に注目しがちである.しかしながら,医療従事者から家庭内乳幼児に薬剤耐性菌が伝播し,さらに集団保育児の中で菌が蔓延すると,薬剤耐性菌のリザーバーが形成されて,今度は小児から家族内成人への感染リスクが高まることにも留意すべきである.今回の調査では,看護師からMRSAは検出されなかった.被検者数を考慮してもMRSA保菌率は3.3%未満であり,5.1.11.3%程度とする過去の報告15.17)よりも低い値である(117)ため,当院の感染対策は良好に機能していると考えられた.しかしながら,看護師の配置別に検討すると,手術場にMR-CNS保菌者が集中的に配置されていた.薬剤耐性菌を保菌している人の割合,すなわち保菌圧(colonizationpressure)が高まると,非保菌者の感染リスクが高まることが報告18,19)されており,MR-CNSでも同様のことが考えられる.医療施設内での感染リスクを減らすためには看護配置に注意する必要があると考えられた.結論としては,今回の調査ではMRSAの鼻腔保菌者は認めなかった.家庭内乳幼児の存在はMR-CNS鼻腔保菌のリスクとなるため,保菌圧を下げるために看護配置を工夫するなどの配慮が必要であると考えられた.文献1)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20062)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:ResultsoftheEndophthalmitisVitrectomyStudy.Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19953)HoriY,NakazawaT,MaedaNetal:Susceptibilitycomparisonsofnormalpreoperativeconjunctivalbacteriatofluoroquinolones.JCataractRefractSurg35:475-479,20094)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512.517,20105)OrmerodLD,BeckerLE,CruiseRJetal:Endophthalmitiscausedbythecoagulase-negativestaphylococci.2.Factorsinfluencingpresentationaftercataractsurgery.Ophthalmology100:724-729,19936)大..秀行,福田昌彦,大鳥利文ほか:高齢者1,000眼の結膜.内常在菌.あたらしい眼科15:105-108,19987)森永将弘,須藤史子,屋宜友子ほか:白内障手術術前患者の結膜.細菌叢と薬剤感受性の検討.眼科手術22:385388,20098)星最智,卜部公章:白内障術前患者における結膜.常在細菌の保菌リスク因子.あたらしい眼科28:1313-1319,20119)星最智,大塚斎史,山本恭三ほか:結膜.と鼻前庭の常在細菌の比較.あたらしい眼科28:1613-1617,201110)忍足和浩,平形明人,岡田アナベルあやめほか:白内障術後感染性眼内炎の硝子体手術成績.日眼会誌107:590596,200311)仲宗根洋子,名渡山智子:看護師の手掌および鼻腔における薬剤耐性菌の検出頻度.沖縄県立看護大学紀要9:39-43,200812)JamaluddinTZ,Kuwahara-AraiK,HisataKetal:Extremegeneticdiversityofmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidisdisseminatedamonghealthyJapanesechildren.JClinMicrobio46:3778-3783,200813)小森由美子:市中におけるメチシリン耐性ブドウ球菌の鼻あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012405 腔内保菌者に関する調査.環境汚染誌20:164-170,200514)KonnoM,BabaS,MikawaHetal:Studyofupperrespiratorytractbacterialflora:firstreport.Variationsinupperrespiratorytractbacterialflorainpatientswithacuteupperrespiratorytractinfectionandhealthysubjectsandvariationsbysubjectage.JInfectChemother12:83-96,200615)酒井道子,阿波順子,那須郁子ほか:一施設全職員を対象としたMRSA検出部位と職種間の相違についてDNA解析を用いた検討.ICUとCCU29:905-909,200516)垣花シゲ,植村恵美子,岩永正明:病棟看護婦の鼻腔内細菌叢について.環境感染13:234-237,199817)北澤耕司,外園千恵,稗田牧ほか:眼科医療従事者におけるMRSA保菌の検討.あたらしい眼科28:689-692,201118)MerrerJ,SantoliF,ApperedeVecchiCetal:“Colonizationpressure”andriskofacquisitionofmethicillin-resistantStaphylococcusaureusinamedicalintensivecareunit.InfectControlHospEpidemiol21:718-723,200019)BontenMJ,SlaughterS,AmbergenAWetal:Theroleof“colonizationpressure”inthespreadofvancomycinresistantenterococci:animportantinfectioncontrolvariable.ArchInternMed158:1127-1132,1998***406あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(118)

わが国のアカントアメーバ角膜炎関連分離株の分子疫学多施設調査(中間報告)

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):397.402,2012cわが国のアカントアメーバ角膜炎関連分離株の分子疫学多施設調査(中間報告)井上幸次*1大橋裕一*2江口洋*3杉原紀子*4近間泰一郎*5外園千恵*6下村嘉一*7八木田健司*8野崎智義*8*1鳥取大学医学部視覚病態学*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野*3徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野*4東京女子医科大学東医療センター眼科*5広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学*6京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*7近畿大学医学部眼科学教室*8国立感染症研究所寄生動物部MulticenterMolecularEpidemiologicalStudyofClinicalIsolatesRelatedwithAcanthamoebaKeratitis(InterimReport)YoshitsuguInoue1),YuichiOhashi2),HiroshiEguchi3),NorikoTakaoka-Sugihara4),Tai-ichiroChikama5),ChieSotozono6),YoshikazuShimomura7),KenjiYagita8)andTomoyoshiNozaki8)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,5)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences,6)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,7)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine,8)DepartmentofParasitology,NationalInstituteofInfectiousDiseases目的:角膜炎に関連したアカントアメーバのDNA分子を多施設疫学研究として解析する.方法:全国6施設で,アカントアメーバ角膜炎に関連して分離されたアメーバ株をクローニング後,18SribosomalRNA遺伝子のシークエンス解析を行った.そして,BLAST(basiclocalalignmentsearchtool)検索による既存アメーバとの相同性を調べ,Tタイピングによる分類を行った.本研究は現在も継続中であるが,最初の2年間の結果を中間報告としてまとめた.結果:43株〔角膜擦過物27株,保存液15株,MPS(multi-purposesolution)ボトル内液1株〕中42株がT4に分類され,角膜由来の1株のみT11に分類された.角膜分離株のシークエンスタイプは15種類に分かれたが,すべて既知のものと一致した.保存液分離株のタイプは10種類に分かれ,角膜分離株と比較できた9株中6株は角膜分離株と一致した.結論:最近のアカントアメーバ角膜炎のわが国での増加は,新たなシークエンスタイプのアメーバの出現によるものではなく,既存の株による感染の増加である.Objective:ToanalyzeAcanthamoebaDNAmolecule’srelationshiptokeratitis,inamulticenterepidemiologicalstudy.Method:Acanthamoebakeratitis-relatedisolatesfrom6instituteswerecloned,andsequencesofthe18SribosomalRNAgenewereanalyzed.HomologybetweenthemandknownsequenceswasthenexaminedusingBLAST(basiclocalalignmentsearchtool),andtheywereclassifiedbyTtyping.Thisresearchisstillongoing;theresultsofthefirsttwoyearshavebeenanalyzedasaninterimreport.Results:Of43isolates,including27isolatesfromthecornea,15fromlenscasesand1fromanMPS(multi-purposesolution)bottle,42isolateswereclassifiedasT4;only1wasclassifiedasT11.Sequenceswereclassifiedinto15types;nonewereuniquegenotypes.Sequencesofisolatesfromlenscaseswereclassifiedinto10types;ofthe9isolateswithwhichcornealisolateshadalsobeenobtained,thesequencesof6wereidenticalwiththesequencesofthecornealisolates.Conclusion:TheseresultsindicatethattherecentincreaseofAcanthamoebakeratitisincidenceinJapanisnotduetotheemergenceofnovelamoebicgenotypes,buttoincreasedincidenceofinfectionbyknowngenotypes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):397.402,2012〕〔別刷請求先〕井上幸次:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:YoshitsuguInoue,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago683-8504,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)397 Keywords:アカントアメーバ角膜炎,分子疫学,Tタイピング,18SribosomalRNA,多施設共同研究.Acanthamoebakeratitis,molecularepidemiology,Ttyping,18SribosomalRNA,multicenterstudy.はじめにアカントアメーバは土壌・水中をはじめ自然界に広く生息する原虫であり,水道水からも検出される.アカントアメーバにより角膜炎を発症することは1974年にはじめて報告された1)が,本来は外傷に伴う非常にまれな感染症であった.しかし,その後コンタクトレンズ(CL)装用に伴う感染として認められるようになり,わが国では1988年に石橋らがはじめて報告した2).当初はそれでもまれな疾患であったが,CL保存に水道水を用いることのできたソフィーナRでの感染が多いことが注目されるようになり,その後しだいに報告が増加し,特に2006年頃からは急速に増えて,従来報告のなかった北海道や東北でも症例が報告されるようになった.2007年4月.2009年3月にかけて行われたコンタクトレンズ関連角膜感染症の全国調査3)でも,入院を必要としたCL関連角膜感染症の2大起炎菌として緑膿菌とともに浮かび上がった.その多くが,multi-purposesolution(MPS)をケア用品として使用している頻回交換型のCLユーザーであり,MPSのアカントアメーバに対する効果が低いことが検証されるとともに,CLユーザーの最大の合併症として,その診断・治療や予防対策の重要性が高まっている.このような状況のなかで,わが国のアカントアメーバ角膜炎(AK)の原因となっているアメーバの感染源・感染経路,アメーバ感染の地域差や年次動向,アメーバ株と臨床所見・治療への反応性・予後との関係を疫学的に調べる必要性が生じてきた.アカントアメーバを疫学的に分類・比較するにあたって,形態学的に分類することはもちろん重要だが,培養条件によって,形態を変化させるアカントアメーバの場合,限界があり,現在は,アカントアメーバのDNAを利用して分子遺伝学的に分類,同定することが主流となっている.アカントアメーバの遺伝子型別の方法としてはTタイピングが用いられている.これは1996年Gastらにより提唱され,18SribosomalRNA(18SrRNA)をコードしているDNAを用いて行われる4).この方法では2つのシークエンスを全長比較して相同性が5%以上違う場合,別々のTタイプと分類される.現在15のタイプがあり,1つのTタイプには多種類のシークエンスが含まれる.これまでT1-T6,T10-T12のアメーバが角膜炎あるいはアメーバ性脳炎より検出されている.タイピングは特定の集団と疾患との関連を調べるうえできわめて有用である.今回,筆者らは先に述べたコンタクトレンズ関連角膜感染症調査研究班の施設を中心に多施設からのアカントアメーバ株を国立感染症研究所寄生動物部に集積し,Tタイピングに398あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012よる解析を行った.この研究は厚生労働省の新興・再興感染症研究事業の一環として行われており,現在も参加施設を増やして継続中であるが,本報告では最初の2年の結果を中間報告としてまとめる.I対象および方法1.対象対象は,全国の6施設(鳥取大学,愛媛大学,徳島大学,東京女子医科大学東医療センター,山口大学,京都府立医科大学)の眼科に2009年4月.2010年12月の間に受診したAK患者の角膜擦過物,CLケース(保存液),MPSボトル,使用環境(洗い場)から分離されたアカントアメーバ株および,これらの施設で過去に分離され,保存されていた株を対象とした.本研究については,各施設の倫理委員会にかけて了承を得,過去に分離された株も含めて,本研究に使用することを患者本人あるいは代諾者に文書で承諾を得た.角膜擦過物から27株,CLケース(保存液)から15株,MPSボトルから1株,計43株が対象である.2.アカントアメーバの培養と無菌クローン化アカントアメーバは大腸菌を塗布した1.5%non-nutrientagar(NN培地)上で25℃にて分離,培養した.これをキャピラリーピペットによる釣り上げ法(micro-manipulation法)にて単離し,さらに大腸菌寒天培地上でクローン培養した5).無菌化の手順としては,クローン化したアカントアメーバのシストを1mlの0.1N塩酸溶液中で,37℃にて一晩処理を行った後,500×g,5分間遠心分離を行ってシストを沈殿させた.その後,塩酸を除去して滅菌蒸留水に浮遊させ,同じ条件で再度遠心を行った.滅菌蒸留水を除去し,得られたシストを100単位/mLのペニシリン(明治製菓)と,100μg/mLのストレプトマイシン(明治製菓)を添加し,PYGC培地(10g/LProteosepeptone,5g/LNaCl,10g/LYeastextract,10g/LGlucose,0.95g/LL-Cysteine,10mMNa2HPO4,5mMKH2PO4)で培養した5).3.DNA解析遺伝子抽出キットQIAampRDNAMiniKit〔(株)キアゲン〕を使用して,添付のプロトコールに従ってDNAを抽出した.抽出したアメーバDNAを,GeneAmpRPCR(polymerasechainreaction)system2400により,アメーバ特異プライマーであるJDP1-JDP2を用い,18SrRNA遺伝子の高可変領域の一つであるDF3(diagnosticfragment3)を含む約(110) 400塩基対を既報の温度条件で増幅した6).PCRにて増幅された産物の塩基配列を蛍光シークエンサー(ABIPRISMR310GeneticAnalyzer)を用いて,シークエンス用プライマー892Cにより解析した6).4.ホモロジー検索このようにして得られた塩基配列をBLAST(basiclocalalignmentsearchtool)を用いてGenBank,EMBL(EuropeanMolecularBiologyLaboratory),DDBJ(DNADataBankofJapan)に登録された株と照合した.データベースに登録された株で,対象株と相同性の最も高いものを検索し,データベース登録名,対象株と登録株との相同性,登録株の分離元を調べた.5.系統樹作製対象株とデータベースに登録されているTタイピング(T1.T15)の代表的な株を用いて,解析用プログラムとしてClustalWを用いて系統樹を作製した.II結果1.角膜分離27株ホモロジー検索の結果角膜分離27株のTタイピングの結果では1株のみがT11であったが,他はT4であった(96.3%).T4に属する26株のうち22株は角膜炎より分離されている既知の配列と一致し,それ以外の4株は角膜炎分離株では認められないもののやはり既知の配列と一致した(表1).ホモロジー検索の結果をもとに,系統樹を描く(図1)とT4の中で特定の遺伝的集団を形成せず,遺伝的には多様性を認め15種類に分かれた.そのうち,複数株,複数地域に検出されるシークエンスのタイプとして,ATCC30461EyestrainやATCC50497Rowdonstrainなどと相同性を認めるものが存在した(図2).2.CLケース(保存液)由来株・MPSボトル由来株と角膜分離株の関係(表2)保存液分離株15株のシークエンスはすべてT4であったが,10種類のシークエンスタイプに分かれた.このタイプでは,患者の角膜分離株とともに分離された9組中6組は一致したが,3組では一致しなかった.MPSボトル由来の1株についてはその患者の角膜分離株およびCLケース(保存液)由来株の3者のシークエンスタイプが一致した.表1アカントアメーバ角膜炎患者の角膜擦過物由来株の18SrRNA遺伝子タイピング由来試料IDTtypeBLASTで相同性の高かった(99-100%)株の配列左記配列の分離試料角膜1-1-1T4ATCC50497Acanthamoebasp.RowdonstrainKeratatis角膜1-2-1T4ATCC50497Acanthamoebasp.RowdonstrainKeratatis角膜1-3-1T4Acanthamoebasp.S2.JDPSoil角膜1-5-1T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis角膜1-6-1T4ATCC50497Acanthamoebasp.RowdonstrainKeratatis角膜1-7-1T4Acanthamoebasp.KA/E10Keratatis角膜1-8-1T4Acanthamoebasp.KA/E6Keratatis角膜1-9-1T4Acanthamoebasp.VazalduaKeratatis角膜3-1-1T4Acanthamoebasp.CDC#V390Brain,Skin角膜3-2-1T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis角膜3-3-1T4ATCC50370A.castellaniiMastrainKeratatis角膜3-4-1T4ATCC50374A.castellaniiCastellaniYeastculture角膜3-7-1T4ATCC50370A.castellaniiMastrainKeratatis角膜4-1-1T4Acanthamoebasp.CDC#V390Brain,Skin角膜4-3-1T4ATCC50497Acanthamoebasp.RowdonstrainKeratatis角膜4-4-1T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis角膜4-5-1T4A.castellaniiCDC#V042Keratatis角膜6-2-1T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis角膜6-5-1T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis角膜7-1-1T11A.hatchetti4REKeratatis角膜7-2-1T4Acanthamoebasp.KA/E24Keratatis角膜7-3-1T4Acanthamoebasp.KA/E6Keratatis角膜7-4-1T4Acanthamoebasp.UIC1060voucherKeratatis角膜7-5-1T4Acanthamoebasp.CDC#V014Keratatis角膜9-1-1T4Acanthamoebasp.CDC#V062Keratatis角膜9-2-1T4AcanthamoebacastellaniiCDC#V042Keratatis角膜9-3-1T4Acanthamoebasp.KA/E6Keratatis(111)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012399 111121161431131321151621651451921441311331T4U07414351191171911181731931751721741341T3U07412711T11AF019068T1U07400T13AF132134T15AF262365T5U94741T2U07411T6AF019063T10AF019067T12AF019070T14AF333609T7AF019064T8AF019065T9AF019066BalamuthiamandrillarisV039図1角膜分離27株の系統関係26株はT4に含まれ,1株のみT11であった.111121161431131321151621651451921441311331T4U07414351191171911181731931751721741341T3U07412711T11AF019068T1U07400T13AF132134T15AF262365T5U94741T2U07411T6AF019063T10AF019067T12AF019070T14AF333609T7AF019064T8AF019065T9AF019066BalamuthiamandrillarisV039図1角膜分離27株の系統関係26株はT4に含まれ,1株のみT11であった.T4T110.1表2アカントアメーバ角膜炎患者のレンズケース(保存液)・MPSボトル・使用環境(洗い場)由来株の18SrRNA遺伝子タイピングと角膜由来株との一致性BLASTで相同性の左記配列の角膜分離株と試料試料IDTtype高かった(99-100%)株の配列分離試料の一致性保存液1-3-2T4AcanthamoebaspS2.JDPSoil一致保存液1-4-2T4Acanthamoebasp.S15Keratatis不明保存液1-5-2T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis一致保存液1-6-2T4ATCC50497Acanthamoebasp.RowdonstrainKeratatis一致保存液1-7-2T4Acanthamoebasp.KA/E10Keratatis一致保存液3-1-2T4Acanthamoebasp.KA/E6Keratatis不一致保存液3-2-2T4Acanthamoebasp.CDC#V390Keratatis不一致保存液3-5-2T4Acanthamoebasp.KA/E6Keratatis一致保存液4-2-2T4Acanthamoebasp.CDC#V390Brain,Skin不明保存液6-1-3T4Acanthamoebasp.CDC#V062Keratatis?不明保存液6-2-2T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis一致*保存液6-5-2T4Acanthamoebasp.CDC#V014Keratatis不一致保存液6-10-2T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis不明保存液6-11-2T4Acanthamoebasp.KA/E10Keratatis不明保存液9-4-1T4Acanthamoebasp.CDC#V042Keratatis不明MPS6-2-3T4ATCC30461A.polyphagaEyestrainKeratatis一致**角膜とレンズケース(保存液)とケア用品の3者で一致.400あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(112) ATCC30461EyestrainOthers19%34%ATCC50497RowdonstrainATCC5037015%Mastrain7%KA/E611%CDC#V3907%図2シークエンスタイプの検出頻度多くのタイプが認められたが,Eyestrain次いでRowdonstrainが多かった.III考按AKの原因となったアメーバのTタイピングについてはすでに各国から報告がなされており,わが国でも高岡らの報告がある5)が,今回のように多施設で広く日本の株を集めて行われたスタディははじめてである.今回の報告では1株を除いてすべてをT4が占めており,これは過去の多くの報告と一致している.たとえば,Ledeeら7)は米国フロリダ州のAK患者のサンプル37株のうち36株がT4,1株のみT5であったと報告している.一方,Yeraら8)はフランスのアカントアメーバ分離株37株のうち,AK患者由来の10株はすべてT4であったとしている.ただし,それ以外のCL使用者のCL,保存液でも79%がT4であるとしており,臨床的に重要なT4はもともと環境中に最も多く認められるグループである(半数以上)ことには留意が必要であり9),より多くの環境に適応しうる能力をもっていると考えられ,そのため保存液中で生存しやすく,さらにはアカントアメーバにとって決して住みやすいとは言いがたい角膜でも生存しうるのではないかと推察される.今回のスタディでは1株のみT11が認められたが,T11が角膜炎を発症するという報告は過去にもすでにあり10),本研究のこの症例(試料ID7-1-1)が特に他の症例と比較して臨床所見に特徴があるとか,難治であるとかいうことはなかった(データ示さず).また,今回のスタディには1例,非CL装用者の症例が含まれており(試料ID1-2-1),感染経路は不明で1カ月ほどの間に急速に進行して穿孔し,治療的角膜移植を要したが,この症例も分類上はT4で,しかも今回2番目に多いサブタイプであるRowdonstrainに含まれていた(データ示さず).インドではCLと関係ないAK患者が多いが,分離株はやはりT4であることが報告されており11),CLとT4との間に特別の結びつきがあるわけではないようである.T4の中のサブタイプで,Eyestrainの患者5名は愛媛・(113)CDC#V0427%徳島・岡山・静岡と瀬戸内および太平洋側に分布しており,Rowdonstrainの4名は鳥取・京都の患者で,日本海側であった(データ示さず).これが地域差を示すものか,偶然のものかは個々のグループの株数が少ないため,結論できないが,興味深い傾向であり,株数を増やして解析を続け,明らかにしていきたい.感染症の分子サーベイランスの効能として,高病原性株や薬剤抵抗株の発生監視やアウトブレーク時の迅速な要因解明と感染拡大の阻止があり,AKでもこれが一つの重要な目的となる.たとえば,米国シカゴ周辺で上水道の消毒の方法が変更になったことに伴って生じたと推測されるAKのアウトブレーク(2003.2005年)の株を解析した報告があり12),87%がT4,13%がT3であったが,アカントアメーバ角膜炎からの分離株として報告されたことのない新たなシークエンスタイプの株は見つからなかったとしている.また,Zhangら13)は中国北部のAK患者からのアカントアメーバは26株中25株はT4,1株はT3だったが,18株(69.2%)はユニーク・シークエンスだったとしている.今回,わが国のAKの増加を受けて,解析を行ったが,新たなシークエンスタイプは見つからず,特定のシークエンスタイプへの集積も認められなかった.本報告で,角膜とCLケース(保存液)の株を比較できた9例のうち,6例はシークエンスタイプが一致しており,これは十分予想されることであったが,3例においては不一致であった.これをどう考えるかであるが,一つはCLケース(保存液)に複数の株が汚染しており,そのうちの一つが角膜に感染を起こし,別の一つが保存液から分離された可能性である.もう一つの可能性として,不一致例では,角膜感染株はCL保存液でなく,CLを使用している洗い場などの環境由来と考えることもできる.Bootonら14)は香港のAK患者の角膜擦過物と家の水道水から分離された株は一致しなかったとしている.今回の筆者らの検討では使用環境(洗い場)由来株が1株しかなく,かつその症例では角膜から分離ができていないため,本報告からは除外した.今後,環境由来株も増やして,角膜由来株との一致性について検討していきたい.本研究では,アカントアメーバ分子疫学を行うにあたって,アメーバ株のクローン化と無菌化を行ったが,このように,分離株を保存し,研究資源として活用していくうえでも分子疫学は有用である.今回の分子疫学により,国内AKの起因アメーバのほとんどはT4タイプであったが,特定のシークエンスのタイプには収束せず,近年のわが国のAK増加は,新たな高病原性タイプあるいは株の出現ではなく,以前から環境中に生息していたT4中の多くのシークエンスタイプのアメーバの感染リスクが増加したものであると考えられた.いくつかのシあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012401 ークエンスタイプの異なるアメーバが角膜より高頻度で検出されたが,アメーバ自体の生物学的特性の関与か,地域性(環境,温度など)の違いなのかは不明である.アカントアメーバについては病原因子の解析が十分ではなく,細胞表面への付着に関与するマンノース結合性蛋白や蛋白分解酵素の関与がいわれている15,16)ものの,Tタイピングがそのような性質や病原性と関連するかどうかもまだよくわかっていない.今後は,参加施設数を増やしてアメーバ株をさらに集積し,使用環境からの分離株も増やして分子疫学を継続・拡大し,感染経路,地域差や温暖化による影響などについて検討するとともに,アメーバ株に対する薬剤感受性試験を行い,臨床所見とも比較することによって,臨床病型や治療経過との関連についても検討を加えていく予定である.本研究は厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業「顧みられない病気に関する研究」「顧みられない寄生虫病の効果的監視法の確立と感染機構の解明に関する研究」の分担研究として行われた.以下のコンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査委員会委員の先生方に多くの有益なご助言をいただきました.ここに深謝致します.石橋康久(東鷲宮病院眼科),植田喜一(ウエダ眼科),稲葉昌丸(稲葉眼科),宇野敏彦(愛媛大学),田川義継(北海道大学),福田昌彦(近畿大学).(敬称略)文献1)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfectionoftheeye.Lancet2:1537-1540,19742)石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮子ほか:Acanthamoebakeratitisの1例─臨床像,病原体検査法および治療についての検討─.日眼会誌92:963-972,19883)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20114)GastRJ,LedeeDR,FuerstPAetal:SubgenussystematicsofAcanthamoeba:fournuclear18SrDNAsequencetypes.JEukaryotMicrobiol43:498-504,19965)高岡紀子,八木田健司,山上聡ほか:当院で得られたアカントアメーバの遺伝学的分類.眼科52:1811-1817,20106)SchroederJM,BootonGC,HayJetal:Useofsubgenic18SribosomalDNAPCRandsequencingforgenusandgenotypeidentificationofAcanthamoebaefromhumanswithkeratitisandfromsewagesludge.JClinMicrobiol39:1903-1911,20017)LedeeDR,IovienoA,MillerNetal:MolecularIdentificationofT4andT5genotypesinisolatesfromAcanthamoebakeratitispatients.JClinMicrobiol47:1458-1462,20098)YeraH,ZamfirO,BourcierTetal:ThegenotypiccharacterisationofAcanthamoebaisolatesfromhumanocularsamples.BrJOphthalmol92:1139-1141,20089)BootonGC,VisvesvaraGS,ByersTJetal:IdentificationanddistributionofAcanthamoebaspeciesgenotypesassociatedwithnonkeratitisinfections.JClinMicrobiol43:1689-1693,200510)Lorenzo-MoralesJ,Morcillo-LaizR,Lopez-VelezRetal:AcanthamoebakeratitisduetogenotypeT11inarigidgaspermeablecontactlenswearerinSpain.ContactLensAnteriorEye34:83-86,201111)SharmaS,PasrichaG,DasDetal:Acanthamoebakeratitisinnon-contactlenswearersinIndia.DNAtyping-basedvalidationandasimpledetectionassay.ArchOphthalmol122:1430-1434,200412)BootonGC,JoslinCE,ShoffMetal:GenotypicidentificationofAcanthamoebasp.isolatesassociatedwithanoutbreakofAcanthamoebakeratitis.Cornea28:673-676,200913)ZhangY,SunX,WangZetal:Identificationof18SribosomalDNAgenotypeofAcanthamoebafrompatientswithkeratititsinNorthChina.InvestOphthalmolVisSci45:1904-1907,200414)BootonGC,KellyDJ,ChuY-Wetal:18SribosomalDNAtypingandtrackingofAcanthamoebaspeciesisolatesfromcornealscrapespecimens,contactlenses,lenscases,andhomewatersuppliesofAcanthamoebakeratitispatientsinHongKong.JClinMicrobiol40:1621-1625,200215)CaoZ,JeffersonDM,PanjwaniN:Roleofcarbohydrate-mediatedadherenceincytopathogenicmechanismsofAcanthamoeba.JBiolChem273:15838-15845,199816)HurtM,NiederkornJ,Alizadeb,H:EffectsofmannoseonAcanthamoebacastellaniiproliferationandcytolyticabilitytocornealepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci44:3424-3431,2003***402あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(114)

フサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisome® の使用経験

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):391.396,2012cフサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisomeRの使用経験佐々木香る*1樋口かおり*1加来裕康*2出田隆一*1田中住美*1*1出田眼科病院*2慶徳加来病院EffectofAmBisomeRagainstKeratomycosisCausedbyFusariumKaoruAraki-Sasaki1),KaoriHiguchi1),HiroyasuKaku2),RyuichiIdeta1)andSumiyoshiTanaka1)1)IdetaEyeHospital,2)Keitoku-KakuHospital緒言:リポソーマル化により副作用を軽減したアムホテリシンB(リポソーマル化AMPB;L-AmB)の全身・局所投与による治療を経験したので報告する.症例:74歳,女性.木の枝による左眼外傷後2日目受診.角膜後面プラーク,前房蓄膿を伴う角膜炎を認め,フサリウムが分離された.ボリコナゾール(VRCZ)の点滴,点眼,ミコナゾール(MCZ)点眼,ピマリシン軟膏にて加療開始したが,肝障害を生じ,L-AmBの点滴および点眼に変更した.投与後低カリウム血症が生じたが,肝機能は悪化しなかった.表層角膜所見は改善したが,前房蓄膿,角膜後面プラークが高度となったため,治療開始後8週間目に治療的角膜移植を施行した.結果:採取角膜の真菌培養は陰性であり,組織では断片化菌糸が観察された.感受性試験の最小発育阻止濃度(MIC)値はAMPB<VRCZ=MCZ<ミカファンギン(MCFG)であった.結論:各種検査の結果からL-AmBはフサリウムに有効であると推測された.しかし,その有効性ゆえに,破壊菌体による炎症を惹起し,角膜深層所見の悪化をきたす可能性も示唆された.また低カリウム血症への配慮も必須である.Purpose:TodescribethetreatmentofFusarium-causedkeratomycosiswithliposomalamphotericinB(AMPB;L-AmB),whichhaslesssideeffectthanamphotericinB.Case:Thepatient,a74-year-oldfemale,sufferedaninjurytohereyefromatwig.Twodaysaftertheinsult,retrocornealplaqueandhypopyonwereobservedbyslit-lampexamination.Fusariumwasisolatedfromhercornea.Voriconazole(VRCZ;eyedropsandintravenousinjection),miconazole(MCZ;eyedrops)andnatamycin(eyeointment)wereappliedasinitialtreatment.Liverdysfunction,however,soonnecessitatedachangeintreatment,fromvoriconazoletoL-AmB.Thischangecausedhypokalemia,butnotliverdysfunction.Althoughthesuperficialcornealpathogenicregionimproved,thedeepcornealregion,includingtheretrocornealplaqueandhypopyon,progressed.Ultimately,therapeuticpenetratingkeratoplasty(PKP)wasneeded,atweek8oftreatment.Result:Cultureoftheexcisedcorneawasnegative,andfractionalfilamentousfungiwereobservedbyhistologicalexamination.Theminimuminhibitoryconcentrations(MICs)ofthedrugswereinthisorder:AMPB<VRCZ=MCZ<micafungin(MCFG).Conclusion:TheresultsofseveralexaminationsindicatethatL-AmBiseffectiveforFusarium.However,thedrugmightinduceexcessiveinflammation,givenitsstrongmycocidaleffect,whichcouldbeobservedasdeepcornealinflammation.Hypokalemiamustalsobedealtwith.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):391.396,2012〕Keywords:フサリウム,角膜真菌症,アムホテリシンB,リポソーマル化アンホテリシンB,糸状菌.Fusarium,keratomycosis,amphotericinB,liposomalamphotericinB,filamentousfungi.〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-SasakiM.D.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincho,Kumamoto,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)391 はじめに角膜真菌症には,大きく分けて市中型といわれる酵母によるものと,農村型といわれる糸状菌によるものがある1).このうち糸状菌の起因菌の代表としてはアスペルギルスとフサリウムがあるが,いずれも予後不良であることが知られている.特にフサリウムは種々の抗真菌薬に抵抗性であるが,眼科臨床分離株を用いた検討ではアムホテリシンB(AMPB)が最小発育阻止濃度(MIC)が最も低値で効果が期待できる2).しかし,AMPBは全身投与した際,腎毒性が強く,添加されている胆汁酸による細胞毒性も強いため,眼科医には扱いにくい抗真菌薬である.したがって角膜炎の治療に対して前房内局所投与を推奨する報告もある3.6).近年この副作用を軽減するために,リポソームの脂質二重膜にAMPB分子をはめ込んだリポソーマル化AMPB(アンビゾームR,以下L-AmB)が開発された.この薬剤は真菌細胞膜であるエルゴステロールに特異性が高く,真菌と接触して初めてAMPB分子が取り込まれるため,副作用が少ないとされている7).フサリウムによる心内膜炎に対してL-AmBとボリコナゾール(VRCZ)の併用療法が有効であったという臨床報告もなされている8).角膜炎に対しては臨床使用の報告はなされているものの,症例の詳細な経過およびL-AmB投与に伴う全身状態の変化などについての報告はまだない.今回,他剤による治療中に肝障害をきたしたフサリウムによる角膜真菌症に対し,L-AmBの全身・局所投与を行ったので,詳細な経過とともに,その効果を報告する.I症例呈示患者:74歳,女性.既往歴:糖尿病を患っており,血糖降下剤にてコントロールされていた.経過:木の枝による外傷後2日目,充血および眼痛にて出田眼科を初診した.左眼角膜中央部に膿瘍を認め,角膜後面プラークが観察された(図1a).高度の毛様充血と前房蓄膿を伴っていた.視力は検査は疼痛のため施行できず,眼圧は測定不可能であった.なお,右眼には白内障を認めるのみであった.角膜擦過物のスメアを施行したところ,グラム染色およびファンギフローラY染色にて糸状菌を検出したため,同日,VRCZ400mg/日の点滴,1%VRCZ点眼1時間毎,1%ミコナゾール(MCZ)点眼1時間毎,ピマリシン(PMR)軟膏眠前塗入にて加療開始した.治療開始約1週間後,角膜膿瘍は減少し,毛様充血,前房蓄膿,角膜浸潤も改善した(図1b).そこで,局所投与は続行のうえ,VRCZの内服をイトラコナゾール(ITCZ)内服(100mg/日)に変更した.すると,治療開始2週間目に急激に前房蓄膿および膿瘍が悪化した.さらに初診時に採取した角膜擦過物の培養にてフサリウムが同定された.フサリウムはITCZに耐性であることが多いため,治療開始3週間目には治療を,1%VRCZ点眼,0.1%L-AmB点眼(各々1時間毎),PMR眼軟膏眠前塗入,VRCZ200mg内服に変更した.治療開始後4週目には角膜表層側の病変は混濁化し,上皮欠損も修復する一方で,角膜後面に花弁状の後面沈着物が出現し,病巣の内皮側への拡大が疑われた(図1c,d).この時点で原因不明の肝障害が出現し,グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)526(IU/l),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)417(IU/l)となった.内科で精査したところ,夜間転倒による肝裂傷および薬剤性の肝障害の併発と診断された.この肝障害によりVRCZ内服を中止した.病巣は依然として角膜内皮側で拡大するため,治療開始6週目よりVRCZ点眼,L-AmB点眼,PMR眼軟膏に加えて,L-AmBの点滴を開始した.点滴は150mgを添付文書に従い,フィルターを通してブドウ糖500mlに溶解して,2時間かけて点滴した.L-AmB点滴開始後,臨床所見は横ばいであった(図1e)が,約1週間で低カリウム血症を生じ,カリウム製剤投与目的で近医内科に転院となった.内科入院中も上記局所治療および点滴治療を続行し,眼科は往診とした.治療開始8週目には角膜後面プラークはやや増大し,明らかに前房蓄膿も高度になった(図1f).この時点で内科的加療は断念し,保存角膜を用いた治療的角膜移植を施行した(図1g).図1症例の治療経過a:初診時所見.角膜後面プラーク,軽度前房蓄膿を伴う角膜潰瘍を認めた.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.角膜後面プラークおよび潰瘍は軽減,縮小し,前房蓄膿も消失した.VRCZ点滴を中止し,ITCZ内服へ変更した.c:治療開始後4週間目.フサリウムと同定されたため,L-AmB点眼開始1週間後には,上皮欠損は治癒し,角膜浅層は浸潤が軽減し,混濁化した.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.スリット幅を広く倍率を拡大し,内皮面に焦点をあてると,反輝光にて角膜後面プラークが放射状に伸展したことが確認できた.e:治療開始6週間目.L-AmB点眼に加えて,内科転科にて低カリウム血症をコントロールしながら,L-AmB点滴を開始した.角膜上皮側の病変がほぼ瘢痕化しており,病変の主座は内皮側となった.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.内皮側の濃プラークはL-AmB点滴開始後,プラークが厚みを増した浸潤巣となり,前房蓄膿の増大を認め,充血も高度になった.この時点で治療的角膜移植を選択した.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.VRCZの点滴,点眼にて再燃なく,経過した.392あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(104) abcdefabcdef図1症例の治療経過a:初診時所見.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.c:治療開始後4週間目.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.e:治療開始6週間目.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.(図説明は前頁を参照)g(105)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012393 (mEq/l)高度血清K<2.0中程度2.0<血清K<3.0軽度3.0<血清K<3.5K点滴投与(30~100mEq/日)K内服投与(30~100mEq/日)図2L.AmBによる低カリウム血症に対する対処方法一般に血清カリウム値が3.5mEq/l未満で対処を開始する.カリウム値の下降程度別に,カリウム製剤の内服あるいは点滴を選択する.:角膜表層の所見臨床所見:角膜深層の所見悪化改善1週2週3週4週5週6週7週8週L-AMPB点眼L-AMPB点滴VRCZ点滴/内服低カリウム血症肝機能悪化図3L.AmB点滴,点眼およびVRCZ点滴と,臨床所見の関係経過途中,最も悪化した状態と最も軽快した状態を縦軸の下限,上限として,相対的な臨床所見の変動を表した.表層の所見としては,上皮欠損,角膜表層膿瘍を参考とした.深層の所見としては,前房蓄膿,角膜後面沈着物,角膜深層膿瘍を参考とした.点線は角膜表層側の臨床所見の重度,実線は角膜内皮側の臨床所見の重度を表す.L-AmB点眼開始後,上皮側の臨床所見は軽度となり,内皮側の所見は重度となった.VRCZ点滴により肝障害が出現し,L-AmB点滴に変更したのち,角膜内皮側所見はさらに重度となった.なお,カリウム投与は図2に従って投与した.術後は1%VRCZ点眼1日5回,PMR眼軟膏塗入1日1回とし,肝障害の軽快に伴い,VRCZ点滴投与し,角膜病変の再発なく,良好な経過であった.低カリウム血症は是正されたが,肝機能は術後のVRCZ点滴再開とともに少しずつ悪化したので,術後2週間で全身投与は中止した.約半年後に光学的角膜移植を施行し,矯正視力(0.4×cyl.4.0DAx90°)を得た.L-AmB点眼,点滴およびVRCZ点滴と臨床経過の推移の関係を図3に示す.L-AmB点眼投与開始とともに,上皮側所見は改善したが,内皮所見が悪化したことを示す.また,L-AmB全身投与とともに,前房所見がいっそう悪化したことを示す.394あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012図4採取角膜の薄切切片PAS(過ヨウ素酸Schiff)染色にて断片化された真菌をわずかに認めた.しかし,この角膜の培養からは真菌は検出されなかった.II摘出角膜および分離菌の検討1.摘出角膜の組織所見摘出した角膜の半割をホルマリン固定し,薄切切片を作製し,グラム染色を施行した.図4のように,菌糸は,断片化されており,染色性も不良であった.2.摘出角膜の培養結果残りの角膜をサブロー培地にて1カ月培養したところ,真菌は陰性であった.3.初診時に分離されたフサリウムの薬剤感受性試験結果MIC値はAMPB=1,VRCZ=8,MCZ=8(μg/ml)であり,AMPBが最も低値であった.III考按今回の結果からinvivo,invitroのいずれにおいても,AMPBおよびL-AmBはフサリウムに効果的であることが推測された.まず,invitroの効果として,感受性試験の結果,今までの報告2)と同様にAMPBはVRCZやMCZに比べてMICが1μg/mlと低く,効果が期待できる結果であった.L-AmBを用いた感受性試験はできなかったが,真菌エルゴステロールに結合し,薬剤が徐放されることが明らかであり,放出されたAMPBそのものは従来のものと同様の効果を示すと推測される.ただし,実際の角膜炎の臨床の場では,どの程度真菌と結合できていているかという不測の問題は残存している.しかし,すでに動物実験では炎症眼に対する静脈内反復投与にて,最高角膜内濃度2.38μg/g,最高前房濃度0.73μg/mlという報告があり9)AMPBそのものより眼内移行が良好であり10),角膜さらには前房に薬剤が到達することは示されている.したがって,AMPBの感受性結果(106) をL-AmBの感受性結果として推測できると思われた.つぎに,invivoの効果であるが,臨床所見上はL-AmB投与後,前房蓄膿や後面プラークが増大し,悪化したように観察されたが,実際に摘出角膜を検討したところ,組織では菌糸の断片化や染色性の低下を認め,さらに培養にて陰性であった.このことから,臨床所見とは異なり,実際にはL-AmBがフサリウムに対し,効果的であったことが推測された.この臨床所見と培養あるいは組織結果の解離については,L-AmB投与後に強い炎症を生じることが原因である可能性が示唆される.既報でもL-AmB投与後にfibrinoidinflammationを生じたことが特筆されており11),AMPBそのものでも,硝子体注射した際に前房内に一過性の炎症を強く惹起することが報告されている3).これは死菌に対する炎症反応か,薬剤そのものの惹起する炎症かは不明であるが,AMPBおよびL-AmBを使用する際に知っておくべき特徴ではないかと思われた.したがって,今回の症例において,L-AmB投与後に前房所見が悪化し治療的角膜移植を選択した時点で,前房洗浄を行うことも有用であった可能性があると思われた.治療初期に投与されたVRCZ局所,全身投与によりすでに菌が死滅していた可能性もあるが,少なくともL-AmB点眼投与後に,病巣が表層から深層へ移動したことから,L-AmBそのもののフサリウムに対する効果は推測された.L-AmB投与による利点としては上記の菌そのものに対する効果以外に,肝機能の保持があげられる.今回,VRCZ全身投与中に外傷性および薬剤性と診断された肝障害を併発し,GOT,GPTの上昇を認めたが,L-AmBへの変更後は順調に肝機能の正常化を認めた.これまでにも同様に肺アスペルギルスによる眼内炎に対しVRCZで加療中に肝障害を発生し,L-AmBに変更することで肝障害が改善し効果的であった報告がある11).0.5%L-AmBは溶解後,室温あるいは2.8℃で6カ月保存しても流動力学的に維持され,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にても製剤的安定性が保たれており,眼科用製剤として実現可能である12)ことや,結膜下注射として高濃度角膜へ移行することが報告されている13).さらに硝子体注射した場合,胆汁酸を含まないL-AmBは,AMPBに比して副作用が少ないとされており14),最も効果的と思われる投与方法も今後の検討項目である.今回は,L-AmB1瓶から点滴用と点眼用を調整したため,副作用も考慮して0.1%と低濃度の設定とした.角膜表層には十分効果があったが,0.5%点眼を使用した場合にはさらなる効果が認められた可能性もある.効果と副作用の面からL-AmBの至適濃度については,さらなる検討が必要と思われる.一方,L-AmBの欠点としては,低カリウム血症があげられる.本症例ではカリウム値は最低で2.3mEq/lとなった.低カリウム血症に対する対応として,毎朝K値測定を行い,その値によって図2のように,カリウム製剤を内服あるいは点滴投与するべきとされている.高カリウム血症は心機能に影響し,危険であるため,投与カリウム量は慎重に計算し,またゆっくりと点滴しなければならない.今回もアスパラK1アンプルを生理食塩水500mlに溶解して2時間かけて1日2回点滴した.さらに,L-AmBそのものも150mgを5%グルコース500mlに溶解して2時間かけて点滴する必要があるため,患者にとって1日6時間の点滴となり,留置針の設置を余儀なくされた.角膜真菌症の患者は通常,高齢の患者が多く,この留置針が心理的な負担となる可能性もあり,毎日のカリウム投与量の計算を含め,L-AmB使用の際には内科共観が望ましいと思われた.角膜真菌症のうち,フサリウムは急速に進行し,予後不良であることも多い.AMPBそのものは非常に効果的であり,そのリポソーム化製剤であるL-AmBは副作用も軽減され,ぜひとも治療に取り入れたい薬剤である.しかし,投与時に伴う全身管理や投与後の反応に関しての注意すべき点もあり,眼科医がうまくつかいこなせるためには,さらに症例報告を重ねていくべきだと思われた.文献1)石橋泰久:病原性真菌の今日的意味.眼科領域の真菌症.化学療法の領域21:5-10,20042)宇田高広,鈴木崇,宇野敏彦:真菌性角膜炎臨床分離株の薬剤感受性.あたらしい眼科23:933-936,20063)YoonKC,JeongIY,ImSKetal:TherapeuticeffectofintracameralamphotericinBinjectioninthetreatmentoffungalkeratitis.Cornea26:814-818,20074)SridharMS,SharmaS,GopinathanUetal:Anteriorchambertap:diagnosticandtherapeuticindicationinthemanagementofocularinfection.Cornea21:718-722,20025)KaushikS,RamJ,BrarGSetal:IntracameralamphotericinB:initialexperienceinseverekeratomycosis.Cornea20:715-719,20016)KuriakoseT,KothariM,PaulPetal:IntracameralamphotericinBinjectioninthemanagementofdeepkeratomycosis.Cornea21:653-656,20027)Adler-MooreJ,ProffittRT:AmBisome:liposomalformulation,structure,mechanismofactionandpre-clinicalexperience.JAntimicrobChemother49(Supple):21-30,20028)Guzman-CottrillJA,ZhengX,ChadwickEG:FusariumsolaniendocarditissuccessfullytreatedwithliposomalamphotericinBandvoriconazole.PediatricInfectDisJ23:1059-1061,20049)GoldblumD,RohereK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,2004(107)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012395 10)GoldblumD,TohrerK,FruehBEetal:OculardistributionofintravenouslyadministeredlipidformulationsofamphotericinBinarabbitmodel.AntimicrobAgentChemother46:3719-3723,200211)AydinS,ErtugrulB,GultekinBetal:Treatmentoftwopostoperativeendophthalmitiscasesduetoaspergillysflavusandscopulariopsisspp.Withlocalandsystemicantifungaltherapy.BMCInfectDis7:87,200712)MorandK,BartolettiAC,BochotAetal:LiposomalamphotericinBeyedropstotreatfungalkeratitis:physic-chemicalandformulationstability.IntJPharm344:150-153,200713)KajiY,YamamotoE,HiraokaTetal:ToxicitiesandpharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofliposomalamphotericinB.GraefesArchClinExpOphthalmol247:549-553,200914)BarzaM,BaumJ,TremblayCetal:OculartoxicityofintravitreallyinjectedliposomalamphotericinBinrhesusmonkeys.AmJOphthalmol100:259-263,1985***396あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(108)

急性細菌性結膜炎における起炎菌ごとの臨床的特徴

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):386.390,2012c急性細菌性結膜炎における起炎菌ごとの臨床的特徴星最智*1田中寛*2大塚斎史*3卜部公章*2*1藤枝市立総合病院眼科*2町田病院*3京都第2赤十字病院眼科ClinicalFeaturesofEachCausativeOrganisminAcuteBacterialConjunctivitisSaichiHoshi1),HiroshiTanaka2),YoshifumiOhtsuka3)andKimiakiUrabe2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)MachidaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoSecondRedCrossHospital2009年1月からの2年間に,町田病院において急性細菌性結膜炎を疑った外来患者に対して結膜.と鼻前庭の培養検査を施行した.108例(男性50例,女性58例)が急性細菌性結膜炎と診断された.起炎菌は黄色ブドウ球菌が42例(38.9%),ヘモフィルス属が25例(23.1%),肺炎球菌が16例(14.9%),その他が25例(23.1%)であった.黄色ブドウ球菌性による結膜炎では感冒や小児接触との関連が少なく(各々14.3%,28.6%),片眼性が多かった(78.6%).ヘモフィルス属による結膜炎では感冒を伴いやすく(76.0%),しばしば小児接触を認め(56.0%),両眼性が多かった(56.0%).肺炎球菌による結膜炎では球結膜充血が強い傾向があり,小児接触と強く関連し(87.5%),両眼が多かった(62.5%).その他の結膜炎では,感冒や小児接触との関連は少ない(各々28.0%,28.0%)が,女性に多かった(76.0%).Bothconjunctivalsacandnasalbacterialcultureswereperformedfromoutpatientswithsuspectedacutebacterialconjunctivitis,basedonclinicalpresentationoveraperiodof2yearsfromJanuary2009atMachidaHospital.Atotalof108patients(50male,58female)werediagnosedwithacutebacterialconjunctivitis.CausativeorganismscomprisedStaphylococcusaureus(42cases,38.9%),Haemophilusspecies(25cases,23.1%),Streptococcuspneumoniae(16cases,14.9%)andother(25cases,23.1%).ConjunctivitisduetoS.aureuswasassociatedwithfewercolds(14.3%),fewercontactswithchildren(28.6%)andmanyunilateralcases(78.6%).ConjunctivitisduetoHaemophilusspecieswasassociatedwithcolds(76.0%),frequentcontactwithchildren(56.0%)andmanybilateralcases(56.0%).Pneumococcalconjunctivitistendedtoexhibitseverebulbarconjunctivalinjection,strongassociationwithcontactwithchildren(87.5%)andmanybilateralcases(62.5%).Othertypesofconjunctivitiswereassociatedwithfewercolds(28.0%),fewercontactswithchildren(28.0%)andmanyfemalecases(76.0%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):386.390,2012〕Keywords:急性細菌性結膜炎,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌,肺炎球菌,鼻腔保菌.acutebacterialconjunctivitis,Staphylococcusaureus,Haemophilusinfluenzae,Streptococcuspneumoniae,nasalcarriage.はじめに急性細菌性結膜炎は一般眼科診療でありふれた疾患であるが,初診時に菌種同定ができないという理由から広域抗菌点眼薬を処方する機会が多いと思われる.しかしながら感染症の診断とは,感染の誘因と臨床所見および起炎菌の同定をもって総合的になされるものである.培養検査結果が不明だからといって初期診断を諦めるのではなく,感染疫学的根拠に基づいた的確な問診を行い,特徴的な臨床所見を捉えたうえで起炎菌を推定することも必要と考えられる.急性細菌性結膜炎の検出菌についてはこれまでにも多くの報告1.5)がなされているが,最近行われた多施設共同研究ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(23%),アクネ菌(14%),レンサ球菌属(13%),黄色ブドウ球菌(11%),コリネバクテリウム属(10%),インフルエンザ菌(5%),モラクセラ属(3%)の順で多く検出されたと報告されている5).しかしながら,筆者らが行った急性細菌性結膜炎の調査では,結膜.と鼻前庭培養からの検出菌を総合して起炎菌診断を行ったところ,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌,肺炎球菌の3〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN386386386あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(98)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY 菌種が全症例の69%を占めており,これらが主要な起炎菌と考えられた6).これら3菌種はいずれも上気道感染症の主たる起炎菌でもあり,病態の理解のためには急性細菌性結膜炎も上気道感染症の一部と捉えるほうがよいのではないかと筆者らは考えている.今回筆者らは,前回の調査をさらに1年継続して分析を行った.特に性差,罹患眼,球結膜充血の程度に関して,起炎菌ごとに特徴がないかを検討した.その結果,急性細菌性結膜炎における起炎菌ごとの臨床的特徴について有用な知見が得られたので報告する.I対象および方法1.対象患者2009年1月1日から2010年12月31日までの2年間に高知市の町田病院を外来受診した急性結膜炎患者を対象とした.対象基準は,1週間以内の発症で,球結膜充血を認め,眼脂の自覚症状または前眼部所見において眼脂を認める症例とした.初診時すでに抗菌点眼薬を使用している症例,2週間以内に抗菌薬を内服している症例,コンタクトレンズ装用者,5歳以下のいずれかに該当する場合は対象から除外した.である.4.検討項目年齢分布,検出菌の内訳,推定起炎菌の診断分布,起炎菌ごとの検出部位について調査した.つぎに,起炎菌ごとに性差,罹患眼,2週間以内の感冒症状(感冒率),2週間以内の小児接触歴(小児接触率),球結膜充血の程度を比較した.小児接触歴については,小学生以下との接触を有りと判定した.球結膜充血の程度はアレルギー性結膜疾患診療ガイドラインの臨床評価基準に従い,軽度,中等度,高度の3つに分類した.統計学的解析はFisherの直接確率検定を用い,有意水準は5%とした.II結果1.年齢分布2年間の調査期間における対象症例数は108例(男性50例,女性58例)で,平均年齢は52.2±22.2歳(範囲:6.923025■:男性■:女性202.検体採取および培養方法検体採取方法は,滅菌生理食塩水で湿らせたスワブで下眼瞼結膜.および同側の鼻前庭をそれぞれ擦過し,輸送培地(BDBBLカルチャースワブプラス)に入れた後にデルタバイオメディカルに輸送した.両眼性の場合は,症状の強いほうから検体を採取した.培養はヒツジ血液/チョコレート分画培地,BTB乳糖加寒天培地(bromothymolbluelactate151050代代代代代満症例数年齢agar),チオグリコレート増菌培地を用いた.結膜.擦過物は好気培養と増菌培養を35℃で3日間行った.鼻前庭擦過物は好気培養のみを35℃で3日間行った.ブドウ球菌属のメチシリン耐性の有無はClinicalandLaboratoryStandardsInstituteの基準(M100-S19)に従ってセフォキシチンのディスク法で判定した.3.推定起炎菌の診断方法推定起炎菌の診断は既報6)と同様の方法で行い,結膜.と鼻前庭の培養結果をもとに黄色ブドウ球菌,ヘモフィルス属(主としてインフルエンザ菌),肺炎球菌,その他の4つに分類した.具体的には,結膜.から黄色ブドウ球菌,ヘモフィルス属,肺炎球菌(以下,これらを3大起炎菌とよぶ6))のいずれかが検出された場合,その菌種を起炎菌と確定診断した.結膜.から3大起炎菌以外の菌が検出された症例や結膜.培養陰性だった症例のうち,鼻前庭から3大起炎菌のいずれかが検出された場合,その菌種を疑い例と診断した.黄色ブドウ球菌,ヘモフィルス属,肺炎球菌の3菌種を3大起炎菌とよぶ理由は,これら3菌種が三井ら7)が定義する細菌性結膜炎の特定起炎菌であり,さらに前回の筆者らの調査6)において,これら3菌種が特定起炎菌の上位を占めていたため図1年齢分布表1結膜.と鼻前庭における検出菌の内訳結膜.鼻前庭菌種菌株数菌種菌株数コリネバクテリウム属25コリネバクテリウム属63MS-CNS15MS-CNS59MR-CNS4MR-CNS18MSSA23MSSA38MRSA1MRSA2インフルエンザ菌15インフルエンザ菌17ヘモフィルス属1ヘモフィルス属2肺炎球菌14肺炎球菌10a溶血性レンサ球菌3a溶血性レンサ球菌9G群溶血性レンサ球菌2G群溶血性レンサ球菌1Klebsiellapneumoniae1Klebsiellapneumoniae2緑膿菌1ナイセリア属2バシラス属1バシラス属2合計106合計225MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.(99)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012387 22%17%15%8%13%23%22%17%15%8%13%23%■:黄色ブドウ球菌■:黄色ブドウ球菌(疑)■:ヘモフィルス属2%■:ヘモフィルス属(疑):肺炎球菌■:肺炎球菌(疑)■:その他図2推定起炎菌の診断分布歳)であった.年齢分布を図1に示す.発症年齢は60代が一番多かったが,30代にも小さなピークを認め二峰性を示した.2.検出菌の内訳培養陽性率は結膜.擦過物が75.9%,鼻前庭擦過物が100%であった.結膜.からは106株,鼻前庭からは225株が検出された.各部位からの検出菌の内訳を表1に示す.3.推定起炎菌の診断分布推定起炎菌の診断分布を図2に示す.疑い例も含めると,黄色ブドウ球菌が最も多く38.9%(42/108例)を占めた.つぎにヘモフィルス属が23.1%(25/108例),肺炎球菌が14.9%(16/108例)と続き,3大起炎菌が76.9%を占めた.その他の結膜炎は23.1%(25/108例)であった.その他の結膜炎症例における結膜.検出菌の内訳は,コリネバクテリウム属のみが6例,メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci:MS-CNS)のみが3例,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci:MR-CNS)のみが1例,コリネバクテリウム属+MS-CNS+a溶血性レンサ球菌が1例,MR-CNS+コリネバクテリウム属が1例,緑膿菌+MR-CNSが1例,結膜.培養陰性が12例であった.4.起炎菌ごとの検出部位起炎菌ごとの検出部位を図3に示す.黄色ブドウ球菌では28.5%(12/42例),ヘモフィルス属では40.0%(10/25例),肺炎球菌では50.0%(8/16例)の症例において,結膜.と鼻前庭から同一菌種を検出した.5.性差起炎菌ごとに女性の割合をみると,黄色ブドウ球菌による結膜炎では45.2%(19/42例),ヘモフィルス属による結膜炎では44.0%(11/25例),肺炎球菌による結膜炎では56.2%(9/16例),その他の結膜炎では76.0%(19/25例)であった.各群について統計学的に比較したところ,その他の結膜炎では黄色ブドウ球菌やヘモフィルス属による結膜炎に比べて有意に女性の割合が高かった(各々p=0.021,p=388あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012100%80%60%40%20%0%■鼻のみ1892■眼と鼻13108■眼のみ1166黄色ブドウ球菌ヘモフィルス属肺炎球菌図3起炎菌ごとの検出部位数字は人数を示す.0.042).6.罹患眼黄色ブドウ球菌による結膜炎では両眼性が21.4%(9/42例),右眼のみが28.6%(12/42例),左眼のみが50.0%(21/42例)であった.ヘモフィルス属による結膜炎では両眼性が56.0%(14/25例),右眼のみが28.0%(7/25例),左眼のみが16.0%(4/25例)であった.肺炎球菌による結膜炎では両眼性が62.5%(10/16例),右眼のみが31.3%(5/16例),左眼のみが6.2%(1/16例)であった.その他の結膜炎では両眼性が32.0%(8/25例),右眼のみが40.0%(10/25例),左眼のみが28.0%(7/25例)であった.各群について統計学的に比較したところ,黄色ブドウ球菌による結膜炎では肺炎球菌やヘモフィルス属による結膜炎に比べて有意に片眼性が多かった(各々p=0.004,p=0.007).7.感冒率感冒率に関しては,黄色ブドウ球菌による結膜炎では14.3%(6/42例),ヘモフィルス属による結膜炎では76.0%(19/25例),肺炎球菌による結膜炎では50.0%(8/8例)その他の結膜炎では28.0%(7/25例)であった.各群につい(,)て統計学的に比較したところ,ヘモフィルス属による結膜炎では,黄色ブドウ球菌やその他の結膜炎に比べて有意に感冒率が高かった(各々p<0.001,p=0.001).さらに,肺炎球菌による結膜炎では,黄色ブドウ球菌による結膜炎に比べて有意に感冒率が高かった(p=0.012).8.小児接触率小児接触率に関しては,黄色ブドウ球菌による結膜炎では28.6%(12/42例),ヘモフィルス属による結膜炎では56.0%(14/25例),肺炎球菌による結膜炎では87.5%(14/16例),その他の結膜炎では28.0%(7/25例)であった.各群について統計学的に比較したところ,肺炎球菌による結膜炎では,黄色ブドウ球菌,ヘモフィルス属およびその他の結膜炎に比べて有意に小児接触率が高かった(各々p<0.001,p=0.044,p<0.001).つぎに,ヘモフィルス属による結膜炎(100) 黄色ブドウ球菌ヘモフィルス属■高度2331■中等度189911■軽度2213413肺炎球菌その他100%80%60%40%20%0%図4球結膜充血の程度数字は人数を示す.黄色ブドウ球菌ヘモフィルス属■高度2331■中等度189911■軽度2213413肺炎球菌その他100%80%60%40%20%0%図4球結膜充血の程度数字は人数を示す.では,黄色ブドウ球菌による結膜炎に比べて有意に小児接触率が高く(p=0.038),その他の結膜炎と比べて小児接触率が高い傾向を認めた(p=0.084).9.球結膜充血の程度起炎菌ごとの球結膜充血の程度を図4に示す.中等度.高度の球結膜充血の割合をみると,黄色ブドウ球菌による結膜炎では47.6%(20/42例),ヘモフィルス属による結膜炎では48.0%(12/25例),肺炎球菌による結膜炎では75.0%(12/16例),その他の結膜炎では48.0%(12/25例)であり,肺炎球菌による結膜炎では,黄色ブドウ球菌による結膜炎に比べて中等度.高度の球結膜充血が多い傾向があった(p=0.080).III考按筆者らが2009年1月からの1年間に行った最初の調査では,対象症例数が52例ではあるものの,黄色ブドウ球菌の鼻腔感染が結膜炎発症に関与していること,ヘモフィルス属や肺炎球菌による結膜炎では小児からの飛沫感染が主たる要因であることを疫学的に示した6).本研究ではさらに調査期間を1年延長し,症例数を108例にまで増やすことで性差,罹患眼など他の項目についても検討を行った.年齢分布に関しては,60代が最も多かったが30代にも小さなピークをもつ2峰性を示した.興味深いことに,この分布は感染性角膜炎全国サーベイランス8)における非コンタクトレンズ装用者の感染性角膜炎の年齢分布に類似していた.これは,細菌性結膜炎のリスク要因である鼻腔の黄色ブドウ球菌感染や小児からの飛沫感染が,感染性角膜炎のリスク要因にもなっている可能性を示唆していると考えられる.感染性角膜炎では,コンタクトレンズ装用の他,外傷や眼表面の易感染状態が感染リスクとして重要である9.12)が,その他の要因についてもさらなる調査が必要と考えられた.推定起炎菌の診断分布に関しては,前回の調査6)と同様に3大起炎菌が約7割を占めた.1年ごとに分けてみると,(101)2009年では黄色ブドウ球菌が19人(44.2%),ヘモフィルス属が5人(11.6%),肺炎球菌が5人(11.6%),その他が14人(32.6%)であり,2010年では黄色ブドウ球菌が23人(35.4%),ヘモフィルス属が20人(30.8%),肺炎球菌が11人(16.9%),その他が11人(16.9%)であった.年ごとに分けてみても上位3菌種が変わらないこと,さらに上位3菌種が過半数を占めていることから,黄色ブドウ球菌,ヘモフィルス属,肺炎球菌を結膜炎の3大起炎菌とよぶことに無理はないと考えられた.2010年にヘモフィルス属が多かったのは,前回の筆者らの報告6)でヘモフィルス属と肺炎球菌はepidemicに発生すると述べているように,ヘモフィルス属感染症の流行があったためと考えられた.検出部位に関しては,結膜.と鼻前庭の両部位から同一菌種が検出されている症例が28.50%存在した.このことは,結膜炎を発症している際,結膜.と鼻腔の細菌叢が密接に関わっていることを示唆しているものと思われる.両部位からの菌株の抗菌薬感受性パターンがどの程度一致するかについては今後検討が必要と考えられた.性差に関しては,その他の結膜炎では黄色ブドウ球菌やヘモフィルス属による結膜炎に比べて女性の割合が有意に高い結果となった.理由については過去に報告がなく不明である.推測であるが,化粧などにより皮膚や鼻腔の常在細菌が眼表面に混入しやすいことが要因の一つとなっているかもしれない.罹患眼に関しては,黄色ブドウ球菌による結膜炎ではヘモフィルス属や肺炎球菌による結膜炎に比べて有意に片眼性が多かった.このことから,黄色ブドウ球菌の感染は主として汚染された手指による眼部への接触感染によって成立しているのではないかと推測された.一方,ヘモフィルス属や肺炎球菌による結膜炎で比較的両眼性が多いのは,先行する鼻咽頭感染の後に鼻をかむなどの行為により涙道を介して逆行性に感染している可能性,さらには小児の飛沫を正面から浴びたことによる直接的な飛沫感染の2つの要因が考えられた.感冒率と小児接触率に関しては,ヘモフィルス属と肺炎球菌による結膜炎では黄色ブドウ球菌による結膜炎に比べて有意に高い割合であった.前回の調査6)では対象症例数が少ないこともあり感冒率については菌種間で有意な違いが認められなかったが,本研究において有意な違いがあることが示された.球結膜充血に関しては,肺炎球菌による結膜炎では黄色ブドウ球菌による結膜炎に比べて中等度.高度の球結膜充血が多い傾向があった.肺炎球菌による結膜炎は両眼性が多いことから,球結膜充血が強い症例ではアデノウイルス結膜炎との鑑別を要する.本研究では,一部の症例においてアデノウイルス抗原検出キットを使用しているが,アデノウイルス陽性患者は認めなかった.アデノウイルス結膜炎と確定診断であたらしい眼科Vol.29,No.3,2012389 きない症例では,肺炎球菌感染症の可能性も考慮すべきである.2年間の調査結果を総合すると,主要な起炎菌ごとに典型症例が存在することがわかる.黄色ブドウ球菌による結膜炎では感冒や小児接触との関連が少なく(各々14.3%,28.6%),片眼性が多かった(78.6%).ヘモフィルス属による結膜炎では感冒を伴いやすく(76.0%),しばしば小児接触を認め(56.0%),両眼性が多かった(56.0%).肺炎球菌による結膜炎では球結膜充血が強い傾向があり,小児接触と強く関連し(87.5%),両眼性が多かった(62.5%).その他の結膜炎では,感冒や小児接触との関連は少ない(各々28.0%,28.0%)が,女性に多かった(76.0%).結膜炎患者に遭遇した際,これらの典型症例を参考にしながら起炎菌を推定し,症例に応じた抗菌点眼薬の使い分けを行うことが医学的根拠に基づいたempirictherapyであると思われる.本研究では,市中感染としての急性細菌性結膜炎を調査対象としている.したがって,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症が多いといわれている長期入院患者13,14)や,眼表面の易感染患者15)の場合には注意が必要である.また本研究では嫌気培養を施行していない.したがって,アクネ菌などの嫌気性菌の関与についてはさらなる検討を要する.結論としては,市中感染としての急性細菌性結膜炎のおよそ7割は,黄色ブドウ球菌,ヘモフィルス属,肺炎球菌のいずれかによるものであった.これら3大起炎菌による結膜炎はそれぞれに特徴的な感染疫学的背景を有していた.したがって,初診であっても問診と臨床所見を組み合わせることで起炎菌を推定することが可能と考えられた.文献1)青木功喜:急性結膜炎の臨床疫学的ならびに細菌学的研究.あたらしい眼科1:977-980,19842)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,19893)東堤稔:眼感染症起炎菌─最近の動向.あたらしい眼科17:181-190,20004)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,20075)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20116)星最智,卜部公章:急性細菌性結膜炎の起炎菌と疫学.あたらしい眼科28:415-420,20117)三井幸彦,北野周作,内田幸男ほか:細菌性外眼部感染症に対する汎用性抗生物質等点眼薬の評価基準,1985.日眼会誌90:511-515,19868)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,20069)木村由衣,宇野敏彦,山口昌彦ほか:愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討.あたらしい眼科26:833-837,200910)中村行宏,松本光希,池間宏介ほか:NTT西日本九州病院眼科における感染性角膜炎.あたらしい眼科26:395-398,200911)杉田稔,門田遊,岩田健作ほか:感染性角膜炎の患者背景と起炎菌.臨眼64:225-229,201012)星最智,卜部公章:高知町田病院における細菌性角膜炎の検討.臨眼65:633-639,201113)大橋秀行,福田昌彦:高齢者の細菌性結膜炎からの起炎菌の検討.あたらしい眼科15:1727-1729,199814)大橋秀行:高齢者のMRSA結膜炎80例の臨床的検討.眼科43:403-406,200115)稲垣香代子,外園千恵,佐野洋一郎ほか:眼科領域におけるMRSA検出動向と臨床経過.あたらしい眼科20:11291132,2003***390あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(102)

My boom 2.

2012年3月31日 土曜日

監修=大橋裕一連載②MyboomMyboom第2回「奥村直毅」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載②MyboomMyboom第2回「奥村直毅」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介奥村直毅(おくむら・なおき)同志社大学生命医科学部医工学科ティッシュエンジニアリング研究室・助教私は2001年に京都府立医科大学を卒業し眼科学教室に入局しました.大学病院での研修医生活に続いて,高知県にある町田病院で勉強させていただきました.2006年から京都府立医科大学大学院で角膜内皮疾患に対する新規治療法の開発を目指した研究を行いました.2011年からは現職である同志社大学に助教として着任しました.現在は少し臨床のウエイトを減らして,京都府立医科大学の木下茂教授,同志社大学の小泉範子教授のご指導のもと角膜内皮疾患の研究に重きをおいた生活をしております.研究のmyboom2001年の入局当時,京都府立医科大学では重症眼表面疾患に対しての培養粘膜上皮移植を始めた直後ということもあり,日本および世界からも多くの先生方が常に見学に来られており活発なディスカッションが行われていました.大学卒業直後の私にはとても華やかで輝いて見えておりましたので,そうした空気のなかで自分も研究をしてみたいと,なんとなく感じていました.もちろん研修医当時はどこでもそうなのでしょうが労働基準法の適用外でしたので,そのうちいつかはといった程度のものでした.大学院入学後に,いよいよ木下茂教授に研究テーマを相談させていただくことになりましたが,研修医当時の培養粘膜上皮移植の華やかさの刷り込みのためか,臨床応用につながるものが良いと信じておりま(85)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYしたので,当時サルをモデルとしての培養角膜内皮移植実験を進めておられた小泉範子先生にお願いして角膜内皮の研究を始めさせていただきました.基本的には何をやってもうまくいかない時期が続きましたが,当初は大学院の期間限定での研究かと思って,大して気にせず過ごしておりました.そんなことで大学院生として自覚に欠けた生活をしておりましたが,Rhoキナーゼ阻害薬という薬剤に出会い,それが角膜内皮に興味深い作用を幾つかもっていることを明らかにすることができました.このあたりからすっかり夢中になっております.興味深い作用のうちの一つは培地に加えると細胞が増殖するという現象でしたが,点眼したらどうだろうかというやや飛躍した思い込みのもと,ウサギ,サルの角膜内皮障害モデルに点眼してみることにしました.結果は驚くべきことに非常に良いものであり,木下教授らの強力なリーダシップのもと水疱性角膜症患者に対する臨床研究がスタートしました.現在はまだ安全性試験という位置づけですが,一部の患者さんでは視力が1.5と劇的に改善して予定していた角膜移植をキャンセルするに至りました.もちろんすべての水疱性角膜症がこの点眼薬で治るというわけではないのでしょうが,今後の展開に大いに期待しています.私たちの研究グループでは薬物療法のみならず,培養角膜内皮移植の研究開発を行っています.当初はシート状に培養した角膜内皮を移植することを想定していましたが,一つの有力なオプションとして培養細胞を懸濁液として前房内に注入することを考えています.このこと自体は東京大学の三村達哉先生など何人かの研究者がすでに提唱されていたアイデアです.問題は,普通に培養細胞を注入するだけだと前房水に流されてしまうということです.私たちはRhoキナーゼ阻害薬が角膜内皮細胞の細胞接着を促進するということを明らかにしましたが,懸濁液に混ぜて前房内に注入するとうまい具合に角あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012373 〔写真1〕京都府立医科大学眼科医局セミナーの配信サイト膜にくっつくのではないかと,ここでもやや飛躍した思いのもと動物実験を繰り返しました.結果は非常に望ましいもので,現在臨床応用を目標とした研究を行っています.現在私は,Rhoキナーゼ阻害薬点眼薬と培養角膜内皮移植の開発を目標とした研究に情熱を注いでいます.期間限定で華やかな世界に憧れて始めた研究ですが,すっかりはまってしまっておりますので,まさにmyboomかと思っています.いろいろな取り組みのmyboom京都府立医科大学の眼科学教室では医局セミナーをすべて録画して,専用のウェブサイトでいつでも見られるようにしています(写真1).もちろん医局の先生方の協力があってのことで私の仕事ではありませんが,サイトの設計に少し関係しましたので紹介させていただきます.具体的にはセミナーでの発表がすべてサイトにアップロードされYouTubeのようなイメージで端末を選ばず見ることができます.公開範囲は,現在のところ大学内と関連病院の先生方に限っていますが,今後教育的な内容や演者の許可が得られたものについては広く公開を予定しています.私自身も特に教育的な内容については374あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012〔写真2〕第10回YOBC(若手医師交流会)の集合写真電車での移動時間によくiPadで視聴しています.もちろん最新の研究に関する公開に適さないものや,講演内容の著作権に関する問題には十分な注意が必要ですが,今後の有力な情報ソースになるのではないかと感じております.ところで,せっかく「あたらしい眼科」にフリーな内容で執筆できるスペースを頂きましたのでYOBC(YoungOphthalmologists’BorderlessConference)という会について本連載第1回目の鈴木先生に続いて紹介させていただきたいと思います.YOBCは,親しい先生方と持ち回りで幹事をしながら,若い眼科医同士が知り合いを作って楽しいお酒を飲むことを目的として日本臨床眼科学会,日本眼科学会の際の年2回のペースで集まっています.前回は第10回の記念大会でしたので,木下教授が若い医師に向けて真面目な話あり,笑いありの記念講演をしてくださいました(写真2).すでに会も10回を数え,私も若い眼科医というには微妙に苦しくなってはおりますが,医局の枠を超えて仲の良い先生たちとのお酒が楽しくて参加を続けております.幹事の不備をいつも皆に叱られていますので,この場をお借りして宣伝させていただくことにいたします.次回のプレゼンターは東京医科大学の臼井嘉彦先生です.優秀かつパワフルな親しい友人であり,密かに尊敬している人物です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(86)

眼研究こぼれ話 27.ハローウィンのお化け 「第三眼」持つハ虫類

2012年3月31日 土曜日

●連載眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長ハローウィンのお化け「第三眼」持つハ虫類10月31日はハローウィンである.どこの国でも,1年に一度は,化け物が出たり幽霊におどかされたりする日がある.この日は小さい子供たちにとって,とても恐ろしい日である.子供たちは,9月の終わりになるころから,この夜のことを心配し,びくびくし始めると同時に,どのようにして友達をおどかしてやろうかと計画にとりかかる.10月31日の夕刻になると,それぞれ仮装した子供たちが,冷気のする戸外に出て,「トリックオアトリート」と言いながら近所の家のドアベルを鳴らして歩く.子供たちのやって来るのを待っている隣人たちは,戸口の電気を明るくつけて,チョコレート,キャンデーをたくさん袋に入れてくれる.ちゃっかりした大きな子供たちは,本当にかせぎまくるのもいる.大型買い物袋に,キャンデーを数袋もらってくるのである.なかには子供らに負けないで,魔法使いの服装をして待っている大人もいる.また,幽霊になっておどかす大人もいる.子供にとって,忘れることのできない,楽しく,こわい夕べである.小さい子供たちは,1年に一度許される夜更かしに興奮し,疲れ果ててキャンデーの袋をかかえて寝入るのである.こんな夜,いろいろな化け物が出るのであるが,眼玉が正常でない化け物もいるに違いない.一つ目はどうだろう.いるいる.まれではあるが,眼が額の真ん中に一つしかない児(こ)が生まれることがある.このような異常な一つ目を顕微鏡で調べると,実は,二つの目が,一つに融合しているので,前眼部や,角膜は一つでも,内部は普通二つに分かれていることが多い.このような先天性異常は大変(83)▲ハローウィンの夕刻,家にやって来た近所の子供たちまれであり,生まれても数時間以内に死んでしまうので,夕闇(─やみ)に出て来ておどかすようなことはない.次は二つ目.そこらにうじゃうじゃしている二つ目と異なって,こわいのが生まれることがある.それは全く頭と脳のない子供である.ところが不思議なことに,完全に無脳の異常児の眼は,比較的よく発達しているのである.胎生学的に,眼は脳ができるより先に発生するので,この無脳症の原因は,眼ができてよりあとに起こると考えられる.このような児も全く育たない.私の研究所にはこのような一つ目,二つ目の標本がよく集まって来る.次に三つ目であるが,ホ乳類にはないようである.ところが鳥より下等の動物となると,正常で,三つ目なのである.特に,両せい類,ハ虫類でははっきりしている.これらの動物ではちょうど,頭の中心に小さな窓があって,その下に網膜と同じ細胞を持った第三の眼をつくっている.第三眼とは学用名である.この眼は食物,敵または相棒を見つける本当の眼とは別あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123710910-1810/12/\100/頁/JCOPY 眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話に,環境の明るさを感じているらしい.強い日光とが,光の状態で,ホルモンの調整をしていることがか,木陰などの判別をしているのである.例えば昼わかっている.白ネズミを明るい所に長くおいてお寝をしているカメ君は,第三の眼はよく開けて,家くと,松果腺の細胞がうんと増える.このような原路につかねばならない日暮れの来るのを,ちゃんと理を応用して,例えば,寝室の照明度の加減で,産知っているのである.児制限ができることをまじめに研究している学者もこの第三眼はホ乳類ではもっと分化して,松果腺いる.(─せん)となり,網膜様の構造はなくなっている(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆372あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(84)

現場発,病院と患者のためのシステム 2.紙カルテを単純に電子化したのでは,使い勝手で紙を超えられない

2012年3月31日 土曜日

連載②現場発,病院と患者のためのシステム連載②現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*紙カルテを単純に電子化したのでは,使い勝手で紙を超えられない.問題提起紙カルテの時代は長く,院内諸業務すべてがこれを前提にして動いていた.この中で,作業実態を踏まえない電子カルテが登場すれば拒否反応がでてくるのは当然である.しかし,そうかといって,紙カルテの使い勝手をそのまま電子化すればよいということではない.電子化する際には新たな発想が必要である.長年使い慣れ,約束事なく何でも書け,メモ類を貼り付けられ,イレギュラーな場面にも問題なく対応できた紙のカルテに対し,習熟に時間を要し,約束事が多い電子カルテに不都合が多いと感じる医師は多い.そこを狙って,できるだけ紙カルテの感覚で使えることをアピールする電子カルテが出回っている.紙カルテはそのままに,1号,2号用紙,検査データをスキャンして保存し,参照できるというものまで現れ,ペーパーレスだし,代診の医師でも問題なく対応できるという触れ込みである.紙カルテを残しておいてペーパーレスとは驚きだが,敷居を低くして,電子カルテに二の足を踏んでいる多くの医師に,その気になってもらう苦肉の策といえる.一方,ITだからこそ可能な特長を活かそうと,一つの画面から何でもできるという,見るからに使いづらく見える煩雑な画面レイアウトのものもある.いずれも問題であるが,一般的に,システムを設計する際には,業界・業種・業務を問わず,そのシステムが対象とする業務を調査し,業務の目的に沿って,必要となる機能,情報を洗い出し,無理無駄を省いてから,仕様を決める.紙カルテの使い勝手を電子的に実現するという発想や,何でもできるという仕様は,このステップを踏んでいるか疑問である.紙と鉛筆の世界から,ディスプレイとキーボード,マウス,手書き,音声という表現手段への変化を踏まえ,根本的に見直した発想による設計が必要になると思われる..紙と画面,鉛筆と,電子的入出力,表示手段の違いを踏まえたユーザーインターフェイス手段の違いを理解すると,今までの仕事の仕方をそのままにシステムに写し取ることの問題が浮上する.1.ぺージめくり(図1)診察時には,紙カルテをパラパラとめくり,しばし見てから,戻ったり,めくったりする.この動作はどのような意味があるのか.これを考えず,単に画面上に表示されたカルテを,紙カルテのようにパラパラ感をもって見られるようにすることを競っているのが,今の電子カルテのユーザーインターフェイス.最近の電子ブックは,あたかも本物の紙をめくるような動きをするものがあるが,これと同じようにできたらよいと思う医師もいることと思われる.紙と人の手の動きをもってパラパラとめくり,少し戻って,まためく図1診療現場におけるカルテのページめくり*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO(81)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123690910-1810/12/\100/頁/JCOPY るという動作を電子的に実現することに知恵を絞るのは結構だし,技術者には興味を引くテーマといえる.しかし,どうしてめくったり戻ったりするのかの本質を考えるべきではないか.そのうえで,必要とされる場合には,できるだけ自然な感じでパラパラできる機能を開発し,実装して欲しい.では,めくったり,戻ったりするのはどうしてか.視力,眼圧などの推移であり,その時の処方,指示に関する情報を見たいからである.紙カルテは,情報と媒体が一体になっていて切り離せないが,情報を電子的に取り扱えるシステムは,それらの情報を抽出して時系列に表示することができる.数字ではなくイメージで捉えたかったら一瞬でグラフにもできるし,関連する情報を並列表示することも容易にできる.検査結果,所見,処方・指示を同時に表示し,何世代も遡って見たいという場合には,操作性よくめくる機能は必要になるが,通常の使い方では,時系列表示機能があれば,パラパラめくる機能はいらないということである.2.カルテ添付のメモ類(図2)紙のカルテには多種多様なメモが貼り付けてあり,重なっている場合も珍しくない.見落とされないよう,紙の色,字の大きさ,体裁を工夫するなどしている.当院では,カルテに添付しているメモ類を調べたが,300種類を超えていた.メモに対応するために,紙のポストイットを電子的に実現した電子ポストイットがあるが,これもぺージめくり機能同様,紙を電子に置き換えただけの単純な発想である.この機能を使って約300種類もあるメモをそのまま電子化したらどうなるか.メモの目的を明確にしてから,重複しているものを排除し,次に重要性,緊急性を調べ,誰に見て欲しいのか,見て欲しいタイミングなどを分類し,整理するところから始めなければならない.とかく,今使っているこのメモはどう電子化されるかを気にするが,このようなことに気を配らなければならない.確実にドクターに見てもらわなければならない重要なメモについては,補足的な意味合いがあるメモという位置づけではなく,正規の機能として整備すべきである.図2カルテに貼り付けられているメモ類相互に関係するメモや,同じような目的をもったメモはあちこちに点在するのではなく,ひとまとめにして入力,指定できるようにするなど,電子化に際しては,根本的な見直しを行わなければならない.紙時代の仕事の習慣をそのまま投影したシステムでは,電子化の効果は出にくい.当院では,メモを見直し,分類整理した結果,約300種類以上あったメモを4分の1以下に減らすことができた.そのうえで,電子的に処理できるようにする計画である.3.作業環境を考えた機能医師,看護師などコメディカルが,常に画面の前に座ってはいない,ということを想定した仕様になっているか.メッセージを画面に表示しても,それをタイムリーに見る人がいなければ,伝えようとした情報の価値は大幅に減少してしまう.頻繁に画面をのぞくようにするという躾もあるが,それではストレスがたまるし,見落としもある.通常の作業をしつつ,メッセージをキャッチする方法はないか.メッセージ到着を知らせる音を鳴らすことはもちろん可能だが,音声合成技術を使ってメッセージの内容を発声させれば,他の作業をしながらでも,メッセージの到着とその内容を知ることができる.単にメッセージを表示させて機能を果たしたと思わず,そのメッセージをどのような目的で表示し,どのようなアクションを期待するかを考えれば,このような処理は当然組み込まれるべきである.☆☆☆370あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(82)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 106.多発性網膜細動脈瘤を伴う特発性網膜血管炎に対する硝子体手術(中級編)

2012年3月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載106106多発性網膜細動脈瘤を伴う特発性網膜血管炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに多発性網膜細動脈瘤を伴う特発性網膜血管炎(idiopathicretinitis,vasculitis,aneurysms,andneuroretini-tis:IRVAN)は1995年Changらによって提唱された疾患で,網膜血管炎,多発性網膜細動脈瘤,神経網膜炎を特徴とする1).後極部に細動脈瘤や硬性白斑を生じ,進行すると周辺部に広範な無血管野をきたし網膜新生血管が生じる.さらに進行すると網膜前出血,硝子体出血,牽引性網膜.離をきたすこともある.本疾患は比較的まれと考えられているが,原因不明の硝子体出血例のなかに混ざっていることがある.●IRVANの鑑別疾患新生血管からの色素漏出,周辺部網膜の無血管野と動静脈吻合,多発性細動脈瘤などの眼底所見を特徴としているため,大動脈炎症候群,サルコイドーシス,抗リン脂質抗体症候群,結核などの全身疾患との鑑別が必要である.IRVANはこれらの疾患を示唆する異常所見は認めない.一方,IRVANの近似疾患としてEales病やCoats病などがある.Eales病は通常両眼性で20.30歳代の男性に多く,おもに静脈閉塞をきたす.Coats病は10歳以下の男児に好発し,血管拡張と黄白色の滲出性病変が特徴的である.●IRVANに対する治療IRVANの治療としては,網膜無血管野や新生血管に対して汎網膜光凝固術,動脈炎症状に対してステロイド全身投与などが行われている.再発性の硝子体出血や牽引性網膜.離をきたした場合に硝子体手術の適応となる(図1~3).●硝子体手術時の注意点IRVANの網膜無血管野は,中間周辺部から周辺部に図1硝子体手術前の眼底写真右眼視神経乳頭鼻側から下方に線維血管性増殖膜とその周囲に牽引性網膜.離を認める.図2蛍光眼底写真右眼の耳側周辺部網膜の広範な無血管野,血管吻合を認める.図3硝子体手術後の眼底写真硝子体手術後網膜は復位し,血管炎も鎮静化している.かけて,虫食い状の不規則な形を呈することが多く,眼底透見可能例では術前に蛍光眼底検査を行い網膜虚血範囲に光凝固を確実に施行する必要がある.牽引性網膜.離は網膜虚血に起因する線維血管性増殖膜の発育と後部硝子体.離の進行によって生じるが,増殖糖尿病網膜症と同様の手術手技で対応する2).血管炎は硝子体手術後に鎮静化することが多いが,炎症が遷延する場合にはステロイド薬の追加投与を考慮する.文献1)ChangTS,AylwardGW,DavisJLetal:Idiopathicretinalvasculitis,aneurysmsandneuro-retinitis.Ophthalmology102:1089-1097,19952)鶴原泰子,石崎英介,服部秀嗣ほか:IRVANに対して硝子体手術を施行した1例.眼科手術24:63-66,2010(79)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123670910-1810/12/\100/頁/JCOPY

第12回眼科DNAチップ研究会 報告書

2012年3月31日 土曜日

第65回日本臨床眼科学会専門別研究会2011年10月7日(金)東京国際フォーラム第12回眼科DNAチップ研究会報告書*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2山形大学医学部眼科学講座上田真由美*1山下英俊*2木下茂*1はじめに今年(2011年)で第12回を迎える眼科DNAチップ研究会が第65回日本臨床眼科学会の専門別研究会の一つとして2011年10月7日金曜日に行われた.今年は,専門別研究会としては最後になることもあり,シンポジウム3演題,教育講演1題,そして特別講演1題と例年になく内容豊かなプログラムとなり,ゲノムワイド関連解析を中心とした遺伝子多型解析ならびにバイオインフォマティクスに関する高度な研究内容を聞くことができた.シンポジウム3人の演者によるシンポジウムが開催された.初めの演者は,京都大学の山城健児先生で,“病的近視感受性遺伝子の同定”という演題名で,ゲノムワイド関連解析の結果をもとに,病的近視関連遺伝子多型についてお話しされた.続いて,横浜市立大学の水木信久教授が,“ゲノム研究が拓く眼科医療の未来”という演題名で,最近NatureGeneticsに掲載されたベーチェット病のGenome-WideAssociationStudy(GWAS)解析の結果について詳細にご説明いただき,かつ,今後の進行性についてもご講演された.シンポジウム最後の演者は,京都府立医科大学眼科の上田真由美で,“眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群の遺伝子多型解析”という演題名で,候補遺伝子解析からゲノムワイド関連解析の結果,さらには,疾患関連遺伝子の機能解析についてお話しさせていただいた.シンポジウムの発表はどれも,日本のゲノム解析を代表する素晴らしい発表であった.教育講演1時間のシンポジウムの後,京都府立医科大学ゲノム医科学の中野正和助教から“これからのゲノムワイド関連解析における次世代技術の活用法”という演題名の教育講演が行われた.次世代シークエンサーを中心にゲノムワイド関連解析の次世代技術についての詳細な説明とともに今後の方向性についてわかりやすくご講演いただいた.特別講演教育講演の後は,九州大学の生体防御医学研究所附属遺伝情報実験センターの山本健准教授により,“DNAチップの可能性─相関,連鎖,エピジェエネティクス─”という演題名の特別講演をしていただいた.ゲノムワイド関連解析による遺伝子多型解析,SNP(一塩基多型)チップを用いた単一遺伝病の連鎖領域同定,DNAメチル化サイトチップを用いたエピジェエネティクス固体差解析についてご講演いただいた.☆☆☆(77)あたらしい眼科Vol.29,No.3,20123650910-1810/12/\100/頁/JCOPY