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線維柱帯切開術後の選択的レーザー線維柱帯形成術の効果

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):267.271,2012c線維柱帯切開術後の選択的レーザー線維柱帯形成術の効果森村浩之伊藤暁高橋愛池田絵梨子公立学校共済組合近畿中央病院眼科E.ectofSelectiveLaserTrabeculoplastyforPrimaryOpen-AngleGlaucomawithPriorHistoryofTrabeculotomyHiroyukiMorimura,SatoruItoh,AiTakahashiandErikoIkedaDepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital目的:線維柱帯切開術(LOT)既往の原発開放隅角緑内障(POAG)症例での選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の眼圧下降効果をレトロスペクティブに検討した.対象および方法:過去にPOAGに対してLOTが行われ,2008年から2010年までにSLTを施行した15例15眼を対象とした.平均年齢は62.3±12.0歳(42.81歳)で平均経過観察期間は18.3±8.1カ月(1.33カ月)であった.眼圧,眼圧下降率(ΔIOP)について検討した.LOTは白内障同時手術8例8眼,LOT単独手術が7例7眼であり,そのうち3例3眼はすでに眼内レンズ挿入眼であった.SLTは全例全周に照射した.結果:SLT前の眼圧は19.2±3.4mmHgで,SLT後1カ月で15.4±3.1mmHg,3カ月で13.7±3.2mmHg,6カ月で14.1±2.7mmHg,12カ月で16.1±4.0mmHgとなり,眼圧下降率はSLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月がそれぞれ18.5±15.6%,26.9±17.7%,24.4±18.9%,17.3±17.3%となり有意に下降した(p<0.05).SLTの眼圧下降率10%とした有効率は80%,20%では53.3%,3mmHg以上下降では60%であった.2回連続で眼圧下降率が10%未満となったときの最初の時点をendpointと定義したKaplan-Meier法による12カ月後の生存率は,58.2%であった.重回帰分析で,SLT後の眼圧に関与する有意な因子は,SLT治療前の眼圧値であった.結論:SLTはLOT後であっても有意に眼圧を下降させる効果があった.LOT後に眼圧上昇をきたした場合,線維柱帯切除術を行う前に一度試みてよいと考えられた.Weretrospectivelyevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringe.ectsofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)whohadpreviouslyundergonetrabeculotomy(LOT).Includedinthisstudywere15eyesof15patientswithPOAGwhounderwentLOTandhadundergoneSLTbetween2008and2010.Meanpatientagewas62.3±12.0years(mean±standarddeviation),rangingfrom42to81years.Followupperiodwas18.3±8.1months,rangingfrom1to33months.Ofthe15eyes,8hadundergoneLOTwithphacoemulsi.cationandaspiration+intraocularlensimplantation(PEA+IOL);theother7eyeshadundergonesingleLOT,3ofthosealsoreceivingPEA+IOL.SLTwasappliedover360degreesofthetrabecularmeshwork.MeanIOPdecreasedfrom19.2±3.4mmHgto15.4±3.1mmHgat1month,13.7±3.2mmHgat3months,14.1±2.7mmHgat6months,and16.1±4.0mmHgat12months.IOPreductionratewas18.5±15.6%at1month,26.9±17.7%at3months,24.4±18.9%at6months,and17.3±17.3%at12months,signi.cantlydi.erentvalues(p<0.05).Theresponderratefor10%,20%orover3mmHgpressurereductionwas80%,53.3%,or60.0%respectively.Kaplan-Meiersurvivalanalysisshowedthatthesuccessratesfortwoconsecutive10%IOPreductionat12monthsafterSLTwas58.2%.Pre-SLTIOPandpost-SLTIOPshowedcorrelationonmultipleregressionanalysis.SLTsigni.cantlydecreasedIOPinpatientswithPOAGwhohadundergoneLOT.SLTappearstobeane.ectivetreatmentforuncontrolledPOAGwithpriorhistoryofLOT,before.lteringsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):267.271,2012〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,線維柱帯切開術,原発開放隅角緑内障,眼圧.selectivelasertrabe-culoplasty,trabeculotomy,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure.〔別刷請求先〕森村浩之:〒664-8533伊丹市車塚3-1公立学校共済組合近畿中央病院眼科Reprintrequests:HiroyukiMorimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital,3-1Kurumazuka,Itami,Hyogo664-8533,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(119)267はじめに原発開放隅角緑内障(POAG)に対して線維柱帯切開術(LOT)を行った後の眼圧は,15mmHg以上のhighteensになることが多いと報告されている1).緑内障の病期が早期あるいは,高齢であれば,この眼圧値でも許容されると考えられるが,経過観察中,視野進行がみられたり,眼圧上昇をきたし,さらに追加処置が必要になることもある.この場合,線維柱帯切除術が行われることが一般的である2).しかし,線維柱帯切除術には濾過胞への細菌感染をはじめとした少なくない合併症が知られており,患者の年齢,意思を考えた場合,レーザーなど他の方法も考慮される場合がある3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は1995年にLatinaらによりメラニン吸収率の高い半波長Nd:YAGレーザー(波長532nm)をごく短時間照射することにより隅角色素上皮のみに選択的に作用し,眼圧を下降させる基礎実験が報告された4).その後,1998年にヒトでの応用が初めて報告され,以降数多くの眼圧下降の報告がされている5.10).これまで,無治療のPOAGあるいは,抗緑内障点眼薬使用中でのSLTの検討が多く,緑内障手術後のSLTの効果についての報告は少ない.今回,筆者らはLOT後に眼圧コントロール不良,視野進行により,さらに眼圧下降が必要になり,その方法としてSLTを行い,その眼圧下降効果についてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法対象は,2008年1月から2010年5月までに当科でLOT後に眼圧コントロール不良,視野進行により,さらに眼圧下降のためSLTが必要になったPOAG症例15例15眼で,LOTは1回行われており,初めてSLTを施行し,1カ月以上経過観察できた症例とした.眼圧測定は,Goldmanntonometerで行った.LOTはLOT単独で行った症例が7眼,そのうち3眼ではLOT以前に超音波乳化吸引白内障手術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)が行われており,IOL挿入眼であった.8眼はLOT+PEA+IOLが行われていた.男性7例7眼,女性8例8眼,平均年齢は62.3±12.0歳(42.81歳),平均観察期間は18.3±8.1カ月(1.33カ月),LOTからSLTまでの期間は平均44.1±44.2カ月(3.192カ月),術前眼圧19.2±3.4mmHg(14.26mmHg),緑内障治療薬は平均2.3±0.6剤(1.3剤)であった.SLT後,経過観察期間中は点眼薬の変更は1眼で,SLT後6カ月でラタノプロスト1剤からラタノプロスト+チモロール合剤とブリンゾラミド点眼に増量していた.この1眼は点眼増量の時点で打ち切りとした.観血的治療をSLT後に行った症例は,今回の経過観察中にはなかった.SLTは術前に十分説明し,患者から同意を得たうえで,ellex社製TangoRを使用し,波長532nm,spotsize400μm,パルス幅3ns,照射範囲は360°全周行った.Powerは気泡が生じる程度の最小エネルギーで0.6.0.9mJで,平均103発(80.120発)照射した.総照射エネルギーは平均85.3±15.5mJ(64.0.132.0mJ)であった.全症例でSLT前後に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)を点眼し,ステロイド点眼は使用しなかった.SLT前とSLT後の平均眼圧を比較して,pairedt-testで検定した.同時期に行った観血的治療既往のないSLT単独治療を行った15例15眼と比較し,pairedt-testで検定した.SLTの有効率を眼圧10%,20%,3mmHg以上下降に分類し,検討した.緑内障点眼薬数を2剤以下と3剤以上の症例に分けて,眼圧下降率を比較検討した.眼圧下降率が2回連続で10%未満となったときの最初の時点,緑内障点眼薬が増加したときをendpointと定義して,Kaplan-Meier生命表解析を行った.さらに眼圧に影響する因子を重回帰分析により検討した.検討した因子は,性別,年齢,LOTからSLTまでの期間,緑内障点眼薬数,SLT総エネルギー,SLT前の眼圧である.統計解析ソフトはJMPver8.0を使用した.II結果症例全体の眼圧経過を図1に示す.SLT前の眼圧は19.2±3.4mmHgで,SLT1カ月後15.4±3.1mmHg,3カ月後13.7±3.2mmHg,6カ月後14.1±2.7mmHg,12カ月後16.1±4.0mmHg,最終診察時14.9±3.7mmHgとなり,SLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月でSLT前に比べすべての時期で,有意に眼圧は下降した(p<0.05).図2に眼圧下降率を示す.SLT後1カ月で18.5±15.6%,3カ月で26.9±17.7%,6カ月で24.4±18.9%,12カ月で17.3±17.3%,最終診察時20.0±21.7%となった.当院で同時期に行った緑内障点眼使用症例でSLTのみを行った15例15眼では,SLT前の眼圧は18.6±4.4mmHgで,SLT1カ月後15.4±4.0mmHg,3カ月後14.8±3.5mmHg,6カ月後15.4±3.9mmHg,12カ月後15.5±2.8mmHg,最終診察時(平均観察期間23.7±6.7カ月)15.3±2.6mmHgであった.各時期ともLOT後のSLT症例の眼圧値と有意な差はみられなかった(p>0.05).最終診察時(平均観察期間18.3カ月)での,SLTの有効率は10%以上下降とした場合80%,20%以上下降とした場合53.3%,3mmHg以上下降とした場合60%となった.また,SLT後6カ月での有効率は10%以上下降した場合64.3%,20%以上下降とした場合57.1%,3mmHg以上下降とした場合64.3%となった.SLT前の緑内障点眼薬数を2剤以下と3剤以上に分けて,SLTによる眼圧下降値を検討した.2剤以下の群ではSLT前19.1±4.2mmHgであったが,SLT後最終診察時は14.3268あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(120)017.318.520.024.426.920406080眼圧下降率(%)100観察期間(眼数)図1LOT後のSLTの眼圧経過Pairedt-test*:p<0.05.1009080706050403020100123456789101112観察期間(月)図3眼圧下降率10%未満が2回連続した最初の時点をend累積生存率(%)観察期間(眼数)図2LOT後のSLTによる眼圧下降率表1重回帰分析によるSLTの眼圧下降に影響を与える因子についてF値p値性別4.20230.0745年齢0.00340.9547LOT-SLT期間0.85510.3822点眼数0.91470.3669SLT総エネルギー4.44220.0681SLT前の眼圧値11.65290.0092**:p<0.05.内障に対してSLTを行った結果を検討した.これまで,未治療のPOAGに対するSLTの効果については,McIlraithpointと定義したKaplan-Meier生命表解析±3.6mmHgとなり,眼圧下降率は25.1%であった.3剤以上の群ではSLT前19.3±1.1mmHgであったが,SLT後最終診察時は15.8±3.8mmHgとなり,眼圧下降率は18.1%であった.両群間のSLT前,SLT後の眼圧,眼圧下降率に有意差はみられなかった.眼圧下降率が2回連続10%未満となったときの最初の時点あるいは緑内障点眼薬が増量となった時点をendpointと定義したKaplan-Meier生命表解析結果を図3に示す.SLT後1カ月で80.0%,3カ月で80.0%,6カ月で65.5%,12カ月で58.2%の生存率となった.SLT後の眼圧下降率に影響を与える因子を重回帰分析により検討した(表1).SLT前の眼圧値が高い症例ほど眼圧下降率が高く,有意に相関していた(p<0.05).性別,年齢,LOTからSLTまでの期間,緑内障点眼薬数,SLT総エネルギーにおいては,有意な相関はみられなかった.III考按今回は,すでに線維柱帯切開術が行われている開放隅角緑ら,Nagarらにより,SLT後1年で30%以上の眼圧下降効果があると報告されている6,7).緑内障点眼薬使用下でのSLTの成績についても数多くの報告がある10.14).有効性については,各報告により異なり,また対象症例の病型,背景も異なるため,単純な比較は困難であるが,緑内障点眼下では,眼圧下降率は10%台となり,未治療のPOAGに対する効果より小さくなっていた.さらに緑内障手術が行われている症例に対するSLTの報告では,これまでは濾過手術と流出路再建術をまとめて緑内障手術歴として検討されていることが多い.緑内障手術のSLTの眼圧下降に与える影響については,報告により異なる.真鍋らはLOTと線維柱帯切除術(LEC)を合わせて8眼で検討しており,手術既往眼のほうが,有意に眼圧下降していたと報告している15).南野らも症例数は少ないが,LEC3眼(2眼は非穿孔性線維柱帯切除術,1眼が線維柱帯切除術)で,それぞれSLTが有効であったと報告している16).一方,望月らは眼圧下降幅3mmHg以上または眼圧下降率20%以上を有効とした場合,LEC4眼ではすべて無効で,LOT1眼も3カ月までは有効であったが6カ月目に無効になったと,LEC既往眼で成績が悪かったと報告している17).(121)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012269上野らは,濾過手術5眼,流出路再建術4眼でSLT後3カ月で有意な眼圧下降がみられなかったと報告している18).今回筆者らの検討では,SLT360°照射で,SLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月において,有意な眼圧下降が得られ,有効率は10%以上下降とした場合80%,20%以上下降とした場合53.3%,3mmHg以上下降とした場合60.0%となった.これは,未治療のPOAGに対するSLTの効果より弱いが,緑内障点眼薬使用下でのSLTの効果と同程度と考えられ,LOT後のSLTは,今回の検討では有効であった.今回の検討でも緑内障点眼薬は2.3±0.5剤使用されており,緑内障点眼薬使用のうえにさらにLOTを行っている症例であった.緑内障点眼薬の薬剤数とSLTの効果については,点眼薬数が多いほうがSLTの効果が弱いという報告9,10,19)がある一方,緑内障点眼薬が処方されている症例ではSLTの効果はSLT前の点眼数の量には影響されないという報告8,17,20)もあり,報告により差がみられる.LOT後のSLTの効果についても,緑内障点眼薬2剤以下と3剤以上使用例に分けて眼圧下降率を検討したが,2剤以下の症例群では25.1%,3剤以上でも18.1%と両群間に有意な差はみられなかった.まったく緑内障点眼薬が使用されていない未治療例と比べると緑内障点眼薬使用群はSLTの効果が減弱する可能性があるが,複数の緑内障点眼薬が使用されている場合には,SLTとの相互作用を判断するのはむずかしいと考えられた.今回,SLTの効果に影響を与える因子として,SLT前の眼圧があげられたが,これはSLT前の眼圧が16mmHg以上の群で成績がよかったという報告17)やSLT1年後の眼圧下降率が大きい症例は有意にSLT前眼圧が高かったという報告21),術前眼圧が低い症例では有意にSLTが不成功になりやすかったという報告9),SLT前眼圧とSLT後1カ月の眼圧下降率の単回帰分析で,術前眼圧が低いほど眼圧下降率が小さくなったという報告10)に一致する結果であった.今回のLOT後のPOAGに対してSLTを行った検討では,SLT後12カ月まで有意な眼圧下降が得られ,その程度はこれまでの緑内障点眼を行っている症例に対するSLTの効果と同程度であった.そのなかでもSLT後3カ月,6カ月では20%以上の眼圧下降率が得られたが,これはLOT後のPOAGで,さらに眼圧下降が必要になった症例に絞られたため,SLT前の眼圧がいわゆるlowteensの眼圧の症例がなく,比較的SLT前の眼圧が高い症例になったことが関連していると考えられる.SLTは比較的合併症の少ない治療で,LOT後であっても有意な眼圧下降が得られたので,LECを行う前に一度試みられてもよいと考えられた.しかし,本検討はレトロスペクティブな検討であり,症例数も少ないため,今後さらに症例数を増やし,長期間の検討を行うとともに,プロスペクティブな検討も必要と考えられた.本論文の要旨は,第21回日本緑内障学会(2010年)にて発表した.文献1)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20002)稲谷大:緑内障Now!緑内障の治療レーザー治療・手術治療線維柱帯切開術の術後管理のポイントは?あたらしい眼科25(臨増):172-174,20083)東出朋巳:緑内障手術の限界術中・術後合併症からみた安全性の限界.眼科手術17:9-14,20044)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,19955)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2088,19986)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,20067)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Arando-mised,prospectivestudycomparingselectivelasertrabe-culoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20058)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19999)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassoci-atedwith180degreesselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,200510)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,200711)JuzychMS,ChopraV,BanittMRetal:Comparisonoflong-termoutcomesofselectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplastyinopen-angleglauco-ma.Ophthalmology111:1853-1859,200412)DamjiKF,BovellAM,HodgeWGetal:Selectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplasty:resultsfroma1-yearrandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol90:1490-1494,200613)Martinez-de-la-CasaJM,Garcia-FeijooJ,CastilloAetal:Selectivevsargonlasertrabeculoplasty:hypotensivee.cacy,anteriorchamberin.ammation,andpostoperativepain.Eye18:498-502,200414)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertrabeculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospec-tiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,199915)真鍋伸一,網野憲太郎,高島保之ほか:SelectiveLaserTrabeculoplastyの治療成績.眼科手術12:535-538,199916)南野桂三,松岡雅人,安藤彰ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科26:1249-1252,2009270あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(122)17)望月英毅,高松倫也,木内良明:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率.あたらしい眼科25:693-696,200818)上野豊広,岩脇卓司,湯才勇ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科25:1439-1442,200819)松葉卓郎,豊田恵理子,大浦淳史ほか:全周照射による選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.眼科手術22:401-405,200920)山崎裕子,三木篤也,大鳥安正ほか:大阪大学眼科における選択的レーザー線維柱帯形成術の成績.眼紀58:493-498,200721)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpredictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,2005***(123)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012271

ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):259.265,2012cラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討広田篤*1井上康*2永山幹夫*3相良健*4岡田康志*5古本淳士*6木内良明*7*1広田眼科*2井上眼科*3永山眼科クリニック*4さがら眼科クリニック*5おかだ眼科*6ふるもと眼科*7広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学E.cacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforLatanoprostAtsushiHirota1),YasushiInoue2),MikioNagayama3),TakeshiSagara4),KojiOkada5),AtsuhitoFurumoto6)YoshiakiKiuchi7)and1)HirotaEyeClinic,2)InoueEyeClinic,3)NagayamaEyeClinic,4)SagaraEyeClinic,5)OkadaEyeClinic,6)FurumotoEyeClinic,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences目的:ビマトプロスト(bimatoprost:BIM)点眼薬の眼圧下降効果と安全性を比較検討した.方法:24週間以上ラタノプロスト(latanoprost:LAT)単独または併用療法を行っても眼圧下降が不十分な広義原発開放隅角緑内障65例65眼を対象とした.LATをBIMに切替えて24週間観察した.結果:眼圧は切替え前17.5±4.1mmHgで,BIM切替え2週後15.7±3.6mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも有意に下降した(p<0.0001).切替え前からの眼圧下降率が20%以上の症例は53%であった.結膜充血スコアは切替え前より2週後で有意に高かった(p<0.05).副作用出現(5例)は角膜上皮障害5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度であった.中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用2例,手術施行1例,患者希望4例であった.結論:BIMはLATで効果不十分な症例に対し,さらなる眼圧下降効果が期待できる.Object:Toevaluatethesafetyandocularhypotensivee.ectofbimatoprost(BIM)asareplacementforlatanoprost(LAT).Method:BIMwasadministeredfor24weeksto65eyesof65primaryopen-angleglaucomapatientswhowereintolerantofLATtherapyexceeding24-weeks.Results:Intraocularpressure(IOP)was17.5±4.1mmHgatbaseline,15.7±3.6mmHgat2weeksand14.1±3.4mmHgat24weeksaftertheswitch(p<0.0001).IOPchangewas≧20%in53%ofpatients.Conjunctivalhyperemiascoreincreasedsigni.cantlyat2weeks(p<0.05).Adverseeventsobservedin5patientscomprisedcornealepitheliumdisorders:5;conjunctivalhyperemia:1andocularpain:1.Withdrawalsfromthestudytotaled8patients:1forine.ectivenessorincreasedIOP;2foradverseevent;1forsurgeryand4forceasedparticipation.Conclusion:BIMise.ectiveasareplacementforLATinpatientswhoareintolerantofLATtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):259.265,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,ビマトプロスト,眼圧,副作用.glaucoma,latanoprost,bimatoprost,intraocularpressure,sidee.ect.はじめに緑内障治療でevidence-basedmedicine(EBM)が確認された唯一の治療は眼圧下降であり,その治療法の主体は薬物療法である.薬物療法は点眼薬が主で,交感神経作動薬,副交感神経作動薬に加え,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhy-draseinhibitor:CAI)およびプロスタグランジン(prosta-glandin:PG)系薬などの多種の薬剤が市販されている.現在,緑内障治療薬のなかで最も汎用されているのはPG系点眼薬で,2011年3月の時点でわが国では5種類の市販薬が〔別刷請求先〕広田篤:〒745-0017山口県周南市新町1-25-1広田眼科Reprintrequests:AtsushiHirota,M.D.,HirotaEyeClinic,1-25-1Shinmachi,Shunan-city,Yamaguchi745-0017,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)259ある.イソプロピルウノプロストンを除くPG系薬は他の薬剤に比べ,眼圧下降効果は強いが,全身副作用が少なく,点眼回数は1回/日で使いやすい.しかし,結膜充血,虹彩色素沈着などの局所の副作用の頻度が高いことも指摘されている1).2009年11月から使用可能になったPG系点眼薬のビマトプロスト(bimatoprost:BIM)はプロスタマイド系,ラタノプロスト(latanoprost:LAT),トラボプロスト,タフルプロストはプロスタノイド系に分類されている.LAT,トラボプロスト,タフルプロストはプロドラッグで,アシッド体に変化してからプロスタノイド受容体に結合してぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進する.一方,BIMは未変化体として直接プロスタマイド受容体に結合して房水流出を促進する2).そのため患者によってPG系薬の効果に差がある可能性があり,海外では原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)あるいは高眼圧症(ocularhypertension:OH)の患者に対しBIMはLATと比較して眼圧下降効果は高いが,結膜充血も強いとの臨床結果がクロスオーバー試験3)あるいは多施設二重盲検試験4,5)により報告されている.わが国におけるBIMとLATの多施設二重盲検比較試験の報告6)でも同様の結果であった.また,LATで眼圧下降が認められない症例が,BIMで有意に下降したとの報告もある3).LATで治療されているが眼圧下降が不十分な緑内障患者に対しては,他剤との併用が試みられることが多かったが,副作用の増加や患者の利便性を考えると,安易な薬剤の追加は避けるべきである.筆者らは以前,LATからトラボプロスト(保存剤:sofZiaTM)への切替えの有効性と安全性を評価し,眼圧は不変であったが,角膜上皮障害は減少することを報告した7).今回,LAT単独,あるいはLATと他剤との併用で治療されていて眼圧下降が不十分な症例について,LATをBIMに変更したときの眼圧下降効果と安全性について比較検討したので報告する.I対象および方法1.対象2009年12月から2010年5月の間に6施設を受診した広義POAG患者で,LAT単剤またはLATと他の緑内障治療表1除外基準1)評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術の既往を有する者2)評価対象眼においてLAT投与前6カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者および治療薬を変更した者3)緑内障以外の活動性の眼科疾患を有する患者4)重症の角結膜疾患を有する者5)観察期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する患者6)観察期間中コンタクトレンズ装用が必要な患者7)その他,担当医師が適切でないと判断した患者薬を併用して24週間以上治療を継続したが眼圧が目標値に達せず,眼圧下降が不十分と判断された症例を対象とした.評価対象は1患者について1眼とし,点眼治療のみで眼圧コントロールが可能で矯正視力が0.7以上の眼を評価対象眼とした.両眼ともに選択基準を満たす場合は,原則として切替え前の眼圧が高い眼を評価対象眼とし,眼圧が同じ場合は右眼を採用した.症例の除外基準を表1に示した.2.方法a.投与方法0.005%LATを休薬期間を置かずに0.03%BIMに変更して24週間点眼した.他の緑内障治療薬は切替え前後で用法を含めて変更しないこととした.全身および局所のステロイド薬は併用禁忌とした.ただし皮膚局所投与は併用可とした.試験期間中,眼圧に影響を及ぼす新たな薬剤投与は行わないものとし,試験期間中に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)や濾過手術の必要のある症例は中止例とした.b.観察項目①患者背景因子年齢,性別,病歴,矯正視力,視野,緑内障併用薬,内眼手術の既往について検討した.②眼圧検査点眼切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に測定した.測定はGoldmann圧平式眼圧計を用いて,2回測定し,平均値を測定値とした.切替え後の各観察日の表2結膜充血判定基準0:充血(.)0.5:軽微な充血1:軽度の充血2:中等度の充血3:高度の充血260あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(112)測定時間は切替え前の測定時間の前後2時間以内とした.③視野検査Humphrey視野計プログラム30-2を用いて,切替え前と観察終了時(24週後)に測定した.なお,切替え前6カ月以内の視野および観察終了後3カ月以内の視野をもって,切替え前と観察終了時のものに充てることができることとした.④他覚所見結膜充血と角膜上皮障害は,切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に判定した.結膜充血は表2の判定基準に従い,角膜上皮障害はMiyataら8)のArea-Density(AD)分類により判定した.⑤患者アンケート切替え前,切替え12,24週後に実施した.自覚症状は結膜充血,異物感(目がゴロゴロする),刺激感(点眼時しみる)についてVAS(visualanaloguescale)で確認した.また,「眼圧の気になり方」,「点眼忘れの頻度」,「容器の点眼のしやすさ」,「その他気になること」について質問表を用いて調査した.c.評価項目と統計解析評価項目は眼圧,視野,視力(logMAR),他覚所見(結膜充血,角膜上皮障害),およびアンケートによるVAS(結膜充血,異物感,刺激感)とした.解析は,眼圧,視野,視力(logMAR)およびアンケートのVAS(充血,異物感,点眼刺激感)についてはpairedt-test,他覚所見についてはWilcoxonsigned-ranktestを用いて検定した.有意水準は5%未満とした.なお,本試験は倫理審査委員会の承認後,同意を取得できた患者を対象に通常の診療範囲内にて実施した.II結果1.対象および患者背景選択基準を満たした65例65眼を評価対象とした.年齢は平均74.4±8.0歳(53.93歳),男性32例(49.2%),女性33例(50.8%)であった.緑内障の病歴は5年以内が41例(63.1%)であった.症例選択時の緑内障治療薬は,LAT単剤が34例(52.3%),LAT+b遮断薬が12例(18.5%),LAT+CAIが8例(12.3%),LAT+b遮断薬+CAIが6例(9.2%),LAT+その他が5例(7.7%)であった(表3).中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用発現2例,患者希望4例,1例は対象眼の手術施行により中止した.各症例の内訳を表4に示す.無効または眼圧上昇により中止した1例は0日眼圧17.5mmHg,2週後16.5mmHg,4週後14.5mmHg,8週後16.5mmHg,12週後17.5mmHg,16週後14.0mmHg,20週後15.0mmHg,24週後14.5mmHgと変動があり,主治医の判断で中止した.(113)表3患者背景性別男性32(49.2%)女性33(50.8%)74.4±8.0歳年齢〔平均±SD(範囲)〕(53.93歳)視野〔MD:平均±SD(.)(範囲)〕.6.61±4.82(.25.3..0.1)LogMAR視力〔平均±SD(範囲)〕.0.06±0.08(.0.2.0.2)病歴<1年5(7.7%)<5年36(55.4%)<10年15(23.1%)10年≧9(13.8%)緑内障併用薬34(52.3%)31(47.7%)変更前の使用薬剤分類LATのみ34(52.3%)LAT+b遮断薬12(18.5%)LAT+CAI8(12.3%)LAT+b遮断薬+CAI6(9.2%)LAT+a1遮断薬2(3.2%)LAT+b遮断薬+a1遮断薬1(1.5%)LAT+CAI+a1遮断薬1(1.5%)LAT+b遮断薬+CAI+a1遮断薬1(1.5%)内眼手術の既往(評価対象眼)34(52.3%)31(47.7%)白内障手術29(93.5%)Argonlasertrabeculoplasty5(16.1%)その他1(3.2%)無有無有表4中止例(8例)内訳BIM投与中止理由BIM投与期間無効または眼圧上昇24週間角膜上皮障害発現16週間角膜上皮障害発現・結膜充血24週間頭重ありとの患者希望によりLATに戻す2週間刺激感ありとの患者希望によりLATに戻す4週間右眼ぼやけるとの患者希望により他剤に変更16週間点眼忘れあるため,点眼数を減らしたいとの患者希望により配合剤に変更20週間対象眼手術施行のため(除外基準)4週間2.眼圧についてa.眼圧の推移全眼の眼圧は,0日17.5±4.1mmHg,切替え2週後15.7±3.6mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後15.2±3.2mmHg,12週後15.3±3.0mmHg,16週後14.7±3.4mmHg,20週後14.8±3.4mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも切替え後に有意に低下していた(いずれもp<0.0001,あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122610日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(65)(59)(60)(58)(59)(52)(54)(56)(34)(32)(33)(31)(32)(28)(29)(31)()は眼数()は眼数図1眼圧の推移(全眼)図2眼圧推移(LAT単剤からBIM単剤)0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(12)(11)(11)(11)(11)(11)(10)(11)()は眼数p値vs0日─0.07020.00000.00290.00670.00220.00330.0009pairedt-test図3眼圧の推移(LAT+b遮断薬からBIM+b遮断薬)p値vs2週後,pairedt-test図4眼圧下降率と症例分布pairedt-test)(図1).LAT単剤投与眼では,0日16.8±4.0mmHg,切替え2週100*後15.3±3.2mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後14.9±803.3mmHg,12週後14.7±3.2mmHg,16週後15.3±3.3mmスコア症例(%)Hg,20週後14.5±3.3mmHg,24週後,14.1±3.8mmHg60と,いずれも有意に低下していた(いずれもp<0.0001,40pairedt-test)(図2).LATとb遮断薬併用眼では,0日17.4±2.7mmHg,切替え2週後15.7±2.5mmHgと有意差はなかった(p=0.0702)が,4週後13.7±2.9mmHg,8週後14.6±2.0mmHg,12週後15.3±1.4mmHg,16週後13.6±3.0mmHg,20週後14.2±2.3mmHg,24週後13.8±2.4mmHgで有意に低下していた(4週後:p<0.0001,8,12,16,20週後:p<0.01,24週後:p<0.001,pairedt-test)(図3).b.眼圧下降率の推移眼圧下降率は,切替え2週後10.4%,4週後14.5%,8週後11.8%,12週後10.4%,16週後17.1%,20週後15.1%,24週後18.0%であり,2週後の眼圧下降率に比べ4,16,20,24週後では有意に増加した(4,20週後:p<0.05,16,24週後:p<0.01,pairedt-test)(図4).262あたらしい眼科Vol.29,No.2,201220:000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後*:p<0.05vs0日Wilcoxonsigned-ranktest図5結膜充血スコアの分布3.結膜充血BIM切替え前の結膜充血発現症例は67.3%で,スコア1が44.6%を占めていた.BIM切替え2週後では有意に充血が強くなり(p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest),切替え前になかったスコア2の発現もあった.4週後は充血が強い傾向がみられた(p=0.0522)が,8週以降に有意差はなかっ(114)■:充血:異物感■:しみる**スコア症例(%)■:4■:3■:2:02000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後Wilcoxonsigned-ranktest12週後24週後図6AD分類スコア(A+D)の分布た(図5).4.角膜上皮障害性BIM切替え24週後までのいずれの観察時点でもスコアの分布に差はなかった(図6).BIM切替え前に角膜上皮障害が認められた11例のうち,BIM切替え後,7例は軽減あるいは消失し,4例は変化がなかった.5.視野と視力BIM切替え前meandeviation(MD値)は.6.61±4.82dB,切替え24週後では.6.16±4.42dBで有意差はなかった.LogMAR視力は,BIM切替え前.0.06±0.08,切替え12週後.0.05±0.09,24週後.0.05±0.08といずれの観察時点でも有意差はなかった.6.患者アンケート(VASスコアと回答)「結膜充血」「異物感」のVASスコアは切替え前,切替え12週後,24週,後のいずれでも差はなかった.「刺激感」のVASスコアは切替え前の0.77±1.41,切替え24週後0.33±0.82と有意に小さかった(図7)(p<0.01,pairedt-test).BIMに切替え前で『眼圧が気にならない』患者は28例(43.1%)で,『ときどき気になる』『いつも気になる』は37例(56.9%)であった.『点眼後に眼からあふれた液を拭きとったり,洗い流している』患者は51例(78.5%)であった.「点眼忘れの頻度」はBIM切替え前,切替え12週後,24週後で『めったに忘れない(多くても2.3回/月くらいしか忘れない)』がそれぞれ95.4%(62/65),96.7%(58/60),94.5%(52/55)であった.「その他気になること」では,『目のまわりが黒くなる』がそれぞれ16.9%(11/65),23.3%(14/60),25.5%(14/55)『睫毛が長くなる』はそれぞれ3.1%(2/65),0%,9.1%/55)であった.24週後で『瞼(5,がくぼんだような気がする』が5.5%(3/55)あった.「点眼のしやすさ」では,切替え前は『点眼しやすい』が18.0%(11/61)『点眼しにくい』が4.9%(3/61)であったが,切替え12週,後では『LATと同じ』66.1%(37/56),『BIMのほうがよい』16.1%(9/56)『LATのほうがよい』17.9%(10/56)であった.切替え12後および24週後に週,図7自覚症状(VAS)の推移『BIMを継続する』はそれぞれ100%(57/57)および94.6%(53/56)であった.7.副作用副作用として報告されたのは5例7眼であった.内容は角膜上皮障害が5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度で処置を必要とするものはなかった.III考按LAT単剤またはLATと他剤併用で24週間以上点眼治療を実施し,目標眼圧に達せず眼圧下降が不十分と判断されたPOAG患者で,LATをBIMに切替えた65例65眼について検討した.眼圧下降効果については,BIMに切替えた結果,単剤(34眼)あるいはb遮断薬併用(12眼)のいずれの群も眼圧は有意に低下した.vanderValkら9)のPOAGおよびOH患者を対象とした27の無作為二重盲検比較試験のメタアナリシスでは,LATの眼圧下降率はトラフが.28%,ピークが.31%,BIMはトラフが.28%,ピークが.33%であり,BIMのほうがピーク時では眼圧下降率は大きかった.同様にAptelら10)のPOAGおよびOH患者1,610人を対象としたメタアナリシスでは,BIMの眼圧下降値はLATより8:00,12:00,16:00,20:00のいずれの測定時刻でも有意に高かった.今回の試験はこれらの試験と異なり,LAT効果不十分例に対しての切替えであるが,各観察時点で有意な眼圧下降を得られた.これはLATがプロスタノイド受容体に作用するのに対し,BIMはプロスタマイド受容体に作用していることが要因の一つと推測される2).このことからLAT効果不十分例においてLATからBIMへの切替えは有効な選択肢の一つと考えられる.また,本試験ではBIMに切替え後,眼圧下降率は時間の経過とともに増加し,16週以降で安定すると考えられた.以上の結果は,BIM切替えの効果は,切替え早期では判定できないことを示唆している.結膜充血は,BIMに切替え前に0%であったスコア2が2(115)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012263週後では6.8%と増加した.切替え前32.3%であったスコア0が2週後では18.6%と減少した.その結果,2週後の結膜充血スコアは切替え前に比べ有意に増加した.しかし,4週後から24週後までは切替え前と有意差はなく,長期投与に伴って結膜充血が重症化することはなかった.VASスコアでもBIM投与12週後および24週後で,いずれも切替え前と差はなかったことから,BIMは点眼2週前後は結膜充血の程度が強いが,4週以降はLATと同程度と考えられた.PG系点眼薬の結膜充血は,いずれの薬剤も使用早期に発現し,長期使用による増加または増悪は少ないことから11.13),BIMも他剤と同様の推移を示したものと推測される.角膜上皮障害はBIM切替え前と切替え24週後までいずれの時点でも差はなかった.BIM投与中に5眼で副作用として角膜上皮障害が発現したが,いずれも軽度で中止した症例はなかった.BIMに切替え前に角膜上皮障害が発現していた11眼中4眼はBIM切替え24週後も変化がなかったが,7眼は角膜上皮障害が軽減あるいは消失した.これについて福田らは家兎角膜障害性の基礎的な検討14)で,BIMの角膜上皮障害性はLATより低く,その要因は添加剤によるものではないかと推測している.また,「刺激感」のVASスコアは切替え24週後で有意に低かった.これらのことから,BIMの角膜障害性や刺激性はLATより低いと考えられ,両剤のpH(LAT:6.5.6.9,BIM:6.9.7.5)やベンザルコニウム塩化物の濃度(LAT:0.02%,BIM:0.005%)の違いが反映されたものである可能性が考えられる.試験期間中のコンプライアンスは,患者のアンケートにおいて「点眼忘れの頻度」は試験を通じてほとんどが『めったに忘れない』と回答し,『週1,2回忘れる』が数例であったことから,良好であると考えられた.「点眼のしやすさ」では『LATのほうが良い』が17.9%,『BIMのほうが良い』は16.1%であったが,切替え24週後でBIMから他の薬剤に変えたいとの回答は3例(5.3%)だけであった.変更希望の理由は『LATのほうが良い』,『薬剤数を減らしたい』『眼のまわりが黒くなる』であった.継続希望例(94.6%)では,『,点眼瓶が使いやすい』,『しみない』など積極的な理由もあったが,『切替えにより特に問題はなかった』との理由が最も多く,患者使用感については両剤に差はないものと考えられた.副作用として角膜上皮障害や結膜充血が5例7眼に認められたが,いずれも軽微であった.以上の結果から,LATで眼圧下降が不十分な緑内障患者には,PG系薬以外の薬剤の追加をする前にまずはBIMに切替える方法が患者の利便性や医療経済の面から勧められる.さらに,今回の試験の患者にも含まれていると思われるLATのノンレスポンダーに対し,結膜充血や角膜障害性などの安全性を考慮しても眼圧下降効果がより強いBIMを第一選択薬にしても問題ないと考えられた.ただし,今回の試験では発現は認められなかったが,色素沈着,睫毛伸長,眼瞼陥凹などの副作用も報告されていることから15.18),患者にも本剤のメリットとデメリットを十分理解させてアドヒアランスを高めていく必要がある.本稿の要旨は,第21回日本緑内障学会において発表した.文献1)LeeAJ,McCluskeyP:Clinicalutilityanddi.erentiale.ectsofprostaglandinanalogsinthemanagementofraisedintraocularpressureandocularhypertension.ClinOphthalmol4:741-764,20102)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:Identi.cationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,20083)Gandol.SA,CiminoL:E.ectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20034)DirksMS,NoeckerRJ,EarlMetal:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20065)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpres-sure-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOph-thalmol135:55-63,20036)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20107)KanamotoT,KiuchiY,SuehiroT:E.cacyandsafetyoftopicaltravoprostwithsofZiapreservativeforJapaneseglaucomapatients.HiroshimaJMedSci59:71-75,20108)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuper.cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20039)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200510)AptelF,CucheratM,DenisPetal:E.cacyandtolera-bilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofran-domizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,200811)AlagozG,BayerA,BoranCetal:Comparisonofocularsurfacesidee.ectsoftopicaltravoprostandbimatoprost.Ophthalmologica222:161-167,2008264あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(116)12)AbelsonMB,MrozM,RosnerSAetal:Multicenter,open-labelevaluationofhyperemiaassociatedwithuseofbimatoprostinadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTher20:1-13,200313)相原一:プロスタグランジン関連眼圧下降薬の選択.日本の眼科81:1025-1026,201014)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,201015)CentofantiM,OddoneF,ChimentiSetal:Preventionofdermatologicsidee.ectsofbimatoprost0.03%topicaltherapy.AmJOphthalmol142:1059-1060,200616)SharpeED,ReynoldsAC,SkutaGLetal:Theclinicalimpactandincidenceofperiocularpigmentationassociat-edwitheitherlatanoprostorbimatoprosttherapy.CurrEyeRes32:1037-1043,200717)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200918)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy─anunfamiliarsidee.ectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,2010***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012265

β遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液に切り替えた緑内障患者の効果および安全性

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):253.257,2012cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液に切り替えた緑内障患者の効果および安全性武田桜子上村文松原正男東京女子医科大学東医療センター日暮里クリニックE.cacyandSafetyofSwitchtotheDorzolamide/TimololFixedCombinationinGlaucomaPatientsSakurakoTakeda,AyaUemuraandMasaoMatsubaraTokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,NipporiClinic多剤使用している緑内障治療薬の種類を減らし,またはさらに眼圧を下げたい症例で,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬〔以下,CAI(carbonicanhydraseinhibitor)〕の配合点眼液(コソプトR配合点眼液,以下,b/CAI配合点眼液)に切り替えたときの眼圧,眼圧下降率およびアドヒアランスを調べた.32人の原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障を6カ月にわたり調査した.b遮断薬とCAIを併用していた患者において,b/CAI配合点眼液への変更では,眼圧は有意な変化を示さず,b遮断薬のみ点眼の患者では,b/CAI配合点眼液への変更で眼圧は有意に変化した.84.2%の患者がb/CAI配合点眼液を続けたいと答えた.The.xedcombinationofdorzolamide/timolol(CosoptR)isapotentregimenforloweringintraocularpressure(IOP)andisexpectedtobebene.cialinreducingthenumberofinstillationsforbetterpatientcompliance.Enrolledinthisstudywere32glaucomapatientswithprimaryopen-angleglaucomaornormal-tensionglaucomawhohadbeentreatedwithtopicalanti-glaucomamedications.IOPandIOP-loweringratewereevaluatedat6monthsafterswitchingtoa.xedcombinationofdorzolamide/timolol.Theresultsindicatedthatthe.xedcombina-tionofdorzolamide/timololwasase.ectiveinloweringIOPastheconcomitantadministrationofdorzolamideandtimolol,andwasmoree.ectivethanbeta-blockermonotherapy.Oftheenrolledpatients,84.2%preferredtocon-tinueusingthe.xedcombinationofdorzolamide/timolol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):253.257,2012〕Keywords:b遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼液,切り替え試験,眼圧下降率.dorzolamide/timolol.xedcombi-nation,switching,intraocularpressureloweringrate.はじめに緑内障は,多治見スタディでわが国の有病率は5%と報告されている1)が,治療により回復,通院終了することのない慢性疾患であるため,高齢化に伴い今後日常診察での患者数は増え続けると予想される.緑内障治療には眼圧を恒常的に下げることが最も重要であり2),単剤で眼圧コントロールが不十分である際には多剤併用療法を行う必要がある.したがって罹患期間が増えるほど,また眼圧が高いほど多剤併用の患者数は増えていく傾向にある.しかし多種類の点眼を使用すると点眼に費やす時間や手間が増え,結果的にアドヒアランスの低下やqualityoflife(QOL)を下げる可能性がある.b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬〔以下,CAI(carbonicanhydraseinhibitor)〕の配合点眼液であるコソプトR(0.5%チモロールマレイン酸塩/1%ドルゾラミド塩酸塩)配合点眼液(以下,b/CAI配合点眼液)は,色素沈着や睫毛などの変化がなく眼圧下降効果の高い配合点眼液として,海外では10年以上前から使用されており,2010年6月にわが国でも〔別刷請求先〕武田桜子:〒116-0013東京都荒川区西日暮里2-20-1ステーションポートタワー5階東京女子医科大学東医療センター日暮里クリニックReprintrequests:SakurakoTakeda,M.D.,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,NipporiClinic5F,2-20-1Nishi-Nippori,Arakawa-ku,Tokyo116-0013,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)253表1前治療薬と変更内容変更前変更後症例数薬剤減少群(3剤→2剤)bから変更追加群(1剤→1剤)b遮断薬+CAI+PGb遮断薬b遮断薬+PG配合点眼液+PG配合点眼液配合点眼液+PG1964その他群CAI+PG配合点眼液+PG2PG配合点眼液1発売となった.これまでのところ,海外ではb/CAI配合点眼液とb遮断薬およびCAI併用との比較では,b/CAI配合点眼液がb遮断薬およびCAI併用と同等の効果3,4),もしくは上回っている5)といった報告がある.しかし日本で発売されているb/CAI配合点眼液はドルゾラミド塩酸塩濃度が1%であり,海外の2%と比べて低濃度であるので単純に引用することはできない.また現在,日本での長期点眼での眼圧推移や眼合併症に関する臨床報告はない.今回,多剤併用治療症例あるいは眼圧下降効果が不十分な症例をb/CAI配合点眼液へ切り替え,その効果をレトロスペクティブに調べ,併せて自覚症状,使用感,点眼遵守状況などの調査を実施したので報告する.I対象および方法対象は治療中の広義の原発開放隅角緑内障患者32例32眼(男性16例,女性16例,平均年齢67.0±10.5歳).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)11例,正常眼圧緑内障(normaltension-glaucoma:NTG)21例である.b遮断薬とCAI,プロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)の3剤からb遮断薬とCAIをb/CAI配合点眼液に切り替え,3種類から2種類へと総数を減少した群(以下,薬剤減少群とする),b遮断薬1剤からb/CAI配合点眼液1剤に変更追加した群(以下,bから変更追加群とする),他にPG関連薬とb遮断薬もしくはCAIの2剤併用からPG関連薬とb/CAI配合点眼薬への同数変更追加,およびPG関連薬からb/CAI配合点眼液への変更追加(以下,その他群とする)に分けて検討した(表1).評価観察期間は切り替え後6カ月としたが,その間で脱落した症例も脱落時点まで併せて調査した.眼圧評価対象眼は,両眼投与群では眼圧の高い眼を,眼圧が同等であれば右眼を,片眼性視野障害をきたしている眼では障害眼を対象とした.抗緑内障点眼液を2カ月以上連続して使用していない症例,半年以内にレーザー治療を含む内眼手術を受けた症例,ぶどう膜炎などの炎症性疾患,ステロイドの点眼または内服治療中の症例は解析対象から除外した.また,他の併用薬剤は変更しなかった症例を対象とした.併せて,自覚症状,使用感,点眼遵守状況について調査を行った.有意差検定について,点眼効果の判定は,切り替え時の眼圧測定値からの変化率を切り替え6カ月まで集計し,眼圧下降値をSteel’smultiplecomparisontestにて多重比較を,点眼遵守状況については切り替え前後でMann-Whitney-U検定を行い,p<0.05(両側)を有意とした.II結果6カ月の観察期間のうち,脱落例は3例,すべてその他群の症例であった.それぞれ1カ月,4カ月,5カ月後に配合点眼薬を中止した.理由は後述するが,いずれも眼圧上昇によるものではなかった.1.眼圧について全症例では,眼圧は切り替え前12.6±2.8mmHg(平均±標準偏差),切り替え時13.5±2.2mmHg,切り替え2週後で12.1±2.5mmHg,1カ月後で11.5±2.8mmHg,2カ月後で12.0±2.4mmHg,3カ月後で11.9±2.3mmHg,4カ月後で12.5±2.4mmHg,5カ月後で12.0±1.9mmHg,6カ月後で12.9±2.2mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して9.5±17.9%であったが,切り替え2週後.7.5±13.7%,1カ月後.14.4±17.1%,2カ月後.10.9±15.2%,3カ月後.11.3±12.5%,4カ月後.8.9±13.8%,5カ月後.10.0±14.0%,6カ月後.4.3±15.8%であり,6カ月後以外はすべて,切り替え時からの眼圧下降率に有意差が認められた(表2).切り替え後6カ月の眼圧において,b/CAI配合点眼液へ切り替え時の眼圧と比較して2mmHg以上の眼圧下降(以下,改善群とする)がみられたのは38.0%(11/29例),2mmHg以上眼圧が上昇した症例(以下,悪化群とする)は表2切り替え後の眼圧下降率(全症例)投与時期眼圧下降率(Mean±SD)p値*切り替え2週後.7.5±13.70.0126切り替え1カ月後.14.4±17.10.0010切り替え2カ月後.10.9±15.20.0094切り替え3カ月後.11.3±12.50.0003切り替え4カ月後.8.9±13.80.0008切り替え5カ月後.10.0±14.00.0016切り替え6カ月後.4.3±15.80.3172*:Steel-test(多重比較)(vs0週).254あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(106):悪化:不変:改善100%80%60%40%20%0%5411311621141全症例薬剤減少群bから変更群その他群図16カ月後における改善群,不変群,悪化群17.2%(5/29例),±2mmHg未満の変動(以下,不変群とする)は44.8%(13/29例)であり,82.8%でb/CAI配合点眼液に切り替えても,眼圧は改善あるいは維持された(図1).薬剤減少群(n=19)では,切り替え前12.5±2.5mmHg,切り替え時13.7±2.2mmHg,切り替え2週後12.7±2.0mmHg,1カ月後12.6±2.6mmHg,2カ月後12.3±1.8mmHg,3カ月後12.6±2.0mmHg,4カ月後13.2±2.1mmHg,5カ月後12.8±2.0mmHg,6カ月後13.6±1.9mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して11.6±21.4%であったが,切り替え2週後.3.5±12.7%,1カ月後.7.3±15.9%,2カ月後.8.4±16.2%,3カ月後.6.8±12.0%,4カ月後.3.1±12.6%,5カ月後.5.0±14.2%,6カ月後0.6±14.4%であり,いずれの期間においても切り替え時からの眼圧下降率は有意ではなかった(図2).切り替え後6カ月での眼圧において改善群,悪化群ともに21.1%(4/19例),不変群は57.9%(11/19例)であった.79%がb/CAI配合点眼液に切り替えても眼圧は改善あるいは維持された(図1).つぎに,bから変更追加群(n=6)では切り替え前14.5±3.7mmHg,切り替え時14.3±2.4mmHg,切り替え2週後12.2±4.0mmHg,1カ月後10.0±2.9mmHg,2カ月後12.6±3.4mmHg,3カ月後11.7±3.1mmHg,4カ月後12.0±2.7mmHg,5カ月後11.0±1.8mmHg,6カ月後11.3±1.4mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して0.3±9.2%であったが,切り替え2週後で.14.9±18.3%,1カ月後.30.7±13.3%,2カ月後.14.7±8.6%,3カ月後.19.4±7.9%,4カ月後.20.2±5.6%,5カ月後.18.7±10.2%,6カ月後.20.4±5.6%であり,切り替え後すべての投与時期において切り替え時からの眼圧下降率は有意であった(図2).切り替え6カ月後での眼圧はすべての症例(6例)が改善群に分類される2mmHg以上の眼圧下降を呈した(図1).その他群(n=7)では,切り替え前11.1±2.3mmHg,切り替え時12.3±1.8mmHg,切り替え2週後10.7±2.0mmHg,Δ%200-20-40:bから変更追加群:その他群-600週2週1月2月3月4月5月6月図2切り替え後の眼圧下降率(薬剤減少群,bから変更追加群,その他群)1カ月後9.9±2.0mmHg,2カ月後10.3±2.9mmHg,3カ月後10.0±1.1mmHg,4カ月後10.0±1.7mmHg,5カ月後10.8±1.0mmHg,6カ月後11.8±3.3mmHgであった.眼圧下降率は切り替え前から切り替え時に対して11.6±9.9%であったが,切り替え2週後で.10.0±10.5%,1カ月後.19.7±12.0%,2カ月後.15.9±16.3%,3カ月後.16.4±13.3%,4カ月後.20.8±10.8%,5カ月後.16.3±11.7%,6カ月後.3.1±18.8%であり,切り替え2週後,2カ月後,6カ月後以外は切り替え時からの眼圧下降率に有意差が認められた(図2).切り替え6カ月後での眼圧は改善群,および悪化群がそれぞれ25.0%(1/4例),不変群は50.0%(2/4例)であり75%の症例で,切り替えても眼圧は改善あるいは維持された(図1).2.自覚症状について1カ月で脱落した症例以外について,切り替え2.3カ月後の時点で点眼時の自覚症状(しみる,充血,異物感,痛み,かゆみ,なんともない,その他)について検討した.しみると答えたのが25.0%(8/32例)であったが,いずれも点眼続行は可能と答えており,点眼続行に支障をきたすものではなかった.他に充血,異物感,痛み,かゆみなどの自覚はみられなかった.表3薬剤減少群での点眼遵守状況変更前変更後p値*n(%)n(%)ア)つけ忘れない1263.21368.41.0000イ)3週間に一度631.6526.3ウ)2週間に一度15.315.3エ)1週間に一度00.000.0オ)もっと忘れる00.000.0計19100.019100.0*:Mann-Whitney-U検定.(107)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012255表4薬剤減少群での点眼に関する患者評価点眼が減ったことに関する印象(重複回答あり)n(%)継続希望の有無n(%)ア)回数や種類が減って楽になった1666.7ア)続けたい1684.2イ)回数が減ってつけ忘れがなくなってきた625.0イ)前の目薬に戻したい00.0ウ)回数や種類が少ないと物足りない,心配00.0ウ)どちらでもよい315.8エ)なんとも思わない28.3計19100.0オ)その他00.0計24100.03.点眼遵守状況について薬剤減少群で,切り替え前後での点眼付け忘れ頻度は有意差(Mann-Whitney-U検定)がみられなかったが,回数や種類が減って楽になった(66.7%),つけ忘れがなくなってきた(25.0%)との回答が多かった(表3).b/CAI配合点眼液についての評価としては84.2%が続けたいと答え,前の点眼構成に戻したいと希望する症例はいなかった(表4).4.副作用および脱落例(3症例)すべてその他群の症例で認められた.PG関連薬単剤からb/CAI配合点眼液に変更した1症例では,点眼変更1カ月後に霧視感の訴えがあり角膜障害AD(Area-Density)分類A1D1がA1D3に増悪していたため点眼を元に戻した.PG関連薬とCAIからPG関連薬とb/CAI配合点眼液に変更したなかで,基礎疾患に成人型アトピーがあった症例に,眼瞼炎(眼瞼掻痒感,眼瞼発赤)が生じた.点眼3カ月後に発症したが,5mmHg程度の眼圧下降がみられ,本人の強い希望で5カ月まで継続したものの眼瞼炎の改善はなく中止とし,その後選択的レーザー線維柱帯形成術を施行した.PG関連薬とb遮断薬からPG関連薬とb/CAI配合点眼液とに切り替えた1例で,色素沈着や睫毛の剛毛化を理由に,併用のPG関連薬を一旦中止した.III考察緑内障は罹患期間や眼圧コントロール,病勢により多剤併用療法になることが多い.仲村らの報告6)によると,忘れずに点眼できる点眼本数は2.5±1.2本なので,点眼本数が3本になるとアドヒアランスが悪くなり点眼効果が十分発揮できない可能性がある.配合剤の使用によって,点眼本数を2本に減らすことができれば患者の時間および手間を減らすことができ,アドヒアランスが悪い患者ではそれを向上させ,できるだけ少ない負担で最大の効果がある点眼薬,点眼方法を選択,点眼指導することができる.配合剤を使用する長所としては前述に加えて,多剤併用に比べ眼に曝露される防腐剤の総量が減る,多剤併用の場合に点眼間隔が短く先に点眼した薬剤が洗い流されてしまうリスクを減らすことができるなどがあり,逆に短所としては単剤を併用時よりも点眼回数が減ることで,特にアドヒアランスが良い患者で眼圧下降効果の減弱が起こらないかという危惧がある.b遮断薬とPG関連薬の配合剤は,各単剤の使用と比べ眼圧も変わらないという報告がある7)が,含まれている本来2回点眼であるべきb遮断薬が,1日1回になることにより,本来の眼圧下降よりも若干効果が弱くなる可能性が懸念される.b遮断薬とCAIの配合点眼液であるb/CAI配合点眼液はb遮断薬の点眼回数は本来の1日2回点眼であるが,CAIの点眼回数は1日3回から2回になっており,同様に眼圧下降作用減弱の可能性が懸念される.しかしながら,ドルゾラミドにおいてはPG関連薬であるラタノプロストと併用した場合,1日3回と2回点眼で,眼圧下降は夕方18時の時点を除き同等であったという報告8)があることから,b遮断薬およびCAIそれぞれの特性をそのまま生かすことのできる配合点眼液である可能性もある.すなわち,純粋に点眼本数を減らすこと,あるいは眼圧下降効果を上げることが可能であるかもしれない.今回,b遮断薬とCAI,PG関連薬の3剤からb/CAI配合点眼液とPG関連薬の2剤に減らした薬剤減少群では,いずれの期間においても眼圧下降率は有意ではなかったが,剤数は減ったものの薬剤内容は同一であるため,当然の結果ということができる.b遮断薬1剤からb/CAI配合点眼液1剤へ切り替えたbから変更追加群では,すべての投与時期において眼圧下降値は有意だったことからみて,CAIが追加された効果が現れていると考えられる.PG関連薬とb遮断薬もしくはCAIの2剤併用からPG関連薬とb/CAI配合点眼液の2剤投与,およびPG関連薬からb/CAI配合点眼液への投与に切り替えた症例は少数例のためその他群として包括したが,2週間後,2カ月後,6カ月後を除き,切り替え前と比べ有意に効果が認められた.b/CAI配合点眼液と,b遮断薬とCAIで効果は同等という海外の論文3,4)の報告は「はじめに」で述べたように,ドルゾラミド塩酸塩濃度が日本と異なる.かつ方法もb遮断薬とCAIからb/CAI配合点眼液への切り替え,もしくは無作為に緑内障患者をb/CAI配合点眼液使用群とb遮断薬お256あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(108)よびCAI併用群に振り分けた前向き切り替え試験などである.今回はPG関連薬も併用しており,また,後ろ向き試験であり,まったく同様の組み合わせ,検討ではない.しかし,併用していたPG関連薬の変更例はなく,今回のPG関連薬を併用したままb遮断薬とCAIからb/CAI配合点眼液へ切り替えた症例で有意な変化がみられなかったという今回の結果は,ほぼ同様の結果とみてよいのではないだろうか.それに加え,全症例において唯一眼圧下降率に有意差がみられなかった切り替え6カ月後でさえ,82.8%が良好な眼圧改善効果を示した.b遮断薬単独からの変更追加群ではすべての症例で2mmHg以上の眼圧下降が得られ,CAI追加の効果がみられた.b遮断薬とCAI,PG関連薬の3剤からb遮断薬とCAIをb/CAI配合点眼液に切り替えた薬剤減少群では,不変群が57.9%と多かったものの,改善群も21.1%あり,点眼変更を試みる価値はある.点眼開始2.3カ月後の調査では,変更前後でつけ忘れ頻度について変わりはなかったが,回数が減り楽になったと答えたのが66.7%,この配合剤を続けたいと希望した症例が84.2%と非常に多かったことから,b/CAI配合点眼液に変更することにより,心理的,時間的負担を軽くできたと考えられる.また,点眼時にしみるのは薬剤のpHが5.5.5.8であることに基づくと思われる.国内で施行された第III相二重盲検比較試験でも9)眼刺激症状として7.9%と報告されている.しかし,今回その多くがしみるが数日で慣れた,しみなくなった,継続したいと答えており,前述の眼圧下降効果を総合すると,客観的および主観的両面から,b/CAI配合点眼液は有用な薬剤と思われる.しかし,今回変更による副作用もあったことから,b遮断薬,CAIそれぞれの欠点が表出する可能性があり,注意が必要である.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese,TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)TheAGISInvestigators:Theadvancedglaucomainter-ventionstudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencon-trolofintraocularpressureandvisual.elddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)HutzelmannJ,OwensS,SheddenAetal:Comparisonofthesafetyande.cacyofthe.xedcombinationofdorzol-amide/timololandtheconcomitantadministrationofdor-zolamideandtimolol:aclinicalequivalencestudy.Inter-nationalClinicalEquivalenceStudyGroup.BrJOphthal-mol82:1249-1253,19984)FrancisBA,DuLT,BerkeSetal:Comparingthe.xedcombinationdorzolamide-timolol(Cosopt)toconcomitantadministrationof2%dorzolamide(Trusopt)and0.5%timolol-arandomizedcontrolledtrialandareplacementstudy.JClinPharmTher29:375-380,20045)ChoudhriS,WandM,ShieldsMB:Acomparisonordor-zolamide-timololcombinationversustheconco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網膜循環障害を合併し予後不良であった交感性眼炎の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):249.252,2012c網膜循環障害を合併し予後不良であった交感性眼炎の1例奥貫陽子*1,2片井直達*1横井克俊*1後藤浩*2*1東京医科大学八王子医療センター眼科*2東京医科大学眼科学教室SympatheticOphthalmiawithPoorVisualOutcomeComplicatesaCaseofRetinalArteryCirculatoryDisturbanceYokoOkunuki1,2),NaomichiKatai1),KatsutoshiYokoi1)andHiroshiGoto2)1)DepartmentofOphthalmology,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity穿孔性眼外傷受傷後の僚眼に,眼内炎症とともに典型的な交感性眼炎にはみられない網膜循環障害を伴い,重篤な経過をたどった症例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.グラインダーの破片で右眼を受傷し,同日強角膜縫合術を行ったが,徐々に眼球癆となった.受傷後9週目に左眼視力低下を自覚した.前房炎症と硝子体混濁に加えて網膜中心動脈閉塞症様の所見を認め,蛍光眼底造影では網膜灌流の遅延と脈絡膜の斑状低蛍光がみられた.ステロイドパルス療法を行い,炎症所見と網膜浮腫は次第に軽減したが動脈は白鞘化し,視力は光覚弁となった.プレドニゾロンを漸減中,眼炎症が再燃するとともに血管新生緑内障を併発し,最終視力は光覚なしとなった.穿孔性眼外傷後の僚眼には典型的な交感性眼炎とは異なる網膜循環不全を伴った眼内炎症を生じ,急激な経過をたどることがある.An80-year-oldmalevisitedourhospitalafewhoursafterhisrighteyehadbeeninjuredbyafragmentofabrokengrinder.Cornealandscleralsuturingwasperformedonthatsameday,buttheeyegraduallydevelopedphthisisbulbi.Intheninthweekafterinjury,thepatientnoticedblurredvisioninhislefteye.Anteriorchambercellsandvitreousopacitywithcentralretinalarteryocclusionwereobserved.Fluoresceinandindocyaningreenangiographyrespectivelydisclosedseveredisturbanceofretinalarterycirculationandmultiplepatchyhypo.uoresceinlesionsinthechoroid.Theintraocularin.ammationsubsidedwithcorticosteroidpulsetherapy,butvisualacuitydidnotrecover.Duringtaperingo.ofcorticosteroid,theintraocularin.ammationexacerbated,withcomplicationofrubeoticglaucomaandvisualloss.Intraocularin.ammationpresumablycausedbysympatheticophthalmiacanleadtodisturbanceofretinalarterycirculationandresultinaseverevisualdisturbance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):249.252,2012〕Keywords:穿孔性眼外傷,交感性眼炎,網膜中心動脈閉塞症,眼虚血症候群.perforatingocularinjury,sympa-theticophthalmia,centralretinalarteryocclusion,ocularischemicsyndrome.はじめに交感性眼炎は穿孔性眼外傷や内眼手術後に発症する両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎であり,穿孔性眼外傷後の発症率は0.2.1.0%程度と考えられている1,2).発症機序や臨床所見はVogt-小柳-原田(VKH)病に類似し3),治療もVKH病に準じて副腎皮質ステロイド(ステロイド薬)のパルス療法または大量漸減療法が行われ,発症早期に十分量のステロイド薬が投与されれば比較的予後が良いことが多い.今回,穿孔性眼外傷受傷後に僚眼に交感性眼炎と思われる眼炎症を発症するとともに,網膜中心動脈閉塞症様の所見を伴い,典型的な交感性眼炎とは異なる所見を呈し,重篤な経過をたどった症例を経験したので報告する.I症例患者:81歳,男性.既往歴:未精査の不整脈.現病歴:2010年7月15日,自宅の庭でグラインダーを使用中に,破損したグラインダーの刃が飛来して右眼を受傷〔別刷請求先〕奥貫陽子:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室Reprintrequests:YokoOkunuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjyuku,Shinjyuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)249図1左眼眼底写真(2010年9月16日)硝子体混濁,網膜浮腫,cherryredspot様所見,および網膜動脈狭細化がみられる.し,数時間後に東京医科大学八王子医療センター(以下,当センター)を受診した.初診時所見:視力は右眼光覚弁,左眼0.1(0.7×cly.2.50DAx60°),眼圧は右眼測定不能,左眼14mmHgであった.右眼には上下の眼瞼裂傷および強角膜裂傷を認め,ぶどう膜組織が眼外に脱出していた.左眼は軽度の白内障の他は異常を認めなかった.同日に行われた全身検査で心房細動が検出された.受診日にただちに局所麻酔下で右眼の眼瞼縫合と強角膜縫合術を施行した.強角膜裂傷は上直筋および下直筋付着部後方の約10mmに及び,角膜を含めてほぼ垂直方向の創であった.水晶体の所在は不明であり,網膜およびぶどう膜組織が創口から眼外に脱出していた.脱出した組織を可及的に切除し,上下直筋の付着部を一部切腱して強角膜縫合を施行した.経過:術翌日から右眼視力は光覚が失われ,次第に眼球癆となった.約2カ月後の2010年9月11日に左眼の霧視を自覚したため,同月13日に近医を受診したところ,左眼の前眼部炎症を指摘され,当センターへ再び紹介受診となった.14日の当センター受診時,左眼矯正視力は0.2であり,前房細胞と毛様充血を認めたため,0.1%ベタメタゾン点眼を処方した.16日再診時には左眼視力10cm指数弁まで低下し,毛様充血,前房細胞3+,硝子体混濁2+,網膜動脈狭細化,網膜浮腫を認め,黄斑部はcherryredspot様であった(図1).フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangio-graphy:FA)では腕-網膜循環時間は約22秒と遅延し,脈絡膜背景蛍光は斑状低蛍光を示した.VKH病にみられるような点状過蛍光や蛍光色素の貯留像,視神経乳頭の過蛍光は認められなかった.インドシアニングリーン蛍光眼底造影図2インドシアニングリーン蛍光眼底造影(2010年9月16日)広範な脈絡膜斑状低蛍光が認められる.(indocyaninegreenangiography:IA)で脈絡膜は斑状の低蛍光を示した(図2).FA・IAともに固視不良のため初期像は明瞭に撮影できず,腕-脈絡膜循環時間は不明であった.また,検眼鏡的所見および光干渉断層計でも漿液性網膜.離は認められなかった.以上の結果から,典型的ではないが網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryocclusion:CRAO)を併発した交感性眼炎と診断した.なお,後日行われたHLA(ヒト白血球抗原)検査ではDR4陽性であった.同日に入院のうえ,9月17日からステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg3日間)を施行し,その後プレドニゾロン(pred-nisolone:PSL)を60mgから漸減投与した.その他,心房細動に対しては内科から処方されていたバイアスピリンを継続とした.前眼部炎症や硝子体混濁などの炎症所見は次第に軽減したが,徐々に網膜動脈の白鞘化が明瞭になり,9月21日に左眼視力も光覚なしとなった.その後もPSLの減量を行っていたところ,11月1日(PSL30mg投与時)に左眼視力は光覚弁に改善した(図3).経過中,左眼の眼圧は10.14mmHg程度であったが,2011年3月14日(PSL5mg隔日投与時)に左眼眼圧が34mmHgに上昇し,視力は再び光覚なしとなった.同時に毛様充血,豚脂様角膜後面沈着物,前房細胞2+,虹彩新生血管および硝子体混濁3+を認め,交感性眼炎の再燃とともに血管新生緑内障を併発したと考えられた(図4).眼内炎症に対してトリアムシノロンアセトニド20mgのTenon.下注射を施行した.なお,血管新生緑内障の原因として眼虚血症候群の可能性を疑い,頸動脈エコー,頭頸部磁気共鳴血管画像(magneticresonanceangiography:MRA)を施行したが明らかな異常はなく,また心エコーで血栓などは検出されなかった.頭部MRI(磁気共鳴画像)では陳旧性のラクナ梗塞が確認された.2011年4250あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(102)図3左眼眼底写真(2010年11月1日)硝子体混濁,網膜浮腫は消失したが,網膜動脈の白鞘化が著明である.月12日にPSL内服を中止した後も前眼部炎症および硝子体混濁の再燃はないが,視神経乳頭は蒼白となり,脈絡膜の斑状萎縮巣が出現した.40.50mmHg程度の高眼圧が持続しているが疼痛がないため,投薬はベタメタゾン点眼のみで経過観察を継続している.II考察典型的な交感性眼炎はVKH病と同様の所見,つまり肉芽腫性の前房炎症,漿液性網膜.離,視神経乳頭発赤,FAでは初期の多発する点状過蛍光,後期の蛍光色素貯留,視神経乳頭過蛍光,IAでは脈絡膜斑状低蛍光などを認め,約70%が受傷後2週間から3カ月以内,約90%が1年以内に発症するとされている4).本症では,左眼の炎症発症時に前房炎症および硝子体混濁を認めたが,その他VKH病に通常みられる眼所見を伴っておらず,交感性眼炎と判断する根拠に乏しかった.しかし,IAで脈絡膜斑状低蛍光を認め,脈絡膜の炎症が強く示唆されたこと,また発症時期が右眼受傷後9週目であり,交感性眼炎の好発時期であったことなどから総合的に眼炎症は交感性眼炎によるものと判断した.その後の検査でHLA-DR4陽性が判明し,眼炎症再燃時には豚脂様角膜後面沈着物が出現したことも交感性眼炎の診断に矛盾しないと考えられた.一方,左眼炎症発症時の網膜浮腫,cherryredspot様所見,腕-網膜循環時間の遅延は交感性眼炎では通常認められない所見であり,CRAOの所見と一致する.本症は既往に心房細動があり,心臓からの血栓の飛来によるCRAOと交感性眼炎が偶然同時に発症した可能性は否定できない.しかし,網膜に激しい炎症をきたした場合,桐沢型ぶどう膜炎やBehcet病などではCRAOを併発する図4左眼炎症再燃時の前眼部写真(2011年3月14日)毛様充血,豚脂様角膜後面沈着物,前房細胞,虹彩新生血管がみられる.ことがあり5,6),またVKH病でも高齢者を中心に前部虚血性視神経症の併発例が報告されている7).本症例では交感性眼炎による眼内炎症により,網膜中心動脈が篩状板より中枢側で閉塞したためにCRAOが生じた可能性も考えられた.一方,血管新生緑内障は一般にCRAOに合併することはなく,CRAO様の所見に血管新生緑内障を合併した場合は眼虚血症候群が原因である可能性が高い8).本症でも眼虚血症候群の可能性を考え,頸動脈エコーや頭頸部MRAを施行したが異常は検出されず,積極的に眼虚血症候群の合併を疑う検査結果は得られなかった.さらに,FAとIAの初期像が撮影困難で脈絡膜循環が正確に評価できなかったこともあり,本症のcherryredspotを伴う網膜循環障害が網膜中心動脈の閉塞によるものであったか,または眼動脈や眼動脈より中枢の動脈閉塞による眼虚血症候群の一所見であったかを結論付けることは困難であった.しかし今回の症例では,CRAOの所見は交感性眼炎発症時に出現し,血管新生緑内障も炎症再燃時に発症したことから,眼炎症と網膜循環障害および眼内虚血の発症は密接に関連していたものと推測される.本症例は心房細動を合併した80歳の高齢者であり,頭部MRIでラクナ梗塞が検出されていることから,MRAでは確認できなかったが,眼動脈レベルに部分的な狭窄が存在していた可能性も考えられる.そのため,交感性眼炎発症前から眼動脈に部分狭窄があり,交感性眼炎発症前は眼血流が維持できていたが,眼炎症による血管閉塞などに伴い,網膜循環障害と前眼部虚血が出現した可能性も考えられる.交感性眼炎は発症早期に十分量のステロイド薬を投与すれば,比較的予後がよいことが多い.本症例は自覚症状出現から6日目に治療を開始することができたが,治療開始時にはすでに視力は指数弁と著しく不良であった.より早期に診断と加療を行うことができていれば視機能を残せた可能性があるかもしれないが,過去の報告を検索しても発症早期に光覚(103)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012251なしとなった交感性眼炎は非常にまれと思われ,CRAOを併発した症例の報告もない.本症例は交感性眼炎としては所見が非典型的で,経過も急激であり特異な症例であったと考えられる.また,眼動脈狭窄など潜在的な眼循環不全の存在が推測されることから,高齢発症であったことが予後不良の因子であった可能性がある.さらに,ステロイド薬には血小板凝集能亢進作用があり,治療に用いたステロイド薬が網膜循環不全を増悪させた可能性も否定できない.本症例は治療開始時にすでに指数弁であり,硝子体混濁も強かったことからステロイドパルス療法を選択したが,高齢であることと網膜循環不全に対する副作用を考え,ステロイドパルス療法以外の治療法を選択する方法もあったと思われる.交感性眼炎の予防法として唯一可能性のある方法は,受傷後2週間以内の眼球摘出である4,9).交感性眼炎は穿孔性眼外傷後の合併症として最も留意すべき病態であるが,一般的にステロイド薬が有効なことが多く,予防法としての眼球摘出の有効性も確立された方法ではないため,受傷眼の視機能が非常に悪い症例に対しても眼球摘出は積極的に推奨されてはいない10).穿孔性眼外傷の加療の際には,交感性眼炎の可能性を常に念頭におき,まれではあるが本症例のように非常に予後が悪い交感性眼炎を発症する症例があることを記憶にとどめておくべきであると思われる.文献1)MarakGE,Jr:Recentadvancesinsympatheticophthal-mia.SurvOphthalmol24:141-156,19792)ZhangY,ZhangMN,JiangCHetal:Developmentofsympatheticophthalmiafollowingglobeinjury.ChinMedJ122:2961-2966,20093)RaoNA,RobinJ,HartmannDetal:Theroleofthepen-etratingwoundinthedevelopmentofsympatheticoph-thalmiaexperimentalobservations.ArchOphthalmol101:102-104,19834)GotoH,RaoNA:SympatheticophthalmiaandVogt-Koya-nagi-Haradasyndrome.IntOphthalmolClin30:279-285,19905)ShahSP,HadidOH,GrahamEMetal:Acuteretinalnecrosispresentingascentralretinalarteryocclusionwithcilioretinalsparing.EurJOphthalmol15:287-288,20056)WillerdingG,HeimannH,ZouboulisCCetal:Acutecen-tralretinalarteryocclusioninAdamantiades-Behcetdis-ease.Eye21:1006-1007,20077)NakaoK,MizushimaY,AbematsuNetal:Anteriorisch-emicopticneuropathyassociatedwithVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmol247:1417-1425,20098)HayrehSS:Prevalentmisconceptionsaboutacuteretinalvascularocclusivedisorders.ProgRetinEyeRes24:493-519,20059)AlbertDM,Diaz-RohenaR:Ahistoricalreviewofsym-patheticophthalmiaanditsepidemiology.SurvOphthal-mol34:1-14,198910)SavarA,AndreoliMT,KloekCEetal:Enucleationforopenglobeinjury.AmJOphthalmol147:595-600,2009***252あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(104)

視神経網膜炎を伴った猫ひっかき病

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):244.248,2012c視神経網膜炎を伴った猫ひっかき病田口千香子青木剛井上留美子河原澄枝山川良治久留米大学医学部眼科学教室SevenCasesofCat-scratchDiseaseNeuroretinitisChikakoTaguchi,TsuyoshiAoki,RumikoInoue,SumieKawaharaandRyojiYamakawaDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine目的:視神経網膜炎を伴った猫ひっかき病7例の報告.症例:1998年から2010年に久留米大学病院で,視神経網膜炎とBartonellahenselae血清抗体価の上昇より猫ひっかき病と診断した7例8眼.男性2例2眼,女性5例6眼.年齢は28.69歳で,全例に猫の飼育歴があった.初診時視力1.0以上3眼,0.1.0.7は4眼,0.01が1眼で,視野異常は8眼中7眼にみられた.治療は,抗菌薬のみ2例,抗菌薬と副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)併用は2例,ステロイドのみ2例,投薬なしは1例であった.最終視力は,0.9以上に改善したのは5眼,0.1.0.5が3眼で,そのうちの2眼(2例)はステロイドのみで治療した症例であった.8眼中5眼は視野異常が残存した.結論:猫ひっかき病による視神経網膜炎では視野異常が残存することが多い.また,治療は早期に抗菌薬を開始したほうがよいと考えられた.Purpose:Toreport7casesofcat-scratchdisease(CSD)neuroretinitis.Cases:Eighteyesof7patients(2males,5females;agerange28.69years)werediagnosedwithCSDatKurumeUniversityHospitalbetween1998and2010.Allhadexposuretocatsandhadanelevatedserumanti-Bartonellahenselaeantibodytiter.Initialvisualacuitywas1.0orbetterin3eyes,0.1to0.7in4eyes,and0.01in1eye.Visual.elddefectwaspresentin7eyes.Treatmentcomprisedsystemicantibioticsin2patients,systemicantibioticsandcorticosteroidsin2patients,andcorticosteroidsin2patients;1patientreceivednomedication.Finalvisualacuitywas1.0orbetterin5eyesand0.1.0.5in3eyes,2ofwhichreceivedcorticosteroidmonotherapy.Visual.elddefectremainedin5eyes.Conclu-sion:InCSDneuroretinitis,visual.elddefectremainsaftertreatment.Earlytreatmentwithsystemicantibioticsisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):244.248,2012〕Keywords:猫ひっかき病,Bartonellahenselae,視神経網膜炎.cat-scratchdisease,Bartonellahenselae,neuro-retinitis.はじめに猫ひっかき病は,猫のひっかき傷や咬傷,猫ノミが原因となり,発熱や受傷部位の所属リンパ節腫大を主徴とする感染症である.1990年代にグラム陰性桿菌であるBartonellahenselaeが病原体であることが明らかとなり,さらに抗体価測定が普及し診断率が向上した.猫ひっかき病による視神経網膜炎は1.2%程度にみられる1,2)と報告されている.今回Bartonellahenselae抗体陽性の視神経網膜炎を伴った猫ひっかき病の7症例を検討した.I症例症例は1998年から2010年に久留米大学病院眼科において,視神経網膜炎と血清のBartonellahenselae抗体価の上昇により,猫ひっかき病と診断した症例7例8眼である.男性2例2眼,女性5例6眼,年齢は20歳代が2例,50歳以上が44例,60歳以上が1例だった.経過観察期間は5カ月.4年7カ月で,全例に猫の飼育歴があり,そのうち猫による受傷歴は5例であった.発症は9月から12月で,全身症状は7例中3例にみられた.血液検査では,全例白血球数は異常なく,CRP(C反応性蛋白)の上昇は5例にみられた.〔別刷請求先〕田口千香子:〒830-0011久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ChikakoTaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPAN表1各症例の病歴と血液検査年齢Bartonellahenselae抗体価症例性別(歳)発症年月経過観察期間猫飼育歴全身症状白血球(/μl)CRP(mg/dl)IgMIgG1男性691998.104年6カ月+─5,5000<162562女性511998.104年7カ月+─5,3001.2<16256(1998年11月)<16>1,024(1999年2月)<16256(1999月7月)3女性511999.101年8カ月+─5,6000.1980>1,0244女性502000.116カ月+─5,9000.59<162565女性552004.96カ月+発熱・上腕部腫瘤6,8000.9864>1,0246男性282009.95カ月+発熱6,8004.51802567女性282010.129カ月+発熱・肝機能異常5,7001.83>320>1,024表2各症例の眼所見症例罹患眼全身症状出現から眼症状出現までの期間前房炎症視神経乳頭発赤・腫脹網膜滲出斑星芒状白斑1左──中等度─+2右──高度++3右──軽度+─4左─+軽度+─5右3日─中等度++6右6日─高度++7両10日─高度++─高度++表3各症例の視力・視野経過と治療症例初診時視力初診時視野最終視力最終視野治療10.7下方暗点0.1下方欠損ステロイド内服20.3鼻下側欠損0.2鼻下側欠損ステロイドパルス+ステロイド内服31.0耳側欠損0.9耳側欠損なし41.2異常なし1.2異常なしレボフロキサシン50.01中心暗点1.0異常なしセフポドキシムプロキセチル+ステロイド内服60.1傍中心暗点0.5傍中心暗点セフジニル+ステロイドパルス+ステロイド内服7右0.4右Mariotte盲点拡大右1.5異常なしクラリスロマイシン左1.2左Mariotte盲点拡大,上鼻側欠損左1.5左上鼻側暗点Bartonellahenselaeの血清抗体価は,免疫蛍光抗体法ではIg(免疫グロブリン)G抗体価1:64倍以上,IgM抗体価1:20倍以上を陽性とするが,健常人でもIgG陽性者がみられるため3.5),単一血清でIgG抗体価が1:256倍以上,ペア血清で4倍以上のIgG抗体価の上昇,IgM抗体価が陽性のいずれかを認めれば陽性とした.7例中4例はIgMが上昇し,IgGは全例256倍以上だった.症例2のみペア血清で測定を行い,4倍以上の変動がみられた(表1).6例は片眼性で,両眼性は1例のみだった.全身症状がみられた症例では,眼症状出現までの期間は3.10日であった.前房炎症がみられたのは1眼のみで,視神経乳頭の発赤・腫脹が軽度2例,中等度2例,高度4例であった.網膜滲出斑は7例中ステロイド:副腎皮質ステロイド薬.6例,星芒状白斑は7例中5例にみられた(表2).初診時の視力1.0以上は3眼,0.1.0.7は4眼,1眼は0.01で,最終視力が0.9以上に改善したのは5眼,0.1.0.5が3眼だった.初診時の視野異常は8眼中7眼にみられ,多彩な視野異常であった.最終受診時に視野異常は8眼中5眼に残存した(図1).治療は,副腎皮質ステロイド(ステロイド)薬点滴とステロイド薬の内服のみ2例,抗菌薬とステロイド薬併用2例,抗菌薬のみは2例で,1例は全身投与を行わなかった(表3).症例7を提示する.症例(症例7):28歳,女性.主訴:両眼の視力低下.(97)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012245..1..2..3..5.タ….タ…7….7….6.タ….タ.図1各症例の視野経過図2初診時のカラー眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼の視神経乳頭の発赤・腫脹,乳頭黄斑間には星芒状白斑,白色の網膜滲出斑を認める.現病歴:2010年11月26日より発熱,下痢などの症状が生活歴:保健所から引き取った仔猫を飼育.出現し,12月2日に近医内科を受診し感染性腸炎と診断さ初診時眼所見:視力は右眼0.03(0.4),左眼0.03(1.2).れ抗菌薬を投与された.12月6日より両眼の視力低下を自前房内に炎症細胞はなく,眼底は両眼の視神経乳頭の発赤・覚し,当科を紹介受診した.腫脹,乳頭黄斑間には星芒状白斑,白色の網膜滲出斑を認め既往歴・家族歴:特記すべきことなし.た(図2a,b).フルオレセイン蛍光眼底造影検査では両眼のab図3初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影写真a:右眼,b:左眼.両眼の視神経乳頭からの蛍光漏出と左眼の鼻下側の網膜血管からの蛍光漏出がみられる.ab図4最終受診時のカラー眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼の視神経乳頭の発赤・腫脹は改善し,星芒状白斑は一部残存している.視神経乳頭からの蛍光漏出と左眼の鼻下側の網膜血管からの蛍光漏出がみられた(図3a,b).動的量的視野検査では,右眼のMariotte盲点の拡大,左眼はMariotte盲点の拡大と上鼻側の欠損がみられた(図1,症例7,初診時).眼所見と生活歴から猫ひっかき病による視神経網膜炎を疑い,クラリスロマイシン内服400mg/日を開始した.血清のBartonellahenselae抗体価は,IgM320倍以上,IgG1,024倍以上と上昇していた.クラリスロマイシンを2カ月間内服投与した.両眼の視神経乳頭の発赤・腫脹は改善し,星芒状白斑は一部残存しているが両眼の視力(1.5)と良好である(図4a,b).左眼の視野異常は残存した(図1,症例7,最終受診時).現在まで視神経網膜炎の再燃はない.II考按13年間に7例の血清Bartonellahenselae抗体陽性の視神経網膜炎を伴った猫ひっかき病を経験し検討した.年齢は7例中4例が50歳以上で,小児の症例はなかった.猫ひっかき病は小児や若年者に多いが,全年齢層において発症するという報告もある2).7例中5例が女性であったが,飼い猫と接触の機会が女性に多いためではないかと考えられている2).猫ひっかき病は夏から初冬の発症が多く,今回の7症例も9月から12月に発症していた.夏に猫ノミが増加し,秋に猫の繁殖期があるためと推測されている.原因動物の多くは猫で,特に仔猫が多いが,犬でも報告がある3).また,受傷歴がなくても猫や犬との接触で,猫ノミによっても発症するとされる2,3,5).今回の7症例すべて猫との接触歴があり,5例で受傷歴があり,仔猫を飼っている症例もあった.わが国において猫ひっかき病は西日本に多く,猫のBartonellahenselaeの保菌率が西日本に高いためと考えられている6).猫ひっかき病の視神経網膜炎でも,1施設で5症例以上の報告は,西日本のみである7,8).(99)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012247猫ひっかき病の診断には,Bartonellahenselaeの血清抗体価の測定が重要であるが,当科では生活歴や眼所見から猫ひっかき病を疑った症例に測定をしている.免疫蛍光抗体法が標準的で,IgGは1:64倍以上が陽性であるが,健常人でも約2.20%で陽性と報告されている4,5).一方,IgMは1:20倍以上が陽性であるが,健常人で陽性の報告はないため9),単一血清でも20倍以上で陽性と診断できるとされている.そのため当科では,単一血清でIgGが1:256倍以上,IgM抗体価が陽性,ペア血清で4倍以上のIgG抗体価の上昇,いずれかを認めれば陽性とする基準3,5)を採用した.しかし,猫・犬と接触歴のある健常人でIgGが256倍という結果もあり9),512倍以上が確実という診断基準もみられる3,8).血清抗体価の上昇とともに生活歴や全身所見,眼所見を含めて総合的に診断確定することが重要と思われる.今回7例中4例がIgM陽性であったが,IgM抗体価は感染後9週程度で消失する9)とされる.これまで猫ひっかき病に伴う眼症状は晩期に発症し,Bartonellahenselae感染後何らかの免疫反応に関連して起こると推測されてきたが,これまでIgM陽性の視神経網膜炎の症例も報告されており8),視神経網膜炎は急性期にも起こることがあると考えられた.視力は,初診時視力が良好であれば,最終視力も良好となることが多く,最終視力は8眼中5眼が良好であったが,3眼が0.5以下と不良であった.これまでの報告と同様に視力予後良好な疾患であるが,一部の症例は視力不良であった.視野は視神経乳頭の発赤・腫脹が軽い2症例(症例4,5)で最終受診時に視野異常がなかったが,視野異常が残存する症例が多く,視力が改善しても視野異常は残った.特に症例1と2は視野欠損の程度が大きかった.視力の経過と治療について検討すると,最終視力が不良であった3眼(症例1,2,6)のうち,症例1と2は初診時視力より低下した.この2例は1998年初診の症例であり対象症例のなかで古い2例で,症例1は診断までに1カ月を要し,症例2は視神経炎として治療を開始した症例で,最終的にはこの2例は視神経萎縮となった.2例ともステロイド薬内服のみで治療を行っていた.症例6は,発熱の出現時から抗菌薬を投与されていたが,当院受診時に視神経乳頭の発赤・腫脹も強く,視力低下があったため,抗菌薬に加えてステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mgを3日間)を併用し,その後ステロイド薬の内服に切り替えたが,最終視力は0.5にとどまっている.内科的に猫ひっかき病は予後良好な疾患で自然治癒するため未治療の場合も多いが,治療には抗菌薬が有効で,アジスロマイシンやクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が効果的であるといわれている4).猫ひっかき病による視神経網膜炎は経過観察のみでよいのか,治療として抗菌薬,ステロイド薬,もしくは両者を併用するのか,確立したものはない.今回の症例では最終視力が良好でも視野異常が残存した症例が多く,またステロイド薬のみで治療し視力が不良な症例もみられた.視力・視野障害がごく軽度なら経過観察が原則ではあるが,視力・視野障害があれば,Bartonellahenselae感染症が原因であるため,まず抗菌薬の投与が必要と思われる.もし抗菌薬のみで効果が少ない場合には,つぎにステロイド薬の併用を検討すべきと考えられる.しかし,発症早期から抗菌薬を投与し,さらにステロイド薬を併用しても,良好な視力に改善しなかった症例もあり,今後さらに症例を重ねて検討する必要がある.最近では,猫や犬などのペットはコンパニオンアニマルといわれ,家族の一員として濃厚接触する機会が増えており,今後も猫ひっかき病は増加すると予想される.感染源として疑われるペットについては,安易な説明をしてしまうとペットを処分することもあるため慎重な説明を心がけ,獣医を受診しペットのノミ駆除を行うこと,飼育環境を清潔にすること,接触後は手洗いをするなど日常的な清潔維持が必要である.視神経網膜炎の症例では,猫ひっかき病を念頭におき診療する必要があり,視機能障害があれば,まず抗菌薬の投与を行ったほうがよいと考えられた.文献1)MargilethAM:Recentadvancesindiagnosisandtreat-mentofcatscratchdisease.CurrInfectDisRep2:141-14620002)吉田博,草場信秀,佐田通夫:ネコひっかき病の臨床的検討.感染症誌84:292-294,20103)坂本泉:ネコひっかき病.小児科診療73:139-140,20104)KamoiK,YoshidaT,TakaseHetal:SeroprevalenceofBartonellahenselaeinpatientswithuveitisandhealthyindividualsinTokyo.JpnJOphthalmol53:490-493,20095)常岡英弘,柳原正志:Bartonellaquintana,Bartonellahenselae.臨床と微生物36:139-142,20096)MaruyamaS,NakamuraY,KabeyaHetal:PrevalenceofBartonellahenselae,Bartonellaclarridgeiaeandthe16SrRNAgenetypesofBartonellahenselaeamongpetcatsinJapan.JVetMedSci62:273-279,20007)小林かおり,古賀隆史,沖輝彦ほか:猫ひっかき病の眼底病変.日眼会誌107:99-104,20038)内田哲也,福田憲,吉村佳子ほか:眼底病変を有した猫ひっかき病の7例.臨眼62:45-52,20089)草場信秀,吉田博,角野通弘ほか:猫ひっかき病におけるBartonellahenselae抗体の経時的測定の臨床的意義─間接蛍光抗体法による検討─.感染症誌75:557-561,2001***

P-ANCA(抗好中球細胞質抗体)が高値を示した壊死性強膜炎の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):239.243,2012cP-ANCA(抗好中球細胞質抗体)が高値を示した壊死性強膜炎の1例中安絵理横山利幸順天堂大学医学部附属練馬病院眼科ACaseofNecrotizingScleritiswithPositiveP-ANCAEriNakayasuandToshiyukiYokoyamaDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospitalP-ANCA(抗好中球細胞質抗体)が高値を示した壊死性強膜炎の1例を経験した.症例は71歳,女性,左眼の強膜に充血と無血管領域の壊死性病変を観察した.P-ANCAは63EUと高値を示した.ステロイドの局所投与を試みたが,黄斑浮腫,網膜血管炎,硝子体混濁が併発したためステロイドの内服投与を追加したところ,強膜所見,後眼部所見ともに改善しP-ANCA値も正常化した.Weobservedacaseofnecrotizingscleritiswithpositiveperinuclearanti-neutrophilcytoplasmicantibody(P-ANCA).Thepatient,a71-year-oldfemale,hadhyperemiaandanonvascularnecrotizinglesionatthesclerainherlefteye.ThetiterofP-ANCArevealed63EU.Despitetreatmentwithtopicalsteroid,macularedema,retinalvasculitisandvitreousopacitywerecomplications.Thepatientthereforeunderwentoraladministrationofsteroid,whichimprovedthescleritisandposterioreyelesions,andnormalizedtheP-ANCAtiter.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):239.243,2012〕Keywords:抗好中球細胞質抗体,壊死性強膜炎,黄斑浮腫,ANCA関連血管炎.ANCA(anti-neutrophilcyto-plasmicantibody),necrotizingscleritis,macularedema,ANCAassociatedvasculitis.はじめに非感染性強膜炎の発症には,免疫複合体による血管炎とそれに伴う強膜組織の破壊壊死を主体とする自己免疫機序の関与が示唆されており,非感染性強膜炎患者の約半数に膠原病,全身的血管炎性疾患の合併がある.関節リウマチ,Wegener肉芽腫症,顕微鏡的多発性血管炎,全身性エリテマトーデスなどはその代表的疾患である.一方,1982年Daviesら1)によって発見された抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)が腎や肺の細小血管,毛細血管の壊死性および肉芽腫性血管炎の原因抗体であることが見出され,これらの疾患はANCA関連血管炎症候群と総称されている2.4).ANCAは間接蛍光抗体法で好中球細胞質にびまん性に染色されるcytoplasmicANCA(C-ANCA)と核周辺のみに染色されるperinuclearANCA(P-ANCA)に分類される.C-ANCAの対応抗原はproteinase3であり,P-ANCAの対応抗原の大部分はmyeloperoxidaseであることから,C-ANCAをPR3-ANCA,P-ANCAをMPO-ANCAとよぶこともある5.7).今回筆者らは,全身性血管炎の合併は明らかではないもののP-ANCAが高値を示した強膜炎に網膜血管炎,黄斑浮腫を併発した比較的まれな1例を経験したので報告する.I症例患者:71歳,女性.現病歴:前医にて平成20年1月左眼,同年2月右眼の白内障手術を施行された.術後の経過は良好であったが,平成21年3月頃左眼に充血を認め,左眼上強膜炎の診断にてリン酸ベタメタゾン点眼を1日4回,4カ月間処方された.しかし,改善を認めないため精査加療目的にて平成22年7月7日当院紹介受診となった.既往歴:高血圧.家族歴:特記すべきことなし.〔別刷請求先〕中安絵理:〒177-8521東京都練馬区高野台3-1-10順天堂大学医学部附属練馬病院眼科Reprintrequests:EriNakayasu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo117-8521,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(91)239初診時検査所見:視力は右眼0.5(0.8×IOL(+1.00D(cyl.1.75DAx90°).左眼0.3(0.7×IOL(cyl.2.75DAx95°).眼圧は右眼14mmHg,左眼22mmHg.前眼部は左眼の強膜上方に深在性強膜血管の充血と浮腫を認めた.鼻側には,白色無血管領域と思われる所見を認めた(図1).また,前房内に軽度の炎症細胞を認めたが,眼底には黄斑を含め,特記すべき所見は認めなかった.眼位,眼球運動にも異常は認めなかった.全身的には末梢血液検査,生化学検査ともに異常は認めなかったが,赤沈29mm/hr(基準値20mm/hr以下)および抗核抗体80倍(基準値40倍未満)の軽度亢進を認めた.さらにP-ANCAが63EU(基準値20EU未満)図1初診時左眼前眼部写真上方の強膜血管の充血,結膜浮腫,鼻側に無血管領域を認める.と上昇していた.一方,C-ANCAは正常であった.尿検査では潜血(1+)であった.膠原病内科にANCA関連血管炎の検査を依頼したところ,明らかな内科的所見は認めなかったので,糸球体腎炎などの発症に十分考慮しながら,2カ月ごとの定期観察となった.経過:当院初診時7月7日より左眼前部壊死性強膜炎の診断のもと,リン酸ベタメタゾン点眼を左眼6回/日に増量した.さらにブロムフェナクナトリウム点眼を左眼2回/日追加した.約1週間後の7月16日,虹彩炎の他,硝子体混濁,網膜血管炎,黄斑浮腫を発症(図2)し,左眼矯正視力(0.4)に低下した.フルオレセイン蛍光眼底造影では造影後期に黄斑部の過蛍光と網膜血管からの漏出を認めた(図3).コンピュータ断層撮影(CT)では後部強膜の肥厚は認めず,強膜厚に左右差もなかった.網膜血管炎および黄斑浮腫に対し7月26日トリアムシノロンアセトニド20mgのTenon.下注射を施行したが,改善は認められなかった.また,強膜炎に対し初診時よりリン酸ベタメタゾン点眼とブロムフェナクナトリウム点眼を投与するも改善なく8月9日よりシクロスポリン点眼を追加した.しかし,依然として改善傾向は認めなかった.そこで,9月17日より約1カ月間プレドニゾロン1日30mgの内服投与をしたところ,強膜の一部は菲薄化したものの強膜の充血所見は著明な改善を認めた.10月22日よりプレドニゾロンを5mg/週で漸減し12月3日中止とした.その後はリン酸ベタメタゾン点眼とブロムフェナクナトリウム点眼のみで強膜の充血はさらに改善をし,黄斑浮腫も改善傾向を認めた(図4,5).これらの所見,症状の改図27月16日左眼光干渉断層計(OCT)写真黄斑浮腫を発症.240あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(92)図37月16日フルオレセイン蛍光眼底造影造影後期に黄斑部の過蛍光と網膜血管からの漏出を認めた.善に伴いP-ANCAも10単位未満と正常化した.その後,強膜炎,虹彩炎,網膜血管炎,黄斑浮腫などの再発は認めず,ブロムフェナクナトリウム点眼も中止し,リン酸ベタメタゾン点眼1日4回のみで経過良好である.また,平成23年2月に後発白内障に対し両眼YAGレーザー後.切開を施行し,左眼矯正視力(0.7)と改善されている.II考察ANCA関連血管炎について,C-ANCAはWegener肉芽腫に特異性が高く,P-ANCAは壊死性半月体形成腎炎,顕図412月24日左眼前眼部写真プレドニゾロン中止約3週間後強膜の充血は改善を認めた.微鏡的多発性動脈炎との関連性が高いと報告されている5).しかし,Matsuo8)はP-ANCA陽性で眼疾患および全身疾患をともに有する自験例4例および過去の文献例27例の合計31症例についての報告でP-ANCAとともにC-ANCAも陽性の重複例1例,Wegener肉芽腫1例を示している.また,Laniら9)はC-ANCA陽性患者7例中5例がWegener肉芽腫と診断されていたが,P-ANCA陽性患者7例中にも2例のWegener肉芽腫症例があったと報告している.以上のようにC-ANCA,P-ANCAともに陽性となる重複例がみられる点,全身疾患との対応が必ずしも100%ではなく,特にWegener肉芽腫はC-ANCAのみならずP-ANCA陽性例に図512月24日左眼光干渉断層計(OCT)写真黄斑の視細胞内節外節接合部(IS/OS).外顆粒層にかけてやや肥厚しているものの,黄斑浮腫は改善傾向を認めた.(93)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012241黄斑厚(μm)6784330.7視力(左眼)2%シクロスポリン点眼(回/day)0.1%ブロムフェナクナトリウム点眼(回/day)プレドニゾロン(mg/day)0.1%リン酸ベタメタゾン点眼(回/day)も認められる点などに留意する必要があると考えられた.P-ANCA陽性患者の眼科的合併症について,これまで結膜炎,上強膜炎,強膜炎,網膜静脈閉塞症,周辺部角膜潰瘍,視神経症,乳頭血管炎,後部強膜炎などの症例報告10)がある.Matsuo8)は31症例のP-ANCA関連血管炎のうち強膜炎は6例,視神経疾患は7例,網膜疾患は7例であったと報告している.また,奥芝ら11)はMPO(P)-ANCA関連血管炎の8症例の眼所見を検討し,4例に網膜綿花状白斑,5例に結膜炎,1例に上強膜炎を認めたとし,強膜炎は1例も確認していない.これらの報告からP-ANCA陽性患者の眼合併症として強膜炎は少なく後眼部疾患が比較的多いと考えられた.なお,C-ANCAとの関連の強いWegener肉芽腫の眼合併症では強膜炎が最も多く16.38%と報告されている12,13).本症例でも壊死性強膜炎の加療中に硝子体混濁,網膜血管炎,黄斑浮腫の後眼部所見を観察した.CT検査で後部強膜の肥厚はみられず後部強膜炎は否定的であり,これらの所見は前眼部壊死性強膜炎に併発した網膜血管炎による後眼部合併症と推測された.強膜炎のタイプについて,Laniら9)はP-ANCA陽性例の強膜炎は7例全例前眼部びまん性強膜炎であったとしている.長田らの報告14)したP-ANCA関連腎炎に併発した症例も壊死性ではなくびまん性強膜炎と思われる.本症例のような壊死性強膜炎の合併はこれまでの報告には見当たらず,まれなタイプと思われる.しかし,ANCA関連血管炎の発症機序を考えると壊死性タイプの強膜炎が合併することは十分に考えられることであり,今後症例を重ねて検討すべきと思われた.1992年Stankusら15)が,また1993年Dolmanら16)が抗甲状腺薬であるプロピオチルウラシル(PTU)の副作用としてP-ANCA関連血管炎を報告している.その後,同じく抗371360↑0.70.6後.切開術図6全体の治療経過プレドニゾロン内服投与後,視力も黄斑浮腫も改善している.TAsubT:トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射.甲状腺薬であるチアマゾール(MMI)でもP-ANCA関連血管炎を発症することが報告され,わが国においても現在までにPTUおよびMMIによると思われるP-ANCA関連血管炎症例が多数報告されている.筆者らの症例では,既往症として高血圧があり降圧剤を内服していたものの甲状腺疾患はなく,上記のような薬剤の服用歴はなかった.しかし,P-ANCA関連血管炎の原因を考えるうえで薬剤の服用歴の聴取も重要と思われた.また,本症例では,強膜炎発症の約1年前に両眼の白内障手術を施行されている.眼科手術後に発症する壊死性強膜炎(surgicalinducednecrotizingsclero-keratitis:SINS)の可能性も示唆される.SINSは手術翌日から数十年後に発症し,何らかの自己免疫疾患に伴うことが多いとされている17,18).SINSの発症原因としてANCAが関与していることも考えられ,今後検討する必要があると思われた.本症例では,高齢であること,全身合併症が認められなかったことから当初ステロイド薬,非ステロイド性消炎薬および免疫抑制薬(シクロスポリン)の局所投与を施行した.しかし,十分な効果が得られず,プレドニゾロン30mgから漸減内服投与を試みたところ強膜炎所見,黄斑浮腫ともに軽快し,視力も改善した.P-ANCAも正常に復した.全身的なANCA関連血管炎を発症している症例に対しては生命予後の悪い疾患もあり,ステロイド薬,免疫抑制薬などの長期にわたる全身投与が必須8,9,11)である.しかし,本症例のように全身合併症の発症していない症例に対してもANCA陽性である場合には,早期からステロイド薬などの全身投与を試みるべきであった.近年,ANCA関連血管炎に伴う眼科疾患の報告は,疾患概念の普及により増加している.しかし,その多くは全身疾患を伴うものであり,本症例のように全身疾患に先立って眼242あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(94)科疾患が最初に発症した症例は少ない.強膜炎を診断した場合,その原因としてANCA関連血管炎の可能性を考え,早期にANCAを測定すべきと思われた.文献1)DaviesDJ,MoranJE,NiallJFetal:Segmentalnecrotis-ingglomerulonephritiswithantineutrophilantibody:Pos-siblearbovirusaetiology.BrMedJ285:606,19822)FalkRJ,JennetteJC:ANCAsmall-vesselvasculitis.JAmSocNephrol17:254-256,19973)吉田耕治:ANCA関連血管炎症候群.リウマチ科19:575-586,19984)長沢俊彦:ANCA関連血管炎.病理と臨床16:262-266,19985)有村義宏,長沢俊彦:抗好中球細胞質抗体.臨床病理41:866-875,19936)Ho.manGS,SpecksU:Antineutrophilcytoplasmicanti-bodies.ArthritisRheum41:1521-1537,19987)SavigeJ,GillisD,BensonEetal:Internationalconsensusstatementontestingandreportingofantineutrophilcyto-plasmicantibodies(ANCA).AmJClinPathol111:507-513,19998)MatsuoT:Eyemanifestationsinpatientswithperinucle-arantineutrophilcytoplasmicantibody-associatedvascu-litis:Caseseriesandliteraturerevieu.JpnJOphthalmol51:131-138,20079)LaniTH,LyndellLL,BrianVetal:Antineutrophilcyto-plasmicantibody-associatedactivescleritis.ArchOphthal-mol126:651-655,200810)月花環,渡辺朗,神前賢一ほか:脈絡膜新生血管が認められたP-ANCA関連血管炎に併発した後部強膜炎の一例.眼臨100:688-691,200611)奥芝詩子,竹田宗泰,阿部法夫ほか:ミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体関連血管炎に伴う眼所見の検討.眼紀51:138-142,200012)FauciAS,HaynesBF,KatzPetal:Wegener’sgranulo-matosis:Prospectiveclinicalandtherapeuticexperiencewith85paitientsfor21years.AnnInternMed98:76-85,198313)ThorneJE,JabsDA:Ocularmanifestationsofvasculitis.RheumDisClinNorthAm27:761-769,200114)長田敦,篠田和男,小林顕ほか:MPO-ANCA関連腎炎に併発した強膜炎の一例.眼臨98:878-881,200415)StankusSJ,JohnsonNT:Propylthiouracil-inducedhyper-sensitivityvasculitispresentingasrespiratoryfailure.Chest102:1595-1596,199216)DolmanKM,GansRO,VervantTJetal:Vasculitisandantineutrophilcytoplasmicautoantibodiesassociatedwithpropylthiouraciltherapy.Lancet342:651-652,199317)O’DonoghueEO,LightmanS,TuftSetal:Surgicallyinducednecrotizingsclerokeratitis(SINS)-precipitatingfactorandresponsetotreatment.BrJOphthalmol76:17-21,199218)SainzdelaMazaM,FosterCS:Necrotizingscleritisafterocularsurgery:aclinicopathologicstudy.Ophthalmology98:1720-1726,1991***(95)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012243

眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):235.238,2012c眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例竹内正樹*1翁長正樹*1樋口亮太郎*1水木信久*2*1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室ACaseofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeDiagnosedbyOphthalmologicConsultationMasakiTakeuchi1),MasakiOnaga1),RyotarouHiguchi1)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine目的:眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU症候群:tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome)の1症例の報告.症例:27歳,男性.発熱,腹痛,体重減少を自覚し慢性胃炎,熱中症の診断で内科治療が行われたが症状の改善はみられなかった.2カ月後,右眼の充血,眼痛を自覚した.近医眼科でぶどう膜炎と診断され,横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.血清クレアチニン3.0mg/dl,尿中b2ミクログロブリン53.8mg/lであり尿細管障害が指摘された.腎生検で急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併からTINU症候群と診断された.点眼治療,副腎皮質ステロイドパルス療法によりぶどう膜炎,急性間質性腎炎は改善した.結語:ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮し精査加療する必要があると考えられた.Purpose:Toreportacaseoftubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome(TINUsyndrome)diagnosedbyophthalmologicconsultation.Case:A27-year-oldmaleexperiencedfever,weightlossandabdominalpain.Hewastreatedforheatstrokeandchronicgastritisbyaninternist,butthesymptomswerenotalleviated.Twomonthslater,henoticedpainandrednessinhisrighteye,andhisserumcreatinineandurinarybeta2microglobu-linlevelswerefoundtobeelevated.HewasdiagnosedwithTINUsyndromeonthebasisofocular.ndingsandrenalbiopsy.ndings.Theuveitisandinterstitialnephritiswereimprovedbyeyedroptreatmentandcorticosteroidpulsetherapy.Conclusion:TINUsyndromeshouldbeconsideredinpatientswithuveitisandcompromisedrenalfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):235.238,2012〕Keywords:間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群,TINU症候群,前部ぶどう膜炎,間質性腎炎,腎生検.tubulointer-stitialnephritisanduveitissyndrome,TINUsyndrome,anterioruveitis,tubulointerstitialnephritis,renalbiopsy.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(以下,TINU症候群)は,急性間質性腎炎にぶどう膜炎を合併した症候群である.1975年にDobrinが2症例を報告して以来1),現在までに世界で200例ほどの報告がみられる2).TINU症候群は若年女性に好発し,ぶどう膜炎は両眼性前部ぶどう膜炎が多くみられる3).全身症状には,発熱,体重減少,倦怠感,腹痛などがあり,眼症状としては充血,眼痛,霧視などがある3).急性間質性腎炎はぶどう膜炎に先行して起こることが多いが,ぶどう膜炎が先行した症例の報告もみられる3).TINU症候群の治療には,副腎皮質ステロイド,免疫抑制剤の全身投与が行われる.TINU症候群の視力予後は一般的に良好であり,腎機能障害についても89%で改善がみられるが,不可逆性の腎機能障害から腎不全に至り,腎移植が必要となることもある3).今回,筆者らは発熱,倦怠感,腹痛などを自覚し内科を受〔別刷請求先〕竹内正樹:〒236-0037横浜市金沢区六浦東1-21-1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科Reprintrequests:MasakiTakeuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,1-21-1Mutsuura-Higashi,Kanazawa-ku,Yokohama236-0037,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(87)235診していたが診断に至らずに,眼科受診を契機にTINU症候群の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:27歳,男性.主訴:右眼充血.既往歴:特記事項なし.平成22年6月頃より,発熱,全身倦怠感,腹痛,食欲不振を自覚した.近医内科を受診し,熱中症の診断で点滴加療を受けた.その後も症状が続いたため,上部消化管内視鏡検査を施行し慢性胃炎の診断で内服治療を受けていた.8月上旬より右眼の充血および眼痛を自覚し,8月21日,近医眼科を受診した.右眼の虹彩炎の診断でリン酸ベタメタゾン点眼の4回投与を行った.リン酸ベタメタゾン点眼により充血,虹彩炎の改善がみられたが,その後も軽快と増悪を繰り返した.10月4日,右眼虹彩炎の再燃および右眼眼圧28mmHgと上昇を認め,精査加療目的に横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.初診時視力は,VD=20cm/m.m.,VS=(1.2),眼圧は右眼21mmHg,左眼16mmHgであった.前眼部所見では,右眼に角膜浮腫,結膜毛様充血,前房内細胞(2+),前房フレア(+),虹彩後癒着を認めた(図1).右眼中間透光体,眼底は角膜浮腫のため透見不良であった.左眼に特記すべき所見はみられなかった.血液生化学検査では,血清クレアチニン3.0mg/dl,尿素窒素24.9mg/dlと高値であった.尿定性検査では蛋白定性2+,糖定性3+であった.アンジオテンシン変換酵素8.4U/lは正常範囲内であり,自己免疫抗体では抗核抗体(.),リウマトイド因子<10IU/ml,好中球細胞質抗体(PR3-ANCA<3.5U/ml,MPO-ANCA<9.0U/ml)は正常範囲内であった.心電図,胸部単純写真に異常所図1初診時右眼前眼部写真角膜浮腫,結膜毛様充血,虹彩後癒着がみられた.図2腎生検病理組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)間質に著明なリンパ球の浸潤を認める.糸球体の炎症はほとんどみられない.見はみられなかった.右眼前部ぶどう膜炎の診断で,リン酸ベタメタゾン点眼を1時間毎に増量し,トロピカミド・フェニレフリン点眼を開始した.腎機能障害の精査目的に,10月6日に腎臓高血圧内科を受診した.尿生化学検査では,尿蛋白定量148mg/dl(基準値20mg/dl以下),尿糖定量594mg/dl(基準値70mg/dl以下),尿中b2ミクログロブリン53.8mg/l(基準値0.3mg/l以下)と著明に高値であった.尿細管障害を主座とした腎機能障害を認め,同日,内科に緊急入院となり,尿細管障害による脱水補正を目的に生理食塩水2,500ml/日の点滴静注が開始された.10月8日に眼科受診時には,眼痛,充血は改善傾向であった.角膜浮腫は軽快し,結膜毛様充血,前房内細胞は改善傾向であり,右眼矯正視力は0.5となった.眼底所見に特記すべき所見はみられなかった.ぶどう膜炎および腎機能障害の合併より,TINU症候群を考慮し,10月12日に腎生検が施行された.病理学的検査では,尿細管間質にリンパ球と形質細胞の著明な浸潤を認め,尿細管は圧排されていた(図2).以上より,急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併よりTINU症候群の診断に至った.10月25日より副腎皮質ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日3日間)を行い,以後内服で漸減した.右眼ぶどう膜炎は点眼により軽快し,角膜浮腫の改善により右眼矯正視力は1.2となった.腎機能障害は安静と副腎皮質ステロイドパルス療法により軽快した(図3).その後,平成23年5月に左眼の前部ぶどう膜炎を認め,リン酸ベタメタゾン点眼を開始した.現在まで,右眼のぶどう膜炎の再発はみられていない.平成23年8月には血清クレアチニン,尿中b2ミクログロブリンが基準値内となった.236あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(88)副腎皮質ステロイド全身投与ベタメタゾン点眼1時間毎6回4回前房内細胞2+++2+++-1.510.50小数視力10月4日12日25日11月18日初診入院腎生検ステロイドパルス退院図3入院時経過Cr:血清クレアチニン,U-b2II考察今回,筆者らは全身症状を自覚し内科を受診したが診断に至らずに,眼科受診を契機に腎機能障害を指摘され,TINU症候群の診断に至った症例を経験した.TINU症候群では腎機能障害は89%で改善すると報告されている3).しかし,腎不全に至る症例もあり早期発見,早期治療が重要となる.TINU症候群のぶどう膜炎は点眼治療に対する反応も良いため,ぶどう膜炎の治療のみを行うと急性間質性腎炎の診断が遅れる可能性がある.今回の症例においては,全身症状の自覚からTINU症候群の診断に至るまでにおよそ4カ月を要した.他の報告4)でも,発症初期では眼科,内科が独立して治療を行っていることも多く,早期の診断のためには内科との円滑な連携が重要となる.ぶどう膜炎の診察では炎症が軽度であっても全身疾患が隠れていることもあるため,血液尿検査をはじめとした全身検査が必要である.TINU症候群では視力予後は良好である3).症例では初診時に角膜浮腫を伴っており視力は手動弁であった.急性期においても視力低下は比較的軽度であり手動弁にまで低下した報告は過去にない.しかし,治療経過は他の報告と同様に副腎皮質ステロイド点眼により,速やかに視力が改善している.TINU症候群では50%程度の症例でぶどう膜炎が再発するため3),今後も定期的な診察が必要である.症例では現在までぶどう膜炎の再発はみられていないが,7カ月後に副腎皮質ステロイド10mg/日を内服中であるにもかかわらず左眼に初めて前部ぶどう膜炎を認めた.過去の報告でも高用量の副腎皮質ステロイド投与中にぶどう膜炎を発症した症例が報告されている5).CrU-b2MG(mg/dl)(mg/l)3.0602.0401.0200.00MG:尿中b2ミクログロブリン.TINU症候群の診断について標準的な診断基準は確立されていない.腎機能障害とぶどう膜炎を合併する鑑別疾患としては,サルコイドーシス,Sjogren症候群,全身性エリテマトーデス,Wegener肉芽腫症などがあげられる.これらの疾患との鑑別には,腎生検における急性間質性腎炎の病理所見が重要となる.MandevilleらはTINU症候群の診断基準について,急性間質性腎炎の2カ月前から12カ月後以内に発症した両眼性ぶどう膜炎をtypicaluveitisとし,typicaluveitisと急性間質性腎炎の病理診断を合わせた症例をde.niteTINUsyndromeとしている3).症例では,両眼同時発症ではないが両眼性ぶどう膜炎と急性間質性腎炎の病理診断よりde.niteTINUsyndromeとなる.TINU症候群の原因については感染,薬剤,自己免疫との関連が過去に報告されているが,いまだ結論には至っていない3).尿細管と毛様体上皮は炭酸脱水酵素阻害感受性の電解質輸送体に関して同様の機能を有しており,このことは両者に共通の交叉抗原が存在する可能性を示唆している6,7).近年の報告では,Tanらはmodi.edCRPに対する自己抗体がTINU症候群の原因である可能性について報告している8).また,OnyekpeらはTINU症候群で腎不全に至り腎移植を受けた患者で移植腎においても間質性腎炎がみられたことから,TINU症候群の原因は血液中の自己抗体ではないかと推察している9).III結語ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮して内科との連携を図り精査加療する必要がある.(89)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012237文献1)DobrinRS,VernierRL,FishAL:Acuteeosinophilicinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanteriorueitis.Anewsyn-drome.AmJMed59:325-333,19752)SinnamonKT,CourtneyAE,HarronC:Tubulointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome:Epidemiology,diagnosisandmanagement.NephrolDialTransplantPlus2:112-116,20083)MandevilleJTH,LevinsonRD,HollandGN:Thetubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthal-mol46:195-208,20014)黛豪恭,秋山英雄,海野朝美ほか:良好な経過をたどった尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群の2例.臨眼63:897-901,20095)LavaSA,BucherO,BucherBSetal:DevelopmentofuveitisduringsystemiccorticosteroidtherapyinTINUsyndrome.PediatrNephrol26:1177-1178,20116)IzzedineH:Tubulointerstitialnephritisanduveitissyn-drome:Astepforwardtounderstandinganelusiveocu-lorenalsyndrome.NephrolDialTransplant23:1095-1097,20087)SugimotoT,TanakaY,MoritaYetal:Istubulointersti-tialnephritisanduveitissyndromeassociatedwithIgG4-relatedsystemicdisease?Nephrology13:89,20088)TanY,YuF,QuZetal:Modi.edC-reactiveproteinmightbeatargetautoantigenofTINUsyndrome.ClinJAmSocNephrol6:93-100,20119)OnyekpeI,ShenoyM,DenleyHetal:Recurrenttubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndromeinarenaltransplantpatient.NephrolDialTransplant26:3060-3062,2011***238あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(90)

My boom 1.

2012年2月29日 水曜日

記念すべき第1回目を恥ずかしながら,書かせていただきます.ただ,もともと何にでも興味をもつ「好奇心」旺盛な人間です.何事も浅く広く取り組む傾向があり,myboomも常に変わり続けていますが,今回は「臨床」「研究」「交流」「プライベート」についてのmyboomを紹介したいと思います.自己紹介鈴木崇(すずき・たかし)愛媛大学医学部眼科私は,愛媛大学眼科に平成11年に入局後,おもに「眼感染症,角膜疾患」の研究や臨床を行ってきました.2008年から約2年半ボストンのスケペンス眼研究所に留学していました.留学中,抗菌薬関係の研究をしていました.プライベートでは家族とともにアメリカンライフも満喫したと思います.もともと,いろんな企画をするのが好きで,学生時代はワンダーフォーゲル部のキャプテンとして,山歩きはもちろん「無人島サバイバル合宿」や「四国医学部対抗雪合戦」などの企画をしてきました.臨床のmyboom;「聞いて聞いて聞きまくる」私は前述のように,眼感染症疾患に興味がありますが,顕微鏡で病原体を探すことによって自分自身で診断を行い,その診断にそって治療を行うことを心がけています.そのため,眼感染症は永遠のmyboomなのかもしれません.しかし,最近では,「検査をして診断を行う」点で類似している眼炎症疾患にも興味がありまして,愛媛大学でぶどう膜炎や強膜炎の症例を経験させていただいています.特に,原因がわからないぶどう膜炎(75)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYに対して,病態を推測(ほぼ妄想ですが)しながら,治療をするように心がけています.そのなかでのmyboomは,かなりしつこい問診です.「職業は?」「好きな食べ物は?」など,ほぼ疾患に関係ないのかもしれませんが,少しでもヒントを得ようと聞いています.まるで探偵みたいですが.先日もステロイド薬に抵抗を示す強膜炎の症例を診察したときに,以下のようなやり取りがありました.鈴木:「職業は?」患者:「かつお節工場で働いています」鈴木:「かつお節!?発酵させていると思いますが,どんな真菌で発酵させていますか?」患者:「アスペルギルスです」鈴木:「アスペルギルス!?,鼻や口の症状はないですか?」患者:「鼻づまりがひどいです」って感じで,頭の中で「アスペルギルスとの接触→アレルギーとは異なる何らかの抗原抗体反応が粘膜組織で出現」なんて妄想しながら,ゴーグルやマスクの装用を勧めました.その結果,症状は軽快しました.こんな感じの外来が今は続いています.研究のmyboom;「クオラムセンシング」留学中は新規抗菌薬の開発を行っており,現在も新しい感染症治療を構築するために日々努力しています.そのなかで今最も興味があるのは「クオラムセンシング機構」です.クオラムセンシングについての詳細は成書に譲りますが,簡単にいえば「細菌同士のおしゃべり機構」で菌の病原性をコントロールしています.このクオラムセンシングを阻害することで,菌同士のおしゃべり(情報交換)を遮断し,病原性をシャットアウトできないかと思っています.抗菌薬を使えば必ず抗菌薬耐性になります.もし,菌を殺さず菌を無害化することで感染あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012223〔写真1〕ボストン留学中の勉強会にて症の予防や治療ができれば,耐性化の問題もなくなるのではないかと思っています.主婦のおしゃべりを止めれば,変な噂が立たないのと同じような!?ものかもしれません.交流のmyboom;「Facebook」「OMIC」「いろんな世界と交流する」というのは,視野を広げるためには非常に重要で,私の永遠のテーマでもあります.そのため,学生時代から海外放浪の旅をしたり,いろんなサークルに顔を出したりしていました.眼科医になってもYOBC(YoungOphthalmologists’BorderlessConference;あたらしい眼科24巻p473-474)という若手眼科医の会を発足させたり,留学中の仲間を集めてボストン眼科勉強会(あたらしい眼科26巻p1517)を企画したり,いろんな交流をしてきました(写真1).その私にとって,今「Facebook」はmyboomです.今,日本で「Facebook」はひそかにboomになっていますが,アメリカでは1億5千万人が参加している(日本では360万人;2011年6月9日時点)SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で,実名で,投稿し,知り合いと情報交換するものです.「実名」という点で日本のSNSである「ミクシー」とはまったく異なり,「実名」のもとに情報交換をするため,信憑性の高い情報を提供しやすくなります.このFacebook内の写真や記事などの投稿で,知り合いの近況を知ることができ,遠い距離でも,その関係性を失うことなく交流できます.留学中に知り合ったドイツ人やアメリカ人ともFacebookで交流を続けています.眼科医のなかでもFacebookはboomなようで,現在多くの眼科医とこのFacebookを通じて交流しています.また,最近では眼科微生物・感染症研究会(OcularMicrobiologyInfectionconfer-〔写真2〕アメリカで出家中?の写真ence;OMIC;オーミック)を立ち上げ,若手眼科医に眼感染症に興味をもってもらうように活動をはじめました.先日,スリーサムが開催されたときには第1回の研究会を行いました.研究会では,眼感染症についての討論や症例検討を行い,多くの先生方と熱い討論を交わしました.このように交流という観点ではいつも私の中にmyboomがあるのかもしれません.プライベートのmyboom;「キャンプ」「ひげ」もともとアウトドアが好きで,昔は「登山」や「釣り」に行っていました.ただ,子供がいる状況では休日があっても,なかなかアウトドアを楽しむ余裕がありませんでした.ところが留学中,ニューヨークに留学している学生時代の先輩に誘われて,家族でキャンプに参加して,「そうか!家族でアウトドアをすればいいんだ」ということに気づき,アメリカでキャンプセットを一式購入し,帰国後も時間を見つけては家族でキャンプしています.キャンプで子供と虫を探したり,ダッチオーブン料理にチャレンジしたりしています.そういうわけでキャンプはかなりのmyboomになっています.あと,留学中からいろんな髪型や髭を試しているのでそれもmyboomかもしれません.次のプレゼンターは京都の奥村直毅先生(同志社大)です.奥村先生は,YOBCの立ち上げを一緒にした仲間で,ワイルドで多趣味な先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.224あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(76)

眼研究こぼれ話 26.糖尿病性網膜症 幽霊細胞が直接的原因

2012年2月29日 水曜日

●連載桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長糖尿病性網膜症幽霊細胞が直接的原因糖尿病については,前回すこしふれた.糖尿病患者は,インシュリンと,食事療法のおかげで,天寿を全うすることができる.ところが,困ったことに,この病気を長期にわたって持っている患者は,往々にして失明することがある.成人の失明者の3分の1が糖尿病によるとも言われている.網膜の血管系を簡単に観察することのできる私の方法を利用して,不幸にも死亡した糖尿病患者の眼を調べてみた.すると,これらの網膜の血管に特有な変化が起こっていることを見つけたのである.それで,ベルギーから私の所へ留学していたツーセイン博士に,シャツのそでをまくり上げるように命じたのである.網膜の中を走っている正常の毛細血管には細い管を作っている内皮細胞と,それを取りまくペリサイトという細胞が50対50の割合で,存在している.ところが,糖尿病患者の網膜を見ると,このペリサイトが変性をして,数が減っていたのである.たくさんのペリサイトが幽霊のようになる特殊変化を発見したわけである.ウイルヒョー大先生以来,血管の病変を調べている人は,数えきれないほどいるが,このような特異な変化を見た人はそれまでだれも居ない.この幽霊細胞が直接の原因となって,その部位が膨大し,小さい動脈瘤(.りゅう)となったり,破れたり,また,毛細管が異常に拡大されて血流のコントロールが乱れたりすることが,網膜の変性,ひいては失明の原因となることをはっきりさせたのである.糖尿病による網膜症の病理はこの所見をもととして,新しく書きかえることができた.これは1962年を中心とした数年間の出来事である.(73)▲糖尿病患者の網膜血管の病変.小さい血管瘤が出来ている.また大部分の毛細管が死滅している.これらの変化が網膜症の原因である.(60倍)ツーセイン君は気が狂うばかりに喜んだ.ビキニ姿の美人ワイフの写真を机上に飾った彼は,彼女の呼び寄せを延期してがんばった.研究を進めるうち,もっと正常の血行を調べる必要を生じ,若いフリードマン博士はネコ,サルの眼の顕微鏡映画を撮ることとなった.頬(ほお)の骨をそっと取り除き,眼球の後側部をうまく露出させ,そこに小さな窓をつくって網膜に直接顕微鏡レンズを密着させるのである.アイヤフレックス16ミリと,動物を古い施盤機にとりつけ,マイクロミーターのねじで操作すると,建物の震動を取り除くことができた.前方に開いている角膜から光を入れ,血行の様子を美しい映画にとることに成功し,われわれのそれまで知らなかった生理学的,薬理学的のデータを作り得たのである.この映画の助監督は大和撫子(.なでしこ)であった.この若くて美しいお嬢さんは数回の失敗を繰り返しているうち,デリケートな手術の方法を完全に習得し,ついに監督不要の域にまで達した.このあたらしい眼科Vol.29,No.2,20122210910-1810/12/\100/頁/JCOPYほか,数人の若い医学者たちにいろいろの部門を分担してもらって,糖尿病に関係した網膜の血管研究は面白いほどにはかどったのである.これら一連の輝かしい仕事は,いつも型破りにスマートな野郎どもが考えつくアイデアで進められている.ツーセイン,フリードマン,ライニック博士などである.研究者たちが興奮していると,技術員の意気も上がって来る.前述の大和撫子嬢は深夜までがんばることもあり,ある夜遅く,帰途を悪漢におそわれたりしたこともあった.私の研究室で作り出した病理学的理論はそのころ,完成された網膜血管のけい光血管撮影技術によって,生きている患者でも実証され,糖尿病網膜症の本態はほぼ突き止められている.しかし,治療となると難しい.光凝固療法などが行われているけれども,本当に有効な方法には到達していない状態である.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆222あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(74)

現場発,病院と患者のためのシステム 1.病院向けパッケージの基礎知識

2012年2月29日 水曜日

はじめに医事会計システム,電子カルテシステムなど,病院向けのパッケージはベンダ(システム開発会社)から販売されており,病院では機能,導入コストなどを勘案し適宜選択している.しかし,安易な選択により問題点を抱えたまま使っている場合が少なからずある.そうならないための基礎知識を紹介する.ITの世界では,パッケージとは“出来合いの業務ソフトウェア”という意味だが,スーツでいえばいわゆる“吊し”である.適宜選んだのち,ズボンの丈を直すのが一般的で,少し待っていればできあがり,比較的安価で,早く着用できるという特長がある.これに対してオーダする場合は,一般的に高く,着られるまでに時間を要する.パッケージは,“吊し”に相当し,業務分析から入って一から作る(スクラッチ開発)は,オーダに相当する.どちらがよいのか?単純に費用と時間で比較すれば前者のほうに分があることは理解できるが,着心地という肝心の部分に相当する使い勝手は,明らかに後者に軍配があがる.また,価格的にスーツとソフトウェアパッケージとは桁が違うこと,一度導入すると,それを前提に院内業務が動いてしまっていること,および入力済みの多種多様な情報があり,簡単には買い換えられないことを考慮しなければならない.スーツと違って保守,バージョンアップの費用も見込まなければならないこともあり,慎重な事前検討が必要になる.ある調査会社のホームページに,パッケージ選定から稼働開始,運用,保守の導入フェーズ別の電子カルテ満足度推移があった.パッケージが決まった段階では,やや満足と満足を併せると50%以上が満足と評価するものの,稼働してしばらく経つと,両方併せても30%を切るようになり,使い続けて保守が必要になる頃には,20%まで下がり,満足と評価するのは5%以下になるというものである.また,この頃になると,導入直後にはなかった不満が増え,やや不満を併せると40%以上が何らかの不満を抱くようになるという.このデータだけでは,一概にはいえないものの,実態に近いのではないかと思わせるものであった.問題は,使い始めてから使(71)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYいづらいことに気がつくということである.慣れるしかないという話を聞いたことがあるが,事前の検討が不十分であること,およびパッケージ自体が現場の作業実態を反映した機能,操作性になっていなかったのではないかと想像される.価格と導入実績をみて,安易に決めてしまう傾向にあるのが現状といえるが,導入実績は文字通り導入した件数のことで,費用に見合う効果をあげているところ,患者,医師,看護師などコメディカルが満足して使っている件数ではないことに気をつけなければならない.ベンダは,成功事例を紹介することがあるが,うまくいっているといわなければならない立場の人物が応対することを考慮しなければならない.本当にうまくいっているとしても,その成功要因が自院に当てはまるかを検討しなければ損をしかねないことに,注意が必要である.不具合を慣れでカバーしてしまい,問題を問題と思わなくなってしまうと,本質的な解決は遠のき,本物の効果は期待できない..パッケージとはソフトウェアのパッケージとは,該当する業務を調査し,必要な機能を洗い出し,その機能をソフトウェアで実現したものだが,できるだけ適用範囲を広げなければならないという宿命があるため,平均値の仕様で作らざるを得ない.そのため,帯に短し,タスキに長しになるし,痒いところに手が届かず,不足部分を手作業で補い,不要な部分は使わないという,スクラッチ開発ではあり得ないことが起きる.その代わり,比較的出費が少*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIOあたらしい眼科Vol.29,No.2,2012219図1屋上屋を重ねる複数パッケージによる問題なく,早期導入ができるというメリットがあるといわれている.しかし,そのようなメリットを実感できるだろうか.パッケージの機能をそのまま使う場合には,少なくても早期導入というメリットを感じることができるが,多かれ少なかれカスタマイズを行うのが普通であり,早期とはいかない場合が多い.出費が抑えられるというメリットはどうだろう.パッケージの仕様を決める際,カスタマイズ可能な範囲をどこまで考えていたかで決まる.想定内であり,パラメータを変更するだけで対応可能な場合にはパッケージのメリットを感じることができるかもしれない.例えば,術式の指定をする処理で100種類の術式が用意されているところに,5種類の術式を追加する,あるいは登録済みの術式を削除したり,術式名を変更することはあり得ることだが,それが容易に行えるようになっているかである.クリニカルパスも同様で,既存パスの追加,変更,削除,新規のパスの登録が容易にできるように考えて作られているのが常識的な構造だが,そうなっているかをパッケージを選択する際に確認しておかなければならない.モダンホスピタルショーで見た再来受付システムでは,診察カードを挿入した際に表示される案内メッセージの文面を変更するには,ベンダが有償で行うという説明を受け,唖然としたことを覚えている.メインの機能だけではなく,このような機能まで調べておかないと,安いと思っていたパッケージが意外に高くつくことがあり,そのような事例が多いことを考慮しておかなければならない..屋上屋を重ねる全体構想があり,これに沿って順次投入されたのではなく,必要になった都度,必要になった業務をカバーする機能を,屋上屋を重ねるように作ってきたのが現状といえる.技術的なブレークスルーや,システムに期待されるものが質量共に大きく変化した場合には,リセットして作り直すべきだが,継ぎ接ぎのバージョンアップで乗り越えてきたパッケージは多い.業務種類ごとにそれを得意とするベンダのパッケージを導入した場合には,狭い診察台にパッケージ対応のディスプレイが複数置かれることになる.また,異なるベンダ製のパッケージの操作性は統一されておらず,情報の重複も発生し,障害発生時の対応に時間を要するなどの多くの問題を抱えることになる(図1).☆☆☆220あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(72)