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My boom 6.

2012年7月31日 火曜日

監修=大橋裕一連載⑥MyboomMyboom第6回「安川力」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑥MyboomMyboom第6回「安川力」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介安川力(やすかわ・つとむ)名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学私は,京都大学医学部卒業後,平成5年に京都大学眼科学教室に入局しました.医学部時代はラグビー部で,運動神経は決して良くはないですが,運動,アウトドアーが好きです.大阪出身,こてこての関西人で,お調子者なところもあり,つい一言多いため,毒舌,変人と呼ばれることが多いのですが,親交を深めると,実は,義理人情に厚く,情熱的,博愛的,独り遊び・自然を好む内向的な性格であることをわかって頂けます(ネタです).眼科のmyboom「RPE」私の学位論文のテーマは網膜硝子体疾患へのドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発でした.研究テーマというものにも流行(個人的なmyboomに対して,globalboom?)があり,当時(1990年代)はAIDS患者のサイトメガロウイルス網膜炎が社会的問題となっていて,全身投与では副作用が強く,眼内注射では現在のラニビズマブ以上の頻回投与が必要となる低分子量薬剤の眼内徐放DDSの開発競争がありました.米国発の非分解性眼内インプラント(VitrasertR)が市販されたことで流行は下火になりましたが,当時,小椋祐一郎先生,田畑泰彦先生,木村英也先生を中心に,われわれが開発してきた生体分解性高分子DDSの知見は,その後,黄斑浮腫治療薬のOzurdexRや臨床試験中のマイクロスフェア製剤などの登場に貢献したと思っています.一(87)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY方,糖尿病網膜症の病態への最終糖化産物(AGE)の関与という研究分野を背景に,加齢眼のBruch膜や摘出された脈絡膜新生血管膜にもAGEの存在が報告されたことからAGEと加齢黄斑変性(AMD)の関連が示唆されていました.そこで,DDSを利用してAGEを網膜下に徐放してみて欲しいとドイツのライプチヒ大学から依頼があり留学する機会を得ました.幸い,AGE反応を利用して作製したリポフスチン模擬微粒子を家兎の網膜下に注入することにより,リポフスチン蓄積モデルという形でAMDに近似したモデルを作製することができました.留学中,網膜色素上皮(RPE)について学ぶにつれ,「RPE」がmyboomとなっており,これはライフワークといってもよいテーマとなっています.RPE細胞は全身の細胞のなかでも最も多種多様な機能を有する細胞の一つだと思います.上皮一般機能としてのバリア機能(血液網膜関門)はもちろんのこと,光線曝露で酸化変性した視細胞外節の貪食機能,いわばマクロファージのような機能を有しています.現在,RPEにおける自己貪食(autophagy)機能の研究が流行になりつつあります.さらに,小腸上皮がカイロミクロンを産生するようにRPEがリポ蛋白を脈絡膜側に放出しています.また,血管内皮増殖因子(VEGF)を分泌し脈絡膜毛細血管を保持しているほか,炎症や免疫にも深く関わっていそうです.最近,Bruch膜に蓄積してくるAGEやMDAなどの過酸化脂質と補体機能の関与が報告され,病態解明に向け前進しています.このように,RPEの脂質産生機能,「眼のメタボ」としてのBruch膜への脂質沈着の重要性が推定されるなか,それを評価する実験系がありませんでしたが,ドイツ留学中にRPE細胞の三次元球体培養でBruch膜側を表面にもつRPEの上皮化に成功し,帰国後もBruch膜側に起こる脂質沈着やドルーゼン形成のメカニズム解明に取り組んでいて,あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012963 〔写真1〕Myboom「scubadiving」すっかりRPEの魅力に取りつかれています.この培養システムが認められるまで苦労もありますが,その意義については確信しており,いつかmyboomから,他の研究者にも認知され流行へと発展することを願い,地道に研究を続けたいと思います.趣味のmyboom「scubadiving」中学生の頃,ペットセンターで当時はまだ珍しかった海水魚の水槽の中,ひときわ愛嬌たっぷり泳ぐ魚にすっかり一目惚れ.魚図鑑で調べたら「モンガラカワハギ」という魚で,沖縄など南の海に生息と記載があり,大人になったらダイビングして出会ってみたいと思いながら,学生時代を過ごしました.眼科研修医1年目の夏休みの1週間をフルに利用し,沖縄にて念願のライセンスを取得しました.しばらく海から遠ざかっていましたが,忙しくなるほどに海が恋しくmyboomです.海の中は想像した以上に素敵で,これは潜ってみなければわかりません.海の魅力というと加山雄三かっ!ていうぐらい熱く何時間でも語れます.実際,それでダイビング仲間に引き込んだ人が10人ぐらいいます.「貴方に自然を観て美しいと思う心があるのなら,地球の7割を占める海の中を観ないで人生を終えるなんて何てもったいないことでしょう…」と僕の勧誘は始まります.「いや,あまり泳ぎが得意でないです…」という反応もしばしば.僕は間髪いれず,「いえ,ダイビングは沈むスポーツです.無重力のなか,ぷかぷか浮かぶだけで泳げなくても大丈夫.」と切り返します.実際,半身麻痺の方が車椅子で乗船して,スタッフに抱えられて,海に放り投げられて潜水.100本記念だったかで海から上がってから同行した僕たちも混じってシャンパンでお祝いしたこともありました.「水族館で観たらいいや…」という人もいるでしょう.違うんですよね.魚の鑑賞だけではないのです.魅力は大きく5つ.自然,光の神秘,無重力,静寂,友愛といったところでしょうか.自然に触れ,魚の鑑賞は言うまでもなく,珊瑚など地形の美しさは素晴らしいもので,それに光の神秘が加わり,天候,太陽の角度,海面の状況,深度,観る角度によって見える景色はまったく異なってきます.光はスペクトルに分かれ赤は深い所では減弱し赤色は黒っぽく見えてきます.淡水魚に比べ,白・青・黄の魚が多い理由でしょう.全身,海水に包まれ無重力で静寂な世界は,まるで胎児のころに戻ったような,日常の喧噪から隔離され,ストレスも海水に流れていきます.命はたった一つの管とボンベで守られているため,安全確保のためペアで潜水し相手をバディとよび命を預け合います.少々冗談を言い合っても,お互いを,またグループ全体を見守り,思いやる気持ちで統率され,それは静寂の中,アイコンタクトと手振りだけのやり取りになるため,一層,海水と一緒に友愛の心が全身を包み込んでくれます.ときに天候が悪く潜れなくても,目的の魚が見られなくても,大自然を相手にしているのでそれもダイビングの一部と考えれば問題ではありません.そして,1ダイブたった20.50分ほどを1日2.3本程度ですが,大物に出くわしたときの感動は陸に上がっても余韻が残り,それを肴に仲間と食事し,仕事への活力にもつながります.そして,日常に疲れてくるとまた海が恋しくなるのです.皆様も日常に疲れたらご一緒にどうですか?次回のプレゼンターは奈良の木村英也先生(永田眼科)です.研修医.大学院時代の敬愛する先輩で,度が過ぎるぐらいアクティブなmyboomを紹介していただけると思います.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.964あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(88)

現場発,病院と患者のためのシステム 6.病院システムを構成する技術,製品に関わる雑学的知識

2012年7月31日 火曜日

連載⑥現場発,病院と患者のためのシステム連載⑥現場発,病院と患者のためのシステム病院システムを構成する技術,製品につき,病病院システムを構成する技術,いため,また付和雷同にブームに迎合しないための基礎知識です.製品に関わる雑学的知識院経営者,医師,看護師,検査員,医事会計課員など,医療従事者が知っておいて損はないものを雑学的に紹介します.ベンダの甘言に乗せられな*杉浦和史“生兵法はケガの元”と感じるシーンに出会うことがあります.Oracle(オラクル)と呼ばれるデータベース(DB)がありますが,因果関係が複雑に入り組み,ベテランSEでも最適な設定にすることが難しく,チューニえたものでなければなりません.気がついたところ,必ングを専門とする技術者がいるくらいのこのDBを,解要になったところから,五月雨的に導入していったので説本で勉強し,実務に適用しようとする医療関係者がいは,システムが提供する機能と情報を有効に活かすことます.これは,教科書,マニュアルの知識で手術に臨むはできません.ようなもので,とても危険です.いくつものコマンドや設定を諳んじ,軽やかにキーボードを打つことができる前置きが長くなってしまいましたが,病院システムをという方もいますが,その延長線上でシステムもできる支える技術,製品にはどのようなものがあるのでしょう.かも知れないと考えチャレンジすると,火傷をするで要素に分けると,ハードウェア,ソフトウェア,アプしょう.リケーションの3つに分類されます.前者2つは,文字一方,既成概念で凝り固まった玄人よりも,しがらみ通り日進月歩で,先月できなかったことが今月にはできやこだわりがなく,発想が自由な素人のほうが,「そんなる技術,製品が出てくることも珍しくありません.一考え方があったのか」と目から鱗のアイデアを出す場合方,現場の作業を反映する後者は,BPRをしなければもあります.ここは,玄人はおごらず,また既成概念に旧態依然としたままの業務を反映するだけで進歩はありとらわれず,素人は“生兵法はケガの元”という言葉がません.実現手段は革命的なスピードで進歩しますが,あることを知って臨むことが必要ではないかと思います.それを使って業務のIT化を図るアプリケーションは,意識して変革しないと旧弊を引き継いだままで変わるこExcelやAccessでちょっとしたIT化を図り,作業とがないということです.アプリケーションはBPRをの効率化を図った経験をもつ方が,その延長線上で部門したうえで作ることを前提とし,それを実現するための間をまたがる複数の業務や,組織全体に関わる業務を処手段につき検討しましょう.理するシステムもできると思いこんでしまうことがあります.限られた範囲の限られた作業のIT化と,複数あサーバー,パソコン,タブレット,Pad(スレート型るいは院内すべての業務を対象とするそれとでは,考慮パソコン),自動受付機,自動精算機,RFID(無線を利すべき要素の数と深さが大きく違うという点が理解され用する自動認識技術)などのハードウェア,および,ていないのかもしれません.意識,無意識を問わず,こOS,DB,ネットワーク,音声合成・認識,手書き認識れを無視して作って(導入して)しまうと,システムとなどのソフトウェアがあります.最近ではスマートフォは呼べないブツブツに切れた機能の集合ができてしまいンなども出て来ました.このような製品,技術が出てくます.目の前の面倒くささを解決することと,全体の効ると,「さて,何に使えるか」と考えます.iPadが出て率向上を図ることの違いは,実際に経験しないとなかな来た時は,訪問介護やインフォームド・コンセントなどかわからないでしょう.に使うアプリケーションが出て来ましたが,これはシステムとは,個別の業務対応に作られた機能の寄せiPadを使い勝手のよい表示装置としての使い方です.集めではなく,病院全体の業務を洗い出し,それに必要な機能と情報が相互に連携しあうことを計画当初より考*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)(85)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129610910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図1宮田式自動精算機プロトタイプ図1宮田式自動精算機プロトタイプ図2Pad(スレート型パソコン)表示する情報が必要になりますが,それが蓄えられていなければ画期的な表示装置といえども意味がありません.これに限らず,新しい技術,製品が出て,ベンダ(システム開発,提供会社)が売り込みにきても,それを活かす環境が自院にあるかを見極めなければなりません.自動精算機という名前もそのまま信じると間違ってしまいます.決して自動ではなく,医事会計課が面倒な算定ルールを反映する諸作業を裏で行い,その結果を自動精算機で支払ってもらうというだけです.自動なのは支払いだけです.その支払い操作も,説明員がいないとスムーズにいかない場面を見受けます.どこまでが自動なのかの範囲を正しく理解しないと期待はずれに終わります.便利さを感じるために必要な操作能力をどこまで求めるのか,来院する患者の年齢層を考え,費用対効果を勘案して導入可否を決めるべきでしょう.当院で開発中の院内業務総合電子化システム(Hayabusa)では,既存の自動精算機ではなく,精算に必要な情報と機能を分析したうえで,会計スタッフが操作する自前の精算システムを開発中(図1)です.汎用品を組み合わせたハードウェアの費用は1/12程度で済み,現場の実態を反映した機能と操作性という点では,既存製品とは一線を画します.iPadのようなスレート型パソコンも,表示だけではなく,入力も容易にできなければ用途が限られてしまいます.製品動向を見極め,使える新技術,新製品がいつ頃出てくるかを想定しながらハードウェアを選びますが,Hayabusaでは,昨年末に発表された表示面積がA4サイズと広く,電磁ペンでの入力もできるPadを選択しました(図2).ブームのAndroidではなく,使い慣れたWindowsで動くもので962あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012すが,これにより訪室など病棟業務は元より,手術,外来処置など応用分野も広がり,作業効率向上の一翼を担う予定です.詳しくはマイクロソフトの事例紹介(http://www.microsoft.com/ja-jp/casestudies/miyatamed.aspx)をご覧ください.マスコミが煽るブームに乗らず,ベンダの甘言に乗せられず,やりたいことを実現できる製品,技術を見つけ出すためには,病院スタッフ自ら情報を捜し,知識を得ることと,実戦(実践)経験豊富な先達のアドバイスを受けることを勧めます.特に,前者はインターネット全盛の今,容易にできる環境にあります.ハードウェアは,同じ価格帯ならどれを選んでも大差ない時代です.OSは選択の余地は少なく,そもそも病院スタッフが選べるものではありません.DBはOracle,SQLseverなどが一般的ですが,使っているうちにレスポンスが悪くなるという現象はDBが大きく影響しています.当院のHayabusaでは,東証など,性能で問題があったところでその解決策として採用された実績をもつ超高速DB,4DDAMを使います.捜せば,優れた製品はあります.アンテナを高くして情報収集することを勧めます.残るはアプリケーションを構築するSIerです.一流会社にも二流社員がいます.どの会社ではなく,誰が担当するかを見極める必要があります.ただし,注文を取る時は弁舌さわやかな優秀な人物をあてがい,受注すると平凡なSEを割り当てるという,羊頭狗肉なSIerもあることを頭に入れておいて損はありません.大手SIer→そのディーラ→その協力会社ということも珍しくありません.要注意です.(86)

タブレット型PCの眼科領域での応用 2.眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか-その1-

2012年7月31日 火曜日

シリーズ②シリーズ②タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第2章眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか─その1─■情報端末としてのタブレット型PC第2章では実際の臨床業務において,どのようにタブレット型PCを活用するか,またなぜ眼科領域において有用であるかを私の実践例を踏まえて紹介していこうと思います.おもに有用なポイントは,まず必要な情報にきわめて迅速にアクセスできる携帯可能な情報端末である点,そして患者の視機能に合わせたオーダーメイドな設定が可能で,必要な情報を最も理解しやすい方法で提供できる点の2点です.本章では,情報端末としてのタブレット型PCの利点を紹介しようと思います.なお,私が現在GiftHandsの活動や実際に外来で扱っている電子タブレットは,すでに医療現場に導入例のあるiPadRとiPhoneR(AppleInc.)の最新機種である“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年5月30日現在).■私の実践活用法「マニュアル編」では,実際の使用法について紹介していきます.私は初期研修医の頃,上級医に「わからないことがあったら,すぐに図書館へ行って調べて来なさい.最良の医療行為とは中途半端な記憶に頼った医療ではなく,しっかりとした最新の情報を常に確認したうえで成り立つのだよ.図書館に通う手間を,面倒臭がってはならない.」と何度も言われたのを覚えています.しかし,多くの臨床眼科医は自分の経験と記憶を頼りに日々の多忙な外来業務に追われているのが現状です.私も入局当初に配布された多くのポケットマニュアルを白衣のポケットに忍ばせていますが,実際にそれらを使用する機会は非常に少ないと言えます.その理由の一つは,必要な情報までのアクセスの過程が煩雑であり,情報の必要度よりも煩雑さが優先されてしまうためです.(83)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1各マニュアルの一覧表示(左)と各ページの縮小表示(右)iBooksR(AppleInc.より許可を得て転載)しかし,タブレット型PCの導入後はそれらの煩雑さから解放され,私の毎日の診療は安全で快適なものへと変化しました.眼科診療にかぎらず臨床の外来業務では,医師が単独で診察,診断,治療を行う機会は非常に多く,医療レベルが自分の知識量と経験値に左右されるところが大きいのは事実であり,必要な情報の確認が迅速かつ簡便に行えることは医療水準の向上に直結すると言えます.私は現在,外来診療中に必要なマニュアルやガイドランはすべてPDF形式で入手して,タブレット型PCで閲覧しています.代表的な電子書籍閲覧アプリであるiBooksR(AppleInc.)を用いると,取り込まれたPDFデータはまるで本棚に並んだ書籍から本を選ぶように簡単に閲覧でき,また本文の各ページの内容も縮小化された一覧表示のなかから直感的かつ迅速に選択することが可能です(図1).ポイントはタブレット型PCの起動からアプリ,書籍,ページの選択までのステップをほんの数秒で行うことが可能であることです.このためこれまでポケットに埋もれていたマニュアルやガイドラインはあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012959 非常に実践的なアイテムとして,毎日の診療の非常に頼もしい存在へと変化しました.また,電子化された教科書やポケットマニュアル内に病状説明などで使いやすい図表を見つけた場合,必要なサイズに拡大したうえで,スクリーンショットという操作(ホームボタンと電源ボタンの同時押し操作:iPadR)で簡単に表示された画像を画像データとしてストックすることができます.各疾患別に必要な画像を集めた自分だけの画像マニュアルやムンテラ用画像集を瞬時に作成でき,持ち歩くことができるのもタブレット型PCの強みです.なお,私が臨床で活用している眼科の外来マニュアルは,参天製薬株式会社のホームページ(http://www.santen.co.jp/jp/index.jsp)内の医療関係者向けの情報部門でPDF化された各種ポケットマニュアルとして入手することが可能です.そして非常に扱いやすく安価なアプリケーションソフトが日々生まれ続けていることもタブレット型PCの長所の一つです.ジェネリック医薬品が多く流通している昨今では,常に最新の医薬品情報を電子書籍として持ち歩くのは至難の業です.しかし,出張先の外来で処方経験のない薬剤などに出会った場合も,添付文書HDR(ObjectGraph)というアプリがあれば常に最新の添付文書の原文を閲覧することができ非常に安心です.「新しい薬に出会ったら,必ず一度は添付文書を読むように!」これも初期研修医時代の指導医の口癖でしたが,実践するのはなかなか難しいのが現状です.■私の実践活用法「教科書編」ここまで簡易マニュアル的な使用法を紹介しましたが,眼科学の教科書もいくつか正式なアプリケーションソフトとして発売されています.現在発売されている眼科の教科書アプリはエルゼビア・ジャパン株式会社から発売されている「カンスキー臨床眼科学原著第5版」,「角膜テキスト」,「角膜アトラス原著第2版」の3冊のアプリ版が存在しています.これらの教科書アプリは価格が紙ベースの物よりも安く,常に持ち運べるため非常に便利です.しかし,これらアプリの真の価値は,検索能力の高さと画像の解像度の高さにあります.通常の教科書では記載内容は目次から探すことになるのですが,アプリ版の教科書では本文全文に対するキーワード検索960あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012図2アプリ内の検索結果表示(左)と結果画像の一部を拡大しての閲覧(右)(KrachmerJH,PalayDA:CorneaAtlas2ndEdition,Edinburgh,ElsevierLtd,2006;坪田一男監訳:角膜アトラス原著第2版アプリ版,2010,エルゼビア・ジャパンより許可を得て転載)が可能です.たとえば“樹枝状”と検索ワードを入力すると本文内のすべての文字が検索対象として結果が表示されます.この機能は紙ベースの教科書では不可能であると同時に,実は臨床所見から疾患を調べるのに一番必要な機能でもあるのです.また,アプリ版の教科書では画像を拡大して閲覧することが可能なので,実際の所見と比較する場合にも非常に便利です(図2).「一度も見たことのない所見は,一生見つけられない.」これは眼科医になった頃によく言われた言葉ですが,タブレット型PCに表示された拡大画像を診察時に並べてみると,その言葉の大切さを再度実感させられます.これらはタブレット型PCの臨床業務への導入事例のごく一部ですが,タブレット型PCの登場によりわれわれの毎日の診療行為が,より安全で医療水準の高いものへと変化すると私は信じています.本文中に紹介しているアプリ等はすべてGiftHandsのホームページ内の新・活用法のページに掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問等はGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(84)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 110.硝子体出血併発増殖糖尿病網膜症における超音波Bモード検査(初級編)

2012年7月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載110110硝子体出血併発増殖糖尿病網膜症における超音波Bモード検査(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●硝子体出血例に対する超音波Bモード検査増殖糖尿病網膜症(PDR),網膜静脈閉塞症,裂孔原図1不完全後部硝子体.離例視神経乳頭部位で硝子体が癒着し,後部硝子体腔に出血を認め性硝子体出血など,硝子体出血をきたす疾患には種々のる.ものがあるが,硝子体手術の術前には超音波Bモード検査で眼底の状態を予測することが必須である.特にPDRでは,手術の難易度が症例により大きく異なるので,より詳細に検査を施行する必要がある.●PDRにおける超音波Bモード検査所見の読み方手術の難易度が低いのは後部硝子体.離が生じ,後部硝子体腔に出血が貯留している症例である.超音波プローブを眼瞼に接触させたまま眼球運動を行うと後部硝子体膜は大きく可動する.視神経乳頭と連続性がない完全後部硝子体.離例では診断は容易だが,PDRでは視図2肥厚した後部硝子体膜神経乳頭と硝子体が癒着している不完全後部硝子体.離一見,網膜.離のように見えるが,実際に手術を施行してみる例も多い.後部硝子体腔に出血を認める症例では診断はと肥厚した後部硝子体膜を広範囲に認めた.容易だが(図1),後部硝子体腔の出血が少なく後部硝子体膜が肥厚している症例では可動性も少なく,一見,網膜.離のように見えることがある(図2).通常PDRで生じる牽引性網膜.離はXサイン(図3)あるいはYサインとして描出されることが多いが,網膜.離を疑わせる所見を広範囲に認める例では,裂孔併発型牽引性網膜.離を念頭におく必要がある.●6方向の超音波Bモード検査は必須PDRに生じる牽引性網膜.離は視神経乳頭周囲よりも血管アーケード周囲で丈が高くなっていることが多いので,視神経乳頭を含む水平断,垂直断のみでは不十分で,必ず視神経乳頭の上方下方および耳側鼻側の断面も図3牽引性網膜.離例テント状に.離した網膜と,それに癒着する後部硝子体膜によ撮影する必要がある.すなわち,最低でも6枚の断面をりX型の陰影を呈している.撮影し,1枚のシートに整理することで,眼底の概要を予測することが重要である.解像度の良い超音波Bモー硝子体癒着部位や牽引性網膜.離の範囲をかなり正確にド装置を用い各スライスを詳細に描出することで,網膜予測することができる.(81)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129570910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 139.強度近視とゲノム

2012年7月31日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第139回◆眼科医のための先端医療山下英俊強度近視とゲノム三宅正裕(京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学)はじめに近視は日本を含んだ東アジア地域に多く,統計によっては40.70%の人が罹患しているともいわれます.必然,強度近視の頻度も高くなりますが,強度近視は法的失明につながるため公衆衛生上の大きな問題として関心が集まっており,事実,先進国における法的失明の原因として第4.7位に位置します1).また,一口に強度近視による失明といってもその原因となる合併症は多彩で,近視性脈絡膜新生血管,近視性網脈絡膜萎縮,近視性視神経症,網膜.離などがあげられますが,それら合併症の根本的な原因はおろか,なぜ強度近視が発症するのかについてもほとんどわかっていません.ゲノム学は,この謎の解明にどこまで迫っているのでしょうか.ゲノム学というと難解なイメージをもたれる方も多いかと思いますが,実際のところは単純な症例対照研究の繰り返しで,症例群と対照群において特定の変異をもつ頻度を比較します.とはいえ,ヒトのゲノムのなかには数百万個単位の変異がありますので,家系内データを用いることでノイズを減らしたり,統計学的な処理によってエラーを減らしたり,などといった方法が用いられています.近年,技術の進歩により膨大なデータを短時間で得られるようになってきたことから,近視の遺伝子解明は間近だろうと多くの研究者が予想していました.しかし,実際はそうではなかったのです.近視ゲノム研究の歴史まず,近視のゲノム研究の歴史について振り返ってみると,初めて近視に関連する遺伝子座(染色体における大まかな位置)が報告されたのが1990年でした2).報告されたXq28という領域はMYP1ともよばれるようになり,その後,1998年にMYP2(18p)とMYP3(12q)が報告されてからは,つぎつぎと近視に関連するとされる遺伝子座が報告されるようになります.MYP20以降は,それまで主流であったマイクロサテライトとよばれるマーカーを用いた連鎖解析という手法に代わってゲノムワイド関連解析や全エキソーム解析といった手法が用いられ3,4),2012年1月現在,計21個の遺伝子座が特定されています.ところが,こと遺伝子レベルでみると,近視または強度近視の発症と関連するものは1つも確定していません.候補遺伝子アプローチもっとも,近視あるいは強度近視の発症との関連が示唆された遺伝子そのものはたくさんあります.特に,従来強度近視の発症に強膜の脆弱化が関与すると報告されていることから強膜のリモデリング5)に関連する分子に関してはよく調べられており,コラーゲン分子そのものをはじめとして,コラーゲンを分解するmatrixmetal-lopeptidase(MMP),MMPを阻害するTIMPmetallopeptidaseinhibitor(TIMP),MMPなどを活性化する働きをもつhepatocytegrowthfactor(HGF)とその受容体であるmetprot-oncogen(MET),線維化を促進するtransforminggrowthfactor-b(TGFb),さらにはプロテオグリカンの一種であるlumican,decorin,fibromodulinから細胞骨格に関与するmyocillinまで,種々の分子が研究の対象となっています(表1).実際,これらのうちの多くは一報以上の論文で近視との関連が表1強度近視発症のおもな候補遺伝子強膜リモデリングCOLコラーゲンMMPコラーゲンを分解TIMPMMPを阻害HGFMMPなどを活性化cMETTGFb線維化を促進FGF2線維芽細胞分裂促進などLUMDCNプロテオグリカンFMODMYOC細胞骨格との関与発生PAX6眼球発生のマスター制御遺伝子SOX2PAX6とともに水晶体の発生に関与動物実験などよりCHRM1ムスカリン様コリン受容体IGF1インスリン様成長因子GCGグルカゴンEGR1ピントのずれを感知RARbレチノイン酸受容体(77)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129530910-1810/12/\100/頁/JCOPY 報告されているのですが,しかし同時に,一報以上の論文でその関連が否定されています.これの意味するところは偽陽性であり,出版バイアスも考えるとなおのこと陽性とはいいがたい状況です.このように,ターゲットとなる分子を絞って解析を行う手法を候補遺伝子アプローチといいます.ゲノムワイド関連解析候補遺伝子アプローチに関しては前述しましたが,このアプローチでは予想外の分子パスウェイが関与していた場合に検出不可能であることに加えて,解析効率がさほど良くないという問題点がありました.そこで2000年代後半に登場した手法がゲノムワイド関連解析(GWAS)です.これは全ゲノムにわたって同時に大量の一塩基多型(SNP)を検出・解析する手法で,30万.250万個のSNPの遺伝子型を一度に決定し,それぞれの頻度を症例群と対照群で比較します.当然,これだけの検定を行うとその多重性が問題となりますので,偽陽性を防ぐため,有意とするp値は厳しく設定します.実際にはそれでも偽陽性が多く含まれてしまいますので,解析を行ったサンプルセットとは異なるサンプルセットを用いての確認実験を行うのが一般的です.筆者ら京都大学のグループは,2009年に世界に先駆けて強度近視発症に関するGWASを行い,関与が疑われる遺伝子座を報告しました6).残念ながらこの遺伝子座は後の報告で関与が確認されませんでしたが,この後,筆者らのグループを含むいくつかのグループから数本の報告がなされ,筆者らのグループが報告したCTNND2遺伝子7)や,NatureGenetics誌に報告された15q14,15q25領域8,9),中国のグループから報告された4q25領域10)は,他のグループによりその関与が確認されています.今後,さらなる追試を行ったうえで,実際にどういった遺伝子が関与しているのかを詳しく解析していくことになるでしょう.近視ゲノム研究の今後さらなるステップとしてあげられるのが次世代シーケンサーを用いた解析です.これにより,たとえば2週間あれば600Gb(ヒトゲノム200人分相当)の配列を決定することが可能となります.その情報量の多さゆえ,実験そのものよりもその後の解析処理(バイオフィンフォマティクスという分野になります)への負荷が非常に多954あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012くなることが予想されますが,バイオインフォマティクスを専門的に行っている研究者の数は多いとはいえず,今後解析を大規模に行っていくうえではそれら研究者の育成,あるいは各分野におけるバイオインフォマティクス基礎知識の向上が課題となります.ゲノム学は,加齢黄斑変性を筆頭としてさまざまな疾患の感受性遺伝子を同定してきました.しかし,強度近視の発症に関しては,種々の研究がなされているにもかかわらず,感受性遺伝子の特定に至っていません.もっとまれな遺伝子変異が関与しているのか,そもそも遺伝子変異ではなくエピジェネティクスやさらに下流が関与しているのか,など考えられる可能性はたくさんありますが,次世代シーケンサーの登場によって大量のシークエンスデータを短時間で得られるようになってきていることから,これらの可能性が検討されるのもさほど遠くないでしょう.一方で,近視の概念を根本的に考え直す必要もあるかもしれません.つまり,これまで(強度)近視は一つの疾患として扱われてきましたが,実際には「眼軸が伸長する」という表現型を示す多数の疾患の集合体であり,一括りにして解析を行うのは不適切かもしれない,ということです.果たして遺伝子は,近視にどれほどの影響を与えているのか(あるいは与えていないのか).答えが出るのはもう少し先になりそうです.文献1)SawSM:Asynopsisoftheprevalenceratesandenvironmentalriskfactorsformyopia.ClinExpOptom86:289294,20032)SchwartzM,HaimM,SkarsholmD:X-linkedmyopia:Bornholmeyedisease.LinkagetoDNAmarkersonthedistalpartofXq.ClinGenet38:281-286,19903)ShiY,QuJ,ZhangDetal:Geneticvariantsat13q12.12areassociatedwithhighmyopiaintheHanChinesepopulation.AmJHumGenet88:805-813,20114)ShiY,LiY,ZhangDetal:ExomesequencingidentifiesZNF644mutationsinhighmyopia.PLoSGenet7:e1002084,20115)RadaJA,SheltonS,NortonTT:Thescleraandmyopia.ExpEyeRes82:185-200,20066)NakanishiH,YamadaR,GotohNetal:Agenome-wideassociationanalysisidentifiedanovelsusceptiblelocusforpathologicalmyopiaat11q24.1.PLoSGenet5:e1000660,20097)LiYJ,GohL,KhorCCetal:Genome-wideassociationstudiesrevealgeneticvariantsinCTNND2forhighmyopiainSingaporeChinese.Ophthalmology118:368-375,20118)HysiPG,YoungTL,MackeyDAetal:Agenome-wideassociationstudyformyopiaandrefractiveerroridentifies(78) asusceptibilitylocusat15q25.NatureGenet42:6-10,20109)SoloukiAM,VerhoevenVJM,vanDuijnCMetal:Agenome-wideassociationstudyidentifiesasusceptibilitylocusforrefractiveerrorsandmyopiaat15q14.NatureGenet42:897-901,201010)LiZ,QuJ,XuXetal:Agenome-wideassociationstudyrevealsassociationbetweencommonvariantsinaninter-genicregionof4q25andhigh-grademyopiaintheChineseHanpopulation.HumMolGenet20:2861-2868,2011■「強度近視とゲノム」を読んで■三宅正裕先生が書かれた論文中には,2つの重要なもう一つは,近視という疾患の理解です.本文の最問題が示されています.後に,高度近視という疾患の概念を考えなおす必要が一つは,ゲノムワイド関連解析(GWAS)についてあると述べられています.近視という疾患は,1864です.本文中に述べられているように,GWASは最年のCohnによる環境説,1900年のThoringtonによ近実用化された遺伝子解析方法です.その有用性は早る内因説の発表以来,常に環境か遺伝か(natureverくから指摘されていましたが,最も華々しい成果が,susnurturecontroversy)として論争されてきまし多領域に先んじて眼科領域であげられました.それはた.高度近視の場合は,遺伝要因が強いと考えられ,complementfactorH(CFH)と加齢黄斑変性の関係原因遺伝子の特定に多くの研究がなされてきました.です.加齢黄斑変性の発症にCFHが関連しているこその間の経緯や進歩については本文にわかりやすくまとは現在は常識ですが,これはまったく予想されていとめられています.あえて付け加えるとすれば,近視なかった概念であり,GWAS解析によって初めても研究のむずかしさは,近視関連遺伝子は眼球構造関連たらされた大発見です.この発見に基づいて研究が進遺伝子だけでなく,近視の子供を育てる(読書,室内められた結果,CFHの関与はゆるぎないものとなり生活を好む行動)遺伝子も含んでいる可能性がある点ました.この発見そのものが眼科研究におけるGWASにあるといわれています.の有効性を証明したためか,GWASは現在も盛んに科学の進歩により疾患の理解が大きく進みます.そ用いられています.GWASにより,疾患遺伝子のみの点に関してGWASはまさに現在の主役となっていでなく治療感受性遺伝子が発見されると,より多くのます.近視研究については,GWASにより疾患の理患者が研究の恩恵にあずかることができます.たとえ解が進み,新しい考え方が必要になってきています.ば,C型肝炎患者は,インターフェロン治療の感受性面白いことに,疾患の理解が進めば進むほど,先人のに差がありますが,それに遺伝子型が関連しているこ優れたnatureversusnurtureという考え方の重要性とがGWASにより発見され,治療適否判断に用いらが再認識されるようです.れています.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆(79)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012955

抗VEGF治療:Bevacizumab,Ranibizumabの薬物動態と効果発現

2012年7月31日 火曜日

●連載②抗VEGF治療セミナー─基礎編─監修=安川力髙橋寛二2.Bevacizumab,Ranibizumabの三木克朗関西医科大学附属枚方病院眼科薬物動態と効果発現現在,眼科領域で使用されている抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮増殖因子)抗体は,bevacizumab(アバスチンR)とranibizumab(ルセンティスR)である.Bevacizumab,ranibizumabの効果について,筆者が行った基礎実験をもとに分子生物学的見地から概説する.抗VEGF抗体は,加齢黄斑変性に代表されるさまざまな疾患(近視性脈絡膜新生血管,糖尿病黄斑浮腫など)に使用されている.抗VEGF抗体は,VEGFと特異的に結合し,過剰なVEGFが引き起こす眼内新生血管を抑制するとともに血管透過性亢進をも抑制する.Bevacizumabは,全長ヒト化抗VEGF抗体として,1996年切除不能な結腸,直腸癌に対する腫瘍抑制効果を目的として開発された世界初の抗VEGF抗体医薬である.眼科領域のbevacizumab投与は,米国FDA未認可の状態で加齢黄斑変性に使用され始めた.しかし,bevacizumabは抗体全長の構造をもつため分子量が大きく,加齢黄斑変性の新生血管発生部位である脈絡膜に直接侵入できない可能性が懸念された.このため,1998年に分子量が小さく,VEGF結合能の高いranibizumabが,加齢黄斑変性を適応とする硝子体内投与する眼科製剤として開発された.Bevacizumabとranibizumabの特徴と薬物動態の相違について表1に示す1).筆者らは,bevacizumab,ranibizumabの硝子体内投与における効果を,2種類のトランスジェニックマウス(Rho/VEGFmice,Tet/opsin/VEGFmice)を用いて実験的に比較検討した2).Rho/VEGFmiceは,視細胞にヒトVEGFを発現し網膜下新生血管が生じる,網膜血管腫状増殖((165)retinalangiomatousproliferation:RAP)のモデルである(図1).Tet/opsin/VEGFmiceは,Tet/onsystemにより遺伝子発現がコントロールできることが特徴で,ドキシサイクリン(2mg/mL)を経口投与すると,Rho/VEGFmiceの約30倍のヒトVEGF165が視細胞から発現し,投与後5日で著明な網膜内新生血管と90%のマウスに網膜.離が発生する(図2).これらのトランスジェニックマウスの特徴は,ほかの加齢黄斑変性モデルマウスと異なり,代表的な血管新生を引き起こす分子であるヒトVEGF165を発現することであり,より臨床的な薬物効果の解析が可能である.筆者らの実験では,生後14日齢のRho/VEGFmiceに対し,bevacizumab,ranibizumabを硝子体内投与し,投与後1,2,3週後における網膜下新生血管の面積を比較した.Bevacizumab投与群は同濃度のranibizumab投与群と比較して,新生血管抑制効果が強く,抑制持続期間が長いことがわかった.続いて,生後14日齢のRho/VEGFmiceに対し同濃度(10mg/mL)のbevacizumab,ranibizumabを5日おきに連続3回硝子体内投与し,両者の全身移行性について調べた.結果はbeva表1Bevacizumabとranibizumabの特徴と薬物動態の相違Bevacizumab(アバスチンR)Ranibizumab(ルセンティスR)構造ヒト化モノクローナルIgG1全長抗体ヒト化Fabfragment分子量149kDa48kDaVEGFとの結合能1Bevacizumabの4~6倍VEGF結合部位21硝子体内投与後の4.9日2.8~3.2日硝子体内濃度半減期(1.25mgBevacizumab硝子体内投与)(0.5mgRanibizumab硝子体内投与)硝子体内投与後の6.9日3.5日血中濃度半減期(1.25mgBevacizumab硝子体内投与)(0.5mgRanibizumab硝子体内投与)(文献1,tabel5より改変)(75)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129510910-1810/12/\100/頁/JCOPY PBSBVZ10mg/mLRBZ10mg/mL図1Rho/VEGFmiceにおける新生血管抑制効果視細胞にヒトVEGF165を発現させ,網膜下新生血管(→)を発生させる.抗VEGF抗体硝子体内投与により,網膜下新生血管が投与後1週間で抑制される.BVZ:アバスチンR,RBZ:ルセンティスR.(文献2,figure1より改変)PBSBVZ25mg/mL図2Tet/opsin/VEGFmiceにおける新生血管抑制効果Tet-onsystemにより,ドキシサイクリン(2mg/mL)経口投与後5日で網膜内新生血管からの血管透過性亢進の結果,網膜.離を生じる.Bevacizumab(BVZ)投与によって,この現象が抑制された.(文献2,figure5から抜粋)cizumab投与群にのみ,注射眼と対側眼の新生血管抑制効果を認めた.この結果より,bevacizumabは硝子体内投与後に全身経由し対側眼に移行することが示唆された.また,Tet/opsin/VEGFmiceに対して,bevacizumab,ranibizumabの硝子体内投与による網膜.離抑制効果を検討した.結果はbevacizumab投与群にのみ,注射眼,対側眼ともに網膜.離が抑制され,やはりbevacizumabは硝子体内投与によって全身移行することが示唆された.上記の結果から,bevacizumabは,ranibizumabと比較して新生血管抑制効果が強く,作用時間が長く,全身移行性に注射対側眼にまで作用を及ぼすことがわかった.Bevacizumabの全身移行性については臨床例でも報告があり3),マウスを用いたほかの実験例でも同様の報告がされている.Bevacizumabの全身移行性は,眼内に発現している新生児Fc受容体が関連しているといわれている.新生児Fc受容体は,最初952あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012に,齧歯類の小腸上皮細胞に発現していることが確認された受容体で,母親から新生児への免疫グロブリンの移行に大きな役割を果たしているとされている.母体由来のIgG抗体は,小腸上皮細胞表面の新生児Fc受容体とFcfragmentで結合し,結合したIgG抗体はエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれることが知られている.マウスの眼内では新生児Fc受容体は網膜血管内皮細胞に発現しており4),Fcfragmentを有するbevacizumabは,硝子体内投与後,全身移行し,新生児Fc受容体を介して対側眼の眼内に移行するといわれている5).Ranibizumabは,Fabfragment製剤であり,Fcfragmentを構造上有していないために,対側眼に移行できないことが示唆されている.文献1)RodriguesEB,FarahME,MaiaMetal:Therapeuticmonoclonalantibodiesinophthalmology.ProgRetinEyeRes28:117-144,20092)MikiK,MikiA,MatsuokaMetal:Effectsofintraocularranibizumabandbevacizumabintransgenicmiceexpressinghumanvascularendothelialgrowthfactor.Ophthalmology116:1748-1754,20093)ScartozziR,ChaoJR,WalshACetal:Bilateralimprovementofpersistentdiffusediabeticmacularedemaafterunilateralintravitrealbevacizumab(Avastin)injection.Eye23:1229,20094)KimH,FarissRN,ZhangCetal:MappingoftheneonatalFcreceptorintherodenteye.InvestOphthalmolVisSci49:2025-2029,20085)KimH,RobinsonSB,CsakyKGetal:FcRnreceptor-mediatedpharmacokineticsoftherapeuticIgGintheeye.MolVis15:2803-2812,2009(76)

緑内障:前眼部OCTによる強膜岬の同定

2012年7月31日 火曜日

●連載145緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也145.前眼部OCTによる強膜岬の同定川名啓介かわな眼科前眼部OCT(光干渉断層計)による前眼部解析では強膜岬の同定が重要である.二次元前眼部OCTでの同定率は約70%だが,三次元前眼部OCTでの同定率は100%近い.より新しく高性能な機器を用いることで強膜岬の同定率が向上し,より正確な前眼部解析が可能となる.前眼部の画像解析では,明確な測定点の決定が大切である.特に隅角の解析においては,強膜岬の同定が重要である.断層画像上では強膜岬は角膜内側面において角膜組織(高輝度)とぶどう膜組織(比較的低輝度)の境界である.強膜岬の位置を確定することにより,さまざまな隅角のパラメータが決定される.それを基準としてAOD500(angleopeningdistance500),TISA(trabecularirisspacearea),ACA(anteriorchamberangle)などの隅角の指標を表すことが可能となる1).前眼部OCT(opticalcoherencetomography;光干渉断層計)は超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)よりも簡便かつ非侵襲的に前眼部図1二次元前眼部OCTの解析例解析ツールを利用してパラメータを求めることができる.図2三次元前眼部OCTの解析例二次元のものに比べて解像度が優れているため,強膜岬とぶどう膜組織の弁別に優れる.(73)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129490910-1810/12/\100/頁/JCOPY 表1二次元と三次元前眼部OCTによる強膜岬同定率の比較同定可同定不可二次元前眼部OCT66.8%33.2%三次元前眼部OCT98.2%1.8%の画像解析を行うことが可能な装置である.光学式であるが,角膜と強膜岬や隅角底を含めた隅角の解析を行うことが可能である.しかしながら,前眼部OCTは完全にUBMの代用となるものではない.UBMはほぼ100%強膜岬を同定できるのに対して,二次元の前眼部OCTは強膜岬の同定率が約70%程度ということが報告されている2,3).今回,二次元前眼部OCT(VisanteTM,CarlZeiss)と三次元前眼部OCT(CASIA,Tomey)による強膜岬の同定率を比較する機会を得たので紹介したい.二次元前眼部OCT(図1)に比べ三次元前眼部OCT(図2)は測定速度が10倍程度と速く,解像度も優れている.正常眼において条件をそろえるために1断面像に限って検討したところ,二次元前眼部OCTでの同定率は67%と過去の報告とほぼ同等であった(表1).それに対して三次元前眼部OCTではほぼ100%という結果であった.解像度の違いが最も影響を及ぼしたと考えられる.これは1断面に絞った解析結果であり,さらに複数の断面のスキャンを合わせると,より一層同定が容易になると考えられる.今回は正常眼での検討のため,狭隅角眼などにそのままあてはめることはできない.今後のさらなる検討が必要である.三次元前眼部OCTでも強膜岬の同定が困難な例もあり,その場合には線維柱帯の位置やさまざまな断面像から強膜岬の位置を推測する必要がある.眼底OCTのように,いくつかの断層像を重ね合わせたエンハンス画像を作ると位置の同定率が上がる可能性がある4).また,強膜岬の位置を同定する際に参考となる線維柱帯に関しては,偏光OCTを用いると通常のOCTに比べて同定率が上がるといわれている5).三次元前眼部OCTは角膜厚や前房容積の測定において再現性が高いと報告されており6),強膜岬の同定においても再現性が高いのではないかと期待される.そのほか三次元前眼部OCTを使うメリットとして,1回の検査で360°の隅角を評価可能ということがあげられる.患者負担も少なく,多くの情報が得られるため,積極的に診療に活用していきたい.文献1)PavlinCJ,HarasiewiczK,SherarMDetal:Clinicaluseofultrasoundbiomicroscopy.Ophthalmology98:287-295,19912)SakataLM,LavanyaR,FriedmanDSetal:Assessmentofthescleralspurinanteriorsegmentopticalcoherencetomographyimages.ArchOphthalmol126:181-185,20083)LiuS,LiH,DorairaiSetal:Assessmentofscleralspurvisibilitywithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma19:132-135,20104)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,20095)YasunoY,YamanariM,KawanaKetal:Visibilityoftrabecularmeshworkbystandardandpolarization-sensitiveopticalcoherencetomography.JBiomedOpt15:061705,20106)FukudaS,KawanaK,YasunoYetal:Repeatabilityandreproducibilityofanteriorchambervolumemeasurementsusing3-dimensionalcornealandanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JCataractRefractSurg37:461468,2011☆☆☆950あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(74)

屈折矯正手術:前房型有水晶体眼内レンズと虹彩隆起度

2012年7月31日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載146大橋裕一坪田一男146.前房型有水晶体眼内レンズと虹彩隆起度井手武南青山アイクリニック角膜屈折矯正手術(LASIKなど)が非適応の強い屈折異常症例などでは有水晶体眼内レンズ挿入術が適応となる.そのなかでも前房型(虹彩支持型)では,術後にレンズと虹彩の接触による色素沈着や癒着の発生をできるだけ抑えるために,術前の虹彩隆起度評価が大切である.本稿ではORBSCANを用いた虹彩隆起度の計測方法を概説する.屈折矯正手術が一般にも認知されるようになり,症例数も日本全国で数十万件を数えるまでになった.その症例の大部分は角膜屈折矯正手術のlaserinsitukeratomileusis(LASIK)である.しかし,屈折異常(近視・遠視・乱視)が強い症例で,残存角膜厚が薄くなることが予想される場合にはフラップを作製しないphotorefractivekeratectomy(PRK)・LASEK・epipolis(Epi)-LASIKなどのサーフェスアブレーションがつぎの選択肢となる.しかし,それでも基準を下回る場合には,角膜拡張症(エクタジア)のリスクを回避するために角膜屈折矯正手術は行えない.LASIKやサーフェスアブレーションは非適応でも,医学的・職業的・美容的な理由などにより眼鏡やコンタクトレンズなどの視力補助の装用が困難な患者群が存在する.そのような患者群に対しては現時点の選択肢は有水晶体眼内レンズ(フェイキックIOL:以下,P-IOL)挿入術となる.P-IOLには隅角支持型,前房型(虹彩支持型),後房型があり,今回は前房型P-IOL(以下,ACP-IOL)について話を展開していく.ACP-IOLとしては,世界的にはOPHTEC社のARTISANR(光学部の素材がポリメチルメタクリレート:PMMA)と折りたたみ可能なARTIFLEXR(光学部の素材がシリコーン)の2種類のレンズが使用されており,当院でも1999年12月から導入を始めている.しかし,ACP-IOL術後,レンズと虹彩の接触による色素沈着や癒着が生じることが報告されており,当院でも複数例経験している(図1).このような合併症を避けるためには,隆起の少ないフラットな虹彩を選択すること,一定期間のステロイド使用が必要であるといわれている.Baikoffらは,前眼部OCT(光干渉断層計)計測で虹彩根部から水晶体前面までの距離が0.6mm以上ある症例の70%に色素沈着が見られたと報告している1).(71)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1レンズ色素沈着前房型有水晶体眼内レンズ挿入術後に虹彩色素がレンズに沈着した症例.ARTISANR(PMMA製)ARTIFLEXR(シリコーン製)図2前房型有水晶体眼内レンズPMMA製のARTISANRレンズ(上図)とシリコーン製のARTIFLEXRレンズ(下図).Baikoffらの測定方法・部位とは異なるが,当院でも色素沈着が見られた症例をレトロスペクティブに検討したところ,ORBSCANによる計測でレンズ虹彩把持部から虹彩の最高点までの高低差がすべての症例で0.5mm以上であったため,現在0.5mm以上の症例ではARTIFLEXRの不適応としてARTISANRを採用するようにしている.このARTISANRとARTIFLEXRは上記の素材だけでなく形状デザインも異なる.端的にいうと,レンズ後面のプロフィールが平面に近いARTIFLEXRとよりスペースに余裕がある形状のARITISANRでああたらしい眼科Vol.29,No.7,2012947 ApexPlaneのTopographicalを表示ApexPlaneのProfileを表示ApexPlaneのProfileを表示…………………………………………………………………………図3ORBSCANにおける計測手順View>AnteriorChamber>ApexPlaneを選択(左)する.ApexPlaneのTopographicalDataが表示され(中),その周辺に表示される軸角度の数字(本図には非表示)をクリックしてApexPlaneのProfileを表示して高低差を計算(右)する.る(図2).以下に実際の測定方法について述べる.当院ではORBSCANのApexPlaneというモードを使用して計測を行っている.ApexPlaneのProfileマップはApexに対して垂直な面を仮定して角膜頂点から虹彩や水晶体までの距離を表示させることが可能なモードである.レンズの虹彩把持部分の高さとレンズと接触する可能性の高い虹彩の最高点との高低差を計算する(図3).ARTISANR,ARTIFLEXR両モデルとも基本はレンズ直径が8.5mm(ARTISANRには小さな7.5mmもある)であるので,レンズ中央から把持部までの距離は4.25mmである.しかし,ORBSCANは0.1mmステップの表示なので,中心から4.2.4.3mmの部分の虹彩高さを用いる.しかし,ACP-IOL手術の限界は必ずしもP-IOLの中心がORBSCANの計測中心と一致するわけではないため,筆者は測定されている限り周辺4.5mmくらいまでの高さを見るようにしている.1─通常通りORBSCANを撮影.2─該当患者のデータを呼び出し.3─タブのView>AnteriorChamber>ApexPlaneで画像を変更.4─軸を選び,瞳孔を挟んで一方の虹彩の最高点のApexPlaneからの距離をメモ(A).5─その同側の4.2mmの位置のApexPlaneからの距離をメモ(B).6─AとBの差を計算.7─4,5,6で計測した部位と反対側の虹彩で4.6を繰り返えす.8─高低差が0.5mm以上の症例は注意して,必要に応じてARTISANRに適応を変更.948あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012もちろん,全症例・全部の軸角度で光彩の盛り上がりを確認するのが基本であるが,多数経験するとORBSCANの虹彩パターンをみてフラットな虹彩,盛り上がりの強い虹彩が判別できるようになる.したがって,実際にはフラットな虹彩の場合には,2.3の軸だけを選んで確認し,虹彩の盛り上がりの大きい症例ではできるだけ多くの軸でみるようにしている.虹彩の盛り上がりの大きな症例の場合には,IOL後面のスペースに余裕のあるARTISANRが適応になる.しかし,PMMA素材のため切開創が大きく,両眼ARTISANR症例では片眼ずつの別日手術となるため,患者の術後QOL(qualityoflife)は一時的にせよ下がるので事前説明が重要である(両眼ARTIFLEXR,片眼ARTIFLEXR/片眼ARTISANRは両眼同日手術).最後に,虹彩の形状というのは多くの生体データと同じで静的ではなく動的なものである.調節や散瞳・縮瞳により虹彩の形状や隆起度は変化するため2),測定されたデータだけが虹彩の状況をすべて反映しているわけではないので保守的にデータを読む必要がある.加えて,ORBSCANのみならず前眼部OCTやScheimpflugカメラでも同じような測定ができるが,基準値についてはそれぞれの機械で微妙に異なる可能性があることを付け加えてこの稿を終えたい.文献1)BaikoffG:AnteriorsegmentOCTandphakicintraocularlenses:aperspective.JCataractRefractSurg32:18271835,20062)GuellJL,MorralM,GrisOetal:EvaluationofVerisyseandArtiflexphakicintraocularlensesduringaccommodationusingVisanteopticalcoherencetomography.JCataractRefractSurg33:1398-1404,2007(72)

眼内レンズ:水晶体混濁徹照画像を基準にしたトーリック眼内レンズ軸決め法

2012年7月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎311.水晶体混濁徹照画像を基準にした江木東昇えぎ眼科仙川クリニックトーリック眼内レンズ軸決め法水晶体徹照画像から得られる皮質混濁の形状を基準にしたトーリック眼内レンズ軸決め法であり,術前の軸決めと術後の軸ずれを簡便に確認することができる.本法を行うにあたって,正確なデータを得るためには検査時,被検者の頭位に注意を払う必要があり,また強い核白内障や成熟白内障などでは本法を利用できないことを考慮する必要がある.角膜乱視を補正するトーリック眼内レンズは,術後の裸眼視力を向上させる有効な手段として注目され,今後は徐々に使用が増えると思われる.導入にあたり,正確な術前検査,マーキング,レンズ.内固定が要求される.そのなかでも重要なトーリック軸のマーキング法では種々の方法や機器が考案されているが,それぞれに一長一短がある.角膜形状・屈折力解析装置OPD-ScanIII(NIDEK社)を使用した水晶体徹照画像の皮質混濁像を基準にしたトーリックレンズ軸決めは,精度が高い軸決め(axisregistration)法のなかでも術前後とも簡便でより正確な方法と思われる.以下に症例を使ってこの方法を説明する.〔症例〕78歳,女性,右眼.00DAx.2.(cyl×25D.1×+術前視力は0.6(矯正0.9160°).手術は耳側切開でトーリック眼内レンズ(SN6AT6+22.0D,Alcon社)を使用した.術前,散瞳状態にて細隙灯顕微鏡で基準線となりうる視認の良い皮質混濁の有無を確認する(図1徹照画像).つぎに座位において頭位を確認してから角膜形状・屈折力解析装置を使用した角膜形状,屈折度数を測定してデータを得る(図2Overview).ここで得られた水晶体図1細隙灯顕微鏡検査(水晶体皮質形状を確認)図2Overview強(R2)弱(R1)マーク強(R2)弱(R1)マーク図3Retroimage基準線()を決定図4Retroimage基準線から強主経線までの角度が35°(69)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129450910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図5基準線から35°離れた強主経線上の角膜輪部に点状マーキング強(R2)弱(R1)マーク図7Retroimage術後3カ月,1°の軸ずれを確認徹照画像(図3Retroimage)から最も視認の良い皮質混濁(楔状,線状,斑点状,点状などの形状は問わず,ここでは楔状形状)の一つを基準線と決め,ここから角膜強主経線までの角度が35°を読み取り,画像を保存する(図4Retroimage).手術は明るく,均一なレッドリフレックスで水晶体混濁像を観察できる手術顕微鏡〔ZeissLumera(Zeiss社),LeicaM822(Leica社)〕を使用する.まずは瞳孔中心に点状の圧痕マーキングをしてから基準線にした皮質混濁部位を確認し,リングゲージを使用してそこから割り出した35°先の強主経線位置にある角膜輪部に点状の圧図6線状マーキング=強主経線軸()痕マーキング(図5)をする.レンズ軸をより正確に合わせるためには2blades軸マーカーを使用し,線状の圧痕マーキング(図6)を行ってから手術を開始した..内に挿入したレンズはバイマニュアル灌流と吸引ハンドピースを使用し,レンズ表面を軽く押さえながら回転させ,レンズ軸マークを強主経線に合わせ固定した.術後3カ月,右眼視力は1.2(矯正1.2×±0.00D×(cyl.0.25DAx130°)となり,また,散瞳によりレンズの回転や傾き,.収縮,軸ずれを容易に確認ができる(図7).以上からトーリック眼内レンズを導入するうえで,この軸決め法は簡便で正確な方法と考えられる.文献1)ビッセン宮島弘子:トーリックIOL.IOL&RS24:45-52,20102)宮田和典:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:13-18,20103)鳥居秀成,根岸一乃:さまざまな軸マーキング法と手術手技.眼科手術24:277-285,20114)野田徹,大沼一彦:白内障手術─トーリック眼内レンズ.臨眼65:138-149,2011

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ装用指導の実際(3)

2012年7月31日 火曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】塩谷浩337.コンタクトレンズ装用指導の実際(3)しおや眼科●ハードコンタクトレンズのケアの指導前号(Vol.29,No.5,6)までに解説したハードコンタクトレンズ(HCL)の装脱前の準備の説明と装脱練習が終わってからの,HCLのケアについて指導する.患者にコンタクトレンズ(CL)メーカーのケアについての取り扱い説明書に従ってケア方法を説明し,購入したケア用品を使用して実際のケアの仕方を練習してもらう.HCLのケアはメーカーごとに推奨されているケア用品とケア方法が異なっている.HCLの種類によっては他のメーカーのケア用品を使用するとレンズの素材に影響が出ることもあるため,一般的には処方したHCLのメーカーのケア用品を使用したケアを行うように患者に指導する.●ハードコンタクトレンズのケアの基本HCLのケア用品には洗浄液,保存液,蛋白分解酵素剤を含む洗浄保存液,蛋白分解酵素剤を含まない洗浄保存液,蛋白除去液(蛋白分解酵素液),強力蛋白除去剤(蛋白分解酵素剤),塩素系蛋白除去剤がある.ケアではレンズにキズがつかないようにティッシュや布などは用いず,洗浄した手指で行うことを原則とする.HCLのケアは基本的には,レンズの装着前とはずした後に行う(化粧をしている患者の場合には,レンズに化粧品汚れが付着しないように化粧をする前にレンズを装着し,化粧を落とす前にレンズをはずすことを原則とする).ケアの際に水道水(流水)によるレンズの流出防止のため,洗面台の排水口の栓を閉じるか,市販されているレンズ流失防止マットを使用する.●ハードコンタクトレンズのはずした後のケアHCLのはずした後のケアは,使用後のレンズをこすり洗いせずに保存液または洗浄保存液にそのまま保存することを標準としているCLメーカーもあるが,レンズの汚れを十分に除去するために,原則としてこすり洗いをするように指導する.ケアの実際は,手指の洗浄後に利き手の人差し指,中指,親指の3本指を用いてレンズの凹面が親指側になるようにレンズを保持し,数滴の洗浄液または洗浄保存液で,まずレンズの表側(凸面)を人差し指と中指で30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いし,同時にあるいは続いてレンズの裏面(凹面)も親指で30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いする(図1).この方法でレンズの表側のこすり洗いがテクニック的に十分にできない場合には,非利き手の手のひらに凸面を下にしてレンズをのせ,数滴の洗浄液または洗浄保存液を滴下し,利き手の人差し指で30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いする(図2).その後,水道水(流水)ですすぎ(図3),レンズホ図1手指でレンズを保持してのこすり洗い図2手のひらと人差し指でのレンズのこすり洗い図3レンズのすすぎ洗い(67)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129430910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4レンズケースへのレンズの保存ルダーにレンズを収納し保存液または洗浄保存液をレンズケースに入れて保存する(図4).保存液または蛋白分解酵素剤を含まない洗浄保存液を使用するケア方法では,その保存液または洗浄保存液の中に毎日あるいは週に1回,蛋白除去液を入れるサイクル(製品によって異なる)を繰り返す.洗浄保存液でのレンズのこすり洗いで汚れの除去効果が不十分な場合には,洗浄液を使用し,通常の洗浄剤での汚れの除去効果が不十分な場合には研磨剤入り洗浄液(表面処理のあるレンズには使用不可能)を使用してのこすり洗いを行う(図5).特に汚れの付着が著しい場合には,週に1回程度の強力蛋白除去剤の使用(メーカーによっては月に1回程度の塩素系蛋白除去剤の使用)を行う.●ハードコンタクトレンズの装着前のケアHCLの装着前のケアは,レンズをはずした後に十分図5研磨剤入り洗浄液でのこすり洗いに汚れを落としていることが前提であるため,レンズの汚れを除去することよりもレンズ表面に洗浄液または洗浄保存液の水濡れ性保持成分を塗布することと,レンズ表面の余分な保存液成分をすすぐことを目的とする.ケアの実際は,手指の洗浄後に利き手の人差し指,中指,親指の3本指を用いてレンズの凹面が親指側になるようにレンズを保持し,数滴の洗浄液または洗浄保存液でレンズの表裏を同時に30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いして(図1),水道水(流水)ですすぎ洗いし装着に供する(図2).装用指導の最後に眼科医から指導された装用方法と装用時間を守ること,正しいケアを続けること,定期検査を受けることの重要性を患者に説明する.☆☆☆944あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(68)