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写真:腸球菌性角膜炎

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113710910-1810/11/\100/頁/JCOPY(63)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦322.腸球菌性角膜炎星最智藤枝市立総合病院眼科図1角膜外傷後の腸球菌性角膜炎(70歳,男性)角膜中央の白色病巣周囲にDescemet膜皺襞を認める.角膜裏面には病巣を取り囲むように免疫輪を認める.①②③図2図1のシェーマ①:白色病巣.②:Descemet膜皺襞.③:免疫輪.図3水疱性角膜症に伴う腸球菌性角膜炎(59歳,女性)水疱性角膜症があり治療用ソフトコンタクトレンズを装用していた患者.角膜実質に及ぶ類円形の白色浸潤病巣(矢頭)と前房内フィブリン反応(矢印)を認める.図4図1の角膜病巣擦過物のグラム染色像短い連鎖状に配列するグラム陽性球菌を認める.372あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(00)腸球菌は通性嫌気性のグラム陽性球菌であり,ヒトから分離される腸球菌の70.80%はEnterococcusfaecalisである.Enterococcusfaecalisは健常結膜.からもしばしば分離され,白内障術前患者を対象とした自験例では3.5%の保菌率であり,高齢になるほど保菌率が高くなる.マイボーム腺分泌物から検出されるとする報告もある1).眼科領域における腸球菌感染症では,急性術後眼内炎の起炎菌として有名である2)が,まれながら角膜炎の起炎菌にもなる.腸球菌はヒトの常在細菌であるため健常な眼表面では角膜炎は生じにくく,外傷が契機となったり,コンタクトレンズ装用や水疱性角膜症などの角膜易感染状態を有する宿主に日和見感染症として角膜炎が生じる3).角膜所見では,直径1.2mm程度の比較的境界明瞭な類円形の白色浸潤病巣を認める(図1,3).角膜炎が進行すると,病巣周囲にDescemet膜皺襞を伴った角膜実質浮腫が増強し,角膜裏面には免疫輪を形成することがある(図1).これは菌体の破壊によって角膜内に放出された菌体成分に対する宿主の免疫反応と考えられる.診断は,角膜所見のみでは初期の肺炎球菌性角膜炎との鑑別が困難であるため,角膜病巣擦過による塗抹と培養検査を行う.塗抹検査で短い連鎖状に配列するグラム陽性球菌を認めた場合は,レンサ球菌のほかに腸球菌の可能性も疑う(図4).治療は第四世代フルオロキノロンの頻回点眼を中心に行う.腸球菌はセフェム系とアミノグリコシド系抗菌薬には自然耐性であるため,これらの抗菌点眼薬の併用は不要である.治療経過の特徴として,角膜病巣自体は沈静化しているにもかかわらず毛様充血や限局性の角膜実質浮腫が遷延する傾向がある.その場合はステロイド内服で対応するが,外傷眼では角膜真菌症のリスクを伴うので慎重な経過観察が必要である.まとめ腸球菌性角膜炎は外傷,コンタクトレンズ装用や水疱性角膜症などの角膜易感染状態で生じやすい.所見は角膜実質浮腫を伴った円形の白色病巣を呈し,肺炎球菌性角膜炎の軽症例に似る.セフェム系やアミノグリコシド系抗菌薬に抵抗性だが,キノロン系抗菌薬にはよく反応する.治療予後は比較的良いが,毛様充血や角膜実質浮腫が遷延しやすいため,適切な時期に消炎治療を追加するとよい.文献1)田中ともゑ,和佐野利記子,久冨智朗ほか:マイボーム腺分泌物の細菌培養の結果.あたらしい眼科19:1609-1611,20022)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか,日本眼科手術学会術後眼内炎スタディグループ:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20063)RauG,SeedorJA,ShahMKetal:IncidenceandclinicalcharacteristicsofEnterococcuskeratitis.Cornea27:895-899,2008

ウイルス性内眼炎(ぶどう膜炎)

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYtype2;HSV-1型,HSV-2型),水痘帯状疱疹ウイルス(HHV-3=varicella-zostervirus:VZV),サイトメガロウイルス(HHV-5=cytomegalovirus:CMV)である.これらのウイルスによって発症する内眼炎にはヘルペス性虹彩毛様体炎,急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎),CMV網膜炎,進行性網膜外層壊死がある.1.ヘルペス性虹彩毛様体炎HSV,VZV,CMVは前部ぶどう膜炎を生じ,その特徴は共通して片眼性の豚脂様角膜後面沈着物を呈する肉芽腫性虹彩毛様体炎(granulomatousiridocyclitis)であり,眼圧上昇を伴う1).a.HSV虹彩毛様体炎初感染ではなく,HSV-1の再活性化により発症し,上皮型,実質型,あるいは内皮型の角膜病変を併発することがあるため,注意を要する.最も多いのは実質型角膜炎で,角膜病変領域に一致して豚脂様角膜後面沈着がみられる(図1).肉芽腫病変であるにもかかわらず,ときに前房蓄膿,前房出血を伴い,その回復期には限局性で円形の虹彩萎縮がみられる.〔治療〕アシクロビル(ゾビラックスR)の眼軟膏1日5回,消炎に対しては重症度に応じて副腎皮質ステロイド(リンデロンR)点眼1日3~6回,虹彩後癒着予防に散瞳薬(ミドリンPR)点眼1日1~3回,混合感染予防に抗生物質の点眼1日3回行う.角膜上皮病変がみられる場合はじめにウイルス性内眼炎の病因として知られているのはDNAウイルスであるヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV),およびRNAウイルス(レトロウイルス科)のヒトTリンパ球向性ウイルス1型(humanT-lymphotropicvirus-1:HTLV-1),ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV)である.このほかにも,風疹ウイルス,麻疹ウイルス,ムンプスウイルス,インフルエンザウイルス,コクサッキーウイルスなどがウイルス性内眼炎の病因として報告されているが,ウイルスによる直接の組織障害が発症要因になっているか否かは定かではない.ウイルス感染によりひき起こされる内眼炎は当然ながら個々の疾患が多様な病像を呈するため,定型的所見を基に主病変の解剖学的部位を知り,ウイルス性内眼炎を病型分類することは,その診断,鑑別,治療において価値がある.しかし,ウイルス性内眼炎は適切な治療を施さなければ徐々に悪化するため,以下に述べる眼所見を認めても,眼内液を採取し,ウイルス抗体価の測定,PCR(polymerasechainreaction)法によるウイルスの同定を行うことが重要である.Iヒトヘルペスウイルス(HHV)ウイルス性内眼炎に関連するとされるヒトヘルペスウイルスは,単純ヘルペスウイルス(HHV-1=herpessimplexvirustype1,HHV-2=herpessimplexvirus(55)363*MasaruTakeuchi:防衛医科大学校眼科学講座〔別刷請求先〕竹内大:〒359-0042所沢市並木3-2防衛医科大学校眼科学講座特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):363.370,2011ウイルス性内眼炎(ぶどう膜炎)ViralIntraocularInflammation竹内大*364あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(56)疹の出現後2週間以内に同側に発症する.VZVによる虹彩毛様体炎では,その回復期に生じる扇状の虹彩萎縮が特徴的であり,角膜裏面に色素性細胞が付着し,隅角にも色素沈着を認める(図2).眼部帯状疱疹を伴うことなく同様のVZV虹彩毛様体が生じることがあり,眼部帯状疱疹を伴うherpeszosterophthalmicusに対して伴わないものはzostersineherpeteとよばれている2).〔治療〕多くの場合は,抗ウイルス薬を用いることなく副腎皮質ステロイド(リンデロンR)点眼1日3~6回,散瞳薬(ミドリンPR)点眼1日1~3回,抗生物質の点眼1日3回で治癒する.しかし,局所治療のみで改善しない場合はバラシクロビル(バルトレックスR)3,000mg/日,3回/日の内服を1週間程度から開始し,プレドニゾロンの内服も30mg/日から短期間用いる.角膜上皮病変,眼圧上昇に関してはHSV虹彩毛様体炎の治療に準ずる.c.CMV虹彩毛様体炎これまでCMV虹彩毛様体炎の報告は,免疫不全患者のCMV網膜炎に合併した症例であった.しかし近年,正常の免疫能保持者であってもCMVが原因となり虹彩毛様体炎を生じることが前房水を用いたPCR法検査により明らかとなった3).角膜内皮炎を伴う症例が多く(図3),眼圧上昇は40mmHg以上のことも少なくない.しかし,炎症は軽度から中等度で,フィブリン析出や虹彩結節などをきたすことはない.角膜後面沈着物は白色微は,リンデロンRの点眼は行わず,副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンR)の内服を30mg/日程度から開始し,短期間用いる.局所治療のみで改善しない場合も副腎皮質ステロイド30mg/日の内服,さらにはバラシクロビル(バルトレックスR)1,000mg/日,2回/日の内服を1週間程度から行う.治療を開始しても眼圧が下がらない場合,または治療開始前の眼圧が30mmHg以上の場合は抗緑内障点眼薬を併用する.b.VZV虹彩毛様体炎眼部帯状疱疹の約1/3に虹彩毛様体炎が合併し,皮図1実質型角膜炎領域に一致してみられる豚脂様角膜後面沈着図2VZV虹彩毛様体炎にみられる色素性の角膜後面沈着物(左)および隅角の色素沈着(右)(57)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011365の抗緑内障点眼を処方するとともに,バルガンシクロビルの内服(バリキサR)または点滴(デノシンR)が必要であり,虹彩毛様体炎が消失するまで時には数カ月継続投与する必要がある.2.急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)HSV-1,HSV-2,VZV感染による汎ぶどう膜炎であり,原因ウイルスに関係なく豚脂様角膜後面沈着物を伴う急性虹彩毛様体炎で発症し,多くの例で眼圧上昇がみられる.病初期は軽度の硝子体混濁,網膜周辺部に散在する黄白色小滲出斑,視神経乳頭の発赤,および網膜動脈周囲炎を呈する4)(図4).経過とともに滲出斑は拡大塵なものからPosner-Schlossman症候群にみられるような類円形で灰白色なもの,色素沈着を伴うものまでさまざまであり,角膜病変に一致してみられる.HSV,VZVによる虹彩毛様体炎と同様に,炎症の慢性化に伴い虹彩萎縮を呈するが,その形状は斑状,扇状,区画性,びまん性とさまざまである.正常免疫能保持者のCMV虹彩毛様体炎では,続発緑内障による視神経乳頭所見以外の後眼部所見を呈することはない.〔治療〕重症度に応じて副腎皮質ステロイド(リンデロンR)点眼1日3~6回,散瞳薬(ミドリンPR)点眼1日1~3回,混合感染予防に抗生物質の点眼1日3回,眼圧下降目的図3CMV虹彩毛様体炎にみられた白色微細な角膜後面沈着物(左)および角膜内皮炎による角膜浮腫(右)図4ARNの病初期における軽度の硝子体混濁,視神経乳頭の発赤,網膜周辺部の網膜動脈周囲炎(左)および網膜周辺部に散在する黄白色小滲出斑(右)366あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(58)縮病巣となる.この間,硝子体混濁も軽快し眼底の透見性が良くなるが,後部硝子体.離の発生とともに硝子体混濁が増悪し,網膜.離が生じる.なお,網膜滲出斑が急速に後極部に向かって進展し,網膜全体が障害される劇症型があり,予後はきわめて不良である.HSV-ARNとVZV-ARNでは病像が多少異なり,HSV-ARNのほうが発症年齢が低く,抗ウイル癒合し,病変部は周辺部網膜のほぼ全周および後極に向かって進展する.病変部が眼底の広範囲に及ぶと,網膜血管から染み出るような出血が滲出斑に混在してみられ(図5),視神経乳頭炎も呈する.前眼部炎症は徐々に沈静化するが,硝子体混濁は経過とともに増悪し,眼底の透見性はさらに困難になる.しかし,発症後3週間程度経過すると病変の拡大は停止し,網膜滲出斑は徐々に萎表1全身治療初期療法(2週間)療法薬剤用法用量抗ウイルスアシクロビル(ビクロックスR)点滴3回/日30mg/kg/日抗炎症副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)点滴1回/日(朝)60~80mg/日(10~20mg/週で漸減)抗血小板アスピリン(バイアスピリンR)内服1回/日100mg/日継続療法(2週間)療法薬剤用法用量抗ウイルスアシクロビル(ビクロックスR)点滴3回/日30mg/kg/日抗炎症副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)点滴1回/日(朝)30~40mg/日(10mg/週で漸減)抗血小板アスピリン(バイアスピリンR)内服1回/日100mg/日継続療法ではバラシクロビル(バルトレックスR)3,000mg/日,3回/日の内服とともにすべての投薬を内服に変更することも可能である.図5急性網膜壊死病変の進展滲出斑は拡大癒合し,周辺部網膜のほぼ全周および後極に向かって進展する(左).網膜血管から染み出るような出血が滲出斑に混在してみられる(右).(59)あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113673.サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎免疫力低下状態にあるものに発症し(日和見感染),発病者では末梢血CD4+T細胞数が50個/μl以下に減少していることが多い.CMV網膜炎の原因となる疾患を表2に示すが,これらのなかでもHIV感染による後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)患者に最も頻度が高くみられる.1996年以降,HIV感染者に対するHAART(highlyactiveanti-retroviraltreatment)療法によりCMV網膜炎は激減し,今日はHAART導入後に惹起される免疫回復ぶどう膜炎(immunerecoveryuveitis:IRU)がAIDS患者における新たな問題となっているが,CMV網膜炎がAIDS患者の代表的眼合併症であることには変わりはない5).成人のCMV網膜炎は,ウイルスによる直接的な網膜浸潤であるため,前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しく,基本的な臨床所見は網膜血管病変,網膜滲出斑,網膜出血からなり,以下の2つのタイプに大別されるス薬に対する感受性の違いもあり軽症例が多い.しかし,臨床所見に相違はなく,臨床所見から鑑別することは不可能である.〔治療〕1)局所療法はVZV虹彩毛様体炎の治療に準ずるが,同時に表1に示した全身治療を開始する.両眼発症の急性網膜壊死では,先行眼発症後1カ月以内に後発眼に発症する確率が70%程度あるため,両眼発症予防のためにも1カ月以上抗ウイルス療法を行う必要がある.また,胃薬,抗骨粗鬆症薬を併用する.2)硝子体手術:網膜.離予防,または網膜.離治療のための硝子体手術が必要となる.手術を行う時期に関しては賛否両論があり,硝子体手術により眼内のウイルス,炎症性サイトカインの除去,眼内への薬の移行性の向上が望めるため早期に行ったほうがよいとする意見と,内科的治療のみで治癒する症例もあるため,後部硝子体.離が生じてから行うべきだとする意見がある.急性網膜壊死は症例数が少なく,また疾患により臨床経過もさまざまであるため,同条件での比較検討が困難である.また,硝子体手術手技,手術機器の改良,改善は全般的なその治療成績を向上させているため,新旧の症例を併せての検討はその評価を複雑にさせる要因ともなる.いずれにせよ今後の臨床データのさらなる蓄積が望まれる.表2サイトメガロウイルス網膜炎の原因となる免疫力低下をきたす疾患1)後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)2)白血病,悪性リンパ腫3)後天性成人型T細胞白血病4)臓器移植後の免疫抑制薬治療図6CMV網膜炎眼所見により後極部劇症型(左)と周辺部腫瘤型(右)に分類される.368あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(60)4.進行性網膜外層壊死(progressiveouterretinalnecrosis:PORN)AIDS患者に発症したVZVによるヘルペス網膜症であり,発症時の末梢血CD4+T細胞数がCMV網膜炎と同様に50個/μl以下に減少していることが多い.病初期は,網膜周辺部に散在性の黄白色小滲出斑が網膜深層に出現し,これらの黄白色病変は急速に拡大癒合し,周辺部網膜の全周,また後極に広がる.その後,病変部の黄白色の色調は網膜血管周囲から退色し(perivascularclearing),“cracked-mudappearance”とよばれる所見を呈する(図7).ARN,CMV網膜炎と同じく網膜壊死部に萎縮円孔が形成されると網膜.離をきたす.ARNとの鑑別は,前房や硝子体中に炎症所見がほとんどみられないこと,CMV網膜炎のような網膜出血はまれであることがあげられる.視力予後は不良なことが多く,失明に至ることも少なくない.〔治療〕有効な治療法は確率されていないが,アシクロビル単独治療は効果がなく,アシクロビル,ガンシクロビル,ホスカルネットのうちの2剤併用療法が基本である.投与方法は,2剤とも全身投与する方法と,1剤を全身投与し,もう1剤を硝子体内注射する方法がある.以下に投与法を示す.(図6).a.後極部劇症型網膜血管アーケードに沿って出血を伴った黄白色滲出斑が出現し,速やかに拡大するb.周辺部腫瘤型眼底周辺部に顆粒状の小滲出斑が集積した所見を呈し,網膜出血がみられないこともある.病巣は必ずしも網膜血管の走行に伴わなく,病巣の拡大も後極部劇症型よりも緩徐である.いずれのタイプも病巣と正常網膜の境界部分に顆粒状の滲出病変が認められ,granularborderとよばれている.滲出斑は徐々に拡大するが,病巣の中心部は萎縮傾向を示し,約20%の症例で網膜.離を併発する.通常は片眼性で発症するが,未治療または治療が奏効しない症例では両眼性になることが多い.〔治療〕全身治療:ガンシクロビルの点滴,バルガンシクロビル内服,ホスカルネットの点滴,または全身的な副作用を考慮しなければならない症例に対してはガンシクロビルの硝子体内投与を行う.CMV網膜炎は免疫不全者に生じる疾患であり,ガンシクロビルには骨髄抑制,ホスカルネットには腎障害の副作用があることから全身状態のモニタリングが重要であり,内科医との連携を密にし,治療を継続していくことが大切である.以下に各治療の投与方法を示す..ガンシクロビル(デノシンR)の点滴初期療法:5mg/kg/日,2回/日,3週間維持療法:5mg/kg/日,1回/日,5日/週.バルガンシクロビル(バリキサR)の内服初期療法:4錠(1錠450mg)/日,2回/日,3週間維持療法:2錠(1錠450mg)/日,1回/日.ホスカルネット(ホスカビルR)の点滴初期療法:60mg/kg/日,3回/日,3週間維持療法:90~120mg/kg/日,1回/日.ガンシクロビル(デノシンR)の硝子体内注射400~1,000μg/回,1回/週図7PORNの眼底写真周辺部網膜に“cracked-mudappearance”とよばれる所見がみられる.あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011369①全身投与(2~3週間).アシクロビル(ビクロックスR)10mg/kg/日,3回/日.ガンシクロビル(デノシンR)5mg/kg/日,2回/日.ホスカルネット(ホスカビルR)90mg/kg/日,3回/日②硝子体内注射(1~2回/週).ガンシクロビル(デノシンR)400~2,000μg/回.ホスカルネット(ホスカビルR)1,200~2,400μg/回IIヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-1)HTLV-1はHIVと同じく輸血,母乳,性交渉を介して感染し,成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄炎,ぶどう膜炎を生じる.しかし,HIVより感染力は弱く,HTLV-1感染者の多くはこれらの疾患を発症することがない無症候キャリアである.片眼性が両眼性よりもやや多く(6:4),眼所見は微細な角膜後面沈着物,軽度の虹彩炎,ヴェール状またはひも状の特徴的なびまん性硝子体混濁を呈し,網膜出血は滲出斑などの眼底病変はまれである(図8).ときに豚脂様角膜後面沈着物や虹彩結節,隅角結節を生じるものがあり,サルコイドーシスとの鑑別が重要である.〔治療〕HTLV-1ぶどう膜炎はウイルス感染症であるが,HTLV-1に対する免疫反応によりぶどう膜炎が生じると考えられ,副腎皮質ステロイドの点眼のみで消炎する.硝子体混濁による視力障害があれば,プレドニゾロン30~40mg/日の内服を開始し,漸減しながら2~4週間投与する.しかし,約60%の患者に再発がみられる.IIIヒト免疫不全ウイルス(HIV)先にも述べたように,AIDSの原因ウイルスであり,HIV-1とHIV-2に分けられるが,AIDSの多くはHIV-1の感染であり,HIV-2は病原性が低い.AIDS患者は種々の日和見感染に伴う眼所見を呈するが,HIV感染に特有な網膜微小血管循環障害による一過性の綿花状白斑,網膜出血を生じる.これらの眼所見は数週間で自然消退する(図9).おわりにウイルス性内眼炎は,特徴的な眼所見から病因ウイルスをある程度推定でき,疾患により予後の良し悪しはあるが,おおむねその治療法は確立されている.しかし,これまで内因性ぶどう膜炎に分類されてきた疾患や分類不能のぶどう膜炎とされてきた疾患のなかにも何らかのウイルス感染が原因と疑われるぶどう膜炎は少なくない.近年,眼内液を用いた分子生物学的手法により,さ(61)図8HTLV.1ぶどう膜炎にみられたヴェール状の硝子体混濁図9HIV網膜症にみられる綿花状白斑および網膜出血370あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011まざまな内因性ぶどう膜炎の眼内液からウイルスDNAが検出されている.今後は,このような症例の眼内液から検出されたウイルスが原因であるのかそれとも結果か,または合併症であるのかを慎重に検討していく必要がある.文献1)下村嘉一:日本眼科学会専門医制度生涯教育講座ウイルス性眼疾患.日眼会誌108:55-64,20042)毛塚剛司:水痘帯状疱疹ウイルスによる眼炎症と免疫特異性.日眼会誌108:649-653,20043)CheeS-P,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcytomegalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840.e831,20084)臼井嘉彦,毛塚剛司,竹内大ほか:急性網膜壊死患者における網膜神経線維層厚と乳頭形状の検討.あたらしい眼科27:539-543,20105)八代成子:【ぶどう膜炎アップデート】HAART療法時代のHIV関連眼合併症.眼科51:881-889,2009(62)

硝子体内注射後眼内炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYI感染性眼内炎1.発生頻度抗VEGF薬ならびにトリアムシノロンの硝子体内投与後の眼内炎発生率の一覧を表1に示した.これまでの報告では,抗VEGF薬硝子体内注射後感染性眼内炎の発症率(注射数当たり)は,0.01%から0.16%となっている1~9)が,おおよそ0.03~0.05%といったところであろう.Pilliらは特に,officesettingでの抗VEGF薬投与後の眼内炎の頻度について述べている6).具体的には,注射施行直前の眼瞼消毒とポビドンヨード点眼と術後2日間抗菌薬点眼を施行するのみで,術前点眼や手術室のようなセッティングはなしで硝子体内注射を行ったところ,細菌性眼内炎の発生率は0.029%であったとのことである.トリアムシノロン硝子体内投与後感染性眼内炎の頻度は0.1%.0.87%である10~13).表1には示していないが,抗ウイルス薬のガンシクロビルやホスカルネット投与後の眼内炎頻度は0.1%から0.29%となっている14,15).トリアムシノロンや抗ウイルス薬では,感染性眼内炎の発症は抗VEGF薬よりも高率であるが,これらは非感染性眼内炎も含まれている可能性がある.Nelsonらは,トリアムシノロン後の感染性の眼内炎の頻度は0.45%,非感染性のものは1.6%と区別して報告している10).なお,硝子体内ガス注入術後の眼内炎発症頻度については,0.1%以下との報告がある16).概して,硝子体注射はじめに硝子体内注射として,これまで抗生物質,抗ウイルス薬,トリアムシノロンなどの薬剤投与や,網膜.離,網膜下出血などに対するガス注入などが行われてきた.近年,抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が登場し,加齢黄斑変性に対して毎月の硝子体内投与が推奨されるようになった.抗VEGF薬は加齢黄斑変性以外にも血管新生黄斑症や黄斑浮腫などに適応が広がる可能性があり,今後ますます,硝子体内注射を施行する機会は増加するものと考えられる.このように硝子体内注射が高頻度に施行されるようになり,最初は厳重に手術場で施行されていたものが,最近では外来処置室にて比較的簡便に行われる機会も増えている.しかしながら硝子体内へ穿刺する以上,感染性眼内炎のリスクは避けては通れない.抗VEGF薬は視力良好な患者に適応されることも少なくなく,視力の改善,維持を目的として行われている治療であることから,感染性眼内炎の発症は,患者の治療を進めていくうえで避けなければならない合併症である.一方で,最近話題となっているのが,硝子体内注射後の非感染性眼内炎の発生である.非感染性の場合,必ずしも硝子体手術による対処は必要としない.したがって,硝子体内注射後は常に眼内炎の発症に対して備えを持ち,万が一発症した際には適切に病態診断し,タイミングを逃さず,速やかに治療を行うことが重要である.(49)357*ChikakoUeno&FumiGomi:大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座〔別刷請求先〕上野千佳子:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):357.361,2011硝子体内注射後眼内炎EndophthalmitisafterIntravitrealInjection上野千佳子*五味文*358あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(50)眼内炎発症の有無の確認には,注射後早期,特に3日以内の再診が重要であると考えられる.それが困難な場合でも,患者に対し,眼内炎を疑う症状の自覚があった場合には早急に連絡するように指導しておくことが重要である.なお,白内障手術後などで報告されている晩期発症の眼内炎については,現在のところ硝子体内注射後に発症した報告はない.3.症状および臨床所見早期発症の眼内炎では,急激な視力低下(霧視),眼痛,充血,眼瞼腫脹などの症状を伴って発症する(図1).他覚的所見としては,虹彩毛様体炎,前房蓄膿,前房内フィブリン,角膜後面沈着物,後眼部には硝子体炎,網膜血管の白鞘化,小出血などを呈する(図2).頻度としては,視力低下と硝子体混濁はほぼ100%の症例に認め,眼痛も4分の3の症例には認められる17).しかし,虹彩毛様体炎,前房蓄膿,前房内フィブリン,角膜後面沈着物など前眼部炎症は認めない,または軽度である症例もまれではないため,注意を要する.患者には,急激な視力低下を自覚した際には迅速に再診するよう指導をしておく.後の感染性眼内炎の発生頻度はそれほど高いものではないが,重篤な視力障害をひき起こす合併症であるため,十分な注意が必要であることは言うまでもない.2.発症時期処置を施行してから,症状を自覚するまでの期間は,その他の手術後の眼内炎と同じく1日から6日の間が多く,特に3日以内が多いが,まれに10日以上経過してから発症する症例もみられる.術後眼内炎と同様に,注射後早期発症例では発症後数時間単位で病状が進行するため,早期診断と的確な治療が重要である.表1これまでに報告されている硝子体内注射後眼内炎のまとめこれまでの報告投与薬剤眼内炎発生率Fungetal1)2006BJOBevacizumab1/7,113(0.014%)Jonasetal2)2007JournalofocularpharmBevacizumab1/1,218(0.082%)Masonetal3)2008RetinaBevacizumab1/5,233(0.019%)Wuetal4)2008GraefeArchExpOphthalBevacizumab7/4,303(0.16%)Fintaketal5)2008RetinaBevacizumabRanibizumab6/26,905(0.022%)Pillietal6)2008AJOPegaputanibBevacizumabRanibizumab3/10,254(0.029%)Artunayetal7)2009EyeBevacizumab3/3,022(0.099%)Diagoetal8)2009RetinaPegaputanibBevacizumabRanibizumab3/3,875(0.077%)Kleinetal9)2009OphthalmologyPegaputanibBevacizumabRanibizumab15/30,736(0.037%)Nelsonetal10)2003RetinaTriamcinolone2/440(0.45%)Moshfeghietal11)2003AJOTriamcinolone8/922(0.87%)Westfalletal12)2005ArchOphthalmolTriamcinolone1/1,006(0.094%)Konstantopoulosetal13)2007EyeTriamcinolone1/130(0.77%)図1感染性眼内炎例の細隙灯写真70歳,男性.加齢黄斑変性に対し,ベバシズマブの硝子体内注射4日後に,視力低下,眼痛を訴えて来院.結膜充血,角膜浮腫,および前房蓄膿を認める.(51)あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113595.治療硝子体内注射後の感染性眼内炎に対して確立したガイドラインはない.治療は術後眼内炎のガイドラインに準じて行う.抗生物質の硝子体内投与で経過をみるか,硝子体手術に踏み切るかが迷うところとなるが,一般的には,硝子体混濁が高度で,血管が透見できない場合には硝子体手術を,血管が透見できる比較的軽度な症例には抗生物質の硝子体内投与を行いながらの経過観察を選択する.悪化を認めた場合には,早急に硝子体手術が必要となるので,硝子体手術が可能でない施設では,緊急事態に備えて,紹介できる病院を確保しておくことが重要である.6.予防硝子体内注射後眼内炎の予防としては,結膜.の常在菌の減菌化が最も重要となる.計画された抗VEGF薬の投与前には,抗菌薬を点眼することが推奨されている.3日前からの抗菌薬点眼により,結膜.,眼瞼縁からの細菌を60%程度減らすことができたと報告されている18,19).処置室で注射を行う場合には,手術室で行うような眼4.原因菌表1で示した硝子体内注射後の眼内炎の報告のなかで,硝子体培養結果が報告されていたものを抽出して,起因菌の割合を総計した.総数53眼の起因菌をグラフにしたものが図3である.最も多いものはブドウ球菌群(Staphylococcus)で,そのほとんどが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagurase-negativeStaphylococcus:CNS)であり,そのなかでも特に表皮ブドウ球菌が多い.ついでレンサ球菌群(Streptococcus)で,予後不良とされている腸球菌(Enterococcusfaecalis)の報告もある17).これらの菌は,これまでに報告されている結膜.内の常在菌とほぼ一致しており,硝子体内注射時に結膜.あるいは睫毛や眼瞼に存在する細菌を混入させる可能性を示している.この点においては,他の手術後感染性眼内炎の原因菌やその割合と大した相違はない.留意すべき点は,図3で示したように,原因菌の3位にStreptococcusviridansなどの口腔内常在菌があがったことである.これらの菌が結膜.内に存在しうることは知られているが,海外ではより簡単な装備で硝子体内投与が行われることもあり,会話中に混入した可能性なども捨てきれない.なお,最も検出される頻度の高い結膜常在菌はPropionibacteriumacnesであるが,弱毒性であり,急性期の眼内炎をひき起こす可能性は低い.図2感染性眼内炎に対する硝子体手術1カ月後の眼底写真図1と同一症例.網膜血管の白鞘化,網膜内出血の残存,視神経蒼白化を認める.検出されず,15例(29%)コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS),24例(46%)コアグラーゼ陽性ブドウ球菌,1例(2%)その他,4例(8%)腸球菌インフルエンザ菌ストレプトバシラス属マイコバクテリウム属1例(2%)1例(2%)1例(2%)1例(2%)表皮ブドウ球菌10例(19%)黄色ブドウ球菌2例(4%)その他12例(23%)レンサ球菌,8例(15%)うち口腔内レンサ球菌群6例(11%)図3硝子体内注射後感染性眼内炎の原因菌の内訳360あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(52)で培養にて細菌の検出を認めなかった.Satoらは,bevacizumabの同一ロットにおける5眼/35眼(14%)の無菌性眼内炎の発生を報告している.注射から発症までの期間は平均3日で,こちらの報告では,前房蓄膿を伴った比較的強い前眼部炎症を呈したが,硝子体混濁は軽度であり,網膜浸潤病巣は認めなかった21).当院で経験したbevacizumab投与後の無菌性眼内炎例では,患者は投与当日からの眼痛,頭痛,霧視を自覚しており,来院時には前房炎症と眼圧上昇をきたしていた(図4).前房水から細菌は検出されず,後眼部の炎症はごく軽度で,ステロイドの使用にて軽快した.別に,前房炎症は軽度で,網膜に一過性の綿花様白斑様の滲出斑が生じた症例もある.非定形な炎症は,抗VEGF薬投与後に生じうることがあることを念頭におく必要がある.先述したように,トリアムシノロン投与後の無菌性眼内炎は,その発生率は1.6%と報告されており,感染性眼内炎よりも高い.トリアムシノロン後の無菌性眼内炎も,自覚症状としての視力低下は,全症例で認められているが,眼痛を認めたのは44%の症例のみであった.前述の抗VEGF薬による無菌性眼内炎と同様である.周囲のドレーピングや眼瞼消毒を施行しないこともある.ドレーピングによりマイボーム腺や周囲皮膚を覆うことで,菌の混入を避けることができるため,できるだけ施行することが望ましい.原因菌として,口腔内菌が検出される場合もあるため,術者もマスクで口を覆うなどの配慮が必要である.また投与時には,眼瞼や睫毛に器具が接触しないよう,十分な注意を払うべきである.Shimadaらは,1.25%のポビドンヨード液にて硝子体手術直前に術野を十分に洗浄することで結膜.の殺菌を徹底できると報告しており20),硝子体投与の場合にも推奨できる.投与後には,抗菌眼軟膏塗布や,投与後数日間の抗菌薬点眼の指導も行っておく.硝子体内注射後に細菌が眼内へ迷入する原因として,注射の穿刺創からの硝子体の脱出がある.脱出した硝子体により創口の閉鎖が不十分となり,結膜.内の細菌が眼内へ迷入する.処置後は,創口に硝子体の嵌頓がないことを十分に確認する必要がある.II非感染性眼内炎トリアムシノロン,抗VEGF薬投与後には,非感染性眼内炎(無菌性眼内炎)が生じることも報告されている10,17,21,22).これらは,前述の感染性眼内炎と症状,所見が酷似しており,術後数日中に発症することから,鑑別がしばしば困難である.ところが無菌性眼内炎の場合は,感染性と違いステロイド投与にて炎症の改善が得られ,視力予後も良好である.そのためこれらを鑑別することは,治療方針決定のうえで大変重要である.Kourshら17)は,bevacizumab投与後に生じた5眼の無菌性眼内炎の症例を報告し,感染性眼内炎との所見の差異について比較検討している.それによると,無菌性眼内炎,感染性眼内炎ともに,自覚症状として,全症例で視力低下を認めているが,眼痛は感染性では全例で認められるのに対し,無菌性では40%の症例にしか認められなかった.また無菌性眼内炎例では,注射施行から視力低下などの症状自覚までの期間が1日未満と短く,前眼部炎症も軽度で,前房蓄膿,前房内フィブリンなどは認めず,硝子体混濁は認めるものの全例血管が透見できる程度であったと報告している.これらすべての症例図4無菌性眼内炎例の細隙灯写真78歳,男性.加齢黄斑変性に対しベバシズマブ硝子体内注射当日より,眼痛,視力低下を自覚していた.3日目の来院時,結膜充血と眼圧上昇,多数の前房内細胞,フレアを認めた.(53)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011361bevacizumab(Avastin)injection.Eye23:2187-2193,20098)DiagoT,MaCannalCA,BakriSJetal:Infectiousendophthalmitisafterintravitrealinjectionofantiangiogenicagents.Retina29:601-605,20099)KleinKS,WalshMK,HassenTSetal:Endophthalmitisafteranti-VEGFinjections.Ophthalmology116:1225,200910)NelsonML,TennantTS,SivalingamAetal:Infectiousandpresumednoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.Retina23:686-691,200311)MoshfeghiDM,KaiserPK,ScottIUetal:Acuteendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.AmJOphthalmol136:791-796,200312)WestfallAC,OsbornA,KuhlDetal:Acuteendophthalmitisincidence:intravitrealtriamcinolone.ArchOphthalmol123:1075-1077,200513)KonstantopoulosA,WilliamsCP,NewsomRSetal:Ocularmorbidityassociatedwithintravitrealtriamcinoloneacetonide.Eye21:317-320,200714)BaudouinC,ChassainC,CaujolleCetal:TreatmentofcytomegalovirusretinitisinAIDSpatientsusingintravitrealinjectionsofhighlyconcentratedganciclovir.Ophthalmologica210:329-335,199615)YoungSH,MorletN,HeerySetal:Highdoseintravitrealganciclovirinthetreatmentofcytomegalovirusretinitis.MedJAust157:370-373,199216)TornambePE,HiltonGF,TheRetinalDetachmentStudygroup:Pneumaticretinopexy.Amultiplerandomizedcontrolledclinicaltrialcomparingpneumaticretinopexywithscleralbuckling.Ophthalmology96:722-784,198917)Mezad-KourshD,GoldsteinM,HeilwailGetal:Clinicalcharacteristicsofendophthalmitisafteraninjectionofintravitrealantivascularendothelialgrowthfactor.Retina30:1051-1057,201018)MinodeKasparH,KreutzerTC,Aguirre-RomoIetal:Aprospectiverandomizedstudytodeterminetheefficacyofprospectivetopicallevofloxacininreducingconjunctivalbacterialflosa.AmJOphthalmol145:136-142,200719)InoueY,UsuiM,OhashiYetal:Preoperativedistinfetionoftheconjunctivalsacwithantibioticsandiodinecompounds:Aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmol52:151-161,200820)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Effectofoperativefieldirrigationonintraoperativebacterialcontaminationandpostoperativeendophthalmitisratesin25-gaugevitrectomy.Retina30:1242-1249,201021)SatoT,EmiK,IkedaTetal:Severeintraocularinflammationafterintravitrealinjectionofbevacizumab.Ophthalmology117:512-516,201022)RothDB,ChiehJ,SpirnMJetal:Noninfectiousendophthalmitisassociatedwithintravitrealtriamcinoloneinjection.ArchOphthalmol121:1279-1282,2003また,発症時期は投与から2日以内と比較的早い.前房内炎症の程度は症例によってさまざまであり,前房蓄膿を伴った強いものから,前房蓄膿を認めないものもあるが,硝子体混濁は全例で認めている.トリアムシノロンで無菌性眼内炎の発生率が高い原因として考えられているのが,トリアムシノロン製剤に含まれている添加物である.ベンジルアルコール,カルボキシメチルセルロース,ポリソルベートなどが添加されており,これらが炎症を惹起する原因となっていると考えられている10).おわりに以上,硝子体内注射後の感染性および無菌性眼内炎について簡単に述べた.非感染性のほうがより自覚症状,他覚所見ともにやや弱く,発症期間は短い傾向にはあるが,症例によってのばらつきも多く,しばしば鑑別は困難である.感染の可能性を完全に否定できない場合は,適宜抗生物質を投与しながら注意深く頻回の経過観察を行い,悪化を認めた場合にはすぐに硝子体手術による対応もできるよう心構えをしておく必要がある.文献1)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinternettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,20062)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnon-infectiousendophthalmitisafterintravitrealbevacizumab.JOculPharmacolTher23:240-242,20073)MasonJO3rd,WhiteMF,FeistRMetal:Incidenceofacuteonsetendophthalmitisfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)injection.Retina28:564-567,20084)WuL,Martinez-CastellanousMA,Quiroz-MercadoHetal:Twelve-monthsafetyofintravitrealinjectionsofbevacizumab(Avastin):resultsofPan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup(PACORES).GraefesArchClinExpOphthalmol246:81-87,20085)FintakDR,ShahGK,BlinderKJetal:Incidenceofendophthalmitisrelatedtointravitrealinjectionofbevacizumabandranibizumab.Retina28:1395-1399,20086)PilliS,KotsolisA,SpaideRFetal:Endophthalmitisassociatedwithintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyinjectionsinanofficesetting.AmJOphthalmol145:879-882,20087)ArtunayO,YuzbasiogluE,RaiserRetal:Incidenceandmanagementofacuteendophthalmitisafterintravitreal

転移性眼内炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼外の病巣が67%に発見され,12%は複数の眼外病巣が見つかった.肝膿瘍が26%と最多で,肺炎12%,中枢神経系感染10%,心内膜炎10%,腎尿路系感染10%と続く1).2.起炎菌グラム陰性菌に起炎するものが56%と多く,なかでも,Klebsiellaが30%と最多で,Escherichiacoli8%やPseudomonasaeruginosa6%,Neisseriameningitidis6%,Serratiamarcescens2%と続く2).グラム陽性菌としては,StaphylococcusaureusやStaphylococcuspneu-はじめに感染性眼内炎は,感染ルートによって,外因性(exogenous)と内因性(endogenous)に分けられる(表1).外因性眼内炎は,内眼手術,穿孔性眼外傷,角膜潰瘍などによって,起炎菌が直達的に眼内に及んで起こる.一方,内因性眼内炎は,転移性(metastatic)眼内炎ともよばれ,遠隔臓器の原病巣から起炎菌が血行性に眼内に移行して完成したものである.起炎菌によって,大きく細菌性と,真菌性に分けられる.I転移性細菌性眼内炎(表2)1.病態転移性細菌性眼内炎は,全眼内炎の2.6%と,外因性のものに比してまれであるが,予後はきわめて不良で,指数弁以上の視力を維持できるものは32%,光覚を失うものが44%,眼球摘出を要するものが25%との報告もある1).何らかの背景疾患をもつものが56%を占め,その最多が糖尿病で,humanimmunodeficiencyvirus(HIV)感染,自己免疫疾患,血液疾患,アルコール中毒などがそれに続く1).自験例でも,40%に糖尿病を認め,いずれも眼科初診時に無治療で255.346mg/dlの高血糖を認めた2).そのほか,薬物の血管内投与や外科手術・血液透析などの治療や,免疫抑制薬投与に関連した症例の報告も多い.(43)351*MihoriKita:兵庫県立尼崎病院眼科〔別刷請求先〕喜多美穂里:〒660-0828尼崎市東大物町1丁目1番1号兵庫県立尼崎病院眼科特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):351.356,2011転移性眼内炎MetastaticEndophthalmitis喜多美穂里*表1感染性眼内炎の分類外因性(exogenous)内眼手術,穿孔性眼外傷,角膜潰瘍などによって,起炎菌が直達的に眼内に及ぶ内因性(endogenous)=転移性(metastatic)遠隔臓器の原病巣から起炎菌が血行性に眼内に移行細菌性・真菌性表2転移性細菌性眼内炎のポイント.まれであるが予後はきわめて不良.糖尿病などの背景疾患,血管内薬物投与歴など.グラム陰性菌,なかでもKlebsiellaが最多.眼外病巣は肝膿瘍が最多.血液,硝子体液培養で起炎菌検出.抗生物質全身投与と硝子体内投与.早期硝子体手術352あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(44)%に転移性眼内炎が起こり6),Klebsiellaによる転移性眼内炎の3分の2は肝膿瘍があるといわれる1).3.臨床症状眼痛,視力障害,眼瞼腫脹,結膜充血(図1,2),結膜浮腫(図2),虹彩炎,前房蓄膿(図1),前房フィブリン析出(図2),眼圧上昇,角膜浮腫,硝子体混濁(図1),網膜血管の白鞘化,網膜滲出斑,網膜出血(図1),網膜下膿瘍(図3),網膜.離などの症状をみる1,2).片眼性のものも多く,そのときは右眼であることが多いとされる.発熱,全身倦怠感などの全身症状が先行するものが多moniaeが多い.転移性眼内炎の原病巣,起炎菌には,地域差があるといわれる.欧米ではグラム陽性菌を起炎菌とした心内膜炎や尿路感染が原病巣であることが多いのに対して,東アジアではKlebsiellapneumoniaeを主としたグラム陰性菌による胆肝系感染が原病巣であることが多い1.5).また,最近,Klebsiellaによる転移性眼内炎が増加傾向にあるといわれる.Klebsiellaによる肝膿瘍患者の3abc図1上行大動脈人工血管置換手術歴のある患者に起こった転移性細菌性眼内炎白血球増多,CRP上昇以外の全身症状に乏しかったが,心臓エコーなどにて心内膜炎が発見され,血液培養・硝子体液培養からStreptococcusanginosusが同定された.a:虹彩炎,前房蓄膿を認める.b:右眼は硝子体混濁によって眼底透見性不良.一部雪玉状の硝子体混濁も認めた.c:左眼にはRoth斑を伴う網膜出血が認められた.図2無治療の糖尿病患者に起こった転移性細菌性眼内炎瞳孔は,厚いフィブリンで覆われている.血液培養・尿培養・硝子体液培養からKlebsiellapneumoniaeが同定された.図3肝膿瘍にて治療されていた患者に起こった転移性細菌性眼内炎網膜下膿瘍が認められる.(45)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011353期治療のため,他科の医師にも啓蒙に努めるとともに,協力してその診断,治療にあたることが重要である.II転移性真菌性眼内炎(表3)1.病態真菌性眼内炎では,内因性のものが大半を占める.内因性のものは,通常,健常人で起こることはなく,経中心静脈高カロリー輸液(IVH)や静脈留置カテーテル・バルーンの留置歴を有したり,外科手術後・悪性疾患など免疫機能低下状態にあるなどの背景をもつ例がほとんどである.一般に進行は緩徐で,細菌性のものより予後がよい.2.起炎菌原因となる真菌は80%以上がカンジダで,特にCandidaalbicansが多いが,最近では,その頻度の低下,C.glabrata,C.krusei,C.tropicalisなど,フルコナゾール低感受性のものの増加が報告されている8).その他に,アスペルギルス,クリプトコッカス,フサリウムの報告もある.外因性のものでは細菌との混合感染の可能性もある.3.臨床症状抗菌薬不応性発熱・白血球増多・CRP(C反応性蛋白)上昇といった全身症状に,飛蚊症・視力低下・充血・眼痛といった眼科所見を伴う.初期病変は網脈絡膜にあり,眼底後極部を中心に小円形の白色滲出斑がみられる(図4).進行とともに硝子体に進展し,びまん性・球状の硝子体混濁(図5),重症例では牽引性網膜.離・線維血管膜を生じる.いが,自覚症状を欠くものもあり注意が必要である.4.診断頻度が低い疾患であり,非感染性眼内炎や真菌性眼内炎,あるいは大人では緑内障発作,子供では網膜芽細胞腫と間違えられることもある.全身状態不良の患者に,眼内炎症を認めた場合,転移性眼内炎を必ず,鑑別の一つに入れることを忘れてはならない.まず,疑う,そして徹底的に他科との協力のもと,全身検査を行うことが大切である.血液,眼内液,原病巣の組織(液)の培養,検鏡が最も信頼性の高い診断法である.最近では,PCR(polymerasechainreaction)法による起炎菌の検出も行われており,素早く高感度の検査結果がもたらされるようになってきたが,コンタミネーションによる偽陽性や,まれな起炎菌のための偽陰性結果に注意が必要である.5.薬物治療抗生物質全身投与を含む原病巣の治療とともに,抗生物質の硝子体内投与を行う.硝子体内投与には,培養・感受性結果がでるまでは,バンコマイシン1mg/0.1mlとセフタジジム(モダシンR)2mg/0.1mlを用いるのが一般的である.6.硝子体手術近年,細菌性眼内炎に対する早期硝子体手術の有用性の報告がみられる.転移性眼内炎においても,早期の硝子体手術を施行することで,網膜復位,眼球温存が可能であったとする報告7),硝子体手術は有用視力の温存を3倍にし,眼球摘出の必要を3倍減じる1)との報告もある.自験例でも網膜.離を生じていないうちの早期硝子体手術が良好な視力維持につながる可能性があることを報告した2).眼内培養液では,前房水培養はすべて陰性であったが,硝子体液は60%で陽性で,血液培養の結果と一致していた2).硝子体手術は診断的意味も高いと考える.また,自験例の80%は,眼科受診が契機となって,全身検査が行われ,原病巣が同定された.早期診断,早表3真菌性眼内炎のポイント.IVHやカテーテル・バルーン留置歴,免疫機能低下状態などの背景.カンジダ,特にC.albicansが多い.眼底後極部を中心に小円形の白色滲出斑.カテーテル先端や血液,眼内液からの真菌の検出.b-D-グルカン上昇.フルコナゾール,ホスフルコナゾール400mg1日1回点滴静注から.薬物抵抗性なら硝子体手術354あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(46)a.基本的治療原因真菌が不明な場合,フルコナゾール(ジフルカンR)あるいはホスフルコナゾール(プロジフR)400mg1日1回点滴静注で治療を開始し,1.2週間継続する.その後,1.2週ごとに漸減しながら,3週間から3カ月投与する.網脈絡膜滲出斑がある程度瘢痕化してきた段階で,点滴からフルコナゾール(ジフルカンR)100mg1日1回やイトラコナゾール(イトリゾールR)100.200mg1日1回の内服に切り替える.ホスフルコナゾール(プロジフR),フルコナゾール(ジフルカンR),ボリコナゾール(ブイフェンドR),イトラコナゾール(イトリゾールR)(注射)は初回投与量を通常用量の倍量用いたloadingdoseが行われる.ホスフルコナゾール(プロジフR)は,重症例では最初の2日間を800mgまで投与可能である.原因真菌の同定がなされたら,感受性をもとに薬剤を選択する.b.薬物の変更ホスフルコナゾール(プロジフR),フルコナゾール(ジフルカンR)投与開始後1週で効果が認められなければ,ボリコナゾール(ブイフェンドR),イトラコナゾール(イトリゾールR)などへの薬物の変更,あるいはミカファンギン(ファンガードR),アムホテリシンB(ファンギゾンR),フルシトシン(アンコチルR)などの追加4.診断9.11)特徴ある背景因子と臨床所見からその診断はむずかしくないが,全身状態が改善してから眼科受診をすることもあるため,本症の可能性も必ず考えて,既往歴をチェックする必要がある.本症を内因性ぶどう膜炎と勘違いして,副腎皮質ステロイド薬を投与すると症状の悪化を生じるため,注意が必要である.確定診断には,カテーテル先端や血液,硝子体・前房水からの真菌の検出,血清および眼内液の真菌の遺伝子診断によって行われる.血液および硝子体のb-D-グルカン上昇,各種真菌特異的抗原陽性も診断の参考となる.b-D-グルカンは,接合菌を除く真菌がもつ細胞壁骨格多糖成分で,測定値が病勢を反映しているため,治療効果の指標としても用いられる.セルロース膜による血液透析患者や外科手術での大量のガーゼ使用によって偽陽性に出ることがあり注意が必要である.5.薬物治療9.11)真菌性眼内炎が疑われれば,ただちに,抗真菌薬投与を開始する.病変が網脈絡膜に限局している例では,抗真菌薬の全身投与が奏効することが多い.図4IVH施行されていた患者の真菌性眼内炎網脈絡膜滲出斑を認める.フルコナゾール400mg1日1回点滴静注で軽快した.図5高度な硝子体混濁を認めた真菌性眼内炎薬物療法に反応が乏しく硝子体手術を施行した.(47)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011355る診断的に意義を有し,本症における強力な治療手段である.網膜.離や増殖変化を生じてからでは予後不良であるため,硝子体混濁が高度な例や,薬物療法に反応が不良な例では,機を逸せず積極的に手術療法を選択すべきと考える.おわりに眼内炎の診断で,感染性か非感染性かの鑑別は,非常に大切である.転移性眼内炎,特に細菌性のものは頻度も低いため,誤った診断とならないように注意が必要である.漫然とステロイドが投与されると,感染の増悪を招き,生命予後さえも悪化させてしまう恐れがある.患者のバックグラウンドを理解して,まずは,この疾患を疑うことが大切である.硝子体手術を含めた眼科的治療を速やかに開始して,内科の協力のもと,原病巣をつきとめ,その治療を行うことが眼科的予後の改善につながる.文献1)JacksonTL,EykynSJ,GrahamEMetal:Endogenousbacterialendophthalmitis:A17-yearprospectiveseriesandreviewof267reportedcases.SurvOphthalmol48:403-423,20032)中西秀雄,喜多美穂里,榎本暢子ほか:硝子体手術を施行した転移性細菌性眼内炎の5例.臨眼60:1697-1701,20063)CheeSP,JapA:Endogenousendophthalmitis.CurrOpinOphthalmol12:464-470,20014)WongJS,ChanTK,LeeHMetal:Endogenousbacterialendophthalmitis.AneastAsianexperienceandareappraisalofsevereocularaffliction.Ophthalmology107:1483-1491,20005)ChenYJ,KuoHK,WuPCetal:A10-yearcomparisonof投与を行う.c.投与終了の時期b-D-グルカンが正常化し,網脈絡膜滲出斑が消失あるいは瘢痕化するまで投与を行う.真菌血症と眼内病変の両方が沈静化するまで,薬物療法を継続することが大切で,急速な投与中止は眼内炎再燃の危険を有する.d.投与の注意点腎障害,肝障害,血液障害などを生じる薬物が多いため,定期的な血液検査,腎機能・肝機能検査,血中電解質検査を施行する.最近,フルコナゾール長期投与によって黄斑浮腫を生じたとの報告がなされた12).原因真菌がカンジダであることが多いため,多用されるトリアゾール系薬剤は,比較的安全であるが,ハルシオン・ワルファリン・シクロスポリンAなどの血中濃度を上昇させ,リファンピシンによって濃度が低下するなどの,薬物相互作用に注意が必要である.e.硝子体内投与硝子体への浸潤が高度で全身投与のみで効果が得られないとき,全身状態が不良で硝子体手術が困難なときは,硝子体注入を併用する(表4).ホスフルコナゾール(プロジフR)は,生体内のアルカリホスファターゼによって加水分解されてフルコナゾール(ジフルカンR)に変換されるため,硝子体内注入は意味をもたない.6.硝子体手術硝子体手術施行時期については,いまだ議論の分かれるところである.しかし,硝子体手術は,真菌の温床となっている硝子体を一掃し,薬剤移行を高め,硝子体牽引や増殖膜の足場となる後部硝子体膜を除去するといった治療的,さらに,硝子体サンプルから原因菌を同定す表4抗真菌薬の硝子体内投与量アムホテリシンB(AMPH-B)ファンギゾンRミコナゾール(MCZ)フロリードFRフルコナゾール(FLCZ)ジフルカンRイトラコナゾール(ITCZ)イトリゾールRミカファンギン(MCFG)ファンガードRボリコナゾール(VRCZ)ブイフェンドR硝子体内投与量(μg/0.1ml)540100105100硝子体灌流液添加量(μg/ml)101020356あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(48)9)河野茂ほか,深在性真菌症のガイドライン作成委員会編:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2007.協和企画,200710)WhitcupSM:Bacterialandfungaldisease.InUveitis,Fundamentalsandclinicalpractice,ThirdEd,p157-184,Mosby,Pennsylvania,200411)矢野啓子:真菌性眼内炎.眼科プラクティス8,ぶどう膜炎診療のしかた(臼井正彦編),p140-143,文光堂,199312)MagrathGN,PulidoJS,MonteroJetal:Cystoidmacularedemasecondarytofluconazoletoxicity.OculImmunolInflamm18:472-474,2010endogenousendophthalmitisoutcomes.AneastAsianexperiencewithKlebsiellapneumoniaeinfection.Retina24:383-390,20046)ChangFY,ChouMY,FanRLetal:AclinicalstudyofKlebsiellaliverabscess.JFormosanMedAssoc87:282-287,19887)YoonYH,LeeSU,SohnJHetal:ResultofearlyvitrectomyforendogenousKlebsiellapneumoniaeendophthalmitis.Retina23:366-370,20038)草野良明,大越貴志子,佐久間敦之ほか:真菌性眼内炎の起炎菌におけるフルコナゾール耐性Candida属の増加.臨眼54:836-840,2000

術後眼内炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY子体混濁がみられる(図1).白内障手術後6週間以内の発症の術後眼内炎を米国で検討した大規模多施設研究であるEndophthalmitisVitrectomyStudy(EVS)1)によると,急性術後眼内炎の起因菌検出率は62%であり,その90%がグラム陽性菌で,グラム陰性菌が7%であった.グラム陽性菌の70%はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)であり,その内訳は表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,レンサ球菌,腸球菌などであった.わが国での忍足ら2)の報告によると,白内障術後感染性眼内炎22眼中17眼(77%)で起因菌が検出され,その内訳はメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE),a-溶血性レンサ球菌,メチシリン耐性黄色はじめに術後眼内炎は眼内手術,眼内注射において最も重篤な合併症の一つである.以前の術後眼内炎は白内障術後におけるものが主であったが,最近では術後眼内炎の原因が小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)後や抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の眼内注射後の眼内炎など,治療手技の移り変わりに伴い,その誘因が変遷している.術後眼内炎は白内障手術などの前眼部手術が起因となっていれば前眼部の術創から後眼部に向かって進展することが多い.しかし,硝子体手術後や硝子体内注射に続発する眼内炎では硝子体中から前眼部に波及するので,その進展形式の差を考慮して対処する必要性がある.I白内障術後水晶体.外摘出術から超音波乳化吸引術の時代になり,さらに近年は小切開白内障手術が広まっている.術式は低侵襲手術に格段に進歩しているが,白内障術後眼内炎は撲滅してはいない.白内障は予後良好な疾患であり,患者の術後視力回復への期待感も大きい.そこで失明の危険がある眼内炎が起こってしまうと患者の失望も大きい.症状の多くは白内障手術後の早期に,毛様充血や結膜充血,眼痛を伴う霧視が出現する.前房にはやや大きめの前房内セルと虹彩毛様体炎,白色の大きめの角膜後面沈着物,前房蓄膿,フィブリン塊,角膜混濁,硝(35)343*MakotoInoue:杏林アイセンター〔別刷請求先〕井上真:〒181-0004三鷹市新川6-20-2杏林アイセンター特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):343.349,2011術後眼内炎PostoperativeEndophthalmitis井上真*図1白内障術後眼内炎の症例にみられた前房蓄膿角膜浮腫を生じ,前房蓄膿がみられる.344あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(36)にたるエビデンス)に該当したものはなかった(表2).術後の抗生物質の結膜下注射,術前の睫毛切除,術前の生理食塩水洗浄,術前の抗生物質点眼,抗生物質を混入させた眼内灌流液の術中使用,術中ヘパリンの使用の有用性などの多数の報告は臨床的推奨レベルでCランク(臨床的に推奨されるだけの根拠が明確でない),エビデンスレベルはIIIランク(エビデンスが低く推奨にはあたらない)であった.唯一術前のポビドンヨード消毒のみが臨床的推奨レベルでBランク(臨床的に中程度重要であり推奨される),エビデンスレベルでIIランク(エビデンスはあるが不確実な検討)に入っており,Ciullaらの論文は白内障術後眼内炎の発症予防に対して術前にポビドンヨードを用いて結膜.洗浄を行うことが最もエビデンスがあるという結果であった.ESCRS(EuropeanSocietyofCataractandRefractiveSurgery)studyとは2003年から2006年までヨーロッパの24施設が超音波水晶体乳化吸引術による白内障術後眼内炎の予防処置や危険因子を検討した多施設前向き無作為化臨床研究(multicenterprospectiverandomizedclinicaltrial)である6,7).治療グループを術前抗生物質点眼の有無,術終了時の抗生物質前房内投与の有無から4つのグループに分けて検討を行った(表3).術前の抗生物質点眼としてはレボフロキサシンを術前1時間,30分,術直前5分前の3回行い,前房内投与にはセフロキシム(オラセフR)1mg/0.1mlを術終了時に注入した.術後は全例でレボフロキサシンの点眼を1日4回,少なくとも6日間は使用していた.眼内炎を発症したと考えられる症例からは前房水または硝子体液を採ブドウ球菌(MRSA)などであった.眼内炎の発症時期による起因菌種の検討では,術後1~2日目では緑膿菌,セラチア,腸球菌が多く,黄色ブドウ球菌やCNSなどのグラム陽性球菌は術後4~7日目の発症が多かった3).一方,1カ月以上経過してから発症する遅発性の眼内炎はPropionibacteriumacnesなどの弱毒菌によるものが多かった.薄井ら4)は白内障術後眼内炎の全国調査で,視力予後の悪い起炎菌としてMRSAと腸球菌を指摘している.Ciullaら5)は白内障術後眼内炎に予防に関して1966年から2000年までの文献を検索し88編の文献が科学的根拠に基づいて検討されているかを臨床的推奨レベル(ClinicalRecommendation)とエビデンスレベル(GroupedEvidenceRating)の2項目でそれぞれ3段階(それぞれA~CとI~III)に分類して評価を行った(表1).それらの検討では臨床的推奨レベルでAランク(臨床的にきわめて重要であり推奨される)に該当した予防項目はなく,エビデンスレベルでもIランク(推奨する表1エビデンスの評価項目臨床的推奨レベル(ClinicalRecommendation)A臨床的にきわめて重要であり推奨されるB臨床成績に中程度重要であり推奨されるC臨床成績に影響する根拠が明確でないエビデンスレベル(GroupedEvidenceRating)I推奨するにたるしっかりしたエビデンス(前向きランダム化比較試験)IIエビデンスはあるか不完全な検討(非ランダム化比較試験,コントロール群がない,フォローアップが不十分,統計的にあまり有意でないなど)IIIエビデンスが低く推奨にはあたらない(コントロール群がない後ろ向き検定,小数例の比較がない症例検討,個人の意見など)表2眼内炎の予防に用いられた検討項目予防的介入項目臨床的推奨レベルエビデンスレベル術後の抗生物質結膜下注射CIII術前の睫毛切除CIII術前の生理食塩水洗浄CIII術前のポビドンヨード消毒BII術前の抗生物質点眼CIII抗生物質を混入させた眼内灌流液CIII術中ヘパリンCIII表3各群での眼内炎発症率前房内抗生物質(セフロキシム)投与術前点眼(レボフロキサシン)なし(プラシボ点眼)ありなし眼内炎全例0.345%(14/4,054例)眼内炎全例0.247%(10/4,049例)眼内炎確定0.247%(10/3,990例)眼内炎確定0.173%(7/3,984例)あり眼内炎全例0.074%(3/4,058例)眼内炎全例0.049%(2/4,052例)眼内炎確定0.049%(2/4,000例)眼内炎確定0.025%(1/4,052例)(37)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011345に角膜切開で白内障手術が行われる米国から批判が高かった.ESCRSstudyでは強角膜切開の症例が全体の2割で24施設のなかで2施設のみであった点などが指摘された.この研究で用いられた術前の抗生物質点眼は3回のみであり,わが国などで術1~3日前に開始される一般的な術前点眼と異なって点眼回数が少ない.そこで手術開始時に抗生物質の有効前房内濃度に至っていなかったため,術前点眼の有用性が示されなかったのではとも指摘されている.ESCRSstudyで用いられたセフロキシムは第二世代セフェム系抗菌薬で通常のグラム陽性菌に対して強い抗菌力を示すが,より重篤となりやすい腸球菌,MRSAや緑膿菌に対しては抗菌力が低い.ESCRSstudyで検出された眼内炎の起因菌はいずれの群でもブドウ球菌やレンサ球菌が主体で,その他はPropionibacteriumacnesが一部含まれているのみであった.これらの眼内炎の起因菌の多くはセフロキシムに感受性に高い菌種であったことが前房内投与の有効性をより高めに評価した可能性がある.セフロキシムはMRSA,腸球菌や緑膿菌などの予後不良な起因菌に対しては効果が低く,その地域に応じた薬剤選択を行わないとESCRSstudyと同様の効果が得られない可能性がある.わが国での調査8)によると,角膜切開での眼内炎発症率は0.043%,強角膜切開では0.049%であり,切開創による差はみられなかった.年間手術件数が300件を超すボリュームサージャンにおける眼内炎の発症率は0.044%とそれ以外の0.066%より有意に低かった.ESCRSstudyでは角膜切開での眼内炎の発症率が高取してグラム染色,培養検査,PCR(polymerasechainreaction)検査を行い,いずれかの検査で陽性と判断されれば眼内炎確定症例,臨床所見のみでどれも陽性ではなかった場合を眼内炎(疑い)症例と判別した.すべての群を合わせた白内障術後眼内炎の発症率は0.18%(29/16,211例)で,確定症例は0.12%(20例)であった.術前抗生物質点眼なし(プラシボ点眼使用),術終了時抗生物質前房内投与なしの群での眼内炎発症率は0.35%(14/4,054例)ときわめて高く,眼内炎確定症例も10例であった.術前抗生物質投与を行い抗生物質前房内投与は行わなかった群では眼内炎の発症率は0.25%(10/4,049例),確定7例と高かった.一方で前房内投与を行い術前抗生物質点眼は行わなかった群での眼内炎発症率は0.07%(3/4,058例),確定2例で,術前抗生物質点眼と前房内投与の両方を行った群では0.05%(2/4,052例),確定1例と眼内炎の発症が有意に抑制されていた.そこでセフロキシムの前房内投与は非投与群に比べて有意に白内障術後眼内炎を予防し,そのオッズ比は4.92に達していた.術前のレボフロキサシン点眼の使用に関しては,その有用性は示されなかった.このESCRSstudyはエビデンスの高い研究であり,前房内抗生物質投与についてわが国でも今後何らかの対応がなされると考えられる.一方で研究そのものに対する批判も多かった.ESCRSstudyで批判があったのは,まず術前抗生物質点眼や術終了時に抗生物質前房内投与を行っていない群での白内障術後眼内炎の発症率が0.35%と高かったことである.術中合併症が多いと眼内炎の発症が高いことが過去の報告と一致していたが,経験症例が多ければ眼内炎の発症率が高かったこととプラシボ群での眼内炎発症率が高かったことが相まって,このスタディが行われた手術環境自体が疑問視されていた.わが国での2003年度の日本眼内レンズ屈折手術学会が行ったアンケート調査8)では2003年の1年間の白内障手術総件数は100,539件で,術後眼内炎は52件で発症し,その発症率は0.052%であり,前房内抗生物質投与を行った群と遜色ない結果であった.また,ESCRSstudyでは術後眼内炎の危険因子として角膜切開をあげ,強角膜切開と比べてオッズ比が5.88であった(表4).これはおも表4有意差があった白内障術後眼内炎発症の危険因子危険因子オッズ比p値眼内炎全例角膜切開5.880.019術中合併症4.950.004前房内投与なし4.920.001シリコーンIOL4.950.004経験症例多い2.010.046眼内炎確定例角膜切開7.430.054前房内投与なし5.860.005シリコーンIOL4.100.002経験症例多い2.860.053男性2.700.035346あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(38)創の作製に垂直刺入を行っていた時期が含まれ,現在行われている斜め切開に比べると垂直刺入は術後の創口閉鎖が不良であったと考えられる.垂直刺入と斜め刺入を個別に検討したShimadaら15)の報告では眼内炎の発生率に20G手術(眼内炎発生率:0.0278%)と25G手術(同発生率:0.0299%)では有意差がなく,斜め切開のほうが眼内炎の発生が少なかった.同報告では切開の作製方法だけでなく眼内炎の発生率を低下させる工夫として結膜の洗浄と確実な創の閉鎖,周辺部の硝子体郭清が重要と述べられている.この報告での眼内炎を発症した症例は垂直刺入を用いた症例であった.Oshimaら16)による日本MIVS研究会の多施設研究では20G手術での眼内炎の発生率は0.034%(10/29,030例)でMIVS術後には0.054%(8/14,838例)と有意差がなかった.MIVSでの眼内炎の発生率に有意差はなかった.23G硝子体手術後には0.030%(2/6,600例),25G手術後には0.073%(6/8,238例)と25G手術後のほうが若干,発生率が高かったが有意差はなかった.既報を含めた7報告からメタアナリシスを行ったところ77,956例のなかでMIVSでの眼内炎の発症率は0.08%(0.030~0.164%),20G手術での発生率は0.030%(0.012~0.048%)で有意差がなかった.Scottら17)はより最近の症例をレビューして追加報告をしている.2005年から2006年までの眼内炎の発生率がMIVSで高かったのに対し,2007年から2008年の眼内炎の発生率は20G手術で0.02%(1/4,403例),23G手術で0.03%(1/3,362例),25G手術で0.13%(1/789例)であり,それぞれ有意差がなかった.これは,2005年から2006年までの検討と同一施設同一術者群での比較であったが,2005年から2006年の25G硝子体手術後の眼内炎の発生率,0.84%(11/1,307例)に比べてより最近の症例での眼内炎の発生率が有意に低下していた.眼表面を完全に無菌化することは困難である.Tominagaら18)の報告では20G手術と25G手術で,モキシフロキサシン(ベガモックスR)の術前抗生物質点眼使用前,点眼使用後に結膜.の擦過培養を,硝子体手術開始直後,手術終了時に硝子体のサンプルを抽出して細菌培養検査を行った.術前抗生物質点眼で両群とも有意に細菌培養陽性率は減少したが,硝子体手術開始直後でかった.角膜切開のほうが強角膜切開に比べ感染の危険性が高いことは以前から報告されていた9,10).一方で小切開手術が広がったためか,角膜切開と強角膜切開では眼内炎の発症に差がないとの報告もある8,11).しかし,井上ら11)は耳側角膜切開白内障手術後に眼内炎を生じた理由として糖尿病や悪性疾患の既往などの背景因子の存在を指摘している.悪性腫瘍,糖尿病,副腎皮質ステロイド薬内服,膠原病,涙.炎,閉瞼不全などの背景因子を有した白内障術後眼内炎は視力予後不良であるとの報告がある12).a-溶血性レンサ球菌などの感染が術創の閉鎖不全を起こすとの指摘もあり12),不確実な白内障手術創が感染に関与している可能性は高い.そこで背景因子をもったハイリスク症例に対しての白内障手術については,不確実な角膜切開であれば縫合を追加する,もしくは強角膜切開で結膜を確実に被覆させるなどの配慮が必要と思われる.II小切開硝子体手術後20ゲージ(gauge:G)硝子体手術後の眼内炎の発生率は0.05%前後とされ,白内障手術とほぼ同等の発生率であることが報告されていた.MIVSは経結膜的に小切開,無縫合で手術が行えるため前眼部に対しては侵襲が少ないことが知られている.しかし,経結膜的に眼内に侵入するため眼内炎の発症が増加することが危惧されていた.Kunimotoら13)は8,600眼の硝子体手術をレトロスペクティブに検討し,術後眼内炎の発生率を20G手術と25G手術で比較したところ,20G手術では眼内炎の発生が5,498眼中1眼の0.018%であったのに対し25G手術では3,103眼中7眼の0.23%で有意に多かったと報告した.また,Scottら14)は同様の検討を行い,20G手術(眼内炎発生率:0.03%)と比べて25G手術(同発生率:0.84%)のほうが眼内炎の発生が有意に多かったと報告した.術直後の低眼圧が眼内炎の発症に関与している可能性が推測されたが,25G手術で眼内炎を発症した11眼の術翌日の平均眼圧は13mmHg(5.27mmHg)であり,必ずしも低眼圧の症例ではなかった.硝子体手術から眼内炎発症までの平均期間は3日(1.15日)であった.起炎菌が同定できた7眼中6眼はCNSで1眼は腸球菌であった.これらの報告では強膜(39)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011347質の迷入などで生じると考えられている.近年白内障手術などの手術以外でベバシズマブの硝子体注入によってもTASSの原因が起こりうることが報告されている.Satoら20)は同じロット番号から調合したベバシズマブの硝子体注射を行った後に急性眼内炎症を発症した5例を報告した.すべての症例で前房蓄膿を伴った前房主体の眼内炎が起こり,培養検査は陰性で臨床所見はTASSと類似していた.今後硝子体注射の頻度が増加するに従って著しくTASSが急増するのではと危惧されている.TASSは除外診断であり,感染性眼内炎との鑑別が重要である.IV硝子体手術の適応白内障術後眼内炎においてEVSでは,視力が光覚弁にまで低下すれば硝子体手術と抗生物質であるバンコマイシンとアミカシンの硝子体内注射とバイコマイシンとセフタジジム(モダシンR)の結膜下注射が有効であると報告している1).この報告では視力が手動弁以上であると硝子体手術をしてもしなくても抗生物質の硝子体内投与を行えば予後に影響せず,硝子体手術の有効性を否定しかねる結果であった.しかしEVSでの光覚弁とは一般的な診療で用いられる手動弁と同等であり,硝子体手術はcorevitrectomy(硝子体切除50%以上)のことを意味しているため,周辺硝子体の郭清は規定に入っていない.周辺硝子体もさらに郭清することは,病変部位の郭清や薬剤移行を向上させる意味でも有効と考えられる.そこで実際にはEVSのエビデンスより硝子体手術が積極的に行われていると考えられる.強毒菌感染では網膜電図(ERG)でb波が低下すると報告されている21).そこで,急性発症でERGのb波が低下していれば強毒菌を強く疑い積極的な治療を行う.弱毒菌が疑われ,炎症が軽度であれば抗生物質やステロイド薬の点眼や結膜下注射で沈静化する場合も多い.しかし,少しでも眼内炎を疑えばまず前房水と硝子体からのタップによる培養検査とバンコマイシン1mg/0.1mlとセフタジジム2.0mg/0.1mlの硝子体内投与を即座に行うべきである22).起炎菌の病巣が水晶体.内にある場合や硝子体中に播種した場合には水晶体.内を洗浄する前房洗浄や硝子体手術を早急に施行せねばならない.硝20Gからは2.4%の培養陽性率であったのに対し,25G手術では22.5%と有意に高率に細菌の眼内迷入がみられた.手術終了時には両群とも細菌陽性率は0%となり,25G手術では経結膜的に強膜創を作製する手術の開始時に眼内に細菌を迷入させていることが明らかとなった.白内障手術でも術中感染が問題となっているが,超音波水晶体乳化吸引術では眼表面と眼内を眼内灌流液でよく洗浄しているため,結果として眼内の細菌量を減少させているのではと考えられている.硝子体手術においても眼内灌流と硝子体カッターの吸引によって眼内を灌流することで同様の滅菌操作を行っている可能性がある.すると25G手術の初期に推奨されていた周辺部の硝子体を残して強膜創に硝子体を嵌頓させて創を閉鎖させる方法は,眼内洗浄という点では眼内炎の発症率を上昇させていた可能性がある.この観点からも細菌増殖の温床となりうる周辺部硝子体を郭清したほうがよいと考えられる.MIVSでは結膜の外側に眼内から硝子体が脱出するvitreouswickがしばしばみられる.眼内と眼外がつながった硝子体線維が存在すると眼内へ細菌迷入を起こす可能性がある.Vitreouswickがないか術終了時にMQA(MedicalQuickAbsorber)などで創口をよく確認する.MIVSでは眼内に0.5ml程度の空気を注入すると,その表面張力によって強膜創の内側が閉鎖するのを助けると考えられている.少量の空気を注入すると眼内炎の予防になるといった報告もあるが,創口の閉鎖に不安を感じたら,迷わず縫合を追加することが眼内炎を予防するうえでも重要である.IIIToxicAnteriorSegmentSyndromeToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)は術後の無菌性炎症である19).非感染性の物質が前房内に注入されたときに生じ,眼内の組織を損傷する.この反応は白内障手術や前眼部手術を行った12.48時間後に起こる.前眼部に限局しグラム染色に陰性,培養検査も陰性でステロイド治療によく反応する.感染性の眼内炎との鑑別が重要である.TASSの原因は濃度,pHや浸透圧が不適合な化学物質の注入,防腐剤や変性した粘弾性物質,酵素洗剤,細菌外毒素,酸化した金属粒子の迷入,眼内レンズの滅菌に用いられた物質やそれを研磨する物348あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(40)ざるをえない症例も存在する.眼内レンズを摘出すると前眼部への炎症も増加するため,適時判断することが要求される.術前の細隙灯検査で視認性が不良であっても,実際の手術で眼内照明を用いると意外と視認性が得られる場合もある.角膜浸潤がある症例ではフローティングコンタクトレンズより広角観察システムを用いたほうが眼内を観察しやすい.術中に医原性裂孔が生じた場合には網膜が脆弱化しているためシリコーンオイルの注入が必至となる.シリコーンオイルを用いた場合には硝子体腔の液性体積が減少するため,抗生物質の眼内濃度調整が困難となる.抗生物質の眼内灌流に切り替えるか,抗生物質の結膜下注射に変更せざるをえない.レンサ球菌などの眼内炎では硝子体中にびっしりフィブリン塊が充満し,白色の硝子体と浮腫を起こした網膜との鑑別が困難となっている.硝子体混濁を除去しようとすると周辺部硝子体切除の際にまったく気づかずに網膜を切除している場合がある.このようなときには硝子体中に組織プラスミノーゲンアクチベーターであるモンテプラーゼ(クリアクターR)かアルテプラーゼ(アクチバシンR)を注入して30分ほど待って硝子体切除を再開すると,フィブリン塊と網膜との癒着が軽減するので手技が安全となる23).硝子体内に投与する抗生物質はEVSの結果からバン子体手術を行うタイミングとしては,前眼部手術後であれば超音波検査で硝子体混濁が前方から後方に播種しそうになれば早期に硝子体手術に踏み切る.後眼部手術であれば超音波検査で網膜近傍に混濁がみられるか何らかの網膜病変があれば硝子体手術を考慮する.眼内炎の手術治療を考慮する前にその炎症が術後炎症によるものではなく,眼内感染であるかどうかの鑑別が必要である.硝子体手術後であれば硝子体を可視化するためにトリアムシノロンが注入され,その眼内炎がトリアムシノロンによる無菌性眼内炎(偽眼内炎)であることもあり,TASSとの鑑別も必要である.トリアムシノロンによる無菌性眼内炎は硝子体中だけでなく前房にもセルが出現し,しばしば偽前房蓄膿も形成する.しかし角膜後面沈着物がみられないことが鑑別点となる.発生頻度は高くないが全身状態が不良であれば,身体の他の感染巣から血行転移によって眼内に播種した内因性眼内炎との鑑別も必要である.多くの場合は眼内レンズを温存しても治療可能である.眼内レンズそのものが混濁していなければ十分な前房洗浄を行えば眼内の視認性は得られる(図2).眼内レンズを温存した場合には後.を切開して水晶体.内への薬剤移行を向上させる(図3).一方で眼内レンズを温存したために炎症が再燃して再手術で眼内レンズを摘出せ図2白内障術後眼内炎症例での前房洗浄バイマニュアルI/A(irrigationandaspiration)で前房内を洗浄し,眼内レンズの前面のフィブリン膜を除去し,水晶体.内もよく洗浄すると眼底の視認性が向上する.図3白内障術後眼内炎症例での後.切開硝子体手術後に眼内に注入した抗生物質の水晶体.内への浸透をよくするために一部分の水晶体後.を切除する.あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011349コマイシンとセフタジジムが用いられているが,近年バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)やバンコマイシン耐性ブドウ球菌(VRS)などのバンコマイシン耐性の菌が多く報告され,院内感染の原因となっている24).選択肢としてこの薬剤は第一選択であるが,今後耐性菌の出現に伴い第二選択,第三選択などの必要性が出てくる可能性は高い.文献1)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:Resultsoftheendophthalmitisvitrectomystudy.Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19952)忍足和浩,平形明人,岡田アナベルあやめほか:白内障術後感染性眼内炎の硝子体手術成績.日眼会誌107:590-596,20033)嘉村由美:術後眼内炎.眼科43:1329-1340,20014)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか;日本眼科手術学会術後眼内炎スタディグループ:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20065)CiullaTA,StarrMB,MasketS:Bacterialendophthalmitisprophylaxisforcataractsurgery:anevidence-basedupdate.Ophthalmology109:13-24,20026)BarryP,SealDV,GettinbyGetal;ESCRSEndophthalmitisStudyGroup:ESCRSstudyofprophylaxisofpostoperativeendophthalmitisaftercataractsurgery:PreliminaryreportofprincipalresultsfromaEuropeanmulticenterstudy.JCataractRefractSurg32:407-410,20067)EndophthalmitisStudyGroup,EuropeanSocietyofCataract&RefractiveSurgeons:Prophylaxisofpostoperativeendophthalmitisfollowingcataractsurgery:resultsoftheESCRSmulticenterstudyandidentificationofriskfactors.JCataractRefractSurg33:978-988,20078)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,20079)CooperBA,HolekampNM,BohigianGetal:Case-controlstudyofendophthalmitisaftercataractsurgerycomparingscleraltunnelandclearcornealwounds.AmJOphthalmol136:300-305,200310)NagakiY,HayasakaS,KadoiCetal:Bacterialendophthalmitisaftersmall-incisioncataractsurgery.effectofincisionplacementandintraocularlenstype.JCataractRefractSurg29:20-26,200311)井上康,三好輝行,藤田善史ほか:耳側角膜切開白内障手術における術後眼内炎の発症頻度について.眼科47:1853-1857,200512)二宮夕子,平形明人,平岡智之ほか:白内障術後眼内炎における背景因子からみた臨床像の検討.日眼会誌112:525-530,200813)KunimotoDY,KaiserRS;WillsEyeRetinaService:Incidenceofendophthalmitisafter20-and25-gaugevitrectomy.Ophthalmology114:2133-2137,200714)ScottIU,FlynnHWJr,DevSetal:Endophthalmitisafter25-gaugeand20-gaugeparsplanavitrectomy:incidenceandoutcomes.Retina28:138-142,200815)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Incidenceofendophthalmitisafter20-and25-gaugevitrectomycausesandprevention.Ophthalmology115:2215-2220,200816)OshimaY,KadonosonoK,YamajiHetal;JapanMicroincisionVitrectomySurgeryStudyGroup:Multicentersurveywithasystematicoverviewofacute-onsetendophthalmitisaftertransconjunctivalmicroincisionvitrectomysurgery.AmJOphthalmol150:716-725,201017)ScottIU,FlynnHWJr,AcarNetal:Incidenceofendophthalmitisafter20-gaugevs23-gaugevs25-gaugeparsplanavitrectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol,2010Sep18.[Epubaheadofprint]18)TominagaA,OshimaY,WakabayashiTetal:Bacterialcontaminationofthevitreouscavityassociatedwithtransconjunctival25-gaugemicroincisionvitrectomysurgery.Ophthalmology117:811-817,201019)MamalisN,EdelhauserHF,DawsonDG,ChewJetal:Toxicanteriorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,200620)SatoT,EmiK,IkedaTetal:Severeintraocularinflammationafterintravitrealinjectionofbevacizumab.Ophthalmology117:512-516,516,201021)HorioN,TerasakiH,YamamotoEetal:Electroretinograminthediagnosisofendophthalmitisafterintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol132:258-259,200122)薄井紀夫:治療戦略1─緊急対応プロトコール,白内障術後眼内炎アップデート2005.あたらしい眼科22:909-911,200523)WuTT,WangHH:Intracameralrecombinanttissueplasminogenactivatorforthetreatmentofseverefibrinreactioninendophthalmitis.Eye(Lond)23:101-107,200924)SharmaS,DesaiRU,PassABetal:Vancomycin-resistantenterococcalendophthalmitis.ArchOphthalmol128:794-795,2010(41)

コンタクトレンズ関連角膜感染症

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYCL装用の最も重篤な合併症は角膜感染症である.原因菌としては緑膿菌とアカントアメーバが最も多く,近年それらの急激な増加が問題となっている.緑膿菌の典型例を図1に示す.19歳,男性でSCLを装用したまま就寝,2日後にはこのような強い輪状膿瘍を呈した.緑膿菌の危険なところは急激な悪化である.アカントアメーバの典型例を図2に示す.20歳の男性で2週間タイプのFRSCLユーザーでケアの悪いケースであった.入院治療に1カ月以上を要した.アカントアメーバの問題は特効薬がなく治癒までに非常に長時間を要することである.これらの感染法の増加の背景には,SCLケアの悪さ,CLケース内の微生物汚染,MPSの弱い消毒効果などがあると考えられる.このような状況から,日本コンタクはじめにコンタクトレンズ(CL)は全国で約2,000万人が使用している.CLの進歩は非常に速く,約40年前からハードCL(HCL),酸素透過性HCL(RGPCL),ソフトCL(SCL)(煮沸消毒),頻回交換SCL(FRSCL)(過酸化水素,マルチパーパススリューション:MPS),1日交換SCL(1DaySCL),シリコーンハイドロジェルSCL(過酸化水素,MPS)と次々に開発,発売されてきた.また,最近では乱視矯正SCL,老視用多焦点SCL,カラーSCL,角膜を大きく見せるSCLなど非常に多様化している.現在のシェアは,1DaySCL,FRSCLがともに約600万人で全体の半数以上を占めるといわれている.(29)337*MasahikoFukuda:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕福田昌彦:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):337.342,2011コンタクトレンズ関連角膜感染症ContactLens-RelatedInfectiousKeratitis福田昌彦*図2アカントアメーバ角膜炎放射状角膜神経炎を認める.図1緑膿菌による角膜潰瘍強い輪状膿瘍を認める.338あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(30)先であった.1.対象症例数および性別・年齢症例数は350例,男性が195例,女性が155例,年齢は9~90歳(平均28歳)であった.2.発症眼感染症の発症は右眼のみが160例(45.7%),左眼のみが157例(44.9%),両眼のものが33例(9.4%)であった.3.細菌学的検査塗抹検鏡検査が行われたのは278例(79.4%)であった.検体の採取部位別の結果を表1に示す.角膜病巣の検体からアカントアメーバが68例,グラム陰性桿菌が40例,グラム陽性球菌が20例で確認された.このほか,検鏡陽性数が多かった検体はCLケースで,角膜病巣と同様にアカントアメーバおよび,グラム陰性桿菌が多く検出された.培養検査は333例(95.1%)で施行されていた.うちなんらかの微生物が検出されたのが228例,陽性率は68.5%であった.検体の採取部位別の結果を表2に示す.トレンズ学会と日本眼感染症学会は共同でCL関連角膜感染症全国調査を行った.また,2009年,国民生活センターがMPSのアカントアメーバに対する消毒効果について報告を行った.これらの結果を踏まえてCL関連角膜感染症の動向について述べる.コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症全国調査対象施設は全国224施設で,対象疾患はCL装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療を要した症例である.調査期間は平成19年4月からと平成20年3月までの2年間で,担当医と患者へのアンケートを行った.担当医への調査項目は,年齢,性別,発症眼,自覚症状,初診時視力,前眼部所見,塗抹検鏡所見,分離培養結果,治療薬,外科的処置の有無,3カ月後の転帰,3カ月後の視力であった.患者に対するアンケート内容はCLの種類,装用時間,週当たりの装用日数,装用方法,消毒の種類,週当たりの洗浄回数,週当たりの消毒の頻度,こすり洗いの有無,レンズケースの交換頻度,定期検査の頻度,1日ディスポーザブルCLの使用期間,2週間FRSCLの使用期間,定期交換(1,3カ月)SCLの使用期間,装用方法遵守の程度,処方された施設,購入表1塗抹検鏡菌種グラム陽性球菌グラム陽性桿菌グラム陰性球菌グラム陰性桿菌糸状菌アカントアメーバ角膜病巣2016540268結膜.220300眼脂100500CL512806CLケース119630321その他101002(文献9より)表2分離培養にて検出された主要菌菌種黄色ブドウ球菌表皮ブドウ球菌コリネバクテリウム緑膿菌セラチアその他のグラム陰性桿菌アスペルギルスアカントアメーバ角膜病巣3567034056結膜.13431100眼脂01181000CL4222051304CLケース235391734132その他01051301(文献9より)(31)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011339角膜病巣からは緑膿菌が70例,アカントアメーバが56例で同定されていた.その他黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,セラチアなどもみられたが,いずれも数例程度であった.CLケースからの検出菌としては緑膿菌39例のほか,セラチア17例,その他のグラム陰性桿菌が34例とグラム陰性桿菌が多数検出されていた.アカントアメーバもCLケースから32例で検出されていた.なお,角膜病巣から検鏡・培養のいずれかでアカントアメーバが検出された症例は85例であった.4.発症時使用していたCLの種類および装用方法角膜感染症発症時使用していたCLの種類を表3に示す.FRSCLが196例(56.0%)と過半数を占めていた.続いて症例数の多いものとして定期交換SCL56例(16.0%),1日ディスポーザブルCL26例(7.4%)があげられた.5.使用していた消毒薬CLの消毒薬の種類について,回答のあった227例のうちMPSを使用していた例が212例(93.4%)であった.このほか過酸化水素が14例(6.2%),煮沸消毒が1例(0.4%)みられたが,ヨード製剤を用いたという回答はなかった.6.ケアの方法CLを外したのち再装用するまでのケアの方法に関し,CLの洗浄,消毒,こすり洗い,CLケースの交換についてそれぞれ図3.6に結果を示す.CLの洗浄につい表3発症時使用していたCL症例数%1日ディスポーザブルSCL267.41週間連続装用ディスポーザブルSCL41.12週間FRSCL19656.0定期交換(1カ月,3カ月)SCL5616.0従来型SCL92.6カラーCL174.9ハードCL174.9オルソケラトロジーレンズ20.6無回答236.6(文献9より)毎日洗浄していた135(38.6%)週に4~6回洗浄していた35(10.0%)週に2~3回洗浄していた33(9.4%)時々洗浄していた47(13.4%)ほとんど洗浄していなかった27(7.7%)まったく洗浄していなかった17(4.9%)その他11(3.1%)無回答45(12.9%)図3CLの洗浄(文献9より)毎日こすり洗いしていた67(19.1%)週に4~6回こすり洗いしていた30(8.6%)週に2~3回こすり洗いしていた23(6.6%)時々こすり洗いしていた53(15.1%)ほとんどこすり洗いしていなかった61(17.4%)まったくこすり洗いしていなかった60(17.1%)その他11(3.1%)無回答45(12.9%)図5CLのこすり洗い(文献9より)毎日消毒していた115(32.9%)週に4~6回消毒していた26(7.4%)週に2~3回消毒していた22(6.3%)時々消毒していた30(8.6%)ほとんど消毒していなかった21(6.0%)まったく消毒していなかった25(7.1%)その他6(1.7%)無回答105(30.0%)図4CLの消毒(文献9より)340あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(32)いなかった」「まったく交換していなかった」を合わせると174例(49.7%)と約半数を占めていた(図6).7.定期検査CLの定期検査の頻度について図7に結果を示す.「不定期に受けていた」,「ほとんど受けていなかった」,「まったく受けていなかった」など特定の受診間隔を定めていなかった例が162例(46.3%)を占めていた.8.CLの使用期間SCLは従来型を除き使用期間が定められている.この使用期間が遵守されているかについてレンズのタイプ別にアンケート結果をまとめた.1日ディスポーザブルCL装用者26例のうち「1日」と規定どおりの使用期間を守っていたものは12例(46.2%)のみであった(表4).同様にFRSCLについての結果を表5に示す.症例数の多いFRSCLにおいて「2週間以内」の使用期間であったものは74例であり,回答のあった177例のうち41.8%のみという結果であった.9.CL装用方法の遵守「CL装用方法を守っていたか?」という総括的な質ては,「毎日洗浄していた」は135例(38.6%)にとどまっていた.「時々洗浄していた」「ほとんど洗浄していなかった」「まったく洗浄していなかった」など,CLの洗浄が十分行われていないと考えられる例も一定数みられていた(図3).CLの消毒についても洗浄とほぼ同様の結果であった(図4).CLのこすり洗いについては「毎日こすり洗いしていた」は67例(19.1%)であり,「時々こすり洗いしていた」53例(15.1%),「ほとんどこすり洗いしていなかった」61例(17.4%),「まったくこすり洗いしていなかった」60例(17.1%)の3つを合わせると174例(49.7%)にものぼった(図5).レンズケースの交換については特に交換までの期間を決めていないものが多く,「不定期に交換していた」「ほとんど交換して表41枚のCL使用期間(1日ディスポーザブルSCL)症例数%1日1246.22~3日623.14~7日13.81週間を超え2週間以内13.82週間を超え1カ月以内311.51カ月を超える27.7無回答13.8(文献9より)表51枚のCL使用期間(2WFRSCL)症例数%2週間以内7437.82週間を超え3週間以内5628.63週間を超え1カ月以内2613.31カ月を超える2110.7無回答199.7(文献9より)3カ月以内ごとに交換していた63(18.0%)6カ月以内ごとに交換していた42(12.0%)1年以内ごとに交換していた13(3.7%)不定期に交換していた60(17.1%)ほとんど交換していなかった65(18.6%)まったく交換していなかった49(14.0%)その他17(4.9%)無回答41(11.7%)図6CLケースの交換(文献9より)1カ月に1回程度受けていた3(0.9%)3カ月に1回程度受けていた77(22.0%)6カ月に1回程度受けていた49(14.0%)1年に1回程度受けていた20(5.7%)不定期に受けていた44(12.6%)ほとんど受けていなかった50(14.3%)まったく受けていなかった68(19.4%)その他5(1.4%)無回答34(9.7%)図7CLの定期検査(文献9より)(33)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011341例(62.3%)あった.しかし0.09以下の矯正視力しかなかった症例も40例(14.1%)認められた(図8).11.危険因子の検討CL関連角膜感染症全国調査での性別,年齢,使用CL種別と日本全国のCL推定使用者数との比較については,表8に示すようにCL関連角膜感染症は男性と10歳代,20歳代の使用者,2週間交換SCLと定期交換SCLに多く,HCL使用者,1日使い捨てSCL使用者には少ないとの結果が得られた.12.国民生活センターのMPSなどのアカントアメーバに対する効果MPS(8種類),過酸化水素消毒(2種類),ポビドン問に対し,「守っていた」あるいは「ほぼ守っていた」と答えたものが合計188例あり,回答のあった273例の68.9%であった(表6).10.外科的処置および3カ月後の転機調査対象施設受診後3カ月以内に外科的処置として角膜掻爬は126例(36.0%),角膜移植は7例(2.0%)で施行されていた.角膜移植症例のうち角膜擦過物から黄色ブドウ球菌が同定されているものが1例,緑膿菌が3例,アカントアメーバが1例であった.3カ月後の転帰について表7に示す.治療が継続中であるものが106例(30.3%)であった.治癒症例については治癒までの期間についても調査をしているが,1カ月以上を要しているものが84例と治癒症例145例中57.9%を占めていた.受診3カ月後の矯正視力について回答の得られた症例は284例であり,このうち0.7以上確保したものが177表6CL装用方法を守っていたか?症例数%守っていた6618.9ほぼ守っていた12234.9ほとんど守っていなかった7320.9まったく守っていなかった123.4無回答7722.0(文献9より)表8全国推定使用者数と比較した場合の危険性(2項目分布に基づく割合の検定)有意に関係する因子CL関連角膜感染症の発生有意性性別男性有意に多いp<0.0001年齢10歳代有意に多いp<0.000120歳代有意に多いp<0.0014CLの種別HCL有意に少ないp<0.00011日使い捨てSCL有意に少ないp<0.00012週間交換SCL有意に多いp<0.0001定期交換SCL有意に多いp<0.0001(文献8より)表73カ月後の転帰症例数%治療中10630.3治癒14541.4治癒までの期間1週以内3(2.1)*1~2週19(13.1)2週~1カ月28(19.3)1~2カ月42(29.0)2カ月を超える42(29.0)無回答11(7.6)転院5315.1来院しなくなった123.4無回答349.7*括弧内の数字は治癒145例中の割合を百分率で表している.(文献9より)1.0以上126(44.4%)0.7~0.951(18.0%)0.4~0.640(14.1%)0.1~0.327(9.5%)0.07~0.090(0.0%)0.04~0.067(2.5%)指数弁~0.0321(7.4%)光覚弁~手動弁11(3.9%)光覚なし1(0.4%)図83カ月後の矯正視力342あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(34)交換する,指示された装用期間を遵守するなどの適切なCLケアの啓発をますます行っていく必要があると考えられた.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20063)NagingtonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfectionoftheeye.Lancet2:1537-1540,19744)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎37自験例の分析.眼科44:1233-1239,20025)糸井素純,植田喜一,岡野憲二ほか:インターネットによるコンタクトレンズ眼障害のアンケート調査.日コレ誌50:111-121,20086)独立行政法人国民生活センター報告書「ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─」.平成21年12月16日7)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科80:693-698,20098)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌52:25-30,20109)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクト関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,2011ヨード消毒(1種類)のアカントアメーバ栄養体,アカントアメーバシストに対する効果を検討した.栄養体に対してはMPSの6種類で効果がなく,MPSの2種類,過酸化水素消毒2種類,ポビドンヨード消毒1種類で効果が認められた.一方,シストに対してはポビドンヨード消毒1種類のみ効果が認められ,他のすべての過酸化水素消毒,MPSで効果が認められなかった.13.国民生活センターのSCLの衛生状態調査2週間タイプのFRSCLを使用している学生385名を対象に通常どおりの方法で2週間レンズを使用してもらい,SCLの入ったレンズケースを回収,そのなかの衛生状態を調査した.約10%にPCR(polymerasechainreaction)法でアカントアメーバの痕跡が認められた.約60%から細菌が検出され,約20%から緑膿菌,約7%から大腸菌が検出された.MPSは過酸化水素消毒より検出率が高かった.レンズを取り扱う前は必ず手指を石鹸で洗い,レンズはこすり洗いをし,レンズケースを1.5.3カ月に一度新しいものと交換するという3点を守っていた人は守っていなかった人に比較してアカントアメーバ汚染率,細菌検出率は低く,特に緑膿菌検出率では大きな差を認めた.おわりに1DaySCL以外のFRSCLに関しては,MPS,過酸化水素消毒,ポビドンヨード消毒のいずれにおいても高率にSCLケース内に緑膿菌を中心とした細菌汚染は起こっており,その細菌を餌としてアカントアメーバもかなりの割合でケース内に存在すると考えられる.この汚染されたSCLを装用して,しかも長時間装用などで角膜に障害を起こした場合に緑膿菌による角膜潰瘍やアカントアメーバ角膜炎を起こすことが確認された.図9に模式図を示す.CLユーザーに対して,レンズを取り扱う前は必ず手指を石鹸洗いをする,レンズはこすり洗いをする,レンズケースを1.5.3カ月に一度新しいものとCLケース内角膜:アカントアメーバ:緑膿菌不適切なレンズケアMPSの弱い殺菌力+長時間装用など角膜炎発症図9CL関連角膜感染症の発症メカニズム

ウイルス性角膜炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY達,HSVが増殖して上皮型角膜ヘルペスが生じる.症状は片眼性の充血,異物感,視力低下である.上皮型の臨床病型は角膜上皮欠損の程度によって,樹枝状角膜炎と地図状角膜炎に分けられる.樹枝状角膜炎では,スリット所見にて特徴的な樹の枝のような角膜びらん,すなわち樹枝状病変を示す(図1).フルオレセイン染色によく染まり,枝の先端部が瘤状のterminalbulbを伴う.樹枝状病変は線状のびらんであるが,面状に拡大すると地図状角膜炎となる(図2).単純性の機械的角膜びらんと異なり,角膜びらんの辺縁が不規則な凹凸を示すdendritictailを呈するのが特徴的である.また,二次的に遷延性角膜上皮欠損を呈する場合もある.臨床所見が存在すれば診断に至りやすいが,非典型病変が存在しうるので注意が必要である.診断は,角膜ヘルペスが再発性病態であることから,同様の既往の存在の聴取が重要である.また角膜知覚の低下を呈するので,Cochet-Bonnet角膜知覚計にて計測する.臨床所見に加えて,病変の角膜上皮擦過物からのHSV分離が確定診断である.しかし,ウイルス分離は検査上煩雑で実際に施行している施設は限られているのが現状であるので,分子細胞生物学的に微量ウイルスDNAを検出するpolymerasechainreaction(PCR)法により,上皮病変におけるHSV-DNAの同定が非常に有効な検査手段である.近年では,PCR法のなかでも,リアルタイムPCR法にて,さらに鋭敏に定量的にウイルスDNAを同定することができる.はじめにウイルス性角膜炎においては,ヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV)が主たる原因である.角膜ヘルペスをはじめとして,HHVはさまざまな病態の角膜炎をひき起こすことが知られている.本稿ではHHVによる角膜炎を中心に,その他に角膜炎の原因となりうるウイルスについても述べる.Iヘルペス性角膜炎HHVによってひき起こされる角膜炎である.病変の首座によって,角膜上皮病変,角膜実質病変,角膜内皮病変と異なる病型を示しうる.1.単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)HSVによる角膜炎は単純ヘルペス角膜炎,または角膜ヘルペスと称される.HSVはaヘルペス属のDNAウイルスで,1型(HSV-1)と2型(HSV-2)があり,角膜病変の関与は1型が多い.HSVによる角膜病変1,2)は,臨床的に,上皮型,実質型,内皮型を呈する.a.上皮型3)幼児期にほとんどの人がHSV-1に初感染し,眼症状なく三叉神経節に潜伏感染する.成人期に,ストレス,発熱,紫外線曝露などが契機となり,潜伏感染ウイルスが再活性化,三叉神経節から軸索を介して角膜上皮に到(23)331*TomoyukiInoue:住友病院眼科〔別刷請求先〕井上智之:〒530-0005大阪市北区中之島5-2-2住友病院眼科特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):331.336,2011ウイルス性角膜炎ViralKeratitis井上智之*332あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(24)が必要である.鑑別診断としては,帯状疱疹ウイルスやアカントアメーバなどの感染において,または創傷治癒の過程で生じる偽樹枝状病変があげられる.b.実質型上皮型がウイルス増殖による病態であるのに対して,実質型の病態は,角膜実質細胞への感染に加えて,実質細胞に発現したウイルス抗原に対する宿主の免疫反応による修飾が病態の本態であるとされている.再発性病変で,三叉神経節に潜伏したウイルスが再活性化して実質内で病変を生じる.上皮型ヘルペスの既往がある場合があり,上皮型の再発をくり返すと実質に移行しうる.実質型と上皮型を同時に併発する場合もある.角膜実質内に炎症の首座を置く病態で,円板状角膜炎と壊死性角膜炎の二つの病型がある.実質型の初期には円板状角膜炎を呈し,角膜傍中央部における円形角膜実質浮腫を呈し,前房内炎症細胞,角膜後面沈着物,Descemet膜皺襞,結膜充血,毛様充血を伴う(図4).免疫輪を示す場合もある(図5).円板状角膜炎の鎮静・再発をくり返すと,角膜実質内での炎症反応の回数および期間が増加して角膜内血管侵入および角膜実質瘢痕や脂肪沈着が生じ,壊死性角膜炎を呈する(図6).また,実質型病変から二次的に栄養障害性角膜潰瘍に陥ることがある.確定診断はウイルス分離であるが,上皮病変を伴わない場合,検出はむずかしい.同様に,病態の本態がウイルス増殖ではないので,前房水に対するPCR法を用い上皮型角膜ヘルペスの治療は,上皮細胞におけるHSV増殖を抑制するために,抗ウイルス薬としてアシクロビルまたはバラシクロビル内服を使用する.アシクロビルは単純ヘルペスウイルスまたは帯状疱疹ウイルスがもつチミジンキナーゼの存在下で活性型となりウイルス合成を特異的に阻害する.上皮型病変には,アシクロビル眼軟膏1日5回点入し,症状に合わせて数週で漸減する.細菌混合感染の予防に抗菌薬点眼,虹彩炎合併例にアトロピン点眼を併用する.アシクロビル眼軟膏による広範囲の点状表層角膜症が起こりうるので(図3),高度の場合はバラクシロビル内服に切り替えるなどの調整図1樹枝状角膜炎図2地図状角膜炎図3アシクロビル眼軟膏による点状表層角膜症(25)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011333など症状に応じて調整する.c.内皮型4)内皮型は,角膜内皮細胞層に,炎症の首座が存在する.上皮型や実質型ヘルペスの既往が存在することが多い.角膜内皮細胞の機能不全による角膜上皮浮腫および実質浮腫,および炎症を伴い角膜後面沈着物,眼圧上昇などを呈する(図7).実質型と異なり,浸潤などによる実質混濁は認めない.炎症が鎮静化した後に角膜内皮細胞密度の減少をきたす.角膜浮腫は限局性に周辺部から生じる型と中心近傍に生じる型がある.診断は前房水からのウイルス培養だが,実際には困難である.前房水からPCR法を用いてウイルスDNAをても検出率は低い.ヘルペス既往の有無や角膜知覚低下,特徴的臨床所見から判断する.鑑別診断は水痘帯状疱疹ウイルスによる角膜実質炎やアカントアメーバ角膜炎による実質混濁があげられる.治療はウイルス感染に対してアシクロビル眼軟膏1日3回点入,宿主免疫反応の抑制にベタメタゾン点眼1日3回,前房炎症に対してアトロピン点眼(ミドリンPR点眼),眼圧上昇に対して点眼もしくは内服の降眼圧治療薬,混合感染予防に抗菌薬点眼1日3回を行う.角膜浮腫や炎症の程度に応じて,治療は漸減する.重症化症例に対しては,上記に加えて,バラシクロビル内服やステロイド薬内服を追加,ベタメタゾン点眼の回数を増やす図7角膜内皮炎図6壊死性角膜炎図4円板状角膜炎図5HSV角膜炎における免疫輪334あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(26)る.ウイルス分離培養は非常に困難で,PCR法を用いる.偽樹枝状病変では上皮擦過物から,実質炎や内皮炎では前房水からウイルスのDNAを検出する.眼病変に対してはアシクロビル眼軟膏を投与することは角膜ヘルペスと同様だが,ぶどう膜炎の頻度が高く,ステロイドの局所投与を併用する必要のある症例が多い.角膜実質炎に対しても,アシクロビル眼軟膏に加えてステロイド点眼を使用する.0.1%フルオロメトロン点眼や0.1%ベタメタゾン点眼などで,個々の症例で状態に応じて投与量を調節する必要がある.感染症と免疫反応による二次的な障害を見きわめる必要がある.3.サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)CMVは免疫抑制患者における網膜症の原因になることが有名であるが,免疫異常のない健常者において,角膜内皮炎の原因になりうることが近年報告されて6),注目を集めている.発症様式や潜伏・再活性化の機構は不明である.実験的には,ACAID(anteriorchamberassociatedimmunedeviation)との関与が発症に関連することが示唆されている.原因不明の角膜炎のうち,上皮型,実質型,内皮型と病型別に分類して,上皮型または角膜上皮,実質型と内皮型からは前房水を採取し,リアルタイムPCR法を用いて,CMVと角膜炎病型との関連を検索した結果,上皮型と実質型からはCMVは検出されず,原因不明の角膜内皮炎症例のうちの約25%にCMVが同定された7).上記HSVやVZVによる角膜内皮炎がよく知られているが,それらより高い割合でCMVが原因となりうることが判明し,ウイルス性内皮炎の鑑別すべき第一候補であることが示された.角膜浮腫は角膜周辺部から限局的に始まることが多く,進行すると角膜全体に浮腫を生じる.角膜後面沈着物は円形または線状に配列することが特徴的であるとされている(コインリージョン)が,散在している例もある.前部ぶどう膜炎を伴う症例が多く,眼圧上昇にも注意が必要となる.ウイルス量が少ないため培養は困難であり,現在までウイルスを直接分離培養して診断した報告はない.角膜内皮炎を疑った場合は,まず前房水を採取してPCR法によりCMVのDNAが検出されるかどうか確認する.同定すると診断的意義が大きい.鑑別は後述する水痘帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルス,ムンプスウイルスによる角膜内皮炎であるが,臨床所見上鑑別は不可能である.治療は実質型に準ずるが,早期のコントロールにより内皮細胞の脱落を防ぐために,ステロイド内服やバラシクロビル内服を積極的に用いる.2.水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)VZVは,初感染で水痘を起こした後,宿主の神経節に潜伏する.これが何らかの誘因で再活性化し帯状疱疹を発症する.眼部帯状ヘルペスの皮膚症状としては三叉神経第1枝領域に一致した特徴的な水疱を生じる.皮疹が鼻翼部分に出現した場合,鼻毛様体神経枝が侵されたことを意味し,眼病変を高率に合併する(Hutchinson’ssign).逆に,皮疹のない眼病変(zostersineherpete5))も存在する.急性期の眼部帯状ヘルペス患者の2/3に角膜所見を生じる.発症から1週間以内では上皮病変を,2週間以降では実質病変を認めることが多い.頻度の高い順に,点状表層角膜症,偽樹枝状病変,角膜実質炎,角膜ぶどう膜炎,角膜内皮炎などを認める.特に上皮病変は,角膜の周辺部に,ヘルペスと異なり偽樹枝状とよばれる浅く,terminalbulbをもたない小さな上皮びらんが認められる.角膜ぶどう膜炎や角膜内皮炎は,皮疹出現から約1週間程度の後,Descemet膜皺襞と実質および上皮浮腫から発症し,角膜後面沈着物や前房内炎症細胞,眼圧上昇を伴っていることもある.円板状角膜炎は,急性期を過ぎて,数週間から数カ月が経過した後に生じる.内皮は保たれており,浸潤もあまりなく浮腫が主体である.これに対して,発症から1年以上経過した後に角膜浮腫を生じる場合,内皮細胞が代償不全に陥っている.これは慢性的なVZV感染の持続による内皮細胞の破壊や免疫反応を原因として生じるとされ,軽快する場合もあるが内皮細胞数が著しく減少すると治癒困難となる.HSVと同様に,内皮炎の病像も呈する.特徴的な皮疹と所見より,臨床的に眼部帯状ヘルペスの診断をつけることは比較的容易であるが,VZVはHSVと比較して,病変部位でのウイルス量が微量であ(27)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011335近年,ヒトヘルペスウイルス7型(humanherpesvirustype7:HHV7)による角膜内皮炎が報告された8).HHV7は全身的には,HHV6とともに全身性紅斑の発症に関与することが知られている.角膜後面沈着物を伴う前房内炎症と眼圧上昇,さらに周辺部より広がる限局性角膜浮腫を示す特発性角膜内皮炎の病型を示す.HHV7がガンシクロビル製剤に感受性があるので,局所ガンシクロビル点眼治療を開始すると,臨床症状は軽快した.さらに,ヒトヘルペスウイルス8型(humanherpesvirustype8:HHV8)の関与が疑われる角膜内皮炎症例も報告された9).これらのHHV7やHHV8という新しいHHV属が治療抵抗性の角膜内皮炎にどの程度含まれるのか,今後の検索が待たれる.IIHHV属以外のウイルス性角膜炎ムンプスウイルスおよび麻疹ウイルスは,飛沫感染により上気道粘膜より感染し,リンパ節で増殖しウイルス血症を起こして全身感染症を起こし,その一部として角膜症状を呈することがある.ムンプスウイルスの罹患後の症状は,発症後数日後に片眼性の高度な角膜実質浮腫を伴う角膜内皮炎を呈する.毛様充血・虹彩炎も強く,視力低下も顕著である場合が多い.ウイルス罹患後の回復に伴う健常角膜内皮細胞の代償機構により,角膜混濁は数週で消失するが,角膜内皮細胞数は著明な減少を示す.麻疹ウイルス感染に伴う角膜症状は,結膜炎に付随する上皮型角膜炎と角膜実質浮腫が報告されている.角膜浮腫は,数週で消失し,軽快後角膜内皮細胞の減少を認めない.発熱,発疹,リンパ腺腫脹(耳下腺腫脹)などの特徴的全身症状が顕著な場合や,ウイルスの血清抗体価測定にて特異抗体の上昇が認められて全身診断がついている場合は本症の診断は容易だが,全身症状が軽度である場合は,診断がむずかしいので,鑑別診断に本症を念頭においておく必要がある.アデノウイルスによる角膜炎症状としては,急性濾胞性結膜炎の後に多発性角膜上皮下浸潤が出現し,角膜上皮下点状混濁が遷延する場合がある.Bowman膜レベルでのウイルス抗原の沈着による急性角結膜炎発症後,やや時間が経過していても低濃度ステロイド点眼に反応して,上皮下瘢痕は消退することがある.HSV,VZVも調べる必要がある.特にリアルタイムPCR法を用いた場合,ウイルスDNAの定量も可能なため,治療効果判定も可能である.診断は前房水からのPCR法によるCMV-DNAの同定である.角膜内皮炎症例において,くり返す角膜ぶどう膜炎の治療既往があり,ステロイド治療や上記のHSVなどを疑ったアシクロビル治療に抵抗性を示す場合,本疾患を考えなければならない.Posner-Schlossman症候群をはじめとする角膜病変のない虹彩毛様体炎疾患においてもCMVが同定されており,これらは一連の同一疾患群と目されている.PCR法でCMV-DNAが検出されれば,CMVに対する抗ウイルス薬である,ガンシクロビル(GCV)の投与を開始する.全身投与量はCMV網膜炎に準じた5mg/kg×2回/日×14日間がスタンダードで,骨髄抑制,腎不全,痙攣などの重篤な副作用がみられるため,採血をしながら投与期間や投与量を調節する.内服薬でGCVとほぼ同等の血中濃度が得られるバルガンシクロビルが使用できる.局所投与薬としては,海外では0.15%のGCVジェルが販売されているが,日本では未発売で,自施設にてGCV局所投与を調製しなければならない.ステロイドの投与量については明確な基準は存在しない.病態として活動性の感染症と免疫反応の2通りの可能性がある.消炎の目的でステロイド点眼を併用する必要のある症例も多い.たとえば,0.5%ガンシクロビル点眼6回/日,低濃度ステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点眼)4回/日を用い,症状に応じて調整する.眼圧コントロールにも注意を払わなければならない.CMV病勢の確認には,前房水に対するリアルタイムPCR法をこまめにくり返し,GCV点滴投与期間や点眼回数,ステロイド点眼の種類を検討しなければならない.4.HSV,VZV,CMV以外のHHVによる角膜炎Epstein-Barr(EB)ウイルスによる角膜炎としては角膜実質炎と貨幣状角膜炎の2種類が報告されている.角膜実質炎は,離散して境界明瞭,多形性の顆粒状の角膜実質混濁を呈する.貨幣状角膜炎は,おもに周辺部角膜にみられる,柔らかくまだら,または多形性の角膜浸潤を呈する.336あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(28)cella-zosterDNAiniridocyclitisusingpolymerasechainreaction:Acaseofzostersineherpete.ArchOphthalmol113:1358-1359,19956)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovirusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol141:564-565,20067)KandoriM,InoueT,TakamatsuFetal:Incidenceandfeaturesofkeratitisofunknownetiologywithquantitativepolymerasechainreactionpositiveforcytomegalovirus.Ophthalmology117:216-222,20108)InoueT,KandoriM,TakamatsuFetal:Cornealendotheliitiswithquantitativepolymerasechainreactionpositiveforhumanherpesvirus7.ArchOphthalmol128:502-503,20109)InoueT,TakamatsuF,HoriYetal:Identificationofhumanherpesvirus8inacaseofcornealendotheliitisresultinginprimarygraftfailureafterpenetratingkeratoplastyrefractorytoallograftrejectiontherapy.ArchOphthalmol,2011,inpressそのほかに非常にまれであるが,ニューキャッスル病ウイルスによる点状表層角膜症および角膜浸潤,天然痘ウイルスによる角膜実質炎,ワクシニアウイルスによる点状表層角膜症および角膜実質炎,伝染性軟属腫ウイルスによる点状表層角膜症,エンテロウイルスやコクサッキーウイルスによる点状表層角膜症などがある.文献1)大橋裕一ほか(眼ヘルペス研究会):角膜ヘルペス,新しい病型分類の提案.眼科37:759-764,19952)感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20073)下村嘉一ほか(眼ヘルペス研究会):上皮型角膜ヘルペスの新しい診断基準.眼科44:739-742,20024)大橋裕一,真野富也,本倉真代ほか:角膜内皮炎の臨床病型分類の試み.臨眼42:676-680,19885)YamamotoS,TadaR,ShimomuraYetal:Detectingvari

涙嚢炎と涙小管炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY2.涙.炎の診断慢性涙.炎患者は流涙や眼脂を主訴として受診することが多い.涙.部の腫瘤形成を認めることもあり,圧迫により膿が排出されることもある(図1a).鼻涙管閉塞が原因であるため,結膜.の残留涙液量を反映する涙三角(tearmeniscus)が上昇しているのも特徴的な所見である.急性涙.炎では涙.部の発赤,腫脹と激しい疼痛で開瞼が困難なくらい浮腫が強いこともある(図2a).乳幼児の涙.炎では生後数カ月より持続する流涙や眼脂を認め,眼脂に比べて結膜炎が軽度である場合,涙.炎を疑う必要がある.検査として涙道通水検査を行い,通過障害や膿の逆流があれば涙.炎と診断できる.ただし,急性涙.炎では眼瞼浮腫により涙小管が閉塞しているために涙道通水試験施行は困難なことが多い.慢性涙.炎では涙.造影X線検査で拡張した涙.を証明できる(図1b).慢性涙.炎の鑑別疾患として涙.腫瘍があげられる.慢性涙.炎でみられる腫瘤は弾性軟の硬さであるが,涙.悪性リンパ腫では弾性硬でMRI(磁気共鳴画像)撮影では実質性の腫瘍として鑑別可能である(図3).3.涙.炎の治療戦略a.涙.炎の起炎菌涙.炎の治療戦略を考えた場合,治療の原則は原因微生物の除去に尽きる.そのため起炎菌の同定および薬剤感受性を明らかにすることは重要である.涙.炎でも乳I涙.炎涙.炎とは鼻涙管閉鎖により涙液が涙.内にたまって病原微生物の増殖が生じると,涙.壁に炎症が生じる状態である.さらに慢性の化膿性炎症が続くと涙.内に膿が貯留して,ときに結膜.に逆流する状態が慢性涙.炎である.急性涙.炎とは慢性涙.炎の経過中の合併症で炎症が増悪して蜂巣炎を生じたものである.新生児涙.炎は先天性鼻涙管閉鎖に続発して発症する.一般に鼻涙管の下端は胎生期には閉鎖していることが多いが,生後も開口しない場合には涙液の通過障害が生じて涙.炎が発症する.1.涙.炎の発症機序涙.炎の治療戦略を述べる前にその発症機序について考えてみたい.鼻涙管閉塞に感染が合併すると鼻涙管全体に炎症を生じるが,炎症が遷延化すると線維化が始まり,その後鼻涙管全体の線維性癒着を生じて慢性涙.炎が発症するといわれている.涙.の組織学的特徴として,正常では涙.や鼻涙管粘膜上皮には杯細胞が多数存在しており,導涙機能を円滑にするためにムチンを分泌している.一方,慢性涙.炎では杯細胞の消失と涙.上皮の扁平上皮化生がみられ,細菌の吸着に関与して抗菌作用をもつムチンが減少するために細菌感染を生じやすいと考えられている1).(15)323*ToshioKodama:松山赤十字病院眼科〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-0826松山市文京町1松山赤十字病院眼科特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):323.329,2011涙.炎と涙小管炎DacryocystitisandCanaliculitis児玉俊夫*324あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(16)幼児と成人では起炎菌に若干の差があり,それぞれ表1と表2に示す.涙.炎の起炎菌として,乳幼児では表皮ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌があげられ,成人では表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌が大多数を占めていた1).そのうち起炎菌として最も頻度の多かった表皮ブドウ球菌の薬剤感受性を調べると,レボフロキサシンに対して中間感受性も含めると大多数の菌株が耐性を示していた1)(図4).本来,フルオロキノロン系抗菌薬は表皮ブドウ球菌には良好な薬剤感受性を示すが,長期間漫然と点眼治療を続けることで耐性菌を増殖させることが明らかとなった.さらに慢性涙.炎の起炎菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphyolococcusaureus:MRSA)の検出例が増加していることが報告されている2).b.慢性涙.炎の治療涙.炎の起炎菌が明らかとなって抗菌スペクトルの良好な抗菌薬の局所および全身投与を続けても,閉鎖空間である涙.においてすべての病原菌の駆逐は困難である.慢性涙.炎では抗菌薬の点眼や内服を続けても一時的な改善がみられるだけで根治はむずかしいため,涙道再建手術が必要である.涙.造影により閉鎖部位を確認して,涙管チューブを用いた内視鏡的涙道形成か涙.鼻腔吻合術を選択するが,初回手術例ではいずれも成功率は高い.ab図2急性涙.炎a:急性涙.炎(79歳,女性).左慢性涙.炎の手術を希望せず,経過観察中に急性涙.炎を発症した.左涙.部から下眼瞼にかけて発赤,腫脹がみられ強い疼痛を伴っていた.b:急性涙.炎の重症例(56歳,男性).急性リンパ性白血病に対して骨髄移植約8カ月後に涙.炎を発症した.涙.切開により多剤耐性緑膿菌が検出された.多臓器不全により涙.炎を発症して1カ月後に永眠された.ab図1慢性涙.炎と涙.造影a:慢性涙.炎(39歳,女性).右涙.部に腫瘤(矢印)を認め,圧迫すると下涙点より膿の排出を認めた.b:涙.造影X線撮影.拡張した涙.(▲)を示す.(17)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011325ab★図3涙.部悪性腫瘍a:慢性涙.炎の鑑別診断─涙.悪性リンパ腫(82歳,男性).4年前に咽頭の悪性リンパ腫を摘出し,化学療法を行ったが,右涙.部に腫瘤を形成した(矢印).b:MRI画像.涙.部腫瘍(☆)を示す.腫瘍生検を行ったところ,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断され,化学療法と放射線治療を行った.表1乳幼児涙.炎の検出菌の比較後藤(2008)中村(1997)Usha(2006)Kuchar(2000)児玉(2010)レンサ球菌属(35)黄色ブドウ球菌(14)肺炎球菌(33)肺炎球菌(36)表皮ブドウ球菌(18)CNS(17)インフルエンザ菌(14)インフルエンザ菌(31)インフルエンザ菌(19)ミティス菌(13)黄色ブドウ球菌(12)肺炎球菌(11)緑色レンサ球菌(15)緑膿菌(11)肺炎球菌(11)インフルエンザ菌(10)CNS(8)緑膿菌(7)緑色レンサ球菌(11)インフルエンザ菌(11)モラクセラ属(9)モラクセラ属(8)表皮ブドウ球菌(5)モラクセラ属(8)緑膿菌(5)()は検出全菌種に対する%.CNS:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.(文献1より改変)表2成人涙.炎の検出菌の比較鈴木(2000)浅野(1999)Bharathis(2008)Mills(2007)Chaudhry(2005)DeAngel(2001)児玉(2010)黄色ブドウ球菌(21)CNS(29)CNS(44)黄色ブドウ球菌(25)表皮ブドウ球菌(15)表皮ブドウ球菌(42)表皮ブドウ球菌(28)表皮ブドウ球菌(11)肺炎球菌(13)黄色ブドウ球菌(10)CNS(18)黄色ブドウ球菌(12)黄色ブドウ球菌(19)黄色ブドウ球菌(24)肺炎球菌(7)レンサ球菌属(13)肺炎球菌(9)緑膿菌(12)インフルエンザ菌(9)緑膿菌(6)インフルエンザ菌(5)レンサ球菌属(6)黄色ブドウ球菌(10)緑膿菌(7)アクネ菌(7)緑色レンサ球菌(6)肺炎球菌(5)アクネ菌(3)緑膿菌(5)インフルエンザ菌(4)大腸菌(4)緑色レンサ球菌(5)肺炎球菌(5)インフルエンザ菌(3)口腔レンサ球菌属(4)()は検出全菌種に対する%.CNS:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.(文献1より改変)326あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(18)行して鼻涙管の開通が認められなければ鼻涙管ブジーを行う.鼻涙管ブジーの時期であるが,Youngらの総説によると鼻涙管閉鎖部は生後1年以内に自然に開放することが多いので生後1年までは涙.マッサージを行い,改善がなければ全身麻酔下で鼻涙管ブジーを行うとしている3).しかし米国では生後1年以内にブジーを行っている症例数と生後1年以後にブジーを行った症例数はほぼ同数で治癒率は変わらなかったと報告されている4).ただしYoungらは経過観察中の抗菌点眼薬の使用は最小限にし,耐性菌の発生を抑えるべきとしている.わが国では抗菌点眼薬の使用頻度が多いため,鼻涙管ブジーの時期は耐性菌感染による難治性の涙.炎に進展しないように症状に応じてブジーを施行すべきと考える.II涙小管炎涙小管炎は比較的まれな疾患で,亀井らによると抗菌点眼薬では改善しない片眼性の難治性結膜炎,涙点の拡大や涙小管部の眼瞼腫脹あるいは硬結,および大量の粘液膿性眼脂などの臨床症状があげられる5).嫌気性菌である放線菌が起炎菌であることが多いが,病原微生物が同定できないこともある.日常診療においては慢性結膜炎や霰粒腫として治療されていることも少なくない.1.涙小管炎の発症機序放線菌は日和見病原菌として知られており,腸管などに常在しているが,口腔常在菌としても知られている.涙小管炎の感染経路として口腔から嫌気的な環境である涙道に逆行性に侵入あるいは手指を介して唾液の眼表面移行により涙小管に達すると考えられている.そのうえで抗菌薬の連用のために菌交代現象による放線菌などの感染で涙小管炎が生じたと考えられている6).2.涙小管炎の診断多量の膿性眼脂を伴う片眼性の難治性結膜炎では涙小管炎を考える必要がある.臨床所見として噴火口状に突出した涙点を中心に眼瞼の発赤,腫脹を認め,圧迫すると膿の排出を認める(図5).涙管通水試験を行っても通過障害を認めないことが多い.膿性分泌物の塗抹標本では放線菌注2)が認められるが,全例で検出できるとは限c.急性涙.炎の治療急性涙.炎の治療として局所および全身の抗菌薬の投与が必要だが,膿瘍形成がみられれば,涙.切開が有効である.しかし,免疫抑制薬投与患者などの易感染性患者に対してMRSAや多剤耐性緑膿菌注1)が感染すると抗菌薬投与では感染をコントロールすることは困難で,治療に反応しない蜂巣炎を合併し(図2b),それが感染巣となって敗血症を合併することもあるので細心の注意を払うべきである.注1)多剤耐性緑膿菌:緑膿菌のなかでカルバペネム系,アミノ配糖体系,フルオロキノロン系の3系統の薬剤に対して耐性を示す緑膿菌を多剤耐性緑膿菌とよんでいる.院内耐性菌として知られており,多くはコリスチンとポリミキシンBを除くすべての抗菌薬に対して同時に耐性を獲得している.そのため眼局所にはコリスチンを有するエコリシンTM点眼薬やコリマイTM点眼薬が第一選択薬となる.多剤耐性緑膿菌による涙.炎は全身感染症のフォーカスとなりうるので注意が必要である.d.乳幼児の涙.炎の治療乳幼児の涙.炎の成因は先天的な鼻涙管の閉塞であるから,治療としてはまず涙.部のマッサージを試みることから始める.当科ではマッサージを開始して数週間後に涙道通水試験を行って鼻涙管閉塞の有無と膿の貯留を確認して,もし膿が逆流すれば細菌培養検査を行って起炎菌の確認と薬剤感受性をみる.涙.への通水を数回施100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%アンピシリンレボフロキサシン乳幼児成人乳幼児成人乳幼児成人乳幼児成人乳幼児成人セフォチアムゲンタマイシンエリスロマイシン:耐性:中間感受性:感受性あり図4乳幼児と成人における表皮ブドウ球菌の薬剤感受性(文献1より改変)(19)あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113273.涙小管炎の鑑別診断涙小管炎は難治性の結膜炎として見過ごされることもあり,鑑別疾患に注意を要するまれな疾患である.涙小管炎は炎症性肉芽腫疾患でしばしば涙点に肉芽組織がみられることもあり,鑑別疾患としてまず涙小管上皮由来の乳頭腫があげられる(図7).最も鑑別が困難なのは組織学的に同一の炎症性肉芽腫である霰粒腫である(図8).高齢者の場合に眼瞼の悪性腫瘍との鑑別が重要で,眼瞼が肥厚し結節を形成している場合には注意を要する(図9).らない.膿の嫌気性培養は必須であるが,放線菌の検出率は低い.放線菌涙小管炎と診断するには摘出した菌塊のパラフィン切片のグラム染色を行うと菌糸の形状が保たれ,放線菌の同定に有用である(図6).注2)放線菌:放線菌はグラム陽性の嫌気性菌で,細長い分枝状の菌糸を出して成長し,細菌と真菌の中間の性状を有している.顔面,頸部や胸腹部の皮膚に多発する瘻孔を伴う膿瘍を形成する.嫌気性培養では他の嫌気性菌が増殖することが多く,分離同定が困難なことも多い.形態的に真菌との鑑別点をあげれば,真菌では菌糸径が2.20μmと太いのに対して放線菌では0.2.1.0μmと細いことである.ab図5涙小管炎a:65歳,女性.左上涙点を中心に発赤,腫脹を認めた.矢印は噴火口状の上涙点を示す.b:71歳,男性.右上眼瞼を圧迫すると白色膿(▲)が圧出された.ab図6涙小管炎の菌塊a:涙小管炎における菌塊摘出手術(61歳,女性).まず涙管チューブを留置してから皮膚側より涙小管の憩室部を切開して菌塊(★)を摘出した.b:摘出した菌塊(グラム染色×1,000).グラム陽性で菌糸状の桿菌が多数認められ,放線菌症と診断した.328あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(20)士をていねいに縫合すると術後の涙小管閉鎖が避けられる.最後に白内障をはじめとする内眼手術では術者にとってストレスとなるのは術後眼内炎の発生であろう.日本眼科手術学会眼内炎スタディグループは術後眼内炎の全国症例調査を行い,表皮ブドウ球菌をはじめとするコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)が起炎菌として最も頻度が高いと報告している7).CNSは結膜.内の常在菌としてよく知られているが,涙.炎の起炎菌として最も頻度が高いことを考えると涙.炎の治療がいかに重要であるかは言うまでもない.4.涙小管炎の治療戦略菌塊を伴った涙小管炎の治療は外科的に菌塊を摘出することが基本である.その方法として,涙点から鋭匙を挿入して盲目的に菌塊を掻爬するか,涙小管を切開して菌塊を摘出する観血的手術がある.涙点から菌塊を掻爬する方法は外来でも施行可能であるが,菌塊の取り残しや,涙小管内腔を障害しやすいことが問題点としてあげられる.一方,観血的な菌塊摘出術はあらかじめ涙管チューブを挿入して涙小管内腔を確保してから菌塊の存在する憩室部に対して皮膚切開を行い,確実に菌塊を摘出するものである(図6a).菌塊摘出後は涙小管上皮同ab図7涙小管炎の鑑別疾患1―涙小管乳頭腫(69歳,男性)a:左下涙点(▲)より突出する腫瘤を認めた(矢印).b:涙小管切開を行って摘出した腫瘍(HE染色×40).血管の豊富な結合組織を重層化した扁平上皮が覆っていた.ab図8涙小管炎の鑑別疾患2―霰粒腫(65歳,男性)a:左下涙点部を中心として発赤,腫脹が認められた(矢印).b:皮膚側より切開すると被膜で囲まれた肉芽腫組織が認められ,皮膚の表皮細胞層(★)を含んでいた(HE染色×100).あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011329IIIまとめ<涙.炎のまとめ>①自覚症状として流涙,眼脂が続く場合には慢性涙.炎を,涙.部の腫脹,発赤,疼痛を伴う場合には急性涙.炎を考える.②慢性涙.炎では涙道通水検査で膿の逆流をみる.涙道造影X線検査では拡張した涙.を証明できる.③涙.炎の起炎菌として,乳幼児では表皮ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌があげられ,成人では表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌が大多数を占めている.④涙.炎の主要感染菌である表皮ブドウ球菌はフルオロキノロン系の抗菌薬に耐性を示す.⑤涙.炎の治療として,乳幼児では経過観察あるいは涙.通水で改善しなかったら鼻涙管ブジーを行い,成人では涙管チューブ挿入術あるいは涙.鼻腔吻合術を行う.<涙小管炎のまとめ>①多量の膿性眼脂を伴う片眼性の難治性慢性結膜炎では涙小管炎を考える必要がある.②噴火口状と称される涙点の拡大,涙小管部の腫脹や硬結がみられる.③起炎菌として嫌気性菌である放線菌が大部分を占め,分泌物の塗抹標本でグラム陽性の糸状の菌体を特徴とする.④鑑別診断として慢性結膜炎,霰粒腫があげられるが,高齢者の場合には眼瞼の悪性腫瘍に注意すべきである.⑤涙小管炎の治療として外科的に菌塊の摘出が必要である.文献1)児玉俊夫,宇野敏彦,山西茂喜ほか:乳幼児および成人に発症した涙.炎の検出菌の比較.臨眼64:1269-1275,20102)KuboM,SakurabaT,AraiYetal:Dacryocystorhinostomyfordacryocystitiscausedbymethicillin-resistantStaphylococcusaureus:reportoffourcases.JpnJOphthalmol46:177-182,20023)YoungJDH,MacEwenCJ:Managingcongenitallacrimalobstructioningeneralpractice.BMJ315:293-296,19974)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Primarytreatmentofnasolacrimalductobstructionwithprobinginchildrenyoungerthan4years.Ophthalmology115:577-584,20085)亀山和子,中川尚,内田幸男:放線菌による涙小管炎の臨床所見.あたらしい眼科7:1783-1786,19906)石川和郎,児玉俊夫,島村一郎ほか:菌塊を形成した涙小管感染症の細菌学的検討.臨眼62:467-472,20087)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,2006(21)ab図9涙小管炎の鑑別疾患3―基底細胞癌(88歳,女性)a:下眼瞼鼻側に肥厚性病変を認め,下涙点は消失していた(矢印).下眼瞼中央部に色素沈着を伴った隆起病変が認められた(▲).下眼瞼中央部の色素沈着部も腫瘍細胞の浸潤が認められたために下眼瞼の大部分を拡大切除した.b:基底細胞に類似した好塩基性の腫瘍細胞が深部に向かって増殖して核の柵状配列がみられる(HE染色×100).

急性結膜炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに急性結膜炎は眼科医が日常臨床で最も頻繁に遭遇する疾患の一つであり,その治療戦略についてある程度の知識を備えておく必要がある.ここでは代表的な感染性急性結膜炎を取り上げて,薬剤選択や使用方法について解説する.I急性結膜炎の種類と診断急性結膜炎は,細菌,ウイルス,クラミジアなどによる感染性結膜炎と,アレルギーに代表される非感染性結膜炎とに大別される(表1).結膜炎をみたら可能な限り原因を突き止め,その原因に基づいた治療を行うことが理想である.1.臨床所見の取り方と臨床病型結膜炎では,充血と眼脂は必発の所見である.眼脂の肉眼的性状1)は結膜炎の原因を考えるうえで重要な手掛かりになる(表2).そのほかに瞼結膜,球結膜,眼瞼,角膜などの所見を加えて臨床診断を行う.カタル性:拡張した血管と結膜の浮腫があり,瞼結膜に濾胞や乳頭がみられないものはカタル性結膜炎とよばれる.カタル性結膜炎に粘液膿性眼脂がみられれば,細菌感染をまず考える(図1).眼脂が漿液性であれば,物理・化学的原因による結膜炎が考えられる.濾胞性:瞼結膜に濾胞形成があれば,濾胞性結膜炎である.原因には,アデノウイルス,エンテロウイルス,(9)317*HisashiNakagawa:徳島診療所〔別刷請求先〕中川尚:〒189-0024東京都東村山市富士見町1-2-14徳島診療所特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):317.321,2011急性結膜炎AcuteConjunctivitis中川尚*表1急性結膜炎の種類感染性細菌性(インフルエンザ菌,肺炎球菌,など)ウイルス性(アデノウイルス,エンテロウイルス,HSV,など)クラミジア性非感染性アレルギー性(季節性,通年性,春季カタル,など)物理・化学的(光化学スモッグ,紫外線,など)図1細菌性結膜炎カタル性結膜炎で粘液膿性眼脂が認められる.表2眼脂の肉眼的性状による鑑別診断眼脂の性状原因漿液性/漿液線維素性アデノウイルス,エンテロウイルス粘液性アレルギー粘液膿性細菌,クラミジア,HSV膿性淋菌318あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(10)ウイルス性結膜炎(アデノウイルス,HSV),新生児のクラミジア結膜炎などでしばしばみられる.2.治療方針決定に必要な検査,病因診断典型例では臨床所見だけで診断できる場合もある.しかし,細菌性とアレルギー性,ウイルス性とクラミジアなどは結膜所見からの鑑別が困難な場合も多く,治療薬の選択にはやはりなんらかの病因検索を行うべきと考える.確定的な病因診断には分離培養,抗原検出,遺伝子検出などが必要になるが,結果が得られるのは早くて数日後である.結膜炎の病因検索,治療方針の決定には眼脂の塗抹検鏡が迅速で有用である2).表3に眼脂の塗抹所見による鑑別診断のポイントをまとめた.白血球の種類と微生物(細菌,クラミジアなど)の有無によって,大部分の結膜炎の原因を確定,あるいは推定できる(図3).単純ヘルペスウイルス(HSV)などのウイルスと,クラミジアがある.いずれも耳前リンパ節腫脹を伴うことが多く,臨床的鑑別に迷うことが少なくない.HSVでは眼瞼ヘルペスを併発していることが多いので,眼瞼の皮疹を見落とさないように注意する.角膜,球結膜に潰瘍を伴うこともある.クラミジア感染では濾胞が大型で充実性であり(図2),上輪部浸潤やパンヌスを伴うことが特徴である.眼脂はウイルス性と異なり粘液膿性である.乳頭性:瞼結膜に乳頭増殖があれば乳頭性結膜炎とよぶ.乳頭は,原因にかかわらず結膜の炎症が遷延した際に生じる変化であり,ある原因に特異的というわけではない.アレルギー性結膜炎の一種である春季カタルでは特徴的な石垣状巨大乳頭がみられる.化膿性:黄色の膿性眼脂がみられるものは化膿性結膜炎とよばれる.淋菌性結膜炎がその代表である.偽膜性:瞼結膜表面に偽膜形成を認めるものをいう.図2クラミジア結膜炎充実性,大型の濾胞がみられる.図3肺炎球菌の塗抹所見(グラム染色)多数の好中球があり,グラム陽性双球菌が貪食されている.周囲に莢膜による透明帯があり,肺炎球菌と推定できる.表3眼脂の塗抹所見による鑑別診断おもな白血球付随所見考えるべき原因好中球細菌(球菌・桿菌)封入体,形質細胞,封入体,リンパ球細菌クラミジアリンパ球好中球の混在(1.2割)好中球の混在(4.5割),多核巨細胞アデノウイルス,エンテロウイルス単純ヘルペスウイルス好酸球好塩基球アレルギー(11)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011319定の割合で検出されているし,PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)による結膜炎も報告がみられる6).さらに,コリネバクテリウムは約半数がフルオロキノロン耐性である4)(表4).b.薬剤の選択(表5)細菌性結膜炎の検出菌に関する薬剤感受性の報告をみると,全体としてフルオロキノロンとセフェム系点眼薬の感受性が優れている7).したがって,淋菌以外の細菌性結膜炎には第三世代や第四世代のフルオロキノロン点眼やセフメノキシム点眼が第一選択薬である.MRSAの場合はまずクロラムフェニコール点眼,効果がなければバンコマイシン眼軟膏の投与を考える.大.ら8)はコリマイCRの点眼1日4回とクロルヘキシジンホウ酸水による洗眼の併用で90%以上の症例が治癒したと報告している.コリネバクテリウムが分離されキノロン耐性であれば,アミノ配糖体かセフェム系を選ぶ.II治療戦略の立て方1.細菌性結膜炎a.起炎菌と薬剤耐性急性カタル性結膜炎,好中球優位の白血球浸潤,細菌の存在などから細菌性結膜炎が疑われた場合,抗菌点眼薬を用いて治療する.抗菌薬の選択においては,まず結膜炎の起炎菌について知っておく必要がある.結膜炎患者からの「検出菌」に関する報告は数多いが,「起炎性」にまで言及した報告はあまりない3).細菌性結膜炎の主要起炎菌は,眼感染症学会で定める特定菌である,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌,淋菌,の4菌種である(表4).淋菌は頻度こそ少ないが結膜炎の起炎菌として重要である.さらに,常在細菌ではあるが結膜炎の起炎菌として最近注目されているのが,コリネバクテリウムである4).コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)やアクネ菌も高頻度に分離され,その一部は起炎菌として関与している可能性がある.細菌性結膜炎は年齢層によって起炎菌の菌種が大きく異なることも知っておくとよい(表4).乳幼児はインフルエンザ菌が多く,学童期の小児は肺炎球菌,成人はブドウ球菌の頻度が増える.淋菌は新生児と青壮年の成人にみられるが,最近小児の症例が報告されており5),成人と新生児に限らないことは銘記しておく必要がある.コリネバクテリウムは高齢者に多い(図4).最近では耐性菌も数多く報告されている.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)はその代表であるが,淋菌のキノロン耐性化にも注意が必要である.インフルエンザ菌ではBLPAR(bラクタマーゼ産生アンピシリン耐性)やBLNAR(bラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性)が一図4コリネバクテリウムの塗抹所見(グラム染色)グラム陽性の大型の桿菌が多数みられ,一部は好中球に貪食されている.コリネバクテリウムが分離され,これが起炎菌と考えられた症例.表4細菌性結膜炎の主要起炎菌とその特徴菌種グラム染色性好発年齢耐性菌肺炎球菌グラム(+)球菌学童期児童PRSP黄色ブドウ球菌グラム(+)球菌成人,高齢者MRSAインフルエンザ菌グラム(.)桿菌乳児,小児BLNAR,BLPAR淋菌グラム(.)球菌新生児,成人キノロン耐性多いコリネバクテリウムグラム(+)桿菌高齢者キノロン耐性約50%320あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(12)る.治癒までには1~2週間かかる.3.クラミジア結膜炎a.クラミジア感染症に対する標準的処方クラミジア感染症の治療には,マクロライド系,テトラサイクリン系,あるいはフルオロキノロン系の薬剤を用いる(表6)9).日本性感染症学会で最も推奨されている薬剤はアジスロマイシンで,特に昨年性器クラミジア感染症の適応が承認された2g単回投与製剤が今後の治療薬の主役になりそうである10).1回投与であるためコンプライアンスはほぼ100%であり,投与後早期から高濃度の薬剤が組織内の微生物(クラミジア)と接触するという「フロント・ローディング」を実現できるものとして注目されている.b.クラミジア結膜炎の治療(表7)現在クラミジア結膜炎の治療薬として適用承認がとれているものは,オフロキサシン眼軟膏だけである.その使用法は1日5回,6~8週間投与を基本とする.しかし成人の場合,点入後の霧視や煩わしさの点から考えて1日5回の眼軟膏点入は現実的に遵守不可能である.そ淋菌の場合は,薬剤選択に十分な注意が必要である.近年分離されている淋菌の80%以上がフルオロキノロン耐性であり,さらにペニシリンやセフェム系の耐性も50%近くにみられる.治療にはセフトリアキソン,スペクチノマイシン,セフォジジムのいずれかの全身投与を行う(点滴あるいは筋注1回).さらに局所治療として,セフメノキシム点眼や前述した点滴用薬剤を0.5%程度に希釈して点眼として用いる.一般の細菌性結膜炎と誤診して漫然とフルオロキノロン点眼を処方し,角膜穿孔などの重篤な合併症を起こすことは絶対に避けなければならない.2.ウイルス性結膜炎a.アデノウイルス結膜炎の治療アデノウイルスに対する有効な点眼治療薬はまだ開発されていない.対症療法として非ステロイド性消炎点眼薬の投与を行ってもよい.二次感染予防のための抗菌点眼薬が用いられることが多いが,重症結膜炎で角膜びらんを合併しているような場合以外は必要ないとの考えもある.結膜の炎症が強い場合,角膜の点状上皮下浸潤(multiplesubepithelialcornealinfiltrate:MSI)を合併した場合には,弱いステロイド点眼を用いてもよい.ただし,結膜炎がHSV性でないことが確実な場合に限る.偽膜ができたときは,ピンセットなどでなるべく出血しないように静かに.がして除去する.b.HSV結膜炎の治療HSV結膜炎はアシクロビル眼軟膏1日5回で治療する.結膜潰瘍,角膜潰瘍を合併しているときも同様であ表5細菌性結膜炎に対する抗菌薬の選択.一般的な第一選択薬・フルオロキノロン(ガチフロキサシン,トスフロキサシン,モキシフロキサシンなど)・セフェム系(セフメノキシム).耐性菌に対して・MRSA:クロラムフェニコール,バンコマイシン・コリネバクテリウム:アミノ配糖体系,セフェム系・淋菌全身投与:セフトリアキソン,スペクチノマイシン,セフォジジム(全身投与)点眼:セフェム系(セフメノキシム),全身投与薬の自家調整点眼薬表6クラミジア感染症に対する選択薬剤薬剤投与法マクロライド系アジスロマイシンクラリスロマイシンジスロマックR1,000mg1回1日ジスロマックRSR2g1回1日クラリスR200mg2回7日テトラサイクリン系ミノサイクリンドキシサイクリンミノマイシンR100mg2回7日ビブラマイシンR100mg2回7日フルオロキノロン系レボフロキサシントスフロキサシンクラビットR100mg3回7日オゼックスR150mg2回7日(性感染症診断・治療ガイドライン2008より)表7クラミジア結膜炎に対する治療レジメン軟膏(標準的処方)タリビッドR眼軟膏5回/日6~8週(漸減)点眼薬*1エコリシンR1時間ごと6~8週(漸減)オゼックスR1時間ごと6~8週(漸減)ガチフロキサシンR1時間ごと6~8週(漸減)内服薬*2ジスロマックRSR2g1回*1:保険適用外.*2:保険適用外.結膜炎に対しては日本では未評価.(13)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011321す報告もみられる12).現在わが国で行われているアジスロマイシン2g単回投与は性器感染,咽頭感染と同様に結膜炎にも有効であると考えられ(図5),今後結膜炎に対する治療薬としても評価してゆくべきと考えられる.文献1)秦野寛:眼脂.眼科プラクティス28,眼感染症の謎を解く(大橋裕一編),p30-32,文光堂,20092)中川尚:スメアを採る.眼科診療クオリファイ2,結膜炎オールラウンド(大橋裕一編),p25-30,中山書店,20103)西澤きよみ,秦野寛:わが国の細菌性結膜炎の起炎菌は?あたらしい眼科26(臨増):65-68,20094)山中千尋,江口洋:コリネバクテリウムの分子疫学について教えてください.あたらしい眼科26(臨増):226-228,20095)中川尚,中川裕子:フルオロキノロン耐性株による淋菌性結膜炎の小児例.あたらしい眼科27:235-238,20106)江口洋,桑原知巳,大木武夫:ペニシリン耐性肺炎球菌結膜炎の1例.あたらしい眼科26:376-378,20097)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同研究による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,20078)大.秀行:MRSAの治療を教えてください.あたらしい眼科26(臨増):139-141,20099)日本性感染症学会:性感染症診断・治療ガイドライン2008.日本性感染症学会雑誌19:57-61,200810)寺田道徳,大木恵美子,山岸由佳ほか:アジスロマイシン単回投与製剤の女性性感染症治療への臨床応用.JpnJAntibiot63:93-104,201011)CochereauI,GoldschmidtP,GoepoguiAetal:Efficacyandsafetyofshortdurationazithromycineyedropsversusazithromycinsingleoraldoseforthetreatmentoftrachomainchildren:arandomized,controlled,doublemaskedclinicaltrial.BrJOphthalmol91:667-672,200712)ChenYM,HuFR,HouYC:Effectoforalazithromycininthetreatmentofchlamydialconjunctivitis.Eye24:985-989,2010こで,一般にはその代替処方として点眼薬の1時間ごと点眼が行われる.マクロライド系(エコリシンRなど)か第四世代のフルオロキノロン(ガチフロキサシン,トスフロキサシンなど)がクラミジアに対する最小発育阻止濃度(MIC)が低く,有効性が高いと考えられる.投与期間はやはり6~8週間が目安である.クラミジア結膜炎患者は咽頭感染や泌尿生殖器感染を合併していることが多いため,結膜炎の治療と同時に抗菌薬の全身投与による合併症の治療が必要になる.現在までは点眼に加えて全身投与を行うことが一般に推奨されていたが,アジスロマイシンの登場により抗菌薬局所投与の必要性をもう一度考え直す時期にきていると思う.実際,現在WHO(世界保健機関)のトラコーマコントロールはアジスロマイシンの内服で行われており11),クラミジア結膜炎に対する内服治療の有効性を示図5内服治療を行ったクラミジア結膜炎症例2g単回投与1週間後には,眼脂,充血はほぼ消失し,少数の濾胞を残すのみとなった.

眼瞼炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYられない例でも圧痛がある.炎症がさらに進行すると膿点から自然に自壊排膿し,炎症所見が軽減して治癒に向かう.治療は,皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus:S.aureus)や表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis:S.epidermidis)が起炎菌であることが多いため,セフェム系あるいはニューキノロン系抗菌薬の投与が第一選択となる.発症初期で症状が軽微な場合には抗菌薬の局所投与(点眼あるいは眼軟膏)のみでも有効であるが,眼瞼の腫脹,自発痛・圧痛などの炎症所見が強い場合には,抗菌薬の内服を併用したほうがよい.膿点が認められれば,切開・排膿を行う.これはじめに眼瞼の炎症を「眼瞼炎(blepharitis)」とよぶが,その原因には感染,全身疾患(肝腎疾患,心疾患,甲状腺疾患など),アレルギー体質(アトピーを含む)などがある.今回は,感染に伴う眼瞼炎に絞って述べる.各論に入る前に,眼瞼の正常な構造を理解しておく必要がある(図1).眼瞼の構成組織には,皮膚,皮下結合組織,眼輪筋,上眼瞼挙筋,Muller筋の他,Meibom腺(瞼板腺),Zeis腺(皮脂腺),Moll腺(汗腺)などの分泌腺がある.このうちどの部位に炎症が生じているかによって病態は異なる.I麦粒腫(hordeolm)麦粒腫とは眼瞼の分泌腺に生じた急性化膿性炎症であり,睫毛の毛.に付属するZeis腺またはMoll腺に生じたものを外麦粒腫,Meibom腺に生じたものを内麦粒腫とよぶ.したがって,外麦粒腫は眼瞼の皮膚側に,内麦粒腫は瞼結膜側に認められる.一般に麦粒腫は下眼瞼に比べ上眼瞼に多く,眼瞼の中央よりむしろ一方に偏って生じることが多い.好発年齢は10~20歳代で,50歳代にはあまりみられない.特に性差はない.診断は,眼瞼の急性化膿性炎症,すなわち限局性の発赤と有痛性腫脹から容易に行える.化膿性炎症の進行した例では,外麦粒腫では皮膚側に,内麦粒腫では瞼結膜側に膿点を確認することができる.一般に,膿点が認め(3)311*TomoSuzuki:京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町1-2京都市立病院眼科特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):311.316,2011眼瞼炎Blepharitis鈴木智*図1上眼瞼のシェーマ前頭筋眼瞼皮膚眼瞼縁Moll腺(汗腺)Meibom腺(瞼板腺)Muller筋上眼瞼挙筋瞼結膜瞼板眼窩脂肪眼窩隔膜眼輪筋Zeis腺睫毛312あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(4)ある.乳幼児では,霰粒腫の摘出は全身麻酔下で行わなければむずかしいため,その適応は慎重でなければならない.III眼瞼縁炎(marginalblepharitis)眼瞼縁炎は,便宜的に,睫毛の生えている領域(皮膚粘膜移行部より前方)の炎症を前部眼瞼炎(anteriorblepharitis),Meibom腺領域(皮膚粘膜移行部より後方)の炎症を後部眼瞼炎(posteriorblepharitis)と分類している.原因には,感染性(ブドウ球菌などの細菌性と単純ヘルペスウイルスなどのウイルス性)と非感染性〔脂漏性(seborrheic),酒.性(rosacea)〕がある.1.前部眼瞼炎(anteriorblepharitis)眼瞼縁の睫毛根部におけるブドウ球菌(おもにS.epiderimidis,S.aureus)の感染が原因である.ブドウ球菌のもつ外毒素(dermatonecrotoxin)が原因となって眼瞼皮膚のびらんや潰瘍を生じ,長期化すると睫毛が抜け,睫毛乱生や睫毛禿になることもある.眼瞼縁炎に伴って生じる慢性結膜炎や点状表層角膜症(SPK)は,ブドウ球菌そのものが結膜上皮や角膜上皮に感染して生じるものではなく,外毒素に対する上皮の反応である1).そのため,角膜の病変部を擦過し培養してもブドウ球菌を検出することはないが,眼瞼縁や結膜.の培養によって検出できる.ブドウ球菌の感染は,高齢者,糖尿病患者,アトピー性皮膚炎患者などに好発し,これらの患者では治療に抵抗して慢性の経過をとることが多い.ブドウ球菌性眼瞼炎では,一般に眼瞼縁の皮膚表面に堅くてもろいフィブリン様の膜様物を生じ,睫毛の生育とともにそれが持ち上げられcollaretteとよばれる特徴的な所見を呈する(squamoustype)(図3).ときに,睫毛根部に堅い痂皮を生じ,鑷子などでその痂皮を.がすと毛根部に小さい潰瘍が認められることもある(ulcerativetype).結膜の変化はあまり多くはないが,球結膜充血や軽度の乳頭増殖を伴った慢性結膜炎を認めることがある.角膜の合併症として,外毒素による角膜下方1/3を中心としたSPK(図4),免疫反応によるカタル性角膜浸潤や角膜フリクテンなどが認められることもある.慢性炎症が持続すると,後部眼瞼炎を合併することによって疼痛の軽減・早期回復が得られる.しかし,排膿時の腫脹部の無理な圧迫は炎症を周囲に波及させる危険があり避けるべきである.高齢者で再発をくり返す場合には糖尿病が背景にあることがある.乳幼児では,化膿性炎症が急速に周囲に波及し,眼窩蜂巣炎に進展する場合もあるので注意深く経過観察を行う必要がある.II霰粒腫(chalazion)霰粒腫とは,Meibom腺(ときにZeis腺)の梗塞によって生じる瞼板内の無痛性非細菌性の慢性肉芽腫性炎症である.梗塞が続くとMeibom腺は隣接する組織を巻き込んで肉芽を形成し,その周りを線維性組織からなる皮膜が取り囲んで腫瘤を形成する.霰粒腫は,思春期から中年にかけて広くみられ,特に性差はない.典型的には,眼瞼の無痛性の硬結として触診されるが,大きいものは外見からもわかる.経過中,細菌感染による急性化膿性炎症を生じることがあり,急性霰粒腫ともよばれる(図2).急性霰粒腫は内麦粒腫との鑑別が困難であるが,治療は同様である.急性霰粒腫は化膿性炎症の消退後,硬結を残すのに対し,内麦粒腫は硬結を残すことはなく治癒するため,後になって鑑別しうる.霰粒腫は放置しても自然消退することは少なく,治療の原則は外科的な摘出である.大きな霰粒腫が放置されると角膜の不整乱視を生じることがあり,注意が必要で図2急性霰粒腫(5)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011313連して,角膜にSPK,炎症細胞浸潤,血管侵入などを生じる病態を「Meibom腺炎角結膜上皮症」とよぶ2).その病型は,角膜上の結節病変を特徴とする「フリクテン型(図5)」と,結節性病変は認めずSPKが主体である「非フリクテン型(図6)」の2つに大別できる.どちらの病型も,Meibom腺炎の重症度と角膜上皮障害の重症度は相関する.フリクテン型は,圧倒的に若年女性に多く,特に思春期ごろに発症して再発をくり返す.乳幼児に発症することもあるが,高齢者に認められることはまれである.かつては,結核菌やブドウ球菌に対するアレルギーなどと考えられてきたが,実際には患者からこれらの病原体を検出することはまれである.患者のMeibom腺脂質の培養結果3)および動物モデルの実験4)から,フリクテン型の原因はPropiobacteriumacnesによる遅延型アレルギー反応(DTH)の可能性が高いと考えられている.フリクテン発症以前に,幼少時より麦粒腫や霰粒腫の既往歴がある症例が多く,遺伝的素因の関与も推測される3).一方,非フリクテン型も,若年女性に多い印象ではあるが,性別や年齢に一定の傾向があることはいまだ報告されていない.Meibom腺脂質の細菌培養では,おもな検出菌が20~40歳代ではP.acnesであるのに対して,70歳代ではブドウ球菌である(高橋順子ほか:第41回日本眼感染症学会で発表,2004)ことから,非フリクテンがある.角膜にSPKを認める場合には,ドライアイ(おもに瞼裂部を中心に角膜のみならず結膜にも点状染色が認められる),アトピー性角結膜炎(角膜下方に点状染色を認めるが,眼瞼にアトピー性皮膚炎を認める)などと鑑別が必要である.なお,若年者(特に女性)の角膜下方のSPKでは,睫毛根部のcollaretteなどは認めずMeibom腺炎を伴っている場合が多く,Meibom腺炎角結膜上皮症の一病型と考えられる2).ブドウ球菌性眼瞼縁炎は,正しい治療を行うことで比較的早く症状を軽快させることができる.治療は,瞼縁の清拭に加え,ブドウ球菌に感受性のある抗菌薬の投与が中心となる.具体的には,オフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏が有効であり,点眼ではガチフロキサシン(ガチフロR)などの第四世代のニューキノロンが有効なことが多い.ブドウ球菌は耐性を獲得しやすく,慢性化すると治療が困難となることも多いので,瞼縁の菌培養を行い感受性を調べたうえで抗菌薬を投与し,濫用しないよう注意が必要である.2.後部眼瞼炎(posteriorblepharitis)後部眼瞼炎はMeibom腺炎と同義である.細菌感染に伴うMeibom腺そのものの炎症(Meibom腺炎)に関図3前部眼瞼炎(ブドウ球菌性眼瞼炎)睫毛根部にcollaretteを認める.慢性炎症により球結膜の充血とMeibom腺機能不全を合併している.図4前部眼瞼炎(ブドウ球菌性眼瞼炎)ブドウ球菌の外毒素により角膜下方1/3にSPKを生じることがある.314あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(6)型の起因菌も年齢によって変化している可能性が推測される.フリクテン型の重症例(図7)とヘルペスウイルスによる壊死性角膜炎(図8)は,ともに角膜実質内に細胞浸潤や血管侵入が認められるが,壊死性角膜炎では通常Meibom腺炎は認められず高齢者に多いことなどから鑑別できる.細菌増殖によるMeibom腺炎が角膜上皮障害の原因であるため,その治療が基本となる.P.acnesに対して,初期は殺菌的に作用するセフェム系抗菌薬,その後静菌的に作用するクラリスロマイシンの内服投与で図5Meibom腺炎角結膜上皮症(フリクテン型)Meibom腺炎および角膜下方の炎症細胞浸潤,表層血管侵入,球結膜充血を認める.ab図6Meibom腺炎角結膜上皮症(非フリクテン型)a:Meibom腺炎および角膜上方からの表層血管侵入を認める.b:フルオレセイン染色で角膜上方のSPKを認める.図7Meibom腺炎角結膜上皮症(フリクテン型)の重症例角膜に大きな結節性細胞浸潤とそれに向かう表層血管侵入,眼瞼縁全体に及ぶMeibom腺炎を認める.図8ヘルペス性壊死性角膜炎角膜内に高度の炎症細胞浸潤と角膜表層および実質内の血管侵入,球結膜の充血を認める.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011315られる.アトピー性皮膚炎に合併することもある.眼瞼およびその周囲に,臍窩を伴った小水疱が散在する.皮診は片眼の上下眼瞼に広がることが多い(図9)が,水痘帯状疱疹ウイルスによる眼瞼ヘルペスと異なり,顔面の正中線を越えて両眼瞼に皮診が認められることもある.感冒様の前駆症状に続いて,発熱や耳前リンパ節の腫脹,圧痛を伴う.通常,皮疹は約1週間で瘢痕を残さず自然治癒に向かう.2.水痘帯状疱疹ウイルス初感染は水痘の形をとり,その後ウイルスが三叉神経節に潜伏し,後に帯状疱疹の形で発症する.したがって,小児にはまれで,50歳以上に多く,特に高齢者,糖尿病患者,免疫能の低下した患者などに発症する.初感染は両眼性で上下眼瞼に認められるが,眼部帯状疱疹は,正中線で境された片側の眼瞼,前頭部,鼻部に紅斑と皮膚の疼痛が先行する(図10).三叉神経第1枝領域では片眼の上眼瞼に,第2枝領域では片眼の下眼瞼に皮診を認める.ときに,第1枝,第2枝領域ともに皮診を認めることもある.鼻背から鼻尖部は三叉神経第1枝(眼神経)の支配領域であり,角膜,虹彩にはこの分枝である鼻毛様体神経が分布しているため,鼻背から鼻尖部に皮疹が存在するときは,角膜炎,結膜炎,強膜炎,虹彩毛様体炎,網膜炎,外眼筋麻痺などの合併症に注意Meibom腺内の細菌叢のバランスを整える.点眼もセフェム系抗菌薬が有用である.ステロイド薬については,初期に眼表面の炎症が強い場合には短期的な投与が必要になる場合がある.眼表面の炎症が改善した時点で治療を終了すると再発しやすい.これは,Meibom腺炎に関連していると考えられる細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.Meibom腺炎の改善は,眼表面の炎症の沈静化より少し遅れることに注意しなければならない.重症例および難治例にはMeibom腺内の抗菌薬の濃度を高める目的で感受性のある抗菌薬の点滴を行うことも効果的である5).穿孔例や瘢痕の強い症例については角膜移植を行うが,原則として表層角膜移植を選択すべきである.IV眼瞼ヘルペス(lidherpes)眼瞼ヘルペスは,その原因によって単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)によるものと水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)によるものに分類される.1.単純ヘルペスウイルス初感染は大部分が乳幼児に起こり,そのほとんどは不顕性感染であるが,1~10%が顕性化して初感染像を呈する.したがって乳幼児に多いが,まれに成人にも認め図9眼瞼ヘルペス(HSV)上下眼瞼縁を中心に小水疱が散在している.図10眼部帯状疱疹右眼瞼の発赤,腫脹と右前頭部の発赤を認める.ヘルペス特有の水疱は目立たないが,眼窩蜂巣炎などと見誤らないようにしたい.316あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(8)ラックスR眼軟膏(1日5回)の塗布とともに,混合感染の予防のために抗菌薬の眼軟膏(1日3回)を併用する.特に帯状疱疹の場合は,皮膚科と連携して入院のうえアシクロビルの点滴静注を行い,早期にウイルス量を減少させる必要がある.効果的な治療が施されなければ,眼瞼に瘢痕を残し閉瞼不全,遷延性角膜上皮欠損の原因となりうる(図11)ため注意が必要である.文献1)ThygesonP:Complicationsofstaphylococcicblepharitis.AmJOphthalmol68:446-449,19692)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20003)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkeratitisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20054)SuzukiT,SanoY,SasakiOetal:OcularsurfaceinflammationinducedbyPropionibacteriumacnes.Cornea21:812-817,20025)鈴木智,横井則彦,木下茂ほか:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:1143-1145,1998しなければならない.臍窩を伴った小水疱は膿疱となり,やがて破れてびらん・小潰瘍となるが,次第に痂皮を形成し,軽度の瘢痕を残して治癒することが多い.眼瞼ヘルペスについては,HSV,VZVともに,ゾビ図11眼部帯状疱疹後の上眼瞼の瘢痕初期に入院+点滴加療ができず,ヘルペスによる皮疹は軽快したものの眼瞼~前額部にかけての炎症性瘢痕が残り,閉瞼不全と角膜上皮障害が持続した.