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14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症の1例

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1700.1703,2018c14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症の1例福井志保*1木許賢一*2山田喜三郎*3久保田敏昭*2*1別府医療センター眼科*2大分大学医学部眼科学教室*3大分県立病院眼科CACaseofBranchRetinalArteryOcclusionina14-Year-OldMaleShihoFukui1),KenichiKimoto2),KisaburoYamada3)andToshiakiKubota2)1)DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,OitaPrefecturalHospitalC14歳男児に発症した網膜動脈分枝閉塞症を経験したので報告する.溶連菌感染後に右眼の視野異常を主訴に受診し,右眼の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎があった.全身的には無菌性髄膜炎の所見とわずかなCPR3-ANCAの上昇以外は異常はなかった.網膜血管炎に対してプレドニゾロンC30Cmgより内服漸減を行い,その間に黄色ブドウ球菌感染による硬膜外膿瘍をきたし,保存的に加療された.その際もCPR3-ANCAの軽度上昇があった.網膜血管炎の原因としてCANCA関連血管炎や溶連菌感染後の自己免疫学的機序による血管炎が考えられたが,明らかな原因疾患は不明であった.CWeCreportCaCcaseCofCbranchCretinalCarteryCocclusionCinCaC14-year-oldCmale,CwhoCvisitedCourCdepartmentCbecauseCofCvisualCdisturbanceCafterChemolyticCstreptococcalCinfection.CExaminationCdisclosedCbranchCretinalCarteryCocclusioninhisrighteyeandretinalvasculitisbilaterally.AsepticmeningitisandslightlyincreasedPR3-ANCAintheserumwereobserved.Hewastreatedwithprednisolonefromadoseof30Cmgdailyforretinalvasculitis.Dur-ingCtheCterm,CepiduralCabscessCcausedCbyCStaphylococcusCaureusCoccurred.CAtCtheCtime,CPR3-ANCACwasCagainCslightlyCincreasedCinCtheCserum.CANCA-associatedCvasculitisCorCautoimmune-relatedCvasculitisCwereCspeculatedCasCcausesoftheretinalvasculitisandbranchretinalarteryocclusion,butthespeci.ccauseswereunknown.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1700.1703,C2018〕Keywords:網膜動脈分枝閉塞症,網膜血管炎,溶連菌感染,ANCA関連血管炎.branchretinalarteryocclusion,retinalvasculitis,hemolyticstreptococcusinfection,ANCA-associatedvasculitis.Cはじめに網膜動脈閉塞症は一般的に加齢に伴う動脈硬化や不整脈が原因となり,血栓や塞栓を原因として発症することが多く,高齢者に多い疾患である.若年者の網膜動脈閉塞症はまれで,心疾患,抗リン脂質抗体症候群や全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythematosus:SLE)などの膠原病,血液凝固異常などの基礎疾患を有する報告1.8)が多いが,原因不明のものもある11,12).今回,全身精査で明らかな原因疾患が不明の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎を併発した若年の症例を経験したので報告する.抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicCantibody:ANCA)の軽度上昇からCANCA関連血管炎の可能性や溶連菌感染後の自己免疫機序による血管炎の可能性が考えられた.I症例患者:14歳,男児.主訴:右眼視野異常.既往歴:左鼠径ヘルニア,僧帽弁閉鎖不全症(軽度),気管支喘息,アトピー性皮膚炎,犬・猫アレルギー.家族歴:父─乾癬,花粉症,母─アトピー性皮膚炎,弟─副鼻腔炎.生活歴:ハムスター飼育.現病歴:2010年C8月にC38℃台の発熱と頭痛が出現し,第3病日に小児科を受診した.咽頭拭い液溶連菌迅速検査が陽性で抗菌薬を処方された.第C8病日,発熱が持続するため別のかかりつけの小児科を受診し抗菌薬を変更され,第C10病〔別刷請求先〕福井志保:〒874-0011大分県別府市内竈C1473別府医療センター眼科Reprintrequests:ShihoFukui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,BeppuMedicalCenter,1473Uchikamado,Beppu874-0011,CJAPANC1700(124)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(124)C17000910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1初診時右眼眼底写真視神経乳頭耳下側の白色病変と網膜の白濁があり,網膜動脈分枝閉塞症と診断した.図3初診時右眼眼底写真(赤道部)血管周囲に白色病変があった.日には解熱した.第C12病日の起床時に右眼の見えにくさを自覚し,翌日に前医眼科を受診し右眼網膜動脈分枝閉塞症を指摘され同日紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C1.0(矯正不能),左眼C0.8(矯正1.0),眼圧は両眼ともにC11CmmHg,両眼の結膜充血があった.前房内炎症はなく,前医にて散瞳しており,中間透光体に異常はなかった.右眼眼底は視神経乳頭耳下側の動静脈交叉部に白色病変とそれより末梢の網膜の白濁があり,網膜動脈分枝閉塞症と診断した(図1).末梢静脈血管は怒張し,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では動脈閉塞部位は著明な網膜浮腫があり,隆起性の白色病変による動脈の圧迫が疑われた(図2a).また乳頭耳側に出血を伴った白色病変があり,OCTでは網膜外層浮腫(図2b)を呈図2a右眼OCT画像(動脈閉塞部位)著明な網膜浮腫があり,白色病変による動脈の圧迫が疑われた.図4b左眼OCT画像(白色病変部位)網膜浮腫を呈していた.し,右眼赤道部にも血管周囲の白色病変(図3),左眼後極にも白色病変(図4a)とその部位の網膜浮腫(図4b)があり,両眼の網膜血管炎が疑われた.Goldmann動的視野検査では図2b右眼OCT画像(黄斑部)網膜外層浮腫を呈していた.図4a初診時左眼眼底写真後極に白色病変があった.(125)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1701図5初診時Goldmann動的視野検査右眼鼻上側の視野欠損があった.図6右眼眼底写真(入院後数日)白色病変の周囲に出血が出現していた.動脈閉塞部位に一致した右眼鼻上側の視野欠損があった(図5).蛍光眼底造影はフルオレセインの皮内テストが強陽性で施行できなかった.発症から約C2日が経過していたため動脈閉塞症に対する加療は行わず,原因精査のため小児科に入院となった.全身検査所見:白血球数C9,100/μl,血小板数C352,000/μl,CCRP1.29Cmg/dl,IgG2,013Cmg/dl,IgE3,730CIU/ml,CHC5058.5CU/mlと軽度上昇していた.血液凝固検査は正常範囲内で,各種ウイルス抗体価や自己抗体の上昇はなく,PR3-ANCAはC3.5CU/mlと正常上限であった.ツベルクリン反応は陰性であったが,ACE,リゾチームは正常範囲内で肺門リンパ節腫脹はなく,サルコイドーシスは否定的であった.ASO,ASKは陰性,結核,梅毒,トキソプラズマ,トキソカラ,猫ひっかき病などの感染はなかった.髄液細胞数図7右眼眼底写真(発症3カ月後)閉塞部位の動脈は白鞘化,狭細化していた.93/3Cμl(すべて単核球)と軽度増加しており,無菌性髄膜炎と診断された.胸部CX線,頭部CMRI,胸腹部CCT検査で異常はなく,心臓超音波検査では軽度の僧帽弁閉鎖不全症があったが,疣贅はなかった.経過および治療:右眼の網膜動脈分枝閉塞症と両眼の網膜血管炎,無菌性髄膜炎の所見があったが,全身的な基礎疾患や異常所見はなかった.入院後,新たな白色病変の出現はみられず,白色病変周囲にいずれも静脈閉塞に伴う出血が出現した(図6).何らかの自己免疫学的機序による網膜血管炎,それによる動脈閉塞症と考え,入院C12日目よりプレドニゾロンC30Cmg内服を開始した.動脈閉塞部位の白色病変と網膜浮腫は次第に軽快し,血管炎の悪化所見はなく退院となった.同年C10月,プレドニゾロンC2.5Cmg内服中に前胸部に水疱(126)が出現,40℃の発熱と心窩部痛,背部痛を伴い,CRP23.98Cmg/dlと高値で小児科に入院した.血液・喀痰培養で黄色ブドウ球菌を検出,Kaposi水痘様発疹症,硬膜外膿瘍と診断された.保存的に加療され,基礎疾患の検索を行うも異常はなかった.前回と同様にCIgEはC3,107IU/mlと高値で,PR3-ANCAはC3.9CU/mlと軽度陽性で,退院時にはC6.1CU/mlとさらに上昇していた.網膜動脈閉塞発症後C3カ月には,閉塞部位は動静脈交叉部位であったことが明瞭となり,同部位は動脈の白鞘化,狭細化を呈した(図7).現在視野欠損は残存しているが,血管炎などの再発はない.CII考按網膜動脈閉塞症が若年者に発症することは珍しく,心疾患1,2)や抗リン脂質抗体症候群3,4),SLE5),血管炎症候群6)などの全身疾患が基盤にあるものが多い.クリオフィブリノーゲン血症7,8)や貧血の合併9),経口避妊薬内服後の発症10)の報告も散見される.しかし,本症例のように明らかな原因が不明であったとする報告もあり,高橋らは若年者C3例の網膜動脈閉塞症を報告11),中野らは本症例と同様の溶連菌感染症の経過中に発症したC11歳女児の網膜中心動脈閉塞症を報告している12).本症例は軽度の僧帽弁閉鎖不全症があったが,心エコーでは感染性心内膜炎の所見や疣贅はなく,原因として考えにくい.また,両眼の網膜血管炎を併発しており,動脈炎による動脈閉塞が考えられた.動脈閉塞をきたしうる動脈炎としてCBehcet病や結核性網膜血管炎,梅毒性ぶどう膜炎などがあるが,いずれも否定的であった.また,溶連菌感染後に樹氷状血管炎を呈し,動脈閉塞を起こした報告13)もあるが,本症例では樹氷状血管炎の所見はなかった.本症例ではCPR3-ANCAの軽度上昇があり,プレドニゾロン内服後の感染時にはさらに上昇しており,ANCA関連血管炎が関連している可能性も考えられた.PR3-ANCAはWegener肉芽腫症に診断的特異性が高く,疾患活動性の指標になることが知られており,MPO-ANCAは顕微鏡的多発血管炎やアレルギー性肉芽腫性血管炎で高率に陽性となる.MPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎では網膜動脈閉塞症の合併報告は多いが14,15),PR3-ANCA上昇,Wegen-er肉芽腫症に伴う報告例は少ない16).ANCA関連血管炎では小動脈から細動脈,毛細血管,細静脈までの比較的細い血管が障害されるが,本症例は全身的な血管炎の所見はなかった.また,ANCAは感染症や薬剤,全身性疾患に伴い誘導され上昇することが知られており,溶連菌の感染はCANCA上昇を誘導するとされる17).本症例はCANCA上昇は軽度で,感染時にさらに上昇していることから,感染に伴う上昇の可能性も十分に考えられた.本症例ではもともと気管支喘息やアトピー性皮膚炎,犬,(127)猫アレルギーの既往があり,血清CIgEも高値で,溶連菌感染後にアレルギー学的機序による網膜血管炎を発症した可能性がもっとも考えられた.しかし,蛍光眼底造影が施行できなかったため,動脈閉塞をきたした病態や血管炎の程度が把握できず,ステロイド治療効果も不明であった.ステロイド投与による易感染性がC2回目の感染症の誘因になった可能性が考えられ,ステロイド投与の適応や投与量については議論の余地があり,慎重に検討する必要がある.文献1)松村望,伊藤大蔵,大庭静子ほか:視野の自然緩解をみた網膜動脈分枝閉塞症のC1例.眼紀95:41-43,C20012)中村将一朗,小林謙信,高山圭:心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症した若年の片眼性網膜中心動脈閉塞症の1例.あたらしい眼科C33:601-605,C20163)朝比奈章子,小松崎優子,中山玲慧ほか:6歳女児に生じた網膜動脈閉塞症のC1例.臨眼54:1191-1194,C20004)友利あゆみ,城間正,上門千時ほか:9歳男児に認められた網膜中心動脈閉塞症のC1例.臨眼C56:1117-1120,C20025)野本浩之,馬場哲也,梅津秀夫ほか:網膜動静脈の閉塞を呈した小児全身性エリテマトーデスのC2例.あたらしい眼科17:1441-1445,C20006)渡辺一順,加瀬学:網膜中心動脈閉塞症を呈したCP-ANCA陽性網膜血管炎.あたらしい眼科C17:1429-1432,C20007)田片将士,岡本紀夫,栗本拓治ほか:若年者にみられたクリオフィブリノーゲン血症が原因と考えられた網膜中心動脈閉塞症のC1例.臨眼61:625-629,C20078)RatraCD,CDhupperM:RetinalCarterialCocclusionsCinCtheyoung:SystemicassociationsinIndianpopulation.IndianJOphthalmolC60:95-100,C20129)冨田真知子,賀島誠,吉田慎一ほか:鉄欠乏性貧血の若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞症と網膜中心動脈分枝閉塞の合併症例.臨眼60:1219-1222,C200610)StepanovA,HejsekL,JiraskovaNetal:TransientbranchretinalCarteryCocclusionCinCaC15-year-oldCgirlCandCreviewCoftheliterature.BiomedPapMedFacUnivPalackyOlo-moucCzechRepubC159:508-511,C201511)高橋寧子,堀内二彦,大野仁ほか:若年者の網膜動脈閉塞症のC3例.眼紀41:2258-2269,C199012)中野直樹,吉田泰弘,周藤昌行ほか:11歳女児の網膜中心動脈閉塞症.眼紀43:161-164,C199213)SharmaCN,CSimonCS,CFraenkelCGCetal:FrostedCbranchCangitisCinCanCoctogenarianCwithCinfectiveCendocarditis.CRetinCasesBriefRepC9:47-50,C201514)佐藤章子,宮川靖博,高野淑子:眼病変を合併したCChurg-Strauss症候群のC2例.臨眼60:509-514,C200615)吉武信,西村宗作,吉田朋代ほか:網膜動脈閉塞症を発症し治療開始されたCChurg-Strauss症候群のC1例.臨眼C66:1659-1663,C201216)福尾吉史,片岡康志,千羽真貴ほか:Wegener肉芽腫症に網膜中心動脈閉塞症を合併したC1例.眼紀C44:1552-1555,C199317)山村昌弘:血管炎症候群.内科117:915-920,C2016あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1703

繰り返す網膜動脈分枝閉塞症を契機に発見された大腸癌の1例

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1696.1699,2018c繰り返す網膜動脈分枝閉塞症を契機に発見された大腸癌の1例石川聖*1河西雅之*2篠田啓*1*1埼玉医科大学病院眼科*2熊谷総合病院眼科CACaseofColorectalCancerDetectedthroughExaminationofRecurrentBranchRetinalArteryOcclusionShoIshikawa,MasayukiKawanishiandKeiShinodaCDepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversityC背景:網膜動脈分枝閉塞症を繰り返し,その原因精査にて結腸癌が発見されたC1例を報告する.症例報告:60歳,男性.突然の右眼視力低下にて近医受診.右眼視力(20Ccm指数弁)であり,網膜動脈分枝閉塞症と診断されるもその直後自然軽快し,視力は(1.2)と改善した.翌日も同様の症状が出現するも再度改善した.さらにC2日後に再び視力が低下したため紹介となった.右眼視力(0.3),眼圧C12CmmHg.右眼眼底の上方血管アーケード部に網膜動脈閉塞を認めた.採血検査でCHb5.7Cg/dlと低下を認め,CT検査と大腸内視鏡検査にて消化管出血を伴う上行結腸癌を認めた.大腸癌切除後は貧血も改善し,視力も(0.8)まで改善した.その後は繰り返す動脈閉塞も消失し経過良好であった.結論:繰り返す網膜動脈閉塞症をみた場合,原因として貧血やその原因となる全身疾患が隠れている可能性がある.CBackground:Wereportacasewhereindetailedexaminationstoidentifythecauseofrecurrentbranchreti-nalCarteryocclusion(RAO)ledCtoCcolonCcancerCdetection.CCasereport:AC60-year-oldCmaleCexperiencedCsuddenCvisiondecreaseinhisrighteye.Visualacuity(VA)oftheeyewasC.ngercountat20cm;hewasdiagnosedwithbranchCRAO.CImmediatelyCpost-diagnosis,CtheCsymptomCresolvedCspontaneously.CTwoCdaysClater,CdecreasedCvisionoccurredagain;hewasthereforereferredtoourhospital,wheretherightVAwasfoundtobe0.3.RAOwasnot-edinthesuperiorvasculararcadeoftherighteye.Bloodtestsrevealedlowhemoglobinlevels(5.7Cg/dl);comput-edCtomographyCandCcolonoscopyCdetectedCascendingCcolonCcancerCwithCgastrointestinalCbleeding.CAfterCcolorectalCcancerCresection,ChisCanemiaimproved;VACincreasedCtoC0.8.CRecurrentCRAOCsubsequentlyresolved;heChadCaCfavorableclinicalcourse.Conclusion:PatientswithrecurrentRAOmayhaveanemiaorunderlyingsystemicdis-easesascausalfactors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1696.1699,C2018〕Keywords:網膜動脈閉塞,貧血,大腸癌.retinalarteryocclusion,anemia,colontumor.Cはじめに網膜動脈閉塞症は急激な視力低下をきたす疾患であり,網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryocculusion:CRAO)と網膜動脈分枝閉塞症(branchCreinalCarteryocculusion:BRAO)に大別される.早期治療が有効でない限り視機能が回復しない緊急性の高い疾患である.網膜動脈閉塞症は動脈硬化や血管炎によって生じるため,既往に高血圧や高脂血症,糖尿病など血管狭窄や閉塞をきたす疾患や,頸動脈狭窄症や弁膜症など血栓が出現する疾患や血液疾患が隠れていることが多く,その素因を積極的に行う必要がある.眼に対する治療は血管拡張と眼圧下降による血流改善を目的として急性期は眼球マッサージや血管拡張薬,眼圧下降薬の使用や前房穿刺などが行われている.可能な施設では血栓溶解療法も行われている.大規模スタディでは,発症C24時間以内に治療を行った群は血栓溶解療法以外の治療はむしろ視力予後が悪くなっており1),治療内容に関して〔別刷請求先〕石川聖:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷C38埼玉医科大学病院眼科Reprintrequests:ShoIshikawa,DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversity,38Morohongo,Moroyama,Saitama,350-0495,JAPANC1696(120)ab図1紹介元での眼底検査結果a:右眼眼底.黄斑から上方血管アーケード部にかけて網膜の白色混濁と浮腫を認める.Cb:蛍光眼底造影検査(検査開始40秒).上方血管アーケード部網膜動脈はまだ造影されていない.Cc:蛍光眼底造影検査(検査開始C63秒).充.遅延を認める.はまだ議論がなされている.再発予防のためにも原因となる全身疾患が隠れている場合はそちらの治療も必要であるが,急性期での治療の緊急性の高さから全身疾患の検索に関してはおろそかになってしまうこともあり,注意が必要である.今回,BRAOを繰り返し,その原因精査にて結腸癌が発見されたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:60歳,男性.主訴:突然の右眼視力低下.現病歴:突然の右眼視力低下を自覚したため,近医を受診した.右眼視力は(20Ccm指数弁)と低下しており,眼底検査にて網膜の浮腫と乳白色混濁と認め,蛍光眼底造影検査にて上方血管アーケードの網膜動脈の造影途絶を認めたためBRAOと診断された(図1).大学病院紹介をされるもその移動中に自然軽快し,右眼視力も(1.2)と改善した(図2).翌日も同様に右眼の急激な視力低下が出現するもC30分程度で再度改善した.眼底検査でも昨日の所見は消失していた.さらにC2日後にも同様の視力低下を自覚するも今回はC3日経過しても症状改善しないため再度近医受診し,精査加療目的にて紹介となった.既往歴:1年前にも突然の右眼視力低下出現し,近医にてCRAOと診断されるも自然軽快した.原因精査として頸動脈エコー検査や頭部CMRI,心電図検査行うも異常所見は見つからなかった.喫煙歴なし.初診時所見:矯正視力右眼(0.3),左眼(1.2),眼圧右眼12CmmHg,左眼C14CmmHg.前眼部・中間透光体には特記すべき所見は認めなかった.右眼眼底の黄斑部から上方血管アーケード部にかけての網膜の浮腫と乳白色混濁,同部の網膜動脈の閉塞を認めた(図3).また,網膜出血や軟性白斑が出現していた.図2大学病院での検査結果a:右眼眼底.網膜の白色混濁はほぼ消失している.Cb:光干渉断層検査.網膜内層の浮腫もほぼ認められない.経過:前医同様CBRAOと診断したが,閉塞からC3日経過しており急性期の治療は困難と考えられた.1週間で反復してC3回起こしているので全身の原因検索を行うこととした.頸動脈エコーと脳CMRI・MRA施行するも動脈の狭窄所見なし.血液検査にてCHb5.7Cg/dl(正常値C13.5.18.0),Fe5Cμg/dl(正常値C80.200),と高度の鉄欠乏性貧血を認めた.白血球数はC9,150個/μl(正常C4000.9000),CRP2.70(正常0.50以下)と炎症反応高値を認めたが,抗核抗体C40倍以下,リウマチ因子・MPO-ANCA・PR3-ANCAともに陰性であり,明らかな血管炎の所見はなかった.高度貧血に加え黒色便を認めたため消化管出血を疑い,CT検査と大腸内視鏡検査行ったところ,消化管出血を伴う上行結腸癌を認めた(図4).腫瘍は一部所属リンパ節の腫大を伴っていたが,転移はなかった.同日消化器外科に緊急入院となり輸血にて貧血改善した後に右半結腸切除術を施行された.結腸癌切除後は貧血もC10.8Cg/dlへと改善した.術後C3カ月にはCBRAOの閉塞範囲の視野欠損は残るものの右眼視力は(0.8)へと改善し,図3当院初診時の眼底写真a:右眼眼底.前回と同様の場所に網膜の白色混濁と浮腫を認める.黄斑部下方に網膜出血と軟性白斑を認める.Cb:左眼眼底.視神経乳頭下方の辺縁が薄く,神経線維束欠損を認める.図4消化器外科での画像所見a:造影CCTでは上行結腸に腸管の不整な肥厚と造影効果を認める(矢印).Cb:上行結腸部の下部内視鏡検査結果.同部の腸管上皮が異形を伴って肥厚し,進展性が失われている.手術後は繰り返す動脈閉塞も消失した.CII考按CRAO・BRAOの原因疾患として,生活習慣による動脈硬化や,弁膜症や血液疾患などに伴う血栓性のもの以外にも若年性の場合は血管炎などによるものもあり,原因は多岐にわたる.本症例では上行結腸癌により生じた慢性の消化管出血により鉄欠乏性貧血が生じたことが契機となって発症したBRAOのC1例を経験した.貧血がCBRAOやCCRAOの原因となることはいくつか報告されている2.4).いずれの報告も貧血は鉄欠乏性貧血であり,貧血の改善とともに視力が改善していることが特徴である.ただし,凝固異常や膠原病を合併した症例に関しては発症からC2日後での来院だったこともあり視力改善が乏しかったと報告されている4).また,貧血に伴う蛍光眼底造影検査では,動脈の逆流現象を認める場合2)や造影遅延を認めない場合3)など血栓性の動脈閉塞による通常の蛍光眼底造影検査とは違う所見を呈している.本症例でも充.遅延を認めるものの完全閉塞はしておらず,視力も治療とともに改善を認めた.本症例も含め貧血による網膜動脈閉塞の視力予後が比較的いい理由としては二つの理由が考えられる.第一の理由として,網膜血管の完全閉塞ではないために神経節細胞死が起きるのが通常の血栓性網膜動脈閉塞よりも遅いことがあげられる.つぎに,相対的な酸素供給低下から出現する網膜動脈閉塞であることがあげられる.本症例,過去の報告2)ともに貧血は鉄欠乏性貧血ではあるものの,1例は食思不振でほとんど食事しない状態であり,それ以外の症例は消化管出血が原因にて起きた貧血であることから,慢性的な貧血や鉄そのものの低下ではなく,比較的急激に貧血が起きることがヘモグロビンの急速な低下の原因となり,そしてヘモグロビンが運ぶ酸素供給量が減ることで相対的な栄養低下をもたらし網膜内層の浮腫やCCRAOやCBRAOを起こすきっかけになったことが考えられる.貧血網膜症ではCRoth斑や硬性白斑,軟性白斑,静脈拡張などの所見を認めるが,本症例では紹介元での診察時には認めなかった網膜出血や軟性白斑が出現しており,時間が経つことで貧血網膜症の所見も出現したと考えられた.腫瘍が合併したCBRAO,CRAOに関しては,過去に腫瘍そのものの塞栓による動脈閉塞が報告されている5.8).これらの症例は血栓性の動脈閉塞とほぼ同様の予後の悪い経過をたどっている.本症例では大腸癌切除前に転移の有無は全身検索されており,所属リンパ腫の腫脹はあるものの血行性転移は認めず,StageIIbという診断であったこと,自然軽快を繰り返したことから,腫瘍塞栓によるCBRAOの可能性は低いと考えられた.化学療法が契機となったCBRAOの報告もあるため9),今後化学療法が必要となった場合には再度BRAO,CRAOの発生に気をつけて観察していく必要がある.繰り返すCBRAOを契機に全身検査を行い,貧血とそれに伴う結腸癌を発見したC1例を経験した.網膜動脈閉塞症をみた場合,治療だけでなく原因検索も行うことが重要であり,全身疾患が隠れている場合は他科との連携もとりながらその対策をしていくことが重要と考えられる.文献1)SchragM,YounT,SchindlerJetal:IntravenousC.brino-lyticCtherapyincentralretinalarteryocclusion.Apatient-labelmeta-analysis.JAMANeurolC72:1148-1154,C20152)冨田真知子,賀島誠,塩田洋ほか:鉄欠乏性貧血の若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞と網膜中心動脈分枝閉塞の合併症例.臨眼C60:1219-1222,C20063)溝辺裕一郎,上敬宏,末廣龍憲:網膜中心静脈閉塞症を発症後,体側眼に網膜中心静脈閉塞症と網膜動脈分枝閉塞症を発症した潰瘍性大腸炎のC1例.眼紀C56:373-376,C20054)ImaiE,KunikataH,TamaiMetal:Branchretinalarteryocclusion:aCcomplicationCofCiron-de.ciencyCanemiaCinCaCyoungCadultCwithCaCrectalCcarcinoid.CTohokuCJCExpCMedC203:141-144,C20045)馬場高志,蝶野郁世,井上幸次ほか:両眼の網膜中心動脈閉塞症を契機に発見された肺小細胞癌のC1例.臨眼C69:C355-360,C20156)MasudaH,OhiraA,HaradaTetal:Branchretinalarteryocclusioncausedbyanembolusofmetastaticgastricade-nocarcinoma.ArchOphthalmolC120:1209-1211,C20027)枡田尚,渋谷勇三,原田孝之ほか:腫瘍塞栓による網膜動脈分枝閉塞症のC1例.臨眼95:110,C20018)金沢佑隆,竹原昭紀,谷口寛恭ほか:肝細胞癌に合併した網膜中心動脈閉塞症のC1例.眼臨C90:1442-1445,C19969)MitraCA,CEdmundsCMR,CGoodCPCetal:ReversibleCbranchCretinalCarteryCocclusionCfollowingCintravenousCcisplatinCchemotherapyCforCcervicalCcarcinoma.CIntCOpthalmolC31:C429-432,C2011C***

重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1692.1695,2018c重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績髙木理那小林未奈田中克明豊田文彦榛村真智子木下望髙野博子梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CShort-termClinicalOutcomeswithAhmedGlaucomaValveImplantationintotheVitreousCavityRinaTakagi,MinaKobayashi,YoshiakiTanaka,FumihikoToyoda,MachikoShimmura,NozomiKinoshita,HirokoTakanoandAkihiroKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC目的:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術(以下,アーメド)の初期手術成績を,バルベルト緑内障インプラント術(以下,バルベルト)と比較検討する.対象および方法:眼圧コントロール不良の重症緑内障症例に対しアーメドをC16眼に,バルベルトをC11眼に施行し,眼圧下降効果と術後合併症をC2群で比較検討した.結果:眼圧は,アーメド施行群で術後C1週間・術後C4カ月ともに術前に比べ有意に低下した(p<0.0001).バルベルト施行群においても術後C1週間・術後C4カ月ともに術前に比べ有意に低下した(p<0.05).また,術後合併症はバルベルト施行群でC5眼に認められたが,アーメド施行群では皆無であった(p<0.01).結論:アーメド,バルベルトともに術後早期より良好な眼圧下降が得られた.しかしながら術後合併症は,アーメドがバルベルトに対し有意に少なく,優れた術式と考えられた.CPurpose:Toinvestigatetheinitiale.ectofimplantingAhmedglaucomavalveimplanttubingintothevitre-ousCcavityCinCpatientsCwithCadvancedCglaucoma.CPatientsandMethods:AhmedCglaucomaCvalveCimplantCtubing(AGV)waspositionedinthevitreouscavityin16eyeswithpoorlycontrolledglaucoma.Thestudyalsoincluded11controleyestreatedwithaBaerveldtglaucomaimplant(BGI)C.Intraocularpressure(IOP)changesandpostop-erativeCcomplicationsCwereCevaluatedCinCbothCgroups.CResults:TheCIOPsCdecreasedCsigni.cantlyCwithCAGVCatC1weekand4monthspostoperatively,aswasseenalsointheBaerveldtgroup.Postoperativecomplicationsoccurredin5eyesCinCtheCBGICgroup,CbutCthereCwereCnoCcomplicationsCinCtheCAGVCgroup,CaCdi.erenceCthatCreachedCsigni.cance.Conclusions:IOPreductionswereachievedwithbothimplantsimmediatelypostoperatively.Howev-er,fewercomplicationsoccurredinassociationwithAGVthanwithBGI.TheAGVseemssuperiortotheBGIintreatingadvancedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1692.1695,C2018〕Keywords:アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント,緑内障,眼圧,合併症.AhmedCglaucomaCvalve,Baerveldtglaucomaimplant,glaucoma,intraocularpressure,complications.Cはじめに眼圧コントロール不良の緑内障には最終的にトラベクレクトミーなどの濾過手術が施行されることが多い.しかしながら複数回のトラベクレクトミー施行眼や血管新生緑内障,ぶどう膜炎に続発する緑内障などの重症な緑内障ではブレブの維持が困難で,その結果,眼圧をコントロールすることが困難となる.当センターではこのような重症な緑内障に対し,より強く長期間の眼圧降下作用を求め,2014年よりバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)を使用したチューブシャント手術を開始し,BGIによ〔別刷請求先〕髙木理那:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RinaTakagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyJichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847Amanuma-chou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPANC1692(116)るチューブシャント手術の良好な眼圧下降を示した初期成績(術後観察期間平均C100日)を報告した1).しかし,その後の長期成績をみると,術後CBGIのCHo.mannelbowやチューブが露出する合併症が多く,管理に苦慮する症例が出てきた.アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)はC1993年より米国で使用され,2014年に日本で認可されたが,当センターではCBGIによるチューブシャント手術に代わるデバイスとしてC2016年より使用を開始した.AGIの種類としては前房内チューブ挿入用と硝子体腔内チューブ挿入用のC2種類があるが2),さまざまな合併症をもつ重症緑内障での前房内チューブ挿入法は角膜内皮障害などの危険性があると考え,当センターではより安全な眼圧下降をめざし,前房内チューブ挿入用のデバイスを硝子体腔内にチューブを挿入,留置する方法で手術を施行している.海外ではparsplanaclipを装着している硝子体腔挿入用アーメドバルブが販売されているが,日本では認可がなく,前房挿入用チューブを各々の施設の倫理委員会で承認を得て硝子体腔用に使用している.当センターも臨床倫理委員会で承認を得て使用している.今回はC2016年C2月.2017年C2月のCAGVによるチューブシャント手術の初期成績を,BGIによるチューブシャント手術と比較し報告する.CI対象および方法1.対象AGVによるチューブシャント手術の対象は,当センターにおいて,2016年C2月.2017年C2月に手術を受けたC15症例C16眼である.症例の内訳は男性C8人,女性C7人.平均年齢C59.1歳.原因疾患は続発緑内障がC8例と最多で,血管新生緑内障C5例,事故による失明後の高眼圧症と開放隅角緑内障がそれぞれC1例ずつであった.BGIによるチューブシャント手術の対象は,当センターにおいてC2014年C8月.2015年C12月に手術を受けたC11症例C11眼である.原因疾患は血管新生緑内障がC6例と最多で,続発性緑内障がC4例,開放隅角緑内障がC1例であった.C2.AGVによる手術方法有水晶体眼は白内障手術,有硝子体眼は硝子体手術施行後,上耳側の角膜輪部基底の約C6C×7Cmm半層強膜フラップを作製し,角膜輪部よりC3.5Cmmの毛様扁平部に挿入口を設けた.原則チューブ留置孔を含めC25CGのC3ポートを設置した.硝子体手術施行眼であってもチューブ留置付近の周辺部硝子体は極力切除郭清した.角膜輪部から約C10Cmmの位置でプレート部をC5-0ポリエステル糸で強膜に縫着した.挿入口をC20CGVランスでチューブ挿入可能な大きさまで広げた後,先端を鋭角に切断し長さを調節したチューブを挿入口より硝子体腔内に挿入した.強膜フラップをC9-0ナイロン糸で閉鎖し,8-0吸収糸でCTenon.被覆,結膜被覆縫合し終了とした.C3.BGIによる手術方法AGVと同様に有水晶体眼は白内障手術,有硝子体眼は硝子体手術施行後,角膜輪部基底において半層強膜フラップを作製し,角膜輪部よりC3.5Cmmの毛様扁平部に挿入口を設けた.挿入口をチューブ挿入可能な大きさまで広げた後,Ho.-mannelbowをつなげたチューブを硝子体腔内に挿入した.CHo.mannelbowはC9-0ナイロン糸で強膜床に縫着し,プレート両翼を外直筋・上直筋下に位置させ,強膜にC5C.0ポリエステル糸で輪部から約C10Cmmの所で縫着した.フラップ外のチューブはC8C.0吸収糸で結紮し,結紮部より輪部側のチューブにスリット状の穴を開けた(Sherwoodslit).強膜フラップをC9-0ナイロン糸で閉鎖し,8C.0吸収糸でCTenon.被覆,結膜被覆縫合した.CII結果AGV16症例の術後経過の内訳は,降圧点眼が必要な症例がC6例(38%)(平均追加点眼C0.8C±1.2剤)あったが,術後合併症やCAGV抜去が必要な症例はなかった.1症例は術後観察期間内に原因疾患である悪性リンパ腫で死亡した.術前および術後C4カ月経過観察期間で,AGV15症例の平均眼圧は術前C37.9C±14.3CmmHg,術後1週間8.9C±3.9CmmHg,術後4カ月C16.5C±7.2CmmHgであり,統計学的には術後C1週間後(p<0.0001,Cpairedt-test),術後C4カ月(p<0.0001,pairedt-test)とも有意に降下した.CBGI11症例の術後経過の内訳は,術後降圧点眼追加が必要な症例がC6例(55%)(平均追加点眼C0.5C±0.7剤),Ho.-mannelbowやチューブの露出した症例がC4例(3例はCBGI抜去),チューブ結紮糸切除も行ったが,眼圧下降が悪くAGVに入れ替えを行った症例がC1例,合併症発症率はC11眼中C5眼(45%)であった.点眼の追加などの問題なく経過した症例はC3例のみであった.チューブが露出した症例は数回結膜縫合を施行したが,縫合後チューブ再露出が続き,BGIを抜去しCAGV入れ替え施行となった.また,Ho.mannelbowが露出した症例も保存強膜で被覆を行ったが,再度露出となりCAGV入れ替え施行となった.術前および術後C4カ月の経過観察期間でCBGI8症例の平均眼圧は術前C35.9C±13.5CmmHg,術後C1週間C17.0C±13.5CmmHg,術後C4カ月C16.5C±4.5CmmHgであり,統計学的には術後C1週間後の眼圧低下(p<0.05,Cpairedt-test),術後C4カ月の眼圧低下(p<0.05,Cpairedt-test)両者とも有意であった.AGV(図1)とCBGI(図2)の術後眼圧推移を比較すると(表1),術後C4カ月での眼圧下降は両者で大きな変化は認めなかった.AGVでは多くの症例で術直後より眼圧下降が認められた.一方CBGIはCAGVに比べ眼圧下降が緩やかであり,またCBGIは症例によりばらつきがあるという結果が得7060605000眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)40302010図1アーメド緑内障バルブインプラント術15症例の眼圧推移図2バルベルト緑内障インプラント術11症例の眼圧推移表1AGVとBGIの術前,術後眼圧の比較(単位mmHg)表2AGVとBGIの合併症数の比較術前眼圧術後C1週間眼圧術後C4カ月眼圧CAGV(1C5症例)C37.9±14.3C8.9±3.9C16.5±7.2CBGI(8症例)C35.9±13.5C17.0±13.5C16.5±4.5合併症なし合併症あり合計(症例)CAGVC16C0C16CBGIC6C5C11合計C22C5C27られた.しかし,統計学的には治療C1週間後における眼圧の低下度はCAGV群とCBGI群では有意差は認めず(p=0.1758,Cunpairedt-test),治療C4カ月後でも有意差は認められなかった(p=0.7637,unpairedt-test).合併症発症はCAGBで有意に少なかった(p<0.01,Cc2検定)(表2).CIII考按AGVが日本で認可されてからCAGVを用いたチューブシャント手術の成績が報告されている3).また,海外ではCAGVとCBGIのチューブシャント手術の成績を比較した報告も多い2).本研究では,術後眼圧の推移は,図1,2に示されたように両者間で大きな違いはなかったが,BGIはCAGVに比べ眼圧下降が緩やかで,かつ症例によりばらつきがあるという結果が得られた.AGVとCBGIの大きな違いは圧調節機能の有無である.AGVには弁がついており,原則術後の低眼圧や高眼圧をきたすことはない.一方CBGIでは弁の機能がないため,チューブ結紮やチューブにスリット状の穴を開けるCSherwoodslitで初期の高眼圧に対応している.また,BGIの眼圧下降はチューブ結紮糸が解けた後に起こるため,AGVより時間がかかることが特徴である.これは図1,2の術後眼圧推移でCAVGの眼圧下降が術直後から起き,BGIは緩やかに起こることに一致している.BGI11例中,半数は術後に降圧点眼の追加が必要であったが,AGVでは点眼薬追加はC16例中C6例と少ない傾向が認められ,問題なく眼圧が下降した症例が多かったが,有意ではなかった(p=0.3811,Cc2検定).本研究ではC4カ月という短期間での比較調査であるが,BGIよりもCAGVのほうがより早期に安定した眼圧下降が得られるという結果を得た.合併症については,BGI症例でCHo.mannelbowやチューブ露出例がC4例(3例はCBGI抜去)あり,そのうちチューブ露出例では数回結膜縫合後もチューブ再露出が続いた(図3).また,Ho.mannelbow露出例(図4)も保存強膜で被覆を行ったが,再度露出となった.一方CAGV症例での合併症は当院では皆無であった.緑内障チューブシャント術のチューブ露出に関しては多くの報告がなされている.Meenakshiらはチューブ露出には年齢(若年者)と術前の炎症が関与していると報告している4).本研究のCBGI症例の平均年齢はC58.63±9.32歳,露出例は平均C56.75C±7.26歳,非露出例は平均C59.71C±9.51歳であり,両群の年齢には有意差が認められなかった(p=0.7042,Cunpairedt-test).また,露出例は網膜.離に対するシリコーンオイル充.硝子体手術後のシリコーンオイル抜去後の続発緑内障C1例と増殖糖尿病網膜症(PDR)に伴う緑内障C3例であった.他報告では血管新生緑内障も露出の危険因子にあげられている5).鼻側下方にプレート移植した場合は,上方に移植したものより露出例が多いことも多く報告されている6,7).筆者らは全例上耳側に移植しており,移植位置による違いは判断できなかった.当センターではCAGVによる露出例は現時点でも確認されていないが,AGVによる露出例も報告されており7),WilliamらはCAGV,BGIでは露出頻度に差はないと報告している8).当センターではCAGVとCBGIの露出に大きな差が出た.その要因としてCHo.mannelbowの存在が考えられた.BGIには硝子体挿入のためのCHo.mannelbowが存在する.海外ではAGVにもCHo.mannelbowに対応するCparsplanaCclipが販売されているが,日本ではまだ認可されていない.そのため,筆者らは院内の臨床倫理委員会で承認を得て前房挿入,留置用を硝子体腔内挿入,留置を施行している.プレートから出るチューブを強膜フラップ下で直接硝子体腔内に挿入することで異物のボリュームを減らすことができ,露出の危険性が減少すると考えられた.CIV結論筆者らの研究は術後C4カ月という短期間でのCAGVとCBGIの比較であったが,AVG硝体腔内チューブ挿入法は術直後の確実な眼圧下降が得られ,またチューブ露出などの合併症も皆無であった.白内障手術および硝子体手術の併用が必要ではあるが,parsplanaclipを使用せずチューブのみを硝子体に挿入,留置するほうが,むしろデバイス露出の可能性を減らすことができ,安全な方法と期待される.早期に眼圧下降を必要とする重症緑内障症例には最適な手術と考えられた.本研究はC16例と症例数が少ないため,今後より大規模な研究でCAGVの有用性を検討する必要性があると考えられた.文献1)上原志保,田中克明,太田有夕美ほか:増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績.あたらしい眼科C33:C291-294,C20162)ChristakisPG,KalenakJW,TsaiJC:TheAhmedVersusBaerveldtStudy:Five-yearCtreatmentCoutcomes.COph-thalmologyC123:2093-2102,C20163)植木麻理,小嶌祥太,河本良輔ほか:インプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較.あたらしい眼科34:1165-1168,C20174)ChakuMC,NetlandPA,IshidaKetal:RiskfactorsfortubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C20165)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetal:RiskCfactorsCforCtubeCshuntexposure:aCmatchedCcaseCcontrolCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C20136)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetal:GlaucomaCdrainagedevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20157)Ge.enCN,CBuysCYM,CSmithCMCetal:ConjunctivalCcompli-cationsCrelatedCtoCAhmedCglaucomaCvalveCinsertion.CJGlaucomaC23:109-114,C20148)StewartCWC,CKristo.ersenCCJ,CDemonsCCMCetal:Inci-denceCofCconjunctivalCexposureCfollowingCdrainageCdeviceCimplantationinpatientswithglaucoma.EurJOphthalmolC20:124-130,C2010***

涙管チューブ挿入術前後における涙液クリアランス試験の検討

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1688.1691,2018c涙管チューブ挿入術前後における涙液クリアランス試験の検討松尾早希子*1,2渡辺彰英*1横井則彦*1脇舛耕一*1,3山中行人*1中山知倫*1山中亜規子*1古澤裕貴*1,2後藤田遼介*1小泉範子*1,2外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2同志社大学生命医科学部*3バプテスト眼科クリニックCTearClearanceExaminationatPre-andPost-lacrimalIntubationforLacrimalDuctObstructionSakikoMatsuo1,2)CAkihideWatanabe1)CNorihikoYokoi1)CKoichiWakimasu1,3)CYukitoYamanaka1),,,,,TomomichiNakayama1),AkikoYamanaka1),YukiFurusawa1,2),RyosukeGotouda1),NorikoKoizumi1,2)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)GraduateSchoolofLifeMedicalSciences,DoshishaUniversity,3)BaptistEyeClinicC目的:涙管チューブ挿入術前後の涙液クリアランスについて検討すること.対象および方法:涙道閉塞症に対して涙管チューブ挿入術を施行し,チューブ抜去後C1カ月まで経過観察可能であったC15例C18眼(男性C3例,女性C12例,平均年齢C70.1C±13.2歳)を対象に,BSS点眼液C20Cμlを負荷後,video-meniscometerを用いてC1分ごとに計C5回涙液メニスカスを計測し,曲率半径CRを求め,点眼負荷前の涙液貯留量の変化,および点眼負荷後の涙液貯留量の変化により涙液クリアランスの変化を検討した.結果:点眼負荷前の涙液貯留量は,術前がC0.75C±0.50Cmm,チューブ挿入後1カ月がC0.26C±0.12Cmm,挿入後C2カ月がC0.27C±0.11Cmm,抜去後C1カ月がC0.27C±0.11Cmmとなり,術後は涙液貯留量が有意に減少した.涙液クリアランスを術前後で比較すると,術後は涙液クリアランスが有意に改善した.涙液貯留量,涙液クリアランスともに内視鏡併用の有無による有意差は認めなかった.結論:涙管チューブ挿入術により,術後は内視鏡の有無にかかわらず涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの改善が認められた.CToassesstearclearancechangeafterlacrimalintubationforlacrimalductobstruction,18eyesof15patients(3male,C12female,CaverageCageC70.1years)underwentClacrimalCintubation.CACvideo-meniscometerCwasCusedCtoCexamineCtearCmeniscuscurvature(R)forCtearCvolumeCassessment.CTearCclearanceCexaminationCwasCperformedCasfollows:20CμlCBSSsolutionwasinstilledtoincreasetearvolume,andRwasexaminedfor5minutesatpre-intuba-tion,1monthafter,2monthsafter(justbeforetuberemoval)and1monthaftertuberemoval.Tearvolumewassigni.cantlydecreasedbyintubationateverypostoperativeperiod.Tearclearancewasalsosigni.cantlyimprovedatCeveryCpostoperativeCperiod.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCuseCandCnon-useCofCtheCdacryoendo-scope,CinCtermsCofCtearCvolumeCorCtearCclearanceCafterCintubation.CLacrimalCintubationCdecreasedCtearCvolumeCandCimprovedtearclearance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1688.1691,C2018〕Keywords:涙道閉塞症,涙管チューブ挿入術,涙液貯留量,涙液クリアランス,メニスコメトリー.lacrimalCductobstruction,lacrimalintubation,tearvolume,tearclearance,meniscometory.C〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-8566京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:AkihideWatanabe,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,KawaramachiHirokojiagaru,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC1688(112)はじめに涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである1,2).涙液クリアランスが高い場合,涙液は速やかに涙道へ排出されるが,涙液クリアランスが低い場合は涙液の流れが悪く涙液の質的異常をきたす.また,涙液中の炎症性サイトカインなどが眼表面に貯留し結膜炎を生じたり,外的内的環境の影響を受けやすくなり,防腐剤を含む点眼薬などの上皮障害性物質の影響を強く受けやすくなるため,角結膜上皮障害を生じることもある3).涙液クリアランスの代表的な評価方法の一つにCSchirmer試験があるが,試験紙のずれにより角結膜を刺激し涙液分泌を促すこともあるため,測定結果にばらつきが大きいことが欠点である3).しかし近年,非接触かつ低侵襲な評価方法が考案されてきた.Zhengら1,2)は前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)を用いて点眼負荷涙液クリアランス試験を行い,横井ら3.6)はメニスコメトリー法を開発した.メニスコメトリー法は下方涙液メニスカスを測定し,曲率半径CRを求める方法であり4),涙液メニスカスの曲率半径CRは涙液貯留量と正の相関があることが報告されている5).涙道閉塞症の治療法は大きく分けて二つあり,涙管チューブ挿入術と涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhynostomy:DCR)であるが,今回筆者らは涙道閉塞症に対し涙管チューブ挿入術を適用した症例の涙液クリアランスを評価したので報告する.なお,本研究では涙液メニスカスの曲率半径CRを涙液貯留量の指標とし,BSS点眼液を点眼することで一時的に涙液貯留量を増やし,時間ごとの涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの評価の指標とした.CI対象対象はC2017年C3月.2017年C12月に京都府立医科大学附属病院眼科にて,総涙小管閉塞症または鼻涙管閉塞症に対し涙管チューブ挿入術を施行し,チューブ抜去後C1カ月まで経過観察可能であったC15例C18眼(男性C3例,女性C12例,平均年齢C70.1C±13.2歳)である.そのうち内視鏡併用群はC4例6眼(男性C1例,女性C3例,平均年齢C76.3C±8.5歳),内視鏡非併用群はC11例C12眼(男性C2例,女性C11例,平均年齢C68.7±14.7歳)である.治療眼の閉塞部位の内訳は表1に示す.チューブは全例C2カ月で抜去を行った.今回抗癌剤の影響による涙道閉塞症例,涙道狭窄症例,機能性流涙症例などは除外した.対象患者には京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得たうえでインフォームド・コンセントを行い,同意を得て測定を行った.表1閉塞部位鼻涙管閉塞総涙小管閉塞内視鏡併用症例5眼1眼内視鏡非併用症例5眼7眼II方法Video-meniscometerを用いて点眼負荷前の下方涙液メニスカスを測定して曲率半径CRを算出し,涙液貯留量を比較,検討した.BSS点眼液C20Cμlを点眼後,点眼直後,点眼後C1分,2分,3分,4分,5分にCvideo-meniscometerを用いて下方涙液メニスカスを測定し曲率半径CRを求め,点眼負荷後のCRの変化を涙液クリアランスの指標として比較,検討した(涙液クリアランス試験).また,治療眼を内視鏡併用群と内視鏡非併用群に分け,点眼負荷前の涙液メニスカスの曲率半径CR,および点眼負荷後のCRの変化を比較,検討した.測定時期は術前,チューブ挿入後C1カ月,チューブ挿入後2カ月(抜去直前),チューブ抜去後C1カ月である.使用したチューブは,PFカテーテルCR(TORAY社製,ポリウレタン),ラクリファストR(カネカメディックス社製,スチレン・イソブチレン・スチレン共重合体とポリウレタンの混合樹脂),FCIヌンチャクCR(Zeiss社製,シリコン)のC3種類で,内視鏡併用群にCPFカテーテルCR,内視鏡非併用群にC3種類すべてのチューブを使用した.このとき内視鏡併用群はシース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedCendoscopicprobing:SEP)により閉塞部位を突破し,シースに接続しやすいという理由でCPFカテーテルCRを使用した.CIII結果点眼負荷前の涙液貯留量の変化を図1に示す.治療眼全体の術前後を比較すると,すべての時期で有意差が認められ,術後の涙液貯留量は減少したことが示された.また,内視鏡併用群の点眼負荷前の涙液貯留量の変化,内視鏡非併用症例の点眼負荷前の涙液貯留量の変化を術前後で比較すると,両群ともに術後は有意差が認められ,涙液貯留量は減少したことが示された.治療眼全体の涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図2に示す.術前と比較すると,術後のすべての時期(挿入後C1カ月,挿入後C2カ月,抜去後C1カ月)において点眼負荷前のCR値は有意に減少し,涙液クリアランスの指標である点眼負荷後のCR値の減少率においても明らかな改善を認めた.内視鏡併用群における涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図3に示す.術前と比較すると,挿入C1カ月の点眼後C1分,2分,■術前■挿入後1カ月■挿入後2カ月1.81.6メニスカスの曲率半径R(mm)メニスカスの曲率半径R(mm)メニスカスの曲率半径R(mm)1.41.210.80.60.40.20点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後治療眼全体内視鏡併用内視鏡非併用直後1分2分3分4分5分(n=18)(n=6)(n=12)n=18平均値±標準偏差*p<0.05平均±標準偏差Steel検定図2点眼負荷後の涙液貯留量の変化図1点眼負荷前の涙液貯留量の変化メニスカスの曲率半径R(mm)1.41.210.80.60.40.201.81.61.41.210.80.60.40.2点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後直後1分2分3分4分5分n=6平均値±標準偏差図3内視鏡併用群における点眼負荷後の涙液貯留量の変化3分,4分,5分,挿入後C2カ月の点眼後C1分,2分,3分,4分,5分,抜去後C1カ月の点眼後C1分,3分,4分,5分でR値は有意に減少していた.有意差が認められなかった時間はあるものの,術後は涙液貯留量が減少し,涙液貯留量の減少率すなわち涙液クリアランスの改善が認められた.内視鏡非併用群の涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図4に示す.術前と比較すると,チューブ挿入後C1カ月の点眼直後以外で有意差が認められた.内視鏡非併用群においても有意差が認められなかった時間はあるものの,術後は涙液貯留量が減少し,涙液クリアランスの改善が認められた.CIV考按涙液貯留量の指標である涙液メニスカスの曲率半径CRの正常値は約C0.25.0.3Cmmといわれている3).これをもとに点眼負荷前の涙液貯留量を術前後で比較すると,治療眼全体の涙液貯留量は涙管チューブ挿入術後各時点で正常値となり,また内視鏡併用非併用の有無にかかわらず,涙液貯留量は術後各時点でほぼ正常値となった(図1).このことから涙管チューブ挿入術により,涙液貯留量は挿入術後C1カ月で正0点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後直後1分2分3分4分5分n=12平均値±標準偏差図4内視鏡非併用群における点眼負荷後の涙液貯留量の変化常化することがわかった.点眼負荷後の涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの指標として術前後で比較すると,治療眼全体では治療後のすべての時期で点眼負荷後の涙液貯留量が減少し,涙液クリアランスの改善を認めた(図2).これより涙管チューブ挿入術により涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの両方が改善することが示唆された.また,内視鏡併用群では,チューブ抜去後1カ月ではチューブ挿入中より涙液貯留量が高い結果となった(図3).この結果よりチューブを留置することで内眼角が引き締まり眼輪筋のポンプ機能がよくなることや,毛細管現象により涙液が引き込まれやすい状態になっていることが考えられる.しかし,内視鏡非併用群では,チューブ挿入中よりもチューブ抜去後C1カ月のほうが涙液貯留量は低くなった(図4).これよりチューブが仮道に挿入されていたり,正しく鼻腔内へ留置されていないために,涙液が涙道から鼻腔へとうまく排出されていない症例が含まれている可能性が示唆される.涙管チューブ挿入術は従来,盲目的にチューブ挿入を行うことが一般的であり,涙道外組織にチューブが挿入されることや仮道形成のリスクがあった7,8).しかし,2000年代初めには涙道内視鏡が開発され,涙道内を可視化できるようになると,涙道粘膜の性状評価ができるようになった7).また,近年,SEPが行われるようになると,より正確にチューブ挿入を行うことができるようになった8).本研究ではCSEP症例と盲目的操作によるチューブ挿入症例を比較し検討したが,どちらの症例においても,涙液の静的変化である涙液貯留量と涙液の動的変化である涙液クリアランスの両要素の改善が示唆された.また,チューブ挿入によって流涙が改善されることにより視機能(qualityCofvision:QOV)の改善が得られるという報告もあり9,10),涙管チューブ挿入術による涙液貯留量の減少および涙液クリアランスの改善は,QOVの改善に寄与すると考えられる.チューブ留置期間について,本研究ではチューブ留置期間をC2カ月としたが,上述のとおりチューブ留置の効果として涙道閉塞部位が開放されることのほか,チューブが挿入されることで内眼角が引き締まり眼輪筋のポンプ機能がよくなることや,毛細管現象により涙液が引き込まれやすい状態になることがあげられる.しかし,チューブの長期留置はバイオフィルムの付着や異物反応,粘膜の扁平上皮化成を引き起こすことがある.そのためチューブ留置期間はC2.3カ月が最適であり,留置中は定期的な洗浄をすることでチューブの清潔さを保つことも必要であるとされている7).本研究では点眼負荷直後からの涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの指標としているが,実際は点眼後にCvideo-meniscometerを用いて涙液メニスカス半径を測定するまでには数秒のタイムラグが存在するため,厳密には点眼直後の数値ではないといえ,真の点眼直後の値より小さく測定されている可能性を考慮する必要がある.また,本研究では測定期間を抜去後C1カ月までに限定し検討を行ったが,今後経過観察期間を延長し,抜去後C1カ月以降も涙液クリアランスが維持されるかどうかの検討が必要である.また,経過観察期間を延長して検討を行うと再閉塞を引き起こす症例が出る可能性があるため,再閉塞率の検討も同時に行う必要があると考えられる.さらに今回の対象は15例C18眼と少なく,そのうち内視鏡併用群はC4例C6眼,内視鏡非併用群はC11例C12眼と症例数に差があることで有意差を認めにくかったこともあり,今後症例数を増やしての検討が必要である.今回,涙管チューブ挿入術後の涙液貯留量および涙液クリアランスを客観的に評価した.その結果,涙道内視鏡併用の有無にかかわらず涙管チューブ挿入術によって,涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの改善が得られることが示唆され,涙道閉塞症に対する涙管チューブ挿入術の客観的有用性が示された.文献1)鄭暁東,小野眞史:前眼部COCT点眼負荷涙液クリアランス試験.あたらしい眼科31:1645-1646,C20142)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmologi-caC92:105-111,C20143)横井則彦,加藤弘明,小野眞史ほか:メニスコメトリ法.涙液メニスカスを指標とした涙液の量的評価.涙液クリアランステスト.専門医のための眼科診療クオリファイC19ドライアイスペシャリストへの道,中山書店,20134)YokoiCN,CBronCA,CTi.anyCJCetal:Re.ectiveCmeniscome-try:aCnon-invasiveCmethodCtoCmeasureCtearCmeniscusCcurvature.BrJOphthalmolC83:92-97,C19995)YokoiCN,CBronCA,CTi.anyCJCetal:RelationshipCbetweenCtearCvolumeCandCtearCmeniscusCcurvature.CArchCOphthal-molC122:1265-1269,C20046)横井則彦,濱野孝:メニスコメトリーとビデオメニスコメーター.あたらしい眼科C17:65-66,C20007)三村真士:涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞―涙管チューブ挿入術―.あたらしい眼科32:1681-1686,C20158)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,C20089)井上康,下江千恵美:涙道閉塞に対する涙管チューブ挿入術による高次収差の変化.あたらしい眼科C27:1709-1713,C201010)井上康:涙道閉塞と視機能.あたらしい眼科C30:929-936,C2013C***

医療用抗アレルギー点眼薬の処方解析

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1683.1687,2018c医療用抗アレルギー点眼薬の処方解析中田雄一郎葛.城.秀大阪大谷大学薬学部医薬品開発学講座CAnalysisofMedicalAntiallergicEyeDropFormulationsYuichiroNakadaandShuKatsuragiCLaboratoryofDrugDevelopment,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversityC目的:抗アレルギー点眼薬(59品目)の原薬・製剤特性および処方内容を解析することで,今後の抗アレルギー点眼薬の処方設計の傾向を知ることを目的とした.対象および方法:医薬品医療機器総合機構(PMDA)で公開されている添付文書,インタビューフォームならびに審査報告書を資料としてデータを集め解析した.結果:点眼薬のCpHは一定範囲(pH4.0.8.5)にコントロールされていたが,浸透圧は一般的な点眼薬の範囲(生理食塩水に対する浸透圧比C0.5.2.0)を超えるものもあった.可溶化剤はC3種で全製品C59品目中C24品目に,防腐剤はC4種でC59品目中C55品目に使用されており,それぞれポリソルベートC80とベンザルコニウム塩化物(BAK)がおもに用いられていた.また防腐剤フリー容器を使用した製品はC4品目であった.安全性に影響するCBAKの使用割合はC2000年以降の上市製品でC80%程度であった.結論:可溶化剤,防腐剤とも使用される品目は限定され,緑内障点眼薬と同様に長期に使用される可能性の高い抗アレルギー点眼薬もCBAKの使用割合は低減していた.CPurpose:Tobetterunderstandtheformulationdevelopmenttrendofmedicalantiallergiceyedrops,weana-lyzedtheirformulations.Subjectsandmethod:Thecharacteristicsofactivepharmaceuticalingredients,pharma-ceuticalproductsandformulationsof59medicalantiallergiceyedropswereanalyzed,referringtodescriptionsontheCpackageCinserts,CinterviewCformsCandCreviewCreports.CResults:TheCpHCwasCwellCcontrolledCwithinCaC.xedrange(pH4.0-8.5)C.TheCosmoticCpressureCwasCgenerallyCaroundC1.0,CbutCsomeCproductsCwereCoutsideCtheCnormalCrange.CTheClimitedCthreeCkindsCofsolubilizers(mainlyCTween80)andCfourCkindsCofpreservatives(mainlyBAK)CwereCused.CTheCproductsCusingCpreservative-freeCcontainersCcomprisedCfourCitems.CTheCuseCratioCofCBAK,CwhichCa.ectssafetyinmarketingproducts,wasaround80%from2000toC2016.CConclusion:Ingredientsusedassolubi-lizersandpreservativeswerelimited,andtheuseratioofBAKinantiallergiceyedropswasreducedasinmedicalglaucomaeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1683.1687,C2018〕Keywords:抗アレルギー点眼薬,処方内容,製剤開発,可溶加剤,防腐剤.antiallergiceyedrop,formulation,productdevelopment,solubilizer,preservative.Cはじめに点眼薬は結膜.などの眼組織に適用する無菌製剤であり1),浸透圧,pH,薬物の水溶液中での安定性確保などが重要となる.また,ユニットドーズ製剤を除き,開封後も数週間にわたり使用を繰り返す製剤であることから,防腐剤の添加や処方の組み合わせも重要となる2).筆者らは長期にわたって使用される緑内障点眼薬の開発変遷を原薬特性,製剤特性,処方内容から調査し,各社の製剤設計の考え方・工夫について報告した3).アレルギー性結膜疾患はアレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタル,巨大乳頭結膜炎にC4分類され,そのなかでアレルギー性結膜炎は季節性と通年性に分類される.調査対象とした抗アレルギー点眼薬はアレルギー性結膜炎(通年性,季節性)と春季カタルに使用され,ケミカルメディエーター阻害薬,ヒスタミンCHC1受容体遮断薬,免疫抑制薬が主薬として使用されている4).〔別刷請求先〕中田雄一郎:〒584-8540大阪府富田林市錦織北C3-11-1大阪大谷大学薬学部医薬品開発学講座Reprintrequests:YuichiroNakada,Ph.D.,LaboratoryofDrugDevelopment,FacultyofPharmacy,OsakaOhtaniUniversity,3-11-1Nishikiori-kita,Tondabayashi,Osaka584-840,JAPANC12108642る主薬の種類はC12種類であった.ケミカルメディエーター阻害薬(クロモグリク酸ナトリウムやペミロラストカリウムなど)は全体的に副作用が軽く眠気も出ないといわれているが,ケミカルメディエーター遊離抑制発現に数週間を要するため,毎日規則正しく用いる必要がある6).ヒスタミンCHC1受容体遮断薬は第C1世代と第C2世代に分けられ,第C1世代のジフェンヒドラミン塩酸塩などは即効性があるが,眠気など製品数の副作用がある6).第C2世代のケトチフェンフマル酸塩,エピナスチン塩酸塩,オロパタジン塩酸塩はケミカルメディエーター阻害薬より即効性があり,HC1受容体遮断作用のほかにケミカルメディエーター遊離抑制作用ももち,それに加えエピナスチン塩酸塩とオロパタジン塩酸塩は眠気の副作用が起こりにくい特徴をもっている6).1990年代に入ってヒスタ1984~19891990~19992000~20092010~2016図1各種抗アレルギー点眼薬の上市時期の年代別推移今回,緑内障点眼薬と同様に長期にわたり使用される可能性の高い抗アレルギー点眼薬の原薬特性,製剤特性ならびに処方内容を調査解析し,製剤的な特徴を知り,今後の製剤開発に役立てることを目的とした.CI対象および方法医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ上で公開されている医療用医薬品の添付文書情報の検索機能5)を用いて,薬効分類「眼科用剤」,項目内検索C1「効能又は効果/用法及び用量」「アレルギー」を入力し,ヒットした計C59品目の添付文書とインタビューフォーム,一部は審査資料から主薬や製剤の特性,処方内容の各種情報を得た.調査は2016年C3月までに上市され,現在日本国内で販売されている製品を対象とした.得られた情報をマイクロソフト社のエクセルC2010に入力しデータベース化し,解析を行った.CII結果と考察1.製品数と上市時期現在も使用されている抗アレルギー性点眼薬の製品の薬効群と先発/後発品別の上市時期の年代別推移を図1に示す.1984年に主薬がケミカルメディエーター阻害薬であるクロモグリク酸ナトリウムのインタールR点眼液C2%が発売された.1980年代はケミカルメディエーター阻害薬のみだったが,1991年にヒスタミンCHC1受容体遮断薬を主薬とするザジデンR点眼液C0.05%(主薬:ケトチフェンフマル酸塩)が発売された.その後,2000年代に入るとC2006年に免疫抑制薬を用いたパピロックRミニ点眼液C0.1%(主薬:シクロスポリン)が,2008年にタリムスCR点眼液C0.1%(主薬:タクロリムス)が春季カタルを効能として上市された.対象となった抗アレルギー性点眼薬C59製品で使われていミンCHC1受容体遮断薬が上市された理由の一つは,ケミカルメディエーター阻害薬は効果の発現が遅いためと考えられる.先発品と後発品に分けて比較すると,ケミカルメディエーター阻害薬のクロモグリク酸ナトリウム配合の(先発品)インタールR点眼液C2%がC1984年に上市されてからC1990年代にC6製品,2000年代にC10製品の後発品が上市されている.ヒスタミンCHC1受容体遮断薬はケトチフェンフマル酸塩を配合する(先発品)ザジテンCR点眼液C0.05%がC1991年に上市されてから,1990年代にC10製品,2000年代にC7製品の後発品が上市されている(図1).防腐剤フリー容器を用いる製品は,ユニットドーズタイプのインタールR点眼液CUD2%(1995年上市)とパピロックCRミニ点眼液C0.1%(2006年上市),多回投与可能な防腐剤フリー容器を用いたクモロールRPF点眼液C2%(2003年上市)とトラメラスRPF点眼液C0.5%(2006年上市)の計C4品目である.10品目以上の防腐剤フリー容器の使用実績のある緑内障点眼薬と比較すると,防腐剤フリー容器の使用製品数は抗アレルギー点眼薬のほうが少ない.C2.主薬濃度・pH・浸透圧ケミカルメディエーター阻害薬の濃度は,クロモグリク酸ナトリウムなどを配合するC2%の点眼薬とトラニラストほかを配合するC0.5%以下のものに分かれた.そのなかで最低濃度の製品は,イブジラストを配合するケタスCR点眼液C0.01%である.一方,ヒスタミンCHC1受容体遮断薬はC0.1%のオロパタジン塩酸塩を配合するパタノール点眼液を除き,0.025%のレボカバスチン塩酸塩を配合するリボスチンCR点眼液など,主薬濃度はC0.025.0.05%の範囲であった(図2).免疫抑制薬はタリムスCR点眼液C0.1%,パピロックCRミニ点眼液0.1%とも主薬濃度はC0.1%であった.各製品のCpH規格はCpH4.0.8.5のレンジ内であった.各製品の緩衝能については入手できる資料からは判別できないが,涙液には緩衝能があり7),しかも点眼液に対して涙液による希釈が急速に行われるので,点眼薬は必ずしも涙液のa:ケミカルメディエーター阻害薬のb:ヒスタミンH1受容体遮断薬の薬物濃度薬物濃度0.120.12.52薬物濃度(%)1.51薬物濃度(%)0.080.060.040.50.0201980019902000201020201980199020002010上市時期(年)上市時期(年)図2各種抗アレルギー点眼薬の上市時期と薬物濃度2020表1一般的な浸透圧の範囲を超える抗アレルギー点眼薬浸透圧(生理食塩液に対する比)製品名0.15.C0.35クロモクリークCR点眼液2%0.2.C0.3クロモグリク酸ナトリウム点眼液2%約C0.3トーワタールCR点眼液2%2.3.C3.3レボカバスチン塩酸塩点眼液C0.025%「FFP」「JG」「KOG」「サワイ」「ファイザー」2.8.C3.8レボカバスチン塩酸塩点眼液C0.025%「イセイ」pH7.4に一致させる必要はない.しかし,正常の.に近づけることにより,適用時の不快感や刺激を軽減することができ,また,刺激による涙液増加によって主薬が希釈されることを防ぐことができる.生理食塩水に対する浸透圧比はC1.0前後のものがほとんどあるが,クロモグリク酸ナトリウムを主薬とする点眼薬のなかには低浸透圧(0.15.0.35やC0.2.0.3)のものや,逆にレボカバスチン塩酸塩を主薬する点眼薬のなかには高浸透圧のもの(2.3.3.3やC2.8.3.8)があった(表1).浸透圧は一般に塩化ナトリウムに換算してC0.5.2.0%の範囲で浸透圧の差に基づく不快感をあまり感じないとされおり8),表1に示す各製品は使用時の眼刺激性が懸念されるが,刺激による掻痒感の一時的な解消の可能性も否定できない.C3.主薬の溶解度と製品に使用されている可溶化剤調査対象のC59品目の製品で使用されている主薬はC12種類で,主薬の水に対する溶解度は「ほとんど溶けない」がアンレキサノクス,トラニラスト,レボカバスチン塩酸塩,シクロスポリン,タクロリムスのC5種,「きわめて溶けにくい」がアシタザノラスト,イブジラストのC2種,「溶けにくい」がケトチフェンフマル酸塩,「やや溶けにくい」がオロパタジン塩酸塩の各C1種,「溶けやすい」がクロモグリク酸ナトリウム,エピナスチン塩酸塩,ペミロラストカリウムのC3種であった.59製品中,可溶化剤を用いているC24製品のほとんどは主薬に「ほとんど溶けない」に分類される原薬を用いていた.使用されている可溶化剤はポリソルベートC80(Tween80),ポリオオキシエチレンヒマシ油,ステアリン酸ポリオキシルC40のC3種に限定されていた(表2).しかし,このなかで「溶けやすい」に分類されるペミロラストカリウムを含有するアラジオフR点眼液C0.1%とクロモグリク酸ナトリウムを含有するノスランCR点眼液C2%にCTween80が使用されていた.両製剤とも主薬濃度から可溶化剤は不要と考えられるが,アラジオフCR点眼液には濃グリセリンやトロメタモールが処方成分に含まれることから,Tween80配合は差し心地を意識した処方設計の可能性もある.一方,ノスランR点眼液はCTween80,ベンザルコニウム塩化物(BAK),pH調整剤だけの単純な処方のため,差し心地を意識した処方というよりは主薬濃度がC2%と高く,冬季などの低温保管時の主薬析出を考慮した処方設計になっているのではないかと考えられる.C4.防腐剤抗アレルギー点眼薬に使用されている防腐剤の年代別推移を表3に示す.59製品中,BAK含有製剤はC50品目,パラ表2抗アレルギー点眼薬に使用されている可溶化剤の種類と上市時期可溶化剤可溶化剤を使用した製品数ポリソルベートC80ポリオキシエチレンヒマシ油ステアリン酸ポリオキシルC401984.C1989C0C0C0C01990.C19994(3)1(1)C05(4)2000.C200913(10)C01(0)14(10)2010.C20165(5)C0C05(5)合計22(18)1(1)1(0)24(19)()内は後発品数.表3抗アレルギー点眼薬に使用されている防腐剤の種類ならびに防腐剤フリー製品の上市時期上市時期(年)防腐剤防腐剤を使用した製品数防腐剤フリー製品数総製品数ベンザルコニウム塩化物パラベン類ホウ酸クロロブタノC.ルCUD*CMD**1984.C19891(0)1(0)1(0)C02(0)C0C0C21990.C199922(18)C03(2)C022(18)1(0)C0C232000.C200920(15)1(0)9(7)1(0)22(16)1(0)2(2)C252010.C20167(7)1(1)7(6)C09(8)C0C0C9合計50(40)3(1)20(15)1((0)55(42)4(2)C59()内は後発品数.*ユニットドーズタイプ,**マルチドーズタイプ.上市製品に対するBAKの使用割合(%)10090807060504030201001958~1970~1980~1990~2000~2010~196919791989199920092016:抗アレルギー点眼薬:緑内障点眼薬図3抗アレルギー点眼薬と緑内障点眼薬の上市時期別BAK使用率オキシ安息香酸エステル(パラベン類)含有製剤はC3品目,ホウ酸・ホウ砂含有製剤はC20品目,クロロブタノール含有製剤はC1品目,防腐剤フリー容器を使用した製剤はC4品目であった.1製剤に複数の防腐剤を配合する例もあった.一方,BAK以外でアレジオンCR点眼液C0.05%のようにホウ酸だけが配合される製品もあった.1990年代は上市製品C23品目に対してC22品目にCBAKが多用されてきたが,2000年代以降,BAKの使用頻度が低下している.これはCBAKが角膜の細胞膜に作用して角膜上皮障害,あるいは薬剤アレルギーを起こすことが報告されるようになり9,10),角膜障害が低いと考えられているホウ酸やパラベン類が防腐剤として選択されたためと考えられる.BAKの使用率3)を緑内障点眼薬と比較した結果を図3に示す.1990年代,2000年代とも緑内障点眼薬のほうが抗アレルギー点眼薬よりもCBAKの使用割合が低いが,2010年代に入ると両者とも約C80%の使用率を示している.ただ,依然多くの抗アレルギー点眼薬でCBAKが使用されているのは,BAKは保存効力作用とともに界面活性作用もあり製剤の品質を保つために他の防腐剤への変更がむずかしい,防腐剤の変更による生物学的同等性の確保が必要,あるいはCBAK以外では欧州の厳しい防腐効力試験11)に合格できないなどの理由が想定される.CIII考按抗アレルギー点眼薬C59品目の処方について年代別の解析を行い,長期にわたって使用される緑内障点眼薬の処方との差異について考察した.点眼薬にとって重要な差し心地(使用感)に影響する浸透圧やCpHは,特殊な例を除き,生理食塩水に対する浸透圧比は約C1に,pHはC4.8.5の一定範囲にコントロールされていることが確認できた.また,使用されている可溶化剤あるいは防腐剤の種類は限定されており,防腐剤としてCBAKを使用するケースが多かった.しかし,2000年以降,緑内障点眼薬と同様に,BAKの使用割合は低下傾向にあった.文献1)製剤総則6.目に投与する製剤6.1点眼剤.第十七改正日本薬局方解説書(田中久,柴崎正勝,江島昭ほか監修),A-108-A-113,廣川書店,20162)本瀬賢治:第C3章点眼剤の調製C14.保存剤.点眼剤,p76,南山堂,19843)中田雄一郎:医療用緑内障点眼剤の開発変遷の分析.薬剤学75:65-71,C20154)岩城正佳:8.抗アレルギー薬.眼科薬物治療ガイド(眼科診療プラクティス編集委員編),p314-317,文光堂,20045)http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch6)永井博弌:58.2抗アレルギー薬.スタンダード薬学シリーズ6薬と疾病I.薬の効くプロセス(日本薬学会編),p245-250,東京化学同人,20057)本瀬賢治:第C3章点眼剤の調製C8.緩衝剤.点眼剤,p64,南山堂,19848)植村攻:4.点眼剤と添加物.製剤設計と添加剤..医薬ジャーナル36:2791-2798,C20009)BaudouinC,deLunardoC:Short-termcomparativestudyofCtopical2%CcarteololCwithCandCwithoutCbenzalkoniumCchlorideinhealthyvolunteers.BrJOphthalmolC82:39-42,C199810)葛西浩:点眼薬の副作用.臨眼53:217-221,C199911)河合充生:食品・医薬品・環境分野等の微生物試験法および微生物汚染の制御に関する最近の話題[2]「第C17改正日本薬局方」保存効力試験法.日本防菌防黴学会誌C44:689-693,C2016C***

K-J法により把握した点眼アドヒアランスの問題点

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1679.1682,2018cK-J法により把握した点眼アドヒアランスの問題点谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座CProblemsregardingTopicalDropAdherence,AssessedbyK-JMethodMasakiTanitoCDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicineC緑内障点眼治療のアドヒアランスに関する問題点を,情報整理法の一手法であるCK-J法で把握した.松江赤十字病院眼科外来で緑内障点眼治療に関する指導を行った患者を対象に,点眼に関する理解度や点眼方法などに関する問題点・要指導点をカードに記すことで収集した.収集したカードをグループ化し,グループ間の関連性を決定した.合計198枚のカードは,10の下位項目からなるC3つの大項目に分類された.大項目のタイトルは,「①必須の知識に関する問題」「②基本的手技に関する問題」「③よりよい手技に関する問題」であった.今回抽出された項目は,今後,標準化された点眼評価表や点数表作成のための基礎データとして利用できる可能性がある.CProblemsCrelatingCtoCglaucomaCtopicalCmedicationCtherapyCwereCassessedCbyCtheCK-JCmethod,CaCmethodCforCorganizinginformation.TheproblemsassociatedwithunderstandingandthetechniquesoftopicaldropusewerecollectedfrompatientswhohadreceivedthepatienteducationprogramatMatsueRedCrossHospital,byrecord-ingeachproblemonacard.The198cardscollectedwereclassi.edinto10subgroups,whichwerere-organizedintoC3largeCgroups,including:1.CproblemsCregardingCessentialCknowledge,C2.CproblemsCregardingCessentialCtech-nique,and3.problemsregardingbettertechniques.Thetopicsidenti.edinthisstudycanbeusedtoestablishascaleforadherencemeasurementinfuturestudy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1679.1682,C2018〕Keywords:点眼アドヒアランス,緑内障薬物治療,K-J法.topicaldropadherence,glaucomamedicaltherapy,K-Jmethod.Cはじめに点眼薬による眼圧下降治療は,観血手術と並んで,緑内障治療の根幹をなす.点眼アドヒアランス(点眼薬を適切に使用すること・できること)の不良は,緑内障による失明の危険因子である1).アドヒアランス不良の患者側の要因としては,疾患に対する理解の不足や実際の点眼手技の不良など,さまざまな要因がある2).服薬指導などによりアドヒアランス改善を試みる前提として,アドヒアランスに関する問題点を把握しておくことは重要と思われる.K-J法は,その発案者である元東京工業大学教授の川喜田二郎氏のイニシャルから命名された,情報整理の一手法である3).蓄積された情報から必要な項目を取り出し,関連する項目をつなぎ合わせて整理し,統合することで情報整理がなされる.カード(紙片)を活用する点に特徴があり,内容や質がまちまちな情報をまとめ,全体を把握するのに有効な手法である4).今回,点眼アドヒアランスに関する要指導項目を把握するために,外来診療中に点眼薬使用について指導を行った患者を対象に,点眼アドヒアランスに関する問題点を収集し,K-J法により情報整理を行った結果を報告する.CI対象および方法対象は,2015年6月22日.2015年8月31日に,松江赤十字病院眼科外来を受診した患者のうち,医師・看護師の判断で緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断された者(主として,初診患者,処方変更患者,手術前後の患者,点眼使用量が多い・少ない患者,点眼の用法を知らない患者,など)である.看護師が,松江赤十字病院で通常行っている方〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MasakiTanito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(103)C1679図1K-J法の手順a:点眼アドヒアランスに関する問題点を記載したカードの収集.1カードにつきC1問題点を記載.Cb:カードを広げ,合議により小グループにまとめる.Cc:グループに表札(タイトル)付けを行う.Cd:グループの空間配置とグループの関連性について決定する.表1大項目別の頻度,性別,年齢分布性別年齢大項目枚数男性女性70歳未満70歳以上80歳未満80歳以上①必須の知識に関18126する問題C(9C.1%)C(6C6.7%)C(3C3.3%)C②基本的な手技に693435関する問題C(3C4.8%)C(4C9.3%)C(5C0.7%)C③よりよい手技に1115853関する問題C(5C6.1%)C(5C2.3%)C(4C7.7%)C756(3C8.9%)C(2C7.8%)C(3C3.3%)132729(1C8.8%)C(3C9.1%)C(4C2.0%)253254(2C2.5%)C(2C8.8%)C(4C8.6%)法により,点眼治療に関する知識や手技について指導を行った.指導を行った際に,患者の点眼に関する理解度や点眼方法などに関する問題点・要指導点について,1カードC1問題点として記録し,収集した(図1a).収集されたカードについて,医師C1名と看護師C2名の合議により関連のありそうな小グループにグルーピングを行い(図1b),そのうえで,各グループに表札(タイトル)付けを行った(図1c).小グループについて,さらに中グループ,大グループへとグルーピングを行った後に,グループの空間配置とグループの関連性について決定した4)(図1d).本研究課題は,松江赤十字病院の倫理員会で審査のうえ,承認された後に行った.個別にインフォームド・コンセントを得る代わりに,眼科外来への研究内容の掲示により本研究課題の情報を公開した.CII結果合計C198枚のカードが収集された.男性C104枚(52.5%),女性C94枚(47.5%),70歳未満C45枚(22.7%),70歳以上80歳未満C64枚(32.3%),80歳以上C89枚(44.9%)であった.K-J法により,カードの情報は「①必須の知識に関する問1680あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(104)表2下位10項目の頻度,具体例項目枚数具体例①必須の知識に関する問題1)用法の理解不足C8術後に緑内障点眼を自己中断した1日C2回点眼をC1回しか使用していない2)点眼時間が決まっていないC7仕事のため点眼時間がまちまちPG薬の時間を決めていない3)点眼間隔が短いC3複数点眼時にC5分以上あけていない②基本的な手技に関する問題4)適切な体位が取れないC29頸部後屈が不十分開瞼不良瞬目が多い5)指先の問題C5指の力が弱い手指が震える6)点眼先が確認できないC8点眼瓶の先が見えない点眼瓶の先を見ていない7)点眼瓶を構えることができないC27点眼距離が遠い空中点眼できない点眼補助具の継続使用ができない点眼位置がずれる③よりよい手技に関する問題8)数滴滴下C26不安で入っていない気がして力の調整ができない9)点眼瓶の清潔が保てないC68指が眼球に当たる薬液が指に当たる点眼瓶の先が睫毛に触れている点眼距離が近い眼周囲に点眼瓶の先が当たる10)CPG薬点眼後洗顔をしていないC17PG薬点眼後ティッシュで拭いている副作用は理解しているが面倒で洗顔していない①必須の知識②基本的な手技に関する問題に関する問題(n=18,9.1%)(n=69,34.8%)4)適切な体位が取れない(n=29)1)用法の理解不足(n=8)5)指先の問題(n=5)2)点眼時間が決まっていない6)点眼先が確認できない(n=8)(n=7)3)点眼間隔が短い7)点眼瓶を構えること(n=3)ができない(n=27)図2点眼アドヒアランスに関する問題点の関係を示す図解グループ間をつなぐ線は互いに関係があるグループ,矢印は原因と結果の関係があるグループを表す.①と②は眼圧下降効果を得るために必須の項目であるためさらにグルーピング可能である(オレンジの枠).(105)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1681題」「②基本的手技に関する問題」「③よりよい点眼手技に関する問題」のC3個の大項目に分類された(表1).これらは,10の下位項目から構成される構造となった(表2).「①必須の知識に関する問題」と「②基本的手技に関する問題」は,これらが解決されなければ眼圧下降効果そのものが阻害されるため,さらにグルC.ピング可能であり,「③よりよい点眼手技に関する問題」は,それ自体は眼圧下降効果に影響しないため,別グループと判断した.最終的に決定された空間配置を図2に示す.CIII考察三つの大項目のなかで,「①必須の知識に関する問題」では,比較的男性と若年者が多く,一方で「②基本的手技に関する問題」「③よりよい点眼手技に関する問題」では高齢者が多くみられた.高齢者ほど点眼遵守の気持ちが良好であることが報告されており5,6),今回の検討と一致する傾向を認めた.点眼アドヒアランスに関する患者教育を行う際に,若年者や多忙な患者では疾患説明や点眼治療の必要性など治療の動機づけや知識に関する指導に重点を置くこと,高齢者では具体的な点眼の用法や点眼手技に関する指導に重点を置くことが必要と推測される.大項目のなかでは「③よりよい手技に関する問題」,下位項目のなかでは「9)点眼瓶の清潔が保てないこと」が最頻であった.点眼手技の確認を行った臨床研究では,点眼瓶の先が角膜・結膜・睫毛・眼瞼へ接触することが,手技不良と判定される第一理由であることが報告されており7),本研究結果と一致する.緑内障患者では,低視力・進行した視野・下方視野欠損などの理由で「6)点眼瓶の先が確認できないこと」が手技不良の危険因子であると報告されている7).その他,「4)体位保持の困難さ」や,「5)指先の不自由さ」,その結果として,「7)点眼瓶を適切に構えることができない」などの問題が関連していると予想された.外来における点眼指導で記録されたアドヒアランスに関する問題点をCK-J法により把握した.今回抽出された項目は,今後,標準化された点眼評価表や点数表作成のための基礎データとして利用できる可能性がある.謝辞:本研究にご協力いただきました松江赤十字病院C11階病棟の看護師の皆様にお礼を申しあげます.とくに,山根未央看護師,小川佐和子看護師,坂本さゆり看護師,沖田美紀看護師,山根敦子看護師に深く感謝いたします.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:改版C-創造性開発のために.あたらしい眼科C28:1491-1494,C20113)川喜田二郎:改版C-創造性開発のために.中公新書,20174)6章問題解決4.KJ法をやってみよう.東北福祉大学リエゾンゼミ・ナビ『学びとの出会い』http://www.tfu.ac.jp/Cliaison/edu/:1-75)TseCAP,CShahCM,CJamalCNCetal:GlaucomaCtreatmentCadherenceCatCaCUnitedCKingdomCgeneralCpractice.CEyeC30:1118-1122,C20166)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveCeyedropsCinCJapan.CIntCOphthalmolC2018,CpubCaheadCofprint7)NaitoCT,CNamiguchiCK,CYoshikawaCKCetal:FactorsCa.ectingCeyeCdropCinstillationCinCglaucomaCpatientsCwithCvisualC.elddefect.PLoSONEC12:e0185874,C2017***1682あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(106)

点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1675.1678,2018c点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座CImprovementinTechniquesofTopicalDropAdministrationafterRepeatedPatientEducationMasakiTanitoCDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicineC緑内障薬物治療に関する指導を繰り返すことの効果について検討した.島根大学医学部附属病院の緑内障外来を受診し,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)について外来看護師が指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った.指導内容に関する記録を後ろ向きに調査した.70歳以上の患者では,知識よりも手技に関して問題がある頻度が高かった.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能であった.CE.cacyCofCrepeatedCpatientCeducationCinCtopicalCdropCadministrationCtherapyCinCglaucomaCpatientsCwasCassessed.CTheC168glaucomaCpatients(88male,C80female)C,judgedCtoChaveCpoorCdrugCadherence,CunderwentCaCpatientCeducationCprogramCprovidedCbyCnurses.CTheCprogramCconsistedCofC3steps:1.CCheckupCofCknowledgeCandCskillregardingglaucomatherapy,2.Pointingoutproblems,and3.Educationregardingknowledgeandskill.The3stepswererepeateduntilsu.cientimprovementwasobserved.Thepatienteducationrecordswerereviewedret-rospectively.Attheinitialcheckup,problemswerefoundmorefrequentlyregardingskill,ratherthanknowledge,inolderpatients(C≧70years).Problemsregardingskilldecreasedasthenumberofeducationsessionsincreased.With3repetitionsofpatienteducation,mostpatientstendedtoacquireappropriateskillsintopicaldropadminis-tration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1675.1678,C2018〕Keywords:点眼アドヒアランス,緑内障薬物治療,点眼指導,点眼手技.topicaldropadherence,glaucomamed-icaltherapy,patienteducationoftopicaldropadministration,topicaldropadministrationtechnique.Cはじめに点眼薬による眼圧下降治療は,もっとも一般的に行われる緑内障治療である.点眼アドヒアランス(点眼薬を適切に使用すること・できること)の不良は緑内障による失明の危険因子であり1),その改善・維持は臨床上重要な課題である.アドヒアランスを維持・改善するための方法として,疾患に対する理解や実際の点眼手技について患者指導を行うことの有効性が報告されている2).当院では,外来診療時に点眼に関するアドヒアランスが良好ではないと医師が判断した患者について,外来看護師による指導を行い,十分なアドヒアランスが得られるまで指導を繰り返している.今回,指導を繰り返すことによる点眼アドヒアランスの改善効果について,点眼指導記録を確認することで調査したので報告する.CI対象および方法対象は,2008年C12月.2011年C10月に,島根大学医学部附属病院の眼科で筆者の外来を受診した842名(男性439名,女性C403名)の緑内障患者のうち,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)で〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MasakiTanito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C1675図1島根大学医学部附属病院における点眼指導の手順まず,①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握する.そのうえで,③問題のある知識と手技について指導を行う.以上を,問題がなくなるまで受診ごとに繰り返す.a:70歳未満b:70歳以上知識手技知識手技図31回目点眼指導前の確認で点眼の知識と手技について問題あり・なしと判定された患者の割合a:70歳未満の患者では,知識に関する問題ありの頻度(27人/35人,77%)と手技に関する問題ありの頻度(31人/35人,89%)に統計学的な有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法).Cb:70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの頻度(95人/133人,71%)と手技に関する問題ありの頻度(121人/133人,91%)に統計学的な有意差を認めた(p<0.0001,CFisherの直接確率法).ある.看護師が,島根大学医学部附属病院で通常行っている方法により,点眼治療に関する指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った(図1).知識については,医師が説明した病気に関する理解度(病名,眼圧下降治療の必要性,など),点眼薬名・効能・用法403530252015105020代30代40代50代60代70代80代90代■男性1名0名1名8名12名36名32名6名人数(名)■女性0名0名1名5名7名34名21名4名図2点眼指導を受けた患者の年齢分布(点眼回数,時間,左右,点眼間の間隔,1滴滴下で十分なこと,プロスタグランジン製剤後の洗顔の必要性,など)を確認し,指導を行った.手技については,練習用の点眼液を用いて患者が実際に行っている点眼方法を実施してもらい,“的中”しているか,姿勢や点眼瓶保持が安定しているか,点眼の滴数は適切か,点眼瓶の高さが保たれているか,点眼瓶の先が眼球や眼瞼に触れていないか,などを確認した後に,問題があれば,個々の症例に応じて指導を行った.手技に関する指導は,まずは自己流の点眼方法の継続を優先し,ついで,げんこつ法(仰臥位で,げんこつを作った手で下眼瞼を開瞼,げんこつの上に点眼瓶を保持した手を添えることで点眼時の高さと位置を安定化させる方法),点眼補助具,家人への点眼依頼,の順番で指導を行うことを基本方針とした.確認・指導内容について,指導ごとにノート(点眼指導ノート)に記載した.点眼指導ノートから年齢,性,点眼の知識・手技に関して問題が確認された頻度を後ろ向きに調査し,集計した.本研究は,島根大学医学部附属病院の倫理委員会で審査のうえ,承認された後に行った.個別にインフォームド・コンセントを得る代わりに,眼科外来への研究内容の掲示により本研究課題の情報を公開した.CII結果点眼指導を受けた患者の平均年齢はC76歳(男性C74歳,女性C78歳)で,男女ともC70代が最多であり,ついでC80代であった(図2).医師が点眼指導を必要と判断した主たる理由は,緑内障についての知識・理解不足(例:自分の病名・病態を知らない,など),点眼薬の作用・副作用・必要性が理解されていない(例:点眼薬がすぐなくなる,たくさん余る,点眼回数を増やせば効果があると思っている,眼に違和感を感じるたびに緑内障点眼薬を使用している,など),点眼治療の効果が予想されたほど得られない,自己点眼が困難な病100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%1676あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(100)補助具2%げんこつ法9%人数(名)図41回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法10090807060504030201001回目確認時2回目確認時3回目確認時4回目確認時■適切89名49名29名10名■不適切79名23名8名2名図5手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化点眼指導回数が増えるほど,手技について不適切な患者の割合が減少する(図C3では,プロスタグランジン薬点眼後の洗顔方法などの不適切については知識と手技の両者について問題ありにカウントされ,本図では具体的な四つの手技の成功・不成功のみをカウントしたため,図C3の手技の問題ありと図C5の手技不適切の総数は合致しない).態・状態がある(高齢,脳梗塞後遺症,認知症,四肢振戦,関節リウマチ,Parkinson病,など)であった.1回目の点眼指導時の確認で問題ありと判定された割合は,70歳未満の患者では知識に関する問題(77%)と手技に関する問題(89%)の割合に有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法)が,70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの割合(71%)よりも手技に関する問題ありの割合(91%)が有意に高値であった(p<0.0001)(図3).1回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法は,自己流がC82%で大多数を占めた(図4).そのうち点眼手技が不適切と判定された患者(79名)については,個々の症例について実行可能性を考慮したうえで,看護(101)手技適切患者手技不適切患者ab補助具家人3%1%補助具2%1回目確認時家人cd4%2回目確認時ef3回目確認時補助具7%gh4回目確認時げんこつ法10%図6手技について適切(a,c,e,g)・不適切(b,d,f,h)と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化師の判断で自己流点眼方法の改善,げんこつ法,点眼補助具の使用,家人への点眼依頼を選択して指導を行い,次回受診時の再確認を予定した.手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化を図5に示す.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.手あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1677技について適切・不適切と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化を図6に示す.1回目確認時(点眼指導C1回後),点眼手技適切(図6a)・不適切(図6b)と判定された両者で自己流の点眼を行っている者が大多数であったが,適切と判定された患者ではやや家人による点眼の割合が高かった(適切でC11%,不適切でC1%).2回目確認時(点眼指導C2回後),適切と判定された患者(図6c)では自己流(45%)が減り,げんこつ法(25%),点眼補助具(8%),家人(22%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6d)では,自己流(78%)が多数を占めていた.3回目確認時(点眼指導C3回後),適切と判定された患者(図6e)ではさらに自己流(21%)が減り,げんこつ法(38%)と家人(34%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6f)では,自己流(75%)が多数を占めていた.4回目確認時(点眼指導C4回後),適切と判定された患者(図6g)では家人(50%)による点眼が半数を占めた.4回目の確認で手技不適切(図6h)であったのは自己流点眼のみであった.CIII考察当院で点眼アドヒアランスに関する問題が疑われ,看護師による点眼指導を受けた患者はC70.80代の高齢者が中心で,明らかな性差は認めなかった(図2).点眼治療に関する知識と手技の両者について問題を指摘された患者が大部分であったが,とくにC70歳以上の高齢者では手技に関する問題が多い傾向を認めた(図3b).高齢者ほど点眼遵守の気持ちが良好であることが報告されており3,4),今回の検討と一致する傾向を認めた.点眼アドヒアランスに関する患者教育を行う際には,若年者や多忙な患者では疾患説明や点眼治療の必要性など治療の動機づけや知識に関する指導に重点を置き,高齢者では具体的な点眼の用法や点眼手技に関する指導に重点を置くべきと思われる.点眼手技について,点眼指導回数が増えるごとに不適切と判定される患者が数・割合とも減少した(図5).適切と判定された患者では,指導を重ねるごとに自己流の点眼が減少し,げんこつ法・点眼補助具・家人への点眼を行っている割合が増加した一方で,繰り返し不適切と判定された患者では自己流の点眼方法が主流を占めていた(図6)ことから,点眼指導時に勧められた点眼方法を遵守可能であった患者ほど適切な点眼手技の獲得ができるようになったと推測される.複数回の指導を行っても点眼手技に関する問題が完全に解消されない患者がみられること,点眼指導回数が増えるに従い家人への点眼依頼の割合が高くなっていることから,自身による点眼が困難な患者が一定数存在することが示唆される.このような患者では,独居や身体的特徴(認知症,四肢麻痺,など)がその背景にあると推測されるため,メディカルソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの介入による社会的サポートについても併せて行う必要があると思われる.また,薬物治療が複数回の指導後も手技的に困難な患者は,手術治療についても考慮すべきと思われる.本研究では,一度獲得した手技の持続性については検討していないが,定期的な確認・指導体制がなければ,適切な手技の継続が困難な患者が存在すると思われる.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能と考えられた.看護師を中心とする外来スタッフによる点眼指導は緑内障点眼アドヒアランスの改善・維持に効果的と考えられた.謝辞:本研究にご協力いただきました島根大学医学部附属病院眼科外来の佐藤千鶴子看護師,川上芳子看護師,石原順子看護師,山本知美看護師,仲舎妃登美看護師に深く感謝いたします.文献1)ChenCPP.CBlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:改版C-創造性開発のために.あたらしい眼科C28:1491-1494,C20113)TseAP,ShahM,JamalNetal:Glaucomatreatmentadher-enceCataUnitedKingdomgeneralpractice.EyeC30:1118-1122,C20164)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveeyedropsinJapan.IntOphthalmol2018;e-pubaheadofprintC***1678あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(102)

基礎研究コラム 19.視神経はどこまで再生するのか-外的因子と内的因子

2018年12月31日 月曜日

視神経はどこまで再生するのか―外的因子と内的因子栗本拓治軸索再生を阻害する外的因子と内的因子視神経は,網膜神経節細胞(retinalganglioncells:RGCs)の軸索の集合体であり,中枢神経であるため,いったん損傷を受けると再生しません.しかしながら,Aguyaoのグループの一連の視神経断端への末梢神経移植を用いた先駆的研究により,損傷軸索は再生可能であることが明らかにされました.また,Schwabのグループは脊髄損傷モデルを用いて,ミエリン蛋白に対する中和抗体により損傷軸索が再生することを明らかにし,以降,軸索周囲のオリゴデンドロサイトに発現する突起伸展抑制因子として,NogoA,MAG(myelinassociatedglycoprotein),OMpg(oligodendrocyteassociatedglycoprotein)が同定されています.他にSema-phorin5A,4DやEphrins,グリア瘢痕に発現するCSPGs(chondroitinsulfateproteoglycans)やKSPGs(keratansul-fateproteoglycans)なども突起伸展抑制因子として明らかにされ,現在,これらの抑制因子が,軸索再生を阻害する外的因子として考えられています.多くの外的因子は下流の細胞内シグナルとしてRhoファミリーG蛋白の一つであるRhoAを介していることが明らかになっており,C3ribosyl-transferaseによるRhoA阻害による視神経再生効果も明らかにされています.一方,軸索がいったん損傷を受けると,神経栄養因子に対する反応性低下や細胞内cAMP発現レベルの低下,アポトー図1軸索再生を阻害する外神経細胞的因子と内的因子外的因子として,オリゴデンドロサイトのミエリンに発現するNogoA,MAG,OMgpは成長円錐に発現するPirBやNgRを介して,また,グリア瘢痕に発現するCSPGs,KSPGsはPTPSを,そして,EphrinsはEphRを介して,低分子量GTP結合蛋白のRhoAが活性化され細胞骨格蛋白に作用し,成長円錐を虚脱させる.内的因子,外的内的因子神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野シス関連因子の活性化などが起こり,軸索再生を困難にしています.これらの細胞体,軸索内の変化が内的因子として考えられています.神経細胞に対し,PTEN遺伝子欠損によるmTOR経路活性化,SOCS3遺伝子欠損によるJAK-STAT経路活性化,cAMPアナログ投与,Toll-like受容体刺激,KLF(Kruppel-likefamily)転写因子欠損などにより,良好な再生効果が得られています(図1).視神経疾患ではどうか?残念ながら,上記の基礎研究データをもとにしたヒト視神経疾患への臨床応用は行われていません.しかしながら,外的因子,内的因子に対する複合的なアプローチにより,マウスの損傷視神経線維を強力に再生させ,視中枢の上丘まで到達させ,わずかではありますが電気生理学的,行動学的に視機能が回復することが明らかにされています.今後の展望近年では,RGCsをiPS細胞から誘導することが可能となり,iPS誘導RGCsの軸索伸長や眼内移植の研究が精力的に行われ,RGCs補充療法への発展が期待されています.しかしながら,動物モデルでは,損傷視神経線維を視中枢まで到達させることは可能になりましたが,良好な視機能回復には至っていません.今後,機能的なシナプス形成促進,網膜部位再現の再構築など,大きな課題が残されています.OMpgMAGNogoAEphrins外的因子・神経栄養因子に対する反応性低下突起伸展抑制因子因子に対しさまざまな試みが・細胞内cAMP低下・ミエリン:NogoA,MAG.OMpgなされ,軸索再生効果が明ら・アポトーシスetc・グリア瘢痕:CSPG,KSPGかにされている(太矢印).・Semaphorin5A,EphrinsetcPTPS:proteintyrosine・mTOR経路/JAK-STAT経路活性化phosphataseS,PirB:・cAMPアナログ・C3ribosyltransferaseによるpairedimmunoglobulin-like・Toll-like受容体アゴニストRhoAの不活化・KLF転写因子抑制・NgR遺伝子欠損receptorB.・ChondroitinaseABC(89)あたらしい眼科Vol.35,No.12,201816650910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 187.高圧放水による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)

2018年12月31日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載187187高圧放水による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに高圧放水とは非常に高い圧力で水を噴出することで,日常では自動車やビルの窓ガラスの洗浄,建物の解体などに使用されている.高圧放水による眼外傷は鈍的眼外傷の所見を呈することが多く,角膜上皮傷害,角膜裂傷,角膜内皮傷害,前房出血,虹彩離断,外傷性白内障,水晶体脱臼,硝子体出血,外傷性網膜.離などの報告がある1~4).筆者らは以前に高圧放水により眼球破裂をきたしたC1例を報告したことがある5).C●症例49歳,男性.ビルの解体作業中に至近距離から高圧放水を浴び,右眼を受傷した.右眼に多量の前房出血,硝子体出血を認め,眼底は透見不能であったため,受傷13日後に硝子体手術を施行した.前房洗浄後に水晶体亜脱臼と虹彩根部離断が確認された.出血で混濁した硝子体を切除し,眼底の状態を確認したところ,下鼻側に網膜巨大裂孔およびその周囲に出血性脈絡膜.離と網膜.離を認めた(図1).また,内直筋付着部近傍の強膜が一部裂けて,網膜が嵌頓していた(図2).同部位を縫合した後,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,シリコーンオイルタンポナーデを施行したが,術後の矯正視力は0.02にとどまった.C●高圧放水と眼外傷高圧放水を行なう高圧放水器の水圧には非常に幅があり,自動車の洗車などは約C30Cl/分(水道水のC40倍の圧)であるが,ビルの解体などに使用される機器ではその10倍のC300Cl/分にも及ぶ.本症例は,ビルの解体に用いられる非常に圧の高い機器による放水を,作業中に誤って眼球局所に受けたものと考えられる.高圧放水による眼外傷は受傷時の状況にもよるが,1カ所に圧が集中すると過度に眼球の変形をきたし,眼球破裂に至るこ(87)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)下鼻側に網膜巨大裂孔およびその周囲に出血性脈絡膜.離と網膜.離を認めた.(文献C5より引用)図2術中所見(2)内直筋付着部下端近傍の強膜が裂けて網膜が嵌頓していた.(文献C5より引用)ともある.今回は幸いにして受傷は右眼のみであったが,高圧放水自体に幅があることから両眼性の報告も多い4).本症例のような外傷を予防するためには,作業中にゴーグルなどを着用することが重要と考えられる.文献1)Tejero-TrujequeR:High-pressureCwaterCjetinjuries:aCsurgicalemergency.JWoundCCareC9:175-179,C20002)KwongCTQ,CKhandwalaM:CornealCDescemet’sCmem-braneruptureinapatientsustaininghigh-pressurewaterjetinjury.CanJOphthalmolC50:e35-e36,C20153)GeorgalasI,LadasI,TaliantzisSetal:Severeintraoculartraumaina.remancausedbyahigh-pressurewaterjet.ClinExpOphthalmol39:370-371,C20114)LandauCD,CBersonD:High-pressureCdirectedCwaterCjetsCasCaCcauseCofCsevereCbilateralCintraocularCinjuries.CAmJOphthalmolC120:542-543,C19955)OosukaCS,CSatoCT,CTajiriCKCetal:ACcaseCofCaCrupturedCeyeballCcausedCbyChigh-pressureCwaterCjets.COphthalmicCSurgLasersImagingRetinaC49:451-455,C2018あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1663

眼瞼・結膜:ドライアイと粘膜皮膚移行部

2018年12月31日 月曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人山田昌和45.ドライアイと粘膜皮膚移行部杏林大学医学部眼科学教室粘膜皮膚移行部(Marxline)の変化は見逃しやすいドライアイの増悪因子の一つである.Marxlineの変化はマイボーム腺機能不全の存在を示唆するだけでなく,メニスカス形成不全から直接的に涙液層の不安定化を招く.結膜弛緩症や下眼瞼外反,兎眼とともに,メニスカス形成不全の原因として眼瞼縁の粘膜皮膚移行部の変化を意識しておきたい.●はじめにドライアイは涙液層の不安定性を示す疾患であり,臨床的には涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)の短縮で表現される.BUTが短縮する最大のリスク因子は涙液量の減少であるが,涙液量が十分あっても涙液メニスカスが十分に形成されず,涙液層の形成に支障をきたすことがある.結膜弛緩などのメニスカス占拠病変や下眼瞼外反,兎眼によるものが代表的であるが,もう一つ見逃しがちな要因がある.それは眼瞼縁の粘膜皮膚移行部の変化である.ここでは,粘膜皮膚移行部の変化とドライアイとの関係について概説する.C●粘膜皮膚移行部とMarxline眼瞼縁は眼瞼結膜と皮膚が接する部分であり,フルオレセインなどで生体染色を施すと,正常者では眼瞼皮膚移行部がC1本の線として描出される(図1).結膜と皮膚のバリア機能,親水性の差によって瞼縁の結膜側が染色されるもので,Marxlineとよばれる1).正常ではマイボーム腺開口部はCMarxlineの前方,皮膚側に開口しており,睫毛根部はさらにその前方に位置する(図2).CMarxlineを境界として涙液メニスカスが形成され図1正常者の粘膜皮膚移行部フルオレセイン染色を施すと,直線状のCMarxlineが観察される.(85)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYる.眼瞼皮膚は疎水性であり,涙液が外にこぼれ出るのを阻止している.マイボーム腺分泌物は涙液に直接流入するのではなく,いったん瞼縁の皮膚側に分泌され,瞬目によって少しずつ涙液に溶け込んでいくことになる.波打ち際に盛られた砂の塊が,波によって徐々に海に持ち去られていくようなイメージである.瞼縁に存在する脂質量はおよそC300Cμgであるのに対し,涙液中の脂質総量はC9Cμg程度であり,マイボーム腺分泌物のうち涙液に移行するのは全体のC3%にすぎない2).涙液にマイボーム腺分泌物や皮脂を加えると涙液の安定性が著しく損なわれることが知られており,無制限な脂質の混入は望ましくない.精密な分泌制御機構をもたないマイボーム腺にとって,腺開口部の位置とCMarxlineの存在は,脂質の過剰な涙液への混入を防止するための重要な生理的役割を担っていると解釈される.C●粘膜皮膚移行部の変化生体染色を施した状態でCMarxlineを観察すると,ドライアイ患者や高齢者では直線性が失われ,波打ったように描出されることがある(図3).結膜が前方移動する形が多いが,後方移動する場合もある.こうした粘膜皮膚移行部の変化が生じやすい要因は,マイボーム腺機能図2正常者のマイボーム腺開口部マイボーム腺開口部はMarxlineの皮膚側にある.あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1661図3マイボーム腺機能不全患者の粘膜皮膚移行部Marxlineの乱れと前方移動があり,マイボーム腺の一部は結膜上に開口している.不全(meibomianglandCdysfunction:MGD)と加齢であり,最初の変化は耳側C1/3に生じる.MGDも加齢と関係しており,無症候性のものを含めるとその有病率は50歳代でC35%,60歳代でC51%に達するという報告もある3).Marxlineの変化はCMGDの程度と相関すると報告されており,両者には密接な関係がある1).MGDはドライアイとの関連も深く,厳しい基準で評価した場合でもドライアイ患者のC20%以上がCMGDを合併している4).なぜCMarxlineの不整が生じるのか詳細はわかっていない.MGDと関係が深く,Stevens-Johnson症候群では粘膜皮膚移行部の異常が顕著であることなどから,眼瞼・結膜の炎症が成因として示唆されるが,ほかにも加齢や眼瞼の細菌叢など複数の要因の関与が推測されている(図4).因果関係には不明の点も多いが,ドライアイとCMGD,Marxline変化のC3者の関係は知っておきたい.C1662あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018図4Stevens.Johnson症候群慢性期であるが,粘膜皮膚移行部の異常が顕著である.C●不整なMarxlineがもたらすもの前述したようにCMarxlineは涙液メニスカスの足場となる部分であり,その不整は結膜と眼瞼の境界を不鮮明にし,メニスカスの形成を妨げる.Marxlineの不整があると涙液が皮膚側に溢れやすくなってしまい,涙液のロスが観察されることがある(図5a).メニスカスの形成不全は涙液層の安定性を損なう因子であり,ドライアイを生じやすくなる.また,Marxlineの前方移動によってマイボーム腺開口部が結膜上に開口するようになる.分泌されたマイボーム腺分泌脂(meibum)が涙液中で過剰になる場合には,瞼縁の泡形成(foaming)を生じやすくなる(図5b).脂質の鹸化反応によるもので,涙液の質の低下により涙液層の不安定化と細胞毒性による角膜上皮障害をきたすので,ドライアイの病態を増悪する因子となる.C●おわりに見逃しやすいドライアイの増悪因子として,粘膜皮膚移行部(Marxline)の変化について述べた.MGDの存在を示唆する所見としてだけではなく,メニスカス形成不全や涙液の質の低下を招いて直接的に涙液層の安定性を損ねる要因となることに注意したい.文献1)YamaguchiCM,CKutsunaCM,CUnoCTCetal:Marxline:C.uoresceinCstainingClineConCtheCinnerClidCasCindicatorCofCmeibomianCglandCfunction.CAmJCOphthalmolC141:669-675,C20062)山田昌和:涙液油層の成分とその評価.マイボーム腺機能不全の診断と治療(坪田一男編),p93-99,金原出版,20163)HomCMM,CMartinsonCJR,CKnappCLLCetal:PrevalenceCofCmeibomianCglandCdysfunction.COptomCVisCSciC67:710-712,C19904)VuCCHV,CKawashimaCM,CYamadaCMCetal:In.uenceCofCmeibomianCglandCdysfunctionCandCfriction-relatedCdiseaseConCtheCseverityCofCdryCeye.COphthalmologyC125:1181-1188,C2018(86)