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抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫の多様性

2018年12月31日 月曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二59.糖尿病黄斑浮腫の多様性村松大弐東京医科大学眼科学分野武蔵境眼科医院糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する治療は,抗CVEGF療法が第一選択にあげられるが,治療にすぐ反応する例と,遅れて反応する例があり,多様性があることが報告されている.本稿では,DMEに対する抗CVEGF療法の治療効果につき,大規模研究と自験例について概説する.大規模研究の結果米国眼科学会が主となって行ったアンケート調査C“PAT-surveyCglobaltrend”によると,糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,全世界において抗CVEGF療法が第一選択となっている.また,投与方法についても,2015年の集計では,2~3回注射して反応しない場合には代替治療を行うというのが主流であったが,2017年には,まずC4~5回注射を行ってから反応を確認するというように治療法の変化がみられる.(https://www.asrs.org/sections/international/global-trends-in-retina)わが国においてCDMEに対して使用可能な抗CVEGF薬は,ラニビズマブとアフリベルセプトのC2種類である.ラニビズマブは,24カ月毎月注射を行う大規模研究であるCRISE&RIDE研究により,12.0文字の視力改善が得られ,2.5文字改善の偽注射に対する優位性が証明され1),その後,RESTORE研究により,かつてゴールデンスタンダード治療であった光凝固に比する優位性も証明された2).この研究では最初のC3カ月は毎月注射を行い,以降はC1カ月ごとの観察を通じて,必要に応じた必要時投与(proCrenata:PRN投与)を行い,12カ月でC6.1文字改善と,0.9文字の改善に留まった光凝固と比べて優位性が報告された.一方,アフリベルセプトは,DaVinci研究により3),6カ月間毎月注射を行う群,最初のC3回を毎月注射した後C2カ月ごとの固定投与,3回投与後はCPRN投与というレジメンで行い,6カ月で,それぞれC11.4文字,8.5文字,10.3文字と,2.5文字のみ改善に留まった光凝固と比較し有意な視力改善が得られた.その後に行われた第Ⅲ相試験のCVIVID/VISTA研究でも,毎月投与群と,5回連続注射の後にC2カ月ごと固定投与群,光凝固群に割りつけ,1年後の時点で,毎月投与群でC10.5~12.5文字,2カ月ごと固定投与群でも同等と,0.2~1.2文字改善の光凝固群と比較し,有意な視力改善が得られた4).これらの研究報告以降は,抗VEGF療法が広がっている.実臨床における多様な反応しかし,実臨床においてCDMEは,浮腫の範囲(びまん性か局所性か),程度,罹病期間(急性期か慢性期か),さらには腎機能などの全身状態や血圧,血糖コントロール状態などにより病態が多彩である.同様な網膜血管病変である網膜静脈閉塞に伴う黄斑浮腫の場合では,急性期であれば抗CVEGF療法でほぼ全例で黄斑浮腫軽減がみられるが5),DMEの場合は抗CVEGF薬への反応性もさまざまなので注意が必要である.大規模研究のサブ解析では6),注射後にすぐ浮腫が軽減・消失するCearlyCresponder(図1)と,何度か治療を行うことにより,はじめて反応するCdelayedresponderが存在することが報告され(図2),約C10%の症例はCdelayedresponderであった.このため,1回注射して浮腫が軽減しなくとも,それが無反応なのかCdelayedresponderであるのか判定がむずかしいことを念頭におかねばならず,実臨床における,近年の導入期での注射回数の増加にも影響を与えている.もう一つの特徴として,DMEの場合は,抗CVEGF療法を継続するうちに病態が安定化してくることが報告されている.PRN投与の場合には,必要注射回数は年々減少し,抗CVEGF薬から離脱可能な症例が存在することや,網膜症所見自体も軽快していくことが報告されていることから,網膜症の病態そのものが鎮静化していくことも考えられ,生涯にわたって注射が必要となることも多い加齢黄斑変性への抗CVEGF治療とは異なる一面があることにも留意すべきである.(83)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16590910-1810/18/\100/頁/JCOPYabc図1症例1(earlyresponder)ラニビズマブ投与後C1週間で浮腫が軽減するCearlyresponderではあるが,2~3カ月すると再発を繰り返し,継続治療が必要である.Ca:治療前,Cb:投与後C1週,Cc:再発時.Cabc図2症例2(delayedresponder)アフリベルセプト投与後C1カ月では浮腫はあまり変化していないが,導入期を設け,複数回注射を行うと浮腫は消失する.Ca:治療前,Cb:投与後C1カ月,Cc:初回治療C7カ月(4回投与の後).文献Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmol-ogy118:1819-1826,C20111)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal;RIDECand4)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-RISECResearchGroup:Long-termCoutcomesCofCranibi-realCa.iberceptCforCdiabeticCmacularCedema.COphthalmolo-zumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:RISECandCgyC121:2247-2254,C2014CRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)村松大弐,三浦雅博,川上摂子ほか:網膜中心静脈閉塞に伴う黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の治療2)MitchellCP,CBandelloCF,CSchmidt-ErfurthCUCetal;成績.臨眼70:527-533,C2016CRESTORECstudygroup:TheCRESTOREstudy:ranibiC-6)PieramiciCDJ,CWangCPW,CDingCBCetal:VisualCandCana-zumabCmonotherapyCorCcombinedCwithClaserCversusClaserCtomicCoutcomesCinCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedemaCmonotherapyCforCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyCwithClimitedCinitialCanatomicCresponseCtoCranibizumabCinC118:615-625,C2011CRIDEandRISE.OphthalmologyC123:1345-1350,C20163)DoCDV,CSchmidt-ErfurthCU,CGonzalezCVHCetal:TheCDACVINCIStudy:phaseC2CprimaryCresultsCofCVEGFCTrap-☆☆☆1660あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(84)

緑内障:RGC displacementを考慮した緑内障の構造と機能の関係

2018年12月31日 月曜日

●連載222監修=岩田和雄山本哲也222.RGCdisplacementを考慮した大久保真司*,**宇田川さち子***おおくぼ眼科クリニック**金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学緑内障の構造と機能の関係緑内障の診断において構造と機能の関係を確認することは重要である.眼底所見ならびに黄斑部の光干渉断層計所見と感度との関係を考える際,中心窩近くでは解剖学的に視細胞と網膜神経節細胞が位置ずれ(retinalgan-glioncelldisplacement)をきたしていることに注意が必要である.●緑内障における構造と機能の関係の重要性緑内障ガイドライン1)においても,緑内障の定義は「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」とされており,緑内障の診断において構造と機能を確認することは非常に重要である.緑内障性視神経症の本態は,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)とその軸索である網膜神経線維の障害とされているので,緑内障においては,その障害部位に対応する特徴的な視野障害を呈することになる.視野障害のみられる症例において,その視野に対応する構造異常を確認することは緑内障診療の基本と思われる.近年,緑内障性の構造変化がみられても,通常の視野検査では異常がみられない「前視野緑内障」が注目されてきているが,いわゆる「前視野緑内障」の中には,検査点配置の変更や検査点密度を上げることによって視野障害が検出される症例も含まれ,「前視野緑内障」においても構造と機能を考えながら診察にあたる必要がある.C●光干渉断層計と静的視野計を用いた構造と機能の関係Harwerthら2)は,サル実験緑内障モデルのデータを再解析して,RGCの喪失率と視野の変化率を,両者ともに%の線形に表示した場合と,両者とも対数(dB)で表示した場合とで検討し,%表示でもCdB表示でも両者の単位をそろえれば,RGCの喪失率と視野の変化率は直線回帰するとしている.光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)の普及に伴い,OCTを利用して構造的変化と静的視野による機能的変化の関係が検討されるようになった.Hoodら3)は,Garway-Heath(81)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY耳側鼻側3.48°3.19°2.6°2.6°2.6°2.6°3.19°3.48°図1Retinalganglioncelldisplacementの2モデルグレーの四角はC2°間隔の中心C10-2の中心のC8点.水色の点は,中心C4点のCSjostrandモデルの座標.オレンジの点はCDrasdoモデルの座標.Drasdoモデルのほうが中心の偏位量が大きく,鼻側の偏位量が耳側より大きい.らによるCHumphrey視野の検査点と乳頭の位置関係に基づき4),視野の弓状領域とCOCTによって測定されるそれに対応する部位の網膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)厚との関係を検討し,両者の単位を統一すれば,Harwerthらの報告2)同様にCRNFL厚の減少と網膜感度の減少の関係は線形対応していると報告している.Wangら5)は,手動でCRGC層+網膜内網状層のセグメンテーションを行い,局所のCRGC層+網膜内網状層厚は,定性的に感度低下部位と一致すると報告している.C●RGCdisplacement黄斑部における局所の構造と機能の関係を評価するにあたって,中心窩近くでは解剖学的に視細胞とCRGCがあたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1657図2症例:51歳,女性,左前視野緑内障眼a:眼底写真.耳下側に細い網膜神経線維層欠損がみられる(→).Cb:Humphrey24-2SITAstandardの結果.明らかな異常はみられない.Cc,d:コーワCAP-7700(興和)を用いたCOCT対応視野計の結果.測定結果はCRGCdisplacemantなし(Cc)とCRGCdisplacemantあり(Cd)の状態で,結果を表示することが可能である.有意に感度低下がみられる点は,黒い点で表示される.RGCdisplacementありの状態では,ganglioncellcomplexマップの菲薄化部位と感度低下の部位が一致している.位置ずれをきたしている(retinalganglioncelldisplace-2)HarwerthRS,CarteDawsonL,SmithEL3rdetal:ScalingtheCstructure-functionCrelationshipCforCclinicalCperimetry.ment:RGCdisplacement)ことが報告6,7)されている.CActaScandOphthalmol83:448-455,C2005とくに視細胞とCRGCの位置ずれは中心窩近くがもっと3)HoodDC,KardonRH:Aframeworkforcomparingstruc-turalCandCfunctionalCmeasuresCofCglaucomatousCdamage.も大きいとされている6,7)(図1).すなわちCRGCを中心CProgRetinEyeResC26:688-710,C2007とした網膜内層の菲薄化をきたす緑内障においては,中4)Garway-HeathCDF,CPoinoosawmyCD,CFitzkeCFWCetal:心窩近くでは感度の低下部位とその感度と対応する網膜CMappingCtheCvisualC.eldCtoCopticCdiscCinCnormalCtension内層の菲薄化部位にギャップが生じる.中心C10-2の各Cglaucomaeyes.OphthalmologyC107:1809-1815,C20005)WangCM,CHoodCDC,CChoCJSCetal:MeasurementCofClocal検査点の感度と対応するCOCTで測定したCRGC関連層Cretinalganglioncelllayerthicknessinpatientswithglau-厚の相関を検討した研究でも,とくにC10-2の中心C4点Ccomausingfrequency-domainopticalcoherencetomogra-phy.ArchOphthalmolC127:875-881,C2009では,RGCdisplacementを補正すれば両者の相関係数6)SjostrandCJ,CPopovicCZ,CConradiCNCetal:Morphometricが改善することが報告されており,RGCdisplacementCstudyCofCtheCdisplacementCofCretinalCganglionCcellsCsub-servingconeswithinthehumanfovea.GraefesArchClinの重要性が確認されている8,9).CExpOphthalmolC237:1014-1023,C1999網膜視細胞が障害される疾患においては,OCTの障7)DrasdoCN,CMillicanCCL,CKatholiCCRCetal:TheClengthCof害部位と感度の低下部位は一致するが,RGC関連層がCHenle.bersinthehumanretinaandamodelofganglion障害される緑内障においては,中心窩近くでの構造と機Creceptive.elddensityinthevisual.eld.VisionRes47:C2901-2911,C2007能の関係を検討する際にはCRGCdisplacementを考慮す8)RazaAS,ChoJ,deMoraesCGetal:Retinalganglioncellる必要がある(図2).Clayerthicknessandlocalvisual.eldsensitivityinglauco-ma.CArchOphthalmol129:1529-1536,C20119)OhkuboCS,CHigashideCT,CUdagawaCSCetal:FocalCrelation-文献shipbetweenstructureandfunctionwithinthecentral101)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内Cdegreesinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci55:5269-障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C2018C5277,C2014C1658あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(82)

屈折矯正手術:LASIK後の眼内レンズ計算Barrett True-K

2018年12月31日 月曜日

●連載223223.LASIK後の眼内レンズ計算BarrettTrue.K監修=木下茂大橋裕一坪田一男脇舛耕一バプテスト眼科クリニックBarrettTrue-K式は,LASIK後眼における新たな眼内レンズ度数計算法である.本式ではCLASIK前後データを用いることなく,現在のデータのみで計算することができ,他のCnohistory法に比べ,より良好な術後精度が得られることが期待される.C●はじめにLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)後眼における眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算では,角膜形状変化により角膜前面および後面中央屈折力,前房深度,e.ectivelenspositionなどの換算値と実際値の乖離が生じることから,通常の計算法では白内障手術後屈折誤差が大きくなる.その補正法として,LASIK術前ケラト値と屈折矯正量から算出する方法や,屈折矯正量と現在のケラト値から算出する方法,現在のデータのみから算出する方法(no-history法)がある.近年,新たな計算式として,BarrettTrue-K式が登場した.本稿では,BarrettTrue-K式の概要や精度について述べる.C●BarrettTrue.K式についてBarrett式はC1983年に第一世代が登場しC1987年にuniversaltheoretical式が発表され1),1993年に第三世代の改良版が発表された2).Barrett式では,他の計算式と異なり厚肉レンズの概念を用いていることが特徴であり,IOL定数はClensfactorというCA定数とは異なる数値が用いられている.その後,2014年に第四世代となるCUniversalII式が開発,使用可能となった(論文は未発表).BarrettTrue-K式はこのCUniversalII式を使用した屈折矯正術後のCIOL計算式である.現在,BarrettTrue-K式が搭載されている光学式眼軸長測定機器は,IOLマスターC700(CariZeissMeditec社),レンズスターCLS900(Haag-Streit社),ARGOS(Santec社)である.また,AmericanCSocietyCofCCata-ractCandCRefractiveSurgery(ASCRS)やCAsia-Paci.cCAssociationCofCCataractCandCRefractiveCSurgeons(APACRS)のウェブサイトからも利用できる(図1,2).ASCRS,APACRSのサイトでは,LASIK施行時図1ASCRSウェブサイトカリキュレータ入力画面全項目を入力しなくとも,入力された項目のみで可能な範囲の結果を計算してくれる.図2APACRSウェブサイトカリキュレータ入力画面LensFactorおよびCA定数は,右側のCPersonalConstantのところでポップアップ式で表示されるCIOLを選択すれば自動で入力される.計算に最低限必要なパラメータは背景色の部分の4項目だけであり,それ以外は任意である.(79)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16550910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3ASCRSカリキュレータ結果入力されたパラメータの内容から,計算可能な式の結果がすべて表示される.の屈折矯正量と現在のデータを使用する方法(C“UsingC⊿MR”)と,no-history法(C“UsingCnoCpriorCdata”)の両方が使用可能である.no-history法の場合,眼軸長,強主経線および弱主経線方向の角膜屈折力,前房深度が計算に最低限必須のパラメータであり,水晶体厚や角膜横径(whiteCtowhite:WTW)は任意である.ASCRSのウェブサイトでは入力した項目に応じて,BarrettTrue-K式以外にも計算可能な他の計算式の結果が同時に表示される(図3).APACRSではCBarrettCTrue-K式のみの結果表示となる.C●BarrettTrue.K式の精度BarrettTrue-K式の精度について他のCnohistory法と比較した報告があり,いずれも近視LASIK,レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefracitveCkeratectomy:PRK)後眼でのCBarrettTrue-K式の精度が他式より有意に高かったとされている3~5).当院でも近視CLASIK,PRK,あるいはCepipolisLASIK(epi-LASIK)後のC44例C63眼を対象として,BarrettTrue-K式のほか,Hai-gis-L式,Camellin-Calossi式,また光線追跡法によるOKULIXと比較検討を行った.その結果,屈折誤差の直接値および絶対値ともに,BarrettTrue-K式での中央値および四分位範囲がC4方法のなかでもっとも小さく(図4),また屈折誤差の絶対値がC±0.5diopter(D)以内であった症例数の割合はCBarrettTrue-K式でC77.8%と,他の式に比べ高い値であった.屈折誤差(直接値)(D)屈折誤差(絶対値)(D)1.81.61.41.210.80.60.40.221.510.50-0.5-1-1.5-2HaigisLCamellinOKULIXBarrettTrue-KHaigisLCamellinOKULIXBarrettTrue-KHaigisLCamellinOKULIXBarrett中央値-0.50-0.070.300.03四分位範囲-0.89~-0.18-0.33~0.26-0.03~0.66-0.26~0.32HaigisLCamellinOKULIXBarrett0.550.310.380.300.30~0.12~0.16~0.17~0.890.590.700.42図4Barretttrue.K式および他のnohistory法の屈折誤差左が直接値,右が絶対値である.いずれもC4式で有意差を認めた(いずれもp<0.01,Friedman検定).C●おわりにLASIKを他施設で施行され,白内障手術時にCLASIK術前,術時,術後のデータの入手が困難となる場合があり,現在のデータだけで計算できるCnohistory法の重要性が増してきている.そのなかで,BarrettCTrue-K式は精度の高さだけでなく,計算に必要なパラメータが少なく,搭載機器がなくともウェブサイトでの利用が容易であり,LASIK後眼での白内障術後CrefractiveCsur-priseを軽減させるうえで非常に有用な方法であるといえる.文献1)BarrettGD:IntraocularlenscalculationformulasfornewintraocularClensCimplants.CJCCataractCRefractCSurgC13:C389-396,C19872)BarrettGD:AnCimprovedCuniversalCtheoreticalCformulaCforCintraocularClensCpowerCprediction.CJCCataractCRefractCSurgC19:713-720,C19933)WangCL,CTangCM,CHuangCDCetal:ComparisonCofCnewerCintraocularClensCpowerCcalculationCmethodsCforCeyesCafterCcornealCrefractiveCsurgery.COphthalmologyC122:2443-2449,C20154)Abula.aCA,CHillCWE,CKochCDDCetal:AccuracyCofCtheCBarrettTrue-Kformulaforintraocularlenspowerpredic-tionCafterClaserCinCsituCkeratomileusisCorCphotorefractiveCkeratectomyformyopia.CJCataractRefractSurgC42:363-369,C20165)KangCBS,CHanCJM,COhCJYCetal:IntraocularClensCpowercalculationafterrefractivesurgery:AcomparativeanalyC-sisCofCaccuracyCandCpredictability.CKoreanCJCOphthalmolC31:479-488,C20171656あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(80)

眼内レンズ:眼内レンズ逢着術の糸露出を防ぐ縫合糸埋没法-強膜トンネル埋没法

2018年12月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋385.眼内レンズ縫着術の糸露出を防ぐ縫合糸浅野泰彦昭和大学江東豊洲病院眼科埋没法―強膜トンネル埋没法眼内レンズ縫着術後の縫合糸露出を防ぐため,強膜トンネル内に縫合糸断端を埋没する方法を考案した.バネ穴付き縫合針を使用することにより容易に強膜トンネル内に断端を埋没することが可能であり,露出を予防することが期待できる簡便かつ有用な方法であると考える.●はじめに縫合糸露出は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着術後合併症として重要であり,眼内炎の原因にもなりえるため,露出を防ぐための工夫が必要である.強膜フラップなどで結び目と断端を被覆する方法が一般的であるが,それでも結膜上に露出している症例に遭遇することがある.これらの症例を観察すると,短く切った縫合糸断端が露出していることが多く(図1),収縮・菲薄化したフラップを突き破って露出したことが疑われる.そこで,断端を長めに残して埋没するコンセプトにて考案した方法が今回紹介する強膜トンネル埋没法である.●方法結膜を切開し,幅1~2mmの強膜半層切開を作製する.長針付きループ糸を眼内から半層切開内に通糸して片糸を切り(図2a),半層切開内に結び目が位置するように2本の糸を埋没縫合する(図2b).ここで断端を短く切断してしまうと,強膜菲薄化に伴う断端露出のリスクがある.そこで,長針が付いた一方の糸を半層切開内から再度2mm程度通糸して切除する(図2c,d).次に,網膜.離手術に用いるバネ穴付き縫合針(図2e)を準備し,そのバネ穴にもう一方の糸を通して同様に強膜内に通糸し,切除する(図2f).この方法により,結び目は図1縫合糸露出例短く切った断端が結膜上に露出している.強膜半層切開内に埋没され,約2mmの断端は強膜トンネル内に埋没されたことになり(図2g,h),露出を防ぐことが期待できる(図3).●コツと注意点本術式におけるポイントは,縫合針のバネ穴に糸を通して強膜に通糸する点であるが,9-0や10-0の細い糸をフリーな状態の縫合針の小さなバネ穴に支えなしで通すのはむずかしい.そこで,強膜にあらかじめ縫合針を通針しておき,針を強膜で固定した状態で,カウンターをかける要領でバネ穴に糸を入れる(図4a).この方法で糸と縫合針の連結は容易となり,そのまま強膜内に針を進めれば強膜トンネル内に通糸された状態となる(図4b).使用する縫合針は長さ5~7mm程度のものがちょうどよく,低コストで入手可能である.もう1点のポイントはループ糸の強膜半層切開内への通糸法であり,誘導針を眼外から半層切開内より眼内へ刺入し,abexterno法にて通糸する方法が確実である.筆者は2組の9-0ポリプロピレンループ糸が小ループで連結した構造の連結型ループ針(はんだや)を開発して使用している.これによりabexterno法による強膜半層切開間の一度の対面通糸で2組のループ糸を通糸することが可能となり,通糸手技が容易となる1).(77)あたらしい眼科Vol.35,No.12,201816530910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2強膜トンネル埋没法の術式強膜トンネル埋没法により,結び目は強膜半層切開内に,断端は強膜トンネル内に埋没される.●おわりに本法の利点は,結膜切開とわずかな強膜半層切開創作製だけの簡便かつ低侵襲な方法で施行でき,強膜フラップ作製が困難な結膜瘢痕が強い例や狭瞼裂例においても確実に露出を防ぐことが期待できる点である.長期予後についての検討はこれからであるが,有用な方法であると考えられる.文献1)浅野泰彦,西村栄一,早田光孝ほか:連結型ループ針を使用した眼内レンズ縫着術の手術成績.IOL&RS32:269-276,2018図3強膜トンネル埋没法術後術後,断端の露出は認めない.図4バネ穴付き縫合針への糸の連結と通糸法強膜に縫合針を通針しておき,針を強膜で固定した状態で,カウンターをかける要領でバネ穴に糸を入れ(a),そのまま強膜に通糸する(b).

コンタクトレンズ:アレルギー患者のコンタクトレンズ装用における理想と現実

2018年12月31日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一50.アレルギー患者のコンタクトレンズ装用高村悦子東京女子医科大学眼科学講座における理想と現実●はじめにアレルギー患者のコンタクトレンズ(CL)装用を考える場合,問題となるのは,アレルギー性結膜炎を発症している患者のCCL装用と,CL装用がアレルギー性結膜炎を引き起こす場合である.前者は,おもにスギ花粉症患者のCCL装用であり,後者は,CL装用が起因するCCL関連乳頭性結膜炎(contactClensCrelatedCpapillaryCcon-junctivitis:CLPC)が考えられる.ここでは,どのようにすればアレルギー性結膜炎患者がCCL装用を継続できるかを,結膜炎悪化の要因とその対策をもとに,理想と現実を紐解いてみたい.C●花粉症患者のCL装用の要望いまやスギ花粉症は国民病と称されるほど有病率が高いことから,スギ花粉によるアレルギー性結膜炎患者がCL装用者である確率は高い.アレルギー性結膜炎の既往があり,花粉飛散時期に眼科を受診したアレルギー性結膜炎患者へのCQOLに関するアンケート調査1)によれば,日常生活にもっとも影響したこととして「CLを入れにくくなる」ことがあげられている.ここからもわかるように,花粉飛散期でもCCL装用を継続したいという要望は強い.C●花粉症患者へのCL処方と指導基本方針は,アレルギー性結膜炎の治療を優先しつつ,CLが引き続き安全に装用できるようにすることであると考えている(表1).症状が改善している時期には1日交換タイプのCCLを装用する.原則としてCCL装用前後に抗アレルギー点眼薬を点眼し,CL装用時にはレンズに付着した汚れや花粉の洗浄を目的として,人工涙液で洗眼することを薦めている.C●抗アレルギー点眼薬とCLの相性を考えるCL装用時に抗アレルギー点眼薬の使用を推奨しない理由は,点眼薬に防腐剤として含有されるベンザルコニ(75)表1CL装用アレルギー性結膜炎(花粉症)患者に対する治療方針ウム塩化物(BAK)のCCLへの吸着の問題や,CL素材と点眼薬のCpH,浸透圧などの液性(表2)との相性によっては,まれにCCLの変形などが起こる場合があるためである.とくに,点眼薬に汎用されているCBAKは,高濃度,頻回に眼表面に接触すると角膜上皮障害を起こす可能性がある.したがって,CLにCBAKが吸着し,頻回に角膜に接触することで角膜障害を起こす危険性が潜んでいる.最近では抗アレルギー点眼薬のジェネリック製剤も多数処方されており,これらの液性について把握することはむずかしいため,CLとの相性を考えることさえ難しくなっている.BAKフリーの抗アレルギー点眼薬は多くはないが,結膜炎が軽症の時期に使用する点眼薬としては,選択肢の一つと思われる2).C●アレルギー性結膜炎患者がCLを使い続けるための工夫花粉によるアレルギー性結膜炎は,涙液中で花粉の殻が破け,アレルゲンが流出すること(ハッチアウト)で始まるが,人工涙液は涙液に比べ花粉のハッチアウト率が低い.したがって,BAKフリーの人工涙液で洗眼すれば,花粉を安全に効率よく洗浄することができる.あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16510910-1810/18/\100/頁/JCOPY表2抗アレルギー点眼薬の特徴薬剤名商品名点眼回数BAK含有CpHメディエーター遊離抑制薬クロモグリク酸ナトリウムインタール1日4回+(UD:C.)4.0~C7.0アンレキサノクスエリックス1日4回+6.8~C7.8ペミロラストカリウムアレギサール1日2回+7.5~C8.5ペミラストントラニラストリザベン1日4回1日4回+7.0~C8.0トラメラスイブジラストケタス1日4回+5.5~C7.0アシタザノラスト水和物ゼペリン1日4回C.4.5~C6.0ケトチフェンフマル酸塩ザジテン1日4回+4.8~C5.8ヒスタミンCH1レボカバスチン塩酸塩リボスチン1日4回+6.0~C8.0拮抗薬オロパタジン塩酸塩パタノール1日4回+約C7.0エピナスチン塩酸塩アレジオン1日4回C.6.7~C7.3UD:ユニットドーズまた,レンズ表面の滑らかさ,コーティングの違いなど,CLの種類によってスギ花粉抗原のCCryj1の付着の程度が異なる3).眼表面に飛入した花粉がハッチアウトせずに眼表面から流れ去るような環境をCCL装用時にも作ることができれば,CL装用者の花粉飛散期の結膜炎の軽減につながる.一方,CLPCに対するCCLの選択としては,汚れがつきにくく,柔らかいCCLが好ましい.非イオン性で高含水のCCLが選択肢の一つである.シリコーンハイドロゲルレンズは,蛋白が付着しにくい反面,その硬さのために瞼縁付近にCCLPCの発症がみられる4).汚れにくさと柔らかさの両方のバランスが,アレルギー性結膜炎患者の使用するCCLには必要と思われる.C●おわりにアレルギー炎症を軽減するためのCCL装用にはまだ工夫が必要だが,点眼を忘れる人でもCCL装用は忘れない,(各薬剤の添付文書より引用)という臨床経験を活かし,花粉症の症状がない時期になんらかの工夫をCCLに施すことで,CL中断の低減が図れるのではないだろうか.アレルギー性結膜炎患者がより快適に過ごせる理想的なCCLの開発が待たれる.文献1)中川やよい:アレルギー性結膜炎患者からみた治療の実態とニーズインターネット・アンケートによる定量調査2007年度報告.新薬と臨床57:150-168,C20082)亀澤比呂志,中園由巳,杉尾嘉宏:コンタクトレンズ装用者におけるアレルギー性結膜炎に対するCBAK非含有エピナスチン塩酸塩点眼液の臨床効果.アレルギー・免疫C23:C64-71,C20163)植田喜一,佐橋紀男,高橋雄一ほか:スギ花粉とスギ花粉抗原のソフトコンタクトレンズへの付着.日コレ誌C52:C127-130,C20104)SkotniskyCCC,CNaduvilathCTJ,CSweeneyCDFCetal:TwoCpresentationsCofCcontactClens-inducedCpapillaryCconjuncti-vitis(CLPC)inChydrogelClenswear:LocalCandCgeneral.COptomVisSciC83:27-36,C2006PAS112

写真:涙点プラグ挿入術が奏功した兎眼性角膜炎

2018年12月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦415.涙点プラグ挿入術が奏効した小池保志*,**横井則彦***京都山城総合医療センター眼科兎眼性角膜炎**京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①角膜中央から下方にかけての点状表層角膜症②角膜中央部やや下方の線状の角膜上皮障害図1聴神経腫瘍摘出後に発症した顔面神経麻痺に伴う兎眼性角膜炎角膜中央やや下方の線状の角膜上皮障害と広範囲の点状表層角膜症がみられる.図3上下涙点に挿入された涙点プラグ図4涙点プラグ挿入1カ月後貯留水分量の増加を認め,角膜上皮障害は大幅に軽減した.(73)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16490910-1810/18/\100/頁/JCOPY兎眼とは,顔面神経麻痺(脳腫瘍や脳梗塞,Bell麻痺など),外傷などの眼瞼疾患,甲状腺眼症などの眼窩疾患といったさまざまな要因により,完全な閉瞼ができない状態のことで,なかでも顔面神経麻痺による兎眼はよくみられる.眼科的には閉瞼不全による角膜障害,すなわち兎眼性角膜炎が問題となる.兎眼性角膜炎のもっとも重要な病態は,就寝中の兎眼に伴う涙液の水分の蒸発亢進であり,加えて,瞬目不全に伴う涙液クリアランスの低下やマイボーム腺機能不全などが複雑に関与していると考えられる.したがって,兎眼性角膜炎に対する治療のポイントは,就寝中の閉瞼障害に対する治療であり,一般に眠前の眼軟膏点入が行われる.また,活動時の不完全瞬目に対して,塩化ベンザルコニウムを含まない人工涙液点眼に加えて,抗菌点眼液や低力価ステロイド点眼がドライアイ治療として行われることが多い.しかし,兎眼性角膜炎に対するドライアイ治療はあくまで眼表面の乾燥,感染,炎症を防ぐ対症療法にすぎない.そのため閉瞼障害が高度で,重症の角膜上皮障害を伴う例では,治療用コンタクトレンズの装用や,アイパッチを用いた強制閉瞼,瞼板縫合やCgoldplateの上眼瞼への埋め込みなどの手術治療が行われることがある.しかし,それでも治療に難渋する例も多い.涙点プラグ挿入術は,涙点の閉鎖により涙液や点眼液の水分を滞留させることで,各種の眼表面疾患に対して治療効果が期待できる1).その一般的な適応疾患は涙液減少型ドライアイであるが,神経麻痺性角膜炎や角膜移植後の角膜上皮障害に対する有効性も報告されている2).兎眼性角膜炎に対する涙点プラグ挿入術は,眼表面の貯留水分量の増加による涙液層の安定性の向上ならびに上皮の乾燥防止に効果が期待できる有効な治療法と考えられる3).しかし,その一方で,瞬目不全や原疾患に伴う涙液クリアランスの低下がさらに増強するため,流涙症の発症の有無,眼表面の炎症や感染所見の出現に対して慎重な経過観察が必要である.症例はC34歳,女性.2002年に聴神経腫瘍に対する手術を受けた.術直後から左の顔面神経麻痺とそれに伴う兎眼を発症したため,近医で経過観察していた.2014年C7月頃から左眼の充血と眼痛が悪化し,ヒアルロン酸ナトリウム点眼,ジクアホソルナトリウム点眼,オフロキサシン眼軟膏点入が行われたが,改善傾向がみられないため当科紹介受診となった.自己閉瞼はかろうじて可能であったが,初診時,角膜中央やや下方の線状の遷延性の角膜上皮障害と広範囲の点状表層角膜症を認めたため,就寝中の閉瞼障害に対する対策が必要と考えられた.そこで,活動時も瞬目不全により涙液メニスカスは高かったが,さらなる眼表面の貯留水分量の増加目的に,上下に涙点プラグを挿入し,加えてレボフロキサシン点眼とC0.1%フルオロメトロン点眼をC2回/日から開始し,その後C1回/日とし,オフロキサシン眼軟膏点入も行った.涙点プラグ挿入によりさらなる涙液メニスカスの増加が得られ,約C1カ月後には,角膜上皮障害は大幅に改善した.本症例は,眼軟膏点入や点眼治療のみでは管理不能の高度の閉瞼不全に伴う兎眼性角膜炎であり,涙点プラグ挿入術と眼軟膏,点眼を用いた眼局所治療で,角膜上皮障害の改善が得られ,懸念された流涙症状はなかった.本症例のように高度な角膜上皮障害を伴う兎眼性角膜炎に対しては,涙点プラグ挿入術は試みる価値のある治療法と考えられる.文献1)FreemanJM:ThepunctumCplug:evaluationCofCaCnewCtreatmentCforCtheCdryCeye.CTransCSectCOphthalmolCAmCAcadOphthalmolOtolaryngolC79:874-879,C19752)TaiMC,CosarCB,CohenEJetal:Theclinicale.cacyofsiliconepunctalplugtherapy.CorneaC21:135-139,C20023)BendavidCI,CAvisarCI,CSerovCVolachCICetal:Preven-tion.of.exposure.keratopathy.incriticallyⅢpatients:Asingle-center,Crandomized,CpilotCtrialCcomparingCocularClubricationwithbandagecontactlensesandpunctalplugs.CritCareMedC11:1880-1886,C2017

時の人 鈴間 潔 先生

2018年12月31日 月曜日

香川大学医学部眼科学講座教授鈴すず間ま潔きよし先生今回は本年9月に香川大学医学部眼科学教室の第四代教授に就任したばかりの鈴間潔先生にご登場いただいた.鈴間先生は京都大学をベースに,網膜硝子体手術や網膜循環障害の研究で活躍してこられた.一方,香川大学眼科学教室は,白神史雄教授,辻川明孝教授と網膜硝子体を専門とする教授が2代続いたこともあって,網膜硝子体手術の実績は全国でもトップレベルである.まさに適任者にバトンが渡されたと言えよう.***鈴間先生はミカンの産地として名高い和歌山県有田郡の出身で,地元の県立耐久高校に進学した.緑滴る山々と目の前に広がる海.故郷の豊かな自然は,小学生時代に始めた剣道とともに,勉学に邁進する英気を養うのに大きな力になったに違いない.1987年に京都大学医学部に入学し,卒業後は本田孔士教授の指導の下,同大医学部附属病院で眼科医としての第一歩を踏み出した.和歌山赤十字病院(現・日赤和歌山医療センター)を経て1995年,京都大学に戻り(大学院,2003年に博士号取得),1998年には米国ボストンのJoslinDiabetesCenterに留学,G.L.King研究室で糖尿病網膜症の研究に携わった.ここには世界中から糖尿病の研究者が集まってきており,その中には自身が1型糖尿病を患っている者も多くいた.彼らとの交流を通して,先生は「病気で苦しんでいる人を助けたい,そのためには新しい治療法を開発したい」という思いを強くしたそうである.***帰国後は京都大学眼科で医局長を,その後,静岡県立総合病院に眼科長として赴任し,マネージメントや病診連携の経験を積んだ.さらに長崎大学に6年間勤務し,北岡隆教授の下で眼血流および硝子体手術の研究を続けた.そして2014年に8年ぶりに准教授として京都大学に戻ると,そこは世界有数の眼科イメージング研究の拠点に変貌しており,「まさに浦島太郎状態だった」そうである.先生は3D手術記録システムによる手術教育に取り組んだ.外科手術はなんといっても経験が重要である.ハイビジョンカメラによる3D映像によって臨場感のある訓練を重ねることにより,スタッフのレベルアップ,手術成績の向上に大いに貢献した.***長崎大学時代,鈴間先生には忘れられない大切な思い出がある.それは,着任したての頃,先生の手術を見ていた北岡教授から「もっと思い切ってやりなさい」と助言されたことである.今でこそ網膜硝子体手術の第一人者の鈴間先生だが,その頃はまだ,学んだ通りを忠実に実践している段階だったのだろう.鈴間先生は次のように説明する.「剣道に『守破離』という言葉があります.まず師匠の教えを忠実に守り,次に殻を破って独自の道を切り開き,最終的には離れていく,という意味です.術者も同じです.北岡先生は,私が殻を破るために背中を押してくれたのです」「意外に思われるかもしれませんが,指導者に本当の実力がないと,なかなか『思い切ってやりなさい』とは言えません.これは,私が教える立場になって実感したことです.私を一人前にしてくださった北岡先生には本当に感謝しています」.***鈴間先生は,長年研究してきた網膜血流障害の効果的な治療法を,香川大学でさらに発展,確立させようと考えている.非侵襲的な検査と治療,効果的な治療法の選択が可能になれば,患者さんの受ける恩恵は計り知れない.教室運営に関しては,幸いにも香川大学眼科には「選りすぐりのプロ」が集結しているので,各人が実力を遺憾なく発揮できる環境を整えればいい.あとは家族に対するような「愛」があればいい.「チーム医療には信頼関係,教育には愛情が必要だから」と先生は言う.その先にあるものは,病気に苦しむ患者さんを助ける,というゆるぎない大目標である.(71)あたらしい眼科Vol.35,No.12,201816470910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼窩蜂巣炎の対処法

2018年12月31日 月曜日

眼窩蜂巣炎の対処法HowtoDealwithOrbitalCellulitis山中亜規子*渡辺彰英*はじめに眼窩蜂巣炎とは,眼窩軟部組織に生じる急性化膿性炎症である.眼窩内は眼窩脂肪などの非常に粗な軟部組織から構成されているため,一度眼窩内に感染が波及すると,容易に外眼筋や神経,血管を巻き込みながら急速に進展し,眼球運動障害や視神経障害といったさまざまな視機能障害をきたす.今日では抗生物質の普及により比較的まれな疾患となったが,過去には重症化して感染が頭蓋内に波及した症例や,敗血症で死亡した症例も報告されている.診断は臨床所見や眼所見,および画像診断により可能なことが多いものの,治療が遅れると非常に重篤な状態を招く可能性があるため,本疾患を疑った場合は適切かつ速やかな対処が求められる.さらに,病態によっては耳鼻咽喉科や脳神経外科をはじめとする他科との連携が必要になることも特徴である.CI原因眼窩蜂巣炎の感染経路は,1)眼窩周囲の細菌性炎症が眼窩内へ波及する場合,2)遠隔の感染巣から血行性に眼窩内へ炎症が波及する場合,そしてC3)外傷によって異物が眼窩内に入って炎症が起こる場合のC3種類に大別される(表1).眼窩を取り囲む眼窩骨壁は非常に薄いため,副鼻腔からの炎症は眼窩内へ波及しやすい.起因菌はグラム陽性球菌,とくに黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus)の頻度が高いとされ,化膿性レンサ球菌(Streptococcuspyogenes),肺炎球菌(Strep-tococcuspneumoniae)なども多いとされるが,小児ではインフルエンザ菌(Haemophilusin.uenzae)が起因菌となることがある.また,副鼻腔や口腔内疾患からの炎症波及が疑われる場合は嫌気性菌が原因となることもある.頻度は低いものの易感染性を認める症例などでは真菌が原因となるケースもあり,そのほか,梅毒や結核,寄生虫が原因となることもあるとされる1).CII自覚症状強い眼窩部痛を伴う眼窩部の腫脹,複視,視機能低下などを主訴に受診することが多い.また,悪心・嘔吐や発熱,全身倦怠感,食欲不振を伴うこともある.CIII他覚所見診察時に片眼性の眼瞼腫脹や発赤,眼瞼下垂,眼球突出,眼球偏位,眼球運動障害などを認め,眼瞼腫脹が強い場合は開瞼が困難になる(図1).眼周囲に外傷や手術の創がないかも初診時に確認しておく(本人に外傷の記憶がない場合もある).前眼部所見では結膜充血および浮腫を認め,著しい結膜浮腫をきたすと閉瞼困難になる場合もある.炎症が眼窩先端部に波及している場合は,視神経障害により視*AkikoYamanaka&*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕山中亜規子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(65)C1641表1感染経路眼窩周囲の細菌性炎症が眼窩内へ波及する場合・副鼻腔炎(最多)・涙.炎・涙腺炎・麦粒腫・歯牙・歯肉疾患など遠隔の感染巣から血行性に眼窩内へ炎症が波及する場合・尿路感染・肝膿瘍・心内膜炎など外傷によって異物が眼窩内に入って炎症が起こる場合・草木,ガラス片,金属片,石など・眼窩骨折術後※金属片の眼窩内異物が疑われる場合は,CMRI検査に注意が必要図1眼窩蜂巣炎73歳,男性.眼窩蜂巣炎による有痛性の右眼瞼腫脹・発赤および開瞼困難を認める.表2診察所見外眼部所見(基本的には片眼性)・眼瞼の腫脹,発赤・眼瞼下垂・眼球突出・眼球偏位・眼球運動障害前眼部所見(眼瞼腫脹が強い場合,開瞼困難な場合もある)・結膜充血・結膜浮腫・視神経障害がある場合,CRAPD陽性や対光反射異常を認めることがある眼底所見眼窩内圧の上昇により,視神経乳頭腫脹や網膜皺襞,網膜静脈の拡張や蛇行を認めることがある全身状態発熱や頻脈などバイタルサインの異常がないか確認しておく(重症例では敗血症をきたす可能性があるため)表3必要な検査表4治療方法画像検査(必須)・CCT:眼窩骨や副鼻腔と,炎症部位との位置関係を評価できる・MRI:炎症部位そのものの描出に優れる血液検査・白血球数の増多,好中球増多・CRP上昇・赤沈の亢進治療開始後も炎症反応の改善を評価するため定期的に行う培養検査・眼脂培養・排膿液の培養(膿瘍からの排膿が可能な場合)・血液培養(敗血症の可能性)眼科検査・視力検査・眼圧検査(眼窩内圧上昇により眼圧上昇を認める場合がある)・前眼部細隙灯検査・眼底検査・中心フリッカー試験・Hess赤緑試験・視野検査《薬物療法》・抗生物質投与(第一選択)広域スペクトルをもつ抗生物質から開始↓起因菌が同定できれば適宜薬剤を変更・ステロイド(炎症が強い場合に使用を検討する)《外科的治療》・膿瘍部の切開排膿薬物治療だけでは感染をコントロールできない場合に行う部位や原因病巣によっては他科との連携が必要表5他科との連携図2特発性眼窩内炎症56歳,女性.右眼の特発性眼窩内炎症により右眼瞼腫脹および眼球突出を認めた.図4甲状腺眼症64歳,女性.片眼性の甲状腺眼症により右眼の眼球突出,眼瞼腫脹をきたしている.MRI画像では右眼の下直筋・内直筋・上直筋の炎症性肥大を認め,左眼の内直筋,下直筋にも軽度炎症を伴う肥大を認める.図3悪性リンパ腫81歳,女性.左涙腺部のCMALTリンパ腫により眼瞼下垂・無痛性の眼瞼腫脹を認めた.図5IgG4関連眼疾患39歳,女性.IgG4関連眼疾患による両眼性の無痛性の涙腺部腫脹を認めた.同症例では両顎下腺の腫大も認めた.

白内障手術における周術期抗菌薬使用法と術後眼内炎対策

2018年12月31日 月曜日

白内障手術における周術期抗菌薬使用法と術後眼内炎対策PerioperativeProphylacticAntibioticsApplicationandTherapeuticStrategyforPostoperativeEndophthalmitisinCataractSurgery松浦一貴*はじめにわが国の白内障術後眼内炎は5,000~10,000例に1例とまれな合併症となった1)が,周術期の抗菌薬の投与が前提となっている.世界的な抗菌薬の乱用による耐性菌の爆発的な増加が懸念され,2015年の世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)総会で薬剤耐性(antimicrobialresistance:AMR)に対するアクションプランが採択された.翌年にはわが国でもアクションプランが採択され,今後は明確なエビデンスをもたない予防的な抗菌薬投与に厳しい目が向けられる.これからの白内障術者は,予防的抗菌薬を減量したうえで感染リスクを減少させることが求められる.I筆者らの術後感染予防調査日本の術後感染予防について筆者らが2016年に行った調査では,術前抗菌薬点眼(98%),ヨード製剤による術前の皮膚消毒(97%),術後抗菌薬点眼(100%),前房内抗菌薬投与(7%)であった.具体的なヨード製剤の使用法,抗菌薬の結膜下注射や抗菌薬入り灌流液の使用,術後抗菌薬点眼の開始のタイミングや使用期間など,地域ごとの特徴はあるが,千差万別であった1).わが国では抗菌薬の術前点眼が術野の汚染度を優位に減少させる研究がよく知られており,白内障術前の抗菌薬点眼は多くの術者に採用されている2).2014年にBehndigらはヨーロッパの白内障周術期感染予防法についてまとめた(表1)3).ヨード製剤による消毒は共通していたが,抗菌薬点眼の使用法,前房内投与の普及度はまちまちであった.前房内投与はスウェーデンは90%,イギリスは61%であったが,フランス,ドイツ,オランダ,イタリアは50%未満であった.ドイツ,オランダ,イタリアでは術前および術後点眼が一般的であるが,イギリス,フランスでは術後点眼のみが行われ,術前点眼はほとんど行われていない.スウェーデンでは術前点眼のみでなく術後点眼すら行われていない3).筆者らはヨーロッパ以外の各国1人ずつがレポートをまとめる形での調査を行った(表2)4).ここでもヨード製剤による消毒は共通していた.抗菌薬前房内投与はオセアニアでは78%,米国,カナダ,南アフリカ共和国では20~40%程度であったが,中国,日本では一般的とはいえない.中国やアルゼンチン,米国では日本と同様に術前および術後点眼が広く用いられているが,カナダ,オセアニア,南アフリカでは術前点眼は一般的ではない.眼内炎は発症率が高くないうえに多くの因子が絡んでいることから,特定の因子(消毒法など)の有用性を証明することはむずかしい.仮にエビデンスが確立されていなくても,理論的によいと思われることを(安全で現実的であるならば)積極的に取り入れる姿勢が大切である.以下に筆者らの感染予防の考え方を述べる.*KazukiMatsuura:野島病院眼科〔別刷請求先〕松浦一貴:〒682-0863鳥取県倉吉市瀬崎町2714-1野島病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(55)1631表1ヨーロッパにおける白内障術後感染予防法前房内投与術前点眼術前消毒眼内炎率スウェーデンイギリスドイツフランスオランダイタリア90%61%20%以下40%27%20%行われていない6~9%100%行われていない100%76%不明不明5%ヨード5~10%ヨード5~10%ヨード5~10%ヨード0.02%0.03%~0.20%0.06~0.07%0.03~0.06%0.03%0.05~0.35%(文献3より作成)表2ヨーロッパ以外の国における白内障術後感染予防法前房内投与術前点眼術前消毒眼内炎率日本米国カナダオセアニアアルゼンチン中華人民共和国南アフリカ共和国7%42%30%78%20%普及していない30%99%88%54%33%99%100%行われてない10%ヨード5%ヨード5%ヨード?ヨード5~10%ヨード5%ヨード不明0.05%0.05~0.20%0.03~0.15%0.06%不明0.06%不明(文献4より作成)(ppm)イソジン液10%(原液):有効ヨウ素濃度1%100=10有効ヨウ素量(ppm)101001,0001,0000イソジン液希釈倍率(倍)1,00010原液ポビドンヨード濃度(%)0.010.1110イソジン液希釈時の遊離ヨウ素濃度=図1ヨード希釈倍率と消毒効果ヨードの殺菌効果は溶液中の遊離ヨウ素によるものであり100倍希釈で最大となる.汎用されているヨード製剤だが,このような基礎知識は案外知られていない.遊離ヨウ素濃度図2IOL挿入された.の断面図のイメージIOL裏は空間をもつイメージでとらえられることが多いが(a),実際には手術直後からIOL後面と後.は広い面積で密着しており,わずかに皺の中に隙間を残すのみとなる(b).すなわちIOL後面は閉鎖空間となるため,ここに取り残された細菌は排出されず,薬液も行き届かない.図3豚眼による.内洗浄実験摘出豚眼にミルクで着色した粘弾性物質(OVD)を注入しCIAにて洗浄する(Ca).チップを前房内で固定した場合,.内のCOVDは除去されない(Cb).IOLをタッピングしてもCOVDは除去されにくい(Cc).チップをCIOL裏に挿入した場合ですら,反対側のOVDは残存する(Cd).十分な洗浄効果を得るにはCIOLを回転させながら多方向にチップを挿入する必要がある(Ce).abcde図4フラッシュ法5Cmlシリンジから水を出しながら(Ca),前房内に鈍針を挿入し,数秒間,灌流する(Cb).IOLエッジを捕まえて.内も灌流する(Cc).もう一度前房内を灌流する(Cd).水流は常に出した状態である(Ce).表3国内26施設でのモキシフロキサシン前房内投与成績MFLX投与症例数眼内炎眼内炎発症率CWithoutMFLX22,828例10例0.043%CWithMFLX47,058例3例C0.006%CWithMFLX(1C00~C300Cμg/ml)10,705例1例C0.009%CWithMFLX(5C00Cμg/ml)36,353例2例C0.006%CWithMFLX(.ushing)32,996例1例C0.003%CWithMFLX(.ushing500Cμg/ml)25,542例0例C0%Cは,前房内投与に適した薬剤である.なかでもCMFLXは市販点眼液(ベガモックスCR)が防腐剤を含まず等張性であるため,前房内投与に使用できる.Arshino.ら22)は,MFLXを前房内投与されたC35,141例でC1例の眼内炎という良好な結果を報告している.MFLX前房内投与によると思われる重篤な合併症は現在まで報告されていない.Ce.適切な濃度は前房移行が良好とされるCMFLXですら頻回点眼後の前房内濃度は約C1.8Cμg/mlである23).ヒトでの結膜下注射後の前房内濃度は約C3.0Cμg/mlである24).眼内炎起因菌のC90%最小発育阻止濃度(MIC90)はアクネ菌がC0.25μg/ml,腸球菌がC0.5Cμg/ml,緑膿菌がC4Cμg/ml,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌がC4~16μg/mlとされる.MIC90がC32Cμg/mlに及ぶコアグラーゼ陰性ブドウ球菌も報告されている25).ウサギではCMFLXの前房内の半減期はC1時間強であった26).500Cμg/mlのフラッシュ法によって前房内が90%置換されるとすれば,投与直後の濃度はC450Cμg/mlとなる.半減期をC1時間とするとC2時間後の濃度はC113μg/mlとなる.この濃度は高度耐性菌を含めたほぼすべての菌をカバーする.著しい高濃度投与では潜在的な組織障害の懸念がある.Harukiら27)は培養角膜内皮細胞においてC500Cμg/mlまではほぼ影響がないと結論づけている.多くの臨床報告においてもC500~1,500Cμg/mlの投与で明らかな障害を認めていない19,22,28~31).筆者らのC26施設の調査でもC500Cμg/mlのC36,353例において合併症を認めていない.Cf.少量投与法とフラッシュ法の違い欧米での前房内投与は,原液~5倍希釈の高濃度液を0.05~0.2Cml投与する少量投与法である.一方,フラッシュ法は水晶体.内を含む前房内全置換法であり,大鹿らもレボフロキサシンによる前房内全置換法を報告している.少量投与法は前房内濃度が不安定になりやすいが,前房内全置換法では前房内濃度が安定する.手術直後の前房内はC5~45%の症例において汚染されているとの報告もあるが,前房内全置換法ではC90%以上を置換し,そのままハイドレーションして手術を終了するため再汚染の危険性も少ない.I/Aチップによる眼内洗浄の後,前房形成のためCBSSを眼内に注入した際に,しばしば小核片やCdebrisなどが舞い上がるのを観察する.I/Aチップによる眼内洗浄のみでは水晶体.内の洗浄を徹底することは必ずしも容易ではない.フラッシュ法は意図的にCIOL裏を含む.内を灌流するため,.内の洗浄および薬液注入が可能になる.セフロキシムを含めれば,世界ですでに数十万という症例での眼内炎発症抑制効果が報告されている前房内投与は,安全性の裏づけがなされつつある.また,抗菌薬前房内投与を行うかぎり,術前点眼の有用性が統計的に認められないという報告もある.十分な情報が得られる環境になれば,わが国でも多くの術者が選択すべき手技だと考えている.Cg.よくある質問質問C1:前房内に投与するだけではだめか.フラッシュ法は必要か.解答C1:IOLを挿入した豚眼にコンデンスミルクを注入し,サイドポートからCBSSで前房内を灌流し観察した.前房内に注入されたCBSSはCCCCとCIOLの間隙を通過して.内に行きわたるイメージがあるが,.内に拡散しない.前房内圧によってCCCCがCIOLに押し付けられ,水晶体.内が閉鎖空間となるためである.質問2:500Cμg/mlでのCMFLX前房内投与は安全か.解答2:MFLXによるCTASSを懸念する声を聞くが,現在まで明らかなCTASSの報告を受けていない.むしろCMFLX前房内投与症例では術翌日の炎症が少ないといわれている.Arbisser31)はCMFLX投与症例で炎症スコアが少ないことを報告した.筆者らはCMFLX投与症例で術後の角膜厚の変化が有意に抑えられたことを報告した32).川本らも前房内のセル,フレア値が有意に低いことを報告している33).炎症の少ない理由としては以下の可能性が考えられる.①あまり知られていないが,MFLXを含むフルオロキノロンには薬理活性として抗菌作用によらない抗炎症作用がある34).②術翌日にサブクリニカルな感染がしばしば発症し,気づかれないまま治癒しているのかもしれない.マイル1636あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(60)ドな感染による炎症はCMFLXの抗菌作用で抑えられる.③フラッシュの物理的な希釈洗浄によって,前房内に残存した微細な皮質や不純物による炎症が抑制される.細菌が希釈されることによる効果の可能性もある.CIIIDroplesssurgery近年,点眼をほとんど用いないCdroplesssurgeryの概念が提唱され始めている35).術前および術後点眼を用いずに,TORI-MOXIというトリアムシノロンとMFLXの合剤を硝子体注入して手術を終える方法がある.サイドポートから鈍針の先端を虹彩下に挿入し,Zinn小帯経由で硝子体内に薬液を注入する.Chttp://www.nweyes.com/dropless-cataract-surgeryChttps://www.youtube.com/watch?v=VKALpBhBZSAChttps://eyetube.net/video/trimoxivanc-injections/2017年のCAmericanSocietyofCataractandRefrac-tiveSurgery(ASCRS)の調査では,7%の術者が手術終了時に抗菌薬を硝子体投与すると回答した.また,2018年C9月現在,web上でC100以上の記載を見つけることができる.患者が点眼しなくてよいことによるメリットは,患者のコンプライアンスに影響されない,コストの低減,点眼指導にかけるスタッフの負担軽減になることである.CIV白内障術後眼内炎細菌同定などによる確定診断を待っていては治療の好機を逃しかねない.眼内炎は発症時期によって起炎菌,経過に特徴があるため,診断や治療方針決定の一助となる.C1.急性眼内炎黄色ブドウ球菌,緑膿菌,肺炎球菌や腸球菌は,術後1~3日に発症することが多い.急激に進行し激烈な炎症を引き起こし,わずかな治療の遅れが重大な結果につながる.ときに非感染性炎症との鑑別は容易ではないが,術後C48時間以内に通常と異なる炎症を認めたときには,硝子体手術の準備をしながらC2~3時間ごとの密な観察を行う.わずかでも悪化傾向を認めた場合は,ためらわずに硝子体手術を行う.EVSstudyでは抗菌薬の硝子体内注射と差がないとされているが,急性眼内炎においては,抗菌薬硝子体注射は硝子体手術までに時間を要する場合のつなぎと考えたほうがよい.C2.亜急性眼内炎コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が多く,術後C1~2週間に発症する.診断,治療は急性眼内炎に準ずるが,それよりは緩慢に進行し,適切な治療を受ければ比較的良好な経過となる場合が多い.硝子体手術による根治治療が望ましいが,炎症が比較的軽度な場合は,硝子体内注射で経過をみることも可能である.その際は,少なくとも数日は毎日の診察が必要である.C3.遅発性眼内炎アクネ菌が多く,術後C1カ月以降に発症する.ステロイドに反応した場合でも再発し,ときにぶどう膜炎との鑑別がむずかしい.急激に進行し,重篤となることは考えにくいが,遷延する場合は治療的,診断的な意味で硝子体手術を行う.CV治療の実際1.外科的治療a.硝子体内注射バンコマイシンC0.5Cg,セフタジジムC1Cgをそれぞれ50Cml生理食塩水で溶解したものを,それぞれC0.1Cml硝子体内注入する.希釈後であればC0.2Cmlを混注してもよい.Cb.硝子体手術a液1CmlをC500Cmlの灌流液に加えて使用する.まず,虹彩前面および後面のフィブリンを十分に処理して散瞳を確保する.混濁した硝子体,網膜面上の沈着物を可及的に除去し,a液を硝子体内注射して終了する.劇症の急性眼内炎ではCIOLの摘出は必須である.IOLを温存する場合にはCIOL後面の.を大きく切開することが必要である.Cc.前房内洗浄炎症が比較的軽微で前房内に留まっている場合に行う.硝子体手術と同じ灌流液を用い,シムコ針でフィブリンを十分に処理したのち,IOLと水晶体.を.離して(61)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1637.内の十分な洗浄を行う.a液を硝子体内注射して終了する.C2.役に立つ豆知識外科的治療の際は,必ず前房水,硝子体液の両方を採取する.一方のみから感染が証明されることもある.前房水はC27G針,硝子体液はC25G針を用いて採取する.検体が少量の場合はシリンジごと速やかに検査室に提出する.硝子体手術の際は,カッターの吸引ラインを三方活栓につなぎ,灌流を行わずに硝子体液C1.0Cmlを採取する.培養による確定診断は急性期の治療には間に合わないが,炎症が再燃,遷延した場合に重要となるため施行しておきたい.余った検体や摘出したCIOLなどは捨てずにC.40°で保存しておく.まとめ日本白内障屈折矯正手術学会とCASCRSのC2014年の調査によると,白内障の術後点眼はわが国ではC1カ月以上がC8割であるが,米国ではC1週間が標準であった.NejimaらはC1カ月の術後点眼ではC1週間点眼群に比べて術後の細菌叢の耐性化が大きいことを示し,術後C1週間の点眼を推奨している36).米国の硝子体内投与のガイドラインには,抗菌薬の術前点眼を用いないことが明記されており,術中のヨード製剤使用が推奨されている.わが国では,白内障手術に加えて硝子体内投与においても抗菌薬術前点眼が前提であるが,術中にヨード製剤を用いれば点眼を用いなくとも清潔な術野を得られる可能性がある.合併症のない手術にまでルーチンに抗菌薬硝子体内投与を行うことは,点眼を減らせるとしても,わが国では受け入れられないだろう.実際にアンケートをしてみると,抗菌薬の使用法には地域ごとの特徴があった.先輩からの教えを守って抗菌薬を使ってきたともいえる.今まではそれでも決して悪くなかった.わが国の眼内炎発症率は非常に低く目的は達成できている.しかし,時代は変わった.今後はエビデンスに基づいた理にかなった点眼へのかかわり方を見出す必要がある.術中ヨード製剤の適正使用,抗菌薬前房内投与などを駆使した手術期の抗菌薬使用の見直しが迫られている.文献1)松浦一貴,宮本武,田中茂登ほか:臨床研究日本国内での白内障周術期の消毒法および抗菌薬投与法の現況調査.日眼会誌121:521-528,C20172)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C20083)BehndigCA,CCochenerCB,CGuellCJLCetal:EndophthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentCpracticeCpatternsCinC9CEuropeanCcountries.CJCCataractCRefractSurgC39:1421-143,C20134)GrzybowskiCA,CSchwartzCSG,CMatsuuraCKCetal:EndoC-phthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentpracticepatternsaroundtheworld.Currentphar-maceuticaldesignC23:565-573,C20175)島田宏之:ポビドンヨードを用いた術後眼内炎予防.IOLC&RS27:48-54,C20136)SpeakerCMG,CMilchCFA,CShahCMKCetal:RoleCofCexternalCbacterialC.oraCinCtheCpathogenesisCofCacuteCpostoperativeCendophthalmitis.COphthalmologyC98:639-649,CdiscussionC650,C19917)ShimadaCH,CAraiCS,CNakashizukaCHCetal:ReductionCofCanteriorCchamberCcontaminationCrateCafterCcataractCsur-gerybyintraoperativesurfaceirrigationwith0.25%povi-done-iodine.AmJCOphthalmolC151:11-17,e11,C20118)秦野寛:感染症の予防と治療~消毒薬の可能性~.NANOOPHTHALMOLOGY42:21-24,C20129)FernandesCM,CPathengayA:ReductionCofCanteriorCcham-berCcontaminationCrateCafterCcataractCsurgeryCbyCintraop-erativesurfaceirrigationwith0.25%povidone-iodine.AmJOphthalmolC152:320;authorreply320-321,201110)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一ほか:PAヨードを間欠的に用いる白内障術中消毒法の角膜上皮,角膜内皮への影響.眼科手術27:451-455,C201411)秦野寛:緑膿菌性眼内炎の実験的研究─前房内接種における菌株と病原性について(第C86回日本眼科学会総会報告).日眼会誌86:839-845,C198212)SuzukiT,WadaT,KozaiSetal:ContributionofsecretedproteasesCtoCtheCpathogenesisCofCpostoperativeCEnterococ-cusCfaecalisCendophthalmitis.CJCataractCRefractCSurgC34:C1776-1784,C200813)OshikaCT,COhashiY:EndophthalmitisCafterCcataractCsur-gery:e.ectCofCbehind-the-lensCwashout.CJCCataractCRefractSurgC43:1399-1405,C201714)松浦一貴,三好輝行,吉田博則ほか:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,C201315)MatsuuraCK,CSutoCC,CAkuraCJCetal:BagCandCchamber.ushing:aCnewCmethodCofCusingCintracameralCmoxi.oxacintoirrigatetheanteriorchamberandtheareabehindCtheCintraocularClens.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmolC251:81-87,C20131638あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(62)

感染性ぶどう膜炎

2018年12月31日 月曜日

感染性ぶどう膜炎InfectiousUveitis岩橋千春*大黒伸行**はじめに感染性ぶどう膜炎にステロイドのみを投与すると感染の制御ができず症状が増悪するため,ぶどう膜炎の治療方針をたてる段階で,感染性ぶどう膜炎の存在を常に念頭に置いて,非感染性ぶどう膜炎と注意深く鑑別することが非常に重要である.そのためには,代表的な各種感染性ぶどう膜炎の典型的な所見を知っておくことが手助けとなる.本稿では代表的な感染性ぶどう膜炎としてヘルペスウイルス感染によるヘルペス虹彩毛様体炎,急性網膜壊死,古くて新しい感染症である結核性ぶどう膜炎および梅毒性ぶどう膜炎について,臨床所見とその対処法を概説する.CIヘルペス虹彩毛様体炎ヘルペス虹彩毛様体炎は,2009年に日本眼炎症学会が調査を行ったわが国におけるぶどう膜炎の原因疾患の調査1)においてC4.2%(5位)を占めている疾患群であり,感染性ぶどう膜炎のなかでは日常臨床でもっともよく遭遇する疾患であるといえる.一度感染したヘルペスウイルスが三叉神経節に潜伏感染し,感冒,ストレス,免疫力の低下などを誘因として再活性化が起きることで発症する.従来は単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)-1,HSV-2,水痘帯状疱疹ウイルス(vari-cella-zostervirus:VZV)によるものが広く知られていたが,近年,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)も虹彩毛様体炎の原因の一つであることがポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)による検査により明らかになった2).これまでCPosner-Schlossman症候群あるいはCFuchs虹彩異色性毛様体炎と診断されていた疾患のなかにCCMV虹彩炎が含まれているものと思われる3).ヘルペス虹彩毛様体炎は片眼性が多く,角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)を伴うことが多い(図1).また,眼圧上昇を伴いやすく,続発緑内障に留意する必要がある.HSVによる前部ぶどう膜炎(HSV-ante-rioruveitis:HSV-AU),VZVによる前部ぶどう膜炎(VZV-anterioruveitis:VZV-AU),CMVによる前部ぶどう膜炎(CMV-anterioruveiris:CMV-AU)の臨床的特徴を比較した高瀬らの報告4)によると,HSV-AUとCVZV-AUは共通した特徴を有しており,比較的急性の経過で大きなCKPsがみられることが多い.とくにVZV-AUは前房内フレアが強く,部分的な虹彩萎縮(図2)がみられ,前房内のウイルス量が多いといったように,激しい炎症がみられることが多い.一方,CMV-AUは眼内の炎症は比較的穏やかであるが,角膜内皮密度の減少や眼圧上昇はCHSV-AUとCVZV-AUと比べて顕著であると報告されている.以下にCHSV/VZV-AUとCCMV-AUに分けて臨床所見と治療を述べる.C1.HSV.VZV.AUHSV,VZVともに小児~若年成人期に初感染するこ*ChiharuIwahashi:住友病院眼科**NobuyukiOhguro:JCHO大阪病院眼科〔別刷請求先〕岩橋千春:〒530-0005大阪市北区中之島C5-3-20住友病院眼科C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(49)C1625図1単純ヘルペスウイルス(HSV)虹彩毛様体炎の前眼部写真図2水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)虹彩毛様体炎の前眼部写真大小不同の角膜後面沈着物がみられる.部分的な虹彩萎縮がみられる.図3サイトメガロウイルス(CMV)虹彩毛様体炎の前眼部写真図4急性網膜壊死(ARN)の前眼部写真Coinlesion(→)がみられる.豚脂様角膜後面沈着物がみられる.図5急性網膜壊死(ARN)の眼底写真網膜周辺部に黄白色顆粒状病変を認める.図6結核性強膜炎の前眼部写真図7結核性網膜血管炎の眼底写真ステロイド抵抗性の強膜炎として紹介受診された.周辺網膜に白鞘血管および網膜出血を認める.図8梅毒性ぶどう膜炎図9図8の蛍光眼底造影写真硝子体混濁を伴っている.網膜血管からのびまん性の漏出を認める.–