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緑内障:Visual Field Index(VFI)とは

2012年10月31日 水曜日

●連載148緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也148.VisualFieldIndex(VFI)とは内藤知子岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Humphrey視野計の緑内障進行解析プログラムであるGuidedProgressionAnalysis(GPA)に新しい視野指標としてVisualFieldIndex(VFI)が導入された.VFIは視機能率ともよばれるが,dB単位であるmeandeviation(MD)などと異なり,patterndeviation(パターン偏差:PD)をベースに残存視機能が算出され,%単位で表示される.従来,緑内障の視機能評価にはmeandeviation(MD)が用いられることが多かった.しかし,MDは緑内障におけるqualityofvision(QOV)を直接的に反映しているとは言い難かった.その主たる理由は,MDが中心視野領域から障害されている緑内障では視力の不良と相関せず,また,白内障や加齢による縮瞳などによるびまん性感度低下の影響を大きく受けることにあった.これはMDの算出における視野検査結果の中心領域の「重みづけ」の程度,さらに,MDが年齢別正常値と実測値の差であるtotaldeviation(トータル偏差:TD)を用いて算出されていることが大きく関与する.そこで,VisualFieldIndex(VFI)では緑内障のQOVを直接的に反映する指標をめざし,MDの計算上の弱点を補うべく,中心視野領域への「重みづけ」をより大きくし,また,白内障などのびまん性感度低下の影響を最小化するために,patterndeviation(パターン偏差:PD)をベースに計算されていることが特徴である.●VFIの算出方法1)①PDで正常と判定された測定点はすべて「100%」と評価する(図1).この段階で,白内障のみによるびまん性の沈下部分は「正常」と判定されるため,白内障による影響を最小化することができる.②実測感度が0dBの絶対暗点はすべて「0%」と評価する.③PDでp<5%の異常シンボル表示がついた測定点においては,同部位の年齢別正常値を100%とした場合の比率で求める.(たとえば,ある測定点における実測値が8dB,その部位の年齢別正常値が31dBである場合,その測定点の視機能率は8/31=25.8%と計算される.)(51)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYパターン偏差で有意水準のつかない部分Normalpoints100%の感度図1白内障などによるびまん性感度低下の除外視覚野の皮質拡大に準じ(corticalmagnification)5circleに分け内側より1×3.292×1.283×0.79重みづけ4×0.575×0.45図2中心視野領域への「重みづけ」④視覚野の皮質拡大(corticalmagnification)に準じて視野を5つのサークルにわけ,中心部から周辺部に向かい3.29.0.45倍までの重みづけを行う(図2).(MDが.20dB未満の進行期症例においては,PDは表示されないため,TDのみから計算が行われる.)●VFIによる評価が効果的と考えられる症例①中心視野障害症例(代表的な症例を図3示す)あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012136712345 MDVFI-11.99dB69%MDVFI-12.20dB49%RV=(1.0)RV=(0.4)MDVFI-11.99dB69%MDVFI-12.20dB49%RV=(1.0)RV=(0.4)図3中心視野障害症例との比較MDの差は0.21dBのみであるが,VFIは20%も異なる.白内障手術MDVFI-2.07dB99%-8.53dB99%MDVFI図4白内障手術前後Humphrey,前眼部,視神経乳頭所見(岡山南眼科杉本敏樹先生の御厚意による)術前,強い水晶体混濁のためMDは.8.53dBであるが,VFIは99%である.出していることがわかる.おわりにVFIは,視野中心部への「重みづけ」が大きく,白内障などによるびまん性感度低下の影響を最小化できるので,緑内障のQOVや日常生活上の視機能を評価するうえで,有用なパラメータの一つになりうることが期待される.文献1)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,2008②白内障併発症例これらの2症例,MDの差は0.21dBのみであるが,VFIはそれぞれ69%,49%で20%も異なる.視力は1.0に対し,0.4である.このようにVFIのほうが中心視機能をよく反映する可能性が示唆される.③白内障併発症例の白内障手術前後を示す(図4).初診時高眼圧であり,強い水晶体核混濁と後.下混濁のため,術前には視神経乳頭の評価が困難であった症例であるが,MDが.8.53dBに対し,VFIは99%である.白内障手術後にはMDは.2.07dBまで回復した.この症例の視神経乳頭には緑内障性変化はなく,VFIは白内障の影響を除外し,術前から視神経乳頭が正常であることを検☆☆☆1368あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(52)

屈折矯正手術:新しい眼内レンズ-Lentis M Plus®

2012年10月31日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載149大橋裕一坪田一男149.新しい眼内レンズ―LentisMPlusR―荒井宏幸みなとみらいアイクリニック分節状屈折型の多焦点眼内レンズがおもに欧州にて使用され始めている.加入部分を分節状に配置することで,多焦点レンズにおけるグレア・ハロ・waxyvisionの出現しにくいレンズとして注目されている.乱視矯正用のレンズもあり,製作度数は100分の1Dステップというオーダー単位である.●分節状屈折型多焦点眼内レンズおもに欧州を中心として使用されており,国内は未承認である1).Oculentis社製LentisMPlusRの外観を図1に示す.レンズの光学部下方が,加入部分に相当する構造になっている.2重焦点の遠近両用眼鏡をイメージしやすいが,視線の移動によって近方視を確保するという理論ではない.屈折型として,近用部を集約して網膜上に結像させるアイデアは斬新である.他の多焦点レンズと同様に,網膜上には遠方・近方ともに集光されており,脳の選択によりどちらかの集光像を認識する.加入度数部分の面積は,全集光面積の約3分の1に相当する.素材は親水性アクリル(25%含水)であり,形状はプレート型である.切開創は2.0mmからの挿入が可能ということであるが,筆者は2.3mmの切開創にて行っている.レンズ長径は11mm,光学部は6.0mmである.球面度数の製作範囲0~+36Dである.加入度数は2種類あり,+3.0Dと+1.5D(どちらもレンズ面)が選択可能である.Toricレンズも用意されており,0.25~12Dまでの円柱レンズが対応可能となっている.●LentisMPlusRの光学的優位性現在,選択が可能な多焦点眼内レンズは,同心円状の屈折型多焦点レンズと回折型レンズである.屈折型には夜間のハロ・グレアの問題があり,回折型にはwaxyvisionという問題がある.基本的には,単焦点に比べれば近方視力は確実に確保できるのであるが,光学的なロスや散乱による見え方の不具合により,適応を狭めざるを得ない.同心円状の屈折型眼内レンズには,遠方と近方の(49)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1LenitsMPlusRの外観近用部分が下方(6時方向)になるように.内に固定する.マーカーラインは水平方向を示している.zone部分のgapがあり,その部分の散乱により光学的なロスが生じる.暗所にて瞳孔径が大きくなると,このgap部分が何周も表出されるため,より多くのロスが生じてしまう.回折型眼内レンズの場合には,回折構造の物理特性として,常に18%の入射光が減弱する.残りの82%を利用して遠方と近方に振り分けており,そのため鮮明度は甘くなり,これがwaxyvisionとして知覚される.術前にwaxyvisionに対する予測が可能であれば,非常に使い勝手の良いレンズであるが,それがむずかしいために躊躇することも多い.LentisMPlusRは光学的なロスを最小限にとどめるように設計されている.レンズの中心部分および60%以上の部分が遠方焦点の単焦点レンズであるため,良好な遠方視は担保される.また,屈折型に特徴的なzone間のgapは,1本のラインしかなく,したがって瞳孔径が大きくなっても表出するgapはラインの1部分のみである.そのgapも非常に精緻に作製されている.あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121365 図2LentisMPlusRtoricのオーダーフォーム100分の1D単位での推奨レンズ度数が示されている.乱視軸の角度によらず,レンズの固定は常に垂直方向である.●2つの加入度数を使い分けるLentisMPlusRには2種類の加入度数が用意されている.レンズ面にて+3.0Dと+1.5Dである.それぞれ眼鏡面では+2.5Dと+1.0Dに相当する.Oculentis社は優位眼に加入+1.5Dを,非優位眼に+3.0Dを選択してmodifiedmonovisionを作ることにより中間視力を確保するという提案をしている.●驚異的なtoricレンズの製作度数LentisMPlusRにはtoricレンズの設定がある.トーリックレンズの度数設定は,球面・円柱面ともに100分の1D単位である.図2のレンズのオーダーはおもにIOLマスター(CarlZeissMeditec社製)のデータを元に決定する.円柱面の軸方向は製作時点ですでに回転を付けて位置付けされており,.内での固定位置は球面レンズと同様に12時-6時の縦方向に固定すればよい.しかも納期は4週間である.●手術結果今回は誌面の関係上,術後結果は示さないが,通常の多焦点眼内レンズと同等の満足できる結果が得られている.最も安心できるのが,グレア・ハロやwaxyvisionの訴えがないことである.術後の細隙灯顕微鏡写真を図3に示すが,通常の光束で観察する限り単焦点レンズの様相である.すでに海外からも術後結果が報告され始め図3LentisMPlusRtoricの術後細隙灯顕微鏡写真下方の加入部分の反射と上下のtoricラインが観察される.ている2,3).●今後の展望このLentisMPlusRがほぼ単焦点に近い遠方視力と,日常的には十分な近方視力が安定して得られるものであれば,今後はこうした光学特性をもったレンズが多焦点眼内レンズの主流になりうると考えている.すでに調節力のない50歳以上の屈折異常眼に対しては,LASIK(laserinsitukeratomileusis)やPhakicIOL(眼内レンズ)ではなく,LentisMPlusRが良い適応になるかも知れない.ごく最近に,片眼にLentisMPlusRを,もう片眼に回折型のATLISA(CarlZeissMeditec社製)を選択することにより,遠方から近方までの連続した焦点深度分布が得られるという報告もあり,今後のデータに期待したい4).文献1)McAlindenC,MooreJE:Multifocalintraocularlenswithasurface-embeddednearsection:Short-termclinicaloutcomes.JCataractRefractSurg37:441-445,20112)AlioJL,PineroDP,Plaza-PucheABetal:Visualoutcomesandopticalperformanceofamonofocalintraocularlensandanew-generationmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:241-250,20113)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Comparativeanalysisoftheclinicaloutcomeswith2multifocalintraocularlensmodelswithrotationalasymmetry.JCataractRefractSurg37:1605-1614,20114)MunozG,Albarran-DiegoC,JavaloyJetal:Combiningzonalrefractiveanddiffractiveasphericmultifocalintraocularlenses.JRefractSurg28:174-181,2012☆☆☆1366あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(50)

眼内レンズ:鈍的外傷による水晶体後嚢破裂

2012年10月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎314.鈍的外傷による水晶体後.破裂石井清さいたま赤十字病院眼科鈍的眼外傷後に,水晶体後.破裂を生じ,徐々に白内障をきたすことがある.若年者に多いが,眼底病変の合併症を伴わなければ,手術時期と方法を症例の状態に応じて対処することにより,良好な視力予後を得られるケースも多い.今回は具体的な手術方法を供覧する.鈍的外傷後にみられる後.破裂を伴う白内障症例については,これまでにいくつか報告がある1.2)が,それほど頻度は多くない.鈍的外傷による後.破裂については,Wolterは,小児や若年者では水晶体核が未熟であるため,水晶体を通して,衝撃の対側に力が伝わるために生ずるとの推論1)を,また,Campanellaらは,小児ではWieger靱帯による前部硝子体と水晶体後.の接着が強固であり,鈍的外傷による衝撃で後.の中央部付近の破裂が生じやすい推論を報告している2).本セミナーでは鈍的眼外傷後に,後.破裂を伴う白内障をきたした白内障症例の対処手術方法を紹介する.手術方法は,経毛様体扁平部水晶体切除術(parsplanalensectomy:PPL)もしくは,limbalapproachの選択が可能であるが,後.破裂を伴う外傷性白内障は若年者に多く,後部硝子体.離が発生していないことが多い.そのため,PPLに伴い,網膜裂孔や網膜.離などの合併症を起こす可能性があるので注意が必要である.Limbalapproachでは水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)を行うことが可能である.Limbalapproachの場合は,後.破裂の程度によるが,眼内レンズ(IOL)を.内固定できる可能性があるという利点がある3).今回はlimbalapproachによる手術方法を紹介する.症例は,左眼眼球打撲で前医受診し,前房出血吸収後,白内障出現したため,受傷3カ月後に当科を紹介受診,核白内障と後.破裂がみられた(図1).後.破裂は楕円形で,破裂部の辺縁部に線維化がみられた.強角膜4面切開(2.4mm)を行い,3時,9時方向にサイドポートを作製(上方皮質が残った際のbimanualirrigation/図2トリパンブルーによる前.染色下による前.切開図1術前の前眼部白内障と後.破裂(点線)がみられる.図3灌流吸引で水晶体を吸引除去(47)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213630910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去図4硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去aspiration:以下I/A用).トリパンブルーで前.染色後に前.切開(図2),核が柔らかい場合はI/Aのみにて,水晶体を除去する(図3).その後線維化した前部硝子体と皮質の処理が必要な場合は,前房maintainerを留置し,25ゲージの硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去を行う(図4).前.と後.間に粘弾性物質を注入し水晶体.に若干の間隙を作り,IOLを.内に挿入(図5,6)する.この症例では術後経過は良好で,視力は術後4日で0.2(1.2×.2.75D(cyl.0.50DAx150°)まで改善した.術式がlimbalapproachの場合,術中に後.破裂の拡大,水晶体の硝子体への嵌頓の可能性を考慮し,慎重に手術時期を決定する必要があると考えられる.時間経過に伴い,後.破損の辺縁部は厚く線維化していくことが観察されるため,硝子体への炎症波及などの他の合併症がなければ,少なくとも6週間は白内障手術を待つほうがよいと考える.Limbalapproachの場合,術前の後.の状態について評価し,手術の際に,後.破裂の進行を防ぐため,PEAの場合は,低吸引,低灌流および,ボトル高を低くする工夫が肝要である.以上,後.破裂の程度,発症からの期間,年齢などを図5粘弾性物質を前.と後.下に注入する図6IOLを.内固定に挿入する総合的に判断して,手術時期,術式を選択する必要があると考えられる.文献1)WolterJR:Coup-contrecoupmechanismofocularinjuries.AmJOphthalmol56:785-796,19632)CampanellaPC,AminlariA,DemaioR:TraumaticcataractandWieger’sligament.OphthalmicSurgLasers28:422-423,19973)ThomasR:Posteriorcapsuleruptureafterblunttrauma.JCataractRefractSurg24:283-284,19982012年4月作成

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズの苦情に対処する(1)-くもり-

2012年10月31日 水曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】340.コンタクトレンズの苦情に対処する(1)―くもり―ハードコンタクトレンズ(HCL)装用者が年々減少しているなかでも,各社がそれぞれの特徴を生かしてHCL作製を継続していることは,CLに携わる眼科医として非常に有り難いと思っている.16年ほど前から出会った(株)サンコンタクトレンズのHCLは国内では唯一レンズに直接“調整加工”ができることから気に入っている.そして筆者自身も使用している.自分が処方しているレンズについて説明するほうが伝えやすいため,(株)サンコンタクトレンズのHCLで話を進めていく.「苦情処理」というより「主訴別対処」という言葉を筆者は好んで使用している.どんなにベストだと思って処方しても使い方や環境に影響され変わってくるため,CLは処方して終わりではない.その変化を見逃さないために定期検査が必要であり,それに対して「主訴別対処」を行うことが医療機器としてCLの質を保つためには必要である.今回は「くもり」について説明する.受診する際には「くもる」よりも「見えにくい・かすむ・見え方が不安定」などの表現をよく耳にする.受診時の表現はいろいろで戸惑うが,それを医学的な言葉へ置き換え原因を探舟橋順子大阪医科大学眼科学していく.レンズの汚れだけを見ていてもなかなか解決策は見つからない.焦らず探すためには順番を決めて考える1)(図1).1.レンズの確認まずレンズ自体を観察し,汚れや傷がないか確認する.レンズに汚れがあれば洗浄し,一般的な洗浄液で除去できなければ研磨剤入りの洗浄液または蛋白分解酵素入り洗浄液を使用する.それでも除去できない場合は研磨する.研磨はレンズ調整の一方法である.レンズ調整は何でもできるわけではないが,使用しているレンズに直接,「汚れや傷の研磨・度数調整・べベル幅の変更・エッジリフトの変更・サイズの縮小・エッジ形状の変更・特殊加工(MZ加工など)」を行える1,2).これらはメーカーの技術員にお願いする.汚れがつきやすい場合は使用しているケア用品を確認し,擦り洗いのやり方を実際に行ってもらい問題があれば指導する.深い傷でなければ研磨して除去できる.2.度数の過不足の確認レンズに問題がなければ,度数の過不足を確認する.レンズの確認汚れ・キズ洗浄・研磨度数の過不足度数変更装用状態でレンズ表面確認ドライなくもりBCを再考ベベル幅を狭くエッジリフト小さくフロントベベル薄く(フロントカット)ウェット(オイリー)なくもりレンズ周辺部での刺激ベベル幅を広くエッジリフト大きくブレンド追加エッジ研磨フロントベベル薄く(フロントカット)抗アレルギー点眼薬処方レンズ表面の涙液はじき研磨取り扱い確認日常生活確認レンズ脱後に見えにくい角膜形状確認(固着による圧痕・歪み)BC・直径変更(レンズ表面の涙液不足)(化粧品・ハンドクリームなどの付着)ありありなし図1主訴別対処「くもり」(45)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213610910-1810/12/\100/頁/JCOPY 度数の過不足がある場合,レンズ保証期間内ならレンズを交換し,保証期間を過ぎていれば±1D以内はレンズを削って度数調整を行う.3.装用状態でレンズ表面を確認レンズ自体と度数に問題がなければ,装用状態でレンズの表面を確認する.①ドライなくもり瞬きした後,開瞼してすぐレンズ表面が窓ガラスに息を吹きかけたようにくもる場合である.フルオレセインパターン(必ず角膜中央部にレンズを保持し確認)3)がパラレルの場合でも,べベル幅(図2a,b)が広すぎるまたはエッジリフト(図2a,c)が大きすぎると,エッジ下にたくさんの涙液が溜まりレンズ表面へ載る涙液が少なくなることから乾燥を生じる1,2,4).そこでべベル幅を狭くまたはエッジリフトを小さくすると,レンズ表面に涙液が載りやすくなり,くもりが改善する.べベル幅とエッジリフトに問題がない場合は,レンズ周辺の厚みがあるとレンズの表面に涙液が載りにくいため,フロントべベルを薄く調整する.特に強度近視の場合にはレンズ周辺部が厚くなるため,最初から「フロントべベルを薄く」と指定するとよい.また,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼も指導する.②ウェット・オイリーなくもりレンズ装用後,徐々にくもって見にくくなりレンズ表面には油膜状あるいは油滴状の汚れが付着している場合である.フルオレセインパターンがパラレルでも,べベル幅が狭すぎるまたはエッジリフトが小さすぎると,レンズの動きが悪くなり涙液交換も不良となり,くもりを生じる1,2,4).レンズの動きが悪いため,角膜周辺部への刺激は強くなり分泌物も増え,レンズ表面が汚れでくもってくる.そこでべベル幅を広くまたはエッジリフトを大きくすると動きが良くなり,くもりが改善する.同時にアレルギー性結膜炎を認め,抗アレルギー点眼薬を処方する場合も多くある.レンズの動きが悪いと固着している可能性が高いので,レンズ調整前にフォトケラトスコープでレンズ圧痕などの有無を確認しておくことも大切である.エッジ周辺カーブ(PC)中間カーブ(IC)直径(サイズ)光学領域べベル(PC+IC)aフロントべベルベースカーブ(BC)図2ハードコンタクトレンズ(HCL)各部の名称a:HCLの断面図,b:べベル幅,c:エッジリフト.ベベル幅bBCの延長線エッジリフトc③レンズ表面の涙液はじきレンズ表面に涙液が載らずはじいている場合は,化粧品やハンドクリームなどが付着していることが原因の多くを占めている.まず,レンズの取り扱い方や,日常生活での化粧品やハンドクリームなどの使用について確認する.汚れは洗浄液では除去できないため,研磨して除去する.原因となる化粧品やハンドクリームの使用方法についても指導が必要である.文献1)舟橋順子:初心者だからと諦めないで…よりよいHCL装用を目指して.日コレ誌53:補遺S10-S15,20112)舟橋順子:はじめてみようHCL処方.日コレ誌54(4),2012(印刷中)3)糸井素純:フルオレセインパターンの見方(2).あたらしい眼科19:605-606,20024)小玉裕司:自覚症状からのコンタクトレンズトラブルシューティング.眼科プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p142-148,文光堂,2009☆☆☆1362あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(46)

写真:Intra Corneal Ring Segments(ICRS)挿入後上皮迷入

2012年10月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦341.IntraCornealRingSegments脇舛耕一*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック(ICRS)挿入後上皮迷入*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学②①③図2図1のシェーマ①:上皮迷入,②:縫合糸,③:ICRS.図1ICRS挿入後上皮迷入(41歳,男性)ICRS挿入5日後に切開創に沿った上皮迷入を認めた.図3ICRS挿入後上皮迷入(図1と同一症例)ICRS周囲には特に異常所見を認めない.図4ICRS挿入後上皮迷入の治療経過(図1と同一症例)この症例では抗菌薬点眼のみにより図1から約2週間後にこの状態まで軽快を認めた.(43)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213590910-1810/12/\100/頁/JCOPY IntraCornealRingSegments(ICRS)はポリメチルメタクリレート(PMMA)製のリング形状の素材であり,角膜実質内に挿入することで突出した状態の角膜形状を扁平化させ正常眼に近づける効果をもつ.おもにレーザー屈折矯正手術が施行できない円錐角膜(疑い症例を含む)やlaserinsitukeratomileusis(LASIK)後のケラテクタジアに対して施行され,術後視機能の改善が得られている1,2).ICRS挿入のための角膜実質内トンネルの作製は,以前はブレードによるマニュアル法であったが,現在はフェムトセカンドレーザーを用いた切開が主流となっている.マニュアル法では正確なトンネル作製の困難さから角膜穿孔などの合併症頻度が少なくなかった3)が,フェムトセカンドレーザーにより精度の高いトンネル作製が可能となり,安全性が向上し,合併症の発症頻度も減少した.現在の代表的なICRS術後合併症としては,ICRS脱出4)や感染症5),ICRS周囲角膜実質への脂肪沈着6),角膜内皮機能不全1)のほか,トンネル切開部における上皮迷入が報告されている7).上皮迷入は手術や外傷により生じた角膜表面から実質へつながる創を通じて上皮細胞が実質内へ入り込む病態であり,検鏡的には創間に沿って迷入した上皮細胞の集蔟による混濁病変を認める(図1).上皮迷入をきたす代表例としては,LASIK後のフラップ間への迷入がある8)が,そのほかDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)における層間ドレナージのための実質穿刺創からの迷入が報告されている9).ICRS挿入眼における上皮迷入のリスクファクターとして,手術時の操作および術後の強い瞬目,eyerubbingなどによる切開部の実質損傷や創離開がある.このリスクファクターを軽減させる対策として,ICRS挿入時に切開部の縫合と,術終了時からのソフトコンタクトレンズ装用を行うことが重要である.当院ではICRS脱出予防も含めソフトコンタクトレンズ装用は術後1週間まで行い,縫合抜糸は術後3カ月まで行わないようにしている.このような対策を行っていれば上皮迷入の発症はきわめてまれであり,当院でも上皮迷入を認めたものは本症例のみであった.文献1)HaddadW,FadlallahA,DiraniAetal:Comparisonof2typesofintrastromalcornealringsegmentsforkeratoconus.JCataractRefractSurg38:1214-1221,20122)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkeratoconuswithintacscornealringsegments.JRefractSurg21:236-246,20053)KanellopoulosAJ,PeLH,PerryHDetal:Modifiedintracornealringsegmentimplantations(INTACS)forthemanagementofmoderatetoadvancedkeratoconus:efficacyandcomplications.Cornea25:29-33,20064)FerrerC,AlioJL,MontanesAUetal:Causesofintrastromalcornealringsegmentexplantation:clinicopathologiccorrelationanalysis.JCataractRefractSurg36:970977,20105)Ibanez-AlperteJ,Perez-GarciaD,CristobalJAetal:KeratitisafterImplantationofIntrastromalCornealRingswithSpontaneousExtrusionoftheSegment.CaseReportOphthalmol1:42-46,20106)RuckhoferJ,TwaMD,SchanzlinDJ:Clinicalcharacteristicsoflamellarchanneldepositsafterimplantationofintacs.JCataractRefractSurg26:1473-1479,20007)ErtanA,KamburogluG,BahadirM:Intacsinsertionwiththefemtosecondlaserforthemanagementofkeratoconus:one-yearresults.JCataractRefractSurg32:20392042,20068)HenryCR,CantoAP,GalorAetal:EpithelialingrowthafterLASIK:clinicalcharacteristics,riskfactors,andvisualoutcomesinpatientsrequiringflaplift.JRefractSurg28:488-492,20129)BansalR,RamasubramanianA,DasPetal:Intracornealepithelialingrowthafterdescemetstrippingendothelialkeratoplastyandstromalpuncture.Cornea28:334-337,20091360あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(00)

外科手術の適応とタイミング・実際の手技

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1353.1357,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1353.1357,2012外科手術の適応とタイミング・実際の手技TimingandProcedureofSurgicalInterventionforSteroid-RecalcitrantUveitis丸山和一*はじめにステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎には種々の原疾患がある.特に臨床的に問題となるのは,感染症や悪性リンパ腫のような疾患である.感染症(特に遅発性眼内炎・真菌性眼内炎の場合)や悪性リンパ腫でも一時的にステロイド薬に反応し所見が改善するため,日々の臨床において診断が遅れ重症化することがある.筆者らは,ぶどう膜炎の急性期に手術を施行することは問題ではなく,重要なのは,ぶどう膜炎の種類・術中に採取したサンプルの解析・術後の炎症コントロールであることを報告してきた.ぶどう膜炎における手術には,慢性炎症・ウイルス・細菌・真菌感染による眼組織障害を少しでも緩和し,失明を回避するために施行する治療的硝子体手術と,悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患を眼局所にて早期に発見し,眼外の病態把握を可能にする診断的硝子体手術がある.この両者は適切なタイミングで施行する必要があり,ステロイド薬投与により実際の臨床病態がマスクされている可能性が高いため,手術にて採取した種々の眼内液・組織サンプルの解析は必須であると考える.I感染性眼内炎感染性眼内炎には細菌性・真菌性・ウイルス性眼内炎などが含まれる.ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎と診断される感染性ぶどう膜炎には,細菌性の遅発性眼内炎や真菌性眼内炎が臨床的に散見される.両疾患ともに問診により推測可能であることが多く,遅発性眼内炎の場合は発症前に眼内手術既往があり,ときには非感染性ぶどう膜炎であるサルコイドーシス内眼炎と診断され治療されることがある.また,真菌性眼内炎の場合は,中心静脈栄養のカテーテル留置や免疫不全状態が発症前に認められることが多い.両疾患ともに肉芽腫性ぶどう膜炎であり,豚脂様角膜後面沈着物が認められ,眼内レンズにも沈着物が認められることが多い.硝子体内には両疾患ともに硝子体混濁を認めるが,特に真菌性眼内炎の場合は硝子体混濁が強く,一つの混濁が大きいfluffball様硝子体混濁や,網膜下感染巣を認めることがある.真菌性眼内炎は進行すると硝子体混濁が強いため眼底観察が不能となり,病態が進行することがしばしばある.このため真菌性眼内炎を疑ったときはすぐに硝子体手術を施行するべきである.1.遅発性眼内炎急性の眼内炎と異なり,診断が困難なものとして遅発性(術後晩期)眼内炎があり,臨床所見が類似しているため,しばしばぶどう膜炎と診断されることがある.白内障手術後晩期眼内炎では,嫌気性菌であるPropionibacteriumacnes(P.acnes)が眼内炎症例の約45%に検出されている1).P.acnesによる眼内炎は,手術後平均4カ月くらいの発症が多く,虹彩毛様体炎様所見で発症し,軽度の前房炎症と軽度の角膜後面沈着物を認める(図1,2).しか*KazuichiMaruyama:東北大学大学院医学系研究科・神経感覚器病態学講座・眼科学分野〔別刷請求先〕丸山和一:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科・神経感覚器病態学講座・眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(37)1353 図1遅発性眼内炎眼内レンズに多くの沈着物が認められる.し,ときには前房蓄膿や高度の豚脂様角膜後面沈着物を伴うことがある.肉芽腫性ぶどう膜炎の形態をとり,サルコイドーシス内眼炎におけるぶどう膜炎所見に類似する.実際以前にサルコイドーシス内眼炎における硝子体液よりPropionibacteriumがPCR(polymerasechainreaction)により検出されている.さらに筆者らもサルコイドーシス内眼炎と考えられる網膜サンプルからP.acnesDNAを検出しているため,Propionibacterium属がサルコイドーシス内眼炎に関与している可能性も否定できない.診断は前房水や硝子体液の培養・塗抹検査であるが,嫌気性菌であるP.acnesを培養し同定することは時間がかかり約1週間の猶予が必要である.そのため,近年はPCR法により菌を迅速診断する方法を用いることが多い.治療は,セフェム系・ペニシリン系・フルオロキノロン系などの抗菌薬とステロイド薬点眼を用いる.それでも反応が乏しい場合は手術治療に踏み切り,原疾患を把握することに努める.硝子体手術時は遅発性眼内炎の場合は水晶体.に問題があることが多いため,水晶体.を摘出する.硝子体手術時は細菌性眼内炎の硝子体手術治療に準ずるため,灌流液にはバンコマイシン+モダシンを投与しておく.硝子体手術後はぶどう膜炎と同様にステロイド薬を点眼し,消炎に努めることをすすめる.図2遅発性眼内炎角膜後面沈着物(豚脂様).2.真菌性眼内炎真菌性眼内炎には,穿孔性眼外傷や眼内手術によって起こる外因性のものと,免疫不全状態や中心静脈栄養によって他組織で感染し,血流にて眼内(特に脈絡膜)に播種する内因性のものがある.特に内因性眼内炎は,現代の医療,たとえば高カロリー中心静脈栄養(IVH)や臓器移植後・ステロイド薬投与・血液悪性の治療などが進歩するにつれて増加傾向にあると考えられている.特にIVHが本疾患の原因の約90%であるため,挿入している患者は注意が必要である2).臨床経過は亜急性または慢性に進行し,通常両眼性である.飛蚊症などを訴えて発見されることがある.病変は眼底後極部に多く,硝子体混濁を呈することが多い.進行すると特徴的な硝子体混濁であり黄白色で毛玉様(fluffball)を呈する(図3,4).初期に他のぶどう膜炎と診断しステロイド薬などで治療を続けると,真菌はさらに増殖し,硝子体内膿瘍になり網膜病巣が進展して滲出性網膜.離を呈する.治療は,真菌に対して有効な薬剤が開発されているので,網膜滲出斑のみの病態のときは薬物療法を選択する.しかし,薬物治療の効果がないときはもちろんであるが,治療前でも硝子体混濁を呈するときは,京都府立医科大学(以下,当施設)では全身状態のことも考慮しながら外科的治療と同時に局所抗真菌薬投与を優先的に選択する.硝子体手術の目的は,病巣の除去と薬剤眼内移行の向上と起炎菌の採取である.1354あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(38) 図3真菌性眼内炎硝子体内に塊状の混濁がある.図4真菌性眼内炎前部硝子体内に大きな塊状(一部毛羽たっている).II眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOL)は硝子体混濁や網膜浸潤病巣を惹起しぶどう膜炎のような炎症性疾患の様相を呈する.急性期には炎症性サイトカインが硝子体内に上昇し炎症反応を惹起し,炎症性サイトカインとともに炎症細胞も増加するために,一時的にステロイド薬治療が効果的となる.しかし,すぐに硝子体混濁が再発し,臨床的にはステロイド薬治療に抵抗する硝子体混濁として認識されている.前眼部の炎症は軽度で,硝子体混濁は感染性(細菌性・真菌性などの)眼内炎などのように,塊を呈さずに多くの小型細胞を含むオーロラ状(カーテン状)である(39)図5悪性リンパ腫ベール状の硝子体混濁.図6悪性リンパ腫黄白色の網膜下隆起性病変.(図5).サルコイドーシス内眼炎や急性網膜壊死のような硝子体混濁(雪玉様混濁など)とは違い硝子体混濁の形態からPIOLが推測できることがある.網膜病変は網膜下/Bruch膜上に腫瘍細胞が浸潤し,黄白色の斑状または小さな顆粒状の病変を呈しさまざまである(図6)が,蛍光眼底造影検査を施行すると特徴的な顆粒状の低蛍光所見が認められ診断の補助となる(図7)3).PIOLあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121355 図7悪性リンパ腫網膜全体に顆粒状の低蛍光所見(病変が存在した部位).と判断したときは早急に確定診断する必要がある.そのためには硝子体生検を施行し種々の検査が必要となる.以下に当施設(共同研究先として東京医科歯科大学)で施行している検査を示す.1.眼内液を使用した検査1)細胞診:classIV以上(IIIでは臨床像と合わせて診断する)2)硝子体液サイトカイン:インターロイキン(IL)10/IL-6比>1が原則である3)遺伝子検査:サザンブロットもしくはPCRによる免疫グロブリン遺伝子,遺伝子再構成4)フローサイトメトリー:B細胞やT細胞に偏ったリンパ球様細胞(lightchainrestriction(LCR):k/l陽性細胞の分画解離)2.PIOLと判断された場合1)頭蓋内造影(magneticresonanceimaging:MRI)2)髄液検査(細胞診・サイトカイン測定)3)全身造影(computedtomography:CT)4)Positronemissiontomography(PET)5)骨髄検査1356あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012治療は,硝子体手術で悪性リンパ腫を治療することはできないため,基本的に全身化学療法と放射線治療である.なかでもmethotrexate(MTX)大量療法が標準治療となっている.当施設では全身管理の必要性から,PIOLと診断されたら血液免疫内科にて施行していただいている(京都府立医科大学倫理委員会承認済み).局所(硝子体内)MTX投与は,大量投与が困難な合併症をもつ場合や,すでに全身投与が行われていて局所に再発した場合に施行する.眼内悪性リンパ腫は,生命予後に関する疾患であるため,早期診断・早期治療を目標とする.このためぶどう膜炎様所見を呈し,ステロイド薬治療に抵抗する疾患は早急に除外診断のためにも専門医の診察を受ける必要がある.III硝子体生検の手技1.機器のセットアップ硝子体カッターのラインは完全にドライにしておく.この理由は,テストなどを施行するとラインに水が回ってしまい,採取時の硝子体が薄まってしまうため,正確なサイトカインが測定できないからである.最近の機器ではテストをしないと硝子体カッター自体が作動しないものがあるため,ラインの途中に三方活栓をつけ,そこから清潔airを50mlシリンジで逆流させ,なるべくドライな状態に仕上げておく.2.採取時の方法・条件硝子体手術時に準じて,眼洗浄・ドレーピング後に硝子体手術用の3ポートを作製する.ポート作製後眼球圧迫鈎を使用し圧迫しながら,直視下で切除を開始する.採取時の吸引は,硝子体カッターの吸引ライン上に三方活栓をつけ,5mlのシリンジをつけておき,助手がマニュアルで吸引を行う.初回のサンプル採取のカットレートは500cpmに設定しておく.約1.2mlの硝子体採取後,灌流ポートを開け眼圧を元に戻す.採取したサンプルは,すぐに清潔操作下で細胞診・サイトカイン測定・遺伝子再構成用に分け,サイトカイン測定と遺伝子再構成用サンプルは液体窒素にて急速冷凍する.水晶体再建術後,3ポート目を作製して,再度硝子体生検を施(40) 行する.このときの硝子体切除はなるべく硝子体混濁部を狙い約8ml以上を採取する.吸引は初回採取と同様に助手がマニュアルで吸引を行う.フローサイトメトリー用サンプル採取の硝子体カッターのカットレートであるが,筆者らは2,000cpm以上(5,000cpmでも)でも問題ないことを確認しており,通常の硝子体手術操作でも問題はない4).1)1度目の硝子体生検(cutrate:500cpm,吸引:マニュアル)2)水晶体再建術3)2度目の硝子体生検(cutrate:2,000cpm,吸引:マニュアル)おわりに近年硝子体手術機器や顕微鏡システムが発達し,以前よりは安全に硝子体手術が行えるようになった.しかし,今回述べた疾患のような診断困難例やPIOLのように診断が生命予後にまで関与する症例でステロイド薬の効果がない場合は,早急にぶどう膜炎を専門とした眼科医にコンサルトするべきである.当施設ではぶどう膜炎疾患の多くの疾患で網膜硝子体手術を必要とすることがあるため,網膜硝子体サージカルグループとぶどう膜炎グループが協力して(網脈絡膜炎グループを確立)治療に専念することとしている.文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起炎菌─Propionibacteriumacnesを主として─.あたらしい眼科20:657-660,20032)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─1987.1993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,19953)米田一仁,西浦正敏,多田玲ほか:広範囲の網膜下色素沈着を来した中枢神経系原発眼内悪性リンパ腫の1例.眼紀56:59-63,20054)NagataK,MaruyamaK:Simultaneousanalysisofmultiplecytokinesinthevitreousofpatientswithsarcoiduveitis.InvesOphthalmolVisSci53:3827-3833,2012(41)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121357

小児ぶどう膜炎

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特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1347.1351,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1347.1351,2012小児ぶどう膜炎UveitisinChildhood中井慶*はじめに小児のぶどう膜炎は,サルコイドーシス,若年性特発性関節炎(JIA),間質性腎炎ぶどう膜炎(TINU)症候群などが多い.本稿では,JIAとTINU症候群を中心に解説する.これらの疾患には,治療として,経口ステロイド薬が用いられるが,小児へのステロイド薬の副作用の観点から,経口ステロイド薬による長期コントロールがむずかしい場合,メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用する場合もある.最近では生物学的製剤も使用されるようになってきている.I若年性特発性関節炎(JIA:juvenileidiopathicarthritis)若年性特発性関節炎は,16歳未満の小児期に発症する原因不明の慢性関節炎と定義されており,慢性の炎症疾患で関節と結合組織に障害をもたらす.小児期の慢性関節炎で最も頻度の高い疾患である.以前は,若年性関節リウマチ(JRA)とよばれた.臨床的には全身型,関節型,症候性関節炎に分類される.従来の若年性関節リウマチは,小児期の慢性関節炎を網羅的に表現する診断名であると同時に,特発性慢性関節炎として一つの疾患単位でもあったため,世界保健機構(WHO)が中心となって診断基準分類を統一,小児期の特発性関節炎を若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis)と定義するようになった.本疾患は,まず関節型と全身型に大別され,関節型はさらに少関節型,少関節進展型,多関節型に細分される1).血清学的には,少関節型は抗核抗体陽性者が,多関節型はリウマトイド因子(RF)陽性者が多いとされ,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)では,少関節型はHLA-DR4と,多関節型はHLA-DR9と相関するとされている.多関節型患者は成人の関節リウマチへ移行することも多い.1.眼症状軽-中程度の炎症症例が多い.その場合,小-中型の角膜後面沈着物を認める.眼内炎症は潜行性,無症候性に発症する場合が多いため,進行した白内障による視力低下や,患児の角膜上の帯状角膜変性症による白斑に気づいて初めて見つかる場合も多い.このような特徴から,“white-uveitis”とよばれる.急性増悪期には内皮面全面に細胞付着を認めるが,前房蓄膿はなく,長期経過観察例で虹彩後癒着を認めるものがある.早期の少関節型で,抗核抗体(ANA)陽性,さらにHLA-DR5保有者ではぶどう膜炎の発症の危険性が高く約20%に認められる.慢性虹彩毛様体炎の重症例(図1)では,視力障害や失明を起こすこともある.経過観察中に,長期にわたるぶどう膜炎とステロイド薬の使用により白内障や緑内障をきたす場合も多く,眼底病変はまれであるが,視神経乳頭炎,網膜血管炎,黄斑部浮腫を認める場合もある.膠原病,リウマチ疾患はしばしば眼症状を呈する.JIAに伴うぶどう膜炎は,全身疾患に合併する小児の内眼炎のなかでは代表的な一つである.しかし,全身的に*KeiNakai:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕中井慶:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(31)1347 baba図1JIA患者の重症例前眼部非肉芽腫性ぶどう膜炎(a,b)前房蓄膿を認める(a).インフリキシマブにてコントロールがつかず,現在はエタネルセプトにて良好.はJIAの診断基準を満たさないが,眼所見はきわめて類似した小児の原因不明の慢性虹彩毛様体炎も多い.1966年提唱された“choroniciridocyclitisinyounggirls”は,眼臨床症状がJIAに伴うぶどう膜炎に類似しているが全身症状からはJIAと診断されないものを指し,今日ではJIAに伴う内眼炎の不全型という疾患と考えられている.日本人より白人に多い.ぶどう膜炎を有する症例の80%は抗核抗体が陽性であり,施行すべき検査である.RFの陽性率は低い.2.臨床病型別の眼症状a.少関節型女児の発症率は男児の5倍で2歳前後に発症することが多い.関節症状は膝に最も多い.後に関節症状が進行1348あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012表1若年性特発性関節炎の診断・分類基準(ILARによる2次改訂,2001年)1.全身型関節炎2週間以上続く弛張熱を伴い,つぎの項目の1つ以上の症候を伴う関節炎1)一過性の紅斑2)全身のリンパ節腫脹3)肝腫大または脾腫大4)漿膜炎2.少関節炎発症6カ月以内に1.4カ所の関節に限局する関節炎つぎの2型がある(a)持続型:全経過を通して4関節以下の関節炎(b)進展型:発症6カ月以降に5関節以上に関節炎3.多関節炎(リウマトイド因子陰性)発症6カ月以内に5カ所以上に関節炎が及ぶ型で,リウマトイド因子が陰性4.多関節炎(リウマトイド因子陽性)発症6カ月以内に5カ所以上に関節炎が及ぶ型で,リウマトイド因子が3カ月以上の間隔で測定して2回以上陽性5.乾癬関連関節症(以下のいずれか)1)乾癬を伴った関節炎2)少なくともつぎの2項目以上を伴う例(a)指関節炎(b)爪の変形(c)一親等の乾癬患者6.付着部炎関連関節炎(以下のいずれか)1)関節炎と付着部炎2)関節炎または付着部炎で,少なくとも以下の2項目以上を伴う例(a)仙腸関節の圧痛または炎症性の脊椎の疼痛(b)HLA-B27陽性(c)一親等に強直性脊椎炎,腱付着部炎関連関節炎,炎症性腸疾患に伴う仙腸関節炎,Reiter症候群,急性前部ぶどう膜炎の家族歴(d)急性前部ぶどう膜炎(e)6歳以上で関節炎を発症した男児7.分類不能関節炎上記の分類基準を満たさないあるいは2つ以上の分類基準を満たすもの.ILAR:InstituteofLaboratoryAnimalResources.して多関節型に進行することがある.約75%の患者がANA抗体陽性である.この臨床病型が最も眼症状を合併することが多く,約20%にぶどう膜炎を合併する.b.多関節型女児の発症率は男児の3倍で,小児のどの時期にも発症しうる.5つ以上の関節に病変を生じる.全身症状は軽度もしくはまったくない.約40%の患者がANA抗(32) 体陽性である.ぶどう膜炎を約5%に合併する.c.全身型女児と男児の発症率は同率で小児のどの時期にも発症しうる.全身症状として高い弛張熱,一過性の斑状丘疹,全身リンパ節腫脹,肝脾腫大が出現する.初期には,関節症または関節炎はないかきわめて軽度で,ごくまれに進行性多関節炎が発症する.通常ぶどう膜炎は発症しない.3.診断全身の関節を詳細に観察して炎症関節の部位と数を確定する.血算,赤沈,抗核抗体,C反応性蛋白(CRP)RF,HLAタイプ,血清免疫電気泳動,滑液分析,関節(,)のX線撮影,胸部X線撮影,心電図,眼の細隙灯顕微鏡検査などにより炎症の程度や病型分類,持続期間を推定する.診断基準は表1に示す2).4.治療全身症状に対する内服薬として,アスピリン,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),抗リウマチ薬,免疫抑制薬,ステロイド薬などを用いる,眼症状に対して,ステロイド薬点眼と散瞳薬による瞳孔管理が必要である.重症例には,経口ステロイド薬の内服が行われるが,減量に伴う漸減時に再発をきたすことも多く,離脱がむずかしい.ただ,小児へのステロイド薬の副作用の観点から,経口ステロイド薬による長期コントロールがむずかしい場合,メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用する場合もある.最近では,サイトカインが発症や増悪に関与するとされており,2006年に抗TNF(腫瘍壊死因子)-a製剤アダリムマブの有効性および安全性が米国リウマチ学会で報告されて以降,2008年に抗IL(インターロイキン)-6抗体であるトシリズマブ,2009年にTNF-a受容体結合阻害薬エタネルセプトが保険適用となった.II尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群〔TINU症候群(tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome)〕特発性の急性尿細管間質性腎炎にぶどう膜炎を合併し(33)た疾患を,間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群とよぶ.1975年にDobrinらによって急性好酸球間質性腎炎に前部ぶどう膜炎と骨髄肉芽腫を伴った2症例が初めて報告された3).いずれの年齢および性においてもみられるが,表2尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎(TINU)症候群の診断基準TINU症候群の診断には急性間質性腎炎(acuteinterstitialnephritis:AIN)とぶどう膜炎の両方がみられ,腎炎やぶどう膜炎を伴う他の全身疾患がないことが必要.以下に示したAIN診断基準とぶどう膜炎診断基準に基づき,症例はさらに“definite”,“probable”,“possible”に分類される.DefiniteTINU症候群・病理組織学的もしくは臨床的診断基準(completecriteria)を満たしたAINと,典型的ぶどう膜炎ProbableTINU症候群・病理組織学的診断されたAINと非典型的ぶどう膜炎・臨床的診断基準(incompletecriteria)を満たしたAINとtypicalぶどう膜炎PossibleTINU症候群・臨床的診断基準(incompletecriteria)を満たしたAINとatypicalぶどう膜炎AINの診断基準・病理組織学的診断:腎生検で尿細管間質性腎炎がみられる・臨床的診断:以下の診断基準を満たすもの3項目を満たすものをcompletecriteria3項目未満のものをincompletecriteria1.腎機能異常(血清クレアチニンの上昇かクレアチニン・クリアランスの低下)2.尿検査異常:b2MGの増加,軽度の蛋白尿,好酸球尿,感染のない濃性尿や血尿,白血球円柱,正常血糖の糖尿3.以下の症状や検査所見を伴った2週間以上持続する全身の病的状態a.症状:発熱,体重減少,食欲不振,倦怠感,易疲労,発疹,腹痛や側腹痛,関節痛,筋肉痛b.検査所見:貧血,肝機能障害,好酸球増多症,血沈40mm/hr以上ぶどう膜炎の特徴・Typical1.両眼性の前部ぶどう膜炎(中間部あるいは後部ぶどう膜炎の有無は問わない)2.AIN発症の2カ月前から12カ月後の間にぶどう膜炎を発症・Atypical1.片眼の前部ぶどう膜炎,中間部ぶどう膜炎,後部ぶどう膜炎,あるいはこれらが混在2.AIN発症の2カ月以前あるいは12カ月以降にぶどう膜炎を発症(文献4より)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121349 babacd図2TINU症候群患者のぶどう膜炎結膜,毛様充血はない(a)が,前眼部肉芽腫性炎症を認める(b,c)(whiteuveitis).蛍光眼底造影検査にて視神経乳頭からの過蛍光を認める(d).平均年齢15歳,男女比は1:3,若い女性に多い傾向がある.ぶどう膜炎発症が間質性腎炎の診断よりも先行(20%),同時(15%),後発(65%)と,多くは腎炎発症後の2カ月前から12カ月以内に発症する.ぶどう膜炎の発症によりその原因検索から偶然に無症状の腎炎が見つかることもあり,多くの場合間質性腎炎が先行していることから,ぶどう膜炎は腎炎に続発すると考えられる.本症が疑われたら尿中b2ミクログロブリン(b2MG)検査を行う.これが最も有用な検査で,1,000以上の異常高値を示すことが多い.尿中N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)値も参考になる.腎機能検査は必須であるが,血清尿酸窒素(BUN),クレアチニン値は正常1350あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012のことが多い.一般尿検査では,尿蛋白だけでなく尿糖が陽性のことも多く,参考になる.1.眼科症状2001年に133例のTINU症候群症例を検討して,診断基準が提案された(表2)4).片眼発症であっても,そのうちに両眼性の虹彩毛様体炎を呈する症例が多い.微細な角膜後面沈着物を伴う非肉芽腫性の弱-中程度の前房炎症である前部ぶどう膜炎であることが多いが,再燃例や遷延例では,豚脂様角膜後面沈着物やフィブリンの析出,虹彩後癒着,前房蓄膿を呈する肉芽腫性病変を伴うこともある(図2).硝子体混濁がみられるときには,びまん性混濁としてみられることが多いが,周辺部下方(34) に小さな塊状混濁がみられることもある.眼底病変は,乳頭発赤,腫脹,後極部網膜血管の拡張,蛇行,周辺網膜に滲出斑などが認められることがある.網膜出血や網膜血管炎はまれである.約半数は再発を繰り返し高眼圧,白内障などを伴う.再燃を繰り返すうちに約20%は汎ぶどう膜炎に進展し,網膜血管の拡張,白鞘化,出血,滲出斑,視神経乳頭炎,脈絡膜炎などがみられる.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では,視神経乳頭からの過蛍光や,検眼鏡的に網膜所見がなくても,網膜毛細血管からの色素漏出を認めることがある.2.治療予後は一般に良好であり,多くの間質性腎炎は自然治癒する.眼所見は前眼部炎症が中心なので,治療はステロイド薬と散瞳薬の点眼が主となる.しかし,急速な腎機能低下や全身症状の強い場合,ぶどう膜炎が眼底所見を伴って重症化する場合,局所治療に反応しない例が多い.また,腎炎もしくはぶどう膜炎が再燃,慢性化する場合があり,このような場合は腎生検で診断が確定し次第,腎炎に対してステロイド薬の全身投与がよく反応し,内眼炎症も消退する.ステロイド内服薬の投与量は腎炎の程度によって異なるが,プレドニゾロン換算で20.60mg程度である.ただ,小児へのステロイド薬の副作用の観点から,経口ステロイド薬による長期コントロールがむずかしい場合,メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用する場合もある.必ずしもぶどう膜炎と腎障害の活動性の程度に関連はなく,腎炎が自然寛解したにもかかわらず,ぶどう膜炎が再燃して難治になる場合もある.III小児ぶどう膜炎の鑑別疾患若年性慢性虹彩毛様体炎,HLA-B27関連ぶどう膜炎,サルコイドーシス,全身性エリテマトーデス(SLE).文献1)PettyRE,SouthwoodTR:Classificationofchildhoodarthritis:divideandconquer.JRheumatol25:18691870,19982)今中啓之:若年性特発性関節炎の診断・分類基準の国際的な趨勢と意義.最新医学62(5):14-20,20073)DobrinRS,VernierRL,FishAL:Acuteeosinophilicinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanterioruveitis.Anewsyndrome.AmJMed59:325-333,19754)MandevilleJT,LevinsonRD,HollandGN:Thetubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthalmol46:195-208,2001(35)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121351

Behcet病

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1341.1346,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1341.1346,2012Behcet病Behcet’sDisease竹本裕子*南場研一*はじめにBehcet病はトルコなどの中近東から中国を経て日本に至る,いわゆるシルクロード沿いに患者が多いことで知られる疾患である.その病因はいまだ不明であるが,これらの地域のどの人種においても健常群に比べ患者群で有意にHLA-B*51の保有率が高く1),遺伝的素因がその発症に関与していると推察されている.Behcet病には特異的,決定的な検査所見はなく,臨床症状や経過(再発性)から総合的な判断で,厚生労働省の診断基準(表1)に基づいて診断を確定する.サルコイドーシス,感染性眼内炎,急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎,ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)-1関連ぶどう膜炎,結核性ぶどう膜炎などが鑑別疾患としてあげられる.実際には,発症時に眼症状が典型的ではないことや,眼外症状が明らかではないことも多く,すぐに診断に至らない症例もみられるが,経過とともにしだいに典型的となるので,経過を慎重にみていき,鑑別していくことが重要である.本稿では,Behcet病と診断された後,どのように治療していくか,治療抵抗性や副作用のために治療方法を変更せざるをえない場合など,難症例の具体例をあげながら紹介する.I発作時の治療軽度の前眼部炎症のみであればステロイド点眼薬と散瞳点眼薬の治療のみとなる.しかし,前房蓄膿を伴うよ表1厚生労働省ベーチェット(Behcet)病の臨床診断基準1主要項目(1)主症状①口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍②皮膚症状a.結節性紅斑様皮疹,b.皮下の血栓性静脈炎,c.毛.炎様皮疹,d..瘡様皮疹参考所見:皮膚の被刺激性亢進③眼症状a.虹彩毛様体炎,b.網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)c.以下の所見があればa,bに準じるa,bを経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,併発白内障,続発緑内障,眼球癆④外陰部潰瘍(2)副症状①変形や硬直を伴わない関節炎②副睾丸炎③回盲部潰瘍で代表される消化器病変④血管病変⑤中等度以上の中枢神経病変(3)病型診断の基準①完全型:経過中に4主症状が出現したもの②不全型a.経過中に3主症状,あるいは2主症状と2副症状が出現したものb.経過中に定型的眼症状とその他の1主症状,あるいは2副症状が出現したもの③疑い:主症状の一部が出没するが,不全型の条件を満たさないもの,および定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの④特殊病変a.腸管(型)ベーチェット病:腹痛,潜血反応の有無を確認するb.血管(型)ベーチェット病:大動脈,小動脈,大小静脈障害の別を確認するc.神経(型)ベーチェット病:頭痛,麻痺,脳脊髄症型,精神症状などの有無を確認する*YukoTakemoto&KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野〔別刷請求先〕竹本裕子:〒060-8648札幌市北区北14条西5丁目北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(25)1341 うな強い前眼部炎症の際にはデキサメタゾン(デカドロンR)1.65mg/0.5mlを炎症が軽減するまで数日間結膜下注射を行う.後眼部への発作の場合にはデキサメタゾ3mg/1.0mlの後部Tenon.下注射.)3Rン(デカドロンを行う.黄斑部に病変が及ぶ場合には連日後部Tenon.下注射を施行する.II非発作時の治療(図1)1)眼炎症発作を頻発することが視力予後不良の一因となるため,非発作時には眼炎症発作を抑制する治療が必要となる.1.コルヒチンまずはコルヒチンを内服することが多い.ただし,催奇形性があるとされ,妊娠を望む患者には男女とも使用できない.また,ミオパチー,末梢神経炎,肝障害などの副作用が知られている.コルヒチンの眼炎症発作抑制効果は高くなく,十分に発作が抑制される症例は少ない.2.シクロスポリンコルヒチンで効果不十分な場合や認容性に問題がある場合にはつぎの段階に移行する.シクロスポリン(ネオーラルR)はT細胞選択的免疫抑制薬であり,1990年代からBehcet病に使われてきた.通常5mg/kg程度より開始し,トラフ値は150ng/mlを目安に調整する.シコルヒチン軽症シクロスポリンなど重症眼炎症発作を頻発する症例インフリキシマブ後極部に眼炎症発作を生じる症例視機能障害が著しく失明の危機にある症例図1非発作時の治療方法通常はコルヒチンから開始し,効果不十分であればシクロスポリンなどへの変更,またはインフリキシマブの導入を行う.副作用などのためシクロスポリンの導入がむずかしい症例や,視機能障害が懸念される重症例にはインフリキシマブの早期導入を行う.1342あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012クロスポリンのBehcet病における眼炎症発作抑制効果は,著効39%,有効22%,やや有効11%,無効28%とされ2),実際の印象としては,有効と判断されるのは約半数である.また,シクロスポリンは腎機能障害や肝機能障害など副作用の発現頻度も比較的高いことに加え,中枢神経症状を呈することも多い.このため,インフリキシマブ(レミケードR)の有用性,副作用が認知されるようになった近年では,コルヒチンのつぎの段階として,あえてシクロスポリンを選択せず,インフリキシマブを選択することも積極的に検討されている(図1).特に,視力予後が不良と思われる重症例や,シクロスポリンの認容性に問題がある症例では,早期よりインフリキシマブを導入するよう推奨されている.3.インフリキシマブインフリキシマブは炎症の起点となる腫瘍壊死因子(TNF)-aに対するキメラ型抗ヒトTNF-a単クローン抗体製剤である.上記2剤と比較し,より高い発作抑制効果が期待できる.しかし,結核やウイルス性肝炎などの感染症を増悪させる可能性があり,導入前に胸部CT(コンピュータ断層撮影),クオンティフェロン,ツベルクリン反応などの入念なスクリーニング検査が必要である.インフリキシマブは点滴薬であり,初期治療として0週,2週,6週目に投与し,以後は8週間ごとの点滴を継続する.Behcet病による網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの有効性についてすでに多くの報告がある.国内8施設のデータをまとめた報告では,1年以上経過を追うことができた48名中44名(92%)で改善がみられ,悪化した症例はなかった.眼炎症発作頻度については,インフリキシマブ導入前の6カ月に平均2.66回であったものが,導入後には,導入直後の6カ月に平均0.44回,つぎの6カ月に平均0.79回と有意に減少していた.また,48例中21例(44%)において導入後1年間まったく眼炎症発作がみられなかった3).また,Behcet病患者では通常非発作時であっても蛍光眼底造影検査を行うとシダ状の蛍光漏出がみられるが,インフリキシマブ導入によりシダ状の血管漏出も抑えられることが報告され(26) abcdabcd図2インフリキシマブ導入前後の蛍光眼底造影変化16歳の男性,不全型Behcet病の診断となり,コルヒチン内服を開始したが,回盲部潰瘍を合併.内科的にシクロスポリン(ネオーラルR)導入が必要と判断され,シクロスポリン内服を開始した.シクロスポリン内服後,回盲部潰瘍は改善したものの,眼発作を1.2カ月ごとに繰り返すため,発症から2年後にインフリキシマブ(レミケードR)を導入した.導入前は非発作時にシダ状蛍光漏出がみられていた(a,b)が,導入後は一度も発作はみられず,蛍光眼底造影検査でも網膜血管からのシダ状漏出がみられなくなっている(c,d).ている4)(図2).このように,これまでのコルヒチン,は十分な注意が必要である.活動性結核感染症に対してシクロスポリンと比較すると,インフリキシマブは大変インフリキシマブ投与は禁忌であるが,陳旧性結核が疑優れた眼炎症発作抑制効果を有する.われる場合には抗結核薬の予防投与を行いながらインフ優れた有効性をもつインフリキシマブであるが,そのリキシマブを投与する.また,B型肝炎ウイルスキャリ使用に際していくつか留意しておくべきことがある.アではインフリキシマブ投与により劇症肝炎発症のリスインフリキシマブは感染初期の生体防御反応に重要なクがあるといわれている.因子であるTNF-aを抑制するため,結核,非結核性好インフリキシマブの点滴中に10%程度の症例におい酸菌,肝炎ウイルス,真菌といった感染症に対する注意て投与時反応がみられる.その多くは一過性の頭痛,熱が必要であり,導入前の感染症スクリーニング検査,お感などの軽度なものであるが,ときに蕁麻疹などを生じよび導入後の定期検査が必須である.特に結核感染症にる.まれに(1%未満)アナフィラキシーショック(血管(27)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121343 浮腫,チアノーゼ,呼吸困難,気管支痙攣,血圧上昇/低下など)が生じるので,その対応への準備が必要である.発疹や蕁麻疹がみられた場合には抗ヒスタミン(H)薬およびステロイド薬を静注し,症状が消失すればインフリキシマブ投与を続行することができる.このような抗ヒスタミン薬およびステロイド薬静注により症状が改善し,インフリキシマブ投与を完了できた症例の場合,次回以降に再度投与時反応がみられることが多く,次回以降はインフリキシマブ投与開始前に前処置として抗ヒスタミン薬とステロイド薬を点滴静注したうえでインフリキシマブ投与を行う.このような前処置を行っても投与時反応がみられる場合には,投与予定日1週間前からH1阻害薬およびH2阻害薬を内服したうえで,これらの前処置を行い,インフリキシマブ投与を行う場合もある.4.インフリキシマブ切れに対する対応(図3)このような有効例のなかでもときどき眼炎症発作がみられることがあり,その多くは8週ごとのインフリキシマブ投与直前にみられ,血液中からインフリキシマブが消費し尽くされている,いわゆる「インフリキシマブ切れ」の状態と考えられる.当然のことながら,体内で炎40平均7週目3530252015105012345678前回のインフリキシマブ投与からのIFX期間(週)IFX図3インフリキシマブ投与後の発作の起こる時期インフリキシマブ投与中に発作がみられる症例の多くは,8週ごとのインフリキシマブ投与直前にみられ,血液中からインフリキシマブが消費し尽くされている,いわゆる「インフリキシマブ切れ」の状態と考えられる.1344あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012患者数(人)症の起点となるTNF-aが産生される量は,その病勢により異なる.十分なインフリキシマブが投与されていれば,産生されたTNF-aはインフリキシマブにより中和されて炎症は惹起されないが,投与量を上回るTNF-aが産生されると,インフリキシマブ切れとなり炎症反応が生じると考えられる.このインフリキシマブ切れに対する対応には二通りある.a.投与間隔短縮8週間ごとの投与間隔を7週ごとまたは6週ごとに短縮する.b.投与量の増量投与量は5mg/kgと決められているが,破棄していたバイアルの残りを破棄せず投与することで,増量が可能である.たとえば,体重が65kgの人であると投与量は5mg/kgで計算すると325mgである.バイアルは100mg単位なので,バイアル3本すべてと4本目の25mgを投与し,通常は4本目の残り75mgは破棄する.この破棄分を破棄せず投与することで,投与量を増量する.薬剤の投与量,投与間隔は治験を行い決められたものであるので,保険適用範囲を大きく逸脱するわけにはいかないが,上記の二通りの方法程度の変更であれば,医師の裁量権の範囲内であると考える.5.インフリキシマブ投与ができない症例に対する対応活動性結核や,肝炎ウイルスキャリアに対してインフリキシマブの使用はできない.コルヒチンが効果不十分であると,このような症例ではつぎのステップとして切り替える薬剤がなくて困ることになる.シクロスポリンも易感染性の問題があり使いにくい.当科で行っているのは,トリアムシノロン硝子体内注射5)である.トリアムシノロンは硝子体内へ投与すると硝子体腔下方に塊状となりゆっくりと溶解されていく.硝子体腔からなくなると発作抑制効果はなくなるため,たいてい3.6カ月ごとに硝子体内注射を繰り返して行うことが必要となる.ただし,副作用として白内障の増強は必発であり,また,眼圧上昇をきたすこともある.他の治療として,保険適用はないものの,顆粒球吸着療法(アダカラムR)6)(28) もある一定の効果が期待できる.III実際の症例1.症例1:発症時34歳,男性.右眼の霧視を数回自覚し,発症から10カ月後に当科初診.不全型Behcet病の診断がついた.発症から11カ月後からコルヒチン内服を開始したが,3カ月ごとに眼発作がみられた.このため,顆粒球吸着療法を行ったが,1.2カ月ごとに発作間隔は短くなり,再度アダカラム加療を行っても軽快がみられないため,発症から3年後にシクロスポリン(ネオーラルR)に切り替えた.しかし,その後も3カ月ごとの発作が繰り返されるため,発症から6年後にインフリキシマブ(レミケードR)に切り替えた.インフリキシマブ変更後,眼発作はみられていない.しかし,4回目のインフリキシマブ投与時に膨隆疹が出現した.抗ヒスタミン薬(クロール・トリメトン10mg)+生理食塩水10mlを静注したが,膨隆疹は消失しないため,ステロイド薬(ソル・コーテフ300mg)+生理食塩水100mlを30分で点滴静注したところ,膨隆疹は消失した.その後,点滴スピードを落としてレミケードR投与を完了した.そのつぎの5回目の投与時にはあらかじめ抗ヒスタミン薬(クロール・トリメトン)およびステロイド薬(ソル・コーテフ)を点滴静注してからインフリキシマブの投与を行ったが再度膨隆疹がみられた.このため,6回目の投与以降は投与予定日の1週間前からH1拮抗薬とH2拮抗薬を各1錠/朝1回予防内服したうえ,当日はインフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬とステロイド薬の点滴静注を行うようにしたが,それでも7回目の投与時には再度膨隆疹が出現した.このため,インフリキシマブ投与中止も提案したが,本人のインフリキシマブ継続に対する強い希望があったため,H1およびH2拮抗薬内服を各2錠/朝夕食後に変更したところ,その後膨隆疹の再発はみられなくなった.インフリキシマブ投与開始から約3年半が経過しているが,現在も投与は続けられており,眼発作も起こっていない(図4).510152025305101520253051015202530抗ヒスタミン薬+ステロイド薬div8週8週投与時反応インフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬+ステロイド薬divそれでも,投与時反応+だったら・・・インフリキシマブ投与1週間前からH1拮抗薬+H2拮抗薬内服インフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬+ステロイド薬div図4インフリキシマブ投与時反応に対する前処置インフリキシマブ投与時に膨隆疹などの軽度の投与時反応が出現した場合,次回からはインフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬+ステロイド薬点滴静注を行ったり,投与予定日の1週間前からH1拮抗薬とH2拮抗薬を予防内服したうえ,当日はインフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬とステロイド薬の点滴静注を行う.div:点滴静注.(29)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121345 2.症例2:発症時22歳,男性.霧視で発症,その翌年には不明熱も出現していた.発症から2年後,霧視が改善せず,近医を受診したところ両眼に前房蓄膿を伴う汎ぶどう膜炎がみられ,その後の精査でBehcet病の診断がついた.コルヒチン2T/2×で開始するも発作の増悪やCRP(C反応性蛋白)上昇がみられたため,発症から約2年後コルヒチンを3T/3×に増量した.しかし,その後も眼発作が多いうえに血管Behcet病も発症した.このため,発症から約2年半後にシクロスポリン(ネオーラルR)を追加した.しかし,コルヒチンとシクロスポリンの併用により腎障害や出血傾向,尿酸値上昇がみられるようになったため,コルヒチンを中止し,シクロスポリンも減量せざるをえなかった.その後も3カ月に1回程度大きな眼発作が起こるため,顆粒球吸着療法の導入も検討されたが,血管Behcet病による下大静脈血栓症があり,導入できなかった.インフリキシマブ投与も検討されたが,B型肝炎ウイルスキャリアであり導入できなかった.このため,トリアムシノロン硝子体内注射を3カ月ごとに施行し,発作を抑制している.現在までに左右眼とも7回の硝子体内注射が施行されており,出血や網膜.離,感染などの合併症はみられていない.だが,今後も硝子体内注射を継続していくことで合併症のリスクが高まることが考えられ,慎重な投与が必要と考えている.おわりにかつてBehcet病は,特に眼底型の網膜ぶどう膜炎を生じる症例では視力予後は悪く,眼症状発現後3年で視力0.1以下になる率は約45%とされていた7).しかし,インフリキシマブという有効性の高い薬剤の登場により,視力予後が大幅に改善されることが期待できる時代となってきた.ただし,インフリキシマブは免疫抑制効果が強いため,活動性の結核や肝炎ウイルスキャリアの場合には使用できない.このような症例に対して今後さらに新しい治療方法の選択肢が生まれることが望まれる.■用語解説■トラフ値:次回薬物投与前の最低血中濃度のこと.通常検査日の朝はシクロスポリン内服をせずに来院してもらい,全血中のシクロスポリン未変化体の濃度を測定する.副作用を軽減するためにトラフ値をモニタリングし,適切な投与量を決定することが重要である.文献1)大野重昭,蕪城俊克,北市伸義ほか;ベーチェット病眼病変診療ガイドライン作成委員会:Behcet病(ベーチェット病)眼病変診療ガイドライン(解説).日眼会誌116:394426,20122)小竹聡,市石昭,小阪祥子ほか:ベーチェット病の眼症状に対する低用量シクロスポリン療法.日眼会誌96:1290-1294,19923)OkadaAA,GotoH,OhnoS,MochizukiM,OcularBehcet’sDiseaseResearchGroupofJapan:MulticenterstudyofinfliximabforrefractoryuveoretinitisinBehcetdisease.ArchOphthalmol130:592-598,20124)KeinoH,OkadaAA,WatanabeT,TakiW:DecreasedocularinflammatoryattacksandbackgroundretinalanddiscvascularleakageinpatientswithBehcet’sdiseaseoninfliximabtherapy.BrJOphthalmol95:1245-1250,20115)OhguroN,YamanakaE,OtoriYetal:RepeatedintravitrealtriamcinoloneinjectionsinBehcetdiseasethatisresistanttoconventionaltherapy:one-yearresults.AmJOphthalmol141:218-222,20066)NambaK,SonodaKH,KitameiHetal:GranulocytoapheresisinpatientswithrefractoryocularBehcet’sdisease.JClinApher21:121-128,20067)BenezraD,CohenE:TreatmentandvisualprognosisinBehcet’sdisease.BrJOphthalmol70:589-592,19861346あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(30)

白血病眼浸潤

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1335.1339,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1335.1339,2012白血病眼浸潤OcularInfiltrationinLeukemia毛塚剛司*はじめにステロイド薬に抵抗するぶどう膜炎のなかには,実は白血病の眼浸潤であった,ということも散見される.頻度としては低いが,もし見逃してしまった場合,多くは死につながる可能性が高い.本稿では,白血病の眼浸潤の臨床像について述べるとともに,最近行われている眼所見からみた治療の可能性について報告したいと思う.Iステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎―白血病眼浸潤の可能性ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎の患者には,一般的に採血を行い,白血病を含めた全身疾患,すなわち「仮面症候群」の可能性について検討する.白血病眼浸潤は厳密にはぶどう膜炎ではなく,ぶどう膜炎に似ているもの,「仮面症候群」として分類されている.このため,眼症状が非定型的でも白血病の有無は末梢血の検索から判明することもある.急性リンパ性白血病(acutelymphoblasticleukemia:ALL)において,小児では2.2%で眼症状があるという報告1)や,2.5%から18%で前眼部症状が起きうるという報告2)もある.最近の小児白血病180例を対象とした報告では,急性骨髄性白血病(acutemyeloblasticleukemia:AML)の66%,ALLの15.1%に眼病変(眼窩病変も含む)がみられ,AML患者はALL患者より眼病変が多いと結論づけられている3).白血病眼浸潤の原因としてよくみられるのが,ALLや成人T細胞白血病(adultT-cellleukemia/lymphoma:ATL)である.どちらも,末梢白血球増多など全身症状が先行して発見されることが多い.また,眼症状から発見されることはまれである.しかし,まれとはいえ,特徴のある所見がみられるため,大まかな臨床所見を捉えておくことが重要である.II急性リンパ性白血病(ALL)の臨床所見ALLは前眼部のみに留まる場合と,眼底病変に所見がみられる場合に分かれる.前者はおもに前房蓄膿(この場合,偽前房蓄膿として知られている)をきたし,眼図127歳,男性の急性リンパ性白血病における右眼の眼底所見右眼のみに視神経を中心とした浸潤細胞がみられ,網膜前にまで浸潤細胞が及んでいる.*TakeshiKezuka:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(19)1335 底病変は軽度なことが多い4).また,化学療法で,寛解期に入っても前房症状をきたす例もみられる.この偽前房蓄膿は小児でも成人でも起こり,血液が混入していることがある.一方,後眼部病変としては,網膜しみ状出血,滲出斑などが一般的であり5),頻度は低いが黄斑部の漿液性網膜.離をきたすこともある6).これらの眼底所見の特徴は,白血病が完全寛解に入った後でも,視神経乳頭腫脹や網膜.離をきたす可能性があるということである.図1の症例は,27歳,男性の急性リンパ性白血病である.右眼のみに視神経を中心とした浸潤細胞がみられ,網膜前にまで浸潤細胞が及んでいる.この後6カ月以内に不幸な転帰をたどった.ab図217歳,男性のAML症例における両眼の眼底所見両眼ともに,網膜しみ状出血やRoth斑がみられた.a:右眼,b:左眼.III急性骨髄性白血病(AML)の眼所見AMLではALLと異なり,眼内のリンパ球浸潤というより,貧血を主体としたような病変をきたすことが多い.網膜下に大きな細胞浸潤による滲出斑がみられることがあるが,真菌感染などとの鑑別が必要である7).慢性骨髄性白血病(chronicmyeloblasticleukemia;CML)では,網膜血管の怒張を伴う大小さまざまの隆起性病変から発見されることもある.またALLと同様に,AMLやCMLでは胞状網膜.離や脈絡膜.離を呈する場合もある.図2に示した17歳,男性のAML症例では,網膜しみ状出血やRoth斑がみられ,両眼性であった.この症例の末梢血所見は,白血球数2,100/mm3,赤血球数150万/mm3,血小板値6,000/mm3と極度の貧血であった.当症例も不幸な転帰となった.IV成人T細胞白血病(ATL)の眼所見ATLは,南西日本,カリブ海に面した国々,アフリカの熱帯地方などにみられる疾患である.ATLの眼合併症は,眼窩,結膜,強膜,脈絡膜,網膜と多岐にわたる8).ATLの診断は,Shimoyamaらの診断基準を用いることが多い9).眼内浸潤,特に硝子体・網膜への浸潤に対する診断には,硝子体手術によるサンプル採取が有用である10).サンプルからATLに特徴的な“flowercell”が発見されれば,確定診断に近くなる.図3は,41歳,男性のATL患者における前眼部所見である.前房蓄膿(偽前房蓄膿)を伴っている.ATL患者の前房蓄膿で特徴的なのは,結膜充血が皆無であることである.通常の眼炎症による前房蓄膿では,結膜充血もしくは毛様充血は必発である.炎症ではないATLでは,このように前房蓄膿様所見のみが起きる.偽前房蓄膿は,粘稠性が高く,消退するのに炎症性のものより経過を要する傾向がある.図4は,図3の患者の前房水から得られた細胞であり(Gimsa染色),異型細胞がみられる.図5は,図3の患者の髄液から得られた細胞であり,同様に異型細胞がみられる.図6は,同様に図3の患者の末梢血から得られた細胞であり,“flowercell”がみられる.1336あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(20) 図341歳,男性のATL患者における右眼の前眼部所見前房蓄膿(偽前房蓄膿)を伴っている.図4図3の患者の前房水から得られた細胞異型細胞がみられる(Gimsa染色).V白血病に近い「前段階」の病変である骨髄異形成症候群(MDS)白血病ではないが,preleukemiaとして白血病に移行することが多い疾患である骨髄異形成症候群(myelodysplasticsyndrome:MDS)がある.筆者らが以前行った報告では,MDSも41例中19例(46.3%)で白血病に類似した眼病変をきたし,5例(12%)でぶどう膜炎を併発している11).また,MDSの眼合併症の比率は,(21)図5図3の患者の髄液から得られた細胞同様に異型細胞がみられる(Gimsa染色).図6図3の患者の末梢血から得られた細胞“Flowercell”がみられる(Gimsa染色).AMLの眼合併症の比率(57%)と特に有意差を認めなかった.MDSの予後は白血病と異なり,眼病変をきたしても5年生存率は良好である12).VI白血球眼内浸潤に対する治療法眼病変を伴ったALLの治療法は,原則的に血液内科における化学療法に準ずる.たとえば,cyclophosphamide,daunorubicin,vincristine,asparaginase,prednisoloneなどである.眼病変をきたしたALLにおける放射線療法の臨床研究では,30Gy以上の放射線照射で眼内浸潤細胞の根絶が可能であるが,10.30Gyでも眼内病変の寛解に持ち込むことができると述べている1).一方,骨髄生検などを行い,全身に癌浸潤をきたしておらず,前房水中のみに浸潤細胞がみられる場合あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121337 表1白血病眼浸潤に対する治療法.原疾患に対する化学療法.硝子体手術.放射線療法(2,400cGy).白血球除去療法.(ATLに対する)IL-2レセプター標的療法は,放射線療法だけでも有効とされる報告がある4).この方法は,前眼部に向けて総量2,400cGy(1回線量200cGyで12回行う)の照射を行い,化学療法は施行しない.化学療法を施行しないので,この報告における3歳のALLでは,高濃度メトトレキサート療法などの副作用が最小限に抑えられ,4カ月後における再発はみられなかった.ただ,放射線の総量が4,000cGyを超えると,放射線曝露による角膜症,ドライアイ,網膜症,視神経症をきたすとされている4).嘉山らは,ALLの虹彩浸潤に対して放射線療法を行ったところ,奏効したと報告している12).慢性骨髄性白血病に起因する眼病変は,白血球除去療法で軽快するという複数の報告もみられる13).ALL,AMLともに,硝子体出血や内境界膜下出血に対して硝子体手術が有効であった報告もある14,15).ATLの治療も,ALL,AMLと同様に化学療法が主体となるため,血液内科との連携が欠かせない.よく行われているのが,etoposide,doxorubicin,vincristine,prednisone,cyclophosphamide(EPOCH)や,cyclophosphamide,doxorubicin,vincristine,prednisolone(CHOP)療法である16).硝子体混濁が強いようなら,先述のように,治療的診断も兼ねて硝子体手術が有用である10).最近の報告では,一般的な化学療法で強膜病変があまり軽快しない場合にインターロイキン(IL)-2レセ■用語解説■仮面症候群:Masquerade(マスカレード)症候群ともよばれる.ぶどう膜炎の臨床所見によく似ているが,仮面症候群の本質は腫瘍などであり,炎症ではない.骨髄異形成症候群(myelodysplasticsyndrome:MDS):MDSは造血組織の不応状態であり,単クローン性の造血障害ともいえる.高頻度で急性骨髄性白血病に移行することが知られており,前白血病状態とも考えられている.プターを標的とした療法(daclizumab静脈内投与)により,眼所見に改善がみられている16).これは,ATLによる病変が単なる直接的な眼内浸潤だけではなく,IL-2レセプターを介した免疫学的機序によるものであるとも考えられる.上記の白血病眼浸潤の治療法を表1にまとめる.おわりに「ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎」の鑑別疾患および治療指針としての白血病の眼浸潤について概説を述べた.文献的には症例報告が多く,まとまった報告が少ないため,治療におけるエビデンスレベルとしては低いかもしれない.しかし,白血病において眼病変が出現したときは,中枢神経浸潤と同義であり,予後が非常に悪い11)ことを考える.ここで掲載されたような前眼部・眼底病変に出会ったときには,参考にしていただければ幸いである.文献1)SomervailleTC,HannIM,HarrisonGetal:Intraocularrelapseofchildhoodacutelymphoblasticleukemia.BrJHaematol121:280-288,20032)RamseyA,LightmanS:Hypopyonuveitis.SurvOphthalmol46:1-18,20013)RussoV,ScottIU,QuerquesGetal:Orbitalandocularmanifestationsofacutechildhoodleukemia:clinicalandstatisticalanalysisof180patients.EurJOphthalmol18:619-623,20084)PatelSV,HermanDC,AndersonPMetal:Irisandanteriorchamberinvolvementinacutelymphoblasticleukemia.JPediatrHematolOncol25:653-656,20035)Dhar-MunshiS,AltonP,AyliffeWH:Masqueradesyndrome:T-cellprolymphocyticleukemiapresentingaspanuveitis.AmJOphthalmol132:275-277,20016)FacklerTK,BearellyS,OdomTetal:Acutelymphoblasticleukemiapresentingasbilateralseriousmaculardetachments.Retina26:710-712,20067)GordonKB,RugoHS,DuncanJLetal:Ocularmanifestationofleukemia.Leukemicinfiltrationversusinfectiousprocess.Ophthalmology108:2293-2300,20018)OhbaN,MatsumotoM,SameshimaMetal:OcularmanifestationinpatientsinfectedwithhumanT-lymphotropicvirustypeI.JpnJOphthalmol33:1-12,19899)MembersoftheLymphomaStudyGroup(1984-1987),ShimoyamaM:DiagnosticcriteriaandclassificationofclinicalsubtypesofadultT-cellleukemia-lymphoma.BrJ1338あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(22) Haematol79:428-437,199110)HirataA,MiyazakiT,TaniharaH:IntraocularinfiltrationofadultT-cellleukemia.AmJOphthalmol134:616-618,200211)KezukaT,UsuiN,SuzukiEetal:Ocularcomplicationsinmyelodysplasticsyndromeaspreleukemicdisorders.JpnJOphthalmol49:377-383,200512)嘉山尚幸,井出尚史,小林円ほか:放射線療法が奏効した急性リンパ性白血病の虹彩浸潤の1例.臨眼60:13911395,200613)ShafiqueS,BonaR,KaplanAA:Acasereportoftherapeuticleukapheresisinanadultwithchronicmyelogenousleukemiapresentingwithhyperleukocytosisandleukostasis.TherApherDial11:146-149,200714)西尾彩,岩橋佳子,下條裕史:急性リンパ性白血病患者に生じた内境界膜下出血に対し硝子体手術を施行した1例.眼臨紀4:1193-1197,201115)藤田亜希子,土田陽三,白神史雄ほか:硝子体出血をきたした急性骨髄性白血病の1例.臨眼55:909-912,200116)LarsonTA,HuM,JanikJEetal:Interleukin-2receptortargetedtherapyofoculardiseaseofHTLV-I-associatedadultT-cellleukemia.OculImmunolInflamm20:312314,2012(23)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121339

眼内悪性リンパ腫

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1331.1333,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1331.1333,2012眼内悪性リンパ腫IntraocularMalignantLymphoma近藤由樹子*園田康平*はじめに悪性リンパ腫は,リンパ球の腫瘍化したものである.リンパ球のタイプからB細胞性,T細胞性などに,また腫瘍細胞の病理像よりびまん性,濾胞性などに分類される.眼内悪性リンパ腫は,眼・中枢神経系悪性リンパ腫として眼や中枢神経系に原発するものと,全身の悪性リンパ腫の経過中に眼内にも認めるようになるものとがある.5年生存率は報告によるが約30.60%1,2)とされる.眼内悪性リンパ腫は,実態はいわゆる炎症反応の本質とは異なり腫瘍細胞の播種などによるものであるが,臨床的に硝子体混濁や網膜斑などぶどう膜炎に類似した所見を認めるためにあたかも別の疾患であるぶどう膜炎のように見える,仮面症候群の代表的疾患である.I背景と特徴年齢は50.60歳代に多く,性差はないか,やや女性に多い傾向があるとされる.基本的には両眼性の病態で,片眼の飛蚊症や霧視から始まったとしても,経過中に両眼性に至ることが多い.硝子体混濁はステロイド薬が効かず,濃い混濁の割に矯正視力が良好なことが多い.II眼所見眼内悪性リンパ腫の臨床病型は,おもに眼底に黄白色の斑状病巣が多発する「眼底型」と,びまん性硝子体混濁が主体の「硝子体型」に大別される.1.眼底型(図1,2)網膜下に浸潤した異型リンパ球が黄白色の斑状病巣を形成し,融合・拡大傾向を示す.比較的境界明瞭な大きな病巣となり,内部に褐色色素斑を伴うことがある.経過中に網膜硝子体出血を生じることがある.2.硝子体型(図3)比較的大きな浮遊細胞によるびまん性硝子体混濁は,眼内に浸潤した異型リンパ球によるものである.硝子体混濁はしばしば帯状を呈し,眼球運動とともに揺れ動くさまからオーロラ状と形容される.硝子体混濁はステロイド薬治療には反応しないか,仮に初めは多少変化を示したとしても消失しない.眼底の黄白色斑に硝子体混濁を併せ持つことももちろん多く,硝子体混濁の経過中に黄白色斑が出現することもある.このほか,前房内に軽度の細胞浮遊や,大小不同で不整形の角膜後面沈着物を認めることがあるが必発ではない.角膜後面沈着物は再発時に認めることが多い.III診断悪性リンパ腫が疑われる場合,特に硝子体混濁を認める症例に対しては,診断のための硝子体生検と混濁除去*YukikoKondo&KoheiSonoda:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕近藤由樹子:〒755-8505宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(15)1331 図1眼底型眼内悪性リンパ腫黄白色の斑状病巣が多発し,内部に褐色色素斑を伴う.図3硝子体型の眼内悪性リンパ腫周辺部に濃厚な硝子体混濁を認める.による視機能向上を兼ねて,積極的に硝子体手術を行う.1.硝子体細胞診硝子体手術により採取された硝子体液より,悪性細胞を証明することが確定診断となる.実際には腫瘍細胞は崩壊しやすく,採取時にはマシンのカットレートを落とし,吸引圧を低くするなど注意して採取し,それでもク1332あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012図2眼底型眼内悪性リンパ腫図1と同症例のフルオレセイン蛍光眼底造影写真.黄白色斑状病巣の部分の低蛍光と顆粒状過蛍光を認める.ラス分類で確定診断に即至ることは多くない.インターロイキン(IL)-10/IL-6比や免疫グロブリン遺伝子再構成などの結果を組み合わせて診断する.2.眼内液のIL.10濃度眼内悪性リンパ腫では眼内液中のサイトカインIL-10濃度が高いことが知られている.正常眼ではIL-10は検出限度以下のことが多いが,ぶどう膜炎でも軽度上昇することもあるため,炎症性サイトカインIL-6濃度も測定し,IL-10濃度単体のみでなく,通常その比をもって判断する.IL-10は悪性リンパ腫以外では100pg/ml以下の低値であることがほとんどで,IL-10/IL-6比は1以上のとき眼内悪性リンパ腫を強く疑う有力な補助検査となる3).そのほか,免疫グロブリン遺伝子再構成,フローサイトメトリーなどが補助診断に用いられることがある.IV治療悪性リンパ腫に対する治療の基本は全身化学療法である.これまで眼・中枢神経系悪性リンパ腫に対しては放射線治療や全身化学療法との組み合わせが行われてきた.近年は眼局所についてはメトトレキサート硝子体内注射の有効性が示されている.病巣が眼内のみである場(16) 同意取得的確性の確認対象疾患の確認導入療法MTX400μgを硝子体内注射週2回強化療法MTX400μgを硝子体内注射週1回1年間1カ月間1カ月間維持療法MTX400μgを硝子体内注射月1回同意取得的確性の確認対象疾患の確認導入療法MTX400μgを硝子体内注射週2回強化療法MTX400μgを硝子体内注射週1回1年間1カ月間1カ月間維持療法MTX400μgを硝子体内注射月1回図4メトトレキサート(MTX)硝子体内注射合や,全身性悪性リンパ腫に伴うものでもこれまでの治療歴(全放射線照射線量や抗癌剤投与期間,その副作用)などにより全身的にはそれ以上の治療が困難な場合でも施行可能なため,必要とあらば積極的に検討されるべき治療法である.1.放射線治療特に眼・中枢神経系の病巣に対して,総量40Gy程度の照射が一般的で,放射線科医との連携が望ましい.2.全身化学療法全身性悪性リンパ腫ではCHOP(cyclophosphamide,adriamycin,vincristine,prednisolone)療法などが一般的に行われる.血液内科医との連携が必須.3.メトトレキサート硝子体内注射眼内の病変に有効性が高い.1回にメトトレキサート400mg/0.1mlを,導入療法として週2回を1カ月間,強化療法として週1回を1カ月間,維持療法として月1回を1年間硝子体内注射する(図4).副作用として角膜上皮障害が強く出やすいので,施行する際は薬液が極力眼表面につかないよう留意し,注射後には眼表面をよく生理食塩水などで洗浄するなどする必要がある.文献1)JahnkeK,KorfelA,KommJetal:Intraocularlymphoma2000-2005:resultsofaretrospectivemulticentertrial.GraefesArchClinExpOphthalmol244:663-669,20062)木村圭介,後藤浩:眼内悪性リンパ腫28例の臨床像と生命予後の検討,日眼会誌112:674-678,20083)平形明人,稲見達也,斉藤真紀ほか:眼内悪性リンパ腫における硝子体内インターロイキン-10,インターロイキン-6の診断的価値.日眼会誌108:359-367,2004(17)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121333