‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

基礎研究コラム 43.ミトコンドリアの生体イメージングからみた老化関連疾患としての緑内障

2020年12月31日 木曜日

ミトコンドリアの生体イメージングからみた瀧原祐史老化関連疾患としての緑内障ミトコンドリアの生体イメージングとは生体イメージングにはCOCT,MRIなど幅広いイメージングが含まれます.本稿ではC2光子励起顕微鏡による生体イメージングについて紹介します.2光子励起顕微鏡による生体イメージングの大きな利点は,生理的条件下(神経回路,生理的酸素濃度,細胞間相互作用,代謝が保たれた条件下),単一細胞内を観察しえる高解像度の画像で動態をとらえることにより,興味の生命現象の統合的な理解につながる可能性をもつことがあげられます.2光子励起顕微鏡はC1931年にCMariaGoppert-Mayerが予言したC2光子励起,つまり一つの光子で励起する代わりに二つの光子で同時に励起するという現象を,1990年にDenkらが実現し顕微鏡として開発したものです1).二つの光子で励起する利点はさまざまですが,とくに波長が約C2倍の近赤外光を用いることができるので,生体の深部組織イメージングの実現性が高くなることがあげられます.ミトコンドリアの生体イメージングをめざし,ミトコンドリア移行シグナルを蛍光蛋白質の配列に付加することによってミトコンドリアが特異的に標識される遺伝子改変マウスが,近年複数報告されてきました.眼科領域において緑内障の発症率は加齢とともに増加しますが,緑内障の病態はまだ十分解明されているとはいえません.一つの有力な病態仮説は,篩状板変形による網膜神経節細胞の軸索障害が最終的に網膜神経節細胞死につながるというものです.そこで筆者らのグループは,緑内障と加齢の両者への関与が示唆されるミトコンドリアの軸索流に注目し,ミトコンドリア軸索流の生体イメージングが網膜神経節細胞の軸索障害をリアルタイムに検出できる可能性に着目しました.まずCThy1プロモーター下に,ミトコンドリア特異的にシアン蛍光蛋白質を発現するCThy1-mitoCFPマウスにC2光子励起顕微鏡を用いて,網膜神経節細胞のミトコンドリア軸索流の生体イメージングを確立しました(図1).この生体イメージングにより,高眼圧モデルにおいて網膜神経節細胞のミトコンドリア軸索流障害をリアルタイムに検出しました.加えて加齢マウス(ヒトでC70歳相当)および加齢マウスでの高眼圧モデルの両者に生体イメージングを行い解析したところ,加齢による軸索内ミトコンドリアの機能低下と軸索流の脆弱性が,緑内障病態および加齢に伴う緑内障の発症率増加の一因である可能性が示唆されました2).熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座図1マウス網膜神経節細胞のミトコンドリア軸索流の生体イメージング網膜神経節細胞の軸索(*)内,細胞体()内のミトコンドリアからの蛍光を確認できる.動画(https://Cwww.pnas.org/content/112/33/10515/tab-.gures-dataのCMovieS4)では,血流()が保たれた生理的条件下,ミトコンドリアが網膜神経節細胞の軸索内を非常に活発に輸送されていることがわかる.画面右側が視神経乳頭側である.(文献C2より許可を得て引用)今後の展望今後,緑内障病態に対してミトコンドリアがどのように関与しているのかをさらに検討する必要があります.xy軸に加えて,深さ(z),時間(t),多色(血流などその他を標識)のデータを取得できる多次元の網膜生体イメージングは網膜疾患の病態解明,新規治療法開発にむけた有用なツールとなりえるかもしれません.文献1)DenkCW,CStricklerCJH,CWebbWW:Two-photonClaserCscanningC.uorescenceCmicroscopy.CScienceC248:73-76,C19902)TakiharaCY,CInataniCM,CEtoCKCetal:InCvivoCimagingCofCaxonaltransportofmitochondriainthediseasedandagedmammalianCCNS.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC112:10515-10520,C2015C(85)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C15490910-1810/20/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 211.糖尿病黄斑浮腫後に生じた非典型的黄斑円孔(中級編)

2020年12月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載211211糖尿病黄斑浮腫後に生じた非典型的黄斑円孔(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療には,ステロイドや抗CVEGF薬の局所投与,硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)などがあるが,そのいずれの治療においても黄斑円孔(macularhole:MH)が併発したとする報告がみられる1~3).筆者らはCDMEに対する抗CVEGF療法およびCPPVに続発したCMHのC2例を経験し,MHの形状が通常の特発性MHと異なり,硝子体腔に向け凸面を形成していたので,その原因についての考察を交えて報告したことがある4).C●症例提示症例C1はC73歳,男性.左眼は光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)に加えて中心窩周囲に網膜分離(retinoschisis:RS)を認めていた(図1a)が,経過中にCMHが生じた(図1b).MHの辺縁は硝子体腔に向け凸面を形成し,.uidCcu.内に顆粒状陰影を認めた.PPVを施行しCMHは閉鎖した.症例C2はC79歳,男性.両眼の増殖糖尿病網膜症に対しCPPVを施行した.左眼は術後にCSRDに加えてCRSを認めていた(図2a)が,経過中にCMHが生じた(図2b).症例C1と同様にCMHの辺縁が硝子体腔に向け凸面を形成していた.患者の希望がなく,再手術は施行しなかった.C●糖尿病黄斑浮腫後の黄斑円孔の特徴2症例ともCDMEに起因するCSRDが遷延してCRSを併発し,それに網膜硝子体牽引が作用してCMHが発症した可能性がある.またCRSにより,網膜の層状構造が脆弱となっていたため,通常の特発性CMHにみられる(83)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1症例1の黄斑円孔発症前(a)と発症後(b).胞様黄斑浮腫に加えて,SRDとCRSを認めていたが,経過中にCMHが生じた.MHの辺縁は硝子体腔に向け凸面を形成していた.図2症例2の黄斑円孔発症前(a)と発症後(b)PPV後にCSRDに加えてCRSを認めていたが,経過中にCMHが生じた.症例C1と同様にCMHの辺縁は硝子体腔に向け凸面を形成していた.OCT像とは異なり,網膜が硝子体腔に向って凸面を形成したものと考えられる.網膜の内層よりも外層の器質化が進行し,外層の伸展性が相対的に低下していた可能性が考えられるが,詳細は不明である.文献1)Lecleire-ColletCA,CO.retCO,CGaucherCDCetal:Full-thick-nessmacularholeinapatientwithdiabeticcystoidmacu-laroedematreatedbyintravitrealtriamcinoloneinjections.CActaOphthalmolScandC85:795-798,C20072)ArifogluCHB,CHashasCASK,CErsekerciCTCetal:FullCthick-nessmacularholefollowingintravitrealranibizumabinjec-tionCforCdiabeticCmacularedema;aCrareCcomplicationCorCcoincidence?IndianJOphthalmolC63:362.363,C20153)YoonCKC,CSeoMS:MacularCholeCafterCpeelingCofCtheCinternalClimitingCmembraneCinCdiabeticCmacularCedema.COphthalmicSurgLasersImagingC34:478-479,C20034)YoshidaY,SatoT,OosukaSetal:TwocasesofdiabeticmacularCedemaCcomplicatedCbyCanCatypicalCmacularChole.CBMCOphthalmolC20:171,C2020あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1547

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する新薬:ブロルシズマブ

2020年12月31日 木曜日

●連載102監修=安川力髙橋寛二82.加齢黄斑変性に対する新薬:片岡恵子伊藤逸毅名古屋大学大学院医学系研究科ブロルシズマブ眼科学/感覚器障害制御学2020年C5月,抗CVEGF薬のブロルシズマブが中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性に対する治療薬として発売された.本稿では,ブロルシズマブの特徴および第CIII相臨床試験の結果や使用上の注意点について解説する.ブロルシズマブの特徴ブロルシズマブ(ベオビュ,ノバルティスファーマ)は,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegen-eration:AMD)に対する治療薬としてはペガプタニブ(マクジェン,販売中止),ラニビズマブ(ルセンティス),アフリベルセプト(アイリーア)につぐC4番目の抗VEGF薬である.ブロルシズマブの特徴を表1に示す.ブロルシズマブは,抗原結合性フラグメント(fragmentantigen-binding:Fab)領域をさらに断片化し,可変領域のみを結合させた一本鎖フラグメント(single-chainCfragmentvariable:scFv)であり,分子量が非常に小さい.そのため,既存薬よりも非常に高いモル濃度で投与が可能となり,より長い作用時間や高い効果が期待されている1).HAWK.HARRIERの結果ブロルシズマブの第CIII相臨床試験(HAWK/HARRI-ER)では,8~12週ごとに投与されたブロルシズマブ投与群のC48週における視力は,8週ごとに投与したアフリベルセプト群の視力と比較して非劣勢であることが示された2).ここで注意したいのは,ブロルシズマブ群においてC12週間隔での投与をC48週間維持できたのは,HAWK試験でC55.6%,HARRIER試験ではC51.0%であり,およそC44~49%の被検者はC48週の時点でブロルシズマブをC8週間隔で投与されていたということである.HAWK/HARRIER試験ではアフリベルセプトとブロルシズマブ群の投与レジメのデザインが異なるため,どちらが長時間効果を持続するかの答えを導き出すことは,これらの試験からは困難である.今後の臨床研究の報告が待たれる.また,HAWK/HARRIER試験では,3回の導入治療表1抗VEGF薬の特徴アフリベルセプトラニビズマブブロルシズマブ抗体の構造種類VEGF受容体C1/2の細胞外ドメインの一部とCFc領域の融合蛋白質抗CVEGF抗体のFab断片Fabの可変領域のみを連結した一本鎖抗体可変領域定常領域軽鎖(L)重鎖(H)FabFc分子量97~C115CkDaC48CkDaC26CkDa投与量C2CmgC0.5CmgC6Cmgモル投与量1.7~C2C1C22C(81)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C15450910-1810/20/\100/頁/JCOPYブロルシズマブ投与前ブロルシズマブ投与4週間後図1ブロルシズマブにより滲出性変化が改善した1例ブロルシズマブ投与前にみられた網膜下液および網膜色素上皮下液が,投与後C4週で消退している.後からC8週おいたC16週の時点での滲出の有無や疾患活動性も評価している.ブロルシズマブ群では,疾患活動性,網膜内および網膜下液の存在,網膜色素上皮下液の存在の割合が,アフリベルセプト群より有意に低いと報告された.つまり,ブロルシズマブのほうがC16週において滲出性変化をより強力に抑制できたという結果といえる.滲出型CAMDに対してブロルシズマブを投与したC1例を示す(図1).出血性網膜色素上皮.離(pigmentCepi-thelialdetachment:PED)を伴うポリープ状脈絡膜血管症のC1例で,4週ごとにアフリベルセプトを半年間投与したが,PEDと網膜下液(subretinal.uid:SRF)の改善がみられなかったためブロルシズマブに切り替えた.切り替え後C4週の光干渉断層計でCPEDの丈が減少し,SRFが消失した.C1546あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020ブロルシズマブの副作用ブロルシズマブは高い効果が期待される一方で,副作用として眼内炎症,網膜血管炎,網膜血管閉塞が報告されている.米国におけるブロルシズマブ投与後の眼内炎症,網膜血管炎,網膜血管閉塞をきたしたC15眼をまとめた報告では,患者は飛蚊症や視力低下,霧視,暗点や目の不快感を自覚,注射から副作用の診断まで平均30.3日(7~56日)であったと報告されている3).自覚症状は診断より先行していたことから,発症はもう少し早い可能性がある.ブロルシズマブ関連網膜血管炎および眼内炎症の臨床的特徴は,硝子体細胞もしくは硝子体混濁,前房細胞,網膜動脈の狭細化や閉塞,網膜静脈の拡張や狭細化,静脈炎,局所もしくは連続した白鞘化血管,軟性白斑や網膜出血,視神経乳頭の腫脹などとされるため,注射後に自覚症状の変化がみられた場合は,これらの所見に注意が必要である.これらの所見はしばしば周辺部網膜に出現するため,9方向や広角のカラー眼底写真による周辺網膜血管の定期的かつ詳細な評価に加え,発症が疑われる際のフルオレセイン蛍光造影による網膜血管炎や網膜血管閉塞の評価が重要であると考える.おわりにこのように,ブロルシズマブは他の抗CVEGF薬と比較して高い効果が期待できる一方で,眼内炎症,網膜血管炎,網膜血管閉塞といった重篤な副作用が低い確率ながら存在する.実臨床における治療効果と副作用の発生状況を明らかにするためには,今後の臨床報告の集積が必要である.現時点においては,患者背景,僚眼の視力などを考慮して慎重に治療適応を決定したい.文献1)HolzCFG,CDugelCPU,CWeissgerberCGCetal:Single-chainCantibodyfragmentVEGFinhibitorRTH258forneovascu-larCage-relatedCmacularCdegenerationCaCrandomizedCcon-trolledstudy.COphthalmologyC123:1080-1089,C20162)DugelCPU,CKohCA,COguraCYCetal:HAWKCandCHARRI-ER:Phase3,multicenter,randomized,double-maskedtri-alsCofCbrolucizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC127:72-84,C20203)BaumalCR,SpaideRF,VajzovicLetal:Retinalvasculitisandintraocularin.ammationafterintravitrealinjectionofbrolucizumab.Ophthalmology,2020,inpress(82)

緑内障:OCT angiography(OCTA)による前眼部観察

2020年12月31日 木曜日

●連載246監修=山本哲也福地健郎246.OCTangiography(OCTA)による赤木忠道京都大学大学院医学研究科眼科学前眼部観察前眼部COCTangiography(OCTA)によって結膜強膜の血流が可視化され,強膜内静脈叢から上強膜静脈にかけての房水流出路も観察できる.結膜濾過胞では外観からはわからない濾過胞内部の血流が観察でき,虹彩においては虹彩新生血管の変化をとらえることも可能である.●はじめに光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は血球が移動する際に生じるCOCT(opticalCcoherencetomography)信号の位相変化や強度変化から三次元的に血流を描出する技術である.OCTAを前眼部に適用するとどのようなものが観察可能であるのか,最新の情報を紹介する.C●前眼部OCTAの撮影方法前眼部専用のCOCTA機器は現在のところ市販されていない.本稿の画像は後眼部用COCTAであるCPLEXCElite9000(CarlZeiss社)を用いてC10Dの前置レンズを使用して撮影した.図1強結膜の前眼部OCTAパノラマ画像表層血流(緑色)はおもに結膜の血流で,比較的均一な太さの血管が放射状に広がる.深層血流(赤色)はおもに強膜内の血流で,輪部近くに密集する細い血管から円蓋部方向に向かって太い少数の血管に収束する.●結膜・強膜のOCTAOCTAによって結膜と強膜の血流を深さ別に描出できる(図1).結膜血管は正常眼では比較的均一な太さの血管が角膜輪部から放射状に広がり,強膜内血管は角膜輪部近くに細い血管が密に存在し,周辺に向かうにつれて太い血管に集束する.全層COCTA画像はフルオレセイン静脈内投与後の強結膜造影画像に酷似しており(図2a,b),強膜内COCTA画像はインドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)の前房内投与後に撮影した房水造影画像と酷似する(図2c,d).房水主流出路の一部である強膜内静脈叢や上強膜静脈がCOCTAによって描出できるが1,2),検出できるのは移動する赤血球であ図2強結膜の前眼部OCTA画像a,b:全層のCOCTA画像(Ca)とフルオレセイン静脈内投与後の強結膜造影画像(Cb)は酷似した血管分布を示す.結膜血管からは造影剤の軽度漏出を認める.c,d:強膜内COCTA画像(Cc)とICG前房内投与後の強結膜造影画像(Cd)は酷似している.(79)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C15430910-1810/20/\100/頁/JCOPY図3トラベクレクトミー後濾過胞の前眼部OCTA画像a:術後半年で眼圧良好な濾過胞の細隙灯顕微鏡写真.濾過胞中央の一部は無血管になっている.Cb:aのCOCTA画像.濾過胞中央の無血管領域では表層から深層までCOCTA信号を認めない.無血管領域の周囲では,血管が著明に集簇しているのがわかる().り,房水流出そのものを検出できるわけではない.C●濾過胞のOCTAトラベクレクトミー後の濾過胞では細隙灯顕微鏡での観察が重要なのは当然だが,外観だけでは濾過胞内部の把握には限界がある.前眼部COCTAでは濾過胞の外側だけでなく,内側の血管の状態も把握することができる3).図3のトラベクレクトミー後濾過胞のCOCTA画像では,無血管領域では深部にも血流が存在していないこと,その周囲には外観から想像する以上に血管が集簇していることが確認できる(図3b).将来的には濾過胞内部の血流画像はその後の濾過胞瘢痕化の予測に活用できるかもしれない.C●虹彩のOCTA前眼部COCTAは虹彩の血管描出にも利用可能である4).図4は糖尿病網膜症による血管新生緑内障眼の治療前後である.治療前の眼圧はC54mmHgで,浅層OCTA画像で非常に多くの新生血管が瞳孔領に描出されている.抗CVEGF硝子体注射と汎網膜光凝固術による治療後には眼圧はC19mmHgまで下降し,浅層OCTA画像の血流は著明に減少している.虹彩深層OCTA画像では太い血管が放射状に描出されており,治療前後で大きな変化はみられず,虹彩深層の生理的な虹彩血管には治療前後で大きな変化がないことを示している.また,新生血管は虹彩深層にはほとんど存在していないこともわかる.将来的にはCOCTAが虹彩新生血管の早期検出に応用できる可能性がある.C●おわりに前眼部COCTAによって今までの検査ではわからなかC1544あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020治療前治療後深層OCTA画像浅層OCTA画像細隙灯顕微鏡写真図4虹彩新生血管の前眼部OCTA画像治療前の虹彩浅層のCOCTA画像で,瞳孔領に著明な新生血管を認める.治療後の画像では,瞳孔領の新生血管が著明に減少しているのがわかる.虹彩深層COCTA画像では虹彩実質で放射状に生理的な血管が走行している.った血流情報が取得可能であり,今後,さまざまな場面での活用が期待される.文献1)AkagiCT,CUjiCA,CHuangCASCetal:ConjunctivalCandCintra-scleralvasculaturesassessedusinganterior-segmentopti-calCcoherenceCtomographyCangiographyCinCnormalCeyes.CAmJOphthalmolC196:1-9,C20182)AkagiT,UjiA,OkamotoYetal:Anteriorsegmentopti-calCcoherenceCtomographyCangiographyCimagingCofCcon-junctivaCandCintrascleraCinCtreatedCprimaryCopen-angleCglaucoma.CAmJOphthalmolC208:313-322,C20193)AkagiCT,COkamotoCY,CTsujikawaCACetal:AnteriorCseg-mentCOCTCangiographyCimagesCofCavascularCblebCafterCtrabeculectomy.OphthalmologyGlaucomaC2:102,C20194)AkagiCT,CFujimotoCM,CIkedaHO:AnteriorCsegmentCopti-calCcoherenceCtomographyCangiographyCofCirisCneovascu-larizationCafterCintravitrealCranibizumabCandCpanretinalCphotocoagulation.JAMAOphthalmol138:e190318,C2020(80)

屈折矯正手術:重度円錐角膜に対する強膜レンズ

2020年12月31日 木曜日

監修=木下茂●連載247大橋裕一坪田一男247.重度円錐角膜に対する強膜レンズ水野泰子名古屋アイクリニック強膜レンズは,強膜でレンズを支え角膜にレンズが直接触れないため,良好な装用感が得られるうえ,ずれにくく,かつ不正乱視矯正効果もある.重度円錐角膜になると,装用時の異物感やハードコンタクトレンズのずれが許容できない場合がある.そのような場合に,強膜レンズは屈折矯正の一手段として有効である.径の小さい強膜レンズは,瞼裂の狭い場合や高齢患者の重度円錐角膜眼にも使いやすいコンタクトレンズである.●強膜レンズ円錐角膜眼の屈折矯正において,眼鏡やソフトコンタクトレンズで十分な視力が得られない場合は,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が用いられる.しかし,重症化した円錐角膜においては,角膜の強い突出により異物感が強く,またフィッティング不良によりはずれやすくなり,装用継続が困難となることが多い.強膜レンズ(sclerallens)は,強膜部分でレンズが支えられ,角膜とレンズの間に涙液が貯留し,レンズが角膜に直接触れない.この特徴のため装用感に優れており,また不正乱視に対する屈折矯正も可能である1,2).強膜レンズは,直径がC18.1~24.0Cmmのフルスクレラルレンズ,15.0~18.0Cmmのミニスクレラルレンズに分類されるが3),直径の大きなフルスクレラルレンズはその大きさから装脱に習熟を要し,また瞼裂の狭い症例は装用困難であった.ミニスクレラルレンズは強膜レンズの一種でありながら,取り扱いしやすい大きさで,HCLが装用困難となった重症円錐角膜の患者に対する屈折矯正として有効であり4),当院でも処方例が増えている.当院では,2019年の新規強膜レンズ処方のうち,36名C51眼はミニスクレラルレンズ,1名C1眼にフルスクレラルレンズを処方している.ミニスクレラルレンズの利点は装用がしやすい点であるが,その反面,強膜に接する部分の面積がフルスクレラルレンズより小さいため,若い患者では結膜への圧迫が強く充血が強くなる欠点を有する.一方,サイズの大きいフルスクレラルレンズは広い面積で接触するため,この点においては優位である.重度円錐角膜ではアトピー性角結膜炎など重症アレルギーを合併することも多く,強膜レンズ下のスペースに分泌物が蓄積し,時間とともに霧視を訴えることがある.この点はCHCLと比較した場合の短所であり,1日数回はずして,もう一度装用し直す必要があることを説(77)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPYレンズ形状:5段階のカーブCT直径:16.4mmBaseCurve0.36mm厚さ:中心部の厚さ0.36mmBC6.00mmLimbusCurve①LimbusCurve②AlignmentCurvePeripheralCurveEdge9.4mm14.2mm15.4mm16.4mmレンズ番号11.52345678910BC6.006.256.506.757.007.257.507.758.008.258.50加入パワー───log12.0011.0010.00-9.00-8.00-5.00-3.00-3.00-2.50-1.50-1.0014.2mmでのSag4.91mm4.59mm4.33mm4.10mm3.89mm3.71mm3.55mm3.41mm3.46mm3.29mm3.20mmTotalSAG5.84mm5.53mm5.26mm5.03mm4.83mm4.62mm4.46mm4.30mm4.37mm4.18mm4.09mm図1iSightミニスクレラルレンズデザイン概要と前眼部OCTを活用したサグ表明することも重要である.C●ミニスクレラルレンズ処方手順とポイント当院では米国のCiSight(GPSpecialist社)を採用している.レンズ概要と,ファーストレンズの算出に用いる前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を活用したCiSightサグ表を図1に示す.サグとはCsagitaldepthのことで,レンズ後面からレンズエッジ部までの高さを表す.ファーストレンズの算出法は,まずCOCTで眼球直径がC14.2Cmmになる場所から角膜頂点までの距離を計測し,その値に角膜とレンズ間の涙液層の厚みであるクリアランスC350~400Cμmを足した数字に近いサグ高をもつレンズ番号を選択する.最初のクリアランスは時間経過による沈み込みを考慮してC350~400Cμmとなるよう設定する.その後,結膜血管の圧迫所見の有無,フルオレセイン染色下で涙液のレンズ下への流入の有無をチェックし,涙液交換が行われているか確認する.結膜あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1541SAG5.74mm図2症例1(右眼)の角膜形状と細隙灯顕微鏡および前眼部OCTによるミニスクレラルレンズの最終フィッティング血管圧迫所見を認めたり,涙液交換が確認できない場合は,必要に応じトライアル・アンド・エラーでレンズ種類やエッジタイプを交換する.3時間トライアルを行ったあとに再検査を行い,最終クリアランスが約C200μmとなるよう調整する.通常のレンズでは合わない症例にはバックトーリック,サイズの変更,クリアランスの調整などを追加で行っている.ミニスクレラルレンズは,厚生労働省未承認のコンタクトレンズであるため,当院倫理委員会の承認後,患者に十分なインフォームド・コンセントを行ったのち処方している.C●症例127歳,男性.高校生のときに右眼円錐角膜と診断され,以後CHCLを装用していたが,異物感があり使いづらい,ロードバイクに乗るので,できればCHCL以外の方法で矯正したいとミニスクレラルレンズ処方を希望された.初診時,Amsler-Krumeich分類で右眼はIV期,左眼はCI期の円錐角膜を認め,VD=0.01(0.1C×sph-16.00D(cyl-5.00DAx90°)であった.ファーストレンズはクリアランスがC118Cμmと低かったため,一段階サグ高が深いレンズに変更,3時間トライアル後のクリアランスはC367Cμm,フィッティングも良好で,ミニスクレラル装用下のCVDはC0.7Cp(0.7C×miniSCLsph+0.25D)であった(図2).その後はクリアランスおよびフィッティングとも安定しており,仕事で海外に行くことも多い生活だが快適に過ごしている.また,左眼はその後角膜クロスリンキングを施行し,今後,裸眼で生活しやすくするために後房型有水晶体眼内レンズ挿入術(phakicICL,STAARSurgical社)を希望している.C●症例224歳,男性.大学生のときに両眼の円錐角膜を指摘された.右眼はCIII期の円錐角膜で,当初球面CHCLを使用していたがずれやすく,非球面CHCLに変更するもやはりスポーツ中にはずれてしまうことが多いため,ミニスクレラルレンズ処方を希望された.VD=0.2(n.c),ミニスクレラルレンズ装用でC1.0CpC×miniSCL(n.c)であった.ファーストレンズはフルオレセイン染色にて涙液のレンズ下への流入が乏しく,強膜に当たる部分のカーブをさらに一段階フラットに変更した.この際のクリアランスはC297Cμmで,3時間トライ後の再検にてクリアランスがC157Cμmとやや低かったため,全体のサグをC0.2mmアップし,また軽度の結膜血管の圧迫所見を認めた3~4時方向をC1段階フラットにする調整を行い処方した.レンズ渡しの際のクリアランスはC528~665Cμmとやや高めであったが,今後の時間経過による沈み込みを考慮すると,ちょうどよい程度と思われた.C●おわりに円錐角膜患者は若年であることが多く,今回提示した症例のようにスポーツを含め活発な日常生活を送り,また将来のさまざまな可能性を秘めた年代である.強膜レンズは角膜移植が必要になる症例を減らすことができることが報告されており5),円錐角膜治療における期待度は高い.HCL不耐症となった重度円錐角膜の患者にとって,ミニスクレラルレンズは,qualityofvisionのみならず,qualityCoflifeの向上にも寄与する有効な選択肢になると思われる.文献1)SchornackMM,PtelSV:Sclerallensinthemanagementofkeratoconus.EyeContactLensC36:39-44,C20102)小島隆司:円錐角膜に対して強膜レンズCProstheticCReplacementCofCtheCOcularCSurfaceEcosystem(PROSE)を処方した症例の検討.日コレ誌59:128-132,C20173)SindC:Basicsclerallens.ttinganddesign.ContactLensSpectrumC23:32-36,C20084)松原正男:円錐角膜などの患者におけるミニスクレラルレンズ処方の検討.日コレ誌53:267-273,C20115)KoppenC,KrepsEO,AnthonissenLetal:SclerallensesreduceCtheCneedCforCcornealCtransplantsCinCsevereCkerato-conus.AmJOphthalmolC185:43-47,C20181542あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(78)

眼内レンズ:人工虹彩(Partial aniridia ring)

2020年12月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋森洋斉409.人工虹彩(Partialaniridiaring)宮田眼科病院虹彩欠損があると,羞明やコントラスト感度低下,近見障害など,さまざまな症状を生じるだけでなく,整容面での問題も患者の負担となる.人工虹彩の一つであるCpartialCaniridiaringは,虹彩縫合に比べて手術手技も簡便で,白内障手術と同時もしくは術後に挿入可能であり,虹彩欠損に対する治療として有用な手段の一つである.●はじめに人工虹彩の歴史は古く,1964年に初めてヒトの前房に人工虹彩が挿入された.1970年代には後房型の人工虹彩が開発され,1994年にはシングルピースの人工虹彩付き眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が登場した.そしてC2002年にはCfoldableの.内固定型人工虹彩が開発され,小切開から挿入できるモデルも使用可能となっている.現在,人工虹彩は数社より販売されており,なかでもCMorcher社の人工虹彩は,虹彩欠損の範囲や水晶体.の有無などに応じて多数のモデルが用意されている1).無虹彩症に対する全周型のCaniridiaringと虹彩部分欠損に対するCpartialCaniridiaringとがあり,本稿では後者について述べる.C●手術適応人工虹彩の適応となる無虹彩および虹彩部分欠損の原疾患は,先天性のものと後天性のものに大別される.前者は先天性無虹彩症や虹彩コロボーマがあり,後者には虹彩角膜内皮症候群,Adie症候群,急性緑内障発作後や内眼手術後,外傷後などがあげられる.虹彩欠損の範囲によって症状は異なるが,羞明,グレア,ゴースト現モデル名96F96G形状象,コントラスト感度低下,焦点深度が浅くなる,近見障害,dysphotopsiaなどさまざまな症状を生じる.また,視機能だけでなく整容的な問題も患者の負担となる.Partialaniridiaringは部分的な虹彩欠損を被覆することが可能であり(図1),虹彩欠損の範囲や.内固定可能かでモデルを選択する(図2).ただし,Zinn小帯が脆弱な症例には挿入できないため,その場合は縫着用の人工虹彩や虹彩付きCIOLを考慮することになる.C●手術方法白内障と同時に手術する場合は基本的に.内固定となる.通常の白内障手術と同様に,水晶体切除もしくは摘図1Partialaniridiaring挿入前後の前眼部写真a:術前.外傷により耳側の虹彩が欠損し,一部癒着している.Cb:術後.虹彩欠損部がCpartialaniridiaringで覆われている.C94G96C全長(mm)11.011.010.012.5瞳孔径(mm)4.04.06.54.0切開幅(mm)>3.5>3.5>1.75>4.5固定位置.内.内.内.外図2Partialaniridiaringの種類(75)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C15390910-1810/20/\100/頁/JCOPYabc図3Partialaniridiaringの手術方法a:モデルに応じて切開創を拡大してCringを挿入する.Cb:フックでダイアリングしながらプレートを進めていく.c:両端の穴にフックを引っ掛けると挿入しやすい.出を行ってCIOLを挿入する.その際,トリパンブルーなどで前.染色をしておくと,ringを挿入する際に水晶体.との位置関係を把握しやすい.その後,選択したモデルに応じて切開創を拡大する.モデルによって挿入するコツは多少異なるが,基本的にはフックでダイアリングしながら進めていき(図3a,b),虹彩欠損部を被覆するようにCringを固定する.その際に,両端に開いている小さい穴にフックを引っかけると回しやすい(図3c).虹彩根部から離断している場合は,.内にCringを固定しても周辺部を覆いきれないため,まず虹彩を根部に縫合したあとに,瞳孔側を覆うようにCringを挿入するとよい.IOL挿入眼など.内に固定できない場合は,.外固定用のモデルを選択する.4.5Cmm以上の切開創を作製し,ダイアリングしながら挿入していくが,プレートではなく足のほうから挿入したほうが容易である.その後,必要に応じて切開創を縫合して手術を終了する.C●利点と欠点虹彩部分欠損に対する外科的な方法としては,虹彩縫合が一般的である.しかし,手技がやや煩雑であり,慣れていないと思わぬ出血を生じたり,角膜内皮障害をきたすこともある.一方,partialaniridiaringは.内もしくは.外に挿入するのみというシンプルな手技であり,虹彩縫合と比較すると簡便かつ合併症のリスクも低いといえる.ただし,欠点としてCZinn小帯が脆弱な症例には挿入できないこと,虹彩欠損の適応範囲が限られることがあげられる.欠損範囲が大きい場合はC2枚挿入することも可能であるが,2枚目の挿入時に先に入れたringに引っかかることがあるため,留意する必要がある.さらに,個人輸入が必要であり費用を要すること,わが国では未承認であるという問題点がある.C●おわりにPartialCaniridiaringはわが国では未承認であるが,比較的安価で手術手技も簡便であり,虹彩部分欠損に対して非常に有用なツールである.また,本稿では紹介していないが,米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)の認可を取得しているHumanOptics社のCCustomFlexは,僚眼の虹彩の色調をオーダーメイドで再現することが可能で,虹彩部分欠損や無虹彩にも適応があり,術後の整容面や視機能において優れていることが報告されている2).今後わが国でも人工虹彩の導入が期待される.文献1)KaratzaCEC,CBurkCSE,CSnyderCMECetal:OutcomesCofCprostheticCirisCimplantationCinCpatientsCwithCalbinism.CJCataractRefractCSurgC33:1763-1769,C20072)MayerCCS,CReznicekCL,CHo.mannAE:PupillaryCrecon-structionCandCoutcomeCafterCarti.cialCirisCimplantation.COphthalmologyC123:1011-1018,C2016

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 フルオレセインパターンによる判定(2)

2020年12月31日 木曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科医院7.フルオレセインパターンによる判定(2)■はじめに前回はフルオレセインパターン判定の際にチェックしなければならない二つのポイントについて解説した.一つ目は瞬目によるレンズの動きであり,二つ目は角膜曲率半径とハードコンタクトレンズ(HCL)のベースカーブ(basecurve:BC)との関係である.前者では「スムース」「ルーズ」「タイト」といった用語でレンズの動きを示した.後者では「パラレル」「フラット」「スティープ」といった用語でその関係を示した.今回はその他のチェックポイントについて解説する.■角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合角膜曲率半径とHCLのBCとの関係をあらわす用語として「パラレル」「フラット」「スティープ」がある.角膜曲率半径とBCが平行関係にある場合を「パラレル」(図1),角膜曲率半径のほうがBCよりも小さい場合を「フラット」(図2),角膜曲率半径のほうがBCより大きい場合を「スティープ」(図3)とよぶ.そして,角膜とHCLの間隙に貯留した涙液がフルオレセインによって染色されているので,パラレルではHCL下の涙液が均一に,フラットでは中央部が薄くて周辺部が濃く,スティープでは中央部が濃くて周辺部が薄く染まる.角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合を表わす用語として,パラレルでは「アライメント・クリアランス・タッチ」,フラットでは「アピカル・タッチ」,スティープでは「アピカル・クリアランス」がある.通常の角膜の場合は上記のようになるが,角膜の状態が変化していると,そのようにはならないことがあり注意を要する.最近のHCLはガス透過性の素材でできていて,rigidgas-permiablecontactlens(RGPCL)とよばれており,長時間装用しすぎても,角膜上皮びらんや角膜浮腫が生じにくくなっているが,スティープな処方で固着状態が続くと角膜浮腫がみられることがある(図4).このような場合,角膜曲率半径とBCの関係はスティープであるが,角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合はアピカル・タッチになる.また,放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)やレーシック(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術を受けた患者の角膜中央部はフラットになっているために,角膜曲率半径とBCの関係はフラットであっても,角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合はアピカル・クリアランスを示すことになる(図5).■ベベル幅のチェック(1)ベベルデザインはレンズの動きに大きな影響を及ぼす.ベベル下の涙液は涙液交換のための予備軍であり,図1パラレル通常の角膜ではアピカル・クリアランス・タッチになる.図2フラット通常の角膜ではアピカル・タッチになる.図3スティープ通常の角膜ではアピカル・クリアランスになる.(73)あたらしい眼科Vol.37,No.12,202015370910-1810/20/\100/頁/JCOPY図4角膜上皮浮腫図5放射状角膜切開術(RK)術後図6最適なベベル幅角膜曲率半径とBCの関係ではスティー角膜曲率半径とBCの関係ではフラットサイズが8.8mmのHCLのベベル幅はプであっても,角膜中央部のフルオレセであっても,角膜中央部のフルオレセイ0.6mm程度が最適である.イン染色の具合はアピカル・タッチになン染色の具合はアピカル・クリアランスる.になる.エッジの浮き上がりはレンズの動きを左右する.ベベルベベル幅が広すぎると(図7)エッジの浮き上がりも幅とエッジの浮き上がりは連動していると考えてよく,大きくなり,レンズの動きが不安定(ルーズ)となるばベベル幅が広いほどエッジの浮き上がりは大きくなってかりか,将来的に涙液がベベル下に貯留しすぎてレンズいる.サイズ8.8mmのHCLのベベル幅は0.6mm程度表面が乾燥してドライなくもりを生じたり(図8),レンが最適であり,通常の角膜形状ではこのときにエッジのズ直下の涙液が乾燥して3時-9時ステイニングの原因浮き上がりも最適と考えてよい(図6).サイズが小さいになることがある(図9).場合はベベル幅も狭くてよく,サイズが大きくなればベベル幅も広くする.図7広すぎるベベル幅レンズの動きがルーズになる.図8ドライなくもりレンズ表面が乾燥して湿度が低くなると,ドライなくもりを生じる.図93時.9時ステイニングレンズ直下の水平方向の涙液が乾燥して3時-9時方向に点状表層角膜症が認められることがある.

写真:金属性角膜内異物

2020年12月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦439.金属性角膜内異物野々村美保横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ図1左眼の鼻側周辺部内に存在する異物異物周囲に錆は認められず,角膜浮腫もみられなかった.図3術前の前眼部光干渉断層計像金属片が角膜内皮付近にまで達し,虹彩上にacousticshadowを認める.図4異物除去後の鼻側周辺部の角膜所見異物除去部位に実質組織の不整はあるが,角膜浮腫はみられなかった.図5術後の前眼部光干渉断層計像異物除去部の角膜実質の不整はあるが,角膜浮腫はみられなかった.(71)あたらしい眼科Vol.37,No.12,202015350910-1810/20/\100/頁/JCOPY症例は68歳,男性.眼疾患の既往なし.当院受診2週間前,換気扇に釘を打つ作業中に金属片が右眼に飛入.飛入直後に痛みはあったが,すぐに軽快したため眼科受診せず様子をみていた.2週間経過しても金属片が角膜内に残留していることが気になり近医を受診.病歴より角膜鉄片異物として当院に異物除去目的で紹介となった.受診時,右眼角膜の耳下側に金属片が認められたが,周囲に角膜浮腫や錆はなかった(図1~3).しかし,病歴と異物の光沢より鉄片異物を第一に疑い,早期の異物除去手術を計画し,受診4日後に局所麻酔下で手術を施行した.異物上の角膜に切開を入れて異物を直接確認したのち,眼内マグネットを近づけたが反応なく,角膜切開部をさらに開いて鑷子で異物を除去した.磁力で引き寄せられず,錆が認められなかったことから異物の材質が鉄でない可能性が考えられ,術後,再度患者に異物飛入時の状況について詳細に尋ねた.すると釘を打ちつけていた換気扇の材質がアルミニウムまたはステンレスであり,異物は換気扇側の破片であった可能性が出てきた.術後,角膜の切開部位の細隙灯顕微鏡所見(図4)および前眼部光干渉断層計による観察(図5)により異物の除去が確認され,経過は良好である.角膜異物は眼科救急疾患において頻度は高く,症状としては疼痛,異物感,充血,流涙が多い.異物が光軸にかかわると視機能低下をきたすが,光学領をはずれていると無症状の場合もある.角膜異物には,金属類,植物,ガラス片,木材などさまざまなものがあるが,頻度は鉄粉異物がもっとも多い.松原によれば,10年間で集められた2,532名の角膜異物うち,鉄粉異物は2,224名と約88%を占め,年代別では20~69歳と職業年齢に多く,男女比も2,108人対80人と圧倒的に男性の頻度が高く,仕事中の飛入が多いことがわかる1).鉄粉異物は鉄錆の出現が特徴的である.直径0.4mm程度の大きさであれば付着後30分で上皮層に錆が浸潤し,12時間経過するとBowman膜にまで達する.24~72時間で鉄粉下に錆輪が完成され,72時間を経過すると完成した錆輪の周囲が溶解して鉄粉異物はフィブリンに包まれ,周囲の角膜組織から隔離されるようになる.そのため上皮層のみの錆であれば自然脱落も期待できるが,実質まで達している場合は脱落しにくく,残存することが多いとされる2).また,鉄粉異物の存在位置は受診日に関係する.知覚神経の密度が高く,視機能に関係する角膜中央部の異物は受傷後早期に受診する傾向にあり,角膜周辺部の異物では受傷後数日してから受診する場合が多い.鉄粉異物では鉄イオンが角膜実質を融解する可能性があり,1カ月が経過してから角膜穿孔したとする報告もある3).本症例では受傷部位は角膜周辺部であり,異物は角膜深層に達していた.そのため痛みの症状がなく,受診までに時間を要したと考えられる.また,異物の直径は0.5mm程度であったが,角膜内に存在したにもかかわらず周りに錆がなかったことから,鉄以外の金属の可能性も考えるべきであった.そして,問診を詳細に行っていれば,眼内マグネットをもちだす必要はなかったかもしれない.角膜への飛入異物を見た場合,患者の職業,異物の飛入状況,角膜での存在様式,個数に加えて,材質をよく考えながら診察することが重要である.文献1)松原稔:角膜錆輪に起こる化学反応とその生成物・角膜の生体防御機構と鉄の細菌感染防止機序.あたらしい眼科25:389-398,20082)松原稔:角膜鉄粉異物摘出痕腔内に起こる現象の組織学的研究および細隙灯顕微鏡による摘出痕混濁の摘出直後と10年後との比較.あたらしい眼科28:123-130,20113)KatoK,HiranoK,TakashimaYetal:Histopathologic.ndingsofperforatedcorneasduetoferricionin.ltration.CanJOphthalmol50:322-327,2015

日本の多焦点眼内レンズの臨床2020

2020年12月31日 木曜日

日本の多焦点眼内レンズの臨床2020ClinicalPracticeofJapaneseMultifocalIntraocularLensesin2020田淵仁志*はじめに多焦点眼内レンズの臨床は非常に複雑であり,多くの観点から考える必要がある.多焦点眼内レンズの副作用の特性は数多く報告されているし,患者の自己負担額が桁違いである点も臨床上の大きな関門である.「君子危うきに近寄らず」という中国のことわざを実感している臨床家の先生は多いのではないかと思われる.そんな中で,筆者自身の医療観としてはこのレンズの利用を許容し,10年以上にわたって積極的な姿勢で臨んできた.本稿では,筆者自身が執刀してきた多焦点眼内レンズのデータを中心に示しながら,あくまでも筆者の考えを述べる.多焦点眼内レンズの臨床について考えるための参考としていただければ幸いである.I多焦点眼内レンズとは2020年9月時点で何をさすのか2020年3月に厚生労働省が定める先進医療から多焦点眼内レンズがはずれた.その時点までは「多焦点眼内レンズ」とは先進医療扱いされているレンズのことを一般的にさしていた(医師と患者双方の納得のうえで日本で未認可の海外輸入レンズを用いる医療については,筆者の施設では行っているが,筆者自身が行っていないため,本稿では取りあげない).ところが,時を同じくして,保険診療内で使える低加入度数分節型レンズである「レンティスコンフォート」(参天製薬)が販売された.このレンズはその機能表記名からもわるように,近方用の度数がレンズ内部に加入されており,少なくとも単焦点レンズではない.つまり,保険制度の違いとして一般の人にもわかりやすく定義されていた「多焦点眼内レンズ」が,そのレンズがもつ機能に従ったより専門的な視点での分類が必要になった.医師にとってその変化は原点回帰でもあり当然ともいえるが,なにも知らない患者への説明はますます複雑になってしまった.患者にどう「多焦点眼内レンズ」医療を定義するのか,定まっていないのが現時点の正直なところだと思う.本稿においては単焦点レンズではない厚生労働省認可を受けたレンズを「多焦点眼内レンズ」と定義して,自験例の多い「レンティスコンフォート」(参天製薬),「テクニスマルチフォーカル」(ジョンソン・エンド・ジョンソン),「PanOptix」(日本アルコン),今後ファーストチョイスとする予定の「テクニスシナジー」(ジョンソン・エンド・ジョンソン)を題材(図1)に,新型感染症や保険制度変更に大きく揺れる2020年の日本の多焦点眼内レンズ臨床の実像を自施設のデータを用いて解説する.II多焦点眼内レンズの自己負担について自施設のデータであるが,先進医療利用者の90%は民間の保険会社が提供している生命保険などに付属している先進医療特約を利用したものであった(図2).つまり,入院や手術保険にも加入していれば,本人負担はゼロという状況は珍しくはなかった.4月から厚生労働省が定める選定療養制度下で多焦点眼内レンズ医療が行わ*HitoshiTabuchi:三栄会ツカザキ病院眼科,広島大学医療のためのテクノロジーとデザインシンキング講座〔別刷請求先〕田淵仁志:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1社会医療法人三栄会ツカザキ病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(63)1527レンティスコンフォートテクニスマルチフォーカルPanOptixテクニスシナジー国民皆保険制度利用選定療養利用選定療養利用選定療養利用低加入度数分節型回折型二重焦点焦点深度拡張型三重焦点焦点深度拡張型二重焦点近方加入度数+4D(ただしZMB)近方加入度数3.25D近方最高視力位置-2.75D程度図1多焦点眼内レンズ各種保険診療内で使えるレンズと選定療養扱いのレンズが混在している.2020年10月に国内で新しく承認されたばかりのレンズもある.平成29年度IOL計5,172眼図2ツカザキ病院眼科の多焦点眼内レンズ利用比率と先進医療保険利用比率(平成29年度)使用した眼内レンズは5,172枚であり,そのうち775枚(15%)が多焦点眼内レンズであった.そのうちの91%が先進医療保険を利用していた.多焦点775眼テクニスレンティスマルチフォーカルコンフォート(+4DZMB)n=216n=391100.090.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0IOLによる裸眼視力向上小切開化による術後炎症/乱視向上手術短時間化による術中満足度向上乱視用IOLによる遠用眼鏡不要化多焦点IOLによる近用眼鏡不要化図3白内障の臨床進歩の過程(患者に自覚できる進歩を中心に)眼内レンズの登場とその形状(折り畳み化)や光学特性の付与の進化が白内障手術の臨床での患者の自覚症状改善に大きく寄与してきたといえる.テクニスPanOptixクリア(ZCB)n=163n=319図4ツカザキ病院眼科における多焦点眼内レンズ挿入眼の眼鏡“不”使用率ツカザキ病院眼科で施行した症例(両眼に同一レンズを挿入している,乱視タイプ使用例も含む)の遠用,中間距離(テレビ視聴),近用の3距離の眼鏡不使用率(時々使用も含む)を示す.比較のために単焦点クリアレンズのテクニスクリアのデータも示す.術後10週時に看護師,視能訓練士による対面で聞き取りを行った.近用眼鏡不使用率について,「テクニスマルチフォーカル」(+4DZMB)と「PanOptix」に有意差を認めなかった.(%)90.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0昼間運転夜間運転悪条件運転■テクニスマルチフォーカル(+4D)■テクニスクリア(ZCB)図5NEIVFQ.25運転詳細項目100点(良好)患者比率NEIVFQ-25の運転項目を構成する詳細項目(昼間運転,夜間運転,悪条件運転)のそれぞれC100点満点でC100点の良好群の比率を,回折型二重焦点レンズ「テクニスマルチフォーカル」(+4D,ZMB)と同一素材単焦点クリアレンズ「テクニスクリア」(ZCB)で比較した.n数はそれぞれC663人とC452人である.(文献C2より改変)乱視用レンズと非乱視用レンズの眼鏡使用率(%)1009080706050403020100図6乱視用レンズ使用による眼鏡使用率軽減(単焦点トーリックレンズの検討)単焦点黄色着色アクリソフレンズのトーリックレンズ群と同一素材非トーリックレンズ群のツカザキ病院眼科症例での比較検討.両眼同一群挿入患者ともCn数はC103人で,術前乱視度数はC1.1Dで有意差がないように調整された検討である.(文献C3より改変引用)先進医療レンズ(EDoF二重焦点Toric),62,7%選定療養レンズ(EDoF三重焦点),43,8%海外輸入レンズ,32,4%先進医療レンズ選定療養レンズ(EDoF二重焦点),52,6%海外輸入レンズ,4,1%(回折型二重焦点+3.25D),2,0%先進医療レンズ選定療養レンズ(EDoF三重焦点Toric),34,4%(回折型二重焦点+4.0D),先進医療レンズ36,7%(EDoF三重焦点),38,4%先進医療レンズ(回折二重焦点+2.5D),19,2%,先進医療レンズ(回折二重焦点+3.0DToric),47,5%先進医療レンズ(回折二重焦点+3.0D),7,1%選定療養レンズ先進医療レンズ(EDoF二重焦点Toric),(回折三重焦点+3.25D),18,2%5,1%2020年4月~9月多焦点内レンズ内訳総数534枚,314人(女性181人,58%),平均年齢72.0(9.3)歳図7選定療養になってからの多焦点眼内レンズの臨床数(新型感染症の影響とともに)選定療養制度に代わってから半年間のツカザキ病院眼科での多焦点眼内レンズ臨床数を示す.比較のためにC1年前の同一期間のデータも併せて示した.保険診療下での分節型二重焦点レンズはC441眼からC341眼にC23%減少し,先進医療から選定療養レンズの移行はC422眼からC189眼にC55%の激減といってよい結果となった.保険診療下レンズの減少は新型コロナウイルス感染症による影響だとも考えると,高額自己負担に切り替わったことによる影響は当院ではC30%程度ではないかと推定している.白内障以外の視力低下要因がある患者希望あり夜間運転滅多にない運転しない角膜不正乱視あり散瞳不良Zinn小帯脆弱IOL度数設定なしIOL度数設定ありテクニスシナジー図8多焦点眼内レンズ決定フローチャートあくまでも筆者の私見に基づく意思決定フローチャートである.患者の希望と医学的禁忌事項を確認せずに医療を施行してしまうことを避けるためのチェックリスト的な役割を果たしている.図9前眼部OCTリアル値マップ(CASIA,トーメーコーポレーション)a:乱視度数はC0.5Dであるが,蝶ネクタイパターンを呈する倒乱視であり,このタイプの形状にはトーリックレンズを適応する.b:乱視度数はC1.0Dあるが,斜乱視の軸であり,蝶ネクタイパターンもはっきりしないため,単焦点眼内レンズ選択を考慮する.

老視に対する多焦点コンタクトレンズ

2020年12月31日 木曜日

老視に対する多焦点コンタクトレンズMultifocalContactLensesforPresbyopia塩谷浩*はじめに加齢により調節力が低下し老視の自覚症状が出現しているコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者や,老視年齢になり初めてCLを使用する患者に対しては,老視を考慮に入れたCLの処方が必要になる.CL装用者での老視への対応法にはCLと眼鏡を併用する方法,CLの球面度数を中間距離に設定する方法,CLの左右眼の球面度数の調整によるモノビジョン法,多焦点コンタクトレンズ(multifocalcontactlens:MFCL)の処方の四つの方法が考えられる.日常生活で眼鏡を使用しない生活を希望している患者へは,生活のスタイルを変更させないために可能な限りCLのみで対応する方法を選択する必要があるが,これらの四つの対応法のなかで,MFCLは両眼での自然な見え方をある程度維持させることができるため,もっとも有用な方法である.本稿ではMFCLの現状,可能性,そして特徴と実際の処方方法について述べる.IMFCLの現状日本におけるCL装用者数は2005年には1,500万人に達しており1),現在では1,500~1,800万人を超えていると推定されている2).日本の総人口は1億2,589万5千人(2020年5月現在,総務省統計局人口推計2020年10月報)であることから日本人の7~8人に1人以上がCLを使用している計算になる.CLの使用者の年齢を15歳以上から65歳未満として考えると,老視年齢層を45歳以上とした場合には老視対策を必要とするCL装用者は45%となり,老視年齢層の範囲を広げて40歳以上とした場合には老視対策を必要とするCL装用者は56.4%に達することになる.CLの使用者は年齢が上がるにつれて装用を中止する者が増えてくると思われるが,半数以上が脱落すると想定してもCL装用者全体の20%以上はなんらかの形で老視対策が必要であり,MFCLの処方割合は20%近くになっていてもおかしくはない.しかし,Morganらの調査3)では,日本におけるハードコンタクレンズ(hardcontactlens:HCL)処方における多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalhardcontactlens:MFHCL)の処方割合は11%と,世界各国の平均8%と同程度であるものの予想される処方割合よりは低く,ソフトコンタクレンズ(softcontactlens:SCL)処方における多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の処方割合は4%と,世界各国の平均13%と比べると1/3以下ときわめて低いのが現状である.日本におけるMFCLの処方割合が低い理由としては,処方の技術的なむずかしさ,処方の手順の煩雑さ,処方の時間的効率の悪さ,処方成功率あるいは患者の満足度の低さ,以前に販売されていたMFCL製品での処方不成功体験による新製品への信頼の低さや,眼科医の処方意欲の低下などが上げられる.さらに最近ではCLの販売および入手経路の多様化が進み,とくにインターネット販売の普及により,老視を自覚したCLの使用者が単*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(55)1519表1老視前年齢の患者へのMFSCLの処方例患者:26歳,女性,事務職.動機:眼鏡を掛けたくないので,CL処方を希望して受診した.最近見づらくなり,パソコンでの仕事後に頭痛があったため,2週間前に眼鏡店に直接行き眼鏡を作った.これまで眼鏡を使用したことはなかった.仕事時に眼鏡を使うようにしていたが,頭痛の改善はなかった.CLの使用経験はない.検査所見:自覚的屈折:RV=0.3(1.2×.1.25D)LV=0.2(1.2×.1.00D)優位眼:右眼細隙灯顕微鏡検査所見:両眼に軽度の点状表層角膜症選択レンズ:低加入度数遠近両用SCL(プライムワンデースマートフォーカス,アイレ社)近業による眼精疲労で頭痛を発症し,自覚的屈折が近視化していると考えられ,治療および視力補正のために屈折矯正と調節補助が必要と判断した.R)8.80/.0.25DAdd+0.50D/14.2L)8.80/.0.50DAdd+0.50D/14.2RV=1.2×SCL(0.8×+1.00D)(1.0×0.75D)(1.2×+0.50D)LV=1.2×SCL(0.9×+1.00D)(1.2×0.75D)(1.5×+0.50D)処方レンズ:R)8.80/0.00DAdd+0.50D/14.2L)8.80/.0.25DAdd+0.50D/14.2遠近の見え方に患者の満足が得られたため,ヒアルロン酸点眼液を使用しながら装用を開始した.CL使用経過:RV=1.5×SCL(n.c.)LV=1.2×SCL(better×.0.25D)両眼遠方視力=1.5×SCL両眼近方視力=1.0×SCL遠近ともによく見えようになった.これまであった頭痛がなくなった.表2白内障術後の患者へのMFHCLの処方例患者:58歳,女性,事務職.動機:白内障手術後,眼鏡ではなくHCLを日常生活で使用することを希望し,他眼科から紹介された.57歳時に白内障手術(単焦点眼内レンズ挿入術)を受けている.19~57歳まで38年間のHCLの使用経験がある.検査所見:自覚的屈折:RV=0.08(1.2×.3.50D=cyl.1.25DAx160°)LV=0.07(1.2×.3.50D=cyl.1.50DAx180°)優位眼:左眼細隙灯顕微鏡検査所見:特記すべきことなし処方レンズ:低加入度数遠近両用HCL(マルチフォーカルO2ノア,シード社)R)7.75/.2.00DAdd+1.00D/9.3L)7.80/.2.75DAdd+1.00D/9.3CL使用経過:RV=0.5×HCL(1.0×.0.50D)LV=1.0×HCL(better×.1.00D)両眼遠方視力=1.2×HCL両眼近方視力=0.6×HCL患者はHCL装用時に眼鏡を併用しないで遠方も近方も見え,日常生活に問題はなかった.HCLを装用した状態の視力検査で,普通自動車運転免許を更新することができた.表4MFCLの分類機能焦点形状中心光学部種類交代視二重焦点セグメント型遠用HCL同心円型同心円型遠用SCL二重焦点近用回折型近用同時視累進屈折力非球面型遠用HCLSCL近用SCL拡張焦点深度同心円型遠用SCL近用HCL:ハードコンタクトレンズ,SCL:ソフトコンタクトレンズ表3白内障術後の患者へのMFSCLの処方例患者:57歳,女性,主婦.動機:白内障手術後,1日交換単焦点SCLを使用していた.SCL装用時に近用眼鏡を併用する生活に不満があったため,遠近両用SCLの処方を希望して受診した.54歳時に白内障手術(単焦点眼内レンズ挿入術)を受けている.20~57歳まで37年間のSCLの使用経験がある.検査所見:自覚的屈折:RV=0.05(1.2×.2.75D)LV=0.05(1.2×.4.00D)優位眼:左眼細隙灯顕微鏡検査所見:特記すべきことなし処方レンズ:遠近両用SCL(メダリストマルチフォーカル,ボシュロム社)R)9.00/.2.50DHighAdd(+2.50)/14.5L)9.00/.3.50DHighAdd(+2.50)/14.5CL使用経過:RV=0.7×SCL(0.9×.1.50D)LV=0.6×SCL(0.8×.0.50D)両眼遠方視力=0.8×SCL両眼近方視力=0.6×SCLテスト装用1週間後に遠方視に不満の訴えがあり,右眼の球面度数を.2.00Dから.2.50Dに変更して最終的な処方規格を決定した.遠方も近方も見え方に不便を感じず,就寝前の数時間を除き,眼鏡を使用しない生活を続けることができている.はすべての型があり,MFSCLにはセグメント型はない.セグメント型では,中心光学部は遠用であり,近用光学部はレンズの下方に独立して存在する.機能による分類では交代視型である.二重焦点型の同心円型では,中心光学部は遠用のもの近用のものがあり,中心光学部が遠用(または近用)のレンズでは,近用(または遠用)光学部はレンズの周辺に同心円状に配置されている.機能による分類では一般的には同時視型であるが,MFHCLには近方視時の視線の下方への移動時に相対的にレンズが上方偏位することにより視線がレンズ周辺の近用光学部を通過することで交代視型の機能を示すものもある.拡張焦点深度型の同心円型では,加入度数の違いにより中心光学部が遠用のものと近用のものがあり,機能による分類は同時視型である.回折型では,中心光学部は近用であり,レンズ中心の光学部に同心円状の回折構造を設置することにより遠方から近方まで見えるように設計されている.機能による分類では同時視型である.現在は製品として販売されていない.非球面型では,中心光学部は遠用のもの近用のものがあり,中心光学部が遠用(または近用)のレンズでは,近用(または遠用)光学部はレンズの周辺に同心円状に配置されている.レンズの前面あるいは後面を非球面デザインにすることで近用度数が累進的に加入されている.機能による分類では同時視型である.IVMFCLの処方方法1.レンズの選択MFCLの処方では,まずCLの使用経験を考慮し,レンズのタイプを選択する6~8).HCLの経験者にはMFHCLを選択し,SCLの経験者にはMFSCLを選択する.CLの未経験者には特殊な場合を除き,CLが初めての者でも扱いやすく,装用感がよくて使用するのに慣れが早いMFSCLを選択する.次に遠方視と近方視の重視度,視力の必要度を考慮して製品を選択する.MFCLは光学部のデザインが似ていても各メーカーの製品でそれぞれ見え方が異なるため,その特性から患者の条件や使用環境に合っていると考えられる製品を選択する.選択したレンズのフィッティングと装用感を確認し,問題がなければ処方レンズの種類を確定する.続いて追加矯正して仮の処方規格のレンズでの遠方の視力補正効果と近方の調節補助効果(とくに自覚的な見え方)を考慮し,規格の決定に移る.2.フィッティングの確認MFCLのフィッティングでは,光学的な機能を有効にするためにセンタリングが重要である.CLの経験者では,可能ならば使用していたCLのフィッティングを確認し,センタリングが不良な場合にはフィッティングを考慮してレンズのタイプを変更する.MFHCLのフィッティングでは,HCLの長期間の装用経験者のなかには,レンズが上方偏位して停止するフィッティングがよくみられる.このような場合にはセンタリングをよくするため,標準のデザインを変更する必要があるが,MFHCLはサイズの規格変更ができなかったり,ベースカーブ(basecurve:BC)の変更で加入度数(レンズ後面に加入度数が設定されている後面非球面型累進屈折力MFHCL)に影響が出てしまったりすることもあり,一種類の製品での対応は困難となる.とくに交代視型のMFHCLでは,センタリングが不良であれば遠方視,近方視とも見え方に患者の満足が得られない.そこでこのような場合には,サイズが大きくセンタリングがとりやすく,センタリングが多少不良でも見え方に影響の出にくい同時視型の非球面型塁進屈折力MFHCLを選択する.使用中のHCLに固着傾向がみられた場合には,BCを変えることで加入度を変化させる後面非球面型累進屈折力MFHCLは避け,レンズ後面が球面のMFHCLを選択する.さらにいずれの対応でもMFHCLで良好なフィッティングを得ることができない場合にはMFSCLに変更する.MFSCLのフィッティングでは,SCLの経験者で使用中のSCLのフィッティングが不良の場合,とくに上方偏位がある場合には,アレルギー性結膜炎などによる上眼瞼結膜の器質的変化で摩擦力が強いことや,上眼瞼圧が強いことが原因となっていると考えられる.その場合1522あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(58)には上眼瞼結膜への影響が少なく,フィッティングの改善を期待できる1日交換型か頻回交換型のMFSCLを選択し,そのなかでもセンタリングのとりやすいと考えられる柔らかい素材で,サジタルデプスの深いデザイン(サイズが大きめかBCが小さめ)の製品に変更する.3.加入度数の決定MFCLは,高加入度数になると近用光学部のデザインが変わり,遠用光学部は影響を受けて自覚的にも他覚的にも遠方視が変化することが多い.交代視型では外界の像のジャンプが起こりやすくなり,同時視型ではゴースト像を自覚しやすくなりコントラスト感度も低下し見え方が不良となる.またMFCLは,どの製品でも加入度数の規格範囲が狭く細かい設定もできないため,遠近両用眼鏡のように広い範囲での度数調整をすることはできない.そのためMFCLの加入度数の設定では,可能なかぎり低い加入度数で対応する必要がある.筆者の処方経験ではMFCLは交代視型,同時視型のどちらのタイプでも,視力と自覚的な見え方を片眼と両眼で比べると,片眼より両眼が良好なことが多く,初期老視から中期老視まで,ほとんどのケースで低い加入度数で対応が可能であった.多くのメーカーの処方マニュアルではMFCLの加入度数を年齢や眼鏡での近方矯正加入度数を参考にして設定するようになっており,原則的にはそれに従うことになるが,上述の理由から,どのケースにおいても,最初は処方しようとするMFCLに設定されている加入度数のなかから低い加入度数を選択するほうが処方成功率は高くなると考えられる.加入度数を選択し,仮の球面度数を決定してから,まず近方の両眼での見え方を確認する.このとき,近方の片眼での視力値,両眼での視力値にこだわらず自覚的な両眼での見え方から判断して加入度数を決定する.近方の両眼での見え方に問題がある場合には球面度数を調整し,場合によっては加入度数を変更する.4.球面度数の決定MFCLの球面度数の決定の仕方は,基本的には単焦点CLの処方時と同様であり,テストレンズを装用したうえで追加矯正し,遠方視に適正な角膜頂点間距離補正した球面度数を設定する.ただしMFCLの遠方視は,デザイン的に遠用光学部が近用光学部の影響を受けるため,単焦点CLと比べると一般的に見え方の質が劣っており,単純に片眼の視力だけで見え方を判断すると正しい評価ができず,過矯正を起こしやすい.過矯正状態を作ると低い加入度数では近方が見づらいため高い加入度数に変更を余儀なくされ,高い加入度数に設定すると遠方視の質がさらに低下するため,遠方視も近方視も患者の満足が得られない悪循環に陥ることになる.そこで過矯正を防ぐため,最初に選ぶMFCLの球面度数(テストレンズの球面度数が変更できる1日交換MFSCLや頻回交換MFSCLの場合)は,角膜頂点間距離補正後の自覚的屈折度数(すなわち単焦点CLを完全屈折矯正度数で処方すると想定した場合の球面度数)より0.50~1.00D(レンズの種類,ケースにより度数は異なる)プラス側(近視では低矯正,遠視では過矯正)に設定し,見え方は両眼での視力と自覚的な見え方で判断する.MFCLの球面度数の設定は,原則的にはメーカーの処方マニュアルに従うべきである.しかし,上記の処方方法であれば遠方視がやや不良となることが想定されるが,処方不成功につながりやすい過矯正を防ぐことができるばかりか,MFCLの装用開始時に低加入度数であっても近方が確実に見やすい状態にすることができる.また,遠方視に患者の不満がある場合にはマイナス側の球面度数の追加矯正で対応できるため過矯正となりにくく,度数調整が容易であり,処方成功率を上げることができると考えられる.5.見え方の確認MFCLのトライアルレンズの装用状態が安定してから,まず近方視を両眼での見え方で確認する(テストレンズの加入度数と球面度数が変更できる1日交換MFSCLや頻回交換MFSCLの場合には実際に処方するレンズの規格となる)(図1).このとき,できるかぎり視力表よりも雑誌や新聞や携帯電話のような実際の生活で見るもので確認することが望ましい.ここまで解説してきた処方方法であれば,低い加入度数でも近方が見やすくなる球面度数に設定になっており,ほとんどのケースで近方視に問題はないはずである.(59)あたらしい眼科Vol.37,No.12,20201523近方視の確認両眼で具体的な物を対象に自覚的見え方と確認遠方視の確認両眼で自覚的見え方と矯正視力を確認遠方視に不満近方視に不満優位眼の球面度数変更非優位眼の球面度数変更両眼の球面度数変更非優位眼の加入度数変更モディファイド・モノビジョン法両眼の加入度数変更処方度数を決定図1見え方の確認と度数調整表5遠方が見えにくい場合の度数調整1.優位眼の球面度数をマイナス側に追加矯正両眼での遠方視確認→両眼での近方視確認2.両眼の球面度数をマイナス側に追加矯正両眼での遠方視確認→両眼での近方視確認3.優位眼を単焦点SCLに変更(モディファイド・モノビジョン法)両眼での遠方視確認→両眼での近方視確認表6近方が見えにくい場合の度数調整1.非優位眼の球面度数をプラス側に追加矯正両眼での近方視確認→両眼での遠方視確認2.非優位眼の加入度数を高い度数に変更両眼での近方視確認→両眼での遠方視確認3.両眼の加入度数を高い度数に変更両眼での近方視確認→両眼での遠方視確認