ミトコンドリアの生体イメージングからみた瀧原祐史老化関連疾患としての緑内障ミトコンドリアの生体イメージングとは生体イメージングにはCOCT,MRIなど幅広いイメージングが含まれます.本稿ではC2光子励起顕微鏡による生体イメージングについて紹介します.2光子励起顕微鏡による生体イメージングの大きな利点は,生理的条件下(神経回路,生理的酸素濃度,細胞間相互作用,代謝が保たれた条件下),単一細胞内を観察しえる高解像度の画像で動態をとらえることにより,興味の生命現象の統合的な理解につながる可能性をもつことがあげられます.2光子励起顕微鏡はC1931年にCMariaGoppert-Mayerが予言したC2光子励起,つまり一つの光子で励起する代わりに二つの光子で同時に励起するという現象を,1990年にDenkらが実現し顕微鏡として開発したものです1).二つの光子で励起する利点はさまざまですが,とくに波長が約C2倍の近赤外光を用いることができるので,生体の深部組織イメージングの実現性が高くなることがあげられます.ミトコンドリアの生体イメージングをめざし,ミトコンドリア移行シグナルを蛍光蛋白質の配列に付加することによってミトコンドリアが特異的に標識される遺伝子改変マウスが,近年複数報告されてきました.眼科領域において緑内障の発症率は加齢とともに増加しますが,緑内障の病態はまだ十分解明されているとはいえません.一つの有力な病態仮説は,篩状板変形による網膜神経節細胞の軸索障害が最終的に網膜神経節細胞死につながるというものです.そこで筆者らのグループは,緑内障と加齢の両者への関与が示唆されるミトコンドリアの軸索流に注目し,ミトコンドリア軸索流の生体イメージングが網膜神経節細胞の軸索障害をリアルタイムに検出できる可能性に着目しました.まずCThy1プロモーター下に,ミトコンドリア特異的にシアン蛍光蛋白質を発現するCThy1-mitoCFPマウスにC2光子励起顕微鏡を用いて,網膜神経節細胞のミトコンドリア軸索流の生体イメージングを確立しました(図1).この生体イメージングにより,高眼圧モデルにおいて網膜神経節細胞のミトコンドリア軸索流障害をリアルタイムに検出しました.加えて加齢マウス(ヒトでC70歳相当)および加齢マウスでの高眼圧モデルの両者に生体イメージングを行い解析したところ,加齢による軸索内ミトコンドリアの機能低下と軸索流の脆弱性が,緑内障病態および加齢に伴う緑内障の発症率増加の一因である可能性が示唆されました2).熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座図1マウス網膜神経節細胞のミトコンドリア軸索流の生体イメージング網膜神経節細胞の軸索(*)内,細胞体()内のミトコンドリアからの蛍光を確認できる.動画(https://Cwww.pnas.org/content/112/33/10515/tab-.gures-dataのCMovieS4)では,血流()が保たれた生理的条件下,ミトコンドリアが網膜神経節細胞の軸索内を非常に活発に輸送されていることがわかる.画面右側が視神経乳頭側である.(文献C2より許可を得て引用)今後の展望今後,緑内障病態に対してミトコンドリアがどのように関与しているのかをさらに検討する必要があります.xy軸に加えて,深さ(z),時間(t),多色(血流などその他を標識)のデータを取得できる多次元の網膜生体イメージングは網膜疾患の病態解明,新規治療法開発にむけた有用なツールとなりえるかもしれません.文献1)DenkCW,CStricklerCJH,CWebbWW:Two-photonClaserCscanningC.uorescenceCmicroscopy.CScienceC248:73-76,C19902)TakiharaCY,CInataniCM,CEtoCKCetal:InCvivoCimagingCofCaxonaltransportofmitochondriainthediseasedandagedmammalianCCNS.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC112:10515-10520,C2015C(85)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C15490910-1810/20/\100/頁/JCOPY