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眼内レンズ:灌流ハイドロダイセクション法

2016年3月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋352.灌流ハイドロダイセクション法増田洋一郎東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科本法は,カニューラによる注水ではなく,灌流スリーブからの灌流動圧によって皮質を.から分離する手技である.本手技における最高眼内圧は灌流ボトル高に依存するため,従来のハイドロダイセクションにより発生しうる高眼圧起因性合併症を回避でき,低侵襲白内障手術をめざすうえで意義ある手技と考えられる.●はじめに白内障手術時の眼内圧最高値は,カニューラを用いて行うハイドロダイセクション時であるといわれており1),ときに重篤な合併症につながることが報告されている.とくに.内の圧上昇による後.破損,後房圧上昇による前部硝子体膜破損は,眼内炎の主要な要因になることが危惧され,極力回避したい合併症である2,3).広く行われているカニューラハイドロダイセクション法の最大眼内圧は,注入水量,切開創の大きさ,粘弾性物質の種類,術者の技量など多くのパラメータにより変化しうるが,灌流ハイドロダイセクション法の最大眼内圧はボトル高に依存し,ハイドロダイセクション.超音波乳化吸引.皮質吸引のすべての過程で,ボトル高依存圧以下の眼内圧での手術を可能とする.そのため,本法は低侵襲白内障手術に貢献する手技といえる4).abc図1後部水晶体の皮質分離手技a:中央溝掘り後.b,c:分割操作.二分割された核の周辺部の壁を大きく開く,核後面を持ち上げる,分割を維持しながら眼内液を吸引することでスリーブからの灌流を誘発する,などの操作を行う.(63)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY●実際の手順実際の手技を説明する.超音波チップを前房内に挿入後,前方水晶体皮質を可能な範囲で除去してから,中央の溝掘りを行う.深い溝を掘った後,溝の両末端で超音波チップとフックを用いて繰り返し分割操作を行う.この分割操作の際,①核の周辺部の壁を大きく開く,②核の後面を持ち上げる,③分割を維持しながら眼内液を吸引することでスリーブからの灌流を誘発する,という操作(図1)を行うことにより,水晶体後部の皮質.後.間に灌流が流れる間隙ができ,後.側のハイドロダイセクションが完成する.次に,超音波チップを連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)縁から前.下に挿入し,水晶体前方から皮質..間を灌流すabc図2前部水晶体の皮質分離手技a,b:左側の核片に対する前部水晶体皮質分離.超音波チップをCCC縁から前.下に挿入し,吸引をかけながら灌流スリーブから灌流を誘発する.c:右側の核片にも同様に前部水晶体皮質分離を行った後,灌流ハイドロダイセクション効果が完成し,核を回転させることが可能となる.あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016393 abcd図3部分灌流ハイドロダイセクション法a:Zinn小帯に可能なかぎり負担をかけないよう,右利き術者の場合,核処理を行いやすい左側下方の前部水晶体皮質分離のみを行う.b~d:左側下方の核分割,乳化吸引処理を部分的に行い,その後残存核に対して順次灌流ハイドロダイセクション法にて皮質分離を丁寧に行っていく.る操作を行う(図2a,b).この際,残存皮質を吸引除去し,サイドポートのフックを軽く押し下げ眼内液を流出させると,灌流スリーブからの灌流液が前.下に流入し,より効果的となる.対側の水晶体にも同様の手技を行うことで前部水晶体皮質の分離が完成し,灌流ハイドロダイセクション効果により水晶体が回転することとなる(図2c).●手技のポイントこの手技のポイントは,水晶体前面の皮質をできるだけ除去すること,溝掘り後の核分割操作と灌流誘発を何度も繰り返すこと,前.下の灌流時は時間をかけて待つことであり,もしハイドロダイセクション効果が不十分であれば一連の作業をやり直す必要がある.前部水晶体皮質分離の際,チップ挿入側のハイドロ効果を効率的に得るためには,ケルマンチップのような曲がりのチップを使用すると行いやすくなる.また,軟らかい核の場合は中央の溝掘り後の分割操作は不要であり,前部水晶体の皮質分離のみでハイドロダイセクション効果を得ることができる.Zinn小帯脆弱例などZinn小帯にできるだけ負担をかけたくない症例では,部分的な灌流ハイドロダイセクション手技を行っていくとよい.中央の溝掘りを丁寧に行った後,分割時に核の周辺部を押し開くことはせず,核の後面を持ち上げる操作と眼内液吸引による灌流誘発をゆっくりと繰り返して後部水晶体皮質分離を行う.核の乳化吸引が行いやすい部位の前.下に灌流液を流して前部水晶体皮質を.から分離しやすくし,核を回転させず,その部分の核を分割して乳化吸引処理を行う(図3).同様の手技で,残存している核の前.下に灌流液を流入させていき,ハイドロダイセクション効果を得た残存核を移動させて乳化吸引していくと,Zinn小帯への負担を最小限に核処理を行うことが可能である.本原稿をご校閲くださいました常岡寛教授,大木孝太郎先生,岩城久泰先生,加藤能利子先生に深謝いたします.文献1)KhingC,OslerRH:Intraocularpressureduringphacoemulsification.JCataractRefractSurg32:301-308,20062)MiyakeK,OtaI,IchihashiSetal:Newclassificationofcapsularblocksyndrome.JCataractRefractSurg24:1230-1234,19983)KawasakiS,TasakaY,SuzukiTetal:Influenceofelevatedintraocularpressureontheposteriorchamber-anteriorhyaloidmembranebarrierduringcataractoperations.ArchOphthalmol129:751-757,20114)MasudaY,TsuneokaH:Hydrodissection-freephacoemulsificationsurgery:mechanicalcorticalcleavingdissection.JCataractRefractSurg40:1327-1331,2014

写真:虹彩癒着

2016年3月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦382.虹彩癒着加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①角膜上皮下にカルシウム沈着②虹彩前癒着③虹彩後癒着図1当科初診時の前眼部写真角膜上皮下にカルシウム沈着を認めた.瞳孔縁全周の虹彩後癒着と全周にわたる虹彩前癒着が認められた.図4サルコイドーシスの患者の前眼部写真虹彩上にBusacca結節(矢印),瞳孔縁にKoeppe結節(矢頭)を認め,虹彩は水晶体.に癒着している.図3初診時の前眼部OCT虹彩の前面と角膜とが完全に癒着している.角膜上皮下のカルシウム沈着は高輝度を呈している.(61)あたらしい眼科Vol.33,No.3,20163910910-1810/16/\100/頁/JCOPY ぶどう膜炎の患者において虹彩癒着はよくみられる所見である.虹彩は豊富な血流を有しており,眼炎症の首座となりやすい.前眼部の炎症では虹彩,毛様体血管の透過性亢進が起こり,フィブリンが析出する.このフィブリンは生体糊となり,虹彩と隣接する組織との癒着を引き起こす1).虹彩根部と角膜周辺部が癒着することを「虹彩前癒着」,虹彩裏面と水晶体が癒着することを「虹彩後癒着」とよぶ.前眼部炎症の原因としてぶどう膜炎があげられるが,サルコイドーシスや原田病などの肉芽腫性ぶどう膜炎,急性前部ぶどう膜炎,Behcet病などの非肉芽腫性ぶどう膜炎のいずれにおいても虹彩癒着は発症しうる.肉芽腫性ぶどう膜炎では,Koeppe結節などが原因となって虹彩後癒着が生じることが多いとされている2).虹彩癒着でも,瞳孔縁が水晶体.に癒着する虹彩後癒着については,通常の細隙灯顕微鏡検査で容易に診断できる.一方,虹彩前癒着の診断には,隅角鏡を使用した隅角検査が必要となる.隅角鏡の挿入は患者にとって負担を伴う検査であるが,ぶどう膜炎患者で眼圧が上昇している場合はもちろんのこと,初診時にぶどう膜炎を疑った際には隅角検査を行うべきである.前眼部OCTを用いると非接触かつ非侵襲的に隅角の評価ができるので診断が容易である.虹彩癒着の治療では,虹彩癒着が起こりやすい前眼部炎症では,虹彩癒着予防のために十分な消炎をかけるだけではなく,適切な瞳孔管理を行うことが重要である.アトロピン点眼により散瞳状態で瞳孔を固定するよりは,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼液を1日数回点眼することで瞳孔を動かすほうがよい.瞳孔縁全周に虹彩癒着が起こる完全虹彩後癒着では,瞳孔ブロックが起こり急激な眼圧上昇を起こすため,速やかなレーザー虹彩切開術が必要となる.また,虹彩前癒着が広範囲に形成されてしまった場合,治療が困難な高眼圧症となる.点眼による眼圧コントロールが不良な場合には線維柱帯切開術や線維柱帯切除術などの手術治療が行われるが,治療に苦慮することが多い3).筆者は右眼に角膜混濁と水疱性角膜症,全周にわたる虹彩前癒着,虹彩後癒着により瞳孔閉鎖をきたした症例を経験した(図1~3).約20年前に眼Behcet病と診断され,右眼の視力低下が起きたが,左眼があるので右眼が見えなくなってもよいと考え,自己判断で通院を中断,約20年かけて写真のような状態になった.レーザー虹彩切開術を他院で施行されており,眼圧上昇はなく,また積極的な治療希望もなく経過観察を希望された.文献1)園田康平:虹彩癒着,虹彩結節.所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩編),眼科臨床エキスパート,p7580,医学書院,20132)真下永:虹彩結節・隅角結節・虹彩癒着の種類と鑑別.ぶどう膜炎を斬る!(園田康平編),専門医のための眼科診療クオリファイ13,p16-19,中山書店,20123)岩尾圭一郎:ぶどう膜炎続発緑内障.緑内障治療のアップデート(杉山和久,谷原秀信編),眼科臨床エキスパート,p68-76,医学書院,2015392

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 結膜炎:感染とアレルギーの見分け方

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):383.389,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):383.389,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解結膜炎:感染とアレルギーの見分け方DifferentialDiagnosisofInfectionsandAllergicConjunctivitis杉浦佳代*福田憲*はじめに結膜炎はさまざまな原因で生じ,日常診療で診る機会の非常に多い疾患である.結膜炎の原因としては,アレルギー性結膜疾患がもっとも多いが,細菌性,ウイルス性,クラミジアなどの感染性結膜炎も少なくない.これらの疾患は治療方針が異なるため,しっかり鑑別する必要がある.また,アレルギー性結膜疾患の治療中に感染を合併することもあり,その場合は治療を変更しなくてはならない.本稿ではアレルギー性結膜疾患と感染性結膜炎との鑑別のポイントや,治療中の感染の合併例などについて述べる.Iアレルギー性結膜疾患の診断アレルギー性結膜疾患は,I型アレルギー反応によって生じる結膜の炎症性疾患で,アレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタル,巨大乳頭結膜炎の4つが含まれる.各病型の診断は,増殖性病変,アトピー性皮膚炎,あるいは縫合糸・コンタクトレンズなどの異物の有無によってなされる(図1).アレルギー性結膜疾患であるという診断は,臨床所見やアレルギー検査などの診断根拠の組み合わせにより①臨床診断,②準確定診断,③確定診断の3群に分類される(表1)1).アレルギー性結膜疾患に特有な臨床症状のみで診断したものが臨床診断で,準確定診断は臨床症状に加えI型アレルギー素因が証明されたものである.アレルギー素因の証明には全身と眼局所があり,全身の反応としてはスクラッチテストなどの皮膚反応や血液検査で抗原特異的IgEが陽性であること,眼局所の反応としては涙液中総IgE抗体の増加である.涙液中総IgE抗体の測定はイムノクロマト法による測定キットが発売され,日常診療においても比較的簡便に短時間で測定できるようになった.確定診断例は臨床症状に加えて,眼局所でのI型アレルギー反応の証明,すなわち眼脂や結膜擦過物中の好酸球が検出された症例であるが,病型によっては陽性率が低いことが問題である2).アレルギー性結膜疾患のみならず感染性結膜炎の確定診断においても,結膜の擦過細胞診や擦過物の鏡検・培養・PCR(polymerasechainreaction)検査などによって好酸球や感染微生物などを同定することでなされるが,日常診療ですべての結膜炎症例に施行することは難しい.典型的な花粉性結膜炎の症例,すなわち毎年特定の花粉などの飛散時期に鼻炎を伴って起こる結膜炎に対しては,必ずしも全例に涙液中IgEの測定や好酸球の証明をする必要性はなく,臨床診断で十分診断可能と思われる.アレルギー性か感染性結膜炎か鑑別に迷う症例においては,上述したアレルギー検査やアデノウイルスあるいはヘルペスウイルス迅速診断キットなどの検査を用いて,より確実に診断することが重要である.これらの補助検査は特異度が高く陽性であれば診断の助けになるが,感度は100%ではないために陰性の場合も否定できるものではないことを念頭におくべきである.以下にアレルギー性結膜疾患と感染性結膜炎の鑑別のポイントを述べる.*KayoSugiura&KenFukuda:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕福田憲:〒783-8505南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(53)383 眼掻痒,充血などの自覚症状結膜増殖なし結膜増殖あり季節性あり季節性なし異物なし異物ありアトピー性皮膚炎ありアトピー性角結膜炎(AKC)アトピー性皮膚炎なし春季カタル(VKC)巨大乳頭結膜炎(GPC)季節性アレルギー性結膜炎(SAC)通年性アレルギー性結膜炎(PAC)アトピー性皮膚炎なし眼掻痒,充血などの自覚症状結膜増殖なし結膜増殖あり季節性あり季節性なし異物なし異物ありアトピー性皮膚炎ありアトピー性角結膜炎(AKC)アトピー性皮膚炎なし春季カタル(VKC)巨大乳頭結膜炎(GPC)季節性アレルギー性結膜炎(SAC)通年性アレルギー性結膜炎(PAC)アトピー性皮膚炎なし図1アレルギー性結膜疾患の診断表1アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインによる診断基準臨床症状アレルギー素因全身局所眼アレルギー検査臨床診断■準確定診断■あるいは■確定診断■△△■■:必須,△:検査が望ましいII鑑別診断,とくに感染性結膜炎との鑑別結膜炎患者を診た場合,まずアレルギー(非感染)性か感染性かを鑑別する.感染性結膜炎の原因としては,細菌,ウイルス(アデノウイルス,エンテロウイルス,コクサッキーウイルス,単純ヘルペスウイルス),クラミジアなどがあげられる.自覚症状や眼所見のみでは鑑別が困難な場合もあり,患者の年齢,職業,発症様式,流行性,罹患側,結膜炎の既往歴などをしっかり問診することが重要である(表2).また,いきなり細隙灯顕微鏡で眼所見を診察するのではなく,リンパ節腫脹やアトピー性皮膚炎などの眼外症状を確認することである程度疾患を予測することが可能である.耳前リンパ節腫脹を認める場合はウイルス性やクラミジア結膜炎が疑われる.問診および眼外症状の確認が終わると細隙灯顕微鏡による診察となるが,眼脂や結膜乳頭および結膜濾胞の有無や性状も結膜炎の鑑別に役立つ所見である.同じアレルギー性結膜疾患であるが,アレルギー性結膜炎の眼脂は白色水様性であるが,春季カタルでは粘液性となる.アデノウイルスなどのウイルス性結膜炎では漿液線維素性眼脂が多量にみられ,細菌性結膜炎では黄色の膿性眼脂がみられることが多い(図2).診断に迷う場合は,眼脂をギムザ染色して観察することによって,浸潤細胞の主体が好中球かリンパ球,あるいは好酸球なのかによって細菌性,ウイルス性,アレルギー性かの推察ができる.また,下眼瞼の結膜濾胞を確認することも大切で,アレルギー性結膜炎では結膜.に小濾胞を,クラミジア性結膜炎では結膜.に充実性の混濁した巨大濾胞を認める(図3).一方,細菌性結膜炎では結膜濾胞は認めない.アデノウイルス結膜炎も瞼結膜から円蓋部にかけて濾胞を形成する.春季カタルでは,落屑状の点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)やシールド潰瘍などの特徴的な角膜障害をきたすことが有名であるが3),アデノウイルス結膜炎でも春季カタルに似た角膜障害を生じることがある.図4と図5に角膜傷害をきたしたアデノウ384あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(54) 表2結膜炎患者の鑑別のための問診のポイント主訴アレルギー性結膜炎:掻痒感が強い感染性結膜炎:眼脂や異物感を訴えることが多い発症様式アレルギー:両眼性花粉飛散時期やダニの繁殖時期に多い感染性:両眼発症でも左右で発症時期に差があることも多いEKCやプール熱などの流行性,同じ症状の患者との接触歴職業アレルギー性:職場での暴露抗原ウイルス性:幼稚園・学生・学校関係者・医療従事者か眼外症状アレルギー:鼻炎,喘息やアトピー性皮膚炎などのアトピー素因感染性:咽頭炎や感冒様症状,リンパ節腫脹,泌尿器症状dabc図2眼脂による結膜炎の鑑別アレルギー性結膜炎(a)は水様性,細菌性結膜炎(b)は膿性の強い眼脂,春季カタル(c)は粘液性,流行性角結膜炎(d)では漿液線維素性の眼脂がみられることが多い. 386あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(56)abcd図3結膜濾胞による結膜炎の鑑別下眼瞼結膜には,アレルギー性結膜炎(a)では小さな濾胞がみられるが,細菌性結膜炎(b)では濾胞はみられない.クラミジア(c)では巨大な癒合した濾胞,アデノウイルス結膜炎(d)でも下眼瞼全体に濾胞がみられる.ab図4ウイルス性結膜炎(a)と春季カタル(b)による角膜上皮障害の鑑別咽頭結膜熱による角膜傷害(a)では,落屑状点状表層角膜症に小さな上皮びらんが多発し,上眼瞼には偽膜がみられる.春季カタルによる落屑状点状表層角膜症(b)では,上眼瞼には巨大乳頭がみられる.abcd図3結膜濾胞による結膜炎の鑑別下眼瞼結膜には,アレルギー性結膜炎(a)では小さな濾胞がみられるが,細菌性結膜炎(b)では濾胞はみられない.クラミジア(c)では巨大な癒合した濾胞,アデノウイルス結膜炎(d)でも下眼瞼全体に濾胞がみられる.ab図4ウイルス性結膜炎(a)と春季カタル(b)による角膜上皮障害の鑑別咽頭結膜熱による角膜傷害(a)では,落屑状点状表層角膜症に小さな上皮びらんが多発し,上眼瞼には偽膜がみられる.春季カタルによる落屑状点状表層角膜症(b)では,上眼瞼には巨大乳頭がみられる. あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016387(57)abc図5ウイルス性結膜炎(a,b)と春季カタル(c)による角膜びらんの鑑別3症例とも類円形の角膜上皮びらんが認められるが,流行性角結膜炎の2症例(a,b)では,上眼瞼には巨大乳頭はなく,偽膜が認められる.春季カタル(c)で上眼瞼には石垣状の巨大乳頭が認められる.ab図6角膜プラーク下にブドウ球菌感染を生じたアトピー性角結膜炎角膜プラークの範囲を超えた角膜実質に浸潤(▲)を認め,上方からの血管侵入も強いこと(a)から感染を疑い,プラークを除去すると角膜実質に強い浸潤病巣を認め(b),多数の好中球とブドウ球菌が検出された.(文献4より転載)abc図5ウイルス性結膜炎(a,b)と春季カタル(c)による角膜びらんの鑑別3症例とも類円形の角膜上皮びらんが認められるが,流行性角結膜炎の2症例(a,b)では,上眼瞼には巨大乳頭はなく,偽膜が認められる.春季カタル(c)で上眼瞼には石垣状の巨大乳頭が認められる.ab図6角膜プラーク下にブドウ球菌感染を生じたアトピー性角結膜炎角膜プラークの範囲を超えた角膜実質に浸潤(▲)を認め,上方からの血管侵入も強いこと(a)から感染を疑い,プラークを除去すると角膜実質に強い浸潤病巣を認め(b),多数の好中球とブドウ球菌が検出された.(文献4より転載) 388あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(58)部への血管侵入が増強することが鑑別のポイントである4).これらの自覚および他覚所見を認め,感染が疑われる場合には,すぐに角膜プラークを.離して角膜実質の状態を確認し,潰瘍底の擦過およびプラークそのものを鏡顕し培養検査を行うべきである.感染を確認すれば,免疫抑制点眼薬およびステロイド点眼薬は中止し,速やかに感受性のある抗微生物薬の治療に変更する.筆者らの経験では,感染の活動性がある時期はステロイド点眼薬などのアレルギーに対する治療を弱めてもアレルギー炎症は増強しない印象がある.逆に感染の治療後に巨大乳頭や落屑状SPK,角膜プラークなどアレルギー炎症の増強を示唆する所見を認めたときは,感染が鎮静化した徴候として,感染症の再燃に注意しつつ慎重にアレルギーの治療を再開している.感染症の活動性があるときになぜアレルギー炎症が増悪しないかの科学的根拠は得られていないが,サイトカイン・ケモカインバランタクロリムスの免疫抑制点眼薬はT細胞のカルシニューリンを阻害することによって免疫抑制作用を発揮する.したがって,ウイルス感染症,単純ヘルペスウイルス感染症に注意する必要がある.ステロイド点眼薬は,T細胞のみならずほとんどすべての免疫担当細胞に作用するため,ウイルス以外にも細菌,真菌感染にも注意が必要である.とくにアトピー性皮膚炎を合併している症例では,黄色ブドウ球菌の皮膚および結膜での保菌率が高いことが知られており,注意する必要がある.また,稀ではあるが角膜プラークの下に細菌あるいは真菌感染を合併する症例を経験する.筆者が経験した症例では,感染を合併するとそれまでと異なった眼痛および眼脂を訴えた.厚い角膜プラークが堆積するとその下の角膜実質の状態がわかりづらくなるが,細隙灯顕微鏡で角膜プラークの範囲を超えて角膜実質の浸潤を認めること(図6)や,プラークの下のdebrisの存在(図7),また病巣abcd図7春季カタルの治療中に真菌感染をきたした症例非感染時(a)と角膜プラーク下の真菌感染時(b).角膜プラーク下にdebrisを認め,また上方輪部から血管侵入を認め,プラークを除去すると,プラーク下の実質は一部融解し(c),混濁していた.プラーク裏面には真菌を認めた(d).(文献4より転載)abcd図7春季カタルの治療中に真菌感染をきたした症例非感染時(a)と角膜プラーク下の真菌感染時(b).角膜プラーク下にdebrisを認め,また上方輪部から血管侵入を認め,プラークを除去すると,プラーク下の実質は一部融解し(c),混濁していた.プラーク裏面には真菌を認めた(d).(文献4より転載) あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016389(59)スの変調や浸潤細胞が好酸球から好中球へとシフトすることなどが原因ではないかと推察している.文献1)日本眼科アレルギー研究会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版),日眼会誌114:829-870,20102)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総IgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,20123)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Treatmentofcor-neallesionsinindividualswithvernalkeratoconjunctivitis.AllergolInt54:51-59,20054)福田憲:アレルギー性結膜疾患.MBOCULI7:49-57,2013

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 眼瞼炎:感染とアレルギーの見分け方

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):377.382,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):377.382,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解眼瞼炎:感染とアレルギーの見分け方Blepharitis:HowtoDistinguishbetweenInfectionandAllergy千貫祐子*森田栄伸*はじめに眼瞼に発赤や腫脹がみられた場合,それが感染に起因するものなのか,アレルギーに起因するものなのか,見きわめが困難なときがある.感染症とアレルギーでは治療方法が異なるため,われわれ臨床医には正しい診断を行うことが求められる.筆者らは,基本的には「感染症は片側性が多く」「アレルギーは両側性が多い」と考えている.ただし,「(,)アトピー性皮膚炎患者の眼瞼に生じた細菌感染」のように,元々両側性の慢性炎症に感染が加わった場合などは例外であり,両側性の感染症も存在しうる.本稿では,筆者らが日常診療で経験している眼瞼炎の具体例を提示し,その見分け方について紹介する.I片側性に生じることが多い眼瞼炎:感染に起因する眼瞼炎1.麦粒腫(図1)麦粒腫は,眼科医が多く診療する疾患と思われるが,皮膚科を受診する患者も少なくない.皮膚科医が診察する麦粒腫の多くは,マイボーム腺に感染が生じる内麦粒腫ではなく,睫毛に付属する皮脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)に感染が生じる外麦粒腫と思われる(図1).片側性に生じることが多く,主症状は眼瞼の発赤,腫脹,疼痛で,黄色ブドウ球菌などが起炎菌となる.治療の基本は抗菌薬で,抗菌点眼薬や抗菌眼軟膏を使用するが,炎症が強い場合は抗菌内服薬の全身投与も併用する.図1右下眼瞼に生じた外麦粒腫(15歳,女性)睫毛の根部に発赤,腫脹,小膿疱を認める.細菌培養検査の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.鼻尖部にも細菌性毛包炎と思われる毛包一致性の紅色丘疹を認める.2.丹毒真皮のレベルを水平方向に急速に拡大する,疼痛や熱感を伴う浮腫性紅斑と腫脹を特徴とする,おもに化膿レンサ球菌による急性感染症である.顔面では片側に始まり,拡大して両側性となることがある(図2).発熱や頭痛などの全身症状を伴うことも多い.白血球増多やCRP(C-reactiveprotein)上昇などの炎症所見が診断に有用であり,治療はペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬の全身投与を行う.*YukoChinuki&EishinMorita:島根大学医学部皮膚科学講座〔別刷請求先〕〒693-8501島根県出雲市塩冶町89-1島根大学医学部皮膚科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(47)377 3.ヘルペスウイルス感染症a.単純ヘルペスウイルス感染症単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)による眼瞼炎として日常臨床上しばしば遭遇するのは,アトピー性皮膚炎患者に生じるKaposi水痘様発疹症である(図3a,b).HSVには1型と2型が存在するが,眼瞼炎の原因の多くは1型である.HSV1型は,初感染の際にヘルペス性歯肉口内炎として発症した後,おもに図2丹毒(80歳代,男性)左上下眼瞼から頬部を中心に,疼痛を伴う発赤,腫脹,熱感を認め,右側に拡大しつつある.初診時のASO(用語解説参照)値は1,228IU/mlで,2週間後には4,369IU/mlに上昇した(正常値<300IU/ml).三叉神経節に潜伏感染する.そして,なんらかの原因で免疫力が下がったときに,ウイルスが再活性化され,皮疹を形成する.皮疹は発赤を伴う小水疱の集簇で,小水疱に中心臍窩を伴うのが特徴である.片側に集中して現れることが多いが,重症のアトピー性皮膚炎患者などでは両側性に拡大することも少なくない.治療の基本は,抗ウイルス内服薬の全身投与である.筆者らが眼瞼皮膚のヘルペスウイルス感染を診察した場合は,ヘルペス性結膜炎やヘルペス性角膜炎の合併を鑑別するために,必ず眼科専門医を紹介している.b.水痘・帯状疱疹ウイルス感染症水痘・帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)による眼瞼炎として日常臨床上しばしば遭遇するのは,三叉神経第1枝(ときに第2枝)領域帯状疱疹である.帯状疱疹は,水痘罹患時に知覚神経節に潜伏感染したVZVが,なんらかの原因で免疫力が下がったときに,ウイルスが再活性化され,皮疹を形成する疾患である.片側性に生じ,多くは皮疹出現前に前額部や前頭部の疼痛を訴え,数日後に発赤を伴う小水疱が集簇して出現する(図4).単純ヘルペスウイルス感染症と同様,小水疱に中心臍窩を伴うのが特徴である.帯状疱疹が両側性に出現することはきわめて稀である.治療の基本は,抗ウイルス薬の点滴または内服による全身投与である.筆者らが三叉神経第1枝,ときに第2枝領域帯状疱疹をab図3アトピー性皮膚炎患者に生じたKaposi水痘様発疹症(20歳代,女性)a:右眼を中心に発赤を伴う小水疱の集簇を認め,痂皮を形成しつつある.b:ヘルペスウイルス感染症の小水疱は中心臍窩(→)を伴うことが特徴である.378あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(48) あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016379(49)診察した場合は,やはりヘルペス性結膜炎やヘルペス性角膜炎の合併を鑑別するために,必ず眼科専門医を紹介している.4.毛包虫による眼瞼炎稀ではあるが,細菌やウイルス以外の眼瞼の感染症も存在する.われわれ皮膚科医は,毛包虫(ニキビダニ)の寄生による毛包炎(毛包虫性.瘡)を診療することがあるが,この毛包虫が睫毛に寄生すると眼瞼炎を引き起こすことがある(図5a).診断には直接鏡検による毛包虫の証明(図5b)が必要で,毛包虫を認めた場合,筆者らはメトロニダゾールの内服投与を行い,良好な経過を得ている.このように,原因がわかりにくい眼瞼炎を診療することも多く,診断に苦慮する眼瞼炎では,眼科医と皮膚科医が協力して診療に当たる必要があると思われる.睫毛→ab図5左上眼瞼に生じた毛包虫性座瘡(60歳代,女性)a:睫毛の根部を中心に発赤,腫脹を認める.b:睫毛を1本抜毛し,顕微鏡で確認したところ,多数の毛包虫(→)の寄生を認めた.図4左三叉神経第1枝領域に生じた帯状疱疹(60歳代,男性)左前額部から上眼瞼にかけて,発赤を伴う小水疱の集簇を認める.小水疱は中心臍窩(→)を伴うことが特徴である.眼瞼全体の腫脹も著しく,疼痛を伴う.皮疹が両側性に生じることはきわめて稀である.睫毛→ab図5左上眼瞼に生じた毛包虫性座瘡(60歳代,女性)a:睫毛の根部を中心に発赤,腫脹を認める.b:睫毛を1本抜毛し,顕微鏡で確認したところ,多数の毛包虫(→)の寄生を認めた.図4左三叉神経第1枝領域に生じた帯状疱疹(60歳代,男性)左前額部から上眼瞼にかけて,発赤を伴う小水疱の集簇を認める.小水疱は中心臍窩(→)を伴うことが特徴である.眼瞼全体の腫脹も著しく,疼痛を伴う.皮疹が両側性に生じることはきわめて稀である. 380あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(50)管性浮腫であったことにより,感作部位にアレルギー症状がもっとも現れやすいことが考えられた(図6a,b)2).この考え方に共通する病態を示すのが,花粉.食物アレルギー症候群(pollenfoodallergysyndrome:PFAS)の患者でみられる眼瞼の血管性浮腫である.PFASは花粉抗原に感作された花粉症患者が交差反応のために果物や野菜摂取時にアレルギーを生じる疾患である.食物摂取時のアレルギー症状は口腔アレルギー症候群(oralallergysyndrome:OAS)でみられる症状と同様で,口腔・咽頭粘膜の過敏症状をきたすことが多く,アナフィラキシーショックを生じることもある.ところが最近,PFASの患者が原因食物を摂取した際のアレルギーの主症状の一つが,眼瞼の血管性浮腫である症例が増えている(図6c).これも,加水分解コムギ含有石鹸の問題と同様に,感作部位に食物アレルギーの主要な症状が現れやすいことを示唆していると思われる.花粉を完全に回避することは困難なため,花粉症の際の眼症状の治療の基本は抗アレルギー点眼薬であるが,食物アレルギーの際の治療の基本は原因食物の回避である.誤食などによII両側性に生じることが多い眼瞼炎:アレルギーに起因する眼瞼炎1.IgE依存性即時型(I型)アレルギー筆者らは,IgE依存性の食物アレルギーの一症状として,眼瞼の血管性浮腫(用語解説参照)を多く経験している.眼瞼の血管性浮腫が主症状となる食物アレルギーとして近年多発したのが,加水分解コムギ(用語解説参照)含有石鹸の使用によって感作された小麦アレルギーである.この事例では,当該石鹸を使用した消費者466万人のうち,2014年10月20日時点で2,111人が小麦アレルギーを発症したと確定診断されている1).この事例は,石鹸の使用によって石鹸に含有されていた加水分解コムギに眼瞼の皮膚または粘膜から感作をされ,交差反応のために通常の小麦製品を経口摂取した際にアレルギー症状を生じるようになったと考えられる.われわれ臨床医にとっては,食物アレルギー発症における経皮・経粘膜感作の重要性を再認識させられるでき事であった.そして,小麦製品摂取時の主症状が全例で眼瞼の血abc図6眼瞼の血管性浮腫が主症状の食物アレルギーa:40歳代,女性.石鹸含有加水分解コムギで経皮・経粘膜感作された患者が小麦製品を経口摂取したときの10分後の所見:両眼瞼の発赤腫脹が始まり,流涙も始まった.b:aの患者の小麦製品経口摂取1時間後の所見.眼瞼の腫脹が著しくなり,開眼困難となった(文献2より転載).c:60歳代,女性.ヨモギ花粉症に交差反応したゴボウアレルギー.ゴボウを経口摂取したところ,両眼瞼の発赤,腫脹と流涙が生じた.abc図6眼瞼の血管性浮腫が主症状の食物アレルギーa:40歳代,女性.石鹸含有加水分解コムギで経皮・経粘膜感作された患者が小麦製品を経口摂取したときの10分後の所見:両眼瞼の発赤腫脹が始まり,流涙も始まった.b:aの患者の小麦製品経口摂取1時間後の所見.眼瞼の腫脹が著しくなり,開眼困難となった(文献2より転載).c:60歳代,女性.ヨモギ花粉症に交差反応したゴボウアレルギー.ゴボウを経口摂取したところ,両眼瞼の発赤,腫脹と流涙が生じた. あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016381(51)8).治療の基本はステロイド外用薬であるが,長期間の使用による緑内障の合併などが懸念される.筆者らは,短期間のステロイド外用によって急性期の炎症を改善させ,その後タクロリムス軟膏に切り替えることを推奨している.また,炎症症状が改善した後の皮膚炎の再燃を防ぐために,ワセリンによる保湿も重要と考える.2.アトピー性皮膚炎の眼瞼炎に生じた二次感染アトピー性皮膚炎患者のびらんや亀裂に細菌が接着し,増殖した結果,伝染性膿痂疹を生じうる(図9).黄色ブドウ球菌が原因の水疱性膿痂疹と,化膿レンサ球菌が原因の痂皮性膿痂疹に分けられるが,いずれも治療の基本は内服抗菌薬の全身投与である.局所には抗菌薬外用も有用である.アトピー性皮膚炎で診療している患者に,いつもと異なるびらんや浸出液を認めた場合,またはアトピー性皮膚炎の治療を行っているにもかかわらず悪化する皮疹を認めた場合は,細菌感染やウイルス感染って症状が出現した場合は,抗ヒスタミン薬の内服(緊急時は静注)を行う.2.遅延型(IV型)アレルギー眼瞼に生じる遅延型アレルギーの代表は接触皮膚炎である.接触皮膚炎は,原因物質が接触した部位に紅斑や小丘疹,湿潤,痂皮などを生じる疾患で,多くは掻痒を伴う.限局性に生じるため,原因物質はある程度推察できる.眼瞼に生じる場合は,アイシャドーやアイライナー,マスカラ,ビューラーなどのほか,点眼薬や眼軟膏によるものも考慮しなければならない.とくに抗菌薬含有ステロイド外用薬のうち,硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎は比較的頻度が高いため,注意が必要である(図7).治療の基本は原因物質の回避であるが,炎症が強い場合は数日間のみステロイド外用薬を使用する.I(strongest).V(weak)群に分けられるステロイド外用薬のうち,筆者らは眼瞼皮膚にはIV群(medium)を短期間のみ使用している.IIIアトピー性皮膚炎の眼瞼炎1.アトピー性皮膚炎の眼瞼炎アトピー性皮膚炎は表皮のバリア機能異常に多彩な非特異的刺激反応や特異的なアレルギー反応が関与して生じる,慢性に経過する炎症と掻痒を病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であり,患者の多くはアトピー素因(用語解説参照)をもつ3).乾燥や掻爬によって眼瞼にも症状が現れやすく,両側性に紅斑,びらん,亀裂,鱗屑,痂皮などを生じ,長期間経過すると苔癬化を生じる(図図7硫酸フラジオマイシン含有ステロイド眼軟膏を使用中に出現した掻痒を伴う両眼瞼の鱗屑と紅斑(70歳代,女性)パッチテストにて,硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎であったことが判明した.abc図8アトピー性皮膚炎でみられる眼瞼炎a:生後5カ月男児.両眼瞼を含めて,全身に左右対称性に鱗屑や痂皮を伴う紅斑を認める.b:16歳,女性.両眼瞼に鱗屑を伴う紅斑を認める.c:30歳代,男性.湿疹が慢性化してくると苔癬化(→)を生じ始める.眉毛にはHertoghe徴候(用語解説参照)を認める.図7硫酸フラジオマイシン含有ステロイド眼軟膏を使用中に出現した掻痒を伴う両眼瞼の鱗屑と紅斑(70歳代,女性)パッチテストにて,硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎であったことが判明した.abc図8アトピー性皮膚炎でみられる眼瞼炎a:生後5カ月男児.両眼瞼を含めて,全身に左右対称性に鱗屑や痂皮を伴う紅斑を認める.b:16歳,女性.両眼瞼に鱗屑を伴う紅斑を認める.c:30歳代,男性.湿疹が慢性化してくると苔癬化(→)を生じ始める.眉毛にはHertoghe徴候(用語解説参照)を認める. 382あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(52)の合併を考慮しなければならない.おわりに冒頭で述べたとおり,眼瞼炎が感染によるものか,アレルギーによるものかを見きわめる最大のポイントは,「片側性であるか」,「両側性であるか」と考える.ただし,「アトピー性皮膚炎患者の眼瞼炎に生じた細菌感染」のように,例外は存在するため,個々の症例についてよく検討し,判断しなければならない.眼瞼は,眼科と皮膚科の境界線であると同時に,接点でもある.患者のためによりよい診療を行うために,眼科と皮膚科が連携して診療にあたることが重要と思われる.文献1)日本アレルギー学会ホームページ:http://www.jsaweb.jp/2)千貫祐子,崎枝薫,金子栄ほか:石鹸中の加水分解小麦で感作され小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを発症したと思われる3例.日皮会誌120:2421-2425,20103)古江増隆,佐伯秀久,古川福実ほか:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌119:1515-1534,2009ab図9アトピー性皮膚炎患者に生じた伝染性膿痂疹a:両眼瞼から前額部全体に,発赤を伴うやや大きめの水疱が拡大してきた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.b:20歳代,男性.アトピー性皮膚炎の治療中に,両眼瞼にびらんと浸出液が生じ始めた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.■用語解説■血管性浮腫:真皮深層ないし皮下組織に起きる一過性限局性の浮腫.通常の蕁麻疹に比べて皮疹の持続時間が長く,消退までに2.3日かかることが多い.加水分解コムギ:小麦あるいはグルテンを酵素や酸で処理して部分的に分解したもの.処理方法によっては粘弾性や気泡性,乳化性や保湿性をもつため,化粧品や加工食品の添加物として世界中で広く用いられている.すべての加水分解コムギの感作能が高いわけではない.アトピー素因:家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)があること,またはIgE抗体を産生しやすい素因をさす.ASO:抗ストレプトリジンO抗体(anti-streptolysinOantibody)の略で,溶連菌が体内にあるときに体が防衛反応として発生させる抗体であり,この数値が上がると溶連菌に感染している可能性が高くなる.Hertoghe徴候:アトピー性皮膚炎患者で,眉毛の外側1/3が薄くなる現象.掻破することで,眉毛が擦り切れて生じるとされる.ab図9アトピー性皮膚炎患者に生じた伝染性膿痂疹a:両眼瞼から前額部全体に,発赤を伴うやや大きめの水疱が拡大してきた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.b:20歳代,男性.アトピー性皮膚炎の治療中に,両眼瞼にびらんと浸出液が生じ始めた.細菌培養の結果,黄色ブドウ球菌が検出された.■用語解説■血管性浮腫:真皮深層ないし皮下組織に起きる一過性限局性の浮腫.通常の蕁麻疹に比べて皮疹の持続時間が長く,消退までに2.3日かかることが多い.加水分解コムギ:小麦あるいはグルテンを酵素や酸で処理して部分的に分解したもの.処理方法によっては粘弾性や気泡性,乳化性や保湿性をもつため,化粧品や加工食品の添加物として世界中で広く用いられている.すべての加水分解コムギの感作能が高いわけではない.アトピー素因:家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)があること,またはIgE抗体を産生しやすい素因をさす.ASO:抗ストレプトリジンO抗体(anti-streptolysinOantibody)の略で,溶連菌が体内にあるときに体が防衛反応として発生させる抗体であり,この数値が上がると溶連菌に感染している可能性が高くなる.Hertoghe徴候:アトピー性皮膚炎患者で,眉毛の外側1/3が薄くなる現象.掻破することで,眉毛が擦り切れて生じるとされる.

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 花粉眼瞼炎:眼科の立場から

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):369.376,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):369.376,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解花粉性結膜炎:眼科の立場からPollen-InducedAllergicConjunctivitis:FromtheViewpointofanOphthalmologist三村達哉*はじめにアレルギー性結膜炎は,さまざまな抗原の結膜への暴露によって生じうる,結膜の炎症症状を総称した疾患である.季節性アレルギー性結膜炎は花粉などの屋外抗原により発症する.一方,通年性アレルギー性結膜炎は動物の鱗屑,ダニ,昆虫の死骸,カビや真菌の胞子,ハウスダストなどの屋内抗原によって発症する.また,近年,ディーゼル排気中の粒子,黄砂,PM2.5などの環境因子などが結膜炎を増悪することも明らかになってきた.これらのさまざまな抗原のなかでも,花粉はアレルギー性結膜炎の最大要因で,かつ完治することがないため,多くの患者が毎年花粉症に悩まされる.春のスギの季節だけでなく,秋の花粉の飛散時期にもさまざまな植物の花粉に気を配らなければならない.本稿では,眼科医の立場から花粉性結膜炎の病態,対策,治療まで系統立てて解説する.I花粉はどのようにして結膜炎を引き起こすのか?その病態とは?花粉は理論的には,そのままの個体の状態ではアレルギーを引き起こすことはない.花粉の抗原はおもに内部と皮殻の部位に局在し,花粉が破裂することにより,抗原が放出される.ではどのようなときに破裂するかというと,多くは水分に接したときとされる.花粉が水分を含むと,膨潤圧に耐え切れなくなって破裂するのである.この機序としては,雨が降った後に花粉が水分を吸収することで破裂する場合もあるし,眼内に入った後に涙液に触れて破裂することもある1).また,地上に舞い降りた花粉が自動車に踏まれて物理的に破裂することや,最近の研究により,PM2.5や黄砂などに含まれる大気汚染物質の硫酸炎や硝酸塩が水分のある状態で弱アルカリ性の花粉に接着すると,汚染物質の酸性力により花粉の皮殻が損傷し,花粉がさらに水分を吸収することにより破裂することも証明されている2).すなわち,郊外から飛んできた花粉が都市部に移行するほど,大気汚染物質により破壊され,内部のアレルゲン(抗原)が大気中に飛散すると考えられる.スギ花粉には花粉表面にCryj1が局在し,内部のデンプン粒および花粉内膜にCryj2が局在している.Cryj1とCryj2は塩基性蛋白質で,花粉の破裂により放出される.花粉が涙液中で破裂した場合を考えると,破裂した花粉から花粉抗原が涙液中に溶出し,抗原は結膜上皮から実質内に侵入し,そこで血管周囲に存在する肥満細胞上のIgE抗体と結合する.肥満細胞からはヒスタミンを中心としたメディエーターが結膜実質内に放出され,知覚神経の神経終末に局在するH1受容体に結合すると眼の掻痒感を生じさせ,一方,血管に局在するH1受容体に結合すると,結膜充血が生じる(図1).大気中の浮遊物質(黄砂,PM2.5など)やドライアイなどにより結膜上皮が損傷すると,結膜上皮バリアが破綻し,破裂した花粉から溶出した花粉抗原が結膜実質内に入りやすくなるために,結膜炎症状が強くなる(図2).*TatsuyaMimura:東京女子医科大学東医療センター眼科〔別刷請求先〕三村達哉:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(39)369 花粉外気IgEFc.RI知覚神経血管ヒスタミンH1受容体肥満細胞抗原涙液で花粉が破裂涙液結膜内結膜充血眼掻痒感花粉が破裂し抗原が溶出花粉抗原が結膜内に侵入肥満細胞がヒスタミン放出H1受容体にヒスタミン結合涙液結膜IgEFc.RI肥満細胞結膜上皮バリア図1花粉性結膜炎の発症機序ドライアイ,砂などにより正常結膜結膜損傷→上皮バリアの損傷涙液で花粉が破裂抗原の溶出涙液結膜上皮の損傷IgEFc.RI肥満細胞抗原が結膜内に侵入抗原が上皮でブロック図2結膜上皮バリアと花粉抗原黄砂やドライアイなどの外的要因により結膜上皮が損傷すると,バリア機能が破綻し,花粉から放出した花粉抗原が結膜内に侵入しやすくなる.370あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(40) 図3代表的な花粉性結膜炎の前眼部写真同一患者の前眼部と上眼瞼結膜.充血は球結膜全体に及び,ときに結膜浮腫を生じる.眼瞼結膜は増殖変化に乏しいのが特徴である. 健常群春群陽性率(%)grading012345秋群陽性率(%)図4健常者と春季または秋季発症の季節性アレルギー性結膜炎患者における血清中の特異的IgE抗体価の比較Class2LineAControlNegativeTestControlNegativePositiveClass1Class0動物上皮ハウスダストヤケヒョウヒダニコナヒョウヒダニガカンジダアルテルナリアスギヒノキヨモギブタクサカモガヤネコヨモギヤケヒョウヒダニイヌカモガヤゴキブリブタクサスギPositiveTestネコヨモギヤケヒョウヒダニイヌカモガヤゴキブリブタクサスギ図5イムノクロマトグラフィーの市販キット(ImmunoCapRapidR)を利用した涙液中特異的IgEの測定への応用血清中の特異的IgE抗体の陽性率は,筆者らの検討ヒョウヒダニ(48.1%),スギ(44.4%),コナヒョウヒでは春の季節性アレルギー性結膜炎の患者ではスギダニ,ヒノキ,ブタクサ(33.3%)が多かった(図4)8).(68.8%),ヒノキ(59.4%)が多く7),秋の季節性アレル一方,春季発症花粉性結膜炎患者における涙液中の特異ギー性結膜炎の患者ではハウスダスト(51.9%),ヤケ的IgEの抗体陽性率はスギ100%,ヤケヒョウヒダニ372あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(42) *p<0.0001*p=0.3130*p=0.3130*p=0.3130100%80%60%40%20%0%100%80%60%40%20%0%健常者アレルギー健常者アレルギー健常者アレルギー健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%健常者アレルギー健常者アレルギー0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%*p<0.0001*p<0.0001*p=0.0436*p=0.0264ヤケヒョウヒダニゴキブリネコイヌスギカモガヤブタクサヨモギ*Mann-WhitneyUtestIgEScore0■1■2■図6健常者(30例)と春季発症の花粉性結膜炎患者(34例)における涙液中の特異的IgE抗体価の比較97.1%,カモガヤ88.2%,ヨモギ32.4%,ブタクサ29.4,ゴキブリ14.7%,ネコ14.7%,イヌ14.7%であった.特異的IgEスコアーはスギ(1.9±0.2)がもっとも高く,次にヤケヒョウヒダニ(1.6±0.6),カモガヤ(1.0±0.5)の順に高かった(図5,6)9).このことからも血清中の特異的IgE抗体価と局所の涙液中の特異的IgE抗体価の間には乖離があるため,より局所の抗体価を測定するほうが,アレルギーを誘発している抗原の特定に有用であると考えられる.特異的IgE抗体価や皮膚テストの結果の相関をカテゴリカル解析で行うと,動物由来を中心とした屋内抗原および植物由来を中心とした屋外抗原に対するアレルギー反応は,それぞれの範疇内の抗原同士で相関する傾向がみられる7.9).とくに花粉に対する反応は多くの花粉同士に相関がみられ,春に花粉症になる人は秋の花粉の時期にも症状が出る可能性が考えられる.この理由としては,花粉抗原とIgE抗体の結合部位の抗原決定基(T細胞エピトープ)が,種の異なる花粉間で近い構造をしているからだと考えられている.花粉症をはじめとするアレルギー性結膜炎やアレルギー性鼻炎に罹患した患者では,アレルギーの原因を特定することで,花粉が飛散する前にその予防策を立て,症状を緩和することが可能となると考えられる.IV大気中粒子と花粉症のかかわり近年,環境因子と花粉症の関係が新たな花粉症対策の話題となっている.工場からの煤煙や自動車からの排ガス10),中国大陸からの黄砂を主体とした土壌粒子,あるいは大気中の化学物質の光化学反応によって生じうる有機化合物,窒素化合物,硫黄酸化物などの環境汚染物質は,呼吸器に入り込むだけでなく,結膜などの直接外気に触れる部分に暴露することにより,アレルギー性結膜炎を引き起こすことがわかってきた11.13).黄砂やPM2.5が飛来する時期はアレルギー症状が悪化し,アレルギー性結膜炎の患者が増えることも報告されている14.17).筆者らの研究では,黄砂飛来時に来院したアレルギー性結膜炎患者に対し黄砂関連物質を用いた皮膚テストによるアレルギー誘発試験を行うと,微生物や花粉(43)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016373 374あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(44)せる.4.外出時は完全防備で花粉症用眼鏡はゴーグル型なので,眼内や瞼への上方や横からの花粉の付着を抑える.また,マスク着用により呼吸器系の症状や鼻炎の発症を抑制する.つばの広い帽子を着用することにより,上空からの花粉の付着を抑える.コートはツルツル素材のものが花粉の付着防止に有効である.5.花粉を屋内に入れない室内に花粉を持ち込まないことが重要である.天気のよい日は窓を閉め切り,洗濯物や,寝具は室外で干さない.外出後は花粉が洋服や髪の毛に付着しているので,玄関で花粉を払うことが大事である.6.経験から学ぶ毎年花粉症に悩まされる人は,今年の経験を来年に生かすのが大事である.今年の症状が出始めた時期などを覚えておくと,来年に初期療法などを受ける場合に,早く対策を立てることができる.VI花粉性結膜炎になったときの治療日本眼科アレルギー研究会により「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」が作成され,現時点でのアレルギー性結膜炎の診断と治療の方向性が確立されている19).花粉性結膜炎では,抗アレルギー薬が第一選択である.花粉性結膜炎では結膜の増殖性変化が少ないことから,増殖性変化を認める重症症例についての治療はアトピー性眼瞼炎の項目(「アトピー性眼瞼炎:眼科の立場から)を参照されたい.花粉性結膜炎の治療では,即効性の点からヒスタミンH1拮抗点眼薬が臨床の場で多く用いられている20).軽症例では第一選択は抗アレルギー薬であり,花粉症などでは飛散2週間前からの投与が望ましい.効果が出るまでに時間がかかるため,飛散前からメディエーター抑制薬の点眼を開始し,症状が現れたら,即効性のあるヒスタミンH1拮抗薬点眼を追加すると,より効果的とされている.などの浮遊物質を含む黄砂がもっとも皮膚反応が高く,花粉などを除去した黄砂抽出液では皮膚反応が低下し,さらに加熱により微生物を取り除いた黄砂では,黄砂の主性成分である二酸化珪素と同程度の皮膚反応に低下した.これらの結果は,黄砂自体はアレルギーを誘発する効果は低いが,黄砂に付着した微生物の死骸,花粉,大気物質などのアジュバント作用がアレルギーを誘発・増悪させている可能性を示唆している18).黄砂やPM2.5は,東アジア内陸部から上空に巻き上げられた砂塵が地上に降り注ぐ気象現象であり,春のスギ花粉と同じ時期に飛来することが知られており,花粉性結膜炎の症状をより悪化させている可能性が考えられる.V花粉性結膜炎に対する対処法花粉性結膜炎にならないようにするためには花粉を防御することが大事である.まずは花粉性結膜炎症状を軽減するために,花粉が眼瞼や結膜に入ってこないようにする工夫が重要である.患者に伝えるべき防御策を,項目ごとに解説をする.1.花粉飛散情報を活用しよう花粉シーズン到来前には花粉の飛散時期を調べ,シーズン中は翌日の花粉の飛散量の情報を調べ,外出時の防御策に活用する.前日のうちに,ニュースやインターネットで花粉の飛散時期と飛散量の情報を入手するとよい.2.花粉の多い日はどんなとき?前日雨が降った後は,水分で破裂した花粉から抗原が溶出する.さらに雨の翌日に晴れていると抗原が大気中に飛散する.気象庁によると,前日に雨が降った後に快晴となった日や,最高気温が高く,湿度が低くなった日には花粉が飛散しやすくなる.また,南風が吹いた後に北風に変化したときも注意が必要である.3.外出を控える花粉の飛散量が多い日は外出を控える.花粉の飛散ピークは午後12.3時頃のため,朝か夕方に用事をすま あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016375(45)重症例では従来はステロイド薬が多く使用されたが,眼圧上昇,白内障,易感染性などの副作用があり,近年は副作用の少ない免疫抑制点眼薬が推奨されている.免疫抑制点眼薬は0.1%シクロスポリン点眼薬(パピロックRミニ0.1%)と0.1%タクロリムス点眼薬(タリムスR)が市販されており,効果の強いタクロリムスを短期的に使用し,改善傾向にあればシクロスポリン点眼に切り替える.花粉による眼瞼炎が併発した場合にはステロイド眼軟膏が有効である.抗生物質に対するアレルギーを引き起こすこともあり,抗菌薬を含まないステロイド眼軟膏を使用したほうがよい.回復期で症状が改善してきたら,まずステロイド薬を減らし,次に免疫抑制薬を減らし,最後に抗アレルギー点眼薬の単剤で治療する.おわりに花粉症は対症療法がおもな治療であり,完治させるのが難しい疾患である.近年,花粉症の症状を緩和させるのではなく,治す治療の研究が注目されている.たとえばスギ花粉症に対し,舌下免疫療法治療薬が開発された.舌下免疫療法治療薬は新規の治療薬ではあるが,すでに保険適用となっている.花粉性結膜炎は局所の炎症であり,眼特有の治療が必要と考えられるため,一般的な花粉症の治療とは別に考える必要があると考えられる.花粉性結膜炎の治療の新しい研究としては高知大学の福島と福田らのグループにより,スギ花粉症緩和米により花粉症を治療する試みがなされている.お米を食べながら治すという画期的な治療で,今後の研究結果に期待がかかっている.治療と並行して,今後の治療の方向性はアレルギー性結膜炎の予防治療に主体が置かれるのではないかと考えられる.たとえば,原因抗原を特定することによる抗原回避治療や,花粉や黄砂などの大気汚染物質などに対するマスク・保護メガネの着用,洗眼などによる予防治療は今後も大事であると考えられる.謝辞一部のデータは文科省科研費(基盤A:25241015)および環境省環境研究総合推進費(5-1547)による成果を含みます.文献1)深川和己:ウサギ涙液および点眼液がスギ花粉外壁の破裂およびスギ花粉粒子からの抗原溶出に及ぼす影響.アレルギー・免疫17:124-129,20102)WangQ,NakamuraS,GongSetal:ReleasebehaviourofcryptomeriaJaponicapollenallergenicCryJ1AndCryJ2inrainwatercontainingairpollutants.InternationalJour-nalofSustainableDevelopmentandPlanning9:42-53,20143)内尾英一:アレルギー性結膜疾患定義,病型,診断基準.アレルギー性眼疾患とドライアイ─重症度別治療法(高村悦子,前田直之編),眼科インストラクションコース16,p20-27,メジカルビュー社,20084)中川やよい:アレルギー性結膜炎.アレルギー性眼疾患とドライアイ─重症度別治療法(高村悦子,前田直之編),眼科インストラクションコース16,p28-33,メジカルビュー社,20085)中川やよい:アレルギー性結膜炎.あたらしい眼科10:1805-1812,19936)MimuraT,UsuiT,MoriMetal:Immunochromatograph-icassayformeasurementoftotalIgEintears,nasalmucus,andsalivaofpatientswithallergicrhinoconjuncti-vitis.JAsthma47:1153-60,20107)MimuraT,AmanoS,FunatsuHetal:Correlationsbetweeneachallergen-specificIgEserumlevelsinpatientswithallergicconjunctivitisinspring.OculImmu-nolInflamm12:45-51,20048)MimuraT,YamagamiS,AmanoSetal:Allergensinjap-anesepatientswithallergicconjunctivitisinautumn.Eye19:995-999,20059)MimuraT,YamagamiS,KameiYetal:MeasurementofspecifictearIgEwithimmunoCAPrapid.JInvestigAller-golClinImmunolinpress10)FujishimaH,SatakeY,OkadaNetal:Effectsofdieselexhaustparticlesonprimaryculturedhealthyhumancon-junctivalepithelium.AnnAllergyAsthmaImmunol110:39-43,201311)三村達哉:眼を取り巻く環境因子.2014年日本眼アレルギー学会年次報告12)三村達哉:PM2.5及び黄砂の眼疾患との関連.特集:眼アレルギー診療のminimalessentialアレルギーの臨床35:645-650,201513)三村達哉:「専門医のためのアレルギー学講座」眼科領域におけるアレルギーと環境因子.アレルギー63:901-906,201414)小沢昌彦,市頭教克,内尾英一:春季カタルの増悪と黄砂の観測時期との関連.あたらしい眼科25:1281-1284,200815)内尾英一:最近話題の黄砂とPM2.5その正体は?第118回日本眼科学会総会モーニングセミナー13アレずばっ!2014年4月6日16)高良太,林政彦,林英ほか:黄砂が関連すると考え 376あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(46)られる結膜炎の臨床所見の特徴についての分析.2015日本眼科学会総会第119回日本眼科学会総会2015年4月17日17)MimuraT,IchinoseT,YamagamiSetal:Airbornepar-ticulatematter(PM2.5)andtheprevalenceofallergicconjunctivitisinJapan.SciTotalEnviron487C:493-499,201418)MimuraT,YamagamiS,FujishimaHetal:Sensitizationtoasiandustandallergicrhinoconjunctivitis.EnvironRes132C:220-225,201419)日本眼科アレルギー研究会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版),日本眼科学会雑誌114:829-870,201020)中川やよい,東田みち代:スギ花粉性結膜炎患者の受診パターンと治療のコンプライアンス─眼科外来患者アンケート調査─あたらしい眼科19:112-120,2002

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 花粉眼瞼炎:皮膚科の立場から

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):363~367,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):363~367,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解花粉眼瞼炎:皮膚科の立場からEyelidDermatitisDuetoPollen:FromtheViewpointofanDermatologist横関博雄*はじめにスギは日本固有の裸子植物であり,その花粉は2~4月にかけて沖縄,北海道北部,東部を除く広い領域で飛散する.スギ花粉症は,この時期に鼻汁,鼻閉などの鼻症状と眼の痒み,眼球結膜の充血など眼症状がみられる疾患として1964(昭和39)年,堀口らにより報告されて以来,急激に増加している1).近年,スギ花粉症患者に眼症状,鼻症状以外の呼吸器症状,消化器症状,咽頭症状,発熱などもみられるようになり,スギ花粉症は全身性疾患の一つと考えられている.また,スギ花粉の飛散量が多い年には,飛散するスギ花粉が眼瞼の皮膚に接触することが原因と思われるスギ花粉眼瞼炎とよばれる皮膚症状が多くみられる可能性が高い.スギ花粉眼瞼炎はスギ花粉抗原による空気伝搬性接触皮膚炎の一つと考えられてきている2~8).また,花粉眼瞼炎は春だけでなく秋にも発症することが明らかになっている.I臨床的特徴花粉眼瞼炎を含むスギ花粉皮膚炎の典型的な特徴は,第一に春先もしくは秋に生じ,他の季節には生じないこと,次に眼瞼,顔などの露出部位もしくは頸部など間擦部に生じやすいこと,そして臨床的な特徴は,典型的なアレルギー接触皮膚炎と異なり,丘疹,水疱を混じた多彩な湿疹局面は通常形成されず,一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点である.この蕁麻疹様の紅斑は,赤みが強く境界が鮮明であることが特徴である(図1).このような特異疹の病型で発症するのは,若い女性に多いと考えられている.小島らはスギ花粉による皮膚炎の皮膚症状をまとめ,特異疹としてこの浮腫性の紅斑をあげている6).その他の特異疹として,小丘疹型,潮紅型などの病型も分類し,顔面の多彩な湿疹型反応も現れることがあると述べている.小丘疹型は,掻痒を伴うびまん性の半米粒大の浮腫性の小丘疹が散在する病型であり,潮紅型は眼囲,頬部に痒みの強い潮紅のみを認める病型としている.このような花粉による皮膚炎はスギ花粉に限らず,シラカバ,牧草,ブタクサなどの他の花粉による空気伝搬性接触皮膚炎の報告もある.浅井らにより春以外に11月,12月にかけても眼瞼皮膚炎の患者数が多くなることが報告されているが,スギ花粉の秋の飛散による眼瞼皮膚炎(図2)とブタクサなどの秋花粉抗原による眼瞼皮膚炎(図3)の患者が増加したためと考えられている.II検査所見花粉による眼瞼炎を最終的に診断するためには,以上のような臨床的に特徴のある症例に,次のようなアレルギー検査を試行する必要がある.1.スギ放射性アレルゲン吸着試験(radioallergosorbenttest:RAST)スギ抗原に特異的なIgE抗体が陽性であることである.しかし,スギRASTは皮膚症状を伴わないスギ花*HirooYokozeki:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野〔別刷請求先〕横関博雄:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(33)363 図1典型的なスギ花粉皮膚炎の顔の症状(56歳,女性)図2秋のスギ花粉眼瞼炎(36歳,女性)(浅井俊弥先生のご厚意による)図3ブタクサ花粉によるアトピー性皮膚炎の増悪(16歳,女性) 図4ヒアレンミニ(点眼薬)による接触皮膚炎(72歳,女性) バリア障害KCKC1)サイトカイン産生5)T細胞の活性化4)T細胞への抗原提示KCLCLCさらに活性化抗原が再度,接触3)白血球の浸潤IL-1,TNF-αGM-CSFTcell2)血管内皮細胞の活性化6)メディエータ遊離7)炎症LC活性化感作Tcell感作TcellマクロファージIL-2,TNF血管内皮細胞惹起反応のシェーマTh1,Th2マスト細胞プロシタグランデインD2バリア障害BcellIgE?KCKC1)抗原の結合2)抗原の修飾4)T細胞の遊走KCLCLC活性化LCの遊走花粉抗原(crij1,crij2)Tcell3)抗原の提示LymphnodeLC:IL-1βMHCclassIIexpressionIL-1,TNF-αGM-CSF感作経路のシェーマTh1,Th2図5花粉眼瞼炎の発症機序層を障害した後にスギ花粉抗原(Cryj1,Cryj2)を含む鳥居製薬の試薬を抗原として1週間ずつ3回貼付することにより経皮感作したスギ花粉モデルマウスを作製し発症機序を解析した9).モデルマウスの解析結果,スギ花粉皮膚炎の発症はプロスタグランジンD2-CRTH2に依存性であり,Th2サイトカインであるIL-4,IL-13のシグナル伝達に重要な役割を果たす転写調節因子であるSTAT6には依存しないことが明らかにされた(図5)9).この結果より,肥満細胞から産生される化学伝達物質の一つであるプロスタグランジンD2をターゲットとしたスギ花粉眼瞼炎の治療法が可能性を示唆される.V治療と対策治療法は,対症療法として非鎮静性の第2世代の抗ヒスタミン薬を処方するなど花粉症そのものの治療が必要である.また,接触皮膚炎診療ガイドラインに沿って眼瞼の皮膚局所には炎症の強い皮膚炎では,medium程度までのステロイド外用薬もしくはアトピー性皮膚炎の治療薬であるタクロリムス外用薬を外用し,炎症を抑える必要がある.炎症が抑えられた時点で,白色ワセリン,亜鉛華軟膏などの古典的外用薬非ステロイド外用薬に変366あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016更する.また,過度の皮膚の洗浄,化粧,シャンプー,リンスなどバリアを障害するようなことは控える必要がある.スギ抗原は角層を通過できないので,スキンケアにより角層バリア機能を保つことが予防の重要なポイントである.根本的な治療法は現在のところなく,アレルギー性接触皮膚炎と同様にスギ抗原にできるかぎり接触しないよう気をつけることが予防法である.そのためには,眼鏡,マスク,マフラーなどでスギ花粉が直接皮膚に接触しないようにすること,外出後はシャワーなどでよく眼瞼,顔,頸部,頭を洗いスギ抗原を除去することである.また,家の外で干していたシーツ,下着,服などについたスギ抗原が,その下着などを着ることにより陰部,躯幹に接触しスギ花粉皮膚炎を生じた症例の報告もあるので,直接肌に触れるシーツ,下着,服などは家の中で干すように指導する.まとめ花粉目瞼炎は現病歴,臨床的特徴,皮膚アレルギー検査などで比較的容易に診断できる.治療はスギ花粉症の治療に加え,皮膚の炎症はmedium程度のステロイド外用薬を外用するとともに,外出後などはスギ花粉を洗(36) -

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 アトピー眼瞼炎:眼科の立場から

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):357.361,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):357.361,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解アトピー眼瞼炎:眼科の立場からAtopicBlepharitisandIt’sComplications:FromtheViewpointofanOphthalmologist海老原伸行*科の境界領域にある疾患であるが,両科が共同して治療Iアトピー眼瞼炎治療の重要性にあたることが大切である.アトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)に合併する眼疾患をアトピー眼症という.アトピー眼症には白内IIアトピー眼瞼炎の重症度分類障・網膜.離・円錐角膜などがある.アトピー眼症の成最軽度では皮膚の所見はなく,乾燥感と痒みを訴える因はいまだ明らかではないが,眼瞼皮膚の強い掻痒感にのみである.軽度になると細隙灯顕微鏡にて皮膚の軽度伴う眼掻破行動が,その発症・増悪に深く関与しているの紅斑・鱗屑,中等度では,中等度の紅斑・鱗屑・丘と考えられている.ゆえにアトピー眼瞼炎の効果的な治疹・掻破痕,重度では高度の腫脹・浮腫・苔癬化を伴う療は,アトピー眼症の発症・増悪を阻止することができ紅斑,丘疹の多発,多数の掻破痕,痒疹結節などを認める.また,アトピー眼瞼炎には,閉瞼不全によるドライる(図1).アトピー眼瞼炎は重症度によって治療方針がアイ,睫毛内反による角結膜上皮障害,メチシリン耐性変わってくるので,眼科医といえども眼瞼皮膚の所見を黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantstaphylococcusとることが大切である.aureus:MRSA)などによる慢性結膜炎,両眼性の角膜ヘルペスなど多様な眼表面疾患も合併する.ゆえにアトIIIアトピー眼瞼炎と白内障ピー性角結膜炎の治療にはアトピー眼瞼炎の治療を同時1.水晶体混濁の特徴と成因にしなければ改善しない.アトピー眼瞼炎は眼科と皮膚ステロイドの長期間の内服にて白内障が惹起されるこab図1重度のアトピー眼瞼炎a:丘疹,多数の掻破痕,痒疹結節.b:高度の腫脹・浮腫・浸潤・苔癬を伴う紅斑.*NobuyukiEbihara:順天堂大学医学部附属浦安病院眼科〔別刷請求先〕海老原伸行:〒279-0021千葉県浦安市富岡2-1-1順天堂大学医学部附属浦安病院眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(27)357 図2アトピー白内障前.下にヒトデ状の混濁を認める. abab図3アトピー網膜.離a:網膜離断(右眼耳側上方).b:後極部の扁平な網膜.離. abab図4重度のアトピー眼瞼炎a:丘疹,びらん,多数の掻破痕.b:aのタクロリムス軟膏使用後.劇的に改善している.ア機能の維持である.最近の免疫学(アレルギー学)の知見でも,バリア機能と炎症とは表裏一体であり,バリア機能を回復することは消炎につながると考えられている.ゆえにアトピー眼瞼炎の治療は,眼科用白色ワセリン(プロペト眼軟膏R)と,痒みによる眼掻破行動を抑制するための第二世代抗ヒスタミン薬の内服が基盤になる.眼瞼皮膚の軽度の乾燥感と痒みを訴える程度の軽症例では眼科用白色ワセリン軟膏と第二世代抗ヒスタミン薬の内服にて対応する.紅斑・浮腫・小さなびらん・掻破痕を認める中等症では,眼科用ステロイド眼軟膏を追加する.フラジオマイシン硫酸塩は接触眼瞼炎を起こしやすいので,それを含有するネオメドロールREE軟膏,眼・耳鼻科用リンデロンAR軟膏ではなく,プレドニンR眼軟膏を使用する.結節性痒疹・広いびらん・多くの掻破痕などを認める重症例ではweakクラスのステロイド眼軟膏では効果が十分ではないので,積極的にタクロリムス軟膏(プロトピックR軟膏)を使用する.なるべく結膜.に迷入しないように0.03%小児用プロトピックR軟膏を使用する.効果が不十分であれば0.1%プロトピックR軟膏を使用する(図4).タクロリムス軟膏は刺激が強い(灼熱感)ので,びらん部が広いときはステロイド軟膏でびらんを減少させてから使用する.また,タクロリムス軟膏を眼瞼炎の改善後いつ中止するかが問題になる.急に中止するとすぐ再燃してしまう症例も多い.そこで最近注目されているのがタクロリムス軟膏のプロアクティブ(pro-active)療法である.プロアクティブ療法とは,タクロリムス軟膏で所見が改善しても急に中止せずに,週2.3日,1日1回塗布することによって再燃を防ぐ治療法である.この療法の免疫学的背景には,ADは炎症が鎮静化してもその皮膚のバリア機能低下は回復せず,subclinicalに炎症が遷延していることがある.たとえば,AD患者では表皮のバリア形成に重要な蛋白であるフィラグリンに一塩基多型(SNP)を認めることや,非患部の皮膚でも水分の保持に必要なセラミド含有量が低下している.ゆえにタクロリムス軟膏を中止するとすぐ再燃してしまう.プロアクティブ療法はADの再燃予防療法として注目され,その効果は実証されている.重症アトピー眼瞼炎で再燃を繰り返す症例では一度試みてもよい治療法と思われる.ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏の塗布で改善しない最重症例は皮膚科に紹介する.2.タクロリムス軟膏と血中濃度上眼瞼結膜に巨大乳頭を呈する急性期のアトピー性角結膜炎に対しタクロリムス点眼液(タリムスR)を使用することがある.眼瞼皮膚へのタクロリムス軟膏塗布では血中のタクロリムス濃度の上昇は認めない.軟膏とタクロリムス点眼液を併用したときの血中濃度について検討した9).0.1%タクロリムス点眼液を2回/日・3カ月併用した患者の血中タクロリムス濃度は最高でも1.83ng/mlであった.臓器移植後の拒絶反応抑制のためタクロリムス血中濃度を10ng/ml程度に維持すると発癌リスクが高くなることはよく知られている.以上のように,アトピー眼瞼炎または顔面のAD治療のためにタクロリムス軟膏を使用している患者がタクロリムス点眼液を併用しても,その血中濃度については心配ないと思われる.3.ステロイド軟膏と緑内障ステロイド外用薬の副作用としてもっとも重篤なのは360あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(30) 表1アトピー性眼瞼炎の診断,治療において大切なこと1.眼瞼炎の強い痒みと眼掻破(叩打)行動によってアトピー眼症(白内障,網膜.離,円錐角膜)が発症する.2.眼瞼炎に伴う多様な角結膜障害を認めるため,結膜炎の治療と眼瞼炎の治療を同時に行わなければならない.3.眼瞼炎の治療は消炎とバリア機能の維持にある.4.ステロイド(眼)軟膏を眼瞼皮膚に塗布するときは,眼圧上昇に注意する.5.タクロリムス軟膏とタクロリムス点眼液を併用しても著明な血中濃度の上昇は認めない.6.タクロリムス軟膏,点眼液の使用により,アトピー眼瞼炎に併発する眼合併症の発症頻度を減らすことができる.7.アトピー眼瞼炎の治療には,皮膚科医と眼科医との連携が大切である.-

眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解 アトピー眼瞼炎:皮膚科の立場から

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):353~356,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):353~356,2016眼科と皮膚科の境界領域に対するそれぞれの見解アトピー眼瞼炎:皮膚科の立場からBlepharitisAtopica:FromtheViewpointofanDermatologist中村晃一郎*はじめにアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)では白内障,網膜.離,円錐角膜などの眼合併症と同時に,眼瞼炎(アトピー眼瞼炎)や角結膜炎をしばしば合併する.アトピー眼瞼炎は,強い掻痒があり掻破行動を繰り返すため,眼合併症の悪化を引き起こす.アトピー眼瞼炎の治療は軽微群では保湿外用を中心とし,軽症,中等症から重症ではステロイド外用薬やタクロリムス軟膏の外用療法を行い,炎症をコントロールする.眼瞼炎には感染症や接触皮膚炎を合併することもあるため,日常でのスキンケアも心がける.IADの病態と薬物療法ADは慢性に湿疹病変を生じる疾患であり,長期間にわたり紅斑や丘疹などの皮膚症状を繰り返し,同時に強い掻痒のために掻破痕やびらんを生じる.ADの皮膚炎の発症機序にはTh2細胞を中心としたアレルギー反応があり,その主体となる因子は,IL-4,IL-5,IL-13などのサイトカインや,炎症局所への細胞誘導を担うTARC(CCL17),また好酸球由来の顆粒蛋白などである1)(図1).皮膚病変でTh2細胞にCCR4発現が認められ,慢性病変ではTh1細胞浸潤も混在する.眼瞼でもT細胞浸潤をはじめとする炎症反応が生じており,強いかゆみや掻破によって症状が悪化する.同時にADの皮膚ではバリア機能低下が存在し,とくに眼瞼では皮膚は菲薄化し,抗原の皮膚を介する易侵入性が図1病変部の組織表皮内に浸潤するCCR4陽性T細胞.(文献1より引用)生じやすい.ADは全身に紅斑,丘疹,鱗屑,痂皮,びらん,苔癬化,痒疹などがみられる.眼瞼炎においても紅斑,丘疹,苔癬化を生じる.成人期ADの顔面には苔癬化紅斑,鱗屑,色素沈着が顕著となり,眼瞼にも苔癬化紅斑を生じる.DennieMorgan徴候は内眼角より外方に皮膚が肥厚し皺が認められる状態で,Hertoghe徴候は眉毛の外側の毛が薄くなる(図2,3).ADの治療は薬物療法,原因悪化因子の検索・除去であり,薬物療法のなかで外用療法が主体を占める2~5)(図4).外用療法では皮疹の重症度を評価し,重症度に応じたランクの外用薬を適切に選択することが大切である.*KoichiroNakamura:埼玉医科大学皮膚科学教室〔別刷請求先〕中村晃一郎:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38埼玉医科大学皮膚科学教室0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(23)353 図2DennieMorgan徴候図3Hertoghe徴候内眼角より外方に皺を認める.眉毛外側に疎毛を認める.現病歴・既往歴,罹病範囲や重症度の評価,治療ゴールの説明寛解導入療法(かゆみや炎症を速やかにコントロールする)・ステロイド外用薬,・タクロリムス軟膏保湿性外用薬,外用方法の説明,適正治療にむけての患者教育重症・最重症・難治性状態ランクの高いステロイド外用薬,シクロスポリン内服,ステロイド内服,紫外線療法,心身医学的療法補助療法・抗ヒスタミン薬/抗アレルギー薬内服・増悪因子の除去・心身医学療法軽快増悪寛解維持療法(症状が持続あるいはしばしば再発する)・再燃の徴候があらわれたら,病気の拡大増悪を防止するために早期にタクロリムス軟膏を使用する.・ステロイド外用薬は悪化した症状に応じて間欠的に使用する.寛解保湿外用薬の継続確実な診断合併症治療・細菌感染症治療抗菌薬内服・外用・ウイルス感染治療抗ウイルス薬内服・外用図4治療アルゴリズム薬物療法では乾燥の改善に保湿薬外用を行い,炎症反応の鎮静にステロイド軟膏,タクロリムス軟膏を使用する.ADの重症度分類に対応した外用療法を示す.全身の発疹に対して重症ではverystrongないしstrong,中等症ではstrongクラスのステロイド外用薬が基本となる.軽症例では保湿薬を主体とした治療が主体となる.外用療法にあたっては,fingertipunit(FTU)という概念を導入する.1FTUは外用薬チューブを示指先端より末節骨関節まで押し出した量(0.5g)であり,体表面積の2%に相当するという概念である.IIアトピー眼瞼炎ADに眼の合併症を伴うことは多く,白内障,網膜.離,円錐角膜,アトピー眼瞼炎など多彩である.眼瞼の(文献2より改変)発疹には,紅斑,苔癬化,湿潤,丘疹が出現する.眼瞼炎に特徴的な所見として,びまん性に眼瞼に紅斑や丘疹を生じる.軽微群では軽い乾燥症状を示す(図5).軽症では軽度の紅斑,鱗屑,掻破を認める(図6).中等症では中等度までの紅斑,鱗屑,掻破痕などを認める(図7).重症では高度の腫脹,苔癬化を伴う紅斑,高度の鱗屑,びらんを認める(図8).また,重症の眼瞼炎では皮膚が肥厚し,瘢痕となり眼瞼の内反,外反を生じることがある.眼瞼や顔面の炎症では強いかゆみを生じるために,眼瞼やその周囲を掻破したり叩くことによって眼瞼炎の悪化を生じる場合がある.また,白内障や網膜.離などの眼合併症の発症や増悪に関与する可能性も指摘されて354あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(24) 図5眼瞼炎(軽微)図6眼瞼炎(軽症)乾燥症状を認める.軽度の紅斑,丘疹,掻破を認める.図8眼瞼炎(重症)高度の苔癬化を伴う紅斑,高度の鱗屑,びらんを認める.図9接触皮膚炎フラジオマイシン軟膏による接触皮膚炎(紅斑,びらん)図7眼瞼炎(中等症)を認める.中等度までの紅斑,鱗屑,掻破痕を認める.図10合併症としてのヘルペス感染症 356あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(26)生じている場合にステロイド軟膏に代わって使用できる.タクロリムス軟膏は皮膚炎のある時期,とくに治療開始時に強い刺激症状を生じやすいために,このことを患者に説明する必要がある.皮膚炎が改善するにつれて刺激症状は消退する.温まると刺激が強いため,入浴後刺激症状がある場合には冷えてから外用する.また,皮膚炎が強い時期に,はじめにステロイド外用を数日間用いて皮膚炎が改善しバリア機能が回復した後に,タクロリムス軟膏を使用するとよい.びらん面には使用できないことに留意するほか,眼に入らないように注意が必要である.また,細菌感染がある場合にはタクロリムス軟膏は使用できない.皮疹が軽快した後には,保湿薬を使用して治療を継続する.寛解時に間欠的にステロイド軟膏やタクロリムス軟膏を外用すると皮疹の再燃までの回数が減少でき,コントロールが容易になることが報告されている(プロアクティブ治療).眼瞼炎はかゆみが強く,掻爬を繰り返し,皮膚炎や眼瞼炎が悪化する場合が多い.このために抗ヒスタミン薬の内服や点眼薬を用いてかゆみを改善することが重要である.小児ではしばしば眼瞼や顔面への掻破を繰り返していることを観察する.生活習慣や嗜癖によって掻破する場合,あるいは精神的不安などが関与している場合も多い.親や本人とのコミュニケーションをとり,精神的なサポートを行うことも重要である.文献1)中村晃一郎,玉置邦彦:サイトカイン・ケモカインとアトピー性皮膚炎.医学のあゆみ210:17-22,20042)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌119:1515-1534,20093)日本アレルギー学会アトピー性皮膚炎ガイドライン専門部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(片山一朗ほか監修),協和企画,20124)中村晃一郎:ステロイド外用薬の構造と薬理活性.ステロイド外用薬パーフェクトブック.塩原哲夫監修,p2-9,南山堂,20155)中村晃一郎:アトピー性皮膚炎の病勢血中マーカー.医学のあゆみ228:41-46,2009(図5)では保湿薬を外用し,スキンケアを行うことが基本となる.保湿薬として白色ワセリン,プロペト軟膏,ヒルドイドソフトなどを使用する.入浴後に温まると皮膚への浸透性が高まるため,入浴後に外用すると軟膏の効果が高まる.1日数回外用することで保湿を維持する.紅斑,丘疹,びらんや掻破による湿潤が生じた場合には,ステロイド外用薬が必要である.眼瞼では皮膚が薄く吸収もよいためにweakクラスの酢酸プレドニゾロン眼軟膏(プレドニンR眼軟膏),デキサメタゾン眼軟膏(サンテゾーンR眼軟膏)などを使用する.ただし重症例ではmediumクラスの軟膏を短期間(数日以内)使用し,炎症をすみやかに鎮静化する場合もある.その後weakクラスに漸減し,すみやかに保湿薬での治療に切り替える.ステロイド外用薬による副作用として眼圧上昇や感染症の副作用があるために,漫然と長期間使用しないようにする.眼瞼は外用薬の吸収がよく,副作用が生じやすい部位であるため,長期投与は注意すべきである.また,ステロイド軟膏が結膜に付着すると外用による緑内障などの副作用を生じやすいために,眼に入らないように注意する.なお,眼瞼が湿潤化し,膿性滲出液を生じるなど細菌感染を合併していると考えられる場合に抗菌薬外用を行う.オフロキサシン軟膏(タリビッドR眼軟膏)などを使用する.軽度では紅斑を認め,中等度では紅斑,丘疹,びらんを認めるようになる.重症では高度の腫脹,苔癬化紅斑,小水疱,びらん,多数の掻破痕を認める.長期に顔面や眼瞼に皮膚炎が継続すると,かゆみが強く,眼をこすったり叩いたりすることによって,さまざまな眼合併症を生じることが指摘されている.眼瞼炎ではかゆみに対する治療も重要であり,点眼薬や内服薬(抗ヒスタミン薬)を使用する.抗ヒスタミン点眼薬としてオロパタジン点眼薬(パタノールR点眼薬)などがある.近年開発されたタクロリムス軟膏はNFATを介して転写活性を抑制し,ステロイドとは異なる機序で免疫抑制作用を有する薬剤で,ADの治療で使用される.ステロイド外用と異なり線維芽細胞の抑制などの作用はなく,眼圧上昇などの緑内障などの副作用を有しないため,眼瞼に使用しやすい.軽症ないし中等症の皮膚炎を

知っておくべき基本事項 結膜の構造とバリア機能:経結膜感作

2016年3月31日 木曜日

特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):343.351,2016特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):343.351,2016知っておくべき基本事項結膜の構造とバリア機能:経結膜感作StructureandBarrierFunctionofConjunctiva:TransconjunctivalSensitization庄司純*はじめに外界と直接接する結膜には,外来抗原から生体を防御して恒常性を維持するための生体防御機構が存在する.結膜は粘膜組織であるため,これらの生体防御機構には,粘膜組織に特有の防御機構が含まれている.結膜の生体防御機構は,第一線生体防御機構(firstdefenseline),第二線生体防御機構(seconddefenseline)に分類される.第一線生体防御機構は,粘膜を介して外来抗原が生体内に侵入するのを防御するバリア機構であり,粘膜組織に特有の防御反応が多数含まれる1).これに対して,第二線生体防御機構は,生体に侵入した抗原に対する防御反応であり,抗原非特異的に作用する好中球やマクロファージを介した防御反応のほかに,抗原特異的に作用する免疫グロブリンによる液性免疫とT細胞による細胞性免疫とがある.生体が感作されるということは,生体がある抗原に対して特異的な免疫応答を発揮できる状態にあることを意味し,その免疫応答が生体に有益なものであれば生体防御反応,有害なものであれば免疫疾患(アレルギー・自己免疫疾患など)を発症することになる.経結膜感作を理解するためには,全身免疫系に加えて,結膜における第一線生体防御機構である粘膜免疫系についての理解を深める必要がある.本稿では,結膜における粘膜免疫系の構造と機能を中心に,経結膜感作とそのアレルギー疾患における臨床応用について述べる.表1眼表面の第一線生体防御機構非特異的防御反応・物理的防御機構:瞬目,tearflow,角結膜上皮細胞のtightjunctionmucustrapping・抗菌物質:ラクトフェリン,リゾチーム,・抗菌ペプチド:Defensin,Cathelicidin(LL37)特異的防御反応・分泌型IgA・結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associatedlymphoidtissue:CALT)I結膜の第一線生体防御機構結膜の第一線生体防御機構は,表1に示すように,非特異的防御反応と特異的防御反応とに分類される.非特異的防御反応は,抗原感作を必要としない防御因子であり,特異的防御反応は,抗原感作を必要とする防御因子である.1.非特異的防御反応非特異的防御反応のなかには,機械的防御反応があり,瞬目,涙の流れ(tearflow)およびmucoustrappingなどにより物理的に外界からの抗原侵入を阻止する機能である.瞬目とtearflowとにより,外来抗原は生体への侵入を阻止されるか,洗い流されて眼外に排出される.一方,mucustrappingは,眼表面のムチンが外来微生物や外来抗原を絡みとって,眼脂として眼外に排出する作用のことである2).腸管におけるムチンの働*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(13)343 図1Mucoustrapping白色家兎に緑膿菌浮遊液を点眼して,ocularsurfaceを走査型電子顕微鏡で観察した.Goblet細胞から分泌されたムチンが結膜表面に存在する緑膿菌を絡め捕る様子がみられる. 鼻咽頭IgA大循環腸管気管支iTregsIgAsIgAsIgA抗原所属リンパ節sIgA産生CALTHEVBALTNALTBIgA産生前駆B細胞胸管涙腺GALTホーミング結膜図2Commonmucosalimmunesystem(CMIS)粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedlymphoidtissue:MALT)とホーミング現象とにより全身の粘膜組織の間に免疫学的な連絡が成立する.CALT:conjunctiva-associatedlymphoidtissue,HEV:highendothleialvenule(高内皮細静脈),iTreg:inducibleregulatoryTcell,GALT:gut-associatedlymphoidtissue,NALT:naso-pharynx-associatedlymphoidtissue,BALT:bronchus-associatedlymphoidtissue.II結膜上皮および結膜関連リンパ組織(CALT)の構造と機能1.上皮バリア機能とアレルギー反応上皮細胞は,外界との物理的バリアを形成するばかりでなく,外来抗原,異物,損傷などによりバリアが破綻したときには,上皮由来のサイトカイン,ケモカインまたは成長因子などを分泌して免疫応答の方向付けをすることから,生体防御や炎症反応において重要な働きを担う細胞として認識されるようになっている.アレルギー疾患において上皮細胞は,外来抗原に反応して上皮細胞由来サイトカインであるthymicstromallymphopoietin(TSLP),interleukin-25(IL-25),interleukin-33(IL-33)を分泌してその病態に関与することが知られている10)(表2).近年,TSLPは,2型自然リンパ球様細胞(innatelymphoidcellgroup2:ILC2)に作用して大量の2型ヘルパーT細胞(Th2)サイトカイン(IL-5,IL-13)を放出させる働きがあることが報告されている.この系は,IgEやTh2を介さずにアレルギ表2上皮由来サイトカインの誘導因子サイトカイン誘導因子物理的損傷TSLPdsRNA(Toll-likereceptor3リガンド)寄生虫(Trichuris)プロテアーゼ(トリプシン,パパイン)サイトカイン(IL-1,IL-4,IL-13,IL-25,IL-33,KGF,TNF)IL-25アレルゲン(ブタクサ)真菌(Aspergillusoryzae)寄生虫(Nippostrongylus)IL-33壊死寄生虫(Trichuris)ー炎症を惹起するIL-5やIL-13が増加することから,自然型アレルギー反応とよばれ,IgEを介する獲得型アレルギー反応とは区別され,アレルギー疾患における新しいアレルギー炎症の病態として,難治性アレルギー疾患で注目されている.また,TSLPはIL-25と協調してメモリーTh2細胞にIL-25receptor発現を誘導するとともに,Th2型免疫応答に作用しているとされ,獲得(15)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016345 型アレルギー反応においても重要なサイトカインと考えられている.結膜上皮では,Toll様受容体3(TLR3)アゴニストで,合成二本鎖RNAであるpolyinosinic-polycytidylicacid(polyI:C)の刺激を受けてTSLP発現が増加することが報告されており11,12),実験的アレルギー性結膜炎モデルマウスにおいても,結膜上皮に発現されたTSLPがアレルギー炎症に関与することが報告されている13).2.CALTの組織学的特徴CALTは,組織学的には被膜をもたない節外性リンパ組織で,被膜で覆われるリンパ節とは組織学的特徴が円蓋域リンパ上皮傍濾胞域傍濾胞域濾胞域図3Conjunctiva.associatedlymphoidtissue(CALT)CALTは,組織学的に濾胞域,傍濾胞域,円蓋域,リンパ上皮に分類される.FDC:folliculardendriticcell,HEV:highendothelialvenule,B:B細胞,T:T細胞.異なる.内部の構造は,中心にB細胞で構成される濾胞域(folliculararea:FA),濾胞域の周囲と上方とには,T細胞で構成される傍瀘胞域(parafolliculararea:PFA)と円蓋域(domearea:DA)とが形成され,表面をリンパ上皮が被っている(図3,4).リンパ上皮には,M細胞とよばれる特殊に分化した上皮細胞が存在するとされ,外来抗原はM細胞を介して取り込まれると考えられている.M細胞の下にはマクロファージや樹状細胞が存在し,取り込まれた外来抗原を認識する(図5).FAには,B細胞に対して抗原提示能を有する濾胞樹状細胞(folliculardendriticcell:FDC)が存在し14),抗原提示を受けたB細胞は,IgA産生前駆B細胞へと分化する(図6).また,PFAにはIgA産生前駆B細胞がホーミングするHEVが存在する15)(図6).このように,粘膜免疫系では,CALTを介して外来抗原に対しての生体感作が成立すると考えられている.3.粘膜免疫系における抗原感作とM細胞M細胞は,microfoldcellともよばれ,上皮の最表層を形成する上皮細胞であるが,細胞表面は微絨毛(microvilli)と微絨毛を被う糖衣(glycocaryx)に乏しく,microfoldが形成されているのが特徴である.また,M細胞は隣接する上皮細胞とtightjunctionで結合しているが,細胞質には大きな窪みを形成して,そこにマクロファージや単球を含有する.このような構造により,結膜上皮リンパ上皮図4結膜上皮とリンパ上皮結膜上皮は,重層円柱上皮からなり,PAS染色陽性のgoblet細胞が混在する.リンパ上皮は上皮内に多数の単球,リンパ球の遊走を伴い,goblet細胞はみられない(PAS染色).346あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(16) あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016347(17)する.TregはCD4陽性でCD25を高発現しているT細胞で,FoxP3がマスター転写因子で,interleukin-10(IL-10)とtransforminggrowthfactor-b(TGF-b)などの抑制性サイトカインを多く産生する.しかし,iTregではFoxP3発現が不安定であり,Tr1とよばれるCD4+CD25-FoxP3-TcellでIL-10のみを産生するTcellサブセットが存在するとされている.iTregは,末梢のリンパ節で誘導されるほか,MALTでも誘導されることが報告され,経粘膜抗原投与により誘導される免疫寛外来抗原は選択的にM細胞から生体内に取り込まれ,マクロファージなどにより処理され,生体の感作が成立すると考えられる.コンタクトレンズ関連巨大乳頭結膜炎(contactlens-associatedgiantpapillaryconjunctivitis:CL-GPC)患者では,M細胞を介してCLに付着した汚れが取り込まれ,感作されることでCALTを含めた粘膜免疫系がCL-GPCの病態に関与していることが指摘されている16).すなわち,眼表面疾患の炎症の病態は,粘膜免疫系を介する免疫応答という視点からの解明も進めて行く必要があることが示されていると考えられる.4.CALTと制御性T細胞生体の免疫応答には,CD4陽性T細胞が深く関与している.CD4陽性T細胞は,naiveT細胞から種々のサイトカイン刺激を受けることで,1型ヘルパーT細胞(Th1),2型ヘルパーT細胞(Th2),interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17),制御性T細胞(regulatoryTcell:Treg)などのサブセットに分化するとされている(図7).Tregには,胸腺で誘導される内因性Treg(naturallyoccurringTreg:nTreg)と末梢でnaiveT細胞から分化する誘導性Treg(inducibleTreg:iTreg)とが存在図5M細胞a:モルモットCALTリンパ上皮の透過型電子顕微鏡写真.M細胞がみられ,細胞間ポケットには多数のリンパ球や単球を含有している(.).b:モルモットCALTリンパ上皮の蛍光顕微鏡写真.蛍光標識したコレラトキシンBを点眼すると,CALT上のM細胞により取り込まれる(.)(蛍光抗原トレーサー法).Intraepithelialpocket形成CALTab図6濾胞樹状細胞モルモットCALT濾胞域の抗S-100蛋白抗体を用いた免疫電子顕微鏡写真.濾胞樹状細胞が高電子密度の細胞質を有する樹状細胞として観察される.図5M細胞a:モルモットCALTリンパ上皮の透過型電子顕微鏡写真.M細胞がみられ,細胞間ポケットには多数のリンパ球や単球を含有している(.).b:モルモットCALTリンパ上皮の蛍光顕微鏡写真.蛍光標識したコレラトキシンBを点眼すると,CALT上のM細胞により取り込まれる(.)(蛍光抗原トレーサー法).Intraepithelialpocket形成CALTab図6濾胞樹状細胞モルモットCALT濾胞域の抗S-100蛋白抗体を用いた免疫電子顕微鏡写真.濾胞樹状細胞が高電子密度の細胞質を有する樹状細胞として観察される. 348あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(18)図7CD4陽性Tリンパ球サブセット1型ヘルパーT細胞(Th1):転写因子としてT-betを発現する.2型ヘルパーT細胞(Th2):転写因子としてGATA-3を発現する.Interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17):転写因子としてRORgtを発現する.制御性T細胞(Treg):転写因子としてFoxP3を発現する.CD4+CD8FoxP3+NaiveTTbetGATA3RORgtnTregiTregTh17Th2Th1IL-12IL-4IL-6TGF-bIL-2TGF-bFoxP3+NaturallyoccurringTregInducubleTreg胸腺粘膜関連リンパ組織所属リンパ節図8免疫応答の4方向バランスNaiveTcellから分化するCD4陽性T細胞は,1型ヘルパーT細胞(Th1),2型ヘルパーT細胞(Th2),interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17),抑制性T細胞(regulatoryTcell:Treg)およびinterleukin-10産生T細胞(Type1regu-latoryTcell:Tr1)などに分類される.アレルギー疾患は,Th1/Th2バランスではTh2優位の疾患とされてきた.近年,Th1,Th2,Th17,Tregの4方向バランスからアレルギー疾患の病態および免疫療法の効果が検討されている.Th1Th2Th17Tr1TregNaiveTcellIL-10TGF-bIL-35IL-17A・IL-17FIL-21,-22IFN-gIL-2IL-4,-5,-13IL-25FoxP3STAT5GATA3STAT5T-betSTAT4RORgtSTAT3図7CD4陽性Tリンパ球サブセット1型ヘルパーT細胞(Th1):転写因子としてT-betを発現する.2型ヘルパーT細胞(Th2):転写因子としてGATA-3を発現する.Interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17):転写因子としてRORgtを発現する.制御性T細胞(Treg):転写因子としてFoxP3を発現する.CD4+CD8FoxP3+NaiveTTbetGATA3RORgtnTregiTregTh17Th2Th1IL-12IL-4IL-6TGF-bIL-2TGF-bFoxP3+NaturallyoccurringTregInducubleTreg胸腺粘膜関連リンパ組織所属リンパ節図8免疫応答の4方向バランスNaiveTcellから分化するCD4陽性T細胞は,1型ヘルパーT細胞(Th1),2型ヘルパーT細胞(Th2),interleukin-17産生ヘルパーT細胞(Th17),抑制性T細胞(regulatoryTcell:Treg)およびinterleukin-10産生T細胞(Type1regu-latoryTcell:Tr1)などに分類される.アレルギー疾患は,Th1/Th2バランスではTh2優位の疾患とされてきた.近年,Th1,Th2,Th17,Tregの4方向バランスからアレルギー疾患の病態および免疫療法の効果が検討されている.Th1Th2Th17Tr1TregNaiveTcellIL-10TGF-bIL-35IL-17A・IL-17FIL-21,-22IFN-gIL-2IL-4,-5,-13IL-25FoxP3STAT5GATA3STAT5T-betSTAT4RORgtSTAT3 あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016349(19)容において重要な役割を果たすと考えられている.これまで,アレルギー疾患や膠原病などの免疫関連疾患の病態を考えるうえで,Th1/Th2バランスが検討され,アレルギー疾患はTh1/Th2バランスがTh2へと傾くTh2病であるとされてきた.種々のCD4陽性T細胞サブセットの発見により,免疫関連疾患の病態をTh1,Th2,Th17およびiTregの4方向バランスで考えることが提唱され,治療戦略も含めて疾患病態を検討する場合には,4方向バランスが重要な意味をもつと考えられる(図8).III経結膜抗原投与法の臨床応用1.アレルギー疾患における経粘膜抗原投与法の利点経粘膜抗原投与により生じる免疫学的変化は,防御因子としての抗原特異的分泌型IgA抗体の誘導と,免疫寛容に関連する抑制性T細胞の誘導に大別され,アレルギー反応に対しては抑制的に作用するという特徴があるとされている.食物アレルギーの領域では,経皮感作された抗原に対してアレルギー反応は増悪する傾向を示し,経粘膜投与された抗原に対してアレルギー反応が軽快する傾向を示すとするdualallergenexposurehypothesisが提唱されている17).この理論にしたがって,食物アレルギーに対する治療は,抗原除去を目的とする食事療法から,経口免疫寛容を誘導する食事療法へと変化してきている.食物アレルギーに対する免疫療法は,原因抗原を含有する食品を少量から摂取し,徐々に摂取量を増やすことで,食物抗原によるアレルギー反応を減弱させる方法が行われており,経粘膜抗原投与法による免疫療法(経口免疫療法)に位置づけられている18).最近,経粘膜抗原投与法の治療応用として注目を集めているのが,舌下免疫療法である.舌下免疫療法は,抗原を舌下投与する免疫療法で,抗原を注射により経皮下投与する免疫療法(減感作療法)と同様の効果が得られ,アナフィラキシーなどの有害事象が少ないとされている.舌下免疫療法の機序として,①中和抗体の存在,②Treg細胞の誘導などが報告されている.また,免疫寛容がひとたび成立すると,その効果は全身に及ぶのが免疫寛容の特徴とされており,CMISを介した抗原特異的分泌型IgA抗体の産生やMALTを介したiTregの誘導などがアレルギー反応に対して抑制的に作用する.したがって,舌下免疫療法はアレルギー性結膜疾患に対しても,ある程度の効果があると考えられている19).現在,実用化されている舌下免疫療法の抗原は,スギ(シダトレンR,鳥居薬品,適用:スギ花粉症)およびダニ(ミティキュアR,鳥居薬品,適用:アレルギー性鼻炎)である.2.アレルギー性結膜疾患に対する免疫療法アレルギー性結膜疾患に対する経粘膜抗原投与法による免疫療法としては,経口免疫療法,舌下免疫療法,点眼免疫療法に関する検討が報告されている.経口免疫療法は,原因抗原を直接摂取させることで,抗原に対する免疫学的不応答(免疫寛容)を誘導する方法である.しかし,経口免疫療法では,免疫寛容が腸管により誘導されることから,投与した抗原が腸管に到達する必要があるが,摂取した抗原は消化の影響を受けてしまうことが経口免疫療法の弱点と考えられている.近年,経口免疫療法におけるこの弱点を克服するために,遺伝子組換え米の使用の検討が行われている.アレルギーの原因抗原を発現させた遺伝子組換え米の摂取は,経口免疫寛容を誘導できると報告された20).Fukudaらは,スギ抗原(Cryj1,Cryj2)を発現する遺伝子組み換え米を実験的アレルギー性結膜炎マウスモデルで検討したところ,結膜における好酸球浸潤を含めた炎症細胞浸潤,血清中の総IgEと抗原特異的IgE抗体および脾細胞でのサイトカイン(IL-2,IL-4,IL-5,IL-12p70,interferon-g,IL-17A)産生が低下したと報告しており,アレルギー性結膜疾患に対するワクチン療法の可能性を示唆している21).一方,経口摂取以外の経粘膜抗原投与法としては,経結膜抗原投与を目的とした点眼免疫療法が検討されている.Saitoら22)は,卵白アルブミン(ovalbumin:OVA)感作実験的アレルギー性結膜炎モルモットモデルにおいて,OVAと粘膜アジュバントであるcholeratoxinBとの混合液を予防的に点眼することにより,アレルギー性結膜炎の臨床所見と結膜組織中好酸球浸潤とが抑制できたことを報告している(図9).免疫療法では,粘膜免疫を活性化させる粘膜アジュバンドとともに抗原を投与 30min30min30min30minTCIT群アレルギー群図9Transconjunctivalimmunotherapy(TCIT)の臨床所見実験的アレルギー性結膜炎モルモットモデルにおけるTCIT群とアレルギー(非TCIT)群との比較.TCIT群では,アレルギー群と比較して,抗原点眼後30分における眼瞼腫脹,結膜充血および結膜浮腫の出現が抑制されている.好酸球CD4+T細胞NSNSp<0.001900p<0.0011,2008007006005004003002001000CD4+T細胞数(個/mm2)好酸球数(個/mm2)1,0008006004002000ControlCTBAllergyControlCTBAllergy図10Transconjunctivalimmunotherapy(TCIT)の網膜内浸潤細胞数実験的アレルギー性結膜炎マウスモデルにおいて結膜組織内好酸球数およびCD4陽性細胞数を組織学的に検討した.アレルギー性結膜炎群(Allergy),TCIT施行したアレルギー性結膜炎群(CTB)および未処置群(control)で比較したところ,TCITにより結膜の好酸球ならびにCD4陽性細胞浸潤が抑制されている.NS:notsignificant.することで,その効果が増強されることが知られているMALT形成の初期誘導ケモカインであるCXCL13が結一方で,粘膜アジュバンドの毒性が実用化の妨げになっ膜局所で増強した点は興味深い結果であると考えられている.Oikawaら23)は,OVA感作実験的アレルギーる.性結膜炎マウスモデルに対するOVAとcholeratoxin一方,点眼免疫療法の臨床研究として,Nunezらは,Bとの混合液による点眼免疫療法は,結膜における好酸花粉によるアレルギー性結膜炎患者を対象として,花粉球およびCD4陽性T細胞浸潤を抑制するとともに,結抗原の点眼濃度を徐々に維持濃度まで上げ,維持濃度の膜におけるケモカイン(CXCL13/BLC,CCL25/TECK)点眼を継続したまま臨床症状の推移を検討した.その結発現を増強したと報告している.点眼免疫療法により,果,点眼免疫療法は,点眼誘発試験により出現する臨床350あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(20) あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016351(21)所見の程度を有意に減少させたと報告している24).これらの報告は,点眼免疫療法が,経口免疫寛容や舌下免疫療法と同様に,アレルギー性結膜疾患に対する免疫療法としての可能性を示唆していると考えられた.点眼免疫療法は,まだ解明できていない作用機序が多数存在するが,経結膜抗原投与法は免疫療法として実用化できる可能性を示唆している.おわりに眼表面の免疫応答には,全身免疫系,粘膜免疫系に加えて自然免疫系が存在することが解明されている.これらの3つの免疫系の相互作用により引き起こされる正の免疫応答(生体防御・炎症)と負の免疫応答(免疫寛容)を十分に理解し,治療応用していくことが今後の我々の課題であると考えられる.文献1)LempMA,BlackmanHJ:Ocularsurfacedefensemecha-nisms.AnnOphthalmol13:61-63,19812)北野周作:OcularSurface─その生理と病態─.日眼91:1-26,19873)MillerHR,HuntleyJF,WallaceGR:ImmuneexclusionandmucustrappingduringtherapidexpulsionofNip-postrongylusbrasiliensisfromprimedrats.Immunology44:419-429,19814)IkedaA,NakanishiY,SakimotoTetal:Expressionofbdefensinsinocularsurfacetissueofexperimentallydevel-opedallergicconjunctivitismousemodel.JpnJOphthal-mol50:1-6,20065)GordonYJ,HuangLC,RomanowskiEGetal:Humancat-helicidin(LL-37),amultifunctionalpeptide,isexpressedbyocularsurfaceepitheliaandhaspotentantibacterialandantiviralactivity.CurrEyeRes30:385-394,20056)OngPY,OhtakeT,BrandtCetal:Endogenousantimi-crobialpeptidesandskininfectionsinatopicdermatitis.NEnglJMed347:1151-1160,20027)TomasiTBJr,LarsonL,ChallacombeSetal:Mucosalimmunity:Theoriginandmigrationpatternsofcellsinthesecretorysystem.JAllergyClinImmunol65:12-19,19808)ChandlerJW,AxelrodAJ:Conjunctival-associatedlym-phoidtissue:aprobablecomponentofthemucosa-associ-atedlymphoidsystem.InImmunologicDiseaseoftheMucousMembranes(O’ConnorGR,editor),p63-70,Mas-sonPublishing,NewYork,19809)KnopN,KnopE:Conjunctiva-associatedlymphoidtissueinthehumaneye.InvestOphthalmolVisSci41:1270-1279,200010)SaenzSA,TaylorBC,ArtisD:Welcometotheneighbor-hood:epithelialcell-drivedcytokineslicenseinnateandadaptiveimmuneresponsesatmucosalsites.ImmunolRev226:172-190,200811)UetaM,MizushimaK,YokoiNetal:Gene-expressionanalysisofpolyI:C-stimulatedprimaryhumanconjuncti-valepithelialcells.BrJOphthalmol94:1528-1532,201012)EbiharaN,MatsudaA,SetoTetal:Theepitheliumtakescenterstageinallergickeratoconjunctivitis.Cornea29Suppl1:S41-S47,201013)ZhengX,MaP,dePaivaCSetal:TSLPanddown-streammoleculesinexperimentalmouseallergicconjunc-tivitis.InvestOphthalmolVisSci51:3076-3082,201014)ShojiJ,InadaN,SaitoKetal:Immunohistochemicalstudyonfolliculardendriticcellofconjunctiva-associatedlymphoidtissue.JpnJOphthalmol42:1-7,199815)稲田紀子,庄司純,高浦典子ほか:結膜関連リンパ装置におけるリンパ球ホーミングの形態学的検討.日眼会誌99:1111-1118,199516)ZhongX,LiuH,PuAetal:Mcellsareinvolvedinpathogenesisofhumancontactlens-associatedgiantpapil-laryconjunctivitis.ArchImmunolTherExp55:173-177,200717)LackG:Epidemiologicrisksforfoodallergy.JAllergyClinImmunol121:1331-1336,200818)SkripakJM,NashSD,RowleyHetal:Arandomized,double-blind,placebo-controlledstudyofmilkoralimmu-notherapyforcow’smilkallergy.JAllergyClinImmunol122:1154-1160,200819)CalderonMA,PenagosM,SheikhAetal:Sublingualimmunotherapyforallergicconjunctivitis:Cochranesys-tematicreviewandmeta-analysis.ClinExpAllergy41:1263-1272,201120)IshidaW,FukudaK,HaradaYetal:Oralimmunothera-pyforallergicconjunctivitis.Cornea33Suppl11:S32-S36,201421)FukudaK,IshidaW,HaradaYetal:Preventionofaller-gicconjunctivitisinmicebyarice-basedediblevaccinecontainingmodifiedJapanesecederpollenallergens.BrJOphthalmol99:705-709,201522)SaitoK,ShojiJ,InadaNetal:ImmunosuppressiveeffectofchoreratoxinBonallergicconjunctivitismodelinguin-eapig.JpnJOphthalmol45:332-338,200123)OikawaA,ShojiJ,InadaNetal:TransconjunctivalimmunotherapyusingcholeratoxinBtotreatexperimen-talallergicconjunctivitisinamousemodel.JpnJOphthal-mol55:534-540,201124)NunezJA,CuestaU:Localconjunctivalimmunothera-py:theeffectofdermatophagoidespteronyssinuslocalconjunctivalimmunotherapyonconjunctivalprovocationtestinpatientswithallergicconjunctivitis.AllergolImmu-nopathol28:301-306,2000

知っておくべき基本事項 皮膚バリアと経皮感作

2016年3月31日 木曜日

角層顆粒層有棘層基底層表皮毛包真皮皮下組織特集●眼瞼・結膜アレルギーあたらしい眼科33(3):333.341,2016知っておくべき基本事項皮膚バリアと経皮感作SkinBarrierandPercutaneousSensitization川崎洋*天谷雅行*はじめに近年,アレルギー疾患の発症要因として皮膚のバリア機能異常が注目されている.皮膚バリアの重要な要素として,表皮最外層に位置する角層バリア,角層の下で体内の液性環境の維持に重要な役割をもつタイトジャンクションバリアがあり,表皮内樹状細胞のランゲルハンス細胞とともに協調的,相補的に機能して経皮免疫システムを制御していることが明らかになっている.本稿では,皮膚バリア機能を分子レベルで解析することにより明らかになった知見を元に,アトピー性皮膚炎を主としたアレルギー疾患発症における経皮感作の重要性について概説する.I角層バリアとタイトジャンクションバリア皮膚は,生体と外界とを隔てるバリアとして働き,種々の物理刺激や紫外線によるダメージを防ぎ,病原微生物やアレルゲンの体内への侵入,水分の経皮的蒸散からわれわれの体を守っている.われわれの皮膚は,表皮・真皮・皮下組織の3つに大きく分けられるが,バリアの中心的役割を担うのは,最外層に位置する表皮である(図1).表皮はケラチノサイト(表皮細胞)により構成される重層上皮組織であり,表面から順に,角層・顆粒層・有棘層・基底層に分かれる.角層は,角化の最終過程においてケラチノサイトが脱核した角質細胞とその細胞間を埋める細胞間脂質によって構成され,皮膚バリアの最前線として機能する.全身を角層で覆われるのは,陸上(空気環境)で生息する脊椎動物のみであり,角層バリアは空気環境と体内の液性環境の間を隔てるバリアともいえる1).一方,角層の内側に存在する顆粒層には,タイトジャンクション(tightjunction:TJ)によるバリアが存在する2).顆粒層の細胞を表面から順にSG1,SG2,SG3細胞とそれぞれ名付けると,SG2細胞の細胞間にのみTJが存在している.TJは細胞と細胞の隙間をしっかりとシールしており,水やイオン,可溶性蛋白などの移動を妨げることで,その外側(角層とSG1細胞層)と内側(SG2細胞以下の顆粒層,有棘層,基底図1皮膚の構造(仔マウス皮膚の組織像,Hematoxylinandeosin染色)*HiroshiKawasaki&*MasayukiAmagai:慶應義塾大学医学部皮膚科学教室〔別刷請求先〕川崎洋:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部皮膚科学教室0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(3)333 334あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(4)は,皮膚バリアの概念は軽視され,免疫・アレルギー異常に着目して病態を論じられることがほとんどだった.2006年,Irwin,McLeanらのグループにより,角層の主要な構成蛋白質であるフィラグリンが,尋常性魚鱗癬という皮膚の落屑とドライスキン,掌蹠の皮膚紋理の増強を特徴とする皮膚疾患の原因遺伝子であると報告された6).さらに同グループは,フィラグリンがアトピー性皮膚炎の主要な発症因子であると報告した(図3)7).フィラグリンは角層の主要な構成蛋白質で,その前駆物質はプロフィラグリンである.プロフィラグリンは表皮顆粒層のケラトヒアリン顆粒内に主に存在し,角化の最終過程で脱リン酸化,蛋白分解され,角層内でフィラグリンモノマーに分解される.フィラグリンはケラチン線維に直接結合し,それを束ねることで角層の構造の安定化や物理的強度の維持に寄与する.さらに,フィラグリンは角層の上層で天然保湿因子の主要構成要素とされる層)における異なる細胞外液性環境の維持に寄与していると考えられる2.4).有棘層は,デスモソームの発達したケラチノサイトが重層する層であり,ランゲルハンス細胞とよばれる表皮内樹状細胞が散在し,表皮内の免疫応答の制御に寄与している.表皮最下層の基底層は,表皮内で唯一細胞分裂を行う1層の細胞層により構成され,ケラチノサイトの供給源となっている.以上のように,われわれの皮膚には,角層とTJという2つのバリアが存在している1)(図2).IIフィラグリンとアトピー疾患アトピー性皮膚炎患者の皮膚では皮疹部だけでなく肉眼的無疹部においても,健常人の皮膚に比べて経皮水分蒸散量の亢進や角層内水分量の減少がみられ,皮膚バリア機能異常の存在が古くから報告されていた5).しかし,過去のアトピー性皮膚炎・皮膚アレルギー研究の多くで顆粒層角層SG1SG2SG3有棘層基底層(正常皮膚)角層バリア(気相-液相バリア)TJバリア(液相-液相バリア)(角層機能異常を有する皮膚)TJ外液性環境外来抗原外来抗原TJ内液性環境活性化LC休止期LC休止期LC表皮真皮ランゲルハンス細胞(LC)真皮樹状細胞タイトジャンクション(TJ)経皮免疫応答の亢進アトピー性皮膚炎の発症憎悪,アレルギーマーチへの進展図2皮膚バリア機能異常を有する皮膚での経皮感作機構(角層バリア機能異常モデル)皮膚には,角層バリアとタイトジャンクション(TJ)バリアが存在する.2つのバリアの内側にランゲルハンス細胞(LC)が存在する.角層のバリア機能異常を有する皮膚では,外来抗原は容易に表皮内へ侵入する.LCなどの樹状細胞による抗原の取り込みが亢進し,Th2優位の免疫応答が起こり,最終的にアトピー性皮膚炎の発症やアレルギーマーチの進展につながると考えられている.(文献42を一部改変)外来抗原外来抗原角層バリア角層(気相-液相バリア)SG1TJ外液性環境表皮顆粒層SG2TJバリアSG3(液相-液相バリア)有棘層TJ内液性環境活性化LC基底層休止期LC休止期LC真皮ランゲルハンス細胞(LC)タイトジャンクション(TJ)真皮樹状細胞経皮免疫応答の亢進アトピー性皮膚炎の発症憎悪,アレルギーマーチへの進展図2皮膚バリア機能異常を有する皮膚での経皮感作機構(角層バリア機能異常モデル)皮膚には,角層バリアとタイトジャンクション(TJ)バリアが存在する.2つのバリアの内側にランゲルハンス細胞(LC)が存在する.角層のバリア機能異常を有する皮膚では,外来抗原は容易に表皮内へ侵入する.LCなどの樹状細胞による抗原の取り込みが亢進し,Th2優位の免疫応答が起こり,最終的にアトピー性皮膚炎の発症やアレルギーマーチの進展につながると考えられている.層)における異なる細胞外液性環境の維持に寄与していると考えられる2.4).有棘層は,デスモソームの発達したケラチノサイトが重層する層であり,ランゲルハンス細胞とよばれる表皮内樹状細胞が散在し,表皮内の免疫応答の制御に寄与している.表皮最下層の基底層は,表皮内で唯一細胞分裂を行う1層の細胞層により構成され,ケラチノサイトの供給源となっている.以上のように,われわれの皮膚には,角層とTJという2つのバリアが存在している1)(図2).IIフィラグリンとアトピー疾患アトピー性皮膚炎患者の皮膚では皮疹部だけでなく肉眼的無疹部においても,健常人の皮膚に比べて経皮水分蒸散量の亢進や角層内水分量の減少がみられ,皮膚バリア機能異常の存在が古くから報告されていた5).しかし,過去のアトピー性皮膚炎・皮膚アレルギー研究の多くで334あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(文献42を一部改変)は,皮膚バリアの概念は軽視され,免疫・アレルギー異常に着目して病態を論じられることがほとんどだった.2006年,Irwin,McLeanらのグループにより,角層の主要な構成蛋白質であるフィラグリンが,尋常性魚鱗癬という皮膚の落屑とドライスキン,掌蹠の皮膚紋理の増強を特徴とする皮膚疾患の原因遺伝子であると報告された6).さらに同グループは,フィラグリンがアトピー性皮膚炎の主要な発症因子であると報告した(図3)7).フィラグリンは角層の主要な構成蛋白質で,その前駆物質はプロフィラグリンである.プロフィラグリンは表皮顆粒層のケラトヒアリン顆粒内に主に存在し,角化の最終過程で脱リン酸化,蛋白分解され,角層内でフィラグリンモノマーに分解される.フィラグリンはケラチン線維に直接結合し,それを束ねることで角層の構造の安定化や物理的強度の維持に寄与する.さらに,フィラグリンは角層の上層で天然保湿因子の主要構成要素とされる(4) アイルランド(文献7より)日本(北海道)(文献9より)(文献7より)日本(北海道)(文献9より)コントロールコントロール(非アトピー性皮膚炎)アトピー性皮膚炎(非アトピー性皮膚炎)アトピー性皮膚炎フィラグリン変異陰性フィラグリン変異陽性図3フィラグリンの機能喪失変異はアトピー性皮膚炎のリスクファクターである(文献7,9の報告をもとに作成) 336あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(6)への物質透過を防ぐ角層のバリア形成に重要であり,その欠損は外来抗原の表皮内への侵入を許すことが示唆された.そこで,蛋白抗原をマウスに経皮的に繰り返し塗布し,フィラグリン欠損皮膚における外来抗原に対するろ,フィラグリン欠損マウスでは角層ほぼ全層に色素が浸透した像を多く観察したのに対し,野生型マウスでは角層表面にのみ色素の沈着を認めた所見がほとんどだった(図4a).以上の結果から,フィラグリンは外から内蛍光色素封入リポソーム角層野生型(+/+)マウスOVA特異的IgG1n=16n=16OVA特異的IgE**フィラグリン欠損(Flg-/-)マウス角層+/+-/-+/+-/-OD(ng/ml)2101,000100101ab図4フィラグリン欠損は角層バリア異常と経皮免疫応答の亢進にかかわるa:蛍光色素封入リポソーム溶液を6.8週齡のマウスの皮膚(尾部)に塗布し,色素の皮膚透過性を共焦点顕微鏡で観察した(上図).下図は,上図の模式図.b:蛋白抗原(OVA)繰り返し塗布後の抗原特異的IgG1およびIgE産生能の比較.+/+:野生型マウス,./.:フィラグリン欠損マウス.*p<0.05.(KawasakiH,etal:JAllergyClinImmunol129:1538-1546,2012を改変)蛍光色素封入リポソーム角層野生型(+/+)マウスOVA特異的IgG1n=16n=16OVA特異的IgE**フィラグリン欠損(Flg-/-)マウス角層+/+-/-+/+-/-OD(ng/ml)2101,000100101ab図4フィラグリン欠損は角層バリア異常と経皮免疫応答の亢進にかかわるa:蛍光色素封入リポソーム溶液を6.8週齡のマウスの皮膚(尾部)に塗布し,色素の皮膚透過性を共焦点顕微鏡で観察した(上図).下図は,上図の模式図.b:蛋白抗原(OVA)繰り返し塗布後の抗原特異的IgG1およびIgE産生能の比較.+/+:野生型マウス,./.:フィラグリン欠損マウス.*p<0.05.(KawasakiH,etal:JAllergyClinImmunol129:1538-1546,2012を改変) あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016337(7)るという仮説を支持する1,20,21).IV表皮TJバリア異常は角層バリア破綻を導くそれでは,表皮におけるもう一つのバリアの代表例であるTJバリアは,経皮免疫応答の誘導やアトピー性皮膚炎の発症と関連があるのだろうか.TJの重要な構成要素であるクローディン1の遺伝子変異による先天性疾患NISCH症候群は,非常に稀な常染色体劣性遺伝性疾患で,そのおもな症状は魚鱗癬,頭部の乏毛,瘢痕性脱毛症,硬化性胆管炎である22).これまでにアトピー性皮膚炎や全身性アレルギーとの相関は報告されていないが,希少疾患であるが故に統計学的解析がむずかしいという側面もあるだろう.一方,TJバリアが,二次的に角層バリア破綻を導く可能性が近年報告されている23,24).筆者らのグループは,Flg./.マウスではTJバリア異常を認めないものの,ひとたび皮膚炎が生じると,TJバリア異常が角層バリアのさらなる破綻を誘導し,経皮免経皮免疫応答能を評価したところ,Flg./.マウスでは抗原特異的IgG1,IgEの産生が野生型マウスに比べ有意に亢進していた(図4b)19).一方,特殊病原体除去環境下で長期間飼育しても,Flg./.マウスは皮膚炎を自然発症しなかった19).本結果は,フィラグリン変異に伴う角層のバリア機能異常が,全身性の抗原感作の成立に寄与する可能性を示したが,アトピー性皮膚炎の発症には,フィラグリン欠損による角層のバリア機能異常に加え,免疫学的,遺伝的背景や繰り返される経皮的抗原曝露などの環境要因が複雑にかかわっていることを示唆する.その他の角層バリア機能異常をきたす疾患として,Netherton症候群やPeelingskin症候群B型がある.ともに角質易.離性による角質バリア障害が生じる先天性疾患であるが,興味深いことにいずれの疾患においても慢性皮膚炎形成とともにIgEの上昇や喘息,食物アレルギーなどのアレルギー疾患を併発することが知られている.以上の知見も,角層バリア機能障害による経皮的な抗原侵入の増加が全身性の抗原感作の成立につなが表皮バリア破綻外来抗原の表皮(角層)内への侵入亢進表皮内におけるプロテアーゼ活性異常炎症性物質・サイト力インの放出(TSLPなど)樹状細胞による抗原の取り込みTh2優位の免疫応答IgEの上昇全身性抗原感作の成立掻破・皮膚炎症によるバリア破壊itch-scratchcycle(痒みと掻破の悪循環)角層バリア機能異常TJバリア機能異常アレルギー疾患の発症(アレルギーマーチ)アトピー性皮膚炎の発症増悪炎症,痒みの惹起(表皮バリア遺伝子変異,化学刺激,物理的刺激,気候・環境因子など)フィラグリン遺伝子変異図5表皮バリア異常からアトピー性皮膚炎の発症増悪とアレルギーマーチが生じる機構のまとめ表皮バリア破綻外来抗原の表皮(角層)内への侵入亢進表皮内におけるプロテアーゼ活性異常炎症性物質・サイト力インの放出(TSLPなど)樹状細胞による抗原の取り込みTh2優位の免疫応答IgEの上昇全身性抗原感作の成立掻破・皮膚炎症によるバリア破壊itch-scratchcycle(痒みと掻破の悪循環)角層バリア機能異常TJバリア機能異常アレルギー疾患の発症(アレルギーマーチ)アトピー性皮膚炎の発症増悪炎症,痒みの惹起(表皮バリア遺伝子変異,化学刺激,物理的刺激,気候・環境因子など)フィラグリン遺伝子変異図5表皮バリア異常からアトピー性皮膚炎の発症増悪とアレルギーマーチが生じる機構のまとめ 338あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(8)により体内に侵入させることなく,ランゲルハンス細胞が抗原取得する精巧なしくみが存在するのである.本機能と全身性の抗原感作がどのようにかかわるのか,今後の研究課題といえる.また,経皮感作という観点から考慮しなければならないのは,上述の樹状細胞のサブセット,あるいは取り込み様式による反応の違いである.角層バリアだけでなくTJバリアも障害されるようなときは,皮膚内に侵入する抗原はランゲルハンス細胞だけでなく,真皮樹状細胞によっても抗原取得が起こる可能性があるため,異なる免疫応答が生じると予想される30).表皮全体が障害されやすい表皮水疱症において,アレルギー疾患の併発が多いという報告がないのに対し,上述のように角層バリアが特異的に障害される疾患群では,アレルギー疾患の併発が多くみられる.真皮樹状細胞の関与の有無がこの違いをもたらしているのか,それとも角層バリア障害時に起こるランゲルハンス細胞によるTJバリアの外側からの抗原取得という現象そのものが抗原感作に重要なのか,今後の研究の進展が期待される.VI炎症の場としての表皮ここまで,経皮免疫,アレルギー性炎症の発症を考えるうえでの表皮の意義を,外来抗原の透過・侵入という物理的側面に着目して述べた.さらに今日では,表皮ケラチノサイトから放出される種々の炎症性物質の作用が注目され,病態理解が進んでいる.健常な皮膚であっても,刺激物を塗布されたり,掻破やテープストリップなどの物理的刺激が加わったりすれば,表皮内には刺激の種類によりTNF-a,IL-1a,GM-CSF,CCL17,CCL22のような炎症性物質が放出され,皮膚炎やかぶれの原因になりうる31).アトピー性皮膚炎患者の皮膚では,その物理的脆弱性や外来抗原/微生物の表皮内への易侵入性,プロテアーゼ活性の異常などにより,健常皮膚よりも表皮内での炎症性物質の生成,放出が起こりやすく,Th2に傾いた炎症を生じやすい状況にあると考えられている31).その際に生じるIL-4,IL-13などのTh2サイトカインはさらなる表皮バリア破綻につながり,IL-31の産生亢進は痒みを惹起し,掻破による物理的な皮膚バリア破壊を引き起こすことにつながり14,31),ます疫応答の亢進や皮膚炎のさらなる悪化をもたらすという悪循環のプロセスに陥る可能性を報告している25)(図5).さらに興味深いことに,クローディン1遺伝子のSNPsとアトピー性皮膚炎との関連が報告されている26).表皮TJバリアの異常がアトピー性皮膚炎の発症やアトピー疾患への進展にかかわるかどうか,今後さらなるデータの集積が求められる.Vランゲルハンス細胞を介した経皮免疫制御皮膚に存在する抗原提示細胞は,表皮内に存在するランゲルハンス細胞と,真皮に存在する真皮樹状細胞の2つに大別される.ただし,ランゲルハンス細胞が単一のpopulationである保証はなく,真皮樹状細胞に関してはlangerin陽性のものと陰性のものなど複数のサブセットの存在が明らかとなっている27).これらの抗原提示細胞は,表皮バリアを破って侵入してきた抗原を捕捉し,リンパ管を通って所属リンパ節に移動して,T細胞に対する抗原提示を行うと考えられている.表皮内で抗原取り込みをするのはランゲルハンス細胞である.ランゲルハンス細胞は表皮TJバリアの内側の表皮内に存在しているが,角層バリアに障害が起こり,なんらかのdangersignalが発せられると活性化する.活性化したランゲルハンス細胞は表皮TJバリアを超えて角層直下まで樹状突起を延長し,TJバリアの外側で樹状突起の先端から抗原取得を行う(図2)3,28).このとき,ランゲルハンス細胞は隣り合うケラチノサイトとの間に新たなTJバリアを構築することで,表皮のTJバリアを保ったままTJバリアの外側に樹状突起を伸ばしている3).近年,黄色ブドウ球菌の表皮.奪性毒素(exfoliativetoxin:ET)をランゲルハンス細胞がTJバリアの外に樹状突起を延ばして取り込むことで,Th2優位の液性免疫が成立することが,マウスを用いた実験により示された.免疫が成立したマウスでは,ETの腹腔内注射によって誘導される全身性の水疱形成(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群〔用語解説参照〕モデル)が抑制され,ランゲルハンス細胞が皮膚表面に対する病的毒素に対する先制防御的免疫を成立させるうえで重要な役割を担うことがわかった29).すなわち,われわれの皮膚には,角層を通過した病原体や抗原を,表皮TJバリア あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016339(9)ます抗原感作のリスクが上がる.また,ケラチノサイトが産生するTSLP(用語解説参照)は,アレルギー発症のマスタースイッチとして注目されている.アトピー性皮膚炎患者の病変部ではTSLPの強い発現が観察され,ランゲルハンス細胞を活性化し,Th2反応を誘導するとともに抗原特異的IgEの産生に寄与している32).また,複数のマウスモデルで,皮膚の上皮細胞由来のTSLPが皮膚炎の成立とそれに続くアレルギー疾患(気道炎症,食物アレルギー)の発症に重要であることが示されている33.37).さらに近年は,TSLPが直接末梢神経に作用して痒みを引き起こすことが示された38).アトピー性皮膚炎の疾患増悪機序の重要な要素に,itch-scratchcycle(痒みと掻破の悪循環)がある.皮膚に痒みが生じ.き壊すと,皮膚のバリア破壊が進み,種々の起痒物質の放出につながり,さらに痒みが増して掻破を繰り返し,皮膚炎の増悪に至るという悪循環をさす.表皮バリア破綻は,炎症・経皮免疫反応のドライビングフォースであるだけでなく,痒みの生成につながり,itch-scratchcycleを介したさらなる皮膚バリア破壊と炎症の増悪を導き,アトピー性皮膚炎とアトピー疾患の発症・増悪の双方に関与していると考えられている(図5).VII加水分解小麦含有石鹸使用者に生じた小麦アレルギーの事例ここまで,臨床疫学的調査,動物モデルを用いた研究から,外来抗原が表皮内に侵入し,皮膚から全身への抗原感作が誘導されることで,アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患の発症につながる可能性を論じてきた.さらに近年,われわれに経皮抗原感作の重要性を再認識させたのが,(旧)茶のしずくR石鹸の使用によりわが国で社会問題化した事例である.これは同石鹸に含まれていた加水分解小麦(グルパール19SR)に対する経皮経粘膜感作が成立し,経口小麦アレルギーを発症した患者が多発したというものである.どうして加水分解小麦を含有する石鹸で小麦アレルギーが多発してしまったのかに関してはいろいろな検討がなされており,製造時の酸加熱処理,酸加水分解の工程が抗原性の獲得に重要であった可能性,グルパール19SRは通常の加水分解小麦よりも分子量が大きかったこと,石鹸に含まれていた界面活性剤がアジュバントとして作用した可能性,などが示唆されている39).おわりに皮膚は他の臓器に比べ全身性の抗原感作が成立しやすく,アレルギーの発症を考えるうえでの重要性が年々強調されている.近年,表皮バリアと経皮感作という点に着目し,生後早期からスキンケアに取り組むことで,アトピー性皮膚炎の発症抑制につながったとする報告がなされた40,41).今後,表皮バリアと免疫システムのかかわりに対する病態解明が進むことで,アレルギー疾患に対する効果的な治療法,予防法の開発につながることが期待される.文献1)KuboA,NagaoK,AmagaiM:Epidermalbarrierdysfunc-tionandcutaneoussensitizationinatopicdiseases.JClinInvest122:440-447,20122)FuruseM,HataM,FuruseKetal:Claudin-basedtightjunctionsarecrucialforthemammalianepidermalbarri-er:alessonfromclaudin-1-deficientmice.JCellBiol156:099-1111,20023)KuboA,NagaoK,YokouchiMetal:ExternalantigenuptakebyLangerhanscellswithreorganizationofepider-maltightjunctionbarriers.JExpMed206:2937-2946,■用語解説■アレルギーマーチ(別名:アトピーマーチ):アレルギーの多くは,アレルギー体質(アトピー素因)を有する個人にアトピー性皮膚炎,食物アレルギー,気管支喘息,アレルギー性鼻炎などが次々に生じていく.この特徴的な様子をたとえた用語(国内では馬場により提唱され,その後世界的に認知される43,44))ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群:黄色ブドウ球菌由来の表皮.奪性毒素(exfoliativetoxinA:ET)が表皮細胞接着分子デスモグレイン1を切断することにより生じる,広範な表皮.離,水疱形成が生じる皮膚疾患.TSLP(thymicstromallymphopoietin):上皮細胞由来のサイトカインで,樹状細胞,肥満細胞,好酸球などを刺激し,Th2反応を誘導する.アトピー性皮膚炎,気管支喘息,花粉症,好酸球性食道炎など,さまざまなアレルギー性炎症病態との関連が報告されている.■用語解説■アレルギーマーチ(別名:アトピーマーチ):アレルギーの多くは,アレルギー体質(アトピー素因)を有する個人にアトピー性皮膚炎,食物アレルギー,気管支喘息,アレルギー性鼻炎などが次々に生じていく.この特徴的な様子をたとえた用語(国内では馬場により提唱され,その後世界的に認知される43,44))ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群:黄色ブドウ球菌由来の表皮.奪性毒素(exfoliativetoxinA:ET)が表皮細胞接着分子デスモグレイン1を切断することにより生じる,広範な表皮.離,水疱形成が生じる皮膚疾患.TSLP(thymicstromallymphopoietin):上皮細胞由来のサイトカインで,樹状細胞,肥満細胞,好酸球などを刺激し,Th2反応を誘導する.アトピー性皮膚炎,気管支喘息,花粉症,好酸球性食道炎など,さまざまなアレルギー性炎症病態との関連が報告されている. 340あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(10)20094)YoshidaK,YokouchiM,NagaoKetal:Functionaltightjunctionbarrierlocalizesinthesecondlayerofthestra-tumgranulosumofhumanepidermis.JDermatolSci71:89-99,20135)ProkschE,Folster-HolstR,JensenJM:Skinbarrierfunc-tion,epidermalproliferationanddifferentiationineczema.JDermatolSci43:159-169,20066)SmithFJ,IrvineAD,Terron-KwiatkowskiAetal:Loss-of-functionmutationsinthegeneencodingfilaggrincauseichthyosisvulgaris.NatGenet38:337-34220067)PalmerCN,IrvineAD,Terron-KwiatkowskiAetal:Commonloss-of-functionvariantsoftheepidermalbarrierproteinfilaggrinareamajorpredisposingfactorforatopicdermatitis.NatGenet38:441-446,20068)SandilandsA,SutherlandC,IrvineADetal:Filaggrininthefrontline:roleinskinbarrierfunctionanddisease.JCellSci122:1285-1294,20099)Nemoto-HasebeI,AkiyamaM,NomuraTetal:FLGmutationp.Lys4021XintheC-terminalimperfectfilaggrinrepeatinJapanesepatientswithatopiceczema.BrJDermatol161:1387-1390,200910)BrownSJ,McLeanWH:Oneremarkablemolecule:filaggrin.JInvestDermatol132:751-762,201211)OsawaR,KonnoS,AkiyamaMetal:Japanese-specificfilaggringenemutationsinJapanesepatientssufferingfromatopiceczemaandasthma.JInvestDermatol130:2834-2836,201012)RodriguezE,BaurechtH,HerberichEetal:Meta-analy-sisoffilaggrinpolymorphismsineczemaandasthma:robustriskfactorsinatopicdisease.JAllergyClinImmu-nol123:1361-1370e1367,200913)vandenOordRA,SheikhA:Filaggringenedefectsandriskofdevelopingallergicsensitisationandallergicdisor-ders:systematicreviewandmeta-analysis.BMJ339:b2433,200914)McAleerMA,IrvineAD:Themultifunctionalroleoffilaggrininallergicskindisease.JAllergyClinImmunol131:280-291,201315)DeBenedettoA,QualiaCM,BaroodyFMetal:Filaggrinexpressioninoral,nasal,andesophagealmucosa.JInvestDermatol128:1594-1597,200816)YingS,MengQ,CorriganCJetal:Lackoffilaggrinexpressioninthehumanbronchialmucosa.JAllergyClinImmunol118:1386-1388,200617)HudsonTJ:Skinbarrierfunctionandallergicrisk.NatGenet38:399-400,200618)McGrathJA,UittoJ:Thefilaggrinstory:novelinsightsintoskin-barrierfunctionanddisease.TrendsMolMed14:20-27,200819)KawasakiH,NagaoK,KuboAetal:Alteredstratumcorneumbarrierandenhancedpercutaneousimmuneresponsesinfilaggrin-nullmice.JAllergyClinImmunol129:1538-1546e1536,201220)CorkMJ,DanbySG,VasilopoulosYetal:Epidermalbar-rierdysfunctioninatopicdermatitis.JInvestDermatol129:1892-1908,200921)BeckLA,LeungDY:Allergensensitizationthroughtheskininducessystemicallergicresponses.JAllergyClinImmunol106:S258-S263,200022)Hadj-RabiaS,BaalaL,VabresPetal:Claudin-1genemutationsinneonatalsclerosingcholangitisassociatedwithichthyosis:atightjunctiondisease.Gastroenterology127:1386-1390,200423)SugawaraT,IwamotoN,AkashiMetal:Tightjunctiondysfunctioninthestratumgranulosumleadstoaberrantstratumcorneumbarrierfunctioninclaudin-1-deficientmice.JDermatolSci70:12-18,201324)YukiT,KomiyaA,KusakaAetal:Impairedtightjunc-tionsobstructstratumcorneumformationbyalteringpolarlipidandprofilaggrinprocessing.JDermatolSci69:148-158,201325)YokouchiM,KuboA,KawasakiHetal:Epidermaltightjunctionbarrierfunctionisalteredbyskininflammation,butnotbyfilaggrin-deficientstratumcorneum.JDerma-tolSci77:28-36,201526)DeBenedettoA,RafaelsNM,McGirtLYetal:Tightjunctiondefectsinpatientswithatopicdermatitis.JAller-gyClinImmunol127:773-786,e771-e777,201127)MeradM,GinhouxF,CollinM:Origin,homeostasisandfunctionofLangerhanscellsandotherlangerin-express-ingdendriticcells.NatRevImmunol8:935-947,200828)YoshidaK,KuboA,FujitaHetal:DistinctbehaviorofhumanLangerhanscellsandinflammatorydendriticepi-dermalcellsattightjunctionsinpatientswithatopicder-matitis.JAllergyClinImmunol134:856-864,201429)OuchiT,KuboA,YokouchiMetal:Langerhanscellantigencapturethroughtightjunctionsconferspreemp-tiveimmunityinexperimentalstaphylococcalscaldedskinsyndrome.JExpMed208:2607-2613,201130)NagaoK,GinhouxF,LeitnerWWetal:Murineepider-malLangerhanscellsandlangerin-expressingdermaldendriticcellsareunrelatedandexhibitdistinctfunctions.ProcNatlAcadSciUSA106:3312-3317,200931)GittlerJK,KruegerJG,Guttman-YasskyE:Atopicder-matitisresultsinintrinsicbarrierandimmuneabnormali-ties:implicationsforcontactdermatitis.JAllergyClinImmunol131:300-313,201332)NakajimaS,IgyartoBZ,HondaTetal:Langerhanscellsarecriticalinepicutaneoussensitizationwithproteinanti-genviathymicstromallymphopoietinreceptorsignaling.JAllergyClinImmunol129:1048-1055,e1046,201233)BartnikasLM,GurishMF,BurtonOTetal:EpicutaneoussensitizationresultsinIgE-dependentintestinalmastcellexpansionandfood-inducedanaphylaxis.JAllergyClinImmunol131:451-460,e451-e456,2013 あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016341(11)34)HanH,XuW,HeadleyMBetal:Thymicstromallym-phopoietin(TSLP)-mediateddermalinflammationaggra-vatesexperimentalasthma.Mucosalimmunology5:342-351,201235)JiangH,HenerP,LiJetal:Skinthymicstromallympho-poietinpromotesairwaysensitizationtoinhalanthousedustmitesleadingtoallergicasthmainmice.Allergy67:1078-1082,201236)Leyva-CastilloJM,HenerP,JiangHetal:TSLPpro-ducedbykeratinocytespromotesallergensensitizationthroughskinandtherebytriggersatopicmarchinmice.JInvestDermatol133:154-163,201337)NotiM,KimBS,SiracusaMCetal:Exposuretofoodallergensthroughinflamedskinpromotesintestinalfoodallergythroughthethymicstromallymphopoietin-baso-philaxis.JAllergyClinImmunol133:1390-1399,e1391-e1396,201438)WilsonSR,TheL,BatiaLMetal:Theepithelialcell-derivedatopicdermatitiscytokineTSLPactivatesneu-ronstoinduceitch.Cell155:285-295,201339)福冨友馬:(旧)茶のしずく石鹸による小麦アレルギー問題からの教訓.日本職業・環境アレルギー学会雑誌20:1-11,201340)SimpsonEL,ChalmersJR,HanifinJMetal:Emollientenhancementoftheskinbarrierfrombirthofferseffectiveatopicdermatitisprevention.JAllergyClinImmunol134:818-823,201441)HorimukaiK,MoritaK,NaritaMetal:Applicationofmoisturizertoneonatespreventsdevelopmentofatopicdermatitis.JAllergyClinImmunol134:824-830,e826,201442)川崎洋,久保亮治:アトピー性皮膚炎の発症とバリア機能,皮膚バリア機能と経皮感作.アレルギーの臨床33:121-126,201343)馬場実:小児アレルギーの全て,アレルギーの基礎アレルギーマーチ.小児科診療61:481-485,199844)SpergelJM,PallerAS:Atopicdermatitisandtheatopicmarch.JAllergyClinImmunol112:S118-S127,2003