疾患ゲノム研究遺伝性疾患に対する遺伝子解析アプローチ次世代シークエンサーの登場以降,大規模な遺伝子解析が行われるようになり,集団中にC1%未満の頻度で存在するレアバリアントから一塩基多型(singleCnucleotideCpolymor-phism:SNP)に代表されるコモンバリアントまで,ヒトゲノム情報の全容が徐々に明らかになりつつあります.同時に,遺伝性疾患に対する遺伝子解析手法が発展し,今日のゲノム医療の実現につながっています.たとえば,遺伝的要因と環境的要因が複合的に病気に関与する多因子疾患(加齢黄斑変性や緑内障など)に対して,SNPアレイを用いたゲノムワイド関連解析(genome-wideCassociationstudy:GWAS)が有力な解析手法として用いられ,多数の疾患感受性領域が同定されてきました.さらに,GWASで同定されたCSNPを用いて疾患発症リスクを予測する試みが行われています.また,単一遺伝子病(遺伝性網膜ジストロフィなど)においては,全ゲノムシークエンスによるレアバリアント解析が行われるようになり,同定した原因遺伝子をターゲットとした創薬開発が行われています.
レアバリアントとコモンバリアントの相補的関係上述のように,多因子疾患に対してコモンバリアント,単一遺伝子病に対してレアバリアントに着目した遺伝子解析が行われてきました.このアプローチは一定の成果をあげてきたものの,依然として未解明な遺伝要因が多く残っています.多因子疾患においては,GWASで同定されるCSNPは遺伝要因の一部しか説明できないことが明らかになり,未解明な遺伝要因は「失われた遺伝性(missing heritability)」とよばれています.Missing heritabilityを説明する原因として,たとえば,多因子疾患におけるレアバリアントの関与が考えられています.詳細は割愛しますが,burdentestやCsequenceCkernelCassociationtest(SKAT)などのレアバリアンの検出力を上げる解析手法により,GWASでは検出できないレアバリアントの関与が検証されています1).一方で,単一遺伝子病においてもコモンバリアントの関与が注目されています.たとえば,神経疾患の分野では,希少なCneurodevelopmentaldisorderは単一遺伝子病と考えられてきましたが,近年ではコモンバリアントの関与も報告されています2).無数のコモンバリアントがポリジェニックに疾患に関与し,レアバリアントとコモンバリアントのリスク効果が一定の閾値を超えることで疾患が発症する「易罹病性・閾値モデル(liability-thresholdmodel)」が実証されていま後藤健介大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点名古屋大学大学院医学系研究科眼科学
図 1 バリアントのアレル頻度と疾患寄与度の関係一般的に,疾患発症に強く寄与するバリアントはアレル頻度が低い傾向があり,逆に頻度が高いバリアントほど,疾患発症への寄与度は弱いとされている.単一遺伝子病では,レアで寄与度の高いバリアントが関与しているのに対し,多因子疾患では,コモンで寄与度の低いバリアントが関与していると考えられている.しかし近年,レアバリアントとコモンバリアントの双方が疾患に関与する可能性が報告されている.す.また,日本のように地理的に隔離された島国では,創始者効果によって広まった高頻度なバリアントが単一遺伝子疾患に関与することも報告されています3).
今後の展望このように,従来の「レアバリアント」や「コモンバリアント」という二元的なとらえ方に代わり,これらの相補的な効果が疾患に寄与するという考え方が広まりつつあります.疾患ゲノム研究はめざましい進展をとげており,病気の遺伝的理解がさらに深まることで,ゲノム医療のさらなる発展が期待されています.文 献1)WuCMC,CLeeCS,CCaiCTXCetal:Rare-variantCassociationCtesting for sequencing data with the sequence kernel aso-ciation Test. Am J Hum Genet 89:82-93,C2011
2)HuangCQQ,CWigdorCEM,CMalawskyCDSCetal:ExaminingCtheCroleCofCcommonCvariantsCinCrareCneurodevelopmentalCconditions. NatureC636:404-411,C2024
3)GotoCK,CKoyanagiCY,CAkiyamaCMCetal:Disease-speci.cCvariantCinterpretationChighlightedCtheCgeneticC.ndingsCinC2325CJapaneseCpatientsCwithCretinitisCpigmentosaCandCallied diseases. J Med GenetC61:613-620,C2024
(93)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025 C1311 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY