腫瘍性病変IntraocularTumors盛秀嗣*髙橋寛二*はじめに眼底の隆起性病変は網脈絡膜の滲出性変化,出血,炎症,腫瘤などによる器質性病変によって生じ,診断を行う際に必ず後眼部腫瘍を鑑別にあげる必要がある.しかし,日常診療において後眼部腫瘍に遭遇する頻度はまれであり,診療の機会が限られるために眼科腫瘍疾患に対する経験を積むことができず,確実な診断を行うことが困難となることがしばしば生じる.そのため後眼部腫瘍を疑う患者に遭遇した場合,視機能の良し悪しに関係なく,腫瘍専門施設に確定診断および治療を依頼するケースが多い.後眼部腫瘍のうち,悪性腫瘍は視機能低下のみならず患者の生命にかかわる危険性があるため,早期発見・早期治療が原則で,早急に腫瘍専門施設に患者を紹介するべきである.一方で,臨床所見のみで良性腫瘍と診断することができれば,視機能に影響を及ぼさない限り,わざわざ腫瘍専門施設に紹介せずとも自院での経過観察が可能である.後眼部腫瘍の見分け方として,①腫瘍の色調,②腫瘍の存在場所,③腫瘍の形態,④腫瘍随伴所見,の順に所見を追っていけば,おのずと腫瘍の診断を行うことができる.検眼鏡的所見,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyaninegreenangiography:IA),光干渉断層撮影(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),光干渉断層血管撮影(OCTangiogra-phy:OCTA),CT,MRI,Bモード超音波断層など検査機器の進歩により,高画質,高画角,高深達,さらに近年は血流までも非侵襲的かつ簡便に把握することが可能となってきた.本稿では,診療現場において後眼部腫瘍を疑った場合に,診断を行ううえでが困らないように診断の流れを提示し,そのうえでそれぞれの後眼部腫瘍の疾患概念,画像所見についてレビューを行った.また,画像所見については,当院で得られた画像を中心に提示し,さらにいくつかの後眼部腫瘍については,近年話題のOCTA所見を加えた.I診断および鑑別方法後眼部腫瘍に対する診断の流れを図1に示す.フローチャートのように,色調→存在場所→形状の順に診断していく.後眼部腫瘍を疑った場合,まず観察するポイントは腫瘍の色調である.腫瘍の色調により,赤色系腫瘍,白色系腫瘍,褐色系腫瘍の三つに分けることができる.赤色系腫瘍の場合,網膜表層にあれば網膜海綿状血管腫,網膜毛細血管腫,網膜血管増殖性腫瘍,網膜蔦状血管腫が鑑別にあがり,脈絡膜にあれば脈絡膜血管腫と診断することができる.網膜表層に存在する網膜赤色系腫瘍のうち,暗赤色かつ形状がぶどうの房状であれば網膜海綿状血管腫,赤色かつ塊状であれば網膜毛細血管腫もしくは網膜血管増殖性腫瘍,赤色かつ後極部にとぐろ状の太い血管を認めれば網膜蔦状血管腫を疑う.*HidetsuguMori&KanjiTakahashi:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕盛秀嗣:〒573-1191大阪府枚方市新町2-5-1関西医科大学眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(69)765ぶどうの房状網膜海綿状血管腫眼内悪性リンパ腫脈絡膜骨腫転移性脈絡膜腫瘍図1後眼部腫瘍の診断フローチャート図2網膜海綿状血管腫の画像所見a:眼底写真.黄斑部上方にぶどうの房状の血管瘤集簇と白色線維組織を認める.b:FA像.早期(左図)では腫瘍内血管への蛍光色素が流入遅延しており,中期.後期では血漿/血球分離像を認める.c:OCT像.腫瘍表層は高輝度の反射を示し,表層付近には大小不同の血管腔構造を認める.d:OCTA像.EnfaceOCTA画像では,ぶどうの房状に血管瘤が集簇し,cross-sectionalOCTA画像では,腫瘍血管内の血流が遅いことが描出されている.(文献2より引用)表1網膜毛細血管腫孤発性続発性全身疾患の合併なしあり血管芽腫(小脳,脊髄)褐色細胞腫,腎細胞癌,膵.胞など家族歴なし常染色体優性遺伝平均発症年齢36歳18歳発生数単発多発好発部位視神経乳頭,周辺部d図3網膜毛細血管腫の画像所見a:眼底写真.眼底周辺部に拡張・蛇行した流入・流出血管を伴う赤色腫瘤を認める.b:FA像.早期には流入・流出血管の拡張・蛇行を呈し,後期には腫瘍から旺盛な蛍光漏出を認める.c:OCT像.腫瘍表層は高反射を示し,腫瘍周囲には滲出性変化と考えられる網膜内浮腫を認める.d:EnfaceOCTA像.新鮮な網膜毛細血管種の場合,高輝度塊として描出(左図)される.一方で,退縮傾向にあるグリア増殖を伴う場合,血流豊富な細血管からなる高灌流病巣(右図)として認める.(文献19より引用)図4網膜血管増殖性腫瘍の画像所見a:眼底写真.眼底周辺部に橙赤色の隆起病変として観察され,腫瘍の流入・流出血管の拡張・蛇行は認められない.また,腫瘍から滲出性変化である網膜.離や硬性白斑,出血を認める.b:FA像.腫瘍の流入・流出血管の拡張・蛇行は認められない.さらに後期には血管腫からの強い蛍光漏出を認める.c:IA像.FA像と比較して,腫瘍血管を鮮明に検出可能である.(文献19より引用)図5網膜血管増殖性腫瘍の画像所見眼底写真(a)とFA像(b)ともに,拡張した動脈と静脈の直接吻合を視神経乳頭近傍に認める.(文献20より引用)abec超早期早期後期f網目状の腫瘍血管びまん性過蛍光multi-lakelikepatternd粗大な腫瘍血管びまん性過蛍光washout脈絡膜毛細血管板層脈絡膜層図6脈絡膜血管腫の画像所見a:眼底写真.左図:孤発性脈絡膜血管腫.視神経乳頭鼻上側に橙赤色の境界明瞭な腫瘤を認める.右図:びまん性脈絡膜血管腫.黄斑部直下にサーモンピンク色の境界不明瞭な腫瘤を認める.b:Bモード超音波断層像.音響透過性が良好な腫瘤として認められる.c:FA像.早期には網目状の腫瘍血管,びまん性過蛍光を認める.後期には血管腫全体に過蛍光と低蛍光が混在するmultilakelikepatternがみられる.d:IA像.FAと同様に早期に粗大な腫瘍血管とびまん性の過蛍光を認める.後期には血管腫全体の過蛍光が減少し,周辺部で過蛍光を呈するwashout現象を認める.e:OCT像.腫瘍表層には大小血管影を認め,深層は低反射となる.腫瘍が大きくなると,腫瘍の眼底前方への圧排により,CC反射の消失,RPEラインの不整,漿液性網膜.離,網膜浮腫,網膜下点状高反射を認める.高い腫瘍厚をもつ症例では,EDIモードでもChoroid-Sclera(C-S)junctionは判別不能である.f:OCTA像.腫瘍血管()を明瞭に検出することは困難である.これは海綿状血管腫の構造上,血流が遅いことが要因と考えられる.(文献19より引用)過性が良好であるが,脈絡膜悪性黒色腫は音響空胞を認める.・FA所見(図6c)19):超早期には網目状の腫瘍血管を認め,すみやかに腫瘍全体がびまん性過蛍光となる.後期にはRPE増生による低蛍光とRPE障害によるwindowdefect,漿液性網膜.離による蛍光貯留,強い漏出による過蛍光が混在するmultilakelikepatternがみられる.・IA所見(図6d)19):FAと同様に早期には網目状腫瘍血管,以降は網目状血管からのびまん性過蛍光を示す.そして,後期にはwashout現象(=血管腫全体の過蛍光が減少し,周辺部で過蛍光を呈する)を認める.・OCT(図6e)19):脈絡膜に生じる病変であるため,深部強調画像(enhanced-depthimaging:EDI)もしくはsweptsourceOCT(SS-OCT)による撮影が望ましい.腫瘍表層には大小の血管影を認め,深層は低反射となる.血管腫が大きくなると,血管腫による眼内への圧排により脈絡膜毛細血管板反射の消失,RPEラインの不明瞭化を認める.さらに,強くRPEが障害されている部位には漿液性網膜.離を認める.また,血管腫の丈が低い場合は強膜-脈絡膜の境界であるC-Sjunctionは判別可能だが,腫瘍高が高くなるとC-Sjunctionは不明瞭化する.・OCTA(図6f)19):海綿状血管腫であるために血流が遅く,腫瘍血管を明瞭に検出することは困難である.III白色系腫瘍1.網膜星状(膠)細胞腫a.疾患概念網膜内に存在するグリア細胞のうち,星状細胞が異常増殖する良性腫瘍である.McLean7)が1937年に報告して以来,国内外でも合わせて数十症例しか報告されていない非常に珍しい,10.20歳代の若年発症の疾患である.星状細胞は視神経乳頭.後局部に多く分布していることから,傍視神経乳頭または黄斑部に生じる.結節性硬化症や神経線維腫症などの母斑症に随伴することが多いが,孤発性に発生することもある.腫瘍が増大すると漿液性網膜.離や血管新生緑内障を引き起こすことがある.b.臨床所見・眼底所見(図7a):視神経乳頭.黄斑部にかけて,桑の実状の黄白色隆起性腫瘤として観察される.古い病変では石灰化を呈することもある.・Bモード超音波断層像:網膜表面に隆起性病変として観察され,増大した腫瘍の場合は周囲に漿液性網膜.離を認める.・FA所見(図7b):超早期では豊富な腫瘍血管を同定することができる.腫瘍の活動性が増すと,早期では腫瘍からの過蛍光,後期では蛍光漏出を認める.・IA所見(図7c):FA検査における蛍光漏出の影響が少ないために腫瘍血管を比較的明瞭に描出することができ,早期から後期まで低蛍光である.・MRI:T1強調画像で等信号,T2強調画像で低信号,ガドリウム造影では増強画像を認める.2.網膜芽細胞腫a.疾患概念13番染色体長腕にあるRB1遺伝子異常により発生する小児網膜悪性腫瘍である.15,000.23,000人の新生児に1人の割合で発症(年間発症数は70.80名)し,1歳までに41%,3歳までに89%,5歳までに95%と,就学前までに大半が診断8)されている.片眼発症が67.3%を占め平均21カ月,両眼発症が32.7%を占め平均8カ月で発見8)されている.片眼発症の15%,両眼発症のすべては遺伝性網膜芽細胞腫である.受診のきっかけの半数は白色瞳孔で,ついで猫目現象(17.1%,暗いところで瞳孔が光って見える),斜視(14.8%)8)である.腫瘍が眼球内に留まっている場合,5年生存率は95%以上で眼球温存率は約50%である.治療開始後も就学前までは再発の有無,片眼症例の場合は僚眼の眼底検査などの定期検査を受ける必要がある.b.臨床所見・細隙灯顕微鏡検査(図8a):水晶体後方に迫る白色腫瘤,つまり白色瞳孔として確認される.・眼底所見(図8b):網膜に石灰化を伴う白色隆起病変として確認され,腫瘍周囲の網膜血管の拡張・蛇行を伴う.さらに,硝子体播種があれば,硝子体腔内およ(75)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022771図7網膜星状(膠)細胞腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭上方に桑の実状の黄白色隆起性腫瘤を認める.b:FA像.超早期に腫瘍血管を認める.c:IA像.腫瘍は低蛍光のため,FA像と比較して腫瘍血管をより鮮明に検出可能である.図8網膜芽細胞腫の画像所見a:前眼部細隙灯顕微鏡写真.水晶体後方に迫る出血を伴う白色腫瘤を認める(白色瞳孔).b:眼底写真.網膜表面と硝子体に腫瘍播種と考えられる綿花状の小腫瘤塊を認める.c:Bモード超音波断層像.半球状の腫瘤内に石灰化()による音響陰影を認める.d:CT像.両眼内に石灰化を伴う充実性腫瘤を認める.e:MRI像.右眼球内に,T1強調画像ではやや高信号,T2強調画像では低信号の充実性腫瘤を認める.(eは文献21より引用)図9網膜細胞腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭鼻側に内部に石灰化を伴う透明感のある白色腫瘤()を認める.周囲にRPE変性()とRPE萎縮()を認める.b:Bモード超音波断層像.網膜表面に石灰化による高信号()および以降の音響陰影を認める.c:FA像.腫瘍血管が乏しく,蛍光漏出を認めない.周囲にはRPE変性による過蛍光()を認める.-図10眼内悪性リンパ腫の画像所見a:眼底写真.左図:黄斑部.耳下側に癒合傾向を伴う多発性のRPE下黄白色隆起病変を認める.右図:眼底にオーロラ状の硝子体混濁を認める.b:FA像.腫瘍自身は早期から後期まで低蛍光で,RPE障害がある部位はwindowdefectによる過蛍光を認める.c:IA像.ブロックによる多発性の低蛍光病変を認める.d:OCT像.RPE下に浸潤病巣を認める.e:MRI像.T2強調画像にて,複数の高輝度の頭蓋内病変()を認める.f図11脈絡膜骨腫の画像所見a:眼底写真.左図:黄斑部.視神経乳頭間に淡い黄白色の扁平病変を認める.右図:後極部内に腫瘍を認める.中心部は色素沈着を伴う脈絡膜新生血管()を認め,周囲に脱灰巣()および石灰病巣()を認める.b:Bモード超音波断層像.網膜表面に高反射領域と以降の音響陰影()を認める.c:FA像.後期になると,腫瘍部位の過蛍光()を認める.d:IA像.早期では豊富な腫瘍血管の同定()が可能となり,後期になるとFA像と同様に過蛍光()を呈する.e:OCT像.局所的な平板状の脈絡膜肥厚()として認められる.f:OCTA像.上図のenfaceOCTA像のように腫瘍内血管が豊富であることがわかる.g:CT像.両眼ともに後極部に高輝度な扁平病変()を認める.(gは文献22より引用)図12転移性脈絡膜腫瘍の画像所見a:眼底写真.左図:原発巣は肺小細胞癌で,色素沈着を伴う黄白色隆起病変()を認める.右図:原発巣は肝細胞癌で,赤色の隆起性病変()を認め,周囲は胞状の網膜.離を伴う.b:FA像.転移性腫瘍に一致した顆粒状過蛍光()を認める.c:OCT像.RPE未満に隆起性病変()を認め,一部に漿液性網膜.離()を認める.図13網膜色素上皮肥大の画像所見a:眼底写真.網膜耳側に扁平かつ境界明瞭な円形の黒褐色病変を認め,内部には脱色素斑()を伴うb:FA像.腫瘤は低蛍光を示し,RPE障害部位はwindowdefectによる過蛍光()を認める.c:IA像.FA像と同様に腫瘤は低蛍光()を示す.d:FAF像.腫瘤は低蛍光を示す.e:OCT像.網膜は菲薄化()する.図14網膜色素上皮過誤腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭近傍に強い色素ムラと色素沈着を伴う網膜の局所的肥厚として観察される.黄斑部下方には網膜皺襞を認める.b:FA像.腫瘤の色素沈着を伴う部位は低蛍光を示し,一方でRPE障害部位はwindowdefectによる過蛍光を認める.c:OCT像.網膜は病的肥厚を認め,網膜の層構造の消失を認める.図15網膜色素上皮腺腫の画像所見a:眼底写真.中心窩耳側に黒褐色の色素性腫瘤と周囲に網膜.離と網膜皺襞を認める.Cb:Bモード超音波断層像.網膜内の高反射腫瘤を認め,脈絡膜とは分離可能である.Cc:FA像.網膜血管から腫瘤への流入血管を認め,腫瘤の中心部は低蛍光を示し,周囲は漏出による過蛍光を認める.Cd:IA像.腫瘤は腫瘤は低蛍光を示す.Ce:FAF像.腫瘤は低蛍光を示す.Cf:OCT像.網膜の急峻な隆起を認め,表層は高反射を呈する.また,網膜牽引および硝子体腔に細胞を認める.(文献C23より引用)図16網膜色素上皮腺癌の画像所見a:眼底写真.ドーム状の黒褐色腫瘤()を認め,周囲に滲出性変化である硬性白斑を認める.Cb:FA像.腫瘍の栄養血管()が網膜である.さらに,腫瘍自身は強い過蛍光を認める.c:Bモード超音波断層像.ドーム状の網膜隆起性病変()を認める(脈絡膜隆起は認めない).d:MRI像.脈絡膜悪性黒色腫と同様の所見で,T1強調画像(左図)で高信号(),T2強調画像(右図)で低信号()を示す.==図17脈絡膜悪性黒色腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭下方に隆起性のある黒褐色腫瘤を認める.Cb:Bモード超音波断層像.マッシュルーム状充実性腫瘤および内部は音響空胞を認める.Cc:FA像.腫瘍自体は低蛍光を呈し,一部CRPE障害のためCwindowdefectによる過蛍光を認める.d:IA像.腫瘍自体は終始低蛍光を呈する.Ce:OCT像.脈絡膜隆起性病変を認め,表層は高反射像()を示す.Cf:MRI像.T1強調画像(上図)で高信号(),T2強調画像(下図)で低信号()を認める.=図18脈絡膜母斑の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭下方に境界がやや不鮮明な色素斑()を認める.b:IA像.終始低蛍光()を認める.c:OCT像.表層は高反射で,深部はshadowingを認める().図19視神経乳頭母斑の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭中央部に漆黒色腫瘤()を認める.腫瘍は乳頭鼻側を越え,隣接する脈絡膜に浸潤している.Cb:Bモード超音波断層像.視神経乳頭上に扁平な隆起性病変()を認める.Cc:FA像.視神経乳頭中央部の黒色色素部位はブロックされ,隣接する脈絡膜への浸潤を認める部位は後期に過蛍光を示した.Cd:OCTA像.網膜表層から脈絡膜毛細血管板に異常血管網として認める.