《第9回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科38(11):1330.1334,2021c機能は構造の後か?眼血流の立場から柴友明国際医療福祉大学成田病院眼科CIstheFunctionaftertheStructure?“FromtheStandpointofOcularBloodFlow”TomoakiShibaCDepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareNaritaHospitalCはじめに「構造」とは組織を成り立たせる仕組みを示し,「機能」とは全体における特定の役割を示す.眼科領域において構造と機能を考える際に,眼底における構造の指標は光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で得られる視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness:cpRNFLT)や眼底写真で得られる血管径などが一般的である.機能の評価は視力,視野,電気生理的検査などがあげられる.はたして本題である眼血流は機能を反映しているのであろうか?血流とは血管内における血液の流れであるが,血管・血流は以下の役割を担っていると考えられている.人間における血管の役割は,左心室からの脈動血流を波のない定常流として末梢の毛細血管に運搬することにある.加齢や動脈硬化により脈動は吸収されなくなり,毛細血管への血流は定常流から脈動流へ変化する1).すなわち全身循環動態において血流とは血管機能の表れであり,眼血流は末梢臓器である眼球における微小循環機能を示していると考えられる.レーザースペックルフローグラフィー(laserspeckle.owgaphy:LSFG)はわが国発の再現性良好で非侵襲的な眼底血流画像化装置であり,筆者らはCLSFGを用いて種々の臨床研究を行ってきた.本稿ではCLSFGにおける測定法を紹介し,機能と構造の関連にCcpRFNLTと眼血流,さらには眼血流の上位にある血流の源である心臓(心機能・形態)との関連を自験例で検討し迫りたいと考える.CILSFG測定法と評価項目LSFGの原理を簡潔に述べる.レーザーで生体表面を照明すると,スペックル現象とよばれる散乱光が干渉しランダムな斑点模様が生じる.このスペックルパターンは被照射物体に連動して変化する.LSFGでは被照射物体は赤血球をさし,このスペックル現象は,血球の動きに合わせて刻々と変化する.この像面にイメージセンサーを置き,斑点模様の時間変化速度を各点について計算し,マップ状に表示すると視神経乳頭,網脈絡膜の血流画像化が可能になる.実際の解析画面を図1に示す.実測画面に測定領域(ラバーバンド)を設定する(図1a).得られた血流指標はCLSFG特有のパラメータであるブレ率(meanblurrate:MBR)として表示され,血流量,血流速度を反映する2,3).図1bは測定C4秒間(2心拍以上,118フレーム)に測定されたCMBRの経時的変化を示している.実際の解析は,心拍に同調した測定時間内のMBR変動をC1心拍分に正規化した画面で行う(図1c).さらに視神経乳頭領域はC2階調化を行い,血管領域(Vessel),組織領域(Tissue)に分離することが可能である.また筆者らは,MBRの解析をさらに①心拍内においてMBRが維持される血流(定常流)を示すCMBR最低値(Mini-mum:Min-MBR),②脈動にあわせた変動成分のCMBR最高値(Maximum:Max-MBR),③平均CMBR(Average-MBR)に分割する方法を提唱し(図2),女性は男性より変動成分のCMax-MBRが高値で,加齢により定常流成分であるCMin-MBRが低下することを報告した4).CII構造と機能─眼血流の観点から緑内障の観点から考えると,網膜神経節細胞がC40%程度消失して初めて視野欠損として捉えられるという報告や5),近年では緑内障性視神経所見やCcpRNFLTの菲薄化を示すが静的視野検査で視野欠損を認めない状態,前視野緑内障という疾患概念も存在する6).このように視神経の構造からさらに下位に存在する網膜の機能(視野)を考えると,構造の変化が先んじる.一方で筆者らは,睡眠機能異常の代表的疾〔別刷請求先〕柴友明:〒286-8520千葉県成田市畑ヶ田C852国際医療福祉大学成田病院眼科Reprintrequests:TomoakiShiba,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareNaritaHospital,852Hatakeda,Narita,Chiba286-8520,JAPANC1330(92)図1LSFGの測定法a:測定領域(ラバーバンド)の設定.Cb:ラバーバンドにおける測定C4秒間(2心拍以上,118フレーム:横軸)におけるMBR(縦軸)の流れ.Cc:心拍に同調した測定時間内のCMBR変動(縦軸)をC1心拍分に正規化(横軸はフレーム),実際の解析はこの画面上で行う.患である睡眠時無呼吸症候群は鼻測CRNFLT菲薄化の独立した危険因子であることを報告した7).CIII正常視神経乳頭におけるcpRNFLTと眼血流の関連次に筆者らは視神経乳頭血流とCcpRNFLTの関連,さらに上位の構造,機能と眼血流の関連を検討した.対象はC2007.2010年に東邦大学医療センター佐倉病院循環器センターおよび眼科で検査を行い睡眠時無呼吸症候群とcpRNFLTの関連を報告した症例のうち7),同時にCLSFGを用いて眼血流測定を行った正常視神経乳頭C94症例である.内訳は男性C67,女性C27例で,平均年齢はC61.7C±9.6歳である.cpRNFLTはCStratusOCT(CarlZeiss社)を用いて視神経乳頭をCaverage,superior,nasal,temporal,inferiorのC5セクションに分けて測定した.LSFGは視神経乳頭領域において前述のCMax-MBR,Min-MBR,Average-MBRを組織成分(Tissue),血管成分(Vessel),全体(All)で検討した.cpRNFLTの各セクションの値に対する寄与因子の候補として全身因子に眼局所因子を加え,その関連性を単変量,多変量解析で検討した.LSFG全評価項目とCcpRNFLTの単変量解析の結果を表1に示す.AverageはCAverage-MBR-Allと,superiorはMin-MBR-Allと,temporalはCAverage-MBR-Tissueと,inferiorはCMax-MBR-Vessel,そしてCnasalはCAverage-図2変動成分の最高値(Max.MBR),定常流成分の最低値(Min.MBR),その平均値(Average.MBR)に注目した解析法MBR-Allともっとも強い正相関を認めた.次に有意な相関を認めた種々の全身,眼局所因子を交絡因子として加えた多変量解析の結果を表2に示す.cpRNFLTのCAverageに対してはCAverage-MBR-Allが,temporalに対してはCAver-age-MBR-Tissueが,inferiorに対してはCMax-MBR-Ves-selがそれぞれ独立した正の寄与因子として選択された.その他の粥状硬化度を示すCplaquescoreがCaverageに対して負の,bodyCmassindexがCtemporalに対しては正の,nasalに対しては負の独立した寄与因子として選択されたことは興表1MBR,cpRNFLT全セクションの単変量解析の結果目的変数(OCT)CAverageCSuperiorCTemporalCInferiorCNasalCAvgMBR-AllC0.320.0020.200.050.140.19C0.220.030.230.02AvgMBR-VesselC0.19C0.07C0.11C0.27C.0.120.24C0.260.010.18C0.08CMaxMBR-TissueC0.300.0040.14C0.180.36<0.0010.15C0.16C0.11C0.30CMinMBR-AllC0.310.0020.210.040.140.17C0.20C0.06C0.220.03MinMBR-VesselC0.17C0.11C0.12C0.25C.0.100.32C0.210.040.16C0.12CMinMBR-TissueC0.280.0070.18C0.070.39<0.0010.04C0.72C0.08C0.43CAvg:Average,MBR:meanblurrate.表2cpRNFLT各セクションに対する多変量解析の結果目的変数(OCT)CAverageCSuperiorCTemporalCInferiorCNasalC説明変数CbpCbpCbpCbpCbpC年齢C.0.16C0.14C性別(M=1,F=0)BodymassindexC0.300.001-0.240.02高血圧(+=1,.=0)C0.30C.0.10C0.37C.0.05C0.67CPlaquescoreC※-0.250.02C.0.19C0.09屈折値C0.13C0.210.230.03眼圧AvgMBR-All0.34<0.0010.19C0.06CAvgMBR-TissueC0.44<0.001MaxMBR-VesselC0.250.02MinMBR-All0.17C0.09Cr=0.43,p<0.01Cr=0.36,p=0.01Cr=0.50,p<0.01Cr=0.30,p=0.01Cr=0.40,Cp=0.001※Plaquescore:頸動脈粥状硬化度,MBR:meanblurrate.味深い結果であった.以上より,眼血流は正常眼におけるCcpRNFLT(全体,耳側.下方)と関連があることが明確になった.この結果は正常視神経乳頭では構造変化が機能(眼血流)より完全に先行する,すなわち構造→機能が完全には成立しないことを示唆していると考えた.CIV左房・左心室形態,左室機能と眼血流次に筆者らは眼血流に対する上位の影響因子を検討するため,心臓超音波検査で得られる心機能・構造(形態)に着目し検討を行った.心臓の機能・形態評価としては非侵襲的検査として心臓超音波検査が汎用されている.その評価法としては断層法や組織ドップラ法などがある.今回は心臓超音波検査法を機能・形態に分けて眼血流との関連を検討した.1)形態評価としては断層法を用いた中隔壁厚,後壁厚,大動脈径そして左房径を測定した.2)心機能は大きく収縮能と拡張能に分類される.収縮機能として断層法(bi-planeCmodi.edCSimpson法)8)を用いた左室駆出率(%)を測定した.拡張機能は組織ドップラ法を用いて検討した.組織ドップラ法とは血流信号の代わりに心臓の壁や弁からの信号をドップラ法により抽出する方法である9).急速流入期血流波形であるCE波と拡張期僧帽弁輪部速度波形の早期波形であるCe’を計測し,それらの比であるCE/e’ratioは左室拡張末期圧を反映すると考えられており,今回左室拡張機能として評価した9).対象はC2007.2012年に東邦大学医療センター佐倉病院循環器センター血表3心臓超音波検査各評価項目とMBR各セクションの単変量解析目的変数中隔壁厚後壁厚大動脈径左房径CEFCE/e’ratioCAvgMBR-VesselC.0.08C0.28C.0.06C0.41C.0.12C0.11-0.190.01.0.05C0.50C.0.03C0.73CMaxMBR-Tissue-0.160.04.0.15C0.06C.0.11C0.15C.0.02C0.78C.0.01C0.860.180.02MinMBR-All-0.210.007-0.210.006.0.10C0.21-0.250.0008.0.09C0.22C.0.07C0.39CMinMBR-VesselC.0.12C0.11C.0.11C0.14C.0.07C0.37-0.230.003.0.07C0.39C.0.05C0.55CMinMBR-Tissue-0.240.001-0.240.001.0.04C0.58C.0.12C0.11C.0.05C0.55C.0.13C0.08CMBR:meanblurrate.表4MBR各セクションに対する多変量解析の結果年齢0.06C0.43-0.160.048.0.07C0.35C性別(M=1,F=0)C.0.11C0.19C.0.02C0.77C.0.04C0.64C脈圧0.220.007BodymassindexC.0.14C0.08C心拍数0.06C0.440.200.010.160.03高血圧(+=1,-=0)C.0.14C0.08C.0.03C0.73-0.170.03屈折0.14C0.06C.0.11C0.13-0.160.03E/e’ratio0.170.04中隔壁厚-0.170.03-0.220.008-0.150.04左房径-0.170.03-0.160.04r=0.29,p=0.005Cr=0.29,p=0.002MBR:meanblurrate.管ドックおよび眼科で検査を行ったC173例である.内訳は男性C128例,女性C45例でC60.9C±11.0歳である.不整脈や心不全を有する症例は除外している.Average,MaxおよびMin-MBRに対する寄与因子を単変量,多変量解析で検討した.心臓超音波評価項目とCLSFG評価項目の単変量解析の結果を表3に示す.中隔壁厚はCAverage-MBR-All,Aver-age-MBR-Tissue,Max-MBR-Tissue,Min-MBR-AllおよびCMin-MBR-Tissueと有意な相関を認めた.後壁厚はAverage-MBR-All,Average-MBR-Tissue,Min-MBR-AllおよびCMin-MBR-Tissueと有意な相関を認めた.大動脈径はCMax-MBR-Allと左房径はCAverage-MBR-All,Average-MBR-Vessel,Max-MBR-All,Min-MBR-AllとMin-MBR-Vesselが有意な相関を示した.心機能評価におr=0.39,p=0.0001Cr=0.36,p=0.0003Cr=0.41,p<0.0001いては左室拡張障害を示すCE/EC’ratioとCMax-MBR-Tissueが有意な正相関を認めた.次に各形態・機能にもっとも相関が強かったCMBRセクション,およびCLSFGを用いた眼血流研究で汎用されているAverage-MBR-All,Tissueに対する多変量解析を全身・眼局所背景因子を加えて検討した(表4).Average-MBR-Allの独立した寄与因子として左房径が,Average-MBR-Tissueでは中隔壁厚,Max-MBR-Tissueでは脈圧,中隔壁厚およびCE/eC’ratioが,Min-MBR-Allに対しては年齢,心拍数および左房径が寄与因子として選択されCMin-MBR-Tissueに対しては心拍数,高血圧の合併,屈折および中隔壁厚が寄与因子として選択された.一方で,大動脈径はMax-MBR-Allは寄与因子として選択されなかった.今回血流の源となる心形態・機能と視神経乳頭血流の関連を検討した結果,視神経乳頭血流に対する独立した寄与因子として選択された項目は心臓形態を示す中隔壁厚および左房径,および左心室拡張機能の指標となるCE/e’ratioであった.本結果からCLSFGで得られる視神経乳頭血流には心臓の構造(形態)および機能両者から影響を受けている可能性が示唆された.しかしながら本対象は心不全を除外しているため今後より多数例での再検討が必要である.CVまとめ今回,眼血流研究の立場から機能が先か,構造が先かを考察した.視神経乳頭血流とCOCTによる視神経乳頭構造の検討では,正常視神経の段階で視神経乳頭血流とCcpRNFLTは関連があることが示唆された.本結果は同部位(視神経乳頭)を検討した場合,構造の変化が先とは言い切れないことを示していると考える.眼血流には血流の最上位である心臓の左室・左房構造,および左室拡張機能が関与していることが示された.今回の検討のみでは眼血流の最上位に存在するものが機能か構造かの判断には至ることはできなかった.しかしながら眼局所の構造・機能を評価する際は,心構造・機能や睡眠時無呼吸症候群など,さらに上位に介在する因子にも配慮する必要があると考える.本検討は東邦大学医療センター佐倉病院倫理委員会の承認(No2011-009)を取得し,ヘルシンキ宣言に則り患者本人の同意を得て行ったものである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)O’RourkeMF,HashimotoJ:Mechanicalfactorsinarterialaging:ACclinicalCperspective.CJCAmCCollCCardiolC50:C1-13,C20072)TakahashiCH,CSugiyamaCT,CTokushigeCetal:ComparisonCofCCD-equippedlaserspeckle.owgraphywithhydrogengasCclearanceCmethodCinCtheCmeasnrementCofCopticCnerveCheadmicrocirculationinrabbits.ExpEyeResC108:10-15,C20133)AizawaCN,CNittaCF,CKunikataCHCetal:LaserCspeckleCandChydrogengasclearancemeasurementsofopticnervecir-culationCinCalbinoCandCpigmentedCrabbitsCwithCorCwithoutCopticCdiscCatrophy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:7991-7996,C20144)KobayashiCT,CShibaCT,CKinoshitaCACetal:TheCin.uencesCofgenderandagingonopticnerveheadmicrocirculationinhealthyadults.SciRepC9:15636,C20195)QuigleyCHA,CDunkelbergerCGR,CGreenWR:RetinalCgan-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmolC107:453-464,C19896)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20187)ShibaCT,CTakahashiCM,CSatoCYCetal:RelationshipCbetweenCseverityCofCobstructiveCsleepCapneaCsyndromeCandretinalnerve.berlayerthickness.AmJOphthalmolC157:1202-1208,C20148)HelakJW,ReichekN:Quantitationofhumanleftventric-ularmassandvolumebytwo-dimensionalechocardiogra-phy:inCvitroCanatomicCvalidation.CCirculationC63:1398-1407,C19819)NaguehSF,AppletonCP,GillebertTCetal:Recommen-dationsfortheevaluationofleftventriculardiastolicfunc-tionCbyCechocardiography.CEurCJCEchocardiogrC10:165-193,C2009C***