各種超低加入ソフトコンタクトレンズの選択─ハードかソフトか,対象患者は?SelectionofUltra-LowAdditionContactLenses:HardorSoftType?─WhoAreTheTargetPatients?東原尚代*山岸景子**はじめに近年,デジタルデバイスが急速に普及し眼精疲労を訴える人が増えている.平成20年の厚生労働省の調査によると,VDT(visualdisplayterminal)作業に従事する労働者のうち身体的な疲労や症状をもつ割合は68.9%,そのうち眼の疲れや痛みを訴える割合が90.8%であった1).眼精疲労は眼の病的な疲労であり,休息しても容易に回復しないのが特徴で,患者は大きな苦痛を抱える.さらにスマートフォン(スマホ)の普及が低年齢化するに伴い,あらゆる世代においてデジタルデバイスによる視覚への影響が懸念される.本稿では,デジタルデバイスによる眼精疲労発症の背景と,超低加入度数のコンタクトレンズ(contactlens:CL)の適応と選択について考えてみる.I眼精疲労とは鈴村は眼精疲労の発症要因を外環境要因,内環境要因・心的要因,視器要因の三つに分類し,眼精疲労を三者のバランスの崩れとして説明した2).外環境要因はVDT作業,冷暖房などによる刺激をさし,内環境要因・心的要因は,人間関係や仕事へのプレッシャーなどさまざまなストレスをさす.視器要因は屈折や輻湊,眼位などの眼科的異常をさし,とくにデジタルデバイス使用時の眼精疲労には視器要因が大きくかかわわる.IIなぜデジタルデバイスで眼精疲労が起こるのか1.調節反応の酷使近見視をするときは毛様体筋が縮み,Zinn小帯がゆるんで水晶体が厚くなり屈折力を増す.パソコンではディスプレイとの視距離が約50cmと長く,視角も大きい.また,ディスプレイとキーボード,紙媒体の3点間を視線移動させるため,調節反応と調節解除を繰り返す.一方,スマホの視距離は約30cmと短い.視角が小さいために視線移動は少なくなるが,同じ視距離で画面を見続けてしまうために調節反応への負担はパソコン使用時より大きくなる.2.輻湊反応の持続近くのものを見るとき,焦点を合わせるために両眼の内直筋が収縮し,眼球は内転する.そのときの外眼筋への刺激によって瞳孔は小さくなる(輻湊反応).デジタルデバイスを長時間見る状況は,瞳孔括約筋と毛様体への負担が大きくなるとともに,輻湊眼位を持続させるために内眼筋あるいは外眼筋の作業量が増加して筋肉性の疲労が生じる.3.ドライアイUchinoらはオフィスワーカーを対象にした調査でドライアイ有病率が女性で75%,男性で60%と報告し*HisayoHigashihara:ひがしはら内科眼科クリニック**KeikoYamagishi:かしはら山岸眼科クリニック〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13ひがしはら内科眼科クリニック0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(27)1359表1レンズ選択の基準超低加入度SCL超低加入度・低加入度HCL使用経験から考えた適応CL未経験者◎△.×HCL経験者〇◎SCL経験者◎△.×特徴長所装用感がよい乱視矯正できる短所乱視矯正できない慣れるまで時間がかかる-表2代表的な超低加入度SCLのスペック2週間交換1日使い捨て商品名2WEEKメニコンCDUOバイオフィニティアクティブプライムワンデースマートフォーカスシードC1dayPureうるおいプラスCFLEX製造元メニコンクーパービジョンアイレCSEEDFDA分類グループCIIグループCIグループCIVグループCIV物性Dk値C34C128C28C30含水率72%48%58%58%製作範囲CBCC8.6.mmC8.6.mmC8.8.mmC8.8.mm度数-0.25D.-6.00D(0C.25Dステップ)-6.50D.-10.0D(0C.50Dステップ)5.00D.-6.00D(0C.25Dステップ)-6.50D.-10.0D(0C.50Dステップ)1.00D.-7.00D(0C.25Dステップ)5.00D.-10.0D(0C.25Dステップ)-10.50D.-12.0D(0C.50ステップ)直径C14.5CmmC14.0CmmC14.2CmmC14.2Cmm加入度数C0.50DC0.25DC0.50DC0.50Dその他ガイドマーク入りシリコーンハイドロゲル素材レギュラーパック(3C0枚)ミニパック(5枚),UVカット機能UVカット機能,3C2枚入り光学イメージ図株式会社メニコンより提供クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供株式会社アイレCHPより転載シード株式会社より提供パッケージ外観株式会社メニコンより提供クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供シード株式会社より提供各製品のスペック,特性をまとめた.(文献C7より引用)図1症例1の調節力検査結果(NIDEKTONOREFIIIにて計測)右眼は調節力がC5.71Dの調節力があるが(Ca),左眼はC0.24Dまで調節力は低下している(Cb).=-=--=-=---=---=-=-=-=-=-コンタクトレンズ装用中の自覚症状など,以下の質問にお答えください.各項目に回答または○をご記入ください.質問1:パソコンやスマートフォンはC1日何時間くらい使いますか?()時間くらい質問2:パソコンやスマートフォンの使用時,目の疲れはありますか?なし・あり(ありの場合,1日の何時くらいが多いですか?)(時頃)質問3:パソコンやスマートフォンの使用時,目の乾きはありますか?なし・あり(ありの場合,1日の何時くらいが多いですか?)(時頃)質問4:パソコンやスマートフォンの使用時,目のかすみはありますか?なし・あり(ありの場合,1日の何時くらいが多いですか?)(時頃)図2スマホ使用と眼の疲れに着目したCL問診表の一例2.503c/d12c/d18c/d空間周波数図3単焦点SCLと超低加入度SCL装用時のコントラスト感度の比較ひがしはら内科眼科クリニックで「シードC1dayPureうるおいプラスCFLEX」を処方したC8例〔平均年齢C27.6歳(15.41歳),男性C2例/女性C6例〕についてコントラスト感度を計測.CPD-6以上では細かくなる指標の認識ができるかの評価になるが,両群でコントラスト感度に有意差を認めなかった.=-=-コントラスト感度(対数)21.5=10.5表3超低加入度・低加入度HCLの概要超低加入度低加入度商品名サンコンマイルドCiアシストタイププレリーナCIIシードマルチフォーカルCOC2ノア製造元サンコンタクトレンズCSEEDCSEED物性Dk値*C95.1C156C156製作範囲CBC7.00.C8.50Cmm7.00.C8.60Cmm7.00.C8.60Cmm度数+5.0D.-20.0D(0C.25Dステップ)C±0.0D.-15.00D(0C.25Dステップ)C±0.0D.-15.00D(0C.25Dステップ)直径C8.8/9.0/9.2/9.4.mmC9.0/9.3/9.6.mmC9.0/9.3/9.6.mm加入度数C0.50DC1.00DC1.00Dその他中央の遠用ゾーンを広く設計周辺フロントベベルを薄く設計やわらかい素材中心部に遠くを見るゾーンを広く確保し,周辺部に向かって中間.近くを見るゾーンを配置光学イメージ図株式会社サンコンタクトレンズ社より提供シード株式会社CHPより転載シード株式会社CHPより転載*:×10-11(cm2/sec)・[mLO2/(mL・mmHg)]C9080706050403020100******VASスコア(点)■低加入度HCL■従来型遠近両用HCL図4従来型遠近両用HCLと超低加入度型HCLの比較縦軸のCVASスコア(visualCanalogscore)はC100点に近いほど自覚がよいことを示す.(文献C12より引用)夜間羞明眼の疲れ乾燥感近くの見え方遠くの見え方くもり装用感良を訴えて受診するC40歳以上のCHCL装用患者を診る機会は少なくないが,老視年齢になった患者にも単焦点HCLを処方し続けている現状がうかがわれる.表3に示すように,超低加入度CHCLの光学デザインの特徴は,中心部の遠用ゾーンが広く設計されており,安定した遠方の見え方が期待できる.筆者らはC2016年コンタクトレンズ学会総会において,老視患者(平均年齢C47.7歳)を対象として超低加入度CHCLと従来型の遠近両用CHCLの成績を比較したところ,超低加入度CHCLは従来型遠近両用CHCLに比べて遠くの見え方,くもり,夜間羞明の項目で有意に自覚症状が良好で,近くの見え方も従来型遠近両用CHCLと遜色ないことを報告した(図4).また,HCLのドロップアウト率も超低加入度で有意に低く,処方成功率も高い可能性が示唆された12).また,2017年のコンタクトレンズ学会総会において,症例数はC4例と少ないものの,単焦点CHCLから超低加入度CHCLに変更した際に見え方に慣れるまでC2週間.1カ月間を要したのに対し,超低加入度CHCLから従来型遠近両用CHCLに変更したときには全例で初日から見え方に慣れたことを報告した.超低加入度CHCLは初期老視だけでなく,老視年齢に達した患者にも有効で,かつ,老視がさらに進んだ場合に加入度の高い遠近両用CHCLへスムーズな移行を助けるツールとなる可能性がある.CX超低加入度SCLの応用(小児における近視進行抑制)デジタルデバイスの普及に伴い,世界で近視の人口が増えている13).とくにアジア人ではその傾向が顕著であり,アジア各国では国をあげて近視進行抑制に取り組んでいる.そのなかで,近年,さまざまなタイプの多焦点SCLにおいて近視進行抑制効果が確認されるようになってきた.Sankaridurgら14)は,レンズ光学部の中心3Cmm領域が通常の遠方矯正度数で,周辺にかけて徐々に加入度数が増し,最周辺部では+2.00Dまで加入された多焦点CSCLを使用して,7.14歳の中国人学童を対象としたC12カ月のトライアルを行ったところ,単焦点眼鏡の対照群よりも近視進行がC34%抑制され,眼軸長伸長もC33%抑制されたと報告した.+2.0D加入の多焦点CSCLでの近視進行抑制の研究が多い中,Fujikadoら15)は超低加入度の多焦点CSCL「メニコンCDUO」を用いて,10.16歳の日本人学童C34例において近視進行抑制効果を検討し,+0.50Dの低加入でもC47%の眼軸長伸長抑制効果を報告した.低加入度ゆえに高次収差の増加を抑えられるため,QOVを損ねないのがメリットと考えられるが,超低加入度CSCLがどのように小児の近視抑制に働くのか,今後さらなる検証が待たれる.おわりに超低加入度CCLはデジタルデバイスが普及した現代にはかかせないツールとなっている.眼精疲労や老視患者だけでなく,一見,自覚症状が強くない近業に従事する青年期にもよい適応があるため,眼科医が低加入度CCLの利点を理解して患者に適切な処方の選択肢を提供することが大切である.文献1)厚生労働省:平成C20年技術革新と労働に関する実態調査.VDT作業における身体的な疲労や症状をもつ労働者の割合2)鈴村昭弘:主訴からする眼精疲労の診断.眼科CMOOK,CNoC23,眼精疲労(鈴村昭弘編),p1-9,金原出版,19853)UchinoCM,CYokoiCN,CUchinoCYCetal:PrevalenceCofCdryCeyeCdiseaseCandCitsCriskCfactorsCinCvisualCdisplayCterminalusers:theCOsakaCstudy.CAmJOphthalmolC156:759-766,C20134)PortelloCJK,CRosen.eldCM,CChuCA:BlinkCrate,CincompleteCblinksCandCcomputerCvisionCsyndrome.COptomVisSci90:C482-487,C20135)ChuCCA,CRoawn.eldCM,CPortelloJK:Blinkpatterns:CreadingCfromCaCcomputerCscreenCversusChardCcopy.COptomVisSciC91:297-302,C20146)GowrisankaranCS,CSheedyCJE,CHayesJR:EyelidCsquintCresponseCtoCasthenopia-inducingCconditions.COptomVisSci84:611-619,C20077)東原尚代,山岸景子:デジタルデバイス時代.眼精疲労とコンタクトレンズ.あたらしい眼科C36:1237-1242,C20198)木下茂,不二門尚,東原尚代:眼精疲労に関するC2003年度全国アンケート調査報告.日本の眼科C75:1319-1336,C20049)梶田雅義,山崎愛,入道香澄ほか:調節緊張を緩和する新デザインコンタクトレンズの評価.日コレ誌C54:27-30,C201210)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科C30:1363-1368,C201311)MorganCPB,CWoodsCCA,CTranoudisCIGCetal:International(33)あたらしい眼科Vol.C37,No.C11,2020C1365