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治療前のステロイド点眼使用歴による真菌性角膜炎の検討

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):100.104,2022c治療前のステロイド点眼使用歴による真菌性角膜炎の検討河内さゆり*1坂根由梨*2鳥山浩二*3原祐子*2白石敦*2*1愛媛県立中央病院眼科*2愛媛大学医学部眼科学教室*3松山赤十字病院眼科CReviewofFungalKeratitisinPatientsWithandWithoutTopicalSteroidAdministrationBeforeInitiatingTreatmentSayuriKouchi1),YuriSakane2),KojiToriyama3),YukoHara2)andAtsushiShiraishi2)1)DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospitalC目的:真菌性角膜炎について,治療前のステロイド点眼使用の有無による傾向を検討する.方法:対象はC2008年1月.2019年C12月に愛媛大学医学部附属病院で治療した真菌性角膜炎C30例C30眼.抗真菌薬の治療開始前にステロイド点眼が使用されていた使用群と非使用群について,起炎菌,発病から抗真菌薬治療開始までの期間,治療開始から軽快までの期間,治療的角膜移植数を検討した.結果:非使用群はC11眼,使用群はC19眼で,使用群のC14眼は角膜炎発病前から,5眼は発病後から使用していた.起炎菌は非使用群が全例糸状菌で,使用群は酵母様真菌C8眼,糸状菌C11眼であった.治療開始までの期間は,非使用群C9.4±10.3日に比べ使用群はC39.1±61.4日と有意に遅かった(p=0.002).軽快までの期間も非使用群C36.7±32.7日,使用群C53.4±32.2日と使用群は長期化していた(p=0.041).治療的角膜移植数は,非使用群がC11眼中C2眼,使用群がC19眼中C5眼で有意差はなかったが,使用群のみでは発病後から使用の症例はC5眼中C4眼と治療的角膜移植に至る割合が有意に高かった(p=0.006).結論:治療開始前にステロイド点眼を使用している患者では,所見がマスクされることで診断や治療開始が遅れ,治療が長期化する可能性がある.真菌性角膜炎発病後からのステロイド点眼使用は,治療的角膜移植に至る率を高めるため注意が必要である.CPurpose:ToCexamineCtheCcharacteristicsCofCtheCfungalkeratitis(FK)inCpatientsCwithCandCwithoutCtopicalCste-roidCadministrationCbeforeCinitialCtreatment.CSubjectsandmethods:ThirtyCpatientsCdiagnosedCwithCFKCatCEhimeCUniversityHospitalbetweenJanuary2008toDecember2019werereviewedandclassi.edintotwogroups:ste-roidCusegroup(GroupS:n=19Cpatients)andCsteroidCnon-usegroup(GroupCN:n=11patients).CBetweenCtheCtwoCgroups,wecomparedthecausativefungi,theperiodfromFKonsetCtomedicaltreatment,theperiodfrominitiatingCtreatmentCtoCimprovement,CandCtheCnumberCofCtheCcasesCthatrequiredCpenetratingCkeratoplasty(PKP).CResults:InCGroupCS,CtheCcausativeCfungusCwasCyeast-likeCfungiCinC8CpatientsCandC.lamentousCfungiCinC11Cpatients,CwhileCinCGroupCN,CtheCcausativeCfungusCwasC.lamentousCfungiCinCallC11patients.CTheCperiodCfromCFKConsetCtoCmedicalCtreat-mentCandCfromCinitiatingCtreatmentCtoCimprovementCwereCbothCsigni.cantlyClongerCinCGroupCSCthanCinCGroupCN.CTwoCpatientsCinCGroupN(18.2%)andC5CpatientsCinCGroupS(26.3%)underwentCPKP.CConclusion:PatientswithFKCwhoCuseCtopicalCsteroidsCmayChaveCaClongerCtreatmentCperiodCdueCtoCdelayedCdiagnosisCandCtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(1):100.104,C2022〕Keywords:真菌性角膜炎,ステロイド,酵母様真菌,糸状菌.fungalkeratitis,topicalsteroid,yeast-likefungi,.lamentousfungi.Cはじめにる重篤な症例も少なくない.真菌性角膜炎の原因としては,真菌性角膜炎は難治性であり,治療期間が長期にわたるこ植物などによる外傷,ステロイド点眼の使用,コンタクトレとも多く,最終的に治療的角膜移植など手術加療を必要とすンズの装用などがおもなものとしてあげられる1.4).とくに〔別刷請求先〕河内さゆり:〒790-0024愛媛県松山市春日町C83愛媛県立中央病院眼科Reprintrequests:SayuriKouchi,DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital,83Kasugamachi,Matsuyama-city,Ehime790-0024,JAPANCステロイド点眼は真菌性角膜炎を発病後も診断の遅れや診断の誤りから使用を継続されているケースがあり,角膜炎の重篤化につながり,治療に難渋することがある.日本眼感染症学会による真菌性角膜炎に関する多施設共同研究では,予後不良因子としてステロイドの使用は有意ではなかった5)が,別の報告では糖尿病またはステロイド点眼使用歴のある症例では手術加療に至ることが多かったという報告6)や,ステロイド点眼が真菌性角膜炎の重症度に関する因子の一つであったという報告7)がなされている.そこで,今回筆者らは愛媛大学医学部附属病院(以下,当院)で検鏡または培養検査で真菌性角膜炎と診断され治療した症例について,治療が開始されるまでのステロイド点眼使用の有無を調査し,それぞれの背景,使用されたステロイド点眼の種類と使用期間,起炎菌,発病から治療開始までの期間,軽快までの期間,治療的角膜移植数について検討した.CI対象および方法2008年C1月.2019年12月に当院で入院加療を行った,検鏡または培養検査で真菌性角膜炎と診断されたC30例C30眼(男性C9眼,女性C21眼,平均年齢C72.4C±11.6歳)を対象とした.基本的な治療方針としては,糸状菌ではボリコナゾール点眼とナタマイシン眼軟膏を併用し,全身投与としてボリコナゾールもしくはイトリコナゾールの内服・静注を行った.難治例ではミカファンギン点眼やアムホテリシンCB点眼など他の抗真菌薬点眼も併用した.酵母様真菌ではボリコナゾール点眼とナタマイシン眼軟膏の併用,もしくはボリコナゾール点眼またはミカファンギン点眼を単独使用し,重症例では全身投与としてボリコナゾールもしくはイトリコナゾールの内服・静注を行った.治療初期はC1.2時間ごとの頻回点眼を行い,所見の改善に伴って点眼回数を漸減し,ほぼ鎮静化した段階でC4回まで点眼回数を減らし,再燃がないことを確認して投薬終了とした.検討方法は,対象を抗真菌薬による治療が開始されるまでステロイド点眼を使用していた群(使用群)と使用していなかった群(非使用群)のC2群に分け,発病の背景,使用していたステロイド点眼の種類と,病後からステロイド点眼を中止するまでの期間,起炎菌,発病から抗真菌薬治療開始までの期間,治療開始から軽快までの期間,治療的角膜移植に至った症例数について検討した.軽快の定義は,前述の当院での治療方針から,抗真菌薬点眼がすべてC4回以下に減量されるまでとし,治療的角膜移植に至った症例は除外とした.CII結果対象のうち,ステロイド点眼非使用群はC11眼,使用群は19眼であった.性別は非使用群が男性C4眼,女性C7眼,使用群は男性C5眼,女性C14眼であり,平均年齢は非使用群74.7±10.6歳,使用群C71.0C±12.2歳であった.ステロイド点眼使用群のうちC14眼は角膜炎発病前からステロイド点眼を使用しており,5眼は発病後から使用を開始していた.発病の背景としては,非使用群は農作業中の外傷がC8眼ともっとも多く,コンタクトレンズ装用がC2眼,兎眼がC1眼であった.使用群では角膜炎発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,角膜移植後がC2眼,他の内眼手術後がC4眼と術後点眼として使用されていた症例が多く,他は周辺部角膜潰瘍がC2眼,Stevens-Johnson症候群がC1眼,円板状角膜実質炎C1眼,ぶどう膜炎C1眼,角膜内皮炎C1眼,睫毛乱生1眼,麦粒腫C1眼であった.発病後から使用開始していたC5眼では,外傷後の消炎目的がC2眼,ヘルペス性角膜炎疑いでの処方がC2眼,周辺部角膜潰瘍疑いでの処方がC1眼であった(表1).また,発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,14眼中C13眼で抗菌薬点眼が併用されていた.使用されていたステロイド点眼の種類は,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼(以下,BM)がC12眼,0.1%フルオロメトロン点眼(以下,FM)がC7眼で,真菌性角膜炎を発病してからステロイド点眼使用を中止するまでの期間は平均C30.9C±60.5日であった(表2).起炎菌の検討では,非使用群は全例が糸状菌であり,Fusarium属がC7眼ともっとも多く,ついでCColletotrichum属がC3眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例がC1眼であった.使用群では発病前からステロイド点眼を使用していた症例ではCCandidaalbicansが5眼,Candidaparapsilosisが3眼,Fusarium属1眼,Alternaria属1眼,Penicillium属1眼,Paecilomyces属1眼,Beauveria属C1眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例C1眼で,約半数が酵母様真菌であった.一方,発病後からステロイド点眼を開始していた症例は5眼とも糸状菌であり,Fusarium属がC2眼,Alternaria属1眼,Aspergillus属C1眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例がC1眼であった(図1).発病から抗真菌薬治療が開始されるまでの期間は,非使用群が平均C9.4C±10.3日であったのに比べ,使用群では平均C39.1±61.4日と治療開始が有意に遅かった(p=0.002,Wil-coxon順位和検定).使用群のうち発病前から使用していた症例と発病後からの症例では有意差はみられなかった(p=0.199,Wilcoxon順位和検定)(表3).治療開始から軽快するまでの期間は,非使用群は平均C36.7±32.7日,使用群は平均C53.4C±32.2日で,使用群のほうが有意に軽快までの期間が長かった(p=0.041,Wilcoxon順位和検定).使用群のうち発病前から使用の症例と発病後から使用の症例では,軽快までの期間に有意差はみられなかった(p=0.894,Wilcoxon順位和検定)(表4).また,使用されたステロイドの種類による軽快までの期間は,BM群が平均C47.4C±12.8日,FM群が平均C60.3C±46.8日で有意差は表1発病の背景非使用群(11眼)使用群(19眼)発病前から使用(14眼)発病後から使用(5眼)農作業中の外傷8眼コンタクト関連2眼兎眼1眼角膜移植後2眼内眼手術後4眼周辺部角膜潰瘍2眼Stevens-Johnson症候群1眼円板状角膜実質炎1眼ぶどう膜炎1眼角膜内皮炎1眼睫毛乱生1眼麦粒腫1眼農作業中の外傷2眼ヘルペス角膜炎疑い2眼周辺部角膜潰瘍疑い1眼表2ステロイド点眼の種類と使用期間ステロイド点眼の種類発病から使用中止までの期間0.1%BM12眼C30.9±60.5日(1.266日)0.1%FM7眼BM:ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム,FM:フルオロメトロン.表3発病から治療開始までの期間ステロイド点眼治療開始までの期間p値非使用群(11眼)C9.4±10.3日(3.39日)C0.002使用群(19眼)C39.1±61.4日(5.266日)発病前から(14眼)C41.8±72.4日(5.266日)C0.199発病後から(5眼)C32.0±14.1日(11.47日)Wilcoxon順位和検定.非使用群使用群(発病前から)使用群(発病後から)糸状菌(検鏡)Beauveria属糸状菌(検鏡)1眼Pencillium属1眼1眼1眼1眼図1起炎菌起炎菌は非使用群では全例が糸状菌であった.使用群では,角膜炎発病前からステロイド点眼を使用していた症例は,半数以上が酵母様真菌であったが,発病後から使用を開始した症例は全例糸状菌であった.表4治療開始から軽快までの期間ステロイド点眼軽快までの期間p値非使用群(9眼)C36.7±32.7日(7.112日)使用群(14眼)C53.4±32.2日(18.148日)C0.041発病前から(13眼)C53.3±33.7日(18.148日)C0.894発病後から(1眼)55日Wilcoxon順位和検定.みられなかった(p=0.866,Wilcoxon順位和検定).軽快後に再度悪化し,治療を強化した症例はなかった.発病から抗真菌薬治療開始までの期間と,治療開始から軽快するまでの期間には有意な相関(r=0.54,p=0.012,Spearman順位相関係数)がみられ,治療開始が遅れるほど軽快まで時間がかかっていることが示された(図2).発病からステロイド点眼を中止するまでの期間と軽快までの期間には,相関はみられなかった(r=.0.12,p=0.704,Spear-man順位相関係数).治療的角膜移植に至ったケースは,非使用群ではC11眼中2眼(18.2%),使用群ではC19眼中C5眼(26.3%)であり,非使用群と使用群に有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定)(図3).起炎菌は全例が糸状菌であった.使用群のうち角膜炎発病後から使用開始した症例と発病前か治療開始から軽快まで(日)160140120100806040200*p=0.012,Spearman順位相関係数図2治療開始までと軽快までの期間発病から抗真菌薬治療開始までの期間と,治療開始から軽快するまでの期間には有意な相関がみられた(r=0.54,p=0.012,Spearman順位相関係数).非使用群と使用群の治療的角膜移植数使用群内の治療的角膜移植数非使用群使用群使用群(発病前から)使用群(発病後から)治療的移植あり治療的移植なし1眼(7.1%)1眼(20.0%)図3治療的角膜移植数非使用群と使用群において,治療的角膜移植に至った症例の割合に有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定).使用群内のみで検討すると,発病前から使用していた症例より発病後からステロイド点眼を開始した症例では,治療的角膜移植に至る割合が有意に高かった(p=0.006,Fisher正確検定).ら使用していた症例を比較すると,発病前から使用していた症例で治療的角膜移植に至ったのはC14眼中C1眼(7.1%)だったのに比し,発病後から使用開始した症例ではC5眼中C4眼(80.0%)と,治療的角膜移植に至った割合が有意に高かった(p=0.006,Fisher正確検定)(図3).使用されたステロイド点眼の種類による治療的角膜移植の割合は,BM群が12眼中3眼(25.0%),FM群が7眼中2眼(28.6%)で有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定).CIII考按真菌性角膜炎には大きく分けて糸状菌によるものと,酵母様真菌によるものがあり,おもな誘因として糸状菌によるものは植物などによる外傷が,酵母様真菌によるものはステロイド点眼の使用による免疫力低下があげられ,石橋らは前者を「農村型」,後者を「都市型」と区分して考えることを以前から提唱している8).今回の検討でもステロイド点眼非使用群と,使用群のうち発病後からステロイド点眼を始めた症例は,全例が糸状菌による感染であり,発病の背景としても農作業中の外傷が最多であった.一方,使用群のうち発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,起炎菌の半数以上が酵母様真菌と都市型の病型を示し,またC14眼中C13眼で抗菌薬点眼が併用されていた.酵母様真菌は眼表面の常在菌の一つであり,ステロイド点眼による免疫力低下に抗菌薬点眼による結膜.の菌叢の変化が重なって,感染を惹起した可能性が考えられた.発病から抗真菌薬での治療が開始されるまでの期間を,非使用群と使用群で比較すると,使用群のほうが有意に治療開始まで時間がかかっており,ステロイド点眼の影響で充血や浸潤などの炎症所見がマスクされたことが,診断を困難にして治療を遅らせた可能性が考えられる.また,治療開始から軽快までの期間も,非使用群より使用群のほうが有意に長く,発病から治療開始までの期間と治療開始から軽快までの期間には相関がみられた.ステロイドを使用すると数日でも菌糸の発育が著明になるという報告9)もあり,ステロイド点眼の影響による診断の遅れが,治療開始の遅れと菌糸の発育をもたらし,治療期間が長期化したのではないかと考えられた.治療的角膜移植に至った症例の割合は,非使用群と使用群で有意差はみられず,ステロイド点眼の使用の有無による差はなかった.しかし,非使用群は酵母様真菌の症例がC19眼中C8眼あり,酵母様真菌は糸状菌に比べ薬剤感受性が良好であるという報告10)や,今回治療的角膜移植に至った症例の起炎菌は全例とも糸状菌であったことから,起炎菌の違いにより予後に差が出にくくなった可能性がある.使用群内のみで検討すると,発病前からステロイド点眼を使用していた症例は半数以上が酵母様真菌による感染であり,治療的角膜移植はC14眼中C1眼のみであったのに比べ,発病後から使用開始されていた症例は全例が糸状菌感染で,治療的角膜移植が5眼中C4眼と非常に予後不良で有意差がみられた.この発病後からステロイド点眼を使用開始されていたC5眼のうちC2眼は,外傷後の消炎目的で処方されており,安易なステロイドの処方が重篤な結果をもたらしたといえる.残りのC3眼はヘルペス角膜炎や周辺部潰瘍の診断のもとに治療をされており,真菌性角膜炎が比較的まれで一般的な診療ではなじみの少ない疾患であり,診断が困難なことが一因であったと考えられる.治療がなかなか奏効しない,治療に抵抗する角膜炎では,真菌性角膜炎の可能性も考慮するべきであり,ステロイド点眼を処方する際は注意が必要である.使用されていたステロイド点眼の種類は,BMとCFMのC2種類があった.BMはステロイドの力価が高く眼内移行性もよい11)ため,ステロイド点眼としては強めの効果があると考えられており,一方CFMは角膜への浸透性が低い12)ことから比較的弱めであるといわれている.しかし,両群の軽快までの期間や治療的角膜移植に至った割合に有意差はなく,発病からステロイド点眼を中止するまでの期間と軽快までの期間にも相関はみられなかった.以上の結果から,ステロイドの種類や投与期間にかかわらず,ステロイド点眼の使用にはリスクがある可能性が示唆された.また,今回の検討では重症度の指標として,軽快までの期間と治療的角膜移植の有無を用いており,各症例の病巣の範囲や深度,所見,治療経過などの面からは検討していない.今後さらに詳しく分析していくことで,新たな知見が得られるかもしれない.結論として,植物などの外傷やステロイド点眼と抗菌薬点眼が併用されている患者の角膜炎では,真菌性角膜炎を常に意識しておく必要がある.とくにステロイド点眼を使用している場合では,炎症所見がマスクされることで診断と治療開始が遅れ,結果として治療期間が長期化する可能性がある.感染後からのステロイド点眼使用は,重篤化し治療的角膜移植に至る可能性を高めるため,感染が疑われる場合の安易なステロイド処方は厳に避けるべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GalarretaCDJ,CTuftCSJ,CRamsayCACetal:FungalCkeratitisCinLondon:microbiologicalandclinicalevaluation.CorneaC26:1082-1086,C20072)GargP:Fungal,CMycobacterial,CandCNocardiaCinfectionsandtheeye:anupdate.EyeC26:245-251,C20123)UrseaCR,CLindsayCAT,CFengCMTCetal:Non-traumaticCAlternariakeratomycosisinarigidgas-permeablecontactClenspatient.BrJOphthalmolC94:389-390,C20104)YildizEH,HareshA,HammersmithKMetal:AlternariaandCpaecilomycesCkeratitisCassociatedCwithCsoftCcontactClenswear.CorneaC29:564-568,C20105)井上幸次,大橋裕一,鈴木崇ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究.患者背景・臨床所見・治療・予後の現況.日眼会誌120:5-16,C20166)山本昇伯,石井美奈,門田遊ほか:久留米大学病院における真菌性角膜炎の検討.臨眼67:1879-1883,C20137)DanCJ,CZhouCQ,CZhaiCHCetal:ClinicalCanalysisCofCfungalCkeratitisinpatientswithandwithoutdiabetes.PLoSOneC13:e0196741,C2018)石橋康久,徳田和央,宮永嘉隆:角膜真菌症のC2病型.臨眼51:1447-1452,C19979)金井淳,沖坂重邦:角膜真菌症の病理.眼科C25:651-660,C198310)砂田淳子,浅利誠志,井上幸次ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究.真菌の同定と薬剤感受性検査について.日眼会誌120:17-27,C201611)WatsonCFG,CMcGheeCCN,CMidgleyCJMCetal:PenetrationCoftopicallyappliedbetamethasonesodiumphosphateintohumanaqueoushumor.EyeC4:603-606,C199012)KupfermanCA,CLeibowitzHM:PenetrationCofC.uoro-metholoneintothecorneaandaqueoushumor.ArchOph-thalmolC93:425-427,C1975***

在宅中心静脈栄養療法中に生じた壊死性強膜炎の1 例

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):95.99,2022c在宅中心静脈栄養療法中に生じた壊死性強膜炎の1例長野広実伴由利子多田香織水野暢人京都中部総合医療センター眼科CACaseofNecrotizingScleritisthatOccurredDuringHomeParenteralNutritionHiromiNagano,YurikoBan,KaoriTadaandNobuhitoMizunoCDepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenterC在宅中心静脈栄養療法中に生じた壊死性強膜炎のC1例を報告する.症例はC75歳,男性.左眼の眼脂,充血,上方の強膜潰瘍と前房内炎症があり,京都中部総合医療センターに紹介となった.初診時,左眼の視力低下,眼球結膜充血,上方の結膜欠損,強膜菲薄化,結膜下膿瘍があった.経口摂取不良に伴う低蛋白血症や貧血があり,全身状態は不良であった.中心静脈ポート周囲の発赤・腫脹があり,抜去後のカテーテル先端の培養検査から真菌が検出された.真菌感染を疑い,抗菌薬の内服・局所投与に加え,抗真菌薬の点滴を開始したが奏効せず,結膜下膿瘍が増悪したため,2回にわたり結膜切開洗浄を施行した.2回目の切開時の培養検査でコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出され,抗菌薬の点滴開始と抗菌薬の結膜下注射後より改善したことから,細菌感染が原因と考えられた.ただし,真菌感染を併発していた可能性もある.感染性強膜炎には,診断的・治療的意義のある外科的処置が有効である.CWehereindescribeacaseofnecrotizingscleritisthatoccurredduringhomeparenteralnutrition.A75-year-oldmalepresentedwithdischargeandhyperemiainhislefteye.HewasreferredtoourhospitalforscleralulcerandCin.ammationCinCtheCanteriorCchamber.CInitialCexaminationCrevealedClossCofCvisualCacuity,CscleralCthinning,CandCsubconjunctivalabscess,andhisoverallgeneralconditionwaspoor.Rednessandswellingwerenotedaroundtheinsertionsiteofthecentralvenousaccessdevice,andfungiweredetectedinthecathetertipculture.Despiteanti-fungaltreatment,therewasnoimprovement.Conjunctivalresectionandwashingwereperformedtwotimes.Coag-ulaseCnegativeCStaphylococciCwereCisolatedCfromCaCsubconjunctivalCsampleCofCtheCsecondCbiopsy,CandCin.ammationCwasresolvedafterintravenoustreatmentandsubconjunctivalinjectionofanantibiotic.Thus,wesuspectedabac-terialinfection,althoughthepossibilityofafungalinfection-relatedcomplicationcannotberuledout.Our.ndingsrevealedthatsurgicaltreatmentise.ectiveforinfectiousscleritis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(1):95.99,2022〕Keywords:壊死性強膜炎,感染性強膜炎,結膜切開,在宅中心静脈栄養療法,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.nec-rotizingscleritis,infectiousscleritis,conjunctivalincision,homeparenteralnutrition,coagulasenegativeStaphylococ-ci.Cはじめに強膜炎はおもな眼炎症疾患の一つであり,充血と眼痛を主症状とする1).関節リウマチや抗好中球細胞質抗体(antineu-trophilCcystoplasmicCantibody:ANCA)関連血管炎,再発性多発軟骨炎などの自己免疫疾患に伴って発症する非感染性強膜炎の頻度が高く,感染性強膜炎は強膜炎全体のC5.10%とまれである1,2).感染性強膜炎の背景には,翼状片の手術後や眼外傷歴,化学療法などの既往があることが多い2).また,臨床所見から前部強膜炎と後部強膜炎に分けられ,さらに前部強膜炎はびまん性,結節性,壊死性に分けられる3).そのなかで,壊死性強膜炎は強膜穿孔に至ることもあり,視力予後不良で重篤な病態である4).今回,筆者らは在宅中心静脈栄養療法中に生じた細菌感染による壊死性強膜炎の患者を経験し,診断に苦慮しながらも良好な転帰を得たので報告〔別刷請求先〕長野広実:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野C25京都中部総合医療センター眼科Reprintrequests:HiromiNagano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,25YagiUeno,Yagi-cho,Nantan,Kyoto629-0197,JAPANC図1左眼前眼部所見の経過a:初診時,眼球結膜充血,上部に結膜欠損があり,結膜欠損部の付着物を除去すると強膜が菲薄化していた(X日).b:抗真菌薬治療は奏効せず,前眼部所見は改善しなかった(X+15日).Cc:術中写真.結膜切開洗浄を施行した(X+20日).Cd:耳側の結膜下膿瘍の拡大と結膜融解が出現した(X+33日).Ce:抗菌薬治療が奏効し,前眼部の炎症所見は改善傾向となった(X+40日).Cf:強膜の菲薄化は広範囲に残存した(X+5カ月).する.CI症例患者:75歳,男性.主訴:左眼の眼脂,充血.既往歴:5年前に胃癌で胃全摘,3年前に絞扼性イレウスで小腸部分切除を施行され,3年前より在宅中心静脈栄養療法を受けていた.右眼のみC11年前に白内障手術を施行されているが,左眼の眼科手術歴や外傷歴はなかった.現病歴:XC.7日に左眼の充血,眼脂が出現し,近医眼科を受診した.ノルフロキサシン点眼が開始されたが改善なく,X.1日に前医へ紹介となった.左眼上部の強膜潰瘍と前房内炎症があり,埋め込み型中心静脈ポート(CVポート)からの血行性感染を疑われ,X日に京都中部総合医療センター(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.7(1.2C×sph+0.50D(cyl.1.25DAx90°),左眼C0.1(0.4C×sph+0.50D(cyl.2.5DAx70°),眼圧は右眼8mmHg,左眼3mmHgであった.左眼に眼球結膜充血,上部には結膜欠損があり,白色の付着物がみられた.付着物を除去したところ,強膜が菲薄化しており,結膜欠損部周囲の隆起を認めた(図1a).前房内の炎症細胞浮遊,硝子体混濁がみられたが,眼底に異常はなかった.右眼は眼内レンズ挿入眼で,前眼部および眼底に異常はなかった.発熱はなかったが,倦怠感の訴えが強く,経口摂取は不良であった.血液検査では総蛋白C6.5Cg/dl,Alb2.8Cg/dlと低蛋白血症があり,CRPはC3.3Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,050/μlと正常値であった.また,赤血球数C295C×104/μL,Hb9.9Cg/dlと貧血を呈していた.Cb-Dグルカンは陰性であった.経過:X日よりモキシフロキサシン点眼,セフメノキシム点眼,0.1%フルオロメトロン点眼各C6回/日,オフロキサシン軟膏1回/日を開始した.左胸部のCCVポート周囲の発赤,腫脹があったため,当院の外科に紹介したところ,感染が疑われ,翌日入院となり,CVポート交換が施行された.初診時に採取した眼脂の培養検査は陰性であったが,CVカテーテル先端の培養検査でCTrichosporumが検出され,外科でミカファンギンC150mg/日の点滴とメトロニダゾールC250Cmg×4錠,分C4の内服が開始された.当科でも抗真菌治療として,ミカファンギン点眼C4回/日とピマリシン眼軟膏4回/日を追加した.X+5日目に眼内移行性を考慮し,ミカファンギン点滴をアムホテリシンCB点滴C150Cmg/日に変更した.しかし,前眼部所見は改善なく(図1b),硝子体混濁の増悪があり,網膜に白色病変が出現したため(図2),X+20日目に結膜切開洗浄を施行した.強膜菲薄部周辺の隆起部を切開し,結膜下の組織を採取後,6倍希釈したポリビニルアルコールヨウ素(PA・ヨード)点眼・洗眼液で菲薄部および隆起部の結膜下を洗浄した(図1c).病理組織検査では,ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)で好中球,形質細胞浸潤を伴う肉芽組織の形成を認めた.血管炎や類上皮肉芽種の所見はなかった.PAS染色で真菌やアメーバは検出されなかった(図3).形質細胞浸潤があったため,IgG4染色も行ったが陰性であった.著明な好中球浸潤があったことから感染が疑われたが,培養検査は細菌・真菌ともに陰性であった.X+20日目に行った免疫血清学的検査では,抗核抗体はC40倍未満と陰性だったが,リウマチ因子はC72CIU/mlと上昇しており,血清補体価もC12.0CCH50/ml以下に低下していた.しかし,膠原病を疑う全身症状や既往はなく,膠原病の合併は否定的と考えた.抗真菌治療の効果が乏しかったため,X+23日目にアムホテリシンCB点滴を中止し,メロペネム点滴C0.5CgC×2/日を開始した.X+26日目にC38.3℃の発熱がみられたため,外科でミカファンギン点滴C150Cmg/日が再開され,バンコマイシン点滴C600CmgC×2/日が追加された.同日施行の血液培養検査は陰性であったが,再度カテーテル感染が疑われたため,X+29日目にCCVポートが抜去され,4日後に熱型は改善した.この際のCCVカテーテル先端の培養検査も陰性であった.その頃から前房内炎症,結膜充血は軽快したが,耳側の結膜下膿瘍の拡大と結膜融解がみられた(図1d)ため,X+34日目に再度,結膜切開排膿を行った.その際,検体の採取のほか,セファゾリンC0.1Cgの結膜下注射とCPA・ヨードによる洗浄も施行した.病理組織検査は前回と同様の結果であったが,培養検査で初めてコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出された.使用していた抗菌薬すべてにおいて,薬剤感受性は良好であった.その後,抗菌薬治療を継続したところ,前眼部炎症所見は改善し(図1e),網膜の白色病変も消失した.点眼治療のみとなり,X+43日目に退院となった.外来で徐々に点眼を漸減した.強膜の菲薄化は広範囲に残存しているものの(図1f),X+5カ月後には硝子体混濁はほぼ消失し,左眼矯正視力も(1.0)まで改善した.CII考按強膜炎の治療には非感染性か感染性の鑑別が重要で,さらに,感染性であれば病原体は何であるかを同定する必要がある.本症例では,CVカテーテル先端の培養検査結果からTrichosporumが検出されたため,まず真菌感染を疑ったが,抗真菌治療の効果が乏しく,初診時の眼脂やC1回目の結膜切開時の培養で真菌・細菌ともに菌体は検出されなかったため,診断に苦慮した.抗真菌薬治療から抗菌薬治療へ転換することで改善傾向となった経過(図4)と,結膜切開時の病図2X+19日目の眼底写真硝子体混濁が増悪し,網膜に白色病変(→)が出現した.図3結膜切開時(1回目)の病理組織検査HE染色で,好中球,形質細胞浸潤を伴う肉芽組織の形成を認めた.血管炎や類上皮肉芽種の所見はなかった.PAS染色で真菌やアメーバは検出されなかった.図4治療経過のまとめメロペネム点滴の開始,セファゾリンの結膜下注射後から視力が改善傾向となっている.理組織検査で好中球浸潤が著明であったこと,2回目の結膜切開時の培養検査でコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出されたことを踏まえて,最終的に細菌感染の診断に至った.しかし,CVカテーテル先端からは真菌が検出されており,発熱があったこと,硝子体混濁や網膜の白色病変の出現があったことから,真菌性眼内炎を併発していた可能性は否定できない.厚見ら5),馬郡ら6)は,術後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎の症例を報告している.充血,結膜下の膿瘍病巣や強膜菲薄化といった所見が本症例と類似していたが,緑膿菌感染に特徴的な病巣部のCcalci.cationplaqueは認めず,培養検査で緑膿菌が検出されることもなかった.また,当院初診時の眼脂培養検査やC1回目の結膜切開時の培養検査で菌体が検出されなかったのは,すでに抗真菌薬,抗菌薬の全身投与がされていたことも一因として考えられる.感染性強膜炎は,強膜層の膠原線維が強固に結合していることで抗菌薬の浸透が悪く,病原体が強膜内層に長期間留まるため,管理が困難とされている7).そのため,治療には抗菌薬点眼や抗菌薬の病巣部への結膜下注射などの局所的治療と全身的な抗菌薬投与に加えて,外科的処置による病変部強膜の開放と抗菌薬を混ぜた生理食塩水や希釈したポビドンヨードでの洗浄が推奨されている5,8).外科的処置により抗菌薬の浸透性が上がり,また病原体自体を減らす効果がある.同時に生検を施行できるため,診断的役割もある.強膜穿孔のリスクもある侵襲的な処置であるため,本症例では抗真菌薬による治療経過を観察したあとの施行となったが,診断の補助となり,結果的に良好な転機をもたらした.過去の報告では,感染性強膜炎の診断目的に強膜生検でのPCR検査を用いている症例がある9).PCR検査はウイルスなどのスクリーニングだけでなく,細菌と真菌のそれぞれに特有のCDNA配列(細菌C16CSrRNA,真菌C18CS/28CSrRNA)に対する定量的CPCRを行うことで,細菌または真菌の感染の有無を証明できる10).今回は実施しなかったが,PCR検査を用いることで,細菌性か真菌性かを鑑別でき,より早期に有効な治療を選択できた可能性もある.感染性強膜炎の危険因子として,翼状片,白内障などの手術,マイトマイシンCCの使用,異物・植物・土壌の混入などの眼外傷,化学療法や後天性免疫不全症候群に伴う免疫抑制状態があげられる2).本症例では患眼の手術歴や外傷歴はなかったが,経口摂取不良や低蛋白血症をきたしており,低栄養状態であった.蛋白質・エネルギー低栄養(proteinCenergymalnutriton:PEM)では,一次および二次リンパ系器官の萎縮,Tリンパ球の増殖能の低下が起こり,おもに細胞性免疫の機能が低下することで,感染症の発生頻度が高くなるとされている11).本症例では,低栄養による免疫機能の低下が感染リスクとなり,健常人では病原性を示さない弱毒菌であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が感染を引き起こしたと考えられる.全身状態の改善にともない経口摂取量が増加した結果,低栄養状態が是正され,強膜炎の改善へとつながった.感染性強膜炎では,単巣性・多巣性の強膜膿瘍が結膜下に黄色がかった結節として現れ,角膜輪部に沿って弧状に広がる特徴がある.一部の患者では強膜が菲薄化し,消炎後に感染拡大の軌跡を示す黒色の帯が確認される2).本症例でも,上部に同様の強膜菲薄化が残存しており,脆弱性があるため,今後も外傷や感染に注意が必要である.今回の経験から,中心静脈栄養療法を受けている患者では低栄養状態に伴う感染リスクがあること,また感染性強膜炎において,診断と治療の両方の役割を果たす外科的処置が有効であることを実感した.診断が困難で,現行の治療が奏効しない場合は,治療方針の転換が診断につながる可能性がある.文献1)平岡美紀:強膜炎の診断.眼科C60:669-674,C20182)RamenadenCER,CRaijiVR:ClinicalCcharacteristicsCandCvisualCoutcomesCinCinfectiousscleritis:aCreview.CClinCOphthalmolC7:2113-2122,C20133)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepiscleritis.CBrJOphthalmolC60:163-191,C19764)Sainz-de-la-MazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:ClinicalCcharacteristicsCofCaClargeCcohortCofCpatientsCwithCscleritisCandCepiscleritis.COphthalmologyC119:43-50,C20125)厚見知甫,明石梓,下山剛ほか:病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎のC2例.あたらしい眼科C36:1312-1316,C20196)馬郡幹也,戸所大輔,岸章治ほか:翼状片手術のC30年後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科C34:726-729,C20177)HsiaoCCH,CChenCJJ,CHuangCSCCetal:IntrascleralCdissemi-nationCofCinfectiousCscleritisCfollowingCpterygiumCexcision.CBrJOphthalmolC82:29-34,C19988)LinCCP,CShihCMH,CTsaiCMCCetal:ClinicalCexperiencesCofCinfectiousCscleralulceration:aCcomplicationCofCpterygiumCoperation.BrJOphthalmolC81:980-983,C19979)AgarwalM,PatnaikG,SanghviKetal:Clinicopathologi-cal,CmicrobiologicalCandCpolymeraseCchainCreactionCstudyCinCaCcaseCofCNocardiaCscleritis.COculCImmunolCIn.amm,2020.Cdoi:10.1080/09273948.2020.177029910)SugitaCS,COgawaCM,CShimizuCNCetal:UseCofCaCcompre-hensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularCinfectiousCdiseases.COphthalmologyC120:1761-1768,C201311)MarcosCA,CNovaCE,CMonteroCACetal:ChangesCinCtheCimmuneCsystemCareCconditionedCbyCnutrition.CEurCJCClinCNutrC57:S66-S69,C2003***

基礎研究コラム:56.視神経炎におけるグリア細胞の役割

2022年1月31日 月曜日

視神経炎におけるグリア細胞の役割NMOSDと抗MOG抗体陽性視神経炎近年,視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitisopticaspectrumdisorder:NMOSD)における病態の理解が進み,さらには抗体製剤開発の勃興により,NMOSDの一病型である抗アクアポリンC4抗体陽性CNMOSDに対しての新規の製剤が登場しました.その結果,この病型の再発が強く抑制されるようになりました.一方でミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelinColigodendrocyteCglycoprotein:MOG)抗体関連疾患(anti-MOG-antibodyCassociatedCdisor-ders:MOGAD)における視神経炎に関しては,病態の理解や病勢の制御に向けての研究が進められていますが,ステロイドや免疫抑制薬以外での新規の治療薬はありません.眼科領域におけるMOGAD日常診療においてCMOG抗体陽性の視神経炎に遭遇することはまれです.この疾患は若年齡に多い,両眼性に出現しやすい,発作を繰り返しやすいなどの特徴があり,視力の回復の悪い例もあります.MOG抗体陽性の視神経炎に対しては,そのモデルマウスが考案されています.2012年,東京医科大学のCMatsunagaらのグループはCMOG投与後のマウスで自己免疫性の脳脊髄炎が発生することを示し,同マウスにおいて視機能が障害されること明らかにしました2).このマウスでは,投与後C7日目の視神経において,マイクログリアの浸潤とその活性化が観察され,さらにはCCD3陽性のCT細胞の浸潤が生じていました.筆者らの検討では,MOG投与後17日目で自己免疫性の脳脊髄炎が最大となったマウス視神経において同様の所見を認める一方で,同部位でのアストロサイトの活性化も確認されました(図1).過去に報告されたMOG抗体陽性患者からの脳標本の検討として,脳軟膜における血管周囲へのCCD3陽性CT細胞の浸潤,マイクログリアの浸潤が確認されており,上述したマウスの所見はこうした組織像に一致します.ヒトにおいて,これらの所見以外にも補体CC9neo成分の陽性化やアストロサイトの活性化なども確認されております.これらの結果は,グリア細胞の活性化がCMOG視神経炎の病態形成に深く関与していることを示唆するものです.一方で,筆者らはこれまでにマイクログリアの抑制効果についての研究も行ってきました.マイクログリアの抑制に用いたのは抗CCSF-1R阻害薬ですが,この薬剤は網膜,視神経における定住型のマイクログリアを消滅させることが可能向井亮群馬大学大学院医学系研究科眼科学講座です.Okunukiらは実験的ぶどう膜炎モデルにおいて,マイクログリアの抑制がその疾患の病態を軽減する作用を報告しました3).今後の展望こうした背景のなかで,筆者らはマイクログリアをターゲットとした新規の治療法をめざし,MOGAD,ひいては視神経炎全般に対し,グリアの役割について明らかにするとともに,マイクログリアの抑制効果について検討しています.マイクログリアの脳内での役割は多岐に渡ります.炎症惹起の起点としてのみではなく,シナプスの形成にも深くかかわり,さらには死細胞の除去,アストロサイトとの相互作用,炎症制御にもかかわっていることが知られています.MOGADにおいても,アストロサイトやCT細胞を含めたグリアと免疫細胞の連携についての研究がますます重要になってくると思われます.文献1)HoftbergerR,GuoY,FlanaganEetal:ThepathologyofcentralCnervousCsystemCin.ammatoryCdemyelinatingCdis-easeCaccompanyingCmyelinColigodendrocyteCglycoproteinCautoantibody.ActaNeuropathol139:875-892,C20202)MatsunagaCY,CKezukaCT,CAnCXCetal:VisualCfunctionalCandChistopathologicalCcorrelationCinCexperimentalCautoim-muneopticneuritis.InvestOphthalmolVisSci53:6964-6971,C20123)OkunukiY,MukaiR,NakaoTetal:Retinalmicrogliaini-tiateneuroin.ammationinocularautoimmunity.ProcNatlAcadSciUSA116:9989-9998,C2019図1マウスの視神経のGFAP(赤)およびDAPI(青)による染色像左:コントロール,右:MOG投与後C17日目.17日目の視神経においてアストロサイトが強く活性化している.(87)あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C870910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:224.浅前房の緑内障眼に対する core vitrectomy(初級編)

2022年1月31日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載224224浅前房の緑内障眼に対するcorevitrectomy(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに近年,急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangleclosureglaucoma)および急性原発閉塞隅角症(acuteCprimaryangleclosure)では,レーザー周辺虹彩切開よりも白内障手術を第一選択とするケースが増加している.この場合,高眼圧と浅前房のために白内障手術時の前房容積確保が困難で,前.をはじめとする前房内操作の難易度が高くなり,角膜内皮傷害も大きくなりがちである.また,膨隆白内障による高眼圧眼でも同様である.このような症例に対してCcorevitrectomyにより眼圧を低下させ,前房形成を容易にする術式の有用性は以前より報告されている1,2).C●症例提示59歳,男性.片眼の膨隆白内障,浅前房,高眼圧,虹彩後癒着,虹彩ルベオ-シスを認めた.まず白内障手術を施行したが,前房が浅く高眼圧のため,粘弾性物質を注入しても切開創から漏出し,前房形成が困難であった(図1)ため,25Gトロカールを上耳側に装着し,Ccorevitrectomyで眼圧を低下させた(図2).その後は前房形成が容易となり,連続円形切.(continuouscur-vilinearcapsulorrhexis:CCC)(図3)や超音波水晶体乳化吸引術(図4)が円滑に施行できた.この症例では眼底に陳旧性の網膜中心静脈閉塞症を認め,それに起因する血管新生緑内障と膨隆白内障による閉塞隅角緑内障が合併していた.硝子体手術で眼内の出血を除去し,眼内汎網膜光凝固術を施行して手術を終了した.C●Corevitrectomyの有用性Corevitrectomyの方法としては,トロカールをC1カ所設置し,硝子体カッターを硝子体腔中央部に挿入し,もう片方の手で眼圧をチェックしながらConeportで硝子体切除を行うことが多い.白内障や硝子体混濁があると盲目的な操作となり,硝子体手術に慣れた術者でないとやや抵抗感はあるが,本術式での合併症はきわめて少ない.本法は前述した浅前房の緑内障眼,膨隆白内障に(85)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)高眼圧と浅前房のため,粘弾性物質が漏出し前房確保が困難であった.図2術中所見(2)25Gトロカールを上耳側に装着し,Ccorevitrectomyで眼圧を下降させた.図3術中所見(3)前房確保が容易となりCCCCが容易に施行できた.図4術中所見(4)超音波水晶体乳化吸引術も同様に容易に施行できた.よる閉塞隅角緑内障のほか,悪性緑内障,.uidCmisdi-rectionCsyndrome3),強膜バックリング手術時のバックル内陥容積確保4)などにも応用できる.文献1)家木良彰,田中康裕:急性緑内障発作に対するCcorevitrec-tomy併用超音波白内障手術成績.臨眼60:335-339,C20062)DadaCT,CKumarCS,CGadiaCRCetal:SuturelessCsingle-portCtransconjunctivalCparsCplanaClimitedCvitrectomyCcombinedCwithphacoemulsi.cationformanagementofphacomorphicCglaucoma.JCataractRefractSurg33:951-954,C20073)GrzybowskiCA,CKanclerzP:AcuteCandCchronicC.uidCmis-directionsyndrome:pathophysiologyCandCtreatment.CGraefesArchClinExpOphthalmol256:135-154,C20184)池田恒彦,田野保雄:強膜バックリングのための部分硝子体切除術.眼科手術1:305-308,C1988あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C85

考える手術:1.裂孔原性網膜剝離への硝子体手術

2022年1月31日 月曜日

考える手術①監修松井良諭・奥村直毅裂孔原性網膜.離への硝子体手術松井良諭三重大学大学院医学研究科臨床医学系講座眼科学約100年前にJulesGoninは,「網膜.離治療の原則はすべての裂孔の閉鎖である」また「裂孔があっても同時に硝子体による牽引がなければ網膜.離は発症しない」と報告しています.わが国の網膜.離患者の多くは50.60歳代で,その原因の多くは後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)に伴う裂孔原性網膜.離であり,硝子体切除による硝子体網膜牽引の除去は,合理的な治療といえます.これらの症例の硝子体郭清のポイントは,はじめに広角観察システムを使用せず灌流が安定するまで前部硝子切除がよりスムーズになります.原因裂孔にかかる牽引をある程度解除したのち,原因裂孔から粘性の高い網膜下液を一塊に吸引して灌流液と置換します..離網膜の丈を下げ,網膜の誤吸引のリスクを減らし,粘性を下げることで術後の網膜下液の吸収促進を期待できます.周辺部硝子体切除では非.離部位から.離領域へと連続的に進めていくと安全で効率的です..離網膜の挙動が大きい場合は無理をせず,液体パーフルオロカーボン(liquidperfulorocarbon:PFCL)を注入し,周辺部硝子体を切除します.原因裂孔の周辺側の硝子体による牽引が網膜.離の成因ですので,この部位の処理が手術の成否を分けるポイントです.PVDの辺縁を確認し,強膜圧迫を適宜併用して周辺部へとPVDを拡大します.硝子体癒着が強固で後部硝子体.離を周辺に拡大するのがむずかしい場合は,可能な限りshavingします.また,非.離網膜の裂孔,格子状変性,さらにはorabayやretinaltuftsを見逃さず,それらの後極側や周辺側の硝子体も過不足なく切除しておくことが大切です.聞き手:白内障手術を同時にする場合の工夫はあります彩捕獲が生じやすくなります.このため,円形連続切.か?(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)は必ず松井:通常の白内障手術と異なることは,1)白内障手レンズの光学部が完全に覆われるような大きさにし,偏術から連続して硝子体手術に移行する,そして2)タン心のないように心がけています.また,硝子体手術を行ポナーデ物質を入れるという2点です.眼内タンポナーう際の視認性を最大限に確保するため,白内障手術の主デ物質の影響で眼内レンズの偏位,収差の増大そして虹創口に負担をかけない操作を心がけています.眼内レン(83)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022830910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術ズ挿入時には創口を十分に広くして挿入し,ハイドレーションによる創閉鎖は避けるなどの工夫をしています.眼内レンズは,基本的に硝子体手術を始める前に挿入しています.後極用の非接触レンズで観察する際に眼内レンズを先に入れておかないと,眼内光学系の屈折力が足りず立体感の乏しい術野となるというのが理由です.眼内レンズのエッジ部分での視認性について気になる先生がおられるかと思いますが,眼球を傾けずにwideviewingsystemで広角化しながら硝子体手術をすることで直径が6mmの眼内レンズを用いても光学部で手術可能で,周辺部の見え方もあまり問題にはなりません.聞き手:液体パーフルオロカーボン(PFCL)の使い方に自信がないという声を聞くことがありますが.松井:PFCLの使い方で困っている先生方は多いかと思いますので図1を使って整理します.①胞状網膜.離がアーケード内に及ぶ症例では,黄斑部の後部硝子体皮質を除去し,PVDをある程度拡大したのち,硝子体腔にPFCLを注入します.原因裂孔の後極縁あたりまで入れます.PFCLの重みにより.離網膜を安定させ,.離網膜の硝子体皮質の.離操作,PVDの拡張が容易となります.また,周辺部硝子体切除が安全にできます.十分に原因裂孔の硝子体切除が完成したら,原因裂孔から網膜下液を吸引しながらPFCLを原因裂孔の周辺縁より周辺まで追加注入します.②PFCL下に眼内レーザー光凝固をします.空気下よりも視認性が良好です.その後,眼球前方の液層を空気層に置換します.③PFCLを少し除去し,眼球前方の空気層と眼球後方のPFCLで挟み込むように網膜下液を原因裂孔から絞り出すように内部排液をします.②で網膜裂孔の周辺側に眼内レーザー光凝固が足りない場合は,内部排液が①②完了後は凝固斑が出やすくなるので,これ以降で追加します.しかし,PFCL使用のメリットがあまりない症例を知っておくことも大事です.1).離網膜の可動性が小さく,PVD作製時や硝子体切除時に問題にならない,2)網膜下液が残っても問題にならない,3)レーザー光凝固が容易に打てる,といった症例です.つまり,.離範囲が小さく,.離位置が周辺に限局する症例はあまりメリットがないということです.その場合,液空気置換後に既存裂孔のもっとも後極に位置する裂孔から内部排液を狙うとよいです.眼球を傾け,頭位も協力してもらうと楽です.PFCLの注入なしでもこれらの操作が可能であれば,必ずしも用いる必要はないと考えています.なお,PFCLは保険償還できません.聞き手:PFCLを使用して原因裂孔から網膜下液をしっかりと抜いたつもりが,液空気置換後に網膜下液が大量に残っていることってないですか?松井:内部排液をしっかり行うためには,原因裂孔の硝子体をある程度切除したのち,原因裂孔から粘性の高い網膜下液を一塊として吸引して灌流液と置換することが望ましいです.この操作により,粘性を下げることで術中の網膜下液の内部排液の操作がスームズになります.最終的な内部排液は図1の③の状況で既存の網膜裂孔の中でもっとも後極に位置する裂孔にバックフラッシュニードルあるいは硝子体カッターを置き,後極側のPFCLと周辺側の空気で網膜下液を挟み込むイメージで網膜下液とPFCL上の液層を,吸引圧を落としながら時間をかけて完全に吸引除去します.内部排液中の良好な視認性を得るためにシャンデリア照明の明るさ・方向・挿入する深さを巧みに調節することを意識するとよいと思います.③PFCLを原因裂孔の後極縁まで注入PFCLを原因裂孔の周辺側まで追加注入PFCLを原因裂孔の後極縁まで吸引図1パーフルオロカーボンの使い方84あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(84)

抗VEGF治療:光干渉断層血管撮影の糖尿病黄斑浮腫における活用

2022年1月31日 月曜日

●連載115監修=安川力髙橋寛二95光干渉断層血管撮影の長谷川泰司東京女子医科大学眼科学教室糖尿病黄斑浮腫における活用糖尿病黄斑浮腫は黄斑部における血管透過性亢進と網膜浮腫を特徴とする疾患であり,浮腫が中心窩に及ぶと視力低下を惹起する.従来の蛍光眼底造影検査に加え,近年では光干渉断層血管撮影が臨床導入され,非侵襲的に個々の病態を把握する試みが行われており,より充実した糖尿病黄斑浮腫診療につながることが期待されている.糖尿病黄斑浮腫の分類と治療方法糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は,「糖尿病細小血管障害により網膜血管の透過性が亢進し,漏出に伴う浮腫が生じて,黄斑部網膜の肥厚と層構造の乱れが生じると視力が低下する」とされており,糖尿病網膜症のどの病期においてもCDMEが発症する可能性がある1).DMEにはさまざまな分類が存在するが,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が重要な役割を果たすようになった近年では,黄斑浮腫が中心窩を含むか含まないかで分類する方法が用いられることが多くなっている.黄斑浮腫が生じても中心窩に浮腫が及ぶまでは原則視力は低下しないため,中心窩を中心とする直径C1Cmmの円の平均網膜厚がC300Cμm以上であるものをCcenter-involvingDME,それ以下のものをCnonCcenter-involvingDMEと分類する.近年,主流となっている抗CVEGF療法は,center-involvingDMEを対象に治療を行うことが一般的である.検眼鏡所見やフルオレセイン蛍光眼底造影(.uores-ceineangiography:FA)による蛍光漏出の状態による分類もあり,局所的に形成された毛細血管瘤を中心とした血管障害からの血漿成分漏出による局所性CDMEと,広範な血管障害に伴う漏出によるびまん性CDMEに大別され,直接網膜光凝固治療の適応を決定するのに役立つ分類である2).漏出部位の明らかな局所性CDMEは網膜光凝固治療の効果が期待できるが,びまん性CDMEは原因となる漏出点が特定できず,網膜光凝固治療に抵抗することが多い.光干渉断層血管撮影の活用方法光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は,ある一定範囲のCOCTを連続撮影することで血管像を作製するため,同時に同範囲の網膜厚マップも取得することができる.したがって,OCTA画像を単独で読影し所見をとらえるのではなく,網膜厚マップも併せて読影することで有用な情報を取得することが可能となる.また,OCTAの特徴の一つとして層別の血管評価があり,網膜毛細血管網を表層と深層に分けて評価することが可能である.以下に,抗CVEGF療法への治療反応予測と,直接網膜光凝固の治療対象となる毛細血管瘤の同定につ図1抗VEGF療法に対する治療抵抗症例治療前のOCTA:網膜表層Cslab(Ca),深層Cslab(Cb)ともに毛細血管の脱落が目立つ.網膜厚マップ:治療前(Cc)と比較し,抗CVEGF薬硝子体内注射C3回投与後(Cd)も黄斑浮腫の軽減は得られていない.(81)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C810910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2OCTAによる毛細血管瘤の同定OCTA:網膜表層Cslab(Ca)から深層Cslab(Cb)にかけて二つの毛細血管瘤が描出されている(楕円).網膜厚マップ:治療前(Cc)は黄斑浮腫が中心窩から下耳側にかけて広がっており,毛細血管瘤の部位と一致する.直接網膜光凝固によって黄斑浮腫は消失した(Cd).いてCOCTAの活用方法を述べる.OCTAで深層毛細血管網の障害が強い患者,深層に毛細血管瘤数が多い患者では,抗CVEGF療法に抵抗しやすいことが報告されている(図1)3).また,OCTでDMEを観察すると,深層毛細血管網の障害が強い部位では,.胞腔にそって外網状層のラインが途絶している.このような特徴をもったCDME眼では抗CVEGF療法の注射回数が多くなる,または他の治療法への切り替えが必要になる可能性がある.次に,OCTAによる直接網膜光凝固の治療対象となる毛細血管瘤の同定について述べる.局所性CDMEを惹起する血管病変は毛細血管瘤がほとんどであり,責任病変の同定,網膜光凝固の適応決定にはCFAがもっとも適している.しかし,検査の煩雑さやアレルギーの問題があり,非侵襲的に繰り返し検査を行えるCOCTAである程度代用することができれば,医師・患者双方にとって非常に有益となる.OCTAは血管透過性亢進を評価できないという欠点があるが,網膜厚マップを組み合わせて評価することで,浮腫の責任病変となる毛細血管瘤をC82あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022ある程度推測することが可能である(図2).浮腫がある部位の毛細血管瘤は内顆粒層に存在することが多いと報告されており,深層毛細血管網のCslabに描出されることが多い4).文献1)日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌124:955-981,C20202)BrowningCDJ,CAltaweelCMM,CBresslerCNMCetal:DiabeticCmacularedema:whatCisCfocalCandCwhatCisCdi.use?CAmCJOphthalmol146:649-655,C20083)LeeJ,MoonBG,ChoARetal:Opticalcoherencetomog-raphyangiographyofDMEanditsassociationwithanti-VEGFCtreatmentCresponse.COphthalmologyC123:2368-2375,C20164)HasegawaCN,CNozakiCM,CTakaseCNCetal:NewCinsightsCintomicroaneurysmsinthedeepcapillaryplexusdetectedbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCdiabeticCmacularCedema.CInvestCOphthalmolCVisCSciC57:OCT348-355,C2016(82)

緑内障:First-line SLT(点眼治療で開始せずいきなり SLT施行)& Second-line SLT(使用中の 1剤の点眼は継続したまま SLT施行)

2022年1月31日 月曜日

●連載259監修=山本哲也福地健郎259.First.lineSLT(点眼治療で開始せずいきなり新田耕治福井県済生会病院眼科CSLT施行)&Second.lineSLT(使用中の1剤の点眼は継続したままSLT施行)選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は,説明に時間がかかる,患者にレーザー治療に対する抵抗感が強い,期待したほど眼圧が下降しない,などの理由により日本では普及していない.2019年に原発開放隅角緑内障や高眼圧症のC.rst-line治療として有用であると報告され,緑内障治療のひとつのツールとして,今,.rst-line&second-lineSLTが注目されている.●はじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtra-beculoplasty:SLT)はC1990年代に登場したが,普及していないのは,当時,多剤使用中でも進行している緑内障眼で,しかも手術に同意が得られない場合に,手術を回避あるいは先延ばしする目的でCSLTを施行してきたことも一因である.C●なぜ今.rst.line&second.lineSLTが注目されているのかSLTを緑内障の第一選択治療として行うC.rst-lineSLT(つまり点眼治療で開始せず,いきなりCSLTを施行する方法)やC1剤の緑内障点眼で治療しても目標眼圧に到達しない,あるいは緑内障が進行する患者に第二選択治療として行うCsecond-lineSLT(つまり現在使用しているC1剤の点眼は継続したままCSLTを施行する治療方法)が注目されている.筆者らは日本人正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)42例C42眼にC.rst-lineSLT(隅角の全周に照射)を施行し,前向きにC3年間観察した結果,眼圧はCSLT前C15.8C±1.8mmHgに対し,1年後C13.2C±1.9CmmHg(15.8C±8.6%下降),2年後C13.5C±1.9CmmHg(13.2C±9.4%下降),3年後C13.5C±1.9CmmHg(12.7C±10.2%下降)と,およそ薬剤C1剤分の有意な眼圧下降が得られたことをC2013年に報告した1).図1の症例のように10年以上前にCSLTを施行し,現在も眼圧下降効果が持続している患者もいる.2019年に無治療の原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleCglaucoma:POAG),高眼圧症の連続症例を無作為にC.rst-lineSLTと点眼に振りわけて多施設で前向きに行われた研究CLiGHTstudyが“Lancet”から報告され2),SLTの成績が点眼よりも良好であったことから,SLTがC.rst-lineとして行われることに脚光を浴びている.初期のCPOAGではC1回のC.rst-lineSLTでC3年後にC64.3%が点眼の追加が不要で,それらの眼圧下降率はC31.4%で,3年後の目標眼圧達成率は,SLT群78.2%,点眼群C64.6%であった.視野進行速度が-0.5CdB/年よりも早い症例はCSLT群C16.9%,点眼群C26.2%と有意差を認めた.経過中に濾過手術を要したのは,図1正常眼圧緑内障に対する.rst.lineSLT長期管理例2011年C6月初診の正常眼圧緑内障症例.ベースライン眼圧は13.5CmmHgでベースライン検査のあとCSLTを希望したので,C.rst-lineSLTを施行した.その後C10年C3カ月間の眼圧はC8~11mmHgで推移し,構造も機能もこのC10年間進行しなかった.(79)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C790910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2SLTの際に使用する隅角鏡隅角鏡はレンズが回るCindexingレンズで,しかも白色のツバが目印としてC1面鏡の反対側についているCOcularHwang-Latina5.0IndexingSLTw/Flangeを使用している.このツバを目印にC45°にC10~12発を照射する.その部分の照射が終わればレンズをカチッと次の引っかかりまで回し,またC10~12発照射する.これをC8回繰り返す.SLTでは凝固斑が出現しないのでどこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくいが,このレンズを使用するようになって施行しやすくなった.点眼群でC11例あったがCSLT群ではなかった.3年間の費用はCSLT群のほうが点眼群よりもC451ポンド安価であり,治療効果と経済面でのバランスがよい治療であると報告されている2~4).C●First.lineSLT&second.lineSLTをどのように患者に呈示するか点眼治療は気軽に始めることができるが,毎日点眼をしなければならないことや長期間の点眼継続による副作用が懸念される.一方,SLTは点眼のようなわずらわしさがなく患者のアドヒアランス(治療における遵守状況)に依存しないことで,1回のCSLT治療で長期間眼圧下降効果が持続することが期待できる.しかし,1回の処置代金が高額(3割負担でC28,980円)でCSLTが効くかは施行してみないとわからないので,その点を十分に説明しておかないと患者との信頼関係に影響する可能性があり,注意を要する.レーザー治療は怖いというイメージを抱く患者が多いので,筆者は,点眼麻酔をして隅角鏡(図2)を装着しCNd:YAGレーザーで数分間の治療時間であることや,加齢変化による線維柱帯での流出障害を改善するための治療であることなどを具体的に患者に説明して,SLTに対する恐怖心を和らげるように努めている.SLTにて効果的に眼圧が下降する確率はC80%で,効果の持続期間は平均C3年で点眼C1剤分の眼圧下降が期待できる.霧視,結膜充血,違和感が出現する場合があるが,これらはC1週間以内に改善する.まれに一過性眼圧上昇(SLT施行後にC5CmmHg以上の眼圧上昇)をきたすことを十分に説明している.C●日本での.rst.line&second.lineSLTの展望LiGHTstudyでは,なぜCSLTが点眼と遜色のない結果を得られたのであろうか.その理由としては,第一にSLT治療により眼圧の日々変動や日内変動が小さくなった可能性がある.トリガーフィッシュというコンタクトレンズセンサーを装着して,NTGの眼圧変動に対するCSLTの効果を,SLT治療前と比較した結果,SLTは夜間の眼圧を大幅に低下させ,眼圧の変動を減少させる可能性があることが示された5).日中眼圧がコントロール良好でもなお緑内障が進行するCNTG患者に,夜間の眼圧下降も期待してCSLTを施行することも念頭に置く必要があろう.第二に,点眼は患者の遵守状況に影響を受けるが,SLTは影響を受けないことがあげられる.点眼はC1年間で半分以上の患者が中断するといわれているが,SLTではC1回の治療で長期間眼圧下降効果が持続することが,有用性につながったと思われる.現在,日本の緑内障ガイドラインでは,薬物治療に併用または薬物治療の代替として,眼圧コントロールにC3剤以上を要するときにCSLTを考慮することになっている.LiGHTstudyの結果を受け,ガイドラインを変更するためにさらなる検証が必要であろう.C●おわりに外来での簡単な処置であり,合併症もきわめて低率であるCSLTをより早いタイミングで施行するC.rst-line&second-lineSLTを,日常診療のツールのひとつとして活用していきたいものである.文献1)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌117:335-343,C20132)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticenterrandomizedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20193)GargCA,CVickersta.CV,CNathwaniCNCetal:PrimaryCselec-tiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:ClinicalCoutcomes,CpredictorsCofCsuc-cess,CandCsafetyCfromCtheClaserCinCglaucomaCandCocularChypertensiontrial.OphthalmologyC126:1238-1248,C20194)WrightCDM,CKonstantakopoulouCE,CMontesanoCGCetal:CVisualC.eldCoutcomesCfromCtheCmulticenter,CrandomizedCcontrolledlaseringlaucomaandocularhypertensiontrial(LiGHT).OphthalmologyC127:1313-1321,C20205)TojoN,OkaM,MiyakoshiAetal:Comparisonof.uctua-tionsCofCintraocularCpressureCbeforeCandCafterCselectiveClasertrabeculoplastyinnormal-tensionglaucomapatients.JGlaucomaC23:e138-e143,C201480あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(80)

屈折矯正手術:角膜屈折矯正手術後の IOLパワー計算

2022年1月31日 月曜日

監修=木下茂●連載260大橋裕一坪田一男260.角膜屈折矯正手術後のIOLパワー計算禰津直久等々力眼科屈折矯正手術後の患者に白内障手術をする機会が増えてきており,今後さらなる増加が見込まれる.このような患者は多焦点眼内レンズを希望することも多く,正確な度数計算が望まれる.かつては多くの計算式が発表され選択にも迷ったが,最近は光学式眼軸測定器に組み込まれた計算式を複数使用することで,かなりよい成績を得られるようになってきている.放射状角膜切開術後の患者の度数計算の注意点にも触れる.●はじめに屈折矯正手術後の患者に白内障手術をすることが多くなってきた.通常の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算式を使用すると,屈折矯正手術後のCK値を用いてCIOLの位置を誤予測したり,laservisioncor-rection(LVC)〔laserCinCsitukeratomileusis(LASIK)やレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkera-tectomy:PRK)など〕で角膜の前面後面の比率が変化している眼では角膜全屈折力を誤って評価し,大きな誤差を生じる.このためCIOLの位置予測にCLVC前のCK値を用いるCdouble-Kmethodや,位置予測にCK値を用いないCHaigis-L式1)(2008年)が脚光を浴びてきた.2015年にはCBarrettTrueK式が商用化され,広く使われている.C●LVC後LVC後の眼では換算屈折率が変化しており,角膜全屈折力が正しく計算できなかった.これに対し,種々の角膜形状解析装置を用いて総屈折力を求める方法が多数考案されてきた.米国白内障手術屈折矯正手術学会(ASCRS)のホームページで種々の計算式が利用できるようになっており,多数の計算式を用いてCIOLのパワーを決めるのがよいとCWangは述べている2).しかし,多数の計算式を使用するには多種の角膜形状解析装置が必要で,現実的にはむずかしい.またデータの手入力時に誤入力も起しうる.Haigis-L式の計算式の本体はCHaigis式そのものであり,LVC後の角膜前面のCK値から一次式を用いてCLVC後の角膜全屈折力を求めており,計算式はすべて公開されている.近年,IOLマスターC700をはじめとする機種で角膜後面計測が可能になり,実測による角膜全屈折力を用いることができるようになりつつある.屈折矯正後の角膜(77)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPYにおいても角膜全屈折力を直接計測できることになる.Haigis-L式ではCK値に応じて換算屈折率を変化させているが,IOLマスターC700の角膜全屈折力実測値(TK値)から求めた個々の患者の換算屈折率はCHaigis-L式の値よりも大きな値で,より直線的な変化をしている(図1).理論的には通常のCHaigis式にCTK値を使用するとCLVC後の計算が可能になる.BarrettTrueK式は角膜前面の計測で計算しているが,最近はCTK値を用いたCBarrettCTrueCKTK式が発表され,IOLマスター700にも搭載された.自験例(表1)ではCBarrettCTrueKとCBarrettCTrueCKTKの差はわずかだが,BarrettはCBarrettCTrueCKTK>BarrettCTrueK>Haigis+TK>Haigis-Lの順で成績がよいと述べている3).ClinicalCHistoryMethodから求めたCHaigis-L式の角膜パワー計算式よりもCTK実測値のほうが精度が高いことがわかる.現在の多くのケラトメータは角膜中心直径C2.4~C1.341.3351.331.3251.321.3151.31角膜前面曲率(mm)図1TK実測値とHaigis.L式の換算屈折率あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C77換算屈折率7.588.599.510表1当院のLVC後の成績(TK測定例)Higis-LCHigis-TKCBarrettTrueKCBarrettTrueKTK近視CLVC14名24眼誤差平均C.0.89C.0.23C.0.35C.0.33CMAEC0.95C0.54C0.41C0.41遠視CLVC2名3眼誤差平均C0.34C.0.63C0.42C0.50CMAEC0.34C0.63C0.42C0.50注:遠視CLVCでのCHaigis-TKの使用はCZeiss社は推奨していない.表2RK術後患者での注意点・複数回術前計測(午前・午後)(日内変動大)・BarrettTrueK(RKモード)・角膜切開を避ける・術中灌流圧を低く・FLACSは避けたほうがよい・術後の遠視化は戻りを待つ(1~3カ月)3.0Cmmを計測しており,LVCの切除範囲にこれが入っているか角膜形状解析で確認しておく必要がある.初期のエキシマレーザーや強度近視で角膜の薄い眼では,LVCの切除半径が小さくなっていたり,照射ずれなどがあると適切な角膜計測ができず,予測精度も低下する.このような場合には患者に誤差が大きくなる可能性が大きいことを伝える必要がある.LVC後の患者が白内障手術を希望して来院した場合には,可能であれば過去に手術を受けた施設から過去のデータを入手するようにしている.ClinicalChistorymethodとしてCLVC前・後の屈折値とCLVC前のCK値から,LVC後の角膜屈折力を計算するためである.しかし,BarrettやCHaigisの近年の洗練された計算式はclinicalhistorymethodより精度が高くなってきており,LVC前後のデータの重要性は低くなってきている.C●RK後最近,数は少ないが放射状角膜切開術(radialCkera-totomy:RK)後の患者にも出会うようになった.LVCの場合とは違った注意が必要である(表2).まず,術前・術後ともに角膜の変化による屈折の日内変動が大きい.可能であれば術前計測は午前・午後など時間帯を変えて複数回計測したほうがよい.計算式はCASCRSのCPost-refractiveIOLcalculatorもあるが,筆者はおもに光学式計測器内のCBarrettTrueK式のCRKモードを使用している(表3).術直後は予測屈折よりもかなりの遠視化が起こりやすい.これは術中の眼圧の上昇によりRKの切開部の離解が起こるためと考えられる.角膜切開を避け,手術中は灌流圧を低くする必要がある.CFemtoClaserCassistedCcataractsurgery(FLACS)でも角膜を強く吸引する機種では遠視化がより強く起こる可C78あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022表3RK後のBarrettTrueK(RKモード)の成績側予測誤差(D)術後検査日(日)症例C1RC.0.205C230C71歳,女性CLC.0.09C226症例C2RC.0.215C342C72歳,男性CLC.0.37C90症例C3RC.1.35C6C49歳,男性CLC.2.36C13能性がある.自験例では術翌日に予測値よりもC2Dの遠視化を認め(表3,症例C2右眼),3カ月かかって目標値に到達した.他眼は灌流圧を下げて通常の方法で行い,翌日の遠視化はC0.6Dで,1カ月で目標値になっている.術後はかなり遠視化していてもすぐにCIOL交換などを考えず,徐々に遠視化が減少するのをC1~3週間ごとに経過観察し,屈折変化が安定してから度数ずれを検討する必要がある.C●おわりにLASIKはC2000年頃からわが国で普及しはじめ,2008年には年間C45万件,累計でC220万件以上行われたと推計されている.この時期にCLVCを受けた人たちが白内障手術のピークを迎えるのはまだC10~20年先であろうが,今後確実に増加していく.LASIKの手術を受けている患者層は新しい技術に感心が強く,多焦点IOLを希望することが多い.当院でもCLVC後の患者の半数は多焦点CIOLを挿入している.10年前と比べればかなり予測精度はよくなっているが,今後さらなる精度の向上が必要である.文献1)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesur-geryCformyopia:Haigis-LCformula.CJSCRSC34:1658-1663,C20082)WangCLi,CHillCW,CKochD:EvaluationCofCintraocularClensCpowerCpredictionCmethodsCusingCtheCAmericanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveCSurgeonsCPost-KeratorefractiveCIntraocularLensPowerCalculator.JSCRS36:1466-1473,C20103)YouTube:BarrettG:ZEISSCIOLMasterC700-TrueCKCwithTKformulaforpostmyopiceyes2020/3/14(78)

眼内レンズ:シリコーン製人工虹彩

2022年1月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋森洋斉422.シリコーン製人工虹彩宮田眼科病院人工虹彩はわが国では未承認であるが,無虹彩症や虹彩欠損例に対して有用である.なかでも虹彩の色調をカスタム作製できるシリコーン製人工虹彩は,手術手技も容易で安全性や審美性においても優れていることから注目されている.●はじめに虹彩が欠損していると,羞明やグレア,コントラスト感度低下など,さまざまな視機能障害を生じるだけでなく,整容面でも患者の負担となる.対処法としては,サングラスや虹彩付きコンタクトレンズ,虹彩縫合などが一般的であるが,人工虹彩も臨床使用されている(わが国では未承認).人工虹彩は現在数社より販売されており,素材や形状,手術適応などが異なる.そのなかでシリコーン製人工虹彩であるCHumanOptix社のCCustom-Flexは,安全かつ機能面でも優れていることが示されており,良好な臨床成績が報告されている1~3).本稿ではCCustomFlexの特徴と手術方法について解説する.C●シリコーン製人工虹彩CustomFlex2002年に初めて臨床使用され,2011年にCEUのCCEマークを取得,2018年には米国食品医薬品局の承認を取得している.他社の人工虹彩と異なり,虹彩の色調をカスタム作製することが可能であるため,整容的に優れる点が特徴である(図1,2).シリコーン素材でCfoldableのため,小切開(2.75Cmm)から眼内レンズ(intraocular図1シリコーン製人工虹彩CustomFlexlens:IOL)インジェクターで挿入可能で,.内固定だけでなく毛様体溝固定や縫着にも対応している.全長12.8Cmm,瞳孔径C3.35Cmmのワンサイズのみであるが,虹彩欠損の範囲に応じて切開して大きさや形状を変えて挿入する.また,IOL一体型モデルは用意されていないが,通常使用するCIOLに装着して挿入することが可能であるため4),さまざまな種類のCIOLを選択することができると考えられる.C●適応と手術方法CustomFlexは無虹彩および虹彩部分欠損例が適応となり,先天性無虹彩症や虹彩コロボーマなど先天的なもの,急性緑内障発作や外傷後,Adie症候群など後天的なものが対象となる.基本的に水晶体があると挿入が困難であるため,人工虹彩挿入前もしくは同時に水晶体摘出を行う必要がある.まず,サイズを決定するために角膜径(white-to-white:WTW)を測定する..内固定の場合はCWTW-1.0~1.5Cmm,毛様体溝固定の場合はCWTW+0.5Cmmになるようにトレパンでトリミングすることが推奨されている.通常の白内障手術と同様にCIOL挿入を行ったあと,インジェクターを用いて人工虹彩を挿入する(図3).人工虹彩は不透明であるため徹照が得られず,水晶体.との位置関係がわかりにくくなるため,トリパンブルーなどで前.染色をしておくことがコツである.すで図2CustomFlex挿入前後の写真Adie症候群により不可逆性散瞳を認めたが(Ca),CustomFlex挿入後は瞳孔径が小さくなっている(Cb).(文献C6より転載)(75)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C750910-1810/22/\100/頁/JCOPYabc図3CustomFlexの手術方法a:角膜径測定後にサイズを決定し,トレパンでトリミングする.b:インジェクターを用いて人工虹彩を通常のCIOLと同様に挿入する.Cc:フックで.内に挿入されていることを確認して手術を終了する.(文献C6より転載)にCIOL挿入されている場合は基本的に毛様体溝固定となるため,瞳孔ブロック予防目的で人工虹彩の端にC2カ所以上,虹彩切除を施しておく.水晶体.が使用できない場合は,IOL縫着後に人工虹彩も縫着する.応用として,縫着用のCIOLに人工虹彩をセットしてCIOLのみを縫着する方法も報告されており4),侵襲が少なく有用であると考えられる.C●術後臨床成績近年,CustomFlexに関する報告が散見され,優れた臨床成績が報告されている.Mayerら1)は前向き観察研究で,外傷後の虹彩欠損症例C32眼に対してCCustom-Flexを毛様体溝固定で挿入した結果,有意にコントラスト感度が改善し,整容面における満足度も向上したことを報告している.この検討では,瞭眼の虹彩の色調に合わせた人工虹彩を挿入しており,その優れた審美性が評価されている.また,Bonnetら3)はC20眼の前向き観察研究で,挿入後にグレア負荷における矯正視力やグレア症状が改善し,整容面における満足度も向上したことを報告している.先天性無虹彩症に対してCCustomFlexを挿入したC50例C96眼を後ろ向きに検討した報告2)では,95%以上の症例で羞明やグレア症状が改善したことが示されている.C●人工虹彩挿入後のデメリット人工虹彩を挿入すると散瞳ができなくなるため,眼底検査や硝子体手術に影響することが懸念される.最近では超広角走査型レーザー検眼鏡により,無散瞳でも広範囲の眼底を観察することが可能になっている.また,術後も詳細な眼底検査を要する症例では,瞳孔径を少し拡大しておくとよい.硝子体手術に関しても,広角眼底観察システムにより,大きな問題にならないことが示されている.CustomFlex挿入例で硝子体手術を行ったC20眼の検討5)で,ほとんどの術者が術中の眼底観察に問題なしと回答しており,人工虹彩の摘出は不要であったことが報告されている.C●おわりに人工虹彩はわが国では未承認であるが,手技も容易で安全性も高いため,無虹彩症や虹彩欠損例に対して非常に有用なツールである.適応となる患者は多くないものの,今後わが国にも導入が期待される.文献1)MayerCCS,CReznicekCL,CHo.mannAE:PupillaryCrecon-structionCandCoutcomeCafterCarti.cialCirisCimplantation.COphthalmologyC123:1011-1018,C20162)FigueiredoCGB,CSnyderME:Long-termCfollow-upCofCaCcustom-madeCprostheticCirisCdeviceCinCpatientsCwithCcon-genitalaniridia.JCCataractRefractSurgC46:879-887,C20203)BonnetCC,CMillerKM:SafetyCandCe.cacyCofCcustomCfold-ableCsiliconeCarti.cialCirisimplantation:prospectiveCcom-passionate-useCcaseCseries.CJCCataractCRefractCSurgC46:C893-901,C20204)SpitzerCMS,CYoeruekCE,CLeitritzCMACetal:ACnewCtech-niqueCforCtreatingCposttraumaticCaniridiaCwithaphakia:C.rstresultsofhaptic.xationofafoldableintraocularlensonCaCfoldableCandCcustom-tailoredCirisCprosthesis.CArchCOphthalmol130:771-775,C20125)ToygarO,SnyderME,RiemannCD:Parsplanavitrecto-myCthroughCaCcustomC.exibleCirisCprosthesis.CRetinaC36:C1474-1479,C20166)森洋斉:人工虹彩.IOL&RSC35:240-246,C2021

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 8.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その1)

2022年1月31日 月曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院8.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その1)■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)における老視矯正は,遠見用の度数が入った部位と近見用度数の入った部位が分かれており,その間に累進的に中間用の度数が配置されていても,基本的には交代視型という特徴を有しているが,ソフトコンタクトレンズ(SCL)における老視矯正は,中心に遠見度数が配置され,周りに近見度数が配置されているデザインのものと,逆に中心に近見,周りに遠見の度数が配置されているデザインのものがあり,いずれもその間に累進的に中間用の度数が配置されているが,基本的には同時視型という特徴を有している(図1).■同時視型遠近両用SCLの特徴遠近両用SCLでは1枚のレンズに遠用と近用の度数が入っている.遠見時には遠くのクリアな像と近用部位を通ってきたボケた像が同時に入ってくる.そのなかでクリアな像だけを脳が選択する.逆に近見時には近くのクリアな像と遠見部位を通ってきたボケた像が同時に入り,クリアな像だけを脳が選択する.加入度数が強いほど,遠見時には近用部位を通ってきた像のボケはきつくなる(図2).患者には,同時視について,ネット越しにテニスや野球を観戦しているときに,熱中してくるとネットが気にならなくなることを例にあげて説明すると,わかってもらいやすい(図3).同時視にすぐに慣れてしまう人がほとんどであるが,中心遠用で非球面中心遠用で球面プラス非球面なかには2週間くらいかかる人もいるので,トライアルレンズをしばらく装用させたうえで購入を決めてもらうことも考慮に入れる.同時視に慣れるまでの間は視界が若干暗く感じる,立体感が若干鈍く感じる,視界が狭く感じる,床などが浮いて感じるなどの現象が生じる可能性があることを,あらかじめ伝えておくことが肝心である.■低加入度数SCLの意義現在,+0.5D以下の加入度数を有するSCLは1日使い捨てSCLではシード社の1dayPureViewSupport,アイレのプライムワンデースマートフォーカス,2週間頻回交換SCLではメニコンの2WEEKメニコンDUO,クーパービジョン社のバイオフィニティアクティブなどがある.加入度数が+0.5D以下となっているのは,遠くの見え方を損なうことなく近見をサポートするといった共通のコンセプトに基づいている.このような低加入度数SCLは近見作業の多いオフィスワーカーなどの眼精疲労の解消だけではなく,初期老視にも対応可能である.また,まだ確定的ではないが,近視抑制の効果についても議論されている.■低加入度数SCLの処方例125歳,女性.視能訓練士.1日使い捨てSCLを使用.調子は普通だが,夜間が見えにくい.乱視はない.RV=(1.5×900/-3.00/14.2)中心近用で非球面中心近用で球面プラス非球面図1遠近両用SCLのデザイン(73)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022730910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3遠近両用SCLの同時視の説明法ネット越しのスポーツ観戦を例に説明すると理解されやすい.高加入度数遠方部を通る光線近方部を通る光線図2遠近両用SCLにおける見え方加入度数が強くなるほど見え方のクオリティは低下する.ネットを意識LV=(1.5×900/-2.75/14.2)この症例にシード社の1dayPureViewSupportを処方する.RV=(1.5×880/-3.00/14.2)LV=(1.5×880/-2.75/14.2)視力には変化がなく,装用直後は遠方が少し見にくかったが,すぐに慣れて夜間でも遠方・近方ともによく見えるようになった.近方作業が多く,通常のSCLでは眼精疲労が生じていたものと推測された.■低加入度数SCLの処方例245歳,女性.主婦.2週間頻回交換SCLを使用.最近,近方が見にくくなったとのこと.RV=(1.2×860/-4.25/14.2)NRV=(0.5×SCL)LV=(1.2×860/-3.75/14.2)NLV=(0.5×SCL)この症例にメニコンの2WEEKメニコンDUOを処方.RV=(1.2×860/-4.25/14.5)NRV=(0.6×SCL)LV=(1.2×860/-3.75/14.5)NLV=(0.7×SCL遠方視力は変わらず,近方も満足のいく視力が得られた.このような低加入度数SCLが何歳くらいまでのユーザーに有効であるのかは個人差が大きく,断定することはできないが,少なくとも当医院における低加入度数SCLユーザーの最高年齢は63歳である.文字を意識