●連載113監修=安川力髙橋寛二93光干渉断層血管撮影の網膜静脈坪井孝太郎OregonHealthandScienceUniversity上級研究員分枝閉塞症への活用光干渉断層血管撮影(OCTA)は網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に特徴的な血管異常を蛍光眼底造影と同等に捉えることが可能である.また,OCTAを用いた定量的な評価は,視力予後に大きく関与する遷延する黄斑浮腫を予測する因子となりうる可能性があり,臨床上有用である.OCTAの診断への活用網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,静脈閉塞により閉塞静脈領域の毛細血管が傷害され,網膜出血,網膜浮腫,虚血を生じる疾患である.従来はフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)を用いて虚血範囲の診断や新生血管の有無が判定されてきたが,最近では光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)を使用して,それらの診断が可能となってきた.図1に示すように,FAにて観察される所見の多くはCOCTAにおいても観察することが可能であり,造影剤の漏出がないことにより,血管の形態的な変化に関してはOCTAのほうが観察に適していると思われる.一方で,FAにおける新生血管からの漏出など,診断の役に立つ所見がCOCTAでは観察することができない.しかし,OCTAの特徴である層別解析における正確なセグメンテーションにより,新生血管と正常血管を分離・検出することが可能である.また,撮影範囲に関しては,従来のCFAに利点がある.第一世代のCOCTAの撮影画角は30°程度,最近のCswept-sourceOCTAでは,高速なCAスキャン速度により,1回の撮影範囲がC75~100°程度の機種もあるが,周辺部はアーティファクトの影響を受けやすく,観察が困難な場合も少なくない1).一方でFAとCOCTAを比較した研究では,黄斑部の虚血状態と広角CFAの虚血範囲は相関するという報告や,広角モンタージュCOCTAを使用すれば,一部周辺部の新生血管の見逃しはあるものの,新生血管を認める患者では少なくとも一つ以上の新生血管がCOCTA撮影範囲内に認められ,一定の拾いあげに有用であるとする報告もある2).遷延する黄斑浮腫とOCTA抗CVEGF薬硝子体内注射はCBRVOに伴う黄斑浮腫への有効な治療法であり,BRAVO試験ではC12カ月目での視機能改善は,治療開始前から平均C18.3文字(ラニビズマブC0.5Cmg,6回+必要時投与群)と報告されている.一方で,黄斑浮腫が遷延する症例では,長期間の治療が必要になるのみならず,再発を繰り返すことによる視力低下が問題とされている.最近の研究で,50眼のBRVO患者を平均C58カ月経過観察した結果,24カ月目まで視機能改善が認められ,ピーク時は平均C24文字の改善,平均C76文字(小数視力約C0.6)の視力が得られた.しかし,その後ピーク時視力は維持できず,最終受診時無灌流領域拡張毛細血管(側副血行路)網膜新生血管虹彩新生血管図1BRVOにおける網膜血管異常に関するFAとOCTAの比較無灌流領域の描出や拡張毛細血管は,造影剤の漏出のないCOCTAで観察しやすい.一方,網膜新生血管や虹彩新生血管は造影剤の漏出がないため,OCTAではセグメンテーションにより判定する必要がある.OCTA造影検査(73)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13110910-1810/21/\100/頁/JCOPY拡張毛細血管モンタージュOCTA正常毛細血管(側副血行路)深層毛細血管浅層毛細血管放射状乳頭周囲毛細血管図2各層ごとに観察される拡張毛細血管(側副血行路)それぞれオリジナルの毛細血管に似た形状の拡張毛細血管が観察される.では平均C63文字(小数視力C0.4)とピーク時の視力から13文字減少する結果となったことが報告されている.より長期間の視力維持を達成するためには,持続的なVEGF阻害効果をもつ新規治療法と同時に,難治性黄斑浮腫症例,いわゆる遷延する症例を早期に予測し,より短い間隔での経過観察や,治療方法の変更を考慮することが重要であると思われる.遷延する黄斑浮腫を予測する因子として,いくつかの候補が報告されている.FAでは,虚血が強い症例よりも,中途半端な毛細血管脱落のほうが遷延する症例と関連する可能性が報告されていた.近年,OCTAを用いた定量的評価にて,患側の血管脱落の程度が強いほうが,年間の抗CVEGF薬投与回数が少なく,FAによる観察と矛盾しないことがわかった3).このような現象の理由としては,完全な虚血網膜では内層網膜が速やかに菲薄化するため,結果としてCVEGF産生が長期化しないのに対して,毛細血管脱落が中程度である場合,網膜の虚血状態が長期間続き,VEGF産生が長期化し,結果として浮腫が長引く可能性があるのではと考えられている.また,筆者らは深層毛細血管に着目し,深層毛細血管の脱落が多い患者は,遷延する黄斑浮腫を伴う場合が多いことを報告した4).これは深層毛細血管が静脈系につながる毛細血管であり,BRVOでは傷害されやすく,また網膜内の水輸送に関与している深層毛細血管が傷害されると網膜内の浮腫が血管内へ回収されにくくなるという仮説に基づいている.そしてCOCTAによりしばしば観察される拡張毛細血管や側副血行路形成も,遷延する症例を示唆する所見である可能性がある(図2)5,6).以前は側副血行路形成により,閉塞静脈を迂回する血流のルートが構築されることにより,黄斑浮腫は改善へ向かうと考えられていたが,最近の研究では,拡張毛細血管や側副血行路形成そのものが血管内腔圧上昇の結果である可能性があり,そのような血管内腔圧上昇が高度な場合は,黄斑浮腫が遷延する可能性が高いという仮説が提起されている.おわりにこのようなCBRVOにおける遷延する黄斑浮腫を予測するバイオマーカーは,患者予後を推測するのみならず,治療方法の検討にも役立つと思われる.また血管内腔圧上昇と浮腫遷延の関係が強いものであれば,高血圧管理の重要性はこれまで以上に高まる可能性もあると考えられ,今後の研究が待たれるところである.文献1)ShirakiA,SakimotoS,TsuboiKetal:Evaluationofreti-nalCnonperfusionCinCbranchCretinalCveinCocclusionCusingCwide.eldopticalcoherencetomographyangiography.ActaOphthalmolC97:e913.e918,C20192)KadomotoCS,CMuraokaCY,CUjiCACetal:NonperfusionCareaquanti.cationinbranchretinalveinocclusion:awide.eldopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CRetinaC2020.Publishaheadofprint3)HasegawaCT,CMurakawaCS,CMarukoCICetal:CorrelationCbetweenreductioninmacularvesseldensityandfrequen-cyofintravitrealranibizumabformacularoedemaineyeswithbranchretinalveinocclusion.BrJOphthalmol103:C72-77,C20184)TsuboiK,IshidaY,YuichiroIetal:Gapincapillaryper-fusiononopticalcoherencetomographyangiographyasso-ciatedCwithCpersistentCmacularCedemaCinCbranchCretinalCveinCocclusion.CInvestCOpthalmolCVisCSciC58:2038-2043,C20175)TsuboiCK,CSasajimaCH,CKameiM:CollateralCvesselsCinCbranchCretinalCveinocclusion:anatomicCandCfunctionalCanalysesCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.COphthalmolRetina3:767-776,C20196)KogoCT,CMuraokaCY,CUjiCACetal:AngiographicCriskCfac-torsCforCrecurrenceCofCmacularCedemaCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CRetina2020.CPublishCaheadCofprintC1312あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021(74)