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写真セミナー:放射線角膜上皮障害による角膜穿孔

2025年12月31日 水曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史葛西梢499.放射線角膜上皮障害による角膜穿孔東京慈恵会医科大学附属病院眼科図2図1のシェーマ①角膜穿孔・虹彩嵌頓②瞼球癒着図1放射線角膜上皮障害による角膜穿孔の前眼部所見(74歳,女性)放射線治療開始からC3年C7カ月後(2025年C7月)の所見.角膜下方に角膜穿孔・虹彩嵌頓・瞼球癒着を認める.図3初診時前眼部所見放射線治療開始からC1年後(2022年C12月)の所見.表層角膜の角化,血管の侵入を認める.疼痛のため開眼が困難.図4図3のフルオレセイン所見角膜下方に上皮欠損とびまん性の角膜上皮障害を認める.(57)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C15350910-1810/25/\100/頁/JCOPY頭頸部癌の多くが扁平上皮癌であり,放射線感受性が高いことから放射線治療を行うことが多い.一方で放射線による重篤な有害事象の発生も多い1).症例は74歳,女性.左上顎洞癌cT4aN0に対して2021年12月からC2022年C2月まで動注化学療法併用放射線治療をC70CGy/35fx施行された.病変は左眼窩内にも進展しており,角膜や網膜の耐容線量を超えて照射された.照射開始から約C1年後のC2022年C12月に左眼の眼痛を訴え開眼困難となったため,当院を紹介受診した(図3,4).初診時,水晶体や網膜に異常所見は認めないものの,左眼の角膜上皮障害,Descemet膜皺襞,瞼球癒着,血管侵入を認め,矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.09と左眼の矯正視力低下を認めた.ジクアホソルナトリウム点眼と治療用ソフトコンタクトレンズの使用による治療を開始し,徐々に角膜上皮障害は改善した.その後は点眼・受診ともに自己中断していたが,2023年C10月,左眼疼痛を訴えて来院した.左眼の角膜上皮障害・輪部機能不全を認め,ヒアルロン酸ナトリウム点眼を開始したが,改善乏しく,涙点プラグを追加した.その後角膜上皮障害は改善したものの,瞼球癒着が強く,羊膜移植手術を勧めたが,手術への恐怖心が強く手術を希望しなかったため,疼痛コントロール目的でフォローしていた.2024年C6月,角膜上皮欠損が再度出現し,点眼治療を強化(レバミピドを追加)し改善した.同年C9月,急な眼痛で来院し,左眼前房内出血,左眼周囲の皮下出血,鼻出血を認め,急激な白内障の進行も認めた.左眼周囲の皮下出血,鼻出血については耳鼻咽喉科で精査したが原因不明であった.2025年C3月,角膜上皮欠損に細菌感染を合併し,抗菌薬点眼(レボフラキサシン水和物とセフメノキシム塩酸塩)で感染・上皮欠損は改善したが,5月から点眼・診察ともに自己中断した.7月,久しぶりに来院した際に角膜穿孔,虹彩嵌頓を認めた(図1,2).抗菌薬点眼を再開し,角膜穿孔部分は感染治癒ともに被覆化した.角膜上皮障害・感染を繰り返すリスクが高いことから眼球内容除去術を勧めているが,本人の手術に対する恐怖心が強く,同意が得られないため保存的に経過観察中である.放射線療法後の角膜潰瘍は瞼裂に沿って起こるとされているが,この患者でも病変は角膜下方に存在し,典型的な症例となっている.上顎癌は,切除可能な場合は手術が第一選択であるが,近傍に重要臓器が多いため全摘はむずかしく,手術不能例に対して術後照射として根治的(化学)放射線療法が行われる2~4).わが国では扁平上皮癌に対し縮小手術,(動注)化学療法,放射線治療の三者併用療法が行われてきた歴史がある.上顎癌の治療は,近年その治癒成績の向上に伴って機能・形態を保存する傾向にある.しかし,上顎癌に対する放射線照射は,周囲に放射線感受性の高い臓器(角結膜,網膜,視神経,視交叉,水晶体,涙腺)が多く,照射後に生じる眼障害は少なくない1).眼科領域では急性期有害事象として結膜炎,晩期有害事象として白内障,緑内障,網膜症,角結膜障害,ドライアイ,視神経障害がある5).動注化学療法併用放射線治療でC5年局所制御率C58%,5年生存率C68%の報告があり,有害事象に対しての治療が重要となってくる6).上顎癌の治療向上に伴い,放射線による眼障害は増加傾向にあるため,術後,定期的なフォローやドライアイに対する治療を積極的に行うことが重要である.文献1)平野実,三橋重信,市川昭則ほか:上顎癌における放射線照射と眼障害.日耳鼻76:456-463,C19732)伊藤照生:認定・専門技師が語る最新!放射線治療のテクニック頭頸部がんの放射線治療.映像情報CmedicalC47:298-303,C20153)HoppeBS,StegmanLD,ZelefskyMJetal:TreatmentofnasalCcavityCandCparanasalCsinusCcancerCwithCmodernCradiotherapytechniquesinthepostoperativesetting–theMSKCCCexperience.CIntCJCRadiatCOncolCBiolCPhysC67:C691-702,C20074)DulguerovCP,CJacobsenCMS,CAllalCASCetal:NasalCandCparanasalCsinuscarcinoma:AreCweCmakingCprogress?CACseriesCofC220CpatientsCandCaCsystematicCreview.CCancerC92:3012-3029,C20015)日本頭頸部癌学会:頭頸部癌診療ガイドライン.2009年版,金原出版,20096)HommaCA,CSakashitaCT,CYoshidaCDCetal:SuperselectiveCintra-areterialCcisplatinCinfusionCandCconcomitantCradio-therapyCforCmaxillaryCsinusCcancer.CBrCJCCancerC109:C2980-2986,C2013C

末梢眼球運動神経麻痺(Fisher症候群を含む)

2025年12月31日 水曜日

末梢眼球運動神経麻痺(Fisher症候群を含む)Third,FourthandSixthPeripheralNerveParesisandMillerFisherSyndrome中馬秀樹*I外転神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の外転制限のみがみられる(図1).軽症例では眼位で判断する.麻痺側で内斜視角度が増大する非共同性の内斜視となる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患甲状腺眼症:牽引試験(forcedductiontest:FDT)で抵抗がある.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項を参照のこと)Duane症候群:先天性の外転神経麻痺で外転制限に内転時のウインク(眼球陥凹による)が特徴である.先天的な外転神経核の大細胞群の欠損または形成不全が原因とされる.筆者は,成人では内転時のウインクがわかりにくくなる印象をもっている.根治療法はなく,斜視,faceturnがあれば斜視手術の適応になる.内斜視(共同性・非麻痺性):両眼開放で側方視させると,右方視では左眼,左方視では右眼でみるため,右方視では右眼の,左方視では左眼の外転制限のようにみえる.しかし,片眼遮蔽すれば,それぞれ最後まで外転する.また,眼位ずれが共同性である.近見けいれん:近見反射とは,輻湊,縮瞳,調節からなる.したがって,近見けいれんでは必ず縮瞳を合併する.片眼遮蔽すると縮瞳状態から次第に改善し,散瞳してくる.両眼での眼球運動では外転制限を示すが,片眼での眼球運動では外転できる.調節緊張はわかりにくいが,レチノスコープを用いるとわかりやすい.若い女性に多く,ヒステリーが原因のことが多い.一方,器質性疾患が原因のこともあるので,頭蓋内病変検索も必要である.治療は調節麻痺薬点眼で,経過観察となる.眼窩腫瘍,眼窩吹き抜け骨折:FDTで抵抗があり,CT,MRIで明らかになる.3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:外転神経麻痺眼の瞳孔が対側に比べて小さく,対光反射は正常である.アプラクロニジン点眼30分後に対側に比べて大きくなる.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.中耳炎の合併:Gradenigo症候群.耳鼻咽喉科で加療する.両眼性の乳頭腫脹を合併:頭蓋内圧亢進を疑う.起床時に強い頭痛や吐き気など,ほかの症状の合併に注意し,とくに頭蓋内圧の亢進では,頭痛より強い肩こりと表現されることもある.頭部MRIをとり,加えて静脈洞血栓症が原因のことがあるので,磁気共鳴血管撮影(MRA),磁気共鳴静脈造影(MRV)も同時にとる.異常があれば脳外科へ紹介する.仮に画像診断が異常なくても,髄液圧の測定,性状の検索をすべきである.画像診断に異常なく,髄液圧が亢進しており,性状に異常なければ,特発性頭蓋内圧亢進*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野(1)(31)15090910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1典型的な右眼外転神経麻痺の眼球運動右眼の外転制限のみがみられる.なし.・瞭眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.視力対座法視野検査瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)なし眼瞼(下垂なし)外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)角膜,顔面知覚眼輪筋力,顔面筋力眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・6カ月以内に改善する.6.非虚血性単独外転神経麻痺で行うべき検査(必要に応じて選択)・頭部MRI:外転神経の走行に沿って・血液検査:すべての患者に基本的な検査:血算,電解質,肝機能,血糖,赤沈,CRP抗核抗体ACE(angiotensinconvertingenzyme)自己抗体:ANCA抗体,リウマチ因子,抗GQ1b抗体ビタミンB1胸部単純,CT脳脊髄液検査(MRIで異常ないことを確認後)これが以下の異常を検出する唯一の方法頭蓋内圧亢進非典型的な髄膜炎(白血病,リンパ腫,癌性髄膜炎,真菌感染,サルコイドーシス,結核)検査項目髄液圧(openingpressure)生化(蛋白,グルコース,オリゴクローナルバンド,myelinbasicprotein,)微生物および細胞診(鏡検,細胞数,培養)7.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.小児の非外傷性の単独外転神経麻痺は神経眼科医へ即刻紹介する.8.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.II動眼神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の眼瞼下垂,上転,下転,内転制限がみられる(図2).病側の瞳孔は散瞳し,対光反射が弱化,あるいは消失する.軽症例では眼位で判断する.たとえば右動眼神経麻痺では,右上斜視が上方視では増強し,下方視では左上斜視になる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項参照のこと)3.よくみられる混合麻痺外転神経麻痺の合併;海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.滑車神経麻痺の合併:下転時の内方回旋がみられないことから判断する.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経麻痺の合併:海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経第一枝が障害されていれば海綿静脈洞の前部または上眼窩裂の病変,三叉神経第一枝,第二枝が障害されていれば海綿静脈洞の中部から後部の病変を考える.海綿静脈洞後部の病変では三叉神経が三枝とも障害され,視交叉,視索の障害が加わることもある.上記の海綿静脈洞の炎症性疾患は,Tolosa-Hunt症候群が有名であるが,あくまでも他の疾患が除外されて初めて診断できる.RAPDを合併:視神経が障害されていることを示し,眼窩先端部の病変を考え,画像検査を行う.(33)あたらしい眼科Vol.42,No.12,20251511図2典型的な動眼神経麻痺の症例右眼瞳孔散大,対光反射不良,眼瞼下垂,内転,上転,下転制限がみられる.30R/L0R/LΔΔ図3典型的な滑車神経麻痺の症例眼位検査で右滑車神経麻痺の場合,正面視で右上斜視が,左方視で増強,右斜頸で増強する.右眼左眼上直筋:SR下斜筋:IO下斜筋:IO上直筋:SR下直筋:IR上斜筋:SO上斜筋:SO下直筋:IR図4眼球運動の作用方向の図図5右滑車神経麻痺の作用方向の図を用いた診断方法つの筋のうち,数字の大きいほうの斜頸方向(額と顎を結ぶライン,図5赤線)に一致したC1つに丸を付ける(図5赤丸).・最後の一つか麻痺筋である.・Maddoxrodを用いる方法もある.・この方法は,斜視角が小さい,成人の滑車神経麻痺に有用である.・右眼の前にCrodを縦におき,ペンライトを固視させる.・右眼には水平の赤い直線,左眼にはペンライトの光が見える.・赤い線が光より上にあるか,真ん中か,下にあるかを問う.・たとえば,赤い線が光より下に見えれば,右上斜視を意味する.・右眼の前にバープリズムをベースを下にしておく.・光と赤い線の距離が次第に小さくなり,動かなくなるまでプリズムの度数を強める.・真ん中になった度数が正面視での斜視角度で,格子の真ん中に記載する.・以後は同様に左右方視時,左右斜頸時に測定,記録し,同様に麻痺筋を同定する.*両眼性滑車神経麻痺正面視での上下斜視角はほとんどみられず,眼球運動も一見正常にみえる.外方回旋角度がC10°を超えれば両眼性を考える.眼底写真が診断に有用なこともある.右方視では左上斜視,左方視では右上斜視になることがある.右斜頸では右上斜視,左斜頸では左上斜視になることがある.外傷性が多いが,非外傷性であれば画像診断で中脳背側病変を検索する.C2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患Skewdeviation:耳石器の異常により生じる上下斜視と斜頸である.滑車神経とCskewdeviationは鑑別が困難なことがあり,滑車神経麻痺型のCskewdeviationもあるのでややこしい.両者の鑑別には,滑動性追従運動,pursuitの障害の有無,眼振の有無,回旋変位の有無が有用である.SkewdeviationではCpursuitの障害があり,眼振があり,回旋変位がない.回旋変位はCdouC-bleMaddoxrodtestなどで判定する.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.詳細は重症筋無力症の項(1501頁)を参照する.C3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:中脳病変を考え,MRIをとる.RAPDを合併:中脳病変を考えCMRIをとる.中脳背側には滑車神経核,神経線維束があり,近くを交感神経線維,対光反射求心路が走行する.滑車神経は中脳背側の核をでたあと,膝部で左右交差して反対側へ走行する.滑車神経線維束と交感神経線維が障害されると滑車神経麻痺にCHorner症候群が合併する.滑車神経線維束と対光反射求心路が障害されると滑車神経麻痺に対側または同側のCRAPDが陽性となる.C4.単独滑車神経麻痺の原因成人小児外傷性C40.50%先天性C80%虚血性C20.30%外傷性C10%非代償性炎症性頭蓋内圧亢進*知っておくべきことは,成人では非代償性滑車神経麻痺として,複視を自覚して来院する.生まれつき代償性に首が傾いていることが多く,写真で確認することが有用である.上下の融像域が広いことが特徴で顔面の非対称がみられることもある.C5.虚血性の滑車神経麻痺の特徴以下のすべてをみたす.・40歳以上.・一つ以上の血管病変の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙).・悪性腫瘍,血管炎または自己免疫疾患なし.・急性発症の複視で,起床時に気づく,または起床後に初めて気づく.・複視の型,程度にC1日のうちで変化なし.・眼窩痛,顔面痛,頭痛なし,しびれなし.・耳鳴り,難聴,顔面神経麻痺なし.(37)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1515・全身神経症状なし.側頭動脈炎の症状なし・正面視で垂直偏位がみられる.・正面視で上斜視眼が,内転時に増加,上斜視側への斜頚で増加する.・正面視で上斜視眼が,以下の眼球運動の特徴を合併する.下斜筋過動症上斜筋のCunderaction・僚眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.・視力・対座法視野検査・瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,RAPDなし)・眼瞼(下垂なし)・外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)・角膜,顔面知覚・眼輪筋力,顔面筋力・眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・複視がC3カ月以内に軽減しはじめる.C6.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.成人の単独滑車神経麻痺は以下のように管理,治療する.外傷性は最低でもC6カ月は経過観察する.外傷性の経過観察期間や虚血性の回復までの期間,手術加療を希望しない例,斜視角が小さな複視には,Fresnelプリズム膜や眼鏡組み込みプリズムで矯正する.成人では上下複視の改善を目的として,反対側(僚眼)の下直筋後転を行う.両眼性では回旋複視の改善を目的として,下直筋の外方移動術,または原田-伊藤法を行う.小児では病眼の下斜筋後転を基本とする.小児での正面視時の上下斜視については,下斜筋後転と同時に行うよりもC2段階に分けて行うほうが過矯正を防ぐことができる.7.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.CIVFisher症候群1.決め手になる症状・所見単相性多発神経症で,失調,腱反射消失,外眼筋麻痺を三徴候とする(図6).外眼筋麻痺はさまざまで,上記のような眼球運動神経麻痺,または複合麻痺を呈する.時折球麻痺を生じるが四肢麻痺は生じない.初期の症状は複視で,続いて失調性歩行になり,数日後に腱反射が消失する.感覚低下がC50%に起こり,近位筋力の低下がC30%にみられる.30%で筋力低下に至り,これらはFisher症候群とCGuillain-Barre症候群のオーバーラップを示唆する.一方で,外眼筋麻痺は,末梢性眼球運動障害なのか,中枢性(脳幹部)眼球運動障害なのか鑑別が困難な場合があり,議論されるところである.中枢性眼球運動障害を支持する意見としては,眼球運動障害が画一的で,上方視が最初に障害され,その後,水平眼球運動,最後に下方視が障害されるというものである.回復は逆の順序で起こり,下方視から改善してくることから,これらの変化がちょうど吻側から尾側へと眼球運動神経核の配列に沿っており,中枢性の機序も考えられるというものである.また,51%に核間麻痺を合併することもその根拠としている.筆者も実際,脳幹部障害を示唆する眼振を合併する症例にしばしば遭遇する.頭部CMRIはしばしば正常であるが,なかには脳幹部が造影される例も報告されている.原因はほとんどの例で胃腸炎などの前駆感染徴候をもつ.この感染は,CampylobacterCjejuniによるものが大多数を占める.ほかには,マイコプラズマやCHIV-1,サイトメガロウイルス,EBウイルス,悪性リンパ腫や,風疹混合ワクチン接種後に起こることもある.C2.疑うときに行うべき検査神経ガングリオシドに特異的な自己抗体,とくにGQ1b抗体がC90%の症例で陽性となる.GQ1b抗体は,脳神経II,III,IV,VIに高濃度でみられ,臨床所見とよく相関している.GQ1b抗体は,CIII,IV,VI脳神経1516あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(38)図6Fisher症候群の眼球運動の歩行時の様子軽度の左眼の外転制限がみられ,失調性歩行のため,継ぎ足歩行ができない.’C-

重症筋無力症

2025年12月31日 水曜日

重症筋無力症MyastheniaGravis松本直*はじめに重症筋無力症(myastheniagravis:MG)は神経筋接合部での伝達障害により筋力低下や疲労現象を認める自己免疫疾患である.図1に正常とMGにおける神経筋接合部の模式図を示す.MGでは伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine:ACh)とシナプス後膜のアセチルコリン受容体(acetylcholinereceptor:AChR)との結合がAChR抗体により阻害され,伝達障害をきたし,筋力低下をきたす.胸腺腫や胸腺過形成などの胸腺異常が合併することがあるが,臨床症状との関連性は十分には解明されていない.I決め手になる症状・所見初発症状として眼瞼下垂(71.9%)や眼球運動障害,複視(47.3%)などを認める眼筋型と,症状が眼筋のみではなく頸部や四肢筋力低下(23.1%),軟口蓋・咽喉頭筋・舌筋の障害による構音障害や嚥下障害,咀嚼障害などの球症状(14.9%),顔面筋力低下(5.3%),重症例での呼吸障害(2.3%)を伴う全身型がある.症状の日内変動(夕方に症状悪化)や易疲労性(反復運動による症状悪化と休養後の改善)を認める1).重症筋無力症(myastheniagravis:MG)に伴う眼球運動障害は複数筋に及び,神経支配と一致しない障害を認めることがある.有病率は10万人あたり2005年では11.8人,2017年では23.1人と推定され増加してきている2).眼筋型MGの割合は0.4歳発症で80.7%,5.9歳で61.5%,10.49歳で26.2%,50歳以上で37.7%となっている1).全身型に移行する場合でも,初発症状は眼科所見が多く,患者は眼科を受診することが多い.MGは眼科所見,自己抗体の採血,神経筋接合部障害の検査から診断2)される(表1).とくに眼瞼下垂と複視の主訴には注意が必要であり,問診が重要となる.たとえば「眼瞼下垂は片眼性なのか,両眼性なのか」「自覚症状はいつからか,急に気がついたか」「朝と夕方で症状は変化するか」「両眼で見たときに二つに見えないか」などをなるべく具体的に聴取する必要がある.眼瞼下垂については形成外科にて手術をされており下垂の判別がむずかしい場合や,手術効果不十分で受診することもあり,眼瞼手術の既往を確認することも重要となる.また,MG患者は発症起点を明確に覚えていることが多く,発症が「徐々に」なのか「急に」なのかを聴取することも重要である.日内変動においてもMGでは「朝症状が軽いが,夜症状が重くなる」が,甲状腺機能亢進症では逆に「起床時にもっとも症状が重く,日中に軽くなる」と違いがある.しかし,この二つの疾患は合併することもあり注意が必要である.その他に単一の眼運動神経麻痺として説明のつかない外眼筋麻痺を認める場合にMGを疑い精査を進める必要がある.II疑うときに行うべき検査診断において抗体検査の結果は重要であるが,結果判明まで時間を要するうえに眼筋型MGの約半数は*TadashiMatsumoto:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕松本直:〒143-8541東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科(1)(23)15010910-1810/25/\100/頁/JCOPY運動神経終末シナプス小胞シナプス後膜AChRMuSKLrp4AChChE重症筋無力症AChR抗体図1重症筋無力症のメカニズム正常であれば運動神経終末のシナプス小胞より放出されたアセチルコリン(ACh)が後シナプス膜に存在するアセチルコリン受容体(AChR)に結合し筋収縮が起こり,信号の終了とともにコリンエステラーゼ(ChE)の作用でAchが分解し,筋収縮が終了する.重症筋無力症においては形質細胞から産生されたAChR抗体により,神経筋接合部でのAChの結合が阻害され,伝達障害をきたす.表1重症筋無力症診断基準2022A症状(1)眼瞼下垂(2)眼球運動障害(3)顔面筋力低下(4)構音障害(5)嚥下障害(6)咀嚼障害(7)頸部筋力低下(8)四肢筋力低下(9)呼吸障害<補足>上記症状は易疲労性や日内変動を呈するB病原性自己抗体(1)抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性(2)抗菌特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性C神経金接合部障害(1)眼瞼の易疲労性試験陽性(2)アイスパック試験陽性(3)エドロホニウム(テンシロン)試験養成(4)反復刺激試験養成(5)単線維筋電図でジッターの増大D支持的診断所見血漿浄化療法によって改善を示した病歴があるE判定Definite:以下のいずれかの場合,重症筋無力症と診断する(1)Aの1つ以上,Bのいずれかが認められる(2)Aの1つ以上,Cのいずれかが認められ,他の疾患が鑑別できるProbable:Aの1つ以上,Dを認め,血液浄化療法が有効な他の疾患を除外できる(文献2より転載)ab図2眼瞼縁角膜反射距離(marginre.exdistance:MRD)の測定方法a:患者の眼前からペンライトを当て,角膜反射と上眼瞼縁までの距離(mm)をCMRD-1,下眼瞼縁までの距離(mm)をCMRD-2として測定する.Cb:写真で記録しておくと判定が容易となる.~図3上方注視負荷試験a:上方視をC1分程度継続させ,眼瞼の状態,複視の悪化を確認する.Cb:試験前.両眼CMRD-1:2mm,MRD-2:5Cmmと軽度の眼瞼下垂を認める.Cc:上方視開始.d:試験開始C30秒後眼瞼下垂が悪化(右>左)している.表2重症筋無力症眼科領域判定表正常C0軽度C1中等度C2重度C3QMGスコア側方視時の複視出現までの時間(秒)61以上11.6C01.1C0常時上方視時の眼瞼下垂出現までの時間(秒)61以上11.6C01.1C0常時CTheMyastheniaGravis側方視時の複視出現までの時間(秒)45以上:011.45:11.10:3常時:4CompositeScale上方視時の眼瞼下垂出現までの時間(秒)45以上:011.45:11.10:2常時:3(文献C2より転載)a抗コリンエステラーゼ薬ナファゾリン点眼プレドニゾロン少量(胸腺主腫あれば胸腺摘除)bIVMP反復免疫抑制薬図5眼筋型重症筋無力症の治療アルゴリズムIVMP:メチルプレドニゾロン静脈内注射.C図6メスチノン試験内服a:内服前.b:内服開始C1週間後.左眼瞼下垂の改善が認められる.

甲状腺

2025年12月31日 水曜日

甲状腺眼症ThyroidEyeDisease川口俊輔*神前あい*I概要甲状腺眼症(thyroideyedisease:TED)とは,おもにBasedow病(Graves’diseaseともよばれる)に伴って発症する自己免疫性の炎症性眼窩疾患であり,眼球突出,複視,視力障害などを生じることで患者の生活の質(qualityofLife:QOL)を著しく低下させる.疾患の本質は,外眼筋や眼窩脂肪,結合組織への自己免疫反応による炎症であり,進行すると急激な視機能低下に至ることもあるため,早期診断と適切な治療介入がきわめて重要である.これまで日本におけるTEDの発症率や有病率は不明であったが,2023年レセプトビッグデータを用いた解析結果が報告された.JapanMedicalDateCenter(JMDC)の1,300万人のデータベースを用いたこの解析では,TEDの発症率は人口10万人年あたり7.3人(男性3.6人,女性13.0人),日本におけるTEDの年齢調整有病者数は34,913人(有病率0.034%)と算出された.平均年齢は44.6歳,女性が76%,基礎疾患としてはBasedow病70.8%,慢性甲状腺炎9.4%であった1).本疾患では,重症度と活動性の評価が診断と治療方針の決定に直結する.臨床的には眼科的所見とともに臨床活動性スコア(clinicalactivityscore:CAS)(表1)によって活動性を評価し,MRI,とくに脂肪抑制T2強調画像(STIR法など)による眼窩組織の浮腫・炎症の可視化が有用である.これにより,治療の時期や方法を選表1ClinicalActivityScore(CAS)□眼球や球後の痛み・圧迫感や違和感□眼球運動時痛(上方視,下方視,側方視)□眼瞼の発赤□眼瞼の腫脹□結膜の充血□結膜の浮腫□涙丘の腫脹───────────────□1.3カ月間に2mm以上の眼球突出の進行□1.3カ月間に8度以上の眼球運動障害□1.3カ月間に視力低下注:炎症の典型的な特徴に基づく活動性評価である.択する.治療の中心にはステロイドパルス療法があり,活動性の高い場合には射線療法の併用も検討される.非活動期には,眼窩減圧術や斜視手術,眼瞼手術などの外科的介入が後遺症の改善を目的として行われる.また,2024年11月にはIGF-1受容体阻害薬であるテプロツムマブが日本でも活動性甲状腺眼症への適用が承認され,治療の選択肢が広がった.TEDは,単なる「目の病気」にとどまらず,内分泌疾患と眼科疾患が交差する代表的な病態であり,早期発見と包括的なマネジメントによって患者のQOLと視機能を守ることができる疾患である.II決め手になる症状・所見本疾患の初期には,患者が「目が出てきた」「目がゴ*ShunsukeKawaguchi&AiKozaki:オリンピア眼科病院〔別刷請求先〕川口俊輔:〒150-0001東京都渋谷区神宮前2-18-12オリンピア眼科病院(1)(15)14930910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1Hertel眼球突出度計による測定両眼の外眼角部に.の突出部をあて,正面方向から二つの赤矢印を重ね,角膜頂点部の数字(.)が突出度である.測定誤差が出ないように眼窩外側縁間距離も記載し,毎回同じ距離で計測する.図2外眼筋の活動性炎症a:T1強調画像の冠状断.両眼C4直筋の腫大がみられる.b:脂肪抑制CT2強調画像の冠状断.腫大した外眼筋が高吸収域を示しており炎症所見を認める.とくに左上,内,下直筋の炎症が強くみられる.STTA前STTA後図3右下直筋炎症性腫大に対するSTTA施行例STTA前にはCMRIで右眼の下直筋と内直筋の炎症性腫大がみられる.STTAを下直筋周囲に施行は,治療前にみられた高吸収域がなくなっており,炎症が改善していることがわかる(.).図4下直筋の拘縮による上転障害例の9方向眼位正面視にて右が下斜視となっており,上方視にて右眼上転が制限されている(.).4.眼窩蜂窩織炎眼の急性化膿性炎症で,副鼻腔炎やう歯から炎症が波及する場合が多く,発熱・悪寒などの全身症状を伴い,眼瞼の強い発赤腫脹や眼窩の圧痛が特徴的である.画像検査で炎症所見を確認し,白血球増多やCC反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)上昇などの炎症反応で診断する.C5.内頸動脈海綿静脈洞瘻内頸動脈から海綿静脈洞への動脈血短絡であり,拍動性眼球突出,結膜の静脈怒張,血管雑音,眼球運動制限などを呈する.眼圧脈圧が高いことも特徴的で,MRアンギオグラフィにより短絡血流や上眼静脈拡張を確認できる.外傷後に急性に発症する例と,血管奇形により硬膜枝から短絡する軽症型がある.加えて,重症筋無力症,動眼神経麻痺,上眼瞼挙筋ミオパチー,サルコイドーシス,血管炎(Wegener肉芽腫症)など全身疾患に伴う眼症状も鑑別に含めるべきである.とくに片側性,急速な進行,全身症状を伴う例では,甲状腺眼症と決めつけず,広い視野で診断アプローチをとることが重要である.CV治療あるいは紹介のタイミング甲状腺眼症の治療や専門医紹介のタイミングは,重症度と活動性の評価に基づいて決定される.活動期の患者,とくに視神経障害や急速な進行を認める場合は,早急に専門医紹介が必要である.甲状腺眼症の治療の第一歩は甲状腺機能の是正であり,内分泌専門医への紹介も必要であり,内科治療と並行して眼科治療を行う.活動期には,メチルプレドニゾロンの静注ステロイドパルス療法が標準治療であり,複数筋の腫大,もしくは単筋腫大でCTSAbが高値である場合が治療の適応である.反応不良例には眼窩放射線療法やテプロツムマブ導入も検討される.テプロツムマブはCIGF-1受容体を標的とした分子標的薬であり,活動期のCTEDに対して眼球突出の著明な改善が期待できる.一方で,複視に対する改善効果は部分的であり,線維化が進行した非活動期では効果が限定的である.治療効果の発現が早く,患者のCQOLの改善も顕著で,3週間ごとの点滴投与で通院負担が少ない利点もあるが,難聴,高血糖,倦怠感,無月経などの有害事象が報告されており,治療継続には注意を要する.また,治療費の負担も課題である.圧迫性視神経症状が顕著な場合は,眼窩減圧術の適応を速やかに検討する必要がある.点滴治療以外にも局所の炎症にはステロイド局所注射も行われている.トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)皮下注射やトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-TenonCTAinjection:STTA)が実施される.MRIで上眼瞼挙筋の炎症性腫大がみられ,上眼瞼後退や眼瞼腫脹のみられる患者にはCTA皮下注射がよい適応である.眼瞼皮下にCTA12.20Cmg/0.5Cmlを注射する.また,単筋腫大例やステロイドパルス療法後に残存する外眼筋炎症に対してはCSTTAが適応となる(図3).腫大筋周囲にC20Cmg/0.5Cmlを注射する.STTA後に外眼筋の炎症は改善するが,複視が残存する患者もみられる.とくに下直筋では筋拘縮が進んで投与後に複視が悪化する患者があるため,施行には注意を要する.複視に対しては,活動期,非活動期を問わず,A型ボツリヌス毒素注射の併用も可能であり,複視改善を狙うことができる.非活動期には,後遺症に対する外科的介入が段階的に行われる.眼窩減圧術,斜視手術,眼瞼形成術の順で行うのが一般的であり,炎症の安定をC6カ月以上確認したうえで計画される.軽症例では生活指導や保存的治療が中心となり,禁煙,ビタミンCD・セレンの補充,人工涙液の使用が推奨される.総じて,紹介や治療開始のタイミングを逸すると,視機能や外見の後遺障害が固定されるため,初期診療を担う医師が適切に対応もしくは眼症専門医へ早期に紹介することがきわめて重要である.CVIその他の予後に影響すること甲状腺眼症は自己免疫疾患であるので,自然寛解もみられる.活動期さえ過ぎれば徐々に改善していく疾患であるので,重症化させない治療が予後に影響する.原疾患であるCBasedow病の管理,甲状腺眼症発症時の重症(19)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1497度,喫煙,合併症の有無など多くの因子に左右される.発症年齢が高い患者では重症化しやすく,男性や喫煙者で重症化しやすいが,近年は喫煙率の低下に伴い性差は縮小している.人種差も存在し,白人で高頻度,アジア人で低頻度とされる.環境因子の中では喫煙がとくに重要である.喫煙はTEDの発症,進展,治療抵抗性といったあらゆる段階において有意な影響を与えることが複数の疫学研究で示されている.Haggらの初報や,Vestergaardらによるメタ解析では,喫煙者は非喫煙者と比較してCTED発症のオッズ比(oddsratio:OR)がC4.40(95%信頼区間:2.88.6.73)と有意に高く,Basedow病自体の発症リスク(OR3.30,95%信頼区間:2.09.5.22)を上回った2,3).さらに,Basedow病患者においても喫煙は非喫煙に比しCTED発症のCOR2.18(95%信頼区間:1.51.3.14)であった.治療抵抗性についても,放射線外照射や糖質コルチコイド療法との併用成績において喫煙者は改善率が低下しており,中等度CTED症例においても治療効果の有意な減弱が報告されている.この背景には,タバコ煙成分によるサイトカイン産生促進,慢性的低酸素刺激による外眼筋線維化,線維芽細胞でのプロテオグリカン産生亢進や脂肪細胞分化促進といった病態機序が想定される4.6).これらの知見をふまえ,米国甲状腺学会,欧州ガイドライン,日本甲状腺学会のいずれの診療指針においても,すべてのCBasedow病患者に対して禁煙を強く推奨し,TED治療戦略の一環として禁煙外来や薬物療法による支援を明記している.甲状腺機能異常自体も予後に直結し,甲状腺中毒症の程度と持続期間はCTEDの重症化と相関し,治療に伴う甲状腺機能低下症への移行も新規発症や増悪の契機となる.TRAb高値例では活動性と重症度が高く,予後不良であることも知られている.加えて,遺伝的素因として免疫調節因子の遺伝子多型が関与し,これはCBasedow病の発症機序とほぼ共通である7).精神的ストレスも重要な修飾因子であり,眼症の有無にかかわらずCBasedow病発症を誘発しうる.眼症患者は一般集団に比べCQOLが有意に低下しており,その程度は複視や眼窩部痛,重大なストレスイベントの経験と相関する.生活リズムの乱れは精神的不安定を助長し,甲状腺機能異常や眼症症状の悪化につながるため,規則的な生活と十分な睡眠,精神的支援が予後改善に寄与する可能性がある.さらに,身体的ストレスや局所組織障害も眼症の増悪因子となりうる.眼窩減圧術,斜視手術,白内障手術,インターフェロン治療,動脈塞栓術などが増悪の契機となった報告があり,局所感染や組織崩壊は自己免疫反応の活性化や炎症の増強を介して病態を悪化させる8.12).活動期には不要不急の外科処置や抜歯,過激な運動は避けることが望ましい.総じて,TEDの予後改善には禁煙の徹底,甲状腺機能の厳密な管理,精神的ストレス対策と生活リズムの安定化,活動期における組織侵襲の回避が不可欠である.これらの因子のうち,喫煙は患者自身が直接是正できる唯一の要素であり,TED治療戦略における中心的介入対象と位置づけられる.また,喫煙は発症リスクだけでなく,治療抵抗性や重症化の独立した危険因子であることが知られており,診断時の禁煙指導は必須である.加えて,外見の変化による精神的負担や社会的ストレスも無視できず,患者の心理的支援と生活環境への配慮も,治療の継続とCQOLの向上において欠かせない要素であることも忘れてはならない.文献1)渡邊奈津子,神前あい,井上浩輔ほか:日本における甲状腺眼症の有病率と発症率.日内分泌会誌99:324,C20232)HaggE,AsplundK:Isendocrineophthalmopathyrelatedtosmoking.BrMedJC295:634-635,C19873)VestergaardP:SmokingandthyroiddisordersC─Cameta-analysis.EurJEndocrinolC146:153-161,C20024)MetcalfeCRA,CWeetmanAP:StimulationCofCextraocularCmuscleC.broblastsCbyCcytokinesCandhypoxia:possibleCroleinthy-roid-associatedophthalmopathy.ClinEndocri-nolC40:67-72,C19945)ChngCL,LaiOF,ChewCSetal:Hypoxiaincreasesadi-po-genesisanda.ectsadipocytokineproductioninorbital.bro-blasts-aCpossibleCexplanationCofCtheClinkCbetweenCsmokingCandCGraves’Cophthalmopathy.CIntCJCOphthalmolC7:403-407,C20146)RegensburgCNI,CWiersingaCWM,CBerendschotCTTCetal:CE.ectCofCsmokingConCorbitalCfatCandCmuscleCvolumeCinCGraves’orbi-topathy.ThyroidC21:177-181,C20117)KhalilzadehCO,CNoshadCS,CRashidiCACetal:GravesC’Coph-thalmopathy:aCreviewCofCimmunogenetics.CCurrCGenom-1498あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(20)’C’C

虚血性視神経症:動脈炎性と非動脈炎性

2025年12月31日 水曜日

虚血性視神経症:動脈炎性と非動脈炎性IschemicOpticNeuropathy:ArteriticandNon-ArteriticType澤村裕正*はじめに日常診療で神経眼科疾患に遭遇する頻度は決して多くはない.しかし,視神経疾患は急性に発症し,かつ重度の視機能障害を呈する場合もあるため,日常診療においても注意が必要である.本稿では虚血性視神経症に焦点を絞り,動脈炎性および非動脈炎性について概説する.虚血性視神経症の診断と治療のポイントを表1にまとめた.I虚血性視神経症虚血性視神経症1)は視神経への血液供給が不十分なために生じる疾患である.中高年者に多く認められ,片眼性に生じることが多い.自覚症状としては急激な視力低下,視野障害として出現することが多い.障害部位により,視神経乳頭に異常を認める前部虚血性視神経症(9割以上とされる)と,検鏡的に視神経乳頭に異常を認めない後部虚血性視神経症(1割以下とされる)とに分類される.後部虚血性視神経症では罹患眼の相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)が陽性になるが,急性期には他の他覚的所見に乏しい場合が多い.球後視神経炎やその他の視神経症など,ほかに視力低下を説明できる疾患がない場合に到達する診断とされる.そのため,最初から後部虚血性視神経症の診断をつけるのではなく,頭部のMRI検査,採血検査などを行い,十分にほかの疾患を鑑別する必要がある.表1虚血性視神経症診断と治療のポイント虚血性視神経症の原因には9割以上を占める非動脈炎性と,まれではあるが動脈炎性とがある.動脈炎性と非動脈炎性虚血性視神経症では治療が異なるため,鑑別が必須である.非動脈炎性虚血性視神経症の背景には未治療の高血圧,糖尿病が隠れていることがあるため,問診に加えて血圧測定,採血検査を行う.動脈炎性の虚血性視神経症では僚眼の再発を防ぐため,ステロイドの全身投与が必須である.動脈炎性の後部虚血性視神経症は診断がきわめてむずかしいが,まずは疑うこと,採血検査を行うことが重要である.また,虚血性視神経症はその原因から,血管炎によって生じる動脈炎性虚血性視神経症(日本人にはまれ)と,血管炎を伴わない非動脈炎性虚血性視神経症とに大別される.そのほかにまれではあるが脊椎手術後などの周術期に生じることも報告されている.動脈炎性虚血性視神経症の原因疾患は巨細胞性動脈炎が多い.動脈炎性と非動脈炎性虚血性視神経症では治療方針が異なるため,これらの鑑別がきわめて重要になる.II非動脈炎性前部虚血性視神経症1.決め手になる症状・所見日常診療で遭遇する機会の多い虚血性視神経症である.通常,片眼性に突然の痛みを伴わない視力低下で発症する.まれに両眼性に生じる場合もある.視力低下が*HiromasaSawamura:帝京大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤村裕正:173-8606東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学教室(1)(9)14870910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1非動脈炎性虚血性視神経症(左眼)の例60代の男性で高血圧の既往があった.a:後極写真.視神経乳頭に腫脹を認め,線条出血も認める.b:蛍光造影検査の早期像.視神経乳頭部への充盈遅延,乳頭周囲脈絡膜への充盈遅延が認められる.c:蛍光造影検査の後期像.視神経乳頭部の過蛍光を認める.図2動脈炎性前部虚血性視神経症(右眼)の例後極写真.視神経乳頭の腫脹,蒼白化を認める.図3動脈炎性後部虚血性視神経症の例80代,男性.a:頭部造影MRI画像(水平断).頭蓋内主幹動脈に増強造影効果と壁肥厚を認める().b:側頭動脈の病理所見.ヘマトキシリン・エオジン染色.動脈壁内膜の線維性肥厚および内腔の狭小化,炎症細胞の浸潤,多核巨細胞や類上皮細胞を混じた肉芽腫様の反応を認めた.(文献3より引用)

視神経炎 

2025年12月31日 水曜日

視神経炎TheEssentialsofDiagnosingandTreatingOpticNeuritis植木智志*はじめに本稿では視神経炎の診断と治療の基本中の基本についてできる限りわかりやすく解説する.さらに典型的視神経炎と非典型的視神経炎およびかつて米国と日本で行われた治療トライアル1.3)について詳しく解説する.本稿ではToosyらによる視神経炎の分類に基づき,視神経炎を典型的視神経炎と非典型的視神経炎に分類して解説する4).視神経炎の最新の分類はPetzoldらによるものであるが5),これはToosyらによる分類をさらに発展させたものである.典型的視神経炎はかつて米国で行われた治療トライアルであるOpticNeuritisTreatmentTrial(ONTT)1)で明らかにされた臨床的特徴を呈する視神経炎である.多発性硬化症に関連した視神経炎,日本における呼称としての特発性視神経炎,特発性視神経炎の再発が含まれる.筆者はかつて日本で行われた治療トライアルであるOpticNeuritisTreatmentTrialMul-ticenterCooperativeResearchGroup(ONMRG)2)で明らかにされた臨床的特徴も考慮すべきと考えている.非典型的視神経炎の代表的なものはアクアポリン4(aqua-porin-4:AQP4)抗体陽性視神経炎およびミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelinoligodendrocytegly-coprotein:MOG)抗体陽性視神経炎である.表1に視表1視神経炎の分類およびそれぞれのサブタイプの臨床的特徴および治療分類臨床的特徴急性期治療慢性期治療多発性硬化症に関連した視神経炎1.典型的視神経炎では眼球運動痛を含む眼痛・眼窩痛がみられることがある.米国ではおよそ90%,日本ではおよそ60%.多発性硬化症に対する再発予防の治療典型的視神経炎特発性視神経炎2.典型的視神経炎では乳頭腫脹がみられることがある.米国ではおよそ40%,日本ではおよそ50%.ステロイドパルス療法なし特発性視神経炎の再発3.典型的視神経炎の視力低下は数日.2週程度で徐々に進行する,その後,無治療でも発症から3週以内に80%の症例で改善が始まる.なし非典型的視神経炎AQP4抗体陽性視神経炎視機能予後不良再発が多いステロイドパルス療法血漿交換療法免疫グロブリン大量静注生物学的製剤ステロイド内服免疫抑制薬MOG抗体陽性視神経炎再発が多い乳頭腫脹が多い眼痛がみられることが多いステロイドパルス療法ステロイド内服免疫抑制薬*SatoshiUeki:新潟大学医歯学総合病院眼科〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8520新潟市中央区旭町通一番町754新潟大学医歯学総合病院眼科(1)(3)14810910-1810/25/\100/頁/JCOPY表2視神経炎の鑑別疾患片側性に乳頭腫脹をきたす疾患乳頭腫脹はないが,片側性に視力低下・中心暗点をきたす疾患1.視神経炎(視神経乳頭炎型)2.前部虚血性視神経症3.糖尿病乳頭症4.白血病5.視神経鞘髄膜腫6.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症1.視神経炎(球後視神経炎型)2.圧迫性視神経症3.網膜疾患(急性帯状潜在性網膜外層症など)4.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症bacd図1典型的視神経炎症例(32歳,女性)の検査結果12日前から右眼眼球運動痛あり,その後に右眼視機能障害を自覚.RV=(0.4),LV=(1.2).a:Goldmann視野検査で右眼中心暗点あり.Cb:RAPDxによる検査結果.右眼CRAPD陽性.Cc:乳頭COCTによる結果.右眼視神経乳頭腫脹あり.Cd:冠状断脂肪抑制造影CT1強調画像.造影CMRIで右視神経に造影効果あり.脳病巣なし.ステロイドパルス療法後視力視野は改善.アクアポリンC4抗体陰性.その後に再発なし.発症からC7カ月後のCMRIで新たな脳病巣なし.III治療あるいは紹介のタイミング1.典型的視神経炎の治療典型的視神経炎は無治療でもC80%の症例に改善がみられるとされているが,ステロイドパルス療法で改善までの期間を短縮することができる.視機能予後が不良なAQP4抗体陽性視神経炎を鑑別するためのCAQP4抗体の測定結果が判明するまでにC1週間程度要することを考慮すると,視神経炎と診断したら速やかにステロイドパルス療法を行い,AQP4抗体の測定結果を待つという対応が望ましいと筆者は考える.視神経炎診断時にすでに視機能が改善傾向である患者はそのかぎりではない.C2.AQP4抗体陽性視神経炎の治療a.急性期まずステロイドパルス療法を行い,治療に対する反応性の有無により血漿交換療法を行うかを考えるのがよい.あるメタアナリシスは血漿交換療法を行うタイミングは視神経炎発症から8.23日以内がよいとしている8).眼科医単独で血漿交換療法を行うのは困難であり,腎膠原病内科や脳神経内科と連携する必要がある.もう一つの急性期治療の選択肢として免疫グロブリン大量静注がある.最近の報告ではCAQP4抗体陽性視神経炎症例においてステロイドパルス療法後の免疫グロブリン大量静注により視力改善がみられることが示されている9).Cb.慢性期AQP4抗体陽性視神経炎では再発が多くみられ,再発のたびに視機能は増悪するため,慢性期の再発予防のための維持療法が重要である.かつてはプレドニゾロン内服やアザチオプリン内服,それらの併用などが行われてきたが,現在は五つの生物学的製剤が維持療法の選択肢となっている.抗補体CC5抗体であるエクリズマブおよびラブリズマブ,IL-6レセプターリサイクリング抗体であるサトラリズマブ,抗CCD19抗体であるイネビリズマブ,抗CCD20抗体であるリツキシマブである.C3.MOG抗体陽性視神経炎の治療MOG抗体陽性視神経炎は乳頭腫脹,眼球運動痛がみられる割合が高く,視機能予後は良好だが再発が多くみられる.Ca.急性期ステロイドパルス療法を行う.Cb.慢性期Kezukaらはステロイドパルス療法終了後からプレドニゾロンをC0.5Cmg/kg/日で内服開始し,5.7日おきに5Cmgずつ漸減,20Cmg/日となった時点でアザチオプリンC50.100mg/日内服を追加することを推奨している10).C4.どの時点で神経眼科の専門家に相談するのか問診による症状の聴取・視力・視野所見・RAPDの評価などから視神経炎が疑われたら神経眼科の専門家に相談するのがよい.C5.どの時点で脳神経内科に相談するのかこれについては定まった見解はなく施設間で差があると思われるが,筆者は視神経炎発症時のCMRIで大脳に多発性硬化症を疑わせる脳病巣がみられたら,また視神経炎発症時のCAQP4抗体測定の結果が陽性であったら,脳神経内科に相談するのがよいと考えている.CIV鑑別しておきたい疾患視神経炎の鑑別疾患を表2に示す.視神経炎は両側性に発症することもあるが,片側性に発症することがほとんどである.「I決め手となる症状・所見」の項で述べたように,視神経炎は乳頭腫脹を呈することがある.片側性に乳頭腫脹をきたす疾患の鑑別診断には,おもに下記の六つがある.1.視神経炎(視神経乳頭炎型)2.前部虚血性視神経症(anteriorischemicopticneu-ropathy:AION)3.糖尿病乳頭症4.白血病5.視神経鞘髄膜腫6.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症乳頭腫脹がなければ,片側性に視力低下・中心暗点をきたす疾患が視神経炎の鑑別疾患となり,おもに以下の四つがある.1484あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(6)1.視神経炎(球後視神経炎型)2.圧迫性視神経症3.網膜疾患(急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)など4.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症本稿では,乳頭腫脹を呈する視神経炎の鑑別診断として重要な前部虚血性視神経症,乳頭腫脹のない視神経炎の鑑別診断として重要なCAZOOR,両者に共通する肥厚性硬膜炎に伴う視神経症について解説する.C1.前部虚血性視神経症(AION)AIONの病態は短後毛様動脈系の局所の還流低下である.動脈炎性と非動脈炎性に分類され,非動脈炎性が圧倒的に多い.急性発症の視機能障害と乳頭腫脹を呈する.以下にCAIONと視神経炎の鑑別点について解説する.視機能障害の経過:AIONの視機能障害は急性発症で非進行性だが,視神経炎の視機能障害は亜急性に進行する.乳頭腫脹:AIONでは視神経乳頭の蒼白浮腫が特徴的であるが軽度乳頭腫脹の場合もある.AIONでは乳頭出血がみられることが多いが視神経炎では少ない.視野障害:AIONでは水平性下半盲がみられることが多いが,視神経炎でも水平性下半盲はみられることがある.年齢:AIONは高齢者に比較的多いが,年齢でCAIONと視神経炎を区別することはできない.眼痛:日本では視神経炎のおよそC60%にみられるが,AIONは通常は無痛性である.蛍光眼底造影:AIONでは視神経乳頭の充盈遅延が特徴的である.視神経炎では漏出がみられる.男性,高血圧,高脂血症,糖尿病,心疾患の既往,睡眠時無呼吸,第CV因子のCLeiden突然変異のヘテロ接合,心血管系の薬剤の服用歴などが非動脈炎性CAIONの危険因子であるため11),問診でこれらの因子を聴取することが重要である.また,近年ではCGLP-1受容体作動薬内服により非動脈炎性CAIONの発症率が上がることが報告されている12).動脈炎性は側頭動脈炎が原因であることが多く,食事をしていると顎がダルくなる(顎跛行),C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)および血沈高値などが側頭動脈炎を疑う症状および所見である.C2.急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)AZOORは,急性発症の視力低下や視野欠損を呈するものの眼底に異常がみられないことから,乳頭腫脹のない視神経炎としばしば鑑別が必要となる.若年女性に多い.日本にはCAZOORの診断ガイドラインが存在するため参考になる13).診断基準の主要項目のエッセンスは以下のとおりである.片眼性が多いが,両眼性もありうる.眼底検査および蛍光眼底造影では異常はみられない.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で視野欠損部位に一致して網膜外層の構造異常(ellipsoidzoneの欠損あるいは不明瞭化とCinterdigita-tionzoneの消失)がみられる.ただし,軽症例や回復期ではCinterdigitationzoneのみ異常がみられることもある.全視野網膜電図(electroretinogram:ERG)で振幅低下,もしくは多局所CERGで視野欠損部位に一致した振幅低下がみられる.副次項目には,1)発症前の風邪様の症状,2)光視症,3)硝子体細胞浮遊,4)眼底自発蛍光での異常所見,があげられているが,筆者はこのなかでもとくに光視症の有無の聴取がCAZOORを疑うために重要であると考える.C3.肥厚性硬膜炎肥厚性硬膜炎は,脳および脊髄の硬膜が部分的またはびまん性に肥厚し,肥厚部位によりさまざまな脳神経症状を呈する疾患である.視神経周囲の硬膜の肥厚により視神経症を呈しうるが,乳頭腫脹は伴うことも伴わないこともある.眼窩先端の硬膜の肥厚であれば視機能障害の他に眼運動神経麻痺を伴う.診断には造影CMRIが重要で硬膜の造影を伴う肥厚が所見となる.肥厚性硬膜炎では初発症状として頭痛を伴うことがもっとも多いため,頭痛の有無を聴取することは重要である.原因は特発性と続発性に分類され,続発性ではANCA関連血管炎,サルコイドーシス,細菌・真菌・結核などの感染症などが原因となる.IgG4関連疾患に伴うこともある.(7)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1485-

序説:神経眼科疾患:診療の基本中の基本

2025年12月31日 水曜日

神経眼科疾患:診療の基本中の基本Neuro-Ophthalmology:TheMostBasicofBasicsforDiagnosisandTreatment敷島敬悟*「あたらしい眼科」では定期的に神経眼科の特集が組まれている.筆者も2022年に担当させていただき,「神経眼科疾患とまぎらわしい疾患─鑑別のポイント」と題し,頻度が少ない神経眼科疾患を診る機会が少ない一般眼科医向けの特集を企画した.その序説では「神経眼科疾患の診断はむずかしいというイメージをもち,敬遠される方も多いと思われるが,通常は,典型的な神経眼科疾患であれば診断は決してむずかしくはない」と記載した.今回の特集は,さらに基本に戻って,レジデントや専門外の先生にも神経眼科の理解を深めていただきたく,神経眼科診療の基本中の基本をテーマに,神経眼科を専門とする臨床経験豊富な先生方にわかりやすく解説していただいた.この趣旨に沿うように,通常の定義,疫学,自覚症状,検査所見,治療を列挙するという一般的な項目ではなく,①決め手になる症状・所見,②疑うときに行うべき検査,③鑑別しておきたい疾患,④治療あるいは紹介のタイミング,⑤その他の予後に影響すること,を小見出しに設定した.また,とりあげた疾患もすべてを網羅するのではなく,神経眼科疾患のうち比較的頻度が高いものを選択した.まず,視神経疾患で頻度が高い視神経炎について,植木智志先生にご執筆いただいた.従来からの典型的視神経炎,予後不良のAQP4陽性視神経炎,最近のトピックスのMOG関連疾患は,それぞれ臨床的特徴,急性期と慢性期の治療方針が異なる.各サブタイプの特徴をわかりやすくまとめていただき,加えて,鑑別すべき疾患についても詳しく記載されている.続いて,もうひとつの高頻度疾患である虚血性視神経症を澤村裕正先生に概説していただいた.非動脈炎性虚血性視神経症と動脈炎性虚血性視神経症は治療方針が異なるので,その鑑別が必要である.両者の症状,所見,治療法の相違が記載されており,重篤な視機能障害をきたす動脈炎性虚血性視神経症の診断,治療の重要性を強調されている.複視をきたすときは核下性眼球運動障害を考える.外眼筋疾患,神経筋接合部障害,末梢性神経麻痺によって生じる.外眼筋疾患では高頻度の甲状腺眼症をこの疾患の臨床経験が豊富な川口俊輔先生と神前あい先生に解説していただいた.はじめに,ビッグデータによる発症率と有病率,ならびに臨床活動性スコア(CAS)について提示されている.続いて,臨床像の特徴,検査所見,鑑別疾患について具体的に記載され,治療法では最近保険収載されたテプロツムマブについても触れられている.神経筋接合部障害である重症筋無力症もよく遭遇*KeigoShikishima:東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)1479

CorNeat EverPatch Plus を用いた緑内障ロングチューブ手術

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1468.1472,2025cCorNeatEverPatchPlusを用いた緑内障ロングチューブ手術千原悦夫千原智之千照会・千原眼科CGlaucomaLongTubeSurgeryUsingCorNeatEverPatchPlusEtsuoChiharaandTomoyukiChiharaCSensho-kaiEyeInstituteC目的:緑内障ロングチューブ手術においてCCorNeat社がウレタン素材から合成した新しいパッチ材料であるCEver-PatchPlusを用いて手術を行い,その後の結膜の状態を前眼部COCTによって検討した.方法:11例C11眼の難治緑内障に対してCAhmed緑内障バルブあるいはCPaul緑内障インプラント(PGI)を設置し,そのチューブをCCorNeat社のCEverPatchPlusのうちCshieldtypeとCrectangulartypeを用いて被覆した.手術部の浮腫,滲出物や結膜の厚さは前眼部COCTCASIAIIによって調べた.結果:術前C4.3±0.9剤点眼下にC33.6±1.3CmmHgであった眼圧は,1カ月後にC2.3C±2.4剤点眼下にC16.3±3.5CmmHgに下がり,異常な滲出物や炎症所見などは認めなかった.結膜は術後C4日.2週間には浮腫,microcyst,漏出房水の貯留を認めるがC1月後にはいずれも消退し,2カ月の間にパッチ材料の脱出を認めたものはなかった.結論:新しい合成パッチ材料であるCEverPatchPlusは少なくとも術後C2カ月の期間安全にチューブを被覆でき,臨床的に問題となる合併症を認めなかった.CPurpose:ToCevaluateCtheCpostoperativeCconjunctivaCusingCanteriorCsegment-opticalCcoherenceCtomography(AS-OCT)afterCglaucomaCdrainageCdevice(GDD)surgeryCusingCEverPatchCPlus(CorNeatCVision,Ltd.),CaCnovelCsyntheticCpatchCmaterialCcomposedCofCpolyurethane.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC11CrefractoryCglaucomapatientsinwhomGDDsurgerywasperformedinoneeye.ThedrainagetubewascoveredwitheithertheshieldorrectangulartypeofEverPatchPlus.Postoperativeedema,exudation,andconjunctivalthicknessatthesurgicalsitewereassessedusingAS-OCT.Results:Thepreoperativeintraocularpressureof33.6±1.3CmmHgon4.3±0.9CtopicalCmedicationsCdecreasedCtoC16.3±3.5CmmHgCatC1-monthCafterCsurgery.CNoCabnormalCexudatesCorCin.ammationCwereCobserved.CBetweenCpostoperativeCdaysC4CandC14,CconjunctivalCedema,Cmicrocysts,CandCaqueousCaccumulationCwereCnoted,CyetCresolvedCwithinC1Cmonth.CNoCcasesCofCpatchCextrusionCwereCobservedCduringCtheC2-monthCfollow-upCperiod.CConclusion:TheCEverPatchCPlusCsyntheticCpatchCprovidedCsafeCtubeCcoverageCforC2-monthspostoperativewithoutanyclinicallysigni.cantcomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1468.1472,C2025〕Keywords:エバーパッチ,緑内障インプラント,結膜,Tenon.,前眼部OCT.EverPatch,glaucomadrainagedevice,conjunctiva,Tenon’scapsule,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cはじめに近年わが国では緑内障手術の選択に大きな変化が起こり,従来の眼外型線維柱帯切開術(トラベクロトミー)や線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)に代わって眼内から行う低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)や,ミニチューブあるいは緑内障ドレナージデバイス(glaucomadrainagedevice:GDD)手術が増えてきた1,2).ロングチューブは術後眼圧の安定性においてトラベクレクトミーよりも優れており,このことが術後合併症の少なさにつながっていると考えられている.ただし,ロングチューブは未だに発展途上であり,従来のCBaerveldtCglaucomaimplantやCAhmed緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)に加えてCAhmedClearPath(ACP)やCPaul緑内障インプラント(PaulglaucomaCimplant:PGI)が導入されるなど,現在も改良がなされている3,4).ロングチューブに関しては,角膜内皮障害5)とチューブや〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山C50-1千照会・千原眼科Reprintrequests:EtsuoChihara,M.D.,Sensho-kaiEyeInstitute,50-1Minamiyama,Iseda,Uji,Kyoto611-0043,JAPANC1468(104)プレートの脱出や感染6)という問題が残っており,今後の改善が望まれる.インプラントの脱出に関しては,どのようなパッチ材料を使うかということが重要である.GDD開発の当初から保存強膜や乾燥心内膜などが使われてきており7.9),乾燥脳硬膜が使われたこともあるが,これはプリオンの感染リスクのために現在は使用されなくなってきた.現在外国では抗原性を除去し病原体を処理した乾燥強膜や心内膜が市販されており,入手に困難はないが,日本では種々の制約のために外国のパッチ材料の入手は困難である.国内の多くの施設では角膜移植に提供された眼球の残余部分をそのまま使用しているところが多いようであるが,この方法では提供された患者がどのような病気で亡くなっているのかを知ることに不安があるそれぞれの施設で移植片の処理をされているのかもしれないが,感染のリスクがないとはいえない状況と思われる.また,免疫反応の原因となる抗原が無処理であるので,移植片の拒絶反応が起こる可能性も残っている.このような状況に鑑み,国内のいくつかの施設では強膜トンネル法によるチューブの挿入が行われてきた10.12).強膜トンネル法はパッチ材料を使わないので生体材料を使う方法に比べると感染や免疫反応のリスクがなく優れた方法であるが,問題は残余強膜が薄く,チューブの脱出が起こることがあるということであろう.Younの報告によるとC204眼C183名の患者にトンネル法でチューブを挿入したところ,5年間でC6.9%の脱出を経験しており,とくにC65歳以下の患者ではリスクが高いといわれている13).したがって,従来の方法では限界があるので,新しいパッチ材料の開発も必要と考えられる.国内ではCPolytetra.uoroethylene(ゴアテックス)による被覆がすでに報告されている14)が,この材質は軽度の線維性反応15)が報告されているので,実用化にはさらなる検討が求められるかもしれない.CorNeat社のCEverPatchPlusはC2023年に緑内障インプラント手術用のパッチ材料として米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)の認可を得たもので,材質はCaromaticCpolycarbonateurethanであり,米国では2024年から使用されている.当初はC0.5CcmC×0.65Ccmの矩形で,厚さはC100.150Cμmのタイプが発売された.しかし,この製品はCWilmer眼研究所の調査で,27眼中C13眼において先端部分が結膜を破って出てくることが報告された16).そこで,機械的な刺激を避けるために同じ厚さで先端を丸くしたCShieldtypeがC2025年C1月に発売された.筆者らはこの新しい製品を用いてC11例に手術を行い,手術ビデオをC2025年C2月の米国におけるCAmericanCGlaucomaCSocietyCmeet-ing(WashingtonDC)において供覧した.ここでは,術後の短期成績について報告する.I対象と方法11例の内訳は血管新生緑内障C4眼,こじれた原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)4眼,落屑緑内障(pseudoexfoliationCglaucoma:PEG)1眼,ぶどう膜炎による続発緑内障C1眼,シリコーンオイルによる続発緑内障C1眼である.基礎データは表1に示した.臨床研究法はヘルシンキ宣言に準拠した.EverPatchとPGIは医療材料として国内未認可であるので近畿厚生局に使用の認可をとり,院内CIRB(厚生労働省認可番号C25000009)の承認(C2025-01R,2023-03R)を受け,患者の了解を得て手術した.術式:ロングチュ.ブの術式は以前に報告したとおりである17).簡単に述べると,結膜下にリドカイン注射による局所麻酔を行い,円蓋部基底で輪部切開を行って結膜とCTenonを強膜から.離して郭清した.再手術で癒着が強い場合は強膜刀を用いて結膜を損傷しないように注意しながら丁寧な.離を心掛けた.GDDのプレートを挿入し,必要な場合はCstentを挿入してからプレートをC5-0ダクロン糸で強膜に固定し,shieldtypeのCEverPatchの場合はループにチューブを挿入してから強膜を穿刺してチューブを眼内に挿入した.6眼は毛様溝にC2眼は硝子体腔に,3眼は前房内に挿入した.挿入象限は8眼が耳上側,3眼が鼻下側である.使用したインプラントはC4眼がCAGV,7眼がCPGIである.手術所見を図1,2に示す.CII結果11眼の術前眼圧はC4.3C±0.9剤点眼下にC33.6C±1.3CmmHgであったが,術後C1カ月の時点の眼圧はC2.3C±2.4剤点眼下にC16.3C±3.5CmmHgに下がった.前房や結膜に特別な炎症所見はなく,パッチ材料の脱出も認めなかった.術後の結膜出血や充血は保存強膜の場合とほぼ同じ経過をとり,1カ月程度で消退する.術後のパッチ材料は出血や血管で覆われるため,通常の細隙灯で観察することはむずかしいが,赤外線カメラ(浜田商会,京都)を用いると,容易に観察することができる(図3).結膜の断面は前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomograph:OCT)のCCASIAII(トーメーコーポレーション)で観察した.術後C4日.2週間の期間結膜切開の範囲で組織の浮腫や細胞間液の貯留のために肥厚するが,すべての症例でC1カ月以内に細胞間液の貯留は消退し,結膜の厚さは次第に減少した(図4,5).CIII考按新しい医療材料を使用する場合はその安全性と有効性が大表1対象眼の基礎データEverPatchのタイプGDD種類と挿入部位挿入経線左右緑内障の病型年齢性別術前眼圧内眼手術既往数術前点眼・内服数.数視.ClogMAR視.視野CMD(dB)内皮数Ccell/mm2CshieldCAGVcs耳上側CLCNVGC81CMC28C0C4C0.02C1.699C.29.15C3,017CrectangularCAGVpp耳上側CLCNVGC65CMC66C3C6CfcCNA*C2,268CshieldCPGIac耳上側CRCPOAGC74CMC40C1C5C0.02C1.699C.26.38C2,632CshieldCAGVcs+vit耳上側CRCPEGC75CMC26C1C3C0.6C0.222C0.27C1,661CshieldCPGIcs耳上側CLCPOAGC64CFC25C1C4C0.2C0.699C.17.72未測定CshieldCPGIac耳上側CRCUveiticC79CFC48C2C5C0.9C0.046C.23.32C1,748CrectangularCPGIpp鼻下側CRCNVGC45CMC29C7C5C0.03C1.523CNA*C1,342CshieldCPGIcs耳上側CRSG(RD)C76CMC21C3C3C0.03C1.523C.31.2C1,701CshieldCAGVcs耳上側CLCNVGC83CMC30C2C4C1.2C.0.079C.16.7C3,096CshieldCPGIac鼻下側CLCPOAGC43CMC27C4C4C0.8C0.097C.21.74C2,433CshieldCPGIcs鼻下側CRCPOAGC67CMC30C5C4C0.03C1.523C.30.66C519AGV:Ahmedglaucomavalve,PGI:Paulglaucomaimplant,cs:毛様溝挿入,pp:経扁平部硝子体腔内挿入,ac:前房内挿入,NVG:血管新生緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,PEG:落屑緑内障,Uveitic:ぶどう膜炎による続発緑内障,SG(RD):シリコーンオイルによる緑内障,NA:測定不能.図1EverPatchPlusshieldtypeの術中所見パッチ材料の脱出を防ぐためにCEverPatchPlusと輪部の距離は1Cmm以上空けることが推奨される.また,結膜のみではなくTenon.もしっかりと縫合しておくことが望ましい.切であり,それを使用することによって得られるメリットとデメリットを斟酌する必要がある.EverPatchは従来の生体材料と比べて薄く丈夫であるので,その耐久性,操作性において優れていると推察され,また人工材料であるので,保存期間も長い.400ドルという定価も合理的だと思われる.細胞毒性に関しては米国CclinicalCtrialCregistryCnumberNCT04037917に登録されジョージアのトビリシ市にあるDaVinci病院と米国CWilmerEyeInstituteで調べられ,問題はないといわれており16),今回筆者らの臨床経験においても,パッチ材料の周囲に異常な滲出物は認めていない.一方,WilmerEyeInstituteでの臨床経験でパッチ材料の先端部が結膜を破って出てきたものが術後C12日.120日にC27眼図2EverPatchPlusrectangulartypeの術中所見中C13眼(45%)でみられており,脱出までの平均期間はC52日であった.したがって,パッチ材料の形態には注意が必要かもしれない.今回使用したC11眼のうちC9眼は先端が丸みを帯びたCshieldtypeで,rectangularCtypeはCparsCplanainsertionを行ったC2眼のみの使用であったが,いずれもC2カ月の時点で脱出をみていない.WilmerEyeInstituteではCrectangulartypeのみを使っており,この形状のものが脱出した理由としてはいくつかの可能性が考えられる.まず四角のパッチ材料の尖った角が結膜を刺激した可能性があげられ,次に輪部付近を広く覆うことによって結膜への血液供給が遮断されることによる虚血や低栄養が起こった可能性が考えられる.そのほかに人種差,あるいは結膜(Tenon.)縫合のやり方の違いなどが影響する可能性も指摘されるであろう.これに対して今回筆者らは,先端が丸い形状のCShieldtypeをおもに使用した.このタイプは,少なくとも機械的な刺激に関してはCrectangulartypeよりも軽減されると考図3赤外光撮影によるEverPatchPlusの描出通常の細隙灯検査では出血や血管のために結膜下に存在するCEverPatchPlusの位置の確認はむずかしいが,赤外光であれば明瞭にその境界を確認し輪部との距離を確認することができる.撮影は浜田カメラ(浜田商会)を使用.えられ,そのことが今回の脱出を認めないという結果につながったのかもしれない.同様のパッチ材料として筆者らは以前にオロゲンを検討したことがあるが18),オロゲンはスポンジ状で脆弱であり,既報ではC43眼中C2眼で脱出を認めている19).筆者らの経験では今回C11眼において脱出を認めておらず,手術後の耐久性はCEverPatchのほうが優れていると思われる.利益相反:FIICorneatVision,Ra’ananaIsrael文献1)ChiharaE:TrendsCinCtheCnationalCophthalmologicalChealthcarefocusingoncataract,retina,andglaucomaover15yearsinJapan.ClinOphthalmolC17:3131-3148,C20232)TanitoM:NationwideCanalysisCofCglaucomaCsurgeriesCinC.scalCyearsCofC2014CandC2020CinCJapan.CJCPersCMedC13:C1047,C20233)千原悦夫,千原智之:AhmedClearPath(ACP)の使用経験とC6カ月の短期治療成績.あたらしい眼科C42:924-927,C20254)千原悦夫,千原智之:PaulGlaucomaImplantの短期臨床経験(予報).あたらしい眼科42:1206-1210,C20255)ChiharaCE,CTanitoCM,CKonoCMCetal:PP-PLCStudyGroup:Di.erentCpatternsCinCtheCcornealCendothelialCcellClossafterparsplanaandparslimbalinsertionoftheBaer-veldtCglaucomaCimplant.CAmCJCOphthalmolC253:12-21,C20236)MitsuiCN,CSugiharaCK,CSeguchiCJCetal:CorynebacteriumCocularCinfectionCafterCBaerveldtCglaucomaCimplantCsur-gery:treatmentCinvolvingCimmediateCtubeCwithdrawalCandCtemporaryCsubconjunctivalCtubeplacement:aCcaseC図4血管新生緑内障症例の術後3日目の前眼部OCT所見血管新生緑内障症例に経扁平部で緑内障ロングチューブを硝子体腔に入れ,チューブをCEverPatchPlusで被覆した症例の術後C3日目の前眼部COCT所見.結膜は浮腫状になって多くのCmicro-cystを認め,著しく肥厚している.輪部では結膜が盛り上がり段差を形成している.EverPatchPlusは無定形な塊のように描出される.図5図3の症例の1カ月後所見結膜浮腫は軽減し,輪部の膨隆は改善して平坦になっている.結膜厚の測定値は緑色で示したとおり,3日目より軽減している.この症例では高度のCPASのために隅角が完全に閉塞しており,術前眼圧はC66CmHgであったが術後は無点眼でC13CmmHgに下がっている.report.BMCOphthalmolC21:368,C20217)ThakurCS,CIchhpujaniCP,CKumarS:GraftsCinCglaucomasurgery:aCreviewCofCtheCliterature.CAsiaCPacCJCOphthal-mol(Phila)C6:469-476,C20178)FreedmanJ:ScleralCpatchCgraftsCwithCMoltenoCsetons.COphthalmicSurgC18:532-534,C19879)LindJT,ShuteTS,SheybaniA:Patchgraftmaterialsforglaucomatubeimplants.CurrOpinOphthalmolC28:194-198,C201710)Albis-DonadoCO,CGil-CarrascoCF,CRomero-QuijadaCRCetal:EvaluationCofCAhmedCglaucomaCvalveCimplantationCthroughCaCneedle-generatedCscleralCtunnelCinCMexicanCchildrenCwithCglaucoma.CIndianCJCOphthalmolC58:365-373,C201011)MiuraY,FukudaK,YamashiroK:AnovelscleraltunneltechniqueCforCtheCpreventionCofCAhmedCglaucomaCvalveCtubeexposure.CureusC17:e79290,C202512)TanitoCM,COhtaniCH,CIdaCCCetal:TubeCinsertionCofCAhmedglaucomavalveusingamicro-incisionscleraltun-neltechnique.CureusC16:e75899,C202413)YounCS,CYanDB:Five-yearCoutcomesCofCgraft-freeCtubeCshuntsandriskfactorsfortubeexposuresinglaucoma.JGlaucomaC33:139-147,C202414)YasuokaK,TadaK,YasuokaK:Ahmedglaucomavalve(AGV)implantationCusingCGore-Tex.CJpnCJCOphthalmicCSurgC37:541-545,C202415)LeszczynskiCR,CGumulaCT,CStodolak-ZychCECetal:Histo-pathologicalCevaluationCofCaChydrophobicCterpolymer(PTFE-PVD-PP)asanimplantmaterialfornonpenetrat-ingCveryCdeepCsclerectomy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:5203-5209,C201516)KantorJ,GarkalA,CardakliNetal:Earlypostoperativeconjunctivalcomplicationsleadingtoexposureofsurgical-lyCimplantedCCoNeatCEverPatchCdevices.COphthalmologyC132:799-814,C202517)千原悦夫:緑内障インプラント手術.臨眼C68:127-133,C201418)千原悦夫:緑内障手術における生物分解性インプラント・オロゲンの応用.眼科手術29:622-626,C201619)StephensJD,SarkisianSRJr:Theuseofcollagenmatrix(Ologen)asCaCpatchCgraftCinCglaucomaCtubeCshuntCsur-gery,CaCretrospectiveCchartCreview.CF1000ResC5:1898,C2016C***

絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1464.1467,2025c絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴大久保寛*1南泰明*1鈴木智*1,2*1地方独立行政法人京都市立病院機構京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CClinicalFeaturesofInfectiousCornealUlcersinAbsoluteGlaucomaEyesHiroshiOkubo1),YasuakiMinami1)andTomoSuzuki1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴についてレトロスペクティブに検討する.対象および方法:京都市立病院においてC2012年C1月.2022年C7月のC10年C6カ月の期間に,絶対緑内障眼に感染性角膜潰瘍を生じたC8例C9眼を対象とし,患者背景,緑内障病型,感染前の眼圧,使用点眼薬,失明から発症までの期間,起炎菌,前房蓄膿の有無,マイボーム腺機能不全(MGD)および後部眼瞼炎の有無,上皮化までの日数について検討した.結果:患者の平均年齢はC77.8±8.8歳.男性C2例C2眼,女性C6例C7眼.緑内障の病型は血管新生緑内障C6眼,原発開放隅角緑内障C2眼,急性閉塞隅角緑内障C1眼で,失明から発症までの平均期間はC5.2±4.5年,発症時抗緑内障点眼の使用がC3眼,その他点眼薬の使用がC8眼であり,感染直前の平均眼圧はC54.9±25.7CmmHgであった.検出菌はブドウ球菌属C3眼(MSSA,MSSE,MRSE各C1眼),コリネバクテリウムC2眼,肺炎球菌C1眼で,角膜所見と臨床経過からC2眼でグラム陰性桿菌,1眼で真菌の関与が疑われた.前房蓄膿はC7眼に,MGDを伴う後部眼瞼炎はC8眼に認められ,上皮化までの平均日数はC66.6±57.9日であった.結論:絶対緑内障眼では失明後数年が経過して重篤な感染性角膜潰瘍を生じることがある.高眼圧に伴う角膜上皮浮腫の持続により上皮バリア機能が低下していること,MGDの合併や慢性炎症に伴う眼表面常在細菌叢の変化が感染性角膜潰瘍の発症要因となっている可能性が示唆された.CPurpose:ToCretrospectivelyCreviewCtheCclinicalCfeaturesCofCinfectiousCcornealCulcersCinCabsoluteCglaucomatousCeyes.CPatientsandMethods:WeCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC8Ccases(9eyes)ofCinfectiousCcornealCulcersCinCpatientsCwithCabsoluteCglaucomaCatCKyotoCCityCHospitalCoverCaCperiodCofC10CyearsCandC6Cmonths(i.e.,CfromCJanuaryC2012CtoCJuly2022).CPatientCbackground,CtypeCofCglaucoma,Cpre-infectionCintraocularCpressure(IOP),CeyedropCusage,CtimeCfromCblind-nessConsetCtoCinfection,CcausativeCmicroorganisms,CpresenceCofChypopyon,CpresenceCofCmeibomianCglandCdysfunction(MGD)andCposteriorCblepharitis,CandCtheCnumberCofCdaysCuntilCepithelializationCwereCinvestigated.CResults:ThisCstudyCinvolved2Cmale(n=2eyes)and6female(n=7eyes)patients(meanage:77.8±8.8years).CTheCtypesCofCglaucomaCwereCneovascularCglaucomaCinC6Ceyes,primaryCopen-angleCglaucomaCinC2eyes,andCacuteCangle-closureCglaucomaCinC1Ceye.CTheCmeanCperiodCfromCblindnessConsetCtoCinfectionCwasC5.2±4.5Cyears.CAtCtheCtimeCofCinfection,C3CeyesCwereCbeingCtreatedCwithCanti-glaucomaCeyedropsCandC8CeyesCwereCbeingCtreatedCwithCotherCeyedrops.CMeanCIOPCbeforeCinfectionCwasC54.9±25.7CmmHg.CTheCdetectedCmicroorganismsCwereCStaphylococcusCspp.CinC3Ceyes(MSSA,CMSSE,CandCMRSECinC1Ceyeeach),CCorynebacteriumCspp.CinC2Ceyes,CandCStreptococcusCpneumoniaeCinC1Ceye.CGram-negativeCrodsCwereCsuspect-edCtoCbeCinvolvedCinC2Ceyes,CandCfungiCwereCsuspectedCinC1CeyeCbasedConCcornealC.ndingsCandCclinicalCcourse.CHypopyonCwasCpresentCinC7Ceyes,CandCMGDCandCposteriorCblepharitisCwereCobservedCinC8Ceyes.CTheCmeanCperiodCuntilCepithelializa-tionCwasC66.6±57.9Cdays.Conclusions:SevereCinfectiousCcornealCulcersCmayCoccurCinCabsoluteCglaucomaCeyesCseveralCyearsCafterCblindness.CItChasCbeenCsuggestedCthatCtheCepithelialCbarrierCfunctionCisCimpairedCdueCtoCpersistentCcornealCepithelialCedemaCassociatedCwithChighCIOP,CandCchangesCinCtheCocularCsurfaceCindigenousCbacterialC.oraCassociatedCwithCMGDCcomplicationsCandCchronicCin.ammationCmayCbeCfactorsCinCtheCdevelopmentCofCinfectiousCcornealCulcers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1464.1467,C2025〕Keywords:感染性角膜潰瘍,絶対緑内障,起炎菌,マイボーム腺機能不全.infectiouscornealulcer,absoluteglaucoma,causativebacteria,meibomianglanddysfunction(MGD).〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2MibuHigashitakadacho,Nakagyo-ku,Kyoto-city,604-8845,JAPANC1464(100)はじめに絶対緑内障とは,緑内障の病型にかかわらず眼圧が高いまま失明した状態である.薬物治療により眼圧下降が得られず眼痛が著明な場合は,眼痛軽減の目的で濾過手術や毛様体冷凍凝固術などが行われることが報告されているが1),実際の臨床では自覚症状がなければ放置されていることが多いのではないかと想像される.高眼圧が持続すると,眼表面では慢性炎症が持続し,角膜は上皮浮腫によりバリア機能の低下をきたす2).一方,長期にわたる緑内障点眼の使用は,角膜知覚の低下を引き起こし3),薬剤性角膜上皮障害を生じやすい状況になる.そのため,絶対緑内障眼は易感染状態にあると考えられる.外傷や眼手術の既往,ドライアイや眼瞼炎など眼表面疾患が感染性角膜潰瘍の誘因となることが多く4),細菌性または真菌性であれば,軽症なら異物感,重症なら眼痛を訴えるほか,充血や眼脂,流涙,視力低下を訴えることも多いとされる5).しかし,絶対緑内障眼では自覚症状が乏しく受診が遅れがちで重症化しやすいため,治療に難渋することが多い.筆者らが知る限り,過去に絶対緑内障眼に発症した感染性角膜潰瘍についてまとめた報告はない.そこで今回筆者らは,過去C10年間に当院で経験した絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴についてレトロスペクティブに検討した.CI対象および方法対象は,2012年1月.2022年7月の10年6カ月に,絶対緑内障眼に感染性角膜潰瘍を生じたC8例C9眼である.診断の契機,緑内障の病型,感染前の眼圧,使用点眼薬,失明から感染性角膜潰瘍の診断までの期間,起炎菌,前房蓄膿の有無,マイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdysfunc-tion:MGD)および後部眼瞼炎の有無,上皮化までの日数を診療録によりレトロスペクティブに検討した.感染前の眼圧については前回受診時(感染所見を認めない時点)の値とした.失明から感染性角膜潰瘍の診断までの期間は,診療録によって「光覚弁なし」を最初に確認できた時点からの期間とした.起炎菌については細隙灯顕微鏡による角結膜所見,角膜潰瘍および結膜.擦過物の塗抹鏡検,培養検査,抗菌薬治療効果から総合的に同定・推定した.MGDはC2023年に発表されたCMGD診療ガイドライン6)の分泌減少型CMGDの診断に基づいて,マイボーム腺開口部の閉塞所見,圧出低下から診断した.CII結果症例の臨床像を表1に示す.8例C9眼の平均年齢はC77.8C±8.8歳で,男性がC2例C2眼,女性がC6例C7眼であった.診療録上で確認できる明らかな認知症をC2例で認めた.受診の契機は,眼痛がC5眼,充血と眼脂(他者に指摘された)がC2眼,角膜混濁(他者に指摘された)がC1眼あり,自覚症状がなく定期受診時に診断された症例がC1眼であった.失明に至った緑内障の病型は,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)がC9眼中C6眼と最多であり,ついで原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)がC2眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)が1眼であった(図1).感染症発症前の眼圧はC54.9C±25.7mmHgと非常に高値であった.緑内障点眼薬の使用はC3眼(3剤併用,2剤併用,単剤それぞれC1眼ずつ),ステロイド点眼の使用はC2眼に認められた.失明から感染性角膜潰瘍の診断までの期間は平均C5.2C±4.5年と幅広く分布していた.感染性角膜潰瘍の起炎菌は,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitiveCStaphylococcusaureus:MSSA),メチシリン感受性表皮ブドウ球菌(methicillin-sensitivestaphylococcusCepidermidis:MSSE),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusepidermid-is:MRSE)各C1眼,コリネバクテリウム属をC2眼で認め,9眼中C5眼が結膜.やマイボーム腺の常在細菌であった.そのほかは角膜所見と治療効果からグラム陰性桿菌(gramnega-tiverod:GNR)がC2眼,肺炎球菌がC1眼,真菌と考えられた症例がC1眼であった(図2).前房蓄膿はC9眼中C7眼で認めた.MGDおよび後部眼瞼炎の合併をC9眼中C8眼で認めた.治療開始から上皮化までに平均C66.6C±57.9日を要した.治療は,起炎菌がグラム陽性菌ならセフメノキシム点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼の頻回点眼+オフロキサシン眼軟膏,グラム陰性桿菌ならC1.5%レボフロキサシン点眼の頻回点眼+オフロキサシン眼軟膏,真菌なら自家調整したC1%ボリコナゾール頻回点眼+ピマリシン眼軟膏で加療した.薬剤感受性結果や治療に対する反応性からCMRSE/MRSA感染の関与が考えられた場合にはバンコマイシン眼軟膏を併用した.後部眼瞼炎が強い症例においてはテトラサイクリン系やマクロライド系抗菌薬の内服を併用した.上皮化後に眼圧コントロールのために毛様体冷凍凝固術をC2例,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術をC2例で施行した.CIII考案絶対緑内障眼では失明後数年が経過して重篤な感染性角膜潰瘍を生じることがあるが,患者の半数は自覚症状が乏しかった.起炎菌のうち半数は,結膜.やマイボーム腺内の常在細菌と考えられ,MGDを伴う後部眼瞼炎をほとんどの症例に合併していたことから,マイボーム腺内で増殖している細菌の関与が推測された.筆者らは,健常者の結膜.やマイボーム腺内の細菌叢は加齢とともにアクネ菌の存在量の低下し,高齢者ではコリネバクテリウムの存在量が増える個体が増加し,結果として細菌の多様性が減少することを報告して表1全患者の詳細No.発症年齢性別病型失明から発症までの期間眼圧起炎菌上皮化までの日数抗緑内障点眼数その他点眼数MGDの合併C186歳女性CNVG3.1年C.真菌62日2本1本+276歳男性CNVG3.3年C46CmmHgCMSSA51日0本2本C.366歳女性CNVG1.75年C21CmmHgCCorynebacteriumsp15日0本1本+468歳女性CNVG4.2年C91CmmHgCMRSE98日0本1本+590歳男性CPACG不明C66CmmHgCCorynebacteriumsp23日0本0本+679歳女性CPOAG4年以上C80CmmHg肺炎双球菌177日3本1本+788歳女性CNVG不明C.GNR133日0本0本+870歳女性CPOAG13年C51CmmHgCGNR25日0本2本+977歳女性CNVG10年C29CmmHgCMSSE15日1本3本+平均C77.8±8.8歳C5.2±4.5年C54.9±25.7CmmHgC66.6±57.9日起炎菌については細隙灯顕微鏡による角結膜所見,角膜潰瘍および結膜.擦過物の塗抹鏡検,培養検査,抗菌薬治療効果から総合的に同定・推定した.図1緑内障病型いる7).また,筆者らが過去に行った検討では,感染性角膜潰瘍の発症年齢にはC20歳代とC70歳代のC2つのピークがあり,高齢者では緑内障点眼使用とCMGDが発症に関与していること,特に緑内障患者の起炎菌は耐性菌の割合が高いことなどを報告している8).加齢に伴いマイボーム腺機能は低下しCMGD有病率が増加すること9),緑内障点眼薬の使用によりCMGDの有病率が増加するという報告などもあり10,11),緑内障点眼を使用している高齢者はCMGDを生じていることを念頭に診療にあたる必要がある.本検討でもCMGDの合併は9眼中C8眼で認められ,マイボーム腺開口部周囲の充血や腫脹などを伴った後部眼瞼炎を生じており,マイボーム腺内の細菌増殖が絶対緑内障眼の感染性角膜潰瘍に関与している可能性が推測された.MGDを合併していなかったC1例では,防腐剤を含まない人工涙液と眼軟膏を使用しており,緑内障点眼の使用はなかった.絶対緑内障眼では,持続的な高眼圧による角膜上皮浮腫や,長期間に及ぶ複数の緑内障点眼薬の使用による角膜知覚低下が上皮障害の原因となり,充血に対して漫然と使用されるステロイド点眼は易感染性を助長すると考えられる.本検討では,失明後も継続して緑内障点眼薬使用していた症例は3例で,使用期間は(診療録で確認できる範囲で),2年,3年C9カ月,47年と長期間であった.また,多くの緑内障点眼薬に防腐剤として添加されている塩化ベンザルコニウムは,角膜上皮障害12),結膜杯細胞の減少13),角膜創傷治癒の遅延14)などの影響を及ぼすため,絶対緑内障眼では複数の緑内障点眼を継続使用していると薬剤毒性による角膜上皮障害により易感染状態となり,いったん感染が成立すると,上皮修復に長期間を要すると考えられる.本研究の症例は,感染性角膜潰瘍発症前に高眼圧による眼痛の訴えはなかった.絶対緑内障眼のおもな治療は疼痛コントロールを目的とした眼圧下降が中心とされるが,長期に及ぶ複数の点眼治療は感染性角膜潰瘍の発症リスクともなりうるため,点眼薬の使用を極力減らした状態で管理をすることが重要である.そのため,濾過手術(線維柱帯切除術やインプラント手術)や,房水産制を低下させる毛様体冷凍凝固術や毛様体光凝固術が適応となる場合がある1).また,減圧手術が無効あるいは適応にならず疼痛コントロールができない場合は,眼痛を軽減するための最終手段として眼球摘出術や眼球内容除去術が選択肢となる.しかし,眼球摘出は心理面の負担も大きく患者の理解が得られないことも多い.当院ではマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(Iridex社,CCYCLOG6)を行い15),角膜上皮浮腫が生じない程度の眼圧コントロールを得ることで将来的な再感染の予防にもなると考えている.一方で,本研究は単一施設の後ろ向き研究であり,サンプルサイズが限られているため,統計学的な検出力には限界があり,絶対緑内障眼における感染性角膜潰瘍の臨床的特徴についてさらなるデータの蓄積が必要である.絶対緑内障眼は,受診していても診察そのものが行われていない症例も多いのではないかと想像される.高眼圧に伴う角膜上皮浮腫の持続による上皮バリア機能の低下,緑内障点眼使用による角膜知覚の低下,薬剤性角膜上皮障害,さらにはCMGDの合併や慢性炎症に伴う眼表面やマイボーム腺の常在細菌叢の変化が感染性角膜潰瘍の発症要因となっている可能性が示唆された.絶対緑内障眼こそ,眼圧測定とともに眼瞼縁を含めた眼表面全体の診察を丁寧に行うことが不可欠であり,点眼薬を整理し,角膜上皮障害がない状態を維持することが重篤な感染性角膜潰瘍の予防において重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)阿部春樹,白柏基宏:高齢患者の眼科手術緑内障絶対緑内障眼球摘出も含めて.臨眼48:120-121,C19942)小室青,横井則彦,西田幸二ほか:角膜上皮浮腫における角膜上皮バリアー機能の評価.日眼会誌C99:683-686,C19953)VanWentC,AlalwaniH,BrasnuEetal:[Cornealsensi-tivityinpatientstreatedmedicallyforglaucomaorocularhypertension].JFrOphtalmolC34:684-690,C20114)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,C20065)鈴木崇,江口洋,戸所大輔ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌127:859-895,C20236)天野史郎,島崎潤,横井則彦ほか:マイボーム腺機能不全診療ガイドライン.日眼会誌127:109-228,C20237)SuzukiCT,CSutaniCT,CNakaiCHCetal:TheCMicrobiomeCofCtheCMeibumCandCOcularCSurfaceCinCHealthyCSubjects.CInvestOphthalmolVisSciC61:18,C20208)柴田学,張佑子,曽田里奈ほか:当科におけるC10年間の感染性角膜潰瘍の起炎菌と薬剤感受性.あたらしい眼科C40:243-247,C20239)AritaCR,CMizoguchiCT,CKawashimaCMCetal:MeibomianCglandCdysfunctionCandCdryCeyeCareCsimilarCbutCdi.erentCbasedonapopulation-basedstudy:TheHirado-TakushiC-maStudyinJapan.AmJOphthalmolC207:410-418,C201910)KimJ.H.,ShinY.U.,SeongMetal:Eyelidchangesrelat-edCtoCmeibomianCglandCdysfunctionCinCearlyCmiddle-agedCpatientsCusingCtopicalCglaucomaCmedications.CCorneaC37:C421-425,C201811)UzunosmanogluE,MocanMC,KocabeyogluSetal:Mei-bomianglanddysfunctioninpatientsreceivinglong-termglaucomamedications.CorneaC35:1112-1116,C201612)KimCYH,CJungCJC,CJungCSYCetal:ComparisonCofCtheCe.cacyCofC.uorometholoneCwithCandCwithoutCbenzalkoni-umCchlorideCinCocularCsurfaceCdisease.CCorneaC35:234-242,C201613)KahookMY,NoeckerRJ:Comparisonofcornealandcon-junctivalCchangesCafterCdosingCofCtravoprostCpreservedCwithCsofZia,ClatanoprostCwith0.02%CbenzalkoniumCchlo-ride,CandCpreservative-freeCarti.cialCtears.CCorneaC27:C339-343,C200814)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcor-nealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailableClatanoprostCandCtravoprostCinCratCdebridedCcor-nealepithelium.JOleoSciC59:135-141,C201015)SinhaCA,CRahmanA:CyclocryotherapyCinCabsoluteCglau-coma.IndianJOphthalmolC32:77-80,C1984***

両眼に渦状混濁を伴ったLisch 角膜ジストロフィが疑われる 1 例

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1459.1463,2025c両眼に渦状混濁を伴ったLisch角膜ジストロフィが疑われる1例竹澤由起*1井上英紀*1鳥山浩二*1坂根由梨*1鎌尾知行*1,2田坂義孝*2溝上志朗*1,2白石敦*1大橋裕一*2*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2南松山病院眼科CACaseofSuspectedLischEpithelialCornealDystrophywithBilateralVortexKeratopathyYukiTakezawa1),HidenoriInoue1),KojiToriyama1),YuriSakane1),TomoyukiKamao1,2)C,YoshitakaTasaka2),ShiroMizoue1,2)C,AtsushiShiraishi1)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospitalC目的:Lisch角膜上皮ジストロフィ(LECD)は羽毛状の角膜混濁を特徴とする常染色体優性遺伝疾患である.ライソゾーム関連蛋白であるCMCOLN1遺伝子変異が原因の一つとされるが,わが国でCLECDの報告はない.今回,片眼のカブトガニ様上皮混濁と両眼の渦状混濁を伴ったCLECDが疑われるC1例を経験した.症例:56歳,女性.緑内障に対し点眼加療中に右眼の霧視を訴えた.右眼角膜中央部にカブトガニ様の上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.全身疾患や特記すべき薬剤の服用歴はなく,生体共焦点顕微鏡(IVCM)では,病変部に高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が観察された.結論:渦状混濁を伴う点は既報とは異なるが,特有の上皮混濁とIVCM所見からCLECDが疑われた.IVCM所見はライソゾーム関連疾患の角膜混濁とも合致しており,本例はCLECDの新たな表現型である可能性が考えられた.今後は確定診断のためCMCOLN1遺伝子変異の検索や混濁病変の病理学的検索を含めた精査を行う必要がある.CPurpose:Lischepithelialcornealdystrophy(LECD)ischaracterizedbyfeatheryopacityarisingfromthelim-buswithautosomaldominantinheritance,andisthoughttobecausedbyageneticmutationofMCOLN1,alyso-some-associatedCprotein,CwhichChasCnotCpreviouslyCbeenCreportedCinCJapan.CHereinCweCreportCaCcaseCofCsuspectedCLECD.CCaseReport:AC56-year-oldCfemaleCcomplainedCofCblurredCvisionCinCherCrightCeye.CSlit-lampCexaminationCrevealedthepresenceofacrab-shapedepithelialopacityatthecenterofthecorneaoftherighteyeandbilateralvortexCkeratopathy.CInCvivoCconfocalmicroscopy(IVCM).ndingsCshowedCthatCtheClesionCconsistedCofCclustersCofCepithelialCcellsCwithChyperre.ectiveCcytoplasmCandChypore.ectiveCnuclei.CConclusions:AlthoughCvortexCkeratopa-thydi.eredfrompreviousreports,thecrab-shapedepithelialopacityandcharacteristicIVCM.ndingssupportedtheCdiagnosisCofCLECD.CSuchCIVCMC.ndingsCareCconsistentCwithCthoseCofClysosomalCstorageCdiseases,CsuggestingCthatvortexkeratopathymaybeanovelphenotypeofLECD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(11):1459.1463,C2025〕Keywords:Lisch角膜上皮ジストロフィ,角膜上皮混濁,渦状混濁,生体共焦点顕微鏡,ライソゾーム.Lischep-ithelialcornealdystrophy,cornealepithelialopacity,vortexkeratopachy,invivoCconfocalmicroscopy,lysosome.CはじめにLisch角膜上皮ジストロフィ(LischCepithelialCcornealdystrophy:LECD)は,1992年にCLischらが最初に報告した常染色体顕性の遺伝性疾患で,両眼性あるいは片眼性の境界明瞭な羽毛状の角膜上皮混濁を臨床的な特徴とする.混濁病変の多くは角膜輪部から連続性を有し,通常は無症状であるが,病変が中央部に達すると霧視や視力低下を訴えることがある.病理学的には翼細胞層を中心に細胞質内に多数の空胞変性像が認められるのが特徴で,近年はライソゾームに関連する蛋白であるムコリピンC1(MCOLN1)の遺伝子変異が〔別刷請求先〕竹澤由起:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukiTakezawa,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANC右眼左眼図1当院初診時の前眼部写真右眼は角膜中央にカブトガニ様の混濁病変を認め,また,両眼とも角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.フルオレセイン染色では明らかな上皮病変は認めなかった.原因の一つであることが明らかにされている.わが国では,類似症例の報告はこれまでに散見されるが,LECDとしての報告はない.今回,片眼の特異なカブトガニ様角膜上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を主徴とし,LECDが疑われるC1症例を経験したので報告する.CI症例患者:55歳,女性.主訴:右眼霧視既往歴:子宮筋腫,虫垂炎,不妊治療で多胎妊娠の既往はあるが,アミオダロンなどの特記すべき薬剤の服用歴はない.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:両眼の正常眼圧緑内障のため南松山病院においてカルテオロール・ラタノプロスト配合点眼薬C1剤で両眼加療中であったが,前医での定期診察時に約C1カ月前からの右眼霧視の訴えがあり,右眼角膜中央に白色上皮混濁および両眼の角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.1週間後に原因精査のため愛媛大学附属病院眼科に紹介受診となった.初診時所見および経過:視力は右眼1.2Cp(1.2C×cyl.0.50DAx80°),左眼C1.2(1.2×+0.50D(cyl.0.75DAx90°),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.右眼角膜中央にカブトガニ様の白色上皮混濁,両眼角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めたが,フルオレセイン染色では両眼とも明らかな上皮欠損などの所見は認めなかった(図1).両眼とも正常眼圧緑内障の他は中間透光体および網膜に異常を認めなかった.生体共焦点顕微鏡(inCvivoCconfocalmicroscopy:IVCM)で角膜混濁病変部を観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁の両方ともに,高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が集簇して観察された(図2,3).初診時よりC6カ月後に観察したところ,右眼のカブトガニ様混濁は消退しており,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁は形状にやや変化がみられた(図4).CII考按今回,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁と片眼にカ図2右眼角膜混濁病変部の生体共焦点顕微鏡(IVCM)画像所見上段:3点ともカブトガニ様混濁部の画像.下段:2点とも渦状混濁病変部のCIVCM画像.どちらも低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ上皮細胞が集簇していた.図3左眼角膜混濁病変部のIVCM画像所見左眼の渦状混濁病変部のCIVCM画像である.右眼と同様,低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ角膜上皮細胞が確認された.ブトガニ様角膜上皮混濁を呈するC1症例を経験し,LECDの可能性を疑った.LECDは,片眼または両眼の羽毛状・渦状の角膜上皮混濁を呈し,病変部の光学顕微鏡所見では細胞質空胞化を特徴とする新たな上皮ジストロフィとして,LischらがC1992年に最初に報告した1).Kurbanyanら2)は,LECDに対しCIVCMによる検討を行い,病変部において角膜上皮全層にわたる高輝度な細胞群を観察したところ,病変部と正常部の境界はきわめて明瞭であり,低輝度な核と高輝度な細胞質は細胞の空胞変性という病理学的特徴によく一致すると報告している.わが国においては,宇野らが輪部から連続するオタマジャクシ様の角膜混濁の症例をC1994年に報告している3)が,LECDとしては報告されていない.しかし,その臨床所見や,病巣掻爬後もすぐに輪部から混濁が再発したといった経図4初診時より6カ月後の前眼部写真a:右眼.b:左眼.右眼にあったカブトガニ様混濁は消退し,両眼の渦状混濁も形状に変化がみられた.過,さらに掻爬後の病変上皮に空胞変性がみられたという病理所見など,既報のCLECDと一致する点が多い.わが国ではこのようにCLECDに類似した症例の報告は散見されるものの,LECDとしての報告は未だない.本症例からCLECDの可能性を考えた理由として,IVCMでの所見があげられる.本症例の病変部をCIVCMで観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁ともに同一であり,Kurbanayanらの報告2)に一致した所見が得られた.鑑別疾患としてはCMeesmann角膜ジストロフィや上皮基底膜ジストロフィが考えられたが,本症例ではCmicrocyst様の角膜上皮所見やフルオレセイン染色での上皮欠損や上皮の乱れは認めず,また角膜上皮基底膜病変も認めなかった.角膜渦状混濁をきたす点ではCFabry病やアミオダロンなどの薬剤起因性の角膜上皮異常4)も考えられるが,本症例では家族歴はなく,アミオダロンなどの薬剤投与歴もなかった.しかし,本症例が既報のCLECDと異なる部分もあげられる.一つは混濁病変が輪部と連続していない点,さらに,アミオダロン角膜症を思わせる渦状混濁を伴う点である.既報におけるCLECDの病変は輪部から連続した角膜混濁で掻爬後も再発が多い5)とされ,病変は輪部の上皮幹細胞より由来していると考えられている5)が,詳細は未だ不明である.また,既報のCLECDにおける混濁病変の形状は羽毛状や棍棒様,車軸様などさまざまあるが,アミオダロン角膜症様の渦状混濁の報告はみられていない.本症例ではカブトガニ様混濁とともに形状の異なる二つの混濁病変が同一眼に認められ,それぞれ別の病態によるものか,もしくは同一の病態による可能性が考えられた.IVCMでは二つの形状の異なる混濁病変はともに高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ同一の所見が得られ,形状は異なるものの混濁病変としては同一の病態の可能性が高いと推測される.また,本症例では半年間の経過中にカブトガニ様混濁が自然消退していた.アミオダロン様渦状混濁も形状変化をきたしており,二つの混濁病変はともに角膜上皮の流れとともに形状変化,自然脱落した可能性が考えられた.これまでにLECDにおける角膜混濁が自然消退した報告はなく,既報ではCLECDの混濁病変に対する治療として,単純掻爬やソフトコンタクトレンズ装用の報告があるが,再発も多い5).また,近年ではC5-フルオラシル(.uorouracil:FU)点眼の使用6)や僚眼からの自己輪部角膜移植などの報告7)もある.本症例の混濁病変は輪部と連続しておらず,病変の由来は不明であるが,今後再発する可能性も十分考えられる.LECDの遺伝子異常についてC2000年のCLischらの報告8)では,LECDの家系についてCMeesmann角膜ジストロフィに関連したケラチンCK3,K12の遺伝子異常の有無を検索し,LECDはCMeesmann角膜ジストロフィとは遺伝子的に異なることが確認された.さらに,2024年のCPattersonらの報告9)では,LECDのC13家系を包含した多施設スタディにおいて,第C19染色体上にあCMCOLN1の遺伝子変異が判明した.発症は基本的にヘテロ接合体のハプロ不全により生じるとされているが,疾患頻度から考えるとこの遺伝子変異に加えて,プラスCaの因子が必要なのではないかと推論されている.これらの報告より,以前CLECDの遺伝形式はCX連鎖性とされていた8)が,2024年の国際角膜ジストロフィ分類委員会(InternationalCCommitteeCforCClassi.cationCofCCor-nealDystrophies:IC3D)の報告10)では常染色体顕性に改められた.本症例では,患者の親に特記すべき眼科疾患の既往はなく,患者の子には現時点で明らかな角膜上皮混濁は認めていない.IC3Dの報告10)では,LECDの家族性の症例はすべて両眼性であり,孤発例では片眼性または両眼性であるとされている.本症例も孤発例の可能性はあるが,今後患者本人および家族のCMCOLN1遺伝子変異の検索を検討していく方向である.LECDにおいて変異が報告されたCMCOLN1遺伝子は,ムコリピンC1というライソゾームの膜状にあるイオンチャネル蛋白をコードしている.そのため,LECDの発症にはライソゾームが関与していると考えられている9).ライソゾームはほかの疾患における角膜混濁にも関連しており,ライソゾーム内への薬剤の蓄積がかかわるアミオダロン角膜症や,ライソゾーム病であるCFabry病での角膜混濁がよく知られている.それらの疾患におけるCIVCMの所見でも,角膜混濁部と正常部の境界は明瞭であり,混濁部では高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ上皮細胞群が共通してみられることが報告されている11).この「高輝度な細胞質」の本態は,病理学的には異常物質を含んだ多数のライソゾームの集積像であり,アミオダロン角膜症やCFabry病などのライソゾーム関連疾患の角膜混濁に特有の所見と考えられる11).LECDにおいても,病変部の電子顕微鏡的検索では空胞変性の本態はCautophagosomeやCautolysosomeと考えられており12),IVCMの所見含めライソゾーム関連疾患の角膜混濁と共通している.本症例の所見もCLECDやライソゾーム関連疾患の所見と合致しており,ほかに渦状角膜を生ずる原因がないことを踏まえれば,LECDの新たな表現型,もしくはライソゾーム機能異常に伴う角膜混濁の可能性が示唆された.しかし,本症例ではCIVCMの所見以外での病理学的検索や遺伝子的検索が行われておらず,確定診断には至っていない.よって今後,家族の遺伝的スクリーニングや責任遺伝子とされCMCOLN1遺伝子変異の検索,また,可能であれば混濁病変部の病理学的検査を含めたさらなる精査を行う必要がある.本論文は第C78回臨床眼科学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LischCW,CSteuhlCKP,CLischCCCetal:ACnew,Cband-shapedCandwhorledmicrocysticdystrophyofthecornealepithe-lium.AmJOphthalmolC114:35-44,C19922)KurbanyanK,SejpalKD,AldaveAJetal:Invivoconfo-calCmicroscopicC.ndingsCinCLischCcornealCdystrophy.CCor-neaC31:437-441,C20123)宇野敏彦,大橋裕一,井上幸次ほか:輪部から発生した再発性角膜上皮混濁のC1例.臨眼C48:709-713,C19944)RaizmanCMB,CHamrahCP,CHollandCEJCetal:Majorreview:Drug-inducedCcornealCepithelialCchanges.CSurvCOphthalmolC62:286-301,C20175)LischCW,CWasielica-PoslednikCJ,CLischCCCetal:ContactClens-inducedregressionofLischepithelialcornealdystro-phy.CorneaC29:342-345,C20106)MonaM,ArzeK,GalorAetal:RecurrentLischepitheli-alCcornealCdystrophyCtreatedCwith5-.uorouracil:ACcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CCorneaC42:645-647,C20237)Cano-OrtizA,VentosaAS,CrucesTGetal:Lischcorne-aldystrophy:AutologousClimbalCtransplantationCasCde.nitivetreatment.JFrOphtalmolC46:e91-e92,C20238)LischW,TinerAB,Oe.nerFetal:LischcornealdystroC-phyisgeneticallydistinctfromMeesmanncornealdystro-phyCandCmapsCtoCXp22.3.CAmCJCOphthalmolC130:461-468,C20009)PattersonCK,CChongCJX,CChungCDDCetal:LischCepithelialCcornealCdystrophyCisCcausedCbyCheterozygousCloss-of-functionCvariantsCinCMCOLN1.CAmCJCOphthalmolC258:C183-195,C202410)JayneCSCW,CChristopherCJCR,CBertholdCSCetal:IC3DCClassi.cationCofCCornealCDystrophies-EditionC3.CConreaC43:466-527,C202411)IkegawaCY,CShiraishiCA,CHayashiCYCetal:InCVivoCConfo-calCMicroscopicCObservationsCofCVortexCKeratopathyCinCPatientsCwithCAmiodarone-InducedCKeratopathyCandCFabryDisease.JOphthalmolC2018:5315137,C201812)GrauCAE,CGonzalesCS,CZoroquiainCPCetal:EvidenceCforCautophagicvesiclesinapatientwithLischcornealdystro-phy.ArqBrasOfthalmolC83:146-148,C2020***