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Mars Letter Contrast Sensitivity Test で測定される コントラスト感度に及ぼす検査距離の影響

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1454.1458,2025cMarsLetterContrastSensitivityTestで測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響東本美於川嶋英嗣愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻CE.ectofTestDistanceonContrastSensitivityMeasuredUsingtheMarsLetterContrastSensitivityTestMioTomotoandHidetsuguKawashimaCMajorofVisionSciences,DepartmentofMedicalSciences,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC目的:MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(Marstest)において測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響をCBangerterフィルター装用時および非装用時で検討する.対象および方法:眼疾患を有さない矯正視力C1.0以上のC14名(平均年齢C21.14±0.36歳)を対象とした.Marstestを用いて,検査距離C40Ccm,27Ccm,18CcmのC3条件におけるコントラスト感度の測定をCBangerterフィルター装用時と非装用時で行った.結果:フィルター非装用条件では,検査距離によるコントラスト感度(logCS)の有意な変化は認められなかった(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS,27Ccm:1.811±0.040ClogCS,18Ccm:1.817±0.041ClogCS).一方,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほど測定されるコントラスト感度が有意に上昇した(p<0.001)(40Ccm:0.991±0.146ClogCS,27Ccm:1.120C±0.124ClogCS,18Ccm:1.229±0.093ClogCS).結論:Bangerterフィルターで人工的にコントラスト感度を低下させた条件下では,検査距離を短縮し,それに伴い視標サイズが大きくなることで,測定されるコントラスト感度が上昇することが示唆された.CPurpose:Toinvestigatethee.ectoftestdistanceoncontrastsensitivity(CS)measuredusingtheMarsLet-terCContrastCSensitivityCTestCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CSubjectsandMethods:ACtotalCofC14Csubjects(meanage:21.14±0.36years)withnooculardiseaseandcorrectedvisualacuity.1.0participatedinthisstudy.CSCwasCmeasuredCusingCtheCMarsCLetterCContrastCSensitivityCTestCatC40,C27,CandC18Ccm,CbothCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CResults:InCtheCun.lteredCcondition,CtestCdistanceCexertedCnoCe.ectConCS(logCS)(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS;27Ccm:1.811±0.040ClogCS;18Ccm:1.817±0.041ClogCS),CwhereasCinCtheCBangerter-.lteredcondition,CSshowedsigni.cantimprovementwithadecreaseintestdistance(p<0.001)(40cm:0.991±0.146logCS;27cm:1.120±0.124logCS;18cm:1.229±0.093logCS).Conclusion:WhenCSisarti.ciallyreducedusingCBangerterC.lters,CdecreasingCtheCtestCdistanceCandCincreasingCtheCoptotypeCsizeCmayCimproveCCSCmeasure-ments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1454.1458,C2025〕Keywords:コントラスト感度,MarsLetterContrastSensitivityTest,検査距離,バンガーターフィルター.Ccontrastsensitivity,MarsLetterContrastSensitivityTest,testdistance,Bangerter.lter.Cはじめにコントラスト感度とは,輝度の相対的な違いに基づく輝度コントラストの検出閾値の逆数として定義され,ロービジョン患者における物体と背景の識別や顔認知1),歩行時の段差の検出2)など,日常生活における視覚を用いた行動と密接に関係する3)視覚機能の指標である.MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(以下,MarsCtest)4)はCPelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartと同じCSloan文字を視標として採用したコントラスト感度検査表である.より細かいコントラストの段階で測定が可能であり,持ち運びが容易で簡便に利用〔別刷請求先〕川嶋英嗣:〒480-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学健康医療科学部Reprintrequests:HidetsuguKawashima,Ph.D.,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakute,Aichi480-1197,JAPANC1454(90)できる点が特徴である.Marstestの標準検査距離はC40Ccmに設定されており,視標の大きさは視角2.5°の1種類のみである.そのため,視力が低下すると視標の判読が困難になり,コントラスト感度の測定が制限される可能性がある.この問題への対応策として,検査距離を短縮し,視標の網膜像サイズを拡大する方法が考えられる.しかし,この方法がコントラスト感度に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで本研究では,検査距離の短縮がCMarstestにおけるコントラスト感度測定に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.本研究は基礎的データの収集を目的としており,視覚正常者を対象とした.また,コントラスト感度が低下した状況においても,検査距離が測定値に及ぼす影響を検討した.実際のロービジョン患者を対象とする場合,視機能に個人差が大きく,同一条件下で検査距離の影響を評価することは困難である.加えて,コントラスト感度にはさまざまな視覚要因,たとえば視野異常5)や眼振6)などが影響を及ぼす可能性があり,それらすべてを統一的に制御したうえで実験を行うことは現実的にはむずかしい.さらに多数の条件を要する検討をロービジョン患者に対して実施することは,研究の初期段階においては倫理的な制約も伴う.以上の理由から本研究では,視覚正常者に対し,Bangerterフィルターを装用させて人工的にコントラスト感度を低下させた条件下で検討を行った.Bangerterフィルター装用時には,全空間周波数帯域にわたるコントラスト感度の低下を生じ,とくに高空間周波数帯域において顕著な低下が報告されている7).このような傾向は一部のロービジョン患者のコントラスト感度関数においても観察されることが報告されており8),本研究の結果は,特定のタイプのコントラスト感度低下を示すロービジョン患者の状態を模擬していると考えられる.本研究は,二つの実験で構成されている.実験C1では,検査距離がCMarstestによるコントラスト感度に及ぼす影響を検討した.実験C2では,実験C1の結果を踏まえ,視標サイズがコントラスト感度に与える影響をさらに詳細に検討した.両実験ともに,視覚正常者を対象とし,Bangerterフィルター装用の有無を条件として実施した.CI方法1.対象本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻倫理委員会の承認(健視倫理C2024-05)を得て実施した.研究対象者は,眼疾患を有さず,視標を明視するために十分な調節力のある矯正視力1.0以上のC14名(平均年齢C21.14C±0.36歳)とした.実験開始前に目的と手順を研究対象者に十分説明し,自由意志によるインフォームド・コンセントを取得した.測定は,非優位眼を遮蔽し,優位眼のみで行った.優位眼はCHole-in-card法で決定した.[実験1]コントラスト感度の測定には,Marstest(MarsPercep-trix製)のC3種類の検査表を用いた(図1).この検査表はバックライトが備わっていないため,天井設置型CLED照明による室内照明下で測定を実施した.検査表表面の照度は340Clxであり,検査表の白地部分の輝度(視標背景輝度)はC85Ccd/m2であった.検査距離条件はC40Ccm,27Ccm,18Ccmの3条件(表1),フィルター条件は装用と非装用のC2条件とした.装用するCBangerterフィルター(Ryser製)は,濃度0.1およびC0.8のフィルターC2枚を重ね,ゴーグルに貼付して使用した.各研究対象者に対し,フィルター条件ごとの検査距離条件の測定順序を無作為化し,Marstestの所定の手順に基づいて測定を行い,対数コントラスト感度(logCS)を算出した.[実験2]フィルター装用条件下と非装用条件下で実施した.視標はCMarstestと同じCSloan文字であり,iMac21.5Cinch(Apple製)で動作するPsykinematix(v2.6GPUedition,KyberVision製)9)でガンマ補正を行ったCCRTディスプレイ(MITSUBISHI製CRDF223H)上に無作為順でC1文字ずつ呈示した.測定は暗室内で行い,視標背景輝度はC85Ccd/mC2であった.視標サイズ条件はC0.068.2.18ClogMAR(視角C0.098.12.66°)の範囲のC7条件であり,視標サイズ条件ごとに階段法によるコントラスト感度の測定を行った.CII結果[実験1]フィルター装用条件における平均視力はC0.14(0.85C±0.13logMAR),非装用条件では平均視力1.58(C.0.20±0.06logMAR)であった.測定結果を図2に示す.対応のある二元配置分散分析の結果,検査距離の主効果(F(2,26)=52.31,p<0.001),フィルターの主効果(F(1,13)=764.00,p<0.001),検査距離とフィルターの交互作用(F(2,26)=36.51,p<0.001のいずれも統計的に有意であった.交互作用の解釈のために,検査距離の単純主効果検定を行った.その結果,フィルター非装用条件では検査距離による有意な差は認められなかった(p=0.19).一方,フィルター装用条件では検査距離の単純主効果が有意であった(p<0.001).多重比較(Sha.er法)により検査距離条件間の比較を行った結果,フィルター装用条件ではすべての検査距離条件間で有意差が認められた(p<0.001).以上の結果から,検査距離を短くすることで視標の網膜像サイズが大きくなった場合に,フィルター非装用条件ではコントラスト感度の変化は認められなかった.一方で,フィルター装用条件では検査距離が短いほどコントラスト感度が有意に上昇することが示された.図1MarsLetterContrastSensitivityTest左からCForm1,Form2,Form3.表1検査距離条件と対応する視標の視角,logMAR,小数視力,空間周波数検査距離視標の視角ClogMAR小数視力空間周波数(cycles/degree)C40CcmC2.5°C1.48C0.033C1.00C27CcmC3.7°C1.65C0.023C0.68C18CcmC5.6°C1.82C0.015C0.45C[実験2]図3では,視標サイズ(logMAR)を横軸,対数コントラスト感度(logCS)を縦軸にとり,フィルター条件別にデータをプロットしている.それぞれのフィルター条件ごとに二次関数をあてはめた.図2から曲線の形状はフィルター条件によって異なっていることが確認された.フィルター非装用条件では視標サイズが大きい場合と小さい場合の両側でコントラスト感度が低下し,ピーク付近でなだらかに変化する区間を示した.一方で,フィルター装用条件では視標サイズ(logMAR)が大きいほどコントラスト感度が上昇する形状を示した.さらに,図2に示したCMarstestを三つの検査距離条件(40cm,27cm,18cm)で実施した際の視標サイズに相当する大きさ(1.48,1.65,1.82ClogMAR)に注目した.これらのデータが二次関数の曲線上で含まれる区間は,フィルター条件によって異なっていた.非装用条件では,これらのデータはピーク付近のなだらかに変化する区間に位置していた.一方で,装用条件では曲線の増加区間に位置していた.このことから,Marstestにおける検査距離の影響の違いは,フィルター条件ごとにCSloan文字を視標としたときのコントラスト感度関数の形状が異なるためであることが示唆された.CIII考按Marstestによるコントラスト感度の測定において,検査距離を短くしても,フィルター非装用条件ではコントラスト感度に大きな変化は認められなかった.一方で,Bangerterフィルターを装用して人工的に感度を低下させた条件では,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する傾向が確認された(実験1).この結果は,視標として文字刺激を用いたときのコントラスト感度関数の形状に起因することが示唆された(実験2).視覚正常者においては,正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度関数は,一般に高空間周波数および低空間周波数で感度が低下するバンドパス型の形状を示す10).一方で,視標として文字を用いた場合には,視標サイズが大きくなるにつれてコントラスト感度が上昇するローパス型の傾向が報告されている11).本研究では,先行研究11)で検討された最大視標サイズ(1.18logMAR)よりもさらに大きいC2.18logMARまで測定範囲を拡張し,コントラスト感度を測定した.その結果,図3に示すとおり,大きな視標サイズの範2.0相当するMarstestの検査距離40cm3.0対数コントラスト感度(logCS)対数コントラスト感度(logCS)2.01.00.001020304050検査距離(cm)図2検査距離と対数コントラスト感度の関係エラーバーは標準偏差を示している.フィルター非装用条件では0.01.02.03.0検査距離によるコントラスト感度の違いは認められなかった.一方で,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほどコントラスト感度が有意に上昇した.囲において顕著な感度の低下は観察されなかった.文字視標のコントラスト感度関数がローパス型の傾向を示す要因としては,広範囲の空間周波数成分を含む文字刺激の認識において,文字サイズの拡大に伴う認識に寄与する空間周波数帯域の変化が関係していることが示唆されている12).しかし,このメカニズムの詳細は十分に解明されておらず,今後のさらなる検討が求められる.ロービジョン患者のコントラスト感度関数には,(A)高空間周波数帯域のみでの感度低下,(B)全空間周波数帯域にわたる均一な感度低下,(C)全空間周波数帯域にわたる不均一な感度低下,(D)中間周波数帯域のみでの感度低下のC4種類8)があるとされている.しかし,この分類は正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度の測定結果に基づくものである.ロービジョン患者において,文字刺激を視標とした場合に,視標サイズごとのコントラスト感度から得られるコントラスト感度関数の種類については十分に明らかになっていない.文字刺激を視標とした場合のコントラスト感度関数の形状が,正弦波グレーティングを視標とした場合と同様に複数種類存在するのであれば,Marstestにおける検査距離の短縮に伴うコントラスト感度の変化は,これらの形状に依存する可能性がある.たとえば,図3に示したフィルター装用条件のように,視標サイズが小さい区間で顕著にコントラスト感度が低下する場合,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する可能性がある.一方で,コントラスト感度が視標サイズ全体にわたって均一に低下する場合には,検査距離を短くしてもコントラスト感度に変化は生じない可能視標サイズ(logMAR)図3視標サイズと対数コントラスト感度の関係横軸は視標サイズを示しており,logMAR値が大きいほど視標サイズが大きくなる.曲線は,各条件に当てはめた二次関数の回帰曲線であり,フィルター非装用条件ではCy=.0.552×2+1.858x+0.150,フィルター装用条件ではCy=.0.713×2+3.046x.2.206であった.また,Marstestを三つの検査距離条件(40Ccm,27cm,18Ccm)で実施したときに視標サイズに相当するClogMAR値(1.48,1.65,1.82ClogMAR)が回帰曲線上でどの区間に含まれるかが,フィルター条件によって異なっていた.性がある.コントラスト感度関数において,とくにピークコントラスト感度は,歩行時の段差の検出など,視覚を用いた行動との関連から重要な指標とされている2).Marstestはこのピーク感度を測定する検査表として位置づけられている4).本研究のフィルター装用条件において,検査距離を短縮することでコントラスト感度が上昇したことは,標準検査距離C40Ccmでは視標サイズが小さく,ピーク感度に達していないことを示唆している.ただし,検査距離を短縮することは調節の影響が出る可能性がある.加えて,実験C1で使用した最短距離(18Ccm)でも視標サイズの拡大は検査距離C40Ccmのときと比べて約C2.2倍にとどまり,十分な視標サイズの種類を確保するには限界がある.したがって,視標サイズの選択肢を広げるためには,検査距離C1Cmで使用されるCPelli-RobsonCon-trastCSensitivityChartの活用が有効と考えられる.この検査表の視標サイズ(2.8°)はCMarstest(2.5°)とほぼ同等であり,本研究の知見を応用できる可能性があると期待される.あるいは,FreiburgCVisionCTest13)を大型ディスプレイ上で使用すれば,任意の視標サイズで測定が可能となり,測定方法の柔軟性をさらに高めることができる.検査距離を短くして視標サイズを拡大するときに,コントラスト感度がピークに達する視標サイズが明らかでない点は新たな課題となる.この点に関しては,文字視力値からピーク感度が得られる視標サイズを推定し,Pelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartにおける最適な検査距離を算出する方法が提案されている14).しかし,本研究では視力測定にLandolt環を用いたため,この推定方法の妥当性を検証することはできなかった.本研究にはいくつかの限界がある.本研究の結果は,Bangerterフィルターの装用により人工的にコントラスト感度を低下させた視覚正常者を対象としており,実際の眼疾患に起因する感度低下とは異なる条件下で得られたものである.このため,本研究の結果がすべてのロービジョン患者に当てはまるとは限らない.実際のロービジョン患者のコントラスト感度関数は多様であり8),異なる結果が得られる可能性もある.今後は,実際のロービジョン患者を対象とした実証的な検討を進めることが課題である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OwsleyCC,CSloaneME:ContrastCsensitivity,Cacuity,CandCtheCperceptionCof‘real-world’Ctargets.CBrCJCOphthalmolC71:791-796,C19872)MarronCJA,CBaileyIL:VisualCfactorsCandCorientation-mobilityperformance.AmJOptomPhysiolOptC59:413-426,C19823)WestCSK,CMunozCB,CRubinCGSCetal:FunctionCandCvisualCimpairmentCinCaCpopulation-basedCstudyCofColderCadults.CTheCSEECproject.CSalisburyCEyeCEvaluation.CInvestCOph-thalmolVisSciC38:72-82,C19974)ArditiA:ImprovingCtheCdesignCofCtheCletterCcontrastCsensitivitytest.InvestOphthalmolVisSciC46:2225-2229,C20055)HyvarinenL,RovamoJ,LaurinenPetal:Contrastsensi-tivityCfunctionCinCevaluationCofCvisualCimpairmentCdueCtoCretinitispigmentosa.ActaOphthalmol(Copenh)C59:763-773,C19816)HertleCRW,CReeseM:ClinicalCcontrastCsensitivityCtestingCinCpatientsCwithCinfantileCnystagmusCsyndromeCcomparedCwithage-matchedcontrols.AmJOphthalmolC143:1063-1065,C20077)鵜飼一彦,波呂栄子:バンガーターフィルターによるコントラスト感度の低下.VISIONC4:71-72,C19928)ChungSTL,LeggeGE:ComparingtheshapeofcontrastsensitivityCfunctionsCforCnormalCandClowCvision.CInvestCOphthalmolVisSciC57:198-207,C20169)BeaudotWHA:Psykinematix:ACnewCpsychophysicalCtoolforinvestigatingvisualimpairmentduetoneuraldys-functions.VISIONC21:19-32,C200910)CampbellFW,Robson,JG:Applicationoffourieranalysistothevisibilityofgratings.JPhysiolC197:551-566,C196811)AlexanderCKR,CDerlackiCDJ,CFishmanGA:ContrastCthresholdsCforCletterCidenti.cationCinCretinitisCpigmentosa.CInvestOphthalmolVisSciC33:1846-1852,C199212)MajajCNJ,CPelliCDG,CKurshanCPCetal:TheCr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小児霰粒腫の臨床的特徴および治療についての考察

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1449.1453,2025c小児霰粒腫の臨床的特徴および治療についての考察鈴木智*1,2三木岳*1宮平大*1大久保寛*1中路進之介*1南泰明*1*1地方独立行政法人京都市立病院機構京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CClinicalFeaturesandTreatmentofPediatricChalazionTomoSuzuki1,2)C,TakeruMiki1),HiroshiMiyahira1),HiroshiOkubo1),ShinnosukeNakaji1)andYasuakiMinami1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:小児霰粒腫の臨床的特徴および治療内容についてレトロスペクティブに検討する.対象と方法:2017年C1月からC2023年C7月に霰粒腫と診断したC15歳未満の小児例について,年齢,性別,発生部位,治療期間,治療内容について検討した.結果:症例はC63例(うちC53例が紹介例)で,平均年齢はC5.2歳,男児がC26例,女児がC37例であった.発生部位は上眼瞼(57.1%),眼瞼の中央C1/3(39.7%)が多かった.前医ではおもにキノロン系抗菌点眼薬が処方され(92.0%),平均治療期間C40日で当科紹介に至っていた.当院では,5例に外科的摘出術を施行し,残りC58例(92%)はマクロライド系の抗菌点眼薬および内服を中心とした保存的治療を施行し,平均C57日で軽快していた.結論:小児霰粒腫は女児にやや多く,マイボーム腺内の肉芽腫形成に関与していると想定されるアクネ菌に対し,脂溶性のマクロライド系抗菌薬治療が奏効すると考えられた.CPurpose:Toretrospectivelyanalyzetheclinicalcharacteristicsandtreatmentofpediatricchalazion.SubjectsandMethods:WeCreviewedCtheCcasesCofCchildrenCunderC15CyearsColdCdiagnosedCwithCchalazionCbetweenCJanuaryC2017andJuly2023,focusingonage,gender,location,treatmentduration,andmethodsapplied.Results:Atotalof63CcasesCwereCanalyzed,CincludingC53CreferredCcases.CTheCaverageCageCwasC5.2Cyears,CandC37CofCtheC63CpatientsCwereCfemale.CChalazionCwasCmostCcommonCinCtheCuppereyelid(57%)andCtheCcentralCthirdCofCtheeyelid(40%)C.CPriortreatmentwith.uoroquinoloneeyedropswasprescribedin92%,withanaveragetreatmentdurationof40daysbeforereferral.Atourinstitution,5casesunderwentsurgicalexcision,while58weremanagedconservativelywithCmacrolideCantibiotics,CachievingCresolutionCinCanCaverageCofC57Cdays.CConclusion:PediatricCchalazionCwasCslightlyCmoreCcommonCinCfemales,CandClipid-solubleCmacrolideCantibioticsCwereCe.ective,CtargetingCCutibacteriumCacnesCassociatedwithmeibomianglandgranulomas.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(11):1449.1453,C2025〕Keywords:霰粒腫,小児,マクロライド系抗菌薬,アクネ菌.chalazion,Cchildhood,Cmacrolides,CCutibacteriumCacnes.Cはじめに霰粒腫は全年齢層に生じうる,日常診療において頻繁に遭遇する疾患である.その病態は,うっ滞したマイボーム腺分泌脂(以下,meibum)に対する慢性炎症性肉芽腫と考えられている.典型的な霰粒腫のヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色組織所見は,肉芽腫の中央に脂肪滴があり,その周囲を多核巨細胞,さらにはリンパ球や組織球が取り囲んでいる,いわゆる異物肉芽種(lipo-granuloma)である1),実際,掻爬した肉芽腫の脂質分析により,meibumを構成する正常な脂質の消失とコレステロールの増加が明らかにされており2),変質したCmeibumが肉芽腫形成の原因となっている可能性が考えられる.一方,Demodexbrevisを含むいくつかの病原体が危険因子として報告されているが,病因であることは未だ証明されていない3).一方,若年者のマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:CMRKC)4,5),とくにフリクテン型には霰粒腫の既往が多い.筆者らは,MRKCフリクテン型では,meibumの細菌培養結果4,5)や動物実験6)から,マイボーム腺内で増殖しているアクネ菌が角膜細胞浸潤の起炎菌である可能性が高いこと,アクネ菌をターゲットとした抗菌薬の選択によるマイボーム腺炎の治療が必須であることを報告してきた4,5).さらに,摘出霰粒腫の免疫組織学的染色により,肉芽腫形成にアクネ菌〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2MibuHigashitakadacho,Nakagyo-ku,Kyoto-city,604-8845,JAPANC人数(人)65■:男児■:女児432100123456789年齢(歳)図1年齢別の男児・女児の人数1011121314が関与している可能性を世界で初めて報告した7).これらのことから,霰粒腫の治療には,アクネ菌の関与を念頭に置いた抗菌薬の選択が最適であると考えられる.霰粒腫は乳幼児.小児に生じることもあり,大きいものになると機械的眼瞼下垂や惹起乱視による弱視のリスクが増加するため,遅滞のない治療が重要である8).霰粒腫の病態が異物肉芽腫であるという観点から,治療の基本は切開・掻爬とされ,トリアムシノロンの局所注射の有効性も報告されているが9),小児では局所麻酔下での外科的治療や結膜下注射は困難な症例が多い.これまで,霰粒腫は「非感染性」肉芽腫と考えられてきたため,治療に抗菌薬の投与は効果がないという報告もあるが10),日本の実臨床では,キノロン系抗菌点眼薬がほとんどの症例で使用されている.そこで,今回,京都市立病院(以下,当院)で経験した小児霰粒腫の臨床的特徴および治療内容についてレトロスペクティブに検討を行った.CI対象と方法対象はC2017年C1月.2023年C7月に当院眼科を受診し,霰粒腫と診断されたC15歳未満の小児C63例である.霰粒腫以外の眼科疾患を認めた症例は除外した.検討項目は年齢,性別,発生部位,治療内容,治療期間である.各数値は平均値±標準偏差(standarddeviation:SD)で表記した.本研究はヘルシンキ宣言に従っており,京都市立病院機構臨床研究倫理審査委員会の承認を得て行ったものである(登録番号C841).CII結果平均年齢はC5.24C±4.15歳であり,性別は,男児がC26例(41.3%),女児がC37例(58.7%)とやや女児に多かった(stu-dent’st-test:p=0.16).年齢別の男女の人数を図1に示す.発生部位は,上眼瞼がC36例(57.1%),下眼瞼がC20例(37.1%),上下眼瞼がC6例(9.5%),不明C1例であった.眼瞼を三等分して耳側C1/3,中央C1/3,鼻側C1/3で検討すると,耳側C21例(33.3%),中央C25例(39.7%),鼻側C9例(14.3%)で,眼瞼の中央が多かった.眼瞼の複数の部位に多発していた症例がC6例(9.5%),不明C2例であった(図2).なお,多発例では,両眼上下眼瞼におけるマイボーム腺開口部のびまん性閉塞を認めたが,血管拡張は認めなかった.今回の観察期間では,再発例は認めなかった.63例のうち,他院からの紹介症例はC53例であった.前医での平均治療期間はC39.7C±55.6日で,十分な治療効果が得られないため当院紹介となっていた.前医では,抗菌点眼薬がC53例中C42例に投与されており,キノロン系C39例(92.0%),マクロライド系C1例(2.4%),セフェム系C1例(2.4%),アミノグリコシド系C1例(2.4%)であった.また,抗菌眼軟膏はC53例中C15例に投与されており,キノロン系軟膏がC11例(73.3%),マクロライド系軟膏がC4例(26.7%)であった(図3).ステロイドについては,眼軟膏がC38例で使用され(うちデキサメサゾンC28例,ベタメタゾンC10例),点眼薬図2霰粒腫の発生部位a:上眼瞼と下眼瞼の比較.b:眼瞼耳側C1/3,中央部C1/3,鼻側C1/3の比較.Ca抗菌点眼薬(53例中42例に投与)b抗菌眼軟膏(53例中15例に投与)図3前医での治療内容と治療期間平均治療期間はC39.7C±55.6日.はC10例(うちフルオロメトロンC9例,デキサメサゾンC1例)に使用されていた.当院での平均治療期間はC56.8C±51.8日であり,全症例で霰粒腫が寛解したため終診となっていた.当院で外科的治療を要したのはC63例中C5例(7.9%)で,58例(92.1%)は保存的治療のみ(点眼,眼軟膏,内服による治療であり,温罨法と眼瞼清拭は含んでいない)で軽快した.ただし,眼軟膏は抗菌点眼薬あるいは内服と併用して使用し,眼軟膏単独で治療を行った症例はなかった.外科的治療を要したC5例のうち2例は手術目的に受診し,初診時に手術を決定していた.残りのC3例は保存的治療で改善傾向にあったが,より早期の治療効果を求めたため手術に至った.当院での治療内容は,抗菌点眼薬がC63例中C45例に投与されており,マクロライド系がC24例(53.3%),セフェム系がC7例(15.6%),キノロン系がC14例(31.1%)であった.抗菌眼軟膏はC63例中C19例に投与されており,マクロライド系がC17例(89.5%),キノロン系がC2例(10.5%)であった.また,抗菌内服薬はC63例中33例に投与されており,マクロライド系がC26例(78.8%),a抗菌点眼薬b抗菌内服薬c抗菌眼軟膏(63例中45例に投与)(63例中33例に投与)(63例中19例に投与)図4当院での治療内容と治療期間平均治療期間はC56.8C±51.8日.図5代表症例写真(5歳,女児)a:左下眼瞼に発赤・腫脹を伴う大きな霰粒腫を認め,クラリスロマイシン内服,アジスロマイシン点眼,デキサメサゾン眼軟膏で加療した.b:3カ月で消退した.セフェム系がC7例(21.2%)であった(図4).代表症例の写真を図5に示す.CIII考按当院における小児霰粒腫は女児がC58.7%とやや多かった.筆者らは,過去に全年齢層の霰粒腫C206症例の検討で,女性のほうが多いこと(60.2%),とくにC40歳以下では女性に有意に多い(p=0.005)が,41歳以降では性差がなくなる(p=0.18)ことを報告しており7),今回の小児例においてもほぼ同様の結果となった.マイボーム腺は性ホルモンの標的器官であり,その生理機能は月経周期により変化し,とくに周期の後半にはマイボーム腺開口部が有意に小さくなる11).したがって,思春期の女児でも,霰粒腫発症に女性ホルモンが影響している可能性が推測される.一方,今回の検討では,受診患者の多くが未就学児であり,性ホルモン以外の要因についてはさらなる検討が必要である.たとえば,性ホルモン濃度が低い幼少児期ではCmeibumを分泌する機能が未熟である可能性が推測される.また,マイボーム腺の細菌叢は,健常若年者ではアクネ菌の菌量が高く,加齢によりその菌量が低下することも12)若年者のほうが霰粒腫を発症しやすい一因と推測される.霰粒腫の発生部位は,既報8)と同様に,上眼瞼がC57.1%,眼瞼中央部がC39.7%と多かった.マイボーム腺は,下眼瞼より上眼瞼のほうが長く,眼瞼中央部がもっとも長いという解剖学的特徴から,上眼瞼の中央部でCmeibumのうっ滞をきたしやすく,霰粒腫の発症が多かったと推測される.当院の治療は,63例中C60例(95.2%)で保存的に開始されていた.とくに小児例においては保存的治療が安全かつ治療への協力を得られやすいと考えられる.治療は,前医ではほとんどの症例で点眼および眼軟膏ともにキノロン系抗菌薬が処方されていたが,当院では霰粒腫の病態にアクネ菌が関与していると考え,マクロライド系あるいはセフェム系抗菌薬に処方変更し,その治療が奏効していると考えられた.日本眼感染症学会によって行われた,前眼部・外眼部感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査では,アクネ菌に対してエリスロマイシンが高感受性であったことが示されている13).また,アジスロマイシンは,アクネ菌に対する最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)がオフロキサシンのC1/64,ガチフロキサシンのC1/4であり,強い抗菌活性を有することが報告されている14).筆者らは,生後C2カ月の乳児の両眼上下眼瞼に多発した霰粒腫を,セフェム系,マクロライド系抗菌薬の全身的および局所投与とデキサメサゾン眼軟膏の併用で,寛解導入した症例を報告している15).エリスロマイシン,クラリスロマイシン,アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬は脂溶性が高いため,マイボーム腺内のCmeibumに移行しやすく効果を発揮しやすいと考えられる.さらに,マクロライド系抗菌薬は,抗菌作用に加え,抗炎症作用があり,アクネ菌の増殖を抑制するとともに肉芽腫炎症の抑制にも効果を発揮している可能性がある.アジスロマイシン点眼については,いわゆる霰粒腫は適応症とはなっていないが,マイボーム腺におけるアクネ菌の増殖に基づく肉芽腫性炎症は,細菌増殖の関与した眼瞼炎に含まれると考えることもできるはずである.ステロイド眼軟膏は,皮膚側からマイボーム腺へ移行し,肉芽腫性炎症を抑制するために有効である.今回の症例では,すべて診察ごとに眼圧測定を行ったが,ステロイドによる眼圧上昇は生じておらず,追加治療が必要な症例は認められなかった.なお,今回の考察はレトロスペクティブ研究によるものであり,マクロライド系抗菌薬が真に霰粒腫の治療に有効か否かを結論付けるためにはプロスペクティブ研究の結果を待つ必要がある.CIV結論小児の霰粒腫はやや女児に多く,マイボーム腺内のアクネ菌の関与を考慮した脂溶性マクロライド系抗菌薬を中心とした適切な抗菌薬の選択を行うことにより,保存的治療が奏効すると考えられた.利益相反:鈴木智(千寿製薬)FIII文献1)Yano.CM,CFineBS:OcularCpathologyC5thCed.Cp173-174,CMosby,Philadelphia,20022)WojitwiczCJC,CButovichCIA,CMcMahonCACetal:Time-dependentCdegenerativeCtransformationsCinCtheClipidomeCofchalazia.ExpEyeResC127:261-269,C20143)JingH,Meng-XiangG,Dao-ManXetal:Theassociationofdemodexinfestationwithpediatricchalazia.BMCOph-thalmolC22:124,C20224)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,C20005)SuzukiCT,CTeramukaiCS,CKinoshitaCS.CMeibomianCglandsCandocularsurface.OculSurfC13:133-149,C20156)SuzukiCT,CSanoCY,CSasakiCOCetal:OcularCsurfaceCin.ammationinducedbyPropionibacteriumacnes.CorneaC21:812-817,C20027)SuzukiCT,CKatsukiCN,CTsutsumiCRCetal:ReconsideringCthepathogenesisofchalazion.OculSurfC24:31-33,C20228)OuyangCL,CChenCX,CPiCLCetal:MultivariateCanalysisCofCtheCe.ectCofCchalazionConCastigmatismCinCchildren.CBMCCOphthalmolC22:310,C20229)GoawallaA,LeeV:AprospectiverandomizedtreatmentstudyCcomparingCthreeCtreatmentCoptionsCforchalazia:CtriamcinoloneCacetonideCinjections,CincisionCandCcurettageCandtreatmentwithhotcompresses.ClinExpOphthalmolC35:706-712,C200710)AlsoudiAF,TonL,AshrafDCetal:E.cacyofcareandantibioticuseforchalaziaandhordeola.EyeContactLensC48:162-168,C202211)SuzukiCT,CMinamiCY,CKomuroCACetal:MeibomianCglandCphysiologyCinCpre-andCpostmenopausalCwomen.CInvestCOphthalmolVisSciC58:763-771,C201712)SuzukiCT,CSutaniCT,CNakaiCHCetal:TheCmicrobiomeCofCmeibumCandCocularCsurfaceCinChealthyCsubjects.CInvestCOphthalmolVisSciC61:18,C202013)秦野寛,井上幸次,大橋裕一ほか:前眼部・外眼部感染症起炎菌の薬剤感受性─日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第二報).日眼会誌C115:C814-824,C201114)アジマイシン点眼液C1%申請資料概要.2.6非臨床試験の概要文及び概要表.2.6.2薬理試験の概要文.2.6.2.2.1.3眼科臨床分離株に対する抗菌活性.p6,10,千寿製薬株式会社.承認年月日:2019年C6月C18日15)中井浩子,杉立有弥,鈴木智:生後C2カ月の乳児に生じた多発霰粒腫のC1例.あたらしい眼科36:105,C2019***

基礎研究コラム:杯細胞ムチンとそのシアル化糖鎖

2025年11月30日 日曜日

杯細胞ムチンとそのシアル化糖鎖杯細胞のムチン杯細胞は上皮細胞の一種で,副交感神経からのアセチルコリンやマスト細胞からのヒスタミンなどの刺激により,粘液を放出します.粘液の主成分はムチンとよばれる糖蛋白質です.ヒトではC20種類以上のムチンが同定されており,粘膜臓器によってその主成分が異なりますが,結膜の杯細胞においてはおもにCmucin5AC(MUC5AC)です.また,ムチン上の糖鎖の長さは臓器によって異なり,眼表面の糖鎖は腸管粘膜における糖鎖よりも比較的短いことが知られています.結膜杯細胞のシアル化ムチン花粉症などのアレルギー研究では,黒い毛皮をもったC57BL/6系統と,白いCBalb/c系統のマウスがよく用いられます.これらのマウスの結膜組織像を顕微鏡で観察すると,前者の杯細胞がシアル酸依存的にアルシアンブルー染色で青染するのに対し,後者のCBalb/cマウスでは染色されないことがわかりました.そこで,シアル酸の有無を決定している遺伝子の同定を試みたところ,Balb/cマウスにおいては,St6galnac1というシアル酸転移酵素の遺伝子に点突然変異があり,正常なCmRNAが発現できていないことが明らかになりました(図1)1).そこで,正常なCSt6galnac1遺伝子をCBalb/cに導入したマウス(Aoマウス)を作製したところ,ブタクサ花粉による結膜炎モデルにおいて,Aoマウスでは結膜炎が抑制されました.花粉を点眼すると,杯細胞は粘液を放出し,花粉はこの粘液に絡めとられて凝集塊を形成します.Aoマウスではゲル状の粘液層によるカプセルが形成されていましたが,野生型ではこれが欠損しており,シアル化ムチンには,粘液Balb/cマウスAoマウス粘液シアル酸(-)粘液シアル酸(+)図1花粉点眼後に結膜上で形成された花粉粒子の凝集体Aoマウスにおいては花粉の凝集体が粘液カプセル層に覆われているが,野生型CBalb/cマウスでは欠損している.(文献C1より改変引用)松澤萌順天堂大学医学部医学研究科眼科学アトピー疾患研究センターカプセルを形成して花粉を閉じこめ,効率的に除去する作用があることがわかりました(図2)1).ヒトにおける結膜杯細胞St6galnac1遺伝子は,ヒトの結膜においても,もっとも発現が高いシアル酸転移酵素です.ヒトの正常結膜においても,杯細胞がもつ粘液はアルシアンブルー染色で青染することが知られていますが,シアル酸除去酵素で処理すると青染しなくなり,ヒト結膜杯細胞のアルシアンブルー染色性もシアル化糖鎖の有無に依存していることが明らかになりました.また,翼状片やアトピー性角結膜炎患者の結膜ではST6GALNAC1の発現上昇や,ST6GALNAC1が合成にかかわるシアル化糖鎖(sialyl-Tn)を発現している杯細胞の割合が増加していることが明らかになり,慢性的な物理・炎症刺激下では反応性にシアル化ムチンが増加することも考えられます.今後の展望シアル化ムチンは眼表面における第一線の防御として,保護的な役割を果たしている可能性があります.シアル化糖鎖の制御が可能になれば,将来アレルギー性結膜炎を抑制できるようになるかもしれません.文献1)MatsuzawaCM,CAndoCT,CFukaseCSCetal:TheCprotectiveCroleofconjunctivalgobletcellmucinsialylation.NatCom-munC14:1417,C2023図2St6galnac1の有無による杯細胞からの粘液性状正常なCSt6galnac1をもつCC57BL/6マウスでは,粘液がカプセル化し花粉を効率的に捕捉する一方で,St6galnac1活性が欠損しているCBalb/cマウスでは,カプセル化せずに花粉を効率的に捕捉できない.(文献C1より改変引用)(81)あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14450910-1810/25/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:270.胞状網膜剝離に対するD-ACE法(中級編)

2025年11月30日 日曜日

270胞状網膜.離に対するD-ACE法(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに上方の弁状裂孔に起因する胞状の裂孔原性網膜.離に対して,現在では多くの術者が硝子体手術を選択しているものと思われる.一方,Gilbertらが報告したCD-ACE(drainage+airCinjection+cryopexy+exoplant)法は胞状の網膜.離に対しても強膜バックリング手術で治療することのできる優れた術式である1).C●症例提示患者はC49歳,男性.上方の網膜格子状変性の両端に弁状裂孔を認め,上方C2象限に胞状の網膜.離をきたしていた(図1).このままでは冷凍凝固プローブが裂孔部位に届かないので,D-ACE法を選択した.まず上方で網膜下液排除を施行し(図2),十分に眼圧を低下させたうえで,鑷子で強膜を確実に把持し,その横からC27ゲージ針を硝子体腔内に刺入し,空気が一塊になるようにゆっくりと注入した(図3).網膜下液がほぼ排除できた時点で,双眼倒像鏡眼底観察下に空気を通して経強膜冷凍凝固を施行し,その後,#C501シリコーンスポンジをC10時.2時の円周方向に縫着した(図4).伏臥位はC1日のみとし,翌日に網膜が復位していることを確認したあとは側臥位を指示した.術後,網膜は復位し,矯正視力は術前C0.02から術後C1.0に改善した(図5).C●D-ACE法のポイント本術式は,ガス注入眼における仰臥位での眼底検査と強膜バックリング手術に習熟している術者であれば,とくに抵抗なく施行できる.利点としては,水晶体を温存できること,伏臥位の期間が短くてすむこと,いったん復位が得られれば再.離の可能性が低いことなどがあげられる.欠点としては,術中眼底検査や手術手技にある程度の習熟を要する点である.とくに硝子体腔内に空気を注入する際に,魚鱗状になるとその後の眼底観察が困難となるので,網膜下液排除にて眼圧を十分に低下させたあとに,硝子体腔内にゆっくりと空気を注入するのがコツである.針を硝子体腔内に刺入する際には眼圧が低図1術前の眼底写真上方の網膜格子状変性の両端に弁状裂孔および胞状の網膜.離を認める.図2網膜下液排除網膜下液排除を施行し,眼圧を十分に低下させておく.図3硝子体腔内空気注入ゆっくりと空気が一塊となるように注入する.図4強膜バックリング空気注入眼は圧に対する許容性が大きいので,バックルを締めやすい.図5術後眼底写真裂孔はバックル上に乗り,網膜は復位している.くなっているので,強膜を鑷子でしっかりと把持するか,あらかじめ強膜に糸を縫合しておき,その糸を鑷子で把持しながら,すぐ横から針を刺入するようにする.翌日に網膜が完全に復位していれば,その後の伏臥位は不要となることが多い.文献1)GilbertCC,CMcLeodD:D-ACECsurgicalCsequenceCforCselectedCbullousCretinalCdetachments.CBrCJCOphthalmolC69:733-736,C1985(79)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514430910-1810/25/\100/頁/JCOPY

考える手術:多焦点眼内レンズ脱臼

2025年11月30日 日曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅多焦点眼内レンズ脱臼山根真山根アイクリニック馬車道白内障手術の進歩により,多焦点眼内レンズ(MFIOL)の適応は拡大し,術後の眼鏡依存度を減らす大きな選択肢となっている.しかし,加齢や外傷,Zinn小帯脆弱を背景とした眼内レンズ脱臼が近年増加しており,単焦点眼内レンズとは異なるMFIOL特有の課題が治療法選択を複雑にしている.MFIOLは光学的設計上,レンズ中心と視軸の精密なアライメントが視機能に直結するため,わずかな偏位や傾斜でも著明な見えにくさや不満につながりやすい.また,患者層は若年から中高年に及び,術後の生活の質にを摘出し,別の眼内レンズを移植する方法がある.MFIOLを温存する利点は,患者の「眼鏡なし生活」への期待を継続できる点であるが,術式は技術的に煩雑で,安定したセンタリングを得ることがむずかしい場合もある.一方,単焦点眼内レンズへの入れ替えは手技の安定性や長期的予後の予測可能性で優れるが,患者満足度とのバランスを慎重に検討する必要がある.近年では,強膜内固定や無縫合固定技術の進歩により,MFIOL再固定の実現性は高まりつつある.本稿では,MFIOL脱臼時の再固定の実際的な手術手技と選択の考え方を概説する.聞き手:多焦点眼内レンズ(multifocalCintraocular法が選択できません.lens:MFIOL)の普及とともに,脱臼症例の対応に迫られる機会が増えています.まずは,これまで行ってきた聞き手:現在はどのような方法になりますか.方法を教えていただけますか.山根:選択肢は大きくは二つです.ひとつは脱臼した山根:私がよく行っていたのは,3ピースCMFIOLのMFIOLを摘出して単焦点CIOLを強膜内固定する方法,ZMA00を強膜内固定する方法(Yamanetechnique)でもうひとつは脱臼したCMFIOLを再固定する方法です.す1).ZMA00はCCループ形状の支持部をもつC3ピース前者は手技的に安定しており,長期成績も予測しやすい眼内レンズ(intraocularlens:IOL)であり,強膜内固のですが,多焦点機能を失うというデメリットがありま定した際に比較的容易にきれいなセンタリングが得らす.後者は患者の「裸眼での快適さ」を温存できる反れ,術後の光学的成績も安定していました.しかし,残面,術式はレンズの種類や状態に強く依存します.念ながらC2024年に販売が終了してしまい,今はこの方(77)あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14410910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:再固定を考える際に,カプセルテンションリング(capsulartensionring:CTR)の有無は重要ですか.山根:非常に重要です.CTRが入っていれば,基本的にどのタイプのCMFIOLでもCCTRに糸を通すことで再縫着が可能です.9-0ポリプロピレン糸やCCV-8ゴアテックス糸を用いて強膜へ縫着し,縫い目を強膜内へ埋没します.CTRに糸をかけるときは,2点では傾斜を起こす可能性があるため,3点以上の縫着が望ましいです.聞き手:CTRが入っていない場合はどうでしょうか.山根:その場合はCIOLに直接糸をかけます.レンティスコンフォートのようにアイレットが付いたCIOLであれば,アイレットに通糸して強膜へ縫着することで比較的安定した結果が得られます.問題は広く普及しているCループ型のシングルピースCIOLで,これは再縫着に不向きです.最近,支持部の根元に糸をかける「ベルトループテクニック」が報告されており,支持部の付け根に水晶体.を貫いて糸を通して強膜へ縫着することでシングルピースレンズを再固定することが可能です(図1).良好な成績が報告されていますが2),IOLの傾斜をコントロールすることがむずかしく,長期的な安定性にも疑問が残ります.聞き手:ベルトループを行う際の工夫はありますか.山根:一番大切なのは糸を通す位置を光軸に対して左右対称にすることで,ねじれが生じないように縫合糸が輪部に対して完全に直角である必要があります.わずかなIOLの偏心や傾きが多焦点光学系では視機能の低下につながります.また,糸のテンションを両側で均等に保つことが肝心で,無縫合で行うCCanabravatechniqueより図1ベルトループテクニック支持部を挟み込むように上下に糸を通して強膜に縫着する.も,縫合したほうがテンションのコントロールが容易です.聞き手:単焦点CIOLに置き換える場合の注意点はありますか.山根:私はCYamanetechniqueによる強膜内固定を第一選択にしています.レンズはCNX-70やCPN6Aなど,支持部がポリフッ化ビニリデン(PVDF)製で破損しにくいものを選びます.脱臼したレンズがクリアレンズの場合は,イエローレンズではなくクリアレンズを選択します.正視に合わせることが多いですが,他眼の屈折やIOLの種類,ライフスタイルに応じて屈折を選択します.聞き手:海外では強膜内固定用のCIOLも登場しているそうですね.山根:はい.Carlevareレンズは強膜内固定専用に設計されたレンズで,T字状の支持部を強膜に固定する構造になっています3).このCIOLは単焦点だけではなく多焦点タイプもラインナップされており,MFIOL脱臼例に対して魅力的なオプションです.ただし,近方加入度数がやや弱いため,術前に「遠方は良好でも,近見は以前ほど出ない可能性がある」と説明する必要があります.聞き手:こうした手術を行う際に心がけていることはありますか.山根:MFIOLの二次固定は,単焦点CIOLの固定より数倍シビアです.求められる中心固定や傾斜のコントロールの水準が高く,0.2~0.3Cmmの偏位が視機能低下を招きます.そのため針の刺入角度や糸のテンションなど,細部にこだわった調整が必要です.また,術前のカウンセリングも不可欠です.術前と完全には同じ見え方にならないことや,タッチアップが必要になる可能性を説明し,患者と一緒に治療方針を決定することが大切だと考えています.文献1)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C20172)ByCMottM(contributingwriter)interviewingCFramCNR,CMMcCabe,MeghparaBB:Beltlooptechniqueforscler-al.xationofin-the-bagdislocatedIOLs.AmericanAcade-myCofOphthalmologyCEyeNetCMagazineCAugust:23-24,C20223)RossiT,IannettaD,RomanoVetal:AnovelintraocularlensCdesignedCforCsuturelessCscleral.xation:surgicalCseries.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC259:257-262,C2021C1442あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(78)

抗VEGF治療セミナー:感染性眼内炎におけるヨード使用

2025年11月30日 日曜日

●連載◯161監修=安川力五味文141感染性眼内炎におけるヨード使用正田千穂日本大学病院アイセンター眼内炎治療は抗菌薬を用いた硝子体内注射・硝子体手術が主流であるが,近年増加傾向である耐性菌への対応や高濃度抗菌薬による網膜毒性などの懸念がある.本稿では抗菌薬に代わる治療法として,筆者の施設で行っているポビドンヨード硝子体内注射の有用性と治療の実際について述べる.眼内炎治療の問題点とヨードの利点内眼手術後の感染性眼内炎は,適切な治療を行っても視力予後が不良となりうる重篤な術後合併症である.わが国の眼内炎治療では,①初期治療としての抗菌薬硝子体内注射,②抗菌薬含有灌流液による前房洗浄と硝子体手術,③手術終了時の抗菌薬硝子体内注射,④補助療法として抗菌・消炎点眼と抗菌薬全身投与,が行われることが多い.しかし,抗菌薬は殺菌に要する時間が長く,初期治療としての硝子体内注射の効果には疑問がある.また,硝子体内注射で使用されるバンコマイシンは前房内投与による出血性閉塞性網膜血管炎の報告があり1),高濃度での使用にはリスクが伴う.さらに,近年の眼内炎の起因菌は多剤耐性菌・バンコマイシン耐性菌・真菌などが増加しており,眼内炎治療における抗菌薬使用方法を再考する必要があると考える.一方,ヨード製剤は抗微生物スペクトルが広く,殺菌作用の発揮にはC15秒.数分と短時間で効果が現れることが利点である.近年,わが国で使用可能なポビドンヨードの基礎・臨床研究が急速に進歩し,眼組織に使用した研究も多くみられる.本稿では現在,日本大学病院アイセンター(以下,当院)で行っているポビドンヨードを用いた眼内炎治療について解説する.ヨードの有効濃度と眼毒性まずポビドンヨードの眼組織への使用は適応外使用となるため,各施設での承認が必要となることに留意する.ポビドンヨードの有効濃度はC0.005.10%とされ,0.01%以上であれば黄色ブドウ球菌に強い殺菌作用を示す.眼内炎治療のために硝子体内に使用することを想定した研究としては,硝子体内濃度C0.013%以上で表皮ぶどう球菌によるウサギ眼内炎が改善したとの報告がある2).網膜への安全濃度はC0.027%以下とされており,0.013.0.027%の濃度で使用することが望ましい.当院では硝子体内濃度C0.025%で使用している.(75)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPYポビドンヨード硝子体内注射による眼内炎治療1.25%ポビドンヨードC0.1Cmlを硝子体内に投与すると,硝子体内濃度は約C0.025%となる.中静らは,この1.25%ポビドンヨードの硝子体内注射による初期治療に加え,0.025%ポビドンヨード含有灌流液を用いて硝子体手術を行った眼内炎C9眼の治療成績を報告した3).いずれの症例も術後視力は改善し,視野,網膜電図,角膜内皮細胞密度に術後明らかな異常はなく,有効性と安全性が示された.一方で,ポビドンヨード含有灌流液の前房灌流により,眼内炎で軽度障害された角膜内皮細胞に強い障害をきたす症例がみられたことから,現在当院では,手術時の灌流液には従来どおり抗菌薬を添加し,手術前後の硝子体内注射にポビドンヨードを用いている(図1).1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射の作製方法を図2に示す.比較的簡便に作製できるので,感染性眼内炎の診断後,手術までの待機時間に硝子体内注射を速やかに施行することが可能である.ポビドンヨード硝子体内注射の前に,培養検査のための結膜.擦過と前房水・硝子体液採取をすることに留意する.ポビドンヨード硝子体内注射は単独でも眼内炎治療に初期治療:硝子体内注射l1m.25%,0.1ポビドンヨード硝子体内濃度0.025%硝子体手術バンコマイシン10mg,500ml硝子体内濃度20μg/mlセフタジジム20mg,500ml硝子体内濃度40μg/ml手術終了時:硝子体内注射l1m.25%,0.1ポビドンヨード硝子体内濃度0.025%図1当院での眼内炎治療プロトコル硝子体手術では従来どおり抗菌薬含有灌流液を使用し,前後の硝子体内注射をC1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射におきかえている.あたらしい眼科Vol.42,No.11,20251439図21.25%ポビドンヨード0.1ml硝子体内注射液の作製方法a:ミリポアフィルターを使用してポビドンヨード原液(10%)をC1Cml採取する.Cb:生理食塩水をC7Cmlに調整する(ポリアンプから採取してもよい).c:7Cml生理食塩水とC1Cmlポビドンヨードを混和し,1.25%ポビドンヨード液を作製する.Cd:1.25%ポビドンヨード液をC1CmlシリンジでC0.1Cml以上採取する.Ce:硝子体内注射用針をとりつけ,0.1Cmlに調整する.図31.25%ポビドンヨード硝子体内注射で加療を行った内因性眼内炎の症例88歳,女性.グラム陽性球菌による菌血症に伴う内因性眼内炎.全身状態不良のため硝子体手術が施行できず,1.25%ポビドンヨード硝子体内注射をC1回施行したところ,眼内炎は改善した.Ca:初診時.前房蓄膿がみられる(→).視力は手動弁.Cb:注射後C7日.前房蓄膿は消失し,眼底透見も良好となった.矯正視力は(0.2)に改善した.Cc:注射後C1カ月.眼内炎の再発はない.有用となる可能性がある.ウサギ眼内炎においてC0.1%ポビドンヨード硝子体注射(硝子体内濃度C0.0067%)の1日おきC3回投与の有効性が示されている4).また,田中らは手術加療が困難であったグラム陽性菌に起因する内因性眼内炎の患者にC1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射をC1回施行し,眼内炎の改善と視力改善がみられたことを報告した(図3)5).以上のように,1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射は安全かつ有効性が示されており,眼内炎治療としての有用性が期待される.文献1)WitkinCAJ,CShahCAR,CEngstromCRECetal:PostoperativeChemorrhagicCocclusiveCretinalvasculitis:ExpandingCtheCclinicalCspectrumCandCpossibleCassociationCwithCvancomy-cin.OphthalmologyC122:1438-1451,C20152)BrozouCCG,CKarabatakisCV,CGiannousisCMCetal:TheC1440あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(文献C9より引用)Ce.cacyCofCintravitrealCpovidoneCiodineCapplicationCinCexperimentalCStaphylococcusCepidermidisCendophthalmitis.COphthalmicRes41:181-185,C20093)NakashizukaCH,CShimadaCH,CHattoriCTCetal:IntravitrealCinjectionof1.25%povidoneiodinefollowedbyvitrectomyusing0.025%povidoneiodineirrigationfortreatingendo-phthalmitis.TranslVisSciTechnolC8:21,C20194)KimKH,CaoJ,YooJWetal:Intraocular.pharmacokinet-icsCofCpovidone-iodineCandCitsCe.ectsConCexperimentalCstaphylococcusCepidermidisCendophthalmitis.CInvestCOph-thalmolVisSciC56:6694-6700,C20155)TanakaCH,CNakashizukaCH,CMizunoCYCetal:EndogenousCendophthalmitisCsuccessfullyCtreatedCwithCintravitrealpovidone-iodineinjection:acasereport.BMCOphthalmolC20:217,C2020参考文献島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント第C3版,日本医事新報社,2024(76)

緑内障セミナー:AI技術を用いた緑内障視野スクリーニングへの取り組み

2025年11月30日 日曜日

●連載◯305監修=福地健郎中野匡305.AI技術を用いた緑内障視野西島義道東京慈恵会医科大学眼科学講座スクリーニングへの取り組み緑内障は早期発見早期治療が原則であり,スクリーニングはその一助となっている.近年,両眼開放視野計であるCimoを用いた緑内障スクリーニングプログラムが登場した.さらに深層学習技術を併用することで,スクリーニング検査の情報からCHumphrey視野計の視野情報,およびその進行リスクを予測する取り組みも行われている.●はじめに緑内障は不可逆性視機能障害の主因であり,2040年には世界中の罹患者がC1億C1,180万人に達すると推計されている1).そのため,早期発見・早期介入の重要性はますます高くなっていくことが予想される.スクリーニングは早期発見のための一つの有用な手段と考えられるが,緑内障の診断に必要な視野検査は時間を要し,スクリーニング環境での実施には制約がある.スクリーニング用に開発されている視野計や視野プログラムは複数報告されているが,近年は両眼開放視野計Cimo(クリュートメディカルシステムズ)を用いた緑内障スクリーニングプログラムが開発され2),企業健診などでの実用化が進んでいる.さらに,医療分野における人工知能(arti.cialintelli-gence:AI)技術の発展により,眼科領域でも診断支援システムの開発が急速に進展している3).本稿では,imoを用いた視野スクリーニングプログラム(imoCScreeningProgram:ISP)とCAI技術を統合したCDeep-aISPモデルの開発,およびその臨床的有用性について述べる.C●imoを用いた緑内障スクリーニングプログラム(ISP)の開発imoは両眼開放かつ暗室不要の視野計である.筆者のグループはCHumphrey視野計(HumphreyCFieldCAna-lyzer:HFA)24-2とCHFA10-2の測定点から緑内障検出に最適なC28点を抽出し,90.120秒で測定可能なISPを開発した(図1)2).imoは暗室が不要で測定可能であることから,健診の場においても導入が可能である.現在実際にC2施設で企業健診に導入され,popula-tion-baseのスクリーニングでの有効性を確認中である.C●DeepISPモデルの開発と検証ISPは緑内障の有無を短時間で検出することは可能であったが,筆者らはさらに,重症度や進行リスクを同時に判定することを目的として,深層学習技術を用いてISPの単純な二値情報からCHFA24-2の情報を予測する図1imoの外観およびimoscreeningprogramの測定点a:両眼開放視野計Cimoの外観.b:imoscreeningprogram(ISP)における右眼の測定点.赤丸はCHFA24-2と同一の測定点.青丸はCHFA10-2と同一の測定点.赤青半円はCHFA24-2およびCHFA10-2と同一の測定点を示す.(文献3,4より改変引用)(73)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514370910-1810/25/\100/頁/JCOPYGlaucomalikelihoodHFA24-2lmoscreeningprogram(ISP)GHTclass2010緑内障重症度Degrees-100MDPSDVFIDegrees0DeeplSP緑内障進行速度-20-200Degrees・測定点は合計28点・各測定点は「見えた(○)」or「見えていない(×)」で判定MDprogression-20020VFIprogressionDegrees確率プロットマップTDmapclassPDmapclass図2DeepISPの概念図DeepISPはCISPの情報を用いてCHFA24-2のCGlobalIndex,確率プロットマップ,GHT判定,および進行リスクを同時に判定する.DeepISPモデルを開発した4).DeepISPは,ISPの結果からCHFA24-2の平均偏差(MD),パターン標準偏差(PSD),VisualCFieldCIndex(VFI),Totaldeviation(TD)マップ,PatternCdevia-tion(PD)マップ,そして緑内障半視野テスト(GHT)分類を同時に予測するマルチタスク深層学習モデルとして構築されている(図2).より高精度な予測モデルの構築のために,データ拡張技術によりCHFA24-2とCHFA10-2のデータより合成ISPデータを生成し,モデルの学習を行った.最終的に3,470件の合成CISPデータ,187件の実際のCISPデータを用いた.MD予測の平均絶対誤差はC1.869C±0.114CdB,PSD予測ではC1.918C±0.082CdB,VFI予測ではC5.146C±0.487%であった.また,GHT分類のCAUCはC0.920C±0.008,TD/PDマップの点別分類CF1スコアもそれぞれ0.761,0.775と良好な予測精度を達成した.C●視野進行予測への応用スクリーニングの段階で緑内障の進行傾向も把握する目的で,HFA24-2の縦断データおよび同一患者のCISPデータを用いて視野進行予測モデルを構築した.その結果,MD進行(C.1.0dB/年以下)およびCVFI進行(C.1.8%/年以下)の予測において,それぞれCAUCC0.828±0.060,0.832C±0.062を達成し,単回検査から将来の進行リスク評価が可能であることを示した.C●臨床的意義と今後の展望ISPはすでに企業健診の現場で実用化され,日立健康管理センタおよびトヨタ自動車健康保険組合健康支援センターウェルポにおいて,年間数万件規模のスクリーニC1438あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025ングが実施されている.また,DeepISPは,ISPの結果からより詳細な視野情報を提供できる可能性があり,将来の進行リスクも同時に予測可能な点を特徴とする.さらに,広く利用されているCHFAデータから合成CISPを生成できるため,AIにおいて問題となる外的妥当性に関しても,ISPが導入されていない施設でもモデル開発が可能であり,グローバルな展開が期待される.C●おわりに本稿では,両眼開放視野計Cimoを用いたスクリーニングプログラムであるCISPと深層学習技術を活用したDeepISPモデルの開発について述べた.本システムは,AI技術を併用することでスクリーニングの簡便性を保ちながら詳細な視野情報の予測を可能とし,大規模スクリーニングにおける次世代の緑内障診断支援技術として,視覚障害予防に貢献することが期待される.文献1)ThamCY-C,CLiCX,CWongCTYCetal:GlobalCprevalenceCofCglaucomaCandCprojectionsCofCglaucomaCburdenCthrough2040:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthal-mologyC121:2081-2090,C20142)AraiCK,CNishijimaCE,COgawaCSCetal:ACnovelCvisualC.eldCscreeningCprogramCforCglaucomaCwithCaChead-mountedCperimeter.JGlaucomaC32:520-525,C20233)TingCDSW,CPasqualeCLR,CPengCLCetal:Arti.cialCintelli-genceCandCdeepClearningCinCophthalmology.CBrCJCOphthal-molC103:167-175,C20194)SanoK,NishijimaE,SumiSal:Deeplearning-basedpre-dictionCofCglaucomaCseverityCandCprogressionCusingCimo/CTEMPOCscreeningCprogram.COphthalmolCSciC5:100805,C2025(74)

屈折矯正手術セミナー:老視用インレイによる角膜混濁

2025年11月30日 日曜日

●連載◯306監修=稗田牧神谷和孝306.老視用インレイによる角膜混濁出家寿々近間泰一郎広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学老視治療のひとつとして角膜インレイが用いられているが,長期使用に伴う合併症も報告されている.今回,CKamracornealinlay術後に角膜線維化と混濁を生じ,摘出後も混濁が遷延し視力が十分に改善しなかった一例を経験した.インレイの安全性は証明されているが,場合によっては不可逆的な視力低下をきたすことがあるため,慎重な術後管理と適切な対応が求められる.●はじめに老視は加齢に伴う視力障害で,毛様体筋の衰えや水晶体の弾力性低下により,近くのものに焦点を合わせることができなくなる.40歳以上のC85%が老視になるといわれており,加齢とともに有病率と重症度は増加する.2030年には全世界で約C21億人とピークに達すると予想されている1).老視に対する治療法の一つとして,欧米ではC2000年代前半から角膜インレイが普及した.日本ではC2010年代中頃から自由診療で導入されている.インレイは通常,片眼(非優位眼)に挿入され,遠方視力を維持しながら近方および中間視力を改善する.日本で使用されているCAcuFocus社のCKamraCcornealinlay(以下,Kamraインレイ)は直径C3.8Cmm,中央孔C1.6Cmmのデバイスで,ポリフッ化ビニリデンとカーボンナノ粒子で構成されている.中央の小孔から光を通し,周辺のピントが合っていない光を遮断することで焦点深度を増加させるピンホール効果を有する.8,400個の微細な穴により栄養分や酸素を通過させ,角膜上皮や実質の透明性を保つ設計になっている.米国ではC2015年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の承認を受けたが,ドライアイや夜間視力低下,ハローの悪化の可能性は指摘されていた.実際に,これまで一定数のインレイ摘出がなされており,長期的な使用による合併症の報告もある.筆者らはインレイ術後に角膜実質の線維化に伴う角膜混濁を生じ,抜去後にもその混濁が遷延した患者を経験した2).その経過をあわせて報告する.C●症例患者はC63歳,男性.左眼の視力低下,単眼複視,薄暗い場所での不快感を訴えて筆者の施設を受診した.2年前に両眼CLASIKと左眼CKamraインレイ挿入術の既往があった.初診時視力は右眼C1.5(1.5×sph+0.05D),(71)左眼C1.0(矯正不能),眼圧は右眼C17mmHg,左眼18CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査ではインレイ内に角膜上皮下混濁とインレイに沿った鉄線を認めた.前眼部光干渉断層計では,インレイ周囲に高輝度の反射,角膜上皮の肥厚を認めた(図1).トラニラスト点眼C1日C3回で加療を開始したところ,18カ月間は混濁の増強を認めなかった.点眼薬を一時中止したところ,6カ月後に左眼矯正視力は(0.7)へ低下した.角膜混濁は上皮下から実質浅層まで進展し,不正乱視を生じていた(図2).また生体共焦点顕微鏡では,上皮下および実質浅層に線維化を伴う筋線維芽細胞を確認した(図3).これらの所見から,患者はインレイ挿入手術施設でのインレイ摘出を決断した.インレイ摘出術後はベタメタゾン点眼,フルオロメトロン点眼を漸減終了した.加えて,トラニラスト点眼をC1日C4回,2年間使用し,その後漸減終了した.インレイ摘出からC6カ月後,左眼の裸眼視力は(0.6)で改善はなかった.細隙灯顕微鏡検査では角膜実質混濁の軽度改善がみられた(図4).その後のC5年間の経過観察でも,混濁は徐々に改善したものの,視力は変わらなかった.C●おわりにインレイの有効性と安全性は米国CFDAで証明されており,全世界で老視治療の一つとして使用されてきた.インレイは必要時には摘出できることがメリットであり,実際,術後C3年以内でC1.8.10.3%の摘出率が報告されている3).摘出に至った原因は,屈折の変化や期待どおりの見え方ではなかったことなどの自覚的な問題が多い.ほとんどの場合,視力低下を伴わず,1年以内の摘出であれば視力の悪化はない3).これらの視覚的な問題は挿入深度が浅いことが原因となっているとの報告もある.一方で,本症例のほかにも長期間のインレイ使用後に視力低下を伴った症例もある4).屈折変化や角膜混濁以外にも,インレイの偏位,感染性角膜炎,フラップあたらしい眼科Vol.42,No.11,202514350910-1810/25/\100/頁/JCOPY図3生体共焦点顕微鏡所見LASIKの切開面と同じ深さに筋線維芽細胞を認め(Ca,..),インレイ周囲の筋線維芽細胞により線維化組織が形成されていた(b,).下上皮増殖の合併症も報告されている5).インレイ手術の術後管理には慎重な判断が求められる.とくに,術後に視力低下や角膜所見の変化が認められた場合には,早期に詳細な評価と治療介入を行うことが,視機能の不可逆的変化を防ぐために重要である.文献1)KatzCJA,CKarpeckiCPM,CDorcaCACetal:Presbyopia-ACreviewCofCcurrentCtreatmentCoptionsCandCemergingCthera-pies.ClinOphthalmolC15:2167-2178,C20212)YoshitomiS,ChikamaT,KiuchiY:Casereport:CornealinlayCremovalCafterCmyo.broblastCdetectionCunderCinCvivoC1436あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025図2インレイ摘出前の前眼部所見傍中心部の角膜混濁はC2年前と比較して大きく,濃くなり(Ca,C..).不正乱視を生じていた(Cb).前眼部COCTでは,混濁が上皮下から実質浅層まで伸展していた(Cc,..).図4インレイ摘出6カ月後の前眼部所見傍中心部の角膜混濁の大きさは摘出前と比較してほとんど変化がなかったが,混濁の強さは軽減し(Ca,..),不正乱視は改善した(Cb).前眼部COCTでは角膜実質内の輝度上昇の範囲が縮小した(Cc).Cconfocalmicroscopy.OptomVisSciC100:334,C20233)VukichJA,DurrieDS,PeposeJSetal:Evaluationofthesmall-apertureCintracornealinlay:Three-yearCresultsCfromthecohortoftheU.S.FoodandDrugAdministrationclinicaltrial.JCataractRefractSurg44:541-556,C20184)RomitoCN,CBasliCE,CGoemaereCICetal:PersistentCcornealC.brosisCafterCexplantationCofCaCsmall-apertureCcornealCinlay.JCataractRefractSurgC45:367-371,C20195)Sanchez-GonzalezCMC,CGutierrez-SanchezCE,CSanchez-GonzalezJMetal:Complicationsofsmallapertureintra-cornealinlays:Aliteraturereview.LifeC13:312,C2023(72)

眼内レンズセミナー:角膜切開創からの虹彩脱出に対する虹彩リトラクター・タック法

2025年11月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋462.角膜切開創からの虹彩脱出に対する大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科虹彩リトラクター・タック法術中虹彩緊張低下症例における創口からの虹彩脱出は,いったん生じると虹彩が損傷し,その後,脆弱化した虹彩が繰り返し脱出することにより,状況が悪化して悪循環に陥ることがある.本稿では,角膜切開創からの虹彩再脱出を防ぐ方法として,比嘉らが報告した手技を一部改良し,新たな命名を行った手法を紹介する.本法では,まず脱出した虹彩を整復したのち,角膜切開創より約1mm手前の結膜上から25ゲージの鋭針を刺入し,そこからirisretractorを前房内に挿入する.Irisretractorを用いて虹彩を手前に引き寄せてtuckすることで,虹彩を創口下に安定的に固定し,再脱出を防止することができる.●はじめに白内障手術における創口からの虹彩脱出は,比較的マイナーな術中合併症ではあるが,扱いを誤ると手術の円滑な進行を妨げ,さまざまなトラブルを引き起こし,手術結果に重大な影響を及ぼす可能性がある.そのため,トラブルの芽を早期に摘みとり,さらなる合併症の発生を予防することが重要である.術中虹彩緊張低下症(intraoperative.oppyirissyn-drome:IFIS)は,前立腺肥大症の治療薬であるa1遮断薬の内服歴がある患者の白内障手術中に,「灌流液による虹彩のうねり」「虹彩脱出・嵌頓」(図1),「進行性の縮瞳」という三徴を呈する症候群である.とくに虹彩の脱出・嵌頓がいったん生じると,虹彩組織が損傷し,脆弱化した虹彩が繰り返し脱出することが少なくない.それによって虹彩はさらにダメージを受け,組織損傷,色素脱落,穿孔,断裂,隅角離断といった重篤な合併症に至ることがある.IFISにおける虹彩の再脱出を防ぐ方法として,虹彩リトラクター(irisretractor)を用いた方法が報告されている1,2).筆者らは過去の方法を若干改良し,適切と思われる命名を行った.この「虹彩リトラクター・タック法(irisretractortuck法)」を紹介する.●虹彩リトラクター・タック法の手技本法は角膜切開創で手術を行っている際に,主創口から虹彩脱出が生じた場面で行う操作である.まず,脱出した虹彩をできるだけ損傷しないように分散型粘弾性物質を使いながら整復する(図2).分散型粘弾性物質を十分に注入して虹彩を押し下げたのち,角膜切開創から約1mm手前の結膜上から25ゲージの鋭針を刺入し(図3)前房内に到達する.同部からirisretractorを挿入し(図4),虹彩を手前に引き寄せてtuckする(図5).これにより虹彩組織は創口の下にしっかりと固定され,再び脱出することはない.超音波乳化吸引操作は角膜切開創から通常どおり行うことが可能である(図6).シェーマで示すと図7のごとくで,脱出した虹彩(図7左)を整復したのち,創口手前の結膜上から25ゲージ鋭針を刺入し,irisretractorを眼内に挿入して,虹彩を手前に引いてtuckする(図7右).このようにすれ図1角膜切開創からの虹彩脱出IFIS三徴のうちの「虹彩脱出・嵌頓」.図2虹彩の整復脱出した虹彩を,できるだけ損傷しないよう分散型粘弾性物質を用いながら整復する.(69)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514330910-1810/25/\100/頁/JCOPY図325ゲージ鋭針の刺入分散型粘弾性物質で虹彩を押し下げたのち,角膜切開創から約1mm手前の結膜上から25ゲージ鋭針を刺入する.図5虹彩のtuckIrisretractorによって虹彩を手前に引き寄せ,tuckする.これにより虹彩組織が創口下に抑えられ,創口から再び脱出することはない.ば虹彩の損傷を避けることができる.本法は,IFIS症例の角膜切開創手術における虹彩脱出に対して有効な方法である.サイドポートからの虹彩脱出に対しても,同様の操作を行うことができる.一方で,強膜切開創からの虹彩脱出には適応がむずかしい.また,IFIS以外の要因,たとえばearlyperforation(早期穿孔)などの創口作製不備に起因する虹彩脱出では,本法の適用は困難である.このような場合は,早めに創口を縫合閉鎖し,別の部位に新たな切開創を設けることが望ましい.文献1)TintNL,YeungAM,AlexanderP:Managementofintra-operative.oppy-irissyndrome-associatedirisprolapseusingasingleirisretractor.JCataractRefractSurg35:1849-1852,2009図4Irisretractorの挿入25ゲージの針穴から十分挿入可能である.図6超音波乳化吸引操作角膜切開創から通常どおりの操作が可能である.図7虹彩リトラクター・タック法のシェーマ脱出した虹彩(左)を整復したのち,創口手前の結膜上から25ゲージ鋭針を刺入し,irisretractorを挿入して虹彩をtuckする(右).2)比嘉利沙子,大内雅之,井上賢治ほか:術中虹彩緊張低下症の手術戦略─虹彩脱出に対するタッセル法の試み─.IOL&RS25:228-232,2011

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 未来のコンタクトレンズ技術(3)

2025年11月30日 日曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く23.未来のコンタクトレンズ技術(3)土至田宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の最終章「コンタクトレンズ技術の将来像(ContactClensCtechnologiesCofCthefuture)」1)の概要を紹介する.今回はそのC3回目である.屈折矯正の革新:オートフォーカス機構の導入現在のコンタクトレンズ(CL)は固定焦点のレンズが主流であるが,将来的には液晶レンズやエレクトロアクティブ材料を利用した焦点可変型レンズが開発される可能性がある.たとえば,調節機能の低下した老視や術後眼において,スマートデバイスと組み合わせることで視線追跡や被写体の距離測定に連動して焦点を合わせる技術が想定される.視覚の拡張:高次視覚補正と機能強化視機能を補正するだけでなく,人間の生理的限界を超えて「拡張」する技術が注目されている.たとえば,高次収差補正に対応する自由曲面型レンズや,メタサーフェスを活用した波長選択的設計があげられる.これらにより従来の球面・乱視矯正を超えて,夜間視力,コントラスト感度,色覚異常の補助などが可能となる.さらに,特殊波長領域の可視化,偏光の検出,紫外光・赤外線への感受性を拡張する技術も理論的に示されており,視覚情報の次元そのものを拡張する「拡張視覚」の概念が紹介されている.近視進行抑制従来の矯正とは異なる疾患予防的介入として近視進行抑制がある.2050年までに世界の近視人口は約C50%に達し,そのうちC10%は高度近視で,網膜.離,緑内障,黄斑症などの重篤な合併症のリスクが上昇すると予測されている.こうした背景から,近視の進行を抑制する光学的介入が重要な課題となっている.CLによる近視進行抑制は,おもに周辺網膜へのデフォーカスを利用した光学設計に基づいている.これは,眼軸伸長の主要因とされる遠視性デフォーカスを軽減し,視軸周辺に近視性デフォーカスを与えることで眼の過剰成長を抑えること(67)を目的とする.現在,以下のC3種類のレンズがある.①多焦点CCL:中心部に遠用ゾーン,周辺部にプラスの加入度数をもたせることで,中心視力を維持しつつ周辺網膜に近視性デフォーカスを与える設計である.既報では,特定の加入度(+2.00Dなど)をもつレンズが単焦点レンズと比較して近視進行を有意に抑制することが示されている.②オルソケラトロジーレンズ:就寝中に装用し,角膜中央を平坦化,周辺部を相対的に隆起させることで近視性デフォーカスを実現する.小児において年間0.25.0.30Cmmの眼軸伸長を抑制した報告もある.短期・中期の効果は確立されつつあるが,長期の安全性と効果の持続性には今後の検証が必要である.③ハイブリッド設計のレンズ:中心.中間部に屈折矯正ゾーン,周辺部に累進的に加入度を加えたゾーンを設けたデザインで,中心視を損なわず効果的な周辺デフォーカスを実現させる.そのほか,動物実験や光学モデリング研究では,近視性デフォーカスの量・位置・空間的広がり・連続性が近視進行抑制の強さに影響を与えることが示唆されており,設計パラメータの最適化が今後の課題とされる.CL以外の光学介入(例:多焦点眼鏡,双焦点眼鏡)や,薬物療法(低濃度アトロピン点眼)との比較・併用の可能性についても議論されている.とくにアトロピンとの併用療法は相加的な効果が得られる可能性がある.将来的には,患者の眼軸伸長や角膜形状,生活環境,装用習慣などをリアルタイムでモニタリングし,個別化したレンズ設計や使用指導を行う「スマート近視コントロールレンズ」の開発も視野に入っている.包装CLの包装は単なる輸送・保管手段としての役割にとあたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14310910-1810/25/\100/頁/JCOPYどまらず,レンズの清浄性,安定性,使用時の安全性を確保するための重要な技術的要素である.従来のブリスターパックは,レンズを等張の緩衝液中に保持し,外部の微生物や物理的損傷から保護する密閉構造を有している.しかし,環境負荷やユーザビリティ,パッケージ内溶液の保存剤含有の有無による安全性など,多くの課題も指摘されている.近年では,環境配慮型素材の導入や,開封時の使いやすさを高めるデザイン,点眼薬や装用補助剤を含めた設計など,ユーザーのニーズに応じた包装形態が模索されている.また,滅菌技術や溶液中の成分がレンズ素材に影響を与える可能性をはじめとするレンズ材料との相互作用なども,製品設計上の重要な検討事項となっている.レンズケースレンズケースは使い捨て以外のCCLを安全に使用するうえで,日常衛生管理の要である.洗浄や保存が不適切な場合,レンズケース自体が微生物繁殖の温床となり,重篤な感染性角膜炎のリスクが高まる.こうした感染リスクの低減のため,銀や銅,亜鉛などの金属イオン,あるいは抗菌ポリマーなどを素材に取り入れることでケース内での微生物の付着や増殖を抑制する抗菌性設計が開発されている.また,ケース内部の液体の流動性を高める構造や,レンズへの直接接触を最小限にするホルダー機構,さらに片手でも開閉しやすく,密閉もできる蓋の設計なども考案されている.ケースの使用期限の明示や使用履歴の管理といった観点も重視されるようになった.使い捨て型のケースのほか,交換時期がひと目でわかるように色変化や記録ラベル,あるいはスマートフォンと連携したデジタル記録といった技術も登場している.センサーを内蔵したスマートケースの開発も始まっており,消毒液の状態や温度,レンズの有無などを自動的にモニタリングできるしくみが実現されつつある.これらはCinternetofthings(IoT)技術との連携により,より高度な感染予防と管理体制構築につながると期待されている.ストレージケースと消毒液との相互作用にも十分な注意が必要である.特定のケース素材は,消毒液中の有効成分を吸着したり分解したりすることがあり,これにより十分な消毒効果が得られなくなるおそれがある.そのため,ケース設計においては,使用される消毒剤との適合性の検証が必須となる.近年では環境への配慮から,再生可能素材や生分解性樹脂を用いたケースの開発も進められている.もはやストレージケースは単なる「容器」ではなく,CL診療におけるデバイスの一部として,衛生性,安全性,環境持続性,そしてユーザビリティを兼ね備えた設計が求められる時代に入っている.文献1)JonesCL,CHuiCA,CPhanCCMCetal:CLEAR-ContactClensCtechnologiesCofCtheCfuture.CContCLensCAnteriorCEyeC44:C398-430,C2021C