‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

EX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績

2019年6月30日 日曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(6):810.815,2019cEX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績柴田真帆豊川紀子木村英也黒田真一郎永田眼科CMid-termOutcomesofEX-PRESSGlaucomaFilteringSurgeryMahoShibata,NorikoToyokawa,HideyaKimuraandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:EX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績の検討.対象および方法:2012年C11月以降,永田眼科においてEX-PRESS併用濾過手術(単独手術)を施行した連続症例C85例C97眼を対象とし,術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,目標眼圧ごとのC3年生存率を病型別に検討した.結果:病型は開放隅角緑内障(POAG)21眼,落屑緑内障(EXG)40眼,続発開放隅角緑内障C23眼,血管新生緑内障C12眼,混合緑内障C1眼であった.全症例の術前眼圧はC28.7±9.7mmHg,術C3年後の眼圧はC14.7±6.0CmmHgであり,45.1±3.2%の眼圧下降率を認め,全病型で有意な眼圧下降を認めた.点眼スコアは全病型で術後有意に減少した.点眼加療を含む目標眼圧(12CmmHg,14CmmHg)ごとのC3年生存率は,POAGでそれぞれC53.3,69.6%,EXGでC16.8%,29.2%であり,POAGに比較してCEXGの生存率が有意に低かった.結論:EX-PRESS併用濾過手術において術後C3年までどの病型においても有効な眼圧下降が得られた.EXGはCPOAGに比較して術後生存率が有意に不良であった.CPurpose:Toevaluatemid-termoutcomesofEX-PRESSglaucomaC.lteringsurgery.Subjectsandmethods:CTheCmedicalCrecordsCofCglaucomaCpatientsCwhoCunderwentCconsecutiveCEX-PRESSC.lteringCsurgeryCafterC2012werereviewed.Analyzedwere97eyesof85subjects.Weinvestigatedintraocularpressure(IOP),glaucomamedi-cationsCandCadditionalCinterventionsCbyCglaucomaCtypes.CSurgicalCsuccessCwasCde.nedCasCIOPC.12CmmHgCandC14CmmHgwithorwithoutglaucomamedications.Results:Includedwere21eyeswithprimaryopen-angleglauco-ma(POAG),40eyeswithexfoliationglaucoma(EXG),12eyeswithneovascularglaucoma,23eyeswithsecondaryglaucoma(SG),andConeCeyeCwithCcombinedCglaucoma.CTheCoverallCmeanCIOPCdecreasedCfromC28.7±9.7toC14.7±6.0CmmHg,Cwith45.1%CIOPCreduction.CTheCmeanCpostoperativeCIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCinCeachCglaucomaCtype,comparedtobaselineIOP.Surgicalsuccessratesat3yearswere53.3and69.6%inPOAG,16.8and29.2%inCEXG,CandC39.1and52.1%inSG.Conclusion:AfterCEX-PRESSCimplantation,Csigni.cantCIOPCreductionCwasCfoundineachglaucomatype.SurgicalsuccessratesinEXGwerelowercomparedtoPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):810.815,C2019〕Keywords:エクスプレス,濾過手術,眼圧,病型別比較.EX-PRESS,C.lteringsurgery,intraocularpressure,comparisonbetweenglaucomatypes.CはじめにEX-PRESSGlaucomaFiltrationDevice(Alcon社,以下,EX-PRESS)は調節弁をもたないステンレス製のCglaucomadrainagedeviceである.EX-PRESS併用濾過手術は,強膜弁下から前房内へCEX-PRESSを穿刺留置することで,EX-PRESSを通して前房水を結膜下に導き,新たな房水流出路を形成して眼圧を下降させる術式である.従来の線維柱帯切除術と比較して術中の前房開放時間が短く,流出路の大きさを標準化でき,虹彩切除が不要であることから,線維柱帯切除術に伴う術中の眼球虚脱や術後の過剰濾過や前房内出血といった合併症を軽減できるとされる1).術後眼圧下降効果について,海外ではCEX-PRESS併用濾過手術と線維柱帯切除術の比較検討で両者はほぼ同等と報告されている1.3).国内の報告でも線維柱帯切除術と同様の眼圧下降効果が報告されているが,術後短期成績についての報告が多い.EX-PRESSを通しての流出路は流出量が一定に〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC810(106)制限されることから,術後の過剰濾過が防げる一方,流出量が少ないため長期では濾過不全が起こる可能性がある.今回,EX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績として,術後3年の眼圧下降効果について病型別に検討した.CI対象および方法2012年C11月以降,永田眼科においてCEX-PRESS併用濾過手術(単独手術)を施行した連続症例C85例C97眼を対象とした.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,手術既往歴,術後追加手術介入の有無を調査し,術後眼圧,緑内障点眼数,目標眼圧ごとのC3年生存率を病型・手術既往別に検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.EX-PRESS併用濾過手術の術式を以下に記す.上方円蓋部基底結膜切開後,3.0.3.5CmmC×3.0.3.5Cmmの強膜C1/3層強膜弁を作製した.0.04%マイトマイシンCCをC4分塗布し生理食塩水で洗浄後,強膜弁下にC25CG針で虹彩と平行に前房内へ穿刺し,同穿刺部よりCEX-PRESSを挿入した.強膜弁はC4針縫合とし,結膜を角膜輪部で水平縫合,閉創した.検討項目を以下に示す.EX-PRESS併用濾過手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後C1,3,6,9,12,18,24,30,36カ月後の眼圧と緑内障点眼数,目標眼圧(12,14,20mmHg)ごとのC3年生存率を病型別に検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤はC2剤と計算し,合計点数を点眼スコアとした.さらに手術既往別(白内障手術のみ,白内障と緑内障手術)に目標眼圧(12,14mmHg)ごとのC3年生存率を検討した.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず,術後C1カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは濾過胞再建術を含む追加観血的手術が施行された時点とした.術後のレーザー切糸とニードリングは死亡に含めず,眼圧値は処置前の値を採用した.解析方法として,病型間の比較にはCKruskal-Wallis検定とCc2検定を用い,術後眼圧と点眼スコアの推移についてはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較を行った.生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し,群間の生存率比較にはCLog-rank検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例の患者背景を示した.男性C46例C57眼,女性C39例C40眼,平均年齢C74.6C±10.9歳,術前平均眼圧C28.7C±9.7CmmHg,術前平均点眼スコアC3.3C±1.0剤(平均C±標準偏差)であった.手術既往歴として白内障手術,緑内障手術,硝子体手術既往のあるものを含み,手術既往眼はC97眼中C94眼であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleCglaucoma:POAG)21眼,落屑緑内障(exfolia-tionglaucoma:EXG)40眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)12眼,続発開放隅角緑内障(secondaryopen-angleCglaucoma:SG)23眼,混合緑内障C1眼であった.表2に緑内障病型の内訳を示した.術前平均眼圧,術前平均点眼スコア,緑内障手術既往歴は病型間で有意差を認めなかった.混合緑内障はC1眼であり,以降の病型別検討から除いた.図1に病型別の眼圧経過を示した.眼圧値は濾過胞再建術もしくは追加観血的手術が施行された場合はそれまでの値を採用した.術後眼圧は,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest).すべての病型を含む全症例の術C3年後の平均眼圧はC14.7C±6.0CmmHg,平均眼圧下降率はC45.1%であった.術後の緑内障点眼スコアは,いずれの病型でも術前と比較表1患者背景平均年齢(歳)C74.6±10.9(42.92)男/女46例57眼/39例40眼術前眼圧(mmHg)C28.7±9.7(14.65)術前点眼スコア*C3.3±1.0(0.6)手術既往眼なし/あり3眼/94眼白内障手術94眼(IOL92眼,無水晶体眼C2眼)濾過手術9眼流出路再建術32眼硝子体手術17眼(重複あり)緑内障病型POAG/EXG/NVG/SG/混合緑内障21眼C/40眼C/12眼C/23眼C/1眼IOL:intraocularClens,POAG:primaryCopen-angleCglaucoma,EXG:exfoliationCglau-coma,NVG:neovascularglaucoma,SG:secondaryopen-angleglaucoma.*:炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤をC2剤と計算した.表2緑内障病型内訳緑内障病型CPOAGCEXGCNVGCSGp値眼数C21C40C12C23年齢(歳)C72.5±12.1C80.9±6.3C61.2±8.9C71.2±9.8<C0.001*術前眼圧(mmHg)C25.7±8.7C28.5±9.3C35.0±12.7C28.3±8.6C0.06*点眼スコアC3.2±1.1C3.3±1.3C3.3±0.9C3.5±0.7C0.88*緑内障手術既往眼(%)11(52)20(50)2(17)6(26)C0.06†濾過手術既往眼C3C2C2C2流出路再建術既往眼C8C18C0C4硝子体手術既往眼(%)4(19)0(0)6(50)7(30)<C0.001C†*:Kruskal-Wallis検定,C†:c2検定.Ca100151005101520253035405生存期間(月)080生存率(%)眼圧(mmHg)306025402020術前1M3M6M9M12M18M24M30M36M観察期間(月)図1病型別眼圧経過術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).生存率(%)8060402000510152025303540生存期間(月)図2病型別生存曲線生存率(%)a:術後眼圧C12CmmHg以下.術C3年後の生存率はCPOAG,C40SG,EXGでそれぞれC53.3%,39.1%,16.8%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.013,Log-ranktest).20b:術後眼圧C14CmmHg以下.術C3年後の生存率はCPOAG,C0SG,EXGでそれぞれC69.6%,52.1%,29.2%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.019,CLog-ranktest).図3病型別生存曲線%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.013,C0510152025303540生存期間(月)術後眼圧C20CmmHg以下とした生存曲線を示した.術C3年後の生存率はCPOAG,EXG,SG,NVGでそれぞれC89.4%,79.8%,78.2%,75.0%であり,病型別に有意差を認めなかった(p=0.74,Log-ranktest).しすべての観察期間で有意な減少を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).すべての病型を含む全症例の術C3年後の平均点眼スコアはC0.99C±1.2であった.図2にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,14CmmHg)ごとの生存曲線を病型(POAG,SG,EXG)別に示した.成功基準をC12CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はCPOAG,SG,EXGでそれぞれC53.3%,39.1%,16.8Log-ranktest)(図2a).成功基準をC14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はCPOAG,SG,EXGでそれぞれ69.6%,52.1%,29.2%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.019,Log-ranktest)(図2b).図3に成功基準をC20CmmHg以下とした生存曲線を示した.術C3年後の生存率はCPOAG,EXG,SG,NVGでそれぞれ89.4%,79.8%,78.2%,75.0%であり,病型別に有意差を認めなかった(p=0.74,Log-ranktest).表3に手術既往別(白内障手術のみ,白内障と緑内障手術既往)の眼数と術前後の眼圧を示した.手術既往として白内障手術のみのもの(以下,白内障手術群)はC40眼,白内障表3手術既往別内訳術前眼圧最終眼圧病型内訳(眼)既往手術眼数(mmHg)(mmHg)CPOAGCEXGCNVGCSG混合緑内障白内障C40C26.8±8.6C15.4±7.27C2058C0白内障+緑内障C36C30.6±11.4C13.8±5.59C2015C1Cと緑内障手術既往眼(以下,白内障緑内障手術群)はC36眼Ca100であった.過去の緑内障手術は下方流出路再建術がC29眼,C80濾過手術がC7眼であった.無水晶体眼・硝子体手術既往眼・緑内障硝子体手術既往眼は手術既往別検討から除いた.今回の症例に水晶体.外摘出術既往眼は含まれていなかった.白内障手術群の術前眼圧はC26.8C±8.6CmmHg,術C3年後の平均眼圧はC15.4C±7.2CmmHgであり,すべての観察期間で有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).白内障緑内障手術群の術前眼圧はC30.6C±11.4CmmHg,術3年後の平均眼圧はC13.8C±5.5CmmHgであり,すべての観察期間生存率(%)40200生存期間(月)b100010203040で有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’sCtest).白内障手術群と白内障緑内障手術群の病型内訳に有意差を認めなかった(p=0.35,Cc2検定).図4にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,生存率(%)14CmmHg)ごとの生存曲線を手術既往別に示した.成功基準をC12CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC30.4%,40.2%であり,有意差を認めなかった(p=0.43,CLog-ranktest)(図4a).成功基準をC14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC43.8%,45.8%であり,有意差を認めなかった(p=0.86,Log-ranktest)(図4b).CIII考按EX-PRESS併用濾過手術の術後C3年成績を検討した.点眼加療を含むC3年後の平均眼圧はC14.7C±6.0CmmHg,平均眼圧下降率はC45.1%であり,術前と比較し有意な眼圧下降を認め,既報と矛盾しない結果2.5)であった.3年後の点眼スコアはC0.99C±1.2であり,術前と比較し有意な減少を認め,既報と矛盾しない結果1.3)であった.病型別検討では,今回検討したCPOAG,EXG,SG,NVGのすべての病型において期間中有意な眼圧下降効果が示された.病型別生存率について,わが国における術後中期成績としてCIshidaら6)はC15CmmHg以下のC2年生存率はCPOAGでC79.4%と報告し,今回のCPOAGの結果は既報に矛盾しないと考える.病型別生存率の比較において,12,14CmmHg以下の生存率はCEXGがCPOAGに比較して有意に低い結果であった.EX-PRESSの予後不良因子として緑内障手術歴が報告され,結膜瘢痕による濾過胞形成不全によることが示唆されている7)が,今回検討したCPOAG,EXGとCSGで緑内障手00510152025303540生存期間(月)図4手術既往別生存曲線a:術後眼圧C12CmmHg以下.術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC30.4%,40.2%であり,有意差を認めなかった(p=0.43,Log-ranktest).Cb:術後眼圧C14CmmHg以下.術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC43.8%,45.8%であり,有意差を認めなかった(p=0.86,Log-ranktest).CP+I:phacoemulsi.cationCandCaspiration+intraocularClensCimplantation,CP+I+gla:phacoemulsi.cationCandCaspiration+intraocularlensimplantation+glaucomasurgery.術既往眼数(濾過手術既往眼数,流出路再建術既往眼数)に有意差を認めなかった(それぞれCp=0.45,p=0.08,Cc2検定).今回の結果に緑内障手術既往の関与は少ないと考える.これまでCEX-PRESSの術後成績を病型別に検討した報告は少ない.横佐古ら8)はCEX-PRESS術後短期成績ではあるが多変量解析でCEXGが予後不良因子の一つであったとしている.一方,線維柱帯切除術においてCEXGはCPOAGに比較して術後成績が不良であるという報告が散見される9.12).Limら10)は線維柱帯切除術後C1年の術後成績にはCPOAGとCEXGで差がないが,5年の長期成績ではCEXGの成績が有意に不良であったと報告している.EXGでは前房内生理活性物質であるCtransformingCgrowthfactor-betaの前房内濃度上昇の報告13.15),線維柱帯切除術後Cblood-aqueousbarrierの破綻が大きいという報告16)があり,これらが線維柱帯切除術の術後結膜瘢痕,ひいては術後成績に影響する可能性が示唆されている.さらにCIgarashiら11)はCEXGで前房内に炎症性サイトカインであるCautotaxin濃度が高く,これが濾過胞線維化を促進し,線維柱帯切除後の濾過胞維持不全の一因であったと報告している.筆者らの検討はCEX-PRESS術後であるが,同じ濾過手術の一つとして考えるならば,POAGに比較してCEXGの成績が不良であったことは,これらによる濾過胞維持不全が一因である可能性が考えられる.今回の病型別検討でCNVGにおけるC20CmmHg以下の術後3年生存率はC75.0%であり,POAG,EXGやCSGと有意差を認めなかった.既報では,術後短期ではあるがCNVGに対するCEX-PRESS術後C6カ月のC21CmmHg未満生存率はC78%であり,硝子体手術既往眼は予後不良であったとしている17).また,線維柱帯切除術においてCNVGに対する術後C2年のC21mmHg未満生存率はC58.2%であり,やはり硝子体手術既往眼が予後不良であったとしている18).筆者らの結果は既報と比較して良好であるが,今回のCNVG症例は少数であり,全症例に術前抗血管内皮増殖因子の硝子体注射が施行されていること,硝子体手術既往眼は半数(12眼中C6眼)であること,術後にも抗血管内皮増殖因子の硝子体注射や網膜光凝固術の施行があったこと,糖尿病網膜症など原疾患鎮静化の程度など患者背景が多岐にわたり,背景因子との関連についての検討はむずかしいと考えられた.今後さらなる臨床データの蓄積が必要であると考える.今回の手術既往別検討では,緑内障手術既往の有無はCEX-PRESSの術後成績に影響しなかった.EX-PRESSの術後成績に関する予後不良因子として緑内障手術歴が報告7)されているが,これは緑内障手術後の上方結膜瘢痕による濾過胞形成不全によることが示唆されている.今回の検討のうち白内障緑内障手術群C36眼中C29眼(81%)が下方からの流出路再建術の術後であった.今回の検討では上方結膜が温存されていた症例が多かったため,EX-PRESSの術後成績に影響が少なかったと考えられ,下方からの流出路再建術はCEX-PRESSの術後成績に影響しない可能性が示唆された.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.EX-PRESS併用濾過手術の適応,術後眼圧下降効果不十分による追加点眼や追加観血的手術介入の適応と時期を含め,これらは病型と病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定が統一されていない.また,手術既往が多様な症例を含むため,背景因子との詳細な関連についても今後多数例での検証が必要であり,本研究の結果の解釈には限界があると考える.EX-PRESS併用濾過手術の術後C3年までは,どの病型においても有効な眼圧下降効果が得られた.術後眼圧C12CmmHg,14CmmHg以下のC3年生存率は,EXGがCPOAGに比較して有意に低かった.今後,さらに長期の経過について検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NetlandCPA,CSarkisianCSRCJr,CMosterCMRCetal:Random-ized,Cprospective,CcomparativeCtrialCofCEX-PRESSCglauco-maC.ltrationCdeviceCversustrabeculectomy(XVTstudy)C.AmJOphthalmolC157:433-440,C20142)deJongL,LafumaA,AguadeASetal:Five-yearexten-sionofaclinicaltrialcomparingtheEX-PRESSglaucomaC.ltrationCdeviceCandCtrabeculectomyCinCprimaryCopen-angleglaucoma.ClinOphthalmolC5:527-533,C20113)Gonzalez-RodribuezCJM,CTropeCGE,CDrori-WagschalCLCetal:ComparisonCofCtrabeculectomyCversusEx-PRESS:C3-yearfollowup.BrJOphthalmolC100:1269-1273,C20164)DahanCE,CBenCSimonCGJ,CLafumaA:ComparisonCofCtrab-eculectomyandEX-PRESSimplantationinfelloweyesoftheCsamepatient:aCprospective,CrandomizedCstudy.CEyeC26:703-710,C20125)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:Comparisonoftrabec-ulectomyCwithCEX-PRESSCminiatureCglaucomaCdeviceCimplantedunderscleralC.ap.JGlaucomaC16:14-19,C20076)IshidaCK,CMorotoCN,CMurataCKCetal:E.ectCofCglaucomaCimplantCsurgeryConCintraocularCpressureCreduction,C.areCcount,CanteriorCchamberCdepth,CandCcornealCendotheliumCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CJpnCJCOphthalmolC61:C334-346,C20177)MariottiC,DahanE,NicolaiMetal:Long-termoutcomesandriskfactorsforfailurewiththeEX-PRESSglaucomadrainagedevice.EyeC28:1-8,C20148)横佐古加奈子,庄司拓平,上山数弘ほか:Ex-PRESSCRを用いた濾過手術の術直後結果に影響を及ぼす因子の検討.臨眼69:987-991,C20159)LandersJ,MartinK,SarkiesNetal:Atwenty-yearfol-low-upCstudyCoftrabeculectomy:riskCfactorsCandCout-comes.OphthalmologyC119:694-702,C201210)LimCSH,CChaSC:Long-termCoutcomesCofCmitomycin-CCtrabeculectomyCinCexfoliativeCglaucomaCversusCprimaryCopen-angleglaucoma.JGlaucomaC26:303-310,C201711)IgarashiN,HonjoM,KuranoMetal:IncreasedaqueousautotaxinCandClysophosphatidicCacidClevelsCareCpotentialCprognosticCfactorsCafterCtrabeculactomyCinCdi.erentCtypesCofCglaucoma.CSciCRepC8:11304.DOI:10.1038/s41598-018-29649-3,C201812)EhrnroothP,LehtoI,PuskaPetal:Long-termoutcomeofCtrabeculectomyCinCtermsCofCintraocularCpressure.CActaCOphthalmolScandC80:267-271,C200213)Schlotzer-SchrehardtCU,CZenkelCM,CKuchleCMCetal:RoleCofCtransformingCgrowthCfactor-betaC1andCitsClatestCformCbindingCproteinCinCpseudoexfoliationCsyndrome.CExpCEyeCResC73:765-780,C200114)KottlerCUB,CJunemannCAG,CAignerCTCetal:ComparativeCe.ectsCofCTGF-betaC1andCTGF-betaC2onCextracellularCmatrixCproduction,Cproliferation,Cmigration,CandCcollagenCcontractionCofChumanCTenon’sCcapsuleC.broblastsCinCpse-doexfoliationCandCprimaryCopen-angleCglaucoma.CExpCEyeCResC80:121-134,C200515)PichtCG,CWeige-LuessenCU,CGrehnCFCetal:TransformingCgrowthCfactorCbetaC2levelsCinCtheCaqueousChumorCinCdif-ferentCtypesCofCglaucomaCandCrelationCtoC.lteringCblebCdevelopment.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC239:C199-207,C2001C16)NguyenNX,KuchleM,MartusPetal:Quanti.cationofblood-aqueousCbarrierCbreakdownCaftertrabeculectomy:CpseudoexfoliationCversusCprimaryCopen-angleCglaucoma.CJGlaucomaC8:18-23,C199917)ShinoharaCY,CAkiyamaCH,CMagoriCMCetal:Short-termCoutcomesCafterCEX-PRESSCimplantationCversusCtrabecu-lectomyaloneinpatientswithneovascularglaucoma.ClinOphthalmolC11:2207-2213,C201718)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCMitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C2009C***

ラタノプロスト+カルテオロールからラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与

2019年6月30日 日曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(6):804.809,2019cラタノプロスト+カルテオロールからラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与正井智子*1井上賢治*1塩川美菜子*1岩佐真弓*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-termE.cacyandSafetyofaLatanoprost/CarteololFixedCombinationSwitchedfromConcomitantTherapySatokoMasai1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MayumiIwasa1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(LCFC)の長期効果と安全性を前向きに検討した.対象および方法:ラタノプロストと持続性カルテオロールを併用中の原発開放隅角緑内障,高眼圧症C43例C43眼を対象とした.両点眼薬を中止しCLCFCに変更した.変更前と変更C12カ月後までの眼圧,視野のCmeandeviation(MD)値,涙液層破壊時間(BUT),角膜上皮障害,血圧,脈拍数を測定し,比較した.また,副作用と中止例を調査した.結果:眼圧は変更前C15.0±2.6CmmHg,変更C1カ月後C15.1±2.4CmmHg,3カ月後C15.0±2.4CmmHg,6カ月後C14.7±2.2CmmHg,12カ月後C14.7±1.9CmmHgで同等だった.角膜上皮障害とCBUTは有意に改善した.MD値,血圧,脈拍数は同等だった.副作用はC3例(7.0%)(異物感,眼瞼炎,結膜充血)で出現し,中止例はC5例(11.6%)だった.結論:ラタノプロストと持続性カルテオロール点眼薬をCLCFCへ変更したところ,12カ月間にわたり眼圧を維持でき,視野に変化を認めず,安全性も良好だった.CPurpose:Toprospectivelyinvestigatethelong-terme.cacyandsafetyoflatanoprost/carteololC.xedcombi-nation(LCFC).SubjectsandMethods:Subjectswere43patients(43eyes)withprimaryopen-angleglaucomaorocularChypertensionCwhoCwereCusingClatanoprostCandCcarteolol.CAllCwereCswitchedCtoCLCFC.CIntraocularCpressure(IOP),meandeviation(MD)value,CtearC.lmCbreak-uptime(BUT),super.cialCpunctateCkeratopathy(SPK),sys-temicbloodpressureandpulseratewerecomparedwithbaselineuntil12monthsafterswitching.Adversereac-tionsanddropoutswereinvestigated.Results:Therewasnosigni.cantdi.erencebetweenIOPatbaseline(15.0C±2.6CmmHg)andCatC1month(15.1±2.4CmmHg),3months(15.0±2.4CmmHg),6months(14.7±2.2CmmHg)andC12months(14.7±1.9mmHg)afterswitching.SPKandBUTweresigni.cantlyimproved.Therewasnodi.erenceinMD,bloodpressureorpulseratebetweenbeforeandafterswitching.Adversereactionsoccurredinthreepatients(7.0%)(foreignCbodyCsensation,Cblepharitis,CandconjunctivalChyperemia).Fivepatients(11.6%)discontinuedCtheCstudy.Conclusion:IOPandvisualC.eldweremaintainedsafelyfor12monthsbyswitchingfromconcomitantther-apytoLCFC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):804.809,C2019〕Keywords:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,眼圧,副作用,視野障害,長期.latanoprost/carteololC.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,visualC.elddefect,long-term.Cはじめに眼薬の治験ではラタノプロスト点眼薬からの変更,あるいは2017年C1月よりラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオ持続性カルテオロール点眼薬からの変更で眼圧が有意に下降ロールを含有するラタノプロスト/チモロール配合点眼薬がした1).また,持続性カルテオロール点眼薬からラタノプロ使用可能となった.ラタノプロスト/カルテオロール配合点スト/カルテオロール配合点眼薬へ変更した症例と,持続性〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC804(100)カルテオロール点眼薬にラタノプロスト点眼薬を追加して併用した症例の眼圧下降効果は同等だった.しかし,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更した際の眼圧下降効果と安全性についての報告はなく,詳細は不明であった.そこで筆者らはラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更した患者を対象として,変更後C3カ月間の短期的な眼圧下降効果と安全性を報告した2).眼圧は変更前後で同等で,安全性も良好だった.しかしこのような変更による長期的な眼圧下降効果と安全性の報告は過去になく,不明だった.今回ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を使用中の原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者を対象に,両点眼薬を中止してラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更した際の長期的な眼圧下降効果,視野への影響,安全性を前向きに検討した.CI対象および方法2017年C1.9月に井上眼科病院に通院中の外来患者を対象とした.本研究はヘルシンキ宣言を含む関連法規を遵守しており,井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.臨床試験登録システムCUMIN-CTRに登録し,UMIN試験CIDとしてUMIN000026224を取得した.研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に検査などを行った.C1.対象原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症で,ラタノプロスト点眼薬(キサラタンCR,ファイザー)(夜C1回点眼)と持続性カルテオロール点眼薬(ミケランCRLA,大塚製薬)(朝C1回点眼)をC1カ月間以上併用治療しており,試験開始前の点眼状況がときどき忘れた程度の良好に点眼を行っているC20歳以上の原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者を対象とした.炭酸脱水酵素阻害薬,Ca1遮断薬,Ca2作動薬,ROCK阻害薬の併用も可能とするが,試験開始前からC1カ月間以上同一薬剤で治療中の症例とした.エントリー除外基準は次のとおりである.①角膜の異常または角膜疾患を有する.②角膜屈折矯正手術の既往を有する.③活動性の外眼部疾患,眼あるいは眼瞼の炎症,感染症を有する.④緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する.⑤試験開始前C3カ月以内に前眼部または内眼手術を施行.⑥試験期間中に併用禁止薬の使用または併用禁止療法を施行する予定がある.併用禁止薬は,緑内障治療点眼薬,経口および静注投与の眼圧下降薬,副腎皮質ステロイド(眼周辺部以外の皮膚局所投与は可)である.また併用禁止療法は,眼に対するレーザー治療,観血的手術である.試験期間中に使用する予定の薬剤および試験薬の種類に対し,薬物アレルギーの既往を有する.⑧Cb遮断薬が禁忌の患者(気管支喘息,コントロール不十分な心不全のある患者など).⑨妊婦,授乳中,妊娠をしている可能性がある女性.⑩研究責任者または研究分担者が不適格と判断した場合.C2.薬剤ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止し,washout期間なしでラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(朝C1回点眼)(ミケルナCR,大塚製薬)に変更した.他に使用中の点眼薬は継続した.C3.方法変更前と変更C1,3,6,12カ月後の眼圧,結膜充血,角膜上皮障害(NEI分類),涙液層破壊時間(tearbreakuptime:BUT),血圧,脈拍数を測定した.また,変更前,変更C6,12カ月後にCHumphrey視野プログラム中心C30-2SITAstandard検査を測定した.変更C1カ月後に使用感に関するアンケート調査(図1)を実施した.来院時ごとに副作用と投与中止例を調査した.C4.有効性の評価眼圧変化量,視野への影響,有害事象とした.主要評価である眼圧下降効果(眼圧変化量)は変更前と変更C1,3,6,12カ月後に眼圧をCGoldmann圧平眼圧計で症例ごとにほぼ同時刻に測定し,比較した.眼圧は続けてC2回測定し,その平均値を算出し,解析に用いた.視野への影響は,変更前と変更C6,12カ月後に施行したCHumphrey視野検査のCmeandeviation(MD)値を比較した.統計学的解析はC1例C1眼で行った.両眼該当症例は投与前眼圧の高い眼,眼圧が同値の場合は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.C5.安全性の評価血圧,脈拍数を自動血圧計(UDEXsuperTYPE,エルクエスト)で変更前と変更C1,3,6,12カ月後に測定し,変更前後で比較した.変更C12カ月後までの角膜上皮障害,結膜充血,BUTおよび副作用,投与中止例を調査した.角膜上皮障害の評価にはCNEI分類3)を用いた.具体的には角膜C5カ所(中央部,上部,下部,耳側部,鼻側部)の角膜上皮障害をC4段階スコア(0:障害なし,1:ドット数C1.5,2:ドット数C6.15,3:ドット数C16以上,もしくはC1Cmm以上の染色部位やフィラメント状の染色部位がC1カ所以上存在する)のC15点満点で評価した.結膜充血の評価はアレルギー性結膜疾患ガイドライン(第C2版)に基づき評価した4).数本の血管拡張を軽度,多数の血管拡張を中等度,全体の血管拡張を高度と評価し,標準写真を用いて評価した.C6.使用感の評価変更C1カ月後に使用感に関するアンケート調査を行った(図1).問C1①ミケルナCRに変更して,最近C1週間に点眼を忘れてしまったことはありましたか?□はい何回忘れましたか?□C1回ぐらい□C2回ぐらい□C3回ぐらい□C4回以上□いいえ②ミケルナRに変更して,前投薬(キサラタンCR,ミケランCRLA)に比べて点眼忘れは減りましたか?□減った□変わらない□増えた③その理由をお聞かせください.問2変更する前と比べて,目の症状に変化はありましたか?①充血は?□前より赤くならない□前と同じ□前より赤くなる②刺激は?□前よりしみない□前と同じ□前よりしみる③かゆみは?□前よりかゆくない□前と同じ□前よりかゆい④痛みは?□前より痛くない□前と同じ□前より痛い⑤かすみは?□前よりかすまない□前と同じ□前よりかすむ問C3①変更する前(ミケランCRLA)と比べて,ミケルナCRの点眼瓶の使いやすさ(開けやすさ,押す力など)に変化はありましたか?□前より使いやすい□どちらも同じ□前より使いにくい問C4①変更する前と後では,どちらの点眼瓶がよいですか?□変更した後のほうがよい□同じ□変更する前のほうがよい②その理由をお聞かせください(複数回答可)□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□C1日の点眼回数が少ない□点眼瓶が使いやすい□薬代が安い□その他図1アンケート調査表1対象緑内障病型原発開放隅角緑内障(狭義)C25例正常眼圧緑内障C17例高眼圧症C1例男性:女性21例:2C2例平均年齢C67.9±11.1歳(C38.C90歳)眼圧C15.0±2.6CmmHg(9.2C1mmHg)MeanDeviation値C.6.95±4.58CdB(C.16.53.C0.75CdB)平均使用薬剤数C2.5±0.7剤(2.4剤)7.解.析.方.法変更前と変更C1,3,6,12カ月後の眼圧,血圧,脈拍数,BUT,角膜上皮障害スコアの比較にはCANOVA,Bonferro-niCandDunn検定を用いた.結膜充血スコアの比較にはCc2検定を用いた.統計学的検討における有意水準はCp<0.05とした.CII結果1.対象対象はC43例C43眼で,性別は男性C21例,女性C22例,年齢はC67.9C±11.1歳(平均値C±標準偏差),38.90歳だった(表眼圧(mmHg)N.S.201816141215.0±2.615.1±2.415.0±2.414.7±2.214.7±1.91086420変更前変更変更変更変更1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後図2変更前後の眼圧1).病型は原発開放隅角緑内障(狭義)25例,正常眼圧緑内障C17例,高眼圧症C1例だった.使用点眼薬数はC2.5C±0.7剤,2.4剤だった.MD値はC.6.95±4.58CdB,C.16.53.+0.75CdBだった.投与中止となったのはC5例で,そのため眼圧の評価は,変更1カ月後は41例,3カ月後は40例,6カ月後は39例,12カ月後はC38例で行った.2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上上昇,4例,下降,4例,上昇,9例,下降,4例,9.8%9.8%22.5%10.0%変更1カ月後変更3カ月後2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上上昇,9例,下降,3例,上昇,8例,下降,3例,23.1%7.7%21.1%7.9%変更6カ月後変更12カ月後図3変更後の眼圧変化量表2変更前後の血圧と脈拍数血圧変更前変更C1カ月後変更C3カ月後変更C6カ月後変更C12カ月後p値収縮期血圧(mmHg)C128.8±24.8C124.9±20.0C124.9±20.8C126.2±18.8C125.8±23.9C0.83拡張期血圧(mmHg)C71.7±12.6C71.1±11.7C70.2±12.3C69.7±11.5C69.6±12.7C0.99脈拍数変更前変更C1カ月後変更C3カ月後変更C6カ月後変更C12カ月後p値C(拍/分)69.4±8.8C70.6±10.3C69.6±10.9C69.2±10.0C70.4±10.6C0.742.眼圧眼圧は変更C1カ月後C15.1C±2.4CmmHg,3カ月後C15.0C±2.4mmHg,6カ月後C14.7C±2.2CmmHg,12カ月後C14.7C±1.9CmmHgで,変更前C15.0C±2.6CmmHgと同等だった(p=0.13)(図2).変更後の眼圧がC2CmmHg以上上昇,2CmmHg以上下降,2mmHg未満の上昇・下降の症例に分けたところ,変更C1,3,6,12カ月後いずれでもC2CmmHg未満の上昇・下降症例がもっとも多かった(図3).しかしC2CmmHg以上上昇した症例が変更C1カ月後C9.8%,3カ月後C22.5%,6カ月後C23.1%,12カ月後C21.1%存在した.C3.視野MD値は変更C6カ月後C.6.37±4.46dB,12カ月後C.7.05C±4.13CdBで,変更前C.6.95±4.58CdBと同等だった(p=0.23).C4.使用感アンケート調査は,2例は変更C1カ月以前に投与中止とな(103)ったために施行せず,41例で解析した.結果は問C1C①(ミケルナRに変更して,最近C1週間に点眼を忘れてしまったことはありましたか?)に対しては,はいC2例(4.9%),いいえC39例(95.1%),はいと答えた人の忘れた回数はいずれも「1回ぐらい」だった.②(ミケルナCRに変更して,前投薬に比べて点眼忘れは減りましたか?)に対しては,減ったC19例(46.3%),変わらないC22例(53.7%),増えたC0例(0.0%)だった.③(その理由)については,減った理由は,夜点眼が忘れやすかった,朝C1回だけ,1日C1回など点眼回数の減少に関する理由がC15例(36.6%)で,未回答はC4例(9.7%)だった.変わらない理由は,元々忘れない,習慣化している6例(14.6%),その他C2例(4.9%)で,未回答はC14例(34.2%)だった.問C2(変更する前と比べて,目の症状に変化はありましたかC?)に対しては,①充血は?②刺激は?③かゆみは?④痛みは?⑤かすみは?ともに変更前後で変化ない(前と同じ)が多かった(表2).問C3(変更する前と比べて,ミケルナCRの点眼瓶の使いやすさ(開けやすさ,押す力など)に変化はありましたか?)に対しては,前より使いやすいC29例(70.7%),どちらも同じC11例(26.8%),前より使いにくいC1例(2.4%)だった.問C4C①(変更する前と後では,どちらの点眼薬がよいですか?)に対しては,変更した後のほうがよいC33例(80.5%),どちらも同じC5例(12.2%),変更する前のほうがよいC3例(7.3%)だった.②(その理由をお聞かせください〔複数回答可〕)に対しては,変更後がよい理由として点眼回数が少ないC31例,点眼瓶が使いやすいC14例,しみないC6例などで,変更前がよい理由は,かゆくないC1例だった.C5.安全性血圧は収縮期血圧,拡張期血圧ともに変更前と変更C1,3,6,12カ月後で同等だった(p=0.83,Cp=0.99)(表2).脈拍数は変更前と変更C1,3,6,12カ月後で同等だった(p=0.74).結膜充血は変更前にC2例で軽度出現していたが,各々変更C1カ月後,12カ月後に消失した.1例が変更前に結膜充血がなく,変更C6カ月後に結膜充血が軽度出現した.角膜上皮障害(NEI分類)平均スコアは,変更C1カ月後C0.6C±0.9,3カ月後C0.5C±0.7,6カ月後C0.7C±1.2,12カ月後C0.8C±1.5で,変更前C1.2C±1.4に比べて有意に改善した(p<0.05).BUTは変更C1カ月後C8.1C±3.0秒,3カ月後C8.6C±2.8秒,6カ月後C8.9±2.5秒,12カ月後C8.6C±2.6秒で,変更前C7.6C±2.4秒に比べて変更C3,6,12カ月後に有意に延長した(変更C3カ月後,12カ月後p<0.05,6カ月後p<0.0001).副作用はC3例(7.0%)で出現し,内訳は変更C5日後に異物感,変更C3カ月後に眼瞼炎,変更C6カ月後に結膜充血の各C1例だった.異物感の症例はラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬を中止し,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬に戻したところ消失した.眼瞼炎の症例はラタノプロスト点眼薬のみに変更したところ消失した.投与中止例はC5例(11.6%)だった.内訳は副作用が上記のC3例,その他に変更C9日後に被験者都合がC1例,変更C3カ月後に眼圧上昇(変更前C16CmmHgが変更C3カ月後C22CmmHg)がC1例だった.眼圧が上昇した症例では,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬に戻したところ眼圧は14CmmHgに下降した.CIII考按緑内障診療ガイドライン5)では薬剤の選択の項目に「多剤併用時においては,配合点眼薬はアドヒアランス向上に有用である.」と記載されている.また,「アドヒアランス不良は緑内障が進行する重要な要因の一つ」とも記載されている.そこで今回,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となったので,アドヒアランスを考慮して併用療法から配合点眼薬への変更試験を行った.筆者らはラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の処方パターンをラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となった初期C4カ月間のデータより解析した6).ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬から変更された症例がC52.3%(33例/66例)で最多だった.そこで今回は,症例数を増やすためにラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となった時期からC9カ月間の症例を前向きに検討した.今回の調査での平均眼圧は変更前後で変化はなかったが,個々の症例で検討すると眼圧がC2CmmHg以上上昇した症例がC9.8.23.1%,2CmmHg未満の上昇あるいは下降した症例がC67.5.80.4%,2CmmHg以上下降した症例がC7.7.10.0%みられた.さらに眼圧上昇によりラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が中止となった症例もC1例存在した.同様の結果はラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬からラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更し,1年間の経過観察を行った報告7)でもみられた.眼圧下降効果に関しては今回の調査と同様だった.その報告7)ではCMD値は変更前と変更C12カ月後で変化なく,今回の調査と同様だった.しかし,視野障害は緩徐に進行するので今後もさらに長期的に検討する必要がある.今回の調査では変更後に角膜上皮障害がCNEI分類で有意に改善し,BUTは変更C1カ月後を除いて有意に延長した.原因としてベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumCchlo-ride:BAC)の細胞毒性が考えられる.ラタノプロスト点眼薬には防腐剤としてCBACが高濃度に含まれている.一方,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬では防腐剤はBACではなくCEDTAが使用されている.EDTAはCBACより細胞毒性が低い8,9)と報告されており,そのことが角膜上皮障害の改善,BUTの延長に寄与していると考えられる.収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数ともに変更前後で変化はなかった.今回は変更前後で点眼薬の基材は同じであることが影響していると考えられる.結膜充血は変更前に軽度みられたC2例で変更後に消失し,変更前に出現がなかったC1例で変更後に軽度出現した.変更前に結膜充血が出現していた症例が少なかったので詳細な評価はできなかった.ラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬からラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更し,1年間経過観察した報告7)では,19.1%(31例/162例)の症例が投与中止となった.中止例の内訳は,眼圧下降不十分C20例(12.3%)と副作用出現C11例(6.8%)だった.副作用の内訳は,眼痛3例,掻痒感C2例,刺激感C2例,羞明C1例,異物感C1例,頭痛・嘔気C1例,不快感C1例だった.今回の変更後C12カ月間の副作用はC7.0%に出現し,過去の報告7)と出現頻度は同等だった.また,副作用の内訳は今回は異物感,眼瞼炎,結膜充血であったが重篤な症例はなく,過去の報告7)とほぼ同様で安全性は高いと考えられる.眼圧上昇による中止例は過去の報告7)のC20例(12.3%)と比べて今回はC1例(2.3%)と少なかった.これは,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬に含有するチモロール点眼薬は本来C1日C2回点眼であるが,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬ではC1日C1回点眼となり,チモロールの効果が減弱する可能性が考えられる.一方,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に含有するカルテオロール点眼薬はC1日C1回点眼の持続性カルテオロール点眼薬が使用されており,点眼回数減少による眼圧下降効果減弱は少ないと思われる.今回のアンケート調査では,1日の点眼薬の点眼回数がC2回からC1回へ減少したことで,点眼忘れの減少(アドヒアランス向上)がみられた.充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみの自覚症状は変更前後で同等だった.ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬や持続性カルテオロール点眼薬の点眼瓶の開けやすさや押す力を聞いたところ,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬のほうが使いやすいと答えた症例がC70.7%で,点眼薬の好みも変更後のラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(80.5%)が多かった.変更後の点眼薬がよい理由として,点眼回数の少なさ,点眼瓶の使いやすさ,しみないがあげられた.点眼瓶の使いやすさやさし心地もアドヒアランスの向上に重要であると考えられる.ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬をラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更し,12カ月間の経過観察を行ったところ,眼圧を維持することができ,視野に変化を認めず,アドヒアランスは向上し,安全性も良好だった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3trialsCofCcarteololC/ClatanoprostC.xesCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20162)InoueK,ShiokawaM,IwasaMetal:Short-terne.cacyandCsafetyCofCaClatanoprost/carteololC.xedCcombinationCswitchedCfromCconcomitantCtherapyCtoCinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CJGlaucomaC27:1175-1180,C20183)LampMA:ReportCofCtheCnationalCeyeCinstitute/industryCworkshoponclinicaltrialsindryeyes.CLAOJC21:221-232,C19954)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:833-870,C20105)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20186)杉原瑶子,井上賢治,石田恭子ほか:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の処方パターンと眼圧下降効果,安全性.眼臨紀C11:657-662,C20187)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:AssessmentofocularhypotensiveCe.ectCandCsafetyC12monthsCafterCchangingCfromCanCun.xedCcombinationCtoCaClatanoprost0.005%+timololCmaleate0.5%C.xedCcombination.CClinCOphthalmolC6:607-612,C20128)BurgalassiCS,CChetoniCP,CMontiCDCetal:CytotoxicityCofCpotentialocularpermeationenhancersevaluatedonrabbitandhumancornealepithelialcelllines.ToxicolLettC122:C1-8,C20019)UematsuCM,CKumagamiCT,CShimodaCKCetal:PolyoxyethC-yleneChydrogenatedCcastorCoilCmodulatesCbenzalkoniumCchloridetoxicity:ComparisonCofCacuteCcornealCbarrierCdysfunctionCinducedCbyCtravoprostCZCandCtravoprost.CJOculPharmacolTherC27:437-444,C2011***

デキサメタゾンのシスト形成阻害におけるラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性

2019年6月30日 日曜日

基礎研究コラム 25.リピドミクスによるオメガ3脂肪酸のアレルギー性結膜炎抑制メカニズムの解明

2019年6月30日 日曜日

リピドミクスによるオメガ3脂肪酸のアレルギー性平形寿彬結膜炎抑制メカニズムの解明リピドミクスとは脂質の生体内でのおもな働きは,①リン脂質,コレステロールやスフィンゴ脂質として生体膜を構成すること,②トリアシルグリセロールのように脂肪細胞などに貯蔵され,エネルギー源となること,③プロスタグランジン類のような脂質メディエーターとしてシグナル伝達を行うこと,があげられます.アレルギーをはじめとする炎症性疾患には,多くの脂質メディエーターが中心的な役割を担っています.脂質メディエーターと総称される物質群は,種々の刺激に応じておもに生体膜中のリン脂質に含まれる脂肪酸から作られ,メディエーターとして放出されます.これまで脂質メディエーターの定量にはCELISA法が用いられてきましたが,測定項目が抗体の種類により限られるとともに,サンプルが微量であることから,多種類の測定が行えませんでした.しかし,近年の質量分析を用いた測定技術の発展により,微量なサンプルから多種の脂肪酸分子種を定量することが可能となりました.このような脂質分子種を網羅的に解析する研究は,リピドミクス(lipidomics:lipid+omics)と称されます.オメガ3脂肪酸食のアレルギー性結膜炎予防効果オメガC3(Cw3)脂肪酸は脂肪酸分子鎖のカルボキシル基側から反対の炭素原子(Cw末端)から数えてC3番目の炭素結合部に二重結合をもつ脂肪酸分子の総称です.われわれ哺乳類には生体内で合成することのできない必須脂肪酸であり,魚油,亜麻仁油,えごま油などに豊富に含まれています.代表的なものにCaリノレン酸(ALA,C18:3),エイコサペン花粉①図1オメガ3脂肪酸は結膜での脂質メディエーター組成を変化させることでアレTh2細胞②ルギー性結膜炎症状を抑制する順天堂大学医学部眼科学講座タエン酸(EPA,C20:5)やドコサヘキサエン酸(DHA,C22:6)があります.Cw3脂肪酸が注目されるきっかけとなったのは,Cw3脂肪酸摂取量の多いイヌイットに心筋梗塞の発症率が低いことが発見されたことでした1).その後も抗炎症作用を含むCw3脂肪酸のもつさまざまな作用が示され,眼疾患では,アレルギー性結膜炎マウスモデルにおいてCw3脂肪酸を豊富に含む亜麻仁油の食事摂取によりアレルギー性結膜炎症状が軽減されました2).そして,リピドミクスの結果,Cw3脂肪酸食を摂取したマウスの結膜中では,アレルギー性結膜炎に促進的に働くアラキドン酸由来の炎症性脂質メディエーターであるプロスタグランジン,トロンボキサン,ロイコトリエン類の産生が大きく抑制されることが示されました(図1)2).今後の展望筆者は,罹患率の高いアレルギー性結膜炎や花粉症に対するヒトへのCw3脂肪酸の効果を検証したいと考えています.また,リピドミクスを通じて,生体内での脂質分子種が関与する生命現象の一端が新たに解明されることが期待されます.文献1)DyerbergCJ,CBangCHO,CHjorneN:FattyCacidCcompositionCofCtheCplasmaClipidsCinCGreenlandCEskimos.CAmCJCClinCNutrC28:958-966,C19752)HirakataCT,CLeeCHC,COhbaCMCetal:DietaryComega-3CfattyCacidsCalterCtheClipidCmediatorCpro.leCandCalleviateCallergicCconjunctivitisCwithoutCmodulatingCTh2CimmuneCresponses.FASEBCJC33:3392-3403,C2019オメガ3脂肪酸食⑦亜麻仁油魚油⑤アレルギー炎症(遅発)IL-4アレルギー炎症(早期)好酸球①~④のCTh2型免疫反応はコントロール食CIL-13③⑥と同様に起きるが,オメガC3脂肪酸の食事摂取により体内に取り込まれたエイコサペンタプロスタグランジンB細胞トロンボキサンエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)の存ロイコトリエン在によりアラキドン酸由来の炎症性脂質メ抑制オメガ3脂肪酸ディエーター産生が抑えられ,その結果,⑤CIgE④~⑦の経路が抑制されます.以上より,オメアラキドン酸EPAガC3脂肪酸は早期相,遅発相両方のアレルマスト細胞PGD2TXB2LTB4コントロール食オメガ3脂肪酸食ギー症状を改善します.pgimgpgimgpgimgRW:ブタクサ花粉RWRWRW(83)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C7870910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 193.赤道部に巨大裂孔をきたす網膜剝離の臨床的特徴(中級編)

2019年6月30日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載193193赤道部に巨大裂孔をきたす網膜.離の臨床的特徴(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに通常,巨大裂孔は硝子体基底部後縁に沿って生じ,赤道部近傍に生じることはまれである.巨大裂孔網膜.離の危険因子としては,外傷,強度近視,アトピー性皮膚炎,Stickler症候群などの網膜硝子体ジストロフィ,Marfan症候群などが指摘されている.筆者らは以前に,全身疾患を伴わず,長眼軸のわりに角膜がC.atで屈折が正視に近い眼球に,赤道部巨大裂孔による網膜.離をきたしたC2例を経験し報告したことがある1).C●症例症例C1:63歳,男性.右眼は上鼻側から下耳側にかけての赤道部よりやや後極に広範な網膜格子状変性を認めた.左眼は赤道部やや後方の網膜格子状変性の辺縁が裂けた約C140°の巨大裂孔を認め,上方C2象限に胞状の網膜.離をきたしていた(図1).眼軸長は右眼C26.13mm,左眼C25.81mm,角膜曲率半径は両眼ともC8.2~8.3mmで通常よりC.atであった.眼軸長が長いわりに屈折値はほぼ正視または軽度近視であった.水晶体切除術および硝子体切除術(シリコーンオイルタンポナ-デ)を施行し,3カ月後にシリコーンオイル抜去と眼内レンズ二次挿入術を施行した.術後矯正視力はC1.0に改善した(図2).症例C2:54歳,男性.右眼底は硝子体出血のため透見不良で,超音波CBモード検査で網膜全.離を認めた.左眼は上方から下耳側にかけて広範な網膜格子状変性を認めた.眼軸長は右眼C25.07Cmm,左眼C25.79Cmm,角膜曲率半径は両眼ともC7.9~8.1Cmmで通常よりC.atであった.症例C1と同様に眼軸長が長いわりに屈折値は軽度近視であった.症例C1と同様の術式を行い,網膜の復位を得た.術後右眼矯正視力は(1.0)に改善した.C●赤道部近傍に巨大裂孔をきたす網膜.離の臨床的特徴このC2症例の特徴として,巨大裂孔が硝子体基底部後(81)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1症例1の左眼術前眼底写真上方赤道部に約C140°の巨大裂孔を認め,胞状網膜.離となっている.図2症例1の左眼術後眼底写真赤道部やや後極に網膜光凝固斑を認め,網膜は復位している.縁ではなく,赤道部近傍の網膜格子状変性後縁に沿って生じたことがあげられる.また,角膜形状が通常より.atで,長眼軸のわりに屈折は正視または軽度近視であり,通常の軸性近視とは異なり眼球が前後方向だけではなく赤道部径も長く,球状に大きいといった特徴があった.球状に大きい眼球をきたす疾患としてCmegaloph-thalmos,先天緑内障,Marfan症候群などがあげられる.過去の報告によると,このC3疾患はいずれも網膜.離の発症リスクが高く,巨大裂孔の割合も高いようである2~4).また,Marfan症候群では全体の半数以上の裂孔が赤道部より前方に生じていたという報告がある4).なぜこのような眼球では通常より後極側に巨大裂孔をきたしやすいかについては不明であるが,眼球が球状に拡大することで赤道部近傍の網膜が過度に伸展され,網膜格子状変性が広範囲にわたって形成されやすくなると同時に,硝子体容積の増大により硝子体の液化変性が生じやすくなることなどが考えられる.文献1)KohmotoR,FukumotoM,SatoTetal:RhegmatogenousretinalCdetachmentCwithCaCgiantCtearClocatedCinCtheCinter-mediateperiphery:TwoCcaseCreports.Medicine(Balti-more)C98:e14271,C20192)AhmadiehCH,CBanaeeCT,CJavadiCMACetal:VitreoretinalCdisordersCinCanteriorCmegalophthalmos.CJpnCJCOphthalmolC50:515-523,C20063)CoolingCRJ,CRiceCNS,CMcleodD:RetinalCdetachmentCinCcongenitalglaucoma.BrJOphthalmol64:417-421,C19804)SharmaCT,CGopalCL,CShanmugamCMPCetal:RetinalCdetachmentCinCMarfansyndrome:CclinicalCcharacteristicsCandsurgicaloutcome.RetinaC22:423-428,C2002あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C785

眼瞼・結膜:巨大乳頭結膜炎

2019年6月30日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人深川和己51.巨大乳頭結膜炎両国眼科クリニック巨大乳頭結膜炎は,上眼瞼結膜の巨大乳頭増殖が特徴的なアレルギー性結膜疾患である.コンタクトレンズの上方へのズレ,異物感や眼脂などの症状が多い.結膜上皮細胞の機械的障害とアレルギー性炎症により巨大結膜乳頭増殖が生じる.治療は機械的刺激の原因物質の除去と,ステロイド点眼,抗アレルギー薬点眼を行う.●巨大乳頭結膜炎とは巨大乳頭結膜炎(giantCpapillaryCconjunctivitis:GPC)はコンタクトレンズ(CL),義眼,手術用縫合糸,露出した強膜バックル,角化した角膜輪部デルモイドなどの機械的刺激による上眼瞼結膜の巨大乳頭増殖が特徴的なアレルギー性結膜疾患である1)(図1).とくにCCLが原因のCcontactlens-relatedpapillaryconjunctivitis:CLPC)の重症例が多い1).C●GPCの臨床症状,臨床診断上記のようなCCL装用をはじめとする機械的刺激の原因要素がある患者で,異物感,眼脂,CLの上方へのズレを訴えることが多い1).掻痒感をあまり訴えない患者もいる.機械的刺激の原因要素と,上眼瞼の結膜充血および浮腫,巨大乳頭増殖により臨床診断することができる1).C●GPCの組織と炎症細胞CLを装用するだけで上眼瞼結膜上皮のCmicrovilliが損なわれるが,GPCとなるとさらに上皮障害が顕著となり,結膜が肥厚する.さらに,GPCの結膜では通常結膜上皮内には存在しないマスト細胞が検出され,正常では結膜組織には存在しない好酸球と好塩基球が上皮内および上皮下に検出される2).C●GPCの病態生理現状ではCGPCの正確な原因と病態生理は完全には解明されていない.春季カタル(vernalCkeratoconjuncti-vitis:VKC)と同様に巨大結膜乳頭の発生,結膜でのマスト細胞,好酸球,好塩基球の増加,涙液中ヒスタミンやCIgEの増加から,I型アレルギー反応,もしくは遅延型アレルギー反応が関与すると考えられている2).(79)図1巨大乳頭結膜炎(GPC)の一例コンタクトレンズによるCGPCが多いが,本症例では露出した縫合糸が原因となって,上眼瞼結膜にCGPCが発生した(Cb).しかし,CLや義眼を構成する物質自体の抗原性が低いこと,GPC患者のアレルギー性疾患の合併率が少ないことから,機械的刺激が主原因とも考えられている3).また,GPC患者のCCLをカニクイザルに装用させるとGPCが発症することから,CLや義眼などの表面に沈着あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C7830910-1810/19/\100/頁/JCOPYb図2巨大乳頭結膜炎(GPC)の治療経過2週間交換型ソフトコンタクトレンズによるCGPC(Ca)に対して,コンタクトレンズ非装用,ステロイド点眼,抗アレルギー点眼薬で治療した.1カ月後,上眼瞼結膜の充血や飛行が減少しCGPCは非常に小さくなり(Cb),自覚症状も軽減した.した物質に対するアレルギー反応の関与も疑われている2).これらのことから次のようなメカニズムが推測される.CLなどによる結膜上皮細胞の機械的障害→局所への炎症細胞の集積→CCL上への炎症惹起物質沈着→アレルギー性炎症→結膜乳頭増殖.C●CLによるGPCGPCの発生頻度は,ハードCCLよりもソフトCCLが多く,ソフトCCLのなかでは毎日交換のCdisposableCcon-tactlens(DSCL)で発生率が少ない2).3週間以上の同一CCLの使用によりCGPC発生率が増加すると報告されている2)が,2週間の頻回交換型ソフトCCLでもケアがC784あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019おざなりになってCGPCを発症する症例を経験する.C●GPCとVKCの違いは?GPCとCVKCは巨大結膜乳頭が発生する点は似ているが,多くの相違点がある.臨床症状では,VKCではかゆみや痛み,大量の眼脂など症状が非常に激しいが,GPCでは異物感や目脂,CLがずれるなど,マイルドである.臨床所見としては,VKCでは大きく不整な石垣状結膜乳頭増殖が生じて角膜びらんや角膜潰瘍が頻発するのに比して,GPCでは均一で比較的小ぶりでなだらかな結膜乳頭増殖であり,角膜障害は限定的であることが多い.さらに組織学的にはCVKCでは脱顆粒したマスト細胞が多く,好酸球の集積が顕著であるのに比して,GPCでは炎症細胞の集積もマイルドである.治療としてもCVKCは強力な免疫抑制が必要である一方,GPCはCLなどの機械的刺激の除去によりかなり改善する.以上より,VKCとCGPCは異なる病態をベースとした異なる疾患であると考えられる.C●GPCの治療GPCの病態が機械的刺激とアレルギー反応であるため,治療はCCLや縫合糸など機械的刺激の原因自体の除去,それらの表面を覆うアレルギーを起こす原因の物質の除去がもっとも大切である.増殖が収まるまでCCLは装用しないか,毎日交換のCDSCLを短時間装用する.そのうえで,炎症を起こして増殖している結膜に対して,ステロイド点眼薬と抗アレルギー点眼薬で消炎を図る(図2).また,ステロイド点眼薬により眼圧が上昇する症例に対しては免疫抑制点眼薬を用いる.CLや義眼の再装用が必要な場合は慎重に行い,毎日交換CDSCLに変更する,義眼の洗浄ケアをしっかり行うなどの再発防止策をとる.文献1)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:833-870,C20102)DonshikPC:GiantCpapillaryCconjunctivitis.CTransCAmCOphthalmolSocC92:687-744,C19943)FriedlaenderMH:SomeCunusualCnonallergicCcausesCofCgiantCpapillaryCconjunctivitis.CTransCAmCOphthalmolCSocC88:343-351,C1990(80)

抗VEGF治療:糖尿病網膜症:抗VEGF薬による黄斑浮腫抑制

2019年6月30日 日曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二65.糖尿病網膜症:抗VEGF薬による山田晴彦関西医科大学付属病院眼科黄斑浮腫抑制糖尿病網膜症に対する抗CVEGF療法は,2014年にわが国で認可されて以来,糖尿病黄斑症に対する治療の代表的な選択肢となっている.本稿では,RESTORE,VIVID-DME,DRCRnetprotocolTの三つの大規模臨床試験の結果を踏まえ,糖尿病黄斑症に対する抗CVEGF療法について述べる.糖尿病網膜症に対する抗VEGF療法糖尿病網膜症は日本人の後天的失明において第C3位の疾患であり,世界を見渡しても,先進国中で比較的若年者の失明原因のトップに位置する.糖尿病網膜症によって視力低下が起こる理由についてはいくつかあるが,近年注目されているのは,糖尿病黄斑症によるものである.以前は光凝固や硝子体手術といった,いわば物理的な治療が行われてきたが,わが国でC2014年に抗CVEGF療法が糖尿病黄斑症の治療として認可されてからは,抗VEGF療法の使用度合いが飛躍的に増え,糖尿病黄斑症の治療選択肢として確固たる地位を築いている.そのほか,増殖糖尿病網膜症の硝子体手術治療前に,術中の出血コントロール目的で抗CVEGF薬を投与したり,糖尿病網膜症から進行した血管新生緑内障に対して抗VEGF薬を投与する試みなどが行われているが,薬剤の適応外使用であることから,本稿では糖尿病黄斑症に対する抗CVEGF療法について述べる.糖尿病網膜症は高血糖による血管内皮細胞の障害などを原因として網膜の毛細血管が閉塞し無灌流を生じる.そのためにCVEGFの産生が亢進することで,その血管新生促進因子としての働きから網膜新生血管を発生させ,血管透過性因子としての働きから網膜浮腫を発生させる.その意味から,糖尿病網膜症(黄斑症)の治療に抗CVEGF療法を行うことはその病態に適している.以下に代表的な三つの大規模臨床試験の結果を紹介する.CRESTORE試験糖尿病黄斑症の症例に対し,ラニビズマブC0.5Cmg単独投与,ラニビズマブ+光凝固,光凝固のみのC3群に無作為に割つけて治療を行い,1年間の経過をみた.ラニビズマブ投与は治験開始時にC3カ月毎月連続投与し,その後は必要に応じて投与するCproCrenata(PRN)法で経過観察した.開始C1年後には,ラニビズマブC0.5Cmg単独投与ではC7.9文字の改善,ラニビズマブ+光凝固では(77)7.1文字の改善,光凝固のみではC2.3文字の改善とラニミズマブ投与群で有意に視力改善・維持が得られた.1年経過後,オープンラベルでさらにC2年の経過観察結果がCextensionstudyとして報告されているが,光凝固のみ群であってもラニビズマブのCPRN投与(レスキュー)が可能となり,3年目の結果としてはラニビズマブ0.5Cmg単独投与ではC8.0文字の改善,ラニビズマブ+光凝固ではC6.7文字の改善,光凝固のみからラニビズマブ投与ではC6.0文字の改善と,レスキューされた光凝固のみ群が他群に近づいており,光凝固による改善効果は乏しいが,ラニビズマブ投与で視力改善が得られることが示された.VIVID.DME試験本試験では,アフリベルセプトC2CmgをC4週ごと投与,アフリベルセプトC2CmgをC8週ごと投与,光凝固のみの3群に無作為に割つけてC3年間の経過観察を行った.結果として,治験終了時にアフリベルセプトC2CmgをC4週ごと投与ではC12.5文字,アフリベルセプトC2CmgをC8週ごと投与ではC10.7文字,光凝固のみではC0.2文字で,アフリベルセプト投与のC2群が光凝固のみと比較して視力改善が有意に高かった.薬剤の投与回数は,アフリベルセプトC2CmgをC4週ごと投与でC11.9回,アフリベルセプトC2CmgをC8週ごと投与でC8.5回とC8週ごと投与群では投与回数が少ないにもかかわらず,視力改善はC4週ごと群と大差なかった.CDRCRnetprotocolTDRCRnet(DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork)では,protocolTとして,ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトを同じ治療プロトコルで比較している.ベバシズマブはC1.25Cmg,ラニビズマブはC0.3mg,アフリベルセプトはC2Cmgをそれぞれ使用し,治療レジメンに従いながらC1カ月ごと投与でC2年間経過観察を行なった.結果は,ベバシズマブはC10.0文字,あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C7810910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1抗VEGF療法著効例44歳,男性.両眼の糖尿病網膜症のために近医から紹介された.初診時矯正視力は右眼C1.0,左眼0.6.左眼のカラー眼底写真(左上),左眼の蛍光眼底造影写真(右上)に示すように増殖網膜症を認めたため,両眼に汎網膜光凝固を行った.初診時から黄斑浮腫があり,レーザー後ラニビズマブをC1回投与したところ,初診時左眼のCOCT画像(左下)から,右下のように黄斑浮腫は改善し,矯正視力も左C1.0に回復した.ラニビズマブはC12.3文字,アフリベルセプトはC12.8文字の視力改善で,各群間に差はないようだったが,各群の視力のベースラインに有意差があり,それが低いと視力改善も少なかった.注射回数についてもC3群間で差はなかったが,視力低下時にレーザーを行うプロトコルのために,視力低下が多いとレーザー回数が増える.レーザーの適応回数がベバシズマブC64%,ラニビズマブC52%,アフリベルセプトC41%で,アフリベルセプトが他群よりも有意に少なく,ベバシズマブでラニビズマブよりも有意に少なかった.つまり,アフリベルセプトの視力低下回数が一番少ない結果であった.臨床試験の結果を日常診療にどう生かすかこのような大規模臨床試験では,それぞれの実施プロトコルが互いに異なるために単純にどの薬物や投与法がよいかの比較はむずかしく,糖尿病黄斑症に対して推薦される絶対的治療法を導き出すことは困難である.ただ,傾向としてはっきりしているのは,抗CVEGF療法によって黄斑浮腫が改善して,視力がC10文字(少数視力で約C2段階)程度改善するということと,投与開始C1年目よりC2年目以降の注射回数が少なくなること,注射薬の種類によって効果が異ならないということであろう.大規模試験は欧米主導のため,日本で馴染みのないCgridlaser光凝固(あるいはCfocallaser)を対照群としてC782あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019いたり,手術治療が治療選択肢にないことから,必ずしもわが国での糖尿病黄斑症治療の指標とはならないが,治療法決定の参考にはなる.しかし,抗CVEGF療法は大規模スタディをみるかぎり,2年間でC15回程度は注射することになるので,2,000例にC1例程度起こるとされる細菌性眼内炎発生の危険性や,薬剤の自己負担費用が問題となる.一方で,糖尿病黄斑症の治療目的に行う硝子体手術を自己負担C3割のケースで比較すると,わが国では高額療養費制度があるために,注射C3回で抗VEGF療法が手術よりも負担が大きくなる.そのため,抗CVEGF療法のみが治療選択肢ではなく,手術という方法もありえることを念頭に診療に当たることが,医療経済の面からも求められるのではないかと考える.文献1)MitchellCP,CBandelloCF,Cetal:RESTORECstudygroup:TheRESTOREstudy:ranibizumabmonotherapyorcom-binedCwithClaserCversusClaserCmonotherapyCforCdiabeticCmacularedema.OphthalmologyC118:615-625,C20112)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-realCa.iberceptCforCdiabeticCmacularCedema.COphthalmolo-gyC121:2247-2254,C20143)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork,WellsJA,GlassmanCARCetal:A.ibercept,Cbevacizumab,CorCranibi-zumabCforCdiabeticCmacularCedema.CNCEnglCJCMedC372:C1193-1203,C2015(78)

緑内障:小児緑内障の分類

2019年6月30日 日曜日

●連載228監修=山本哲也福地健郎228.小児緑内障の分類中西(山田)裕子神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野WorldGlaucomaAssociationコンセンサス会議での提言をふまえ,緑内障診療ガイドライン第4版では小児緑内障の診断基準と新分類が示された.原発,続発の大別,発症年齢,背景や要因となる疾患に基づく細分類をもとに,各疾患のもつ特徴をふまえた診療,治療選択につなげたい.●はじめに小児期に発症した病態に起因する小児緑内障について,第3版までの緑内障診療ガイドラインでは発達緑内障(developmentalglaucoma)という用語が用いられてきたが1),WorldGlaucomaAssociation(WGA)コンセンサス会議での提言をふまえ2),第4版では発達緑内障から小児緑内障(childhoodglaucoma)に用語が改められ,新たに診断基準の記載,定義と細分類の変更がなされ,背景や病態をもとに改訂,整理された3).●小児緑内障の診断基準と分類ガイドライン第4版に記載された小児緑内障の診断基準を示す(表1)3).眼圧測定はいずれの緑内障でも重要であるが,小児では良好な条件での検査が困難な場合も多く,眼圧のみならず,視神経乳頭所見,角膜径の増大やHaab線(Descemet膜破裂線),眼軸長の伸長,視野欠損といった5項目のうち2項目以上を満たす場合を小児緑内障,1項目以上を小児緑内障疑いとしている.新たな分類(表2)では,他の要因を伴わないものを原発小児緑内障,他の先天的な眼疾患や全身疾患ないし後天的な要因を伴う場合をまとめて続発小児緑内障と,大きく分けている.各病型は小児緑内障の診断基準を満たす.第3版までと第4版の分類の対比を表3に示す.●原発小児緑内障①原発先天緑内障強度の隅角形成異常により,誕生直後または生後早期からの高眼圧で牛眼など眼球拡大を生じるもので,さらに発症年齢から,(1)出生前または新生児期(0~1カ月),(2)乳児期(1~24カ月),(3)遅発性(2歳以上)に細分類される.また,自然に停止して正常眼圧となった症例で典型的な徴候があるものも,これに分類される.治療はまず手術が選択され,ゴニオトミーやトラベクロトミーといった流出路再建術から行い,それらが成功表1WorldGlaucomaAssociation(WGA)における小児緑内障の診断基準緑内障の診断基準(2項目以上)・眼圧が21mmHgより高い(全身麻酔下であればあらゆる眼圧測定方法で).・陥凹乳頭径比(cup-to-discratio:C/D比)増大の進行,C/D比の左右非対称の増大,リムの菲薄化.・角膜所見:Haab線または新生児では角膜径11mm以上,1歳未満では12mm以上,すべての年齢で13mm以上.・眼軸長の正常発達を超えた伸長による近視の進行,近視化.・緑内障性視神経乳頭と再現性のある視野欠損を有し,視野欠損の原因となる他の異常がない.緑内障疑いの診断基準(1項目以上)・2回以上の眼圧測定で眼圧が21mmHgより大きい.・C/D比増大などの緑内障を疑わせる視神経乳頭所見がある.・緑内障による視野障害が疑われる.・角膜径の拡大,眼軸長の延長がある.(文献3より転載)しなかった場合に濾過手術やチューブシャント手術が検討される.薬物療法は手術までの期間や術後眼圧下降が不十分な場合に補助的に用いる.②若年開放隅角緑内障軽度の隅角形成異常のため眼球拡大をきたさず,小児緑内障の診断基準を満たすが,眼球拡大や先天性の眼形成異常,全身疾患を伴わず,開放隅角(正常隅角所見)を呈し,4歳以降に発症するものである.●続発小児緑内障①先天眼形成異常に関連した緑内障全身所見との関連が明らかではない眼形成異常が出生時から存在するもので,Axenfeld-Rieger異常,Peters異常といった前眼部形成異常,無虹彩症は指定難病となっている.②先天全身疾患に関連した緑内障出生時から眼所見に関連する先天性全身疾患があるも(75)あたらしい眼科Vol.36,No.6,20197790910-1810/19/\100/頁/JCOPY表2緑内障診療ガイドライン(第4版)における小児緑内障の分類原発小児緑内障(primarychildhoodglaucoma)原発先天緑内障(primarycongenitalglaucoma:PCG)強度の隅角形成異常による誕生直後または生後早期からの高眼圧で牛眼など眼球拡大を生じるもの.小児緑内障の診断基準を満たす.ただし,自然に停止し正常眼圧となった症例であってもPCGの典型的兆候があればPCGとして分類される.<発症年齢による細分類>(1)出生前または新生児期(0~1カ月)(2)乳児期(1~24カ月)(3)遅発性(2歳以上)若年開放隅角緑内障(juvenileopen-angleglaucoma:JOAG)軽度の隅角形成異常のため眼球拡大を来たさず,4歳以降に発症する小児緑内障.小児緑内障の診断基準を満たすが,眼球拡大や先天性の眼形成異常,全身疾患を伴わず,開放隅角(正常隅角所見)を呈する.続発小児緑内障(secondarychildhoodglaucoma)先天眼形成異常に関連した緑内障(glaucomaassociatedwithnon-acquiredocularanomalies)小児緑内障の診断基準を満たす.全身所見との関連が明らかではない眼形成異常が出生時から存在.<先天眼形成異常の代表例>Axenfeld-Rieger異常,Peters異常,ぶどう膜外反,虹彩形成不全,無虹彩症,第一次硝子体過形成遺残,眼皮膚メラノーシス(太田母斑),後部多形性角膜ジストロフィ,小眼球症,小角膜症,水晶体偏位など先天全身疾患に関連した緑内障(glaucomaassociatedwithnon-acquiredsystemicdiseaseorsyndrome)小児緑内障の診断基準を満たす.出生時から眼所見に関連する先天性全身疾患がある.<先天全身疾患の代表例>Down症候群などの染色体異常,結合組織異常(Marfan症候群,Weill-Marchesani症候群,Stickler症候群),代謝異常(ホモシスチン尿症,Lowe症候群,ムコ多糖症)母斑症(神経線維腫症,Sturge-Weber症候群,Klippel-,Trenaunay-Weber症候群),Rubinstein-Taybi症候群,先天性風疹症候群など後天要因による続発緑内障(glaucomaassociatedwithacquiredcondition)出生時にはなく,生後に発生した後天要因によって発症した緑内障で小児緑内障の診断基準を満たすが,白内障術後の緑内障は除く.隅角所見により(1)開放隅角(50%以上開放)(2)閉塞隅角(50%未満開放または急性閉塞隅角)に分かれる.<後天要因の代表例>ぶどう膜炎,外傷(前房出血,隅角離解,水晶体偏位),ステロイド,腫瘍(良性/悪性,眼内/眼窩),未熟児網膜症など白内障術後の緑内障(glaucomafollowingcataractsurgery)白内障術後に発症した緑内障で診断基準を満たす.白内障のタイプにより(1)特発性の先天白内障(2)緑内障を伴わない眼形成異常または全身疾患に関連した先天白内障(3)緑内障を伴わない併発白内障隅角所見により(1)開放隅角(50%以上開放)(2)閉塞隅角(50%未満開放または急性閉塞隅角)に分かれる.(文献3より作成)表3小児緑内障の緑内障診療ガイドライン第3版と第4版の対比1~3)ガイドライン第3版カイドライン第4版/WGAコンセンサス発達緑内障小児緑内障原発小児緑内障早発型発達緑内障原発先天緑内障遅発型発達緑内障若年開放隅角緑内障続発小児緑内障他の先天異常を伴う発達緑内障先天眼形成異常に関連した緑内障先天全身疾患に関連した緑内障続発緑内障後天要因による続発緑内障白内障術後の緑内障ので,これらの疾患は小児指定難病に含まれるものも多い.③後天的な要因による緑内障生後に発生した後天要因によって発症するが,白内障術後の緑内障はその頻度の高さや特徴から別途項目が設けられている.開放隅角緑内障が一般的である.④白内障術後の緑内障小児期に白内障手術を必要とする症例では房水流出路の発達異常を伴うことがあり,眼圧上昇につながり緑内障を生じることがある.発症のリスクは生涯にわたり,無水晶体でも偽水晶体でも生じる.低年齢での手術,小角膜,小眼球を伴う症例ではさらにリスクが高い.中心角膜が厚いため,見かけ上の高眼圧になっている場合もある.●新分類をふまえた臨床小児緑内障を疑う場合,まず診断基準を満たすか,そして原発,続発のいずれかにつき大別する.原発小児緑内障では発症年齢による細分類は手術予後の目安となる.また,続発小児緑内障は,流出路再建術の成績が原発小児緑内障に比べて下がることを意味する.背景や要因となる疾患に基づく細分類をふまえ,各々の疾患のもつ特徴に即した診療,治療選択につなげたい4).文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)WorldGlaucomaAssociation:Childhoodglaucoma.The9thConsensusReportoftheWorldGlaucomaAssociation(editedbyWeinrebRN,GrajewskiAL,PapadopoulosMetal),KuglerPublications,Amsterdam,p1-270,20133)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第4版).日眼会誌122:3-53,20184)杉山和久,竹本大輔:小児緑内障のコンセンサス診断基準と新分類.眼科57:1677-1682,2015780あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019(76)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキング後の感染

2019年6月30日 日曜日

●連載229229.角膜クロスリンキング後の感染監修=木下茂大橋裕一坪田一男長谷川亜里JCHO中京病院眼科小島隆司慶応義塾大学医学部眼科学教室角膜クロスリンキング後の感染性角膜炎はきわめてまれであるが,上皮化までの過程に問題がある場合,発症することもある.アトピー性皮膚炎など常在菌として結膜.に多剤耐性菌を保菌している症例も指摘されており,術前の結膜.培養や,術後抗菌点眼薬の選択に注意するなど配慮するとともに,十分な患者指導も重要である.C●はじめに角膜クロスリンキング(cornealCcrosslinking:CXL)は,Seilerらによって開始され1),進行性円錐角膜の進行予防治療としてエビデンスが確立されている治療法である.CXLに用いられるリボフラビン(ビタミンCB2)は紫外線CA波(UV-A)の照射により活性酸素を生成し,光化学反応を起こさせることで,角膜実質のコラーゲン架橋を増強させ,角膜の生体力学的な強度を高める効果があるとされている.また,円錐角膜と病態の似た角膜屈折矯正手術後のケラトエクタジアの進行予防にも応用されている.CXLは安全性が高く,合併症の頻度は低いが,無菌性角膜浸潤,淡い角膜実質混濁(ヘイズ),角膜融解のほか,感染性角膜炎が報告されている.CXL後の感染性角膜炎の発症はきわめてまれと考えられている.CXLにより病原体CDNAが直接損傷されて病原体が不活性化されること,酵素分解に対する耐性が強化されること,実質コラーゲン線維の引っ張り強度・剛性の強化により角膜実質融解を防ぐ効果があること,などがその理由である2).これらの作用から,CXLは近年,多剤耐性菌感染など既存の治療法に反応しない感染性角膜炎の治療法3)としても注目されている.C●CXL後の感染性角膜炎このようにCCXL自体が感染に強い術式であるが,CXL術後の感染性角膜炎の報告もある.CXLの原法であるドレスデンプロトコールでは,最初に角膜上皮を.離してから施術する.そのため,上皮の治癒過程に問題がある場合は,感染性角膜炎のリスク因子となりうる.患者背景としては,糖尿病やアトピー性皮膚炎の症例な(73)ど,CXL術後に高頻度で使用されるバンデージコンタクトレンズもリスク因子といえる.CXL後の感染性角膜炎角膜炎を対象とした症例対照研究のシステマティックレビュー2)では,感染性角膜炎は術終了後から上皮化までの期間に発症しうることが述べられている.この文献によると,2000~2013年の期間にC10眼の感染性角膜炎症例が報告されている.原因病原体は細菌(S.epidermidis,P.aeruginosa,E.coli,S.aureus,S.salivarius/S.oralis)がC5眼,真菌(Fusari-umsolani,Microsporidia)とヘルペスがそれぞれC2眼,アカントアメーバがC1眼で,術後平均C6.50C±8.34(1~30)日目に発症している.CXL術後処方は,6眼でフルオロキノロン,3眼でアミノグリコシドが処方され,そのうちステロイド点眼の併用はC4眼だった(1眼は詳細不明).汚染された手指で眼をこする,術直後から水道水で眼を洗浄する,バンデージコンタクトレンズをなめて装用する,など上皮の治癒過程における患者の不適切な行動が,もっとも頻度の高いリスク因子であったと指摘されている.C●自験例の紹介当院で経験したCCXL後感染性角膜炎の症例を紹介する.患者はC38歳,男性で,アトピー性皮膚炎にて顔面にタクロリムス軟膏を使用していた.前医にて両眼のレーシック後ケラトエクタジアと診断され,2017年C6月左眼にCCXLが施行された.術後C5日目に角膜上皮化が完了したものの,角膜内浸潤が増強していた.レーシックの層間への無菌性浸潤の可能性を考えてステロイドを強化した.抗菌薬点眼はレボフロキサシンC4回のみだった.術後C7日目にさらに悪化を認めたため,感染性角膜あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C7770910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1初診時スリット写真図2CXL術後3カ月炎を疑い中京病院眼科を紹介受診となった.初診後,感染性角膜炎の治療目的にて入院.角膜擦過培養の結果,Staphylococcusaureusが検出された.薬剤感受性試験は,感受性あり:セフメノキシム,セフメタゾール,バンコマイシン,感受性なし:ガチフロキサシン,レボフロキサシン,エリスロマイシンの結果であった.セフメノキシム点眼C6回,トブラマイシン点眼C6回,バンコマイシン点眼C2時間ごとにて加療したところ,徐々に角膜浸潤は改善し,5日目に退院となった.CXL後C3カ月時点では感染部位に淡い混濁を認めたが,視軸には影響せず,視力はCHCL矯正でC1.2と術前と同レベルであった.C●おわりにCXL術後感染は予防が重要である.CXLの術式は多様化しており,角膜上皮をはがさないCepi-on治療も行C778あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019われている.Epi-o.治療と比べて感染のリスクを減らす効果も期待されるが,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)感染で角膜穿孔に至った例4)も報告されている.また,CXL術後の抗菌点眼薬の選択には,近年指摘される多剤耐性菌の増加を考慮する必要がある.円錐角膜患者で合併頻度の高いアトピー性皮膚炎では,同年代の健常者と比較して結膜.の細菌検出率が高く,MRSAを含む黄色ブドウ球菌の検出率が高いなど,常在細菌叢が健常者と異なっていることが報告されている5).このようなハイリスク患者では,術前に結膜.培養を行うことや,耐性菌が多いとされるフルオロキノロン単剤での治療を避けることも検討する必要がある.さらに,前述のシステマティックレビュー2)で指摘されたような術後の患者の不適切な行動を念頭に,十分に患者指導を行うことも重要であると考える.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,C20032)AbboudaCA,CAbiccaCI,CAlioJL:InfectiousCkeratitisCfollow-ingcornealcrosslinking:Asystematicreviewofreportedcases:Management,CvisualCoutcome,CandCtreatmentCpro-posed.SeminOphthalmol31:485-491,C20163)AlioJL,AbboudaA,ValleDDetal:Cornealcrosslinkingandinfectiouskeratitis:asystematicreviewwithameta-analysisCofCreportedCcases.CJCOphthalmicCIn.ammCInfectC29:47,C20134)OakeyCZ,CThaiCK,CGargS:BilateralCcornealCperforationCdueCtoCMRSACkeratitisCinCaCcrosslinkingCpatient.CGMSCOphthalmolCases15:7,C20175)春畑裕二,山田昌和,大竹雄一郎ほか:アトピー性皮膚炎患者の結膜.細菌培養.日眼紀要52:494-497,C2001(74)

眼内レンズ:360度全秀虹彩付きリングの2枚同時挿入法

2019年6月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋森山涼391.360°全周虹彩付きリングの2枚同時挿入法井上眼科病院白内障手術時に使用可能な全周人工虹彩付き着色水晶体.拡張リング(AniridiaRingsType50F,Morcher社)は,虹彩欠損を伴う白内障例に対して非常に有用なアイテムである.欠点として挿入手技のむずかしさがあるが,従来の挿入方法よりも簡便で確実な挿入手技を考案したので紹介する.●はじめに全周人工虹彩付き着色水晶体.拡張リング(AniridiaRingsType50F,Morcher社)は,虹彩欠損を伴う白内障の手術時に,術後の羞明予防および整容面を考慮して眼内(水晶体.内)に留置するデバイスである.形状は,従来のカプセルテンションリングに歯車上の遮蔽板がついた構造となっていて,それを2枚挿入することで360°の遮蔽効果を得られるようになっている.このリングの欠点として,その挿入手技のむずかしさがある.虹彩欠損を伴う白内障の疾患背景として,外傷や先天無虹彩症など,Zinn小帯および水晶体.脆弱を伴うことが多い.そのような症例に対して,眼内の限られたスペースにこのリングを1枚ずつ,2回挿入することは決して容易ではない.そこで,2枚のリングを重ねて同時に挿入することで,リング同士が引っかかるなどの従来の方法の欠点を克服した手技を考案したので紹介する.●症例49歳,男性.20年前に野球のボールで右眼を打撲,その後,徐々に視力が低下し,手術希望で受診した.右眼には角膜裂傷の瘢痕,広範囲に及ぶ虹彩根部離断および外傷性散瞳,Zinn小帯断裂,後.下白内障を認めた(図1).●手術方法まず,通常通りの超音波水晶体乳化吸引および皮質吸引を行い,7mm光学径眼内レンズ(NX-70,参天製薬)を挿入した.なお,この症例では,将来の眼内レンズ偏位に備えて縫着用のカプセルテンションリングを併用している(図2).次に,従来は1枚ずつ挿入していた本リングを,リン(71)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1外傷性散瞳および虹彩根部離断を伴う白内障外傷性散瞳および4時~7時方向の虹彩根部離断,4時~10時方向のZinn小帯断裂,後.下白内障を認める.グ表面に粘弾性物質を塗布することで2枚を互いに密着させ(図3),2枚同時に挿入した(図4).1回の操作で2枚のリングが円滑に挿入できた..内でのリングの配置は,片方のリングをサイドポート鑷子で固定してから,もう1枚のリングをフックなどを用いて回転させることで両者が同時に回転することを防止できた.それぞれのリングをずらして交互に配置することで全周の遮蔽効果を得ることができた(図5).●おわりに従来,本リングの挿入手技は,2枚目の挿入時に1枚目のリングが引っかかったり,眼内の視認性を低下させたりする点で難易度が高かった.今回紹介した2枚のリングを密着させて同時に挿入する手技では,そのような欠点が克服できた.また,リングの交互配置も比較的容易にコントロールすることができた.あわせて有用な手あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019775図2眼内レンズ(NX.70,参天製薬)挿入後図3粘弾性物質で2枚を密着させた状態の全周虹彩付き水晶体を除去し,.内に眼内レンズおよび縫着用のカプセリング(AniridiaRingsType50F,Morcher)ルテンションリングを挿入した状態.従来は1枚ずつ挿入していた全周虹彩付きリングに粘弾性物質を塗布することで2枚を互いに密着させた.技と考える.図4全周虹彩付きリングの2枚同時挿入手技粘弾性物質で密着させた2枚の全周虹彩付きリングを同時に挿入している.左手に持ったフックで眼内におけるリングの挙動をコントロールして,リングの先端を.内に誘導している.図5手術終了時密着した2枚の全周虹彩付きリングをずらして交互に配置することで,全周に隙間なく遮蔽効果を得ることができた.