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コンタクトレンズ:コンタクトレンズの装用感

2019年6月30日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一56.コンタクトレンズの装用感●はじめにコンタクトレンズ(CL)装用を安全に続けるうえで,CLの装用感はもっとも重要な事項の一つである.装用感がよくないということは,単なる異物感と捉えるのではなく,CLが眼表面に対して何らかの機械的なストレスを与えていると考えるべきであり,臨床像との関連性も考慮すべきである.装用感は,乾燥感などの自覚症状を含めて快適性(comfort)と表現されており,CL装用時の眼不快感(CLdiscomfort:CLD)には最大限の注意を払わなければならない.CLDは「CLと眼の環境との適合性の低下により生じるCCL装用に関連した視機能異常の有無を問わない一過性あるいは持続する眼の感覚の異常であり,装用時間の減少あるいはレンズ装用の中止を余儀なくされ得るもの」と定義され,CLDを自覚する割合はCCL装用者の半数近くであるとされる1).本稿では,CLDが問題となるタイミングとCCLDの原因について述べる.CLDの原因には,温度,湿度,風,エアコンおよびCVDT(visualCdisplayterminal)作業などの外部環境もあげられるが,レンズとオキュラーサーフェイスの両面から,その対策も含めて述べる.C●タイミングCLDが問題となるタイミングは,ソフトCCL(SCL)とハードCCL(HCL)では特徴が異なる.SCLでは,CLvisualanaloguescale10080604020012471428日日数図1HCL初装時におけるCLDの経時的変化藤田博紀藤田眼科関連ドライアイ(CL-relateddryeye:CLRDE)に伴い,夕方や夜などの一日の装用の終わり頃に生じやすく,またレンズの汚れやCCL関連乳頭性結膜炎(CL-inducedpapillaryCconjunctivitis:CLPC)に伴い,定期交換レンズや頻回交換レンズでは使用終盤に顕著となる.一方,HCLでは,初装時が大きな問題となり,ドロップアウトのおもな原因となる.筆者らの研究では,HCL初装時のCCLDは装用開始C1週間で軽減した(図1).また,初装時においてCCLDが自覚的に装用に支障なくなるまでの期間は,図2のように個人差はあるが平均C23.0C±22.1日であった2).いったん装用に慣れてしまえばCHCLとCSCLの装用感に差異はないため,HCL初装時のCCLDを克服することは臨床的に大きな意義がある.C●レンズCLの装用感は,レンズの表面やエッジと角結膜の物理的な摩擦に関係する.レンズの製品によって異なり3),レンズの素材や表面処理によって摩擦係数が異なると思われ,摩擦係数が小さいと快適性が向上する.レンズデザインにおいても,ベースカーブ,直径,エッジおよびべベルなどがCCLDに影響を及ぼす.とくにCHCLでは,レンズデザインやフィッティングが適切でない場合,異物感や疼痛によるドロップアウトの原因となるため,最適なデザインのレンズを選択し,必要に応じて適時変更図2HCL初装時においてCLDが自覚的に装用に支障なくなるまでの期間(69)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C7730910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3高度円錐角膜に対するpiggybacklenssystemすることが重要である.たとえば,レンズが上方偏位している症例ではレンズ径を小さく,逆にレンズが下方偏位している症例では,レンズ径を大きくしたほうが良好なセンタリングが得られ,装用感が改善する.また,標準サイズの直径の球面レンズと比較して,直径の大きな非球面レンズのほうが初装時のCCLDは軽減される4).とくに,円錐角膜のようにCHCLを用いなければ視覚補正がむずかしい症例では,装用の継続が可能となるように,非球面レンズや多段階カーブレンズなど,レンズデザインの選択に注力する必要がある.それでも強い異物感のため,装用の継続が困難な高度円錐角膜に対しては,SCLの上からCHCLを二重に装用するCpiggybackClenssystem(図3)を用いる場合がある5).この他,レンズの傷,汚れ,変形,破損およびレンズケアもCCLDの原因となりうる.●オキュラーサーフェイスCLの装用は,ドライアイのリスクを高めると報告されており6),CLRDEはCCL装用中止のおもな原因となる.CLRDEに対しては,①含水率が低い,②直径が小さい,③表面の水濡れ性が良好である,④水分蒸発の少ない,⑤エッジが摩擦の少ない滑らかな形状をもつといった特徴のレンズが適している.CLRDEは,SCL装用時にはCsmileCmarkCsuper.cialCpunctateCkeratitis(SPK),CsuperiorCepithelialCarcuatelesion(SEAL),lidCwiperepitheliopathy(LWE)を,またCHCL装用時にはC3C&C9O’clockstainingを引き起こし,それぞれがCCLDの原因となる.これらに対しては,涙液量を増やし,涙液の菲薄化を防ぐ目的で点眼加療を行い,また適切なレンズに変更する必要がある.文献1)NicholsCJJ,CWillcoxCMD,CBronCAJCetal:TheCTFOSCInter-nationalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:Cexecu-tiveCsummary.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS7-TFOS13,C20132)FujitaH,SanoK,SasakiSetal:Oculardiscomfortattheinitialwearingofrigidgaspermeablecontactlenses.CJpnJOphthalmolC48:376-379,C20043)RobaCM,CDuncanCEG,CHillCGACetal:FrictionCmeasure-mentsConCcontactClensesCinCtheirCoperatingCenvironment.CTribolLettC44:387-397,C20114)藤田博紀,馬場富夫,田中直ほか:大直径非球面ハードコンタクトレンズの初装時における異物感の評価.あたらしい眼科24:835-837,C20075)藤田博紀,佐野研二,溝口正一ほか:円錐角膜におけるコンタクトレンズ選択に関する全国アンケート調査.あたらしい眼科17:1117-1121,C20006)UchinoCM,CNishiwakiCY,CMichikawaCTCetal:PrevalenceCandCriskCfactorsCofCdryCeyeCdiseaseCinJapan:CKoumiCstudy.OphthalmologyC118:2361-2367,C2011PAS118

写真:再発翼状片に対する冷凍保存角膜を用いた角膜上皮形成術

2019年6月30日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦421.再発翼状片に対する冷凍保存角膜を吉岡誇市立福知山市民病院用いた角膜上皮形成術福岡秀記京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①再発翼状片図1初診時の前眼部写真右眼2-4時に薄い再発翼状片組織の侵入を認める.瞼球癒着・眼球運動障害は認めなかった.図3角膜上皮形成術翌日のフルオレセイン染色所見2-4時角膜輪部近傍にフルオレセインにより染色される移植されたレンティクルを認める.術直後よりソフトコンタクトレンズを装用している.図5術後6カ月の前眼部写真再発翼状片があった部位に瘢痕性混濁を若干残すも,再発を認めない.(67)あたらしい眼科Vol.36,No.6,20197710910-1810/19/\100/頁/JCOPY翼状片が発生する機序は明らかになっていないが,角膜への結膜下線維性増殖組織と結膜侵入を本態とする疾患である.再発においても線維芽細胞が関連している可能性が高いため,若年,強い充血や結膜下線維組織の多い翼状片,再発症例で再発しやすいことが知られている1).治療に際してはこれらを考慮し,再発を予防する工夫が重要である.また,再発翼状片では,初回もしくは複数回の手術の瘢痕形成や結膜.短縮による眼球運動障害を合併しており,それらにも対処する必要がある2).翼状片の再発は,残存した結膜下組織が増殖することや,角膜輪部バリア機能不全のために,角膜へ結膜が侵入すると考えられる.翼状片の再発を予防するためには,これらの病態をどのように対処するかが手術の鍵となっており,自己結膜移植,羊膜移植,角膜上皮移植などが利用されている3).結膜下組織の異常増殖を予防するには,病的結膜下組織を可能なかぎり切除することが重要であることはいうまでもない.それに加え,線維芽細胞増殖を抑制するためにマイトマイシンC(MMC)を術中使用することも有用である2,3).しかし,頻度は少ないものの強膜軟化症や無菌性角膜潰瘍といった重大な合併症が長期にわたって生じる可能性があり,使用には注意が必要である.また,羊膜移植も再発翼状片手術において用いられる.羊膜は,結膜短縮をきたしている症例などにおいて結膜再建を行う場合に有用である.さらに線維性増殖をきたす結膜下線維芽細胞のtransformationgrowthfactor-b(TGF-b)およびそのレセプターの発現を抑制し,凍結保存羊膜中にはepidermalgrowthfactor(EGF),keratinocytegrowthfactor(KGF),hepatocytegrowthfactor(HGF)などの角結膜上皮の創傷治癒促進効果を有する成長因子が発現するため,翼状片手術に適している3).次に角膜上皮形成術(keratoepithelioplasty:KEP)があげられる.この術式は結膜の免疫担当細胞の侵入を抑制できるため,もともとMooren潰瘍に有効な治療として報告されている4,5).再発翼状片に対しては,凍結保存角膜を用いたKEPが有効である.これは,コラーゲンにより構成されるBowman膜が翼状片の侵入を物理的に阻止していることによると考えられる.そのため再発翼状片などの活動性が高く角膜輪部バリア機能の再建を重視すべき場合は,選択されるべき術式の一つである.症例は46歳の男性で,3年前に前医で右翼状片に対してMMCを併用し単純切除および有茎結膜弁移植を施行された.術後再発をきたし,当院を紹介受診となった.受診時所見として,2-4時方向の角膜輪部から瞳孔領まで比較的広く翼状片が角膜へ侵入していた(図1,2)が,すでに鼻側結膜はTenon.組織も薄く,十分に消炎されたため,右再発翼状片単純切除およびKEPを施行した.角膜輪部より約2mmの位置まで結膜・結膜下線維組織を強膜部分まで切開切除し,スパーテルを用いて角膜上の結膜も.離した.0.04%MMCは使用せず,幅2mmの凍結保存角膜から作成したレンティクルを10-0ナイロンで角膜輪部に沿うように移植し,SCLを装用して終了した(図3,4).術後,6カ月経過しているが,再発を認めず経過良好である(図5).本症例は,KEPの単純な効果の理解を助ける症例である.文献1)檜森紀子,中澤徹,劉猛林ほか:初発・再発翼状片の手術成績と翼状片再発の危険因子.あたらしい眼科25:1421-1425,20082)川崎史朗,宇野敏彦,島村一郎ほか:マイトマイシンC術中塗布と羊膜移植を併用した再発翼状片の手術成績.日眼会誌107:316-321,20033)福岡秀記,稲富勉,中村隆宏ほか:羊膜移植による再発翼状片手術の術後成績.あたらしい眼科24:381-385,20074)KinoshitaS,OhashiY,OhjiMetal:Long-termresultsofkeratoepithelioplastyinMooren’sulcer.Ophthalmology98:438-445,19915)粉川範子,西田幸二,横井則彦ほか:周辺部角膜潰瘍の外科的治療─上皮なしのLenticuleを用いたKeratoepithelio-plasty.あたらしい眼科12:1151-1153,1995

総説:第23回 日本糖尿病眼学会総会 特別講演Ⅱ(眼科) 糖尿病網膜症の病態と治療-臨床と基礎研究の接点-

2019年6月30日 日曜日

あたらしい眼科36(6):757~770,2019c第23回日本糖尿病眼学会総会特別講演Ⅱ(眼科)糖尿病網膜症の病態と治療─臨床と基礎研究の接点─PathophysiologyandTreatmentofDiabeticRetinopathy:ClinicalandBasicResearch池田恒彦*共同研究者:奥英弘*1杉山哲也*1植木麻理*1小嶌祥太*1喜田照代*1小林崇俊*1柴田真帆*1佐藤孝樹*1福本雅格*1森下清太*1糸井恭子*1中泉敦子*1細木安希子*1西川優子*1堀江妙子*1中村公俊*2宮崎瑞夫*3高井真司*4はじめに筆者の専門は網膜硝子体手術であるが,筆者自身が硝子体手術を手がけ始めた昭和60年頃は硝子体手術の黎明期で,当時の糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)に対する手術成績は決して良好なものではなかった.その後,硝子体手術はめざましい進歩を遂げ,最近では高速回転カッターを用いたmicro-incisionvitrecto-mysurgery(MIVS)やワイドビューイングシステムの普及で,手術成績は著しく向上した1).しかし,増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)に対する硝子体手術後には再増殖,再.離,血管新生緑内障,視神経萎縮などの併発症をきたす頻度が高い.手術成績を向上させるには病態解明が重要であるが,当時は硝子体中のサイトカインを測定するという臨床研究2~6)や,網膜の主要なグリアであるMuller細胞に関する基礎研究7~10)などを行った.しかし,DRの臨床像はきわめて多彩であり,病態解明にはPDRのみを対象とするのではなく,各病期で総合的に研究する必要性を感じた.そして,日常臨床で感じる素朴な疑問を出発点として,分子生物学,生化学,病理学などの手法を用いながら病態を解明する研究をライフワークにしてきた.本稿では,筆者らのDRに関する病態研究のうち「DRの7不思議」ともいえる次の七つの項目について述べる.I.糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)はなぜ黄斑部に生じるのか,II.硬性白斑が中心窩に徐々に集積するのはなぜか,III.急激な血糖コントロールでDRが悪化するのはなぜか,IV.局所性浮腫で硬性白斑はなぜ輪状になるのか,V.DMEに硝子体手術が奏効するはなぜか,VI.PDRでもDMEをまったく認めない症例があるのはなぜか,VII.DRでしばしば血管の白鞘化を認めるのはなぜか.IDMEはなぜ黄斑部に生じるのかDRに限らず網膜浮腫は,なぜ黄斑部にしばしば生じるのであろうか.網膜浮腫は血管透過性亢進によって生じるが,なぜ無血管である中心窩に浮腫が生じやすいのかという素朴な疑問が湧いてくる.黄斑部に特異的に生じる疾患は黄斑上膜,黄斑円孔,DMEをはじめとして多くの疾患がある.黄斑部には中心窩陥凹および無血管野があり,網膜の構造が他の部位とは大きく異なる.1.特発性黄斑円孔の閉鎖機序DRから少し話は外れるが,黄斑部の特殊性を解明するため,筆者らは特発性黄斑円孔(idiopathicmacularhole:IMH)の発症および硝子体手術後の閉鎖機序について研究してきた.IMHの発症機序としては,Kishiらが提唱した後部硝子体皮質ポケット後壁の硝子体ゲルによる牽引の関与が知られており,IMHの閉鎖はこの牽*1TsunehikoIkeda,HidehiroOku,TetsuyaSugiyama,MariUeki,ShotaKojima,TeruyoKida,TakatoshiKobayashi,MahoShibata,TakakiSato,MasanoriFukumoto,SeitaMorishita,KyokoItoi,AtsukoNakaizumi,AkikoHosoki,YukoNishikawa,TaekoHorie:大阪医科大学眼科学教室*2KimitoshiNakamura:中村眼科*3MizuoMiyazaki:大阪医科大学薬理学教室*4ShinjiTakai:大阪医科大学創薬医学教室〔別刷請求先〕池田恒彦:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室2522.52017.51512.5107.552.50黄斑部B黄斑と赤道の赤道部A,C周辺部D中間E図1サル眼網膜の各部位におけるネスチン陽性細胞ネスチン陽性細胞は黄斑部にもっとも多く,周辺にいくに従い減少し,最周辺部でまた少し増加していた.(文献25より引用)引が解除されることによるとされてきた11).しかし,IMHの病態にはこのようなメカニカルな機序のみではなく,中心窩網膜には網膜再生能力をもつ細胞が存在し,それがIMHの閉鎖機序に関与するのではないかという仮説のもとに研究を行ってきた12).その一つの根拠として,IMHに対する硝子体手術後の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見を見ると,中心窩網膜の層状構造が徐々に修復し,それに平行して視力が改善してくる.近年普及しているinverted.ap法13)施行例でも,最初は蓋をした中心窩網膜にみられる空洞が時間の経過とともに徐々に埋まっていき,最終的には層状構造をもった中心窩網膜が復活する.胎児皮膚のような未分化で幼弱な組織は,傷をつけても再生して瘢痕を残さずに治癒するが,その現象をscarlesswoundhealingとよび,その修復には組織幹細胞が関与するとされている14,15).IMHの術後OCTにおける中心窩網膜の修復過程をみたときに,この現象と共通するものを感じた.2.中心窩網膜と組織幹細胞かつては脳のような中枢神経は再生しないと考えられてきたが,最近の研究で脳の海馬や脳室下帯には神経幹細胞が存在することが証明されている16,17).海馬は記憶や学習に関与する組織で,ストレスを受けやすい部位である.また,全身のほとんどの臓器に組織幹細胞が存在することが知られているが,小腸の陰窩や毛胞のバルジなどはいずれも組織が陥凹した部位に組織幹細胞が存在する18,19).また,組織幹細胞は生涯を通して未分化な状態を維持する必要があり,普段は眠っていて必要に応じて組織を構成する細胞に分化するため,骨髄造血幹細胞のendostealnicheや心臓幹細胞のnicheのように低酸素の環境が必要とされている20).脳と同じ中枢神経の一部である網膜にも毛様体との境界部(ciliarymarginalzone)に組織幹細胞が存在し,とくに魚類では一生を通じ神経細胞,グリア細胞,視細胞に分化していることが知られている21).最近,成体哺乳類でも周辺部網膜に再生能力をもつ細胞が存在することが報告されている22).ストレスを受けやすい脳の海馬と同様に,中心窩は常に光のストレスを受け続けている.また,中心窩は陥凹しており,無血管で低酸素状態にある.このような他の組織幹細胞にみられるような特徴を有していることから,中心窩網膜には組織幹細胞が存在するのではないかという仮説を立てた.Fisherらは,Muller細胞が脱分化して網膜前駆細胞になることを報告し23),Takahashiらも,傷害を受けたMuller細胞が網膜を構成する種々のニューロンに分化することを報告した24).これらの研究によりMuller細胞と神経再生の関連が注目されるようになった.筆者らは,サル眼を使用して中心窩を含む黄斑部組織切片を作製し,神経幹細胞のマーカーであるネスチンで染色してみた.その結果,ネスチン陽性細胞が黄斑部にもっとも多く,周辺に行くに従い減少し,最周辺部でまた少し増加するといった興味深い結果を得た(図1)25).遺伝子発現をrealtime-polymerasechainreaction(PCR)で分析した結果も同様に,黄斑部にもっとも高いネスチンの発現がみられた26).黄斑部にはほかの網膜部位とは異なりネスチン陽性の未分化な細胞が多く,幼若性を有する可能性が考えられる.3.DMEとヒアルロン酸ここで話をDRに戻す.DMEの発症機序を考えるう図2Muller細胞におけるヒアルロン酸結合蛋白(CD44)の発現bFGFとインスリンを培養上清中に添加することで,培養Muller細胞を脱分極させたところ,CD44の発現が増加した.(文献28より引用)えで,ヒアルロン酸という分子に着目した.一般に幼弱な組織にはヒアルロン酸が多く,組織幹細胞や癌幹細胞はヒアルロン酸を産生することが知られている27).また,ヒアルロン酸は,多数の水酸基を有し親水性で保水作用があることが知られている.そこで筆者らは,培養Muller細胞を用いてヒアルロン酸結合蛋白の発現を調べた.その結果,bFGFおよびインスリンで培養Muller細胞を脱分化させると,ヒアルロン酸結合蛋白の一つであるCD44の発現が増加した(図2)28).PDRの硝子体中にはbFGFやインスリンと受容体を共有するIGF-1などのサイトカイン濃度が上昇することが知られている29,30).これらのサイトカインが中心窩に存在する.Muller細胞を脱分化させ,CD44の発現を高めることで,中心窩にヒアルロン酸が蓄積される.その結果としてヒアルロン酸が周囲から水を引き寄せ,黄斑浮腫が生じるのではないかと考えられる(図3a,b).II硬性白斑が中心窩に徐々に集積するのはなぜかヒアルロン酸は保水作用に加えて,脂質の特徴である図3DMEと中心窩硬性白斑集積の発症機序(仮説)中心窩におけるヒアルロン酸結合蛋白の発現増加により,ヒアルロン酸が増加し,周囲から水が引き寄せられてDMEが生じる(a,b).また,ヒアルロン酸の疎水部分と脂質が複合体を形成することで中心窩に硬性白斑が集積する(c).疎水領域も有し,脂質と複合体を形成することが知られている31).硬性白斑の主成分はリポ蛋白であり,中心窩で産生が増加したヒアルロン酸が脂質と複合体を形成し,これが中心窩に蓄積するために硬性白斑の中心窩集積が生じるのではないかと考えられる(図3c).III急激な血糖コントロールでDRが悪化するのはなぜか急激な血糖コントロールでDRが悪化する原因としては,網膜血流量の増加,浸透圧の変化などが指摘されている32,33).また,治療前のHbA1cが高値あるいは長期間HbA1cが高値であった症例では,血糖コントロールaインスリン投与b相対値1.21.110.90.80.70.6controlinsulinglucose(25mM)+Insulin図4摘出網膜血管におけるインスリンのNO合成能ラットの摘出網膜血管におけるNO合成能はインスリンの投与により増加した(a).一方,高グルコース下ではインスリンによりNOの産生はむしろ減少した(b).(文献39より引用改変)後にDR増悪例が多いとされている.さらに,食事療法よりもインスリンによるHbA1cの急激な低下によってDMEが悪化しやすいとする報告があり34),インスリンが浮腫の発症に関与している可能性が示唆される.1.インスリンと一酸化窒素インスリンは血管内皮細胞から一酸化窒素(nitricmonoxide:NO)を遊離させることで血管を拡張し,血流を増加させることが知られている35).また,一酸化窒素合成酵素(nitricoxidesynthase:NOS)のうちの誘導型(inducible)NOS(iNOS)がDRにおける血液網膜関門の破綻に関与するとする報告36)や,血管内皮型(endothelial)NOS(eNOS)遺伝子が2型糖尿病の黄斑浮腫と関連するという報告がみられる37).また,脳や網膜のような中枢神経系ではニューロン,グリア細胞,血管がneurovascularunitという構造を介して,相互に干渉し合っていることが注目されているが,これにもNOSが関与している38).そこで筆者らは,tissueprint法という手法を用いてラットの摘出網膜血管におけるインスリンのNO合成能をみてみた.その結果,インスリン投与によりNOの蛍光強度が増加した(図4a).一方,高グルコース下ではインスリンによりNO産生はむしろ減少した(図4b)39).これらの病態は複雑であるが,iNOSやeNOS,および活性酸素によるNOの消去とのバランスが,インスリン治療導入直後のDRの一時的な悪化の一因となる可能性が考えられる.2.DMEとaquaporin4DMEの成因に血管透過性亢進作用を有する血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与することはよく知られており,近年,DMEの治療法として抗VEGF療法が普及している.筆者らは,VEGF以外の網膜血管透過性亢進の原因として,aqua-porin4(AQP4)に着目した.AQP4は水チャンネルとして発見され,脳浮腫の発症に関与することが知られて赤:AQP4,緑:GFAPcontrolSTZratGFAPmerge20μm図5ラット網膜におけるアクアポリン4(AQP4)とGFAP免疫組織染色STZラットの網膜において,AQP4の発現は健常ラットより増強していた(a,b).また,AQP4の発現はGFAPと共染色した(c).(文献43より引用)abcount200AddTGN-020VEGF100TGN-020+VEGF001020304050celldiameter(μm)TGN-020:AQP4阻害薬図6培養Muller細胞における細胞容積変化(FACS解析)VEGFに暴露したMuller細胞の細胞容積は増大し(a,b),AQP4の阻害薬であるTGN-020によりその増大は抑制された(c).いる40)が,Muller細胞やアストロサイトなどのグリア細胞で発現がみられるとする報告がある41).また,低酸素条件下のアストロサイトでは低酸素誘導因子1(hypox-ia-induciblefactor-1:HIF-1)を介してVEGFおよびAQP4の発現が増強し,血管透過性が亢進することが知られている42).筆者らは,ラット網膜切片を用いてAQP4とglial.brillaryacidicprotein(GFAP)免疫組織染色を行ったところ,糖尿病モデルであるstreptozotocin(STZ)ラットの網膜におけるAQP4の発現は健常ラットより増強(文献43より引用)していた.また,AQP4の発現はGFAPと共染色した(図5)43).このことは,糖尿病における網膜内のMuller細胞がAQP4やVEGFをより多く発現し,浮腫の一因になっていることを示している.次に,培養Muller細胞における細胞容積の変化を.uorescenceactivatedcellsorter(FACS)解析で調べた.その結果VEGFに暴露したMuller細胞の細胞容積は増大し,AQP4の阻害薬であるTGN-020によりその増大は抑制された(図6)43).つまり,DMEはMuller細胞がVEGFやAQP4の作用により,細胞そのものが図7硬性白斑の疾患による発現パターンの違い局所性DMEでは毛細血管瘤周囲に硬性白斑が輪状に沈着(輪状網膜症)することが多い(a).一方でCoats病では血管に接して硬性白斑が漏出しリング状にならないことが多い(b).膨化することも浮腫の一因になっている可能性が考えられる.細胞容積調節の分子メカニズムには,膨化した細胞を元の大きさに戻そうとするregulatoryvolumedecreaseと,その逆のregulatoryvolumeincreaseがある.また,その調節がうまくいかなかった場合には,細胞がアポトーシスやネクローシスに陥ることが知られている44).このようなメカニズムが中心窩網膜細胞で働いているとしたら,抗VEGF療法の経過中にDMEが寛解増悪することや,遷延するDMEでは視力予後が不良となることの説明になるかもしれない.IV局所性浮腫で硬性白斑はなぜ輪状になるのかDMEの病型の一つに,毛細血管瘤周囲に硬性白斑が輪状に沈着するいわゆる輪状網膜症があり,日常臨床でしばしば遭遇する.しかし,硬性白斑はなぜ輪状になるのかについては明確な答えがない.同じ硬性白斑が網膜に漏出するCoats病では,血管に接して硬性白斑が生じてリング状にならないのとは対照的である(図7).1.DRと炎症DRの病態に炎症が関与することは,現在では広く受け入れられている.その根拠として,糖尿病患者の網脈絡膜での白血球接着分子の発現亢進45),脈絡膜毛細血管での多核白血球浸潤46),糖尿病ラットの微小循環系における白血球捕捉現象47),慢性炎症を亢進させる作用のあるレニン・アンジオテンシン系との関連48)などが報告されている.われわれが日常臨床で行っているステロイドの硝子体注射やTenon.注射は,ステロイドの抗炎症作用を利用していると考えられる.2.DRと自己免疫近年,炎症に加えて,DRと自己免疫の関連が注目されている.自己免疫疾患には組織適合抗原(humanleu-kocyteantigen:HLA)の多様性が関与しており,その発症や進展には個体差が大きい.DRもその発症や進展に大きな個体差が認められるが,HLAクラスII分子であるHLA-DRやHLA-DQの多型(polymorphism)がDRの進展に関与することが報告されている49).また,DR患者の血清中に周皮細胞に対する自己抗体がみられたとする報告50)や,シクロスポリンなどの免疫抑制薬がDMEの治療に有効であったとする報告51)が散見される.糖尿病を発症して長期間経過してもDRにならない症例は,DRを引き起こすような免疫反応が起きにくい体質であると考えられる.3.DRとII型コラーゲン炎症と自己免疫が病態に関与する代表的な疾患に関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)がある.RAは関節腔に炎症をきたし新生血管を生じる疾患で,この関節腔には硝子体と同様にヒアルロン酸が,関節軟骨にはII型コラーゲンが豊富に存在する.RAの初期では,血清および関節液の抗II型コラーゲン抗体価の上昇がみられることが報告されており52),関節内でII型コラーゲンに対するIII型アレルギー反応が生じて関節軟骨の破壊が生じるとされている.この関節腔と硝子体腔の解剖学的構造および構成要素(II型コラーゲンとヒアルロン酸)が類似していることに着目した.DR患者ではすべての病期において血清および涙液中の抗II型および抗IV型コラーゲン抗体が陽性であるとする報告53)があり,筆者らもDR患者の血清中抗II型コラーゲン抗体価を測定してみたところ,同様にDR患者では,血清中の抗体価がコントロールに比較して有意に上昇しているという結果を得た54).興味深いことに,非糖尿病網膜症(nondiabeticretinopathy:NDR)群のほうが網膜症をすでに発症している群よりも高値であった(図8).DR発症以前の早期から抗II型コラーゲン抗体価が上昇しているということは,DR発症にII型コラーゲンを介した免疫反応が関与していることを示唆している.一方,内耳にもII型コラーゲンを含む軟骨が存在し,蝸牛の中央階の内リンパ液にはヒアルロン酸が豊富に含まれている.この部位が侵されるメニエール病,耳硬化症などの耳鼻科疾患でも抗II型コラーゲン抗体価が血清中で上昇していることが報告されている55).これらの関節腔,内耳,硝子体にはいずれもII型コラーゲンとヒアルロン酸が存在し,それぞれ関節液,リンパ液,硝子体液で満たされている.興味深いことにこれらの組織は,いずれもblood-joint-barrier56),blood-labyrinth-barrier57),blood-ocular-barrier58)といったバリアー機構が存在し,II型コラーゲンが血液中の免疫細胞から隔絶された状態にある.そしてこのバリアー破綻によってもともと存在していた免疫寛容が失われ,関節水腫を伴うRA,内リンパ水腫を伴うメニエール病,黄斑浮腫を伴うDRが発症するのではないかと考えられる.4.輪状網膜症の発症機序抗原と抗体の両者をほぼ等量で混合したときに抗原抗体複合体が凝集して沈降物を作ることを応用したOuchterlony法という検査法がある.ゲル内を移行中の抗体が抗原蛋白と遭遇するとそれぞれが等量濃度になった時点で免疫沈降線を形成するが,これと同様のことが輪状網膜症で生じている可能性がある.すなわち毛細血管瘤から漏出した抗II型コラーゲン抗体価の高い血漿成分が周囲に拡散するに従い希釈され,硝子体中(もしくは網膜中)のII型コラーゲンと等量になった時点で免疫複合体を形成し,フィブリンとともに沈着することにUnits/ml140120100806040200ControlDRNDR図8DR症例の血清中抗II型コラーゲン抗体価DR患者の血清中の抗II型コラーゲン抗体価はコントロールに比較して有意に上昇していた.(文献54より引用)よって輪状網膜症を形成するのではないかと推測される.RAを含む膠原病ではフィブリノイド変性を組織学的特徴とするが,フィブリノイド変性では免疫複合体がフィブリンと共に沈着しており,抗II型コラーゲン抗体が関与するDRの硬性白斑はフィブリノイドである可能性がある.VDMEに硝子体手術が奏効するはなぜかLewisら59)やTachiら60)の報告以来,硝子体手術はDME治療の一つの選択肢になった.手術無効例はあるものの,大半の症例では硝子体を切除することで血管透過性は低下する.DMEに対する硝子体手術の奏効機序としては,硝子体腔内のサイトカインの除去,網膜硝子体牽引の除去などが推測されているが,上記の仮説がもし事実なら,免疫反応の原因となっているII型コラーゲンという抗原そのものを除去することが奏効機序の一つとして考えられる.DRにしばしばみられる硬性白斑が単なるフィブリンではなく,免疫複合体を含むフィブリノイドの沈着だとすると,硝子体を除去するだけで徐々に網膜内(あるいは網膜下)の硬性白斑が減少する機序の説明になるかもしれない(図9).VIPDRでもDMEをまったく認めない症例があるのはなぜか網膜無灌流域を認めない単純糖尿病網膜症(simplediabeticretinopathy:SDR)でもDMEをきたす症例がある一方で,著明な新生血管を認めるPDRでもDME図9硝子体手術後の硬性白斑の減少(a:術前,b:術後)著明な網膜内(網膜下)の硬性白斑は硝子体を除去するのみで,術後徐々に減少していく.図10DRの重症度とDMEの乖離網膜無灌流域を認めないCSDRでもCDMEをきたす症例(Ca)がある一方で,著明な新生血管を認めるCPDRでもDMEをまったく認めない症例(Cb)もあり,DMEの程度はCDRの重症度に必ずしも比例しない.をまったく認めない症例もある(図10).この乖離はなぜ生じるのであろうか.前述したように,DRの進行にはCHLA遺伝子多型の関与が大きいことが知られており61),免疫状態の違いが血管新生を生じるか,浮腫を生じるかを分ける一因となっている可能性がある.C1.糖尿病黄斑浮腫とTh1.Th2バランスTリンパ球には,細胞性免疫に関与し自己免疫疾患や遅延型アレルギーを引き起こすCTh1細胞と,液性免疫に関与し即時型アレルギーを引き起こすCTh2細胞がある.このCTh1細胞とCTh2細胞が産生するサイトカインのバランスが,種々の疾患の病態に関与することはよく知られている62).Th2細胞から産生されるインターロイキンC4やインターロイキンC13などのサイトカインは,肥満細胞の成熟分化を促進させ,血管透過性亢進に関与する種々のケミカルメディエータの産生につながる.そこで筆者らは,DMEの重症度でCTh1/Th2バランスに差がないか調べてみた.その結果,DMEが重症なほど,Th1/Th2バランスがCTh2にシフトしていることがわかった(図11)63).このような体質の違いがCDRの重症度とCDMEの乖離に関与している可能性がある.近年,DRとCTh1/Th2バランスの関連を検討した報告も増加している64~66).C2.Th1.Th2バランスと衛生環境仮説衛生環境仮説(hygieneChypothesis)とは,非衛生的環境ではCTh1細胞が優位となり,衛生的環境ではCTh2ることが知られており,このような現象を免疫修飾(immunomodulation)とよぶ70).DMEが経過観察中に特別な治療なしで自然寛解することは日常臨床でしばしば経験する.図12は左眼のみ硝子体手術を施行し,DMEの推移をみていた症例で,9年という長い経過中に硝子体手術を施行した左眼だけでなく,無治療の右眼細胞が優位となるというものである67~68).正確な疫学的統計はないが,日本人は欧米人に比較してCDMEが多いとされている.その原因の一つに,日本ではCTh2優位の体質の人が増加している可能性が考えられる.かつC30て,ぶどう膜炎のなかで最多であったCBehcetC’s病が最近かなり減少しているのは,BehcetC’s病がCTh1優位の疾患である69)ことに起因している可能性がある.さらTh1/Th220に,即時型アレルギーの代表的疾患である花粉症の著しC10い増加も,現在の日本人がCTh2優位の状態になっている傍証となる.浮腫あり浮腫あり矯正視力0.2以上矯正視力0.1以下3.Th1.Th2バランスと免疫修飾図11DMEとTh1.Th2バランスTh1/Th2バランスは同一症例でも長い経過で変化すDMEが重症であるほど,Th1/Th2バランスがCTh2にシフトしていた.(文献C63より引用改変)2007年1月(29歳)2008年4月(30歳)2016年11月(38歳)RV=(0.08)RV=(0.15)RV=(0.5)LV=(0.06)LV=(0.1)LV=(0.5)図12DMEの自然寛解左眼のみ硝子体手術を施行しCDMEの推移をみていた症例で,9年という長い経過中に硝子体手術を施行した左眼だけでなく,無治療の右眼のCDMEも軽快した.図13透析中のDRにおける網膜動脈の白鞘化視神経乳頭周囲の網膜動脈に沿って白鞘化した部分がまだらにみられる.のCDMEも軽快している.このような症例はCDMEの自然寛解にCTh1/Th2バランスなどの免疫状態の変化が関与している可能性が考えられる.DRも糖尿病という全身疾患の一部ととらえて,免疫状態を含む全身的な因子にも目を向けるべきであろう.CVIIDRでしばしば血管の白鞘化を認めるのはなぜか図13は透析中のCDR症例であるが,視神経乳頭周囲の網膜動脈に沿って白鞘化した部分がまだらにみられる.このような所見は日常臨床でしばしば遭遇する.同じような血管の白鞘化が心臓の冠状動脈や腎臓の血管にも認められ,これらは血管の石灰化であることが報告されている71).網膜動脈のような細動脈と心臓や腎臓のような比較的太い動脈との違いはあるものの,これらの所見が非常に類似していることに着目した.C1.低酸素により誘発される網膜血管の白鞘化これが網膜血管の石灰化であることを示唆するきっかけになった症例を提示する.症例はC65歳の女性.コントロール良好の糖尿病,軽度の脂質異常症,高血圧があり,初診時には網膜血管の白鞘化は認めなかった(図14a).両眼ともに硝子体出血と牽引性網膜.離をきたしたため,硝子体手術を施行したが術後に再.離をきたした.そのときに網膜動脈の著明な白鞘化を認めた(図14b).再手術でシリコーンオイルタンポナ-デを行い,シリコーンオイル下で網膜は復位したが,血管の白鞘化は持続していた(図14c).フルオレセイン蛍光眼底検査では,網膜の血流は保持されており(図14d),OCTで白鞘化した血管部位に通常の網膜血管よりもはるかに強いCacousticshadowを認めた(図14e)72).C2.血管周囲細胞の形質転換血管周囲には,骨細胞,軟骨細胞,脂肪細胞などに分化する能力のある間葉系幹細胞が存在し,低酸素状態で骨細胞に分化しやすいことが知られている73).血管壁細胞や血管平滑筋細胞も間葉系幹細胞の性格があり,骨芽細胞に分化する能力を有する74,75)ため,図14の症例はDRというもともとの循環障害があったうえに,網膜再.離によって虚血状態がさらに増悪し,網膜動脈周囲の間葉系幹細胞などの細胞が骨細胞に分化し,石灰化が生じたのではないかと推測される.C3.DRと血管石灰化DRでは,網膜動脈の平滑筋細胞において骨化を促進する作用のあるCreceptorCforCadvancedCglycationCend-products(RAGE)の発現が増加しているとする報告76),RAGEのCligandであるAGE,highmobilitygroupbox1(HMGB1),S100蛋白質がCDRの増殖膜で認められたとする報告77),骨形成サイトカインである骨形成蛋白(boneCmorphogeneticCprotein2:BMP2)がCDR患者のd図14低酸素により誘発されると考えられる網膜動脈の白鞘化硝子体手術前には網膜動脈の色調は正常であった(Ca)が,術後の再.離時に著明な白鞘化を認めた(Cb).再手術後,シリコーンオイル下で網膜は復位したが,血管の白鞘化は持続していた(Cc).フルオレセイン蛍光眼底検査では,網膜の血流は保持されており(Cd),OCTで白鞘化した血管部位には強いCacousticshadow(赤で囲った部分)を認め,血管壁が石灰化している可能性が考えられた(Ce).眼内で増加しているとする報告78,79)などもあり,この網膜動脈の白鞘化が血管の石灰化であるという推測を裏付けている.CVIIIDRに対する新治療の可能性項目I~IIIの結果から,DMEの新治療の可能性としてヒアルロン酸合成酵素阻害薬などヒアルロン酸をターゲットとした治療法が考えられる.ヒアルロン酸合成酵素阻害薬は,すでに膵臓癌の領域では臨床応用に向HTC研究が進んでいる80).また,NOS阻害薬などのNOをターゲットとした治療法や,AQP4阻害薬などAQP4をターゲットとした治療法の可能性も考えられる.また,項目CIVとCVの結果から,DMEの治療として免疫抑制薬が一つの候補として考えられ,すでにいくつかの報告が出ている51).最近では,抗CVEGF療法がDME治療の主流となっているが,従来行われていた硝子体手術がもう一度見直されてもいいのではないかと思われる.項目CVIの結果からは,Th1/Th2バランスを整えるといった体質改善がCDME治療の候補の一つになるかもしれない.実際,Th1/Th2バランスをCTh1側にシフトさせる薬剤はいくつかあり81),今後の検討課題と考えられる.(文献C72より引用)おわりに以上,DRの日常臨床で疑問に感じる所見を出発点とした筆者らの病態解明研究について述べた.これらの内容はまだまだ発展途上であり,今後さらに検討しなければならないことが数多く残されている.これらはあくまでも問題提起ということで,今後の若い世代の先生方のDR研究の一助となれば幸いである.われわれ臨床医は,日頃何気なく通りすぎていく大切な臨床所見を見逃すことなく,そこから得られる素朴な疑問を大切にしながら,いろいろな研究のアプローチを駆使して病態解明をしていく必要がある.これは臨床医にしかできない研究手法であり,今後も日々の診察を大切にしながら,重要な所見を見逃すことなく病態解明に結びつけていきたい.謝辞:稿を終えるにあたり,昭和C59年からC9年間にわたり硝子体手術をご指導いただいた田野保雄先生(大阪大学眼科学教室前教授,故人),20年以上の長きにわたり基礎研究のご指導をいただいた中村公俊先生(長野県松本市,中村眼科院長)に心より御礼申し上げます.また,第C23回日本糖尿病眼学会における特別講演の機会をお与えいただきました今泉寛子先生(市立札幌病院眼科部長),座長の労をおとりいただきました小椋祐一郎先生(日本糖尿病眼学会理事長,名古屋市立大学医学部眼科学教室教授),日本糖尿病眼学会の理事の先生方,いつも筆者の研究に深いご理解と励ましの言葉をいただいております三宅養三先生(愛知医科大学理事長),岸章治先生(群馬大学眼科学教室前教授)にもこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.最後に本研究に尽力してくれた教室員,とくに奥英弘准教授,喜田照代講師に深謝致します.文献1)FujiiCGY,CDeCJuanCECJr,CHumayunCMSCetal:ACnewC25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuture-lessvitrectomy.OphthalmologyC109:1807-1812,C20022)HirataC,NakanoK,NakamuraNetal:Advancedglyca-tionendproductsinduceexpressionofvascularendotheli-alCgrowthCfactorCbyCretinalCMullerCcells.CBiochemCBiophysCResCommunC236:712-715,C19973)HiraseCK,CIkedaCT,CSotozonoCCCetal:TransformingCgrowthfactorbeta2inthevitreousinproliferativediabet-icretinopathy.ArchOphthalmolC116:738-741,C19984)NishimuraCM,CIkedaCT,CUshiyamaCMCetal:IncreasedCvit-reousCconcentrationsCofChumanChepatocyteCgrowthCfactorCinCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJClinCEndocrinolCMetabC84:659-662,C19995)OkuCH,CKidaCT,CSugiyamaCTCetal:PossibleCinvolvementCofCendothelin-1CandCnitricCoxideCinCtheCpathogenesisCofCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CRetinaC21:647-651,C20016)InokuchiN,IkedaT,ImamuraYetal:Vitreouslevelsofinsulin-likeCgrowthCfactor-ICinCpatientsCwithCproliferativeCdiabeticretinopathy.CurrEyeResC23:368-371,C20017)IkedaT,PuroDG:Nervegrowthfactor:amitogenicsigC-nalCforCretinalCMullerCglialCcells.CBrainCResC649:260-264,C19948)IkedaT,PuroDG:Regulationofretinalglialcellprolifera-tionbyantiproliferativemolecules.ExpEyeResC60:435-443,C19959)IkedaCT,CWaldbilligCRJ,CPuroDG:TruncationCofCIGF-ICyieldsCtwoCmitogensCforCretinalCMullerCglialCcells.CBrainCResC686:87-92,C199510)IkedaCT,CHommaCY,CNisi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mplicationCofCVEGFCandCaquaporin4mediatingMullercellswellingtodiabeticreti-naledema.GraefesArchClinExpCOphthalmolC255:1149-1157,C201744)OkadaY:CellCvolume-sensitiveCchloridechannels:phe-notypicpropertiesandmolecularidentity.ContribNephrolC152:9-24,C200645)McLeodDS,LeferDJ,MergesCetal:Enhancedexpres-sionofintracellularadhesionmolecule-1andP-selectininthediabetichumanretinaandchoroid.AmJPatholC147:C642-653,C199546)LuttyCGA,CCaoCJ,CMcLeodDS:RelationshipCofCpolymor-phonuclearCleukocytesCtoCcapillaryCdropoutCinCtheChumanCdiabeticchoroid.AmJPatholC151:707-714,C199747)MiyamotoCK,CHiroshibaCN,CTsujikawaCACetal:InCvivoCdemonstrationCofCincreasedCleukocyteCentrapmentCinCreti-nalmicrocirculationofdiabeticrats.InvestOphthalmolVisSciC39:2190-2194,C199848)SatofukaS,IchiharaA,NagaiNetal:(Pro)reninrecep-tor-mediatedCsignalCtransductionCandCtissueCrenin-angio-tensinCsystemCcontributeCtoCdiabetes-inducedCretinalCin.ammation.DiabetesC58:1625-1633,C200949)AwaWL,BoehmBO,RosingerSetal:HLA-typing,clini-cal,andimmunologicalcharacterizationofyouthwithtype2CdiabetesCmellitusCphenotypeCfromCtheCGerman/AustrianCDPVdatabase.PediatrDiabetesC14:562-574,C201350)NayakRC,AgardhCD,KwokMGetal:Circulatinganti-pericyteCautoantibodiesCareCpresentCinCTypeC2CdiabeticCpatientsandareassociatedwithnon-proliferativeretinop-athy.DiabetologiaC46:511-513,C200351)DugelCPU,CBlumenkranzCMS,CHallerCJACetal:ACrandom-ized,dose-escalationstudyofsubconjunctivalandintravit-realinjectionsofsirolimusinpatientswithdiabeticmacu-laredema.OphthalmologyC119:124-131,C201252)TeratoCK,CShimozuruCY,CKatayamaCKCetal:Speci.cityCofCantibodiesCtoCtypeCIICcollagenCinCrheumatoidCarthritis.CArthritisCRheumC33:1493-1500,C199053)BalashovaCLM,CZa.tsevaCNS,CTeplinskaiaCLECetal:Anti-bodiestotypesIIandIVcollagens,tumornecrosisfactor-alphaCandCcirculatingCimmuneCcomplexesCinClacrimalC.uidCandCserumCofCpatientsCwithCdiabeticCretinopathyCandCdi.erentstages.VestnOftalmolC116:31-34,C200054)NakaizumiCA,CFukumotoCM,CKidaCTCetal:MeasurementCofserumandvitreousconcentrationsofanti-typeIIcolla-genantibodyindiabeticretinopathy.ClinOphthalmolC9:C543-547,C201555)YooCTJ,CStuartCJM,CKangCAHCetal:TypeCIICcollagenCautoimmunityCinCotosclerosisCandCMeniere’sCDisease.CSci-enceC217:1153-1155,C198256)LevickJR:PermeabilityCofCrheumatoidCandCnormalChumanCsynoviumCtoCspeci.cCplasmaCproteins.CArthritisCRheumC24:1550-1560,C198157)JuhnCSK,CHunterCBA,COdlandRM:Blood-labyrinthCbarri-erand.uiddynamicsoftheinnerear.IntTinnitusJC7:C72-83,C200158)StreileinJW:ImmunologicalCnon-responsivenessCandCacquisitionoftoleranceinrelationtoimmuneprivilegeintheeye.Eye9:236-240,C199559)LewisCH,CAbramsCGW,CBlumenkranzCMSCetal:Vitrecto-myCforCdiabeticCmacularCtractionCandCedemaCassociatedCwithposteriorhyaloidaltraction.OphthalmologyC99:753-759,C199260)TachiN,OginoN:Vitrectomyfordi.usemacularedemainCcasesCofCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOphthalmolC122:C258-260,C199661)AwaWL,BoehmBO,RosingerSetal:HLA-typing,clini-cal,andimmunologicalcharacterizationofyouthwithtype2CdiabetesCmellitusCphenotypeCfromCtheCGerman/AustrianCDPVdatabase.PediatrDiabetesC14:562-574,C201362)ZhangCY,CZhangCY,CGuCWCetal:Th1/Th2Ccell’sCfunctionCinimmunesystem.AdvExpMedBiolC841:45-65,C201463)ItoiCK,CNakamuraCK,COkuCHCetal:RelationshipCbetweenCdiabeticmacularedemaandperipheralTh1/Th2balance.OphthalmologicaC222:249-253,C200864)ChenH,WenF,ZhangXetal:ExpressionofT-helper-associatedcytokinesinpatientswithtype2diabetesmel-lituswithretinopathy.MolVisC18:219-226,C201265)KaviarasanCK,CJithuCM,CArifCMullaCMCetal:LowCbloodCandCvitrealCBDNF,CLXA4CandCalteredCTh1/Th2CcytokineCbalancearepotentialriskfactorsfordiabeticretinopathy.MetabolismC64:958-966,C201566)CaoCYL,CZhangCFQ,CHaoFQ:Th1/Th2CcytokineCexpres-sionCinCdiabeticCretinopathy.CGenetCMolCResC15:doi:C10.4238/gmr.15037311,C201667)YazdanbakhshM,KremsnerPG,vanReeR:Allergy,par-asites,andthehygienehypothesis.ScienceC296:490-494,C200268)StiemsmaCLT,CReynoldsCLA,CTurveyCSECetal:ThehygieneChypothesis:currentCperspectivesCandCfutureCtherapies.ImmunotargetsTherC4:143-157,C201569)KoaradaCS,CHarutaCY,CTadaCYCetal:IncreasedCentryCofCCD4+TcellsintotheTh1cytokinee.ectorpathwaydur-ingCT-cellCdivisionCfollowingCstimulationCinCBehcet’sCdis-ease.Rheumatology43:843-851,C200470)MartinoCM,CRocchiCG,CEscelsiorCACetal:Immunomodula-tionCmechanismCofantidepressants:InteractionsCbetweenCserotonin/norepinephrineCbalanceCandCTh1/Th2Cbalance.CCurrNeuropharmacolC10:97-123,C201271)ChenNX,MoeSM:Vascularcalci.cation:pathophysiolo-gyCandCriskCfactors.CCurrCHypertensCRepC14:228-237,C201272)NishikawaCY,CMorishitaCS,CNakamuraCKCetal:TwoCcasesCofCproliferativeCdiabeticCretinopathyCwithCmarkedCsheath-ingCofCtheCretinalCarteriesCfollowingCvitrectomy.CCaseCRepOphthalmolC8:40-48,C201773)WangCW,CLiCC,CPangCLCetal:MesenchymalCstemCcellsCrecruitedbyactiveTGFbcontributetoosteogenicvascu-larcalci.cation.StemCellsDevC23:1392-1404,C201474)SchorCAM,CAllenCTD,CCan.eldCAECetal:PericytesCderivedCfromCtheCretinalCmicrovasculatureCundergoCcalci.cationinvitro.JCellSciC97:449-461,C19907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総説:第23回 日本糖尿病眼学会総会 特別講演Ⅰ(内科) 糖尿病診療におけるチーム医療

2019年6月30日 日曜日

あたらしい眼科36(6):753.756,2019c第23回日本糖尿病眼学会総会特別講演Ⅰ(内科)糖尿病診療におけるチーム医療TeamMedicalApproachinDiabetesCare寺内康夫*はじめに糖尿病の分野では,新たな治療薬の開発や臨床応用が日々進み,同時に,透析予防に代表される合併症予防や大血管障害への対策が重要視されている.そのために,関連各科医師とメディカルスタッフ間での診療科や職種を超えた連携,地域の実情に応じた適切な医療連携など,チーム医療をオーダーメイドに作りあげていく必要がある.2000年に,日本糖尿病学会,日本糖尿病教育・看護学会,日本病態栄養学会が母体となり,「日本糖尿病療養指導士認定機構」を設立し,「日本糖尿病療養指導士(certi.eddiabeteseducatorofJapan:CDEJ)」の資格認定を開始した.この資格は,糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識をもち,医師の指示の下で患者に療養指導を行うことのできる熟練した経験を有し,試験に合格した看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士に与えられる.本機構設立から17年が経過した2017年6月時点で,CDEJの資格保有者は19,399人になった.CDEJ以外にもさまざまな立場や職種の人々が糖尿病チーム医療に参画している.今回の特別講演では,おもに糖尿病診療におけるチーム医療の変遷と今後の展望について述べる.I糖尿病治療の目標日常診療においては,血糖,体重,血圧,血清脂質の良好なコントロール状態の維持を心がけるが,これは当面の目標に過ぎない(図1).糖尿病細小血管合併症(網血糖,体重,血圧,血清脂質の良好なコントロール状態の維持図1糖尿病治療の目標(日本糖尿病学会編・著:2016-2017糖尿病治療ガイド.p26,2017)*YasuoTerauchi:横浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学〔別刷請求先〕寺内康夫:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(49)753(年)■日本人の平均寿命■糖尿病患者の死亡年齢9080706050図2糖尿病患者の寿命「糖尿病死因に関する委員会」(中村二郎委員長)の報告より(文献1より引用)膜症,腎症,神経障害)および動脈硬化性疾患(虚血性心疾患,脳血管障害,閉塞性動脈硬化症)の発症,進展を阻止することがより上位の目標になる.さらに重要なことは,健康な人と変わらない生活の質(qualityoflife:QOL)の維持,健康な人と変わらない寿命の確保のために,糖尿病治療を実践するということである.II糖尿病患者の寿命糖尿病患者の死亡年齢と日本人の平均寿命との間には10.13歳の開きがあったが,最近の報告では,その差が少し縮小してきている(図2)1).今後一層縮小できるよう,糖尿病治療のあり方を検討する必要がある.III糖尿病療養指導士制度の始まり米国,カナダ,豪州などでは,1970年代の初頭より糖尿病療養指導従事者の専門性と認定について検討が行われ,1986年には資格としてcerti.eddiabeteseduca-tor(CDE)制度が発足した.日本においても2000年に日本糖尿病学会,日本糖尿病教育・看護学会,日本病態栄養学会が母体となり,「日本糖尿病療養指導士認定機構」を設立し,「日本糖尿病療養指導士(CDEJ)」の資格認定を開始した.この資格は,糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識をもち,医師の指示の下で患者に療養指導を行うことのできる熟練した経験を有し,試験に合格した看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士(2000年度より2004年度までは准看護師,栄養士も対象)に与えられ,2001年3月に第1回認定試験が行われた.本機構設立から17年が経過し,CDEJの資格保有者は19,399人になった.一方,日本の各地でcerti.eddiabeteseducatorlocal(CDEL)の教育・資格認定も進んできた.IV糖尿病チーム医療の意義と変遷日本人糖尿病患者の90%以上を占める2型糖尿病の発症・進展予防には,1次予防(発症予防),2次予防(合併症の発症予防),3次予防(重症化予防)があるが,いずれのステップにおいても高度良質な療養指導が求められ,そこにCDELの活躍が期待される.2型糖尿病治療の3本柱は食事療法,運動療法,薬物療法である.食事療法,運動療法においては,日常生活習慣の是正が求められるが,糖尿病専門医だけでは十分な指導がむずかしい.また,薬物療法においても,内服薬の正しい知識習得と服薬実行,注射製剤の知識習得と自己注射には糖尿病療養スタッフが不可欠である.従来は患者中心の院内チームによる医療が行われてきたが,患者の高齢化や孤立を考えると患者家族,地域の行政も巻き込んだ地域連携のチーム医療を構築していく必要がある.多職種・多施設によるチーム医療では,いかにして「情報の共有」を図ったらよいか,誰がプロデュースするのか,という視点がますます大切になってくる.また,糖尿病療養指導が施設完結型から地域包括型へ移行していく際に,CDEJとともにCDELが糖尿病チーム医療に果たす役割は大きい.CDEJ発足以前から地域に根付いた地道な活動をしてきたCDELも多く存在する.両者の協力体制の強化は医療機関連携および介護連携への貢献も期待される.V糖尿病療養指導士に求められる役割糖尿病患者の良好な代謝コントロールを維持し,合併症の発症および進展を抑制することによって,健常人と変わらぬ社会活動を可能にするためには,患者と医療側の生涯にわたる密接な連携による療養指導が必要である.糖尿病診療の基本となる食事・運動療法,および薬物療法は,患者の日常生活そのものである.個々の患者の生活を理解し評価したうえで,医師が指示する治療方針を正しく適切に患者に伝え,患者が自己管理できるように支援することがCDEJの大きな使命である2).患者の日常生活が治療行為でもある糖尿病診療では,治療や療養指導の場は医療施設内のみにとどまることなく,患者の自宅や職場にも及ぶ.また,超高齢社会となった現在の日本において,フレイル・要介護状態・認知754あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019(50)GOAL(目的変数)図3糖尿病治療継続には治療モチベーションの維持・向上が重要治療継続には,治療モチベーションの維持・向上が鍵モチベーションを高める8つの因子が存在する.(文献3より引用)症を伴った高齢糖尿病患者は増加しつつあり,治療や介護の場は地域全体へと広がっている.CDEJには,地域それぞれの特性に応じて,医療資源・人的資源を有効に活用して活動することも求められている.糖尿病療養指導は一人のCDEJで完結できるものではなく,多職種の協働や後進の育成を通して多角的で継続的な療養指導を可能とする必要がある.そのためにCDEJには,協働や育成が良好に行われる療養指導環境を作ることが求められる.VICDEJの未来CDEJの認定は5年ごとの更新制となっているが,その更新率は発足以来60%台に低迷している.それに加え新規受験者数が減少している.糖尿病学会の認定教育施設の中には,数十名のCDEJが在籍しているところもある一方,糖尿病患者が大勢いるにもかかわらず,CDEJが不在な施設が多く存在する.今のCDEJ認定制度では,常勤医師の基準をクリアできずに受験申請を断念している者が地方には多いとの声を聞く.厳しい環境下で患者に寄り添って「チーム医療」をしてきた者が,希望し努力すればCDEJになれる道筋を検討する時期に来ている.高齢社会への対応も含み,多様化する糖尿病診療体制やさまざまな患者に対応できる「チーム医療」の担い手としてのCDEJの今後は,誰が責任をもつべきであろうか.本機構と設立母体である学会3団体,CDELのネットワーク構築に取り組んでいる関係団体と,よりよいCDEの育成のあり方と資格取得後の生涯教育,日本の糖尿病診療体制を見直す時期が到来している.VII糖尿病患者が前向きに治療に取り組む因子糖尿病治療の現場では患者の治療意欲の低さがたびたび問題になる.本講演では,筆者が関与したT-CARESurvey3)について紹介した.“糖尿病治療における重要な患者の態度”を“患者自身が治療に向き合うこと”であると仮定し,それらを表す項目として「治療に必要なことはきっちりやっている」「前向きに治療に取り組んでいる」の2項目を設定し,これら2項目に影響を与える項目として,「治療・病気に関する知識の認識」「糖尿病治療の評価」「糖尿病の心配事」「医師との関係」「家族との関係」を仮定した.これらの5項目について,因子分析によって治療モチベーションに関与する因子を抽出した.抽出された因子の中で,どのような要因が「治療に必要なことはきっちりやっている」「前向きに治療に取り組んでいる」の2項目に表現される治療に取り組む態度につながるかを明らかにするため,抽出された因子を説明変数「きっちり・前向きに取り組む」(「治療に必要なことはきっちりやっている」と「前向きに治療に取り組んでいる」の2項目の平均値)を目的変数とする重回帰(51)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019755表1「きっちり・前向きに取り組む」指標を目的変数とした重回帰分析結果(文献3より引用)分析を行った.「きっちり・前向きに取り組む」を目的変数として有意に説明力があった項目は「糖尿病治療の評価/治療効果の認識・理解」「治療・病気に関する知識の認識/自分の病状の理解」「家族との関係/精神的つながり」「糖尿病治療の評価/治療の精神的負担」「医師との関係/理解・支え」「治療・病気に関する知識の認識/糖尿病の薬や治療方法の知識」「医師との関係/うるさい」「家族との関係/行動的サポート」の8因子であった(図3).とくに説明力の高い上位2項目は「糖尿病治療の評価/治療効果の認識・理解」と「治療・病気に関する知識の認識/自分の病状の理解」であった(図3,表1).VIII糖尿病患者を前向きにするためにセルフケアが求められる糖尿病においては,患者自身が自らの疾患とその現在の状態を十分に理解することがなによりも重要である.自らを知ることで,その先どうすべきかを考えることができるようになる患者は多い.そこで,われわれ医療者は,患者自身が納得して自らの行動を選択できるように,治療方法や薬に対して十分な説明や教育といったサポートを継続的に行う.患者自らが意思決定することによって行動に責任感も生まれ,治療の効果へとつながることを実感することにより,治療に対してさらに前向きに向き合えるようになると考えられる.T-CARESurvey3)では,家族や医師との関係性や精神的ストレスが治療モチベーションへの阻害因子として抽出された.患者に一番身近な家族との関係性を良好に構築し,家族の精神的・行動的サポートを得ることは,日々の生活の改善を実践することに不可欠である.患者の精神的不安を解消し,治療モチベーション向上の大きな支えとなれるよう,精神的ケアを担うことがチーム医療スタッフにも期待されている.一方,医師との関係性が良好でない場合も,療養指導が患者にとって口うるさいものとしか感じられず,治療へのモチベーションを下げる結果につながることも肝に銘じるべきであろう.おわりに高齢社会への対応も含め,多様化する糖尿病診療体制やさまざまな患者に対応できる「チーム医療」の構築とその人材育成が急務である.設立母体である学会3団体,CDEL育成とCDEのネットワーク構築に取り組んでいる日本糖尿病協会などの関係団体と協議を重ね,よりよい療養指導士の育成のあり方と資格取得後の生涯教育,日本の糖尿病チーム医療を見直す必要がある.その際,患者の治療意欲を高めるために,患者自身が自らの疾患とその現在の状態,治療効果を十分に理解できるよう,糖尿病チーム医療にかかわるすべてのスタッフが意識することが重要である.文献1)中村二郎,神谷英紀,羽田勝計ほか:糖尿病の死因に関する委員会報告─アンケート調査による日本人糖尿病の死因─2001.2010年の10年間,45,708名での検討.糖尿病59:667-684,20162)日本糖尿病療養指導士認定機構編著:糖尿病療養指導ガイドブック2018.─糖尿病療養指導士の学習目標と課題─(寺内康夫編),メディカルレビュー社,20183)寺内康夫,久保理佳子,栗原崇泰:糖尿病患者の意識・実態に関するweb調査「T-CARESurvey」から分析した糖尿病患者のタイプ別治療モチベーションアップの方策.医学と薬学71:2075-2089,2014☆☆☆756あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019(52)

神経障害による痛み

2019年6月30日 日曜日

神経障害による痛みPainDuetoNerveDamage津田誠*はじめに痛みは,組織損傷などを生じるような侵害性刺激の存在を生体に認識させる重要な警告的感覚であり,それにより生物は有害事象を察知,あるいは回避することが可能となる.このような生体防御的役割が成立するためには,痛覚が侵害性刺激によって誘発され,その刺激の除去あるいは損傷組織の治癒によって速やかに消失することが大切である.しかし,神経系の損傷や機能不全が生じた場合,損傷組織の治癒後も痛みが残存し,慢性化する場合がある.この慢性化した痛みは神経障害性疼痛とよばれ,自発痛や疼痛過敏,そして触覚刺激などで痛みが誘発されるといった感覚モダリティーが破綻したアロディニア(異痛症)という症状を呈する.これらの慢性疼痛は適切にコントロールされる必要があるが,非ステロイド性抗炎症薬やモルヒネなどにも抵抗性を示し,臨床上非常に大きな問題となっている.この神経障害性疼痛は角膜でも起こることが知られている1,2).その原因としては,ドライアイなどの眼疾患,手術による外傷などがあげられる.しかし,そのメカニズムは明らかになっておらず,有効な治療薬も乏しい.皮膚からの感覚情報は,坐骨神経などの一次求心性神経を介して脊髄後角神経へと伝達され,同部位内での神経回路〔脳へ投射するCprojection神経と多数の介在神経(興奮性および抑制性)で構成される〕で適切に処理され,脳へ伝えられる.この一連の伝達経路は,角膜における感覚神経でも類似している.角膜からの感覚情報は,三叉神経(第CV脳神経)を介して三叉神経脊髄路核尾側亜核(脊髄後角に相当)に入力し,さらに脳へと伝達される2)(図1).神経障害性疼痛の基礎研究では,一次求心性神経を含む末梢神経などを直接損傷するなどの処置を施した動物モデルなどが汎用されている.神経損傷動物が呈する痛覚過敏やアロディニアの発症メカニズムとして,損傷神経やそれが接続する神経などで機能変化などの関与が明らかになってきた.そして,それらを引き起こす原因として,損傷した末梢神経に浸潤・集積するマクロファージや好中球,Tリンパ球3,4)と,脊髄後角と脳で活性化するミクログリアなどの非神経細胞が重要であることも示されている.そこで本稿では,神経障害性疼痛メカニズムにおける末梢マクロファージと脊髄後角ミクログリアの役割を概説する.CI損傷神経におけるマクロファージの役割損傷した神経軸索にはマクロファージや好中球,Tリンパ球などの浸潤・蓄積が認められ,局所での炎症応答を引き起こす.マクロファージをクロドロネートリポソームの局所投与で減少させることで,神経損傷後のCTリンパ球の浸潤,炎症性サイトカインの増加,そして疼痛の発症が抑制されることから,マクロファージが損傷神経の局所炎症と疼痛に重要な役割を担っていることが示唆される5)(図2).神経損傷に伴いマクロファージやCSchwann細胞からケモカイン(CCL3やCCXCL2など)が産生され,単球,*MakotoTsuda:九州大学大学院薬学研究院ライフイノベーション分野〔別刷請求先〕津田誠:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院薬学研究院ライフイノベーション分野C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(43)C747三叉神経脊髄路核尾側亜核脳眼(角膜)三叉神経脊髄後角Projection神経皮膚坐骨神経図1皮膚と角膜からの感覚神経伝達経路角膜(上)と皮膚(下)からの感覚情報は,三叉神経や坐骨神経などの一次求心性神経を介して三叉神経脊髄路核尾側亜核や脊髄後角に入力し,さらに脳へと伝達される.一次求心性神経皮膚脊髄後角へなどケモカイン機能亢進好中球炎症性サイトカインTリンパ球マクロファージ図2損傷神経に浸潤するマクロファージ損傷神経に浸潤するマクロファージが炎症性サイトカインを産生放出し,それが一次求心性神経の活動を高め,痛みが増強する.一次求心性神経脊髄後角神経損傷神経損傷前角ミクログリア神経損傷側正常側図3神経障害性疼痛モデルの脊髄後角ミクログリアの活性化末梢神経(腰部脊髄神経)の損傷により,その神経の投射先である腰部脊髄後角でミクログリアが活性化する.IRF8で発現増加する遺伝子P2X4受容体P2X4P2Y12受容体受容体IRF8Toll様受容体2CX3CR1受容体IL-1bIRF8カテプシンSIRF5BDNF神経損傷後のIRF5など脊髄後角ミクログリア(IRF8が高発現)ミクログリアの活動が高まる図4ミクログリアでのP2X4受容体発現増加の分子メカニズム活性化したミクログリアは転写因子CIRF8を介してさまざまな機能分子を発現する.P2X4受容体はIRF8-IRF5転写因子カスケードを介して発現が増加する.活性化型ミクログリアBDNFIL-1bTNFaTrkBIL-1RKCC2TNF-R抑制性神経[Cl-]i↑興奮性神経GABA脱分極脱分極GluグリシンGABAA受容体グルタミン酸グリシン受容体過剰興奮受容体脊髄後角神経図5活性化ミクログリアによる脊髄後角神経の活動変調活性化ミクログリアから放出される液性因子(BDNF,IL-1Cb,TNFa)は脊髄後角神経に作用し,シナプス活動に影響を与える.BDNFは脊髄後角神経のCTrkBに作用し,KCC2を発現低下させ,陰イオン濃度勾配を変化させ,抑制性神経伝達物質CGABAやグリシンの作用が興奮性へと転換し,同神経の異常興奮が起こる.また,TrkBシグナルはグルタミン酸受容体の機能も高める.IL-1CbとCTNFCaは脊髄後角神経のCIL-1受容体とCTNF受容体にそれぞれ作用し,グルタミン酸受容体機能を亢進させる.-経の起始核である腹側被蓋野で活性化したミクログリアをミノサイクリンで抑制することで,末梢神経障害後のドーパミン神経の機能低下が改善されることが報告され18),慢性疼痛に伴う脳内報酬系の低下にミクログリアが関与する可能性が示唆されている.また,末梢神経損傷後の脊髄後角では血中単球・マクロファージは浸潤しないが19),扁桃体中心核においては損傷C4週間後という比較的遅い時期にそれらの浸潤が起こり,その浸潤そのものや浸潤細胞が産生するCIL-1Cbシグナルを抑制することで神経損傷後の不安行動が軽減されることから,それらが神経障害性疼痛の情動的側面に関与している可能性がある20).CIV臨床への展開基礎研究から得られた成果を臨床に反映させるには,やはり慢性痛患者でのミクログリアの状態を知ることがきわめて重要である.慢性痛患者のミクログリアを脊髄や脳から直接採取して解析することは技術的倫理的側面からきわめて困難であるが,最近,ヒト末梢血中の単球からミクログリア様細胞(iMG細胞)を作製する技術が開発され,興味深いことに,線維筋痛症患者の細胞から分化させたCiMG細胞ではCTNFCa放出能が高く,それが痛みの程度と相関していた21).今後のさらなる研究から,iMGが慢性痛の有効な診断法となりえる可能性が期待できる.おわりに上述のように,痛みが慢性化する神経系メカニズムとして,神経そのものだけなく,損傷した末梢神経に浸潤・集積するマクロファージと脊髄後角で活性化するミクログリアが重要な役割を担うこと示す基礎的エビデンスが数多く蓄積されている.割愛した報告も多いが,それらについては他の総説をご参照いただきたい17).眼疾患による神経障害性疼痛におけるマクロファージやミクログリアの役割は未だ明らかになっていないが,両細胞とも三叉神経の損傷や障害で活性化するため,今後,それらの役割を明らかにすることで,眼疾患による神経障害性疼痛のメカニズムの解明と治療薬の開発に繋がる可能性が期待できる.文献1)DieckmannCG,CGoyalCS,CHamrahP:NeuropathicCcornealpain:approachesCforCmanagement.COphthalmologyC124:CS34-S47,C20172)GalorCA,CMoeinCHR,CLeeCCCetal:NeuropathicCpainCandCdryeye.OculSurfC16:31-44,C20183)JiRR,ChamessianA,ZhangYQ:Painregulationbynon-neuronalCcellsCandCin.ammation.CScienceC354:572-577,C20164)KiguchiCN,CKobayashiCD,CSaikaCFCetal:PharmacologicalCregulationCofCneuropathicCpainCdrivenCbyCin.ammatoryCmacrophages.IntJMolSciC18:2296,C20175)KobayashiY,KiguchiN,FukazawaYetal:Macrophage-TCcellCinteractionsCmediateCneuropathicCpainCthroughCtheCglucocorticoid-inducedCtumorCnecrosisCfactorCligandCsys-tem.JBiolChemC290:12603-12613,C20156)KiguchiCN,CKobayashiCY,CSaikaCFCetal:PeripheralCinter-leukin-4amelioratesin.ammatorymacrophage-dependentneuropathicpain.PainC156:684-693,C20157)PrinzCM,CErnyCD,CHagemeyerN:OntogenyCandChomeo-stasisCofCCNSCmyeloidCcells.CNatCImmunolC18:385-392,C20178)KohnoCK,CKitanoCJ,CKohroCYCetal:TemporalCkineticsCofCmicrogliosisCinCtheCspinalCdorsalChornCafterCperipheralCnerveinjuryinrodents.BiolPharmBull41:1096-1102,C20189)GuanZ,KuhnJA,WangXetal:Injuredsensoryneuron-derivedCSF1inducesmicroglialproliferationandDAP12-dependentpain.NatNeurosciC19:94-101,C201610)MasudaT,TsudaM,YoshinagaRetal:IRF8isacriticaltranscriptionfactorfortransformingmicrogliaintoareac-tivephenotype.CellRepC1:334-340,C201211)TsudaCM,CShigemoto-MogamiCY,CKoizumiCSCetal:P2X4Creceptorsinducedinspinalmicrogliagatetactileallodyniaafternerveinjury.NatureC424:778-783,C200312)TsudaM,KuboyamaK,InoueTetal:Behavioralpheno-typesofmicelackingpurinergicP2X4receptorsinacuteandchronicpainassays.MolPainC5:28,C200913)MasudaCT,CIwamotoCS,CYoshinagaCRCetal:TranscriptionCfactorCIRF5CdrivesCP2X4R+-reactiveCmicrogliaCgatingCneuropathicpain.NatCommunC5:3771,C201414)MasudaCT,COzonoCY,CMikuriyaCSCetal:DorsalChornCneu-ronsCreleaseCextracellularCATPCinCaCVNUT-dependentCmannerthatunderliesneuropathicpain.NatCommunC7:C12529,C201615)TrangT,BeggsS,WanXetal:P2X4-receptor-mediatedsynthesisandreleaseofbrain-derivedneurotrophicfactorinCmicrogliaCisCdependentConCcalciumCandCp38-mitogen-activatedCproteinCkinaseCactivation.CJCNeurosciC29:3518-3528,C200916)CoullJA,BeggsS,BoudreauDetal:BDNFfrommicrog-liaCcausesCtheCshiftCinCneuronalCanionCgradientCunderlyingC(47)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C751

末梢痛?中枢痛?その分類と治療戦略

2019年6月30日 日曜日

末梢痛?中枢痛?その分類と治療戦略Di.erentiatingClassi.cationsandTreatmentStrategiesforPeripheralandCentralizedEyePain山西竜太郎*内野美樹*はじめに眼科の日常診療で接する患者が眼疼痛(アイペイン,eyepain)を訴える割合は少なくない.その多くは,白内障やLASIKなどの手術を契機にアイペインが発症しており,術後成績にかかわらず,患者の自覚症状における疼痛の程度と他覚所見が乖離する症例が存在する.その乖離を説明する概念として,Rosenthalらによって神経障害性眼疼痛(neuropathicocularpain:NOP)が報告され,これまで十分に解明されてこなかった慢性的な眼疼痛を説明する概念として考えられている1).近年,GalorらがこのNOPとドライアイ症状の共通点に関する総説を報告しており2),両者ともに角膜の神経末端の知覚異常や体性感覚異常によって引き起こされることがわかってきた.慶應義塾大学病院眼科(以下,当科)では2017年4月より,おもに3カ月以上痛みが遷延している慢性アイペイン患者を対象に,アイペイン外来を設立した.今回は,既報および当科アイペイン外来での診療経験をもとに,アイペインの臨床的分類および個別の治療戦略について検討する.Iアイペインの分類部位別の分類として,末梢神経の角膜知覚線維に由来する末梢痛,末梢神経よりも中枢が痛みの原因となる中枢痛,その両者の特徴を併せもつ混合痛が考えられる3).その分類には局所点眼麻酔薬による評価が有用である.当科では,オキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシールR)の点眼前後(点眼直前と点眼5分後)に,visualanalogscale(VAS)による自覚的疼痛評価を行っている3)(図1,2).点眼後の疼痛が点眼前より著明に改善した症例は末梢性疼痛,改善がない,もしくは悪化した症例を中枢性疼痛,ある程度の改善はあるものの,著明でない症例を混合性疼痛としている.IIアイペインの治療戦略疼痛の部位を判定した後の治療戦略を図3に示す.アイペインを訴える症例においては,眼瞼けいれんの有無は常に確認することが望ましい.眼瞼けいれんは神経学的には局所ジストニアに属し,開瞼困難,瞬目過多といった運動系異常,羞明,眼部不快感,眼痛などの感覚系異常,それにしばしば,うつ,焦燥,不安などの精神医学的異常の三者がまじりあう疾患で,不随意運動の一種である.「眩しい」「眼がしょぼしょぼする」「目を開けていられない」「眼が痛い」「眼が乾く」などドライアイと類似する症状で受診することがある.また,抗精神病薬の副作用として現れることもあり,注意が必要である4).1.末梢痛文献3を参考に,末梢痛に対する治療法を表1にまとめた.治療法としては人工涙液や血清点眼,ステロイド点眼,凍結羊膜や治療用コンタクトレンズ装用などがあ*RyutaroYamanishi&*MikiUchino:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山西竜太郎:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(35)739図1当科で局所点眼麻酔薬テストの際に用いるスケール被験者には目盛がない裏側(b)をみせて,スケール(青色)を動かしてもらう.検査者は表側(a)に返して数値を記録する.局所点眼麻酔薬(ベノキシールR)(5分後)図2局所点眼麻酔薬(ベノキシールR,参天製薬)テストのイメージ眼表面正常化自己血清点眼局所点眼薬図3アイペインの治療戦略(文献C7を参考に作成)表1末梢痛への治療戦略全身の症状・徴候の評価専門医への紹介神経機能評価治療作用機序エビデンスレベル(海外)わが国における保険適用アイペインに対する保険適用人工涙液(防腐剤無添加・乳剤性)涙液浸透圧蒸発亢進型ドライアイへの保護作用機序CHLE,Level1保険適用外保険適用外ステロイド点眼抗炎症作用白血球遊走抑制サイトカインやプロスタグランジンなどの炎症性物質産生抑制CHLE,Level1外眼部および前眼部の炎症性疾患の対症療法保険適用外凍結羊膜抗炎症作用神経保護因子CMLE,Level3(羊膜移植術として)再発翼状片,角膜上皮欠損(角膜移植によるものを含む),角膜穿孔,角膜化学腐食,角膜瘢痕,瞼球癒着(Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,熱・化学外傷瘢痕・その他の重症の瘢痕性角結膜疾患を含む),結膜上皮内過形成,結膜腫瘍その他の眼表面疾患保険適用外治療用コンタクトレンズ環境因子からの防御CMLE,Level2Stevens-Johnson症候群および中毒性表皮懐死症の眼後遺症保険適用外血清点眼神経保護因子MLE,Level3.4保険適用外保険適用外*HLE=highlevelofevidence;MLE=mediumlevelofevidence(おもに文献C3を参考に作成)b.ステロイド点眼末梢神経の損傷によって生じた炎症を抑制する作用によって疼痛軽減を図る.海外の報告ではCNOPに対してロテプレドノール(loteprednol)0.5%の使用が推奨されている3).ただし,わが国では認可されていない.ロテプレドノールは巨大乳頭性結膜炎に対する効果がプレドニゾロンC1%点眼液と同様で,フルオロメトロンC0.1%よりも強力であったとの報告がある6).なお,重度の痛覚過敏をもつ患者では微量の塩化ベンザルコニウム含有であっても,症状に影響を及ぼすことがあり,そのような場合は防腐剤フリーの点眼を選択すべきである3).Cc.カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン,タクロリムス)ステロイドの減量を図るため(steroidCsparingCthera-py)に,免疫抑制薬であるシクロスポリン点眼液やタクロリムス点眼液の使用が検討される.シクロスポリンA点眼液C0.05%をC2.4回/日,もしくはタクロリムス点眼液C0.03%をC3回/日などが推奨されている3).Cd.凍結羊膜凍結羊膜は眼表面に対する神経栄養作用と,抗炎症・抗線維化作用が報告されている.海外では,PRO-KERARなどが3)製品化されている.Ce.治療用コンタクトレンズ(強膜レンズを含む)末梢痛を訴える患者で,点眼薬の効果が乏しい場合に,一時的な装用によって疼痛軽減が図れると報告されている3).Cf.ヒアルロン酸ナトリウムマウスの神経細胞を用いた基礎実験によると,疼痛を惹起すると知られているCTRPV-1受容体の発現を低下させるとの報告がある7).その知見より,従来のようにドライアイに対する治療薬としてだけでなく,今後は疼痛抑制作用が注目される可能性も示唆されている8).C2.中枢痛・混合痛中枢痛・混合痛に対する治療を表2にまとめた.抗うつ薬や抗てんかん薬をはじめとした内服療法と,神経ブロックや鍼などの補助療法があげられる.エビデンスレベルは慢性疼痛治療ガイドライン9)を採用した.投与量や方法など,同ガイドラインに記載されていない内容については注記した.末梢痛の治療戦略と同様に,海外の報告を参考にしている箇所については,一部わが国と異なることに注意したい.また,内服用量については慢性疼痛治療ガイドライン9)に加えて,薬剤添付文書を参考に記載した.Ca.プレバガリン(リリカR)神経障害性疼痛の第一選択薬とされている8,9).作用機序は明らかではないが,電位依存性カルシウムチャネルへの作用が興奮性神経伝達物質を制御している可能性がある.すでにドライアイ以外の分野でもアイペインに対して効果が報告されている4).投与はC1日C50.150CmgをC1日C2回に分けて経口投与し,その後C1週間以上かけてC1日用量としてC300Cmgまで漸増する.年齢,症状により適宜増減するが,維持量はC1日C300.600mgとし,最高用量がC600mgを超えないようにする.いずれもC1日C2回内服とする.Cb.セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬デュロキセチン塩酸塩(サインバルタR)神経障害性疼痛に対する有効性が報告されている3,9).三環系抗うつ薬は抗コリン作用による口渇,便秘,排尿障害などの副作用が強いが,その副作用軽減を図った薬剤が選択的セロトニン再取込み阻害薬(selectiveCsero-toninCreuptakeinhibitor:SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(serotoninCnoradrenalinCreuptakeinhibitor:SNRI)であり,現在主流の抗うつ薬とされている.また,抗うつ薬としてだけではなく,疼痛性障害に対する効果も報告されている.疼痛性障害とは,DSM-IVにおける身体表現性障害の下位分類である.眼科領域では疼痛性障害は比較的多いと報告されており,いかなる対応を行ってもコントロール困難な場合は本疾患の可能性を考える.本症の場合,薬物療法は精神科と協調が必要である4).投与はC1日C20Cmgより開始し,1週間以上の間隔をあけてC1日用量としてC20Cmgずつ増量し,維持量はC1日40.60Cmgとする.副作用に注意し,投与開始後はC1.2週間後に再診とするのが望ましい.Cc.カルバマゼピン三叉神経痛に対する第一選択薬であり,その有効性は742あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019(38)表2中痛痛・混合痛への治療戦略治療作用機序投与量保険適用疾患副作用神経障害性疼痛へのエビデンスレベルプレバガリン電位依存性カルシウムチャネル開始量C50.C150mg/日維持量C300.C600mg/日神経障害性疼痛,線維筋痛症眠気,めまい,体重増加,浮腫C1Aデュロキセチン塩酸塩セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害開始量C20mg/日維持量C40.C60mg/日うつ病,線維筋痛症,糖尿病性神経障害,慢性腰痛症,変形性膝関節症悪心,眠気,口渇,頭痛,倦怠感C1Aカルマバゼピンナトリウムチャネル開始量C200.C400mg/日維持量C600.C1200mg/日三叉神経痛,てんかん,躁うつ病眠気,めまい,発疹,血球減少2C(三叉神経痛は除く)NSAIDs(代表的な薬剤としてロキソプロフェン)プロスタグランジン産生阻害60.C180mg/日変形性関節症,腰痛,頸肩腕症候群,肩関節周囲炎,その他疼痛全般消化管障害,腎機能障害,浮腫,心血管イベント,喘息C2D神経ブロック神経節への局所麻酔薬注入による交感神経細胞の興奮抑制ブピバカインC0.5%4Cml,メチルプレドニゾロンC80Cmg/mlC1Cml*帯状疱疹,帯状疱疹後神経痛,がん性疼痛,反射性交感神経性ジストロフィー,頸上胸椎領域の各種疼痛(頸椎症等),レイノー病・バージャー病などの上肢の動脈閉塞性疾患,突発性顔面神経麻痺(ベル麻痺),突発性難聴,顎関節症など(アレルギー性鼻炎やめまいは対象外)ガイドラインには記載なしなし(帯状疱疹者の帯状疱疹後神経痛への予防:2C)鍼内因性オピオイド・神経ペプチドの産生促進数日間隔をあけたのち,2回/週の頻度を推奨**(医師の同意が必要)神経痛,リウマチ,五十肩,腰痛症,頸腕症候群,頸椎捻挫後遺症***ガイドラインには記載なしなし*文献C12)を参考とした**文献3)を参考とした***公益社団法人東京都鍼灸師会のホームページ(http://harikyu-tokyo.or.jp/)を参考とした.エビデンスレベルA(強)効果の推定値に強く確信があるB(中)効果の推定値に中程度の確信があるC(弱)効果の推定値に対する確信は限定的であるD(とても弱い)効果の推定値がほとんど確信できない推奨度の決定1する(しない)ことを強く推奨する2する(しない)ことを弱く推奨する(提案する)(おもに文献C9を参考に作成)低濃度サイプレジン点眼前低濃度サイプレジン点眼開始後2カ月図4低濃度サイプレジンR点眼を行った症例のhigh.frequenctcomponent(HFC)評価点眼開始後に調節の揺れが改善した.鍼加療前RL鍼加療後RL図5鍼を行ったアイペイン症例の細隙灯顕微鏡写真前眼部はほぼ正常であることがわかる.C-

TRP関連の痛み

2019年6月30日 日曜日

TRP関連の痛みRelationshipBetweentheInvolvementofTRPChannelandEyePain岡田由香*雑賀司珠也*はじめに角膜は眼表面の組織で,その透明性と形状の維持は良好な視力の維持に必須である一方,眼表面に位置することから外傷を受けやすい.角膜の知覚は三叉神経第C1枝の支配を受けており痛覚の維持が角膜組織の恒常性維持に重要である.角膜には体内でもっとも多くの知覚神経終末が分布しており,その数は皮膚のおよそC300~400倍あることが知られている.痛みは,一次感覚神経のうち,おもに有髄CACd線維や無髄CC線維の自由神経終末に存在するさまざまな感覚受容器(侵害受容器)が刺激されることにより発生する.痛みを惹起する侵害刺激は,温度刺激,化学刺激,機械刺激に大きく分けられ,侵害刺激を受容する陽イオン透過性のチャネルが報告されている1).侵害刺激によって陽イオンが細胞内に流入し,神経細胞を脱分極させて電位作動性CNa+チャネルの活性化から活動電位の発生をもたらす.CITRPチャネル感覚神経に特異的に発現して侵害刺激受容にかかわるイオンチャネル型受容体が近年明らかにされつつある.その中心的な分子群がCtransientCreceptorCpotential(TRP)チャネルである.TRPチャネルはC6回の膜貫通域を有する陽イオンチャネルで,哺乳類では,TRPC,TRPV,TRPM,TRPMI,TRPP,TRPAの六つのサブファミリーからなるスーパーファミリーを形成している2)(図1).TRPチャネルは脳や感覚神経のみならず皮膚や大腸,肺などの上皮細胞にも発現し,刺激で直接TRPチャネルが活性化されることでも痛みに関与している(図1).その中のCTRPV(TRPCvanilloid1)などいくつかのものは眼の痛みに関与しているという報告もある3).また,皮膚ではケラチノサイトがCTRPチャネルを介して直接感覚を感じて神経に伝えているかもしれないという報告があるが4),角膜にも同様の機序がある可能性がある.ここではCTRPチャネルのうち,角膜の痛みにかかわっていると考えられかつ角膜と形態が類似する皮膚にも発現が認められているものの中からTRPV1,TRPA1,TRPV4に注目する.C1.TRPV1唐辛子の主成分であるカプサイシンと,プロトン,熱(43℃以上)という複数の侵害刺激によって活性化し,陽イオン流入から細胞興奮をもたらす(図2).TRPV1が多刺激痛み受容体として機能することは,遺伝子欠損マウスの行動解析からも明らかになっている.TRPV1は感覚神経のみならず,角膜にも発現しており5)(図3a),三叉神経からカルシトニン遺伝子関連ペプチドCcalcitoningene-relatedCpeptide(CGRP)陽性,陰性のTRPV1陽性の感覚神経が角膜に密に入ってきていることが報告されている6)(図4).また,TRPV1は炎症関連メディエーターの代謝型受容体と機能連関して機能増強することがわかってきており,これは,炎症性疼痛発*YukaOkada&*ShizuyaSaika:和歌山県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕岡田由香:〒641-8509和歌山市紀三井寺C811-1和歌山県立医科大学医学部眼科学講座C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(31)C735TRPP(Polucystin)TRPML(MucoLipin)TRPP2,TRPP3,TRPP5TRPML1,TRPML2,TRPML3TRPM(Melastatin)TRPM1,TRPM2,TRPM3,TRPM4TRPA(Ankyrin)TRPM5,TRPM6,TRPM7,TRPM8TRPA1TRPV(Vanilloid))TRPC(Canonical)TRPV1,TRPV2,TRPV3,TRPC1,TRPC2,TRPC3,TRPC4,TRPV4,TRPV5,TRPV6TRPC5,TRPC6,TRPC7痛みにかかわっていると考えられるTRPチャネル受容体発現部位TRPV1TRPV2TRPV3TRPV4TRPA1TRPM8感覚神経,脳,皮膚,角膜上皮感覚神経,脳,脊髄,肺,肝臓,脾臓,大腸感覚神経,脳,皮膚,脊髄,胃,大腸感覚神経,脳,肺,肝臓,内耳,皮膚,角膜上皮感覚神経,内耳,皮膚,角膜上皮感覚神経,前立腺図1TRPチャネルの痛みへの関与冷たい温かい熱い5℃以下55℃以上TRPA1TRPM8TRPV3/TRPV1TRPV2わさび受容体メンソール受容体カプサイシン受容体図2各種TRPチャネルと受容体CorneaTGTRPV1+/CGRP-TRPV1+/CGRP+図4角膜の三叉神経支配三叉神経第C1枝から角膜にCTRPV1+/CGRP-とCTRPV1+/CCGRP+両方の神経が分布している.TG:trigeminalganglion(三叉神経).痛み刺激図5痛み刺激からのTRPチャネルの活性化と炎症・創傷治癒の関係–’C

白内障手術におけるアイペイン

2019年6月30日 日曜日

白内障手術におけるアイペインPostoperativeEyePainandDiscomfortafterCataractSurgery荒井宏幸*I医師と患者の痛みに対する概念の差現在の白内障手術は高度に洗練された術式となり,「早く」「痛みがなく」「結果がよい」という,理想的な外科手術として確立している.われわれ眼科医は,手術手技の技術向上ばかりを努力の主目的にする傾向があり,ときとして術後のさまざまな症状に対するケアをないがしろにしがちである.術後に「痛い」という症状があった際には,まず細隙灯顕微鏡にて前眼部の所見を観察し,さらに眼底検査にて視神経や脈絡膜の状態を観察するという手順をとるであろう.そして所見に異常がなければ「問題なし」として経過観察となることが通常である.しかし,この際に「痛い」という表現にも多くの内容が含まれることを認識し,より具体的な問診をするべきであろう.「眼が痛い」という症状には,眼球の表在痛・深部痛,眼瞼の痛み,眼精疲労など多彩な異常が複合的に関係していることもある.眼球自体の異常ばかりに集中すると,眼瞼の異常を見落したり,全身的な基礎疾患に基づく症状であることを見逃すこともある.本稿では,白内障手術後において遭遇するさまざまなアイペインを総括し,その対応を含めて述べる.CII症候別のアイペインとその対策表1に白内障手術に関連するアイペインを示す.表1白内障術後のアイペインの分類創口痛切開創による痛み表在痛ドライアイ,角膜びらん,異物,薬剤性角膜障害,結膜浮腫,角膜ヘルペス深部痛細菌性眼内炎,ぶどう膜炎,帯状疱疹(初期),縮瞳による虹彩痛,光過敏性障害眼瞼痛眼瞼浮腫,開瞼器による眼瞼組織の挫滅,麦粒腫,霰粒種,眼瞼炎眼精疲労VDT症候群,調節緊張ニューロパシックペイン神経切断による末梢シナプスの異常反応部位および非炎症性の原因による分類である.C1.創口痛術者としてもっとも気になるポイントであろう.創口の不全は眼内炎を含む重篤な合併症を引き起こすためである.手術終了時に創口が閉鎖されていることは確認していても,翌日に創口閉鎖不全となっている場合もある.Seideltestにて容易に確認することができる.陽性の場合には,圧迫眼帯,治療用コンタクトレンズ,縫合などによって対応する.角膜切開の場合には,切開部の角膜上皮がびらんとなって痛みを発現することもある(図1).スリットナイフによる切開深度が浅い場合に多い.フルオロセイン染色にて創口に一致した上皮障害が確認できる.通常はC2~3日にて消失するものであるが,症状が強かったり,染色所見が強い場合には,ドライアイに準じた治療を行*HiroyukiArai:みなとみらいアイクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208横浜市西区みなとみらいC2-3-5クインズタワーCC8FみなとみらいアイクリニックC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(27)C731図1角膜創口のびらん図2薬剤性角膜上皮びらん耳側角膜切開後の創口部に一致する角膜上皮びらん.びまん性に角膜上皮障害を認めた症例(術翌日).図3術後痛により発見された結膜結石図4術後の毛様充血手術後C1週間にて表在痛が存在し,眼瞼の翻転により発見され恐らくは薬剤性と考えられる上強膜炎による毛様充血.眼深た結膜結石.部痛を訴えた症例.表2ニューロパシックペインの位置づけ表3ニューロパシックペインに対する薬物療法ニューロパシックペインではニューロジェニックペインに含まれる.眼科手術領域にて問題となるのは,2-1である.第一選択薬(複数の病態に対して有効性が確認されている薬剤)・カルシウムチャンネルCaカリガンド(プレガバリン)・三環系抗うつ薬:TCA(アミトリプチリン)・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:CSMRI(デュロキセチン)第二選択薬(1つの病態に対して有効性が確認されている薬剤)・ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液・オピオイド鎮痛薬(トラマドール)第三選択薬・オピオイド鎮痛薬(フェンタニル・モルヒネ・オキシコドンなど)(神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインより)

屈折矯正術(LASIK)術後のアイペイン

2019年6月30日 日曜日

屈折矯正術(LASIK)術後のアイペインEyePainPostRefractiveSurgery(LASIK)小島隆司*,**中村友昭**はじめに現在,世界における屈折矯正手術の主流はレーザー屈折矯正手術であり,そのなかでもっとも行われているのがClaserinsituCkeratomileusis(LASIK)である.LASIK術後に眼の痛みを訴える原因は大きく分けて四つある(図1).第一にドライアイおよび角膜上皮びらんなど眼表面の上皮障害に伴う痛みである.第二に調節緊張や眼精疲労に伴う毛様体筋の過緊張が原因となる痛みである.第三が神経障害性疼痛,第四が心因性疼痛である.第一および第二の原因は通常の眼科検査で異常が指摘できるため比較的診断されやすいが,第三の原因である神経障害性疼痛は診断に至らず,患者は長期間悩み,さまざまな眼科を受診していることも多いので注意が必要である.本稿では,LASIK術後のアイペインについて,原因,鑑別診断,治療について解説する.CI屈折矯正手術を希望される患者の特徴LASIK手術の適応検査で,患者に手術を希望する理由を尋ねると,いろいろなコンタクトレンズを試したが,どのコンタクトレンズを装用しても調子が悪く長続きしなかったなどと答えることがある.このようにLASIKをはじめ屈折矯正手術を希望される患者の中には,コンタクトレンズ不耐症の患者が多く含まれている.筆者らは,屈折矯正手術外来とは別に,コンタクトレンズ不耐症外来を行っている,その中で,コンタクトレンズ不耐症の原因としてはコンタクトレンズ関連ドライアイが多いが,いろいろな検査しても涙液異常,眼表面障害が認められず,神経障害性疼痛の要素が含まれている患者に遭遇する.このことから,筆者らはCLASIK術前のコンタクトレンズ不耐症にもドライアイだけでなく神経障害性疼痛の要素が含まれている可能性を考えている.すなわち患者によっては術前からCLASIK後アイペインのハイリスクである可能性がある.適応検査ではこの点を念頭におくことが重要であると考えている.術前に,そのような状態を疑った場合は,十分精査し適応を慎重に考えること,角膜神経への影響が少ないCsur-faceablation,smallCincisionClenticuleCextraction(SMILE)や有水晶体眼内レンズなど別の術式選択を考慮する必要がある.CIILASIK術後ドライアイLASIK術後ドライアイは,LASIKの術後合併症でもっとも頻度が高いものであり,既報によると約半数の患者が術後C6カ月までにドライアイ症状を訴え,術後C6カ月以降も続く慢性ドライアイ症状がC18~41%の患者に起こるとされている1,2).この数字のみをみると非常に多いように思われるが,一般のオフィスワーカーを対象に行われたドライアイ研究では,男性C36.6%,女性49.2%がドライアイと診断(2016年診断基準)されたことが報告されており3),どこまでがCLASIKの影響なのかを含めて,論文を読む際は注意が必要である.名古屋アイクリニック**慶應義塾大学医学部眼科学教室,*TomoakiNakamura:**TakashiKojima&**C,*〔別刷請求先〕小島隆司:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(21)C725aLASIK手術後のアイペイン4つの原因とその特徴①ドライアイ,角膜上皮びらんSPK・角結膜障害,BUT短縮など症状が説明できうる所見を伴う.②毛様体筋の過緊張(調節緊張,調節けいれん)・手術による過矯正を伴うこともある.・調節微動の高周波成分の出現頻度が高くなる(Cb).Cb・眼の奥の痛みを訴えることが多い.・頭痛,吐き気,肩こりなど身体症状を伴うこともある.③神経障害性疼痛(neuropathicpain)・症状が所見から説明しずらい.・症状が所見に比して強い.④心因性①~④が混在する混合型も存在する.図1LASIK術後アイペインの分類とその特徴a:フルオレセイン染色で点状表層角膜症の所見を認めた.ドライアイが原因と考えられる.b:毛様体筋の過緊張の場合は,調節微動解析で高周波成分の出現頻度が高くなる.解明されていないが,一般的に異常な痛みが発生するメカニズムをこの状態に応用すると,次のように推測することができる.慢性的なドライアイは眼表面に炎症細胞が集積しているが,それらの細胞から分泌されるケミカルメディエーターや涙液浸透圧の上昇,眼表面上皮障害から生じる直接的な影響により,神経受容体の閾値変化が起こる.実際に神経障害性疼痛の患者において,生体共焦点顕微鏡で角膜の上皮下神経叢の形態異常が報告されている.この結果として痛みが増強される痛覚過敏,また通常痛みを誘発しない弱い刺激でも痛みを感じるアロディニアを生じる.また,慢性的な痛みは上位ニューロンにおける反応性を変化させることも知られており,中枢性の過敏化状態も生じることがある.CIVLASIK術後アイペインの疫学これまでにCLASIK術後の多数例を対象とした研究が行われていないため,発症率はわかっていない.自験例の印象から考えて,典型的なドライアイ所見を伴う症例が大半で,神経障害性疼痛が疑われる患者はまれである.このため,アイペインを訴える患者が来院した場合には,次に述べるように順序立てて鑑別診断を行うことで対処可能なことが多い.CVLASIK術後アイペインに対するアプローチ1.鑑別診断ここではCLASIK術後アイペインを訴える患者が受診した場面を想定して話を進める.最初に問診でいつから症状が起こったのか,術後からなのか,術前からあったのかを聞く.痛みが急性なのか,慢性なのかは後の鑑別診断でも重要となる.また,ひとことで眼の痛みといってもさまざまな症状がある.眼の奥が痛い,ゴロゴロ痛い,ヒリヒリする,焼けつくように痛い,などである.眼の奥が痛い,重いと訴える場合は眼表面起因性でないこともあり,眼精疲労,調節けいれんなどを疑い,術後過矯正による遠視が隠れていないかどうかをチェックする.ゴロゴロする症状は,眼表面と眼瞼の摩擦から生じている可能性があり,lidwiperCepitheliopathyや上輪部角結膜炎,糸状角膜症などがないかチェックが必要である.また,まれにLASIK後の再発性角膜びらんにも遭遇する.上皮が治癒していると,判断がむずかしい場合もあるが,上皮が.がれた部分は表面が不整を示し,周囲の健常上皮に比較して盛り上がって(フルオロセイン染色でダークエリアとよばれる所見)いることを見逃さないように注意が必要である.また,慢性疼痛症候群の一つとしてアイペインが生じている可能性もあり,全身の症状についても問診する.次に検査を行う.フルオセセイン染色では,角結膜の上皮障害の有無を調べる(図1a)だけでなく,Yokoiらの提唱するCbreak-up分類を行うことによって,ドライアイのある程度の分類が可能になる.LASIK後の術後早期ドライアイで一番多いのは涙液分泌減少によるClinebreakと思われる.ドライアイ検査では,それらに加えて,lidwiper部分の評価,Schirmer1法,マイボーム腺の評価が重要である.調節緊張,眼精疲労を疑う場合は,筆者らの施設では調節微動解析装置を用いて,高周波成分の出現頻度が調節弛緩状態で高くなっていないかどうかを検査している(図1b).まれに間欠性外斜視などの眼位異常を伴うこともあるので,眼位検査も必須である.それらを一通り行い,神経障害性疼痛を疑った場合は,点眼麻酔薬のチャレンジテストを行う6).これはオキシブプロカイン(ベノキシール,参天製薬)を点眼し,その後の症状の変化を観察する検査で,末梢性の神経障害性疼痛(眼表面の知覚神経が過敏になっているタイプ)ではこの検査で,痛みが消失,もしくは緩和されることが多い.中枢性の神経障害性疼痛であれば症状は変化しない,もしくは悪化する場合もある.眼科でアプローチ可能なのは前者であり,末梢性感作のある角膜神経障害性疼痛とよばれる.C2.LASIK術後アイペインの治療図2にCLASIK後アイペインの原因別に治療の流れを示す.ドライアイが原因の場合は,ドライアイの治療を集中的に行うことが重要である.点眼薬のみで改善しなければ涙点プラグの挿入も適応である.調節緊張,眼精疲労を疑う場合は,まず屈折状態を詳しく調べて遠視(LASIKによる過矯正)があれば,完全(23)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C727・涙点プラグ・自己血清点眼・強膜レンズ(ボストンレンズ)図2LASIK術後アイペインの治療の流れ精神科・心療内科などと連携して治療が必要-

ドライアイにおける眼痛ならびに眼不快感の発生メカニズム

2019年6月30日 日曜日

ドライアイにおける眼痛ならびに眼不快感の発生メカニズムUnderlyingMechanismofEyePainandOcularDiscomfortinDryEyeDisease益岡尚由*石橋隆治*はじめにドライアイは涙液層の恒常性の喪失を特徴とする眼の自覚症状を伴った眼表面の疾患である.本疾患の背景には生活環境,ストレス,加齢,性別などさまざまな要因が複雑に絡み合っており,その症状も,眼の乾きをはじめ,不快感,痛み,視覚異常など多岐にわたる.2016年に改定されたドライアイの診断基準は,従来の涙液層の安定性に加えて自覚症状に重きを置いたものに変わっており,ドライアイの診断と治療を考えるうえで自覚症状の発生機構を正確に理解することの重要性が増している.ドライアイの自覚症状が引き起こされるメカニズムには,これまで涙液層の不安定化と浸透圧上昇,そして眼表面の炎症が関与していると考えられてきた.しかしながら,2017年のInternationalDryEyeWorkshopII(DEWSII)で示された新しいドライアイの国際的な定義では,自覚症状を誘発するメカニズムとして上記の因子に加えて“知覚異常(neurosensoryabnormality)”が付け加えられた1).これは眼表面の情報を受け取る角膜神経や,その情報を処理する中枢神経における異常をさし,難治性の自覚症状との関連が指摘されている.本稿では,ドライアイにおける眼痛や不快感が起きるメカニズムについて,角膜に内在する感覚神経に注目して概説する.I眼表面の多彩な感覚と涙液分泌角膜は非常に高密度に神経線維が分布する組織である.角膜神経は,角膜実質より侵入し上皮層の表層まで神経線維を伸ばしており(図1),眼表面からさまざまな情報を受け取って健全な眼表面を保つために重要な役割を果たしている.これらの神経には自律神経線維も存在するが,多くは三叉神経節から伸びる感覚神経であり,圧,温度,侵害刺激などさまざまな情報を受け取る受容器を有している.角膜には,大きく分けて三つのタイプの感覚神経が内在している(図2)2).一つ目は,伸展刺激によって活性化するPiezo2を発現する機械刺激感受性神経である.この神経は眼表面の触覚や,圧および摩擦による痛みに関与すると考えられている.二つ目は,痛覚受容において主要な役割を果たすポリモダル神経である.この神経は,唐辛子の辛み成分であるカプサイシンや酸あるいは熱により活性化するTRPV1,マスタードの成分であるアリルイソチオシアネートや発痛物質のブラジキニンによって活性化するTRPA1,酸により活性化するASICなど多種多様な受容器を発現しており,さまざまな侵害刺激を受け取ることができる.三つ目は,冷刺激により活性化する冷感受性神経であり,温度低下や浸透圧上昇を検知するTRPM8を発現*TakayoshiMasuoka&*TakaharuIshibashi:金沢医科大学医学部薬理学〔別刷請求先〕益岡尚由:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学医学部薬理学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(15)719a輪部中央部b神経終末上皮層角膜Bowman層上皮基底膜神経叢図1角膜の構造と角膜神経角膜神経は,角膜輪部から中央に向かって角膜実質層を走行し,Bowman層貫通後上皮下で神経叢を形成する(Ca).神経叢から表層に向かって延びる神経線維は角膜上皮細胞間を走行し上皮層表層に終わる(Cb).刺激の種類受容器感覚神経の種類感覚Piezo2機械刺激触覚(瞬目など)異物感機械刺激感受性神経TRPA1酸・熱刺激機械刺激炎症性物質TRPV1ASICポリモダル神経痛み灼熱感Piezo2TRPM8冷感冷刺激冷感受性神経(涙液基礎分泌)高浸透圧刺激(低閾値)TRPM8乾燥感(高閾値)痛み図2角膜に内在する感覚神経の機能的分類角膜の感覚神経の機能的分類と,それぞれの神経に発現する受容器を示す.マイボーム腺眼表面温度開瞼34℃涙液蒸発による温度低下30℃反応閾値の低下冷感受性神経神経の発火パターン(高閾値)TRPM8正常発火頻度の増加ドライアイ図4ドライアイにおける高閾値冷感受性神経の異常角膜の生理学的温度はC34℃であり,開瞼後涙液層の蒸発に伴い眼表面の温度は徐々に低下する(上段).角膜の冷感受性神経は,生理学的温度でも自発的に発火活動が起きており,温度低下によって発火頻度が増加する(下段).正常な高閾値冷感受性神経では,34℃において発火頻度は低く,温度低下に対する反応閾値も高い(大きな温度低下がなければ発火頻度が増加しない).一方,ドライアイの角膜神経では,34℃における発火頻度も高くなり,温度低下に対する反応閾値も顕著に低下する(小さな温度低下でも発火頻度が増加する).持続的な涙液層不安定化による眼表面の乾燥状態が持続すると,高閾値の冷感受性神経の自発的発火活動が上昇するとともに,温度低下に対する反応閾値も著明に低下する(応答性が亢進する).この変化は,神経の膜電位を制御するCNa+-K+電流のバランスが,イオンチャネル発現量の変化などによって崩れることが原因とされる.このような高閾値の冷感受性神経の機能変化が起きると,正常な状態では乾燥感や痛みを感じることのない温度変化であっても神経が活性化してしまい,乾燥感や痛みを感じるようになる.眼表面の涙液の不安定化,炎症,上皮障害といった徴候に依存しない難治性の自覚症状は,このような角膜神経の機能変化によるものではないかと予想されている.このほかにも,筆者らはポリモダル神経において侵害刺激に対する反応がドライアイによって持続的に亢進していることも見出しており,自覚症状の発生には角膜に内在するさまざまなタイプの感覚神経の機能変化が関与していると考えている.CIV中枢神経系の異常とドライアイの自覚症状前述したドライアイにおける角膜神経の機能変化は,通常では痛みを起こさない刺激によって痛みを感じる疾患である異痛症(アロディニア)の発症メカニズムと非常に類似している.近年アロディニアでは,中枢神経系における神経伝達やネットワークが変化し,痛覚情報処理機構の異常が引き起こされることが見出されている.実際に,ドライアイでも眼表面の痛覚情報を処理する延髄三叉神経脊髄路核で,興奮性神経伝達を担うリン酸化NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体の増加と抑制性神経伝達を担うCGABA(gamma-aminobutyrate)受容体の発現量低下が報告されている8).また,中枢における痛覚情報処理の異常を伴う神経因性疼痛とドライアイとの間には強い相関があるという臨床報告もある9).ドライアイの自覚症状と中枢神経の異常に関する研究は始まったばかりであるが,現在この分野における基礎および臨床研究が世界的に活発になってきている.今後,この観点からのドライアイの病態解析や新しい治療戦略の開発も期待される.V加齢によるドライアイの眼不快感加齢はドライアイの主要なリスクファクターのひとつである.加齢によるドライアイは,涙液の分泌能低下や組成変化さらにマイボーム腺分泌不全などにより涙液層が不安定化することが原因と考えられてきた.一方で近年,加齢による角膜の神経科学的変化が涙液の基礎分泌量低下やドライアイの自覚症状発生に関与していることが示唆されている10).すなわち,加齢により涙液基礎分泌を制御する低閾値の冷感受性神経数が減少しており,その結果,中枢神経への情報入力が減少して涙液分泌量が減少する.また,興味深いことに,侵害受容にかかわる高閾値の冷感受性神経と類似した神経線維の形態を有しているものの,冷刺激に対してより敏感(低閾値)な神経線維が出現することも明らかになっている.加齢による涙液基礎分泌の低下時には,この新たに出現した閾値の低い冷感受性神経が反射性分泌により基礎分泌の低下を代償すると同時に,この神経を介した情報が侵害情報として脳に伝えられるため,眼不快感が発生するのではないかという仮説も提唱されている.CVIドライアイの自覚症状に対する治療の展望現在行われている涙液層の安定性を主眼に置いたドライアイの治療は,自覚症状の誘発に関与する眼表面の刺激因子を取り除くことができるという点からも,非常に理にかなった効果的な手法である.したがって,自覚症状を改善させるためにも,現在確立されている点眼薬や涙点プラグなどを用いた積極的なドライアイの治療が望まれる.しかしながら,涙液層や角膜上皮が正常化しても残り続ける知覚異常には,新たな治療戦略の開発が必要である.知覚異常では,角膜神経の興奮性増大や中枢神経における痛覚の情報伝達の変調といった神経科学的変化が起きている(図5).その病態が神経因性疼痛に非常に類似していることから,プレガバリンやデュロキセチンなどの神経因性疼痛治療薬なども有効な薬剤であると考えられる.しかしながら,これらの薬剤の中には抗コリン作用を有するものや低閾値の冷感受性神経の活動を抑えるものもあり,かえって涙液分泌に悪影響を及ぼしかねな(19)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C723