●連載244244.円錐角膜診断におけるPlacido型角膜形状解析装置の役割監修=木下茂大橋裕一坪田一男糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Placido型角膜形状解析装置は,今もなお,円錐角膜のスクリーニング検査機器としての役割が期待できる.角膜前面に形状変化を有する症例を見逃さないために,円錐角膜診断補助プログラムに頼りきらず,元データとなるCMeyerringの配列に注意を払い,適切なスケールでカラーマップを読むことがポイントである.●はじめに1880年代にCPlacidoが同心円像を角膜に投影し,その反射像から角膜形状を観察する装置を発明した1).この装置は,発明者の名前からCPlacido角膜計とよばれ,角膜全体の形状を測定する機器の基礎となった.その後,角膜反射像を写真に記録するフォトケラトスコープ,角膜反射像をコンピューター解析するビデオケラトスコープが登場し,Placido型角膜形状解析装置として現在に至るまで使用されている.近年は技術の進歩により,スリットスキャン型やCScheimp.ug型角膜形状解析,前眼部光干渉断層計といったさまざまな角膜形状解析装置が出現している.しかし,もっとも多く普及しているのは今でもCPlacido型角膜形状解析装置ではないだろうか.本稿ではCPlacido型角膜形状解析装置について,その原理と機能,および現在の円錐角膜診断で担う役割について解説する.C●Placido型角膜形状解析装置の原理と機能Placido型角膜形状解析装置は,同心円像を角膜に投影し,得られた反射像から角膜形状を観察する.この同心円像はCMeyerringとよばれ,リングの歪み・間隔から角膜形状を類推できる(図1A).また,機種によって詳細は異なるが,Meyerring上には放射状に測定点が設けられており,その測定結果から平均角膜曲率が算出され,スケールに基づいてカラーマップが作成される(図1B).一部の機種では,角膜の不整性を示す形状指数や,円錐角膜の診断補助プログラム(図1C),角膜不正乱視を定量化するCFourier解析,Meyerringの経時的な変化を利用した涙液安定性を評価するシステムを備えている.C●円錐角膜診断とPlacido型角膜形状解析装置の役割円錐角膜は,角膜実質の菲薄化と角膜の前方突出をき(81)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1円錐角膜眼のTMS.4撮影結果A:角膜中央下方にCMeyerRingが収束し,間隔の狭小化がみられる.CB:カラーマップでは,突出部位に一致して高屈折域を意味する暖色系を示す.CC:円錐角膜診断補助プログラムであるCKlyce/MaedaおよびCSmolek/Klyceによる解析結果.いずれも赤・黄色・緑に色分けされており,それぞれ,異常・注意・正常を示す.たし,角膜不正乱視を生じる進行性の疾患で,診断は古くから細隙灯顕微鏡検査に基づいて行われてきた.その後,角膜形状解析装置の出現により,角膜形状を画像化し定性的に解析することで,従来では困難であった円錐角膜の診断と重症度分類2)(図2)が可能となった.また,技術の進歩に伴い角膜形状の定量化が可能となり,円錐角膜に特徴的な形状変化をとらえることで,診断に活用する試みが行われてきた.現在,円錐角膜の診断に有効とされる角膜形状解析装置由来の指数についてはさまざまな報告があり,それらは大きく,角膜前面形状・角膜後面形状・角膜厚(上皮厚も含む),生態力学特性,角膜高次収差に分類される3).Placido型角膜形状解析装置は非常に精緻な角膜前面データを得られるという長所をもつ一方で,一部機種を除き,角膜後面形状・角膜厚・生態力学特性,角膜高次収差といった情報が一切得られないという短所をもつ.現在,円錐角膜の診断は,角膜前面ないし後面の突あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C1121図3軽度円錐角膜眼のTMS.4撮影結果円錐角膜診断補助プログラムであるCKlyce/Maeda法ではC0.0%,Smolek/Klyce法ではC21.0%と低値を示している(右).しかし,カラーマップでは高屈折域を意味する暖色系が歪んだC8の字を描いており(左下),円錐角膜を疑う必要がある.軽度中等度重度角膜耳下側の急峻化と,これに起因するリン中央の所見に加え,周辺角膜にも急峻化中央の急峻化が著しいため周辺にリンググの歪みを認める.周辺には変化を認めない.を認める.を認めない.図2円錐角膜の重症度分類出,および角膜の菲薄化というC3要素からなる4)と考えられており,角膜前面形状のみを評価可能なCPlacido型角膜形状解析装置だけでは診断に苦慮する症例も存在する.そのため,円錐角膜の診断という観点からは,角膜前面に加えて角膜後面や角膜厚を評価可能な他機種に比較して力不足といわざるをえない.しかし,角膜前面形状に関する情報量は非常に多く,スクリーニングに関してはCPlacido型角膜形状解析装置は今もなお主力といえる.円錐角膜の見逃しを防ぐために大切なのは,円錐角膜診断補助プログラムに頼りきらず,オリジナルデータに注意を払うことである.元データとなるCMeyerringの配列に注意を払い,カラーマップをしっかり読めば,角膜前面に形状変化を有する症例を見逃すことはほとんどない(図3).スケールのステップ・カラー分布を変更すC1122あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020ると,マップが与える印象は大きく異なってしまう.ぶれることのない診断のためには,常に同じスケール設定の画像を読むことも大切である.円錐角膜診断補助プログラムは非常に有用だが,あくまでも診断の補助であり,最終判断を下すのは医師であることを忘れてはいけない.また,必要に応じて,他の角膜形状解析装置を併用するという判断も必要となる.C●おわりにPlacido型角膜形状解析装置は,一部機種を除いて角膜前面の解析のみ可能であり,角膜後面形状・角膜厚・生態力学特性,角膜高次収差といった情報は得られない.そのため,現在の円錐角膜診断基準に照らすと,Placido型角膜形状解析装置のみでは診断に苦慮する症例が存在する.しかし,角膜前面形状に関する情報量はもっとも多く,注意深く使用することで,十分にスクリーニング検査機器としての役割が期待できる.Placi-do型角膜形状解析装置は,その長所・短所を理解し,他の角膜形状解析装置と併用することで,今後も円錐角膜スクリーニング検査の基本となることが推測される.文献1)PlacidoA:NovoCinstrumentoCperCanalyseCimmediateCdasCirregularitadesdecurvaturadacornea.PeriodicoOftalmolPracticaC6:44-49,C18802)前田直之,岩崎直樹,細谷比左志ほか:円錐角膜の角膜形状分類と臨床所見.臨眼45:1737-1741,C19913)MasiwaCLE,CMoodleyV:ACreviewCofCcornealCimagingCmethodsCforCtheCearlyCdiagnosisCofCpre-clinicalCkeratoco-nus.CJOptom.CaheadCofCprint.doi:10.1016/j.optom.2019.C11.0014)GomesJA,TanD,RapuanoCJetal:GlobalconsensusonkeratoconusCandCectaticCdiseases.CCorneaC34:359-369,C2015(82)