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II.視路病変編 レーベル遺伝性視神経症─治療最前線

2019年5月31日 金曜日

II.視路病変編レーベル遺伝性視神経症─治療最前線APotentialDrug─IdebenoneforLeber’sHereditaryOpticNeuropathy石川裕人*ILeber遺伝性視神経症とはLeber遺伝性視神経症(LeberChereditaryCopticCneu-ropathy:LHON)は,遺伝性視神経症の一つであり,細胞内小器官ミトコンドリア機能不全による視神経障害と考えられている.近年の遺伝子変異マウスを用いた動物実験では,ミトコンドリア遺伝子変異により活性酸素上昇を認め,フリーラジカルが神経細胞傷害に関与していることが示唆された1).疫学的には,わが国において2017年に日本神経眼科学会がアンケートによる調査を行ったところ,2014年の新規発症がC120人程度で,推定患者総数は約C4,000人と推測された.93.1%が男性発症であり,若年発症が多い.ミトコンドリア遺伝子変異はC90%以上の症例でCND1/G3460A,ND4/G11778A,ND6/T14484Cのいずれかであり,実際にC3,460(2.2%),11,778(86.4%),14,484(11.4%)であった2).発症そのものには,遺伝的背景の他に環境因子,とくに喫煙や飲酒の関与が考えられている3).上記調査の結果からわかる通り,典型例は若年男性の両眼性視力障害,ただし片眼発症が先行し僚眼発症には数カ月のタイムラグがある.実臨床においては,視神経炎との鑑別が重要であるが,急性期では,1)視力低下と乖離するほぼ正常な対光反射,2)網膜断層撮影による耳側傍視神経乳頭網膜神経線維層厚の肥厚,3)フルオレセイン蛍光眼底造影検査において蛍光漏出なし,4)ミトコンドリア遺伝子変異の有無のC4点で鑑別できる.筆者がとくに重要と考えている所見は対光反射である.中心暗点を呈した急性期の視神経炎であれば,まず対光反射は障害され相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)陽性となる.しかし,LHONにはそれがない.また,現在ではミトコンドリア遺伝子変異の有無は血液を外注検査に出すだけでC2週間も経たずに結果がわかる.仮に初診時にCLHONと診断できずとも,視神経炎として治療し,治療抵抗性であればそこで初めて,視神経脊髄炎(neuromyelitisCoptica:NMO)やCLHONを念頭において再検査してもいいだろう.診断基準については,厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班ならびに日本神経眼科学会が合同でCLeber遺伝性視神経症の認定基準をC2015年に作成している(図1)4).CIIイデベノンの治験近年の技術的革新のおかげで,LHONの診断に関しては比較的容易になった.しかしながら,いまだに治療法についてはわが国では確立されていない.2011~2013年にかけて,ヨーロッパを中心としたCLHONに対するイデベノンの有効性を検討する多施設ランダム化試験(RescueCofCHeredityCOpticCDiseaseCOutpatientStudy:RHODOS)が行われ,その有効性がある程度認められ,2015年にはイデベノンがヨーロッパにおいて世界初のCLHONに対する認可薬となった.イデベノン(idebenone,化合物名:6-(10-hydroxydecyl)-2,3-*HirotoIshikawa:兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕石川裕人:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学講座C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(55)C625図1レーベル遺伝性視神経症の診断基準OHOOOO図2イデベノンの化学式ITTpopulationab0.050.20.150.1全眼における視力良好な眼の視力変化logMARlogMAR0視力改善率-0.05logMARlogMAR0.05-0.10-0.15-0.05812162024W812162024Wcd0.20.2両眼でのベスト視力0.150.10.10.0500-0.1-0.05812162024W812162024W図3RHODOSでの視力変化主要評価項目の達成には失敗したものの,サブ解析ではイデベノンの効果を認めた.(文献C5より改変引用)図4RaxoneR(Santhera社)図5イデベノンが奏効した15歳,男児の視野変化’C-’C

II.視路病変編 抗AQP4 抗体と抗MOG 抗体陽性視神経炎の臨床像の相違点・類似点

2019年5月31日 金曜日

II.視路病変編抗AQP4抗体と抗MOG抗体陽性視神経炎の臨床像の相違点・類似点ClinicalCharacterizationofAnti-Aquaporin4-SeropositiveorMyelin-OligodendrocyteGlycoprotein-SeropositiveOpticNeuritis─PointofDi.erenceandSimilarity─毛塚剛司*はじめに一般的な眼科外来において,視神経炎はかなりまれである.実際,わが国における視神経炎の有病率は人口10万人中C1.6人である1).視神経炎はまれな疾患ではあるが,急激な視力低下を伴ううえに多くの鑑別疾患があり,眼科医を悩ませることが多い.視神経炎が確定した後でも,ステロイド内服治療に抵抗したり再発したりするケースもあり,治療に難渋することが多々ある.最近,眼底所見に加えて血清免疫抗体検査やCMRIデータなどを加味して視神経炎を分類する方法が確立しつつあり,臨床眼科医にとって治療戦略が立てやすくなった.本稿では,第C56回日本神経眼科学会総会のシンポジウムをベースに,抗CAQP4抗体と抗CMOG抗体陽性視神経炎の特徴および類似点,相違点につき述べる.CI視神経炎に関連する抗体である抗AQP4抗体,抗MOG抗体とは今までに視神経炎の病態と強く関連する抗体はいくつか提唱されている.そのうち,臨床においてとくに注目を集めているのが抗CAQP4(アクアポリンC4)抗体と抗MOG(ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン)抗体である.どちらの抗体も神経グリア細胞由来の分子に対する抗体であり,抗CAQP4抗体はアストロサイト由来,抗CMOG抗体はオリゴデンドロサイト由来である(図1).抗CAQP4抗体は,最初は視神経脊髄炎のマーカーとして注目され,後にステロイド抵抗性の視神経炎において血清中に抗CAQP4抗体が多く含まれることが判明し,眼科医の知るところとなった経緯がある2,3).抗CMOG抗体は,当初はCMOG抗原がげっ歯類の視神経脊髄炎を引き起こす因子として注目され,多発性硬化症の動物モデルに関連して解析されてきた.2010年代にになって臨床的に血清中の抗CMOG抗体を測定できるようになり,眼科および神経内科領域で一気に注目されるようになった4,5).マウスモデルにおける病態解析ではあるが,抗CAQP4抗体では単独で視神経炎および脊髄炎を引き起こすことはできない.炎症や外傷などにより脳血液関門,もしくは網膜血液関門が破綻し,病的抗体が視神経もしくは脊髄に入り,臓器特異的な炎症が発症すると考えられている.しかし,なぜ病的抗体が発生するのかは未だ不明である.CII抗AQP4抗体と抗MOG抗体の測定法抗CAQP4抗体と抗CMOG抗体の測定法はどちらもELISA(enzyme-linkedCimmunosorbentassay)法とCBA(cell-basedassay)法があるが,精度の点からいって,両抗体ともCCBA法が推奨されている.しかし,保険収載されているのは抗CAQP4抗体ではCELISA法の*TakeshiKezuka:毛塚眼科医院,東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒131-0033東京都墨田区向島C1-5-7毛塚眼科医院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(49)C619表1抗AQP4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴図1視神経を構成するグリア細胞アストロサイト(星状膠細胞):AQP4を多く発現.ミエリン-オリゴデンドロサイト(稀突起膠細胞):MOG蛋白を多く含む.ミクログリア:スカベンジャー作用を有する.オリゴデンドロサイト図2抗AQP4抗体陽性視神経炎50歳,女性.初診時CMRI(T1強調ガドリニウム造影)で視神経に沿って造影効果(右眼>左眼)を認める(.).Ca:冠状断.b:水平断.表2抗MOG抗体陽性視神経炎の臨床的特徴図3図2の症例胸脊椎CMRI(T2強調単純)で脊髄に沿って高信号を認めた(.).図4抗MOG抗体陽性視神経炎の眼底像24歳,女性.左眼に視神経乳頭の発赤腫脹を認める.図5図4の症例初診時CMRI(T1強調ガドリニウム造影)で視神経に沿って造影効果(左眼)を認める(.).V抗AQP4抗体陽性視神経炎と抗MOG抗体陽性視神経炎の関係抗CAQP4抗体陽性例と抗CMOG抗体陽性例は,眼科分野において臨床像の違いはあるものの,全身からみればどちらも視神経炎と脊髄炎をきたしやすいという臨床的特徴があり,NMOSDの範疇に入ると思われる14).しかし,これまで述べたように,視神経炎としてはこれらの抗体陽性例でかなり臨床像が異なっている.そして何より視力予後が大きく異なるため,どちらの抗体の陽性例とも同一の疾患(NMOSD)とするには無理があると考えられている15).このため,最近では脱髄疾患には三つのカテゴリーが提唱されてきており,1)多発性硬化症,2)抗CAQP4抗体陽性疾患,3)抗CMOG抗体陽性疾患に分けることが提唱されている15).今まで知られていた脱髄疾患関連の分類では,1)多発性硬化症(古典的なもの,眼脊髄型),2)視神経脊髄炎(Devic病),3)同心円硬化症(Balo病)などがあげられていたが,抗AQP4抗体や抗CMOG抗体の発見により新しく脱髄性疾患の分類が変わるかもしれない.CVI特異的抗体陽性視神経炎と他の眼疾患との鑑別今まで,抗CAQP4抗体陽性視神経炎と抗CMOG抗体陽性視神経炎の臨床像について述べてきたが,この二つの特異抗体陽性視神経炎の鑑別を行うまでに行わなければならない眼疾患の鑑別がある.視神経疾患としては,高齢の場合には虚血性視神経症,若年者ではCLeber遺伝性視神経症などが鑑別にあがる.全年齢で注意すべき視神経疾患の鑑別には梅毒やヘルペスをはじめとした感染症があげられる.とくに梅毒は両眼性の視神経網膜炎の形を取ることがあり,脱髄性の視神経乳頭炎と混同しやすい.また,視神経疾患のみならず,ぶどう膜炎にも注意が必要である.全年齢でサルコイドーシス,原田病で視神経乳頭浮腫型が存在し,脱髄性視神経乳頭炎との鑑別が重要である.比較的若年者ではCBehcet病で両眼性の視神経乳頭浮腫が起こることがあり,しかも前眼部炎症をきたさないことが多い.これらの眼疾患としっかり鑑別し,いわゆる特発性視神経炎の診断がついてから特異抗体陽性か否かを判断したほうがよいと思われる.おわりに最近までに報告されている,抗CAQP4抗体と抗CMOG抗体陽性視神経炎の臨床像の相違点と類似点を解説した.わが国においては,ようやく全国調査が終わってこの二つの抗体陽性例の眼科的特徴がみえてきたところである.視神経炎における抗CAQP4抗体陽性例と抗CMOG抗体陽性例の大きな違いは,ステロイド治療に対する抵抗性であり,また再発の頻度にある.すなわち,これらの抗体例をよく理解することにより,難治性視神経炎の治療に大きく寄与する可能性が高くなると思われ,今後のさらなる臨床例の積み重ねが重要になることが予想される.文献1)石川均:日本における特発性視神経炎トライアルの結果について.神眼24:12-17,C20072)LennonCVA,CWingerchukCDM,CKryzerCTJCetal:ACserumCautoantibodyCmarkerCofCneuromyelitisoptica:distinctionCfrommultiplesclerosis.LancetC364:2106-2112,C20043)LennonCVA,CKryzerCTJ,CPittockCSJCetal:IgGCmarkerCofCoptic-spinalCmultipleCsclerosisCbindsCtoCtheCaquaporin-4Cwaterchannel.JExpMedC202:473-477,C20054)KezukaCT,CUsuiCY,CYamakawaCNCetal:RelationshipCbetweenCNMO-antibodyCandCanti-MOGCantibodyCinCopticCneuritis.JNeuroophthalmolC32:107-110,C20125)SatoDK,CallegaroD,Lana-PeixotoMAetal:DistinctionbetweenMOGantibody-positiveandAQP4antibody-posi-tiveCNMOCspectrumCdisorders.CNeurologyC82:474-481,C20146)KezukaCT,CFujitaCM,CUmazumeCACetal:ComparisonCofCantibodyCdetectionCassaysCforCserumCanti-aquaporin-4CantibodiesCinCopticCneuritis.CAmericanCAcademyCofCOph-thalmology(AAO)MeetingC2016,CChicago,COctC14-18,C20167)MatsudaR,KezukaT,UmazumeAetal:Clinicalpro.leofanti-myelinoligodendrocyteglycoproteinantibodysero-positivecasesofopticneuritis.Neuroophthalmol39:213-219,C20158)抗アクアポリンC4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン作成委員会:抗アクアポリンC4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン.日眼会誌118:446-460,C20149)IshikawaCH,CKezukaCT,CShikishimaCKCetal:Epidemiologi-calCandCclinicalCcharacteristicsCofCopticCneuritisCinCJapan.COphthalmology,inpress.10)JariusCS,CRuprechtCK,CKleiterCICetal;inCcooperationCwithC(53)あたらしい眼科Vol.36,No.5,2019C623

II.視路病変編 視路疾患のOCT Up-to-Date

2019年5月31日 金曜日

II.視路病変編視路疾患のOCTUp-to-DateOpticalCoherenceTomographyinVisualPathwayDisorder坂本麻里*中村誠*はじめに網膜に入った光刺激は,視細胞で電気信号に転換され,双極細胞,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)へ伝達される.RGCの軸索は視神経となり,視交叉・視索・外側膝状体・視放線を経て,後頭葉の視覚野へと伝達される(図1).この視覚伝導路(視路)に起きるさまざまな疾患により,神経細胞の軸索が損傷すると,損傷部位から末梢側への順行性変性とともに,細胞体側に向かう逆行性変性が起きる.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発達により,RGCやその軸索である網膜神経線維(retinalnerve.ber:RNF)を詳細に解析できるようになった.OCTは今や緑内障性視神経症の診断・治療に欠かせない検査となっているが,視路疾患においても,逆行性変性によるRGCやRNFの変化を描出することができ,その有用性が高まっている.視路疾患におけるOCTで観察すべきところは,緑内障性視神経症と同様である.すなわち,乳頭解析では乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnerve.berlayer:cpRNFL),黄斑部解析では黄斑部網膜神経線維層(mac-ularretinalnerve.berlayer:mRNFL),網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)と内網状層(innerplexiformlayer:IPL)を合わせたGCL/IPLやganglioncellanalysis(GCA),GCL/IPLにさらにmRNFLを合わせた網膜神経節複合体(ganglioncellcomplex:GCC)などである.本稿では,視路疾患を部位別に,1)視神経炎,2)視交叉病変,3)視索病変に分け,それぞれにおけるOCTの所見や有用性について解説する.I視神経炎のOCT視神経炎には,特発性視神経炎,多発性硬化症(mul-tiplesclerosis:MS)による視神経炎,抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎,抗MOG抗体陽性視神経炎のほかに,サルコイドーシスや甲状腺眼症,感染や外傷による視神経炎などがある.視神経炎の発症直後,視神経乳頭に腫脹がみられる場合には,OCTの乳頭解析でcpRNFL厚の増大がみられる(図2).乳頭腫脹のない視神経炎の場合は,発症直後は乳頭解析や黄斑部解析で菲薄化はまだみられないことがある(図3).外傷性視神経症では受傷2週後でcpRNFLとGCCの菲薄化がみられると報告されているが1),視神経炎においても発症から数週間経過すると逆行性変性によるRGCの萎縮がみられ,cpRNFLやmRNFL,GCL/IPL,GCCの菲薄化を認める.発症から3カ月以上経過すると,これらの菲薄化の進行は止まり,次第に変化がなくなっていく(図3).視神経炎後にRNFLやGCL/IPLが菲薄化していても,視力や視野障害が改善している例と,改善しない例がある(図4).OCTにおける各層の菲薄化と視機能障害の関係については複数の報告がある.視神経炎後6カ月以上経過した眼において,cpRNFL厚が75μm以上保た*MariSakamoto&*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕坂本麻里:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(41)611視神経視交叉外側膝状体視放線大脳皮質視覚野図1視路視神経乳頭から視神経となって眼外へ出た網膜神経節細胞の軸索は,視交叉,外側膝状体,視放線を経て大脳皮質視覚野へ至る.鼻側網膜由来の線維は視交叉で交叉し反対側の視索へ,耳側網膜由来の線維は交叉せずに同側の視索となる.Cab図2視神経乳頭腫脹を伴う発症直後の左視神経炎の例a:光干渉断層計の乳頭解析.左眼の乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)の増大を認める.Cb:同眼の眼底写真.左視神経乳頭の発赤腫脹を認める.mRNFLGCLIPLGCCa発症数日後LV=0.2(n.c.)b1カ月後LV=(1.5)6カ月後図3視神経炎の光干渉断層計(OCT)所見の経時変化多発性硬化症による左視神経炎の症例.a:発症数日後.左視力低下と傍中心暗点を認めるが,OCTの黄斑部解析ではまだ網膜内層の菲薄化はみられない.Cb:1カ月後.ステロイドパルス療法をC2クール施行し視力と視野は改善しているが,網膜内層は発症直後より菲薄化している.c:6カ月後.網膜内層の菲薄化の進行はみられない.mRNFL:黄斑部網膜神経線維層,GCL/IPL:網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)+内網状層(innerplexiformClayer:IPL),GCC:GCL/CIPL+mRNFL.a右眼左眼両眼発症の特発性視神経炎発症4カ月後RV=(1.2)LV=(1.5)b右眼左眼両眼発症の抗AQP4抗体陽性視神経炎発症4年後RV=(0.4)LV=(0.9)図4視神経炎後の網膜内層の菲薄化と視力a:両眼同時発症の特発性視神経炎症例.発症C4カ月後,両眼ともに網膜内層の菲薄化を認めるが,視力回復は良好である.Cb:両眼発症の抗CAQP4抗体陽性視神経炎症例.発症C4年後.両眼とも網膜内層は著明に菲薄化し,視力回復は右眼矯正(0.4),左眼矯正(0.9)までにとどまっている.RNFL:網膜神経線維層,GCL+:網膜神経節細胞層(ganglionCcelllayer:GCL)+内網状層(innerplexiformlayer:IPL),GCL++:GCL+.+RNFL.図5微細.胞黄斑浮腫(microcysticmacularedema:MME)a:抗アクアポリンC4抗体陽性視神経炎の症例.内顆粒層(innernuclearlayer:INL)にCMMEを認める().高度な視機能障害が残り,視神経乳頭は蒼白,萎縮している.Cb:開放隅角緑内障後期の症例.INLにCMMEを認める().中心視野障害を認め,緑内障性視神経萎縮を認める.図6下垂体腺腫による視交叉部圧迫の例a:左右の視神経乳頭に帯状萎縮を認める.b:乳頭周囲網膜神経線維層厚解析.左右ともに鼻耳側の線維が上下に比べ有意に菲薄化している.Cc:網膜神経節細胞複合体の正常からの偏移マップ.左右ともに交叉線維が由来する鼻側網膜に菲薄化を認める.図7右視索障害の症例a:ガドリニウム造影CT1強調CMRI(軸位断)で右視索に造影効果を認める().b:乳頭周囲網膜神経線維層の正常からの偏移マップ.患側の右眼では上下で,対側の左眼では鼻耳側で菲薄化を認める.Cc:網膜神経節細胞複合体の正常からの偏移マップ.右眼は耳側網膜,左眼は鼻側網膜の菲薄化を認める.

II.視路病変編 視路疾患におけるMRI オーダーのコツ

2019年5月31日 金曜日

II.視路病変編視路疾患におけるMRIオーダーのコツTechniqueforDiagnosticMRImagingofVisualPathwayDisorders橋本雅人*はじめに視路疾患は病変が球後または頭蓋内にあるため,MRI検査が不可欠である.しかしながら,視路は球後からはじまり,中頭蓋窩を経由して側頭後頭葉あるいは頭頂後頭葉を通り最終の視中枢に至る長い経路道であるため,漠然と頭部MRIをオーダーしても病変を見逃してしまう恐れがある.そこで重要なことは,視野欠損のパターン,左右眼の対光反応の差〔相対的瞳孔求心路障害(rel-ativea.erentpupillarydefect:RAPD)〕の有無などの眼科的所見から,責任病巣が球後か,視交叉近傍か,あるいは視交叉より中枢側かを見きわめ,それに応じたMRIオーダーをすることである.I球後視神経病変のオーダーのコツと読影球後視神経病変を疑うときは,表1に示した眼科的所見を認めたときである.MRIをオーダーするポイントとしては,眼窩内の視神経病変を短時間で効率よく描出する手法を指示することである.表2に当科で用いているプロトコールを示す.眼窩部は必ず脂肪抑制法の一つであるshorttauinversionrecovery(STIR)を冠状断で撮影することが重要である.球後視神経を冠状断で見ると,視神経線維の周囲にくも膜下腔が,さらにその外側を硬膜(視神経鞘)が筒状に囲んでおり,この形状は眼球後面から視神経管に至るまで続いている.通常のT1,T2強調画像でこれらの組織構造を描出することは困難であるが,STIRでは静脈や髄液などの遅い水の流れは高信号に描出されるため,神経周囲のくも膜下腔は髄液による高信号を呈する.したがって,STIRによる正常な視神経像は全体として細い白色の輪状となる(図1).また,全体像を把握する意味でT2強調画像または.uidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)(用語解説参照)頭部水平断を撮影しておくことが望ましい.単純MRIによって,炎症または腫瘍性病変を認めたときは造影を用いて病変を確認することも重要である.1.急性球後視神経疾患の画像診断視神経炎では脱髄性,浸潤性,自己免疫性といったさまざまな機序があるが,いずれの場合でも視神経に生じた炎症性浮腫が遅い水の流れとして反映されるため,STIRでは高信号を示す(図2a).また,視神経周囲炎では視神経鞘の炎症なので周囲の高信号が増強されて描出される1)(図2b).一方,虚血性視神経症ではこのような信号変化は示さず,正常と同様な信号を示す.これらの信号変化は,脂肪抑制法併用のT2強調画像を用いても,STIRとほぼ同様な画像が得られる.全身の悪性腫瘍からの髄液播種により急激な視力低下を示すものとして髄膜癌腫症(meningealcarcinomato-sis)があげられる.通常両眼性に発症することが多い.単純MRIでは,どのようなシーケンスを用いても正常視神経と変わりはないが,造影では眼窩部の視神経は輪状の造影所見を示す(図2c).さらに頭蓋内髄膜の造影所見が認められれば,この疾患を強く疑う重要な手がか*MasatoHashimoto:中村記念病院眼科〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570札幌市中央区南1条西14丁目中村記念病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(31)601表1球後視神経疾患を疑う眼科的所見表2眼窩部MRIに必要な検査オーダーと撮影時間図1正常な球後視神経のMRI所見STIR冠状断で描出される正常視神経.白色の輪状陰影()はくも膜下腔の髄液を反映している.b図2球後視神経疾患のMRI所見a:左球後視神経炎.STIRにおいて炎症のため軸索全体が高信号を示している().b:視神経周囲炎のSTIR所見.ステロイドパルス療法前(左)では左視神経周囲が高信号を示したが(),治療後では視神経周囲の高信号は目立たなくなり左視神経と同様の信号を示している.c,d:髄膜癌腫症の造影MRI所見.眼窩部造影T1強調画像では両側視神経周囲の輪状造影()を認め(c),頭部では頭蓋内髄膜(d)の造影()を認める.表3眼窩先端部にて視神経障害をきたす原因疾患眼窩外側眼窩内側図3視神経腫瘍のMRI視神経髄膜腫(a):造影水平断ではtram-tracksign()を認める.Neuro.bromatosistype1における視神経膠腫(b):矢状断で外側から内側に向かう連続面では視神経が拡大し,下方に屈曲している.図4STIRにおける視神経萎縮所見通常の冠状断において(Ca),右視神経は左に比べ小さく,全体に高信号を示すが(),視神経に垂直な斜め冠状断では(Cb)視神経の中心は低信号を示し,周囲くも膜下腔の高信号が強調されて描出されている().表4視交叉病変を疑う眼科的所見図5トルコ鞍近傍腫瘍のMRIa:下垂体腺腫.T2強調画像冠状断において充実性の下垂体腫瘤が視交叉を圧排()している所見を認める.Cb:下垂体卒中.下垂体腫瘍内にCT2強調画像で出血を示唆する低信号所見を認める().c:鞍結節髄膜腫.造影CMRIにおいて鞍結節部に造影効果を有する腫瘍を認める.右硬膜に沿ったCduraltailsign()も認める.Cd:蝶形骨縁髄膜腫:比較的均一で硬膜に沿った()びまん性充実性腫瘍が眼窩内に浸潤している.Ce:頭蓋咽頭腫.造影の矢状断ではトルコ鞍上に巨大な被膜を有する腫瘤を認め,内部は.胞部と充実性部で造影効果が異なる.Cf:Rathke.胞.T2強調画像冠状断において.胞が視交叉を上方に圧排()している.図6視交叉部視神経炎のMRISTIR冠状断で視交叉左側()に著明な高信号を認める.図7内頸動脈瘤の画像所見T2強調画像(Ca)ではトルコ鞍上に巨大な低信号の腫瘤陰影を認め,MRA(Cb)で内頸動脈瘤()と診断した.図8EmptysellaのSTIR冠状断トルコ鞍は拡大し下垂体が菲薄化()している.表5同名半盲と病変部位の関係ab図9先天性大脳皮質形成異常(先天性外側膝状体半盲)a:GCA解析.CirrusのCGCAでは,両眼ともに中心窩を境界線とした黄斑部内層網膜の菲薄化がみられた.右眼は非交叉線維,左眼は交叉線維の菲薄化であり,hemianopicatrophyが示唆された.Cb:Humphrey視野検査.両眼ともに垂直子午線で境される左上方および下方の欠損がみられ,四重分画盲と解釈した.Cc:頭部造影CMRI.右側脳室後角が狭小化し,右側脳室周囲の本来あるべき白質領域に灰白質が肥大し膨隆している所見を認めた().造影効果はなく腫瘍性病変は否定的であった.図10両側後頭葉梗塞のMRI所見a:拡散強調画像水平断.b:FLAIR冠状断.両側後頭葉とくに冠状断において右鳥距溝上唇に広がる梗塞病変がみられる().■用語解説■FLAIR:水の信号を抑制したCT2強調画像.脳室が低信号で描出され,脳梗塞のみ高信号で表示されるため病巣が明瞭.とくに脳室や脳溝付近などの病巣が明瞭に描出される.COnodi症候群:後部篩骨洞の気泡化が著明な場合は,蝶形骨洞を下方に追いやり,トルコ鞍まで篩骨蜂巣が侵入(Onodi蜂巣)し,視神経管を圧排することがある.CFlowvoid:血流や脳脊髄液(cerebrospinal.uid:CSF)のように流れている組織が画像上で無信号となる現象.-

I.眼球運動編 眼球運動障害治療のABC

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編眼球運動障害治療のABCBasicTreatmentforEyeMovementDisorders木村亜紀子*はじめに眼球運動障害をきたす疾患には,筋無力症やFisher症候群など全身疾患の初発症状として発症するものから,高齢者に多い微小循環障害に伴う眼運動神経麻痺や,外傷,頭蓋内疾患などが原因の中枢性のものなどに加え,最近では,加齢に伴って生じる眼球運動障害も明らかとなり原因は多岐にわたる.眼球運動障害により引き起こされる複視や頭位異常は,日常生活に大きな支障をもたらす.そのため,原疾患の治療中も複視や頭位異常に対する保存的治療はなされるべきであり,放置されるものではないと考えている.そして,発症後約半年間,眼位異常が安定し,改善傾向がなければ,積極的な手術治療の適応である.本稿では敬遠されがちな眼球運動障害に対する治療を基本から自験例を用いて解説する.I眼球運動障害治療のA:基本的な考え方眼球運動障害をきたす原疾患が多岐にわたることを考慮すると,その発症様式や眼球運動障害の種類から原因検索を行うことは必須である.本稿では,原因検索の仕方ではなく,複視や頭位異常に対する治療に重点を置いて解説する.まず,原因検索を行っている間にも患者は複視や頭位異常で日常生活に支障をきたしているため,フレネル膜プリズムやバンガーターフィルターなどの保存的治療により複視消失をはかる.原疾患治療後,約半年間,眼位に変動がなく,改善傾向がなければ,積極的に外眼筋手術の計画を立てるか,斜視角が小さければプリズム眼鏡で経過をみることにする.回旋偏位は保存的治療では矯正できないため,プリズムでうまく矯正できないときにはバンガーターフィルターを用いるほうが適しているかもしれない.回旋複視はとくによい手術適応ともいえる.すなわち,複視発症後,眼位異常が安定するまでは,手術治療を行わず保存的治療を優先し,約半年眼位異常が継続した場合は手術適応と判断する,ということが基本的な考え方である.II眼球運動障害治療のB:観血的治療1.手術治療の基本的な考え方外眼筋のバランスをとり正面視で正位となるように術式を組み立て,正面視と読書眼位での複視が消失するように調整する.逆にいうと,術後も正面視と読書眼位以外のいずれかの方向で複視は残存する.患者は,手術を受ければ全方向で複視が消失する,と期待していることも少なくないため,術前に説明がなされていなければ術後の不満につながってしまう.そのため,手術の目的があくまで正面視での複視消失であり,正面視以外でのいずれかの方向で複視が残存するであろうことを,あらかじめ説明しておくことは臨床上重要である.2.術式の決定方法たとえば,軽度の外転神経麻痺を例にあげると,患眼*AkikoKimura:兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕木村亜紀子:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(23)593a左内直筋後転右内直筋後転b図1軽度の左外転神経麻痺(赤線が麻痺)a:患眼手術と健眼手術.b:術後の眼球運動.矢印は眼球運動制限の方向をさす.c:両眼単一視野.術前術後図2術前後の両眼単一視野70歳,女性.左外転神経麻痺.眼位は近見C4プリズム,遠見C18プリズムの内斜視であった.右下斜筋後転左下直筋後転図3軽度の右滑車神経麻痺(赤線が麻痺,青線は弱化を示す)患眼手術としては右下斜筋後転が,健眼手術としては左下直筋後転が術式として考えられる.鼻側耳側図4上下直筋を用いた回旋偏位の矯正法(右眼)上直筋には内方回旋作用が,下直筋には外方回旋作用がある.耳側へ移動させると強化手術,鼻側へ移動させると弱化手術となる.上下直筋を移動させるときにはTillauxのらせんに沿って移動させる.MR:内直筋,LR:外直筋,SR:上直筋,IR:下直筋.a耳側鼻側bb図6手術方法と術後眼位a:左眼,内直筋後転C6Cmmと外直筋C6CmmのCplicationと下直筋後転と鼻側移動術のシェーマ.Cb:術後眼位.近見6プリズムの内斜位,遠見C14プリズムの内斜視,外方回旋偏位は正面視でC0°,下方視でC2°,上下偏位は消失した.図5中等度の左外転神経麻痺と上下・回旋斜視の合併例a:自由頭位.左へ顔を回し,右方視でものを見る代償頭位を認める.b:左眼の外転制限はわずかに正中を超える.abcIR図7高度な左外転神経麻痺a:右眼に高度な内斜視と正中を超えない高度な外転制限を認める.Cb:上下直筋の外方移動術の模式図.上下直筋の付着部からC8.10mmの位置で筋腹の半分に糸を掛け,角膜輪部からC10.12の位置にC45°の内上方,外上方となるように縫着する.Cc:術後眼位は正面視で正位となり,軽い内転制限を認める.外転は正中を超え,外転制限の改善も認める.Cab図8フレネル膜プリズム麻痺性外斜視に対しては,フレネル膜プリズムを基底内方にして用いる.図9バンガーターフィルターa:バンガーターフィルターが組み込まれた眼鏡のオクルアR(左眼)で外出時に用いている.Cb:右方視で複視がある場合,左眼の内側にバンガーターフィルターを貼る.図10斜視に対するボツリヌス治療a:右外斜視と内転制限を認める.Cb:右外直筋にC2.5単位投与後,半年後でも眼位は正位に保たれている.-

I.眼球運動編 自己抗体別重症筋無力症の臨床像

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編自己抗体別重症筋無力症の臨床像ClinicalComparisonofAnti-AChR,Anti-MuSK,andAnti-Lrp4-positiveMyastheniaGravis鈴木利根*はじめに重症筋無力症(myastheniagravis:MG)は,血液中の自己抗体により,横紋筋の神経筋接合部が障害される自己免疫疾患である1).日本人は眼筋型が40%程度と頻度が高く,しかも眼瞼下垂(約70%)や複視(約50%)が初発症状となることが多く,したがって,眼科を初診して見つかることが多い.MGでは病原性自己抗体の種類や発症年齢,胸腺腫の有無で臨床像が異なる.前半ではまずMGの基本像に触れ,その後に自己抗体別などにMGを分類したそれぞれの臨床像の特徴について述べる.また,筆者の臨床経験や個人的見解も前面に出し解説する.I診断1.発症形式と鑑別診断現病歴の聴取が大事で,MGを疑うきっかけとなる.複視は1~2週間前から発症が多く,眼瞼下垂は同じ位か少し長く数週間~数カ月前からの発症を訴えて来院する患者が多い.どちらか一方の症状を訴えることもある.高齢のMG患者が近年は増えており,高齢者では1週間前程度からの急性発症の複視を訴える虚血性(微小循環)障害の患者が非常に多く,さらに正確な発症時期を覚えていないこともあるので鑑別に注意する.このような虚血性の動眼・滑車・外転の各神経麻痺のほかに鑑別すべき疾患には,高齢者の加齢性眼瞼下垂や脳幹の血管障害による複視,小児では先天性眼瞼下垂や斜視がある.2.症状前述のように眼瞼下垂や複視が多い.必ずしも自分から訴えないが,よく聞いて「朝は軽度で夕方悪化する」のような日内変動の病歴が得られれば大いに診断の参考になる.アイスパック試験(2分間冷却で,2mm以上の眼瞼下垂改善)は手軽な検査であり,後述のテンシロン試験が陽性ならMGはほぼ確定できる(表1).眼瞼下垂は眼科を初診するMGでは片眼性が多い.眼瞼下垂の手術目的で来院あるいは紹介されて受診する患者にも一応疑う.「いつのまにか」ではなく「数週~数カ月前から」など発症時期をはっきり記憶していれば,高齢者でも幼児でもMGを疑う.診察時でも30秒間位閉瞼させた後に下垂が一時改善したり,短時間睡眠後などによる休息後の疲労回復現象も参考になる.これまでMGの眼瞼下垂に特徴的な付随症状としてlidtwitch現象(下方視から上方視させたときなどの上眼瞼の痙攣現象)や,enhancedptosis現象(一側の眼瞼を検者が挙上させると,他側の眼瞼下垂が増強)が知られているが,あまり特異度は高くない.MGの複視についての特徴を述べるのはむずかしい.眼瞼下垂を伴わず複視のみの患者もいる.はっきりした複視を訴えても,肉眼的観察やHess複像検査で運動障害の所見がはっきりしないこともある.眼球運動障害は片眼性でも両眼性でも,またさまざまなパターンがみられる.動眼神経麻痺の部分症状に似る内転や上転の単独障害,あるいは滑車神経麻痺と同様の垂直性複視を訴え*ToneSuzuki:獨協医科大学埼玉医療センター眼科〔別刷請求先〕鈴木利根:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学埼玉医療センター眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(17)587表1重症筋無力症診断基準案2013図1テンシロン試験陽性患者40歳,男性.低密度リポ蛋白質(Lrp4)抗体陽性CMG患者.アンチレックスR静注前(Ca)および静注C90秒後(Cb)の外眼部写真.注射前の右眼瞼下垂と左の瞼裂開大(plus-minus眼瞼徴候)が,注射後は消失して左右差がなくなり,眉毛の高さも同程度となって自覚症も改善した.症状は軽症の全身型で,胸腺腫認めず,免疫治療が奏効した.抗Lrp4抗体陽性MG自己抗体発見年抗AChR抗体1976年図3抗AChR陽性眼筋型MG患者の胸部CT66歳,女性.で示す部位に胸腺腫を示す陰影がみられる.抗MuSK抗体2001年抗Lrp4抗体2011年図2重症筋無力症の自己抗体抗CAChR抗体が陰性のCMG患者の約C30%に抗CMuSK抗体が発見された.さらに両抗体とも陰性のCMG患者の一部に,抗CLrp4抗体が発見された.=表2自己抗体別MGの特徴抗CAChR抗体陽性CMG抗CMuSK抗体陽性CMG抗CLrp4抗体陽性CMG頻度性別(男:女)症状クリーゼ胸腺腫合併治療80%1:2眼症状初発多く眼筋型(40%)10~20%20~30%抗CChE薬が有効3%未満(AChR陰性CMGのC10%)1:3初発より球麻痺合併が多い33%なし不定2.2~50%1:2C.5眼筋型~比較的軽症少ない少ない抗CChE薬や免疫治療が有効(抗CChE薬:抗コリンエステラーゼ薬)図4抗MuSK抗体陽性MGのHess赤緑試験71歳,女性.初診より構音障害や嚥下障害が主で,軽度の複視もみられた.呼吸管理,血漿交換が早期に神経内科で行われた.眼位は軽度の外斜視および左眼/右眼の上下斜視で,眼球運動障害はHess赤緑試験で示すように軽度であった.表3高齢者および小児MGの特徴後期発症CMG小児CMG症状眼筋型が比較的多い若年者よりやや多い抗CAChR抗体が多い他に抗横紋筋抗体陽性免疫治療が有効全身型への移行少ない眼筋型が非常に多い非常に少ない頻度少ない(50%)ほとんど抗CAChR抗体,抗CMuSK抗体はまれ予後良好全身型への移行少ない胸腺腫合併自己抗体治療=

I.眼球運動編 中枢性眼球運動障害を理解する

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編中枢性眼球運動障害を理解するUnderstandingCentralDisordersofOcularMotility城倉健*はじめに眼球運動障害は一見複雑に感じられるが,基本となる神経機構のいくつかさえ押さえておけば,理解することはそれほどむずかしくはない.本稿ではまず,非共同性の眼球運動障害を個々の脳幹神経核からの視点で解説し,次いで共同性の眼球運動障害を各種眼球運動の発生機構からの視点で解説する.I眼球運動神経核からみた眼球運動障害(単眼性.非共同性眼球運動障害)1.動眼神経核中脳の動眼神経核に障害が及ぶと,両側性の眼瞼下垂が生じる(midbrainptosis)1)(図1).これは,左右の上眼瞼挙筋が,正中に1つしかないcentralcaudalnucle-usにより同時に支配されているためである.動眼神経の他の亜核にも障害が及び,内転や上転,下転制限がさまざまな程度で加わることも多いが,centralcaudalnucleus以外の亜核は左右別々に存在するため,これらの障害は通常片側優位(非対称性)に出現する.動眼神経の亜核の解剖は複雑なので,上転や内転,下転制限から病変の広がりを推測するのはやや困難である.一方,両側性の眼瞼下垂は一目瞭然の眼症候であり,たとえ動眼神経亜核の解剖を理解していなくても,中脳動眼神経核自体の障害を知ることができる大変価値の高い眼症候といえる.両側の眼瞼下垂と異なり,一側の眼瞼下垂は多くの場合,髄外(末梢性)動眼神経麻痺で出現する.ただし,動眼神経核を出た後の髄内動眼神経線維が中脳病変で障害されれば,髄外動眼神経麻痺と類似する一側眼瞼下垂を伴う眼球運動障害をきたす.梗塞(虚血)が原因の場合は通常瞳孔が障害を免れるため,糖尿病性髄外(末梢性)動眼神経麻痺と紛らわしいが,中脳の梗塞では瞳孔とともに下直筋も障害を免れやすいことが鑑別の参考になる2)(図2).2.外転神経核および関連する内側縦束と傍正中橋網様体橋の傍正中橋網様体(paramedianpontinereticularformation:PPRF)が障害されると患側への側方注視麻痺が生じるが,外転神経核の障害でも同様に側方注視麻痺をきたす(図3a).ちなみに単眼の外転障害は髄外(末梢性)外転神経障害を示唆する眼症候である.まれに橋病変(外転神経核を出た後の髄内外転神経線維障害)で単眼の外転障害が出現することもあるが,通常は単独ではなく,他の神経症候(顔面神経麻痺や片麻痺,感覚障害など)とともにみられる.一方,単眼の内転障害は橋病変を示唆する所見である.橋病変による内転障害は,内側縦束(mediallongi-tudinalfasciculus:MLF)が障害されたことによる(核間性眼筋麻痺,MLF症候群)(図3b).橋病変による単眼の内転障害(核間性眼筋麻痺)は,他の神経症候を伴わず,単独で出現することも多い.核間性眼筋麻痺に*KenJohkura:横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科〔別刷請求先〕城倉健:〒235-0012神奈川県横浜市磯子区滝頭1-2-1横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(11)581図1動眼神経核障害による両側眼瞼下垂視床中脳に生じた悪性リンパ腫により両側眼瞼下垂をきたした69歳,男性.両側眼瞼下垂は動眼神経核自体に障害が及んでいることを示唆する.この患者は他に下方注視麻痺も伴った.bOculomotornerveInterpeduncularfossaPosteriorcerebralarteryMRLidSRPerforatingbranchIOBasilartipSubstantianigraRednucleusOculomotornucleusCerebralaqueduct図2中脳梗塞による髄内動眼神経線維障害79歳,男性にみられた中脳梗塞による瞳孔異常を伴わない動眼神経麻痺(a).瞳孔が障害を免れた動眼神経麻痺は糖尿病による髄外(末梢性)動眼神経麻痺に特徴的だが,中脳梗塞による動眼神経麻痺では下直筋も障害を免れる場合が多い.これは,中脳の虚血の場合には深部(つまり動脈の遠位部)から障害され,表層(つまり動脈の近位部)にある瞳孔成分や下直筋成分は障害を免れやすいことによる(b).Pupil:瞳孔成分,IR:下直筋成分,MR:内直筋成分,Lid:上眼瞼挙筋成分,SR:上直筋成分,IO:下斜筋成分.ab■PPRF障害:患側注視麻痺■MLF障害:核間性眼筋麻痺両眼とも障害側に向かない■外転神経核障害:患側注視麻痺■MLF+PPRF/外転神経核障害:one-and-a-half症候群両眼とも障害側に向かない図3傍正中橋網様体,外転神経核,内側縦束の眼症候a:傍正中橋網様体(PPRF)が障害されると患側への側方注視麻痺をきたす.また,外転神経核が核性に障害された場合にも,PPRFの障害と同様に患側への側方注視麻痺を生じる.これは外転神経核に,同側の外直筋へのmotoneuronのみならず,反対側の動眼神経核内の内直筋motoneuronへ連絡するinternuclearneuronが含まれていることによる.b:内側縦束(MLF)が障害されたことによる患側眼の内転障害を核間性外眼筋麻痺(internuclearophthalmoplegia)という.さらにMLFに加え,同側のPPRFないし外転神経核が障害されると,患側眼の外転,内転障害と,健側眼の内転障害をきたす.これをone-and-a-halfsyndromeとよぶ.c:左橋被蓋部の梗塞によりone-and-a-half症候群を呈した75歳,女性.PPRF:傍正中橋網様体,VI:外転神経核,MLF:内側縦束,III:動眼神経核.bcdCT図4水平性saccadicsystema:水平性saccadicsystemのシェーマ.テント上病変では眼球は患側に偏倚し,テント下病変では眼球は健側に偏倚する.b~d:70歳,男性の右中大脳動脈の塞栓症(b)と83歳,女性の右視床出血(c)では,いずれも眼球が病変側に向く方向に偏位している.これに対し,橋出血の77歳,女性(d)では,眼球は病変と反対方向に偏位している.FEF:前頭眼野,PPRF:傍正中橋網様体,VI:外転神経核.MRIDWICT患側への眼球偏倚L健側向き眼振健側への眼球偏倚患側向き眼振図5水平性vestibularsystem水平性vestibularsystemのシェーマ.延髄病変では眼球は患側に偏倚し,健側向き眼振が生じる.一方,小脳病変では眼球は健側に偏倚し,患側向き眼振が生じる.VN:前庭神経核,VI:外転神経核,MLF:内側縦束,III:動眼神経核.riMLFからの興奮性線維連絡健側への眼球回旋偏倚赤矢印:上転方向の線維連絡青矢印:下転方向の線維連絡図6垂直.回旋性saccadicsystem垂直/回旋性saccadicsystemのシェーマ.赤矢印は上転方向の線維連絡を示し,青矢印は下転方向の線維連絡を示す.また,下段の薄い矢印は各外眼筋が眼球に作用する力の向きを示す.一側のriMLFが障害されると,眼球は反対側に回旋偏倚する.riMLF:内側縦束吻側間質核,IR:下直筋,cSR:反対側の上直筋,IO:下斜筋,IV:滑車神経核,cSO:反対側の上斜筋.ab右中脳病変左延髄病変図7垂直.回旋性vestibularsystema:垂直/回旋性vestibularsystemのシェーマ.前庭神経核のある延髄の障害では,眼球は患側に回旋偏倚し,健側向き回旋性眼振が生じる.一方,橋より吻側の障害では,前庭神経核からの線維が交差後に障害されるため,眼球は健側に回旋偏倚し,患側向き回旋性眼振が生じる.b:上段は右中脳梗塞の59歳,男性,下段は左延髄梗塞の43歳,男性.左末梢前庭器から延髄の前庭神経核を経て交差し,橋を上行する経路が障害されるため,いずれの患者も眼球は左に回旋偏倚し,右向き回旋性眼振が出現する.VN:前庭神経核,IV:滑車神経核,III:動眼神経核.

I.眼球運動編 複視を主訴とした患者が来院したら

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編複視を主訴とした患者が来院したらHowShouldYouExamineaDiplopiaPatient?中馬秀樹*I診察の手順1.単眼性か両眼性か複視を主訴とする患者をみたら,まず行うべきことは,単眼性の複視か,両眼性の複視かを鑑別することである1~3).以下の手順で確認する.1.病歴聴取の際に,片眼を閉じると一つに見えるか,片眼を閉じていても二つに見えるかを聞く.2.診察で実際に片眼を隠してみて,一つに見えるか,二つに見えるかを検査する.3.ピンホールを用いて単眼複視が消失するかどうかを検査する(図1).単眼性の複視で,ピンホールで消失すれば,原因は眼球自体にある(未矯正屈折異常,白内障など)1~3).単眼性の複視で,ピンホールで消失しなければ,原因は大脳にある(大脳性多視症,視覚保続,心因性など)可能性がある1).2.斜視の有無両眼性の複視であれば,以下の手順で斜視があるかを確認する.1.病歴聴取で水平性の複視か,垂直性の複視か,回旋性の複視かを聞く.2.水平性の複視であれば交叉性か同側性かを聞く.3.診察では,カバーテストで水平斜視か,上下斜視か,自覚と一致するかを確認する.図1ピンホール検査単眼複視が消失するかどうか検査している.4.斜視があれば,共同性か,非共同性かを確認する.5.眼球運動制限があるかを確認する.垂直性の複視であれば,原因は甲状腺眼症と滑車神経麻痺が多い4).明らかな眼球運動制限(とくに上転制限)があれば甲状腺眼症をまず考え,以下の手順で確認する(図2).a.眼窩部MRIまたはCTで外眼筋の腫脹を確認す*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)573図2甲状腺眼症の眼球運動制限顕著な右眼の上転制限がみられる.表1甲状腺眼症の症状,徴候-図3甲状腺眼症の眼窩部MRI右眼下直筋の腫脹がみられる.図4甲状腺眼症の圧迫性視神経症の眼窩部MRI外眼筋が肥厚し,視神経を圧迫している.図5滑車神経麻痺の眼球運動明らかな眼球運動制限が観察できない.図6Maddoxロッドの写真左眼ロッド眼(右眼)図7Maddoxロッドを用いた眼位検査法1赤い線(右眼)が下ロッドを縦方向に当て,ペンライトを固視させる.図8Maddoxロッドを用いた眼位検査法2赤い線が上か下か確認する.赤い線が下であれば6PDRH2PDRH右上斜視が左方視,右斜頸で増加図11右の滑車神経麻痺パターン正面視で右上斜視が左方視,右斜頸で悪化する.同じ高さになったプリズム度数を記録図10Maddoxロッドを用いた眼位検査法4赤い水平線とペンライトの光が重なるプリズム度数を記録する.C2PDLH4PDLH15゜EX図12両側性の滑車神経麻痺パターン両側方時に内転眼が上斜視になり,外方回旋が10°以上ある.眼底写真がわかりやすい.表2眼筋型重症筋無力症の症状,徴候図13両側性の滑車神経麻痺の眼底写真(下)より外方回旋が目立つ.図14右動眼神経麻痺動眼神経麻痺瞳孔不完全完全外眼筋不完全動脈瘤完全虚血性動脈瘤図15動眼神経麻痺の発症初期からの変化と原因図16内頸動脈―後交通動脈分岐部の動脈瘤のCT血管像図17右外転神経麻痺==’図18小児の外転神経麻痺で判明した脊索腫

序説:神経眼科診療を楽しもう!

2019年5月31日 金曜日

神経眼科診療を楽しもう!Let’sEnjoyNeuro-OphthalmologicalPractice!中村誠*第56回日本神経眼科学会総会を去る平成30年12月14日,15日の両日,神戸国際会議場で開催しました.総会のテーマが,まさに「神経眼科診療を楽しもう!」でした.『あたらしい眼科』誌編集委員の大橋裕一先生から,折も折,本特集を編むにあたって,「先生の学会のテーマに大変共感しました.それを骨子に特集企画を作れませんか?」とのご下命をいただきました.願ったり叶ったりのご依頼に,一も二もなく編集を引き受けさせていただいた次第です.理由は至極明瞭です.編者が眼科サブスペシャリティの一つである「神経眼科」に対して強い危機感を抱いているからです.現在,医師や診療科の偏在が声高に叫ばれています.だが,事はそう単純なものではありません.診療科内におけるサブスペシャリティの偏在もまた深刻な問題です.若手眼科医師はこぞって屈折矯正や網膜硝子体サージャンをめざそうとする風潮にあります.一方,神経眼科,小児眼科といった領域を専攻しようとする若手医師はとても少ないです.それほどに神経眼科は医師が一生を捧げるに値しない無意味な領域なのでしょうか?少なくとも編者は決してそうとは思いません.いえむしろ,ともすれば,他診療科から,「いったい眼科は何をしているのだろう?」と訝しがられるほどに孤立した診療内容が多い中,神経眼科ほど,「チーム医療」という他診療科では当たり前の取り組みを実践し,患者の視覚のみならず生命予後にも貢献できるサブスペシャリティはないのではないでしょうか?その醍醐味に,若手眼科医が触れる機会さえなく,「少年老い易く学成り難し」を地で行くことを放念することは,あまりにも眼科医,患者双方にとって不幸なのではないでしょうか?要するに,神経眼科診療がいかに面白く,そして,未だすべてとはいえないまでも,多くの疾患を治療できるようになった分野であることを,次世代の眼科医に知ってもらいたい!これこそが編者が希求するテーマそのものです.このテーマに挑むには,単に優秀な研究者を寄せ集めるだけでは事足りません.小難しい理屈を書き連ねるのではなく,informativeかつinstructiveな解説のできるメンターを結集しなければなりません.神経眼科は視覚を扱うだけでなく,眼球運動の理解が不可欠な領域です.正常な立体視ができてこそ,初めて,ヒトは後方の視野を大幅に犠牲にしてまでも,両眼を顔の前面に配置する解剖構造を進化論的に選択した甲斐があります.その正常立体視を脅かす眼球運動経路障害をどのような手順で鑑別し,治療していくか.一般の眼科医にとって,とり*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)571

画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEF®の眼科画像に対する有用性の検討

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):559.565,2019c画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEFRの眼科画像に対する有用性の検討福岡秀記横井則彦外園千恵京都府立医科大学眼科CE.ectivenessofSoftDEFAdaptiveImageSharpeningSoftwareinOphthalmologyHidekiFukuoka,NorihikoYokoiandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:眼科診療においては,異常所見や経時変化のさまざまな目的で数多くの種類の画像を扱う.さまざまな眼科画像に対しCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を用いた画像鮮明化処理が有用であるか否かについて検討を行った.対象および方法:京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.10人の眼科医に盲検法にて画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を提示し,処理が臨床的に有用であるか判定させた.結果:前眼部写真における異常血管,角膜後面沈着物を鮮明化,およびフルオレセイン染色画像の点状表層角膜症の鮮明化が可能であった.眼底画像では,網膜裂孔,網膜下出血,網膜変性が鮮明化できた.その他にもマイボグラフィー像,眼底自発蛍光画像も鮮明化でき,医師全員が臨床的に有用と判定した.結論:画像鮮明化処理ソフトウェアは眼科のさまざまな画像に有用と考えられた.CPurpose:InCtheCclinicalCsetting,CnumerousCtypesCofCophthalmicCimagesCareCtakenCtoCdetectCandCfollowCupCabnormalC.ndings.CTheCpurposeCofCthisCstudyCwasCtoCinvestigateCtheCe.ectivenessCofsoftDEF(LogicC&CSystems,Kobe)adaptiveimagesoftwareinsharpeningthede.nitionofophthalmicimages.SubjectsandMethods:Ophthal-micimageswereobtainedofpatientsseenatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine;normalphotographsandphotographssharpenedwithsoftDEFwerethenevaluatedandcomparedby10ophthalmologistsviadouble-blindclinicaltest.Results:softDEFsharpenedthede.nitionofabnormalbloodvessels,keraticprecipitatesandstainedsuper.cialCpunctateCkeratitisCinCtheCophthalmicCimages,CasCwellCasCtheCcontourCofCretinalCtears,CsubretinalChemor-rhageCandCretinalCpigmentosaCinCfundusCphotographs.CInCaddition,ClidCmeibographyCandCfundusCauto.uorescenceCbecameclearer;allCtheCophthalmologistsCjudgedCtheCsoftwareCtoCbeCuseful.CConclusions:ImageCsharpeningCsoft-wareisusefulforvarioustypesofphotographsinthe.eldofophthalmology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):559.565,C2019〕Keywords:画像鮮明化処理ソフトウェア,眼科,画像.adaptiveimagesharpeningsoftware,ophthalmology,im-age.Cはじめに眼科では,細隙灯顕微鏡(スリット)や眼底カメラなどさまざまな光学機器を駆使し,眼球および眼付属器を観察することで診察を行う.そのため,前眼部細隙灯顕微鏡(スリット),フルオレセイン染色,前眼部光干渉断層計,網膜光干渉断層計,造影眼底カメラなどで撮影されたさまざまな種類の画像を取り扱う.そして,日常の診察では画像を注意深く観察することで異常所見を検出したり,診察で読影された異常所見の経時変化をファイリングしたりする.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,デジタルもしくは,アナログをデジタル変換した画像から,オリジナリティ(独自性)は保持した状態で画像に独自な処理を行うことで,目的の所見を強調する技術である.具体的には,霧がかかった悪い天候における霧の除去,暗所での監視カメラ映像の鮮明化のほか逆光や半逆光により相対的に暗くなった画像の変換などに利用され,画像鮮明化処理は,さまざまな領域で応用さ〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465,Kajiicho,Hirokoji-agaru,Kawaramachidori,Kyoto602-8566,JAPANCabcd図1今回用いたソフトウェアの説明a:低コントラスト画像のヒストグラム.ある一定の領域にシグナルが集簇しており,急峻な山なりの形状であることがわかる.Cb:ヒストグラム平坦化後のヒストグラム.Cc:ソフトウェアでの処理画像.上方が処理後の画像,下方が画像鮮明化処理前の画像である.処理前には画像の右側は低コントラストとなっているが,処理後はコントラストの改善がみられる.Cd:ソフトウェアの各パラメータの設定パレット.パラメータのスライダーを調整するとリアルタイムで処理結果ウインドウの画像が変化する.れている.今回筆者らは,眼科領域のさまざまな画像に対し画像鮮明化処理を行い,従来の画像と比較し,処理後の画像がどのように鮮明化し有用であるかについて検討を行った.CI対象および方法京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.前眼部写真としては,スリット眼科撮影装置CTL54(TOPCON)およびマイボグラフィー装置CDC4(TOPCON)を用いて撮影されたものを,後眼部写真としては,超広角走査型レーザー検眼鏡CDaytona(Optos),F-10TM(NIDEK社,蒲郡),眼底光干渉断層撮影CRS3000(NIDEK社)を用いて撮影された眼底画像を用いた.今回,不鮮明な画像を鮮明化する画像鮮明化処理ソフトウェアとして,鮮明化処理アルゴリズム(AdaptiveCDetailCEnhancementFilter:ADEF)(PN:patentCnumber.4386C959,PN.6126054)を利用しているCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を使用した.以下にこの画像鮮明化処理ソフトウェアで用いている方法の原理と処理手順,性能について説明する.ここにいう不鮮明な画像とは,コントラストの低い領域(暗い,もしくは濃度差が著しく小さい)に観察対象が存在する画像であり,不鮮明な画像であってもフォーカスのずれやブレが要因となった画像は対象ではない(撮影時の物理的な要因は対象外).すなわち,画像の鮮明化とは,低コントラスト画像の画像処理といえるが,コントラストの低い画像は一般にヒストグラムが偏る傾向にある.ヒストグラムとは画素の明度分布図のことで,横軸に明度,縦軸に面積(特定明度の画素数)で表される.ヒストグラムに偏りがある画像はヒストグラムの平坦化(histogramCequalization)1)という技術を用いてコントラストを回復させる.ヒストグラムの平坦化とは,たとえば,原画像の明度がC8ビットで表現され,原画像の総画素数をCTとすると,0.255のすべての明度の頻度がCT/256になるように変換する処理のことをいう.図1aが低コントラスト画像のヒストグラム,図1bがヒストグラム平坦化後のヒストグラムである.従来の低コントラスト画像のヒストグラムの平坦化には二つの問題点があった.すなわち,1)コントラストが高い領域にコントラストが低い領域が混在し,ヒストグラムの点からみると偏りが少ない画像の場合はコントラストを高めたい領域が十分にコントラストを回復できないという問題(コントラストの高低混在画像の問題),2)ダイナミックレンジの低い画像(非常に暗い領域や輝度差が小さく淡い領域)の場合,コントラストを広げ過ぎるとざらついたノイジーな画像になってしまうというコントラスト過多の問題である.以上のような従来からの克服課題であったコントラストの高低混在という画像の問題は,適応的ヒストグラム平坦化(adaptiveChistogramequalization:AHE)2)として知られる画像を細かく分割し狭い範囲で個別にヒストグラム平坦化を実行した後に合成することで解決可能となった.また,コントラスト過多の問題はCCLAHE(ContrastCLimitedCAdaptiveHistogramCEqualization)として知られるCLUTを生成する際に一定以上の大きな変化を制限することで軽減可能となった.一方,以上のような処理は膨大な反復演算のために非常に大きなメモリやアクセスを要するが,ADEFにより軽量かつ高速で実行可能となった.ADEFによる画像処理の手順は以下のとおりである.C①テスクトップ上に変換したい画像を表示する.ADEF処理を行うソフトウエア(SoftDEF)を起動し,処理結果ウインドウをドラッグして処理結果ウインドウに変換したい画像を入れる(図1c).②SoftDEFメインウインドウで各パラメータを調整する(図1d).③パラメータを確定させ,目的の画像ファイルをCSoftDEFメインウインドウ上にドラッグ&ドロップすると,出力ファイルの指定ウインドウが開くため,出力パス,ファイル名およびファイルフォーマットを指定して処理画像ファイルを出力する.特徴としてファイルフォーマットには“JPEG”,C“PNG”,“TIFF”,“BMP”が利用できる.“PNG”と“TIFF”フォーマットではC16ビットフォーマットに対応しているため,DICOMを変換したハイビット画像も変換可能である.処理速度はコンピュータのCCPUやCGPUの能力に左右されるが,最新の機種を利用するとCADEFはフルハイビジョンをC30枚/秒以上で処理が可能となり,動画をリアルタイムで処理する能力を有することになる.今回のソフトウェアにより鮮明化した画像が臨床的に有用であるかに関して,当院のC10人の眼科医に,画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を,盲検法にて提示し,①どちらが鮮明か否か,および,②臨床的に所見が明確か否かについての判定を得た.なお当研究は,京都府立医科大学の倫理委員会の承認のもと行われた.CII結果画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理を前眼部細隙灯顕微鏡(スリット)写真に対して行った.ディフューザー法で撮影された画像では角結膜にある血管や睫毛が強調され,鮮明化した画像が得られた.図2aにあるような結膜の角膜への侵入例では結膜血管の起始部から末端までの血管走行を追うことが可能であった.また,図2bは翼状片に結膜腫瘍を合併した症例であるが,画像鮮明化処理ソフトウェアにより,一見見逃しやすい腫瘍に特徴的な血管異常を強調することができた.図2cのフルオレセインの画像では,点状表層角膜症が判然としないが,処理により角膜中央部におけるその存在が明瞭に描出された.このように背景の暗い画像に存在する所見を鮮明化することが,今回の方法で可能であった.一方,図2dにおける逆光のような強膜散乱撮影写真では,処理前には角膜下方C1/3の部分の限局した範囲にしかみられなかった角膜後面沈着物が,処理後にはより広範囲かつより数多く観察された.また,図2eはスクレラルスキャッタリング法による画像であるが,逆光画像のように暗く認識がむずかしい虹彩が,処理後には虹彩紋様が認識できるほどに鮮明化された.つぎに,眼底画像に対して処理を行った.図3aでは病変が周辺部にあり,かつ淡い硝子体出血により不鮮明な画像であったが,処理後には網膜周辺の巨大裂孔の形状,網膜.離の範囲がより明確となった.図3bでは網膜下血腫は色調が暗くその範囲がオリジナルの画像では判別がむずかしいが,処理後は明瞭化,判別が容易となった.また,網膜にある点状病巣がとくに強調され,観察が容易になった.さらに,図3cのように,網膜血管の白線化や骨小体など範囲や色調が暗い画像が,処理後には網膜周辺部まで追える画像となった.図3dの眼底自発蛍光画像では,オリジナル画像では通常白味がかっており病変がわかりにくいが,処理後には白い霧のような領域は大部分除去され,自発蛍光の強弱が認識しやすくなった.図3eの眼底光干渉断層計画像では,全体的に輝度が上がり黄斑浮腫の範囲や場所が明確になった.その他の眼科の特殊な画像についても処理を行った.図4aに示すように直接法によるマイボグラフィー像では,オリジナルは白黒のはっきりしない画像であるが,処理後は,コントラストが強調されマイボーム腺の観察が容易となった.図4bはチューブシャントおよび強膜パッチ後の水疱性角膜症の画像であるが,処理後は結膜血管が強調されるとともに角膜上皮浮腫がとくに強調された.また,図4cに示すように結膜下の強膜の境界が鮮明化し,その範囲の認識が容易になった.以上すべての画像において処理後の画像の質の低下は認めなかった.すべての画像においてC10名中C10名(100%)の医師により,①画像は鮮明化したと判定され,同様に全医師により②臨床的な所見を取得しやすくなったと判定された.CIII考按画像鮮明化処理ソフトウェアは,現在,さまざまな製品が利用可能であり,各製品には,固有のアルゴリズムが内蔵され,さまざまな特長がある.このような画像鮮明化処理ソフトウェアの技術の向上が目覚ましく,撮影条件が悪く失敗した画像を修正できるだけでなく,降雪や濃霧などの悪天候での監視画像の処理や,暗所での監視画像の処理など,その有用性はさまざまな領域で認知されてきている.他科領域でも画像鮮明化が有用であったとの報告はあり3,4),眼科領域では,見えにくいものを強調するという意味で充血解析ソフト5),ブルーフリーフィルター6),赤外光マイボグラフィー7,8)などが開発されている.今回,前眼部写真,眼底カメラ画像から眼底自発蛍光画像までさまざまな眼科画像に対し画像鮮明化処理を行った.前眼部写真では,結膜においては結膜の血管が強調される画像が得られた.そのことから角結膜腫瘍など,血管の異常走行を伴う疾患に関して有用である可能性がある.角膜においては,正常では無血管で透明であるため強膜散乱法により撮影した角膜混濁,フルオレセインによる角膜の点状染色病変の鮮明化に有効であった.また,ぶどう膜炎,角膜移植後の拒絶反応やサイトメガロウイルス角膜内皮炎の角膜後面沈着物など,微細で見逃されやすいものも強調表示された.とく図2今回処理を行った眼科前眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:角膜移植後に移植片に結膜血管が侵入した症例.Cb:結膜腫瘍を合併した翼状片.Cc:点状表層角膜症のフルオレセイン染色像(ブルーフィルター使用).Cd:サイトメガロウイルス角膜内皮炎による角膜後面沈着物.Ce:真菌角膜感染症の強膜散乱法像.図3今回処理を行った眼科後眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:網膜.離裂孔(上方巨大裂孔および下方のC2箇所の網膜裂孔).Cb:加齢黄斑変に併発した網膜下出血.Cc:網膜色素変性.Cd:加齢黄斑変性の眼底自発蛍光像.Ce:黄斑浮腫の眼底光干渉断層計画像.図4今回処理を行った眼科の特殊画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理を行った画像(2)の比較a:上眼瞼マイボグラフィー画像.Cb:前房内へのチューブシャント手術後の水疱性角膜症.Cc:チューブシャントと強膜パッチを行った症例.に,角膜後面沈着物については,強調されただけではなく,画像鮮明化により詳細な形状が観察可能となった.マイボーム腺は近赤外線を用いたマイボグラフィーで一般に導管や腺房の撮影が可能である.ライトガイドを用いたマイボーム腺撮影法は,コントラストや明るさが高く有用であるが,正面より近赤外光を当て,その反射を撮影する方法ではコントラストや感度が低いことが問題であった.しかし,画像鮮明化処理を行うと,ライトガイドを用いたマイボグラフィーと同様の高いコントラストの画像を得ることが可能であった.眼底カメラにおいては結膜部の処理結果と同様に網膜血管が強調された.なんらかの網膜病変や網膜血管が強調されたほか,角膜混濁や白内障によって不鮮明な眼底画像でも病変の描出が可能であった.とくに超広角走査型レーザー検眼鏡においては周辺部が暗くなることが多く,この画像鮮明化処理ソフトウェアにより自然な状態で鮮明化されたことは非常に興味深い結果であった.スペキュラーマイクロスコープ(角膜内皮細胞撮影装置)や生体レーザー共焦点顕微鏡などの画像においても画像鮮明化処理が可能であった(データ未掲載).コントラストなどが高い画像取得は可能であったが,オリジナルの画像でまったく診断不可能な病変が処理後に診断可能になることはなかった.今回の検討で多くの眼科画像の画像鮮明化処理を行い,有用な画像が得られた.筆者らが今回行った処理方法はパソコン内に画像鮮明化処理ソフトウェアをインストールしたうえでのソフトウェアでの処理である.この方法ではさまざまな装置からのさまざまな種類のデジタル画像を安価な値段で処理できるというメリットがあるもののさまざまな装置からのデータ抽出と移行などによるデータ流出などの安全性の問題,撮影時にリアルタイムでみられないという問題などが残る.しかし,より高度なCCPUやCGPUが搭載されたコンピュータを利用すれば,フルハイビジョンをC1秒あたりC30枚以上処理でき,ほぼリアルタイムで処理できるレベルにあるほか,ハードウェアでの画像鮮明化も可能とされる.リアルタイムな画像処理では,その速度もソフトウェアと比較し非常に速い.今後の方向性を考えると,さまざまな眼科機器への応用のほか,眼科手術顕微鏡への応用により,より低侵襲で安全な手術が可能になるかもしれない.今回,眼科画像を画像鮮明化処理ソフトウェアで処理することで今まで見えなかった,もしくは見えにくかった画像が鮮明になった.ただ,画像鮮明化処理ソフトウェアにより病変所見をマスクしてしまう可能性,病変でない所見を病変と認識させてしまう可能性は否定できない.今後さらなる機器やソフトウェアの進歩が予想されるので,その眼科への応用に期待したい.本研究は科研費C16K11269の助成を受けて行われた.文献1)HumYC,LaiKW,SalimM;MohamadSalimetal:Multi-objectivesCbihistogramCequalizationCforCimageCcontrastCenhancement.ComplexityC20:22-36,C20142)PizerCSM,CAmburnCEP,CAustinCJDCetal:AdaptiveChisto-gramCequalizationCandCitsCvariations.CComputerCVision,CGraphics,andImageProcessingC39:355-368,C19873)児玉陸,湊泉,堀米洋二ほか:人工股関節の設置位置評価の精度検証.HipJoint41:403-406,C20154)MatsuoCS,CMorishitaCJ,CKatafuchiCTCetal:ComparisonCofCedgeenhancementsbyphasecontrastimagingandpost-processingCwithCunsharpCmaskingCorCLaplacianC.ltering.CMedicalCImagingCandCInformationCSciencesC33:87-95,C20165)福島敦樹:結膜充血の定量的評価(解説/特集).アレルギー・免疫(1344-6932)C22:666-672,6)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:DiagnosingdryeyeusingCaCblue-freeCbarrierC.lter.CAmCJCOphthalmolC136:C513-519,C20037)AritaCR,CItohCK,CInoueCKCetal:NoncontactCinfraredCmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.OphthalmologyC115:C911-915,C20088)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Anewlydevelopednonin-vasiveandmobilepen-shapedmeibographysystem.Cor-neaC32:242-247,C2013***