ジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液の効果的な使い方と使い分けTheProperE.ectiveUseofDiquafosolSodiumandRebamipideEyeDrops横井則彦*はじめに2010年にジクアホソルナトリウム点眼液(以下,ジクアホソル点眼液)が,2011年にレバミピド点眼液がドライアイ治療に利用できるようになったことで,ドライアイのコア・メカニズムである涙液層の安定性低下を眼表面の層別に治療するという新しいドライアイ治療の考え方が生まれ,眼表面の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)と名づけられた1~3).そして,TFOTのための眼表面の層別診断(tearfilmorienteddiagno-sis:TFOD)の考え方や日常臨床で活用できるbreakuppattern分類に基づくTFODが登場し1~3),ドライアイ診療にパラダイムシフトが生まれてきている(図1).Todaらは,涙液層の安定性低下だけを異常所見とする涙液減少型ドライアイと対をなすドライアイのサブタイプをBUT(breakuptime)短縮型ドライアイとして世界に先駆けて報告した4)が,のちにこのタイプのドライアイの重要性が理解されるようになり5),ドライアイの定義や診断基準の改定を促す契機となり,日本を含むアジア諸国で統一したドライアイの定義,診断基準6~8)が完成し,現在に至っている.そして,最新の日本のドライアイの定義,診断基準(2016年版)8)は,わが国発,世界初のドライアイ診療の新しい方向であるTFOD/TFOTの考え方に合致したものとなっている.本稿では,2019年に発表された日本のドライアイ診療ガイドライン9)にまとめられているエビデンスに基づくジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の効果,TFOD/TFOTに即した使い方,およびその使い分けについて述べる.Iドライアイ診療ガイドラインにおけるジクアホソル点眼液の効果9)「ジクアホソルナトリウム点眼は効果があるか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)がCQ12に提示されている.ガイドラインサマリーによれば,6編の無作為化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)を対象にシステマティックレビュー(systematicreview:SR)が行われ,ジクアホソル点眼液は日本および周辺アジア諸国でのみ保険適用とされ,欧米での報告がないため,効果に人種差がある可能性があるが,①自覚症状の改善は従来治療に比べて有効,②BUTの改善は従来治療に比べて有効とはいえない,③Schirmer値の改善は判断不能(バイアスリスクの可能性),④上皮障害の改善は従来治療に比べて有効,⑤軽症の副作用(眼刺激感の頻度が高い:2.8~12.5%)があるとのまとめがなされている.結論としてジクアホソル点眼液は従来の点眼治療(人工涙液・ヒアルロン酸)に比べて自覚症状,上皮障害を有意に改善させ,治療の選択肢として強く,中(強,中,弱,非常に弱の4段階)のエビデンスレベルをもって,実施することを強く推奨するとした.*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(13)657治療対象眼局所治療温罨法,眼瞼清拭少量眼軟膏,ある種のOTCジクアホソルナトリウム*水分人口涙液,涙点プラグヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム分泌型ムチンジクアホソルナトリウムレパミピド膜型ムチンジクアホソルナトリウムレパミピド上皮細胞(杯細胞)自己血清(レパミピド)自己血清眼表面炎症レパミピド***ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性がある**レパミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性がある図1眼表面の層別治療(tear.lmorientedtherapy:TFOT)と眼表面の層別診断(tear.lmorienteddiagnosis:TFOD)の考え方TFOTとは,涙液層と上皮層からなる眼表面に対して,その不足成分を層別に補充することで涙液層の破壊を抑制し,ドライアイ症状を改善するドライアイ治療の新しい考え方であり,眼表面の不足成分を層別に看破する方法がTFODに相当する.(http://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlを改変引用)図2涙液減少型ドライアイに対する人工涙液点眼からジクアホソル点眼ナトリウムへの切り替え効果a:人工涙液1日6回点眼時.b:aの時点で人工涙液をジクアホソル点眼液1日6回点眼に切り替えて1カ月後.涙液層の安定性が改善し,角膜下方の点状表層角膜症に著明な改善が得られているのがわかる.a(秒)3BUT変化量210-102481216202428323640444852(週)(363)(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)観察期間b(秒)1.50BUT変化量1.251.000.750.500.250.00024122028364452(週)(154)(149)(139)(139)(135)(131)(129)(127)観察期間図3BUTの改善に関するジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液の多施設共同オープン試験結果ジクアホソル点眼液(Ca),レバミピド点眼液(Cb)のそれぞれにおいて,点眼開始C52週間の長期にわたってCBUTの改善は維持されており,最初のC4週で急峻な改善を示したあとも,ゆるやかに改善していく傾向にあり,それぞれCBUTは,約C2秒,約C1.25秒改善している.(文献C13,14より改変引用)図4BUT短縮型ドライアイ(水濡れ性低下型ドライアイ)に対してジクアホソル点眼液だけの治療からジクアホソル点眼液にレバミピド点眼液を加えた治療への切り替え効果a:ジクアホソル点眼液C1日C4回使用時.Cb:aの時点でジクアホソル点眼液C1日C4回にレバミピド点眼液C1日4回を使用したC2カ月後.Spotbreakが消失し,涙液層の安定性が改善していることがわかる.図5瞬目摩擦を亢進させる要因としての上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)とlid.wiperepitheliopathy(LWE)本症例では,涙液減少型ドライアイに合併しやすいCSLKおよびCLWEが涙液減少型ドライアイを伴うことなく生じている.すなわち,SLKがみられ(Ca,b),LWEは上眼瞼縁のみにみられて(Ca,b,d),角膜上方の上皮障害の原因となっていると考えられる(Cc).れ性低下によってもたらされる1~3).水分減少は,三叉神経-副交感神経-涙腺からなる涙液分泌システム(re.exCloop-涙腺システム)の異常によって引き起こされ3),水分の蒸発亢進には涙液油層や分泌型ムチンの異常が推定され,就眠中の閉瞼不全が大きなリスクとなる3).また,角膜上皮の水濡れ性低下には,膜型ムチン(MUC1,4,16)のなかでももっとも長いCMUC16の障害が関係すると考えられる3,22).BUT短縮型ドライアイは,涙液減少型ドライアイと対をなすドライアイのサブタイプであり,蒸発亢進型ドライアイと水濡れ性低下型ドライアイに分けられる1~3.7).ここで,涙液の安定性低下をもたらす眼表面の構成成分をその補充の観点から考えると,蒸発亢進型ドライアイには,マイボーム腺機能不全があればその治療を行い,分泌型ムチンの不足があればジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液に効果が期待できると考えられる.一方,水濡れ性低下型ドライアイには,MUC16を補充する治療が求められる22)が,ジクアホソル,レバミピドともにCMUC16の発現亢進が示されており22~25),実臨床でも,ジクアホソル点眼液のCBUT短縮型ドライアイに対する人工涙液に対する優位な効果26)や,ジクアホソル点眼液の効果18,22)が示されている.現在までのところ,ジクアホソルナトリウムおよびレバミピドのCMUC16に対する発現促進メカニズムが明らかにされていないため,両者のメカニズムが異なる可能性は大いに考えられ,ジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の単独使用で効果がなければ,その併用も考慮してよいのではないかと考えられる.実際,両者の併用の有効性も経験している(図4).C2.CQ2「摩擦関連眼表面疾患へのジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の使い分けは?」ドライアイは,開瞼維持時の涙液層の安定性低下を病態のコア・メカニズムとするが,瞬目時の摩擦亢進がドライアイに関連して,あるいはドライアイと独立して,自覚症状ならびに眼表面の他覚所見を大きく修飾することが知られている3).そして,そのもっとも大きな要因として,結膜弛緩症があげられる27,28).結膜弛緩症は,なんらかの症状で眼科を訪れる患者のC60歳以上のC98%以上に合併するとされ28),ドライアイの増悪因子となっている例をよく経験する.すなわち,角膜に隣接して結膜弛緩症があると,ドライアイによる涙液層の安定性の低下を促進する要因となり,その一方で潤滑作用をもつ涙液が減少している涙液減少型ドライアイにおいては,瞬目摩擦を亢進させたり,異物感,眼痛などの症状の要因となる.加えて,上輪部角結膜炎(superiorClimbickeratoconjunctivitis:SLK)29),lid-wiperCepitheliopa-thy(LWE)30,31),糸状角膜炎(.lamentarykeratitis:FK)32~34)は,涙液減少型ドライアイに合併しやすく,瞬目摩擦亢進の要因となる(図5).レバミピド点眼液は,ドライアイにおいて瞬目摩擦を亢進させるCLWE,FK,SLKへの効果がすでに報告されており31,33~35),涙液減少型ドライアイを対象に行われた第CIII相臨床試験19)においては,角結膜上皮障害(とくに結膜上皮障害)や自覚症状(とくに瞬目摩擦と関連する異物感,眼痛)の改善におけるヒアルロン酸に対する優位性が示されている.結膜が瞬目摩擦の生じやすい部位である36)ことを考慮すると,レバミピド点眼液は,瞬目摩擦の軽減に役立つ点眼液といえるだろう.したがって,涙液減少型ドライアイにおいて,涙液減少で生じやすい角膜下方の上皮障害に対してはジクアホソル点眼液が効果的に作用し,結膜上皮障害や瞬目摩擦関連疾患の合併に対してレバミピド点眼液が効果的に作用する19,31,33~35)ことを考えると,ドライアイ治療における両者の併用は,大いにありえると考えられる34).一方,ジクアホソル点眼液は,水分と分泌型ムチンを一気に分泌させ,水分に比べて高分子である分泌型ムチンのほうが眼表面におけるクリアランスが悪いことを考慮すると,点眼後,眼表面に分泌型ムチンがより高濃度で滞留し,結果として涙液の粘度が増加し,粘性抵抗の増加に基づいて,瞬目摩擦の亢進が生じる可能性がある3).実際,ジクアホソル点眼液の使用中に瞬目摩擦との関連が推定される糸状角膜炎が生じたり34),結膜下出血が生じる例を経験することがある.こうした例に対して,レバミピドへの点眼変更(図6)やレバミピド点眼液の併用が奏効する例がある.ただし,涙液減少型ドライアイでは,角膜表面のCBUTの改善,および涙液層の破壊に基づく上皮障害の改善にジクアホソル点眼液が奏効することは,ガイドラインでも示されており9,20),そ662あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(18)図6ジクアホソル点眼液を使用していたSjogren症候群患者に対し,糸状角膜炎が生じたために,レバミピド点眼液(1日4回点眼)に変更した例a,b:変更前.Cc,d:変更C3カ月後.レバミピド点眼液への変更により,点状表層角膜症は軽度増加しているが,糸状角膜炎や結膜上皮障害が著明に改善しているのがわかる.図7重症涙液減少型ドライアイを示す移植片対宿主病(graftversushostdisease:GVHD)の患者に対する上・下涙点プラグ挿入術(人工涙液点眼も併用)の効果a:プラグ挿入前.Cb:プラグ挿入C1カ月後.GVHDのような重症涙液減少型ドライアイには,ジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の併用をもってしても治療効果に限界があり,上・下涙点への涙点プラグ挿入が推奨される.涙液減少による涙液層の安定性低下と瞬目摩擦の軽減の両方が同時に得られることが,その大きな奏効機序と考えられる.のために,ジクアホソルナトリウム点眼を維持したまま,レバミピド点眼を追加するというやり方がより効果的ではないかと思われる34).おわりにTFOD/TFOTに基づくドライアイの診断,治療の考え方が診療の現場に導入され,涙液層の動態や破壊パターンを評価しながら,眼表面の不足成分を看破し,ジクアホソル点眼液やレバミピド点眼液で不足成分を補充することで,涙液層の安定性ならびに自覚症状の改善を得るというドライアイ診療の新しいやり方が日常診療に普及してきている.加えて,瞬目摩擦の亢進という,ドライアイを修飾する眼表面の異常が,的確に看破できるようになり,それがレバミピド点眼液で治療できるようになってきた.もちろん涙液層の安定性の低下の重症例(とくに重症の涙液減少)には上・下涙点への涙点プラグ挿入(図7)が必要であり,瞬目摩擦の亢進の重症例には結膜に対する外科治療が必要であるが,わが国はジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の両方を持ち合わせ,その効果的な使い分けが行えるという点において,ドライアイの先進国であることは間違いない.そして,その使い分けにより,その登場以前には,想像できなかったほどにドライアイの病態の考え方が進歩し,重症例も含めて,的確に対応できるようになったことは,画期的といえるだろう.文献1)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCandCtherapyCforCdryCeye.CInCDryCeyesyndrome:BasicCandclinicalperspectives(YokoiN.ed)C,p96-108,FutureMedi-cineLtd,London,20132)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCforCdryeye.JpnJOphthalmol63:127-136,C20193)横井則彦:TFODCandCTFOTCExpertCLectureドライアイ診療のパラダイムシフト.p5-41,メディカルレビュー社,C20204)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCdecreasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicCconjunctivitis.COphthalmologyC102:302-309,C19955)YokoiCN,CUchinoCM,CUchinoCYCetal:ImportanceCofCtearC.lmCinstabilityCinCdryCeyeCdiseaseCinCo.ceCworkersCusingCvisualdisplayterminals:theOsakastudy.AmJOphthal-mol159:748-754,C20156)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:ACConsensusCreportCbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurfC15:65-76,C20177)TsubotaCK,CYokoiCN,CWatanabeCHCetal:ACnewCperspec-tiveConCdryCeyeclassi.cation:proposalCbyCtheCAsiaCDryCEyeSociety.EyeContactLensC46:S2-S13,C20208)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20179)ドライアイ診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C201910)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:FacilitationCofCtearC.uidCsecretionCby3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnormalChumaneyes.AmJOphthalmolC157:85-92,C201411)ShigeyasuC,HiranoS,AkuneYetal:Diquafosoltetraso-diumincreasestheconcentrationofmucin-likesubstancesinCtearsCofChealthyChumanCsubjects.CCurrCEyeCResC40:C878-883,C201512)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:TheCincreaseCofCaqueousCtearCvolumeCbyCdiquafosolCsodiumCinCdry-eyeCpatientsCwithCSjogren’ssyndrome:apilotCstudy.CEye(Lond)C30:C857-864,C201613)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,C201214)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal;RebamipideOphthalmicCSuspensionCLong-termCStudyCGroup:ACmul-ticenter,Copen-label,C52-weekCstudyCof2%Crebamipide(OPC-12759)ophthalmicCsuspensionCinCpatientsCwithCdryCeye.AmJOphthalmolC157:576-583,C201415)TakamuraCE,CTsubotaCK,CWatanabeCHCetal;DiquafosolOphthalmicSolutionPhase3StudyGroup:Arandomised,double-maskedCcomparisonCstudyCofCdiquafosolCversusCsodiumChyaluronateCophthalmicCsolutionsCinCdryCeyeCpatients.BrJOphthalmolC96:1310-1315,C201216)ParkCDH,CChungCJK,CSeoCDRCetal:ClinicalCe.ectsCandCsafetyCof3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCforCpatientsCwithCdryCeyeCafterCcataractsurgery:aCrandomizedCcon-trolledtrial.AmJOphthalmolC63:122-131,C201617)内野裕一,坪田一男:VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液への切り替え効果.あたらしい眼科30:871-874,C201318)YokoiN,SonomuraY,KatoHetal:Threepercentdiqua-fosolophthalmicsolutionasanadditionaltherapytoexist-ingarti.cialtearswithsteroidsfordry-eyepatientswithSjogren’ssyndrome.Eye(Lond)C29:1204-1212,C201519)KinoshitaCS,COshidenCK,CAwamuraCSCetal;RebamipideCOphthalmicSuspensionPhase3StudyGroup:Arandom-ized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C201320)シェーグレン症候群診療ガイドラインC2017年版.https://664あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(20)-