監修=木下茂●連載241大橋裕一坪田一男241.角膜クロスリンキング後の屈折変化加藤直子南青山アイクリニック角膜クロスリンキングは円錐角膜の進行を止める手術である.角膜クロスリンキングの直後には角膜が若干急峻化するが,1年後には術前とほぼ同じかやや平坦になることが多い.長期予後についても,近年C10年の成績が報告されており,角膜屈折力や矯正視力はわずかに改善した状態で安定し,円錐角膜の進行停止効果が維持されることが知られている.C●はじめに円錐角膜眼の進行を停止させる角膜クロスリンキング(cornealCcrosslinking:CXL)が登場して,すでにC17年が経過した.角膜クロスリンキングによる円錐角膜の進行停止率はC90%以上であり,重篤な合併症は少ない.CXLは,進行期の円錐角膜に対しては第一選択の治療と位置づけられる.本稿では,CXL後の屈折と角膜形状の変化について,長期的な変化も踏まえて述べる.C●CXLの長期成績ヒトの進行性円錐角膜眼に対するCCXLの成績が最初に報告されたのはC2003年のことである1).それからC17年の歳月が経ち,昨今ではCCXLの長期成績が報告されはじめている.2015年にCCXLが開発されたドレスデン大学から,RaiskupらによってC10年の術後成績が報告された.24例C34眼の進行性円錐角膜眼に対して施術を行った結果である.彼らが当初報告したのは,角膜上皮を掻爬してからリボフラビンを点眼し,その後長波長紫外線をC3.0CmW/cm2でC30分間照射する方法であり,この術式はCCXLの標準法(ドレスデン法)とされている.Raisk-upらによれば,10年間で角膜形状には有意な平坦化が得られ,また矯正視力も改善し,角膜内皮細胞減少もなかったとされている2).ついでC2018年にCMazzottaらイタリアのグループが,標準法を施行したC18歳以下のC47例C62眼の円錐角膜眼についてのC10年後の成績を報告している.彼らの報告でも,術後C10年で裸眼視力,矯正視力には術前に比べて有意な改善がみられ,約C80%の症例では角膜形状も安定していた.一方,術後C1D以上の進行がみられたの(69)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはC13眼(21%)であった.2例は再手術が必要だった.彼らは,とくにC15歳以下の早期発症例では術後C7年以上経ってから再手術が必要になる可能性を念頭におくべきであると述べている.しかし,内皮細胞障害や重篤な角膜混濁などの合併症はみられなかった3).このように,CXL後は角膜形状や屈折度数が若干改善した状態で安定するという共通見解が得られている.C●日本人円錐角膜眼へのCXLの成績筆者らは,日本人の円錐角膜C95例C108眼にCCXLを行い,後ろ向きにC1年間の経過観察をした成績をC2018年に報告した.108眼のうちC23眼は標準法で施術し,残りのC85眼は紫外線をC18.0CmW/cmC2でC5分間照射する高速照射法で施術を行った.いずれの方法でも,全例で上皮掻爬を行った.その結果,標準法,高速照射法のいずれも,視力,等価球面度数,乱視度数には有意な変化はみられなかったが,強主経線上角膜屈折力は両グループともC1年後には有意差をもって減少していた.1年後に進行停止が得られた症例は全体のC92%であり,海外からの報告とほぼ一致する結果であった4).ここで注意すべきポイントは,この解析では有意差は出なかったが,多くの症例においてCCXLの直後は若干角膜が急峻化する時期があることである.とくに,術後1カ月時点での角膜屈折力は術前よりもやや急峻化することが多い.しかし,そのまま経過観察を続けると,ほとんどの症例ではC3~6カ月目には角膜形状はほぼ術前の状態に戻り,その後は変化しないか若干平坦化する(図1).したがって,術直後に多少乱視が増強し視力が低下しても,あわてずに経過観察を続けるのがよい.さらに,筆者らは,術後C5年間の経過観察を行った症例C23眼についても後ろ向きに解析を行った.23例中あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C713abcd図1CXL後の角膜形状の変化(典型的な症例)a:術前.典型的な円錐角膜のパターンで,Kmax(最大角膜屈折力)はC50.6Dである.Cb:術後C1カ月.KmaxはC51.5Dとわずかに増加,突出している部分の面積(赤からオレンジで表される部分)も若干の拡大がみられる.Cc:術後C3カ月.KmaxはC49.9Dとなり,突出部分の面積も小さくなってくる.Cd:術後C6カ月.KmaxはC49.6Dとさらに減少し角膜形状の術後経過観察期間図2CXL後1年間の強主経線上角膜屈折力の変化変化も小さくなってくる.C-CXL(標準法のCCXL),A-CXL(高速照射法のCCXL)ともに,術後C1年目で若干強主経線上角膜屈折力が減少している.(文献C5より改変)考えている4).C●おわりにCXLは,その誕生からすでにC17年が経過しており,円錐角膜眼の進行停止という目的において有効性と安全性はほぼ立証されたといってよい.一方で,CXLの一番のウィークポイントは,すでに進行してしまった円錐角膜眼の角膜形状を改善できないことである.屈折矯正図3CXL後5年間の強主経線上角膜屈折力の変化量強主経線上角膜屈折力は,術後C1年ごろまではCC-CXL手術との組み合わせや,角膜形状に合わせたカスタマイ(標準法のCCXL),A-CXL(高速照射法のCCXL)ともに安定しているが,1年を過ぎる頃からCC-CXLで持続性の平坦化がみられた.*:p>0.05(文献C5より改変)11例C12眼は標準法で,10例C10眼は高速照射法で施術した.結果は術後C1年未満までは,両グループとも同じように円錐角膜の進行は抑えられていたが,1年以降では標準法で行ったグループに持続性の平坦化がみられた(図2)5).近年,CXL後の持続性平坦化ということが指摘されている.つまり,術後数年の期間を過ぎても平坦化が続いていく症例が散見されるというものである.円錐角膜眼のほとんどは強い近視性乱視があるので,平坦化によって屈折度数が減少することはよいことのように考えられているが,この平坦化がいつまで,どこまで続くのかについては,明らかにされていない.一方,紫外線をC18.0CmW/cmC2でC5分間照射する高速照射法では持続性平坦化はほとんどみられない.また,術後C1年以内の角膜混濁についても,高速照射法より標準法で強いことが明らかになった(図3).これらの結果より,筆者らは長期的な安定性と角膜混濁の危険性の両面から,標準法よりも高速照射法のほうが優れているとC714あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020ズされた紫外線照射を行うことにより角膜形状の補正を行う新しい角膜クロスリンキングが登場している.しかし,上記のように従来のCCXL後の角膜形状は長期にわたり変化することが知られているため,新しい術式についても長期にわたる注意深い検討が必要であろう.文献1)Wollensak.G,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmolC135:620-627,C20032)RaiskupCF,CTheuringCA,CPillunatCLECetal:CornealCcolla-gencrosslinkingwithribo.avinandultraviolet-Alightinprogressivekeratoconus:ten-yearCresults.CJCCataractCRefractCSurgC41:41-46,C20153)MazzottaC,TraversiC,BaiocchiSetal:Cornealcollagencross-linkingCwithCribo.avinCandCultravioletCAClightCforpediatrickeratoconus:Ten-yearresults.Cornea37:560-566,C20184)KatoCN,CKonomiCK,CShinzawaCMCetal:CornealCcrosslink-ingCforCkeratoconusCinJapaneseCpopulations:oneCyearCoutcomesCandCaCcomparisonCbetweenCconventionalCandCacceleratedCprocedures.CJpnCJCOphthalmolC62:560-567,C20185)KatoCN,CNegishiCK,CSakaiCCCetal:Five-yearCoutcomesCofCcornealCcross-linkingCforkeratoconus:ComparisonCbetweenconventionalandacceleratedprocedures.Cornea39:e1,C2020(70)