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緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):962.966,2018c緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響小竹修丸山勝彦禰津直也後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectivenessofSurgicalTreatmentinReducingtheBurdenofEyedropInstillationPerceivedbyPatientswithGlaucomaOsamuKotake,KatsuhikoMaruyama,NaoyaNezuandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity緑内障手術が施行された症例C53例(平均年齢:63.2±15.0歳)に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.術前後の点眼の煩わしさを記入方式で調査し,煩わしさの変化に影響する臨床因子を検討した.術前に使用していた点眼薬の本数はC3.1±1.0(レンジ:1.5)本,点眼回数はC5.9±3.0(1.13)回で,59%の症例は点眼行為を煩わしいと感じていた.術後,点眼本数はC1.7±0.7(0.4)本,点眼回数はC3.1±2.0(0.8)回と術前に比べ有意に減少し(p<0.0001),72%の症例は点眼の煩わしさが軽減したと回答した.その理由として,点眼本数が減ったことや副作用が減ったとする回答が多かった.手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が日頃感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減できる可能性がある.CWeinvestigatedthein.uenceofsurgicaltreatmentontheburdenofeyedroptreatmentperceivedbyglauco-mapatients.Toeachof53patientsstudied(meanage63.2±15.0years),aquestionnaireontheburdenofinstilla-tionwasadministeredbeforeandaftertheoperation.Aftersurgery,themeannumberofeyedropsuseddecreasedsigni.cantlyCfromC3.1CtoC1.7,CandCtheCmeanCnumberCofCinstillationsCdecreasedCfromC5.9CtoC3.1(p<0.0001),C59%Cofthepatientsfeelingthatinstillationwasburdensomebeforetheoperation.Aftertheoperation,however,72%ofthesubjectsrespondedthattheburdenwasreduced.Thereasonsgivenweredecreaseinnumberofeyedropsused,andreductionofadversee.ects.Eyedropnumberreductionbysurgerymaymitigatetheburdenofmedicalthera-pyperceivedbyglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):962.966,C2018〕Keywords:緑内障,手術療法,薬物療法,煩わしさ,アンケート.glaucoma,surgicaltreatment,medicaltreat-ment,burden,questionnaire.Cはじめに現在,緑内障に対する治療としては何らかの眼圧下降処置が行われ,その手段はおもに点眼薬を中心とした薬物療法と手術療法からなる.このなかで,多くの症例に行われている薬物療法は治療の成功に患者のアドヒアランスが影響し1,2),アドヒアランスが不良であるほど視機能が悪化しやすいことが報告されている3.5).また,多剤併用療法となった場合にはさらにアドヒアランスは低下することが知られている6.8).すなわち,緑内障が進行すると多剤併用療法が必要となり,結果としてアドヒアランスが低下し,さらに緑内障が進行するという悪循環を招くことになる.一方,手術療法にも合併症による視機能低下をきたす可能性があること,眼圧下降が確実とは言い難いこと,どこの施設でも行うことができる治療方法ではないことなど,いくつかの欠点がある.しかし,手術によって十分な眼圧下降が得られ,緑内障点眼薬を中止,あるいは減少させることができ〔別刷請求先〕小竹修:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:OsamuKotake,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1,Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN962(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C9620910-1810/18/\100/頁/JCOPYれば,点眼治療の煩わしさを軽減させアドヒアランス改善に貢献できる可能性がある.したがって,点眼治療に対するアドヒアランスに不安がある症例に対しては積極的に手術の適応を考慮してもよいと考えられるが,それを裏付ける検討は今のところ行われていない.本研究は,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケートを行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさが手術療法によってどの程度変化するかを調査して,結果に影響する因子を検討することを目的とした.CI対象および方法対象は過去にC6カ月以上点眼治療が行われていた緑内障患者で,緑内障手術が施行された後,6カ月以上が経過した53例(男性C31例,女性C22例)である.なお,緑内障病型や施行された緑内障手術の術式(白内障手術との同時手術か否かを含む),緑内障手術前後に行われた白内障手術の既往の有無は問わないものとした.また,緑内障手術を複数回施行されている症例や,緑内障術後に白内障以外の疾患に対して手術が施行された症例は対象から除外した.さらに,両眼に緑内障を有する症例の場合,片眼のみ手術を行い僚眼は点眼治療を継続している症例は点眼治療の煩わしさを患者単位で評価するのは困難と考え対象から除外し,両眼とも手術が施行されている症例のみを組み入れた.本研究は東京医科大学医学倫理委員会の承認を受け,患者に本研究の主旨を説明し,同意を得たうえで行った.対象の背景を表1に示す.年齢はC63.2C±15.0歳(25.82歳)で,病型は狭義原発開放隅角緑内障C27例,正常眼圧緑内障C9例,原発閉塞隅角緑内障C2例,落屑緑内障C6例,ぶどう膜炎続発緑内障C9例で,片眼のみが緑内障であったのがC9例,両眼とも緑内障であったのがC44例であった.また,施表1対象の背景年齢C63.2±15.0歳(C25.C82歳)病型狭義原発開放隅角緑内障27例正常眼圧緑内障9例原発閉塞隅角緑内障2例落屑緑内障6例ぶどう膜炎続発緑内障9例片眼/両眼9例C/44例術式線維柱帯切除術90眼線維柱帯切開術6眼アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術1眼眼圧術前C22.4±7.5CmmHg(12.5C4mmHg)アンケート調査時C10.7C±3.6CmmHg(3.2C6mmHg)平均±標準偏差(レンジ)(113)行された術式は線維柱帯切除術C90眼,線維柱帯切開術C6眼,アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術C1眼であった.なお,32眼は白内障との同時手術が行われ,4眼には緑内障手術前に,5眼には緑内障手術後に白内障手術が施行されていた.術前の眼圧はC22.4C±7.5CmmHg(12.54CmmHg),アンケート調査時の眼圧はC10.7C±3.6CmmHg(3.26CmmHg)であった(両眼手術例の場合,両眼を含めた延べ眼での値).アンケートの内容を表2に示す.術前に本人が自覚していた点眼の煩わしさと点眼アドヒアランスについて質問し,術後の点眼の煩わしさの改善度を問い,その理由を回答していただいた.なお,アンケートは自己記入方式で行った.手術からアンケート調査までの期間はC33.4C±31.1カ月(6.111カ月)であった.次に,診療録をもとにデータを収集し,緑内障点眼薬のみならず,すべての点眼薬の本数,点眼回数を手術前,手術後で比較した.なお,配合点眼薬はC1剤C1本と集計した.ま表2緑内障手術前後の点眼治療の煩わしさに関するアンケート調査<手術をお受けになる前のことをお尋ねします>1.目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?□思っていた□少し思っていた□あまり感じていなかった□まったく感じていなかった2.目薬は決められた通りに点眼していましたか?□欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)□ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)□だいたい決められた通りに点眼していた(忘れるのはC1カ月に2.3回)□忘れることが多かった(忘れるのはC1週間に1.2回)□決められた通りに点眼できなかった(忘れるのはC1週間にC3回以上)<手術をお受けになった後のことをお尋ねします>3.目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?□かなり軽減された□少し軽減された□変わらない□少し負担が増えた□かなり負担が増えた4.その理由は何ですか?患者さまによって目薬の本数や点眼する回数が減った方も増えた方もいらっしゃると思いますが,ご自分に当てはまる回答をしてください(複数回答可)□目薬の本数が減ったから/増えたから□点眼する回数が減ったから/増えたから□目薬の副作用が減ったから/増えたから□目薬の種類が変わったから□その他()あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C963表3術前後の点眼薬の本数と点眼回数術前術後p*全点眼薬本数C点眼回数C3.1±1.0本(1.5本)C5.9±3.0回(1.1C3回)C1.7±0.7本(0.4本)3.1±2.0回(0.8回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬本数C点眼回数C2.7±0.9本(1.4本)C4.4±1.9回(1.9回)C0.2±0.5本(0.2本)0.4±1.2回(0.5回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬以外本数C点眼回数C0.4±0.7本(0.3本)C1.5±2.4本(0.8本)C1.5±0.6本(0.3本)2.6±1.8本(0.8本)<C0.0001C0.0008た,点眼アドヒアランスと煩わしさはアンケートの結果を点数化して評価し,煩わしいと感じている理由をアンケート調査の結果から考察した.さらに,煩わしさの変化に影響する臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数)をCSpearman順位相関係数で検討した.統計解析は対応のあるCt-検定を用い,p<0.05を統計上有意とした.CII結果術前後の点眼薬の本数と点眼回数を表3に示す.術前に使用していたすべての点眼薬の本数,点眼回数は,術後有意に減少し,眼圧下降薬に限った検討でも同様であった.一方,眼圧下降薬以外の点眼薬は,本数,点眼回数とも術後有意に増加し,その内容は,術前はドライアイ治療薬や抗アレルギー薬が多く,術後は副腎皮質ステロイドや抗菌薬が主であった.なお,白内障手術との同時手術例,ならびに白内障手術追加例のなかで,アンケート調査時に非ステロイド性抗炎症薬を継続していた症例はなかった.また,ぶどう膜炎続発緑内障症例のなかで,術後ぶどう膜炎の炎症発作が原因で副腎皮質ステロイドが投与されているものはなかった.患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳を図1に示す.手術を受ける前に「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?」という問いに対し,59%の症例が「思っていた」「少し思っていた」と回答した.術前の点眼アドヒアランスの内訳を図2に示す.手術を受ける前に「目薬は決められた通りに点眼していましたか?」という問いに対し,多くの症例は「欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)」「ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)」と回答し,忘れると答えた方はほとんどいなかった.術後の点眼の煩わしさの内訳を図3に示す.手術を受けた後,「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」という問いに対して,72%の症例が「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答し,負担が増えたと答えた方はほとんどいなかった.質問C3で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答した症例(38例)の煩わしさが軽減した理由を図4に示す.「目薬の本数が減ったから」「目薬の副作用が減ったから」と回答したものが多かった.その他の理由として,「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼はまったく気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」という回答もみられた.質問C3によって得られた術後の点眼に関する煩わしさの変化と,臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数,術前後の点眼本数の差,術前後の点眼回数の差)との関係を表4に示す.今回検討した各項目のなかには,煩わしさの改善度に相関する臨床因子はなかった.CIII考按本研究では,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.その結果,まず,自己申告による術前の点眼アドヒアランスの評価では,8割以上の患者が欠かさず,あるいは,ほぼ欠かさず点眼をしていた.これまで緑内障患者の点眼アドヒアランスに関して,アドヒアランス良好な症例は自己申告では82.97%9.11)であるのに対して,モニター監視などの他覚的評価ではC51.59%10,11)と報告されており,自己申告では現実を上回る結果となることがわかっている12).本研究で点眼アドヒアランスが良好であったのは,対象が手術適応のある症例であり,点眼遵守による手術の回避を期待した結果である可能性や,診療に携わっている医師が直接アンケートを依頼した影響が考えられる.また,過去の点眼状況を手術後に振り返った調査であったため,過大評価につながった可能性も否定できない.本研究では約C7割の症例が術後の点眼の煩わしさが軽減したと回答したが,その理由として点眼薬の本数が減少したこ(114)まったく感じていなかった11%思っていた25%あまり感じていなかった30%少し思っていた34%図1患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか」少し負担が増えたかなり負担が増えた2%0%変わらない26%かなり軽減された57%少し軽減された15%図3術後の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」表4術後の点眼する煩わしさの変化と臨床因子との関係相関係数p値年齢C0.13C0.36性別C.0.08C0.58緑内障病型C0.25C0.07術式C.0.01C0.97術前本数C.0.01C0.95回数C.0.02C0.92術後本数C0.12C0.40回数C0.14C0.31術前後本数の差C.0.10C0.49回数の差C.0.04C0.76(Spearman順位相関係数)とがあげられた一方で,点眼回数が減ったことを理由としてあげた症例は少なかった.点眼薬の本数が減少すれば結果的に点眼回数も減少するにもかかわらず,回数の減少が点眼する煩わしさの改善の理由になっていない結果を考えると,多剤併用療法そのものが「多くの点眼薬を使用しなければならない」という患者の精神的負担になっている可能性がある.一方,副作用が減少したことが煩わしさの改善の理由となっ(115)忘れることが多かった決められた通りに点眼できなかった(忘れるのは1週間に1~2回)(忘れるのは1週間に3回以上)目薬の種類その他5%目薬の副作用が減ったから36%目薬の本数が減ったから45%点眼する回数が減ったから8%その他:「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼は全く気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」「特にない」図4術後,点眼する煩わしさが軽減した理由「目薬を点眼する煩わしさが軽減された理由は何ですか?」(複数回答可)(質問C3(図C3)で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答したC38例C72%の結果)ているのは,角膜上皮障害や点眼アレルギーなどの副作用からも解放されたためと考えられることから,点眼薬による副作用が生じ,かつ点眼が煩わしいと感じている症例に対しては,手術療法をより積極的に考慮してもよい可能性がある.今回,手術療法により点眼薬の本数,点眼回数は減少したが,点眼の煩わしさの改善度は術前後の点眼本数,点眼回数,そして術前後の差と,いずれも相関しない結果となった.本研究の対象は,緑内障手術によってある程度の眼圧下降が達成されている症例が多く,手術によって十分な眼圧下降が得られたことが患者に満足感や達成感を与え,ポジティブな心理状態につながったと考えられる.本研究にはいつくかの問題点があるが,その主たるものは選択バイアスである.まず,緑内障手術の術式によっては術あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C965後も何らかの点眼薬の併用が必要となるが,本研究の対象の多くは線維柱帯切除術が施行されており,点眼薬が中止できた症例が多く含まれている.また,術後の投薬内容は治療効果や合併症発生の有無でも変わってくるが,本研究ではこれらについての検討は行っていない.さらに今回は,両眼とも手術を施行された症例のみを対象に組み入れたが,片眼には手術を行って,もう片眼は薬物療法で経過観察しているような,臨床的には多くみられる症例が組み入れられていない可能性がある.その他にも本研究では,複数回手術例や白内障以外の眼疾患の手術既往例といった,いわゆる難治例も対象から除外していることや,術前の点眼状況を手術後に振り返った調査であるなどの問題点がある.以上より本研究の対象は実際の臨床像と異なっている点は否定できず,今回の結果が緑内障手術全般に当てはまるとは断言できない.以上のような問題点はあるが,手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減することができる可能性があることを明らかにすることができた.今後はまず術前にアンケート調査を行い,術後一定期間の後に再度アンケートを行って縦断的に評価し,また多数の術式を対象として手術成績を加味した検討を行っていく必要があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SchwartzCGF,CQuigleyCHA:AdherenceCandCpersistenceCwithCglaucomaCtherapy.CSurvCOphthalmolC53:S57-S68,C20082)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCE:PersistenceCandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOph-thalmolC140:598-606,C20053)ChenCPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20034)StewartCWC,CChorakCRP,CHuntCHHCetCal:FactorsCassoci-atedwithvisuallossinpatientswithadvancedglaucoma-tousCchangesCinCtheCopticCnerveChead.CAmCJCOphthalmolC116:176-181,C19935)DiMatteoCMR:VariationsCinCpatientsC’CadherenceCtoCmedi-calCrecommendations:aCquantitativeCreviewCofC50CyearsCofresearch.MedCareC42:200-209,C20046)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJ:DeterminantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientpopulation.JGlaucomaC18:238-243,C20097)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCD:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtechnique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C20118)高橋真紀子,内藤知子,溝上志郎ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科C29:555-561,C20129)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行:緑内障点眼患者のアドビアランスに影響を及ぼす因子.あたらしい眼科C29:993-997,C201210)NorellSE,GranstromPA,WassenR:AmedicationmoniC-torCandC.uoresceinCtechniqueCdesignedCtoCstudyCmedica-tionbehaviour.ActaOphthalmologyC58:459-467,C198011)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼C40:731-734,C198612)RobinCAL,CNovackCGD,CCovertCDWCetCal:AdherenceCinglaucoma:objectiveCmeasurementsCofConce-dailyCandCadjunctiveCmedicationCuse.CAmCJCOphthalmolC144:533-540,C2007***(116)

強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):957.961,2018c強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術藤尾有希*1中倉俊祐*1野口明日香*1松谷香奈恵*1小林由依*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)ScleralRotating:ASurgicalTechniqueforCoveringGlaucomaDrainageImplantTubesYukiFujio1),ShunsukeNakakura1),AsukaNoguchi1),KanaeMatsuya1),YuiKobayashi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity目的:緑内障インプラント手術後,結膜からのチューブ露出が問題となる.今回パッチ素材を用いず,自己強膜を反転する方法でチューブ被覆を行ったので報告する.対象および方法:初回緑内障インプラント手術を強膜反転法で施行した,難治性緑内障患者C14例C15眼を後ろ向きに調べた.全例術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2歳,平均観察期間はC12.0カ月であった.強膜反転法はチューブを眼内に挿入し固定後,チューブ横,左右どちらかに四角形の強膜半層切開を行い,それを反転させてチューブを覆う方法である.結果:眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHgから最終診察時C16.8C±11.5CmmHgへ有意に低下していた.強膜反転法ではプレート近くまでチューブを覆うことが可能であった.観察期間中結膜乖離やチューブの露出はC1例もなかった.結論:強膜反転法は簡便で大きさも任意に決定でき有用であった.CPurpose:Wereportontheshort-terme.ectsof“ScleralRotating,”asurgicaltechniqueforcoveringglauco-madrainageimplanttubes.Methods:Thiswasaretrospective,consecutivecaseseriesof15refractoryglaucomaeyesthatunderwentinitialglaucomatubeimplantationusingtheScleralRotatingtechnique.Meanpatientagewas61.2Cyrs;meanCobservationCperiodCwasC12.0Cmo.CTheCScleralCRotatingCtechniqueCwrapsCtheCimplantCtubeCwithCaCself-sclera,CformedCbesideCtheC.xedCtubeCbyCcuttingCaChalf-layerCofCscleraCtoCtheCpreferredClengthCandCsize.CResults:IntraocularCpressureCreducedCfromC39.4C±10.1CmmHgCtoC16.8±11.5CmmHgConCfollow-up.CUsingCthisCtech-nique,CweCcoveredCtheCtubeCnearCtheCplate,CwithCnoCtubeCexposureCinCallCpatients.CConclusion:ScleralCRotatingCisCaneasyandusefultechniquethatdoesnotrequirepatchgraftmaterial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):957.961,C2018〕Keywords:強膜,緑内障,インプラント手術,パッチグラフト,チューブ露出.sclera,glaucoma,implant,patchgraft,tubeexposure.Cはじめに緑内障インプラント手術後のチューブ露出は,術後いつでも起こりうる.臨床的特徴は,結膜充血,異物感,光視症,虹彩炎や低眼圧でありチューブ露出は眼内炎につながる1).パッチ材料としては,保存された強膜や角膜,自己または加工処理された強膜などさまざまな材料が使用されている.前向き研究ではチューブ露出はC5年間の経過観察でC1.5%と報告されている2.4).しかし,後向き研究ではC5.8.8.3%の高い発生率がパッチ素材にかかわらず報告されている5.7).明白なチューブ露出の原因は今のところ不明だが,機械的な刺激や8)異物に対する免疫反応など9)とされている.また,パッチ素材はその費用や感染症のリスク,ならびに外見上の問題点がつきまとう.その問題を克服するためにCAslanidesらはC1999年に最初に自己強膜の反転によるチューブ被覆術を報告した10).この方法は非自己パッチ素材を用いず,採取したフリーの自己強膜をパッチする方法よりも簡便で,チューブ露出の可能性が低いことが報告されている11).今回筆者らは日本でなじみのないこの方法を修正し,チューブの根元まで覆うように工夫した(図1)緑内障インプラント手術を施行したので,その結果を報告する.〔別刷請求先〕藤尾有希:〒671-1227兵庫県姫路市網干和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:YukiFujio,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPAN図1強膜半転法のシェーマAslanidesらの方法(3C×3Cmm)を変法し,強膜を半層切開しできるだけプレート付近まで覆うようにした.I対象および方法この研究はツカザキ病院(以下,当院)倫理委員会の承認を得て行われ,UMIN(大学病院医療情報ネットワーク)臨床試験登録され(登録番号;UMIN000025504),ヘルシンキ宣言に準じて行われた.強膜反転法を初回の緑内障インプラント手術で施行した連続患者C14例C15眼を後ろ向きに調査した.術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2C±19.7歳(範囲34.89歳),男性C12名,女性C2名,右眼C9眼,左眼C6眼であった.原疾患は血管新生緑内障C11眼,落屑緑内障C2眼,開放隅角緑内障C1眼,続発緑内障C1眼であった.インプラント手術前の内眼手術歴(施行合計数)は抗CVEGF硝子体注射(25),眼内レンズ挿入術(15),硝子体手術(15),トラベクレクトミー(3),トラベクロトミー(3),全層角膜移植(2)であった.バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCRCGlaucomaImplant)(エイエムオー・ジャパン社):BG101-350をC9眼,アーメド緑内障バルブ(AhmedCTMGlaucomaCValve)(New-WorldCMedical社):ModelCFP7をC6眼に用いた.インプラントの設置部位は耳上側がC14例,鼻下側がC1例であった.鼻下側に挿入したC1例は全層角膜移植術症例で,耳下側にトラベクロトミー手術痕,上方結膜の菲薄化があったために同部位に設置した.硝子体腔内チューブ挿入例はC12例,前房内チューブ挿入例はC3例であった.硝子体手術施行例は角膜内皮障害を考慮し12),基本的に硝子体腔内に挿入した.強膜反転法術式手術は全例CTenon.麻酔で行った.従来の方法どおり,イニシエーションを行い輪部からC9.10Cmmの外直筋間にBG101-350とCModelCFP7のプレートを固定した.BG101-350はC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC2.3カ所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.前房内固定の場合:輪部から約C2CmmのところでC23CGCVランスで穿刺後,前房内に長さC2.3Cmm挿入できる程度にカットしたチューブ先端を挿入し,先に固定する(図2a).次にチューブの長さや方向を考慮しながら,両側の空いている強膜に四角形の反転用強膜をデザインする.このときなるべくプレート近くのチューブまで覆えるようにデザインした.予定切開範囲が決まれば強膜を半層切開し(図2b),チューブぎりぎりまで切開し対側に折り返せるようにする(図2c).折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜に固定し終了する(図2d).その後,なるべくCTenon.を前転してチューブの部位を覆い隠すようにし,結膜を縫合して終了した.硝子体腔固定の場合:輪部から約C4CmmのところでC23CGVランスで穿刺後,硝子体腔に約C4Cmmでるように長さを調節したチューブ先端を挿入,先に固定する(図3a).バルベルトタイプの場合,本来,毛様体扁平部挿入タイプとされるBG102-350があるが,Ho.mannCelbowは大きく強膜反転法にはむかない.Ho.mannelbowは脱出する頻度が高いことが知られており13),当院では前房内挿入用であるCBG101-350の先端の長さを調節し挿入した.その後,方法は前房内固定の場合と同じである(図3b~d).手術はすべて単一の術者が行い,術中,術後代謝拮抗薬は使用しなかった.眼圧はすべてCGoldmann眼圧計にて測定した.術後点眼はベタメタゾンC0.1%とレボフロキサシンC1.5%をC1日C4回約1カ月間投与した.CII結果眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHg(22.59CmmHg)から最終診察時C16.8C±11.5CmmHg(2.51CmmHg)へと有意に低下していた(p<0.001,対応あるCt検定).緑内障点眼薬の本数は,配合剤をC2,アセタゾラミド内服をC1とすると,術前C3.2±1.4本(0.6本)から最終観察時C0.8C±1.3本(0.4本)と有意に減少していた(p<0.001,対応あるCt検定).平均観察期間はC12.0カ月(7.19カ月)で,その期間中チューブの露出はC1例もなかった.血管新生緑内障患者のうちC2例は術後硝子体出血を発症した,1例は硝子体手術を施行し最終眼圧はC15CmmHgと落ち着いた.もうC1例は硝子体手術が困難なほどの硝子体出血と前房出血を術後C6カ月目で発症し,眼圧は上昇し失明に至った.最終診察時眼圧はC51mmHgであった.術後早期の脈絡膜.離や,感染症などは図2前房内固定の場合a:チューブ先端を輪部からC2Cmmのところで前房内にチューブを固定後(.),チューブの両サイドの強膜で,できれば厚いほうを選んで切開デザインを作成する.Cb:強膜を半層切開しチューブぎりぎりまで切開を進める.Cc:強膜を反転しチューブを覆えるか確認する.できれば少しチューブと強膜の間にスペースがあるほうがいい.Cd:折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜固定する.C認めなかった.最終観察時の前房内固定タイプと硝子体内固定タイプの前眼部写真と前眼部三次元画像解析(SS-1000(TomeyCorp,Nagoya,Japan)を提示する(図4,5).図4はC68歳,男性,落屑緑内障(左眼)でバルベルト(BG101-350)を前房内挿入した.術後C8カ月目の前眼部写真と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真を提示する.反転した強膜に覆われたチューブは白い隆起として観察され(図4a),前眼部三次元画像解析では反転した強膜と結膜の境目を高反射として観察された(図4b).図5はC79歳,男性,血管新生緑内障(右眼)で隅角はC360°完全閉塞していた.硝子体手術の既往があったため,バルベルト(BG101-350)を輪部からC4Cmmで硝子体腔に挿入した.術後C4カ月目の前眼部写真(図5a)と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真(図5b)を提示する.反転した強膜に覆われたチューブを観察できる.前眼部三次元画像解析では硝子体腔に滑らかに挿入されていることが確認できた.CIII考察今回筆者らは,Aslanidesらが報告した強膜反転法を用いた緑内障チューブインプラント手術を施行し,短期間ではあるが経過観察期間において良好な成績を得られた.原法ではC1/3層の強膜切開で3C×3mmの長さであり,チューブ全体を覆うことができない.一般的に前房内固定の場合では挿入部位からプレート根部までの距離は約C7.8mm,硝子体腔固定の場合,約C5.6Cmmもある.そのためこの方法を修正し,パッチした強膜が薄くならないように半層切開して,なるべくプレート近くまで長方形に反転強膜をデザインしチューブを覆った(図1~3).Wolfらは,自己強膜を使うメリットは免疫反応がない(異物でない)ことと,パッチ素材の色が本人の強膜と同じ色であるため外見上よいこととしている11).さらに自己遊離強膜パッチ法と比べた強図3硝子体腔固定の場合a:チューブ先端を輪部からC4Cmmで硝子体腔に固定する.Cb~d:以後前房型と同じ手技だが,硝子体固定のほうが前方に強膜が広範囲にありデザインしやすい.C図4前房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C8カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブは明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.内腔もよく視認できる.C膜反転法のメリットとして,強膜への血流が保たれるため,ーブの形に沿って隆起した強膜反転フラップが観察され,美より強膜が溶けにくくチューブの露出の可能性が低いとして容上の問題は良好であった(図4,5).大きなパッチ素材でいる.術後筆者らの症例でチューブ露出を生じた症例はC1例覆うとチューブの走行が不明で,術後に硝子体手術が必要なもないが,Wolfらはチューブ露出が術後C55カ月で,強膜反場合はポートの作製部位に注意が必要であるが,強膜反転法転法ではC2.1%(推定),自己遊離強膜パッチ法でC8.9%であではその必要はないと思われる.ったと報告している11).最終観察時での前眼部写真ではチュチューブ露出の危険因子はさまざま報告されており,たば図5後房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C4カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブ内腔は明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.こ7),ドライアイ7),落屑緑内障7),マイトマイシンCCの利用13),同時手術7,14),白人6),女性6)などがある.一方で糖尿病や高血圧など全身の合併症は危険因子でないとされている6,7,13,14).今回筆者らの症例は血管新生緑内障が多かった.血管新生緑内障を危険因子とする報告もある15)ため,今後の注意は必要である.移植したパッチ素材の違い(強膜,硬膜,心膜)はチューブ露出に関係ないとされている9).強膜反転法以外に自己強膜を利用する方法としては,長い強膜トンネルを作製し,その中にチューブを通す方法や16,17)C6×6Cmmの半層強膜下に設置する方法がある.筆者らの方法では全層の強膜を通してチューブを挿入するので,チューブの変位が生じにくいと予想されるのもメリットである.また,筆者らが用いたように,手術中にできるだけCTenon.を前転しておくことは結膜と強膜もしくはパッチ素材が直接触れ合うことを避けチューブ露出の防止に有効である17).今後長期的な経過観察が必要であるが,強膜反転法はパッチ素材を用いずに施行でき,簡便で大きさも任意に決定でき有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindJT,ShuteTS,SheybaniA:Patchgraftmaterialsforglaucomatubeimplants.CurrOpinOphthalmol28:194-198,C20172)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetCal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)BudenzDL,FeuerWJ,BartonKetal:Postoperativecom-plicationsCintheAhmedBaerveldtComparisonStudydur-ing.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmol163:75-82,C2016(111)4)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetCal:TheCAhmedversusCBaerveldtCstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetCal:GlaucomadrainageCdevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20156)MuirKW,LimA,StinnettSetal:Riskfactorsforexpo-sureofglaucomadrainagedevices:aretrospectiveobser-vationalstudy.BMJOpenC4:e00456,C20147)TrubnikCV,CZangalliCC,CMosterCMRCetCal:EvaluationCofCriskCfactorsCforCglaucomaCdrainageCdevice-relatedCero-sions:ACretrospectiveCcase-controlCstudy.CJCGlaucomaC24:498-502,C20158)HeuerCDK,CBudenzCD,CColemanCA:AqueousCshuntCtubeCerosion.JGlaucomaC10:493-496,C20019)SmithCMF,CDoyleCJW,CTicrneyCJWCJr:ACcomparisonCofCglaucomaCdrainageCimplantCtubeCcoverage.CJCGlaucomaC11:143-147,C200210)AslanidesCIM,CSpaethCGL,CSchmidtCCMCetCal:AutologousCpatchCgraftCinCtubeCshuntCsurgery.CJCGlaucomaC8:306-309,C199911)WolfA,HodY,BuckmanGetal:Useofautologousscleralgraftinahmedglaucomavalvesurgery.JGlaucomaC25:C365-370,C201612)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:Preservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheahmedglaucomavalve.JpnCJOphthalmolC56:119-127,C201213)ZaltaCAH:Long-termCexperienceCofCpatchCgraftCfailureCafterCAhmedCGlaucomaCValveRCsurgeryCusingCdonorCduraCandCscleraCallografts.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC43:408-415,C201214)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetCal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C201615)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetCal:RiskCfactorsCfortubeCshuntCexposure:aCmatchedCcase-controlCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C201316)OllilaCM,CFalckCA,CAiraksinenCPJ:PlacingCtheCMoltenoCimplantCinCaClongCscleralCtunnelCtoCpreventCpostoperativeCtubeexposure.ActaOphthalmolScandC83:302-305,C2005Cあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C961

基礎研究コラム 14.体性幹細胞

2018年7月31日 火曜日

体性幹細胞幹細胞の分類幹細胞は自己複製能を有し,さまざまな細胞種に分化する能力をもつ細胞です.幹細胞は胚性幹細胞(embryonicstemcell:ES細胞)と体性幹細胞に分類されます(図1).ES細胞は発生初期の胚盤胞から得られる多能性幹細胞で,3胚葉(内胚葉,中胚葉,外胚葉)すべてに分化することができます.一方,体性幹細胞は別名,組織特異的幹細胞ともいい,成体の各組織でみられる希少な未分化の細胞集団です.通常,体性幹細胞は静止状態にありますが,刺激を受けて活性化し,前駆細胞,さらには終末分化細胞を生みます.これにより組織のターンオーバーや損傷によって生じた欠損を穴埋めすることが可能で,組織の恒常性が維持されています.間葉系幹細胞のようにさまざまな組織(骨,軟骨,脂肪細胞,筋細胞など)を形成できるものから,あとで述べる輪部幹細胞のように単一組織(この場合は角膜上皮)のみを形成するものがあります.これまで体性幹細胞は,頻回にターンオーバーの生じる血液,皮膚,小腸,筋肉などでよく研究されてきました.しかし,網膜のように再生能力の非常に低い組織における体性幹細胞の存在は未だ議論の余地のあるところです.輪部幹細胞(角膜上皮幹細胞)眼科領域でもっとも研究されている体性幹細胞のひとつが,角膜輪部の上皮の基底部に存在する輪部幹細胞で,角膜上皮の恒常性維持を担います.すなわち,角膜上皮は常に最表層部の細胞が.離していきますが,それを補うべく輪部幹細胞から分化細胞が送り込まれていきます.輪部幹細胞が失佐々本弦DepartmentofMedicine,BrighamandWomen’sHospitalわれると,角膜上皮を維持できなくなり,結膜の侵入を許してしまうことになります(角膜上皮幹細胞疲弊症).重症例では,対側眼もしくはドナー角膜の健常な輪部幹細胞を含む組織や細胞シートを移植することで,角膜上皮の再生を図ります.今後の展望大阪大学のグループでは,人工多能性幹細胞(inducedpluripotentstemcell:iPS細胞)から幹細胞を含む角膜上皮細胞を誘導することに成功しました1).この手法を用いれば,両眼性の輪部幹細胞疲弊症に対しても,自身のiPS細胞もしくはHLA型の一致するiPS細胞から誘導した角膜上皮の移植が可能になってきます.一方,筆者のグループでは,輪部幹細胞のマーカーであるABCB5を同定しました2).ABCB5は細胞表面に発現しているため,抗ABCB5抗体を用いて輪部幹細胞を生きたまま集めることが可能です.この純粋な輪部幹細胞を移植することで,現在用いられている移植片に含まれる他の細胞種に起因する拒絶のリスクを下げ,臨床成績を向上させることが可能ではないかと考えています.文献1)HayashiR,IshikawaY,SasamotoYetal:Co-ordinatedoculardevelopmentfromhumaniPScellsandrecoveryofcornealfunction.Nature531:376-380,20162)KsanderBR,KolovouPE,WilsonBJetal:ABCB5isalimbalstemcellgenerequiredforcornealdevelopmentandrepair.Nature511:353-357,2014自己複製自己複製図1幹細胞の分類発生初期の胚盤胞から得られる多能性幹細胞をES細胞とよぶ.ES細胞は刺激により3杯葉(内胚葉,中胚葉,外胚葉)すべてに分化することが可能である.成体でみられる幹細胞を体性幹細胞とよぶ.体性幹細胞には,刺激によりさまざまな組織を形成できるもの(間葉系幹細胞など)と,単一組織のみを形成するもの(輪部幹細胞など)がある.(93)あたらしい眼科Vol.35,No.7,20189430910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 182.硝子体のプロテオーム解析(研究編)

2018年7月31日 火曜日

a(kDa)97.466.33.0(pI)10.042.430.020.314.4b(kDa)97.466.33.0(pI)10.42.430.020.314.4硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載182182硝子体のプロテオーム解析(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●プロテオームとはプロテオーム解析(Proteomicanalysis),またはプロテオミクス(Proteomics)とは,組織や細胞内に発現しているすべての蛋白質を網羅的,系統的に解析する手法である.「プロテオミクス」という言葉は,遺伝子を網羅的に研究する「ゲノミクス」と,蛋白質を意味する「プロテイン」とを合わせて作られた造語である.プロテオーム解析を用いることで,少量のサンプルから多くの蛋白質を検出することが可能となり,眼球のような小さな臓器に生じる種々の疾患の病態を解明するのに有用な手段となりうる.C●硝子体のプロテオーム解析筆者らは,大阪医科大学臨床検査医学教室との共同研究で,硝子体のプロテオーム解析を行ってきた1~3).特発性黄斑円孔(macularChole:MH)と増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticCretinopathy:PDR)の硝子体および血漿を用いてプロテオーム解析を行ったところ,Ca1-アンチトリプシン,Ca2-HS糖蛋白,トランスフェリン,ハプトグロビンCa1,a2鎖,補体CC4,Gcグロブリン,アポリポプロテインCA-I,免疫グロブリンCH,L鎖,トランスサイレチンは血漿中に比べ硝子体中でアルブミンに対する相対濃度が高かった.抗炎症蛋白質であるCa1-アンチトリプシン,Ca2-HS糖蛋白,補体CC4,免疫グロブリンCH,L鎖のC2D-PAGE-銀染色ゲルスポットはCMHよりもCPDRの硝子体において明瞭に認められた.これはCPDRにおける組織障害を反映していると考えられる(図1).また,PDR群,MH群でウエスタンブロット法を用い色素上皮由来因子(pigmentepitheli-um-derivedCfactor:PEDF)の発現を比較したが,両群間に有意差は認められなかった.PDRでは新生血管が増殖しており,新生血管抑制因子であるCPEDFは減少していると予想していたが,結果は対照としたCMHと差がなかった.このようにプロテオーム解析を用いることで硝子体中の種々の蛋白質を検出でき,疾患による発現の違いを調(91)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1硝子体のプロテオーム解析黄斑円孔(Ca)と増殖糖尿病網膜症(Cb)の解析結果.2疾患でスポットの分布に差がみられる.(文献C1より引用)Cべることで網膜硝子体疾患の病態解明にもつながると考えられる.文献1)NakanishiT,KoyamaR,IkedaTetal:Catalogueofsolu-bleCproteinsCinCtheChumanCvitreousChumor:comparisonCbetweenCdiabeticCretinopathyCandCmacularChole.CJCChro-matogrCBCAnalytCTechnolCBiomedCLifeCSciC776:89-100,C20022)KoyamaR,NakanishiT,Ikedaetal:CatalogueofsolubleproteinsCinChumanCvitreousChumorCbyCone-dimensionalCsodiumdodecylsulfate-polyacrylamidegelelectrophoresisandCelectrosprayCionizationCmassCspectrometryCincludingCsevenCangiogenesis-regulatingCfactors.CJCChromatogrCBCAnalytTechnolBiomedLifeSci792:5-21,C20033)MukaiCN,CNakanishiCT,CShimizuCACetCal:Identi.cationCofCphosphotyrosylCproteinsCinCvitreousChumoursCofCpatientsCwithCvitreoretinalCdiseasesCbyCsodiumCdodecylCsulphate-polyacrylamideCgelCelectrophoresis/WesternCblotting/Cmatrix-assistedlaserdesorptiontime-of-.ightmassspec-trometry.AnnClinBiochem45:307-312,C2008あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C941

眼瞼・結膜:コンタクトレンズと眼瞼下垂

2018年7月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人40.コンタクトレンズと眼瞼下垂石川恵里柿﨑裕彦愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科コンタクトレンズを長期間装用することによって眼瞼下垂を生じることが知られており,その病態は初期と晩期で異なる.コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と類似する臨床像であり,他の眼瞼下垂の原因を除外して診断する.手術では挙筋前転術が広く行われている.●はじめにコンタクトレンズを長期間装用することによって,眼瞼下垂を生じることが知られている1).ハードコンタクトレンズ装用者でより頻繁に起こるが,ソフトコンタクトレンズ装用者にも生じうる2).コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と同じく,腱膜性眼瞼下垂に分類される1).このタイプの眼瞼下垂では,CMuller筋周囲に慢性炎症の結果による線維化も認める3).本稿では,コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂の病態,臨床像,鑑別診断,治療について述べる.C●コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂の病態病態は,症状が可逆的である初期と,不可逆的となる晩期で異なる(表1).初期では,コンタクトレンズによる眼瞼結膜への機械的な刺激が炎症を惹起し,その結果,上眼瞼が浮腫状となり,その重力的影響によって機械的に眼瞼下垂が生じる.コンタクトレンズに付着する汚れによって引き起こされるコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎も炎症であるため,同様の機序により眼瞼下垂の原因となりうる4).この時期の眼瞼下垂は可逆的であり,コンタクトレンズの装用を中止することによって炎症を鎮静化させれば,大部分の患者で2~4週間後には症状が改善してくる2).コンタクトレンズ着脱の際には,上眼瞼を上方あるいは耳側に牽引するため,挙筋腱膜にストレスがかかるが,これが経年的に繰り返されると,晩期症状としての不可逆的な眼瞼下垂が生じる1).コンタクトレンズ装用者が眼瞼下垂を発症するリスクのオッズ比は,ハードコンタクトレンズ装用者で17.38,ソフトコンタクトレンズ装用者でC8.12と,ハードコンタクトレンズでより大きい2).この差は,ハードコンタクトレンズの素材がソフトコンタクトレンズよりも硬いことが原因と考えられている2).従来のソフトコンタクトレンズは,素材の柔らかいハイドロゲルレンズがおもに流通していたが,近年は酸素透過性の追求とともに,素材が硬めであるシリコーンハ表1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂と退行性眼瞼下垂コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂退行性眼瞼下垂病理所見初期●レンズの機械的刺激や汚染C↓瞼結膜の炎症・浮腫●CMuller筋:正常●退行性変化による挙筋腱膜の菲薄化,付着の裂離晩期●レンズ着脱時の瞼の牽引の繰り返しC↓挙筋腱膜の付着の裂離●炎症の慢性化C↓Muller筋周囲の線維化臨床像挙筋機能:正常(1C0Cmm以上)挙筋機能:正常(重度では低下)(89)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9390910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂48歳,女性.20歳からハードコンタクトレンズの装用を継続.両側の重瞼線の上昇と右側優位の眉挙上を認める.挙筋機能は両側ともに正常であった.イドロゲルレンズが主流となってきている.このため今後,ソフトコンタクトレンズ装用者においても眼瞼下垂の発症が増加してくる可能性がある.C●臨床像コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂は,比較的若年者で発症する1).通常,挙筋機能は正常であり,退行性眼瞼下垂と同様,重瞼線の上昇を認める(図1).片眼性あるいは,左右差を伴って発症することが多い.多くの患者はフェニレフリンテストで敏感に反応するが,晩期には反応する場合としない場合がある.この原因はCMuller筋の変性や周囲の線維化のため,交感神経刺激に反応できなくなったためと考えられている1).C●鑑別診断コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は除外診断によって診断する.以下のC3項目が満たされる必要がある1).①C50歳以下である,②コンタクトレンズを最低C3年間装用している,③他の種類の眼瞼下垂が除外される.C●治療コンタクトレンズ装用中の患者については,フィッティング不良やコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎を繰り返していないかなどを確認し,なんらかのトラブルがあ940あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018図2コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂の挙筋腱膜WhiteCline()は通常瞼板上縁より約C3Cmm上方に位置するが,この部分を瞼板上に固定すると,良好な挙上が得られることが多い.れば,手術に先立ち対処する.このタイプの眼瞼下垂は,大まかな分類では腱膜性眼瞼下垂に分類されるため,手術では腱膜前転術が広く行われている(図2).しかし,Muller筋の機能不全も原因の一つと考えられているため,Muller筋を標的とした手術でも相応の効果が得られる1).C●おわりにコンタクトレンズ装用に伴う眼瞼下垂ついて概要を述べた.コンタクトレンズ装用者では,レンズの種類にかかわらず,その装用がきっかけとなって眼瞼下垂を生じうることを周知する必要がある.文献1)柿﨑裕彦:眼瞼下垂がよくわかる本.p19-30,ブイツーソリューション,20182)HwangCK,CKimCJH:TheCriskCofCblepharoptosisCinCcontactClenswearers.JCraniofacSurg26:373-374,C20153)WatanabeCA,CArakiCB,CNosoCKCetCal:HistopathplogyCofCblapharoptosisCinducedCbyCprolongedChardCcontactClensCwear.AmJOphthalmol141:1092-1096,C20064)BleyenCI,CHiemstraCCA,CDevogelaereCTCetCal:NotConlyChardCcontactClensCwearCbutCalsoCsoftCcontactClensCwearCmaybeassociatedwithblepharoptosis.CanJOphyhalmolC46:333-336,C2011(90)

抗VEGF治療:ポリープ状脈絡膜血管症への光線力学的療法を見直す

2018年7月31日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二54.ポリープ状脈絡膜血管症への光線力学的療法を見直す大石明生京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学現在,ポリープ状脈絡膜血管症に対してもCVEGF阻害薬の単独治療が一般的になっているが,初回治療として光線力学的療法(PDT)とCVEGF阻害薬の併用療法を行うことで,硝子体内注射の必要回数を減らし,同等かそれ以上の視力改善効果が得られるとの無作為比較試験の報告があり,PDTの役割が見直されつつある.はじめにポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)に対して,初めに明確な治療効果が確立された治療は光線力学的療法(photodynamicCthera-py:PDT)である.PDTはC2004~2008年に盛んに用いられたが,網膜下/網膜色素上皮下出血や網膜色素上皮裂孔などの重篤な合併症の懸念や,平均としてみると視力改善効果もC2年目以降は失われるといった問題があった.その後,大規模な無作為試験の結果を受けて,加齢黄斑変性に対しては血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬の使用が一般的になり,PCVについてもラニビズマブ単独療法のほうがCPDTより視力改善効果が勝ること1),PDTのメリットである高いポリープ状病巣閉塞率についてもアフリベルセプトを用いればこれに近い結果が得られることなどがわかるにつれ,現在ではCVEGF阻害薬単独での治療が一般的となっている.一方,VEGF阻害薬とCPDTを併用することで,PDT単独治療と比較して合併症を減らし,VEGF阻害薬単独治療と比較して良好な視力改善が得られる,または少ない治療回数でのコントロールが可能になるのではということが以前からいわれていた(図1).これまでの報告は後ろ向き,単施設,無作為化がされていないといった限界があったが,最近,無作為比較試験でこの仮説に答える研究が複数発表されており,PCVに対するCPDTの役割を見直すよい機会であると思われる.なお,近年CPCVについてはCpachychoroidCneovascu-図1ラニビズマブ併用PDTを施行した症例3カ月後の造影検査でポリープ状病巣の閉塞が確認され,その後無治療でC2年半再発しなかった.PDT単独またはラニビズマブ併用CPDTでこのような良好な経過をたどる症例が一定の確率で存在するのは確かである.(87)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9370910-1810/18/\100/頁/JCOPYlopathy2)との異同が議論になっており,また初めにこの名前を提唱したCYannuzziを含むグループからCaneu-rysmalCtypeC1Cneovascularizationという用語が提唱されるなど3),疾患概念が変遷しつつあるが,本項では日本で一般的に用いられる,加齢黄斑変性の一亜型という意味でCPCVという用語を用いる.無作為比較試験の結果EVERESTCIICstudyはCPDT併用ラニビズマブとラニビズマブ単独治療を比較する研究であり,無作為に割り付けたCPDT併用群C168人とラニビズマブ単独群C154人について,最終C2年間の経過をみるというデザインである.最近発表されたC1年目の成績では,視力改善が併用群でC8.3文字,ラニビズマブ単独群でC5.1文字と併用群が良好,治療回数も併用群ではCPDTC1.5回+硝子体内注射C5.2回,ラニビズマブ単独群では硝子体内注射C7.3回と,注射の回数を減らせることが示された4).2年間の経過観察も終了しているが,まだこの結果は報告されていない.このトピックに関しては日本からもCFujisanstudyとして,初回からCPDTとラニビズマブの併用療法を行う群と,ラニビズマブ単独で治療を開始し,ポリープ状病巣の残存がみられた場合にCPDTを追加する群に無作為割り付けを行い,1年後の成績をみるという研究が報告されている5).これによると,視力改善は初回併用治療群C8.1文字,必要時にCPDT追加とした群は8.8文字と同等.合計治療回数は初回併用治療群でラニビズマブC4.5回+PDTC1.1回,必要時CPDT追加群でラニビズマブC6.8回+PDT0.5回と,初回併用群で有意に硝子体注射の回数が少なかった.これらの独立したstudyが同じ傾向の結果を示していることから,PCVに対しては,初回に併用療法を行うことで追加のラニビズマブ投与回数を減らせるということは,かなり蓋然性が高いと思われる.一方,同時期に行われたCPLANETstudyは,アフリベルセプトを用いて滲出性変化およびポリープの残存が確認されたときにCPDTまたはCsham治療を行うというデザインで,PDT併用群にC161人,sham群にC157人が割り付けられている.まだ結果はCpublishされていないが,APVRS2017での学会発表によると(注:校正後出版された),視力はC1年目でCPDT併用群がC10.7文字,sham群がC10.8文字改善と,ラニビズマブを用いたEVERESTIIおよびCFujisanstudyの結果より若干大きい改善幅が報告されている.2年目終了時点ではそれぞれC9.1文字,10.7文字の改善であった.また,追加のPDTを要したのはC1年目でC13.2%,2年目でC17.0%であったとされている.なおアイリーアは導入療法後C2カ938あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C月ごとの固定投与(2年目は一部CtreatCandCextend)であり,治療回数には両群間で差はなかった.結果の解釈と今後の方向これらのCstudyはCinclusion/exclusionCcriteriaが同じではなく,使用薬剤が異なり,PDTのタイミング,VEGF阻害薬の投与方針も違うため,直接比較することはできないが,初回治療としてのCVEGF阻害薬併用PDTには,その後必要となる硝子体内注射数の回数を減らす効果はあると思われる.残念ながら初回治療としてのアフリベルセプト併用CPDTの効果を検証したデータはないが,薬剤の性質から同様の効果を期待してよいだろう.患者の治療に対するアドヒアランスを考えるうえでも,経過が長くなるほど厳格な追加治療はむずかしくなるので,初回治療で併用療法を行うことによりその後の治療回数を減らすことにはメリットがあるだろう.ただしベルテポルフィンも高価な薬剤であり,光凝固のコストが発生することから,少なくともC1年間では治療費用の負担はあまり変わらないものと予想され,この点では検討が必要である.また,PDTを施行するには現時点では造影検査が必要となるが,滲出性変化の再発があるたびにこれを行うというのは現実的ではない.OCT,OCTangiographyのみによる追加治療の判断が可能か,もしCVEGF阻害薬単独治療との使い分けをするのであれば,どのような症例が併用療法に適しているのか,導入治療としてのCVEGF阻害薬C3回投与は必要なのか,2年目以降の長期経過はどうかなど,今後もさらなる研究が望まれる.文献1)OishiCA,CKojimaCH,CMandaiCMCetCal:ComparisonCofCtheCe.ectofranibizumabandvertepor.nforpolypoidalcoroi-dalCvasculopathy:12-monthCLAPTOPCstudyCresults.CAmJOphthalmolC156:644-651,C20132)PangCCE,CFreundCKB:PachychoroidCneovasculopathy.CRetinaC35:1-9,C20153)DansinganiKK,Gal-OrO,SaddaSRetal:Understandinganeurysmaltype1neovascularisation(polypoidalchoroidalvasculopathy):aClessonCinCtheCtaxonomyCof“expandedCspectra”.ClinExpophthalmolC46:189-200,C20184)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetCal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedclinicaltrial.JAMAOphthalmolC135:206-1213,C20175)GomiCF,COshimaCY,CMoriCRCetCal:InitialCversusCdelayedCphotodybanucCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabforCtreatmentCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy:TheCFujisanStudy.RetinaC35:1569-1576,C2015(88)

緑内障:レーザースペックルフローグラフィ:最近の知見

2018年7月31日 火曜日

●連載217監修=岩田和雄山本哲也217.レーザースペックルフローグラフィ:杉山哲也京都医療生活協同組合・中野眼科医院最近の知見レーザースペックルフローグラフィ(LSFG.ソフトケア製)がわが国で認証されて約C10年が経ち,これを用いた研究が推進されている.ここではCLSFGによって得られた最近の知見を紹介する.一つはCOCTCangiogra-phyとの相関,もう一つは術中測定による眼血流自己調節能の検証に関するものである.C●LSFGを用いた最近の研究成果レーザースペックルフローグラフィCLSFG-NAVICTM(ソフトケア製)がわが国の医療用機器として認証されて約C10年が経った.最近のCLSFGを用いた研究の動向として,①海外でも臨床研究に使用されつつあり,白色人種でもわれわれ日本人の場合と同様,再現性のよい測定結果が得られていること1),②COCTCangiography(OCTA)との相関が研究されていること2),③前視野緑内障ですでに視神経乳頭の組織血流が低下しており,病態に関与していることが判明したこと3),④術中高眼圧に対する視神経乳頭血流・自己調節能が糖尿病や高血網膜外層AIP、ILM+109μmtoPRE/BM+0μm圧・高脂血症の症例で障害されていることが明らかにされたこと4~6)などがある.ここでは紙幅の関係で,②と④につき,筆者らの成果を含めて紹介する.C●LSFGとOCTAの相関通常の光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)に血流情報を付加したCdopplerCOCTを応用し,網脈絡膜血管の三次元画像としたものがCOCTAである.近年,OCTAを用いてさまざまな眼疾患の毛細血管密度が研究されており,緑内障においても視神経乳頭やその周囲の血管密度と視野障害の相関について報告されている7~9).一方,緑内障眼におけるCLSFGとOCTAの相関についても報告されつつあり,LSFGのMT(meanCofCtissueCarea,組織血流)やCMV(meanCofvasculararea,血管血流)とCOCTAによる乳頭周囲血管密度指数との相関を検討した結果,網膜表層ではMV,MTともに,脈絡膜表層ではCMTがとくに相関していたとされている2).筆者らも正常者と広義原発開放隅角緑内障C39眼を対象に,LSFGとCOCTA(RS-3000ab**MT4540353025201510516c5014網膜外層・血管密度指数y=1.3368x+16.29612108642046810121416正常初期中期後期0正常初期中期後期(7)(16)(16)(7)(16)(16)MTp=0.001,r=0.50p<0.001,One-wayANOVAp=0.02,One-wayANOVA図1初期緑内障症例のLSFG(a),OCTA(b)による所見図2LSFGのMT(a),OCTAの網膜外層血管密度指数(b)とLSFGのMT値とOCTAの網膜外層・血管密度と緑内障病期との関係指数の相関(c)平均+標準偏差,*p<0.01,Dunnett’stest.C(85)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9350910-1810/18/\100/頁/JCOPYab図3眼圧上昇時の視神経乳頭血流の推移a:全身疾患のない症例,b:糖尿病を有する症例,c:糖尿病群(13眼)と対照群(30眼)の比較(左:血管血流,右:組織血流,*p<0.01,ANOVA).(文献C5より転載)advance,ニデック製)の相関を検討した(河本,杉山ら,未発表データ).その結果,MTのみが網膜外層,網膜表層の視神経乳頭部(直径C2Cmm以内)の血管密度指数と有意に相関していたが,とくに網膜外層との相関が強かった(図1).既報2)とはCOCTAの測定部位がやや異なる(既報:乳頭周囲のみ,筆者ら:それも含む乳頭部全体)が,MTが網膜外層あるいは脈絡膜表層の血管密度と強く相関していた点は類似していた.さらに,対象が家兎眼と異なるが,篩状板近傍の組織血流(水素クリアランス法による)とCMTが相関していたという既報10)ともほぼ合致している.さらに緑内障の病期とともにCMTは低下,網膜外層血管密度指数は中期・後期で低下していた(図2).C●術中高眼圧に対する視神経乳頭血流の自己調節能視神経乳頭血流には自己調節能の存在が知られており,緑内障などでその障害が報告されているが,硝子体手術中の高眼圧に対する自己調節能を経時的に調べた報告はこれまでほとんどなかった.Hashimotoらは全身疾患のない症例,2型糖尿病あるいは高血圧・高脂血症を有する症例の硝子体手術中に,眼圧を約C30CmmHgまで上昇させた前後にCLSFGを用いて視神経乳頭血流の推移を測定した4~6).全身疾患のない症例(対照群)ではいったん血流低下した後,5~10分後に回復しはじめた4).一方,2型糖尿病(糖尿病網膜症なし,または軽度の非増殖性糖尿病網膜症)では視神経乳頭血流(MV,MTとも)の回復が低下しており(図3),MVの回復率はヘモグロビンCAC1Cや空腹時血糖値と負の相関を認めた5).また,高血圧・高脂血症を有する症例ではCMVの回復が低下していたが,その回復率に有意に関連していたのは高血圧ではなく高脂血症であった6).文献1)LuftCN,CWozniakCPA,CAschingerCGCCetCal:OcularCbloodC.owCmeasurementsCinChealthyCwhiteCsubjectsCusingClaserCspeckle.owgraphy.PLoSOne11:e0168190,C20162)KiyotaCN,CKunikataCH,CShigaCYCetCal:RelationshipCbetweenClaserCspeckleC.owgraphyCandCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCmeasurementsCofCocularCmicro-circulation.GraefesArchClinExpOphthalmolC255:1633-1642,C20173)ShigaCY,CKunikataCH,CAizawaCNCetCal:OpticCnerveCheadCbloodC.ow,CasCmeasuredCbyClaserCspeckleC.owgraphy,CisCsigni.cantlyreducedinpreperimetricglaucoma.CurrEyeResC41:1447-1453,C20164)HashimotoCR,CSugiyamaCT,CUbukaCMCetCal:Autoregula-tionCofCopticCnerveCheadCbloodC.owCinducedCbyCelevatedCintraocularCpressureCduringCvitreousCsurgery.CCurrCEyeCResC42:625-628,C20175)HashimotoCR,CSugiyamaCT,CMasaharaCHCetCal:ImpairedCautoregulationCofCbloodC.owCatCtheCopticCnerveCheadCdur-ingCvitrectomyCinCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CAmJOphthalmolC181:125-133,C20176)HashimotoR,SugiyamaT,UbukaMetal:Impairmentofautoregulationofopticnerveheadblood.owduringvitre-oussurgeryinpatientswithhypertensionandhyperlipid-emia.CGraefesArchClinExpOphthalmolC255:2227-2235,C20177)BojikianKD,ChenCL,WenJCetal:Opticdiscperfusioninprimaryopenangleandnormaltensionglaucomaeyesusingopticalcoherencetomography-basedmicroangiogra-phy.PLoSOne11:e0154691,C20168)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:Microvasculardensityinglaucomatouseyeswithhemi.eldvisual.elddefects:CanCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CAmJOphthalmolC168:237-249,C20169)RaoHL,PradhanZS,WeinrebRNetal:Regionalcompar-isonsofopticalcoherencetomographyangiographyvesseldensityCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthal-molC171:75-83,C201610)TakahashiCH,CSugiyamaCT,CTokushigeCHCetCal:Compari-sonCofCCCD-equippedClaserCspeckleC.owgraphyCwithChydrogenCgasCclearanceCmethodCinCtheCmeasurementCofCopticnerveheadmicrocirculationinrabbits.ExpEyeResC108:10-15,C2013C936あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(86)

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズ挿入術後の再近視化

2018年7月31日 火曜日

監修=木下茂●連載218大橋裕一坪田一男218.後房型有水晶体眼内レンズ挿入術後の山村陽バプテスト眼科クリニック再近視化現在,HoleICLが後房型有水晶体眼内レンズ挿入術(ICL挿入術)の際に使用されるようになり,虹彩切開が不要になった.LASIKやCICL挿入術などの屈折矯正手術は手術施行時における屈折異常を矯正するものであり,術後長期においては眼軸長の延長などにより再近視化が生じる.C図2ICL挿入眼a:眼内に挿入されたCHoleICL.Cb:前眼部COCTでのCvault(ICL裏面と水晶体前面との距離).Vaultは適切である.図1HoleICL光学部中央に直径約C0.36Cmmの貫通孔がついたCHoleICL.●はじめにわが国ではC2010年にCSTAARCSurgical社のCimplant-ableCcollamerClens(ICL)が,翌年には乱視矯正用のICLが,それぞれ後房型有水晶体眼内レンズとして承認された.さらにC2014年に光学部中央に直径約C0.36Cmmの貫通孔がついたCHoleCICL「アイシーエルCKS-Aqua-PORT」が登場し1),虹彩切開が不要となった(図1).2016年には,夜間の視機能改善効果を期待して光学部径を大きくしたCEVO+が登場した.EVOはCevolution(進化)を,+は光学部が拡大したことを表す.日本白内障屈折矯正手術学会のワーキンググループによると,2015年に国内で施行された屈折矯正手術のうち,約C80%がClaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK),約C10%が後房型有水晶体眼内レンズ挿入術(ICL挿入術)であった2).図2に眼内に挿入されたCHoleICLと前眼部COCTでのCvault(ICL裏面と水晶体前面との距離)を示す.C●ICL挿入術後の再近視化ICL挿入術は,LASIKなどの角膜屈折矯正手術が適応外の強度近視眼や,眼鏡矯正視力が良好な軽度・中等度の円錐角膜や円錐角膜疑いの症例に対して行われる.ただしガイドラインでは円錐角膜の症例は禁忌,疑い症例は慎重を要すると記されているので,注意が必要である3).当院におけるCICL挿入術後C7年間の屈折度数変化について紹介する.年齢C34.4C±7.1歳,屈折度数-11.03C±2.03DのC18例C36眼を対象に術後屈折度数変化を検討した.その結果,術後C7年における安全係数(術後平均矯正視力/術前平均矯正視力)はC1.16,有効係数(術後平均裸眼視力/術前平均矯正視力)はC0.87であった.屈折度数は術後C1カ月で-0.12±0.25D,術後C1年で-0.20±0.29D,術後C2年で-0.26±0.32D,術後C3年で-0.36±0.36D,術後C4年で-0.34±0.39D,術後C5年で-0.31±0.36D,術後C6年で-0.30±0.33D,術後C7年で-0.43±0.47Dであった(図3).屈折誤差C±1.0D以内およびC±0.5D以内の割合はそれぞれC88.9%,77.8ab(83)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9330910-1810/18/\100/頁/JCOPY屈折度数(D)10-1-2-3-4-5-6図3術後7年間の屈折度数変化-7-8-9-10-11-127年間で再近視化が-0.31±0.49D生じていた.C-13pre1M1Y2Y3Y4Y5Y6Y7Y屈折度数-11.03-0.12-0.2-0.26-0.36-0.34-0.31-0.3-0.4330眼軸長(mm)2826図4術後7年間の眼軸長変化7年間で眼軸長が0.23C±0.32Cmm延長していた.2422pre1Y2Y3Y4Y5Y6Y7YAL27.527.5527.5927.6327.6727.6827.727.72%であった.術後C1カ月とC7年では再近視化が全体で-0.31±0.49D生じ,そのうち-0.5D以上の再近視化が33.3%,さらに-1.0D以上の再近視化がC13.9%認められた.神谷らの報告(対象:年齢C38.4C±9.3歳,屈折度数-10.64±2.61D,35例C60眼)では,術後C1カ月とC6年では-0.33±0.71Dの再近視化が生じていた4)とされ,それとほぼ同様の結果と考えられる.屈折矯正手術後の再近視化が生じる要因として,角膜や水晶体の変化のほか,眼軸長の変化などがあげられる.すなわち,角膜屈折力が増加したり,水晶体の核硬化が進行したり,眼軸長が延長したりするなどの変化が関与すると考えられる.角膜屈折力が増加する理由として,角膜の前方移動,角膜上皮の肥厚,角膜厚の増加などがあるが,ICL挿入術ではCLASIKのような角膜切除による近視矯正を行わないため,角膜屈折力の影響はほとんどないと思われる.水晶体の核硬化については,強度近視眼ではもともと核白内障を生じやすいとされるため,ある程度影響するものと思われる.では,ICL挿入術後において眼軸長はどのように変化しているのであろうか.C●ICL挿入術後の眼軸長変化同じ対象において,眼軸長をCIOLMaster(CarlZeissMeditec社)で測定し,術前と術後C7年間の眼軸長変化を検討した.その結果,術前眼軸長はC27.50C±0.82Cmm,術後C1年でC27.55C±0.70mm,術後C2年でC27.59C±0.73mm,術後C3年でC27.63C±0.78Cmm,術後C4年でC27.67C±0.84mm,術後C5年でC27.68C±0.82mm,術後C6年でC934あたらしい眼科Vol.35,No.7,201827.70±0.86Cmm,術後C7年でC27.70C±0.90Cmmであった.術後C7年間で眼軸長はC0.23C±0.32Cmm延長していた(図4).先に述べた神谷らの報告4)では,術前眼軸長C27.60C±1.18mmが術後C6年間でC0.29C±0.43mm延長し,再近視化と相関があったとしている(r=-0.523,p=0.003).C●おわりにLASIKやCICL挿入術などの屈折矯正手術は手術施行時における屈折異常を矯正するものであり,矯正効果は永続的なものではない.加齢によっても眼球の構造変化(角膜や水晶体や眼軸長など)が生じるため,再近視化が避けられないことをあらかじめ患者に説明しておく必要がある.文献1)ShimizuCK,CKamiyaCK,CIgarashiCACetCal:IntraindividualCcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicCintraocularClensCwithCandCwithoutCaCcentralCholeCimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthal-molC154:486-494,C20122)KamiyaCK,CIgarashiCA,CHayashiCKCetCal:ACmulticenterCprospectiveCcohortCstudyConCrefractiveCsurgeryCinC15011Ceyes.AmJOphthalmolC175:159-168,C20173)大橋裕一,木下茂,澤充ほか:屈折矯正手術のガイドライン.日眼会誌114:692-694,C20104)KamiyaCK,CShimizuCK,CIgarashiCACetCal:FactorsCin.uen-cinglong-termregressionafterposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmolC158:179-184,C2014(84)

眼内レンズ:眼内レンズ表面に観察される霧状混濁(steam-like clouding)

2018年7月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋380.眼内レンズ表面に観察される霧状混濁太田一郎眼科三宅病院(steam-likeclouding)参天製薬の眼内レンズ「エタニティー」の挿入後早期に,光学部の房水と接する前房側表面に霧状の混濁(steam-likeclouding)が観察された.発症時点で視力障害を認める.混濁は吸引除去が容易であるが,数週で自然吸収例もある.原因は不明であるが,エタニティーがアクリルレンズのなかでは含水率の高い素材であることが影響している可能性がある.C●眼内レンズの霧状混濁“steam.likeclouding”とは白内障眼内レンズ(intraocularlens:IOL)手術の翌日から数日の間の術後早期に,IOL光学部前面に“steam-likeclouding”と表現される霧状の混濁が発生することがある1).その特徴は,窓ガラスが湯気で曇ったような混濁現象である.程度はさまざまであるが光学部の房水と接触する部分に限局して発生し,多くの症例で視力低下を訴える.他に前房中に炎症増加などの異常は認めない.本症が発生したCIOLは参天製薬製の「エタニティー」に多い.当院でエタニティーを挿入した3,271眼のうちC3眼でこの混濁が発生し,頻度はC0.09%1)となる.C●霧状混濁“steam.likeclouding”の経過筆者らが報告したC3症例の“steam-likeCclouding”は,いずれも視力低下を伴っていた1)(図1).症例1,2では発症後C2日目およびC34日目にCirrigationCandCaspi-ration(IA)にて混濁を除去した.混濁は容易に吸引除去できた.症例C3では経過観察したが,徐々に混濁は吸収傾向を示し,発症後C14日でほぼ消失した.混濁を吸図1症例の前眼部写真a:症例C3の広範照明像.C“Steam-likeclouding”は光学部前面全体に観察されるが,前.と接する周辺には生じていない.Cb:症例C2の徹照像.光学部前面C2/3に“steam-likeclouding”を認める.この症例ではC1カ月以上混濁が存在し,視力障害を訴えたのでCIAにて吸引除去を行った.引除去後,あるいは自然吸収した時点で視力は改善し,以後再発を認めない.これらC3症例を表1にまとめる.C●他のIOL混濁現象との違い眼内に挿入されたCIOLの光学部になんらかの混濁が生じ透明性が失われる現象は,いくつか知られている.光学部の表面に発生する混濁現象には,ボシュロム製「ハイドロヴュー眼内レンズ」に認められた石灰化2),また疎水性アクリルCIOLであるアルコン製「AcrySof」に発生した“ホワイトニング”または“sub-surfacenanoglistening(SSNG)C”3)が知られている.これらの混濁は術後数年経って発生するのに対して,C“steam-likeclouding”は術後数日以内の早期に発生しており,発生時期がまったく異なる.ハイドロヴュー眼内レンズなどに認められる石灰化は,光学部表面全体に一定の濃さで細かい粒子状の混濁を認めることが特徴である.石灰化の発生原因は,ハイドロヴュー眼内レンズの包装容器であったシリコーンガスケットに問題があり,IOL表面に疎水性シリコーンが接着し,それに対して前房内でリン酸カルシウムが析出し混濁となったと説明されている2).石灰化では混濁の進行が進むと視力障害が生じるため,多くの症例でCIOL(81)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9310910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1“Steam.likeclouding”症例のまとめ年齢性別CIOL混濁矯正視力経過発生時期(術後)範囲混濁前混濁発症時混濁消失時症例C170歳男CX-6014日目前面全体C1.0C0.5C1.2IA吸引除去症例C267歳女CX-607日目前面C2/3C1.0C0.7C1.2IA吸引除去症例C367歳男CX-704日目前面全体C0.7C0.4C1.0自然吸収の入れ替え手術がなされた.AcrySofに発生した“ホワイトニング”では,光学部表面全体が一定の濃さで散乱光の増加による混濁現象として観察され,進行することが特徴である.100Cnm単位の非常に小さい水の相分離がCIOL表面に限局して無数に発生した状態である.一般的に視力低下は認められない3).その他,過去に報告された疎水性アクリルCIOLのC“glistening”4),シリコーンCIOLなどに発生した“color-ation”,またCPMMACIOLの“snow.ake”,crystalline混濁5)などはCIOL光学部の内部が混濁場所であり,“steam-likeCclouding”はCIOL光学部前面のみの混濁である.“Steam-likeCclouding”はCIAにて容易に吸引除去されること,また自然消失もあることが特徴的である.C●霧状混濁“steam.likeclouding”の成因IAにて“steam-likeCclouding”を吸引除去中に得られた混濁物質の解析では,細胞成分を認めず,元素分析では塩化ナトリウムに由来するナトリウムと塩素が検出され,前房水灌流液由来と考えられた1).エタニティーは現在市場にある他の疎水性アクリルIOLと比べ,光学部の含水率がC4.0%とやや高く,pre-hydrateの状況でC0.9%生理食塩水中に保存,出荷されている.これらの点が“steam-likeclouding”に関連する可能性がある.C●おわりに現在までに報告のない術後に生じるCIOL光学部の霧状混濁“steam-likeclouding”の特徴をまとめた.この霧状混濁は自然吸収もあり予後も良好なものではあるが,視力障害を生じるために吸引除去が必要な症例もある.エタニティーのみに今回発生しているが,硝子体手術とのトリプル手術では,より発生頻度は高いと考えられる6).また,“steam-likeCclouding”の軽症例も最近見出されている7).文献1)OtaCI,CMiyakeCG,CAsamiCTCetCal:Steam-likeCcloudingCobservedConCearlyCpostoperativeCintraocularClensCsurface.CAmJOphthalmolCasereport,inpress2)KnoxCCartwrightCNE,CMayerCEJ,CMcDonaldCBMCetCal:CUltrastructuralCevaluationCofCexplantedCopaci.edHydroview(H60M)intraocularClenses.CBrJCOphthalmolC91:243-247,C20073)NishiharaH,YaguchiS,OnishiTetal:SurfacescatteringinCimplantedChydrophobicCintraocularClenses.CJCCataractRefractSurgC29:1385-1388,C20034)OmarO,PirayeshA,MamalisNetal:InvitroanalysisofAcrySofCintraocularClensCglisteningsCinCAcryPakCandCWagonWheelpackaging.JCataractRefractSurgC24:107-113,C19985)PengCQ,CAppleCDJ,CArthurCSNCetCal:Snow.akeCopaci.ca-tionCofCpoly(methylmethacrylate)intraocularClensCopticbiomaterial:anewlydescribedsyndrome.IntOphthalmolClinC41:91-107,C20016)太田一郎,三宅豪一郎,浅見哲ほか:術後早期眼内レンズ表面に観察された霧状混濁(Steam-likeCclouding)のC6症例.第C71回日本臨床眼科学会,20177)太田一郎,三宅豪一郎,加地秀ほか:眼内レンズ霧状混濁(Steam-likeclouding)の前駆状態としての点状混濁の検討.第C122回日本眼科学会総会,2018

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの摩擦

2018年7月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一45.コンタクトレンズの摩擦●はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折矯正手術に比べて比較的侵襲性が低い視力矯正法であり,近年,十代から高齢者までの患者に広く普及している.ソフトCCL(SCL)はハードCCLに比べると素材自体が柔らかく,装用感に優れるが,眼表面に対して少なからず機械的な影響を及ぼすことがある.本稿ではCSCLと眼表面との間で生じる摩擦について概説する.C●球結膜とレンズエッジとの摩擦(球結膜染色)SCL装用眼の球結膜で観察される球結膜染色1)(図1a)とは,SCLのエッジと球結膜で生じると考えられる結膜上皮障害による染色像であり,SCL装用者の半数以上で発症すると報告2)されている.球結膜染色は,SCLをはずした状態で,フルオレセイン染色下でコバルトブルーフィルターとイエローフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)の組み合わせ3),もしくはリサミングリーン染色4)で容易に観察できる.この球結膜染色は,レンズエッジのこすれで生じると考えられ,フィッティング5),レンズエッジ形状6),素材の柔らかさ7)などの影響を受けると考えられる.C●上眼瞼縁とレンズ表面との摩擦(LWE)SCL装用眼の上眼瞼縁で観察できるCLidCwiperCepi-theliopathy(LWE)8)(図1b)は,SCLの表面と上眼瞼縁で生じると考えられる上眼瞼縁結膜の上皮障害であり,約C3割のCSCL装用者で発症することをCKorbらが報告している9).また,SCL装用者のCLWE発症とドライアイ症状には関連があることも報告している9).このLWEは,SCL表面と上眼瞼縁結膜とで瞬目時に生じる摩擦が原因と考えられる.SCL上には角膜上皮のような膜型ムチンが存在しないため,SCLのレンズ表面は涙液が安定しにくく,上眼瞼縁結膜との摩擦が生じやすくなると考えられる.後述するように,SCLの摩擦を測定する方法が近年開発され,いくつかの知見も得られ(79)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY丸山邦夫ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニーLidwiperepitheliopathy(LWE)図1球結膜染色とlidwiperepitheliopathy(LWE)ている.C●SCL表面の摩擦の測定方法SCLのレンズ表面の摩擦を測定するために,Robaら10)は,眼表面にCSCLが装用されている状態を模倣した測定方法を考案した.測定手順は次の通りである.①試験レンズを半球状の樹脂製の治具に固定して,それを人工涙液で満たす.②表面をムチン(牛顎下腺ムチン)で被覆したプレートを,試験レンズ上で一定の荷重で横方向に往復スライドさせる.③プレートにかかる応力をマイクロトライボメーターで検出する(図2).各種SCLの摩擦係数の測定結果10)を図3に示すが,SCLの違いで摩擦係数が異なることがわかる.SCLの材質や表面処理方法は製品ごとに異なり,Hofmannら11)により測定されたヒト角膜の摩擦係数の測定値C0.015C±0.009と同程度のCSCLも存在する.また,Colesら12)は,摩擦係数と一日の終わりの快適性が逆相関することを報告している.これは,摩擦係数が大きいと自覚症状も強くなることを示している.C●おわりにSCLが眼表面に与える機械的な影響として,レンズあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9290.5000.4500.4000.3500.3000.2500.2000.1500.1000.0500.000摩擦係数Somo.lconAEta.lconANara.lconAEta.lconANal.lconAOma.lconAOcu.lconBNel.lconA図2摩擦係数の測定方法エッジと球結膜との関係,レンズ表面と上眼瞼縁との関係について着目してそれらの摩擦について概説した.また,レンズ表面の摩擦の測定法とその測定結果を紹介した.日常診療において球結膜染色やCLWEのような眼表面への機械的な影響が原因と考えられるCCLの眼障害に遭遇した場合,摩擦という視点をもち,治療やCSCL選択をすることが望ましいと考える.文献1)丸山邦夫,横井則彦:写真セミナーソフトコンタクトレンズ装用により生じる球結膜染色.あたらしい眼科C25:C325-326,C20082)LakkisCC,CBrennanCNA:BulbarCconjunctivalC.uoresceinCstainingCinChydrogelCcontactClensCwearers.CCLAOJC22:C189-194,C19963)大野建治,野田徹:蛍光濾過フィルターを用いた細隙灯顕微鏡による角結膜フルオレセイン染色所見の観察・撮影法.眼紀58:202-204,C20024)NornCMS:LissamineCgreenCvitalCstainingCofCcorneaCandCconjunctiva.ActaOphthalmolC51:483-491,C19735)RobboyMW,CoxIG:Patientfactorsin.uencingconjunc-tivalCstainingCwithCsoftCcontactClensCwearers.COptomCVisC図3各種SCLの摩擦係数の測定結果(文献C10を改変引用)CSciC68:163,C19916)LofstromT,KruseA:AconjunctivalresponsetosiliconehydrogelClensCwear.CContactCLensCSpectrumCSeptember:C42-44,C20057)CoveyM,SweeneyDF,TerryRetal:Hypoxice.ectsontheanterioreyeofhigh-Dksoftcontactlenswearersarenegligible.OptomVisSciC78:95-99,C20018)丸山邦夫,横井則彦:知っておきたいCCL合併症第C27回.日コレ誌50:127-128,C20079)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepitheC-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOCJ28:211-216,C200210)RobaCM,CDuncanCEG,CHillCGACetCal:FrictionCmeasure-mentsConCcontactClensesCinCtheirCoperatingCenvironment.CTribologyLettersC44:387,C201111)HofmannCG,CJubinCP,CGerligandCPCetCal:In-vitroCmethodCfordeterminingcornealtissuefrictionanddamageduetocontactlenssliding.BiotribologyC5:23,C201612)ColesCC,CBrennanCN:Coe.cientCofCfrictionCandCsoftCcon-tactClensCcomfort.COptomCVisCSciC89:E-abstractC125603,C2012CPAS107