‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法

2018年9月30日 日曜日

糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法Anti-VEGFTherapyforDiabeticMacularEdema春田雅俊*吉田茂生*はじめに糖尿病黄斑浮腫は,就労年齢層での社会的失明の原因として大きな問題となっている.全世界には約9,300万人の糖尿病網膜症の患者がいて,そのうち約2,100万人は糖尿病黄斑浮腫を合併していると推定されている.糖尿病黄斑浮腫は重篤な視力低下をきたし,遷延すると不可逆的な機能障害を生じるため,早急に適切な治療を行う必要がある.血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)には,血管新生や血管透過性亢進の作用があり,糖尿病網膜症の病態に深くかかわっている.近年の多数の大規模臨床試験により糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法の有効性が示され,治療の第一選択となりつつある.本稿では,糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法について,大規模臨床試験で得られた知見,実臨床での投与方法について解説する.I抗VEGF薬についてVEGFは虚血により発現が誘導される二量体の糖蛋白質で,おもな作用として血管新生と血管透過性亢進がある.糖尿病網膜症の患者では硝子体中にVEGFが検出され,病状の進展とともにVEGF濃度が増加する.また,実験的にサル眼にVEGFを硝子体内投与すると,糖尿病網膜症と同様の網膜虚血や微小血管障害を引き起こす.このようにVEGFは糖尿病網膜症の病態に深くかかわっていると考えられ,糖尿病黄斑浮腫の治療標的として注目されている.わが国では2014年にラニビズマブ(ルセンティスR)とアフリベルセプト(アイリーアR)が糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬として適応拡大された.ラニビズマブはVEGFに対するヒト化モノクローナル抗体のFab断片で,VEGFファミリーのうちVEGF-Aを阻害する.アフリベルセプトはヒトVEGF受容体1と2の細胞外ドメインを結合した融合糖蛋白質で,VEGF-Aだけでなく,VEGF-Bや胎盤増殖因子も阻害する.II大規模臨床試験1.プロトコールIDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net)によるプロトコールIでは,糖尿病黄斑浮腫患者をラニビズマブ0.5mg+遅延局所光凝固群,ラニビズマブ0.5mg+即時局所光凝固群,トリアムシノロン4mg+即時局所光凝固群,即時局所光凝固群の4群にランダムに割り付け,治療効果を比較している(図1)1).ラニビズマブは毎月連続3回の導入投与後に必要時投与,トリアムシノロンは4カ月ごとに硝子体内投与している.1年の経過観察では,レーザーの仕方にかかわらずラニビズマブ群ではETDRS視力で9文字,トリアムシノロン群では4文字,局所光凝固群では3文字の改善が得られた.これらの結果から,ラニビズマブ+局所光凝固は,局所光凝固と比べて有意な視力改善が得られることが示された.*MasatoshiHaruta&*ShigeoYoshida:久留米大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕春田雅俊:〒830-0011福岡県久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(35)11912.RESTORE試験RESTORE試験は第III相ランダム化比較試験で,糖尿病黄斑浮腫患者をラニビズマブ0.5mg群,ラニビズマブ0.5mg+局所光凝固群,局所光凝固群の3群に割り付け,ラニビズマブは毎月連続3回の導入投与後に必要時投与を行っている(図2)2).なお2年目からは局所光凝固群にもラニビズマブの必要時投与を認めている.3年の経過観察においては,ラニビズマブ群ではETDRS視力で8.0文字,ラニビズマブ+局所光凝固群では6.7文字,局所光凝固群では6.0文字の改善が得られた.これらの結果から,ラニビズマブの単独投与でも,ラニビズマブ+局所光凝固と同等かそれ以上の視力改善が得られることが示された.3.RISE.RIDE試験a.糖尿病黄斑浮腫に対する効果RISE/RIDE試験は第III相ランダム化比較試験で,糖尿病黄斑浮腫患者をラニビズマブ0.5mg群,ラニビズマブ0.3mg群,偽注射群の3群に割り付け,毎月投与による治療効果を比較している(図3)3).なお3年目からは偽注射群にもラニビズマブ0.5mgを毎月投与している.3年の経過観察では,ラニビズマブ群ではETDRS視力で11.2.12.4文字の改善が得られたのに対し,偽注射群(3年目からラニビズマブ0.5mgを毎月投与)では4.5文字の改善しか得られなかった.これらの結果から,ラニビズマブの毎月投与により糖尿病黄斑浮腫の視力改善が維持できること,また投与開始が遅れると視力改善が限定的になることが示された.b.糖尿病網膜症の改善効果2年の経過観察では,糖尿病網膜症の重症度が2段階以上改善した割合は,ラニビズマブ群では35.9.37.2%であったのに対し,偽注射群では5.4%であった4).また,後極部に網膜無灌流領域のある患者の割合は,ラニビズマブ群ではほとんど変わらなかったのに対し,偽注射群では徐々に増加した5).さらに硬性白斑を認めない患者の割合は,ラニビズマブ群では61.3.62.0%(投与前は22.1.23.6%)だったのに対し,偽注射群では36.3%(投与前は20.9%)であった6).これらの結果から,ラニビズマブの毎月投与には糖尿病網膜症の重症度を改善し,後極部の網膜無灌流領域の新たな形成を抑制し,硬性白斑を消退する効果もあることが確認された.4.VISTA.VIVID試験a.糖尿病黄斑浮腫に対する効果VISTA/VIVID試験は第III相ランダム化比較試験で,糖尿病黄斑浮腫患者をアフリベルセプト2mg毎月投与群,アフリベルセプト2mg隔月投与群(ただし初回5回は毎月投与),局所光凝固群の3群に割り付け,治療効果を比較している(図4)7).なお3年目からは局所光凝固群にもアフリベルセプト2mgの必要時投与を認めている.3年の経過観察では,アフリベルセプト群ではETDRS視力で10.3.11.7文字の改善が得られたのに対し,局所光凝固群(3年目からアフリベルセプト2mgを必要時投与)では1.4.1.6文字の改善しか得られなかった.これらの結果からアフリベルセプト投与では,隔月投与でも毎月投与と同等の視力改善が維持できること,また投与開始が遅れると視力改善はほとんど得られないことが示された.b.糖尿病網膜症の改善効果2年の経過観察では,糖尿病網膜症の重症度が2段階以上改善した割合は,アフリベルセプト群では29.3.37.1%であったのに対し,局所光凝固群では8.2.15.6%であった8).これらの結果から,アフリベルセプトの毎月または隔月投与には糖尿病網膜症の重症度を改善する効果も確認された.5.プロトコールTDRCR.netによるプロトコールTでは,糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬の3剤の治療効果を比較している.糖尿病黄斑浮腫患者をアフリベルセプト2mg群,ラニビズマブ0.3mg群,ベバシズマブ1.25mg群の3群にランダムに割り付け,初回投与後は毎月診察して,必要時に投与を行っている(図5)9).2年の経過観察では,3剤すべてで治療効果が得られたが,治療開始前の視力によって差が出る結果となった.治療開始前の視力が20/40.20/32と良好な症例では,ETDRS視力での改善度は,アフリベルセプト群が7.8文字,ラニビズマブ群が8.6文字,ベバシズマブ群が6.8文字で,3剤間1192あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(36)視力の平均変化量(文字数)視力の平均変化量(文字数)1086420週数ラニビズマブ+遅延局所光凝固ラニビズマブ+即時局所光凝固トリアムシノロン+即時局所光凝固即時局所光凝固図1DRCR.netによるプロトコールIラニビズマブ+局所光凝固は,局所光凝固単独と比べて有意な視力改善が得られている.トリアムシノロン+局所光凝固は,ラニビズマブ+局所光凝固と比べて,投与直後の視力改善効果はほぼ同等であったが,その後に視力低下が進行している.この視力低下はステロイドによる白内障の進行と考えられ,眼内レンズ挿入眼のみでのサブ解析では,このような視力低下は認めていない.(文献C1より許諾を得て引用)048121620242832364044485268841086+8.0文字+6.7文字+6.0文字420024681012ラニビズマブ14161820222426月数ラニビズマブ+局所光凝固図2RESTORE試験28303234局所光凝固36ラニビズマブ単独でも,ラニビズマブ+局所光凝固と同等かそれ以上の視力改善効果が得られている.なおC2年目からは局所光凝固群にもラニビズマブの必要時投与を認めている.(文献C2より許諾を得て引用)C視力の平均変化量(文字数)視力の平均変化量(文字数)12+12.4文字+11.2文字1086+4.5文字420月数ラニビズマブ0.5mgラニビズマブ0.3mg偽注射図3RISE.RIDE試験ラニビズマブの毎月投与により糖尿病黄斑浮腫の視力改善が維持されている.3年目からは偽注射群にもラニビズマブの毎月投与を開始しているが,視力改善効果は限定的である.(文献C3より許諾を得て引用)0246810121416182022242628303234361412+10.5文字+10.4文字108642+1.4文字0週数アフリベルセプト毎月アフリベルセプト隔月局所光凝固図4VISTA試験アフリベルセプトの隔月投与は,毎月投与と同等の視力改善が維持されている.なおC3年目からは局所光凝固群にも,アフリベルセプトを必要時投与しているが,視力改善効果はほとんど得られていない.(文献C7より許諾を得て引用)081624324048566472808896104112120128136144視力の平均変化量(文字数)20+18.1文字+16.1文字15+13.1文字10+8.6文字+7.8文字+6.8文字5004812162024283236404448526884104週数アフリベルセプト(視力不良群)ラニビズマブ(視力不良群)ベバシズマブ(視力不良群)アフリベルセプト(視力良好群)ラニビズマブ(視力良好群)ベバシズマブ(視力良好群)図5DRCR.netによるプロトコールT治療開始前の視力が良好な症例では,3剤間で視力改善度に有意差を認めていない.一方,治療開始前の視力が不良な症例では,アフリベルセプトはベバシズマブに対して有意な視力改善を認めている.(文献C9より許諾を得て引用)らせるかについては意見が分かれている.RESTORE試験では,ラニビズマブに局所光凝固を併用しても抗VEGF薬の投与回数を減らすことはできなかった2).一方,ナビラスCRに蛍光眼底造影検査の結果を取り込み,イメージガイド下に正確な局所光凝固を行うと,1年でラニビズマブの平均投与回数をC6.9回からC3.9回まで減らすことができた11).蛍光眼底造影検査をこまめに施行し,正確な局所光凝固を実践できれば,抗CVEGF薬の投与回数の減少につながるのかもしれない.筆者らは,蛍光眼底造影検査にて周辺部に網膜無灌流領域を認める場合は,積極的に選択的網膜光凝固または汎網膜光凝固を施行している.ベバシズマブ単独投与群と選択的網膜光凝固の併用群を比較した研究では,周辺部の虚血網膜の程度と黄斑浮腫の再燃には有意な相関があり,虚血網膜への選択的網膜光凝固を併用することで抗CVEGF薬の投与回数を減らすことができたとしている12).たしかに大規模臨床試験のように抗CVEGF療法を毎月継続することができれば,糖尿病網膜症の重症度を改善し,増殖糖尿病網膜症への増悪を防止できるかもしれない.しかし,実臨床では永続的な抗CVEGF療法は現実的ではなく,今後も周辺部の網膜無灌流領域に対する網膜光凝固は重要な役割を担うと考える.糖尿病黄斑浮腫は,光干渉断層計の所見に基づいて,漿液性網膜.離,.胞様黄斑浮腫,スポンジ状膨化に分類されている.それぞれ中心窩の周囲からの漏出,中心窩付近の毛細血管瘤,黄斑上膜と関連しているといわれている.このうち漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫では,.胞様黄斑浮腫やスポンジ状膨化を伴う糖尿病黄斑浮腫と比べて,抗CVEGF療法に対する反応性が低い.このような漿液性網膜.離を伴う症例では,VEGFだけでなく,炎症性サイトカインも上昇しており,抗VEGF療法とステロイド眼局所投与の併用が奏効しやすいとされている.また,硝子体黄斑牽引症候群,黄斑上膜など黄斑部への機械的な牽引が糖尿病黄斑浮腫の病態に関与する場合は,小切開硝子体手術のよい適応となる.DRCR.netのプトロコールCIでは,トリアムシノロン投与群は,ラニビズマブ投与群と比べて投与直後の視力改善効果はほぼ同等であったが,その後に視力低下が進行した(図1)1).この視力低下はステロイドによる白内障の進行と考えられ,眼内レンズ挿入眼のみでのサブ解析ではこのような視力低下は認めていない.そのため,眼内レンズ挿入眼で,ステロイド投与により眼圧が上昇するレスポンダーでなければ,糖尿病黄斑浮腫の治療として,安価で,効果持続期間の長いステロイド眼局所投与を選択してもよいと思われる.黄斑部への硬性白斑の沈着は,糖尿病黄斑浮腫の視力予後不良因子である.黄斑部の近傍に硬性白斑の集積を認める糖尿病黄斑浮腫の症例は,抗CVEGF療法のよい適応と思われる.ただし抗CVEGF療法による硬性白斑の消退効果はきわめて緩徐であり6),根気強く抗CVEGF療法を継続しなければならない.筆者らは,糖尿病黄斑浮腫の患者に対しては,かかりつけの内科医との連携を密にとり,糖尿病のコントロール状態だけでなく,全身合併症の情報も共有したうえで抗CVEGF療法の適応を判断している.抗CVEGF療法の全身的な副作用として動脈血栓塞栓症があり,たとえ硝子体投与であっても慎重に考えるべきである.最近のメタアナリシスでは,眼科疾患に対する抗CVEGF療法では全身の重篤な合併症の頻度は増加しないとされている13).ただし多くの臨床試験では,全身リスクの高い症例はもともと除外されており,結果の解釈には注意が必要と思われる.おわりに糖尿病黄斑浮腫の治療は,抗CVEGF薬の登場により大きく変化してきている.抗CVEGF薬の劇的な治療効果を目の当たりにする一方で,高価な抗CVEGF薬を頻回に投与する必要があるなど,実臨床ではまだ解決できていない問題も多い.糖尿病黄斑浮腫では,抗CVEGF療法だけでなく,局所光凝固,ステロイド眼局所投与,硝子体手術など治療の選択肢も多い.一人一人の病態,全身状態,社会的背景にあわせて適切な治療法を選択して組み合わせ,最善の視機能が得られるよう治療戦略をたてることが求められている.1196あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(40)-

網膜静脈分枝閉塞症の病態と抗VEGF薬以外の治療法

2018年9月30日 日曜日

網膜静脈分枝閉塞症の病態と抗VEGF薬以外の治療法PathologyofBRVOandTreatmentotherthanAnti-VEGFTherapy飯田悠人*はじめに本稿では,網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)の発症機序と静脈閉塞に続発する病態について述べ,それぞれの病態に対する治療法,とくに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬以外の治療法の使い所について私見を交えて述べる.BRVOは,網膜静脈の第一または第二分枝レベルで閉塞を生じる疾患である.網膜循環障害では糖尿病網膜症についで2番目に多く,40歳以上の有病率は1~2%である.BRVOの静脈閉塞は網膜動静脈の交叉部で生じる.高血圧や動脈硬化などの加齢性変化が背景となり,静脈血栓が生じると考えられているが,その発症メカニズム,病態についてはいまだ解明されていない点も多い.図1に想定されるBRVOの病態と対応する眼底所見について図示する.I発症にかかわる病態1856年にドイツの病理学者Virchowは,一般的な血栓形成の成因として,「血流動態の変化」「血管内皮機能障害」「凝固機能の亢進」の三つの要因をあげた.この概念はVirchowの血栓形成の三大因子といわれ,現在でも血栓症の病態を理解するうえで重要な考え方として受け入れられており,網膜血管閉塞症においてもこれらの病態が発症にかかわっているものと考えられる.古典的には,動静脈交叉部で動脈硬化の進んだ動脈により動脈の下を通る静脈が圧排され,内腔が狭窄し静脈閉塞から血栓が形成されることで生じると考えられてきた.しかしながら,近年,網膜光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)による交叉部の観察から,BRVOの原因動静脈交叉部においては,かならずしも静脈内腔の狭窄を伴わないことが明らかとなってきている1).また,正常眼の動静脈交叉部では,2~3割で動脈が静脈よりも網膜表層を走行するarterialovercrossingであるが,BRVO眼では9割以上がarterialovercrossingであり,その逆の静脈が動脈よりも網膜表層を走行するvenousovercrossingはきわめてまれであると報告されてきた.しかしながら,最近,筆者らが行ったOCTangiography(OCTA)を用いた交叉部血管の三次元的な観察では,venousovercrossingが全体の約4割を占め,正常眼と同程度,あるいは高頻度であることが明らかとなった2).このことは,venousovercrossingの交叉パターンが,むしろBRVO発症のリスク因子である可能性を示唆すると考えられる.さらに興味深いことに,OCTAにて描出された原因交叉部の静脈血管は,venousovercrossingの症例では静脈内腔の狭細化が顕著である一方で,arterialovercrossingの症例では狭細化があまりみられなかった.これはvenousovercross-ingの症例では,網膜静脈が内境界膜と網膜動脈に挟まれるためにその内腔が狭細化するが,arterialover-crossingの症例では,網膜静脈が狭細化せずに網膜深層方向へ大きく屈曲して走行するためと考えられる(図*YutoIida:大阪赤十字病院眼科〔別刷請求先〕飯田悠人:〒543-8555大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-30大阪赤十字病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(29)1185糖尿病発症前因子急性期慢性期図1BRVOの病態と網膜所見の概念図内境界膜網膜表層網膜色素上皮層網膜深層内境界膜網膜表層網膜色素上皮層網膜深層動脈が静脈よりも表層を走行→Arterialovercrossing特徴:静脈は内腔を保ち大きく蛇行静脈が動脈よりも表層を走行→Venousovercrossing特徴:内境界膜と動脈の間で静脈は狭細化図2BRVOの原因動静脈交叉部の特徴図3Venousovercrossingの症例(文献C2より改変引用)図4急性期BRVOの臨床所見図5網膜下出血による視細胞障害(文献C3より改変引用)発症前因子急性期慢性期図6BRVOの治療ターゲットと治療法

網膜静脈分枝閉塞症に対する抗VEGF療法

2018年9月30日 日曜日

網膜静脈分枝閉塞症に対する抗VEGF療法Anti-VEGFTherapyinBRVO坪井孝太郎*はじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,わが国において40歳以上の約2.0%が罹患していると推測される網膜循環疾患である.網膜の動静脈交差部での静脈閉塞が原因で発症することが知られている.網膜動静脈交差部では,動脈の圧迫により静脈が狭窄・屈曲し,血管内皮細胞が傷害されることで,血栓を生じ閉塞をきたすと考えられている.急性期には,閉塞部位より上流側の静脈領域において,出血,浮腫や網膜下液などの滲出性変化,そして網膜虚血を生じる(図1).慢性期には網膜虚血に続発する新生血管や遷延する黄斑浮腫が臨床上問題となってくる.抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の登場,そして2013年よりわが国におけるBRVOへの適応拡大を経て,現在BRVO治療において抗VEGF薬が治療の第一選択であることは疑う余地がない.実臨床において,抗VEGF薬を使用すれば,視力改善,浮腫消失が得られやすいという点で,BRVOは抗VEGF療法を継続的に行いさえすれば十分な治療効果が得られる症例が多いという印象をもつと思う.しかし,治療抵抗性を示す症例や,逆に無治療でも軽快する症例が存在することから,症例ごとに最適な治療を行うことができれば,医師,患者ともに大きなメリットがあると思われる.本稿ではBRVOに対する抗VEGF療法のこれまでの知見をまとめ,BRVOに対する抗VEGF療法のこれからについて考える.IBRVOに伴う黄斑浮腫の病態BRVOに対する抗VEGF療法について述べる前に,BRVOに伴う黄斑浮腫の病態について解説する.BRVOは動静脈交差により生じる静脈内の血栓が血流障害をきたし,その結果として血管内腔の圧上昇,血管内皮細胞障害をきたす.血管内圧が高ければ,血管内から網膜内に血液成分の滲出をきたし,網膜浮腫や蛋白漏出の変化が生じる.網膜組織内への蛋白漏出は膠質浸透圧上昇をもたらし,組織浮腫をきたし,結果として毛細血管の閉塞や網膜虚血が生じる.また,これまでの研究から眼内VEGF,IL-6,IL-8,MCP-1などの上昇が示されており,血管閉塞に伴う滲出性変化に加え,虚血,炎症によって発現が誘導されたVEGFや各種サイトカインも黄斑浮腫を促進する因子として働くと考えられている.また,近年OCTangiography(OCTA)を用いて網膜血管を層別に観察することが可能となり,網膜浅層と網膜深層の血流変化について報告されてきている.Spaideら1)は網膜深層血流の低下が浮腫の遷延に関与している可能性を報告した.筆者ら2)はBRVOに伴う遷延する黄斑浮腫を認める症例では,深層血流は認めないが,浅層血流は認めるという領域(isolatedves-sel:孤立血管)が多いということを発見し,遷延性黄斑浮腫の予測因子として使える可能性があると考えている(図2).以上より,BRVOに伴う黄斑浮腫は閉塞に伴う*KotaroTsuboi:愛知医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕坪井孝太郎:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又1-1愛知医科大学眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(21)1177図1網脈静脈分子閉塞症(BRVO)症例の一例a:急性期CBRVOの眼底写真.Cb:動静脈交差部(黄色四角)を撮影したCOCTangiography(OCTA)画像(浅層).c:後極全体のパノラマCOCTA画像(浅層).動静脈交差部(黄色四角)の上流(末梢)側の静脈周囲に無灌流領域や毛細血管拡張を認めている.C図2遷延するBRVOにおけるOCTangiography(OCTA)の一例a:浅層のCOCTA画像.Cb:深層のCOCTA画像.Cc:浅層を青,深層を赤に色付けした合成COCTA画像.右上部分(黄色線領域)は浅層の血流は残っているが,深層の血流が脱落しており,合成COCTA画像にて浅層の血流()のみが残っていることがわかる.Cd:浅層血流と深層血流に差がある症例のシェーマ.浅層のみに血流が残っているため,網膜深層へ滲出性変化が貯留するが,排出されない可能性がある.(文献C2より引用改変)MeanChangefromBaselineBCVALetterScore(ETDRSLetters)20ラニビズマブ0.5mg群(n=131)16ラニビズマブ0.3mg群(n=134)12シャム群(n=132)840治療期間観察機関(毎月投与)(必要時投与)図3BRAVO試験のベースライン視力からの平均変化量ラニビズマブC0.5Cmg群は速やかな視力改善を得た後,観察期間において視力維持が可能であった.シャム群は観察期間から急速な視力改善を得ているがラニビズマブ群には及んでいない.シャム群と比較して*p<0.0001,**p<0.01.(文献C3より引用改変)0724681012(月)MeanChangefromBaselineレーザー単独群レーザー/アフリベルセプト群(n=99)アフリベルセプト群(n=91)20BCVA(ETDRSletters)1816141210864200481216202428323640444852Time(weeks)図4VIBRANT試験のベースライン視力からの平均変化量アフリベルセプト群は速やかな視力改善を得た後,視力維持が可能であった.レーザー単独群はC24週の視力改善は有意に低く,アフリベルセプト開始後もアフリベルセプト群に追いついていない.レーザー単独群,レーザー/アフリベルセプト群と比較して*p<0.0001,**Cp=0.0035.(文献C4より引用改変)CMeanChangefromBaseline(Letters)2520151050ラニビズマブ0.5mg群ラニビズマブ0.3/0.5mg群シャム群/0.5mg群BaselineM1236912Month図5HORIZON試験のベースライン視力からの平均変化量ラニビズマブ群とシャム群ではC12カ月目時点では視力改善量に優位な差を認めていたが,24カ月目時点では差は縮小している.(文献C5より引用改変)Mean(±SE)BCVAchangefrombaselineovertime(ETDRSletters)ラニビズマブ群(n=180)ラニビズマブ+レーザー群(n=178)レーザー単独群(n=26)レーザー/ラニビズマブ群(n=66)VAGainInj.No.19+17.311.316+15.511.413+12.18.110+10.0─741-2図6BRIGHTER試験のベースライン視力からの平均変化量ラニビズマブ群とレーザー単独群もしくはレーザー/ラニビズマブ群ではC24カ月目時点では視力改善量に有意な差を認めている.(文献C6より引用改変)5.観察期間BRAVO試験では毎月受診であったのに対して,HORIZON試験ではC2年目以降,3カ月ごとの経過観察となった.その結果,1年目時点で維持できていた視力が,2年目時点で若干の低下を示した.そのためCHORI-ZON試験では,維持期においても観察期間はC2カ月ごとが好ましいと結論づけられている.Winegarnerら9)はCOCTAを用いて血流の状態を経過観察した結果,血流が減少した症例では黄斑浮腫の再発回数が多かったと報告している.BRVOの観察期間は,安定期においても浮腫が再発,増悪する前に診察し,加療することが重要であると思われる.C6.網膜出血と抗VEGF療法閉塞の強いCBRVOにおいて,網膜内出血のみならず,網膜下出血を伴う症例を認める.Muraokaら10)は網膜下出血を認めるCBRVO症例では,黄斑浮腫改善後もellipsoidCzoneや外境界膜欠損などの網膜外層障害を認めることを報告している.また,抗CVEGF薬投与の有無で網膜下出血の吸収速度が促進されることを示している.このことから網膜下出血を認める症例においては,早期からの抗CVEGF療法を行うことで,網膜外層障害を防ぐ必要があると思われる.C7.網膜光凝固術併用の効果BRIGHTER試験は,抗CVEGF療法に網膜光凝固術を併施することで,抗CVEGF療法の視力改善,また注射回数の減少が得られるのではないかという仮説のもと行われた.観察期間はC24カ月,ラニビズマブ群とラニビズマブ+レーザー群,およびレーザー群に分けられ,ラニビズマブの投与基準はC3カ月以上の視力安定が得られるまで投与を行い,その後はCPRN投与となっている.レーザー群はC6カ月以降にラニビズマブ投与を開始した群とレーザー単独治療のみの群に分けられた.24カ月の結果は,ラニビズマブ単独群とラニビズマブ+レーザー群では,視力改善量(+15.5文字Cvs+17.3文字),注射回数(11.4回CvsC11.3回)に有意な差は認められなかった.一方で,遷延性黄斑浮腫を認める症例には,毛細血管の拡張や毛細血管瘤を伴う症例があり,直接光凝固術の有効性が報告されている.Sakimotoら11)は平均C20カ月以上経過した黄斑浮腫を伴うCBRVO16症例に対して,直接光凝固術を施行した.その結果,術後にCCFTの有意な減少と,視力の有意な改善を得られた.また,Tomiyasuら12)はC1年以上経過しても浮腫が再燃する浮腫遷延群に対して直接光凝固術を施行し,浮腫の改善が得られたと報告している.従来のレーザー治療である黄斑グリッドとは異なり,毛細血管瘤を直接凝固することは,遷延する症例に対して有効な手段となる可能性がある.まとめBRVOに対する抗CVEGF療法は有効な治療法であり,第一選択であることは間違いない.しかし,遷延する症例,自然軽快する症例,早期治療が重要な症例など,症例ごとの予後を予測することはむずかしい.BRVOは抗CVEGF療法が奏効するため,積極的な抗CVEGF療法により視力改善,浮腫改善は得られるが,一方で注射回数の増加が問題となる.これまでの研究から,一般的な症例はC1+PRN投与で十分な結果が得られる.多くの症例では経過観察期間をおいても,その後の治療で視力改善が得られるが,一部の症例(網膜下出血を伴う場合など)では経過観察により視力改善が得にくくなるため,早期からの積極的な加療が重要である.また,浮腫が軽快する症例と遷延する症例では,1年後以降で注射回数に差を認めることから,2年目以降も定期的な抗VEGF薬投与が必要な症例では,抗CVEGF療法以外の選択肢も考慮する必要がある.今後の研究により,正確な予後予測が行われ,症例ごとの治療最適化が行われることを期待したい.文献1)SpaideRF:Retinalvascularcystoidmacularedema.Reti-naC36:1823-1842,C20162)TsuboiK,IshidaY,YuichiroIetal:Gapincapillaryper-fusiononopticalcoherencetomographyangiographyasso-ciatedCwithCpersistentCmacularCedemaCinCbranchCretinalCveinCocclusion.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:2038-2043,C20173)BrownCDM,CCampochiaroCPA,CBhisitkulCRBCetCal:Sus-tainedCbene.tsCfromCranibizumabCforCmacularCedemaCfol-1182あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(26)-

加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法

2018年9月30日 日曜日

加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法Anti-VEGFTherapyforAge-RelatedMacularDegeneration塩瀬聡美*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対して抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬を用いる画期的な治療法が認可されて10年が経過した.当時から視力を維持するだけでなく,視力を改善する唯一の治療法として期待されており,現在も滲出型AMDに対するスタンダードな治療法として認識されている.しかも,抗VEGF薬の数回の投与で滲出性変化が消失(ドライマクラ)して視力が改善する症例もあれば,何回投与しても滲出性変化が改善しなかったり,再発したりする症例がある.この難治症例に対して,治療を中止するタイミングの判断はむずかしい.抗VEGF薬の投与回数が増えれば患者側や医療機関側の負担が大きくなっていく.近年クローズアップされてきたこの問題について整理し,筆者らの施設でどのようにアプローチしているかについて述べる.I治療の実態抗VEGF薬を1回/月,3回投与する「導入期」だけで,滲出を抑制できれば経過観察となるが,ほとんどの症例が導入期で回復した視力を維持させるための「維持期」が必要になる.「維持期」投与プランは,以下の三つの方法がある.①受診時に滲出性変化があれば投与し,なければ投与しないprorenata(PRN),②受診時に必ず投与するが,再発がなければ投与間隔を延長し,再発があれば投与間隔を短縮するtreatandextend(TAE)法,③受診時に必ず投与(2カ月ごとなど)し続ける固定投与法である.施設によってどのプランで投与していくかは異なるが,PRN法では「滲出性変化を認めてから再投与」という形をとるため,再発を繰り返すことによる黄斑の障害を招きやすく,視力を長期維持できないことがわかってきた.最近はTAE法で行う眼科医,施設が増えている(米国網膜専門医の70.9%,日本で50%以上.2017年米国の網膜硝子体学会のアンケート調査より).筆者らの施設ではおもに図1のようなTAE法による治療を行っている.TAE法は,①来院間隔を伸ばせる.②再燃をへらせる.③個々の病態に合わせて計画的に治療を行える,というメリットがある.また,来院時に必ず投与を行うということで,患者は注射を受けるという気持ちの整理をつけて受診するし,医療者側もあらかじめ投与の準備ができる.一方,TAE法のデメリットとして,本来なら3回導入期投与だけでまったく再発を起こさず落ち着いている患者がいるにもかかわらず,TAE法を画一的に行うことで過剰投与になっている可能性があげられる.このような患者を初診の段階で見分けるのは困難で,より安全なTAE法を選択し,結果として投与回数が増えてしまう.筆者らの施設で滲出型AMD87例に対するアフリベルセプト硝子体投与3年の治療成績を検討した.3年後,AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidal*SatomiShiose:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕塩瀬聡美:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)1165①当施設でのTreat&Extend(TAE)法経過観察DryDryDryDry(モニタリング)へ判定4週4週4週FA4週10週12週14週16週16週間隔で投与を維持(最大投与間隔)ICGAWetDryDryDryDryDryDry4週6週8週10週12週14週16週16週間隔でWetDryDryWetDryDryDry投与を維持4週6週8週6週6週8週Dryが維持できれば2週間隔で投与を延長WetDryDryWetDryWet4週間隔を維持4週6週8週6週6週(最短投与間隔)投与なし②実臨床でのTAE法を用いたAMDの視力変化と治療回数(自験例)BCVA変化(logMAR)視力変化n=87n=60-0.4tAMDPCV*-0.3-0.21logMAR-0.2*-0.1-0.11logMAR00.10369121518212427303336Time(month)(*p<0.05pairedt-test)1086420治療回数7.543.831stYear2ndYear2.33rdYear図1当施設でのTAE法とそれを用いたAMDの治療結果①:導入期3回の投与後,滲出が消失していれば投与間隔を2週間延長し,滲出が再燃すれば2週間短縮している.最大延長を16週までにし,16週を3回達成できれば経過観察(モニタリング)とする.②:AMDに対しアフリベルセプト投与(IVA)を①のTAE法を用いて行ったところ,導入期3回投与で改善した視力を3年間維持できた.このTAE法で順調に治療が進めば,1年目に6回,2年目に2回,3年目に1回の投与ですむはずだが,実際には1年目に平均7.5回,2年目に3.8回,3年目に2.3回の投与を必要とした.II頻回投与をしている場合頻回の投与になっているのはどのような場合があるのか.下記に解説する.1.何度投与しても反応がない場合(ノンレスポンダー)Iaconoらは,治療開始6カ月後にfunctionalなノンレスポンダー(自覚の改善がみられない)は3%,ana-tomicalなノンレスポンダー(OCT上で滲出の改善がみられない)は20%存在すると報告している2).筆者の施設では導入期3回投与でノンレスポンダーの患者は3%程度で,わずかでもfunctionalもしくはana-tomicalな反応がある患者がほとんどであり,また6カ月程度まで徐々に効果が表れることがあるので,導入期後にすぐに他の治療への変更を行うことはさけている.しかし,図2は1カ月ごとの投与を4回続けたにもかかわらず初診時よりむしろ滲出が増悪してしまったノンレスポンダーの患者については,症例は複数回の投与でも滲出の改善は期待できないと考えられ,投与中止や他剤に変更を試みる.図3のような大きな網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)や.胞様黄斑浮腫も治療抵抗性であることが多い.永井らによると,ノンレスポンダーは1年で治療群の13.17%を占め,ラニビズマブ投与群では線維血管性PEDと網膜色素上皮下の脈絡膜新生血管(occultcho-roidalneovascularization:occultCNV)が,アフリベルセプト投与群では漿液性PEDがノンレスポンダーの予測因子であると述べている3).2.治療経過とともに効果が減弱する場合(タキフィラキシー)導入期の3回投与後にドライマクラを得られ,TAE法に移行することができたのに,その後再発した場合が多い.ノンレスポンダー同様,網膜下液のあるoccultCNVとPEDがタキフィラキシー(耐性獲得)を起こしやすいといわれている.タキフィラキシーに至った場合は,その薬剤に耐性ができているので,いったん投与を中止してみるか他剤に変更する.Eghojらは,タキフィラキシーはラニビズマブ投与群で2%程度みられると報告している4)が,筆者らはもう少し多いと考えており,5年間でラニビズマブ投与患者中タキフィラキシーによってアフリベルセプトへ変更した患者は36%を占めていた.タキフィラキシーでもラニビズマブからアフリベルセプトに変更してドライマクラが得られる場合と,図4のように「変更後の薬剤」にもすぐ抵抗性を生じてしまう場合がある.3.TAE法の終了後しばらくして滲出が再発してしまう場合筆者らの施設では,前述した(図1)ように,TAE法は最大延長を16週(4カ月)までにし,4カ月間隔で連続3回のドライマクラを得られた場合はモニタリング(経過観察)に移行している.しかし,モニタリングになってから20%で再発がみられ,再発までの期間は平均で11カ月であった.Munkらも同様のTAE法で17%がモニタリングへ移行できたが,15%が再発したと報告している5).どのような症例が再発するか,いまだはっきりした見解が得られていない.モニタリングに移行する段階で本当に投与を中止してよいのかは悩ましい問題である.モニタリングに移行する際,OCTangiography(OCTA)で残存新生血管を確認しているが,通常のOCTでは滲出性変化がないようにみえても,OCTAでは血管構造を残していることが多い(図5).この残存したCNVの一部は活動性がなく,網膜外層の機能を保つために存在し,必ずしも視機能の悪化につながるものではないことがわかってきている.今後さらにOCTAのデータが蓄積すれば,OCTAの残存する血管構造の違いで再発を予見できるようになるかもしれない.IIIこれらの患者にどうアプローチすべきか1.抗VEGF薬を中止する近年,頻回になりがちな投与に対して,「治療により改善した病状が安定している」場合はいったん「治療を中止しよう」という試みがなされている.いたずらに投与を続け,タキフィラキシーに陥ることを防ぐ意味がある.(11)あたらしい眼科Vol.35,No.9,20181167症例1治療前(0.5)ラニビズマブ毎月投与5回アフリベルセプトにスイッチ後1カ月スイッチ後4カ月図2ノンレスポンダーの症例(症例1)脈絡膜新生血管(occultCNV,)に対し,ラニビズマブを月1回,5回投与したが,滲出の改善がみられず,むしろ増悪したため,ノンレスポンダーと判断し,アフリベルセプトに変更(スイッチ)したところ,1カ月で滲出の改善がみられた.症例2症例325回投与後症例4(0.7)治療前ラニビズマブ投与開始1回目18カ月再発(0.5)15回目1カ月(0.7)2回目19カ月16回目2カ月3回目21カ月再発(0.5)17回目4カ月再発(0.7)5回目22カ月18回目6カ月(0.6)6回目24カ月アフリベルセプトに変更19回目7カ月(0.8)7回目26カ月(0.5)21回目9カ月9回目30カ月再発(0.5)23回目図4タキフィラキシーでスイッチした症例(症例4)ポリープ状病変とネットワーク血管,網膜下,網膜色素上皮下の出血を認める.ラニビズマブ投与(IVR)を開始し,導入期3回投与で網膜.離は消退したが4カ月目に再発.投与を続けたところ,滲出は消退したのでTAE法に変更して投与を続けていたところ,18カ月で再発.そのままドライマクラにならなかった.頻回投与によるタキフィラキシーと考え,24カ月でアフリベルセプトにスイッチしたが,やはり6カ月で再発してしまった.症例5①②アフリベルセプト14回終了モニタリングへ③モニタリング2年再発なし図5モニタリングに移行し,その後も再発がない症例のOCTAの所見①occultCNVを認める().②IVAのTAE法で順調にドライマクラが得られ,モニタリングに移行した.その際のOCTAで血管構造がみられる.③モニタリング2年の間,OCTAで血管構造は残ったままであるが,再発は一度もない.非活動性の血管と考えられる.(0.5)OCTangiographyが困難であったり,金銭的に困難な場合である.C2.抗VEGF薬のスイッチ(ノンレスポンダーやタキフィラキシーに対し)ノンレスポンダーや,長期経過に伴い治療効果の減弱がみられるタキフィラキシーの場合は薬剤の種類を変える(スイッチ)のが一つの対策である.筆者らの施設では,5年間で他剤へスイッチした患者はC36%であった.ラニビズマブをアフリベルセプトに変更する場合が多い.変更後の投与法は患者にもよるが,再度導入期C3回投与を行ってからCTAE法に移行するようにしている.再発後の治療の場合,初期治療に比べ網膜色素上皮や視細胞の変性がより進行していることを考えると,早期の改善が望ましいからである.高齢者や脳心血管合併症のある患者ではアフリベルセプトにスイッチすることはためらわれるが,抗凝固薬をすでに内服中の患者であれば全身合併症のリスクもやや低くなると考え,積極的にスイッチするようにしている.また,アフリベルセプトは効果持続期間がラニビズマブ(1カ月)に比べ長く,投与回数を減らせると考えられるからである.逆にアフリベルセプト抵抗性の患者に対してはラニビズマブにスイッチすることもある.すでにアフリベルセプトに薬剤抵抗性を獲得している患者には他剤に変更するということ自体に意義があるからである.C3.TAE法の途中でPDTを導入(ノンレスポンダーやタキフィラキシーに対し)2004年にCAMD治療に対して認可された光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)は,選択的に脈絡膜新生血管を閉塞させる治療として当時は唯一の画期的な治療であった.しかし,照射部位の脈絡膜循環障害を起こす,治療後視力が改善しない,などの問題があり,次第に抗CVEGF治療にとってかわられた.ところが抗VEGF治療に抵抗性の患者,再発する患者が増えてくると,再度CPDTが見直されるようになってきている.筆者らの施設でも,TAE法の途中で再発した場合,まず投与期間を短縮(treat&adjust)する.それでも①投与期間を短縮していっているにもかかわらず滲出の改善がみられない場合,②C1カ月ごとの投与では滲出改善がみられるが,期間を延長しようとするとすぐ再発してしまう患者にはCPDTを治療の間で入れることを勧めている.この場合,通常の抗CVEGF薬投与のために再来した際にCPDTについて説明し,1週間後にCPDTを施行することにしている.PDTを単独で行うと,レーザー照射により脈絡膜毛細血管板が閉塞し,炎症性サイトカインが産生され,それに伴う出血や血管外漏出,視力低下などが起こるが,抗CVEGF薬を事前に投与しておくと,PDT後のこれらの変化を予防することができる.実際にタキフィラキシーの患者にCTAE法の途中でPDTを併用した例を示す(図6).ただし頻回の抗VEGF薬の投与によって脈絡膜厚がすでに薄くなっている患者にCPDTを行うと,さらに脈絡膜にダメージを与える可能性があるため,PDTを半量で行ったりしている.C4.TAE法の終了後しばらくして滲出が再発してしまう患者への対応いったんモニタリングに移行していたにもかかわらず,再発をしてしまうと,その時点からどのような形で治療を再開していくかが問題となる.再発を発見した当日はもちろん抗CVEGF薬投与をするが,そこから導入期C3回を再び開始するか,投与間隔をC4カ月まで伸ばしたことで再発をしたのだから,3カ月半やC3カ月にやや短縮(adjust)してCTAE法とするかである.患者はせっかくC4カ月ごとの再来ですんでいたものが導入期のC1カ月ごと投与に戻ることに抵抗を示す場合が多いが,病変の重症度でどちらかを選択している(図7).C5.初診の段階で病型を診断し早期の治療開始(病型分類の重要性)近年,黄斑疾患の診断機器はめざましい発展をしており,sweptsourceOCT,OCTangiography,蛍光眼底造影,を用いれば,新生血管がCPCVなのか,網膜色素上皮下のCoccultCNVなのか,網膜下の新生血管(clas-sicCNV)なのか,網膜内血管腫状増殖(retinalangio-matousproliferation:RAP)なのか,細かい診断ができ1172あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(16)症例6治療前(0.4)アフリベルセプト4回投与時TAEへ(0.9)(0.6)2カ月半→3カ月に延長して再発(0.9)PDT施行後1カ月2カ月半→3カ月に延長して再発(0.7)(0.7)2カ月半投与間隔でも再発半年間投与なし(0.4)(0.8)図6Treat&extend(TAE)法施行中の再発に対しPDTを施行した(症例6)治療前,出血性CPEDの中にポリープ状病変を認める().IVAを開始し,導入期C4回投与後CTAE法へ移行.2.5カ月間隔で投与していると滲出は改善するがC3カ月にのばすと悪化する.間隔を延長したり短縮したりしているうちに,2.5カ月間隔でも再発するようになり視力も低下したため,PDT併用CIVAを施行した.投与後,滲出は改善し,その後CIVAを行っていないが再発もみられない.症例7症例8治療前(アフリベルセプト投与開始)治療前(アフリベルセプト投与開始)TAE終了→モニタリング(経過観察)となるTAE終了→モニタリング(経過観察)となるモニタリングになって6カ月で再発モニタリングになって7カ月で再発3カ月から再度滲出性変化が強いので投与間隔を延長した導入期3回投与から再開3カ月,3カ月半,4カ月と投与を延長滲出性変化は再度モニタリングに改善してきている移行することができた図7モニタリングに移行したにもかかわらず再発した症例(症例7,8)IVAのCTAE法で順調に間隔をのばし,モニタリングに移行したものの,症例C7はC6カ月,症例C8はC7カ月で再発した.症例C7は小さな黄斑浮腫であったので,導入期C3回に戻さず,3カ月間隔で投与し再度CTAE法とした.症例C8は再発病変が大きかったので導入期C3回から治療を再開した.症例9アフリベルセプト+PDT施行図8初回からPDTを併用した症例(症例9)治療前,ポリープ状病変と網膜下出血,網膜色素上皮下出血,を認める().病変が大きく,抗CVEGF薬投与が複数回になると思われたため,初回からCPDT併用CIVAとした.IVAはC3回の導入期投与のみで経過観察しているが,滲出性変化は著明に改善し,黄斑の形態は保たれている.IVAの回数は明らかに少なくてすんでいる.OCT/OCTA/蛍光眼底造影PDT併用抗VEGF療法抗VEGF療法(TAE法)抗VEGF療法(TAE法)図9当施設での治療方針初診時病型を診断した後,PCVであればできるだけCPDT併用抗CVEGF療法とする.AMDや網膜内血管腫状増殖(RAP)は抗CVEGF薬の治療を開始するが,導入期でドライマクラが得られないノンレスポンダーであれば,早めに治療を中止したり,薬剤をスイッチしたりする.タキフィラキシーでは薬剤のスイッチやCPDT併用抗CVEGF療法を間で試みる.TAE法終了後の再発では,treat&adjustを試みる.-

抗VEGF療法の治療指針

2018年9月30日 日曜日

抗VEGF療法の治療指針AGuidetoAnti-VEGFTherapiesinOphthalmology大中誠之*髙橋寛二*はじめに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfacC-tor:VEGF)は血管新生や血管透過性亢進などを誘導する分子であり,哺乳類ではCVEGF-A~Dおよび胎盤成長因子(placentalCgrowthCfactor:PlGF)から構成されている1).VEGFが病態に関与している眼疾患は多く,現在,中心窩下脈絡膜新生血管(choroidalCneovascular-ization:CNV)を伴う加齢黄斑変性(age-relatedmacu-larCdegeneration:AMD),網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)に伴う黄斑浮腫,病的近視におけるCNV,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対して抗CVEGF薬が保険適用薬として使用可能である.また,未熟児網膜症,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,Coats病,網膜色素線条に伴うCCNVなどもCVEGFが病態に深く関与していることがわかっており,眼科領域においてはオフラベル使用ではあるが,ベバシズマブ(アバスチンCR)の有効性が確認されている.CI抗VEGF薬の種類と特性現在,保険診療として認可されている抗CVEGF薬はペガプタニブナトリウム(マクジェンCR),ラニビズマブ(ルセンティスCR),アフリベルセプト(アイリーアCR)の3剤である.ベバシズマブを含めて,すべての抗CVEGF薬はCVEGF-Aの作用を阻害するが,アフリベルセプトはCVEGF-Aに加えてCVEGF-BとCPlGFに対する阻害作用も有している(表1).ペガプタニブは病的血管新生に関与するCVEGF-AC165に対して選択的に結合し,その活性を阻害するC1本鎖RNAアプタマーであり,2008年に中心窩下CCNVを伴うCAMDに対して承認された.継続治療により視力維持効果は期待できる2)が,他剤と比較して視力の改善を認める症例が少ない3)ことから,導入期治療に使用されることは少ない.しかし,薬剤の特性上,全身に与える影響は少なく,全身状態の悪いCAMD患者に対しても安全に使用できるというメリットがある.とくに脳卒中発症後早期の患者に対しては現在でも第一選択となりうる.ラニビズマブはCVEGFに対するヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であり,2009年に中心窩下CCNVを伴うCAMDに対して承認され,その後の適応疾患の拡大により,現在はCRVOに伴う黄斑浮腫,病的近視におけるCCNV,DMEに対しても承認されている.大規模臨床試験によりすべての疾患に対してその有効性が示されている4~9)が,添付文書上,脳卒中または一過性脳虚血発作の既往歴などの脳卒中の危険因子のある患者に対する慎重投与の記載があり,治療に際しては既往歴を正確に把握し,患者への説明を十分に行う必要がある.アフリベルセプトはヒトCVEGF受容体C1およびC2の細胞外ドメインをヒトCIgG1のCFcドメインに結合した遺伝子組換え融合糖蛋白質であり,2012年に中心窩下CNVを伴うCAMDに対して承認され,ラニビズマブと同様,現在はCRVOに伴う黄斑浮腫,病的近視における*MasayukiOhnaka&*KanjiTakahashi:関西医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕大中誠之:〒573-1010大阪府枚方市新町C2-5-1関西医科大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)C1159表1抗VEGF薬の特性と適用疾患一般名(商品名)ペガプタニブナトリウム(マクジェン)ラニビズマブ(ルセンティス)アフリベルセプト(アイリーア)日本での発売薬価2008年C10月10,9648円2009年C3月15,7776円2012年C11月13,8653円創薬デザイン抗CVEGFアプタマーヒト化抗CVEGF抗体断片VEGF受容体融合糖蛋白分子量C50,000C48,000C115,000阻害分子CVEGF-A165CVEGF-ACVEGF-A,VEGF-B,PlGFCVEGF-A165に対する平衡解離定数C46-192CpMC0.5CpM硝子体内投与後の血清中半減期5.8日11.4日適用疾患①中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性①中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性②網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫③病的近視における脈絡膜新生血管④糖尿病黄斑浮腫①中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性②網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫③病的近視における脈絡膜新生血管④糖尿病黄斑浮腫表2抗VEGF薬の投与レジメン(添付文書)一般名ペガプタニブナトリウムラニビズマブアフリベルセプト用量C0.3Cmg/0.09CmlC0.5Cmg/0.05CmlC2Cmg/0.05Cml中心窩下脈絡膜新生血管導入期6週ごとにC1回,連続C2回4週ごとにC1回,連続C3回4週ごとにC1回,連続C3回を伴う加齢黄斑変性維持期必要時必要時8週ごとにC1回網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫導入期維持期4週ごとにC1回視力が安定するまで必要時4週ごとにC1回視力が安定するまで必要時病的近視における脈絡膜新生血管導入期維持期1回必要時1回必要時糖尿病黄斑浮腫導入期維持期4週ごとにC1回視力が安定するまで必要時4週ごとにC1回,連続C5回8週ごとにC1回毎月投与固定投与8週ごと投与病態の悪化の有無に関わらず計画的に投与PRN投与必要時投与病態の悪化時に投与TAE法受診ごと投与病態の悪化がなければ投与間隔を延長病態の悪化があれば投与間隔を短縮Modi.edTAE法初回のみ必要時投与TAE法病態の悪化時に投与し,その後は病態に合わせた投与間隔で計画的に投与図1維持期の投与パターン化の有無にかかわらずある一定の投与間隔で計画的に治療を行う固定投与,病態の悪化を認めた場合に治療を行う必要時(prorenata:PRN)投与,病態の悪化の有無によって投与間隔を調整しながら計画的に治療を行うtreatCandCextend(TAE)法がある(図1).抗CVEGF薬に対する反応は個々の病態によって異なるため,一律に同じというわけにはいかないが,現状は滲出型CAMDに対してはCPRN投与あるいはCTAE法を選択し,それ以外の疾患に対してはCPRN投与を用いて治療を行う施設が多いようである.滲出型CAMDは多くの症例において継続した治療が必要であり,他の疾患と比較して抗CVEGF薬への依存度が高い.前述のように抗CVEGF薬の硝子体内投与は脳卒中など全身への副作用に加え,眼内炎などの注射関連の眼合併症のリスクを伴う治療である.また,抗VEGF薬は高額であるため,患者の経済的負担も大きく,医療経済的にも問題となっていることから,維持期の治療においては,可能な限り少ない治療回数で視力を維持することが求められている.毎月診察により病態の悪化時にはすぐに治療を行う厳格なCPRN投与は,比較的少ない治療回数で視力を維持することが可能と考えるが,長期にわたる毎月診察は患者側・医療者側双方にとって負担が大きく,継続はきわめて困難であり現実的ではない.TAE法は個々の病態に合わせて計画的に治療を行うことにより,来院回数を減らしつつ,長期間にわたって良好な視力を維持できることから,滲出型CAMDに対して用いられることが多くなっている.しかし,これまで報告のある標準的なCTAE法は,導入期後に引き続いて受診ごとの計画的投与が始まるため,導入期後,長期間にわたり病態の悪化を認めない症例に対しては過剰投与となることが考えられる.そこで当院では滲出型CAMDに対しては,導入期治療により病態の鎮静化を得たあと,経過観察を行い,再度病態の悪化を認めた時点からTAE法を開始するというCmodi.edTAE法を用いて治療を行っており,標準的なCTAE法と比較して少ない治療回数で同等の視力改善・維持効果を得ている16).III抗VEGF療法の中断と他治療への変更抗CVEGF療法は,適応疾患の大多数において従来の治療法より優れた視機能改善効果を示すが,一定の割合で抵抗例が存在することもわかっている.また,病態によっては,抗CVEGF療法により形態上の改善が得られても視機能の改善につながらない場合もある.抗VEGF療法の適応となっている疾患はいずれも加齢とともに有病率が増加するため,今後さらに高齢化が進むことを考えると,抗CVEGF療法を行う症例の増加は避けては通れない.つまり,有効性が認められない場合には漫然と投与しないことと添付文書にも記載されているように,個々の病態を的確に把握し,抗CVEGF療法が視機能改善に有効ではないと判断した場合は,中断を含めた治療方針の変更を速やかに行う必要がある.抗CVEGF療法の中断に関しては,以前に滲出型AMDについて報告しているが,他の適応疾患においても当てはまるところが多いので参照されたい17).そこでは抗CVEGF療法の中断を考慮するタイミングとして以下の三つに分けて報告している.①抗CVEGF薬により改善した病状が安定しているとき,②抗CVEGF薬を継続しても視機能と病状の安定化が得られないとき,③患者の事情により治療の継続が困難となったときである.①に関しては滲出型CAMD以外の適応疾患においては継続した治療を必要とする症例が少ないためにあまり関係はないが,TAE法など計画的に治療を行っている場合は,ある一定の基準を設けて治療の中断を考慮する.当院では,滲出型CAMDに対してC16週間隔でC3回(1年間)連続して病状が安定していた場合に一度中断を行っている.②に関しては滲出型CAMD以外の適応疾患にも当てはまる理由となる.網膜色素上皮の不可逆的な機能障害によって生じている黄斑浮腫は,治療を継続しても完全寛解は得られないため,僚眼に問題がなければ治療の中断を考慮すべきであり,また治療後に中心窩を含む網膜色素上皮萎縮が生じたり,強い線維性瘢痕の形成や硬性白斑が沈着することにより視機能の改善が望めない場合にも治療の中断を考慮する必要がある.③に関しては脳卒中などの発症により治療の継続がで1162あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(6)C–

序説:メディカルレティナ最前線

2018年9月30日 日曜日

メディカルレティナ最前線TheForefrontofMedicalRetina安川力*小椋祐一郎**21世紀に入り,三つの大きな進歩,すなわち,①画像機器:光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の登場②硝子体手術:手技の洗練と機器の進歩③遺伝子工学:分子標的薬の登場が重なり,網脈絡膜疾患に対する薬物治療に大きな転換期が訪れました.まず,適用外ではあるものの黄斑浮腫に対するトリアムシノロン・アセトニド(ケナコルトR,のちにマキュエイドRが一部疾患に承認)の眼局所投与の有効性がOCTで明確に示され,瞬く間に全世界中に普及しました.さらに,硝子体手術の進歩により硝子体内注射のハードルが下がり,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)に対する眼科領域初の分子標的薬として欧米でペガプタニブ(マクジェンR),続いて,ラニビズマブ(ルセンティスR)の滲出型加齢黄斑変性に対する有効性をみる臨床試験が開始され,有効性が取りざたされると同時に,すでに直腸癌の治療薬として認可されていたベバシズマブ(アバスチンR)の適用外使用が世界中に広まり,眼科領域の分子標的治療の幕が開きました.ラニビズマブとアフリベルセプトがそれぞれ2009年と2012年に国内でも滲出型加齢黄斑変性に対して承認され,硝子体内注射の有効性や安全性情報が蓄積されるにつれ,治療を行う一般眼科医や開業医施設が徐々に増えてきました.さらに,近視性脈絡膜新生血管,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫などに認可され,これまでの光線力学的療法,網膜光凝固,硝子体手術など「サージカル(レティナ)(網膜外科的治療)」を中心とした治療方針から,薬物療法主体の治療方針へのパラダイムシフトが起こりました.さらに,増殖糖尿病網膜症や血管新生緑内障の手術の補助手段や網膜症の進行予防としての使用方法も摸索されています.また,ぶどう膜炎治療においても,これまでのステロイドと免疫抑制薬に加え,分子標的治療が可能となってきています.腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-aに対する分子標的薬インフリキシマブ(レミケードR)がBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に2007年に認可され,2016年に非感染性ぶどう膜炎にアダリムマブ(ヒュミラR)が認可されました.未熟児網膜症においても網膜光凝固や冷凍凝固を中心としたマネージメントに抗VEGF療法の介入が大きな成果を発揮しています.「メディカルレティナ(網膜内科的治療)」という分野の登場です.ただ,各疾患の視力予後は大幅に改善し,今や標準的治療法となりましたが,多くの症例で複数回の*TsutomuYasukawa&*YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)1157

動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスの1例

2018年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(8):1148.1151,2018c動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスの1例平森由佳山本美紗古川真二郎寺田佳子原和之地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立広島市民病院眼科CACaseofSarcoidosiswithOculomotorNervePalsyYukaHiramori,MisaYamamoto,ShinjiroFurukawa,YoshikoTeradaandKazuyukiHaraCDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHiroshimaCitizensHospital目的:今回筆者らは動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスを経験したので報告する.症例:嚥下障害と尿閉,発熱に対して精査が行われていたC65歳,男性.複視を訴え精査のため当科を受診した.初診時所見は,矯正視力は両眼ともにC1.0,両眼とも周辺虹彩前癒着が散在し,右眼に雪玉状硝子体混濁を認めた.眼位・眼球運動検査でC45Δ以上の左外斜視,左眼の上転,下転,内転制限と眼瞼下垂を認め,複視は左動眼神経麻痺によるものと考えた.全身所見は両側の縦隔リンパ節腫脹と生検で非乾酪性類上皮肉芽種が認められた.呼吸器病変,眼病変および血液検査の結果と合わせてサルコイドーシスの診断が確定した.また,全身の神経学的異常所見から動眼神経,舌咽神経,迷走神経,自律神経の障害が疑われた.ステロイド治療により症状は改善し,これらの神経障害も同様にサルコイドーシスによるものと考えた.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCoculomotorCnerveCpalsyCsecondaryCtoCsarcoidosis.CCase:AC65-year-oldCmaleCwasCreferredCtoCusCbecauseCofCdiplopiaCdiagnosedCthroughCdetailedCexaminationCofCdysphagia,CanuresisCandCfever.CComprehensiveCophthalmicCexaminationCwasCperformed.CVisualCacuityCwasC1.0CinCbothCeyes.CPeripheralCanteriorCsynechiaCinCbothCeyesCandCsnowballCvitreousCopacityCinCtheCleftCeyeCwereCobserved.CLeftCocularCmovementCwasCrestrictedexceptforabductionandhisleftuppereyelidwasptotic,suggestingoculomotornervepalsy.Systemicwork-upCrevealedCbilateralChilarClymphadenopathyCandCnoncaseatingCepithelioidCcellCgranulomaCfromClymphCnodesCinthemediastinum,whichledtothediagnosisofsarcoidosis.Thediplopia,dysphagiaandanuresiswerecausedbyimpairmentCofCtheCoculomotorCnerve,CglossopharyngealCnerveCandCvagusCnerve,Crespectively.CCorticosteroidCimprovedthesymptoms.Sarcoidosiswasconsideredtobethecauseofhispolycranialneuropathies.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1148.1151,C2018〕Keywords:サルコイドーシス,神経サルコイドーシス,動眼神経麻痺,脳神経麻痺.sarcoidosis,Cneurosarcoid-osis,oculomotornervepalsy,cranialnervepalsy.Cはじめにサルコイドーシスは全身組織に非乾酪性類上皮肉芽腫を形成する原因不明の疾患である1).サルコイドーシスの障害部位は肺がもっとも多く,続いて眼,皮膚,心臓血管系などに認められる2.4).神経が障害される神経サルコイドーシスは中枢神経や末梢神経などの神経系組織を障害し,発症率はサルコイドーシス全体のC5.15%であると報告されている2.4).中枢神経ではおもに髄膜病変,脳や脊髄における実質性肉芽腫性病変,血管炎などが生じ,末梢神経では脳神経や脊髄神経障害が生じる1).脳神経障害では顔面神経と視神経がもっとも障害されやすく,眼球運動にかかわる脳神経障害は少ないと報告されている4,5).今回筆者らは,動眼神経麻痺を認めたサルコイドーシスのC1例を経験したので報告する.CI症例嚥下障害と尿閉,発熱に対して当院神経内科で精査が行われていたC65歳,男性.発熱精査目的で胸部CCTを施行したところ,肺野の粒状影(図1a)および両側肺門・縦隔リンパ節腫脹が認められた(図1b).胸部の画像所見からサルコイドーシスが疑われ,眼内精査目的のため当科を紹介初診した.〔別刷請求先〕平森由佳:〒730-8518広島市中区基町C7-33地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:YukaHiramori,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHiroshimaCitizensHospital,7-33Motomachi,Nakaku,Hiroshima730-8518,JAPAN1148(142)図1胸部CT画像a:治療前.肺野に粒状影を認めた.Cb:治療前.両側肺門リンパ節腫脹を認めた(.).Cc:治療後.両側肺門リンパ節腫脹は縮小した(.).C当科初診時所見:主訴は複視であった.矯正視力は右眼(1.0C×.1.25D(cyl.0.50DCAx40°),左眼(1.0C×.1.00D(cyl.0.50DCAx100°),眼圧は両眼とも12mmHgであった.瞳孔は正円同大,対光反射は直接反応,間接反応ともに迅速であり,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupil-larydefect:RAPD)は認められなかった.細隙灯顕微鏡検査では,両眼とも隅角全周に散在する周辺虹彩前癒着が認められ(図2),眼底検査で右眼に雪玉状硝子体混濁を認めた.これらの所見から眼サルコイドーシスが疑われた.眼位・眼図2両眼鼻側隅角両眼の隅角に散在する周辺虹彩前癒着を認めた.C球運動検査でC45CΔ以上の左外斜視,左眼の上転,下転,内転制限と眼瞼下垂を認め,複視の原因として左動眼神経麻痺が考えられた(図3).頭部CMRIでは明らかな異常は認められなかった.また,心電図,心エコーは正常であった.血液検査でCC反応性蛋白はC2.418Cmg/dl(正常値C0.2Cmg/dl以下)であり,血清可溶性インターロイキン-2(interleu-kin-2:IL-2)受容体はC2,450CU/ml(正常値C145.519CU/ml)と高値,血沈のC1時間値はC13Cmm(正常値C2.10Cmm)と軽度上昇を認めた.血清アンギオテンシン変換酵素の上昇は認められなかった.髄液検査で蛋白がC75Cmg/dl(正常値C10.40Cmg/dl)と上昇しており,細胞数はC4/μl(正常値C5以下)であった.気管支肺胞洗浄(bronchoalveolarClavageC.uid:BALF)検査では,リンパ球比率がC30%(正常値C10.15%)と増加しており,CD4/CD8比はC9.59(正常値1.3)と高値であった.縦隔リンパ節生検で非乾酪性類上皮肉芽種が認められ(図4),全身所見と合わせてサルコイドーシスの診断が確定した.眼球運動障害に加え,全身の神経学的異常所見として嚥下障害,嗄声,尿閉が認められた.それぞれ舌咽神経,迷走神経,自律神経の障害が疑われ,呼吸器病変および眼病変と同様にサルコイドーシスによるものと考えた.経過:ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000Cmg/日C×3日間)がC2クール施行された.初診よりC1カ月後,左眼の硝子体混濁は消失した.胸部CCTでは,両側肺門リンパ節腫脹の縮小が認められた(図1c).眼位はC8CΔ左外斜位,左眼の眼球運動障害は軽度内転制限のみとなり,複視と眼瞼下垂は消失した.また,嚥下障害,嗄声,尿閉も改善傾向であった.後療法としてプレドニゾロンC30Cmg内服で漸減療法が施行された.図39方向むき眼位写真左眼の眼球運動は外転のみ可能であった.図4縦隔リンパ節生検(HE染色C200倍)類上皮細胞の集簇像を認め,非乾酪性類上皮肉芽種と診断された(.).II考按本症例は,胸部CCTによる肺野の粒状影や両側肺門・縦隔リンパ節腫脹などの呼吸器病変に加え,隅角周辺虹彩前癒着および雪玉状硝子体混濁などの眼病変を認めた.また,血清可溶性CIL-2受容体の高値と,BALF検査によるリンパ球比率上昇およびCCD4/CD8比の上昇はサルコイドーシスに特徴的な臨床所見である.さらに,縦隔リンパ節生検において非乾酪性類上皮肉芽腫が認められ,臨床診断および組織診断ともにサルコイドーシスの診断基準を満たすと考えた.サルコイドーシスの障害部位は報告により差はあるものの,肺病変がC60.90%ともっとも多く,眼病変はC10.50%,皮膚病変はC9.37%,心臓血管系病変はC5.25%であると報告されている2.4).神経病変はC5.15%に生じ2.4),神経サルコイドーシスの報告は比較的まれである.神経サルコイドーシスは中枢神経や末梢神経などあらゆる神経を障害するとされている1).中枢神経ではおもに髄膜病変,脳や脊髄における実質性肉芽腫性病変,血管炎や静脈洞血栓症などの血管病変,水頭症や脳症を生じ,末梢神経では脳神経や脊髄神経障害を生じる1).本症例では,脳神経の動眼神経,舌咽神経および迷走神経に加え,自律神経の障害が認められた.既報によると,脳神経障害のなかでは顔面神経がC24%,視神経が21%ともっとも障害されやすく,動眼神経はC5%,舌咽神経・迷走神経は合わせてC4%に生じると報告されている4).本症例では顔面神経麻痺の所見は認められなかった.また,視力良好でありCRAPDが陰性であったことから,視神経の障害も否定的であると考えた.サルコイドーシスでは,形成された肉芽腫性炎症細胞による標的組織への機械的圧迫や,炎症および栄養血管の閉塞による虚血が障害を引き起こすと報告されている1).神経サルコイドーシスも同様の発症機序であり,過去にはサルコイドーシスによる脳神経の重複障害の症例や4,6),脳神経障害および自律神経障害を呈した症例の報告がある7).本症例では頭部CMRIで神経造影効果は認められず,神経生検は患者の希望がなく施行していない.しかし,眼病変と呼吸器病変からサルコイドーシスの診断が確定しており,ステロイド治療により全身所見の改善も認められている.明らかな感染症や自己免疫疾患は認められず,脳神経障害による眼球運動障害や嚥下障害,嗄声と,自律神経障害による尿閉もサルコイドーシスによるものと考えた.神経サルコイドーシスは自然寛解が認められる疾患である8).一次療法は副腎皮質ステロイドの内服であり1,4,8),治療を施行したC40.82%の症例で改善または安定性を示すと報告されている8).また,症状が深刻な症例に対してはメチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法の報告もある1,6).本症例では,複視に加え,嚥下障害や尿閉による日常生活動作(activityCofCdailyCliving:ADL)の低下から,ステロイドパルス療法が施行された.他覚所見,自覚症状ともに改善を認めたことから,ステロイドパルス療法は有用であったと考えた.今回筆者らは動眼神経麻痺を生じたサルコイドーシスのC1例を経験した.神経サルコイドーシスはあらゆる神経を障害する疾患であるため,眼科的にサルコイドーシスが疑われた際にはぶどう膜炎の他,眼位・眼球運動など神経学的所見にも注意が必要である.文献1)熊本俊秀:中枢神経サルコイドーシス:診断と治療.臨床神経学52:1237-1239,C20122)森本泰介,吾妻安良太,阿部信二ほか:2004年サルコイドーシス臨床調査個人票における組織診断群と臨床診断ならびに疑診群の比較.日サ会誌28:113-115,C20083)AI-KofahiCK,CKorstenCP,CAscoliCCCetCal:ManagementCofextrapulmonaryCsarcoidosis:challengesCandCsolutions.CTherClinRiskManagC12:1623-1634,C20164)FritzCD,CvanCdeCBeekCD,CBrouwerCMC:ClinicalCfeatures,treatmentCandCoutcomeCinCneurosarcoidosis:systematicCreviewCandCmeta-analysis.CBMCCNeurolC16:220-228,C20165)SachsCR,CKashiiCS,CBurdeCRM:SixthCnerveCpalsyCasCtheCinitialCmanifestationCofCsarcoidosis.CAmCJCOphthalmolC110:438-440,C19906)三上裕子,石原麻美,澁谷悦子ほか:ぶどう膜炎に多発性脳神経麻痺を合併したサルコイドーシスのC1例.臨眼C68:C457-462,C20147)藪内健一,岡崎敏郎,中村憲一郎ほか:著明な自律神経障害を呈した神経サルコイドーシスのC67歳,男性例.日サ会誌33:139-145,C20138)IbitoyeCRT,CWilkinsCA,CScoldingCNJ:Neurosarcoidosis:aCclinicalCapproachCtoCdiagnosisCandCmanagement.CJCNeurolC264:1023-1028,C2017***

睫毛の迷入を伴った涙腺炎の2症例

2018年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(8):1144.1147,2018c睫毛の迷入を伴った涙腺炎の2症例藤井揚子*1高比良雅之*2山田芳博*1斎藤勝彦*3佐々木允*2杉山和久*2*1富山市民病院眼科*2金沢大学附属病院眼科*3富山市民病院病理診断科CTwoCasesofDacryoadenitisAccompaniedbyEntrappedCiliaYokoFujii1),MasayukiTakahira2),YoshihiroYamada1),KatsuhikoSaito3),MakotoSasaki2)CKazuhisaSugiyama2)and1)DepartmentofOphthalmology,ToyamaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversity,3)DepartmentofPathology,ToyamaCityHospital目的:睫毛の迷入が原因と考えられた亜急性の涙腺炎に対して手術を行ったC2症例を報告する.症例:症例C1は42歳,男性.左眼耳側結膜円蓋部に腫瘤がみられ,充血,眼脂,疼痛を伴っていた.当初は抗菌薬の点眼,内服や穿刺排膿で経過をみたが,症状が増悪したため,初診よりC2カ月後に腫瘤の摘出術を施行した.病理では.胞構造がみられ,その内容として複数の毛がみられた.症例C2はC37歳,女性.左外眼角の結膜下に睫毛を含む隆起と付近の結膜充血がみられた.まずは局所の点眼にて保存的に経過をみたが,症状が増悪したため,初診よりC3カ月後に腫瘤の摘出手術を行った.病理では,重層扁平上皮で裏打ちされた拡張した導管内に毛がみられた.結論:睫毛の迷入を伴う涙腺.腫あるいは涙腺炎の症例においては,手術を積極的に計画するべきであると考えられた.CPurpose:WeCreportCtwoCcasesCofCdacryoadenitisCaccompaniedCbyCentrappedCciliaCthatCunderwentCsurgeries.CCases:TheC.rstCcase,CaC42-year-oldCmaleCwhoCpresentedCaCmassClesionCinCtheCleftCtemporalCconjunctivalCfornix,Ccomplainedofconjunctivalinjection,dischargeandpain.Themasswasextractedtwomonthsaftertheinitialvis-it;itsCpathologyCshowedCdacryoadenitisCaccompaniedCbyCmultipleChairsCinCcysticCstructures.CTheCsecondCcase,CaC37-year-oldCfemale,CpresentedCaCswollenCconjunctivalClesionCinCtheCleftCtemporalCfornixCaccompaniedCbyCanentrappedCcilium.CTheCmassCwasCextractedCthreeCmonthsCafterCinitialCvisit;theCpathologyCshowedCaChairCinCanCexpandedlacrimalduct.Conclusion:Surgicalmanagementshouldbeplannedincasesofdacryoadenitisaccompa-niedbyentrappedcilia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1144.1147,C2018〕Keywords:睫毛,涙腺炎,涙腺.腫,cilia,dacryoadenitis,dacryops.はじめに眼瞼の耳側,涙腺部が腫脹する病態の鑑別疾患には,腺様.胞癌,腺癌,リンパ腫などの悪性腫瘍,血管腫や多形腺腫などの良性腫瘍,皮様.腫や涙腺.腫(dacryops)などの.胞性疾患,IgG4関連疾患などの慢性涙腺炎,感染性の急性涙腺炎などがあげられる1,2).これらのうち腫瘍性疾患を疑う病態では,MRIやCCTなどの画像検査を経て生検あるいは腫瘍切除により病理診断を確定する治療方針が原則である.一方で,腫瘍ではない炎症性疾患を強く疑う際には,抗菌薬やステロイドなどの薬物治療を先行させることも多い.涙腺の.胞性疾患において,とくに涙腺開口部の結膜下に.胞が観察できるような病態は涙腺.腫と称される.その典型例では.胞内に涙液を貯留し,充血や発赤などの炎症所見に乏しく,緩徐な.胞の消長を繰り返すような慢性の経過をとる.一方で,眼瞼の発赤・腫脹,結膜充血を伴うような細菌感染による急性・亜急性涙腺炎では,涙腺開口部付近に膿を貯留するような.胞が生じて,持続的に排膿するような病態がみられる.いずれの病態においても薬物投与や穿刺排液(排膿)では完治しないことがしばしば経験され,その際には手術による病変部切除の適応となる.このたび筆者らは,手術を行った亜急性の涙腺炎の症例において,睫毛の迷入が原因と考えられたC2症例を経験したの〔別刷請求先〕藤井揚子:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学(眼科学)Reprintrequests:YokoFujii,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takaramachi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN1144(138)で報告する.CI症例〔症例1〕症例C1はC42歳の男性であり,2カ月ほど前からの左眼耳側結膜充血と眼脂,疼痛があり,最寄りの眼科で抗菌薬とステロイド点眼,抗菌薬内服にて加療されるも改善がみられなかったため,富山市民病院を受診した.既往歴や家族歴に特記すべきものはなかった.視力は右眼C0.07(1.2C×sph.3.0D),左眼C0.08(1.2C×sph.2.75D),眼圧は右眼15CmmHg,左眼C14CmmHgであった.左眼耳側結膜に高度の充血がみられ,上耳側結膜円蓋部に内下方視にて顕著となる腫瘤がみられた.中間透光体や眼底に異常はみられず,眼脂培養は陰性であった.血液検査では,血算,CRPを含め異常値はみられなかった.CTでは左涙腺腫大がみられたが,その他の眼窩や頭蓋内に異常所見はみられなかった.MRIでは,左眼涙腺に境界不明瞭な腫瘤を認め,脂肪抑制CT2強調画像ではやや高信号,T1強調画像では低信号,造影CMRIでは早期より増強され,内部に造影不良域がみられた(図1a).抗菌薬とステロイドの点眼,抗菌薬とCNSAIDs(チアラミド塩酸塩)の内服では改善がみられず,徐々に腫瘤は増大した.初診よりC2週間後,耳側円蓋部結膜を細隙灯顕微鏡下に穿刺して排膿した.採取した膿の病理像では,一部再生性の扁平上皮で覆われた断片的な結膜組織と硝子様物を含む急性化膿性炎症像が主体の炎症性肉芽組織がみられた.穿刺後,改善はみられず腫瘤は再度増大したので(図1b),初診より約C2カ月後に涙腺部腫瘤の摘出術を施行した.外眼角部の皮下と結膜円蓋部に局所麻酔を行い,.胞内容と.胞壁を摘出し(図1c),結膜を縫合し終了した.手術で摘出した三つの異なる組織塊(以下組織①②③)の病理所見は以下のとおりである.組織①(.胞壁組織)の病理像では多列円柱状あるいは重層扁平状の上皮で囲まれた.状の導管拡張構造がみられ,その周囲には毛細血管の拡張,好中球浸潤,浮腫などをみる炎症性肉芽組織や急性炎症像がみられた(図1d).また,一部には線維化,慢性炎症像がみられた(図1d,e).組織②(.胞内容)の病理像では内容の多くは硝子様物質が占めていた.また,硝子様物質の中にまばらに毛がみられた(図1f).組織③(.胞の周辺組織)の病理像では著明な浮腫とマクロファージ,リンパ球や形質細胞浸潤,ところどころに硝子様物質を含む異物性肉芽腫を認めた.術後,速やかに充血は消退し,術後C2カ月の間,結膜充血や腫瘤の再発はみられず終診となった.〔症例2〕症例C2はC37歳の女性であり,左眼の異物感,左眼外眼角の結膜下に毛を含む隆起と充血がみられ,前医から紹介されて金沢大学病院を受診した.初診時の視力は右眼1.2(矯正不能),左眼C0.8(1.2C×sph.0.50D),眼圧は両眼ともC14CmmHgであった.外眼角部の結膜が軽度充血し,結膜下にC1本の睫毛が迷入しているのが観察された(図2a).眼瞼腫脹はほとんどみられず,炎症が涙腺開口部に限局していたこともあり,MRI検査は実施しなかった.初診時の血液図1症例1a:MRI(造影).左涙腺は早期より増強され,内部に造影不良域がみられた.Cb:術前の前眼部写真.外眼角部の結膜下に腫瘤がみられた.Cc:術中写真..胞の内容を摘出したところ.Cd:.胞壁組織の病理組織像(HE染色).多列円柱状.重層扁平状の上皮で囲まれた.状の導管拡張構造と周囲に急性炎症像(※↓),また一部に慢性炎症像(♯↓)がみられた.Scalebar=500Cμm.Ce:図Cd(#)部位の拡大像.線維化を伴う慢性炎症像がみられた.Scalebar=100Cμm.Cf:.胞内容の病理組織像(HE染色).硝子様物質の中に毛がみられた.Scalebar=100Cμm.Cc図2症例2a:初診時の前眼部写真.左外眼角部の結膜充血がみられた.→は迷入した睫毛を示す.Cb:術前の前眼部写真.左外眼角部の結膜充血,腫脹がみられた.Cc:病理組織像(HE染色).重層扁平上皮で裏打ちされた拡張した導管がみられ,導管周囲には小葉構築を示す涙腺の腺房細胞がみられた.Scalebar=500Cμm.Cd:図Ccの拡大像.拡張した導管内に硝子様物質に囲まれた毛(→)がみられた.Scalebar=200Cμm.C検査では,血算,CRPを含め異常値はみられなかった.前医から抗菌薬とステロイド点眼が処方され,初診時には充血や眼脂などの症状が改善傾向であり,まずは保存的に経過を診た.しかし,およそC1カ月後より充血や眼脂の症状が再燃し増悪した(図2b)ので,初診時よりC3カ月後に涙腺開口部の腫瘤の摘出術を施行した.左眼耳側の球結膜を切開し,睫毛を含む腫瘤の.離を進めると,腫瘤は奥では涙腺に連なり,正常な涙腺との区別が困難だったので,一部の涙腺も含めて腫瘤を切除し,結膜を縫合して手術を終了した.病理では,切除した腫瘤は重層扁平上皮で裏打ちされた拡張した導管であり(図2c),その内容には毛がみられた(図2d).導管周囲には小葉構築を示す涙腺の腺房細胞がみられ,腺細胞は異型に乏しく,腫瘍性変化はみられなかった.術後,左眼外眼角部結膜の充血や眼脂は速やかに消退し,術後C2カ月後再燃はみられていない.CII考察涙腺の開口部付近の外眼角部が腫脹する病態には,発赤や疼痛の症状を伴う急性あるいは亜急性の涙腺炎や,そのような症状に乏しい慢性の涙腺.腫があげられる.涙腺.腫は涙腺あるいはその導管から生じ,分泌経路周囲の炎症や手術などによる導管の閉塞によって涙液が貯留して生じる.胞であり,充血や眼脂などの炎症症状に乏しく,慢性の経過をとることが多い3.5).症例C1では,術前の排膿を伴う所見や疼痛の症状は感染性涙腺炎の病態であるが,その摘出した病変の病理像にて.胞性構造がみられたので,炎症の背景として涙腺.腫の病態も示唆された.また,その内部に毛の混入がみられたことから,皮様.腫もその鑑別疾患の候補にあげられた.皮様.腫の内腔には皮膚の付属器である毛.や毛,表皮の角化物質を含み,毛は束でみられることが多いとされるが,症例C1では,その内腔に角化物がみられなかったこと,毛がまばらであったこと,.状の導管拡張構造がみられたことなどから,涙腺の導管が拡張した.胞状の構造であり,内部にみられた毛は涙腺の開口部から睫毛が逆行して迷入したものと考えられた.病理像では急性炎症の所見に加えて線維化など慢性炎症の所見がみられ,発症から手術までのおよそC4カ月程度の臨床経過と一致した.逆行性に迷入した睫毛が涙腺の導管内に滞留することによって炎症が継続して.胞が形成され,それが徐々に拡大し,ある時期に.胞の破裂などの起点から急性の異物反応が生じた病態が推察された.近年CLeeらはC15例の外眼角部の涙腺.腫のうちC10例において睫毛の迷入がみられたと報告しており6),睫毛の迷入による涙腺.腫の形成は決して珍しい病態ではないと考えられる.急性涙腺炎に対する治療としては薬物治療や穿刺排膿が第一選択であり7),近年では小児に発症したCMRSAによる涙腺炎の治癒例も報告されている8).しかし,それらの治療に抵抗するような涙腺炎では,本症例のように術前に睫毛の迷入が確認できない場合でも,睫毛の迷入を疑って積極的に病変部の切除を行うべきであると考えられた.症例C2では,術前の所見では明らかな涙腺.腫の構造は確認できず,亜急性の涙腺炎というべき病態であった.術前の細隙灯顕微鏡検査においてすでに外眼角部の充血した結膜下にC1本の睫毛が迷入しているのが観察され(図2a),薬物治療で自然消退を図ったが,睫毛は結膜下に残留したまま炎症の再燃をみた.ある既報では,睫毛の迷入が原因と考えられた涙腺炎において急性と慢性の炎症所見が混在するC1症例の提示があるが,その病理像に睫毛は提示されていない9).また,急性化膿性涙腺炎のC5例のうちC2例において涙腺排出管への睫毛の迷入がみられたとの報告10)もあるが,その病理像は示されていない.本症例の病理においては涙腺につながる導管が拡張したような構造がみられ,その内部に毛がみられた(図2d).症例C1とは異なり,線維化などの慢性炎症の所見に乏しく,明らかな.胞は確認されず,迷入した睫毛に対する異物反応がより急性に生じた病態が示唆された.このように.胞構造が明らかではない急性あるいは亜急性の涙腺炎の症例においても睫毛が逆行性に迷入している場合があり,それがあらかじめ確認できる場合には積極的に睫毛を除去する手術を検討するべきであると考えられた.以上,涙腺開口部からの睫毛の迷入によると考えられた涙腺炎のC2症例の手術症例を提示した.これらの経験からは,睫毛の迷入を伴う涙腺.腫あるいは涙腺炎の症例においては,保存的療法による改善は期待しにくく,手術による加療を積極的に計画するべきであると考えられた.文献1)太田優,川北哲也:外眼部涙腺.臨眼C68(11号増刊号):14-18,C20142)大島浩一:涙腺腫瘍の診断と治療─diagnosisandmanage-mentoflacrimalglandtumor─.眼科43:635-643,C20013)江口功一:涙腺.上皮性腫瘍.涙腺腫瘍Cvs結膜上皮.胞.いますぐ役立つ眼病理(石橋達朗編):眼科プラクティスC8,p234-235,文光堂,20064)渡辺一郎,宮崎茂雄,赤塚俊文ほか:眼瞼下垂術後に涙腺貯留.胞をきたしたC1例.眼臨95:47-49,C20015)高井保幸,児玉達夫,海津幸子ほか:涙腺.胞のC1例.眼臨99:864-867,C20056)LeeCJY,CWooCKI,CSuhCYLCetCal:TheCroleCofCentrappedCciliaConCtheCformationCofClacrimalCductularCcysts.CJpnJOphthalmolC59:81-85,C20157)福田昌彦:涙腺炎.眼疾患診療ガイド(「眼科診療プラクティス」編集委員会編),眼科診療プラクティスC32,p80-81,文光堂,19978)稲垣伸亮,北川和子,永井康太ほか:小児に発症したCMRSAによる急性化膿性涙腺炎:あたらしい眼科C26:1405-1408,C20099)吉川洋,鈴木亨:臨床写真スタジオ睫毛の迷入による急性化膿性涙腺炎.眼紀57:319-320,C200610)黒澤明充,黒澤久子:急性化膿性涙腺炎のC5例.眼臨C87:C1724-1728,C1993***

原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術併用外方線維柱帯切開術の術後長期成績

2018年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(8):1139.1143,2018c原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術併用外方線維柱帯切開術の術後長期成績中村芽衣子徳田直人塚本彩香北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-termOutcomesofTrabeculotomyAbExternoCCombinedwithGoniosynechialysisforPrimaryAngleClosureGlaucomaCMeikoNakamura,NaotoTokuda,AyakaTsukamoto,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine目的:原発閉塞隅角緑内障(PACG)に対する水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL),隅角癒着解離術(GSL),外方線維柱帯切開術(LOT)の併用について検討する.対象:PACGに対し初回緑内障手術としてCPEA+IOL+GSL(以下,GSL群),またはCPEA+IOL+GSL+LOT(以下,GSL+LOT群)を施行し,術後C36カ月以上経過観察が可能であったC40例C57眼(平均年齢C70.2C±11.2歳)を対象とした.結果:眼圧,薬剤スコアについては両群ともに術前に比し有意に下降した.累積生存率は術後C36カ月でCGSL群C82.4%,GSL+LOT群C91.3%であった.角膜内皮細胞密度はCGSL+LOT群では術前後で有意差を認めなかったが,GSL群では術後C3年で有意に減少した.結論:PACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTは中長期的に有効な緑内障手術である可能性が示唆された.WeCevaluatedCtheClong-termCoutcomesCofCtrabeculotomy(LOT)combinedCwithCgoniosynechialysis(GSL)C,phacoemulsi.cationCandCaspirationCintraocularClensCimplantation(PEA+IOL)C,CforCprimaryCangleCclosureCglaucoma(PACG).Fortypatients(57eyes)whounderwentPEA+IOL+GSL(GSLgroup)orPEA+IOL+GSL+LOT(GSL+LOTgroup)werefollowedupfor36monthspostoperatively.Intraocularpressureanduseofeyedropsshowedsigni.cantdecreaseafterthesurgeryinbothgroups.Thecumulativesurvivalratewas82.4%intheGSLgroupand91.3%intheGSL+LOTgroup.PostoperativecornealendothelialcelldensityintheGSL+LOTgroupwasnotsigni.cantlydi.erentfromthepreoperativevalue.However,intheGSLgroupitwassigni.cantlydecreasedat3yearsaftersurgerycomparedtothepreoperativevalue.WeconcludethatPEA+IOL+GSL+LOTisane.ectivetreatmentforPACGintermsofmedium-andlong-termoutcomes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1139.1143,C2018〕Keywords:原発閉塞隅角緑内障,線維柱帯切開術,隅角癒着解離術,緑内障手術.primaryangleclosureglauco-ma,trabeculotomy,goniosynechialysis,glaucomasurgery.Cはじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglaucoma:PACG)の治療法は眼圧上昇の原因がどこに生じているかにより異なる.わが国における緑内障診療ガイドラインのなかでも眼圧上昇の原因が相対的瞳孔ブロックによる場合はレーザー虹彩切開術あるいは虹彩切除術による瞳孔ブロック解除が第一選択とされている1).また,水晶体乳化吸引術(phaco-emulsi.cationCandCaspiration:PEA)は毛様体C,硝子体などの水晶体後方の因子を除く,あらゆる隅角閉塞機序に対して有効であり,PACGに対してCPEAを行うことの有効性についても報告されている2).また,広範囲の周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorCsynechia:PAS)により,線維柱帯が慢性的に閉塞し不可逆的な変化をきたしていることが予想される症例の場合,PEAのみでは眼圧下降が不十分であることが予測され,隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)などの緑内障手術との同時手術が選択される3,4).しかし,〔別刷請求先〕中村芽衣子:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:MeikoNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANGSLを併用したCPEAにおいても眼圧コントロールが困難な症例が存在する.このようなことを想定して線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)という選択肢もあるが,PACGに対するCLECは悪性緑内障5)や術後浅前房などの合併症を発症する可能性が高く危険を伴う.そこで筆者らはCPEAおよび眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:PEA+IOL)にCGSLと線維柱帯切開術(trabeculotomyabexterno:LOT)を併用すること(PEA+IOL+GSL+LOT)で,より安全にさらなる眼圧下降の維持が可能なのではないか考えた.このたびCPACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討した.CI対象および方法2008年C4月.2013年C3月に聖マリアンナ医科大学病院にて,白内障を併発したCPACGに対して,初回緑内障手術としてCPEA+IOL+GSL(以下,GSL群),またはCPEA+IOL+GSL+LOT(以下,GSL+LOT群)を施行し,術後C36カ月以上経過観察が可能であったC40例C57眼(平均年齢C70.2C±11.2歳)を対象とした.なお,PACGは発症速度により急性と慢性に分けられる1)が,臨床においては急性型と慢性型の中間型といえる亜急性,または間欠性といえるような症例もあるため,今回の対象においては発症速度による分類は行っていない.術前後の眼圧,薬剤スコア,角膜内皮細胞密度の推移,累積生存率について検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬1剤につきC1点(緑内障配合点眼薬についてはC2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点として計算した.累積生存率については,術後眼圧がC2回連続して基準C1(21CmmHg以上またはC4CmmHg未満)を記録した時点,もしくは,基準C2(16CmmHg以上またはC4CmmHg未満)を記録した時点を死亡と定義とした.基準C1,2とも再手術になった時点も死亡とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬が追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず,生存症例とした.手術は全例同一術者(N.T.)により施行された.2008年C4月.2011年C3月までは全例CPEA+IOL+GSLを施行し,2011年C4月.2013年C3月までは目標眼圧がC14CmmHg以下の症例についてはCPEA+IOL+GSL+LOTを施行し,目標眼圧がC15CmmHg以上の症例についてはCPEA+IOL+GSLを施行した.手術方法は,GSL群ではまずスワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズム(アールイーメディカル)と上野式極細癒着解離針(Inami)を用いてCGSLを施行(上方1象限を除く約C270°)し,その後CPEA+IOLを施行し手術終了とした.GSL+LOT群は,GSL群と同様にCGSLを施行(上方C1象限を除く約C270°)し,その後,結膜輪部を切開し,強膜弁を作製,同一創からCPEA+IOLを施行した.その後,強膜内方弁を作製しCSchlemm管を同定し線維柱帯を切開した.統計学的な検討は対応のあるCt検定,またはCMann-Whit-neyUtestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.なお,本研究は診療録による後ろ向き研究である.CII結果表1に両群の術前の詳細について示す.年齢,眼圧,術前角膜内皮細胞密度に有意差を認めなかったが,Humphrey自動視野計によるCmeandeviation,薬剤スコア,PASindexについては両群間に有意差を認めた(Mann-WhitneyCUtest).図1に各群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧はCGSL群では術前平均C29.4C±11.7CmmHgが術後12カ月でC14.3C±3.9mmHg,24カ月でC13.6C±3.2CmmHg,36カ月でC13.3C±3.2CmmHg,CGSL+LOT群で術前C26.3C±8.8CmmHgが術後C12カ月でC13.7C±5.2CmmHg,24カ月でC12.9C±2.0CmmHg,36カ月でC12.8C±表1両群の背景GSL群CGSL+LOT群p値症例数(男女比)2C5例C34眼男性:C8例C11眼女性:1C7例C23眼15例23眼8例14眼7例9眼C.手術施行時平均年齢(歳)C72.0±10.4C67.5±12.0C0.30(Mann-WhitneyUtest)CMeandeviation(dB)C.16.4±4.8C.19.7±4.4C0.02(Mann-WhitneyUtest)眼圧(mmHg)C29.4±11.7C26.3±8.8C0.47(Mann-WhitneyUtest)薬剤スコア(点)C2.4±1.4C3.1±1.3C0.04(Mann-WhitneyUtest)CPASindex(%)C80.9±24.6C64.1±19.2C0.006(Mann-WhitneyUtest)角膜内皮細胞密度(/mm2)C2,395±697C2,697±443C0.13(Mann-WhitneyUtest)54薬剤スコア(点)眼圧(mmHg)3210100術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後6カ月12カ月24カ月36カ月6カ月12カ月24カ月36カ月図1各群の術前後の眼圧推移図2各群の術前後の薬剤スコアの推移両群ともに術前と比較し術後有意な眼圧下降を示した.両群ともに術後C1カ月目より薬剤スコアが有意に減少した.*:GSL群Cvs.GSL+LOT群:p<0.05.C*:GSL群Cvs.CGSL+LOT群:p<0.05,**:GSL群Cvs.CGSL+LOT群:p<0.01.C11GSL+LOT群0.80.8GSL群0.6累積生存率累積生存率0.60.40.40.20.20012243601224360観察期間(カ月)観察期間(カ月)図3各群の術後累積生存率(基準1)図4各群の術後累積生存率(基準2)術後C36カ月の累積生存率はCGSL群C82.4%,GSL+LOT術後C36カ月の累積生存率はCGSL群C79.0%,GSL+LOT群C91.3%であった(Logranktestp=0.3701).C群C67.6%であった(Logranktestp=0.2095).C1.9CmmHgと両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した4,000*(対応のあるCt検定p<0.01).また,術後C21カ月とC33カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に眼圧が低くなっていた(Mann-WhitneyUtestp=0.04).図2に各群の術前後の薬剤スコア推移を示す.薬剤スコアはCGSL群では術前平均C2.4C±1.4点が術後C12カ月でC0.3C±0.5点,24カ月でC0.5C±0.6点,36カ月でC0.6C±0.8点,GSL+LOT群で術前C3.1C±1.3点が術後C12カ月でC0.9C±1.0点,24角膜内皮細胞密度(/mm2)3,0002,0001,000カ月でC0.9C±0.9点,36カ月でC0.9C±0.9点と両群ともに術前に比し有意な薬剤スコアの下降を示した(対応のあるCt検定p<0.01).また,術後C9カ月,12カ月,15カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に薬剤スコアが高くなっていた(Mann-WhitneyUtestp<0.01).図3,4に各群の術後累積生存率について示す.基準C1では,GSL群,GSL+LOT群の術後C36カ月おける累積生存率(135)0術前術後術前術後GSL+LOT群GSL群図5各群の術前後の角膜内皮細胞密度の推移GSL群では術前後で角膜内皮細胞の有意な減少を認めた(p<0.01).あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1141はそれぞれC82.4%,91.3%であり,両群間に有意差を認めなかった.基準C2では,GSL群,GSL+LOT群の術後C36カ月おける累積生存率はそれぞれC67.6%,79.0%であり,両群間に有意差を認めなかった.なお,緑内障再手術を施行した症例はCGSL群ではなく,GSL+LOT群ではC1例存在した.緑内障再手術としてはCLECを施行した.図5に各群の術前後の角膜内皮細胞密度の推移について示す.GSL+LOT群では術前C2,696.8C±443.2/mm2が術後C2,603.2±654.0/mm2と術前後で有意差を認めなかったが,GSL群では術前C2,395.3C±696.5/mm2が術後C1,967.0C±614.6/Cmm2と術後C3年で有意に下降した.CIII考按PACGにおいて,房水流失障害が隅角のみに生じているのか,それとも線維柱帯,Schlemm管以降にまで及んでいるのかは術後の経過をみてみないことには確かなことはいえない.PACGに対してCPEA+IOL+GSLを施行しても眼圧コントロールが得られない症例は少なからず存在する.これらの症例についてCLOTまで行っていればさらなる眼圧下降が得られた可能性があると考え,2011年C4月.2013年C3月までに手術適応となったCPACG症例については,目標眼圧がC14CmmHg以下の場合はCPEA+IOL+GSLに加えCLOTを施行し,目標眼圧がC15CmmHg以上の場合はCPEA+IOL+GSLのみを施行した.そのためCGSL+LOT群のほうが術前meanCdeviationは低く,薬剤スコアも高値となっていた.このように今回の対象についてはセレクションバイアスがかかっているため,本検討は今後CPEA+IOL+GSL+LOTの有効性を示すためのパイロットスタディと考えるべきである.以下,今回の結果について考察する.術後眼圧,薬剤スコアについては,両群ともに術前に比し有意な下降を認め,PACGに対するCPEA+IOL+GSL,CPEA+IOL+GSL+LOTの有効性が示された.安藤ら6)はCPEA+IOL+GSLを施行したC65例C78眼について術後有意な眼圧下降を示し,術後C36カ月の眼圧はC15.2C±2.6CmmHgであり,薬剤スコアについても低下したと報告している.そのほかにも同様の報告3,4)は散見され,Schlemm管以降に抵抗がない症例ではCPACGに対するCPEA+IOL+GSLの有効性については異論がないと考える.CPEA+IOL+GSL+LOTは,閉塞隅角の状態をCGSLで開放隅角にしてからCLOTを行う術式である.森村らはCPACGに対してCPEA+IOLにCLOTを併用し,18CmmHg以下への眼圧コントロールが得られた症例はC91%であったが,15mmHg以下となるとC50%であったと報告している7).また,PASがC50%以上の症例においても良好な眼圧下降を示したとされているが,累積生存率については触れられていない.筆者らの検討では,GSL+LOT群の術前CPASはすべての症例においてC50%以上であったものの,術後C16CmmHg以下に眼圧コントロールができた症例は術後C36カ月でC79.0%とGSL群と比較して有意差は認めないものの良好な成績であった.また,術後C21カ月とC33カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に眼圧が低くなっていた.安藤らの報告6)ではCPEA+IOL+GSL施行後に眼圧コントロール不良であった症例について,術後CPASがC30%以下であった症例がC3眼(3.8%)に存在し,これらの症例が眼圧コントロール不良となった原因については線維柱帯機能不全としている.このうちC1例(1.3%)については抗緑内障点眼薬で眼圧コントロールが得られず,再手術としてCLOTを施行し,その後眼圧コントロールが良好になったとしている.つまりPACGに対してCGSLを行い,線維柱帯がCPASで覆われていない状態で行うCLOTの有効性を示した症例といえる.この報告と今回の結果を合わせて考えると,GSLにCLOTを追加することでさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられる.ただし,今回の検討では術前のCPASCindexがCGSL群のほうが有意に高かったことが術後の眼圧推移に影響した可能性も否定できない.薬剤スコアが術後CGSL+LOT群のほうが有意に高い時期が存在したが,視野異常が進行している症例が多かったため術後早期から積極的に点眼加療を再開した症例が多かったためと考える.今回の検討において,GSL群で術後に眼圧コントロール不良となった症例は,緑内障性視神経障害が軽微であり目標眼圧が高めに設定されていた,または目標眼圧は上回っているものの術前眼圧よりもかなり眼圧下降が得られていた,などの理由で再手術を施行していなかった.GSL+LOT群についてはC1例のみ再手術が必要であった.再手術の術式としては,眼圧上昇の原因が線維柱帯やCSchlemm管以降の房水流出障害あると考えられたため,流出路再建術で眼圧コントロールを得ることは困難と判断し線維柱帯切除術を施行した.術後良好な眼圧下降が維持できている.角膜内皮細胞密度については,GSL+LOT群はCLOTを行う分CGSL群よりも手術手技が多くなるため,GSL+LOT群のほうが術後に角膜内皮細胞密度の減少が大きいと予想したが,GSL群のほうが角膜内皮細胞密度への影響が大きかった.この理由として,GSL群はCGSL+LOT群と比較し術前PASが多かったことや,有意差は認めないものの術前の角膜内皮細胞密度が少なかったことなどが影響していると考えられた.前房内から隅角にアプローチする術式では角膜内皮細胞密度がもともと少ない症例やCPASが多い症例では角膜内皮細胞密度の減少について注意すべきと考える.以上,PACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討した.PACGに対しCGSL後にCLOTを追加することによりさらなる眼圧下降が得られる可能性があるため,PACGのなかでも目標眼圧が低い症例などにはCPEA+IOL+GSL+LOTはよい適応となりうると考える.今回の検討は診療録による後ろ向き検討であるため症例間の偏りが存在した.今後はさらに症例数を増やし前向き検討によりCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討すべきと考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:7-46,C20122)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetCal:E.ectivenessCofearlylensextractionforthetreatmentofprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcontrolledCtrial.LancetC388:1389-1397,C20163)TaniharaH,NishiwakiK,NagataM:Surgicalresultsandcomplicationsofgoniosynechialysis.GraefesArchClinExpCOphthalmolC230:309-313,C19924)早川和久,石川修作,仲村佳巳ほか:白内障手術と隅角癒着解離術併用の適応と効果.臨眼60:273-278,C20065)EltzCH,CGloorCB:TrabeculectomyCinCcaseCofCangleCcloserCglaucoma-successesCandCfailures.CKlinCMonatsblCAugen-heilkdC177:556-561,C19806)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と白内障同時手術の長期経過.眼科手術C18:229-233,C20057)森村浩之,伊藤暁,高野豊久ほか:閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果.あたらしい眼科26:957-960,C2009***

0.005%ラタノプロスト点眼液による正常眼視神経乳頭および脈絡膜循環の変化

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1133.1138,2018c0.005%ラタノプロスト点眼液による正常眼視神経乳頭および脈絡膜循環の変化萩原蓉子小暮朗子小暮俊介高橋洋平江村純子竹下恵理飯田知弘東京女子医科大学眼科学教室ChangesinBloodFlowofOpticNerveHeadandChoroidby0.005%LatanoprostinHealthyEyesYokoHagiwara,AkikoKogure,ShunsukeKogure,YoheiTakahashi,JunkoEmura,EriTakeshitaandTomohiroIidaCDepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:0.005%ラタノプロスト点眼液による正常眼視神経乳頭部および脈絡膜の血流動態に及ぼす影響を検討した.対象および方法:対象は健常人C14例C14眼.片眼にC0.005%ラタノプロストを点眼し,点眼前および点眼C2時間後に眼圧,血圧,眼灌流圧,またレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用いて視神経乳頭部および黄斑部の血流値を測定した.結果:平均眼圧は,ラタノプロスト点眼前後でC14.7C±1.8CmmHgからC13.2C±1.9CmmHgへ有意に下降した(p<0.01).平均血圧および眼灌流圧は点眼前後で有意な変化がなかった.LSFGによる血流値は,ラタノプロスト点眼前後で,黄斑部CMBR,視神経乳頭CMA,MVおよびCMTすべの部位において有意に上昇した(それぞれ点眼前C10.9±4.1,23.0C±4.0,46.3C±9.2,12.7C±3.0から点眼後C11.3C±3.91,24.7C±3.5,49.9C±9.9,13.6C±3.0.すべてCp<0.05).眼灌流圧変化率と眼圧変化率には有意な相関を認めなかった.結論:0.005%ラタノプロスト点眼液は眼圧下降効果のみならず,眼圧非依存性の血流増加作用がある可能性が示唆された.CPurpose:WeCinvestigatedCchangesCinCbloodC.owCofCtheCopticCnerveChead(ONH)andCmaculaCafterCinstillationof0.005%latanoprostinnormaleyes.MaterialandMethod:In14eyesof14healthysubjects,intraocularpres-sure(IOP),CbloodCpressure,CocularCperfusionCpressure(OPP)andCbloodC.owCvelocityCofCONHCandCmaculaCusingLSFGCwereCmeasuredCbeforeCandCatC2ChoursCafterCinstillationCofC0.005%Clatanoprost.CResults:MeanCintraocularCpressurereducedsigni.cantly,from14.7±1.8CmmHgto13.2±1.9CmmHg,2hoursafterlatanoprostinstillation(p<0.01)C.MeanbloodpressureandOPPwerenotsigni.cantlychanged.MacularMBRandMA,MVandMTofONHincreasedCsigni.cantlyCinCallCareas(p<0.05)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCcorrelationCbetweenCchangesCinCOPPCandCIOP.CConclusion:ThisCstudyCfoundCthatC0.005%ClatanoprostCsigni.cantlyCreducedCintraocularCpressureCandCincreasedblood.ow2hoursafterinstillation.BecauseOPPwasunchanged,itissuggestedthatthesechangesinhemodynamicswereduetodirectvasodilativee.ectsof0.005%latanoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1133.1138,C2018〕Keywords:ラタノプロスト,レーザースペックルフローグラフィー,視神経乳頭血流.latanoprost,ClaserCspeckleC.owgraphy,blood.owofopticnervehead.Cはじめに現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた確実な治療法は眼圧下降であり,ベースラインからC30%の眼圧下降を目標に点眼治療を導入することがスタンダードとなっている1).しかしながら,眼圧下降が十分であるにもかかわらず,視野障害が進行することがしばしば経験される.片頭痛,高血圧,視神経乳頭出血および視神経乳頭周囲網脈絡膜萎縮などの循環障害を起因とする病態が緑内障の視野進行における危険因子であることが報告されており2.8),緑内障治療薬に対しては,眼圧下降効果に加え眼循環に対する〔別刷請求先〕小暮朗子:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkikoKogure,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjyu-ku,Tokyo162-8666,JAPAN作用が期待されている.ラタノプロストはプロスタグランジンCF2Caアナログで強力な眼圧下降効果を有する緑内障治療薬であり9),緑内障点眼薬の第一選択薬の一つである.ラタノプロスト点眼液の眼血流量に与える影響は,眼圧下降による眼灌流圧上昇に伴う血流増加10.14)と,薬剤が末梢血管拡張作用を有する15)ことの二つが考えられるが観察期間が長期の投与例の既報告がほとんどであり,眼圧下降による眼灌流圧上昇に伴う血流増加を示す結果であると推察されている.そこで今回筆者らは,ラタノプロストの点眼後早期における血流動態への影響を検討するために,LSFG-NAVIを用いて,0.005%ラタノプロスト点眼C2時間前後における視神経乳頭部および黄斑部の眼血流変化について血流解析を行った.CI対象および方法対象は,健常人ボランティアC14例C14眼,男性C5例,女性9例.平均年齢はC32.3C±9.2歳(25.48歳)である.対象眼の等価球面度数は,平均C.1.75±2.5ジオプトリー(D)(.3.75..0.75D)であった.高血圧症・糖尿病を含む重篤な全身合併症の既往,等価球面度数C.6D以下の近視,+3D以上の遠視,眼疾患の既往のものは除外した.本研究は,本学倫理員会承認を得ており,すべての対象について本研究に関する目的と方法について十分な説明を行い,同意を得ている.0.005%ラタノプロストを点眼する眼を無作為に決定しラタノプロスト点眼群とし(コインによる左右眼ランダムサンプリング),他眼を対照群として生理食塩水を点眼した.点眼前と点眼C2時間後に眼圧,平均血圧,眼灌流圧およびLSFGによる血流値CMBR(meanblurrate)の測定を行った.眼圧,血流測定は点眼前後各C3回行い,平均値を用いた.それぞれ平均血圧=(拡張期血圧)+1/3(収縮期血圧C.拡張期血圧),眼灌流圧=2/3×平均血圧.眼圧として算出した.LSFGによる血流測定部位は黄斑部と視神経乳頭部とした.黄斑部はCRubberCband(RB)を中心窩C150ピクセル四方に設置した.これは眼底では約C1Cmm四方の大きさであり脈絡膜循環を測定していることとなる.視神経乳頭部においては,MBRを乳頭内平均血流値CMA(meanCblurCrateCinCallarea),乳頭内組織領域平均血流値CMT(meanblurrateintissueCarea),乳頭内血管領域平均血流値CMV(meanCblurrateinvesselarea)に分類して測定を行った.統計には各群間(Mann-Whitney’sUtest),各項目(Wil-coxonCsigned-ranksCtest)の点眼前後の比較について検討し,また血流値変化と眼灌流圧変化との関連についてもCPearson’sCcorrelationCtestを用いて検討した(p<0.05を有意とした).CII結果平均血圧は,点眼前C85.0C±9.3CmmHg(93.128CmmHg),点眼後C85.3C±9.3CmmHg(89.132CmmHg)で有意な変化はみられなかった.平均眼圧はラタノプロスト点眼群において,点眼前C14.7C±1.8CmmHg(12.18CmmHg)から点眼後C13.2C±1.9CmmHg(10.16CmmHg)と有意に下降し(p<0.01),平均変化率は.10.2%であった(図1).対照群では点眼前C14.4C±2.0mmHg(11.17mmHg)から点眼後C13.8C±2.0CmmHg(10.17CmmHg)と有意な変化は認めなかった.平均眼灌流圧はラタノプロスト点眼群において,点眼前41.9C±5.9CmmHg(32.1.51.6mmHg),点眼後C43.6C±6.3CmmHg(32.5.52.5mmHg)であり(図1),対照群では点眼前C43.0C±7.7CmmHg(42.3.67.5CmmHg)から点眼後C43.9C±8.2CmmHg(43.3.69.7mmHg)といずれも有意な変化を認めなかった.血流値に関しては,黄斑部CMBRはラタノプロスト点眼群において,点眼前C10.9C±4.1(5.2.18.2),点眼後C11.3C±3.91(5.6.16.7)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+3.7%であった.対照群では点眼前C10.3C±3.4(5.2.15.8)から点眼後C10.5C±3.6(6.16.9)と有意な変化は認めなかった(図2).視神経乳頭部において,MAは点眼前C23.0C±4.0(17.8.30.2),点眼後C24.7C±3.5(19.8.31.9)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+7.4%であった.対照群では点眼前C23.8C±4.7(18.1.33.8)から点眼後C24.5C±4.0(19.8.31.6)と有意な変化は認めなかった(図2).MVでは点眼前C46.3C±9.2(30.5.63.9),点眼後C49.9C±9.9(34.4.58.1)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+7.8%であった.対照群では点眼前C45.6C±8.9(32.6.67.5)から点眼後C47.1C±8.9(34.7.73.5)と有意な変化は認めなかった(図2).MTでは点眼前C12.7C±3.0(8.3.17.5),点眼後C13.6C±3.0(8.2.19.3)と有意に増加し(p<0.05),その平均変化率は+7.1%であった.対照群では点眼前C12.4C±3.3(6.6.18.9)から点眼後C12.7±3.0(8.3.18.6)と有意な変化は認めなかった(図2).すなわちラタノプロスト点眼群においては,黄斑部CMBR,視神経乳頭CMA,視神経乳頭CMVおよび視神経乳頭CMTのすべての部位において有意な血流値の増加がみられた.眼灌流圧変化率と黄斑部CMBR,視神経乳頭CMA,視神経乳頭MVおよび視神経乳頭CMTにおいての血流値変化率では有意な相関を認めなかった(それぞれCr=.0.30,+0.19,+0.05,すべてCp=ns).代表症例を示す(図3).39歳,女性.この症例は,ラタノプロスト点眼前後で眼圧はC16CmmHgのままで眼圧下降を認めず,眼灌流圧は点眼前C42.5mmHgから点眼後C41.8mmHgとわずかに低下した.血流値は,黄斑部CMBRはC11からC13,視神経乳頭部CMAはC23.3からC28.1,MV4はC8.7点眼前■点眼後点眼前■点眼後20**ns60nsns5015nsnsmmHgmmHg4010302010050ラタノプロスト点眼群生食点眼群生食点眼群図1平均眼圧・平均眼灌流圧の変化ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な眼圧下降を認めた(**p<0.01CWilcoxonCsigned-ranksCtest).生食点眼群では有意な変化はなかった.両群ともに点眼C2時間後において平均眼灌流圧の有意な変化を認めなかった.C点眼前■点眼後点眼前■点眼後*ns2030*ns251520151050*点眼前■点眼後ns点眼前■点眼後6020*ns5015400ラタノプロスト点眼群生食点眼群ラタノプロスト点眼群生食点眼群図2黄斑MBR・視神経乳頭MA・視神経乳頭MV・視神経乳頭MTの変化ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な黄斑部CMBRの上昇を認めた(*p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な視神経乳頭CMAの上昇を認めた(**p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な視神経乳頭CMVの上昇を認めた(*p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).ラタノプロスト点眼群では点眼C2時間後に有意な視神経乳頭CMTの上昇を認めた(*p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest).105ラタノプロスト点眼眼生食点眼眼点眼前点眼C2時間後点眼前点眼C2時間後眼圧(mmHg)C16C16C16C16眼灌流圧(mmHg)C42.5C41.8C42.5C41.8黄斑CMBRC11.0C13.0C6.5C6.6視神経乳頭CMAC23.3C28.1C26.0C26.9視神経乳頭CMVC48.7C51.9C45.8C45.9視神経乳頭CMTC10.7C11.8C11.0C11.2図3代表症例における点眼前後の眼圧・眼灌流圧・眼血流の変化39歳,女性.ラタノプロスト点眼前後で,眼圧は両眼ともにC16CmmHgのままで眼圧下降を認めなかった.眼灌流圧は点眼前C42.5CmmHgからC41.8CmmHgとわずかに低下した.黄斑部CMBRはC11からC13,視神経乳頭部MAはC23.3からC28.1,MV4はC8.7からC51.9,MTはC10.7からC11.8と全部位で血流の増加を認めた.からC51.9,MTはC10.7からC11.8と全部位で血流の増加を認めた.つまり眼圧や眼灌流圧の変化に依存せずに血流が増加しているということが示唆された.CIII考按眼灌流圧が低いほど緑内障の有病率が高く16,17),進行も早い18.20)ことや,片頭痛2,3)および高血圧4)などの全身合併症や視神経乳頭出血5,6)および乳頭周囲網脈絡膜萎縮7,8)などの眼底所見が正常眼圧緑内障の進行における危険因子であることが報告されており,緑内障の発症および進行に血流要因が関与することが考えられている.そのため緑内障治療薬には,眼圧下降効果に加えて,眼循環に対する作用が期待されている.ラタノプロストは強力な眼圧下降効果を有するのみならず,網膜神経線維および節細胞のアポトーシスを抑制する神経保護作用を有する21).ラタノプロスト点眼が眼血流におよぼす影響としては,眼血流が増加する報告10.13,22.28)と不変であるとする報告29.34)などさまざまな結果が報告されている.また,それらの対象が緑内障(POAG11,12,22.24,29,31),CNTG10,30)),緑内障疑い23),高眼圧症24,29,34)および正常症例13,25.28,32,33)などさまざまであり,血流測定部位(眼動脈24,29),網膜中心動脈12,24,31,34),視神経乳頭22,25.27,29,30,32,33),網膜22),脈絡膜13)),測定方法(カラードップラー12,24,26,29,31,34),CHeiderbergCRetinaCFlowmetry22,33),LSFG25,27,30,32))もさまざまである.本研究では,点眼前後の眼血流を,正常眼の黄斑部および視神経乳頭部においてCLSFGにより測定した.LSFGはわが国で開発された非侵襲的な血流解析装置で,一画角をC4秒間で走査することができる.得られた血流マップ上の任意の部位でCRBを設置し,該当部位の血流値を求める35).近年では,病態解明のために有用となる血流波形解析ソフトが開発されており,これらを用いた報告が散見されている25,27,30,32).LSFGによる血流計測は高い再現性をもち,眼底血流を任意の部位で観察することができる.ラタノプロスト点眼液の眼血流に与える影響は,眼圧下降による眼灌流圧上昇に伴う血流増加10.14)と,薬剤が末梢血管拡張作用15)をもつことがあげられる.本研究では,ラタノプロスト点眼後に眼圧は有意に減少したが(p<0.01),眼灌流圧には有意な変化はみられなかった.一方,血流値に関しては黄斑部,視神経乳頭全領域においてMBRは有意に上昇した(p<0.05).しかし,眼灌流圧変化率と血流値変化率には関連を認めず,眼圧下降による眼灌流圧の上昇に伴う変化が原因というよりも,薬剤の末梢血管拡張作用により血流の増加を示している可能性が考えられた.プロスタグランジンはアラキドン酸から生合成される生理活性物質の一つで,その代謝産物であるプロスタグランディンCF2CaはプロスタグランジンCI2を介して血管拡張作用を有する.Kimuraら21)の報告では,イヌの子宮動脈におけるプロスタグランジンの血管拡張作用発現時間は非常に早く,1.2分程度であると考えられている.本研究では,点眼後C2時間というわずかな時間内で血流が増加したという結果を得たが,これはプロスタグランジンの迅速な血管拡張作用によるものであると考えられた.その他のプロスタグランジン製剤による眼血流への影響についての報告もいくつか散見される.イソプロピルウノプロストン点眼において,牧本ら36)は,LSFGを使用し視神経乳頭部において眼血流が増加したと報告している.この報告では,1日C2回点眼をC21日間継続しており,長期点眼使用による眼圧下降に伴い眼灌流圧が上昇し,血流増加を呈したと推察している.一方,小蔦ら37)はイソプロピルウノプロストン点眼C3時間で視神経乳頭部および黄斑部の眼血流において有意に増加を示したが,6時間後では有意な変化がなく,本研究と同様に点眼後早期における薬剤の末梢血管拡張作用があることを示唆している.トラボプロスト11,24)やビマトロプロスト38)においても,カラードップラーでの計測により眼動脈血流が増加し,眼圧下降に伴う眼灌流圧上昇に伴う血流増加作用であると報告されている.緑内障をはじめとする眼底疾患における眼血流の把握においては,眼動脈よりも視神経乳頭および黄斑部血流動態を観察する必要性が高く,LSFGでの血流観察が適していると思われる.さらには,AOSLO(adaptiveCopticsCscan-ningClaserCopthalmoscopy)を用いた,タフルプロスト点眼後の黄斑部血流増加も報告されており,より緻密な黄斑部毛細血管の血流計測の有用性も注目されている39).多くの既報告で,眼圧下降に伴う眼灌流圧上昇により眼血流が増加したと報告されていたが,本研究では,ラタノプロスト点眼後早期における眼血流増加は,眼灌流圧変化率と血流値変化率には関連を認めず,眼圧非依存性のプロスタグランジン末梢血管拡張作用による可能性があると考えられた.しかし,本研究は症例数が少なく,血流測定も点眼前および点眼C2時間後のC2点のみである.点眼前後における眼灌流圧の結果もデータのばらつきもあり,統計学的に結果が不十分である可能性も考えられる.今後はさらに測定点を増加し,より詳細な血流変化を検討する必要があると考える.本研究では,ラタノプロスト点眼後早期における眼血流増加は,眼圧非依存性のプロスタグランジン末梢血管拡張作用による可能性があり,この血流変化をCLSFGにより鋭敏に把握することができたと考えられた.利益相反:飯田知弘(カテゴリーCF:バイエル製薬,ノバルティスファーマ,ニデック,興和,キヤノン)文献1)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C19982)DranceCS,CAndersonCDR,CSchulzerCMCetCal:RiskCfactorsCforprogressionofvisual.eldabnormalitiesinnormal-ten-sionglaucoma.AmJOphthalmolC131:699-708,C20013)AndersonCDR:CollaborativeCnormalCtensionCglaucomaCstudy.CurrOpinOphthalmolC14:86-90,C20034)ErnestCPJ,CSchoutenCJS,CBeckersCHJCetCal:AnCevidence-basedreviewofprognosticfactorsforglaucomatousvisualC.eldprogression.OphthalmologyC120:512-519,C20135)BudenzDL,AndersonDR,FeuerWJetal:DetectionandprognosticCsigni.canceCofCopticCdiscChemorrhagesCduringCtheCOcularCHypertensionCTreatmentCStudy.COphthalmolo-gyC113:2137-2143,C20066)BengtssonB,LeskeMC,YangZetal:DischemorrhagesandCtreatmentCinCtheCearlyCmanifestCglaucomaCtrial.COph-thalmologyC115:2044-2048,C20087)AraieM,SekineM,SuzukiYetal:Factorscontributingtotheprogressionofvisual.elddamageineyeswithnor-mal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC101:1440-1444,C19948)RockwoodEJ,AndersonDR:Acquiredperipapillarychang-esCandCprogressionCinCglaucoma.CGraefesCArchCClinCExpCOpthalmolC226:510-515,C19889)ZiaiCN,CDolanCJW,CKacereCRDCetCal:TheCe.ectsConCaque-ousCdynamicsCofCPhXA41,CaCnewCprostaglandinCF2CalphaCanalogue,CafterCtopicalCapplicationCinCnormalCandCocularChypertensiveChumanCeyes.CArchCOphthalmolC111:1351-1358,C199310)LiuCj,KoYC,ChengCYetal:E.ectoflatanoprost0.005%andbrimonidinetartrate0.2%onpulsatileocularblood.owCinCnormalCtensionCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC86:C1236-1239,C200211)CardasciaCN,CVetrugnoCM,CTrabuccoCTCetCal:E.ectsCofCtravoprosteyedropsonintraocularpressureandpulsatileocularblood.ow:a180-day,randomized,double-maskedcomparisonCwithClatanoprostCeyeCdropsCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CCurrCTherCResCClinCExpC64:389-400,C200312)ErkinCEF,CTarhanCS,CKayikciogluCORCetCal:E.ectsCofCbetaxololCandClatanoprostConCocularCbloodC.owCandCvisualC.eldsinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.EurJOphthalmolC14:211-219,C200413)BoltzA,SchmidlD,WeigertGetal:E.ectoflatanoprostonCchoroidalCbloodC.owCregulationCinChealthyCsubjects.CInvestOphthalmolVisSciC52:4410-4415,C201114)VertrugnoCM,CCantatoreCF,CGiganteCGCetCal:Latanoprost0.005%CinCPOAG:e.ectsConCIOPCandCocularCbloodC.ow.CActaOphthalmolScandSupplC227:40-41,C199815)KimuraT,YoshidaY,TodaN:Mechanismsofrelaxationinducedbyprostaglandinsinisolatedcanineuterinearter-ies.AmJObsetGynecolC167:1409-1416,C199216)BonomiCL,CMarchiniCG,CMarra.aCMCetCal:VascularCriskfactorsforprimaryopenangleglaucoma:theEgna-Neu-marktStudy.OphthalmologyC107:1287-1293,C200717)TielschJM,KatzJ,SommerAetal:Hypertension,perfu-sionpressure,andprimaryopen-angleglaucoma.Apopu-lation-basedCassessment.CArchCOphthalmolC113:216-221,C199518)LeskeMC,Heijl,HymanLetal:Predictorsoflong-termprogressionintheearlymanifestglaucomatrial.Ophthal-mologyC114:1965-1972,C200719)FlammerJ,OrgulS,CostaVPetal:TheimpactofocularbloodC.owCinCglaucoma.CProgCRetinaCEyeCResC21:359-393,C200220)HarrisCA,CRechtmanCE,CSieskyCBCetCal:TheCroleCofCopticCnerveCbloodC.owCinCtheCpathogenesisCofCglaucoma.COph-thalmolClinNorthAmC18:345-353,C200521)NakanishiY,NakamuraM,MukunoHetal:Latanoprostrescuesretinalneuro-glialcellsfromapoptosisbyinhibit-ingCcaspase-3,CwhichCisCmediatedCbyCp44/p42Cmitogen-activatedCproteinCkinase.CExpCEyeCResC83:1108-1117,C200622)GherghelD,HoskingSL,Cunli.eIAetal:Eye.First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocu-larCcirculationCinCnewlyCdiagnosedCprimaryCopen-angleglaucomaCpatients:aCprospective,C6-month,Copen-labelCstudy.EyeC22:363-369,C200823)SponselWE,ParosG,TrigoYetal:Comparativee.ectsofClatanoprost(Xalatan)andCunoprostone(Rescula)inCpatientswithopen-angleglaucomaandsuspectedglauco-ma.AmJOphthalmolC134:552-559,C200224)KozCOG,COzsoyCA,CYarangumeliCACetCal:ComparisonCofCtheCe.ectsCofCtravoprost,ClatanoprostCandCbimatoprostConocularCcirculation:aC6-monthCclinicalCtrial.CActaCOphthal-molScandC85:838-843,C200725)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:E.ectsoftopi-calClatanoprostConCopticCnerveCheadCcirculationCinCrabbits,Cmonkeys,CandChumans.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:C2957-2963,C200126)TamakiCY,CNagaharaCM,CAraieCMCetCal:TopicalClatano-prostCandCopticCnerveCheadCandCretinalCcirculationCinChumans.JOculPharmacolTherC17:403-411,C200127)廣石悟朗,廣石雄二郎,藤居仁ほか:ラタノプロスト点眼とイソプロピルウノプロストン点眼による正常人乳頭循環への影響.眼臨100:303-306,C200628)GeyerCO,CManCO,CWeintraubCMCetCal:AcuteCe.ectCofClatanoprostConCpulsatileCocularCbloodC.owCinCnormalCeyes.CAmJOphthalmolC131:198-202,C200129)NicolelaMT,BuckleyAR,WalmanBEetal:AcomparaC-tiveCstudyCofCtheCe.ectsCofCtimololCandClatanoprostConCblood.owvelocityoftheretrobulbarvessels.AmJOph-thalmolC122:784-789,C199630)SugiyamaCT,CKojimaCS,CIshidaCOCetCal:ChangesCinCopticCnerveCheadCbloodC.owCinducedCbyCtheCcombinedCtherapyCofClatanoprostCandCbetaCblockers.CActaCOphthalmolC87:C797-800,C200931)MartinezCA,CSanchezCM:ACcomparisonCofCtheCe.ectsCof0.005%ClatanoprostCandC.xedCcombinationCdorzolamide/CtimololConCretrobulbarChaemodynamicsCinCpreviouslyCuntreatedCglaucomaCpatients.CCurrCMedCResCOpinC22:C67-73,C200632)南雲日立,萩原直也,伊藤賢司ほか:ラタノプロスト点眼による夜間の眼血流量と眼圧の変化.臨眼C57:483-485,C200333)SeongCGJ,CLeeCHK,CHongCYJ:E.ectsCofC0.005%Clatano-prostConCopticCnerveCheadCandCperipapillaryCretinalCbloodC.ow.OphthalmologicaC213:355-359,C199934)AkarsuC,BilgiliYK,TanerPetal:Short-terme.ectoflatanoprostConCocularCcirculationCinCocularChypertension.CClinExpOphthalmolC32:373-377,C200435)小暮朗子:LaserCSpeckleCFlowgraphy.臨眼C69:1764-1773,C201536)牧本由紀子,杉山哲也,小蔦祥太ほか:イソプロピルウノプロストン長期点眼の網脈絡膜循環に及ぼす影響.日眼会誌104:39-43,C200037)小蔦祥太,杉山哲也,東郁郎ほか:イソプロピルウノプロストン点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.日眼会誌C101:605-610,C199738)InanCUU,CErmisCSS,COrmanCACetCal:TheCcomparativeCcardiovascular,Cpulmonary,CocularCbloodC.ow,CandCocularChypotensivee.ectsoftopicaltravoprost,bimatoprost,bri-monidine,andbetaxolol.JOculPharmacolTherC20:293-310,C200439)IidaCY,CAkagiCT,CNakanishiCHCetCal:RetinalCbloodC.owCvelocityCchangeCinCparafovealCcapillaryCafterCtopicalCta.u-prostCtreatmentCinCeyesCwithCprimaryCopen-angleCglauco-ma.SciRepC7:5019,C2017***