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眼科IC支援システム「iCeyeアイシーアイ」を用いた 緑内障理解度調査

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1127.1132,2018c眼科IC支援システム「iCeyeアイシーアイ」を用いた緑内障理解度調査猪口宗太郎*1井上賢治*1高橋篤史*2川添賢志*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2大宮・井上眼科クリニック*3東邦大学医療センター大橋病院眼科GlaucomaIntelligibilityInvestigationUsinganOphthalmologySupportSystem(iCeye)SoutarouInoguchi1),KenjiInoue1),AtsushiTakahashi2),KenjiKawazoe2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)OmiyaInouyeEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:眼科医療施設に勤務する職員に眼科知識の習得は不可欠である.緑内障に関しては緑内障ハンドブック(以下,テキスト)を用いて講義を行っていたが,それ以外に眼科知識の習得に有効なツールを検討した.対象および方法:2017年C3.4月に井上眼科病院グループの有志事務職員C39名(男性C23名,女性C16名)を対象としてアイシーアイ(以下,動画)とテキストを閲覧後,緑内障の理解度を0.4点のC5段階で評価し,比較した.緑内障概要,眼圧,視野欠損,自覚症状,緑内障の見え方のC5項目を用いた.結果:理解度の評価の平均点数は,緑内障概要は動画C3.4C±0.5点,テキストC3.0C±0.7点,眼圧は動画C3.3C±0.6点,テキストC3.0C±0.8点,視野欠損は動画C3.4C±0.6点,テキストC2.8C±0.8点,自覚症状は動画C3.3C±0.6点,テキストC3.2C±0.5点,緑内障の見え方は動画C3.5C±0.6点,テキストC3.0C±0.7点であった.緑内障概要,視野欠損,緑内障の見え方のC3項目で動画がテキストに比べ点数が有意に高かった(p<0.05).結論:緑内障に対しての理解を得るためのツールとして動画がより有用であることが示唆された.CPurpose:WeCinvestigatedCglaucomaCcomprehensionCusingCiCeye(videoCtutorial)andChandbook.CMethods:AtotalCofC39ChealthyCvolunteers(23Cmales,C16Cfemales)wereCincluded.CACquestionnaireCsurveyCwasCconductedCandCscoredaftervideotutorialandhandbookcompletion,toinvestigatethecomprehensionofglaucomade.nition,intra-ocularCpressure(IOP)C,CvisualC.eldCdefects,CsubjectiveCsymptomsCandCvisionCloss.CResults:TheCrespectiveCcompre-hensionscoresaftervideotutorialandhandbookcompletionwere3.4±0.5and3.0±0.7forglaucomade.nition,3.3C±0.6and3.0±0.8forIOP,3.4±0.6and2.8±0.8forvisual.elddefects,3.3±0.6and3.2±0.5forsubjectivesymp-toms,3.5±0.6and3.0±0.7forvisionloss.Comprehensionofglaucomade.nition,visual.elddefectsandvisionlossafterCvideoCcompletionCwasCsigni.cantlyChigherCthanCafterChandbookCcompletion(p<0.05)C.CConclusions:VideoCtutorialandhandbookwereequallye.ectiveinimprovingglaucomacomprehension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1127.1132,C2018〕Keywords:眼科医療施設,緑内障教育,動画,テキスト.eyehospital,glaucomacomprehension,videotutorial,handbook.Cはじめに眼科向けインフォームド・コンセント支援ソフトウェア「iCeye(アイシーアイ)」(ミミル山房製作,以下,動画)は東京都眼科医会監修の眼科患者へのインフォームド・コンセントの支援用に作られた疾患解説動画コンテンツである.さまざまな眼科疾患について具体的にイメージできることを目的として製作された.病状の動画ではシミュレーション映像やコンピュータグラフィックを効果的に用いて疾患の部位や症状,治療方法などを詳しくわかりやすい言葉で説明している.『緑内障ハンドブック』(参天製薬発行.以下,テキスト)は「緑内障について」「治療について」「日常生活について」のC3項目に分けて,最新の情報をCQ&CA形式でわかりやすく説明している.日本眼科医会と日本緑内障学会の監修のも〔別刷請求先〕猪口宗太郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SoutarouInoguchi,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(121)C1127とに製作された.患者がこのテキストを読むことで緑内障に対する理解を深めることができる.また,別冊の緑内障手帳を医師とのコミュニケーション手段の一つとして活用することで,患者に安心して治療を受けてもらうことを目的としている.井上眼科病院グループでは従来から職員の眼科疾患に対する教育にテキストを用いた講義を行っていたが,職員が眼科疾患について正しく理解できているか不明であった.そこで新たにテキスト以外に有効なツールはないか模索していた.そのころ動画の存在を知り,動画を使用することで眼科疾患についての理解度が向上すると考えた.今回,職員の眼科疾患に対する教育に動画を導入する前にテキストと比較し,動画の効果を緑内障を題材として検討した.CI対象および方法2017年C3.4月に井上眼科病院グループに勤務している事務職員C39名(男性23名,女性C16名,平均年齢C39C±9歳)で,緑内障の病歴がなく,緑内障の予備知識のない有志職員を対象とした.「緑内障の概要」「眼圧とは」「視野欠損の仕組み」「自覚症状がないのはなぜか」「緑内障患者の見え方」の動画テキスト図1「眼圧とは」動画とテキスト同様の図動画テキスト図2「視野欠損の仕組み」動画とテキスト同様の図動画テキスト図3「緑内障患者の見え方」動画とテキスト同様の図動画テキスト図4「緑内障の概要」動画とテキスト同様の文5項目についての最初に動画による視聴と,次にテキストの閲覧を行った.動画とテキストを比較して,「眼圧とは」「視野欠損の仕組み」「緑内障患者の見え方」のC3項目については同様の図があり(図1~3),「緑内障の概要」「自覚症状がないのはなぜか」のC2項目については,テキストに図が表示されておらず,文章のイメージに近い動画を選び比較した(図4,5).具体的にはまず全員でモニター画面により,前述したC5項目についての約C10分間の動画視聴を行い,その後,同様にC5項目のテキストを配布し,時間制限なしで閲覧した.そのうえで各々の理解度を動画,テキストともにC5段階に分け評価し,点数化した.「とても理解できた」4点,「理解できた」3点,「どちらともいえない」2点,「わかりにくかった」1点,「まったくわからない」0点とした.動画とテキストの点数を比較した.統計学的解析にはCc2検定を用い,有意水準はCp<0.05とした.また,各項目についての感想を動画,テキストともに記載した.有志職員へのインフォームド・コンセントと井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得た.動画テキスト図5「自覚症状はないのはなぜか」動画とテキスト同様の文どちらともどちらともまったくわからない,いえない,いえない,1名,3%動画テキスト図6「緑内障の概要」の理解度II結果1.「緑内障の概要」(図6,表1)動画の点数はC3.4C±0.5点で,内訳は「とても理解できた」17名(44%)「理解できた」21名(54%)「どちらともいえない」1名(2,%)「わかりにくかった」0名,(0%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC3.0±0.7点で,内訳は「とても理解できた」6名(15%),「理解できた」30名(77%),「どちらともいえない」2名(5%)「わかりにくかった」0名(0%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.4C±0.,5点)のほうがテキスト(3.0C±0.7点)より点数が有意に高かった(p<0.05).感想として動画では,「音声と動画で解説するため理解しやすい」,テキストでは,「自分のペースで何度でも読み返すことができて理解しやすい」などがあげられた.C2.「眼圧とは」(図7)動画の点数はC3.3C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」1130あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018表1動画とテキストの理解度の比較動画(点)テキスト(点)p値緑内障の概要C3.4±0.5C3.0±0.7p<C0.05眼圧についてC3.3±0.6C3.0±0.8Cp=0.5684視野欠損の仕組みC3.4±0.6C2.8±0.8p<C0.05自覚症状がないのはなぜかC3.3±0.6C3.2±0.5Cp=0.4478緑内障患者の見え方C3.5±0.6C3.0±0.7p<C0.0513名(33%)「理解できた」24名(61%)「どちらともいえない」1名(3,%)「わかりにくかった」1名,(3%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC3.0±0.8点で,内訳は「とても理解できた」8名(20%),「理解できた」26名(67%),「どちらともいえない」2名(5%)「わかりにくかった」2名(5%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.3C±0.6,点)とテキスト(3.0C±0.8点)の間に点数に有意差はなかった(p=0.5684).感想として動画では,「動く映像でみるとわかりやすい」,テキストでは,「図とイラストがあるためわかりやすい」などがあげられた.C3.「視野欠損の仕組み」(図8)動画の点数はC3.4C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」17名(44%)「理解できた」20名(51%)「どちらともいえない」2名(5,%)「わかりにくかった」0名,(0%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC2.8±0.8点で,内訳は「とても理解できた」5名(13%),「理解できた」25名(64%),「どちらともいえない」6名(15%)「わかりにくかった」2名(5%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.4C±0.,6点)のほうがテキスト(2.8C±0.8点)より点数が有意に高かった(p<0.05).感どちらともわかりにくかった,わかりにくかった,2名,5%どちらともまったくわからない,いえない,1名,3%まったくわからない,いえない,わかりにくかった,1名,3%1名,3%どちらとも1名,3%2名,5%2名,5%いえない,2名,5%動画テキスト図7「眼圧とは」の理解度動画テキスト図9「自覚症状がないのはなぜか」の理解度想として動画では,「視野欠損の経過がわかった」,テキストでは,「実際の映像でないので想像し難い」などがあげられた.C4.「自覚症状がないのはなぜか」(図9)動画の点数はC3.3C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」14名(36%)「理解できた」23名(59%)「どちらともいえない」2名(5,%)「わかりにくかった」0名,(0%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC3.2±0.5点で,内訳は「とても理解できた」9名(23%),「理解できた」27名(69%),「どちらともいえない」3名(8%)「わかりにくかった」0名(0%)「まったくわからない」0,名(0%)であった.動画(3.3C±0.6,点)とテキスト(3.2C±0.5点)の間に点数に有意差はなかった(p=0.4478).感想として動画では,「見え方の動画だと緑内障の怖さが伝わりやすい」,テキストでは,「文章の説明だと恐怖心が伝わりにくい」などがあげられた.C5.「緑内障患者の見え方」(図10)動画の点数はC3.5C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」22名(56%)「理解できた」16名(41%)「どちらともいえない」1名(3,%),「わかりにくかった」0名,(0%),「まっ動画テキスト図8「視野欠損の仕組み」の理解度どちらともいえない,まったくわからない,1名,3%どちらともいえない,1名,3%4名,10%動画テキスト図10「緑内障患者の見え方」の理解度たくわからない」0名(0%)であった.テキストの点数は,C3.0±0.7点で,内訳は「とても理解できた」6名(15%),「理解できた」28名(72%),「どちらともいえない」4名(10%)「わかりにくかった」0名(0%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.5C±0.,6点)のほうがテキスト(3.0C±0.7点)より点数が有意に高かった(p<0.05).感想として動画では,「実際の見え方を映像でみられてわかりやすかった」,テキストでは,「文字だけでも理解できるが映像のほうが理解しやすい」などがあげられた.CIII考按医師は緑内障の病態を説明する際に眼球の断面図や模型を用いて説明し,さらにパンフレットなどを渡すことが一般的である.しかし,徐々に変化する病態や症状については,動画を用いたほうがわかりやすいと考えた.緑内障患者に対して医師や看護師が疾患を説明する際に,動画を用いることで患者の理解度が向上することが理想である.そこで緑内障患者に動画の視聴を試行する前に,今回は当院有志職員を対象に疾患への理解を促進する教育を行うことを想定して,動画の効果判定をテキストと比較することで検討した.今回動画表2動画とテキストのメリット,デメリットテキスト動画メリット・家に持ち帰り何回も見なおすことができる.・どこでも好きなときに好きな場所で見られる.・自分のペースで進められる.・どこをどうするといったことが一々説明する必要はない.・一目でわかりやすく,短い時間で説明することができる.・豊富な情報量を一気に見ることができる.デメリット・情報更新時に印刷をしなければならないため,時間がかかる.・保管しなければならないため,かさばる.・視機能が著しく低下している患者には理解が困難・パソコンなどの環境が整っていないと見ることができない.・パソコンやモバイルの故障時には使用できない.・視機能が著しく低下している患者には理解が困難として用いたCiCeyeによる眼科疾患の理解の検証は過去にない.さらに一般的な動画の有用性については緑内障の疾患説明に関しては過去に報告はないが,白内障手術や婦人科での化学療法オリエンテーションの説明では報告されている1,2).川上ら1)は,白内障手術の説明に際して,5分程度のCDVD(内容は「眼の構造」「白内障の病状説明」「白内障手術について」「白内障手術に伴うリスクについて」「手術後の見え方」「手術後の生活について」)を患者に視聴してもらったあと,医師が手術説明を行うこととした.その結果,医師の手術説明時間は短縮し,患者の理解度も向上した.しかし,高齢者,難聴を有する者,あるいは理解力が乏しい患者には理解がむずかしいと指摘している.また,横田ら2)は婦人科における化学療法オリエンテーションにおいて,DVDによる説明は視覚・聴覚ともに働きかけることができるため,言葉や文字だけでは伝わりにくい内容も映像を見ることでイメージしやすいと述べている.動画のもつ情報の伝達力は「3Vの法則」からも明らかである3).3Vとは「Verbal(言語)」「Vocal(聴覚)」「Visual(視覚)」のことで,3Vは人間の記憶に影響をもたらすものである.それぞれの「V」の与える影響の割合はCVerbalがC7%,VocalがC38%,VisualがC55%で,動画には「文字」「音声」「映像」のすべての情報が入っていることからその情報量は単純にテキストや写真と比較してC5,000倍ともいわれている.今回の調査でも視野欠損の過程や緑内障患者の見え方などは,動画のほうが症状の進行による変化をよりイメージしやすいと推測された.しかし,動画にもデメリットがあり,パソコンやスマートフォンなどの環境が整っていないと見ることができないことや,機械の故障時は使用できないことである(表2).テキストに関しては今回の調査ではテキストを配布して各自で閲覧した.しかし,緑内障患者へ疾患の説明を行う際には,医師や看護師が補足することで,より理解度が深まると考えられる.また,「緑内障の概要」については,テキストでは医学用語が多用されているため理解が困難で評価が低かったと考えられる.今回はテキスト,動画ともに内容の理解度を調査したので視聴や閲覧の順番は関係ないと考えて動画の視聴後にテキスト閲覧を行うことに統一した.テキストのメリットは持ち帰ることができ,どんなときでも好きな場所で自分のペースで読み返すことができることである.デメリットは情報更新時に毎回印刷をしなければならないこと,保管をしなければならないため場所を必要とすることである.動画とテキストに共通するデメリットは視機能が著しく低下した患者にはいずれも不向きなことである.緑内障に対して理解を得るためのツールとして動画の視聴はテキストの閲覧と同様に有効であると考えられる.今後は緑内障患者へ緑内障の病態や治療の重要性を説明する際にも動画が有効であるかの検討を行う必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川上礼子,櫻田菊代,村上ルミ子ほか:白内障手術患者に対する術前説明CDVD導入の効果.日本視機能看護学会誌C1:134-135,C20162)横田恵美子,濱崎正子,岡島真理子:DVDを使用した婦人科初回化学療法オリエンテーションを実施して.第C44回日本看護学会論文集(看護総合).p102-105,20143)竹内一郎:人は見た目がC9割.p18-20,新潮社,2005***

上方視神経部分低形成症例のOCT Angiography

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1122.1126,2018c上方視神経部分低形成症例のOCTAngiography伊藤翔平*1澤田有*1石川誠*1吉冨健志*1徐魁.*2*1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座*2おのば眼科COpticalCoherenceTomographyAngiographyofSuperiorSegmentalOpticNerveHypoplasiaShoheiIto1),YuSawada1),MakotoIshikawa1),TakeshiYositomi1)andKaiiJoh2)1)DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversitySchoolofMedicine,2)OnobaEyeClinic目的:上方視神経部分低形成(superiorCsegmentalCopticCnerveChypoplasia:SSOH)について,光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyCangiography:OCTA)による網膜毛細血管の状態を評価した.対象および方法:SSOH2例C2眼(62歳,男性およびC40歳,女性)について,OCTAを用いて網膜毛細血管を撮像した.2例とも健診で網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)欠損を指摘され,検眼所見,OCT所見,視野所見よりCSSOHと診断された.結果:2例ともCRNFLの欠損部位に一致し網膜毛細血管の密度の低下を認めた.結論:SSOHではCRNFL欠損に一致した網膜血管密度の低下が認められることがCOCTAによって示された.CPurpose:ToCinvestigateCopticCdiscCmicrocirculationCinCeyesCwithCsuperiorCsegmentalCopticCnerveChypoplasia(SSOH)usingCopticalCcoherenceCtomographyCangiography(OCTA).CMethods:TwoCeyesCwithCSSOHCwereCexam-inedbyOCTAina62-year-oldmaleanda40-year-oldfemale.Theyshowedthinningoftheretinalnerve.berlayer(RNFL)andCwereCdiagnosedCasCSSOHCbyCopticCdiscCappearanceCandCRNFLCthickness,CbasedConCOCTCmea-surementsandthecorrespondingvisual.eld.Result:OpticdiscmicrocirculationinthetwoeyeswasreducedinRNFLthicknessarea.Conclusions:OCTA.ndingsrevealedthatmicrovasculardensityisreducedinRNFLdefectareainSSOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1122.1126,C2018〕Keywords:上方視神経部分低形成,光干渉断層血管撮影,網膜血管密度低下.superiorsegmentalopticnervehypoplasia,opticalcoherencetomographyangiography,retinalmicrovasculardensityreduction.Cはじめに近年,光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phyangiography:OCTA)を用いた緑内障眼の観察が行われるようになってきており,網膜神経線維層(retinalnerve.berClayer:RNFL)欠損に一致した網膜表層血管の減少が報告されている.一方,同様にCRNFL欠損をきたす疾患である上方視神経部分低形成(superiorsegmentalopticnervehypoplasia:SSOH)について,OCTAによる網膜毛細血管の状態の報告はまだない.今回,筆者らはCSSOHのC2例についてCOCTAを用いた網膜毛細血管の状態の評価を行い,興味ある知見を得たので報告する.CI症例〔症例1〕62歳,男性.主訴:健康診断の二次検診.家族歴・既往歴:特記すべきことなし.現病歴:平成C24年C10月,健康診断で右眼CRNFL欠損を指摘された.初診時検査所見:視力は右眼C0.06(1.2×.4.0D),左眼0.04(1.2×.5.0D).眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C17CmmHg.前眼部.中間透光体に特記すべき所見なし.眼底検査では,右眼視神経乳頭鼻上側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位を認めた(図1).光干渉断層撮影(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼の視神経乳頭上方に網膜菲薄〔別刷請求先〕伊藤翔平:〒010-8543秋田県秋田市広面蓮沼C44-2秋田大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:ShoheiIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversitySchoolofMedicine,44-2HiroomoteHasunuma,Akita-shi,Akita010-8543,JAPAN1122(116)ab図1症例1:両眼乳頭周囲所見a:右眼,b:左眼.右眼では網膜中心動脈の上方偏位,視神経乳頭鼻上側のCRNFL欠損を認めた.C図2症例1:OCT所見a:右眼,b:左眼.両眼とも上方CRNFLの菲薄化を認めた.C図3症例1:動的視野検査a:右眼,b:左眼.右眼ではCMariotte盲点に連続する楔状の視野欠損を認めた.C化を認めた(図2).Goldmann視野検査にて,右眼にCMari-主訴:健康診断の二次検診.otto盲点より下方に連なる楔状の視野欠損を認めた(図3).家族歴・既往歴:特記すべきことなし.CirrusCOCT(modelC5000,CCarlCZeissCMeditec)にてCOCTA現病歴:平成C29年C6月,健康診断で左眼CRNFL欠損を指を施行したところ,右眼の乳頭上方を中心とした網膜菲薄化摘された.部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた(図4).初診時検査所見:視力は右眼C0.7Cp(1.2C×.0.5D(cyl.1.0〔症例2〕40歳,女性.DAx95°),左眼0.7p(1.2C×.0.25D(cyl.1.25DCAx85°).図4症例1:OCTA所見a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた.C図5症例2:両眼乳頭周囲所見a:右眼,Cb:左眼.網膜中心動脈の上方偏位,乳頭耳上側のCdoubleCringCsign,左眼視神経乳頭の鼻上側にRNFL欠損を認めた.C図6症例2:OCT所見a:右眼,b:左眼.両眼とも上方CRNFLの菲薄化を認めた.左眼は下方の菲薄化も認めた.C眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C13CmmHg.前眼部.中間透光Goldmann視野検査では,左眼耳下側に視野欠損を認めた帯に特記すべき所見なし.眼底検査では,左眼視神経乳頭鼻(図7).CirrusOCTにてCOCTAを施行したところ,左眼の上側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位,乳頭耳上側乳頭鼻側上下の網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血のCdoubleCringCsignを認めた(図5).OCTでは左眼の乳頭管の減少を認めた(図8).上下方および右眼の乳頭上方に網膜菲薄化を認めた(図6).図7症例2:動的視野検査a:右眼,b:左眼.左眼では耳下側の扇状の視野欠損を認めた.C図8症例2:OCTA所見a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた.II考按SSOHは,上方の網膜神経線維が欠損する先天性非進行性の疾患である1,2).視力は良好であり,神経線維の欠損に対応する特徴的な下方の楔状視野欠損がみられる.日本人における有病率は多治見スタディにおいてC0.3%であることが示された3).Kimらによって四つの特徴的な所見が示され4)それらは1)上方のCRNFL欠損,2)網膜中心動脈の上方偏,位,3)乳頭上半の蒼白化,4)乳頭上方のCdoubleCringCsignである.これらすべてを満たさない症例も多く,4徴候のなかでは乳頭上方のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位が多いといわれる5).診断は,特徴的な眼底所見,Goldmann視野検査所見,OCTによる視神経乳頭周囲網膜菲薄化の検出によってなされる.本報告において,症例C1では乳頭上鼻側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位と,盲点より下方耳側に広がる典型的な楔状視野欠損よりCSSOHと診断した.症例C2ではCRNFL欠損と網膜中心動脈の上方偏位に加え,doubleringsignが認められた.SSOHでは視神経軸索が区画性に欠落し,視神経の径が細く,強膜.篩状板境界よりも内側まで網膜・色素上皮が存在し,その内側が検眼鏡的に乳頭部となるために,その解剖学的なずれによりCdoubleringCsignが生じる.また,症例C2では上方だけでなく,下方のCRNFL欠損も認められた.SSOHでは上方以外にも下方・鼻側の視神経低形成を合併することも多く,このことから,これらの先天性視神経異常は,視神経部分低形成という共通の疾患概念でまとめられるもので,SSOHはそのなかでもっとも高頻度に認められる一亜型ではないかと考えられている6).さらに,本報告ではC2症例とも,片眼性にCSSOHに典型的な眼底所見とそれに伴う楔状の視野欠損を認めたが,その僚眼にも,視野障害は生じていないものの患眼と同様なC上方の網膜菲薄化を認めた.このことから,これらのC2症例の視神経低形成は両眼性であるが,患眼と僚眼の間でその程度に差があることが考えられた.SSOHの視野障害は緑内障と類似しているため,診断には緑内障との鑑別が必要になるが,SSOHの特徴としてCRNFL欠損が乳頭上方から鼻側にかけ扇形に広がること,視野障害の部位が下方であり,盲点に連なり耳側に向かうことがあげられる7).緑内障では初期にはCRNFL欠損をアーケード内に認めることが多く,horizontalsplitに伴う鼻側階段を認めることが多い.本症例では典型的な眼底所見および視野障害パターンよりCSSOHと診断したが,緑内障と鑑別するには,10年程度の長期の経過観察のうえで視野進行がみられないことを確認する必要がある.本研究ではCSSOH症例にCOCTAを施行し,視神経乳頭上方のCRNFL欠損部位に一致した血管密度の低下を認めた.OCTAは眼底の血流状態を毛細血管レベルで抽出することができる画期的な技術である.造影剤を使用しないため薬剤アレルギーを心配する必要がなく,短時間で高い再現性をもつ画像を得ることができるため,今後使用される可能性が高まることが予想される.OCTAは網膜血管閉塞など網脈絡膜病変の診療においておもに利用されているが,そのほかの分野でも応用が広まりつつある.緑内障の分野では,視神経乳頭周囲網膜および乳頭内部の血流状態について知見が集積されつつある8,9).視神経乳頭周囲の網膜表層には放射状乳頭周囲毛細血管網(radialCperipapillaryCcapillary:RPC)が存在するが,緑内障眼ではこのCRPCの密度が病期の進行に伴い低下することが報告されている.具体的には,RPC密度はCHumphrey視野検査のCMD値,OCTによるCRNFL厚,視神経細胞節複合体(ganglioncellcomplex:GCC)と相関し,とくにCGCCと相関が強いことが報告されている.また,このCRPCの減少部位はCRNFL欠損部位と一致するため,RPCの脱落部位から視神経の障害部位を推測することができる.RPCの脱落はCRNFL層の菲薄化に伴い二次的に生じると推測されている.緑内障眼では視神経乳頭における血流密度も健常眼と比較して減少している.視神経乳頭は組織深度によって血流供給源が異なっているが,緑内障では篩状板前組織の血管密度が減少していることが示されている.本研究では,SSOH症例にCOCTAを施行し,上鼻側のRNFL欠損の部分に一致したCRPCの減少を認めた.SSOHにおいてこのような所見を報告するのは,筆者らの知る限り本報告が初めてである.このことは,SSOHにおいて,特徴的な臨床所見に加え,OCTAによる上鼻側のCRPC脱落の検出が診断に役立つ可能性を示唆している.以上,本研究ではCSSOH症例におけるCOCTA所見について報告した.SSOH症例は加齢に伴い緑内障を合併し,治療対象となることも多く,今後は,進行の有無についてCOCTA検査も含め定期的に経過観察する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)PetersenCRA,CWaltonCDS:OpticCnerveChypoplasiaCwithCgoodCvisualCacuityCandCvisualC.eldCdefects.CArchCOphthal-molC95:254-258,C19772)布施昇男,相澤奈帆子,横山悠ほか:SuperiorCsegmen-talCopticChypoplasia(SSOH)の網膜神経線維層厚の解析.日眼会誌116:575-580,C20123)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiaCfoundCinCTajimiCEyeCHealthCCareCProjectCpar-ticipants.JonJOphthalmolC48:578-583,C20044)KimRY,WilliamFH,SimmonsLetal:Superiorsegmen-talCopticChypoplasia.CACsignCofCmaternalCdiabetes.CArchCOphthalmolC107:1312-1315,C19895)HashimotoCM,COhtsukaCK,CNakagawaCTCetCal:ToplessCopticCdiskCsyndromeCwithoutCmaternalCdiabetesCmellitus.CAmJOphthalmolC128:111-112,C19996)新田耕治,杉山和久:緑内障に類似した所見(SSOHなど).眼科52:1548-1554,C20107)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神経眼科24:426-432,C20078)JiaCY,CWeiCE,CWangCXCetCal:OpticalCcoherenceCtomogra-phyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Oph-thalmologyC121:1322-1332,C20149)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:Microvasculardensityinglaucomatouseyeswithhemi.eldvisual.elddefects:Canopticalcoherencetomographyangiography.AmJOph-thalmolC168:237-249,C2016***

アイモ24plus(1)の使用経験とHumphrey視野計との比較

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1117.1121,2018cアイモ24plus(1)の使用経験とHumphrey視野計との比較北川厚子.清水美智子.山中麻友美北川眼科医院ExperienceinUsing“imo”24plus(1)andComparisonwithHFAAtsukoKitagawa,MichikoShimizuandMayumiYamanakaCKitagawaEyeClinic目的:アイモC24plus(1),AIZEとCHumphrey視野計(HFA)30-2,SITA-Standardの比較.対象および方法:過去C1年以内にCHFA検査を受け,次にアイモ検査を受け,ともに検査内容をよく理解し,固視良好で,信頼性の高い25例50眼(平均年齢57.4C±10.3歳)を対象とし,アイモ,HFAそれぞれのCMD値,PSD値,VFI値,両眼トータル検査時間を対応のあるCt検定を用いて比較検定した.また,アイモ検査後にアンケート調査を行った.結果:アイモおよびCHFAのCMD値,PSD値,VFI値,検査時間はそれぞれ順に,アイモ(C.3.4±2.9dB,5.0C±3.4dB,92C±9%,5.8C±0.9分),HFA(C.3.4±3.6CdB,5.2C±4.0CdB,93C±10%,14.5C±2.1分)であった.MD,PSD,VFIは両者に有意差がなく,検査時間は,アイモが有意に短かった.アイモ検査後に行ったアンケート調査では検査時間が短く,両眼解放下の検査が楽との理由から,88%の患者が次回の視野検査はアイモを選択した.結論:比較的年齢の若い早期.中期の緑内障では,アイモC24plus(1)はCHFA30-2の結果とよく相関し,また両眼開放下に短時間に行えることにより検査のストレスが軽減された.Theaimofthisstudyistocompare“imo”24plus(1)C,AIZEwithHFA30-2,SITA-Standard.Inthisstudy,50eyesof25glaucomapatients(57.4C±10.3yearsofage)whohadgood.xationunderwentHFAtestingwithinthepreviousyearandthenthe“imo”test.Wecomparedthemusingt-examination.InspectionitemswereMD,PSD,VFIandtotaltimefortestingbotheyes.Aquestionnairesurveywastakenafter“imo”testing.Resultof“imo”forMD,PSD,VFIandtestingtimewas.3.4±2.9CdB,5.0±3.4CdB,92±9%and5.8C±0.9minutes;thatforHFAwas.3.4±3.6CdB,5.2±4.0CdB,93±10%and14.5C±2.1minutes.Therewasnosigni.cantdi.erenceexceptininspectiontime,whichissigni.cantlyshorterusing“imo”thanHFA.Thequestionnaireresultshowsthat88%ofthepatientschosetohavecampimetryusing“imo”becauseinspectiontimeisshorteranditiseasytoundergowithbotheyesopen.CInCmiddle-agedCpatientsCwithCearlyCorCmiddle-stageCglaucomaCtheCresultCof“imo”andCHFACareCcorrelated.CAlso,“imo”reducedthestressofvisual.eldtestingthroughshortertestingtimeandtestingwithoutocclusion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1117.1121,C2018〕Keywords:視野,アイモC24plus(1),両眼開放下検査,検査時間.visual.eld,“imo”24plus(1)C,binocularran-domsingleeyetest,testingtime.Cはじめに新しいコンセプトのもと開発された静的視野計「アイモCR」を緑内障患者に使用し,従来のHumphrey視野計(Humphrey.eldCanalyzer:HFA)と比較検討した.アイモはコンパクトで持ち運べるヘッドマウント型の視野計で暗室環境を必要とせず,両眼の視野を同時に測定することが可能となっている(図1).しかしながら重さがC1.8Ckgあり,最短C5分間の検査でも頭部の安定性に欠ける例もあることから,スタンドに接合した据え置き仕様を用い,安定した頭部固定のもと検査を行った(図2).アイモは透過型フルCHDのCLCD,および高輝度CLEDバックライトを使用し,HFAと同じ条件下で視野検査が可能である.また,左右眼で独立した光学系を搭載しており,被検者の両眼開放された各眼に個別に視標を呈示する.被検者は〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,CJAPAN両眼を開放したまま左右両方に表示される固視標を融像,固視しながら検査を受けることとなる(図3).また,近赤外線カメラで左右の瞳孔を個別にモニターし固視監視を行い,固視ズレが生じた場合は自動補正する機構を備えており,検査時間の短縮や固視ズレの解消を図っている1.4,7).アイモの検査アルゴリズムは,全点閾値とアイモオリジナルのCAIZEがある.AIZEはCZEST法を用い,各検査点での被検者の応答情報を周辺に作用させることにより,各検査点の閾値をより短時間で正確に測定する.アイモの検査モードにはCHFAに準じたC30-2,24-2,10-2に加え,24-2の検査点をベースにC10-2の検査点を一部追加したC24plus(測定図1ヘッドマウント型アイモの外観図2据え置き仕様による検査左眼右眼被検者に見えている画面図3被検者の融像(左眼視野と右眼視野→融像後の視野)表1検査配列検査配列測定点数HFA30-276点24plus(1)36点概要C30°内の視野をC6°間隔でC76点測定するアイモオリジナルの検査配列.C30°内の重要な部位C36点を測定するアイモ24plus(1)HFA30-2図4アイモ24plus(1)とHFA30.2の検査配列図(左眼)緑内障C52歳,男性,グレースケールのC1例.点C78点),24plusのうち疾患の生じやすい部位に重点配置したC24plus(1)(36点)などのモードが搭載されている.また,さらなる時間短縮のためのアルゴリズムCAIZE-Rapidも使用可能である(表1).図4にアイモC24plus(1)とCHFA30-2の検査配列図と緑内障C52歳,男性の各々のグレースケールの例を示す1.3).本研究では,アイモC24plus(1),AIZEとCHFA30-2,SITA-Standardの検査結果および検査所要時間を比較検討し,さらに検査後のアンケート結果から患者満足度について評価することを目的とした.検査配列の違いによる影響は,Khouryらや馬場らにより報告されており,HFA30-2とC24-2に実質的な差がないことが示されている5,6).本研究では,HFA24-2とはさらに検査配列の異なるアイモC24plus(1)と現在多用されているHFA30-2の比較検討を行った.CI対象および方法2016年C10月.2017年C4月に北川眼科医院を受診し,視野検査アイモC24plus(1)を受け,さらに過去C1年以内にHFA30-2を受けていた緑内障患者のうち,アイモ,HFAともに検査内容をよく理解し,固視が良好で信頼性の高い25例C50眼を対象とした.男女比はC13:12,平均年齢はC57.4±10.3歳であった(表2).50眼につきアイモC24plus(1)とCHFA30-2それぞれの表2患者背景平均±標準偏差年齢(歳)C57.4±10.3眼数25症例50眼性別男性C13人,女性C12人偽陽性(%)C※C3.1±6.4偽陰性(%)C※C3.3±3.8固視不良(%)C※C8.3±10.4※直近のCHFA結果よりMD[dB]表3MD,PSD,VFI,検査時間の平均値,標準偏差,検定結果アイモC24plus(1)CHFA30-2p値MD(dB)C.3.4±2.9C.3.4±3.6C0.87PSD(dB)C5.0±3.4C5.2±4.0C0.37VFI(%)C92±9C93±10C0.62検査時間(分)C5.8±0.9C14.5±2.1<C0.001MD値,PSD値,VFI値,両眼トータル検査時間を対応のあるCt検定を用いて比較検討し,また検査後にアンケート調査を行った.CII結果アイモC24plus(1)とCHFA30-2のCMD,PSD,VFIの相関を図5に示す.それぞれの相関係数はCMD(r=0.80,p<0.001),PSD(r=0.91,p<0.001),VFI(r=0.84,p<0.001)となった.近似直線の傾きはそれぞれC0.98,1.08,0.92,切片はC.0.11,C.0.16,+0.08となった.平均値はアイモ,HFAの順にCMD(C.3.4±2.9CdB,C.3.4±3.6CdB,p=0.87),PSD(5.0C±3.4CdB,5.2C±4.0CdB,p=0.37),VFI(92C±9%,93C±10%,p=0.62),と有意差がないことが示された(図6,表3).検査時間はアイモC24plus(1)がCHFA30-2に比べ有意(p<0.001)に短かった(表3).アイモ検査終了後に,次回の視野検査はどちらを希望するかアンケート調査を行ったところ,アイモを選択がC88%,HFAを選択がC4%,8%はどちらでもよいとの回答であった.アイモを選んだ理由は,「検査時間が短くて楽だった」「両眼開放下の検査だったから」などがおもな理由であった(図7).CIII考按今回アイモC24plus(1),HFA30-2の比較検討を行った.ともに固視が良好で正確な検査ができたC25例C50眼を対象とした.MD,PSD,VFIはそれぞれ相関係数CrがC0.80,0.91,0.84と高い相関を示し,有意差がないことも示された.検査時間はアイモC24plus(1)がCHFA30-2に比べ有意(p<0.001)に短かった.また,検査後にアンケートを行ったが,次回の視野検査はアイモを選択した患者がC88%であった.理由は時間が短い,両眼開放下の検査は楽などであった.対象となったC25人は平均年齢がC57.4C±10.3歳と比較的若く,またCMD値,PSD値,VFI値が平均各々C.3.4±2.9dB,C5.0±3.4dB,92C±9%と早期.中期の緑内障であった.両者のCMD値,PSD値,VFI値の相関がよかった理由としては,比較的若い年齢層が対象となっており,検査への理解度が高かったこと,対象の病期が早期.中期に多く,24plus(1)の外側(検査点の存在しない部分)に暗点のある症例が少なかった可能性があること,MD/PSD/VFIが中心付近の重み付けが大きい指標であるため,中心部を正確に検査できれば相関がよくなる可能性があることなどが考えられる.また,アイモC24plus(1)ではC36点と少ない検査点であっても,病変の生じやすい部位に重点配置されていることも相関が高かった一因と考えられる.検査時間については,Khouryらの報告にCHFA24-2とC30-2の比較の報告があり,24-2が平均C10分C24秒,30-2が平均C14分C25秒となっており,検査点数はC24-2がC54点,30-2がC76点と検査点数に応じてC24-2の検査時間は約C3割の短縮となっている5).アイモC24plus(1)は検査点C36点であるが検査点の割合からいっても検査時間は有意に短い(平均C5分C48秒).左右の瞳孔を個別に固視監視し,固視ずれを自動補正する機構やアイモオリジナルのアルゴリズムであるAIZEが有効に働き,検査時間の短縮につながった可能性がある.以上より,アイモは早期.中期の緑内障においてはその検図7アンケート結果(次回希望検査と理由)査結果のグローバルインデックスについてCHFAと有意差がないこと,また両眼開放下に短時間で行えるなど,従来つらい検査であった視野検査のストレスが減ることにより,緑内障診療に有用であることが示唆された.ただし,検査配列の違いがアンケート結果に影響を与えている可能性があり,より多くの集団による比較検討が今後の課題と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)松本長太:新しい視野検査.日本の眼科C88:452-457,C20172)澤村裕正,相原一:11.ヘッドマウント視野計アイモCR.眼科58:869-878,C20163)後関利明,井上智,大久保真司ほか:最新機器レポート「ヘッドマウント型視野計アイモCR」.神経眼科C34:73-80,C20174)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20165)KhouryCJM,CDonahueCSP.CLavinCPJCetCal:ComparisonCofC24-2and30-2perimetryinglaucomatousandnonglauco-matousCopticCneuropathies.CJCNeuroophthalmologyC19:C100-108,C19996)馬場こまき,赤池なぎさ,原沢佳代子ほか:自動視野計ハンフリー・中心C24-2プログラムの臨床応用.日本視能訓練士協会誌19:87-94,C19917)GosekiCT,CIshikawaCH,CShojiCN:BilateralCcocurrentCeyeCexaminationCwithCaChead-mountedCperimeterCforCdiagnos-ingCfunctionalCvisualCloss.CNeuroophthalmologyC40:281-285,C2016***

リパスジル点眼液の患者背景別眼圧下降効果

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1114.1116,2018cリパスジル点眼液の患者背景別眼圧下降効果鈴木加奈子*1白戸勝*2北村裕太*2山本修一*2*1千葉ろうさい病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学CE.cacyofRipasudilonVariousPatientBackgroundsKanakoSuzuki1),SuguruShirato2),YutaKitamura2)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,ChibaUniversity目的:リパスジル点眼液の眼圧下降効果を患者背景別に検討する.対象および方法:リパスジル点眼が追加処方された症例のうちC6カ月以上経過観察できたC54例C78眼を対象とし,男女別,年齢別,点眼投薬数別,投与前眼圧別,病型別に投与後C6カ月の眼圧下降率を検討した.また,有意に眼圧下降を示した背景について投与後1,3,6カ月の眼圧の推移を検討した.結果:全症例の投与後C6カ月の平均眼圧下降率はC14.9%で有意な眼圧下降を認めた(p<0.001).病型別では広義原発開放隅角緑内障C13.2%に対しステロイド緑内障C41.3%,投与前眼圧別ではC15CmmHg未満C4.0%に対してC21CmmHg以上C26.6%で,有意差を認めた(p<0.05).年齢別,男女別,投薬数別では有意差がみられなかった.結論:リパスジル点眼液は投与前眼圧値が高い症例,ステロイド緑内障でとくに高い眼圧下降率を示した.CPurpose:Weretrospectivelyexaminedthee.cacyofripasudilonvariouspatientbackgrounds.Methods:78eyesCofC54CpatientsCwhoCwereCprescribedCripasudilCandCobservedCforCmoreCthanC6CmonthsCwereCeligibleCforCthisstudy.CAtC1,C3CandC6CmonthsCafterCprescriptionCofCripasudil,CweCexaminedCintraocularCpressure(IOP)changeCwithregardtovariousbackgrounds:sex,age,numberofeyedropsprescribed,baselineIOPandappearanceofdisease.Results:IOPCsigni.cantlyCreducedCtoC14.9%ClowerCthanCbaselineCatC6CmonthsCafterCprescription(p<0.001).CThehighbaselineIOPgrouphadahighrateofIOPreductioncomparedtothelowbaselinegroups(p<0.05).Theste-roid-inducedCglaucomaCgroupChadCaChighCrateCofCIOPCreductionCcomparedCtoCtheCprimaryCopen-angleCglaucomagroup(p<0.01).Conclusion:Additionofripasudile.ectivelyreducesIOP,especiallyinhighbaselineIOPandste-roid-inducedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1114.1116,C2018〕Keywords:リパスジル,緑内障,患者背景,ステロイド緑内障.Ripasudil,glaucoma,backgroundsofpatients,steroid-inducedglaucoma.Cはじめにリパスジル点眼液は,線維柱帯-Schlemm管を介する主経路からの房水排出を促進する作用を有する1).その作用機序は,Schlemm管内皮細胞の巨大空胞の増加2),線維柱帯細胞の骨格・収縮変化1),線維柱帯における細胞外マトリクス産生抑制3),細胞間接着の変化2)が関与している.治験では単剤投与,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,プロスタグランジン/チモロール点眼への追加投与が行われ,良好な眼圧下降効果が得られている4,5).リパスジル点眼薬は,既存の眼圧下降点眼薬とは異なる機序で奏効するため,その効果の特性も異なる可能性が考えられる.臨床的にリパスジル点眼薬が追加投与され,良好な眼圧下降効果を得られることが報告されているが5),筆者らは患者背景別に検討することで効果の特性を明らかにすることを考えた.今回,リパスジル点眼液を追加処方された症例の眼圧下降効果を患者背景別,病型別に後ろ向きに検討した.CI対象および方法2015年4月1日.2016年5月20日に千葉大学医学部附属病院に通院中でリパスジル点眼液を追加処方され,6カ月以上経過を追えたC54例C78眼を対象とした.配合剤点眼薬はC2剤,アセタゾラミド内服は錠数にかかわ〔別刷請求先〕鈴木加奈子:〒260-8677千葉県千葉市中央区亥鼻C1-8-1千葉大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KanakoSuzuki,DepartmentofOphthalmology,ChibaUniversity,1-8-1Inohana,Chuou-ku,Chiba-shi,Chiba260-8677,JAPAN1114(108)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(108)C11140910-1810/18/\100/頁/JCOPY性別年齢別投与前値別投薬数別男女<6565≦<1515~2121≦4剤目5剤目7剤目(55)(23)(28)(50)(12)(51)(15)(16)(60)(2)投与前眼圧(mmHg18.019.018.318.312.817.724.418.018.417.5)n0-5-10-15(%)-20-25-30※-35※p<0.05(Mann-Whitney’sUtest)図1眼圧下降率(患者背景別)らずC2剤として解析した.それぞれの患者について,リパスジル点眼液投与前眼圧と投与後1,3,6カ月後の眼圧を後ろ向きに調査し,患者背景別,病型別に投与前と投与後C6カ月の眼圧下降率を比較した.また,眼圧下降率に有意差を認める背景,病型について投与前から投与後C6カ月までの眼圧推移を検討した.眼圧下降率の比較にはCMann-Whitney’sUtestを用い,眼圧推移の投与前と投与後の比較はCpairedCt-testを用い,いずれもp<0.05を有意水準とした.CII結果対象は男性C38例C55眼,女性C16例C23眼,年齢はC66.0C±13.0歳(平均値C±標準偏差)だった.リパスジル点眼液はC4剤目として投与されたものがC16眼(20.5%),5剤目がC60眼(76.9%),7剤目がC2眼(2.6%)だった.病型は広義原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)56眼,閉塞隅角緑内障C1眼,落屑緑内障C6眼,ステロイド緑内障C5眼,ぶどう膜炎C5眼,血管新生緑内障C2眼,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎に伴う眼圧上昇C1眼,外傷性緑内障C1眼であった.全症例の眼圧経過は投与前,投与後C1カ月,3カ月,6カ月でそれぞれC18.3C±4.1,15.5C±3.6,15.5C±3.5,15.2C±4.1mmHgで,いずれの時点でも有意な眼圧下降を認めた(p<0.001).また,全症例の投与後C6カ月での眼圧下降率はC14.9C±22.3%であった.患者背景別では,性別,年齢別,投薬数別で眼圧下降率に有意差を認めなかったが,投与前眼圧別ではC15CmmHg未満4.0%C±26.3%,15CmmHg以上C21CmmHg未満C14.1C±20.3%,21CmmHg以上C26.6C±21.7%であり,投与前眼圧の高い群で有意に眼圧下降率が高かった(p<0.05)(図1).投与前眼圧別の眼圧推移は,15CmmHg以上C21CmmHg未満,21CmmHg広義落屑ぶどうPOAG緑内障膜炎n(56)(6)(5)投与前眼圧(mmHg)17.718.018.40-10-20(%)-30-40-50-60※※ステロイド50%以上の緑内障周辺虹彩前癒着(5)(3)20.022.0※※p<0.01(Mann-Whitney’sUtest)図2眼圧下降率(病型別)以上の両群で投与前眼圧と比較して投与後いずれの時点でも有意な眼圧下降を示したのに対し(p<0.01),15CmmHg未満の群は投与後すべての時点で有意な眼圧下降を示さなかった.病型別の投与後C6カ月での眼圧下降率は広義CPOAG13.2C±17.1%,落屑緑内障C13.1C±28.7%,ぶどう膜炎C21.1C±49.8%,ステロイド緑内障C41.3C±23.2%,50%以上の周辺虹彩前癒着を認める症例C9.1C±4.5%だった.広義CPOAGを基準に考えると,ステロイド緑内障は有意に高かった(p<0.01)(図2).広義CPOAGの眼圧推移は投与前眼圧と比べ,投与後いずれの時点でも有意な眼圧下降を示した(p<0.01)のに対し,ステロイド緑内障は術後C1カ月,6カ月で有意であったものの(p<0.05),術後C3カ月で有意差はみられなかった.しかし,ステロイド緑内障は広義CPOAGに比べ,術後C6カ月の時点で大きな眼圧下降幅を示した.C(109)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1115III考按今回リパスジル点眼の眼圧下降効果を患者背景別,病型別に調査してみたところ,投与前眼圧値別において眼圧が高い群で他の群より眼圧下降率がよいこと,病型別ではステロイド緑内障で広義CPOAGより眼圧下降率が高いことが示された.緑内障治療薬ではベースライン眼圧が高いほど,眼圧下降効果が強調される傾向にあるが,リパスジルに関しても承認前臨床試験においてベースライン眼圧が優位な背景因子であることは証明されており6),今回も同様の結果となった.ステロイド緑内障については,今回の調査ではC5例とも点眼ではなくステロイド内服による眼圧上昇を認めた患者であった.標本数がC5例と少なかったため投与後C3カ月の眼圧下降に有意差を認めなかったものの,投与後C6カ月で眼圧下降幅は広義CPOAGより大きくなった.ステロイド投与によって線維柱帯における細胞外マトリクス産生が活発になると報告されており7),ステロイド緑内障の眼圧上昇の原因と考えられる.リパスジルは線維柱帯において細胞外マトリクスの産生を抑制する作用を有しているため3),この病型においてとくに高い眼圧下降を発揮したと考えられる.病型別ではぶどう膜炎の症例も有意差は認めないものの高い眼圧下降率を示した.今回はすべての症例でステロイド点眼をしており,前眼部炎症は軽快していたため,ステロイドによる眼圧上昇であった可能性は否定できない.リパスジルにはぶどう膜炎に対して消炎効果を認めるとの報告や8),ROCK阻害薬は実験的に白血球接着や炎症細胞浸潤を抑制することで抗炎症作用をもつことが示されており9),本症例は明らかな炎症は認めなかったが,リパスジルが消炎による眼圧下降にも寄与していたと考えられる.また,広範囲周辺虹彩前癒着のある患者についてもC3例のみであるが検討した.線維柱帯に直接作用する範囲が狭いため予想どおり低い眼圧下降率となったが,有意差は認めなかった.リパスジル点眼液は投与前眼圧が高い症例,ステロイドによる眼圧上昇を認める症例に対して高い眼圧下降率を示した.今回の調査ではとくに病型別で十分な標本数を得られず,6カ月と短期の経過観察期間であったため,今後も調査を継続することが必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetCal:E.ectsCofCRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)KamedaT,InoueT,InatamiMetal:Thee.ectofRho-associatedCproteinCkinaseCinhibitorConCmonkeyCSchlemm’sCcanalCendothelialCcells.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:C3098-3103,C20123)FujimotoCT,CInoueCT,CKamedaCTCetCal:InvolvementCofCRhoA/Rho-associatedkinasesignaltransductionpathwayinCdexamethasone-inducedCalterationsCinCaqueousCoutC.ow.InvestOphthalmolVisSciC53:7097-7108,C20124)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsCofCaCselectiveCRhoCkinaseCinhibitor,CK-115.CJAMACOphthalmolC131:1288-1295,C20135)InoueK,SetogawaA,IshidaKetal:IntraocularpressurereductionCwithCandCprescriptionCpatternsCofCripasudil,CaCRhoCkinaseCinhibitor.CAtarashiiCGankaC33:1774-1778,C20166)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearcliniC-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20167)RohenCJW,CLinnerCE,CWittmerCRCetCal:ElectronCmicro-scopicCstudiesConCtheCtrabecularCmeshworkCinCtwoCcasesCofcorticosteroidglaucoma.ExpEyeResC17:19-31,C19738)YasudaCM,CTakayamaCK,CKandaCTCetCal:ComparisonCofCintraocularpressure-lowinge.ectsofripasudilhydrochlo-rideChydrateCforCin.ammatoryCandCcorticosteroid-inducedCocularhypertension.PLoSOneC12:e0185305,C20179)UchidaCT,CHonjoCM,CYamagishiCRCetCal:TheCanti-in.am-matoryCe.ectCofCripasudil(K-115),CaCRhoCkinase(ROCK)Cinhibitor,onendotoxin-induceduveitisinrats.InvestOph-thalmolVisSciC58:5584-5593,C2017***(110)C

スーチャートラベクロトミー眼内法施行不能の2症例

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1109.1113,2018cスーチャートラベクロトミー眼内法施行不能の2症例真鍋伸一林研林眼科病院CTwoCasesofSurgicalFailureofSutureTrabeculotomyabinternoCShin-ichiManabeandKenHayashiCHayashiEyeHospital目的:スーチャートラベクロトミー眼内法(以下,iSLOT)を試みた症例で,施行不能症例の原因を探索すること.対象および方法:2014年C9月.2017年C5月にCiSLOTを試みた症例を後ろ向きに検討した.術前評価で適応外と判断し他手術が計画された症例は除外した.結果:手術を予定されたC211症例C239眼のうち,施行不能はC2眼あった.1眼は,白内障手術中破.による眼内レンズ亜脱臼を合併した落屑緑内障で,隅角切開後の逆流性出血で視認性確保ができなかったためにスーチャートラベクロトミー眼外法に変更した.1眼はCLASIK既往のある原発開放隅角緑内障眼で,術前隅角鏡検査では線維柱帯の同定ができたものの術中は困難であり,金属プローブによるトラベクロトミー眼外法に変更した.結論:術中前房圧保持が困難なために大量の逆流性出血を生じる症例や,軽度角膜混濁でCiSLOTが施行困難な症例では,適応外とするか他術式への変更を念頭に手術に臨むべきである.CPurpose:Toinvestigatecausesofsurgicalfailureofsuturetrabeculotomyabinterno(iSLOT)C.Methods:Cas-esthathadundergoneiSLOTfromSeptember2014toMay2017werereviewedretrospectively.Results:Among239eyesof211cases,iSLOTwasnotcompletedin2cases.Incase1,whichwassu.eringfromexfoliationglauco-maCcomplicatedCwithCIOLCsubluxation,CmassiveChyphemaCinterferedCwithCsurgicalCmanipulation,CandCiSLOTCwasCconvertedCtoCsutureCtrabeculotomyCabCexterno.CInCcaseC2,CwhichCwasCsu.eringCfromCprimaryCopen-angleCglaucomaCwithpasthistoryofLASIK,Schlemm’scanalwasnotdetectedbecauseofcornealopacity,andiSLOTwasconvert-edtotrabeculotomyabexterno.Conclusion:Casesinwhichmassivebloodre.uxisexpectedtooccurduringsur-gerybecauseoflowanteriorchamberpressure,andcaseswithcornealopacity,arecontraindicatedforiSLOTandshouldbeperformedwithpossibleconversiontoothersurgeriesinmind.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1109.1113,C2018〕Keywords:スーチャートラベクロトミー眼内法,手術不成功,角膜混濁,眼内レンズ脱臼,逆流性出血.sutureCtrabeculotomyabinterno,surgicalfailure,cornealopacity,intraocularlenssubluxation,bloodre.ux.Cはじめに近年,緑内障手術のなかでも侵襲の少ない低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery:MIGS)という概念が提唱され関心が高まってきている1).わが国におけるMIGSとしては,2010年にCTrabectomeR2)が認可されたのが最初であり,2018年C1月現在ではCsutureCtrabeculotomyabCinterno(以下,iSLOT)3),KahookCDualCBladeR4),Micro-hookCtrabeculotomy5),iStentR6)が施行可能である.これらの術式はすべて前房からCSchlemm管への流出抵抗を減弱させることで眼圧下降を達成する手術である.一方でわが国においては承認されていないが,Schlemm管をターゲットにしたCHydrusTM7)や,上脈絡膜腔にデバイスを挿入するCCypassR8)なども開発されている.手技的にはいずれも隅角鏡下での操作を要する点で共通しており,良好な術野確保が手術成否に大きく影響すると思われる.よって,すでに導入されている隅角鏡下手術の手技的な問題点を探ることは,将来導入が見込まれる隅角鏡下緑内障手術の適応を考えるうえでも重要な知見になると考える.本研究の目的は,隅角鏡下緑内障手術の一つであるCiSLOTを予定した症例での手術施行不能原因を探索することである.〔別刷請求先〕真鍋伸一:〒812-0011福岡県福岡市博多区博多駅前C4-23-35林眼科病院Reprintrequests:Shin-ichiManabe,M.D.,Ph.D.,HayashiEyeHospital,4-23-35Hakataekimae,Hakata-ku,Fukuoka812-0011,CJAPAN表1手術適応基準と除外基準表2患者背景適応基準(①②両条件を満たす)①病型と隅角所見(以下の両条件を満たす)1.開放隅角緑内障ただし,周辺虹彩前癒着があっても全周でCSchwalbe線に達していない場合は手術適応とする.2.隅角鏡検査で少なくとも鼻側隅角が観察できる②病状(1,2のいずれかを満たす)1.緑内障性視神経症を認め緑内障点眼治療中だが,さらに眼圧下降が必要2.緑内障点眼中の白内障手術適応症例で,以下いずれかの病態A)眼圧と視野コントロールが良好な開放隅角緑内障B)前視野緑内障C)高眼圧症除外基準(①.④いずれか一つでも当てはまる場合)①目標眼圧が低い症例末期緑内障進行した正常眼圧緑内障②全周でCSchwalbe線に達する周辺虹彩前癒着がある症例③活動性のあるぶどう膜炎合併症例④隅角鏡検査で視認性が悪い症例(例:角膜混濁)ただし,高眼圧による角膜浮腫のみが原因と思われる症例は除く.I対象および方法2014年C9月.2017年C5月に林眼科病院でCiSLOTを計画した症例を後ろ向きに検討した.検討項目は,年齢,緑内障病型,手術記録(含む動画)から手術の成否と不成功の場合はその原因,線維柱帯切開範囲(度)とした.手術の成否は,線維柱帯をC120°以上切開できた症例を施行症例,切開ができないかできてもC120°未満である症例を施行不能症例とした.後ろ向き研究であるが,単一施設で統一された手術適応基準,除外基準で診療しており表1に供覧する.診断と治療方針決定は緑内障診療ガイドラインに則って9),担当医の判断で行った.適応基準は,病型は開放隅角緑内障を対象としたが,炎症などで二次的に生じたと推測される周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorCsynechia:PAS)があっても全周Schwalbe線に達していなければ,隅角癒着解離術を併施することとして手術対象とした.病状としては,投薬加療中で緑内障性視神経症を認めさらに眼圧下降を要すると判断した症例に加え,緑内障点眼治療中の白内障手術適応症例のうち,視野コントロール良好な緑内障,前視野緑内障,高眼圧症いずれかを合併していて,口頭と文書によって緑内障同時手術の同意が得られた症例を対象とした.除外基準は,末期緑内障や進行した正常眼圧緑内障症例など目標眼圧が低い症例,全周にCSchwalbe線を越える高いCPASを認める症例,活動性のあるぶどう膜炎続発緑内障,角膜混濁などにより隅症例数214例239眼年齢C68.9±18.8(16.91)歳術前眼圧C29.4±9.4(14.63)mmHg病型原発開放隅角緑内障102眼落屑緑内障83眼その他54眼ぶどう膜炎23眼角膜移植後C6眼ステロイドC6眼発達C5眼白内障手術破.後C5眼混合緑内障C4眼硝子体手術後C2眼外傷性C2眼不明C1眼緑内障投薬数C3.8±0.9(1.5)剤角鏡検査で隅角視認性の悪い症例とした.ただし,高眼圧による角膜浮腫のみが原因で隅角視認性不良であると判断した症例は,術中の眼圧下降によって良好な視認性が得られるとの前提で除外基準からはずして手術適応とした.術式は既報に則して3),隅角鏡(SwanCJacobCgonioprismCR,OcularInstruments)で観察しながらC5-0ナイロン糸を用いて線維柱帯切開を施行し,白内障同時手術の場合は先にiSLOT施行することを基本とした.鼻側にCPASのある症例では,鼻側のみ隅角癒着解離術を施行して線維柱帯を露出し,隅角切開部からナイロン糸をCSchlemm管内に挿入した.他部位のCPASはナイロン糸による線維柱帯切開と同時に癒着が解除されることを確認した.CII結果iSLOTはC214例C239眼で手術適応となった.患者背景を表2に示す.年齢はC68.9C±18.8(16.91)歳,術前平均眼圧はC29.4C±9.4(14.63)mmHgであった.病型は原発開放隅角緑内障が最多のC102眼で,落屑緑内障C83眼と合わせると全体のC77%を占めた.実際に施行された術式を表3に示す.237眼(99.2%)で手術を施行した.そのうちC9眼では隅角癒着解離術も併施した.Schlemm管内壁の切開範囲はC319C±71.3(120.360)°であった.一方,iSLOTが施行できなかった症例はC2例(0.8%)であり,以下に臨床経過を提示する.〔症例1〕83歳,男性.右眼眼内レンズ亜脱臼を合併した落屑緑内障.現病歴は,3年前に近医で両眼白内障手術を施行された後,右眼眼圧上昇があり点眼加療受けるも,徐々に視野狭窄の進行と視力低下をきたし,セカンドピニオン目的で林眼科病院を受診した.緑内障点眼C4種と炭酸脱水酵素阻害薬内服の投薬を受け表3施行術式iSLOT施行症例237眼(C99.2%)iSLOT単独103眼iSLOT+PEA+IOL133眼iSLOT+IOL摘出+IOL毛様溝縫着1眼隅角癒着解離術併施9眼切開範囲C319±71.3°(C120.C360)iSLOT施行不能症例2眼(0C.8%)トラベクロトミー眼外法1眼スーチャートラベクロトミー眼外法+IOL縫着1眼iSLOT:sutureCtrabeculotomyCabCinterno,CPEA:phacoemulsi.cationCandCaspiration,IOL:intraocularlens.d図1症例1の臨床所見a:細隙灯顕微鏡による前眼部徹照像写真.眼内レンズは亜脱臼している.Cb:術前隅角鏡所見.視認性不良だが線維柱帯色素が観察される(→).c:Goldmann動的視野検査.Cd:術中写真.画面右端にある硝子体鉗子で把持したナイロン糸(.)をCSchlemm管切開部から挿入しようとしているが,出血(*)に覆われて詳細が見えない状態.Cていた.右眼視力C0.01(矯正不能)で,眼圧は右眼C47CmmHg浮腫のため詳細は不明であったが,開放隅角と推測される程(Goldmann圧平式眼圧計).前眼部中間透光体所見としては,度には視認された(図1b).Goldmann動的視野検査では右右眼角膜実質および上皮浮腫のため透明性が低下していた.眼は中心視野が消失していた(図1c).眼圧下降によって隅角膜内皮細胞密度は不明瞭な画像データからの算出であるが角視認性は速やかに改善すると判断し,iSLOTと眼内レン1,399個/mmC2であった.眼内レンズは残存前.上で耳下側ズ整復術を予定した.上方水晶体支持部をC12時強膜に縫着に偏位しており(図1a),水晶体後.を認めないことから白した後,iSLOTを試みた.角膜の透明性は縫着術施行中の内障手術時の破.症例と推測された.隅角鏡検査では,角膜約C20分で改善され,隅角視認性は良好となった.前房に粘弾性物質を満たして隅角切開を施行したところ,大量の逆流性出血で視認性不良となったためCiSLOT施行不可能となり(図1d),360°スーチャートラベクロトミー眼外法変法に術式変更をして手術を終えた.〔症例2〕52歳,女性.開放隅角緑内障.14年前に両眼CLASIKの既往歴がある.現病歴は,4カ月前から左眼霧視を自覚して近医を受診,左眼C52CmmHgの高眼圧を指摘されて点眼での治療が開始されるも良好な眼圧下降が得られず紹介受診となった.緑内障点眼C3種と炭酸脱水酵素阻害薬内服の投薬を受けていた.右眼視力C0.4(矯正不能)で,眼圧は右眼C53CmmHg(Goldmann圧平式眼圧計).前眼部中間透光体所見としては,左眼角膜は実質および上皮浮腫のため若干透明性が低下していたのに加えて,上皮下に広範囲な非常に淡い混濁を認めた.角膜内皮細胞密度は不明瞭な画像データからの算出であるがC2,571個/mmC2であった.隅角鏡検査では,角膜透明性低下のため細部は観察できないものの,開放隅角であることは確認された.Goldmann動的視野検査では左眼鼻下側C1/4象限の狭窄が認められた.治療方針としては,前房穿刺による眼圧下降によって角膜透明性が改善して良好な隅角視認性が得られると判断し,iSLOTを予定した.前房穿刺によって角膜浮腫は軽減したものの,広範囲の角膜上皮下混濁によると思われる隅角視認性不良により線維柱帯ならびにCSchlemm管内壁を同定することができず,金属プローブによるトラベクロトミー眼外法に術式変更して手術を終えた.CIII考按従来,わが国で施行されてきた金属プローブによる線維柱帯切開術はC120°切開であるので,本研究での施行達成基準をC120°以上に設定したが,iSLOT施行を予定した症例の99.2%と大多数の症例で施行可能であった.本研究対象は当該施設での手術導入期からの症例を含んでおり,手術に習熟していない状態で施行した症例を含んでの高い施行率である.適切な手順に基づいて施行すれば,iSLOTは初心者であっても高い確率で施行できる手技と考える.適応病型に関しては,一般的には開放隅角緑内障が前提であるが,今回の調査対象期間においてはCSchwalbe線に達しないCPASであれば隅角癒着解離術を併施する前提で手術対象として手術を予定し,9例全例で手術施行可能であった.眼圧下降効果の評価は今後必要であるが,線維柱帯切開が可能であるか否かという手技的な観点からは,PASがあるということをもってCiSLOT適応外とする必要はないと考える.施行不能であった最初の症例は,隅角切開後の逆流性出血により視認性確保ができなかったことが原因であった.iSLOTを含むCSchlemm管内壁を操作する手術では,逆流性出血が必発である.これは,術中前房圧低下によってCSch-lemm管より近位の房水静脈圧が前房圧を上回ったことで生じる血液逆流現象であり,血管壁を損傷して起きる血管破綻性出血とは異なる.すなわち,前房圧がある程度以上に維持されていれば逆流性出血を抑えることができる.しかしながら本症例では破.によって前後房隔壁が損なわれていたため,前房圧を維持するには,硝子体腔を含む前後房に相当量の粘弾性物質を注入するか,灌流ポートの設置が必要であったと思われる.大量粘弾性物質注入はその後の抜去を考えると侵襲が大きすぎるし,灌流ポート設置では隅角鏡操作時の水流によって操作性が低下するために手術施行は困難となることが予想される.以上から,本症例のような前後房隔壁の脆弱な症例や無水晶体眼は,iSLOT適応外としてもよいのではないかと筆者らは考えている.症例C2は,術前隅角鏡検査では比較的視認性が改善すると予想したものの,術中隅角鏡検査では良好な視認性が得られなかったことが原因で施行不能となった.術前隅角鏡検査には一面鏡(HAAG-STREITCR)を用い,術中隅角鏡にはSwan-JacobCgonioprismを用いた.本症例の角膜上皮下混濁自体は非常に軽微であったものの広範囲に及んでいたため,観察光路の若干異なる一面鏡とCSwan-Jacobgonioprismでは視認性に違いを生じたものと考えられる.実際に,術後に角膜浮腫が消失してから一面鏡を用いて隅角を観察すると,比較的良好な視認性が得られていた(データ供覧なし).以上から,症例C2のような淡いが広範囲な角膜上皮下や実質浅層混濁があるケースでは,術前よりも術中視認性が不良であることも想定して他術式への変更を念頭に手術に臨むべきであると考える.2症例の施行不能原因はいずれも術中視認性の問題であり,ナイロン糸挿入などの手技的な難度が原因となって施行不能となった症例はなかった.iSLOTを含む隅角鏡下で施行する手術においては,術中の良好な視認性確保が手術の成否に大きな影響を及ぼす.筆者らは,本研究結果が今後増加の見込まれる隅角鏡下で施行される各種CMIGSの手術適応を考えるうえで参考になるものと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SahebCH,CAhmedCII:Micro-invasiveCglaucomaCsurgery:CcurrentCperspectivesCandCfutureCdirections.CCurrCOpinCOphthalmolC23:96-104,C20122)MincklerCDS,CBaerveldtCG,CAlfaroCMRCetCal:ClinicalCresultsCwiththeTrabectomefortreatmentofopen-angleglauco-ma.OphthalmologyC112:962-967,C20053)GroverDS,GodfreyDG,SmithOetal:Gonioscopy-assist-edCtransluminalCtrabeculotomy,CabCinternoCtrabeculoto-my:techniqueCreportCandCpreliminaryCresults.COphthal-mologyC121:855-861,C20144)SeiboldLK,SoohooJR,AmmarDAetal:Preclinicalinves-tigationCofCabCinternoCtrabeculectomyCusingCaCnovelCdual-bladedevice.AmJOphthalmolC155:524-529Ce522,C20135)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetCal:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmolC94:e371-e372,C20156)SamuelsonCTW,CKatzCLJ,CWellsCJMCetCal:RandomizedCevaluationofthetrabecularmicro-bypassstentwithphaco-emulsi.cationCinCpatientsCwithCglaucomaCandCcataract.COphthalmologyC118:459-467,C20117)Pfei.erCN,CGarcia-FeijooCJ,CMartinez-de-la-CasaCJMCetal:ACrandomizedCtrialCofCaCSchlemmC’sCcanalCmicrostentCwithphacoemulsi.cationforreducingintraocularpressureinCopen-angleCglaucoma.COphthalmologyC122:1283-1293,C20158)HoehH,VoldSD,AhmedIKetal:Initialclinicalexperi-enceCwithCtheCCyPassCMicro-Stent:safetyCandCsurgicalCoutcomesCofCaCnovelCsupraciliaryCmicrostent.CJCGlaucomaC25:106-112,C20169)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:3-46,C2012***

基礎研究コラム 15.microRNAの臨床応用の可能性

2018年8月31日 金曜日

microRNAの臨床応用の可能性microRNAの臨床応用の可能性ポストゲノム時代の到来以降,がん研究を中心に特定の分子を治療標的とした治療薬の開発が進められ,近年,抗体医薬を中心とした分子標的薬が浸透しています.とくに眼科では,これまで抗CVEGF抗体,アプタマーなど革新的分子標的薬がいち早く検討され,実績をあげてきました.昨今,microRNA(miRNA)という小さな核酸分子が,新たな創薬ターゲットとして多分野で注目を浴びています.CmicroRNAとはmiRNAは約C20塩基長の小さなノンコーディングCRNAであり,複数の標的メッセンジャーCRNAに結合して遺伝子発現を制御しています.1993年の発見以来,爆発的に研究が行われ,数多くの生命現象,疾患の発症に大きく関与することが明らかにされてきました.このCmiRNAは血液や尿中でも安定しており,がんをはじめ,さまざまな疾患の病態との関連性があることから,バイオマーカーとして有用視されています.また,miRNAを標的とした核酸医薬の開発も進んでおり,C型肝炎ウイルスの複製に必須であるCmiR-122の阻害薬はCPhaseC2で有効性が報告されています1).核酸医薬は抗体医薬と比較して安価で安定した生産が可能であるというメリットもあり,今後のさらなる効果と安全性の確認が期待されます.眼科の領域では近年,多くの眼疾患の病態とCmiRNAの関連が報告されて図1miRNAの関与が示唆されている代表的な眼科疾患と臨床応用眼科疾患においてもさまざまな疾患とCmiRNAの関連が報告されている.硝子体,前房水中に存在すFuchs角膜内皮変性るCmiRNAが疾患の発症,進行をmiR-29familyetc.評価するバイオマーカーとして機アルカリ外傷能する可能性や病態に機能するmiR-21etc.miRNAの異常を核酸医薬にて補充または抑制し,miRNAの正常翼状片miR-200familyetc.化を図る治療も今後期待される.ぶどう膜炎miR-155etc.大内亜由美DepartmentofMolecularMedicine,TheScrippsResearchInstitute順天堂大学医学部附属浦安病院眼科おり,疾患モデルマウスなどに対してCmiRNAを標的とした核酸を局所投与する解析から,病態への有効性が示されています2).またヒト前房水,硝子体,涙液中にもCmiRNAが数多く存在しており,疾患の発症とともに発現変動することも報告されています(図1).たとえば,microRNA-21は糖尿病網膜症の硝子体中で発現が上昇しており,糖尿病性細小血管障害や増殖性変化に機能する可能性が示唆されています3).今後の展望近年,次世代シーケンサーの登場により,いわゆる“千ドルゲノム”の時代を迎え,miRNAを含め膨大なシークエンス情報を得られるようになりました.この技術革新により,眼疾患においてもさまざまな標的分子が明らかになり,それに基づく核酸,抗体医薬の開発が加速することが予想されます.今後,miRNAを標的とすることで,従来型の医薬品ではアプローチできない眼疾患を治療できるようになるかもしれません.文献1)JanssenCHL,CReesinkCHW,CLawitzCEJCetCal:TreatmentCofCHCVCinfectionCbyCtargetingCmicroRNA.CNCEnglCJCMedC386:1685-1694,C20132)ShenJ,YangX,XieBetal:MicroRNAsregulateocularneovascularization.CMolTher16:1208-1216,C20083)Usui-OuchiA,OuchiY,KiyokawaMetal:UpregulationofMir-21levelsinthevitreoushumorisassociatedwithdevelopmentofproliferativevitreoretinaldisease.PlosOneC28:e0158043,C2016(93)Cあたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C10990910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 183.前眼球癆の眼所見(初級編)

2018年8月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載183183前眼球癆の眼所見(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●眼球癆の原因眼球癆(phthisisbulbi)は,毛様体機能が低下し,房水が産生されなくなって眼球が萎縮した状態をいう.増殖性硝子体網膜症,眼内炎,外傷などに続発,あるいはそれらの硝子体手術後に生じることが多い.硝子体手術の黎明期であった1980年代はわが国でも多くの眼球癆症例がみられたが,最近は激減している.しかし,今でも硝子体手術後の予後不良例は多くが最終的に眼球癆となっている.とくに水晶体を摘出した眼球で網膜が復位しない場合には,眼球癆はほぼ必発と考えてよい.硝子体手術後の眼球癆の原因としては網膜非復位が圧倒的に多いが,網膜が復位していても,前部増殖性病変のため房水産生が低下して眼球癆に至る症例もある.前部増殖性病変の原因としては,①初回硝子体手術時の不十分な周辺部硝子体切除,②それを基盤とする前部増殖性組織の形成,③術後炎症の遷延,などがあげられる.●前眼球癆の眼所見硝子体手術後の予後不良例は,どのような経過をたどりながら最終的に眼球癆になるのであろうか.これは過去の教科書や文献にはあまり書かれていないので,あえて今回の話題としてとりあげることにした.これだけ硝子体手術が普及してきた現代においては,硝子体手術を行わない施設でも,このような患者が受診する機会はあるので,一般の眼科臨床医もある程度の知識をもっておく必要がある.硝子体手術後の前眼球癆の眼所見としては,①極端な低眼圧(通常1~3mmHg前後),②網膜血管の蛇行・拡張(図1a),③視神経乳頭の腫脹,④網脈絡膜皺襞(図1b),⑤角膜の皺襞形成(図2),⑥眼内の高度のフレア,などがあげられる.このうち①~④は低眼圧黄斑症にも共通した所見である.進行すると眼球自体が萎縮するの(91)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1前眼球癆の眼底所見アトピー性網膜.離に対して他院を含めて計4回の硝子体手術が施行された.いったん網膜の復位は得られ,矯正視力も0.04に改善したが,眼内の高度のフレアが持続し,眼圧は2mmHgに低下してきた.眼底は網膜血管の拡張蛇行を認め(a),上方では脈絡膜にも皺襞が形成されている(b).図2前眼球癆の前眼部所見角膜も全体的に張りがなく,細かい皺襞が形成されており,細隙灯顕微鏡で前置レンズを用いなくても網膜が透見できる.で,無水晶体眼では細隙灯顕微鏡で前置レンズなしに網膜が透見できるようになる.いったんこのような前部増殖性病変が生じると,眼球癆を予防することはきわめてむずかしい.シリコーンオイルを注入することである程度は眼球癆の進行を予防できるが,水疱性角膜症を発症して角膜が混濁することが多い.●前眼球癆から眼球癆への進行過程症例によって差があるが,硝子体手術後の前眼球癆が完全な眼球癆になるには,ある程度のタイムラグがある.増殖糖尿病網膜症の硝子体手術後などでは,しばしば硝子体出血が生じて,眼底が透見できないまま,次第に角膜が混濁し,眼球癆へと進行することが多い.網膜.離例では眼内のフレア値が高くなり,次第に角膜が混濁し,徐々に眼球は萎縮していく.あたらしい眼科Vol.35,No.8,20181097

眼瞼・結膜:GVHDと結膜線維化

2018年8月31日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人41.GVHDと結膜線維化小川葉子慶應義塾大学医学部眼科学教室GVHDによるドライアイは眼類天疱瘡やCStevens-Johnson症候群に類似し,眼表面粘膜に特殊な免疫性線維化を併発する.おもな結膜所見に,線維性血管膜,瞼球癒着,結膜.短縮,上下眼瞼癒着,角膜の結膜化,血管新生がある.ドナーとレシピエント由来の特殊な線維芽細胞の活性化が病態の中心的役割を果たしている.●はじめに造血幹細胞移植は血液悪性疾患の根治療法として確立され,わが国では年間にC5千例以上,世界的にもC6万例以上の新規移植が行われている1).同種造血幹細胞移植後の主要な合併症として,慢性移植片対宿主病(graft-versus-hostCdisease:GVHD)があげられる.眼科領域でのもっとも頻度の多いCGVHDによる合併症がドライアイであり,同種造血細胞移植後の約C50%に発症することが知られている2~4).C●GVHDによる結膜線維化の臨床像GVHDによるドライアイは眼類天疱瘡やCStevens-Johnson症候群によるドライアイに類似し,眼表面粘膜に特殊な免疫性線維化を併発する2).代表的な結膜所見には,結膜線維性血管膜,瞼球癒着,結膜.短縮,上下眼瞼癒着に加えて角膜輪部機能不全,角膜の結膜化,角膜への新生血管がある5,6).移植後半年ごろにドライアイが発症し,ドライアイ発症からわずかC3カ月以内に結膜の特殊な線維化が進行する場合が高頻度に認められる(図1).急速な線維化へと前駆症状としては,結膜粘膜偽膜が先行する場合がある.重症例では,涙腺の排出導管やマイボーム腺の導管閉塞の原因となり,ドライアイ発症後,急速なドライアイの進行,重症化を認め,反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌がともに極めて減少する7).C●GVHDの結膜線維化の病理GVHDによるドライアイ症例の生検診断時における結膜の病理像には,高度な線維化とリンパ球を主体とした免疫担当細胞浸潤を認める.結膜上皮基底細胞基底膜の屈曲蛇行と断裂,CD8陽性CT細胞の結膜基底細胞付近への浸潤を認める.診断時の残余検体で(承認番号20090277),上皮間接着分子のCEカドヘリンの減弱,(89)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1慢性GVHDによるドライアイに併発した結膜線維化像眼瞼結膜粘膜に白色に変化している結膜線維化部位を認める.上皮間葉転換の主要な転写因子であるCSnailの発現,基底膜の分解酵素としてのCMMP9の発現上昇を認め,結膜基底細胞が上皮間葉転換をきたし,線維芽細胞に変換することによる線維化を引き起こすことを報告した8).一方CGVHDによるドライアイ症例の結膜.付近には,ドナー由来線維芽細胞の集積を認める(図2).GVHDモデルマウスでも同様の部位にドナー由来線維芽細胞が浸潤している9).結膜線維化の病態にはドナーおよびレシピエント由来の線維芽細胞が協調して病態を増幅していると考えられる.C●GVHDの結膜線維化の治療現在,保険適用となっている抗線維化点眼薬はない.臨床では,アレルギー性結膜炎の治療薬として承認されているトラニラストが抗線維化効果をもち,有用である可能性がある.疼痛緩和や高度な癒着防止のために治療用コンタクトレンズが,高度な瞼球癒着,結膜.短縮に対して羊膜移植術が報告されている10).基礎研究レベルあたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1095図2慢性GVHDによるドライアイ症例の結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の局在a:結膜.におけるCCD34陽性の特殊な線維芽細胞の集積.緑色は紡錘形線維芽細胞(CD34).青色は核(TO-PRO3).Cb:aと同一切片同一部位におけるCY染色体CFISH陽性シグナル.ドナーは男性,レシピエントは女性.同一切片でCD34陽性細胞と同一細胞(.)にCY-FISHシグナルを検出した.で,炎症抑制とともに線維化抑制効果が認められた薬剤として,涙腺,結膜においてはCVascularCAdhesionProtein-1抑制薬,羊膜の抽出物であるCHeavyCChain-Hyaluronan/PentraxinC3,涙腺においてフェニル酪酸,レニンアンジオテンシン拮抗薬が報告されている11).C●おわりに今後,GVHDによるドライアイの病態に関与する結膜粘膜の免疫性線維化に対する有効な治療法がみいだされれば,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群をはじめとした難治性眼表面線維化疾患における瞼球癒着,結膜.短縮などの新規治療法の開発に役立つ可能性があると考えられる文献1)稲本賢弘:移植後長期フォローアップと慢性CGVHD.日本造血細胞移植学会雑誌6:84-97,C20172)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20173)JagasiaCMH,CGreinixCHT,CAroraCMCetCal:NationalCInstiC-tutesCofCHealthCConsensusCDevelopmentCProjectConCCrite-riaCforCClinicalCTrialsCinCChronicCGraft-versus-HostCDis-ease:I.CTheC2014CDiagnosisCandCStagingCWorkingCGroupCreport.BiolBloodMarrowTransplant21:389-401,Ce381,C20154)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaCR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C20135)KusneY,TemkitM,KheraNetal:Conjunctivalsubepi-thelialC.brosisCandCmeibomianCglandCatrophyCinCocularCgraft-versus-hostdisease.OculSurfC15:784-788,C20176)RobinsonCMR,CLeeCSS,CRubinCBICetCal:TopicalCcorticoste-roidCtherapyCforCcicatricialCconjunctivitisCassociatedCwithCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBoneCMarrowCTrans-plantC33:1031-1035,C20047)OgawaY,OkamotoS,WakuiMetal:Dryeyeafterhae-matopoieticCstemCcellCtransplantation.CBrCJCOphthalmolC83:1125-1130,C19998)OgawaY,ShimmuraS,KawakitaTetal:Epithelialmes-enchymalCtransitionCinChumanCocularCchronicCgraft-ver-sus-hostdisease.AmJPatholC175:2372-2381,C20099)五十嵐秀人,小川葉子,山根みおほか:慢性移植片対宿主病マウスモデルの結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の集積.あたらしい眼科35:2018印刷中10)TungCCI:CurrentCapproachesCtoCtreatmentCofCocularCgraft-versus-hostdisease.IntOphthalmolClinC57:65-88,C201711)OgawaCY,CSpecialCIssue.CDryCEyeCResearchCUpdateCinCJapan.Inthe25thCAnniversaryofJapanDryEyeSociety.4.SubtypesofDryEyeB.Aqueoustearde.cientdryeyeSjogren’sCsyndrome(SS)C,CNon-Sjogren’sCsyndrome,CandCGraft-versus-hostCdisease.CInvestCOphthalmoloCVisCSci.inpressC1096あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(90)

抗VEGF治療:抗VEGF療法とロービジョンケア

2018年8月31日 金曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二55.抗VEGF療法とロービジョンケア斉之平真弓鹿児島大学眼科ロービジョン外来抗CVEGF療法は現在,滲出性加齢黄斑変性においてスタンダードな治療になっている.しかし,治療により脈絡膜新生血管の活動性が低下しても,網膜色素上皮や脈絡膜の萎縮,さらには黄斑部瘢痕化に至り,視力予後不良になる症例も少なくはない.そこで治療と同時に,病期に応じた適切なロービジョンケアが必要である.はじめに日本人の平均寿命は女性C87.1歳,男性C81.3歳に延び,2030年までにはC3人にC1人がC65歳以上という超高齢社会に到達する.高齢化に伴い,今後,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)のような慢性疾患が増加することが予測される.AMDに対する効果的治療が存在しなかった時代には失明も避けられなかったが,現在,抗CVEGF療法が広がり,AMDによる失明は大幅に減少した.しかしながら,治療により脈絡膜新生血管(choroidalCneovascularization:CNV)の活動性が低下しても,網膜色素上皮細胞や神経網膜が萎縮しロービジョンに至る症例も少なくはない.そこで,治療を継続しながら快適な生活を送るための視覚リハビリテーション,すなわちロービジョンケアが重要となる.抗VEGF療法導入期およびCNV活動期のロービジョンケアAMD発症と日光曝露の多寡には関連があると指摘されているが,AMD発症後の日光曝露と進行に関して否定的な意見もあり,結論は出ていない.それでも僚眼のことを考え,羞明がない場合でも長時間,屋外にいるときは遮光眼鏡(図1)つば付き帽子またはサンバイザー,日傘を勧めている.た,だし,遮光眼鏡に度数を入れる場合は維持期まで待ったほうがよい.必要に応じて福祉制度や環境整備について助言を行う.・福祉制度身体障害者手帳の取得により,税の優遇措置や交通機関運賃の割引,補装具(遮光眼鏡,矯正眼鏡,弱視眼鏡,白杖など)や日常生活用具の給付を受けることができる.身体障害手帳に該当しなくてもCAMDは障害者総合支援法の「難病」であるため,補装具や日常生活用具の給付,同行援護サービス(移動支援)が受けられる.「難病」による補装具申請の場合,患者が住民票のある市町(87)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY村の障害福祉課で医師意見書(書式は市町村で異なる)を取得し,医師(身体障害者福祉法第C15条指定医師または視覚障害者用補装具判定医師)が「AMDにて羞明が強く,遮光眼鏡を装用する必要がある」などと理由を記述する必要がある.また,65歳以上の移動支援は介護保険制度による支援が優先される(自治体により支援内容に差がある).・環境整備患者本人の見え方が変わらなくても,住環境の整備により生活がしやすくなる.AMDでは黄斑部の網膜感度低下により,コントラスト感度が低下し薄暗く見えるため,室内の照明の種類や照度を変え,羞明が出ない程度に明るくする1).物の色と背景色を対比させ,コントラストを高め見やすくする(例:黒色の茶碗・しゃもじ・まな板など).大きな文字,太い文字,ゴシック体を使用する.時計の文字盤を利用して配膳する(例:飲み物はC10時からC2時の位置に置くと倒しにくい).その他,生活用品を常に整理整頓し,定位置を決めておく.また,患者の見え方をシュミレーションメガネで家族に体験してもらい,環境整備に積極的に協力してもらうことも必要である2).抗VEGF療法維持期およびCNV活動停止期のロービジョンケア少なくともC3カ月以上視力が安定してから,眼鏡や視覚補助具の処方を実施する.補助具使用の場合,視距離に応じた矯正眼鏡が必要になる.最初に,所持眼鏡のチェックを実施し,必要であれば適切な眼鏡処方を行う.中心暗点や歪視を伴う症例では遠近両用(とくに累進屈折力)眼鏡のレンズ領域と網膜感度の良好領域が合わない場合があるため,遠近両用眼鏡よりも遠用および近用の単焦点眼鏡が勧められる.・「読み・書き」のロービジョンケアCInternationalCClassi.cationCofCDisease-10-ClinicalModi.cation(ICD-10-CM)によれば,両眼開放視力があたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1093図1遮光眼鏡(補装具)図2照明と書見台図3据置型拡大読書器(日常生活用具)短波長光をカットし,羞明を軽減する.書見台により楽な姿勢で読書が可能.照「読み・書き」だけでなく日常生活全般に活用できる.明は頭や手が影にならない位置にアームが自由に動くタイプを選択する.図4LEDライト付きの卓上型図5コロコロ号スタンドタイプ図6タイポスコープ拡大鏡キャスターのついた台にCiPadを載せ,台を前黒い囲みで読み書きしたい部分を強調する.さまざまな倍率の卓上型拡大鏡後にコロコロと動かしながら読むことができさまざまな書式に合わせて作成可能.があり,用途に合わせる.る.スタンドはC4段階の角度調節が可能.0.25以下で読書用補助具が必要になるロービジョンと定義されている.しかし,両眼性CAMDの場合,視力がよくても黄斑病変により中心暗点や歪視があるため「読み・書き」に困る症例が多く,ロービジョンケアが必要である.中心暗点がある場合,「読み・書き」したい対象物に近づいて見ることで,中心暗点が小さくなり見やすくなる.ただし,頭が陰にならないように,「読み・書き」をする時には照明(アームが自由に動くタイプ)と書見台を併用する(図2).また,対象物を拡大コピーしたり,ルーペ(拡大鏡)や拡大読書器で拡大する方法で,中心暗点があっても網膜像の拡大により「読み・書き」がしやすくなる.拡大読書器は視力C0.1以下でも有効で,「読み・書き」のほかに,爪切りや携帯電話の操作,野菜の汚れチェックなど,日常生活全般に活用できる優れた補助具である.高齢者には携帯型よりもモニターが大きい据置型拡大読書器が勧められる(図3).拡大鏡は高齢者の場合,LEDライト付きの卓上型拡大鏡が安定して使いやすい(図4).iPadはアクセシビリティ機能を備えており,付属カメラで携帯型拡大読書器のように利用できる.平らな場所で前後・左右に動かしながら読字できるCiPad用専用台も市販されている(図5).「読み・書き」したい場所を黒い囲みで強調し,行間違1094あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018いを防ぐ「タイポスコープ」も中心暗点や歪視のある症例に勧められる(図6).中心暗点がある場合,網膜感度の良好な領域で見る偏心視訓練も重要である.心のケアCNV再発の恐れや治療の経済的負担,見たい物が見えないストレスなど,AMD患者は抑うつ状態になりやすいことが報告されている.ロービジョンケア実施グループはロービジョンケアを実施していないグループと比較し,QOL向上だけでなく有意に抑うつ状態も低い結果であった3).眼科医が抗CVEGF療法とともに,ロービジョンケアの存在を伝えることが,患者のCQOL向上や心のケアにつながる.文献1)藤田京子:疾患別のロービジョンケア加齢黄斑変性.眼科クオリファイC26.ロービジョンケアの実際.p176-181,中山書店,20152)仲泊聡:眼科医療としてのロービジョンケアロービジョンケアとは?眼科クオリファイC26.ロービジョンケアの実際.p2-8,中山書店,20153)DeemerCAD,CMassofCRW,CRovnerCBWCetCal:FunctionalCoutcomesCofCtheClowCvisionCdepressionCpreventionCtrialCinCage-relatedCmacularCdegeneration.CIOVS58:1514-1520,C2017(88)

緑内障:緑内障診療からみる遠隔医療

2018年8月31日 金曜日

●連載218監修=岩田和雄山本哲也218.緑内障診療からみる木ノ内玲子旭川医科大学医学部医工連携総研講座,同大眼科学講座遠隔医療川井基史旭川医科大学眼科学講座ICT(informationandcommunicationtechnology)の進歩・普及はめざましく,また急速である.医療においてもICTをうまく利用することで,遠隔地の患者に専門医療を提供でき,通院回数を減らす効果が期待できる.緑内障診療から見る眼科遠隔医療の実際について紹介し,また,遠隔医療の現在の問題点についても言及する.●はじめに緑内障の診断には,陳旧性網膜静脈閉塞症や,他の視神経疾患の除外,病型分類のための隅角検査や前房炎症の有無の確認などが必要で,現在のところ遠隔診療のみでの診断はむずかしい.旭川医科大学では地域の眼科医をサポートする形で,緑内障診療に遠隔医療システムを利用している1).●リアルタイム遠隔診療仮想プライベートネットワーク(virtualprivatenet-work:VPN)を利用し,地方病院の眼科医から患者のリアルタイムの診察画像(細隙灯顕微鏡所見など)を送信してもらい,遠隔地の患者の診療を行うものである(図1).利点としては遠隔診療したうえで,患者と直接コミュニケーションが取れることである.事前に聞いていた情報ではつかめなかった印象がとらえられ,問診の追加や手術の決断が可能である.手術を決定した際は,“こちらで引き受けさせてもらいます”といった説明ができるので,患者との信頼関係構築に役立ち,また,遠隔地から外来受診してもらうことなく,直接入院が可能となる.このシステムを緑内障の術後管理に利用することもある2).リアルタイム診療では,診療報酬を相談側と折半できるという利点もある.リアルタイム診療の欠点としては,設備投資や通信費といった経費に加え,相談側と相談を受ける側との時間調整の手間があげられる.●遠隔相談システムインターネットの遠隔相談システムで,地方病院の眼科医からの相談を受けるものである.リアルタイムではないので,相談をする側も答える側も余裕をもって利用できる.地方に派遣している眼科医を支援する機能を果たしており,さまざまな専門分野の相談が寄せられる3).緑内障では,光干渉断層計や視野などの画像を添付して(85)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1リアルタイム遠隔診療カメラ画像やスリット画像を切り替えて利用できる.の診断や治療方針の相談があり,専門医の意見が求められたりする(図2).欠点としては,セキュリティの確保のため管理者(旭川医大遠隔医療センター)に負担がかかる点である.相談は個人情報を除いた情報でやり取りを行い,パスワードでログインする形態をとっているが,個人情報の厳格化で,個人の名前だけでなく,虹彩紋理も個人識別符号と定義されたため,一層の注意が必要となってきている.●インターネットを利用した眼底写真検診インターネット上の「ウェルネットリンク」を利用して,眼底写真の検診を行っている(図3).「ウェルネットリンク」は旭川医大の遠隔医療センターが運営するネット上の健康医療情報管理システムで,バイタルデータの管理や健康診断結果の管理ができるようになっている.ウェルネットリンク上の画像を見て,診察が必要と判断された人には二次検査を受けるように案内を出している.現在,この検診は北海道留萌市の協力のもと,臨床研究として行っている.あたらしい眼科Vol.35,No.8,20181091図2遠隔相談システム画像や病歴などを載せ,相談したい医師や専門グループを指定する.図4モバイルを利用した医師間のコミュニケーション簡便で迅速な連絡が可能である.●医療関係者間コミュニケーションアプリを利用したモバイル端末での相談モバイル端末(スマートフォン)での情報のやり取りは,簡便かつ汎用性があり,医療での活用も進められてきている.救急の場面では,CTなどの画像を迅速に専門医のモバイル端末に送信することで,専門医がどこに居ようともコンサルトが可能で,迅速に指示をもらうことができる.1092あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018図3眼底写真検診眼底画像をクリックすると拡大した眼底画像がみられる.読影結果を入力し回答する.当院では医療コミュニケーションアプリ「Join」(アルム)を研究として導入しており,外科救急と眼科診療で活用している(図4).このアプリケーションはLINEのようなコミュニケーション様式となっており,診療相談や情報共有,業務連絡に使われている.アプリケーションで使用する患者画像情報はモバイル端末に残らず,クラウドに保存される.また,画像情報に個人情報は載せないようにして,運用している.●今後無散瞳眼底カメラによる写真を遠隔地でスクリーニングし,要精査の人には医療施設で光干渉断層計をはじめとした検査を受けてもらい,眼科医はどこにいてもデータから緑内障と診断することが,技術的には遠くない将来に可能となる.ソフト面で追いつかなければならない課題として,個人情報の取り扱いルールの明確化,ネットセキュリティの確保,責任の所在の明確化,診療報酬,対面診療の意義の明確化などがあげられる.患者も医療者側も遠隔医療の恩恵を受けられるよう,課題を解決していく必要がある.文献1)石子智士,木ノ内玲子,花田一臣ほか:【遠隔医療を推進する旭川医科大学の取り組み】眼科における遠隔医療の意義.日遠隔医療会誌10:4-7,20142)山口亨,石子智士,木ノ内玲子ほか:遠隔医療システムを活用した眼科術後管理の有用性.日遠隔医療会誌9:33-38,20133)花田一臣,石子智士,守屋潔ほか:遠隔医療支援システムを活用した眼科遠隔医療の運用実績.日遠隔医療会誌9:125-128,2013(86)