監修=木下茂●連載219大橋裕一坪田一男219.MiniWellReady野口三太朗ツカザキ病院眼科ウェーブフロントエンジニアリングを基にデザインされた眼内レンズ(IOL)であるCMiniWellReadyが日本でも使用可能となった.IOLオプティカルゾーンはC3ゾーンに分割されており,中心に正の球面収差,その周辺に負の球面収差を付加することで焦点深度を拡張させている.レンズ面にステップがないため,多焦点CIOLで問題となる夜間のグレア,ハローが少ない可能性がある.●多焦点IOLからEDOFIOLへ近方視に対しても多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を用いることで,眼鏡の装用率を低下させることが可能になったが,その反面,多焦点CIOLには大きな欠点としてグレア,ハローの出現,コントラストの低下,単眼複視の出現が存在することもわかってきた.とくに瞳孔径の大きくなる夜間の症状は強く,夜間の運転は辛くなる.およそC40~50%の患者がハローを自覚,30%の患者がグレアを自覚,そしてC20%の患者が「とても不快」と感じているといわれている1).このような副症状を低減する目的で開発されたレンズがextendeddepthoffocus(EDOF)IOLである.C●MiniWellReady(SIFIMedTech社)IOLが多焦点性を得るには,①回折格子,②屈折加入,③小開口,④球面収差,⑤コマ収差の五つの手法があるが,そのうち⑤は像質が不良になることから,実際にはC4手法が考えられる.①,②はすでに多焦点CIOLに用いられている.MiniWellReadyは上記C4手法のうち,④の球面収差図1MiniWellReadyの構造レンズ長径はC10.75Cmmで,レンズ光学面の直径はC6Cmm,ウルトラバイオレットフィルターが施されている.ハプティクスはC4足になっており,傾斜などが起きにくい仕様である.レンズパワーのラインナップは0~+30Dと広く製造されている.(83)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYを用いている.世界初のプログレッシブ構造をもった非球面多焦点CIOLで,プリロードシステムにて販売されている.近方加入度数はC3.0Dである.IOLオプティカルゾーンはC3分割されており,中心に正の球面収差,その周辺に負の球面収差を付加し,最周辺ゾーンは単焦点となっている.理論を簡単にいうならば,正の球面収差は焦点から近方方向に焦点が伸びる.逆に負の球面収差は焦点から遠方方向に焦点が伸びる(図1).その両方を一つのレンズのなかに併せもつことで焦点深度を拡張するというコンセプトである.回折リング,ステップ,屈折ステップがないために,ゴースト,グレア,ハローが非常に出にくい構造となっており,狭義のCEDOFCIOLといえる(図1,2).Readyと命名されているように,レンズはプリロード式である.レンズセッティングの煩雑さがなく,カートリッジを保存液の中からとりだし,インジェクターに装着し,カバーをはずせばよいだけで,レンズに触るこ図2MiniWellReady移植眼の所見実際に手術をして眼内に移植するとわかるが,レンズ自体にステップがないため,単焦点CIOLと見まちがえる.眼球を傾けたりするとCPurkinje像の反射の乱れで,レンズ中央部にプログレッシブになっている部分がわかる.あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1089Vergence(m)Vergence(m)1.000-1.00-0.50-0.33-0.25-0.200.71.000-1.00-0.50-0.33-0.25-0.200.50.60.40.50.30.4MTFMTF0.20.1010-1-2-3-4-5Vergence(D)図3眼孔径3mmでのMTF赤線:MiniWellReady,青:3焦点CIOLその一,緑線:3焦点CIOLその二.明所においては,3焦点CIOLでは遠方,70Ccm,30CcmのC3カ所でCMTFが高値となっており,3点において焦点があることがわかる.しかし,MiniWellReadyは遠方とC80~35Ccmに連続的に焦点をもつことがわかる.従来型の多焦点CIOLとは異なることがわかる〔throughCfocusMTF(modulationCtransferCfunction)50Ccycles/mm,3Cmm瞳孔径〕.(文献C4より一部改変して引用)となく移植可能である.そのため,レンズのセッティングミスが起きにくいと思われる.推奨切開創は角膜2.2Cmmである.明所瞳孔では遠方から近方への焦点の伸びがあるが,夜間になると(瞳孔径C5Cmm以上)近方のパワー比率が減少し,遠方優位の単焦点のようなふるまいをする.これにより,ハローなど,今まで多焦点CIOLで一番問題とされ,宿命でもあった副症状を大部分取り除くことができた(図3,4).遠方から近方まで他の多焦点CIOL(3焦点CIOL,他のCEDOFCIOL,2.5D多焦点CIOL)と比較して質の高い映像が得られるとされている2~4).レンズ偏位や傾きに対して耐性があり,そのような場合でも像質は良好ともされている5).しかし,何もかもがすべてにおいて優れているわけではない.一つは,収差コントロールによる深度拡張であるために,角膜,水晶体.,硝子体の光路の乱れに対して他のレンズよりも敏感である可能性が考えられる.また,従来型多焦点CIOLと比較するとやや近方視力が弱い可能性がある.最後にレンズデザインからも推察されるが,3ゾーンの光量により焦点や焦点深度の深さが変わる可能性が高い.つまり.瞳孔の拡大,近見縮瞳反射によって焦点が変わってくる可能性が高い.筆者の経験としては,瞳孔運動,瞳孔径の大きな若年者には非常に像質の高い良好な遠中近視力を提供し,かつ,夜間のグ1090あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018暗所では,いずれのC3焦点CIOLも近方C30Ccmにピークがあり,0.30.20.1010-1-2-3Vergence(D)-4-5図4眼孔径4.5mmでのMTF暗所でもC30Ccmの近距離にもある程度の焦点をもつ.そのために暗所でのグレアやハローが感じやすくなる可能性が考えられる.MiniWellReadyでは遠方でのCMTF値が非常に高く,暗所での遠方視における像質が良好である可能性が考えられる.しかし,中,近には焦点をもたないため,暗所では近方が見えにくくなり,グレア,ハローが自覚されにくいと思われる(throughfocusMTF50cycles/mm,4.5Cmm瞳孔径).(文献C4より一部改変して引用)Cレア,ハローを感じさせにくいクリアビジョンを得ることができる可能性があると思われる.そのため,若い患者には現時点では第一選択にあがってもよいレンズであると思われる.今後,MiniWellReadyと瞳孔径,瞳孔位置などの関係について,さらなる研究結果が待たれる.文献1)WoodwardCMA,CRandlemanCJB,CStultingCRD:Dissatisfac-tionCafterCmultifocalCintraocularClensCimplantation.CJCCata-ractRefractSurgC28:992-997,C20092)SonCHS,CTandoganCT,CLiebingCSCetCal:InCvitroCopticalCqualityCmeasurementsCofCthreeCintraocularClensCmodelsChavingidenticalplatform.BMCOphthalmol17:108,C20173)Dominguez-VicentCA,CEsteve-TaboadaCJJ,CDelCAguila-CarrascoAJetal:Invitroopticalqualitycomparisonof2trifocalCintraocularClensesCandC1CprogressiveCmultifocalCintraocularClens.CJCCataractCRefractCSurgC42:138-147,C20164)SaviniCG,CSchiano-LomorielloCD,CBalducciCNCetCal:VisualCperformanceofanewCextendedCdepth-of-focusCintraocularClensCcomparedCtoCaCdistance-dominantCdi.ractiveCmultifo-calintraocularlens.JRefractSurgC39:228-235,C20185)BellucciR,CuratoloMC:AnewextendeddepthoffocusintraocularClensCbasedConCsphericalCaberration.CJCRefractCSurgC33:389-394,C2017(84)C