‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

落屑緑内障

2018年8月31日 金曜日

落屑緑内障ExfoliationGlaucoma尾﨑峯生*はじめに落屑緑内障(exfoliationglaucoma)は落屑症候群(exfoliationsyndrome)に続発する緑内障である.落屑症候群は異常な細胞外マトリクスの過剰産生と蓄積が主として眼内に認められる加齢性疾患(マイクロフィブリロパチー)である.落屑症候群ではエラスチンの生成と架橋結合に異常を生じるため,1)血管病変を伴って心血管系疾患を併発しやすい,2)女性骨盤臓器脱が有意に多い,という疫学研究や全身血管異常を病理学的に示した報告があることから,本症候群を全身性疾患であるとみなす専門家が多い.I落屑症候群1.用語について落屑症候群の呼称には落屑症候群と偽落屑症候群(pseudo-exfoliationsyndrome)という病名が混在しており,ともに同じ疾患をさすため多少の混乱を生じている(図1).これは歴史的にはガラス職人にみられる水晶体前面に薄膜のような変化を示す真性落屑症候群(図2)から,水晶体前面や虹彩に付着した落屑物質を示す病態を区別するために偽落屑症候群とよんだことに由来する.また,落屑が水晶体.から産生されるとして落屑緑内障を水晶体.緑内障(capsularglaucoma)と呼称した時期もある.現在,落屑物質は前眼部のさまざまな部位から産生され,いくつかの物質がいわば微細な毬藻のように集合体を形成しつつ蓄積することがわかってきてお落屑緑内障(Exfoliationglaucoma)=偽落屑緑内障(Pseudoexfoliationglaucoma)=水晶体.緑内障(Capsularglaucoma)図1落屑緑内障の用語り,おもな産生部位は虹彩および毛様体ではないかと考えられる.水晶体前.を切除した後に眼内レンズ表面に落屑が認められることもあるので,水晶体前.だけから落屑を生じるわけではない(図3).2.真性落屑症候群現在,真性落屑症候群は光干渉断層計検査および病理学的研究から,水晶体前.が層状に分離した病態(cap-sularlamellarseparation)であることが明らかとなっている.注意深く水晶体前.を観察すると,真性落屑症候群は非常にまれというわけではなく,ガラス職人ではない人の前.に分離をみることもある.また,白内障手術時に水晶体前.の連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を行ったのにまだ下に水晶体.が残っていて,さらにCCCを行ったという経験をしたことがある眼科医もいるのではないだろうか.これも真性落屑症候群であり,加齢,熱曝露および外傷がリスク要因である1).フケのような落屑状の形態をした物質の沈着を示す疾患は落屑症候群のみであり,外来でよく遭*MineoOzaki:尾﨑眼科〔別刷請求先〕尾﨑峯生:〒883-0066宮崎県日向市亀崎1-15尾﨑眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(29)1035図2真性落屑症候群図3眼内レンズ表面の落屑症候群物質水晶体前.が分離した薄いベール状の膜(C.).眼内レンズ表面に落屑物質のCperipheralbandが認められる.後発白内障を伴っている.害が強い,②薬物治療の変更が多い,③トラベクレクトミー手術を受けていたことが進行と関連していた.C2.治療落屑緑内障の治療は積極的に行う必要がある.薬物治療も眼圧の推移と視野の経過を注意深くみながら,早めに強化してゆくほうがよい.落屑緑内障は原発開放隅角緑内障に比べて薬物治療に抵抗する例が少なくないため,手術に踏み切る時期が遅くなりすぎないように注意が必要である.選択的レーザー線維柱帯形成術は長期効果を期待しにくいとしても,早期緑内障例やアドヒアランスが低い例には一定の適応があるとされている.Konstasらはトラベクレクトミー後の眼圧は原発開放隅角緑内障より下降する傾向があると報告しており,原発開放隅角緑内障よりもトラベクレクトミーの手術成績が劣ることはないというのが欧米の専門家の意見である.落屑緑内障に対してはCTaniharaらがトラベクロトミーのC5年生存率が比較的良好(73.5%)であると報告している.落屑緑内障では術後も落屑の沈着が進むため,また目標眼圧を低めに設定する必要がある例も少なくないため,トラベクロトミー適応を慎重に検討する.術後良好な眼圧を達成していても長期的に経過観察を行い,必要に応じて遅滞なく次の手術を検討するべきである.また,落屑症候群および落屑緑内障では白内障手術のみによって有意に眼圧が低下することが知られている.毛様小帯脆弱が白内障手術を困難にすることも少なくないので,早めに白内障手術単独または初期の落屑緑内障に対してはトラベクロトミー白内障同時手術を行うことは治療上理にかなっているかもしれない.さらにトラベクレクトミーと白内障の同時手術では,白内障手術による炎症がトラベクレクトミーの手術成績に悪影響を与えるとの報告もあるため,早めに白内障手術(角膜切開)を行っておくことが次に行われるトラベクレクトミーの長期効果を高めてくれる可能性がある.末期の落屑緑内障患者ではとくに急速に視機能を失うことがある.このため手術待機期間中に進行しないように注意を払う必要がある.また,落屑緑内障末期では高眼圧に加えて,角膜内皮代償不全による水疱性角膜症のために視機能が低下し,外科的治療がさらに複雑な問題をはらむことも少なくない.高齢化社会では余命が予想以上に長くなり,落ち着いていた落屑緑内障の患者が超高齢になった時期に再度眼圧コントロールが不良となることも多く,治療に苦慮する例がある.CIII落屑症候群の疫学落屑症候群は,通常C50歳代から出現してくる.40歳未満はきわめてまれである.片眼性の落屑症候群は,15年でC52%が両眼性に移行する8).Hammerらの電顕的研究では,片眼性の症例も基本的には両眼性に落屑症候群の病理学的変化を示しており,表現型に左右差,時間差があるとしている9).C1.多治見スタディ日本の多治見スタディにおいては,緑内障を除いた落屑症候群はC40歳以上の全体でC0.8%,年代別ではC40歳代0%,50歳代C0.2%,60歳代C1.0%,70歳代C1.9%,80歳以上C3.0%であった10).福岡県の久山町スタディではC50歳以上のC3.4%に落屑症候群が認められた11).C2.全国緑内障疫学調査わが国における落屑症候群に対する全国規模の疫学調査はC1988年から全国C7地点,北海道,岩手,山梨,愛知,岐阜,兵庫,熊本で実施されたC40歳以上のC8,126人を対象としたものがある.落屑症候群はC101人(1.24%)に認められた.落屑症候群の有病率は,とくに熊本県で高く(2.95%),日本国内でも落屑症候群の有病率の地域差がある可能性を示唆している12).C3.環境因子落屑症候群のリスクに関連する一塩基多型(singlenucleotideCpolymorphism:SNP)は,落屑症候群疾患群ではC99%に認められるが,落屑を生じていない対照群にもC85%程度に認められる.このため環境因子も関連すると推定されている.Kangらは落屑症候群のリスクを評価するため,40歳以上の医療従事者約C12万人を追跡調査し13),スカンジナビア系統であることはリスク要因ではなく,また米国中央部もしくは南部居住者は,米国北部居住者と比較す(31)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1037ると落屑症候群リスクが低いことが明らかとなった.青年期に屋外で長時間を過ごすことは落屑緑内障および落屑緑内障疑のリスクと関連していた.雪上や水の上での作業は落屑症候群と関連性が高い.Steinらは米国本土におけるマネジドケアC63万人を分析し,居住地の環境気温が低いこと,および日光曝露が落屑症候群の重要な環境的誘因になると報告した14).また,葉酸の多量摂取は落屑緑内障および落屑緑内障疑のリスク減少と関連しており,落屑緑内障および落屑緑内障疑におけるホモシステイン関与の可能性を示している.さらにコーヒーの多量摂取が落屑症候群のリスク要因と関連性があることが認められた.葉酸については,スカンジナビア地域では新鮮な野菜を取ることがむずかしいため,葉酸不足が指摘されている.また,同地域はコーヒーの摂取量では世界有数の地域であり,葉酸不足とコーヒーの多量摂取は高ホモシステイン血症を通じて落屑症候群発症リスクを高める可能性がある.CIV緑内障のメカニズム落屑症候群において落屑緑内障を発症するメカニズムは以下のように考えられる.1)落屑物質の隅角線維柱帯への沈着,隅角線維柱帯および隅角線維柱帯細胞の機能低下により房水流出機能が低下した結果,眼圧が上昇する.2)結合組織のエラストーシスによって視神経乳頭篩板(laminacribrosa:LC)の剛性低下を生じ,眼圧に対する脆弱性が生じる.このため緑内障性視神経障害が進行しやすくなる.3)毛様小帯脆弱による水晶体前方偏位によって隅角が閉塞し,眼圧が上昇する.4)網膜神経節細胞自体の機能障害の可能性がある15).C1.視神経乳頭篩板落屑緑内障の病態生理学におけるCLCの役割は十分に認識されている16).落屑緑内障患者のCLCに弾性線維症が認められ,落屑緑内障患者の視神経乳頭組織におけるエラスチン合成およびターンオーバーの調節不全を示唆している17).落屑症候群眼におけるCLCの構造的脆弱は,眼圧が正常範囲内であっても,緑内障性視神経症の発症および進行の原因となると考えられている17,18).落屑症候群のC37眼,落屑緑内障のC5眼,原発開放隅角緑内障のC5眼を含むヒトドナー眼における組織病理学的研究によれば,lysylCoxidase-likeC1(LOXL1)および弾性線維蛋白質の調節異常発現は,LCの構造的変化と関連しており,眼圧への耐性低下,したがって緑内障性視神経症の発症および進行に関与することが示されている19).増強深度イメージング法を用いたスペクトラルドメインOCTによって生体内でのCLCおよび視神経乳頭のより深部構造の視覚化が可能となっている20,21).正常眼圧緑内障患者において,高眼圧原発開放隅角緑内障患者よりもCLCが有意に薄いことが報告されている22).このイメージング技術を用いて,同等の病期を示す落屑緑内障患者C21例と原発開放隅角緑内障患者C35例を比較すると,落屑緑内障患者のCLCは原発開放隅角緑内障の患者よりも有意に薄いことが示された23).この結果は,原発開放隅角緑内障よりも落屑緑内障において視神経乳頭がより障害を受けやすいことを示唆している.C2.落屑症候群における閉塞隅角メカニズム開放隅角緑内障は,落屑症候群に関連するもっとも一般的な緑内障病型であるが,毛様小帯脆弱のために,水晶体が前方に移動し,閉塞隅角緑内障の発症につながる可能性がある.原発閉塞隅角の罹患率が高いアジア人においては,落屑症候群を伴う慢性閉塞隅角緑内障は原発閉塞隅角緑内障よりも速く進行する可能性があるため,注意が必要である.片眼落屑症候群患者の前眼部における形態学的変化の臨床的評価が,前眼部COCTを用いて行われて,落屑症候群眼の前房の深さは非落屑眼よりも浅い傾向を示した24).日本では,落屑症候群外来患者からのC305眼における隅角鏡を用いた報告では,3.6%の患者がCSha.erグレードC1,Sha.erグレードC2としてC13.1%であった25).落屑緑内障患者は,隅角閉塞が出てきていないかを確認するために,定期的に隅角検査を受ける必要がある.C3.網膜神経節細胞の機能不全OCTを用いて,従来の眼科検査で他の異常がない片1038あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(32)表1落屑症候群の疾患関連遺伝子とその役割エラスチンの生成と架橋結合C細胞の恒常性維持に関連するユビキチン-プロテアソーム複合体Cカルシウム輸送体C膜貫通型蛋白質/血管内皮における発現C膜貫通型蛋白質C炎症に関連C細胞増殖に関連LOXL1POMPCACNA1ATMEM136SEMA6AAGPAT1RBMS3’C-図4落屑症候群発症メカニズム–

アミロイド緑内障

2018年8月31日 金曜日

アミロイド緑内障AmyloidGlaucoma渡邉隆弘*井上俊洋*はじめに続発緑内障の一つの型としてあげられるアミロイド緑内障は,基本病態としてアミロイド物質が房水の流れに乗って房水流出路に沈着することで房水流出路の構造変化を生じ,房水流出抵抗が増加することで眼圧上昇をきたすことがおもなメカニズムと考えられている.アミロイド物質が沈着することで機能障害をきたすアミロイドーシスは,日本では30種類以上の病型が確認されており,免疫グロブリン性アミロイドーシス,アミロイドAアミロイドーシス,遺伝性トランスサイレチン(transthyretin:TTR)アミロイドーシス,野生型TTRアミロイドーシスなどがある.全身にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスは指定難病である.アミロイド沈着を眼内に生じる疾患として家族性アミロイドポリニューロパチー(familialamyloidoticpolyneu-ropathy:FAP)がよく知られており,TTRに変異を起こしたタイプのほか,異型アポリポ蛋白AIや異型ゲルソリンが原因となるタイプがある.TTRによるものがもっとも多く,神経障害や臓器障害に加えて眼所見も伴うため,以下は異型TTRによるアミロイドーシスについて述べる.両親のいずれかがこの疾患の場合,1/2の確率で遺伝し,20歳代後半から30歳代に発症することが多い.無治療だと発症後10年あまりで多臓器不全などに至り,死亡する難病である.世界的にはポルトガル,スウェーデン,わが国では熊本,長野に患者の集積地があり,その地域特有の疾患ととらえられ通常遭遇することはあまりない疾患と思われていたが,近年集積地以外でも新発見の遺伝子変異によるTTRアミロイドーシスの型が次々に発見されており,その分布は全国的に広がっている.したがって,これまでは内科的に正しく診断されていなかった症例もあり,今後は従来知られていた集積地以外でも一般眼科臨床でアミロイド緑内障に遭遇する可能性は十分に考えられるため,その臨床的な特徴について知っておく必要がある.はっきりした遺伝的な背景をもたない弧発例で,TTR遺伝子に点変異を有することでアミロイドーシスをきたしている症例も日本各地で発見されている.高齢男性に多く,自律神経障害は軽微であることが特徴であり,正しく診断されるまで時間がかかることも少なくない.これらのTTRアミロイドーシスにおける眼所見の頻度や重症度については不明な点が多く,今後の臨床的な課題である.本稿ではアミロイド緑内障の病態から臨床像,治療方針について,熊本の症例から得られた知見を中心に述べる.I病態血漿蛋白質の一つであるTTRは血液中や脳脊髄液中に存在し,甲状腺ホルモンなど他の物質と結合しながらビタミンAを輸送する働きをもっている.本来4量体として機能するが,遺伝性TTRアミロイドーシスでは*TakahiroWatanabe&*ToshihiroInoue:熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕渡邉隆弘:〒860-8556熊本市中央区本荘1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)1029トランスサイレチン4量体として機能遺伝子変異により単量体化,ミスフォールディング重合,凝集し,アミロイド線維形成図1トランスサイレチンによるアミロイド線維形成の模式図トランスサイレチンは本来C4量体として機能するが,遺伝性CTTRアミロイドーシスではTTRが遺伝的に変異を起こすことで単量体に乖離しやすいことと,また分子レベルの折りたたみがうまくいかないこと(ミスフォールディング)から重合・凝集し,不溶性のアミロイド線維を形成する.図2遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスにおける図3遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスにおける瞳孔縁のアミロイド沈着と脱円した瞳孔水晶体.のアミロイド沈着図4遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスにおける硝子体混濁図5落屑症候群における瞳孔縁の落屑物質沈着図6落屑症候群における水晶体.の落屑物質沈着図7アミロイド緑内障に対する線維柱帯切除術後に形成された濾過胞濾過胞の丈を保ったまま,眼圧はしばしば高くなる.

ステロイド緑内障

2018年8月31日 金曜日

ステロイド緑内障Steroid-InducedGlaucoma有村尚悟*稲谷大*はじめに副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)は強力な消炎効果を有するが,眼科領域ではとくに白内障やステロイド緑内障といった副作用のリスクを考慮しなければならない.緑内障初期は自覚症状に乏しく,発見が遅れた場合,重篤な視機能障害をもたらす可能性がある.ステロイドを処方する場合には,眼圧上昇の可能性があることを患者本人またはその家族に伝え,継続的に経過観察していくことが必要である.本稿では,ステロイド緑内障の歴史,原因,発症機序,診断,治療について述べる.CIステロイド緑内障の歴史ステロイドによる眼圧上昇はステロイドの全身投与によって引き起こされることがC1950年代に報告され1),春季カタルに対するステロイド点眼治療でも同様に眼圧上昇をきたすことが同時期に報告されている.2000年代に入ってから,徐放性ステロイドのトリアムシノロンアセトニド(以下,トリアムシノロン)が硝子体手術における硝子体の可視化に用いられるようになった.その効果として手術時の合併症の減少に有効であることや,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞疾患に合併する黄斑浮腫の軽減,脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることがわかり,トリアムシノロンは臨床の場で広く用いられることとなった.その一方,トリアムシノロンによる合併症としてステロイド緑内障も増加した.IIステロイド緑内障の原因ステロイド緑内障を引き起こすステロイドのおもな投与形態には,ステロイド内服薬・注射薬の全身投与,ステロイドの点眼,トリアムシノロンなどの徐放性ステロイドの硝子体内注射やCTenon.下注射,喘息治療に用いられる吸入ステロイド,眼瞼へのステロイド眼軟膏の塗布などがあげられる.また,副腎皮質過形成やCCush-ing症候群など,内因性にステロイド産生が上昇する疾患によって眼圧上昇をきたす場合がある.投与方法と眼圧上昇の関連についてはステロイド点眼使用による眼圧上昇の報告が多いが,顔や眼瞼用クリームや外用水薬,あるいは眼周囲以外の皮膚への投与でも,眼圧を上昇させる十分量が吸収され,眼に作用すると考えられている.とくに球後,結膜下,Tenon.下の投与では眼圧が上昇しやすい.CIIIステロイドによる眼圧上昇の発症機序ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には細胞外マトリックスの異常蓄積がみられる.線維柱帯細胞が細胞外マトリックスを過剰産生し,貪食能が低下することによって堆積物が増加し,房水流出路が障害され,その流出抵抗が増大するためにステロイド緑内障が発症すると考えられている2).また,細胞外マトリックスの主成分はグリコサミノグリカンであるが,その水和物は線維柱帯に浮腫を生じさせ,房水流出路が閉塞する可能性があ*ShogoArimura&*MasaruInatani:福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学〔別刷請求先〕有村尚悟:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡下合月C23-3福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(19)C1025表1ステロイド負荷試験表2ステロイド点眼薬の種類と眼圧上昇作用との関係表3ステロイド内服による眼圧上昇の危険因子内服なしC1.00内服中1.41(1.22.1.63)内服C15.45日前1.18(0.87.1.62)内服C46.365日前0.92(0.78.1.08)ヒドロコルチゾン換算量(mg/day)1.391.26(1.01.1.56)40.791.37(1.06.1.76)C.801.88(1.40.2.53)連続投与連続投与なし0.98(0.86.1.12)1.2カ月1.29(0.93.1.80)3.5カ月1.63(1.16.2.30)6.11カ月1.87(1.34.2.60)C.12カ月1.52(1.13.2.05)(文献C9より引用)生存率(%)10090ステロイド緑内障8070原発開放隅角緑内障605040302010012345年経過期間(年)図1ステロイド緑内障と原発開放隅角緑内障に対するトラベクロトミー手術後の成績比較(文献C11,12より改変引用)C-

ぶどう膜炎性緑内障

2018年8月31日 金曜日

ぶどう膜炎性緑内障UveiticGlaucoma楠原仙太郎*はじめにぶどう膜炎患者における失明の主原因は慢性もしくは再発性の眼内炎症による眼組織障害であるが,非感染性ぶどう膜炎に対しては免疫抑制薬(シクロスポリン)および抗TNFa薬(アダリムマブ)が近年相ついで保険収載されたことにより,今後は炎症による失明は減少することが予想される.一方,わが国では,ぶどう膜炎眼の約1/4に高眼圧症もしくは緑内障を合併するとの報告がある1).また,米国における保険請求データベースを用いた後ろ向き研究においても,非感染性ぶどう膜炎では5年の経過で20%に緑内障が発症すると報告されている2).したがって,失明に至る眼炎症のコントロールが多くの症例で達成されつつある現状では,ぶどう膜炎診療における続発緑内障の適切な管理の有無がぶどう膜炎患者の視機能予後を大きく左右すると思われる.ぶどう膜炎は若年で発症することが多く,眼圧上昇のメカニズムには,眼炎症,眼組織障害,副腎皮質ステロイド(以下ステロイド)の使用が複雑に関与している.また,ぶどう膜炎性緑内障では視野障害の進行が速い症例をしばしば経験する.以上のことから,ぶどう膜炎性緑内障による重度の視機能障害を生涯にわたり予防するためには,他の緑内障とは異なる特徴をよく理解したうえで,綿密な治療戦略を組み立てる必要がある.Iぶどう膜炎性緑内障の病態ぶどう膜炎における眼圧上昇のメカニズムは複雑であ図1ぶどう膜炎性緑内障り,複数の病態の関与が考えられている(図1)3).以下に現在までに提唱されている病態につき解説する.なお,本稿では,緑内障性視神経症の有無にかかわらず,ぶどう膜炎に伴う高眼圧症を含めてぶどう膜炎性緑内障として紹介する.*SentaroKusuhara:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕楠原仙太郎:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)10171.炎症に伴う線維柱帯の機能障害前眼部に炎症が生じると,血液眼柵の破綻により炎症細胞やフィブリンを含む炎症関連物質が前房内に増加し,それらの物質が線維柱帯に付着することにより線維柱帯構成細胞の機能不全が惹起され,眼圧が上昇すると考えられる.ただし,前眼部炎症では炎症による毛様体機能低下が生じることから,房水産生の低下が同時に起こる.実際にラットを用いた実験では,炎症初期では房水産生の低下と房水流出抵抗の増大によって眼圧の上昇は認められないが,炎症が持続すると眼圧が上昇してくることが証明されている4).2.炎症による線維柱帯の構造障害炎症による不可逆的な線維柱帯の構造障害が眼圧上昇の原因となっていることがわかっている.培養実験では,TGF-b刺激で線維柱帯細胞でのアクチンストレスファイバーが増加するとの報告がある5).また,線維柱帯切除術で採取したヒト検体を用いた研究では,炎症によって形成されたと推測される均質な物質が線維柱帯組織およびSchlemm管を埋め尽くしている像も確認されている6).3.ステロイドレスポンス非感染性ぶどう膜炎治療の柱はステロイドであることから,ステロイドによる眼圧上昇(ステロイドレスポンス)がしばしば生じる.ステロイドレスポンダーの割合については報告により異なるが,ベタメタゾン0.1%点眼を4.6週間続けると約40%の症例で高眼圧が生じたとの報告もある.ステロイドに伴う眼圧上昇のメカニズムとしては,線維柱帯への細胞外マトリックスの沈着,線維柱帯細胞の機能不全,線維柱帯の細胞骨格の変化,細胞接着因子の増加が考えられている7).培養線維柱帯細胞を用いた実験では,デキサメサゾン添加で,細胞内アクチン重合が促進すること8),線維柱帯細胞および細胞外マトリックスの硬さが増加していること9),が報告されている.4.炎症に伴う隅角閉塞強い前眼部炎症や持続する炎症では,虹彩後癒着に伴う瞳孔ブロックから膨隆虹彩(irisbombe)が生じ,急性閉塞隅角症が生じることがある.また,サルコイドーシスの隅角結節に代表されるように,炎症に伴って周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が形成され,その範囲が拡大することによって眼圧が上昇するという機序もある.まれではあるが,炎症に伴う隅角新生血管が血管新生緑内障を引き起こすことがある.また,炎症に伴う毛様体の前方回旋によって虹彩水晶体隔膜が前方移動し,閉塞隅角をきたすこともある.IIぶどう膜炎性緑内障の特徴ぶどう膜炎性緑内障の診療に際しては,原発開放隅角緑内障とは異なる特徴があることを理解することが重要である.1.眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎の存在ぶどう膜炎を有する眼では長期的な眼圧上昇のリスクが高いが,そのなかでもとくに眼圧上昇のリスクが高いぶどう膜炎が知られている.a.Fucks虹彩異色性虹彩毛様体炎眼圧上昇,後.下白内障,虹彩異色を特徴とする片眼性の前部ぶどう膜炎として知られているが,しばしば硝子体混濁を伴う.前眼部炎症はステロイド治療にある程度反応するが,軽微な炎症は遷延する.炎症は無治療で経過観察できる程度であることが多く,高力価のステロイド点眼を長期間使用することはステロイドによる眼圧上昇の点からも避けるほうがよい(図2).b.ヘルペスウイルス性虹彩毛様体炎(角膜ぶどう膜炎)角膜実質炎を伴った片眼性の肉芽腫性前部ぶどう膜炎である.角膜浮腫と豚脂様角膜後面沈着物を伴った前眼部炎症があり,炎症が強いと前房蓄膿を伴って視力が著しく低下することがある(図3).30.40%で眼圧上昇を伴うと報告されている.炎症は抗ウイルス薬の全身投与によく反応し,速やかに消炎すれば眼圧は低下することが多い.前眼部炎症に伴う眼圧上昇は単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルスのどちらでも生じうる.c.サイトメガロウイルス性虹彩毛様体炎軽度の前眼部炎症に比例して眼圧上昇をきたす.特徴的な角膜内皮のコインリージョン(coinlesion)が認め1018あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(12)図2Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎細隙灯顕微鏡検査で虹彩紋理の異常を認める(Ca).赤外光観察で虹彩紋理がより明瞭に描出される(Cb).本症例では併発白内障に対する手術がすでに施行されている.C図3角膜ぶどう膜炎強い前眼部炎症を伴ったぶどう膜炎で,視力は指数弁,眼圧はC31CmmHgであった(Ca).抗ウイルス薬の点滴・内服とステロイドおよび散瞳薬の点眼でC3週間後には炎症所見が消失し,矯正視力はC1.0へと改善し眼圧も正常化した(Cb).1年3カ月後図4急速に視野が悪化したぶどう膜炎続発緑内障サルコイドーシスの症例.眼圧はC20.22CmmHgで経過していたが,1年C3カ月の間に急激に視野が悪化した.図5消炎によって眼圧が下降した強膜ぶどう膜炎前眼部炎症を伴い眼圧がC32CmmHgであったが(Ca),ベタメサゾン点眼開始C4日後に前眼部炎症の改善とともに眼圧もC10CmmHgへと低下した(Cb).c(mmHg)35302520眼圧151050BL6M12M18M24M経過図6リパスジル点眼で眼圧が下降した症例軽度の炎症を伴ったCHLA-A26陽性の非肉芽腫性ぶどう膜炎症例(Ca:カラー眼底写真,b:フルオレセイン蛍光眼底写真).眼圧C29CmmHgと高値であったがルパスジル点眼開始後に眼圧はC20CmmHg以下に下降し,その下降効果は長期にわたって維持された(Cc).表1ぶどう膜炎続発緑内障に対する濾過手術の成績術式症例数デザイン対象経過観察(年)成績文献線維柱帯切除術(マイトマイシン併用)53眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障に対する初回手術平均C5.4年術後C5年での眼圧C15CmmHg以下の割合がC57%CKaburakiT,etal(C2009)線維柱帯切除術(マイトマイシン併用)101眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障に対する初回手術平均C34.7カ月術後C3年での眼圧C21CmmHg未満の割合がC71%CIwaoK,etal(C2014)線維柱帯切除術(マイトマイシン併用)70眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障に対する初回手術平均C77.0カ月眼圧6.2C1CmmHgの割合が,術後C36カ月でC60%,術後60カ月でC36%CAlmobarakFA,etal(C2017)バルベルト緑内障インプラント47眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障(C28%で線維柱帯切除術の既往あり)平均C63.6カ月眼圧5.2C1CmmHgの割合が,術後1年で8C9%,術後5年でC75%経過中にC34%の症例で低眼圧に伴う視力低下ありCTanAN,etal(C2018)アーメド緑内障バルブ60眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障(C20%で緑内障手術の既往あり)平均C30カ月眼圧C5.C21CmmHgかつ術前からC25%以上の眼圧下降の割合が,術後C1年でC77%,術後C4年でC50%CPapadakiTG,etal(C2007)表2ぶどう膜炎続発緑内障に対する流出路再建術の成績術式症例数対象経過観察(年)成績文献線維柱帯切開術(Cabexterno)22眼ぶどう膜炎性緑内障3年以上眼圧C6.C21CmmHgの割合が,術後C1年で50%,術後C3年でC45%CVoykovB,etal(C2016)トラベクトーム24眼ぶどう膜炎性緑内障平均C394日眼圧C21CmmHg未満かつ術前かC20%以上の眼圧下降の割合が術後C1,000日で約C75%CAntonA,etal(C2015)ビスコカナロストミー11眼ぶどう膜炎性緑内障平均C45.9カ月眼圧C6.C21CmmHgの割合が,術後C48カ月でC91%CMiserocchiE,etal(C2004)深層強膜切除術†20眼ぶどう膜炎性緑内障平均C18.9カ月眼圧C21CmmHg未満の割合が,術後C12カ月でC88%CDupasB,etal(C2010)360°スーチャートラベクロトミー変法18眼続発開放隅角緑内障(ぶどう膜炎性緑内障14眼)平均C22.4カ月術前からC30%以上の眼圧下降かつ術後に緑内障点眼薬の増加がない割合が術後C12カ月でC89%CChinS,etal(C2012)*すべて後ろ向き研究,†マイトマイシン併用かつCT-.uxインプラント留置.—-

続発緑内障の分類と治療法の基本的な考え方

2018年8月31日 金曜日

続発緑内障の分類と治療法の基本的な考え方Classi.cationandTreatmentofSecondaryGlaucoma横山悠*中澤徹*はじめに緑内障診療ガイドライン(第4版)によると,続発緑内障は,他の眼疾患,あるいは全身疾患,薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる病態と定義されている.原発緑内障と異なり,緑内障性視神経症ではなく「眼圧上昇が生じる病態」としているのは,他の疾患によって引き起こされる続発緑内障では,視神経症が緑内障によるものか原疾患によるものか判断がむずかしいためである.日本緑内障学会多治見疫学調査によると,40歳以上の日本人において続発緑内障の有病率は0.5%とされる.わが国での40歳以上の緑内障有病率がおよそ5.0%であることを考えると,緑内障患者の10人に1人が続発緑内障ということになる.つまり日常診療でしばしばみられる病型であるといえる.急激に極端な高眼圧をきたし緊急の処置を要することも多い.続発緑内障はその原因疾患に応じた治療戦略を必要とするため,疾患ごとの眼圧上昇の機序を理解しておくことが重要である.I続発緑内障の分類続発緑内障は,原発緑内障と同じく隅角の閉塞の有無により,続発開放隅角緑内障と続発閉塞隅角緑内障に分けられる1).さらに続発開放隅角緑内障は房水流出抵抗の存在部位により,1)線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座がある,2)線維柱帯に房水流出抵抗の主座がある,3)Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座がある,と三つの機序に分けられる.一方,続発閉塞隅角緑内障は,1)瞳孔ブロックによる,2)瞳孔ブロック以外の原因による虹彩-水晶体の前方移動による直接隅角閉塞,3)水晶体より後方に存在する組織の前方移動による,4)前房深度に無関係に生じる周辺前癒着による,という機序に分けられる(表1).1.続発開放隅角緑内障a.線維柱帯と前房の間に流出抵抗の主座があるもの血管新生緑内障は網膜虚血,眼虚血に伴い血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)などの血管新生因子が分泌されることで隅角に新生血管が増殖し,房水排出が阻害されて眼圧上昇をきたす続発緑内障である.その進行により,病期は眼圧上昇の伴わない前緑内障期,眼圧上昇のみられる開放隅角緑内障期,虹彩前癒着が生じる閉塞隅角緑内障期に分けられる.開放隅角緑内障期では隅角の新生血管の周囲に線維血管性増殖膜が生じることで,前房から線維柱帯への流出経路に抵抗が生じて眼圧が上昇する(図1).Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は軽度のぶどう膜炎とともに隅角に微細な新生血管を生じ,20%程度の症例で眼圧上昇をきたす.前房穿刺に伴い前房出血がみられることもある.b.線維柱帯に房水流出抵抗の主座があるもの前房内に散布された微少な組織片,さまざまな細胞,蛋白質などが線維柱帯を閉塞させることにより房水流出抵抗が上昇し,眼圧上昇をきたしうる.たとえば,落屑*YuYokoyama&*ToruNakazawa:東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野〔別刷請求先〕横山悠:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)1009表1眼圧上昇機序による続発緑内障の分類1)線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座がある血管新生(開放隅角期),異色性虹彩毛様体炎,前房内上皮増殖など2)線維柱帯に房水流出抵抗の主座がある副腎皮質ステロイド,落屑物質,アミロイド,ぶどう膜炎,水晶体物質,外傷,眼科手術(白内障手術・硝子体手術・角膜移植など),眼内異物,眼内腫瘍,Schwartz症候群,虹彩色素など3)Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座がある上強膜静脈・上眼静脈圧亢進など1)瞳孔ブロックによる膨隆水晶体,水晶体脱臼,小眼球症,虹彩後癒着による膨隆虹彩など2)瞳孔ブロック以外の原因による虹彩―水晶体の前方移動による直接隅角閉塞膨隆水晶体や水晶体脱臼など3)水晶体より後方に存在する組織の前方移動による小眼球症,汎網膜光凝固後,眼内腫瘍,後部強膜炎,ぶどう膜炎(Vogt-小柳-原田病など)による毛様体脈絡膜.離,悪性緑内障,眼内充.物質,大量の眼内出血,未熟児網膜症など4)前房深度に無関係に生じる周辺前癒着による血管新生(閉塞隅角期),虹彩角膜内皮(iridocornealendothelial:ICE)症候群,ぶどう膜炎,手術,外傷など(文献1より抜粋)表2ぶどう膜炎が眼圧に与える影響毛様体炎による房水産生低下プロスタグランジンによるぶどう膜強膜流出量の上昇開放隅角炎症細胞,色素性沈着物,炎症性産物などの隅角線維柱帯の閉塞線維柱帯炎蛋白濃度上昇による房水粘性の増加ステロイド緑内障閉塞隅角毛様体の前方回旋周辺虹彩前癒着虹彩後癒着による瞳孔ブロック図1血管新生緑内障における開放隅角期虹彩前癒着は認めないが新生血管を隅角に認める.表3眼外傷における眼圧上昇機序開放隅角閉塞隅角外傷性虹彩炎水晶体脱臼,膨隆による瞳孔ブロック前房出血線維柱帯の瘢痕化CPhacolyticglaucoma開放隅角閉塞隅角前房出血水晶体脱臼,膨隆による瞳孔ブロックCLensparticleglaucoma浅前房による虹彩前癒着CFibrousingrowthCEpithelialdowngrowth眼内異物開放隅角閉塞隅角線維柱帯の炎症,瘢痕化炎症による瞳孔ブロック虹彩前癒着表4上強膜静脈圧上昇の原因疾患甲状腺眼症眼窩内腫瘍血管炎(上強膜炎,眼窩部静脈)上大静脈症候群血栓症(海綿静脈洞,眼窩部静脈)内頸動脈海綿静脈洞瘻眼窩内静脈瘤静脈シャント図2膨隆虹彩irisbombeの前眼部OCT虹彩後癒着と強い虹彩の前方突出を認める.とで,房水が前房に流れることができずに硝子体側に回り込み,硝子体が前方に押し出されることと考えられている.その病態からCaqueousmisdirectionsyndromeや毛様体ブロック緑内障とよばれることもある.Cd.前房深度に無関係に生じる周辺前癒着ぶどう膜炎や外傷,眼内手術などの眼内炎症により,虹彩前癒着を生じ,器質的隅角閉塞をきたしうる.血管新生緑内障における閉塞隅角緑内障期でも線維柱帯前面を覆う線維血管増殖膜が収縮することで虹彩前癒着が生じ,難治性の続発閉塞隅角緑内障となる.他に,虹彩角膜内皮症候群(iridocornealendothelialsyndrome,ICE症候群)でも角膜内皮細胞の異常とCDescemet膜様組織の隅角への増殖が生じて虹彩角膜癒着をきたす.CII治療法の基本的な考え方続発緑内障の基本的な治療方針が眼圧下降であることは,他の緑内障病型と変わりない.しかし,眼圧上昇に緑内障以外の疾患が関与しているため,根本的な治療には眼圧上昇がなぜ起こっているか考える必要がある.ここではわれわれが臨床の現場で出会うことの多い続発緑内障の病態と,治療法の基本的な考えについて述べる.C1.ステロイド緑内障眼圧上昇の原因としてステロイド緑内障を疑ったら,まず,ステロイドを漸減・中止してみることが原則である.点眼投与でC0.1%ベタメタゾン点眼液など強いステロイドが投与されていた場合は,0.1%フルオロメトロンなど弱いステロイド点眼液に変更することで眼圧が下降する可能性がある.ステロイドが眼科ではなく他の診療科で投薬されていることも多く,その場合には投薬を行っている担当医と相談し,ステロイドの漸減を検討してもらう.薬物療法の眼圧下降の方法は開放隅角緑内障に準じる.点眼薬や内服による眼圧下降療法,ステロイド漸減,中止にもかかわらず十分な眼圧下降が得られない場合は外科的治療が選択される2).傍CSchlemm管結合組織に細胞外マトリックスが蓄積し房水流出抵抗が増すステロイド緑内障には線維柱帯切開術が選択されることが多い.わが国における研究では,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)と比べ,ステロイド緑内障に対する線維柱帯切開術の成績は良好であることが報告されている3,4).しかし,緑内障が末期となり視野障害が進行している場合は,濾過手術を検討する.濾過手術は,感染のリスクが高まり管理が大変であるため,よく患者背景をみて適応を考える必要がある.C2.ぶどう膜炎に伴う続発緑内障ぶどう膜炎で眼圧が上昇する機序は,表2に示すように複雑である.治療は活動性のあるぶどう膜炎に対し消炎を図ることと,薬物による眼圧下降療法を平行して行うことが基本となる.プロスタグランジン関連点眼薬の使用は,血液房水柵を壊し炎症を増悪させる可能性があることから注意する.活動性のあるぶどう膜炎にみられる眼圧上昇はステロイドで消炎するだけでも下降が期待できるが,長期的ステロイドの使用や難水溶性のステロイドのCTenon.下投与による眼圧上昇がしばしば臨床上問題となることに留意しておく必要がある.眼圧上昇がぶどう膜炎かステロイドによるものかわからない場合,ステロイド投与を中止もしくは作用の弱いものに変更することで眼圧が下降するか検証してみる.しかし,眼圧上昇にぶどう膜炎,ステロイド双方が複雑に関与していたりすると,眼圧上昇機序を明確に判断することはむずかしい.慢性炎症により虹彩後癒着が進行するとCirisCbombeをきたすため,瞳孔管理も必要となる.虹彩後癒着の予防,解除には散瞳薬を用いる.IrisCbombeに至った場合には,レーザー虹彩切開術か周辺虹彩切開術を行う.慢性的炎症の持続,ステロイドの長期使用,虹彩前癒着の進行などにより不可逆的に房水流出抵抗が上昇してしまうと点眼薬だけでは眼圧コントロールがむずかしく,濾過手術を要する.ぶどう膜炎に伴う続発緑内障は術後も炎症管理が重要となる.C3.血管新生緑内障血管新生緑内障発症には眼内の虚血により産生される血管新生因子が関与している.治療方針は,眼圧下降を図るとともに,眼内の酸素需要と供給のバランスを是正して虚血状態を改善させ,血管新生を抑制することであ(7)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1013図3瞳孔縁および水晶体表面の落屑物質落屑物質が少ないと散瞳してよく観察しないと見落とすことがある.

序説:続発緑内障

2018年8月31日 金曜日

続発緑内障SecondaryGlaucoma山本哲也*中村誠**本特集では続発緑内障を取り上げ,その基本的な治療の考え方を示すとともに,代表的な続発緑内障の診断と治療に関する解説を行うこととした.続発緑内障は日常よく遭遇する疾患であるが,原発緑内障とは異なり,一筋縄では行かないところがある.そこが眼科医の悩みでもあるが,また興味を引かれるところでもある.原発緑内障に対してはとくに問題なく診療のできる眼科医であっても,続発緑内障となると診断や管理に一抹の不安を覚えることは多いようである.具体的に,続発緑内障の管理上問題となることとして次のような事項があげられる.①眼圧の変動が激しいこと原発開放隅角緑内障と比較して眼圧の変動の大きな症例が多い.眼圧様態はむしろ慢性原発閉塞隅角緑内障に近く,正常下限あたりから40mmHg程度まで変動することがある.これは,隅角に起こる各種病変の推移や原疾患の活動性などいくつかの要因が個々の症例ごとに違う形で現れるからである.②眼圧上昇原因の特定がしにくい続発緑内障の眼圧上昇機序には開放隅角メカニズムと閉塞隅角メカニズムがあるが,その中がまた細分化されていることがその大きな理由である.また,1症例で複数のメカニズムが併存すること(例:ぶどう膜炎性緑内障)や疾患の進展によって眼圧上昇メカニズムが変化すること(例:血管新生緑内障)も珍しくない.③原疾患に対する対応が必要である血管新生緑内障,ステロイド緑内障,アミロイド緑内障など,原因となる疾患や状態に対して対応の必要な病型がある.たとえば,ステロイド緑内障であってもステロイドを中止すればよいといった単純なものではなく,ステロイドを要する原疾患の主治医とも連絡を取りながら個別に慎重に対処する必要がある.④眼圧管理法が大きく異なる続発緑内障の病型によっては使用できない緑内障薬(例:悪性緑内障に対するピロカルピン)があり,基礎知識は必要である.また,手術も純粋な緑内障手術だけでなく白内障手術や硝子体手術が適応となることがある(例:水晶体融解性緑内障)など,特別の配慮を要する病型である.⑤隅角検査が診断の根拠となることが多い隅角検査が診断を確定するのに役立つことが多いこと(例:続発小児緑内障,外傷緑内障)も特徴である.したがって,日頃から診療の場で多数の隅角検査を行って検査に慣れておくことは,続発緑内障の診療にとても有用である.なお,続発小児緑内障は原発小児緑内障に対する用語で,先天眼形成異常*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学**MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)1007

低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例

2018年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科35(7):999.1001,2018c低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例西田功一岡本紀夫高田園子杉岡孝二髙橋(児玉)彩福田昌彦下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室CACaseofRing-ShapedEpithelialKeratopathyAccompaniedbyHypothermiaKoichiNishida,NorioOkamoto,SonokoTakada,KojiSugioka,AyaKodama-Takahashi,MasahikoFukudaandYoshikazuShimomuraCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineLandolt環型角膜上皮症は,特異な形態を呈する角膜上皮病変であり,原因や病態について不明である.今回,筆者らは緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.症例はC58歳,男性.2008年より緑内障にて経過観察をしていた.2012年C2月の定期受診時に細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁状の特異な病変を数カ所認めた.自覚症状はなかった.角膜ヘルペスが疑われたためアシクロビル眼軟膏などで治療した.病変はC3カ月後には,消失した.本症例は,脳神経外科手術による視床下部障害のための低体温があり,それが誘因の一つと推察された.CLandoltring-shapedepithelialkeratopathy,acornealepitheliallesionexhibitingasingularform,isunclearastoitscauseandcondition.WereportacaseofLandoltring-shapedepithelialkeratopathyaccompaniedbyprimaryopenangleglaucomaandhypothermiaduetohypothalamusdisorder.A58-year-oldmalesu.eringfromprimaryopenangleglaucomahadbeenfollowedupsince2008.InFebruary2012petalineepitheliopathywasobservedinbothcorneas,withnosubjectivesymptoms.Wesuspectedherpetickeratitisandprescribedaciclovireyeointment.TheCpetalineClesionsCdisappearedCafterCthreeCmonths.CWeCdiagnosedCthisCcaseCasCLandoltCring-shapedCepithelialCkeratopathybecauseofitstypicalappearance.Itissuggestedthathypothermiaduetohypothalamusdisorderwasrelatedtothisepitheliopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):999.1001,C2018〕Keywords:ランドルト環型角膜上皮症,低体温,視床下部障害,緑内障.Landoltring-shapedepithelialkeratop-athyhypothermia,hypothalamusdisorder,glaucoma.CはじめにLandolt環型角膜上皮症はC1992年に大橋らが報告した特異な形態を呈する角膜上皮病変である1).特徴としては,小さいCLandolt環状の上皮病変が花弁状に集まったような特異な上皮病変である.両眼性が多く,再発性で冬期に再発することが多いのも特徴である.わが国では現在まで計C16例の報告がある1.6)が,いまだにその原因については解明されていない.今回,緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.CI症例58歳,男性.主訴はとくになし.既往歴としては未破裂脳動脈瘤の手術により視床下部が障害され低体温であった.両眼の原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),眼内レンズ挿入眼にて,東京の眼科医院にて経過観察されていた.転勤のため,2008年より近畿大学医学部附属病院眼科を定期受診中であった.2012年C2月C15日の緑内障の定期受診のときに,細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁のような特異な形態を数カ所認めた.フルオレセイン染色では花弁状の部分は上皮の盛り上がった小さいLandolt環が丸い形に集まっている所見であった(図1).前房に炎症所見などを認めなかった.異物感などの自覚症状はなく,視力は右眼C1.2C×IOL×sph.2.0D,左眼C1.0C×IOL×sph.1.25D(cyl.0.75DCAx70°.眼圧は右眼14mmHg,左〔別刷請求先〕西田功一:589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KoichiNishida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine377-2Ohnohigasi,OsakasayamaCity,Osaka589-8511,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(149)C999図12012年2月15日の前眼部写真上段はディヒューザーによる観察で左が右眼,右が左眼.下段はフルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.フルオレセイン染色でCLandolt環状の角膜上皮病変が円形に配列し,花弁状となった病変が両眼に認められた.図22012年2月21日の前眼部写真フルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.角膜病変は退縮傾向を認めた.眼C13CmmHgであった.眼底所見は両眼ともに視神経乳頭陥凹拡大を認めた(右眼CC/D=0.8,左眼CC/D=0.9).そのときの緑内障点眼はカルテオロール塩酸塩点眼液(両眼C×1),ラタノプロスト点眼液(両眼C×1),ブリンゾラミド点眼液(左眼C×2)であった.2012年C2月C21日の再診時には花弁状の角膜病変は退縮傾向であった(図2).非典型的であるが,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方した.同時に,涙液ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainCreaction:PCR)で単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)を調べたが陰性であった.3カ月後の再診時には再発を認めなかった.現在のところ再発を認めていない.CII考按Landolt環型角膜上皮症は,角膜上皮病変の形態が視力検査に用いられる「Landolt環」に類似していることから命名された病気である.小さいCLandolt環状の病変は輪状に配列することが特徴である.本症例も既報とほぼ同じ上皮病変であった.過去の症例を表1にまとめる.主訴としては異物感の訴えが多く,性別は女性が多く,両眼性が多く,冬季に発症が多いことがわかる.本症例では,自覚症状はなかった.また,1000あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(150)表1Landolt環型角膜上皮症の過去の報告のまとめ症例年齢(歳)性別側性主訴発症月眼疾患CCL全身疾患再発C13)C52女性両眼異物感疼痛12月C..甲状腺疾患C.23)C47女性両眼異物感霧視12月ドライアイC..+33)C48女性両眼異物感羞明11月ドライアイC..+43)C48女性両眼異物感霧視3月C..胃癌C.53)C73女性両眼異物感霧視2月白内障C.肺癌+63)C41女性両眼霧視疼痛3月C..肝炎,高血圧C.73)C17男性両眼疼痛3月アレルギー性結膜炎CHCLC..83)C17女性両眼疼痛12月C.HCLC..93)C71女性両眼視力低下12月緑内障,白内障C…103)C42女性片眼異物感疼痛3月C.SCLC..113)C49女性両眼異物感霧視12月C….126)C18男性両眼疼痛3月C.SCLC..132)C57女性両眼異物感11月高度近視CSCLC.+142)C87女性片眼異物感12月緑内障C…155)C41女性片眼異物感2月C.SCLC..164)C67女性両眼異物感12月C..肺癌C.17C58男性両眼C.2月C..脳動脈瘤C.症例C1.11はCInoueら3),症例C12は阪谷ら6),症例C13.14は小池ら2),症例C15は大久保ら5),症例C16は細谷4),症例C17は本症例である(症例C9はその後に再発が確認できたので改変している).両眼性で冬季に発症しているが再発はみられなかった.本症例は視床下部が障害のため低体温があり,このことが誘因の一つと考えられた.鑑別疾患として,角膜ヘルペス,Thy-geson点状表層角膜炎が考えられるが,単純ヘルペス角膜炎は今回両眼性で,real-timeCPCRでCHSV(-)であり,病変の形状からも否定的と考える.Thygeson点状表層角膜炎は病変の形状から否定的と考える.今回,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方したが,実際にはアシクロビルにより消失したとは考えにくく,自然消失したと考えられる.共著者の症例(症例9)も再度問診したところ低体温であった.症例数が少ないため低体温についての影響についてははっきりとしたことはいえない.発症時期は本症例も冬季に発症しており既報と同じであった.Landolt環型角膜上皮症の発症機序についてはいまだに不明な点が多く,ウイルスが原因ではないかとも考えられている2).CLの既往や眼疾患についても検討中である.今後症例数の増加に伴い発症機序が明らかになることが期待される.Landolt環型角膜上皮症は重症例はないが両眼性再発性であるので注意深く経過観察する必要があると考えられた.文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.臨眼46:596-595,C19922)小池美香子,杤久保哲男,飯野直樹ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC2例.眼紀49:31-34,C19983)InoueCT,CMaedaCN,CZhengCXCetCal:LandltCring-shapedCepithelialCkeratopathy.CACnovelCclinicalCentityCofCtheCcor-nea.JAMAOphthalmolC133:89-92,C20154)細谷比左志:ランドルト環型角膜上皮炎.あたらしい眼科C31:1631-1632,C20145)大久保裕史:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.長野県医学会雑誌44:84-85,C20146)阪谷洋士:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.眼臨C89:C424-425,C1995***(151)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C1001

2種類の1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクト レンズの臨床評価

2018年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科35(7):992.998,2018cC2種類の1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの臨床評価糸井素純*1樋口裕彦*2伏見典子*3二宮さゆり*4東原尚代*5小野純治*6内田薫*7*1道玄坂糸井眼科医院*2ひぐち眼科*3フシミ眼科クリニック*4伊丹中央眼科*5ひがしはら内科眼科クリニック*6小野眼科クリニック*7日本アルコン株式会社CClinicalEvaluationofTwoTypesofDailyDisposableSiliconeHydrogelContactLensesMotozumiItoi1),HirohikoHiguchi2),NorikoFushimi3),SayuriNinomiya4),HisayoHigashihara5),JunjiOno6)CKaoruUchida7)and1)DogenzakaItoiEyeClinic,2)HiguchiEyeClinic,3)FushimiEyeClinic,4)ItamiChuoEyeClinic,5)CMedicineandEyeClinic,6)OnoEyeClinic,7)AlconJapanLtd.HigashiharaInternal目的:2種類のC1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのレンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見,レンズ表面性状,被験者の満足度を比較した.対象および方法:常用していたC1日使い捨てソフトコンタクトレンズ装用時に不快な自覚症状を有するC99例を対象とした.試験レンズとして,DAILIESTOTAL1R(DT1),1-DAYACU-VUERCTruEyeR(ATE)を用いた.各担当医師が適正なベースカーブ(BC)を選択した.両試験レンズは両眼にC10±3日間ずつ装用させた.結果:DT1のBC8.8mmがC86眼,BC8.5mmが10眼,ATEのBC9.0mmが85眼,BC8.5mmがC13眼で両試験レンズともにフラットCBCがスティープCBCに比べて有意に多かった(p<0.0001).レンズセンタリングの「良好」の割合はCDT1がC89.5%,ATEがC47.4%でCDT1のほうが有意に多かった(p<0.0001).1例のみCATE装用C7日目に左眼麦粒腫のために装用中止になった.結論:レンズセンタリングはCDT1がCATEよりも有意に良好であった.CObjective:ThisCstudyCcomparedClensCcentration,Cslit-lampCexamination,ClensCsurfaceCcharacteristicsCandCsub-jectivesatisfactionwithtwotypesofdailydisposablesiliconehydrogelcontactlenses.CasesandMethods:Nine-ty-nineJapanesesubjectswithsubjectivesymptomsofdiscomfortwhenwearingdailydisposablesoftcontactlens-esCwereCassignedCtoCwearCDAILIESCTOTALC1R(DT1)orC1-DAYCACUVUERCTruEyeR(ATE).CAfterCtheClensC.ttingCwasCcheckedCbyCanCophthalmologist,CeachCstudyClensCwasCwornCinCtheCrespectiveCeyeCforC10±3Cdays.CResults:TheCDT1CprescriptionsCwereCBCC8.8CmmCinC86CeyesCandCBCC8.5CmmCinC10Ceyes.CTheCATECprescriptionsCwereBC9.0Cmmin85eyesandBC8.5Cmmin13eyes.FatterBCswerestatisticallysigni.cantlymoreprescribedthansteeperBCsinbothstudylenses(p<0.0001).Lenscentrationwas“optimal”with89.5%ofDT1and47.4%ofATE,astatisticallysigni.cantdi.erence(p<0.0001).IntheATEgroup,only1subjectwasremovedfromthestudyduetohordeolumofthelefteyeafter7daysofwear.Conclusion:Lenscentrationwassigni.cantlybetterwithDT1thanwithATE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):992.998,C2018〕Keywords:1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,ベースカーブ,レンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見,被験者の満足度.dailydisposablesiliconehydrogelcontactlens,basecurve,lenscentration,slit-lampexamination,subjectivesatisfaction.C〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂C1-10-19-1F道玄坂糸井眼科医院Reprintrequests:MotozumiItoi,M.D.,Ph.D.,DogenzakaItoiEyeClinic,1-10-19Dogenzaka,Shibuya-ku,Tokyo150-0043,CJAPANはじめに1972年に厚生省(現:厚生労働省)はハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を日本で最初に認可1)し,その後,広く普及していったが,長期の装用により,角膜は慢性酸素不足2)を生じ,角膜血管新生3),角膜内皮障害4),pigmentedCslide(epithelialCsplitting)5),角膜菲薄化6)などのコンタクトレンズトラブルが生じることが知られている.この酸素不足の問題を解消するために,レンズデザインを薄くして,素材の含水性をあげて,短期間で交換するC1日使い捨てCSCL7),2週間交換CSCL8),1カ月交換SCLなどが開発9)されたが,レンズ厚が厚くなるハイマイナスレンズ,トーリックレンズ,およびプラスレンズなどでは角膜への十分な酸素供給ができているとはいえなかった10).そこで登場したのが,シリコーンを素材に含むシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(siliconeChydrogelCcontactlens:SHCL)11)である.この素材の酸素透過性は非常に高く11),酸素透過係数はC60以上で,100を超えるものも多い12).蛋白質の汚れも付着しにくいとの特性13)を有していることから,2004年にはじめてCOC2オプティクス(当時:チバビジョン株式会社)が日本で発売が開始されて以来,数多くのCSHCLが登場12)し,ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethylCmethacrylate:HEMA)製のコンタクトレンズに代わる素材として広く利用されるようになった14).一方,疎水性であるシリコーン素材にとって涙液との親和性は低く13),脂質も付着しやすいことが知られている13).これらを解消するために,表面処理など各社独自の方法でレンズ表面の親水性15)を高めている.2004年の発売当初,SHCLはSuperiorCEpithelialCArcuateCLesions(SEALC’s)16),巨大乳頭結膜炎17)などCSCLとは異なるトラブルが多いことが報告されている.これらのコンタクトレンズトラブルはCSHCLがSCLよりもレンズ硬(モジュラス)が硬いための機械的ストレスが要因と考えられており16),2007年以降に発売されたSHCLはレンズ硬(モジュラス)が柔らかくなっているものが多い18).これらCSHCLの登場により,レンズの酸素透過性は高まり12),酸素不足に起因するコンタクトレンズトラブルは減少19)したが,レンズ装用時の不快感,とくにC1日の終わりの装用感の悪化の問題は解決されていなかった20).SCL装用眼の乾燥感は,レンズ表面の涙液層が菲薄化して不安定となり21),水分蒸発が亢進するメカニズムが報告されている21).その結果として,レンズ表面と眼瞼結膜との摩擦22)が亢進し,結膜上皮障害が起こってくる23).近年,このレンズ表面における摩擦がレンズ装用時の快適性を左右する因子として注目され,レンズ表面の潤滑性が向上した製品が開発されるようになった24).1991年以降,数々の使い捨てや頻回交換のCSCLおよびSHCLが日本市場に登場した25).そのなかには複数のベースカーブ(basecurve:BC)が選択できるものがあるが,海外ではスティープなCBCのほうが好まれ,スティープなCBCがスタンダードとして選択されることが多い26).一方,個々の眼科医によって,BC選択の考え方は異なるが,これまで日本市場全体では使い捨てや頻回交換のCSCLではフラットなBCのほうが好まれている27).筆者はCTMS1を用いて,米国人と日本人の角膜形状を比較し,米国人よりも日本人の角膜曲率半径のほうがフラットで,その傾向は若年層ほど顕著であることを報告している28).このような日本市場のCBCに対する考え方が背景にあり,DAILIESTOTAL1CR(DT1)は,海外ではCBC8.5Cmmのみ販売されている29.36)が,日本ではBC8.5CmmとCBC8.8Cmmの二つのCBCが販売されるようになった37).1日使い捨てCSHCLであるCDT1は,含水率がレンズコアのC33%からレンズ表面のC80%以上と独特な表面特性を有することから,表面の潤滑性に優れている24).DT1のこの独特な表面特性により,レンズ装用時の快適性が良好で結膜上皮障害が起こりにくいと報告されている29,30).しかしながら,その報告29.36)は海外で発売されているCDT1のCBC8.5Cmmのみのデータであり,わが国で発売されているCDT1のCBC8.8Cmm37)を含む報告はない.そこで今回筆者らは,DT1のC2種類のCBCでの臨床評価を目的として,同様にC2種類のCBCが販売されているC1日使い捨てCSHCLであるC1-DAYACU-VUERCTruEyeR(ATE)とのレンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血),レンズ表面性状(水濡れ性,付着物),被験者の満足度(1日を通しての快適性および見え方,1日の終わりでの快適性および見え方)を比較することとした.CI対象および方法20歳以上で常用していたC1日使い捨て型のCSCL装用時に不快な自覚症状を有するC99例(男性C27例,女性C72例)を対象とした.平均年齢はC39.9C±9.7歳(21.62歳)であった.試験実施期間はC2016年C4.9月であった.不快な自覚症状のスクリーニングは,初回来院時に被験者に自覚症状に関する三つの質問をし,「コンタクトレンズは一日中,快適である」の回答が「違う」または「まったく違う」であり,かつ「日中,目が乾燥するため,望んでいる時間よりも早くコンタクトレンズを取りはずす」または「遅めの時間になると眼が乾燥するが,コンタクトを装用し続ける」のいずれかの回答が「その通り」または「まったくその通り」と回答したものを対象とした.両試験レンズを常用しているもの,コンタクトレンズ装用に禁忌な疾患を有するものは対象から除外した.試験実施施設は道玄坂糸井眼科医院,ひぐち眼科,フシミ眼科クリニック,伊丹中央眼科,ひがしはら内科眼科クリ表1研究レンズの概要研究レンズCDAILIESTOTAL1RC1-DAYACUVUERCTruEyeR酸素透過係数*C140C100含水率[%]C33C46BC[mm]C8.5/8.8C8.5/9.0直径[mm]C14.1C14.2中心厚[mm](.3.00D)C0.09C0.085供給度数範囲[D]C.0.50.C.12.00C.0.50.C.12.00,+0.50.+5.00*(cm2/sec)×(mlOC2/ml×mmHg).ニック,小野眼科クリニックのC6施設である.本研究はヘルシンキ宣言,臨床研究に関する倫理指針及び医療機器の臨床試験の実施に関する省令(医療機器CGCP)に準拠し,プロスペクティブ,無作為化,クロスオーバー,被験者に対する製品名マスキングで実施した.試験レンズとして,2種類のC1日使い捨て型のCSHCL(DT1,ATE)を用いた(表1).試験レンズを装用する順序は無作為に割り付けた.オートレフラクトメータにより角膜曲率半径測定後,両試験レンズのトライアルレンズを用いたレンズフィッティングにより,各担当医師がそれぞれの試験レンズで適正なCBCを選択した.両試験レンズは両眼にC10C±3日間ずつ装用させ,試験日の装用C10.13時間後に検査を実施した.検査は初回来院時に常用していたC1日使い捨て型のSCL,1回目来院時に最初選択された試験レンズ,2回目来院時に他方の試験レンズについて実施した.両試験レンズの装用C10C±3日後におけるレンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血),レンズ表面性状(水濡れ性,付着物),被験者の満足度(1日を通しての快適性および見え方,1日の終わりでの快適性および見え方)を評価した.レンズセンタリングの評価基準はレンズの偏位がない場合を「良好」,わずかに偏位する場合を「わずかに偏位」,明らかに偏位しているがレンズのエッジの輪部への接触がない場合を「軽度の偏位」,エッジが輪部に接触するが角膜の露出がない場合を「中等度の偏位」,角膜が露出する場合を「重度の偏位」とした.細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血)はCEfron分類38)レンズ表面の水濡れ性と付着物はCMorganらの判定基準39),に従ったが,レンズ表面の涙液(水濡れ性)は非常に不安定で容易に蒸発しやすいと考えられるため40),開瞼直後に評価することとした.被験者の満足度は,1日を通しての快適性および見え方とC1日の終わりでの快適性および見え方に関する質問について,「強くそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「そうは思わない」「まったくそうは思わない」のC5段階で評価した.レンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見およびレンズ表面性状の解析は左右眼のうち無作為に選択されたいずれかの対象眼を用い,被験者アンケートの解析は症例単位で行った.統計学的検定は,試験レンズのCBCの処方割合は二項検定,レンズセンタリング(統計的にCATEに劣らないことを示してから有意差検定を実施)および被験者の満足度はCMcNemar検定,フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血およびレンズ表面の性状は対応のあるCt検定で行った.眼所見は発現割合を算出した.p値がC0.05未満を有意としたが,主要な解析(レンズセンタリング)以外の検定の多重性は調整しなかった.目標症例数は,樋口らが過去に実施した試験成績41)に基づきC90例に設定した.CII結果無作為に選択された対象眼の試験レンズのCBC処方割合は,DT1のCBC8.8CmmがC86眼(89.6%),BC8.5CmmがC10眼(10.4%),ATEのCBC9.0CmmがC85眼(86.7%),BC8.5mmがC13眼(13.3%)で両試験レンズともにフラットCBCが有意に多かった(DT1およびCATE:p<0.0001,二項検定,表2).なお,対象眼の角膜曲率半径は,強主経線値(K1)がC7.68C±0.27Cmm,弱主経線値(K2)がC7.86C±0.24Cmm,中間値〔(K1平均値+K2平均値)/2〕がC7.77C±0.25mmであった.レンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見,レンズ表面性状は,対象眼のうち,検査時間の規定違反などの除外症例を除いたCDT1のC95眼およびCATEのC97眼を解析対象とした.被験者アンケートはCDT1のC95例,ATEのC97例を解析対象とした.眼所見に伴う中止症例はC1例C1眼でCATE装用C7日目での左眼麦粒腫であった.その他の中止症例はC3例あり,2例がCDT1処方時の装脱困難,1例がCATE装用期間中での急性腰痛症であった.C1.レンズセンタリングレンズセンタリングの「良好」の割合は,DT1がC89.5%でCATEがC47.4%でその差はC42.1%(95%信頼区間:31.8.52.5%)であり,両者の間に有意差がみられた(p<0.0001,表2両研究レンズの処方(対象眼):処方日表3レンズセンタリング(対象眼):装用10±3日後BC[mm]DT1〔N(%)〕:n=96ATE〔N(%)〕n=98C8.510(C10.4)13(C13.3)C8.886(C89.6)C9.085(C86.7)DT1のCBC8.5Cmm対CBC8.8Cmmp<0.0001,ATEのCBC8.5Cmm対CBC9.0mm:p<0.0001(二項検定).判定結果DT1〔CN(%)〕:Cn=95ATE〔N(%)〕:Cn=97良好85(C89.5%)46(C47.4%)わずかに偏位10(C10.5%)31(C32.0%)軽度の偏位0(0C.0%)18(C18.6%)中等度の偏位0(0C.0%)2(2C.1%)重度の偏位0(0C.0%)0(0C.0%)「良好」の割合に対してCMcNemar検定を実施(p<0.0001).表4BCの違いによるレンズセンタリング(対象眼):装用10±3日後*Fisherの正確検定.表5細隙灯顕微鏡検査所見(対象眼):装用10±3日後項目DT1:n=95ATE:n=95p値*フルオレセイン角膜染色C0.2±0.5C0.7±0.8<C0.0001フルオレセイン結膜染色C0.6±0.7C1.1±0.9<C0.0001輪部充血C0.1±0.3C0.0±0.1C0.1584結膜充血C0.4±0.7C0.4±0.7C0.6398*対応のあるCt検定.平均スコア±標準偏差,Efron分類(0:正常,1:ごく軽度,2:軽度,3:中等度,4:重度).McNemar検定,表3).試験レンズのCBC別のレンズセンタリングの「良好」の割合は,DT1のCBC8.8CmmがC89.4%でBC8.5CmmがC90.0%であり,ATEのCBC9.0CmmがC44.7%でBC8.5CmmがC66.7%で,両試験レンズともにレンズセンタリングの「良好」の割合はスティープCBCの割合は多かったが,二つのCBCの間で差はみられなかった(DT1:p=1.0000,ATE:p=0.2186,二項検定,表4).C2.細隙灯顕微鏡所見フルオレセイン角膜染色の平均スコアはCDT1がC0.2C±0.5,ATEがC0.7C±0.8,フルオレセイン結膜染色の平均スコアはDT1がC0.6C±0.7,ATEがC1.1C±0.9であった.両スコアともにCDT1のスコアのほうがCATEのスコアよりも有意に低かった(フルオレセイン角膜および結膜染色:p<0.0001,対応のあるCt検定,表5).輪部充血および結膜充血の平均スコアは両スコアともに両者の間に有意な差はみられなかった(輪部充血:DT1;0.1C±0.3,ATE;0.0C±0.1,p=0.1584,結膜充血:DT1;0.4C±0.7,ATE;0.4C±0.7,p=0.6398,対応のあるCt検定,表5).C3.レンズ表面性状(水濡れ性および付着物)レンズ表面の水濡れ性の平均スコアはCDT1がC0.0C±0.1,ATEのC0.3C±1.1,レンズ表面の付着物の平均スコアはCDT1がC0.1C±0.3,ATEのC0.3C±0.9であった.両スコアともにDT1のスコアのほうがCATEのスコアよりも有意に低かった(レンズ表面の水濡れ性:p=0.0030,レンズ表面の付着物:p=0.0026,対応のあるCt検定,表6).C4.被験者の満足度被験者の満足度の「強くそう思う」および「そう思う」と回答した被験者の割合は,「1日を通しての快適性」ではDT1がC90.5%,ATEがC80.4%,「1日の終わりでの快適性」ではCDT1がC79.0%,ATEがC63.9%,「1日を通しての見え方」ではCDT1がC93.7%,ATEがC81.4%,「1日の終わりでの見え方」ではCDT1がC91.6%,ATEがC76.2%であった.4つすべての質問において,「強くそう思う」および「そう思う」と回答した被験者の割合はCDT1のほうがCATEよりも表6レンズ表面性状(対象眼):装用10±3日後項目DT1:n=95ATE:n=97p値*レンズ表面の水濡れ性C0.0±0.1C0.3±1.1C0.0030レンズ表面の付着物C0.1±0.3C0.3±0.9C0.0026*対応のあるCt検定.平均スコア±標準偏差,レンズ表面の水濡れ性(0:完全にレンズ表面が濡れている,1:直径C0.1Cmm未満の濡れていないエリアがある,2:直径C0.1.0.5Cmmの濡れていないエリアがC1カ所ある,3:直径C0.1.0.5Cmmの濡れていないエリアがC2カ所以上ある,4:直径C0.5Cmm超の濡れていないエリアがC1カ所以上ある),レンズ表面の付着物(0:レンズ表面に付着物がない,1:直径C0.1Cmm未満の付着物がC5個以下,2:直径C0.1Cmm未満の付着物がC6個以上,あるいは直径C0.1.0.5Cmmの付着物がC1個,3:直径C0.1.0.5Cmmの付着物がC2個以上,あるいは直径C0.5Cmm超の付着物がC1個,4:直径C0.5Cmm超の付着物がC2個以上).表7被験者の満足度:装用10±3日後項目DT1:n=95ATE:n=95p値*1日を通しての快適性90.5%80.4%C0.01841日の終わりでの快適性79.0%63.9%C0.00601日を通しての見え方93.7%81.4%C0.01051日の終わりでの見え方91.6%76.2%C0.0043*「強くそう思う」および「そう思う」の割合に対してCMcNemar検定を実施.「強くそう思う」および「そう思う」と回答した被験者の割合,5段階評価(5:強くそう思う,4:そう思う,3:どちらともいえない,2:そうは思わない,1:まったくそうは思わない).有意に多かった(表7).C5.眼所見レンズの装用中止が必要となった眼所見は,ATE装用C7日目の左眼麦粒腫のC1例C1眼のみであった.試験開始後,レンズの装用継続が可能で,新たに認められた眼所見はCDT1装用時に乾性角結膜炎,あるいは,点状表層角膜症が計C7例7眼(7.3%)に観察され,ATE装用時に乾性角結膜炎,点状表層角膜症,麦粒腫,SEAL’sで計C25例C26眼(26.5%)に観察された.CIII考察SHCLのレンズ硬(モジュラス)はCHEMAを主成分とするCSCLに比べて硬い18)ことから,適切な処方が可能となるように一部のCSHCLはC2種類のCBCが発売されている42).DT1は海外ではCBC8.5Cmmのみが発売29.36)されていたが,日本ではC2014年にCBC8.8Cmm37)が世界で初めて発売された.本研究で処方されたレンズのCBCは,両試験レンズともにフラットCBCのほうがスティープCBCよりも有意に多かった.これは,日本人の角膜曲率半径が米国人に比べてフラットなためと考えられた28).しかしながら,角膜曲率半径の弱主経線値がC7.55Cmmであっても両研究レンズともにフラットCBCに処方された症例があり,8.07Cmmであっても両試験レンズともにスティープCBCに処方された症例もあった.宮本らは被験者ごとに角膜形状や眼瞼の形,眼瞼圧などに違いが生じるため,適切なコンタクトレンズの処方にはトライアルレンズ装用後にレンズフィッティング(レンズセンタリング,レンズの動き)を確認したうえで処方することが重要であると報告している43).DT1およびCATEの処方時にも適切かつ慎重なレンズフィッティングの評価が重要と考えられた.Wol.sohnらはCDT1およびCATEのレンズセンタリングに有意差はないと報告している36)が,本試験ではレンズセンタリングの「良好」の割合はCDT1がCATEに比べて有意に多かった.これはCDT1のCBC8.8Cmm37)が選択可能であったことと,両試験レンズの周辺部デザインの違い44)や表面特性の違い24,45)が影響している可能性が考えられた.細隙灯顕微鏡所見のフルオレセイン角膜染色およびフルオレセイン結膜染色の平均スコアは,DT1がCATEよりも有意に低かった.Varikootyらはレンズ装用C3日目における角膜上皮ステイニングの発現率についてCATEはCDT1よりも多かったことを報告29)しており,その原因はレンズ表面の脱水に起因しているものと考察している.本研究で認められたフルオレセイン角膜染色およびフルオレセイン結膜染色も10.13時間装用後でのCATEの表面の変化46)が影響した可能性がある.輪部充血および結膜充血の平均スコアはCDT1とCATEともに低い値を示し,両者の間に差がみられなかった.これは両試験レンズともにシリコーンを含有する高酸素透過性のCSHCLであったためと考えられた11).レンズ表面の水濡れ性とレンズ表面の付着物の平均スコアについて,両スコアともにCDT1がCATEよりも有意に低かった.月山ら47)の報告では,10種類のCSCLおよびCSHCLを用いて,人工的な油汚れの実験を行い,レンズの種類ごとに油汚れの吸着に違いがあることを報告している.そのなかでDT1はシリコーンがレンズ表面に存在しないことから油汚れを吸着しにくく,ATEは吸着しやすい結果となっている.これらの結果は,DT1の含水率がレンズコアのC33%とレンズ表面のC80%以上と高含水率(レンズ表面C6Cμm)となっているCDT1表面の潤滑性が優れる構造48)が影響したものと考えている.被験者の満足度は,「1日を通しての快適性および見え方」「1日の終わりの快適性および見え方」に関する質問を被験者が「強くそう思う」または「そう思う」と回答した割合をDT1とCATEで比較した.その結果,すべての質問においてCDT1がCATEよりも有意に多かった.この結果はCDT1表面の良好な潤滑性24)が寄与したものと考える.Varikootyらの報告29)でも,被験者評価による快適性についてCDT1はATEよりも良好であったと報告しており,筆者らの結果と同様であった.一方,若年層の健常者を対象としたCWol.sohnらの報告36)では,DT1とCATEとの被験者の快適性に関する評価に差がなかった.これは,Varikootyら29)および本試験では対象を不快な自覚症状があるものに限定したことから,涙液量が少ないことなどによる試験レンズのレンズ表面の角結膜への影響21)が関与したものと考えられた.今回の試験では対象を常用するC1日使い捨てCSCL装用時に不快な自覚症状を有するものとした.各担当医師がそれぞれの試験レンズのトライアルレンズでレンズフィッティングを確認した後に,それぞれの試験レンズで適正なCBCを選択した.その結果,フラットなCBC8.8Cmm(DT1)およびCBC9.0mm(ATE)が有意に多く選択された.レンズのセンタリングの「良好」の割合,フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,レンズ表面の水濡れ性,レンズ表面の付着物の各平均スコア,被験者の満足度の「強くそう思う」および「そう思う」の割合において,DT1はCATEよりも有意に良好であった.装用中止となるような眼所見はCATE装用時の麦粒腫C1例のみであった.今回の試験結果は,2種類の試験レンズで二つのCBCを使用したが,それぞれの試験レンズの周辺部デザインの違いやレンズ表面の潤滑性の違いが影響しているものと考えられた.利益相反:本研究は日本アルコン株式会社による研究資金にて実施した.文献1)石川元子,石百合子,東野巌ほか:角膜疾患に対するsoftcontactlensのCMedicaluseについて.日コレ誌124:C124-130,C19752)谷島輝雄:SoftcontactlensのCmedicaluseについて.日コレ誌12:161-176,C19753)ChanCWK,CWeissmanCBA:CornealCpannusCassociatedCwithCcontactClensCwear.CAmCJCOphthalmolC121:540-546,C19964)HoldenCBA,CMertzCGW:CriticalCoxygenClevelsCtoCavoidCcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.CInvestOphthalmolVisSciC25:1161-1167,C19845)InoueCT,CMaedaCN,CYoungCLSCetCal:EpithelialCpigmentslideCinCcontactClensCwearers:aCpossibleCmarkerCforCconC-tactClens-associatedCstressConCcornealCepithelium.CAmJOphthalmolC131:431-437,C20016)荒地里江,津田倫子,吉尾彩ほか:ソフトコンタクトレンズ装用者に見られた顕著な角膜変形.日コレ誌C56:214-218,C20147)NasonRJ,BoshnickEL,CannonWMetal:Multisitecom-parisonCofCcontactClensCmodalities.CDailyCdisposableCwearCvs.CconventionalCdailyCwearCinCsuccessfulCcontactClensCwearers.JAmOptomAssocC65:774-780,C19948)Hickson-CurranCSB,CNasonCRJ,CBechererCPDCetCal:Clini-calevaluationofAcuvuecontactlenseswithUVblockingcharacteristics.OptomVisSciC74:632-638,C19979)JonesL,EvansK,SaririRetal:LipidandproteindeposiC-tionofN-vinylpyrrolidone-containinggroupIIandgroupIVfrequentreplacementcontactlenses.CLAOJC23:122-126,C199710)EghbaliF,HsuiEH,EghbaliKetal:OxygentransmissiC-bilityCatCvariousClocationsCinChydrogelCtoricCprism-ballast-edcontactlenses.OptomVisSciC73:164-168,C199611)AlvordL,CourtJ,DavisTetal:OxygenpermeabilityofaCnewCtypeCofChighCDkCsoftCcontactClensCmaterial.COptomCVisSciC75:30-36,C199812)EfronN,MorganPB,CameronIDetal:Oxygenpermea-bilityCandCwaterCcontentCofCsiliconeChydrogelCcontactClensCmaterials.OptomVisSciC84:328-337,C200713)JonesCL,CSenchynaCM,CGlasierCMACetCal:LysozymeCandClipiddepositiononsiliconehydrogelcontactlensmaterials.CEyeContactLensC15:S75-S79,C200314)MaletCF,CPagotCR,CPeyreCCCetCal:SubjectiveCexperienceCwithhigh-oxygenandlow-oxygenpermeablesoftcontactlensesinFrance.EyeContactLensC29:55-59,C200315)松澤康夫:シリコーンハイドロゲルレンズの表面の性質について.日コレ誌50:S1-S6,C200816)DumblentonCK:Nonin.ammatoryCsiliconeChydrogelCcon-tactClensCcomplication.CEyeCContactCLensC29:S186-S189,C200317)ZhaoCZ,CFuCHan,CSkotnitskyCCCCetCal:IgECantibodyConwornChighlyCoxygen-permeableCsiliconeChydrogelCcontactClensCfromCpatientsCwithCcontactClens-inducedCpapillaryconjunctivitis(CLPC)C.CEyeCContactCLensC34:117-121,C200818)HorstCCR,CBrodlandCB,CJonesCLWCetCal:MeasuringCtheCmodulusCofCsiliconeChydrogelCcontactClenses.COptomCVisCSciC89:1468-1476,C201219)MaletF,PagotR,PeyreCetal:Clinicalresultscompar-ingChigh-oxygenCandClow-oxygenCpermeableCsoftCcontactClensesinFrance.EyeContactLensC29:50-54,C200320)JonesCL,CBrennanCNA,CGonzalez-MeijomeCJCetCal:TheCTFOSCinternationalCworkshopConCcontactClensCdiscom-fort:reportofthecontactlensmaterials,designandcaresubcommittee.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS37-TFOS70,C201321)宮本裕子,横井則彦,澤充:シリコーンハイドロゲルレンズと表面処理の重要性.日コレ誌56:S1-S6,C201322)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C200223)PultCH,CPurslowCC,CBerryCMCetCal:ClinicalCtestsCforCsuc-cessfulCcontactClensCwear:relationshipCandCpredictiveCpotential.OptomVisSciC85:924-929,C200824)PruittJ,QiuY,ThekveliSetal:Surfacecharacterizationofawatergradientsiliconehydrogelcontactlens(dele.l-conA)C.InvestCOphthalmolCVisCSciC53:E-AbstractC6107,C201225)糸井素純,稲葉昌丸,植田喜一ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版)第C1章コンタクトレンズの歴史.日眼会誌118:559-561,C201426)Gonzalez-CavadaCJ,CCorralCO,CNinoCACetCal:BaseCcurveCin.uenceConCtheC.ttingCandCcomfortCofCtheCSeno.lconCACcontactlens.JOptomC2:90-93,C200927)樋口裕彦:II実践的コンタクトレンズ処方2.ハイドロゲルソフトコンタクトレンズの処方.あたらしい眼科C32(臨増):145-149,C201528)糸井素純,西巻健一,小淵輝明ほか:日本人と米国人の角膜形状の比較.日コレ誌38:9-13,C199629)VarikootyCJ,CSchulzeCMM,CDumbletonCKCetCal:ClinicalCperformanceCofCthreeCsiliconeChydrogelCdailyCdisposableClenses.OptomVisSciC92:301-311,C201530)VarikootyJ,KeirN,RichterDetal:ComfortresponseofthreeCsiliconeChydrogelCdailyCdisposableCcontactClenses.COptomVisSci90:945-953,C201331)Belda-SalmeronL,Ferrer-BlascoT,Albarran-DiegoCetal:Diurnalvariationsinvisualperformancefordisposablecontactlenses.OptomVisSciC90:682-690,C201332)Montes-MicoCR,CBelda-SalmeronCL,CFerrer-BlascoCTCetal:On-eyeopticalqualityofdailydisposablecontactlens-esCforCdi.erentCwearingCtimes.COphthalmicCPhysiolCOptC33:581-591,C201333)Szczesna-IskanderCDH:ComparisonCofCtearC.lmCsurfaceCqualityCmeasuredCinCvivoConCwaterCgradientCsiliconeChydrogelCandChydrogelCcontactClenses.CEyeCContactCLensC40:23-27,C201434)DelCAguila-CarrascoCAJ,CDominguez-VicentCA,CPerez-VivesCetal:Assessmentofcornealmorphologicalchang-esCinducedCbyCtheCuseCofCdailyCdisposableCcontactClenses.CContLensAnteriorEyeC38:28-33,C201535)DelCAguila-CarrascoCAJ,CFerrer-BlascoCT,CGarcia-LazaroSetal:Assessmentofcornealthicknessandtearmenis-cusCduringCcontact-lensCwear.CContCLensCAnteriorCEyeC38:185-193,C201536)Wol.sohnCJ,CHallCL,CMroczkowskaCSCetCal:TheCin.uenceCofCendCofCdailyCsiliconeChydrogelCdailyCdisposableCcontactClens.tonocularcomfort,physiologyandlenswettability.ContLensAnteriorEyeC38:339-344,C201537)河西伸朗:製品紹介コーナー第C35回ウォーターグラディエントコンタクトレンズ「デイリーズトータルワンCR」の紹介.日コレ誌57:72-75,C201538)EfronCN:EfronCGradingCScalesCforCContactCLensCCompli-cations.Butterworth-Heinemann,200039)MorganCPB,CEfronCN:ComparativeCclinicalCperformanceCofCtwoCsiliconeChydrogelCcontactClensesCforCcontinuousCwear.ClinExpOptomC85:183-192,C200240)横井則彦,丸山邦夫:コンタクトレンズと涙液.日コレ誌C48:42-48,C200641)樋口裕彦,糸井素純,梶田雅義ほか:2種類のC1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズのレンズフィッティング.第C58回日本コンタクトレンズ学会総会CCL-7-1:116,201542)DumbletonCKA,CChalmersCRL,CMcNallyCJCetCal:E.ectCofClensCbaseCcurveConCsubjectiveCcomfortCandCassessmentCofC.tCwithCsiliconeChydrogelCcontinuousCwearCcontactClenses.COptomVisSci79:633-637,C200243)宮本裕子,梶田雅義,工藤昌之ほか:球技スポーツ時におけるC1日使い捨てソフトコンタクトレンズ装用(レンズセンタリング).眼科C57:293-302,C201544)Wol.sohnCJ,CDrewCT,CDhalluCSCetCal:ImpactCofCsoftCcon-tactlensedgedesignandmidperipherallensshapeontheepitheliumCandCitsCindentationCwithClensCmobility.CInvestCOphthalmolVisSciC54:6190-6196,C201345)DurschTJ,LiuDE,OhYetal:Fluorescentsolute-parti-tioningCcharacterizationCofClayeredCsoftCcontactClenses.CActaBiomaterC15:45-54,C201546)DiecCJ,CLazonCdeClaCJaraCP,CWillcoxCMCetCal:TheCclinicalCperformanceoflensesdisposedofdailycanvaryconsider-ably.EyeContactLensC38:313-318,C201247)TsukiyamaCJ,CMiyamotoCY,CKodamaCACetCal:CosmeticCcleansingoilabsorptionbysoftcontactlensesindryandwetconditions.EyeContactLensC43:318-323,C201748)DunnCAC,CUruenaCJM,CHuoCYCetCal:LubricityCofCsurfaceChydrogellayers.TribolLett49:371-378,C2013C***

エクスプレス®の結膜上への露出症例の検討

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):987.991,2018cエクスプレスRの結膜上への露出症例の検討高木星宇上野勇太大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科CReviewofCaseswithExposureofEX-PRESSRDeviceSeiuTakagi,YutaUenoandTetsuroOshikaCDepartmentofOphthalmology,TsukubaUniversity目的:エクスプレスR(アルコン)挿入術後の特有な合併症として,結膜上へのデバイス露出がある.今回,露出した症例の特徴について検討した.対象および方法:平成C24年C4月.平成C29年C4月にエクスプレスCR挿入術を施行したC151例C169眼を対象に,後ろ向き調査を行った.エクスプレスCRが結膜上へ露出した症例の露出時期,露出前の濾過胞の形状,治療経過,露出前後の眼圧について検討した.結果:エクスプレスRが結膜上へ露出した症例はC4例C4眼(2.4%)であり,露出時期は術後C29C±14カ月,露出前C3カ月間の平均眼圧はC18C±10CmmHgであった.全例で濾過胞形成不全に陥り,3眼では複数回のCneedlingCrevision,2眼では別象限よりバルベルトCR(AMO)挿入術を施行し,その後に露出した.露出後の眼圧はC20C±11CmmHgであり,露出前後で眼圧変化は認めなかった.結論:エクスプレスR挿入術後に濾過胞が平坦で追加治療を要する症例では,結膜上へのデバイス露出に注意が必要である.CPurpose:ToreportacaseseriesofEX-PRESSCR(Alcon)glaucoma.ltrationdeviceexposureontheconjuncti-va.Methods:Thisisaretrospectivechartreview,toidentifyallpatientswhoexperiencedEX-PRESSCRCexposurebetweenApril2012andApril2017.Datacollectedfrompatientchartsincludedtimetoexposure,shapeof.lteringbleb,CtreatmentCcourseCandCintraocularCpressure(IOP)C.CResults:4CeyesCofC4CpatientsCwereCcasesCinvolvingCEX-PRESSRCexposure.Averagetimetoexposurewas29±14months.Asthe.lteringblebswere.at,without.ltrationfunction,CallCeyesCrequiredCadditionalCtreatmentCpostoperatively,CsuchCasCanti-glaucomaCmedications,CneedlingCrevi-sionsorBaerveldtR(AMO)shuntsurgeries.AverageIOPbeforeandafterexposurewas18C±10CmmHgand20±11CmmHg,respectively.Conclusions:AfterEX-PRESSCRCinsertion,therewerecasesofdeviceexposureonthecon-junctiva.Forrefractorycases,carefulexaminationsarenecessarypostoperatively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):987.991,C2018〕Keywords:緑内障,濾過手術,エクスプレスCR,結膜上露出.glaucoma,.ltrationsurgery,EX-PRESSCR,expo-sureontheconjunctiva.Cはじめに緑内障に対する観血的手術として,長年にわたり線維柱帯切除術がスタンダードであったが,その合併症の多さゆえに近年ではさまざまなインプラントデバイスを用いたチューブシャント手術が行われるようになっている.2011年C12月にわが国において医療機器の承認を取得したエクスプレスCR(アルコン)を使用した緑内障濾過手術は,従来の線維柱帯切除術と比較して術中・術後の合併症が少なく術後成績は同等であることが知られており,安全性の高い手技として広く行われている1,2).しかし,エクスプレスCR特有の術後合併症もあり,その一つとして術後にデバイスの一部が結膜上へ露出することがあげられる.今回,筆者らはエクスプレスCR挿入術後にデバイスの一部が結膜上へ露出した症例の特徴について検討したので報告する.CI対象および方法筑波大学附属病院にて平成C24年C4月.平成C29年C4月にエクスプレスR挿入術を施行し,5カ月以上経過観察が可能であったC151例C169眼を対象として,後ろ向き調査を行った.手術はいずれの症例も強膜の半層の深さで強膜フラップ〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8576茨城県つくば市天久保C2-1-1筑波大学医学医療系眼科Reprintrequests:YutaUeno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TsukubaUniversity,2-1-1Amakubo,Tsukubacity,Ibaraki305-8576,JAPAN表1患者背景症例原疾患エクスプレスR挿入時追加処置露出時期濾過胞形状合併症*眼圧CmmHg**(点眼数)露出前露出後強膜フラップ(mm)MMC塗布時間(分)65FCSOAGC3×3C3Cneedlingrevision2年7カ月C.atなし22(5)22(5)C64MCSOAGC3.5×3.5C3Cneedlingrevision10カ月C.atなし15(4)18(4)Cneedlingrevision61MCNVGC3×3C3CエクスプレスR交換濾過胞再建3年7カ月C.atなし31(5)34(5)CバルベルトR挿入88FCXFGC3×3C3バルベルトR挿入2年11カ月C.atなし5(0)5(0)*露出時の合併症:前房虚脱,過剰濾過,濾過胞感染,の有無.**露出前C3カ月間平均と露出後.点眼数は緑内障点眼の種類(配合薬はC2つ)をカウントした.SOAG:続発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障,XFG:落屑緑内障.をC1層作製し,0.04%マイトマイシンCCの塗布処理をした後に,エクスプレスCRを強膜フラップ下から前房内へ穿刺し留置した.術後にエクスプレスCRが結膜上へ露出した症例について,治療経過,露出時期,露出前の濾過胞の形状,露出時の合併症,露出前後の眼圧および緑内障点眼数について検討した.CII結果エクスプレスRが結膜上へ露出した症例はC4例C4眼(2.4%)であった.いずれの症例もエクスプレスCR挿入術後に濾過胞の形成が悪く眼圧コントロールに難渋し,追加処置や他の緑内障手術を要していた.エクスプレスCR挿入術を施行された全C169眼のうち追加処置を要した症例はC46眼(27.2%)であり,そのうちの割合ではC8.7%に露出を認めた.露出したC4眼の患者背景を表1に示す.エクスプレスCR露出時期は挿入後C29C±14カ月であり,露出前C3カ月間の平均眼圧はC18C±10CmmHg,露出後の眼圧はC20C±11CmmHgと露出前後において眼圧変化はみられず,使用していた緑内障点眼も露出前後で同様であった.以下に各症例を呈示する.〔症例1〕65歳,女性.眼既往歴:網膜色素変性症,30歳前後で両眼水晶体摘出術を施行された.現病歴:平成C18年より近医で続発開放隅角緑内障と診断され点眼加療を開始された.平成C25年C7月,緑内障点眼C5剤,アセタゾラミド内服併用下でも左眼圧コントロール不良のため当院へ紹介となった.初診時左眼所見:視力C0.03(0.4×+13.0D(=cyl-1.50DAx90°),眼圧23mmHg,動的視野検査湖崎分類IV期.治療経過:平成C25年C8月,左眼の耳側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,平成C26年C9月に左眼Cneedlingrevisionを施行した.その後も眼圧コントロール不良のために追加処置を提案したが,動的視野検査では湖崎分類CV-b期に進行し残存視機能が乏しいために外科的治療に対する同意が得られず,点眼加療のみで経過観察としていた.平成C28年C3月(エクスプレスCR挿入後C2年C7カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図1)ため,同年C4月に左眼エクスプレスCR抜去術を施行した.エクスプレスR露出部の結膜欠損部から結膜切開し,メスでデバイス刺入部をわずかに拡大し抜去した.すでに残存視機能はわずかであったため,そのまま強膜創をナイロン糸で強固に縫合した後,結膜と周囲組織の癒着を解除し強膜創を被覆するように結膜縫合を行った.視力手動弁,眼圧C10CmmHg前後で推移し現在に至っている.〔症例2〕64歳,男性.眼既往歴:アトピー性皮膚炎に白内障を合併し,平成C3年に右眼水晶体再建術を施行された.現病歴:平成C21年C9月より右眼眼内レンズ偏位を指摘され,眼圧上昇を伴ったため当院へ紹介となった.初診時右眼所見:視力C0.1C×IOL(1.2C×.5.25D(cyl.2.00DCAx90°),眼圧21mmHg,静的視野検査CAulhorn分類stageIV.治療経過:右眼続発開放隅角緑内障に対して点眼加療を開始し,当初は眼圧下降が得られていたが,次第にスパイク状の眼圧上昇を呈するようになり,静的視野検査ではCAulhorn分類CstageVに進行した.平成C26年C2月,右眼の耳側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,同年C4月に右眼Cneedlingrevisionを施行するも奏効せず,以降は追加の外科的治療に対する同意が得られず,点眼加療のみで経過観察としていた.同年C12月(エクスプレスCR挿入後C10カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図2)ため,翌年C1月に右眼エクスプレスCR抜去術および濾過胞再建術(線維柱帯切除術)を施行した.症例C1と同様の手順で図1エクスプレスR露出直後の前眼部写真図2エクスプレスR露出直後の前眼部写真エクスプレスRの流出口を含む鍔の鼻側半分が露出した.エクスプレスRの流出口は含まず鍔の後方が露出した.ab図3エクスプレスR露出後2カ月(a)と4カ月(b)時点の前眼部写真a:エクスプレスRの流出口は含まず鍔の前方半分が露出した.b:エクスプレスRの鍔の部分はすべて露出した.CエクスプレスRを抜去し強膜創を縫合した後,その隣にC3C×3Cmm大の強膜フラップを新たに作製し,強角膜ブロック・線維柱帯・周辺部虹彩を切除した.房水の流出量を確認しながら強膜フラップをナイロン糸で縫合し,濾過胞を形成するように結膜縫合を行った.術後も眼圧下降が得られたのは短期間のみであり,徐々に視機能障害は進行し視機能消失,眼圧C25.30CmmHg程度で推移し現在に至っている.〔症例3〕61歳,男性.眼既往歴:特記事項なし.現病歴:平成C24年C10月,視力低下を主訴に前医受診,左眼増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障を指摘された.緑内障点眼C3剤による加療を開始され当院へ紹介となった.初診時左眼所見:視力C0.2(0.7×+0.50D(cyl.1.50DAx100°),眼圧C18mmHg,眼軸長C24.27mm.治療経過:平成C24年C11月,左眼水晶体再建術および硝子体手術を施行したが,隅角に虹彩前癒着を全周に認め術後の眼圧上昇が収束せず,同月に左眼の鼻側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,同年C12月に左眼CneedlingCrevisionを,平成C25年C3月に左眼エクスプレスR抜去術および同部位にエクスプレスR再挿入術を,その後も複数回の左眼Cneedlingrevisionを施行するも奏効せず,動的視野検査では湖崎分類CV-a期に進行した.平成26年C1月,左眼の耳側下方よりバルベルトCR(AMO)挿入術を施行し眼圧下降は得られたものの,その後に動的視野検査では湖崎分類CVI期に至った.平成C28年C10月(エクスプレスR挿入後C3年C7カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図3)が,本人の全身状態不良で抜去手術が不可能のため経過観察となった.最終受診時,視機能が消失しており眼圧C31CmmHgであった.〔症例4〕88歳,女性.眼既往歴:両眼水晶体再建術を施行された(手術時期不明).図4エクスプレスR露出後2カ月(a)と4カ月(b)時点の前眼部写真エクスプレスRの流出口は含まず鍔の後方が限局的に露出した.2カ月(Ca)と4カ月(Cb)で露出範囲に変化はみられなかった.C現病歴:平成C17年より近医で落屑緑内障と診断され点眼加療を開始された.平成C21年C7月,点眼加療による眼圧コントロール不良で当院へ紹介となった.初診時右眼所見:視力C0.7C×IOL(1.0×+0.5D(cyl.0.75DCAx90°),眼圧22mmHg,静的視野検査CAulhorn分類stage0-1.治療経過:当初は緑内障点眼の調整にて眼圧下降が得られていたが,次第に眼圧コントロール不良となった.平成C25年C10月,右眼の鼻側上方よりエクスプレスCR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,平成C27年C8月に右眼の耳側下方よりバルベルトR挿入術を施行した.術後は良好な眼圧下降が得られ,動的視野検査では湖崎分類CIV期で進行はみられず落ち着いていたが,平成C28年C10月(エクスプレスCR挿入後C2年C11カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図4).本人の全身状態不良で抜去手術に対する同意が得られず,現在まで経過観察となっている.露出後は視力(0.3),眼圧C10CmmHg前後で推移し現在に至っている.CIII考按エクスプレスRは開発当初,結膜切開後に強膜上からそのまま前房内へ刺入し,結膜下から強膜を全層貫通させて固定していた.同術式が行われていた頃には,術後合併症として過剰濾過や眼内炎,結膜侵食,デバイス露出などが多数報告された3.5)ため,半層強膜フラップ下へ留置する術式へと改良され6.8),一般的な術式としてわが国においても広く施行されている.線維柱帯切除術と比較すると簡便な手技で行うことができ,術中の出血や前房虚脱などを生じにくく,デバイスによって濾過量の変動が抑えられるために,過剰濾過や脈絡膜.離といった術後の合併症も軽減できる.しかし,デバイスを留置することでの特有な合併症も生じており,その特徴や適切な対処法を検討する必要がある.エクスプレスR挿入術における特有な術後合併症の一つとして,結膜上へのデバイス露出があげられ,これまでにもいくつかの症例報告が散見される.Steinらは,エクスプレスR露出のC6例C8眼を報告した5).6眼は結膜下にデバイスを留置する改良前の術式であったが,2眼は強膜フラップ下にデバイスを留置する現行の術式であった.デバイス露出時期はエクスプレスCR挿入術から平均C8.5カ月(3.16カ月)であり,強膜フラップ下にデバイスを留置したC2眼はC6カ月と11カ月であった.また平野らは,強膜フラップ下に留置したエクスプレスRが術後C13カ月で結膜上に露出したC1例を報告した9).これらの報告によると,露出症例のエクスプレスR挿入術後の眼圧経過は正常範囲内もしくは高眼圧とコントロール不良であり,デバイス露出後にも房水漏出や低眼圧をきたすことはなかったとされている.今回,筆者らはC0.04%マイトマイシンCCを併用しエクスプレスRを強膜フラップ下へ留置するも,術後に結膜上へ露出したC4例を経験した.いずれの症例も眼手術の既往があったことから,Tenon.の菲薄化および円蓋部への後退をきたしており,閉創時に強膜フラップへのCTenon.の被覆が十分にできなかった可能性があり,エクスプレスCRの露出の一因と考えられた.また,既報と同様で,4例ともエクスプレスCR挿入術後の濾過胞形成不全により眼圧コントロール不良であり,needlingrevisionや追加の緑内障手術,緑内障点眼を要して治療に難渋した症例であった.症例C1はエクスプレスR挿入時の結膜がきわめて薄く,房水漏出のリスクもあり縫合糸の抜糸が不十分であったこと,また,症例C2は重度のアトピー性皮膚炎があったことなどで,慢性的な眼表面の炎症がエクスプレスCRの露出の一因になった可能性が考えられた.症例C3,4はエクスプレスCR挿入術が奏効せず,追加手術として別象限からの緑内障手術を施行するも,留置したままにしていたエクスプレスRが露出しており,過去に平野らが報告した症例と同様の経過をたどった9).全C4例において,エクスプレスCRが露出したにもかかわらず前房消失や房水漏出を認めなかったことや,露出前後で著明な眼圧下降がみられなかったことも既報と同様であり,デバイス内腔が閉塞していたか,房水流出口の表面に線維増殖膜が形成され,デバイスが濾過機能を有していなかった可能性が考えられた.今回,患者の都合により抜去せずに経過観察したC2例において,その後も眼内炎や低眼圧を合併していないこともデバイスの濾過機能が消失していたことを支持する所見であった.デバイスの濾過機能が消失すると,房水流出が滞るために眼圧が高くなり,エクスプレスCRの鍔を強膜フラップまたは結膜側に圧しつける力が強くなる.また,デバイスからの房水流出が乏しく濾過胞の平坦な症例では,デバイスと強膜フラップまたは結膜の間にクッションとなる水隙が形成されないために,眼圧や眼瞼圧などの機械的な圧力がより強くかかってしまう.これらの要因から,エクスプレスCR挿入術後の眼圧コントロール不良例において,強膜フラップおよび結膜が菲薄化しデバイス露出に至った可能性が考えられた.今回のC4例は露出期間が平均C29C±14カ月であり既報に比較して長いことから,エクスプレスCR挿入術は長期的にもデバイス露出に注意する必要があると思われた.今回筆者らは,エクスプレスCR挿入術後にデバイスが結膜上に露出したC4例を経験した.いずれの症例も眼圧コントロールに苦慮しており,別象限からの緑内障手術を追加された症例もあった.濾過胞が平坦で機能不全の症例においては,濾過胞再建術やその他の緑内障手術の際にデバイスそのものを抜去しておくなど,その後のデバイス露出のリスクを回避するような治療法を検討する必要があると考えられた.利益相反:大鹿哲郎(カテゴリーCF:参天製薬株式会社,トーメーコーポレーション)文献1)ChanCJE,CNetlandCPA:EX-PRESSCglaucomaCfiltrationDevice:e.cacy,Csafety,CandCpredictability.CMedCDevices(Auckl)8:381-388,C20152)MarisCPJ,CIshidaCK,CNetlandCPA:ComparisonCofCtrabecu-lectomyCwithCEx-PRESSCminiatureCglaucomaCdeviceCimplantedunderscleral.ap.JGlaucomaC16:14-19,C20073)Gandol.CS,CTraversoCCF,CBronCACetCal:Short-termCresultsCofCaCminiatureCdrainingCimplantCforCglaucomaCinCcombinedsurgerywithphacoemulsi.cation.ActaOphthal-molScandSupplC66:236,C20024)StewartCRM,CDiamondCJG,CAshmoreCEDCetCal:Complica-tionfollowingEx-Pressglaucomashuntimplantation.AmJOphthalmolC140:340-341,C20055)SteinCJD,CHerndonCLW,CBrentCBJCetCal:ExposureCofCEx-PRESSminiatureglaucomadevices:caseseriesandtech-niqueCforCtubeCshuntCremoval.CJCGlaucomaC16:704-706,C20076)WamsleyS,MosterMR,RaiSetal:ResultsoftheuseoftheCEx-PRESSCminiatureCglaucomaCimplantCinCtechnicalychallenging,CadvancedCglaucomaCcases:aCclinicalCpilotCstudy.AmJOphthalmolC138:1049-1051,C20047)RivierD,RoyS,MermoudA:Ex-PRESSR-50miniatureglaucomaCimplantCinsertionCunderCtheCconjunctivaCcom-binedCwithCcataractCextraction.CJCCataractCRefractCSurgC33:1946-1952,C20078)DahanCE,CCarmichaelCTR:ImplantationCofCaCminiatureCglaucomaCdeviceCunderCaCscleraC.ap.CJCGlaucomaC14:C98-102,C20059)平野仁美,西條裕正,伊藤格ほか:Ex-PRESSが結膜上露出をきたしたC1例.眼科手術30:510-513,C2017***

濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologen® Collagen Matrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):981.986,2018c濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologenRCollagenMatrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例根元栄美佳*1,2植木麻理*2前田美智子*2河本良輔*2小嶌祥太*2杉山哲也*3池田恒彦*2*1)高槻赤十字病院眼科*2)大阪医科大学眼科学教室*3)京都医療生活協同組合・中野眼科医院CCaseReportofBlebRevisionwithologenRCollagenMatrixforProlongedBlebLeakageafterBleb-relatedInfectionEmikaNemoto1,2)C,MariUeki2),MichikoMaeda2),RyohsukeKohmoto2),ShotaKojima2),TetsuyaSugiyama3)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedcrossHospital,2)C3)NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operationDepartmentofOpthalmology,OsakaMedicalCollege,目的:濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対しCologenCRCollagenCMatrix(以下,ologenCR)を用いた濾過胞再建術を施行し,治癒過程を前眼部COCTにて確認できた症例を報告する.症例:80歳,女性.10年前に両眼原発開放隅角緑内障にて両眼線維柱帯切除術を施行された.2016年C3月左眼濾過胞感染を発症し大阪医科大学眼科紹介.初診時,左眼に房水漏出を伴う無血管濾過胞とCStageIIの濾過胞感染を認めた.抗菌薬加療にて感染は軽快したが濾過胞漏出は遷延し,ologenCRを結膜下移植する濾過胞再建術を施行した.術後,濾過胞漏出は消失した.前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜がCologenCRに裏打ちされ,徐々に厚くなり,厚い濾過胞壁の形成に至った過程が確認できた.術後約C1年半で有血管濾過胞が維持されている.結論:無血管濾過胞の房水漏出にCologenCRを用いた濾過胞再建術は有効であった.CPurpose:ACcaseCreportCofCblebCrevisionCwithCologenCRCollagenCMatrix(ologenCR)forCprolongedCblebCleakageafterCbleb-relatedCinfection.CWeCobservedCtheCprocessCofCblebChealingCwithCopticalCcoherenceCtomography(OCT)C.CCase:An80-year-oldfemalewhohadundergonetrabeculectomyonbotheyesforopen-angleglaucoma10yearspreviouslyCwasCreferredCtoCusCbecauseCtheCpreviousCdoctorCsuspectedCaCbleb-relatedCinfection.CAtCtheC.rstCvisit,CStageIIbleb-relatedinfection,aswellasleakagefromavascularbleb,wasobservedinthelefteye.Theblebleak-agepersisted,althoughshewascuredofthebleb-relatedinfectionthroughantibiotictherapies.AfterblebrevisionwithologenRCwasperformed,blebleakagedisappeared.WeobservedwithOCTthatthethinnedconjunctivaoftheblebwaslinedwithologenRCandgraduallyrepaired.Theblebhasbeenmaintainedforabout18monthsaftersur-gery.Conclusion:BlebrevisionwithologenCRCwase.ectiveforleakagefromavascularbleb.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):981.986,C2018〕Keywords:ologenR,濾過胞再建術,濾過胞漏出,濾過胞感染,前眼部光干渉断層法.ologenR,blebrevision,blebleakage,bleb-relatedinfection,opticalcoherencetomography.Cはじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は,術後に低い眼圧の維持が可能な術式であり,現在はマイトマイシンCC(MMC)を併用したCTLEが標準となっている.しかし,MMC併用CTLEの晩期合併症として房水漏出,低眼圧黄斑症,無血管濾過胞からの漏出,濾過胞感染があり,とくに濾過胞感染は失明につながる重篤なものである.日本緑内障学会による濾過胞感染多施設共同研究(TheCCollaborativeBleb-relatedCInfectionCIncidenceC&CTreatmentCStudy:CBIITS)が実施され,手術C5年後での濾過胞感染の発生率〔別刷請求先〕根元栄美佳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EmikaNemoto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7,Daigaku-cho,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANはC2.2%であり,その危険因子として濾過胞漏出既往と若年者であることがあげられている1).一方,近年,MMCに代わる濾過手術後癒着防止剤を求め,さまざまな検討がなされている.これまで,Gel.rm2),CSepra.lm3),Gore-Tex4),ハニカムフィルム5)などを用いた報告があり,欧米で緑内障手術への使用認可を得ているものとしてCologenCRCollagenMatrix(以下,ologenCR)がある6,7).また,ologenCRは濾過胞漏出に対する濾過胞再建術にも用いられ,有効であったとの報告がある8,9).今回,濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対してCologenRを用いた濾過胞再建術が奏効し,結膜の修復過程が前眼部光干渉断層法(opticalCcoherenceCtomography:OCT)にて確認できたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:左眼の流涙,視力低下.現病歴:両眼原発開放隅角緑内障に対し,10年前に他院にて両眼CTLE+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術が施行されていた.術後は,両眼圧のコントロールは良好で,左眼には鼻上側に無血管濾過胞が形成されていた.2016年C3月中頃に左眼の流涙を自覚し,その翌日より左眼の視力低下,眼痛,眼脂が出現した.前医を受診したところ,左眼濾過胞感染が疑われ,大阪医科大学眼科(以下,当科)へ紹介初診となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼(0.07C×sph+1.25D(cyl─1.75DCAx105°),眼圧は右眼11mmHg,左眼6mmHgであった.左眼前眼部所見で,鼻上側に壁の薄い無血管濾過胞があり,濾過胞周囲の結膜は充血していた.濾過胞からの房水漏出を認め,前房内の炎症細胞はC2+であった.左眼眼底所見では,硝子体への炎症波及はなく,眼底は透見可能であった(図1).経過:左眼濾過胞感染CStageIIと診断し,同日入院のうえ,CBIITSのガイドラインに沿って治療を開始した1).塩酸バンコマイシンとセフタジジムの結膜下注射を行い,レボフロキサシンとセフメノキシムをC1時間ごとに頻回点眼することにより濾過胞感染は軽快した.一方,濾過胞漏出に対して自己血清点眼,抗菌薬眼軟膏塗布と眼帯を行ったが遷延した.そこで,大阪医科大学倫理委員会の承認(受付番号C2015-115)を得て,ologenCRを用いた濾過胞再建術を施行した(図2).使用したCologenRは,直径C12Cmm,厚さC1Cmmの円形シートである.まずCologenCR大のC12C×12Cmmを計測,濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.そして作製した濾過胞下のスペースへColo-genRの挿入を試みたが,出血でCologenCRがふやけたため困難であった.そこで,ologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入し,その後展開した.結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.前房洗浄時,濾過胞より漏出を認めたがそのまま手術は終了した.術翌日,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞内に出血がありColo-genRは確認できず,房水漏出は継続していた(図3a).術後C2日目,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した(図3b).術後C3週間,左眼視力(0.35),左眼眼圧C12CmmHg,無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.(図3c).前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜を裏打ちするCologenCRが確認できた(図4a).術後C2カ月,左眼視力(0.4),左眼眼圧C13mmHg(図4b).前眼部COCTにて,結膜組織修復過程において結膜下組織と置き換わりつつあるCologenRが濾過胞結膜内壁全体に付着していた(図4b).術後C10カ月,左眼矯正視力(0.4),左眼眼圧C12CmmHg,有血管濾過胞が形成されている(図3d).前眼部COCTにてColo-genRは消失しており,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して形成された厚い濾過胞壁が確認できた(図4c).術C1年C6カ月後の現在,眼圧コントロールは良好であり,視力・視野ともに維持できている.CII考按TLE後の濾過胞漏出に対するこれまでの濾過胞再建術としては,結膜前転術10),遊離結膜移植11),羊膜移植12)があげられ,それぞれに長所と短所がある.結膜前転術は小さな濾過胞が適応となり自己結膜にて施行できるが,大きな濾過胞には対応困難である.遊離結膜移植は自己結膜にて比較的大きな濾過胞にも対応は可能であるが,大きな結膜片を作製することはむずかしい.羊膜移植は大きな濾過胞にも対応が可能であり,羊膜そのものに抗炎症作用や結膜の修復作用があるため結膜前転術よりも良好な成績が報告されている12).当科でもこれまでは大きな濾過胞の再建術に羊膜を使用していたが,平成C26年C4月に羊膜取扱いガイドライン13)が作成され,濾過胞再建術に適応がないため使用が困難になった.そこで,大きな濾過胞の濾過胞漏出に対してCologenCRを濾過胞結膜下へ移植する濾過胞再建術に着目した.CologenRは,豚由来のコラーゲンを拒絶反応を起こさないようにCtelo側鎖をペプシンにて切断処理したCI型アテロコラーゲンとグリコサミノグリカンの架橋構造からなる,直径10.300Cμmの多孔構造をとる移植用細胞外基質類似素材である.ologenCRは眼上皮結合組織の組織修復をサポートする働きがあり,海外では緑内障,翼状片や斜視の手術が適応となっている.ologenCRを用いたCTLEに関する既報では,TLE時にCologenCRを結膜下に挿入することで結膜下組織の図1初診時の左眼細隙灯顕微鏡所見a:鼻上側の壁の薄い無血管濾過胞,濾過胞周囲の結膜は充血している.Cb:濾過胞からの房水の漏出を認める(.).C図2ologenRを用いた濾過胞再建術の術中写真a:濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.Cb:濾過胞下のスペースへCologenCRの挿入を試みたが,出血でふやけ困難であった.Cc:眼内レンズのようにCologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入,その後展開した.Cd:結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.図3術後経過(前眼部細隙灯顕微鏡所見)Ca:術翌日.濾過胞内に出血がありCologenCRは確認できず,房水漏出は継続していた.Cb:術後C2日.濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した.Cc:術後C3週間無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.Cd:10カ月後,扁平な有血管濾過胞を認める.癒着を防止し,MMCを用いたときと同様の効果があると報告されている6,7).一方で,MMCを用いたCTLEよりも,手術成功率や眼圧下降率が劣るとの報告もある14).手術効果について相反する報告があるが,形成される濾過胞についてはMMCよりCologenCRを用いたほうが無血管濾過胞となる割合が低いとされている15).また,TLE術後の過剰濾過や濾過胞漏出に対する報告では,低眼圧をきたしたC12例にColo-genRの結膜下移植は有効であった8)という報告や,日本人においても,TLE術後やCEX-PRESS術後の濾過胞漏出を含む低眼圧をきたしたC9眼においてCologenCRの結膜下移植は有効であったとの報告がある9).これまでに濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入することにより,多孔構造内まで結膜の線維芽細胞や筋線維芽細胞が集簇し,結合組織が形成されることで組織修復がなされると報告されており16,17),今回の症例でも同様の組織修復にて濾過胞が厚く形成されたと考える.そして,今回の症例では前眼部COCTにてその過程を観察できており,術後早期に菲薄化した濾過胞結膜をCologenCRが裏打ちし,徐々にCologenCRを足場にした組織修復がなされて結膜下組織が形成され,厚い濾過胞壁となったことが確認できた.また,今回の症例で特徴的なのは無血管濾過胞に結膜血管新生を認めたことである.動物実験においてであるが,無血管濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入すると,血管内皮細胞が結膜円蓋部方向から多孔構造内に集簇することにより無血管濾過胞への結膜血管新生を認めたと報告されている17).今回の症例でも同様の機序により徐々に血管を有する濾過胞が形成されたと考える.濾過胞感染後の遷延性濾過胞漏出に対してCologenCRの結膜下移植による濾過胞再建術が有効であった.無血管濾過胞壁を有する濾過胞漏出例において,ologenCRの結膜下移植は有効な術式となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なしC図4術後経過(前眼部OCT所見)Ca:術後C3週間.結膜を裏打ちするCologenCRが認められた(.).b:術後C2カ月.結膜組織修復過程で結膜下組織と置き換わりつつあるCologenCRが濾過胞内壁全体に付着している(.).c:術後C10カ月.olo-genRは消失し,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して濾過胞壁が厚く形成されている(.).文献1)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetCal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinCC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20142)LavalCJ:TheCuseCofCabsorbableCgelatinC.rm(gel.rm)inCglaucomaC.ltrationCsurgery.CAMACArchCOphthalmolC54:C677-682,C19553)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:セプラフィルムCR併用線維柱体切除術を施行したC1例.臨眼C64:1891-1895,C20104)CillinoS,ZeppaL,DiPaceFetal:E-PTFE(Gore-Tex)CimplantCwithCorCwithoutClowdosageCmitomycinCCCasCanadjuvantCinCpenetratingCglaucomaCsurgery:2CyearCran-domizedCclinicalCtrial.CActaCOphthalmolCScandC86:314-321,C20085)OkudaCT,CHigashideCT,CFukuhiraCYCetCal:ACthinChoney-comb-patterned.rmasanadhesionbarrierinananimalmodelCofCglaucomaC.ltrationCsurgery.CJCGlaucomaC18:C220-226,C20096)CillinoS,CasuccioA,PaceFDetal:Biodegradablecolla-genCmatrixCimplantCversusCmitomycin-CCinCtrabeculecto-my:.ve-yearCfollow-up.CBMCCOphthalmolC16:24,2016.doi:10.1186/s12886-016-0198-07)HeCM,CWangCW,CZhangCXCetCal:OlogenCimplantCversusmitomycinCCCforCtrabeculectomy:aCsystematicCreviewCandmeta-analysis.PLoSOneC9:e85782,C20148)DietleinTS,LappasA,RosentreterA:Secondarysubcon-junctivalCimplantationCofCaCbiodegradableCcollagen-glycos-aminoglycanCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCfollowingCtrabeculectomyCwithCmitomycinCC.CBrCJCOphthalmolC97:C985-988,C20139)TanitoCM,COkadaCA,CMoriCYCetCal:SubconjunctivalCimplan-tationCofCologenCcollagenCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCafterC.ltrationCglaucomaCsurgery.CEyeC31:1475-1479,C201710)TannenbaumCDP,CHo.manCD,CGreaneyCMFCetCal:Out-comesCofCblebCexcisionCandCconjunctivalCadvancementCforCleakingCorChypotonousCeyesCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.BrJOphthalmolC88:99-103,C200411)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:OutcomesofblebexcisionCwithCfreeCautologousCconjunctivalCpatchCgraftingCforCblebCleakCandChypotonyCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.JGlaucomaC20:392-397,C201112)RauscherFM,BartonK,FeuerWJetal:Long-termout-comesofamnioticmembranetransplantationforrepairofleakingCglaucomaC.lteringCblebs.CAmCJCOphthalmolC143:C1052-1054,C200713)西田幸二,天野史郎,木下茂ほか;羊膜移植に関する委員会:羊膜移植術ガイドライン.日本角膜学会ホームページ:2014http://cornea.gr.jp/amnion/14)RosentreterCA,CGakiCS,CCursiefenCCCetCal:TrabeclectomyCusingmitomycinCversusanatelocollagenimplant:clini-16)HsuCWC,CRitchCR,CKrupinCTCetCal:TissueCbioengineeringcalCresultsCofCaCrandomizedCtrialCandChistopathologicCforCsurgicalCblebCdefect:anCanimalCstudy.CGraefesCArchC.ndings.OphthalmologicaC231:133-140,C2014ClinExpOphthalmolC246:709-791,C200815)RosentreterA,SchildAM,JordanJFetal:Aprospective17)PengYJ,PanCY,HsiehYTetal:Theapplicationoftis-randomisedCtrialCofCtrabeclectomyCusingCmitomycinCCCvsCsueCengineeringCinCreversingCmitomycinCC-inducedCisch-anologenimplantinopenangleglaucoma.EyeC24:1449-emicconjunctiva.JBiomedMaterResAC100:1126-1135,C1457,C20102012***