免疫寛容免疫寛容とはわれわれの体内には感染症から体を守るために,自然免疫と獲得免疫が備わっています.獲得免疫は自己と非自己を認識し,体内に侵入した病原体を特異的に見分けて記憶し,再度侵入した際に効果的に排除します.免疫寛容とは,特定の抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のことで,簡単にいうと免疫学的に攻撃対象を許容することです.免疫寛容が誘導される場所は中枢(胸腺)と末梢(臓器)の二つ,機序として排除・抑制・不応答・無視などが考えられています.人体で最大の免疫組織である腸管には,病原微生物だけでなく,食事成分も入ってきます.腸管免疫系は病原性微生物を免疫応答により排除しますが,食物抗原には不必要に免疫反応が起こらないように免疫寛容を誘導します.この免疫寛容が崩れ,特定の食事成分を攻撃するのが食物アレルギーで,治療は原因の食物を経口投与し免疫寛容を誘導する経口免疫療法が用いられます.このように,疾患の原因抗原を投与し,免疫寛容を誘導してアレルギーや自己免疫疾患を根治させる治療法を抗原特異的免疫療法とよびます.アレルギー性結膜炎に対する免疫療法わが国でもC2014年より免疫療法に用いる標準化スギ花粉エキス製剤が保険収載され,スギ花粉症患者に対する舌下免疫療法が行われはじめました.舌下免疫療法の欠点は数年間という治療期間の長さで,3年間治療が継続できた患者は15%以下との海外からの報告もあります.この継続率の低さの克服のために,日本人の主食である米に抗原を発現させた遺伝子組換え米が開発されました1).スギ花粉症治療米は,遺伝子組換え技術によりスギ花粉の主要抗原であるCCryCj1・Cryj2を立体構造を改変して発現し(図1),スギ花粉特異的CIgEに結合しません.したがって,合併症であるアナフィラキシーが生じにくく,眼科医でも安心して治療ができます.アナフィラキシーを生じにくいため一度に大量摂取でき,より短期間での治療効果も期待できます.米の中の抗原は消化酵素や熱でも分解されず,普通の白飯として食べることで治療できます.筆者らはマウスのスギ花粉結膜炎に対するスギ花粉症治療米の効果を検討しました.その結果,スギ花粉症治療米を感作の前に食べさせることで不応答・排除が誘導され結膜炎の予防ができること2),さらに花粉症を一度発症させたマウスに食べさせても結膜炎の抑制がされ3),花福田憲高知大学医学部眼科学講座Cryj1Cryj2図1スギ花粉症治療米によるスギ花粉結膜炎の抑制スギ花粉症治療米は,スギ花粉の主要抗原CCryj1・Cryj2を分断化・molecularshu.ingして発現している.一度スギ花粉結膜炎を発症させたマウスに,治療米(Tgrice)あるいは対照として非組換え米(Non-TgCrice)を食べさせた後に再度花粉を点眼すると,治療米を食べたマウスでは結膜炎が抑制された.(文献C3より改変引用)粉症の根治の可能性が示唆されました.今後の展望スギ花粉のみならず,他の花粉や,ダニ抗原を改変して発現させた遺伝子組換え米も開発されており1),治療米を一日一膳食べることで,無理なくおいしく,種々のアレルギーの根治ができるようになる日も遠くないと思っています.文献1)TakaiwaCF,CWakasaCY,CHayashiCSCetCal:AnCoverviewConCtheCstrategiesCtoCexploitCriceCendospermCasCproductionCplatformCforCbiopharmaceuticals.CPlantCSciC263:201-209,C20172)FukudaK,IshidaW,HaradaYetal:Preventionofaller-gicCconjunctivitisCinCmiceCbyCaCrice-basedCedibleCvaccineCcontainingCmodi.edCJapaneseCcedarCpollenCallergens.CBrJCOphthalmolC99:705-709,C20153)FukudaCK,CIshidaCW,CHaradaCYCetCal:E.cacyCofCoralCimmunotherapyCwithCaCrice-basedCedibleCvaccineCcontain-ingChypoallergenicCJapaneseCcedarCpollenCallergensCforCtreatmentCofCestablishedCallergicCconjunctivitisCinCmice.CAllergolIntC67:119-123,C2018(93)Cあたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C5110910-1810/18/\100/頁/JCOPY