ロービジョンLowVisionCareforRetinalDegenerativeDiseases三浦玄*山本修一*はじめにWHO(世界保健機関)は,両眼視で矯正視力が0.05以上0.3未満の状態をロービジョンと定義しているが,その定義に従えば,眼科外来にはロービジョンの範疇となる網膜変性患者が少なからず存在する.視力が良好であっても,視野障害や夜盲,羞明などによって日常生活に支障をきたしている患者を含めると,ロービジョンケアの対象者はさらに多くなる.そのなかで,実際にロービジョンケアを活用できている患者は果たしてどのくらい存在しているだろうか.網膜変性疾患に対する治療法開発の研究は着実に進歩しており,治療法の確立への期待は大きい.しかし,将来的に遺伝子治療や,再生医療,人工網膜,その他の新薬などの臨床応用が実現したとしても,すべての症例に適用できるとは限らず,また適用できたとしても視機能の改善は当面は限定的であると推測される.つまり,治療後も大幅なqualityoflife(QOL)の向上には至らず,なんらかの形でロービジョンケアが必要となる.そのため,今後の網膜変性診療において,ロービジョンケアの重要性がさらに高まっていくと推測される.千葉大学病院眼科ロービジョン外来の受診患者の疾患内訳は,網膜色素変性53%,加齢黄斑変性17%,糖尿病網膜症11%と,70%以上が網膜疾患となっている.本項では,そのような特色のある当科で行っているロービジョン診療の概要と,今後の展望について,経験を交えて述べる.Iニーズの把握網膜色素変性や黄斑ジストロフィをはじめとする網膜変性疾患の種類は多岐にわたるが,その多くは夜盲や羞明,色覚異常,視力・視野障害をきたすため,それらの症状に対するケアが中心となる.具体的には,人混みでぶつかる,足下が見づらい,階段を踏みはずす,読み書きの際に行を飛ばしてしまうといった視力・視野障害に起因する症状や,横断歩道が判別しづらい,信号や洋服の色が判別しづらいなど,コントラスト感度の低下や色覚異常から生じる症状が比較的多く聞かれる.当然ながら患者個々の視機能障害の程度はさまざまであり,視機能障害の進行度,疾患や症状による違いはもちろんのこと,年齢,職業,趣味,性格,遺伝形式,家族構成によっても必要なケアが異なってくる.そのため,まずは各症例の背景とニーズを把握することからロービジョンケアが始まる.当科では患者のニーズの把握のためにチェックリスト(図1)を作成し,ロービジョン外来の受診前に行う問診の際に,患者に記入してもらっている.II社会保障制度の案内と申請視覚障害者に対する支給対象には,「補装具」と「日常生活用具」がある.「補装具」とは,障害者の機能を補完・代償するための,個々に合わせる必要がある用具,つまり義眼,矯正*GenMiura&*ShuichiYamamoto:千葉大学大学院医学研究院眼科学〔別刷請求先〕三浦玄:〒260-8670千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(65)483ロービジョン外来チェックリストオリエンテーション日(月日)面談看護師()色付項目は医師記入LV外来予約日月日():主治医IDTEL(購入時の連絡用)本人家族名前*ロービジョン外来時同席者【有()・無】*キーパーソン【】*千葉市の場住所…()市(区()群()町・合)村眼科病名依頼目的助成対象*患者へ身体障害者手帳【視覚】《無・有()級⇒視力・視野》手帳持参説明指定難病指定難病の疾患名対象疾(無・有→申請《済・申請中・無》).【】別紙参患照対象疾「障害者総合支援法」の対象疾患【有()・無】.別紙参患照現在使用中の補助具眼鏡・遮光眼鏡・拡大鏡・拡大読書器・白杖・その他()室内でまぶしいですか?はい時々いいえ屋外でまぶしいですか?はい時々いいえ信号の色がわかりますか?はい時々いいえお一人で外出はできますか?はい時々いいえ人や障害物にぶつからず歩けますか?はい時々いいえテレビの人の顔は見えますか?はい時々いいえ新聞の本文の字は読めますか?はい時々いいえ署名を書けますか?はい時々いいえ携帯電話の使用に不便がありますか?はい時々いいえ料理などで不便がありますか?はい時々いいえ値段は見えますか?はい時々いいえお金の識別はできますか?はい時々いいえパソコン画面は見えますか?はい時々いいえ◎その他・特記事項図1ロービジョン外来チェックリストロービジョン外来受診前に記入してもらい,患者の背景やニーズを把握している.治療推進事業に代わり,平成26年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が成立し,平成27年より施行されている.網膜変性疾患としては,旧事業からある「網膜色素変性」に加え,平成27年7月からは「黄斑ジストロフィ」が追加となっている.臨床調査個人票の記載要領は,難病情報センターのHPからダウンロードできる(http://www.nanbyou.or.jp/).また,経済的な負担を軽減するため,障害年金制度を利用することも検討する.障害年金とは,病気やケガによって一定の障害の状態があり,生活や仕事が制限されるようになった場合に受け取ることができる年金であり,申請に際しては,年金の未納がなく,初診日の証明ができ,その初診日において65歳未満である必要がある.障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があり,障害のため初めて医師の診療を受けた時に,国民年金に加入していた場合は障害基礎年金が,厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金が請求できる.2018年1月現在では,障害基礎年金の額は,1級で年額974,125円+子の加算(子の人数で決まる額),2級は年額779,300円+子の加算となっている.障害厚生年金の額は,報酬や等級,配偶者の加給年金額によって異なる.また,障害年金の申請に用いる等級は,身体障害者申請時の基準とは異なることにも注意が必要である.ここまで来たら,次に患者個々のニーズへの対応へと進む.IIIロービジョン外来で行っていること当科ロービジョン外来で普段行っている内容を以下に示す.①屈折矯正②拡大鏡および拡大読書器の試用・選定③遮光眼鏡の処方④補装具および日常生活用具支給の案内⑤各種視覚障害者用グッズの案内⑥利用可能な生活支援サービス,支援団体の案内⑦その他以下に,具体的なケアについて述べる.1.屈折矯正適切な屈折矯正はロービジョンケアの基本であり,残存視機能の活用だけでなく,その後の補助器具の選定において重要である.しかし,中心視野障害や固視不良,眼振などを認めるような場合には,しばしば適切な屈折値の判定が困難な場合がある.そのような場合は,過去の検査値の確認,スキアやレンズ交換法の活用,検査時の患者の反応を観察するなどの工夫が必要となる.また,近方視の改善を希望し,かつ両手で作業がしたい,ルーペではなく眼鏡を装用したいといったケースでは,近用のパワーを通常より強めた処方や,弱視眼鏡の処方が有効な場合がある.2.拡大鏡,拡大読書器当科のロービジョン外来受診患者全体のうち,読み書きがしたいといった近見視力の改善を希望しての受診が58%と最多を占めている.新聞や書籍を読むために必要な視力は0.4.0.5程度とされている1)ため,ロービジョン者の近見視力改善のためには,屈折矯正に加えて各種のケアが必要となる.近見視力改善のために実際に行うものとしては,拡大鏡および拡大読書器の試用・選定が中心となり,加えて適切な照明環境の設定,書見台,タイポスコープなどの補助具の案内を行っている.拡大鏡にはさまざまな倍率のものがある(図2).適切な倍率を選定する際には,読書を行う際の必要倍率を念頭に置いて行う.必要倍率とは,読めた文字の倍率に25(cm)を掛け,読めた距離(視距離)で割ったものであり,近見チャートなどを用いて測定する.たとえば,25cmの距離で読書を行う場合では,必要倍率に2を掛けた数値が実際に使用する拡大鏡のジオプターの値となる.手持ち式,スタンド式,置き型,ライト付きなどがあり,それぞれのニーズによって選択する.実際に読みたいものや,行いたい作業に必要な道具などを持参してもらうと選定がスムーズになる.より低視力であったり,より大きな拡大倍率が必要な場合には拡大読書器の使用を検討する.拡大読書器には卓上型と携帯型があり,卓上型はモニターが大きいが,持ち運びには向かない.さまざまな機能を搭載したモデルがあり,倍率変更のほか,画像保存機能,白黒反転,(67)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018485ab図3拡大読書器とiPad拡大読書器(a)とiPad(b)で,文字の拡大と白黒反転を行っているところ.図2拡大鏡さまざまな形状,倍率の拡大鏡がある.図4遮光眼鏡選定キット実際にどのような見え方になるのかを手軽に試用することができる.る.前述のようにロービジョン外来受診患者のC70%以上が網膜疾患である当科では,ブラウン,グレー,グリーン系のレンズの処方が多い.以前に比較的多く処方されていた,レッドを含むイエロー系レンズの処方は近年少なくなっている.その理由としては,以前は少なかったイエロー系以外のカラーレンズが多種類販売されるようになったことに加え,ロービジョン外来を受診する患者は外出時の見た目を気にすることが多く,目立つ色や奇異に感じるような色の処方を希望しないケースが多いことがあげられる.本人の好みでない色のレンズを処方したが,その後,結局使用しなくなってしまう症例をしばしば経験する.そのため,本人の好みや希望も考慮に入れて処方を決定したほうがよい結果につながることがある.現状では遮光眼鏡の処方には定量化された基準は存在せず,患者の自覚的な見え方に依存するところが大きい.そのため,処方には時間をかけて行ったほうがよい結果を得られることが多く,たとえば,屋外での使用目的であれば,実際に屋外で試用してみるなどの工夫も有効である.可能であれば貸し出しを行い,症状と生活スタイルに合った色と濃度を選択できるとよい.明所と暗所を行き来することが多いような場合は,通常の眼鏡に付けて使用するクリップタイプの前掛け式が有用である.そのほかにも,上や耳側からの光も遮光可能なデザインや,眼鏡の上から装用可能なオーバーグラスタイプもある.注意点として,短波長光を遮光するレンズでは,青色の識別が困難になる(青系の色が黒く見える)ことを患者に説明する.また,昼間運転不適合と夜間運転適合それぞれのレンズカラーの基準がCJIS規格によって定められており,処方の際には注意する.平成C22年に制度改正が行われ,眼科領域での補装具として遮光眼鏡および弱視眼鏡(高倍率)が指定されるとともに,遮光眼鏡を身体障害者への補装具として処方する際の疾患の限定が解除された.遮光眼鏡の支給対象者は,1)視覚障害による身体障害者手帳を取得している,2)羞明をきたしている,3)羞明の軽減に,遮光眼鏡の装用より優先される治療法がない,4)補装具費支給事務取扱指針に定める眼科医による選定,処方であること,となっている.支給金額の上限はC30,000円となっており,総額のC1割負担で購入できる.C4.白杖白杖は前述の通り「補装具」であり,条件を満たせば購入の際に支給を受けることができる.直杖型のほか,折り畳み式,伸縮式,T字型などがある.路上の障害物から身を守る,路面の情報を把握する,周囲の人々に視覚障害者であることを知らせるといった効果があり,夜盲や視野障害のある網膜変性疾患患者に対しても,導入することにより安全確保や歩行の改善に効果を認めることが多い.網膜変性患者の視機能障害はしばしば他者に伝わりにくいため,視機能障害があることを周囲に伝える目的で白杖の購入を希望する例もある一方で,そういった補助具を人前で使用したくない,家族や同僚へ知られたくないという患者も多い.患者とコミュニケーションを図り,本人の希望を尊重しながら,白杖を用いることによって改善が得られると思われるケースでは使用を勧める.外来に常備しておき,廊下や階段で実際に使用してもらうこともスムーズな導入に有効である.C5.視覚障害者用グッズの案内社会福祉法人日本盲人会連合,日本点字図書館,その他メーカー,眼鏡店などから,視覚障害者用の商品カタログが発行されており(図5),外来に常備しておくと便利である.大きい品物や,セットアップに知識がいるものを購入したい場合には,支援センターや業者が商品の搬入や設置の援助を行ってくれる場合もあり,問い合わせてみるとよい.国立国会図書館では,点字図書,録音図書の貸し出しやインターネット配信サービスを行っている(httpC://Cwww.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/supportvisual_partic_1.html#tokyo).また日本点字図書館(http://www.nittento.or.jp/)のように,生活情報の提供やグッズの案内・貸し出し・販売なども並行して行っている施設もある.C6.学業,仕事ロービジョン者にとっても,学業や仕事は一生の問題(69)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C487図5視覚障害者用商品カタログさまざまな視覚障害者用グッズが掲載されている.移動の援護などの外出支援を行う〕というサービスがある.同行支援ともいう.自治体によって利用者負担,月ごとの利用可能時間が異なり,また視覚障害の等級によってもサービスが異なる.一人での外出が困難なために生活に制限を強いられている患者も多いため,同行援護の利用が有効と思われる患者には,サービスの存在を案内することも有効である.このような生活支援を行っている自治体は多く,支援内容は,障害者(またはC15歳以上の障害児)を対象とした創作的活動や生産活動,社会との交流の促進,専門職員による社会基盤との連携強化や,支援にかかわる地域住民ボランティア育成,普及啓発などの事業などを行うといったものが多い.盲導犬協会(httpC://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/syakai/hojyoken/html/a01.html)や盲老人ホーム,盲児施設の存在も知識としてもっておくとよい.近隣の自治体にどのような施設が存在するのかを把握しておくと,案内がスムーズである.また,地域の視覚障害者支援団体に自身から直接連絡することに抵抗を感じる患者も多く,医師やコメディカルが窓口となることで,利用への敷居が低くなることもある.近年では,アメリカ眼科学会(AAO)が提唱・実施しているロービジョンケアプログラムであるスマートサイトを日本でも取り入れる動きがあり,県単位での導入が進んでいる.プログラムのレベルC1は,ロービジョンケアが必要と思われる患者を診察した場合に,すべての眼科医が患者向けのパンフレットを手渡し,各種サービスの存在や連絡先を周知することとなっている.このプログラムの普及によって,一般眼科医療とロービジョンケアの連携がよりスムーズなものになることが期待されている.C8.精神的なケア徐々に視機能が障害されていき,確立された治療方法が存在しない網膜変性疾患のロービジョン診療において,精神的なケアは重要である.両眼の視覚障害のQOL低下は,心臓病,脳卒中,糖尿病,喘息などの主要な慢性疾患によるCQOL低下に匹敵すると報告されている5).また,網膜色素変性患者における視機能の悪化は,QOLおよびうつ病の有病率と関連しているとの報告もある6,7).網膜変性疾患診療においては,初診時からメンタルケアは始まっているといえる.忙しい外来のなかで網膜変性疾患を診察したとき,視機能は改善しないこと,徐々に進行すること,治療法がないことを伝えて終了となってしまうこともあるかもしれないが,それのみでは適切ではない.不適切な告知によって,疾患の初期段階でまだ良好な視機能を保持している時点からずっと失明におびえ,必要以上に思い悩んでしまうケースや,発症初期に告知され,絶望感から通院をやめてしまい,末期になってから再度受診するケースをしばしば経験する.言葉に注意して説明したつもりでも,こちらの意図とは異なる受け取り方をされることも珍しくない.われわれ医療者の一言は非常に重いものであることを自覚し,初診時から慎重な対応を心がける必要がある.具体的には,全員が失明するわけではない(生涯失明しない症例もある)こと,進行の速度は緩徐であること,長期のフォローによって進行速度の把握や,白内障や黄斑病変,狭隅角などの合併症の管理ができるため通院の継続が重要であること,さまざまな法的援助・支援団体・視覚補助器具が存在すること,さまざまな遺伝形式があること,治療法の研究も行われていることを伝える.多くの患者が知りたいことは,「進行のスピード(平均寿命まで失明しないか?)」「子孫への遺伝」「治療法研究の現状」の三つであることが多く,それらの知識をアップデートしておくことが診療に役立つ.患者は不安や悩みをかかえながら通院し,自らの背景や実生活における問題点,不安な気持ちを伝える場を求めている.眼科医による診察時には口数の少なかった患者が,ロービジョン外来では,視能訓練士や看護師を相手に長時間話し続ける場面をよく目にする.時には涙を見せることもあり,ロービジョン者がいかに普段吐露できない思いを多く抱え,それを周囲に伝えることができずにいるかを痛感する.医師ではなく,コメディカルのスタッフに本音を話すことはよくあるため,日ごろからスタッフとのコミュニケーションを図り,時にはコメディカルのスタッフからケアについて案内してもらうことも有効である.日常の外来診療においても,患者の様子を観察しながら時間をかけて情報収集を行うことで,より適切なロービジョンケアを提供できる可能性が高ま(71)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C489るだけでなく,傾聴すること自体が精神的なケアや患者との信頼関係の構築につながる.特別な助言をせずとも,患者が話し終わるまで聞くこともケアのひとつになりうる.網膜変性疾患患者の中には,運動不足,体力の低下,生活サイクルの乱れが生じている症例は少なくない.原因としては,視機能障害のみならず,精神的要因によるものも無視できない.網膜変性疾患患者は,独力での歩行などある程度の行動は可能であるが,周辺視野を必要とする状況,たとえば人混みのなかでの歩行などは困難であることが多い.そのため人や自転車にぶつかったり,車と接触しそうになるなどして,注意されたり怒鳴られたりする.疾患に詳しくない周囲の人間は,患者にどの程度の視機能障害があるか理解できず,そんな周囲の何気ない言動で傷ついたりする.こうして徐々に外出や他者との交流への意欲が失われていき,中には引きこもりに近い状況にまで悪化してしまうケースもある.そのような場合には,訪問リハビリテーション制度の活用や,自宅での軽い運動,また可能であればウォーキングや各種スポーツも提案することも一つの方法である.近年の網膜色素変性を対象とした研究では,身体活動の増加が,自己報告された視覚機能およびCQOLの増加と関連していたとの報告がある8).国内では非常に多くの視覚障害者スポーツが行われており,希望者にはそれぞれのスポーツ協会やサークルを案内することでCQOL向上につながることもある.運動までは希望しない場合でも,食事会やカラオケなどを行っているような視覚障害者同士の交流を目的としたサークルもあり,希望があれば案内してもよい.また近年,視機能障害が悪化している症例においても,メンタルヘルススコア,学歴,就業率は低下していなかったとの報告がされた9).この結果は,適切なロービジョンケアの普及がなされれば,さらにロービジョン者のCQOLを高めることができるという可能性を示唆している.C9.デジタル機器の活用PCやタブレット端末,スマートフォンはわれわれの生活に欠かせないものになりつつある.それらのデジタル機器には,視覚障害者用の使用支援機能が存在するだけでなく,アプリケーションを有効に使うことによって,端末自体がさまざまなロービジョンケアの代替・補助となり得る機能をもつツールとなる.PCには,ScreenReaderと総称される,画面情報を音声で読み上げる操作支援ソフトがある.PCの基本的な操作支援のほか,点字での入力,出力機能や,webページやCPDFファイル,Flashコンテンツの読み上げ,マウス操作支援,タッチパネル機能など,さまざまな機能をもつソフトもある.タブレット端末やスマートフォンでも,たとえばApple社のiPhoneやiPadにはVoiceOverという視覚障害者支援のための読み上げ機能があり,画像内容の説明,点字キーボードや点字ディスプレイ,フォントや色彩の変更,拡大など,視覚障害者を支援するさまざまな機能が,タップやドラッグ,音声入力などを用いることで使用できる.また,電子書籍の普及も広がっており,各種COSの機能と組み合わせることで読み上げも可能であり,本が読みたいというニーズには有用である.現状では電子的な音声での読み上げであるが,使用者に聞くと,すぐに慣れるという感想が多い.タブレット端末やスマートフォンは拡張性にも優れている.非常に多くの視覚障害者用アプリが開発されており,導入することでロービジョン者が日々感じている不自由を軽減するのに役立つ機能をもつようになる.「視覚障害者用アプリ」で検索すると,メール,ニュース,小説,ウェブサイト,カメラで撮影した文章の読み上げや,紙幣の判別,色の判別,音声アシスタント,拡大,画像加工など,多種類のアプリがヒットする.カメラで撮影した画像を送信すると,その画像に写っているものの名称を読み上げるアプリも登場している.これらのアプリを使用できるタブレット端末やスマートフォンは,携帯が可能であるという利便性と相まって,ロービジョン者にとって非常に便利なツールとなりつつある.ロービジョン診療におけるタブレット端末やスマートフォンの重要性は,今後ますます大きくなっていくことが予想されるため,長期的に視機能低下が予想される症例については,早期からスマートフォンやタブレットの使用に親しんでおくことを勧めることも有効と思われる.490あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018(72)-