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ロービジョン外来を作ろう

2018年5月31日 木曜日

ロービジョン外来を作ろうLet’sStartLowVisionClinic田辺直彦*はじめに筆者は2年間の初期臨床研修を終え,2009年から眼科医の道を歩き始めた.忙しい大学病院での診療では治療だけで精一杯で,難治疾患や治療後も視力不良の患者たちが,その後どのような経過をたどっているかまで頭はまわっていなかった.転機は一人の先天性黄斑変性疾患の患者から就労相談を受け,何とかすると安請け合いしてしまい困っていたときに,日本ロービジョン学会,視覚リハビリテーション協会の先輩方にアドバイスをもらったことである.手術もできず,特効薬もなく治療がむずかしくても,眼科医として患者に対してまだできることがあり,向き合うべきであると強く感じた.今までの筆者の眼科診療には,患者に残された機能を活用するリハビリテーションの概念,ロービジョンケアの概念がまったく抜けていたことも強く思い知らされた.2013年から地域の開業医となった.当時,山梨県でロービジョン外来を標榜していた医療機関は1施設だけだった.若輩者の自分がロービジョン外来を立ち上げるなんて大丈夫だろうかとの思いもあったが,さまざまな方の助言をもらいながら6年目を迎えることができた.今回は,筆者の考えるゼロからロービジョン外来を始めるにあたってのポイントを,エビデンスなしで紹介する.I最初になにをしたかロービジョン外来を作ると意気込んでみたものの,最初は何から着手していいのかわからなかった.現在であれば,各地域のロービジョン関連施設を記載したスマートサイト(図1)の作成の機運が各地域で高まっているので,まずはスマートサイトがあるかどうかを地域の眼科医師会などに確認して,掲載されている近隣の施設へ実際に見学相談に行ってみるとよい.当時はそのようなものはなかったので,日本眼科医会のホームページにあるロービジョンケア施設のリンクを参照したところ,拡大読書器,遮光眼鏡,単眼鏡,ルーペの説明が並んでいたので,まずはそれから揃えてみることにした.今ふり返ると,単眼鏡は無理して最初から揃えなくてもよかったかなと思っている.理由は自分一人では単眼鏡を患者に指導する時間がなかったからである.外来開設当初,時間を取って単眼鏡の指導説明を行う常勤の視能訓練士がいなかった当院では,最初のうちは出番がほとんどなかった.現在は,「駅の時刻表が見づらい」「テレビが見づらい」「遠くの人の顔がわかりづらい」という患者に,「こんなのもありますよ,どうですか?」と薦め,見える体験をして,その後のロービジョンケアに興味をもってもらうのに重宝している.ルーペはたくさん揃えたいのだが,資金には限りがある1).当院ではルーペ購入前に貸し出しをして実際に自宅で使えるかをチェックしてから購入してもらっているが,5年間で一番使用頻度が高かったのはエッシェンバッハ製のワイドライトルーペLEDライト付非球面携帯虫眼鏡3.5倍と4倍角型(図2)であった.*NaohikoTanabe:田辺眼科〔別刷請求先〕田辺直彦:〒400-0117山梨県甲斐市西八幡693-1田辺眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(17)581図1スマートサイト図2ルーペ図3Viewnal(東海光学)の写真図5白黒反転プリント図4タイポスコープ図7白黒反転パソコン,白黒反転iPhone図6用具のカタログいる.また,針灸按摩の指導をする理療科の講師のなかには視覚障害当事者もおり,視覚障害者の患者会などにも参加し,地域の実情に詳しい方もいる.一度盲学校のオープンキャンパスなどに出席し連携を取れるようにしておくと,教員の信頼や協力も得やすいと思う.教育分野と医療分野の連携は個人情報保護の問題もあり,スムーズであるとはまだ言いがたいが,まめに学校の行事に顔を出して信頼を得てゆくとよいと思う.IV地域障害者職業センター,NPO法人タートルの会ロービジョン外来を行っていると,就労の継続や復職,離職に関して相談を受けることがあり,いつも苦慮している.ロービジョン学会に出席した際に,この問題について職業カウンセラーに相談したところ,各都道府県には「独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構地域障害者職業センター」http://www.jeed.or.jpという組織があることを紹介され,そちらの職業カウンセラーが相談にのってくれることになった.当院の場合は職業カウンセラーが病院まで来てくれるので,患者と職業カウンセラーと医師の3者面談で状況整理を行い,復職,就労継続へ至ったケースがあった.中途視覚障害者の復職を考える会である「NPO法人タートルの会」にも相談を何度も受け付けてもらっている.V視覚障害者用補装具適合判定医師研修会,日本ロービジョン学会,視覚リハビリテーション協会ロービジョン外来の費用を捻出するためや,病院事務に医療行為であることを説明するためには,ロービジョン検査判断料を算定する必要がある.そのためには眼科医が常勤であり,埼玉県所沢にある国立障害者リハビリテーションセンターで行われる視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(通称,国リハ医師研)6)を受講する必要がある.大変勉強にもなり,全国に知り合いもでき,困ったときに相談ができるので大変助かっている.ぜひ参加することをお薦めする.日本ロービジョン学会や視覚リハビリテーション協会(http://www.jarvi.org)主催の視覚障害リハビリテーション研究発表大会に参加すると,いろいろな知識を得られる.筆者の場合は偶然参加したことで,現在外来を手伝ってくれている視能訓練士と出会えたり,歩行訓練士を紹介してもらったりしており,機会があれば学会に参加することをお薦めする.VI歩行訓練士歩行訓練士(視覚障害者歩行訓練指導員)は公的な資格ではないが,専門の機関で教育を受けて,視覚障害者に対する安全な移動の指導や白杖の使用方法の指導,日常生活でのアドバイスなどを多岐にわたり担当している力強い存在だが,医療機関に常勤者がいることはまれで,会ったことのない眼科の先生も多いと思う.筆者もロービジョン外来開設当初,山梨には歩行訓練士が一人もおらず,困っているとロービジョン学会や視覚リハビリテーション大会で愚痴をこぼしたら,人づてで愛知県から来ていただき,助けてもらったことがあった.日本歩行訓練士会や視覚リハビリテーション協会に問い合わせると,近隣の地域で活動している歩行訓練士の情報を教えてくれると思う.患者を医療機関から福祉施設へ紹介すると,もう治らないと医療機関から見捨てられた感じがし,心理的な抵抗があり,福祉施設へなかなか相談に行けない患者もいる.当院では歩行訓練士に依頼して,患者との面談や歩行訓練,日常生活へのアドバイスなどの導入のため病院に来てもらっている.このようにして外来通院の際に面談を行うことで,福祉施設の担当者と顔の見える関係になり,心理的な抵抗が弱まり,さまざまな福祉サービスを受けやすくなり,より快適に医療機関にも通い続けられるようになった例もある.当院では一度もないが,万が一,歩行訓練や白杖指導の際に病院内で事故が起こった場合に備えて賠償責任保険に加入している.通常,医師は何らかの賠償責任保険に加入していることが多いので,保険会社に医師の指示による歩行訓練中の事故に対する保険の適応に関して問い合わせておくと,安心して歩行訓練にあたれる.VII視能訓練士,看護師患者が現在困っていること(ニーズ)を聞き取り,整584あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(20)図9暗所視支援眼鏡図8シミュレーション眼鏡

まずは始めようクイックロービジョンケア

2018年5月31日 木曜日

まずは始めようクイックロービジョンケアLet’sStartwithQuickLowVisionCare!清水朋美*はじめに平成24年度にロービジョン検査判断料が診療報酬化されてから,ロービジョンケアに取り組む眼科が全国的に増えてきた.ロービジョン検査判断料は,視覚の身体障害者手帳該当患者に対し,患者の保有視機能を評価し,それに応じた適切な視覚補助具の選定と,生活訓練・職業訓練を行っている施設などとの連携を含め,療養上の指導管理を行った場合に限り,月に1回250点算定できる1)(表1).ただし,国立障害者リハビリテーションセンターで開催される視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(以下,国リハ視覚医師研修会)を受講修了した医師が常勤で1名以上勤務していることが施設基準となっている.ロービジョン検査判断料の新設以降,視覚障害者用補装具適合判定医師研修会の受講申込者数は右肩上がりに増加し,平成29年度第1回の研修会でついに歴代修了生は1,000人を突破した.筆者は今の職場に赴任してちょうど10年目だが,ロービジョン患者の診療機会はこれまでになく増え,研修会にも同じ期間携わってきた.筆者にとっては,眼科でのロービジョンケアのあり方について自分なりに考える機会を頂戴してきたように思う.その結果が,これからの眼科にぜひ定着させたい「クイックロービジョンケア」である.I本格的なロービジョンケアだけがロービジョンケアではないロービジョン検査判断料が導入される前からロービ表1ロービジョン検査判断料の算定基準ジョンケアに取り組む眼科は存在していたが,その数は非常に少なかった.その最大の理由は,医療とは異なった福祉の仕事というイメージが強いうえ,医学部時代を含め,眼科教育のなかにロービジョンケアや視覚障害に関する内容が含まれてこなかったことも一因ではないかと推測する.いまでこそロービジョンケアを学生講義のなかに含めている医学部もあるが,まだすべてではない.医学部の学生のうち,将来的に眼科医になる者はごく一部だが,仮に他の診療科の医師になっても,あるいは臨床医にならなくても,ロービジョンケアや視覚障害に関する知識は必ず役立つ.従来から行われている眼科のロービジョンケアは,眼科医の診察にはじまり,患者のニーズ聞き取り,情報提供,必要な視覚補助具や社会資源の活用,さらに状況によっては福祉や教育と連携を取りながら就労,就学のケアを行うといった流れである.これこそがまさに本格的なロービジョンケアで,医療では,眼科医,視能訓練士,看護師などがかかわり,眼科医はチームリーダーと*TomomiShimizu:国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部〔別刷請求先〕清水朋美:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)573=図1視野異常の架空例左右眼ともに下方に暗点あり.abc図2タイポスコープとサインガイドa:タイポスコープ.黒い用紙をくり抜いた部分に該当箇所をあわせて使用するとコントラストが付き,読み書きがしやすい.Cb:同意書.各種同意書はコントラストが弱く,ロービジョン患者にとって署名するのも困難である.Cc:サインガイド.署名する場所にサインガイドをあてることでコントラストが高まり,ロービジョン患者は署名しやすくなる.外来や病棟に常備しておくと便利である.図3ロービジョン患者の心理反応いろんなアドバイスをもっとも受け入れやすいのは,「受容」の時期であるが,必ずしも一方通行で心理反応が経過するわけではない.途中のステージでも,ロービジョンケアによって,早く「受容」に至ることもある.C表2ロービジョン患者に役立つおもな情報http://www.nenkin.go.jp/http://www.syougai-nenkin.or.jp/https://www.shakaihokenroumushi.jp/Cconsult/tabid/217/Default.aspxwww.nittento.or.jp/Cbac図4身近なものでの工夫a:輪ゴム.同じようなものが複数あるときに,触ってわかるように輪ゴムを巻きつけておくと識別しやすい.b:電化製品.電化製品にはボタンが多いが凹凸が弱く,ロービジョン患者にとって識別が困難である.Cc:立体シール.黄色の〇内のように,よく使用するボタンに立体シールを貼ることで,ロービジョン患者は触ってわかるため識別しやすくなる.図5クイックロービジョンケアと本格的なロービジョンケアこれからのロービジョンケアは,視機能の程度によって「クイックロービジョンケア」と「本格的なロービジョンケア」に分類されていくだろう.再生医療が本格化すると,視機能低下の程度が重いロービジョン患者がより軽いロービジョン患者となり,「クイックロービジョンケア」のニーズが高まることが予想される.-

わが国におけるロービジョンケアの歴史

2018年5月31日 木曜日

わが国におけるロービジョンケアの歴史TheHistoryofVisualRehabilitationinJapan安藤伸朗*はじめにわが国のロービジョンケアは,平安時代に始まり長い歴史と独特の経緯を有する.当初は職業訓練や視覚障害をもつ人々を保護する施策が主体であった.次第に障害者自らが自立する機運が高まり,今では人権を尊重する時代と変わってきた.一方で眼科領域では,診断治療学が発達し,視機能を保持することが可能となった.新しい学問技術により失明者にも光を届けることも可能な時代になってきた.さらに最近では人工知能(arti.cialintelligence:AI)が診断治療に取り入れられている.このような状況激変のなかでロービジョンケアをどのようにとらえ,取り組んでいくかを考えるうえで,ロービジョンケアの歴史を知ることは大事なことである.本稿では,まずわが国のロービジョンケアの歴史を掘り下げ,視覚リハビリテーションの領域で先駆的に活躍した眼科医をレビューする.さらには組織として取り組むようになった歴史を振り返り,今後のわれわれ眼科医とロービジョンケアのあり方について論じる.I明治以前(平安から江戸):当道座当道座は,中世から近世にかけて存在した男性盲人の自治的互助組織(特殊コミュニティ)である.始まりは平安時代,仁明天皇の子の人康(さねやす)親王(831~872年)が創始者といわれている.親王は盲目(眼疾による中途失明)で,琵琶の名手であった.朝廷は,当時,盲人に琵琶,管弦,詩歌を教える者に官位を授けたとされている.その後,鎌倉時代には『平家物語』が流行し,盲人が演奏した(平家座頭).室町時代には検校明石覚一が『平家物語』の覚一本を作成し,室町幕府から庇護を受けた.江戸時代には当道座は江戸幕府から公認され,寺社奉行の管理下にあった.官位は最高位の検校から順に,別当,勾当,座頭に区分され,それぞれはさらに細分化され全部で73段階あった.当道座に属する盲人の人数は3,000人(江戸には検校68名,勾当67名,座頭170名,それ以下の者360名)といわれている(推定される当時の視覚障害者数は5万人).しかし,1871年(明治4年),当道座は解体され消滅した.II明治以降全国各地に盲学校が設立された.古河太四郎(ふるかわ・たしろう)は1878年(明治11年),京都盲唖院を設立した.次いで1880年(明治13年),東京に楽善会訓盲唖院が開校,1891年(明治24)には新潟県高田市(現在の上越市)に,眼科医の大森隆碩が私立高田訓矇学校を設立した.各地での盲学校設立には眼科医がかかわってきた.現在では,2007年施行の学校教育法改正により盲学校は聾学校,養護学校とともに,学校種が「特別支援学校」となり,「視覚特別支援学校」の名称の特別支援学校もある.*NoburoAndo:立川綜合病院眼科〔別刷請求先〕安藤伸朗:〒940-8621新潟県長岡市旭岡1-24立川綜合病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)567盲学校以外では,1890年(明治23年),6点式点字の開発(石川倉次),1940年(昭和15年),日本盲人図書館創立(本間一夫),1948年(昭和23年),東京と塩原に光明寮(国立リハビリテーションセンターの前身)開設,1948年(昭和23年),日本盲人会連合発足(初代会長;岩橋武夫),1961年(昭和36年),京都ライトハウス発足(鳥居篤治郎)と続いた.III保護から自立,人権の尊重へ視覚障害に限らず,障害者の世界は大きく変わろうとしている.障害者リハビリテーションと戦争はかかわりが深い.第二次世界大戦により障害者が大量に生まれた.戦勝国では軍隊は残り,治療・リハビリテーションを国策で行うことにより,外傷治療学やリハビリテーション学が発展した.一方,敗戦国では軍隊は解散し,傷痍軍人が街に溢れた.そこで国が障害者の福祉を行い,わが国では,1949年(昭和24年),身体障害者福祉法が成立した.1954年(昭和29年),世界盲人福祉協議会(WorldCouncilforWelfareoftheBlind:WCWB)では「ゆりかごから墓場まで」が謳われ,弱者の保護政策が強調された.1964年,WCWBで「視覚障害者の人間宣言」が示された.曰く,「盲人を援護し庇護することは,盲人のためにかもしれないが,盲人の人権を無視したもの」.視覚障害者の自立が宣言された.さらに2008年,国連総会において「障害者の権利に関する条約」が採択された.これは障害者の人権および基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置などについて定める条約である.わが国は平成19年(2007)に条約に署名し,2014年1月に批准書を提出した.これにより,障害者の人権尊重がより明白となった.IV活躍した眼科医1.小柳美三(東北大学初代眼科教授)Vogt-小柳型ぶどう膜炎で有名な小柳美三(こやなぎ・よしぞう)初代東北大学眼科教授が,『日本眼科学会百周年記念誌』に,創生期のロービジョンケア先駆者として紹介されている1).1929年,小柳教授が『日本学校衛生誌』に「弱視教育における特殊教育の必要」を発表し,低視力児の特殊教育の必要性を訴えた.それが功を奏して,1933年,南山尋常小学校(東京麻布)に全国初の弱視学級が開設された.2.順天堂大学眼科(紺山和一,赤松恒彦,中島章)1964年(昭和39年),順天堂大学眼科がわが国初のロービジョン外来(眼科臨床更生相談所)を開設された.ロービジョンケアという概念もないころであり,特筆すべきことである2).中島教授は,当時「眼科医は今迄なにをしてきたのか!」という論文を残している.その内容をかいつまんで紹介する.《昭和39年より眼科臨床更生相談所を開設し,また昭和41年3月より東京都身体障害者巡回診療班に加わり東京都内全域(島部も含め)をめぐり,視力障害者に多く接する機会を得た.その間に感じた2,3の点を記し,反省しつつ眼科臨床医が視覚障害者に遭遇した場合にどのような対応をとればよいかを述べ,将来の構想を述べた.1)眼科医は今迄なにをしてきたのか,2)身障者に対するあつかいの悪い例,3)更生福祉はどのようになされているか,4)眼科医はどうあるべきか,5)眼科医はどうしたらよいか,6)現在までの反省及び今後のあるべき方向……失明した方々を見ていると現在の医療の矛盾を多く感じ,早く,そして少しでも幸福な生活にもどしてあげるのが医療の本質と強く思い,この一文がそのための一石となることを願いつつ書いた.》3)順天堂大学ロービジョンケアの伝統は現在も引き継がれ,村上晶教授は第18回日本ロービジョン学会(2017年5月,岐阜)で,「我が国初の眼科リハビリテーションクリニック」と題して特別講演を行った.3.原田政美(東北大学教育学部視覚欠陥学教室)東京大学眼科(萩原朗教授)で斜視弱視の研究を行568あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(4)っていた原田政美は,萩原教授の退官後の1965年(昭和40年),東北大学教育学部視覚欠陥学教室の初代教授に就任し,視覚支援について本格的に研究を開始した.これは本格的なロービジョンケア学の始まりであった.同教室について原田教授自身が執筆した一文を引用する4).「東北大学教育学部視覚欠陥学教室」〈教室の沿革〉東北大学教育学部教育心理学科には従来から聴覚言語欠陥学講座が設置されているが,昭和40年度,新たに視覚欠陥学講座が設けられ,この結果,本学科は教育心理学関係二講座,欠陥学関係講座二講座,計四講座となった.視覚欠陥学講座は大学院(修士および博士課程)を持った実験講座で,大学院においては聴覚言語欠陥学とともに身心欠陥学を形成している.〈教室の目的〉従来本学部には同じく視覚欠陥学と呼ばれた盲学校教員養成課程があったが,盲教員養成は今後宮城教育大学で行うことになり,本講座は広く視覚欠陥に関する基礎科学的研究を行うことを目的とする.視覚に欠陥のあるものが現代社会によく適応し,各個人の最大限の可能性をもって,社会生活を営めるような知見を提供すべく,医学的,心理学的,教育学的な研究を行う.日本に多発性硬化症が存在することを初めて主張した眼科医,桑島冶三郎も最終的な所属は本教室である.臨床のロービジョンクリニック「眼科臨床更生相談所」(順天堂大学)と,アカデミックにロービジョンケア学をめざした東北大学視覚欠陥学講座は,奇しくもほぼ同時期に始まった.4.国立身体障害者リハビリテーションセンター(現,国立障害者リハビリテーションセンター)(簗島謙次,仲泊聡,清水朋美)1983年,国立身体障害者リハビリテーションセンター病院が設立された.本センターは,障害のある人々の自立した生活と社会参加を支援するため,医療・福祉サービスの提供,新しい技術や機器の開発,国の政策に資する研究,専門職の人材育成,障害に関する国際協力などを実施する国の組織である.視覚障害を担当する歴代部長は,簗島謙次(1989年~),仲泊聡(2008年~),清水朋美(2016年~)である.1991年(平成3年),視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(厚生労働省)が開始され,ロービジョンケアを行うことのできる眼科医を,全国に広げている.研修を終えた眼科医は,現在1,000名を超えた.5.日本ロービジョン学会(田淵昭雄,高橋広,加藤聡)2000年(平成12年)4月に創設された.本学会は,わが国における視覚に障害を有する児・者へのハビリテーションと,リハビリテーションに関する学際的な研究および臨床の向上,会員同士および諸外国との交流を目的に設立された.眼科医,視能訓練士,看護師などの医療関係者以外に,教育,福祉,労働,ロービジョン関連機器に携わる企業関係者などさまざまな職種の方々が参加している学際的な学会である.歴代理事長は,田淵昭雄(2000~),高橋広(2010~),加藤聡(2013~)である.学会会員数は,845名でうち眼科医は277名(2018年1月現在)である.6.視覚リハビリテーションに尽力した偉大なサージャン(樋田哲夫,田野保雄)古今東西を問わず,RobertMachemerやCharlesSchepensなど,偉大な眼科サージャンは視覚リハビリテーションにも熱心である.わが国の樋田哲夫,田野保雄もしかりである.現在,日本眼科学会のホームページからも引用できる「感覚器医学ロードマップ感覚器障害の克服と支援を目指す今後10年の基本戦略」(改訂第2版,2008年8月)5)は,田野保雄(当時,大阪大学医学部眼科教授)が委員長であり,樋田哲夫(当時,杏林大学医学部眼科教授)も10人の委員のうちの1人であった.基本戦略4本柱には,疫学研究,眼疾患に対する新しい治療法開発・普及,視力障害者が視力回復もしくは視力の代替手段の提供とともに,ロービジョンケアの重要性が謳われている.具体的には,病態を二つに分け,1.「治る病態」には糖尿病網膜症と緑内障をあげ,早期発見・早期治療,予防治療を重視している.2.「治らない病態」に対して(5)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018569表1わが国のロービジョンケアの歴史

序説:ロービジョンケアの過去・現在・未来

2018年5月31日 木曜日

ロービジョンケアの過去・現在・未来LowVisionCareinJapan─Past,PresentandFuture安藤伸朗*佐藤美保**平成24年度にロービジョン検査判断料が診療報酬化されると,それまでごく一部の眼科においてのみ行われていた「特殊なサービス」であったロービジョンケアが広く認識されるようになった.今やロービジョン外来は,多くの病院や眼科クリニックに開設され,医師や視能訓練士のロービジョンケアへの意識も高い.20年前には特殊な用語であった生活の質(qualityoflife:QOL)という用語も一般的になり,医師主導の医療から,患者中心の医療が求められるようになった.「視力を回復させる」ことが最大の目標であった眼科医も,「見えづらさをもつ患者とともに歩む」ことが使命となり,やりがいにもなってきた.先天的に低視力の子供が,適切な教育を受けて就労していく姿をみたり,失明のために落胆していた患者が生き生きと暮らす様子を目の当たりにできるのは,ロービジョンケア,いや眼科医の醍醐味であろう.その一方で,ロービジョン外来を行うためには,さまざまな疾患による見えづらさに対する知識をもち,個々の患者ニーズを理解し,さらには関連する団体や組織との連携することなどが必要となってくる.時間がかかるだけではなく,これまで学んできた眼科学の範囲を超えたさまざまな知識が求められるようになったのである.そのため,ロービジョン外来のハードルを高く感じている眼科医もまだまだ多く存在するのが現状である.本特集では,わが国におけるロービジョンケアの歴史を振り返るとともに,現在進行形のロービジョンケア,そして未来のロービジョンケアについて多くの専門家に執筆していただいている.安藤は,わが国における平安時代から現在までのロービジョンケアの歴史について総括し,この分野で活躍した眼科医を語り,今後AI時代に必要な眼科医療の中心は患者を思う気持ちであることを論じた.国立障害者リハビリテーションセンター病院で視覚障害者用補装具適合判定医師研修会の指導をしてこられた清水朋美先生には,多くのスタッフによる本格的なロービジョン外来だけがロービジョンケアではなく,すべての眼科医が診療のなかで行うことができる「クイックロービジョンケア」の必要性を執筆していただいた.田辺眼科の田辺直彦先生には,地域の開業医としてのロービジョン外来の必要性と,自院でのロービジョン外来の開設準備から現在までの経緯を時間軸とともに述べていただいた.まだロービジョンケアに十分になじみのない方には,ぜひここからスタートしていただけたらと思う.*NoburoAndo:立川綜合病院眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)565

非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):552.559,2018c非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験後藤浩*1志村雅彦*2宮井裕子*3飯田知弘*4*1東京医科大学臨床医学系眼科学分野*2東京医科大学八王子医療センター眼科*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京女子医科大学眼科学教室Phase3ClinicalTrialofSub-TenonInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainNoninfectiousUveitisHiroshiGoto1),MasahikoShimura2),HirokoMiyai3)andTomohiroIida4)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenter,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityWP-0508ST(マキュエイドR眼注用C40Cmg)のCTenon.下投与における有効性および安全性を確認するため,非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を有する患者C40例を対象に,多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.投与後C8週における中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量は,臨床的に有効であると判断される基準として設定したC95%信頼区間の上限値.50Cμmを上回る改善であった.また,投与後C12週までの中心窩網膜厚,最高矯正視力および炎症スコア(前房細胞数および前房フレア)の推移において,スクリーニング時と比較して有意な改善が認められた.おもな副作用としては,眼圧上昇(15.0%),血中コルチゾールの減少(10.0%)および水晶体混濁進展(5.0%)がみられた.眼圧上昇例は眼圧下降薬の点眼または内服によりコントロール可能であった.水晶体混濁例は白内障手術に至ったが,視力予後は良好であった.WP-0508STは非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられる.ToCevaluateCtheCe.cacyCandCsafetyCofCsub-TenonCinjectionCofCWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicCInjection40Cmg),CweCconductedCaCmulticenter,Copen-label,CuncontrolledCstudyConC40CsubjectsCwithCmacularCedemaCinCnon-infectiousuveitis.Theresultsindicatedthatthechangeincentralmacularthickness(CMT)at8weeksaftertheadministrationshowedimprovementexceedingtheupperlimitofthe95%con.denceintervalof.50Cmm,thecri-terionCforCclinicalCe.ectiveness.CInCaddition,CCMT,Cbest-correctedCvisualCacuityCandCin.ammationCscore(anteriorchamberCcellCcountCandCanteriorCchamberC.are)observedCupCtoC12CweeksCpost-administrationCindicatedCaCsigni.-cantCimprovementCfromCbaseline.CTheCmainCadverseCdrugCreactionsCwereCelevatedCintraocularCpressure(15.0%),decreasedbloodcortisol(10.0%),andprogressionoflensopacity(5.0%).Itwaspossibletocontroltheintraocularpressurewiththeeyedropsorinternalmedicinesforglaucoma.Thecaseswithlensopacityrequiredcataractsur-gery,CbutCtheCprognosisCforCvisualCacuityCwasCsatisfactory.CTheseCresultsCsuggestCthatCWP-0508STCisCanCe.ectiveCtherapeuticoptionforthetreatmentofmacularedemainnoninfectiousuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):552.559,C2018〕Key.words:非感染性ぶどう膜炎,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,有効性,安全性,WP-0508ST.noninfectiousCuveitis,CmacularCedema,CtriamcinoloneCacetonide,Csub-tenonCinjection,e.cacy,Csafety,CWP-0508ST.C〔別刷請求先〕後藤浩:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:HiroshiGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity.6-7-1Nishi-Shinjyuku,Shinjyuku,Tokyo160-0023,JAPAN552(134)はじめにぶどう膜炎は,その病因から非感染性ぶどう膜炎と感染性ぶどう膜炎に分類されるが,2009年の日本眼炎症学会によるわが国におけるぶどう膜炎の原因疾患調査では,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病,急性前部ぶどう膜炎など,その上位はいずれも非感染性ぶどう膜炎が占めていた1).非感染性ぶどう膜炎の治療としては,第一に副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の局所投与または内服が行われ,これらの治療で効果不十分の場合にはシクロスポリン,メトトレキサートなどの免疫抑制薬治療が行われるのが一般的である2).ステロイドによる治療においても,可能な限り局所投与での治療から試みることが原則となる3).ぶどう膜炎はその原因にもよるが予後不良に至ることも珍しくなく,ぶどう膜炎患者の約C35%が重度の視覚障害あるいは社会的失明に至ることが報告されている4,5).一方,ぶどう膜炎患者の約C3割が黄斑浮腫を伴うことが知られている4).黄斑浮腫の慢性化は視細胞に不可逆的な障害をきたし,恒久的な視力障害に至ることが危惧されるため,治療時期を逃がさずに黄斑浮腫を抑制することが重要である.トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneCacetonide:TA)を有効成分としたCWP-0508ST(マキュエイドCR眼注用40Cmg)は,硝子体手術時の硝子体可視化薬および硝子体内投与による糖尿病黄斑浮腫治療薬として製造販売承認を取得しており,2017年C3月にCTenon.下の投与経路において「糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫及び非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の軽減」の効能・効果の追加承認を取得した.本報告では,「非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の軽減」の効能・効果承認のために実施された多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」,ならびに治験実施計画書を遵守し実施された.CI対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験はC2015年C1月.2016年C7月に全国C13医療機関において,各々の治験責任医師のもと実施された(表1).試験実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象対象患者は,活動性の眼感染(ウイルス,細菌,真菌,寄生虫,原虫など)を除いた,非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を有する患者とした.おもな選択・除外基準は表2に示した.本治験の開始に先立ち,すべての被験者に対して試験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意を本表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*北海道大学病院南場研一東北大学病院丸山和一順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本医科大学付属病院堀純子東京医科大学病院毛塚剛司東京大学医学部附属病院蕪城俊克東京医科歯科大学医学部附属病院高瀬博東京慈恵会医科大学附属病院酒井勉,久米川浩一名古屋市立大学病院吉田宗徳JCHO大阪病院大黒伸行山口大学医学部附属病院園田康平,柳井亮二宮田眼科病院宮田和典淀川キリスト教病院中井慶*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).人から文書にて取得した.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験として実施した.Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTAC40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,結膜円蓋部下耳側に剪刀を用いて小切開を加え,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿って眼球後方まで針先を押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬の点眼による感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表3に示した.まず,蛍光眼底造影検査によって黄斑浮腫の有無を確認し,選択基準の判定および糖尿病網膜症などの除外基準の判定を行った.中心窩網膜厚は光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を用い,中心窩から半径C0.5Cmm範囲の平均網膜厚の値を評価した.なお,実施医療機関で撮像されたCOCT画像については,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会にて専門家による判定が行われた.最高矯正視力の測定はEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudy(ETDRS)チャートを用いて行った.その他,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査を観察項目とした.投与後に認められた臨床上好ましくない疾病あるいは徴候を収集し,有害事象として評価した.なお,投与後C12週までを「観察期間」とし,対象疾患に対する併用治療(ステロイドの全身投与や抗CVEGF薬の局所投与,硝子体手術,レーザー治療など)および視力に影響を及ぼす可能性のある処置(白内障手術,緑内障手術など)を禁止とした.ただし,表.2おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢がC20歳以上C80歳未満(2)対象眼が非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫と判断された者(3)対象眼の視力がCETDRS視力表を用いてC20文字からC80文字(小数視力換算でC0.05以上C0.8以下)(4)対象眼の中心窩網膜厚が,OCTによる測定でC300Cμm以上(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)対象眼に,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑虚血,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシスまたは強度近視の症状を有する(2)対象眼に,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査またはCOTCによる中心窩網膜厚の評価および測定が困難なほどの透光体混濁(網膜前・硝子体出血,または水晶体混濁など)を認める(3)対象眼に,角膜上皮.離または角膜潰瘍を有する(4)対象眼に,緑内障,高眼圧症または既往歴を有する(5)対象眼に眼内悪性リンパ腫を有する(6)コントロール不能な全身性疾患を有する(7)全身衰弱,重篤な心疾患,重篤な脳血流障害または肝硬変を有する(8)対象眼への硝子体手術が治験薬投与前C52週以内に実施(9)対象眼への副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与が治験薬投与前C24週以内に実施(10)対象眼への薬剤の硝子体内投与が治験薬投与前C24週以内に実施(11)免疫抑制薬,免疫調節薬,代謝拮抗薬またはアルキル化薬の投与が治験薬投与前C24週以内に実施(12)対象眼へのレーザー治療または内眼手術が,治験薬投与前C12週以内に実施(13)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,抗CTNF-a抗体薬,ワルファリンまたはヘパリンの投与が,治験薬投与前C4週以内に実施(14)妊婦または授乳婦(15)その他治験医師または治験分担医師が不適と判断表.3検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日週1週4週8週12中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●C表.4前房細胞数の判定基準スコア00.5+1+2+3+4+SUNCWorkingCGroupによるスコア分類(視野サイズは縦C1CmmC×横C1Cmmのスリット光)被験者の利益性を優先し治療が必要とされた場合は本治験を中止・終了とした.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量とした.臨床的に有効であると判断される基準をC.50Cμmと設定し,95%信頼区間の上限がC.50Cμmを上回る改善であればCWP-0508STの有効性が確認されるものとした.評価時点は投与後C8週とし,8週より前に中止または脱落した症例についても最終検査日のデータを評価に含めた.副次的評価項目は,中心窩網膜厚の推移,EDTRSチャートによる最高矯正視力の推移,炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)の投与後C12週までの推移とした.Cb..安全性投与後C12カ月までに発現した有害事象および副作用,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数,臨床検査の各項目を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団主要な有効性解析対象集団は,最大の解析対象集団(fullanalysisCset:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性の解析は,治験薬の投与が行われたすべての症例を対象とした.Cb..解.析.方.法主要評価項目は,中心窩網膜厚の変化量について要約統計量およびC95%信頼区間を算出した.副次的評価項目は,中心窩網膜厚および最高矯正視力について,各評価時点における要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.また,炎症性スコアはCStandardizedCUveitisCNomenclature(SUN)ワーキンググループが報告した基準(表4および表5)6)に従ってスコア化し,Wilcoxonの符号付順位和検定を行った.検定は両側検定で行い,有意水準は5%とした.C表.5前房フレアの判定基準II試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し登録された被験者数はC41例であった.登録された被験者のうち1例が治験薬投与前に黄斑浮腫が改善したため投与未実施となり,投与実施被験者数はC40例となった.そのうちC6例が投与後C12週以内に中止・脱落し,12週間の観察期を完了した被験者数はC34例であった.投与後C12週以内の中止・脱落理由は,「有害事象の発現により併用禁止薬又は併用禁止療法の処置の必要性が生じたため」がC4例,「黄斑浮腫の再発及び合併症の治療のため」がC2例であった.12週間の観察期を完了したC34例は投与後C6カ月,9カ月の追跡調査へ移行し,投与後C12カ月の追跡調査終了前に同意撤回したC2例を除くC32例が全追跡調査を終了した.被験者背景(FAS)を表6に示した.表.6被験者背景(FAS)項目例数解析対象被験者数C39男11(28.2%)性別女28(71.8%)平均値±標準偏差C59.5±15.22年齢(歳)[最小値.最大値][23.78]サルコイドーシス13(33.3%)Vogt-小柳-原田病1(2.6%)Behcet病4(10.3%)ぶどう膜炎の原因分類その他21(53.8%)急性前部ぶどう膜炎2(9.5%)炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎1(4.8%)分類不能のぶどう膜炎18(85.7%)ぶどう膜炎罹病期間(年)平均値±標準偏差C3.95±5.376ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫罹病期間(年)平均値±標準偏差C1.93±4.433平均値±標準偏差C484.5±189.54中心窩網膜厚(μm)[最小値.最大値][307.1351]平均値±標準偏差C64.2±12.44最高矯正視力(文字)[最小値.最大値][32.80]平均値±標準偏差C14.2±2.74眼圧(mmHg)[最小値.最大値][9.20]020(C51.3%)C0.5+8(2C0.5%)C前房細胞数C1+2+8(2C0.5%)C2(5C.1%)C3+1(2C.6%)C炎症スコア4+0(0C.0%)029(C74.4%)C1+9(2C3.1%)C前房フレアC2+1(2C.6%)C3+0(0C.0%)C4+0(0C.0%)2..有効性投与が実施された被験者C40例のうち,1例で除外基準に抵触(投与前より経口炭酸脱水酵素阻害薬使用)があり,FASおよびCPPS不採用となった.有効性データの取り扱いはすべてCFASとCPPSで同一であった.Ca..主要評価項目に関する結果評価時の中心窩網膜厚およびスクリーニング時からの変化量の結果を表7に示した.中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量は,C.114.0(C.160.9.C.67.1)μm[平均値(95%信頼区間下限.上限)]であり,95%信頼区間の上限はあらかじめ設定した基準である.50Cμmを上回る改善が認められた.Cb..副次的評価項目に関する結果投与後C12週までの中心窩網膜厚の推移を図2に,変化量を表8に示した.各評価時点の中心窩網膜厚は,スクリーニング時:484.5C±189.54Cμm(平均値C±標準偏差,以下同様)投与後C1週:405.0C±191.24Cμm,4週:381.9C±162.26Cμm,,8週:374.5C±135.57Cμm,12週:371.8C±153.11Cμmと,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてp<0.001).投与後C12週までの最高矯正視力の推移を図3に,変化量を表9に示した.各評価時点のスクリーニング時からの最高矯正視力は,スクリーニング時:64.2C±12.44文字,投与後1週:69.1C±11.49文字,4週:72.6C±9.89文字,8週:74.1C±9.99文字,12週:74.9C±9.10文字と,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてp<0.001).投与後C12週までの炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)表.7評価時の中心窩網膜厚(FAS,解析対象被験者数39例)中心窩網膜厚中心窩網膜厚変化量平均値±標準偏差対応あるCt検定平均値±標準偏差スクリーニング時評価時C[95%信頼区間(下限.上限)].114.0±144.59484.5±189.54C370.5±128.89p<0.001C[.160.9.C.67.1](単位:μm)70010090中心窩網膜厚(μm)600最高矯正視力(文字)80706050403020500400300200100100スクリー1週後4週後8週後12週後0スクリー1週後4週後8週後12週後ニングニング評価時期評価時期図.2中心窩網膜厚の推移(FAS)図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値±標準偏差.***:p<0.001,対応あるCt検定.平均値±標準偏差.***:p<0.001,対応あるCt検定.表.8中心窩網膜厚変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後解析対象被験者数C39C35C35C33中心窩網膜厚変化量(μm,平均値C±標準偏差)C.79.5±84.61C.110.3±111.91C.121.5±150.23C.115.3±115.85表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後解析対象被験者数C39C35C35C33最高矯正視力変化量(改善文字数,平均値±標準偏差)C4.9±7.04C8.4±7.76C10.3±8.32C9.8±8.68Cの推移を図4および図5に示した.前房細胞数の推移については,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてCp<0.001).前房フレアの推移については,投与後C1日およびC1週では有意な改善がみられなかったものの,投与後C4週,8週,12週においては有意な改善がみられた(すべてp<0.01).C3..安全性a..副作用有害事象のうち被験薬との因果関係が否定できないものを副作用とし,結果を表10に示した.投与後C12カ月までに発現した副作用はC40例中C12例(30.0%)であり,発現率C5.0%以上の副作用は,眼圧上昇C6例(15.0%),血中コルチゾール減少C4例(10.0%),水晶体混濁C2例(5.0%)であった.血中コルチゾール減少については,いずれも軽度および投与初期の一過性の発現であり処置なしで回復した.投与後C12週以内に有害事象が発現し,中止に至った被験者について,いずれも治験薬との因果関係は認められなかった.ニング評価時期図.4前房細胞数の推移(FAS)平均値±標準偏差.###:p<0.001,Wilcoxonの符号付順位和検定.表.10副作用一覧器官別大分類(SOC)発現率基本語(PT)発現例数(%)解析対象被験者数C40眼障害結膜出血C1C2.5眼痛C1C2.5水晶体混濁C2C5.0網膜出血C1C2.5視力低下C1C2.5眼圧上昇C6C15.0臨床検査血中コルチゾール減少C4C10.0血中ブドウ糖増加C1C2.5血中トリグリセリド増加C1C2.5CMedDRA/Jver.18.1Cb..眼圧上昇に関する評価眼圧上昇が認められたC6例の内訳は,24CmmHg以上C30mmHg未満がC3例,30CmmHg以上がC2例,眼圧上昇の程度不明がC1例であった.投与から眼圧上昇発現日までの期間は56.0(8.98)日[平均値(最小値.最大値),以下同様]であり,眼圧上昇の持続期間はC194.5(28.345)日であった.6例のうち,無処置で消失したC1例を除くC5例では眼圧下降薬の点眼または内服により転帰は消失または軽快となり,ろ過手術などの外科的処置に至った症例はみられなかった.Cc..水晶体混濁に関する評価水晶体混濁の進展が認められたC2例の投与から混濁の進展が認められるまでの期間は,231.5(218およびC245)日[平均(最小値および最大値)]であった.WHO分類7)を用いた進展段階判定では,それぞれ混濁なしまたは軽度からC1段階の進展であった.これらC2例については白内障手術が施行され,1例は入院を伴う白内障手術のため重篤な副作用と判断スクリー1日後1週後4週後8週後12週後ニング評価時期図.5前房フレアの推移(FAS)平均値±標準偏差.##:p<0.01,Wilcoxonの符号付順位和検定.された.手術後の転帰は消失であった.CIII考察非感染性ぶどう膜炎の原因は,Behcet病,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシスなど,多くの場合が全身疾患と関連しており1),自己免疫反応などにより産生された炎症性因子が血液を介してぶどう膜組織に到達し,眼内炎症を惹起しているものと考えられる.ぶどう膜炎の遷延により,眼内にサイトカインなどを産生する炎症細胞の浸潤に加え,壊死細胞や滲出液が貯留する.とくに黄斑部には滲出液が生じやすく,大部分は中心窩周囲の内顆粒層と外網状層に滲出液が貯留し,.胞様黄斑浮腫となることが多い.黄斑浮腫は原疾患によって発生頻度や性状が異なることが知られているが,たとえばCBehcet病ではびまん性黄斑浮腫または.胞様黄斑浮腫を生じる可能性がある.TAには炎症性物質の産生抑制作用のほか,血管透過性亢進抑制および血液網膜関門の破綻を改善する作用機序があり,ぶどう膜炎に併発する黄斑浮腫に対しても有効であると考えられている8,9).TAの黄斑浮腫治療としては,2001年にCJonas10)が糖尿病黄斑浮腫を対象としてCTA硝子体内投与により浮腫が軽減することを報告して以来,国内外での報告が相つぎ,ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫に対しても多くの報告でCTAのCTenon.下および硝子体内投与の有効性が確認されている11,12).Sugarら13)は非感染性ぶどう膜炎患者にフルオシノロンの眼内インプラント治療を行った結果,中心窩網膜厚がC20%以上改善した患者群では,平均C11.0文字の最高矯正視力の改善を報告している.本治験ではこの報告を参考に中心窩網膜厚の変化量のC95%信頼区間の上限をC.50Cμmとして設定した.その結果,主要評価項目である中心窩網膜厚の変化量は基準を上回る.67.1Cμmの改善を示し,WP-0508STの有効性が確認された.また,最高矯正視力の変化量は,投与後C(140)12週で平均C9.7文字とCETDRS視力表で約C2段階(10文字)に相当する改善が認められ,Sugarら13)の報告と同様,中心窩網膜厚の改善に伴う視力の改善が確認され,その改善値もほぼ同様の結果となった.炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)についても有意な改善が認められ,前眼部炎症に対する抑制効果が示された.安全性については,TAの眼内投与におけるおもな副作用として眼圧上昇や水晶体混濁が知られている.Levinら14)はTAのCTenon.下投与における眼圧上昇の発現率はC47眼中9眼(19%)であったことを報告しており,本治験においても同程度の発現頻度であった.もともとぶどう膜炎では,その合併症として眼圧上昇をきたすことがあるため15),WP-0508STの使用に際しては眼圧コントロール不良な患者やステロイドレスポンダーへの投与を避けること,また眼圧上昇の徴候がみられた場合は速やかに眼圧下降薬点眼による治療を行うことなどの十分な注意が必要である.水晶体混濁について吉村ら16)は,TATenon.下投与後C44眼中C8眼(18%)に後.下白内障が認められ,その発症時期は平均で投与後8.8カ月であったと報告している.本治験における水晶体混濁進展時期は,平均で投与後C8.3カ月であり,吉村らの報告と類似していた.このようにCTACTenon.下投与による白内障の発症および進展は,投与から時間が経過した後に認められていることから,WP-0508ST投与後は長期的な経過観察が必要であると考えられる.何らかの病原性微生物によって発症する感染性ぶどう膜炎に対してステロイドを使用することは,炎症の増悪や病巣の拡大など重篤な副作用が懸念されることから17),ぶどう膜炎の診断は慎重に行い,感染性ぶどう膜炎が疑われる場合には安易にCWP-0508STを使用しないことが重要であることはいうまでもない.以上,WP-0508STの非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の改善効果が確認された.また,視力障害や失明のリスクを考えると,その副作用は十分忍容されるものと考えられ,WP-0508STの本疾患に対する有用性が示された.利益相反:後藤浩,志村雅彦,飯田知弘:カテゴリーCC:わかもと製薬㈱文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,C20122)蕪木俊克:ぶどう膜炎の最近の治療.眼科C50:435-443,C20083)蕪木俊克:これからの非感染性ぶどう膜炎の治療戦略.あたらしい眼科34:505-511,C20174)RothovaA,Suttorp-vanSchultenMS,FritsTre.ersWetal:CausesCandCfrequencyCofCblindnessCinCpatientsCwithCintraocularCin.ammatoryCdisease.CBrCJCOphthalmolC80:C332-336,C19965)NussenblattCRB:TheCnaturalChistoryCofCuveitis.CIntCOph-thalmol14:303-308,C19906)JabsCDA,CNussenblattCRB,CRosenbaumCJT:Standardiza-tionCofCuveitisCnomenclatureCforCreportingCclinicalCdata.CResultsCofCtheCFirstCInternationalCWorkshop.CAmCJCOph-thalmol140:509-516,C20057)ThyleforsB,ChylackLTJr,KonyamaKetal:Asimpli-.edCcataractCgradingCsystem.COphthalmicCEpidemiolC9:C83-95,C20028)橋田徳康:ステロイドなどの局所投与(点眼と眼周囲注射).あたらしい眼科34:469-474,C20179)FlomanCN,CZorCU:MechanismCofCsteroidCactionCinCocularin.ammation:InhibitionCofCprostaglandinCproduction.CInvestOphthalmolVisSci16:69-73,C197710)JonasCJB,CSofkerCA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C200111)OkadaCAA,CWakabayashiCT,CMorimuraCYCetCal:Trans-Tenon’sCretrobulbarCtriamcinoloneCinfusionCforCtheCtreat-mentofuveitis.BrJOphthalmol87:968-971,C200312)AtmacaCLS,CYalcindaC.FN,COzdemirCO:IntravitrealCtri-amcinoloneacetonideinthemanagementofcystoidmacu-laredemainBehcet’sdisease.GraefesArchClinExpOph-thalmol245:451-456,C200713)SugarCEA,CJabsCDA,CAltaweelCMMCetCal:IdentifyingCaCclinicallymeaningfulthresholdforchangeinuveiticmacu-larCedemaCevaluatedCbyCopticalCcoherenceCtomography.CAmJOphthalmol152:1044-1052,C201114)LevinDS,HanDP,DevSetal:Subtenon’sdepotcortico-steroidCinjectionsCinCpatientsCwithCaChistoryCofCcorticoste-roid-inducedCintraocularCpressureCelevation.CAmJOph-thalmol133:196-202,C200215)蕪城俊克,川島秀俊:ぶどう膜炎併発緑内障における手術の適応・術式の選択・術後処置.あたらしい眼科C21:13-19,C200416)吉村将典,平野佳男,野崎美穂ほか:トリアムシノロン局所投与後の後.下白内障の発症頻度.日眼会誌C112:786-789,C200817)高瀬博:感染性ぶどう膜炎.OCULISTA5:69-77,C2013***

一過性の網膜の増悪を認めた糖尿病網膜症の1例

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):546.551,2018c一過性の網膜の増悪を認めた糖尿病網膜症の1例岡本紀夫松本長太下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室CDiabeticRetinopathyThatShowedAggravationofTransientRetinopathy─ACaseReportNorioOkamoto,ChotaMatsumotoandYoshikazuShimomuraCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine目的:貧血により眼底所見が変化した糖尿病患者の症例報告.症例:55歳,男性.糖尿病精査目的でC2010年C8月に受診.視力は右眼C0.4(0.9),左眼C0.3(0.9).眼圧正常.両眼とも軽度の白内障を認める.眼底は正常であった.そのときのCHbA1cC7.8%であった.その後はC7.9%台で推移していた.初診から約C4年半年後まで眼底検査では正常眼底であったが,2015年C3月の再診時に乳頭を中心に軟性白斑と網膜出血を認めた.4月の再診時には光干渉断層計で右眼に漿液性網膜.離,左眼に網膜浮腫を認めた.5月の再診時には網膜出血,軟性白斑は減少し,光干渉断層計で網膜浮腫は軽減していた.内科に治療経過を問い合わせたところ,2月のヘモグロビンはC6.6Cg/dlと低下しており,その後もC7Cg/dl以下であったため,3月下旬より腎性貧血疑いにてエリスロポイエチン点滴が開始されていた.血圧は,網膜出血発症前から発症後も腎不全による治療抵抗性高血圧のため高値であった.結論:糖尿病患者の経過観察を行うときは血糖値,HbA1c以外の検査にも目を向け,糖尿病以外の疾患の情報を得るべきである.CPurpose:WeCreportCtheCcaseCofCaCdiabeticCpatientCthatCshowedCalteredCocularC.ndingsCbecauseCofCanemia.CCase:AC55-year-oldCmaleCvisitedCourCclinicCforCthoroughCexaminationCofCdiabetesCinCAugustC2010.CInitialCvisualacuitywas0.4(0.9)ODand0.3(0.9)OS.Intraocularpressureandfundus.ndingswerenormal.Botheyesshowedmildcataract.HbA1catthattimewas7.8%,laterhoveringbetween7%and9%.During4.5yearsafterinitialvis-it,thefunduswasnormal.However,inMarch2015,atthetimeofafollow-upvisit,softexudateandretinalhem-orrhagewereseencenteringaroundtheopticdisc.InApril,opticalcoherencetomography(OCT)revealedserousretinalCdetachmentCinCtheCrightCeyeCandCretinalCedemaCinCtheCleftCeye.CAtCtheCrevisitCinCMay,CretinalChemorrhageCandCsoftCexudateChadCdecreased,CandCOCTCrevealedCamelioratedCretinalCedema.CWeCinquiredCofCtheCdoctorCatCtheCnearbyCclinicCofCinternalCmedicineCasCtoChowCtheCpatientChadCbeenCtreated,CandClearnedCthatChemoglobinCmeasure-mentCinCFebruaryChadCdeclinedCtoC6.6Cg/dlCandCbeenCkeptCbelowC7Cg/dl,CandCthatCintravenousCerythropoietinChadCbeenstartedinlateMarchwithsuspicionofrenalanemia.Bloodpressurewashighbothbeforeandaftertheonsetofretinalhemorrhage,duetothetreatment-resistanthypertensioncausedbyrenalfailure.Conclusion:Whenfol-lowingCupCaCpatientCwithCdiabetes,CweCshouldCbeCvigilantCnotConlyCregardingCtheCresultsCofCbloodCglucoseCandCHbA1c,butalsothoseofothertests,andtrytolookforinformationondiseasesotherthandiabetes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):546.551,C2018〕Keywords:腎性貧血,糖尿病網膜症,高血圧,長期経過,一過性.renalanemia,diabeticretinopathy,hyperten-sion,long-termfollowup,transient.Cはじめに筆者らは,腎性貧血を合併した糖尿病患者にエリスロポイエチン投与が有用であることを報告している1,2).しかし,今までの報告は,網膜症を発症してからのエリスロポイエチン投与の効果に対する報告で,網膜症発症前から長期にわたり追跡した報告ではなかった.また,エリスロポイエチン投与前後の血圧についても検討していなかった.今回筆者らは,治療抵抗性高血圧を合併した糖尿病患者の経過観察中に網膜症を発症し,エリスロポイエチン投与で網膜症が改善したC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒564-0041大阪府吹田市泉町C5-11-12-312おかもと眼科Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,Ph.D.,OkamotoEyeClinic,5-11-12-312Izumi-cho,Suita-shi,Osaka564-0041,CJAPAN546(128)I症例患者:55歳,男性.既往歴:急性膵炎後に糖尿病と診断されている(10年前).インシュリン療法中.初診日:2010年C8月3日.視力は右眼C0.4(0.9),左眼C0.3(0.9).眼圧正常.両眼とも軽度の白内障を認める.眼底は正常であった(図1).そのときのCHbA1cC7.8%であった.その後はC7.9%台で推移していた.2014年C7月のCHbA1c6.5%であった.2014年C8月に膵炎で入院後,足のむくみを自覚しC9月より利尿薬が開始された.2015年C2月までの眼底検査では正常眼底であったが,3月の再診時には乳頭を中心に軟性白斑と網膜出血を認めた(図2).内科のデータを本人に見せてもらったところC1月の赤血球C259万/μl,ヘモグロビンC8.1Cg/dl,ヘマトクリットC24.9%と低下していた.4月の再診時には視力右眼C0.5(1.0p),左眼C0.3(1.2)と良好であるが光干渉断層計(OCT)で右眼に漿液性網膜.離(SRD),左眼に網膜浮腫を認めた(図3).4月中旬に某病院内科を入院となった.5月C11日来院.網膜出血,軟性白斑は減少し,OCTで網膜浮腫は軽減していた(図4,5).内科に治療経過を問い合わせたところ,2月のヘモグロビンC6.6Cg/dlと低下しており,その後もC7%g/dlであったため,3月C23日より腎性貧血疑いにてエリスロポイエチン点滴(ミラセルCR)が開始されていた.血圧は,網膜出血発症前から発症後も腎不全による治療抵抗性高血圧のため高値(アムロジンCR内服で血圧C170.150/100.90mmHg)であった.表1に血液データ(2015年1.8月まで)を示す.平成C29年C3月現在も糖尿病網膜症の悪化を認めていないが,慢性的な高血圧のため初診時と比べて動脈硬化が進行していた.血圧はいまだに高くC150/90CmmHgである.CII考察筆者は以前に腎性貧血を合併した症例を経験しエリスロポイエチンが網膜血管に直接の効果があることを示唆した1,2).しかし,その後,硝子体のエリスロポイエチン濃度を測定した論文では,エリスロポイエチンが血管内皮増殖因子(VEGF)と同じく網膜症の悪化因子であると報告されている3,4).Watanabeら4),Takagiら5)は糖尿病網膜症の増殖因子としてとらえているが,Zhangら6),Mitsuhashiら7)は網膜症に有効だと考えている.網膜症ではないが,中澤8)は腎性貧血に使用されているエリスロポイエチンは,研究レベルで強力な神経保護があると報告している.渡部ら9)は,腎性貧血がエリスロポイエチン投与により改善することは内科的,眼科的にも重要であり,エリスロポイエチン阻害が増殖糖尿病網膜症の治療に本当に有効であるかどうかは検討が必要であると報告している.王ら10)はエリスロポイエチンの網膜に作用点は多彩である報告している.エリスロポイエチンが眼に対する作用は一定の見解を得ていない.渡部11)は,過去に報告されたエリスロポイエチンで網膜症が改善した報告では,高血圧を検討していないことを指摘している.そこで,今回筆者らはエリスロポイエチン投与前後数カ月の血圧の変化についても追跡したが,治療抵抗性高図1眼底写真(2010年C8月)網膜症を認めない.図2眼底写真(2015年C3月)視神経乳頭を中心に網膜出血,軟性白斑を認める.一部にロート斑様の出血を認める.図3OCT(2015年C4月)右眼にSRD,左眼に網膜浮腫がある.図4眼底写真(2015年C5月)網膜出血,軟性白斑は減少している.図5OCT(2015年C5月)SRDは消失している.表1経時的変化(2015年1.8月まで)2015年1月2月3月4月5月6月8月RBC(万/Cμl)C259C210C220C298C288C297C345Ht(%)C24.9C19.9C24.5C24.5C26.3C27.2C31.7Hb(g/dCl)C8.1C6.6C7.9C8.7C8.3C8.5C10.3Plt(C×104/μl)C14.9C13.9C17.8C24.4C23.1C9HbA1c(%)C6.0C6.0C6.0C6.4C6.4C7.0ヘモグロビン正常値の下限値のC8.4Cg/dl以下に相当する値に下線を引いた.RBC:赤血球数,Ht:ヘマトクリット,Hb:ヘモグロビン,Plt:血小板数,HbA1c:ヘモグロビンCA1c.(131)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C549血圧のため血圧の変化はなかった.渡部11)が指摘する血圧による出血も考えたが,出血時の眼底所見をみるとロート斑様の出血があることから腎性貧血によるものと判断した.貧血性網膜症は,血小板数C5万/mmC3以下かヘモグロビンC6Cg/dl以下になると発症しやすく,ヘモグロビンや血小板のそれぞれ単独の低下と,両者がともに低下している場合を比較すると,両者とも低下の場合,高率に貧血性網膜症がみられる12).三ヶ尻ら13)は男性の糖尿病患者C2名が貧血網膜症を発症した症例で,正常男性のヘモグロビン正常値の下限値のC6割の値(ヘモグロビンC8.6Cg/dl)以下になると貧血網膜症を発症すると報告している.本症例を三ヶ尻ら13)の報告に照らし合わせると,網膜症を認めた時期はヘモグロビンC8.6Cg/dl以下の時期にほぼ一致していた.本症例は,一過性に網膜症が悪化したが,内科が腎性貧血に対して速やかに治療が行ったためと考えられる.しかしながら,ヘモグロビンの数値を経時的にみると,眼底所見は改善しているものの,ヘモグロビンの数値は正常値までにはなっていなかった.一方,徳川ら14)は,ヘモグロビンがC10Cg/dl以下であれば網膜症が進行し,自験例でヘモグロビンC10.7Cg/dlに改善し,貧血の改善とともに眼底も改善した症例を報告している.三ヶ尻ら13),徳川ら14),本症例のいずれもが男性であり,今後女性例も含めた多数例の検討が必要である.本症例のCHbA1cは貧血を発症した期間はC6.0.7.0%であったが,腎機能の低下のある糖尿病患者では,貧血やCHbの低下がCHbA1cに影響することを念頭に置く必要があり,実際の値はもう少し高い値である可能があるので注意が必要である.糖尿病黄斑浮腫はさまざまなタイプがあり,SRDを伴う糖尿病黄斑浮腫は抗CVEGFの治療に抵抗するタイプと報告されている15).SRD型における網膜下液は比較的網膜色素上皮から吸収されにくい成分のため,SRD消失まで抗VEGFを複数回投与する必要があると報告されている16).本症例は一時期にCSRDを認めたが抗CVEGFを投与することなく消失し,その後再発はなかった.石羽澤ら17)は,透析や腎移植で黄斑浮腫が改善したC5例を報告している.一方,善本ら18)は抗CVEGFの硝子体内投与により腎症の悪化した症例を報告していることから,腎症を有する糖尿病黄斑浮腫に対する抗CVEGF治療は注意が必要である.本症例は薬剤抵抗性の高血圧のためか,初診時とC2017年3月の眼底所見を比較すると動脈硬化が進行したことは明らかである.糖尿病患者の眼所見をみる場合は,糖尿病そのものによる病変か,他の因子に影響された病変が加わっていないかを検討する必要がある19)桂ら20)は硝子体内のエリスロポイエチンと血液中のエリスロポイエチンの構造の違いを報告していることから,筆者らはエリスロポイエチン製剤と硝子体内のエリスロポイエチンに構造上の違いがあるのではないかと推察している.本症例も,過去の報告と同様にエリスロポイエチンが糖尿病網膜症(とくに糖尿病黄斑浮腫)に有効であった可能性がある1,2,21.23).今後,糖尿病患者の経過観察中は腎性貧血にも注意を払い,腎性貧血に対してエリスロポイエチンが投与されていないかチェックすることが重要である.本稿の要旨は第C23回日本糖尿病眼学会にて発表した.文献1)岡本紀夫,松下賢治,西村幸英ほか:エリスロポイエチンにて改善をみた腎性貧血合併糖尿病網膜症のC1例.あたらしい眼科14:1849-1852,C19972)岡本紀夫,斎藤禎子,瀬口道秀ほか:腎性貧血を合併した糖尿病網膜症.眼紀58:437-442,C20073)KatsuraCY,COkunoCT,CMatsunoCKCetCal:ErythropoietinCisChighlyelevatedinvitreous.uidofpatientswithprolifera-tiveCdiabeticCretinopathy.CDiabetesCCareC28:2252-2254,C20054)WatanabeCD,CSuzumaCK,CMatsuiCSCetCal:ErythropoietinCasaretinalangiogenicfactorinproliferativediabeticreti-nopathy.NEnglJMedC353:782-792,C20055)TakagiCH,CWatanabeCD,CSuzumaCKCetCal:NovelCroleCofCerythropoietininproliferativediabeticretinopathy.Diabe-tesResClinPractC77(Suppl1):S62-S64,20076)ZhangJ,WuY,JinYetal:Intravitrealinjectionoferyth-ropoietinCprotectsbothretinalvascularandneuronalcellsinearlydibeates.InvestOphthalmolVisSciC49:732-742,C20087)MitsuhashiCJ,CMorikawaCS,CShimizuCKCetCal:IntravitrealCinjectionCofCerythropoietinCprotectsCagainstCretinalCvascu-larregressionattheearlystageofdiabeticretinopathyinstreptozotocin-inducedCdiabeticCrats.CExCEyeCResC106:C64-73,C20138)中澤徹:眼科疾患に対する神経保護治療:あたらしい眼科25:511-513,C20089)渡部大介,高木均:増殖糖尿病網膜症とエリスロポイエチン.血管医学11:127-133,C200710)王英泰,高木均:糖尿病網膜症の分子病態と治療.プラクティス28:585-590,C201111)渡部大介:増殖糖尿病網膜症の網膜血管新生因子としてのエリスロポイエチン.日眼会誌111:892-898,C200712)ShorbCSR:AnemiaCandCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-talmolC100:434-436,C198513)三ヶ尻健一,西川憲清:眼底所見から貧血を疑われた糖尿病患者のC2症例.眼紀58:698-702,C200714)徳川英樹,西川憲清,坂東勝美ほか:一過性に糖尿病網膜症の悪化を認めたC1例.臨眼63:743-747,C200915)ShimuraCM,CYasudaCK,CYasudaCMCetCal:VisualCoutcomeCafterCintravitrealCbevacizumabCdependsConCtheCopticalCcoherenceCtomographicCpatternsCofCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC33:740-747,C201316)村上智昭,鈴間潔,宇治彰人ほか:漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブの投与回数.日眼会誌121:585-592,C201717)石羽澤明弘,長岡泰司,横田陽匡ほか:腎移植または血液透析導入を契機に糖尿病黄斑浮腫が改善したC5症例.あたらしい眼科32:279-285,C201518)善本三和子,高橋秀樹,東原崇明ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化したC1例.あたらしい眼科34:419-424,C201719)西川憲清:糖尿病患者の眼所見.眼臨紀9:407-416,C201620)桂善也,小高以直,永瀬晃正ほか:増殖糖尿病網膜症における硝子体中および血中エリスロポイエチンの糖鎖構造について.日本糖尿病眼学会誌21:136,C201521)BermanCDH,CFriedmanCEA:PartialCabsorptionChardCexu-datesCinCpatientsCwithCdiabeticCend-stageCrenalCdiseaseCandCsevereCanemiaCafterCtreatmentCwithCerythropoietin.CRetina14:1-5,C199422)FreidmanEA,BrownCD,BermanDH:Erythropoietinindiabeticmacularedemaandrenalinsu.ciency.AmJKid-neyDisC26:202-208,C199523)SinclairSH,DelVecchioC,LevinA:TreatmentofanemiainCtheCdiabeticCpatientCwithCretinopathyCandCkidneyCdis-ease.AmJOphthalmolC135:740-743,C2003***

白内障術後単焦点眼内レンズ挿入眼に多焦点ハードコンタクトレンズを処方した円錐角膜の1例

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):542.545,2018c白内障術後単焦点眼内レンズ挿入眼に多焦点ハードコンタクトレンズを処方した円錐角膜の1例大口泰治*1塩谷浩*1,2堀切紘子*1石龍鉄樹*1*1福島県立医科大学医学部眼科学講座*2しおや眼科CPrescriptionofMultifocalHardContactLensforKeratoconusPatientwithSingle-FocusIntraocularLensafterCataractSurgeryYasuharuOguchi1),HiroshiShioya1,2),HirokoHorikiri1)andTetsujuSekiryu1)1)DepartmentofOphthalmologyFukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)ShioyaEyeClinic白内障術時に単焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼となった円錐角膜患者に多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalhardcontactlens:MF-HCL)を処方し,良好な遠方および近方視力を得ることができたC1例を経験した.症例はC73歳,女性で,28歳時に両眼の円錐角膜と診断された.両眼とも単焦点CHCLによる視力は右眼がC1.0C×HCL(n.c.),左眼がC1.0×HCL(n.c.)と良好であった.73歳時に右眼白内障が進行したため白内障手術(単焦点CIOL挿入術)を施行した.HCLのセンタリングが良好であったため右眼にCMF-HCLを処方した.MF-HCL装用下での右眼の遠方視力はC0.9,近方視力はC0.7となり,患者は眼鏡を併用することなく日常生活を送ることできた.HCLのフィッティングが良好な円錐角膜患者は,白内障術後にCMF-HCLを装用することで良好な遠方および近方視力を獲得できる可能性がある.CWeCrecentlyCencounteredCaCpatientCwithCkeratoconusCwhoCwasCprescribedCmultifocalChardCcontactClensCaftermonofocalCintraocularClensCinCcataractCsurgeryCandCachievedCexcellentCdistanceCandCnearCvisualCacuity(VA).CTheC73-year-oldJapanesefemalehadbeendiagnosedwithkeratoconusat28yearsofage.HercorrectedVAwas1.0intherightandlefteyeswithhardcontactlenses.At73yearsofage,shehadcataractsurgeryonherrighteye.Sincecontactlensrestingpositionalmostcenteredonthecornea,weprescribedmultifocalhardcontactlensaftersurgery.HercorrecteddistanceVAwas0.9andnearVAwas0.7;therefore,shedidn’tneedglassesindailylife.KeratoconusCpatientsCwithCmultifocalChardCcontactClensCrestingCinCaCcentralCpositionCmayChaveCtheCopportunityCtoCachieveexcellentdistanceandnearVAaftercataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):542.545,C2018〕Keywords:円錐角膜,眼内レンズ,多焦点ハードコンタクトレンズ,老視.keratoconus,intraocularlens,multi-focalhardcontactlens,presbyopia.Cはじめに円錐角膜はC10歳代で発症し角膜の菲薄化と突出を特徴とする疾患で,数千人に一人の割合で発症し視力低下を引き起こす.その屈折矯正および治療法は眼鏡による矯正,コンタクトレンズ(contactlens:CL)による矯正,全層角膜移植,角膜クロスリンキングなどがあるが,屈折矯正には主としてハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が用いられる.HCLが使用されるようになって約C60年を経た今日でも,加齢に伴って老視や白内障が生じる状況となった円錐角膜患者への対応は課題として残っている.眼鏡による屈折矯正効果が不良のために若年時からCHCLを使用している円錐角膜患者は,老視や白内障術後のように調節が失われた状態になってもCHCLの使用を続けることが必要であり,眼鏡を併用する煩わしさを避けるためには,HCLの装用だけで遠方および近方を見る生活ができることが理想である.今回筆者らは白内障術時に単焦点眼内レンズ(intraocularlens:〔別刷請求先〕大口泰治:〒960-1295福島県福島市光が丘1福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YasuharuOguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyFukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,1Hikariga-oka,FukushimaCity,Fukushima960-1295,JAPAN542(124)IOL)挿入眼となった円錐角膜患者に対し,多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalChardCcontactClens:MF-HCL)を処方し,眼鏡を併用させることなく良好な遠方および近方視力を得ることができたC1例を経験したので報告する.CI症例〔症例〕73歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:28歳時に近医にて円錐角膜と診断され,HCLを処方され経過観察中であった.49歳時に当院眼科へ紹介され初診した.初診時所見:細隙灯検査では両眼の角膜下方に混濁を伴う軽度突出があり,円錐角膜と診断した.他覚的屈折値は右眼C.6.25D(cyl.5.50DCAx162°,左眼C.8.25D(cyl.2.75DAx133°で,自覚的屈折値は右眼C0.03(0.7C×.6.50D),左眼0.02(0.2C×.8.00D(cyl.1.00DCAx130°)と矯正視力は不良であった.HCLは旭化成アイミー・アイミーCOC2(Dk値(D:di.usioncoe.cient,k:solubilitycoe.cient,酸素透過係数):21.2C×10.11Ccm2/sec)を右眼は(7.60Cmm/+0.75D/9.0Cmm)(ベースカーブ/度数/サイズ),左眼は(7.60Cmm/+1.50D/9.0mm)の規格で処方し,視力は右眼C1.0C×HCL,左眼C1.0C×HCLとなった.59歳時にはレンズの種類を変更してサンコンタクトレンズ製のサンコンマイルドCII(Dk値:C12.1×10.11Ccm2/sec)を右眼は(7.40Cmm/+0.75D/8.8Cmm),左眼は(7.45Cmm/+1.00D/8.8Cmm)の規格で処方し,視力は右眼C1.0C×HCL,左眼C1.0C×HCLとなり,装用を継続していた.60歳代から白内障のため右眼は視力が徐々に低下し,73歳時には右眼の視力はC0.3C×HCL(n.c.)となったため,白内障手術を施行することになった.経過:白内障手術を施行するにあたり,円錐角膜であるため,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,AS-OCTCSS-1000CCASIA(TOMEY製)を用い中央C9点の角膜曲率半径の平均値からCK値を計算(平均CK値:6.65mm)し,眼軸長:23.57CmmからCSRK/T式を用いて挿入する単焦点IOL度数(+19.00D,VivinexCiSertCXY1CR,HOYA,予想屈折度数.2.00D)を決定した1)(図1).水晶体超音波乳化吸引術およびCIOL挿入術を施行し,術後C2カ月の右眼の他覚的屈折値は.3.50D(cyl.5.00DAx78°で,視力は0.6(betterC×.3.50D(cyl.5.00DAx80°)であった.最良の近方の見え方が得られる最小の矯正度数は単焦点CIOL挿入眼であることから,球面度数はC.0.50D,すなわち(C.0.50D(cyl.5.00DCAx80°)程度になると考えられた.裸眼では針の穴に糸を通せたが,遠くはぼやける状態であった.角膜形状はAS-OCTで術前と変化なかったため,角膜不正乱視により網膜像は不鮮明であり,遠方の見え方に合わせた完全矯正の単焦点CHCLでは近方が見えなくなることが考えられたため,図1AS.OCTによる角膜形状解析下方で突出した角膜を認める.右眼にCMF-HCL(サンコンタクトレンズ製のサンコンマイルドCiアシストタイプ・Dk値:95.1CcmC2/sec)を処方した.処方規格の決定にあたっては,ベースカーブは術前に使用していたCHCLと同じC7.40Cmmとし,サイズはCAS-OCTでCK値がC50Dと中等度の円錐角膜であったが,HCLが角膜中央に位置し,視線の移動でレンズの中心光学部と周辺光学部を通して見ることが可能な状態を得られるように,術前に使用していたCHCLより大きいC9.0Cmmで処方した.球面度数は塩谷ら4.6)の白内障術後単焦点IOL挿入眼への遠近両用SCLの処方方法を参考にし,単焦点CHCLで遠方矯正に適当と考えられる度数よりC1.00Dプラス側にし,処方規格は(7.40Cmm/+1.00DCADD+0.50D/9.0Cmm)〔ベースカーブ/度数加入度数(ADD)/サイズ〕となった.遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(+0.25DCcyl.0.75DCAx70°),近方視力はC0.7C×HCLであった.手術を行っていない左眼の遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(.0.50D)であり,両眼開放下で遠方視力はC1.0C×HCL,近方視力はC0.7C×HCLとなり,遠方および近方の見え方に患者の満足が得られ,MF-HCLの処方は有用であると考えられた.CII考按一般的に円錐角膜へのCHCLの処方は,眼鏡では矯正できない強い不正乱視の患者の屈折を矯正し,不自由なく日常生活を送ることができようにすることが目的であり,円錐角膜の老視や円錐角膜の白内障術後の単焦点CIOL挿入眼にMF-HCLを応用した報告は過去にない.従来,円錐角膜の老視や単焦点CIOL挿入眼の調節補助はCHCL装用下でのモノビジョンや眼鏡により行われていた2)が,本報告は円錐角膜がCMF-HCLの適応となりうることを示すと同時に,白内障ab図2MF.HCLのフィッティングa:やや鼻側よりだがこの位置で安定している.Cb:フルオレセインで下方突出角膜にフィットしている.C術後に単焦点CIOL挿入眼となった円錐角膜患者も適応となりうることを示している.近年,MF-HCLは新製品が開発され急速に進歩しているものの,患者の満足を得るためにはCMF-HCLの各製品の光学的機能を効果的に活用するように処方時に工夫が必要3)なのが現状である.そのためCHCLのフィッティングを適正にすること自体がむずかしい円錐角膜へのMF-HCLの処方は,一般に適応にはならないと考えられる.また,単焦点CIOL挿入眼へのCMF-CLの処方は,理論的には加入度数は不足であり,多焦点ソフトコンタクトレンズでの報告はあるが4.6),MF-HCLではいまだ一般的ではない.本症例では手術時年齢がC73歳であり,白内障術前の両眼単焦点CHCL装用時にも近方視時に支障があるばかりか,白内障術後の両眼単焦点CHCL装用眼時にはよりいっそう術後明視域の問題が生じると思われることから,高齢の円錐角膜の特殊性を考慮し,眼鏡を併用する煩わしさを避けるためには,単焦点CIOL+MF-HCLが患者の生活スタイルを維持するために最良の方法であると判断し,手術治療を計画した.また,術後屈折度数をCHCL装脱時に手元が見える屈折として.2.00Dに設定した.術後の右眼の裸眼遠方視力はC0.6となり,HCLや眼鏡の視力補正用具を使用することなく針の穴を通せる近方視も得られたが,術後C2カ月に角膜乱視を矯正して遠方の見え方の質をよりよくするためCHCLを処方することにした.MF-HCL(サンコンマイルドCiアシストタイプ.Dk値:95.1CcmC2/sec)のテストレンズ(7.40Cmm/C.3.00CDCADD+0.50D/9.0Cmm)のフィッティングは,レンズがやや鼻側に偏位していたが上下方向では角膜中央に位置しており,視線の移動でレンズの中心光学部と周辺光学部を通して見ることが可能な状態と判断した(図2).追加矯正を行い0.6(0.9C×HCL(+3.00D)となったため,加入度数は+0.50Dのままとし,球面度数を自覚屈折値よりC1.00Dプラス側の値に設定し,(7.40Cmm/+1.00DCADD+0.50D/9.0Cmm)の規格で処方した.遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(+0.25DCcyl.0.75DAx70°),近方視力はC0.7C×HCLであったことと患者の自覚的満足の状況から判断しCMF-HCLの装用が近方視に有利に働いたものと考えられた.有水晶体眼に対するCMF-SCL処方では,遠方の見え方の質を落とさないために非優位眼の球面度数をプラス側に設定し加入度数を最小限にする3),単焦点CIOL挿入眼では遠方視力を低下させずに高い加入度数を選択できるという報告がある4.6).本症例は,手術を行った右眼は非優位眼であったため,球面度数を遠方に適正と考えられる度数よりもプラス側に設定し,低い加入度数を選択したことで,近用光学部により生じる遠方視の質への影響を最小限にしながら,優位眼の左眼の遠方の見え方を生かしたモディファイド・モノビジョン法での処方を試みたが,結果的には遠方に適正矯正となった状況で遠方および近方ともに良好な視力を得ることができたものと思われた.有水晶体眼の円錐角膜であれば単焦点HCLのみ使用のモノビジョン法での対応は可能であるが,ほとんど調節力がない単焦点CIOL挿入眼の円錐角膜であれば,単焦点CHCLによるモノビジョン法での対応はむずかしく,MF-HCLの処方が有用であると考えられた.円錐角膜を有する白内障症例は不正乱視と調節への対応が課題である.術後眼鏡を使用するならば,①トーリックIOL,あるいは②角膜内リング+単焦点CIOLでの対応が可能と考えられる.また,③角膜内リング+多焦点IOL,あるいは④多焦点トーリックCIOLによる治療を行うことで術後眼鏡を使用することなく不正乱視と調節への同時対応が可能と考えられる.現在,トーリックCIOLにハイパワーの円柱度数に対応した製品が登場したことで円錐角膜でも術後良好な視力を得られるようになってきている7,8).また,角膜内リングと多焦点CIOLの組み合わせにより良好な裸眼視力を得ることができた症例が報告がされている9,10).さらに遠近両用トーリックCIOLで遠方・中間・近方視力ともに裸眼で良好な視力を得られたという報告もされている11).①による対応では調節への対応ができず術後眼鏡が必要となる.②③④による対応は筆者らの施設では角膜内リングや多焦点トーリックCIOLの手術経験がないため選択できず,AS-OCTで角膜厚がC400Cμmを下回る部分があり角膜内リングの適応ではなかった12).本症例では視力低下を引き起こす白内障を生じる前のC28.60歳時まではCHCLにより不正乱視を矯正でき良好な矯正視力を得ていたため,不正乱視に関してはCHCLで対応する予定とし,筆者らは有水晶体眼の円錐角膜でCMF-HCLの処方を経験しており,IOL挿入眼でも可能であると考えて単焦点CIOL+MF-HCLでの対応を行った.IOLは一度眼内に挿入すると変更が困難である.それに比較してCHCLは,何度でも処方変更の可能なリスクの少ない方法であり,規格を変更することで,より良好な視機能を得ることが可能であり,円錐角膜の角膜不正乱視の矯正にはCHCL装用は有用である.本報告は,今後増加してくる円錐角膜患者の老視や白内障術後CIOL挿入眼などの調節力が低下あるいは失われた眼に対してのCMF-HCLの処方は,角膜不正乱視の矯正とともに調節補助が可能であり,眼鏡を併用する煩わしさがなく,遠方および近方の両方に良好な視力を提供することができる症例が存在することを示している.今まで報告されている円錐角膜白内障症例への対応で①.④による治療は報告されているが7.11),単焦点CIOL+MF-HCLの報告はない.角膜内リング12)や多焦点トーリックCIOLの手術はまだ限られた施設での対応であり一般的でなく,どこの施設でも容易に扱うことのできるCMF-HCLを用いた本報告は,今後の新たな対応法として多くの施設で応用でき有用と考えられた.文献1)林研:【眼内レンズ度数決定の極意】特殊角膜における眼内レンズ度数決定円錐角膜,角膜移植後.あたらしい眼科C30:593-599,C20132)中山千里,百武洋子,東原尚代ほか:円錐角膜の老視対策としてのモノビジョン.日コレ誌C56:285-288,C20143)塩谷浩:【眼鏡とコンタクトレンズの実際的処方】実際的コンタクトレンズ処方コンタクトレンズの処方多焦点コンタクトレンズの処方.あたらしい眼科C32(臨増):C158-161,C20154)塩谷浩:私の処方私の治療(第C21回)眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.C57:C191-194,C20155)塩谷浩,梶田雅義:眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.57:164-167,C20156)塩谷浩:【完全攻略・多焦点コンタクトレンズ】ソフト系多焦点コンタクトレンズの応用(白内障術後).あたらしい眼科33:1145-1149,C20167)HashemiCH,CHeidarianCS,CSeyedianCMACetCal:EvaluationCoftheresultsofusingtoricIOLinthecataractsurgeryofkeratoconusCPatients.CEyeCContactCLensC41:354-358,C20158)ZvornicaninCJ,CCabricCE,CJusufovicCVCetCal:UseCofCtheCtoricCintraocularClensCforCkeratoconusCtreatment.CActaCInformMedC22:139-141,C20149)AlfonsoCJF,CLisaCC,CFernandez-VegaCCuetoCLCetCal:CSequentialintrastromalcornealringsegmentandmonofo-calintraocularlensimplantationforkeratoconusandcata-ract:Long-termCfollow-up.CJCCataractCRefractCSurgC43:C246-254,C201710)MontanoCM,CLopez-DorantesCKP,CRamirez-MirandaCACetal:MultifocaltoricintraocularlensimplantationforformefrusteCandCstableCkeratoconus.CJCRefractCSurgC30:282-285,C201411)FaridehD,AzadS,FeizollahNetal:ClinicaloutcomesofnewCtoricCtrifocalCdi.ractiveCintraocularClensCinCpatientswithcataractandstablekeratoconus:Sixmonthsfollow-up.Medicine(Baltimore)C96:e6340,C201712)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nusCwithCintracornealCrings.CJCCataractCRefractCSurgC26:C1117-1122,C2000***

DSAEK術後長期経過後の角膜真菌症

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):538.541,2018cDSAEK術後長期経過後の角膜真菌症奥村峻大*1田尻健介*1吉川大和*1清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院眼科CFungalKeratitisafterLong-termDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyTakahiroOkumura1),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),KazuhiroShimizu1,2)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiHospital目的:角膜内皮移植術(DSAEK)長期経過後に角膜真菌症をきたしたC2症例を報告する.症例:症例1は77歳,男性.右眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C32カ月に遷延性の角膜上皮びらんを認めた.術後C37カ月にソフトコンタクトレンズを装用させたところ.3週間後に角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.症例C2はC84歳,女性.両眼の水疱性角膜症に対してCDSAEKを施行.術後C11カ月間,部分的な角膜浮腫が遷延した.術後C8カ月より右眼の充血と眼痛の訴えがあり,術後C15カ月に右眼の角膜表層に白色浸潤病巣を生じた.掻爬した角膜上皮より塗抹培養検査でそれぞれCCandidaCparapsilosisおよびCCandidaCalbicansが同定された.結論:DSAEK術後で角膜上皮びらんや角膜浮腫を認めた症例では角膜真菌症も鑑別診断の一つとして念頭においておく必要がある.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCofCfungalCkeratitisCafterClong-termCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK).CCaseReports:CaseC1CinvolvedCaC77-year-oldCmaleCwhoCunderwentCDSAEKCforCbullouskeratopathy(BK)inChisCrightCeye.CAtC32CmonthsCpostoperatively,CpersistentCcorneal-epithelialCerosionCwasCobserved.CAtC37-months,Cmedical-soft-contact-lensCwearCwasCinitiated.CThreeCweeksClater,CwhiteCin.ltratesCwereCobservedonthecornealsurface.Case2involvedan84-year-oldfemalewhounderwentDSAEKforbilateralBK.PartialCcornealCedemaCwasCprolongedCforC11monthsCpostoperatively.CAtC8CmonthsCpostoperatively,Cright-eyeCcon-junctivalhyperemiaandocularpainoccurred.At15months,whitein.ltrateswereobservedonherright-eyecor-nealsurface.Ineachofthesecases,CandidaparapsilosisCandCandidaalbicansCwereidenti.edfromsmearmicros-copyCandCbacterialCcultureCofCcornealCepithelium.CConclusion:FungalCkeratitisCmayCbeCselectedCasCaCdi.erentialCdiagnosiswhencornealerosionandcornealedemaareobservedonthecornealsurfacepostDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):538.541,C2018〕Keywords:DSAEK,角膜真菌症,カンジダ,角膜びらん,角膜浸潤.Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),fungalkeratitis,Candida,cornealerosion,cornealin.ltration.Cはじめに水疱性角膜症に対する治療として従来は全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)が行われていたが,近年は角膜内皮移植術のなかでも,とくにCDSAEK(DescemetstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty)が主流となってきている1,2).PKPと比較したCDSAEKの利点は,①術中のオープンスカイがないため駆逐性出血のリスクが低い,②外傷に強い,③術後の視力改善が早い,④術後の不正乱視が少ない,⑤角膜移植片の縫合はない場合が多く,感染など縫合糸関連の合併症が少ない,⑥拒絶反応が少ないなどがあげられる2).DSAEK術後の角膜感染症はCinterfaceCinfection(host-graft創間の感染)が問題となるものの,角膜移植片の縫合はない場合が多いため,表層からの角膜感染症のリスクは一般にCPKPに比べ低いと考えられる.さらにCDSAEK術後の角膜表層からの感染と考えられる角膜真菌症は報告例が少なく,比較的まれであると考えられる.今回,筆者らは,DSAEK施行後,良好な視力経過をたどっている症例に角膜表層から感染した角膜真菌症を経験したので報告する.〔別刷請求先〕奥村峻大:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakahiroOkumura,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki-City,Osaka569-8686,JAPAN538(120)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(120)C5380910-1810/18/\100/頁/JCOPYI症例〔症例1〕77歳,男性.眼科既往歴:1994年C1月に右眼の白内障に対して水晶体.外摘出術+眼内レンズ挿入術(ECCE+IOL),1995年C11月に左眼に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)を他院で施行された.その後,両眼とも緑内障を発症し,2001年C1月に左眼,2001年C2月に右眼に対して線維柱体切除術(trabeclectomy)が施行された.現病歴および経過:2010年C8月中旬より右眼の視力低下を自覚し近医受診.右眼矯正視力は(0.4)と低下しており,虹彩切除部より.外固定された眼内レンズ支持部の前房内への脱出と角膜内皮細胞密度の減少を認めた.同年C9月精査・加療目的に大阪医科大学眼科(以下,当科)紹介受診となったが,水疱性角膜症となり右眼視力はC0.02(矯正不能)まで低下した.2012年C2月に右眼のCDSAEKを施行し,手術は明らかな合併症なく終了した.術後はC0.3%ガチフロキサシン点眼およびC0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C4回/日で治療した.徐々に角膜の透明性は回復し,術後C9カ月に矯正視力は(0.6)に改善した.しかし,術直後より鼻側下方に角膜浮腫が遷延しており,スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度は測定困難であった.術後C32カ月に角膜下方にびらんを生じ,矯正視力は(0.1)に低下した(図1a).角膜浮腫はやや範囲が広がったような印象で,角膜後面沈着物を認めた.5カ月間,オフロキサシン眼軟膏,レバミピド点眼で加療するも改善がみられず,角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ(SCL)装用を開始した.装用開始からC2週間後,角膜びらんはやや改善しているように思われたが,眼脂を認め,右眼矯正視力は(0.06)と低下した(図1b).さらにCSCL装用を継続したところ,1週間後の受診の際に眼痛の訴えがあり,角膜浸潤を生じていた.そのためベタメタゾン点眼およびCSCL装用を中止し,角膜掻爬のうえC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.前回受診の際に採取した眼脂と角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.1カ月の治療で炎症は鎮静化した(図1c).現在,右眼矯正視力は(0.1)で,角膜びらんや角膜浮腫,眼痛の再発は認めずに経過している.〔症例2〕86歳,女性.現病歴および経過:2004年より白内障で近医にて経過観察されていた.経過中に視力低下を認めたため,2013年C7月に白内障手術目的に当科紹介受診された.当科初診時,白内障に加えて角膜内皮細胞密度が右眼C559/mmC2,左眼測定不能と両眼とも低下していたため,白内障手術後に水疱性角図1症例1の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C37カ月.角膜上皮びらんは改善を認めず.角膜上皮保護目的でソフトコンタクトレンズ装用を開始した.Cb:ソフトコンタクトレンズ装用開始後C3週間.角膜浸潤を認める.角膜上皮の塗抹鏡検,培養検査でCCandidaparapsylosisが同定された.Cc:治療開始後C4週間.角膜上皮びらんは治癒した.角膜真菌症は瘢痕治癒を認めた.C膜症となるリスクを説明したうえでC2013年C8月C30日に右眼に対してCPEA+IOLを施行した.術後いったん視力は改善したが,その後水疱性角膜症が発症し右眼の矯正視力が(0.2)まで低下した.2013年C11月C19日に右眼に対して(121)Cあたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C539図2症例2の細隙灯顕微鏡所見a:DSAEK術後C4カ月.術後部分的にCgraftの接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫が遷延している.Cb:DSAEK術後C15カ月.角膜実質浅層に浸潤があり,衛星病巣を認める.Cc:治療開始後C3カ月.角膜は瘢痕治癒した.CDSAEKを施行し,明らかな合併症なく手術は終了した.術後はC0.1%ベタメタゾン点眼C4回/日を含む点眼加療を開始した.術直後よりChost角膜とCdonorCgraft間に部分的な接着不良があり,同部に角膜上皮浮腫を認めた(図2a).術後C8カ月に異物感と軽度の充血が出現した.術後C10カ月に眼圧が上昇したためC0.1%ベタメタゾン点眼をC0.1%フルオロメトロン点眼C2回/日に変更した.術後C11カ月にはhost角膜とCdonorgraftは接着し,遷延していた角膜上皮浮腫も改善したものの,同部の角膜実質浅層に混濁が残存した.術後C15カ月に同部の角膜表層に浸潤を認めたが角膜上皮欠損は認めなかった.感染が強く疑われ精査を勧めたが,矯正視力は(0.7)で改善傾向が続いており,家庭の事情もあり慎重な経過観察を希望された.1カ月後に再診し,角膜浸潤の増大と角膜上皮欠損を認めた(図2b).矯正視力は(0.8)であったが,異物感と充血が続いており,説得して角膜.爬を施行した.角膜上皮の塗抹鏡検および培養検査でCCandidaalbicansが検出された.フルオロメトロン点眼は中止しC1%ピマリシン眼軟膏C6回/日とC0.2%ミコナゾール点眼C1時間毎で治療を開始した.治療開始後C3カ月で瘢痕治癒した(図2c).治療開始以降,異物感の訴えは認めない.現在矯正視力は(1.2)である.角膜内皮細胞密度は術前のCdonorCgraftでC2,625/mmC2であり,術後は測定困難が続き術後C27カ月でC1,407/mmC2,術後C42カ月でC1,156/mmC2であった.CII考按角膜移植後の角膜感染症の危険因子としては,角膜縫合糸のゆるみや断裂,遷延性上皮欠損,コンタクトレンズ装用,局所のステロイド点眼および抗菌薬点眼の併用などがあげられている3).DSAEKは角膜表層への侵襲が少ないこと,角膜縫合糸を使用しない場合が多いことから,PKPと比較して術後感染症は少ない可能性が考えられる.PKPとCDSAEKそれぞれの術後角膜感染症を疫学的にみてみると,MarianneらはCCorneaDonorStudyに基づいて,角膜移植術後の角膜感染症の発症頻度についてC3年間経過観察し,DSAEK173例で0%,PKP術後C1,101例で2%認めたと報告している4).NuhmanらはCDSAEK術後のCinterfaceinfectionを,8年間経過観察したC1,088眼でC0.92%に認めたと報告しており,内訳はC0.53%が細菌性,0.39%が真菌性であったとしている5).これに対して,脇舛らはCPKP術後の558例についてC6年間で,細菌感染症をC1.4%,真菌感染症を2%認めたと報告している6).上記の報告からはCDSAEK術後の角膜感染症はCPKPに比較すると少なく,真菌性は細菌性よりも頻度は低いと考えられるが,海外の報告ではグラフト汚染に起因した角膜真菌症の報告が多い7.19).グラフト汚染に起因した角膜真菌症は術後C3カ月以内(術後C7日.3カ月)で発症し7.19),移植したdonorgraftとChost角膜の層間に沿って真菌が増殖し,予後不良の転帰をたどることもある10,13),このため術後のグラフト自体に浸潤性の病変が生じていないか慎重に経過観察することが重要である.診断にはコンフォーカルマイクロスコープが有用であるとする報告もみられる12,13).グラフト作製後に残った強角膜片の培養をあらかじめ施行しておくことも有効である9.12).原因菌は今回の症例と同じCCandida属が多い.治療には抗真菌薬の点眼を施行するが,保存的治療だけ(122)で完治は困難でありグラフト抜去9,13)や治療的角膜移植8,10.12)が有効なようである.症例C1は術直後より部分的な角膜浮腫が遷延していたため,角膜真菌症と診断されるまでC37カ月間C0.1%ベタメタゾン点眼が継続されていた.術後C32カ月の時点で難治性の角膜びらんを発症したが,経過中に眼痛や視力など自覚症状および診察所見に大きな変化がなく,角膜浸潤が明らかになり角膜真菌症が診断されたのはCSCL装用を開始したC3週間後であった.本症例ではステロイド点眼の長期継続に加えて,遷延する角膜浮腫と角膜びらんが発症の一因となっていた可能性があり,SCL装用が増悪因子となったと考えられるが,どの時点で角膜感染が生じていたかは明らかでない.症例C2も術直後より角膜浮腫が遷延していた.眼圧上昇を認めたため術後C9カ月でベタメタゾン点眼をフルオロメトロンに変更したものの,変更前より異物感と充血を認めていた.術後C11カ月に角膜浮腫の消退した部位に上皮下混濁を認めており,さらにC4カ月後に角膜真菌症を発症した.本症例でも角膜浸潤が明らかになるより以前に角膜感染が生じていた可能性が考えられるが,どの時点かは明らかでない.発症時期についての検討だが,PKP,表層角膜移植術の角膜感染症の発症時期は,術後早期では細菌感染症が,3年以降の晩期では真菌感染症が多いと報告されている4).ArakiらはCDSAEK術後C2年に発症したCgraft汚染によらない角膜真菌症を報告している14)が,今回のC2症例の発症時期はそれぞれ術後C38カ月とC15カ月であり,DSAEK術後のCgraft汚染によらない角膜真菌症の発症時期についてはCPKPに準ずる可能性があると考えられた.また,2症例とも角膜浮腫が遷延しており,浮腫のあった部分に真菌感染を生じている.視力経過が比較的良好な症例でも角膜上皮浮腫や角膜びらんなど角膜上皮にトラブルのある症例では角膜感染のリスクがあると考えられる.角膜移植後は拒絶反応を予防するためにステロイド点眼が併用されるが,DSAEKはCPKPと比較して拒絶反応のリスクが低いとされており,比較的早期に投与量を減量されることが多いと考えられる.今回のC2症例では,角膜浮腫が遷延していたため,ベタメタゾン点眼を他の症例に比べて長期に使用した傾向がある.岡宮ら15)は白内障術後に角膜びらんが遷延し,ステロイド点眼をC7カ月使用していた症例にCCandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を発症した症例を報告しており,今回のC2症例と総合すると,遷延する角膜浮腫やそれに続発する眼痛や角膜びらんは,CandidaCparapsilosisによる角膜真菌症を示唆する所見であると考えられる.以上,DSAEK術後の視力経過が比較的良好な症例でも,角膜浮腫の遷延する症例に眼痛や角膜びらんを生じてきた場合,角膜真菌症を鑑別診断の一つとして念頭に置いておく必(123)要があると考えられた.文献1)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurgC21:339-345,C20052)中川紘子,宮本佳菜絵:角膜内皮移植の成績.あたらしい眼科C32:77-81,C20153)藤井かんな,佐竹良之,島.潤:角膜移植後の角膜感染症.あたらしい眼科31:1697-1700,C20144)PriceCMO,CGorovoyCM,CPriceCFWCJrCetCal:DescemetC’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCthree-yearCgraftCandCendothelialCcellCsurvivalCcomparedCwithCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmologyC120:246-251,C20135)NahumY,RussoC,MadiSetal:InterfaceinfectionafterdescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty:CoutcomesCofCtherapeuticCkeratoplasty.CCorneaC33:893-898,C20146)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,C20047)YamazoeCK,CDenCS,CYamaguchiCTCetCal:SevereCdonor-relatedCCandidaCkeratitisCafterCDescemet’sCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplasty.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC249:1579-1582,C20118)HolzCHA,CPirouzianCA,CSudeshCSCetCal:SimultaneousCinterfaceCcandidaCkeratitisCinC2ChostsCfollowingCdescemetCstrippingCendothelialCkeratoplastyCwithCtissueCharvestedCfromCaCsingleCcontaminatedCdonorCandCreviewCofCclinicalCliterature.AsiaPacJOphthalmolC1:162-165,C20129)KitzmannAS,WagonerMD,SyedNAetal:Donor-relat-edCCandidaCkeratitisCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty.CorneaC28:825-828,C200910)KoenigSB,WirostkoWJ,FishRIetal:CandidakeratitisafterCdescemetCstrippingCandCautomatedCendothelialCkera-toplasty.CorneaC28:471-473,C200911)TsuiE,FogelE,HansenKetal:Candidainterfaceinfec-tionsafterDescemetstrippingautomatedendothelialker-atoplasty.CorneaC35:456-464,C201612)LeeWB,FosterJB,KozarskyAMetal:Interfacefungalkeratitisafterendothelialkeratoplasty:aclinicopathologi-calCreport.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC42Online:Ce44-48,C201113)Ortiz-GomarizCA,CHigueras-EstebanCA,CGutierrez-OrtegaARCetCal:Late-onsetCCandidaCkeratitisCafterCDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:clinicalandconfocalCmicroscopicCreport.CEurCJCOphthalmolC21:498-502,C201114)Araki-SasakiK,FukumotoA,OsakabeYetal:ThecliniC-calCcharacteristicsCofCfungalCkeratitisCinCeyesCafterCDes-cemet’sCstrippingCandCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CClinOphthalmolC8:1757-1760,C201415)岡宮史武,宇野敏彦,鈴木崇ほか:ステロイド長期点眼中に発症したCCandidaparapsilosis角膜真菌症のC2例.あたらしい眼科C18:781-785,C2001あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C541

LASIK術後眼に重症熱傷を生じた1例

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):533.537,2018cLASIK術後眼に重症熱傷を生じた1例在田稔章*1田尻健介*1吉川大和*1清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院眼科CACaseofSevereThermalEyeInjuryafterLASIKSurgeryToshiakiArita1),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),KazuhiroShimizu1,2)CandTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiHospital目的:LASIK術後眼に重症熱傷を生じたが,比較的良好な経過をたどった症例を報告する.症例:27歳,男性.2013年C10月に両眼にCLASIK手術を施行され経過良好だった.2014年C7月,左眼に打ち上げ花火が直撃し近医眼科で応急処置を受け,受傷からC3日目に開瞼困難を主訴に当科を受診した.重症の眼瞼熱傷と瞼球癒着を認めた.角膜上皮は全欠損しており,結膜上皮も広範に欠損していた.LASIKフラップに.離は認めなかった.視力はCVS=20cm手動弁(矯正不能)であった.抗生物質,ステロイドによる治療を開始したが上皮の再生が認められず,受傷からC5日目に羊膜移植術を施行した.術後経過は良好であったが結膜充血が遷延した.受傷からC19カ月後,睫毛乱生,偽翼状片を認めるもののCVS=0.8(1.0)と視力は良好である.結論:本症例では速やかな羊膜移植術が効果的であったと考える.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsevereCthermalCinjury,CpostClaser-assistedCinCsituCkeratomileusis(LASIK)sur-gery,CwithCrelativelyCgoodCprognosis.CCase:AC27-year-oldCmaleCwhoChadCundergoneCLASIKCsurgeryCinCOctoberC2013wasinjuredbya.reworkhittinghislefteyeinJuly2014.Hereceived.rst-aidtreatmentatanotherclinic,thenC3CdaysCpost-injuryCvisitedCourChospitalCcomplainingCofCfusedCeyelid.CSevereCeyelidCburnCandCsymblepharonCwereCobserved.CCornealCepitheliumCwasCcompletelyCde.cient,CconjunctivalCepitheliumCwasCextensivelyCde.cient.AlthoughCnoCdislocationCofCcornealC.apCwasCobserved,CvisualCacuity(VA)wasC20Ccm/handCmotion.CConventionalCtreatmentwithantibioticsandsteroidswasinitiated,butprovedine.ective.Two-dayslater,amniotictransplanta-tionwasperformed.Thepostoperativeclinicalcoursewasfavorable,butstrongconjunctivalhyperemiaprolonged.AtC19CmonthsCpostCinjury,CalthoughCpseudopterygiumCandCtrichiasisCwereCobserved,CheChadCaCrelativelyCfavorableVAof0.8(1.0)C.Conclusion:Inthiscase,immediatetreatmentwithamniotictransplantationprovede.ective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(4):533.537,C2018〕Keywords:LASIK,熱傷,羊膜移植,花火,外傷.laser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK),thermalburn,amniotictransplantation,.rework,injury.CはじめにLaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK)は表層の角膜上皮と実質の一部をフラップ状に切開したのち,角膜実質をレーザー照射する屈折矯正手術である.視力回復の速さ,眼痛がないことなどの利点から,現在,屈折矯正手術の主流となっている1).LASIKの術後にはフラップに関連する合併症を生ずることがあり,層間の感染症2)やCepithelialCingrowth3),外力によるフラップの.離4)などの報告が散見されるが熱傷を生じた報告は少ない.今回,筆者らはCLASIK術後眼に打ち上げ花火による重症熱傷を生じたが,比較的良好な経過をたどった症例を経験したので報告する.CI症例患者:27歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:2013年C10月,両眼にCLASIK手術を施行され良好に経過していた.現病歴:2014年C7月,左眼に打ち上げ花火が直撃し受傷後C4時間に近医眼科を受診した.紹介状によるとこの時点〔別刷請求先〕在田稔章:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:ToshiakiArita,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN図1初診時の外眼部写真眼瞼腫脹および瞼縁は一部白色化しており水疱は明らかではない.睫毛も部分的に脱落している.自力で開瞼は困難であった.図3初診時のフルオレセイン生体染色写真角膜上皮は全欠損している.健常な上皮がほとんど残存していないのでフルオレセイン染色でコントラストが不良であるが,結膜上皮も広範に欠損している.6.8時のフラップの縁が離開しているようにみえるが,その他の部分は滑らかである.で,眼瞼腫脹および結膜浮腫は著明で,眼球運動は下転が困難で開瞼器でようやく角膜下方が確認できる程度であったとのことである.1.5%レボフロキサシン点眼C6回/日,0.1%ベタメタゾン点眼C6回/日およびベタメタゾン内服C2Cmg/日を指示されたが,開瞼不能を主訴に受傷後C3日目に大阪医科大学眼科を受診した.初診時所見:左眼瞼にCII度の熱傷を認め,睫毛の一部は脱落していた(図1).強固な瞼球癒着があり開瞼不能であったため,開瞼器と硝子棒で瞼球癒着を解離する必要があった.眼球は上転したまま固定されていたが癒着を解離していくと眼球運動が可能となった.結膜に癒着を認めるものも角膜に癒着はなかった.結膜.内には花火の残骸が多量に残存図2初診時の前眼部写真耳側と鼻側に強い瞼球癒着がある.角膜輪部の結膜は白濁しておりCpalisadeofVogtは明らかでない.図4上皮欠損の範囲上皮欠損(★印)は広範囲で結膜上皮は鼻側と耳側の端にわずかに健常結膜上皮(▲印)が残存していた.しており可能な限り除去した.細隙灯顕微鏡所見で結膜上皮は輪部全周を含めて広範に凝固変性していた.角膜は混濁していたがフラップの.離は認めなかった(図2).PalisadeCofVogtは全周で不明瞭であった.前房出血や虹彩損傷は認めなかった.眼底の詳細な観察は困難だったが超音波CBモードで硝子体混濁や網膜.離は認めなかった.フルオレセイン生体染色所見で角膜上皮は全欠損していた(図3).結膜上皮も広範に欠損しており,健常な結膜上皮は鼻側と耳側の端にわずかに残存しているのみであった(図4).フラップはC12時にヒンジがあり,フラップ縁は全体的には滑らかであったが6.8時にかけて離開しているようであった.視力は右眼C1.2(矯正不能),左眼C20cm手動弁(矯正不能),眼圧は右眼C11mmHg,左眼は測定不能であった.治療経過:1.5%レボフロキサシン点眼C1日C6回,0.1%ベタメタゾン点眼C1日C6回,1%アトロピン点眼C1日C2回,プ図5受傷から19カ月後の前眼部写真7時に軽度の偽翼状片がある.結膜充血が遷延している.図6受傷から19カ月後の角膜形状解析5.9時の前面カーブにCsteep化がみられる.レドニゾロン眼軟膏C1日C1回,メチルプレドニゾロン点滴膜を除去したうえで,角膜,露出した強膜,結膜を覆うよう125Cmg/日C×3日の治療を開始したが角膜上皮の再生がみらに羊膜を絨毛膜面が眼球側になるように強膜にC10-0ナイロれなかったため,第C3病日に羊膜移植術(羊膜カバー)を施ン糸で縫着し,余剰の羊膜が周辺部の残存結膜上皮を覆うよ行した.手術では再発,残存していた瞼球癒着を解離したうにして手術終了した.術終了時にリンデロンC2Cmg(0.4%)後,フラップに注意しながら開瞼器を設置した.上方の結膜を結膜下注射しソフトコンタクトレンズは装用しなかった..内に花火の残骸が多数残存していた.輪部結膜は全周で凝術後はメチルプレドニゾロン点滴C125Cmg/日C×3日の後,固,変性しているようだった.異物および壊死,変性した結プレドニゾロン内服C10Cmg/日を開始した.点眼は術前と変更なく継続した.術後C13日目で羊膜は脱落したが,角膜上皮欠損は治癒していた.比較的強い結膜充血が続いた.プレドニゾロンの内服は漸減しながらC10カ月間内服して終了した.治療C11カ月後に眼圧がC26CmmHgに上昇したため,ベタメタゾン点眼を中止し,0.1%フルオロメトロン点眼C1日2回に変更したところ,結膜充血が増悪し,偽翼状片を生じた.タクロリムス点眼C1日C2回を追加したところ,結膜充血は改善し,偽翼状片の進行は抑制された.術後C19カ月の時点で睫毛乱生,結膜.の短縮を認めるがフルオレセイン生体染色所見で角膜上皮に目立った異常所見は認められない.角膜形状解析で不正乱視を認めるものの,視力は右眼C1.5(矯正不能),左眼C0.6(0.9C×sph+1.0D(cyl.2.0DCAx135°)である(図5,6).CII考按角結膜熱傷はもっとも重篤な眼表面外傷の一つである.急性期には熱エネルギーによる直接的な障害を皮膚,粘膜組織へ生じるが,熱エネルギーが大きいとより深部組織へ障害が及ぶ.重篤な症例では眼瞼の発赤,腫脹とともに睫毛の脱落がみられ,結膜は壊死し虚血性となり,充血せず白く浮腫状になる.また,角膜上皮は欠損し角膜実質の浮腫,混濁を生じる.急性期を過ぎると瘢痕化により眼瞼には外反症,内反症,睫毛乱生,角結膜には瞼球癒着や瞼瞼癒着,偽翼状片,輪部疲弊症,角膜瘢痕を生じ機能的,整容的問題を生じる5).視力予後を左右する要因に輪部疲弊症が重要である.角膜輪部には角膜上皮細胞の幹細胞が存在しているが,化学外傷や熱傷,Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡などの病的な状態により輪部上皮が破壊されることがある.角膜上皮細胞の幹細胞が失われると,有血管性の結膜上皮に侵食され,通常の角膜移植では治療困難な重篤な視力低下を生じる6).熱傷や化学外傷では冷却や受傷部位の洗浄により,まず可能な限り受傷原因を取り除くことが重要である.ついで障害の程度を評価したうえで抗生物質による感染予防とステロイドの局所および全身投与を行うが,重症度の高い症例では外科的な治療も選択肢となってくる7).化学外傷による急性期の角結膜障害の重症度分類には木下分類8)があるが,grade3b以上では輪部疲弊症のリスクが高くなり外科的治療が必要になることが多いとされている.本症例では半周以上の輪部結膜の壊死,全角膜上皮欠損,palisadesCofCVogtの完全消失を認め,2日間の投薬中心の治療で上皮の再生がみられなかったため,治療初期の評価としては木下分類に当てはめるとCgrade4相当と考えられた.急性期の眼表面の熱傷,化学外傷に対する羊膜移植の効果について,Mellerら9,10)は受傷からC2週間後に羊膜移植を行ったC13眼の検討で,軽症から中等症の症例では角膜の再上皮化と消炎を促進し,晩期の瘢痕形成を抑制するものの,重症の症例では結膜の消炎により瞼球癒着は抑制したものの輪部疲弊症を抑制することはできなかったと報告している.この結果は受傷からC6日後に羊膜移植をした化学外傷の検討でも変わらなかったとしている.本症例では受傷からC5日目に羊膜移植が行われたが,輪部疲弊症には至らなかった結果を踏まえると角膜輪部機能が残存していたと推測される.今回,熱傷の急性期重症度の評価に化学外傷の重症度分類である木下分類を参考にしたが,本症例は化学外傷ではないことから輪部結膜の障害は比較的表層に限局しており深層の輪部幹細胞への障害は比較的軽症であったことが予後良好であった一因と考えている.一般的に熱傷は化学外傷に比較して予後は良好とされているが,比較的重症な熱傷に対する化学外傷の評価方法の有用性が検討されうると考える.今回の症例は受傷のC9カ月前に両眼のCLASIK手術を施行されていた.LASIK術後眼では術後数年たってもフラップの.離による合併症が報告されており,堀ら4)はCLASIK術後C7年に外傷によりフラップが再.離した症例を報告している.Schmackら11)はCLASIKの既往のあるアイバンク提供人眼を用いて,フラップの抗張力と角膜切開創部の組織学的所見との関係を検討し,結果,角膜周辺部のフラップ辺縁付近には細胞密度の高い線維性瘢痕が形成されるものの,角膜中央付近の切開創は細胞密度の低い線維性瘢痕が形成されており,眼球ごとに変動はあるが,術後C3.5年を経過していても正常眼に比べてC25.30%程度の抗張力であったと報告している.一方,花火による眼外傷では,熱傷の影響だけでなく,ロケット花火の衝突などによる鈍的眼外傷の側面が知られており,硝子体出血や脈絡膜破裂,水晶体破裂,虹彩離断や網膜裂孔を生じた症例の報告がある12,13).今回の症例ではフラップの.離や眼内に明らかな障害を認めず,鈍的外傷の側面やフラップへの外力は比較的軽度だったと推測されるが,瞼球癒着の解離や羊膜移植手術中の操作において慎重な操作を必要とした.角膜形状への影響であるが,治療後C19カ月の角膜形状解析でC5.9時の前面カーブにCsteep化が認められるが,初診時のフルオレセイン染色所見でC6.8時のフラップの辺縁にわずかな離開があり,受傷直後にフラップの収縮が生じていた可能性がある.最終的に比較的良好な視力が維持されたが,これは点眼・点滴による集約的な治療に加え,早期に羊膜カバーを施行することで角膜の再上皮化と炎症の鎮静化が促進され,角膜瘢痕化による角膜形状への影響が最小限になったことも一因と考えられた.文献1)MysoreN,KruegerR:Advancesinrefractivesurgery:MayC2013CtoCJuneC2014.CAsiaCPacCJCOphthalmol(Phila)C4:112-120,C20152)NahumY,RussoC,MadiSetal:InterfaceinfectionafterdescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty:CoutcomesCofCtherapeuticCkeratoplasty.CCorneaC33:893-898,C20143)GuellJL,VerdaguerP,Mateu-FiguerasGetal:EpithelialingrowthafterLASIK:visualandrefractiveresultsaftercleaningCtheCinterfaceCandCsuturingCtheClenticule.CCorneaC33:1046-1050,C20144)堀好子,戸田郁子,山本亨宏ほか:LaserCinCsituCKer-atomileusis術後の外傷によりフラップずれを生じた症例の治療.日眼会誌112:465-471,C20085)K.l.cCMuftuo.lu.,CAyd.nCAkovaCY,CCetinkayaCA:ClinicalCspectrumCandCtreatmentCapproachesCinCcornealCburns.CTurkJOphthalmolC45:182-187,C20156)TsubotaK,SatakeY,KaidoMetal:Treatmentofsevereocular-surfaceCdisordersCwithCcornealCepithelialCstem-cellCtransplantation.NEnglJMedC340:1697-1703,C19997)近間泰一郎:外傷・熱化学腐食に対する手術適応とタイミング.臨眼60:238-243,C20068)木下茂:眼科救急処置マニュアル,第C1版,p150-155,診断と治療社,19929)MellerCD,CPiresCRT,CMackCRJCetCal:AmnioticCmembraneCtransplantationforacutechemicalorthermalburns.Oph-thalmologyC107:980-989,C200010)WestekemperCH,CFigueiredoCFC,CSiahCWFCetCal:ClinicalCoutcomesCofCamnioticCmembraneCtransplantationCinCtheCmanagementCofCacuteCocularCchemicalCinjury.CBrCJCOph-thalmolC101:103-107,C201511)SchmackI,DawsonDG,McCaryBEetal:Cohesiveten-sileCstrengthCofChumanCLASIKCwoundsCwithChistologic,Cultrastructural,CandCclinicalCcorrelations.CJCRefractCSurgC21:433-445,C200512)WilsonCRS:OcularC.reworksCinjuries.CAmCJCOphthalmolC79:449-451,C197513)河原彩,南政宏,今村裕ほか:歯科用C30CG針による虹彩離断の整復術を施行した花火外傷のC1例.眼科手術C17:271-274,C2004***

涙小管結石および涙囊結石に対しての結石成分分析

2018年4月30日 月曜日

《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科35(4):529.532,2018c涙小管結石および涙.結石に対しての結石成分分析久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科CAnalysisofDacryolithsandCanalicularConcretionsbyInfraredSpectroscopyMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospital目的:尿管結石分析で用いられる赤外分光分析法(IS法)にて涙小管結石および涙石の結石成分分析を試みた.方法:対象は,涙.鼻腔吻合術および涙小管切開時に採取した結石を用い,IS法による結石成分分析を行い同時に病理検査も行った.結果:症例の年齢はC53.83歳,平均C68.2歳.涙小管炎症例の年齢が有意に高かった.涙.炎C2例,涙小管炎C4例で男性C2例,女性C4例の計C6例.手術後に抗菌薬+消炎鎮痛薬の内服,2種類の点眼を行った.全例治癒し,検査不能の症例はなかった.IS法で,蛋白質型C4例,カルシウム型C1例および混合型C1例に分類された.病理検査では放線菌C3例,放線菌疑C1例,真菌(カンジタ疑)1例および感染なしがC1例だった.涙小管結石では,蛋白質型を一番多く認め,全例放線菌感染を確認した.結論:IS法により結石の成分分析が可能でC3型に分類できた.涙小管結石では蛋白質型を多く認め,放線菌の感染が多かった.CPurpose:ToCpresentCtheCcompositionCofCchemicalCanalysisCofCdacryolithsCandCcanalicularCconcretionsCusinginfraredspectroscopy(IS)C.Method:Thestudyincluded6patients(2male,4female)C.Agesrangedfrom53to83years.Weperformeddacryocystorhinostomy(DCR)in2patientsandoperatedon4consecutivepatientswithcan-aliculitis.CConcretionsCwereCdetectedCcompletelyCunderClocalCanesthesia.CACminimalCportionCofCtheCconcretionsCwasC.xedinformaldehydesolutionandsenttothelaboratoryforpathologicalstudy.TheremainingconcretionswereusedforIS.Result:ChemicalanalysisbyISwassuccessful.Concretionsweredividedinto3groups;1maleand3femaleswereclassi.edintheproteingroup,1femalewasclassi.edinthecalciumgroupand1malewasclassi.edinCtheCmixedCgroup.CConclusion:UsingCIS,CweCwereCableCtoCclassifyCdacryolithsCandCcanalicularCconcretionsCintoCthreegroups,theproteingroupbeingthemajorgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(4):529.532,C2018〕Keywords:涙.鼻腔吻合術,涙小管結石,涙石,赤外分光光度計.dacryocystorhinostomy,canalicularconcre-tions,dacryolith,infraredspectroscopy.Cはじめに涙.鼻腔吻合術鼻外法(dacryocystorhinostomy:DCR)の約C10%に涙.結石(涙石)を認め1,2),涙小管炎には,結石が伴うことが多く,結石が感染の原因となっていることが考えられている2.4).これらの涙小管結石および涙石の分析には,病理検査が用いられ報告され,細菌感染の有無および真菌を含む細菌の種類により分類されてきた2.4).涙石の結石分析については,国内ではC1症例の報告があるのみで5,6),まとまった症例数の報告は海外のみだった7,8).涙小管結石の成分分析を行っている報告も少なかった3).今回筆者らは,尿道結石に用いられている赤外分光分析法(IS法)9,10)で涙小管結石および涙石の分析を行い,IS法の有用性および当院での涙石および涙小管結石の結石成分について結果を検討した.CI対象および方法対象は,2016年C08月.2017年C7月に当院で行ったCDCR2例および涙小管切開C4例中に採取した結石を用い,病理検査およびCIS法による結石成分分析を行った.〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10Fukiage,Hachinohe-shi,Aomori031-0003,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(111)C529表1結石成分による症例の内訳結石成分個数(個)男性:女性年齢(歳)場所(涙.:涙小管)病理検査蛋白型C41:353.C83(C69.3C±12.7)1:3放線菌:3感染無:1カルシウム型C11:0C641:0真菌(カンジタ疑)混合型C10:1C680:1放線菌疑表2結石の場所からの症例の内訳場所個数(個)男性:女性年齢(歳)蛋白型:カルシウム型:混合型病理検査真菌(カンジタ疑):1涙.21:1C58.5±7.81:1:0感染無:1*C放線菌:3涙小管C41:3C73.0±7.53:0:1放線菌疑:1*統計学的に有意差を認めた.すべての患者に対し,局所麻酔下でCDCRおよび涙小管切60開を行った.前投薬は行わず,手術中に緊張が高い場合はドミタゾラム(10Cmg/2Cml:ドルミカムCR)およびペンタゾシン(15Cmg/1Cml:ソセゴンCR)の希釈溶液を,血圧が高い場合は,ニカルジピン塩酸塩(2Cmg/2Cml:ペルジピンCR)を側管より静注した.DCR鼻外法は,手術前に半切した深部体腔創傷被覆・保吸光度(%T)4020護剤(ベスキチンCR,ニプロ)とメロセル(スタンダードネイザルドレッシング,モデル番号C400400.メドロニック)を鼻内に留置した.高周波メス(エルマン)で皮膚切開を行い,骨窓はドリルおよび骨パンチで作製した.涙.および鼻粘膜は前弁,後弁をそれぞれ作製し吻合した.鼻内留置物はC1週間後に抜去した.全例シリコーンチューブ留置術を併用した11).涙小管切開術は,涙点周囲を局所麻酔したあと,涙点から鼻側に粘膜と皮膚の境界に沿って高周波メスで切開し,涙小管内部を観察できるようにした.涙小管結石は鈍的鋭匙で除去し,すべて検査に提出した.シリコーンチューブの挿入や涙小管縫合は行わなかった12).IS法には,蒸留水で洗浄し乾燥したC5Cmg以上の結石が必要なため,最小限を病理検査に提出し残りを成分分析に提出した.手術後より抗菌薬+消炎鎮痛薬の内服のほかに,オフロキサシン+トラニスト点眼を行い,全員流涙などの症状は軽減した.手術前検査として,涙.造影,涙道内視鏡検査は行わなかった.涙石症例と涙小管結石症例の年齢比較の統計処理に,対応のないCt検定を用いて検討し,p<0.05を統計学的に有意差ありとした.C04,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000400波数(cm-1)図1蛋白質型蛋白質型では,波数C1,650CcmC.1の波数にピークを認めた.II結果症例は男性C2例,女性C4例の計C6例で女性が多かった.年齢はC53.83歳で,60歳代がC3例と一番多かった(表1).涙小管結石の症例は,涙石の症例より有意に高齢だった(表2).涙小管結石は,蛋白質型がC3例と多く.涙石は蛋白質型とカルシウム型がC1例ずつだった(表2).涙.炎および涙小管炎は全例治癒した.結石分析では,蛋白質型C4例,カルシウム型C1例,混合型1例を認めた(表1).蛋白質型では,波数C1,650CcmC.1(図1),1例のカルシウム型ではシュウ酸カルシウムの波数C1,600Ccm.1の波数にピークを認めた(図2).1例の混合型では蛋白質型と波数C1,100CcmC.1にピークを認めるリン酸カルシウムと類似のピークを認めた(図3).蛋白質型は,涙小管から530あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018(112)50706040吸光度(%T)吸光度(%T)30402020004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0004004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000400波数(cm-1)波数(cm-1)図2カルシウム型図3混合型カルシウム型ではシュウ酸カルシウムの波数C1,600CcmC.1波数C1,100CcmC.1にリン酸カルシウムと類似のピークをの波数にピークを認めた.C認めた.CがC3例で涙.からC1例認めた.カルシウム型は涙.からC1例,混合型で涙小管からC1例を認めた(表1).病理検査については,蛋白質型では,涙小管から摘出した3例全例で放線菌が確認され(図4a),1例は,細菌の感染を認めなかった.カルシウム型でC1例が真菌(図4b),混合型は放線菌疑い(図4c)だった.CIII考察尿管結石の結石成分の分析に,IS法,X線解析法,分光図4病理検査(グラム染色)Ca:蛋白質型Cb:カルシウム型Cc:混合型光度分析法や原子吸光分光法などが知られている9,10).IS法は,結石の粉末試料に赤外線を照射し,透過光を分光して得られる赤外線吸収スペクトルから結石成分を同定する9,10).利点は,比較的安価で感度や精度に優れていることで,欠点は,ヒドロキシアパタイトとリン酸水素カルシウムの区別がなくリン酸カルシウムと報告されること,またカーボネートアパタイトが誤って炭酸カルシウムと報告され,またシュウ酸カルシウム一水和物と二水和物の区分は困難である9,10).C(113)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C531X線解析法は未知物質にCX線を照射し,回析が起きる角度と回析強度を調べ,未知物を同定する10).ほかに分光光度分析法7)や原子吸光分光法8)などがあるが,X線解析法と同様に外注先を検索したが,みつけることはできなかった.研究所,大学レベルでのみ施行可能と考えられる.涙小管結石症例と涙石の症例の年齢を比較すると,涙小管結石の年齢が有意に高いこと,70歳代という点も以前の報告と同様3)だった.また,涙石症例の平均年齢もC50歳代で以前の報告と同様だった3).Duke-Elderは,涙小管結石の種類は,異物の周囲に沈着したカルシウム,放線菌によるドルーゼの形成,無定形物質のC3種類があると述べられている14).涙小管結石の成因は放線菌が原因・主成分とされている2.4,12,13).放線菌が主成分であれば,成分分析で蛋白型を示すと考えられ,筆者らの涙小管結石成分分析でも,蛋白型がC3例,混合型がC1例で,従来の報告同様と考えられた1,2).岩崎らはC2例が柔らかく,1例が固かったと報告しており,柔らかいC2例は蛋白質型で,固いC1例がカルシウム型もしくは混合型だったと推測している13).涙石の主成分は,ムコペプチド2)と報告とされ,またほとんどが蛋白質やムコプロテインと報告されている1,7).これらはCIS分析では蛋白質型に属するものと考えた.また,涙石へのカルシウムの沈着は病理学的には報告されているが,この症例が成分分析でカルシウム型になるかどうかは不明である.今までの報告から涙石では蛋白型が多く認められるはずだが,今回C2症例と少ないため結論は出なかった.さらに症例を集める必要があると考える.体内で形成される他の結石と比較した場合,尿路結石は,カルシウム含有結石がC90%以上占め10),鼻石でも,リン酸カルシウムがC90%以上と報告されている15).蛋白質が多い涙石や涙小管結石と,尿路結石や鼻石では発症機序が違うと思われた.IS法による成分分析は,少ない結石量で全例施行可能だった.涙小管結石では蛋白質型が多く,従来と同様な結果が得られた.涙石では症例が少なく傾向は不明だった.健康保険の範囲内で行えるCIS法で涙石や涙小管結石の成分分析行うことは十分可能で,従来の報告と同様の結果が得られる可能性が高いと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KominekCP,CDoskarovaCS,CSvangeraCetCal:LacrimalCsacdacryoliths(86Csammples):chmemicalCandCmineralogicCanalysis.GrafesArchClinExpOphthalmolC252:523-529,C20142)PerryCLJ,CJakobiecCFA,CZakkaCFR:BacterialCandCmuco-peptideCconcretionsCofCtheClacrimalCdrainageCsystem:anCanalysisof30cases.OphthalPlastReconstrSurgC28:126-133,C20123)ReppCDJ,CBurkatCCN,CLucarelliCMJ:LacrimalCexcretorysystemconcretions:canalicularandlacrimalsac.Ophthal-mologyC116:2230-2235,C20094)久保勝文,櫻庭知己,板橋智映子:涙小管炎病因で精査での涙小管結石の病理検査の有用性.眼科手術C21:399-402,C20085)坂上達志,有本秀樹,久保田伸枝:涙.結石のC1例.眼臨C72:1241-1243,C19786)岩崎雄二,陳華岳:停留チューブに形成された涙石を伴う涙.炎のC1例.眼科手術27:607-613,C20147)IlidadelisCE,CKarabataksCV,CSofoniouCM:DacryolithsCinchronicdacryocystitisandtheircomposition(spectrophto-metricanalysis)C.EurJOphthalmolC9:266-268,C19998)IlidadelisCED,CKarabatakisCVE,CSofoniouCMK:DacryolithsinCaCseriesCofCdacryocystorhinostomies:histologicalCandCchemicalanalysis.EurJOphthalmolC16:657-662,C20069)矢野一行,若松英男:赤外・近赤外分光法の臨床医学への応用.真興交易(株)医書出版部,p43-44,200810)山口聡:尿路結石症と臨床検査.生物試料分析C32:200-214,C200911)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法C18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,C200512)北田瑞恵,大島浩一:大きな涙小管結石の手術療法.臨眼C60:1313-1316,C200613)岩崎雄二,河野吉喜,宇土一成ほか:涙道内視鏡所見による涙小管炎の結石形成と治療の考察.眼科手術C24:367-371,C201114)Duke-ElderS:Lacrimal,orbitalandpara-orbitaldiseases.In:SystemCofCOphthalmology.CVolC13,CLondon,CHenryCKimpton,Cp768-770,C197415)蔵川涼世,井上博之,石田春彦ほか:鼻腔放線菌による鼻石の一例.日本鼻科学会会誌45:8-11,C2006***532あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018(114)