監修=木下茂●連載213大橋裕一坪田一男213.SMILEとドライアイ戸田郁子南青山アイクリニックSMILEはフラップを作製しない新しいレーザー屈折矯正手術で,LASIKに比較して角膜垂直切開の長さが10%程度であるため,術後ドライアイが少ない可能性が示唆されている.過去の報告や自験例より,LASIKに比較して術後のドライアイ症状が少なく,ドライアイ関連他覚所見が良好であることが証明された.●はじめにレーザー角膜屈折矯正手術はもっとも普及した屈折矯正手術であるが,第一世代のCphotorefractiveCkeratec-tomy(PRK)では,上皮.離に伴う術後の易感染性,疼痛,一時的視力不良,上皮下混濁など,第二世代のLASIK(laserinsitukeratomileusis)では,フラップ関連合併症〔不完全フラップ,上皮迷入,di.uselamellarkeratitis(DLK),ドライアイなど〕が課題であった.第三世代であるCsmall-incisionClenticuleCextraction(SMILE)は,フラップレス手術として,フラップ関連合併症を回避できる可能性が考えられる.LASIK後のドライアイは術後C1カ月程度の一時的合併症であるが,術後の不快な症状や視機能低下に伴う満足度低下を起こすため,できるだけ避けたい合併症である.また,術前LASIK図1LASIKとSMILEa,c:LASIKとCSMILEの角膜垂直切開の長さの差.SMILEはCLASIKのC10%程度である.Cb,d:術後C1日目のCLASIK眼(b)とSMILE(d)の前眼部所見.LASIK眼でのみフルオレセイン染色が認められる.からドライアイがあると長期化,重症化することがある.C●術後ドライアイの比較LASIK後のドライアイ発症のメカニズムには,複合要因が関与しているとも考えられているが,主因はフラップ作製時の角膜内神経切断による神経麻痺性効果と推測されている.SMILEはフェムトセカンドレーザーを用いて作製したレンチクル(矯正度数に応じた角膜実質片)を,3Cmm程度の小さい切開層から摘出する屈折矯正手術である.LASIKに比較して角膜の垂直切開の長さが約C90%少ない(図1).このため,LASIKに比較してドライアイが発症しにくい可能性が示唆され,SMILEの臨床応用直後からすでに多くの比較検証が行われている.術後ドライアイについてのCLASIKとCSMILEの比較SMILE(59)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C2190910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1LASIKとSMILEの術後ドライアイ比較ドライアイの症状CSMILEvsLASIKSMILE術後症状(乾く)BUTSchirmerテストフルオレセイン染色角膜知覚S>L(1カ月)S>L(1日,1週,1カ月,3カ月)S>L(1カ月,3カ月)S>L(1週)S>L(1カ月,3カ月)悪化なしC低下なし低下なし1日のみ増加1カ月のみ低下S>L:SMILEがCLASIKに比較して優位SMILEで影響される上皮下神経叢角膜内神経図2角膜内神経分布a:角膜輪部から侵入した神経束から垂直方向に分枝し,上皮化神経叢を形成する.Cb:LASIKとCSMILEでの角膜垂直切開で影響される角膜内神経.このほか,矯正に伴う実質切除によって,両方法とも同程度に角膜内神経に影響すると推測される.に関しては,2017年C9月現在,3報のメタアナリシスが報告されている1~3).これらは最大C186件の関連論文をシステマティックレビューしたもので,そのC3報の結果をさらに総合してみると,術後ドライアイ症状,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-upCtime:BUT),角膜知覚,角膜内神経密度において,SMILEがCLASIKよりもドライアイの観点から優位と結論された.筆者は,筆者らの施設において同時期に施行したLASIKとCSMILEの術後のドライアイを評価した.対象はCLASIKがC72人C131眼(28.8C±7.2歳,C.3.91±1.88D)SMILEがC58人C114眼(29.9C±6.9歳,C.4.53±1.38D),である.結果を両方法の比較とCSMILE術前後の比較として表1にまとめた.両方法の比較では,術前と術後の症状(乾く),BUT,Schirmerテスト,フルオレセイン染色スコア,角膜知覚のすべての検査所見において,SMILEがCLASIKに比較して,術後ドライアイの観点から優位であることがわかった.また,SMILE術後において,角膜知覚の低下はあるものの,臨床的なドライアイは発症しないことがわかった.C●推測されるメカニズム角膜内への神経分布は,三叉神経第一枝(眼神経)か220あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018らの知覚神経分枝(鼻毛様体神経)が角膜輪部にて角膜周囲に輪状神経叢を形成し,そこから伸びたC70~80本の神経束が強膜深層か角膜実質内のC1/3前方より角膜内に侵入し,実質内神経叢を形成しつつ放射状に中央へと向かう.その過程で垂直方向に向かう枝がCBowman膜を貫いて上皮基底膜下で上皮下神経叢および上皮内神経叢を形成する4).ConfocalCmicroscopeにて観察したLASIK後の角膜では,垂直方向の切断によって実質内神経叢や上皮下神経叢が切断され,神経密度は術後に極端に減少することが報告されている5).一方,SMILE術後では,この垂直断の長さがCLASIKのC10%程度であることから,残存神経が多いことが推測される.実際,LiらはCSMILE後とCLASIK後の角膜内神経密度を比較したところ,術後C1週間では,LASIKでは術前のC1%未満となるのに対し,SMILEではC30%程度であることがわかり,この差が術後のドライアイの程度差と関連していると推測している5).C●おわりにSMILE術後ではドライアイは発症しないことがわかった.したがって,術前よりドライアイがあるなど,術後ドライアイが懸念される患者ではCSMILEはよい適応であると考えられる.文献1)ShenZ,ZhuY,SongXetal:DryeyeaftersmallincisionlenticuleCextraction(SMILE)versusCfemtosecondClaser-assistedinsitukeratomileusis(FS-LASIK)formyopia:Ameta-analysis.PLoSOneC11:e0168081,C20162)CaiWT,LiuQY,RenCDetal:Dryeyeandcornealsen-sitivityaftersmallincisionlenticuleextractionandfemto-secondClaser-assistedCinCsituCkeratomileusis:aCmeta-anal-ysis.OphthalmolC10:632-638,C20173)KobashiCH,CKamiyaCK,CShimizuCK:DryCeyeCafterCsmallCincisionClenticuleCextractionCandCfemtosecondClaser-assist-edLASIK:Meta-analysis.CorneaC36:85-91,C20174)MullerCLJ,CMarfurtCCF,CKruseCFCetCal:CornealCnerves:Cstructure,CcontentsCandCfunction.CExpCEyeCResC76:521-542,C20035)LiCM,CNiuCL,CQinCBCetCal:ConfocalCcomparisonCofCcornealCreinnervationCafterCsmallCincisionClenticuleCextraction(SMILE)andCfemtosecondClaserCinCsituCkeratomileusis(FS-LASIK).PLoSOneC8:e81435,C2013(60)