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屈折矯正手術:SMILEとドライアイ

2018年2月28日 水曜日

監修=木下茂●連載213大橋裕一坪田一男213.SMILEとドライアイ戸田郁子南青山アイクリニックSMILEはフラップを作製しない新しいレーザー屈折矯正手術で,LASIKに比較して角膜垂直切開の長さが10%程度であるため,術後ドライアイが少ない可能性が示唆されている.過去の報告や自験例より,LASIKに比較して術後のドライアイ症状が少なく,ドライアイ関連他覚所見が良好であることが証明された.●はじめにレーザー角膜屈折矯正手術はもっとも普及した屈折矯正手術であるが,第一世代のCphotorefractiveCkeratec-tomy(PRK)では,上皮.離に伴う術後の易感染性,疼痛,一時的視力不良,上皮下混濁など,第二世代のLASIK(laserinsitukeratomileusis)では,フラップ関連合併症〔不完全フラップ,上皮迷入,di.uselamellarkeratitis(DLK),ドライアイなど〕が課題であった.第三世代であるCsmall-incisionClenticuleCextraction(SMILE)は,フラップレス手術として,フラップ関連合併症を回避できる可能性が考えられる.LASIK後のドライアイは術後C1カ月程度の一時的合併症であるが,術後の不快な症状や視機能低下に伴う満足度低下を起こすため,できるだけ避けたい合併症である.また,術前LASIK図1LASIKとSMILEa,c:LASIKとCSMILEの角膜垂直切開の長さの差.SMILEはCLASIKのC10%程度である.Cb,d:術後C1日目のCLASIK眼(b)とSMILE(d)の前眼部所見.LASIK眼でのみフルオレセイン染色が認められる.からドライアイがあると長期化,重症化することがある.C●術後ドライアイの比較LASIK後のドライアイ発症のメカニズムには,複合要因が関与しているとも考えられているが,主因はフラップ作製時の角膜内神経切断による神経麻痺性効果と推測されている.SMILEはフェムトセカンドレーザーを用いて作製したレンチクル(矯正度数に応じた角膜実質片)を,3Cmm程度の小さい切開層から摘出する屈折矯正手術である.LASIKに比較して角膜の垂直切開の長さが約C90%少ない(図1).このため,LASIKに比較してドライアイが発症しにくい可能性が示唆され,SMILEの臨床応用直後からすでに多くの比較検証が行われている.術後ドライアイについてのCLASIKとCSMILEの比較SMILE(59)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C2190910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1LASIKとSMILEの術後ドライアイ比較ドライアイの症状CSMILEvsLASIKSMILE術後症状(乾く)BUTSchirmerテストフルオレセイン染色角膜知覚S>L(1カ月)S>L(1日,1週,1カ月,3カ月)S>L(1カ月,3カ月)S>L(1週)S>L(1カ月,3カ月)悪化なしC低下なし低下なし1日のみ増加1カ月のみ低下S>L:SMILEがCLASIKに比較して優位SMILEで影響される上皮下神経叢角膜内神経図2角膜内神経分布a:角膜輪部から侵入した神経束から垂直方向に分枝し,上皮化神経叢を形成する.Cb:LASIKとCSMILEでの角膜垂直切開で影響される角膜内神経.このほか,矯正に伴う実質切除によって,両方法とも同程度に角膜内神経に影響すると推測される.に関しては,2017年C9月現在,3報のメタアナリシスが報告されている1~3).これらは最大C186件の関連論文をシステマティックレビューしたもので,そのC3報の結果をさらに総合してみると,術後ドライアイ症状,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-upCtime:BUT),角膜知覚,角膜内神経密度において,SMILEがCLASIKよりもドライアイの観点から優位と結論された.筆者は,筆者らの施設において同時期に施行したLASIKとCSMILEの術後のドライアイを評価した.対象はCLASIKがC72人C131眼(28.8C±7.2歳,C.3.91±1.88D)SMILEがC58人C114眼(29.9C±6.9歳,C.4.53±1.38D),である.結果を両方法の比較とCSMILE術前後の比較として表1にまとめた.両方法の比較では,術前と術後の症状(乾く),BUT,Schirmerテスト,フルオレセイン染色スコア,角膜知覚のすべての検査所見において,SMILEがCLASIKに比較して,術後ドライアイの観点から優位であることがわかった.また,SMILE術後において,角膜知覚の低下はあるものの,臨床的なドライアイは発症しないことがわかった.C●推測されるメカニズム角膜内への神経分布は,三叉神経第一枝(眼神経)か220あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018らの知覚神経分枝(鼻毛様体神経)が角膜輪部にて角膜周囲に輪状神経叢を形成し,そこから伸びたC70~80本の神経束が強膜深層か角膜実質内のC1/3前方より角膜内に侵入し,実質内神経叢を形成しつつ放射状に中央へと向かう.その過程で垂直方向に向かう枝がCBowman膜を貫いて上皮基底膜下で上皮下神経叢および上皮内神経叢を形成する4).ConfocalCmicroscopeにて観察したLASIK後の角膜では,垂直方向の切断によって実質内神経叢や上皮下神経叢が切断され,神経密度は術後に極端に減少することが報告されている5).一方,SMILE術後では,この垂直断の長さがCLASIKのC10%程度であることから,残存神経が多いことが推測される.実際,LiらはCSMILE後とCLASIK後の角膜内神経密度を比較したところ,術後C1週間では,LASIKでは術前のC1%未満となるのに対し,SMILEではC30%程度であることがわかり,この差が術後のドライアイの程度差と関連していると推測している5).C●おわりにSMILE術後ではドライアイは発症しないことがわかった.したがって,術前よりドライアイがあるなど,術後ドライアイが懸念される患者ではCSMILEはよい適応であると考えられる.文献1)ShenZ,ZhuY,SongXetal:DryeyeaftersmallincisionlenticuleCextraction(SMILE)versusCfemtosecondClaser-assistedinsitukeratomileusis(FS-LASIK)formyopia:Ameta-analysis.PLoSOneC11:e0168081,C20162)CaiWT,LiuQY,RenCDetal:Dryeyeandcornealsen-sitivityaftersmallincisionlenticuleextractionandfemto-secondClaser-assistedCinCsituCkeratomileusis:aCmeta-anal-ysis.OphthalmolC10:632-638,C20173)KobashiCH,CKamiyaCK,CShimizuCK:DryCeyeCafterCsmallCincisionClenticuleCextractionCandCfemtosecondClaser-assist-edLASIK:Meta-analysis.CorneaC36:85-91,C20174)MullerCLJ,CMarfurtCCF,CKruseCFCetCal:CornealCnerves:Cstructure,CcontentsCandCfunction.CExpCEyeCResC76:521-542,C20035)LiCM,CNiuCL,CQinCBCetCal:ConfocalCcomparisonCofCcornealCreinnervationCafterCsmallCincisionClenticuleCextraction(SMILE)andCfemtosecondClaserCinCsituCkeratomileusis(FS-LASIK).PLoSOneC8:e81435,C2013(60)

眼内レンズ:白内障手術中の粘弾性物質の動態

2018年2月28日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋375.白内障手術中の粘弾性物質の動態鈴木久晴日本医科大学武蔵小杉病院白内障手術中の角膜内皮保護において,粘弾性物質(OVD)の使用は必須といえる.OVDにはいくつか種類があるが,その性質を把握しておくことは重要である.しかし,OVDは無色透明であり,前房内の動態を把握することは困難である.そこで,今回筆者らは,実験的に豚眼を用い,OVDを黄色に染色して細隙灯顕微鏡を用いて,その動態を観察した.●SlitSideViewの開発(図1)現在の白内障手術は安全性が非常に高く,合併症が生じることは少なくなっている.しかし,術中に角膜内皮が障害されることによって生じる水疱性角膜症は,さらなる加療が必要とされる大きな合併症であることに変わりはない.そこで,角膜内皮細胞を保護するために,術中に粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)を前房内に滞留させることは有用であると考えられている.しかし,OVDは無色透明であり,また手術用顕微鏡は正面から観察しているため,前房におけるOVDの残存状況と動態を把握することはむずかしい.そこで,まずOVDをフルオレセインで染色・可視化し,摘出豚眼を用いて,細隙灯顕微鏡にて術中OVDの動態を観察する方法を開発した.筆者らは,この方法をSlitSideView(SSV)と名付けた.●凝集型OVD(図2)凝集型OVDはペダルを踏み,吸引をかけてからわずか数秒で灌流液がOVDと角膜内皮細胞の間に入り込み,前房内から吸引除去されてしまった.よって,凝集型OVDは角膜内皮保護作用が弱いと考えられる.しかし,眼内レンズ挿入時の水晶体.の空間保持などにおいては,むしろ吸引除去しやすいほうが有用と考えられるため,一時的な空間保持能が必要な場合は有用であるといえる.●分散型OVD(図3)分散型OVDは吸引をかけた瞬間にチップの周りからすぐに吸引除去されたが,角膜内皮側に接着したOVDは吸引されなかった.そして時間がたつにつれ,角膜内皮に接着したOVDが前房側へ垂れ下がって吸引され,網目状にOVDが残存している状況も観察された.この結果により,臨床上,核片や空気がトラップされやすい(57)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1SSVの実験画像術中の前房内の状態を詳細に観察できる.ことが視覚的に理解できる.また,灌流液が流れていくことによって,OVDが次第に削り取られるように吸引除去されることもわかった.よって,トラップされた核片などは,灌流液の流れの方向をうまく利用して処理することが,角膜内皮に侵襲を与えない方法として有用であると考えられた.●ソフトシェルテクニック(図4)上記のように分散型OVDは核や空気をトラップしやすく,単独で使用すると術中の視認性が落ちてしまうことを経験する.そこでArshino.が提唱した,分散型OVDを注入後に凝集型OVDを注入するソフトシェルテクニック1)を検証した.吸引をかけた瞬間にやはり凝集型OVDは吸引除去されてしまうが,分散型OVDは長い時間,ある一定の厚みをもって角膜内皮に接着してあたらしい眼科Vol.35,No.2,2018217いた.よって,ソフトシェルテクニックは視認性を確保するのと同時に,角膜内皮保護作用に優れていることが視覚的にも実証された.●おわりにSSVは術中のOVDの動態を把握するために優れた方法であると考えられた.機械のセッティングや術式の評図2凝集型OVDa:吸引をかける前,b:吸引をかけて数秒後.図上の白線で示したXY軸スケールの単位はmm,他の写真も同様図3分散型OVDa:矢状断面,b:横断面.図4ソフトシェルテクニックa:矢状断面,b:横断面価など,今後もさまざまな評価に有用である可能性が示唆された.文献1)Arshino.SA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.JCataractRefractSurg25:167-173,1999

コンタクトレンズ:屈折検査(自覚検査)

2018年2月28日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一40.屈折検査(自覚検査)●はじめに自覚屈折検査は,遠見視力検査(5Cm)に提示した視力検査視標(おもにCLandolt環)注視時の自覚的応答から屈折値を測定する検査法である.視力検査は眼科検査においてもっとも社会的認知の高い,眼科検査を象徴する検査である.それゆえ,視力検査装置,検査法および評価法について,改めて考える機会が少ない.今回は患者満足度の高いコンタクトレンズ処方をめざして,自覚的屈折検査について改めて紹介する.C●目標と限界自覚屈折検査の目標は球面度数,円柱レンズ度数ともに完全屈折矯正を行うことである.しかしながら,矯正レンズを交換しながら患者の自覚的応答から屈折度を測定する検査法であり,乳幼児や姿勢維持が困難な患者においては,他覚的屈折検査値を含めて総合的に判断する必要がある.矯正精度はC0.25D(矯正レンズの最小単位)であり,乱視軸に関してC5°である.矯正精度に関して,検査中の調節の揺らぎと頭位の変動を勘案すると,矯正精度C0.25D,乱視軸C5°は妥当と考えられ,自覚的屈折検査の精度限界と考えられる.C●検査の流れ自覚的屈折検査は,調節の介入をできる限り抑えることに最大限配慮して行われる.調節の介入を常に考え,原則として最良視力が得られるもっともプラス(凸)レンズ寄りのレンズを自覚的屈折値として評価することはもちろん,レンズ交換中にも凸レンズを交換する際には,次に挿入する凸レンズを重ねてから交換前のレンズを抜き,凸レンズを装用するなど,検査手技の細部にまで調節の介入の除去を徹底する.調節力の強い若年者においては,調節の介入の除去を目的に雲霧法を行う.これは,凸レンズ(加入度数は施設によって異なるが,+2~3Dが一般的である)を付加して焦点を網膜面より前方に移動させ,調整の介入ができない状態にしてから,(55)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY半田知也北里大学医療衛生学部視覚機能療法学①②③④⑤図1乱視矯正(直乱視)における焦点位置のイメージ凸レンズを漸減させてもっとも凸レンズ寄りの屈折値を求める手法である.乱視矯正には,乱視表を用いる雲霧法(予測する乱視量のC1/2相当の凸レンズを加える)とクロスシリンダー法がある.雲霧法は,乱視量が小さい場合(乱視量C1.5D未満を目安)には雲霧下においても乱視表を視認できるため自覚応答を求めやすく,クロスシリンダー法は,乱視量が大きい場合(乱視量C1.5D以上を目安)に患者の自覚応答を求めやすい.いずれの乱視矯正法を行う場合においても,患者の乱視の光学的状態(前焦線,最小錯乱円,後焦線,と網膜位置)をイメージし(図1),乱視量と被検者の応答の状況から判断して乱視矯正法を選択することが必要である.乱視矯正を行った後に,矯正精度の正確性を確認することを目的に球面レンズの微調整を行い,最良視力を得られる凸レンズ寄りのレンズを自覚的屈折値として評価する.調節の介入を防ぐことは調節緊張の予防の観点から重要であるが,いたずらに凸レンズ寄りの矯正(低矯正)を行い過ぎることも,患者の見え方の向上の観点から望ましくない.自覚屈折検査においては適矯正(適切な屈折矯正)を念頭に,調節には揺らぎがあることも十分に考慮して,視力値,屈折値,患者の自覚応答を総合的に判断して決定するべきである.実際のコンタクトレンズ矯正において,自覚屈折検査あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C215両眼開放下(左眼)片眼遮閉下(左眼)図2両眼開放下と片眼遮閉下の瞳孔径変化両眼開放下と比較し,片眼遮閉下では明らかな瞳孔散大が認められる.では乱視矯正されるにもかかわらず,球面矯正のみの処方選択が多い1).これには経済的な問題,処方の問題,装用感の問題などさまざま考えられるが,患者の見え方の質の向上の観点から,乱視矯正(乱視用コンタクトレンズ)の必要性を改めて考える必要がある.C●おわりに自覚的屈折検査(視力検査)は通常,自然瞳孔で測定することが原則とされ,散瞳薬などの点眼後はピンホール装用にて測定される2).通常の視力検査においては,遮閉板で非測定眼を遮閉することで非遮閉眼の視力測定が行われる.しかしながら,日常臨床において,この片眼遮閉が瞳孔径の散大を起こすことを意識することは少ない.この瞳孔散大効果には個人差があるが,約C3割程度の瞳孔散大が認められる3)(図2).自覚的視力・屈折検査結果において瞳孔径の寄与は大きく,瞳孔径の散大による焦点深度の低下,収差の増大により,自覚屈折度数の増大,すなわち調節の介入(過矯正の恐れ)が懸念される.これまでの臨床研究において片眼遮閉下での自覚屈折値は,両眼開放下での自覚屈折値に比べて平均0.25D(最大でC1.0D)の過矯正が報告されている4).自覚的屈折検査において,調節介入の除去に配慮するうえで,瞳孔径の影響は無視できない.両眼開放下自覚屈折検査には,片眼に凸レンズ,もしくはすりガラスを装用する方法,両眼分離下で片眼のみに視力表を提示する方法などがある.日常視は両眼開放下であり,両眼開放下で各眼の自覚屈折矯正を行うことが望ましい.今後,患者の日常視における適矯正を行う観点から,両眼開放下の自覚的屈折検査の重要性について改めて考える必要がある.文献1)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:InternationalcontactClensCprescribingCinC2016.CContactCLensCSpectrumC32:30-35,C20172)所敬:屈折異常とその矯正改訂.第C4版,p43,金原出版,C20043)KawamoritaCT,CUozatoCH:NaturalCpupilCsizeCandCocularCaberrationCunderCbinocularCandCmonocularCcondition.CJComputSciSysBiolC7:15-19,C20144)KobashiH,KamiyaK,HandaTetal:Comparisonofsub-jectiveCrefractionCunderCbinocularCandCmonocularCcondi-tionsinmyopicsubjects.CSciRepC5:2606,C2015CPAS102

写真:角膜穿孔に対する羊膜移植

2018年2月28日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦405.角膜穿孔に対する羊膜移植難波広幸山形大学医学部眼科学講座図2図1のシェーマ①羊膜スタッフ部②羊膜カバー③C10-0ナイロン糸で縫着C図1角膜穿孔に対する“Pleatsfold”法での羊膜移植羊膜スタッフ部の表面をさらに羊膜でカバーし,術後の上皮進展を促す.図3術前金属片が右眼角膜周辺部に刺入し,前房に達していた.図4術後3カ月充.羊膜は器質化し,10-0ナイロンを抜糸して矯正視力C1.0が得られた.(53)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C2130910-1810/18/\100/頁/JCOPY角角膜穿孔は細菌,真菌などの感染症のほか,Mooren潰瘍などの炎症性疾患や外傷など多彩な原因によって起こりうる.いずれにしても重篤な視力障害や眼球構造の破綻を引き起こしうるため,恒常性維持のためには迅速な治療を要する.感染の場合,抗菌薬,抗真菌薬での治療で不十分という局面であれば,治療的角膜移植を検討する.感染以外の場合,疾患によっては全身投与も含めた消炎が必要になることもある.そのうえで穿孔創が小さければソフトコンタクトレンズ装用,生体接着剤などが適応となる.直接縫合は裂創の閉鎖には有効であるが,円孔や不整な創では乱視の励起が大きい.角膜移植は最終的な治療法であるが,感染や拒絶反応のリスク,構造の脆弱化,乱視の励起など問題は多い.羊膜移植は上皮化の促進,眼表面炎症の鎮静化などの目的で使用するほか,角膜潰瘍・穿孔において角膜実質厚を補.するのに有用と報告されている.移植された羊膜は炎症を起こさず,実質内に生着する1).Rodriguez-Aresらは径C1.5Cmm未満の角膜穿孔の治療において羊膜移植の有効性を示唆しているが,径C1.5Cmm以上の創では閉鎖率がC40%程度であった2).Hanadaらの報告3)にあるように,穿孔創に細切した羊膜を充.し,シート状羊膜で上皮化を促す方法が行われているが,大きい創では充.がむずかしい.一方,筆者らは以前に“Pleatsfold”法を用い,より大きい創でも閉鎖が得られることを報告している4).症例はC61歳,男性.電動草刈り機での作業中に,右眼に異物が飛入して近医眼科を受診した.当院紹介受診時,小金属片が右眼角膜の鼻側周辺部に刺入し,前房に達していた.緊急手術で異物を抜去し,羊膜移植を行った.穿孔創は長径C2.2Cmm,10-0ナイロン糸をC2針並列に通糸し,“PleatsCfold”法で閉鎖した.術後C3カ月で抜糸を行い,矯正視力C1.0が得られた.ケラトメトリーでの円柱度数も術後C1カ月ではC12D以上あったが,その後抜糸を行って術後C3カ月でC3.00D,6カ月でC1.75Dと経時的に軽快した.角膜穿孔に対する羊膜移植術は,瘢痕性混濁を残すため適応が周辺部に限られるものの(一時的閉鎖の場合,また視力を鑑みない場合は中央部へも可),治療のオプションとして有用である.“Pleatsfold”法は径C1.5Cmm以上の大きい創にも対応が可能であり,筆者らが報告したC6例(長径C0.7~2.7Cmm)では,すべてで穿孔創の閉鎖が得られた4).周辺部の角膜移植は惹起乱視が大きいことを考慮すると,確実な創閉鎖と術後視力を両立させるうえで,羊膜移植術は有効と考える.しかし,2014年に保険適用となって以降,羊膜移植術の施行施設は減少し,とくに緊急手術に対応可能な施設は羊膜バンクをもつ施設とその近隣に限られる.羊膜は穿孔創閉鎖のほかにも,再発翼状片や瞼球癒着の再建,遷延性角膜上皮欠損での上皮進展の促進などでも使用する.医療材料として非常に有用であるため,今後,再び多くの施設で使用できるようになることを望む.文献1)ConnonCJ,NakamuraT,QuantockAJetal:Thepersis-tenceCofCtransplantedCamnioticCmembraneCinCcornealCstro-ma.AmJOphthalmolC141:190-192,C20062)Rodriguez-AresCMT,CTourinoCR,CLopez-ValladaresCMJCetal:MultilayerCamnioticCmembraneCtransplantationCinCtheCtreatmentCofCcornealCperforations.CCorneaC23:577-583,C20043)HanadaCK,CShimazakiCJ,CShimmuraCSCetCal:MultilayeredCamnioticCmembraneCtransplantationCforCsevereCulcerationCofthecorneaandsclera.AmJOphthalmol131:324-331,C20014)NambaCH,CNarumiCM,CNishiCKCetCal:”PleatsCfold”tech-niqueCofCamnioticCmembraneCtransplantationCforCmanage-mentofcornealperforations.CorneaC33:653-657,C2014

強度近視眼に生じる網膜疾患による視野障害 2.近視性脈絡膜新生血管とその予後(萎縮)

2018年2月28日 水曜日

強度近視眼に生じる網膜疾患による視野障害2.近視性脈絡膜新生血管とその予後(萎縮)Long-termVisualandAnatomicalOutcomeafterAnti-VEGFTherapyinEyeswithMyopicChoroidalNeovascularization(CNV-relatedMacularAtrophy)佐柳香織*はじめに強度近視は眼軸長延長,後部ぶどう腫形成に伴いさまざまな眼合併症を生じ,日本の視覚障害原因疾患のC5位である.なかでも近視性脈絡膜新生血管(myopicCchoC-roidalCneovascularization:mCNV)は自然経過では高度の視力低下をきたすことが知られている.mCNVに対する治療の中心は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)療法であり,短期では良好な成績を示しているが,長期ではCCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ,視力は低下していく.CI近視性脈絡膜新生血管とはmCNVは強度近視の約C5~10%に発症する疾患で,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)と比較して若年者に発症する.CNVは網膜色素上皮上に存在するC2型CCNVの形をとり,AMDのCCNVより小型で,滲出性変化も軽度であることが多い.mCNVの病態は未だ解明されていないが,眼軸長延長に伴うCBruch膜の断裂(lacquerCcracks)や脈絡膜循環障害が発症に関与すると報告されている.自然軽快はまれで,多くは黒い色素沈着を伴うCFuchs斑を経て周囲に広範な網脈絡膜萎縮を形成し,高度の視力障害をきたす.既報によると自然経過ではC10年後にC96.3%の症例でCCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ,視力がC0.1以下になるとされている1)(図1).強度近視眼の眼底に網膜下出血や灰白色病変を認めた図1mCNVに黄斑部萎縮を生じた症例39歳,女性.CNVは黒い色素沈着を伴うCFuchs斑()となり,周囲に黄斑部萎縮()を形成している.視力は矯正0.03と高度に低下している.場合,本疾患を疑う.診断には光干渉断層計(opticalcoherenceCtomography:OCT)が簡便であるが,確定診断には蛍光眼底造影検査を用いる.OCTでは周囲にわずかの滲出性変化を伴う隆起性病変が網膜色素上皮ラインを越えて観察される.フルオレセイン造影検査では初期から網目状過蛍光を示し,時間の経過とともに蛍光漏出をきたすCclassicCNVのパターンを示す.インドシ*KaoriSayanagi:大阪大学大学院医学研究科眼科学教室〔別刷請求先〕佐柳香織:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学研究科眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(47)C207図2mCNV症例(治療開始前)60歳,女性.眼底写真では薄い黄斑部の網膜下出血を認める.OCT(上段中央)でみると網膜色素上皮のラインの断裂とその部位より網膜下へ進展する隆起性病変(CNV,)が確認できる.フルオレセイン造影検査(下段左)ではCCNVが蛍光漏出を伴う過蛍光として描出され(),インドシアニングリーン蛍光造影(下段中央)では初期よりCCNVの血管影が描出されている().OCTAではCCNVは網膜外層,脈絡膜毛細血管板層で高輝度病変()として描出される.==報告はない.C2.長期予後上記に述べたようにCmCNVに対する抗CVEGF療法後の長期予後についての大規模臨床試験の結果はまだない.しかし,長期経過を追った症例報告はいくつか散見されるため,それらの結果を紹介する.Ruiz-MorenoらはCmCNVに対する抗CVEGF療法(ベバシズマブあるいはラニビズマブ)のC4年経過後とC6年経過後の結果を報告している.92眼のCmCNVに対し抗VEGF療法施行後,4年間経過観察を行った報告では,4年後まで視力はベースラインよりも有意に改善したままであったことを報告した4).一方,抗CVEGF療法後のmCNV眼C97眼(ベバシズマブ投与C78眼,ラニビズマブ投与C19眼)をC6年間観察した結果は,視力はC3年まではベースラインよりも有意に改善していたが,4年目以降有意差がなくなったと報告している5).OishiらはC22眼のCmCNVを対象にベバシズマブ投与後C4年間の経過観察を行い,3年目まではベースライン視力より有意に改善していていたが,4年目には有意差がなくなったことを報告している.また,視力低下の原因として黄斑部萎縮の発生,あるいは拡大をあげている6).SaraoらはC32眼のベバシズマブ投与を行ったCmCNVを対象にC5年以上の経過観察を行った結果,治療開始後早期では視力がいったん改善するものの,30カ月以降はCCNV周囲の網脈絡膜萎縮により緩やかに視力が低下したことを報告している7).KasaharaらはC36眼のベバシズマブ投与後のCmCNVをC6年間経過観察した結果,視力はC4年目まではベースラインと比較して有意に改善していたものの,徐々に低下し,6年目には有意差がなくなったことを報告している.また,同報告では,6年目での視力はCCNV周囲の網脈絡膜萎縮の有無,ベースライン視力とCCNVサイズに関連があったことも報告している8).これらの症例報告から,mCNVに対し抗CVEGF療法を行うことでC3,4年目までの視力は維持されるが,その後はCCNV周囲の網脈絡膜萎縮が生じ視力が低下することが予想される.CNV周囲の萎縮は限局性萎縮と同様に萎縮部位は絶対暗点となるため,視力は高度に低下する.C3.治療後の網脈絡膜萎縮mCNV発症後の黄斑部萎縮の頻度は,自然経過例の場合,3年目でC74.1%,5年目でC77.8%,10年目でC96.3%と報告されている1).一方,抗CVEGF療法後はC1年目でC40.9%,2年目でC63.6%,3,4年目でC72.7%との報告がある6).直接比較でないため正確ではないかもしれないが,抗CVEGF療法によりCCNVを早期に退縮させることで,萎縮の発生を若干ではあるものの抑えられるのかもしれない.mCNVと同じようにCCNVを生じるCAMDでも長期経過では地図状萎縮が発生することが知られているが,頻度はCAMD全体ではC1年でC10%台と低い.AMDサブタイプでは網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)がC23.8%と若干高いが,RAP以外のCAMDでは,ラニビズマブ投与後でC3.8%,アフリベルセプト投与後でC10.6%と,mCNVと比較するとさらに低い発生率である9,10).黄斑部萎縮の発生機序は不明である.関連する因子として,これまでの報告ではCCNVの位置や年齢,中心窩とC3Cmm下方の脈絡膜厚の比などがあげられているが,関連する因子はないとする報告もある.Ohno-MatsuiらはCSwept-sourceCOCTでの報告で,黄斑部萎縮部にはCBruch膜に孔がみられると報告している11).筆者らは,OCTAを用いて黄斑部萎縮を含む近視性黄斑症症例の脈絡膜毛細血管板層を観察したところ,びまん性萎縮部位では脈絡膜毛細血管板が疎になること,黄斑部萎縮部や限局性萎縮部では脈絡膜毛細血管板が脱落し,脈絡膜血管が透見可能となることがわかった12)(図4).また,CNV周囲の網脈絡膜萎縮と脈絡膜循環との関連について考えてみると,抗CVEGF療法によって脈絡膜厚が変化するとの報告は多く,アフリベルセプト投与ではどの報告でも有意に減少しているのに対し,ラニビズマブ投与では有意に減少する報告と変わらないとする報告がある.脈絡膜菲薄化がCmCNV発生,再発ともに関連することが示唆されており,抗CVEGF療法による(49)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C209治療開始前30カ月後図3加齢黄斑変性での地図状萎縮(黄斑部萎縮)74歳,女性.網膜血管腫状増殖に対し抗CVEGF療法を行い,病変自体は鎮静化し視力は矯正C0.4まで改善したが,地図状萎縮()により視力は矯正C0.3Cpに低下した.図4CNV周囲の網脈絡膜萎縮のOCTA所見69歳,女性.黄斑部のCCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じている.自発蛍光では萎縮部位は低蛍光を示している.OCTA(3×3mm,眼底写真でので囲まれた部位)画像では,脈絡膜毛細血管板が脱落し,脈絡膜血管が透見できる.—

強度近視眼に生じる網膜疾患による視野障害 1.後部ぶどう腫

2018年2月28日 水曜日

強度近視眼に生じる網膜疾患による視野障害1.後部ぶどう腫RefractiveScotomainEyeswithPosteriorStaphyloma森山無価*はじめに後部ぶどう腫は眼球の一部分が後方に突出している状態であり,病的近視診断の重要な所見である(図1)1,2).強度近視眼では網脈絡膜萎縮や視神経症など視野障害をきたすさまざまな疾患が生じ,視野検査の重要性は非常に高い3).しかしながら,後部ぶどう腫を合併した症例では,そういった疾患が生じていなくても視野検査で異常を呈することがある.以前より傾斜乳頭症候群など眼球形状異常を呈する症例では,通常の矯正レンズでは眼球変形領域でのピントが合わず,正確な視野が測定できないことが報告されている(図2)4,5).この現象については正確な屈折矯正を行わないことによる暗点や沈下なので,広義の屈折暗点とよんでもよいのかもしれない.傾斜乳頭症候群と同様に眼球形状異常である後部ぶどう腫でも同じような屈折暗点が生じる可能性があり,本稿ではこの後部ぶどう腫による屈折暗点について症例を提示して解説する.CI後部ぶどう腫の分類Curtinによって後部ぶどう腫の形状はC10種類に分類されている6).さらに大野らはこれを単純化し,「広域で黄斑を含む後部ぶどう腫」をタイプCI,「狭域で黄斑を含む後部ぶどう腫」をタイプCII,「視神経乳頭周囲後部ぶどう腫」をタイプCIII,「鼻側後部ぶどう腫」をタイプCVI,「下方ぶどう腫」をタイプCVとし,それに「その他」を加えたC6型と分類している(図3)7).図1後部ぶどう腫の3DMRI3DMRIで撮影し,側方から観察した眼球(Ca:正視眼,b:病的近視眼).病的近視眼では眼球の後方が突出しており,後部ぶどう腫を呈している.眼球下方の変形網膜に焦点が合っていない図2眼球形状変化による屈折暗点の模式図眼球下方の形状変化の部分では黄斑部と焦点位置が異なる.(文献C5より引用)*MukaMoriyama:南城眼科,東京医科歯科大学眼科〔別刷請求先〕森山無価:〒901-0615沖縄県南城市玉城堀川C695南城眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(41)C201タイプⅠタイプⅡタイプⅢタイプⅣタイプⅤ黄斑広域型黄斑限局型乳頭周囲型鼻側型下方型その他図3後部ぶどう腫の分類(文献C6,7より引用)図5図4の症例の3DMRIa:側方からの像.眼球上方()に内側に凸な形状変化がある.b:下方からの像.眼球鼻側,耳側()に内側に凸な形状変化がある.図4内側に凸な眼球形状変化を有する強度近視眼①60歳,眼軸長C29.0Cmm.黄斑部を含んだ後部ぶどう腫が下方に広がっており,後部ぶどう腫縁が後極部上方に明瞭に認められる().acbd図6図4の症例の補正レンズ加入前後の視野の変化a,b:動的視野の変化(a:加入前,b:加入後).通常の度数にさらに+12.0D加入することで,赤線で示す部分に変化が認められ,+6.0D加入することで青線で示す部分に変化が認められた.Cc,d:静的視野の変化(c:加入前,d:加入後).+12.0D加入することで下方視野に改善がみられる.図8図7の症例の3DMRIa:側方からの像.眼球上方()に内側に凸な形状変化がある.b:下方からの像.眼球耳側()に内側に凸な形状変化がある.Ca図7内側に凸な眼球形状変化を有する強度近視眼②64歳,眼軸長C29.5Cmm.黄斑部を含んだ後部ぶどう腫が眼球鼻側および下方に広がっており,後部ぶどう腫縁が後極部上方から耳側に認められる().図10外側に凸な眼球形状変化を有する強度近視眼71歳,眼軸長C28.2mm.鼻側になだらかな後部ぶどう腫が広がっている.b図9図7の症例の補正レンズ加入前後の動的視野の変化a:加入前,Cb:加入後.通常の度数にさらに+5.0D加入することで,赤線で示す部分に変化が認められた.図11図10の症例の3DMRIa:側方からの像.眼球下方()に外側に凸な形状変化がある.b:下方からの像.眼球鼻側()に外側に凸な形状変化がある.ab-図12図10の症例の補正レンズ加入前後の動的視野の変化a:加入前,Cb:加入後.通常の度数にさらにC.4.0DD加入することで,赤線で示す部分に変化が認められた.

強度近視眼における視神経乳頭OCT angiographyイメージング

2018年2月28日 水曜日

強度近視眼における視神経乳頭OCTangiographyイメージングEvaluationofOCTangiographyDiscImagesinHighlyMyopicEyes新田耕治*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,その革命的な進化により眼科のさまざまな分野において疾患の診断や治療効果判定などに有用であり,眼科の日常診療にて今やOCTは必須アイテムである.さらに連続的に網脈絡膜をOCT撮影することで,その間の血管内の位相変化や信号強度の変化を血流情報として抽出して画像化したOCTangiography(OCTA)は,非侵襲的に網脈絡膜微小循環の三次元情報が得られるため,近視の領域でも近視性脈絡膜新生血管の検出1~3),近視性黄斑症4)やintrachoroidalcavitation5)での病態分析などにおいてその有用性が報告されている.一方,近視は緑内障発症の危険因子の一つとされているが,近視眼特有の乳頭の傾斜・回旋・乳頭周囲脈絡網膜萎縮(parapapillaryatrophy:PPA)拡大などの近視性構造変化と乳頭陥凹,rimnotching,網膜神経線維層欠損(retinalnerve.berlayerdefect:RNFLD)などの緑内障性構造変化はオーバーラップする面があり,両者を明確に区別することが困難なことが多い.本稿では,強度近視眼における視神経乳頭のOCTAイメージングと題し,強度近視非緑内障眼と強度近視緑内障眼に分けて,視神経乳頭のOCTAイメージングなど強度近視眼におけるOCTA撮像の有用性について紹介する.IOCTangiographyの原理わが国に多い正常眼圧緑内障(normaltensionglauco-ma:NTG)は,発症や進行に乳頭出血(dischemor-rhage:DH)や多様な危険因子が報告されており,そのなかでも最近はとくに眼血流の関与に対する関心が高まっている.その一つの理由はOCTAの登場にあるといえよう6~11).OCTAは非侵襲的に即座に網膜の各層でsegmentationし,各層における毛細血管の分布を表示でき,まるで蛍光眼底造影写真(.uoresceinangiogra-phy:FA)を見ているかのような画像が得られるので,無灌流野を有する糖尿病網膜症には正常眼(図1)と比較して図2のようにフルオレセインを使用していなくても無灌流野がきれいに描出されている.また,機種によっては毛細血管の分布密度を定量化できることが特徴である.筆者はOCTA撮像にOptovue社RTVueRXRAvan-tiTMwithAngiovueTM(2015年1月発売)およびNIDEK社RS3000advance(2015年11月にOCTA撮影プログラム搭載)を使用している.RS3000advanceでは,OCTAのパノラマ撮影が可能であることが魅力的であるが,2015年3月より使用しているRTVueRXRAvantiTMwithAngiovueTMは使用経験が長いので本稿ではRTVueRXRAvantiTMwithAngiovueTMを中心述べることとする.この機種が日本にはOCTAとして最初に登場した.眼底内の静止している部分(組織)*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(27)187図1正常眼OCTangiographyパノラマ写真乳頭篩状板内の毛細血管網や乳頭から黄斑部にかけての毛細血管網がはっきりと描出されている.図2増殖糖尿病網膜症OCTangiographyパノラマ写真まるで蛍光眼底造影写真のように無灌流野が描出されている.と動きのある部分(血流)を判別するsplit-spectrumamplitude-decorrelationangiographyalgorithm原理を用いて,これまで観察できなかった網膜や篩状板内の毛細血管網をきれいに描出できるのが特徴である.特定の深さまでの設定した範囲の毛細血管網を描出することができるが,nervehead:撮影画面上端~内境界膜150μm下方まで,vitreous:撮影画面上端~内境界膜50μm下方まで,放射状乳頭周囲毛細血管層(radialperi-papillarycapillaries:RPC):内境界膜~網膜神経線維層まで,choroid/disc:網膜色素上皮より75μm下方~撮影画像下端までの4区画がセクターごとにデフォルトでangio.owdiscとして表示される(図3).RPC表示では視神経乳頭内では解析領域がない設定となっており,黒く映る.一方,nervehead表示では視神経乳頭内には撮影画面上端から自動的に150μm下方までが撮像されるので,篩状板内の毛細血管網が表示され有用である.Choroid/discは網膜色素上皮より75μm下方~撮影画像下端までの撮像範囲を有しているので,実質,脈絡膜を中心とした毛細血管網が映し出されるはずであるが,実際には全体的に白黒の濃淡が広がっているだけで血管影がほとんど表示されないことが多いので,cho-roid/disc表示画面の解釈には注意を要する.Optovue社RTVueRXRTMAvantiTMにてOCTAを撮像すると,Cscan断層画像であるenface画像も描出される.Enface画像は多周波の赤外線を利用して短時間に生体の断層画像を短時間に高分解取得できる技術であり,網膜・脈絡膜を前方からの視点で眼底写真をみるように,しかも任意の深さで描出できる.網膜の各層を自動segmentationすることにより,それぞれ分離して正面から見たように表示できるので,enface画像を利用すればRPCの脱落部位に一致してくさび状のdarkareaが観察でき,この部位はRNFLD部位と一致するので緑内障の診断にも有用である(図3).本機器の3mm×3mmのOCTA画像では良質な各層の画像が得られるので,ライブ画像を観察しながら固視目標を移動させ,何枚も撮影し手動で貼り合わせることによりFAのパノラマ眼底写真のような広角画像を作成することができる.正常眼のOCTAパノラマ写真では網膜神経線維に沿って走行する毛細血管網が密に存在していることが観察できる(図1).ニデック社製RS-3000Advanceなどではすでに自動パノラマ撮影機能が搭載されており,撮影に時間を要するが,それぞれの写真を貼り合わせなくても自動で合成できるようになっている.しかもこの機種は今後カラーマップ表示ができるようになるので,OCTにおける黄斑部の網膜内層解析と同様に,黄斑部の浅層毛細血管の密度の低下部位がより明瞭に確認できるようになる(図4).IIOCTangiographyのアーチファクトOCTA撮影にはさまざまなアーチファクトが出現する12).Projectionartifactは血管部のシグナル変化の対象となる血球が動くとそれに連動して動く影によるartifactで,OCTAにて血管組織のない部位でもシグナル変化が抽出され描出される可能性がある.このpro-jectionartifactはとくに網膜色素上皮を光が通過した際に生じることが多く,血管を通過する光は常に変化し,その光の反射が血球の流れとよく似た影を別の層に映し出すことがある.広範なコーヌスを伴うPPAを伴った乳頭は,機器が予測した網膜のsegmentationからはずれ,画像が黒く抜けるsegmentationerrorが起こりやすい(図5).また,同様の理由から,毛細血管密度測定プログラムにおいて,自動にてdrawingされる視神経乳頭のcontourlineが実際とは大きくずれることがしばしばあり,今後の改良が必要である.Motionartifactは眼球が動くと画像に横や縦の線が入ってそこを境に画像がぶれてしまう.Motioncorrec-tiontechnologyにより画像ブレがかなり修正できるが,再現性の欠如した画像となることがある.眼球運動だけでなく,脈拍,呼吸,振戦などでも生じ,その点を解決するために最近ではトラッキングシステムを搭載したOCTAも登場している.しかし,トラッキングシステムにより撮影時間がさらに延長し,被検者に苦痛をもたらしている面もある.良好なOCTAの画質を得るためには強い強度のシグナルが必要となる.シグナル強度の弱い領域では,ノイズの変動により一つの画像が次の画像と比較される際に,血流に関する誤った所見を生み出すfalse.owarti-(29)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018189ab図3OCTangiographyでの各層における毛細血管の分布非侵襲的に網膜の各層をsegmentationし,各層における毛細血管の分布を表示される.a:緑内障初期.b:緑内障後期.緑内障後期眼では乳頭を中心に全周の浅層毛細血管が脱落している.ab図4OCTangiographyパノラマ写真のカラーマップ表示2症例ともにGCCmapにて菲薄化領域は同様であるが,a:視野での感度低下を認める.b:視野変化が出現していない前視野緑内障の状態である.OCTangiographyパノラマ写真のカラーマップ表示にて,a:GCCmapに一致した浅層毛細血管網の脱落を認める.b:カラーマップ表示にてGCCmapに一致するような浅層毛細血管網の脱落を明瞭に観察できない.ab図5Segmentaionerror広範なコーヌスを伴う乳頭周囲脈絡網膜萎縮を伴った乳頭は,画像が黒く抜けるsegmentationerrorが起こりやすい.量的に画像を評価するために良好な画質を得ることが簡単かどうか検証してみた.その結果,OCTAの画質自体の問題となった比率は,シグナル強度が弱くて画質が暗く撮像されたのが40/197(20.3%),segmentationerrorが12/197(6.1%),motionartifactが8/197(4.1%)であった.RTVueRXRAvantiTMwithAngiovueTMは,2017年にソフトが大幅に改良され,OCTAの画質がさらに良質となった.新たなソフトで69例に撮像してみた結果,シグナル強度が弱くて画質が暗く撮像されたのが4/69(5.8%),segmentationerrorが5/69(7.2%),motionartifactが5/69(7.2%)であった.画質が改善されたが,トラッキングシステムがないために被検者に固視不良などの問題がある際には良質な画像が得られないことが多く,さらなる改良が求められる.III強度近視非緑内障眼の乳頭周囲OCTangiographyイメージング強度近視眼非緑内障の2症例を呈示する.1例目は16歳の女性で,眼軸長26.57mm,乳頭面積3.851mm2,乳頭傾斜角3.13°,乳頭縁の高低差0.258mmの症例である.同心円状に浅層毛細血管網が描出されており,深層毛細血管網はPPA部位でも太い血管の隙間にきれいに描出されている.2例目は62歳男性で,眼軸長28.68mm,乳頭面積1.122mm2,乳頭傾斜角47.16°,乳頭縁の高低差0.934mmと乳頭傾斜の強い症例である.浅層および深層毛細血管網ともに黄斑部に向かって直線的に描出されており,深層毛細血管網は耳側PPA部位でその密度がやや低下していることが観察できる(図6).Moら13)は,正視45眼(等価球面度数±0.5D)と強度近視(等価球面度数≦.6D,病的近視所見なし)41眼と病的近視(等価球面度数≦.6D,眼軸長≧26.5mm,病的近視所見あり)45眼の3群に分け,OCTAを撮像し,RPC密度を測定した.3群の年齢は正視群38.3±13.1歳,強度近視群33.3±15.0歳,病的近視群38.0±11.7歳で,眼軸長は正視群23.19±0.58mm,強度近視群25.93±0.58mm,病的近視群29.55±1.73mmであった.RPCは各々65.42±2.30%,62.71±3.64%,52.70±6.00%,乳頭耳側の血管密度は各々67.24±3.02%,63.79±8.27%,56.73±9.56%であり,ともに正視群より強度近視群,強度近視群より病的近視群と血管密度は有意に低下したと報告した.Sungら14)は,bPPAを有する正常近視150眼(平均眼軸長26.05±1.25mm)の楕円率,乳頭回旋角度,bPPA面積を測定し,OCTAによる乳頭周囲の浅層および深層毛細血管の減少に関連する因子を解析した.その結果,平均浅層毛細血管密度は62.14±5.47%,33眼(22.0%)で浅層毛細血管密度の減少を認めた.眼軸長が長いこと,乳頭周囲網膜神経線維層厚の減少が,浅層毛細血管密度の減少と有意に関連していた.平均深層毛細血管密度は73.76±4.02%,26眼(17.33%)で深層毛細血管密度の減少を認めた.楕円率が大きいこと,下方への乳頭回旋が強いことが深層毛細血管密度の減少と有意に関連していた.このことより,正常近視眼では眼軸長の延長は浅層毛細血管の密度低下に影響するが,深層毛細血管密度には関連せず,深層毛細血管密度は,楕円率や回旋率など眼軸長とは独立した別の要素が影響している可能性があると報告した.IV強度近視眼のgPPA部位におけるOCTangiographyイメージングOCTAは3D撮像が可能なので表層のみならず深層とくに脈絡膜層の描出も可能である.深層領域は,短後毛様動脈由来のZinn-Haller動脈輪(Zinn-Hallerarteri-alcircle:ZHAC)から分岐した毛細血管が隣接する視神経乳頭篩状板を栄養している.OCTAを使用して強度近視眼のZHACの可視化について検討した報告15)では,gPPA領域にZHACを確認できたのが253眼のうち26眼(10%)であった.ZHACの形態が輪状を呈した症例が18眼(69%),三角形状を呈したのが4眼(15%),不規則形状が4眼(15%)であった.インドシアニングリーン蛍光造影でのZHACの描出と同等であり,眼底写真での検出よりも有意に優れていたのでOCTAを使用してZHACを評価することが,緑内障性視神経症のような病態でも興味深い知見が得られる可能性がある.強度近視眼早期緑内障(ref<.6.0D,MD≧.6dB)の40%以上にpapillo-macularbundle領域にNFLDを認め,非近視眼緑内障と比較して有意に高率であるとの(33)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018193ab図6強度近視非緑内障眼の乳頭周囲OCTangiographya:16歳,女性.眼軸長26.57mm,乳頭面積3.851mm2,乳頭傾斜角3.13°,乳頭縁の高低差0.258mmの強度近視眼.同心円状に浅層毛細血管網が描出されており,深層毛細血管網はPPA部位も太い血管の隙間にきれいに描出されている.b:62歳,男性.眼軸長28.68mm,乳頭面積1.122mm2,乳頭傾斜角47.16°,乳頭縁の高低差0.934mmと乳頭傾斜の強い強度近視眼.浅層および深層毛細血管網ともに黄斑部に向かって直線的に描出されており,深層毛細血管網は耳側PPA部位でその密度が低下している.図7近視眼緑内障のmicrovasculaturedropout自験例の近視眼緑内障の中には,bPPA部位の深層毛細血管網が部分的に脱落している(.)症例が存在する.脱落部位では過去に乳頭出血を繰り返していることが多い.ab図8楔状NFLDを有する正常眼圧緑内障の乳頭周囲OCTangiography楔状CNFLD(.)を有する正常眼圧緑内障症例にCOCTAを乳頭中心に撮像してみると,NFLDにほぼ一致した部位のRPC密度低下(.)を認め,RPC密度低下領域と視野障害部位もほぼ一致していることがわかる.===非近視群(10年視野生存率:46.3C±5.8%)と比べて視野障害の悪化を認めた症例が有意に低率であった(Log-rankCp=0.0311).また,DH出現回数は,近視群(0.93C±2.13回)が非近視群(1.60C±3.04回)と比較して有意に低率であった(p=0.0311).Kaplan-Meier生命表解析を用いてCDHの累積出現確率を近視群と非近視群で比較したところ,近視群(10年CDH出現率:26.4C±5.4%)は非近視群(10年CDH出現率:47.2C±6.6%)と比べて有意にCDHの出現が低率であった(Log-rankp=0.0413).これらの筆者らの検討から,強度近視眼緑内障をC10年以上観察した場合にはCDHの出現頻度が低く,視野障害の悪化率が低率である可能性が示唆された22).CVI強度近視緑内障眼の乳頭周囲OCTangiographyイメージング楔状CRNFLDを有するCNTG症例にCOCTAを乳頭中心に撮像してみると,RNFLDにほぼ一致した部位のRPC密度低下を認め,RPC密度低下領域と視野障害部位もほぼ一致していることがわかる(図8).OCTAを使用した解析では,緑内障眼では病期の進行とともにRPCの血管密度がびまん性に脱落しており,前視野緑内障>初期緑内障>中期~後期緑内障の順に毛細血管は減少していた23).その他,緑内障診断や進行評価にOCTAを使用した解析報告が相次いでおり,その有用性が確認されている24~28).一方,強度近視緑内障眼の場合は,乳頭傾斜や回旋,後部ぶどう腫の形成などによる近視性の構造変化に伴うと思われる乳頭周囲毛細血管網の脱落を浅層のみならず深層に認め,乳頭面積や乳頭傾斜の程度,眼軸長など非近視緑内障眼よりもさまざまな要素が上述の固視点近傍の視野障害に影響を及ぼしていると考えられる(図9).そこで筆者らは,良好な画質のCOCTAを撮像できた緑内障眼C71例C108眼の眼軸長,乳頭傾斜角度絶対値,乳頭面積,垂直Ccup/disc(CD)比,乳頭縁の高低差,HFA30-2のCmeandeviation(MD),HFA10-2のMD,乳頭周囲浅層耳側毛細血管密度,乳頭周囲深層耳側毛細血管密度などの項目について解析し,緑内障眼におけるHFA10-2のCMDの感度低下に関与する因子を検討した.HFA10-2のCMDの感度低下と単相関を示したのは,浅層および深層毛細血管密度および耳側浅層および深層毛細血管密度であった(相関係数は,それぞれCr=0.733,r=0.561,r=0.733,r=0.596).多変量解析の結果,HFA10-2のCMDの感度低下に関与する因子としてあがったのは,乳頭面積(係数C1.460,95%信頼区間下限C0.437上限C2.483,p=0.005),垂直CCD比(係数C.14.786,95%信頼区間下限C.23.098上限C.6.475,p=0.001),HFA30-2のCMD(係数C0.684,95%信頼区間下限C0.570上限C0.798,p=0.0001),乳頭周囲浅層耳側毛細血管密度(係数C0.164,95%信頼区間下限C0.067上限0.260,p=0.001),乳頭周囲深層耳側毛細血管密度(係数C0.271,95%信頼区間下限C0.130上限C0.411,p=0.0001)であった.よって眼軸長,乳頭傾斜角度絶対値,乳頭面積,乳頭縁の高低差など近視眼による乳頭の変形に伴う視標との関連性は今回の検討では見いだせなかった.これは近視による乳頭の傾斜や回旋方向は後部ぶどう腫の形成位置とも関連し,必ずしも耳側や耳下方向に傾斜や回旋するものばかりでなくさまざまなパターンが混在しているためと思われる.また,仮に傾斜が強くても乳頭耳側周囲に血流をもたらす毛細血管が脱落していない症例も多いために,乳頭の傾斜などの要素がHFA10-2の視野感度低下と関連しないのではないかと思われる.今後はCOCTAを使用した緑内障眼における深層の毛細血管網に関するさらなる検証も必要と考えられる.近視乳頭を有する正常眼圧緑内障と年齢マッチングした非緑内障近視乳頭コントロールのCOCTAを撮像して,PPA面積とCOCTAのCPPACsuper.cialCchoroidalCimageintensity(PPA-CI)をCimageCJを使用して計算し,LSFG-NAVIにて解析した乳頭耳側の組織血流(MT),standardCautomaticCperimetry(SAP)にて測定された固視点近傍のC4点の平均網膜感度,乳頭黄斑線維側のGCC厚(PMB-GCCT)などの臨床因子と比較検討した.その結果,NTGはコントロールと比較して固視点近傍のC4点の平均網膜感度やCPMB-GCCTが有意に低値でPPA面積は有意に広かった.傍中心暗点を有するCNTGの鑑別に対するCAUCは耳側CMTがC0.76,PPA-CIが0.85,PMB-GCCTがC0.87でCPPA-CIの精度はかなり良好であった.多変量解析の結果,PPA-CIに影響する(37)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C197ab図9強度近視緑内障眼の乳頭周囲OCTangiographya:66歳,女性.眼軸長C28.83mm,乳頭面積C0.988CmmC2,乳頭傾斜角C11.59°,乳頭縁の高低差C0.621Cmmの強度近視緑内障眼.GCCmapの菲薄化領域に一致して深層の毛細血管網の脱落を認め,浅層では鼻側の毛細血管網の脱落を認める.Cb:56歳,男性.眼軸長28.16Cmm,乳頭面積C1.706CmmC2,乳頭傾斜角C16.43°,乳頭縁の高低差C0.457Cmmの強度近視緑内障眼.視野障害部位に一致して浅層毛細血管網の脱落を認め,深層毛細血管網はCPPA部位にCmicrovasculaturedropoutを認める.Cc:48歳,男性.眼軸長C28.81Cmm,乳頭面積C1.615CmmC2,乳頭傾斜角C37.59°,乳頭縁の高低差C1.063Cmmの強度近視緑内障眼.浅層毛細血管網は全周性に高度に脱落し,深層毛細血管網はCPPA部位に広範囲のCmicrovasculaturedropoutを認め,中心視野がとくに障害されている症例である.C—-

近視・緑内障と視神経乳頭周囲脈絡網膜萎縮

2018年2月28日 水曜日

近視・緑内障と視神経乳頭周囲脈絡網膜萎縮Myopia,GlaucomaandParapapillaryAtrophy(PPA)三木篤也*はじめに視神経乳頭周囲脈絡網膜萎縮(parapapillaryCatroC-phy:PPA)は,その名のとおり,視神経乳頭周囲にみられる網膜および脈絡膜の組織異常である.PPAの頻度,大きさが緑内障と相関することは,古くから報告がある.しかし,PPAと緑内障の相関についての病理学的な意義はまだ十分に解明されていない.しかも,PPAは緑内障以外の疾患でもみられる.代表的なものは近視である.近視は緑内障発症のリスクファクターでもあるので,近視眼におけるCPPAは近視性の障害を反映するのか,緑内障の合併を意味するのかの判断はむずかしい.最近になって,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)によるCPPAの細かい分類が,緑内障性のCPPAと近視性のCPPAの鑑別に役立つ可能性があることが報告された.本稿では,症例を通じてCPPAの眼底所見,OCT所見の読み方と臨床診断への生かし方について,最近の研究結果に基づいて解説する.CIPPAの眼底所見眼底所見上,PPAは網膜側のCaゾーンと乳頭側のCbゾーンに分類される(図1).aゾーンは,眼底所見では網膜色素の不整として観察される.一方,Cbゾーンは網膜色素の減少により脈絡膜血管や強膜が透見できる部位として観察される.組織学的には,Caゾーンが網膜色素上皮の不整であるのに対し,Cbゾーンは網膜色素上皮の完全消失または高度萎縮と脈絡膜毛細血管板の高度萎縮である.PPAのCaゾーン,Cbゾーンともに疾患に特異的な所見ではなく,Caゾーンはほとんどの正常眼に認めるし,CbゾーンもC15~20%の正常眼にみられると報告されている.正常眼では両ゾーンとも耳側にもっとも多く認められる.CIIaゾーン,bゾーンと緑内障PPAが緑内障と関連することは,これまでいろいろな角度から検証されてきた.たとえばCPPACaゾーン,Cbゾーンの大きさと,bゾーンの頻度は,緑内障の有無,あるいは視神経乳頭リムや視野感度などの緑内障パラメータと相関する.しかし,両ゾーンともに正常眼でもみられるため,PPAがあるからといって緑内障だとはいえない.ゆえに,緑内障の確定診断をするうえではPPAはリム欠損,網膜神経線維層欠損(retinalCnerve.berlayerdefect:RNFLD),特有の視野障害などの緑内障に特徴的な所見ではなく,参考所見の一つと考えるべきである.一方で,緑内障と他の視神経症の鑑別や,緑内障の詳細な病態把握にはCPPAはしばしば有用な情報をもたらす.両ゾーンともに,虚血性視神経症などの非緑内障性視神経症では拡大しないことが知られているので,(近視性を除く)他の視神経症と緑内障の鑑別において*AtsuyaMiki:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕三木篤也:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(21)C181図1正常眼圧緑内障眼(右眼)PPAの眼底所見図2図1と同一症例の広角眼底写真乳頭周囲にみられる半月状の色素脱失部位(青点)がCPPAのCbPPAの上端とCRNFLDの上端(),下端とCRNFLDの下端ゾーンであり,脈絡膜の色調が透見される.Cbゾーンの周囲を()がほぼ一致している.取り巻く色素がやや過剰な部位がCaゾーン()であり,黒っぽく見えることが多いが,色にムラがある場合もある.図3図1と同一症例の静的視野検査結果PPAの位置と視野障害の位置がほぼ一致している.図4近視を伴う正常眼圧緑内障眼(左眼)PPAのOCT水平断面視神経乳頭周囲に,網膜色素上皮とCBruch膜の双方を欠損するCgゾーン()と,網膜色素上皮を欠損するがCBruch膜は残存するCbゾーン()を認める.Bruch膜の断端は比較的視認しやすいが,網膜色素上皮はCBruch膜と複合体を形成しているので,断端の同定は症例によっては困難である.しかし,OCT上でCbゾーンでは脈絡膜や視細胞層の高度の萎縮を伴っていることを参考にしたり,眼底写真との部位的な一致をみたりすることで,ほとんどの症例で網膜色素上皮の断端を同定することができる.表1PPAbゾーンとgゾーン図5図4と同一症例の眼底写真gゾーンに相当する乳頭に近い部位では強膜を透見し,脈絡膜血管のパターンがみられないが,Cbゾーンに相当する網膜側の部位では,Cgゾーンよりも灰色がかった色調で,脈絡膜血管を透見することで,眼底所見でもある程度CbゾーンとCgゾーンの差を認めるが,眼底写真だけで鑑別するのはむずかしい.ないない相関しない,または負の相関正の相関報告により異なる

強度近視眼に生じる視神経乳頭とその周囲組織の構造異常

2018年2月28日 水曜日

強度近視眼に生じる視神経乳頭とその周囲組織の構造異常StructuralAbnormalitiesinandaroundOpticNerveHeadofHighlyMyopicEyes吉田武史*はじめに日本を含む東アジア諸国を中心に全世界において近視患者数は急速に増加している.なかでも深刻な視力・視野障害をもたらすさまざまな合併症をしばしば生じさせる強度近視患者の増加は大きな社会的懸念となっている.合併症のなかでももっとも頻度の多い合併症の一つが緑内障様視野障害である.これまでの筆者らの研究では屈折度.8.0D未満もしくは眼軸長C26.5Cmm以上の強度近視で,絶対暗点の原因となりうる網膜萎縮病変や黄斑部新生血管病変を有せず軽度びまん性網膜萎縮病変までの患者をC5年以上経過観察したところ,13%の症例で網膜病変では説明のできない有意な視野障害を生じることを報告している1).通常の緑内障性視神経症の視野変化は,Bjerrum領域の暗点,鼻側階段であるが,強度近視眼ではそれらに加えて耳側欠損および中心視野領域の欠損が生じやすいことが報告されている2).さらに強度近視眼では検眼鏡的視神経乳頭所見と視野障害パターンが一致しない症例が非常に多く,強度近視眼の緑内障性視野障害患者の診療に際し,その診断と治療方針の決定は非常にむずかしいものとなる.そもそも強度近視眼に生じる緑内障性視野障害は,はたして眼圧依存性の緑内障なのかという疑問が常につきまとう.近視の原因は眼軸延長によるものであり,とくに強度近視眼では後部ぶどう腫のような過度で不均一な眼軸延長が生じ,網膜だけでなく視神経乳頭やその周囲組織に発生する慢性的な機械的ストレスに伴う構造変化が生じると考えられてきたが,病態は明らかになっていなかった.近年のCOCTの発達により,これまでわからなかった視神経乳頭やその周囲組織におけるいくつかの構造異常が明らかになってきている.本稿では強度近視眼にみられる特徴的な構造異常・病態と緑内障視野変化の関連について述べる.CIIntrachoroidalcavitation(ICC)ICCは強度近視眼のおもに視神経乳頭下方にみられる黄色~オレンジ色の三日月状病変として確認されるものである(図1a,矢頭).OCTの観察では脈絡膜内の洞様変化であることがわかる(図1b,*印).強度近視眼の約C14%にCICCは合併する.ICC部位では強膜が後方に偏位することによりCICCが生じると考えられている.ICCのエッジにはしばしば網膜全層欠損を伴い,硝子体腔とCICCが交通し,欠損部位の神経線維は断裂されるため(図2a,b),断裂部位に一致する視野障害を生じる(図2c).また,全層欠損に至らない菲薄化した状態でもその部位に一致した網膜感度の低下がみられることがある.ICCから網膜全層欠損に至れば視野障害の進行は通常みられない.これはCICCの網膜全層欠損により,強膜の後方へのテンションから網膜が解放されたことにより,それ以上の網膜病変の進行を認めないためと思われる.*TakeshiYoshida:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕吉田武史:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(17)C177図1視神経乳頭周囲のintrachoroidalcavitation(ICC)a:眼底写真.視神経乳頭周囲にCICCが観察される().b:OCT.矢印方向でCOCT撮影すると脈絡膜内に洞様変化が観察される(*印).図2視神経乳頭下方のintrachoroidalcavitation(ICC)a:眼底写真.視神経乳頭下方にCICCがみられる.Cb:OCT.矢印方向で撮影すると脈絡膜内の同様変化(*)に加え網膜全層欠損()がみられる.Cc:HumphreyC30-2視野検査.図3視神経乳頭内ピットa:眼底写真.b:矢印方向にCOCTで撮影すると視神経乳頭下極にピットがみられる(*印).ピット部位の網膜神経線維は消失している.c:Goldgmann視野検査で病変に対応する視野欠損を認める.ac図4篩状板局所欠損a:強度近視眼における篩状板局所欠損をCOCTにて観察().b:拡大図において点線で示す部分が篩状板局所欠損部位.Cc:HumphreyC30-2視野検査にて視野障害を認める.c図5Ridge患者a:眼底写真.b:OCT画像.Cc:視野検査.

病的近視眼における視神経乳頭の検眼鏡的特徴

2018年2月28日 水曜日

病的近視眼における視神経乳頭の検眼鏡的特徴FunduscopicFindingsofOpticNerveHeadinPathologicMyopia丸山勝彦*はじめに近視よる眼軸長延長の結果生じる眼球の変形により,視神経乳頭,ならびにその周囲組織には多彩な構造変化がもたらされる.その多くは光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)をはじめとする画像診断装置によって近年病態が明らかにされてきているが,日常診療ではこれらの検眼鏡的所見を把握しておくことは重要である.本稿では,「病的近視眼」を後部ぶどう腫に伴い眼球形態が変化した近視眼のみならず,視機能低下をきたしうる疾患(緑内障を含む)を合併した近視眼と解釈し,病的近視眼における視神経乳頭と乳頭周囲の検眼鏡的特徴を述べる.I視神経乳頭所見1.乳頭面積正常眼と同様,病的近視眼でも乳頭面積には個体差があり,microdiscから巨大乳頭macrodiscまで,さまざまな症例が存在する.このなかで,強度近視眼でみられる大乳頭は縦長の楕円形であるものが多く,近視が強いほど乳頭面積が大きくなるのに対し,非強度近視眼ではほぼ正円であることが多く,乳頭面積は屈折や眼軸長に関連しないとされる点で異なっている.2.傾斜,回転眼軸長の伸長により視神経乳頭の傾斜や回転が多くみられるが,大きく二つに分類することができる.一つ目は乳頭の垂直方向の軸に沿って回転した乳頭で,verticallyrotateddiscとよばれる(図1).この変化は,近視による眼軸長延長の影響で乳頭耳側の強膜が後極側に伸展し,それに伴って乳頭が回転するために生じる.非立体的な眼底検査では視神経乳頭の水平径が小さく,縦長に観察される.もう一つは矢状軸に沿って回転した乳頭で,傾斜乳頭(tilteddisc)とよばれる(図2).傾斜乳頭の発生はver-ticallyrotateddiscと異なり,屈折誤差や眼軸長には依存しない一方で,角膜乱視や弱視に関連するとされている.なお,傾斜乳頭に他の特徴的な所見を伴うものを傾斜乳頭症候群(用語解説参照)とよぶ.3.辺縁部と陥凹強度近視眼での辺縁部と陥凹の判別は,視神経乳頭の伸展により辺縁部の高さと陥凹の深さとの差が減少しているため,正常眼より困難な場合が多い.また,強度近視眼では,辺縁部の組織が薄く篩状板組織が透見されること,辺縁部の毛細血管の密度や血流供給が減少していることなどから,辺縁部のピンク色の色調が正常眼より薄くなる傾向がある.かつ,乳頭が全体的に蒼白化している場合が多く,結果として辺縁部と陥凹の色調のコントラストが低下し,両者の判別が困難な症例も少なくない(図3a).そのような症例に対しても接触型前置レンズによる立*KatsuhikoMaruyama:東京医科大学眼科学分野〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)169図1Verticallyrotateddisc図2傾斜乳頭垂直方向を軸に回転した乳頭,眼軸長27.09mm.矢状軸に沿って下方に回転した乳頭,眼軸長27.15mm.視神経乳頭下方にコーヌスやぶどう腫,網脈絡膜萎縮もみられる.ab図3強度近視,非緑内障眼の視神経乳頭(左眼)a:眼軸長32.19mm.辺縁部と陥凹の判別は一見困難である.b:接触型前置レンズを用いた立体観察による陥凹の範囲.「ISNTの法則」が保たれており,垂直C/D比は水平C/D比を超えない.図4強度近視,緑内障眼の視神経乳頭a:眼軸長C28.34mm.Cb:接触型前置レンズを用いた立体観察による陥凹の範囲.「ISNTの法則」がくずれ,上下方向に陥凹が拡大している.垂直CC/D比が水平CC/D比より大きい.図5Verticallyrotateddisc,緑内障眼眼軸長C30.94Cmm.鼻側の辺縁部が隆起し,耳側の辺縁部は消失して陥凹底はスロープ状になっている.下方に乳頭出血を認める.b図6乳頭内ピットa:眼軸長C26.91Cmmの強度近視眼.下極付近に乳頭内ピットを認める().b:同症例のCOCT所見,乳頭内ピットを認める().図7強度近視眼の視神経乳頭にみられた乳頭周囲脈絡網膜萎縮a:眼軸長C27.19Cmm.Cb:最外側に色素ムラとして観察される幅の細い領域がCaゾーン().c:検眼鏡的にはCbゾーンとCgゾーンは鑑別できないが,実線の断面をCOCTで観察すると,矢印の間にはCBruch膜が存在し,同領域はCbゾーンであることがわかる.d:この症例のCOCT像,矢印の間にはCBruch膜が存在する.b図8強度近視眼の視神経乳頭にみられたintrachoroidalcavitationa:眼軸長C27.02mm,乳頭下方半周の橙色,三日月状の領域にCintrachoroidalcavitationが存在する.Cb:同症例のCOCT所見.洞様の脈絡膜分離を認める().■用語解説■傾斜乳頭症候群(tilteddiscsyndrome):眼杯裂の閉鎖不全により生じる乳頭先天異常と考えられており,有病率はC1.2%とされ,多くは両眼性にみられる.検眼鏡的には,乳頭は横長で水平方向を軸に下方が後方に傾斜していることが多く,他にも視神経乳頭下方のコーヌス,下方ぶどう腫,下方強膜の菲薄化,網脈絡膜萎縮,血管逆位などがみられるが,眼杯裂の閉鎖不全の程度に個体差があるため,症例によって所見はさまざまである.-