●連載211監修=岩田和雄山本哲也木内良明211.眼球の剛性と緑内障広島大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学(眼科学)眼圧による機械的な障害,循環障害に加えて角膜,強膜,篩状板の剛性も緑内障の発症あるいは進行に関与する危険因子の一つと考えられている.空気式眼圧計に高速シャインプルーフカメラを搭載したCCorvisCSTは眼圧測定中の角膜挙動の変化を詳細にとらえることができる.CorvisSTを用いた緑内障研究が進んでいる.C●緑内障の危険因子緑内障は多因子性の疾患と考えられている.古くから機械障害説と循環障害説が提唱されてきた1).さらに,疫学的な研究からも緑内障発症あるいは進行の危険因子が明らかにされている.わが国で行われたCTajimiCStudy2)では,高眼圧,高年齢,近視であることが緑内障発症の危険因子として示された.薄い中心角膜厚や乳頭出血が緑内障発症の危険因子としてあげられることもある3).加齢に伴いコラーゲン線維間の架橋が増えることで篩状板や角膜の剛性が変化する.近視では強膜が進展されて眼球の剛性が変化する.角膜の厚さも眼球の剛性に影響することは容易に理解できる.眼圧,循環障害に続いて,眼球壁の剛性も緑内障の危険因子ではないかと考えられるようになった.C●空気式非接触眼圧計と高速カメラ眼球の剛性の測定方法には,摘出眼球から得られた組織を用いて物理的な剛性を測定する,白内障手術のときに一定量の人工房水を前房に注入して眼圧を上昇させて測定する5),などの方法がとられてきた.しかし,このような方法は臨床の場で実際に応用することはできない.筆者らは,空気式眼圧計で眼圧を測定する際に,角膜が変位する量や変位に要する時間を測定して角膜(眼球)の剛性を測定しようと試みてきた.初期のころは高速カメラと眼圧計を直角の位置に配置して,得られた画像から変位量を手作業で解析していた(図1).角膜の中央部の初期変位量は眼圧が高いほど,年齢が若いほど,また男性よりも女性のほうが少ないということが示された6).眼圧が高いほど角膜の変位量が少ないということは直感的に理解できる.しかし,男性の組織のほうが女性より,また高齢者の組織が若年者より硬いと予測されるために,男性や高齢者の角膜変位量(103)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYが大きくなるという結果の解釈ができなかった.そこで測定初期と後期のC2時点における変位量を,角膜中央部だけでなく,空気噴流で角膜の変形を生じない部位でも求めた.その結果,眼圧測定中は角膜だけでなく,眼球自体(眼球のどこまでが変位するかはわかっていない)が後方に変位することがわかった.その全体変位は高齢者ほど大きく,とくに高齢の女性の変位が大きいことがわかった.眼球全体の後方変位が少ないことが若さの特徴と考えられた.高齢者は眼球全体の後方変位が大きくなる.とくに女性において高齢になると後方変位量が極端に増大する.つまり女性の眼球変位量は男性よりも年齢の影響を受けやすいことがわかった7).C●高速シャインプルークカメラを搭載した非接触眼圧計高速シャインプルークカメラを搭載したCCorvisCST(OCULUS社)は角膜の変形する様子を撮影し,画像から角膜や眼球変位のパラメータを自動的に提示することあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C103yDeformationAmplitudeMaxLargerDeformationAmplitudeMaxSameA2andA2timeforce図2角膜の物理学的特性a:角膜はばねとダンパーの組み合わせでできている.b:上方から力が加わり,図の下方にむけて変位するとき(loading)と元に戻るとき(unloading)では,同じ力が加わっていても変位する量は異なっている.LoadingとCunloadingのときの角膜先端の動きをプロットするとCbのようになる.loadingとCunload-ingで囲まれた面積がChysteresisとよばれ,このエネルギーの差は熱に変換される.Cができる.一般的な空気式眼圧計は,眼圧測定値が得られたときから角膜に吹き付ける空気噴流圧を下げる.一方,CorvisSTは眼圧値と関係なく一定量の空気を一定の圧で毎回噴出させる.また,CorvisSTは全体の動きを除外した真の角膜中央部の変化を示すパラメータを表示してくれる.したがって眼球の動きの変化を理解しやすい.角膜の先端部はばねとダンパーの組み合わせで,その物理的な性質を示すことができる(図2).その先端の動きを線でつなげると,陥凹するときと元の形に戻るときにずれを生じる(hysteresis曲線)8).このChystere-sis曲線に囲まれた部分の面積が角膜のChysteresis〔Ocu-larCResponseCAnalyzerで得られるCcornealChysteresis(CH)とは異なる〕である.白内障術後のChysteresis曲線は,術前と比べて最大押し込み量が増えて,元の位置に戻るときに左方変位していることがわかる.角膜の物理特性を表現するばねとダンパーの両者が弱くなっている状態といえる9)(図3).C●眼球剛性と緑内障プロスタグランジン関連薬は眼球の剛性に影響を与えることがわかっている10).緑内障群と非緑内障群のCorvisCSTのパラメータの違いを検討した報告はあるが,緑内障患者にはプロスタグランジン関連薬が点眼されていることが多いために,緑内障群と非緑内障群の剛性の違いを述べることはむずかしい.一方,緑内障の進行速度と関連するCCorvisCSTのパラメータを調べると,空気噴流が当たるとすぐ変形して,その後にすぐ元の形104あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018ForceSameA1andA1ProbableloadingandunloadinglinetimeforceaftercataractsurgeryxDisplacementSameA1andA1DefLargerA2thanA2Def図3超音波白内障手術前後のhysteresiscurveの違い青い線が術前,赤いドットが術後の予想曲線である.両者の差はCunloadingのときに顕著になる.A1time,A2time,A1Def,A2DefはCCorvisSTのパラメータである.C状に戻るような眼球は,緑内障の進行速度が速いことが予測されている11).文献1)YanagiM,KawasakiR,WangJJetal:Vascularriskfac-torsCinCglaucoma:aCreview.CClinCExpCOphthalmolC39:C252-258,C20112)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleCglaucomaCinCaCJapaneseCpopulation:theCTajimiCStudy.Ophthalmology113:1613-1917,C20063)GordonCMO,CBeiserCJA,CBrandtCJDCetCal:TheCOcularHypertensionTreatmentStudy:baselinefactorsthatpre-dicttheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOph-thalmol120:714-720,C20024)AlbonJ,PurslowPP,KarwatowskiWSetal:AgerelatedcomplianceCofCtheClaminaCcribrosaCinChumanCeyes.CBrCJOphthalmolC84:318-323,C20005)PallikarisIG,KymionisGD,GinisHSetal:Ocularrigidityinlivinghumaneyes.InvestOphthalmolVisSciC46:409-414,C20056)KiuchiY,KanekoM,MochizukiHetal:Cornealdisplace-mentduringtonometrywithanoncontacttonometer.CJpnJOphthalmolC56:273-279,C20127)NakakuraS,KiuchiY,KanekoMetal:Evaluationofcor-nealCdisplacementCusingChigh-speedCphotographyCatCtheCearlyCandClateCphasesCofCnoncontactCtonometry.CInvestCOphthalmolVisSciC54:2474-2482,C20138)IshiiCK,CSaitoCK,CKamedaCTCetCal:ElasticChysteresisCinChumanCeyesCisCanCage-dependentCvalue.CClinCExpCOph-thalmolC41:6-11,C20139)KatoCY,CNakakuraCS,CAsaokaCRCetCal:CataractCsurgeryCcausesCbiomechanicalCalterationsCtoCtheCeyeCdetectableCbyCCorvisSTtonometry.PLoSOneC12:e0171941,C201710)WuCN,CChenCY,CYuCXCetCal:ChangesCinCcornealCbiome-chanicalCpropertiesCafterClong-termCtopicalCprostaglandinCtherapy.PLoSOneC11:e0155527,C201611)MatsuuraCM,CHirasawaCK,CMurataCHCetCal:UsingCCor-visSTCtonometryCtoCassessCglaucomaCprogression.CPLoSCOneC12:e0176380,C2017(104)