糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニドLocalAdministrationofTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdema志村雅彦*はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)という病態が広く知られるようになって久しい.20世紀にはDMEは「糖尿病網膜症の中で黄斑部に漿液漏出が認められ視力が低下するもの」という程度の認識であったが,1990年代に光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が登場し,非侵襲的に浮腫の形態が簡便に把握できるようになってDMEの診断が確立され,この疾患に対する興味が急速に広がることになった.治療についても20世紀には光凝固と硝子体手術という,治療機序も明らかでないうえに一部の症例にしか効果がみられなかった侵襲的な外科的治療が主体であったものが,今世紀に入ると,DMEの病態に炎症とVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)発現が関与することが明らかとなって,抗炎症ステロイドと抗VEGF薬の局所投与という作用機序の明確な治療法が導入,臨床的な改善効果も認められたこともあり,DMEの診断と治療は今や長足の進歩を遂げたといえる.DMEに対する抗VEGF療法は,大規模研究によってその有効性と安全性が確認され,従来の治療に比較しても良好な視力予後が証明されたこともあり,現在はDMEに対する治療の第一選択となっていることは間違いない1).しかし,実臨床においては抗VEGF薬に抵抗する症例も少なからず存在しており,光凝固や硝子体手術,抗炎症ステロイドが未だに治療の大きな部分を占めているのも事実である.本稿ではDMEに対する治療のなかで,抗炎症ステロイドであるトリアムシノロンアセトニドの役割はどう変わっていったのか,およびその意義を考えてみる.IDMEの病態から治療を考えるDMEの病態は組織浮腫であるから,組織間質に漿液成分が貯留する条件を考えると理解しやすい(図1).漿液成分は網膜の異常血管からの漏出によってもたらされると考えられるので,その機序としては,高血糖による血管壁の機能的損傷からもたらされる血管透過性の亢進,新生血管からの漿液漏出,網膜毛細血管瘤からの漿液漏出などが考えられる.網膜は網膜内に存在する網膜血管と脈絡膜血管の二つから栄養供給を受けているので,いずれの血管のバリア機能の破綻によってもDMEが発症することになる.これに対し,血管透過性の亢進や新生血管の活動性は抗VEGF薬という特効薬があり,網膜毛細血管瘤はピンポイントの光凝固によって漏出を止めることが可能である.つまり,DMEの原因が異常血管からの漏出によるもののみであれば,抗VEGF薬とピンポイント光凝固によって治療ができることになるが,残念ながら現実はそうではない.漏出した血漿蛋白質の組織間質への貯留は,膠質浸透圧の上昇をきたたすことで漿液成分を滞留させるし,糖尿病そのものに起因する組織炎症に伴う漏出や,細胞膜での物質交換への機能的障害は細胞の膨化を引き起こす*MasahikoShimura:東京医科大学八王子医療センター眼科〔別刷請求先〕志村雅彦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(43)11991.黄斑部への水分供給過剰3.黄斑部での牽引網膜内新生血管硝子体牽引網膜毛細血管瘤血管内皮バリア機能破綻RPEバリア機能破綻2.黄斑部からの水分排出障害4.黄斑部での慢性炎症細胞膜機能異常血漿蛋白漏出図1糖尿病黄斑浮腫の原因可能性もある.また,炎症が継続すれば,黄斑部表面に器質変化が起こって網膜硝子体牽引が引き起こされ,牽引性の浮腫が惹起される可能性もある.このようにDMEは多因子疾患であり,それゆえ治療の適応選択についてさまざまな試みが行われているのである.IIDMEの治療は“抗VEGF薬ファースト”でよいのか前述したように,DMEの主たる原因は高血糖による網膜血管の損傷によって引き起こされる網膜組織への漏出であり,いわゆる血管透過性の亢進である.これに対する根本的な治療は網膜血管の損傷を修復することであるが,残念ながら現在有効な手立てはない.次善の策として血管透過性亢進を抑制しうる抗VEGF薬の投与が適応となる.抗VEGF薬は新生血管の活動性も抑制するので,新生血管からの漏出も抑制することになり,血管からの漏出のみがDMEの原因であれば抗VEGF薬だけで対応できるはずである.では,DMEの抗VEGF薬への反応性はどの程度であろうか?筆者らは68例68眼のDME患者に対し,浮腫が改善するまで連続的に抗VEGF薬を最長6カ月投与したところ,実に24眼(35.8%)が初回の投与で浮腫が消退する一方,6回投与しても浮腫が改善しなかった症例が12眼(17.9%)あった2).これはDMEの病態が血管透過性の亢進だけではないことを裏づけるものである.この研究では抗VEGF薬に対する反応が良好な症例は抵抗症例に比べて,治療前の前房水のVEGFや炎症性サイトカイン濃度が有意に高値であったことが判明したが,視力や浮腫といった臨床パラメータからは有意差を見いだせなかった.このように抗VEGF薬に対する反応性がさまざまであるということは,逆にいえば「抗VEGF薬に抵抗する症例に対する治療」というアンメットニーズが存在するという証明でもある.このアンメットニーズに対する回答の一つとして抗炎症ステロイド治療があると考えてよい.IIIDMEの治療に抗炎症ステロイド?DMEの病態の一つに全身への慢性炎症による組織浮腫があることは述べた.炎症抑制といえば抗炎症ステロイドということになるが,糖尿病患者に抗炎症ステロイドを投与する場合は,常に血糖上昇を引き起こす可能性を考慮しなくてはならない.もちろん,全身投与は基本的には禁忌であることはいうまでもない.眼科領域で使われる抗炎症ステロイドは顆粒状のトリアムシノロンア1200あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(44)a.DME全症例b.偽水晶体眼のDME平均視力改善(letterscore)11004812162024283236404448525660646872768084889296100104048121620242832364044485256606468727680848892961001040診療経過(week)診療経過(week)平均視力改善(letterscore)111098765432■:ranibizumab+deferredlaser:ranibizumab+promptlaser◆:triamcinolone+promptlaser●:sham+promptlaser図2糖尿病黄斑浮腫への治療別視力改善(文献C1より改変引用)硝子体注射角膜輪部3.5mmより刺入し,薬液投与投与翌日投与1週間後投与1カ月後図3トリアムシノロンアセトニドの硝子体内投与図4トリアムシノロンアセトニドのTenon.下投与a:スプリング剪刀を用いて結膜に切開を入れ,b:Tenon.を捌いて強膜を露出させ,Cc:21GのCTenon.下投与針を,強膜表面に沿わせるように刺入する.浮腫軽減率a.スポンジ状浮腫b..胞様浮腫c.漿液性.離(%)31.0±15.9%(n=56)(%)40.7±14.2%(n=39)(%)24.3±14.8%(n=31)6040200051015200510152005101520糖尿病歴(年)糖尿病歴(年)糖尿病歴(年)図5糖尿病黄斑浮腫への抗炎症ステロイド治療糖尿病黄斑浮腫のタイプ別に,抗炎症ステロイド硝子体内投与の有効性を検討した.と激増しているのに対して,常に一定の割合で選択されていることがわかる.つまり,DMEの治療において,抗CVEGF薬の普及は,抗炎症ステロイドの選択にはあまり影響を及ぼしていないのである.これは抗炎症ステロイドが抗CVEGF薬と併用されていることを意味するものであり,今後も抗CVEGF薬と抗炎症ステロイドの併用治療が選択されている可能性がある.さて,抗CVEGF薬と抗炎症ステロイドの併用治療については,いくつかの報告があるが,ともに硝子体投与を行った場合には,抗CVEGF薬の単独投与と比較して,有意な予後をもたらすものではないことが示されている10).これは抗炎症ステロイドの硝子体内投与の合併症である眼圧上昇や白内障進行などが影響している可能性を否定できない.そこで筆者らは抗炎症ステロイドのTenon.下投与を定期的に投与することで,DMEの活動性を抑制し,その結果,抗CVEGF療法の有効性を高める可能性について検証してみた.20名の両眼性のDME40眼を対象とし,抗CVEGF薬による治療を行う際に,対象眼にのみC3カ月ごとにトリアムシノロンアセトニドのCTenon.下投与をC4回施行し,非対象眼(対側眼)とのC1年間の視力と浮腫の予後を比較検討したものである.なお,抗CVEGF薬の投与基準は浮腫の高さ(OCTによるCETDRSmapで中心C1Cmm円内がC300Cμm以上)によって決定した.この結果,併用療法を施行した眼では視力,浮腫ともに変動が少なく,6カ月以降で有意に改善がみられている.また,眼圧については,観察期間が長くなるにつれて上昇傾向にあることも確認された11).おわりにDMEに対する抗炎症ステロイド局所投与は,浮腫軽減効果や視力改善効果は証明されているものの,現時点では抗CVEGF薬の代替療法,補足療法であることは否めない.一方で抗炎症ステロイドにしか反応しないDMEも存在することから,DMEに対する診断をもう少し詳細に行う必要があるだろう.また,糖尿病という全身疾患が慢性炎症であることから,局所での抗炎症ステロイド治療の重要性は今後も失われることはないと思われる.もっとも抗炎症ステロイドは「抗炎症効果」だ(49)けではなく,代謝亢進や活性酸素誘導など他の効果を有しており,これらがCDMEに与える影響についても検討しなければならないだろう.文献1)TheCDiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchCNetwork:CRandomizedCtrialCevaluatingCranibizumabCplusCpromptCorCdeferredClaserCorCtriamcinoloneCplusCpromptClaserCforCdia-beticCmacularCedema.COphthalmologyC117:1064-1077,C20102)ShimuraM,YasudaK,MotohashiRetal:Aqueouscyto-kineCandCgrowthCfactorClevelsCindicateCresponseCtoCranibi-zumabCforCdiabeticCmacularCoedema.CBrCJCOphthalmolC101:1518-1523,C20173)TaoCY,CJonasCJB:IntravitrealCtriamcinolone.COphthalmo-logicaC225:1-20,C20114)ByunCYS,CParkCYH:ComplicationsCandCsafetyCpro.lesCofCposteriorCsubtenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonide.CJOculPhrmacolTher25:159-162,C20095)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:Panretinalpho-tocoagulationCinducesCpro-in.ammatoryCcytokinesCandCmacularthickeninginhigh-riskproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC247:1617-1624,C20096)QiPH,ShengB,WeiSQetal:Intravitrealversusposteri-orCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCinjectionCforCdiabeticmacularCedema:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CCurrEyeResC37:1136-1147,C20127)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:VisualoutcomeafterintravitrealtriamcinoloneacetonidedependsonopticcoherenceCtomographicCpatternsCinCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC31:748-754,C20118)ShuklaD,BeheraUC,ChakrabortyUDetal:Serousmac-ularCdetachmentCasCaCpredictorCofCresolutionCofCmacularCedemaCwithCintravitrealCtriamcinoloneCinjection.COphthal-micSurgCLasersImagingC40:115-119,C20099)ShimuraCM,CYasudaCK,CYasudaCMCetCal:VisualCoutcomeCafterCintravitrealCbevacizumabCdependsConCtheCopticalCcoherenceCtomographicCpatternsCofCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC33:740-747,C201310)Riazi-EsfahaniCM,CRiazi-EsfahaniCH,CAhmadrajiCA:Intra-vitrealCbevacizumabCaloneCorCcombinedCwithC1CmgCtriam-cinoloneindiabeticmacularedema:arandomizedclinicaltrial.IntOphthalmolC38:585-598,C201811)ShimuraM,YasudaK,MinezakiTetal:ReductionofthefrequencyCofCintravitrealCbevacizumabCbyCposteriorCsub-tenoninjectionoftriamcinoloneacetonideinpatientswithdi.useCdiabeticCmacularCedema.CJpnCJCOphthalmorlC60:C401-407,C2016あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018C1205