Pachychoroid関連疾患Pachychoroid-RelatedDiseases大音壮太郎*はじめにPachychoroidneovasculopathyは新しい疾患概念であり,その診断基準や疫学はまだ確立していない.しかし,pachychoroidneovasculopathyと滲出型加齢黄斑変性(neovascularage-relatedmaculardegeneration:neovascularAMDもしくはwetage-relatedmaculardegeneration:wetAMD)との関係性はアジア人においてとくに重要であると考えられ,最近のホットトピックとなっている1).本稿では,“pachychoroid”とよばれる新しい考え方について紹介し,現在までに報告されている研究結果について解説する.I疾患概念と歴史Pachychoroidneovasculopathyは,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)あるいはpachychoroidpigmentepitheliopathy(PPE)に続発して生じた脈絡膜新生血管(choroidalneovascular-ization:CNV)を有する疾患であり,2015年にFreundらによって報告された2).なぜこの概念が重要になるのかは,AMD・ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)・CSCの研究における歴史に密接にかかわっている.これまでの研究では,neovascularAMDの表現型がアジア人と欧米人で大きく異なることが指摘されている.たとえば,欧米人のAMDでは高頻度にみられる軟性ドルーゼンが,アジア人のAMDでは必ずしも存在しない.また,欧米人のneovascularAMDではPCVの頻度は高くないが,アジア人のneovascularAMDではPCVが約半数を占める.欧米人ではAMDは女性に多い疾患であるが,日本人では男性に多い.こうした表現型の違いは,民族差だけでは説明が困難であり,疾患概念そのものを見直す必要がある.PCVにおいてCSCの既往をもつ症例があるということは古くから指摘されている.また,PCV・CSCとも脈絡膜が厚いという共通点をもつため,PCVとCSCの関連性について調べられてきた.ところが,従来CSCはCNVを生じないと考えられてきたため,「ドルーゼンがなく,脈絡膜が厚く,CSCの既往をもつCNV症例」は,「CSCから生じたCNV」ではなく,「やや特殊なneovascularAMD・PCV」という位置づけで解析が行われてきた.例としては,AMDやPCVを脈絡膜透過性亢進所見の有無で分類して解析した報告や,脈絡膜厚とAMD治療効果との関連を検討した報告などがあげられる3~5).近年,Freundらのグループを中心として,AMD・PCV・CSCの疾患概念を再定義しようとする試みが行われている.彼らは2012年,長期の経過でCSCにもtype1CNVが生じることを報告したほか6),2013年,CSCと同様の特徴をもちながら,既往も含め漿液性網膜.離を認めない症例をpachychoroidpigmentepithe-liopathy(PPE)と命名した(図1)7).さらに,2015年にはPPEから生じたと考えられるCNV症例をpachy-*SotaroOoto:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕大音壮太郎:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(41)1679図1Pachychoroidpigmentepi-theliopathy症例(79歳,男性)a:眼底写真.ドルーゼンはみられない.色調は全体的にややオレンジがかっており,脈絡膜血管が不明瞭で,脈絡膜が厚いことを示唆する.b:眼底自発蛍光.軽度の低蛍光がみられ,網膜色素上皮異常が認められる().漿液性網膜.離の既往を示唆する過蛍光所見はない.c:スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT).深部強調法(EDI法)にて脈絡膜を可視化している.脈絡膜が厚く(),脈絡膜中大血管が拡張している(*).d:FA/IA早期相.e:同後期相.複数箇所で過蛍光がリング状に拡大しており,脈絡膜血管透過性亢進所見を示す().(文献1より改変転載)図2Pachychoroidneovasculopathy症例(42歳,男性)a:眼底写真.出血性網膜色素上皮.離とポリープ状病巣があり,周囲に漿液性網膜.離を認める.b:眼底自発蛍光.病巣部位から離れた箇所に,数カ所の網膜色素上皮異常所見がみられる().c:SD-OCT(通常スキャン).網膜色素上皮.離・ポリープ状病巣を認める(*).d:SD-OCT(EDI).脈絡膜が厚く,脈絡膜血管が拡張していることがわかる().e:FA/IA早期相.f:同後期相.ポリープ状病巣を認める().複数箇所でリング状に拡大する過蛍光がみられ,脈絡膜透過性亢進所見が存在している().(文献1より改変転載)echoroidCneovasculopathyとして報告している(図2)2).このような症例がどの程度の頻度で存在するかに関しては言及されていないが,pachychoroidCneovasculopathyの報告がC3例C3眼のCcasereportであったことを考えると,欧米人での頻度は高くないことが推察される.これは,日本人でみられるような典型的なCCSCが欧米人で少ないことを考えると自然であろう.筆者らは日本人におけるCpachychoroidCneovasculopa-thyの頻度を調べ,neovascularAMDとの相違について比較した8).この研究で,pachychoroidCneovasculop-athyはCneovascularCAMDの約C1/4程度の頻度で認められ,発症年齢・遺伝的背景が異なることが明らかとなった(詳細については第C4項に記述する).また,前房水中のCVEGF(vascularCendothelialCgrowthCfactor)濃度は,pachychoroidCneovasculopathyとCneovascularAMDで優位に異なっていた(pachychoroidCneovascu-lopathyで低値)9).さらにドルーゼンを認めずCpachy-choroidの特徴を有する地図状萎縮症例をpachychoroidgeographicCatrophy(GA)と定義したところ,従来からのCdryCAMDの約C1/4程度の頻度で認められ,同様に発症年齢や病変サイズ,遺伝的背景が異なることが明らかとなった(詳細は第C5項に記載)10).厚い脈絡膜を有するCpachychoroidCneovasculopathy・pachychoroidGAはCneovascularAMD・dryAMDと類似しているため,過去の研究ではCAMDとして扱われてきたと思われる.しかし,pachychoroidCneovasculopathy・pachy-choroidCGAはCneovascularCAMD・dryCAMDと表現型・遺伝型とも異なり,CNVやCGAの発生過程も異なる可能性があるため,区別して考えるべきである.このような症例が低くない頻度でCAMDに混ざっていたという事実は重要であり,アジア人におけるCAMD表現型の多様性や,欧米人との表現型の違いがこの事実に起因する可能性がある.今後診断基準が確立されていくことで,AMDとCpachychoroidCneovasculopathy・pachy-choroidCGAの線引きがより鮮明になり,理解が深まっていくと思われる.CII診断現在のところCpachychoroidCneovasculopathy・pachychoroidCGAの明確な診断基準は存在しないが,特徴的な所見は複数あげられている.Freundらの報告で示された特徴的所見と筆者らの行った研究での適格基準をあげ,現在提案している最新の診断基準について記載する.C1.ドルーゼンPachychoroidCneovasculopathy・pachychoroidCGAは,neovascularAMD・dryAMDと異なりドルーゼンを介さない機序で発症すると考えられる.ドルーゼンのないCneovascularAMDはアジアからの報告では数十パーセントの割合で存在するとされるが,欧米にはほとんど存在しない.こういった症例の大部分は,本来CneoC-vascularAMDではなくCpachychoroidneovasculopathyであった可能性がある.筆者らの報告では,「両眼とも黄斑部にCAREDSでのカテゴリー1〔noAMD:ドルーゼンがない,もしくは少量の硬性ドルーゼン(63Cmm未満)のみ〕」をCpachychoroidCneovasculopathy・pachy-choroidGAの適格基準とした.C2.脈絡膜厚厚い脈絡膜は,診断に重要な所見の一つである.Freundらのオリジナルの報告でCPPEとされた症例の中心窩下脈絡膜厚は,231~625Cμmであった.これをもとに筆者らの研究でのCpachychoroidCneovasculopa-thyの適格基準は,「両眼ともC200Cμm以上の中心窩下脈絡膜厚」とした8).ただし,脈絡膜厚は年齢・眼軸長との関連が大きい点や,脈絡膜厚が正規分布してかつ個体差が大きいことを考えると,特定のカットオフ値を設定するのは適当ではない.また,脈絡膜が肥厚していなくても,拡張した脈絡膜血管(pachyvessel)を認める部位には色素上皮異常・CNVが起こりうるとされている.筆者らの最新の診断基準では,脈絡膜厚のカットオフ値を設けず,pachychoroidの特徴を有するものとしている10).Pachychoroidの特徴とは,眼底で脈絡膜血管の透見性低下,光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),インドシアニングリーン蛍光造影(indo-cyanineCgreenCangiography:IA)で脈絡膜血管拡張,IAで脈絡膜血管透過性亢進である.1682あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(44)図3脈絡膜血管透過性亢進所見脈絡膜血管透過性亢進所見の典型例.本症例ではCIA早期から脈絡膜透過性亢進所見がみられはじめ,時間とともにリング状に拡大していく.通常は,開始C10~15分にかけてリング状に過蛍光拡大がみられることが多い.Ca:0分47秒.Cb:2分52秒.Cc:9分57秒.Cd:15分C56秒.(文献C1より改変転載)~=adefbghij図4CSCの既往をもつpachychoroidneovasculopathy症例(50歳,男性)a,d:初診時.漿液性網膜.離を認め,ドルーゼンを認めない.蛍光眼底造影で噴出状の蛍光漏出を認め,CNVを示唆する所見はない.CSCの診断で経過観察となった.Ce:4カ月後,漿液性網膜.離は残存している.Cb,f:10カ月後.FA/IAでCCNVは明らかでないが,OCTでは網膜色素上皮がやや隆起している.Cg:2年半後.漿液性網膜.離は自然消失した.Ch:4年半後.Ci:6年半後.網膜色素上皮が隆起し,内部に反射を認め,CNVの発生を示唆する(矢印).c,j:7年後.FA/IAでCCNVを認める().OCTでCCNVはより明らかである().全過程において,ドルーゼンはみられない.(文献C8より転載)d図6Pachychoroidpigmentepitheliopathy(図6の症例の僚眼)a:カラー眼底写真.ドルーゼンを認めない.b:眼底自発蛍光にて顆粒状の低蛍光を示し,網膜色素上皮障害を認める.c:EDI-OCT.脈絡膜は厚く,脈絡膜血管は拡張している.は脈絡膜強膜境界面を示す.(文献C8より転載)C=3.4×10.14).IAでの脈絡膜血管透過性亢進所見は53.8%,網膜色素上皮異常はC89.7%とCpachychoroidneovasculopathyで有意に高率にみられたが,これらの所見は一部のCneovascularCAMD症例でも認められた.PachychoroidCneovasculopathyにポリープ状病巣は56.4%に認められ,neovascularAMDより多い傾向にあった.AMDの疾患感受性遺伝子として重要なCARMS2A69,CCFHCI62V多型におけるアレル頻度は,pachy-choroidCneovasculopathyとCneovascularCAMDで有意な差が認められた.ARMS2CA69S多型のCTアレル(リスクアレル)頻度はCpachychoroidCneovasculopathyで51.3%,neovascularCAMDでC64.8%であった(p=0.029).CFHCI62V多型のCAアレル頻度はCneovascularAMDでC25.5%であり,既報のCAMDにおける頻度(27%)11)とほぼ同等であったのに対し,pachchoridCneo-vasculopathyではC41.0%と,既報の正常人における頻度(40.5%)11)とほぼ一致していた(p=0.013).さらに欧米人・アジア人で共通してCAMD疾患感受性遺伝子としてあげられているC11の遺伝子を用いてCgeneticCriskscoreを定めたところ,pachychoroidCneovasculopathyとCneovascularAMDの間に有意な差を認めた(p=3.8C×10.3).これらの結果は,pachychoroidCneovasculopa-thyとCneovascularCAMDが遺伝学的に異なった疾患群であることを示唆する.このように,pachychoroidCneovasculopathyは従来のCneovascularAMDの約C1/4に認められた.本研究ではCAMDとの比較を行うためにCpachychoroidCneovas-culopathyの対象をC50歳以上としたが,40歳代にも少なからず存在するため,平均年齢はCneovascularAMDよりさらに若いことが考えられる.CSCの好発年齢が40~50歳であり,ドルーゼンの発症は通常C50~60歳以降であることを考えると,pachychoroidCneovasculopa-thyの発症年齢がCneovasucularCAMDより若めであることは理にかなっている.実臨床で,ときにC40歳代で硝子体出血を起こすようなCPCV症例を経験してきたが,このような症例はCpachychoroidCneovasculopathyであった可能性が高い.CIVPachychoroidGAと加齢黄斑変性筆者らはCpachychoroidCGAとCAMDの関係を調べるため,drusen-relatedCGA(dryCAMD)もしくはCpachy-choroidGAと診断された連続C92症例を対象として,臨床的・遺伝学的特徴について比較検討を行った10).全症例C92例のうち,21例(22.8%)がCpachychoroidGAと診断され(図7~9),71例(77.2%)がCdrusen-relatedCGAと診断された.PachychoroidCGA症例はdrusen-relatedGA症例に比べ,有意に年齢が若く(70.5歳vs78.5歳,p<0.001),病変サイズが小さく(0.9CmmC2Cvs4.0Cmm2,年齢調整後Cp=0.001),中心窩下脈絡膜厚が大きかった(353mmCvsC175mm,年齢調整後p=0.009).IAでの脈絡膜血管透過性亢進所見はC47.4%とpachychoroidCGAで有意に高率にみられた.Pseudo-drusenはCdrusen-relatedCGAのC56.3%にみられたが,pachychoroidGA症例では全例において認めなかった.病変の拡大率は,pachychoroidCGAとCdrusen-relatedGAで差を認めず,経過観察中に全例拡大した.AMDの疾患感受性遺伝子として重要なCARMS2CA69多型におけるアレル頻度は,pachychoroidGAとCdru-sen-relaetdCGAで有意な差が認められた.ARMS2A69S多型のCTアレル(リスクアレル)頻度はCpachy-choroidCGAでC31.6%,drusen-relatedCGAでC68.8%であった(p<0.001).PachchoridCGAでのリスクアレル頻度は,正常人における頻度(36.5%)程度である.さらに欧米人・アジア人で共通してCAMD疾患感受性遺伝子としてあげられているC11の遺伝子を用いてCgeneticriskCscoreを定めたところ,pachychoroidCGAとCdru-sen-relatedCGAの間に有意な差を認めた(p=0.001).これらの結果は,pachychoroidCGAとCdrusen-relatedGAが遺伝学的に異なった疾患群であることを示唆する.このように,pachychoroidCGAは従来のCdryCAMDの約C1/4に認められた.PachychoroidCGAの病変サイズが小さい理由としては,PPEの病変サイズが一般的に小さい(図1)のに対し,ドルーゼンは黄斑部全体に及ぶことがあり,ドルーゼンの退縮から形成されるdrusen-relatedGAは大きくなりやすいことがあげられ1686あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(48)ab図7PachychoroidGA症例(60歳,男性.矯正視力0.5)a,b:カラー眼底写真では両眼ともドルーゼンを認めず,脈絡膜血管の透見性が低下している.右眼にCGAを認める.Cc,d:眼底自発蛍光ではCGAに一致して自発蛍光の低下を認め,境界部位に過蛍光を認める.Ce,f:OCTでは拡張した脈絡膜血管,圧排された脈絡膜毛細血管を認める.右眼では,GA領域の外顆粒層は菲薄化し,エリプソイドとCRPEのバンドが欠損している.中心窩下脈絡膜厚は右眼555mm,左眼521mm.(文献C10より転載)ef図8PachychoroidGA4症例(文献10より転載)a~c:82歳,男性.矯正視力C0.8.Cd~f:66歳,男性.矯正視力C0.5.Cg~i:82歳,男性.矯正視力C1.0.Cj,k:51歳,男性.矯正視力C0.5.全症例とも,眼底写真でCGAを認め,脈絡膜血管の透見性が低下し,ドルーゼンを認めない.眼底自発蛍光ではCGA領域で低蛍光.OCTは脈絡膜血管の拡張を認め,GA領域はCRPE欠損のため深部への信号強度が増加している.図9PachychoroidGAの進行(70歳,男性)a,c:初診時の眼底写真と眼底自発蛍光.矯正視力はC0.8.Cb,d:5年後の眼底写真と眼底自発蛍光.矯正視力はC0.6.GAは全方向に拡大している.(文献C10より転載)C-