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屈折矯正手術

2018年1月31日 水曜日

屈折矯正手術RefractiveSurgery:Up-to-DateLiteratureReview小橋英長*坪田一男*はじめに近視,遠視,乱視などの屈折異常は,矯正視力に異常がなければ治療を要する疾患ではないという考えから以前は治療介入が軽視されてきた背景がある.しかし,高度近視はわが国の失明原因の第C4位であり,屈折異常に伴うCqualityofvision(QOV)の低下を防ぐ必要がある.近年ClaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK),photore-fractiveCkeratectomy(PRK),有水晶体眼内レンズ(phakicCintraocularClens:phakicCIOL)に代表される屈折矯正手術は,わが国においても次第に普及しつつある.海外に比べ,わが国ではエキシマレーザーの承認が遅れたが,2000年にCPRKへの使用が承認されて以来,2000年代後半CLASIK手術件数が爆発的に増えていった.近年では,PRK後C18年,LASIK後C15年の良好な臨床成績が報告されている1,2).屈折矯正手術後に眼鏡やコンタクトレンズから開放された幸せは,多くの眼科医が想像する以上に大きい.しかし,わが国ではC2013年末に消費者庁から安易に手術を受けることを避けるよう注意喚起がなされた結果,屈折矯正手術に否定的な意見が広がった.また,屈折矯正手術の実際は一般の眼科医に十分に理解されているとは言いがたい.一方で,近年ライフスタイルの変化や社会的な知識の普及に伴い,中高年者においても高いCQOVや裸眼視機能向上のニーズが高まってきている.本稿では,屈折矯正手術の最新情報をアップデートしながら,老視矯正にも言及する.屈折矯正手術の現状を理解することは,情報が氾濫している現代において手術に対する誤解をなくし,真実の目を養うだけでなく,今後増加し続ける術後患者の転帰を考えるうえでも役立つと考えられる.CI角膜屈折矯正手術屈折矯正手術には,角膜を平坦化させ屈折力を変化させる方法と,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を眼内に挿入する方法がある(図1).角膜屈折矯正手術は1885年にCSchiotzが白内障術後の残余乱視に角膜切開によって矯正を行ったのが初めてとされている.わが国ではC1939年に角膜前後面放射状切開(佐藤式Cradialkeratotomy,以下CRK)が登場したが,水疱性角膜症を必発することから衰退した.1970年代には軽度~中等度近視に対してCRKが行われたが,角膜強度の低下や屈折値の日内変動を生じる問題があった.1980年代になりエキシマレーザーが開発され,PRK,LASIKが行われるようになり,以後今日に至るまで角膜屈折矯正手術の代表的術式となっている.C1.PRKPRKはCsurfaceCablationの代表的な方法である.現在,レーザーで上皮を除去する方法(trans-epithelialPRK)が通常行われている.フラップ作製に伴う合併症はないが,術後疼痛や視機能回復の遅延,角膜Chazeなどの特有の合併症が生じることがある.*HidenagaKobashi&*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕小橋長英:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)C11PRKLASIK角膜SMILEPiXLPhakicIOL眼内レンズRLE図1屈折矯正手術の種類大きく分けて角膜で矯正する方法と眼内レンズ挿入術による方法がある.PRK:photorefractiveCkeratectomy,LASIK:laserCinCsitukeratomileusis,SMILE:smallCincisionClenticuleCextraction,PiXL:photorefractiveCintrastromalCcross-linking,RLE:Crefractivelensexchange.Ca図2SMILEa:VisuMaxフェムトセカンドレーザシステム(CarlZeiss社製)Cb:角膜実質をレンチクルとして抜去して屈折矯正を行う.表1SMILEとLASIKの術式比較フラップ作製なしありアイトラッキングなしありドライアイC±+乱視矯正精度やや劣る良好高次収差増加C±+RegressionC±+図3PiXLMosaic(avedro社製)がトポガイドでCUVA照射を行う.ICL中央にC0.36Cmmの貫通孔付きのレンズ(ICLCKS-AquaPORT)が開発された14).レンズ中央の貫通孔を通しCICL-水晶体間の房水循環が改善されているため,ICLと水晶体の距離Cvaultへの注意は以前ほど必要とせず,lowCvault例においても白内障進行を認めない.従来と比べCICLサイズ選択に注意を払う必要はないであろう.通常の近視性乱視だけではなく,円錐角膜や白内障手術後の屈折誤差へのタッチアップとしても有効であり,適応拡大が期待される15,16).C2.Artisan.Arti.ex前房型はCPMMA製のCArtisanと,シリコーン製のArti.exが代表的である.挿入切開創としてCArti.exは3.2Cmmであるのに対しCArtisanはC6Cmm必要であり,縫合も要する.また,術後瞳孔ブロック発症予防として虹彩切除が必要である.筆者らはバイオレットライトの近視進行抑制に着目し,光学部の分光透過率の違いから,Arti.exのほうがCArtisanよりも術後の眼軸長の延長が抑制されることを報告した17).今後,屈折矯正手術後のCregressionの予防にバイオレットライトが重要な役割を果たすことが期待される.前房型CphakicIOLの術後合併症としては角膜内皮細胞減少があり,とくにレンズ先端での虹彩把持が弱い症例は角膜内皮減少に十分注意する.CIII老視矯正中高年者に対する屈折矯正手術としては老視矯正を考慮する必要があり,アプローチとしてCrefractiveClensexchange(RLE)と角膜内Cinlayの二つがある.C1.RefractivelensexchangeRLEは屈折矯正をおもな目的とした白内障手術を意味する.水晶体摘出に伴い調節力が喪失するため,適応対象は基本的にC50歳以上の強度近視や強度遠視などの屈折異常とする.現代では白内障手術の安全性や予測性が向上し,狙い通りの矯正が可能となったことでCRLEが注目されるようになった.術前に眼鏡装用者かコンタクトレンズ装用者かどうか,その度数は遠方,中間,近方,モノビジョンのどれなのか確認する必要がある.さらに術後CIOLの狙いをどのように選択するのかを,事前にシミュレーションしておくことが望ましい.RLEは内眼手術であり,白内障手術同様に確率は低いが,網膜.離や眼内炎のリスクがある.術前の調整力,高次収差,散乱など視機能評価を十分に行い総合的にCRLEの実施を判断する必要がある.RLEを成功させるうえで,輪部減張切開やトーリックCIOLの併施もポイントとなる.今後,白内障手術のなかでもCRLEとなる症例は増加すると考えられ,最新情報に注意を払う必要がある.C2.角膜内inlayフェムトセカンドレーザーの技術によって新しく登場した治療法として,ピンホール効果による人工瞳孔(KAMRA),角膜を急峻化させて多焦点性を確保するレンズ(RainDrop)がある.筆者は角膜内Cinlayによる老視矯正手術は,RLEが何らかの理由により選択できない場合には適応となるが,いくつかの理由から発展途上の手術と考える.一つ目はフェムトセカンドレーザーが必要であり,実施施設が限定されること.二つ目は効果の個人差が大きいため不確実性が大きいこと18).三つ目は内眼手術の際にCKAMRAの着色不透明部分が手術操作の障害となることが危惧されているからである19).これらの課題を克服できる角膜内Cinlayの改良を期待する.おわりにこのC10年間で,屈折矯正手術分野の大きな変化の一つはフェムトセカンドレーザーの登場により角膜手術の多様性を拡大したことである.それによりさまざまなアプローチで屈折矯正手術が可能となり,選択肢が増えた.また,phakicCIOLは,貫通孔付きタイプが開発され,周辺虹彩切除が必要なくなり,白内障の併発が予防されることが期待される.治療法それぞれの特徴を理解し,適切な治療選択を患者に提供することが今まで以上に重要である.不満足例や合併症については,その理由を深堀してサイエンスとして解決することも重要である.屈折矯正手術は長期成績を確認することで,有効性および安全性の高い術式だけが今後生き残るであろう.14あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(14)’–

角膜

2018年1月31日 水曜日

角膜Cornea:RecentAdvancesandFuturePerspectives福岡秀記*外園千恵*はじめに角膜は,生体内で数少ない透明性のある組織である.角膜は,外界の病原体が眼球内へ侵入するのを防ぐとともに,外界の情報である「光」から低波長の有害な紫外線などを吸収し,可視光を網膜へ伝達する機能を備えている.生体組織である角膜が透明性を維持するためには,角膜のみならず角膜に隣接する組織,たとえば眼球結膜や眼瞼結膜,眼瞼,瞬目機能,涙液,マイボーム腺や虹彩組織などが健常であることが重要であり,角膜は隣接する組織および環境のすべてに支えられていると考えられる(図1).つまり角膜は,エネルギー状態が高くエントロピー(乱雑さ)が増大する法則を考慮すると,いったん,上皮ステムセル(stemCcell)が疲弊した状態や涙液減少などの状態に陥って周辺組織が健常性を失い支えがなくなると,角膜自体も不安定になる危険性を秘めている.したがって,角膜疾患を治療するためには,角膜をサポートする隣接する組織の健常状態も考慮に入れて治療方針を立てる必要がある.ここでは,角膜の新しい診断法および治療法の流れや将来像について述べる.CI角膜の構造角膜は,角膜上皮,角膜実質,角膜内皮に大きく分類され,角膜上皮と角膜実質の間はCBowman層,角膜実質と角膜内皮の間にはCDescemet膜が存在している.ま角膜を支える図1角膜と隣接組織との関係角膜は隣接組織である眼球結膜や眼瞼結膜,眼瞼,瞬目機能,涙液,マイボーム腺や虹彩組織とその環境に支えられている.た,近年の報告によるとCDescemet膜前部,Descemet膜と角膜実質との間にCDuaC’sClayerという強靭な膜構造があり,角膜の形状の維持に重要なのではないかと考えられている1).C1.角膜上皮角膜上皮は非角化の重層上皮で,約C50Cμmの厚みがある.角膜上皮細胞は細胞生物学的にみると角膜上皮基底細胞がおもに増殖(X)し,角膜輪部から角膜中央に移動(Y)して角膜上皮表層から脱落(Z)する.ThoftとCFriendは,これらCXYZが正常状態では均衡を保つ(X+Y=Z)というCXYZ理論を提唱し,その後長く支*HidekiFukuoka&*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)C3XX図2XYZ理論細胞増殖(X)細胞移動(Y)細胞脱落(Z)が正常では均衡(X+Y=Z)を保っている.C図3走査型レーザー顕微鏡走査型レーザー顕微鏡CHRT-2(Ca)にロストック角膜モジュール(Cb)を装着し角膜に焦点を合わせることが可能である.Map-dot-.ngerprintCdystrophy患者の角膜基底膜部に丸い構造物(Cc)を認める.図4前眼部光干渉断層画像CASIA(TOMEY)により得られた画像角膜感染巣に角膜浮腫と角膜後面のプラークを認める.図5接触型マイクロスコープCellChekC(コーナン)の角膜内皮細胞画像鮮明でコントラストの高い画像が取得可能である.図6細菌性眼内炎の硝子体を用いたBroad.rangePCRの一例細菌に独自に保存されたCDNA領域C16Sを利用してプライマー設計している.目的であるC590bp付近にバンドを認める.aメンブレンフィルター上皮表面の一層のみ実質bバラバラな細胞ブラシ上皮実質図7インプレッションサイトロジーとブラッシュサイトロジーインプレッションサイトロジー(Ca)では最表層の一層の細胞が面状に採取されるのに対し,ブラッシュサイトロジー(b)では任意の深さまで採取されるが組織構造は破壊される.図8インプレッションサイトロジー免疫染色(角膜への結膜侵入が疑われた症例)サイトケラチンC4陽性(黄色)の扁平な上皮が得られた.免疫染色結果より侵入した組織が結膜であることがわかる(青色は核染色).ABCDE角膜上皮Bowman膜角膜実質Descemet膜角膜内皮図9角膜パーツ移植角膜の一部分のみ移植する方法である.A:角膜上皮/輪部移植,B:表層角膜移植,C:深層層状角膜移植,D:角膜内皮移植.E:全層角膜移植/人工角膜.C混濁部位を除去し光学的特性を改善する「光学的角膜移植」と,角膜感染巣の物理的除去あるいは角膜穿孔に用いて眼球形状の改善を目的とする「治療的角膜移植」がある.近年の医療の進歩により,透明なホスト組織を可能な限り温存するパーツ移植が現実として可能になってきた.今後の治療の方向性を考察すると,可能な限り移植されるドナー組織が最小になるような低侵襲の術式に変遷していくと考えられる.同時に角膜の安定に寄与する周辺組織の修復や,それを補う併用治療もこれまで以上に重要になるであろう.C1.全層角膜移植角膜移植の基本ともいうべき手術方法である.どの深さの混濁にも対応でき,白内障と同時手術ができるなどの利点があげられるが,構造上ドナー組織全層を移植する術法であり,持ち込む抗原量がもっとも多い.手術はホスト角膜とドナー角膜をマニュアルで縫合するため,高度の不正乱視が発生する.フェムトセカンドレーザー技術の進歩により,周辺部がある程度透明性がある場合にレーザーによりきれいな角膜切除面を作製することが可能となった.具体的にはジグザグ型,トップハット型,マッシュルーム型などのカット方法があり,従来の方法と比較して層間のアダプテーションの改善による縫合不全の減少,強度の上昇,術後乱視の減少が期待される.術後の慎重な経過観察を行っていても,一定の割合でさまざまな合併症をきたしてCfailedgraftとなる.その合併症としては,拒絶反応,続発緑内障,感染症,角膜内皮機能不全などがあげられる.近年の長期治療成績の報告によれば,原疾患により術後の成績が異なることが明らかになった.円錐角膜やCFuchs角膜ジストロフィなどでは良好な成績である一方,水疱性角膜症,角膜再移植例,角膜炎の順に成績が悪いことが明らかとなっている.また,Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などは手術禁忌とされている.そのような疾患別の成績を考慮し,以下に記述するパーツ移植が治療成績を改善する方法として期待されている.C2.パーツ移植角膜を角膜上皮,角膜実質,角膜内皮細胞層のパーツに分けて考え,障害が発生したパーツのみ移植を行う方法である.抗原となる移植するドナー片を最小にできることで拒絶反応のリスクの低減が期待できる.これには角膜上皮/輪部移植,表層角膜移植,深層層状角膜移植,角膜内皮移植,人工角膜などが存在する(図9).ここでは角膜上皮/輪部移植,角膜内皮移植,人工角膜に絞って記述する.Ca.角膜上皮.輪部移植化学外傷やCStevens-Johnson症候群などの幹細胞疲弊による上皮性の混濁に対して,角膜上皮細胞を移植する方法である.角膜上皮細胞には強い抗原性があることから,術後の拒絶反応を考慮して,アロジェニックな細胞の使用からオートジェニックな細胞を用いる流れがある.アロジェニックな細胞を用いた角膜上皮移植術は1994年頃から行われ,免疫抑制薬の使用状況によるが,経過良好な成績を得られることもある.オートジェニックな細胞を用いた移植として,培養自家口腔粘膜上皮シート移植4.6)の長期成績が比較的良好である.ただし,片眼性の病態には僚眼の角膜輪部組織から採取された裁断片を疾患眼に移植するCSLET(simplelimbalepithelialtransplantation)7)が注目されている.現在,体細胞由来胚性幹細胞(embryonicstemcells:ES)や人工多能性幹細胞(inducedpluripotentstemcells:iPS)から角膜上皮細胞に分化した細胞を作製することが試行されており,臨床試験へ進むことが期待されている.ただし,8あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(8)培養ヒト角膜内皮細胞移入療法などの革新的な手術法PKPDLEKDSAEKUltra-thinDMEKDSAEK角膜内皮細胞治療の新しい潮流図10角膜内皮移植の変遷と今後ドナー由来の実質組織が薄くしていく流れにあり,それに伴い良好な術後の矯正視力が得られてきている.PKP:PenetratingCkeratoplasty,DLEK:DeepClamellarCendothelialCkeratoplasty,DSAEK:Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty,DMEK:Descemetmembraneendothelialkeratoplasty.C’’

序説:眼科のあたらしい潮流

2018年1月31日 水曜日

眼科のあたらしい潮流NewErainOphthalmology木下茂*今回の特集は,平成C30年のお正月号にふさわしく「眼科のあたらしい潮流」と題して,眼科のほぼすべての分野の話題性ある内容を網羅してみた.短期間でまとめていただいた各分野の専門家の先生方に感謝する次第である.さて,われわれは,しばしば過去に起こった事実を紐解き,そこから未来に起こりえるであろうことを予測するというプロセスを用いることがある.そこで,眼科医療についてこれを行ってみたいと思う.過去C40年間のなかで眼科を大きく変えてきたものといえば,眼内レンズ,硝子体手術,屈折矯正手術,角膜内皮移植,さまざまな抗菌薬,ドライアイ,緑内障の点眼薬の開発,抗CVEGF薬,などである.いわゆる眼科におけるアンメットニーズを掘り起こしたものである.ここには多くの日本の眼科の先達が携わってきた.一方,現在形で発展しているものとしては,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),汎網膜眼底カメラ,mini-mallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS),角膜クロスリンキングなどがあげられる.今回の特集では,この現在から未来への橋渡し的技術などを各専門家にまとめていただいた.角膜領域はというと,前眼部COCTに代表される画像診断技術の進歩,角膜パーツ移植,とくに角膜内皮移植と角膜クロスリンキングという新しい治療法があげられている.角膜屈折矯正手術では,laserinsituCkeratomile-usis(LASIK)から発したCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)などの次世代屈折手術法,phakicCIOL,そして老視へのさまざまな対処法が取り上げられている.コンタクトレンズ領域では,日本での処方頻度が少ない遠近両用ソフトコンタクトレンズ,とくにデジタルデバイスに対応した低加入度数入りのレンズが解説されている.これは眼精疲労を防止する意味でも有用である.緑内障領域では,近未来を見据えた薬剤の投与方法として,大きな注目を集めている眼内・眼外ドラッグデリバリーシステムの開発を紹介していただいた.白内障手術はというと,フェムトセカンドレーザーによる白内障手術,術中ガイダンスシステムによる乱視矯正,そして多焦点眼内レンズに移行しそうである.滲出性加齢黄斑変性では,reactive法かCproac-tive法かを考慮しながらの抗CVEGF治療,さらには光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)C1が全盛期を迎えている.糖尿病網膜症では,内科的治療に大きな進歩があり,かつ抗CVEGF薬の使用が認められたことから,重症化を阻止することが可能になってきた.病的近視では,後部ぶどう腫の診断,近視性黄斑症の定義と診断が明確になり,いよいよ病態解明が間近になってきたようである.Surgicalretinaでも大きな進歩がなされている.たとえば,極小切開硝子体手術,3Dモニターによる硝子体手術(heads-upsurgery),そして黄斑円孔などへの網膜自家移植術である.ぶどう膜炎や強膜炎といった眼炎症性疾患の診断には,眼内液のCPCR(polymerasechainreaction),そしてCOCTが威力を発揮し,治療では免疫抑制薬とともにCTNF(tumorCnecrosisCfactor)阻害薬が有用になってきた.神経眼科領域では,視神経炎とCLeber遺伝性視神経症の病態についての理解が大いに進んできている.そして,最後に感染症では,multipleCPCRによる診断と,新しい治療の試みが示されている.このように,眼科のそれぞれの分野で,非常に大きな進歩がもたらされてきているのである.さて,前述のような学術的内容ではないが,米国,欧州そしてアジアへの海外出張を通して個人的に強く感じていることがある.それは各国における医療技術の発展のスピードの違い,そしてこのことへの国際企業の強い関与と各国の医療行政の規制についてである.あるいは,米国の絶対的優位性がやや脆弱化し,欧州の地位が相対的に向上し,そしてアジア,とくにCASEAN諸国が飛躍的に進歩していることである.海外出張や海外視察は地政学的な三次元的移動にもかかわらず,われわれが過去に経験してきた医療の進歩の過程をみる四次元的な移動にもつながって見えてくる.最近では,日本の眼科医にとっては,どの地域に行っても後ろ向き移動,すなわち「自己の過去の経験に照らし合わせる」体験ばかりで,前向き移動,すなわち,「ここから未来が見えてくる」ような体験は減ってきた.日本の眼科医療が熟成し,欧米社会のそれと肩を並べているからかもしれない.他方,アジア諸国における発展のスピードは恐ろしいほどの早さである.去年と今年とでは別世界と感じるようなことが日常茶飯事である.これは,未だアジアのトップ医療機関だけのことであるといえばそれまでであるが,われわれと近いレベルの眼科医療が行われているところが,シンガポールのみならず,バンコク,ホーチミン,マニラ,ニューデリー,ハイデラバードなどにも散見されるようになってきた.とくにアジアの若手眼科医の熱意と努力には敬意を払わなければならない.かつての日本人がハングリー精神をもって前のめりになって海外に出向き,努力していたのと同じ姿を目のあたりにするからである.日本の眼科医療は間違いなく成熟期を迎えており,国際化にもある程度成功しているように思われる.ただし,世界最先端の医療を日常的に行えているかというと,必ずしもそうではない.なぜなら,そこに医療保険制度という別次元の制約が諸外国以上にかかっているからである.世界における最先端医療と未来の医療に常に眼を向けながら診療を行うことは,日本の眼科が今後を生き抜くためにきわめて重要なことと思われる.2あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(2)

糖尿病に関する視能訓練士の意識,知識調査

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1784.1789,2017c糖尿病に関する視能訓練士の意識,知識調査齊藤瑞希*1上野恵美*1黒田有里*1荒井佳子*1吉崎美香*1山下英俊*3堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3山下内科/糖尿病クリニックCSurveysofOrthoptistsinanEyeHospitalRegardingAwarenessandKnowledgeofDiabetesMellitusMizukiSaitou1),EmiUeno1),YuriKuroda1),KeikoArai1),MikaYoshizaki1),HidetoshiYamashita3),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)YamashitaInternalDiabetesMedicalClinic目的:視能訓練士の糖尿病に関する意識をアンケートにより,知識を試験により調査した.対象および方法:対象は井上眼科グループ視能訓練士C49名で,経験年数C5年未満をC1群,5年以上をC2群とし,糖尿病に対する意識調査をアンケートにより,また知識調査を試験により実施した.結果:意識調査アンケートの結果を点数化したところ,1群はC7.9±1.3点(平均±標準偏差),2群はC8.5±1.3点で有意差はなかった(p=0.15).知識調査の正答率はC1群でC66.6%,2群でC67.0%と差はみられなかった.試験問題の分野別正答率はC1群,2群とも糖尿病の合併症の分野がもっとも高く,日常生活の分野がもっとも低い結果であった.2群では意識と知識に中等度の相関がみられた.結論:視能訓練士に対する糖尿病教育が必要な分野は日常生活であることが明らかとなった.CPurpose:Tosurveyorthoptistsinaneyehospitalregardingtheirpresentawarenessandknowledgeofdiabe-tesCmellitus.CSubjectsandMethods:ACtotalCofC49CorthoptistsCworkingCatCourCfacilityCwereCdividedCintoCtwogroups:Group1:27individualswithlessthan5years’experience,andGroup2:22with5years’ormoreexperi-ence.CTheCsubjectsCwereCaskedCtoCanswerCtheCquestionnaireConCawarenessCregardingCdiabetesCmellitus,CandCthenCundergoCaCbriefCexaminationConCknowledgeCofCdiabetes.CTheCresultsCofCeachCquestionnaireCwereCscoredCintoC3Cgrades.CTheCexaminationCconsistedCofC50Cquestions,CwithC2CpointsCgivenCforCeachCcorrectCanswer.CResults:TheawarenessscoresinGroup1were7.9±1.3(mean±SD)andthoseinGroup2were8.5±1.3.Therewasnostatisti-callysigni.cantdi.erencebetweenthegroups(p=0.15).Prevalenceofcorrectexaminationanswerswas66.6%CinGroup1and67.0%inGroup2;thedi.erencewasnotstatisticallysigni.cant.Inbothgroups,prevalenceofcor-rectanswerswashighestforquestionsondiabeticcomplicationsandlowestforquestionsondailylifecare.Moder-atecorrelationwasobservedbetweenawarenessandknowledgeinGroup2(Pearson,r=0.51).CConclusion:Thepresentstudysuggeststhatorthoptistsdeepentheirknowledgeregardingdailylifecareofdiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(12):1784.1789,C2017〕Keywords:糖尿病,視能訓練士,知識調査,意識調査.diabetesmellitus,orthoptists,knowledgeinvestigation,awarenessinvestigation.Cはじめに眼科には全身疾患に起因し,眼症状が発症する疾患が多く存在する.それらの疾患の代表的なものの一つに糖尿病があげられる.厚生労働省の国民健康・栄養調査によると,日本における糖尿病患者はC950万人と急激に増加しており1),西葛西・井上眼科病院(以下,当院)にも糖尿病を有する患者が多数来院する.当院では診察の前に検査を行うことが多く,来院した患者の大半がはじめに視能訓練士と接する.糖尿病は病状により,眼症状の変化,体調の急変が起こる病気であるため,視能訓練士は患者の様子に気を配り,状態に合わせた正しい判断をする必要がある.また,糖尿病療養指導士の役割・機能〔別刷請求先〕齊藤瑞希:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:MizukiSaito,M.D.,Ph.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14,Nishikasai,Edogawa,Tokyo134-0088,CJAPAN1784(146)によると,初診時にできる限り多くの患者情報を得ることが,治療方針の決定や療養指導計画に大きな影響力をもつとあることから2),来院後,患者にはじめに接する視能訓練士は糖尿病についての正しい知識が必要であると考えられる.これまでの看護師を対象にした富永らの研究では,質問表を用いて糖尿病看護に関する意識調査を行った結果,経験年数C10年以上とC10年未満では,いずれのカテゴリーにおいても平均点に有意差を認めなかったと報告されているが3),これまで視能訓練士を対象にした糖尿病に対する意識調査や知識調査を考察した報告はない.そこで当院の視能訓練士が糖尿病についてどの程度の意識を有しているかを知るためにアンケートを,また糖尿病の知識についての試験を実施し,当院視能訓練士の糖尿病についての意識・知識の実情を知り,糖尿病に対する意識の向上ならびに知識の習得と今後の教育に役立てることを目的とした.CI対象および方法1.対象対象は井上眼科グループの視能訓練士C49名(男性C8名,女性C41名)であった.49名を業務の大部分が自立してでき,教育にも携わっているかどうかを基準とし,経験年数C5年未満とC5年以上に分けた.経験年数C5年未満(平均経験年数C2.3±1.3年)のC27名をC1群,5年以上(平均経験年数C14.0C±6.2年)のC22名をC2群とした.C2.方法はじめに自らの糖尿病についての意識を調査するため,①意識調査アンケートを実施した(図1).意識調査アンケートは計C5問で分野ごとに分類した.分野CA:病態生理,分野B:診断,分野CC:合併症,分野CD:治療法,分野CE:日常生活とし,よく知っている・知っている・あまり知らないの3段階で回答してもらった.結果では,よく知っているをC3点,知っているをC2点,あまり知らないをC1点に点数化し集計した.②糖尿病の知識について簡潔な試験(図2)を実施した.当院の看護師に協力を依頼し,日本糖尿病学会専門医監修のもとに作成したC1問C2点,計C25問,50点満点の試験問題を使用した.実際の試験用紙に分野と解答,および各問題に対するC1群とC2群の正答率を追記したものが図2である.試験問題はアンケートと同様の分野A.Eに分類した.③意識と知識の相関を知るため,Pearsonの積率相関係数を施行した.CII結果①意識調査アンケートによる合計点数はC1群でC7.9C±1.3点(平均C±標準偏差),2群でC8.5C±1.3点であった(t検定p=0.15)(図3).意識調査アンケートを分野別に比較したところ,各分野でC1群とC2群に有意差はみられなかった(図4).②糖尿病の試験はC1群でC33.3C±4.8点(平均C±標準偏差),2群でC33.5C±4.6点で,正答率はC1群C66.6%でC2群C67.0%と経験年数による有意差はみられなかった(t検定p=0.3)(図5).分野別正答率は,分野CAはC1群C81.9%,2群C81.3%;分意識調査アンケート入職年名前①糖尿病の原因について(分野A:病態生理)よく知っている・知っている・あまり知らない②CHbA1c,血糖値それぞれいくつ位から糖尿病かについて(分野CB:診断)よく知っている・知っている・あまり知らない③糖尿病の合併症について(分野C:合併症)よく知っている・知っている・あまり知らない④糖尿病の治療について(分野D:治療法)よく知っている・知っている・あまり知らない⑤低血糖発作が起きた時の対応について(分野E:日常生活)よく知っている・知っている・あまり知らない図1意識調査アンケートの設問「よく知っている」をC3点,「知っている」をC2点,「あまり知らない」をC1点に点数化し集計した.(147)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1785視能訓練士の糖尿病に関する基礎知識の設問月日氏名経験年目正しいものには○,間違っているものには×を記入せよ.(1問C2点)(○)C1.糖尿病は,慢性の高血糖を主徴とする代表疾患である.(×)C2.血糖を下げるホルモンは,グルカゴンである.(×)C3.糖尿病の診断基準として,HbA1c6.5%以上空腹時血糖値140以上などがある.(×)C4.HbA1c(NGSP)は日本の基準値である.(○)C5.1型糖尿病は自己免疫により膵臓が破壊されインスリンが分泌されなくなる病気である.(×)C6.II型糖尿病には遺伝要素はない.(○)C7.糖尿病のC3大合併症は糖尿病網膜症,糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害である.(○)C8.糖尿病の慢性合併症は,血管の動脈硬化による狭窄,閉塞によって引き起こされる.(×)C9.多発する軟性白斑の存在は,増殖糖尿病網膜症である.(×)10.網膜症CA2(P)と記載されているのは増殖前糖尿病網膜症である.(×)11.現在,失明の原因疾患の第C1位は糖尿病である.(○)12.血糖のコントロールを良くすると単純網膜症は改善する.(○)13.糖尿病による腎障害が進行すると尿から蛋白が出る.(○)14.糖尿病神経障害を発症すると,足の裏に違和感を感じる.(○)15.神経障害によるしびれは,手足の末端から出現する.(×)16.糖尿病は血糖値が下がり,検査値が正常範囲になれば完治したという.(×)17.血糖値が高い場合は,意識障害は起こらない.(○)18.血糖値が高いと,血圧,悪玉コレステロールなども上がりやすい.(×)19.手術などの大きなストレスがかかると,一般的に血糖値は低下する.(○)20.運動療法は,食後すぐに行うのが良い.(○)21.低血糖症状を疑った場合は,速やかに糖質を摂取する.(×)22.2型糖尿病の場合,インスリン治療は行わない.(×)23.進行性の網膜症がある場合は,急激に血糖を下げる必要がある.(×)24.糖尿病患者には,運転免許取得・継続に関する条件はない.(×)25.糖尿病患者は職業に制限や条件をかけられることはない.分野A:病態生理,分野B:診断,分野C:合併症,分野D:治療法,分野E:日常生活設問分野正答率(%)1群正答率(%)2群C1CAC80.0C75.0C2CAC95.0C80.0C3CBC25.0C35.0C4CBC80.0C65.0C5CAC80.0C95.0C6CAC65.0C75.0C7CCC95.0C95.0C8CCC75.0C75.0C9CBC45.0C30.0C10CBC40.0C35.0C11CAC90.0C75.0C12CCC70.0C75.0C13CCC75.0C75.0C14CCC70.0C70.0C15CCC95.0C100.0C16CAC100.0C90.0C17CCC65.0C65.0C18CAC85.0C85.0C19CAC65.0C75.0C20CDC5.0C0.0C21CDC80.0C100.0C22CDC80.0C80.0C23CDC80.0C95.0C24CEC20.0C5.0C25CEC10.0C25.0図2試験1問C2点,計C25問,50点満点にて採点し,さらにC25問を分野A,B,C,D,Eに分類した.全問題の正答率は1群66.6%,2群67.0%であった.分野Aは1群81.9%,2群81.3%;分野Bは1群48.8%,2群42.5%;分野Cは1群C77.8%,2群C78.6%;分野CDはC1群C61.1%,2群C69.3%;分野CEはC1群C14.8%,2群C13.6%であった.野Bは1群4C8.8%,2群4C2.5%;分野Cは1群7C7.8%,C2群がC1群に比べ点数が高く,有意差がみられた(Ct検定p=群7C8.6%;分野Dは1群6C1.1%,2群6C9.3%;分野Eは10.04).群C14.8%,C2群C13.6%であった(図6).分野CAの正答率がC1その他の分野では有意差はみられなかった.群C2群ともに高く,分野CEの正答率はC5つの分野のなかで③意識と知識の相関:C1群では意識と知識に相関はみられもっとも低い結果となった.分野CDについての設問ではC2なかったが,C2群では意識,知識に中等度の相関がみられた平均点7.9±1.3点8.5±1.3点図3意識調査アンケート結果(点)1群C27名,2群C22名の意識調査アンケートの結果を点数化し,平均点を比較した.2群間に有意差はなかった.(t検定p=0.15).C平均点正答率33.3±4.8点66.6%33.5±4.6点67.0%18.24図5試験結果(点)1群C27名,2群C22名の試験結果の合計点の平均点を比較した.2群間に有意差はなかった(t検定p=0.42).(Pearsonの積率相関係数Cr=0.48)(図7a,b).CIII考察①意識調査:1群は意識調査アンケートによる自己評価にて糖尿病についてC1.5のすべての項目に対し,あまり知らないと評価する職員が多くみられた.これは経験の浅さによる自信不足が原因と考えられる.とくに,低血糖発作時の対応についてC1群は意識調査アンケートにてあまり知らないと答える職員が多い傾向にあった.1群には,今後,自信不足を補う教育が必要と考えられるが,とくに低血糖発作時の対応についての教育が必要であることが意識調査アンケートから読み取ることができた.②知識調査:1群とC2群に共通していた事項として,分野(149)分野A1.6点1.7点分野B分野E1.1点1.3点1.4点1.7点1.8点2.0点1.8点分野D分野C2.0点図4意識調査アンケート分野別比較(平均点)意識調査アンケートの結果を分野別に分け平均点をC1群とC2群で比較した.すべての分野においてC2群間に有意差はなかった(t検定各p>0.05).C81.9%分野A81.3%分野E分野B14.8%48.8%13.6%42.5%61.1%分野D分野C77.8%69.3%78.6%t検定(p<0.05)図6試験分野別正答率(%)試験の結果を分野別に分け平均点をC1群とC2群で比較した.分野CDのみC2群間に有意差がみられた(t検定p=0.04).Aの正答率がもっとも高く,分野CEの正答率がもっとも低かった.また,設問別では設問C20の正答率がもっとも低かった.分野CAは糖尿病の病態生理にかかわる内容である.分野CAの正答率が高かったことは,コメディカルも知っておきたいガイドラインにおおむね準じており4),好ましい結果となった.正答率がもっとも低かった分野CEは患者の日常生活にかかわる内容である.視能訓練士は検査を行うだけではなく,患者への情報提供,ロービジョンケアも行う.また,当院では患者と接する機会が多い視能訓練士が運転免許取得・継続にかかわる問い合わせを患者から受けることがある.そのため,病気に関する知識だけではなく,患者の日常生活にかかわる事項についての知識を有することも重要である5).分野CEの設問C25は糖尿病と職業についての設問で,Cあたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C17875050454540403535303025201525201510r2=0.019105Pearson’sr=0.145000123456789101112131415意識調査(点)図7a意識・知識の相関(1群)1群の意識と知識の相関をCPeasonの積率相関係数にて調べた結果を示す.1群では意識と知識に相関はみられなかった(r=0.14).C低血糖が起きたときに危険な職業などでは制限や条件がかけられることがあるということを知っているかを問う目的で作成したが,WHO(世界保健機構)が「糖尿病であることを理由に職業が制限されるべきではない」としているなか,必ず制限や条件をかけられるような印象の文章となっているため正答率に影響を及ぼした可能性があった.また,全C25の設問のなかでもっとも正答率が低かった設問C20に関しても,運動療法を行うのは食間や空腹時ではないことを知っているか問う目的で『糖尿病治療のてびき改訂第C56版』を参考にして作成したが5),具体的な時間はなく「食後」とのみ記されていたため,「運動療法は,食後すぐ行う方が良い」を正解としている.しかし「すぐ」は「直後」とも解釈可能であり,設問として適切な表現ではなかったことと,『糖尿病治療ガイドC2014-2015』では「食後C1時間頃が望ましい」と時間が記されており6),それを読んだことがある職員がいた場合は試験結果に影響を及ぼした可能性があった.1群とC2群に有意差がみられたのは,分野CDの正答率であった.分野CDは治療法にかかわる内容である.治療法には低血糖発作時の対応を問う問題もあり,2群はC1群よりも経験を有しているため,臨床の現場で実際に低血糖発作を起こした患者をC1群よりも多くの職員が経験したことがあるためと推測でき,①の意識調査とも関連していると考えられた.③相関の考察:2群は意識と知識に中等度の相関がみられ,自己の意識を正当に評価する職員が多くみられたが,1群に比べ経験があるにもかかわらず全試験問題の正答率はC2群と大差なかった.このことはC1群は経験の浅さから「あまり知らない」と自己評価した職員が多かったためと思われた.1群のなかでC1年目,2年目,3年目のアンケートと試験の平均点を比較したところ,1年目:アンケートC7.4点・試験0123456789101112131415意識調査(点)図7b意識・知識の相関(2群)2群の意識と知識の相関をCPeasonの積率相関係数にて調べた結果を示す.2群では意識と知識に中等度の相関がみられた(r=0.48).35.3点,2年目:アンケートC8.3点・試験C31.3点,3年目:アンケートC8.0点・試験C33点と,1年目は試験の平均点が一番高いにもかかわらずアンケート平均点が一番低かったことからも実情を反映できているのではないかと推測した.ただし,自己申告制であるため謙遜して答えた場合は意識・知識調査の相関に影響が出ることは否めず,アンケート方法には今後検討が必要である.今回の調査により,視能訓練士の知識が糖尿病患者の日常生活に関する分野で不足していることが明らかとなり,その分野に重点を置いて視能訓練士の教育を行う必要があることがわかった.また,意識と知識の相関を調べた結果,1群は2群と同程度の知識を有しているが知識を有しているという意識が低いことがわかり,意識を向上させることが重要であることがわかった.今後は視能訓練士に試験結果にて点数が低かった分野に重点を置き教育を行うことで知識が向上し,それに伴い糖尿病について知識を有しているという意識も向上することが期待される.今回の意識調査と知識調査の設問に関して不適切と思われる部分があったため詳細に再検討したが,結果が多少変動したものの,結論の変更に至らないことを確認した.今後調査を行う際には十分配慮して行う方針である.CIV結論糖尿病患者に安全な診療を行うためには,視能訓練士が糖尿病について正しい知識を習得する必要があり,今後は知識が保たれているかどうかと,知識に相関し,意識の向上が認められるかどうかを調査するため,試験と意識調査アンケートを期間をあけて繰り返し定期的に行い,視能訓練士の教育に資する必要があると考える.C文献1)中江公裕,増田寛治郎,妹尾正ほか:わが国における視覚障害の現状.厚生労働科学研究研究費補助金難治性疾患克服研究事業網脈絡膜・視神経萎縮障害に関する研究平成C17年度統括・分担研究報告書(主任研究者:石橋達朗),p263-267,20062)日本糖尿病療養指導士認定機構編:糖尿病療養指導士の役割・機能.日本糖尿病療養指導士受験ガイドブックC2000,p9-14,20003)富永玲子,松本千佳,松山典子ほか:質問表を用いた糖尿病看護に関する意識調査.糖尿病53:713-718,C20104)石井純:コメディカルも知っておきたいガイドラインC1,2.糖尿病ケア7:225-269,C20105)雨宮伸,石塚達夫,犬飼敏彦ほか:糖尿病と日常生活.糖尿病治療の手びき,改訂第C56版(日本糖尿病学会編・著),p195-200,南江堂,20146)日本糖尿病学会:運動療法.糖尿病治療ガイドC2014-2015.p44-45,文光堂,2014***

結節性硬化症に難治性の裂孔原性網膜剝離を合併した1例

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1781.1783,2017c結節性硬化症に難治性の裂孔原性網膜.離を合併した1例平井和奈*1青木悠*1佐藤圭悟*2井田洋輔*2伊藤格*2渡部恵*1大黒浩*1*1札幌医科大学眼科学講座*2市立室蘭総合病院眼科CACaseofRefractoryRetinalDetachmentinaPatientwithTuberousSclerosisKazunaHirai1),HarukaAoki1),KeigoSato2),YousukeIda2),KakuIto2),MegumiWatanabe1)andHiroshiOoguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,MuroranCityGeneralHospital目的:今回筆者らは結節性硬化症患者に難治性の裂孔原性網膜.離を合併したC1例を経験したので報告する.症例:18歳,男性.平成C28年C1月より右眼の視力低下を自覚し近医を受診.眼底に結節性硬化症による網膜過誤腫および硝子体出血を伴う網膜.離を認め,札幌医科大学附属病院紹介となった.初診時に周辺部に多発する網膜過誤腫および鼻側上方に裂孔を認め,同年C4月に網膜輪状締結術を施行した.しかし,網膜復位を得ることができず,右眼硝子体手術,六フッ化硫黄ガス(sulferhexa.uoride:SCF6)置換を施行.その後網膜復位を得ることができたが,経過観察中に再.離を認めたため,同年C5月に右眼硝子体手術,シリコーンオイル置換を施行し現在まで再.離なく経過している.結論:本症例では周辺部網膜に多発した網膜過誤腫により硝子体の牽引や網膜収縮が生じ,これらの要因が網膜.離の復位を困難にさせた可能性が示唆された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCrefractoryCretinalCdetachmentCinCan18-year-oldCmaleCwithCtuberousCsclerosis.CCasereport:Thepatientvisitedanophthalmologicclinicbecauseofvisuallossinhisrighteye.Hamartomaandvitreoushaemorrhagerelatedwithtuberoussclerosiswerefoundintheeye,andhewasreferredtoSapporoMedi-calCUniversityCHospital.CRetinalCdetachmentCwithCmultipleChamartomaCwasCobservedCinCtheCeye.CInitialCsurgeryCemployedtheencirclingprocedure,butretinopexycouldnotbeattained.TheeyewasthenoperatedbyPPVwithgastamponade,andretinopexywasachieveded.Duringfollow-up,retinaldetachmentwasagainfoundintheeye,whichthenunderwentPPV+PEA+IOL+siliconeoiltamponade.Retinopexyhasbeenmaintainedthusfar.Conclu-sion:Retinalmultiplehamartomamaycausevitreoustractionandretinalshrinkage,resultinginrefractoryretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1781.1783,C2017〕Keywords:結節性硬化症,過誤腫,網膜.離.tuberoussclerosis.hamartoma,retinaldetachment.はじめに結節性硬化症は全身の諸臓器に過誤腫や白斑を認め,精神発達障害や行動異常などさまざまな症状を呈する疾患である1).眼合併症として網膜過誤腫および無色素斑を認めることが多い2)が裂孔原性網膜.離を合併した報告例は少ない.今回筆者らは結節性硬化症に合併した網膜.離で治療に難渋した症例を経験したので報告する.CI症例患者:18歳,男性.主訴:右眼の視力低下.既往歴および家族歴:0歳:結節性硬化症,3歳:てんかん発作(1度のみ),9歳,17歳:脳腫瘍で手術.現病歴:平成C28年C1月,右眼視力低下を自覚し近医を受診.網膜.離の精査目的に市立室蘭総合病院紹介となり,右眼眼底に結節性硬化症による網膜過誤腫と硝子体出血を伴う裂孔原性網膜.離が認められ,手術目的にC4月C12日札幌医科大学附属病院(以下,当院)紹介となった.初診時視力右眼C0.02(n.c.),左眼C0.3(1.0C×.2.75D(cyl.1.00DCAx25°),眼圧右眼C10.0CmmHg,左眼C11.0CmmHg,前眼部および中間〔別刷請求先〕平井和奈:〒060-8543札幌市中央区南C1条西C16丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:KazunaHirai,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,S.1,W.16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(143)C1781図1入院時右眼眼底所見右眼C1時方向に原因裂孔,11.2時にかけて網膜.離を認め,周辺部に器質化した硝子体出血を伴っていた.図3退院時右眼眼底所見シリコーンオイル下にて再.離なし.透光体に特記すべき異常なし.右眼C1時方向に裂孔を認め,11.2時方向に網膜.離を認め,周辺部に器質化した硝子体出血およびC2,9,11時方向に多発する網膜過誤腫を認めた(図1).硝子体出血減少後の眼底検査や眼底写真では網膜.離は黄斑部までは達していなかったが,硝子体出血のため黄斑部COCTは描出不良だった.CII経過平成C28年C4月C13日に右眼網膜.離に対し全身麻酔下で右眼網膜輪状締結術を施行した.術式は,原因裂孔に対して冷凍凝固を行い,網膜下液の排液はせず,2,4,7,10時に輪部からC13Cmmの位置に強膜トンネルを作製し,厚さC0.6図2術後所見網膜復位を得ることができた.mm,幅C2.5Cmmのシリコーンバンド(#240,MIRA社)で輪状締結を行った.網膜下液は減少したが,裂孔の閉鎖を得ることができずC11.7時方向の網膜.離が残存したため,4月25日全身麻酔下で水晶体温存のC25ゲージ硝子体切除術を施行し,SFC6ガス置換をして終了となった.その後は網膜復位し退院となり,市立室蘭総合病院通院となった(図2).5月C19日に再.離を認めC5月C20日当院に再入院となった.入院時視力右眼手動弁C30Ccm,前眼部および中間透光体に特記すべき異常なし.右眼眼底にC11時方向に原因裂孔を認め,ほぼ全周にわたる網膜.離で黄斑.離を伴っていた.5月23日に全身麻酔下で右眼水晶体再建術,眼内レンズ挿入術,25ゲージ硝子体切除術,シリコーンオイル置換を行った.術中は輪状締結周囲の硝子体皮質の癒着が認められ,鉗子を用いて丁寧に癒着を解除する必要があった.その後は網膜復位を得ることができ,退院時視力右眼(0.2)で現在まで良好な経過をたどっている.現在オイル下での網膜復位を得ることができており,今後シリコーンオイル抜去を行う予定となっている.CIII考按結節性硬化症はCtuberousCsclerosisCcomplex1(TSC1),tuberoussclerosiscomplex2(TSC2)のいずれか一方に生じた遺伝子変化により遺伝子の発現が低下もしくは抑制され,遺伝子にコードされる腫瘍抑制因子の発現が低下することで全身の諸臓器に局所性の形成異常や過誤腫を発生する疾患として知られている2).約C50%に眼病変を合併するといわれており3),眼病変の多くが網膜過誤腫や無色素斑で,網膜.離の症例報告は少ない4).現在,結節性硬化症のさまざまな病1782あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(144)変に関する発生メカニズムが解明されてきているが,まだ具体的なメカニズムが明らかになっていない病態も多い.過去に,結節性硬化症患者が網膜過誤腫により漿液性網膜.離や硝子体出血を引き起こした症例が複数認められているが,これらの症例では自然軽快を認める例も多く,外科的な治療を要する例は少ない5).裂孔原性網膜.離に関しては,網膜過誤腫により硝子体牽引を引き起こした症例が報告されている6,7).本症例は初回手術では若年で周辺側に単一の裂孔があったことから強膜内陥術を施行した.初診時には硝子体出血を認めていたが,.離は黄斑部まで達しておらず視力低下は器質化した硝子体出血の影響が考えられた.また,裂孔の径が小さかったことから,眼球運動障害の出にくいシリコーンバンドのみでの輪状締結術としたが,裂孔の閉鎖を得ることができず,硝子体の牽引が強く輪状締結のみでは網膜下液が引き切らなかったため硝子体切除術を施行した.1回目の硝子体切除術では水晶体温存で行ったが,本症例のような若年者の場合,人工レンズ挿入術を行うことで近見障害を惹起し,術後の視機能が劣化するため,有水晶体眼の状態で硝子体切除術を行った.それにより硝子体牽引は解除し,いったんは復位したが,若年者の完全な硝子体の郭清の困難さに加え,網膜過誤腫による硝子体癒着が影響し,再.離を起こしたものと考えられた.したがって,結節性硬化症に伴う裂孔原性網膜.離は,硝子体牽引や網膜収縮を引き起こし再.離を引き起こす可能性があると考えられた.今回筆者らは結節性硬化症に難渋した裂孔原性網膜.離を合併した症例を経験した.多発する網膜過誤腫は硝子体牽引や網膜収縮を引き起こし治療を困難にさせる可能性があるため手術を行う際は,輪状締結併用硝子体手術や周辺まで徹底した硝子体郭清など慎重に治療方針を検討する必要があると考えられた.文献1)NorthrupH,KruegerDA;InternationalTuberousSclero-sisCComplexCConsensusCGroup:TuberousCsclerosisCcom-plexCdiagnosticCcriteriaCupdate:recommendationsCofCtheC2012CInternationalTuberousCSclerosisCComplexCConsensusConference.PediatrNeurol49:243-254,C20132)金田眞里,吉田雄一,久保田由美子ほか:結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン.日皮会誌C118:1667-1676,C20083)RowleyS,O’CallaghanF,OsborneJ:Ophthalmicmanifes-tationsCofCtuberousCsclerosis:aCpopulationCbasedCstudy.CBrJOphthalmolC85:420-423,C20014)MennelCS,CMeyerCCH,CPeterCSCetCal:CurrentCtreatmentCmodalitiesforexudativeretinalhamartomassecondarytotuberoussclerosis:reviewoftheliterature.ActaOphthalC-molScandC85:127-132,C20075)DuttaJ:Ararecaseofvisuallossduetoserousdetach-mentassociatedwithretinal“mulberry”hamartomainacaseoftuberoussclerosis.JOculBiolDisInforC5:51-53,C20136)GoelCN,CPangteyCB,CBhushanCGCetCal:Spectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCofCastrocyticChamartomasCintuberoussclerosis.IntOphthalmolC32:491-493,C20127)ShieldsCCL,CBenevidesCR,CMaterinCMACetCal:OpticalCcoherencetomographyofretinalastrocytichamartomain15cases.OphthalmologyC113:1553-1557,C2006***(145)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1783

白内障術後眼内炎由来コアグラーゼ陰性ブドウ球菌12株の細菌学的特徴

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1776.1780,2017c白内障術後眼内炎由来コアグラーゼ陰性ブドウ球菌C12株の細菌学的特徴鳥飼智彦*1鈴木崇*1,2宮本仁志*3白石敦*1*1愛媛大学医学部眼科学教室*2いしづち眼科*3愛媛大学病院検査部CBacteriologicalPro.leofCoagulase-negativeStaphylococciIsolatedfromEndophthalmitisTomohikoTorikai1),TakashiSuzuki1,2),HitoshiMiyamoto3)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)IshizuchiEyeClinic,3)ClinicalLaboratory,EhimeUniversityHospital2003.2014年まで愛媛大学病院で治療を行った白内障術後眼内炎症例の眼内液から分離されたコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)のC12株の細菌学的特徴について調査した.MALDICTOF-MSを用いた菌種同定,DiversiLabsystem(DL)による遺伝子相同性,ディスク拡散法,微量液体希釈法を用いた薬剤感受性,バイオフィルム形成能をプレート法により確認した.分離CCNS株はCS.Cepidermidis(9株),S.Chominis(2株),S.Cwarneri(1株)と同定された.DLによる解析では,2組(1組C2株)においてC95%以上の遺伝子相同性を認めた.すべての分離株はメチシリンとセフタジジムに耐性であり,レボフロキサシンにはC3株が中間耐性,6株が耐性であった.分離株はすべてバンコマイシン,リネゾリド,ミノサイクリンに感受性があった.バイオフィルム形成能をC12株中C7株で認めた.WeCinvestigatedCtheCmicrobiologicalCpro.lesCofC12Ccoagulase-negativeCstaphylococci(CNS)isolatesCtakenCfromCaqueousorvitreoushumorinpatientswithpostoperativeendophthalmitisbetween2003and2014.Toidentifytheisolates,Cmatrix-assistedClaserCdesorptionCionizationCtime-of-.ightCmassCspectrometry(MALDI-TOFCMS)wasCper-formed.CIsolatesCwereCtypedCusingCtheCDiversiLabCtypingCsystem(DL);CdrugCsusceptibilityCtestCwasCcheckedCbyCagardiscandmicrodilutionmethods.Bio.lmformationwascheckedusingmicrotiterplateassay.Theisolateswereidenti.edasS.epidermidis(9strains),S.hominis(2strains)andS.warneri(1strain).DLdemonstratedthattwopairCofCS.CepidermidisCisolatesChadCgeneticCsimilarityCofCmoreCthanC95%.CAllCisolatesCwereCresistantCtoCmethicillinandCceftazidime,CandCwereCsusceptibleCtoCvancomycin,ClinezolidCandCminocycline;3CandC6CisolatesCwereCintermedi-atelyresistantandresistanttolevo.oxacin,respectively.Ofthe12isolates,11hadbio.lm-formingability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(12):1776.1780,C2017〕Keywords:白内障術後眼内炎,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,遺伝子相同性,薬剤感受性,バイオフィルム形成能.postoperativeendophthalmitis,coagulase-negativestaphylococci,geneticallysimilarity,drugsusceptibility,Cbio.lmformation.Cはじめに白内障術後眼内炎は発症頻度こそ低いものの発症すると,高度の視力低下や失明の可能性もあるため,もっとも重篤な術後合併症であると考えられている.そのため,迅速に診断し,早期に治療を開始することが望ましい.白内障術後眼内炎は,発症時期によって,術後数日.1週間以内に発症する急性(亜急性)眼内炎と術後C1カ月以上後に発症する遅発性眼内炎に分けられる.急性(亜急性)眼内炎は,著明な前房内フィブリン形成,前房蓄膿,硝子体混濁など急性の炎症反応を生じるのに対して,遅発性眼内炎では軽微な前房炎症細胞,角膜後面沈着物,水晶体.混濁を生じることなど比較的軽微な炎症所見を呈することが多い.急性(亜急性)眼内炎の原因菌としてはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCstaphylococci:CNS),黄色ブドウ球菌,腸球菌,〔別刷請求先〕鳥飼智彦:〒791-0204愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TomohikoTorikai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0204,JAPAN1776(138)連鎖球菌などのグラム陽性球菌が,遅発性眼内炎の起因菌としてはCPropiobacteriumCacnesが多いとされ,原因菌によって臨床所見ならび術後から発症までの日数,視力予後は異なることが考えられている.そのため,眼内炎の治療においては正確な原因菌の同定が重要であり,原因菌に対してもっとも抗菌効果が高い抗菌薬を使用して治療することが望ましい.CNSはC31種あるが,ヒトから分離されるCCNSはC14種あり,なかでも検出される頻度が高いのがCS.epidermidisである.CNSの種の同定は,生化学性状を用いて行われるが,一般的には時間やコストもかかるため,種の同定まで行わないことも多い.一方,質量分析によって細菌の蛋白質重量を測定して,細菌を同定する手法が開発され,臨床検査室にも導入されつつある.今回,菌種同定に使用したCMALDI-TOFCMSは,質量測定の対象物にレーザー照射し,この衝撃に対しても対象物を壊すことなく真空管の中を飛行させ,その飛行時間の違いをもって対象物の質量を測定可能とする方法である.培地上のコロニーから数分で菌腫を同定することが可能であり,16SrRNAシークエンスを用いた同定法に限りなく近い精度も得られる.Mellmannらはブドウ糖非発酵菌対して,MALDI-TOFCMSによる菌種同定法と16SrRNAシークエンスを用いた菌種同定法を行い比較検討した結果,78株中C67株(85.9%)で属もしくは種レベルまで同定可能であったと報告した1).CNS臨床株のなかにはバイオフィルムを産生する株が存在する.バイオフィルムを産生すると眼内レンズなどのマテリアルに強固に接着し,抗菌薬や免疫細胞の攻撃から回避することが可能となる.とくにブドウ球菌においては,PIA(polysaccharideCintercellularadhesion)とよばれるCE-1,6-N-アセチルグルコサミン多糖を産生することによって生体内ポリマーに付着してバイオフィルムを形成することが知られている2).そのため,眼内炎において,原因であるCCNSがバイオフィルム形成能を有するかは治療反応にも影響する可能性がある.現在,術後眼内炎の治療としては,抗菌薬投与とともに,前房洗浄,硝子体切除,レンズ抜去などの外科的加療を迅速に行うことが望まれる.使用される抗菌薬としては,グラム陽性球菌からグラム陰性桿菌まで抗菌スペクトラルをカバーする目的にバンコマイシン,セフタジジムの眼内投与が使用されることが多く,CNSによる術後眼内炎の治療反応性はよいとされる3).しかしながら,CNSのメチシリン耐性を指摘する報告もあり,抗菌薬の選択には検出された眼内炎分離株の薬剤感受性や細菌学特徴を考慮する必要がある3,4).さらに,耐性菌の場合,遺伝子学的に類似した株が拡散することも多く,遺伝子学的類似性を確認することも重要と考えられる.今回筆者らは,白内障術後眼内炎症例から分離されたCNSの細菌学的特徴(菌種同定,遺伝子相同性,薬剤感受性,バイオフィルムの形成能)について調査した.CI対象および方法1.臨床分離株2003.2014年までに愛媛大学病院で治療した白内障術後眼内炎症例の眼内液から分離されたCCNSのC12株を使用した.C2.菌.種.同.定CNSの菌種の同定をCMALDI-TOFCMS(matrixCassistedClaserCdesorption/ionization-timeCofC.ightCmassCspectrome-try)(Bruker社)を用いて質量分析を用いて行った.C3.遺伝子相同性菌株間のゲノム配列の相同性を確認するためCDiversiLabCmicrobialCgenotypingCsystem(以下,DiversiLab,CBioMereiux社)を用いた.菌のCDNAを抽出後,キットを使用しCrepeti-tive-sequenced-basedCpolymeraseCchainCreaction(rep-PCR)増幅を行い,Ajilent2100バイオアナライザーを用いてCDNALabChipによる増幅断片の分離と検出を行った.検出された電気泳動結果はCDiversiLabソフトウェア(version3.4)を用い,Pearson相関係数による系統樹を作成してクラスター分類を行った.C4.薬剤感受性CNSに対するメチシリン耐性の判定にはCPCR法にてmecA遺伝子を検出し,mecA遺伝子保有CCNSをCmethicillinresistantCCNS(MR-CNS),mecA非保有株CCNSをCmethi-cillin-susceptibleCCNS(MS-CNS)と定義した.薬剤感受性の判定には,ディスク拡散法,微量液体希釈法を用いた.オキサシリン(MPIPC),セフォキシチン(CFX)のC2薬剤においてはディスク拡散法を用い,セフタジジム(CAZ),イミペネム(IPM),アルベカシン(ABK),バンコマイシン(VCM),テイコプラニン(TEIC),リネゾリド(LZD),ミノサイクリン(MINO),レボフロキサシン(LVFX),リファンピシン(RFP),サルファメトキサゾール,トリメトプリム合剤(ST)のC10薬剤においては微量液体希釈法を用い,ClinicalCandCLaboratoryCStandardsCInstitute(CLSI)のブレークポイントに準じて,耐性(R),中間耐性(I),感性(S)の三つに分類した.C5.バイオフィルム産生能バイオフィルム産生能の定性をコンゴレッド寒天培地法にて行った.Brainheartinfusionbroth(37Cg/l),スクロース(36Cg/l),Agar(15Cg/l),コンゴレッド色素(0.8Cg/l)の構成でコンゴレッド寒天培地を作製し,作製した培地上に菌株を塗布し,37℃でC24時間培養したのちに,室温で一晩培養した.バイオフィルム陽性の株は,培地上で黒色のコロニーを形成し,バイオフィルム陰性の株は赤色のコロニーを形成することにより,バイオフィルム産生能を定性的に判定した5).バイオフィルム産生能の定量は,マイクロプレート法で行った.まず,細菌株をC0.25%グルコース添加CTripcaseSoyCBroth(TSB)10Cmlに植菌し,37℃にて一晩,揺動培養を行った.この培養液にグルコースを添加したCTSBでC100倍に希釈し,96ウエルマイクロタイタープレートに分注した後に,好気的環境下C37℃で一晩静置培養した.ウエルを蒸留水でC3回洗浄し,0.2%サフラニンで染色したのちに吸光度(570Cnm)の測定を行い,バイオフィルム形成量を定量化した6).Christensenらの報告に従い,カットオフ値をC0.5として,それ以上を陽性と定義した7).CII結果1.菌.種.同.定MALDI-TOF/MSによる質量分析にて菌種同定を行ったところ,12株中C9株(75%)がCS.Cepidermidisであり,ついでCS.hominisが2株,S.warneriがC1株検出された(表1).C2.遺伝子相同性S.Cepidermidisと同定されたC9株を対象にCrep-PCRによる遺伝子相同性解析を実施した結果を図1に示す.遺伝学的系統樹は塩基配列を二つずつ総当たりで比較,スコアリングしたうえで,もっとも近縁な配列から逐次的に配列される.パーセンテージが高ければ高いほど比較した二つの菌株の塩基配列は遺伝子相同性が高いといえる.眼内炎発症時期が異なるにもかかわらず,1組C2株のC2組でC95%以上の遺伝子相同性を示した.また,90%以上の遺伝子相同性を示したものもC1組C5株,1組3株のC2組あった.C3.薬剤感受性菌種ごとの薬剤感受性を表2に示す.9株(75%)がCmecA遺伝子を保有しており,全体のC75%がCMR-CNSであった.Cbラクタム系薬剤では,ペニシリン系のCMPIPCがC9株(75%),セフェム系のCCFXがC7株(58%),CAZはすべての株において耐性を認め,とくに術後眼内炎で広く用いられているCCAZで高い耐性を認めた.また,カルバペネム系であるIPMはすべての株で感性であった.Cbラクタム系薬剤以外の薬剤では,術後眼内炎治療で用いられるCVCMのほか,アミノグリコシド系のCABK,オキサゾリゾノン系のCLZD,テトラサイクリン系のCMINO,RNAポリメラーゼ阻害薬のCRFP,サルファ剤の合剤であるCSTはすべての株において感性であった.グリコペプチド系のCTEICはC5株(42%)で耐性であ表1菌種同定菌種株数割合(%)CS.epidemidis9株75%CS.hominis2株17%CS.warneri1株8%合計割合(%)図1白内障術後眼内炎より分離されたS.epidermidis9株の遺伝子相同性95%以上の相同性を認めた場合,遺伝子の類似性が高いと考えられる.表2菌種ごとの薬剤感受性菌名CMecACMPIPCCCFXCCAZCIPMCABKCVCMCTEICCLZDCMINOCLVFXCRFPCSTCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCSCRCSCSCSCSCSCSCICSCSCS.epidermidisC.SCSCRCSCSCSCRCSCSCSCSCSCS.epidermidis+RCSCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCRCSCSCS.hominis+RCRCRCSCSCSCSCSCSCRCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCRCSCSCS.hominisC.SCSCRCSCSCSCSCSCSCSCSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCICSCSCS.epidermidis+RCRCRCSCSCSCRCSCSCICSCSCS.warneriC.SCSCRCSCSCSCSCSCSCSCSCS※CLSIのブレークポイントに準じて,R:耐性,I:中間,S:感性.MecA:mecA遺伝子,MPIPC:oxacillin,CCFX:cefoxitin,CCAZ:ceftazidime,CIPM:imipenem,CABK:arbekacin,CVCM:vancomycin,TEIC:teicoplanin,LZD:linezolid,MINO:minocycline,LVFX:levo.oxacin,ST:sulfamethoxazole-trimethoprim.バイオフィルム形成量(OD570nm)1.210.80.60.40.201362784926136567189029891,1031,1041,1411,167CNS12株図2CNS分離株のバイオフィルム産生能分離されたCCNS株のバイオフィルム産生の定量を示す.カットオフ値をC0.5と定義した.0.5以上はC7株認められた.Cったが,術前,術後抗菌点眼で広く用いられているCLVFXはC9株(75%)において耐性もしくは中間耐性であり高い耐性率を認めた.C4.バイオフィルム産生能コンゴレッド寒天培地法による定性的検討では,12株中11株が黒色コロニーを認め,バイオフィルム産生能を認めた.さらに,マイクロプレート法を用いた定量的検討では,吸光度C570Cnmの平均値はC0.5989C±0.0547であった.バイオフィルム産生量C0.5をカットオフ値として産生能を検討すると,0.5以上を示したものがC12株中C7株であり,吸光度の平均値はC0.7096C±0.0727であった(図2).CIII考按わが国における白内障術後細菌性眼内炎の原因菌としてCNSがもっとも多く,日本眼科手術学会眼内炎スタディグループの報告によると約半数近くを占めるとされる4).当院においてもC2004.2013年のC10年間で眼内炎症例からC15株細菌が分離されたうちC12株(80%)がCCNSであった.術後眼内炎から同定されたCCNSの内訳に関して,既報でCS.Cepi-dermidisが約C8割を占めている3).今回,筆者らが行った検討でもCS.CepidermidisがC9株(75%)と同様に多く検出されたが,数は少ないながらも,S.Cepidermidis以外の株(S.hominis2株,S.warneri1株)が検出された.術後眼内炎の原因菌の由来に関しては,①患者の結膜.常在細菌叢,②手術器具や術者の手指,③手術室の浮遊細菌などおもに三つの可能性が考えられる.Speakerらは術後眼内炎原因菌と僚眼や鼻腔から分離した常在菌の遺伝子を比較検討し,17例中C14例(82%)で遺伝子相同性があったとし,結膜.常在細菌叢が術後眼内炎のプロフィールをよく反映していることを報告しており8),患者の結膜.常在細菌が術中もしくは術後に眼内に感染したと推測される.丸山らは,白内障術前患者における結膜.常在菌叢を調査し,CNSが1,012検体中C398検体(39.3%)とCCorynebacteriumについで高い検出率を示した9).さらに,白内障術前の結膜.分離株に関する星らの検討では,CNS366株のうちCMR-CNSは136株(37%)であり,抗菌薬点眼として使用頻度が高いLVFX耐性はC366株中C92株(25%)であった.また,MR-CNSではCMS-CNSと比較してフルオロキノロン耐性化率が有意に高かった10).すなわち,白内障術前患者の結膜.においてCCNSの保菌率は高く,メチシリン耐性やCLVFX耐性をもった薬剤耐性株も半数近くに認められると考えられる.今回の検討では前述のように白内障術後眼内炎の原因菌としてCS.Cepidermidisを中心としたCCNSが多く検出され,MR-CNSはC9株(75%),LVFX耐性はC9株(75%)と既報の白内障術前結膜.から分離した株に関する検討と比較しても,薬剤耐性株の割合を多く認めた.さらに,発症時期が菌株によって大きく異なるにもかかわらず,遺伝子相同性の高い株を多く認めた.遺伝子相同性が高くなる原因の一つに,薬剤耐性獲得が考えられる.ブドウ球菌はCgryA,parCとよばれるキノロン耐性決定領(quinolone-resistance-determin-ing-region:QRDR)を段階的に変異させることによってキノロン耐性を獲得することや,ブドウ球菌カセット染色体(StaphylococcalCcassetteCchromosomeCmec:SCCmec)とよばれる外来性のCDNA断片を挿入することでメチシリン耐性を獲得することが知られている.そのため,抗菌薬点眼使用によって多様な遺伝型をもった結膜.常在菌叢における耐性菌選択圧が増大し,薬剤耐性遺伝子を高確率に含む分子疫学的に近縁な株が術後眼内炎起炎菌株から多く認められた理由の一つであると考える.すなわち,抗菌点眼薬から回避した耐性CCNSが眼内炎を生じた可能性が高い.Suzukiらは健常者の顔面皮膚と結膜.よりCS.epidermidisのみを分離培養し,それぞれについてバイオフィルム形成能をCicaA遺伝子の検出率およびコンゴレッド寒天培地法,マイクロプレート法にて比較したところ,結膜.より分離培養された株のバイオフィルム産生能が有意に高かったと報告した11).その理由として,涙液中にはライソゾームやラクトフェリンなどの抗微生物ペプチドが豊富に存在しており,結膜.常在菌がバイオフィルム産生を行うことでその防御システムから逃れているのではないかと推測している11).今回の検討でもバイオフィルム産生株が多く認められた.バイオフィルム産生能を有する結膜常在CCNSが,バイオフィルム形成することで抗菌薬や消毒薬から回避し,術後眼内炎を発症したと考えられる.現在,白内障術後急性眼内炎が疑われた場合の早期治療として抗菌薬の硝子体注射があり,薬剤耐性菌を含むグラム陽性球菌に効果のあるバンコマイシンとグラム陰性菌にスペクトラムをもつセフタジジムとを組み合わせて投与することが多い.今回,術後眼内炎の原因菌として頻度の高いCCNSに対してバンコマイシンはすべて感受性があり,セフタジジムはすべての株で耐性があった.CNS原因の眼内炎症例に対して,バンコマイシンは治療効果をもつも,セフタジジムの治療効果はそれほど高くない可能性があると考えられた.一方,カルバペネム系のイミペネムはすべての株に感受性があった.術後眼内炎から分離培養されたCCNSに関する検討で,イミペネムは半数程度の株に効果があったとする報告12)もあり,さらなる検討は必要ではあるが,イミペネムはCCNSに対してある一定の効果はあると考えられる.イミペネムはセフタジジム同様グラム陰性菌にもスペクトラムをもつことが知られており,感染性眼内炎治療において有用である可能性が高いと考えられた.しかしながら,眼内投与における網膜毒性においては検討を重ねる必要がある.今回の検討で白内障術後眼内炎から分離されたCCNSにおいては薬剤耐性化が進んでおり,またバイオフィルム産生能も高いことがわかった.細菌学的特徴をさらに検討し,有効な予防法,治療法を構築する必要があると考えられた.文献1)MellmannA,CloudJ,MaierTetal:Evaluationofmatrix-assistedClaserCdesorptionCionization-time-of-.ightCmassCspectrometryCinCcomparisonCtoC16SCrRNACgeneCsequenc-ingCforCspeciesCidenti.cationCofCnonfermentingCbacteria.CJClinMicrobiolC46:1946-1954,C20082)RohdeH,FrankenbergerS,ZahringerUetal:Structure,functionCandCcontributionCofCpolysaccharideCintercellularadhesin(PIA)toCStaphylococcusCepidermidisCbio.lmCfor-mationCandCpathogenesisCofCbiomaterial-associatedCinfec-tions.EurJCellBiolC89:103-111,C20103)EndopthalmitisCVitrectomyCStudyCGroup:ResultsCofCtheCEndophthalmitisViterctomyStudy.ArandomizedtrialofimmedeateCvitrectomyCandCofCintravitreousCantibioticsCforCthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmolC113:1479-1496,C19954)日本眼科手術学会眼内炎スタディグループ:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,C20065)ArciolaCR,CampocciaD,GamberiniSetal:DetectionofslimeCproductionCbyCmeansCofCanCoptimizedCCongoCredCagarplatetestbasedonacolourimetricscaleinStaphylo-coccusepidelmidisclinicalisolatesgenotypedforicalocus.BiomaterialsC23:4233-4239,C20026)PedersenCK:MethodCforCstudyingCmicrobialCbio.lmsCinC.owing-watersystems.ApplEnvironMicrobialC43:6-13,C19827)ChristensenCGD,CSimpsonCWA,CYoungerCJJCetCal:Adher-enceCofCcoagulase-negativeCstaphylococciCtoCplasticCtissuecultureplates:aquantitativemodelfortheadherenceofstaphylococciCtoCmedicalCdevices.CJCClinCMiclobiolC22:C996-1006,C19858)SpeakerCMG,CMilchCFA,CShahCMKCetCal:RoleCofCexternalCbacterialC.oraCinCtheCpathogenesisCofCacuteCpostoperativeCendophthalmitis.OphthalmologyC98:639-649,C19919)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜.内常在菌.あたらしい眼科C18:646-650,C200110)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科C27:512-517,C201011)SuzukiT,UnoT,OhashiYetal:PrevalenceofStaphyloC-coccusCepidermidisCstrainsCwithCbio.lm-formingCabilityCinCisolatesCfromCconjunctivaCandCfacialCskin.CAmCJCOphthal-molC140:844-850,C200512)ChiquetC,MaurinM,AltayracJetal:CorrelationbetweenclinicalCdataCandCantibioticCresistanceCinCcoagulase-nega-tiveStaphylococcusspeciesisolatedfrom68patientswithacuteCpost-cataractCendophthalmitis.CClinCMicrobiolCInfectC21:592.Ce1-8,C2015

白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1771.1775,2017c白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討大内雅之大内眼科CChangeinRefractiveStatusinVeryEarlyPostoperativeDaysinCataractSurgeryMasayukiOuchiCOuchiEyeClinic目的:白内障眼内レンズ(IOL)手術の術後超早期の屈折変化を調べ,翌日のみ遠視化傾向となる割合,その因子を検討した.方法:白内障CIOL手術を受けたC200眼を,0.25Cdiopter(D)より大きな差を有意として,術翌日がC2日目よりも遠視寄りだった症例(A群),翌日がC2日目より近視寄りだった症例(B群),2日間の変動がC±0.25D以内の症例(C群)に分け,術翌日.2日目の,眼圧,前房深度,角膜屈折力,角膜中央厚の変動を測定計算した.結果:組み入れされたC189眼の内訳は,A群C66眼,B群C38眼,C群C85眼であった.前房深度の変動はC3群間に差はなかった.角膜屈折力の変動はC3群に差があり,A群はCB群に比べ有意に大きく(p=0.02),A群では,角膜屈折力の変動と角膜中央厚の変動に有意な負の相関がみられた(p=0.01)が,術後C2日目以降は屈折変化がみられなかった.結論:白内障IOL手術の約C35%の症例で,術翌日は最終屈折より遠視寄りになり,それは,一時的な角膜厚の増加に伴う角膜屈折力の減少が因子となっている可能性が示唆された.CPurpose:Tostudytheincidenceofearlypostoperativerefractivechangeineyeswithhyperopicshiftonly,at1dayCpostCcataractCsurgery.CMethods:200CeyesCthatCunderwentCintraocularClens(IOL)implantationCwereCdividedinto3groupsbasedontheamountofdiopter(D)changeinrefractivestatusbetweendays1and2postoperative-ly:GroupCA:eyesCwith>0.25DChyperopicCchangeCinCsphericalCequivalent(SE)atCdayC1CasCcomparedCtoCdayC2postoperatively;GroupB:eyeswith>0.25Dmyopicchangeinsphericalequivalent(SE)atday1ascomparedtodayC2Cpostoperatively;GroupCC:eyesCwithinC0.25DCofCrefractiveCchangeCbetweenCdayC1CandCdayC2.CChangeCinanteriorchamberdepth(ACD),cornealpower(K),intraocularpressure(IOP)andcornealthicknessbetweendays1CandC2CpostoperativelyCwereCevaluated.CResults:OfCtheC200CoperatedCeyes,CthereCwereC66CeyesCinCGroupCA,C38eyesinGroupBand85eyesinGroupC;11eyeswereexcludedduetonotmeetingtheinclusioncriteria.EveninGroupAeyes,norefractivechangewasobservedat1week,1monthand6monthspostoperatively.Althoughnodi.erenceCinCACDCchangeCwasCfoundCbetweenCtheCgroups,Csigni.cantCdi.erenceCwasCseenCinCchangeCofCK,CwhichwasCsigni.cantlyClargerCinCGroupCACthanCinCGroupCB(p=0.02)C.CMoreover,Csigni.cantCnegativeCcorrelationCwasfoundCbetweenCchangeCofCKCandCchangeCofCcornealCthicknessCinCGroupCA(p=0.01)C.CConclusions:Ofthe189includedeyes,35%showedhyperopicchangeonlyatday1postoperativelyduetotheKvaluedecreasecausedbythetemporaryincreaseofcornealthickness.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1771.1775,C2017〕Keywords:眼内レンズ,術後屈折,遠視化,前房深度,角膜屈折力,角膜厚.intraocularlens,post-operativere-fraction,hyperopicchange,anteriorchamberdepth,cornealpower,cornealthickness.Cはじめにが開発されており,それらの多くは,眼軸長(axiallength:近年の白内障手術においては,小切開手術と光学式眼軸長AL)に加えて,角膜屈折力(K値)や前房深度(anterior測定器の登場で,術後球面度数の精度は向上してきた1).さchamberdepth:ACD)が重要な計算因子として用いられてらに,より正確な術後屈折を求めて,さまざまな度数計算式いる2,3).〔別刷請求先〕大内雅之:〒601-8453京都市南区唐橋羅城門町C47-1大内眼科Reprintrequests:MasayukiOuchi,M.D.,Ph.D.,OuchiEyeClinic,47-1Karahashi-Rajomon-cho,Minami-ku,Kyoto601-8453,CJAPAN術後屈折誤差の因子として,以前はCALがもっとも大きいとされていたが4),光学式眼軸長測定器の登場以後はその比重は小さくなり,術後の眼内レンズ(IOL)深度(e.ectivelensposition:ELP)の予測精度が最大の因子であり5),つぎに,とくに屈折矯正手術既往眼や角膜形状異常眼などで,K値が重要因子と考えられている6).一方,術式の進歩に加えてプレミアムCIOLの普及に伴い,早期の屈折安定が求められているが,白内障CIOL手術では,術翌日の超早期のみ,屈折値が最終値よりも遠視寄りになる症例をしばしば経験する.しかし,この術後超早期の屈折変化について論じた報告はない.本論文では,IOL手術後超早期の屈折変化を調べ,さらに,術翌日に遠視寄りの屈折を示す症例については,その因子を検討した.CI対象および方法本研究は,当院倫理委員会の審理を経て行われた前向き研究で,すべての組み入れ症例から,本研究への組み入れに対し文書による同意を得た.対象は,同一術者同一手技で水晶体摘出,同一CIOLの挿入を行った連続C134例C200眼で,組み入れ基準は,眼軸長がC22.0Cmm以上C28.0Cmm未満,術前角膜屈折力C42.0ジオプトリー(D)以上46.0D以下,水晶体核硬度Cemery分類CIII以下,円錐角膜などの角膜形状異常がない,水晶体以外に混濁を有さない,黄斑浮腫を有さない,術前に光学的眼軸長測定器CIOLマスター(CarlCZeissCMeditec社)による眼軸長測定が可能,術中合併症がなく,IOLが.内固定されている,術後に細隙灯顕微鏡で確認できるCDescemet膜皺襞,角膜浮腫,創口閉鎖不全がないことを条件とした.術式は,2.2CmmBENT透明角膜切開から,連続円形前.切開,ハイドロダイセクションの後,0.9mmミニフレアABSチップ,0.9Cmmウルトラスリーブを装着した超音波白内障手術装置CCENTURION(いずれもCAlcon社)を用いて水晶体を摘出し,同創からCDカートリッジを装.した電動IOL挿入機CAutoSertを用いてCSN60WF(いずれもCAlcon社)を挿入した.術翌日,術後C2日目に,他覚的屈折(等価球面値),角膜屈折力,ACD,角膜中央厚,眼圧を,術後C1週,1カ月,6カ月には,他覚的屈折と角膜屈折力をそれぞれ測定した.他覚的屈折検査は,オートレフラクトメーターCARK560A(NIDEK社),眼圧は非接触式眼圧計CNT4000(NIDEK社)で,ACDは光学式眼軸長測定装置CIOLマスターC700(CarlZeissCMeditec社),角膜中央厚は超音波眼軸長測定装置AL-2000(TOMEY社)で測定した.角膜厚の測定に関しては,健常角膜では,光学的測定器機の再現性が高いとされるが7,8),術後などのわずかな浮腫や混濁があると,超音波パキメーターよりも過小評価される9,10)ことから,今回は,絶対値よりも,経時的変化の評価を重視し,超音波測定機器を用いた.これらの値より,以下の検討を行った.C1.グループ分けまず術翌日,2日目の他覚的屈折における等価球面値(それぞれCSE1,SE2とする)を求め,以下の群に分類した.・A群:SE2-SE1<C.0.25D;術翌日がC2日目よりも遠視寄りだったもの・B群:SE2-SE1>0.25D;術翌日がC2日目よりも近視寄りだったもの(ただし,2日間の差がC0.25D以内のものは,ボーダー群として,以下のCC群に分類する)・C群:C.0.25≦SE2-SE1≦0.25;術翌日とC2日目との差がC±0.25D以内のものC2.群.間.比.較術翌日とC2日目の眼圧の差(眼圧変動),ACDの差(ACD変動),K値の差(K値変動)を群間比較した.C3.相関の検討ACDの変動とCK値の変動について,それぞれの要因を検討するため,ACD変動と眼圧変動の相関,K値変動と術後角膜厚変化の相関を調べた.統計学的解析は,眼圧変動,ACD変動,K値変動は,Bartlett検定にてC3群が等分散であれば一元配置分散分析法でC3群間比較を行い,有意差があった場合は,多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った.分散が等しくなければ,Kruskal-Wallis検定にてC3群間比較を行った.ACD変動と眼圧変動,K値変動と角膜中央厚の各相関はCSpearman順位相関係数検定で行った.統計学的有意水準は5%とした.CII結果200眼中,細隙灯顕微鏡で確認できる術翌日のCDescemet膜皺襞,角膜浮腫,データ取得不完全からC11眼は除外された.組み入れ症例C189眼中,翌日が遠視寄りだったCA群は66眼,近視寄りだったCB群はC38眼,術翌日とC2日目の差が0.25D未満の境界例:C群がC85眼であった.A群の他覚屈折の経時的変化を図1に示す.術後C2日目以降は近視寄りになり,6カ月まで変化はなく,遠視寄りだったのは翌日だけであることが確認できる.眼圧変動(2日目の値C.翌日の値)は,A群CB群CC群の順に,.2.60±3.83,C.2.98±4.81,C.4.52±5.36(mmHg)ですべて翌日が高く,3群間に差はなかった(p=0.28).ACD変動(2日目の値C.翌日の値)は,A群B群C群の順に,C.0.05±0.83,C.0.02±1.05,0.08C±0.97(mm)で,3群間に差はなかった(p=0.90)(図2).さらに,A群C66眼のうちC30眼は,術翌日が遠視寄りであったにもかかわらず,ACDは翌日のほうが浅かった.また,ACD変動はC.1.59.0.30.10.080.20.060.1前房深度の変化(mm)A群B群C群等価球面屈折値(D)0-0.1-0.21日2日1週1カ月6カ月0.040.020-0.02-0.3-0.4図1A群の等価球面値の経時変化他覚屈折値は,術翌日のみ遠視寄りを呈し,2日目以降は変化がみられない.*0.25-0.04-0.06図2術翌日から2日目までの前房深度の変化(2日目の値.翌日の値)3群間に有意な差はみられない.p=0.90(一元配置分散分析法).C44.5術後K値の変化(D)4443.54342.50.2K値の変化(D)0.150.10.054241.5-0.051日2日1週1カ月6カ月-0.1図4A群の角膜屈折力の経時変化図3術翌日から2日目までの角膜屈折力の変動(2A群では術翌日のみ角膜の平坦化が起っていることが日目の値.翌日の値)示唆される.これはC2日目には改善され,それ以降は変K値の変動は,3群間で有意な差がみられた(p=0.02化がみられない.C:一元配置分散分析法).A群はC2日間でのCK値の変動がもっとも大きく,多重比較にてCB群との間に有意差がみられた(*p=0.02:Tukey-Kramer法).角膜中央厚の変化(μm)150100500-50y=-11.441x+0.3426(p=0.01)角膜屈折力の変化(D)-100-2.5-2-1.5-1-0.500.511.522.5図5A群の術翌日から2日目の角膜中央厚の変化と角膜屈折力の変化の相関両者の間には有意な負の相関がみられた(p=0.01:Spearman順位相関係数検定).D:CDioptryC1.36Cmmに分布しており,眼圧の変動と相関はなかった(p=0.51).図3は,A群CB群CC群のCK値変動である.各群順に,0.20C±0.43,C.0.08±0.50,0.04C±0.47(D)で,A群,C群では,術翌日のほうがCK値が小さく,2日間での変動はCA群がもっとも大きかった.3群のCK値変動には有意差があり(p=0.02),多重比較ではA群とB群に有意差を認めた(p=0.02).このことより,A群では術翌日にもっとも角膜の平坦化が起っていることが示唆された.A群における術後CK値の経時変化をみると,術後C2日目以降は最終観察期間まで変化がなく,角膜が平坦化していたのは術翌日だけであることが示された(図4).このCK値変動の因子を検討するために,A群におけるCK値変動と角膜中央厚変化の関係を調べたのが図5である.2日目-翌日におけるCK値変動と角膜中央厚変化の間には,有意な負の相関がみられた(p=0.01).CIII考察白内障眼内レンズ手術後,約C35%の症例で術翌日は屈折が最終安定位よりも遠視化しており,この傾向はC2日目にはなくなり,以後安定した.術翌日遠視寄りだった症例:A群は,その他の症例と比べて,術後C2日間でのCK値変動が有意に大きく,このCK値変動は角膜中央厚の変化と有意に相関した.術翌日の遠視化傾向は,角膜屈折力の変化がおもな要因で,その理由は,術翌日は角膜厚増加により角膜の平坦化が起こっていることが示唆された.一方,ACD変動はC3群の間に差はなく,術後超早期の屈折変化の要因ではなかった.また,眼圧の変動は群間に差はなく,ACD変動とも相関がなかった.つまり,術後超早期の眼圧がCACDに影響し,屈折が変動する,というメカニズムは示唆されなかった.IOL手術後の屈折変化については,過去にもさまざまな報告がある.Behrouzらは,3ピースCIOLは術後前方移動して前房角度,前房容積も浅くなり,術後C1週からC3カ月にかけて約C0.3D近視化したと報告しているが11),Iwaseらは術後C1週からC6カ月にかけて,IOLは前方移動するも屈折は変わらなかったとしている12).一方,シリコーンCIOL挿入眼では,術後C48週の間に,平均C0.53D近視化し,近視化のうちC60%(0.33D)はCIOLの前方移動量で説明できるが,残りの近視化分は原因不明とした報告がある13).これらの報告はすべてC3ピースCIOLでの報告であるが,シングルピースCIOL14),とくに今回使用したCSN60WFは,術後のCELP変化がC3ピースCIOLよりも有意に少ないことが報告されている15).さらに,シングルピースCIOLにおいて,術後C1カ月からC1年の間の屈折変化は,平均C0.25Dの遠視化であったが,IOLの後方偏位は平均0.03mmで,この変化はC0.05Dの屈折変化にしか相当せず,それに対し,角膜曲率の変化は0.17Dであり,術後の屈折変化と相関していたとする報告がある16).しかし,これらの報告は,いずれも術後数週間から数カ月の中長期的な変化を検討したもので,比較的短期の検討では,deJuanらが術翌日から1週間目の間に平均で1.01D近視化したと報告している17)ほか,Koepplらが,3ピースレンズ挿入眼では,術後C1週間でCACDがやや浅くなることを報告している18).しかし,術翌日からC2日目にかけての超早期の屈折変化とその関連因子を調べたものは,本報告が初めてである.一般に,術後視機能は屈折安定期のデータで評価されるが,術後早期の屈折安定が,患者満足度を上げるとする報告もあるとおり19),術者が患者と対面する臨床現場では,翌日の屈折状態は重要である.このようなCIOL手術後の屈折変化の要因については,ACDの変化11),ELPの変化12),角膜屈折力の変化などが予想されるが,すべての症例で,術後超早期に屈折変化をきたすわけではない.Klijnらは,長期の観察であるが,59眼の検討のなかで近視化したものがC19.32%,遠視化したものが28.48%で,術後屈折変化は,個々の症例で異なる特徴を有する可能性があるとしている16).そこで本研究では,まず,術後C2日間での屈折変動変動によってC3グループに分けて,ACD変動とCK値変動の両方に着目した.その結果,術翌日に遠視化傾向がみられた症例では,みられない症例と比べて,K値の変化が大きかったことが示された一方,ACD変動は関与していなかった.さらに本研究では,K値変動の理由として角膜中央厚の変化が示唆されたが,同じく術翌日は,角膜中央厚がC17.3%増加していたとするCdeJuanらの報告17)とも合致する.本論文の限界として,オートレフラクトメータでの球面度数,円柱度数はいずれもC0.25D刻みであるため,各眼の等価球面値はC0.125D刻みの精度である点である.また,角膜曲率の自然な動揺が,術後16,20)あるいは非手術眼21)でもみられるとする報告もあり,さらに詳細な検討が望まれる.以上より,白内障CIOL手術症例の約C35%で術翌日は最終屈折より遠視寄りになり,それは角膜厚の増加に伴う一時的なCK値の減少が因子となっている可能性が示唆された.IOL術後の,より早期の屈折安定に向けて,今後も検討を重ねてゆきたい.文献1)FindlO,DrexlerW,MenapaceRetal:Improvedpredic-tionCofCintraocularClensCpowerCusingCpartialCcoherenceCinterferometry.JCataractRefractSurgC27:861-867,C20012)Retzla.CJA,CSandersCDR,CKra.CMC:DevelopmentCofCtheCSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.CJCataractRefractSurgC16:333-340,C19903)HaigisCW:TheCHaigisCFormula.CIn:IntaocularCLensCPowerCCalculationsCeditedCbyCShammasCHJ.Cp41-57,CSLACK,NJ,20034)OlsenCT:SourcesCofCerrorCinCintraocularClensCpowerCcal-culation.JCataractRefractSurgC18:125-129,C19925)OlsenCT:PredictionCofCtheCe.ectiveCpostoperative(intra-ocularClens)anteriorCchamberCdepth.CJCCataractCRefractCSurgeC32:419-424,C20066)StakheevAA,BalashevichLJ:Cornealpowerdetermina-tionafterpreviouscornealrefractivesurgeryforintraocu-larlenscalculation.CorneaC22:214-220,C20037)MartinCR,CdeCJuanCV,CRodriguezCGCetCal:ContactClens-inducedCcornealCperipheralCswelling:OrbscanCrepeatabili-ty.OptomVisSciC86:340-349,C20098)ChristensenCA,CNarva´ezCJ,CZimmermanCG.CComparisonCofCcentralCcornealCthicknessCmeasurementsCbyCultrasoundCpachymetry,CKonanCnoncontactCopticalCpachymetry,CandCOrbscanpachymetry.CorneaC27:862-865,C20089)Altan-YayciogluCR,CPelitCA,CAkovaCYA:ComparisonCofCultrasonicCpachymetryCwithCOrbscanCinCcornealChaze.CGraefesArchClinExpOphthalmolC245:1759-1763,C200710)FakhryMA,ArtolaA,BeldaJIetal:Comparisonofcor-nealpachymetryusingultrasoundandOrbscanII.JCata-ractRefractSurg28:248-252,C200211)BehrouzCMJ,CKheirkhahCA,CHashemianCHCetCal:AnteriorsegmentCparameters:comparisonCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicfoldableintraocularlenses.JCataractRefractSurgC36:1650-1655,C201012)IwaseCT,CSugiyamaCK:InvestigationCofCtheCstabilityCofCone-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCcataractCsurgeryCandCinCcombinedCvitrectomyCsurgery.CBrCJCOphthalmolC90:1519-1523,C200613)IwaseCT,CTanakaCN,CSugiyamaCK:PostoperativeCrefracC-tionchangesinphacoemulsi.cationcataractsurgerywithimplantationCofCdi.erentCtypesCofCintraocularClens.CEurJOphthalmolC18:371-376,C200814)WirtitschMG,FindlO,MenapaceRetal:E.ectofhapticdesignonchangeinaxiallenspositionaftercataractsur-gery.JCataractRefractSurgC30:45-51,C200415)E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久留米大学における若年者の緑内障に対する線維柱帯切開術の成績

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1765.1770,2017c久留米大学における若年者の緑内障に対する線維柱帯切開術の成績照屋健一*1山川良治*2*1出田眼科病院*2久留米大学医学部眼科学講座CResultsofTrabeculotomyforTreatmentofGlaucomainYoungPatientsatKurumeUniversityHospitalKenichiTeruya1)andRyojiYamakawa2)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine20歳未満に発症した若年者の緑内障における線維柱帯切開術について検討した.初回手術に線維柱帯切開術を施行し,術後C6カ月以上経過観察できたC24例C39眼を対象とした.発症がC3歳未満の早発型発達緑内障C5例C9眼をCI群,3歳以降の遅発型発達緑内障C11例C18眼をCII群,隅角以外の眼異常を伴う緑内障とステロイド緑内障を合わせたC8例12眼をCIII群とした.各群の術前平均眼圧は,I群がC28.9C±11.2CmmHg,II群がC33.0C±10.1CmmHg,III群がC31.6C±7.4mmHgで,平均経過観察期間は,I群がC8.8C±1.6年,II群がC3.1C±1.8年,III群がC4.1C±2.6年であった.初回手術の成功率は,I群はC100%,II群はC72.2%,III群はC91.7%,全体ではC84.6%であった.39眼中C6眼(15.4%)に追加手術を施行した.若年者の緑内障において,線維柱帯切開術は有効と確認された.CWeCreviewedCtheCsurgicalCoutcomeCofCtrabeculotomyCforCglaucomaCinCyoungCpatientsCatCKurumeCUniversityCHospital.Subjectscomprised39eyesof24patientswithmorethan6months’follow-up,whohadundergonetra-beculotomyCasCtheCprimaryCsurgery.CWeCclassi.edCtheCpatientsCintoC3Cgroups:GroupCI,CdevelopmentalCglaucoma,included9eyesof5patientswithonsetwithin3yearsofage;GroupII,developmentalglaucoma,included18eyesof11patientswithonsetafter3yearsofage;GroupIII,glaucomaassociatedwithotherocularanomaliesandste-roidCglaucoma,CincludedC12CeyesCofC8Cpatients.CTheCaverageCintraocularCpressure(IOP)beforeC.rstCtrabeculotomyCwas28.9±11.2CmmHginGroupI,33.0±10.1CmmHginGroupIIand31.6±7.4CmmHginGroupIII.ThesuccessrateforCinitialCtrabeculotomyCwasC100%CinCGroupCI,C72.2%CinCGroupCII,C91.7%CinCGroupCIIICandC84.6%CinCtotal.CSixCeyes(15.4%)underwentadditionalsurgeries.Trabeculotomyiscom.rmedasusefulforglaucomainyoungpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1765.1770,C2017〕Keywords:若年者,発達緑内障,線維柱帯切開術,眼圧,手術成績.youngpatients,developmentalglaucoma,trabeculotomy,intraocularpressure,surgicale.ect.Cはじめに若年者の緑内障は,発達緑内障と続発緑内障がおもなものと考えられる.発達緑内障は隅角のみの形成異常による発達緑内障と隅角以外の先天異常を伴う発達緑内障に大別される.発達緑内障は先天的な隅角の発育異常により生じる房水流出障害が病因ゆえ,原則として外科的治療が主体になる1).また,小児の緑内障では各種検査が成人同様には行えないなどの側面から診断が遅れる場合も少なくない.さらに,角膜混濁や隅角発生異常,他の眼異常を伴うなど,手術の難度を高くする要素が多い.本疾患は早期の診断と早期手術が重要で,その成否が患児の将来を左右することはいうまでもない.若年者の緑内障の手術療法としては,濾過手術やCtubeshunt手術は術後管理がむずかしく,第一選択の術式として,術後管理が容易な線維柱帯切開術が行われている.今回,筆者らは久留米大学病院眼科(以下,当科)におけ〔別刷請求先〕照屋健一:〒860-0027熊本市中央区西唐人町C39出田眼科病院Reprintrequests:KenichiTeruya,M.D.,IdetaEyeHospital,39Nishitoujin-Machi,Chuo-ku,KumamotoCity860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(127)C1765る若年者の緑内障の初回手術としての線維柱帯切開術の成績を検討したので報告する.CI対象および方法対象は,20歳未満で発症した緑内障で,1999年C2月.2009年C12月に当科で初回手術として線維柱帯切開術を施行し,6カ月以上経過観察できたC24例C39眼(男性C15例C23眼,女性C9例C16眼)である.初診時平均年齢は,11.0C±8.2歳(1.9カ月.22.5歳)であった.病型の分類は,隅角のみの異常にとどまる発達緑内障のうち,Gorinの分類2)により,3歳未満発症の早発型をCI群,3歳以降発症の遅発型をCII群,隅角以外の眼異常を伴う発達緑内障と続発緑内障をCIII群とした.I群5例9眼,II群11例18眼,III群8例12眼であった.III群の内訳は,Sturge-Weber症候群C2例C2眼,Axen-feld-Rieger症候群C1例C1眼,無虹彩症C2例C4眼,ステロイド緑内障C3例C5眼であった.なお,II群のC3例C5眼は,初診時C20歳を超えていたが,問診や前医からの診療情報から発症はC20歳未満と推測され,さらに隅角所見が全C5眼とも高位付着を認めたため,遅発型発達緑内障と診断した.手術時の平均年齢は,I群でC0.8C±0.9(0.2.3.3)歳,II群でC19.8C±3.9(13.2.26.1)歳,III群でC10.4C±7.5(0.3.20.4)歳であった.術前の平均眼圧は,I群はC28.9C±11.2mmHg,II群はC33.0±10.1CmmHg,III群はC31.6C±7.4CmmHg,術後平均経過観察期間は,I群でC8.8C±1.6年,II群でC3.1C±1.8年,III群でC4.1±2.6年であった(表1).I群で受診の契機になったのはC5例中C4例が片眼の角膜混濁で,そのうちC2眼はCDescemet膜断裂(Haabs線)を認め,反対眼も含めてC9眼すべて角膜径は月齢の基準と比較して拡大していた(表2).他に角膜径の測定を行ったのは,II群の2眼,III群のCSturge-Weber症候群のC2眼であった.II群の2眼はC11.5Cmmで正常であったが,III群のC2眼は,それぞれC12.5CmmとC14Cmmで拡大を認めた.初回手術は熟練した同一術者により,全例に線維柱帯切開術を施行した.初回手術が奏効せず,反対眼は初回から線維柱帯切除術を行ったC1眼と術前すでに視機能がなく,初回から毛様体冷凍凝固術を行ったC1眼,そして初回の緑内障手術を他施設で行っていたC1眼は除外した.また,初回線維柱帯切開術の部位は,I群C9眼すべてとCII群のC1眼,III群のC3眼に対して上方から,他のC26眼は下方から行った.表1対象I群II群III群(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)手術時年齢(歳)C0.8±0.9C19.8±3.9C10.4±7.5術前眼圧(mmHg)C28.9±11.2C33.0±10.1C31.6±7.4術後経過観察期間(年)C8.8±1.6C3.1±1.8C4.1±2.61766あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017眼圧は,覚醒状態で測定できる場合は覚醒下にCGoldmann圧平式眼圧計にて測定し,覚醒状態での測定が無理な場合は,全身麻酔またはトリクロホスナトリウム(トリクロリール)と抱水クロラール(エスクレ)投与下で,入眠下にTono-penXLおよびCPerkins眼圧計にて測定した.両測定機器の眼圧値に大きな差がないことを確認し,また差があった場合は,角膜浮腫や角膜径の拡大の有無や視神経乳頭陥凹拡大の程度なども考慮して,おもにCPerkins眼圧計の測定値を採用した.眼圧の評価は,緑内障点眼薬の併用も含めて,覚醒時でC21CmmHg以下,入眠時でC15CmmHg以下を成功とし,2診察日以上連続してその基準値を上回ったとき,または,追加手術をした場合,その時点で不成功とした.手術の適応は,眼圧のほか,視神経乳頭陥凹の拡大の有無,角膜径の拡大の有無,可能な症例では視野の程度などを加味して決定した.初回手術の成功率,術前所見と初回線維柱帯切開術の手術成績,合併症,手術回数,最終成績について,後ろ向きに検討した.CII結果初回手術の成功率は,I群はC100%(9眼中C9眼),II群は72.2%(18眼中C13眼),III群はC91.7%(12眼中C11眼),全体では,84.6%であった(表3).I群のC9眼すべて,初回手術のみで,緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールできた.II群では術後C6カ月でC3眼が追加手術となり,2眼は術後C3年で追加手術となった.III群は,生後C3カ月発症のCSturge-Weber症候群のC1眼が,初回手術のC6年後に追加手術となった.その結果,全C39眼の初回手術成績の累積生存率をKaplan-Meier法により生存分析したところ,初回手術後C6カ月累積生存率はC92.2%,3年後はC84.1%,6年後はC75.7%,10年累積生存率はC75.7%であった(図1).術前所見と初回線維柱帯切開術の手術成績について検討した(表4).発症が生後C3カ月未満の早期発症例はC5眼(I群1例C2眼とCIII群CSturge-Weber症候群のC1眼,無虹彩症のC1例C2眼)であったが,成功率はC5眼中C4眼(80%)で,3カ表2I群の術前プロフィール症例発症(月)症状角膜径(mm)Haabs線C1C6角膜混濁C13.0(+)C.無(僚眼)C12.5(.)C2C4角膜混濁C14.5(+)C3C6角膜混濁C13.5(.)C.無(僚眼)C13.5(.)C4C2睫毛内反C13.0(.)C2睫毛内反C12.5(.)C5C6角膜混濁C13.0(.)C.無(僚眼)C12.0(.)表3初回手術成功率(成功眼/眼数)100I群II群III群合計8075.7%(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)(n=39眼)100%72.2%91.7%84.6%60(9/9)(13/18)(11/12)(33/39)4020表4術前所見と初回手術成績0024681012成功数/眼数p値生存期間(年)累積生存率(%)発症3カ月未満C発症3カ月以上C4/529/34C0.588図1全症例の初回線維柱帯切開術の生存率眼圧C30CmmHg以上C眼圧C30CmmHg未満C0.47820/2313/16CFisher’sexactprobabilitytest.表6手術回数手術回数I群II群III群(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)表5初回線維柱帯切開術の合併症1回9C13112回C.31I群II群III群3回C.1C.(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)4回C.1C.Descemet膜.離C..1(8.3%)平均(群別)C1.0C1.4C1.1低眼圧C.2(11.1%)C.一過性高眼圧C.3(16.7%)C.合計(群別)0(0.0%)5(27.8%)1(8.3%)表7最終手術成績I群(n=9眼)II群(n=18眼)III群(n=12眼)手術回数(平均)術前眼圧(mmHg)C最終眼圧(mmHg)C最終成功眼数(成功率)1(1C.0)28.9±11.2Cp=0.03113.2±4.1C9(1C00%)1.4(1C.4)33.0±10.1Cp<C0.000117.6±3.3C15(C83.3%)1.2(1C.1)31.6±7.4p<C0.000114.3±2.112(1C00%)Paired-tCtest(p値<0.05)C月以降群のC34眼中C29眼(85.3%)に対して有意差はなかった.術前眼圧をC30CmmHgで分けてみて検討したが,統計学的有意差はなかった.角膜径に関しては,平均年齢が高いCII群とCIII群では,測定した眼数が各々C2眼ずつと少なく,統計学的に論じることは困難だが,角膜径がC12.5Cmm以上の10眼中C9眼(90%)が初回手術で眼圧コントロールされた.12.5mm以上群で追加手術が必要になったC1眼は角膜径12.5Cmmの早期発症例のCSturge-Weber症候群であった.初回線維柱帯切開術の合併症を表5に示す.II群のC2眼(11.1%)で脈絡膜.離を伴う低眼圧とC3眼(16.7%)に一過性眼圧上昇を認め,III群のC1眼(8.3%)にCDescemet膜.離を認めた.低眼圧をきたしたC2眼は術後C2週までに,眼圧上昇のC3眼はC2カ月までに正常化した.Descemet膜.離のC1眼は視機能に影響することなく経過した.手術回数を表6に示す.全症例眼数C39眼のうちC6眼(15.4%)に対して追加手術を行った.6眼の内訳は,II群C4例C5眼,III群のCSturge-Weber症候群のC1例C1眼であった.ステロイド緑内障は初回手術で全症例で眼圧コントロールできた.II群のC2眼は初回手術のC3年後に線維柱帯切開術をC1回追加し,眼圧コントロールできたが,1例C2眼は,1眼にC4回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切開術C1回,その後,線維柱帯切除術C1回,濾過胞再建術をC1回),1眼はC2回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切除術C1回)の手術を行った.他のCII群のC1眼は,3回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切除術C1回,その後濾過胞再建術をC1回)の手術を行った.III群のCSturge-Weber症候群のC1眼は,初回手術のC6年後に線維柱切開術をC1回追加し,その後C2年最終経過観察時点まで眼圧コントロールできた.最終手術成績の結果を表7に示す.I群は,最終平均眼圧C13.2±4.1mmHg,II群で術後C17.6C±3.3mmHg,III群で術後C14.3C±2.1CmmHgとC3群とも術前に比較して,有意に低下した.全症例C39眼中C21眼(53.8%)が緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールが可能となった.I群のC9眼全例,III群は無虹彩症のC2例C4眼を除くC8眼は緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールが得られた.I群は初回手術のみでC100%,II群とCIII群は追加手術も含めて,最終成功率はそれぞれCII群がC83.3%,III群がC100%,全体でC92.3%であった.CIII考按若年者の緑内障の分類はさまざまな分類2,3)があり,既報4.11)での分類もばらついているが,3歳未満で発症する場合,眼圧上昇により眼球拡大をきたしやすい側面があり,今回筆者らも隅角発生異常のみの発達緑内障に関しては,I群とCII群をC3歳で区切って,治療成績・予後をまとめた.覚醒時の眼圧測定が困難な症例に対しては,入眠時の眼圧を参考にした.全身麻酔下での眼圧に影響を与える因子としては,麻酔薬,麻酔深度,前投薬,麻酔方法があげられるが,これらの要因がどの程度,眼圧に影響を与えているかを正確に判定することは困難と考えられている12).臨床的には,条件を一定にして測定し,結果を比較するという方法がとられている.全身麻酔下の眼圧は既報12,13)によれば,5.7mmHg低めに出るとされ,そのため,入眠時眼圧の基準を15CmmHgを上限とした既報が多いと考えられる.今回の検討では,トリクロホスナトリウムの入眠下でのCPerkins眼圧計での測定を基準にしてC15CmmHgを上限値とした.若年者の緑内障の手術は,一般的に線維柱帯切開術か隅角切開術が選択されることが多く,当科では,初回手術は全例線維柱切開術を施行している.発達緑内障に対する線維柱帯切開術と隅角切開術の成績はCAndersoCn4)によれば,いずれも熟練した術者が行えば,同等の成績が得られるとしている.若年者の線維柱帯切開術において,Schlemm管の位置や形状は症例によってさまざまで,とくに乳児の強膜は成人と違って柔らかく,Schlemm管の同定が困難なことがある.Schlemm管を探すため,わずかな強膜層を残して毛様体が透見できるように強膜弁を作製するのがこつと考えている.Schlemm管あるいはそれらしいものが見つかれば,トラベクロトームを挿入するときにスムーズに入ること,そして可能であればCPosner診断/手術用ゴニオプリズムで挿入されているか確認する.トラベクロトームを回転するときはある程度抵抗があって,かつ前房にスムーズに出てきて,bloodre.uxがあると成功と考えている.Schlemm管らしきものがなく,トラベクロトームが挿入できない,挿入してもすぐ前房に穿孔する症例は,線維柱帯切除術に切り替えざるをえないと考えているが,今回の症例ではなかった.3歳未満発症の早発型発達緑内障の線維柱帯切開術の初回手術成績は,永田らはC75%5),藤田らがC79%6)と報告している.今回筆者らのCI群ではC9眼という少数例ではあるが,全例角膜径がC12Cmm以上に延長していたにもかかわらず,平均経過観察期間C8.8(6.6.11.8)年という長期間において,初回の線維柱帯切開術で,最終的に緑内障点眼薬なしで全症例眼圧コントロールできた.既報7.11,14,15)では,生後2.3カ月未満の早期発症例は難治で予後不良とするものが多い.筆者らの検討では,早期発症のC5眼中C4眼(80%)が初回手術でコントロールできた.早期発症のCI群のC1例C2眼はC10年,無虹彩のC1例C2眼はC3年,最終経過まで初回手術でコントロールできた.早期発症のCSturge-Weber症候群のC1眼は追加手術を要したが,初回手術のC6年後に線維柱帯切開術をC1回追加することで長期のコントロールが得られた.既報9,14)では,2.3カ月未満の早期発症例は,初回線維柱帯切開術が奏効しても,10.15年で再度眼圧上昇をきたす症例が散見され,今後も慎重な経過観察が必要と考えている.その一方で,Akimotoら7)の大規模症例での検討では,2カ月.2歳未満の最終手術成績はC96.3%と非常に高い奏効率を示している.永田ら14)は,このグループの早期診断と治療の成否こそがもっとも決定的に患児の将来の大きな意味をもつとしている.3歳未満の発症例では,高眼圧への曝露期間が長くなると,角膜径拡大に伴いCSchlemm管が伸展し,手術時にCSchlemm管の同定が困難になり,成人例より難度が高くなるとされる14,15).それゆえ,本疾患においては,線維柱帯切開術に熟練した術者が手術を行うべきと考えている.また,確実に線維柱帯切開術を遂行すればかなり長期間にわたって眼圧コントロールが得られることをふまえて,筆者らは,初回の線維柱帯切開術において確実に手術を遂行させることを優先して,年齢によって術野条件のよい上方からのアプローチを行った.角膜径がC14.5Cmmと極端に拡大していたCI群の症例C2や,生後C2カ月発症の早期発症のCI群症例C4など,Schlemm管を同定することがかなり困難な症例が含まれていた.しかし,Schlemm管と同定あるいは考えられた部位にトラベクロトームを挿入・回転することで,初回手術で長期の眼圧コントロールが得られた.追加手術が必要になったC6眼のうち,初回手術後C3年以上(II群のC2眼がC3年,III群CSturge-Weber症候群C1眼がC6年)コントロールできたC3眼は,線維柱帯切開術をC1回追加することで長期にわたる眼圧コントロールが可能であったが,他のC3眼(すべてCII群)はすべて初回手術が奏効せず,半年で追加手術に至り,最終的に線維柱帯切除術まで至った.若年者の線維柱帯切除術は既報16,17)でもCTenon.が厚いことや術後に瘢痕形成しやすいなどの問題が指摘されているように,今回のC3眼はいずれも濾過胞の縮小傾向がみられ,コントロール困難であった.Akimotoら7)の検討でも,2歳以降発症群の最終眼圧コントロール率はC76.4%と,2カ月.2歳発症群のC96.3%に比べて,やや劣る結果となっているが,その理由は検討されていない.これは,Sha.erら18)の原発先天緑内障への隅角切開術においても,2歳までの発症例の成功率がC94%に対して,2歳以降発症例がC38%と極端に不良な結果になっており,2歳以降の発症例のなかに,線維柱帯切開術や隅角切開術に抵抗性を示す症例が存在することを示唆している.今回の筆者らの検討でのCII群も,最終手術成績がC18眼中C15眼(83.3%)と既報と比較しても良好な結果であったが,追加手術になったC5眼中C3眼は最終的にコントロールが困難であった.これに対する考察として,3歳以上の症例は,角膜混濁や角膜径拡大に伴う流涙などの症状をきたしにくく,自覚症状に乏しい面があり,受診に至るまでに長期間経過し,Schlemm管の二次的な変化をきたしていた可能性が考えられた.既報5,14)では,初回の線維柱帯切開術が奏効しない症例でも追加の同手術を行うことで眼圧コントロールが得られる症例が存在するとしているが,今回の筆者らの検討では,初回手術で全例確実に線維柱帯切開術を施行したにもかかわらず,術後眼圧下降が得られなかったC3眼のうちC1眼は,追加で線維柱帯切開術を施行したが奏効しなかった.これらの症例に対する追加術式については今後も検討を要すると考えられた.III群に関しては,さまざまな病態が関与するため,既報でも成績がばらついており,また,ステロイド緑内障を含んでいることから一概に評価することは困難だが,隅角以外の異常を伴う発達緑内障は,隅角のみの異常にとどまる症例に比べて,成績が劣るとされている8,19).筆者らのCIII群のうち,成績のよいステロイド緑内障を除いても,隅角以外の眼異常を合併したC7眼中追加手術を行ったのがC1眼のみで,既報に比べてもきわめて良好な結果であった.追加手術になったSturge-Weber症候群のC1眼は,初回手術がC6年奏効した.本疾患は,眼圧上昇の機序にCSchlemm管,線維柱帯のみでなく,上強膜静脈圧の上昇まで関与するといわれているが,眼圧上昇の機転の主座がどの病巣にあるかを術前から予測することは困難で,また濾過手術での脈絡膜出血やCuveale.usionなどのリスクや術後管理などを考慮すると,やはり初回手術は線維柱帯切開術が望ましいと考えられた.ステロイド緑内障に関しては,治療の原則はステロイドの中止となるが,全身疾患に対する治療の必要性からステロイドの長期投与を余儀なくされ,中止が困難なケースも少なくない.それらのケースで点眼治療が奏効しない場合,外科的治療が必要となる.既報20,21)での若年発症のステロイド緑内障に対する線維柱帯切開術の成績は,いずれも良好な成績となっており,今回のステロイド緑内障C5眼も初回手術で全例コントロールが得られた.今回の検討から,若年者の緑内障のうち,隅角のみの異常にとどまる発達緑内障に関しては,線維柱帯切開術は原因治療であり,奏効した場合は長期の眼圧コントロールが得られることが示された.また,隅角以外の形成異常を伴う発達緑内障とステロイド緑内障に関しても,重篤な合併症が少ないことや術後管理が容易な点からも,若年者において,線維柱帯切開術が第一選択の有効な術式であることが確認できた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C3版.日眼会誌116:3-46,C20122)GorinG:Developmentalglaucoma.AmJOphthalmol58:C572-580,C19643)HoskinsCHDCJr,CSha.erCRN,CHetheringtonCJ:AnatomicalCclassi.cationCofCtheCdevelopmentalCglaucoma.CArchCOph-thalmol102:1331-1336,C19844)AndersonCDR:TrabeculotomyCcomparedCtoCgoniotomyCforCglaucomaCinCchildren.COphthalmologyC90:805-806,C19835)永田誠:乳児期先天緑内障の診断と治療.眼臨C85:568-573,C19916)藤田久仁彦,山岸和矢,三木弘彦ほか:先天緑内障の手術成績.眼臨86:1402-1407,C19927)AkimotoM,TaniharaH,NegiAetal:SurgicalresultsoftrabeculotomyCabCexternoCforCdevelopmentalCglaucoma.CArchOphthalmol112:1540-1544,C19948)太田亜希子,中枝智子,船木繁雄ほか:原発先天緑内障に対する線維柱帯切開術の手術成績.眼紀C51:1031-1034,C20009)IkedaH,IshigookaH,MutoTetal:Long-termoutcomeoftrabeculotomyforthetreatmentofdevelopmentalglau-coma.ArchOphthalmol122:1122-1128,C200410)小坂晃一,大竹雄一郎,谷野富彦ほか:先天緑内障の長期手術成績.あたらしい眼科19:925-927,C200211)原田洋介,望月英毅,高松倫也ほか:発達緑内障における線維柱帯切開術の手術成績.眼科手術23:469-472,C201012)坪田一男,平形明人,益田律子ほか:小児の全身麻酔下眼圧の正常範囲について.眼科26:1515-1519,C198413)奥山美智子,佐藤憲夫,佐藤浩章ほか:全身麻酔下における眼圧の変動.臨眼60:733-735,C200614)永田誠:発達緑内障臨床の問題点.あたらしい眼科C23:C505-508,C200615)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科C27:C1387-1401,C201016)野村耕治:小児期緑内障とトラベクレクトミー.眼臨97:C120-125,C200317)SidotiCPA,CBelmonteCSJ,CLiebmannCJMCetCal:Trabeculec-tomyCwithCmitomycin-CCinCtheCtreatmentCofCpediatricCglaucoma.Ophthalmology107:422-429,C200018)Sha.erRN:Prognosisofgoniotomyinprimaryglaucoma(trabeculodysgenesis)C.CTransCAmCOphthalmolCSocC80:C321-325,C1982C19)大島崇:血管腫を伴う先天緑内障の治療経験.眼臨C81:C1992142-145,C198721)河野友里,徳田直人,宗正泰成ほか:若年発症緑内障に対20)竹内麗子,桑山泰明,志賀早苗ほか:ステロイド緑内障にする線維柱帯切開術の成績.眼科手術28:619-623,C2015対するトラベクロトミー.あたらしい眼科C9:1181-1183,***

角膜ケロイド症例の免疫組織学的検討

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1761.1764,2017c角膜ケロイド症例の免疫組織学的検討沼幸作*1北澤耕司*2,3外園千恵*1木下茂*3*1京都府立医科大学視覚機能再生外科学*2バプテスト眼科クリニック*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CImmunohistologicalExaminationofaCasewithCornealKeloidKohsakuNuma1),KojiKitazawa2,3)C,ChieSotozono1)andShigeruKinoshita3)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)BaptistEyeInstitute,3)DepartmentofFrontierMedicalTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:角膜ケロイドのケロイド組織を免疫組織学的に検討したC1症例を報告する.症例および経過:症例はC73歳,男性で,過去に複数回の眼科手術歴があり,徐々に視力低下が進行しバプテスト眼科クリニックを紹介受診.角膜ケロイドと水疱性角膜症を認めたため,角膜ケロイド除去および全層角膜移植術を施行した.術後C9カ月の経過において裸眼視力C0.1(矯正不能)で,ケロイドの再発は認めず,角膜移植片は透明性を維持している.手術時に除去したケロイド組織を免疫組織学的に検討したところ,角膜上皮層にケラチンC3,ケラチンC12,ケラチンC4,ケラチンC13が陽性であったが,ケラチンC1,ケラチンC10は陰性であった.結論:二次性に発症したと考えられる角膜ケロイドに対して全層角膜移植を行い,術後C9カ月の経過期間中には,ケロイドの再発を認めず,移植片は透明性を維持していた.切除した角膜ケロイド組織は,角膜上皮および結膜上皮の両方の生物学的特徴を有していた.Herewereportapatientwhounderwentpenetratingkeratoplasty(PK)forcornealkeloid.A73-yearoldmalewasreferredtotheBaptistEyeInstitute,Kyoto,Japan.Hehadundergonethreeintraocularsurgeriesandhadcor-nealkeloidandbullouskeratopathy.WeperformedcornealkeloidremovalandPK.Afterthesurgery,best-correct-edCvisualCacuityCimprovedCtoC20/200CandChasCmaintainedCwellCwithoutCrejectionCepisode.CTheCresectedCcornealCkeloidtissueshowedbiologicalcharacteristicsofbothcornealepitheliumandconjunctiva.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1761.1764,C2017〕Keywords:角膜ケロイド,水疱性角膜症,全層角膜移植術,ケラチン.cornealkeloid,bullouskeratopathy,pene-tratingkeratoplasty,keratin.Cはじめに角膜ケロイドは,角膜外傷や手術後に異常な創傷治癒過程をたどることで,角膜に結節状の白色腫瘤を形成する比較的まれな疾患である.病理組織学的には角膜上皮の過形成,角膜基底層とCBowman膜の破綻,同時に角膜実質層の不規則なコラーゲンの蓄積を起こす1,2).一方で,角膜ケロイドを免疫組織学的に検討した報告はこれまでになく,その病態もいまだに不明な部分が多い.今回筆者らは,眼外傷と長期にわたる水疱性角膜症によって発生したと思われる角膜ケロイドの症例に対して,手術時に切除したケロイド組織を免疫組織学的に検討したので報告する.CI症例および経過73歳,男性で,既往疾患に糖尿病および高血圧があった.40歳(1980年)時,右眼外傷でC3度の手術歴があり人工水晶体眼となった.その後,角膜内皮機能不全により水疱性角膜症を発症し近医で経過観察されていた.しかし,角膜混濁を伴う隆起性病変を発症し,さらなる視力低下をきたしたため,2015年C10月にバプテスト眼科クリニックへ紹介受診となった.初診時の右眼視力はC10cm指数弁(矯正不能),眼圧は32CmmHgであり,角膜中央部には表面の滑らかな白色結節を認め,中央部には血管侵入を伴っていた(図1).前眼部OCT(CASIA;トーメイ)では境界明瞭な高輝度領域を認〔別刷請求先〕北澤耕司:〒C606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KojiKitazawa,M.D.,Ph.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,CJAPAN図1手術前水疱性角膜症およびC11時方向より血管侵入を伴う白色隆起性病変を認めた.図3手術中所見ケロイド組織と考えられる部位の.離後,残存角膜は比較的透見性が高かった.め,白色結節部位に一致すると考えられた(図2).角膜内皮細胞数は測定不能であった.受診時に高眼圧を認めたため,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩点眼による眼圧コントロールが開始となった.2016年C7月に眼圧C15CmmHgと手術加療が可能であると考えられる状態となったため,全層角膜移植術を施行した.術中に角膜の透見性を確保する目的で,肥厚した角膜上皮層と実質浅層を含む組織片を.離した(図3).縫着糸を通糸した後に,7.5Cmm径でホスト角膜を打ち抜いた.後房内に下方偏位した眼内レンズを認めたためこれを除去し,新しい眼内レンズを縫着した.7.75Cmm径の角膜移植片を連続縫合し手術は終了した.術後は眼圧C30mmHgと高眼圧を示したが,ラタノプロスト・チモロール図2手術前前眼部COCTで角膜表層に境界明瞭な高輝度領域を認めた.図4術後9カ月角膜移植片は透明性を維持していた.マレイン酸塩とブリモニジン酒石酸塩点眼,アセタゾラミド内服でC20CmmHg前後を維持することができた.術後C9カ月の経過時点では,裸眼視力C0.1(矯正不能),眼圧C18CmmHg,角膜内皮細胞数はC2,339Ccells/mmC2であり,角膜移植片は透明性を維持していた(図4).今回,手術開始の際に切除した白色隆起組織と打ち抜いたホスト角膜をそれぞれ半割し,ヘマトキシリン・エオジン染色にて病理組織学的所見を観察した.角膜実質層の表層部では新生血管の増生と不規則なコラーゲンの増生を認めた.角膜上皮の過形成やCBowman膜の破綻,および杯細胞は観察されなかった(図5).角膜実質中間層より深部の角膜組織には明らかな異常は認められなかった(図6).つぎに,残った組織片から凍結切片を作製し,以下のように免疫染色を行い,ケラチンの発現を観察した.アセトンにてC4℃でC10分間固定し洗浄した後,0.15%CTriton/PBSを用いて室温でC10分間の透過処理を行い,その後ブロックキングを行った.一次抗体としてケラチンC3抗体(PROGEN;AE-5,Cmouse),図5手術時に切除したケロイド組織の病理組織像〔Hematoxylin.図6手術時に打ち抜いたホスト角膜の病理組織像〔Hematoxylin.Eosin(HE)染色〕Eosin(HE)染色〕角膜実質浅層に増生された血管(▲)および,不整なコラーゲン角膜実質中間層,実質深層,Descemet膜および角膜内皮層の各増殖の層(*)を認めた.スケールバー:200Cμm.層に明らかな異常は認めなかった.スケールバー:200Cμm.図7手術時に切除したケロイド組織の免疫染色像角膜上皮層においてケラチン(K)3は上皮層の表層C2.3細胞層で陽性,K12は上皮全層で陽性であった.K4は上皮最表層のみで陽性,K13は上皮層の表層C2.3細胞層で弱陽性であった.K1,K10は陰性であった.スケールバー:200Cμm.CケラチンC12抗体(SantaCruz;N-16,goat),ケラチンC4抗体(Novocastra;6B10,Cmouse),ケラチンC13抗体(Novo-castra;KS-1A3,Cmouse),ケラチンC1抗体(LeicaCBiosys-tem;34CbB4,Cmouse),ケラチンC10抗体(Novocastra;LHP1,mouse)を2%CBSAで希釈し,オーバーナイト4℃で反応させた後に,それぞれに対応した二次抗体をC2%CBSAに希釈し室温でC1時間反応させた.PropidiumCiodide(PI)を反応させ封入し,蛍光顕微鏡(AX70CTRFCR;Olympus)で観察した.なお,すべての反応は湿潤箱内で行った.その結果,採取した角膜ケロイドの表層組織では,角膜上皮全層においてケラチンC12が陽性であった.また,上皮表層のC2.3細胞層においてケラチンC3とケラチンC13を,上皮最表層においてケラチンC4が陽性となった.ケラチンC1とケラチンC10は陰性であった(図7).CII考按本症例は,角膜に境界明瞭で表面は滑らかな白色結節病変,および病変に一致して新生血管を認めた.前眼部COCTにおいて高輝度に描出された角膜上皮と実質浅層と考えられる角膜肥厚は,検眼鏡的に認めた白色結節病変と一致していると考えられた.角膜ケロイドについてのこれまでの報告によると臨床所見は,角膜に表面が滑らかで単独の白色またはやや黄色がかった結節病変が生じ,時間経過とともに徐々に拡大傾向を示す.病変に一致して新生血管を伴うこともある1,2).今回の症例の臨床所見は既報の角膜ケロイドの特徴と比較しても矛盾しない所見であり,年齢や外傷歴からも角膜ケロイドと診断した.しかし,一般に角膜ケロイドの臨床所見は多岐にわたり,角膜デルモイド,Salzmann角膜変性症,角膜浮腫を伴う発達緑内障,Peters奇形などが鑑別疾患となる1,3)が,いずれの疾患も前眼部COCTで境界が明瞭にかつ均一な高輝度の領域で描出される疾患ではない.角膜ケロイド診断には前眼部COCTによる評価が有用であった.角膜ケロイドの多くは角膜外傷,角膜疾患,眼手術後に二次的に発症するとされているが,とくにそのような外的因子の関与がなくても発症するという報告もある1.5).本症例は外傷歴と,3度にわたる眼科手術歴と長年の水疱性角膜症から慢性的に角膜上皮のトラブルを繰り返したことにより,二次的に角膜ケロイドを発症したと考えられた.病理学的所見は,既報では,角膜上皮の過形成,基底層とCBowman膜の破綻,角膜実質層ではCalpha-smoothmuscleactin(Ca-SMA)陽性筋線維芽細胞の増生や硝子様コラーゲン線維を認めると報告されている1,2).今回の症例では,角膜上皮の過形成や基底層とCBowman膜の破綻は明らかに認めることはなかったが,角膜実質表層での不規則なコラーゲン増生を認めた.その部位はとくに実質層浅層であり,同部位には血管増生も認めることから,角膜実質浅層がケロイド形成の首座になっている可能性が考えられた.免疫組織学的検討では,正常な角膜上皮に発現するケラチンC3とケラチンC126,7)以外にも,結膜上皮に発現するケラチンC4とケラチンC13の発現8,9)がみられた.さらに,角膜上皮が明らかな過形成を起こしてはいないと思われる部位でも結膜ケラチンの発現が認められた.ケラチンC4とケラチンC13を発現し結膜上皮としての性質を示しながら,病理組織像では杯細胞を認めないことから,角膜上皮が何らかの原因で本来発現することのないケラチンC4とケラチンC13を発現する状態となっていると考えられ,正常角膜上皮のコア転写因子ネットワーク10)が破綻している可能性が示唆された.このようにケロイドが本来存在するケラチンと異なったケラチンを発現することは,皮膚ケロイドにおいても認められる.皮膚ケロイドの形成過程において,創傷治癒という病的病態では,ケラチンC5とケラチンC14を発現する表皮基底細胞がCCa2+やビタミンCDC3で分化してケラチンC1とケラチンC10を発現するようになる11).以上の結果から角膜ケロイドの病態を考察すると,角膜実質層において創傷治癒過程に慢性的な炎症が存在し,それが原因となり実質浅層における異常コラーゲン増生を引き起こすことで,Bowman膜などの角膜の正常構造が破壊へと進行していく可能性が考えられた.さらに,正常基底膜構造が崩れ角膜上皮細胞の環境が変化することで,結果として正常角膜上皮には発現しないケラチンの発現をきたすのではないかと推測された.その際に発現するケラチンは,正常なコア転写因子ネットワークがどれくらい保存されているかに依存すると考えられた.そのため,本症例の角膜ケロイドでは性質の近い粘膜上皮型であるケラチンC4とケラチンC13が,皮膚ケロイドの場合には表皮の角化型であるケラチンC1とケラチンC10が発現すると推察した.今後これらの関係を明らかにしていくことが角膜ケロイドの病態解明につながると考えられるため,さらに症例を蓄積していく必要性がある.今回筆者らは二次性に角膜ケロイドを発症した症例に対して手術で切除したケロイド組織を免疫組織学的に検討した.ケロイド組織は正常の角膜上皮形態を残しつつも,結膜上皮の生物学的特徴も有していることが確認された.文献1)VanathiCM,CPandaCA,CKaiCSCetCal:CornealCkeloid.COculCSurfC6:186-197,C20082)BakhtiariCP,CAgarwalCDR,CFernandezCAACetCal:Cornealkeloid:reportCofCnaturalChistoryCandCoutcomeCofCsurgicalCmanagementintwocases.Cornea32:1621-1624,C20133)JungCJJ,CWojnoCTH,CGrossniklausCHE:GiantCcornealkeloid:caseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CCorneaC29:1455-1458,C20104)GuptaCJ,CGantyalaCSP,CKashyapCSCetCal:Diagnosis,Cman-agement,CandChistopathologicalCcharacteristicsCofCcornealkeloid:aCcaseCseriesCandCliteratureCreview.CAsiaCPacCJOphthalmol(Phila)C5:354-359,C20165)LeeCHK,CChoiCHJ,CKimCMKCetCal:CornealCkeloid:fourCcaseCreportsCofCclinicopathologicalCfeaturesCandCsurgicalCoutcome.BMCOphthalmolC16:198,C20166)CooperCD,CSchemerCA,CSunCTT:Classi.cationCofChumanCepitheliaandtheirneoplasmsusingmonoclonalantibodiestoCkeratins:strategies,Capplications,CandClimitations.CLabCInvestC52:243-256,C19857)LiuCCY,CZhuCG,CConverseCRCetCal:CharacterizationCandCchromosomalClocalizationCofCtheCcornea-speci.cCmurineCkeratinCgeneCKrt1.12.CJCBiolCChemC269:24627-24636,C19948)KrenzerCKL,CFreddoCTF:CytokeratinCexpressionCinCnorC-malChumanCbulbarCconjunctivaCobtainedCbyCimpressionCcytology.InvestOphthalmolVisSciC38:142-152,C19979)Ramirez-MirandaCA,CNakatsuCMN,CZarei-GhanavatiCSCetal:KeratinC13CisCaCmoreCspeci.cCmarkerCofCconjunctivalCepitheliumthankeratin19.MolVisC17:1652-1661,C201110)KitazawaK,HikichiT,NakamuraTetal:OVOL2main-tainsCtheCtranscriptionalCprogramCofChumanCcornealCepi-theliumCbyCsuppressingCepithelial-to-mesenchymalCtransi-tion.CellRepC15:1359-1368,C201611)岸本三郎:皮膚創傷治癒そのメカニズムと治療.日本皮膚科学会雑誌113:1087-1093,C2003***

ニュープロダクツ

2017年12月31日 日曜日

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