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診療報酬の枠組み

2017年11月30日 木曜日

診療報酬の枠組みRulesofJapan’sUniversalHealthCoverage三宅正裕*I保険診療の概念日本は世界に冠たる国民皆保険制度を有しており,保険診療で行われる医療についてはその大部分が公的医療保険から支払われる.全体としてのお金の流れを把握するため,保険診療の概念図を図1に示す.被保険者は保険料を医療保険者に支払っている(図1①).いわゆるサラリーマンなどは社会保険組合などが運営する社会保険に加入することになっており,保険料は給与から源泉徴収される一方,その他のすべての人(無職や自営業などの人)は市町村が運営する国民健康保険に加入し,保険料を定期的に納付(通常納付または銀行口座や公的年金からの引き落とし)する.被保険者が保険医療機関などを受診した際は,保険医療機関などは診療・治療(正確な用語としては「療養の給付」という)を行い(図1②),被保険者は自己負担割合に応じて,療養の給付にかかった金額を保険医療機関に支払う(図1③).なお,この際の「療養の給付にかかった金額」は実費ではなく,診療報酬表に設定された金額であり,政府によって2年ごとに改定される.残りの保険負担分は,保険医療機関などからの請求(図1④)に基づき,審査支払機関を通じて医療保険者から保険医療機関などに支払われることになる.この際,審査支払機関は,診療報酬の請求が保険診療のルール(健康保険法,療養担当規則,診療報酬点数表,その他各種通知など)に基づいているかを審査し,審査済みの請求書を医療保険者へ送付(図1⑤)して医療保険者より支払いを受け(図1⑥),一定の期日までに保険医療機関などへと診療報酬を支払う(図1⑦).II保険診療のルール保険診療は,保険者と保険医療機関との間の「公法上の契約」に基づくものであり,保険医療機関は,健康保険法などで規定されている保険診療のルール(契約の内容)にしたがって,療養の給付および費用の請求を行う必要がある.また,保険医は保険診療のルールに従って,療養の給付を実施する必要がある.とくに,保険医として申請して保険診療を実施する以上,本来は保険医の責務などを熟知している必要があるのだが,実際には保険診療に関係する法令や関係通知は非常に多く難解をきわめており,きちんと理解していることは少ないだろう.当然ながら本稿ですべてを網羅することは不可能であるが,どこにどういったことが記載されているのかの関係性を理解するだけで「医療制度に関する基礎体力」は大幅に向上し,今後,法律などの改正が議論される際にも,どういった問題意識から何が議論されているのかがわかりやすくなるし,また知らないうちに法律違反を犯してしまうリスクも低下すると期待される.それでは一体どのようなルールがあるのだろうか.まず,保険診療の前提として,医師および医療機関は「医師法」「医療法」「医薬品,医療機器等の品質,有効性及*MasahiroMiyake:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕三宅正裕:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54第2臨床研究棟8階京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)1493②診療サービス(療養の給付)③一部負担金の支払い⑦診療報酬の④診療報酬の請求支払い①保険料(掛金)の支払い図1保険診療の概念図(厚生労働省ホームページより)表1法律に関係する用語図2保険外併用療養制度(厚生労働省ホームページより)表2診療報酬算定のための費用の算定に関する規定(主要なもの)厚生労働省告示第52号診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について点数表別表第一:医科診療報酬点数表別表第二:歯科診療報酬点数表別添1:医科診療報酬点数表に関する事項別添2:歯科診療報酬点数表に関する事項別表第三:調剤報酬点数表別添3:東西報酬点数表に関する事項施設基準厚生労働省告示第53号基本診療料の施設基準等基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて厚生労働省告示第54号特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いにつ特掲診療料の施設基準等いて厚生労働省告示第55号薬価使用薬剤の薬価(薬価基準)(留意事項があれば薬剤ごとに発出)厚生労働省告示第56号特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について材料価格特定保険医療材料及びその材料価格特定保険医療材料の定義について(材料価格基準)特定診療報酬算定医療機器の定義等について保険外併用療養厚生労働省告示第59号保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等厚生労働省告示第60号厚生労働大臣の定める評価療養及び選定療養厚生労働省告示第61号保険外併用療養費に係る療養についての費用の額の算定方法健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律に規定する患者申出療養の実施上の留意事項及び申出等の取扱いについて健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律に規定する患者申出療養の申出等の手続の細則について保険適用の手続き等薬価算定の基準について─医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて(医薬品)医療用医薬品の薬価基準収載希望書の提出方法等について保険適用の手続き等特定保険医療材料の保険償還価格算定の基準について─医療機器の保険適用等に関する取扱いについて(医療機器)医療機器に係る保険適用希望書の提出方法等について保険適用の手続き等体外診断用医薬品の保険適用に関する取扱いについて(体外診断用医薬品)─体外診断用医薬品の保険適用の取扱いに係る留意事項について本診療料の施設基準等の一部を改正する件」(初診料や入院基本料等に関連するもの)「特掲診療料の施設基準等の一部を改正する件」(医学管,理料や手術手技等に関連するもの)という厚生労働大臣告示で明確化され,その手続きなどに関しては「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」という医療課長通知に記載されている.薬価や保険医療材料価格については,「使用薬剤の薬価(薬価基準)の一部を改正する件」「特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)の一部を改正する件」の厚生労働大臣告示に記載され,算定上の留意事項については,薬は個々の薬品ごとの,保険医療材料は「特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について」の医療課長通知に記載される.その他も含めて,以上に記載したことはすべて厚生労働省のホームページにまとまっている(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106421.html)のだが,関係性が複雑すぎるうえに一覧性がない.そのため,関係する事項が一冊にまとまった本(「医科点数表の解釈」いわゆる青本など)が重宝されることになる.筆者が保険局医療課で勤務していたときには,片時も手放せない必携の書であった.III保険適用これまで,保険診療に関連する法律や告示などをみてきたが,実際には保険適用の可否や前述の告示などの改正はどのように行われるのだろうか.もっとも有名なものは2年に一度の診療報酬改定であろう.この際にはいわゆる入院基本料やその算定要件に加え,各種管理料や手術手技などが一括で改定される.また,先進医療として実施されてきたものについても保険適用が検討される.医薬品・医療機器・体外診断薬については,随時企業から保険適用の申請を受け付けており,所定の審査などを経て所定のタイミングで保険適用がなされる.1.診療報酬改定次回は平成30年4月のいわゆる「30改定」で,3年に一度行われる介護保険の改定との同時改定である(なお,筆者は28改定の際に保険局医療課で診療報酬改定の一部を担当した).診療報酬改定に際しては,前回改定からの宿題事項や現状の問題点を踏まえて策定される診療報酬改定の骨子にしたがって,保険適用に関する事実上の意思決定会議である中央社会保険医療協議会(中医協)およびその関連部会などで議論が行われ,最終的には中医協で了承された案が厚生労働大臣の諮問に対する答申として提出され,厚生労働大臣が決定する.改定に向けては中医協の下の多数の部会などで活発な議論が交わされる.保険医療材料価格算定のルールなどを検討する「保険医療材料専門部会」,薬価算定のルールなどを検討する「薬価専門部会」,費用対効果の導入に向けた検討を進める「費用対効果評価専門部会」,入院医療の算定ルールを検討する診療報酬調査専門組織の「入院医療などの調査・評価分科会」,DPC算定ルールを検討する診療報酬調査専門組織の「DPC評価分科会」,学会の要望による医療技術の保険収載を検討する診療報酬調査専門組織の医療技術評価分科会などが,読者の先生に関係しうるところであろうか.議事録の公開までにはタイムラグがあるが,当日資料は速やかに厚生労働省ホームページで公開されるため,興味があれば適宜フォローされたい.すべては網羅できないため,ここでは保険収載をめざすなかでとくに重要な,医療技術評価分科会(いわゆる医技評)について記載しておく.厚生労働省保険局医療課は,外科系学会社会保険委員会連合(外保連)または内科系学会社会保険委員会連合(内保連)に加盟している学会から,毎年6月までに医療技術新規評価・再評価提案書の提出を受ける.各学会は,同提案書に既存技術の増点・適応拡大や新規技術の保険適用の要望について,医学的エビデンスや医療経済的効果などを含めて記載する.真剣に保険適用をめざす場合,「どのような患者に実施すれば,既存の技術などと比較してどういったメリットがあるのか」を具体的に示すことが重要である.臨床医をやっていると,「ないよりはあったほうがいい」「保険適用して使ってみないとエビデンスがでない」といった感覚で保険適用を希望しがちであるが,保険医療財政の厳しい昨今,政府も今まで以上に説明責任を求められており,政府が説明責任を果たせるだけのエ1498あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(14)ビデンスを,もっとも技術に詳しいわれわれが提出できないことには保険適用はあり得ない.また,「保険適用してからエビデンスが出てくる」というのは医療課目線では本末転倒で,「エビデンスがあるものは保険適用される」のである.また,テクニカルなことでは,医療技術新規評価・再評価提案書はあくまで医療技術にかかる提案であり,基本診療料や特定保険医療材料の価格に関することなどはそもそも対象外で,薬事承認のない医薬品や機器を使用するものについても対象とならないことから,提出するだけ無駄である(しかしこのような提案は提案書全体の1/6にのぼる!).相手のロジックを知り,必要な情報を適切に提示すること,またそのためのエビデンスをあらかじめ準備しておくことが肝要である.このようにして集められた提案書が医療技術評価分科会の資料としてまとめられ,例年10月頃の分科会で公開される.その後,委員による事前評価を経て,1月頃に保険収載の優先度が高い技術と対応を行わない技術が決定される.なお,先進医療からの保険適用については,前回改定では医技評とは別に先進医療会議で審議されたが,今回改定では医技評で一括して評価することとなっている.ボトムアップで保険適用が検討される数少ないチャンスであるため,適切に活用したい.2.医薬品・医療機器・体外診断薬の保険適用新規の医薬品,医療機器,体外診断薬については,保険適用希望書の提出は随時受け付けられている.企業は保険適用を希望する製品があれば厚生労働省医政局経済課に希望書を提出する.その後,当該製品は所定のプロセスを経て,保険適用の可否,価格などが決まる.本稿で取り上げたのは,このプロセスを医師が適切に理解し,戦略を立てることで,医療技術や検査などの適切な評価につながると考えるからである.医療機器の保険適用には,特定保険医療材料としての評価(B区分,C1区分)のみならず,新規技術を伴うものとして評価(C2区分)されることにより,新規技術が保険収載される場合がある.とくに眼科領域では医療材料が技術料に包括されることが多いため,活用のチャンスは多い.近年では,HOYAのシーティーアールが保険適用に際して「注」加算1,600点として収載されたほか,iSentも水晶体再建術との併施に限り27,990点(※水晶体再建術分込み)を算定できるようになった(現在は既存点数の準用であり,今回の30改定で正式に収載される見込みである).また,少し前だとバルベルトインプラントも同様にC2評価からの新規技術保険収載であった.このように,医療機器とセットで新たな技術を導入するという手法は効果的である.ただし,企業としては技術料がいくらであろうと製品が医療機関に売れればよいという立場なので,このアプローチで保険適用を狙う際には,企業が不当に低い技術料で妥協してしまわないかよく注意する必要がある.同様に,検査についても,検査キットを開発して体外診断薬の保険適用のプロセスをふむことで,能動的に保険収載を狙うことができる.保険収載の基本的な考え方である「その検査は診療方針に影響を与えるか?」という点さえきちんと押さえて,本当に必要な検査であれば保険収載の可能性は高く,非常に有用なアプローチであるといえる.3.先進医療先進医療からの保険適用は,医師側からの能動的なアプローチにより保険収載をめざすことができる第三のルートである.先進医療として認められたものは,先進医療Aは承認後一定の期間が経過していれば全例,先進医療Bは総括報告書が提出されたものについて,診療報酬改定の際に保険収載検討の対象となる.これにあたってはエビデンスが適切に構築されているかが重要であり,もっというと,研究デザインが適切であるかどうかにかかっているといっても過言ではない.逆にいうと,先進医療としての申請に際して適切なプロトコルを提示して承認されれば,良好な結果を得た場合に保険収載される可能性が高いといえ,すなわち,保険収載の可否は研究者の力量にかかっているといえる.なお,薬事未承認の医薬品などの使用が含まれている場合は保険適用検討の対象とならないため,薬事承認を飛ばして保険適用されるということはないことには留意が必要である.なお,具体的な申請などの手続きについては別稿を参照されたい.(15)あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171499

新たな専門医制度:日本専門医機構と眼科専門医制度

2017年11月30日 木曜日

新たな専門医制度:日本専門医機構と眼科専門医制度JapaneseMedicalSpecialtyBoardandJapaneseOphthalmologicalSpecialistSystem山下英俊*坂本泰二**石橋達朗***Iはじめに:専門医と専門医制度の理念日本の医療は世界一といわれているが,その根拠として,高いレベルの医療が日本のどこでも等しく受けられることがあげられる1).このことは,医師をはじめとする医療人がプロフェッショナルとして厳しく自己研鑽を行ってきた成果である.なかでも医師は,患者の治療を責任をもって行い,疾病予防,健康保持に貢献するという,国民から期待されている職務をまっとうするために,医学部卒業後,医師免許を取得してからも生涯にわたる研鑽が必要である.医師は,全身を診ることができ,病態を理解し,必要な対応がとれること,すなわち救急外来における緊急対応を含め医師として幅広い診療ができることに加えて,さらに自分の専門領域全般にわたり医療(診断,治療)を担当する能力をもつことが期待されている.わが国の医師を育成する制度のなかでも,専門医の養成は50年以上の長年にわたり,診療領域ごとの専門家集団である学会(とくに基本領域学会)が中心となって構築,運用がなされて来た.基本領域学会とは,臨床の領域の全体をカバーする18の基本的な診療領域の学会をさしており,平成25年度厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会報告書」(高久史麿座長)で提唱されている2).この報告書では,これに総合診療専門医を加えて19の基本領域を設置し(図1),これを取得してから,さらに必要がある場合,専門性の高い分野の専門医であ日本専門医機構による基本診療領域専門医(19専門医)内科脳神経外科外科形成外科小児科救急科産婦人科麻酔科精神科放射線科皮膚科リハビリテーション科眼科病理耳鼻咽喉科臨床検査泌尿器科総合診療整形外科図1日本専門医機構による基本診療領域専門医(19専門医)を示するサブスペシャリティ学会の専門医を取得することを提唱し,現在の日本専門医機構はこの概念を継承している(ちなみに,サブスペシャリティ学会専門医については,眼科では認めていない.以下は,基本領域学会専門医について解説する).これまで基本領域学会は,それぞれの医師の個人の研鑽では限界があるため,独自の専門医の基準を策定し,自立的に専門医制度を運用し,日本の高い医療レベルの構築に大きな貢献をしてきた.その一方,各基本領域学会が自立的に独自の方針で専門医の仕組みを設けたため,診療領域ごとに専門医の認定基準が分かれ,国民にとってわかりにくいことや,専門医の質の担保に懸念が*HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座**TaijiSakamoto:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病眼科学***TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕山下英俊:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)1487示されてきた.「専門医の在り方に関する検討会報告書」2)にもこの点についての改革が提言され,これに応えるものとして日本専門医機構(以下,機構)が平成26年に設立された.機構は各基本領域学会の専門医制度の標準化および質の担保を行い,認定される専門医の質の一層の向上をめざしている.現在の機構は,専門医とは「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて十分な知識・経験を持ち,患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに,先端的な医療を理解し情報を提供できる医師」と定義している3).各基本領域学会が策定しこれまで自立的に運用してきた専門医制度の安全と質を担保する新たな基準を各学会と協働して策定することが,機構専門医制度の根本理念である.この理念に沿って,新たな専門医育成の仕組みは,「機構と各基本領域学会が連携し協働して構築する」ことを機構は掲げた.すなわち,各基本領域学会は,学術的な観点から責任をもって上記の専門医の定義に見合う研修プログラムを構築することが要求され,機構はその研修プログラムを検証し,調整し,標準化を図ることで国民から信頼される専門医育成のためのシステム構築に貢献するのである.これはプロフェッショナル・オートノミーの理念のもと各基本領域学会が育成した専門医を,機構認定の専門医としてオーソライズすることが機構の役割である.II新しい専門医制度の概要機構の専門医制度運用の基本的な方針を規定している「専門医制度新整備指針」(第二版)3)に基づいて,機構と各基本領域学会が緊密に協働して専門医制度の標準化をめざすことにより,プロフェッショナル・オートノミーのもとに社会から信頼される標準的医療を提供する専門医育成の制度が確立できることになる.その特徴を以下に概説する.1.基本領域学会専門医の育成は原則研修プログラム制研修プログラム制は,各基本領域において専門医となるのに必要となる到達目標を達成するために,幅広い疾患の患者の診療を経験できる専門研修基幹施設(大学病院,地域の中核病院など)での研修と,これに加えて連携施設,関連施設へローテートして研修を行うことを義務づけており,地域医療を支えている連携施設,関連施設での医師としての勤務を継続しつつ,機構の認定するレベルの専門医となるための勉強ができる制度となっている.2.地域医療を支えつつ学ぶ専門医を育成する制度の構築にあたっては,専門医教育のレベルを高く保ちつつ,地域医療にも十分配慮することが厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会報告書」2)の提言でも要望されている.機構は当初,平成29年の制度開始をめざし準備を進めていたが,平成28年6月に日本医師会や四病院団体協議会,厚生労働省などから,新たな制度が施行されることで地域医療の現場に大きな混乱をもたらす懸念が示されたため,一度立ち止まり,地域医療により配慮した制度を再検討することとなった.平成30年4月から開始する新たな専門医制度は,基本領域専門医育成の研修のために研修施設群を構築し,原則とし研修プログラム制で行うことになっている.また,大都市部への専攻医の集中への配慮や,地域において特定の病院に専攻医が囲いこまれることを防ぎ幅広く地域医療を支えつつ専門研修をすること,機構と都道府県協議会(都道府県,市町村,大学,医師会,病院団体などから構成される)が研修プログラムについて協議することなど,機構は最大限地域医療へ配慮する制度を確立してきた3,4).機構の吉村博邦理事長による「新たな専門医制度の開始に向けた声明」によると,平成29年度より開始された暫定プログラム(新しい専門研修プログラム制を基本領域学会で暫定的に開始した研修プログラム)を行った6学会のうち4学会の実績をみると,地域による専攻医の偏在等は助長されず,むしろ地域の連携病院などへの専攻医は増加している4).このように新しい専門医制度では,地域での専門研修に従事する専攻医が増加した学会もあり,新しい専門医制度でも地域医療を支えつつ専門医になるための勉強ができる制度となっていると考える.3.いろいろな医師のキャリアを支援する制度機構は,平成28年11月には日本医師会からの要望,1488あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(4)表1日本専門医機構基本理念表2専門医資格更新に必要な単位の算定項目取得単位ⅰ)診療実績の証明最小5単位,最大10単位ⅱ)専門医共通講習最小3単位,最大10単位(このうち3単位は必修講習)ⅲ)領域講習最小20単位ⅳ)学術業績・診療以外の活動実績0.10単位

序説:眼科医に必要な医療制度の知識

2017年11月30日 木曜日

眼科医に必要な医療制度の知識KnowledgeofJapan’sHealthCareSystemforEveryOphthalmologist加藤浩晃*三宅正裕**眼科医として普通に生活をしていても,なかなか医療行政を意識することがない.医師としてのルールは医師法に,医療機関のルールとしては医療法に定められているが,一度でも通読したことがあるだろうか.また,多くの医師は保険医であるにもかかわらず,保険医のルールである健康保険法や療養担当規則は目を通したことがないのではないだろうか.臨床現場においてはこれらの法律だけではなく,省令・通知・事務連絡などが発出されており,これも守るべきルールとなっている.これらはときに難解であり,体系的な教育の機会も少ないことから,おそらく多くの医師は,これらのルールを先輩医師の背中を見て学んできたのだと思う.そして,先輩医師もその先輩医師の背中を見て学んできているのだが,時代を経てルールが追加されたり変更になったものもあり,そもそも背中を見てきた先輩医師自身も医療行政をしっかり学んでおらず,気づかないうちに何らかのルール違反を犯しているという場合もありえる.この医療行政のキープレーヤーとしては厚生労働省,日本医療研究開発機構(AMED),医薬品医療機器総合機構(PMDA)の三つが主であるが,そのルール変更は秘密に行われるのではなく,多くは資料として議論の過程を公開しながら行われる.ときに「現場を無視した制度を決めている」などと言われることもあるが,実際には議論の過程で有識者や医療現場の意見を聞きながら制度は決められている.また,ニュースで制度が決まったことを知ってからでは変更をすることができないが,議論の過程をきちんと把握し,適切な方法を取れば意見を伝えることも可能である.本特集は,それぞれ眼科専門医でありながら,日本における医療行政の中核に近年まで出向していた加藤と三宅が企画した.加藤はもともと医学教育や遠隔医療の研究をしていたところ,厚生労働省に出向となり,医政局研究開発振興課において臨床研究法や倫理指針の見直し,研究開発関連の予算作成などに従事した.三宅は京都大学で網膜硝子体疾患の臨床やゲノム研究に従事したのち厚生労働省に出向となり,厚生労働省で診療報酬の決定にかかわる保険局医療課を経験した.その後,日本における医療研究開発の司令塔であるAMEDで臨床研究課の統括を行った.本特集は医療行政の話にまったく触れたことのない初心者を対象にしたいと考えている.眼科医に必要な医療制度の知識を「政策」「診療」「研究」「組織」の四つに分けて,それぞれの第一人者に執筆をお願いした.*HiroakiKato:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**MasahiroMiyake:京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)1485

外来処置室の空気清浄度改善に対するエアーバリアーミニの有効性

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1474~1478,2017外来処置室の空気清浄度改善に対するエアーバリアーミニの有効性武田太郎*1,2鈴木崇*3,4小林武史*3浪口孝治*3白石敦*3*1愛媛大学医学部附属病院手術部*2愛媛大学医学部附属病院屈折矯正センター*3愛媛大学大学院医学系研究科眼科学*4いしづち眼科CE.cacyofAirBarrierMiniforImprovementofAirCleanlinessinOutpatientTreatmentRoomTaroTakeda1,2),TakashiSuzuki3,4),TakeshiKobayashi3),KojiNamiguchi3)andAtsushiShiraishi3)1)CentralSurgeryCenter,EhimeUniversityHospital,2)DepartmentofRefractiveSurgeryCenter,EhimeUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,4)IshizuchiEyeClinic目的:外来処置室において,硝子体注射や前房水採取などの眼内にアプローチする処置が増加している一方,外来処置室の空気清浄度については不安も多い.筆者らは,HEPAフィルターを内蔵した術野環境改善スポット式クリーンゾーン発生器(エアーバリアーミニ)を使用し,外来処置室の空気清浄度が向上するか確認した.方法:空気清浄度に対しては,パーティクルカウンターを用い,無作為なC3日において,処置室の空中浮遊塵埃数を継時的に測定し,エアーバリア.ミニの設置前後で比較した.結果:エアーバリアーミニ設置前における外来処置室(処置台周辺)の空中浮遊塵埃数は,処置の内容や患者の数,スタッフの出入りに大きく左右され,最高値はC167,960個/ft3,最低値はC33,820個/ft3であった.一方,エアーバリアーミニ設置後は,空中浮遊塵埃数は減少し,最高値C11,540個/ft3,最低値C150個C/ft3であった.結論:エアーバリアーミニは,外来処置室における空気清浄度改善に有効である可能性が示唆された.CPurpose:RecentlyCaCnumberCofCprocedures,CsuchCasCintravitrealCinjectionCandCaqueousChumorCtapping,CareCincreasinglybeingcarriedoutintheoutpatienttreatmentroom.However,thereisconcernregardingthecleanli.nessofoutpatienttreatmentroomair.Wecon.rmedthee.cacyofAirBarrierMiniforimprovingaircleanlinessintheoutpatienttreatmentroomusingtheAirBarrierMini,whichproducescleanair.owforthesurgical.eld.Methods:Tocheckaircleanlinessintheoutpatienttreatmentroom,thenumberofairborneparticlesintheroomwasmonitoredovertimeduring3randomdaysbyaparticlecounter.ResultswerecomparedbeforeandafterAirBarrierMiniinstallation.Results:ThenumberofairborneparticlesaroundthetreatmentstandintheoutpatienttreatmentroombeforeinstallationofAirBarrierMiniwasin.uencedbykindoftreatment,numberofpatientsandmovementCofCvariousCitems;maximumCandCminimumCairborneCparticleCcountsCwere167,960CandC33,820Cparticles/Cft3,Crespectively.CAfterCAirCBarrierCMiniCinstallation,CairborneCparticleCcountsCwereCreducedCtoC11,540(maximum)andC150(minimum)particles/ft3.Conclusions:AirCBarrierCMiniCwasCe.ectiveCinCimprovingCairCcleanlinessCinCtheCoutpatienttreatmentroom.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(10):1474~1478,C2017〕Keywords:エアーバリアーミニ,空気清浄度,外来処置室.Airbarriermini,aircleanliness,outpatienttreat.mentroom.Cはじめにらず,近視性黄斑変性,網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫,糖抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:尿病黄斑浮腫にまで使用することが可能になり,各疾患の治VEGF)抗体による治療は,加齢黄斑変性症に対してのみな療選択の一つとして注目されている.そのため,近年,抗〔別刷請求先〕武田太郎:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部附属病院手術部Reprintrequests:TaroTakeda,CentralSurgicalCenter,EhimeUniversityHospital,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,CJAPAN1474(136)図1エアーバリアーミニHEPAフィルターを介してパネルから術野に向けて送風する.VEGF薬の硝子体注射施行症例が増加していると考えられる.さらに,PCR(polymeraseCchainCreaction)による病原体CDNAの検出も可能になり,ぶどう膜炎症例において,前房水を採取する機会も増加している.硝子体注射や前房水採取は,眼内に注射針を挿入するため,処置後の眼内感染症などのリスクは少ないながらも存在する.そこで,これらの眼内へアプローチする処置に関しては,できるだけ手術室のような高い空気清浄度を保っている場所での施行が望ましい.しかしながら,処置数の増加により,手術室での対応が困難になる場合や外来において迅速に対応する必要があるなどの理由から,外来処置室で硝子体注射や前房水採取などが行われることも増加している.病院設備におけるクリーンルームのクラス分類および定義として,日本では米国連邦規格(Fed-Std-209D)が使用されてきた.これは,空気C1ftC3中に含まれるC0.5C.m以上の空中浮遊塵埃数をカウントするものであるが,現在では,国際標準化機構(InternationalCOrganizationCforCStandardiza.tion:ISO)規格への統一により,Fed-Std-209Dは廃止された.しかし,空中浮遊塵埃数をパーティクルカウンターで評価する際にはいまだにCFed-Std-209Dを指標として用いることが多い.日本の病院に求められる空調基準として,手術室で推奨される清浄度はCFed-Std-209D:クラスC1,000(粒子数C1,000個/ftC3以下)からCFed-Std-209D:クラス100,000(粒子数C100,000個/ftC3以下)の間1)とされている.外来処置室の空気清浄度に関しては,一般病室・診察室・手術回復室・材料部と同じ清浄度であるCFed-Std-209D:クラスC100,000に分類2)されているものの,眼内へアプローチする侵襲のある処置をする場合には,手術室に準じた環境であ図2レーザーガイドによる清潔エリアの確認レーザーガイドが清潔エリアを示している.ることが望ましい.眼科外来処置室の空気清浄度について過去に報告はなく,現状については不明な点も多い.さらには,空気清浄度は在室者数とその動作の多さに影響されるという報告1)もあることから,眼科外来処置室においても,場所や状況などの影響を受けずに高い空気清浄度を提供できるような設備が必要である.そこで,眼科外来処置室における空気清浄度の向上を目的に術野環境改善スポット式クリーンゾーン発生器(エアーバリアーミニ;AirBarrierMini:ABM,日科ミクロン)を使用した.(図1)本機器は,HEPAフィルターを介した20Ccm四方のパネルから術野に向けて送風することで術野からC25Ccm以内の空気清浄度をCFed-Std-209D:クラスC100まで改善させることが可能であるとされている.さらに,レーザー光を用いて,清浄なエリアを目視にて確認することができる(図2).今回,愛媛大学医学部附属病院眼科の外来処置室の空中浮遊塵埃数をパーティクルカウンターにて測定し,さらにABM設置後にも空中浮遊塵埃数を測定して比較することで,ABMの有効性を検討したのでここに報告する.CI方法空中浮遊塵埃数の測定に使用したパーティクルカウンターはリオン社製の光散乱式自動粒子計数機CKC-22A(定格流量はC2.83L/min)である.KC-22Aはクリーンルームおよび微粒子管理区域において,5段階の粒径区分(0.1C.m以上,0.2.m以上,0.3C.m以上,0.5C.m以上)の粒子数を計測することができ,本調査ではCFed-Std-209Dに準じてC0.5C.m以上の微粒子を対象として設定した.無作為に調査日をC3日選択し,眼科外来処置室における顕微鏡を用いた処置(硝子体注射,涙道洗浄,角膜擦過,トリアムシノロンCTenon.下注射)実施時の空中浮遊塵埃数をKC-22AにてC1日間測定した.空気サンプル採取場所として測定用のチューブを処置用顕微鏡に取りつけ,可能な限り術野に近づけることができるように工夫した(図3).パーティクルカウンターの測定値は,3回連続測定し平均値を出す方法が基本であるが,今回対象とした眼科処置に関しては,手技施行時間が短く,連続測定することができないため,すべて単回測定とした.また,手術室環境との比較を目的として,無作為に選んだ白内障手術C1例を施行中の手術室の空中浮遊塵埃数も測定した.CII結果ABM設置前の無作為なC3日間(計測日C1,2,3)において,処置時の浮遊塵埃数を測定した(図4).計測日C1の最低値は処置開始直後のC33,820個/ftC3,最高値はC4人目の処置時のC167,960個/ftC3,測定日C2の最低値は患者の少なくなった16時頃のC44,550個/ftC3,最高値はC13:30頃のC139,950個/Cft3であり,処置時によって清浄度は異なり,とくにC12~14図3硝子体注射時の空気清浄度の測定顕微鏡にパーティクルカウンター検出チューブ(矢印)を取り付け,術野の空中浮遊塵埃数を確認した.図4ABM設置前の空気清浄度処置ごとの処置時間,空中浮遊塵埃数を示す.IVB(intravitrealCbevacizumab):ベバシズマブ硝子体内注射,IVR(intravitrealCranibi.zumab):ラニビズマブ硝子体内注射,IVA(intravitrealCa.ibercept):アフリベルセプト硝子体内注射,STTA(subtenonCinjectionCoftriamcinoloneacetonide):トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.図5ABM設置後の空気清浄度処置ごとの処置時間,空中浮遊塵埃数を示す.IVB(intravitrealCbevacizumab):ベバシズマブ硝子体内注射,IVR(intravitrealCranibi.zumab):ラニビズマブ硝子体内注射,IVA(intravitrealCa.ibercept):アフリベルセプト硝子体内注射,STTA(subtenonCinjectionCoftriamcinoloneacetonide):トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.表1ABM設置前後の空中浮遊塵埃数(粒子数/ft3)CABM設置前計測日C1計測日C2計測日C3平均最高値最低値平均最高値最低値平均最高値最低値平均C167,960C33,820C87,392C139,950C44,550C85,278C57,820C51,350C55,215C77,655CABM設置後計測日C3計測日C4計測日C6平均最高値最低値平均最高値最低値平均最高値最低値平均C3,920C150C1,628C9,870C980C3,907C11,540C1,990C6,320C4,088時の処置時に高い値を示した.計測日C3は処置間の違いは少なく,最低値は,51,350個/ftC3,最高値はC57,820個/ftC3と横ばいであった.ABM設置後の無作為なC3日間(計測日4,5,6)における1日の処置時の浮遊塵埃数を図5に示す.処置間の清浄度に変化は少なく,最低値はC150個/ftC3,最高値はC11,540個/ftC3であった.ABM設置前後のC3日間における最高値,最低値,処置ごとの平均値を表1に示す.ABM設置前の平均値は77,655個/ftC3であり,設置後の平均値はC4,088個/ftC3と大幅に減少していた.いずれの処置後にも,眼内炎症などの合併症は認められなかった.また,愛媛大学医学部附属病院手術室における白内障手術1例を施行中の空中浮遊塵埃数の推移を図6に示す.浮遊塵埃数の最低値はC0個/ftC3で,最高値はC2,260個/ftC3であった.CIII考按眼内手術や硝子体注射などの眼内と眼外が交通する操作におけるもっとも重篤な合併症は,感染性の眼内炎症である.その原因菌としては,患者の外眼部や鼻腔内の常在細菌が眼内に汚染することで引き起こされることが多い3).しかしながら,硝子体注射においては,術者や薬剤師の口腔内細菌によって引き起こされることも報告されている4,5).さらに,空気中に存在する真菌による眼内炎の連続発症や創口内感染なども報告されており6,7),環境中の菌も眼内炎の原因菌となりうる.また,白内障術後において,強い眼内炎症を引き起こすCtoxicCanteriorCsegmentCsyndromeの原因となる無菌性物質には環境中の物質なども含まれると推測されている8).そのため,眼内操作を行うような処置においては,できる限り空気清浄度が高い状態で行うことが望ましい.今回,筆者らは外来処置室ならび手術室における空気清浄度の指標として空中浮遊塵埃数をモニタリングし,さらに,ABMの空気清浄度向上の効果について検討した.外来処置室において,ABM設置前では空中浮遊塵埃数の最高値平均はC121,910個/ftC3,最低値平均はC43,240個/ftC3であった.この空調レベル・空気清浄度は外来処置室における設備としてはクラスC100,000と同等であり,処置可能なレベルであると考えられる.しかしながら,浮遊塵埃数の値は非常に振れ幅図6眼科手術室の空気清浄度白内障手術時の患者入室から退室までの空中浮遊塵埃数を示す.が大きく,測定日や時間,処置内容によってもばらつきが多かった.とくに計測日C1ならびにC2では,12~13時に浮遊塵埃数が増加していた.通常,12~13時はもっとも外来での人数(医療従事者ならびに患者)が多い時間となり,外来処置室における人の出入りや動きがもっとも多くなっており,そのことで空気中の浮遊塵埃が多くなっている可能性が考えられる.愛媛大学医学部附属病院眼科外来にある処置室は,患者待ちスペースとカーテンをC1枚隔てた状態で,空気の密閉はできていないため,外来処置室の外の状態にも左右されると考えられる.一方,午前中やC15時以降では,浮遊塵埃数は低下していた.そのため,硝子体注射などの処置においては,なるべく人が少なく,外来処置室における人の出入りが少ない時間帯に行うのが望ましいと考えられた.また,参考として,眼科手術室における空中浮遊塵埃数を測定したところ,人の動きが比較的に多い,白内障手術開始時と退室時に若干向上したものの,手術中が浮遊塵埃数はきわめて低く,最高値は退室時のC2,260個/ftC3であるも,最低値は0個/ftC3であり,手術室の空気清浄度は高く維持されていることが確認できた.そのため,やはり,硝子体注射などの処置は,運用上可能ならば手術室において施行するほうが望ましいと思われる.また,外来処置室で行う場合は,その環境における空気清浄度のモニタリングを行ったうえで,もっとも空気清浄度が高い時間帯を選んで行ったり,機械や物の配置,エアーコンディショナーの風向なども検討したりする必要が考えられる.しかしながら,一般の臨床現場においては,迅速に処置が必要な場合もあり,常時良好な空気清浄度な状態での処置の施行は困難であると思われる.今回,外来処置室の空気清浄度向上を目的にCABMを設置し,その効果を確認したところ,ABMを使用した場合,最高値平均はC8,443個/ftC3,最低値平均はC1,040個/ftC3で,クラスC1,000~10,000に相当し,手術室環境と同等の空気清浄度まで向上した.ABM設置前において空気清浄度が低下した時間帯でも,ABM設置後は設置前のC1/10の浮遊塵埃数となっていた.このことは,人の多さや出入りに,それほど左右されない可能性が考えられる.そのため,迅速性を失うことなく処置することが可能であり,医療現場において,ABMが有用なツールとなりうると考えられる.さらに,ABMは一般外来処置室においても手術室とほぼ同レベルの環境を提供できる可能性もあり,外来処置室においても,前房洗浄や眼内レンズ整復など,より侵襲のある処置や手術が可能になる.さらに,発展途上国におけるアイキャンプや空調設備の整っていない環境でも,ABMを用いれば,ある程度空気清浄度が高い状態で処置や手術ができる可能性があり,その使用方法について,幅広い応用が期待できる.しかしながら,ABMを使用する過程で,いくつかのデメリットも感じられた.まず,コンパクトな機械ではあるが,設置するためにはある程度の場所が必要であり,顕微鏡や処置台の場所を考慮しながら,的確な設置場所を見つける必要があった.また,空気清浄度は,ABMの空気が出るパネルと術野の距離に左右される.その距離が近ければ近いほど,空気清浄度は高くなるが,処置の邪魔になる可能性もあり,適切な距離を設定するにはある程度の経験が必要になると思われた.さらに,ABMから中等度の音が発生し,やや威圧感が感じられる.そのため,設置初期は,パーティクルカウンターを使用しながら適切な位置を設定する必要がある.今回,外来処置室における空気清浄度をパーティクルカウンターで測定調査したところ,空気清浄度は時間帯や人の出入りに左右される可能性が示唆された.そのため,空気清浄度を定期的にモニタリングし,最適な時間帯で処置を行うことが望ましい.さらに,ABMを使用することで,外来処置室でも手術室と同等の空調環境を提供できるということが示された.利益相反:本研究は日科ミクロン株式会社との共同研究で行われた.文献1)井谷基,岩山幸子,繁田絵実ほか:手術室環境の維持と周術期の感染.日臨麻会誌35:61-66,C20152)病院設備設計ガイドライン:病院空調設備の設計・管理指針,HEAS-02-2013,日本医療福祉設備協会3)SpeakerCMG,CMilchCFA,CShahCMKCetCal:RoleCofCexternalCbacterialC.oraCinCtheCpathogenesisCofCacuteCpostoperativeCendophthalmitis.OphthalmologyC98:639-649,C19914)FrostCBA,CKainerCMA:SafeCpreparationCandCadministra.tionCofCintravitrealCbevacizumabCinjections.CNCEnglCJCMedC365:2238,C20115)ChenE,LinMY,CoxJetal:Endophthalmitisafterintra-vitrealCinjection:theCimportanceCofCviridansCstreptococci.CRetinaC31:1525-1533,C20116)TabbaraCKF,CalCJabartiCAL:HospitalCconstruction-associ.atedCoutbreakCofCocularCaspergillosisCafterCcataractCsur.gery.OphthalmologyC105:522-526,C19987)RoyCA,CSahuCSK,CPadhiCTRCetCal:ClinicomicrobiologicalCcharacteristicsCandCtreatmentCoutcomeCofCsclerocornealCtunnelinfection.CorneaC31:780-785,C20128)MamalisCN,CEdelhauserCHF,CDawsonCDGCetCal:ToxicCanteriorCsegmentCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC32:C324-333,C2006***

副鼻腔真菌症による両眼性鼻性視神経症で片眼失明した1例

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1470~1473,2017副鼻腔真菌症による両眼性鼻性視神経症で片眼失明した1例武田昌也*1井上裕治*2森樹郎*3*1東京警察病院眼科*2自治医科大学眼科学講座*3虎の門病院眼科CACaseofUnilateralBlindnessFollowingBilateralRhinogenicOpticNeuropathyMasayaTakeda1),YujiInoue2)andMikiroMori3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,ToranomonHospital免疫機能障害をきたす基礎疾患はとくにないが,両眼に鼻性視神経症を発症した症例を経験した.症例はC75歳,女性.右眼周囲,頭部,頸部痛,右眼視力低下を自覚し,近医を受診した.両眼白内障と診断され,右眼白内障手術施行後,右眼光覚なしとなり,左眼はCGoldmann動的視野検査(GP)で中心暗点および耳側と上方の感度低下を認めた.頭部CMRI(magneticCresonanceCimaging)検査で右蝶形骨洞に高信号を認め,虎の門病院紹介となった.左眼CHum.phrey静的視野検査C30-2では中心部上方に絶対暗点,鼻側と耳側に感度低下を認めた.頭部CCT(computedtomogra.phy)検査で右後部篩骨洞に軟部陰影を認め,さらに下垂体前壁の骨破壊像を認めた.浸潤型副鼻腔真菌症を疑い,耳鼻咽喉科で両側蝶形骨洞開放術による減圧および内視鏡下鼻内副鼻腔手術を施行した.検体からCAspergillusfumigatusが検出されたため,ボリコナゾール(ブイフェンド.)を投与開始した.その後,右眼視力は光覚なしのまま改善はみられなかった.左眼視力,限界フリッカ値(CFF),中心暗点には大きな変化は認められなかったが,耳側の視野障害は徐々に改善した.CWeCreportCaC75-year-oldCfemaleCwhoCsu.eredCbilateralCvisualCimpairmentCfollowingCparanasalCsinusCfungalCinfection.Thepatientpresentedwithperiorbitalpain,headacheandvisualimpairmentinherrighteye,whichhadnotrecoveredfromcataractsurgeryanddiminishedtonolightperception.Centralscotomaandsensitivitydepres.sionwerepresentinthelefteye.Magneticresonanceimaging(MRI)showedenhancementintherightsphenoidalsinus.CComputedCtomography(CT)disclosedCaCsoftCtissueCandCboneCdefectCinCtheCparanasalCsinus.CSheCunderwentCradicalantrotomywithsystemicantifungaltreatment.Nasalbiopsyidenti.edAspergillusfumigatus.Despitetreat.ment,nolightperceptioncontinuedintherighteye;critical.ickerfrequency(CFF)andcentralscotomadidnotrecoverinthelefteye,whilesensitivitydepressioninthelefteyerecoveredslowly.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(10):1470~1473,C2017〕Keywords:副鼻腔真菌症,鼻性視神経症,視力障害.paranasalsinus,aspergillosis,rhinogenicopticneuropathy,visualimpairment.Cはじめに鼻性視神経症は,副鼻腔.胞あるいは副鼻腔炎により視神経の障害をきたす疾患である.多くは片眼性であるが,両眼性の報告もある1).原因菌として,StreptcoccusCpneumoni-ae,HaemophilusCin.uenzae,StaphylococcusCaureus,MoraxellaCcatarrhalisなどが多いが,真菌感染により生じるものもある1~4).副鼻腔の真菌感染は,上顎洞に生じることが多いが,蝶形骨洞や後部篩骨洞に生じた場合は視神経に炎症が波及しやすいため,鼻性視神経症となることがある5,6).糖尿病や肝疾患など免疫能低下の症例に多いことが報告されている7,8).とくに免疫能の低下した症例では頭蓋底に浸潤して死に至る〔別刷請求先〕武田昌也:〒164-8541東京都中野区中野C4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:MasayaTakeda,DepatrmentofOphthalomology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPAN1470(132)こともある9).しかし,眼底所見に乏しい場合は,診断が遅れることがある.今回,免疫能低下をきたす基礎疾患がとくにないが,両眼に鼻性視神経症を発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:75歳,女性.主訴:右眼視力低下.既往歴:うつ,非結核性抗酸菌症,骨粗鬆症,過活動膀胱の既往があるが,受診時には改善しており,常用薬はなかった.現病歴:2014年C1月に右眼周囲,頭部,頸部の痛みが出現し,3月より右眼視力低下を自覚した.4月に他院を受診し,右眼矯正視力C0.3,左眼矯正視力C0.5で,両眼に核白内障が認められた.視力低下は白内障が原因と判断され,5月に右眼の白内障手術を施行したが,自覚的には視力は改善せず,4日後に右眼光覚なしとなった.左眼はCGoldmann動的視野検査(Goldmannperimeter:GP)にて,中心暗点を認図1左眼Goldmann動的視野検査(2014年5月)中心暗点,上方の感度低下を認める.め,上方の内部イソプターが狭窄していた(図1).頭部MRI(magneticCresonanceCimaging)検査にて右蝶形骨洞に高信号を認めたため,虎の門病院耳鼻咽喉科に紹介され,6月に眼科を受診した.初診時所見:視力は右眼光覚なし,左眼矯正視力C0.4,眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C13CmmHg,限界フリッカ値(criti-図2眼底写真右眼視神経乳頭が若干蒼白で,一部網膜の萎縮を認めた.左眼視神経乳頭下方辺縁の菲薄化を認めた.図3左眼Humphrey静的視野検査30-2(2014年6月)中心部上方に絶対暗点,とくに下鼻側に強い感度低下を認めた.図4頭部単純CT右後部篩骨洞に軟部陰影,下垂体前壁に骨破壊像を認めた.図5左眼Goldmann動的視野検査(2014年6月)術前と比較し,中心暗点の大きさは著変なかった.図6左眼Humphrey静的視野検査30.2a:6-1C2014年C6月,Cb:6-2C2014年C7月,Cc:6-32014年C10月.耳側の感度低下は徐々に改善した.CcalCflickerCfrequency:CFF)は右眼計測不能,左眼C33CHz薄化を認めた.であった.前眼部,中間透光体に異常所見はなかった.両眼Humphery静的視野検査C30-2では左眼中心部上方に感度底は豹紋状で(図2),右眼の視神経乳頭は若干蒼白で傾斜し低下を認めた.視神経乳頭陥凹拡大が下方にあるため,緑内ていた.左眼の視神経乳頭の色調は良好だが,下方辺縁の菲障の合併が考えられた.また,耳側と下鼻側に感度低下を認めた(図3).頭部CCT(computedCtomography)検査では,右後部篩骨洞の軟部陰影と下垂体前壁の骨破壊像を認めた(図4).血液検査に特記すべき異常はなかった.臨床経過:CTでの骨破壊像より浸潤型副鼻腔真菌症が疑われたため,6日後に耳鼻咽喉科で両側蝶形骨洞開放術による減圧および内視鏡下鼻内副鼻腔手術を施行した.術中,右後部篩骨洞に膿性貯留物,炎症性粘膜肥厚,少量の菌塊を認め,真菌感染が強く疑われた.骨破壊を認めたが,明らかな骨欠損は認めなかった.術後に右副鼻腔洗浄とリボソーマルアンホテリシンCB(アムビゾーム.)の全身投与を開始した.術C5日後に検体からAspergillusCfumigatusが検出され,ボリコナゾール(ブイフェンド.)の全身投与を開始した.術C7日後,視力は両眼とも改善せず,CFFは右眼計測不能,左眼C29CHzであった.GPでの中心暗点の大きさも著明な変化はなく(図5),右眼球周囲の痛みは残存していた.2014年C10月まで経過を観察したが,視力とCCFFに変化はなかった.視野は,中心部上方の暗点は残存したが,耳側の感度低下は徐々に改善した(図6).CII考察副鼻腔真菌症は,免疫機能低下が発症に関係していると考えられているが,基礎疾患を合併しない症例も多い7).原因菌はCAspergillusがC80%以上を占める7,8).Aspergillusは,口腔,鼻腔,副鼻腔に常在し病原性に乏しいので,健常人ではアスペルギルス症が発症することは少ない.本症例は,高齢ではあるが比較的免疫機能が保たれていたにもかかわらず,副鼻腔真菌症が発症した.視力低下を生じたが,白内障の合併があり,加えて鼻症状を欠いていたので,鼻性視神経症の診断が遅れた.本症例は,両眼の鼻性視神経症であった.通常は片眼性のことが多いが,両眼性のものも報告されている1,10,11)ため,両眼性の視神経障害においても鼻性視神経症を鑑別に入れる必要がある.鼻性視神経症は副鼻腔.腫や副鼻腔炎による視神経への圧迫,循環障害あるいは炎症の間接的な波及が発症の原因として考えられている12).本症例は浸潤型ではあったが,明らかな骨欠損は認められなかったので,両眼ともに炎症の間接的波及により発症した可能性がある.北川らは,副鼻腔真菌症が原因の両眼鼻性視神経症をC1例報告している1).右篩骨洞内に真菌感染があり,右眼の失明は直接感染,1カ月後の左眼の失明は炎症の波及によると考察している.本症例においても感染巣から近い右眼が先に発症し,離れている左眼の発症は遅れたと考えられる.浸潤型は頭蓋内に波及すると生命予後が不良であり,北川らの症例は,初診からC2カ月後に真菌性髄膜炎のため死亡した.本症例ではCCT所見では骨破壊を認めたが,術中所見では明らかな骨欠損までは認めず,眼窩および頭蓋内への感染が生じなかったため,生命予後が良好であったと考えられる.副鼻腔真菌症では,発症から手術までの期間がC2カ月を超えると視力予後が不良であると報告されている13).本症例では自覚症状出現より手術までの期間はC3カ月程度であった.診断の遅れがあり,浸潤型であったため,右眼は光覚の回復は認められず,左眼の回復も限定的であった.副鼻腔真菌症による両眼性鼻性視神経症の症例を経験したので報告した.診断まで時間がかかり片眼は失明したが,適切な治療により他眼の視力は保たれ視野の改善が認められた.視機能低下の症例では,鼻性視神経症も鑑別に入れ,早期に診断することが重要である.文献1)北川裕,高橋現一郎,後藤聡ほか:副鼻腔真菌症から両眼失明に至ったC1例.あたらしい眼科C24:1377-1380,C20072)三橋純子,島川眞知子,平井由児ほか:侵襲性副鼻腔アスペルギルス症に合併した鼻性視神経症の一例.眼臨紀C3:C353-357,C20103)後島史行,藤岡正人,國弘幸伸ほか:蝶形骨洞真菌症のC2症例.耳鼻喉頭科・頭頸部外科75:566-570,C20034)竇一博,中静隆之,佐藤新兵ほか:眼窩深部痛で発症し眼科先端症候群をきたした副鼻腔アスペルギルス症のC1例.あたらしい眼科29:1705-1708,C20125)田中章浩,吉田誠克,諫山玲名ほか:眼科先端症候群を呈した非浸潤型副鼻腔アスペルギルス症のC1例.臨床神経学C51:219-222,C20116)FatterpekarG,MukherjiS,ArbealezAetal:FungaldisC.easesoftheparanasalsinuses.SeminUltrasoundCTMRC20:391-401,C19997)大河喜久,佐伯忠彦,渡辺大志:鼻副鼻腔真菌症C74例の臨床的検討.耳鼻喉頭科・頭頸部外科83:859-864,C20118)長谷川稔文,雲井一夫:鼻副鼻腔真菌症C54例の臨床的検討.耳鼻咽喉科臨床98:853-859,C20059)高宮優子,飯村滋朗,今野渉ほか:眼窩先端部へ進展した副鼻腔真菌症のC1症例.耳鼻咽喉科展望C51:308-313,C200810)阿部恵子,鈴木利根,中村昌弘ほか:著明な視力回復を認めた両眼性鼻性視神経症のC1例.眼紀51:680-686,C200011)HiratsukaCY,CHottaCY,CAkariCYCetCal:RhinogenicCopticCneuropathyCcausedCbilateralClossCofClightCperception.CBrJOphthalmolC82:99-100,C199812)井街讓:鼻性視神経炎について.眼臨C76:1345-1355,C198213)門井千春,武田憲夫:鼻性視神経症(炎)の検討.眼紀44:C47-52,C1993***

Humphrey視野計10-2プログラム異常点数と黄斑部網膜内層厚セクター判定との相関

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1465~1469,2017Humphrey視野計10-2プログラム異常点数と黄斑部網膜内層厚セクター判定との相関栂野哲哉平島みほ末武亜紀坂上悠太飯川龍本間友里恵福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野CRelationbetweenAbnormalTestPointsofHumphrey10-2VisualFieldTestandSectorAnalysisofMacularInnerRetinalLayerThicknessTetsuyaTogano,MihoHirashima,AkiSuetake,YutaSakaue,RyuIikawa,YurieHommaandTakeoFukuchiCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity目的:Humphrey10-2視野(HFA10-2)における視野感度低下領域とシラスCHD-OCT(カールツァイスメディテック)のCganglioncellanalysis(GCA)判定の相関を検討した.対象および方法:広義原発開放隅角緑内障C53名C53眼を対象とした後ろ向き研究.HFA10-2における測定点をCGCA解析に準じてC6セクターに分割し,トータル偏差で感度低下(1%以下)がみられるものを異常点とした.GCA各セクターにおける菲薄化をディビエーションマップからスコア化した(>5%,0;≦5%かつ>1%,1;≦1%,2).半視野当たりのCHFA異常点数とCGCAスコア合計との相関について調べ,セクターごとの整合性についても検討した.結果:半視野当たりのCHFA異常点数と対応するCGCAスコアはいずれも有意な相関がみられた(上半C0.74,下半C0.53).上鼻側セクターにおいて感度と特異度は高く(90%,100%),下方および耳側セクターでは低くなる傾向があった.結論:GCA解析による判定は中心C10°内視野障害を反映していると考えられる.CPurpose:ToassesstherelationbetweenareaofsensitivitylossinHumphrey10-2program(HFA10-2)andGanglionCCellCAnalysis(GCA)inCCirrusCHD-OCT(CarlCZeissCMeditech,CJapan)C.CMethods:InvestigatedCretrospec.tivelyCwereC53CeyesCofC53CPOAGCpatients.CHFAC10-2CtestCpointsCwereCdividedCintoCsixCsectorsCaccordingCtoCtheCGCAsectors.TheGCAsectorswerethenscoredinaccordancewiththeirdistributionsinthenormativedatabase(>5%:0;.5%and>1%:1;C.1%:2).CCorrelationCbetweenCtotalCnumberCofCabnormalCtestCpoints(C.1%)andGCACscoresCwasCassessedCinCeachChemi.eld.CSensitivityCandCspeci.cityCinCeachCsectorCwereCcalculatedCtoCevaluateCconsistency.Results:ThenumberofabnormalpointsandGCAscorehadsigni.cantcorrelationineachhemi.eld(superiorC0.74,CinferiorC0.53).CSensitivityCandCspeci.cityCwereChighestCinCtheCsuperonasalCsector(90%CandC100%,respectively).Conclusion:GCAsectormapishelpfulinestimatingvisual.elddefectinthemaculararea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1465~1469,C2017〕Keywords:ハンフリーC10-2,シラスHD-OCT,機能構造相関,ganglioncellanalysis.Humphrey10-2,CirrusHD-OCT,Structure-functionrelationship,ganglioncellanalysisCはじめに緑内障は不可逆的な視野障害を生じる進行性の疾患であり,治療経過によっては高度の視機能低下をもたらし,患者の生活の質(qualityCofClife:QOL)に影響を及ぼす.従来,初期の視野障害はCBjerrum領域などの自覚症状に乏しい傍中心領域に生じ,黄斑部中心視野に障害が及ぶのは後期になってからであると一般的に考えられてきた.しかし,早期あるいは通常行われる範囲の視野検査プログラムで正常と判断される極早期緑内障眼においても,10°内視野に感度低下をしている症例が少なからず存在していることが指摘されてい〔別刷請求先〕栂野哲哉:〒951-8510新潟市中央区旭町通C1-757新潟大学医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野Reprintrequests:TetsuyaTogano,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuoku,NiigataCity951-8510,JAPANab図1コンボレポートの1例とスコア算出法a:右眼を基準にした場合のCHFA10-2視野測定点のクラスタ化.グレーで示されたC8点を除くC60測定点のうちトータル偏差1%未満のものの数を異常点数とした.Cb:GCA解析に関しては上下反転のうえで統合されている.GCA判定コードに従い,正常データベース下限C1%以下およびC5%以下をそれぞれスコアC2およびC1とした.図の症例では,上方視野異常点数はC20,GCAスコアはC4となり,下方視野は異常点数,GCAスコアともにC0である.Cる1,2).加えてCOCTによる構造解析でも,黄斑部網膜内層厚の菲薄化という形で極早期の緑内障性視神経障害が検出されることも報告されている3).よって,病期にかかわらず中心視野障害の有無と程度について把握しつつ経過観察すべきと考えられる.眼科データ管理システムであるフォーラム(カールツァイスメディテック)には,コンボレポートとよばれるCHum.phrey視野計(HFA,カールツァイスメディテック)の結果とシラスCHD-OCTによる網膜内層厚解析を統合し表示する機能が搭載されている.これによりCHFAとシラスで得られた異常判定を重ね合わせ,機能と構造の対比をマップにて確認することが可能である.中心C10°内の視野に対してはHFA10-2プログラムとCganglionCcellCanalysis(GCA)の結果が網膜対応を考慮のうえ表示される.仮に両者の判定が高率に一致することが確認されれば,GCA判定をもってC10°内視野障害の存在と程度を予測することが可能となる.今回筆者らは,コンボレポートを用いて機能と構造変化判定の相関について検証し,緑内障眼管理における有用性について検討した.CI対象および方法新潟大学医歯学総合病院眼科に通院中であり,すでに広義POAGと診断されている患者を対象に後ろ向きに調査を施行した.3カ月以内の期間にCHFA10-2SITAstandardによる視野検査とシラスを施行した連続症例から対象を選択した.20歳以上C80歳未満の日本人,等価球面屈折度数C-6D~+3D,乱視度数C-3.0D以下の有水晶体眼を組み入れ基準とした.矯正視力がC0.1以下であるもの,視野に異常をきたす可能性のある緑内障以外の疾患,黄斑部に形態変化を生じる網膜疾患,視野検査に影響を及ぼす可能性のある白内障を有するもの,緑内障手術以外の手術既往があるものは対象から除外した.さらにCHFAにおける信頼性指標が不良であるもの(固視不良C20%以上,偽陰性C20%以上,偽陽性C15%以上)も除外した.シラスは黄斑部C6C×6Cmmキューブスキャンで得られた神経細胞-内網状層厚(GCIPL)をもとにCGCAによる解析(シラスCver.C6,アジア人正常眼データベースを使用)を行ったものを使用し,信号強度がC6未満のものは検討から除外した.両眼ともに基準を満たす場合はランダムに片眼を選択し,左眼に関しては反転したうえで使用した.本研究はヘルシンキ宣言および厚生労働省の定める臨床研究に関する倫理指針に基づき,新潟大学医学部倫理委員会で承認されたうえで行われ,対象患者に対してインフォームド・コンセントが得られたものを対象とした.HFA10-2における全C68点の測定点をコンボレポート上の配置に従い,上方および下方視野をそれぞれ耳側,中央,鼻側,計C6セクター(S1~S6)に分割した.上下端のC4点とセクターの中間に存在するC4点は解析から除外し,各セクターをC10個の測定点で構成した.測定点のトータル偏差確率がC1%未満のものを異常点とした.黄斑部網膜内層の菲薄化の有無を尺度化する目的でシラスによる判定結果によってスコア化し解析に用いた.GCA解析における各セクターのデビエーション判定に基づきC0点(5%以上),1点(1%以上C5表1対象患者の詳細(n=53)平均(標準偏差)範囲年齢(歳)56.3(12.6)25~77男:女28:25右:左26:27屈折(等価球面度数)(D)C-3.02(2.21)C-5.75~+2.75(乱視)(D)C-0.79(0.69)C-2.5~0HFA30-2MD(dB)C-0.79(6.40)C-21.83~1.16HFA10-2MD(dB)C-7.15(6.91)C-27.91~1.61上半視野トータル偏差平均(dB)C-10.2(9.6)C-30.4~1.68下半視野トータル偏差平均(dB)C-4.38(6.2)C-32.3~1.45中心窩閾値(dB)34.04(3.59)17~38GCIPL平均厚(.m)66.9(9.0)56~893030下半視野異常点数上半視野異常点数201020100012345600123456上方GCAスコア下方GCAスコア図2上下半視野におけるGCAスコアの合計と視野異常点数との相関下方視野異常点数と上方CGCAスコア合計,上方視野異常点数と下方CGCAスコア合計は,いずれも有意な相関を認めた(r=0.528,0.736).%未満),2点(1%未満)とした(図1).上下半視野におけるCHFA10-2の異常点の総数と,上下反転により対応させた黄斑部のCGCAスコア合計値の相関について調べた.統計解析にはCSpeamanの順位相関を用い,有意水準を5%とした.さらに,各セクターにおいてCGCAスコアがC2点であった場合を「検査陽性」,HFA10-2異常点がC1個以上存在する場合を「疾患あり」として陽性的中率,感度,特異度を算出した.CII結果解析対象はC53例C53眼(POAG20眼,NTG33眼).平均年齢C56.3歳,HFA10-2におけるCmeanCdeviation(MD)値の平均は-7.15CdBであった(表1).下方視野異常点数と上方CGCAスコア(S1~S3)合計,上方視野異常点数と下方GCAスコア(S4~S6)合計とのCSpeaman相関係数はそれぞれC0.528,0.736であり,いずれも有意な正の相関を認めた(図2).セクターごとに視野異常点数で分けた場合の症例数分布,およびそのCGCAスコアを図3に示す.S3では視野異常点の数はC0~10個までと広範囲に分布していたが,下方セクターでは視野異常点が少なく分布に偏りがみられた.表2GCA判定と視野異常の整合性セクター感度(%)特異度(%)陽性的中率(%)CS1C68C88C86.4CS2C83C82C90.9CS3C90C100C100.0CS4C60C72C33.3CS5C68C71C56.5CS6C92C67C72.7各セクターにおいてCGCA判定が1%以下であった場合を検査陽性,HFA10-2で異常点(<1%)をC1個以上認める場合を疾患ありとした際の感度,特異度および陽性的中率を示す.とくにCS4ではC53眼中C43眼で異常点をC1つも認めなかった.陽性的中率はCS3でもっとも高く(100%),S4でもっとも不良(33%)であった(表2).感度,特異度についてもCS3でもっとも高く,それぞれC90%,100%であり,S4でもっとも低くそれぞれC60%,72%であった.下方より上方,耳側より鼻側セクターにおいてCGCA判定が視野異常の有無と一致する確率が高い傾向がみられた.S1S2S3図3各セクターにおけるHFA異常点数とGCAスコアの分布横軸:HFA異常点数,縦軸:眼数.GCA判定の内訳を棒グラフ内に示す.III考按黄斑部には約C30%のCRGCが存在しているとされ4),視覚情報量の多くがこの領域より得られている.中心視野障害の進行に伴い視力低下を生じれば,読み書きをはじめとする日常生活に必要な視機能を損ない,患者のCQOLは大きく低下する.これまでにも視機能関連CQOL評価指標であるCVFQ25スコアがCHFA視野感度と相関することが報告されており,とくに中心クラスタの感度低下が高く相関することが明らかにされている5~7).よって中心視野障害を早期に発見し,その進行を未然に防ぐことが治療計画を立てていくうえで重要である.しかし,一般的に施行されている中心C24°あるいは30°内の静的視野検査では,黄斑部に該当する視野測定点密度が低く,中心視野障害を評価するための十分な情報が得られないという問題が指摘されている.また,TraynisらはHFA24-2のCMD値がC-6CdBより良好である初期および前視野期緑内障眼C100眼のうち,76眼でCHFA10-2でも視野異常を認め,これはCHFA24-2に異常を認めた頻度と同等であったことを報告している.加えてCHFA10-2で視野異常を認めたもののうち,16%で緑内障と判定される視野異常をHFA24-2では認めなかったとしている2).このことより,前視野期を含めた病期にかかわらず,中心C10°内に視野障害が生じる可能性を認識し経過観察を行う必要があるといえる.黄斑部網膜内層の菲薄化は中心視野障害を反映しており,これを評価するうえで有用と考えられる.しかし,加齢によっても菲薄化が生じるため8),各個人においてこれを緑内障に起因する菲薄化と明確に区別することは困難である.GCA判定は年齢が考慮された正常眼分布に基づいており,定量性は失われるものの,加齢の影響を最小限にとどめることが可能である.今回筆者らは,コンボレポート上でHFA10-2における視野異常とシラスによる構造変化の整合性を調べ,GCAにより異常と判定されるCGCIPL領域とC10°内視野感度低下領域との間には相関がみられることを明らかにした.臨床使用の点からも簡便に使用できるCGCA判定を用いて機能と構造の相関を明らかにしたのは本研究が初めてと思われる.上下半視野における異常点数と対応する合計CGCAスコアは正の相関を認め,GCIPLの菲薄化に伴いC10-2視野の異常点数が増加していた.既報においても黄斑部網膜内層厚とHFA10-2視野感度との相関が報告されているが9,10),これらの定量的な測定値のみならず基準値に基づいた半定量的な評価でもこの関係性が保たれることをこの結果は意味している.整合性に関する検討では,感度は鼻側セクター(S3,S6)で高く,耳側セクター(S1,S4)では低い傾向がみられた.上下半視野ともに耳側に比べて鼻側で感度低下の強い,つまり深い暗点が多く,そのためCOCT上菲薄化の検出が容易であったのではないかと推測される(図3).一方で,特異度に関しては上方セクターに比べて下方セクターで低く,GCAで異常判定が出ているにもかかわらず視野の異常点がみられない症例が存在した.半視野における相関,ならびに各セクター判定の一致率が下方に比べて上方で良好であった理由として,対照群における緑内障進行度の違いが解析に影C響している可能性がある.一般的に緑内障眼では上方視野障害が先行しやすく,本検討においても多くの症例で上方優位の視野障害を呈していた.そのため視野異常点の分布が広くなり,相関が明瞭に現れたと考えられる.しかし,下方視野に乳頭黄斑線維が多く存在するなど,元来有する上下での網膜構造の違いも影響していることも否定できない.Hoodらは黄斑部網膜神経線維層(retinalnerve.brelayer:RNFL)障害にはびまん性に浅く生じるものと,局所的に深く生じるものが混在しており,とくに後者は下方アーケード領域つまり黄斑部上方視野に多いことを指摘している11).今回の検討ではC1%未満の感度低下をもって視野異常点としたため,乳頭-黄斑領域に存在するびまん性の浅い暗点を異常なしとした結果,GCA判定との乖離が生じた可能性がある.この領域は視力障害との関連が強い領域であり,視野異常点判定の基準を細かく設定したうえでのさらなる検討が必要である.また,下方視野においても同様な視野異常分布をもつ対象群を用いることで,このような構造の違いに起因する,機能との関係性の相違が明らかになると考えられる.GCA判定が正常であるにもかかわらずCHFAで異常点が検出される症例を少なからず認めた.本来感度低下を生じていない測定点におけるアーチファクト,つまり検査上の偽陰性反応が理由の一つとしてあげられる.しかし,黄斑部視野検査では一般的に短期変動が少なく,加えて今回の検討では1%未満という深い感度低下を異常点と判定していることもあり,その影響は限定的であると筆者らは考える.一方,GCA判定は該当領域のCGCIPL厚を平均化して得られる値を使用しており,HFAで測定される局所の変化をとらえることが困難であったことが一因と推測される.今回の検討の目的はコンボレポートの整合性を確認し有用性の評価を行うことであったため,便宜上各COCTセクターに同範囲のC10個の視野測定点を対応させている.しかし,組織学的な検討12)やCOCTを用いた詳細な機能構造解析13,14)によると,GCA解析に使用される網膜内層領域は本研究で使用した視野よりも狭い領域と対応していると考えられている.そのため本研究では視野と網膜が完全に対応しているとはいえず,解釈に注意が必要である.また,黄斑部においてもRNFLの走行に沿った視野障害と構造変化を生じるのが原則であるが,本検討ではCGCA解析に合わせた放射状セクターを用いていることも留意すべき点である.微小な領域にCRNFL欠損が生じている場合,その影響が複数のセクターに分散された結果,正常と判定される可能性がある.今後,RNFLに基づくクラスタ化を用いた検討が必要と考えられる.結論として,本研究によってすでに緑内障と診断されている症例においては,シラスによるCGCA判定とCHFA10-2における視野感度低下の有無と程度は,とくに上方視野において一致する可能性が高いことが明らかとなった.GCA解析(131)で異常判定が得られた場合,HFA10-2プログラムによる中心視野障害の評価が必要であると考えられる.文献1)HoodDC,RazaAS,deMoraesCGVetal:InitialarcuatedefectsCwithinCtheCcentralC10CdegreesCinCglaucoma.CInvestCOphthalmolVisSciC52:940-946,C20112)TraynisI,DeMoraesCG,RazaASetal:Prevalenceandnatureofearlyglaucomatousdefectsinthecentral10°Cofthevisual.eld.JAMAOphthalmolC132:291-297,C20143)KimCNR,CLeeCES,CSeongCGJCetCal:Structure─functionCrelationshipCandCdiagnosticCvalueCofCmacularCganglionCcellCcomplexCmeasurementCusingCFourier-domainCOCTCinCglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC51:4646-4651,C20104)CurcioCCA,CAllenCKA:TopographyCofCganglionCcellsCinChumanretina.JCompNeurolC300:5-25,C19905)SawadaH,FukuchiT,AbeH:EvaluationoftherelationC.shipCbetweenCqualityCofCvisionCandCtheCvisualCfunctionCindexCinCJapaneseCglaucomaCpatients.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC249:1721-1727,C20116)SawadaCH,CYoshinoCT,CFukuchiCTCetCal:AssessmentCofCtheCvision-speci.cCqualityCofClifeCusingCclusteredCvisualC.eldinglaucomapatients.JGlaucomaC23:81-87,C20147)SunCY,CLinCC,CWaisbourdCMCetCal:TheCimpactCofCvisualC.eldclustersonperformance-basedmeasuresandvision-relatedCqualityCofClifeCinCpatientsCwithCglaucoma.CAmJOphthalmolC163:45-52,C20168)LeungCCKS,CYeCC,CWeinrebCRNCetCal:ImpactCofCage-relatedCchangeCofCretinalCnerveC.berClayerCandCmacularCthicknessesConCevaluationCofCglaucomaCprogression.COph.thalmologyC120:2485-2492,C20139)RaoHL,QasimM,HussainRSMetal:Structure-functionrelationshipCinCglaucomaCusingCganglionCcell-innerCplexi-formClayerCthicknessCmeasurements.CInvestCOphthalmolCVisSciC56:3883-3888,C201510)RazaAS,ChoJ,deMoraesCGetal:Retinalganglioncelllayerthicknessandlocalvisual.eldsensitivityinglauco.ma.ArchOphthalmol(Chicago,Ill1960)C129:1529-1536,C201111)HoodCDC,CSlobodnickCA,CRazaCASCetCal:EarlyCglaucomaCinvolvesCbothCdeepClocal,CandCshallowCwidespread,CretinalCnerve.berdamageofthemacularregion.InvestOphthal.molVisSciC55:632-649,C201412)DrasdoCN,CMillicanCCL,CKatholiCCRCetCal:TheClengthCofCHenle.bersinthehumanretinaandamodelofganglionreceptive.elddensityinthevisual.eld.VisionResC47:C2901-2911,C200713)OhkuboS,HigashideT,UdagawaSetal:Focalrelation.shipbetweenstructureandfunctionwithinthecentral10degreesinglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC55:5269.5277,C201414)SatoS,HirookaK,BabaTetal:CorrelationbetweentheganglionCcell-innerCplexiformClayerCthicknessCmeasuredCwithCcirrusCHD-OCTCandCmacularCvisualC.eldCsensitivityCmeasuredwithmicroperimetry.InvestOphthalmolVisSciC54:3046-3051,C2013あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C1469

強度近視網膜分離症の硝子体手術成績と自然経過

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1459~1464,2017強度近視網膜分離症の硝子体手術成績と自然経過岩崎将典木下貴正宮本寛知今泉寛子市立札幌病院眼科CSurgicalOutcomeandNaturalCourseofRetinoschisisinHighlyMyopicEyesMasanoriIwasaki,TakamasaKinoshita,HirotomoMiyamotoandHirokoImaizumiCDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital強度近視網膜分離症C20例C23眼について,内境界膜(ILM).離併用C25ゲージ(G)硝子体手術を行ったCPPV群(16眼)と未施行の経過観察群(7眼)に分けて,レトロスペクティブに治療成績を比較検討した.PPV群はベースライン小数視力C0.28であったが,最終視力C0.39となり有意に改善した(p=0.035).経過観察群ではベースライン小数視力C0.46が最終視力C0.43と有意な変化はみられなかった.最終受診時の中心窩網膜厚はCPPV群C143.1C.m,経過観察群460.3C.mとCPPV群のほうが有意に小さかった(p=0.0003).ILM完全.離を施行したC11眼中C3眼に術後黄斑円孔網膜.離が発症したが,中心窩CILMを残す術式(FSIP)を施行したC5眼には術後全層円孔が生じなかった.強度近視網膜分離症に対しCILM.離を併用した硝子体手術が視力や中心窩網膜厚の改善に有用であった.中心窩が菲薄化している症例ではCFSIPで術後全層円孔を予防する必要がある.Westudied23eyesof20patientswithmyopicretinoschisis(RS)C.Vitrectomywithinternallimitingmembrane(ILM)peelingCwasCperformedCinC16Ceyes;7CeyesCwereConlyCobserved.CTheCmeanCdecimalCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)intheoperatedgroupsigni.cantlyimprovedfrom0.28(baseline)to0.39(.nalvisit;p=0.035)C,buttheCmeanCBCVACinCtheCnon-operatedCgroupCdidCnotCchangeCsigni.cantlyCduringCfollow-up.CTheCcentralCretinalthickness(CRT)intheoperatedgroupwassigni.cantlysmallerthanthatinthenon-operatedgroupat.nalvisit(143.1C.mand460.3C.m,respectively,p=0.0003)C.Macularholeretinaldetachmentdevelopedin3ofthe11eyesthatunderwentcompleteILMpeelingaftersurgery.Nomacularcomplicationsdevelopedin5eyesthatunderwentfovea-sparingILMpeeling(FSIP)C.TheseresultssuggestthatvitrectomywithILMpeelingimprovesvisualacuityandCRTineyeswithRS,andthatFSIPshouldbeperformedtopreventmacularcomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1459~1464,C2017〕Keywords:網膜分離症,強度近視,黄斑円孔網膜.離,硝子体手術,自然経過.retinoschisis,highmyopia,mac-ularholeretinaldetachment,vitrectomy,naturalcourse.Cはじめに強度近視網膜分離症はC1958年にCPhillipsらによって黄斑円孔のない後極部網膜.離として初めて報告された1).その後,光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)の開発によりその詳細な病態が報告されており2,3),強度近視眼における視力障害のおもな原因の一つとされている4).OCTでは網膜分離は網膜内層と外層が裂けた状態として認められるが,時間の経過とともに中心窩.離(fovealdetach-ment:FD),そして黄斑円孔網膜.離(macularholereti.naldetachment:MHRD)へと進行することが報告された5).治療法としては硝子体手術が広く行われており,内境界膜(internalClimitingCmembrane:ILM).離を併施することで網膜の伸展性が改善し,網膜の復位が得られるとの報告6)や,中心窩再.離が起きず最終視力も有意に改善したとの報告7,8)もあり,網膜分離症に対する有効性が示されている.さらに最近では,中心窩のCILMは.離せず,その周りをドーナツ状に.離する方法(foveaCsparingCILMCpeeling:FSIP)を行うことで術後全層円孔を予防する方法9)も報告されている.一方,自然経過において視力やCOCT所見があまり変化しないとの報告9)もあるため,一定の見解が得られて〔別刷請求先〕岩崎将典:〒060-8604北海道札幌市中央区北C11条西C13丁目C1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:MasanoriIwasaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,1-1Nishi13-Chome,Kita11Jo,Chuo-ku,SapporoHokkaido060-8604,JAPANいない.今回筆者らは市立札幌病院眼科を受診した強度近視網膜分離症例について,ILM.離を併用した硝子体手術を行ったCPPV群と,手術が行われなかった経過観察群とに分けて比較検討した.CI対象および方法2010年C4月~2016年C3月のC6年間に市立札幌病院眼科においてCOCTで強度近視網膜分離症と診断されC6カ月以上の自然経過を追えたC6例C7眼,および術後C6カ月以上の経過観察が可能であったC14例C16眼の計C20例C23眼を対象とした.強度近視の定義は,近視研究会がC2016年に示した等価球面値が-6.0D以上,または眼軸長C26.0Cmm以上に従った.視力に影響のある角膜混濁,弱視,中心窩を含む斑状網脈絡膜萎縮,黄斑円孔のある例は除外した.全症例の臨床経過を表1と表2に示す.男性C3例C5眼,女性C17例C18眼と女性が多く,平均年齢はC71.0C±8.9歳(54~83歳),平均観察期間はC30.2カ月(8~72カ月),ベースライン平均眼圧はC15.8C±2.5CmmHg(10~20mmHg)であった.有水晶体眼C18眼の平均等価球面屈折値はC-14.8±4.5D(C-5.9~C-22.3D)であった.眼軸長を測定したC18眼の平均眼軸長はC29.1C±1.5Cmm(26.6~30.8Cmm)であった.網膜分離以外の黄斑部併発病変は,網膜前膜C14眼(60.9%),分層円孔C10眼(43.5%),中心窩.離C8眼(34.8%)であった.経過中に硝子体手術を施行したCPPV群がC14例C16眼,手術を施行せず自然経過をみた経過観察群がC6例C7眼であった.これらの症例に対し視力測定や後極部のCOCT撮影をベースライン,3,C6,C12カ月後と最終受診時に施行した.また中心窩を通るCOCT水平断におけるCILMから網膜色素上皮の内縁までの距離を中心窩網膜厚(centralCretinalCthick.ness:CRT)と定義し,マニュアルキャリパー機能を用いて測定した.硝子体手術は全例C25ゲージシステムにより実施した.黄斑部の網膜前膜や硝子体皮質を除去し,全例でトリアムシノロンアセトニドもしくはブリリアントブルーCG(brilliantblueCG:BBG)を用いたCILM.離を併用した.ILM.離はILMを中心窩に残さない完全.離がC11眼,中心窩部分のILMを残す術式(FSIP)がC5眼であった.初回手術時にガスタンポナーデはC9眼に行った.内訳は空気がC2眼,20%CSFC6がC6眼,12%CSFC6がC1眼であった.有水晶体眼のC11眼には水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を併施した.これらの症例を,硝子体手術を施行したCPPV群と施行しなかった経過観察群に分けて,視力やCCRT,OCT所見に着目しレトロスペクティブに分析検討した.小数視力はすべてlogMAR値に換算して統計解析を行った.p<0.05を有意とした.CII結果両群間においてベースラインの視力,眼圧,性別,年齢,有水晶体眼の等価球面屈折値に統計学的な有意差は認めなかった(p≧0.05,FisherC’sCexactCtest,CMann-WhitneyCUCtest).視力について,PPV群ではベースラインの平均ClogMARは0.56(小数視力C0.28)であったが,最終C0.41(0.39)となり有意に改善した(p=0.035,Wilcoxonsigned-ranktest).一方,経過観察群ではベースラインの平均ClogMARはC0.33(0.46)であり,最終C0.36(0.43)と有意差はなかった(表3).また,ベースラインと最終視力を比較してClogMAR0.2以上の変化を改善もしくは悪化と定義した場合,表4に示すようにPPV群のほうが,最終視力が良好な傾向があった(p=0.067,Mann-WhitneyUtest).それぞれの群のCCRTの推移を図1に示す.ベースラインの平均CRTはPPV群518.9.m,経過観察群C335.1.mとPPV群のほうが大きい傾向がみられた(p=0.06,Mann-Whit.neyCUCtest).PPV群では術後C3カ月以降,有意にCCRTが減少した(p<0.01,WilcoxonCsigned-rankCtest).一方,経過観察群では有意なCCRTの変化はみられなかった.最終CRTはCPPV群C143.1C.m,経過観察群C460.3C.mとCPPV群のほうが有意に小さかった(p=0.0003,Mann-WhitneyCUtest).PPV群において全例で術中合併症は認めなかった.術後合併症はCMHRDをC3眼(18.8%)に認め,すべて初回手術後2週間以内に発症した.これらC3眼は術前からCFDを併発していた(図2).このうちのC1眼(6.3%)はCCC3F8ガスタンポナーデを用いた再手術で網膜は復位し,黄斑円孔は閉鎖した.残りのC2眼はシリコーンオイルタンポナーデを用いた再手術を施行し,約C1年後にシリコーンオイルを抜去した.このうちC1眼はシリコーンオイル除去時に黄斑プロンベ縫着を併施した.これらC2眼はともに網膜の復位を得たが,黄斑円孔は残存した.FSIPを施行したC5眼について,術後C6カ月までの経過の1眼に網膜分離の残存を認めているが,残りC4眼はすべて網膜分離が消失し黄斑円孔も発生しなかった.ベースラインの平均小数視力はC0.46であったが,最終C0.69と改善した.ベースラインの平均CCRTはC528.8C.mであったが,最終C149.0.mと有意に減少した(p=0.04,CWilcoxonCsigned-rankCtest).FSIPを施行した代表症例を図3に示す.術前は網膜分離と大きなCFDを認めていた.FSIPを併用した硝子体手術を施行し20%SFC6ガス置換とした.術後C2週間で網膜分離やFDは消失し術後C12カ月まで網膜分離の再燃なく最終視力(1.0)であった.最終COCT所見は,PPV群ではC15眼(93.8%)で網膜分離は消失し,1眼(6.3%)で網膜分離が残存した.網膜分離消表1PPV群の臨床経過ベースラインフォローアップC分離等価球面眼軸CRT観察最終最終C消失No.性別年齢視力屈折値長C(.m)COCT期間ILM.離ガス術後合併症出現時期・内容・手術視力CRT最終COCT期間(.m)(月)C1CMC78C0.6CIOLC30.8C1281CRSFDERMC15CFSIP20%CSFC6なしC1.0C85RS(-)MH(-)C0.5C2CMC78C0.6CIOLC30.5C166RS分層円孔C15CFSIP20%CSFC6なしC0.5C112RS(-)MH(-)C7C3CFC71C0.4C-17.9C30.3C399RS分層円孔ERMC17CFSIP12%CSFC6なしC0.9C250CRSC4CFC66C0.2CIOLC27.3C505RS分層円孔C10CFSIP20%CSFC6なしC0.6C178RS(-)MH(-)C10C5CFC74C0.7CIOLC28.2C293CRSFDERMC16CFSIPCAIRなしC0.6C120RS(-)MH(-)C16C6CFC83C0.1C-10.3C27.8C699CRSFDC29完全.離なしなしC0.09C188RS(-)MH(-)C6C2Cw後CMHRDPPV2+C3F812%7CFC67C0.15C-5.9C28.7C1014RSFD分層円孔ERMC18完全.離なし1M後CMHRDPPV3+SO0.09CMHC2C11M後CPPV4+SO抜去+黄斑プロンベC8CFC66C0.15CIOLC28.7C368CRSERMC29完全.離CAIRなしC0.15C80RS(-)MH(-)C7C2w後CMHRDでCPPV2+SO9CFC70C0.1C-22.3C30.7C475CRSFDC72完全.離20%CSFC612M後CPPV3+SO抜去C0.1CMHC23C10FC760.5C-10.5C30.4C377RS分層円孔ERMC12完全.離なしなしC1.0C169RS(-)MH(-)C5C11FC790.2C-10.9C26.6C529CRSC25完全.離なしなしC0.6C124RS(-)MH(-)C8C12FC790.2C-13.4C27.4C433CRSC25完全.離なしなしC0.5C116RS(-)MH(-)C14C13CFC790.1C-11.1C26.6C421RSFD分層円孔C50完全.離20%CSFC6なしC0.2C92RS(-)MH(-)C8C14FC560.6C-17.6C30.8C411RS分層円孔ERMC31完全.離20%CSFC6なしC0.4C122RS(-)MH(-)C11C15FC650.4C-14.4C29.5C310RS分層円孔ERMC8完全.離なしなしC1.0C184RS(-)MH(-)C7C16MC540.6C-19.5C29.9C621CRSFDERMC12完全.離なし2w後CMHRD+RS0.7C183RS(-)MH(-)C11100%CCC3F8硝子体注射C平均値C71.3C0.28C-14.0C29.0C518.9C24.0C0.39C143.1C9.0M:male,男性,F:female,女性,IOL:intraocularlens眼内レンズ挿入眼.RS:retinoschisis網膜分離,ERM:epiretinalmembrane網膜前膜,FD:fovealdetachment網膜.離,MH:macularhole黄斑円孔,MHRD:macularholeretinaldetachment黄斑円孔網膜.離,SO:siliconeoilシリコーンオイル,FSIP:foveasparingILMpeeling.表2経過観察群の臨床経過ベースラインフォローアップCNo.性別年齢視力等価球面屈折値眼軸CCRT(C.m)COCT観察期間最終視力最終CCRT(C.m)最終COCTC17C18C19C20C21C22C23CFCFCFCFCMCMCFC82C60C69C54C78C78C67C0.4C0.6C0.4C0.4C0.3C0.8C0.5C-13.0C-21.8-19.0-11.3-14.0-17.0-17.429.6C未測定C未測定C未測定C未測定C未測定C未測定C268C487302413409191276CRSCRS分層円孔ERMCRS分層円孔ERMCRSERMCRSFDERMCRSERMCRSC32C60C24C70C44C44C37C0.5C0.4C0.4C0.8C0.15C0.5C0.6C429C520349511369734310CRSCRS分層円孔ERMCRS分層円孔ERMCRSERMCRSFDERMCRS分層円孔CERMCVMTSCRSC7C69.7C0.46C-16.2C29.6C335.1C44.4C0.43C460.3M:male男性,F:female女性.RS:retinoschisis網膜分離,ERM:epiretinalCmembrane網膜前膜,FD:fovealCdetachment網膜.離,VMTS:vitreomacularCtrac.tionsyndrome.表3ベースラインと最終受診時の平均視力ベースライン最終受診時p値平均観察期間(月)平均ClogMAR0.560.410.035*PPV群(n=16)小数視力(範囲)C0.28(0.1~0.7)C0.39(0.09~1.0)C24.0平均ClogMAR0.330.36経過観察群(n=7)小数視力(範囲)C0.46(0.3~0.8)C0.43(0.15~0.8)C0.675C44.4*CPPV群の最終視力はベースラインと比較して有意に改善した.Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.05.表4ベースラインと最終受診時の視力変化改善不変悪化PPV群(n=16)8眼(50.0%)C7眼(43.8%)C1眼(6.3%)Cp=0.067*経過観察群(n=7)C1眼(14.3%)C4眼(57.1%)C2眼(28.6%)ベースラインと比較しClogMAR0.2以上の変化を改善,もしくは悪化と定義した.*CPPV群のほうが視力予後良好な傾向があった.Mann-WhitneyUtest.失までに要した期間は平均C9.0カ月であった.また,2眼(11.8%)で黄斑円孔が残存した.一方,経過観察群ではC7眼中C7眼(100%)がC2年以上経過した後にも網膜分離が残存していた.CIII考按強度近視網膜分離症はしばしば緩徐な経過をたどるが,平均C31.2カ月でC68.9%が視力低下したとの報告5)や,平均15.7カ月の観察期間でC28.5%が視力低下や変視にて手術を必要としたとの報告11)もある.また,自然経過において網膜分離が改善することは少なく,徐々に網膜分離は広範囲に広がり分離の程度も悪化してゆく.その後しばしばCMHRDに進行し,その予後はきわめて不良となる10,12,13).本症例においても経過観察群のうちC2眼(28.6%)はベースラインと比較した最終視力のClogMARはC0.2以上の悪化をきたしていた.これに対し,PPV群において悪化はC1眼(6.3%)のみで,8眼(50.0%)が最終的にClogMARC0.2以上の改善を得た(表4).また,表3に示したようにCPPV群は最終視力も有意に改善した.このように強度近視網膜分離症においてCILM.離を併用した硝子体手術を行うことは視力の改善に有用と思われる.また,網膜分離に対しては経過観察群の全例で平均C44.4カ月後も最終的に網膜分離は残存し,CRTはベースラインのC355.1C.mから最終C460.3C.mとなり,悪化傾向がみられた(p=0.063).一方,PPV群のC15眼(93.8%)で網膜分離は消失しCCRTはベースラインC518.9.mが術後C3カ月で194.4C.mまで有意に改善し,最終的にC143.1C.mとなった.さらに,最終CCRTは経過観察群に比べCPPV群で有意に小さかった(p=0.0003).以上から,ILM.離を併用した硝子体手術は網膜分離を消失,改善させることに有効であり,網平均CRT(.m)PPV群経過観察群500600■400★★300★★200★★1000ベースライン3M6M12M最終n=23n=18*n=21*n=17*n=21*図1中心窩網膜厚(CRT)の推移■ベースラインCCRTはCPPV群のほうが経過観察群より大きい傾向がみられた.p=0.06,Mann-WhitneyUtest.★CPPV群のCCRTはベースラインと比較してC3カ月以降有意に低下した.p<0.01,Wilcoxonsigned-ranktest.★★最終CCRTはCPPV群のほうが経過観察群より有意に小さかった.p=0.0003,Mann-WhitneyUtest.*術後に黄斑円孔が残存したC2眼は除外した.C図3FSIPを施行した代表症例(症例CNo1)上:術前OCT.大きな中心窩.離(★)と網膜分離を認める.中:術後C2週のCOCT.PPV+FSIP+20%CSFC6置換を施行し術後2週で復位した.下:術後C12カ月のCOCT.網膜分離の再燃もなく視力(1.0)であった.C膜分離が持続することによる視力低下を防止することができると考えられた.ただし,硝子体手術には合併症があり,FDがある症例では,とくに術後にCMHRDになる可能性が高いとされてい図2術後にMHRDを生じた3例の術前OCTa:症例CNo9.シリコーンオイル使用するも最終的にCMHが残存した症例.Cb:症例CNo16.CC3F8使用によりCMHは閉鎖した.Cc:症例CNo7.2度CMHRDをきたし黄斑プロンベを施行.最終的に網膜は復位し,MHは残存.★:中心窩.離(FD)を認め中心窩は菲薄化している.このような症例には中心窩のCILMを残す術式(FSIP)が望ましい.Cる14).今回の症例でも術前からCFDを認めていたC7眼中C3眼に術後CMHRDが発生し,これらはすべてCILMを完全.離した症例であった.このうちC2眼は最終的に黄斑円孔が残存した.これら黄斑円孔が残存したC2眼は最終視力も不良であった(表1).このようにCFDに伴い,中心窩の網膜が菲薄化している症例においては,完全なCILM.離は術後に全層円孔を生じる危険性がある.ShimadaらはCFDを併発した強度近視網膜分離症C15眼に対しCFSIPを行うことで術後全層円孔が発生しなかったと報告している9).HoらもC12例の強度近視網膜分離症(うちC7例はCFD併発)にCFSIPを施行した結果,術後全層円孔がC1例もなく,視力低下もなかったと報告している15).今回の検討においても,FSIPを施行した5眼(うちC2眼はCFD併発)は術後全層円孔がみられず,最終視力も全例で(0.5)以上であった.以上から,FDを伴う症例においてはCFSIPを施行することが望ましいと思われた.強度近視網膜分離症に対してCILM.離を併用した硝子体手術を施行し,黄斑形態の改善や,視力およびCCRTの有意な改善を得た.したがって,本術式は強度近視網膜分離症の治療に有用であると思われた.しかしながら,FDを伴い中心窩が菲薄化している症例ではCFSIPによって術後全層円孔を予防する必要がある.本研究は後ろ向き検討であり,症例数も少ないため,今後のさらなる検討が必要と思われる.文献1)PillipsCCI:RetinalCdetachmentCatCtheCposteriorCpole.CBrJOphthalmolC42:749-753,C19582)TakanoCM,CKishiCS:FovealCretinoschisisCandCretinalCdetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaph-yloma.AmJOphthalmolC128:472-476,C19993)BenhamouN,MassinP,HaouchineBetal:MacularretiC-noschisisCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC133:C794-800,C20024)GohilCR,CSivaprasadCS,CHanCLTCetCal:MyopicCfoveoschi-sis:aclinicalreview.EyeC29:593-601,C20155)GaucherCD,CHaouchineCB,CTadayoniCRCetCal:Long-termfollow-upofhighmyopicfoveoschisis:naturalcourseandsurgicaloutcome.AmJOphthalmolC143:455-462,C20076)IkunoCY,CSayanagiCK,COhjiCM:VitrectomyCandCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforCmyopicCfoveoschisis.CAmJOphthalmolC137:719-724,C20047)TaniuchiS,HirakataA,ItohYetal:VitrectomywithorwithoutinternallimitingmembranepeelingforeachstageofCmyopicCtractionCmaculopathy.CRetinaC33:2018-2025,C20138)IkunoCY,CSayanagiCK,CSogaCKCetCal:FovealCanatomicalCstatusCandCsurgicalCresultsCinCvitrectomyCforCmyopicCfoveoschisis.JpnJOphthalmolC52:269-276,C20089)ShimadaCN,CSugamotoCY,COgawaCMCetCal:FoveaCsparingCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforCmyopicCtractionCmaculopathy.AmJOphthalmolC154:693-701,C201210)ShimadaN,TanakaY,TokoroTetal:NaturalcourseofmyopicCtractionCmaculopathyCandCfactorsCassociatedCwithCprogressionCorCresolution.CAmCJCOphthalmolC156:948.957,C201311)AmandaR,IgunasiJ,XavierMetal:NaturalcourseandsurgicalCmanagementCofChighCmyopicCfoveoschisis.COph.thalmologicaC231:45-50,C201412)島田典明,大野京子:強度近視網膜分離症アップデート.眼科C56:499-504,C201413)廣田和成:強度近視網膜分離症の手術適応.眼科C56:C1433-1437,C201414)HirakataA,HidaT:Vitrectomyformyopicposteriorret.inoschisisCorCfovealCdetachment.CJpnCJCOphthalmolC50:C53-61,C200615)HoCT,CYangCM,CHuangCJCetCal:Long-termCoutcomeCofCfoveolarCinternalClimitingCmembraneCnonpeelingCforCmyo.pictractionmaculopathy.RetinaC34:1833-1840,C2014***

神経線維腫症1型を伴う発達緑内障にBaerveldt緑内障インプラントを挿入した乳児の2例

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1455~1458,2017神経線維腫症1型を伴う発達緑内障にBaerveldt緑内障インプラントを挿入した乳児の2例小松香織*1望月英毅*2,3宮城秀考*3中倉俊祐*4木内良明*3*1県立広島病院眼科*2草津眼科クリニック*3広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門視覚病態学*4ツカザキ病院眼科CTwoCasesofCongenitalGlaucomaAssociatedwithNeuro.bromatosisType1RequiringBaerveldtGlaucomaImplantKaoriKomatsu1),HidekiMochizuki2,3)C,HidetakaMiyagi3),SyunsukeNakakura4)andYoshiakiKiuchi3)1)DepartmentofOphthalmology,PrefecturalHiroshimaHospital,2)KusatsuEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,TukazakiHospital神経線維腫症C1型(NF1)に伴う発達緑内障で線維柱帯切開術(TLO)が無効であった乳児C2例C2眼に,Baerveldt緑内障インプラント(BGI)挿入術を行ったので報告する.症例C1は生後C10カ月の男児.NF1であり,それに伴う左眼発達緑内障と診断され,TLOをC2回行ったが眼圧下降が得られなかったためCBGIを挿入し,その後再手術をC3回施行した.眼圧は点眼下でC17CmmHgである.症例C2は生後C5カ月の女児.左眼のCNF1に伴う発達緑内障に対してCTLOをC2回施行されたが眼圧下降せず,BGI挿入を行った.1度再手術を施行し,眼圧はC25CmmHgである.両症例ともBGIにて眼圧下降がみられたが,チューブの設置位置が変化し,複数回チューブの差し替えを行った.TLOが無効なNF1に伴う発達緑内障に対して,BGIは効果的な術式といえるが,チューブの位置変化が課題である.WeCreportCtwoCcasesCofCrefractoryCcongenitalCglaucomaCassociatedCwithCneuro.bromatosisC1(NF1)thatrequiredBaerveldtglaucomaimplant(BGI).Thesecaseshadnotachievedgoodintraocularpressure(IOP)controlwithtrabeculotomy(TLO).Case1:A10-month-oldmalewasdiagnosedwithcongenitalglaucomaincombinationwithCNF1CinChisCleftCeye.CFollowingCtwoCfailedCTLO,CweCperformedCBGICsurgery.CAfterC3Creoperations,CIOPCwas17CmmHgCwithCinstillation.CCaseC2:AC5-month-oldCfemaleCwithCcongenitalCglaucomaCinCcombinationCwithCNF1CinCherCleftCeyeCunderwentCBGICsurgeryCsubsequentCtoCtwoCunsuccessfulCTLO.CAfterConeCreoperation,CIOPCwasC25CmmHg.CTheseCcasesCexhibitedCgoodCIOPCcontrolCwithCBGI,CbutCrequiredCadditionalCsurgicalCproceduresCdueCtoCtubemalposition.BGIsurgeryisane.ectiveoptionforrefractorycongenitalglaucomaassociatedwithNF1follow.ingfailedTLO,buttubemalpositionisoneofthemostimportantproblems.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1455~1458,C2017〕Keywords:発達緑内障,バルベルト緑内障インプラント,神経線維腫症C1型.congenitalglaucoma,Baerveldtglaucomaimplant,neuro.bromatosis1.Cはじめに神経線維腫症C1型(neuro.bromatosisC1:NF1)は,常染色体優性遺伝でカフェオレ斑や神経線維腫を主徴とし,骨病変や眼病変などの多彩な症候を示す全身性母斑症である.眼科領域では虹彩結節,視神経膠腫,眼瞼蔓状神経線維腫,緑内障などを合併症する1).NF1は出生約C3,000人にC1人の割合で起こり2),そのうち2~4%に発達緑内障を合併する1,3).したがって,NF1を伴う発達緑内障は出生C10万人にC1人程度の非常にまれな疾患であると推定される.治療は手術療法が主体となるが,NF1のような全身の先天異常を伴う続発性発達緑内障は隅角形成異常が高度のことが多く,手術を行っても眼圧コントロール〔別刷請求先〕小松香織:〒734-0037広島県広島市南区霞C1丁目C2-3広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門視覚病態学Reprintrequests:KaoriKomatsu,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPANが不良である場合が多い4,5).わが国においては,難治緑内障に対してC2012年にようやくチューブシャント手術が認可されたところであり,NF1を伴う発達緑内障に対してのチューブシャント手術の報告は,国内からはまだない.今回筆者らは,NF1を伴う発達緑内障で線維柱帯切開術が無効であった乳児C2例C2眼に,Baerveldt緑内障インプラント(以下,BGI)挿入術を行い,眼圧コントロールが安定した症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕生後C10カ月,男児.主訴:左眼の角膜混濁と角膜径拡大.家族歴:特記事項はない.現病歴:生後すぐに左眼の角膜径拡大を指摘されて近医眼科を受診した.眼圧が左眼C41CmmHg,全周性に虹彩高位付着があったため左眼発達緑内障と診断された.また,生後数カ月で左顔面優位にC6カ所以上のカフェオレ斑と神経線維腫が出現したため,NF1と診断された.生後C3カ月およびC9カ月の時点で左眼線維柱帯切開術を受けたが眼圧が下降しなかったため,広島大学附属病院眼科に紹介され受診した.初診時所見:外眼部は左眼瞼に蔓状神経線維腫と頬部にかけてカフェオレ斑が多数あった.前眼部では右眼と比較して左眼の角膜径の拡大があった(図1).全身麻酔下で精査を行い,眼圧はトノペンで右眼C14CmmHg,左眼C28CmmHg,アイケアで右眼C8CmmHg,左眼C37CmmHgで左眼の眼圧が高かった.角膜径は右眼C11Cmm,左眼C15Cmmで,左眼は角膜浮腫があった(図2).眼底は右眼には特記所見はなく,左眼は角膜浮腫のため透見は困難であった.眼軸長は右眼C20.93mm,左眼C29.54Cmmと左眼が延長しており,超音波生体顕微鏡(UBM)では左眼に虹彩前癒着がみられたが,毛様体の腫大はなかった.経過:初診からC1カ月後(生後C11カ月)にCBGI挿入術を行った.輪部結膜を切開し,BG-250を耳上側に上・外直筋下に収まるように設置し,直筋付着部よりC1Cmm後方にC7-0シルク糸で固定した(図3).チューブは前医での手術時に上方に作製された強膜弁下から前房内に挿入した(図4).眼圧は術後C4カ月にアイケアC.でC12CmmHgと安定していたが,チューブ先端が角膜内皮に接触しており,同部位の角膜が混濁するようになった.下眼瞼内反症による角膜上皮障害もあったため,1歳C3カ月時に全身麻酔下で内反症手術とCBGIのチューブのC1回目の挿入しなおしを行った.プレート部はそのままで,前回利用した自己強膜弁の耳側の角膜輪部からチューブを後房に挿入し,保存強角膜でチューブ部分を被覆した.1回目の挿入しなおしからC2カ月後に眼圧はアイケアでC35CmmHgになった.前房内にチューブの先端が確認できなかったため,眼球運動によりチューブが抜けたと考えた.1歳C6カ月時にC2回目の挿入しなおしを行った.前回より上方寄りの角膜輪部から前房内へチューブを挿入しなおし,チューブの被覆には前回の保存強角膜片をそのまま用いた.術後はタフルプロスト左眼C1回/日を点眼しながら左眼眼圧がアイケアでC21CmmHg前後で経過していた.その後,左眼白内障の進行と下眼瞼内反症の再発があり,2歳C7カ月で内反症手術と白内障手術を施行した.このときチューブの先端が角膜に近かったため,チューブ挿入しなおしも同時に行った.チューブは前回挿入部よりやや耳側から後房内に挿入し,前回の保存強角膜片でそのまま被覆した.2歳C11カ月時の受診では,ドルゾラミド・チモロール配合剤を左眼C2回/日点眼下で左眼眼圧はアイケアでC17CmmHgだった.〔症例2〕生後C5カ月,女児.主訴:左角膜径拡大.家族歴:両親ともカフェオレ斑が数カ所ある.現病歴:生下時から左眼角膜径の拡大を指摘され,近医眼科を受診したところ眼圧が右眼C8CmmHg,左眼C49CmmHgで左眼発達緑内障と診断された.小児科では右大脳萎縮と体幹部に多数のカフェオレ斑があることから,NF1と診断された.前医で生後C20日および生後C1カ月で左眼線維柱帯切開術をうけたが,眼圧を制御できなかったため,広島大学附属病院眼科を紹介され受診した.初診時所見:眼瞼や顔面にカフェオレ斑や神経線維腫はなかった.左下眼瞼には内反症があった.左眼は角膜径が拡大し,角膜混濁,ぶどう膜外反,中等度の散瞳があった.全身麻酔下で眼圧はトノペンで右眼C15CmmHg,左眼C31CmmHg,アイケアで右眼C8CmmHg,左眼C37CmmHgで左眼は高く,角膜径は右眼C11.5Cmm,左眼C16Cmmだった.眼底は右眼には特記所見はなかったが,左眼は傾斜乳頭でCC/D比はC0.9程度であった.眼軸長は右眼C20.1Cmm,左眼C28.87Cmmと左眼が延長していた.UBMでは左眼に虹彩前癒着がみられたが,毛様体の腫大はなかった.経過:初診からC8日後に左眼CBGI手術を行った.輪部結膜を切開し,BG-250を耳上側に上・外直筋下に収まるように設置し,直筋付着部よりC1Cmm後方にC7-0シルク糸で固定した.自己強膜弁は作製せず,上方やや耳側寄りの角膜輪部から前房内にチューブを挿入し,保存強膜片でチューブを被覆した.術後C3カ月の眼圧はアイケアで右眼C12CmmHg,左眼C16CmmHgであり,チューブの角膜への接触はなかった.経過に問題がないため,術後C3カ月より前医で経過をみていた.術後C1年C8カ月の眼圧はアイケアCPROで左眼C18CmmHgと眼圧は落ち着いていたが,チューブ先端が角膜に近く(図5),下眼瞼内反症もあるため,初回術後C2年C3カ月(2歳C9カ月)で前医にて内反症手術とチューブの挿入しなおしを行った.チューブは前回挿入部より耳側から前房に挿入し,保存強角膜片でチューブを被覆した.術後眼圧は無点眼下にて図1症例1:左頬部のカフェオレ斑と左眼瞼蔓状神経線維腫(矢印)図3症例1:プレート設置位置図4症例1:初回BGI手術時の術中写真アイケアCPROで左眼C25CmmHgであった.チューブの先端は次第に角膜に近づいており,白内障も進行している.CII考按今回筆者らは,NF1に併発する発達緑内障で線維柱帯切除術施行後も眼圧が下降しなかった症例に対してCBGI手術図2症例1:前眼部写真(上:右眼,下:左眼)図5症例2:チューブ先端が角膜に接近しているを行い,良好な眼圧下降を得た.しかし,チューブの先端部の移動に伴う合併症も多く,位置修正のために複数回の手術を要した.NF1の眼合併症は,虹彩結節がC64%と最多で,そのほかに視神経膠腫がC9%,眼瞼蔓状神経線維腫がC6%,発達緑内障をC2~4%の割合で併発するとの報告がある1,3).なお,NF1に続発した緑内障では同側の眼瞼蔓状神経線維腫(神経に沿って蔓状に増殖する腫瘍の塊)を合併することが多い1).今回の症例では,併発する頻度の高い虹彩結節や視神経膠腫はなかった.眼瞼蔓状神経線維腫はC1例目では緑内障眼と同側にあり,2例目ではなかった.NF1での緑内障の発生機序は,隅角形成異常もしくは神経線維腫が二次的に隅角を閉塞させるためと考えられているが3,6),そのほかに角膜内皮細胞の隅角への増殖が隅角閉塞を引き起こしている,との報告もある4).今回はC2症例とも線維柱帯切開術が有効ではなかった.その理由の一つとして,発達緑内障にみられる隅角形成異常が眼圧上昇の原因ではなく,神経線維腫がCSchlemm管を閉塞したために線維柱帯切開術の効果がなかったということが考えられる.また,両症例とも患眼の角膜径はC15Cmm以上である.角膜径が大きいほど線維柱帯切開術の効果が少ないと報告されている7).よって二つ目の理由として,角膜径が大きく重症であったために線維柱帯切開術が奏効しなかった可能性もある.小児発達緑内障に対する治療は,線維柱帯切開術を行い,効果がなければわが国においてはマイトマイシン併用の線維柱帯切除術を行うことが多かった8).線維柱帯切除術の問題点として,・小児は代謝がよく創部が閉じやすい,・マイトマイシンCC(MMC)が長期的にどう影響がでるか不明である,・術後の濾過胞管理がむずかしい,などがあげられる.これらの問題点を克服できるのがチューブシャント手術である.Beckらの報告9)では,2歳以下での発達緑内障治療の成績を比較すると,術後C12カ月地点で眼圧がC23CmmHg以下に抑えられている状態の割合は,MMC併用の線維柱帯切除術がC36.0C±8.0%,BGIではC87.0C±5.0%であり,72カ月後でも前者はC19.0C±7.0%,後者はC53.0C±12%とされており,BGIの術後成績が線維柱帯切除術より良好である.近年ではわが国においても線維柱帯切除術に代わって,もしくはその難治例に対してチューブシャント手術が行われた症例が報告されるようになった10).NF1のように全身疾患を併発した発達緑内障は前眼部の形成異常を伴うことが多く,難治例が多いためである5).しかし,BGIにも以下のような物理的な問題点がある.・チューブ先端が角膜へ接触することがあり,長期的な接触で角膜内皮障害が起こる可能性がある.・無水晶体の場合は硝子体でチューブが閉塞することがある.今回の症例でもチューブ先端の角膜への接触やチューブのずれが生じたために,チューブの位置を修正するための再手術を複数回行っている.Beckらの報告9)でもチューブの位置変更などで再手術をした割合がCBGIの場合C45.7%であり,線維柱帯切除術の12.5%に比べ高頻度であることが示されている.この理由として小児の場合,成人と比べて眼組織の柔軟性が高いことや運動量が活発であること,眼部の擦過が多いことが影響してチューブの位置不良を起こしやすいと考えられており,1年以内に修正手術が行われる場合が多い11,12).初回手術の時点で症例C1の眼軸長はC29.54Cmmで,症例C2の眼軸長はC28.87mmであった.そのため,眼球の成長がプレートおよびチューブの変位に影響を及ぼしたとは考えにくい.プレートやチューブ変位の予防策として直筋下にプレートを固定すること,保存強膜で挿入部を補強することや,角膜輪部に対し斜めにチューブを挿入することなどが奨励されている13).筆者らの症例でも直筋の下にプレートを固定し,全層の強膜を通してチューブを挿入しているが,それでも変位が生じた.今回筆者らはCNF1を伴う発達緑内障の生後C11カ月およびC5カ月の乳児C2例C2眼に,BGI挿入術を行った.隅角に異形成を伴う発達緑内障に対して,BGIは線維柱帯切除術と同等もしくはそれ以上に効果的な術式と考える.しかし,角膜への接触などチューブシャント手術特有の術後合併症を起こす可能性がある.文献1)石戸岳仁,松村望他,平田菜穂子ほか:神経線維腫症C1型における眼合併症と頻度.臨眼C66:629-632,C20122)神経線維腫症C1型の診断基準・治療ガイドライン作成委員会:神経線維腫症C1型(レックリングハウゼン病)の診断基準および治療ガイドライン.日皮会誌118:165-1666,C20083)有井潤子,田辺雄三:小児の神経線維腫C1型における合併症診断と全身管理.日児誌C104:346-350,C20004)EdwardCDP,CMoralesCJ,CBouhenniCRACetCal:CongenitalCectropionuveaandmechanismsofglacomainneuro.bro.matosistype1.OphthalmologyC119:1485-1494,C20125)BudenzDL,GeddeSJ,BrandtJDetal:Baerveldtglauco.maCimplantCinCtheCmanagementCofCrefractoryCchildhoodCglaucomas.OphthalmologyC111:2204-2210,C20046)福村美帆,山田裕子,金森章秦ほか:神経線維腫症に合併した先天緑内障のC1例.眼臨C98:31-34,C20047)久保田敏昭,高田陽介,猪俣孟:隅角発育異常緑内障の手術成績.臨眼C54:75-78,C20008)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科C27:C1387-1401,C20109)BeckAD,FreedmanSF,KammerJetal:AqueousshuntdevicescomparedwithtrabeculectomywithMitomycin-CforCchildrenCinCtheC.rstCtwoCyearsCofClife.CAmCJCOphthal.molC136:994-1000,C200310)田口万蔵,中村友美,小林隆幸ほか:チューブシャント手術を行った発達緑内障のC2例.あたらしい眼科C29:1411.1414,C201211)MakiCJL,CNestiCHA,CShettyCRKCetCal:TranscornealCtubeCextrusionCinCaCchildCwithCaCBaervertCglaucomaCdrainageCdeveice.JAAPOSC11:395-397,C200712)DonahueCSP,CKeechCRV,CMundenCPCetCal:BaerveldtCImplantCSurgeryCinCtheCTreatmentCofCAdvancedCChild.hoodGlaucoma.JAAPOSC1:41-45,C199713)WeinrebCR,CGrajewskiCA,CPapadopoulousCMCetCal:Child.hoodCGlaucomaCConsensusCSeries-9,CKuglerCPublications,CAmsterdam,TheNetherlands,2013***

スリットランプ型スペキュラーマイクロスコープを用いた角膜内皮の評価

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1450~1454,2017スリットランプ型スペキュラーマイクロスコープを用いた角膜内皮の評価名畑浩昌*1秋山陽一*1重安千花*1新崎賢一*2山田昌和*1平形明人*1*1杏林大学医学部眼科学教室*2タカギセイコー株式会社CCornealEndothelialAnalysisbyEndothelialBiomicroscopeAppliedtoSlit-lampHiromasaNabata1),YouichiAkiyama1),ChikaShigeyasu1),KenichiShinzaki2),MasakazuYamada1)andAkitoHirakata1)1)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,2)TakagiSeikoCo.,Ltd.目的:細隙灯顕微鏡に接続して用いる角膜内皮観察,解析装置を用い,従来型と比較した.方法:対象は正常者11例C22眼.スリットランプはCTakagi700GL,新しい角膜内皮観察装置としてCEndoKer(ともにタカギセイコー社)を使用した.角膜内皮をスリットランプの鏡面法で観察してコンピュータで画像を拡大,解析を行う方式を導入している.従来型はCNSP9900II(コーナンメディカル)を使用した.両機種で角膜中央の内皮細胞撮影をC3回行い,級内相関係数(ICC)を算出した.また,細胞密度(CD),細胞面積の変動係数(CV),六角形細胞率(6A)のC3回測定の平均値を用いて,機種間の差と相関を分析した.結果:CDのCICCはCEndoKerでC0.688,NSP9900CIIでC0.864であった.両機種間においてCCD,6Aに有意差はなかったが,CVはCNSP9900CIIがCEndoKerより有意に高い値を示した(p<0.001).両機種におけるCCDは強い相関を示した(r=0.740,Cp<0.001).結論:EndoKerは従来型とほぼ同等の角膜内皮解析結果が得られた.手技に習熟する必要があるがスリットランプでの観察中に定量的評価が可能であり,臨床的メリットがあると考えられた.EndoKer(TakagiSeiko),anewdevice,wasappliedtotheTakagi700GLslit-lampandtheresultswerecom.paredCwithCtheCconventionalCendothelialCmicroscopeCNSP9900CII(KonanCMedical).C22CeyesCofC11CnormalCsubjectsCwereincludedinthestudy.ThecenterofthecorneawasconsecutivelymeasuredthreetimeseachwiththetwoinstrumentsandICCwascalculated.TheaverageofthethreemeasurementsofCD,CVand6Awasthencalculat.ed.CTheCdi.erencesCandCtheCcorrelationCbetweenCtheCdevicesCwereCanalyzed.CICCCofCCDCwasC0.688CwithCEndoKer,C0.864withNSP9900II.Therewerenostatisticaldi.erencesbetweenCDand6A,howeverCVshowedstatisticallyhigherratewithNSP9900II(p<0.001).CDshowedhighcorrelationbetweenthetwoinstruments(r=0.740,Cp<0.001).CEndoKerCshowedCsatisfactoryCresultsCcomparedCtoCtheCconventionalCmicroscope.CAlthoughCtheCexaminerCneedstobeaccustomedtotheprocedure,quantitativeassessmentduringtheslit-lampexaminationseemstoo.erclinicaladvantages.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(10):1450~1454,C2017〕Keywords:精度,角膜内皮細胞,細隙灯顕微鏡,スペキュラーマイクロスコープ.accuracy,cornealendothelium,slit-lamp,specularmicroscope.Cはじめに1918年にCVogtにより鏡面反射法による角膜内皮細胞の観察が報告され,1968年にCMauriceがスペキュラーマイクロスコープを試作して以来,角膜内皮細胞の研究は飛躍的に進歩を遂げている1~3).1974年のCBronらの接触型から非接触型のスペキュラーマイクロスコープの研究をもとに4),1990年代に各メーカーが機器の開発,臨床応用を行い,さらに撮影,解析精度の改良や自動化が進み,今日のように日常診療で用いられる検査機器となった.スペキュラーマイクロスコープの撮影原理は,観察光を内〔別刷請求先〕名畑浩昌:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HiromasaNabata,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,6-20-2Shinkawa,Mitaka,Tokyo181-8611,JAPAN1450(112)皮細胞層に反射させて得られた像をとらえる鏡面反射法である.接触型は,角膜表面に対物コーンレンズを接触させて撮影を行うため広範囲で明瞭な画像を得ることができるが,感染や角膜上皮障害を生じるリスクがあり,また撮影に熟練が必要であり,現在は臨床ではほとんど用いられなくなっている.非接触型は,非侵襲的に自動で撮影,解析が行われるものが多いが,空気と角膜表面の鏡面反射が高度であるため撮影範囲が狭く,測定困難例に対してはマニュアル操作を行う必要がある5,6).最近,新しいコンセプトのスペキュラーマイクロスコープとして,スリットランプに接続して用いる角膜内皮観察・解析装置が開発された(EndoKer,タカギセイコー).従来のDigitalCameraTD-10(タカギセイコー)を用い,鏡面反射の原理を用いて細隙灯顕微鏡で角膜内皮細胞を観察・撮影し,コンピューターを介してデジタル画像に変換,解析を行う新しい方式を導入した機器である.また,角膜内皮を解析した結果は,既存の画像ファイリングシステム(ImageCFil.ingCSoftwareCEyeCAM,タカギセイコー)に症例ごとに保存,閲覧することができる.モデル眼および正常者を対象とした開発過程における報告では,従来の非接触型スペキュラーマイクロスコープと比較を行い,その精度は確認されているが7,8),わが国における日本人に対する精度や有用性は報告されていない.今回,日本人の正常者を対象としてCEndoKerによる角膜内皮の生体観察を行い,従来型スペキュラーマイクロスコープと測定パラメータを比較検討したので報告する.CI対象および方法屈折異常以外の眼疾患のない日本人正常ボランティアC11例C22眼(男性C5例,女性C6例),年齢は平均C27.2C±2.9歳(23~31歳)を対象とした.内眼手術歴や屈折矯正手術歴を有する者は対象から除外した.すべての対象者から,研究参加に対する文書によるインフォームド・コンセントを得た.角膜内皮をC2種類のスペキュラーマイクロスコープで観察し,解析を行った.新しい角膜内皮観察・解析装置としてEndoKerをスリットランプTakagi700GL(タカギセイコー)に接続して使用した.通常のスリット観察像に画像解析を加えた非侵襲的な方法である.スリット光で鏡面反射を用いて角膜内皮をC40倍で観察時にモニターに画像を投影し,コンピュータを介して倍率を拡大し,デジタル変換した角膜内皮像を得た後に,画像解析を行うものである(図1).得られた角膜内皮像を,マニュアルで解析対象範囲を四角く囲み,設図1新しい角膜内皮観察・解析装置EndoKerで角膜内皮細胞を観察している様子図2EndoKerの自動解析結果の画像図3NSP9900IIの自動解析結果の画像定を行うと,解析対象の角膜内皮像とともに,自動解析結果が表示される(図2).定量的解析に用いられる各種パラメータは一般的な従来の機種とほぼ同等であり,細胞密度(celldensity:CD,Ccells/mmC2),細胞面積の変動係数(coe.cientvariationCinCcellCsize:CV,%),六角形細胞率(relativeCfre.quencyCofChexagonalCcell:6A,%),解析面積(mmC2),観測細胞数(個),平均細胞面積と標準偏差(.mC2),最大細胞面積(.mC2),最小細胞面積(.mC2)である.従来型は全自動で角膜内皮細胞の撮影,解析を行う機器である非接触型のスペキュラーマイクロスコープCNSP9900CII(コーナンメディカル)を使用した(図3).対象者は,同日に両機種で各眼の角膜中央の内皮細胞撮影をCNSP9900II,EndoKerの順に同一検者によりC3回ずつ行い,各種パラメータを測定した.各機種の再現性をみるためにCCD測定値の級内相関係数(1,1)を算出した.またCCD,CV,6AのC3回測定の平均値を用いて,機種間の差をCWil.coxon符号順位和検定,相関はCSpearman順位相関係数を用いて分析した.CD測定値の精度比較をCBland-Altmanplotを用い,測定値間の一致の程度を分析した.すべての統計学的解析において,有意水準をp<0.05とした.CII結果EndoKerは解析対象範囲をマニュアルで設定したうえでの自動解析であり,今回は全症例において解析範囲を一定にした.既報に基づき角膜内皮細胞数が正常な本対象者において観測細胞数がC100個程度となるように9),モニター画面上,縦C50CmmC×横C20Cmmの範囲を解析対象範囲とした.Endo.Kerの観測細胞数はC101.5C±7.0(平均C±標準偏差)であった.NSP9900CIIは全自動測定とし,観測細胞数はC130.6C±33.1であった.両機種によるCCDの全測定結果を図4に示す.角膜内皮細胞密度(cells/mm2)4,0003,5003,0002,5002,000症例別測定値(n=22)図4両機種による細胞密度(cells/mm2)の全測定結果●CEndoKer,○CNSP9900CIIの測定値を示す.EndoKerでC2,836.7C±98.4(平均C±標準偏差,範囲:2,413.3~3,106.7),NSP9900CIIでC2,804.8C±80.5(2,208.7~3,426.7)であり,両機種間に有意差はなかったが(p=0.439),NSP9900IIはCEndoKerの測定結果と比較して,測定幅が大きかった.EndoKerでC2,836.7C±98.4(範囲:2,413.3~3,106.7),NSP9900CIIでC2,804.8C±80.5(2,208.7~3,426.7)であり,両機種間に有意差はなかったが(p=0.439),NSP9900IIはEndoKerの測定結果と比較して,測定幅が大きかった.C1.CD測定値の再現性CD測定値の級内相関係数(1,1)はCEndoKerでC0.688,NSP9900IIでC0.864であり,NSP9900IIの再現性はやや.値を示した.C2.CD,CV,6A測定値の機種間の差CD測定値はCEndoKerでC2,836.7C±98.4,NSP9900CIIでC2,804.8±80.5であり,両機種間に有意差はなかった(p=0.439).CV測定値CEndoKerでC28.9C±4.3,NSP9900CIIでC46.1±3.0であり,NSP9900CIIがCEndoKerより有意に高値を示し(p<0.001),またC6A測定値はCEndoKerでC45.0C±6.1,NSP9900CIIでC44.3C±5.0であり,両機種間に有意差はみられなかった(p=0.439)(表1).C3.CD,CV,6A測定値の相関両機種におけるCCD測定値の相関係数はCr=0.740(p<0.001)であり,強い相関を示した.CV測定値(r=0.172,Cp=0.445)とC6A測定値(r=0.219,Cp<0.329)には有意な相関はみられなかった.C4.CD測定値の精度比較Bland-AltmanCplotによるCCD測定値の差(NSP9900CII.EndoKer)では,両機種によるCCD測定値の平均C2,800Ccells/Cmm2付近を境として,CDの減少および増加に伴い両機種の差が開く結果となり,比例誤差を示した(図5).表1測定値の機種間の差EndoKerCNSP9900IIC(mean±SD)(meanC±SD)pvalueCD(cells/mmC2)C2,836.7C±98.4C2,804.8±80.5C0.439CCVC28.9±4.3C46.1±3.0<C0.001***6A(%)C45.0±6.1C44.3±5.0C0.439両機種間においてCD,6Aに有意差はなく(p=0.439,Cp=0.439),CVはCNSP9900CIIがCEndoKerより有意に高値を示した(p<0.001).CD:cellCdensity,CCV:coe.cientCvariationCinCcellCsize,C6A:relativefrequencyofhexagonalcell,SD:standarddeviation.***p<0.001,Wilcoxonsigned-ranktestCIII考察スリットランプに接続して用いる新しいスペキュラーマイクロスコープCEndoKerの評価を日本人の正常者を対象として行った.EndoKerと従来型の非接触型スペキュラーマイクロスコープCNSP9900CIIとの比較では,ほぼ同等の角膜内皮解析結果が得られた.本研究の結果においてCCD測定値の級内相関係数は,両機器とも測定機器として再現性は十分であったが,NSP9900IIがより高い値を示した.また,両機種間でCCD,6A測定値に有意差はなかったが,CV値はCNSP9900IIがCEndoKerより有意に.値を示した.また,両者の測定値はCCDのみに有意な相関がみられたものの,比例誤差が生じており,両機種間で特定方向に生じる乖離がみられた.EndoKerのシステムでは従来のCDigitalCCameraCTD-10を用い,鏡面反射の原理を用いてスリット光で角膜内皮細胞を観察・撮影し,コンピュータを介してデジタル画像に変換,解析を行う新しい方式を導入している.イタリアにおける開発段階の正常人を対象とした報告では,EndoKerは良好な精度を得ている7).30例を対象とした角膜内皮細胞密度の測定において,EndoKerにおける自動解析とアニュアルでの観測数では,0.2%の違いにとどまり,標準偏差はC4.3%であったと報告している.また,1例を除き,Bland-Alt.manplotにおいてC95%信頼区間内に含まれている.EndoK.erと非接触型スペキュラーマイクロスコープの比較でも同様の結果を得ており,両機種は臨床において類似した測定結果をもたらすと報告されている.既報と本研究との結果の違いの一つに,観測細胞数の差異が関与している可能性がある.既報では,230~500個の細胞数を対象としたのに対し,本研究ではC100個程度を対象とした.また,両機器間においてCCD測定値に比例誤差が生じていたことを踏まえて,全測定結果を確認すると,NSP9900IIはCEndoKerの測定結果と比較して測定幅が比較的大きいことがわかる.本研究においては,両機器の測定結果にNSP9900・とEndoKerの角膜内皮細胞密度の差(cells/mm2)4002000.200.4002,2002,6003,0003,400NSP9900・とEndoKerの角膜内皮細胞密度の平均(cells/mm2)図5Bland.Altmanplotによる細胞密度の測定値の差(NSP9900II.EndoKer)実線は平均値の差を示す(C-31.9Ccells/mm2).破線はC95%信頼区間を示す(平均値+1.96CSD=70.6Ccells/mm2,平均値-1.96SD=-134.4Ccells/mm2).細胞密度の測定値の差は比例誤差を示した.対するマニュアルカウント(いわゆる真の測定値)を施行していないため,これ以上の精度比較は困難であるが,角膜内皮像を得た後の細胞境界の自動検出過程が関与している可能性がある.EndoKerではスリットランプのジョイスティックのわずかな操作で角膜内皮観察像の焦点が変化するため,自動解析結果の画面での角膜内皮像の細胞境界検出が甘くなる可能性が考えられた.EndoKerでは,比較的均一な大きさの細胞境界像を描出するのに対して,NSP9900CIIでは細胞の大小不同をより鋭敏に描出している可能性がある.この細胞境界の自動検出の程度の違いにより,両機器間でのCCV値に有意な差が生じ,CD測定幅の違いが生じた可能性を考えている.EndoKerは,臨床で幅広く活用できる可能性がある.医師が診察室内でスリットランプを観察時にそのまま測定することが可能であり,角膜瘢痕などをマーカーとすることで特定の部位の角膜内皮を評価できる可能性もある.また,従来型のスペキュラーマイクロスコープに比べて,安価である.しかしその一方で,撮影技術の習熟が必要であるのは事実であり,現時点ではいかに良好な角膜内皮像を得られるか観察技術が測定結果を左右している可能性がある.また,従来型のスペキュラーマイクロスコープでは主要なパラメータの一つである角膜厚の測定はできない.本研究では,スリット型スペキュラーマイクロスコープEndoKerは,従来型スペキュラーマイクロスコープとほぼ同等の角膜内皮解析結果が得られることが示された.手技に慣れる必要があるが,スリットランプでの観察中に定量的評価が可能であり,臨床的メリットがあると考えられた.文献1)BenetzCB,CYeeCR,CBidrosCMCetCal:SpecularCmicroscopy.In:KrachmerJ,MannisM,HollandE(eds)Cornea.Else.vierMosby,Philadelphia,p177-203,20112)澤充:【角膜内皮を見直す】スペキュラーマイクロスコープの意味するもの.あたらしい眼科C15:1395-1400,C19983)BourneCWM,CKaufmanCHE:SpecularCmicroscopyCofChumanCcornealCendotheliumCinCvivo.CAmCJCOphthalmolC81:319-323,C19764)BronCAJ,CBrownCNA:EndotheliumCofCtheCcornealCgraft.CTransOphthalmolSocUKC94:863-873,C19745)山田昌和:【前眼部疾患と病変の診かた】検査法スペキュラーマイクロスコープ.眼科C47:1405-1411,C20056)井上智之:【角膜内皮疾患を理解する】角膜内皮細胞の臨床的観察法.あたらしい眼科C26:141-146,C20097)FerraroCL,CCozzaCF,CScialdoneCACetCal:MorphometricCAnalysesCbyCaCnewCslit-lampCendothelialCbiomicroscope.CCorneaC35:1347-1354,C20168)TufoCS,CPrazzoliCE,CFerraroCLCetCal:Variable-sizeCbeadClayerCasCstandardCreferenceCforCendothelialCmicroscopes.CCorneaC36:236-240,C20179)LaingRA,SanstromMM,BerrospiARetal:Changesinthecornealendotheliumasafunctionofage.ExpEyeResC22:587-594,C1976***

重症角膜上皮障害の原因が結膜弛緩症であった1例

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1445~1449,2017重症角膜上皮障害の原因が結膜弛緩症であった1例國見洋光*1秦未稀*1,2,3水野嘉信*2福井正樹*1,2,3*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国立病院機構東京医療センター眼科*3南青山アイクリニックCACaseofSevereOcularSurfaceDisorderandSevereConjunctivochalasisHiromitsuKunimi1),MikiHata1,2,3)C,YoshinobuMizuno2)andMasakiFukui1,2,3)1)KeioUniversitySchoolofMedicine,DepartmentofOphthalmology,2)NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,3)MinamiaoyamaEyeClinic緒言:角膜上皮にとって結膜の役割は二面性をもつ.たとえば,瞼板縫合・結膜被覆は結膜の角膜上皮保護だが,lidwiperepitheliopathyや上輪部角結膜炎などは角膜上皮障害となる.今回,筆者らは結膜弛緩症により重症角結膜上皮障害を生じたと考えられるC1例を経験したので報告する.症例:ぶどう膜炎,白内障,後発白内障の既往のある84歳,男性.角膜上皮障害で当院通院加療されていた.2015年C10月より左眼で角膜上皮障害が強くなった.ドライアイ治療に反応があるものの寛解しなかった.結膜弛緩症が強く,これによる影響の可能性を考え,2016年C2月左眼結膜強膜縫着術を行ったところ,角膜上皮障害の改善が得られた.その後右眼も結膜強膜縫着術を行った.術中,結膜.の短縮を認めた.術後,角膜上皮障害の再発はない.考按:結膜弛緩症が原因の慢性角膜上皮障害の症例を経験した.機序としては結膜炎症の波及,角結膜の擦過,盗涙現象による涙液分布の不均一性が考えられた.CPurpose:Theconjunctivahasbothgoodandbadrolesintheocularsurface.Herewereportacaseofsevereocularsurfacedisordercausedbysevereconjunctivochalasis.Methods:Casepresentation.Results:An84-year-old-malewithuveitiswasbeingtreatedinourhospitalforocularsurfacedisorder.HehadpreviouslyundergonecataractsurgeryandNd:YAGlaserposteriorcapsulotomyinbotheyes.FromOctober2015,botheyesexhibitedworseningocularsurfacedisorder,alsoshowingconjunctivochalasis.ConcludingthatonereasonforthebadocularsurfaceCwasCtheCconjunctivochalasis,CweCoperated.CPostoperatively,CtheCocularCsurfaceCimprovedCtoCclarity.CConclu-sion:Wereportacasewithsevereocularsurfacedisorderduetosevereconjunctivochalasis.Thecausesofthisconditionmayincludefriction,tearinstability,andin.ammationoftheconjunctiva.Whentreatingtheocularsur.face,thee.ectontheconjunctivashouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1445~1449,C2017〕Keywords:結膜弛緩症,角結膜上皮障害,結膜弛緩症手術,結膜強膜縫着術.conjunctivochalasis,ocularsurfacedisorder,surgicaltechniqueforconjunctivochalasis,conjunctival.xationtosclera.Cはじめに角膜上皮にとって結膜の役割は二面性をもつと考えられる.たとえば,角膜上皮障害や角膜潰瘍に対する瞼板縫合による治療1)では,結膜は角膜上皮を保護する役割をもつが,一方,lidCwiperCepitheliopathy(LWE)2)や上輪部角結膜炎3)などでは,結膜は角膜上皮に障害を与える.ところで,結膜弛緩症も角膜に影響を与える.結膜弛緩症とは眼球と下眼瞼の間に認める重複し,弛緩した,非浮腫性の結膜のことと定義される.広義では眼球と上眼瞼との間に認めることもある.合併症としては軽度で涙液層の不安定性,中等度で涙液交換の障害,重度で疼痛や周辺部潰瘍などを認める.今回,筆者らは難治性角膜上皮障害をきたし,その原因疾患の診断に苦労し,治療的診断として結膜弛緩症手術を行ったところ術後より角膜上皮障害が改善し,再発を認めなくなった症例を経験した.結膜弛緩症が原因となり,重症角膜上皮障害をきたしたC1例と考えられたので報告する.〔別刷請求先〕國見洋光:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HiromitsuKunimi,KeioUniversitySchoolofMedicine,DepartmentofOphthalmology,35Shinanomachi,Shinjyuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANI症例ンター(以下,当院)に通院していた.白内障手術と後発白内障切開術を両眼に受けた既往がある.ステロイド点眼,抗症例はC84歳,男性.既往にぶどう膜炎,黄斑前膜があり,菌薬点眼,ドライアイ点眼,自己血清点眼,治療用コンタク角結膜障害で平成C16年C12月より国立病院機構東京医療セトレンズ(MCUCL)による治療を受けていた.2C008年には視a.2015年6月b.2015年10月図1初診時および左眼角膜上皮障害時の前眼部所見a:初診時前眼部所見.両眼とも角結膜障害はほぼ認めなかった.Cb:左眼に重度の角膜上皮障害を認める.点状表層角膜炎(破線内および・)と角膜潰瘍(.)を認めた.図2左眼手術図a:上転させ,角膜輪部からC10Cmmを目安に下方結膜を強膜へC2列縫合した.Cb:下転させ,角膜輪部からC10Cmmを目安に上方結膜を強膜へC2列縫合した.Cc:手術終了時の縫合図.:縫合.図3結膜弛緩症手術前後の前眼部所見(右眼)a:自然開瞼で鼻側,下方,耳側の結膜弛緩症が確認できる(破線).b:3~10時の結膜弛緩症を認め(破線),角膜輪部を結膜が被っている.Cc:被っていた結膜が伸展され,結膜弛緩症がない.d:強制開瞼でも角膜輪部を結膜は被っていない.力は両眼とも矯正視力(0.7)であったが,その後徐々に視力低下し,2013年にはCVD=(0.6),VS=(0.3)になった.2015年C6月,担当医交代により診察を引き継いだ際の視力は,VD=(0.3C×sph+5.00D(cyl-3.50DCAx70°),VS=(0.1C×sph+3.00D(cyl-1.25DCAx90°),治療薬はC0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼両眼C1日C5回,自己血清点眼両眼C1日C4回,MUCL装着であった.初診時にCMUCLが脱落していたが,角膜上皮障害は少なかった(図1a)ため,MUCLの中止も試みたが,その後異物感や見え方が悪いなどの症状が出現したため,着脱を繰り返して経過観察していた.2015年C10月の再診時よりとくに左眼で角結膜上皮障害が悪化し,しばしば角膜潰瘍を認めるようになった(図1b).MUCLで多少の改善を認めるものの,点眼治療(0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム両眼C1日C4回,自己血清点眼両眼C1日C4回)にも反応が悪く,寛解しなかった.結膜弛緩症がもともと強かったことから眼表面に何らかの影響があるのではないかと考えた.2016年C2月には視力もCVD=(0.2C×sph+9.00D(cyl-8.00DAx85°),VS=(0.03C×sph+6.50D(cyl-1.50DCAx90°)まで低下したため,左眼結膜弛緩症手術(結膜強膜縫合術)を行った.手術は上下結膜の弛緩を認めたことから,上下結膜にC10-0ナイロン糸で輪部からC10Cmmの位置を目安に角膜輪部に水平にC5針をC2列ずつ上下結膜・強膜縫合を行った(図2).術前よりC0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼両眼C1日C5回,自己血清点眼両眼C1日C4回,を使用していたため,術後はこれにC0.3%ガチフロキサシン点眼を左眼C1日C4回追加した.術翌日よCり結膜弛緩症は改善し,その後,徐々に角膜上皮障害の改善を認めた.2016年C4月頃より右眼の眼痛を訴え始め,視力もCVD=0.04(n.c.),VS=0.04(0.04C×sph+4.00D)と低下した.右眼にも点状表層角膜炎,角膜上皮びらん,角膜潰瘍といった角膜上皮障害を認めるようになり,左眼同様,結膜弛緩症のa.下方結膜強膜縫合b.鼻側および耳側結膜の切開c.上方結膜強膜縫合d.術終了時図4右眼術中所見a:左眼同様右眼下方結膜を強膜にC10-0ナイロン糸でC5カ所C2列に縫合.Cb:下方結膜強膜縫合術後,上方の結膜が角膜上を覆っており,伸展不可能であった.そのため,鼻側および耳側結膜を切開した.Cc:下方同様,上方も結膜を強膜にC10-0ナイロン糸でC5カ所2列に縫合.Cd:手術終了時,結膜は伸展している.関与を考え(図3a,b),同月右眼結膜弛緩症手術を行った.術式は左眼同様,上下結膜にC10-0ナイロン糸で結膜角膜縫合術を行ったが,術中,先に下方の結膜強膜縫合術をC10針行ったところで上方結膜が角膜を半分以上覆うほど下方に牽引されている所見を認め,上方の結膜強膜縫着を行うために鑷子で伸展しようとしても伸展できない状態であった.結膜.短縮による結膜の伸展不足と考え,耳側および鼻側の結膜を切開し,結膜を伸展して上方結膜もC10針,結膜強膜縫合術を行った(図4).術後点眼は左眼結膜症術後と同様,0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼両眼C1日C5回,自己血清点眼両眼C1日C4回,0.3%ガチフロキサシン点眼両眼C1日C4回とした.結膜弛緩症は改善し(図3c,d),角膜上皮障害は徐々に改善し,点状表層角膜炎(super.cialCpunctateCkeratitis:SPK)をわずかに認めるのみになった(図5).2016年C12月の時点で視力もCVD=(0.3C×sph+1.75D(cyl-3.50DCAx75°),VS=(0.2C×sph-3.75D(cyl-3.50DCAx75°)まで改善した.経過中点眼は左眼術後C4カ月,右眼術後C5カ月をめどにC0.1%フルオロメトロン点眼液とC0.3%ガチフロ点眼液をC1日C3回に減らしたが,角膜上皮障害の再発は認めていない.CII考按難治性角結膜上皮障害に結膜弛緩症が関与していると考えられたC1例を経験した.冒頭にも述べたように一般的に眼表C図5現在の前眼部所見(2016年C12月)両眼とも角膜輪部を覆っていた結膜が伸展しており,角膜上皮は点状表層角膜炎をわずかに認める(・)までに改善している.面に対する結膜の役割には二面性があると思われる.瞼板縫合や結膜被覆を行うのは眼表面に対する結膜の保護効果を狙ってであり,LWEや上輪部角結膜炎は瞬目などの物理的摩擦で結膜が角結膜に障害を及ぼすと考えられる.今回,筆者らは結膜弛緩症に伴う角結膜上皮障害を経験し,術後に抗菌薬点眼の追加を行った以外,治療法を変えずに結膜弛緩症手術により改善が得られたことは,結膜弛緩症と角結膜上皮障害の関連性を強く示唆するものであると考えられた.ただし,術中に所見として結膜.短縮を認めており,何らかの結膜あるいは眼表面の炎症があった可能性が考えられる.この眼表面炎症が遷延することで角膜上皮障害が難治であった可能性が考えられる.また,角膜上皮障害が生じている部分は結膜の接している部分に一致しており,弛緩結膜による角膜上皮への摩擦が常に生じていたと考えられる.また,結膜弛緩により涙液メニスカスの涙液は分断され,いわゆる“盗涙現象”が生じて瞬目時の角膜上への涙液分配不全が起こり,角膜上の涙液層不安定化と眼表面摩擦の亢進がさらに角膜上皮障害を難治にさせたと推察される.また,現在,結膜弛緩症手術には,・結膜余剰部を切開して縫合する方法4),・結膜を伸展させて強膜に縫着する方法5),・結膜余剰部を熱凝固して短縮する方法6)がある.それぞれの術式に利点,欠点を伴うが,本症例のように結膜.短縮が生じて結膜弛緩が悪化しているような症例の場合に・や・といった結膜の短縮を促す加療を行うと,病態が悪化する可能性があると考えられる.とくに近年,結膜弛緩症の手術での簡便さから・が選択されることが多くなっているが,・では術中に結膜全体の様子をみることなく手術を行えるので注意が必要である.現在,術後半年が経過しているが,その後角結膜上皮障害の再発は認めていない.長期的な予後に関しては今後注意深く経過観察したい.文献1)PortnoyCSL,CInslerCMS,CKaufmanCHE:SurgicalCmanage.mentCofCcornealCulcerationCandCperforation.CSurvCOphthal.molC34:47-58,C19892)McMonniesCW:Incompleteblinking:exposurekeratop.athy,lidwiperepitheliopathy,dryeye,refractivesurgery,andCdryCcontactClenses.CContCLensCAnteriorCEyeC30:37.51,C20073)NelsonCJD:SuperiorClimbicCkeratoconjunctivitis(SLK)C.CEyeC3:180-189,C19894)YokoiN,InatomiT,KinoshitaS:Surgeryoftheconjunc.tiva.DevOphthalmolC41:138-158,C20085)OtakaCI,CKyuCN:ACnewCsurgicalCtechniqueCforCmanage.mentCofCconjunctivochalasis.CAmCJCOphthalmolC129:385.387,C20006)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Improvedsubjec.tiveCsymptomsCofCconjunctivochalasisCusingCbipolarCdia.thermyCmethodCforCconjunctivalCshrinkage.CClinCOphthal-mol(Auckland,NZ)C5:1391-1396,C2011***