ドライアイの背景因子涙道疾患とドライアイAssociationbetweenLacrimalDuctDisorderandDryEye田中寛*はじめに涙道と涙液は切っても切れない関係である.涙腺から産生された涙液は眼表面に広がったあと,眼瞼縁をたどり涙道から排出されることで涙液量が安定するが,いったん涙道閉塞をきたすと排出不全となり,涙液貯留量が過剰になり流涙症をきたす.涙道閉塞は女性の比率が高く,視機能にも影響することが報告されているが,「化粧が落ちる」「人前で常に涙を拭き続けないといけない」など著しくQOLを低下させることもあり,改善すると非常に喜ばれる.涙道疾患とドライアイは基本的には相反する疾患であることから,本稿ではまずは涙道疾患の基本的な知識の整理を,その次に涙道疾患とドライアイとの関連について述べる.I涙道疾患の基礎知識1.涙道の解剖涙道は涙点,涙小管,総涙小管,涙.,鼻涙管からなっており,眼瞼縁に貯留する涙液が瞬目などを介して涙道へ吸い込まれていく(図1a).涙道の発生については諸説あるが,鼻涙管に部分的に空間が生じることでつながり一つの単洞となることが解剖学的見地より示唆されている(図1b)1).組織学的な治験では涙小管,総涙小管の内腔は重層扁平上皮で覆われており,その周囲は弾性線維層が取り囲んでおり,血流は乏しく,内視鏡所見としては白色の管腔として観察される(図2a).涙.,鼻涙管の内腔は多列円柱上皮とゴブレット細胞で構成されており,その周囲を血流の豊富な海綿状組織が取り巻いているため,正常組織であれば内視鏡所見としてはピンク色に観察される.また,上記で述べた発生より,竹の節状の段が内腔に見受けられることがある(図2b).2.涙道閉塞の症状涙道の一部が閉塞すると流涙症をきたすことがある.閉塞部位によって眼瞼縁に貯留する涙液の量,性状,また流涙症状の程度が異なる.涙点,涙小管の閉塞の場合,上下どちらか片側のみの閉塞の場合は症状が軽度であることもあるが,両側とも閉塞している場合は顕著に涙液貯留量が増加し著明な流涙症をきたす.総涙小管はいったん閉塞すると,両涙小管閉塞と同様の機序で,著明な涙液メニスカスの増加をきたす.鼻涙管閉塞についてはバリエーションがあるが,涙.,鼻涙管による涙液の吸収作用があるため,総涙小管以前の閉塞と比較すると眼瞼縁上の涙液量の増加は軽度である場合が多い.また,涙.は血管豊富な組織であり,閉塞により涙.内にdebrisが貯留することも多く,涙.部を圧迫することで涙点からそのdebrisが逆流をきたす慢性涙.炎になることもしばしばである.いったん感染を伴うと急性涙.炎となり,疼痛,涙.部の発赤を伴い,抗菌薬の局所,全身投与が必要となる(図3).*HiroshiTanaka:京都第二赤十字病院眼科〔別刷請求先〕田中寛:〒602-8026京都市上京区釜座通丸太町上ル春帯町355-5京都第二赤十字病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(41)891図1涙道の解剖と発生a:涙道の解剖.涙点,涙小管,総涙小管,涙.,鼻涙管からなっている.眼瞼縁に貯留する涙液が瞬目などを介して涙道へ吸い込まれ鼻涙管開口部より鼻内へ排出される.b:涙道の発生について鼻涙管に部分的に空間が生じることでつながり,一つの単洞となることを示した図.(文献1より引用)図2正常な涙道内視鏡所見a:涙小管内腔所見.内腔は重層扁平上皮で覆われており,その周囲は弾性線維層が取り囲んでおり,血流は乏しく,内視鏡所見としては白色の管腔として観察される.b:鼻涙管内腔所見.内腔は多列円柱上皮とゴブレット細胞で構成されており,その周囲を血流の豊富な海綿状組織が取り巻いているため,正常組織であれば内視鏡所見としてはピンク色に観察される.図3急性涙.炎症例左涙.部の著明な発赤と腫脹を認める.抗菌薬の局所,全身投与にて改善を認めるが,根本的な治療には観血的治療が必要となる.ab:閉塞部位:逆流物なし:逆流物あり図4通水検査の代表的な結果a:鼻涙管閉塞例.片側の涙点から涙道洗浄(涙洗)を行うと,もう片側から透明.白色のdebrisとともに逆流が確認される.b:総涙小管閉塞例.片側の涙点から涙洗を行うと,もう片側から透明の逆流が確認される.c:片側の涙小管閉塞例.閉塞側の涙点から涙洗を行うと,交通がなく,開放側から涙洗を行うと通過する.d:両側の涙小管閉塞例.両側の涙点から涙洗が不可である.炎,結膜弛緩やドライアイとの鑑別が重要となる.通水検査についてはスクリーニングとしてはC2段針で行うこともあるが,正確な閉塞部位の診断にはC1段針を用いる.涙小管の内腔は内視鏡検査の際にC18Gのカテーテルの全幅(外径約C1.3Cmm)が入るように思いのほか広く,1段針を用いることでしっかりと水圧をかけることができ,慣れることで狭窄程度,涙.内のCdebrisの排出などの確認が可能となる.通水検査の代表的な結果を図4に示す.C4.涙道閉塞以外の涙道疾患例外的なものとして覚えておきたいのは涙小管炎と腫瘍である.涙小管炎は放線菌の涙道内,おもに涙小管への感染により菌石が貯留し,慢性炎症を起こすことで眼脂や充血をきたす疾患であり,慢性結膜炎と誤診される頻度の多い疾患である.特徴としては涙点の発赤と涙点につながる眼脂を認める.涙道内視鏡所見としては涙小管内腔の拡張,肉芽腫性変化を認めるが,閉塞所見は認めないことが多く,通水検査にても逆流を認めないことが多く,炎症で易出血性となっているため通水検査時に出血を認めることがある.また,涙小管炎のほかにも通水時に出血を認めるときは要注意であり,組織の腫瘍化による易出血性が考えられる.筆者は幸運にもそのような経験はないが,そのような所見が認められた際には鑑別に腫瘍を考慮するべきである.C5.涙道閉塞の治療また,治療としては涙道ブジー,涙管チューブ留置術,涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)がおもにあげられる.涙管ブジーにおいては小児の先天鼻涙管閉塞に対し行うことが多く,高齢者の加齢による後天性涙道閉塞に対しては,わが国ではチューブ留置術がおもに行われている.かつては盲目的にチューブ挿入を行っていたが,近年涙道内視鏡の発達とともに内視鏡併用のチューブ挿入術を行う施設が増加している.利点としては涙道内視鏡に鼻内視鏡を併用することで盲目的操作が一切なくなり,涙道内腔所見が鮮明に得られ,仮道の作製率が減少することや,他の疾患の鑑別が可能なことである.デメリットとしては内視鏡自体が高価であり,また滅菌操作なども留意する必要などがある.しかし,今後はわが国でも治療以外にも検査で保険点数がついたことにより普及が進み,安全な治療と正確な検査ができるのではないかと期待している.DCRについては,いうまでもなく涙道閉塞に対する世界の標準治療であり,経皮的にアプローチする鼻外法と,鼻内視鏡を用いて鼻内よりアプローチする鼻内法が存在するが,両者一長一短である.CIIドライアイと涙道疾患1.涙道閉塞とドライアイの症状流涙症状をきたす疾患は多く,大きく角結膜疾患,眼瞼疾患,涙道疾患に分類される.上記で述べたように,問診,診察,検査にて分類するが疾患がオーバーラップしていることもしばしばある.患者が来院した際に,涙道閉塞とドライアイとが合併している場合,優先して治療するのはどちらであろうか.基本的に両者とも加齢により生じる疾患であり,上記のような場合は通常ドライアイが基礎疾患にあり,そこに涙道閉塞が加わることが多いと考えられる.涙点プラグなどの使用者には経験があると思われるが,涙液減少型のドライアイにおいて上下涙点ともに涙点ブラグを使用すると,よほど重篤でないかぎり,涙液貯留量が過剰になり,流涙症状をきたす.その点を考慮すると涙道の閉塞起点にもよるが,流涙症状の悪化を訴え来院した患者に対しては,術後の涙液減少の可能性も説明したうえで涙道閉塞の治療を勧めることがよいと考えられる.先に述べたように総涙小管閉塞以前の閉塞と鼻涙管閉塞では,涙液貯留量に違いがあるため,所見と症状が異なる.筆者は,片眼にドライアイ,僚眼に総涙小管閉塞を認めた場合,問診,所見などを考慮し,涙道閉塞の治療を優先して治療を行うが,治療後に不満を訴えられる患者はまれである.それはおそらく反射性の流涙と比較し,持続的な流涙症状はより不快感が強いためであると考えられる.しかし,重篤なドライアイ患者,たとえばStevens-Johnson症候群患者の涙点閉鎖合併の涙.炎症例に対しては涙.摘出術なども考慮する.また,鼻涙管閉塞においては,涙.での涙液吸収などにより術前の涙894あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(44)図5涙点プラグ起因涙小管炎症例76歳,女性.他院で慢性結膜炎として診断しており改善が認められないために紹介受診.涙点の発赤と結膜充血を認め(Ca),涙小管炎と診断し,涙道内視鏡治療を行う.涙点切開し,菌石の圧出を試みるが菌石の排出は認められず,内視鏡下に涙小管内の涙点プラグを認め(Cb),鼻腔へ押し出した.その後,症状は改善した.a.術後通水良好群(n=5)b.術後通水不良群(n=7)0.80.80.70.70.6*:p<0.050.60.50.50.40.40.30.30.20.20.10.100術前チューブ留置中チューブ抜去6カ月後術前チューブ留置中チューブ抜去6カ月後涙液メニスカスの曲率半径(R)図6涙管チューブ挿入中の涙液メニスカスの比較術後C6カ月後の通水検査が良好な群(A群:3例C5側)と逆流が少しでも認められる群(B群:4例C7側)のC2群で比較したところ,術後通水良好群では術後通水不良群と比較し涙管チューブ挿入中のメニスカスが有意に低かった(p<0.05).鼻涙管閉塞については涙管チューブ挿入中の涙液メニスカスが高い症例は再閉塞をきたす率が高かった.0.6内視鏡併用非閉塞眼0.50.4**********0.30.20.10期間**p<0.025,*p<0.05Shirley-Williams法図7涙管チューブ抜去後の涙液メニスカスの比較涙道内視鏡下に涙管チューブ挿入を行い,涙管チューブ抜去後C6カ月まで再閉塞(涙洗にて逆流物を認める)がない症例について術前,術後の涙液量をメニスコメトリーを用いて計測した.その結果,術後のすべての時期において有意に術前よりメニスカスの低下が得られ,また術後の各時点間におけるメニスカスに有意な差を認めず,コントロールとの差も認められなかった.TNF-a:Rebamipide:図8角膜上皮に対するレバミピドの抗炎症効果ヒト角膜上皮細胞にCTNF-aを添加し炎症惹起するとタイトジャンクションであるCZO-1が破壊されるが,レバミピドを添加することでCZO-1が維持された.(文献C8より引用)Rの平均値(mm)術前挿入1カ月挿入2カ月抜去1カ月抜去3カ月抜去6カ月---++-++緑:ZO-1青:核-’-