細胞におけるノンコーディングRNAの役割兼子裕規ノンコーディングRNAとはわれわれ人間の体内では,常に多くのタンパク質が合成されています.そのタンパク質の設計図といえるのがCDNAです.DNAのうちのC1本が鋳型となって,その塩基配列に対応した塩基配列をもったメッセンジャーCRNA(mRNA)が合成されますが,これを転写と呼びます.次にCmRNAの情報に基づいてタンパク質が合成され,この反応を翻訳と呼びます.この一連の反応,すなわちCDNAC→CmRNA→タンパク質において,DNAはCmRNAを介してタンパク質(の情報)を「コード」していると表現できます.ノンコーディングCRNA(non-codingCRNA:ncRNA)とは,タンパク質を「コード」していない,つまりタンパク質へ翻訳されずに機能するCRNAの総称です1).近年の研究によって,ヒトCDNAにはタンパク質をコードしている領域はわずかC2%程度でしかないこと,また残りのCDNAのうちC70%以上からCRNAが転写されていることが明らかになりました(図1).つまり,われわれの体内には,非常に多くのノンコーディングCRNAが存在しているのです.ncRNAには,皆さんが学生時代に教科書で見た可能性が高いリボソームCRNAやトランスファーCRNAなども含まれますが,近年ではそのほかにもさまざまな種類のCncRNAが確認されています.そのなかでも,これまで多くの臓器においてその発生や発病に関与していると数多く報告されているのがCmicroRNAです.眼の領域ではどうでしょうか?.microRNAの関与.microRNAとはC18.24塩基ほどのC1本鎖CRNAで,特定の遺伝子のCmRNAに対する相補的配列をもち,その遺伝子の発現を抑制します(図2).つまりCmicroRNAによって翻訳が阻害され特定のタンパク質の産生が減少します.microRNAは約C2,000種類存在しており,多くの機能をもちます.“microRNA”という単語が初めて正式に使用されたのはC2001年です.PubMedで検索すると,2015年にはmicroRNAに関する論文がC8,000報以上ヒットしますし,眼科関連の論文も最近ではC1年間でC70報以上報告されます2).ふだん皆さんが外来で診る糖尿病網膜症や網膜.離においても,その発症や重症化にCmicroRNAが関与していると報告されています.名古屋大学医学部附属病院眼科タンパク質を「コード」している領域は2%程度しかないDNA多くのノンコーディングRNAが転写されている図1ノンコーディングRNAの発見21世紀に入って,ヒトゲノムの大部分を占める領域から非常に多くのノンコーディングCRNAが転写されていることが発見された.mRNAタンパク図2microRNAによるタンパク発現の制御mRNAと同じくCDNAから転写された多くのCmicroRNAのうち,特定のCmRNAに結合できる配列(seedsequence)をもったCmicroRNAによって,タンパクの発現量が制御される.C今後の展望.時代は長鎖ncRNAの研究へ.今年の上旬,大きなニュースが発表されました.FANTOMコンソーシアムが長鎖CncRNA(lncRNA)のアトラス(海図)を発表し,ネット上で公開しました3).これによってわれわれのゲノムのなかで役割がいまいちはっきりしないまま眠っていたClncRNAの研究が爆発的に進むと予想されます.実はかつて多くのCncRNAが,生命活動にとって意味のない「ジャンク(ゴミ)のようなもの」「ゲノムのがらくた」とひどい言われかたをしていたのです.それが今になって,多くの機能と可能性をもつ対象に変わりました.ゴミ同然と思われていたものが後の時代で再評価され,思ってもみなかったほどの価値があるとされるのは,何も研究分野に限ったことでないでしょう.今日われわれが有する知識ではその真価を評価できないダイヤの原石が,皆さんの近くに眠っているかもしれません.文献1)MattickCJS,CMakuninCIV:Non-codingCRNA.CHumanCMolecularGeneticsC15:17-29,C20062)KanekoH,TerasakiH:BiologicalinvolvementofmicroR-NAsCinCproliferativeCvitreoretinopathy.CTranslCVisCSciCTechnolC6:5,C20173)HonCC-C,CRamilowskiCJA,CHarshbargerCJCetCal:AnCatlasCofChumanClongCnon-codingCRNAsCwithCaccurateC5’Cends.CNatureC543:199-204,C2017(91)Cあたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14290910-1810/17/\100/頁/JCOPY