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ドライアイの背景因子 涙道疾患とドライアイ

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの背景因子涙道疾患とドライアイAssociationbetweenLacrimalDuctDisorderandDryEye田中寛*はじめに涙道と涙液は切っても切れない関係である.涙腺から産生された涙液は眼表面に広がったあと,眼瞼縁をたどり涙道から排出されることで涙液量が安定するが,いったん涙道閉塞をきたすと排出不全となり,涙液貯留量が過剰になり流涙症をきたす.涙道閉塞は女性の比率が高く,視機能にも影響することが報告されているが,「化粧が落ちる」「人前で常に涙を拭き続けないといけない」など著しくQOLを低下させることもあり,改善すると非常に喜ばれる.涙道疾患とドライアイは基本的には相反する疾患であることから,本稿ではまずは涙道疾患の基本的な知識の整理を,その次に涙道疾患とドライアイとの関連について述べる.I涙道疾患の基礎知識1.涙道の解剖涙道は涙点,涙小管,総涙小管,涙.,鼻涙管からなっており,眼瞼縁に貯留する涙液が瞬目などを介して涙道へ吸い込まれていく(図1a).涙道の発生については諸説あるが,鼻涙管に部分的に空間が生じることでつながり一つの単洞となることが解剖学的見地より示唆されている(図1b)1).組織学的な治験では涙小管,総涙小管の内腔は重層扁平上皮で覆われており,その周囲は弾性線維層が取り囲んでおり,血流は乏しく,内視鏡所見としては白色の管腔として観察される(図2a).涙.,鼻涙管の内腔は多列円柱上皮とゴブレット細胞で構成されており,その周囲を血流の豊富な海綿状組織が取り巻いているため,正常組織であれば内視鏡所見としてはピンク色に観察される.また,上記で述べた発生より,竹の節状の段が内腔に見受けられることがある(図2b).2.涙道閉塞の症状涙道の一部が閉塞すると流涙症をきたすことがある.閉塞部位によって眼瞼縁に貯留する涙液の量,性状,また流涙症状の程度が異なる.涙点,涙小管の閉塞の場合,上下どちらか片側のみの閉塞の場合は症状が軽度であることもあるが,両側とも閉塞している場合は顕著に涙液貯留量が増加し著明な流涙症をきたす.総涙小管はいったん閉塞すると,両涙小管閉塞と同様の機序で,著明な涙液メニスカスの増加をきたす.鼻涙管閉塞についてはバリエーションがあるが,涙.,鼻涙管による涙液の吸収作用があるため,総涙小管以前の閉塞と比較すると眼瞼縁上の涙液量の増加は軽度である場合が多い.また,涙.は血管豊富な組織であり,閉塞により涙.内にdebrisが貯留することも多く,涙.部を圧迫することで涙点からそのdebrisが逆流をきたす慢性涙.炎になることもしばしばである.いったん感染を伴うと急性涙.炎となり,疼痛,涙.部の発赤を伴い,抗菌薬の局所,全身投与が必要となる(図3).*HiroshiTanaka:京都第二赤十字病院眼科〔別刷請求先〕田中寛:〒602-8026京都市上京区釜座通丸太町上ル春帯町355-5京都第二赤十字病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(41)891図1涙道の解剖と発生a:涙道の解剖.涙点,涙小管,総涙小管,涙.,鼻涙管からなっている.眼瞼縁に貯留する涙液が瞬目などを介して涙道へ吸い込まれ鼻涙管開口部より鼻内へ排出される.b:涙道の発生について鼻涙管に部分的に空間が生じることでつながり,一つの単洞となることを示した図.(文献1より引用)図2正常な涙道内視鏡所見a:涙小管内腔所見.内腔は重層扁平上皮で覆われており,その周囲は弾性線維層が取り囲んでおり,血流は乏しく,内視鏡所見としては白色の管腔として観察される.b:鼻涙管内腔所見.内腔は多列円柱上皮とゴブレット細胞で構成されており,その周囲を血流の豊富な海綿状組織が取り巻いているため,正常組織であれば内視鏡所見としてはピンク色に観察される.図3急性涙.炎症例左涙.部の著明な発赤と腫脹を認める.抗菌薬の局所,全身投与にて改善を認めるが,根本的な治療には観血的治療が必要となる.ab:閉塞部位:逆流物なし:逆流物あり図4通水検査の代表的な結果a:鼻涙管閉塞例.片側の涙点から涙道洗浄(涙洗)を行うと,もう片側から透明.白色のdebrisとともに逆流が確認される.b:総涙小管閉塞例.片側の涙点から涙洗を行うと,もう片側から透明の逆流が確認される.c:片側の涙小管閉塞例.閉塞側の涙点から涙洗を行うと,交通がなく,開放側から涙洗を行うと通過する.d:両側の涙小管閉塞例.両側の涙点から涙洗が不可である.炎,結膜弛緩やドライアイとの鑑別が重要となる.通水検査についてはスクリーニングとしてはC2段針で行うこともあるが,正確な閉塞部位の診断にはC1段針を用いる.涙小管の内腔は内視鏡検査の際にC18Gのカテーテルの全幅(外径約C1.3Cmm)が入るように思いのほか広く,1段針を用いることでしっかりと水圧をかけることができ,慣れることで狭窄程度,涙.内のCdebrisの排出などの確認が可能となる.通水検査の代表的な結果を図4に示す.C4.涙道閉塞以外の涙道疾患例外的なものとして覚えておきたいのは涙小管炎と腫瘍である.涙小管炎は放線菌の涙道内,おもに涙小管への感染により菌石が貯留し,慢性炎症を起こすことで眼脂や充血をきたす疾患であり,慢性結膜炎と誤診される頻度の多い疾患である.特徴としては涙点の発赤と涙点につながる眼脂を認める.涙道内視鏡所見としては涙小管内腔の拡張,肉芽腫性変化を認めるが,閉塞所見は認めないことが多く,通水検査にても逆流を認めないことが多く,炎症で易出血性となっているため通水検査時に出血を認めることがある.また,涙小管炎のほかにも通水時に出血を認めるときは要注意であり,組織の腫瘍化による易出血性が考えられる.筆者は幸運にもそのような経験はないが,そのような所見が認められた際には鑑別に腫瘍を考慮するべきである.C5.涙道閉塞の治療また,治療としては涙道ブジー,涙管チューブ留置術,涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)がおもにあげられる.涙管ブジーにおいては小児の先天鼻涙管閉塞に対し行うことが多く,高齢者の加齢による後天性涙道閉塞に対しては,わが国ではチューブ留置術がおもに行われている.かつては盲目的にチューブ挿入を行っていたが,近年涙道内視鏡の発達とともに内視鏡併用のチューブ挿入術を行う施設が増加している.利点としては涙道内視鏡に鼻内視鏡を併用することで盲目的操作が一切なくなり,涙道内腔所見が鮮明に得られ,仮道の作製率が減少することや,他の疾患の鑑別が可能なことである.デメリットとしては内視鏡自体が高価であり,また滅菌操作なども留意する必要などがある.しかし,今後はわが国でも治療以外にも検査で保険点数がついたことにより普及が進み,安全な治療と正確な検査ができるのではないかと期待している.DCRについては,いうまでもなく涙道閉塞に対する世界の標準治療であり,経皮的にアプローチする鼻外法と,鼻内視鏡を用いて鼻内よりアプローチする鼻内法が存在するが,両者一長一短である.CIIドライアイと涙道疾患1.涙道閉塞とドライアイの症状流涙症状をきたす疾患は多く,大きく角結膜疾患,眼瞼疾患,涙道疾患に分類される.上記で述べたように,問診,診察,検査にて分類するが疾患がオーバーラップしていることもしばしばある.患者が来院した際に,涙道閉塞とドライアイとが合併している場合,優先して治療するのはどちらであろうか.基本的に両者とも加齢により生じる疾患であり,上記のような場合は通常ドライアイが基礎疾患にあり,そこに涙道閉塞が加わることが多いと考えられる.涙点プラグなどの使用者には経験があると思われるが,涙液減少型のドライアイにおいて上下涙点ともに涙点ブラグを使用すると,よほど重篤でないかぎり,涙液貯留量が過剰になり,流涙症状をきたす.その点を考慮すると涙道の閉塞起点にもよるが,流涙症状の悪化を訴え来院した患者に対しては,術後の涙液減少の可能性も説明したうえで涙道閉塞の治療を勧めることがよいと考えられる.先に述べたように総涙小管閉塞以前の閉塞と鼻涙管閉塞では,涙液貯留量に違いがあるため,所見と症状が異なる.筆者は,片眼にドライアイ,僚眼に総涙小管閉塞を認めた場合,問診,所見などを考慮し,涙道閉塞の治療を優先して治療を行うが,治療後に不満を訴えられる患者はまれである.それはおそらく反射性の流涙と比較し,持続的な流涙症状はより不快感が強いためであると考えられる.しかし,重篤なドライアイ患者,たとえばStevens-Johnson症候群患者の涙点閉鎖合併の涙.炎症例に対しては涙.摘出術なども考慮する.また,鼻涙管閉塞においては,涙.での涙液吸収などにより術前の涙894あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(44)図5涙点プラグ起因涙小管炎症例76歳,女性.他院で慢性結膜炎として診断しており改善が認められないために紹介受診.涙点の発赤と結膜充血を認め(Ca),涙小管炎と診断し,涙道内視鏡治療を行う.涙点切開し,菌石の圧出を試みるが菌石の排出は認められず,内視鏡下に涙小管内の涙点プラグを認め(Cb),鼻腔へ押し出した.その後,症状は改善した.a.術後通水良好群(n=5)b.術後通水不良群(n=7)0.80.80.70.70.6*:p<0.050.60.50.50.40.40.30.30.20.20.10.100術前チューブ留置中チューブ抜去6カ月後術前チューブ留置中チューブ抜去6カ月後涙液メニスカスの曲率半径(R)図6涙管チューブ挿入中の涙液メニスカスの比較術後C6カ月後の通水検査が良好な群(A群:3例C5側)と逆流が少しでも認められる群(B群:4例C7側)のC2群で比較したところ,術後通水良好群では術後通水不良群と比較し涙管チューブ挿入中のメニスカスが有意に低かった(p<0.05).鼻涙管閉塞については涙管チューブ挿入中の涙液メニスカスが高い症例は再閉塞をきたす率が高かった.0.6内視鏡併用非閉塞眼0.50.4**********0.30.20.10期間**p<0.025,*p<0.05Shirley-Williams法図7涙管チューブ抜去後の涙液メニスカスの比較涙道内視鏡下に涙管チューブ挿入を行い,涙管チューブ抜去後C6カ月まで再閉塞(涙洗にて逆流物を認める)がない症例について術前,術後の涙液量をメニスコメトリーを用いて計測した.その結果,術後のすべての時期において有意に術前よりメニスカスの低下が得られ,また術後の各時点間におけるメニスカスに有意な差を認めず,コントロールとの差も認められなかった.TNF-a:Rebamipide:図8角膜上皮に対するレバミピドの抗炎症効果ヒト角膜上皮細胞にCTNF-aを添加し炎症惹起するとタイトジャンクションであるCZO-1が破壊されるが,レバミピドを添加することでCZO-1が維持された.(文献C8より引用)Rの平均値(mm)術前挿入1カ月挿入2カ月抜去1カ月抜去3カ月抜去6カ月---++-++緑:ZO-1青:核-’-

ドライアイの背景因子 眼瞼痙攣とドライアイ

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの背景因子眼瞼痙攣とドライアイBlepharospasmandDryEye細谷友雅*はじめにドライアイの治療を行っても自覚症状が改善しない症例をたまに経験するが,なかに眼瞼痙攣患者が隠れていることがある.「どこの病院にいってもよくならない」と訴える患者ではとくに注意が必要である.しかし,なぜドライアイと診断されてしまうのであろうか.これは眼瞼痙攣にドライアイが合併することが多いからである.2006年版ドライアイ診断基準に当てはめると眼瞼痙攣患者のC25%がドライアイと確定診断され,39%が疑いと判定される1).また,ドライアイと診断され,種々のドライアイ治療に抵抗する患者のC57%が眼瞼痙攣であったとの報告もある2).本稿では眼瞼痙攣の見抜き方と,付随するドライアイの特徴について述べる.CI眼瞼痙攣とは眼瞼痙攣は眼部局所ジストニアであり,開瞼が困難になる疾患である.眼瞼周囲の筋,主として眼輪筋の間欠性あるいは持続性の過度の収縮により不随意な閉瞼が生じる疾患で,他の神経学的,眼科学的異常が原因となっていないもの,と定義される.このうち攣縮が他の顔面筋や舌,咽頭,頸部筋にまで及ぶものをCMeige症候群とよぶ3).痙攣という名前がついているために「眼瞼がぴくぴくする」という症状を眼瞼痙攣と思っている患者もいるが,これは眼瞼ミオキミアであることが多く,別疾患である.また,左右どちらかの顔面半分だけに痙攣が生じるのは片側顔面痙攣であり,こちらも別疾患である.患者に説明するときには,「頭の中の瞬きの指令塔がおかしくなって,まぶたがいうことを聞かなくなる病気」と説明するとわかってもらいやすい.まだ病因は特定されていないが,大脳基底核の障害により生じるとする説が有力である.また,視床の過活動や,脳幹での瞬目反射抑制機構の障害なども報告されており,多岐にわたる伝達異常が存在するものと考えられている.Parkinson病とも関連がある.また,自律神経失調症,うつ病での通院,加療歴があるものがC2~3割存在し,神経因性疼痛との関連も示唆されているのはドライアイと類似している.中高年の女性に多いが,若年者でみられることもあり,その場合は向精神薬による薬剤性がほとんどである.CII眼瞼痙攣の診断以下の自覚症状,他覚所見から臨床的,総合的に診断する.診断のポイントを表1に示す.C1.自覚症状(表2)羞明感,開瞼困難を訴えることが多い.具体的な訴えの例として「まぶしい」「目を開けているのがつらい」「目が自然に閉じてしまう」「目を閉じていたほうが楽」などがある.乾燥感を訴えることも多く,目の不快感,異物感,流涙を訴えることもあり,ドライアイの自覚症状とよく似ている.運転時や会話中に症状が悪化する者もみられる.歩行中急に目が開いていられなくなり物に*YukaHosotani:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕細谷友雅:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(35)C885表1眼瞼痙攣診断のポイント表2眼瞼痙攣の症状1.角膜,涙液の所見に比べて自覚症状が強い2.瞬目テスト陽性3.視診(顔の皺,瞬目増多,眉の位置など)図1眼瞼痙攣患者の顔貌眉間および鼻根部に深い皺を認め,眉毛が下降している.9080706050403020100図2眼瞼痙攣患者の自覚症状VASスコア最も高かったのは眼の開けづらさ,ついで眼の疲れ,重たさ,羞明であった.疲れる重いまぶしいかすむかゆい眼脂涙がでる赤い痛いゴロゴロする開けづらい乾く表3DEQS眼症状表4DEQS生活への影響異物感C1.61C2.00開瞼がつらいC3.35C3.29乾燥感C2.35C2.35かすむC1.48C1.58痛みC1.97C2.16眩しいC2.87C2.74疲れC3.16C3.10読書時不調C2.23C2.19重たさC2.87C3.00テレビ鑑賞時不調C2.77C2.71充血C1.06C1.10集中力低下C2.90C2.90仕事・家事に支障C3.03C3.13外出を控えるC2.13C2.32気分が晴れないC3.00C3.00C706050403020100ab**9080706050403020100治療前治療後治療前治療後*:p=0.0018*:p=0.0001図3ボツリヌス治療の効果治療により有意にスコアの改善がみられる.a:自覚症状CVASスコア.Cb:DEQS生活への影響サブスケール.■用語解説■VisualAnalogueScale(VAS):紙にC100Cmmの線を引き,その左をまったく気にならない状態,その右をこれまで想像できる最高に不調の状態としたときに,現在感じる症状がどこにあるか,線を引いて示す方法.対象者に線を引かせた後,測定者が定規を用いて,左から何ミリメートルの所に線を引いたのかを数値として記録する.DryEye.RelatedQualityofLifeScore(DEQS):日本で開発された,ドライアイに特化した簡便なCQOL質問票.メンタル面も含め,多面的なCQOLが評価可能.ドライアイの症状,日常生活への影響に関する15項目からなり,総合的なCQOL障害度はサマリースコア(0~100)として算出される.また,症状のみ,日常生活への影響のみのサブスケールも算出することができる.C

ドライアイの背景因子 術後のドライアイ

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの背景因子術後のドライアイPostoperativeDryEye井上康はじめに近年,白内障手術は小切開化に伴い,低侵襲化が図られ,術後早期から良好な視力が得られるようになった.さらにトーリック眼内レンズ,多焦点眼内レンズなどの導入により屈折矯正手術としての完成度も高まってきている.一方で,手術の対象となる症例はおもに高齢者であり,術前から異物感,乾燥感や霧視などのドライアイ様症状を訴えることが多く,手術により視力が改善したあとにこれらの症状を訴えるようになることもしばしば経験する.白内障手術により視力が改善したことでかえってこれらの症状が顕性化するとも考えられる.また,手術中の強制開瞼,眼内灌流液の滴下,顕微鏡光,局所麻酔および消毒液などによる角結膜,涙液層への障害は,角膜知覚低下,眼表面のムチン,ゴブレット細胞の減少を通して角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tear.lmbreak-uptime:BUT)の短縮を引き起こすことが報告されている1,2).白内障手術を契機として発症する術後ドライアイにも配慮することが必要であると考えられる.ドライアイは視機能障害を伴う疾患であることがすでに明らかになっている3).白内障手術においてさらに高い患者満足度を得るためには,術前にドライアイの診断を適確に行うこと,ドライアイと診断された場合には周術期のドライアイ治療を効率的に行うことが求められている.本稿のタイトルは術後のドライアイであるが,今回は代表的な眼科手術である白内障手術に限って,術前におけるドライアイの有病率,術後ドライアイの発症率,周術期の治療などについて自験例を中心に結果を提示する.I白内障周術期におけるドライアイ2015年1月6日~2015年4月21日に,当院にて白内障手術術前検査を施行した連続153例272眼(平均年齢74.7歳±7.8)のうち,2006年版ドライアイ診断基準に基づき,ドライアイもしくはドライアイ疑いと診断された症例は108例173眼(63.6%)であった.また,術前非ドライアイ症例66例98眼のうち40例58眼(59.2%,全体の21.3%)は術後4週後においてドライアイもしくはドライアイ疑いと診断された.いわゆる術後ドライアイである.これらの結果を図1に示す.術前ドライアイ有病率を2006年版ドライアイ診断基準に沿って検討した結果では,Miyakeらが69.7%(平均年齢71.9歳±7.5)4),Yuらが51.5%(平均年齢71.8歳±10.1)と報告しており5),ほぼ同様の結果であった.術前非ドライアイ症例のうち術後4週においてドライアイもしくはドラアイアイ疑いと診断された症例はMiyakeらの報告では全体の9.5%,Yuらの報告では10.1%とされており,自験例に比べると少ない結果となっている.周術期のドライアイは白内障術前からあるドライアイと手術侵襲により発症する術後ドライアイに分けられる.白内障手術対象症例の術前におけるドライアイの有病率は予想以上に高く約60%程度に上ると考えられる.*YasushiInoue:井上眼科〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011岡山県玉野市宇野1-14-31井上眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(29)879n=272n=98図1術前におけるドライアイの評価の結果(a).術前非ドライアイ症例に対する術後4週でのドライアイ評価の結果(b)図3冬季と夏季の比較術前非ドライアイ症例の術後C4週でのドライアイ評価の結果.冬季(n=98,75.4±7.0歳)夏季(n=40,73.7±8.4歳)男性n=116女性n=156図2術前時における性別のドライアイ評価の結果5秒未満73.9%5秒以上26.1%あり86.0%なし5mm以下3点以上20.0%3点未満80.0%10.0%6mm以上90.0%14.0%BUT自覚症状Schirmer角結膜testⅠ法フルオレセインスコア図4術前におけるBUT,自覚症状,SchirmertestI法,角結膜フルオレセイン染色スコアsecBUT角結膜フルオレセイン染色スコア86563422100-1-2-2PREPOST1M投与後1MPREPOST1M投与後1MATDQSATDQSジクアホソルナトリウム点眼群(DQS)n=20人工涙液点眼群(AT)n=22図5人工涙液点眼群(AT)とジクアホソルナトリウム群(DQS)における術前,術後1カ月,投与後1カ月のBUT,角結膜フルオレセイン染色スコアの変化**p<0.01,*p<0.05(Welch検定),††p<0.01,†p<0.05(Kruskal-Wallis多重比較Sche.e).CRMSDQSRMSAT(μm)(μm)0.350.350.300.300.250.250.200.200.150.150.100.100.050.050.000.00Beforecataract4weeksafterAfterDQS(sec)Beforecataract4weeksafterAfterAT(sec)surgerysurgeryinstillationsurgerysurgeryinstillationジクアホソルナトリウム点眼群(DQS)n=20人工涙液点眼群(AT)n=22図6術前,術後1カ月,投与後1カ月における角膜全高次収差の10秒間連続測定の結果246810246810246810246810246810246810aμmn=4060.30.20.10Pre1W2W4W8W12WTotalComalikeSphericallikebCornealTotalAverageμm*0.70.60.50.40.30.20.10図7術前非ドライアイ症例406眼の術前,術後1週,術後2週,術後4週,術後8週,術後12週における角膜全高次収差の10秒間連続測定の結果(a).角膜全高次収差の平均値の経時変化(b)**p<0.01,*p<0.05(Friedman検定,多重比較Sche.e).Pre1W2W4W8W12WBUT角結膜フルオレセイン染色スコア††††N.S.54342102-1-20-3-4W-2W0W2W4W6W8W-4W-2W0W2W4W6W8WATREBAATREBA人工涙液点眼群(AT)n=30レバミピド点眼群(REBA)n=30図8人工涙液点眼群(AT)とレバミピド点眼群(REBA)におけるBUTと角結膜フルオレセイン染色スコアの経時変化**p<0.01,*p<0.05(対応のあるCt検定),††p<0.01,†p<0.05(Kruskal-Wallis多重比較Steel).C0.350.30.25RMS(μm)0.20.150.10.050-4W-2W0W2W4W6W8WATREBA人工涙液点眼群(AT)n=30レバミピド点眼群(REBA)n=30図9人工涙液点眼群(AT)とレバミピド点眼群(REBA)における角膜全高次収差の10秒間連続測定の結果-

ドライアイの評価 ResearchKit®を用いて作成したiPhone アプリケーション「ドライアイリズム」による ドライアイの啓発と新しい大規模臨床研究

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの評価ResearchKitRを用いて作成したiPhoneアプリケーション「ドライアイリズム」によるドライアイの啓発と新しい大規模臨床研究NewLarge-ScaleDryEyeResearchbyiPhone“DryEyeRhythm”ApplicationUsingResearchKitR猪俣武範*Iドライアイ啓発の必要性ドライアイは,わが国では約2,000万人,世界では10億人以上が罹患すると推測されるもっとも多い眼疾患である1,2).ドライアイは高齢化社会,VDT(visualdisplayterminals)作業の増加,ストレス社会,環境の悪化などから今後も増加すると考えられている2,3).ドライアイに罹患すると,眼精疲労,眼痛,頭痛,自覚視力の低下,肩こりなどによる生活の質(qualityoflife:QOL)や視覚の質(qualityofvision:QOV)の低下や,仕事や学業などの生産性が低下することが問題となっている4,5).これらに対して,普段からの症状の変動について可能な限り正確な情報を集めることができれば,症状が出る前に予防することや,回復を早めたりすることができるはずである.しかしながら,多くの人が診断に至っておらず,未だ症状に苦しんでいる.このようなアンメットニーズを解決するため,筆者らは,Appleが公開した「ResearchKitR」というアプリケーション専用のフレームワークを使用し,世界初の「ドライアイや眼精疲労といった症状と生活習慣の関連性を明らかにする」ためのアプリケーション「ドライアイリズム」を2016年11月2日にリリースした(図1).IIResearchKitRとは1.ResearchKitRとはResearchKitRは,Appleが2015年3月10にAppleWatchRとともにリリースした研究者向けのオープンフレームワークである.このキットを使ったアプリケーションでは,同意項目や問診などのテンプレートを自由に組み合わせることが可能なほか,iPhoneに内蔵されている加速度センサーやジャイロスコープ,GPS(glob-alpositioningsystem)といったセンサー類の情報やHealthKitRと連携し,健康データを取得することができる.さらにAppleは収集データにアクセスができない仕様になっているため匿名性が保たれる(図2).これまでにわが国では,ResearchKitRを用いたアプリは15個リリースされている(図3,2018年3月16日調べ).ユーザーがアプリの選択を迷わないようにするために,わが国では1疾患につき1アプリケーションしかAppleによって許可されないため,同一疾患に対するアプリは存在しない.順天堂大学はこれまでに6個のアプリをリリースし,そのうち2個のアプリケーション(ドライアイリズムと花粉症アプリケーション:アレルサーチ)を眼科からリリースした.*TakenoriInomata:順天堂大学医学部眼科学教室,戦略的手術室改善マネジメント講座〔別刷請求先〕猪俣武範:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(21)871図1「ドライアイリズム」リリース同意項目・問診等のHealthKitと連携しAppleは収集データにテンプレート健康データを自動収集アクセス不能図2ResearchKitRの機能図3わが国でのResearchKitRを用いたアプリケーション表1ResearchKitRの5つの利点ドライアイ指数まばたき測定実用視力OSDI質問紙票最大開瞼時間→Tear.lmbreakupと相関自覚症状ドライアイ新診断基準図4ドライアイリズムの機能*角膜カンファランスC2018発表(順天堂大学・猪俣武範ら,ドライアイの簡易検査としての最大開瞼時間)C3.プライバシーと安全性ICTを用いた臨床研究では,プライバシーと安全性について関心が集まるところである.まず本研究で収集した情報にはCAppleは一切アクセスしない.また,研究実施に係るデータを取扱う際は,被験者の個人情報は年齢および性別以外は回収しないため,個人を特定できる情報は扱わない.また,回収した情報は個人と関係被験者コードを付して管理し,被験者の秘密保護に十分配慮している.研究で得られた研究協力者の個人的な情報および測定データは,すべてCID化が施され匿名化したうえで厳重なセキュリティーが施されたクラウドサーバー上で厳重に管理している.ID化が施された研究データは,個人の特定ができないことはもちろんであるが,学術会議などで公表する際にも,統計処理が施され,個人情報や団体名,企業名などを伴う形で公表されないことをアプリケーション上に明示し,これらの情報の保護に細心の注意を払っている.CIVドライアイリズムプロジェクトから明らかになったこと1.アプリケーションのダウンロード数ドライアイリズムはC2015年C11月.2016年C10月に18,225ダウンロードされ,これまでのわが国におけるCReserachKitRを用いたアプリケーションで最大のダウンロード数を記録した(図5).本研究では被験者であるユーザーに楽しみながら研究に参加してもらうため,問診による調査だけでなく,iPhoneのインカメラ機能を用いたC30秒間のまばたきを我慢してもらう「まばたき我慢(MBI)」の計測や,算出されたドライアイ指数をSNSでシェアできる機能を搭載した.その結果,多くの被験者にアプリケーションをダウンロードしてもらうことにつながったと考える.ダウンロードの内訳をみてみると,男性C38%,女性62%,年齢の平均はC30.8歳であった.ドライアイは女性に多い疾患のため2,8),通常の診療では男性のデータはなかなか集まらないが,本アプリケーションではたくさんの男性のデータも集めることができた.そのほかには,47都道府県すべてから被験者データを収集することができているため,ドライアイの啓発という意味では全地域に行うことができた.本データをもとに,地域別のドライアイの検討も可能である.C2.ドライアイリズムで収集した情報ドライアイリズムでは,身長・体重・年齢・性別や既往歴,コンタクトレンズ装用の有無,点眼の有無,眼科手術の有無,喫煙,花粉症の有無などの患者基本情報と,生活習慣調査として,VASスケール(visualanalogscale)を用いたストレスレベル,頭痛,目の痒みや睡眠時間,VDT作業時間,水分摂取量,便の回数などを収集した.さらにCCES-D(theCcenterCforCepidemiologicstudiesCdepressionCscale)を用いたうつ病に関する問診を実施した.ドライアイリズムでは,医学研究としての質を担保し,過去のデータと比較するために,これまで使われている代表的な質問紙票であるCOSDIやCCES-D9,10)を採用した.そうすることで,手法自体の信頼性を証明する必要がなくなるからである.しかし,質問紙票とアプリケーションでは結果に差が出る可能性があるが,その結果の信頼性は比較されていないため,今後の検討する必要性がある.本研究では選択バイアスを考慮して内部比較を検討している.たとえば,「ドライアイの自覚症状と生活習慣の関連」を調査することが可能である.OSDIはこれまでの研究から,そのスコアによってCnormal(0-12),mild(13-22),moderate(23-32),severe(33-100)に分類されている6).このスコアを使うことで,ドライアイの自覚症状が重症化している人の生活習慣と,それ以外の人の生活習慣を比較することで,ドライアイの自覚症状の重症化に関連する生活習慣を明らかにすることができる.また,ResearchKitCRを用いた研究では得られた結果をすぐにアプリケーションを通じてCFeedbackすることが可能であるため,研究結果はすぐにドライアイの啓発として使用可能である.(25)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C87518,50018,00016,41716,00018,00014,00017,50012,00018,22510,00017,0008,00016,5006,00016,4174,00016,0002,00034323511810585117190131140166173515,500Nov.Dec.Jan.Feb.Mar.Apr.May.Jun.Jul.Aug.Sep.Oct.Nov.2016201620172017201720172017201720172017201720172017ダウンロード数(月別/右軸)ダウンロード数(合計/左軸)図5ダウンロード数の推移-

ドライアイの評価 質問票による自覚症状の把握

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの評価質問票による自覚症状の把握AssessmentofDryEyeSymptomsUsingQuestionnaire坂根由梨*はじめにドライアイの自覚症状は,日本ではC2006年のドライアイ研究会による診断基準で,角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-upCtime:BUT)の短縮と並んで確定診断に必要な項目の一つとしてあげられるようになり,その不快な症状が視機能やChealth-relatedqualityoflife(HRQL)に及ぼす影響が注目されてきた.さらにC2016年に改訂された新診断基準では,BUT短縮と自覚症状の二項目のみが基準となり,その重要性が再確認されている.しかし,自覚症状は主観的なものであり,定量的に評価するには適切な質問票を用いる必要がある.本稿ではドライアイの自覚症状やCHRQLへの影響を評価する質問票について述べる.CIドライアイの自覚症状とHRQLへの影響ドライアイの自覚症状といえば,病名どおり“眼の乾燥感”がイメージされると思うが,症状の訴え方や内容は個人差が大きく千差万別である.異物感,灼熱感,羞明など典型的な症状を訴えることもあれば,眼の疲れやまぶたが重たいなど一見ドライアイと関係ない症状や,逆に流涙を訴える場合も日常診療では多く経験する.また,これらの自覚症状は視機能やCHRQLにも負の影響を及ぼすとされており,Miljanovicらの報告1)では,ドライアイ患者はドライアイのない人と比べ,読書,コンピュータの使用,仕事,車の運転,テレビ鑑賞などの日常的な活動で,2~4倍ぐらい負の影響を受けているとされている.日本でも,VDT(visualCdisplayCtermi-nals)作業従事者を対象に行われた大阪スタディで,ドライアイ患者では労働生産性が低下していると報告2)されている.また,精神的健康面への影響も指摘されており,うつ病とドライアイの関連を報告する論文3,4)もみられる.ドライアイ患者の多くは,これらの不快な症状やCHRQLの改善を目的に病院を受診しており,治療法の選択や治療効果を客観的に評価するには,自覚症状やHRQLへの影響を定量的に測定する必要がある.CIIドライアイ研究で使用される質問票患者の主観的な要素(patientCreportedCoutcome:PRO)である自覚症状やCHRQLへの影響の評価法としては,尺度として質問票を用いてスコア化し,定量的に解析できるようにする手法が一般的によく使われている.ドライアイ研究でも同様であり,自覚症状やHRQLに関する多数の質問票が現在使われている.しかし,臨床研究や疫学調査など質問票から得られた結果を論文化するのであれば,信頼性(正確に測定できているか),妥当性(測定したい概念が測れているか),反応性(経時的な変化をとらえているか)などが適切であると検証されている質問票を用いる必要がある.2017年のCTearCFilmCandCOcularCSurfaceCSocietyCDryCEyeWorkShopII(TFOSDEWSII)の報告5)では,ドライアイ研究に使用されている質問票としてC17の質問票が*YuriSakane:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕坂根由梨:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(15)C865表1バリデートされているドライアイ質問票一覧質問票項目評価内容特徴CNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire-25(NEI-VFQ25)C25HRQL(全体的健康感,視機能,目の痛み,社会生活,行動,精神的健康,運転など)ドライアイ特異的ではないため,他の眼科疾患との比較が可能OcularSurfaceDiseaseIndex(OSDI)C12症状HRQL(視機能,環境因子)ドライアイ診断と重症度評価が可能CImpactofDryEyeonEverydayLife(IDEEL)C57症状HRQL(日常生活,精神面,仕事,治療満足度)項目数が多く,ドライアのCHRQLへの影響や治療満足度を網羅的に評価できるCDryEye-relatedQualityoflifeScorequestionnaire(DEQS)C15症状HRQL(日常生活,精神面,仕事)ドライアイの症状とCHRQLへの影響や,治療による変化を評価可能CUniversityofNorthCarolinaDryEyeManagementScale(UNCDEMS)C1HRQL(日常生活)過去C1週間のドライアイの症状とCHRQLの程度をC1つのスケールでC10段階評価McMonniesDryEyeQuestionnaire(MQ)C14症状全身状態,環境,年齢,性別ドライアイのスクリーニングに用いられるCDryEyeScreeningQuestionnaireforDryEyeEpidemiologyProjects(DEEP)C19症状コンタクトレンズ(CCL),口渇,アレルギードライアイのスクリーニングと診断に有用DryEyeQuestionnaire(DEQ)C21症状ドライアイ症状の有無と,もっともひどくなる時間帯を回答し,診断と重症度を評価CStandardPatientEvaluationofEyeDrynessquestionnaire(SPEED)C4症状4つの自覚症状の有無と頻度・程度を評価CSubjectiveEvaluationofSymptomsofDryness(SESoD)C3症状乾燥に関連した眼不快感を評価CSymptomAssessmentinDryEye(SANDE)C2症状症状の頻度と重症度をCVASスケールで評価CWomen’sHealthStudyQuestionnaire(WHS)C3症状ドライアイの既往簡便であり,大規模な疫学調査などで使われるHRQL:health-relatedqualityoflife④DEQS:DEQSは眼の症状に関するC6項目と日常生活への支障に関するC9項目で構成されており,日本で開発された質問票11)である.DEQSの詳細は後述する.C⑤UNCDEMS:ドライアイの症状の程度とそれが日常生活にどれぐらい影響したかを,10段階のスケール上で回答する構成の質問票である.使いやすく迅速に回答可能である.OSDIと高い相関があることが報告12)されている.C⑥MQ:おもに日常診療などでドライアイのスクリーニングに使用される質問票13)である.年齢,性別,自覚症状,全身の既往,トリガーを含むC14項目で構成されている.C⑦DEEP:ドライアイの疫学調査14)のために,スクリーニング目的で使用された.電話インタビュー形式で,自覚症状,コンタクトレンズ装用,口渇,アレルギーなどのC19項目が含まれる.C⑧DEQ:おもな自覚症状C9項目の発生率,頻度,悪化する時間帯と,年齢,性別,日常活動への影響,薬の使用,アレルギー,ドライアイの既往などC21項目で構成されている15).DEQ-5という短縮バージョンがある.C⑨SPEED:受診時,72時間以内,3カ月以内の長期間について,4つの自覚症状の有無とその頻度と程度を回答する.OSDIと比較しても有効性や一貫性が良好であることが報告16)されている.C⑩SESoD:3項目の乾燥に関連した眼不快感の頻度を評価する.OSDI,SPEED,DEQなどの質問票のスコアと有意差なく評価できることが報告17)されている.C⑪SANDE:自覚症状の頻度と重症度のC2項目をC100mmのCvisualCanalogCscale(VAS)で評価する簡便な質問票.OSDIとの良好な相関が報告18)されている.C⑫WHE:ドライアイの症状と既往のC3項目のみであり,疫学調査などの大人数のスタディ19)などで広く使用されている.これらの質問票のうち,日本のドライアイ研究でも使用されているものとしては,NEI-VFQC25,OSDI,DEQSなどがあげられる20~24).なかでもCDEQSはドライアイ研究会主導のもと日本で作成され,検証もされているため,日本国内のスタディで使用しやすいという利点がある.IIIDryEye.relatedQualityoflifeScore(DEQS)(図1)C1.DEQSの特徴DEQSは眼の症状に関するC6項目と日常生活への支障に関するC9項目で構成されており,日常診療で簡便に使用できること,自覚症状だけでなくCHRQLも評価することができること,治療による変化を評価できることをコンセプトに開発された.5分程度で回答することができるため,診療の待ち時間などを利用して使用できる.しかし,治療効果の評価に焦点を当てているため,環境因子など変動がある項目は除外されており,診断に用いるには不十分である可能性がある.C2.DEQSの使用方法DEQSはドライアイ研究会のホームページからダウンロードできる.患者自己記入方式で,各質問に対し頻度と程度を回答するが,サマリースコアの算出には,症状やCQOLへの影響をより強く反映していると考えられる程度スコアのみを用いる.頻度のスコアがC0点の場合は,程度スコアもC0点とする.どちらも記入がない,もしくは程度スコアのみ記入がない場合は無効回答となり,10項目以上の有効回答でサマリースコアを算出する(図2).サマリースコア算出には次の数式を用いる.サマリースコア=程度スコア合計C÷有効回答数C×25(0~100点)C3.DEQSの開発DEQSの開発はCFDAの基準に準拠して行われており,まずドライアイに関連すると思われる質問項目をC35項目選出して初案を作成した.その後,専門家会議や患者への面接調査で適切でない項目の削除や不足している項目の追加を行い,15項目まで絞り込んだ.ドライアイ群C203名とコントロール群C21名を対象とした最終的な検討では,十分な信頼性と妥当性が確認されている.また,涙点プラグ挿入前後の比較で,サマリースコアに有意な改善がみられ,治療に対する反応性も良好であった.C(17)Cあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C867図1DEQS目の症状C6項目と日常生活への支障に関するC9項目で構成されている.図2DEQSのスコアリング例サマリースコアは程度スコアを用いて算出する.頻度スコアがC0点のときは程度スコアもC0点とする.どちらも記入がない,もしくは程度スコアのみ記入がない場合は無効回答となる.10項目以上の有効回答でサマリースコアを算出する.—

ドライアイの評価 ドライアイのサブタイプ分けに必要な検査

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの評価ドライアイのサブタイプ分けに必要な検査ClinicalExaminationsforSub-TypesClassi.cationofDryEyeDisease内野裕一*Iドライアイの病因別分類ドライアイの病態生理の考え方については,日本を含むアジア諸国と,米国を中心とする欧米諸国で異なる点が多く,そのためにドライアイの評価および治療法にも違いがある.まずはこの考え方の違いについて簡単に解説する.2007年のInternationalDryEyeWorkshop(DEWS)reportおよび2017年のDEWSIIreportでは,ドライアイに関する定義,疫学,病因,分類方法,治療方法などについて,世界中のドライアイ研究者が分科会ごとに報告を行っている.新旧どちらのDEWSレポートでも,基本的な病因学的分類は「涙液分泌減少型ドライアイ」と「蒸発亢進型ドライアイ」の二つに分けられているが,2017年のDEWSIIレポート1)では,涙液減少型と蒸発亢進型の二つの病態が,軽症,中等度,重症のように幅のある重症度に分けられて,混在した状態である可能性が示された(図1).そして米国を中心に,眼表面涙液量減少による涙液浸透圧上昇と,それに伴う炎症の悪化が,ドライアイにおける病態生理の根幹であるという見方が主流となっている.しかしながら,涙液浸透圧の測定にはばらつきが多いこと,実際にドライアイ重症度や治療効果判定において,涙液浸透圧は有意差を示していなかったとする報告も続いており,日本ではドライアイの病態生理を考えるうえでは,涙液浸透圧はあまり重要視していないのが現状である.日本をはじめとするアジアの国々では,水分分泌やムチン発現を促進する点眼薬が広く使われるようになったことで,ドライアイ研究会が日本から発信しているtearfilmorientedtherapy(TFOT)(856頁,図6参照)の考えを重要視している.TFOTは涙液層の安定性改善に主眼を置く眼表面層別治療の概念であり,その根幹にあるのはTFOD(tearfilmorienteddiagnosis)とよばれる眼表面における層別診断となる.2016年に日本を含むAsiaDryEyeSocietyはドライアイの定義を,「さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」とした2).ドライアイ診断基準も,①ドライアイの自覚症状,②涙液層の不安定化〔涙液層破綻時間(tearbreakuptime:BUT)5秒以下〕,の以上2つを満たせば,ドライアイと確定診断できることになった.この流れから,涙液層の不安定化要因を鑑別するために,眼表面の層別診断であるTFODがあり,その評価に基づく層別治療としてTFOTが広く受け入れられるようになった.層別診断および層別治療では,その治療対象はおもに三つに分けられ,涙液層中の①油層,②液層,また涙液層とは別に③眼表面上皮があげられる.これらの変化を的確に評価し,その改善に向けた治療方法を選択していくことが重要である.とくに「液層」では「水分量」を評価しながら,「分泌型ムチン」をはじめとしたさまざまな蛋白濃度変化のイメージが重要であるし,「眼表面上皮」では,「水濡れ性の変化」を*YuichiUchino:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内野裕一:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)859図1DEWSIIにおけるドライアイ診断の手順(DiagnosticMethodologyreportから抜粋)(症状・既往歴・生活環境などを把握)(ドライアイ質問票で自覚症状重症度を判定)↓(眼瞼の発赤や腫脹の有無)(瞬目異常や閉瞼不全の有無)(涙.腫脹などの涙道疾患の有無)↓(結膜疾患や充血などの有無)(涙液メニスカスのデブリスを評価)↓(BUT:涙液層破壊時間の計測)(角結膜上皮欠損のスコアリング)↓(染色による診察後に10分ほど時間をあけて,点眼麻酔せずに行う)図2ドライアイ診断の実臨床における基本的な流れ図3涙液層の破綻(角膜下方)図4フルオレセイン染色紙のつけ方図5Linebreak図6点状表層角膜症図7リサミングリーン染色による結膜染色図8Schirmer試験

ドライアイの評価 ドライアイ診断基準のコンセプト

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの評価ドライアイ診断基準のコンセプトConceptofNewDe.nitionandDiagnosticCriteriaofDryEyeDiseasein2016島﨑潤*はじめにドライアイの定義と診断基準がC10年ぶりに改訂された1).本稿では,改訂のポイントとドライアイ診療に及ぼす影響について述べる.CIドライアイの定義と診断基準:その特徴2016年版のドライアイの定義と診断基準は表1,2のとおりである.これをC2006年版と比べると,以下のような特徴があることがわかる1,2).C1.涙液層の安定性の重要性が増したこの点が今回の改訂のもっとも大きな変化と思われる.涙液には表3にあげる機能があり,これが慢性的に損なわれた状態がドライアイとなる.これらの機能は,涙液が角結膜上に安定して留まることではじめて発揮される.その意味で涙液層の安定性がいかに保たれるかがもっとも重要であることは論をまたない.涙液層の安定性を維持するためには,その量が重要であることは言うまでもない.一方で近年,涙液分泌量は保たれていても,涙液が安定して角結膜上に留まらないタイプのドライアイが注目されるようになってきた.涙液安定性の指標として,フルオレセイン溶液を点眼した後に測定する涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-upCtime:BUT)が主として用いられていることより,このタイプのドライアイは「BUT短縮型ドライアイ」とよばれるようになった(図1).BUT短縮型ドライアイは,眼不快感,視機表12016年版ドライアイの定義と診断基準表22006年版ドライアイの定義と診断基準表3涙液の機能*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島﨑潤:〒272-8513千葉県市川市菅野C5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)C85314.7%BUT(sec)図1BUT短縮型ドライアイの一例図2ドライアイ患者におけるSchirmer値とBUTの散布図(文献C4より転載引用)図3涙液減少型ドライアイにおける上皮障害図4上輪部角結膜炎における上皮障害瞼裂部に上皮障害が生じる.上方瞼結膜と接する部位に障害がみられる.図5薬剤性障害の一例結膜上皮障害に比べて角膜上皮障害が強い.この後,点眼を防腐剤無添加のものに変更して改善した.【眼表面の層別治療】治療対象眼局所治療温罨法,眼瞼清拭油層少量眼軟膏,ある種のOTCジクアホソルナトリウム*人口涙液,涙点プラグ水分ヒアルロン酸ナトリウム液層ジクアホソルナトリウム分泌型ジクアホソルナトリウムムチンレパミピド膜型ムチンジクアホソルナトリウム上皮レパミピド上皮細胞自己血清(杯細胞)(レパミピド)ステロイド眼表面炎症レパミピド*****ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性があるレパミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性がある(監修:ドライアイ研究会)図6涙液層別に異常の部位を診断して,それに対応した治療を選択する“tear.lmorientedtherapy(TFOT)”の概念図(ドライアイ研究会ホームページChttp://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlより)–

序説:これからのドライアイ診療

2018年7月31日 火曜日

これからのドライアイ診療CurrentTopicsinDryEye白石敦*山田昌和**はじめにドライアイの定義と診断基準が2016年に改訂されました.これまで検査方法のゴールドスタンダードとされていたSchirmer試験と生体染色が診断基準からはずれ,症状と涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)で診断が行われることとなりました.本改訂により,ドライアイ診療に大きな変化がもたらされると考えられ,混乱している眼科医も多くおられることと考えられます.そこで本特集では,ドライアイの新診断基準をふまえて,ドライアイの評価方法についてスペシャリストに解説していただきました.また,さまざまな要因で生じるドライアイ症状の対処法に難渋することも多いと思われます.各背景因子とドライアイの関係についても新基準での対応を織り込みながら解説していただきました.ドライアイの評価2006年の診断基準では,Schirmer試験とBUTによる涙液の評価,生体染色による眼表面上皮障害の評価と症状の評価により,ドライアイ確定,疑いの診断がなされていました.今回の診断基準の改訂により,生体染色とSchirmer試験が診断基準からはずれ,症状とBUTで診断が行われることとなりました.また,疑い例がなくなり確定例のみとなったことで,これまで疑いであった多くの症例を確定例として治療できるようになりました.これからのドライアイ診療を行うには,新基準について理解し,ドライアイを正しく評価することが大切です.そこで,本特集の前半部分ではドライアイ評価について取りあげました.まず,診断基準改訂に携わった島﨑潤先生に,改訂に至った背景と新基準のコンセプトについて解説していただきました.内野裕一先生には日本を含むアジアと欧米におけるドライアイに対する考え方の違いを紹介していただくとともに,病態生理を考えたうえでのドライアイ検査の評価方法について解説していただきました.新基準では,自覚症状の評価がより重要になってきました.主観的な自覚症状を定量的に評価するには質問票を用いることが必要になります.坂根由梨先生には質問票による自覚症状の評価方法について解説していただきました.加速度的に進歩するIT社会では,これからのドライアイ診療においてもIT技術の導入は必須です.猪俣武範先生にはアプリケーションソフト「ドライアイリズム」を紹介していただき,これからのドライアイ診療を展望していただきました.*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学研究科医学専攻器官・形態領域眼科学**MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)851

機能性難聴を伴う心因性視覚障害の1例

2018年6月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(6):841.844,2018c機能性難聴を伴う心因性視覚障害の1例清水聡太*1西岡大輔*2小鷲宏昭*2,3杉内智子*4*1関東労災病院眼科*2川崎おぐら眼科クリニック*3帝京大学医療技術学部視能矯正学科*4杉内医院CACaseofPsychogenicVisualDisturbancewithFunctionalHearingLossSotaShimizu1),DaisukeNishioka2),HiroakiKowashi2,3)CandTomokoSugiuchi4)1)DepartmentCofCOphthalmology,KantoRosaiHospital,2)KawasakiOguraEyeClinic,3)DepartmentofOrthoptics,FacultyofMedicalTechnology,TeikyoUniversity,4)SugiuchiOtolaryngologyClinic緒言:心因性疾患は器質的疾患を認めず,機能低下を示す病態である.今回,動的視野検査の結果から心因性視覚障害を発見できた機能性難聴を伴う心因性視覚障害のC1例を経験したので報告する.症例:8歳,男児.難聴のため耳鼻咽喉科より紹介.家族歴,既往歴ともに特記すべきことなし.初診時,視力は右眼C1.2(矯正不能),左眼C0.9(矯正不能).眼位・眼球運動に異常はみられず,前眼部・中間透光体・眼底にも異常はなかった.機能性難聴があることから心理的要因を考慮しCGoldmann視野計にて動的視野検査を行い,両眼ともに求心性視野狭窄を認めた.また,経過観察のなかで視力低下がみられたため,アトロピン硫酸塩による屈折検査を施行し,両眼ともに+6.0Dの遠視を認めた.経過観察のなかで視力に変動がみられた.結果:本症例は機能性難聴を罹患していること,動的視野検査にて求心性視野狭窄が認められたこと,良好な視力が確認できたことなどから,機能性難聴を伴う心因性視覚障害と診断した.CPurpose:PsychogenicCdiseaseCdoesnC’tCshowCorganicCdiseaseCandCisCclinicalCconditionCindicatingCtheCfunctionalCdecline.Wereportourexperiencewithonepatienthavingpsychogenicvisualdisturbanceswithfunctionalhearinglossthatevidencedpsychogenicvisualdisturbancesindynamicvisual.eldtestresults.Case:An8-year-oldmaleunderwentamedicalexaminationinotolaryngology.Therewasnothingofspecialnoteinhisfamilymedicalhisto-ryoranamnesis.Hisinitialvisualacuitywas1.2(R)and0.9(L)C.Noabnormal.ndingsweredetectedineyeposi-tion,eyemovement,anteriorsegments,mediaorfundus.Becausetherewasfunctionalhearingloss,weconducteddynamicvisual.eldtestswiththeGoldmannperimeterinconsiderationofpsychologicfactors;botheyesacceptedconcentriccontractionofvisual.eldtogether.Becausedecreasedvisualacuitywasfoundinfollow-up,weconduct-edanexaminationofrefractionwithatropinesulfate,whichshowedhyperopiaof+6.0Dinbotheyes.Changewasfoundinvisualacuityonfollow-up.Result:Wediagnosedpsychogenicvisualdisturbancewithfunctionalhearinglossbecausewefoundhehadfunctionalhearinglossanddynamicvisual.eldtestsshowingconcentriccontractionofvisual.eld,ascon.rmedbygoodvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(6):841.844,C2018〕Keywords:心因性視覚障害,機能性難聴,求心性視野狭窄.psychogenicvisualdisturbance,functionalhearingloss,concentriccontractionofvisual.eld.Cはじめに心因性視覚障害は器質的病変を認めないにもかかわらず視機能の低下がみられるものであり,その原因として精神的心理的要因を考慮せざるをえない症候群と定義されている1).とくに視力障害は多いとされ,小学生,中学生の女子に多くみられる2.4).また,機能性難聴は,器質的障害に起因するとは考えにくい難聴と定義されており,その要因としては心因性や詐聴があげられる5).心因性疾患の環境要因としては家庭環境や学校関係に多いとされるが6,7),明らかな背景がないにもかかわらず発症する場合もあるため,診断は慎重に行わなければならない.今回筆者らは,動的視野検査により心因性視覚障害を発見できた機能性難聴を伴う心因性視覚障害のC1例を経験したの〔別刷請求先〕清水聡太:〒211-8510神奈川県川崎市中原区木月住吉町C1-1関東労災病院眼科Reprintrequests:SotaShimizu,DepartmentofOphthalmology,KantoRosaiHospital,1-1Kizuki-sumiyoshicho,Nakahara-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa211-8510,JAPANで報告する.CI症例患者:8歳,男児.主訴:難聴.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:機能性難聴.初診時所見:2012年C2月C1日.視力は右眼C1.2(矯正不能),左眼C0.9(矯正不能)であった.検査時,眼位・眼球運動には異常はみられず,前眼部・中間透光体・眼底にも異常はみられなかった.学校,家庭環境に問題はなかったが,左眼視力の反応が悪く,機能性難聴があることから心理的要因を考慮し,後日,Goldmann視野計にて動的視野検査を行った.動的視野検査では両眼ともに求心性視野狭窄を認めた(図1).シクロペントラート塩酸塩による調節麻痺下屈折検査を施行し,右眼(1.0×+2.0D),左眼(1.0×+4.5D(cylC.2.0DCAx5°)と軽度の屈折異常を認めたため眼鏡処方をした.また,患児は検査・診察時に集中できず,落ち着きがなかった.耳鼻咽喉科の所見にても器質的疾患はなし.標準純音聴力検査にて軽度から中等度の難聴の結果が出たが,検査中の会話には問題なかった(図2).日常会話の様子と結果の矛盾から,後日,聴性脳幹反応(ABR),聴性定常反応検査(ASSR)を予定した.経過:2012年C3月C13日,視力は右眼(1.2C×JB),左眼(0.6C×JB)と左眼の視力低下を認めた.TitmusStereoTestを施行したが,立体視の確認は困難であった.検査中は検査に対し非協力的な態度を示した.耳鼻咽喉科でのCABR,ASSRは正常範囲内の閾値を示し,標準純音聴力検査の結果でも正常範囲内となり,良好な結果を示した.2012年C4月C17日,視力は前回と変わらなかったため,アトロピン硫酸塩を処方し,再度調節麻痺下の屈折検査をすることとした.標準純音聴力検査では何回か経過観察していくなかで,正常範囲内を示し,良好な結果を示した(図3).2012年C5月C7日,アトロピン硫酸塩による調節麻痺下屈折検査では右眼(0.1×+6.0D(cyl.1.25DCAx5°),左眼図2標準純音聴力検査(初診時)(0.1×+6.25D(cyl.1.25DAx5°)と強い遠視を認め,視力も不良であった.レンズ打消し法にて視力検査を行ったが,変化はみられなかった.2012年C6月C13日,視力は右眼(0.3C×JB),左眼(0.2C×JB)と不良であったが,ひらがな視標による視力検査では右眼(1.0C×JB),左眼(1.0C×JB)と良好な結果が得られた.以後の経過でもひらがな視力にて良好な結果が続いたため,眼鏡の度数変更は行わずに経過観察とした.CII考按心因性視覚障害の症状は多種にわたり,多くは視力・視野に異常がみられるが,色覚や眼位,眼球運動に障害がみられる場合もある2,8.10).受診動機は学校あるいは就学時健診で視力低下を指摘されることが多いとされ11),心因性視覚障害の内訳として福島らは,視力と視野の障害はC51.9%,視力のみの障害はC26.2%,視野のみの障害はC6.4%であったと報告している3).また,視野障害に関して大野らは,動的視野検査施行患者のうち,正常がC22例(51.2%),らせん状がC11例(25.6%),求心性がC10例(23.3%)であったとし4),石橋らは心因性視覚障害を疑いCGoldmann視野計を施行したC39例のうち,全例で左右差のない正常視野が測定されたと報告している12).これらのことから,心因性視覚障害における視野障害のみの発症頻度は高くないことがうかがえるが,本症例は求心性視野狭窄を示した.さらに視野検査は小児にとって負担のかかる検査であり,患児の理解や集中力に依存するため,結果の信頼性が乏しい場合もある.しかし,本症では視野検査が診断に有用であった.受診時に落ち着きのない面がみられたが,患児が比較的落ち着いている際に視野検査を施行したことにより,円滑に検査を行うことができた.一方的な検査ではなく,患児のコンディションを見ながら柔軟に検査項目を決定することが重要である.経過観察中に視力の変動が大きかったが,深井らは心因性視覚障害において視力の程度に関係なく初診日から約C1カ月以内に自覚的視力がC1.0以上認められたものはC89.7%あり,再発はC11.4%にみられたと報告している2).本症で留意すべき点は,アトロピン硫酸塩による調節麻痺下屈折検査の結果である.仮に良好な視力が確認できなかった場合,診断は屈折異常弱視と誤診してしまい,場合によっては不要な視能訓練により心理的負荷が増加してしまう可能性も示唆される.過去にも兵藤らは長期間の健眼遮閉法による弱視訓練が原因で心因性視覚障害をきたした症例を報告している13).このことから弱視患者においても心因的要因を検索し配慮することが重要である.また,機能性難聴には心因性難聴と詐聴とがあるが,小児の場合は多くが心因性難聴である5).心因性難聴は,実際には音が聞こえているにもかかわらず,患者本人には音が聞こ図3標準純音聴力検査(回復後)えたと感じることができない病態とされる.佐藤らは小児における機能性難聴の罹患率は小学生のC0.08%,中学生のC0.05%であり,健診で難聴を指摘される症例のうちC5%は心因性難聴であると報告している14).また,吉田らは機能性難聴の発見契機は健診で指摘され耳鼻咽喉科を受診するケースがもっとも多く,そのなかで自覚症状がない症例がC61.9%であったと報告しており15),本症例も健診で難聴を指摘されたことを契機に受診に至っている.視力障害を併発した症例も報告されており5),眼科的にも留意しなければならない疾患である.本症では初診時視力は左眼視力が出にくく,機能性難聴による紹介受診となった背景から視野検査を施行し,診断に有用な結果を得ることができた.一過性の聴力障害後に発症した心因性視覚障害についても報告があり16),眼科と耳鼻咽喉科の連携が重要である.さらに小児の機能性難聴では不注意の問題を伴う一群が報告されており17),不注意の問題を伴う小児機能性難聴では,知的側面を一つの重要な軸として考慮しなければならず,背景に注意欠陥障害(attentiondeficitCdisorder:ADD),注意欠陥多動性障害(attentionde.cit/hyperactivityCdisorder:ADHD)のような発達的問題を抱えていることもある18).本症でも検査・診察時に落ち着きがなく,非協力的な面がみられることもあり,ADHDも疑っていたが,通院が途切れてしまい確定診断には至らずにいる.本症以外でも似たような例では小児機能性難聴に加え,さらに発達的障害が潜伏しているのではないかと考えられる.本症では,眼科所見からは動的視野検査で求心性視野狭窄がみられたこと,視力の変動があるが良好な視力が確認できたこと,分離域と可読域とで視力値に差がみられたこと,耳鼻咽喉科所見からは器質的疾患がないこと,自覚的検査と他覚的検査結果の矛盾,自覚的検査結果と会話の矛盾,聴力が回復してしばらくしてから良好な視力が確認できたことなどから,機能性難聴に伴う心因性視覚障害と診断した.初診時の動的視野検査で求心性視野狭窄がみられたことにより眼科的に経過観察としたが,心因的背景はみられず視力もおおむね良好であったため,症状を見逃してしまう可能性もあった.心因性視覚障害では器質的疾患の有無とともに,いくつかの検査結果を総合的に判断しなければならないことを改めて認識した.本症のように他科の疾患から手がかりが見つかることもあるため,心因性患者へのアプローチには多彩な検査と包括的な診療が重要である.文献1)BruceCBB,CNewmanCNJ:FunctionalCvisualCloss.CNeurolCClinC28:789-802,C20102)深井小久子,佐柳智恵美:心因性が考えられる視力低下および眼位異常の統計的研究.日視会誌15:29-31,C19873)福島孝弘,上原文行,大庭紀雄:鹿児島大学附属病院(過去C23年間)における心因性視覚障害.眼臨C96:140-144,C20024)大野智子,松村望,浅野みづ季ほか:神奈川県立こども医療センターに心因性視覚障害として紹介された患者の転帰.眼臨紀10:39-43,C20175)梅原毅,渡辺真世,袴田桂ほか:小児機能性難聴症例の検討.耳鼻臨床109:159-166,C20166)大辻順子,内海隆,有松純子ほか:心因性視覚障害児の治療経験および母子関係.眼臨89:750-754,C19957)原沢佳代子,星加明徳,本多煇男:東京医科大学病院眼科における心因性視覚障害児の視機能および環境因子についての検討.日視会誌18:152-156,C19908)原涼子,奥出祥代,林孝彰ほか:片眼の色感覚が消失した心因性視覚障害の一例.日視会誌40:107-111,C20119)小鷲宏昭,西岡大輔,林孝雄ほか:心理的動揺により上転が誘発される交代性上斜位の一例.日視会誌C45:173-177,C201610)宮崎栄一,絵野尚子,下奥仁ほか:心因外斜視のC1例.心身医学19:490-492,C197911)小口芳久:心因性視力障害.日眼会誌104:61-67,C200012)石橋一樹,大池正勝,須田和代ほか:小児の心因性視覚障害に対するゴールドマン視野検査.眼臨C93:166-169,C199913)兵藤維,臼井千惠,林孝雄ほか:長期弱視訓練により心因性視覚障害をきたしたC1例.日視会誌C35:107-112,C200614)佐藤美奈子:小児心因性難聴.耳鼻・頭頸外科C86:128-132,C201415)吉田耕,日野剛,浅野尚ほか:当科小児難聴外来における機能性難聴の統計的観察.耳展41:353-358,C199816)高田有希子,奥出祥代,林孝彰ほか:一過性の聴力障害後に発症した心因性視覚障害のC1例.日視会誌C43:153-159,C201417)工藤典代,小林由実:心理発達面からみた小児心因性難聴の臨床的検討.小児耳21:30-34,C200018)芦谷道子,土井直,友田幸一:不注意の問題を伴う小児機能性難聴の知的側面の解析.音声言語医学C54:245-250,C2013***

メトトレキサート硝子体注射による治療後に中枢神経播種・消化管転移した眼原発悪性リンパ腫の1例

2018年6月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(6):836.840,2018cメトトレキサート硝子体注射による治療後に中枢神経播種・消化管転移した眼原発悪性リンパ腫の1例熊谷泰雅澁谷悦子石原麻美西出忠之金田英蘭山根敬浩竹内正樹河野慈蓮見由紀子木村育子水木信久横浜市立大学附属病院眼科CACaseofPrimaryVitreo-retinalLymphomaMetastasizedtoCentralNervousSystemandGastrointestinalTractafterTreatmentwithIntravitrealMethotrexateInjectionTaigaKumagai,EtsukoShibuya,MamiIshihara,TadayukiNishide,EiranKaneda,TakahiroYamane,MasakiTakeuchi,ShigeruKawano,YukikoHasumi,IkukoKimuraandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolOfMedicine眼原発悪性リンパ腫(primaryCvitreo-retinalClymphoma:PVRL)に対するCmethotrexate(MTX)硝子体注射加療後に,脳病変・消化管転移を認めた症例を報告する.症例はC72歳,男性.2012年C2月近医でステロイド抵抗性の両眼ぶどう膜炎のため,同年C8月に横浜市立大学附属病院を受診した.矯正視力は右眼(1.2)左眼(1.0),両眼びまん性硝子体混濁を認めた.両眼硝子体生検し,細胞診CclassIII,interleukin(IL)-10/IL-6>1であった.全身CPET-CTや頭部CMRIは異常なく,PIOLと診断し,ただちに両眼CMTX硝子体注射を開始し,硝子体混濁は改善した.2015年C6月,頭部CMRIで脳病変を認め,翌年C3月には胃十二指腸への転移を認めた.PVRL患者では,中枢を含めた全身精査を継続することが重要である.ThisCreportCdescribesCaCcaseCofCprimaryCvitreo-retinalClymphoma(PVRL)withCmetastasisCtoCtheCcentralCner-vousCsystem(CNS)andCgastrointestinal(GI)tractCafterCtreatmentCwithCintravitrealCinjectionsCofCmethotrexate(MTX).A72-year-oldmalepreviouslydiagnosedwithbilateralcorticosteroid-resistantuveitisinFebruary2012,wasCreferredCtoCourChospitalCinCAugustCthatCyear.CCorrectedCvisualCacuityCwasC1.2CandC1.0CforCrightCandCleftCeye,Crespectively.CDi.useCvitreousCcloudingCwasCnoted,CandCvitreousCbiopsyCwasClaterCdone.CBiopsyCcytologyCrevealedPapanicolaouCclassCIIIC.ndings;theCinterleukin(IL)-10:IL-6CratioCwasCgreaterCthanC1.CAbsenceCofCabnormalitiesintheheadmagneticresonanceimaging(MRI)orpositronemissiontomography-computedtomography(PET-CT)ledustodiagnosePVRL.Post-diagnosis,intravitreousinjectionsofMTXwereadministeredinbotheyes;subse-quently,CcloudingCimproved.CHowever,CheadCCTCrevealedCCNSCinvasionCinCJuneC2015;upperCendoscopyCshowedCmetastasistotheGItractinMarch2016.Therefore,patientswithPVRLnecessitateholisticworkups.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(6):836.840,C2018〕Keywords:眼原発悪性リンパ腫,メトトレキサート硝子体注射,全身転移,インターロイキン(IL)-10/IL-6比.primaryvitreo-retinallymphoma,intravitrealinjectionofmethotrexate,systemicmetastasis,interleukin(IL)-10:CIL-6ratio.Cはじめにnallymphoma:PVRL)は比較的まれな疾患だが,中枢神経悪性リンパ腫はリンパ球に由来し,全身のリンパ組織およ系(centralCnervousCsystem:CNS)への浸潤をC56.85%とびリンパ節外からも発生する高率にきたす1).中枢神経系悪性リンパ腫が出現した場合,悪性腫瘍の総称であり,全身のさまざまな臓器で発症する5年生存率はC30%未満とされ,生命予後が不良な疾患であ可能性がある.眼内原発悪性リンパ腫(primaryvitreo-reti-る2).〔別刷請求先〕熊谷泰雅:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学附属病院眼科Reprintrequests:TaigaKumagai,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN836(128)PVRLは仮面症候群の代表疾患であり3),初発症状として,視力低下,霧視,飛蚊症などの眼症状で眼科を受診することが多く,しばしばぶどう膜炎として加療される.しかし,ステロイド治療に抵抗することが多く,このようなぶどう膜炎をみた場合,悪性リンパ腫を疑い,硝子体生検による細胞診4)やCPCR(polymeraseCchainCreaction)法による遺伝子解析,フローサイトメトリー法による細胞表面マーカーの検索などにより積極的に診断を進める必要がある.今回筆者らはCPVRLに対し,methotrexate(MTX)硝子体内注射および髄腔内投与を行ったが,経過中に頭部CMRIにて中枢病変が発覚し,全脳照射および全身化学療法を施行したものの,約C6カ月後に胃十二指腸に悪性リンパ腫の転移を認めた症例を経験したので報告する.CI症例症例は,72歳,男性.2012年C2月より両眼の霧視を自覚し,近医を受診した.ブロムフェナク点眼液C0.1%を処方され経過をみていたが,4カ月後には両眼に硝子体混濁と網膜血管炎を認めたため,ぶどう膜炎と診断され,精査加療目的で同年C8月に横浜市立大学附属病院眼科(以下,当院)に紹介受診となった.既往歴は,糖尿病,椎間板ヘルニアであった.当院初診時の眼所見は,視力右眼(1.2),左眼(1.0),眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C11CmmHgで,炎症細胞はみられず,角膜後面沈着物を認めた.両眼にはびまん性硝子体混濁がみられたが(図1),眼底には網膜滲出斑や網膜血管炎はみられなかった.蛍光眼底造影検査では両視神経乳頭が過蛍光を示すものの,明らかな網膜血管炎は認めなかった(図2).全身検査所見では血液検査にて,ACE(angiotensincon-vertingenzyme)は正常値であったが,Cb2ミクログロブリンがC1.76Cmg/dlと軽度上昇を認めた.CMV(cytomegalovi-rus)やCHSV(herpesCsimplexCvirus),VZV(varicellaCzos-図1初診時眼底写真両眼にびまん性硝子体混濁を認めた.図2初診時フルオレセイン蛍光眼底造影写真両視神経乳頭が過蛍光を認める.明らかな網膜血管炎はみられない.tervirus)のCIgM,IgGはいずれも正常範囲内であり,梅毒トレポネーマ抗体も陰性,T-spotも陰性,ツベルクリン反応も陰性であった.胸部CX線は正常,頭部CCT,MRIも異常所見はなかった.図3頭部MRI所見の推移a:初診時.異常は認めない.Cb:脳病変出現時.腫瘤を示唆する両側脳室内高信号領域がみら2013/032013/072013/12れる(→).Cc:MTX大量療法後.側脳室内高信号領域の拡大がみられる(.).Cd:全脳照射中.両側脳室高信号領域は縮小した.C右眼左眼1.51.2視力ステロイド点眼薬にて加療を継続するも効果なく,2012年C11月に右眼硝子体手術(生検)を施行した.硝子体細胞診の結果,細胞診はCclassIII,interleukin(IL)C.10/IL-6が1,380/46.7(pg/ml)=29.55と著明に上昇していた.また,2013年C2月に,左眼の硝子体手術(生検)を施行し,細胞診の結果はCclassCIII,IL-10/IL-6はC190/150(pg/ml)=1.27であった.この時点で髄液検査,全身CPETC.CTを行ったが異常はなく,眼原発悪性リンパ腫と診断した.治療は当院のCPVRL診断治療プロトコールに準じて行った.まず,MTX(15Cmg)髄腔内投与をC1クール(1週間ごとにC4回投与)施行後,2013年C3月からCMTX硝子体注射(400Cμg/0.05Cml)をC2週間ごとに右眼に計C6回,左眼に計C3回施行し,両眼の硝子体混濁は軽快した.その後はC1カ月ごとに両眼C6回ずつ,2カ月ごとに両眼CMTX硝子体注射を行い,眼所見は落ち着いていたが,2015年C6月の頭部CMRIにて,左前頭葉皮質,両側脳室角外側壁に異常信号を認め,髄液検査では細胞診CclassCIIIであったが,CNS浸潤と判断した.早急に当院脳神経外科にて大量CMTX全身化学療法を開始した.10月に頭部CMRIを再検査したところ,脳病巣の拡大がみられたため,同月より全脳照射(40CGy,照射野に眼球は含まない)を行った.これにより脳病巣は消失し(図3),その後も硝子体混濁などの眼炎症所見も再燃はみられなかった.2016年C4月に腹部違和感を自覚し,上部消化管内視鏡を施行したところ,胃十二指腸に腫瘤性病変を指摘された.生検の結果,di.useClargeCBCcellClymphoma(びまん性大細胞型リンパ腫)の診断となり,胃十二指腸への悪性リンパ腫の転移と判断した.その後,当院血液内科にてCrituximab-cyclophosphamide,hydroxydaunorubicin,oncovin,pred-nisone(R-CHOP)療法を施行し,消化管病変の経過も良好であった(図4).しかし,2017年C4月に外出中に意識消失,図4経過緊急搬送されたが心筋梗塞にて死亡した.その後剖検はされておらず,心筋梗塞と悪性リンパ腫との関係性は不明である.CII考按悪性リンパ腫は,リンパ臓器だけでなくあらゆる節外臓器に発症する.原発性中枢神経リンパ腫(primaryCcentralnervousCsystemClymphoma:PCNSL)は,リンパ腫病変が中枢神経(脳,髄液,眼,髄膜)に発生・限局し,他の臓器にはリンパ腫病変を認めないものと定義される5).眼内悪性リンパ腫はCPCNSLと全身性悪性リンパ腫の眼内転移に二別され,PVRLはCPCNSLの一部とみなされている.悪性リンパ腫はCHodgkinリンパ腫か非CHodgkinリンパ腫に大別される.眼内リンパ腫のほとんどは非CHodgkinリンパ腫のCdi.uselargeBcelllymphomaが占める6).CNS以外の非CHodgkinリンパ腫では,悪性度が高いほど中枢神経系への遠隔転移が多く予後不良である7).一方で,PCNSLも各臓器にまれに遠隔転移をきたすことがある.PCNSLの一部であるCPVRLでは,確定診断後にCCNS以外への転移を認めた症例について,山本らの脳・肺・心臓への多発転移を認めた症例報告8)がある.また,Kimuraらの報告2)では,PVRLと診断されたC217例のうち,CNS浸潤を伴うC11例(5.1%),伴わないC10例(4.6%)に全身転移を認めたとされている.また,転移した臓器の内訳については,CNS浸潤を伴うものでは副鼻腔浸潤C3例,頸部を含めた全身リンパ節転移C2例,精巣転移C2例,その他C5例(重複するものあり)であった.一方でCCNS浸潤を伴わない症例では,頸部・消化管リンパ節転移C4例,小腸転移C2例,その他C5例(重複するものあり)との報告であった2).この報告では,CNS浸潤の有無にかかわらず,21例(9.7%)の症例で遠隔転移をきたしていることから,PVRLの遠隔転移はそれほどまれではないと考えられた.本症例は,当院初診となってから約C6カ月後に硝子体生検を施行しCPVRLと診断された.その後早急にCMTX硝子体注射を開始し,眼病変に関しては寛解を得た.しかし,治療開始から約C1年C4カ月後にまずはCCNSへの浸潤を認め,大量CMTX全身化学療法を施行した.Akiyamaらは,MTX硝子体注射のみで治療したCPVRL8例はすべて寛解を得たものの,経過観察中にC2例は眼内リンパ腫の再発,7例はCCNSへの浸潤を認めたと報告している9).この報告では,MTX硝子体注射に大量CMTX全身化学療法を加えた治療を初期治療としたほうが,MTX硝子体注射単独の治療よりもCCNS浸潤の予防に効果的であるとされている.また,Kaburakiらは,MTX硝子体注射と並行して,rituximab-MTX,pro-carbazine,vincristine(R-MPV)療法,低線量全脳照射(23.4CGy),cytarabine大量療法を併用したほうがCCNSへの病巣拡大を予防でき,無増悪生存期間や全生存期間を改善できたと報告している10).したがって,本症例においても局所治療に全身化学療法や全脳照射を併用したほうが,CNS浸潤への予防となった可能性が示唆された.また,PVRLが分類されているCPCNSLの標準的治療は本症例でも行われたように,大量CMTX療法を基盤とする化学療法を先行し,引き続き全脳照射による放射線療法を行うことが望ましいとされている.一方,大量CMTX療法を行わないで全脳照射だけを行う方法と,全脳照射と全身性節外性悪性リンパ腫の標準治療であるCR-CHOP療法を併用した方法とを比較した試験では,後者は全脳照射単独の治療成績を上回ることはなかったという報告がある11).しかし,全脳照射には遅発性中枢神経障害のリスクもあり,とくに高齢者では注意が必要である12).当院ではもうC1例CPVRLの全身転移を認めた症例を経験している.その症例は,本症例と同じように硝子体生検や全身画像検査などによりCPVRLと診断され,速やかにCMTX硝子体内注射による局所療法が開始された.眼病変は寛解を得たが,治療開始から約C1年半後に左精巣に転移を認めた13).当院で経験したこのC2例では,MTX硝子体注射による局所療法は眼病変には著効したが,その後,遠隔転移を認めている.しかしながら,PVRLの遠隔転移に対する有効な予防的治療については調べた限りでは報告がない.PVRLは,中枢以外にも転移する可能性が少なからずあるため,常にそのことを念頭に置き,定期的に全身検査を怠らないことが重要である.また,転移を認めた場合,臓器ごとにその治療法は異なるため,他科との連携による早急な加療が不可欠である.文献1)FaiaCLJ,CChanCCC:PrimaryCintraocularClymphoma.CArchCPatholLabMedC133:1228-1232,C20092)KimuraK,UsuiY,GotoH:Clinicalfeaturesanddiagnos-ticCsigni.canceCofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma.CJpnCJCOphthalmolC56:383-389,C20123)木村圭介,後藤浩:眼内悪性リンパ腫C28例の臨床像と生命予後の検討.日眼会誌C122:674-678,C20084)CouplandSE,ChanCC,SmithJ:Pathophysiologyofreti-nallymphoma.OculImmunolIn.ammC17:227-237,C20095)FerreriAJM:HowItreatprimaryCNSlymphoma.BloodC18:510-522,C20116)太田浩一:眼内悪性リンパ腫の診断的治療.あたらしい眼科C21:41-45,C20047)WongCWW,CSchildCSE,CHalyardCMYCetCal:PrimaryCnon-Hodgkinlymphomaofthebreast:TheMayoClinicExpe-rience.JSurgOncolC80:19-25,C20028)山本由美子,中茎敏明,小浦裕治ほか:全身転移を認めた眼内悪性リンパ腫のC1例.眼臨101:27-30,C20079)AkiyamaCH,CTakaseCH,CKuboCFCetCal:High-doseCmetho-trexatefollowingintravitrealmethotrexateadministrationinpreventingcentralnervoussysteminvolvementofpri-maryCintraocularClymphoma.CCancerCSciC107:1458-1464,C201610)KaburakiCT,CTaokaCK,CMatsudaCJCetCal:CombinedCintra-vitrealCmethotrexateCandCimmunochemotherapyCfollowedCbyCreduced-doseCwhole-brainCradiotherapyCforCnewlyCdiagnosedCB-cellCprimaryCintraocularClymphoma.CBrJHaematolC179:246-255,C201711)SchultzCC,CScottCC,CShermanCWCetCal:PreirradiationCche-motherapyCwithCcyclophosphamide,Cdoxorubicin,Cvincris-tine,CandCdexamethasoneCforCprimaryCCNSClymphomas:Cinitialreportofradiationtherapyoncologygroupprotocol88-06.CJClinOncolC14:556-564,C199612)楠原仙太郎:治らないぶどう膜炎:仮面症候群.あたらしい眼科34:1091-1096,C201713)澁谷悦子,石原麻美,西出忠之ほか:眼原発悪性リンパ腫の治療中に精巣病変が発見されたC1例.日眼会誌C121:761-767,C2017***