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基礎研究コラム 5.細胞におけるノンコーディングRNAの役割

2017年10月31日 火曜日

細胞におけるノンコーディングRNAの役割兼子裕規ノンコーディングRNAとはわれわれ人間の体内では,常に多くのタンパク質が合成されています.そのタンパク質の設計図といえるのがCDNAです.DNAのうちのC1本が鋳型となって,その塩基配列に対応した塩基配列をもったメッセンジャーCRNA(mRNA)が合成されますが,これを転写と呼びます.次にCmRNAの情報に基づいてタンパク質が合成され,この反応を翻訳と呼びます.この一連の反応,すなわちCDNAC→CmRNA→タンパク質において,DNAはCmRNAを介してタンパク質(の情報)を「コード」していると表現できます.ノンコーディングCRNA(non-codingCRNA:ncRNA)とは,タンパク質を「コード」していない,つまりタンパク質へ翻訳されずに機能するCRNAの総称です1).近年の研究によって,ヒトCDNAにはタンパク質をコードしている領域はわずかC2%程度でしかないこと,また残りのCDNAのうちC70%以上からCRNAが転写されていることが明らかになりました(図1).つまり,われわれの体内には,非常に多くのノンコーディングCRNAが存在しているのです.ncRNAには,皆さんが学生時代に教科書で見た可能性が高いリボソームCRNAやトランスファーCRNAなども含まれますが,近年ではそのほかにもさまざまな種類のCncRNAが確認されています.そのなかでも,これまで多くの臓器においてその発生や発病に関与していると数多く報告されているのがCmicroRNAです.眼の領域ではどうでしょうか?.microRNAの関与.microRNAとはC18.24塩基ほどのC1本鎖CRNAで,特定の遺伝子のCmRNAに対する相補的配列をもち,その遺伝子の発現を抑制します(図2).つまりCmicroRNAによって翻訳が阻害され特定のタンパク質の産生が減少します.microRNAは約C2,000種類存在しており,多くの機能をもちます.“microRNA”という単語が初めて正式に使用されたのはC2001年です.PubMedで検索すると,2015年にはmicroRNAに関する論文がC8,000報以上ヒットしますし,眼科関連の論文も最近ではC1年間でC70報以上報告されます2).ふだん皆さんが外来で診る糖尿病網膜症や網膜.離においても,その発症や重症化にCmicroRNAが関与していると報告されています.名古屋大学医学部附属病院眼科タンパク質を「コード」している領域は2%程度しかないDNA多くのノンコーディングRNAが転写されている図1ノンコーディングRNAの発見21世紀に入って,ヒトゲノムの大部分を占める領域から非常に多くのノンコーディングCRNAが転写されていることが発見された.mRNAタンパク図2microRNAによるタンパク発現の制御mRNAと同じくCDNAから転写された多くのCmicroRNAのうち,特定のCmRNAに結合できる配列(seedsequence)をもったCmicroRNAによって,タンパクの発現量が制御される.C今後の展望.時代は長鎖ncRNAの研究へ.今年の上旬,大きなニュースが発表されました.FANTOMコンソーシアムが長鎖CncRNA(lncRNA)のアトラス(海図)を発表し,ネット上で公開しました3).これによってわれわれのゲノムのなかで役割がいまいちはっきりしないまま眠っていたClncRNAの研究が爆発的に進むと予想されます.実はかつて多くのCncRNAが,生命活動にとって意味のない「ジャンク(ゴミ)のようなもの」「ゲノムのがらくた」とひどい言われかたをしていたのです.それが今になって,多くの機能と可能性をもつ対象に変わりました.ゴミ同然と思われていたものが後の時代で再評価され,思ってもみなかったほどの価値があるとされるのは,何も研究分野に限ったことでないでしょう.今日われわれが有する知識ではその真価を評価できないダイヤの原石が,皆さんの近くに眠っているかもしれません.文献1)MattickCJS,CMakuninCIV:Non-codingCRNA.CHumanCMolecularGeneticsC15:17-29,C20062)KanekoH,TerasakiH:BiologicalinvolvementofmicroR-NAsCinCproliferativeCvitreoretinopathy.CTranslCVisCSciCTechnolC6:5,C20173)HonCC-C,CRamilowskiCJA,CHarshbargerCJCetCal:AnCatlasCofChumanClongCnon-codingCRNAsCwithCaccurateC5’Cends.CNatureC543:199-204,C2017(91)Cあたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14290910-1810/17/\100/頁/JCOPY

二次元から三次元を作り出す脳と眼 17.M系とP系の役割分担

2017年10月31日 火曜日

雲井弥生連載・二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科Cはじめにコントラスト感度検査は,視標の縞の太さ(空間周波数)とコントラストを変えて行う視機能検査である.高い空間周波数領域(細い縞)はCP系の,低い領域はCM・P系両者の機能を反映する.これは外側膝状体の部分的破壊実験からも証明されている.後頭葉第一次視覚野(以下,V1)において高い空間周波刺激に反応する細胞と低い刺激に反応する細胞の局在が異なり,前者が境界線の,後者が物体表面の模様や質感の検出に関与する.コントラスト感度検査1)ランドルト視力検査などでは視標のコントラストが90%以上と規定されているのに対して,こちらは縞視標のコントラストを変化させて弁別できる最低のコントラスト(コントラスト閾値)を調べる視機能検査である.もっとも悪い条件下で「見る力」を調べるため,視力検査ではとらえられない軽度の異常を検出できる.視角1°の中に明暗の繰り返しが何周期あるかを表すのが空間周波数(spatialCfrequency)である.図1aはCCSV-1000E(VectorCVision)の視標の部分である.4種類の空間周波数[3,6,12,18c/d(cycle/degree)]に対してC8段階のコントラストで検査を行う.2段C1組の片方は縞があり,他方は単色であり,縞の見えるほうをC1C→C8方a向に回答させ,弁別できるコントラスト閾値を測る.一般的にカメラやレンズなどの器械では低周波領域(太い縞)で感度が高く,高周波(細い縞)ほど感度が下がるのに対して,ヒト視覚ではC5c/d付近で感度がもっとも高く,それより周波が低くても高くても感度は下がる.大脳での側方抑制あるいは網膜での輪郭強調効果(連載・参照)によるとの説もあるが,正確な機序は不明である.連載・・で網膜の大型神経節細胞CPCa(Y)から始まる大細胞系(M系)が物の位置・動き・光のちらつきの情報を,小型細胞CPCb(X)から始まる小細胞系(P系)が物の形や輪郭,色の情報を伝えることを述べた.空間周波数の処理(空間分解能)ではCP系が,時間周波数の処理(時間分解能)ではCM系が主導的役割を果たす2).空間周波数感度は外側膝状体CP系の破壊で大きく低下するが,M系破壊ではほとんど影響を受けない(図2a).時間周波数感度(フリッカー値)はCM系破壊で大きく低下するが,P系破壊の影響は小さい(図2b).不同視弱視はCP系の異常と考えられてきたが,視力0.5以下の不同視弱視ではCM系にも障害を認めたとの報告が近年されている.また健眼とされたほうにもコントラスト感度の低下やCVEPの潜時延長などの異常を認めたとの報告があり,両眼ともに注意が必要である.b6c/d付近で感度が高い図1コントラスト感度検査CSV.1000E(VectorVision)a:3,6,12,18c/dのC4種類の太さの縞とC8段階のコントラストに分かれている.2段C1組の片方にのみ縞があり,縞の見える方をC1C→C8方向に回答させ,弁別できるコントラスト閾値を測る.Cb:測定結果.青は正常眼,赤は不同視弱視治療後眼.治療後(1.0)でも高周波領域で感度低下を認める.いずれもC6c/dでもっとも感度が高い.灰色領域は正常範囲を示す.コントラスト感度低↑12345678A高←コントラスト→低312345678B612345678C1212345678D18c/d空間周波数↓高3612空間周波数18c/d(89)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14270910-1810/17/\100/頁/JCOPY眼優位コラムと空間周波数サルCV1では,高周波刺激(5.7Cc/d)に反応する細胞と低周波刺激(1.1.5Cc/d)に反応する細胞の局在が異なっている(図3)3).前者は眼優位コラムの境界部分に多い.特定の方位に選択的に反応する細胞群が柱状に存在し,境界に沿ってC40.mの間隔で最適方位がC10°ずつ変化する.これを方位選択性コラムとよぶ.境界線の傾きの検出に働く.この部位は両眼視細胞(視差選択性ab10010:M系破壊:P系破壊:コントロール1110Hz時間周波数図2サル外側膝状体の部分的な破壊実験によるM系・P系の機能○はCM系であるC1.2層を破壊後の結果,ほぼCP系の機能を反映する.●はCP系であるC3.6層を破壊後の結果,ほぼCM系の機能を反映する.Ca:空間周波数感度はCM系破壊でもコントロールとほぼ同じであるが,P系破壊では感度の大幅な低下を認める.b:時間周波数感度はCP系破壊で低周波低下を認めるが,M系破壊では高周波感度の大幅な低下を認める.(文献C2より改変)Cコントラスト感度110c/d空間周波数眼優位コラム細胞)の存在する部分でもある.後者は眼優位コラム中央の単眼性の強い部分に多く,風車状に最適方位コラムが並び,表面の模様や質感などの情報処理に働くとされる.高周波反応領域が精密な視力や立体視に,低周波反応領域が物体表面の情報や大まかな立体視にと関連づけができれば非常にシンプルであるが,詳細については今後の研究が待たれる.M系とCP系とでは発達時期も感受性期間も異なる.M系は生後C2.4カ月で急速に発達しC6カ月でほぼ成人レベルに達するのに対して,P系はやや遅れてC2歳までに発達し,4歳すぎで成人レベルに達する.感受性期間とは外的刺激が脳に恒常的な変化を残す期間のことであるが,M系で生直後から生後C10カ月まで,P系では生後よりC1.3歳でもっとも感受性が強くC10歳位までとされる.P系の発達は視力や精密な立体視などイメージしやすい.M系の発達は定位,眼球運動,追視などの力に反映され,安定した眼位や精密な立体視に必要である.M系に起こった異常がその後の両眼視の発達にも影響を及ぼす.次回でCM系の具体的な障害について考える.文献1)四宮加容:コントラスト感度検査.弱視・斜視のスタンダード(不二門尚編),眼科診療クオリファイC22,p73-76,中山書店,20142)MeriganWH,MansuellJH:Howparallelaretheprimatevisualpathways?AnnRevNeurosciC16:369-402,C19933)福田淳・佐藤宏道:一次視覚野の特徴抽出性.脳と視覚―何をどう見るか,p168-204,共立出版,2002C図3方位選択性コラムと眼優位コラム高周波刺激に反応する細胞は眼優位コラムの境界部分に多い.特定の方位に選択的に反応する細胞群が柱状に存在し,最適方位がC10°ずつ変化する方位選択性コラムをなす.境界線の傾きを検出する.低周波刺激(1.1.5Cc/d)に反応する細胞は眼優位コラム中央の単眼性の強い部分に多く,ある点を中心に風車状に最適方位コラムが並ぶ.表面の模様や質感などの情報を処理する.1428あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017(90)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 173.特発性黄斑上膜の発症機序(研究編)

2017年10月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載173173特発性黄斑上膜の発症機序(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに特発性黄斑上膜(idiopathicCepiretinalCmembrane:ERM)は,後部硝子体皮質前ポケットの後壁の硝子体ゲルを基盤とし,その部位に細胞増殖や細胞外基質の蓄図1網膜硝子体疾患の硝子体中トリプターゼ活性特発性黄斑円孔(MH)と特発性黄斑上膜(ERM)が有意に高値を呈した.PDR:増殖糖尿病網膜症,RRD:裂孔原性網膜.離.(文献C2より引用)積が生じることが主因とされている1)が,生化学的な研究はきわめて少ない.筆者らは過去に本疾患について二つの生化学的なデータを得て,発症機序を考察したことがある.C●ERMとセリンプロテアーゼ筆者らはCERMの硝子体中に,セリンプロテアーゼの一つであるトリプターゼの活性が高いことを見いだした2).トリプターゼは組織の線維化やリモデリングに関与することが報告され,その産生源である肥満細胞は眼球では脈絡膜,毛様体,結膜,強膜などに存在する.硝子体中のトリプターゼが眼内のどの組織から産生されるのかは現時点では不明である.トリプターゼはまた,matrixCmetalloproteinase-2(MMP-2)を介して,基底膜の主成分であるIV型コラーゲンを分解したり3),血管内皮細胞を傷害する4)ことが報告されている.C●ERMと抗II型コラーゲン抗体筆者らはまた,ERM患者の血清中に抗CII型コラーゲン抗体価が上昇していることを見いだした2).上記のトリプターゼの作用により血液網膜関門(blood-retinalbarrier:BRB)が破綻することで,血清中の抗CII型コラーゲン抗体が硝子体中のCII型コラーゲンと接触し,免疫反応をきたすことがCERMの病態に関与している可能性がある.CII型コラーゲンが存在する軟骨組織と硝子体は共に無血管組織であることから,CII型コラーゲンは全身の血液をめぐる免疫細胞の監視を逃れた隔絶抗原としての性質をもっており,免疫学的寛容の状態にあるとされている5,6).つまり,ERM患者ではなんらかの機序で肥満細胞が活性化され,そこから産生されるトリプターゼがCM.ller細胞の基底膜である内境界膜を破綻させ,感覚網膜中のグリア細胞の遊走を促進させるとともに,BRBを形成する血管内皮細胞機能を傷害して抗CII型コ(87)C0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2特発性黄斑上膜(ERM)患者血清中の抗2型コラーゲン抗体価ERMがコントロールと比較して有意に高値を呈した.(文献C2より引用)ラーゲン抗体の硝子体腔内への拡散を促進し,網膜硝子体界面を足場とした免疫反応を惹起している可能性が考えられる7).文献1)KishiCS,CShimizuCK:OvalCdefectCinCdetachedCposteriorChyaloidCmembraneCinCidiopathicCpreretinalCmacularC.brosis.CAmJOphthalmolC118:451-456,19942)IkedaT,NakamuraK,OkuHetal:Theroleoftryptaseandanti-typeIIcollagenantibodiesinthepathogenesisofidiopathicCepiretinalCmembranes.CClinCOphthalmolC9:C1181-1186,C20153)YamamotoCK,CKumagaiCN,CFukudaCKCetCal:ActivationCofCcornealC.broblast-derivedCmatrixCmetalloproteinase-2CbyCtryptase.CurrEyeResC31:313-317,C20064)M.yr.np..CMI,CHeikkil.CHM,CLindstedtCKACetCal:DesC-quamationCofChumanCcoronaryCarteryCendotheliumCbyhumanCmastCcellCproteases:implicationsCforCplaqueCero.sion.CoronArteryDisC17:611-621,C20065)SonodaCKH,CSakamotoCT:TheCanalysisCofCsystemicCtoler.anceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavi-ty:vitreousCcavity-associatedCimmuneCdeviation.CImmu.nologyC116:390-399,C20056)CookCAD,CRowleyCMJ,CMackayCIRCetCal:AntibodiesCtoCtypeIIcollageninearlyrheumatoidArthritis.Correlationwithdiseaseprogression.ArthritisRheumC39:1720-1727,C19967)池田恒彦:黄斑上膜の成因.あたらしい眼科C32:1515.1521,C2015あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C1425

眼瞼・結膜:点眼薬アレルギーによる眼瞼炎

2017年10月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人31.点眼薬アレルギーによる眼瞼炎佐々木香る地域医療機能推進機構(JCHO)星ヶ丘医療センター眼科点眼薬アレルギーによる眼瞼炎は,浮腫性紅斑を呈し,点眼後C48.72時間で発症する.塩化ベンザルコニウムやミドリンCPC.の主成分のフェニレフリン塩酸塩がよく知られている.その他,抗菌薬,緑内障治療薬,抗アレルギー薬,ステロイド薬でも生じる.ヒアレインミニC.点眼やカタリンCKC.に添加されている添加物Ce-アミノカプロン酸にも注意する.本疾患を疑えば,皮膚科にてパッチテスト・スクラッチテストを施行し,原因薬剤を中止する.C●はじめに多くの外来患者数を診療していると,必ず出会うのがこの疾患である.治療は投薬中止,と容易であるが,「早期に診断すること」と「原因薬剤の患者への情報提供」が,われわれ眼科医の責務である.「点眼薬関連アレルギー」という用語および「接触性皮膚炎」のガイドラインについては,文献C1,2を参考にしていただきたい.ここでは,アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎について解説する.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を疑う臨床所見と鑑別診断実際の臨床では,まず初めに「眼科医による疑い」ありきである.疑ってこそ,投薬に関する詳細な問診が可能となる.主たる臨床所見は,眼瞼から頬部にかけて広い範囲の皮膚の浮腫性の紅斑である(図1).よく観察すると,丘疹や小水疱,びらんを伴い,長期化すると苔癬化も認められる.原因点眼の用法によって,両眼性の場合も片眼性の場合もある.IV型アレルギー反応,つまり遅延型過敏反応で,抗原接触後から発症までは通常48.72時間とされている.高度の浮腫と発赤を認めるため,丹毒,眼窩蜂巣炎,膿痂疹,帯状疱疹との鑑別が必要となる.・丹毒:発熱,CRP上昇,白血球増多,圧痛を伴い,紅斑は境界明瞭である.・眼窩蜂巣炎:片眼性であり,眼窩部に沿った発赤,腫脹である.また,丘疹,小水疱,苔癬化などの表面上の変化は伴わない.・膿痂疹:夏場に多く,発症が急激ではなく,膿などの感染徴候を伴う.・帯状疱疹:片眼性であり,病初期に疼痛や知覚異常,掻痒感が先行する.小水疱がめだたず,眼瞼浮腫が中心となる場合があり鑑別を要するが,典型的な小水疱や痂疲を見逃さないように鑑別する.紅斑の範囲は,神経支配領域に一致する.図1両眼浮腫性紅斑の例a:66歳,男性.緑内障の診断にて眼圧下降薬点眼を開始した数日後,両眼浮腫性紅斑を生じた.パッチテストにて,アイファガン.点眼,タプロス.点眼に陽性と判明した.Cb:73歳,女性.眼科を受診して通水検査の数日後,両眼浮腫性紅斑を生じた.パッチテストにてベノキシール.点眼,クラビット.点眼,亜鉛に陽性反応を示した.(85)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14230910-1810/17/\100/頁/JCOPY●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を生じやすい点眼一般的に防腐剤である塩化ベンザルコニウムやミドリンP.の主成分のフェニレフリン塩酸塩がよく知られている.その他,抗菌薬としては,ゲンタマイシン硫酸塩,硫酸フラジオマイシン,クロラムフェニコール,緑内障治療薬としては,チモロールマレイン酸塩,ジピベフリン塩酸塩の報告が多い.また,ヒアレインミニC.点眼やカタリンCKC.に添加されているCe-アミノカプロン酸などの添加物でも,皮膚科領域で多くの接触性皮膚炎の報告があり,点眼も原因となる.注意すべきは抗アレルギー治療薬でも起こりうることである.たとえば,ケトチフェンフマル酸塩,アンレキサノクス,クロモグリク酸ナトリウム,さらにステロイドでも接触性皮膚炎が報告されている.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を疑った場合の検査パッチテストおよびスクラッチテストを施行する.パッチテストは貼布されるアレルゲンの量・濃度・溶媒となる基剤,貼布時間などが結果に影響を及ぼすため,皮膚科医に依頼するほうが好ましい.パッチテストでは十分量の抗原が必要だが,点眼添加物のCe-アミノカプロン酸やミドリンCPC.のフェニレフリン塩酸塩の濃度は至適濃度より低いため,パッチテストが陰性に出やすい.そのため,点眼アレルギーを疑えば,パッチテストとスクラッチテスト両方の施行を依頼する.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎の治療原因薬剤の除去とステロイドの外用が基本である.接触性皮膚炎を生じやすいネオメドロールCEEC.やリンデロンCA眼軟膏C.は回避する.ステロイド眼軟膏が使用できない症例には,短期間C0.03%小児用タクロリムス眼軟膏の使用を勧める報告もある.高度重症例にはステロイド内服,また掻痒感が強い場合には,抗ヒスタミン薬内服を処方する.軽症例では,原因薬剤の除去と白色ワセリンによる保湿で十分である.緑内障治療薬が疑われた場合は,眼圧下降薬を内服で投与し,局所はすべていったん中止とする.緑内障などで,治癒後の薬剤再開が必要な場合は,パッチテストやスクラッチテストの結果を参考のうえ,1剤から開始し,眼周囲皮膚への点眼薬付着に関して,流水洗浄やふき取りを指導しておく.また,処方の際,添加物の異なる後発医薬品への注意も必要である.C●おわりに本疾患の診断が遅れるのは,眼表面感染症治療中の抗菌点眼薬による発症,またアレルギー性結膜炎治療中の抗アレルギー薬およびステロイドによる発症である.いったん改善傾向がみられたものの,途中から臨床所見の改善が認められない場合,明室下肉眼で患者の顔面を観察し,眼瞼および頬部皮膚の浮腫性紅斑の有無を確認し,「いったん休薬」という治療方針があることも忘れてはいけない.文献1)日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会:接触性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌C119:1757-1793,C20092)庄司純:点眼薬関連アレルギー(総説).日の眼科C87:7,20163)横関博雄:アレルギー性接触皮膚炎.免疫症候群(第C2版)II,新領域別症候群シリーズC35,別冊日本臨床,p118-122,日本臨床社,20163)稲田紀子:点眼薬関連アレルギーと接触眼瞼皮膚炎.日の眼科87:855-858,C20164)大田遥,杉本洋輔,木内良明:角膜潰瘍の治療後に生じた薬剤過敏症のC1例.臨眼68:731-734,C20145)安池理紗,峠岡理沙,加藤則人:フマル酸ケトチフェンによる接触皮膚炎.皮膚病診療37:499-500,C20156)助川俊之:ユニットドーズタイプ精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液によるアレルギー性接触皮膚炎のC1例.日眼会誌118:111-115,C20147)松立吉弘,村尾和俊,久保宜明:ヒアレインミニ点眼液とミドリンCP点眼液による接触皮膚炎.皮膚病診療C37:475.478,C20158)西岡和恵,小泉晶子,瀧田祐子:最近C5年間の外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎C46例のまとめ.JCEnbironCDerC-matolCutanAllergol9:25-33,C20159)海老原伸行:アレルギー性眼瞼炎.MBCOculistaC24:C39-42,C2015☆☆☆1424あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017(86)C

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法の中止基準

2017年10月31日 火曜日

●連載監修=安川力.橋寛二45.加齢黄斑変性に対する大中誠之関西医科大学眼科学教室抗VEGF療法の中止基準現在,滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対する治療としておもに抗CVEGF療法が行われ,treatandextend法を用いることにより,長期にわたって良好な視力を維持することが可能になってきた.しかし,基本的には治療の継続が必要であり,治療の中止に踏み切るタイミングはむずかしい.本稿では,滲出型CAMDに対する抗VEGF療法の中止基準について考察する.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に対する治療として,おもに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬の硝子体内注射(抗CVEGF療法)が用いられる.しかし,滲出型CAMDは慢性疾患と考えられており,どのCVEGF阻害薬を用いても完治は困難であり,多くの症例において抗CVEGF療法を継続して行う必要がある.一般的に抗CVEGF療法は,視力の改善を目的とした導入期と,改善した視力を維持するための維持期に分けて考えられるが,長期予後を考えた場合には,維持期の治療がより重要となってくる.これまでの報告をみてみると,維持期の治療としては,滲出性変化が生じてから治療を追加する必要時投与より,滲出性変化が生じる前に治療を行う計画的投与,とくにCtreatCandCextend法のほうが長期的には視力予後がよい傾向にあり,維持期にCtreatandextend法を用いる施設が増えている1,2).CTreatandExtend法の利点と問題点TreatCandCextend法の利点は,個々の病態に合わせて計画的に治療を行い,来院回数を減らしつつ,長期間にわたり良好な視力を維持できることにあり,現時点においては,この方法を用いて抗CVEGF療法を永続的に行うことは滲出型CAMDに対する理想的な治療かもしれない.しかし,抗CVEGF療法は,眼局所の合併症(眼内炎,白内障など)や全身の副作用(脳卒中や心筋梗塞など)の発生リスクを伴う治療であり,また,高額なCVEGF阻害薬は経済的負担も大きいことから,安易に抗VEGF療法をし続けることは避けるべきであり,個々の状態に合わせて,治療の続行・中止を決定する必要がある.(83)抗VEGF療法の中止基準抗CVEGF療法の中止基準として,Freundら3)は,treatandextend法のアルゴリズムのなかで,さらなる投与の必要がない,あるいはさらなる投与によって継続した恩恵を受けることができないと医師が判断した場合としており,また,McKibbinら4)は具体的に,treatandCextend法によりC1年間治療を行った後,3回連続で疾患活動性がなく,視力も安定していた場合と報告している.抗CVEGF療法の中止後の詳細な検討がないため,現時点ではどの基準が妥当かは不明であるが,抗CVEGF療法の中止を考慮するタイミングとしては,大きく分けて以下の三つが考えられる.すなわち,・抗CVEGF療法により改善した病状が安定しているとき,・抗VEGF療法の継続により視機能と病状の安定化が得られないとき,・患者の事情により治療の継続が困難となったときである.・抗CVEGF療法により改善した病状が安定しているときは,治療後,長期にわたり滲出性変化を認めない状態が続き,視力の悪化がみられない場合である.当院では,導入期治療後に経過観察期間を設け,滲出性所見の再燃後にCtreatCandCextend法を導入している5)が,16週間の間隔でC3回(1年間)連続して病状が安定していた場合を中止の基準としている.しかし,これまでに中止できた症例はわずかであり,残念ながら大多数の症例において治療を継続しているのが現状である.導入期治療の段階で病状の安定化を判断することはきわめて困難であるが,当院における検討では,導入期連続C3回以上の治療により病状の安定化が得られた症例のうち,病状の悪化を一度も認めずに追加治療を必要としなかった症例は,1年目はC3割,2年目でもC2割存在しており,treatandextend法を含む計画的投与を導入するときには,この点に関して留意すべきではないかと考える.あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14210910-1810/17/\100/頁/JCOPY典型AMD視力0.03治療後3カ月視力0.03治療後5カ月視力0.03図1典型加齢黄斑変性(AMD)の網膜色素上皮障害による.胞様黄斑浮腫(CME)広範囲に網膜色素上皮萎縮を認め,抗CVEGF療法によるCCMEの完全消失後も早期に再発し,視力の改善もみられない.・抗CVEGF療法の継続により視機能と病状の安定が得られないときは,治療後,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)が消失しない,あるいは消失しても早期に再発し,徐々に視力が低下する場合である.もちろん僚眼の状態によりこの基準は変わってくるが,筆者は,僚眼に異常なく,患眼の視力がC0.1以下,CMEが消失しても自覚症状の改善がまったくない場合には投薬中止を考慮すべきではないかと考える.このようなCCMEは網膜色素上皮の強い障害によるバリアおよびポンプ機能の代償不全から生じており,完全緩解は困難であることから,いたずらに治療を続けることは避けるべきである(図1).また,治療後に強い線維性瘢痕や網膜色素上皮萎縮が進行して視機能改善が望めない症例も,投与中止を考慮する必要がある.また,いずれの抗VEGF薬の添付文書にも,定期的に有効性を評価し,有効性が認められない場合には漫然と投与しないことと記載されていることも忘れてはならない.・患者の事情により治療の継続が困難となったときは,脳卒中や心筋梗塞が発症した場合や,全身状態の悪化や付き添いの関係で通院が困難となった場合,または金銭的な問題を含めて患者が治療の継続を希望しない場合などである.脳卒中や心筋梗塞を発症した場合には,当院では必要に応じてペガプタニブの単独投与,あるいは光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)との併用療法を行うようにしている.それ以外の場合には,治療の中止により視力が低下することが多いため,改めて治療の重要性を説明し,可能なかぎり治療の継続がで1422あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017きるように努めるべきであり,状況によってはCPDTを併用するなど注射回数をなるべく少なくする配慮も必要であろう.おわりに滲出型CAMDに対する抗CVEGF療法の中止基準について述べたが,抗CVEGF療法のみで長期にわたり良好な視力を維持するためには,基本的にはCVEGF阻害薬を永続的に投与する必要があり,今後の抗CVEGF療法以外の治療法の開発が期待される.文献1)RayessCN,CHoustonCSKCIII,CGuptaCOPCetCal:TreatmentCoutcomesCafterC3CyearsCinCneovascularCage-relatedCmacu.lardegenerationusingatreat-and-extendregimen.AmJOphthalmolC159:3-8,C20152)BarthelmesCD,CNguyenCV,CDaienCVCetCal:TwoCyearCout.comesCof“treatCandCextend”intravitrealCtherapyCusingCa.iberceptpreferentiallyforneovascularage-relatedmac-ulardegeneration.RetinaC2017[Epubaheadofprint]3)FreundCKB,CKorobelnikCJF,CDevenyiCRCetCal:Treat-and-extendregimenswithanti-VEGFagentsinretinaldiseas-es:ACliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C20154)McKibbinCM,CDevonportCH,CGaleCRCetCal:A.iberceptCinwetAMDbeyondthe.rstyearoftreatment:recommen.dationsCbyCanCexpertCroundtableCpanel.CEye(Lond)C29:CS1-S11,C20155)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetCal:ACmodi.edCtreat-and-extendregimenofa.iberceptfortreatment-na.vepatientsCwithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Grae.fesArchClinExpOphthalmolC255:657-664,C2017(84)

緑内障:近視眼緑内障

2017年10月31日 火曜日

●連載208監修=岩田和雄山本哲也208.近視眼緑内障澤田有秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座近視は緑内障発症の危険因子であり,緑内障診療では近視症例を多く経験する.近視眼では視神経乳頭傾斜などの構造変化を認め,これが非近視眼にはない脆弱性を生じる原因となっている.近視眼緑内障では早期から中心視野が障害されることが多く,若年発症の傾向とあいまって,生活に支障をきたし,問題となることがある.C●緑内障リスクファクターとしての近視眼の特徴日本における近視の有病率は,近視を等価球面度数-1.0D以下とした場合,40歳以上の成人でC32.5%であり,これは欧米人においてC20%以下であるのと比較して高い割合となっている.近視は開放隅角緑内障(open-angleCglaucoma:OAG)発症のリスクファクターといわれており,近視とCOAGのオッズ比は,多治見スタデイにおいて弱度近視(>C-3.0D)でC1.65,中等度・強度近視(C.-3.0D)でC2.60であった1).近視眼では視神経乳頭とその周囲組織に特徴的な構造変化を生じる.それらは視神経乳頭の傾斜,耳側の広い乳頭周囲網脈絡膜萎縮(parapapillaryCatrophy:PPA),アーケード血管の黄斑への接近などである(図1).これらの構造変化は,近視化に伴う眼球の伸長により,視神経乳頭が耳側へ牽引されることにより生じる.緑内障眼における軸索障害は,視神経乳頭深部に位置する篩状板において生じることが示されているが,近視眼におけるこれらの視神経乳頭構造変化は篩状板にも影響を与えていることが推測され,近視性変化によって生じた篩状板組織の脆弱性が緑内障性ストレスに対する感受性を高めているものと考えられる.最近の臨床研究で,近視眼緑内障において,近視は等価球面度数や眼軸長の値ではなく,視神経乳頭傾斜とそれに伴う乳頭周囲組織の耳側への変位によって緑内障性視野障害の程度2),さらには進行速度3)に影響を与えることが示唆された.C●近視眼緑内障のOCT所見これらの特徴的な視神経乳頭周囲組織の構造変化から,近視眼緑内障では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見の解釈に注意を要する.一般(81)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1近視眼における視神経乳頭周囲の構造変化視神経乳頭傾斜,耳側の広範な乳頭周囲網脈絡膜萎縮,アーケード血管の黄斑への接近などの特徴的な変化がみられる.に近視眼では視神経乳頭周囲網膜神経線維層(circump.apillaryCretinalCnerveC.berClayer:cpRNFL)値は低く表示され,緑内障の偽陽性と判定されやすい.また,PPAが大きい場合,cpRNFLを測定するサークルがPPAに重なってしまい,その部分の網膜厚が測定できなくなることがある.そのような場合でも,近視性黄斑変化がなければ黄斑部の構造は保たれていることが多いため,黄斑部内層網膜複合体(ganglioncellcomplex:GCC)で上下の網膜厚の対称性を調べることで,緑内障診断を補助することができる.また,RNFLは耳側上下の血管アーケードに一致した膨大部を有するが,近視眼では膨大部が黄斑に近づくため,正常データベースとの比較ではこの部分が菲薄化していると判断され,偽陽性を生じやすく,注意が必要である(図2).あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C1419図2近視眼における神経線維層膨大部の黄斑側への偏位二峰性の神経線維膨大部がデータベースの正常範囲よりも黄斑寄りに偏位しているため,耳上側・耳下側の神経線維層厚は菲薄化していると判断され,ボーダーラインの診断となっている.図3近視眼緑内障における早期からの傍中心暗点52歳,男性,左眼.等価球面度数C-6.5D,眼軸長C26.16mm.Humphrey視野検査のCmeandeviationはC-3.50CdBであるが,傍中心暗点を認め,矯正視力は(0.6).書類を読むときに見ようとするところが見えないなど,仕事上の不自由をきたしている.●臨床的特徴と治療法近視眼緑内障の臨床的特徴として,比較的早期から中心視野が障害されやすいことがある(図3).緑内障眼では通常,Bjerrum領域の感度低下や鼻側階段が出現し,それらが拡大・融合して中心近傍へ障害が及ぶことが多いが,近視眼緑内障では早期から傍中心暗点が出現し,視力低下をきたす症例がある.これらの症例ではCOCTで乳頭黄斑線維束欠損が生じていることが多く,強度近視を伴う緑内障眼では早期から約C40%に乳頭黄斑線維束欠損を認めるという報告がある4).近視眼緑内障は非近視眼緑内障と比較して若年発症する傾向があり,活動性の高い若年者での視力低下は生活に支障をきたし,治療過程で問題となる.近視眼緑内障の治療は,非近視眼緑内障と同様に,まず薬物治療による眼圧下降を試みる.篩状板をはじめとする乳頭組織の脆弱性を考慮してより強力な眼圧下降を1420あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C必要とするという考え方もあるが,統一した見解は得られていない.点眼治療で十分な眼圧下降が得られないときは手術を考慮するが,近視眼では強膜が薄いため手術手技がややむずかしく,また,術後低眼圧になるリスクが高いことを知っておく必要がある.文献1)IwaseCA,CAraieCM,CTomidokoroCACetCal:PrevalenceCandCcausesCofClowCvisionCandCblindnessCinCaCJapaneseCadultpopulation:TheTajimiStudy.OphthalmologyC113:1354.1362,C20062)SawadaCY,CHangaiCM,CIshikawaCMCetCal:AssociationCofCmyopicCopticCdiscCdeformationCwithCvisualC.eldCdefectsCinpairedeyeswithopen-angleglaucoma:Across-sectionalstudy.PLoSOneC11:e0161961,C20163)SawadaCY,CHangaiCM,CIshikawaCMCetCal:AssociationCofCmyopicdeformationofopticdiscwithvisual.eldprogres.sionCinCpairedCeyesCwithCopen-angleCglaucoma.CPLoSCOneC12:e0170733,C20174)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetCal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau.coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C2012(82)

屈折矯正手術:エキシマレーザー治療的角膜切除術(PTK)の術後成績に影響する因子

2017年10月31日 火曜日

監修=木下茂●連載209大橋裕一坪田一男209.エキシマレーザー治療的角膜切除術中村葉稗田牧京都府立医科大学眼科(PTK)の術後成績に影響する因子遺伝性角膜疾患に対して行うエキシマレーザー治療的角膜切除術(PTK)は,視機能向上の得られる有効な治療法である.疾患別の再発率の違いや術後の遠視化,レーザー照射による角膜形状変化,とくにブロードビーム形式時のセントラルアイランドの発生などを考慮のうえ,適切な時期に適切な術式で治療を行うことが大切である.●はじめにエキシマレーザー治療的角膜切除術(phototherapeu-ticCkeratectomy:PTK)は,角膜表層からC150C.m以内に存在する沈着物や変性組織などを除去することによって,視機能向上をめざす手術方法である.適応となる疾患で頻度が高いのは顆粒状角膜ジストロフィ(granularcornealCdystrophy:GCD)と帯状角膜変性(band-shapedCkeratopathy:BSK)で,それ以外に再発性角膜上皮びらん,ブレブによって痛みの生じている水疱性角膜症,限局性アミロイド沈着などもある.角膜ジストロフィとCBSKについてはC2010年より国内で保険収載されており,広く行われている.今回は頻度の高いCBSKとCGCDのC2疾患について述べる.C●PTKの術後成績に関連する因子PTK術後成績に関連する因子として,原疾患による差異,屈折度数の変化,レーザーの切除方式の差異などがあげられる.長期でみた術後経過は疾患によって違いがあり,BSKはほぼ再発しないが,GCDはゆっくりと再発する.まれな疾患ではあるが,GCDのホモ接合体症例では混濁図1顆粒状角膜ジストロフィ(GCD)の2症例a:GCDタイプC2のホモ症例(32歳,男性).視力C0.02(0.04C×S-2.50).b:GCDタイプC2のヘテロ症例(46歳,男性).視力C0.5(矯正不能).Cの発症がC5.6歳と低年齢であり,再発はC1年以内と早期に起こる1)(図1a).GCDのタイプ別頻度としてもっとも多いタイプC2ヘテロ症例の場合(図1b),混濁による羞明感や視力低下などの自覚症状が出るのは中年期以降であり,通常CPTK術後に視力低下を伴う臨床的再発が起こるまでにはC10年程度かかることがわかっている.BSKの症例(図2a,b)では,原因となっている腎障害やぶどう膜炎など疾患の病状が安定していれば,再発する率は少ない.術後早期経過に関連する因子としては,レーザー照射による遠視化および不正乱視の発生があげられる.スリット方式では中央部の照射が強く,術後に遠視化を生じるので,通常のCPTKに遠視矯正を加えて切除し,良好な成績の報告もある2).ブロードビーム方式の場合,照射面中央の一部の切除深度が浅くなるセントラルアイランドという不正乱視を生じる場合があり,矯正視力やコントラスト感度の低下など視機能低下につながる3)(図2c).中央部を十分に切除するため近視切除モードのみで切除すればセントラルアイランドは抑制できるが,近視矯正効果のため強い遠視化が生じることは避けられない.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14170910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2帯状角膜変性症例(80歳,男性,ブロードビーム方式照射.0.5D近視モード切除)a:術前の前眼部写真.視力はC0.5(0.7C×S+1.25(C-1.0DCAx60°).b:術後4カ月の前眼部写真.混濁は消失しており,明るくなったとの自覚はあるが,視力はC0.1(0.2C×S+0.50(C-1.50DAx50°).c:術後C4カ月の前眼部形状(前眼部形状解析装置CTMSによる).中央部に突出した形状となり,セントラルアイランドを生じている.小さい正円形(白線)が直径C2Cmmの範囲,大きい円(黒線)は瞳孔径を示している.●ブロードビーム方式のPTK当院で行ったCBSKおよびCGCDヘテロ症例に対するブロードビーム方式(StarS4CIRC.,CAbbott社)のCPTK術後成績について検討した.セントラルアイランドの定義は前眼部形状解析装置CTMS(トーメー社製)にて突出部中央C2Cmm以上,同系色部分から切除面最周辺部の屈折度がC3Dより大きい変化である場合にセントラルアイランドと定義した(図2c).図2の症例のようにメーカーの推奨設定である近視切除-0.5Dを加えて上皮切除を行う方法ではセントラルアイランドの出現頻度が高かったため,近視切除をC-2.0Dに変更したところ,かなり頻度は減少した.近視切除モードC-2.0Dの場合,屈折度の術前後変化はCBSKではC-0.84±1.68Dと軽度の近視傾向に,GCDではC2.31C±4.60Dと遠視化が生じていた.BSKではカルシウムが沈着した混濁部は切除効率が悪く,混濁していない周辺部ほどは切除されないことによって,近視切除モードを追加したにもかかわらず,術後の近視化を生じたものと考えられる.BSKでは近視モードでの切除を-2.0D程度,もしくはそれ以上に設定したほうがよいかもしれない.一方CGCDの場合は,近視切除モードの増加に伴い術後の遠視化が著明となる.ブロードビーム方式のCPTKに生じるセントラルアイランドを予防するために,PTKに中央の切除深度を深くする近視矯正モードを加えて混濁を除去する方法がよいと考えられる.近視切除のCPRK(photorefractive1418あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017Ckeratectomy)モードのみで行う方法では,術前すでに白内障が生じている症例であれば術後白内障手術によって遠視を減少させることができるため問題ない4)が,白内障がまだ生じていない症例や眼内レンズ眼,若年のため再発が懸念される症例では強い遠視化が問題となる.手術時年齢,術前の屈折度数などを考慮のうえ,患者の生涯にわたるCqualityofvisionを見据えての術式選択が必要である.C●おわりにPTKの術後成績は,疾患のタイプ,レーザー照射の方式により左右されるため,疾患の再発率やCPTKの術後経過などを十分に理解したうえで術式選択を行うことが大切である.文献1)MoonCJW,CKimCSW,CKimCTICetCal:HomozygousCgranularcornealCdystrophyCtypeCII(AvellinoCcornealCdystrophy):CnaturalChistoryCandCprogressionCafterCtreatment.CCorneaC26:1095-1100,C20072)AmanoCS,CKashiwabuchiCK,CSakisakaCTCetCal:E.cacyCofChyperopicCphotorefractiveCkeratectomyCsimultaneouslyCperformedCwithCphototherapeuticCkeratectomyCforCdecreasinghyperopicshift.CorneaC35:1069-1072,C20163)HashimotoCA,CKamiyaCK,CShimizuCKCetCal:Centralislands:rateCandCe.ectConCvisualCrecoveryCafterCphoto-therapeuticCkeratectomy.CJpnCJCOphthalmolC59:409-414,C20154)OyaF,SomaT,OieYetal:OutcomesofphotorefractivekeratectomyCinsteadCofCphototherapeuticCkeratectomyCforCpatientsCwithCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2.CGraefesCArchClinExpOphthalmol254:1999-2004,C2016(80)C

眼内レンズ:眼内レンズインジェクターを用いた水晶体残留物除去

2017年10月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋371.眼内レンズインジェクターを用いた山川百李子秋元正行大阪赤十字病院眼科水晶体残留物除去水晶体.破.時の残留核片,眼内レンズ摘出時のSoemmering’sringなどを除去する際,従来の方法では切開創の拡大や,多量の粘弾性物質(OVD)を必要とする.眼内レンズインジェクターで自己閉鎖創の開口を確保することで,OVDの使用総量を減らし,切開創を大きく広げず,残留物の接触による侵襲から創部や角膜内皮を保護しつつ容易に取り出すことができた.●はじめに手術手技の発展により,白内障手術は小切開・極小切開などの小さな自己閉鎖切開創から行われるようになった.しかし,破.時の残留核片や眼内レンズ交換時のSoemmering’sringなどの前房内残留物の除去については,鑷子での除去が困難であるため,切開創を拡大し,粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)を多量に注入することで眼内圧を上昇させ娩出する方法が主流である.輪匙を使用する場合も,切開創付近で硝子体腔に落ちかけている核の処理は困難であり,切開創を拡大しなければ娩出時に自己閉鎖切開創に摘出物が接触し,創部や角膜内皮への侵襲がある.筆者らは,前房内異物を除去に際して,眼内レンズインジェクターを用いた方法を考案した.眼内レンズインジェクターで切開創の開口を確保することで,前房内異物を容易に眼外へ除去することができた.この方法は,残留核やSoemmering’sringなどの前房内残留物の除去においても応用可能と考えて実施した.●症例1:21歳,男性先天白内障にて経毛様体扁平部水晶体切除術が施行された無水晶体眼.虹彩炎と高眼圧発作を繰り返すようになり,虹彩裏面に残存した水晶体に起因するぶどう膜炎が疑われ手術した.残留水晶体は石灰化が非常に強く,毛様体に癒着しており,硝子体カッターでの切除は困難であった(図1a).眼内レンズインジェクターを3mm強角膜輪部一面切開創部より挿入し,ヘラのように使用して残留片の一部を内腔に収め除去した(図1b).落下した石灰化小片は,硝子体カッターで吸引捕獲して前房まで挙上し,改めて挿入したインジェクターを介して除去した(図1c).●症例2:74歳,女性落屑を有する核硬化III度の白内障.術中,超音波乳化吸引中に後.破損し3/4以上の核片が前房内に残った.角膜ポートより粘弾性物質を充.し,残留核片を中央部にできるだけ移動させた.2.4mm切開創からアルコン図1症例1石灰化したSoemmering.sring除去a:過去の経毛様体扁平部水晶体切除術の手術創近くに膨化・石灰化した残留水晶体を認めた.b:灌流下でインジェクターをヘラのように利用して内腔に収めた.c:硝子体カッターで吸引した核片を前房まで挙上し,インジェクターを介して除去した.(77)あたらしい眼科Vol.34,No.10,201714150910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2症例2破.時の残存核処理a:AlconのDカートリッジを挿入,スパーテルで核を破砕しながら粘弾性物質を利用して核を除去した.b:興和のメドショットで核片をすくうように内腔に収めた.のDカートリッジを挿入.スパーテルと双手で核を破砕し,内腔に収めていった(図2a).次に切開創を3.0mmに拡大.開口部が大きい興和のメドショットを使用し,OVDとともに除去した(図2b).●症例3:43歳,男性2回の網膜.離術後の眼内レンズ脱臼症例.眼内レンズを.ごと半切し,3mm切開創から眼内レンズを摘出した.Soemmering’sringは眼内に残った.灌流下にインジェクターを挿入し(図3a),スパーテルで誘引,除去した(図3b).●おわりに眼内レンズインジェクターを挿入して自己閉鎖創の開口を確保することで,灌流下で,あるいはOVDを注入図3症例3Soemmering.sring除去a:眼内レンズ摘出後,灌流下にSoemmering’sringをインジェクター内に収めた.b:摘出したSoemmering’sring.しながら,大きな核片やSoemmering’sringを除去することができた.眼内レンズインジェクターは,多くの施設で比較的容易に手に入る器具であり,その使用方法も簡便である.筆者らは本法をremnantextractionbylensinjectorwithessential.ow(RELIEF)法と名付けた.RELIEF法は,自己閉鎖創を温存したまま,眼内残留物を静的に除去できる有用な手技であると考える.文献1)IshiK,NakanishiM,AkimotoM:Removalofintracamer.almetallicforeignbodybyencapsulationwithanintraocu.larlensinjector.JCataractRefractSurg41:2605-2608,20152)YamakawaM,KusakaM,AkimotoM:Remnantextrac.tionbyusinganintraocularlensinjectorwithessential.ow.EurJOphthalmol27:509-511,2017

コンタクトレンズ:乱視眼のコンタクトレンズ処方の実際

2017年10月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩.症例からみるCL処方.監修/下村嘉一36.乱視眼のコンタクトレンズ処方の実際糸井素純道玄坂糸井眼科医院●はじめに乱視とひとくちにいっても正乱視(直乱視,倒乱視),不正乱視,さらには角膜由来の乱視,水晶体由来の乱視に分けることができ,それぞれコンタクトレンズ(CL)の選択は異なる.また乱視を正確に評価するためには,検査当日,まったくCLを装用していない状態で評価することが望ましい.CL装用はハードコンタクトレンズ(HCL)のみならず,ソフトコンタクトレンズ(SCL)でも顕著な角膜変形(図1,2)を招くことがあり,正確な乱視の評価ができないことがある.本稿では1.00D以上の正乱視眼に対するCL処方について,それぞれのパターン別に解説する.●高度角膜乱視に伴う3D以上の直乱視日本では1日使い捨て乱視用SCLは乱視度-0.75.-2.25D,2週間交換乱視用SCLは乱視度-0.75.-2.75Dのものが流通している.ただし,-2.25D,-2.75Dの乱視度をもつ乱視用SCLは限定されており,たとえ3D未満の直乱視であっても,フィッティングなどの問題で乱視用SCLの処方を断念せざるをえないこともある.また乱視用SCLは球面SCLに比較してレンズ厚が厚く,とくに乱視度が強くなるとその傾向は顕著となる(図3).したがって,低含水性の素材の従来型乱視用SCLは角膜菲薄化,角膜内皮障害などの慢性酸素不足の症状を招きやすいので,常用レンズとしては処方していない.高度角膜乱視に伴う3D以上の直乱視に対するCLの第一選択はHCLとなる.角膜の乱視度が強く,レンズのセンタリングが不安定となるケースでは,乱視用HCL(バイトーリック,あるいは後面トーリック)も選択肢となるが,筆者は球面HCLのレンズ前面に溝(MZ)加工(図4)を施すことによって安定したセンタリングを得ている.HCL特有の異物感で装用が困難な場合は,球面SCLの上にHCLを処方するpiggybacksystemもよい適応となる.●1.00.2.75Dの直乱視HCL,乱視用SCL(1日使い捨て,2週間交換)のよい適応となる.筆者は近視度が強い眼に対しては,眼への酸素供給や装用時間が長くなることも考慮してHCL図1ハードコンタクトレンズ装用者にみられた角膜変形図21日使い捨てハイドロゲルコンタクトレンズ(含水率58%)装用者にみられた角膜変形(75)あたらしい眼科Vol.34,No.10,201714130910-1810/17/\100/頁/JCOPY図32週間交換乱視用ハイドロゲルコンタクトレンズ(含水率66%)の断面図下方が上方に比較してレンズ厚が厚くなっている.図4レンズ前面周辺部の溝加工(MZ加工)図5ソフトコンタクトレンズの長期この加工で上眼瞼によるハードコンタクトレン装用者にみられたバタフライタズ保持がされやすくなり,レンズの安定性が向イプの中等度円錐角膜上する.を,近視度が弱い眼に対しては乱視用SCLを第一選択としている.またoccasionaluse目的の装用者に対しては一日使い捨て乱視用SCLが第一選択となる.HCL特有の異物感の解消には常用することが大原則であり,occasionaluseには適さない.また2週間交換SCLのoccasionaluseでは,レンズケース内での微生物汚染の可能性が高くなる.●高度角膜乱視に伴う3D以上の倒乱視このようなケースで角膜形態異常を伴わない正乱視を経験することはまれである.角膜形状解析を実施すると,バタフライタイプの円錐角膜(図5)やペルーシド角膜辺縁変性であることが多い.CLの選択はHCLとなる.角膜の乱視度が強く,センタリングが不安定となるケースでは,前述したように球面HCLのレンズ前面に溝(MZ)加工(図4)を施す.HCL特有の異物感で装用が困難な場合は,前述したpiggybacksystemもよい適応となる.InstantaneousRadius表示.●1.25.2.75Dの倒乱視水晶体由来の乱視が倒乱視の主体となっているケースで多い.乱視用SCLのよい適応である.球面HCLで矯正しても水晶体由来の乱視は矯正できないため,良好な矯正視力を得ることはまずできない.理論的には前面トーリックのHCLで矯正することが可能であるが,レンズのフィッティングがむずかしく,処方の成功率が低いため,筆者は処方することを控えている.現在,酸素透過性の高いさまざまな1日使い捨て乱視用SCL,2週間交換乱視用SCLが登場しているので,それらを処方している.ただし,倒乱視眼は直乱視眼に比べて角膜乱視が少ないために,乱視用SCLの軸ずれを起こすことが多いので注意が必要である.乱視用SCLを処方する際には,必ずセンタリングとレンズの軸ずれの有無を確認し,必要に応じて軸補正を行う必要がある.ZS986

写真:特徴的な角膜後面沈着物を認める眼内リンパ腫

2017年10月31日 火曜日

写真セミナー監修/島.潤横井則彦401.特徴的な角膜後面沈着物を認める永田健児京都府立医科大学視覚機能再生外科学講座眼内リンパ腫図2図1のシェーマ図1特徴的な角膜後面沈着物大小不同の角膜後面沈着物を認め,大きなものの辺縁は不整である.図3前部硝子体細胞図4本症例の眼底写真多くの大きな前部硝子体細胞をびまん性に認めた.硝子体混濁を認めるが,網膜には病巣を認めなかった.(73)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14110910-1810/17/\100/頁/JCOPY眼内リンパ腫は高率に中枢神経系病変を合併し,致死的疾患であるため,眼所見から眼内リンパ腫が疑われる場合は早期に硝子体生検を行い,採取した硝子体や灌流液の解析を行う必要がある.リンパ腫では通常,組織を採取して組織診を行うが,眼内リンパ腫では組織診を行うのはむずかしいことが多く,細胞診と種々の補助検査を行って総合的に診断する.細胞診のほかには,サイトカイン解析や遺伝子再構成の検討,フローサイトメトリー解析,セルブロックでの解析などの方法がある.とくに判定の容易さや感度が高いことからサイトカイン解析が広く行われており,インターロイキン(IL)-10の濃度がC100Cgp/ml以上の場合や,IL-6の濃度より高い場合には,眼内リンパ腫の可能性が高いとされている1,2).眼内リンパ腫は仮面症候群と称されるように,ぶどう膜炎との鑑別がむずかしい場合があり,その特徴的所見を把握しておくことが重要である.一般的には硝子体混濁や網膜下浸潤病巣が特徴的で,硝子体混濁の性状はびまん性,オーロラ状あるいはベール状と称される.また,眼内リンパ腫の大半はびまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫であり,眼内にみられる腫瘍細胞はぶどう膜炎でおもにみられるCTリンパ球より大きな細胞であることも特徴の一つである.角膜後面沈着物は種々のぶどう膜炎でみられるが,大きさや色調,その配列などから原因疾患の鑑別に役立てられる.たとえば,大きな豚脂様角膜後面沈着物が認められれば,サルコイドーシスやCVogt-小柳-原田病をはじめとする肉芽腫性ぶどう膜炎が考えられ,色素に富んで整然と配列していれば,ヘルペス性虹彩炎を疑うことになる.眼内リンパ腫における角膜後面沈着物の特徴は大小不同で辺縁が不整とされるが,この特徴はあまり認識されていない.筆者は辺縁部が棘状の角膜後面沈着物を伴った眼内リンパ腫の症例を経験した(図1,2).本症例はぶどう膜炎として近医でフォローされていたが,びまん性硝子体混濁を伴い,前部硝子体にみられた細胞は一般的なぶどう膜炎と比較して大きな細胞であった(図3).眼底は強度近視であったが,網膜内や網膜下にはとくに病巣を認めなかった(図4).角膜後面沈着物の性状から眼内リンパ腫を疑い,硝子体生検を行ったところ,IL-10が376.0Cpg/ml,IL-6がC63.2Cpg/mlとCIL-10が高値であり,細胞診ではCclassCVであった.フローサイトメトリー解析でも汎CBリンパ球抗原であるCCD19およびCD20を発現し,免疫グロブリンCk鎖の軽鎖制限を認める細胞群が認められ,B細胞性リンパ腫と診断した.このように眼内リンパ腫の特徴的眼所見を認めた場合は,積極的に手術を行って診断することが重要である.文献1)SugitaS,TakaseH,SugamotoYetal:Diagnosisofintra-ocularClymphomaCbyCpolymeraseCchainCreactionCanalysisCandcytokinepro.lingofthevitreous.uid.JpnJOphthal.molC53:209-214,C20092)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoCHCetCal;JapaneseCIntraocularLymphomaCStudyCG:ClinicalCfeaturesCandCdiagnosticCsigni.canceCofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma.CJpnCJCOphthalmolC56:383-389,C2012C