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眼内レンズ:眼内レンズ切断剪刀

2017年9月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋370.眼内レンズ切断剪刀下分章裕しもわけ眼科フォーダブル眼内レンズ(IOL)を眼内で安全に切断できるよう工夫された眼内レンズ切断剪刀(ASICO社,Duckworth&Kent社)を紹介する.眼内の操作を安全にできるように眼内レンズ切断剪刀の刃先がティアードロップ状になっている.IOLを前房内で切断する際,創口より粘弾性物質が流出し後.が挙上しても破.しにくく,有用である.●IOL2分割よりも3分割がよい理由白内障手術時にインジェクタートラブルなどで,フォーダブル眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が破損しIOLを摘出しないといけない場合がある.また,白内障術後にもIOL屈折誤差,偏位などでIOLを交換する場合もある.小切開創からIOLを取り出す場合は2分割して摘出するのが一般的であったが,この場合,眼内での操作が困難で角膜内皮障害をきたしやすく,また図1IOL2分割法2分割法は切断距離が長く,中央のもっとも厚い部分を切らないといけない.若干創口を広げる必要があった.2分割がむずかしくなる原因はIOLの一番分厚い部分を切り,またIOLの直径部分のもっとも長い部位を切る必要があるからである(図1).また,剪刀の先端は切れにくい.2分割の場合は剪刀先端部を使うことになり,さらにむずかしくなる.対策としては分割数を3分割に増やすのがよい.3分割ならIOL中央の分厚い部分を切らずにすみ,切断する長さも短くなり眼内操作が簡便となる(図2).Shi-mowake式眼内剪刀(ASICO社,Duckworth&Kent社)は刃先が細く,前房内での操作がやりやすくなっている.また,先端がティアードロップ状になっているので,創口より粘弾性物質が流出し後.が挙上しても,破.しにくいようにデザインされている(図3).眼内への挿入もスムーズに行うことができる.眼内では虹彩面に平行に刃先が開閉し,浅前房でも操作しやすく,角膜内面や後.を傷つけにくい.●IOL3分割の手順Shimowake式眼内剪刀を用いたIOL3分割の手順は次のとおりである(図4).図2IOL3分割法3分割法は切断距離が短く,薄い部分を切る.図3Shimowake式眼内剪刀(ASICO社,Duck-worth&Kent社)とその先端形状(67)あたらしい眼科Vol.34,No.9,201712790910-1810/17/\100/頁/JCOPY図4IOL3分割法の手順①IOLの手前のハプティックスを創口から引き出す.②左側の1/3を切断する.③断片を摘出する.④残りのIOL.⑤IOLを180°回転させ,残りのハプティクスを創口から出す.⑥残りの光学部が台形になるように切断する.⑦両端を切り落とした中央部の光学部.⑧取り出しやすいように回転させ,残りのIOLを摘出する.①前房に粘弾性物質を満たし,眼内のIOLを前房へ引き出す.②IOLの手前のハプティックスを創口から引き出だし,ハプティックスを鑷子で牽引してIOLを固定する.③固定されたIOLの左側の1/3を剪刀で切断し,摘出する.④残りのIOLを眼内で180°回転させ,残りのハプティクスに対しても同様の操作を行う.できれば,取り出だしやすいように中央部の残りの光学部は台形に切断する.⑤取り出しやすいよう眼内で回転させ,残りの中央部を摘出する.●おわりにIOLの固定は眼外へ出ているハプティクスを引っ張ることによって確実にでき,また切る距離が短いので剪刀の根元で確実にIOLを切断することができる.3分割法は2分割法に比べ手順が多くなるが,各ステップが容易であるのがメリットである.IOLのハプティックスが破損している場合は,サイドポートから入るIOL把持鑷子でIOLを固定することにより,IOL切断は容易にできる.また,この剪刀は超音波水晶体乳化吸引術時に核が皿状に残って困った場合にも応用可能である.粘弾性物質を前房に入れ,皿状の核を前房内へ脱臼させ,核片を剪刀にて細かく切断し処理する.ほかにも通常の虹彩剪刀・前.剪刀と同様に使用することができ,汎用性があり有用である.文献1)江口秀一郎:眼内レンズ交換1.IOL&RS25:183-189,20112)郡司久人,新井香太,伊藤義徳ほか:小切開から摘出可能な新しい眼内レンズ切断法.眼科手術23:603-607,20103)溝手秀秋:2.5mm創口からの簡便な眼内レンズ摘出方法.あたらしい眼科33:1157-1157,2016

コンタクトレンズ:花粉症とコンタクトレンズ

2017年9月30日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一35.花粉症とコンタクトレンズ●はじめにわが国における花粉症の有病率は2008年度で全国民の29.8%,スギ花粉症のみでも26.5%である(鼻アレルギー診療ガイドライン2013年版).また,スギ花粉症の年齢層別有病率もコンタクトレンズ(CL)装用者が多い20,30,40歳代で31.3%,35.5%,39.1%と高値であり,多くのCL装用者がスギ花粉飛散期には花粉性結膜炎に罹患しながらCLを装用していることになる.CLは花粉性結膜炎の症状や所見を悪化させる.その理由として,CLと炎症を起こしている結膜上皮層との接触により結膜上皮層のバリアーがさらに低下し,抗原が肥満細胞が多く常在する結膜固有層に侵入し,肥満細胞の脱顆粒を誘導しアレルギー反応が増悪する.また,通常は結膜.内に飛入した花粉抗原は涙液中の分泌型ムチンや分泌型IgAによってトラップされ,涙液とともに洗い流されて(washout)しまう.しかし,CLに花粉が吸着したりCL装用により涙液量が変化し相対的ドライアイになったりすると,花粉のwashoutができなくなり,花粉抗原が結膜.内に長時間貯留することになり,アレルギー反応が起こりやすくなる.以上のことを考えると,花粉症の時期にはCL装用を中止するのが理想だが,色々な社会的・個人的なニーズによってCL装用を継続しなくてはならない症例がほとんどだと思う.本稿では,花粉飛散期のCL装用で注意する点について述べる.●CL関連乳頭性結膜炎との関連CL装用によって惹起されるアレルギー性結膜炎をCL関連乳頭性結膜炎(contactlensrelatedpapillaryconjunctivitis)といい,上眼瞼結膜に巨大乳頭(直径1mm以上)を認める場合は巨大乳頭性結膜炎(giantpapillaryconjunctivitis:GPC)という.上眼瞼結膜の乳頭増殖の範囲や乳頭の大きさは,CLと上眼瞼結膜上皮層との接触の面積や強さによって拡大,増大していく.GPCの成因については未だ明確なものはないが,(65)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY海老原伸行順天堂大学医学部附属浦安病院眼科図1花粉性結膜炎とCLPCとの合併症例その個体のもっているアレルギー体質と,CLと結膜上皮層との接触(摩擦)が影響していると考えられている.花粉性結膜炎患者がCLを装用したからといって必ずGPCになるわけではないが,その頻度はアレルギー性結膜炎のない症例より高くなる(図1).●花粉飛散時のCLの装用・選択重症例,軽~中等症例でも花粉飛散極期にステロイド点眼液が必要な患者ではCL装用を中止する.またはCL装用時間をできるだけ短縮する.装用するソフトコンタクトレンズ(SCL)の種類を2週間または1カ月交換SCLから,1日交換(1day)SCLに変更する.そして,なるべく表面が滑らかで摩擦の少ないSCLを選択するのがよい(ex:ワンデーアキュビューRモイストRワンデーアキュビューR,トゥルーアイR).なぜなら,,結膜上皮層とSCLとの過剰な接触は結膜上皮細胞に対し過剰なストレスを与え,アラーミン分子またはDAMPS(damageassociatedmolecularpatterns)を放出させ,アレルギー反応を惹起する可能性があるからである.また,結膜.内で可動が大きいフィッティングだと,より摩擦が強く出るので,適正なフィッティングが必要である.あたらしい眼科Vol.34,No.9,20171277表1花粉症患者のCL装用・選択表2花粉症患者のCL装用眼の抗アレルギー点眼液の選択●CL装用時の抗アレルギー点眼液の選択中~重症の花粉性結膜炎を罹患しているCL装用者は,原則として花粉飛散極期にはCL装用を中止する,またはCLの装用時間を短縮する.しかし軽症,中等症であっても職業上CL装用を中止できない場合には,抗アレルギー点眼液を使用しながらCL装用を継続する.その場合,抗アレルギー点眼液の選択が重要である(表2).中性な点眼液,塩化ベンザルコニウム(BAK)フリーな点眼液,懸濁していない点眼液を選択する.CLは種類によってBAKの吸着率,徐放率が異なるが,調べられているCLの種類は少ない.BAKフリーの抗アレルギー点眼液にはゼペリンR(防腐剤:クロロブタノール),アレジオンR(防腐剤:ホウ酸),ユニットドーズのインタールR,点眼瓶がPFデラミ容器(0.22μmメンブレンフィルター)になっているトラメラスRPF点眼液や後発品のクモロールR(インタールR)PF,ケトチフェンR(ザジテンR)PF点眼液がある.また,抗アレルギー点眼液には酸性,中性,アルカリ性のものがある.中性の点眼液にはアレジオンR,パタノールR,リザベンR,ゼペリンRなどがあり,酸性の点眼液にはインタールR,ザジテンRなどがある.一部のSCLでは酸性点眼液でベースカーブに影響が出るとの報告もあり,中性点眼液を選択すべきである.また,多くの抗アレルギー点眼液の使用回数は4回/日だが,CLの装用前後の2回/日でも効果を発現するアレギサールRもよい.一方,SCLの種類にも注意が必要で,1カ月~2週間交換タイプのSCLでは上記で示した中性,BAKフリー,懸濁していない抗アレルギー点眼液を選択したほうがよいが,1日交換SCLではあまり気にしなくてもよいと思われる.逆にSCLに点眼液の主成分がトラップされて徐放し,効果が増強する.以前,抗アレルギー点眼液の主成分を含有し徐放する花粉性結膜炎患者用のSCLの開発が考えられたが,いまだ実現に至っていない.ZS985

写真:Posterior corneal vesicles

2017年9月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦400.Posteriorcornealvesicles細谷比左志JCHO神戸中央病院眼科図1Posteriorcornealvesiclesのスペキュラー写真水疱病変とそれに連続する帯状病変がみられる.図2図1のシェーマ図3帯状病変の先端近くにある水疱病変数個の水疱病変が集まり,全体がやや混濁した病変で囲まれている(C..).この部位がはっきりとスペキュラー写真(図C1)でとらえられている.図4接触型広角内皮スペキュラー顕微鏡のコーンレンズ部今回使用したセルチェックCCのコーンレンズ部(C..).患者角膜に接する部分である.(63)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C12750910-1810/17/\100/頁/JCOPYPosteriorcornealvesiclesは,Pardosら1)により最初に報告された片眼の角膜内皮側に水疱や帯状病変がみられる疾患2)で,家族歴はないものをいう.今回呈示した症例(図1~3)は,その水疱病変と帯状病変の両方がみられる症例である.水疱病変は数個の水疱からなり,その周囲はChaloとよばれるやや混濁した病変で囲まれるという特徴がある.また,帯状病変はCDes-cemet膜を引っ張って裂け目を作ったような形状で,その辺縁はやや鋸歯状を呈している.進行はしない.内皮細胞数の減少がみられることも多く,経過に注意が必要である.水疱病変がみられる疾患で鑑別すべきものとしては,後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorCpolymorphouscornealCdystrophy:PPCD)がある.PPCD3~5)は両眼性で家族歴もみられる.また,角膜内皮細胞に上皮細胞様の変化がみられる.このあたりはコンフォーカル顕微鏡で観察をすると明確である.今回の症例は片眼性で家族歴がなく,内皮細胞の上皮様変化がない点でCPPCDと鑑別できる.角膜内皮側に帯状病変がみられるほかの疾患としては,先天緑内障のCHaabC’sCstriae,鉗子分娩によるCbirthinjuryがあるが,本症例にはそれらの既往がない.今回の症例の観察に使用した接触型広角スキャンニング内皮スペキュラー顕微鏡「セルチェックCC(CellChekC)」(コーナン・メディカル.図4)6)は,このような内皮病変のある疾患の観察に非常に優れる.病変のある部位まで観察用のコーンレンズを動かすことができ,角膜の任意の部位の観察ができる.しかもその画像は非常に鮮明である.記録は動画による記録であるが,解析をするために静止画像を取り出すことも簡単である.その場合,複数の静止画像を図1のように並べて連続的に貼り合わせ,パノラマ画像を作成することも容易である.以前のフィルム式の接触型内皮顕微鏡では,多くの枚数の写真を焼き付け,それを切り貼りしてパノラマ像を作成する必要があり,大変な努力と根気が必要であった.しかしセルチェックCCでは,それらの作業がいとも簡単にできるという特徴がある.また,セルチェックCCはその観察原理にコンフォーカルに準じた光学原理を使用しているため,角膜上皮から上皮下,実質,内皮と角膜の任意の深さの部位の観察が可能である.一方,現在普及している内皮スペキュラー顕微鏡は非接触型であり,角膜の任意の部位の撮影はできない.また,その撮影範囲は狭い.セルチェックCCは今後,もっと普及していくと思われる.文献1)PardosCGJ,CKrachmerCJH,CMannisCMJ:PosteriorCcornealCvesicles.ArchCOphthalmol99:1573-1577,C19812)HaradaT,TanakaH,IkemaTetal:SpecularmicroscopicobservationCofCposteriorCcornealCvesicles.COphthalmologicaC201:122-127,C19903)KoeppeCL:KlinischeCBeobachtungenCmitCderCNernst-spaltlampeCundCdemCHornhautmikroskop.CGraefe’sCArchCKlinExpOphthalmol91:375-379,C19164)WeisenthalCRW,CStreetenCBW:PosteriorCpolymorphouscornealCdystrophy.CChapterC73:DescemetC’sCmembraneandCendothelialCdystrophies.CIn:Cornea,C3rdCedition,Cvol-umeone,Fundamentals,diagnosisandmanagement(edit-edCbyCKrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandCEJ)C,Cp845-853,CMosbyElsevier,20115)細谷比左志:11.後部多形性角膜ジストロフィ.角膜ジストロフィ・角膜変性(村上晶・真島行彦・水流忠彦編),NewMook眼科10,p94-99,金原出版,20056)細谷比左志,白石敦:片眼内皮側に水平方向の帯状病変のある症例の接触型内皮スペキュラー顕微鏡による観察.角膜カンファランスC2017抄録集,p74

眼内動態学入門:点眼された薬物の眼内移行性とその限界

2017年9月30日 土曜日

眼内動態学入門:点眼された薬物の眼内移行性とその限界IntroductiontoOcularPharmacokinetics:OcularDrugPermeationandPermeationLimit河津剛一*はじめに薬物を静脈内投与,あるいは経口投与など全身適用後の全血から眼内組織への薬物移行は,眼組織における生体膜透過バリアである血液.眼房水関門および血液.網膜関門により制限されており,その移行は非常に低いことが知られている.眼科領域,とくに外眼部あるいは前眼部疾患における薬物療法では,簡便かつ安全性の高い点眼薬がもっとも広く使用され,治療薬は主として角膜上,あるいは結膜.内に点眼投与される.眼内へは角膜および結膜を透過し移行するが,角膜が主要経路であり,薬物の眼内移行率は最大でも投与量に対して約C5%である.眼内移行性の良否は,点眼薬の開発に際してもっとも重要な項目の一つであり,薬物の角膜透過性を把握することが重要となる.薬物の角膜透過過程でのおもな透過バリアは角膜上皮細胞であり,細胞間にはタイトジャンクションが存在し,薬物の透過に対してのバリア機能となる.本稿では点眼された薬物の眼内動態(ocularpharma-cokinetics:PK,眼組織での吸収・分布・代謝・排泄)に関して,その評価法,影響を与える因子,薬理作用との関係などについて概説する.CI眼内動態の評価法薬物の角膜透過性,あるいは眼内動態を評価する実験系として,おもにウサギなどの動物を用いた点眼試験がある(inCvivo試験).動物実験において,角膜・房水などの眼組織中濃度推移は,涙液や房水,あるいは鼻腔への薬物消失などの影響を受け,複雑な眼内動態が複合的に現れる.表1にウサギとヒトでの薬物の眼内動態に影響する解剖学的および生理学的パラメータを示す1,2).ウサギとヒトでは眼内移行に影響する多くの解剖学的および生理学的パラメータが類似していることから,薬物の眼内動態の評価モデルとしてはウサギが汎用される.一方で,瞬目回数は,ウサギでC4~5回/時,ヒトでC6~15回/分と異なっている.ウサギでは瞬目回数が少ないことから,薬物の眼表面における滞留性が増加すると考えられ,点眼する点眼液の製剤処方内容によって,ウサギとヒトでの眼内動態の違いに留意する必要がある.点眼薬の研究開発では,眼内動態の評価のみならず,全身組織での薬物動態の評価が必要であり,製造販売承認申請にかかわる動態試験では,ウサギ以外の動物を使用することもある.たとえば,緑内障・高眼圧症治療薬タプロスCR点眼薬C0.0015%の研究開発では,非臨床安全性試験・非臨床薬効薬理試験に対して有益な情報を得るため,ラットおよびカニクイザルを用い詳細な眼内および全身動態を検証している3,4).動物実験に対して,inCvitro実験として,実験条件の設定(温度,薬物処理など)が簡便に行え,膜透過性の詳細な検討に適している摘出角膜透過実験法(ウサギ),角膜上皮細胞培養系(ウサギ,ヒト)が知られている5).これらの方法では,組織,細胞を生理的な状態に保つことや,薬物自体あるいは使用する緩衝液中の添加物が組*KouichiKawazu:参天製薬株式会社奈良研究開発センター〔別刷請求先〕河津剛一:〒630-0101奈良県生駒市高山町C8916-16参天製薬株式会社奈良研究開発センター0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(57)C1269表1ウサギとヒトでの眼内動態に影響する因子の違い1,2)生理学的因子および角膜構造ウサギヒト涙液の容量(CμL)涙液のターンオバー速度(CμL/min)瞬目回数涙点の数C涙液のCpH涙液の浸透圧(mOsm/L)C角膜の厚さ(mm)角膜実質の厚さ(mm)C角膜の直径(mm)C角膜の表面積(cmC2)房水のCpHC結膜の表面積/角膜の表面積,比C房水の容量(mL)房水のターンオバー速度(CμL/min)5~1C00.6~C0.84~5回/時1C7.3~C7.7305C0.35~C0.450.25C151.5~C2.0C8.29C0.25~C0.33~4C.77~3C00.5~C2.26~1C5回/分27.3~C7.73050.52~C0.540.3411~1C21.047.1~C7.3170.1~C0.252~3表2眼内動態(移行性)に影響を及ぼす要因因子概説分配係数薬物側要因分子量粒子径(溶解性)角膜(結膜)透過性はオクタノール/水分配係数(LCogPC)が2~3が良好といわれている.LCogPCが低いものについては結膜透過性が角膜透過性よりも良好.角膜(結膜)透過性は分子量の影響を受け,大きくなるほど透過性は小さくなる.膜抵抗値が結膜組織のほうが角膜よりも小さいため,分子量の大きな化合物の透過性は結膜透過性が角膜透過性よりも良好.薬物の溶解性が不良のため懸濁型製剤を選択する場合,粒子径が小さいほど透過性は向上する(溶解速度が高まるため).pH粘度点眼薬処方浸透圧側要因C点眼濃度点眼量添加剤pHは薬物の解離状態に影響し,角膜透過性はpH-分配仮説に従う(分子型).製剤処方,涙液の緩衝能に留意する必要がある.粘度付与により,結膜.内滞留性が向上し,移行性が向上する.向上の程度は薬物の物性に依存する.浸透圧の増減により細胞間隙透過性を変化させることが可能.点眼する液量が一定の場合,点眼濃度を上げると移行量は増大する.一定容量以上を点眼しても移行性には影響しない(約C20CμL).可溶化,安定化,保存剤は角結膜上皮に影響を与え,薬物の透過性が変化する.変化の程度は薬物の物性に依存する.代謝涙液溶解性生体側要因膜透過性メラニン親和性角膜にはエステラーゼが存在する.Prodrugの代謝に関与する.懸濁型製剤を選択する場合,点眼後の溶解性に関与する.透過機構,輸送担体,病態に留意する.塩基性薬物は,メラニンを含有する組織(網膜色素上皮,虹彩)に結合する.その結合と乖離をコントロールできれば,メラニンをデポとして利用可能.ニン親和性が考えられる.たとえば,薬物側要因“分配係数”の概略は,以下のようになる.一般的に薬物の角膜透過は受動拡散,すなわちCpHC.分配仮説で説明され,オクタノール/水分配係数(LogCPC)がC2~3の場合に最適な透過性を示し,ある程度脂溶性が増加すると逆に角膜透過性は低下することが知られている.これは,角膜組織が,油層(上皮)C.水層(実質)C.油層(内皮)のサンドイッチ構造であることに起因している.また,点眼薬処方側要因“添加剤”の概略は,次のようになる.製剤処方成分として,防腐剤(塩化ベンザルコニウムなど),界面活性剤(ポリソルベートC80など)キレート剤(エデト酸,EDTA)が添加剤として処方中,に配合される.これら添加剤には,薬物の角膜透過を促進する作用がある.角膜透過を促進する添加剤は,おもに細胞膜に影響を与えるもの,または細胞間隙に影響を与えるものに分類される.薬物の角膜透過経路は,細胞内透過経路(transcellularCroute)と細胞間透過経路(paracellularroute)が考えられるが,どちらがおもな経路かは,薬物の脂溶性により決定される.したがって,透過促進作用を有する添加剤と薬物(脂溶性)の組み合わせにより,角膜透過促進効果が違ってくる.一般的に,透過促進剤は,角膜上皮組織,細胞を変化させて薬物の透過性を促進すると考えられるが,この作用が可逆的,あるいは不可逆的な作用かを配慮し,処方成分に選択しなければならない.なお,これら添加剤の配合理由として,“角膜透過促進剤”としている実施例はない.生体側要因として,最近注目されている薬物透過機構は,トランスポーター(輸送担体)による角膜透過である6).生体は細胞内外の栄養物質や内因性物質の選択的物質交換によって必要物質の摂取(吸収)と生体異物や老廃物の排除(排泄)を行っているが,その選択性は細胞膜に存在するトランスポーターが介在する輸送機能に依存している.薬物トランスポーターは,生体にとって異物である薬物を認識し輸送することで薬物の体内動態にかかわっている.一般的に薬物の角膜透過機構は受動拡散で説明されてきたが,最近になり,薬物の角膜透過に薬物トランスポーターが関与することが報告されるようになった.角膜組織の透明性など恒常性維持にかかわっていると考えられるトランスポーターの存在も,薬物の眼組織移行性に影響を与える生体側因子として考慮すべきである.角膜上皮細胞におけるトランスポーターの存在検証,眼科治療に使用されている薬物の膜透過に関するトランスポーター候補などについては文献C6にまとめてあるので参照されたい.CIII点眼投与された薬物の移行性とその限界点眼投与された薬物の眼内バイオアベイラビリティは非常に低いことを前述したが,点眼薬の眼内バイオアベイラビリティの改善をめざした製剤開発が行われ,臨床に用いられている.チモプトールCRXEは,ジェランガムのゲル化作用を利用し,眼内バイオアベイラビリティを改善している.高分子多糖類であるジェランガムは,直鎖状の構造を有し,4分子にC1個のカルボキシル基(.COOH)が存在する.プラスイオンの少ない溶液中ではマイナスに荷電し,分子同士が反発するためゾル(溶液)状態となる.点眼後,涙液中のCNa+イオンと結合することで,ジェランガム分子内のマイナス荷電量は減少し,分子同士の反発が減少し,分子が凝集(ゲル化)する.これにより,点眼時は溶液(ゾル)状態で,点眼後の涙液内のみでゲル化し,持続性を有する点眼薬となった.熱応答性高分子であるメチルセルロースを含有するリズモンRTG点眼液は,10℃以下保存時は溶液(ゾル)状態である(点眼前).点眼後は眼表面温度(32~34℃)でゲル状に変化する.メチルセルロース水溶液のゾル/ゲル相転移温度は約C55℃であるため,製剤処方内容を検討し,クエン酸ナトリウムおよびマクロゴールを添加し,ヒト眼表面温度(32~34℃)でゲル化するように相転移温度を制御している.これら二つの点眼薬は,生体の機能を利用して,液性の物性(粘度)を変化させ,眼表面での滞留性を上げることにより,眼内移行性を向上させる前眼部薬物送達システム(drugCdeliveryCsys-tem:DDS)の例である.後眼部(網脈絡膜)疾患の薬物治療は,点眼投与では有効濃度の薬物が網脈絡膜などの標的組織に到達しないため,点眼投与法では困難であると考えられてきた.そこで,後眼部疾患に対しては局所注射や経口および静脈(59)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1271│⊿│OP│(mmHg)a.bunazosinb.timolol587643210mean±S.E.図1ブナゾシンおよびチモロールをウサギに点眼した時の眼組織中濃度(房水:○,虹彩毛様体:▲)と眼圧降下(⊿IOP)の関係a:0.1%ブナゾシン点眼,PKn=3,PDn=10.Cb:100CmMチモロール点眼,PKn=3,PDn=16.C00.20.40.60.81Concentration(nmol/gorml)05101520Concentration(nmol/gorml)って記述した眼局所CPKモデルを確立した.ブナゾシンあるいはチモロール点眼後の房水中濃度と眼圧の変化の関係には,反時計回りの履歴,すなわち濃度の変化に遅れた薬効の発現がみられ(図1),眼組織中濃度と眼圧下降作用の時間推移を作用機序に基づいた眼局所CPK/PDモデルで表現した.また,ブナゾシンとチモロールなど異なる作用機序をもつ薬物を併用投与したときの眼局所PK/PDモデルの構築も可能であった10).これらは,正常眼圧のウサギを用いた検討であるが,ウサギにおける高眼圧緑内障の病態モデルに,眼局所CPK/PDモデルが適用可能か検証する必要がある.さらに,ヒトへの適用について,動物実験の結果から構築した眼局所CPKモデルを用いてヒトへの外挿を試みることも可能であるが,ヒトでは涙液以外の眼組織中濃度測定が困難なことから,結果の妥当性を検証することがむずかしい.一方,PDモデルにおいては,ヒトにおける眼圧測定が可能であること,房水動態を組み込んだモデルで使用するヒトでの生理的パラメータの報告が多数あることから,ヒトへの適用に際して制限は少ない.したがって,眼局所PK/PDモデルのヒトへの適用については原理的には可能であるものの,ヒトでの組織中濃度測定の制限から結果の妥当性を十分に検証できないのが現状である.眼圧下降薬の新薬開発において動物実験レベルではあるが,PK/PDモデルを利用することでヒトでの効果を定量的に予測することが可能となるため,候補化合物の薬理活性や動態特性の選択基準が設定できるとともに,粘性製剤や結膜.内挿入剤の眼内動態を表現できるCPKモデルと組み合わせることで眼局所におけるCDDSの効率的な設計が可能となると考えられる.おわりに眼科用製剤の開発に携わり,眼内動態を専門とする研究者は,ヒト,動物にかかわらず.眼局所における薬物動態のメカニズムの理解を深め,製剤特性,投与法,病態,標的組織の動物種間での生理学的・解剖学的な差異を考え,常にヒトへの外挿性を意識しなければならない.ヒトへの外挿性の向上に関しては,ヒトでの臨床眼内動態データの蓄積が必要である.近年,動物実験レベルで,これまで点眼投与で薬物が到達しないと考えられてきた網膜など後眼部に有効濃度の薬物が移行することが明らかになりつつある11,12).高齢社会を迎え,増加する後眼部疾患への点眼薬投与による治療が確立できれば,患者への負担も大きく軽減できる.このような製剤を実現するため,後眼部の眼内動態を解明する眼内動態モデルの構築や製剤技術が発展し,後眼部CDDSの技術によらずとも,点眼投与法により後眼部疾患の薬物治療が可能となることを期待する.今後,薬物の眼内移行性に限界のない“最適化された”眼科用製剤が設計可能となるよう,眼科動態および製剤技術研究の成果が眼科用製剤の研究開発の効率化や医療現場での有効・安全な薬物療法につながることを願う.文献1)SchoenwaldCRD:OcularCpharmacokinetics/pharmacody-namics,Ophthalmicdrugdeliverysystems,p83-110,Mar-celDekker,Inc.,NewYork,19932)WorakulCN,CRobinsonCJR:OcularCpharmacokinetics/phar-macodynamics.EurJPharmBiopharmC44:71-83,C19973)FukanoCY,CKawazuCK:DispositionCandCmetabolismCofCaCnovelCprostanoidCantiglaucomaCmedication,Cta.uprost,Cfol-lowingCocularCadministrationCtoCrats.CDrugCMetabCDisposC37:1622-1634,C20094)FukanoCF,CKawazuCK,CAkaishiCTCetCal:MetabolismCandCocularCtissueCdistributionCofCanCantiglaucomaCprostanoid,Cta.uprost,CafterCocularCinstillationCtoCmonkeys.CJCOculCPharmacolTherC27:251-259,C20115)河津剛一:培養角膜上皮細胞を用いた薬物透過評価法の確立と薬物透過特性に関する研究.薬剤学68:14-20,C20086)河津剛一:角膜における薬物トランスポーター.眼薬理C26:38-44,C20127)BararCJ,CAghanejadCA,CFathiCMCetCal:AdvancedCdrugCdeliveryCandCtargetingCtechnologiesCforCtheCocularCdiseases.CBioImpactsC6:49-67,C20168)SakanakaCK,CKawazuCK,CTomonariCMCetCal:OcularCpharC-macokinetics/pharmacodynamicCmodelingCforCbunazosinCafterCinstillationCintoCrabbits.CPharmCResC21:770-776,C20049)SakanakaCK,CKawazuCK,CTomonariCMCetCal:OcularCphar-macokinetic/pharmacodynamicCmodelingCforCtimololCinCrabbitsCusingCaCtelemetryCsystem.CBiolCPharmCBullC31:C970-975,C200810)SakanakaCK,CKawazuCK,CTomonariCMCetCal:OcularCphar-macokinetic/pharmacodynamicmodelingformultipleanti-glaucomadrugs.BiolPharmBull31:1590-1595,C200811)MizunooK,KoideT,ShimadaSetal:Routeofpenetrat-(61)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1273

点眼薬による角結膜障害:その危険信号を察知する!

2017年9月30日 土曜日

点眼薬による角結膜障害:その危険信号を察知する!OcularSurfaceBarrierDisruptionInducedbyEyedrops:CatchtheAlert内野裕一*I点眼薬は薬にも毒にもなる!?われわれ眼科医にとって薬物治療における最重要薬剤であり,点眼薬なくして日々の眼科診療は立ち行かない.しかしながら,点眼薬には本来の薬剤有効成分のみならず,基剤や防腐剤といわれるものが含まれ,これらが眼表面に与える影響は決して少なくない.薬剤有効成分のなかでは,緑内障点眼薬のCb遮断薬やプロスタグランジン製剤,抗炎症薬である非ステロイド性消炎鎮痛薬(non-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)などの薬剤は,涙液分泌に寄与する角膜神経に悪影響を与えるといわれている.また,薬剤自体の懸濁性が点眼直後の見え方に大きく影響を与える場合もあり,処方時の患者への説明は重要である.一方,点眼薬基剤はその浸透圧やCpHなどが,点眼時のしみやすさに関連性があると考えられており,患者の点眼コンプライアンスに直接寄与する重要な因子である.また,防腐剤は点眼薬を構成する成分のなかでも,もっとも眼表面障害に影響を与える可能性がある成分であり,塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumCchloride:BAC)やクロルヘキシジンが代表的な点眼薬防腐剤として知られている.さらに治療過程で点眼薬の種類や回数が増えることはよくあることだが,そのような点眼薬多剤使用によって眼表面上皮障害が生じ,さらに上皮保護薬を追加するという悪循環に陥ることも,一般診療で決して珍しいことではない.本稿では上記の「薬剤有効成分」「基剤」「防腐剤」が眼表面および涙液分泌機構にどのような影響を与え,また過剰な点眼薬使用により,角結膜上皮障害がどのように生じるかを考えてみる.CII涙液分泌機構の破綻メカニズム涙液は外界からの刺激を眼表面にある知覚神経が受容し,その後,三叉神経を経由して,中枢神経である脳幹に伝わり,おもに副交感神経から涙腺への涙液分泌が指示される.このような反射弓(re.exCloop)が正常に働くことにより,機械的(ゴミが目に入るなど)もしくは化学的(煙を浴びる,タマネギを切ったときなど)刺激を眼表面が受けると,反射性に涙液分泌が誘導され,眼表面保護に重要な役割を果たしている1)(図1).しかしながら,さまざまな要因によって,このCre.exloopは破綻をきたすといわれている.とくに点眼薬の中で,角膜知覚神経に対する麻酔効果を示すものとして,緑内障点眼薬のCb遮断薬や,抗炎症薬であるNSAIDsがあげられる.健常者に対してC4種のCNSAIDsを,5分おきにC4回投与後(点眼終了直後をC0分)から角膜知覚低下を時間経過とともに示す(図2).すべてのNSAIDs点眼薬が投与後から知覚低下を示すものの,最後の点眼から約C1時間後には角膜知覚は回復しはじめる.そのなかでC0.3%ネパフェナクはほかの点眼薬(とくにC0.1%ジクロフェナクおよびC0.07%ブロムフェナク)に比較して,早い角膜知覚の回復傾向が認められることは興味深い2).C*YuichiUchino:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内野裕一:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(51)C1263605040re.extear250200150100500バリアの破綻*p<0.05%,vsPBSフルオレセイン透過性(PBS=100%)400350300バリアの破綻250200150100500PBS0.0002%BAC0.002%BAC0.01%BAC0.02%BAC0.2%BAC*p<0.05%,vsPBS図3PG製剤および配合剤による眼表面バリアへの影響図4塩化ベンザルコニウム(BAC)による濃度依存的な眼表(文献C3より引用)C面バリアへの影響(文献C3より引用)CKi67(細胞増殖)ControlBAK0.01%,24Hrs図5塩化ベンザルコニウム(BAC)による角膜上皮障害の免疫組織学的探索赤色もしくは青色が細胞核を示す.緑色が標的としたタンパクの組織染色像を示す.(文献C4より引用)フルオレセイン透過性(PBS=100%)図6BAC含有点眼液による角膜上皮障害77歳,女性.開放隅角緑内障に対してCBAC含有ラタノプロスト点眼液にて加療を開始したところ,瞳孔領およびその下方に角膜上皮障害を認め(Ca),BACフリーのラタノプロスト点眼に切り替えてC1カ月したところ,角膜上皮障害は大幅に改善した(Cb).(文献C1より一部抜粋)薬剤毒性ドライアイ角膜>>結膜角膜<結膜図7薬剤毒性とドライアイにおけるSPKの違い表1緑内障点眼の点眼回数からみた点状表層角膜症(SPK)の発生率(SPK発生数.症例数)O,O.OO.1回C174/43140.4%2回C125/24950.2%3回C47/8257.3%*C4回C42/6366.7%5回C25/4161.0%6回.C6/1637.5%*:p<0.01表2緑内障点眼の点眼剤数からみた点状表層角膜症(SPK)の発生率(SPK発生数.症例数),O.O.1剤処方C204/51239.8%2剤処方C150/27055.6%*C3剤処方C63/9467.0%4剤処方C2/633.3%*:p<0.01

点眼薬のアドヒアランス:教えましょう,向上の秘訣!

2017年9月30日 土曜日

点眼薬のアドヒアランス:教えましょう,向上の秘訣!TheSecretofEyedropAdherenceImprovement浪口孝治*溝上志朗*はじめに点眼は眼科治療の基本であり,全身への影響が少なく,眼局所への有効な治療法ではあるが,毎日確実に眼表面に滴下できなければ十分な効果は発揮できない.患者自身による適切な点眼実施の有無が治療の結果を左右することになる.急性疾患で自覚症状の強い場合は多くの患者が正しく点眼することができるが,緑内障などの自覚症状が乏しく慢性的な疾患では,毎日(治療の継続),眼表面に滴下すること(正確な点眼)はわれわれ医師が考えている以上に困難な作業である.治療の継続と正確な点眼のためには点眼アドヒアランスの向上が必要不可欠である.本稿では,アドヒアランスの把握と向上のためにどのようにすればよいのかを概説する.CIアドヒアランスとは従来は治療の継続性を評価する指標として「コンプライアンス」という用語が用いられていたが,コンプライアンスは医師が策定した治療計画を患者が遵守することをさす.一方で現在主流の考え方となってきた「アドヒアランス」とは,患者が主体となり,自身の病態を理解し,医療従事者の推奨する方法に同意し,服薬,食事療法,そして生活習慣の改善を行うこと,と世界保健機構(WHO)は定義している.コンプライアンスは医師が患者に治療計画を遵守させるといった一方向的な目線であるが,アドヒアランスは医療従事者と患者の相互理解に伴う双方向的な目線という意味合いが強い(図1).これいうことを聞く「受け身」の姿勢図1コンプライアンスとアドヒアランス悪いのは患者という認識図2従来の考え方までの医療現場ではコンプライアンス不良の原因は患者側にあると強調され,医療従事者側でのコンプライアンス向上の取り組みは積極的には行われていなかった(図2).そこで患者側に問題があるという概念を脱却し,患者・医療従事者の双方向的な目線により,いかに患者自らが積極的に治療に参加するかを評価するのにアドヒアランスという考え方が生まれた.CIIアドヒアランスの重要性われわれ医師は,処方した薬剤は処方箋の指示通りに適切に使用されるのが当然と考えがちであるが,実際はそうではない.糖尿病や高血圧などの慢性疾患におけるアドヒアランス良好な患者の割合はC75%程度と報告されている1).眼科も例外ではなく,新規に緑内障薬物治*KojiNamiguchi&*ShiroMizoue:愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕浪口孝治:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(45)C1257療を開始した患者の平均薬剤入手率(処方された日数に対して何日間薬剤を使用したのかを算出したもの)はもっとも高いプロスト系点眼薬でさえ約C60%程度で,他の薬剤ではそれよりもさらに低い数字となっている2).アドヒアランス不良は,治療の非効率化を招き,医療資源の浪費や患者の予後不良の原因となる.緑内障患者ではアドヒアランス不良の患者は視野障害が重症化する危険性がC6倍以上となるという報告もある3).適切な薬剤を処方しても,その薬剤が適正に使用されなければ十分な治療効果を得ることはできない.アドヒアランスは医学的知識や診断技術と同じくらい重要なものであると考えられる.CIIIアドヒアランスの評価アドヒアランスの評価方法には,直接法と間接法がある.直接法は患者やその家族と面談し,アドヒアランスの程度を数値で評価する方法である.間接法は点眼の使用量,残量などから推測する.また,血中濃度などを測定し判定する方法がある.しかし実際は,患者との面談でアドヒアランスの評価を推測していることが多いと思われる.そのため,アドヒアランスの評価ではコミュニケーションスキルが重要となってくる.「点眼をきちんとしていますか?」という質問の方法では,多くの場合「はい」と答えることが多く,アドヒアランスを過大評価することになる.質問はできるだけCyes-noのC2択形式ではなく,「普段はいつ点眼していますか?」などのある程度自由に答えることができるような質問の仕方が望ましいと考えられる.「点眼をしていないのではないか」のような尋問のような質問の仕方では患者は委縮してしまい信頼関係が崩れてしまう恐れもある.患者とのコミュニケーションの方法としてはCask-tell-ask会話法というものがある.最初のCaskで患者の現在の疾病や治療に関する理解と気になる点を聞くことにより,服薬に関して患者が認識している考えを明らかにする.また,患者の性格や教育レベルなどもある程度推測することが可能となる.そしてCtellで医療従事者側から検査結果や,治療方法などの必要な説明をわかりやすい言葉で説明する.その後説明した内容をCaskで尋ねることにより,説明した内容をどの程度理解しているかを評価する.時間にかぎりがある以上,毎回外来でこの作業を繰り返すことは困難ではあるが初診時や治療方針の変更を行う際には必要と考える.CIVアドヒアランスに影響を与える因子アドヒアランスに影響を与える因子はさまざまであるが,大きく四つの要素に分類できると報告されてる4).①治療内容,②患者側,③医師側,④環境の四つである(図3).治療内容の因子は,「点眼薬が途中でなくなった」「点眼の回数が多い」「副作用のため点眼を自己中断した」などがあげられる.緑内障患者では約半数がC2種類以上の点眼を使っているが,点眼の使用薬剤数はアドヒアランスに大きく関与すると報告されている5)(図4,5).さし心地の悪い点眼はアドヒアランス不良を招きやすく,副作用が出るとアドヒアランスは著しく低下する6).点眼開始または変更を行った後は,必ずさし心地に問題がないかを問診する.また,副作用の有無も必ず調べる.夜の点眼より朝の点眼のほうが,アドヒアランスがよくなりやすい7).また,昼間の点眼はもっともアドヒアランスが下がるとされており,点眼時間の指示にも気を配る必要がある.患者側の因子は,「点眼するときどちらの目かを忘れてしまう」「効果の実感がないため点眼をやめた」「ときどき点眼することを忘れてしまう」などがある.薬剤の使用歴がある,点眼の必要性に関する意識が強い,薬剤の知識があるなどはアドヒアランスを改善させる因子である8).医師側の因子は,「点眼の必要性,薬物の効果や副作用,治療の見通しや予測などを明快に説明しない」「薬物治療に対する知識不足」「患者の感情や生活に無関心」などが考えられ,患者とのコミュニケーション技術が重要であることがわかる.環境因子は,「患者の周囲にサポートがいない」「僻地に住んでおり医療機関への受診が困難」などが考えられる.CVアドヒアランス向上のためにアドヒアランスに影響する因子は,上述の通り①治療1258あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(46)アドヒアランス低下●ときどき点眼することを忘れてしまう●ひとり暮らし,家族のサポート不足●妻が死んでから点眼するのがつらい●休暇中は忘れがちである●点眼薬が途中でなくなってしまった●4剤の点眼は無理,3剤のみさしている●副作用のために自己判断で点眼を中止した図3アドヒアランスに影響を与える因子100806040200図4緑内障患者の使用薬剤数対象:国内C23施設でC2008年C3月C12日.19日に外来受診した緑内障・高眼圧症患者,1,935例C1,935眼.人数1剤2剤3剤4剤n=97n=59n=19n=6図5点眼薬数とアドヒアランス100806040200良好率■成功■不成功n=78図6緑内障患者の初回点眼成功率図7看護師による点眼の実演図8点眼補助具’C

周術期における点眼治療戦略:常在菌をいかに制御すべきか?

2017年9月30日 土曜日

周術期における点眼治療戦略:常在菌をいかに制御すべきか?StrategyofPerioperativeAntibioticTherapyinOphthalmologyFieled:HowtoControlIndigenousOcularBacterialFlora子島良平*はじめに現在,眼科手術の周術期には眼内炎の発症予防目的で,抗菌点眼薬を用いた結膜.の周術期減菌化療法が広く行われている.抗菌点眼薬を用いた周術期結膜.減菌化の評価については未だ議論は分かれるが1),抗菌点眼薬を使用することで結膜.からの菌検出率が低下することが報告されている2).しかしながら近年では,周術期の抗菌点眼薬の使用で結膜.常在菌叢において耐性菌の占める割合が増加するとも報告されており3),今後,耐性化を誘導しない抗菌点眼薬の使用方法が求められるようになっている.本稿では,結膜.常在菌叢と抗菌点眼薬が菌叢に対して与える影響および抗菌薬の適正使用についての現状を概説する.CI結膜.常在菌叢胎児は子宮内では無菌状態にあるが,出産の過程からさまざまな菌に暴露され,皮膚や腸管,結膜.などの各組織の常在菌叢が形成される.結膜.常在菌叢はおもに眼瞼,皮膚,マイボーム腺から眼表面に入る菌で構成されている.眼表面に入った菌は,涙液中のリゾチームなどの抗菌物質の影響を受けるとともに,涙液の流れで一部は鼻腔へ排出される.そして,残存した菌が結膜.常在菌叢を形成する.結膜.常在菌叢はさまざまな菌種から構成されており,成人の結膜.の培養からは,グラム陽性球菌である表皮ブドウ球菌(StaphylococcusCepider-midis,以下CS.epidermidis)やグラム陽性桿菌のコリネバクテリウム属,通性嫌気性グラム陽性桿菌のプロピオニバクテリウム・アクネス(PropionibacteriumCacnes,以下CP.acnes)などが多く検出される.CII結膜.常在菌と眼内炎結膜.常在菌および外眼部常在菌と術後感染性眼内炎の発症について,SpeakerらはC17例の眼内炎の起因菌が高率に結膜.・外眼部の常在菌と遺伝子レベルで一致したと報告している4).また,原らがまとめた国内での眼内炎の起因菌についての検討では,術後C4週以内の急性眼内炎の起因菌としてCS.epidermidisを含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCstaphylococ-ci:CNS)(用語解説参照)や腸球菌,黄色ブドウ球菌が多く,4週以降の遅発性眼内炎の起因菌としては,P.acnesやCS.Cepidermidisなどの結膜.常在菌が検出されたと報告しており5),結膜.常在菌の眼内への迷入が,眼内炎の発症に関連していると考えられる.CIII周術期の結膜.減菌化療法結膜.の常在菌が術後眼内炎に関連していることから,現在では眼内炎の発症予防目的で周術期に結膜.常在菌叢の減菌化が広く行われている.結膜.減菌化療法のタイミングは,術前・術中・術後の三つのポイントに分けることができる.術前の減菌化療法としては,抗菌点眼薬の予防的投*RyoheiNejima:宮田眼科病院〔別刷請求先〕子島良平:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(39)C12512週以内:6%2015年米国9)2014年日本10)図1米国と日本の白内障術後の抗菌点眼薬の使用期間米国ではC1週以内がC72%であるのに対し,国内ではC2週間.1カ月がC30%,1カ月以上がC65%と,国内の術後抗菌点眼薬の使用期間は米国に比べ長期に及んでいる.(文献9,10より作図)(%)*:(p<0.0001,McNemartest)図2グラム陽性球菌の検出率1週群,1カ月群ともに,点眼終了時のグラム陽性球菌の検出率は,点眼前に比べ有意に低下した.(%)点眼前術後1週終了時1M3M6M検体採取時期*:(p<0.0001)図4S.epidermidisのLVFXに対する感受性の推移いずれの群においても術前から終了時にかけて有意に低下した.点眼終了時の感性率はC1週群に比べC1カ月群で有意に低かった(p<0.0001:解析方法:logisticモデルCGEE推定量による各時点の感受性率の推定).(文献C12より許可を得て転載)(μg/ml)MICの推定値±95%信頼区間検体採取時期*:(p=0.0224)図3S.epidermidisのLVFXに対するMICの推移1週群,1カ月群ともに,点眼前に比べ点眼後に有意に上昇した.点眼終了後C3カ月目のCMICはC1週群に比べC1カ月群で優位に高かった(p=0.0224:解析方法:混合効果モデルによる推定).(文献C12より許可を得て転載)C●感受性菌MIC:最小発育阻止濃度●耐性菌MPC:耐性菌出現阻止濃度●高度耐性菌MSW:耐性菌選択濃度枠MPCMSWMIC●感受性菌MIC:最小発育阻止濃度●耐性菌MPC:耐性菌出現阻止濃度●高度耐性菌MSW:耐性菌選択濃度枠MPCMSWMIC抗菌薬組織濃度抗菌薬組織濃度時間図5最小発育阻止濃度,耐性菌出現阻止濃度および耐性菌選択濃度枠MIC(青線)以上の濃度では,感受性菌は増殖・発育ができないが,耐性菌は増殖可能な濃度である.MPC(赤線)より高い濃度では,耐性菌も発育・増殖できない.MICとCMPCの間の濃度(緑矢印)がCMSWであり,この濃度内では耐性菌は発育・増殖ができる.抗菌薬投与抗菌薬投与時間図6耐性菌増加のメカニズム抗菌薬(C.)を投与すると組織内濃度が上昇し感受性菌が検出されなくなるが,抗菌薬の濃度がCMSW内の時間では,耐性菌は増殖していく.これを繰り返していくと,最終的には高度耐性菌の割合が増加していく.■用語解説■コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase.negativeCStaphylococci:CNS):ブドウ球菌は,血液凝固作用をもつ菌体外酵素である.コアグラーゼをもつコアグラーゼ陽性ブドウ球菌とコアグラーゼをもたないコアグラーゼ陰性ブドウ球菌に分類することができる.臨床的には,ヒトから分離されるブドウ球菌のうち,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌のみであり,CNSはそれ以外の表皮ブドウ球菌を含むブドウ球菌をさすことが多い.メタ解析:過去に行われた複数の研究のデータを収集し,統合して分析すること,またはそのための手法や統計解析をさす.長所として,一つの研究では有意差が出ない場合でも,複数の研究を統合することで,有意差を検出できる可能性がある.一方,解析対象とする研究の選択により結果が異なる可能性があり注意が必要である.

感染性角膜炎における点眼治療戦略:Empiric therapyからDefinitive therapyへ

2017年9月30日 土曜日

感染性角膜炎における点眼治療戦略:EmpirictherapyからDefinitivetherapyへManagementofInfectiousKeratitisusingEyedrops星最智*はじめに感染性角膜炎におけるCempirictherapyとは,感染疫学的知見に基づき,患者背景や前眼部所見から起炎菌を推定して治療を行うことである.起炎菌を推定できる理由は菌種ごとに感染源,感染経路,感染部位,発症誘因に特徴があるからである.Empirictherapyでは,推定した起炎菌を含めた広い範囲の菌種に抗菌効果を有する点眼薬を選択するのが基本である.しかしながら,感染性角膜炎は視力予後に影響する疾患であるため,角膜に強い組織障害を残さないよう,できるだけ確実に早く治すことが求められる.したがって,empirictherapyの段階においても広域の菌種をカバーするだけでなく,可能性がもっとも高い起炎菌に特化した抗菌点眼薬を併用する姿勢が求められる.De.nitivetherapyとは本来は起炎菌が確定した後に,その起炎菌にもっとも適した抗菌点眼薬に変更することを意味する.眼科においては点眼固有の薬物動態や角膜毒性などの観点から,治療効果を認める場合は他の抗菌点眼薬への変更が必ずしも適切であるとは限らない.むしろ問題なのは,すでに角膜病巣の菌が死滅している状態でも長期間,複数の抗菌薬を頻回に使用するおそれがあることである.これは治療後の反応において,感染症がいまだ継続しているのか,あるいは何らかの理由で組織破壊の修復が滞っているだけなのかの見きわめができないために生じる問題であると考えられ,眼科の特殊性を考慮したCde.nitivetherapyの考え方が求められる.感染性角膜炎の診断と治療の基本的な流れは「感染性角膜炎診療ガイドライン」が参考になる1)(図1).とくにC2013年のガイドライン改定に際し感染性角膜炎の治療の項も修正されているので,改定ポイントを踏まえつつ実際の臨床で遭遇しやすい事象への対処方も示すこととする.なお,細菌性角膜炎が一般診療でもっとも遭遇しやすく,治療点眼薬としても抗菌点眼薬がもっとも種類が多いため,細菌性角膜炎を中心に解説する.CI患者背景からの診断2003年の感染性角膜炎全国サーベイランスにおいて,角膜炎患者はC20代とC60代のC2峰性であり,20代の角膜炎のC89.8%がコンタクトレンズ装用者であることが明らかとなった2).このように疫学調査から起炎菌構成や感染リスクが明らかになることがある.感染症では菌種ごとにリスク因子が存在するため,初診時には感染疫学的知見を駆使して可能性の高い起炎菌を絞り込んでいく.患者背景の問診は感染症診断においてきわめて重要な診療部分を占める.問診は感染源,感染経路,宿主の状態,発症誘因をイメージしながら行う.感染性角膜炎で確認しておきたい問診事項を表1に示す.感染性角膜炎の初診時には問診のみからの起炎菌診断を必ず行い,これを背景診断とする.CII前眼部所見からの診断感染性角膜炎では,前眼部所見から起炎菌を推定する*SaichiHoshi:田村眼科〔別刷請求先〕星最智:〒124-0006東京都葛飾区堀切C5-1-3サンヨシダビルC2F田村眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)C1243図1感染性角膜炎診断治療のながれ(感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版より)表1確認しておきたい問診事項コンタクトレンズの使用状況角膜疾患の既往乳幼児との接触歴内反症や睫毛乱生植物や小石などによる外傷慢性的な眼瞼結膜炎涙道閉塞,慢性涙.炎抗菌点眼薬の使用状況糖尿病ステロイド点眼の使用状況アトピー性皮膚炎ステロイド内服図2グラム陰性桿菌角膜炎a.緑膿菌(輪状膿瘍),b.緑膿菌(複数病変),c.セラチア,d.モラクセラ.図3グラム陽性球菌角膜炎a.肺炎球菌,b.黄色ブドウ球菌.表2主要角膜炎起炎菌の抗菌スペクトラム菌種セフェム系アミノグリコシド系フルオロキノロン系クロラムフェニコールバンコマイシン緑膿菌C△C◎C◯C××肺炎球菌C◎C×◯C◯C◯CMSSAC◎C◯C◯C◯C◯CMRSAC×△C×◯C◎◎:第C1選択薬,◯:有効,△:菌株により有効,C×:効果得にくい.MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.(感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版をもとに改変)図4紛らわしい治療経過の例a.図C2dの一過性炎症悪化,Cb.黄色ブドウ球菌角膜炎による角膜浸潤の遷延,c.緑膿菌角膜炎による遷延性上皮欠損,d.慢性涙.炎によるCMRSA角膜炎の併発.て,角膜が原発の細菌性角膜炎の場合はC2剤併用で苦慮することはまれである.しかしながら,細菌検査の結果から耐性菌の関与が疑われる場合は,抗菌点眼薬の修正を検討するほうが望ましい.とくにCMRSA感染症ではクロラムフェニコール点眼のほか,眼瞼炎が併発していることが多いことから,バンコマイシン眼軟膏の使用も検討する11).C2.遷延する角膜浸潤グラム陽性球菌角膜炎ではC1.2週間たっても角膜浸潤が改善しないことがある.上皮欠損は小さいかほとんど認めないことが多い(図4b).この場合はカタル性角膜潰瘍と同じ理由で感染アレルギーが起こっている可能性が考えられ,低濃度ステロイド点眼をC1日C4回程度加えると数日で角膜浸潤は消失し瘢痕治癒が得られる.C3.遷延性上皮欠損グラム陰性桿菌角膜炎では遷延性上皮欠損が生じやすい.遷延性上皮欠損では潰瘍底は一様に灰白色で辺縁の上皮は隆起している(図4c).この段階では細菌はすでに死滅しており,何らかの理由で角膜組織障害の回復が遅延していることが問題であるため,まずは使用抗菌薬を見直すことから始める.抗菌点眼薬ではアミノグリコシド系抗菌点眼薬は角膜障害を起こしやすいので中止する.セフェム系かフルオロキノロン系抗菌点眼薬が扱いやすく,いずれかC1剤をC1日C4回程度で経過をみる.点眼回数にもよるが,角膜実質への影響を考えて高濃度のものや中性での溶解度の低い抗菌点眼薬は避けておくほうがよい.それでも改善が得られない場合は低濃度ステロイド点眼や治療用ソフトコンタクトレンズの装用などを検討する.C4.角膜以外が主病巣細菌性角膜炎であっても主病巣が角膜以外に存在する場合,抗菌点眼薬の治療効果が十分に得られないことがある.とくに慢性涙.炎,後部眼瞼炎など眼球付属器に慢性的な感染症が存在すると角膜炎が併発しやすい12)(図4d).この場合,角膜炎はなかなか改善せず鎮静化したとしても再発しやすい.主病巣である眼球付属器感染症を治療することが重要で,抗菌点眼薬だけでは鎮静化が困難である場合は抗菌薬の全身投与が必要となる.C5.起炎菌が細菌ではない1.2週間経過しても治療に反応がなく,眼球付属器にも問題がなく,徐々に病変が拡大する場合は,真菌性角膜炎など細菌以外の病原体の可能性を考える必要がある.角膜病巣所見では二次元的な形状だけでなく,角膜実質深部への進展具合やCendothelialplaqueの有無にも注意を払う.治療方針を決定するためには角膜病巣擦過など積極的な起炎菌検索が必要になるため,自施設での対応が困難な場合は速やかに専門施設に紹介する.おわりに感染症の発症において感染源,感染経路,宿主の状態,発症誘因は必ず存在する.この感染症の原則にもとづいて問診と前眼部所見から起炎菌を推定することが大前提である.初期診断を行う際は,問診による背景診断と前眼部による所見診断を比較するとよい.Empirictherapyでは,広域抗菌点眼薬を使用して主要な角膜炎起炎菌に幅広く対応するに留まらず,もっとも可能性の高い起炎菌に特化した抗菌点眼薬を併用することで早く確実に菌の死滅をめざす.De.nitiveCtherapyではempirictherapy後の反応の見きわめが重要で,抗菌薬の複数頻回点眼の期間をなるべく短くして角膜障害の回復の妨げにならないようにする.首尾よく感染性角膜炎が治癒したら最終診断を必ず行う.たとえ起炎菌が検出されなくても治療経過から総合的に起炎菌を決める習慣をつけると,質の高いCempiricCtherapyとCde.nitivetherapyを行うことができるようになるであろう.文献1)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日本眼科学会雑誌117:467-509,C20132)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の状況─.日眼会誌110:961-972,C20063)佐々木香る,稲田紀子,熊谷直樹ほか:緑膿菌角膜炎における臨床所見の検討.新しい代表的所見としてのブラシ状混濁の提言.あたらしい眼科30:255-259,C2013(37)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1249-

アレルギー性結膜疾患における点眼治療戦略:病態に応じた薬剤選択のポイント

2017年9月30日 土曜日

アレルギー性結膜疾患における点眼治療戦略:病態に応じた薬剤選択のポイントStrategiesforTopicalTreatmentinAllergicConjunctivalDiseases:StrategicPointsofMedicamentSelectionDependingonPathologicCondition庄司純*はじめにアレルギー性結膜疾患(allergicconjunctivaldiseas-es:ACD)は,「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴うもの」と定義され1),臨床所見からいくつかの病型に分類される.巨大乳頭や輪部堤防状隆起などの結膜所見は,結膜増殖性変化とよばれ,ACDの病型は,結膜増殖性変化がみられない季節性アレルギー性結膜炎(seasonalallergiccon-junctivitis:SAC)および通年性アレルギー性結膜炎(perennialallergicconjunctivitis:PAC)と結膜増殖性変化がみられるアトピー性角結膜炎(atopickeratocon-junctivitis:AKC)および春季カタル(vernalkerato-conjunctivitis:VKC)とに大別されている.一方,I型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)は,外界から侵入した抗原(アレルゲン)が抗原特異的IgE抗体と反応することで生じるアレルギー反応で,その経過は即時相と遅発相とからなる2相性である(図1).アレルギー疾患の治療は,I型アレルギー反応の病態に基づいて開発された治療薬を,個々の患者の病状に合わせて適切に選択し,用いる必要がある.今回は,ACDに対する点眼薬による局所療法について,点眼薬の選択とその背景にあるアレルギー学的病態について解説する.I即時型アレルギー反応への対応:アレルギー性結膜炎を中心に1.即時相と遅発相の病態a.即時相I型アレルギー反応の即時相は,抗原侵入後20~30分で生じる急性の反応で,持続時間は短く1時間程度で消退する.即時相は,外来から侵入した抗原がマスト細胞に高親和性IgE受容体(FceRI)を介して結合した抗原特異的IgE抗体と結合することで,マスト細胞は脱顆粒し,ケミカルメディエーターが放出されることにより臨床症状が発現する.代表的なマスト細胞由来のケミカルメディエーターは,ヒスタミン,ロイコトリエン,トロンボキサンA2,プロスタグランジンD2などである.即時相に対する治療薬は,マスト細胞に作用してケミカルメディエーターの遊離を抑制するメディエーター遊離抑制薬,および各種ケミカルメディエーターまたはその受容体と反応してケミカルメディエーターの作用を抑制する薬剤であるヒスタミンH1受容体拮抗薬,ロイコトリエン受容体拮抗薬,トロンボキサンA2合成阻害薬,トロンボキサンA2受容体拮抗薬などがある.点眼薬として使用可能な薬剤は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬である(図2).b.遅発相遅発相は,抗原侵入後6~12時間後に炎症が再燃す*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(21)1233030min6hr48hr遅発相好酸球・リンパ球治療薬図1即時型(I型)アレルギー反応即時型アレルギー反応は,即時相と遅発相との2相性反応である.血管内皮細胞:血管拡張・血管透過性亢進→充血・浮腫神経線維(Cファイバー)→掻痒図2I型アレルギー反応即時相の病態と抗アレルギー薬即時相では,マスト細胞の脱顆粒により放出されたヒスタミンがヒスタミンH1受容体に作用することで,結膜充血,結膜浮腫,眼掻痒感などの臨床症状を発症する.抗アレルギー点眼薬は,その薬理作用からメディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬とに分類される.花粉結膜炎アレルゲン花粉初観測日初期療法過敏性亢進ダニスギ(抗アレルギー薬)気象条件・気温:寒暖差花粉飛散開始発症・気圧:低気圧過敏性亢進=最小持続炎症Minimalpersistentin.ammation図3スギ花粉結膜炎とminimalpersistentin.ammation閾値下のアレルゲン刺激や気象条件によりminimalpersistentin.ammation(MPI)が生じる.MPIにより粘膜組織に過敏性亢進が生じると,アレルギー症状の発症閾値が低下して,少量の抗原刺激に反応して症状が出現する.表1抗アレルギー薬(点眼薬)の種類分類薬剤名商品名点眼回数メディエーター遊離抑制作用抗ヒスタミン作用クロモグリク酸ナトリウムインタールR1日4回+.アンレキサノクスエリックスR1日4回+.ペミロラストカリウムアレギサールR1日2回+.メディエーター遊離抑制薬ペミラストンR1日2回+.トラニラストリザベンR1日4回+.トラメラスR1日4回+.イブジラストケタスR1日4回+.アイビナールR1日4回+.アシタザノラスト水和物ゼペリンR1日4回+.ケトチフェンフマル酸塩ザジテンR1日4回++ヒスタミンオロパタジン塩酸塩パタノールR1日4回++H1拮抗薬レボカバスチン塩酸塩リボスチンR1日4回.+エピナスチン塩酸塩アレジオンR1日4回++健常者活性型H1受容体非活性型H1受容体ヒスタミン(アゴニスト)ニュートラルアンタゴニストインバースアゴニストシグナル:増強シグナル:減弱シグナル:減弱活性化H1R:増加活性化H1R:不変活性化H1R:減少図4抗ヒスタミン薬におけるアンタゴニスト作用とインバースアゴニスト作用健常な状態の組織では,活性型および非活性型ヒスタミンCH1受容体(H1R)が平衡状態を保っている.ヒスタミンの作用(アゴニスト)によりCH1Rは活性型が多くなり,受容体の数自体も増加する.ニュートラルアンタゴニスト作用を有する薬剤は,ヒスタミンと拮抗して受容体をブロックすることでシグナル伝達を抑制するが,受容体数に変化はない.インバースアゴニスト作用を有する薬剤は,受容体の数を減らすこと,非活性型が増えた状態で安定させることなどにより,シグナル伝達を減少させる.基本治療オプション治療眼瞼の治療眼軟膏の眼瞼塗布・プロペトR軟膏・ステロイド軟膏鼻炎の治療点鼻薬の使用・ステロイド薬全身の治療内服薬の追加・抗ロイコトリエン薬・抗ヒスタミン薬図5アレルギー性結膜炎の治療アレルギー性結膜炎の基本治療は,抗アレルギー点眼薬を基礎治療薬として用いることである.合併するアレルギー疾患に対する治療は,アレルギー性結膜炎の治療と同時並行して進めていく.●重症例・急性増悪例でみられる所見①眼脂増強②眼瞼炎の合併③ビロード状乳頭増殖④トランタス斑⑤角膜上皮障害②④図6アレルギー性結膜炎重症例にみられる所見※1:シクロスポリン点眼液ルート※2:タクロリムス点眼液ルートパターン2bパターン1図7春季カタルのパターン治療のためのプロトコル免疫抑制薬を使用した春季カタルの治療では,重症度に合わせてパターンC1からパターンC4までの治療法を適用する.抗アレルギー薬とステロイド点眼薬との併用療法を施行している症例に対して,免疫抑制薬による治療に切り替える場合には,シクロスポリン点眼薬とタクロリムス点眼薬とでは切り替え方法が異なる点に注意する必要はある.(文献C19より改変)どがあげられている15).したがって,結膜増殖性変化は,結膜下組織の増殖を伴う好酸球炎症であると考えられる.好酸球炎症は,I型アレルギー反応により誘導されるアレルギー炎症により好酸球浸潤が生じるとされ,アレルギー炎症の主要病態であるCTh2細胞による免疫応答は,組織の好酸球浸潤に深く関連している.春季カタル症例における涙液検査では,好酸球関連因子であるCeosinophilCcationicCprotein(ECP)や好酸球の遊走に関連するケモカインCeotaxin-1,eotaxin-2が高値となり,臨床スコアと良く相関することが報告されている16,17).また,眼表面被覆液を採取して,real-timereverseCtranscriptionCpolymeraseCchainCreaction法によりCmRNA発現量を検討したところ,好酸球に発現されているCeotaxin-2CmRNAやヒスタミンCH1およびCH4受容体CmRNA量が健常対照と比較してCVKCで有意に増加していることが示された18).これらの報告は,結膜増殖性変化を有するCACDでは,結膜の好酸球炎症が主要病態であり,好酸球炎症を標的とした治療が必要であることを示していると考えられる.C2.免疫抑制薬の使用方法とその効果結膜増殖性変化を有するアレルギー性結膜疾患に対する第C1選択薬は,免疫抑制薬の点眼である.現在市販されている免疫抑制薬の点眼は,シクロスポリン点眼薬(パピロックCRミニ点眼液C0.1%,参天製薬)とタクロリムス点眼薬(タリムスCR点眼液C0.1%,千寿製薬)であり,両者ともに適応症は春季カタルである.免疫抑制点眼薬の使用法は,免疫抑制点眼薬調査委員会がパピロックCRミニ点眼液C0.1%市販後全例調査およびタリムスCR点眼液C0.1%市販後全例調査をもとにまとめた治療指針に示されている19).Ca.シクロスポリン点眼薬VKCに対するシクロスポリン点眼薬の使用方法の概略は,混合型または眼瞼型CVKCの重症例に対してはステロイド薬および抗アレルギー点眼薬とのC3者併用療法,中等症以下の混合型または眼瞼型CVKCおよび輪部型CVKCに対しては抗アレルギー点眼薬とのC2者併用療法を行うことである.とくに輪部型CVKCに対してはシクロスポリン点眼薬の有効性が高く,第C1選択薬になりうると考えられる.3者併用療法時のステロイド投与法には,点眼,結膜下注射,内服などの方法があり,重症度を考慮した投与量および投与方法の選択が必要である.有害事象に関しては,点眼時の刺激および前眼部感染症,とくに単純ヘルペスウイルス感染症(眼瞼炎・結膜炎・角膜炎)に注意が必要である.アトピー性皮膚炎患者では,皮膚のブドウ球菌感染症や単純ヘルペスウイルス感染症を合併しやすいため,免疫抑制点眼薬を処方する前には,ブドウ球菌および単純ヘルペスウイルス感染症の既往について問診しておく必要がある.Cb.タクロリムス点眼薬VKCに対するタクロリムス点眼薬の使用方法の概略は,どの重症度の症例に対しても,まず抗アレルギー点眼薬とのC2者併用療法で治療を開始することである.タクロリムス点眼開始後1~2週目で自覚症状の改善が,2~4週目で他覚所見の軽症化がみられる.2者併用療法に抵抗する難治例,重症例に対しては,ステロイド薬の併用を検討する.2者併用療法に抵抗する症例において,ステロイド点眼薬を追加してもあまり効果に変化がない場合には,ステロイド結膜下注射を検討する.有害事象に関しては,シクロスポリン点眼薬と同様に,点眼時の刺激および前眼部感染症に注意が必要である.おわりにACDに対する現在行われている薬物治療は,免疫抑制薬の登場により画期的に進歩したと考えられる.今後,難治例や重症例に対しては,分子標的治療薬(抗体療法)や免疫療法などの新たな治療法が検討されていくであろうと考えられる.将来は,新しい治療法の確立と病態解明とが両輪となってCACD治療が進んで行くと考えられる.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌114:829-870,C20102)ShojiCJ,CSakimotoCT,CMuromotoCKCetCal:ComparisonCofCtopicalCdexamethasoneCandCtopicalCFK506CtreatmentCforC1240あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(28)

ドライアイにおける点眼治療戦略:TFOT完全マスター道場!

2017年9月30日 土曜日

ドライアイにおける点眼治療戦略:TFOT完全マスター道場!CurrentStrategyofTopicalTreatmentforDryEye:PerfectUnderstandingofTFOT渡辺仁*Iドライアイの定義,診断基準の改訂の内容ドライアイの定義,診断基準はC2016年に改訂され,“ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある”と定義され,診断基準としては表1にあるように,自覚症状と涙液層破壊時間のC2項目で診断できるようになった1).この変更は,ドライアイの診断には角膜上での涙液の安定性が角結膜上皮障害より重視されるようになったことを意味している.その意味からも涙液の安定性を妨げる要因を取り除くことがドライアイの治療となる.そうした考え方が,最近ドライアイ研究会から提唱されているCTHOT(tear.lmorientedtherapy)に反映されている.そして,涙液層の要素,眼表面上皮のどの要素によってドライアイが生まれているかを見きわめ,それに対応する治療薬を選択する,それがCTFOTである.こうした概念が生まれたのも,これまでの治療薬に加えてジクアス点眼薬,ムコスタ点眼薬という臨床効果が異なる二つの点眼薬が日本でのみ使用可能で,そこから得られる知見に負うところが大きい.ジクアス点眼薬は結膜上皮の下方から眼表1ドライアイの新しい診断基準①眼不快感,視機能異常などの自覚症状ドライアイ診断2項目で確定②涙液層破壊時間(BUT)がC5秒以下(文献C1より引用)表面に水が移動し涙液量を増加させ,また杯細胞からの分泌型ムチンを分泌促進させる2).そして膜型ムチンの発現アップがその作用として知られている3).一方,ムコスタ点眼薬は,その起源が胃潰瘍の薬ということでもわかるように,角結膜上皮の健全性を高めることが主たる効果で,microvilliの修復が早かったり,タイトジャンクションの増強,2週間以上の点眼で杯細胞も増加させるというものである4).こうしたCTFOTを行うためには,TFOD(tearC.lmorienteddiagnosis),涙液層の要素,眼表面上皮のいずれの要因でドライアイが生じているかを見きわめることが臨床上必要となる.現状でもっともその鑑別に適しているのが,涙液層の破壊パターンにより不安定性要因を推察することである.これまでこうした涙液層の破壊パターンの成因についての解説は多いが,そこから突っ込んだ治療については,やや表面的になりがちであることから,本稿ではその涙液層破壊パターンをみた際,どの治療法を選ぶのがよいかを解説し(実はどれがベストか確立していないことも理解していただき),今後のよりよい治療に生かしていただきたい.CII涙液層破壊パターンの鑑別を正しく行うには?一般に涙液層破壊パターンを観察する際,フルオレセイン染色を眼表面に付加し,判定されている方が多い.その際,注意すべきことは,多くのフルオレセイン液をC*HitoshiWatanabe:関西ろうさい病院眼科〔別刷請求先〕渡辺仁:〒660-8511大阪府尼崎市稲葉荘C3-1-69関西ろうさい病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(15)C1227図1フルオレセイン溶液量の違いによる眼表面所見の違いa:最小量のフルオレセイン染色液で眼表面を染色した場合.Tearmeniscusは高くなく,角膜上皮障害も判定しやすい.この症例ではClinebreakを示した.Cb:同じ眼で多量のフルオレセイン染色液で眼表面を染色した場合.Tearmeniscusは高くなり,角膜上皮障害も判定しがたく,涙液層破壊パターンもCrandombreakとなった.C図2最小量のフルオレセイン液の染色法フルオレセイン紙に生理食塩水C2.3滴湿らし,その後,フルオレセイン紙を振って余剰水分をなくし,眼瞼結膜の先に垂直にあてる.図3涙液層破壊パターンa:Areabreak.涙液は眼表面上にほとんどなく,角膜上を涙液がカバーしない状態.Cb:Linebreak.いったん涙液が角膜上をカバーした後,下方で縦状に破壊される.Cc:SpotCbreak.開瞼と同時に涙液が上昇する際に類円形の涙液の破壊がみられる.d:Dimplebreak.涙液が上昇する際に,水濡れ性が悪い部位の涙液が上方あるいは下方に引っ張られ,その部位で涙液層の破壊が起こる.e:Randombreak.蒸発亢進で生じる.正常でもみられる破壊パターンで,異なる部位で破壊が生じる.C涙液はカバーできない部位を囲むこむように上昇するので類円形となる涙液はこの部位で角膜をカバーできない図4Spotbreakの涙液の動き