左右の網膜を平行移動させ中心窩が一致するように重ね合わせると,点1~5は互いに重なり合う.このような点を網膜対応点とよび,対応点に同じ像が映るとき視差は0である(連載②参照).対応点同士の情報は視交叉より後ろでは互いに併走し,外側膝状体(図1b)を経てV1で隣り合う場所に到達する(図1c).V1では左右眼からの情報の達する領域が分かれて柱状構造(コラム)を作る.斜視や弱視の際にこのコラム構造に変化が及ぶ.次回で詳説する.*右眼・左眼コラムの細胞が,コラム境界付近の細胞(図1cの◎)に情報を送り,ここで両眼の情報が初めて合流する.この細胞は左右どちらの眼の刺激にも反応する.中には検出した両眼視差に対して反応する細胞があり,視差選択性あるいは視差感受性細胞とよばれる.臨床的には両眼視細胞ともよばれる.視差選択性をもつ細胞視差選択性(disparityselectivity)が最初に報告されより右側網膜に映る.点0~5,対応点同士の情報(a)は視交叉より後ろで併走し,右外側膝状体(b)を経てV1の右眼・左眼コラム内に隣り合う形で到達する(c).次にコラムの細胞が境界の細胞(◎)に情報を送り,ここで両眼の情報が初めて合流する.この細胞は両眼視差を検出し,視差の大きさで反応を変える.黄斑線維周辺線維(99)あたらしい眼科Vol.34,No.7,201710150910-1810/17/\100/頁/JCOPY5L●◎●5R4L●◎●4R3L●◎●3R2L●◎●2R1L●◎●1RF0L●◎●F0R図2視差選択性細胞(V1・V2・abc100100100V3)757575縦軸は細胞の反応強度を,横軸は両眼視差の大きさを,0は視差0,505050+側は同側性,.側は交差性視差252525を表す.bは両眼視差が0のとき000に最大反応を示すが,交差性や同側性など大きな視差に対しては反def応が小さい.eはbと逆の反応を100100100示す.a,dは交叉性視差に対し757575て強く反応する.aは特定の狭い505050範囲の視差に,dは広い範囲の視252525差にゆるやかに反応する.cは狭い範囲の,fは広い範囲の同側性000視差に反応する.神経細胞の反応強度スパイク/秒-1.0-0.500.51.0-1.0-0.500.51.0-1.0-0.500.51.0-1.0-0.500.51.0-1.0-0.500.51.0-1.0-0.500.51.0両眼視差(度)たのは,1968年,ネコのV1においてである1).麻酔下のネコで,眼球の動きを止めるため筋弛緩剤を使用した状態でV1の細胞が両眼視差に反応することを示した.しかしこの方法では両眼で同じ点を固視するのは困難であり,細胞が本当に両眼視差に反応しているのかとの批判もあがった.数々の追試で細胞の存在を証明し,現在では立体視研究の第一歩とされている.その後,無麻酔のサルによる実験で視差選択性細胞が報告された2).ある1点を固視するよう訓練されたサルに,視標やran-domdotstereogram(RDS,連載⑤参照)を用いて交差性あるいは同側性の視差刺激を与えることにより,視差の大きさに応じて異なる反応を示す細胞をV1・V2・V3に発見した(図2).詳細は図の説明に記す.*さまざまな視差選択性細胞が,両眼から入る視差の大きさに応じて反応を変化させることで,単眼の二次元の情報を三次元の情報に変換している.視差0の基準面(ホロプター,連載②参照)を定めて検出した交差性視差は,固視点より前方や凸の,同側性視差は固視点より後方や凹の感覚につながる(連載③参照).視差選択性細胞は1990年代に入るとV5/MTやV5a/MSTなど背側経路(連載⑩参照)においても報告された.腹側経路に存在することを明らかにしたのは日本の研究者であり,当時の考え方を大きく変えた1).腹側経路の視差選択性細胞腹側経路の最終ステージである下側頭葉に視差選択性細胞が存在することを藤田らは2000年にサルで報告し3),後にV4でも証明した1,4).サルが視差のある図形1016あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(文献2より改変)を凸や凹の感覚としてとらえているかを調べるのは非常に困難なことだが,彼らは次のような実験を行った.視標やRDSを用いて呈示した凸(交差性視差)や凹(同側性視差)の刺激を区別できるよう訓練し,凹凸どちらの感覚を得たかを回答させる.具体的には視差刺激消失後の画面で,得た感覚が凸ならば画面下方を,凹ならば上方を固視させ,眼の動きをアイモニターで観察する.さらに下側頭葉やV4に留置した微小電極で細胞の反応を記録する.このような自覚的・他覚的両方の判定によってサルが0.02度程度の細かい視差をとらえていることを証明した.背側経路は大まかな立体視に,腹側経路は精密な立体視に関与すると現在考えられている.視差選択性細胞は生後両眼から同等の視覚刺激が届くことで育つ.立体視の発達は生後3~4カ月に始まり3歳終わり頃に終了するとされる.片眼の白内障や不同視のため鮮明な像が映らず弱視を生じたり,斜視のため対応点に同じ像が映らなかったりすると,細胞の発育が阻害される.文献1)藤田一郎:立体世界を見る脳のしくみ.脳がつくる3D世界─立体視のなぞとしくみ.p132-170,化学同人,20152)PoggioGF,GonzalezF,KrauseF:Stereoscopicmecha-nismsinmonkeyvisualcortex:binocularcorrelationanddisparityselectivity.JNeurosci8:4531-4550,19883)UkaT,TanakaH,YoshiyamaKetal:Disparityselectivi-tyofneuronsinmonkeyinferiortemporalcortex.JNeu-rophysiol84:120-132,20004)ShiozakiHM,TanabeS,DoiTetal:NeuralactivityincorticalareaV4underlies.nedisparitydiscrimination.JNeurosci32:3830-3841,2012(100)