提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一41.調節・明視域●調節力と明視域眼には網膜に焦点を結ぶためのピント調節機構があり,眼の調節という.人の調節の大部分は水晶体前面の曲率増加,厚さの増加など水晶体の変化であり,輻湊,瞳孔反応と連動して行われている1).無調節下において明視できる点を遠点,最大調節時に明視できる点を近点,遠点と近点の距離を調節域といい,その距離をdiopter[D,網膜に結像する対象物の距離(m)の逆数]で表したものを調節力という..2Dで完全矯正される近視の未矯正下での遠点は眼前50cm,調節力1Dの場合の近点は眼前33cmであり,屈折矯正下における遠点は無限遠方(∞),近点は眼前1mに移動する.屈折矯正の状態により遠点と近点は変化する(図1).近視の場合は,調節域と明視域はともに眼前有限距離にあるため一致する.一方,遠視眼の場合は調節域と明視域は一致しない.+1Dで完全矯正される遠視の未矯正での遠点は眼後(無限遠方を明視するために調節が必要な状態)1m,調節力3Dの場合の近点は眼前50mである.調節域は眼後1mから眼前50cmであるが,明視域は無限遠方から眼前50cmとなる.遠視の場合は無限遠方を明視するためにも調節力が必要であるため,近方視に対してより負担が生じ,眼精疲労を生じさせる原因となる.遠視において遠見裸眼視力は良好な場合が多いが,明視域の眼後半田知也北里大学医療衛生学部視覚機能療法学拡大,眼の負担軽減を考慮し,遠視の屈折矯正は重要である.加齢とともに調節機能が低下して(水晶体の弾性低下,毛様体の変化),近点が遠方へ移動(近方の明視が困難になる)した状態が老視である2).仮に正視眼で調節力が0(D)の場合は,遠点は無限遠方,調節力0Dのため近点も無限遠方となり,明視域は無限遠方のみ(手前が見えにくい)となる.屈折矯正(とくに老視矯正)における屈折矯正度数の測定では,完全屈折矯正度数,調節力,日常生活において明視が必要な視作業距離の把握が必要となる.明視域が日常生活における視覚の質を維持できる範囲となるため,コンタクトレンズ(CL)矯正前・後の明視域の変化について十分に理解し,患者に対して説明することが必要である.●調節検査(自覚的・他覚的)調節検査は自覚的検査と他覚的検査があるが,いずれの場合も視標の明視状態や検査に対する注意力により結果が変動し,測定値も変動することに注意する必要がある.自覚的調節検査は石原式近点計や両眼開放式定屈折近点計D’ACOMO(ワック)を用いて近点および遠点を測定し,測定結果から調節力を算出する.実視標を物理的眼前+1.0D+0.5D0D-0.5D-1.0D-2.0D-3.0D(矯正レンズ)図1屈折矯正による明視域の変化.2Dの近視,調節力1D,未矯正の場合の遠点は眼前50cm,近点は33cmであり(オレンジ色で示す),屈折矯正下の遠点は無限遠方(∞),近点は眼前1mである(緑で示す).明視域(遠点と近点の間)は屈折矯正により変化する.1m2m∞2m1m50cm33cm(69)あたらしい眼科Vol.35,No.3,20183510910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2測定画面および測定結果(ARK.1s,ニデック)固視目標の移動位置(調節負荷)に応じた調節反応と瞳孔反応(縮瞳)の経時的計測結果がグラフ表示される.AMP:調節力,T1REF:雲霧状態の前後5秒を除いた屈折値,L1LAG:調節負荷量と調節量のラグに近方に移動させ,明視できる限界点に対する被検者の自覚応答をもとに測定されるため,複数の測定値の平均値をもとに算出することが望ましい.他覚的調節検査は他覚的屈折検査装置にて計測した屈折値をもとに,屈折検査装置の内部固視標位置を光学的に制御することにより調節応答を経時的に計測し,調節力を測定する.現在市販されている臨床的な他覚的調節検査装置としては,ARK1/AR1(ニデック)がある3).検査は通常のオートレフラクトメータと同じように被検者に検査装置内部の固視目標を見てもらい,検者はジョイスティックを操作しながら患者の瞳孔中心を正確に合わせ,必要に応じて微調整する.検査結果は内部固視目標の移動位置(調節負荷)に応じた調節と瞳孔反応(縮瞳)の経時的計測結果とともに,調節力,雲霧時(測定前に固視目標をデフォーカス)の他覚的屈折値,調節負荷量と調節量のラグなどが表示される.調節検査結果は測定条件によって大きく変化する.日常視に近い調節応答を評価するためには両眼開放下での測定が理想であり,将来,両眼開放下で両眼同時に他覚的調節が可能な検査装置の開発が望まれる.●おわりに屈折矯正においては,できるだけ調節の関与を少なくすることが,眼精疲労を防ぐために重要である.遠方視に比べて近方視では調節負荷が強くかかる.正視で近方視作業距離40cmを明視するために必要な調節力は2.5Dであり,調節力1Dの場合は不足分の1.5Dを近用眼鏡などで補正する必要がある.余力をもって近方を明視するためには,不足分の加入だけでなく,さらに+a(残余調節力の半分が一つの目安)の近方加入を追加が必要である.とくに近年はスマートフォンなどでより近方視が必要となる場合があり,+aの近方加入が眼精疲労の予防の観点からも必要であると考える.患者の調節・明視域を把握することが患者満足度の高いCL処方およびマルチフォーカルCLの見え方に対する患者への説明において重要であると考える.文献1)所敬:調節.屈折異常とその矯正,第4版,p193-210,金原出版,20042)鵜飼一彦:調節.視覚情報処理ハンドブック(日本視覚学会編),p33-34,朝倉書店,20003)森本壮:調節検査.眼科検査ガイド(根本昭監修),第2版,p139-141,文光堂,2016PAS103