●連載202監修=岩田和雄山本哲也202.緑内障に下垂体腫瘍の合併って小林奈美江総合南東北病院眼科,南東北眼科クリニックこんなにあるの?池田秀敏総合南東北病院脳神経外科下垂体疾患研究所緑内障に他の眼内病変がある場合には,眼科医にとってその鑑別は困難ではないが,眼外病変の頭蓋内疾患,とくに多彩な視野異常を主訴とする下垂体腫瘍の場合は,他科との協力が必要である.●はじめに筆者らは,脳神経疾患研究所付属南東北眼科クリニック(以下,当科)で緑内障として加療している症例において,頭痛,めまいを伴っており,とくに左右差が強い視野異常で,他疾患を疑わせる症例について,頭蓋内の精査をした結果,下垂体腫瘍の合併を50例に認めた.●方法と結果2012年6月.2013年6月の当院の外来実患者総数は9,690人で,そのうち下垂体腫瘍が疑わしい症例106人(1.1%)に精査を施行した.その結果,緑内障加療中の50例に下垂体腫瘍が発見された.50例の内訳は,女性37例(74%),男性13例(26%)で,年齢は24.79歳(平均55.7歳),片眼性緑内障19例,両眼性31例であった.下垂体腫瘍は,Rathke.胞(Rathke’scleftcyst:RCC)38例(76%),RCC+Cush-ing病5例(10%),下垂体腺腫4例(8%),RCC+成長ホルモン産生腫瘍2例(4%),RCC+下垂体腺腫1例(2%)であった.治療は手術23例(46%),ホルモン補充療法2例(4%),治療拒否2例(4%),経過観察23例(46%)であった.視野が下垂体腫瘍病変部位と一致したのは26例(52%)で,うち片眼性緑内障は6例(23%),両眼性緑内障は20例(77%)であった.自覚症状は,頭痛24例(48%),頭痛+めまい10例(20%),めまい8例(16%),自覚症状なし8例(16%)であった1,2).●眼科医の立場から緑内障であることは確実であっても,それ以外の合併症の検索にあたっては,眼科以外の関連領域科の協力が必要になる.当院では眼科外領域の,とくに下垂体疾患の専門医が常在することから,積極的に協力体制を組むことができ,今回,過去1年間で下垂体腫瘍50例という多数の合併症を発見する機会を得,その臨床像をまとめることができた.その臨床像は,片眼またはおもに片眼に強い視野障害(61)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1下垂体CT像を認め,頭痛,めまいは84%に及ぶというものであった.この結果より,とくに片眼緑内障の際には,本合併症を想定におく必要があることが示唆された.さらに下垂体腫瘍手術例における視野改善は比較的良好との報告3.6)もあるが,本研究では有意な改善はみられなかった.今回の症例で手術後に視野改善が得られなかったものは,その発見までの期間が長く遅きに失したため,慢性障害で視野欠損が残存したか,もしくは,すべての症例で,画像上,視神経への圧迫所見が認められなかったことより,下垂体腫瘍は視野障害に関与していなかったものと考えられた.●下垂体専門医の立場から1)原因不明の視野障害,とくに片眼に強い視野障害を認める場合は,問診で周期的な頭痛,めまい,生理不あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017521.胞図23ステラFlairCubeMRI像RCCと視交差の間が約2mmなので,RCCの破裂により視神経の炎症も示唆される.順を確認し,thinsliceの下垂体CTを施行し,トルコ鞍底骨の菲薄化を確認する(図1).2)通常のCT,MRIでは,腫瘍がかなり大きくならないと発見されないことが多く,軽微なものは発見がむずかしく,読影がむずかしい.トルコ鞍の菲薄化を認めた場合は,まずは下垂体専門医に紹介する必要がある.しかし,若年者では骨の菲薄化は伴わないことがあり,発見が遅れることがあるため,注意を要する.その後,下垂体専門医でホルモン検査,3テスラFlareCubeMRIでの詳細な画像診断が必要である(図2).下垂体専門医でないと一般的にはホルモン検査をしないため,発見がむずかしい(婦人科からは高プロラクチン血症での紹介が多い).3)下垂体腫瘍はおもに両耳側半盲であるが,不定型な視野異常をきたすことがあり,緑内障などの視野異常を呈する疾患に合併した場合,視野が修飾されるため,注意を要する.4)RCC破裂に起因する頭痛は,手術治療にて94%の症例において頭痛のスコアが改善する.また手術により,.胞破裂に伴う正常下垂体組織の炎症惹起による下垂体機能の低下,ひいては荒廃に至る過程が阻止あるいは改善されうるものと考えられる(図3).RCCの手術適応は,画像本位ではなく,症状の程度,ホルモンの障害の進行の有無を重視し,下垂体に精通した術者が行うべきと考える7).●まとめ当科で発見された下垂体腫瘍はすべてRCCを合併しており,下垂体CTでトルコ鞍底骨の菲薄化を認め,下522あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017図3手術所見表面平滑で光沢のある.胞壁(.印).垂体専門医に紹介し,ホルモン検査で異常を認め,加療に至った症例である.また,当科では,RCC合併による視神経炎8),原因不明の漿液性網膜.離がRCCの手術9)により軽快した症例を経験した.RCCでは,周囲組織への炎症反応が強いとされ,視神経への炎症も示唆されることから,今後,さらに多くの症例の検討が必要と思われる.文献1)KobayashiN,KobayashiK,IkedaHetal:Retrospectiveanalysesofophthalmological.ndingsin106casesofsus-pectedpituitarytumors.Lessonslearntfrom2000casesofpituitarysurgery.LAMBERTAcademicPublishing,20152)小林奈美江,池田秀敏,小林健太郎ほか:緑内障加療中に発見された下垂体腫瘍50例の特徴.日眼会誌120:101-109,20163)FindlayG,McFadzeanRM,TeasdaleG:Recoveryofvisionfollowingtreatmentofpituitarytumors;applicationofanewsystemofassessmenttopatientstreatedbytranssphenoidaloperation.ActaNeurochir68:175-186,19834)PeterM,DeTriboletN:Visualoutcomeaftertranssphe-noidalsurgeryforpituitaryadenomas.BrJNeurosurg9:151-157,19955)PowellM:Recoveryofvisionfollowingtranssphenoidalsurgeryforpituitaryadenomas.BrJNeurosurg9:367-373,19956)GnanalinghamKK,BhattacharjeeS,PenningtonRetal:Thetimecourseofvisual.eldrecoveryfollowingtranss-phenidalsurgeryforpituitaryadenomas:predictivefac-torsforagoodoutcome.JNeurolNeurosurgPsychiatry76:415-419,20057)IkedaH,OhhashiG:DemonstrationofhighcoincidenceofpituitaryadenomainpatientswithrupturedRathke’scleftcyst:Resultsofaprospectivestudy.ClinNeurolandNeurosurg139:144-151,20158)小林奈美江,小林健太郎,小野田貴嗣ほか:Rathke.胞による小児視神経炎の1例.臨眼68:1189-1195,20149)小林奈美江,小林健太郎,小野田貴嗣ほか:Rathke.胞を合併した漿液性網膜.離の3例.臨眼70:1089-1095,2016(62)