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硝子体内注射(ベバシズマブ,メトトレキセート)

2017年4月30日 日曜日

硝子体内注射(ベバシズマブ,メトトレキセート)IntravitrealInjection(Bevacizumab,Methotrexate)慶野博*はじめに非感染性の汎ぶどう膜炎や後部ぶどう膜炎の症例では,炎症の遷延化に伴い黄斑浮腫や脈絡膜新生血管が発生し,視力低下の大きな要因となることがある.このような眼合併症に対しては,これまでは副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド薬)を用いた局所・内服療法,免疫抑制薬による治療が主体であったが,最近では抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)阻害薬や免疫抑制薬による硝子体内注射の有用性も報告されている.本稿ではベバシズマブ,メトトレキセートの非感染性ぶどう膜炎に対する硝子体内注射療法の成績について,これまでの報告をレビューし,各薬剤の適用となる病態,有効性とその限界について考察したい.Iベバシズマブによる非感染性ぶどう膜炎の治療ベバシズマブはVEGFに対する遺伝子組換え型ヒト化モノクローナル抗体であり,眼科領域では適用外使用薬である.これまで加齢黄斑変性症に伴う脈絡膜新生血管,網膜新生血管,血管新生緑内障,黄斑浮腫に広く用いられ,その有効性が多数報告されている.ここでは非感染性ぶどう膜炎に合併した黄斑浮腫,脈絡膜新生血管に対するベバシズマブの臨床報告についてまとめる.1.黄斑浮腫ぶどう膜炎における黄斑浮腫の要因としては,網膜血管の慢性的な炎症による血液網膜関門の破綻,硝子体による黄斑部の牽引,高血圧や喫煙といった患者の全身状態や生活習慣などがあげられる1~3).これまで糖尿病黄斑症,黄斑浮腫を合併した網膜中心静脈閉塞症の硝子体液中においてVEGFが上昇していることが知られているが,ぶどう膜炎においても黄斑浮腫(+)群のほうが黄斑浮腫(.)群に比較して前房水中のVEGF濃度が有意に高いことが報告されている4).また,ぶどう膜炎の動物モデルとして知られる実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎の網膜においてVEGFが強発現していること,さらにinterleukin-1(IL-1)やtumornecrosisfactor-a(TNF-a)などの炎症性サイトカインもVEGFの産生を誘導することが知られており,ぶどう膜炎においてもVEGFが黄斑浮腫の病態形成に関与している可能性が示唆される5,6).眼炎症疾患に合併した黄斑浮腫に対するベバシズマブの6報告(すべて後ろ向き研究,症例報告は除外)の結果を表1に示す7~12).報告ごとに対象疾患が異なるものの,ベバシズマブ硝子体内注射前,または注射施行時にステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与が施行されていた症例が33~100%,また4報において一部の症例に対して生物学的製剤が用いられていた7,8,10,12).視力の推移をみると,硝子体内注射後の観察期間が異なるものの,6報中5報において50%以上の症例で視力改善が得られ,*HiroshiKeino:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕慶野博:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(15)475表1眼炎症疾患に合併した黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注射の報告硝子体注射前or注射時の全身治療硝子体注射注射後の視力の推移中心窩網膜厚報告者対象疾患眼数/症例数(CSand/orISAの回数観察期間(評価時期)(平均値)の推移and/orBiologics)治療前→治療後Ziemssenetal7)CS:100%,ISA:50%3眼/6眼で4眼/6眼で網膜厚減少IU:5例,PU:1例6眼/6例CSand/orISA:100%1回1カ月視力改善625→617(mm)retrospectivestudyBiologics:17%(ADA)(硝子体注射後1カ月)(硝子体注射後1カ月)IU:5例,CS:15%,ISA:54%6眼/13眼でComaetal8)Sarcoidosis:3例,CSand/orISA:54%91日4眼/13眼で網膜厚減少retrospectivestudyVKH:1例13眼/13例Biologics:15%1回(中間値)視力改善340→273(mm)SLE:1例,SO:1例,(DZB,IFX)(84~119日)(硝子体注射後6週)(硝子体注射後12週)BSC:1例,MS:1例IU:5例,2.3回(平均値)70日10眼/11眼でMackensenetal9)Anterioruveitis:2例CS:0%,ISA:40%(1~3回)(中間値)8眼/11眼で網膜厚減少retrospectivestudyPU:2例,11眼/10例CSand/orISA:40%うち2回以上が(14~208日)視力改善474→315(mm)Panuveitis:1例9眼/11眼(82%)4週間(硝子体注射後4週)(硝子体注射後4週)HLA-B27(+)AAU:5例,1.5回(平均値)Weissetal10)BSC:1例CS:0%,ISA:33%(1~2回)7眼/11眼で9眼/11眼で網膜厚減少retrospectivestudyRetinalvasculitis:1例,11眼/9例CSand/orISA:33%うち2回以上が視力改善587→494(mm)IU:1例Biologics:22%(IFX)(硝子体注射後4週)(硝子体注射後4週)Anterioruveitis:1例6眼/11眼(55%)1.8回(平均値)Mirshahietal11)CS:100%,ISA:92%(1~2回)7眼/12眼で7眼/12眼で網膜厚減少retrospectivestudyBehcet’sdisease:11例12眼/11例CSand/orISA:100%うち2回以上が記載なし視力改善246→258(mm)6眼/12眼(50%)(最終受診時)(最終受診時)Idiopathicuveitis:11例,Sarcoidosis:5例,CS:0%,ISA:63%1回:13眼Castanedaetal12)ARN:3例,CSand/orISA:63%2回:6眼19眼/29眼でretrospectivestudyRetinalvasculitis:2例,29眼/27例Biologics:22%TA硝子体注射1年視力改善記載なしJIA:2例(硝子体注射後1年)BSC:1例,MS:1例,(DZB,IFX,ADA)併用:10眼SLE:1例,Scleritis:1例AAU:acuteanterioruveitis,ARN:acuteretinalnecrosis,BSC:birdshotchorioretinopathy,IU:intermediateuveitis,JIA:juvenileidiopathicarthritis,MS:multiplesclerosis,PU:posterioruveitis,SLE:systemiclupuserythematosus,TB:tuberculosis,VKH:Vogt-Koyanagi-Harada,ADA:adalimumab,DZB:daclizumab,CS:corticoseroid,ISA:immunosuppressiveagents,IFX:in.iximab,TA:triamcinolone.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いた中心窩網膜厚の解析では,結果の記載があった5報中4報で半数以上の症例で網膜厚の減少がみられた.ただしMackenson,Weiss,Mirshahiらの報告をみると,ベバシズマブの硝子体注射の平均施行回数は1.5~2.3回,またベバシズマブ硝子体内注射が2回以上施行された症例が50~82%,さらにCastanedaらの報告では全体の約3割でトリアムシノロン(triamcinoloneace-tonide:TA)の硝子体内注射が併用されていた9~12).上記の結果から,眼炎症疾患に合併した黄斑浮腫に対してベバシズマブ硝子体内注射は一定の効果はあるものの,その効果は一過性であること,またベバシズマブ硝子体内注射単独では効果不十分な症例が存在することが示唆される.実際にWeissらの9例の報告においても,黄斑浮腫に加えてフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)で視神経乳頭や脈絡膜から著明な蛍光漏出がみられた3例(そのうち2例は免疫抑制薬とインフリキシマブの併用下)では,ベバシズマブ単独では無効であり,TAの硝子体内注射が有効であったとしている10).非感染性ぶどう膜炎における黄斑浮腫の要因として,VEGFに加えて,慢性的な炎症により眼内に貯留したIL-1やIL-6,TNF-a,interferon-g(IFN-g)などの炎症性サイトカインが血液網膜関門に作用することでバリア機能の障害が生じると考えられる2).Rothovaらは黄斑浮腫に対して,ステロイド薬の点眼・局所注射から開始し,反応が不十分な症例にはステロイド薬やシクロスポリンなどの免疫抑制薬の全身投与を行うことで,黄斑浮腫の原因となる眼内の炎症を十分にコントロールすることが重要であると述べている13).非感染性ぶどう膜炎の活動期に生じた黄斑浮腫に対する治療は,①ステロイド薬による局所・全身治療で十分な消炎を行う,②ステロイド薬の減量や中止により黄斑浮腫の再発・増悪をきたす場合は,免疫抑制薬の併用を考慮する.現状では抗VEGF硝子体内注射療法は,ステロイド薬による眼圧上昇や白内障進行によりステロイド局所治療が困難な場合,全身状態不良のためステロイド薬や免疫抑制薬の使用が困難な場合,ぶどう膜炎の非活動期に黄斑浮腫が持続する場合などに対する補助的な治療手段として考慮すべきである.2.脈絡膜新生血管脈絡膜新生血管はさまざまな眼炎症性疾患に合併するが,とくにmultifocalchoroiditisやpunctateinnercho-rioretinopathyなどいわゆるacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)complexにおいて合併頻度が高いことが知られている15).また,地図状脈絡膜炎や原田病の遷延例においてもみられる15).眼炎症疾患に合併した脈絡膜新生血管に対するベバシズマブの6報告(1報が前向き,5報が後ろ向き研究,症例報告は除外)の結果を表2に示す16~21).報告ごとに対象疾患が異なるもののベバシズマブ硝子体内注射前,または注射施行時にステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与が施行されていた報告が6報中4報,ステロイド薬は20~100%,免疫抑制薬が15~40%の症例に用いられていた.また,1報において20%の症例に対して生物学的製剤が用いられていた.視力の推移をみると,硝子体内注射後の観察期間が異なるものの,すべての報告で60%以上の改善が得られ,中心窩網膜厚の解析では,結果の記載があった6報中4報において70%以上の症例で網膜厚の減少がみられた.さらにChanらの前向き研究を除いた5報で,ベバシズマブの硝子体注射の施行回数をみると,平均1.3~2.7回,またベバシズマブ硝子体内注射が2回以上施行された症例が22~80%であった.上記の結果から,眼炎症疾患の脈絡膜新生血管に対するベバシズマブ硝子体内注射の効果は一過性ではあるものの,黄斑浮腫に比較して視力改善率が高い傾向がみられた.脈絡膜新生血管も,黄斑浮腫と同様にその発生機序として,眼内の慢性的な炎症,それによる網膜色素上皮細胞・Bruch膜の障害,脈絡膜循環障害からの虚血性変化によるVEGFの増加などが要因と考えられる22~24).そのため,炎症の活動性が高い時期に脈絡膜新生血管を生じた場合は,ステロイド薬や免疫抑制薬などを用いて眼炎症の寛解導入・維持を行いながら,抗VEGF硝子体内注射を検討する.眼炎症の活動性が低い症例では抗VEGF硝子体内注射単独でも有効である可能性がある.今後は多施設での前向き臨床試験などにより眼炎症疾患(17)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017477表2眼炎症疾患に合併した脈絡膜新生血管に対するベバシズマブ硝子体注射の報告硝子体注射前or注射時の全身治療硝子体注射注射後の視力の推移中心窩網膜厚報告者対象疾患眼数/症例数(CSand/orIMTの回数観察期間(評価時期)(平均値)の推移and/orBiologics)治療前→治療後1.3回(平均値)Adanetal16)PIC:3例,MC:2例,(1~3回)7.1カ月8眼/9眼で視力改善9眼/9眼で網膜厚減少retrospectivestudySC:2例9眼/9例記載なしうち2回以上が(平均値)(最終受診時)360→220(mm)POHS:1例,BSC:1例2眼/9眼(22%)(6~10カ月)(最終受診時)15眼/15眼でChanetal17)idiopathic:9例,3回15眼/15眼で視力改善網膜厚減少prospectivestudyCSC:2例,15眼/15例記載なし(1回/月,6カ月(硝子体注射後6カ月)306→201(mm)PIC:4例3カ月連続)(硝子体注射後6カ月)MCwithpanuveitis:15眼,PIC:15眼Ocularhistoplasmosis:13Mansouretal18)眼,VKH:5眼CS:41%,ISA:15%58眼/74眼で視力改善351→253(mm)retrospectivestudySC/BSC:6眼,74眼CSand/orISA:47%1.6回(平均値)3カ月(硝子体注射後3カ月)(硝子体注射後3カ月)idiopathic:11眼Toxoplasmosis/TB/Sarcoidosis:8眼2.5回(平均値)7眼/10眼でTranetal19)MC:6例,SO:2例,CS:100%,ISA:40%(1~4回)7.5カ月7眼/10眼で視力改善網膜厚減少retrospectivestudyVKH:1例,SC:1例10眼/10例CSand/orISA:100%うち2回以上が(平均値)(最終受診時)326→260(mm)7眼/10眼(70%)(6~12カ月)(最終受診時)2.7回(平均値)Doctoretal20)idiopathic:1例,CS:40%,ISA:40%(1~5回)15.3カ月3眼/5眼で視力改善retrospectivestudyBSC:1例,MC:1例5眼/5例CSand/orISA:40%うち2回以上が(平均値)(最終受診時)記載なしSO:1例,VKH:1例Biologics:20%(DZB)4眼/5眼(80%)(6~12カ月)2.3回(平均値)Fineetal21)CS:20%,ISA:20%(1~6回)41.5週5眼/6眼で視力改善retrospectivestudyMC:5例6眼/5例CSand/orISA:40%うち2回以上が(平均値)(最終受診時)記載なし3眼/6眼(50%)(25~69週)BSC:birdshotchorioretinopathy,CSC:centralserouschorioretinopathy,MC:multifocalchoroiditis,PIC:punctateinnerchorioretinopathy,POHS:presumedocularhistoplasmosissyndrome,SC:serpiginouschoroiditis,SO:sympatheticophthalmia,TB:tuberculosis,VKH:Vogt-Koyanagi-Harada,ADA:adalimumab,DZB:daclizumab,CS:corticoseroid,ISA:immunosuppressiveagents,IFX:in.iximab.図1中枢性・眼内悪性リンパ腫(メトトレキセート硝子体内図2中枢性・眼内悪性リンパ腫(メトトレキセート硝子体内注射前)注射後)a:超広角眼底画像にて,左眼アーケード内耳側および鼻側上方a:注射前にみられた網膜の白色浸潤巣は軽快した.b:OCTから下方にかけて,白色の浸潤病巣がみられる(→).b:OCTにてellipsoidzoneの回復がみられる.矯正視力も左眼(0.8)にてellipsoidzoneの不明瞭化とRPEの肥厚が観察される.から(1.0)まで改善した.で9カ月間投与を継続し,有効性,安全性について評価した29).その結果,眼内リンパ腫の寛解導入までに平均6.4回(2~16回)のメトトレキセート硝子体注射を施行,経過観察中,全例で眼内リンパ腫の再発を認めなかった.また,全症例において治療開始後(多くは硝子体注射3回目以降)角膜上皮障害がみられたが,投与間隔を延長することで改善がみられた.Akiyamaらはメトトレキセート硝子体内注射のみで治療した原発性眼内リンパ腫8例中全例で,治療開始後眼内リンパ腫の寛解を得たものの,経過観察中に8例中2例で眼内リンパ腫の再発,8例中7例で中枢性悪性リンパ腫が発症した報告している30).さらに彼らはメトトレキセート硝子体内注射と大量メトトレキセート全身治療の併用治療のほうが,メトトレキセート硝子体内注射単独治療に比較して中枢性悪性リンパ腫発症の予防に効果的であると報告した.これらの報告から眼内リンパ腫に対するメトトレキセート硝子体内注射療法は高い寛解導入効果を有するものの,眼内リンパ腫の再発・中枢性悪性リンパ腫の発症を完全に抑制することは困難といえる.現時点ではメトトレキセート硝子体内注射療法は眼内リンパ腫による視機能障害を最小限にし,qualityofvision(QOV)を保持するための補助的な治療法と考える(図1,2)31,32).2.ぶどう膜炎に対するメトトレキセート硝子体内注射Taylorらは15例15眼の非感染性ぶどう膜炎患者に対してメトトレキセート(400μg)硝子体内注射を行ったところ,治療開始3カ月,および6カ月の時点で有意に視力が改善し,42%でステロイド薬投与量の減量効果が得られたが,治療開始4カ月の時点で33%の症例で再燃がみられたと報告している33).また,Baeらはステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与に抵抗性を示すBehcetぶどう膜炎患者7例7眼に対してメトトレキセート(400μg)硝子体注射を行い,治療前後の視力,FA所見,ステロイド薬の減量効果を検討した.経過観察期間は平均25週間(18~40週),注射回数は平均4.3回(3~6回).治療開始後7眼中6眼で視力改善,FAにて4眼で漏出所見の軽快がみられた34).現状では非感染性ぶどう膜炎に対するメトトレキセート硝子体内注射に関する報告は少なく,どのような病態,疾患に有効なのか不明な点が多い.今後,前向き臨床試験などにより有効性や安全性についてさらなる検討が期待される.文献1)DickAD:Thetreatmentofchronicuveiticmacularoede-ma.BrJOphthalmol78:1-2,19942)RotsosTG,MoschosMM:Cystoidmacularedema.ClinOphthalmol2:919-930,20083)ThorneJE,DanielE,JabsDAetal:Smokingasariskfactorforcystoidmacularedemacomplicatingintermedi-ateuveitis.AmJOphthalmol145:841-846,20084)FineHF,Ba.J,ReedGFetal:Aqueoushumorandplasmavascularendothelialgrowthfactorinuveitis-asso-ciatedcystoidmacularedema.AmJOphthalmol132:794-796,20015)VinoresSA,ChanCC,VinoresMAetal:Increasedvas-cularendothelialgrowthfactor(VEGF)andtransforminggrowthfactorbeta(TGFbeta)inexperimentalautoim-muneuveoretinitis:upregulationofVEGFwithoutneo-vascularization.JNeuroimmunol89:43-50,19986)GulatiN,ForooghianF,LiebermanRetal:Vascularendothelialgrowthfactorinhibitioninuveitis:asystemat-icreview.BrJOphthalmol95:162-165,20117)ZiemssenF,DeuterCM,StuebigerNetal:Weaktran-sientresponseofchronicuveiticmacularedematointra-vitrealbevacizumab(Avastin).GraefesArchClinExpOphthalmol245:917-918,20078)CorderoComaM,SobrinL,OnalSetal:Intravitrealbev-acizumabfortreatmentofuveiticmacularedema.Oph-thalmology114:1574-1579,20079)MackensenF,HeinzC,BeckerMDetal:Intravitrealbevacizumab(avastin)asatreatmentforrefractorymac-ularedemainpatientswithuveitis:apilotstudy.Retina28:41-45,200810)WeissK,SteinbruggerI,WegerMetal:IntravitrealVEGFlevelsinuveitispatientsandtreatmentofuveiticmacularoedemawithintravitrealbevacizumab.Eye(Lond)23:1812-1818,200911)MirshahiA,NamavariA,DjalilianAetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forthetreatmentofcystoidmacu-laredemainBehcetdisease.OculImmunolIn.amm17:59-64,200912)Cervantes-CastanedaRA,GiuliariGP,GallagherMJetal:Intravitrealbevacizumabinrefractoryuveiticmacularedema:one-yearfollow-up.EurJOphthalmol19:622-629,200913)RothovaA:Medicaltreatmentofcystoidmacularedema.480あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(20)-’

ステロイドなどの局所投与(点眼と眼周囲注射)

2017年4月30日 日曜日

ステロイドなどの局所投与(点眼と眼周囲注射)TopicalSteroidTreatments(EyeDropsandPeriocularInjections)橋田徳康*はじめに非感染性ぶどう膜炎に対する治療の選択肢としてインフリキシマブ,アダリムマブなどの生物学的製剤が使用できるようになった現在でも,消炎に対する根幹治療として副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)の地位はゆるぎない.投与方法には,全身投与・眼局所投与1)など,病態に応じて使い分けがなされているが,本稿ではそのなかでも局所投与に関して解説する.Iぶどう膜炎治療におけるステロイド療法ステロイドは,1950年にノーベル生理学・医学賞を受賞したEdwardCalvinKendall,PhilipShowalterHench,TadeusReichsteinの臨床応用から約70年の歴史があり,日常的に使用されている.もともと副腎皮質ステロイドは炎症の制御,炭水化物の代謝,蛋白質の異化,血液の電解質のレベル,免疫反応など広範囲の生理学系に深くかかわっており,ストレスや侵襲など外界からの影響により分泌される.副腎皮質ホルモンは糖質コルチコイドおよび鉱質コルチコイドに分かれ,糖質コルチコイドは,炭水化物,脂肪,および蛋白代謝を制御し,リン脂質の生成を防ぐことによって抗炎症薬としても働き,好酸球の活動を抑制するなどさまざまな作用をもつ.鉱質コルチコイドは,おもに腎臓でナトリウム貯留を促進させ,電解質と水分を制御する働きをもつ.筆者らは,この糖質コルチコイド作用を強化した合成ステロイドを日常臨床で使用している.ぶどう膜炎における炎症の病態形成には,インターロイキン・tumornecrosisfactorをはじめとした炎症性サイトカイン,ケモカインおよびそれらの受容体の発現変化,さらに好中球・T細胞・B細胞など炎症細胞の活性化がかかわっており,ステロイド薬は,これら炎症関連物質の産生を抑制し,炎症細胞活性を抑えることでその効果を発揮する2).ステロイド薬は開発の歴史が古く,消炎効果をもたらす有効な薬剤として広く使用されてきた.その後の免疫抑制薬の開発や,近年の生物学的製剤の開発とその使用の広がりはあるものの,現在でもぶどう膜炎治療の中心的な役割を果たしている2,3).IIステロイドなどの薬剤の眼局所療法ぶどう膜炎の治療はおもにステロイドを用い,ステロイドの投与には,全身投与・局所投与がある.それぞれの投与方法において利点・欠点が存在し,眼局所投与の方法として,点眼・結膜下注射1)・後部Tenon.下投与4,5)・硝子体投与6)などがある.硝子体注射に関しては,次項で扱うので,本稿では点眼・結膜下注射・後部Tenon.下投与について解説する.1.点眼治療炎症が前眼部にある場合は,まずステロイド点眼を用いる.0.1%ベサメタゾン(リンデロンR)点眼が汎用される.1日3~4回から,1時間ごとの頻回点眼まで炎症の程度に応じて点眼回数を決定する.汎ぶどう膜炎,中*NoriyasuHashida:大阪大学大学院医学系研究科眼科学・眼免疫再生医学〔別刷請求先〕橋田徳康:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学・眼免疫再生医学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)469図2帯状角膜変性症の症例毛様充血はなくなり急性期の炎症はコントールされている図1急性前部ぶどう膜炎の症例が慢性的な炎症により帯状角膜変性がみられる.強い毛様充血と前房内にフィブリン析出が認められる.図3結膜下注射後の結膜下出血をきたした症例図1の症例にステロイド結膜下注射を施行した.毛様充血は軽快し炎症はコントロールされてきているが,虹彩後癒着はまだ残存している.図4強膜炎に対するケナコルト結膜下投与の症例a:結節性強膜炎を認め毛様充血が強い症例.b:ケナコルト結膜下注射後に消炎がコントロールされ,ケナコルト粒子が残存している.図5後部Tenon.下投与を行った症例a:サルコイドーシスに伴う黄斑浮腫の症例,後部Tenon.下投与前.b:ケナコルトTenon.下投与後,黄後部Tenon.下投与黄斑浮腫は軽快したが,黄斑上膜が残存している.図6後部Tenon.下注射の実際a:注射の際には,結膜を切開してしっかりTenon.と強膜を露出する.b:強膜の露出を確認後,強膜表面に添わせるように針先を進めていく.c:針先に抵抗がない箇所を探りながら,0.5ml程度を投与する.らのアプローチになる.そのためには,投与部位では上耳側か下耳側になる.上耳側からのアプローチは,眼瞼下垂を生じることがあるので,上耳側を嫌い下耳側から投与する術者も多い.ときに感染性強膜炎や眼窩内膿瘍の症例が報告されているので8),感染にも注意する必要がある.投与するステロイドに関しては,トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-AR)筋注用関節腔内容水懸注40mg/1ml(Bristol-Mayer社)がよく使われていると思うが,この薬剤はおもに整形外科領域で使用され,適用上の注意として眼科用に使用しないようにとくに注意文書として出されている.したがって,本剤を眼科で使用する場合には,患者の同意が必須であると同時に,施設の倫理委員会にかけておくほうが好ましく,施設によっては原液をそのまま使用する場合と,眼内灌流液などでベンジルアルコールなどの添加物を除去する目的で懸濁液を洗って使用する施設もある.このような弊害を避けるために,硝子体手術時の硝子体の可視化や黄斑浮腫の治療に用いられているマキュエイドR硝子体内注用40mg(わかもと製薬)が非感染性ぶどう膜炎に対して認可される予定で,近い将来,臨床の現場で使用できると思われる.IIIステロイド投与方法とその実際1.結膜下注射の投与手順①あらかじめ点眼麻酔(4%キシロカインR点眼)を効かせておく.②あらかじめツベルクリン用シリンジに薬液を充.しておく.26Gか27G針を付けておく.③患者を仰臥位にし,開瞼器をかける.④炎症の強いところ,散瞳薬と併用する場合には,虹彩後癒着の強い部分の周囲に集中的に0.5~1.0mlを結膜下に注入する.2.後部Tenon.下注射の投与手順①投与前に点眼麻酔(4%キシロカインR点眼)を効かせておく,同時にPAヨード点眼など抗菌対策も行う.②薬液を準備したのち,開瞼器を挿入し開瞼する.開瞼後は抗菌薬の点眼を行い,表面麻酔薬を追加する.③下耳側からのアプローチの場合,患者に上鼻側を注視させる.④投与後の結膜下出血を避けるために,なるべく大血管をさけスプリング剪刀で結膜,Tenon.を強膜が露出するまで切開する(図6a).⑤強膜の露出を確認後,強膜表面に添わせるように針先を進めていく(図6b).⑥針先に抵抗がない箇所を探りつつ,0.5ml程度を投与する(図6c).おわりにぶどう膜炎の治療の前に鑑別診断をしっかり行い,感染を否定したうえで適正な消炎治療を行っていくことが重要である.免疫抑制薬・生物学的製剤など治療の選択肢も広がってきたが,もっとも使用頻度が高く信頼できる薬物がステロイド薬であり,さまざまな投与形態に対応可能であるのがステロイド薬でもある.投与形態には全身投与・局所投与があるが,本稿では局所投与について概説した.眼球は閉鎖臓器であるために局所治療の絶好の対象であり,全身の副作用なく局所での有効濃度を高めた治療ができる点で有利である.治療法の特徴とその合併症を十分に習熟し効率のよい治療をしておくことが望まれる.文献1)RoufasA,JalaludinB,GaskinCetal:Subconjunctivaltri-amcinolonetreatmentfornon-necrotisinganteriorscleri-tis.BrJOphthalmol94:743-747,20102)FlomanN,ZorU:Mechanismofsteroidactioninocularin.ammation:Inhibitionofprostaglandinproduction.InvestOphthalmolVisSci16:69-73,19773)JabsDA,RosenbaumJT,FosterCSetal:Guidelinesfortheuseofimmunosuppressivedrugsinpatientswithocu-larin.ammatorydisorders:recommendationsofanexpertpanel.AmJOphthalmol130:492-513,20004)TannerV,KanskiJJ,FrithPA:Posteriorsub-tenon’stri-amcinoloneinjectioninthetreatmentofuveitis.Eye12:679-685,19985)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-tenon’sretrobulbartriamcinoloneinjectionforthetreat-mentofuveitis.BrJOphthalmol87:968-971,2003(13)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017473

感染性ぶどう膜炎を否定するための努力:考え方と検査

2017年4月30日 日曜日

感染性ぶどう膜炎を否定するための努力:考え方と検査E.orttoRuleOutInfectiousUveitis:ConceptandExamination中尾久美子*I免疫抑制薬による治療開始前にぶどう膜炎の治療でステロイドをはじめとする免疫抑制薬を使用する前には,感染性ぶどう膜炎を否定することがとても重要である.ごく一部の感染性ぶどう膜炎(HTLV-1関連ぶどう膜炎など)を除き,感染性ぶどう膜炎を免疫抑制薬のみで治療をすると,炎症の増悪や病巣の拡大を招く危険性が高い.最近はステロイド治療としてトリアムシノロンを後部Tenon.下注射することが多くなったが,感染性ぶどう膜炎にこれを行うと,注射したトリアムシノロンを除去することができないので,取り返しのつかないことになりうる.感染性ぶどう膜炎と非感染性ぶどう膜炎を区別することはしばしば困難で判断に迷うことも多いが,免疫抑制薬を投与する前には感染を否定するための努力をしなくてはならない.II否定すべき感染性ぶどう膜炎2009~2010年に大学病院36施設で調査されたぶどう膜炎新患の疾患別頻度をみると(表1)1),診断を確定できたぶどう膜炎のうち,非感染性ぶどう膜炎が75.7%で,感染性ぶどう膜炎が24.3%である.表1で橙色でマーキングしたのが感染性ぶどう膜炎で,頻度の多い順にヘルペス性虹彩毛様体炎,細菌性眼内炎,眼結核,急性網膜壊死,眼トキソプラズマ症,真菌性眼内炎,サイトメガロウイルス網膜炎,HTLV-1関連ぶどう膜炎,梅毒性ぶどう膜炎,眼トキソカラ症があり,おもにこれらの疾患を否定しなくてはならない.III感染性ぶどう膜炎を否定するには感染性ぶどう膜炎を否定するということは,言い換えると,感染性ぶどう膜炎を確実に診断して除外するということである.ぶどう膜炎を診断するには,①問診(現病歴,眼科的および全身的な既往歴,家族歴,生活歴など)をし,②眼科的検査を行い,眼所見から考えられるぶどう膜炎に関連する問診を補足・追加し,③診断を補助するための適切な全身検査を行い,④必要に応じて眼内液の検査を追加する.そして①~④の結果を総合的に検討して診断する(図1).問診で得られた情報や眼所見から感染性ぶどう膜炎が疑われたら,それを診断するために必要な全身検査や眼内液検査を行って感染性ぶどう膜炎の診断を確定するが,臨床所見と血液や眼内液の検査結果が一致しないこともあるので,すべての結果を総合的に判断して診断することが大切である.1.問診から感染性ぶどう膜炎を疑う問診はぶどう膜炎の診療においてとても重要であり,感染性ぶどう膜炎を診断するためには詳細な問診が不可欠である.主訴とその経過,治療歴,全身症状,眼科的・全身的な既往歴,生活歴,家族歴などを聴取する.診断に役立つ情報を患者自ら話してくれることは少ないので,医師が適宜具体的に質問をして必要な情報を効率よく収集する.表2に示すような全身疾患や既往歴・生*KumikoNakao:鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系〔別刷請求先〕中尾久美子:〒890-8544鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)463表1日本におけるぶどう膜炎の疾患別頻度(2009年)1)疾患症例数(%)サルコイドーシス407(10.6)Vogt-小柳-原田病267(7.0)急性前部ぶどう膜炎250(6.5)強膜炎235(6.1)ヘルペス性虹彩毛様体炎159(4.2)Behcet病149(3.9)細菌性眼内炎95(2.5)仮面症候群95(2.5)Posner-Schlossman症候群69(1.8)網膜血管炎61(1.6)糖尿病虹彩炎54(1.4)眼結核54(1.4)急性網膜壊死53(1.4)眼トキソプラズマ症48(1.3)Multipleevanescentwhitedotsyndrome真菌性眼内炎40(1.0)39(1.0)サイトメガロウイルス網膜炎37(1.0)関節リウマチ関連ぶどう膜炎29(0.8)HTLV-1関連ぶどう膜炎29(0.8)炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎28(0.7)Multifocalposteriorpigmentepitheliopathy他の全身疾患関連ぶどう膜炎28(0.7)27(0.7)周辺部ぶどう膜炎26(0.7)多巣性脈絡膜炎23(0.6)Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎21(0.5)Acuteposteriormultifocalplacoidpigmentepitheliopathy16(0.4)TINU症候群関連ぶどう膜炎15(0.4)梅毒関連ぶどう膜炎15(0.4)水晶体起因性ぶどう膜炎13(0.3)Punctateinnerchoroidopathy13(0.3)Juvenileidiopathicarthritis関連ぶどう膜炎11(0.3)地図状脈絡膜症11(0.3)交感性眼炎10(0.3)眼トキソカラ症9(0.2)その他112(2.9)同定不能1,282(33.5)HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,TINU:tubulointerstitialnephritisanduveitis.↓視力,眼圧,細隙灯顕微鏡,隅角,眼底,蛍光眼底造影↓↓スクリーニング検査+想定されるぶどう膜炎に必要な検査↓塗抹検鏡・培養同定,抗体率,PCR総合的に診断図1ぶどう膜炎診断の手順表2感染性ぶどう膜炎が疑われる全身疾患・生活歴全身疾患・生活歴感染性ぶどう膜炎内眼手術後細菌性眼内炎IVH,外科手術既往真菌性眼内炎糖尿病細菌性眼内炎,真菌性眼内炎生肉食歴眼トキソプラズマ症,眼トキソカラ症ペット飼育眼トキソプラズマ症,眼トキソカラ症,猫ひっかき病ダニ刺傷ライム病,ツツガムシ病免疫不全・免疫抑制薬投与CMV網膜炎,細菌性眼内炎,真菌性眼内炎血液悪性腫瘍CMV網膜炎,真菌性眼内炎結核感染結核性ぶどう膜炎HIV感染CMV網膜炎,梅毒性ぶどう膜炎,眼トキソプラズマ症海外渡航歴輸入感染症(デング熱,紅斑熱群リケッチア症,ウエストナイル熱など)に伴うぶどう膜炎IVH:中心静脈栄養,CMV:サイトメガロウイルス.非感染性ぶどう膜炎感染性ぶどう膜炎白内障術後早期の前眼部炎症Toxicanteriorsegmentsyndrome急性細菌性眼内炎白内障手術後1カ月以降の前眼部炎症水晶体起因性眼内炎非感染性ぶどう膜炎の再燃遅発性細菌性眼内炎硝子体注射後の前眼部炎症無菌性眼内炎細菌性眼内炎前房蓄膿を伴う片眼性前部ぶどう膜炎急性前部ぶどう膜炎糖尿病虹彩炎Behcet病内因性細菌性眼内炎眼圧上昇と伴う片眼性前眼部炎症Posner-Schlossman症候群Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎ヘルペス性虹彩毛様体炎網膜血管炎サルコイドーシスBehcet病結核性ぶどう膜炎HTLV-1関連ぶどう膜炎網膜病変(後極)Behcet病サルコイドーシス多巣性脈絡膜炎MPPEAPMPPEトキソプラズマ症真菌性眼内炎トキソカラ症サイトメガロウイルス網膜炎結核性ぶどう膜炎梅毒性ぶどう膜炎急性網膜壊死網膜病変(周辺)サルコイドーシスサイトメガロウイルス網膜炎結核性ぶどう膜炎トキソカラ症乳頭腫脹Vogt-小柳-原田病サルコイドーシス猫ひっかき病梅毒性ぶどう膜炎MPPE:multifocalposteriorpigmentepitheliopathy,APMPPE:acuteposteriormultifocalplacoidpigmentepitheliopathy,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1.末梢血一般検査赤血球数,白血球数,血小板数,白血球分画,ヘモグロビン量血液生化学検査CRP,血糖またはHbA1c血清検査アンギオテンシン変換酵素梅毒定性(STS法,TP抗原法)HTLV-1抗体(CLEIA法)*血糖・HbA1cは糖尿病の有無が不明な時に検査.表5感染性ぶどう膜炎が疑われる場合に追加する血液検査感染性ぶどう膜炎血液検査項目梅毒性ぶどう膜炎梅毒定量(STS法,TP抗原法)結核性ぶどう膜炎クオンティフェロンTbゴールド,T-SPOTHTLV-1関連ぶどう膜炎抗HTLV-1抗体(WB法による確認検査)眼トキソプラズマ症抗トキソプラズマIgM抗体・IgG抗体眼トキソカラ症イヌ回虫幼虫排泄分泌抗原に対する抗体検査遺伝子組換えイヌ回虫幼虫抗原によるイムノクロマト検査内因性真菌眼内炎血清b-D-グルカン血液培養およびIVH先端の培養サイトメガロウイルス網膜炎サイトメガロウイルス抗原血症CD4陽性リンパ球数やCD4/CD8比進行性網膜外層壊死CD4陽性リンパ球数やCD4/CD8比猫ひっかき病抗Bartonellahenselae抗体内因性細菌性眼内炎血液培養,プロカルシトニン表6感染性ぶどう膜炎の診断に有用な眼内液の検査眼内液検査感染性ぶどう膜炎塗抹検鏡・培養同定細菌性眼内炎,真菌性眼内炎抗原検査真菌性眼内炎抗体検査ヘルペス性虹彩毛様体炎,急性網膜壊死,眼トキソプラズマ症,眼トキソカラ症PCR検査ヘルペス性虹彩毛様体炎,急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎,眼トキソプラズマ症,細菌性眼内炎,真菌性眼内炎などウイルスHSV1,HSV2,VZV,EBV,CMV,HHV6,HHV7,HHV8,HTLV-1,アデノウイルス真菌カンジダ(C.albicans,C.glabrata,C.krusei),アスペルギルス,フザリウム,真菌28SrRNA細菌P.acnes,結核,梅毒,クラミジア,細菌16SrRNAその他トキソカラ,トキソプラズマ,アカントアメーバHSV:herpessimplexvirus,VZV:varicellazostervirus,EBV:Epstein-Barrvirus,CMV:cytomegalovirus,HHV:humanherpesvirus,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1.

序説:生物学的製剤の時代における非感染性ぶどう膜炎の治療戦略

2017年4月30日 日曜日

生物学的製剤の時代における非感染性ぶどう膜炎の治療戦略TreatmentStrategiesforNon-InfectiousUveitisintheEraofBiologicAgents岡田アナベルあやめ*蕪城俊克**2016年9月,非感染性の中間部,後部および汎ぶどう膜炎の治療薬として抗腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-a薬であるアダリムマブ(ヒュミラR)が承認され,大きくぶどう膜炎の治療戦略が変わりました.今まではもう一つの抗TNF-a薬のインフリキシマブが承認されておりましたが,適応疾患はBehcet病の難治性ぶどう膜炎のみでした.一方,アダリムマブはBehcet病以外の非感染性ぶどう膜炎にも使用可能になり,医師と患者双方にとって今回の承認は大変望ましいことであると思われます.生物学的製剤の時代に入り,膠原病や癌領域ではターゲットに対してピンポイント的に作用するさまざまな生物学的製剤が次々と開発されてきました.生物学的製剤の使用は眼科領域ではまだ遅れていますが,今回の承認は生物学的製剤の知識をアップデートする良いタイミングだと考えます.本特集は非感染性ぶどう膜炎の治療を今後どのように進めていくべきかに焦点を絞りました.まず感染症を除外するための考え方と検査について復習していただきます.つぎに,これまで用いられてきた局所治療薬やステロイド内服,免疫抑制薬の使い方と注意点について確認していただきます.それからBehcet病に対するインフリキシマブ療法についてエビデンスを再確認するとともに,今回新たに承認されたアダリムマブについて勉強していただきます.最後に,非感染性ぶどう膜炎のこれからの治療戦略の考え方について提案したいと思います.現在,眼科領域で承認されている生物学的製剤はインフリキシマブとアダリムマブだけではありません.ご存じの通り,加齢黄斑変性や他の網膜疾患に血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrow-thfactor:VEGF)を阻害するラニビズマブやアフリベルセプトも保険適用となっています.これらの生物学的製剤の共通点は,①病態における重要な役割を果たすサイトカインを選択的に阻害すること,②蛋白質製剤であるため,内服投与は不可能であること,③抗薬剤抗体が生じて,効果減弱やアレルギー反応が起こりうること,④薬価が高額であることです.さらに,全身的な投与を必要とするインフリキシマブとアダリムマブの場合には,⑤副作用は他の免疫抑制薬と比べて少ないが,それでもなお重篤な感染症のリスクがあること,⑥自己免疫性疾患の発症や増悪の可能性があること,⑦悪性腫瘍のリスクも懸念されていること,という共通点があります.無論,これらの共通点,とくに副作用のリスクは,薬剤,原疾患,患者の年齢や健康状態により大きく異なってきます.したがって,患者一人ひとり*AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室**ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)461

視神経炎の病型と臨床像の検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):450.454,2017c視神経炎の病型と臨床像の検討白濱新多朗*1蕪城俊克*2澤村裕正*2山上明子*3清澤源弘*4*1JR東京総合病院眼科*2東京大学眼科*3井上眼科病院*4清澤眼科医院ComparisonofClinicalFeaturesamongClinicalEntitiesofOpticNeuritisShintaroShirahama1),ToshikatsuKaburaki2),HiromasaSawamura2),AkikoYamagami3)andMotohiroKiyosawa4)1)DepartmentofOphthalmology,JRTokyoGeneralHospital,,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,3)InoueEyeHospital,4)KiyosawaEyeClinic目的:3施設における病型別の視神経炎の臨床像の違いについて検討する.対象および方法:視神経炎と診断された57例84眼を対象として,脳脊髄病変の有無および血液検査の結果から,特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquapo-rin-4抗体陽性群(抗AQP4群),多発性硬化症群(multiplesclerosis:MS群)の4群に病型分類した.病型ごとに性別,発症時年齢,罹患眼(両眼・片眼),眼痛の有無,初診時のステロイド治療の有無,自己抗体の陽性率,再発率,再発頻度,経過中最低矯正視力,最終矯正視力を比較した.結果:MS群と抗AQP4群は女性が多かった.特発性群と自己免疫性群は眼痛が多く,抗AQP4群,MS群は眼痛が少なかった.抗AQP4群は他群に比べ経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに低かった.抗AQP4群は脳脊髄病変の有無によらず経過中最低矯正視力,最終矯正視力に差は認めなかった.結論:抗AQP4抗体陽性の場合,脳脊髄病変の有無にかかわらず,経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに,他の視神経炎に比べ不良であると考えられた.Purpose:Toinvestigatedi.erencesinclinicalfeaturesamongclinicalentitiesofopticneuritis.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved84eyesof57patientswithopticneuritis,classi.edintofoursubtypes(idiopathic,autoimmunity,aquaporin4antibody,multiplesclerosis)basedonthepresenceorabsenceofcerebrospinaldiseaseandautoantibodiesincludinganti-aquaporin-4antibody(anti-AQP4).Sex,ageofonset,a.ectedeyes,eyepain,autoantibodydetectionrate,presenceofsteroidtherapy,recurrencerate,recurrencefrequency,minimumbest-cor-rected-visualacuity(MVA)and.nalbest-correctedvisualacuity(FVA)wereexamined.Results:Femalescom-prisedthemajorityintheanti-AQP4-positiveandmultiplesclerosisgroups.Eyepainwasfrequentintheidio-pathicandautoimmunitygroups.Eyesintheanti-AQP4-positivegrouphadthepoorestMVAandFVAamongthefourgroups,withnosigni.cantdi.erencesinMVAandFVAregardlessofcerebrospinaldisease.Conclusion:Eyesintheanti-AQP4-positivegrouphadthepoorestMVAandFVAamongthefoursubtypesofopticneuritis〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):450.454,2017〕Keywords:視神経炎,抗アクアポリン4抗体,脳脊髄病変,経過中最低矯正視力,最終矯正視力.opticneuritis,aquaporin-4antibody,cerebrospinaldisease,minimumbestcorrected-visualacuity,.nalbestcorrected-visualacu-ity.はじめに視神経炎は視神経に炎症を起こす疾患で,日本人の成人人口10万人に対して年1.6人の割合で発症する疾患である1).原因としては特発性,自己免疫性,抗Aquaporin-4(抗AQP4)抗体陽性視神経炎(視神経脊髄炎を含む),多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)などに分類される.過去の視神経炎の視力予後の研究では,1990年代に大規模な前向き研究OpticNeuritisTreatmentTrial(ONTT)が行われ,ステロイドパルス療法は視神経炎の視力の回復を早めるが,最終視力には差がないと報告された2).わが国でも日本神経眼科学会による視神経炎の前向き研究が行われ,同様の結果が報告されている3).しかし,その後,視神経炎の診断の細〔別刷請求先〕白濱新多朗:〒151-8528東京都渋谷区代々木2-1-3JR東京総合病院眼科Reprintrequests:ShintaroShirahama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JRTokyoGeneralHospital,2-1-3Yoyogi,Shibuya-ku,Tokyo151-8528,JAPAN450(144)分化が進んだ.1982年のDuttonらによる抗核抗体高値の視神経炎の報告4)以降,各種の自己抗体陽性の視神経症が報告されてきた5,6).臨床的には特発性視神経炎と酷似しているが,発症機序や副腎皮質ステロイド薬に対する反応性,予後の違いから,自己免疫性視神経症として独立した疾患と考えられている7).さらに2005年にはLennonらにより視神経脊髄炎の原因抗体として抗AQP4抗体が同定され8,9),抗AQP4抗体陽性例の多くは非常に難治性で再発が多く視機能予後は不良とされている10).これまでの報告では自己免疫性視神経症と抗AQP4抗体陽性視神経症11)の臨床像の比較はみられる.しかし多群間での比較の報告は少ないのが現状である.そこで今回,筆者らは視神経炎の病型を特発性群,自己抗体陽性群,抗AQP4抗体陽性群,MS群に分類し,臨床像の違いを検討したので報告する.I対象および方法対象は2002.2013年に東京大学医学部附属病院,井上眼科病院,清澤眼科医院で視神経炎と診断された57例84眼(男性13例21眼,女性44例63眼,平均年齢42.1±16.6歳)である.視神経炎患者は,視神経炎の診断のために対光反射,視力検査,視野検査,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査のほか,全例で頭部MRI検査を施行した.頭蓋内病変や神経症状がみられる症例では神経内科を受診し,多発性硬化症や視神経脊髄炎の有無を確認した.また視神経炎の病型診断のための血液検査として抗AQP4抗体,自己免疫検査(抗核抗体,抗サイログロブリン抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体)を施行した.抗AQP4抗体測定はCell-basedassay(CBA)法,またはEnzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法のいずれかを用いた.なお,抗AQP4抗体が測定できなかった症例は本検討からは除外した.視神経炎の病型分類は4群に分類した.抗AQP4抗体が陽性のものを抗AQP4群,MRIで脳脊髄病変を認め,神経内科で多発性硬化症と診断されたものをMS群,抗AQP4眼として検討した.II結果症例の割合は,特発性群は17例20眼(30%),自己抗体陽性群は12例17眼(21%),抗AQP4群は23例39眼(40%),MS群は5例8眼(9%)であった.発症時年齢を図1に示す.発作時年齢は初回発作時の年齢とした.MS群で平均31歳と若年,抗AQP4群で平均50歳と高齢であったが,4群間で有意差は認めなかった(Gen-eralizedestimatingequation,p>0.05).男女比,罹患眼,眼痛の有無,発症後経過観察期間を表1に示す.男女比は,特発性群では性差は少なかったが,自己抗体陽性群,抗AQP4群は女性が多く,MS群は全例が女性であった(chi-squaretest,p>0.05).罹患眼(両眼性とは同時発症例だけでなく,経過観察中に他眼に発症した場合も含む)は,特発性群は片眼性(82%)が多く,抗AQP4群(61%),MS群(60%)は両眼性が多い結果であった(chi-squaretest,p<0.05).眼痛の有無は,特発性群(71%),自己抗体陽性群(58%)に眼痛を多く認めたが,抗AQP4群(39%),MS群(20%)は少ない結果であった(chi-squaretest,p<0.05).発症後経過観察期間は特発性群3.4±4.2年,自己抗体陽性群2.5±3.0年,抗AQP4群6.1±5.6年,MS群6.5±8.0年で4群間に有意差を認めなかった(One-factorANOVA,p>0.05).初診時のステロイド治療の有無を表2に示す.特発性群17例中3例(18%),自己抗体陽性群12例中4例(33%)抗AQP4群23例中5例(22%),MS群5例中1例(20%),であった.初診時のステロイド治療の有無は4群間で有意差を認めなかった(chi-square,p>0.05).各種自己抗体の陽性率を表3に示す.自己抗体陽性群は抗807060発症時年齢抗体以外の自己抗体のいずれかが陽性であったものを自己抗体陽性群(自己抗体は抗核抗体,抗サイログロブリン抗体,4030抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗20体と定義した),上記3群のいずれにも該当しないものを特発性群として,この4群について後ろ向きに検討した.病型ごとに発症時年齢,性別,罹患眼(両眼・片眼),眼痛の有無,発症後経過観察期間,初診時のステロイド治療の有無,自己抗体の陽性率,再発率,再発頻度,経過中最低矯正視力,最終矯正視力を比較した.本検討で視神経炎の再発は対光反射,視力検査,視野検査,眼底検査,頭部MRI検査の結果を基に総合的に判定した.また,両眼性の場合は1例250100特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群表1性別,罹患眼(片眼性,両眼性),眼痛の有無,発症後経過観察期間特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群性別(M/F)7/104/82/210/5片眼性/両眼性14/37/57/162/3眼痛あり/なし12/57/59/141/4発症後経過観察期間(年)3.4±4.22.5±3.06.1±5.66.5±8.0特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の性別,罹患眼(片眼性,両眼性),眼痛の有無,発症後経過観察期間を表す.いずれも4群間で有意差を認めなかった.表2初診時のステロイド治療の有無特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群初診時のステロイド治療の有無3/17(18%)4/12(33%)5/23(22%)1/5(20%)特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の初診時のステロイド治療の有無を表す.4群間で有意差を認めなかった(chi-square,p<0.05).表3各種自己抗体陽性率自己抗体陽性群抗AQP4群MS群抗核抗体8/12(67%)8/23(35%)1/5(20%)甲状腺抗体8/12(67%)4/23(17%)1/5(20%)SS抗体1/12(8%)8/23(35%)0/5(0%)自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の抗核抗体,甲状腺抗体,SS抗体の陽性率を表す.甲状腺抗体は抗サイログロブリン抗体または抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が陽性であった症例,SS抗体は抗SS-A抗体または抗SS-B抗体が陽性であった症例の割合を表す.核抗体,甲状腺抗体が67%と多く,SS抗体が8%で陽性であった.それに対し,抗AQP4群は,抗核抗体,SS抗体がともに35%で陽性で比較的多く,甲状腺抗体は17%で陽性であった.MS群は,自己抗体陽性例は少ない結果であった.再発率,再発頻度を表4に示す.再発率は特発性群17例中6例(35%),自己抗体陽性群12例中3例(25%),抗AQP4群23例中14例(61%),MS群5例中2例(40%)であった.再発率は4群間で有意差を認めた(chi-square,p<0.05).また抗AQP4群は自己抗体陽性群と比較して再発率が有意に高かった(chi-square,p<0.05).再発頻度は1年以上経過観察できた症例を対象に検討を行った.特発性群0.42±0.37(回/年),自己抗体陽性群0.56±0.44(回/年)抗AQP4群0.44±0.22(回/年),MS群0.66±0.50(回/年),であった.再発頻度は4群間で有意差を認めなかった(One-factorANOVA,p>0.05).経過中最低矯正視力,最終矯正視力は0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.経過中最低矯正視力は複数回発作を起こしている場合はすべての発作のなかでもっとも低い視力を最低矯正視力と定義した.経過中最低矯正視力を図2に示す.経過中最低矯正視力が0.1以下の割合は,特発性群,自己抗体陽性群は50%,抗AQP4群で78%,MS群で28%と各病型の間で有意差を認めなかった(Generalizedestimatingequation,p>0.05).抗AQP4群は他の3群と比較して経過中最低矯正視力が不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).最終矯正視力を図3に示す.最終矯正視力は0.1以下の割合は特発性群で27%,自己抗体陽性群で12%,抗AQP4群で53%,MS群で12%と各病型の間で有意差を認めた(Gen-eralizedestimatingequation,p<0.05).抗AQP4群は他の3群と比較して最終矯正視力が不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).抗AQP4群における脳脊髄病変の有無と視力予後を図4,5に示す.経過中最低矯正視力,最終矯正視力について脳脊髄病変あり群となし群に分けて視力を比較したが,どちらも有意差を認めなかった(Generalizedestimatingequation,p>0.05).III考按本検討での各病型の症例の割合は,抗AQP4群が全体の40%と多かったが,本検討に参加したいずれの施設も視神経炎が重症化してから紹介される症例が多いため,抗AQP4群の割合が相対的に多くなったと考えられる.発症時年齢(図3)は4群間で有意差を認めなかったが,特発性群39.0歳,自己抗体陽性群43.8歳,抗AQP4群50.1歳,MS群31.4歳であり,既報と同様の結果となった11.14).男女比(表1)は4群間で有意差を認めなかったが,自己抗表4再発率,再発頻度***特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群再発率(%)6/17(35%)3/12(25%)14/23(61%)2/5(40%)再発頻度(回/年)0.42±0.370.56±0.440.44±0.220.66±0.50特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の再発率,再発頻度を表す.再発率は4群間で有意差を認めた(*chi-square,p<0.05).抗AQP4群は自己抗体陽性群と比較して有意に再発率が高かった(**chi-square,p<0.05).再発頻度は4群間で有意差を認めなかった(One-factorANOVA,p>0.05).■0.7以上■0.15~0.6■0.01~0.1■0.01未満***100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%特発性群自己抗体陽性性群抗AQP4群MS群(17例20眼)(12例17眼)(23例39眼)(5例8眼)図2経過中最低矯正視力特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の経過中最低矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.抗AQP4群は他の3群と比較して有意に視力不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).100%90%80%70%■0.7以上60%■0.15~0.650%■0.01~0.140%■0.01未満30%20%10%0%脳脊髄病変なし脳脊髄病変あり(9例16眼)(14例23眼)図4経過中最低矯正視力抗Aquaporin-4群(抗AQP4群)を脳脊髄病変なし,脳脊髄病変ありの各群に分けて,各群の経過中最低矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.2群間で有意差を認めなかった(General-izedestimatingequation,p>0.05).■0.7以上■0.15~0.6■0.01~0.1■0.01未満***100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%特発性群自己抗体陽性性群抗AQP4群MS群(17例20眼)(12例17眼)(23例39眼)(5例8眼)図3最終矯正視力特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の最終矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.抗AQP4群は他の3群と比較して有意に視力不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).100%90%80%70%■0.7以上60%■0.15~0.650%■0.01~0.140%■0.01未満30%20%10%0%脳脊髄病変なし脳脊髄病変あり(9例16眼)(14例23眼)図5最終矯正視力抗Aquaporin-4群(抗AQP4群)を脳脊髄病変なし,脳脊髄病変ありの各群に分けて,各群の経過中最低矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.2群間で有意差を認めなかった(General-izedestimatingequation,p>0.05).体陽性群,抗AQP4群,MS群では女性が多く,既報と同様の結果となった11.14).罹患眼(表1)は4群間で有意差を認め,特発性群,自己抗体陽性群は片眼性,抗AQP4群,MS群は両眼性が多い結果で既報と同様の結果となった11.14).眼痛の有無(表1)は4群間で有意差を認め,特発性群,自己抗体陽性群で眼痛が多く,抗AQP4群,MS群で眼痛が少ない結果であった.特発性群,自己抗体陽性群,MS群は既報と同様の結果であった11.13).抗AQP群は眼痛が少ない結果で既報と異なっていたが10,14),本検討では受診時にすでに治療が始められていた症例を含んでいたためと考えられる.再発率(表4)は4群間で有意差を認め,抗AQP4群の再発率が61%と高かった.とくに抗AQP4群は自己抗体陽性群と比較して再発率が有意に高く,既報と同様の結果となった11).経過中最低矯正視力(図2),最終矯正視力(図3)では抗AQP4群は他の3群と比較して有意に視力不良であった.この結果は,抗AQP4群が4病型のなかでもっとも視力予後が不良な病型であることを示している.つまり,抗AQP4群は視力予後が不良であることに加え,両眼性で再発率が高いことを考慮すると,著しく視機能を障害する疾患であるといえる.さらに本検討では,抗AQP4群の経過中最低矯正視力,最終矯正視力について,脳脊髄病変あり群となし群に分けて視力を比較した(図4,5)が,どちらも有意差を認めなかった.この結果は,抗AQP4群では脳脊髄病変の有無は経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに影響を及ぼさないということを示している.つまり,抗AQP4抗体陽性であれば,脳脊髄病変の有無にかかわらず視機能障害が重篤であることを意味する.この結果については症例数が少なかったことも考えられるので,今後さらに症例数を増やして検討する必要があると考える.IV結語視神経炎57例84眼を特発性群,自己抗体陽性群,抗AQP4群,MS群の4病型に分け,臨床像と視力予後を検討した.今検討でも抗AQP4抗体陽性視神経炎は視力予後の悪い病型であった.抗AQP4群のなかで脳脊髄病変の有無は経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに影響を及ぼさないという結果が得られた.この結果は抗AQP4抗体陽性であれば,脳脊髄病変の有無にかかわらず視機能障害が重篤であることを意味しており,視力予後を規定する因子として抗AQP4抗体の存在が非常に重要であることが再確認された.文献1)石川均:日本における特発性視神経炎トライアルの結果について.神経眼科24:12-17,20072)BeckRW,ClearyPA,AndersonMMJretal:Aradom-ized,contorolledtrialofcorticosteroidsinthetreatmentofacuteopticneuritis.NEnglJMed326:581-588,19923)WakakuraM,MashimoK,OonoSetal:Multicenterclini-caltrialforevaluatingmethylprednisolonepulsetreat-mentofidiopathicopticneuritisinJapan.OpticNeuritisTreatmentTrialMulticenterCooperativeResearchGroup(ONMRG).JpnJOpthalmol43:133-138,1994)DuttonJJ,BurdeRM,KlingeleTG:Autoimmuneretoro-bulbaropticneuritis.AmJOphthalmol94:11-17,19825)ToyamaS,WakakuraM,ChuenkongkaewW:Opticneu-ropathyassociatedwiththyroid-relatedauto-antibodies.NeuroOphthalmology25:127-134,20016)HaradaT,OhashiT,MiyagishiRetal:OpticneuropathyandacutetansversemyelopathyinprimarySjogren’ssyndrome.JpnJOphthalmol39:162-165,19957)久保玲子,若倉雅登:自己免疫性視神経症.あたらしい眼科26:1343-1349,20098)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:Aserumautoantibodymarkerofneuomyelitisoptica:distinctionfrommultiplesclerosis.Lancet364:2106-2112,20049)LennonVA,KryzerTJ,PittokSJetal:IgGmarkerofopticspinalmultiplesclerosisbindstotheaquaporin-4waterchannel.JExpMed202:473-477,200510)中尾雄三:視神経炎アップデート“抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎”.あたらしい眼科26:1329-1335,200911)山上明子,若倉雅登:自己免疫性視神経炎における抗アクアポリン4抗体陰性例と陽性例の臨床像の比較検討.神経眼科30:184-191,201312)若倉雅登:視神経炎治療多施設トライアル研究の概要.神経眼科15:10-14,199813)OsoegawaM,KiraJ,FukazawaTetal:Temporalchang-esandgeographicaldi.erencesinmultiplesclerosisphe-notypesinJapanesenationwidesurveyresultsover30years.MultScler15:159-173,200914)抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン.日眼会誌118:446-460,2014***

ミケラン®(カルテオロール塩酸塩)点眼液使用患者の既往と喘息関連事象の発生に関する検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):445.449,2017cミケランR(カルテオロール塩酸塩)点眼液使用患者の既往と喘息関連事象の発生に関する検討山野千春小林秀之古田英司榎本貢大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部RelationshipbetweenMedicalHistoryofPatientsAdministeredMikelanR(CarteololHydrochloride)OphthalmicSolutionandOccurrenceofAsthma-relatedAdverseEventsChiharuYamano,HideyukiKobayashi,EijiFurutaandMitsuguEnomotoPharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.目的:b遮断薬含有点眼液を使用する際には,喘息や呼吸器疾患などの増悪に注意する必要がある.本稿では,b遮断薬含有点眼液であるミケラン点眼液の安全性と使用実態について報告する.方法:大塚製薬安全性データベースと日本医療データセンターのレセプトデータベースを用い,ミケラン点眼液使用患者における喘息の既往有無別の喘息関連事象の発生頻度,重篤性ならびに転帰について検討した.結果:国内および外国からの報告症例割合・分布,喘息既往患者の割合はおおむね同等であった.ミケラン点眼液の使用実態,ミケラン点眼液使用後の喘息関連事象の報告症例割合は,喘息既往患者群のほうが高く,両データベースともに同様の傾向を示した.外国症例においては,喘息既往患者群に転帰:死亡が高い割合で認められた.結論:喘息既往患者へのミケラン点眼液の使用は,致死的な転帰をたどる場合があるため,患者の既往歴について十分に注意を払い,禁忌であることからも使用を避けなければならない.Purpose:Whenadministeringabeta-blockerophthalmicsolution,itisnecessarytopayattentiontocontrain-dications,particularlytotheriskofaggravatingasthmainpatientswithpre-existingrespiratorydiseases.Thisarticledescribesthesafetyandactualuseofacarteololhydrochlorideophthalmicsolutionknownasabeta-block-er.Methods:WeretrospectivelyanalyzedaJapanesehealth-insuranceclaimsdatabasetoinvestigatethefrequen-cyofoccurrence,seriousnessandoutcomeofasthma-relatedadverseeventsdevelopedbypatientswhoreceivedacarteololhydrochlorideophthalmicsolution.Forthisanalysis,weclassi.edthepatientsintotwogroups,dependingonthepresenceorabsenceofasthmaintheirmedicalhistory.Results:Nocleardi.erencewasseeninpercentageofdomesticandforeigncases,eitherintotalnumber,numberbycountryornumberofpatientswhohadasthma-relatedeventsintheirmedicalhistory.Patientswhohadasthma-relatedeventsintheirmedicalhistorydevelopedasthma-relatedeventsatahigherrateafteradministrationofcarteololhydrochlorideophthalmicsolution.Asimi-lartendencywasobservedinresultsderivedfromourdomesticdatabaseandthosefromthehealth-insuranceclaimsdatabase.Inforeign(non-Japanese)cases,fourpatientshadexperiencedasthma-relatedeventsresultinginafataloutcome.Conclusions:Physiciansprescribingcarteololhydrochlorideophthalmicsolutionshouldpaygreatattentiontoasthma-relatedadverseeventsintheirpatient’smedicalhistory,becauseofthepotentialforfatalorlife-threateningevents.Asthmaislistedasacontraindicationonthepackageinsert,andadministrationofthedrugtopatientswithamedicalhistoryofasthma-relatedeventsshouldbeavoided.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):445.449,2017〕Keywords:b遮断薬,ミケラン点眼液,禁忌,喘息,既往歴.beta-blocker,carteololhydrochloride,contraindi-cation,asthma,patienthistory.〔別刷請求先〕山野千春:〒540-0021大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:ChiharuYamano,Ph.D.,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27Ote-dori,Chuo-ku,Osaka540-0021,JAPANはじめに1978年のチモロールマレイン酸塩の登場以来,b遮断薬は緑内障治療薬として長く使用されてきた.1990年代以降は,b遮断薬より眼圧下降作用に優れた代謝型プロスタグランジン(PG)製剤が登場し,b遮断薬に代わって緑内障の第一選択薬となったが,b遮断薬は緑内障病型によらず効果を発揮すること,またPG製剤についで良好な眼圧下降を示すため,PG製剤につぐ重要な緑内障治療薬として使用されている1).b遮断薬はb受容体抑制作用により眼圧を下降させるが,b1受容体遮断作用による心血管系,およびb2受容体遮断作用による呼吸器系の疾患増悪の危険性について,十分注意することが先行研究2)や診療ガイドライン3)に記載されている.そのため,緑内障治療薬としてb遮断薬点眼液を使用する際には,眼圧などのベースラインデータを十分に把握するとともに,喘息や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器系疾患,不整脈,徐脈といった循環器疾患の既往の有無について十分に把握しておくことが望ましいと考えられている.b遮断薬含有点眼液であるミケランR(カルテオロール塩酸塩)点眼液の添付文書4,5)においても禁忌の項が設けられており,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II・III度),心原性ショックのある患者および気管支喘息,気管支痙攣またはそれらの既往歴のある患者,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者に対して使用を避けるよう注意喚起がなされている.これまでにもb遮断薬による心血管系や呼吸器系への影響など,安全性についての検討6)は行われているが,実臨床下における患者の背景を考慮した実態に関する研究は十分になされていない.そこで本稿では,ミケラン点眼液の使用実態を示すデータベースを用い,とくに禁忌とされている疾患のうち,喘息関連事象を背景にもつ患者に対する使用実態を明らかにし,今後の適正使用に向けた検討を行ったので報告する.I対象および方法1.自社安全性データベースを用いたカルテオロール塩酸塩点眼液使用実態大塚製薬(株)が日本のみならず,日本以外の国からも収集し安全性情報が集約されたデータベース(以下,自社安全性データベース)を用い,ミケラン点眼液の安全性情報の分析を行った.分析対象期間は,1985年1月.2016年7月31日に収集された情報とした.ミケラン点眼液にかかわる有害事象について,報告された国別の内訳および症例の性別・年齢階層別割合を図1に示した.また,患者の原疾患/合併症/既往歴(表1),さらに国内症例について,喘息の既往あり・なしに分け,両群における喘息関連事象(喘息および喘息発作重積)発現頻度を分析した(表2).2.レセプトデータベースを用いたカルテオロール塩酸塩点眼液処方実態カルテオロール塩酸塩の処方実態を把握するため,日本医療データベース(JMDC)のレセプトデータベースである,JMDCClaimsDatabase(以下,レセプトデータベース)7)と同社が提供しているWebツール(JMDCPharmacovigi-lance)を用いてデータの抽出を行った.分析対象データの範囲は,患者の組み入れ期間を2014年3月.2015年2月とし,組み入れ月から12カ月間のデータを対象とした.また,カルテオロール塩酸塩処方患者における,ICD10小分類[J45],[J46]に属する喘息関連疾患のうち,いずれかの傷病記録をもつ患者を喘息の既往歴がある患者と定義した.また,カルテオロール塩酸塩処方月直前の12カ月間にab国内症例(n=1,247)外国症例(n=1,022)ドイツ男性女性性別不明男性女性性別不明中国2%0.10歳3320.10歳1505%11.20歳53111.20歳12021.30歳139021.30歳47031.40歳1325031.40歳1414141.50歳2933341.50歳2741051.60歳5169251.60歳5993161.70歳82145361.70歳90109071.80歳99116871.80歳72104081.90歳2253081.90歳3244091歳以上12091歳以上180年齢不明67132253年齢不明4671175合計385590272合計347498177図1ミケラン点眼液使用症例の発生国と患者内訳a:ミケラン点眼液使用患者の症例情報発生国の割合を示した.b:収集された症例情報を,国内症例と外国症例に分け,性別と年齢階層別の分布を示した.(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)表1患者背景国内症例(n=1,247)外国症例(n=1,022)原疾患/合併症/既往歴件数(%)原疾患/合併症/既往歴件数(%)緑内障514(26.09)緑内障324(25.41)白内障139(7.06)高血圧69(5.41)高血圧115(5.84)高眼圧症64(5.02)開放隅角緑内障93(4.72)眼圧上昇56(4.39)正常眼圧緑内障86(4.37)開放隅角緑内障41(3.22)高眼圧症72(3.65)白内障25(1.96)糖尿病56(2.84)糖尿病22(1.73)眼乾燥52(2.64)喘息20(1.57)アレルギー性結膜炎48(2.44)白内障手術19(1.49)高脂血症31(1.57)高コレステロール血症15(1.18)白内障手術22(1.12)閉塞隅角緑内障13(1.02)喘息22(1.12)過敏症12(0.94)結膜炎20(1.02)関節炎11(0.86)閉塞隅角緑内障20(1.02)心障害10(0.78)季節性アレルギー17(0.86)1型糖尿病9(0.71)脳梗塞17(0.86)タバコ使用者9(0.71)眼内レンズ挿入16(0.81)眼乾燥9(0.71)眼瞼炎12(0.61)季節性アレルギー9(0.71)緑内障手術12(0.61)乾癬8(0.63)不整脈11(0.56)変形性関節症7(0.55)その他595(30.20)その他523(41.02)合計1,970(100)合計1,275(100)(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)同喘息関連疾患の記録がない患者を既往歴なしの患者と定義した.両患者群において,カルテオロール塩酸塩処方後(処方月を含む)に認められた傷病名を新規事象とし,それぞれ抽出を行った.抽出した新規事象のうち,ICD10小分類[J45],[J46]に属する事象を表3に示した.II結果すべての安全性情報が集約されている自社安全性データベースにおけるミケラン点眼液,国内症例55%,外国症例45%であった(図1a).外国症例はフランスとアメリカがそれぞれ19%,11%と多く,ついで中国5%,ドイツ2%,その他8%の順であった.国内症例と外国症例における性別と年齢階層別の症例数を図1bに示した.また,同様の症例における既往歴(原疾患,合併症を含む)について表1に示した.国内症例と外国症例のいずれにおいてもミケラン点眼液の適応症である緑内障と高眼圧が多く認められた.一方,禁忌に該当する事象としては,ともに喘息がもっとも多く認められた(国内症例22件1.12%,外国症例20件1.57%).さらに,国内症例において,喘息既往の有無ごとにミケラン点眼後に喘息事象が発生した頻度(表2)を比較したところ,喘息の既往がある症例(21例)のうち,13例(61.90%)表2喘息事象発生割合既往発生事象発生症例数(%)あり(n=21)喘息13(61.90)なし(n=1226)喘息15(1.22)発生事象である「喘息」は,喘息ならびに喘息発作重積を含む.(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)に喘息が発生したのに対し,喘息の既往がない症例(1226例)では,15例(1.22%)に喘息の発生が認められた.同様に,臨床現場における喘息の発生状況についてレセプトデータベースを用いて検討を行った.喘息の既往がある患者(15例)において,気管支喘息(14件)がもっとも多く認められており,喘息の既往がない患者(3,174例)においても気管支喘息(41件)がもっとも多く認められていた.喘息の既往がある患者における気管支喘息の発生頻度は93.33%と非常に高い割合を示した(表3).そこで,報告された喘息事象の転帰について自社安全性データベースで確認した(表4).喘息事象の転帰のうち,転帰:死亡の事象は国内症例では認められなかったが,外国症例において5例認められた.そのうち喘息の既往ありの患者が4例,既往なしの患者が1例であった.表3レセプトデータベースにおける喘息関連事象の発生割合喘息の既往標準病名[ICD10]発生人数(%)あり(n=15)アレルギー性気管支炎感染型気管支喘息咳喘息喘息性気管支炎気管支喘息気管支喘息発作[J450][J451][J459][J459][J459][J46-]0(0.00)0(0.00)0(0.00)1(6.67)14(93.33)1(6.67)なし(n=3,174)アレルギー性気管支炎感染型気管支喘息咳喘息喘息性気管支炎気管支喘息気管支喘息発作[J450][J451][J459][J459][J459][J46-]1(0.03)1(0.03)1(0.03)14(0.44)41(1.29)0(0.00)表4喘息事象の転帰国内症例数喘息既往ありなし回復108未回復02死亡00不明46喘息既往回復外国症例数未回復死亡不明あり3040なし3014(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)III考按b遮断薬は,b受容体に作用することにより眼内で房水産生を低下させ,眼圧下降効果を得られることが知られている1).しかしながら,b遮断薬は交感神経を介した心筋などへの働きを抑制するため,心血管系・呼吸器系の全身的副作用が認められることがある.そのため,b遮断薬の一つであるミケラン点眼液の添付文書には禁忌の項が設けられており,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II・III度),心原性ショックのある患者および気管支喘息,気管支痙攣またはそれらの既往歴のある患者,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者には使用を避けるよう注意喚起がなされている.そこで実際にどのようなミケラン点眼液の安全性情報が自社安全性データベースに収集されているかについて検討を行ったところ,約半数は外国からの報告症例であった.ミケラン点眼液が国内だけではなく海外でも幅広く使用されているが,報告症例の患者年齢層ならびに性別については,国内外においてとくに大きな差異は認められなかった.448あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(出典:株式会社日本医療データセンター)さらに,先にも述べたようにミケラン点眼液は気管支喘息などの既往歴のある患者に対し使用を避けるよう注意喚起がなされているが,自社安全性データベースには原疾患,合併症もしくは既往歴として喘息を有する患者が含まれている.これは,添付文書で使用を避けるよう注意喚起がなされているにもかかわらず,実臨床下においてはミケラン点眼液が禁忌患者に使用されている実態の存在を示していることになる.また,表2で示したように,喘息の既往を有する患者において,ミケラン点眼液使用後に喘息事象の悪化が疑われる症例が,喘息の既往のない患者と比較して高い割合で報告されている.このことからもb遮断薬であるミケラン点眼液はその作用機序から,喘息などの呼吸器疾患を増悪させる可能性を有することが明らかである.さらに,報告されている喘息事象の半数以上は重篤(64.3%)であった.解析に用いている自社安全性データベースは,自発報告や文献などの情報であり,報告・収集されている情報に制限があると考えられたため,一般性を有すると考えられるレセプトデータベースを用い,喘息の既往のある患者の喘息関連事象に注目した検討を行った(表3).ミケラン点眼液処方後の気管支喘息の発生については,喘息の既往のある患者の90%以上に認められていることがわかった.レセプトデータでは,事象と処方された薬剤の因果関係などは明確でないことや,処方された薬剤が実際に使用されているか定かではないといった限界は存在するが,性質の異なるデータベース間において同様の傾向が認められることから,喘息既往のある患者においては,ミケラン点眼液を使用した際に喘息などの呼吸器疾患の増悪のリスクの増加が認められるとともに,十分に留意する必要があることが明確となった.さらに,表4で示しているとおり,ミケラン点眼液の使用により再発したと考えられる喘息事象中には,致命的な転帰を辿るケースも外国症例で報告されている.国内においては(142)致命的な転帰を辿った症例は現在のところ報告されていないが,死亡のおそれに至った症例が1例報告されていることからも,やはり全身的副作用の危険性を十分に考慮し,禁忌の患者に使用することは避けなければならないと考えられた.以上より,禁忌に記載されている呼吸器系疾患の既往をもつ患者に対しては,ミケラン点眼液を使用することにより病態が急変する可能性があるため,使用を避けるようこれまで以上に徹底した注意喚起を行っていく必要性がある.文献1)望月英毅,木内良明:b遮断薬,あたらしい眼科29:451-455,20122)vanderValkR,WebersCAB,ShoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs.Ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会,緑内障診療ガイドライン(第3版),日眼会誌116:3-46,20124)大塚製薬株式会社:ミケランR点眼液1%ミケランR点眼液2%製品添付文書(2013年6月改訂,第14版)5)大塚製薬株式会社:ミケランRLA点眼液1%ミケランRLA点眼液2%製品添付文書(2015年8月改訂,第9版)6)SorensenSJ,AbelSR:Comparisonoftheocularbeta-blockers.AnnPharmacother30:43-54,19967)株式会社日本医療データセンター(JMDC)***

正常眼に対するトーリック眼内レンズ選択における角膜前後面屈折力測定の有用性

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):438.444,2017c正常眼に対するトーリック眼内レンズ選択における角膜前後面屈折力測定の有用性島袋幹子*1小林礼子*1横山洵子*2辻川元一*3前田直之*3西田幸二*3*1関西メディカル病院眼科*2国立病院機構大阪医療センター眼科*3大阪大学大学院医学系研究科眼科学MeasurementofAnteriorandPosteriorCornealAstigmatisminToricIntraocularLensCalculationMikikoShimabukuro1),ReikoKobayashi1),JunkoYokoyama2),MotokazuTsujikawa3),NaoyukiMaeda3)KojiNishida3)and1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityKeratometricindexによる角膜前面屈折力に基づきトーリック眼内レンズを選択したA群15眼と,角膜前後面屈折力から算出された角膜屈折力に基づき選択したB群20眼における眼内レンズ選択時の角膜前後面屈折力測定の有用性をretrospectiveに検討した.その結果,矯正視力のlogMAR値に関しては,両群ともに術後に有意な改善を認めたが,裸眼視力のlogMAR値に関しては,A群は術前0.67±0.3,術後0.35±0.27で有意に改善したが(p=0.003),B群では術前0.50±0.38,術後0.43±0.28であり,術前後に有意差は認められなかった(p=0.43).ベクトル解析によるA群における術後自覚乱視度数は.0.42±0.35D,乱視軸は55.0±49.27°,B群では.0.41±0.27D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった.角膜前後面屈折力を用いることでより的確な眼内レンズ選択が期待されるが,そのためには,眼内レンズ度数計算式やA定数,およびトーリック眼内レンズカリキュレーターを,最適化させる必要がある.Purpose:Toevaluatetheusefulnessofposteriorcornealcurvaturemeasurementintoricintraocularlenscal-culation.MaterialandMethods:Thirty.veeyesthathadreceivedcataractsurgerywithtoricintraocularlens(TIOL)implantationwereanalyzedwithOPD(Nidek,Japan)orCASIA(Tomey,Japan).Todeterminetherecom-mendedTIOL,15eyeswereanalyzedwithOPD(Agroup),20eyeswithCASIA(Bgroup).Results:Thepostop-erativebest-correctedvisualacuity(BCVA)wassigni.cantlyimprovedinbothgroups.Postoperativeuncorrectedvisualacuity(UCVA)wassigni.cantlyimprovedinAgroup,butnotinBgroup.Summary:Althoughposteriorcornealcurvaturemeasurementisexpectedtoimprovepostoperativevisualacuity,correctedIOLpowercalcula-tionformulaandtheA-constant,aswellasaTIOLcalculatordesignedforanteriorandposteriorcornealcurva-turemeasurement,mightberequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):438.444,2017〕Keywords:トーリック眼内レンズ,角膜前面曲率,角膜後面曲率.toricintraocularlens,anteriorcornealcurva-ture,posteriorcornealcurvature.はじめににより,白内障手術と同時に正乱視も矯正することが可能と白内障手術において,従来の眼内レンズでは球面の屈折異なった.常の矯正を行うのみで正乱視を矯正することはできなかった角膜屈折力を測定するために,従来より利用されてきたオが,2008年にわが国でも承認されたトーリック眼内レンズートケラトメーターやプラチド角膜形状解析装置では,角膜〔別刷請求先〕島袋幹子:〒560-0083大阪府豊中市新千里西町1丁目1番7-2号関西メディカル病院眼科Reprintrequests:MikikoShimabukuro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalHospital,1-1-7-2,Shinsenrinishimachi,Toyonakacity,Osaka560-0083,JAPAN438(132)前面の曲率半径から角膜屈折力を換算するためのkerato-metricindexとよばれる屈折率(1.3375)を用いて角膜全体の屈折力(K値)を推定している.眼内レンズにより正常眼の近視・遠視の矯正を行うだけであれば,この角膜屈折力(K値)を用いて大きな問題はないと考えられていた.ところが屈折矯正手術後の症例では,角膜前面のみ形状が扁平化し,後面形状はほとんど変化がないため,keratomet-ricindexを用いると角膜屈折力が過大に評価され,術後の屈折予測値にズレが出る問題が判明した.同様に,トーリック眼内レンズにより角膜乱視の矯正も行う場合には,角膜前面の形状解析に基づく角膜乱視と角膜後面の形状解析に基づく角膜前後面乱視が必ずしも同様の傾向を示すとは限らないため,角膜前面のみならず後面の解析の必要性が報告されている1).2004年のScheimp.ug式前眼部解析装置Pentacam(Oculus),2008年の前眼部三次元光干渉断層計CASIA(TOMEY,以下,CASIA)の登場により,わが国の一般診療においても角膜前面のみならず角膜後面屈折力の測定が可能となり,利用が広がってきている.今回,白内障と屈折異常以外に異常がない正常眼に対するトーリック眼内レンズの選択において,角膜前面の形状解析のみで決定した場合と,角膜後面の形状解析を含めて決定した場合の有用性,問題点に関してretrospectiveに比較検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は,2013年9月.2014年8月に日生病院眼科において,トーリック眼内レンズを挿入した屈折異常以外に眼疾患のない白内障手術症例25例35眼である.角膜形状・屈折力解析装置OPD-Scan(ニデック,以下,OPD)を用いて角膜形状解析を行い,keratometricindexを用いて計算した角膜屈折力(SimK)に基いてレンズ選択した12例15眼をA群,CASIAを用いて角膜形状解析を行い,角膜前後面屈折力(realpower)に基いてレンズ選択した13例20眼をB群とした.手術はA群,B群ともに12時の位置からの2.4mmの強角膜切開を行い,AcrySofIQToricIOLを挿入した.眼内レンズの選択には,狙い度数は球面.0.5Dで,眼内レンズ度数計算式は超音波画像診断装置UD-6000(Tomey)を用い,K値の入力にA群はOPDのSimKを,B群はCASIAのrealpowerを入力し,第三世代の理論式SRK/T式で行い,アルコンIQトーリックカリキュレーター(アルコン)を用いて乱視度数と軸を決定した.手術室では座位にてトーリックマーカーを用いて0°と180°と270°に軸をマーキングし,術中にディグリーマーカーを用い目標軸に眼内レンズの軸を合わせた.臨床評価として,各群における術前角膜前面乱視,術前角膜前後面乱視,術前後の矯正視力,術前後の裸眼視力,術後屈折誤差に関して検討を行った.術後屈折誤差については目標屈折.0.5Dとの差とした.また,OPDとCASIAの機器による測定値を比較する目的で,角膜前面の形状解析によるkeratomeiricindexを用いた角膜屈折力を両方の機器で測定し比較を行い,統計解析は,同一群内の比較は対応のあるt検定を,群間の比較は対応のないt検定を用いてp<0.05をもって統計学的に有意とした.II結果各群の平均年齢は,A群が74.67±7.24歳,B群が74.90±8.32歳(p=0.9314),術前自覚球面度数はA群が1.05±1.79D,B群が0.03±2.34D(p=0.9314),術前自覚円柱度数はA群が.1.45±0.8D,B群が.1.41±1.15D(p=0.9314),眼軸長は,A群が23.45±0.86mm,B群が23.08±0.96mm(p=0.3158)であり,いずれにおいても有意差は認められなかった.また直乱視を60°.120°,倒乱視を150°.180°,斜乱視を30°.60°,120°.150°と定義し,角膜前面乱視において,倒乱視症例,斜乱視症例,直乱視症例の内訳は,A群が13:2:0(眼),B群が13:7:0(眼)であった.各群における両機器によるkeratometricindexを用いた術前角膜前面屈折力については,A群でOPDを用いて計測した場合には44.95±1.48D,CASIAを用いて計測した場合には45.04±1.45D(p=0.1745),B群で,OPDでは44.32±0.91D,CASIAでは44.44±0.87D(p=0.1499)であり,各群の角膜前面屈折力において,測定機器による有意差は認められなかった(図1).つぎに,各群のOPDにてkeratometricindexを用いて測定した術前角膜屈折力(SimK値)とCASIAを用いて角膜前後面の屈折力を用いた術前角膜屈折力であるrealpowerの比較を行った.A群ではSimKは44.87±1.42D,realpowerは44.10±1.57D,またB群におけるSimKは44.43±0.86D,realpowerは43.50±0.86Dであり,いずれの群においてもSimKよりrealpowerが有意に小さい結果であった(p<0.01).なお,SimK,realpowerのいずれにおいても,両群の間に有意差を認めなかった(図2).また,CASIAを用いて各群のrealpowerを用いた術前角膜後面屈折力についても比較を行った.A群の角膜屈折力は.6.40±0.20D,B群.6.32±0.22Dであり,A群とB群の間に有意差は認められず(p=0.7776),術前の角膜後面屈折力においても両群間に明らかな差異は認められなかった.挿入されたAcrySofIQToricIOLの内訳は,A群においてはSN6AT3を挿入したのが7眼,SN6AT4が5眼,SN6AT5が8眼であった.B群においてはSN6AT3を挿入したのが5眼,SN6AT4が3眼,SN6AT5が5眼,SN6AT6が1眼,SN6AT7が1眼であった(図3).【A群】【B群】p=0.1499(pairedt-test)48Dp=0.1745(pairedt-test)48D474746464545444443434242測定機器:OPD測定機器:CASIA測定機器:OPD測定機器:CASIA44.95±1.48D45.04±1.45D44.32±0.91D44.44±0.87D(unpairedt-test)図1Keratometricindexを用いた術前の角膜屈折力の測定機器による比較各群において測定機器による有意差は認められなかった.なお,いずれの機器で測定した場合も,A群とB群の間に有意差は認められておらず,両群の術前の角膜屈折力に明らかな差異は認められなかった.【A群】【B群】p<0.01(paired-ttest)48Dp<0.01(paired-ttest)48D4646444442424040OPDCASIAOPDCASIA(Simk)(RealPower)(Simk)(RealPower)44.87±1.42D44.10±1.57D44.43±0.86D43.50±0.86D(unpairedt-test)図2Keratometricindexを用いた術前角膜屈折力(OPD)とRealPowerを用いた術前角膜屈折力(CASIA)の比較いずれの群においても,SimKよりrealpowerが有意に小さかった(p<0.01).さらに,術後A群におけるOPDによるSimKは45.16±realpower(p=0.0843)は,ともに両群間に差は認められ1.47D,CASIAによるrealpowerは44.21±1.48D,またBず,SimKよりrealpowerが小さかった.群におけるSimKは44.47±0.86D,realpowerは43.50±矯正視力のlogMAR値に関しては,A群では術前0.24±0.84Dであった.両群の術後SimK(p=0.0902)と,術後0.28,術後.0.07±0.07であり,B群では術前0.19±0.31,眼9■A群■B群876543210SN6AT3SN6AT4SN6AT5SN6AT6SN6AT7図3挿入された眼内レンズ内訳挿入されたAcrySofIQToricIOLの内訳は,A群(白)においてはSN6AT3を挿入したのが7眼,SN6AT4が5眼,SN6AT5が8眼であった.B群(黒)においてはSN6AT3を挿入したのが5眼,SN6AT4が3眼,SN6AT5が5眼,SN6AT6が1眼,SN6AT7が1眼であった.【A群】【B群】p=0.001(pairedt-test)p=0.00005(pairedt-test)1.41.21.0.80.60.40.20-0.2術前術後-0.4術前術後0.24±0.28-0.07±0.070.19±0.31-0.09±0.091.41.21.0.80.60.40.20-0.2-0.4(unpairedt-test)図4術前後の矯正視力logMAR値矯正視力のlogMAR値に関しては,両群において術前に比べ術後が有意に改善していた(p<0.05).なお,術前,術後矯正視力logMAR値のいずれにおいても,A群とB群の間に有意差は認められなかった.術後.0.09±0.09であり,両群において術前に比べ術後矯正なかった(p=0.43).ただし,術前裸眼視力,術後裸眼視力視力logMAR値は有意に改善していた(p<0.05).なお,術のいずれにおいても,A群とB群の間に有意差は認められ前,術後のいずれにおいても,A群とB群の間に有意差はなかった(図5).認められなかった(図4).術後等価球面値については,平均値がA群.0.958±0.52裸眼視力のlogMAR値に関しては,A群では術前0.67±D,B群.1.55±0.53D(p=0.0024)であり,有意にB群が0.30,術後0.29±0.29であり,術後は術前に比べ有意に改近視寄りであった(図6).善していた(p=0.00001).これに対しB群では術前0.50±術後屈折誤差については,平均値がA群.0.46±0.52D,0.38,術後0.43±0.28であり,術前後に有意差は認められB群.1.05±0.53D(p=0.0024)であり,B群が有意に近視【A群】【B群】1.81.81.61.61.4p=0.00001(pairedt-test)1.41.21.2110.80.80.60.60.40.40.20.200-0.2-0.2術前術後術前術後0.67±0.300.29±0.290.50±0.380.43±0.28p=0.43(pairedt-test)(unpairedt-test)図5術前後の裸眼視力logMAR値裸眼視力のlogMAR値に関しては,A群では術後は術前に比べ有意に良好であった(p=0.003).これに対しB群では術前後に有意差は認められなかった(p=0.43).ただし,術前,術後裸眼視力logMAR値のいずれにおいても,OPD群とCASIA群の間に有意差は認められなかった.3D3D22術後等価球面値(D)術後屈折誤差(D)1100-1-1-2-2-3-3【A群】【B群】【A群】【B群】図6術後の等価球面値と屈折誤差術後屈折誤差については,平均値がA群.0.458±0.52D,B群.1.05±0.532D(p=0.0024)であり,B群が有意に近視化していた.また屈折誤差範囲が±0.5D以内であった割合はA群が60%,B群が25%,±1.0D以内であった割合はA群が87%,B群が60%であった.寄りであった.また屈折誤差範囲が±0.5D以内であった割合はA群が60%,B群が25%で,±1.0D以内であった割合はA群が87%,B群が60%であった(図6).術後屈折誤差の絶対値については,平均値がA群0.56±0.40D,B群1.05±0.53D(p=0.0024)であり,A群に比較するとB群が有意に高かった(図7).術前後の自覚乱視度数と乱視軸の変化をベクトル解析を行ったところ,A群における術後自覚乱視度数は.0.41±0.37D,乱視軸は55.0±49.27°で,B群では.0.42±0.40D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった(図8).また術後自覚乱視が直乱視の症例は,A群が15眼中6眼(40%),B群が20眼中8眼(40%)であり,術後倒乱視の症例は,A群が15眼中8眼(53%),B群が20眼中10眼(50%)であった.III考按白内障手術後のqualityofvision(QOV)の向上のため挿入する眼内レンズ度数の選択はきわめて重要であり,正確な角膜屈折力,眼軸長の測定が求められる.角膜屈折力を測定するために用いられる装置には,角膜の傍中心のみを評価するオートケラトメーター,角膜周辺まで広く評価するプラチド角膜形状解析装置があり,これらの装置はいずれも角膜前面曲率半径を測定したうえで,角膜前後面の曲率半径比が同一であると仮定して,keratometricindex(n=1.3375)を用いて角膜屈折力(K値)として表示している.一方,レーザー角膜屈折矯正手術(LASIK),治療的表層角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)の術後など角膜形状異常眼では,角膜前面と後面屈折力の比率が異なっているため,従来の角膜前面を用いた角膜屈折力のみの測定では屈折誤差を生じることが報告されている2).またトーリック眼内レンズを使用する白内障手術においても,角膜後面乱視も考慮することにより,さらに精度の高い視力矯正算式やA定数がK値に最適化されているため,realpowerを用いる場合は補正が必要であると考えられる.Abula.aら4)はトーリック眼内レンズの選択は角膜後面形状を考慮したBarretttoricIOLカリキュレーターを用いてモデルを決定したほうが良好な視力を得られたと報告しており,Preussnerら5)は,平均的な角膜後面乱視はわずかな程度であるが,考慮して眼内レンズ選択をすると結果が非常によいと報告している.一方で,術前の乱視軸の影響については,Kochらによるトーリック眼内レンズ使用時の角膜後面乱視の影響を検討した報告がある6).アルコン社のカリキュレーターを用いて,3D2が可能になることが期待されている3).今回の検討では,術前の角膜屈折力の測定においてOPDによるSimKより,CASIAで得られたrealpowerが有意に小さかった(図2),矯正視力に関してはSimKに基づいてレンズを選択した場合とrealpowerに基づいてレンズを選択した場合のいずれも術後に有意な改善を認めた(図4).しかしながら,裸眼視力に関してはSimKに基づいてレンズを選択した場合には術後に有意に改善を認めるものの,realpowerでレンズを選択した場合には,術後に有意な改善は認められなかった(図5).そしてrealpowerを用いることにより,術後の等価球面度値が,SimKよりも若干近視化した(図6).その理由として,本来であれば前後面のデータを用いた角膜屈折力が正しいはずであるが,眼内レンズ度数計【A群】45°術後屈折誤差絶対値(D)-3図7術後等価球面値における屈折誤差絶対値術後屈折誤差絶対値については,平均値がA群0.56±0.40D,B群1.05±0.532D(p=0.0024)であり,A群に比較するとB群が有意にばらつきが大きかった.【B群】45°【A群】【B群】10-1-290°0°90°0°135°135°図8術前後自覚乱視の倍角法極座標表示各症例の術前自覚乱視の倍角法極座標表示を白丸,術後を黒丸で示した.A群における術後自覚乱視度数は.0.41±0.37D,ベクトル解析による乱視軸は55.0±49.27°,B群では.0.42±0.40D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった.また術後直乱視の症例は,A群が15眼中6眼(40%),B群が20眼中8眼(40%)であり,術後倒乱視の症例は,A群が15眼中8眼(53%),B群が20眼中10眼(50%)であった.トーリック眼内レンズを挿入した白内障手術前後に5機種の角膜形状解析装置を用いて角膜屈折力を測定した結果,直乱視に関してはすべての機種で術前に過大評価され,倒乱視に関しては角膜後面屈折力を測定できる装置では適正に評価されていたが,それ以外の装置では術前に過小評価されており,新しいノモグラムが必要であると提唱している6).二宮らはトーリック眼内レンズで乱視が矯正され,術後の裸眼視力が向上したが倒乱視が残存する傾向があり,適応の決定と眼内レンズのスタイル選択のために新たなノモグラムの開発が必要であると報告している7).筆者らの検討では,対象に術前の自覚直乱視症例はなかったため,倒乱視症例だけでの結果であるが,術後自覚直乱視化の症例は,A群が15眼中6眼(40%),B群が20眼中8眼(40%)であり,術後自覚倒乱視の症例は,A群が15眼中8眼(53%),B群が20眼中10眼(50%)であり,術前と術後の自覚乱視軸の関係について,両群間に差が認められなかった(図8).ベクトル解析によるA群における術後自覚乱視度数は.0.42±0.35D,乱視軸は55.0±49.27°,B群では.0.41±0.27D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった.この結果から,今回の方法では,角膜前面屈折力によるトーリック眼内レンズ選択と,角膜前後面屈折力による選択方法では,術後自覚乱視度数,乱視軸への乱視矯正効果においては,有意差は認められなかった.その原因として,乱視軸のマーキング,手術による惹起乱視,術後の眼内レンズの回転など多くの要因が影響している可能性があり,乱視矯正においても理論的には角膜前後面の乱視を実測したほうが有利と考えられるが,その優位性を示すことはできなかった.今後症例を増やし,さらに乱視軸のマーキングや手術による惹起乱視術後の眼内レンズ回転も考慮に入れて解析を行いたい.今回の検討から,トーリック眼内レンズ選択において,realpowerの測定値を用いることは必ずしも最適のレンズ選択につながらない可能性もあるため,角膜後面屈折力の測定を活用するためには,眼内レンズ度数計算式やA定数,およびトーリック眼内レンズカリキュレーターを最適化することなど,多くの要因を改良していくことが重要と思われる.文献1)馬込和功,副島由美,山田敏夫ほか:角膜形状解析装置による角膜前面乱視,後面乱視の検討.日本視能訓練士協会誌43:233-239,20142)山村陽:特殊角膜における眼内レンズ度数決定2.PTK術後,RK術後.あたらしい眼科30:600-606,20133)KochDD,AliSF,WeikertMPetal:Contributionofpos-teriorcornealastigmatismtototalcornealastigmatism.JCataractRefractSurg38:2080-2087,20124)Abula.aA,HillW,FranchiaAetal:Comparisonofmethodstopredictresidualastigmatismafterintraocularlensimplantation.JRefractSurg31:699-706,20155)PreussnerPR,Ho.mannP,WahlJ:Impactofposteriorcornealsurfaceontoricintraocularlens(IOL)calculation.CurrEyeRes40:809-14,20156)KochDD,Jenkins,RB,WeikertMPetal:Correctingastigmatismwithtoricintraocularlenses:E.ectofposte-riorcornealastigmatism.JCataractRefractSurg39:1803-1809,20137)二宮欣彦,小島啓尚,前田直之:トーリック眼内レンズによる乱視矯正効果のベクトル解析.臨眼66:1147-1152,2012***

360° Suture Trabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):433.437,2017c360°SutureTrabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例森川幹郎*1細田進悟*2里見真衣子*3八木橋めぐみ*3窪野裕久*3渡辺一弘*3鈴木浩太郎*3川村真理*3*1東京都済生会中央病院眼科*2独立行政法人国立病院機構埼玉病院眼科*3財団法人神奈川県警友会けいゆう病院眼科TwoCasesofCytomegalovirusCornealEndotheliitisDiagnosedafter360-degreeSutureTrabeculotomyMikioMorikawa1),ShingoHosoda2),MaikoSatomi3),MegumiYagihashi3),HirohisaKubono3),KazuhiroWatanabe3),KotaroSuzuki3)andMariKawamura3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationSaitamaNationalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeiyuHospital360°スーチャートラベクロトミー(360°suture-trabeculotomy:S-LOT)施行後にサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎と診断した2例を報告する.2例とも虹彩炎・続発緑内障として治療され,角膜浮腫を伴う虹彩炎,角膜後面沈着物,角膜内皮細胞密度減少を認めていた.眼圧コントロール不良のため,S-LOTを施行した.術後眼圧は良好だったが,症例1は術後6カ月で炎症再燃,眼圧上昇し,トラベクレクトミー(trabeculectomy:LEC)施行に至った.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を施行した.症例2は軽度炎症再燃に伴いPCR検査を行い,CMV角膜内皮炎と診断した.抗CMV治療導入後は所見の改善を認め,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.CMV角膜内皮炎に伴う続発緑内障に対しS-LOTは有効であったが,良好な眼圧コントロールを維持するには抗CMV治療を早期に始める必要があることが示唆された.Wereport2casesofcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitisdiagnosedafter360-degreesuturetrabecu-lotomy(S-LOT).Bothpatientsweretreatedassecondaryglaucomaassociatedwithiritis.Iritiswithcornealede-ma,keraticprecipitatesanddecreasedcornealendothelialcelldensitywereobserved.Intraocularpressure(IOP)wasuncontrollable;S-LOTwasthereforeperformedinbothcases.Inonecase,in.ammationrecurredwithIOPelevation6monthsafterS-LOT,sotrabeculectomywasperformed;wesimultaneouslyobtainedtheaqueoushumorsampleforpolymerasechainreaction(PCR).Intheothercase,wetookthesamplebeforeIOPelevation.CMVDNAwasrevealedbyPCR;in.ammationandIOPhavebeencontrolledundergancicloviradministration,withoutprogressionofvisual.elddefect.ThesecasesindicatethatS-LOTise.ectiveforsecondaryglaucomaassociatedwithCMVcornealendotheliitis;inextendingIOPcontrol,thesooneranti-CMVtherapyisinitiated,thebettertheresult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):433.437,2017〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,360°スーチャートラベクロトミー.cytomegalovirus,cornealendotheliitis,360-degreesuturetrabeculotomy.はじめに近年,免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にサイトメガロウイルス(cytomegarovirus:CMV)が関与している症例が複数報告されるようになった.CMV角膜内皮炎に伴う眼圧上昇により,続発緑内障に発展する症例も少なくない1).続発緑内障に対しては,360°スーチャートラベクロトミー(360°suturetrabeculotomy:S-LOT)が有効であることがすでに報告されているが2),CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対しての成績を検討した報告はない.今回,S-LOT施行後にCMV角膜内皮炎と診断した2例を経験したので報〔別刷請求先〕森川幹郎:〒108-0073東京都港区三田1-4-17東京都済生会中央病院眼科Reprintrequests:MikioMorikawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,1-4-17Mita,Minato-ku,Tokyo108-0073,JAPAN告する.I症例[症例1]74歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:平成26年1月より左眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行うも眼圧は20mmHg台後半であった.平成26年2月に左眼SLT(selectivelasertrabecu-loplasty)を施行されたが,眼圧下降が得られず,視野も進行傾向のため,平成26年6月当院紹介受診となった.既往歴:不整脈に対し心臓ペースメーカー挿入術後.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.5(1.5×sph.1.25D:cyl.0.50DAx100°).VS=0.1(0.3×sph.2.50D:cyl.0.75DAx100°).眼圧:右眼14mmHg,左眼34mmHg.前眼部:角膜浮腫は認めず.左眼はcell,少数の角膜後面沈着物を認めた.中間透光体:左眼にNS2度の核硬化および後.下白内障を認めた.眼底:左眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,左眼は色素沈着が非常に強く,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)は認めなか図1症例1の左眼細隙灯顕微鏡検査図2症例1の初診時左眼Goldmann視野検査小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshaped湖崎分類IIIaの視野障害を認めた.lesion)がびまん性に出現した.H26.7.1.H26.12.4.H27.2.17.40302010前房水PCR0H27.2.17.H27.4.15.H27.7.23.LEC30前房水PCR2520レーザー切糸151050図3症例1の眼圧経過S-LOT術後5カ月で炎症再燃,スパイク状眼圧上昇を認め,LEC施行に至った.LECと同時に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.LEC術後・抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであった.眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)った.視野:Goldmann視野検査にて左眼に湖崎分類IIIaの視野障害を認めた(図2).経過:ステロイドレスポンダーの鑑別のため,ステロイド点眼を中止したところ炎症は増悪し,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshapedlesion)がびまん性に出現した(図1).角膜浮腫も出現し,角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.角膜内皮細胞密度は右眼2,725/mm2,左眼は角膜浮腫のため測定不可であった.単純または帯状ヘルペス角膜内皮炎の可能性を考慮し,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが効果はなく,眼圧は20.30mmHgが持続した.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療を行うも,眼圧下降が得られないため,平成26年7月にS-LOT,白内障同時手術を施行した.長期にわたる角膜内皮炎のため,tra-beculectomy(LEC)では術後の浅前房などで角膜内皮障害が起こる可能性も考慮し,初回手術としてS-LOTを選択した.白内障が主因と思われる視力低下も認めており,同時に白内障手術も施行した.術後の眼圧経過を図3に示す.術後一過性眼圧上昇により眼圧は20mmHg台前半となり0.005%ラタノプロスト(キサラタンR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を術後3日より再開,その後眼圧は安定し,術後5カ月までの平均眼圧は15.6mmHgであった.術後5カ月で虹彩炎が再燃,眼圧は40mmHg台までスパイク状の上昇を認めた.そのため,平成27年2月にLECを施行した.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を行ったところ,CMV-DNA陽性,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)陰性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始し,バルガンシクロビル(バリキサR)450mg2錠2回/日を2週間内服した.その後,角膜は透明化し,角膜後面沈着物は減少,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度も1,400.1,700/mm2台で維持されていた.LEC術後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであり,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.[症例2]58歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:平成15年より右眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行っていたが,右眼眼圧は20mmHg台が持続し,炎症出現時には30mmHg台まで上昇を認めていた.平成26年3月頃より眼圧上昇傾向となり,角膜浮腫も認めていた.眼圧下降が得られず,平成26年7月当院紹介受診となった.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.03(0.04×sph.4.00D).VS=0.1p(1.2×sph.4.75D).眼圧:右眼33mmHg,左眼11mmHg.前眼部:右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた.明らかなcellを認めず,複数の円形の角膜後面沈着物を認めた(図4).中間透光体:右眼NS1度の核硬化を認めた.眼底:右眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,右眼は角膜浮腫が強いため詳細な観察は困難であったが,色素沈着が強く,下方にPASを認めていた.角膜内皮細胞密度:右眼1,988/mm2,左眼3,049/mm2.視野:Goldmann視野検査にて明らかな緑内障性変化は認めなかった(図5).経過:上記所見より角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.症例1と同様にヘルペス角膜内皮炎を考え,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが,変化はなかった.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療に抵抗し,眼圧は20mmHg台後半.30mmHg台と下降しなかったため,平成26年8月に右眼のS-LOTを施行した.術後の眼圧経過を図6に示す.術後2カ月で眼圧25mmHgと上昇傾向を認め,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩(コソプトR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を再開し,術後6カ月間の平均眼圧は13.5mmHgであった.軽度の虹彩炎の再燃に伴い,20mmHg程度の眼圧上昇と角膜内皮細胞密度の減少(742/mm2)を認めたため,術後6カ月に外来で前房水採取を行った.マルチプレックスPCRにてCMV-DNAのみ陽性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始した.ガンシクロビル点眼を開始後,角膜浮腫は改善した.角膜後面沈着物は減少し,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度は維持されていた.ガンシクロビル点眼開始後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.抗ウイルス治療導入後は良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.II考按角膜内皮炎は角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じ,角膜浮図4症例2の初診時の右眼細隙灯顕微鏡検査右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた,明らかなcellを認めず,円形の角膜後面沈着物をびまん性に認めた(矢印).H26.8.12.H26.10.9.40H27.1.8.図5症例2の初診時の左眼Goldmann視野検査明らかな緑内障性変化は認めなかった.H27.4.2.H27.8.20.眼圧(mmHg)35302520151050図6症例2の眼圧経過S-LOT術後軽度の炎症再燃は認めるものの,眼圧は維持できていた.その間に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.腫と浮腫領域に一致した角膜後面沈着物を特徴とする比較的新しい疾患概念である.眼圧上昇を繰り返しながら慢性の経過をたどり,続発緑内障や併発白内障,角膜内皮細胞密度減少を引き起こす難治性の疾患である.2006年にKoizumiらは免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にCMVが関与している症例を報告し3),以後同様の報告が相次いでいる.CMV角膜内皮炎は,多くは片眼性で,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変および角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫を特徴とするとされている.Cheeらは眼圧上昇を伴う前部ぶどう膜炎105例の前房水PCR検査を施行したところ,24眼(22.8%)でサイトメガロウイルスDNAが陽性となったと報告している1).なかでも18眼(75%)はPosner-Schlossman症候群と診断されていた.したがって,Posner-Schlossman症候群などの診断を受けた前部ぶどう膜炎の中にCMV角膜内皮炎が多数潜在している可能性が考えられる.また,Takaseらは単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(vallicera-zostervirus:VZV),CMVによる前部ぶどう膜炎の臨床像を比較し,CMVによる群では前房内炎症は比較的軽度で角膜内皮細胞密度がより高度に減少,眼圧上昇も大きかったと報告している4).以上より,角膜後面沈着物や角膜内皮細胞密度の減少を伴う前部ぶどう膜炎では,CMV角膜内皮炎を鑑別するため,積極的に前房水PCRを施行するべきと考えられた.2012年に特発性角膜内皮炎研究班によりサイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準が作製された.CMV角膜内皮炎の診断には,前房水中の原因ウイルスDNAの同定が必要であり,特徴的な臨床所見と合わせて診断される.今回の2症例ではともに,角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,角膜内皮細胞密度の減少,再発性・慢性虹彩毛様体炎,眼圧上昇も認めていたが,前房水PCRを施行したことで,診断を確定できた.CMV角膜内皮炎の標準治療はいまだ十分に確立してはいない.しかしながら現在,点眼,内服,点滴,硝子体注射などのさまざまなガンシクロビル治療が試みられ,一定の有効性が報告されている1,4.11).ガンシクロビルはCMVに対する抗ウイルス薬であり,ウイルスDNAポリメラーゼを阻害してウイルスの複製を阻害する.また,Koizumiらは0.5%ガンシクロビル点眼の有効性を報告しており3),筆者らもその報告に準じて,0.5%ガンシクロビル点眼を自家調整し使用した.抗ウイルス治療により有意に眼圧・炎症コントロールを達成できると考えられるものの,中止・減量すると再発する例も多い.また,抗ウイルス治療を行っても,最終的に手術治療が必要となった症例の報告も複数ある.Suらは2%ガンシクロビル点眼で治療した68眼のうち,25眼(37%)で眼圧上昇の再燃を認め,8眼はLECに至ったと報告している9).八幡らはぶどう膜炎に伴う続発緑内障に対し,S-LOTを施行した15例18眼を検討し,術後成績は比較的良好であり,初回手術として有用であると報告している12).CMV角膜内皮炎による続発緑内障のみのS-LOTの成績について検討した報告はないが,初回手術の良い適応となる可能性がある.今回,症例1ではS-LOT施行後に炎症再燃に伴うスパイク状の眼圧上昇を認め,LECを施行するに至った.一方,症例2でも軽度の炎症が再燃したが,前房水PCRにより確定診断を得て,早期に抗ウイルス治療を開始したため,良好な眼圧コントロールを維持していると考えられる.CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対し,S-LOTは一定の有効性を示したが,所見からCMV角膜内皮炎を疑った場合はできるだけ早期に前房水PCRを行い,抗ウイルス治療を開始することが望ましいと考えられる.文献1)CheeSP,JapA:Cytomegalovirusanterioruveitis:out-comeoftreatment.BrJOphthalmol94:1648-1652,20102)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,20064)TakaseH,KubonoR,TeradaYetal:Comparisonoftheocularcharacteristicsofanterioruveitiscausedbyherpessimplexvirus,varicella-zostervirus,andcytomegalovirus.JpnJOphthalmol58:473-482,20145)vanBoxtelLA,vanderLelijA,vanderMeerJetal:Cytomegalovirusasacauseofanterioruveitisinimmuno-competentpatients.Ophthalmology114:1358-1362,20076)唐下千寿,矢倉慶子,郭懽慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,20107)WongVW,ChanCK,LeungDYetal:Long-termresultsoforalvalganciclovirfortreatmentofanteriorsegmentin.ammationsecondarytocytomegalovirusinfection.ClinOphthalmol6:595-600,20128)山下和哉,松本幸裕,市橋慶之ほか:虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の2症例.あたらしい眼科29:1153-1158,20129)SuCC,HuFR,WangTHetal:Clinicaloutcomesincyto-megalovirus-positivePosner-Schlossmansyndromepatientstreatedwithtopicalganciclovirtherapy.AmJOphthalmol158:1024-1031,201410)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:1817-1824,201411)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheli-itis:analysisof106casesfromtheJapancornealendo-theliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,201512)八幡健児,大黒伸行,奥野賢亮ほか:ぶどう膜炎続発緑内障に対する360°suturetrabeculotomyの術後成績.第25回日本緑内障学会抄録集,p112,2014***

Double-glide Techniqueを用いたDescemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplastyの術後成績の検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):429.432,2017cDouble-glideTechniqueを用いたDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyの術後成績の検討浅岡丈治*1出田隆一*1天野史郎*2*1出田眼科病院*2井上眼科病院SurgicalOutcomeofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastybyDouble-glideTechniqueUsingBusinGlideTakeharuAsaoka1),RyuichiIdeta1)andShiroAmano2)1)IdetaEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:Double-glidetechniqueを用いたDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)の術後成績を検討した.対象および方法:対象は水疱性角膜症に対してdouble-glidetechniqueを用いてDSAEKを行った33例35眼.原疾患,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:平均患者年齢75±9歳.観察期間は2.0±0.8年(6カ月.3年).術前の平均小数視力は0.095で,術後3年の平均少数視力は0.85であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2.術後3年では1,266±548cells/mm2であり,内皮細胞減少率は55%であった.術後合併症は眼圧上昇が2眼(5%),.胞様黄斑浮腫が4眼(10%)であった.結論:Double-glidetechniqueを用いたDSAEKは合併症も少なく良好な術後成績であった.Purpose:ToinvestigatesurgicaloutcomesofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)bydouble-glidetechniqueusingBusinglide.Methods:Weretrospectivelyanalyzed35eyesof33patientswithbullouskeratopathy(BK)whohadundergoneDSAEKbydouble-glidetechnique.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meanageofpatientswas75±9years.Weanalyzedfor2.0±0.8years.At3yearsaftersurgery,meanvisualacuitywas0.85,ECDwas1,266±548cells/mm2andECDlosswas55%.Complicationswereelevatedintraocularpressure(5%)andcystoidmacularedema(10%).Conclusions:DSAEKbydouble-glidetechniquewase.ectiveforBKandcausedfewercomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):429.432,2017〕Keywords:角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,ブジングライド.Descemet’sstrippingautomat-edendothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,endothelialcelldensity,Businglide.はじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が,これまで主流であった全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)にとって変わりつつある.PKPに比較してDSAEKは,術中にオープンスカイにならないため駆逐性出血のリスクが低い,術後の正乱視・不正乱視が少ない,視力改善が早い,眼球強度が保たれ外傷に強い,拒絶反応が少ない,縫合糸関連の感染などの合併症が少ない,などのさまざまなメリットがある1,2).DSAEKは角膜内皮を移植することを目的とした手術であるため,術中に移植片の角膜内皮保護を行うことが重要である.DSAEK術中に移植片角膜内皮にもっとも傷害を与える可能性の高いステップが,移植片の前房への挿入操作である.そのため,移植片の前房内挿入にかかわる検討が多くされており,たとえば,切開創が3mmよりは5mmであるほうが,Taco-folding,Businglide,糸引き込み法のいずれでも移植片の挫滅が少なく,内皮傷害も少なくなることが報告〔別刷請求先〕浅岡丈治:〒860-0027熊本市中央区西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:TakeharuAsaoka,M.D.,IdetaEyeHospital,39Tojin-machi,Chuo-ku,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(123)429されている3).また,移植片挿入時に角膜内皮保護を図るために使用する器具として,Businglide4),NeusidlCornealInserter5),EndoGlide6)など,多くのものが報告されている.Double-glidetechniqueは,DSAEK移植片挿入時にBusinglideとIOLglideを用いる方法で,小林らが初めて報告した7).Double-glidetechniqueは,前房が浅く移植片挿入時に虹彩脱出を起こしやすいアジア人の眼にDSAEKを行う際,虹彩脱出を抑えつつ角膜内皮保護が行える優れた術式と考えられる.今回,筆者らは,double-glidetechniqueを用いてDSAEKを行い,6カ月以上経過観察可能であった症例の術後3年までの成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2008年9月.2014年12月に当院で海外ドナーを用いてDSAEKを行った33例35眼(男性12例12眼,女性21例23眼).経過観察期間が半年未満の症例は除外した.観察期間6カ月3眼,1年9眼,2年9眼,3年14眼,平均±標準偏差は2.0±0.8年(範囲:6カ月.3年)であった.手術方法は,耳側角膜に5mmの角膜創を作製し,インフュージョンカニューラ(モリア・ジャパン)を置き,空気瞳孔ブロック予防目的に下方に25G硝子体カッターで虹彩切除行った.移植片はバロン氏真空ドナーパンチ(Katena社)で作製した後,IOLglide(Alcon社IOLglideまたははんだやPTFEチップ)を前房内に挿入したのち,Businglideと引き込み鑷子を用いるdouble-glidetechniqueで前房内に挿入した.移植片の位置を調整したうえで前房内に空気を注入し移植片の接着を確認して終了した.移植片の直径は7.0.8.5mmであった.術式の内訳は,DSAEK5例5眼,Descemet膜を.離しないnDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendo-thelialkeratoplasty)28例30眼,nDSAEKと白内障同時手術が1例1眼,nDSAEKと翼状片同時手術が1例1眼であった.術後はメチルプレドニゾロン125mgを1回点滴し,プレドニゾロンを30mg4日間,20mg4日間,10mg7日間,5mg7日間と漸減しながら投与した.術後点眼は単独手術のDSAEKとnDSAEKではレボフロキサシンとベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを1日5回,エリスロマイシン軟膏1回,白内障同時手術の場合は,これにジクロフェナクを1日4回投与した.原疾患,角膜透明治癒率(%),術後3年までの矯正logMAR視力(logarithmicminimumangleofresolution),等価球面度数数,乱視度数数,角膜内皮細胞密度(endotheli-alcelldensity:ECD),術後合併症について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.合併症の黄斑浮腫の診断は,光干渉断層計(OCT)を用い,術後視力の改善が不良な症例に対して行った.数値は平均値±標準偏差で記載した.統計学的解析は,術前値と術後の各時点での値との比較にMann-Whitney’sU-testを用いた.術前と術後四つの時点での比較であったので,p<0.0125を統計学的に有意とした.II結果1.患.者.背.景患者の手術時平均年齢は75±9歳(範囲:54.90歳)であった.原疾患は,レーザー虹彩切開術後が12例12眼(34%),Fuchs角膜内皮ジストロフィが4例6眼(17%),線維柱帯切除後が6例6眼(17%),白内障術後が6例6眼(17%),落屑症候群が4例4眼(11%),緑内障発作後が1例1眼(2.9%)であった.またPKP後の角膜内皮不全に対してDSAEKを行った1例で,術後2週間目に移植片と患者角膜の間にカンジダ感染を生じてグラフト抜去を行った.透析中の易感染症例であった.今回この眼の術後データのうち合併症については検討対象としたが,視機能や内皮細胞密度については対象から除外した.2.海外ドナーグラフトデータ移植グラフトは米国アイバンク(SightLife,Seattle,WA,USA)からのプレカットドナー角膜を用いた.プレカット後のECD2,800±258cells/mm2,ドナー平均年齢は61±8歳,ドナー死亡から強角膜片作製時間9.5±6時間,ドナー死亡から手術日数6.2±0.9日であった.3.角膜透明治癒率術後,移植片を抜去した1眼を除いたすべての症例で透明治癒が得られた.移植後3年を過ぎて1例が内皮機能不全となったが,高齢のため再移植は行わず経過観察となっている.4.視力術前の平均logMAR視力は1.02±0.5(平均小数視力:0.095)であった.術後6カ月の平均logMAR値は0.16±0.16(平均小数視力:0.69),術後12カ月は0.16±0.28(平均小数視力:0.69),術後24カ月は0.14±032(平均小数視力:0.72),術後36カ月は0.07±0.14(平均小数視力:0.85)であった(図1).術前と比較し,術後6カ月以降,有意な改善を認めた(p<0.0125).術後36カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は83%,同様に0.8以上は67%,1.0以上は42%であった.5.角膜内皮細胞密度術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2であった.術後6,12,24,36カ月での平均内皮細胞密度はそれぞれ,1,632±681cells/mm2,1,661±682cells/mm2,1,304±739cells/mm2,1,266±548cells/mm2であった(図2).内皮細胞減少率は,6,12,24,36カ月でそれぞれ,42430あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(124)-0.501224363,5003,0000内皮密度0.5角膜内皮密度乱視度数logMAR1logMAR1,5001,0001.55002術後(月)00122436図1矯正視力の変化術後(月)術後6カ月で有意な改善を認めている.図2角膜内皮細胞密度の変化術後6,12,24,36カ月での内皮細胞減少率は,26,12,24,36カ月でそれぞれ,42%,41%,53%,55%であった.101224360-11.501224361-2-3-4乱視度数-5術後(月)図3術前後の乱視度数の変化術前後で有意差はなかった.%,41%,53%,55%であった.6.自覚的乱視度数自覚的乱視度数は,術前で1.25±2.8diopters(D),術後6カ月で2.1±1.33D,術後12カ月で1.99±1.3D,術後24カ月で1.74±0.78D,術後36カ月で1.6±0.55Dであった(図3).術前と比較して,術後に有意差はなかった.7.等価球面度数等価球面度数は,術前で.0.40±1.30D,術後6カ月で.0.75±1.53D,術後12カ月で.0.82±1.37D,術後24カ月で.0.68±1.51D,術後36カ月で.0.63±1.28Dであった(図4).術前後で,有意差なく遠視化も認めなかった.8.術後合併症21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(5%)で認めた.発生時期は,術後3.12カ月であった.術後12カ月で眼圧上昇を認めた症例は,落屑緑内障の合併例のため,現疾患による眼圧上昇の可能性も考えられた.いずれも緑内障点眼を追加することで眼圧コントロールが得られ,緑内障手術に至った症例はなかった..胞様黄斑浮腫を4眼(10%)で認めた.発生時期は術後3.12カ月であった..胞様黄斑浮腫は,全例非ステロイド性抗炎症薬点眼もしくは,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射にて2カ月以内に消失した.また前述のようにカンジダ感染が1例あった.移植片からの持ち込みの可能性も否定できないが,移植片の残りの培養を行っていないため詳細は不明である.駆逐性出血,眼内炎,拒絶反応は認めなかった.等価球面度数0.50-0.5-1-1.5-2-2.5図4等価球面度数の変化術前後で有意差はなく遠視化も認めなかった.III考按今回すべての症例で矯正視力の改善を認めた.今回,術後12カ月目の平均logMAR矯正視力は0.16±0.28(平均小数視力0.69)であった.これまでの報告では平均logMAR矯正視力は0.34.0.17(小数視力0.46.0.68)であり8.12),今回の結果は既報とほぼ同等の結果であった.DSAEK術後は時間がたつほど視力の向上がみられることが近年報告されており10),今回も術後経過とともに平均視力の改善がみられた.今後さらに長期視力の成績も注目する必要がある.既報では,12カ月での報告が多く,36カ月の経過観察は有益な情報であると考えられる.DSAEK術後の内皮減少率については,挿入法によりさまざまな報告がある.Double-glide法では,アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症へのDSAEKでdouble-glide法を用いた場合に,術後3カ月で37.9%の内皮減少率が報告されている7).今回の術後1年での内皮減少率41%はこの報告とほぼ同等の結果であったと考えられる.また他の挿入法では,術後1年での減少率として,Tacofolding法で27.52%9,11,13,14),EndoGlide法で16.32%6,15),Businglide法で24.39%4,12,16)と報告されている.今回の結果がこれらの報告と比較して高めの内皮減少率となった原因としては,前術後(月)(125)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017431房が浅く硝子体圧が高いためにDSAEKの施行がむずかしいアジア人の眼が対象であったことと,原因疾患として,DSAEK施行のむずかしいレーザー虹彩切開術後,線維柱帯切除後,緑内障発作後のものが全体の半数以上を占めており,また比較的DSAEKの行いやすい白内障術後やFuchs角膜内皮ジストロフィの割合が少なかったことが考えられる.既報10)ではDSAEKの術前術後の自覚的乱視の変化については有意差がないと報告されているが,今回も同様に有意差を認めなかった.また既報では術後軽度遠視化する報告があるが,今回はみられなかった.合併症としては,既報では眼圧上昇は5.8.16%とあるが17,18),今回5%と同等であった.また,.胞様黄斑浮腫は10%に認め,0.97%とする既報17)と比較して多かった.原因の一つとして,緑内障術後や発作後の眼の割合が高く,術後炎症が強めであったことが考えられる.また,以前はOCTの普及率が低かった可能性や,そもそも以前の文献ではOCTを行っていない可能性も考えられる.実際既報では.胞様黄斑浮腫に対して検討されていないものがほとんどであった.当院では,角膜上皮への悪影響を考え,DSAEK術後に非ステロイド性抗炎症薬の点眼はしてこなかったが,今後,黄斑浮腫発症予防のために,DSAEK単独手術症例でも投与すべきと考えている.今回,double-glidetechniqueを用いたDSAEKの術後3年成績を報告した.術後早期より視力の向上が得られること,術後乱視が軽度であること,合併症が少ないことからも有用な手術方法と考えられた.黄斑浮腫は既報では低く見積もられている可能性があるため,DSAEK術後の視力不良例では.胞様黄斑浮腫に注意し,OCTなどを用い積極的に精査する必要があると考えられた.文献1)LeeWB,JacobsDS,MuschDCetal:Descemet’sstrip-pingendothelialkeratoplasty:safetyandoutcomes:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Oph-thalmology116:1818-1830,20092)AnshuA,PriceMO,TanDTetal:Endothelialkerato-plasty:arevolutioninevolution.SurvOphthalmol57:236-252,20123)TerryMA,SaadHA,ShamieNetal:Endothelialkerato-plasty:thein.uenceofinsertiontechniquesandincisionsizeondonorendothelialsurvival.Cornea28:24-31,20094)BusinM,BhattPR,ScorciaV.Amodi.edtechniquefordescemetmembranestrippingautomatedendothelialker-atoplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthal-mol126:1133-1137,2008432あたらしい眼科Vol.34,No.3,20175)TerryMA,StraikoMD,GosheJMetal:Endothelialkera-toplasty:prospective,randomized,maskedclinicaltrialcomparinganinjectorwithforcepsfortissueinsertion.AmJOphthalmol156:61-68,20136)KhorWB,MehtaJS,TanDT:Descemetstrippingauto-matedendothelialkeratoplastywithagraftinsertiondevice:surgicaltechniqueandearlyclinicalresults.AmJOphthalmol151:223-232,20117)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Descemetstrip-pingwithautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathiessecondarytoargonlaseriridotomy─pre-liminaryresultsandusefulnessofdouble-glidedonorinsertiontechnique.Cornea27(Suppl1):S62-69,20088)WendelLJ,GoinsKM,SutphinJEetal:Comparisonofbifoldforcepsandcartridgeinjectorsuturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea30:273-276,20119)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmolo-gy116:248-256,200910)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendotheli-alkeratoplasty.Ophthalmology119:1126-1129,201211)HsuHY,EdelsteinSL:Two-yearoutcomesofaninitialseriesofDSAEKcasesinnormalandabnormaleyesataninner-cityuniversitypractice.Cornea32:1069-1074,201312)NakagawaH,InatomiT,HiedaO,etal:Clinicaloutcomesindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastywithinternationallyshippedprecutdonorcorneas.AmJOphthalmol157:50-55,201413)ChenES,PhillipsPM,TerryMAetal:Endothelialcelldamageindescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplastywiththeunderfoldtechnique:6-and12-monthresults.Cornea29:1022-1024,201014)PriceMO,GorovoyM,PriceFWJretal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:three-yeargraftandendothelialcellsurvivalcomparedwithpene-tratingkeratoplasty.Ophthalmology120:246-251,201315)ElbazU,YeungSN,LichtingerAetal:EndoGlideversusEndoSerterfortheinsertionofdonorgraftindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOph-thalmol158:257-262,201416)HongY,PengRM,WangMetal:Suturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyinChinesephakiceyes:out-comesandcomplications.PLoSOne8:e61929,201317)HirayamaM,YamaguchiT,SatakeYetal:Surgicalout-comeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkera-toplastyforbullouskeratopathysecondarytoargonlaseriridotomy.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1043-1050,201218)PriceMO,GorovoyM,BenetzBAetal:Descemet’sstrip-pingautomatedendothelialkeratoplastyoutcomescom-paredwithpenetratingkeratoplastyfromtheCorneaDonorStudy.Ophthalmology117:438-444,2010(126)

富山県における糖尿病診療情報提供書の現況 ―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):425.428,2017c富山県における糖尿病診療情報提供書の現況―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―山田成明*1狩野俊哉*2片山寿夫*3*1富山県立中央病院眼科*2狩野眼科医院*3片山眼科医院CurrentStateofDiabetesClinicalInformationProvidedinToyamaPrefecture─FromToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation─NariakiYamada1),ToshiyaKarino2)andToshioKatayama3)1)DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2)3)KatayamaOphthalmologyClinicKarinoOphthalmologyClinic,富山県眼科医会では,糖尿病による失明を防ごうという目的で糖尿病網膜症委員会を設けて,活動を行った.糖尿病診療情報提供書は,その活動のなかで作成され,平成9年から使用を開始した.眼科と内科の連携を密にし,糖尿病網膜症の早期発見,早期治療をめざしたものであった.今回,診療情報提供書の内容の改訂が行われたことにより,改めて富山県眼科医会の会員にアンケート調査を行い,平成27年4月から3カ月間の糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳などの利用について,また,これらと連携に関する意見を聞いた.36名からの回答によれば,30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.どちらかを主に使用している,両者を併用している,使い分けているなどの意見があった.糖尿病網膜症に関する眼科と内科との連携は,眼手帳や診療情報提供書などを使用することにより,さらに意思疎通を得る必要があると思われた.TheToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation’sDiabeticRetinopathyCommitteewasestablishedwiththeaimofhelpingtopreventblindnesscausedbydiabetes.Closecooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicinefurtheredtheearlydetectionofdiabeticretinopathywiththeaimofrealizingearlytreatment.FollowingrecentrevisioninToyamaPrefectureofthediabetesclinicalinformationdocument,aquestionnairesurveywassubmittedtothemembersoftheOphthalmologistAssociationregardinguseofthedocumentandthediabetesnotebookfor3monthsfromApril2015.Opinionswerealsoheardregardingthesemattersandtheextentofcol-laboration.Accordingtoresponsesfrom36persons,30(83%)usedthediabetesclinicalinformationdocumentand31(86%)usedthediabeteseyenotebook.Allusedatleastone,someusedboth,andothersusedoneortheotherselectively.Cooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicineregardingdiabeticretinopathybyusing,forexample,thenotebookandclinicalinformationdocument,isthoughtnecessarytogreatercommunication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):425.428,2017〕Keywords:糖尿病診療情報提供書,糖尿病網膜症,内科眼科連携,糖尿病眼手帳.diabetesclinicalinformationprovides,diabeticretinopathy,cooperationbetweenphysicianandophthalmologist,diabeticeyenotebook.はじめに近年,糖尿病網膜症は成人の失明原因の第2位となっているが,まだ成人の失明原因の主因になっている1).また,日本の糖尿病人口は950万人と推定され2),まだ膨大な潜在患者が埋もれているものと思われる.増殖糖尿病網膜症に硝子体手術が導入され,増殖膜を.離し,術後に良好な視力を得ることも可能となったが,日常生活に十分な機能を残せない場合もいまだ多く存在する.富山県眼科医会では,糖尿病網膜症による失明をなくそう,重症な糖尿病網膜症を減らそうという熱意から有志が集まり,糖尿病網膜症委員会を作り,平成8年9月から活動を始めた.平成9年には糖尿病診療情報提供書を作成し,使用〔別刷請求先〕山田成明:〒930-8550富山県富山市西長江2-2-78富山県立中央病院眼科Reprintrequests:NariakiYamada,DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2-2-78Nishinagae,Toyama-shi,Toyama930-8550,JAPANを開始した.糖尿病網膜症に関するポスターや患者啓発用のパンフレットの作成,医師会の会報への投稿など種々の活動を行った.糖尿病診療情報提供書は文字通り,糖尿病を診療している内科と連携を密にすることを目的としたものであり,富山県内で使用は拡大した.糖尿病眼学会でも発表し,その後多くの地域や施設で使用の動きがあり3),独自の様式も種々散見されるようになった.I方法1.糖尿病診療情報提供書重症の糖尿病網膜症患者をできるだけ減らすには,内科と眼科の連携をより密接にし,定期的,計画的な眼底検査を行うこと,および患者への啓発が重要と考え,まず内科と眼科の連携システムを作るために,糖尿病患者専用の紹介状(富山県糖尿病診療情報提供書)を作成した.内科医と十分に協議して意思の共有を図った.糖尿病診療情報提供書の最上段は共通部分で,診療情報提供書と書いてあり,その下に紹介先,患者氏名,性別,生年月日,年齢を書く部分がある.上半分が内科,下半分を眼科側の記載部分とし,できるだけ多くの内科医,眼科医に利用してもらえるよう記載項目はなるべく削ぎ落とし,選択肢を多くして簡単に記載できるようにした(図1).表紙に記載方法,Davis分類について説明したものを印刷した(図2).返事が返ってくるまでの内科眼科双方の控え,また万が一返事が来なかった場合のために3枚複写とした.統計処理のカウントをしやすくする意味もあった.今回,診療情報提供書の要件を満たすため,改定を行った(図3).2.アンケート調査今回,糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の利用に関して,平成27年4月.6月までの3カ月間の使用数(紹介と返信いずれでも)をアンケートで調査した.アンケートは富山県内の眼科医にメールおよびファックスで依頼した.あわせて,糖尿病診療情報提供書,眼手帳,糖尿病の連携についての意見も調査した.II結果36名から回答を得られた.3カ月間の診療情報提供書の使用数1.5通18名,6.10通7名,11通以上5名,0通6名,眼手帳は1.5冊14名,6.10冊9名,11冊以上7名,0冊5名であった.30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.若干糖尿病眼手帳は医師に偏りはあるものの使用されていた.糖尿病診療情報提供書を使用する医師は,糖尿病眼手帳も使用する傾図1糖尿病診療情報提供書図2糖尿病診療情報提供書表紙図3改訂した糖尿病診療情報提供書表1糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の使用について糖尿病診療情報提供書(通)糖尿病眼手帳(冊)なし1.56.1011.小計なし220151.521020146.102241911.04037不明11小計6187536向があった(表1).一方,糖尿病診療情報提供書も長年にわたり使用されており,使い分けを行っている医療機関もあった.初めて患者を紹介するときや変化があったときなどは糖尿病診療情報提供書,通常使用するときは糖尿病眼手帳を使用するというものなど,多様な意見があった(表2).III考按従来から,糖尿病網膜症の進行を予防するには,糖尿病の早期発見,初期からの厳重なコントロール,さらには糖尿病表2会員からの意見・手帳は,わざわざ内科に問い合わせなくても現状が把握できるので便利だ.・糖尿病教室や糖尿病連携手帳を渡すときに内科で一緒に糖尿病眼手帳も渡してもらうのがよいと思います.・糖尿病眼手帳,点数なしだとなんかやる気出ません.・糖尿病手帳のほうは明らかに眼科のスペースが狭く問題.提供書は今までは内科から依頼があれば書くようにしています.・糖尿病眼手帳と糖尿病手帳の2通りあり,内科から糖尿病手帳を持参されることが多いです.眼の所見だけでなく,血糖の経過と眼の所見がかいてあるほうが持ちやすいようです.・手帳を持っていただき,内科所見と眼科所見をかいてもらうことが効果的・私は糖尿病の他科との連携はとても大事だと思い,連携手帳は患者さんに渡して内科で記載してもらうようにしています.診療も必ず内科の検査データ,薬手帳,糖尿病手帳を提出してもらっています.眼科側は結構がんばっているのに内科医との温度差を感じます.糖尿病と診断後一度も眼底検査を受けさせていなかったり,連携手帳に記載しなかったりです.眼科側は粘り強く継続していくことが大切です.・眼科の手帳は今まで利用した方にまだ使っていますが内科の手帳に眼科所見記入欄ができたのでそちらの方に記入することが増えてきました.もちろん眼科の手帳も使ってます.・手帳については,「おくすり手帳」「糖尿病手帳」など複数の手帳を提示されます.中には4通も受付に出される方もおられます.・内科医からの紹介依頼はパソコンで印字した紹介状で依頼される.・情報提供書を記載しても,当院への返事は約2割程度・持たせた患者さんから(Drから)クレーム「提供書は,お金を払わされているだけ・・」が多い.・手帳に眼底写真などをすべての人に貼っているが,内科医から返事はほとんどない.・糖尿病手帳だと携帯していない方もおられますし,初診の方や急激に変化した方は情報提供書をお渡しした方がきちんと受診されるような気がします.・当院には糖尿病センターがあるので糖尿病患者さまが多いですが,眼科につきましては院内の併科よりも,開業医の眼科の先生と連携されて,院内紹介の負担が少なくなるようにご配慮してもらっている.・糖尿病診療情報提供書は,広く活用していただきたいと思います.しかしながら開業医内科よりの紹介が少なく,活用はわずかとなっています.・開業医眼科に初診で来院する糖尿病患者は少ないです.・糖尿病専門医からは,月20件ほどコンスタントに紹介があります.最近では,各医院の電カルの書式での紹介が多いような印象です.・糖尿病診療情報提供書については有意義なことと,大いに評価します.・マイナンバー制度が安全によい意味で活用されるとよいのではないか.・電子カルテの普及によって,複写用紙への手書きというのが,時代に(?)あわなくなっているように思います.網膜症の早期発見,早期からの管理が必要とされてきた.これは個々の患者に対することだけではなく,マクロ的にも同様なことがいえると思われる.ただし,マクロでは,どういう手段が有効であるかが重要であり,その一つが糖尿病眼手帳を用いた連携強化であり,今一つは糖尿病診療情報提供書を用いた内科と眼科の連携強化である.いずれの方法も活用されれば,早期発見,適切な管理,適切な経過観察に有効である.しかしながら,医療機関を受診していない患者の早期発見には別の手段を講じる必要がある.糖尿病眼手帳の有効性はいうに及ばないぐらいであるが4.7),改めて検討すれば,項目があらかじめ決められていることで記載が簡便であり,患者側にはコストがかからない点,また患者自身がそれを見て情報を得ることで自身の病気を理解し,治療のモチベーションを上げる効果が期待できる.糖尿病網膜症のどの段階に自分がいるのかを知っていることも重要である.内科と眼科の両方に提示し,かつ患者自身が医療情報を携帯していることに意義があるように思われる.糖尿病連携手帳と一本化することでますます有効になると思われるところである.一方,糖尿病診療情報提供書は,内科と眼科を往復する紹介状で,保険請求上の診療情報提供書であり,診療報酬点数が設定されている.情報は有料であるという概念からすれば妥当なことであるが,患者側には負担がかかる.眼手帳が無料であることとは対照的である.種々の医療機関に多種多様の考えがあると思われるが,医療情報を有償で提供する意義は十分あると思われる.診療情報提供書は眼科と内科の連携を目的に利用されることが多かったが,最近ではその用途も多様になっており,歯科と内科の連携,かかりつけ医と糖尿病専門医のいる病院との連携にも使用されてもいる.また,地域連携パスの情報手段としても使用されている.今後,情報の電子化が図られていくものと思われ,網膜症分類などの情報を統一化しておく必要があると思われる.糖尿病は,一科のみでは診療できない代表的な疾患である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究」.平成24年度統括・分担研究報告書2)厚生労働省:2012年国民栄養・栄養調査結果3)大野敦:糖尿病網膜症の医療連携放置中断をなくすために.糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20024)糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳─眼手帳作成の背景,経緯,内容,使用法について─.日本の眼科74:345-348,20035)船津英陽,堀貞夫:糖尿病眼手帳(日本糖尿病眼学会).DiabetesJournal31:60-63,20036)船津英陽,福田敏昌,宮川高一ほか;糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20057)船津英陽,堀貞夫,福田敏昌ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,2010***