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糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):419.424,2017c糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例善本三和子*1高野秀樹*2東原崇明*2松元俊*1*1東京逓信病院眼科*2東京逓信病院腎臓内科ACaseofDiabeticMacularEdemawithProgressiveRenalDysfunctionafterIntravitrealInjectionofRanibizumabMiwakoYoshimoto1),HidekiTakano2),TakaakiHigashihara2)andShunMatsumoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2)DepartmentofNephrology,TokyoTeishinHospital糖尿病性腎症(以下,腎症)を合併した糖尿病黄斑浮腫(以下,DME)患者に対するラニビズマブ硝子体内注射(以下,IVR)治療経過中,腎機能障害が急速に進行した症例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.下腿蜂窩織炎にて当院初診時,糖尿病が発見された(HbA1C12.2%,腎症+).眼科初診時,両眼視力(1.2),増殖前網膜症を認め,内科治療開始後より右眼DMEが発症,悪化し,右眼IVRを連続3回施行したが,反応不良であった.IVR前とIVR3回後で,血清クレアチニン値2.04→3.39mg/dl,尿中TP/CRE8.14→10.92g/gCr,尿糖(.)→(+2)と3カ月間の腎機能障害の進行は急速かつ顕著であり,その後の積極的な内科治療にも抵抗して腎症はさらに悪化し続け,IVR開始11カ月後,透析導入となった.DMEに対する抗VEGF療法では,全身因子としての腎機能の変化に注意し,盲目的な連続投与は避ける必要がある.Acaseofdiabeticmacularedema(DME)withprogressiverenaldysfunctionafterrepeatedintravitrealinjec-tionofranibizumabisreported.A56-y.o.malewasadmittedtoourhospitalwithacutecellulitisofthelowerextremitiesanddiagnosedwithdiabetesmellitus(HbA1C12.2%,diabeticnephropathy+).Atinitialophthalmicexamination,correctedvisualacuityofbotheyeswas1.2,anddiabeticretinopathywaspreproliferativestage.Afterdiabetesmedicationwasinitiated,DMEofrighteyeoccurredandprogressed,andintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)wasrepeatedthreetimes,butresponseforIVRwaspoor.Dataforserumandurineanalysis(pre-→post-IVR),serumcreatinine(2.04→3.39mg/dl),urineTP/CRE(8.14→10.92g/gCr)andurinesugar(.→+2)showedrapidrenaldysfunctionafterrepeatedIVR.Elevenmonthsafterthe.rstIVR,despiteintensivemedicaltreatmentagainstprogressiverenaldysfunction,dialysiswasinitiated.Itisnecessarytogivecareandattentiontorenalfunctioninanti-VEGFtherapyforDME,andtoavoidrepeatinginjectionsroutinely.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):419.424,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,ラニビズマブ硝子体内注射,抗VEGF抗体,糖尿病性腎症,腎生検.diabeticmacu-laredema,intravitrealranibizumabinjection,anti-VEGFantibody,diabeticnephropathy,renalbiopsy.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮増殖因子)抗体硝子体内注射は,現在,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)治療の主流になりつつある.しかし,同効薬である抗癌剤ベバシズマブの全身的副作用には高血圧や蛋白尿などが多く報告1)されており,全身合併症を有する頻度の高い糖尿病患者では,他の疾患に比べてその全身的影響が懸念されている.今回,筆者らは,初診時より腎症を有するDME患者に対し,抗VEGF抗体であるラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)を連続3回施行したところ,反応は不良で,かつ3回連続投与後に,急速な腎機能障害の悪化・進行が判明し〔別刷請求先〕善本三和子:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科Reprintrequests:MiwakoYoshimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2-14-23,Fujimi,Chiyoda-ku,Tokyo102-8798,JAPANた症例を経験したので報告する.I症例患者:56歳男性.主訴:下腿浮腫,発赤.現病歴:2014年3月中旬,左足関節部の傷と下腿の発赤腫脹を自覚し,同年3月18日当院皮膚科を受診.下腿蜂窩織炎を認め,全身検査の結果,HbA1C12.2%,尿糖4+,尿蛋白3+であり,糖尿病と診断(表1)され,抗菌薬全身投与とともに,強化インスリン療法,降圧薬の投与を開始,その後,3月24日糖尿病網膜症精査目的にて当科初診.既往歴:1998年頃,肥満(体重113kg,BMI34.11kg/m2),尿糖指摘.その後自己流の運動療法で体重が20kg減少し,放置.家族歴:糖尿病:弟,高血圧:母.初診時眼科所見:視力は,RV=0.15(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),LV=0.1(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),眼圧:両眼18mmHg,前眼部所見:角膜・前房異常なし.軽度の白内障あり.虹彩・隅角異常なし.眼底所見:両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑が散在し,初診時黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見では,右眼黄斑浮腫なし,左眼にはわずかな漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)と中心窩上方に軽度の網膜膨化を認めた(図1).経過:3月25日,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)では,両眼の中間周辺部網膜に無灌流域(nonperfusionarea:NPA)を認め,とくに右眼の鼻側網膜で広く,また右眼黄斑部には造影後期に毛細血管瘤からの蛍光漏出および貯留を認めた.3月31日,右眼の視力低下(矯正0.8)を訴え,OCTでは.胞様黄斑浮腫と網膜の膨化所見を認めたため,トリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)を施行し,その後,右眼黄斑局所凝固およびNPAに対する病巣凝固を開始し,4月30日には右眼DMEは消失した.初診から3カ月後には,HbA1Cは6.7%に低下し,それ以後は,テネリグリプチン(選択的DPP-4阻害薬:テネリアR20mg1錠/日)内服治療の下,HbA1Cは5.7.6.2%と良好なコントロール状態が続いた.初診から3カ月後のFAの結果,左眼のNPAに対する病巣凝固を施行し(両眼ともにDMEの再燃なし),初診から9カ月後(2014年12月)のFAでは,右眼でさらにNPAが拡大し,左眼では網膜新生血管を認め,OCTでは右眼にわずかなSRDと網膜膨化が再燃していたため,先に右眼STTAを施行後,DMEが軽減したため,網膜光凝固を追加,さらに左眼にも網膜光凝固を追加した.2015年1月7日受診時,右眼のDMEの網膜膨化所見が悪化(図2a)していたため,同年2月6日より右眼IVRを開始したところ,反応不良であったため,その後3月13日,4月24日と連続3回IVRを施行した.しかし,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は改善せず(図2b.d),同時期に腎機能障害の急速な進行が発覚したた表1初診時全身検査結果血液検査所見WBC(×103μl)15.6×103RBC(×106μl)4.39×106Hb(g/dl)13.5Ht(%)38.4Plt(×103μl)283×103CRP(mg/dl)19.11Na/K/Cl(mEq/l)136.7/5.0/99.3GOT/GPT(IU/l)26/18TP/Alb(g/dl)5.9/2.1BUN/CRE(mg/dl)26.6/1.79BS(mg/dl)朝食後5h504HbA1C(%)12.2eGFR32.3(ml/分/1.73m2)尿所見尿糖/尿蛋白4+/3+尿ケトン体─蛋白質定量(mg/dl)569TP/CRE(g/gCr)6.13NAG(U/l)34.3b2ミクログロブリン(ng/ml)52370身体所見身長182cmBMI26.4体重91.35kg血圧180/95異常値を○○(斜体と下線)で示す.eGFRは推算糸球体濾過量(基準値:90以上),TP/CREは1日尿蛋白量(正常:0.15未満),NAG(N-アセチル-b-D-グルコサミダーゼ正常:7以下),b2ミクログロブリン(正常:230以下)はともに尿細管障害の指標.本症例はeGFRおよび尿TP/CREより,糖尿病腎症3期(顕性腎症期)と診断された.図1初診時眼底写真とOCT2014年3月24日眼科初診時の眼底写真(右眼:a,左眼:d),および黄斑部水平断(右眼:b,左眼:e)および垂直断(右眼:c,左眼:f)OCT撮影画像を示す.眼底検査では両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑を認めた.OCTでは,右眼には明らかな黄斑浮腫はなく,左眼にわずかな漿液性網膜.離と中心窩上方の軽度の網膜膨化所見を認めた.め,本症例の黄斑浮腫には全身性因子の関与が強い可能性も考えられたため,その後のIVRを中止し経過観察とした.腎機能データは,当院初診時より顕性腎症期(糖尿病腎症)であったが,内科治療開始後約9カ月間は,血1表期)(3清クレアチニン値が1.3.1.7mg/dlを維持したまま経過していた.しかし,右眼DMEが再燃したため,IVRを開始し(同時期の血清クレアチニン値2.04mg/dl),連続3回施行したところ,3回目のIVRの1週間後の4月30日腎臓内科受診時,血清クレアチニン値が3.23mg/dlと急激に上昇していたため,当院腎臓内科に即日入院となった.IVR前後の右眼CRTの変化と腎機能データの推移を図3に示す.IVR後の腎臓内科入院約1カ月間,安静と飲水励行および減塩食による食事療法,降圧薬や脂質異常症治療薬の内服にて全身浮腫は改善しいったん退院したが,退院後早期に全身性浮腫が再度悪化し,7月21日腎臓内科に再入院となり,急激な腎機能障害の進行の精査目的に8月3日腎生検を施行した.病理組織学的検査(図4)では,糸球体には,慢性経過の糖尿病性腎症の病理所見で,糖尿病性結節性硬化の初期病変と考えられる細胞浸潤を伴った活動性の高いメサンギウム融解像を認めたことや,比較的新しい内皮障害が示唆される細動脈硝子化や尿細管の滲出病変が散見されたことなどから,最近になって比較的急速に進展した糖尿病性腎症の所見2)と考えられ,臨床経過を考慮すると,IVRの全身的影響の一部である可能性も考えられた.その後は,複数回の入院治療を含む積極的な内科治療にも抵抗して腎機能障害は進行し,2015年10月シャント造設,2016年1月透析導入となった.IVR後の右眼DMEは,腎臓内科入院後徐々にCRTが減少し,入院後3カ月でほぼ浮腫は消失し,その後は全身浮腫が悪化してもCRTは約250μm程度のまま,浮腫は再燃せずに経過した.なお,左眼のDMEは上記経過中出現していない.II考察DMEは,眼局所因子と全身因子が複雑にかかわり合って発症3)し,また患者個々に病態が異なることから,その治療法は大変複雑である.また,そのためかDMEに対する抗VEGF抗体単回投与の反応は,他の加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症に比して緩やかであり,繰り返し使用を余儀なくされることも多く4),さらに治療法の選択を困難にしていると*:CRT図2IVR前後の右眼黄斑部OCT所見(上段:水平断下段:垂直断)2015年1月7日(a),DMEが再発していたため,2月6日(b)に初回IVR,3月13日(c)に第2回IVR,4月24日(d)に第3回のIVRを施行したが,CRTは増加した.思われる.抗VEGF抗体硝子体内注射の全身的副作用としては,DME患者では狭心症・心筋梗塞,高血圧症などが少数例報告されてはいる5)ものの,大規模スタディでは,対象群と抗VEGF抗体治療群を比較しても全身的副作用の発現に有意差はない6)とされている.しかし,これらの大規模スタディの対象患者の患者背景は,比較的全身状態の良好な患者に限定されていることに注意する必要がある.抗VEGF抗体硝子体内注射後の血中VEGF濃度の推移をみた報告7)では,硝子体内注射後,血中VEGF濃度が上昇し,かつ腎障害のある患者では,そのクリアランスが低下していることや,抗VEGF抗体硝子体内注射後の腎臓組織には抗VEGF抗体が存在し,さらにVEGF活性が低下していることが報告8)されており,抗VEGF抗体硝子体内注射が腎組織に対して影響を与える可能性も考えられる.また,過去には,抗VEGF抗体の硝子体内注射後に,腎機能障害が進行した症例が報告9,10)がされており,とくに糖尿病性腎症があるDME患者において抗VEGF抗体硝子体内注射を繰り返し施行する際には,腎機能の推移に注意する必要があると考える.さらに,腎機能に対する注意は,副作用という観点だけではなく,腎機能障害が進行しつつある症例では,全身因子としてのDME悪化要因が加わることで,抗VEGF抗体注射に対する反応も不良となるため,その誤った評価により,不必要な注射を繰り返すことを避けるためにも重要であると考えられる.抗VEGF抗体である,ベバシズマブは,以前より大腸癌などの抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,その全身投与時の副作用として高血圧や蛋白尿が高率に報告されており1),症例の腎生検の組織学的検討を行った報告11.16)がなされている.それらによると,腎臓組織におけるVEGFの役割は,いまだ不明な点も多いが,VEGFはおもにpodo-cyteや尿細管上皮から産生され14),糸球体毛細血管の内皮700中心窩600網膜厚500CRT400(μm)3002003.525尿NAG(Ul)尿TP/CRE(g/gCr)3201400012000血清Cr(mg/dl)尿b2MG(ng/dl)2.51510000280001060001.54000200005100.52014/10/92014/11/92014/12/92015/1/92015/2/92015/3/92015/4/92015/5/9図3IVR前後の中心窩網膜厚(CRT)と腎機能データの変化上段には中心窩網膜厚(CRT)の変化とIVR施行日を示す.下段グラフは左軸に血清クレアチニン値(実線・,□の中に実測値),尿NAG(細点線・▲),尿TP/CRE(長点線・●),右軸にb2ミクログロブリン(実線・■)を示した.グラフ右下の棒グラフは尿糖を示し,IVR開始後出現し増加した.図4腎生検(病理所見)a:糸球体.糖尿病性腎症に矛盾しない結節性病変を多数認める.b:aの拡大写真.細胞浸潤を伴うメサンギウム細胞誘融解(.)を認め,結節性病変形成の初期病変と考えられた.c:尿細管の滲出病変,尿細管間質萎縮と線維化.d:血管の光顕像(PAM染色).内皮障害を示唆する細小動脈の硝子化.細胞のfenestration形成にかかわることにより,糸球体の構造や機能を維持する役割11)や,毛細血管障害が生じた場合の修復の役割も担うこと16)が報告されている.したがって,VEGFを阻害することにより,腎臓の毛細血管の成長が阻害されることにより毛細血管障害が起こり,さらにその修復過程も阻害されることにより,腎臓組織内の毛細血管障害やthromboticmicroangiopathy(TMA)などが引き起こされることが推測されている.本症例の腎機能障害の進行経過は,通常の糖尿病腎症を否定するものではないが,IVR開始後の進行速度が,非常に急速でかつ内科的治療に抵抗性であったこと,またHbA1C5.6%と血糖コントロール良好であるにもかかわらず,IVR開始後に尿糖が陽性になり,その後増加していったことは,通常の糖尿病腎症の進行経過中にはみられない点として着目した.通常の糖尿病性腎症の進行速度は,さまざまな要因によって修飾されるため,一定速度であるとは限らないが,過去の報告17)によると,血清クレアチニン値2.0mg/dlから透析導入に至るまでの期間は糖尿病腎不全症例36例の検討では平均2年4カ月と報告されており,本症例では経過は,約1年であり,比較的早い経過で腎不全に進行した症例と考えられた.さらに腎生検では糖尿病腎症に矛盾しない所見に加えて,この病期の糖尿病腎症患者ではみることが少ない,初期病変が散見されたことは,それまで存在していた糖尿病性腎症がIVRによりさらに後押しされたように進行した可能性も考えられたが,因果関係は不明である.DMEに対する抗VEGF抗体硝子体内注射は大変有用な治療法である.しかし,DME患者では糖尿病腎症を合併していることが多く,繰り返し治療を行う場合には進行性の腎機能障害があるかどうか,治療開始後,腎機能データに著しい変動はないか,という点に注意する必要があると思われた.とくに腎症を有し,DME治療開始時期に血清クレアチニン値が上昇傾向にある患者では,腎臓内科主治医と連絡をとりあいながら治療法を決定することが望ましいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhuX,WuS,DahutWLetal:Risksofproteinuriaandhypertensionwithbevacizumab,anantibodyagainstvas-cularendothelialgrowthfactor:systemicreviewandmeta-analysis.AmJKidneyDis49:186-193,20072)齋藤弥章,木田寛,吉村光弘ほか:糖尿病性腎症におけるMesangiolysisについて.日腎誌26:367-375,19843)BresnickGH:Diabeticmaculopathy.Acriticalreviewhighlightingdi.usemacularedema.Ophthalmology90:1301-1317,19834)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofranibizumabondiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/mlVIII安全性(使用上の注意等)に関する項目.VIII-8副作用.p56-58,2015年3月改訂(改訂第11版)6)LangGE,BertaA,EldemBMetal:Two-yearsafetyande.cacyofranibizumab0.5mgindiabeticmacularedema:interimanalysisoftheRESTOREeztensionstudy:Oph-thalmology120:2004-2012,20137)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/ml.VII.薬物動態に関する項目.p47-51,2015年3月改訂(改訂第11版)8)TschlakowA,ChristnerS,JulienSetal:E.ectsofasin-gleintravitrealinjectionofa.iberceptandranibizumabonglomeruliofmonkeys.PLoSOne21:e113701,20149)PelleG,ShwekeN,DuongVanHuyenJPetal:Systemicandkidneytoxicityofintraocularadministrationofvascu-larendothelialgrowthfactorinhibitors.AmJKidneyDis57:756-759,201110)GeorgalasI,PapaconstantinouD,PapadopoulosKetal:Renalinjuryfollowingintravitrealanti-VEGFadministra-tionindiabeticpatientswithproliferativediabeticretinop-athyandchronickidneydisease-Apossiblesidee.ect?CurrentDrugSafety9:156-158,201411)EreminaV,Je.ersonJA,KowalewskaJetal:VEGFInhi-bitionandRenalThromboticMicroangiopathy.NEnglJMed358:112-1136,200812)SugimotoH,HamanoY,CharytanDetal:Neutralizationofcirculatingvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)byanti-VEGFantibodiesandsolubleVEGFreceptor1(sFlt-1)inducesproteinuria.JBiolChem278:12605-12608,200313)GeorgeBA,ZhouXJ,TotoR:Nephroticsyndromeafterbevacizumab:casereportandliteraturereview.AmJKidneyDis49:E23-E29,200714)FrangieC,LefaucheurC,MedioniJetal:Renalthrom-boticmicroangiopathycausedbyanti-VEGF-antibodytreatmentformetastaticrenal-cellcarcinoma.LancetOncol8:177-178,200715)RonconeD,SatoskarA,NadasdyTet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My boom 62.

2017年3月31日 金曜日

自己紹介吉田希望(よしだ・きぼう)よしだ眼科クリニック私は昭和62年に東京慈恵会医科大学に入局し,小児眼科を専門にやってきました.埼玉県立小児医療センターに平成4年1月から平成8年6月まで勤務.その後,小児の他覚評価ができないかとfMRIの研究で2年間フランスへ.帰国後大学を離れ,秋田県大館市に開業して18年になります.仕事のMyboom:子どもの眼科診療小児眼科が専門ですが,開業後数年してから専門外来を立ち上げることができました.土曜日に予約診療で小児眼科領域と大人の斜視などを中心に,ORTさんと一緒に診療しています.ORTさんは常勤2人と非常勤1人,それに慈恵医大から1人来てもらい,難症例にも対処できるようにと考えています.患者さんは秋田県を中心に,青森県の盲学校に通う児童(未熟児など)の診療をしています.秋田県立医療療育センターからはMR(mentalretardation)の強い患児の視機能評価の依頼も受けています.埼玉時代の外来は斜視と弱視,まれに先天白内障,緑内障,10年に1例網膜芽細胞腫.入院は斜視手術症例を年間150例程度,新生児科では未熟児網膜症の急性期しかみていませんでしたが,今では治療後が多く,全盲のケースやほぼ全盲で聴覚に頼っているケースなど,カリフォルニア工科大学の下條信輔先生の感覚代行VOICEの話などロービジョンの領域の知識も必要になってきています.小児の眼科管理は屈折検査と眼位検査に尽きるといえます.抑制の定量評価方法に手作りのNDフィルター入り板付きレンズを作製してもらい,(95)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYBagolini線条グラス検査のデータを集めています.開業すると学校健診も仕事の一つになり,波面センサーを導入してみました.オルソケラトロジー施行眼の収差が桁違いであること,TMFに縦と横の差があることなど,視力検査の方法にも影響しそうなデータが得られています.検影法を数値化してくれるのが波面センサーだと感じています.波面ネタをもう一つ.小学校3年生のPFV(第一次硝子体過形成遺残)で,波面からは手術がよさそうだけれど,弱視治療(Occlupad)で1.0まで改善した例がありました.弱視治療も奥が深い.私生活のMyboom1スポーツ観戦.好きなんです.野球:父親が明治大学バレーボール部の監督(名前だけ)だった時期に,招待券で東京六大学野球の観戦に友人と神宮球場へ.昭和50年前後でしょうか,まだ外野が芝生席で寝転んで観ていたことを思い出します.父親の留学中のLAでのDodgers戦観戦も忘れられません.小学生の地域リーグで仲間に恵まれ,たまたま優勝し,チームごと招待されました.7回表終了時に場内アナウンスで紹介され,コーチに観客からの拍手に立って答えなさいって促され,誇らしい気持ちと恥ずかしい気持ちが入りまじりました.サッカー:埼玉勤務のころには浦和レッズの年間シートを持っていたほどで,試合を観に行くと負けることが多く,これからは自称隠れレッズファンになります.その当時に大宮サッカー場で観たレッズ対バスコダガマ戦のロマーリオ(ブラジル代表)はすごかったです.今年のチャンピオンシップ第2戦も観に行きましたが残念な結果になりました.ラグビー:父のゼミの先輩学生に誘われて,初ラグビー観戦は高校生の時の早明戦です.一時離れていましたが,最近再び夢中になっています.秋田八橋球場ではノーザンブレッツ対三菱重工相模原戦のハーフタイムに,観客席に遠征に帯同しているあたらしい眼科Vol.34,No.3,2017401写真1東芝スタッフ?画面左が私です.左隣は2013年南アフリカ最優秀コーチのストーンハウスさん.シェーン・ウイリアムスを発見.身長が170cmで,2008年IRBのMVP(サッカー界のバロンドール)選手なんです.握手して写真を撮らせてもらいました.2014年の日本選手権の2回戦,神戸製鋼対ヤマハ戦では,試合の1週間前にラグビー協会から電話があり,たまたま取れていたスカイラウンジシートを変わってほしいと.本当は嫌ですって言いたかったけれど,天皇皇后両陛下が来てラグビー界では初めての天覧試合になると聞き,喜んで譲りました.しばらく自己紹介の際に「天皇陛下に席を譲った男です」ってネタにできました.帰りの国道246が交通規制のため車が1台も走っていないのが不思議な光景でした.今年の東芝対クボタ戦では,たまたま座席が東芝の関係者席の隣で,テレビにがっちり映っていて,まるでチームドクターのようだと言われて少し嬉しかったです(写真1).昨年から日本も参加しているスーパーラグビーでは,生でワラビーズのメンバーを見られました.2019年の日本でのRWC(RugbyWorldCup)が楽しみです.私生活のMyboom2スポーツ.身体を動かすのも好きです.バスケットボール:学生時代から現在まで,途中中断期間はありましたが,楽しんでいます.撮影してもらった動画を見ると気持ちと身体がまったく別物ですが,引退まであと少しかなと思いつつ,週1回のチーム練習をまだ続けています(やらされています?).野球:地元の早起き野球チームに参加して6年になりました.周囲は高校野球で鳴らした選手達で,初心者の自分は初年度5打席5三振から始まり,ようやく今シーズン18打席3安打を打てるようになりました.毎年5402あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017写真2第31回田沢湖マラソン後半キツイところで,無理して笑って走っています.月に行われる東京都眼科医会の大学対抗野球大会にも参加するのが楽しみです.ランニング:一昨年まではレースは年1回,地元秋田県大館市の山田記念ロードレースに参加していましたが,昨年から他のレースにも積極的に参加しています.7月の八竜町のメロンマラソン10km,9月は田沢湖マラソン20km(写真2)と秋田縦走50km,10月にきみまち10km,11月に岩手県宮古サーモンマラソン10km,12月には調布市制マラソン10km.今年は距離を長く,ハーフマラソンを中心に仙台ハーフ,さくらんぼなど企画中です.東京マラソンは倍率が高く抽選で外れました.いつの日か走られたらと考えています.トレーニング:3年前から始めました.週2回で月曜日は体幹トレーニングを40分程度,水曜日はフルメニュー(上半身,下半身,体幹)で75分程度.以前から腰痛と肩こりに悩まされていましたが,最近は症状がなくなりました.大きいけがをしなくなったのはトレーニング効果と思っています.おわりに診療について地域に育てていただいたこと,また専門外来を立ち上げるにあたり慈恵医大の柏田視能訓練士はじめ関係の皆様の協力を得られたことに,深く感謝しております.次のバトンですが,いつも難症例を快く受け入れていただいている弘前大学の鈴幸彦木先生にお渡しします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(96)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 10.視覚情報処理の2つの経路

2017年3月31日 金曜日

雲井弥生連載⑩二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに外側膝状体はヒトやサルでは6層構造をとっている.内側2層の神経細胞は大型,外側4層の神経細胞は小型である.これが何を意味するかは長らく謎であった.1970年代に入り,神経節細胞が電気生理学的あるいは形態学的特徴でいくつかに分類できることがわかり,それが解明への突破口となる1).視覚伝導路と外側膝状体視覚の流れについて考える.図1では前方の十字の中心○を両眼で固視する人の頭を上から見ている.○は両眼中心窩に映る(Fr・Fl).固視点の左の点●は中心窩の右側に映る(R・L).視覚情報は下記のように進む.・右眼中心窩耳側の●情報→視交叉を同側に進む→右外側膝状体2,3,5層→右後頭葉第一次視覚野(以下,V1)へ・左眼中心窩鼻側の●情報→視交叉を反対側に進む→右外側膝状体1,4,5層→右V1へV1の後極には,右眼中心窩の情報○と左眼中心窩の情報○が隣り合うように到達する.右眼の情報●と左眼の情報●は網膜での位置関係を保つようにその前方に到達する.図1右は外側膝状体の拡大図である.9章で網膜神経節細胞が3種類に分類できること,なかでも2種類は対称的な特徴をもつことを述べた.細胞体や受容野が大きく情報伝達の速いPa細胞,細胞体も受容野も小さく情報伝達の遅いPb細胞である.大型のPaは外側膝状体後頭葉第一次視覚野(V1)図1外側膝状体と情報の分離外側膝状体では,右眼・左眼からの情報,神経節細胞のPaとPbから抽出した情報が,それぞれ異なる層に伝達され,分離される.大型のPaは動きの情報を大細胞層1,2層に,小型のPbは形の情報を小細胞層3~6層に伝える.前者をmagnocellular系(M系)とよび,後者をparvocellular系(P系)とよぶ.6層構造は,種類の異なる情報を正しい相手に伝えられるよう機能している.(93)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173990910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2背側経路と腹側経路背側経路を→で示す.物体の動きや方向,光のちらつきなどの情報はPa,V1-3,V5/MTを経て後頭頂葉へと向かう.三次元での位置や動きの把握に必要であり,Whereの経路ともよばれる.腹側経路を.で示す.物の形や輪郭・色の情報はPb,V1,V2,V4を経て下側頭葉へ向かう.何が見えるかをとらえWhatの経路ともよばれる.の大細胞層である1,2層に,小型のPbは小細胞層である3~6層に,網膜から運んできた種類の異なる情報を伝える.すなわちPaは物の動きや光のちらつきの情報を大細胞層へ,Pbは物の形や輪郭の情報を小細胞層へ伝達する.これにより,右眼と左眼,PaとPbの情報が外側膝状体の異なる層へと分離される.6層構造は,陸上のリレー競技のコース分けのように,種類の異なる情報のバトンを正しい相手に渡せるように機能している.前者を大型細胞を介して伝えられる経路としてmagnocellular系(M系),後者を小型細胞の経路としてparvocellular系(P系)とよぶ.ここからV1に進む際には,さらに異なる層へ進む.1~6層の層間に微小細胞層(K層:koniocellular層)があり,網膜K細胞から情報を受ける.一部の細胞は青色情報に関与するとされる.またM系に関与するものもある.まだ解明されていないことが多く,研究の進展が期待される2).背側経路と腹側経路視覚に関係する脳の部位は30以上とされる.なかでも重要な役割を担うV1~5についておおよその位置を図2に示す.脳を左側から見ている.Vはvisualarea表1視覚情報処理の2つの経路の頭文字である.V1は後頭葉第一次視覚野,V2はV1の周辺に位置する.V3,V4は機能によって細区分されるが,実験方法や種によって差があり,議論が分かれるため詳細には触れない.V5はMT(middletemporalarea)ともよばれる.最初にこの部位について報告した研究者の用語MTがよく使われる.①背側経路(dorsalstream):Paから始まる情報の流れを→で示す.・Pa→外側膝状体の1,2層→V1→V2→V3→V5/MT→後頭頂葉(PPcortex:postparietalcortex)三次元空間での位置や動きをとらえるのに必要な経路である.ほぼM系の情報を伝える.②腹側経路(ventralstream):Pb細胞からの情報の流れを.で示す.・Pb.外側膝状体の3~6層.V1.V2.V4.下側頭葉(ITcortex:inferotemporalcortex)物の形や輪郭,色をとらえるのに必要な経路である.V1でK系情報が合流し,P系に一部M・K系情報を合せもつ.表1に背側経路と腹側経路の特徴を対比させる.脳のある部位では網膜からの情報は並列処理され,別の部位では2つが合流して情報統合や相互補完がなされ,効率良く処理される形になっている.これらの発見は視覚情報処理のやり方を明らかにしただけでなく,脳の研究全体に大きな示唆を与えた.文献1)福田淳・佐藤宏道:外側膝状体における情報処理.脳と視覚─何をどう見るか.p114-134,共立出版,20022)CasagrandeV,IchidaJ:ProcessingintheLateralGenicu-lateNucleus(LGN).Adler’sPhysiologyoftheEye11thed(editedbyKaufmanPL,AlmA),p574-585,Elsevier,2011400あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(94)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 166.強膜バックリング手術習得のコツ(その1)双眼倒像鏡による眼底検査(初級編)

2017年3月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載166166強膜バックリング手術習得のコツ(その1)双眼倒像鏡による眼底検査(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに近年,裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)に対する硝子体手術(parsplanavitrectomy:PPV)の適応が拡大されたため,強膜バックリング手術(scleralbucklingprocedure:SBP)に熟達していない術者が増加している.RRDの手術成績を向上させるためには,SBPとPPVの両者において確実な技量を有していることが必須である.今回から5回連続でSBPを習得するコツを述べる.●双眼倒像鏡による眼底検査の重要性SBPの習得には双眼倒像鏡による眼底検査が必須である.双眼倒像鏡の利点としては,立体視ができる,片手があいているので強膜圧迫による眼底最周辺部の観察が可能である,経強膜冷凍凝固が術者のコントロール下に施行できる,などがあげられる.とくに鋸状縁断裂,毛様体扁平部裂孔,毛様体皺襞部裂孔などは,双眼倒像鏡でないと観察できない.RRDとは関係はないが,未熟児網膜症の診察や,頭部の固定が困難な幼児の眼底検査の際にも双眼倒像鏡は威力を発揮する.●仰臥位での双眼倒像鏡による眼底検査に慣れる筆者が若い先生にSBPの指導をしているときにいつも感じることだが,普段立位ばかりで眼底検査をしていると,仰臥位での眼底検査を円滑に行えないことが多い.そのため,経強膜冷凍凝固時に強膜を過度に圧迫したり,プローブの腹で強膜を圧迫し,目的としない部位に冷凍凝固斑を出してしまうことがある(図1a,b).また,これが円滑にできないと,裂孔の位置決めも不確実となり,結局はバックルの置き直しなどで手術時間が長くなる.●豚眼を使用した双眼倒像鏡による眼底検査の練習強膜圧迫による眼底検査に習熟していない先生には,豚眼を利用した双眼倒像鏡による眼底検査を一度経験さa図1異所性冷凍凝固仰臥位の双眼倒像鏡に慣れていないため,冷凍凝固のプローブの腹で強膜を圧迫し(a)(文献1より引用),裂孔より後極に冷凍凝固斑を生じている(b).図2豚眼を使用した双眼倒像鏡による強膜圧迫鋸状縁から毛様体が観察できる.(文献1より引用)図3豚眼を使用した経強膜冷凍凝固冷凍凝固のコツをつかむのに有用である.(文献1より引用)れることをお薦めする.このシミュレーションにより,鋸状縁から毛様体の観察(図2)のコツをつかむことができる1).また,経強膜冷凍凝固の練習も可能である(図3).文献1)池田恒彦:強膜バックリング手術のウェットラボ.日本の眼科86:160-164,2015(91)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173970910-1810/17/\100/頁/JCOPY

弱視と斜視のABC 7.調節性内斜視の治療

2017年3月31日 金曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保7.調節性内斜視の治療柿原寛子かきはら眼科クリニック調節性内斜視の治療の基本は眼鏡常用である.調節麻痺剤点眼下の屈折検査にて眼鏡を処方する.弱視の有無・眼位・両眼視・眼鏡の装用状態の経過観察を行う.必要に応じ眼鏡を更新する.乳幼児期から学童・思春期と長期間の経過観察が必要であり,患児・保護者が不安なく治療に取り組めるよう,説明・指導も大切である.調節性内斜視の治療対しては市販製剤の1%アトロピン点眼液を院内にて生調節性内斜視のうち屈折性調節性内斜視は,1歳半以理食塩水で希釈し,0.5%アトロピン点眼液として使用降に発症することが多い.遠視があり注視時に内斜視とする.なるが,眼鏡装用にて眼位は改善する.治療の基本は眼小児は調節力が強いため,屈折検査結果に調節が介入鏡常用である.非屈折性調節性内斜視は,遠視の矯正でしているかどうか,検査結果をみて判断する必要があは眼位の改善は得られず,高AC/A比(調節性輻輳/調る.たとえ調節麻痺剤点眼後であっても,点眼時に泣い節刺激量)を伴い,治療は二重焦点眼鏡が基本である.た場合など薬剤の効果が不十分なことがある.小児の屈折検査には検影法を用いるのが望ましいが,実際には屈折検査オートレフラクトメータで測定している現場も多いと思調節麻痺下に屈折検査を行い,遠視度数を測定する.われる.図1にオートレフラクトメータの測定結果の例調節麻痺剤には1%アトロピン点眼液または0.5%アトを示す.図1aは,一連の測定中に調節の介入により屈ロピン点眼液,もしくはサイプレジン点眼液を用いる.折値が変動している.図1bの測定では,比較的安定しアトロピンは調節麻痺作用が強い利点があるが,副交感た屈折値を示している.神経遮断薬であり,発熱・顔面紅潮などの副作用をきた複数のオートレフラクトメータがある場合は,機種にす可能性があるのが欠点である.このため,低年齢児によっても屈折測定結果に違いがみられるので,日頃の使ab—REF—VD=12.00mm〈R〉SCA[R]SPHCYLAX+4.25-0.75829+4.75-0.5078+4.75-0.5066+5.00-0.75889+5.50-1.0093+6.00-0.50819+4.25-0.2577+6.25-0.50809+4.25-0.2577+6.00-0.50849+4.50-0.5077+4.75-0.2572〈+6.00-0.5082〉+4.75-0.2579KM(Phi=3.3)mmDdeg図1オートレフラクトメータの測定記録例*+4.75-0.25777〈R17.8343.008〉a:手持ち型オートレフ(レチノマックス)で測定.〈R27.8143.2598〉+1.25〈AVG7.8243.25〉①の部分で測定値の変動が大きく,このとき調節が介[L]SPHCYLAX+3.25〈CYL-0.258〉入していたと考えられる.b:据え置き型オートレフ①+3.25〈L〉SCAで測定.とくに②の左眼は測定値の変動が少ない.+3.00+6.00-0.25899+2.75+6.75-0.75919+2.50②+6.50-0.50929①’+2.00-0.25161+1.75-0.25162〈+6.50-0.5091〉KM(Phi=3.3)*+2.757mmDdeg〈R17.6644.000〉〈R27.6544.0090〉〈AVG7.6644.00〉〈CYL-0.000〉PD52(89)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173950910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2初回眼鏡処方時の説明の様子実物の小児眼鏡フレームを見せることで,保護者に眼鏡装用をより具体的に指導できる利点がある.用経験をもとに各々の特性を把握しておくとよい.また,同一患者の調節麻痺剤使用前後での測定は,同一機種で行えば調節麻痺剤の効果を確認することができる.さらに,自覚的視力検査が困難な小児では,他覚的に測定した屈折値をもとに完全屈折矯正眼鏡を処方するため,点眼後には複数機種で屈折測定を行うことは正確な処方に役立つ.眼鏡処方と装用指導治療用眼鏡は実際に装用してこそ効果が得られるものであり,幼児に眼鏡を常用させるためには保護者の理解と協力が欠かせない.初回の眼鏡処方時には,眼鏡の必要性を説明するとともに,装用させることへの保護者の不安を取り除くよう心がける.屈折性調節性内斜視は眼鏡装用下に眼位の改善が得られるので,眼鏡の必要性は示しやすい.それでも「子どもに眼鏡をかけさせては,かわいそう」「外見が悪いのでは」「どんな眼鏡を買えばいいのか」など不安に思う保護者は多い.当院では,実際の小児用眼鏡フレームを手に取って見てもらい,眼鏡装用の具体的なイメージをもってもらうと同時に,フレーム選択やフィッテイングのポイント(レンズの大きさ・鼻パッドの位置・テンプルの長さなど)を説明している(図2).子どもに好きなフレームの色・テンプルの模様を尋ねたり,フレームをかけさせて「かわいいね」と声をかけたりして,患児と家族が前向きに治療に取り組んでいけるよう支援する工夫も大切である.そのうえで,購入の具体的な方法・療養費給付制度について説明を行う.経過観察眼鏡処方後は約1カ月以内に再診し,できあがり眼鏡チェック・視力検査・眼位検査を行う.レンズメータでの度数チェック・フィッティングの確認を行い,不良の場合は再調整を依頼する.眼鏡装用下に残余内斜視を認める場合は,さらに遠視が隠れていないか,期間をあけてアトロピンでの屈折検査を再検する.乳幼児では,アトロピンを用いていても初回の検査時には調節が取り切れず,十分な遠視を引き出すことができていない可能性もあるためである.部分調節性内斜視・非屈折性調節性内斜視であれば,プリズム装用・斜視手術・二重焦点眼鏡など検討する.弱視合併例では,家庭での健眼遮蔽訓練・通院時訓練を行う.治療開始後,経過観察中に弱視が明らかになる症例もある.眼鏡非装用下の眼位検査で優位眼が決まっている症例・低年齢で視力検査が不完全な症例などは,慎重なフォローが求められる.弱視の合併がない場合,その後の経過観察は2~3カ月ごとに行っている.成長に伴い,およそ1~2年程度で眼鏡の更新が必要になる.屈折の変化・レンズ・フレームの傷み・瞳孔間距離の変化のほか,療養費の支給を受けるには前回処方から一定期間が経っている必要があることも考慮する.経過良好例では,眼鏡更新時の屈折検査は必ずしもアトロピン下である必要はない.視力・眼位・両眼視機能検査にもとづいて,必要十分な検査を行い処方する.文献1)佐藤美保:目でみる斜視検査の進めかた.金原出版,20142)丸尾敏夫,深井小久子,久保田伸枝編:視能学.増補版,文光堂,2008☆☆☆396あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(90)

眼瞼・結膜:結膜メラノーシスと悪性黒色腫

2017年3月31日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人加瀬諭24.結膜メラノーシスと悪性黒色腫北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病講座眼科学分野成人に発生する結膜色素性病変として,原発性後天性色素沈着症(PAM)と悪性黒色腫が代表的である.PAMは眼表面にコーヒー残渣様の茶褐色調の色素沈着が結膜にみられる.悪性黒色腫はPAMから発生する頻度が高く,黒色調あるいは肌色調の腫瘤を形成する.局所化学療法の発展により,眼球温存が可能な症例が蓄積されている.●はじめに成人の結膜に発生する色素性病変の代表的なものに,原発性後天性色素沈着症(primaryacquiredmelano-sis:PAM)と悪性黒色腫がある.いずれも壮年期~高齢者にみられる眼表面疾患である.本稿では,両者の病態,眼科的所見,治療について概説する.●PAMの臨床像PAMは年齢を重ねるにつれてみられる結膜の色素沈着症である.通常は片眼性で,患者自身が,白目の色素が数カ月~数年かけて増えてきているという自覚症状を訴える.細隙灯顕微鏡所見により,眼表面にコーヒー残渣様の茶褐色調の色素沈着が確認できる(図1a).●PAMの病理正常の結膜上皮は,組織学的には重層円柱上皮を呈し,その基底層には上皮細胞とメラノサイトが存在する.PAMの初期では基底層のメラノサイトが増生し,メラニン色素の沈着がめだつ.この時期は増生するメラノサイトに細胞の形状変化(異型性:atypia)はみられず,PAMwithoutatypiaと称する.しかしPAMが進行すると,メラノサイトの増生が基底層にとどまらず,基底層から表層に向けて増生するようになる.このようにメラノサイトが増生すると,病理組織学的にはメラノサイトの核がやや大型になり,核クロマチンの濃染性を伴い,異型性を伴ったPAM,すなわちPAMwithatypiaと診断される.PAMwithatypiaは悪性黒色腫の発生母地となるため,PAMを示唆する色素沈着がみられたら病変部を試験切除し,メラノサイトに異型があるか病理組織学的検討にて確認する(図1b).●PAMの治療治療を検討するうえで,病理組織学的所見が重要となる.PAMwithout/withatypiaは眼病理学的には確立された概念であるが,一般病理医の診断においては,必ずしも病理診断名として記載されない場合があり,注意を要する.眼科主治医は試験切除を行った病理診断書については,診断名だけでなく,病理組織所見にも必ず目図1PAMの1例(80歳代,女性)a:球結膜,結膜円蓋部に著明な色素沈着がみられる.b:病変部の病理組織像では,結膜上皮にメラノサイトの増生と色素沈着,上皮下にメラニン色素を貪食したマクロファージの浸潤がある.(87)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173930910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2結膜悪性黒色腫の1例(70歳代,女性)a:球結膜に黒色調の腫瘤が2個みられる.b:腫瘤部の病理組織像は,類上皮細胞型の悪性黒色腫細胞の増生である.を通すべきである.PAMwithoutatypiaであれば自然消退の傾向を示すこともあるので,経過観察を行う.生検の結果がPAMwithatypiaと考えられる場合は,将来悪性黒色腫の発生母地となりえる旨を患者に説明し,慎重な経過観察を行ったり,病変部を可及的に切除したり,あるいはインターフェロン(interferon:IFN)a-2bやマイトマイシンC(MMC)の局所化学療法を検討する.●結膜悪性黒色腫の臨床像結膜悪性黒色腫は,結膜に発生するメラノサイト系悪性色素性腫瘍である.わが国ではまれな結膜悪性腫瘍であるが,放置すると著明に増大したり,リンパ節や涙.・鼻涙管,ひいては全身諸臓器へ転移することがあり,生命予後に影響する.形態学的には結節状腫瘤を形成したり(図2a),扁平な隆起を呈する.色調は黒色調であることが多いが,無色素性の肌色調を示すこともある.診察に際しては,腫瘤が単発か多発か,PAMを伴っているか否か,上眼瞼結膜や円蓋部にも病変がないか,必ず上眼瞼を翻転して観察する.●結膜悪性黒色腫の病理結膜悪性黒色腫の発生母地としては前述のPAMwithatypiaが重要であるが,母斑あるいはまったく背景に病変のない部分(denovo)からも発生する.典型的な単結節~多結節状の腫瘍では臨床診断を行い,生検もしくは完全切除後に病理組織診断を行う.病理組織学的には,核の大小不同を示す異型細胞が密に増生し,細胞質にメラニン産生を示す褐色色素が見られるのが特徴である(図2b).●結膜悪性黒色腫の治療過去には眼球摘出術や眼窩内容除去術がおもに行われ,患者に多大な精神的苦痛を強いてきた.加えて,眼窩内容除去術を行っても術後数年で遠隔転移をきたしたり,涙.への転移がみつかることもある.他方,眼表面の悪性腫瘍に対して近年は局所化学療法が試みられており,眼球を温存することが可能な症例が蓄積されつつある1).薬剤としてはIFNb,IFNa-2b2),MMCが有効性を示すことが期待される.PAMを伴う悪性黒色腫では,眼球摘出を含めた広範囲な外科的切除,あるいは腫瘤部の局所切除を行い,後者で術後療法としてIFNa.2bの点眼治療を行い,残存するPAMが消失するまで治療を継続する方法2)も治療選択の一つである.一方,母斑やdenovo発生の腫瘍では,基底部で十分な安全域を確保して一期的に腫瘤を摘出し,術後に再発予防として局所化学療法を行うことも可能である.腫瘍摘出部には,冷凍凝固を併用することも行われている.●おわりに本稿では結膜の代表的な色素性病変であるPAMと結膜悪性黒色腫について概説した.結膜の色素性腫瘍はまれであるが,判断を誤ると患者に著しい不利益が生じるため,一般眼科医もさまざまな眼表面の鑑別診断の一つとして,念頭に入れるべきである.文献1)加瀬諭:わかりやすい臨床講座.結膜の悪性腫瘍.日の眼科86:15-21,20152)加瀬諭,石嶋漢,野田実香ほか:インターフェロンa-2b点眼液を補助療法として使用した結膜悪性黒色腫の2例.日眼会誌115:1043-1047,2011394あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(88)

抗VEGF治療:抗VEGF療法後の眼内炎の1例

2017年3月31日 金曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二38.抗VEGF療法後の眼内炎の1例江﨑雄也平野佳男名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学教室抗VEGF薬硝子体内注射は視機能改善,あるいは維持を目的として施行され,通常複数回の治療が必要となる.注射による合併症としては,結膜下出血のような軽微なものから眼内炎などの重篤なものもある.今回筆者らは,抗VEGF療法後に眼内炎を発症した症例を経験したので報告する.症例患者は78歳,女性.2012年11月27日,左眼の滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の疑いで近医より名古屋市立大学病院眼科に紹介された.初診時視力は,右眼0.6(1.5x+1.50D:c.0.50DAx60°),左眼0.1(0.15x+0.75D).眼圧は右眼13mmHg,左眼13mmHg.両眼ともに軽度の白内障,左眼の黄斑部には網膜下出血を伴う滲出性変化と黄白色のポリープ状病巣が認められた(図1a).眼底所見と光干渉断層計,蛍光眼底造影所見(図1b~f)などより,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvas-culopathy:PCV)と診断した.2012年12月10日よりラニビズマブ0.5mgの硝子体内注射を施行.その後はtreatandextend法にて治療継続していた.また,経過中の2014年11月25日に左眼の白内障手術を施行している.2015年12月25日時点では左眼矯正視力は(1.0)で,滲出性変化の改善も認められていた(図1g~i).2016年1月29日に18回目のラニビズマブ硝子体内注射を施行後,2月2日(注射後4日目)より飛蚊症を自覚し,症状の増悪とともに2月7日(注射後9日目)に眼痛も出現したため,2月8日に当科を受診した.受診時左眼視力は(0.02)と著明に低下し,眼圧は5mmHgまで低下していた.毛様充血,角膜は浮腫状でデスメ膜皺襞,前房内細胞と前房蓄膿を認めた(図2a).眼底は観察困難で,Bモード超音波検査では軽度の硝子体混濁がみられたが,網膜.離は認めなかった(図2b).左眼の眼内炎と診断し,同日緊急入院とした.塩酸バンコマイシン(10mg/ml)とセフタジジム(20mg/ml)の結膜下注射0.5mlと硝子体内注射0.1mlを施行した.硝子体内注射時に前房水を採取し細菌培養,塗抹検査を行った.レ(85)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYボフロキサシン,塩酸セフメノキシム,塩酸バンコマイシン,セフタジジムの1時間ごとの頻回点眼とともに,イミペネム点滴(1回0.5g,1日2回)を施行した.1~2時間ごとに経過観察するも改善傾向を認めないため,同日(注射後10日目)に前房洗浄と内視鏡を併用した硝子体手術を施行した(図2c).眼内灌流液500ml中に,塩酸バンコマイシン10mg,セフタジジム20mgを添加し,手術を施行した.なお,採取した前房水からは塗抹・培養ともに細菌は検出されなかった.術翌日には眼痛は改善し,術3日後には硝子体混濁も改善傾向で,眼底も透見良好となった.その後は軽快傾向のため2月16日に退院した.2月22日外来受診時には視力は(0.4)まで回復し,毛様充血およびデスメ膜皺壁は残存していたが,前房内に細胞はなく,眼底も透見良好だった.2016年9月2日現在,左眼視力は(1.0)まで改善し,眼圧は13mmHgと正常化し,元来あったPCVによる滲出性変化は残存するものの悪化はなく,視神経乳頭と網膜の色調は良好である(図3).硝子体内薬物注射後の眼内炎の特徴硝子体内注射の合併症には,眼局所合併症と全身合併症がある.眼局所合併症として眼内炎は非常に重篤なものである.原因菌としてはグラム陽性球菌のレンサ球菌が多い1).これは口腔内の常在菌である連鎖球菌が,上気道からの飛沫によって術野および針先へ汚染をきたすためとされている.硝子体内注射後の眼内炎の平均発症時期は術後3~5日と,白内障手術後の6~7日と比べて早期の発症が多く1),硝子体内注射後の感染は,白内障後の感染と比べ指数弁以下の予後不良例が10.2倍多いとも報告されている1).これは硝子体内注射後の眼内炎では細菌は直接硝子体内に侵入するため,前房中に炎症が出現する前に眼底に炎症が波及し,予後不良となりやあたらしい眼科Vol.34,No.3,2017391fILM-RPEILM-RPEi図1左眼の初診時と眼内炎発症直前の所見症例は78歳,女性.a~f:初診時.視力0.15.g~i:眼内炎発症直前.視力1.0.a:眼底所見.網膜下出血と黄白色のポリープ状病変を認める.b:フルオレセイン蛍光眼底造影所見.後期像.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影所見.後期像.ポリープ状病変に一致した過蛍光を認める(矢印).d~f:光干渉断層計所見.網膜下に高輝度の隆起性病変,漿液性網膜.離(e:*)が認められる.g~i:光干渉断層計所見.滲出性変化が残存するも,改善を認める.図2眼内炎発症時の左眼所見(視力0.02)a:前眼部細隙灯顕微鏡所見.毛様充血がみられ,角膜は浮腫状で,デスメ膜雛壁,前房蓄膿を認める.b:超音波Bモード所見.軽度の硝子体混濁を認めるが,網膜.離は認めない.c:術中眼底所見.視神経乳頭および網膜の色調は良好である.すいためと考えられる.近年,抗VEGF薬の硝子体内注射の適応は拡大し,AMDに加え,病的近視における脈絡膜新生血管,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫など多岐にわたる.硝子体内注射後の眼内炎の頻度は0.049%と報告されており2),白内障術後の頻度である0.052%3)とほぼ同程度だが,適応の拡大とともに注射回数が増大しており,今後も眼内炎の発症数は増加すると考えられる.dILM-RPE図3硝子体手術7カ月後の左眼所見(視力1.0)a:眼底所見.ポリープ状病巣周囲は網脈絡膜の萎縮が認められるが,視神経乳頭,網膜の色調は良好である.b~d:光干渉断層計所見.網膜浮腫,網膜色素上皮.離は残存しているが,病変の悪化はない.おわりに今回の症例では,患者が早期に受診し,早期に診断と治療を行うことができたために,幸いにも視力予後が良好であった.硝子体内注射後の眼内炎の発症頻度は低いが,適応の拡大や複数回投与の必要性から発症数が増大する可能性がある.眼内炎を起こさないよう努力を怠らないことがもっとも重要で,日本網膜硝子体学会が作成したガイドライン4)は非常に有用である.それでも眼内炎を発症した際には,迅速かつ適切な診断と治療が必要である.文献1)SimunovicMP,RushRB,HunyorAPetal:Endophthal-mitisfollowingintravitrealinjectionversusendophthalmi-tisfollowingcataractsurgery:clinicalfeatures,causativeorganismsandpost-treatmentoutcomes.BrJOphthalmol96:862-866,20122)McCannelCA:Meta-analysisofendophthalmitisafterintravitrealinjectionofanti-vascularendothelialgrowthfactoragents:causativeorganismsandpossiblepreven-tionstrategies.Retina31:654-661,20113)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOph-thalmolScand85:848-851,20074)小椋祐一郎,高橋寛二,飯田知弘ほか:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,2016☆☆☆392あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(86)

緑内障:眼圧変動と眼軸長の変化

2017年3月31日 金曜日

●連載201監修=岩田和雄山本哲也201.眼圧変動と眼軸長の変化広瀬文隆神戸市立医療センター中央市民病院眼科眼圧が変動すれば,眼球構造が変形することによって眼軸長も変化し得る.原発閉塞隅角眼に対する暗室うつむき試験前後で解析すると,眼圧上昇に伴って眼軸長は増加し,脈絡膜厚は減少していた.各々の変化量の間で有意な相関を認めたことから,短期的な眼圧上昇に伴う眼軸の延長には,脈絡膜の菲薄化が影響している可能性がある.●眼圧と脈絡膜の関係眼圧が上昇すれば眼球は拡大し,眼軸長は延長すると推定されるが,眼球のどの部位がどの程度変形するかについて,まだ詳細は明らかではない.眼球壁はおもに角膜,強膜,網膜,脈絡膜で構成され,これらの組織のなかで眼圧の変化によりもっとも変形しやすいのは脈絡膜と考えられる.脈絡膜はBruch膜,脈絡膜毛細血管板,血管層,脈絡膜上板から構成され,このなかで立体的に構築された血管層が脈絡膜厚の大部分を占めている.脈絡膜の血管層は後極部でもっとも血流が豊富で,大型の動脈が放射状に密集しており,容積は血流量によって大きく変化し,眼圧の調節にも関与していると考えられている.近年はスペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)を用いたenhanceddepthimaging(EDI)法により脈絡膜断面像の精密な観察が可能となっている1).●暗室うつむき試験原発閉塞隅角(primaryangleclosure:PAC)眼は生理的条件下では可逆的な機能的隅角閉塞の影響により,姿勢や瞳孔径の変化に伴って眼圧が大きく変動することが知られている.この機能的隅角閉塞による眼圧上昇を判定するために用いられるのが眼圧の誘発試験であり,散瞳試験,暗室試験,うつむき試験に加えて,暗室試験とうつむき試験を組み合わせた暗室うつむき試験(darkroomproneprovocativetest:DRPPT)が報告されている2).DRPPTは瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子のマルチメカニズムによる機能的隅角閉塞を誘発する試験であり,最初に基準となる眼圧を測定した後に,暗室において座位で自分の上腕の上に額を乗せてうつむき姿勢を維持し,1時間後に眼圧を測定して変化量(83)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYを判定する.●眼圧変動に伴う脈絡膜厚と眼軸長の変化従来から,発達緑内障では高眼圧に伴って眼球が拡大する牛眼を認めることが知られている.また,緑内障手術後の眼圧下降に伴って眼軸長が減少することは報告されている3,4)が,これらの眼軸長の変化は手術による侵襲や炎症が影響している可能性が考えられる.成人眼において,手術の影響を受けずに短期的に眼圧が変化した場合に,眼軸長がどのように変化するかについては,これまでに多数例での詳細な検討はほとんどされていない.筆者らはDRPPTを施行したPAC眼34例34眼を対象として,眼圧,脈絡膜厚,網膜厚および眼軸長を測定した5).DRPPT後に平均眼圧は14.5±3.1mmHgから21.9±9.8mmHgまで有意に増加した.DRPPT前後に中心窩での脈絡膜厚と網膜厚をSD-OCT(SpectralisHRA+OCT)によるEDI法で測定した(図1).脈絡膜厚は平均237.1±72.2μmから207.0±75.5μmまで有意に減少したが,網膜厚は有意な変化は認めなかった(平均175.1±27.3μmから175.6±28.3μm.図2).DRPPT前後の脈絡膜厚の変化量は,眼圧の変化量と有意な負の相関を認めた(図3).とくにDRPPT前後の眼圧変化量が8mmHg以上である陽性の症例において,脈絡膜厚の変化量が大きな症例が多く存在した.また,光学式眼軸長測定装置(IOLmaster)を用いて眼軸長(涙液表面から網膜色素上皮までの距離)が測定可能であった27眼において,眼軸長はDRPPT前後で平均22.45±0.79mmから22.50±0.73mmまで有意に増加した.この27眼についてDRPPT前後の脈絡膜厚の変化量と眼軸長の変化量には負の相関を認め(図4),とくに眼軸長変化の大きなものは脈絡膜厚の変化量以上に眼軸が延長あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017389(μm)p<0.001(μm)350350p=0.74300300250250図1スペクトラルドメインOCTを用いたEDI法による中心窩下脈絡膜厚,網膜厚測定a:暗室うつむき試験前.脈絡膜厚308μm,網膜厚154μm(眼圧14mmHg,眼軸長21.98mm).b:暗室うつむき試験後.脈絡膜厚200μm,網膜厚160μm(眼圧44mmHg,眼軸長22.49mm).脈絡膜厚:強膜脈絡膜境界面(.)から網膜色素上皮外側までの距離.網膜厚:網膜色素上皮内側から網膜硝子体境界面までの距離.(文献5より改変)脈絡膜厚変化量(μm)脈絡膜厚10010050500DRPPT前DRPPT後0DRPPT前DRPPT後図2暗室うつむき試験前後の脈絡膜厚,網膜厚の変化(n=34)DRPPT:暗室うつむき試験.(文献5より改変)網膜厚200200150150200100200300400500600-20-60y=-0.1989×-24.641-40R=-0.487-80-100-120-14040-16020眼軸長変化量(μm)関係(n=27)(文献5より改変)-400脈絡膜厚変化量(μm)図4暗室うつむき試験前後の脈絡膜厚と眼軸長の変化量の-20-60-80-100の変化に関して,さらなる病態解明が期待される.-120文献-1401)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepth-160imagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,2009図3暗室うつむき試験前後の脈絡膜厚と眼圧の変化量の関係(n=34)(文献5より改変)する傾向があった.一方,DRPPT前の眼圧と脈絡膜厚には相関を認めず,眼圧の絶対値よりも急激な眼圧上昇のほうが脈絡膜循環に影響を与える可能性が大きいと考える.これらの結果から,PAC眼における急性の眼圧上昇は脈絡膜の菲薄化と眼軸の延長を伴い,短期的な眼圧変動に伴う眼軸長変化の原因として,脈絡膜厚の変化が部分的に関与していることが示唆された.PAC眼は正常眼や原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)眼より有意に脈絡膜厚が大きく6),さらにPAC眼はPOAG眼より飲水試験後の脈絡膜厚の増加が大きいと報告されており7),PACの発症機序に脈絡膜が影響している可能性がある.今後の臨床研究の発展により,眼圧の変化と脈絡膜を含めた眼球構造390あたらしい眼科Vol.34,No.3,20172)HungPT,ChouLH:Provocationandmechanismofangle-closureglaucomaafteriridectomy.ArchOphthalmol97:1862-1864,19793)KieferG,SchwennO,GrehnF:Correlationofpostopera-tiveaxiallengthgrowthandintraocularpressureincon-genitalglaucomaaretrospectivestudyintrabeculotomyandgoniotomy.GraefesArchClinExpOphthalmol239:893-899,20014)KookMS,KimHB,LeeSU:Short-terme.ectofmitomy-cin-Caugmentedtrabeculectomyonaxiallengthandcor-nealastigmatism.JCataractRefractSurg27:518-523,20015)HataM,HiroseF,OishiAetal:Changesinchoroidalthicknessandopticalaxiallengthaccompanyingintraocu-larpressureincrease.JpnJOphthalmol56:564-568,20126)AroraKS,Je.erysJL,MaulEAetal:Thechoroidisthickerinangleclosurethaninopenangleandcontroleyes.InvestOphthalmolVisSci53:7813-7818,20127)AroraKS,Je.erysJL,MaulEAetal:Choroidalthicknesschangeafterwaterdrinkingisgreaterinangleclosurethaninopenangleeyes.InvestOphthalmolVisSci53:6393-6402,2012(84)

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザー角膜実質内乱視矯正切開

2017年3月31日 金曜日

●連載202202.フェムトセカンドレーザー角膜実質内乱視矯正切開監修=木下茂大橋裕一坪田一男脇舛耕一*稗田牧***バプテスト眼科クリニック**京都府立医科大学視覚機能再生外科学フェムトセカンドレーザーによる角膜実質内乱視矯正切開は,従来のマニュアル切開にくらべ均一な切開線,幅,深度を得ることができる.また,角膜上皮を温存することで感染リスクを軽減できる.手技も簡便であり,術後は長期にわたり安定した結果を得られ,角膜乱視矯正法の一つとして有用であると考えられる.●はじめに角膜の強主経線方向と弱主経線方向の屈折力の差によって生じる乱視は,度数が1Dを超えると裸眼視力やコントラスト感度の低下をきたすとされている1).これまでに報告された角膜乱視を矯正する方法としては,角膜切開によるastigmatickeratotomy(AK)や2),輪部減張切開(limbalrelaxingincision:LRI)3)などがあげられる.しかし,いずれもメスによるマニュアル切開であり,術者の技量による影響が大きく,切開線の位置や深度が不均一となりやすく,乱視矯正効果が安定しないこと,軸ずれや穿孔などの合併症が発症するリスクが高いことなどの欠点があった.これを補う方法として,フェムトセカンドレーザーを用いた角膜乱視矯正術であるarcuatekeratotomy(AK)が可能となった4).フェムトセカンドレーザーでは,搭載された前眼部OCT(opticalcoherencetomography)によって角膜形状を把握し,コンピュータ制御のもとで予定通りの切除幅,角度,深度での角膜切開を行うことで,従来のマニュアル操作による切開にくらべ正確な結果を得ることができる.また,切開深度を任意に設定できることから,角膜実質内乱視矯正切開(intrastromalarcuatekeratotomy:intrastromalAK)という方法が可能となった.角膜上皮は切開せずに角膜実質内のみを切開するこの方法は,メスなどを用いたマニュアル操作では不可能であり,角膜上皮を障害しないため,術後の感染リスクを大きく低下させることができる.一方で,角膜上皮まで切開する方法にくらべ矯正効果が弱いともいわれている.今回,intrastromalAKについて,当院での使用経験を踏まえて述べる.●使用機器と設定条件,術後所見当院で使用しているフェムトセカンドレーザーはアルコン社のLenSxであり,intrastromalAKと同時に白内障手術(femtoscondlaser-assistedcataractsurgery)を施行することが可能である.そのため,白内障手術を希望する患者にとっては,intrastromalAKによる乱視矯正を一期的に行うことができる.当院での切開の設定であるが,位置は角膜中心から直径7mmの同心円状に,強主径線方向に2カ所の弧状切開を行う.切開深度は,前端が角膜上皮面から60μm深部であり,後端が角膜実質厚の80%の深度位置で,接線方向に対し垂直に切開する.また,切開幅は,術前の乱視度数に応じて,既定のノモグラムに準じた角度で設定する5)(図1).施行時は,術前にあらかじめ座位にてマーキングを行うか,アルコン社のイメージガイドシステム(VERION)(StevenCShallhornMD)図1IntrastromalAK設定(LenSx)左:切開位置の設定.角膜中心から直径7mmの同心円状に,強主径線方向に2カ所,弧状の切開ラインを設定.切開幅は表のノモグラムに従って設定.右:切開深度の設定.前端は角膜上皮面から60μm深層,後端は角膜厚の80%の深度に設定.切開角度は接線方向に対し90°に設定.(81)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173870910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2IntrastromalAK後の前眼部写真と前眼部OCT前眼部写真では切開創は角膜上皮面に影響を及ぼしていないが,OCTでは角膜実質が予定ライン通り垂直に切開されている像が確認できる.(術後1カ月)(術後1年)図4強度乱視例に対するintrastromalAKとトーリック眼内レンズの併用例術前の角膜乱視はTMSで5.04Dであったが,intrastromalAKにより術後1カ月で2.24D,術後1年で2.55Dの角膜乱視矯正効果を得た.この症例ではトーリック眼内レンズを併用しており,術後裸眼視力1.0を維持している.を利用し,回旋補正を行う.レーザー切開にかかる時間は数秒であり,術後は前眼部OCTにて正確な切開が得られているか確認できる(図2).●使用例と結果現在,白内障手術時の乱視矯正法としてはトーリック眼内レンズが主流であるが,過矯正が懸念される.1~.1.5Dの直乱視では使用がむずかしい.また,当院でのフェムトセカンドレーザー白内障手術では耳側切開を行うことが多いため,術後惹起乱視により直乱視が増強する場合がある.そのときにintrastromalAKを同時に行うことで,これまでのところ施行した全例で術後.1D未満の直乱視に抑えられ,良好な裸眼視力を獲得できており(図3),とくに多焦点眼内レンズ症例では良好な結果を得られている.また,強度乱視の場合は,術前の角膜乱視が.5Dであった症例においても,intrastro-388あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017AK(+)1.0AK(-)0.5(小数換算)0.1図3術後裸眼視力の変化術前の角膜乱視が.1~.2Dであり,正視ねらいのフェムトセカンドレーザー白内障手術を行った症例での術後3カ月の裸眼視力は,intrastromalAKを同時に行っていない群では平均0.75であったのに対し,intrastromalAKを行った群では1.13であった(小数換算).malAKで約2.5Dの矯正効果を得られ,トーリック眼内レンズと組み合わせることで,術後1年経過した時点でも裸眼視力1.0を維持している(図4).いずれの症例においても,全例で角膜内皮細胞障害などの合併症を認めていない.●おわりにフェムトセカンドレーザーによるintrastromalAKは,重篤な合併症なく長期にわたり効果が安定しており,施行も非常に簡便である.今後ノモグラムのさらなる検証が必要であるが,現状でも比較的良好な成績が得られており,角膜乱視矯正法の一つとして有用であると考えられる.文献1)Wol.sohnJS,BhogalG,ShahS:E.ectofuncorrectedastigmatismonvision.JCataractRefractSurg37:454-460,20112)BinderPS:Astigmatickeratotomyprocedures.Cornea3:229-230,19843)BudakK,FriedmanNJ,KochDD:Limbalrelaxinginci-sionswithcataractsurgery.JCataractRefractSurg24:503-508,19984)RucklT,DexlAK,BacherneggAetal:Femtosecondlaser-assistedintrastromalarcuatekeratotomytoreducecornealastigmatism.JCataractRefractSurg39:528-538,20135)VenterJ,BlumenfeldR,SchallhornSetal:Non-penetrat-ingfemtosecondlaserintrastromalastigmatickeratotomyinpatientswithmixedastigmatismafterpreviousrefrac-tivesurgery.JRefractSurg29:180-186,2013(82)

眼内レンズ:瞳孔拡張リングI-Ring

2017年3月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋364.瞳孔拡張リングI-Ring留守良太医療法人涼悠会トメモリ眼科・形成外科白内障手術だけでなく硝子体手術においても,難症例となる小瞳孔やintraoperative.oppyirissyndrome(IFIS)の対策として,瞳孔拡張リングが選択されることは特別な手技ではなくなってきた.このたび,BeaverVisitec社より瞳孔拡張リングであるVisitecI-RingPupilExpanderが発売されたので紹介する.●I.Ringの特徴I-Ring,ケース,インサーターがセットになっており,滅菌済みでパックされている.リングは柔らかく弾力性に富んだポリウレタン素材が使用され,継ぎ目がなく,表面は滑らかに成型されている.鮮やかな緑色にすることで術中の視認性を向上している.虹彩を強く挟み込まず,脱着時にはゆがみを生じさせないようにデザインされた4カ所のチャンネル(図1①)部分で瞳孔を押し広げ,6.3mmに拡張する.そのリング形状と厚みによって瞳孔全周をしっかり固定できる(図2).セーフティーポジショニングホール(以下,ホール.図1②)はシンスキー氏フックの先端が虹彩に接触しないようになっており,ヒンジ(図1③)はリングの柔軟性を高め,挿入時,取り出し時の確実な折り畳みを可能にする.インサーターの先にあるプッシャー(図1④)はリングの把持を容易にしている.インサーターは,角膜切開であれば2.4mmからの挿入が推奨されているが,実際は2.0mmからの挿入も可能であった.●I.Ringの挿入方法プッシュ&プルフックなどを使用して瞳孔領の拡張を行うI-Ringをインサーターに装.し,眼内に挿入後,チャンネルを瞳孔領の3カ所を同時に挟むように少しずつ放出する(図3).コツは,インサーターからチャンネルを1つだけ押し出し,6時の位置ではなく,7~8時のあたりをチャンネルで挟み,少しずつ押し出すと,チャンネルが6時方向に回転しながら瞳孔領を滑るので,リングの開きに合わせながら,左右のチャンネルが虹彩を挟むようにインサーターを左右に傾ける.12時部を虹彩上に放出し,ホールを利用しシンスキー氏フックでリングを押し虹彩に挟み込む(図4).同時に3カ所を挟めなかった場合は,12時部と同様に順にリングを押し虹彩を挟み込む.従来のものより素材が柔らかく侵襲は少ないが,リングを押すと対側の隅角を圧迫してしまうので,リングを押す操作が少ないほど眼球へのストレスは少ない.2本のフックを使用すればさらに侵襲を少なくできる(図5).図1I.Ringの構造ポリウレタン素材.①チャンネル,②セーフティーポジショニングホール,③ヒンジ,④プッシャー.図2眼内に固定されたI.Ring6.0mmのデジタルマーカーと比較すると,十分に拡張していることが確認できる.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173850910-1810/17/\100/頁/JCOPY図33カ所同時にチャンネルを挟み込ん図412時部の固定図5ダブルハンドテクニックだ状態過度な6時部の圧迫と12時部の伸展に注リングが自然に開く力を利用しながら瞳孔意が必要である.をゆっくり押し広げる.図7バックフリップ法6時部のヒンジにプッシャーを挟むときは,虹彩を傷つけないように注意する.眼内レンズの中央で引き込めば,リングは無理なく反転し回収できる.図6一般的な取り出し●I.Ringの取り出し方法12時部をフックではずし,虹彩上に載せてからプッシャーでインジェクター内に引き込み回収する(図6).素材の柔らかさを利用した簡便な方法がバックフリップ法で,隅角を圧迫することなくワンアクションで回収が可能である(図7).●I.Ringの注意点メーカーは,リングを虹彩上に放出した後,4カ所のチャンネルを虹彩に固定する方法を推奨している.しかし,浅前房,小角膜症例が多いわが国においては,かえって難易度が高くなるおそれがあり,前述のように4回リングを押すことで侵襲も強くなる.ポリウレタン素材のI-Ringはシリコーン素材のUSやI/Aスリーブでは摩擦力が強く,接触した場合,滑らずに虹彩から外れてしまうことがあるため,とくに浅前房症例では注意が必要である.虹彩のうねりが強い重度のIFIS症例では,チャンネルが瞳孔領からはずれやすく,注意が必要である.●おわりに瞳孔拡張リングは挿入時よりも摘出時に手間取り,トラブルが発生することがあるのでストレスを感じる術者も多い.しかし,I-Ringは摘出が簡単になるよう設計されており,ストレスを感じることはほとんどない.扱いやすい難症例対策ツールとして有用である.